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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-15
(54)【発明の名称】光コムの発生方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/35 20060101AFI20221208BHJP
   G02F 1/37 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
G02F1/35
G02F1/37
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022517499
(86)(22)【出願日】2021-05-26
(85)【翻訳文提出日】2022-03-16
(86)【国際出願番号】 CN2021096139
(87)【国際公開番号】W WO2021238997
(87)【国際公開日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】202010462932.3
(32)【優先日】2020-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515190906
【氏名又は名称】南京大学
(71)【出願人】
【識別番号】522106086
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニヴァーシティ オブ コロラド,ア ボディ コーポレート
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】謝 臻達
(72)【発明者】
【氏名】黄 書偉
(72)【発明者】
【氏名】賈 ▲コン▼鵬
(72)【発明者】
【氏名】汪 小涵
(72)【発明者】
【氏名】趙 剛
(72)【発明者】
【氏名】祝 世寧
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA09
2K102AA14
2K102BA13
2K102BA19
2K102BB03
2K102BC01
2K102BD09
2K102DB02
2K102EB11
2K102EB20
(57)【要約】
本発明は光コムの発生方法及び装置を開示し、具体的な発生方法は以下のとおりである。非線形光共振器の熱的安定状態にマッチングした励起光を受けて前記非線形光共振器内で発振させ、励起光に対応するブリルアン利得を非線形光共振器における目標縦モードと重ね合わせ、励起光の励起出力がブリルアンレーザを発生させる閾値を超えた場合に、目標縦モードでブリルアンレーザを継続的に発生させ、ブリルアンレーザはカー非線形四波混合プロセスにより光コムを発生する。本発明の技術的解決手段は、ブリルアン利得を有する非線形光共振器を利用することにより、その熱的安定状態領域で光コムを発生することができ、当該光コムは安定性に優れるだけでなく、また低い量子雑音及び狭い線幅の特性を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非線形光共振器の熱安定状態にマッチングした励起光を受光して前記非線形光共振器内で発振させるステップと、
前記非線形光共振器を調整して、前記励起光に対応するブリルアン利得を前記非線形光共振器における目標縦モードと重ね合わせるステップと、
前記励起光の励起出力がブリルアンレーザを発生させる閾値を超えた場合に、前記目標縦モードでブリルアンレーザを継続的に発生させるステップと、
ブリルアンレーザはカー非線形四波混合プロセスにより、光ソリトンを含める光コムを発生するステップと、を含むことを特徴とする光コムの発生方法。
【請求項2】
前記非線形光共振器を調整して、前記励起光に対応するブリルアン利得を前記非線形光共振器における目標縦モードと重ね合わせるステップは、
前記非線形光共振器のキャビティ長を調整することにより、前記目標縦モードの位置を調整して、前記目標縦モードを前記ブリルアン利得と重ね合わせるステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の発生方法。
【請求項3】
前記非線形光共振器を調整して、前記励起光に対応するブリルアン利得を前記非線形光共振器における目標縦モードと重ね合わせるステップは、
前記非線形光共振器が受ける応力を変更することにより、前記ブリルアン利得の位置を調整して、前記ブリルアン利得を前記目標縦モードと重ね合わせるステップであって、非線形光共振器のキャビティ本体をねじることにより応力を調整することができ、ねじる角度は最大で180°に達することができるステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の発生方法。
