(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-15
(54)【発明の名称】用量感知モジュール
(51)【国際特許分類】
A61M 5/168 20060101AFI20221208BHJP
A61M 5/315 20060101ALI20221208BHJP
A61M 5/24 20060101ALI20221208BHJP
G01D 5/165 20060101ALI20221208BHJP
G01B 7/30 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
A61M5/168 510
A61M5/315 550N
A61M5/24 500
G01D5/165 A
G01B7/30 G
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022521031
(86)(22)【出願日】2020-10-08
(85)【翻訳文提出日】2022-06-02
(86)【国際出願番号】 EP2020078274
(87)【国際公開番号】W WO2021069585
(87)【国際公開日】2021-04-15
(32)【優先日】2019-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】596113096
【氏名又は名称】ノボ・ノルデイスク・エー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ヤコブセン, ニコライ エウセビウス
【テーマコード(参考)】
2F063
2F077
4C066
【Fターム(参考)】
2F063AA35
2F063BA05
2F063BC01
2F063DA02
2F063DA05
2F063EA03
2F077CC02
2F077NN02
2F077NN12
2F077PP03
2F077VV02
4C066AA10
4C066BB01
4C066CC01
4C066DD08
4C066DD13
4C066EE06
4C066FF05
4C066HH02
4C066HH12
4C066QQ22
4C066QQ32
4C066QQ78
4C066QQ82
(57)【要約】
本発明は、回転可能なピストンロッドとカートリッジピストンとの間でカートリッジベースの薬剤送達装置内に配設されるように適合されたセンサーモジュール(50)を提供する。センサーモジュール(50)は、カートリッジピストンに対して少なくとも実質的に回転方向に係止されるように適合され、横方向センサー表面(52.2、152.2、252.2、352.2)を備える、第一のセンサー構造(52、152、252、352)と、ピストンロッドに対して回転方向に係止されるように適合され、一つ以上のフレキシブルに支持され、軸方向に撓み可能な接触部材(53.1、53.2、153.2、253.2、353.1、353.2)を備える、第二のセンサー構造(53、153、253、353)と、を備え、これらは、横方向センサー表面(52.2、152.2、252.2、352.2)の遠位方向に位置付けられ、そこに、近位方向に向けられた力を加えるように適合されている。第一のセンサー構造(52、152、252、352)および第二のセンサー構造(53、153、253、353)は、相対的回転運動を受け、それによって、一つ以上の接触部材(53.1、53.2、153.2、253.2、353.1、353.2)が横方向センサー表面(52.2、152.2、252.2、352.2)を掃引するように適合されている。プロセッサ(52.5、152.5、252.5)は、一つ以上の接触部材(53.1、53.2、153.2、253.2、353.1、353.2)が横方向センサー表面(52.2、152.2、252.2、352.2)を掃引するときに発生する信号により、第一のセンサー構造(52、152、252、352)と第二のセンサー構造(53、153、253、353)との間の相対的角度変位を決定する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能なピストンロッドとカートリッジピストンとの間でカートリッジベースの薬剤送達装置内に配設されるように適合されたセンサーモジュール(50)であって、前記センサーモジュール(50)が、基準軸に沿って、前記ピストンロッドと接合するように適合された近位モジュール部分(54)から前記カートリッジピストンと接合するように適合された遠位モジュール部分(51.3)まで延在し、
-モジュールハウジング(51)と、
-電動回転エンコーダシステムと、を備え、前記電動回転エンコーダシステムが、
○前記カートリッジピストンに対して少なくとも実質的に回転方向に係止されるように適合され、前記モジュールハウジング(51)に対して軸方向に制限される横方向センサー表面(52.2、152.2、252.2、352.2)を備える、第一のセンサー構造(52、152、252、352)、
○前記ピストンロッドに対して回転方向に係止されるように適合され、一つ以上のフレキシブルに支持され、軸方向に撓み可能な接触部材(53.1、53.2、153.2、253.2、353.1、353.2)を備える、第二のセンサー構造(53、153、253、353)であって、前記第一のセンサー構造(52、152、252、352)および前記第二のセンサー構造(53、153、253、353)が、前記基準軸を中心として相対的回転運動を受けることができ、それによって、前記一つ以上の接触部材(53.1、53.2、153.2、253.2、353.1、353.2)が、前記横方向センサー表面(52.2、152.2、252.2、352.2)を掃引する、第二のセンサー構造(53、153、253、353)、および
○前記一つ以上の接触部材(53.1、53.2、153.2、253.2、353.1、353.2)が前記横方向センサー表面(52.2、152.2、252.2、352.2)を掃引するときに発生する信号により、前記第一のセンサー構造(52、152、252、352)と前記第二のセンサー構造(53、153、253、353)との間の相対的角度変位を決定するように適合されたプロセッサ(52.5、152.5、252.5)、を備え、
前記一つ以上の接触部材(53.1、53.2、153.2、253.2、353.1、353.2)が、前記横方向センサー表面(52.2、152.2、252.2、352.2)の遠位方向に位置付けられ、前記横方向センサー表面(52.2、152.2、252.2、352.2)に、近位方向に向けられた力を加えるように適合されていることを特徴とする、センサーモジュール(50)。
【請求項2】
-前記横方向センサー表面(52.2、152.2、252.2、352.2)が、あるパターンで配設された複数の導電センサー領域(52.7、52.8、152.8、252.7、252.8、352.7、352.8)を備え、
