(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-15
(54)【発明の名称】ニッケル基合金
(51)【国際特許分類】
C22C 19/05 20060101AFI20221208BHJP
C22C 30/02 20060101ALI20221208BHJP
B22F 1/00 20220101ALN20221208BHJP
B22F 10/25 20210101ALN20221208BHJP
B22F 10/28 20210101ALN20221208BHJP
【FI】
C22C19/05 L
C22C30/02
B22F1/00 M
B22F10/25
B22F10/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022520380
(86)(22)【出願日】2020-09-29
(85)【翻訳文提出日】2022-05-31
(86)【国際出願番号】 GB2020052349
(87)【国際公開番号】W WO2021064358
(87)【国際公開日】2021-04-08
(32)【優先日】2019-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520440054
【氏名又は名称】アロイド リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100209060
【氏名又は名称】冨所 剛
(72)【発明者】
【氏名】クラッデン,デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】クラーク,ジョン ウィリアム ゴードン
(72)【発明者】
【氏名】ネメス,アンドレ
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA09
4K018BA04
4K018CA44
4K018EA51
(57)【要約】
1.5~4.5質量%のアルミニウム、1.1~3.4質量%のチタン、0.0~4.0質量%のニオブ、0.0~5.2質量%のタンタル、0.9~6.6質量%のタングステン、0.0~3.0質量%のモリブデン、0.0~24.0質量%のコバルト、12.5~20.6質量%のクロム、0.02~0.15質量%の炭素、0.001~0.015質量%のホウ素、0.0~0.1質量%のジルコニウム、0.0~3.0質量%のレニウム、0.0~2.0質量%のルテニウム、0.0~3.0質量%のイリジウム、0.0~0.5質量%のバナジウム、0.0~1.0質量%のパラジウム、0.0~1.0質量%の白金、0.0~0.5質量%のケイ素、0.0~0.1質量%のイットリウム、0.0~0.1質量%のランタン、0.0~0.1質量%のセリウム、0.0~0.003質量%の硫黄、0.0~0.25質量%のマンガン、0.0~0.1質量%のマグネシウム、0.0~5.0質量%の鉄、0.0~0.5質量%の銅、0.0~1.0質量%のハフニウムを含み、残部がニッケルおよび不可避的不純物であり、合金に含まれるアルミニウム、チタン、ニオブ、タンタル及びタングステンの質量%をそれぞれWAl、WTi、WNb、WTa及びWWとすると、以下の式を満たす、ニッケル基合金組成物。
0.65≦0.3WNb+0.15WTa
3.6≦WAl+0.5WTi+0.3WNb+0.15WTa≦5.7
WTa+0.92WW≦6.1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.5~4.5質量%のアルミニウム、1.1~3.4質量%のチタン、0.0~4.0質量%のニオブ、0.0~5.2質量%のタンタル、0.9~6.6質量%のタングステン、0.0~3.0質量%のモリブデン、0.0~24.0質量%のコバルト、12.5~20.6質量%のクロム、0.02~0.15質量%の炭素、0.001~0.015質量%のホウ素、0.0~0.1質量%のジルコニウム、0.0~3.0質量%のレニウム、0.0~2.0質量%のルテニウム、0.0~3.0質量%のイリジウム、0.0~0.5質量%のバナジウム、0.0~1.0質量%のパラジウム、0.0~1.0質量%の白金、0.0~0.5質量%のケイ素、0.0~0.1質量%のイットリウム、0.0~0.1質量%のランタン、0.0~0.1質量%のセリウム、0.0~0.003質量%の硫黄、0.0~0.25質量%のマンガン、0.0~0.1質量%のマグネシウム、0.0~5.0質量%の鉄、0.0~0.5質量%の銅、0.0~1.0質量%のハフニウムを含み、残部がニッケルおよび不可避的不純物であり、合金に含まれるアルミニウム、チタン、ニオブ、タンタル及びタングステンの質量%をそれぞれW
Al、W
Ti、W
Nb、W
Ta及びW
Wとすると、以下の式を満たす、ニッケル基合金組成物。
0.65≦0.3W
Nb+0.15W
Ta
3.6≦W
Al+0.5W
Ti+0.3W
Nb+0.15W
Ta≦5.7
W
Ta+0.92W
W≦6.1
【請求項2】
合金に含まれるアルミニウム、チタン、ニオブ及びタンタルの質量%をそれぞれW
Al、W
Ti、W
Nb及びW
Taとすると、以下の式を満たす、請求項1に記載のニッケル基合金組成物。
4.1≦W
Al+0.5W
Ti+0.3W
Nb+0.15W
Ta
【請求項3】
合金に含まれるアルミニウム、チタン、ニオブ及びタンタルの質量%をそれぞれW
Al、W
Ti、W
Nb及びW
Taとすると、以下の式を満たす、請求項1または2に記載のニッケル基合金組成物。
W
Al+0.5W
Ti+0.3W
Nb+0.15W
Ta≦5.5
好ましくは、以下の式を満たす。
W
Al+0.5W
Ti+0.3W
Nb+0.15W
Ta≦5.4
より好ましくは、以下の式を満たす。
W
Al+0.5W
Ti+0.3W
Nb+0.15W
Ta≦5.0
【請求項4】
900℃で44%以下のγ´相の体積分率を備え、好ましくは、900℃で40%以下のγ´相の体積分率を備え、より好ましくは、900℃で35%以下のγ´相の体積分率を備える、請求項1ないし3のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項5】
900℃で19%以上のγ´相の体積分率を備える、請求項1ないし4のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項6】
合金に含まれるタングステン及びモリブデンの質量%をそれぞれW
W、W
Moとすると、以下の式を満たす、請求項1ないし5のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
W
W+0.77W
Mo≧3.0
好ましくは、以下の式を満たす。
W
W+0.77W
Mo≧4.6
より好ましくは、以下の式を満たす。
W
W+0.77W
Mo≧6.2
【請求項7】
クロムを、質量%で、16.0%以上含む、請求項1ないし6のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項8】
クロムを、質量%で、19.5%以下、好ましくは19.0%以下、より好ましくは17.3%以下含む、請求項1ないし7のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項9】
タンタルを、質量%で、4.2%以下含む、請求項1ないし8のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項10】
モリブデンを、質量%で、2.9%以下、好ましくは2.5%以下含む、請求項1ないし9のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項11】
チタンを、質量%で、3.0%以下、好ましくは2.7%以下含む、請求項1ないし10のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項12】
ハフニウムを、質量%で、0.5%以下、好ましくは0.25%以下含む、請求項1ないし11のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項13】
タングステンを、質量%で、5.5%以下、好ましくは5.0%以下、より好ましくは4.5%以下、最も好ましくは3.3%以下含む、請求項1ないし12のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項14】
ニオブを、質量%で、3.0%以下含む、請求項1ないし13のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項15】
白金及びパラジウムの一方または双方を、質量%で、0.5%以下、より好ましくは0.1%以下含む、請求項1ないし14のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項16】
アルミニウムを、質量%で、1.7%以上含む、請求項1ないし15のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項17】
アルミニウムを、質量%で、3.9%以下、好ましくは3.7%以下、より好ましくは3.1%以下含む、請求項1ないし16のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項18】
コバルトを、質量%で、20.0%以下含む、請求項1ないし17のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項19】
バナジウムを、質量%で、0.3%以下、好ましくは0.1%以下含む、請求項1ないし18のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項20】
タンタルを、質量%で、0.6%以上、好ましくは1.0%以上含む、請求項1ないし19のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項21】
タングステンを、質量%で、1.2%以上、好ましくは2.3%以上、より好ましくは2.7%以上含む、請求項1ないし20のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項22】
合金に含まれる、ニオブ、タンタル、チタン、白金、パラジウム及びアルミニウムの質量%をそれぞれW
Nb、W
Ta、W
Ti、W
Pt、W
Pd及びW
Alとすると、以下の式を満たす、請求項1乃至21のうちいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
