(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-15
(54)【発明の名称】水を捕捉および放出するコンポジット材料
(51)【国際特許分類】
C08L 101/12 20060101AFI20221208BHJP
B01D 53/28 20060101ALI20221208BHJP
B01J 20/22 20060101ALI20221208BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20221208BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20221208BHJP
C07C 63/26 20060101ALN20221208BHJP
【FI】
C08L101/12
B01D53/28
B01J20/22 A
B01J20/34 H
C08K5/09
C07C63/26 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022518830
(86)(22)【出願日】2020-10-09
(85)【翻訳文提出日】2022-05-20
(86)【国際出願番号】 SG2020050575
(87)【国際公開番号】W WO2021076049
(87)【国際公開日】2021-04-22
(31)【優先権主張番号】10201909679U
(32)【優先日】2019-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507335687
【氏名又は名称】ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポール
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】ジャオ,ダン
(72)【発明者】
【氏名】カルマカル,アビシェク
(72)【発明者】
【氏名】ペー,シン ボー
【テーマコード(参考)】
4D052
4G066
4H006
4J002
【Fターム(参考)】
4D052DA06
4D052HA27
4D052HA49
4G066AB24B
4G066AC02D
4G066AC12D
4G066AC16D
4G066AC17D
4G066AC21D
4G066BA36
4G066GA01
4G066GA32
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB90
4H006BS30
4J002BG011
4J002BG121
4J002CH021
4J002EG046
4J002EG076
4J002FD206
4J002GT00
(57)【要約】
複数の水安定性金属有機構造体、それぞれの構造体は複数のポーラス・キャビティーを有し;および
ポリマー鎖の形態の感温性ポリマー材料
を含むコンポジット材料であって、前記感温性ポリマー材料のポリマー鎖は、複数の水安定性金属有機構造体のポーラス・キャビティー内に少なくとも部分的に形成されることを特徴とする、コンポジット材料を開示する。また、水の吸着および放出のための前記コンポジット材料の使用も開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の水安定性金属有機構造体、それぞれの構造体は複数のポーラス・キャビティーを有し;および
ポリマー鎖の形態の感温性ポリマー材料
を含むコンポジット材料であって、前記感温性ポリマー材料のポリマー鎖は、複数の水安定性金属有機構造体のポーラス・キャビティー内に少なくとも部分的に形成されることを特徴とする、コンポジット材料。
【請求項2】
前記各ポリマー鎖が、単一の金属有機構造体中の複数のキャビティーのうちの1つ以上を通って延びることを特徴とする、請求項1に記載のコンポジット材料。
【請求項3】
前記ポリマー鎖の一部が、単一の金属有機構造体の1つ以上のキャビティーから、少なくとも1つのさらなる金属有機構造体の1つ以上のキャビティーに延びることを特徴とする、請求項1または2に記載のコンポジット材料。
【請求項4】
1つ以上(例えば2つまたは3つ)のポリマー鎖の少なくとも一部が、金属有機構造体の同一のキャビティーを占めることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のコンポジット材料。
【請求項5】
前記水安定性金属有機構造体が、MOF-801、MOF-841、UiO-66、PIZOF-2、MIL-100(Fe)、MIL-101(Al)、MIL-125-NH
2、Co
2Cl
2(BTDD)、Y-shp-MOF-5およびMIL-101(Cr)からなる群から選択される1つ以上から形成されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載のコンポジット材料。
【請求項6】
前記水安定性金属有機構造体が、MIL-101(Cr)であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載のコンポジット材料。
【請求項7】
前記感温性ポリマー材料が、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリ(エチレンオキシド-コ-プロピレンオキシド)(ポリ(EO/PO)コポリマー)、PEO-PPO-PEOトリブロック界面活性剤、アルキル-PEOブロック界面活性剤、ポリ(ビニルメチルエーテル)(PVME)、ポリ(オキシエチレンビニルエーテル)(POEVE)、ポリアルコール、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコールおよび誘導体、ポリアミド、ポリ(N-ビニルピロリドン)、ポリ(エチルオキサゾリン)、ポリ(N-ビニルイソブチルアミド)(PNVIBA)、ポリ(2-カルボキシイソプロピルアクリルアミド)(PCIPAAm)、ポリ(メタクリル酸)、人工ポリペプチド、短い「ロイシンジッパー」エンドブロックからなるトリブロックコポリペプチド、エラスチン様ポリペプチド(ELPs)およびポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)からなる群の1つ以上から選択されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載のコンポジット材料。
【請求項8】
前記感温性ポリマー材料が、ポリ(N-ビニルアミド)およびポリアクリル酸、またはポリアクリル酸の誘導体からなる群の1種以上から選択されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載のコンポジット材料。
【請求項9】
前記ポリ(N-ビニルアミド)が、ポリ(N-ビニルピロリドン)、ポリ(N-ビニルイソブチルアミド)(PNVIBA)およびポリ(2-カルボキシイソプロピルアクリルアミド)からなる群の1つ以上から選択されることを特徴とする、請求項8記載のコンポジット材料。
【請求項10】
前記ポリアクリル酸がポリアクリル酸およびポリ(メタクリル酸)の1つ以上から選択されることを特徴とする、請求項8に記載のコンジット材料。
【請求項11】
前記ポリアクリル酸誘導体がポリアクリルアミドであることを特徴とする、請求項8に記載のコンポジット材料。
【請求項12】
前記ポリアクリルアミドが、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)およびポリ(N,N-ジエチルアクリルアミド)の1つ以上から選択されることを特徴とする、請求項11に記載のコンポジット材料。
【請求項13】
前記感温性ポリマー材料がポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)であることを特徴とする、請求項1~12のいずれか1項に記載のコンポジット材料。
【請求項14】
前記水安定性金属有機構造体がMIL-101(Cr)であり、前記感温性ポリマー材料がポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)であることを特徴とする、請求項1~13のいずれか1項に記載のコンポジット材料。
【請求項15】
前記感温性ポリマー材料が、コンポジット材料の全乾燥重量の38~85重量%のような、コンポジット材料の全乾燥重量の20~95重量%を形成することを特徴とする、請求項1~14のいずれか1項に記載のコンポジット材料。
【請求項16】
前記コンポジット材料が、飽和湿度空気条件に24時間暴露した場合に、コンポジット材料の乾燥重量に対して最大100~440重量%の水を吸着し得ることを特徴する、請求項1~15のいずれか1項に記載のコンポジット材料。
【請求項17】
水の吸着および放出のための、請求項1~16のいずれか1項に記載のコンポジット材料の使用。
【請求項18】
水の吸着が大気中の水の吸着であることを特徴とする、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
大気から水を得る方法であって、以下のステップ:
(a)請求項1~16のいずれか1項に記載のコンポジット材料を一定期間周囲の大気条件に提供して、大気から水を吸着させるステップ、および
(b)コンポジット材料を感温性ポリマー材料の下限臨界溶液温度より5~20℃高い温度まで加熱して水を得るステップ
を含む、方法。
【請求項20】
