(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-15
(54)【発明の名称】間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤、およびその作製および使用方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20221208BHJP
A61K 35/50 20150101ALI20221208BHJP
A61K 35/545 20150101ALI20221208BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20221208BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20221208BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20221208BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20221208BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20221208BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20221208BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20221208BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20221208BHJP
C12N 1/04 20060101ALI20221208BHJP
A01N 1/02 20060101ALI20221208BHJP
C12N 5/0775 20100101ALN20221208BHJP
【FI】
A61K35/28
A61K35/50
A61K35/545
A61K9/10
A61K47/02
A61K47/20
A61K47/18
A61K47/26
A61K47/36
A61P17/02
A61P17/00
C12N1/04
A01N1/02
C12N5/0775 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022521084
(86)(22)【出願日】2020-10-08
(85)【翻訳文提出日】2022-05-25
(86)【国際出願番号】 SG2020050572
(87)【国際公開番号】W WO2021071430
(87)【国際公開日】2021-04-15
(32)【優先日】2019-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519096688
【氏名又は名称】セルリサーチ コーポレイション プライベート リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】308032460
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ コロラド,ア ボディー コーポレイト
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF COLORADO,a body corporate
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ファン トアン タン
(72)【発明者】
【氏名】フリード ブライアン エム.
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C087
4H011
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC14
4B065BB03
4B065BB15
4B065BB16
4B065BB18
4B065CA44
4C076AA16
4C076BB31
4C076CC19
4C076DD23
4C076DD26
4C076DD57
4C076DD67
4C076DD69
4C076EE38
4C076EE41
4C076FF12
4C076FF14
4C076FF61
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB44
4C087BB58
4C087BB59
4C087BB64
4C087MA05
4C087MA21
4C087MA63
4C087NA10
4C087NA14
4C087ZA89
4H011BB19
4H011CA01
4H011CB08
4H011CD02
4H011DH11
(57)【要約】
本開示は、間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤、該製剤の調製および使用方法に関する。本開示はまた、該貯蔵または輸送製剤中で貯蔵または輸送された間葉系幹細胞を局所投与することによって、創傷などの疾患を有する対象を処置する方法を含む。間葉系幹細胞の単位投与量にも関係する。好ましい態様において、製剤は、HypoThermosol(登録商標)、ヒト血清アルブミン、およびPlasmalyteを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤を調製する方法であって、
該製剤は約50万個~約1000万個の間葉系幹細胞を含み、
a) 約0.5%~約5% (w/v) の血清アルブミンを含む、予め規定された体積の晶質液中に、間葉系幹細胞を懸濁し、それによって、第1の細胞懸濁液を得る段階、
b) 第1の細胞懸濁液中の間葉系幹細胞の濃度を決定し、かつ、約50万個~約1000万個の間葉系幹細胞を含む製剤を調製するのに必要な第1の細胞懸濁液の体積を決定する段階、
c) 決定された該体積の第1の細胞懸濁液を、
約0.5%~約5% (w/v) の血清アルブミンならびに以下:
i) トロロックス、
ii) Na
+、
iii) K
+、
iv) Ca
2+、
v) Mg
2+、
vi) Cl
-、
vii) H
2PO
4
-、
viii) HEPES、
ix) ラクトビオナート、
x) スクロース、
xi) マンニトール、
xii) グルコース、
xiii) デキストラン-40、
xiv) アデノシン、および
xv) グルタチオン
を含む、ある体積の液体担体
と混合し、それによって、約50万個~約1000万個の間葉系幹細胞を含む前記間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤を得る段階
を含む、方法。
【請求項2】
間葉系幹細胞を懸濁するために使用される晶質液の予め規定された体積が、約1 ml~約10 mlである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第1の細胞懸濁液の前記決定された体積を、液体担体の前記体積と混合した後、間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤の総体積が約1 mlである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
製剤が約50万個~約1000万個の生存間葉系幹細胞を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
製剤が約100万個、約300万個、または約500万個の間葉系幹細胞を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
予め規定された体積の晶質液中に間葉系幹細胞を再懸濁する前に、該間葉系幹細胞が細胞培養容器から回収されている、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
晶質液と液体担体の両方が、同じ濃度の血清アルブミンを含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
晶質液と液体担体の両方が、約0.5%~約5% (w/v) の血清アルブミンを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
晶質液と液体担体の両方が、約1%~約5% (w/v) の血清アルブミンを含む、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
晶質液と液体担体の両方が、約1%~約3% (w/v) の血清アルブミンを含む、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
晶質液と液体担体の両方が、約1% (w/v) の血清アルブミンを含む、請求項7~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
血清アルブミンがヒト血清アルブミンである、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
晶質液がナトリウム、カリウム、マグネシウム、および塩化物を含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
晶質液がPlasmaLyteまたは乳酸リンゲル液である、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤が、20%以下のPlasmaLyteを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
間葉系幹細胞が、臍帯の間葉系幹細胞、胎盤の間葉系幹細胞、臍帯-胎盤接合部の間葉系幹細胞、臍帯血の間葉系幹細胞、骨髄の間葉系幹細胞、および脂肪組織由来の間葉系幹細胞からなる群より選択される間葉系幹細胞である、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
臍帯の間葉系幹細胞が、羊膜の間葉系幹細胞、血管周囲の間葉系幹細胞、ワルトン膠様質の間葉系幹細胞、臍帯の羊膜の間葉系幹細胞からなる群より選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
臍帯の羊膜の間葉系幹細胞が、間葉系幹細胞集団であり、該間葉系幹細胞集団の少なくとも約90%またはそれ以上の細胞が、以下のマーカー:CD73、CD90、およびCD105のそれぞれを発現する、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
間葉系幹細胞集団の少なくとも約90%またはそれ以上の細胞が、以下のマーカー:CD34、CD45、およびHLA-DRの発現を欠いている、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
間葉系幹細胞集団の少なくとも約91%またはそれ以上、約92%またはそれ以上、約93%またはそれ以上、約94%またはそれ以上、約95%またはそれ以上、約96%またはそれ以上、約97%またはそれ以上、約98%またはそれ以上、約99%またはそれ以上の細胞が、CD73、CD90、およびCD105のそれぞれを発現し、かつCD34、CD45、およびHLA-DR(ヒト白血球抗原-抗原D関連)のそれぞれの発現を欠いている、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
請求項1~20のいずれか一項において規定される方法によって得られた、間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤。
【請求項22】
請求項1~20のいずれか一項において規定される方法によって取得可能な、間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤。
【請求項22】
間葉系幹細胞を輸送する方法であって、
請求項21または22において規定される間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤中で、該間葉系幹細胞を輸送する段階
を含む、方法。
【請求項23】
輸送が約7日間またはそれ未満にわたって行われる、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
輸送が約-5℃~約15℃の温度で行われる、請求項22~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
疾患を有する対象を処置するための薬学的組成物の製造のための、請求項21または22において規定される間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤の使用であって、
請求項21または22において規定される間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤中で貯蔵または輸送された間葉系幹細胞を、局所投与する段階
を含む、使用。
【請求項26】
間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤から間葉系幹細胞を分離した後に、該間葉系幹細胞が対象に投与される、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤からの間葉系幹細胞の分離が、遠心分離を含む、請求項26に記載の使用。
【請求項28】
間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤からの間葉系幹細胞の分離が、シリンジによってバイアルから細胞集団を取り出すことを含む、請求項26および27に記載の方法。
【請求項29】
間葉系幹細胞が、約300万個、約500万個、または約1000万個の細胞の投与量で適用される、請求項25~28のいずれか一項に記載の使用。
【請求項30】
間葉系幹細胞集団が、該間葉系幹細胞集団が回収された時点から約72時間以内に、約48時間以内に、約24時間以内に、約12時間以内に、約6時間以内に、またはそれ未満で適用される、請求項25~29のいずれか一項に記載の使用。
【請求項31】
疾患が皮膚疾患または創傷である、請求項25~30のいずれか一項に記載の使用。
【請求項32】
創傷が、熱傷、咬傷、外傷、手術、または疾患に起因する、請求項31に記載の使用。
【請求項33】
創傷が糖尿病に起因し、創傷が好ましくは糖尿病性創傷である、請求項32に記載の使用。
【請求項34】
創傷が糖尿病性足部潰瘍である、請求項33に記載の使用。
【請求項35】
約1000万個の細胞、約500万個の細胞、約400万個の細胞、約300万個の細胞、約200万個の細胞、約100万個の細胞、約50万個の細胞、約25万個の細胞、または25万個未満の細胞の投与量が、週に1回または2回投与される、請求項25~34のいずれか一項に記載の使用。
【請求項36】
約1000万個の細胞、約500万個の細胞、約400万個の細胞、約300万個の細胞、約200万個の細胞、約100万個の細胞、約50万個の細胞、約25万個の細胞、または25万個未満の細胞の投与量が、3週間、4週間、もしくは5週間、もしくは6週間、もしくは7週間、もしくは8週間、もしくは10週間、またはそれ以上の週の期間にわたって、週に1回または2回投与される、請求項35に記載の使用。
【請求項37】
請求項1~20のいずれか一項において規定される方法によって得られた、間葉系幹細胞の単位投与量。
【請求項38】
請求項1~20のいずれか一項において規定される方法によって取得可能な、間葉系幹細胞の単位投与量。
【請求項39】
1 mlの体積中に約50万個~約1000万個の間葉系幹細胞を含む、請求項37または38に記載の単位投与量。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年10月8日に出願された米国仮特許出願第62/912,368号の優先権の恩典を主張し、その内容はすべての目的のために全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
配列リスト
本出願は、参照により本明細書に組み入れられるコンピューター可読形式の配列リストを含有する。
【0003】
発明の分野
本発明は、間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤、間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤を調製する方法、および間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤を使用する方法に関する。このような方法には、間葉系幹細胞をこの貯蔵または輸送製剤中で輸送する方法、および、この貯蔵または輸送製剤中で貯蔵または輸送された間葉系幹細胞を局所投与する段階を含む、疾患を有する対象を処置する方法が含まれる。間葉系幹細胞の単位投与量にも関係する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
臍帯の羊膜から単離された間葉系幹細胞およびその創傷治癒特性は、最初に米国特許出願2006/0078993(特許文献1)(登録された米国特許第9,085,755号(特許文献2)、米国特許第9,737,568号(特許文献3)、および米国特許第9,844,571号(特許文献4)につながる)ならびに対応する国際特許出願WO2006/019357(特許文献5)において報告された。それ以来、臍帯組織は、複能性細胞の供給源として注目を集めている;臍帯、および具体的には臍帯の羊膜から単離された幹細胞(「臍帯ライニング (cord lining) 幹細胞」とも称される)は、広く入手可能であるため、再生医療用の細胞の優れた代替供給源と見なされている。Jeschke et al. Umbilical Cord Lining Membrane and Wharton's Jelly-Derived Mesenchymal Stem Cells: the Similarities and Differences; The Open Tissue Engineering and Regenerative Medicine Journal, 2011, 4, 21-27(非特許文献1)を参照されたい。一方、臍帯の羊膜からのそのような間葉系幹細胞の集団は、米国特許出願2018/127721(特許文献6)または対応する国際特許出願WO2018/067071(特許文献7)に記載されている。
【0005】
米国特許出願2018/127721(特許文献6)または対応する国際特許出願WO2018/067071(特許文献7)に記載されている間葉系幹細胞集団は、この集団の幹細胞の99%以上が、3つのMSCマーカーCD73、CD90、およびCD105を発現しながら、CD34、CD45、およびHLA-DRの発現を欠いているという利点を有している。したがって、このような極めて均一でありかつ明確に規定された細胞集団は、例えば、Dominici et al,「Minimal criteria for defining multipotent mesenchymal stromal cells. The International Society for Cellular Therapy position statement」, Cytotherapy (2006) Vol. 8, No. 4, 315-317(非特許文献2)、Sensebe et al,.「Production of mesenchymal stromal/stem cells according to good manufacturing practices: a, review」, Stem Cell Research & Therapy 2013, 4:66(非特許文献3)、Vonk et al., Stem Cell Research & Therapy (2015) 6:94(非特許文献4)、またはKundrotas Acta Medica Lituanica. 2012. Vol. 19. No. 2. P. 75-79(非特許文献5)によって規定されるような、細胞療法に使用されるべきヒトMSCに関して一般に許容される基準を十分に満たすという理由で、臨床試験および細胞ベースの療法の理想的な候補である。国際特許出願WO2018/067071(特許文献7)に記載されているように、この間葉系幹細胞集団は、例えば、熱傷の処置などの創傷治癒目的のために未分化状態で使用することができる。
【0006】
しかしながら、上記の間葉系幹細胞などの幹細胞は、典型的にはそれらが生成された場所で患者に適用/投与されるわけではない。多くの場合、細胞の回収とそれらのさらなる利用との間には、かなりの時間が経過している。したがって、細胞の輸送または貯蔵のために典型的に使用される期間にわたって細胞を生存可能かつ健常に維持する貯蔵または輸送製剤を提供する必要性がある。
【0007】
よって、この必要性を満たす、間葉系幹細胞の貯蔵および/また輸送に適した製剤を提供することが、本発明の目的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願2006/0078993
【特許文献2】米国特許第9,085,755号
【特許文献3】米国特許第9,737,568号
【特許文献4】米国特許第9,844,571号
【特許文献5】WO2006/019357
【特許文献6】米国特許出願2018/127721
【特許文献7】WO2018/067071
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Jeschke et al. Umbilical Cord Lining Membrane and Wharton's Jelly-Derived Mesenchymal Stem Cells: the Similarities and Differences; The Open Tissue Engineering and Regenerative Medicine Journal, 2011, 4, 21-27
【非特許文献2】Dominici et al,「Minimal criteria for defining multipotent mesenchymal stromal cells. The International Society for Cellular Therapy position statement」, Cytotherapy (2006) Vol. 8, No. 4, 315-317
【非特許文献3】Sensebe et al,.「Production of mesenchymal stromal/stem cells according to good manufacturing practices: a, review」, Stem Cell Research & Therapy 2013, 4:66
【非特許文献4】Vonk et al., Stem Cell Research & Therapy (2015) 6:94
【非特許文献5】Kundrotas Acta Medica Lituanica. 2012. Vol. 19. No. 2. P. 75-79
【発明の概要】
【0010】
この目的は、独立請求項の特徴を有する方法、間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤、および単位投与量によって達成される。
【0011】
第1局面において、本発明は、間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤を調製する方法であって、
該製剤は約50万個~約1000万個の間葉系幹細胞を含み、
a) 約0.5%または約1%~約5% (w/v) の血清アルブミンを含む、予め規定された体積の晶質液中に、間葉系幹細胞を懸濁し、それによって、第1の細胞懸濁液を得る段階、
b) 第1の細胞懸濁液中の間葉系幹細胞の濃度を決定し、かつ、約50万個~約1000万個の間葉系幹細胞を含む製剤を調製するのに必要な第1の細胞懸濁液の体積を決定する段階、
c) 決定された該体積の第1の細胞懸濁液を、
約0.5%または約1%~約5% (w/v) の血清アルブミンならびに以下:
i) トロロックス、
ii) Na+、
iii) K+、
iv) Ca2+、
v) Mg2+、
vi) Cl-、
vii) H2PO4
-、
viii) HEPES、
ix) ラクトビオナート、
x) スクロース、
xi) マンニトール、
xii) グルコース、
xiii) デキストラン-40、
xiv) アデノシン、および
xv) グルタチオン
を含む、ある体積の液体担体
と混合し、それによって、約50万個~約1000万個の間葉系幹細胞を含む前記間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤を得る段階
を含む、方法を提供する。
【0012】
第2局面において、本発明は、本明細書において規定される方法によって得られた、間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤を提供する。
【0013】
第3局面において、本発明は、本明細書において規定される方法によって取得可能な、間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤を提供する。
【0014】
第4局面において、本発明は、間葉系幹細胞を輸送する方法であって、本明細書において規定される間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤中で該間葉系幹細胞を輸送する段階を含む方法を提供する。
【0015】
第5局面において、本発明は、疾患を有する対象を処置する方法であって、本明細書において規定される間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤中で貯蔵または輸送された間葉系幹細胞を局所投与する段階を含む方法を提供する。
【0016】
第6局面において、本発明は、本明細書において規定される方法によって取得可能な、間葉系幹細胞の単位投与量を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本発明は、非限定的な実施例および図面と併せて考慮した場合に、詳細な説明を参照してより良く理解されるであろう。
【0018】
【
図1-1】
図1は、実験の項において本発明の培地 (PTT-6) の実例を作製するために使用したDMEMのカタログ番号を含む、ダルベッコ改変イーグル培地に関するLonzaの技術情報シートを示す。
【
図2】ハムF12培地に関するLonzaの技術情報シートを示す。
【
図3】実験の項において本発明の培地 (PTT-6) の実例を作製するために使用したDMEM:F12 (1:1) 培地のカタログ番号を含む、DMEM:F12 (1:1) 培地に関するLonzaの技術情報シートを示す。
【
図4-1】
図4は、実験の項において本発明の培地 (PTT-6) の実例を作製するために使用したM171培地のカタログ番号を含む、M171培地に関するLife Technologies Corporationの技術情報シートを示す。
【
図5】培地PTT-6を作製するために実験の項において使用した成分のリストを、それらの商業的供給業者およびカタログ番号を含めて示す。培地PTT-6をGMP製造において使用すべき場合、米国FDAの生物製剤の製造ガイドラインに準拠すべく、培地PTT-6は抗生物質試薬を含有しない。
【
図6A】
図6は、臍帯から単離された間葉系幹細胞を、間葉系幹細胞マーカーCD73、CD90、およびCD105の発現について解析した、フローサイトメトリー実験の結果を示す。これらの実験のために、3種の異なる培養液中で臍帯組織を培養することにより、間葉系幹細胞を臍帯組織から単離し、続いて各培地中で間葉系幹細胞を継代培養した。これらの実験において、以下の3種の培養液を使用した:a) 10 % FBS (v/v) を補充した90% (v/v/ DMEM、b) 90% (v/v) CMRL1066および10% (v/v) FBSからなる、米国特許出願2006/0078993および対応する国際特許出願WO2006/019357に記載されている培養液PTT-4(WO2006/019357のパラグラフ [0183] を参照されたい)、ならびにc) 本明細書においてその組成が記載される、本発明の培養液PTT-6。このフローサイトメトリー解析において、臍帯ライニング間葉系幹細胞 (CLMC) 集団の2つの異なる試料を、使用した3種の培養液の各々について解析した。結果を
図6a~6cに示す。より詳細には、
図6aは、DMEM/10% FBS中で臍帯組織から単離し培養した後の、幹細胞マーカーCD73、CD90、およびCD105を発現する、単離された間葉系臍帯ライニング幹細胞の割合を示し、