W
Al+0.5W
Ti+0.3W
Nb+0.15W
Ta
+0.125W
Pt+0.225W
Pd≦5.7
好ましくは、以下の式を満たす。
W
Al+0.5W
Ti+0.3W
Nb+0.15W
Ta
+0.125W
Pt+0.225W
Pd≦5.5
より好ましくは、以下の式を満たす。
W
Al+0.5W
Ti+0.3W
Nb+0.15W
Ta
+0.125W
Pt+0.225W
Pd≦5.4
最も好ましくは、以下の式を満たす。
W
Al+0.5W
Ti+0.3W
Nb+0.15W
Ta
+0.125W
Pt+0.225W
Pd≦5.0
【請求項23】
コバルトを、質量%で、5.0%以上、好ましくは10.0%以上含む、請求項1ないし22のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項24】
ニオブを、質量%で、0.6%以上、好ましくは1.2%以上、より好ましくは1.60%以上、さらにより好ましくは1.65%以上含む、請求項1ないし23のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項25】
鉄を、質量%で、3.8%以下、好ましくは2.0%以下含む、請求項1ないし24のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項26】
タングステン、モリブデン及びクロムの質量%をそれぞれW
W、W
Mo及びW
Crとすると、以下の式を満たす、請求項1ないし25のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
W
W+0.74W
Mo+0.93W
Cr≦22.1
好ましくは、以下の式を満たす。
W
W+0.74W
Mo+0.93W
Cr≦21.5
【請求項27】
ニオブ、タンタル、チタン及びアルミニウムの質量%をそれぞれW
Nb、W
Ta、W
Ti及びW
Alとすると、以下の式を満たす、請求項1ないし26のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
(0.5W
Ti+0.3W
Nb+0.15W
Ta)/W
Al≦1.5
【請求項28】
クロム及びチタンの質量%をそれぞれW
Cr及びW
Tiとすると、以下の式を満たす、請求項1ないし27のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
W
Cr/W
Ti≧6.0
好ましくは、以下の式を満たす。
W
Cr/W
Ti≧6.9
より好ましくは、以下の式を満たす。
W
Cr/W
Ti≧7.5
【請求項29】
タンタル及びタングステンの質量%をそれぞれW
Ta及びW
Wとすると、以下の式を満たす、請求項1ないし28のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
W
Ta+0.92W
W≦5.4
好ましくは、以下の式を満たす。
W
Ta+0.92W
W≦5.1
より好ましくは、以下の式を満たす。
W
Ta+0.92W
W≦4.8
さらにより好ましくは、以下の式を満たす。
W
Ta+0.92W
W≦4.0
【請求項30】
ニオブ及びタンタルの質量%をそれぞれW
Nb及びW
Taとすると、以下の式を満たす、請求項1ないし29のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
0.68≦0.3W
Nb+0.15W
Ta
好ましくは、以下の式を満たす。
0.75≦0.3W
Nb+0.15W
Ta
より好ましくは、以下の式を満たす。
1.15≦0.3W
Nb+0.15W
Ta
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形(AM)プロセスに適用するために設計された、ニッケル基超合金組成物に関する。このようなプロセスの例には、粉末床ベースのAM法(例えば、選択的レーザー溶融、電子ビーム溶融)、指向金属蒸着法(例えば、粉末蒸着やワイヤーベースの方法)が含まれるが、これらに限られない。
【背景技術】
【0002】
現在、鋳造形態または鍛造形態で首尾よく製造されたニッケル基超合金を、AMプロセスに移行させる傾向がある。しかしながら、これはほぼ不適切であることが証明されている。これは、AMプロセスでの加工を容易にするために必要な材料特性の多くは、上述の合金では満たされないため、加工が大幅に困難になり、期待される構造的完全性を持たない材料が生成されてしまうからである。
【0003】
特に、高強度と、低密度と、熱間割れへの耐性と、の最適なトレードオフを有する、積層造形プロセス用の合金を開発することは、大きな課題であった。通常、高強度合金は、インベストメント鋳造法で加工される。インベストメント鋳造プロセスで使用される一般的な合金の例を、表1に列挙する。表1は、従来のクロミア形成超合金の、質量%における公称組成である。各合金において、ニッケル元素は残部である。
【0004】
表1に列挙されている合金を積層造形法に適用する研究は、広く行われてきた。これらの合金では、溶接が難しい可能性はあるものの、特定の欠陥メカニズムを制限し得ることが示されている。例えば、これらの合金は、ひずみ時効割れの影響を受けやすい。加工時のAM条件(スキャン計画、入熱など)や後処理条件(熱処理ウィンドウと加熱速度)における慎重な制御により、ひずみ時効割れに関するリスクを低減することができる。同様に、ノッチなどの応力集中機能の影響を低減するように部品の形状を設計することにより、耐ひずみ時効割れ性を向上させることができる。ただし、加工条件と形状の観点から設計の自由度を高めるために、ひずみ時効割れの傾向を減らすことが依然として望ましい。
【0005】
ひずみ時効割れは、残留ひずみとγ´析出という2つの主な要因によって生じる。これは、本発明において、組成の観点から、特性目標によって課される制限の範囲内で、γ´形成元素の含有量を最小化することによって求められる。Illston(特許番号US9352421B2)には、プロセス制御(特に、薄い粉末層及び意図的にオーバーラップしたレーザースキャンの使用)により、残留ひずみの蓄積を最小化することができ、したがって高γ´超合金の印刷適性が向上することが、示されている。また、Etter et al(特許番号US9670572B2)には、AM後の応力緩和熱処理温度まで特に急速に昇温することにより、ひずみ時効割れのリスクを低減することができることが示されている。
【0006】
プロセスの最適化によっては簡単に低減することができない、もう1つのメカニズムは、熱間割れである。熱間割れは、凝固プロセスの最終段階において生じ、合金の化学的性質に強く依存する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、合金密度を適正な範囲に維持し且つ競合的強度(competitive strength)を有しつつ、熱間割れ及びひずみ時効割れの望ましくない損傷メカニズムを克服するように、合金の化学的性質を調整することによって、熱間割れ及びひずみ時効割れのメカニズムに耐性を有する、耐クリープ性のγ´相強化合金を開発することである。
【0008】
この改善された加工性と組み合わせて、本発明の合金は、非常に高いレベルの耐酸化性及び耐食性を有することが好ましい。これは、安定的且つ連続的な保護クロミアスケールを形成するために、チタンに対するクロムの比率を十分に高くすることによって、達成できる。
【0009】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、1.5~4.5質量%のアルミニウム、1.1~3.4質量%のチタン、0.0~4.0質量%のニオブ、0.0~5.2質量%のタンタル、0.9~6.6質量%のタングステン、0.0~3.0質量%のモリブデン、0.0~24.0質量%のコバルト、12.5~20.6質量%のクロム、0.02~0.15質量%の炭素、0.001~0.015質量%のホウ素、0.0~0.1質量%のジルコニウム、0.0~3.0質量%のレニウム、0.0~2.0質量%のルテニウム、0.0~3.0質量%のイリジウム、0.0~0.5質量%のバナジウム、0.0~1.0質量%のパラジウム、0.0~1.0質量%の白金、0.0~0.5質量%のケイ素、0.0~0.1質量%のイットリウム、0.0~0.1質量%のランタン、0.0~0.1質量%のセリウム、0.0~0.003質量%の硫黄、0.0~0.25質量%のマンガン、0.0~0.1質量%のマグネシウム、0.0~5.0質量%の鉄、0.0~0.5質量%の銅、0.0~1.0質量%のハフニウムを含み、残部がニッケルおよび不可避的不純物であり、合金に含まれるアルミニウム、チタン、ニオブ、タンタル及びタングステンの質量%をそれぞれWAl、WTi、WNb、WTa及びWWとすると、以下の式を満たすニッケル基合金組成物が提供される。
0.65≦0.3WNb+0.15WTa
3.6≦WAl+0.5WTi+0.3WNb+0.15WTa≦5.7
WTa+0.92WW≦6.1
このような合金は、強度と、熱間割れ及びひずみ時効割れに対する耐性と、適正な密度と、の良好なバランスを有する。
【0011】
一実施形態は、請求項1に記載のニッケル基合金組成物であって、合金に含まれるアルミニウム、チタン、ニオブ及びタンタルの質量%をそれぞれWAl、WTi、WNb及びWTaとすると、以下の式を満たす。
4.1≦WAl+0.5WTi+0.3WNb+0.15WTa
このような合金では、強度が向上する。
一実施形態では、ニッケル基合金組成物は、合金に含まれるアルミニウム、チタン、ニオブ及びタンタルの質量%をそれぞれWAl、WTi、WNb及びWTaとすると、以下の式を満たす。
WAl+0.5WTi+0.3WNb+0.15WTa≦5.5
好ましくは、以下の式を満たす。
WAl+0.5WTi+0.3WNb+0.15WTa≦5.4
より好ましくは、以下の式を満たす。
WAl+0.5WTi+0.3WNb+0.15WTa≦5.0
このような合金は、ひずみ時効割れに対する耐性が向上する。
【0012】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物は、900℃で44%以下のγ´相の体積分率を備え、好ましくは、900℃で40%以下のγ´相の体積分率を備え、より好ましくは、900℃で35%以下のγ´相の体積分率を備え、及び/または、900℃で19%以上のγ´相の体積分率を備える。このような合金は、高いクリープ強度と、ひずみ時効割れに対する耐性と、を有する。