前記ステップ(b)における加熱が、感温性ポリマー材料の下限臨界溶液温度より7~15℃高いことを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水安定性金属有機構造体および感温性ポリマー材料からなるコンポジット材料、および前記コンポジット材料を用いた水の捕捉・放出のための使用に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書における先行公開文書の記載または議論は、必ずしもその文書が技術水準の一部であること、または一般常識であることを認めるものと解釈されるべきではない。
【0003】
清潔な水の不足は、人間の健康だけでなく、水とエネルギー生産の相互依存性(=「水とエネルギーのネクサス」)による気候変動やエネルギー安全保障にも関わる、深刻かつ永続的な地球規模の問題である。そのため、エネルギー効率の良い集水・発電技術の開発に大きな期待が寄せられている。
【0004】
大気中の水は、水不足を解消するために使用し得る新鮮な水の主要な未利用の資源である。ナミブ砂漠のカブトムシやクモなどの生物は、疎水性-親水性相互作用(体構造と水の相互作用)を利用して、大気中の水を採取する能力(霧・露水採取を介して)を有しており、これを模倣した合成生体材料がいくつか開発されている。霧や露を利用した大気中集水(AWH)は有望な方法であるが、コストが高く、壊れやすく、異常気象の影響を受けやすいという重大な課題が残されている。
【0005】
金属有機構造体(MOF)は、吸着ヒートポンプ(AHP)、大気圧水生成器(AWG)、水利用、除湿などの水関連用途に有望な吸着材として最近注目されている。水に安定なMIL-101(Cr)(MIL=Materials of Institut Lavoisier)のようなメソポーラスMOFは、かなりの吸水能力(≧ 1g-1)を示す。他のいくつかの水安定性ZrベースMOFも、望ましくない収着ヒステリシスを回避する能力により、AWHおよび冷凍用途で実証されている。しかし、ほとんどのMOFは、水分吸着後に性能を回復させるために80℃以上の温度で再生する必要があり、エネルギー効率が悪い。
【0006】
そのため、上記の問題の1つ以上に対処するための新しいコンポジット材料を開発する必要がある。重要なことは、これらのコンポジット材料は、その使用圧力範囲内で高い吸水/放出能力を示し、適度な再生温度(すなわち、理想的には50℃より低い温度で、低級熱、さらには太陽エネルギーなどの再生可能エネルギー資源の使用を可能にする)を有する必要があることである。さらに、このような材料は、汎用性が高く機能的であり、大量生産が容易で安価であることが求められる。
【0007】
親水性/疎水性を温度で制御できる熱応答性ポリマーは、スマートマテリアルとして、特にバイオ分野への応用が注目されている。中でもポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)は、下限臨界溶液温度(LCST)約33℃以上で、コイル状から球状(親水性から疎水性)への興味深いコンフォメーション変化を示すことが知られている。
【発明の概要】
【0008】
1. 複数の水安定性金属有機構造体、それぞれの構造体は複数のポーラス・キャビティーを有し;および
ポリマー鎖の形態の感温性ポリマー材料
を含むコンポジット材料であって、前記感温性ポリマー材料のポリマー鎖は、複数の水安定性金属有機構造体のポーラス・キャビティー内に少なくとも部分的に形成されることを特徴とする、コンポジット材料。
2. 前記各ポリマー鎖が、単一の金属有機構造体中の複数のキャビティーのうちの1つ以上を通って延びることを特徴とする、節1に記載のコンポジット材料。
3. 前記ポリマー鎖の一部が、単一の金属有機構造体の1つ以上のキャビティーから、少なくとも1つのさらなる金属有機構造体の1つ以上のキャビティーに延びることを特徴とする、節1または2に記載のコンポジット材料。
4. 1つ以上(例えば2つまたは3つ)のポリマー鎖の少なくとも一部が、金属有機構造体の同一のキャビティーを占めることを特徴とする、節1~3のいずれか1節に記載のコンポジット材料。
5. 前記水安定性金属有機構造体が、MOF-801、MOF-841、UiO-66、PIZOF-2、MIL-100(Fe)、MIL-101(Al)、MIL-125-NH2、Co2Cl2(BTDD)、Y-shp-MOF-5およびMIL-101(Cr)からなる群から選択される1つ以上から形成されることを特徴とする、節1~4のいずれか1節に記載のコンポジット材料。
6. 前記水安定性金属有機構造体が、MIL-101(Cr)であることを特徴とする、節1~5のいずれか1節に記載のコンポジット材料。
7. 前記感温性ポリマー材料が、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリ(エチレンオキシド-コ-プロピレンオキシド)(ポリ(EO/PO)コポリマー)、PEO-PPO-PEOトリブロック界面活性剤、アルキル-PEOブロック界面活性剤、ポリ(ビニルメチルエーテル)(PVME)、ポリ(オキシエチレンビニルエーテル)(POEVE)、ポリアルコール、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコールおよび誘導体、ポリアミド、ポリ(N-ビニルピロリドン)、ポリ(エチルオキサゾリン)、ポリ(N-ビニルイソブチルアミド)(PNVIBA)、ポリ(2-カルボキシイソプロピルアクリルアミド)(PCIPAAm)、ポリ(メタクリル酸)、人工ポリペプチド、短い「ロイシンジッパー」エンドブロックからなるトリブロックコポリペプチド、エラスチン様ポリペプチド(ELPs)およびポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)からなる群の1つ以上から選択されることを特徴とする、節1~6のいずれか1節に記載のコンポジット材料。
8. 前記感温性ポリマー材料が、ポリ(N-ビニルアミド)およびポリアクリル酸、またはポリアクリル酸の誘導体からなる群の1種以上から選択されることを特徴とする、節1~6のいずれか1節に記載のコンポジット材料。
9. 前記ポリ(N-ビニルアミド)が、ポリ(N-ビニルピロリドン)、ポリ(N-ビニルイソブチルアミド)(PNVIBA)およびポリ(2-カルボキシイソプロピルアクリルアミド)からなる群の1つ以上から選択されることを特徴とする、節8記載のコンポジット材料。
10. 前記ポリアクリル酸がポリアクリル酸およびポリ(メタクリル酸)の1つ以上から選択されることを特徴とする、節8に記載のコンジット材料。
11. 前記ポリアクリル酸誘導体がポリアクリルアミドであることを特徴とする、節8に記載のコンポジット材料。
12. 前記ポリアクリルアミドが、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)およびポリ(N,N-ジエチルアクリルアミド)の1つ以上から選択されることを特徴とする、節11に記載のコンポジット材料。
13. 前記感温性ポリマー材料がポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)であることを特徴とする、節1~12のいずれか1節に記載のコンポジット材料。
14. 前記水安定性金属有機構造体がMIL-101(Cr)であり、前記感温性ポリマー材料がポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)であることを特徴とする、節1~13のいずれか1節に記載のコンポジット材料。
15. 前記感温性ポリマー材料が、コンポジット材料の全乾燥重量の38~85重量%のような、コンポジット材料の全乾燥重量の20~95重量%を形成することを特徴とする、節1~14のいずれか1節に記載のコンポジット材料。
16. 前記コンポジット材料が、飽和湿度空気条件に24時間暴露した場合に、コンポジット材料の乾燥重量に対して最大100~440重量%の水を吸着し得ることを特徴する、節1~15のいずれか1節に記載のコンポジット材料。
17. 水の吸着および放出のための、節1~16のいずれか1節に記載のコンポジット材料の使用。
18. 水の吸着が大気中の水の吸着であることを特徴とする、節17に記載の使用。
19. 大気から水を得る方法であって、以下のステップ:
(a)節1~16のいずれか1節に記載のコンポジット材料を一定期間周囲の大気条件に提供して、大気から水を吸着させるステップ、および
(b)コンポジット材料を感温性ポリマー材料の下限臨界溶液温度より5~20℃高い温度まで加熱して水を得るステップ
を含む、方法。
20. 前記ステップ(b)における加熱が、感温性ポリマー材料の下限臨界溶液温度より7~15℃高いことを特徴とする、節19に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明のMOF/ポリマーコンポジット材料30の作製(多孔性MOF10およびモノマー20を使用)、および当該材料30による温度トリガーした水の捕捉・放出プロセスを模式的に示す図である。
【0010】
【
図2】MIL-101(Cr)の多孔質空隙内でフリーラジカル重合によりNIPAMをその場で重合し、PNIPAMを形成している様子を示す図である。
【0011】
【
図3】(a)MIL-101(Cr)、PNIPAM@MIL-101(Cr)-1およびPNIPAMのFTIRスペクトル;(b)MIL-101(Cr)とPNIPAM@MIL-101(Cr)-1のXPSスペクトル;(c)MIL-101(Cr)およびPNIPAM@MIL-101(Cr)1-4の77KにおけるN2収着等温線(吸着、充填、脱着、開放);および(d)PNIPAM@MIL-101(Cr)1-4のTEM画像を示す図である。