図6bは、PTT-4中で臍帯組織から単離し培養した後の、幹細胞マーカーCD73、CD90、およびCD105を発現する、単離された間葉系臍帯ライニング幹細胞の割合を示し、ならびに
図6cは、PTT-6中で臍帯組織から単離し培養した後の、幹細胞マーカーCD73、CD90、およびCD105を発現する、単離された間葉系臍帯ライニング幹細胞の割合を示す。
【
図7A】
図7は、臍帯から単離された間葉系幹細胞を、細胞療法に対する複能性ヒト間葉系幹細胞の適合性を規定するために使用される幹細胞マーカーCD73、CD90、およびCD105、CD34、CD45、およびHLA-DR(ヒト白血球抗原-抗原D関連)のそれらの発現について解析し、骨髄間葉系幹細胞によるこれらのマーカーの発現と比較した、フローサイトメトリー実験の結果を示す。この実験のために、本発明の培養液PTT-6中で臍帯組織を培養することにより、臍帯の羊膜の間葉系幹細胞を臍帯組織から単離する一方で、標準的なプロトコールを用いて、ヒト骨髄から骨髄間葉系幹細胞を単離した。
図7aは、PTT-6培地中で臍帯組織から単離し培養した後の、幹細胞マーカーCD73、CD90、およびCD105を発現し、かつCD34、CD45、およびHLA-DRの発現を欠いている、単離された間葉系臍帯ライニング幹細胞の割合を示し、
図7bは、CD73、CD90、およびCD105を発現し、かつCD34、CD45、およびHLA-DRの発現を欠いている、単離された骨髄間葉系幹細胞の割合を示す。
【
図8】異なる担体の比較のための実験設定を示す。最初に、本明細書に記載される間葉系幹細胞集団を細胞培養フラスコ中で増殖させた。生存間葉系幹細胞の量を計数し、次いで細胞200万個/バイアルを、PlasmaLyte-A中またはHypoThermosol(商標)-FRS中のいずれかで様々な期間貯蔵した。貯蔵後、1~5日目に毎日、≦50μlの試料で細胞を計数し(液体取り出し総量250μl)、細胞をトリパンブルーで染色することにより生存率を調べた。さらに、1日目、3日目、および5日目に、≦80μlの試料を採取し解析した。1日、3日、および5日の貯蔵後、各時点の10万個のMSCをPTT-6培地で48時間培養し、PDGF-AA、PDGF-BB、VEGF、IL-10、Ang-1、HGF、およびTGFβ1のサイトカインアッセイために得た上清を、FLEXMAP 3Dシステムで測定した。
【
図9】生存率データを要約する。左側のグラフからわかるように、HypoThermosol(商標)中での貯蔵の7日後に、貯蔵を開始した際の全細胞数(約95%)の73%がなお生存可能であった。それに反して、PlasmaLyte-A中での7日間の貯蔵後には、貯蔵を開始した際の全細胞数(約94%)の42%のみがなお生存可能であった。計数はすべて、互いに10%以内である2つ組の読み取り値に基づいた(SOP CR D2.600.1に従う)。計数中、HypoThermosol(商標)中で貯蔵された細胞は、滑らかでかつ明確な輪郭を有して、著しくより小さかった。対照的に、Plasmalyte-A中の細胞は様々なサイズで出現した。HypoThermosol(商標)は、6日間の期間にわたって、膜の完全性およびおそらくは生存を著しく支持する。同様の結果はまた、右側のグラフにおいても示される。
【
図10】細胞の細胞直径を測定した際に得られた結果を示す。HypoThermosol(商標)中で維持された場合の本明細書に記載される間葉系幹細胞集団は、PlasmaLyteA中で維持された細胞と比較して、直径範囲がより狭い。比較は3日間の貯蔵後に行った。
【
図11】HypoThermosol(商標)またはPlasmaLyte-A中で貯蔵された本明細書に記載される間葉系幹細胞集団からの、貯蔵の48時間後の上清中のTGFβ1濃度を示す。右側のグラフからわかるように、細胞は、HypoThermosol(商標)中で貯蔵された場合に、PlasmaLyte-A中で貯蔵された場合とほぼ同量のTGFβ1を分泌する。一般的に、時間経過と共に、分泌されるTGFβ1の量は減少した(右側のグラフ)。
【
図12】対照実験を示す。ここでは、PDGF-BB濃度を、HypoThermosol(商標)またはPlasmaLyte-A中で貯蔵された本明細書に記載される間葉系幹細胞集団からの、48時間の上清中で測定した。PDGF-BBは、本明細書に記載される間葉系幹細胞集団によって通常分泌されないため、PDGF-BBはいずれの試料においても検出可能ではなかった。
【
図13】対照実験を示す。ここでは、IL-10濃度を、HypoThermosol(商標)またはPlasmaLyte-A中で貯蔵された本明細書に記載される間葉系幹細胞集団からの、48時間の上清中で測定した。IL-10は、本明細書に記載される間葉系幹細胞集団によって通常分泌されないため、IL-10はいずれの試料においても検出可能ではなかった。
【
図14】HypoThermosol(商標)またはPlasmaLyte-A中で貯蔵された本明細書に記載される間葉系幹細胞集団からの、48時間の上清中のVEGF濃度を示す。右側のグラフからわかるように、細胞は、0日目に、HypoThermosol(商標)またはPlasmaLyte-A中で貯蔵された場合にほぼ同量のVEGFを分泌する。1日目および5日目には、細胞は、PlasmaLyte-A中で貯蔵された場合に、より多くのVEGFを分泌した。注目すべきことには、3日間貯蔵された場合、細胞は、PlasmaLyte-A中で貯蔵された場合よりもHypoThermosol(商標)中で貯蔵された場合に、より多くのVEGFを分泌した。したがって、貯蔵の3日目まで、HypoThermosol(商標)はPlasmaLyte-Aよりも優れている。より多くのVEGFが検出されればされるほど、培養物はより健常である。したがって、PlamsaLyte-A中で貯蔵された場合よりもHypoThermosol(商標)中での3日間の貯蔵後に、より多くのVEGFを分泌することによって、細胞はPlamsaLyte-A中よりもHypoThermosol(商標)中でより健常であった。5日目からは、PlasmaLyte中での貯蔵がより有利になると考えられるが、それは、その時点で、PlasmaLyte-A中で貯蔵された細胞がより多くのVEGFを分泌したからである。一般的に、時間経過と共に、分泌されるVEGFの量は減少した(右側のグラフ)。
【
図15】HypoThermosol(商標)またはPlasmaLyte-A中で貯蔵された本明細書に記載される間葉系幹細胞集団からの、48時間の上清中のPDGF-AA濃度を示す。右側のグラフからわかるように、細胞は、0日目に、HypoThermosol(商標)中で貯蔵された場合に、PlasmaLyte-A中で貯蔵された場合とほぼ同量のPDGF-AAを分泌する。1日目および5日目には、細胞は、PlasmaLyte-A中で貯蔵された場合に、より多くのPDGF-AAを分泌した。注目すべきことには、3日間貯蔵された場合、細胞は、PlasmaLyte-A中で貯蔵された場合よりもHypoThermosol(商標)中で貯蔵された場合に、より多くのPDGF-AAを分泌した。したがって、貯蔵の3日後、HypoThermosol(商標)中で貯蔵された細胞は、PlasmaLyte-A中で貯蔵された細胞よりもより健常である。5日間の貯蔵以降は、PlasmaLyteがより有利な担体になると考えられるが、それは、その時点で、PlasmaLyte-A中で貯蔵された細胞がより多くのPDGF-AAを分泌したからである。一般的に、時間経過と共に、分泌されるPDGF-AAの量は減少した(右側のグラフ)。
【
図16】HypoThermosol(商標)またはPlasmaLyte-A中で貯蔵された本明細書に記載される間葉系幹細胞集団からの、48時間の上清中のAng-1濃度を示す。右側のグラフからわかるように、細胞は、0日目および3日目に、HypoThermosol(商標)またはPlasmaLyte-A中で貯蔵された場合にほぼ同量のAng-1を分泌する。5日目に、細胞は、PlasmaLyte-A中で貯蔵された場合に、より多くのAng-1を分泌した。注目すべきことには、1日貯蔵された場合、細胞は、PlasmaLyte-A中で貯蔵された場合よりもHypoThermosol(商標)中で貯蔵された場合に、はるかにより多くのAng-1を分泌した。したがって、HypoThermosol(商標)中で貯蔵された細胞は、PlasmaLyte-A中で貯蔵された場合よりも、3日間の貯蔵までは少なくとも48時間にわたって、より健常であると考えられる。5日目からは、PlasmaLyteがより有利な担体になると考えられるが、それは、この時点で、PlasmaLyte-A中で貯蔵された細胞がより多くのAng-1を分泌したからである。一般的に、時間経過と共に、分泌されるAng-1の量は減少した(右側のグラフ)。
【
図17】HypoThermosol(商標)またはPlasmaLyte-A中で貯蔵された本明細書に記載される間葉系幹細胞集団からの、貯蔵の48時間後の上清中のHGF濃度を示す。右側のグラフからわかるように、細胞は、0日目に、HypoThermosol(商標)中で貯蔵された場合に、PlasmaLyte-A中で貯蔵された場合と比較して、ほぼ同量のHGFを分泌する。3日目および5日目には、細胞は、PlasmaLyte-A中で貯蔵された場合に、より多くのHGFを分泌した。注目すべきことには、1日貯蔵された場合、細胞は、PlasmaLyte-A中で貯蔵された場合よりもHypoThermosol(商標)中で貯蔵された場合に、はるかにより多くのHGFを分泌した。したがって、HypoThermosol(商標)中で貯蔵された細胞は、PlasmaLyte-A中で貯蔵された細胞よりも、3日間の貯蔵までは少なくとも1日(48時間)の間、より健常であると考えられる。3日以降は、PlasmaLyte-Aがより有利な担体になると考えられるが、それは、3日および5日の時点で、PlasmaLyte-A中で貯蔵された細胞がより多くのHGFを分泌したからである。一般的に、時間経過と共に、分泌されるHGFの量は減少した(右側のグラフ)。
【
図18-1】
図18は、本発明の間葉系幹細胞集団をブタに用いた前臨床試験から得られた写真である。ブタを120 mg/kgストレプトゾトシンを用いて糖尿病にし、45日間回復させてから、それらの背中に5 cm×5 cmの全層創傷を6個作製した。ブタ (n = 2) を、1 cm
2当たり10
5個の本明細書に記載されるヒト間葉系幹細胞集団で、週に2回、4週間にわたって処置した。2匹の対照ブタはPBSで処置した。術後0日目(PO 0日目)、および術後35日目まで7日ごとに、創傷を撮影した。創傷を、ImageJによって表面積サイズについて解析した。35日目までに、本明細書に記載される間葉系幹細胞集団の添加により、PBS処置された対照創傷の12個中3個のみ (25%) と比較して、12個中10個の糖尿病性創傷 (83%) が閉鎖した。創傷治癒の速度は、対照動物における0.6 cm
2/日と比較して、本明細書に記載される間葉系幹細胞集団を用いて0.8 cm
2/日であり、33%の改善であった。
【
図19-1】
図19は、Tocrisから入手可能なトロロックスのデータシートである。
【
図20-1】
図20は、Sigma Aldrichから入手可能なNaClのデータシートを示す。
【
図21】Sigma Aldrichから入手可能なKH
2PO
4のデータシートを示す。
【
図22-1】
図22は、Sigma AldrichからのHEPESのデータシートを示す。
【
図23-1】
図23は、COMBI-BLOCKSからのラクトビオン酸ナトリウムの製品シートを示す。
【
図24-1】
図24は、Sigma Aldrichからのスクロースの製品シートを示す。
【
図25-1】
図25は、avantorからのマンニトールの製品シートを示す。
【
図26】Sigma Aldrichからのグルコースの製品シートを示す。
【
図27-1】
図27は、Sigma Aldrichからのデキストラン-40の製品シートを示す。
【
図28】Sigma Aldrichからのアデノシンの製品シートを示す。
【
図29】Sigma Aldrichからのグルタチオンの製品シートを示す。
【
図30】STEMCELL TechnologiesからのHypoThermosol(商標)-FRS (HTS-FRS) の製品シートを示す。
【
図31-1】
図31は、Sigma AldrichからのCaClの製品シートを示す。
【
図32】Sigma AldrichからのMgClの製品シートを示す。
【
図33-1】
図33は、本発明の製剤 (Plasmalyte/HSA/HypoThermosol) 中に播種された、本明細書に記載される臍帯ライニング間葉系幹細胞集団において最長3日間にわたって行われた安定性試験の結果を示す。
図33aは、本発明の製剤中で貯蔵した後のMSC生存率試験の結果を示す。創傷に適用する前の製品の輸送および貯蔵を模倣するために、MSCを2~8℃で1~3日間貯蔵した。結果から、細胞は、これらの条件下で3日間まで生存率の著しい低下を示さなかったことが示される。
図33bは、本発明の製剤中、2~8℃で貯蔵した後のMSCの形態を示す。MSCを、Aseptic Technologies (AT)-Closed Vialから取り出し、37℃で24時間培養した後に撮影した。見られ得るように、低温貯蔵において2日までに得られた細胞は、組織培養プレートに接着し、典型的な紡錘形構造を形成することができた。2~8℃で2.5日間貯蔵した後、細胞は次第に球状形状を示し、死滅しかけている細胞であることが示唆された。
図33cは、本発明の製剤中で貯蔵した後のMSCの増殖および代謝を示す。
図33aで解析した同じ培養物からのMSCを、37℃での培養において48時間にわたり、代謝および成長の指標としてラクタート産生についてアッセイした。ラクタートはグルコース代謝の産物であり、本発明者らは、これがMSCの細胞成長の速度に正比例することを検証済みである。2~8℃で24時間貯蔵した細胞は、0時間貯蔵した細胞と代謝および成長が同等であり、36時間貯蔵した細胞は、対照ラクタート産生の86%を示した。2~8℃で72時間までは、その後培養した場合に、細胞は46%程度の代謝しか示さなかった。
図33dは、本発明の製剤中で0、1、1.5、2、2.5、または3日間貯蔵し、次いで培養24時間後および48時間後に測定した、MSCによるラクタート産生を示す。本発明の製剤中で24時間貯蔵したMSCによる24時間および48時間時のラクタート産生(1日目)は、貯蔵していないMSC(0日目)と同じであったことが理解され得る。3日目までに、ラクタート産生は40~45%低下していた。
図33eは、37℃で24時間の時点で、
図33cで解析した同じ培養物から測定されたサイトカイン産生を示す。代謝データと合致して、細胞を本発明の製剤中、2~8℃で24時間貯蔵した場合、MSCがアンジオポエチン1 (Ang-1)、トランスフォーミング増殖因子ベータ (TGF-β)、血管内皮増殖因子 (VEGF)、および肝細胞増殖因子 (HGF) を産生する能力は、対照(0日目)の10~20%以内であった。
図33fは、24時間後に別の培養物から測定されたサイトカイン産生を示す。結果から、細胞を本発明の製剤中、2~8℃で24時間貯蔵した場合、MSCがVEGF、アンジオポエチン-1、TGF-β、およびHGFを産生する能力は維持されたが、>2日間貯蔵した場合、およそ50%減少したことが示される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明の詳細な説明
上記で説明したように、第1局面において、本発明は、間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤を調製する方法であって、
該製剤は約50万個~約1000万個の間葉系幹細胞を含み、
a) 約0.5~約5% (w/v) の血清アルブミンを含む、予め規定された体積の晶質液中に、間葉系幹細胞を懸濁し、それによって、第1の細胞懸濁液を得る段階、
b) 第1の細胞懸濁液中の間葉系幹細胞の濃度を決定し、かつ、約50万個~約1000万個の間葉系幹細胞を含む製剤を調製するのに必要な第1の細胞懸濁液の体積を決定する段階、
c) 決定された該体積の第1の細胞懸濁液を、
約0.5~約5% (w/v) の血清アルブミンならびに以下:
i) トロロックス、
ii) Na+、
iii) K+、
iv) Ca2+、
v) Mg2+、
vi) Cl-、
vii) H2PO4
-、
viii) HEPES、
ix) ラクトビオナート、
x) スクロース、
xi) マンニトール、
xii) グルコース、
xiii) デキストラン-40、
xiv) アデノシン、および
xv) グルタチオン
を含む、ある体積の液体担体
と混合し、それによって、約50万個~約1000万個の間葉系幹細胞を含む前記間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤を得る段階
を含む、方法を対象とする。
【0020】
本明細書に記載される間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤を使用することで、貯蔵/輸送中のMSCの増殖および代謝が安定化し、最大72時間までMSCの生存率が向上することが、本出願において驚くべきことに判明した。例えば、間葉系幹細胞を本発明の間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤中で3日間貯蔵した後、細胞の約90%がなお生存可能であった(
図33aを参照)。反対に、PlasmaLyte(登録商標)中で3日間貯蔵した後では、細胞の約66%のみがなお生存可能であった(血球計算盤で測定した場合の実施例、および
図9を参照されたい)。このように、本明細書に記載される間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤を使用することで、細胞の生存能を実質的に失うことなく、幹細胞をある期間にわたって輸送/貯蔵することが可能になる。特に、実験の項において詳細に記載されているように、幹細胞は一般に、PlasmaLyte-A中で貯蔵した後よりも多くの因子を分泌したため、3日間またはそれ未満のより短い期間にわたる、本発明の間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤中での貯蔵は、特に有益であると考えられる。さらに、本明細書に記載される間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤を使用することで、貯蔵/輸送容器からMSCの95%超を回収することが可能になり、それによって細胞の所望の投与量を患者に投与できることが確実になることが、驚くべきことに判明した。
【0021】
本明細書で用いられる場合、「輸送」または「輸送する」という用語は、任意の輸送を意味する。そのような輸送は、自動車、電車、および飛行機などの任意の乗り物を用いて、または液体担体と接触させた幹細胞を含む容器をある場所から別の場所へ運搬/輸送する人によって行われ得る。1つの態様において、輸送は、関心対象の間葉系幹細胞(または、両用語は本明細書において互換的に用いられるため、間葉系幹細胞集団)が生成された場所から幹細胞を投与する場所へ(例えば、関心対象の幹細胞または幹細胞集団が生成されたGMP施設から、該幹細胞または該幹細胞集団を投与する場所、例えばクリニックまたは診療所へ)と実施される。しかしながら、「輸送する」という用語は、同じ場所でのある期間にわたる細胞の貯蔵に関することもまた想定される。例えば、幹細胞は、回収後、ある場所で対象に適用されるまで貯蔵してもよい。幹細胞を貯蔵または輸送することができる容器は、本発明の方法に適した任意の容器であってよい。
【0022】
間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤の調製は、予め規定された体積の晶質液中にMSCを再懸濁する段階を含む。本発明では、MSCを十分に再懸濁するのに適した晶質液の任意の体積を、予め規定された体積として使用することができる。例えば、予め規定された体積は、約0.5 ml~約15 mlの範囲内であってよい。一例では、予め規定された体積は、約1 ml~約10 mlの範囲内であってよい。例示的な例において、晶質液の予め規定された体積は、約1 ml、約2 ml、約3 ml、約4 ml、または約5 mlであってよい。予め規定された体積の晶質液中にMSCを再懸濁することにより、第1の細胞懸濁液が作製される。再懸濁は、通常、間葉系幹細胞/間葉系幹細胞集団を、薬学的に投与するために培養した後に回収した後に行う。
【0023】
第1の細胞懸濁液中のMSCの濃度を決定し、かつ、約50万個~約1000万個の間葉系幹細胞を含む製剤を調製するのに必要な第1の細胞懸濁液の体積を決定した後、第1の細胞懸濁液を、ある体積の液体担体と混合する。液体担体と混合される第1の細胞懸濁液の体積は、約0.5 ml~約10 mlであってよい。例示的な例において、第1の細胞懸濁液の決定された体積と液体担体の体積、すなわち間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤の総体積は約1 mlである。好ましくは1 ml、2 ml等などの予め規定された体積中に50万個~約1000万個の間葉系幹細胞を含有する単位投与量を調製するために、50万個~約1000万個の間葉系幹細胞の量が選択される。本発明において、予め規定された体積の晶質液は、約10万個~約1500万個の生存MSCを含む。一例では、予め規定された体積の晶質液は、約50万個~約1000万個のMSCを含む。例示的な例において、間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤は、約100万個のMSC、約200万個のMSC、約300万個のMSC、約400万個のMSC、約500万個のMSC、または約600万個のMSCを含む。本明細書で用いられる場合、間葉系幹細胞の数に関する「約」という用語は、数値が特定の割合で変動し得ることを意味し得る。例えば、「約」は、±1%~約±15%の数値的な変動/偏差を意味し得る。したがって、「約」は、±1%、±2%、±3%、±4%、±5%、±6%、±7%、±8%、±9%、または±10%もまた意味し得る。特に、間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤が、該製剤のその後の貯蔵および/または創傷治癒クリニックもしくは診療所などの投与場所への輸送のために手動で調製される場合(これは今もなお、そのような生細胞ベースの製剤を調製するための通常のアプローチである)、そのような変動が生じることは当業者にとって明白である。
【0024】
本発明において、MSCは、晶質液中に再懸濁する前に、MSC含有組織の培養物から、または単離されたMSCもしくはMSC集団の培養物から直接回収された可能性がある。いずれの方法であっても、MSCの培養は、細胞培養容器内で行われた可能性がある。その結果、本発明において用いられるMSCは、予め規定された体積の晶質液中にMSCを再懸濁する前に、細胞培養容器から回収された可能性がある。
【0025】
本発明の晶質液および液体担体には、いずれも血清アルブミンが補充される。理論によって縛られることは望まないが、血清アルブミンは、間葉系幹細胞/間葉系幹細胞集団の生存率を改善し、投与場所への幹細胞の輸送のために幹細胞が貯蔵されている容器からのその回収もまた改善し得ると考えられる。血清アルブミンの濃度は、晶質液中と液体担体中で同じであってもよいし、または異なっていてもよい。好ましくは、血清アルブミンの濃度は、晶質液中と液体担体中の両方で同じである。これに関連して、例えばMSCの生存率を改善するのに適した、血清アルブミンの任意の濃度を使用することができる。例えば、晶質液および液体担体はそれぞれ、約0.5% (w/v)、約0.6% (w/v)、約0.7% (w/v)、約0.8 (w/v)、約0.9% (w/v)、または約1.0% (w/v) から約5% (w/v) の血清アルブミンを含み得る。1つのそのような例において、晶質液および液体担体は、約1% (w/v)~約3% (w/v) の血清アルブミンを含み得る。例示的な例において、晶質液および液体担体はそれぞれ、約1% (w/v) の血清アルブミンを含む。任意の薬学的に適切な血清アルブミン、例えばウシまたはヒト血清アルブミンを、本明細書において使用することができる。例示的な例において、晶質液および液体担体はいずれもヒト血清アルブミン (HSA) を含み得る。本明細書で用いられる血清アルブミンは、理想的には、薬学的に許容される品質で得られる。そのような医薬品等級の血清アルブミンの例は、Grifols Therapeutics LLC、Clayton, North Carolina, USA.からPlasbumin(登録商標)という商品名で市販されているヒト血清アルブミンの25%溶液 (w/v) である。
【0026】
晶質液は、MSCの成長および/または増殖を支持するのに適した1つまたは複数の構成成分もまた含み得る。そのような構成成分は、ナトリウム、カリウム、鉄、マグネシウム、亜鉛、セレン、塩化物、またはそれらの組み合わせなどの鉱物であってよい。一例では、晶質液は、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、および塩化物を含む。晶質液は、MSCの成長および/または増殖を支持するのに適したさらなる構成成分を含む市販の溶液であってよい。一例において、晶質液はPlasmaLyteまたは乳酸リンゲル液であってよい。本発明の製剤において、晶質液の総量は特定の割合に制限され得る。例えば、間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤は、約50%以下、約40%以下、約30%以下、約20%以下、約10%以下、または約5%以下の晶質液を含み得る。例示的な例において、間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤は、約30%以下または約20%以下または約10%以下のPlasmaLyteを含み得る。
【0027】
輸送/貯蔵は任意の期間にわたって行うことができる。例えば、輸送/貯蔵は、約7日間またはそれ未満にわたって行うことができる。輸送/貯蔵が約6日間、5日間、4日間、3日間、2日間、1日間、またはそれ未満にわたって行われ得ることもまた想定される。したがって、輸送/貯蔵が約48時間もしくは約24時間またはそれ未満にわたって行われることが可能である。
【0028】
輸送/貯蔵が、本発明の方法に適した任意の温度で行われることもまた企図される。例えば、輸送/貯蔵は約-5℃~約15℃の温度で行うことができる。したがって、輸送/貯蔵が約2℃~約8℃の温度で行われ得ることもまた想定される。輸送は、約-5℃を超える、約-10℃を超える、約-15℃を超える、または約-20℃を超える温度で実施することもできる。さらに、輸送/貯蔵が、20℃未満、18℃未満、15℃未満、12℃未満、または10℃未満の温度で行われることが想定される。
【0029】
本発明の方法はまた、幹細胞集団(または間葉系幹細胞)が任意の適切な濃度で貯蔵されるまたは輸送されることを想定する。上述のように、「間葉系幹細胞」と「間葉系幹細胞集団」という用語は、本明細書において互換的に使用され得る。本明細書において「間葉系幹細胞」への言及がなされる場合、これらの幹細胞が同一の間葉系幹細胞集団に属することもまた可能である。例えば、間葉系幹細胞はすべて、その細胞の約97%もしくはそれ以上、約98%もしくはそれ以上、または約99%もしくはそれ以上がCD73、CD90、およびCD105を発現しながら、CD34、CD45、およびHLA-DRの発現を欠いている間葉系幹細胞集団に属し得る。MSC、PlasmaLyte、HSA、およびHyothermosolを含む溶液に関連して「担体」または「液体担体」という用語が使用され得る場合、本発明の間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤もまた意味し得ることが、本明細書において留意される。したがって、溶液がMSC、PlasmaLyte、HSA、およびHyothermosolを含む場合、「担体」または「液体担体」と「幹細胞貯蔵または輸送製剤」という用語もまた、互換的に使用され得る。本明細書で用いられる幹細胞集団は、例えば、担体1 ml当たり約7000万個の細胞、担体1 ml当たり約6000万個の細胞、担体1 ml当たり約5000万個の細胞、担体1 ml当たり約4000万個の細胞、担体1 ml当たり約3000万個の細胞、担体1 ml当たり約2000万個の細胞、担体1 ml当たり約1000万個の細胞、担体1 ml当たり約500万個の細胞、担体1 ml当たり約400万個の細胞、担体1 ml当たり約300万個の細胞、担体1 ml当たり約200万個の細胞、担体1 ml当たり約100万個の細胞、担体1 ml当たり約50万個の細胞、担体1 ml当たり約10万個の細胞、または担体1 ml当たり10万個未満の細胞の濃度で輸送/貯蔵することができる。したがって、幹細胞集団は、担体1 ml当たり約1000万個の細胞から担体1 ml当たり約100万個の細胞の濃度で輸送/貯蔵することができる。