-前記一つ以上の接触部材(53.1、53.2、153.2、253.2、353.1、353.2)が、前記第一のセンサー構造(52、152、252、352)および前記第二のセンサー構造(53、153、253、353)が相対的回転を受けるときに前記複数の導電センサー領域(52.7、52.8、152.8、252.7、252.8、352.7、352.8)の少なくともあるサブセットを掃引し、それによって、異なるセンサー領域を交互に接続および接続解除するように適合され、現在の接続が、前記第一のセンサー構造(52、152、252、352)および前記第二のセンサー構造(53、153、253、353)の現在の相対的角度位置を示す、請求項1に記載のセンサーモジュール。
【請求項3】
前記横方向センサー表面(52.2、152.2、252.2、352.2)が、前記モジュールハウジング(51)内の前記基準軸と直角をなして延在する、剛直な支持シート(52.4、152.4、252.4、352.4)の遠位表面である、請求項1または2に記載のセンサーモジュール。
【請求項4】
前記近位モジュール部分(54)が、軸方向ピン部材(54)を備え、前記軸方向ピン部材(54)が、近位ピン端部分および遠位ピン端部分を備え、
-前記剛直な支持シート(52.4、152.4、252.4、352.4)が、中央貫通孔(52.6)を有し、
-前記軸方向ピン部材(54)が、前記貫通孔(52.6)を通って延在し、
-前記第二のセンサー構造(53、153、253、353)が、前記遠位ピン端部分と回転方向に相互係止され、
-前記近位ピン端部分が、前記ピストンロッドの遠位端部分との回転方向の相互係止係合のために構成されている、請求項3に記載のセンサーモジュール。
【請求項5】
前記剛直な支持シート(52.4、152.4、252.4、352.4)が、前記プロセッサ(52.5、152.5、252.5)を運ぶ近位表面(52.1、152.1、252.1、352.1)をさらに備える、請求項3または4に記載のセンサーモジュール。
【請求項6】
前記モジュールハウジング(51)と前記カートリッジとの間の相対的角度変位を妨害するために、前記カートリッジベースの薬剤送達装置内にあるカートリッジの内部壁部分と接合するように適合された回転防止手段(51.1)をさらに備える、請求項1~5のいずれか一項に記載のセンサーモジュール。
【請求項7】
前記複数の導電センサー領域(352.7、352.8)が、第一の円形トラック(352.9)および第二の円形トラック(352.7)を形成するように配設され、前記第一の円形トラック(352.9)が、コードトラックであり、前記第二の円形トラック(352.7)が、接地トラックであり、
前記一つ以上の接触部材(353.1、353.2)が、前記第一の円形トラック(352.9)を掃引するように適合された一つのコード接触部材(353.2)、および前記第二の円形トラック(352.7)を掃引するように適合された一つの接地接触部材(353.1)を構築する、請求項2に記載のセンサーモジュール。
【請求項8】
前記複数の導電センサー領域(52.7、52.8)が、第一の円形トラック(52.9)および第二の円形トラック(52.7)を形成するように配設され、前記第一の円形トラック(52.9)が、コードトラックであり、前記第二の円形トラック(52.7)が、接地トラックであり、
前記一つ以上の接触部材(53.1、53.2)が、前記第一の円形トラック(52.9)を掃引するように適合された二つのコード接触部材(53.2)、および前記第二の円形トラック(52.7)を掃引するように適合された一つの接地接触部材(53.1)を構築する、請求項2に記載のセンサーモジュール。
【請求項9】
前記第一の円形トラック(52.9)が、36個の均等に分散されたコードフィールド(52.8)を備え、前記コード接触部材(53.2)が、45°の角度分離を呈する、請求項8に記載のセンサーモジュール。
【請求項10】
前記複数の導電センサー領域(252.7、252.8)が、単一の円形トラックであって、コードフィールド(252.8)と接地フィールド(252.7)とが一つおきになる40個の均等に分散されたフィールドを備える、単一の円形トラックを形成し、
前記一つ以上の接触部材(253.2)が、互いに120°の角度分離を呈する三つの接触部材を構築する、請求項2に記載のセンサーモジュール。
【請求項11】
前記横方向センサー表面(52.2、252.2、352.2)の遠位方向に、前記モジュールハウジング(51)内に配設された電池(55)をさらに備え、
前記近位モジュール部分(54)が、軸方向ピン部材(54)を備え、前記軸方向ピン部材(54)が、前記ピストンロッドの遠位端部分との回転方向の相互係止係合のために構成された近位ピン端部分、および前記第二のセンサー構造(53、253、353)と回転方向に相互係止される遠位ピン端部分を備え、
前記横方向センサー表面(52.2、252.2、352.2)が、前記モジュールハウジング(51)内の前記基準軸と直角をなして延在する、剛直な支持シート(52.4、252.4、352.4)の遠位表面であり、中央貫通孔(52.6)を有し、
前記軸方向ピン部材(54)が、前記貫通孔(52.6)を通って延在し、前記遠位ピン端部分が、負電池端子に電気的に接続する、前記電池(55)に当接する接触面(54.1)を備える、請求項7~10のいずれか一項に記載のセンサーモジュール。
【請求項12】
前記横方向センサー表面(152.2)の遠位方向に、前記モジュールハウジング(51)内に配設された電池(55)をさらに備え、
前記複数の導電センサー領域(152.8)が、36個の均等に分散されたコードフィールドを備える単一の円形トラックを形成し、前記一つ以上の接触部材(153.2)が、45°の角度分離を呈する二つのコード接触部材を構築し、
前記近位モジュール部分(54)が、軸方向ピン部材(54)を備え、前記軸方向ピン部材(54)が、前記ピストンロッドの遠位端部分との回転方向の相互係止係合のために構成された近位ピン端部分、および前記第二のセンサー構造(153)と回転方向に相互係止される遠位ピン端部分を備え、
前記横方向センサー表面(152.2)が、前記モジュールハウジング(51)内の前記基準軸と直角をなして延在する、剛直な支持シート(152.4)の遠位表面であり、中央貫通孔を有し、
前記軸方向ピン部材(54)が、前記貫通孔を通って延在し、前記遠位ピン端部分が、負電池端子に電気的に接続する、前記電池(55)に当接する接触面(54.1)を備える、請求項2に記載のセンサーモジュール。
【請求項13】
薬剤送達装置(1)あって、
-ピストンロッド(15)を備える用量排出機構を収容するハウジング(2)、および
-前記ハウジング(2)に対して回転方向に固定されるカートリッジ(20)を備え、前記カートリッジ(20)が、自己密封隔壁(23)によって遠位方向に密封され、カートリッジピストン(22)によって近位方向に密封される、薬剤チャンバー(25)を備え、
前記近位モジュール部分(54)が、前記ピストンロッド(15)に回転方向に固定され、前記遠位モジュール部分(51.3)が、前記カートリッジピストン(22)に当接する、薬剤送達装置(1)との組み合わせによる、請求項1~12のいずれか一項に記載のセンサーモジュール。