【0012】
【
図4】(a)MIL-101(Cr)および活性化MIL-101(Cr);および(b)NIPAM@MIL-101(Cr)-1、PNIPAM@MIL-101(Cr)1-4、MIL-101(Cr)のPXRDパターンを示す図である。
【0013】
【
図5】(a)MIL-101(Cr)、NIPAM@MIL-101(Cr)-1、PNIPAM@MIL-101(Cr)-1、既製品PNIPAMおよびPNIPAM@MIL-101(Cr)-1から抽出したPNIPAM;(b)MIL-101(Cr)、NIPAM@MIL-101(Cr)-1、PNIPAM@MIL-101(Cr)1-4および既製品PNIPAMのFTIRスペクトルを示す図である。
【0014】
【
図6】PNIPAM@MIL-101(Cr)-1から抽出したPNIPAMの
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【0015】
【
図7】既製品PNIPAMとPNIPAM@MIL-101(Cr)-1から抽出したPNIPAMのGPCプロファイルを示す図である。
【0016】
【
図8】PNIPAM@MIL-101(Cr)-1-4の細孔径分布を示す図である。
【0017】
【
図9】MIL-101(Cr)、NIPAM@MIL-101(Cr)-1、PNIPAM@MIL-101(Cr)-1、既製品PNIPAMのTGAプロファイルを示す図である。
【0018】
【
図10】PNIPAM@MIL-101(Cr)1-4のSEM画像を示し、均一な結晶モルフォロジーを示す図である。
【0019】
【
図11】(a-c) 25℃(a、b)および(c) 40℃における各種サンプルの水収着等温線をそれぞれ示し;(d) MIL-101(Cr)、PNIPAM、NIPAM@MIL-101(Cr)-1およびPNIPAM@MIL-101(Cr)-1のDSCプロファイルを示す図である。
【0020】
【
図12】本発明の吸水および放出特性:(a)各種条件下(25℃、96% RH、40および50℃、40% RH)でのPNIPAM、MIL-101(Cr)、およびPNIPAM@MIL-101(Cr)-1の吸水を示す図である;(ai)初期データ、(aii)確定データ;(b)湿度チャンバーを用いて収集したPNIPAM@MIL-101(Cr)-1の吸水および放出速度データ;取り込み試験は,サンプルを湿潤状態に飽和させることで行った(実線記号)。飽和させたサンプルを乾燥させることで放出試験を行った(空白の記号);(c)PNIPAM@MIL-101(Cr)-1、MIL-101(Cr)、およびPNIPAMの吸水量(*で表す、湿潤状態で取得)および放水量(^で表す、湿潤状態と乾燥状態の吸水量の差として定義);(ci)初期データ、(cii)最終化データ;(d)PNIPAM@MIL-101(Cr)-1の湿潤状態と乾燥状態の間の周期的吸水量、(ei)PNIPAM@MIL-101(Cr)-1の湿潤状態(96%RH、25℃)、乾燥状態(40%RH、40℃)における写真;eii)96%RH、25℃に暴露した後のPNIPAM@MIL-101(Cr)-1粒子の光学像、(eiii)40%RH、40℃に暴露した後の光学像である。
【0021】
【
図13】(a)初期および(b)湿度チャンバー内で96%RH、25℃に曝したときの各種サンプルの吸水量を示した図である。サンプルの吸水率は表3に示す通りである。
【0022】
【
図14】湿度チャンバーを用いて収集した各種サンプルの吸水・放出速度データを示す図である:(a)MIL-101(Cr);(b)PNIPAM;(c)PNIPAM@MIL-101(Cr)-2;(d)PNIPAM@MIL-101(Cr)-3;および(e)PNIPAM@MIL-101(Cr)-4。取り込み試験は、サンプルを25℃、96%RHに飽和させることにより行った(実線記号)。放出試験は、飽和したサンプルを40℃の40%RHに暴露して行った(空白の記号)。
【0023】
【
図15】MIL-101(Cr)のポア内におけるPNIPAMポリマー鎖の分子動力学(MD)シミュレーションを示す図である。ポリマー含有量19.7重量%と59.0重量%のMIL-101(Cr)のケージにおけるPNIPAMの優先的な分布は、それぞれ(a、b)および(c、d)に示すとおりで、(a)および(c)は小さなケージの外観、(b)および(d)は大きなケージの外観に相当する。MOFの金属中心は多面体として表されている。カウンターアニオン(-OH、-F、-SO
4など)の性質がMIL-100の全体的な吸着挙動にほとんど影響を及ぼさないことは、以前に北川らによって実証されている(G. Akiyamaら,Chem. Lett.2010,39,360-361);したがって、すべてのシミュレーションは,Fereyらによって報告されたMIL-101(Cr)結晶構造(代表的な対アニオンは-F)を用いて行った(G. Fereyら,Science 2005,309,2040-2042)。PNIPAM分子は直線状(e)またはカール状(f)のコンフォメーションで表される。
【0024】
【
図16】MDシミュレーションによる(a)MIL-101(Cr);および(b)PNIPAM の異なる原子のタイプに関連するラベルを示す図である。(a) MIL-101(Cr);と(b) PNIPAMのMDシミュレーションから得られた、原子の種類に応じたラベルである。PNIPAMでは、原子の電荷に応じたラベルとOPLS-AAの表記に従ったラベル(括弧内)の2つが採用されている。
【0025】
【
図17】19.7重量%(wt%)のPNIPAM@MIL-101(Cr)系のMDシミュレーションで得られた動径分布関数(RDF)を示す図である。7重量%のPNIPAM@MIL-101(Cr)系:(a)対アニオン-H(NH)、O(CO)-H(H
2O)およびCC3-CCT原子対に対するRDFは、主なPNIPAM/MIL-101(Cr)相互作用を表す;および(b)O(CO)-H(NH)原子対に対するRDFは主なPNIPAM相互作用の例を示す。原子タイプの更なる詳細については、実施例4および
図16で論じている。
【0026】
【
図18】19.7重量%(実線)と59.0重量%(破線)のPNIPAM@MIL-101(Cr)系のMDシミュレーションから得られた、(a)F-H(NH);(b)O(CO)-H(H
2O);(c)CT-C3;および(d)O(CO)-H(NH)の原子ペア間の相互作用に対するRDFを示す図である。7重量%(実線)と59.0重量%(破線)のPNIPAM@MIL-101(Cr)系のMDシミュレーションから得られたものである。
【0027】
【
図19】水和状態におけるMIL-101(Cr)の細孔内のすべてのPNIPAM分子の平均回転半径(黒線と丸)を、シミュレーション全体を通して分子の平均個別回転半径(空丸)と比較して描いた図である。
【0028】
【
図20】59.0重量%のPNIPAM@MIL-101(Cr)系の無水状態および完全水和状態でのMDシミュレーションから得られた(a)F-H(NH);(b)O(CO)-H(H
2O);(c)CC3-CCT原子対間の相互作用に対するRDFを示す図である。
【0029】
【
図21】水の存在下でのPNIPAM@MIL-101(Cr)の分子動力学(MD)シミュレーションを示す図である。高分子量59.0重量%のMIL-101(Cr)の小ケージ(a、b)および大ケージ(c、d)におけるPNIPAM(a、c)および水(b、d)の優先的な位置は、適宜示すとおりである。MOFの金属中心は多面体で表す;(e)水分子の酸素原子(Ow)と骨格のO(H
2O)およびF原子の相互作用、ならびにOwとPNIPAM分子のNおよびO原子の相互作用を示すRDF、(f)水分子とPNIPAM鎖のアミド基の間にできる水素結合(破線)の代表スナップショット。
【0030】
【
図22】59.0重量%のPNIPAMを含む水溶性PNIPAM@MIL-101(Cr)系におけるOw-Ow相互作用対のRDFを示す図である。
【0031】
【
図23】親水性原子1個あたりの水素結合の数を示す図である:(a)MIL-101(Cr);(b)PNIPAM;および(c)H
2O。(a)では、NH-結合はFとO(H
2O)原子あたり、(b)では、NH-結合はN(NH)とO(CO)原子あたり、(c)では、NH-結合はH
2O分子あたり測定されたものである。
【0032】
【
図24】完全に水和したMIL-101(Cr)のポア内のラップされていないPNIPAM鎖の分布を、PNIPAMの負荷量に応じて示す図である。(a)19.7重量%;(b)39.4重量%;(c)59.0重量%;および(d)78.7重量%。各色は異なるポリマー鎖を表す。
【0033】
【
図25】飽和MIL-101(Cr)系(破線)およびPNIPAM@MIL-101(Cr)系(19.7重量%、39.4重量%、59.0重量%、78.7重量%)における水分子の平均二乗変位(MSD)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の第1の局面において、
複数の水安定性金属有機構造体、それぞれの構造体は複数のポーラス・キャビティーを有し;および
ポリマー鎖の形態の感温性ポリマー材料
を含むコンポジット材料であって、前記感温性ポリマー材料のポリマー鎖は、複数の水安定性金属有機構造体のポーラス・キャビティー内に少なくとも部分的に形成されることを特徴とする、コンポジット材料を提供する。
【0035】