【0030】
本発明の方法は、幹細胞の輸送/貯蔵に関係する。原則として、任意の幹細胞を本発明の方法において使用することができる。幹細胞の1つの特徴的な特性は、自己複製するその能力である。「自己複製」とは、未分化状態を維持しながら細胞分裂の多数の細胞周期を経る能力である。細胞が自己複製する能力を有するかどうかを試験するための方法は、当業者に公知である。例えば、自己複製は、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30回、またはそれ以上の継代数を超えて細胞を継代培養することによって試験することができる。継代培養は、単一細胞懸濁液として再プレーティングする前に細胞を分割する段階を含む。幹細胞のさらなる特徴は、本明細書の他所にも記載されるように、その複能性または多能性である。原則として、複能性または多能性は、該幹細胞を異なる系列に分化させることによって試験することができる。
【0031】
特に、本発明の方法において使用される幹細胞集団は、胚性幹細胞集団、成体幹細胞集団、間葉系幹細胞集団、または誘導多能性幹細胞集団であってよい。
【0032】
本明細書で用いられる場合、「胚性幹細胞集団」は「多能性幹細胞集団」である。本明細書で言及される場合の多能性細胞は、自己複製の能力および異なる細胞型に分化する可能性を有する細胞型に関する。多能性幹細胞は、ほぼすべての細胞、すなわち、外胚葉、内胚葉、および中胚葉の3つの一次胚葉のいずれかに由来する細胞に分化することができる。多能性幹細胞という用語はまた、胚盤胞として公知である初期胚の内部細胞塊に由来する幹細胞も包含する。注目すべきことに、胚性幹細胞研究の最近の進歩は、例えば、胚の発生能を妨げない割球生検ベースの技法を使用することによって、胚を破壊せずに新たな胚性幹細胞株を作出する可能性をもたらした (Klimanskaya (2006) 「Embryonic stem cells from blastomeres maintaining embryo viability.」 Semin Reprod Med. 2013 Jan;31(1):49-55)。さらに、多数の樹立された胚性幹細胞株が当技術分野で利用可能である。したがって、胚の破壊を必要とせずに胚性幹細胞を扱うことが可能である。多能性幹細胞は、ヒト胚の破壊によって取得されたものではない胚性幹細胞であってよい。したがって、多能性幹細胞は、胚を破壊せずに胚から取得された胚性幹細胞である。
【0033】
本明細書で用いられる場合、「成体幹細胞集団」は複能性幹細胞集団である。複能性幹細胞集団は、限定された数の細胞型を生じさせることができ、したがってそれらは体細胞の運命が限定されている。例えば、神経幹細胞は、神経細胞およびグリア細胞の両方を生じさせることができる。成体幹細胞は自己複製する能力を有し、任意の適切な供給源から取得され得る。例えば、成体幹細胞は、骨髄、末梢血、脳、脊髄、歯髄、血管、骨格筋、皮膚および消化器系の上皮、角膜、網膜、肝臓、または膵臓から取得され得る。
【0034】
本発明の方法において使用される幹細胞集団はまた、間葉系幹細胞集団であり得る。これに関連して、本明細書において記載される培養液(例えばPTT-6)によって、間葉系幹/前駆細胞を分化させることなく間葉系幹/前駆細胞の細胞増殖を可能にする条件下で、羊膜から間葉系幹細胞集団(本明細書において「間葉系幹細胞」とも称される)を単離することが可能になることが留意される。したがって、本明細書に記載されるように羊膜から間葉系幹細胞を単離した後、単離された間葉系幹/前駆細胞集団は、例えば米国特許出願2006/0078993、米国特許第9,085,755号、国際特許出願WO2006/019357、米国特許第8,287,854号、またはWO2007/046775に記載されるように、複数の細胞型に分化する能力を有する。例えば米国特許出願2006/0078993に記載されるように、臍帯の羊膜の間葉系幹細胞は、紡錘形を有し、遺伝子POU5f1、Bmi-1、白血病抑制因子 (LIF) を発現し、かつアクチビンAおよびフォリスタチンを分泌する。本発明において単離された間葉系幹細胞は、これらに限定されないが、脂肪細胞、皮膚線維芽細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、腱細胞、靱帯維芽細胞、心筋細胞、平滑筋細胞、骨格筋細胞、ムチン産生細胞、インスリン産生細胞(例えば、β島細胞)などの内分泌腺由来の細胞、または神経外胚葉細胞などの、間葉系細胞のいかなる型にも分化させることができる。本明細書において記載される方法に従って単離された幹細胞は、後に医療目的で分化細胞を使用するために、インビトロで分化させることができる。そのようなアプローチの実例は、間葉系幹細胞のインスリン産生β島細胞への分化であり、この細胞は次いで、糖尿病などのインスリン欠乏に罹患している患者に、例えば移植によって投与することができる(この点において、WO2007/046775もまた参照されたい)。あるいは、本明細書において記載される間葉系幹細胞は、例えば、熱傷または慢性糖尿病創傷の処置などの創傷治癒の目的で、細胞ベースの療法のために未分化状態で使用することができる。これらの治療適用において、本発明の間葉系幹細胞は、周囲の罹患組織と相互作用することによって創傷治癒を促進するのに役立ち得るか、またはそれぞれの皮膚細胞にも分化し得る(例えば、再度WO2007/046775を参照されたい)。
【0035】
これに関連して、MSCは、MSCを含有することが公知である任意の哺乳動物の組織または区画/身体部位に由来し得ることが留意される。例示的な例において、MSCは、臍帯のMSC、胎盤のMSC、臍帯-胎盤接合部のMSC、臍帯血のMSC、骨髄のMSC、または脂肪組織由来のMSCであってよい。臍帯のMSCは、MSCを含有する臍帯組織の任意の区画からのものであってよく(に由来してよく)、例えば、羊膜、血管周囲のMSC、ワルトン膠様質のMSC、臍帯の羊膜のMSCのみならず、これらの区画の2つまたはそれ以上の幹細胞を含むMSCを意味する臍帯の混合MSCであってよい。本明細書において記載される間葉系幹細胞集団は、臍帯組織が羊膜(「臍帯ライニング」とも称される)を含有する限りにおいて、任意の臍帯組織から単離し培養することができる(すなわち、任意の臍帯組織に由来する)ことが留意される。よって、間葉系幹細胞集団は、本出願の実験の項に記載されているように、臍帯全体(からの小片)から単離することができる。したがってこの臍帯組織は、羊膜に加えて、臍帯の任意の他の組織/構成成分を含有してもよい。例えば、米国特許出願2006/0078993または国際特許出願WO2006/019357の
図16に示されるように、臍帯の羊膜は、臍帯を覆っている、臍帯の最も外側の部分である。加えて、臍帯は、1本の静脈(酸素化し栄養分に富んだ血液を胎児に運ぶ)および2本の動脈(脱酸素化され栄養分が枯渇した血液を胎児から運び出す)を含有する。保護および機械的支持のために、これら3本の血管は、主にムコ多糖のゼラチン状物質であるワルトン膠様質内に包埋されている。よって、本明細書において用いられる臍帯組織はまた、この1本の静脈、2本の動脈、およびワルトン膠様質を含み得る。臍帯のそのような全体(無傷)部分の使用は、羊膜を臍帯の他の構成成分から分離する必要がないという利点を有する。これによって、単離段階が減少し、ひいては本明細書において記載される方法が、より簡便になり、より迅速になり、間違いが起こりにくくなり、かつより経済的になる‐これらはすべて、間葉系幹細胞の治療適用に必要なGMP生産の重要な局面である。したがって間葉系幹細胞の単離は、組織外植片から開始することができ、その後、より多くの量の間葉系幹細胞が例えば臨床試験において使用するために所望される場合には、単離された間葉系幹細胞を続いて継代培養(培養)することができる。あるいは、最初に臍帯の他の構成成分から羊膜を分離し、培養液、例えばPTT-6中で羊膜を培養することによって、羊膜から間葉系臍帯ライニング幹細胞を単離することもまた可能である。この培養はまた、組織外植片で行うこともでき、任意にその後、単離された間葉系幹細胞の継代培養が行われる。これに関連して、「組織外植片」または「組織外植片法」という用語は、当技術分野におけるその通常の意味で用いられて、ひとたび回収された組織またはその組織片が、培養液(増殖培地)を含む細胞培養ディッシュ中に配置され、時間と共に幹細胞が組織からディッシュの表面上に遊走する方法を指す。次いでこれらの初代幹細胞を、本明細書においても記載されるように、マイクロプロパゲーション (micropropagation)(継代培養)により、さらに増大させ、新たなディッシュに移すことができる。これに関連して、治療目的のための細胞の生成の観点において、臍帯から羊膜間葉系幹細胞を単離する第1段階において、単離された間葉系幹細胞のマスター細胞バンクが得られ、その後の継代培養においてワーキング細胞バンクが得られ得ることが留意される。特定の態様において、幹細胞集団はしたがって間葉系幹細胞集団である。間葉系幹細胞集団は、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)、F12(ハムF12培地)、M171(培地171)、およびFBS(ウシ胎仔血清)を含む培養液中で培養する段階を含む方法により、臍帯の羊膜から単離することができる。そのような培地を使用することにより、臍帯の羊膜から間葉系幹細胞集団が単離され、その細胞の90%超またはさらには99%もしくはそれ以上は3種の間葉系幹細胞マーカーCD73、CD90、およびCD105に関して陽性であり、それと同時にこれらの幹細胞はCD34、CD45、およびHLA-DRの発現を欠いており(実験の項を参照されたい)、このことは、この集団の99%またはさらにはそれ以上の細胞が幹細胞マーカーCD73、CD90、およびCD105を発現しながら、マーカーCD34、CD45、およびHLA-DRを発現しないことを意味する。そのような極めて均一でありかつ明確に規定された細胞集団は、2017年10月5日に出願された米国仮特許出願第62/404,582号に対する優先権を主張する2018年10月5日に出願された同時係属中の米国特許出願第15/725,913号(US2018/127721として公開)(これらの両方の内容は全体として参照により本明細書に組み入れられる)において、および同様に2017年10月5日に出願された米国仮特許出願第62/404,582号に対する優先権を主張する2018年10月5日に出願された同時係属中のPCT出願PCT/SG2017/050500(WO2018/067071として公開)において初めて報告され、この幹細胞集団が、例えば、例えばDominici et al,「Minimal criteria for defining multipotent mesenchymal stromal cells. The International Society for Cellular Therapy position statement」, Cytotherapy (2006) Vol. 8, No. 4, 315-317、Sensebe et al,.「Production of mesenchymal stromal/stem cells according to good manufacturing practices: a, review」, Stem Cell Research & Therapy 2013, 4:66、Vonk et al., Stem Cell Research & Therapy (2015) 6:94、またはKundrotas Acta Medica Lituanica. 2012. Vol. 19. No. 2. P. 75-79によって規定されるような、細胞療法に使用されるべきヒト間葉系幹細胞に関して一般に許容される基準を十分に満たすという理由で、臨床試験および細胞ベースの療法の理想的な候補である。また、Quantum細胞増殖システムなどのバイオリアクターを使用することで、1回の実行当たり3~7億個の間葉系幹細胞といった多数の間葉系幹細胞を得ることが可能である(実験の項もまた参照されたい)。したがって、本発明により、費用効率の高い様式で、創傷治癒における使用などの治療適用に必要な量の幹細胞を輸送/貯蔵することが可能になる。加えて、本発明の培養液を作製するために使用される構成成分はすべて、GMP品質で市販されている。よって、本発明は、GMP生産されかつ高度に均一な、臍帯の羊膜由来の間葉系幹細胞集団を輸送/貯蔵するためのルートを開く。
【0036】
したがって、いくつかの態様において、間葉系幹細胞集団は、臍帯の羊膜の単離された間葉系幹細胞集団である。単離された幹細胞集団の少なくとも約90%またはそれ以上の細胞が、マーカーCD73、CD90、およびCD105の各々を発現することがさらに想定される。例えば、単離された間葉系幹細胞集団の少なくとも約91%またはそれ以上、約92%またはそれ以上、約93%またはそれ以上、約94%またはそれ以上、約95%またはそれ以上、約96%またはそれ以上、約97%またはそれ以上、約98%またはそれ以上、約99%またはそれ以上の細胞が、CD73、CD90、およびCD105の各々を発現する。加えて、またはその代わりに、単離された間葉系幹細胞集団の少なくとも約90%またはそれ以上、約91%またはそれ以上、約92%またはそれ以上、約93%またはそれ以上、約94%またはそれ以上、約95%またはそれ以上、約96%またはそれ以上、約97%またはそれ以上、約98%またはそれ以上、約99%またはそれ以上が、以下のマーカーの発現を欠いている:CD34、CD45、およびHLA-DR(ヒト白血球抗原-抗原D関連)。さらなる例では、MSCの少なくとも約91%またはそれ以上、約92%またはそれ以上、約93%またはそれ以上、約94%またはそれ以上、約95%またはそれ以上、約96%またはそれ以上、約97%またはそれ以上、約98%またはそれ以上、約99%またはそれ以上の細胞が、CD73、CD90、およびCD105のそれぞれを発現しながら、MSCの少なくとも約90%またはそれ以上、約91%またはそれ以上、約92%またはそれ以上、約93%またはそれ以上、約94%またはそれ以上、約95%またはそれ以上、約96%またはそれ以上、約97%またはそれ以上、約98%またはそれ以上、約99%またはそれ以上が、CD34、CD45、およびHLA-DRの発現を欠き得る。特定の例では、MSCの約97%もしくはそれ以上、約98%もしくはそれ以上、または約99%もしくはそれ以上が、CD73、CD90、およびCD105を発現しながら、CD34、CD45、およびHLA-DRの発現を欠いている。
【0037】
マーカーCD73は当業者に公知である。これに関して、CD73は、5'-ヌクレオチダーゼ (5'-NT) またはエクト-5'-ヌクレオチダーゼとしても公知である表面抗原分類73を指す。ヒトCD73タンパク質の配列は、SEQ ID NO. 1の配列を有し得る。マーカーCD90は当業者に公知である。これに関して、CD90は、胸腺細胞分化抗原1 (Thy-1) としても公知である表面抗原分類90を指す。ヒトCD90タンパク質の配列は、SEQ ID NO: 2の配列を有し得る。マーカーCD105は当業者に公知である。CD105は、エンドグリン (ENG) としても公知である。ヒトCD105タンパク質の配列は、SEQ ID NO: 3の配列を有し得る。
【0038】
本発明の間葉系幹細胞集団(具体的には、そのうちの少なくとも約98%または99%が、マーカーCD73、CD90、およびCD105の各々を発現し、かつマーカーCD34、CD45、およびHLA-DRの各々の発現を欠いている、間葉系幹細胞の集団)が、臨床試験のためにまたは認可された治療として用いられる場合には、この目的のためにワーキング細胞バンクの細胞集団が典型的に用いられる。説明したように、間葉系幹細胞集団は、以下のマーカーの発現を欠き得る:CD34、CD45、およびHLA-DR。これに関連して、マーカーCD34、CD45、およびHLA-DRが当業者に公知であることが留意される。ヒトCD34タンパク質は、SEQ ID NO. 4の配列を有し得る。ヒトCD45タンパク質は、SEQ ID NO: 5の配列を有し得る。ヒトHLA-DRタンパク質は、SEQ ID NO: 6の配列を有し得る。
【0039】
単離段階の幹細胞集団(マスター細胞バンクを構成し得る)および継代培養段階の幹細胞集団(ワーキング細胞バンクを構成し得る)はいずれも、例えば凍結保存形態で貯蔵することができる。
【0040】
上記のように、臍帯の羊膜から間葉系幹細胞を単離する本方法は、本発明の培養液中で使用される構成成分がすべてGMP品質で入手可能であり、したがって、間葉系幹細胞がその後の治療的投与のためにGMP条件下で単離される可能性をもたらすという利点を有する。
【0041】
したがって、幹細胞集団はまた誘導多能性幹細胞集団であってもよい。「誘導多能性幹細胞」は、本明細書で用いられる場合、胚性幹細胞の決定的な特性を維持するのに重要な遺伝子および因子を強制的に発現させることによって、胚性幹細胞様の状態に遺伝的に再プログラミングされた成体体細胞を指す。したがって、誘導多能性幹細胞は、非多能性細胞から誘導/作製され得る。
【0042】
誘導多能性幹細胞は、胚を使用せずに多能性幹細胞を取得することを可能にするため、幹細胞研究の重要な進歩である。マウスiPSCは2006年に初めて報告され (Takahashi, K; Yamanaka, S (2006). 「Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors」. Cell 126 (4): 663-76)、ヒトiPSC (hiPSC) は2007年に初めて報告された (Takahashi et al. (2007) 「Induction of pluripotent stem cells from adult human fibroblasts by defined factors.」 Cell; 131(5):861-72)。マウスiPSCは、幹細胞マーカーの発現、3つの胚葉すべてに由来する細胞を含む腫瘍を形成すること、および非常に初期の発生段階のマウス胚に注入されると多くの異なる組織に寄与し得ることを含め、多能性幹細胞の重要な特徴を示す。ヒトiPSCもまた、幹細胞マーカーを発現し、3つの胚葉すべてに特徴的な細胞を生成することができる。そのような幹細胞マーカーには、Oct3/4、Sox2、Nanog、アルカリホスファターゼ (ALP)、ならびに幹細胞特異的抗原3および4 (SSEA3/4) が含まれ得る。また、iPSCのクロマチンメチル化パターンも、胚性幹細胞のものと類似している (Tanabe, Takahashi, Yamanaka (2014) 「Induction of pluripotency by defined factors.」 Proc. Jpn. Acad., 2014, Ser. B 90)。
【0043】
加えて、iPSCは、インビトロで自己複製し、3つの胚葉すべてに分化することができる。iPSCの多能性または異なる細胞型に分化する可能性は、例えば、神経細胞もしくはグリア細胞へのインビトロ分化、または胚盤胞注入による生殖系列キメラ動物の作製によって試験することができる。
【0044】
ヒト誘導多能性幹細胞の作製方法は当業者に公知であり、例えばWO2009115295、WO2009144008、またはEP2218778に記載されている。したがって、当業者は任意の方法によってiPSCを取得することができる。原則として、誘導多能性細胞は、(対象の)任意の成体体細胞から取得され得る。例示的な体細胞には、血液由来の末梢血単核細胞 (PBMC)、または皮膚組織生検から取得された線維芽細胞が含まれる。
【0045】
本発明は、とりわけ、本明細書に記載される方法によって得られたMSC貯蔵または輸送製剤、および本明細書に記載される方法によって取得可能なMSC貯蔵または輸送製剤を対象にする。さらに、本発明は、本明細書において規定される間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤中でMSCを輸送する段階を含む、MSCの輸送に関係する。これに関連して、本発明は、本明細書に記載される幹細胞集団を液体担体と接触させることを含む。本発明の方法において、本明細書に記載される幹細胞集団を、輸送/貯蔵の前に担体と接触させることが想定される。加えて、またはその代わりに、幹細胞集団は、その回収後に担体と接触させる。どのように回収が行われ得るかは、本明細書の他所におよび実験の項に詳細に記載される。例えば、幹細胞集団は、その回収の約0分後、約1分後、約5分後、約10分後、約30分後、約45分後、約60分後、またはそれより長い時間の後に、担体と接触させることができる。
【0046】
回収は、幹細胞集団を培養液から、例えばPTT-6から分離することを含み得る。そのような分離に適切な技法は、当業者に公知である。例えば、分離は、培養液中の幹細胞を遠心分離し、かつ培養液をデカントすることによって行うことができる。
【0047】
幹細胞集団は、
i) トロロックス、
ii) Na+、
iii) K+、
iv) Ca2+、
v) Mg2+、
vi) Cl-、
vii) H2PO4
-、
viii) HEPES、
ix) ラクトビオナート、
x) スクロース、
xi) マンニトール、
xii) グルコース、
xiii) デキストラン-40、
xiv) アデノシン、および
xv) グルタチオン
を含む液体担体と接触させる。
【0048】
「トロロックス」は、CAS番号53188-07-1の6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-カルボン酸を意味する。これはビタミンEの水溶性類似体であり、酸化ストレスまたは損傷を軽減することが示唆されている。
図19は、Tocrisから入手可能なトロロックスのデータシートを示す。これはまたSigma Aldrichからも市販されている(製品番号:238813)。
【0049】
Na
+およびCl
-はいずれも周知のイオンである。当業者は、これらを得る方法を知っている。例えば、これらのイオンはNaCl塩として担体に添加してもよい。GMP品質のNaClは、Sigma Aldrichから入手することができる。
図20は、Sigma Aldrichから入手可能なNaClのデータシートを示す。
【0050】
Ca
2+およびMg
2+もまた周知のイオンである。当業者は、これらを得る方法を知っている。これらのイオンは、例えば、CaCl
2またはMgCl
2塩として担体に添加してもよい。
図31は、Sigma Aldrichから入手可能なCaCl
2のデータシートを示し、
図32は、Sigma Aldrichから入手可能なMgCl
2のデータシートを示す。
【0051】
K
+およびH
2PO
4
-(リン酸二水素)もまた、当業者に周知である。これは、例えばSigma Aldrichから入手可能なKH
2PO
4として使用することができる。
図21は、Sigma Aldrichから入手可能なKH
2PO
4のデータシートを示す。
【0052】
4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-エタンスルホン酸(CAS番号7365-45-9)とも命名されているHEPESは、双性イオン性有機化学緩衝剤として一般的に使用される。当業者はまた、HEPESをどこで入手すべきかを知っており、それは市販されている。例えば、Sigma Aldrichからこれを入手することができる;
図22に示される対応するデータシート。
【0053】
ラクトビオナートは、ラクトビオン酸のカルボン酸陰イオンである。ラクトビオン酸(4-O-β-ガラクトピラノシル-D-グルコン酸)は、糖酸である。ラクトビオナートは、異なる方法で使用することができる。ラクトビオン酸カリウムとして使用される場合、それは、例えば浸透圧支持を提供し、細胞膨張を防ぐことができ、ナトリウムと組み合わせた場合には、それは保存機能を有し得る。あるいは、ラクトビオン酸のミネラル塩を、ミネラル補給のために使用することができる。薬学的適用のために、多くの場合、抗生物質エリスロマイシンはとりわけエリスロマイシンラクトビオナートとして使用することができる。当業者はまた、ラクトビオナート、例えばラクトビオン酸ナトリウム(Cas番号:27297-39-8)をどこで入手すべきかを知っており、すなわち例えばCOMBI-BLOCKSからであり、
図23の製品シートを参照されたい。
【0054】
D-Glc-(1→2)-β-D-Fru、α-D-グルコピラノシルβ-D-フラクトフラノシド、β-D-フラクトフラノシル-α-D-グルコピラノシド、D(+)-サッカロース、または糖(CAS番号57-50-1)としても公知であるスクロースは、他の物質と同じく商業的に入手することができ、当業者は同様にそれをどこで購入すべきかを知っている。Sigma Aldrichからのスクロースの対応する製品シートを
図24に示す。
【0055】
マンニトールは、糖アルコールの一種である(CAS登録番号:69-65-8)。当業者は、マンニトールを入手する方法を知っている。例えば、これはAvantorから入手することができる。それぞれの製品シートを
図25に示す。
【0056】
グルコース(CAS番号:50-99-7)もまた当業者に周知であり、市販されている。Sigma Aldrichのからのそれぞれの製品シートを
図26に示す。
【0057】
デキストランは、直鎖状α(1→6)結合グルコース単位およびα(1→3)結合開始枝から構成される分岐グルカンである。デキストランのサイズは、10,000~150,000 Kdの範囲である。デキストランは、体積増量剤、安定化剤、マトリックス構成成分、結合プラットフォーム、潤滑剤、および物理的構造構成成分などの多くの適用において使用される。本明細書に記載される担体中で使用されるデキストラン40(CAS番号:9004-54-0)は、典型的には、臓器移植用の新たな改良型保存溶液の開発において使用される。デキストラン40は、細胞の堅固性および細胞層を介する流動パラメータを決定するために使用することができる。デキストラン40はまた、コロイド血漿増量剤として使用することができる。デキストラン-40は市販されており、とりわけSigma Aldrichから入手することができる(
図27に示される製品シート)。
【0058】
アデノシン(CAS番号58-61-7)は、β-N
9-グリコシド結合を介してリボース糖分子(リボフラノース)部分に結合したアデニンの分子から構成されるプリンヌクレオシドである。アデノシンは、とりわけSigma-Aldrichから市販されている(対応する製品シートを
図28に示す)。
【0059】
グルタチオンは、(2S)-2-アミノ-4-{[(1R)-1-[(カルボキシメチル)カルバモイル]-2-スルファニルエチル]カルバモイル}ブタン酸としても公知である。この構成成分は市販されており、とりわけSigma Aldrichから入手することができる(
図29に示される対応する製品シート)。
【0060】
原則として、上記のi)~xv)に列挙される物質を含む任意の液体担体を、本発明の方法において使用することができる。担体は液体担体である。したがって、溶液/懸濁液を形成するために、i)~xv)に列挙される物質を液体中に溶解することが可能である。液体は、任意の適切な液体であってよい。例えば、液体は、培養液、水、緩衝液、または同様のものであってよい。
【0061】
担体は、さらなるpH緩衝剤、エネルギー基質、フリーラジカルスカベンジャー、および浸透圧/膠質安定化剤を付加的に含んでもよく‐これらはすべて当業者に公知である。さらに、液体担体は、無血清および/またはタンパク質不含であってよい。液体担体は、例えばDMSOなどの双極性非プロトン性溶媒を含まなくてよい。特に、液体担体は、WO2010/064054に記載される担体であってよい。担体は、HypoThermosol(商標)またはHypoThermosol(商標)-FRS (HTS-FRS) であってよい。HypoThermosol(商標)-FRS (HTS-FRS)は、STEMCELL Technologiesから購入することができる(
図30に示されるそれぞれの製品シートに従う)。
【0062】
担体が輸送/貯蔵培地または賦形剤であることが、さらに想定される。輸送/貯蔵培地は天然培地であってよく、これは、本明細書に記載されるようなi)~xv)に列挙される物質を付加的に含む、天然に存在する生体液のみからなる。培地はまた、本明細書に記載されるようなi)~xv)に列挙される物質、ならびに(さらなる)栄養素(有機および無機の両方)、ビタミン、塩類、O2およびCO2気相、血清タンパク質、炭水化物、ならびに/または補因子の添加を含むものであってよい。特定の態様において、培地は無血清および/またはタンパク質不含である。
【0063】