【請求項14】
前記近位モジュール部分(54)が、前記ピストンロッド(15)内の凹みに摩擦嵌合される、請求項13に記載のセンサーモジュールおよび薬剤送達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤送達装置で使用するための回転エンコーダ、および薬剤貯蔵部から排出されたある量の薬剤を自動的に捕捉するために回転エンコーダを用いる薬剤送達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
注射ペンなどの注射装置は、治療的処置を必要とする人々による液剤の自己投与のために広く使用されている。多くの注射装置は、装置内のそれぞれの用量設定機構および薬剤排出機構の動作時に、固定容量または可変容量の薬剤を繰り返し設定および注射することができる。一部の注射装置は、いくつかの注射可能な用量を提供するのに十分な容量の薬剤を含有する予め充填された薬剤貯蔵部を装填するように適合されている。貯蔵部が空になると、ユーザは貯蔵部を新しいものと交換し、ひいては、注射装置を何度も使用することができる。その他の注射装置は、ユーザに送達されたときに予め充填されており、薬剤貯蔵部が空になるまでのみ使用することができ、その後、装置全体が廃棄される。様々な注射装置は通常、運動制御型ピストンロッドを使用して、貯蔵部内でピストンを前進させることによって薬剤を排出する。
【0003】
一部の治療領域内では、処方された治療法を順守する患者の傾向は、特定の処置レジメンの単純さに依存する。例えば、2型糖尿病を有する多くの人々は、比較的高い年齢でこの疾患と診断され、通常の生活様式に過度に介入する処置を受け入れる傾向が少ないこれらの人々のほとんどは、自分の疾患を常に思い出させることを好まず、その結果、複雑な処置パターンに巻き込まれたり、煩雑な送達システムの操作を学ぶことに時間を浪費したりすることを望まない。本質的に、多くは、手動による関与が少ないほど良いという意見である。
【0004】
糖尿病を有する人物の場合、正常血糖に費やす時間を最大化するために、一つ以上のグルコース調整剤を適時に投与することが重要である。その関連で、特定の処置レジメンに対する患者のアドヒアランスの概要を確立するために、かかる調整剤がいつ投与されるか、およびどのくらい投与されるかの両方を追跡し続けることが重要である。したがって、本人が、投与された用量サイズおよび投与時間のログを保つことが推奨される。
【0005】
以前は、かかるログの確立および維持には、例えば、紙またはPC上で、データを手動で書き留める必要があった。しかしながら、これは頻繁で能動的な関与を伴うことになるため、多くの人々は概要を確立することの重要性を軽視していた。この望ましくない状況を認識して、個々の注射装置から関連情報を自動的に捕捉するための様々な解決策が提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1は、注射装置ハウジングの撓み可能な外部表面上に配設されたセンサーを有するペンタイプの注射装置について開示している。撓み可能な外部表面は、ピストンロッドに回転方向に係止された内部構成要素の特定の角度変位で撓みを受けるように構成され、センサーは、検出された撓みに応答して信号を出力するように適合されており、したがって、信号は、ピストンロッドの角度変位を表す。開示される注射装置によって排出される薬剤の量は、ハウジングに対するピストンロッドの角度変位の合計と相関するため、出力信号は、注射装置のプロセッサによって自動的に捕捉され、投与された用量の推定のための基礎として使用される。さらに、プロセッサは、出力信号を受信するための時間を確立し、用量排出事象のためのタイムスタンプを提供し得る。次いで、データを、注射装置上の電子ディスプレイを介して、または例えば、ディスプレイを有するか、もしくはディスプレイに接続可能である外部装置への無線送信によって、回収することができる。
【0007】
代替的な用量検出の解決策が特許文献2に開示されており、これは、用量排出機構のピストンロッドとカートリッジピストンとの間に配設されたピストンワッシャーモジュールの形態の完全統合型センサーユニットを有する使い捨てのペン型の薬剤送達装置に関する。センサーユニットは、回転エンコーダのように動作し、ピストンロッドに対して回転方向に係止される第一のセンサー部品と、カートリッジピストンに対して回転方向に係止される第二のセンサー部品と、を備える。ピストンロッドが薬剤送達装置ハウジングおよびカートリッジに対して回転するときに、用量排出事象中に呈される、二つのセンサー部品間の相対的角度変位は、ガルバニ式に検出され、投与された用量のサイズの推定値に変換される。特許文献3では、これらの二つのセンサー部品は、二部品のモジュールハウジング内に収容されている。
【0008】
特許文献2および特許文献3に提示されるセンサー実施形態のほとんどは、軸方向に向けられた接触面およびセンサー表面を伴う。これらのセンサータイプの場合、出力される信号の信頼性は、二つのセンサー部品間の物理的なインターフェースにおける軸方向の接触圧力に依存する。満足のいく接触圧力を得る一方で、第一のセンサー部品から第二のセンサー部品に伝達されるトルクを最小化する願望も考慮に入れるために、接触部が弾性的に支持される、例えば、軸方向にフレキシブルなアーム上に配設されることが提案されている。
【0009】
しかしながら、用量排出事象中に第一のセンサー部品が第二のセンサー部品に対して軸方向に押されると、フレキシブルなアームが撓み、弾性エネルギーを貯蔵し、弾性エネルギーは、ピストンロッドの移動が終了するまで解放されない。この弾性エネルギーは、最終的に解放されると、ピストンのさらなる移動を引き起こし、かつそれによって、用量排出事象を延長することに寄与し得る。延長された用量排出は、特に注射を実施することにすでに消極的である人々にとって厄介なものとしてみなされる場合がある。さらに、排出手順が終了することを期待して、ユーザが注射針を早まって引き出したばかりのところで、液体がまだ針端部から注がれていることに気づくというリスクが大きくなる。これは、なぜ用量排出機構が停止していないか、および正しい用量が受容されているかどうかに関する混乱を引き起こす可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2018/078178号(Novo Nordisk A/S)
【特許文献2】国際公開第2018/141571号(Novo Nordisk A/S)
【特許文献3】国際公開第2020/011710号(Novo Nordisk A/S)
【発明の概要】
【0011】
先行技術の少なくとも一つの欠点を除去するかもしくは低減させること、または先行技術のソリューションに対する有用な代替案を提供することが、本発明の目的である。
【0012】