本明細書でいう"~を含む"とは、記載された特徴を必要とするが、他の特徴の存在を制限するものではないと解釈することができる。あるいは、"~を含む"という用語は、記載された構成要素/特徴のみが存在することを意図している状況に関連することもある(例えば、"~を含む"という用語は、"~からなる"または"実質的に~からなる"という表現で置き換えることができる)。より広い解釈とより狭い解釈の両方が、本発明のすべての局面および実施形態に適用され得ることが明示的に意図される。すなわち、用語「~からなる」およびその同義語は、フレーズ「からなる」またはフレーズ「実質的に~からなる」またはその同義語に置き換えることができ、その逆もまた同様である。
【0036】
ここでいう金属有機構造体(MOF)は、金属カチオンと多座の有機リンカーとの結合(配位結合)からなる材料であり、複数のキャビティーを有する多孔質構造を形成していることは理解される。
【0037】
MOFは、水に対して安定であり、キャビティーを有し、そのキャビティー内(およびキャビティー間)にポリマー鎖を形成できるものであれば、どのようなものでも使用可能である。好適なMOFのには、限定されるものではないが、以下のものが含まれ得る:
a)MOF-801;
b)MOF-841;
c)UiO-66;
d)PIZOF-2;
e)MIL-100(Fe);
f)MIL-101(Al);
g)MIL-125-NH2;
h)Co2Cl2(BTDD);
i)Y-shp-MOF-5;および
j)MIL-101(Cr)。
【0038】
MOF-801、MOF-841、UiO-66、PIZOF-2、MIL-100(Fe)、MIL-101(Al)、MIL-125-NH2、Co2Cl2(BTDD)、Y-shp-MOF-5およびMIL-101(Cr)(例えば、以下の通りである。水安定性金属有機構造体は、MOF-801、MOF-841、UiO-66、PIZOF-2、MIL-100(Fe)、MIL-101(Al)、MIL-125-NH2、Co2Cl2(BTDD)、Y-shp-MOF-5およびMIL-101(Cr)からなる群の1以上から形成される)。
【0039】
本明細書の実施形態で言及し得る特定のMOFは、MOF-801、MOF-841、UiO-66、PIZOF-2、MIL-100(Fe)、MIL-101(Al)、MIL-125-NH2、Co2Cl2(BTDD)、Y-shp-MOF-5のように、MIL-100(Fe)、MIL-101(Al)、およびMIL-101(Cr)、しかしそれらに限られることはない。例えば、MOFは、MIL-101(Cr)であってもよい。
【0040】
本明細書において、「水安定性金属有機構造体」という用語は、中性pH(例えば、pH6~8、例えば、pH7)付近の水性環境にさらされた(または浸された)とき、長期間にわたって実質的に変化しないMOF材料を意味する。例えば、期間は1日~10年、10日~5年、1ヶ月~1年、2ヶ月~6ヶ月とすることができる。本明細書で使用される場合、「実質的に変化しない」という用語は、少なくとも60重量%、例えば少なくとも70重量%、例えば少なくとも80重量%、例えば少なくとも90重量%、例えば少なくとも99重量%、例えば少なくとも99.9重量%、例えば少なくとも99.999重量%の、関連期間にわたって変化しない形態で残っている複合材料のMOF部分、をいう場合がある。
【0041】
本明細書に開示されるMOFは、理論に拘束されることなく、以下の特性のうちの1つ以上(例えば、すべて)を有するため、所望のコンポジット材料の形成に特に有用である可能性がある。
a)加水分解安定性が高い。
b)熱安定性が高い。
c)優れた吸水特性。
d)典型的なS字型吸水等温線であり、大気圧水生成(AWG)用途に適している。
e)MOFの多孔質マトリックス内(すなわちMOFの空洞内)で起こる重合に適した高いBET表面積を有する。
【0042】
また、理解されるように、本明細書で開示するMOFは、重合反応およびその後のコンポジット材料を提供するためのワークアップ工程に使用する条件に耐える(または耐えることが期待される)。これは、重合に使用される条件が穏やかであるため(例えば、6から8のpHまたは中性pH条件)、またはpHがより酸性である過酷な条件(例えば、1から5、2から4、例えば3)またはpHがより塩基性である(例えば、9から11、例えば10)でMOFが生存できるためである可能性がある。
【0043】
本発明で有用な感温性ポリマー材料は、その下限臨界溶液温度(LCST)の値が低いポリマーであってもよい。例えば、LCSTの値は、20~85℃、例えば25~50℃、例えば28~37℃、例えば30~34℃、例えば32℃であってもよい。誤解を避けるため、本明細書では、同じ特徴に関連する多数の数値範囲を引用する場合、各範囲の端点を任意の順序で組み合わせて、さらに意図された(および暗黙的に開示された)範囲を提供することが意図されていることが明示的に意図されている。従って、上記の数値範囲に関連するものとして、以下のものを開示する:
20~25℃、20~28℃、20~30℃、20~32℃、20~34℃、20~37℃、20~50℃、20~85℃;
25~28℃、25~30℃、25~32℃、25~34℃、25~37℃、25~50℃、25~85℃;
28~30℃、28~32℃、28~34℃、28~37℃、28~50℃、28~85℃;
30~32℃、30~34℃、30~37℃、30~50℃、30~85℃;
32~34℃、32~37℃、32~50℃、32~85℃;
34~37℃、34~50℃、34~85℃;
37~50℃、37~85℃、および
50~85℃。
【0044】
本明細書に言及し得る特に好ましいポリマー材料は、30℃以上(例えば、30~50℃)のLCST値を有していてもよい。このように、本明細書の実施形態では、以下の温度範囲を挙げることができる:
30~32℃、30~34℃、30~37℃、30~50℃;
32~34℃、32~37℃、32~50℃;
34~37℃、34~50℃および37~50℃。
【0045】
本発明において有用であり得るポリマーは、低いLCST値を有し、本明細書に記載されたMOFのキャビティ内でポリマー鎖を合成することが容易なモノマー材料から作られるポリマーであってよい。一例として、PNIPAMは、低いLCST値(これは、コンポジット材料において熱応答性挙動を付与するのに適した候補となる)を有し、MOF(例えば、MIL-101(Cr))のポーラスキャビティーにおいてそのモノマー成分からPNIPAMを容易に合成することができるので、目的の複合製品に組み入れるために適したポリマーとなり得る。興味深いLCST挙動を有する他の熱応答性のいくつかを示す表を表1に示す(Asian journal of pharmaceutical sciences 10(2015),99-107から再掲)。
【0046】
上記の例で述べたように、本明細書に開示されたコンポジット」による水の捕獲は、水の過飽和蒸気圧を示すRH>95%で行われる。また、PNIPAMのLCSTより~7℃高い40℃から例示した組成物の放出現象が観察される。
【0047】
【0048】
疑念を避けるために、上記の表1に列挙された全ての材料は、本明細書で議論されるコンポジット材料におけるポリマーとして使用され得る。疑義を避けるために、これは、上記の表中の相互浸透ネットワーク材料にも適用される。
【0049】
上述のように、コンポジット材料は、MOFのキャビティーにポリマー材料を組み込んでいる。場合によっては、ポリマー鎖は、MOFのキャビティー内に完全に含まれることがある。しかし、それ以外の場合、ポリマー鎖の一部がMOFの1つのキャビティー内に収容され、そのキャビティーから延び、ポリマー鎖の一部が全く収容されないようなこともあり得る。さらに別のケースでは、ポリマー鎖が1つのキャビティーを通って、同じMOFの少なくとも1つの別のキャビティーに延びでもよい。コンポジット材料中に見出されるポリマー鎖の大部分(例えば、90%超、85%超など、99%超など、99.9%超など、すべて)は、単一のMOF中の1つまたは複数のキャビティーを通って延びるが、コンポジット材料中のポリマー鎖の割合は、上記の他の状況に該当し得ることは理解されよう。また、理解されるように、1つ以上のポリマー鎖(例えば、2つ、3つ、4つまたは5つ、例えば2つまたは3つ)が、金属有機構造体の同じ孔を占有してもよい。
【0050】
本明細書で言及され得るコンポジット材料の特定の実施形態では、ポリマー鎖の一部は、単一の金属有機構造体の1つまたは複数のキャビティーから、少なくとも1つの更なる金属有機構造体の1つまたは複数のキャビティーに延びる(
図24a~dを参照)。理解されるように、各MOFは、個々のユニット(MOFの1つ以上の単位セル、または繰り返し単位からなる)を形成し、これらのユニットは、1つのユニットから他のユニットまで延びる1つ以上のポリマー鎖によって一緒に接続されてもよい。
【0051】
特定の感温性ポリマー材料は、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリ(エチレンオキシド-コ-プロピレンオキシド)(ポリ(EO/PO)コポリマー)、PEO-PPO-PEOトリブロック界面活性剤、アルキルPEOブロック界面活性剤、ポリ(ビニルメチルエーテル)(PVME)、ポリ(オキシエチレンビニルエーテル)(POEVE)、ポリマー性アルコール、アクリル酸ヒドロキシプロピール、メチルセルローズ、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコールおよびその誘導体、ポリアミド、ポリ(N-ビニルピロリドン)、ポリ(エチルオキサゾリン)、ポリ(N-ビニルイソブチルアミド)(PNVIBA)、ポリ(2-カルボキシイソプロピルアクリルアミド)(PCIPAAm)、ポリ(メタクリル酸)からなる群の1以上から選択されてもよく、人工ポリペプチド、短い「ロイシンジッパー」末端ブロックからなるトリブロックコポリペプチド、エラスチン様ポリペプチド(ELP)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)からなる群の1以上から選択されてもよい。理解されるように、これらの材料は、2つ、3つまたは4つの単量体材料から形成されるホモポリマーまたはコポリマーとして提供され得る。