担体はまた賦形剤であってもよい。「賦形剤」は、医薬品の有効成分と共に製剤化される物質である。本方法において、有効成分は幹細胞集団である。
【0064】
担体は、生体適合性足場またはマイクロキャリアをさらに含み得る。足場またはマイクロキャリアは、例えば、生分解性高分子物質、最も好ましくはポリ(D,L乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA) であってよい。あるいは、足場またはマイクロキャリアは、ポリ-L-ラクチド (PLLA)、コラーゲン、フィブロネクチン、グリコサミノグリカン (GAG)、フィブリン、デンプン、セルロース アラビノガラクタン(カラマツガム)、アルギン酸、寒天、カラギーナン、キチン、ヒアルロン酸、デキストラン、ジェランガム、プルラン、ヒドロキシアパタイト、ポリヒドロキシアルカン酸 (PHA)、ヒドロゲル、またはペプチドベースのナノ構造線維性足場などの他の自己集合性材料を含む物質を含む平滑構造、マクロ多孔性構造、または微孔性構造であってよい。
【0065】
原則として、任意の量の幹細胞を任意の量の液体担体と接触させることができる。これに関して、接触は、幹細胞集団を、約7000万個/ml、約6000万個/ml、約5000万個/ml、約4000万個/ml、約3000万個/ml、約2000万個/ml、約1000万個/ml、約500万個/ml、約400万個/ml、約300万個/ml、約200万個/ml、約100万個/ml、約50万個/ml、約10万個/mlの密度で、または1 mlの担体中に10万個未満の細胞の密度で懸濁することによって行うことができる。いくつかの態様において、接触は、幹細胞集団を約1000万個/担体1 mlの密度で懸濁することによって行われる。
【0066】
幹細胞集団を、間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤と接触させた後、間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤と接触させた幹細胞は、約50 ml、約20 ml、約10 ml、約5 ml、約4 ml、約3 ml、約2 ml、約1 ml、約0.5 ml、約0.25 mlの、または0.25 ml未満の、間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤の体積で、バイアルに分取することができる。例えば、間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤と接触させた幹細胞は、約1 mlの体積でバイアルに分取することができる。
【0067】
本発明の方法が解凍または凍結段階を含まないことが、さらに想定される。このことは、回収後に、幹細胞集団を凍結および解凍する必要なく、幹細胞集団を輸送/貯蔵することを含み得る。
【0068】
本明細書に記載される幹細胞集団を輸送/貯蔵する方法において使用される担体は、この目的に特に適している。この担体の1つの利点は、その中で輸送/貯蔵された実質的にすべての幹細胞が生存可能なままであることである。「生存細胞」とは、生存することができる細胞である。当業者は、生存細胞を検出する方法を知っている。1つのそのような方法は、色素トリパンブルーで細胞を染色することである。生存細胞はトリパンブルーでは陽性に染色されない。
【0069】
これに関して、本発明の方法では、輸送/貯蔵前の生存幹細胞の数/量と比較して、集団の幹細胞の多くても約50%、約40%、約30%、約20%、約10%、または約10%未満が輸送/貯蔵中に死滅する可能性がある。
【0070】
本発明の方法はまた、幹細胞集団が、輸送/貯蔵後に任意の細胞直径を有することを企図する。当業者は、細胞の直径を測定する方法を知っている。例えば、細胞のサイズ/直径は、顕微鏡画像を撮影し、二次ソフトウェアを使用して細胞の直径を測定することによって決定することができる。幹細胞集団中の幹細胞の大部分は、したがって輸送/貯蔵後に約9μm~約20μmの細胞直径を有し得る。幹細胞集団中の幹細胞の大部分が、輸送後に約12μm~約16μmの細胞直径を有することもまた想定される。
【0071】
本明細書に記載される担体中で輸送/貯蔵された幹細胞は、生存幹細胞と同じタンパク質/因子を分泌する。例えば、本発明の方法は、輸送/貯蔵後に、(間葉系)幹細胞集団が輸送/貯蔵前とほぼ同量のTGFベータ1を分泌し得ることを企図する。TGFベータ1(トランスフォーミング増殖因子ベータ、TGF-β1)は、当業者に公知であり、SEQ ID NO. 7に示される配列を含み得る。加えて、またはその代わりに、輸送/貯蔵後に、(間葉系)幹細胞集団は、輸送/貯蔵前とほぼ同量のVEGF(血管内皮増殖因子)、PDGF-AA(血小板由来増殖因子サブユニットAA)、Ang-1(アンジオゲニン-1)、および/またはHGF(肝細胞増殖因子)を分泌し得る。VEGF、PDGF-AA、Ang-1、および/またはHGFはすべて、創傷治癒へのそれらの関与に関して当業者に公知である。特に、VEGFは、SEQ ID NO. 8に示される配列を含み得、PDGF-AAは、SEQ ID NO. 9に示される配列を有し得、Ang-1は、SEQ ID NO. 10に示される配列を有し得、一方HGFは、SEQ ID NO. 11に示される配列を有し得る。加えて、またはその代わりに、PDGF-BBおよび/またはIL-10は、輸送前および/または輸送後に本質的に検出されない。PDGF-BB(血小板由来増殖因子サブユニットBB)および/またはIL-10(インターロイキン-10)はいずれもまた、当業者に公知である。PDGF-BBは、SEQ ID NO. 12に示される配列を含み得、一方IL-10は、SEQ ID NO: 13に示される配列を含み得る。これらの因子の分泌は、任意の適切な方法で、例えば、幹細胞が担体中に分泌するタンパク質(例えば、PDGF-AA、PDGF-BB、VEGF、IL-10、Ang-1、HGF、またはTGFβ1)の量を測定することによって、決定することができる。タンパク質の量は、例えばFLEXMAP 3Dシステム(Luminex Corporation、Austin, Texas, USA)などのシステムを使用して、自動化様式で市販の抗体/免疫測定法によって測定することができる。これに関連して、タンパク質アンジオポエチン1 (Ang-1)、TGF-β1、VEGF、およびHGFの創傷治癒過程への関与が当業者に公知であることが留意される。アンジオポエチン1の創傷治癒への関与については、例えば、Li et al. Stem Cell Research & Therapy 2013, 4:113 「Mesenchymal stem cells modified with angiopoietin-1 gene promote wound healing」を参照されたい。肝細胞増殖因子 (HGF) の創傷治癒、具体的には慢性/非治癒性創傷の治癒への関与については、例えば、Yoshida et al., 「Neutralization of Hepatocyte Growth Factor Leads to Retarded Cutaneous Wound Healing Associated with Decreased Neovascularization and Granulation Tissue Formation. J. Invest. Dermatol. 120:335-343, 2003、 Li, Jin-Feng et al. 「HGF Accelerates Wound Healing by Promoting the Dedifferentiation of Epidermal Cells through βl-Integrin/ILK Pathway.」 BioMed Research International 2013 (2013):470418、または Conway et al, 「Hepatocyte growth factor regulation: An integral part of why wounds become chronic」. Wound Rep Reg (2007) 15 683-692を参照されたい。血管内皮成長因子 (VEGF) の創傷治癒、具体的には慢性/非治癒性創傷の治癒への関与については、例えば、Froget et al., Eur. Cytokine Netw., Vol. 14, March 2003, 60-64、またはBao et al., 「The Role of Vascular Endothelial Growth Factor in Wound Healing」 J Surg Res. 2009 May 15; 153(2): 347-358を参照されたい。
【0072】
トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β1、TGF-β2、およびTGF-β3を含む)の創傷治癒、具体的には慢性/非治癒性創傷の治癒への関与については、例えば、Ramirez et al.「The Role of TGFb Signaling in Wound Epithelialization」 Advances In Wound Care, Volume 3, Number 7, 2013, 482-491、またはPakyari et al., Critical Role of Transforming Growth Factor Beta in Different Phases of Wound Healing, Advances In Wound Care, Volume 2, Number 5, 2012, 215-224を参照されたい。
【0073】
ここで本発明において使用される培養液に目を向けると、培養液は、間葉系臍帯ライニング幹細胞の単離または培養のために、最終濃度約55~65% (v/v) のDMEM、最終濃度約5~15% (v/v) のF12、最終濃度約15~30% (v/v) のM171、および最終濃度約1~8% (v/v) のFBSを含み得る。本明細書で用いられる「% (v/v)」という値は、培養液の最終体積に対する個々の構成成分の体積を指す。これは、DMEMが例えば最終濃度約55~65% (v/v) で培養液中に存在するのであれば、1リットルの培養液が約550~650 ml DMEMを含有することを意味する。
【0074】
他の態様において、培養液は、最終濃度約57.5~62.5% (v/v) のDMEM、最終濃度約7.5~12.5% (v/v) のF12、最終濃度約17.5~25.0% (v/v) のM171、および最終濃度約1.75~3.5% (v/v) のFBSを含み得る。さらなる態様において、培養液は、最終濃度約61.8% (v/v) のDMEM、最終濃度約11.8% (v/v) のF12、最終濃度約23.6% (v/v) のM171、および最終濃度約2.5% (v/v) のFBSを含み得る。
【0075】
上記の構成成分に加えて、培養液は、間葉系臍帯ライニング幹細胞の培養に有利な補充物質を含み得る。本発明の培養液は、例えば上皮増殖因子 (EGF) を含み得る。存在する場合には、EGFは最終濃度約1 ng/ml~約20 ng/mlで培養液中に存在し得る。これらの態様のいくつかにおいて、培養液は最終濃度約10 ng/mlのEGFを含み得る。
【0076】
培養液はまた、インスリンを含み得る。存在する場合には、インスリンは最終濃度約1μg/ml~10μg/mlで存在し得る。これらの態様のいくつかにおいて、培養液は最終濃度約5μg/mlのインスリンを含み得る。
【0077】
培養液は、以下の補充物質のうちの少なくとも1つをさらに含み得る:アデニン、ヒドロコルチゾン、および3,3',5-トリヨード-L-チロニンナトリウム塩 (T3)。そのような態様において、培養液は、アデニン、ヒドロコルチゾン、および3,3',5-トリヨード-L-チロニンナトリウム塩 (T3) の3つすべてを含み得る。これらの態様において、培養液は、最終濃度約0.05~約0.1μg/mlのアデニン、最終濃度約1~約10μg/mlのヒドロコルチゾン、および/または最終濃度約0.5~約5 ng/mlの3,3',5-トリヨード-L-チロニンナトリウム塩 (T3) を含み得る。
【0078】
1つの態様においては、本明細書において記載され使用される高度に精製された間葉系幹細胞集団を得るために、間葉系幹細胞をPTT6培地中で培養する。これに関連して、本明細書に記載されるPTT6培地は、最終体積500 mlの培養液を得るために、
i. DMEM 250 ml
ii. M171 118 ml
iii. DMEM/F12 118 ml
iv. 最終濃度2.5% (v/v) に達するためのウシ胎仔血清 (FBS) 12.5 ml
v. 最終濃度10 ng/mlのEGF
vi. 最終濃度5μg/mlのインスリン
vii. インスリン0.175 ml(最終濃度5μg/ml)
を混合することによって得られることが留意される。
【0079】
「DMEM」とは、1969年に開発され、基本培地イーグル (BME) の改変物であるダルベッコ改変イーグル培地を意味する(Lonzaから入手可能なDMEMのデータシートを示す
図1を参照されたい)。最初のDMEM処方は1000 mg/Lのグルコースを含有し、胚性マウス細胞の培養について初めて報告された。それ以来DMEMは細胞培養のための標準的な培地となり、ほんの数例の供給業者を挙げると、ThermoFisher Scientific(カタログ番号11965-084)、Sigma Aldrich(カタログ番号D5546)、またはLonzaなどの、様々な供給源から市販されている。したがって、いかなる市販のDMEMも、本発明において使用することができる。好ましい態様において、本明細書で用いられるDMEMは、Lonzaからカタログ番号12-604Fで入手可能なDMEM培地である。この培地は、4.5 g/L グルコースおよびL-グルタミンが補充されているDMEMである。別の好ましい態様において、本明細書で用いられるDMEMは、Sigma Aldrichカタログ番号D5546のDMEM培地であり、これは1000 mg/L グルコースおよび炭酸水素ナトリウムを含有するが、L-グルタミンを含まない。
【0080】
「F12」培地とは、ハムF12培地を意味する。この培地もまた標準的な細胞培養液であり、ホルモンおよびトランスフェリンと組み合わせて血清と共に使用された場合に、幅広い種類の哺乳動物細胞およびハイブリドーマ細胞を培養できるように、当初設計された栄養混合物である(LonzaからのハムF12培地のデータシートを示す
図2を参照されたい)。いかなる市販のハムF12培地(例えば、ほんの数例の供給業者を挙げると、ThermoFisher Scientific(カタログ番号11765-054)、Sigma Aldrich(カタログ番号N4888)、またはLonzaからのもの)も、本発明において使用することができる。好ましい態様では、LonzaからのハムF12培地が用いられる。
【0081】
「DMEM/F12」または「DMEM:F12」とは、DMEMとハムF12培養液の1:1混合物を意味する(LonzaからのDMEM: F12 (1:1) 培地のデータシートを示す
図3を参照されたい)。DMEM/F12 (1:1) 培地は、多くの異なる哺乳動物細胞の増殖を支持するために広く使用されている基本培地であり、ThermoFisher Scientific(カタログ番号11330057)、Sigma Aldrich(カタログ番号D6421)、またはLonzaなどの様々な供給業者から市販されている。いかなる市販のDMEM:F12培地も、本発明において使用することができる。好ましい態様において、本明細書で用いられるDMEM:F12培地は、Lonzaからカタログ番号12-719Fで入手可能なDMEM/F12 (1:1)培地(L-グルタミン、15 mM HEPES、および3.151 g/Lグルコースを伴うDMEM: F12である)である。
【0082】
「M171」とは、正常ヒト乳腺上皮細胞の培養および増殖のための基本培地として開発された培養液171を意味する(Life Technologies CorporationからのM171培地のデータシートを示す
図4を参照されたい)。この基本培地は広く使用されており、例えばThermoFisher ScientificまたはLife Technologies Corporation(カタログ番号M171500)などの供給業者から市販されている。いかなる市販のM171培地も、本発明において使用することができる。好ましい態様において、本明細書で用いられるM171培地は、Life Technologies Corporationからカタログ番号M171500で入手可能なM171培地である。
【0083】
「FBS」とは、ウシ胎仔血清(ウシ胎児血清とも称される)、すなわち、天然の血液凝固後に残存し、続いて遠心分離によっていかなる残存赤血球も除去された血液画分を意味する。ウシ胎仔血清は、非常に低レベルの抗体を有し、より多くの増殖因子を含有し、多くの異なる細胞培養適用における多用途性を可能にするという理由で、真核細胞のインビトロ細胞培養のために最も広く使用されている血清補充物質である。FBSは、その主眼が、適切な起源追跡管理、表示の真実性、ならびに適切な規格化および監視を通した血清および動物由来製品の安全性および安全使用であるInternational Serum Industry Association (ISIA) のメンバーから入手することが好ましい。ISIAメンバーであるFBSの供給業者には、少し記述するだけでも、Abattoir Basics Company、Animal Technologies Inc.、Biomin Biotechnologia LTDA、GE Healthcare、Gibco by Thermo Fisher Scientific、およびLife Science Productionが含まれる。現在好ましい態様において、FBSはGE Healthcareからカタログ番号A15-151で得られる。
【0084】
上記のように、本発明において使用される間葉系幹細胞集団を単離するための培養液を作製する方法は、最終体積500 mlの培養液を得るために、
i. DMEM 250 ml
ii. M171 118 ml
iii. DMEM/F12 118 ml
iv. 最終濃度2.5% (v/v) に達するためのウシ胎仔血清 (FBS) 12.5 ml
を混合する段階を含む。
【0085】
上記で説明したように、DMEM/F12培地は、DMEMとハムF12培地の1:1混合物である。したがって、DMEM/F12培地118 mlは、DMEM 59 mlおよびF12 59 mlを含有する。よって、培養液を作製するこの方法を用いた場合、全体積500 mlにおける最終濃度 (v/v) は以下の通りである:
‐DMEM:250 ml + 59 ml = 309 ml、309/500 = 61.8 % (v/v) に相当する。
‐M171:118 ml、118/500 = 23.6 % (v/v) に相当する。
‐F12:59 ml、59/500 = 11.8 % (v/v) に相当する。
【0086】
培養液を作製する本方法の態様は、
v. 最終EGF濃度10 ng/mlを達成するためのEGF保存溶液 (5μg/ml) 1 ml、および
vi. 最終インスリン濃度5μg/mlを達成するためのインスリン保存溶液 (14.28 mg/ml) 0.175 ml
を添加する段階をさらに含む。
【0087】
これらの態様において、これらの構成成分i~viの上記の体積が、最終体積499.675 mlの培養液をもたらすことが、本明細書において留意される。さらなる構成成分が培養液に添加されない場合、残りの0.325 ml(合計して500 mlの体積とするため)は、例えば、DMEM、M171、DMEM/F12、またはFBSのいずれかを意味する、構成成分i~ivのいずれかであってよい。あるいは、培養液の全体積が500 mlとなるように、EGFまたはインスリンの保存溶液の濃度を当然ながら調整することもできる。加えて、構成成分i~ivは、必ずしもそれらが列挙されている順に添加しなければならないわけではなく、本発明の培養液に達するように、任意の順序を用いてこれらの構成成分を混合することも当然ながら可能であることもまた留意される。このことは、例えば、M171とDMEM/F12を共に混合し、次いでDMEMおよびFBSと組み合わせて、本明細書に記載される最終濃度、すなわち、DMEMの最終濃度 約55~65% (v/v)、F12の最終濃度 約5~15% (v/v)、M171の最終濃度 約15~30% (v/v)、およびFBSの最終濃度 約1~8% (v/v) とすることができることを意味する。
【0088】
他の態様において、本方法は、補充物質であるアデニン、ヒドロコルチゾン、および3,3',5-トリヨード-L-チロニンナトリウム塩 (T3) のうちの1つまたは複数を0.325 mlの体積でDMEMに添加し、それによって全体積500 mlの培養液とする段階をさらに含む。この態様において、DMEM中のこれらの補充物質の最終濃度は、以下の通りであってよい:
約0.05~0.1μg/mlのアデニン、例えば約0.025μg/mlのアデニン、
約1~10μg/mlのヒドロコルチゾン、
約0.5~5 ng/mlの3,3',5-トリヨード-L-チロニンナトリウム塩 (T3)、例えば1.36 ng/mlの3,3',5-トリヨード-L-チロニンナトリウム塩 (T3)。
【0089】
上記の開示と一致して、本明細書で用いられる細胞培養液は、本明細書に記載される培地を作製する方法によって取得可能である、または得られる。
【0090】
加えて、臍帯の羊膜から間葉系幹細胞を単離する方法であって、本方法によって調製された培養液中で羊膜組織を培養する段階を含む方法が、本明細書に記載される。
【0091】
したがって、本発明はまた、
‐最終濃度約55~65% (v/v) のDMEM、
‐最終濃度約5~15% (v/v) のF12、
‐最終濃度約15~30% (v/v) のM171、および
‐最終濃度約1~8% (v/v) のFBS
を含む細胞培養液(の使用)を対象にする。
【0092】
本明細書において記載される培養液のある特定の態様において、培地は、最終濃度約57.5~62.5% (v/v) のDMEM、最終濃度約7.5~12.5% (v/v) のF12、最終濃度約17.5~25.0% (v/v) のM171、および最終濃度約1.75~3.5% (v/v) のFBSを含む。他の態様において、培養液は、最終濃度約61.8% (v/v) のDMEM、最終濃度約11.8% (v/v) のF12、最終濃度約23.6% (v/v) のM171、および最終濃度約2.5% (v/v) のFBSを含み得る。
【0093】
加えて、培養液は、最終濃度約1 ng/ml~約20 ng/mlの上皮増殖因子 (EGF) をさらに含み得る。ある特定の態様において、培養液は最終濃度約10 ng/mlのEGFを含む。本明細書に記載される培養液は、最終濃度約1μg/ml~10μg/mlのインスリンをさらに含み得る。そのような態様において、培養液は最終濃度約5μg/mlのインスリンを含み得る。
【0094】
細胞培養液は、以下の補充物質のうちの少なくとも1つをさらに含み得る:アデニン、ヒドロコルチゾン、および3,3',5-トリヨード-L-チロニンナトリウム塩 (T3) 。ある特定の態様において、培養液は、アデニン、ヒドロコルチゾン、および3,3',5-トリヨード-L-チロニンナトリウム塩 (T3) の3つすべてを含む。存在する場合には、培養液は、最終濃度約0.01~約0.1μg/mlアデニンもしくは約0.05~約0.1μg/mlアデニンのアデニン、最終濃度約0.1~約10μg/mlヒドロコルチゾンもしくは約1~約10μg/mlヒドロコルチゾンのヒドロコルチゾン、および/または最終濃度約0.5~約5 ng/mlの3,3',5-トリヨード-L-チロニンナトリウム塩 (T3) を含み得る。
【0095】
細胞培養液の態様において、本発明の細胞培養液500 mlは、
i. DMEM 250 ml
ii. M171 118 ml
iii. DMEM/F12 118 ml
iv. ウシ胎仔血清 (FBS) 12.5 ml(最終濃度2.5%)
を含む。さらなる態様において、細胞培養液は、
v. 最終濃度10 ng/mlのEGF、および
vi. 最終濃度5μg/mlのインスリン
をさらに含み得る。インスリンおよびEGFはいずれも、培養液の全体積が500 mlを超えないように、最適な保存溶液を用いて培養液に添加することができる。
【0096】
特定の例において、本発明において使用される培養液の構成成分i~viは、
図5に示される構成成分であり、これは、それらが
図5に示されるカタログ番号を用いて各製造業者から入手されることを意味する。
図5に示されるような構成成分i~viを混合して得られる培地は、本明細書において「PTT-6」とも称される。これに関連して、任意の他の商業的供給業者の、構成成分i~vi、および抗生物質などの任意の他の成分が、本発明の培地を作製する上で使用され得ることが再度留意される。
【0097】
加えて、本発明の細胞培養液は、最終濃度約0.01~約0.1μg/mlアデニンもしくは約0.05~約0.1μg/mlアデニンのアデニン、最終濃度約0.1~10μg/ml、約0.5~約10μg/ml、もしくは約1~約10μg/mlヒドロコルチゾンのヒドロコルチゾン、および/または最終濃度約0.1~約5 ng/mlもしくは約0.5~約5 ng/mlの3,3',5-トリヨード-L-チロニンナトリウム塩 (T3) を含み得る。
【0098】
本明細書において記載される間葉系幹細胞集団を得るために、臍帯組織を、適切な数の(初代)間葉系臍帯ライニング幹細胞が組織から増殖するまで培養することができる。典型的な態様では、臍帯組織を、羊膜の間葉系幹細胞の細胞増殖が約70~約80%の集密度に達するまで培養する。本明細書において、「集密度」または「集密」という用語は、細胞培養の技術分野におけるその通常の意味で用いられ、細胞によって覆われた表面の割合を参照した、培養ディッシュまたはフラスコ中の接着細胞の数の推定値/指標を意味することが留意される。例えば、50パーセントの集密とは、表面のおよそ半分が覆われており、細胞が増殖する余地がなお存在することを意味する。100パーセントの集密とは、表面が細胞によって完全に覆われており、細胞が単層として増殖する余地が残されていないことを意味する。
【0099】
ひとたび適切な数の初代細胞(間葉系臍帯ライニング幹細胞)が組織外植片による臍帯ライニング組織から得られたならば、培養に使用した培養容器から間葉系幹細胞を取り出す。そうすることによって、羊膜の(初代)単離間葉系幹細胞を含有するマスター細胞バンクを得ることができる。典型的には、間葉系幹細胞は接着細胞であるため、取り出しは標準的な酵素処理を用いて行われる。例えば、酵素処理は、国際米国特許出願2006/0078993、国際特許出願WO2006/019357、または国際特許出願WO2007/046775に記載されているようにトリプシン処理を含んでよく、これは、増殖している細胞をさらなる増大のためにトリプシン処理(0.125%トリプシン/0.05% EDTA)によって回収できることを意味する。回収された間葉系幹細胞が、例えばマスター細胞バンクを作製するために用いられる場合には、本明細書において以下に説明されるように、細胞を凍結保存し、さらなる使用のために貯蔵することもできる。
【0100】
ひとたび回収されたならば、間葉系幹細胞を継代培養用の培養容器に移すことができる。継代培養はまた、凍結された初代細胞から、すなわちマスター細胞バンクから開始することもできる。継代培養のために、任意の適切な量の細胞を、細胞培養プレートなどの培養容器中に播種することができる。間葉系幹細胞を、この目的のために、例えば約0.5×106細胞/ml~約5.0×106細胞/mlの濃度で、継代培養用の適切な培地(最も好都合には、培養液PTT-6)中に懸濁することができる。1つの態様では、細胞を、継代培養のために約1.0×106細胞/mlの濃度で懸濁する。継代培養は、単純な培養フラスコ中で培養することによって行うこともできるが、例えば、インキュベーター内で積み重ねることができる、CellStack(Corning、Corning, NY, USA)またはCellfactory(Nunc、Thermo Fisher Scientific Inc.の一部、Waltham, MA, USA)などの多層システム中で培養することによって行うこともできる。あるいは、継代培養はまた、バイオリアクターなどの閉鎖自己完結型システムで行うこともできる。様々なデザインのバイオリアクターが当業者に周知であり、例えば、平行平板、中空繊維、またはマイクロ流体バイオリアクターがある。例えば、Sensebe et al. 「Production of mesenchymal stromal/stem cells according to good manufacturing practices: a review」、前記を参照されたい。市販の中空繊維バイオリアクターの実例は、例えば、臨床試験のための骨髄間葉系幹細胞の増大に使用されているQuantum(登録商標)細胞増殖システム (Terumo BCT, Inc) である(Hanley et al, Efficient Manufacturing of Therapeutic Mesenchymal Stromal Cells Using the Quantum Cell Expansion System, Cytotherapy. 2014 August ; 16(8): 1048-1058を参照されたい)。本発明の間葉系幹細胞集団の継代培養に使用され得る市販のバイオリアクターの別の例は、GE Heathcareから入手可能なXuri細胞増殖システムである。Quantum(登録商標)細胞増殖システムなどの自動化システムにおける間葉系幹細胞の培養は、治療適用のためのワーキング細胞バンクがGMP条件下で生成されるべきであり、多数の細胞が必要である場合に、特に有効である。