【0013】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物は、合金に含まれるタングステン及びモリブデンの質量%をそれぞれWW、WMoとすると、以下の式を満たす。
WW+0.77WMo≧3.0
好ましくは、以下の式を満たす。
WW+0.77WMo≧4.6
より好ましくは、以下の式を満たす。
WW+0.77WMo≧6.2
このような合金では、耐クリープ性が向上する。
【0014】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるクロムは、質量%で、16.0%以上である。このような合金では、耐酸化性が向上する。
【0015】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるクロムは、質量%で、19.5%以下、好ましくは19.0%以下、より好ましくは17.3%以下である。このような合金では、TCP相の形成に対する耐性が向上する。
【0016】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるタンタルは、質量%で、4.2%以下である。このような合金は、密度が低減する。
【0017】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるモリブデンは、質量%で、2.9%以下、好ましくは2.5%以下である。このような合金では、有害なTCP相が析出する傾向が低減する。
【0018】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるチタンは、質量%で、3.0%以下、好ましくは2.7%以下である。このような合金は、クロミア層の保護が強化されるため、耐酸化性が向上する。
【0019】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるタングステンは、質量%で、5.5%以下、好ましくは5.0%以下、より好ましくは4.5%以下、最も好ましくは3.3%以下である。このような合金では、密度が低減する。
【0020】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるニオブは、質量%で、3.0%以下である。このような合金では、耐酸化性が向上する。
【0021】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物が備える白金及びパラジウムの一方または双方は、質量%で、0.5%以下であり、より好ましくは0.1%以下である。このような合金では、コストと、耐食性の向上と、のバランスがより良好となる。
【0022】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるアルミニウムは、質量%で、1.7%以上である。このような合金では、安定したγ´相が確保される。
【0023】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるアルミニウムは、質量%で、3.9%以下、好ましくは3.7%以下、より好ましくは3.1%以下である。このような合金では、密度が低減される。
【0024】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるコバルトは、質量%で、20.0%以下である。このような合金では、凝固温度範囲が低下するため、熱間割れの傾向が低減する。
【0025】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるタンタルは、質量%で、0.6%以上、好ましくは1.0%以上である。このような合金では、熱間割れの傾向が低減する。
【0026】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるタングステンは、質量%で、1.2%以上、好ましくは2.3%以上、より好ましくは2.7%以上である。このような合金では、耐クリープ性が向上する。
【0027】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるコバルトは、質量%で、5.0%以上、好ましくは10.0%以上である。このような合金では、中間温度の耐クリープ性及び熱伝導性がより高くなる。
【0028】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるニオブは、質量%で、0.6%以上、好ましくは1.2%以上、より好ましくは1.60%以上、さらにより好ましくは1.65%以上である。このような合金では、密度に影響を与えることなく、より良好な耐熱間割れ性が達成される。
【0029】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物が備える鉄は、質量%で、3.8%以下、好ましくは2.0%以下である。このような合金では、ラーベス相を形成する傾向が低減する。
【0030】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物は、タングステン、モリブデン及びクロムの質量%をそれぞれWW、WMo及びWCrとすると、以下の式を満たす。
WW+0.74WMo+0.93WCr≦22.1
好ましくは、以下の式を満たす。
WW+0.74WMo+0.93WCr≦21.5
このような合金では、TCP相形成に対する安定性が向上する。
【0031】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物は、ニオブ、タンタル、チタン及びアルミニウムの質量%をそれぞれWNb、WTa、WTi及びWAlとすると、以下の式を満たす。
(0.5WTi+0.3WNb+0.15WTa)/WAl≦1.5
このような合金では、γ´安定性が向上する。
【0032】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物は、クロム及びチタンの質量%をそれぞれWCr及びWTiとすると、以下の式を満たす。
WCr/WTi≧6.0
好ましくは、以下の式を満たす。
WCr/WTi≧6.9
より好ましくは、以下の式を満たす。
WCr/WTi≧7.5
このような合金では、耐酸化性が向上する。
【0033】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物は、タンタル及びタングステンの質量%をそれぞれWTa及びWWとすると、以下の式を満たす
WTa+0.92WW≦5.4
好ましくは、以下の式を満たす。
WTa+0.92WW≦5.1
より好ましくは、以下の式を満たす。
WTa+0.92WW≦4.8
さらにより好ましくは、以下の式を満たす。
WTa+0.92WW≦4.0
これらの合金では、密度が低減する。
【0034】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物は、ニオブ及びタンタルの質量%をそれぞれWNb及びWTaとすると、以下の式を満たす。
0.68≦0.3WNb+0.15WTa
好ましくは、以下の式を満たす。
0.75≦0.3WNb+0.15WTa
より好ましくは、以下の式を満たす。
1.15≦0.3WNb+0.15WTa
このような合金では、熱間割れに対する耐性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】
図1は、(表1に列挙された合金を含む)商業的に使用されるいくつかのクロミア形成超合金のひずみ時効割れ指数及び熱間割れ指数の計算値を示す。
図1は、耐クリープ性、ひずみ時効割れ及び熱間割れの制限も示す。本発明における目標領域には、陰影を施している。
【
図2】
図2は、チタンレベルを0.0質量%に固定した場合における、ひずみ時効割れ指数の等値線図である。等値線図には、等値線(望ましい熱間割れ指数(1.6)及び最も好ましい熱間割れ指数(1.2))と、望ましい強度(950MPa及び1150MPa)を示す線と、が重ねられている。
【
図3】
図3は、チタンレベルを1.0質量%に固定した場合における、ひずみ時効割れ指数の等値線図である。等値線図には、等値線(望ましい熱間割れ指数(1.6)及び最も好ましい熱間割れ指数(1.2))と、望ましい強度(950MPa及び1150MPa)を示す線と、グラフの右側に対するγ´相安定性を示す線と、が重ねられている。
【
図4】
図4は、チタンレベルを2.0質量%に固定した場合における、ひずみ時効割れ指数の等値線図である。等値線図には、等値線(望ましい熱間割れ指数(1.6)及び最も好ましい熱間割れ指数(1.2))と、望ましい強度(950MPa及び1150MPa)を示す線と、グラフの右側に対するγ´相安定性を示す線と、が重ねられている。
【
図5】
図5は、チタンレベルを3.0質量%に固定した場合における、ひずみ時効割れ指数の等値線図である。等値線図には、等値線(望ましい熱間割れ指数(1.6)及び最も好ましい熱間割れ指数(1.2))と、望ましい強度(950MPa及び1150MPa)を示す線と、グラフの右側に対するγ´相安定性を示す線と、が重ねられている。
【
図6】
図6は、Ti=0.0質量%における、一定の熱間割れ指数の等値線図である。等値線図には、ひずみ時効割れ指数の好ましい制限と、望ましい強度(950MPa及び1150MPa)と、が重ねられている。
【
図7】
図7は、Ti=1.0質量%における、一定の熱間割れ指数の等値線図である。等値線図には、ひずみ時効割れ指数の好ましい制限と、望ましい強度(950MPa及び1150MPa)と、γ´相安定性と、が重ねられている。
【
図8】
図8は、Ti=2.0質量%における、一定の熱間割れ指数の等値線図である。等値線図には、ひずみ時効割れ指数の好ましい制限と、望ましい強度(950MPa及び1150MPa)と、γ´相安定性と、が重ねられている。
【
図9】
図9は、Ti=3.0質量%における、一定の熱間割れ指数の等値線図である。等値線図には、ひずみ時効割れ指数の好ましい制限と、望ましい強度(950MPa及び1150MPa)と、γ´相安定性と、が重ねられている。
【
図10】
図10は、γ´相割合とクリープメリット指数との関数としての、1000時間クリープ寿命における予測温度の等値線図である。等値線図には、表1に列挙された市販の超合金と、含有されるγ´の制限と、クリープメリット指数の制限と、が重ねられている。本発明における目標領域には、陰影を施している。
【
図11】
図11は、Mo含有量とW含有量との関数としての、一定のクリープメリット指数(ラベル付けされた値に10