【請求項4】
前記非線形光共振器を調整して、前記励起光に対応するブリルアン利得を前記非線形光共振器における目標縦モードと重ね合わせるステップは、
前記非線形光共振器の温度を変更することにより、前記ブリルアン利得の位置を調整して、前記ブリルアン利得を前記目標縦モードと重ね合わせるステップであって、温度調整の範囲は-10℃~+90℃であるステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の発生方法。
【請求項5】
前記励起光の波長を調整することにより、前記励起光に対応するブリルアン利得を前記非線形光共振器における目標縦モードと重ね合わせることもでき、ただし、前記励起光の波長の調整範囲は1540nm~1565nmであることを特徴とする請求項1に記載の発生方法。
【請求項6】
発生した光コムは、等周波数間隔で配列された離散スペクトルを有し、非線形光共振器の熱的安定状態の条件下で発生し、ブリルアンレーザがカー効果により励起したものであることを特徴とする請求項1に記載の発生方法。
【請求項7】
発生した光コムの1本の櫛歯の線幅が励起光の線幅より小さいことを特徴とする請求項1に記載の発生方法。
【請求項8】
能動的制御がない場合に、発生した光コムの雑音は非線形マイクロキャビティに対応する量子雑音限界に達することができることを特徴とする請求項1に記載の発生方法。
【請求項9】
非線形光共振器に連続的な励起光を発するための励起源であって、前記励起源は制御されて前記励起光の波長を変更して、前記励起光の波長を非線形光共振器の熱的安定状態にマッチングさせることができ、さらに前記励起光を非線形光共振器の熱的安定状態で発振させ前記非線形光共振器から正常に出射させることができる励起源と、
非線形光共振器であって、受光した励起光を前記非線形光共振器における第1のセットの縦モードのうち或る縦モードに合わせるためのものであり、前記非線形光共振器は制御されて前記励起光に対応するブリルアン利得の位置を変更し又は前記非線形光共振器における第2のセットの縦モードのうち目標縦モードの位置を変更して、前記ブリルアン利得を前記目標縦モードと重ね合わせ、また、前記非線形光共振器は、前記励起光の励起出力がブリルアンレーザを発生させる閾値を超えた場合に、前記目標縦モードでブリルアンレーザを継続的に発生させ、ここで、ブリルアンレーザはカー非線形四波混合プロセスにより光コムを発生させる非線形光共振器と、を含むことを特徴とする光コムの発生装置。
【請求項10】
前記非線形光共振器はブリルアン非線形及びカー非線形の両方を有することを特徴とする請求項9に記載の発生装置。
【請求項11】
前記非線形光共振器は進行波共振器又は定在波共振器であってもよいことを特徴とする請求項9に記載の発生装置。
【請求項12】
前記非線形光共振器における縦モードは、非線形光共振器の異なる偏光モード又は異なる次数の横モードにより導入することができることを特徴とする請求項9に記載の発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学技術分野に関し、特に光コムの発生方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光周波数コム(Optical frequency comb、OFC)は光コムと略称し、広いスペクトルを持つ高コヒーレント光源である。光コムは周波数領域において離散的で、等間隔の周波数で配列される櫛状スペクトルに表れ、その周波数間隔が一般的にマイクロ波帯に合致するため、それはより成熟したマイクロ波周波数計測学と結びつけることができ、それにより計測精度を大幅に向上させる。
【0003】
現在、一般的な光コムはカー(Kerr)光コムである。励起レーザは非線形光共振器において、非線形光共振器におけるカー非線形特性によりカー光コムを発生する。カー光コムは様々な形態を有し、そのうち光ソリトン形態は最も低い雑音及び最も平滑なスペクトルを有し、利用価値が最も高い。さらに、非線形光共振器はサイズが柔軟で、非線形係数が大きいなどの特徴を有するため、非線形光共振器を用いて発生された光コムの周波数間隔は広い周波数範囲をカバーすることができ、従来の光コム発生装置の高繰り返し周波数用途における欠陥を補うことができる。
【0004】
しかしながら、現在の非線形光共振器に基づいて発生された光コムは上記利点を有するが、その雑音レベルが励起源のレーザの品質から影響を直接受けるため、材料の量子雑音限界に達することができない。特に光ソリトンである光コムについては、当該状態が共振器の非熱的安定性状態で動作するため、共振器の熱効果からも干渉を受けることで光ソリトン状態が破壊される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、現在、非線形光共振器に基づいて発生された光コムの雑音レベルが高く、非熱的安定状態が安定していないという問題を解決するために、光コムの発生方法及び装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様において、本発明は、