【0101】
本明細書において記載される間葉系臍帯ライニング幹細胞の継代培養は、PTT-6培地などの本明細書において記載される培養液中で行われる。よって、PTT-6などの培養液は、羊膜からの間葉系幹細胞の単離、および継代培養による単離初代細胞のその後の培養の両方のために使用され得る。継代培養についても同様に、間葉系幹細胞は、適切な数の細胞が増殖するまで培養することができる。例証的な態様において、間葉系幹細胞は、それらが約70~約80%の集密度に達するまで継代培養される。
【0102】
間葉系臍帯ライニング幹細胞の集団の単離/培養は、哺乳動物細胞を培養するための標準的な条件下で行われ得る。典型的には、間葉系臍帯ライニング幹細胞の集団を単離する本発明の方法は典型的に、その細胞の由来元の種の細胞を培養するために通常用いられる条件(温度、雰囲気)で行われる。例えば、ヒト臍帯組織および間葉系臍帯ライニング幹細胞はそれぞれ、通常は5% CO2を含む空気雰囲気中で37℃で培養される。これに関連して、間葉系細胞は、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ヒツジ、サル、またはヒトなどの任意の哺乳動物種に由来してよく、1つの態様においてはヒト起源の間葉系幹細胞が好ましいことが留意される。
【0103】
ひとたび所望の/適切な数の間葉系臍帯ライニング幹細胞が継代培養から得られたならば、継代培養に使用した培養容器から間葉系幹細胞を取り出すことにより、それらを回収することができる。間葉系幹細胞の回収は典型的には、この場合も同様に、細胞のトリプシン処理を含む酵素処理によって行われる。単離された間葉系幹細胞をその後収集し、直接使用するかまたはさらなる使用のために保存する。典型的に、保存は凍結保存によって行われる。「凍結保存」という用語は、本明細書においてその通常の意味で用いられて、間葉系幹細胞が、(典型的に)-80℃または-196℃(液体窒素の沸点)などの氷点下の温度まで冷却することによって保存される過程を表す。凍結保存は、当業者に公知のように行うことができ、臍帯の細胞中の氷晶の形成を遅らせる、ジメチルスルホキシド (DMSO) またはグリセロールなどの凍結保護剤の使用を含み得る。
【0104】
本明細書において記載される単離方法によって得られた間葉系臍帯ライニング幹細胞の単離された集団は、高度に明確でありかつ高度に均一である。本方法の典型的な態様において、単離された間葉系幹細胞の少なくとも約90%またはそれ以上、約91%またはそれ以上、約92%またはそれ以上、約93%またはそれ以上、約94%またはそれ以上、約95%またはそれ以上、約96%またはそれ以上、約97%またはそれ以上、約98%またはそれ以上、約99%またはそれ以上が、以下のマーカーを発現する:CD73、CD90、およびCD105。加えて、これらの態様において、単離された間葉系幹細胞の少なくとも約90%またはそれ以上、約91%またはそれ以上、約92%またはそれ以上、約93%またはそれ以上、約94%またはそれ以上、約95%またはそれ以上、約96%またはそれ以上、約97%またはそれ以上、約98%またはそれ以上、約99%またはそれ以上が、以下のマーカーの発現を欠き得る:CD34、CD45、およびHLA-DR。特定の態様において、単離された間葉系幹細胞集団の約97%もしくはそれ以上、約98%もしくはそれ以上、または約99%もしくはそれ以上が、CD73、CD90、およびCD105を発現しながら、CD34、CD45、およびHLA-DRの発現を欠いている。
【0105】
したがって、上記の開示と一致して、臍帯の羊膜から単離された間葉系幹細胞集団であって、該幹細胞集団の少なくとも約90%またはそれ以上の細胞は以下のマーカーの各々を発現する:CD73、CD90、およびCD105。好ましい態様において、単離された間葉系幹細胞集団の少なくとも約91%またはそれ以上、約92%またはそれ以上、約93%またはそれ以上、約94%またはそれ以上、約95%またはそれ以上、約96%またはそれ以上、約97%またはそれ以上、約98%またはそれ以上、約99%またはそれ以上の細胞が、CD73+、CD90+、かつCD105+であり、このことは、単離された細胞集団のこの割合が、CD73、CD90、およびCD105の各々を発現することを意味し(本出願の実験の項を参照されたい)、本明細書において使用され得る。加えて、単離された間葉系幹細胞の少なくとも約90%またはそれ以上、約91%またはそれ以上、約92%またはそれ以上、約93%またはそれ以上、約94%またはそれ以上、約95%またはそれ以上、約96%またはそれ以上、約97%またはそれ以上、約98%またはそれ以上、約99%またはそれ以上が、以下のマーカーの発現を欠き得る。特定の態様において、単離された間葉系幹細胞集団の約97%もしくはそれ以上、約98%もしくはそれ以上、または約99%もしくはそれ以上の細胞が、CD73、CD90、およびCD105を発現しながら、CD34、CD45、およびHLA-DRの発現を欠いている。臍帯の羊膜に由来する間葉系幹細胞のそのように高度に均一な集団は、2016年10月5日に出願された米国仮特許出願第62/404,582号、および2017年10月5日に出願された同時係属中の米国特許出願第15/725,913号、および同様に2017年10月5日に出願された同時係属中のPCT出願PCT/SG2017/050500において初めて報告され、細胞療法に使用されるべき間葉系幹細胞の基準を満たす(実験の項、および例えばSensebe et al.「Production of mesenchymal stromal/stem cells according to good manufacturing practices: a review」、前記もまた参照されたい)。これに関連して、この間葉系幹細胞集団は、本発明の単離方法によって得ることができるが、必要に応じて、細胞選別などの異なる方法によって得ることもできることが留意される。
【0106】
本明細書において記載される間葉系幹細胞を単離するための培養液を作製する方法は、最終体積500 mlの培養液を得るために、
i. DMEM 250 ml
ii. M171 118 ml
iii. DMEM/F12 118 ml
iv. 最終濃度2.5% (v/v) に達するためのウシ胎仔血清 (FBS) 12.5 ml
を混合する段階を含む。
【0107】
上記で説明したように、DMEM/F12培地は、DMEMとハムF12培養液の1:1混合物である。
【0108】
したがって、DMEM/F12培地118 mlは、DMEM 59 mlおよびF12 59 mlを含有する。よって、培養液を作製するこの方法を用いた場合、全体積500 mlにおける最終濃度 (v/v) は以下の通りである:
DMEM:250 ml + 59 ml = 309 ml、309/500 = 61.8 % (v/v) に相当する。
M171:118 ml、118/500 = 23.6 % (v/v) に相当する。
F12:59 ml、59/500 = 11.8 % (v/v) に相当する。
【0109】
本発明はまた、疾患を有する対象を処置する方法に関し、該方法は、間葉系幹細胞貯蔵もしくは輸送溶液中で貯蔵もしくは輸送された間葉系幹細胞または本明細書に記載される集団を対象に局所投与する段階を含み、ここで、間葉系幹細胞または幹細胞集団は、該間葉系幹細胞集団が回収された時点から約96時間以内に投与される。対象を処置する方法は、本PCT出願の優先日後に公開され、すべての目的のために全体として本明細書に組み入れられる国際特許出願WO2019/199229「A Method Of Transporting Mesenchymal Stem Cells By Means Of A Transporting Solution And A Method Of Administering Stem Cells To Wounds」に記載されている通りに実施することができる。
【0110】
同様に、本発明はまた、対象の疾患を処置する方法において使用するための本明細書に記載される間葉系幹細胞集団に関し、ここで、間葉系幹細胞集団は、該間葉系幹細胞集団が回収された時点から約96時間以内に局所投与される。
【0111】
処置される対象は、任意の適切な対象であってよい。対象は、脊椎動物、より好ましくは哺乳動物であってよい。哺乳動物には、家畜、競技用動物、ペット、霊長類、イヌ、ウマ、マウス、およびラットが含まれるが、これらに限定されない。哺乳動物はまた、ヒト、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、マウス、ラット等であってもよい。したがって、1つの態様において、対象は脊椎動物である。対象はまた、ヒト対象であってもよい。したがって、対象は処置を必要とする対象であってよい。そういうものとして、対象は、本明細書の他所に記載される疾患に罹患している可能性がある。いくつかの態様において、対象は、慢性足部潰瘍を伴うI型またはII型糖尿病に罹患している。好ましくは、対象は、間葉系幹細胞集団に対するHLA抗体について陰性である。
【0112】
間葉系幹細胞集団は、任意の投与量で適用することができる。投与量は、治療的に有効であってよい。「治療的に有効な量/投与量」は、当業者に明らかなように、使用される細胞の活性、患者の体内での細胞の安定性、緩和されるべき状態の重症度、処置される患者の年齢および感受性、有害事象、ならびに同様のものを含むがこれらに限定されない因子によって変動し得る。様々な因子が経時的に変化するにつれて、投与の量を調製することができる。
【0113】
間葉系幹細胞が適用される投与量はまた、単位投与量であってもよい。例えば、間葉系幹細胞集団は、約2000万個の細胞、約1500万個の細胞、約1000万個の細胞、約500万個の細胞、約400万個の細胞、約300万個の細胞、約200万個の細胞、約100万個の細胞、約50万個の細胞、約25万個の細胞、または25万個未満の細胞の単位投与量で適用することができる。 一例では、間葉系幹細胞は、約300万個、約500万個、または約1000万個の細胞の投与量で適用され得る。特定の態様において、間葉系幹細胞集団は、約1000万個の細胞の単位投与量で適用される。
【0114】
間葉系幹細胞は、同一対象に対して数回適用することができる。例えば、幹細胞は、週に1回、2回、3回、またはそれ以上適用される。原則として、間葉系幹細胞の任意の単位投与量を、疾患を治癒または緩和するのに適した回数だけ適用することができる。例えば、間葉系幹細胞集団は、週に1回、2回、3回、またはそれ以上適用することができる。間葉系幹細胞集団はまた、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、またはそれ以上にわたって適用することができる。
【0115】
したがって、約2000万個の細胞、約1500万個の細胞、約1000万個の細胞、約500万個の細胞、約400万個の細胞、約300万個の細胞、約200万個の細胞、約100万個の細胞、約50万個の細胞、約25万個の細胞、または25万個未満の細胞の単位投与量が、週に1回または2回投与される。約2000万個の細胞、約1500万個の細胞、約1000万個の細胞、約500万個の細胞、約400万個の細胞、約300万個の細胞、約200万個の細胞、約100万個の細胞、約50万個の細胞、約25万個の細胞、または25万個未満の細胞の単位投与量を、3週間、4週間、もしくは5週間、もしくは6週間、もしくは7週間、もしくは8週間、もしくは10週間、またはそれ以上の週の期間にわたって、週に1回または2回投与することもできる。
【0116】
間葉系幹細胞または間葉系幹細胞集団が細胞約1000個/cm2~細胞約500万個/cm2の投与量で適用されることもまた、本発明の処置の方法によって企図される。ここで、cm2という表現は、幹細胞が適用される創傷/皮膚の面積を意味する。間葉系幹細胞集団が、約100,000個の細胞/cm2、300,000個の細胞/cm2、または500,000個の細胞/cm2の投与量で適用されることもまた想定される。間葉系幹細胞集団はまた、細胞約100,000個/cm2、細胞約300,000個/cm2、または細胞約500,000個/cm2の投与量で、約8週間にわたって週に2回適用することができる。
【0117】
間葉系幹細胞集団は、該間葉系幹細胞集団が回収された時点から約96時間以内に投与される。どのように回収が行われ得るかは、本明細書の他所に記載される。間葉系幹細胞または間葉系幹細胞集団は、該間葉系幹細胞集団が回収された時点から約72時間以内に、約48時間以内に、約24時間以内に、約12時間以内に、約6時間以内に、またはそれ未満で適用されることもまた可能である。回収時から適用時までの間に、間葉系幹細胞集団は、本発明に記載の間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤中で輸送または貯蔵され得る。したがって、本出願の間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤中での輸送/貯蔵について記載される局面は、本発明の間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤中で貯蔵されたMCSを投与する段階を含む、対象を処置する方法に、必要な変更を加えて等しく関連する。
【0118】
本発明の対象を処置する方法は、対象が罹患する疾患を緩和するのに役立つ。原則として、本明細書に記載される間葉系幹細胞集団によって処置され得る任意の疾患がここでは意味される。特に、疾患は皮膚疾患または創傷であってよい。創傷は、任意の原因に、例えば、熱傷、咬傷、外傷、手術、または疾患に起因し得る。創傷はまた、糖尿病によっても生じ得る。したがって、創傷はまた糖尿病性創傷であってもよい。創傷はまた、糖尿病性足部潰瘍であってもよい。注目すべきことには、間葉系幹細胞集団を、例えば、熱傷または糖尿病創傷などの創傷上に直接配置してもよい(国際特許出願WO2007/046775を参照されたい)。
【0119】
本明細書に記載されるように、本明細書に記載される間葉系幹細胞集団の回収と対象へのそれらの適用との間に、該細胞は、本明細書において規定される担体中で輸送/貯蔵することができる。したがって、対象を処置する本発明の方法はまた、間葉系幹細胞集団を対象に投与する前に、間葉系幹細胞集団を担体から分離する段階を含み得る。当業者は、担体から細胞の分離を行う方法を知っている。例えば、間葉系幹細胞集団の担体からの分離は、遠心分離を含み得る。加えて、またはその代わりに、間葉系幹細胞集団の担体からの分離は、シリンジによってバイアルから細胞集団を取り出す段階を含み得る。
【0120】
間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤から幹細胞を分離した後、または間葉系幹細胞を回収した後、または任意の他の方法によって本明細書に記載される間葉系幹細胞集団を得た後、これらの細胞は対象に局所的に適用される。原則として、局所投与の任意の方法が本明細書において意味される。間葉系幹細胞集団の投与は、シリンジによって行うことができる。しかしながら、間葉系幹細胞を対象に適用する前に、間葉系幹細胞をクリーム、軟膏、ゲル、懸濁液、または任意の他の適切な物質中に接触させることも可能である。対象に適用した後の間葉系幹細胞集団は、フィルムまたは包帯によって、所定の位置に保持されてもよい。このようなフィルムまたは包帯の例は、Tegaderm(登録商標)ドレッシング材などのドレッシング材およびTegaderm(登録商標)ドレッシング材を覆うためのクレープ包帯であり得る。細胞のより均一な分布のために、適用部位を優しくマッサージしてもよい。
【0121】
本発明はまた、本明細書に記載される方法によって得られた、または取得可能な、間葉系幹細胞の単位投与量に関する。例えば、単位投与量は、1mlの体積中、本明細書に記載される間葉系幹細胞集団の、約2000万個の細胞、約1500万個の細胞、約1000万個の細胞、約500万個の細胞、約400万個の細胞、約300万個の細胞、約200万個の細胞、約100万個の細胞、約50万個の細胞、約25万個の細胞、または細胞25万個未満の細胞を含み得る。
【0122】
単位投与量が、約1000万個、約900万個、約800万個、約700万個、約600万個、約500万個、約400万個、約300万個、約200万個、約100万個、約50万個、約25万個、または約10万個の細胞を含むこともまた想定される。一例では、単位投与量は、約100万個、約300万個、または約500万個の細胞を含み得る。好ましくは、単位投与量は約1000万個の細胞を含む。単位投与量が約1000個の細胞~約500万個の細胞を含むことがさらに想定される。単位投与量は、約100,000個の細胞、300,000個の細胞、または500,000個の細胞の投与量で適用することができる。本明細書に記載されるように、単位投与量は局所的に適用され得る。例えば、単位投与量は、1 cm2当たりに局所的に適用され得る。
【0123】
単位投与量は、週に1回、2回、3回、またはそれ以上適用することができる。例えば、単位投与量は、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、またはそれ以上にわたって適用することができる。約100,000個の細胞、約300,000個の細胞、または約500,000個の細胞を含む単位投与量は、好ましくは1 cm2に対して、8週間にわたって週に2回適用することができる。
【0124】
単位投与量は、任意の適切な容器中に含まれ得る。例えば、単位投与量は1 mlバイアル中に含まれ得る。そのような場合、例えばバイアルの0.1 mlを対象に対して、好ましくは1 cm2当たりに適用することができる。単位投与量はあるいは、シリンジ中に含まれてもよい。
【0125】
本発明の単位投与量では、細胞は、本明細書において規定される液体担体と接触していてよい。この場合には、間葉系幹細胞は、投与前に担体から分離される。例えば、対象に投与する前に、細胞を遠心分離し、単離することができる。担体は、HypoThermosol(商標)またはHypothermosol(商標)-FRSなどの、本明細書に記載される任意の担体を含み得る、または該担体であり得る。
【0126】
本発明の単位投与量は、臍帯のMSCを含み得る。上記のように、臍帯のMSCは、MSCを含有する臍帯組織の任意の区画からのものであってよい(に由来してよい)。したがって、単位投与量は、羊膜のMSC、血管周囲のMSC、ワルトン膠様質のMSC、臍帯の羊膜のMSCを含み得る。臍帯の羊膜のMSCは、高度に明確でありかつ高度に均一であり得る。したがって、本発明の1つの態様において、単位投与量は、国際特許出願WO2018/067071に記載されるMSCを含み得、使用される。したがって、本方法の典型的な例において、単位投与量は、MSCの少なくとも約90%またはそれ以上、約91%またはそれ以上、約92%またはそれ以上、約93%またはそれ以上、約94%またはそれ以上、約95%またはそれ以上、約96%またはそれ以上、約97%またはそれ以上、約98%またはそれ以上、約99%またはそれ以上が以下のマーカー:CD73、CD90、およびCD105のそれぞれを発現することを示すMSCを含み得る。さらに、単位投与量は、MSCの少なくとも約90%またはそれ以上、約91%またはそれ以上、約92%またはそれ以上、約93%またはそれ以上、約94%またはそれ以上、約95%またはそれ以上、約96%またはそれ以上、約97%またはそれ以上、約98%またはそれ以上、約99%またはそれ以上が以下のマーカー:CD34、CD45、およびHLA-DRの発現を欠いていることを示すMSCを含み得る。特定の例において、単位投与量は、MSCの約97%もしくはそれ以上、約98%もしくはそれ以上、または約99%もしくはそれ以上が、CD73、CD90、およびCD105を発現しながら、CD34、CD45、およびHLA-DRの発現を欠いていることを含む。さらなる例では、MSCの少なくとも約91%またはそれ以上、約92%またはそれ以上、約93%またはそれ以上、約94%またはそれ以上、約95%またはそれ以上、約96%またはそれ以上、約97%またはそれ以上、約98%またはそれ以上、約99%またはそれ以上の細胞が、CD73、CD90、およびCD105のそれぞれを発現しながら、MSCの少なくとも約90%またはそれ以上、約91%またはそれ以上、約92%またはそれ以上、約93%またはそれ以上、約94%またはそれ以上、約95%またはそれ以上、約96%またはそれ以上、約97%またはそれ以上、約98%またはそれ以上、約99%またはそれ以上が、CD34、CD45、およびHLA-DRの発現を欠き得る。特定の例では、MSCの約97%もしくはそれ以上、約98%もしくはそれ以上、または約99%もしくはそれ以上が、CD73、CD90、およびCD105を発現しながら、CD34、CD45、およびHLA-DRの発現を欠いている。
【0127】
本発明の処置の方法および単位投与量は、生存細胞の利用を含み得る。生存率がどのように試験され得るかは、本明細書の他所に記載される。
【0128】
本発明は、以下の非限定的な実験実施例によってさらに例証される。
【0129】
本明細書で用いられた配列を、以下の表1に示す。
【0130】
【実施例】
【0131】
実験実施例
1. 間葉系幹細胞を単離する前の臍帯組織の凍結保存
臍帯組織(臍帯は、母親のインフォームドコンセントを得て供与された)を、臍帯の羊膜から間葉系幹細胞をその後単離するために、以下のように処理した。
【0132】
1.1 臍帯組織試料の洗浄:
a. 外科用メスを保護カバーから外す。
b. 鉗子を用いて臍帯をしっかりと保持し、外科用メスを用いて臍帯を10 cm長の小片に切断する。未使用の臍帯は、元の組織カップに戻す。
c. 10 cm長の臍帯小片を新たな150 mm培養ディッシュに移す。150 mm培養ディッシュをカップの代わりに使用することもできる。
d. 150 mm培養ディッシュのカバーを、鉗子および外科用メスの置き場所として使用する。
e. 30 mlシリンジでPlasmalyte A(Baxter、カタログ# 2B2543Q)25 mlを取り出す。片手でシリンジを45°の角度に保持し、Plasmalyte Aを臍帯組織上に直接分注する。
f. 培養ディッシュをわずかな角度で保持しながら、30 mlシリンジおよび鈍針でPlasmalyte Aを除去する。
g. 使用済みのPlasmalyte Aを、廃物容器となる300 mlトランスファーバッグ中に収集し、それをバイオハザードゴミ箱中に処分する。
h. 必要に応じて各洗浄につき新たな培養ディッシュを用いて、洗浄手順を繰り返す。表面上の血塊がすべて除去されたことを確認する。組織の清浄化が必要である場合には、さらなるPlasmalyte Aを使用することができる。
i. 組織をラベル付きの新たな組織培養ディッシュに入れて、組織の切断を継続する。切断中に組織が乾燥しないように、20 mlのPlasmalyte Aをディッシュ中に入れる。
j. 臍帯を同等のおよそ1-cm切片になるよう切断し、合計で10個の切片とする。
k. 各1 cm切片を、切片当たりおよそ0.3 cm×0.3 cm~0.5 cm×0.5 cmのより小さな小片になるようさらに切断する。
l. ディッシュ中のPlasmalyte Aをすべて除去する。
m. 元のPlasmalyte Aバッグから30 mlシリンジでPlasmalyte A 25 mlを引き出しし、臍帯組織片上に直接分注する。
n. 培養ディッシュを斜めに保持して、組織の洗浄に使用したすべてのPlasmalyte Aを片側に収集し、シリンジおよび鈍針でそれを除去する。
o. 洗浄をもう一度繰り返す。いかなる血塊も残ってはならない。
【0133】
注記:臍帯を直ちに凍結しない場合には、凍結直前まで臍帯組織をPlasmalyte A中で維持する。
【0134】
1.2 臍帯組織の凍結保存:
a. 凍結保存溶液を調製する:
i. 60% Plasmalyte A、30%の5%ヒト血清アルブミン、および10%ジメチルスルホキシド (DMSO) からなる凍結溶液 50mlを調製する。
ii. 150 mlトランスファーバッグに「組織凍結溶液」のラベルを貼り、無菌技法を用いて血漿トランスファーセットをポートに取り付ける。
iii. 元のPlasmalyte Aバッグから30 mlシリンジでPlasmalyte A 30 mlを取り出し、溶液の作製日時と共に「組織凍結溶液」のラベルが貼られたトランスファーバッグ中に移す。
iv. 20 mlシリンジで15 mlの5%ヒト血清アルブミンを取り出し、それをラベル付きのトランスファーバッグ中に移す。
v. DMSO 5 mlをトランスファーバッグに添加する。
vi. 十分に混合し、凍結溶液の混合を記録する。
b. 凍結溶液を添加する前に、組織からPlasmalyte Aを除去する。
c. 60 mlシリンジを用いて、全50 mlの凍結溶液をシリンジ中に引き出し、臍帯組織を含む150 mm細胞培養ディッシュに凍結溶液およそ30 mlを添加する。鈍針をシリンジ上に取り付けて、それを無菌状態に保つ。
d. 組織および凍結溶液を含む培養ディッシュを10分間にわたって1分ごとに旋回させる。
e. 鉗子を用いて、ランダムに選択された切片8個を選び、それらを4本の4 mlクライオバイアルの各々に入れる。ランダムに選択された切片4個を選び、それらを1本の1.8 mlクライオバイアルに入れる。これらの切片は、血塊を含んではならない。
f. 臍帯組織を含む各クライオバイアルに、残っている凍結溶液を、4 mlチューブについては3.6 ml充填線まで、および1.8 ml Nuncバイアルについては1.8 ml線まで満たす。
g. Bactec Lytic/10 - Anaerobic/Fボトル1本およびBactec Pluc Aerobic/Fボトル1本に組織IDのラベルを貼る。
h. シリンジおよび鈍針で培養ディッシュから凍結溶液20 mlを取り出し、Bactecバイアルをアルコール綿で拭いた後、鈍針を18g針に交換し、好気性および嫌気性Bactecボトルにそれぞれ10 mlを接種する。
i. 制御速度フリーザーを起動する。
j. 制御速度フリーザーが完了した後、ユニットをさらなる使用時まで連続温度モニター付き液体窒素フリーザー中に置いておく。
【0135】
2. 臍帯組織からの間葉系臍帯ライニング幹細胞の単離
2.1. 臍帯組織からMSCを処理するための培地の調製:
a. PTT6(培養液/増殖培地) 500 mlを作製するため、以下のものを列挙されている順に添加する:
i. DMEM 250 ml
ii. M171 118 ml
iii. DMEM F12 118 ml
iv. FBS 12.5 ml(最終濃度2.5%)
v. EGF 1 ml(最終濃度10 ng/ml)
vi. インスリン0.175 ml(最終濃度5μg/ml)。
【0136】
構成成分i~viの上記の体積は、最終体積499.675 mlの培養液をもたらす。さらなる構成成分が培養液に添加されない場合、残りの0.325 ml(合計して500 mlの体積とするため)は、例えば、DMEM、M171、DMEM/F12、またはFBSのいずれかを意味する、構成成分i~ivのいずれかであってよい。あるいは、培養液の全体積が500 mlとなるように、EGFまたはインスリンの保存溶液の濃度を当然ながら調整することもできる。あるいは、ペニシリン-ストレプトマイシン-アンホテリシンなどの抗生物質の保存溶液を、最終体積500 mlとなるように添加することもできる。補充物質であるアデニン、ヒドロコルチゾン、および3,3',5-トリヨード-L-チロニンナトリウム塩 (T3) のうちの1つまたは複数を0.325 mlの体積で培養液に添加し、それによって全体積500 mlの培養液とすることも可能である。
【0137】
vii. ボトルに、培地の調製日、操作者のイニシャル、および「有効期限」という語句とそれに続く有効期限日と共に、「PTT6」のラベルを貼る。有効期限日は、構成成分のいずれかの最も早い有効期限日か、または調製日から1ヵ月後かの、いずれか早い方である。
