IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッドの特許一覧

特表2022-552266両性電解質ロットの変動を分析するための液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-15
(54)【発明の名称】両性電解質ロットの変動を分析するための液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/447 20060101AFI20221208BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20221208BHJP
   G01N 27/623 20210101ALI20221208BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
G01N27/447 315K
G01N27/62 V
G01N27/62 X
G01N27/623
G01N30/72 C
G01N27/447 325D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022521247
(86)(22)【出願日】2020-10-09
(85)【翻訳文提出日】2022-05-13
(86)【国際出願番号】 US2020055031
(87)【国際公開番号】W WO2021072230
(87)【国際公開日】2021-04-15
(31)【優先権主張番号】62/913,450
(32)【優先日】2019-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】マレン レイチェル
(72)【発明者】
【氏名】ライアン クレア
(72)【発明者】
【氏名】オコナー シーマス
(72)【発明者】
【氏名】ヘルミング ステイシー
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA04
2G041FA12
2G041GA06
2G041HA01
2G041HA03
(57)【要約】
本開示は、液体クロマトグラフィー-質量分析を使用してキャピラリー等電点電気泳動などの下流用途に適した両性電解質組成物を特徴決定する方法に関する。
【選択図】4A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
適切な活性を有する試験両性電解質組成物を同定する方法であって、
a.液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)を使用して、少なくとも1つの試験両性電解質組成物中および1つの基準両性電解質組成物中の少なくとも1つのマーカーを同定することと、
b.前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物と前記基準両性電解質組成物との間の前記少なくとも1つのマーカーの類似性または差異の程度を決定することであって、
前記少なくとも1つのマーカーが低い共分散を有しかつ前記少なくとも1つのマーカーのレベルが前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物と前記基準両性電解質組成物との間で異なる場合、前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物が、適切な活性を有するか、
または、前記少なくとも1つのマーカーが高い共分散を有しかつ前記少なくとも1つのマーカーのレベルが前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物と前記基準両性電解質組成物との間で類似している場合、前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物が、適切な活性を有する、
前記決定することと
を含み、
それにより、適切な活性を有する試験両性電解質組成物を同定する、
前記方法。
【請求項2】
工程(a)が、
i.前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物および前記基準両性電解質組成物の複数の成分について、精密質量/保持時間(AMRT)および/または衝突断面積測定値を決定することと、
ii.S-プロットを使用して、前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物由来および前記基準両性電解質組成物由来の前記複数の成分の前記AMRTおよび/または衝突断面積測定値の共分散をプロットすることと、
iii.前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物と前記基準両性電解質組成物との間で異なる少なくとも1つの成分を選択することであって、その差違が、前記S-プロットにおいて非0である共分散を含む、前記選択することと
を含み、
それにより、前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物の適合性を特徴決定するための少なくとも1つのマーカーを同定する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの成分が、前記S-プロットにおける前記複数の成分の少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、または少なくとも80%の共分散よりも小さい前記S-プロットにおける共分散を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物中および前記基準両性電解質組成物中の前記少なくとも1つのマーカーのレベルが異なる場合、前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物が、適切な活性を有する、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つのマーカーのレベルの差違が、前記少なくとも1つのマーカーの正規化されたレベルに対して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%のレベルの差違を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程(a)が、