非線形光共振器の熱的安定状態にマッチングした励起光(ポンプ光、pump light)を受光して前記非線形光共振器内で発振させるステップと、
前記非線形光共振器を調整して、前記励起光に対応するブリルアン利得を前記非線形光共振器における目標縦モードと重ね合わせるステップと、
前記励起光の励起出力(ポンピングパワー)がブリルアンレーザーを発生させる閾値を超えた場合に、前記目標縦モードでブリルアンレーザーを継続的に発生させるステップと、
ブリルアンレーザーはカー非線形四波混合プロセスにより光ソリトンを含める光コムを発生させるステップと、を含む光コムの発生方法を提供する。
【0007】
第1の態様の可能な一実現形態では、第1態様において、前記非線形光共振器を調整して、前記励起光に対応するブリルアン利得を前記非線形光共振器における目標縦モードと重ね合わせるステップは、
前記非線形光共振器のキャビティ長を調整することにより、前記目標縦モードの位置を調整して、前記目標縦モードを前記ブリルアン利得と重ね合わせるステップを含む。
【0008】
第1の態様の可能な一実現形態では、第1態様において、前記非線形光共振器を調整して、前記励起光に対応するブリルアン利得を前記非線形光共振器における目標縦モードと重ね合わせるステップは、
前記非線形光共振器が受ける応力を変更することにより、前記ブリルアン利得の位置を調整して、前記ブリルアン利得を前記目標縦モードと重ね合わせるステップであって、非線形光共振器のキャビティ本体をねじることにより応力を調整することができ、ねじる角度は最大で180°に達することができるステップをさらに含む。
【0009】
第1の態様の可能な一実現形態では、第1態様において、前記非線形光共振器を調整して、前記励起光に対応するブリルアン利得を前記非線形光共振器における目標縦モードと重ね合わせるステップは、
前記非線形光共振器の温度を変更することにより、前記ブリルアン利得の位置を調整して、前記ブリルアン利得を前記目標縦モードと重ね合わせるステップであって、温度調整の範囲は-10℃~+90℃であるステップを含む。
【0010】
第1の態様の可能な一実現形態では、第1態様において、前記励起光の波長を調整することにより、前記励起光に対応するブリルアン利得を前記非線形光共振器における目標縦モードと重ね合わせることもでき、ただし、前記励起光の波長の調整範囲は1540nm~1565nmである。
【0011】
第1の態様の可能な一実現形態では、第1態様において、発生した光コムは、等周波数間隔で配列された離散スペクトルを有し、非線形光共振器の熱的安定状態の条件下で発生し、ブリルアンレーザがカー効果により励起したものである。
【0012】
第1の態様の可能な一実現形態では、第1態様において、発生した光コムの1本の櫛歯の線幅が励起光の線幅よりも小さい。
【0013】
第1の態様の可能な一実現形態では、第1態様において、能動的制御がない場合に、発生した光コムの雑音は非線形マイクロキャビティに対応する量子雑音限界に達することができる。
【0014】
第2の態様において、本発明は、
非線形光共振器に連続的な励起光を出射するための励起源であって、前記励起源は制御されて前記励起光の波長を変更して、前記励起光の波長を非線形光共振器の熱的安定状態にマッチングさせることができ、さらに前記励起光を非線形光共振器の熱的安定状態で発振させ前記非線形光共振器から正常に出射させることができる励起源と、
非線形光共振器であって、受光した励起光を前記非線形光共振器における第1のセットの縦モードのうち或る縦モードに合わせるためのものであり、前記非線形光共振器は制御されて前記励起光に対応するブリルアン利得の位置を変更し又は前記非線形光共振器における第2のセットの縦モードのうち目標縦モードの位置を変更して、前記ブリルアン利得を前記目標縦モードと重ね合わせ、また、前記非線形光共振器は、前記励起光の励起出力がブリルアンレーザを発生させる閾値を超えた場合に、前記目標縦モードでブリルアンレーザを継続的に発生させ、ここで、ブリルアンレーザはカー非線形四波混合プロセスにより光コムを発生させる非線形光共振器と、を含む光コムの発生装置をさらに提供する。
【0015】
第2の態様の可能な一実現形態では、第2の態様において、前記非線形光共振器はブリルアン非線形とカー非線形の両方を有する。
【0016】
第2の態様の可能な一実現形態では、第2の態様において、前記非線形光共振器は進行波共振器又は定在波共振器であってもよい。
【0017】