特に、送達された用量に関する情報を自動的に捕捉するために薬剤送達装置で使用するための回転エンコーダベースの用量感知モジュールであって、用量感知モジュールが、安定した出力信号を提供し、許容可能な内部トルク伝導を有するが、用量排出手順には悪影響を及ぼさない、回転エンコーダベースの用量感知モジュールを提供することが本発明の目的である。
【0013】
かかる用量感知モジュールを薬剤送達装置に提供することは、本発明のさらなる目的である。
【0014】
本発明の開示では、上記の目的のうちの一つ以上に対処し、かつ/または、以下の文章から明らかである目的に対処する、態様および実施形態が記載される。
【0015】
一つの態様では、本発明は、請求項1に定義のセンサーモジュールを提供する。
【0016】
したがって、例えば、ペン型タイプの注射装置などのカートリッジベースの薬剤送達装置で使用するためのセンサーモジュールが提供される。基準軸に沿って近位モジュール部分から遠位モジュール部分に延在するセンサーモジュールは、近位モジュール部分がピストンロッドと接合し、遠位モジュール部分がカートリッジピストンと接合するように、回転可能なピストンロッドとカートリッジピストンとの間で薬剤送達装置内に配設されるように適合されている。
【0017】
センサーモジュールは、モジュールハウジングと、例えば、電池などの電源によって電力供給される回転エンコーダシステムと、を備える。回転エンコーダシステムは、カートリッジピストンに対して少なくとも実質的に回転方向に係止されるように適合され、モジュールハウジングに対して軸方向に制限される、すなわち、モジュールハウジングに対して軸方向に固定されるか、またはモジュールハウジングに対して制限された軸方向の運動をすることができる、横方向センサー表面を含む、第一のセンサー構造を備える。回転エンコーダシステムは、ピストンロッドに対して回転方向に係止されるように適合された第二のセンサー構造と、プロセッサと、をさらに備える。第二のセンサー構造は、一つ以上の、すなわち、単一または複数のフレキシブルに支持され、軸方向に撓み可能な接触部材を備える。
【0018】
第一のセンサー構造および第二のセンサー構造は、基準軸を中心として相対的回転運動を受けることができ、一つ以上の接触部材は、かかる相対的回転運動に応答して、横方向センサー表面を掃引し、それによって、第一のセンサー構造と第二のセンサー構造との間の相対的角度変位を示す複数の信号、例えば、電気信号を発生させるように適合されている。
【0019】
発生した信号は、薬剤送達装置とともにまたは薬剤送達装置によって実施される用量排出事象中に呈される、第一のセンサー構造と第二のセンサー構造との間の相対的角度変位の合計を決定するために、プロセッサによって拾い上げられて使用される。かかる用量放出事象の間、第一のセンサー構造は、カートリッジに対して少なくとも実質的に回転方向に係止され、第二のセンサー構造は、ピストンロッドに対して回転方向に係止されるので、それに伴って、プロセッサは、排出される用量のサイズと相関する、ピストンロッドの相対的角度変位の合計を推定する。したがって、第一のセンサー構造と第二のセンサー構造との間の決定された相対的角度変位の合計および/または排出される用量の推定サイズは、外部装置に、例えば、センサーモジュール内の無線送信手段を無線で使用して、中継され得る。代替的に、プロセッサは、推定用量サイズの視覚的表示のために、薬剤送達装置上の電子ディスプレイに電気的に接続可能であってもよい。
【0020】
重要なことには、一つ以上の接触部材は、横方向センサー表面の遠位方向に位置付けられ、横方向センサー表面に、近位方向に向けられた力を加えるように適合されている。それによって、ピストンロッドが用量排出行為中に遠位方向に移動するときに、一つ以上の接触部材と横方向センサー表面との間のインターフェースにおける接触圧力は増加しないことになる。これは、第一のセンサー構造と第二のセンサー構造とが一緒に押し出されないためである。結果として、弾性エネルギーは、用量排出が行われる際に、一つ以上の接触部材のフレキシブルな支持体に蓄積されないため、その後のフレキシブルな支持体の弛緩により、用量排出機構がその用量終了位置に到達した後に、追加のピストン移動が引き起こされることはない。
【0021】
本発明の例示的な実施形態では、横方向センサー表面は、あるパターンで配設された複数の導電センサー領域を備え、一つ以上の接触部材は、第一のセンサー構造および第二のセンサー構造が相対的回転を受けるときに複数の導電センサー領域の少なくともあるサブセットを掃引し、それによって、異なるセンサー領域を交互に接続および接続解除するように適合され、現在の接続は、第一のセンサー構造および第二のセンサー構造の現在の相対的角度位置を示す。したがって、プロセッサで即時処理するための電気信号が発生し、プロセッサは最終的に、第一のセンサー構造と第二のセンサー構造との間の相対的角度変位の合計を、行われた接続から計算し、これに基づいて、対応する用量サイズを計算する。代替的に、用量サイズは、センサーモジュールからデータを受信する外部装置によって計算され得る。
【0022】
横方向センサー表面は、モジュールハウジング内の基準軸と直角をなして延在する、剛直な支持シートの遠位表面であってもよい。剛直な支持シートは、プリント回路基板であり得るか、またはプリント回路基板を備えることができ、かつプロセッサ、および無線送信器またはトランシーバモジュールなどの他の電子構成要素を運ぶ、近位表面をさらに備え得る。横方向センサーを運ぶ直角をなす剛直な支持シートは、少数の内部構成要素を有する非常にコンパクトなセンサーモジュールを可能にする。
【0023】
本発明の例示的な実施形態では、剛直な支持シートは、中央貫通孔を有し、近位モジュール部分は、軸方向ピン部材を備え、軸方向ピン部材は、貫通孔を通って延在し、近位ピン端部分および遠位ピン端部分を備える。近位ピン端部分は、ピストンロッドの遠位端部分との回転方向の相互係止係合のために構成され、遠位ピン端部分は、第二のセンサー構造と回転方向に相互係止される。したがって、使用時に、ピストンロッドの回転は、軸方向ピン部材、およびさらに一つ以上の接触部材に伝達され、これにより結果として、横方向センサー表面を掃引する。
【0024】
センサーモジュールは、モジュールハウジングとカートリッジとの間の相対的角度変位を妨害するために、カートリッジベースの薬剤送達装置内にあるカートリッジの内部壁部分と接合するように適合された回転防止手段をさらに備え得る。そうでなければ、ピストンロッドが回転し、一つ以上の接触部材が横方向センサー表面に沿って摺動するにつれて、第二のセンサー構造によって第一のセンサー構造に及ぼされるトルクにより、かかる相対的角度変位が潜在的に生じる可能性がある。例示的な実施形態では、回転防止手段は、遠位モジュール部分の円周に沿って均等に分散された複数の突出部を備える。
【0025】