i.前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物および前記基準両性電解質組成物の複数の成分について、精密質量/保持時間(AMRT)または衝突断面積測定値を決定することと、
ii.S-プロットを使用して、前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物由来および前記基準両性電解質組成物由来の前記複数の成分の前記AMRTまたは衝突断面積測定値の共分散をプロットすることと、
iii.前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物と前記基準両性電解質組成物との間で類似する少なくとも1つの成分を選択することであって、その類似性が、前記S-プロットにおいて非0である共分散を含む、前記選択することと
を含み、
それにより、前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物の適合性を特徴決定するための少なくとも1つのマーカーを同定する、
請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの成分が、前記S-プロット内の前記複数の成分の少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%の共分散よりも大きい前記S-プロットにおける共分散を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物中および前記基準両性電解質組成物中の前記少なくとも1つのマーカーのレベルが類似している場合、前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物が、適切な活性を有する、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つのマーカーのレベルの類似性が、前記少なくとも1つのマーカーの正規化されたレベルと比較して、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%類似しているレベルを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つのマーカーが、質量電荷比(m/z)によって同定される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つのマーカーのレベルが、質量スペクトルにおけるm/zの相対強度によって特徴決定される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
工程(b)が、
i.前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物中および前記基準両性電解質組成物中の前記少なくとも1つのマーカーのLC-MS質量スペクトルを決定することと、
ii.前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物および前記基準両性電解質組成物の前記質量スペクトルにおける前記少なくとも1つのマーカーのベースピークの相対強度を決定することと、
iii.前記少なくとも1つのマーカーの前記ベースピークの前記相対強度を、前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物または前記基準両性電解質組成物から測定された前記ベースピークの最大相対強度に対して正規化することと、
iv.前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物および前記基準両性電解質組成物における前記少なくとも1つのマーカーの前記ベースピークの正規化された前記相対強度を比較することと
を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つのマーカーが、異なるm/zを有する1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、または16個のマーカーを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つのマーカーが、異なるm/zを有する16個のマーカーを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
m/zが280、m/zが319、m/zが329、m/zが347、m/zが373、m/zが375、m/zが376、m/zが431、m/zが504、m/zが506、m/zが508、m/zが520、m/zが534、m/zが562、m/zが906、およびm/zが980のマーカーを、前記16個のマーカーが含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記質量分析が、イオンモビリティ四重極飛行時間型質量分析(IMS-Q-ToF-MS)を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記液体クロマトグラフィーが高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記HPLCがC4シリカカラムを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記基準両性電解質組成物および前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物を使用して基準タンパク質の画像化されたキャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)エレクトロフェログラムを生成し