第2の態様の可能な一実現形態では、第2の態様において、非線形光共振器における縦モードは、非線形光共振器の異なる偏光モード又は異なる次数の横モードにより導入することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上の技術的解決手段から分かるように、本発明は光コムの発生方法及び装置を提供し、具体的な発生方法は以下のとおりである。非線形光共振器の熱的安定状態にマッチングした励起光を受光して前記非線形光共振器内で発振させ、励起光に対応するブリルアン利得を非線形光共振器における目標縦モードと重ね合わせ、励起光の励起出力がブリルアンレーザを発生させる閾値を超えた場合に、目標縦モードでブリルアンレーザを継続的に発生させ、ブリルアンレーザはカー非線形四波混合プロセスにより光コムを発生する。本発明の技術的解決手段は、ブリルアン利得を有する非線形光共振器を利用することにより、その熱的安定状態領域で光コムを発生することができ、当該光コムは安定性に優れるだけでなく、また低い量子雑音及び狭い線幅の特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
以下、本発明の技術的解決手段をより明確に説明するために、実施例において使用する必要がある図面を簡単に紹介し、明らかに、当業者であれば、創造的な労力をせず、これらの図面に基づいて他の図面を得ることができる。
図1】本発明の実施例にて提供される光コムの発生装置の構造概略図である。
図2】本発明の実施例にて提供される非線形光共振器において光線が発振する概略図である。
図3】本発明の実施例にて提供される別の光コムの発生装置の構造概略図である。
図4】(1)本発明の実施例にて提供される光ファイバFPキャビティを用いて発生される光コムのスペクトル概略図であり、(2)本発明の実施例にて提供される光ファイバFPキャビティを用いる場合に発生される光コムのビート周波数信号の概略図である。
図5】(1)本発明の実施例にて提供される光ファイバFPキャビティを用いて発生される光コムの1本の櫛歯の線幅概略図であり、(2)本発明の実施例にて提供される光ファイバFPキャビティを用いて発生される光コムの位相雑音概略図である。
図6】本発明の実施例にて提供される光コムの発生方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
非線形光共振器におけるカー光コムは、非線形光共振器におけるカー非線形特性を利用して発生されるものである。カー光コムは様々な形態を有し、そのうち、光ソリトン形態は最も低い雑音及び最も平滑なスペクトルを有し、利用価値が最も高く、用途が最も広い。さらに、非線形光共振器はサイズが柔軟で、非線形係数が大きいなどの特徴を有するため、非線形光共振器を用いて発生された光コムの周波数間隔は広い周波数範囲をカバーすることができ、従来の光コム発生装置の高繰り返し周波数用途における欠陥を補うことができる。また、このような光コムの発生方法は集積化応用の実現にも有利である。
【0021】
原理的には、一束のレーザが非線形光共振器に注入されると、非線形光共振器は熱的安定状態と非熱的安定状態の2種類の状態を有する。光ソリトン光コムの発生過程において、励起レーザと非線形光共振器は一定の位相関係を有し、当該位相関係は一般的に非熱的安定状態であり、光コムの発生過程において非線形光共振器内の高出力密度は熱効果を発生し、このような熱効果によりこの一定の位相関係が干渉されて安定的に維持できないことになり、さらに光コムがその安定性状態を維持しにくくなる。
【0022】
現在、光コムの安定性を維持する方法があるが、一連の複雑な励起同調、フィードバック及び制御機構などの操作を利用することにより、人為的に励起レーザと共振器位相の相対的な安定性を能動的に維持することを必要とする方法が多い。これらの方法は操作が複雑であるだけでなく、さらに人為的操作に依存する。
【0023】
また、非線形光共振器により発生される光コムの線幅及び雑音などの特性は、いずれも励起レーザの特性に直接制限され、さらに、現在、一般的に使用される光コムの安定性を維持する方法は励起レーザによる光コムの特性に対する制限を解決しにくい。
【0024】
上記内容に基づいて、本発明の実施例において、非線形光共振器の熱的安定状態で、良好な安定性を有するだけでなく、さらに比較的低い量子雑音及び比較的小さい線幅を有する光コムを発生することができる光コムの発生装置及び方法が提供される。
【0025】
図1は本発明の実施例にて提供される光コムの発生装置の構造概略図である。図1に示すように、本発明の実施例における光コムは主に、励起源100と、非線形光共振器200との二部分を含む。そのうち、励起源100は、非線形光共振器200に連続的な励起光を出射するために用いられ、励起源100は自身の電流又は温度の調整により制御されて励起光の波長を変更して、励起光の波長を非線形光共振器200の熱的安定状態にマッチングさせることができ、さらに励起光を非線形光共振器の熱的安定状態で発振させ非線形光共振器200から正常に出射させることができる。