複数の導電センサー領域は、第一の円形トラックおよび第二の円形トラックを形成するように配設され得、第一の円形トラックは、コードトラックであり、第二の円形トラックは、接地トラックであり、一つ以上の接触部材は、第一の円形トラックを掃引するように適合された一つまたは二つのコード接触部材、および第二の円形トラックを掃引するように適合された一つの接地接触部材を構築する。二つのコード接触部材を有する実施形態は、回転エンコーダシステムの特に堅牢な設計を提供するのに対し、一つのコード接触部材のみを有する実施形態は、より単純で、より許容誤差が少ないクリティカルデザインを提供する。
【0026】
例示的な実施形態では、第一の円形トラックは、36個の均等に分散されたコードフィールドを備え、第二のセンサー構造は、45°の角度分離を呈する二つのコード接触部材を備える。
【0027】
別の例示的な実施形態では、第一の円形トラックは、72個の均等に分散されたコードフィールドを備え、第二のセンサー構造は、単一のコード接触部材を備える。
【0028】
代替的に、複数の導電センサー領域は、単一の円形トラックであって、互い違いになるコードフィールドおよび接地フィールド、例えば、コードフィールドと接地フィールドとが一つおきになる40個の均等に分散されたフィールドを備える、単一の円形トラックを形成し得、一つ以上の接触部材は、互いに120°の角度分離を呈する三つの接触部材を構築し得る。この構成により、横方向センサー表面上の異なる場所における別個の接地トラックの必要性が排除される。
【0029】
回転エンコーダシステムが電池によって電力供給される場合、該電池は、横方向センサー表面の遠位方向に、モジュールハウジング内に配設され得、遠位ピン端部分は、負電池端子に電気的に接続する、電池に当接する接触面を備え得る。それによって、薬剤送達装置の動作がセンサーモジュールの著しい内部振動を伴う場合に、一次接地接続に対するバックアップ接地接続として機能する二次接地接続が提供される。
【0030】
代わりに、軸方向ピン/電池の接続を、回転エンコーダシステムにおける一次接地接続とすることができ、この場合、別個の接地トラックを回避することができ、複数の導電センサー領域を配設して、コードフィールドの単一の円形トラックを形成することができる。
【0031】
別の態様では、本発明は、薬剤送達装置であって、回転可能なピストンロッドを備える用量排出機構を収容するハウジング、およびハウジングに対して回転方向に固定されるカートリッジを備え、カートリッジが、自己密封隔壁によって遠位方向に密封され、カートリッジピストンによって近位方向に密封される、薬剤チャンバーを備え、上に記載のセンサーモジュールが、ピストンロッドとカートリッジピストンとの間で薬剤送達装置内に配設される、薬剤送達装置を提供する。
【0032】
センサーモジュールは、近位モジュール部分が、ピストンロッドに回転方向に固定され、遠位モジュール部分が、カートリッジピストンに当接するように、配設され得る。
【0033】
本発明の特定の実施形態では、ピストンロッドは、遠位凹みを備え、近位ピン端部分は、凹みに摩擦嵌合される。これにより、例えば、楕円形の円筒状または正方形の円筒状である、近位ピン端部分の外部形状に応じて、ピストンロッドおよび軸方向ピン部材の複数の相対的角度の向きで行われ得る嵌合が可能となり、それによって、薬剤送達装置の組み立て中に二つの構成要素の適切なアライメントを得ることをより平易にする。
【0034】
近位ピン端部分が円形の円筒状である場合、これにより、ピストンロッドおよび軸方向ピン部材の任意の特定の相対的角度の向きに依存しない軸対称な嵌合が可能となり、それによって、組み立て中に行うことが非常に平易になる。
【0035】
いかなる疑念も回避するために、本文脈において、「薬剤」という用語は、症状の治療、予防、または診断に使用される媒体、すなわち、身体における療法または代謝効果を有する媒体を含む、媒体を指す。さらに、「遠位」および「近位」という用語は、薬剤送達装置または針ユニットに沿った位置または方向を示し、「遠位」とは、薬剤出口端を指し、「近位」とは、薬剤出口端の反対側の端を指す。
【0036】
本明細書において、特定の態様または特定の実施形態(例えば、「一態様」、「第一の態様」、「一実施形態」、「例示的な実施形態」など)への言及は、それぞれの態様または実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、または特性が、少なくとも本発明のその一態様または実施形態に含まれるか、または固有のものであるが、必ずしも本発明のすべての態様または実施形態の中に含まれるわけではなく、それらすべての固有のものでもないことを表す。しかしながら、本発明に関連して説明した様々な特徴、構造および/もしくは特性の任意の組み合わせが、本明細書に明示的に記載されない限り、または明確に文脈上矛盾しない限り、本発明に包含されることが強調される。
【0037】
本文中のありとあらゆる例、または例示的な言語(例えば、など)の使用は、単に本発明をより良く明らかにすることを意図するものであり、別段特許請求されない限り、本発明の範囲を制限するものではない。さらに、本明細書中のいずれの言語または言い回しも、特許請求されないいずれの要素も本発明の実施に必須であると示しているとは解釈されない。
【0038】
以下において、本発明は、図面を参照してさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】
図1は、先行技術による用量検出原理を示す。
【
図2】
図2は、本発明の例示的な実施形態による、統合型用量感知モジュールを有する注射装置の長手方向斜視断面図である。
【
図3】
図3は、用量感知モジュールの分解組立図である。
【
図4】
図4は、用量感知モジュールの長手方向斜視断面図であり、
【
図5】
図5は、用量感知モジュールで使用されるワイパアセンブリの側面図である。
【
図6】
図6は、ワイパアセンブリの遠位斜視図である。
【
図7-9】
図7~
図9は、用量感知モジュールで使用するための代替的なワイパアセンブリのそれぞれの例である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図において、同様の構造物は、主として同様の参照番号によって特定される。
【0041】
「上」および「下」、「左」および「右」、「水平」および「垂直」、「時計回り」および「反時計回り」などの相対的な表現が以下で使用されるとき/場合、これらは添付の図を参照しており、必ずしも実際の使用状況を参照するものではない。示される図は、概略図であり、そのため、その相対寸法だけでなく、異なる構造の構成も、例示的な目的でのみ機能することが意図される。
【0042】
図1は、ピストンロッド1015の遠位端と、薬剤含有カートリッジ1020を密封するピストン1022の近位端との間に配設された、先行技術による回転センサーモジュールを示す。コインセルタイプの電池1075によって電力供給されるセンサーモジュールは、上に24個の個々の導電センサー領域1072が中心軸を中心として円周方向に配置されている近位方向に向けられたセンサー表面1071を有するフレキシブルなプリント回路基板シートの形態の第一のセンサー部品1070と、第一のセンサー部品1070に対向するピストンロッド1015の遠位端部分の上に取り付けられ、各々が接触点1062で終端する二つの電気的に接続されたフレキシブルなアーム1061の形態の接触構造を有する、第二のセンサー部品1060と、を備える。