【0052】
追加のまたは代替の実施形態において、感温性ポリマー材料は、ポリ(N-ビニルアミド)およびポリアクリル酸、またはポリアクリル酸の誘導体からなる群のうちの1つ以上から選択され得る。
【0053】
ポリ(N-ビニルアミド)の例としては、ポリ(N-ビニルピロリドン)、ポリ(N-ビニルイソブチルアミド)(PNVIBA)、ポリ(2-カルボキシイソプロピルアクリルアミド)、およびこれらのコポリマーが挙げられるが、これらに限定されるものではない。ポリアクリル酸の例としては、ポリアクリル酸、ポリ(メタクリル酸)およびそれらのコポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。ポリアクリル酸誘導体の例には、ポリアクリルアミドが含まれるが、これらに限定されない。本明細書で言及され得る特定のポリアクリルアミドには、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N,N-ジエチルアクリルアミド)およびそれらのコポリマーが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0054】
本明細書で言及され得る本発明の特定の実施形態では、感温性ポリマー材料は、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)である。
【0055】
ここで挙げることができる本発明によるコンポジット材料は、水安定性金属有機構造体がMIL-101(Cr)であり、感温性ポリマー材料がポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)であるものであってもよい。
【0056】
感温性ポリマー材料は、コンポジット材料の総乾燥重量に対して任意の適切な量を寄与してもよい。例えば、感温性ポリマー材料は、38~85重量%など、コンポジット材料の総乾燥重量の20~95重量%を形成してもよい。
【0057】
本明細書に開示されるコンポジット材料は、実質的な量の水を吸着することができる場合がある。例えば、コンポジット材料は、飽和湿潤空気条件に24時間暴露したときに、コンポジット材料の乾燥重量に対して最大100から440重量%の水を吸着することができる場合がある。
【0058】
したがって、本発明の第2の局面では、水の吸着および放出のための、本明細書に記載されたようなコンポジット材料の使用が提供される。例えば、その使用は、実施例3に示すように、大気中の水の吸着および水の放出に向けられてよい。
【0059】
本発明のさらなる局面において、以下のステップ:
(a)大気から水を吸着するために、本明細書に記載のコンポジット材料を一定期間、周囲の大気条件に提供するステップ;および
(b)コンポジット材料を感温性ポリマー材料の下限臨界溶液温度より5~20℃高い温度まで加熱して水を得るステップ
を含む、大気から水を得る方法が開示される。
【0060】
本方法の実施形態において、ステップ(b)における加熱は、感温性ポリマー材料の下限臨界溶液温度より7~15℃高い温度であってよい。
驚くべきことに、本発明のコンポジット材料は、吸水能力が高く、比較的低温で再生が可能であり、エネルギー効率に優れていることが判明した。実施例3に示すように、本発明のコンポジット材料は、相対湿度(RH)96%、25℃の条件下で非常に多くの水(約最大440重量%)を捕捉することができる。さらに、このコンポジット材料は、吸着した水の98%を放出することができ、比較的穏やかな条件(40%RHおよび40℃)で再生されることができる。
【0061】
理論に束縛されることを望まないが、本明細書に記載される金属有機構造体のキャビティー内のポリマー鎖の形成は、大気中の水の捕捉および貯蔵を可能にするために、必要な物理的および化学的特性(すなわち、多孔性、官能基等)を提供する。さらに、(現在のコンジット材料における)適切な低い臨界溶液温度を有する温度感受性ポリマー材料の使用は、様々な水の捕捉および/または放出用途のために低い再生温度を達成することを可能にする。
【0062】
次に、本発明のさらなる局面および実施形態について、以下の非限定的な実施例を参照して説明する。
【0063】
実施例
材料
化学物質および試薬はすべて市販のものを使用し,精製することなく受け取ったまま使用した。硝酸クロム(III)非水和物[Cr(NO3)3-9H2O]、ベンゼン-1,4-ジカルボン酸(BDC)、およびアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)はSigma-Aldrichから購入し、さらなる精製なしに使用された。N-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)はTCI社から購入した。無水メタノール(99.8%)、テトラヒドロフラン(THF、HPLCグレード)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF、HPLCグレード)、アセトン(HPLCグレード)、エタノール(EtOH、HPLCグレード)、ジクロルメタン(DCM、99.8%)はFisher Scientificから入手した。
【0064】
特徴付け方法
フーリエ変換赤外分光法(FTIR)データは、Bio-Rad FTS 3500 spectrometerで減衰全反射(ATR)モードで収集した。X線光電子分光(XPS)スペクトルは、Kratos AXIS Ultra DLD表面分析装置で、励起源として15kVで単色Al Kα線(1486.71eV)を用いて収集した。放出された光電子の取り出し角度は90°(サンプル表面と検出器の入口レンズの間の角度)であった。ピーク位置の補正は、サンプルの不定形炭素のC 1sピーク位置(284.6eV)を参照し、それに応じてスペクトル中の他のすべてのピークをシフトさせることにより行った。
1H-NMR実験は、Bruker 400 MHzスペクトロメーターで行った。また、Waters e2695 AllianceシステムとWaters 2414 RI検出器 Styragel HR 4 カラムを用いて、既製品PNIPAMとコンポジットから抽出したPNIPAMの分子量と分子量分布(多分散性指数,PDI)を測定した.溶離液にはTHFを使用し、流速は1mLmin-1とした。校正にはポリスチレン(PS)標準試料を使用した。
【0065】
熱重量分析(TGA)は,島津製作所製DTG-60AHを用いて,空気雰囲気下で行った。示差走査熱量測定(DSC)は、Mettler Toledo DSC1装置を用いて、20~60℃の温度範囲で、加熱速度5℃ min-1、冷却速度3℃ min-1で行った。MIL-101(Cr)およびコンポジット材料の結晶性と相純度は,リガク社製MiniFlex X線回折装置でスキャン速度0.02°s-1で収集したXRDパターンによって確認した。
【0066】
MIL-101(Cr)およびコンポジット材料のモルフォロジーは、電界放出型走査電子顕微鏡(FESEM、FEI Quanta 600)および透過電子顕微鏡(TEM、JEOL-JEM 2010F)により評価された。SEMからの元素マッピングは,エネルギー分散型分光器(EDS,Oxford Instruments,80mm2検出器)を用いて実施した.
【0067】
77KでのN2吸着等温線と298Kでの水吸着等温線はMicromeritics ASAP 2020 Physisorption Analyzerで測定した。各測定の前に、サンプル(約50 mg)を減圧下(<10-2Pa)、150℃で12時間脱気した。313Kでの水収着等温線は、Quantachrome Aquadyne動的蒸気収着分析器を用いて取得した。
【0068】
一般的方法1-MIL-101(Cr)の合成
MIL-101のマイクロ波支援合成は、既報に基づき実施した(L,Brombergら,(L,Brombergら,Chem. Mater. 2012,24,1664-1675)。簡単には、Cr(NO3)3-9H2O(4.5mmol,1.80g)を脱イオン水(DI,13.5mL)に溶解した。均質な濃紺の溶液をマイクロ波バイアルに導入し、続いて硝酸溶液(1M,4.5mL)を加えた。最後に、ベンゼン-1,4-ジカルボン酸(BDC,4.5mmol,0.747g)をスターラーバーと一緒にバイアルに移した。この懸濁液を短時間攪拌し、均一性を確保した。反応混合物にキャップをし、マイクロ波合成機(Anton Paar MW450)で5分以内に205℃まで加熱し、その後、撹拌下(800rpm)でその温度で45分間保持した。反応後、強制対流により70℃まで冷却した。この懸濁液を短時間撹拌して均質性を確保した。反応混合物にキャップをし,マイクロ波合成機(Anton Paar MW450)で5分以内に205℃まで加熱し,その後,攪拌下(800rpm)で45分間その温度に保持した。反応後、強制対流式で70℃まで冷却した。ろ過により過剰なBDC結晶を除去した後,遠心分離によりMIL-101(Cr)の微粉末を回収し,H2O(1×50mL)で洗浄した後、アブソルートEtOH(2×50mL)で洗浄した。ろ過により過剰なBDC結晶を除去した後、遠心分離によりMIL-101(Cr)の微粉末を回収し、H2O(1×50mL)で洗浄した後、アブソルートEtOH(2×50mL)で洗浄した。