【0026】
非線形光共振器200は、受光した励起光を非線形光共振器200における第1のセットの縦モードのうち或る縦モードに合わせるために用いられ、自身のキャビティ長さ、応力及び温度の調整により制御されて励起光に対応するブリルアン利得の位置を変更し又は非線形光共振器200における第2のセットの縦モードのうち目標縦モードの位置を変更して、ブリルアン利得を目標縦モードと重ね合わせ、また、励起光の励起出力がブリルアンレーザを発生させる閾値を超えた場合に、目標縦モードでブリルアンレーザを継続的に発生させ、ここで、ブリルアンレーザはカー非線形四波混合プロセスにより光コムを発生する。
【0027】
通常、1つの共振器は、特定波長の励起光に対して熱的安定状態を有しており、すなわち、特定波長の励起光は、共振器に入ると、キャビティ内の熱効果から影響を受けず、或いは非常に小さい影響を受けて、共振器から正常に出射される。特定波長に属さない励起光が当該共振器内に入ると、この励起光は、共振器内における発振と伝搬が共振器内の熱効果から影響を受け、さらに、共振器から理想的に出射できないことになる。したがって、非線形光共振器200に入射する励起光を正常に出射できるように、本発明の実施例における励起源100からの励起光の波長は、非線形光共振器200の熱的安定状態にマッチングする必要がある。前述した特定波長は1つの特定の波長であっても、1つの特定の波長範囲であってもよい。
【0028】
図2は本発明の実施例にて提供される非線形光共振器において光線が発振する概略図であり、図2に示すように、非線形光共振器200には、複数セットの縦モードが存在することができ、熱的安定状態で光コムを発生するために、励起光をそのうち1セットの縦モード内の或る縦モードの熱的安定状態に合わせ、例えば縦モード1内の或る縦モードに合わせ、非線形光共振器200における励起光に対応するブリルアン利得を別のセットの縦モード内の或る縦モード、例えば縦モード2内の或る縦モードと重ね合わせる必要があり、また、励起出力がブリルアン閾値を超えた場合、縦モード2の内の或る縦モードでブリルアンレーザを継続的に発生することができる。さらに、非線形光共振器200の自身の特性により、ブリルアンレーザは非線形光共振器200においてカー非線形四波混合機構に基づいて等周波数間隔で配列された離散スペクトルを有する光コムを発生することができ、図2に示すように、非線形光共振器200の1つの縦モードで1つのブリルアンレーザを発生することができ、さらに、縦モードで光コムを発生することができる。
【0029】
通常の場合に、非線形光共振器200における縦モードは複数セットあり、実際に使用する際に、実際の需要に応じて或るセットの特定の縦モードを選択して光コムを発生してもよい。また、非線形光共振器200における縦モードは、非線形光共振器200の異なる偏光モード又は異なる次数の横モードにより導入することができる。
【0030】
励起源100は同調可能な連続光レーザ機器であり、それが発する励起光は単一の波長の光線であり、非線形光共振器200の縦モードで発生するブリルアンレーザも単一の波長のレーザであり、最後に発生する光コムは複数種の波長のレーザ光線を含む。
【0031】
本発明の実施例において、光コムが発生した後、励起光が非線形光共振器の熱的安定状態で動作するため、周波数ジッタや環境温度変化などの要素による攪乱に抵抗できることで、発生したブリルアンレーザが常に非線形光共振器と一定の位相関係を保持できるようになり、それにより自己安定光コムの発生が実現される。また、ブリルアンレーザの自身の線幅狭窄化の特性により、発生する光コムも同様に励起光より数桁低い線幅を有する。
【0032】
図3は本発明の実施例にて提供される別の光コムの発生装置の構造概略図である。いくつかの実施例において、励起源100が発する励起光を非線形光共振器200内により好適に収集するために、具体的には図3に示すように、励起源100と非線形光共振器200との間に、アイソレータ300、半波長板400及び第1の光ビーム結合器500を順次設置する必要がある。
【0033】
そのうち、アイソレータ300は、前記励起光の方向を制御するために用いられ、アイソレータ300は励起光の一方向のみの通過を許可し、光線反射による正常に発する励起光に対する干渉を避ける。
【0034】
半波長板400は、アイソレータ300を通過した励起光の偏光面を回転させて、アイソレータ300を通過した励起光を非線形光共振器200における第1のセットの縦モード内の或る縦モードにマッチングさせるために用いられる。
【0035】
第1の光ビーム結合器500は半波長板400を通過した励起光を非線形光共振器200内に結合するために用いられる。
【0036】