【0043】
第一のセンサー部品1070は、間の相対的回転が可能ではないように、ピストン1022と直接または間接的に係合するように適合されている。第二のセンサー部品1060は、ピストンロッド1015に回転方向に固定され、接触点1062は、用量排出行為中にピストンロッド1015が回転するときに経験される、第一のセンサー部品1070と第二のセンサー部品1060との間の相対的回転運動の際に、様々な個々の導電センサー領域1072と係合し、かつ電気的に接続するように適合されている。これにより、用量排出行為中にピストンロッド1015によって呈される合計角度変位の推定、およびそれによって、排出される薬剤の量の推定が可能となる。
【0044】
用量排出中に、ピストンロッド1015は、螺旋運動を受け、この運動の軸方向の構成要素は、ピストン1022を、ピストンロッド1015からの軸方向の力がセンサーモジュールを介してピストン1022の近位表面に伝達されるにつれて、カートリッジ1020内で軸方向に前進させる。これに関連して、第二のセンサー部品1060が第一のセンサー部品1070に押し付けられ、これにより、接触点1062とセンサー表面1071との間の接触圧力が増加し、それによって、信号出力を発生させる電気接触が強化される。しかしながら、これはまた、フレキシブルなアーム1061を、ピストンロッド1015の軸方向の進行に対して撓ませ、それによって、弾性エネルギーが内部に貯蔵される。
【0045】
用量排出の過程で、フレキシブルなアーム1061は、そのように撓んだままであるが、ピストンロッド1015が最終的に停止し、用量排出システム全体が弛緩すると、フレキシブルなアーム1061に貯蔵された弾性エネルギーが解放され、第二のセンサー部品1060から離れる方向に軸方向に付勢されるセンサー表面1071に伝達される。
【0046】
第一のセンサー部品1070の追加の軸方向の移動は、ピストン1022の追加の軸方向の移動を引き起こし、これは次に、わずかな追加の用量を排出させる。特に、この追加の用量は、ピストンロッド1015が移動を停止した後に排出され、結果として、全用量が受容されたことを確実にするために、ユーザが、注射針を皮膚から取り外す前に、少し長く待つことを必要とすることになる。さらに、接触圧力の増加が接触点1062とセンサー表面1071との間の接触の偶発的な喪失のリスクを低減させるということは有利であるが、これは、第一のセンサー部品1070と第二のセンサー部品1060との間の回転インターフェースの摩擦が増加するというコストを伴い、これは、角度変位が第一のセンサー部品1070に導入され、それによって、用量検出原理の精度に影響を与えるというリスクを増加させる。
【0047】
図2は、本発明の例示的な実施形態による、統合型センサーモジュール50を有する注射装置1の長手方向斜視断面図である。注射装置1は、基準軸に沿って延在し、用量排出機構を収容する細長いハウジング2を有する、予め充填されたオートペン式注射器タイプのものである。カートリッジ壁21によって画定される内部チャンバー25を有するカートリッジ20と、遠位貫通可能隔壁23と、近位ピストン22とを保持するカートリッジホルダー3は、ハウジング2に恒久的に固定されている。チャンバー25は、液体物質(視認不可)で少なくとも実質的に充填される。注射装置1の描写される状態では、注射針45が隔壁23を貫通してチャンバー25への流体連通を確立するような様式で、針アセンブリ40が、カートリッジホルダー3の針取り付け部分に付着されている。
【0048】
カートリッジ20から射出される用量を選択的に設定するために、ユーザ操作可能な用量ダイヤル4がハウジング2の近位端部分に配設されている。用量ダイヤル4は、窓9を通して、選択された用量を表示するスケールドラム8と動作可能に連結される。注射ボタン5は、巻回可能なねじりばね10を解放するように軸方向に押下可能である。ねじりばね10の解放は、ハウジング2内のナット部材7を通して、ピストンロッド15を螺旋状に前進させ、それによって、用量排出行為の実行をもたらすことになる。
【0049】
用量設定および用量排出機構の詳細については、本発明に無関係であり、したがって、本文脈には提供されない。かかる機構がどのように構築され得るかの例については、WO2015/071354、特に、p.10、l.21~p.15、l.13を参照されたい。重要なことは、用量排出中のピストンロッド15の回転移動が、ピストンロッドのねじ山およびナット部材7のデザインによりピストン22の促進された移動と相関し、その結果、ハウジング2に対するピストンロッド15の所定の角度変位が、カートリッジ壁21に対するピストン22の所定の軸方向の変位に対応することである。この関係は、原則として、カートリッジ20の寸法を視野に入れて、製造業者によって随意で選ばれ得る。本実施例では、ピストンロッドの15°の角度変位は、ピストン22の特定の軸方向の変位に対応し、これは、注射針45を通じた、1 IUの含有物質の排出をもたらす。
【0050】
図3は、本センサーモジュール50の個々の要素を強調表示した分解組立図である。センサーモジュール50は、プロセッサを含む様々な電子構成要素52.5を運ぶ近位表面52.1および複数の導電センサー領域(視認不可)を運ぶ遠位表面52.2を有する剛直な支持シート52.4を含むPCBアセンブリ52の形態の第一のセンサー部品を備え、その構成については、以下で説明される。支持シート52.4は、全体的に円形の周辺部を有するが、いくつかのノッチを備え、ノッチのうちのいくつかは、一対の正反対の半径方向の突出部52.3をもたらす。さらに、支持シート52.4は、中央貫通孔52.6を有する。
【0051】
第一のセンサー部品は、ピストンロッドコネクタ54に固定して取り付けられるワイパ53の形態の第二のセンサー部品によって補完され、それとのジョイント回転を確実にする。
図2に示されるように、ピストンロッドコネクタ54は、貫通孔52.6を通って軸方向に延在し、ピストンロッド15の遠位端部分のくぼみとのプレス嵌合係合のために適合されている。これにより、ピストンロッド15およびピストンロッドコネクタ54のジョイント移動が提供される。以下でより詳細に説明されるように、ワイパ53は、それぞれのフレキシブルなアーム53.5の上に配設され、支持シート52.4の遠位表面52.2上にある導電センサー領域とガルバニ式に接続するように適合された、一つの接地接触部53.1および二つのコード接触部53.2を備える。特に、接地接触部53.1およびコード接触部53.2はすべて、近位に向けられている。
【0052】