-15をかけたもの)の等値線図である。等値線図には、Crレベルを12質量%、15質量%、18質量%に固定し、合金の安定度数を望ましい値(Md=0.93)とした場合の等値線が重ねられている。
【
図12】
図12は、Cr含有量とTi含有量との関数としての、Cr/Ti割合の等値線図である。等値線図には、表1に列挙された市販の超合金がプロットされている。本発明における目標領域には、陰影を施している。
【
図13】
図13は、Cr含有量とW+0.77Mo(質量%)との関数として、本発明におけるMd数の観点に基づくガンママトリックス安定性を示す、等値線図である。等値線図には、望ましい耐クリープ性に対応する水平線が重ねられている。
【
図14】
図14は、Co含有量とひずみ時効割れ指数との関数として、設計領域における合金の予測される非平衡凝固温度範囲を示す、等値線図である。
【
図15】
図15は、質量%におけるTa含有量とW含有量との関数としての、現在の設計領域における計算された合金密度の等値線図である。
【
図16】
図16は、本発明の新規なニッケル基超合金であるABD-900AMと、従来の超合金であるHaynes282及びIN738と、の顕微鏡写真である。本発明では、マイクロクラック密度がより低くなっていることがわかる。
【
図17】
図17は、760℃で1000時間の熱処理を行った後の顕微鏡写真である。
図17は、TCP相含有量に対するモリブデン含有量を増加させた影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
従来、ニッケル基超合金は、経験主義に基づき設計されてきた。したがって、ニッケル基超合金の化学的組成物は、限られた量の材料の小規模処理と、挙動についてのその後の特性分析と、を含む時間のかかる高価な実験開発によって特定されてきた。その後、最良の、すなわちもっとも望ましい特性の組み合わせを示すことを見出された合金組成物が採用される。この組み合わせを達成可能な合金元素群が多数存在することは、これらの合金が完全には最適化されておらず、より改良された合金が存在する可能性が高いことを示している。
【0037】
超合金においては一般的に、耐酸化性/耐食性を付与するためにクロム(Cr)及びアルミニウム(Al)が添加され、硫化に対する耐性を向上させるためにコバルト(Co)が添加される。耐クリープ性の為に、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、コバルトが導入されるが、これは、これらの元素が、クリープ変形の割合を決定する熱活性化過程(例えば、転位上昇)を阻害するためである。静的強度及び繰り返し強度を高めるために、アルミニウム(Al)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)及びチタン(Ti)が導入されるが、これは、これらの元素が、析出硬化相ガンマプライム(γ´)の形成を促進させるためである。この析出相は、ガンマ(γ)と呼ばれる面心立方(FCC)マトリックス相とコヒーレントである。
【0038】
本明細書においては、ニッケル基超合金の新たなグレードの特定に用いられる、モデルに基づく手法を、「合金設計」(ABD)法という用語で記載する。この手法には、非常に広範な組成領域に亘って設計関連特性を推定するための計算材料モデルのフレームワークが利用される。原則的に、この合金設計ツールにより、いわゆる逆問題が解決可能となる。すなわち、指定された設計制約を最も満足する、最適な合金組成を特定できる。
【0039】
設計過程の第1ステップは、元素表と、その元素表に付随した組成制限の上限及び下限と、を規定することである。本発明においては、「合金設計領域」と呼ばれる、各元素を添加する際の元素ごとの組成制限が考慮される。この組成制限については、表2に詳述されている。表2に、「合金設計」法を用いて調べた、質量%における合金設計領域を示す。
【0040】
【0041】
残部はニッケルである。炭素、ホウ素およびジルコニウムのレベルは、それぞれ0.04%、0.005%および0.01%に固定した。
【0042】
第2ステップは、特定の合金組成物の相図及び熱力学的特性を計算するための、熱力学的計算に基づいて行われる。これは、CALPHAD法(CALculation of PHAse Diagrams)と呼ばれることが多い。これらの計算を、新しい合金の典型的な使用温度(900℃)で実施することで、相平衡(微細構造)についての情報が得られる。
【0043】
第3段階には、所望の微細構造を有する合金組成物を特定することが含まれる。クリープ変形に対する優れた耐性を必要とするニッケル基超合金の場合、析出硬化相γ´の体積分率が増加するにつれてクリープ破断寿命が徐々に改良される。クリープ破断寿命が最も有益となるγ´の体積分率の範囲は、60~70%である。このようにγ´を高レベルとすると、合金加工性に悪影響を及ぼすおそれがある。そのため、場合によっては、このトレードオフを管理すべく、γ´を低める必要がある。γ´の体積分率が70%を超えると、耐クリープ性の低下が観察される。
【0044】
また、γ/γ´格子不整は、コヒーレンシーを失うため、正又は負のうち、いずれか小さい値に従う必要がある。したがって、制限はその値の絶対値に依存する。格子不整δは、γ相とγ´相との間の不整合として定義され、以下の式によって求められる。
【0045】
【0046】
ここで、αγ及びαγ´は、γ相及びγ´相の格子定数である。
【0047】
不適当な微細構造に基づいた合金は、形態的最密充填(TCP)相に対する感受性(susceptibility)の推定値によっても排斥される。本計算においてCALPHADモデリングを使用することで、有害なTCP相シグマ(σ)、Ρ及びミュー(μ)の形成が予測される。
【0048】
したがって、このモデルにより、γ´の体積分率の計算結果が所望の値となる、設計領域内における全ての組成物が特定される。これらの組成物では、γ´の格子不整が所定の絶対値未満であり、TCP相の総体積分率が所定の大きさ未満である。
【0049】
第4段階では、データセット内に残った特定された合金組成物について、メリット指数が推定される。メリット指数の例として、クリープメリット指数(平均組成のみに基づく合金の耐クリープ性を示す)、強度メリット指数(平均組成のみに基づく合金の析出降伏強度(an alloy’s precipitation yield strength)を示す)、固溶メリット指数(平均組成のみに基づく合金の固溶降伏強度を示す)、密度、及びコストが含まれる。
【0050】
第5段階では、計算されたメリット指数が所望の挙動に対する制約と比較され、これらの設計制約が、問題に対する境界条件とみなされる。境界条件を満たさないすべての組成物は排斥される。この段階において、試験データセットのサイズは非常に小さくなる。
【0051】
最後の第6段階には、残った組成物のデータセットを分析することが含まれる。この分析は、様々な方法で行われ得る。1つには、メリット指数が最大値を示す合金について、データベースを介して分類してもよい。メリット指数が最大値を示す合金とは、例えば最軽量合金、最も耐クリープ性が高い合金、最も耐酸化性が高い合金、及び最も安価な合金である。又は、その代わりに、データベースを用いて、特性の異なる組み合わせによって生じる、性能の相対的なトレードオフを求めてもよい。
【0052】
メリット指数の7つの例を説明する。
【0053】
第1のメリット指数はクリープメリット指数である。最も重要な観測は、ニッケル基超合金の時間依存変形(即ち、クリープ)が、γ相に限られた初期活性に伴う転位クリープによって発生することである。したがって、γ´相の割合が大きくなるため、転位セグメントが急速にγ/γ´界面に固定される。律速段階は、γ/γ´界面からの、転位のトラップされた構成の離脱である。それは、クリープ特性に対して合金組成物が及ぼす重大な影響を引き起こす局所化学(この場合はγ相の組成)に依存する。
【0054】
物理学に基づいた微細構造モデルは、荷重が一軸であって<001>結晶学的方向に沿っている場合において、クリープ歪ε・の蓄積速度に援用される。集合方程式は、以下の式である。
【0055】
【0056】
ここで、ρmは可動転位密度、φpはγ´相の体積分率、ωはマトリックスチャネルの幅である。項σ及びΤはそれぞれ、作用応力及び温度である。項b及びkはそれぞれ、バーガースベクトル及びボルツマン定数である。項KCFは、拘束係数である。
【0057】
【0058】
項KCFは、これらの合金内の立方状粒子の近接度を示す。式3は、乗算パラメータC及び初期転位密度の推定を必要とする転位乗算過程を示している。項Deffは、粒子/マトリックス界面における上昇過程を制御する有効拡散率である。
【0059】
なお、上述の内容において、組成依存性は、2つの項φpとDeffから生じる。したがって、微細構造が一定である(微細構造の大部分が熱処理によって制御される)と仮定すると、φpが固定されるため、化学組成への依存性は、Deffによって生じる。ここに説明されている合金設計モデリングの目的のために、各プロトタイプ合金組成物に対して式2及び式3の完全な積分を実施する必要がないことがわかる。代わりに、最大化が必要な、一次メリット指数Mcreepが用いられる。Mcreepは、以下の式で求められる。
【0060】
【0061】
ここで、xiは、γ相中の溶質iの原子分率である。Di
~は、適切な相互拡散係数である。
【0062】
第2のメリット指数は強度メリット指数である。高ニッケル基超合金の場合、強度の大部分は析出相に由来する。したがって、析出強度を最大とするために合金組成を最適化することは、設計上の重要な考慮事項である。硬化理論に基づき、強度のメリット指数Mstrengthが提案される。この指数は、(弱い結合から強い結合への転位せん断の移行が起こる点として決定される)最大可能析出強度を考慮しており、下記の式を用いて近似される。
【0063】
【0064】
ここで、M-はテイラー係数、γAPBは逆位相境界(APB)エネルギー、φpはγ´相の体積分率、bはバーガースベクトルである。
【0065】
式(5)より、γ´相における欠陥エネルギー(例えば逆位相境界APBエネルギー)が、ニッケル基超合金の変形挙動に大きな影響を与えることは明らかである。APBエネルギーを増加させることは、引張強度およびクリープ変形に対する耐性を含む機械的性質を改善することがわかった。APBエネルギーの研究は、密度汎関数理論を用いて、多くのNi-Al-X系について行われた。この研究により、γ´相のAPBエネルギーに対する三元元素の影響が計算され、複合多成分系を考慮した場合における、各三元元素の添加による影響の線形重畳が仮定された。その結果、以下の式が導かれた。