【0138】
b. リンス培地(カルシウムおよびマグネシウム不含かつ5% FBS含有ハンクス緩衝塩類溶液 (HBSS))を作製するため、50 ml遠心管中のHBSS 47.5 mlにFBS 2.5 mlを添加する。チューブに、操作者のイニシャルおよび培地の作製日と共に、「リンス培地」のラベルを貼る。
c. Bactec Lytic/10 - Anaerobic/F (Becton Dickinson & Company) およびBactec Plus + Aerobic/F (Becton Dickinson & Company) を用いて、すべての培地を無菌性について試験する。調製済みの培地20 mlを各ボトルに注入する。
【0139】
2.2 MSC回収のための臍帯組織の解凍:
a. 操作者がクリーンルーム内で試料を処理する準備ができた時点で、解凍を開始する。バイアルが同じドナーに由来する場合を除いて、一度に2本以上のバイアルを解凍してはならない。
b. ウォーターバスを消毒剤および続いて70%イソプロパノールで拭き、これを滅菌水1 Lで満たす。ウォーターバスを36~38℃まで加熱する。
c. クリーンルーム内のバイオセーフティキャビネット下で、70%~90% PlasmaLyte Aからなるリンス培地10 mlを調製する。10 mlシリンジに取り付けられた0.2-μmシリンジフィルターでこの溶液を滅菌濾過し、使用時まで溶液を冷蔵して維持する。
d. 50 mlコニカルチューブに処理ラベルを貼る。
e. ウォーターバス温度が36~38℃であることを確認する。
f. 液体窒素貯蔵から組織のバイアルを取り出し、滅菌水1 Lで満たされた37℃ウォーターバス内で迅速に解凍する。Mr. Frosty Nalgene Cryo 1℃凍結容器のバイアルホルダーは、バイアルを所定の位置に収めて浮遊し、試料を解凍する場合に浮遊ラックとして使用することができる。
g. ウォーターバスからバイアルを取り出し、それらに70%イソプロパノール溶液をスプレーする。ウォーターバスからバイアルを引き上げるのに適したタイミングは、バイアル中に小さな氷が浮いているのが見える時である‐バイアルの内部温度が37℃未満であることを示唆する。
h. バイアルをパススルーに置き、クリーンルーム処理技術者に知らせる。
【0140】
2.3 組織処理の準備:
a. 臍帯組織処理は、環境モニター (EM) クリーンルーム内で行わなければならない。各シフトの終了時には、部屋およびフードの完全な清掃を行う。
b. バイオセーフティキャビネットを準備/清掃する。
c. バイオセーフティキャビネット内での作業中は、生物粒子計数を行う。
d. 包装の破損および有効期限日についてそれぞれチェックしながら、必要な物品をすべてバイオセーフティキャビネット内に集める。シリンジ、血清用ピペット、滅菌鉗子、外科用メス、組織プレート、および針を取り扱う場合には、滅菌生成物と接触するであろう表面に決して触れないようにする。注射筒、管類、プランジャーチップ、および/または針のキャップもしくはケースの外部のみ、安全に取り扱ってもよい。表面に触れるか、または表面が非滅菌表面に触れた場合には、物品を廃棄する。
e. 使用するすべての試薬および物品のロット番号および有効期限日(該当する場合)を記録する。
f. 70%アルコールで湿らせたリントフリーワイプでバイアルを清浄化してから、バイオセーフティキャビネット内に移動させることにより、解凍バイアルを受け取る。
g. シリンジに装着した吸引用針を用いて、バイアルからできるだけ多くの液体を抜き取る。組織を吸引しないようにする。
h. 滅菌鉗子を用いて、組織を滅菌100 mmペトリ皿に移す。
i. 組織断片に一定分割量5 mlのリンス培地を添加する。
j. 内容物を15~30秒間旋回させ、次いでピペットまたは吸引針付きシリンジでリンス培地を除去する。このリンス過程を2回繰り返す。
k. 組織が乾燥しないように、リンス培地 2 mLを組織に添加する。
【0141】
2.4. 組織からのMSC増殖の開始:
a. 6ウェルプレートの底に、MSCロット番号または臍帯組織IDおよび増殖の開始日と共に、「増殖1」のラベルを貼る。60 mm組織培養ディッシュを使用する場合には、ディッシュの底にグリッドを描いて、プレートを4つの区分に分割する。
b. 滅菌使い捨て鉗子を用いて、3×3 mm~5×5 mmの組織1個を各ウェルに入れる。60 mm組織培養ディッシュを使用する場合には、組織を各区分の中央に置いて組織を離しておく(互いに1 cm超)。
c. 各ウェルをPTT6 3 mlで満たす。
d. 30 mlシリンジに連結した吸引用針を用いて、組織をかろうじて覆う程度に十分な培地を抜き取る。プレートを傾けてはならない。吸引針でウェルの底を触れてはならない。
e. 倒立光学顕微鏡を用いて、細胞増殖を毎日観察する(24±6時間)。光学顕微鏡の代わりに、リアルタイム細胞培養イメージングシステムを使用してもよい。
f. 培地を毎日交換する。必ず使用前に培地を室温に平衡化する。
i. 培地を吸引除去する。
ii. PTT6 3 mlを添加する。
iii. 組織が培地中にかろうじて浸っている状態まで、吸引する。
g. 組織から細胞増殖が観察された時点で、プレートに「増殖2」のラベルを貼ることを除いて上記の4.a~4.eと同じ手順を用いて、組織を新たな6ウェルプレートに移す。PTT6 2 mlを各ウェルに添加することにより、「増殖1」プレート中の細胞増殖を維持する。集密度について毎日観察する。培地を2~3日ごとに置換する(必ず使用前に培地を室温に平衡化する)。
h. 「増殖2」プレート中で細胞増殖が観察された時点で、プレートに「増殖3」のラベルを貼ることを除いて段階4.a~4.eを繰り返す。PTT6 2 mlを各ウェルに添加することにより、「増殖2」プレート中の細胞増殖を維持する。集密度について毎日観察する。培地を2~3日ごとに置換する(必ず使用前に培地を室温に平衡化する)。
i. 「増殖3」プレート中で増殖が観察された時点で、組織を廃棄する。組織が非常に小さく、細胞増殖を妨げないようであれば、継代培養の際に組織を処分する。
j. 細胞が40~50%の集密度に達した時点で、細胞を毎日観察して過剰な増大を防ぐ。
k. 細胞が70~80%の集密度に達した時点で、細胞を継代培養する。細胞を80%の集密を超えるまで増大させてはならない。
【0142】
組織外植片のサイズが約1~3 mmであり、組織外植片/細胞の培養が175 mm角型培養ディッシュ中で行われる場合、外植片から回収される間葉系幹細胞の平均数は、典型的に細胞約4,000~6,000個/外植片である。よって、間葉系幹細胞を外植片48個から同時に増殖させる場合、約300,000個の細胞が回収時に得られ得る。外植片から収集されたこれら300,000個の間葉系幹細胞は次いで、以下の実施例2.5に記載されるように、175 cm2細胞培養フラスコにそのような300,000個の細胞を播種することにより、継代培養に使用することができる(これは継代1代目と称され得る)。次いでこの継代1代目から得られた間葉系幹細胞を用いて、以下の実施例2.5に記載されるように、再度175 cm2フラスコに播種し(継代2代目)、細胞を増大させることができる。継代1代目および継代2代目の両方から得られた細胞を凍結保存によって「バンク化」することができ、継代2代目後に得られた間葉系幹細胞がマスターセルバンクを表すと見なし、これは、以下の実施例2.7において説明されるように、例えばバイオリアクター中で間葉系幹細胞をさらに増大させるためのものとなる。
【0143】
2.5. 細胞培養ディッシュ中でのMSCの継代培養
a. バイオセーフティキャビネット内での作業中は、生物粒子計数を行う。使用前にすべての培地を室温に平衡化する。
b. 細胞増殖が約70~80%の集密度に達した時点で、細胞を継代培養する。
i. ペトリ皿からPTT6を除去する。
ii. カルシウムおよびマグネシウム不含HBSSでリンスする。
iii. 1×TrypLE-EDTA 0.2 mlを添加し、1~2分間旋回させる。
iv. ディッシュを30~45°傾けて、細胞が重力流により下方に移動できるようにする。プレートの側面を穏やかにタッピングして、脱離を促進させる。
v. PTT6 1 mlを添加する。ピペットで穏やかに上下させ、次いで細胞を15 ml遠心管に移す。各ウェルごとに清潔なピペットチップを使用する。全6ウェルからの細胞を単一の15 mlチューブ中にプールする。
vi. 1200 rpmで10分間遠心分離する。
vii. 上清を除去し、PTT6 5 mlで細胞を再懸濁する。
c. MSCを継代培養する。
i. 細胞懸濁液50μlを分取し、トリパンブルー排除アッセイによりTNCおよび生存率についてアッセイする。
ii. 血球計算盤を用いて細胞を計数する。細胞20~100個/区画を計数するよう予測する。数が100よりも多い場合には、元の試料を1:5に希釈し、血球計算盤を用いてトリパンブルー法を繰り返す。
iii. 生存細胞/mlおよび全生存細胞を計数する:
1. 生存細胞/ml = 生存細胞数×希釈係数×104
2. 全生存細胞 = 生存細胞数×希釈係数×全体積×104
iv. %生存率を計数する:
1. %生存率= 生存細胞数×100 /(生存細胞数 + 死細胞数)
v. 細胞懸濁液を1.0×106細胞/mlに希釈する:
1. 「X」体積 = 全生存細胞/106細胞/ml
2. 例えば、全生存細胞数が1.0×107個である場合;
3. 「X」= 107/106細胞/ml、すなわち10 mlであり、したがって、細胞懸濁液(5 mlである)に5 mlを添加することにより、全細胞体積を10 mlにする。
vi. 細胞懸濁液が106個/ml未満である場合には、各150 mmペトリ皿または175 cm2フラスコに細胞2×106個を播種するのに必要な体積を決定する。
1. 細胞2×106個に対する体積 = 細胞2×106個÷生存細胞/ml
2. 例えば、生存細胞/mlが8×105細胞/mlである場合、細胞2×106個÷8×105細胞/ml、すなわち2.5 mlが必要である。
vii. MSCマーカー解析のために0.5 mlを取り分けておく。
viii. 細胞2×106個をPTT6 30 mlで各150 mmペトリ皿または175 cm2フラスコに播種する。
ix. 接着、コロニー形成、集密について、3日ごとに観察する。細胞が40~50%の集密に達した時点で、細胞を毎日~2日ごとに観察して過剰な増大を防ぐ。細胞を80%の集密を超えるまで増大させてはならない。光学顕微鏡の代わりに、リアルタイム細胞培養モニタリングシステムを使用することができる。
x. 培地を2~3日ごとに置換する。
【0144】
2.6 MSC細胞の凍結保存
a. バイオセーフティキャビネット内での作業中は、生物粒子計数を行う。
b. 細胞が70~80%の集密に達した時点で、各150 mmペトリ皿または175 cm2フラスコに対して1×TrypLE-EDTA 2 mlを用いて細胞を脱離させる。
i. ペトリ皿からPTT6を除去する。
ii. カルシウムおよびマグネシウム不含のHBSSまたはPBS 5 mlで洗浄する。
iii. 1×TrypLE-EDTA 2 mlを添加し、1~2分間旋回させる。
iv. ディッシュを30~45°傾けて、細胞が重力流により下方に移動できるようにする。ペトリ皿の側面を穏やかにタッピングして、脱離の促進を助ける。
v. PTT6 10 mlを添加して、TrypLEを不活性化する。十分に混合して、細胞塊を解離させる。
vi. パスツールピペットを用いて、細胞を15 ml遠心管に移す。
vii. 1200 rpmで10分間遠心分離する。
viii. 培地を吸引し、PTT6 10 mlで再懸濁する。
ix. 50μlを分取し、上記のように全生存細胞数および%生存率を決定する。細胞が凝集し始める可能性があるため、細胞計数は15分以内に行う必要がある。
c. 凍結保存用の細胞を調製する。
i. 細胞懸濁培地および凍結保存培地を調製し、細胞を凍結させる。
【0145】
2.7. Quantumバイオリアクター (Terumo BTC, Inc.) 中でのMSCの継代培養(増大)
Quantumバイオリアクターを用いてMSCを増大させることも可能である。Quantumバイオリアクター中で増大させるための出発細胞数は、1回の実行当たり2000~3000万個の細胞であるべきである。1回の実行当たりの典型的な収量は、回収時に3~7億個のMSCである。バイオリアクターは、製造業者のプロトコールに従って操作される。そのようにして得られた間葉系幹細胞は典型的に凍結保存され(以下を参照されたい)、ワーキング細胞バンクとなる。
【0146】
材料/試薬:
1. Quantum増大セット
2. Quantum廃液バッグ
3. Quantum培地バッグ
4. Quantumインレットバッグ
5. PTT6
6. PBS
7. フィブロネクチン
8. TrypLE
9. 3 mlシリンジ
10. グルコース試験紙
11. ラクタート試験紙
12. 60 ml細胞培養プレートまたはその同等物
13. 医療等級5% CO2気体混合物
14. 50 mlコンビチップ
【0147】
装置:
1. バイオセーフティキャビネット
2. グルコース測定器(Bayer Healthcare/Ascensia Contour血糖測定器)
3. Lactate Plus (Nova Biomedical)
4. ヘッドを備えた蠕動ポンプ
5. 遠心分離機、Eppendorf 5810
6. 滅菌チューブコネクター
7. M4連続ピペッター
8. RFシーラー
【0148】
手順:
1. Quantumバイオリアクターの準備
a) Quantumバイオリアクターの事前準備
b) バイオリアクターのコーティング:
1) バイオセーフティキャビネット内でフィブロネクチン溶液を調製する。
1) 凍結乾燥フィブロネクチンを室温に順化させる(室温で≧15分)。
2) 滅菌蒸留水5 mlを添加する;旋回も撹拌もしてはならない。
3) 30分間かけてフィブロネクチンを溶液の状態にする。
4) 18g針を取り付けた10 mlシリンジを用いて、PBS 95 mlを含む細胞インレットバッグにフィブロネクチン溶液を移す。
2) バッグを「試薬」ラインに接続する。
3) 気泡をチェックする(気泡は、「IC空気の除去」または「EC空気の除去」を使用することにより、およびインレット供給源として「洗浄」を使用することにより、除去することができる)。
4) バイオリアクターのコーティングのプログラムを開くまたは設定する(
図1、段階3~5)。
5) プログラムを実行する。
6) プログラムを実行してバイオリアクターをコーティングしている間に、PTT6培地4 Lの培地バッグを準備する。
7) 滅菌チューブコネクターを用いて、培地バッグをIC培地ラインに接続する。
8) バイオリアクターのコーティング段階が完了した時点で、RFシーラーを用いて、フィブロネクチン溶液に使用した細胞インレットバッグを取り外す。
c) 過剰なフィブロネクチンの洗浄除去
d) 培地によるバイオリアクターの馴化
2. Quantumバイオリアクター中での細胞の培養
a) 均一な懸濁液を用いた細胞の負荷および接着:
b) 細胞の栄養補給および培養
1) 培地流速を選択して細胞に栄養を補給する。
2) ラクタートおよびグルコースについて毎日サンプリングする。
3) ラクタートレベルが上昇するにつれて、培地の流速を調整する。実際の最大の許容ラクタート濃度は、細胞の由来元のフラスコ培養物によって規定される。十分なPTT6培地が培地バッグ中に入っているかを確認する。必要に応じて、PTT6培地バッグを新たなPTT6培地バッグと交換する。
4) 流速が所望の値に達した時点で、ラクタートレベルを8~12時間ごとに測定する。ラクタートレベルが低下しない場合、またはラクタートレベルが上昇し続ける場合、細胞を回収する。
3. Quantumバイオリアクターからの細胞の回収
a) ラクタート濃度が低下しない時点で、ラクタートおよびグルコースについて最後にサンプリングした後、細胞を回収する。
b) 細胞の回収:
1) 滅菌チューブコネクターを用いて、TrypLE 100 mlで満たした細胞インレットバッグを「試薬」ラインに接続する。
2) 十分なPBSがPBSバッグ中に入っていることを確かめる。そうでない場合には、滅菌チューブコネクターを用いて、少なくとも1.7リットルのPBSが入った新たなバッグを「洗浄」ラインに接続する。
3) 回収プログラムを実行する。
4. 細胞の凍結保存
1) ひとたび細胞が回収されたならば、細胞を50 ml遠心管に移して、細胞をペレット化する。
2) 冷細胞懸濁溶液25 mlを用いて再懸濁する。SysmexまたはBiorad細胞計数器を用いて、細胞を計数する。細胞数レポートを各Quantum処理バッチ記録に添付する。
3) 細胞濃度を2×10
7個/mlに調整する。
4) 等体積の凍結保存溶液を添加し、十分に混合する(振盪もボルテックスもしてはならない)。
5) 連続ピペッターを用いて、凍結保存剤中の細胞懸濁液1 mlを各1.8 mlバイアル中に添加する。制御速度フリーザーを用いて、SOP D6.100 CB凍結保存に記載されているように、CRFプログラムを用いて凍結保存する。
6) バイアルを指定の液体窒素貯蔵スペース内に貯蔵する。
7) CRF実行レポートを各MSC P3-Quantum処理バッチ記録の用紙に添付する。
【0149】
3. 異なる培養液を用いて臍帯組織から単離された間葉系臍帯ライニング幹細胞集団における幹細胞マーカー発現の解析
フローサイトメトリー実験を実施して、臍帯から単離された間葉系幹細胞を間葉系幹細胞マーカーCD73、CD90、およびCD105の発現について解析した。
【0150】
これらの実験のために、実施例2に記載されるように、3種の異なる培養液中で臍帯組織を培養することにより、間葉系幹細胞を臍帯組織から単離し、続いて各培地中で間葉系幹細胞を継代培養した。
【0151】
これらの実験において、以下の3種の培養液を使用した:a) 10% FBS (v/v) を補充した90% (v/v/ DMEM、b) 90% (v/v) CMRL1066および10% (v/v) FBSからなる、米国特許出願US2008/0248005および対応する国際特許出願WO2007/046775に記載されている培養液PTT-4(WO2007/046775のパラグラフ [0183] を参照されたい)、ならびにc) 本明細書においてその組成が記載される、本発明の培養液PTT-6。このフローサイトメトリー解析において、臍帯ライニング間葉系幹細胞 (CLMC) 集団の2つの異なる試料を、使用した3種の培養液の各々について解析した。
【0152】
フローサイトメトリー解析のために以下のプロトコールを使用した。
【0153】
【0154】
手順
a) 臍帯ライニング膜からの細胞の単離および培養
1. 実施例2で説明されているように、外植片組織試料を細胞培養プレート内でインキュベートし、各培地中に浸漬させ、次いで37℃のCO2インキュベーター内でこれを維持した。
2. 3日ごとに培地を交換した。
3. 組織培養外植片からの細胞増殖を光学顕微鏡下でモニターした。
4. 約70%の集密の時点で、細胞をトリプシン処理(0.0125%トリプシン/0.05% EDTA)によってディッシュから分離し、フローサイトメトリー実験に使用した。
b) 実験用の細胞のトリプシン処理
1. 細胞培養プレートから培地を除去する。
2. FBSはトリプシンの酵素作用を妨げるため、滅菌1×PBSで穏やかにリンスして微量のFBSを除去する。
3. 1Xトリプシンを細胞培養プレートに添加し、37℃で3~5分間インキュベートする。
4. 顕微鏡下で細胞を観察して、それらが除去されたことを確実にする。FBSを含有する完全培地(10% FBSを含むDMEM)を添加することにより、トリプシンを中和する。
5. ピペットを使用して、培地中でプレートの壁に対して細胞をピペッティングすることによって細胞塊を破壊する。細胞懸濁液を収集し、50 ml遠心管に移す。
6. 滅菌1×PBSをプレートに添加しこれをリンスし、細胞懸濁液を同じ遠心管に収集する。
7. これを1800 rpmで10分間遠心分離する。
8. 上清を廃棄し、細胞ペレットをPBA培地で再懸濁する。
c) 細胞の計数
1. 好ましくは血球計算盤およびそのカバーガラスを70%エタノールで洗浄し、乾燥させてからキムワイプ(リントフリー紙)で拭くことにより、それらが清潔でかつ乾燥していることを確実にする。
2. 懸濁状の少量の細胞を微量遠心管に分取し、BSCフードから取り出す。
3. 等体積のトリパンブルーで懸濁状の細胞を染色する、例えば、懸濁液500μlに対してトリパンブルー500μlを添加する(希釈係数 = 2X、0.2%トリパンブルー溶液となる)。
4. トリパンブルーは毒性であり、非生存細胞の増加につながり、偽細胞数を生じるため、細胞をトリパンブルーに30分よりも長く曝露しないようにする。
5. 細胞懸濁液混合物20μlを血球計算盤の各チャンバーに添加し、光学顕微鏡下で見る。
a. 上部および下部チャンバー内の合計8つの区分について、血球計算盤の各区分内の生存細胞(明るい細胞;非生存細胞は容易にトリパンブルーを取り込み、したがって色が濃い)の数を計数する。全細胞数は、(平均細胞数/区分)×104細胞/mlとして与えられる。
d) 細胞の染色
i. 細胞を染色する前の準備
・それぞれ50,000個の細胞を含有する細胞懸濁液を、2つ組で3本のチューブ(CD73、CD90、CD105)および2本のチューブ(陰性対照)に分取する。
ii. 一次抗体 (Ab) による染色
・一次抗体1μl [0.5 mg/ml Ab] を細胞懸濁液100 ulに添加する、4℃で45分間インキュベートする。
・PBAで1 mlに合わせる。
・8000 rpm、4℃で5分間遠心分離する。
・上清を除去する。
・PBA 1 mlを添加し、ペレットを再懸濁する。
・8000 rpm、4℃で5分間遠心分離する。
・上清を除去する。
・PBA 100 ul中に再懸濁する。
iii. 二次Abによる染色‐暗下で
・二次抗体1 ul [0.5 mg/ml ab] を細胞懸濁液100 ulに添加する、4℃で30分間インキュベートする。
・PBAで1 mlに合わせる。
・8000 rpm、4℃で5分間遠心分離する。
・上清を除去する。
・PBA 1 mlを添加し、ペレットを再懸濁する。
・8000 rpm、4℃で5分間遠心分離する。
・上清を除去する。
・フローサイトメトリー解析のために、PBA 200~300 ul中に再懸濁する。
・BD FACS CANDOフローサイトメトリーで読み取るために、細胞をFACSチューブに移す。
【0155】
フローサイトメトリー解析の結果を
図6a~
図6cに示す。
図6aは、DMEM/10% FBS中で臍帯組織から単離し培養した後の、幹細胞マーカーCD73、CD90、およびCD105を発現する、単離された間葉系臍帯ライニング幹細胞の割合を示し、
図6bは、PTT-4中で臍帯組織から単離し培養した後の、幹細胞マーカーCD73、CD90、およびCD105を発現する、単離された間葉系臍帯ライニング幹細胞の割合を示し、ならびに
図6cは、PTT6-中で臍帯組織から単離し培養した後の、幹細胞マーカーCD73、CD90、およびCD105を発現する、単離された間葉系臍帯ライニング幹細胞の割合を示す。
図6aからわかるように、培養液培養としてDMEM/10% FBSを用いて単離された集団は、約75% CD73+細胞、78% CD90+細胞、および80% CD105+細胞(2つの実験の平均値)を有するのに対して、PTT-4培養液を用いて臍帯組織を単離/培養した後の(
図6bを参照されたい)、CD73陽性、CD90陽性、およびCD105陽性である間葉系幹細胞の数は、2つの実験の平均値で約87%(CD73+細胞)、93% /CD90+細胞)、および86%(CD105+細胞)である。本発明のPTT-6培地中で培養することによって得られた間葉系幹細胞集団の純度は、3つすべてのマーカー(CD73、CD90、CD105)について少なくとも99.0%であり、このことは、この細胞集団の純度が、PTT-4培地またはDMEM/10% FBSを用いた培養の場合よりも有意に高いことを意味する。加えて、およびさらにより重要なことには、PTT-6中で培養することによって得られた間葉系幹細胞集団は、本質的に100%純粋でかつ明確な幹細胞集団である。これにより、本発明の幹細胞集団は、幹細胞ベースの療法の理想的な候補となる。したがって、間葉系臍帯ライニング幹細胞のこの集団は、そのような幹細胞ベースの治療アプローチの至適基準になり得る。
【0156】
図6に示される知見は、
図7aおよび
図7bに示されるフローサイトメトリー解析の結果によってさらに裏付けられる。
図7aは、PTT-6培地中で臍帯組織から単離し培養した後の、幹細胞マーカーCD73、CD90、およびCD105を発現し、かつCD34、CD45、およびHLA-DRの発現を欠いている、単離された間葉系臍帯ライニング幹細胞(臍帯の羊膜の間葉系幹細胞)の割合を示す。
図7aに示されるように、間葉系幹細胞集団は97.5%の生存細胞を含有し、そのうちの100%がCD73、CD90、およびCD105の各々を発現するのに対して(「CD73+CD90+」および「CD73+CD105+」の列を参照されたい)、幹細胞集団の99.2%がCD45を発現せず、かつ幹細胞集団の100%がCD34およびHLA-DRを発現しなかった(「CD34-CD45-」および「CD34-HLA-DR-」の列を参照されたい)。したがって、PTT-6培地中で培養することによって得られた間葉系幹細胞集団は、間葉系幹細胞が細胞療法に使用されることを実現させるための基準(幹細胞集団の95%またはそれ以上がCD73、CD90、およびCD105を発現する一方で、幹細胞集団の98%またはそれ以上がCD34、CD45、およびHLA-DRの発現を欠いている、Sensebe et al. 「Production of mesenchymal stromal/stem cells according to good manufacturing practices: a review」、前記を参照されたい)を満たす、本質的に100%純粋でかつ明確な幹細胞集団である。本明細書において、本発明の羊膜の間葉系幹細胞が標準的な培養条件においてプラスチックに対して接着性であり、インビトロで骨芽細胞、脂肪細胞、および軟骨芽細胞に分化し、米国特許第9,085,755号、米国特許第8,287,854号、またはWO2007/046775を参照されたい、したがって細胞療法における間葉系幹細胞の使用に関して一般に許容される基準を満たすことが留意される。
【0157】
図7bは、CD73、CD90、およびCD105を発現し、かつCD34、CD45、およびHLA-DRの発現を欠いている、単離された骨髄間葉系幹細胞の割合を示す。
図7bに示されるように、骨髄間葉系幹細胞集団は94.3%の生存細胞を含有し、そのうちの100%がCD73、CD90、およびCD105の各々を発現するのに対して(「CD73+CD90+」および「CD73+CD105+」の列を参照されたい)、骨髄幹細胞集団の62.8%のみがCD45の発現を欠き、かつ幹細胞集団の99.9%がCD34およびHLA-DRの発現を欠いていた(「CD34-CD45-」および「CD34-HLA-DR-」の列を参照されたい)。したがって、間葉系幹細胞の至適基準であると見なされる骨髄間葉系幹細胞は、本出願の(臍帯の羊膜の)間葉系幹細胞集団よりも、幹細胞マーカーに関して均一性/純度がはるかに低い。この知見から、本発明の幹細胞集団が、幹細胞ベースの療法の理想的な候補となり得、幹細胞ベースの治療アプローチの至適基準になり得ることもまた示される。
【0158】
4. 本発明の間葉系幹細胞集団がHypoThermosol(商標)中で輸送/貯蔵され得ることを示す実験:
異なる貯蔵または輸送担体中の本明細書に記載される間葉系幹細胞の健常性および生存率を解析するために、2つの異なる担体を互いに比較した。すなわち、担体HypoThermosol(商標)-FRSを担体PlasmaLyte-Aと比較した。両方とも市販されている。HypoThermosol(商標)-FRSの製品シートは
図30に示され、その組成は本明細書の他所に記載される。PlasmaLyte各100 mLは、526 mgの塩化ナトリウム、USP (NaCl);502 mgのグルコン酸ナトリウム (C
6H
11NaO
7);368 mgの酢酸ナトリウム三水和物、USP (C
2H
3NaO
2・3H
2O);37 mgの塩化カリウム、USP (KCl);および30 mgの塩化マグネシウム、USP (MgCl
2・6H
2O) を含有する。PlasmaLyteは抗菌剤を含有しない。PlasmaLyteのpHは、水酸化ナトリウムで7.4(6.5~8.0)に調整される。
【0159】
比較のための実験設定を