回転エンコーダシステムを形成する二つのセンサー部品は、電池55の形態の電源も収容するモジュールハウジング51内に収容され、リテーナ56は、正電池コネクタおよび剛直な(負)電池コネクタ57としても機能する。リテーナ56は、電池55を運ぶための横方向支持表面56.1と、二つの軸方向に延在する対向するリテーナアーム56.2と、を有する。各リテーナアーム56.2は、半径方向の突出部52.3のうちの一つを受容するように形状決めされた近位切り欠き56.3を備え、それによって、リテーナ56およびPCBアセンブリ52を回転方向に相互係止し、支持シート52.4を軸方向に拘束する。モジュールハウジング51は、リテーナ56およびモジュールハウジング51を回転方向に相互係止するか、または少なくとも実質的に回転方向に相互係止するように、リテーナアーム56.2を受容するように形状決めされた一対の正反対の側面開口部51.2と、カートリッジ壁21の内部表面との相互作用のために、円周に沿って隔置された複数の回転防止タブ51.1と、を有する。したがって、PCBアセンブリ52は、モジュールハウジング51に対して少なくとも実質的に回転方向に係止され、これは次に、カートリッジホルダー3内に回転方向に固定されるカートリッジ20内に回転方向に摩擦嵌合される。それによって、PCBアセンブリ52は、ハウジング2に対して少なくとも実質的に回転方向に固定され、したがって、ピストンロッド15の角度変位を測定するための基準構成要素として好適である。
【0053】
図4は、組み立てられた状態のセンサーモジュール50の長手方向斜視断面図である。見られ得るように、ピストンロッドコネクタ54は、支持シート52.4の貫通孔52.6を通って延在し、ワイパ53上のスリーブ53.6にプレス嵌合される。モジュールハウジング51は、ピストン22に寄り掛かる足部51.3を有する(
図2を参照のこと)。さらに、図は、側面開口部51.2内のリテーナアーム56.2の位置、および切り欠き56.3内の半径方向の突出部52.3の配設を示す。注射装置1による用量排出行為の間、ピストンロッド15の回転は、ピストンロッドコネクタ54、およびさらにワイパ53に伝達される。したがって、接地接触部53.1およびコード接触部53.2は、半径方向の突出部52.3と切り欠き56.3との間の係合、側面開口部51.2へのリテーナアーム56.2の嵌合、足部51.3とピストン22との間の摩擦インターフェース、ならびに回転防止タブ51.1とカートリッジ壁21との間の摩擦インターフェースにより、少なくとも実質的に回転方向に静止したままの遠位表面52.2のセンサー領域を掃引する。
【0054】
図5は、接地接触部53.1およびコード接触部53.2と、支持シート52.4の遠位表面52.2との間の接続を示す二つのセンサー部品の側面図であり、
図6は、二つのセンサー部品の遠位斜視図である。本発明の示される例示的な実施形態では、遠位表面52.2上にある前述の複数の導電センサー領域は、単一の円形接地トラック52.7が接地接触部53.1の接地接続を提供し、36個の個々のコードフィールド52.8が一緒になって、コード接触部53.2が掃引するように適合されているコードトラック52.9を構築するように配設されている。(負)電池コネクタ57と接触するピストンロッドコネクタ54の球状端部54.1を通して、二次接地接続が提供される。二次接地接続は、用量排出機構のダイナミクスがセンサーモジュール50で振動を発生させる場合に信号出力を安定化させることに関連し得る。
【0055】
用量排出行為の間、ピストンロッドコネクタ54がピストンロッド15と共同で回転するので、45°だけ円周方向に分離された二つのコード接触部53.2は、コードトラック52.9をそれぞれ掃引し、異なるコードフィールド52.8が接地に接続されると、ワイパ53の角度位置を表す信号を発生させる。二つのセンサー部品は、4ビットのグレイコード、すなわち、ワイパ53の360°の回転に対して9回繰り返される8つの異なるコードが出力され、72個の区別されるコードが与えられる。したがって、この出力は、プロセッサを含む電子構成要素52.5のうちの一つ以上による、用量排出行為中のピストンロッド15の合計角度変位の推定のための基礎を形成し、かつそれによって、排出される用量の推定のための基礎を形成する。
【0056】
本明細書に記載されるようなガルバニ式センサーについては、各物理接触部に対する接触圧力が、安定した信号を確実にするために十分に高いことが重要である。この必要条件は、本センサーモジュール50のデザインによって満たされ、フレキシブルなアーム53.5とスリーブ53.6との組み合わせ、および切り欠き56.3内の半径方向の突出部52.3の制限された軸方向のあそびにより、支持シート52.4に対するピストンロッドコネクタ54上へのワイパ53の配設が可能となり、これにより、接地接触部53.1と接地トラック52.7との間、ならびにそれぞれのコード接触部53.2とコードトラック52.9との間にばね強化型の接触が提供される。しかしながら、重要なことには、ワイパ53が支持シート52.4の遠位方向に位置付けられ、それにより、フレキシブルなアーム53.5が、遠位方向に撓み、それによって、それぞれの接地接触部53.1およびコード接触部53.2が、近位方向に向けられた力を支持シート52.4に提供するという事実は、用量排出行為中に、ピストンロッドコネクタ54が軸方向に向けられた力を電池コネクタ57に加えることが、ワイパ53が支持シート52.4に押し付けられていない、すなわち、用量排出システムのその後の弛緩中に解放される必要がある追加の弾性エネルギーがフレキシブルなアーム53.5に貯蔵されていない場合に、フレキシブルなアーム53.5のさらなる撓みをもたらさず、ひいては、延長された用量排出の問題が解決されるため、有利である。
【0057】
さらに、ピストンロッドコネクタ54の前進の結果として、ワイパ53が支持シート52.4に押し付けられないため、それぞれの接地接触部53.1/接地トラック52.7およびコード接触部53.2/コードトラック52.9の接触圧力は、用量送達中に増加しない。したがって、二つのセンサー部品間の回転インターフェースの摩擦も増加しない。これは、ワイパ53によって支持シート52.4に加えられるトルクが増加しないことを意味する。回転防止タブ51.1とカートリッジ壁21との間の相互作用によって提供される回転防止機構に対する支持シート52.4の角度変位のリスクが、結果として、例えば、ピストンロッドの前進中にフレキシブルなアームがさらなる撓みを呈する、
図1に示されるような解決策と比較して、低減される。
【0058】
図7は、本発明の別の実施形態による、センサーモジュールで使用される代替的な回転エンコーダシステムの二つのセンサー部品の遠位斜視図である。センサー部品は、前の実施形態に関連して開示されるものと類似した様式で、ピストンロッドコネクタ54によって相互の位置に保持される、ワイパ153およびPCBアセンブリ152を備える。PCBアセンブリ152の幾何学的構成ならびにセンサーモジュールの他の構成要素との相互作用は、前述のPCBアセンブリ52のものと同一である。特に、PCBアセンブリ152は、剛直な支持シート152.4を備え、剛直な支持シート152.4は、プロセッサを含む様々な電子構成要素152.5を運ぶ近位表面152.1および遠位表面152.2を有し、遠位表面152.2の上には、並んで配設され、それによって、円形のコードトラックを提供する、複数の導電コードフィールド152.8が配置される。しかしながら、先の実施形態とは反対に、遠位表面152.2には、専用の接地トラックは含まれない。代わりに、接地接続は、上に記載されるものと同様、(負)電池コネクタ57と接触するピストンロッドコネクタ54の球状端部54.1を介して供給される。