【0066】
【0067】
ここで、xCr、xMo、xW、xTa、xNb及びxTiはそれぞれ、γ´相におけるクロム、モリブデン、タングステン、タンタル、ニオブ及びチタンの原子%濃度を表す。γ´相における組成は、相平衡計算によって求められる。
【0068】
第3のメリット指数は、密度である。密度ρは、混合物の単純な規則及び補正係数を用いることで計算された。ここで、ρiは所与の元素の密度であり、xiは合金元素の原子分率である。
【0069】
【0070】
第4のメリット指数は、コストである。各合金のコストを推定するために、混合物の単純な規則を適用した。ここで、各合金のコストは、合金元素の質量分率xiに、合金元素の現在(2016)の原材料コストciを掛けたものを用いた。
【0071】
【0072】
この推定は、加工コストがすべての合金において同一であると仮定している。すなわち、製品収率は組成物による影響を受けない。
【0073】
第5のメリット指数は、TCP相に対する感受性(susceptibility)に基づいて作成された不適切な微細構造を基礎とする合金候補の除外に基づいている。これを行うために、合金元素のd軌道エネルギーレベル(Mdと称す)を用い、以下の式に従って総有効Mdレベルを決定する。
【0074】
【0075】
ここで、xiは、合金に含まれる元素iのモル分率を表す。Mdの値が高いほど、TCP形成の可能性が高いことを示す。
【0076】
第6のメリット指数は、ひずみ時効割れ感受性指数である。合金におけるγ´の割合は、化学的組成に関連しており、最も直接的には、γ´形成元素(アルミニウム、チタン、ニオブ、タンタル)の量に関連している。次に、γ´割合が高いほど、熱後処理中にひずみ時効割れが発生するリスクが高くなる。この指数は、より重い元素の係数を補正し、各元素の質量パーセントを合計することによって導き出される。より重い元素の係数を補正するのは、アルミニウムの原子量に対して、より大きな原子量を説明するためである。ひずみ時効割れ感受性指数は、以下の式が適用される。
【0077】
【0078】
ここで、WAl、WTi、WNb及びWTaは、それぞれ、合金に含まれるアルミニウム、チタン、ニオブ及びタンタルの質量%を示す。このひずみ時効指数の値が低いほど、γ´の潜在的割合が小さいことを示し、したがってひずみ時効割れのリスクが低いため、積層造形による加工性が向上する。ひずみ時効指数の値が高いほど、γ´の潜在的な割合が大きいことを示し、したがって、強度と耐クリープ性の点で優れた機械的特性を示す。
【0079】
第7のメリット指数は、Scheil-Gulliverモデルによって予測された合金候補の凝固挙動に基づく。これは、組成に基づいて熱間割れに対する感受性をランク付けするためのものである。このアプローチでは、凝固の最終段階(固形分が90~99%)の温度範囲は、合金が熱間割れに対して脆弱となる領域を表すものとみなされる。これは、この段階では、液体の供給が固体材料のブリッジネットワーク(bridged network)によって制限されやすいためである。固形分が40~90%の温度範囲は、安全な領域であるとみなされる。これは、この段階では、液体の供給への制限が大幅に緩和されるためである。固形分が40%未満の温度範囲は、液体が支配的であるため、適切ではないとみなされる。
【0080】
Clyne及びDavisによって合金鋳造に使用されたランク付けシステムによれば、熱間割れ指数は、安全な温度範囲に対する脆弱な温度範囲の比率として、以下のように定義される。
【0081】
【0082】
この指数の値が低まるほど、熱間割れのリスクが低まる。
【0083】
上述のABD法を用いて、本発明の合金組成物を特定した。この合金の設計意図は、優れた耐クリープ性及び耐酸化性(それぞれ、高いγ´体積分率及び安定した保護クロミアスケールによって達成される)を有するとともに、他の従来のニッケル基超合金と比べて、積層造形による優れた加工性(熱間割れメカニズムに対する優れた耐性を備えることで達成される)を有する合金を開発することである。さらに、微細構造安定性及び合金密度を含む特性が最適化される。
【0084】
従来の組成物(表1に記載)の(ABD法を用いて決定された)材料特性を、表3に列挙する。これらの合金について列挙されている予測特性と関連付けて、新しい合金の設計が考慮された。表3は、「合金設計」ソフトウェアによって作成された、計算された相割合及びメリット指数を示している。これは、表1に列挙されたニッケル基超合金に関する結果である。
【0085】
新しい合金の設計原理について、以下に説明する。
【0086】
【0087】
高いひずみ時効割れ指数を有する合金は、溶接の文献に基づき、加工が難しいことが知られており、AMでも同じ傾向が一般的に観察される。ひずみ時効メリット指数を下げると、この欠陥メカニズムの傾向が低下するが、(クリープ強度と引張強度の観点に基づく)高温強度と、(形成された保護酸化物スケールの観点に基づく)耐酸化性と、は、ひずみ時効指数の向上を妨げる働きを抑制するγ´形成元素の、比較的高い含有量に依存する。これを克服するために、ひずみ時効割れは、他の方法によってある程度管理され得る。例えば、加工時のAM条件(スキャン計画、入熱など)や後処理条件(熱処理ウィンドウと加熱速度)における慎重な制御により、ひずみ時効割れに関するリスクを制限することができる。同様に、局所的なひずみ時効割れをもたらす応力集中機能を低減するように部品の形状を設計することにより、ひずみ時効割れのリスクを低減させることができる。例えば、US9352421B2及びUS9670572B2を参照されたい。しかしながら、このような方法を用いなければならないことが望ましくない場合もある。
【0088】
ひずみ時効割れとは異なり、積層造形プロセス中に生じ得る別の製造上の欠陥は、熱間割れである。熱間割れは、凝固プロセス中に発生し得る。この製造上の欠陥のメカニズムは、合金の凝固中に液体組成が変化することによって引き起こされる。熱間割れが発生するリスクは、ひずみ時効割れと同じ方法で管理することはできない。加工時のAM条件を慎重に制御することはある程度役立つ可能性はあるが、後処理や設計変更を行うことは、このメカニズムに影響を与えない。熱間割れに対する耐性を向上させる最も直接的な方法は、合金の化学的性質を変更することである。熱間割れに対する耐性を改善すると、高いひずみ時効割れ指数を許容する必要がある場合でさえ、積層造形用の合金の加工性を大幅に向上させる。本発明の目的は、他の合金と比較して熱間割れ指数の値が低く、加工条件によってひずみ時効割れを管理できる範囲において比較的高いひずみ時効指数を有する合金(
図1参照)を特定することである。
【0089】
図2~5は、チタンを異なるレベルに設定した場合における、アルミニウム元素、ニオブ元素、タンタル元素の添加量の関係を示す。これらの元素は、γ´相を形成し且つγ´体積分率を制御するために支配的に添加される、
γ´相を形成する元素は、ひずみ時効メリット指数が増加するため、AMによる合金の処理のしやすさを低下させる可能性がある(式10)。したがって、AM処理中のひずみ時効割れの可能性を制限することと、γ´体積分率と、の望ましいバランスを提供するように、これらの元素の組み合わせを最適化する必要がある(耐クリープ性と引張強度の観点から強度を提供する)。
【0090】
ひずみ時効割れ指数f(SAC)は、ひずみ時効割れに最も強く影響する元素に基づき、本発明の元素範囲でモデル化される。すなわち、アルミニウム、チタン、ニオブ及びタンタルの含有量が、以下の制約を満たす。
f(SAC)=WAl+0.5WTi+0.3WNb+0.15WTa
【0091】
ここで、f(SAC)は数値であり、W
Al、W
Ti、W
Nb及びW
Taは、それぞれ、合金に含まれるアルミニウム、チタン、ニオブ及びタンタルの質量%を示す。耐ひずみ時効割れ性の観点からIN738と同等以上となるように、f(SAC)は5.7以下の数値が選択される。合金の加工及び後処理を向上させるために、ひずみ時効割れ指数を低めることが好ましい。すなわち、W
Al+0.5W
Ti+0.3W
Nb+0.15W
Ta≦5.5または5.4とすることが好ましく、W
Al+0.5W
Ti+0.3W
Nb+0.15W
Ta≦5.0とすることがより好ましい。ひずみ時効割れのさまざまな制限を示す破線を、
図6~9に示す。
【0092】
所望の耐クリープ性及び引張強度を得るために、アルミニウム、チタン、ニオブ及びタンタルの組み合わせも最適化する必要がある。耐クリープ性及び引張強度は双方とも、γ´割合が増加するにつれて増加する。900℃で望ましいγ´相の体積分率(19%)を達成するには、W
Al+0.5W
Ti+0.3W
Nb+0.15W
Ta≧3.6である。この制限は、耐クリープ性の必要な最小レベルに基づいて定義される(
図10に関連して後述)。さらに、γ´割合を26%以上とすることが好ましい。これにより、W
Al+0.5W
Ti+0.3W
Nb+0.15W
Ta≧4.1との好ましい値が得られる。
【0093】
f(SAC)を3.6~5.7の範囲の数値とした場合、900℃でのγ´割合が約19~44%である合金が製造され、積層造形及び後処理の間、高いクリープ強度と、ひずみ時効割れへの優れた耐性と、の良好な組み合わせを備えた合金が得られる。
【0094】
白金元素及びパラジウム元素は、タンタル、チタン及びニオブと同様の挙動を示す。つまり、これらは逆位相境界エネルギーを増加させるγ´形成元素である。これらの元素は、タンタル元素、チタン元素、ニオブ元素の代わりに、選択的に合金に添加することができる。これの利点には、耐高温腐食性の向上が含まれ得る。白金とパラジウムの「アルミニウム相当量」には、それぞれ0.125と0.225の補正係数(アルミニウムに対する密度から決定)が必要である。ただし、これらの元素の添加には高いコストがかかるため、これらの元素の添加量は制限され得る。したがって、これらの元素は、それぞれ最大1.0質量%で存在することができ、好ましくは、0.5質量%以下に制限され、最も好ましくは、0.1質量%以下に制限される。この範囲は、コストと、耐食性の向上と、の最適なバランスを提供する。クリープ性能と、AMによる加工性と、の最適なバランスを実現するためには、以下の式を満たすことが好ましい。
WAl+0.5WTi+0.3WNb+0.15WTa
+0.125WPt+0.225WPd≧3.6
及び
WAl+0.5WTi+0.3WNb+0.15WTa
+0.125WPt+0.225WPd≦5.7
【0095】
ここで、WPt及びWPdは、それぞれ、合金に含まれる白金及びパラジウムの質量%を示す。
【0096】