【0069】
活性化は、既報の方法(D. Y. Hongら,Adv. Funct. Mater. 2009,19,1537-1552)に従って実施した。簡単に言うと、MOF粉末を70℃の水に5時間浸し、次に60℃のEtOHに3時間浸した。最後に、周囲温度で真空下に一晩乾燥させた。
【0070】
調製して活性化したMIL-101(Cr)は、粉末X線回折(PXRD)、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)、熱重量分析(TGA)、ガス吸着測定により相純度と多孔性を確認し、適宜特性を評価し(
図3a-c、4a、5、9参照)。
【0071】
実施例1.本発明のPNIPAM@MIL-101(Cr)の合成とキャラクタリゼーション
本発明のMOF/ポリマーコンジット材料30(PNIPAM@MIL-101(Cr)と表記)は、適当な多孔性MOF10の空隙内で適当なモノマーポリマー前駆体20を重合することにより合成した(
図1および
図2)。この例では、「一般的な方法1」から合成したMIL-101(Cr)をMOFとして選択し、N-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)を単量体ポリマー前駆体として選択した。
【0072】
実験手順
MIL-101(Cr)(約300mg)を150℃で一晩、真空下で脱気した。ジエチルエーテル(10mL)に溶解した種々の量のNIPAM(表2)を取り、MOFと共に穏やかに撹拌して均一な懸濁液を形成させた。その後、減圧下で溶媒を蒸発させ、無水THF(10mL)中のAIBN(0.3当量/NIPAM)を導入した。反応終了後、コンポジット」を熱メタノール、熱アセトン、熱DCMで十分に洗浄した後、80℃で一晩脱気した。洗浄を複数回行うことで、MOF結晶の表面から不要な出発物質やオリゴマーを除去し、コンポジットを精製することができる。
【0073】
結果と考察
活性化したMIL-101(Cr)にNIPAMモノマーをさまざまな重量%で充填し(表2)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を開始剤としてフリーラジカル重合を開始させた(
図2)。MIL-101(Cr)内部の重合完了を
1H-NMR分光法(
図6)およびゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、
図7)によりモニターした。得られたコンジット材料PNIPAM@MIL-101(Cr)は、PNIPAM含有量の異なる4種類の材料、すなわちPNIPAM@MIL-101(Cr)-1~4を調製した。
【0074】
【0075】
元素分析により求めたPNIPAMの担持量は、PNIPAM@MIL-101(Cr)1-4でそれぞれ38、45、65、85重量%であった(表2)。すべてのPNIPAM@MIL-101(Cr)サンプルのFTIRスペクトルにおいて、2900cm
-1にPNIPAMバックボーンのC-H伸縮、1550cm
-1にPNIPAMアミド基のN-H変角、1460cm
-1にPNIPAMイソプロピル基のC-H変角に相当するピークが観測され、コンポジット材料中にPNIPAMが生成したことが確認できた(
図3a、5a、5b参照)。
【0076】
コンポジットのX線光電子分光(XPS)スペクトルは、PNIPAM成分に由来するN(1s)のピークを示した(
図3b)。PNIPAM@MIL-101(Cr)-1から抽出したPNIPAMの
1H-NMRスペクトルにポリマーの特徴的なピークが観測され(
図6)、PNIPAMがMIL-101(Cr)内でイン-サイチュ重合により生成したことが再確認された。抽出したPNIPAMのGPC結果は,数平均分子量(Mn)1895(1本のポリマー鎖に約17の繰り返しモノマー単位),多分散性指数(PDI)1.12を示唆した(
図7,表3)。この分子量はバルク合成されたPNIPAMの分子量(46050)よりも低く、イン-サイチュ重合中にMIL-101(Cr)ホストによる閉じ込め効果が働いていることを示している。
【0077】
【0078】
また、77KでのN
2収着等温線から、MIL-101(Cr)のBrunaeur-Emmet-Teller(BET)表面積(SBET)は約3200m
2 g
-1であり、PNIPAM@MIL-101(Cr)1-4のSBETはそれぞれ2200、1505、641および227m
2 g
-1と決定した(
図3c)。このSBETの減少順序はコンポジット1から4へのPNIPAM含有量の増加と一致しており,ポリマーがMIL-101(Cr)の細孔内に閉じ込められていることを証明している。この結論は細孔径分布のデータによってさらに支持され,MIL-101(Cr)の大きな細孔はポリマー含量が高くなるとPNIPAMによって徐々にふさがれ,小さな細孔のみがアクセス可能となることが確認された(
図8)。
【0079】
PNIPAM@MIL-101(Cr)-1のTGAプロファイルは、コンポジット」中のPNIPAMの分解に対応する安定した重量減少を示した(
図9)。PXRD(
図4b)、走査型電子顕微鏡(SEM、
図10)、透過型電子顕微鏡(TEM、
図3d)から示唆されるように、MIL-101(Cr)の結晶構造とモルフォロジーはモノマー充填と重合後も変化していない。シャープなエッジと完全に結晶化したモルフォロジーの完全性は、MIL-101(Cr)の外側に形成されたPNIPAMがあったとしても、精製手順の間に完全に除去されたことを示すものである。
【0080】
理解されるように、PNIPAMのポリマー鎖は、MIL-101(Cr)のキャビティ内に完全に収容されてもよい。しかしながら、他の場合(特にポリマーの負荷が高い場合)、ポリマー鎖は、MIL-101(Cr)の1つのキャビティー内に部分的に収容され、そのキャビティーから延びてもよく、および/または1つのキャビティーを通って同じまたは近隣のMIL-101(Cr)の少なくとも1つの更なるキャビティーに延びてもよい。
【0081】
実施例2.本発明のコンポジット材料の水分吸着等温線
まず、本発明のコンポジット材料の水吸収および放出特性を、蒸気収着分析装置を用いて、様々な湿度および温度で評価した。
【0082】
水の吸着等温線は、飽和に近い条件下での吸水の予備評価として収集された(上記の「特性評価方法」を参照)。25℃で測定したMIL-101(Cr)の吸水等温線は、90% RHで約110重量%の高い吸水能力を示す典型的な「S」字型を示し、吸着枝と脱着枝間のヒステリシスは報告結果(
図11a)とよく一致している(G. Akiyamaら,Microporous Mesoporous Mater.2012,152,89-93)。
【0083】
PNIPAMはLCST以下の温度では高い親水性を示すが、90% RHでは吸水率が著しく低い(25℃で22重量%,
図11a)。これは、その無孔質構造が水分子の拡散抵抗を大きくしているためと考えられる。
【0084】
逆に、本発明のコンポジットの吸水率は、同一条件下(90%RH、25℃)では、いずれもPNIPAMより高く、一方、ポリマー含有量が増加すると減少傾向を示し、すなわち、コンポジット1が93wt%、コンポジット2が79wt%、コンポジット3が65wt%、そしてコンポジット4が24wt%となっている(
図11b)。この観察は、PNIPAMの担持量が増加するとMOFの細孔が徐々にふさがれていくことと一致する。MIL-101(Cr)の典型的なS字型吸水等温線は、複合体でも維持されており、大気圧水生成器(AWG)用途に魅力的な材料となっている。
【0085】
Mの負荷が増加する。MIL-101(Cr)の典型的なS字型吸水等温線はこのコンポジットでも維持されており、大気圧水生成器(AWG)用途に魅力的なコンポジットとなっている。興味深いことに、ポリマーの含有量を増やすと、水の吸着初期段階が徐々に高RH側にシフトすることからわかるように、得られたコンポジット」の親水性/疎水性を調整することができる(
図11b)。注目すべきは、40℃で収集した水分収着等温線が、MIL-101(Cr)と同様の挙動を示すものの、コンポジットの水分収着量がはるかに少ないことである(
図11c)。これは、コンポジット中のPNIPAM成分の親水性-疎水性相転移に起因している可能性が考えられる。このことは示差走査熱量測定(DSC)実験によってさらに検証され、約40℃のLCSTを表す吸熱ピークが加熱サイクル中にプレウェットPNIPAM@MIL-101(Cr)-1で観測された。このことは、示差走査熱量測定(DSC)実験によって検証され、一方、予備湿潤した純粋PNIPAMでは同様のピークが約33℃に出現した(
図11d)。純粋なPNIPAMと比較してコンポジット」のLCSTが上昇したのは、PNIPAMとMOFホスト間の閉じ込め効果と疎水性相互作用の組み合わせによるものであると考えられる。
【0086】
実施例3.本発明に係るコンポジット材料の大気中集水特性
本発明のコンポジット材料(実施例1)の大気中水分採取(AWH)特性を評価するために、コンポジット材料を、吸水および放出についてそれぞれ湿度および乾燥環境を模倣する湿度チャンバー内で試験した。
【0087】
実験手順