、それにより少なくとも1つの試験エレクトロフェログラムおよび1つの基準エレクトロフェログラムを生成することによって、前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物を検証することをさらに含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも1つの試験エレクトロフェログラムおよび前記基準エレクトロフェログラムが類似しているかどうか前記試験両性電解質組成物が検証される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記少なくとも1つの試験エレクトロフェログラムおよび前記基準エレクトロフェログラムの類似性が、ピークの数、サイズ、もしくは等電点(pI)、またはそれらの組み合わせによって判定される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記少なくとも1つの試験エレクトロフェログラムおよび前記基準エレクトロフェログラムの類似性が、同一の数のピークを有することを含む、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
前記少なくとも1つの試験エレクトロフェログラムおよび前記基準エレクトロフェログラムの類似性が、0.05未満のp値を有する前記基準エレクトロフェログラムおよび前記少なくとも1つの試験エレクトロフェログラムの1つの領域のピーク下面積の差違を含む、請求項20~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記領域が、主要な基準ピーク、前記主要な基準ピークよりも酸性である領域、または前記主要な基準ピークよりも塩基性である領域を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記適切な活性が、キャピラリー等電点電気泳動(CIEF)または画像化されたキャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)を含む、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記iCIEFが、タンパク質薬物製品または原薬を特徴決定するために使用される、請求項25に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2019年10月10日に出願された米国仮特許出願第62/913,450号に対する優先権を主張し、その内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本開示は、電荷によってタンパク質組成物を特徴決定する方法、および液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)を使用して両性電解質組成物を特徴決定する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
多くのタンパク質は、脱アミド化、N末端ピログルタミン酸の形成、凝集、異性化、シアル化グリカン、断片化、リジン残基での糖化など、タンパク質電荷変異を引き起こす二次修飾を受ける。場合によっては、これらの二次修飾およびそれから生じる電荷変異体は、結合、生物活性、患者の安全性、およびタンパク質の貯蔵寿命に影響を与える可能性がある。等電点電気泳動ゲル電気泳動(IEF)などのツール、およびキャピラリー等電点電気泳動(CIEF)や画像化されたCIEF(iCIEF)などのキャピラリー同等物を使用して、タンパク質の電荷を分析することができる。これらの手法は、タンパク質ベースの薬物製品および原薬などの治療用タンパク質の品質、純度、安定性、変異性を特徴決定および監視するために重要である。そのような手法の1つであるiCIEFは、高分解能、最小限の開発時間、試料量の削減、および実行時間の短縮により、バイオ医薬品の開発に大きく貢献している。これらの利点により、細胞培養の開発と最適化から商業的品質管理(QC)のリリースと安定性の活動に至るまで、製薬プロセス全体に渡って適用することが可能になる。
【0004】
CIEFとiCIEFでは、正味電荷が異なるタンパク質の分離は、印加された電場を介して両性電解質pH勾配でタンパク質を集束させ、固有の等電点に基づいてアイソフォームを分離することによって実現される。この分離手法は、電位下に置かれたときにpH勾配を作成するために両性電解質に依存する。次に、タンパク質種は、等電点またはpI値に基づいて、キャピラリーのさまざまな領域に移動する。ただし、これらの方法でpH勾配を生成するために使用される両性電解質組成物のロット間の変動は、アッセイ結果に影響を与える可能性がある。iCIEFおよび同様の手法への適合性について両性電解質組成物を特徴決定する以前の方法は、両性電解質組成物を使用してiCIEFエレクトロフェログラムまたは基準タンパク質の同様の読み出しを生成し、異なる両性電解質組成物によって生成された結果のエレクトロフェログラムを比較するなどの間接的な方法に依存していた。ただし、これらの方法は費用と時間がかかり、大量のタンパク質を使用する。したがって、当技術分野では、iCIEFなどの方法における適合性について両性電解質組成物を特徴決定する改善された方法が必要とされている。本発明は、両性電解質組成物を直接分析するための改善された方法を提供することにより、この必要性を満たす。
【発明の概要】
【0005】
概要
本開示は、適切な活性を有する試験両性電解質組成物を同定する方法を提供し、この方法は、(a)液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)を使用して、少なくとも1つの試験両性電解質組成物中および1つの基準両性電解質組成物中の少なくとも1つのマーカーを同定することと、(b)少なくとも1つの試験両性電解質組成物と基準両性電解質組成物との間の少なくとも1つのマーカーの類似性または差異の程度を決定することであって、少なくとも1つのマーカーが低い共分散を有しかつ少なくとも1つのマーカーのレベルが、少なくとも1つの試験両性電解質組成物と基準両性電解質組成物との間で異なる場合、少なくとも1つの試験両性電解質組成物が、適切な活性を有するか、または、少なくとも1つのマーカーが高い共分散を有しかつ少なくとも1つのマーカーのレベルが、少なくとも1つの試験両性電解質組成物と基準両性電解質組成物との間で類似する場合、少なくとも1つの試験両性電解質組成物が、適切な活性を有する、決定することと、を含み、それによって、適切な活性を有する試験両性電解質組成物を同定する。