非線形光共振器200から発生された光コムを収集して使用するために、非線形光共振器200の出力位置に、非線形光共振器200により発生された光コムを受光するための第2の光ビーム結合器600がさらに設けられる。
【0037】
いくつかの実施例における光コムの発生装置において、励起源100が発する励起光のビームはアイソレータ300を通過し、半波長板400を回転させてその偏光が制御され、さらに第1の光ビーム結合器500により光ビームが非線形光共振器200内に結合される。非線形光共振器200において、励起源100の波長に対応するブリルアン利得が非線形光共振器200の第2のセットの縦モード内の目標縦モードと重なり合うと、当該目標縦モードで継続的なブリルアンレーザが発生できる。さらに、非線形光共振器200の自身の特性により、ブリルアンレーザは非線形光共振器200において四波混合機構に基づいて等周波数間隔で配列された離散スペクトルを有する光コムを発生することができる。最後に、出力した光コムを第2の光ビーム結合器600により収集する。
【0038】
いくつかの実施例において、光コムが発生した後、励起光が非線形光共振器の熱的安定状態で動作するため、周波数ジッタや環境温度変化などの要素による攪乱に抵抗できることで、発生したブリルアンレーザが常に非線形光共振器と固定の位相関係を保持できるようになり、それにより自己安定光コムの発生が実現される。また、ブリルアンレーザそのものは、線幅狭窄化の特性により、発生する光コムも同様に励起光より数桁低い線幅を有する。
【0039】
共振器において、その共振ピークの位置はその材料、長さなどの要素から影響を受け、共振器によりその共振ピークの位置が異なり、さらに熱的安定状態に達する条件も異なるが、異なる共振器は、ブリルアン利得を生成することができれば、いずれも本発明に適用されて非線形光共振器200として使用することができる。実際に利用する際に、このような非線形光共振器200には、ブリルアン利得を有する非線形材料で製造されるものが多く、かつ光共振器の構造はファブリー-ペローキャビティ(Fabry-Perot cavity、FP cavity)、線形キャビティ(linear cavity)、環形キャビティ(Ring cavity)、ウィスパリングギャラリーモードキャビティ(Whispering gallery mode cavity)などを含むが、これらに限定されない。
【0040】
光ファイバFPキャビティを例とし、それを本発明の実施例に適用して、安定性に優れかつ量子雑音が低い光コムを得ることができ、具体的な内容は以下のとおりである。
【0041】
使用する光ファイバFPキャビティは3.4×10の品質係数を有し、自由スペクトル領域(FSR、Free spectral range)が945.4MHzである。光ファイバキャビティに結合された励起光の出力が徐々に向上し、キャビティ内でブリルアンレーザを発生できるようになる場合、励起光の周波数を調整すれば光コムを発生することができる。
【0042】
図4(1)は本発明の実施例にて提供される光ファイバFPキャビティを用いて発生される光コムのスペクトル概略図であり、図4(2)は本発明の実施例にて提供される光ファイバFPキャビティを用いる場合に発生される光コムのビート周波数信号の概略図である。図4(1)及び図4(2)から分かるように、光コムは平滑なスペクトルを有し、30dBの帯域が100nmを超え、機器の解像度限界を超えるビート周波数線幅を有し、強い光コムコヒーレンス性が証明される。自走状態で数時間維持でき、良好な受動安定性を有し、すなわち光ファイバFPキャビティが熱的安定状態にある場合、光コムは影響を受けにくい。
【0043】
図5(1)は本発明の実施例にて提供される光ファイバFPキャビティを用いて発生される光コムの1本の櫛歯の線幅概略図であり、図5(2)は本発明の実施例にて提供される光ファイバFPキャビティを用いて発生される光コムの位相雑音概略図である。図5(1)及び図5(2)から分かるように、光コムの1本の櫛歯は、励起光よりも3桁以上低い線幅を有し、位相雑音が10kHz以上の範囲内で量子雑音限界-180dBc/Hzに達することができる。
【0044】
上記内容から分かるように、本発明の実施例において、好ましくは、光ファイバFPキャビティを非線形光共振器200として使用して、熱的安定状態で光コムを発生し、また、発生した光コムは以下の特徴を有する。
【0045】
まず、光コムはマイクロ波帯域の繰り返し周波数を実現することができ、すなわち光コムの櫛歯間の周波数間隔は1GHz-1THzであり、従来のモードロックレーザは一般的に1GHzより小さい繰り返し周波数を実現し、従来のカーマイクロキャビティ光コムは一般的に10GHzより大きい繰り返し周波数を実現し、したがって、本発明の実施例にて提供される光コムは従来の光コムの周波数の空白を埋めることができ、