吸水・放出実験は、相対湿度(RH)25~98%、温度20~120℃のLabec QHT-30温湿度チャンバーを用いて実施した。まず、サンプルを真空下でさまざまな温度(MOFは150℃、コンポジット材料は120℃)で12時間加熱し、吸着した水分を完全に除去することで活性化させた。活性化後、サンプルを湿度チャンバー内で様々なRHと温度でインキュベートし、水分との平衡に到達させた。湿度チャンバー内で培養する前後のサンプル重量を記録し、以下の式1に従って吸水量重量%を算出した。
【0088】
【数1】
式中、
W
o=活性化したサンプルの初期重量
W
s=湿度チャンバーでインキュベートした後のサンプルの最終重量
である。
【0089】
結果および考察
湿度チャンバーを用いて、吸水のための超飽和「湿潤状態」を模擬し、サンプルは液体の水と直接接触することなく25℃の高湿度(96%RH)に曝された。驚くべきことに、PNIPAM@MIL-101(Cr)-1は約440重量%という吸水率を示し(
図12aiおよびiiはそれぞれ初期と最終のデータ)、これは90%RH、25℃の条件下で水収着等温線から求めた値(93重量%)より373%高い値であった。
同じ実験条件下で、MIL-101(Cr)とPNIPAMはそれぞれ約110重量%と74重量%の吸水率しか示さなかった(
図12aii)。湿度チャンバー試験で求めたMIL-101(Cr)の吸水率は、吸水等温線から求めた値とほぼ同じであったが、PNIPAMではこの2つの試験で236%の吸水率の向上(74重量%に対して22重量%)が達成された。
【0090】
96% RH、25℃の条件下で飽和させたPNIPAM@MIL-101(Cr)-1の目視検査(および光学顕微鏡下)では、コンポジット」表面での水の凝縮が認められた(
図12ei~iii)。しかし、同じ条件下でバルクのPNIPAMでは部分的な濡れが観察されるだけで、MIL-101(Cr)では全く濡れが観察されなかった。これは、MIL-101(Cr)が主に疎水性であり(S字型の水収着等温線からわかるように)、水と強い相互作用するサイトが十分にないためである。そのため、湿度チャンバー試験と吸水等温線の間に大きな吸水量の差はなく、試験中も乾燥した状態を維持した。
【0091】
一方、バルクポリマー表面に露出したPNIPAMの親水性アミド基は、湿潤雰囲気からの水分子と広範な水素結合相互作用を形成し、初期の表面湿潤を引き起こすことが可能である。しかし、PNIPAMの非多孔質構造に起因する水分の拡散抵抗により,バルクポリマーの完全な湿潤は遅れ,そのことは,吸水速度データの平衡に達する前のプラトー領域からわかる(
図14b)。このような拡散抵抗は、多孔質のMIL-101(Cr)ホストによってより多くのPNIPAM鎖がアクセス可能となり、MOFキャビティ内のコイル状ポリマーがより多くの水分子を引き付け、MOFホストがその透過性によって完全なリザーバーとして機能するので、コンポジット」において大きく緩和されることが可能である。
【0092】
注目すべきは、ポリマーがMOFの孔を部分的に塞いでいるため、ポリマー含有量が増えるにつれてコンポジット材料の吸水率が低下することです(
図13a、b、表4)。コンポジットの水取り込みの動力学はMOFのものよりもはくかに遅く(
図12b、14a-e)、これは、水-PNIPAMの相互作用にかかる平衡時間と、親MOFに固有の疎水性に起因し得ると観察された。
【0093】
つまり、PNIPAM@MIL-101(Cr)-1が96% RH、25℃の環境下で観測した膨大な吸水量は、PNIPAM鎖が高湿度空気(RH>95%)からコンポジットのポアに(リザーバーとして作用)、コンポジットの表面に(凝縮効果により)水分を引き寄せる能力に起因しているといえる。
【0094】
【0095】
湿度チャンバーテストでは,40℃,40%RHの「乾燥状態」を採用し,「湿潤状態」でサンプルを十分に飽和させた後の離水プロセスを検討した。40℃はPNIPAMの親水性から疎水性への相転移を引き起こすのに十分な温度であるため,この相転移によって水放出プロセスを促進させることが可能である。
【0096】
キネティクス曲線(
図14)に示すように,MIL-101(Cr)は水-骨格相互作用が強いため,水放出過程が非常に遅く,試験期間(10時間)中に18%しか吸着水が放出されない。逆に、PNIPAMとコンポジットからの吸着水の放出ははるかに速い(
図12bおよび14b-e)。
その結果、PNIPAMとPNIPAM@MIL-101(Cr)-1からは、それぞれ97%と98%の吸着水が10時間以内に放出されうる。この水放出速度のデータは、比較的低い温度で引き起こされるPNIPAMの親水性-疎水性相転移が、水放出と吸着剤の再生を促進することを強く支持するものであった。
【0097】
さらに、今回のコンポジット材料(上記の湿潤状態および乾燥状態)のAWH特性を、MIL101(Cr)の特性と比較した。MIL101(Cr)は17重量%しか水を供給しないのに対し、PNIPAM@MIL-101(Cr)-1は425重量%の水を供給することが確認された(初期データと最終データについては
図12ciおよびcii)。PNIPAM@MIL-101(Cr)-1の吸水性能も、湿潤環境下では約355重量%で安定化した。また、PNIPAM@MIL-101(Cr)-1の吸水能力は、10回の再生後、湿潤状態で約355重量%で安定した(
図12d)。
【0098】
実施例4.本発明のコンポジット材料の力場に基づく分子動力学(MD)シミュレーション
本発明のMOF/ポリマーコンジット材料と水との相互作用をさらに理解するために、力場に基づく分子動力学(MD)シミュレーションを実施した。
実験-MDシミュレーションのモデリング方法
MIL-101(Cr)フレームワークモデルは、X線回折によってあらかじめ決定された結晶構造のプリミティブセルからなり、Cr3O三量体あたり1個の対アニオンとしてフッ素原子を含む。また、Cr3O三量体ごとに残りの2つのCr(III)原子に1つの水分子を配位させ,その位置をUniversal force field(Dassault Systemes BIOVIA,Materials Studio,7.0,San Diego:Dassault Systemes. 2019)を用いて力場レベルで幾何学的に最適化した。
【0099】
17個のNIPAM繰り返し単位を含むポリマー鎖でPNIPAMモデルを構築し、これは本研究で実験的に得られたGPCプロファイルと一致する。この重合は、他のポリマーで報告されているのと同じ計算戦略に従って、力場レベルで実現された(T. Uemuraら,Nat. Commun. 2010,1,doi: 10.1038/ncomms1091)。得られたポリマーをさらにMIL-101(Cr)の細孔にランダムに組み込み、MIL-101(Cr)単位セルあたり10、15、および20分子のPNIPAMを含む3種類のPNIPAM@MIL-101(Cr)複合系を作成した。これはそれぞれPNIPAM質量濃度に対応し、38、45、65、85重量%と実験的に調べられたポリマー負荷の値と一致することができる。さらに、単位セルあたり5本のPNIPAM鎖(19.7重量%)を持つ第4のコンポジットを構築し、MOFへのポリマー負荷が非常に低いシナリオをモデル化した。
【0100】
原子間相互作用はvan der Waalsで、電子的寄与は12-6 Lennard-Jones(LJ)とCoulombicポテンシャルでそれぞれ表現された。MIL-101(Cr)フレームワークの12-6 LJパラメータは、有機ノードおよび無機ノードの原子をそれぞれ記述するための汎用力場DREIDINGおよびUFFから取得した(S. L. Mayoら,1990,94,8897-8909; および A. K. Rappeら,J. Am. Chem. Soc. 1992,114,10024-10035)。配位水分子に割り当てられた電荷はSPC/Eモデルから取得し、フレームワークの残りの原子に帰属する電荷は文献から取得した(M. De Langeら,J. Phys. Chem. C. 2013,117,7613-7622)。PNIPAMの各原子に割り当てられた結合および非結合パラメータは、OPLS-AA力場(W. L. Jorgensenら,J. Am. Chem. Soc. 1996,118,11225-11236)から取得された。
【0101】
ポリマーの電荷は、Dmol3モジュールで実装されているように、偏光関数を含む二重数値基底セット(DNP)と組み合わせたB3LYP関数とDFTレベルで計算した(P. J. Stephensら,J. Phys. 1994,98,11623-11627;B. Delley,J. Chem. Phys. 2000,113,7756-7764)。原子ラベルと対応する電荷は、それぞれ
図16a、b、表5に報告する。水はSPC/E表現で記述され、O-H結合長は1Å、H-O-H角は109.47°であった。PNIPAMと水(それぞれOPLS-AAとSPC/E力場)、水とMIL-101(Cr)の両方を記述するのに用いたモデルの組み合わせは、水-PNIPAM相互作用と水-MIL-101(Cr)相互作用をそれぞれ正確に記述できることが以前に証明されている(J. Walteraら,Fluid Phase Equilibria.2010,296,164-172)。
【0102】
【0103】