AMプロセスでの凝固中の熱間割れのリスクを最小限に抑えるために、アルミニウム、チタン、ニオブ及びタンタルの相対比率もバランスをとる必要がある。熱間割れは、凝固金属の断裂(tearing)であり、通常、凝固の後期段階での不十分な液体供給によって引き起こされる。すなわち、凝固金属が断裂することで、熱ひずみによって割れが開くことが許容される。これは、
図6~9に示すように、熱間割れ指数を最小化することによって軽減され得る。本発明において、熱間割れ指数を1.6以下とすることが望ましい。これは、従来の合金であるHaynes282、IN792、IN738、Rene88DT及びU720Liよりも熱間割れのリスクが低まることを示す。このような熱間割れ指数は、ニオブ及びタンタルのレベルに強く関連しており、これらの合金の含有量に基づいて、本発明の組成範囲において以下の式を用いることでのみ、熱間割れ指数を推定することができる。
f(HCI)=0.3W
Nb+0.15W
Ta
【0097】
ここで、f(HCI)は、ABD-900AMの組成に近いCoレベル及びCrレベルにおいて、1.6以下の熱間割れ指数をもたらすために、0.65以上を必須とする数値である。Co及びCrのレベルが高まることで、熱間割れ指数がさらに低下する。0.68以上のf(HCI)を確保することにより、耐熱間割れ性をさらに向上させることができる。0.75以上のf(HCI)を確保することにより、耐熱間割れ性をさらにより向上させることができる。より好ましくは、熱間割れ指数は1.2以下であり、これは、熱間割れのリスクが低減されていることを示している。すなわち、f(HCI)は1.15以上の数値であることが、より好ましい。
図16に示すように、本発明の合金ABD-900AMは、熱間割れ指数が低いため、従来の合金Haynes282及びIN738よりも熱間割れが少ない。
【0098】
さらに、適度な強度メリット指数を確保するために、合金は十分な量のTi、Nb及びTaを含むことが望ましい。
図6~9に、950MPa及び1150MPaの強度メリット指数の等値線が示されている。
図6~9を参照して、チタン含有量の増加に伴って、強度メリット指数が高くなることがわかる。f(SAC)の増加は、強度メリット指数の増加にも関連している。合金範囲全体でHaynes282及びATI718+よりも高い強度メリット指数を達成するために、使用するTiの含有量を少なくとも1.1質量%とする。
図7より、f(SAC)の最小値(3.6)、f(HCI)の最大値(1.6)及びAlの最小値(1.5質量%)を組み合わせると、チタンを1.0質量%とした場合に、Alの全てのレベルにおいて、950MPaの強度メリット指数が達成されないことがわかる。
図8より、同じ条件(Ti=2.0質量%であることを除く)で、950MPaの強度メリット指数が容易に達成され、合金領域の多くが1150MPa以上の強度メリット指数を有することがわかる(これは、f(SAC)が好ましい範囲(4.1以上)の場合に達成される)。
【0099】
アルミニウム元素の代わりに、チタン元素、ニオブ元素及びタンタル元素が添加され、これらの元素はγ´相に分配される。これらの元素の組み合わせ(原子百分率)がアルミニウム含有量の合計(原子百分率)よりも大幅に大きい場合、γ´相の安定性が低下し、デルタ(δ)やイータ(η)などの不要な相が形成される可能性がある。元素の比率(原子百分率)は、アルミニウムに対する相対密度によってチタン元素、ニオブ元素及びタンタル元素の質量パーセントを換算することで(それぞれ、0.5、0.3、0.15の係数を用いて)概算される。したがって、アルミニウムに対する、チタン元素、ニオブ元素及びタンタル元素の合計の比率が、1.5以下に保たれることが好ましい。すなわち、以下の式が満たされることが好ましい。
(0.5WTi+0.3WNb+0.15WTa)/WAl≦1.5
【0100】
これらの要件に基づくと、本発明におけるアルミニウムの最大レベルは4.5質量%であり、これは、チタンを1.1質量%とした場合における、f(SAC)の最高許容値及びf(HCI)の最低値に対応する。これは、f(HCI)=0.65及びWTi=1.1を、f(SAC)=5.7の式に代入することによって理解される。より好ましくは、アルミニウム含有量の最大値は、3.9質量%または3.7質量%である。これらのレベルによれば、比較的高レベルのチタン(例えば、2.5質量%)を含有させることができるため、密度を低下させることができる。より好ましくは、アルミニウム含有量の最大値は3.1質量%である。これにより、この高いチタンレベルを有し且つf(SAC)=5.0である合金に対応することができる。
【0101】
本発明における最低許容アルミニウム含有量は、γ´相安定性が1.5以上であるという要件およびf(SAC)の最小所望値に基づくと、1.5質量%である。これは、
図6~9を参照して、ガンマプライム安定性の等値線とf(SAC)=3.6の等値線との交点を評価することによって理解される。現在の設計領域において、アルミニウムが1.5質量%未満の合金は、不安定なγ´相を有するか、クリープ寿命の目標を達成できるだけのγ´相の量を有していない。より好ましくは、アルミニウム含有量の最小値は1.7質量%である。これにより、
図6~9に示すγ´安定性の等値線の右側に合金が位置する確実性が高まり、f(SAC)=4.1の値において安定したγ´相が確保される。チタン含有量の低下は、合金に良好な耐酸化性をもたらす。チタン含有量を低下させるためには、本発明におけるγ´含有量を所望の範囲内に維持すべく、アルミニウム含有量を高める必要がある。逆に、チタン含有量を高めると、許容されるアルミニウム含有量が減少する。
【0102】
本発明は、関数f(HCI)によって説明されるように、熱間割れのリスクを最小限に抑えるために、十分な量のニオブまたはタンタルを含有する。後で説明するように(
図15を参照)、合金密度を低く保つために、タンタルの含有量はタングステンと組み合わせて制限される。8.6g/cm
3の目標密度に向けて密度を下げるために、許容可能なタンタル含有量の最大値は、耐クリープ性の確保に必要なタングステンレベルの最小値(
図11を参照して後で説明する)に基づいて、5.2質量%である。したがって、この合金密度で1.6以下の熱間割れ指数を確保するためには、ニオブは0.6質量%以上であることが好ましい。より好ましくは、この密度で1.2以下の熱間割れ指数を確保するために、ニオブ含有量を1.2質量%以上とする。熱間割れの傾向を減らすために、ニオブのレベルを1.60%以上または1.65%以上とすることがさらに有益である。熱間割れ指数を低下させるために、タンタルの最小値を0.6質量%とすることが好ましい。好ましい熱間割れ指数(1.2)を下回るためには、タンタル含有量を1.0質量%以上とすることが好ましい。この場合、特に、ニオブ制限の最大値を3.0質量%とすることが好ましい(耐酸化性に関連して後で説明する)。
【0103】
本発明における合金の他の特徴は、良好な耐クリープ性である。クリープメリット指数と、γ´体積分率と、予測されるクリープ寿命と、の関係を
図10に示す。本発明における最低限の目的は、Haynes282より20℃以上高い動作温度である。これには、γ´を最小で19%、クリープメリット指数を最小で5.0×10
15とする合金が必要である。より好ましくは、本発明におけるクリープ温度能力は、Haynes282より40℃以上高く、これには、26%のγ´割合が必要である。クリープメリット指数を高めることにより、拡散律速クリープ損傷に対する耐性を向上させ、クリープ寿命を長くすることができる。したがって、クリープメリット指数を5.5×10
15以上とすることがより好ましい。さらに好ましくは、クリープメリット指数を6.0×10
15とする。これにより、U720Li及びIN738に匹敵するクリープ性能を実現することができる。
【0104】
γ´の割合が高いほど、転位制御による損傷に対する耐性が高まるため、クリープ寿命が長くなる。ただし、γ´の割合が過度に高いと、ひずみ時効割れのリスクがあるため、(特に製造後の熱処理中において)AMによる合金の加工が困難となる。したがって、γ´割合を44%に制限することが望ましい。これは、IN738と同等である。これにより、クリープメリット指数に基づき、IN738と同等以上のクリープ性能が得られる。より好ましくは、γ´割合は40%までに制限される。これにより、ひずみ時効亀裂のリスクを最小限に抑えながらも、U720Liと同等以上のクリープ能力を有することができる。最も好ましくは、γ´含有量は35%までに制限される。このような合金は、Rene88DTと同等のクリープ寿命を有し、最小の望ましいクリープメリット指数(5.0×1015)を有し、ひずみ時効亀裂のリスクがさらに低くなっている。
【0105】
本発明におけるモリブデンおよびタングステンの含有量は、上述で指定された所望のクリープメリット指数を満たすように最適化されている。
図11に示すように、これらの元素のレベルとクリープメリット指数との関係は、次の式で推定できる。
f(creep)=W
W+0.77W
Mo
【0106】
一般的に言えば、クリープメリット指数を5.0×1015以上の望ましい値とするためには、関数f(creep)は3.0以上の数値となる必要がある。より好ましいクリープメリット指数(5.5×1015)とする場合、f(creep)は4.6以上の数値となる必要がある。最も好ましいクリープメリット指数(6.0×1015)とする場合、f(creep)は6.2以上の数値となる必要がある。このグラフに重ねて表示されているのは、さまざまなレベルのクロムにおける、TCP相形成に対する一定の合金安定性の等値線である。各等値線の左側にある組成では、特定のレベルのクロムにおけるMd安定数が低くなっている。これにより、より低いレベルのクロムにおいてクリープメリット指数をより大きくできること、及び、耐クリープ性と、耐酸化性と、安定性と、の間でトレードオフを管理する必要があることが示された。
【0107】
TCP相は合金のクリープ特性に対して非常に有害であるため、高温腐食に対する適切な耐性を確保しつつ、TCP相のレベルを低めるために、本発明におけるモリブデンの最大含有量を3.0質量%とする。合金の安定性を維持するという観点からの、Cr及びWとの関係におけるMoのバランスについては、
図11及び12に関連して後で説明する。
図17は、760℃で1000時間の熱処理を行った後の微細構造を示している。
図17の左図は、モリブデンが過多である(3.3質量%)ためにのみ本発明の範囲から外れた合金の例である。
図17の右図は、本発明のABD-900AMである。