【0059】
ワイパ153は、ピストンロッド15およびワイパ153のジョイント回転を確実にするために、ピストンロッドコネクタ54にプレス嵌合されるスリーブ153.6と、軸方向に撓むことができるフレキシブルなアーム153.5の端部分に各々配設された二つのコード接触部153.2と、を備える。コード接触部153.2は、45°だけ角度方向に分離され、遠位表面152.2に対して回転したときに、それぞれ、前の実施形態と同様に、コードフィールド152.8を掃引し、4ビットのグレイコードを生成する。二つのワイパ接触部のみが遠位表面152.2を掃引するという事実により、三つの掃引接触部と比較して、二つのセンサー部品間の内部摩擦の低減、ひいては、トルクの低減が提供される。したがって、回転防止タブ51.1とカートリッジ壁21との間の相互作用によって提供される回転防止機構に対するPCBアセンブリ152の角度変位のリスクがなおもさらに低減される一方、PCBアセンブリ152と電池55との間のフレキシブルなアーム153.5からの力の有利な封じ込めが依然として得られ、延長された用量排出の問題が排除される。
【0060】
図8は、本発明の第三の実施形態による、センサーモジュールで使用される別の代替的な回転エンコーダシステムの二つのセンサー部品の遠位斜視図である。前の実施形態と同様、センサー部品は、ピストンロッドコネクタ54によって相互の位置に保持される、ワイパ253およびPCBアセンブリ252を備える。PCBアセンブリ252の幾何学的構成ならびにセンサーモジュールの他の構成要素との相互作用は、前述のPCBアセンブリ52のものと同一である。特に、PCBアセンブリ252は、剛直な支持シート252.4を備え、剛直な支持シート252.4は、プロセッサを含む様々な電子構成要素252.5を運ぶ近位表面252.1および遠位表面252.2を有し、遠位表面252.2の上には、複数の導電センサー領域が配置される。
【0061】
しかしながら、先の実施形態とは反対に、遠位表面252.2は、センサー領域が一つおきに接地フィールド252.7を構築し、センサー領域が一つおきにコードフィールド252.8を構築する、円形トラックパターンで配設された40個の導電センサー領域を運ぶ。本発明の第一の態様に関連して上に記載されるように、(負)電池コネクタ57と接触するピストンロッドコネクタ54の球状端部54.1を介して、二次接地接続が供給される。
【0062】
ワイパ253は、ピストンロッドコネクタ54に取り付けられ、ピストンロッド15が用量排出行為の間に回転するにつれて、40個の導電センサー領域を掃引するように適合されている(上述)。ワイパ253は、各々が接触点253.2で終端する三つのフレキシブルなアーム253.5を有し、PCBアセンブリ252に対するワイパ253の角度位置に応じて、接地フィールド252.7またはコードフィールド252.8とガルバニ式に接続するように適合されている。三つの接触点253.2は、互いに120°分離しており、そのため、一つの接触点253.2は常に接地フィールド252.7に接続され、二つの接触点253.2は常にコードフィールド253.8に接続される。二つのセンサー部品は、4ビットのグレイコードを出力し、本発明の先の二つの実施形態よりも高い解像度を提供し、PCBアセンブリ252とワイパ253との間の相対的角度変位の合計、およびそれによって、用量排出事象中のハウジング2に対するピストンロッド15の合計角度変位のさらにより正確な推定を可能にする。
【0063】
図9は、本発明の第四の実施形態による、センサーモジュールで使用されるさらに別の代替的な回転エンコーダシステムの二つのセンサー部品の遠位斜視図である。前の実施形態のように、センサー部品は、ピストンロッドコネクタ54によって相互の位置に保持される、ワイパ353およびPCBアセンブリ352を備える。PCBアセンブリ352の幾何学的構成ならびにセンサーモジュールの他の構成要素との相互作用は、前述のPCBアセンブリ52のものに対応する。特に、PCBアセンブリ352は、剛直な支持シート352.4を備え、剛直な支持シート352.4は、プロセッサを含む様々な電子構成要素(視認不可)を運ぶ近位表面352.1および遠位表面352.2を有し、遠位表面352.2の上には、複数の導電センサー領域が配置される。複数の導電センサー領域は、円形接地トラック352.7と、並んで配設された72個の個々のコードフィールド352.8から形成される円形コードトラック352.9と、を備える。
【0064】
ワイパ353は、ピストンロッド15とのジョイント回転を確実にするために、ピストンロッドコネクタ54にプレス嵌合され、コード接触部353.2と、正反対の接地接触部353.1と、を備え、各接触部は、軸方向に撓むことができるフレキシブルなアーム353.5の端部分に各々配設されている。用量排出行為の間、ワイパ353がPCBアセンブリ352に対して回転すると、コード接触部353.2はコードフィールド352.8の少なくともサブセットを掃引し、接地接触部353.1は接地トラック352.7の少なくともサブセットを掃引することになる。これは、ハウジング2に対するピストンロッド15の特定の角度変位と相関され、ひいては、排出用量のサイズを推定するために使用され得る、いくつかの信号シフトを生成する。
【0065】
この場合もまた、二つのワイパ接触部のみが遠位表面352.2を掃引するという事実により、三つの掃引接触部と比較して、二つのセンサー部品間の内部摩擦の低減、ひいては、トルクの低減が提供される。したがって、回転防止タブ51.1とカートリッジ壁21との間の相互作用によって提供される回転防止機構に対するPCBアセンブリ352の角度変位のリスクがなおもさらに低減される一方、PCBアセンブリ352と電池55との間のフレキシブルなアーム353.5からの力の有利な封じ込めが依然として得られ、延長された用量排出の問題が排除される。
【0066】
上記の一連のエンコーダの変形例では、接地トラック352.7、および接地接触部353.1を運ぶフレキシブルなアーム353.5が省略される場合があり、接地接続が、(負)電池コネクタ57に接触するピストンロッドコネクタ54の球状端部54.1によってのみ提供され得る。これにより、一つのワイパ接触部のみが遠位表面352.2を掃引するため、内部摩擦がなおもさらに低減されることになる。この代替的なワイパの構造的な安定性を促進するために、アームを導入して、コード接触部353.2を運ぶフレキシブルなアーム353.5と平衡させることが考慮され得る。
【国際調査報告】