【0006】
本開示の方法のいくつかの実施形態において、工程(a)は、(i)少なくとも1つの試験両性電解質組成物および基準両性電解質組成物の複数の成分の精密質量/保持時間(AMRT)、または衝突断面積(CCS)測定値を決定することと、(ii)S-プロットを使用して、少なくとも1つの試験両性電解質組成物由来および基準両性電解質組成物由来の複数の成分のAMRTまたは衝突断面積測定値の共分散をプロットすることと、(iii)少なくとも1つの試験両性電解質組成物と基準両性電解質組成物との間で異なる少なくとも1つの成分を選択することであって、その差違は、S-プロットにおいて非0である共分散を含む、選択することと、を含み、それにより、少なくとも1つの試験両性電解質組成物の適合性を特徴決定するための少なくとも1つのマーカーを同定する。いくつかの実施形態において、差違は、S-プロットにおいて0未満である共分散を含む。いくつかの実施形態において、S-プロットにおける複数の成分の少なくとも1つの成分は、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、または少なくとも80%の共分散よりも小さいS-プロットにおける共分散を含む。いくつかの実施形態において、少なくとも1つの試験両性電解質組成物中および基準両性電解質組成物中の少なくとも1つのマーカーのレベルが異なる場合、少なくとも1つの試験両性電解質組成物は適切な活性を有する。
【0007】
本開示の方法のいくつかの実施形態において、少なくとも1つのマーカーのレベルの差違は、少なくとも1つのマーカーの正規化されたレベルに対して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%のレベルの差違を含む。
【0008】
本開示の方法のいくつかの実施形態において、工程(a)は、(i)少なくとも1つの試験両性電解質組成物および基準両性電解質組成物の複数の成分の精密質量/保持時間(AMRT)、または衝突断面積測定値を決定することと、(ii)S-プロットを使用して、少なくとも1つの試験両性電解質組成物由来および基準両性電解質組成物由来の複数の成分のAMRTまたは衝突断面積測定値の共分散をプロットすることと、(iii)少なくとも1つの試験両性電解質組成物と基準両性電解質組成物との間で類似する少なくとも1つの成分を選択することであって、その類似性は、S-プロットにおいて非0である共分散を含む、選択することと、を含み、それにより、少なくとも1つの試験両性電解質組成物の適合性を特徴決定するための少なくとも1つのマーカーを同定する。いくつかの実施形態において、差違は、S-プロットにおいて0より大きい共分散を含む。いくつかの実施形態において、少なくとも1つの成分は、S-プロットにおける複数の成分の少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%の共分散よりも大きいS-プロットにおける共分散を含む。いくつかの実施形態において、少なくとも1つの試験両性電解質組成物中および基準両性電解質組成物中の少なくとも1つのマーカーのレベルが類似している場合、少なくとも1つの試験両性電解質組成物は適切な活性を有する。
【0009】
本開示の方法のいくつかの実施形態において、少なくとも1つのマーカーのレベルの類似性は、少なくとも1つのマーカーの正規化されたレベルと比較して、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%類似しているレベルを含む。
【0010】
本開示の方法のいくつかの実施形態において、少なくとも1つのマーカーは、質量電荷比(m/z)によって識別される。いくつかの実施形態において、少なくとも1つのマーカーのレベルは、質量スペクトルにおけるm/zの相対強度によって特徴決定される。
【0011】
本開示の方法のいくつかの実施形態において、工程(b)は、(i)少なくとも1つの試験両性電解質組成物中および基準両性電解質組成物中の少なくとも1つのマーカーのLC-MS質量スペクトルを決定することと、(ii)少なくとも1つの試験両性電解質組成物および基準両性電解質組成物の質量スペクトルにおける少なくとも1つのマーカーの基準ピークの相対強度を決定することと、(iii)少なくとも1つの試験両性電解質組成物または基準両性電解質組成物から測定された基準ピークの最大相対強度に対して、少なくとも1つのマーカーの基準ピークの相対強度を正規化することと、(iv)少なくとも1つの試験両性電解質および基準両性電解質における少なくとも1つのマーカーの基準ピークの正規化された相対強度を比較することと、を含む。
【0012】
本開示の方法のいくつかの実施形態において、少なくとも1つのマーカーは、異なるm/zを有する1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、または16個のマーカーを含む。いくつかの実施形態において、少なくとも1つのマーカーは、異なるm/zを有する16個のマーカーを含む。いくつかの実施形態において、16個のマーカーは、m/zが280、m/zが319、m/zが329、m/zが347、m/zが373、m/zが375、m/zが376、m/zが431、m/zが504、m/zが506、m/zが508、m/zが520、m/zが534、m/zが562、m/zが906、およびm/zが980のマーカーを含む。
【0013】
本開示の方法のいくつかの実施形態において、質量分析は、イオンモビリティ四重極飛行時間型質量分析(IMS-Q-ToF-MS)を含む。
【0014】