次に、励起光は共振器の熱的安定状態で動作し、そのため、発生した光コムは自走受動安定性に優れかつ数時間維持でき、レーザ機器の周波数ジッタ、共振器の熱ドリフトなどによる攪乱によく抵抗することができ、従来のカー光コムは受動安定性が低く、攪乱を受けるとソリトン状態が失いやすくなり、
さらに、ブリルアンレーザは線幅狭窄化の特性を有し、すなわち共振器において共振するブリルアンレーザは励起光より狭い線幅を有し、通常、線幅の狭窄化効果は1000倍以上に達することができ、さらにブリルアンレーザにより発生される光コムも同様な線幅狭窄化の特性を有し、このように、励起光の線幅に対する要求を大幅に低下させ、従来のカー光コムについては、四波混合機構によりカー光コムの線幅は必ず励起光の線幅以上であり、
最後に、本発明の実施例で発生される光コムは量子雑音限界に達することができる位相雑音レベル-180dBc/Hzを有し、マイクロ波光子学などの分野で比較的高い利用価値を有し、従来のカー光コムは量子雑音限界の位相雑音レベルが一般的に150-160dBc/Hzのレベルである。
【0046】
従来のFPキャビティは平面平行キャビティとも呼ばれ、2つの平行な平面反射鏡で構成され、以上の内容によると、本発明の実施例において光ファイバFPキャビティを用いて光コムを発生することが最も好ましいが、いくつかの実施例において、例えば線形キャビティ、環形キャビティ、ウィスパリングギャラリーモードキャビティなど他のキャビティを用いて上記のような光コムの発生方法により、従来のカー光コムよりも安定しているという特徴を有し、より狭い線幅及びより低い量子雑音を有することができ、ここで一つ一つ説明せず、励起光がこれらのキャビティ内で発振する概略図はいずれも図2に示すとおりである。
【0047】
図6は本発明の実施例にて提供される光コムの発生方法のフローチャートであり、図6に示すように、当該方法は具体的に非線形光共振器200内で実現され、以下のステップを含む。
【0048】
ステップS101において、非線形光共振器200の熱的安定状態にマッチングした励起光を受けて非線形光共振器200内で発振させる。
【0049】
1つの共振器は、特定波長の励起光に対して熱的安定状態を有しており、すなわち、特定波長の励起光は、共振器に入ると、キャビティ内の熱効果から影響を受けず、或いは非常に小さい影響を受けて、共振器から正常に出射される。特定波長に属さない励起光が当該共振器内に入ると、この励起光は、共振器内における散乱と伝搬が共振器内の熱効果から影響を受け、さらに、共振器から理想的に出射できないことになる。したがって、非線形光共振器200に入射する励起光を正常に出射できるように、本発明の実施例において励起源100の電流、温度又は他のパラメータを調整することにより、それが発する励起光の波長を変更して、励起光を非線形光共振器200の熱的安定状態に合致できるようにさせ、さらに励起光を非線形光共振器200の熱的安定状態で発振できるようにさせる。
【0050】
ステップS102において、前記非線形光共振器200を調整することにより、励起光に対応するブリルアン利得を前記非線形光共振器200における目標縦モードと重ね合わせる。
【0051】
ステップS103において、前記励起光の励起出力がブリルアンレーザを発生させる閾値を超えた場合に、前記目標縦モードでブリルアンレーザを継続的に発生させる。
【0052】
一般的には、ブリルアン利得は非線形光共振器200の種類に関係があり、異なる非線形光共振器200におけるブリルアン周波数シフトが異なり、さらに図2におけるブリルアン利得の位置が変化し、ブリルアン利得が非線形光共振器200における1つの目標縦モードと重なり合い、又は1つの目標縦モードとブリルアン利得に重複する部分があり、かつ励起源100の励起出力がブリルアンレーザを発生させる閾値を超えると、当該目標縦モードで1つのブリルアンレーザが発生する。
【0053】
ブリルアン利得を目標縦モードと重ね合わせるために、ブリルアン利得の位置又は目標縦モードの位置を調整する必要があり、非線形光共振器200の材料が一定である場合に、目標縦モードの位置は非線形光共振器200のキャビティ長に関係があり、また、ブリルアン利得の周波数シフトは非線形光共振器200の形状に関係があり、したがって、ブリルアン利得の位置又は目標縦モードの位置を調整する具体的な方式は以下のとおりである。
【0054】
非線形光共振器200のキャビティ長を調整することにより、縦モードの位置を調整して、縦モードをブリルアン利得と重ね合わせ、ここで、キャビティ長の長さ変化は一般的にマイクロメートルオーダーである。
【0055】
又は、非線形光共振器200に対して応力を調整することにより、ブリルアン利得の位置を調整して、ブリルアン利得を縦モードと重ね合わせる。上記光ファイバFPキャビティを例とし、光線FPキャビティのキャビティ本体をねじることにより応力を調整することができ、ここで、光線FPキャビティのキャビティ本体のねじる角度は最大で180°に達することができる。