図8に示す。最初に、本明細書に記載される間葉系幹細胞集団を細胞培養フラスコ中で増殖させた。生存間葉系幹細胞の数を計数し、次いで細胞200万個/バイアルを、PlasmaLyte-A中またはHypoThermosol(商標)-FRS中のいずれかで様々な期間貯蔵した。貯蔵後、1~5日目に毎日、≦50μlの試料で細胞を計数し(液体取り出し総量250μl)、細胞をトリパンブルーで染色することにより生存率を調べた。さらに、1日目、3日目、および5日目に、≦80μlの試料を採取し解析した。加えて、上清を得て凍結した。次いで、PDGF-AA、PDGF-BB、VEGF、IL-10、Ang-1、HGF、およびTGFβ1を、FLEXMAP 3Dシステムにより測定した。
【0160】
図9は生存率データを要約する。左側のグラフからわかるように、HypoThermosol(商標)中での貯蔵の7日後に、貯蔵を開始した全細胞(約95%)の73%がなお生存可能であった。それに反して、PlasmaLyte-A中での7日間の貯蔵後には、貯蔵を開始した全細胞(約94%)の42%のみがなお生存可能であった。計数はすべて、互いに10%以内である2つ組の読み取り値に基づいた(SOP CR D2.600.1に従う)。計数中、HypoThermosol(商標)中で貯蔵された細胞は、滑らかでかつ明確な輪郭を有して、著しくより小さかった。対照的に、Plasmalyte-A中の細胞は様々なサイズで出現した。HypoThermosol(商標)は、1週間の期間(6日間)にわたって、膜の完全性およびおそらくは生存を著しく支持する。同様の結果はまた、右側のグラフにおいても示される。
【0161】
図10は、細胞の細胞直径を測定した際に得られた結果を示す。HypoThermosol(商標)中で維持された場合の本明細書に記載される間葉系幹細胞集団は、PlasmaLyteA中で維持された細胞と比較して、直径範囲がより狭い。比較は3日間の貯蔵後に行った。
【0162】
図11は、HypoThermosol(商標)またはPlasmaLyte-A中で貯蔵された本明細書に記載される間葉系幹細胞集団からの、貯蔵の48時間後の上清中のTGFβ1濃度を示す。右側のグラフからわかるように、HypoThermosol(商標)中で貯蔵された場合とPlasmaLyte-A中で貯蔵された場合とでは、細胞はほぼ同量のTGFβ1を分泌する。一般的に、時間経過と共に、分泌されるTGFβ1の量は減少した(右側のグラフ)。
【0163】
図12および13は対照実験を示す。ここでは、PDGF-BBおよびIL-10濃度を、HypoThermosol(商標)またはPlasmaLyte-A中で貯蔵された本明細書に記載される間葉系幹細胞集団からの、48時間の上清中で測定した。PDGF-BBもIL-10も、本明細書に記載される間葉系幹細胞集団によって通常分泌されないため、PDGF-BBもIL-10も、いずれの試料においても検出可能ではなかった。
【0164】
図14は、HypoThermosol(商標)またはPlasmaLyte-A中で貯蔵された本明細書に記載される間葉系幹細胞集団からの、48時間の上清中のVEGF濃度を示す。右側のグラフからわかるように、細胞は、0日目に、HypoThermosol(商標)またはPlasmaLyte-A中で貯蔵された場合にほぼ同量のVEGFを分泌する。1日目および5日目には、細胞は、PlasmaLyte-A中で貯蔵された場合に、より多くのVEGFを分泌した。注目すべきことには、3日間貯蔵された場合、細胞は、PlasmaLyte-A中で貯蔵された場合よりもHypoThermosol(商標)中で貯蔵された場合に、より多くのVEGFを分泌した。したがって、貯蔵の3日後、HypoThermosol(商標)はPlasmaLyte-Aよりも優れている。より多くのVEGFが検出されればされるほど、培養物はより健常である。したがって、PlasmaLyte-A中で貯蔵された場合よりもHypoThermosol(商標)中での3日間の貯蔵後に、より多くのVEGFを分泌することによって、細胞はPlasmaLyte-A中よりもHypoThermosol(商標)中でより健常である。5日間の貯蔵以降は、PlasmaLyteがより有利な担体になると考えられるが、それは、5日の時点で、PlasmaLyte-A中で貯蔵された細胞がより多くのVEGFを分泌したからである。一般的に、時間経過と共に、分泌されるVEGFの量は減少した(右側のグラフ)。
【0165】
図15は、HypoThermosol(商標)またはPlasmaLyte-A中で貯蔵された本明細書に記載される間葉系幹細胞集団からの、48時間の上清中のPDGF-AA濃度を示す。右側のグラフからわかるように、細胞は、0日目に、HypoThermosol(商標)中で貯蔵された場合に、PlasmaLyte-A中で貯蔵された場合と比較して、ほぼ同量のPDGF-AAを分泌する。1日目および5日目には、細胞は、PlasmaLyte-A中で貯蔵された場合に、より多くのPDGF-AAを分泌した。注目すべきことには、3日間貯蔵された場合、細胞は、PlasmaLyte-A中で貯蔵された場合よりもHypoThermosol(商標)中で貯蔵された場合に、より多くのPDGF-AAを分泌した。したがって、貯蔵の3日後、HypoThermosol(商標)中で貯蔵された細胞は、PlasmaLyte-A中で貯蔵された細胞よりもより健常である。5日間の貯蔵以降は、PlasmaLyteがより有利な担体になると考えられるが、それは、5日の時点で、PlasmaLyte-A中で貯蔵された細胞がより多くのPDGF-AAを分泌したからである。一般的に、時間経過と共に、分泌されるPDGF-AAの量は減少した(右側のグラフ)。
【0166】
図16は、HypoThermosol(商標)またはPlasmaLyte-A中で貯蔵された本明細書に記載される間葉系幹細胞集団からの、48時間の上清中のAng-1濃度を示す。右側のグラフからわかるように、細胞は、0日目および3日目に、HypoThermosol(商標)またはPlasmaLyte-A中で貯蔵された場合にほぼ同量のAng-1を分泌する。5日目に、細胞は、PlasmaLyte-A中で貯蔵された場合に、より多くのAng-1を分泌した。注目すべきことには、1日貯蔵された場合、細胞は、PlasmaLyte-A中で貯蔵された場合よりもHypoThermosol(商標)中で貯蔵された場合に、はるかにより多くのAng-1を分泌した。したがって、HypoThermosol(商標)中で貯蔵された細胞は、PlasmaLyte-A中で貯蔵された場合よりも、3日間の貯蔵までは少なくとも48時間にわたって、より健常であると考えられる。5日間の貯蔵以降は、PlasmaLyteがより有利な担体になると考えられるが、それは、この時点で、PlasmaLyte-A中で貯蔵された細胞がより多くのAng-1を分泌したからである。一般的に、時間経過と共に、分泌されるAng-1の量は減少した(右側のグラフ)。
【0167】
図17は、HypoThermosol(商標)またはPlasmaLyte-A中で貯蔵された本明細書に記載される間葉系幹細胞集団からの、貯蔵の48時間後の上清中のHGF濃度を示す。右側のグラフからわかるように、細胞は、0日目に、HypoThermosol(商標)中で貯蔵された場合に、PlasmaLyte-A中で貯蔵された場合と比較して、ほぼ同量のHGFを分泌する。3日目および5日目には、細胞は、PlasmaLyte-A中で貯蔵された場合に、より多くのHGFを分泌した。注目すべきことには、1日貯蔵された場合、細胞は、PlasmaLyte-A中で貯蔵された場合よりもHypoThermosol(商標)中で貯蔵された場合に、はるかにより多くのHGFを分泌した。したがって、HypoThermosol(商標)中で貯蔵された細胞は、PlasmaLyte-A中で貯蔵された細胞よりも、3日間の貯蔵までは少なくとも1日(48時間)の間、より健常であると考えられる。3日以降は、PlasmaLyte-Aがより有利な担体になると考えられるが、それは、3日および5日の時点で、PlasmaLyte-A中で貯蔵された細胞がより多くのHGFを分泌したからである。一般的に、時間経過と共に、分泌されるHGFの量は減少した(右側のグラフ)。
【0168】
上記のデータから要約すると、HypoThermosol(商標)中での本発明の間葉系幹細胞集団の貯蔵は、特に最初の3日間の貯蔵に関して、PlasmaLyte-A中での貯蔵よりも優れていると結論づけることができる。
【0169】
5. ブタの局所処置によって、本発明の間葉系幹細胞集団が創傷治癒特性を有することを示す実験:
10週齢の雌のヨークシャー・ランドレースブタ (50 kg) を用いて、前臨床試験もまた行った。処置は、シンガポールのSingHealth Experimental Medicine Centreで行われた。ブタを120 mg/kgストレプトゾトシンを用いて糖尿病にし、45日間回復させてから、それらの背中に5 cm×5 cmの全層創傷を6個作製した(
図18を参照されたい)。ブタ (n = 2) を、1 cm
2当たり10
5個の本明細書に記載されるヒト間葉系幹細胞集団で、週に2回、4週間にわたって処置した。2匹の対照ブタはPBSで処置した。術後0日目(PO 0日目)、および術後35日目まで7日ごとに、創傷を撮影した。創傷を、ImageJによって表面積サイズについて解析した。35日目までに、本明細書に記載される間葉系幹細胞集団の添加により、PBS処置された対照創傷の12個中3個のみ (25%) と比較して、12個中10個の糖尿病性創傷 (83%) が閉鎖した。創傷治癒の速度は、対照動物における0.6 cm
2/日と比較して、本明細書に記載される間葉系幹細胞集団を用いて0.8 cm
2/日であり、33%の改善であった。本試験の結果を
図18に要約する。
【0170】
ブタモデルは自然発生的ではないが、皮膚構造はヒトに最も酷似している。このデータにより、本発明の臍帯ライニング間葉系幹細胞集団が、重篤な有害副作用のリスクなしに創傷治癒を改善することが示唆される。したがってこれらのデータにより、本明細書に記載されるヒト臍帯ライニング間葉系幹細胞集団が、炎症を抑制し、血管新生を促進することによって、慢性創傷の治癒を促進することができるという仮説が強く支持される。さらに、異種間葉系幹細胞をマウスまたはブタのいずれに使用しても、炎症の徴候は明らかに存在せず、したがって、同種間葉系幹細胞がヒトにおいて任意の重篤な有害作用をもたらす可能性は非常に低い。
【0171】
6. 本明細書に記載される間葉系幹細胞がヒトの局所処置において有効であることを示す実験:
本明細書に記載される間葉系幹細胞がヒトの局所処置において有効であることを示す実験は、WO2007/046775に記載されている。特に、WO2007/046775の実施例23~26に説明されているように、臍帯の羊膜の間葉系幹細胞 (UCMC) は、全層性熱傷(実施例23)、部分層創傷(実施例24)、非治癒性の放射線創傷(実施例25)、ならびに非治癒性の糖尿病性創傷および非治癒性の糖尿病性足創傷(実施例26)を緩和することができた。注目すべきことには、WO2007/046775の実施例2に従って、間葉系幹細胞はPTT-4培地中に再懸濁された。
【0172】
注目すべきことには、
図6bおよび
図6cにおいて示されるように、PTT6(本明細書で使用された)培養液を使用した場合の培養によって得られた幹細胞集団は、PTT4培地(WO2007/046775において使用された)を使用することによって得られた細胞の集団よりも、顕著により均一である。WO2007/046775の実施例23~26では、PTT-4が間葉系幹細胞のための培地として使用されたため、PTT-6(本明細書で使用された)中での培養後に単離された、さらにより均一な間葉系幹細胞集団が、全層性熱傷、部分層創傷、非治癒性の放射線創傷、ならびに非治癒性の糖尿病性創傷および非治癒性の糖尿病性足創傷などの創傷治癒適用において同様の有益な効果を有することは明らかである。
【0173】
7. 本明細書に記載される間葉系幹細胞がヒトの局所処置において有効であることを示す実験:
これは、Aurora, ColoradoのUniversity of Colorado Anschutz Medical Campusにおいて行われた、本明細書に記載されるように得られた間葉系幹細胞集団の漸増用量の計画試験である。本試験の目的は、本明細書に記載される間葉系幹細胞集団(ヒト臍帯ライニング間葉系幹細胞)の安全な用量を決定することである。これは、3つの用量レベルのそれぞれに5名の被験者を登録して合計15名の被験者を対象とする、単一施設の用量漸増試験である。患者5名の第1群は、MSC 100,000個/cm2(皮膚/創傷領域)を8週間にわたって週に2回受ける。患者5名の第2群は、MSC 300,000個/cm2を8週間にわたって週に2回受ける。患者5名の第3群は、MSC 500,000個/cm2を8週間にわたって週に2回受ける。このスケジュールは、最高用量に到達するまで、または用量レベルにおける少なくとも2名の被験者が、本明細書において得られた間葉系幹細胞集団に関連していると疑われる≧グレード2のアレルギー反応を起こすか、または用量レベルにおける2名もしくはそれ以上の被験者が、本明細書に記載されるように得られた間葉系幹細胞集団の初回用量後14日以内に、予期せぬ、処置に関連した重篤な有害事象もしくは用量制限毒性を経験するまで、継続される。患者全員を、処置の30日後に、抗HLA抗体の産生および創傷閉鎖について評価する。現時点では、HLA抗体の産生が特定の用量の絶対的な禁忌であると見なしてはいないが、それは安全性の総合的な評価の要因となる。これは非盲検試験であり、すべての被験者が試験薬を服用し、すべての試験担当者はそれぞれの被験者が受ける用量を知ることになる。本試験の二次エンドポイントは、創傷の状態の有意な改善である。このエンドポイントは、Silhouette Wound Measurement and Documentation Systemを使用して測定された創傷閉鎖の速度、創傷面積が順調に閉鎖された割合、および創傷が完全に閉鎖された割合に基づいている。この装置は、この目的のためにFDAによって承認されている。
【0174】
被験者集団
少なくとも30日間の従来の治療の後でも治癒していない慢性足部潰瘍を伴うI型またはII型糖尿病患者で、本明細書に記載される間葉系幹細胞集団に対するHLA抗体について陰性である患者。患者は、登録時に開始される最初の2週間は従来の創傷治処置を継続し、その時点で既に、30日間治癒していない糖尿病性足部潰瘍のスクリーニングを受けている。この時点で、創傷パラメータの写真記録および測定を開始する。最初の2週間は、従来のドレッシング材交換を週に2回行い、その後、本明細書に記載される間葉系幹細胞集団を、指定された濃度で週に2回創傷に適用する。本明細書に記載される間葉系幹細胞集団で処置した創傷はまた、Tegaderm(登録商標)およびクレープドレッシング材で覆う。
【0175】
用量レベル
本試験の目的は、さらなる試験のために、本明細書に記載されるヒト臍帯ライニング間葉系幹細胞の安全な用量を決定することである。患者を、3つの用量:細胞100,000個/1 cm2の皮膚/創傷部位、細胞300,000個/cm2、または細胞500,000個/cm2のうちの1つで、8週間にわたって週に2回処置する。それぞれ細胞100,000個の用量は、HypoThermosol中に細胞100万個/mlを含むバイアルからの、本明細書に記載される間葉系幹細胞集団0.1 mlを表す。
【0176】
投与計画
これは、本明細書に記載される間葉系幹細胞の漸増用量の安全性および忍容性試験である。本試験の目的は、さらなる試験のために、本明細書に記載されるヒト臍帯ライニング間葉系幹細胞の安全な用量を決定することである。3つの用量レベルのそれぞれに5名の被験者を登録する。患者5名の第1群は、MSC 100,000個/1 cm2の皮膚/創傷部位を8週間にわたって週に2回受ける。患者5名の第2群は、MSC 300,000個/cm2を8週間にわたって週に2回受ける。患者5名の第3群は、MSC 500,000個/cm2を8週間にわたって週に2回受ける。このスケジュールは、最高用量に到達するまで、または用量レベルにおける少なくとも2名の被験者が、本明細書に記載される間葉系幹細胞に関連していると疑われる≧グレード2のアレルギー反応を起こすか、または用量レベルにおける2名もしくはそれ以上の被験者が、本明細書に記載される間葉系幹細胞集団の初回用量後30日以内に、予期せぬ、処置に関連した重篤な有害事象もしくは用量制限毒性を経験するまで、継続される。患者全員を、処置の30日後に、抗HLA抗体の産生および創傷閉鎖の程度について評価する。現時点では、HLA抗体の産生が特定の用量の絶対的な禁忌であると見なしてはいないが、それは安全性の総合的な評価の要因となる。これは非盲検試験であり、すべての被験者が試験薬を服用し、すべての試験担当者はそれぞれの被験者が受ける用量を知ることになる。
【0177】
投与経路
本明細書に記載される間葉系幹細胞集団は、創傷清拭した糖尿病性足部潰瘍に局所適用し、Tegaderm(登録商標)包帯によって所定の位置に保持する。
【0178】
投与手順
必要に応じて適切な創傷清拭の後に、患者を腹臥位にし、罹患した脚を90°の角度で曲げる。本明細書に記載される間葉系幹細胞集団のこのバイアルを、細胞の均等な分布を確実にするために穏やかに旋回させる。次いで、滅菌シリンジを用いてバイアルから1 cm2当たり100,000個 (0.1 ml)~500,000個 (0.5 ml) の細胞を取り出し、それを創傷の中心に配置することにより、高くした足を処置する。次いで、創傷をTegaderm(登録商標)膜で密封し、細胞を均一に分布させるために優しくマッサージする。細胞が定着して付着するように、足を高い状態で5分間維持する。次いで、Tegaderm(登録商標)ドレッシング材を覆うように、足にクレープ包帯を巻く。
【0179】
8. 間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤(細胞の99%超がCD73、CD90、およびCD105のそれぞれを発現し、かつCD34およびHLA-DRの発現を欠く幹細胞集団を含む)の調製
4回目の細胞継代後の処理の準備(ステージ4処理):
ステージ4処理は、典型的には、環境モニター (EM) クリーンルーム内で行う。必要な溶液および器具は、使用できるようにあらかじめ準備しておかなければならない。
【0180】
細胞をクライオバイアルからラベル付きの50ml遠心管に移す。
【0181】
冷蔵庫から取り出して5分以内の完全PTT6培地を使用する(冷蔵庫からPTT6培地を取り出した時間を記録する)。混合を促進するために穏やかに旋回させながら、9mlの完全PTT6培地をゆっくりと細胞に添加する。
【0182】
1200rpm、室温(15~25℃)で 5分間遠心分離して、細胞をペレット化する。遠心機の使用を遠心機定期予防メンテナンス記録用紙-CRに記録し、SOP遠心機予防メンテナンスに従って性能を検証する。
【0183】
上清を除去し、十分な完全PTT6培地中に細胞を再懸濁して、計数する。
【0184】
計数:
細胞濃度を決定するために(トリパンブルーを用いてまたは用いずに)、TC20で細胞計数を行う。TC20は広範囲の細胞濃度(5×104~1×107個細胞/ml)に対応するため、ほとんどの場合、試料の希釈は必要ない。
【0185】
生存率を決定するために、同じSOPに従って血球計算盤で計数する。少なくとも合計200個の細胞が計数されることを確認する。
【0186】
生存率と細胞濃度の両方が血球計算盤を介して所望される場合には、血球計算盤の範囲(外側の四角当たり細胞20~100個)に対応するように、懸濁液を希釈しなければならない可能性がある。推定1000万個の解凍された細胞が再懸濁される場合、6mlの体積がその範囲をもたらすはずである。
【0187】
治療用培養物 (P4):
完全PTT6培地 30ml中に175cm2フラスコ当たり300,000個の生細胞を播種し、35~39℃、4~6% CO2でインキュベートする。SOPインキュベーター予防メンテナンスおよび一般的使用に従って、インキュベーター予防メンテナンスが最新であることを確認する。フラスコにP1~P4 MSC処理ラベルを貼る。
【0188】
ひとたび大部分の細胞が接着したならば(好ましくは一晩)、クリーンルーム内に位置する倒立Nikon顕微鏡下で指標フラスコの大まかな検査を行い、フラスコに、著しく高い密度の細胞を含有する領域があるかどうかを判断する。その場合、その領域をCytoSmartによる連続モニタリングに使用する。複数のフラスコに播種する場合、単一のフラスコを代表的な「指標」フラスコとして使用してもよい。選択肢として、CytoSmartのeメールアラート通知を、「指標」フラスコに対して60%、70%、および80%の集密に設定する。
【0189】
2~3日ごとに、フラスコ当たり30mlの予め加温した新たな完全PTT6で培地を交換し、インキュベーションを継続する。
【0190】
細胞の増殖が80%±10%の集密に達した時点で、MSCを以下のように回収する:
Ca2+およびMg2+不含HBSS 10 mlで各フラスコをリンスする。
【0191】
フラスコ当たり5mlの1×TrypLEを添加する。フラスコを傾けて表面全体をコーティングし、フラスコを傾け、滅菌済み血清用ピペットでTrypLEの大部分を除去することにより、直ちにTrypLEを吸引除去し、表面を覆うのに十分なTrypLEのみを残す。吸引したTrypLEは廃棄する。
【0192】
細胞を脱離させる(15~25℃で10~20分)。フラスコを30~45°傾けて、細胞が重力流により下方に移動できるようにする。フラスコの側面を穏やかにタッピングして、脱離を促進させる。フラスコを倒立顕微鏡下でモニターして、すべての細胞が脱離したことを確認する。
【0193】
Ca2+およびMg2+不含HBSS 5mlを最初のフラスコに添加する。ピペットで穏やかに上下させ、次いで細胞懸濁液を次のフラスコに移す。すべてのフラスコから細胞が回収されるまでこれを繰り返し、処理ラベルを貼った50ml遠心管に移す。
【0194】
新たな5mlのCa2+およびMg2+不含HBSSでこれを繰り返し、懸濁液と混合する。
【0195】
細胞がすべて除去されたことを顕微鏡下で確認し、必要であれば3回目を繰り返して、すべてのフラスコ内の細胞を回収する。
【0196】
混合した細胞懸濁液を、1200rpm、15~25℃で5分間遠心分離する。遠心機の使用を遠心機定期予防メンテナンス記録用紙-CRに記録し、性能を検証する。
【0197】
回収された細胞懸濁液を調製する:
ペレットを乱すことなく上清を除去し、適切なサイズの血清用ピペットを用いて、回収されたフラスコ当たり1.0mlの完全PTT6培地中に細胞を再懸濁する。培地は予め加温しておく必要はない。
【0198】
完全PPT6培地中に再懸濁された細胞を、1200rpm、室温で5分間遠心沈殿させる。
【0199】
ペレットを乱すことなく完全PTT6上清を除去し、適切なサイズの血清用ピペットを用いて、回収されたフラスコ当たり1.0mlの「Plasmalyte中の1% HSA」中にペレットを穏やかに再懸濁する。これが、回収された細胞懸濁液である。この時点以降は、回収された細胞懸濁液を冷却ブロック中で保持する。
【0200】
回収された細胞懸濁液を計数する:
回収された細胞懸濁液からの計数のための各サンプリングに先立ち、細胞が十分に混合されていることを確実にする。
【0201】
細胞濃度を決定するために(トリパンブルーを用いてまたは用いずに)、SOP細胞計数および生存率アッセイに従って、TC20で計数する。TC20は広範囲の細胞濃度(5×104~1×107個細胞/ml)に対応するため、ほとんどの場合、試料の希釈は必要ない。
【0202】
生存率を決定するために、同じSOPに従って血球計算盤で計数する。少なくとも合計200個の細胞が計数されることを確認する。
【0203】
バイアル充填懸濁液を調製する(50mlコニカルに入れて冷却ブロック中で冷却しておく):
回収された細胞懸濁液の前回の計数に基づいて、必要な患者用量を調製するのに必要な回収された細胞懸濁液および「HypoThermosol中の1% HSA」の体積を決定する。コニカルチューブに適切なラベルを貼る。バイアル充填懸濁液を含有するコニカルは、予め冷却されたそれ自体の冷却ブロック中で保持する。
【0204】
HypoThermosolおよび調製された「HypoThermosol中の1% HSA」は、冷蔵温度範囲(2~8℃)で貯蔵および使用され、そのためバイアル充填懸濁液は冷却ブロック中で保持する。
【0205】
この最終懸濁液を調製するために用いられた各構成成分(HSA、Plasmalyte-A、およびHypoThermosol-FRS)の体積を記録する。この体積に基づいて、各AT-Closed Vial中に存在するHSA、Plasmalyte、およびHypoThermosolの体積もまた記録する。
【0206】
バイアル充填懸濁液を計数する:
バイアル充填懸濁液からの計数のための各サンプリングに先立ち、細胞が十分に混合されていることを確実にする。
【0207】
細胞濃度を決定するために(トリパンブルーを用いてまたは用いずに)、SOP細胞計数および生存率アッセイに従って、TC20で計数する。
【0208】
生存率を決定するために、同じSOPに従って血球計算盤で計数する。少なくとも合計200個の細胞が計数されることを確認する。生存率試験は、VLSで1回のみ実施することができる。
【0209】
AT-Closed Vialを以下のように充填する:
予め入れておいたシリンジ+針を冷蔵庫から取り出し、バイオセーフティキャビネット (BSC) に入れる。
【0210】
CoolRackSV10/XT Cooling Coreアセンブリ中に予め入れておいたAT-Closed Vialを冷蔵庫から取り出し、その装置をBSCキャビネット内に配置する。30分以内に充填が完了することを確実にするために、タイマーをスタートさせる。
【0211】
注入ポートをアルコール綿で拭く。
【0212】
バイアルに充填する前に、滅菌済み22G針をストッパーの中央付近に挿入して、バイアルに孔をあける(これは、充填中のバイアルの加圧を避けるためである)。
【0213】
バイアル装填懸濁液を旋回させて混合し、次いで気泡を入れずにゆっくりとそれをシリンジ内に引き込む。シリンジでストッパーの中央に孔をあけ、気泡が入らないように注意しながら、各AT-Closed Vialに1.0mlを注入する(シリンジのメニスカスからメニスカスまでを読む)。
【0214】
充填シリンジを取り外し、次いで圧力放出針を取り外す。
【0215】
バイアルポートを付属のキャップで覆い、全体をしっかりと押さえる。CoolRackSV10に戻し、2~8℃で貯蔵し、目的地に輸送する。
【0216】
P4後のサイトカイン評価のための試料採取(サイトカインアッセイは、各ロット番号、すなわち同一のCBU #およびドナー組織のロット#につき少なくとも1回実施する):
上記からのバイアル充填懸濁液の濃度に基づき、6ウェルプレートの少なくとも1つのウェルに、1ウェル当たり合計100,000個の(生+死)細胞が分注されるように、十分な体積のバイアル充填懸濁液を分注する。各ウェル中の総体積が2mlとなるように、各ウェルに既に添加されている十分な完全PTT6培地にバイアル充填懸濁液を直接添加する。インキュベーション開始時間を記す。
【0217】
48時間±1時間インキュベートする。インキュベーションの終了時に以下を行う。
【0218】
各ウェルのほぼ中央にランダムに位置する代表的なCytoSmart画像を1枚撮影する。
【0219】
各ウェルからラクタートを測定し、ラクタート試験結果記録用紙に報告する。
【0220】
各ウェルから培地を収集し、1200rpm、室温で5分間遠心分離する。遠心機の使用を遠心機定期予防メンテナンス記録用紙-CRに記録し、性能を検証する。
【0221】
培地上清をクライオチューブに分注し、収集の1時間以内に凍結する。貯蔵場所をバッチ記録に記す。
【0222】
9. 貯蔵/輸送中のMSCの増殖および代謝の安定性試験
臍帯組織および初期の継代からの細胞は、-195℃で貯蔵し、安定性について試験してある。
【0223】
陽性マーカーおよび陰性マーカーに関して99%超の純度を有する、本明細書に記載される間葉系臍帯ライニング幹細胞 (MSC)(この点に関しては
図7を参照)の当初の安定性試験は、単独のHypoThermosol(登録商標)中の生存MSCからなる最終産物で行われていた。間葉系幹細胞の固有の特性およびHypoThermosol(登録商標)の粘性の結果として、間葉系幹細胞の接着が起こっていることが、実際の製造操作中に見出された。
【0224】
分配時にMSCを単独のHypoThermosol(登録商標)に入れることによる細胞の損失、ステージ4処理の様々な段階でのプラスチックへのMSCの接着を軽減するため、および分配時に用いられるバイアルからの薬物製品の回収を最大化するためには、Plasmalyteおよびヒト血清アルブミン (HSA) の2つの薬学的不活性成分が、添加された場合に、最終薬物製品の品質を最適化できることが判明した。
【0225】
これらの2つの薬学的不活性成分の添加が最終薬物製品の安定性に悪影響を及ぼさないことを裏付けるために、新たな安定性試験を実施した。結果を
図33に示す。
【0226】
生存率解析