図17は、本発明の合金において、モリブデンを3.0質量%以下に制限することの重要性を示す。より好ましくは、高温腐食に対する耐性を向上させるために、モリブデン含有量の最大値を2.9質量%またはさらに2.5質量%とする。これに基づくと、本発明におけるタングステンのレベルは、クリープ損傷に対する適切な耐性を備えるために、(5.0×10
15のクリープメリット指数に関して)0.9質量%以上である。より好ましくは、特にモリブデン含有量が2.5質量%以下である場合、タングステン含有量は1.2質量%以上である。クリープメリット指数の値が大きいほど、必要となるタングステンの値も大きくなる。5.5×10
15のクリープメリット指数を確保するために、タングステン含有量の最小値を2.3質量%とすることが好ましく、2.7質量%とすることがより好ましい。これは、特に、Mo含有量がそれぞれ3.0質量%及び2.5質量%の場合である。
【0108】
レニウム元素、ルテニウム元素及びイリジウム元素は、タングステンと同様の挙動を示す。つまり、これらの元素は、クリープメリット指数を向上させるガンマ形成元素である。これらの元素は、選択的に合金に添加できる。これらの元素を添加すると、(拡散性がはるかに遅いため)タングステンと比較して合金のクリープ応答が大幅に向上するが、元素のコストが高いため、コストが大幅に増加する。元素コストに起因して、レニウムの添加は、好ましくは3.0質量%以下または2.0質量%以下に制限され、イリジウムの添加は、好ましくは3.0質量%以下に制限され、さらにより好ましくは2.0質量%以下に制限され、最も好ましくは1.5質量%以下に制限される。ルテニウムは、熱間割れ指数を有害に増加させるため、2.0質量%まで、好ましくは1.5質量%までに制限される。
【0109】
本発明の合金は、900℃を超える温度で、優れた耐酸化性および耐食性を有することが要求される。この体制においては、不動態酸化クロムスケール(Cr2O3)が、さらなる酸化損傷に抗する合金を提供する適切な手段である。連続的なクロミアスケールを生成するには、合金にかなりのクロムを含有させる必要がある。従来技術の合金の既知の特性に基づいて、クロム含有量の最小値を12.5質量%とすることが望ましい。これにより、IN792と同等の耐酸化性が実現され得る。このレベルを超えてクロム含有量を増加させることは望ましい。これにより、スケール形成のためのクロム原子の供給が増加し、したがって酸化物が形成される脆弱な過渡期間が最小化される。より好ましくは、本発明におけるクロム含有量の最小値を、16.0質量%とする必要がある。これにより、IN738と同等またはより優れた耐酸化性を実現することができる。
【0110】
連続的なクロミアスケールを形成することに加えて、本発明はまた、急速に形成される高密度クロミアスケール、すなわち環境曝露の初期に形成されるクロミアスケールを有する合金を包含する。チタンは、クロミアスケールの安定性に有害であることが知られている。特にチタンは、スケール全体の酸素の拡散性を高め、その過程で下層の材料に損傷を与えるため、有害である(Chromia layer growth on a Ni-based superalloy: Sub-parabolic kinetics and the role of titanium, Cruchley et al. Corrosion Science 2013を参照)。これに基づいて、チタン含有量に対するクロムの割合(質量%)を使用して、クロミアスケールの安定性を測定する。表3に列挙された従来技術の合金に基づいて、IN738、U720Li及びRene88DTよりも高い耐酸化性を実現するために、Cr/Ti比を6.0以上とすることが望ましい(
図12にグラフで示す)。より好ましくは、Cr/Ti比を6.9以上、より好ましくは7.5以上とすることが望ましい。これにより、さらに安定的かつ連続的な保護酸化物スケールを生成することができる。
【0111】
合金のクロム含有量の最大値(20.6質量%)に基づいて(
図13を参照して後で説明する)、Cr/Ti比を6.0とした場合、本発明のチタン含有量は3.4質量%以下が望ましいことが分かる。より好ましいCr/Ti比(6.9)に基づくと、チタン含有量の最大値を3.0質量%とすることが好ましい。より好ましくは、Cr/Ti比は7.5であり、これは、チタン含有量の好ましい最大値(2.7質量%)に対応する。これにより、酸化損傷に対するより優れた耐性が得られる。
【0112】
ニオブの合金添加も酸化に悪影響を与えることが知られている。これは、ニオブが粒界炭化物を形成するためである。この粒界炭化物は、低サイクル疲労条件下、クリープ疲労条件下、または高温クリープ中など、粒界に沿って損傷が蓄積する可能性のある酸化アシスト割れメカニズムにとって、特に有害である。ただし、ニオブの添加は、耐熱間割れ性を向上させること(
図6~9を参照して後で説明)及び強度に対して有益である。したがって、ニオブは4.0質量%までに制限され、より好ましくは3.0質量%以下に制限される。
【0113】
モリブデン元素、タングステン元素及びクロム元素はすべて、合金が有害なTCP相を形成する傾向に寄与する。これらの元素と、TCP形成に対する組成物の感受性を表す安定指数Mdと、の関係を
図13に示す。本発明では、表3の従来技術の合金の値に基づいて、安定指数を0.93以下とすることが望ましい。この制約は、好ましい合金範囲で以下のようにモデル化される。
f(Md)=W
W+0.77W
Mo+0.93W
Cr
【0114】
ここで、f(Md)の数値が22.1以下の場合、安定メリット指数は0.93を示す。f(creep)の値が5.0×1015以上であるという前述の要件に基づくと、許容できるクロム含有量の最大値は20.6質量%であることがわかる。クロム含有量の最大値を19.5%に減らすと、安定性が向上する。より好ましくは、クリープメリット指数は5.5×1015であり、関数f(creep)が4.6以上である必要がある。これにより、Crをより好ましい最大値(19.0質量%)とすることができる。最も好ましくは、クリープメリット指数は6.0×1015以上であり、したがって、Crの最大値は、最も好ましくは17.3質量%である。合金安定性を向上させるために、f(Md)のレベルを21.5以下とすることが好ましい。
【0115】
本発明における熱間割れのリスクは、合金の凝固範囲を制限することによっても軽減することができる。これは、熱間割れが発生し得る脆弱な時間枠が減少するためである。本発明では、(シェールガリバーアプローチによって予測される)凝固範囲は280℃以下であることが望ましく、このためには、コバルト含有量が24質量%以下である必要がある(
図14参照)。より好ましくは、シェール凝固範囲は270℃以下であり、このためには、コバルト含有量が20質量%以下である必要がある。
【0116】
ただし、コバルトは、(マトリックス相の積層欠陥エネルギーの増加による)中間温度の耐クリープ性や、熱伝導率など、ニッケル基超合金の特定の材料特性に有益である。したがって、コバルトの最小値を5.0質量%とすることが望ましい。より好ましくは、コバルト含有量の最小値は10.0質量%である。これにより、IN738よりも大きい積層欠陥エネルギーを提供する。
【0117】
合金の機械的特性を最大化することに加えて、密度を最小化することが望ましい。これは、原子量の大きい元素、特にタングステンとタンタルの添加量を制御することによって行われる。他の元素を平均レベルとした場合における、タングステン元素及びタンタル元素のレベルと、予測される合金密度と、の関係を
図15に示す。これにより、本発明の元素範囲に存し、f(HCI)及びf(SAC)を満たすモデルが、以下のように得られる。
f(density)=W
Ta+0.92W
W
【0118】
ここで、f(density)は数値である。f(density)の値が6.1以下の場合、通常、合金密度の最大目標値(8.6g/cm3以下)が達成される。例えば、チタンのレベルを低めることにより、密度に悪影響が及ぼされるが、そのような合金の場合、f(SAC)の要件を満たすには、NbとTaの添加量を増やす必要があるため、f(density)が密度を過小予測する可能性がある。他の元素(例えばモリブデン)のレベルを高めることにより、f(density)によって予測される密度よりも実際の密度が大きくなる可能性がある。f(density)が5.4以下の場合、望ましい、密度の低い合金が得られる。より好ましくは、合金密度を8.55g/cm3以下とする。これにより、より小さいクリープ強度が要求される、より軽量な部品(回転用途で使用される)がもたらされる。この場合、f(density)の値は5.1以下である。f(density)が4.8以下、さらには4.0以下の場合、さらに低い密度の合金を実現することができる。
【0119】
これらの制限により、タンタルとタングステンの含有量に上限が設定される。(前述の、クリープを踏まえたタングステンの最小値(0.9質量%)の要件を考慮して)タンタルは5.2質量%以下、最も好ましくは4.2質量%以下である。タングステンの最大値は、f(density)に基づいて6.6質量%以下、好ましくは5.5質量%以下である。タンタルの最も好ましい最小限界(1質量%)に基づいて、最も好ましい密度を達成するために、タングステン含有量の最大値は、最も好ましくは4.5質量%以下である。
【0120】
粒界に強度をもたらすために、炭素、ホウ素およびジルコニウムの添加が必要である。これは、合金のクリープおよび疲労特性に対して特に有益である。ただし、これらの元素は、凝固及び/または液化割れメカニズムによって、AMプロセス中にすべて割れる可能性がある。したがって、炭素濃度は、0.02質量%~0.15質量%の範囲とすべきである。積層造形プロセス中の割れを低減するために、より低いレベルの炭素が好ましい。したがって、炭素は、0.08質量%以下含有されることが好ましい。ホウ素は凝固中に液相に強力に分離するため、ホウ素濃度は、0.001~0.015質量%の範囲とすべきであり、好ましくは、0.008質量%以下とすべきである。同様に、ジルコニウム濃度は、0.1質量%以下、より好ましくは0.0質量%~0.02質量%である。
【0121】