【0056】
又は、非線形光共振器200に対して温度を変更することにより、ブリルアン利得の位置を調整して、ブリルアン利得を縦モードと重ね合わせる。上記光ファイバFPキャビティを例とし、それに対して温度調整を行う場合、温度調整の範囲は約-10℃~+90℃である。
【0057】
又は、励起源100を調整することにより励起光の波長を変更して、ブリルアン利得を縦モードと重ね合わせる。励起源100を上記光ファイバFPキャビティに適用する場合、励起源100の波長の調整範囲は、通常、1540nm~1565nmである。
【0058】
ステップS104において、ブリルアンレーザはカー非線形四波混合プロセスにより光コムを発生する。
【0059】
本願の実施例における非線形光共振器200はブリルアン非線形とカー非線形の両方を有し、また、これらの性質に基づいて、非線形光共振器200そのものはカー非線形四波混合機構を持つようになり、カー非線形四波混合は非線形光学における相互変調現象であり、そのうち2つ又は3つの波長間の相互作用により2つ又は1つの新たな波長が発生し、そのため、単一波長のブリルアンレーザは四波混合作用を経た後、異なる波長又は周波数を有する光コムを発生する。
【0060】
なお、前述したブリルアン利得の位置又は縦モードの位置を調整する方式はキャビティ長を調整し、又は共振器に対して応力を変更し、又は共振器に対して温度を変更し、又は励起光に対して波長を変更することに限定されず、ブリルアン利得の位置又は縦モードの位置を調整できる他の方式は本発明において同様に適用する。
【0061】
また、前述したブリルアン利得の位置又は縦モードの位置を調整する方式は光ファイバFPキャビティを例として説明するものに過ぎない。実際に利用する際に、使用可能な非線形光共振器200の種類は複数種あり、他の非線形光共振器200は上記具体的な応力調整方式、温度調整範囲及び励起光の波長の調整範囲などを採用し、又はこれらの調整方式及び調整範囲を参照した上で、自身の特徴、属性などに基づいてキャビティ長の長さ変化範囲、キャビティのねじれ角度、温度調整の範囲及び励起光の波長の調整範囲などを適応的に調整してもよい。
【0062】
上記の光コムを発生する装置及び方法の実施例の内容を参照すると、安定した光コムを得ることができ、そのため、本発明の実施例は具体的に光コムをさらに提供し、当該光コムは等周波数間隔で配列された離散スペクトルを有するだけでなく、さらに非線形光共振器200の熱的安定状態で発生され、前記非線形光共振器200はカー非線形とブリルアン利得の両方を有する共振器を表すために用いられる。また、最適な場合に、前記光コムの線幅は励起光の線幅より数桁、例えば三桁など小さく、前記光コムの量子雑音限界の位相雑音レベルは-180dBc/Hzであり、前記光コムの繰り返し周波数は1GHz程度である。
【0063】
以上の技術的解決手段から分かるように、本発明は光コムの発生方法及び装置を提供し、具体的な発生方法は以下のとおりである。非線形光共振器の熱的安定状態にマッチングした励起光を受けて前記非線形光共振器内で発振させ、励起光に対応するブリルアン利得を非線形光共振器における目標縦モードと重ね合わせ、励起光の励起出力がブリルアンレーザを発生させる閾値を超えた場合に、目標縦モードでブリルアンレーザを継続的に発生させ、ブリルアンレーザはカー非線形四波混合プロセスにより光コムを発生する。本発明の技術的解決手段は、ブリルアン利得を有する非線形光共振器を利用することにより、その熱的安定状態領域で光コムを発生することができ、当該光コムは安定性に優れるだけでなく、また低い量子雑音及び狭い線幅の特性を有する。
【0064】
当業者は、明細書を考慮し、ここで開示された発明を実施すると、本発明の他の実施形態を容易に想到し得る。本発明は本発明のいかなる変形、用途又は適応性変化をカバーすることを意図し、これらの変形、用途又は適応性変化は本発明の一般的な原理に従いかつ本発明が開示しない当技術分野における公知常識又は慣用技術手段を含む。明細書及び実施例は単なる例示的なものとして見なされ、本発明の真の範囲及び趣旨は特許請求の範囲によって示される。
【0065】
本発明は、以上に記載され且つ図面において示された精確な構造に制限されるものではなく、その範囲から逸脱せず、様々な修正及び変化を行うことができることが理解されるべきである。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲のみによって制限される。
【0066】
本願は、2020年5月27日に中国国家知識財産権局に提出された、出願番号が202010462932.3、発明の名称が「光コムの発生方法及び装置」である中国特許出願の優先権を主張し、その内容のすべてが参照によって本願に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】