間葉系幹細胞を、1 mLのPlasmalyte/HSA/HypoThermosol(登録商標)中、バイアル当たり細胞106個でAT-Closed Vial(登録商標)に播種した。個々のバイアルを様々な時点でサンプリングし、トリパンブルーで生存率を手動で評価し(血球計算盤)、自動システム (TC20) により全細胞数を集計した。
【0227】
創傷に適用する前の製品の輸送および貯蔵を模倣するために、MSCを2~8℃で1~3日間貯蔵した。
図33aに示されるように、細胞は、これらの条件下で3日間まで生存率の著しい低下を示さなかった。
【0228】
外観解析
MSCを、AT-Closed Vialから取り出し、37℃で24時間培養した後に撮影した。以下に見られるように、低温貯蔵において2日までに得られた細胞は、組織培養プレートに接着し、典型的な紡錘形構造を形成することができた。2~8℃で2.5日間貯蔵した後、細胞は次第に球状形状を示し、死滅しかけている細胞であることが示唆された。結果を
図33bに示す。
【0229】
増殖および代謝の解析
図33aに示した同じ培養物からのMSCを、37℃での培養において48時間にわたり、代謝および成長の指標としてラクタート産生についてアッセイした。2~8℃で24時間貯蔵した細胞は、0時間貯蔵した細胞と代謝および成長が同等であり、36時間貯蔵した細胞は、対照ラクタート産生の86%を示した。2~8℃で72時間までは、その後培養した場合に、細胞は46%程度の代謝しか示さなかった。結果を
図33cに示す。
【0230】
個々のバイアルを、確立された3日間の細胞生存率閾値に基づいて、0、1、1.5、2、2.5、および3日目にさらに試験した。密封したバイアルから細胞を取り出した直後にトリパンブルー生存率試験を実施したところ、2.5日間にわたって生存率の明らかな低下はなかった(92~98%の範囲)。また細胞を標準的なPTT6培地中に細胞105個/cm
2でプレーティングし、24時間後および48時間後にラクタート産生を測定した。ラクタートはグルコース代謝の産物であり、本発明者らは、これがMSCの細胞成長の速度に正比例することを検証済みである。
図33dは、Plasmalyte/HSA/HypoThermosol(登録商標)中で0、1、1.5、2、2.5、または3日間貯蔵し、次いで培養24時間後および48時間後に測定した、MSCによるラクタート産生を示す。Plasmalyte/HSA/HypoThermosol(登録商標)中で24時間貯蔵したMSCによる24時間および48時間時のラクタート産生(1日目)は、貯蔵していないMSC(0日目)と同じであった。3日目までに、ラクタート産生は40~45%低下していた。
【0231】
サイトカイン産生の解析
37℃で24時間の時点で、同じ培養物からサイトカイン産生を測定した。代謝データと合致して、細胞を2~8℃で24時間貯蔵した場合、MSCがAng-1、TGFβ、VEGF、およびHGFを産生する能力は、対照(0日目)の10~20%以内であった。
図33eに示した結果から、細胞をPlasmalyte/HSA/HypoThermosol(登録商標)中、2~8℃で24時間貯蔵した場合、MSCがVEGF、アンジオポエチン-1、TGF-β、およびHGFを産生する能力は維持されたことが示される。しかしながら、MSCがVEGFおよびアンジオポエチン-1を産生する能力は、>2日間貯蔵した場合におよそ50%減少した。HGFの結果は、24時間は同様に保たれていたが、>2日間貯蔵した場合に>70%低下した。TGF-βの結果から、Plasmalyte/HSA/HypoThermosol(登録商標)中、2~8℃で>2日間貯蔵した場合、MSCがTGF-βを産生する能力は約75%維持されることが示される。
【0232】
Plasmalyte/HSA/HypoThermosol(登録商標)中で0、1、1.5、2、2.5、または3日間貯蔵したMSCにおけるサイトカイン産生の別の解析により、最初のサイトカイン解析産生によって得られた結果を検証した(
図33e)。結果から、細胞をPlasmalyte/HSA/HypoThermosol(登録商標)中、2~8℃で24時間貯蔵した場合、MSCがVEGF、アンジオポエチン-1、およびTGF-βを産生する能力は維持されたことが示される。さらに、>2日間貯蔵した場合、VEGFおよびアンジオポエチン-1の分泌レベルはおよそ50%減少し、TGF-βの分泌レベルはおよそ25%減少した。
【0233】
要約すると、これらの試験中に細胞によって示された生存率、外観、代謝、およびサイトカイン産生に基づいて、製品のバイアル閉鎖から72時間の有効期限を設定することができる。したがって、原則として(先進国)世界のいずれの場所にも72時間以内に航空移動によって到達することができるため、本発明の貯蔵および輸送製剤により本質的には、MSC生成施設から基本的には世界のいずれの場所にも生存MSCを輸送し、そこでMSCを対象に投与することが可能になる。したがって、本発明の貯蔵および/または輸送製剤は、薬学的に適切な間葉系幹細胞/幹細胞集団のGMP製造およびサプライチェーンの複雑さを有意に軽減し、それにより、間葉系幹細胞に基づく療法がより一般に容易に利用可能となる。
【0234】
本発明は、以下の項目によってさらに特徴づけられる。
1. 間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤を調製する方法であって、
該製剤は約50万個~約1000万個の間葉系幹細胞を含み、
a) 約0.5%~約5% (w/v) の血清アルブミンを含む、予め規定された体積の晶質液中に、間葉系幹細胞を懸濁し、それによって、第1の細胞懸濁液を得る段階、
b) 第1の細胞懸濁液中の間葉系幹細胞の濃度を決定し、かつ、約50万個~約1000万個の間葉系幹細胞を含む製剤を調製するのに必要な第1の細胞懸濁液の体積を決定する段階、
c) 決定された該体積の第1の細胞懸濁液を、
約0.5%~約5% (w/v) の血清アルブミンならびに以下:
i) トロロックス、
ii) Na+、
iii) K+、
iv) Ca2+、
v) Mg2+、
vi) Cl-、
vii) H2PO4-、
viii) HEPES、
ix) ラクトビオナート、
x) スクロース、
xi) マンニトール、
xii) グルコース、
xiii) デキストラン-40、
xiv) アデノシン、および
xv) グルタチオン
を含む、ある体積の液体担体
と混合し、それによって、約50万個~約1000万個の間葉系幹細胞を含む前記間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤を得る段階
を含む、方法。
2. 間葉系幹細胞を懸濁するために使用される晶質液の予め規定された体積が、約1 ml~約10 mlである、項目1の方法。
3. 第1の細胞懸濁液の前記決定された体積を、液体担体の前記体積と混合した後、間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤の総体積が約1 mlである、項目1または2の方法。
4. 製剤が約50万個~約1000万個の生存間葉系幹細胞を含む、項目2の方法。
5. 製剤が約100万個、約300万個、または約500万個の間葉系幹細胞を含む、項目1~4のいずれかの方法。
6. 間葉系幹細胞の数に関する「約」が、±1%、±2%、±3%、±4%、±5%、±6%、±7%、±8%、±9%、または±10%を意味する、前記項目のいずれかの方法。
7. 予め規定された体積の晶質液中に間葉系幹細胞を再懸濁する前に、該間葉系幹細胞が細胞培養容器から回収されている、前記項目のいずれかの方法。
8. 晶質液と液体担体の両方が、同じ濃度の血清アルブミンを含む、前記項目のいずれかの方法。
9. 晶質液と液体担体の両方が、約0.5%~約5% (w/v) の血清アルブミンを含む、項目8の方法。
10. 晶質液と液体担体の両方が、約1%~約5% (w/v) の血清アルブミンを含む、項目8または9の方法。
11. 晶質液と液体担体の両方が、約1%~約3% (w/v) の血清アルブミンを含む、項目8~10のいずれかの方法。
12. 晶質液と液体担体の両方が、約1% (w/v) の血清アルブミンを含む、項目8~11のいずれかの方法。
13. 血清アルブミンがヒト血清アルブミンである、前記項目のいずれかの方法。
14. 晶質液がナトリウム、カリウム、マグネシウム、および塩化物を含む、前記項目のいずれかの方法。
15. 晶質液がPlasmaLyteまたは乳酸リンゲル液である、前記項目のいずれかの方法。
16. 間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤が、20%以下のPlasmaLyteを含む、項目15の方法。
17. 間葉系幹細胞が、臍帯の間葉系幹細胞、胎盤の間葉系幹細胞、臍帯-胎盤接合部の間葉系幹細胞、臍帯血の間葉系幹細胞、骨髄の間葉系幹細胞、および脂肪組織由来の間葉系幹細胞からなる群より選択される間葉系幹細胞である、前記項目のいずれかの方法。
18. 臍帯の間葉系幹細胞が、羊膜の間葉系幹細胞、血管周囲の間葉系幹細胞、ワルトン膠様質の間葉系幹細胞、臍帯の羊膜の間葉系幹細胞からなる群より選択される、項目17の方法。
19. 臍帯の羊膜の間葉系幹細胞が、間葉系幹細胞集団であり、該間葉系幹細胞集団の少なくとも約90%またはそれ以上の細胞が、以下のマーカー:CD73、CD90、およびCD105のそれぞれを発現する、項目17または18の方法。
20. 間葉系幹細胞集団の少なくとも約90%またはそれ以上の細胞が、以下のマーカー:CD34、CD45、およびHLA-DRの発現を欠いている、項目19の方法。
21. 間葉系幹細胞集団の少なくとも約91%またはそれ以上、約92%またはそれ以上、約93%またはそれ以上、約94%またはそれ以上、約95%またはそれ以上、約96%またはそれ以上、約97%またはそれ以上、約98%またはそれ以上、約99%またはそれ以上の細胞が、CD73、CD90、およびCD105のそれぞれを発現し、かつCD34、CD45、およびHLA-DR(ヒト白血球抗原-抗原D関連)のそれぞれの発現を欠いている、項目19または20の方法。
22. 項目1~21のいずれかにおいて規定される方法によって得られた、間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤。
23. 項目1~21のいずれかにおいて規定される方法によって取得可能な、間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤。
24. 間葉系幹細胞を輸送する方法であって、
項目22または23において規定される間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤中で、該間葉系幹細胞を輸送する段階
を含む、方法。
25. 輸送が約7日間またはそれ未満にわたって行われる、項目24の方法。
26. 輸送が約6日間、約5日間、約4日間、約3日間、約2日間、約1日間、または約1日未満にわたって行われる、項目24または25の方法。
27. 輸送が約48時間もしくは約24時間またはそれ未満にわたって行われる、項目24~26のいずれかの方法。
28. 輸送が約-5℃~約15℃の温度で行われる、項目24~27のいずれかの方法。
29. 輸送が約2℃~約8℃の温度で行われる、項目24~28のいずれかの方法。
30. 輸送が、約-5℃を超える、約-10℃を超える、約-15℃を超える、または約-20℃を超える温度で実施される、項目24~29のいずれかの方法。
31. 疾患を有する対象を処置する方法であって、
項目22または23において規定される間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤中で貯蔵または輸送された間葉系幹細胞を、局所投与する段階
を含む、方法。
32. 間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤から間葉系幹細胞を分離した後に、該間葉系幹細胞が対象に投与される、項目31の方法。
33. 間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤からの間葉系幹細胞の分離が、遠心分離を含む、項目32の方法。
34. 間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤からの間葉系幹細胞の分離が、シリンジによってバイアルから細胞集団を取り出すことを含む、項目32および33の方法。
35. シリンジによって間葉系幹細胞を投与する段階を含む、項目31~34のいずれかの方法。
36. 間葉系幹細胞が、約300万個、約500万個、または約1000万個の細胞の投与量で適用される、項目31~35のいずれかの方法。
37. 間葉系幹細胞集団が、該間葉系幹細胞集団が回収された時点から約72時間以内に、約48時間以内に、約24時間以内に、約12時間以内に、約6時間以内に、またはそれ未満で適用される、項目31~36のいずれかの方法。
38. 間葉系幹細胞が、該間葉系幹細胞が回収された時点から約72時間以内に、約48時間以内に、約24時間以内に、約12時間以内に、約6時間以内に、またはそれ未満で適用される、項目37の方法。
39. 疾患が皮膚疾患または創傷である、項目31~38のいずれかの方法。
40. 創傷が、熱傷、咬傷、外傷、手術、または疾患に起因する、項目39の方法。
41. 創傷が糖尿病に起因し、創傷が好ましくは糖尿病性創傷である、項目40の方法。
42. 創傷が糖尿病性足部潰瘍である、項目41の方法。
43. 約1000万個の細胞、約500万個の細胞、約400万個の細胞、約300万個の細胞、約200万個の細胞、約100万個の細胞、約50万個の細胞、約25万個の細胞、または25万個未満の細胞の投与量が、週に1回または2回投与される、項目31~42のいずれかの方法。
44. 約1000万個の細胞、約500万個の細胞、約400万個の細胞、約300万個の細胞、約200万個の細胞、約100万個の細胞、約50万個の細胞、約25万個の細胞、または25万個未満の細胞の投与量が、3週間、4週間、もしくは5週間、もしくは6週間、もしくは7週間、もしくは8週間、もしくは10週間、またはそれ以上の週の期間にわたって、週に1回または2回投与される、項目43の方法。
45. 間葉系幹細胞が局所的に適用され、かつフィルムまたは包帯で覆われる、項目31~44のいずれかの方法。
46. 間葉系幹細胞が細胞約1000個/cm2~細胞約500万個/cm2の投与量で適用される、項目31~45のいずれかの方法。
47. 間葉系幹細胞が、細胞約100,000個/cm2、細胞約300,000個/cm2、または細胞約500,000個/cm2の投与量で適用される、項目31~46のいずれかの方法。
48. 間葉系幹細胞が、週に1回、2回、またはそれ以上の回数で適用される、項目31~47のいずれかの方法。
49. 間葉系幹細胞が、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、またはそれ以上にわたって適用される、項目31~48のいずれかの方法。
50. 間葉系幹細胞が、細胞約100,000個/cm2、細胞約300,000個/cm2、または細胞約500,000個/cm2の投与量で、約8週間にわたって週に2回適用される、項目31~49のいずれかの方法。
51. 項目1~21のいずれかにおいて規定される方法によって得られた、間葉系幹細胞の単位投与量。
52. 項目1~21のいずれかにおいて規定される方法によって取得可能な、間葉系幹細胞の単位投与量。
53. 1 mlの体積中に約50万個~約1000万個の間葉系幹細胞を含む、項目51または52の単位投与量。
54. 約100万個、約300万個、または約500万個の細胞を含む、項目53の単位投与量。
55. 臍帯の間葉系幹細胞が、羊膜の間葉系幹細胞、血管周囲の間葉系幹細胞、ワルトン膠様質の間葉系幹細胞、臍帯の羊膜の間葉系幹細胞からなる群より選択される、項目52~54のいずれかの単位投与量。
56. 臍帯の羊膜の間葉系幹細胞が間葉系幹細胞集団であり、該間葉系幹細胞集団の少なくとも約90%またはそれ以上の細胞が、以下のマーカー:CD73、CD90、およびCD105のそれぞれを発現する、項目55の単位投与量。
57. 間葉系幹細胞集団の少なくとも約90%またはそれ以上の細胞が、以下のマーカー:CD34、CD45、およびHLA-DRの発現を欠いている、項目56の単位投与量。
58. 間葉系幹細胞集団の少なくとも約91%またはそれ以上、約92%またはそれ以上、約93%またはそれ以上、約94%またはそれ以上、約95%またはそれ以上、約96%またはそれ以上、約97%またはそれ以上、約98%またはそれ以上、約99%またはそれ以上の細胞が、CD73、CD90、およびCD105のそれぞれを発現し、かつCD34、CD45、およびHLA-DR(ヒト白血球抗原-抗原D関連)のそれぞれの発現を欠いている、項目56または57の単位投与量。
【0235】
本発明の範囲および精神から逸脱することなく、本明細書に開示された本発明に対して種々の置き換えおよび修正を行うことができることは、当業者に容易に明白であろう。
【0236】
本明細書において言及されるすべての特許および出版物は、本発明が関連する当技術分野における当業者のレベルを示す。特許および出版物はすべて、個々の出版物が具体的にかつ個別に参照により組み入れられることが示されるのと同程度に、参照により本明細書に組み入れられる。
【0237】
本明細書において例示的に記載された発明は、本明細書において具体的に開示されていない任意の1つまたは複数の要素、1つまたは複数の制限の不在下で適切に行うことができる。したがって、例えば、「含む (comprising)」、「含む (including)」、「含有する」等の用語は、包括的にかつ非限定的に読み取られるものとする。さらに、本明細書において使用される用語および表現は、限定の用語ではなく説明の用語として使用されており、そのような用語および表現の使用には、示されかつ説明された特徴またはその一部のいかなる等価物も除外する意図はなく、特許請求される本発明の範囲内で様々な修正が可能であることが認識される。したがって、本発明を好ましい態様および任意選択の特徴によって具体的に開示してきたが、本明細書において開示されているその中で具体化された発明の修正および変更が、当業者に委ねられてよいこと、ならびにそのような修正および変更が本発明の範囲内であると見なされることが理解されるべきである。本発明は、本明細書において幅広くかつ総称的に記載されている。総称的な開示の範囲内に入るより狭い種および亜属集団の各々もまた、本発明の一部を形成する。これには、除かれた題材が本明細書において具体的に挙げられているか否かにかかわらず、任意の主題を属から除外する条件付きのまたは負の限定を用いた本発明の総称的記載も含まれる。加えて、本発明の特徴または局面がマーカッシュ群の観点から記載されている場合、当業者は、本発明がまたそれにより、そのマーカッシュ群の任意の個々のメンバーまたはメンバーのサブグループの観点からも記載されていることを認識するであろう。本発明のさらなる態様は、添付の特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【0238】
本明細書で用いられる場合、「約」という用語は、各値または範囲(pH、濃度、割合、モル濃度、アミノ酸の数、時間等)において、所与の値の5%まで、10%まで、15%まで、またはこれを含め20%までであってよい変動が存在し得ることを意味すると理解される。例えば、製剤が約5 mg/mlの化合物を含むとすると、これは、製剤が4~6 mg/ml、好ましくは4.25~5.75 mg/ml、より好ましくは4.5~5.5 mg/ml、およびさらにより好ましくは4.75~5.25 mg/mlを有してよく、最も好ましくは5 mg/mlであることを意味すると理解される。本明細書で用いられる場合、「X~Y」と規定される間隔は、「XとYとの間」と規定される間隔と同等と見なす。いずれの間隔も、上限およびまた下限を明確に含む。これは、例えば「5 mg/ml~10 mg/ml」または「5 mg/mlと10 mg/mlの間」という間隔は、5、6、7、8、9、および10 mg/ml、ならびに任意の所与の中間値の濃度を含むことを意味する。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2022-10-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤を調製する方法であって、
間葉系幹細胞は、臍帯の羊膜の間葉系幹細胞であり、該製剤は
50万個~
1000万個の間葉系幹細胞を含み、
a)
PlasmaLyteであり、0.5%~
3% (w/v) の血清アルブミンを含む、予め規定された体積の晶質液中に、間葉系幹細胞を懸濁し、それによって、第1の細胞懸濁液を得る段階、
b) 第1の細胞懸濁液中の間葉系幹細胞の濃度を決定し、かつ、
50万個~
1000万個の間葉系幹細胞を含む製剤を調製するのに必要な第1の細胞懸濁液の体積を決定する段階、
c) 決定された該体積の第1の細胞懸濁液を、
ある体積の液体担体と混合し、それによって、50万個~1000万個の間葉系幹細胞を含む前記間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤を得る段階であって、混合後に前記間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤が20%以下のPlasmaLyteを含み、該液体担体が、
0.5%~
3% (w/v) の血清アルブミンならびに以下:
i) トロロックス、
ii) Na
+、
iii) K
+、
iv) Ca
2+、
v) Mg
2+、
vi) Cl
-、
vii) H
2PO
4
-、
viii) HEPES、
ix) ラクトビオナート、
x) スクロース、
xi) マンニトール、
xii) グルコース、
xiii) デキストラン-40、
xiv) アデノシン、および
xv) グルタチオン
を含む、
段階
を含む、方法。
【請求項2】
間葉系幹細胞を懸濁するために使用される晶質液の予め規定された体積が、
1 ml~
10 mlである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第1の細胞懸濁液の前記決定された体積を、液体担体の前記体積と混合した後、間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤の総体積が
1 mlである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
製剤が
50万個~
1000万個の生存間葉系幹細胞を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
製剤が
100万個、
300万個、または
500万個の間葉系幹細胞を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
予め規定された体積の晶質液中に間葉系幹細胞を再懸濁する前に、該間葉系幹細胞が細胞培養容器から回収されている、請求項
1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
晶質液と液体担体の両方が、同じ濃度の血清アルブミンを含む、請求項
1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
晶質液と液体担体の両方が、
1%~
3% (w/v) の血清アルブミンを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
晶質液と液体担体の両方が、
1% (w/v) の血清アルブミンを含む、請求項7
または8に記載の方法。
【請求項10】
血清アルブミンがヒト血清アルブミンである、請求項
1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
臍帯の羊膜の間葉系幹細胞が、間葉系幹細胞集団であり、該間葉系幹細胞集団の少なくとも
90%またはそれ以上の細胞が、以下のマーカー:CD73、CD90、およびCD105のそれぞれを発現する、請求項
1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
間葉系幹細胞集団の少なくとも
90%またはそれ以上の細胞が、以下のマーカー:CD34、CD45、およびHLA-DRの発現を欠いている、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
間葉系幹細胞集団の少なくとも
91%またはそれ以上、
92%またはそれ以上、93%またはそれ以上、
94%またはそれ以上、
95%またはそれ以上、
96%またはそれ以上、
97%またはそれ以上、
98%またはそれ以上、
99%またはそれ以上の細胞が、CD73、CD90、およびCD105のそれぞれを発現し、かつCD34、CD45、およびHLA-DR(ヒト白血球抗原-抗原D関連)のそれぞれの発現を欠いている、請求項
11または12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~
13のいずれか一項において規定される方法によって得られた、間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤。
【請求項15】
請求項1~
13のいずれか一項において規定される方法によって取得可能な、間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤。
【請求項16】
間葉系幹細胞を輸送する方法であって、
請求項
14または15において規定される間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤中で、該間葉系幹細胞を輸送する段階
を含む、方法。
【請求項17】
輸送が
7日間またはそれ未満にわたって行われる、請求項
16に記載の方法。
【請求項18】
輸送が
-5℃~
15℃の温度で行われる、請求項
16~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
疾患を有する対象を処置するための薬学的組成物の製造のための、請求項
14または15において規定される間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤の使用であって、
疾患が皮膚疾患または創傷であり、
該使用が請求項
14または15において規定される間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤中で貯蔵または輸送された間葉系幹細胞を、局所投与する段階を含み
、該使用が間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤から間葉系幹細胞を分離し、該間葉系幹細胞を対象に投与する段階を含む、使用。
【請求項20】
間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤からの間葉系幹細胞の分離が、遠心分離を含む、請求項
19に記載の使用。
【請求項21】
間葉系幹細胞貯蔵または輸送製剤からの間葉系幹細胞の分離が、シリンジによってバイアルから細胞集団を取り出すことを含む、請求項
19または20に記載の
使用。
【請求項22】
間葉系幹細胞が、
300万個、
500万個、または
1000万個の細胞の投与量で適用される、請求項
19~21のいずれか一項に記載の使用。
【請求項23】
間葉系幹細胞集団が、該間葉系幹細胞集団が回収された時点から
72時間以内に、
48時間以内に、
24時間以内に、
12時間以内に、
6時間以内に、またはそれ未満で適用される、請求項
19~22のいずれか一項に記載の使用。
【請求項24】
創傷が、熱傷、咬傷、外傷、手術、または疾患に起因する、請求項
19~23のいずれか一項に記載の使用。
【請求項25】
創傷が糖尿病に起因し、創傷が好ましくは糖尿病性創傷である、請求項
24に記載の使用。
【請求項26】
創傷が糖尿病性足部潰瘍である、請求項
25に記載の使用。
【請求項27】
1000万個の細胞、
500万個の細胞、
400万個の細胞、
300万個の細胞、
200万個の細胞、
100万個の細胞、
50万個の細胞、
25万個の細胞、または25万個未満の細胞の投与量が、週に1回または2回投与される、請求項
19~26のいずれか一項に記載の使用。
【請求項28】
1000万個の細胞、
500万個の細胞、
400万個の細胞、
300万個の細胞、
200万個の細胞、
100万個の細胞、
50万個の細胞、
25万個の細胞、または25万個未満の細胞の投与量が、3週間、4週間、もしくは5週間、もしくは6週間、もしくは7週間、もしくは8週間、もしくは10週間、またはそれ以上の週の期間にわたって、週に1回または2回投与される、請求項
27に記載の使用。
【国際調査報告】