合金が製造されるとき、それが不可避的不純物を実質的に含まないことは有益である。これらの不純物は、硫黄元素(S)、マンガン元素(Mn)および銅元素(Cu)を含み得る。硫黄元素は、好ましくは0.003質量%(質量換算で30PPM)以下に維持される。硫黄が0.003質量%より多く存在すると、合金が脆化し、酸化の際に形成された合金/酸化物界面に硫黄が偏析する。そのため、硫黄レベルは、好ましくは0.001質量%以下である。マンガンは不可避的不純物であり、0.25質量%までに制限され、好ましくは0.1質量%以下に制限される。銅(Cu)は不可避的不純物であり、好ましくは0.5質量%までに制限される。バナジウム(V)は不可避的不純物であり、合金の酸化挙動に悪影響を及ぼすため、好ましくは0.5質量%までに制限され、好ましくは0.3質量%までに制限され、最も好ましくは0.1質量%までに制限される。この偏析により、保護酸化物スケールの剥離が増加する可能性がある。これらの不可避的不純物の濃度が所定のレベルを超えた場合、製品収率を取り巻く問題が生じるとともに、合金の材料特性の劣化が予想される。
【0122】
鉄はニッケルと同様の挙動を示し、ニッケルに代わる低コストの代替品として加えることができる。さらに、鉄の添加を許容することにより、合金がリサイクル材料から製造される能力が向上する。したがって、鉄は少なくとも0.1質量%の量で存在することが好ましい。しかしながら、大幅にコストを下げるために、鉄を5.0質量%まで添加することができる。好ましくは、(合金の機械的性質を低下させる)望ましくないラーベス相を形成する傾向を減らし、鉄が有する、耐酸化性に対する非常に有害な影響を最小限に抑えるために、鉄の添加は3.8質量%以下またはさらに2.0質量%以下である。最も好ましくは、鉄の添加を1質量%までに制限する。これにより、材料性能をほとんど損なうことなくリサイクルされる良好な能力を有する合金が製造される。
【0123】
合金内の不可避的不純物を拘束するため、及び強度を付与するために、ハフニウム(Hf)を1.0質量%まで添加することは有益である。ハフニウムは強力な炭化物形成材であるため、さらなる粒界の強化をもたらし得る。ただし、ハフニウムは、元素コストが高く、積層造形中に最終液に強く偏析することで凝固割れを悪化させる可能性がある。したがって、ハフニウムの添加量を、0.5質量%までに制限することがより好ましく、0.25質量%までに制限することがより好ましい。
【0124】
いわゆる「反応性元素」(イットリウム(Y)、ランタン(La)及びセリウム(Ce))は、0.1質量%までのレベルの添加とする。これは、Al2O3等の保護酸化物層の接着性を向上させるのに有益である。これらの反応性元素は、硫黄などの有害元素を「掃討」することができる。硫黄は、合金酸化物界面に偏析して酸化物と基材との結合を弱め、酸化物の剥離をもたらす。マグネシウム(Mg)も同様に、有害元素を「掃討」する挙動を示し、機械的特性に有益な効果をもたらしうるため、最大0.1質量%まで添加することができる。ケイ素(Si)は、0.5質量%まで添加することが有益となりうる。ニッケル基超合金に0.5質量%までのレベルのケイ素を添加することは、酸化特性に対して有益であることが示されている。特にケイ素は合金/酸化物界面に偏析し、基材に対する酸化物の結合力を向上させる。これにより、酸化物の剥離が抑制され、結果として耐酸化性が向上する。
(本発明の例)
【0125】
【0126】
表5および表6に示す新規な合金例であるABD-900AMは、積層造形において従来の合金の欠点を克服するために設計された。表5は、表1に列挙された合金と比較した、新たに設計された高γ´体積分率のニッケル基超合金の、質量%における公称組成である。表6は、「合金設計」ソフトウェアで計算された、相割合及びメリット指数を示す。これは、表1に列挙された、従来用いられているニッケル基超合金の結果である。γ´の含有量は、f(SAC)の数値を変えることによって制御されるが、f(SAC)が多くのベンチマーク合金よりも低い値になっているため、ひずみ時効割れのリスクが低くなっている。APB強化係数を増加させるように作用するNbとTaの比率が高いため、γ´含有量が低いにも関わらず、強度メリット指数が従来の合金と同等に設計されている。これらの添加はまた、熱間割れ指数を大幅に低下させるため、凝固中の割れのリスクが低減される。クリープメリット指数は、MoとWの存在によって合金の安定性の範囲内で最大化されることが好ましく、好ましい耐酸化性は、高いCr/Ti比によって達成されることが好ましい。
【0127】
図16は、Haynes282およびIN738と比較して、ABD-900AMではマイクロクラック密度が減少していることを示す。試験では、ABD-900AMの強度と耐クリープ性が、積層造形で製造されたIN738と同等であることが示されている。
【0128】
【0129】
表7は、新たに設計された高γ´体積分率のニッケル基超合金の、質量%における公称組成である。C及びBのレベルはそれぞれ、0.04質量%及び0.005質量%に固定されている。表8は、「合金設計」ソフトウェアで計算された、表7に列挙された合金における相割合及びメリット指数を示す。表7及び表8は、Fe及びCoの含有量が変更されたABD-900AMのバリエーションを示す。AM901およびAM902には少量のFe(Coの代替として使用)が含まれているため、ある程度の耐酸化性を犠牲にしながら、リサイクル材料に対する耐性が増加し、元素コストをわずかに削減できる。AM903~AM908では、(Niの代わりに使用される)Coの含有量が段階的に減少する。これは、Coの価格が比較的高いため、合金のコストを削減するという有益な効果がある。ただし、コバルトレベルが低いと、熱間割れ指数がわずかに増加し、γ´含有量がわずかに減少する。AM 906~AM 908は、すべての例の中で強度メリット指数が最も低い。AM 906~AM-908では、コバルトのレベルが低い。コバルトは、中間温度の耐クリープ性及び熱伝導性とともに、強度を向上させる元素である。
【0130】
【0131】
表9は、新たに設計された高γ´体積分率のニッケル基超合金の、質量%における公称組成である。C及びBのレベルはそれぞれ、0.04質量%及び0.005質量%に固定されている。表10は、「合金設計」ソフトウェアで計算された、表9に列挙された合金における相割合及びメリット指数を示す。表9及び表10は、ZrとHfの添加により、粒界強度を高めるように最適化されたABD-900AMのバリエーションを示す。AM911及びAM912は、酸化物スケールの接着に対するHfの有益な影響により、優れた耐酸化性も備え得る。ただし、これらの合金はすべて、融点降下剤としてのZrとHfの作用により、ベースのABD-900AM組成よりも熱間割れ指数が高く、シェール凝固範囲が広くなっている。したがって、本発明の領域内における合金の印刷適性と粒界強度との間に、管理すべきトレードオフが存在する。
【0132】
【0133】
表11は、新たに設計された高γ´体積分率のニッケル基超合金の、質量%における公称組成である。C及びBのレベルはそれぞれ、0.04質量%及び0.005質量%に固定されている。表12は、「合金設計」ソフトウェアで計算された、表11に列挙された合金における相割合及びメリット指数を示す。表11及び表12は、合金AM913~AM917を示す。これらは、耐クリープ性を高めるためにReとRuを添加した、ABD-900のバリエーションである。2つの元素のうち、Reはクリープメリット指数の点でより大きな影響を与えると同時に、コストと熱間割れ指数への悪影響も少ないと見られている。ただし、Reは原子量が大きいため、Reを追加すると密度が大幅に増加する。
【0134】
【0135】
表13は、新たに設計された高γ´体積分率のニッケル基超合金の、質量%における公称組成である。C及びBのレベルはそれぞれ、0.04質量%及び0.005質量%に固定されている。表14は、「合金設計」ソフトウェアで計算された、表13に列挙された合金における相割合及びメリット指数を示す。表13及び表14は、γ´相形成元素の量と比率が操作された、ABD-900AMの一連のバリエーションを示す。合金AM918及びAM919では、含有されるニオブ及びタンタルのレベルが増加している。ニオブ及びタンタルは、ひずみ時効割れメリット指数を一定値に維持するために、密度補正ベースでチタンの代替として使用される。その結果、熱間割れ指数が徐々に低下し、強度メリット指数と耐酸化性が向上する(Cr/Ti比で示される)。AM921及びAM922では、Al、Nb、Ti及びTaの量が(密度補正ベースで)比例して増加している。その結果、γ´含有量と強度メリット指数が高く、且つひずみ時効割れメリット指数も高い合金が得られる。これらの合金は、Cr/Ti比が低いため、好ましい範囲で低い耐酸化性を有すると予測される。
【0136】
【0137】
表15は、新たに設計された高γ´体積分率のニッケル基超合金の、質量%における公称組成である。C及びBのレベルはそれぞれ、0.04質量%及び0.005質量%に固定されている。表16は、「合金設計」ソフトウェアで計算された、表15に列挙された合金における相割合及びメリット指数を示す。表15及び表16は、Cr/Ti比が操作された一連の合金を示す。合金AM922~AM925は、ABD-900AMと同じ比率を有するが、Cr及びTiの両方の量が比例して少なくなる。これにより、酸化性能が向上し、機械的特性が向上し得る。合金AM922及びAM923では、他のγ´形成元素の割合をわずかに増やすことでγ´含有量をほぼ一定に保つとともに、同じMd数を維持するためにMoとWのレベルを上げている。合金AM924及びAM925では、Mo及びWの含有量が変わらないまま、γ´含有量がABD-900AMの含有量よりもさらに増加している。
【0138】
合金AM926はABD-900AMの変形だが、耐酸化性を向上させるべくCr/Ti比を10にするためにチタン含有量を減らしている一方、同じγ´割合を維持するために、他のγ´形成元素のレベルを比例して増加させている。合金AM927~AM930は、AM922~AM927と相同だが、Cr/Ti比が10に固定されている。同様に、合金AM931~AM933はAM926~AM930と相同だが、Cr/Ti比は14である。この比率の合金において、Cr含有量が13である場合は考慮していない。これは、本発明に必要なTiのレベルを下回るためである。
【0139】
【0140】
表17は、新たに設計された高γ´体積分率のニッケル基超合金の、質量%における公称組成である。C及びBのレベルはそれぞれ、0.04質量%及び0.005質量%に固定されている。表18は、「合金設計」ソフトウェアで計算された、表17に列挙された合金における相割合及びメリット指数を示す。表17及び表18は、表15及び表16と直接的に同等の一連の合金(AM934~AM945)を示しており、関数f(SAC)の比例的な増加によってγ´含有量が増加している。これは、積層造形に適した合金であって、耐酸化性と、高いγ´とを備え、熱間割れ指数が低いクロミア形成合金の領域を示す。
【国際調査報告】