PNIPAM@MIL-101(Cr)系を無水状態および完全水飽和状態として研究した。無水物系はまず形状を最適化し、カノニカルアンサンブルのモンテカルロ計算を用いて水を入れるための出発点とした。水の添加量は、25℃における水の吸着等温線から得られたPNIPAM@MIL-101(Cr)1-4の吸水実験値に近くなるように固定した。したがって、19.7、39.4、59.0、78.7重量%のPNIPAMを含むPNIPAM@MIL-101(Cr)には、単位セルあたりそれぞれ2600(96.2重量%)、450(90.7重量%)、1810(67重量%)、900(33.3重量%)の水分子が添加されている。
【0104】
さらに、NVTアンサンブルのDL_POLYプログラムを用いて、時定数を1psに設定したBerendsen異方性サーモスタットを用いて、無水および完全水飽和シナリオの両方で分子動力学(MD)シミュレーションを行った(I. T. Todorovら,J. Mater. Chem. 2006,16,1911-1918; D. Frenkel,B. Smit,Understanding Molecular Simulation;Academic Press: New York,1996)。ニュートンの運動方程式を解くために、1fsのタイムステップを使用した。系は1nsで平衡化し、その後298Kで20nsのMD実行を行った。LJポテンシャルの評価には12Åの球形カットオフを用い、静電相互作用は10-6の公差でEwald Sumation法を用いて評価した。
【0105】
水の平均二乗変位(MSD)は多重時間原点法を用いて計算され、時間の関数としてプロットされた。さらに、アインシュタインの関係(式2)を適用して、自己拡散係数(Ds)の値を抽出した。
【0106】
【0107】
水素結合の計算は、ドナー(D)とアクセプター(A)原子間の距離が3.5Åより短く、D-HベクトルとD-Aベクトルの間の角度が37°より低いという2つの幾何学的基準を用いて行われた。これらの基準は、以前に他の材料の水素結合ネットワークを記述するために使用されたものと同じです(P. G. M. Mileoら,J. Am. Chem. Soc. 2018,41,13156-13160)。
【0108】
結果および考察
MOF/ポリマーコンポジットを原子スケールでさらに深く理解するために、力場に基づく分子動力学(MD)シミュレーションを行った。このようにして、低ポリマー含量(19.7重量%)および中間ポリマー含量(59.0重量%)のMIL-101(Cr)の孔におけるPNIPAM鎖の配置をシミュレーションした(
図15)。
【0109】
低濃度でのMOFとポリマーの相互作用部位をモニターし、閉じ込められたポリマーがある程度の自由度を持ちながら優先的に配置されていることを明らかにするために、これらの負荷量を選択した。いずれの場合も、PNIPAM鎖はMIL-101(Cr)の五角形の窓の近傍で、小さなケージ(
図15aおよびc)よりも大きなケージ(
図15bおよびd)を優先的に占有した。ポリマー含有率の高いコンポジットでは、ポリマーがMOFの小さなメソポーラスケージを占めるようになったものの、ポリマーの同様の優先的な分布が観察された。PNIPAM@MIL-101(Cr)系内の分子間相互作用は、低濃度(19.7重量%)のPNIPAMでMOF/ポリマー原子対について計算した動径分布関数(RDF)によってさらに特徴づけられた(
図17aおよびb)。シミュレーション結果から観察されるように、PNIPAMはMIL-101(Cr)と主にPNIPAMのアミド基とMIL-101(Cr)骨格の無機ノード間に形成される水素結合を介して相互作用していることが判明した。これらの水素結合は、PNIPAMのカルボニル(CO)酸素原子とMIL-101(Cr)の配位水分子の間、およびPNIPAMの-NH部位とMIL-101(Cr)のカウンターアニオンの間で形成される。さらに、PNIPAM骨格(CCT)の炭素原子とMOFの有機リンカー(CC3)の間に弱い相互作用が証明され、約4.5Åの低強度のRDFピークで示された(
図17a)。さらに、PNIPAM鎖間の主な相互作用は、アミド基の-COおよび-NH部位が関与しており、特徴的な距離は1.9Åである(
図17b)。
【0110】
図18a-dは、これらの相互作用が、より高いポリマー含量のコンポジットでも同様であることを示している。MDスナップショットを注意深く観察すると、PNIPAM鎖は優先的に直線的なコンフォメーションをとっているが、MOFカゴの閉じた環境に起因して丸まっているものもあることがわかった。このポリマーのカールの度合いは、通常、回転半径(ROG)と相関があり、ROGが小さいほどポリマー鎖はカールしていることになる。
【0111】
図19は、MOFへのPNIPAMの担持量に応じてカールの度合いが変化していることを示している。低担持量では当初直線的であった取り込まれたポリマー鎖は、ポリマーとポリマーの相互作用により、39.4~59.0重量%の範囲でポリマー担持量が増加すると徐々にカールしていく。ポリマー鎖は、最も高いポリマー含量(78.7重量%)で充填された線形コンフォメーションとなり、実験でも見られた自由空隙体積の大幅な減少が見られた(表6)。
【0112】
【0113】
さらに、水/コンポジット系の微視的な理解を深めるためにMDシミュレーションを行い、コンポジット中の水の位置とMOF-ポリマー相互作用への影響を明らかにした。比較の結果、PNIPAMを59.0重量%含むPNIPAM@MIL-101(Cr)系を使用し、実験的に観察されたPNIPAM@MIL-101(Cr)-3サンプルの飽和容量で水を取り込ませた(
図11b)。
【0114】
上記の系では、H
2O分子は小さなケージに優先的に入り、PNIPAMとH
2Oは大きなケージに共存していることが確認された(
図21c、d)。さらに、ポリマーの負荷が最も高い場合、PNIPAMによって両方のケージが形成されるため、水分子が配置されるフリーポケットがほとんどないことが確認された(表6)。水分子とコンポジットの相互作用により、ポリマーのアミド基とMOFの無機ノードの間の極性相互作用が著しく低下することがわかった。このことは、
図20aおよびbで裏付けられており、O(H
2O)-O(CO)およびカウンターアニオン-H(NH)原子ペアに関連するRDFの強度がわずかに減少していることが観察された。ポリマーとMOFの間の弱いファンデルワールス相互作用は、無水状態から水和状態までほとんど影響を受けていない(
図20c)。
【0115】
H
2O/PNIPAMおよびH
2O/MIL-101(Cr)の相互作用ペアの両方に対応するRDFは、PNIPAM@MIL-101(Cr)-3について
図21eに示すとおりである。このことから、H
2OはPNIPAMのカルボニル基のO原子と水素結合を形成し(0.84 H-結合/CO基、特性距離2.7オングストローム)、さらに-NH部位ともあまり形成せず(0.23 H-結合/NH 基、特性距離2.9オングストローム)、ポリマーのアミド基に架けられた水素結合鎖にH
2Oが配列する(
図21f)ことが明らかになった。同様に、
図21eのH
2O/MIL-101(Cr)原子対を比較すると、吸着した水分子は配位水分子よりも対アニオン原子とわずかに強く相互作用していることが観察された。このことは、F-Ow(対アニオン基あたり1.07個のH結合、特性距離2.8Å)とOw-O(H
2O)(配位H
2Oあたり0.70個のH結合、特性距離2.9Å)の原子ペアのRDFの比較からも裏付けられている。興味深いことに、H
2O/MIL-101(Cr)とH
2O/PNIPAMの最初のRDFピーク位置と主な相互作用原子対の強度はともに同等であり、水分子がコンポジット」の両方の成分と強く相互作用していることが示唆された。
【0116】
図22にプロットしたRDFが示すように、水分子はPNIPAM@MIL-101(Cr)コンポジットの細孔内で自分自身とも相互作用し、Ow-Ow相互作用距離は2.75Åで、吸着水分子あたり2.3個の水素結合と関連していることが特徴である。実際、PNIPAM@MIL-101(Cr)コンポジットの細孔内では、水分子が多方向の相互作用にグローバルに関与しており、H
2O-分子あたり合計2.7個の水素結合が存在することがわかった。この値は、水飽和マイクロポーラス材料で観測された値と一致するが、バルクの水で報告されている値3.6よりも低かった(E. Dalgakiranら,Phys. Chem. Phys. 2018,20,15389-15399)。
【0117】
さらに、ポリマー含有量の異なるコンポジットについて、H
2O/PNIPAM、H
2O/MIL-101(Cr)、H
2O/H
2O相互作用種間に形成される水素結合数の推移を調べた。
図23から、ポリマー含有量が増加すると、水素結合の数が著しく減少することが明らかになった。この傾向は、ポリマー含有量の増加に伴い、コンポジットの親水性が低下するという実験観察と一致する(
図11b)。これは、MOFフレームワーク内のポリマー含有量が増加するにつれて、ポリマー/ポリマー相互作用が連続的に増加し、それに伴ってPNIPAM鎖の絡まりが進行し(
図24)、ポリマー含有量が最も高いコンポジット」ではPNIPAM鎖の凝集が起こったためと思われる。
【0118】
最後に、コンポジット材料中の水分子のダイナミクスについても検討した。平均二乗変位(MSD)は通常のフィキアン拡散線形領域の特徴であるため(
図25)であることから、アインシュタインの関係式を用いて水の自己拡散係数(Ds)を導出した(表7)。これらのシミュレーションから、DsはMIL-101(Cr)からコンポジット材料までわずかに減少していることがわかり、閉じ込められた環境における水の移動度は、PNIPAM鎖のパッキングや水/PNIPAM相互作用に強く影響されていないことが示唆された。
【0119】
【国際調査報告】