本開示の方法のいくつかの実施形態において、液体クロマトグラフィーは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を含む。いくつかの実施形態において、HPLCは、C4シリカカラムを含む。
【0015】
本開示の方法のいくつかの実施形態において、方法は、基準両性電解質組成物および少なくとも1つの試験両性電解質組成物を使用して、基準タンパク質の画像化されたキャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)エレクトロフェログラムを生成し、それにより少なくとも1つの試験エレクトロフェログラムおよび1つの基準エレクトロフェログラムを生成することによって、少なくとも1つの試験両性電解質組成物を検証することをさらに含む。
【0016】
本開示の方法のいくつかの実施形態において、試験両性電解質組成物は、少なくとも1つの試験エレクトロフェログラムおよび基準エレクトロフェログラムが類似しているかどうか検証される。いくつかの実施形態において、少なくとも1つの試験エレクトロフェログラムおよび基準エレクトロフェログラムの類似性は、ピークの数、サイズ、もしくは等電点(pI)、またはそれらの組み合わせによって判定される。
【0017】
本開示の方法のいくつかの実施形態において、適切な活性は、キャピラリー等電点電気泳動(CIEF)または画像化されたキャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)を含む。いくつかの実施形態において、iCIEFは、タンパク質薬物製品または原薬を特徴決定するために使用される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1A~1Bは、画像化されたキャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)アッセイを使用して基準タンパク質産物を分析する一対のエレクトロフェログラムである。x軸は時間(分単位)を示し、y軸は吸光度を示す。図1Aは両性電解質ロット1を使用する。図1Bは、例示的な候補の両性電解質ロットを示し、これは、図1Aに示される両性電解質ロットと同じ基準タンパク質とは異なるエレクトロフェログラムプロファイルを生成する。エレクトロフェログラムの違いは丸で囲まれている。
図2】iCIEFで使用される両性電解質勾配に基づくベースライン干渉を示すプロットである。ICIEFを基準タンパク質なしで実行した。両性電解質濃度の増加は、ベースラインの低下につながった。ピークプロファイルでのこの変化は、タンパク質や機器ではなく、両性電解質によるものであった。
図3】ファルマライト(両性電解質)濃度が領域面積の変化をもたらすことを示すエレクトロフェログラムである。ファルマライト濃度が2%変化すると、領域1の面積が1%減少した。
図4A】一連のエレクトロフェログラムである。ロット7および2は、ロット1に最も類似した、ロットの統計分析に最も適した候補である。
図4B】両性電解質ロット内の分解能相違を示す表である。ロット7および2は、ロット1に最も類似した、ロットの統計分析に最も適した候補である。
図5A】両性電解質ロットの等電点(PI、またはpI)マーカー試験を示す一連のプロットである。各両性電解質ロットのピークの分解能は、7.0~7.05で計算された。図5Aは、2つのピークを有する例示的なエレクトロフェログラムを示している。
図5B】両性電解質ロットの等電点(PI、またはpI)マーカー試験を示す一連のプロットである。各両性電解質ロットのピークの分解能は、7.0~7.05で計算された。図5Bは、エレクトロフェログラムから分解能がどのように計算されるかを示している。分解能は、移行(ラン)時間(Rt)およびピーク幅(W)に基づいて計算される。
図5C】両性電解質ロットの等電点(PI、またはpI)マーカー試験を示す一連のプロットである。各両性電解質ロットのピークの分解能は、7.0~7.05で計算された。図5Cは、ピーク間に0.15%の相互重複、またはクロマトグラフィーの最小基準である1.5の分解能がある例示的なエレクトロフェログラムを示している。
図6】本開示の方法によって解決される問題を概説する図である。
図7】両性電解質LC-MS分析ワークフローを示す図である。
図8図8Aは、分子成分について試験されたGEヘルスケアIEF担体両性電解質ロットを示す表である。図8Bは、パフォーマンスではなく、分子組成の変動について両性電解質ロットの試験を示すWaters S-プロットである。ロット間で高度な変動がある両性電解質ロットの対象成分を同定するために、液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)を使用した。分析は、データ分析とワークフローが組み込まれたUNIFIソフトウェアを使用して実行した。S-プロットは、ロットの両性電解質間の精密質量/保持時間(AMRT)の非類似性を示している。AMRT対は共分散によってプロットされ、変化の大きさはx軸に示され、相関関係、つまり変化の一貫性はy軸に示される。
図9図9A~9Cは、Waters VION IMS QTofイオンモビリティ四重極飛行時間型質量分析(LC-IMS-Q-TOF-MS)を使用して、特徴決定された両性電解質ロットを比較するWaters S-プロットである。図9Aは、ロット1とロット2の比較を示している。図9Bは、ロット1とロット3の比較を示している。図9Cは、ロット1とロット5の比較を示している。Waters S-プロットは、試料間の類似性と差異を識別し、強力な視覚的フィルタリングツールを提供する。両性電解質成分のライブラリについて独自の機能が選択され、例えば、ロット1対ロット5のS-プロット(図9C)で強調表示されたポイントが選択された。
図10A】m/z値(質量電荷比)および両性電解質ロット番号1(標準操作手順で使用される現行のロット、またはSOPロット)、2、3、4、5での両性電解質成分の正規化された相対強度によって特徴決定される両性電解質成分のライブラリを示す表である。相対強度は、すべての両性電解質ロットで最も高い相対強度に対して正規化された。マーカー応答値は、excelで評価および比較された。
図10B】5つの異なる両性電解質ロットを使用して基準タンパク質1製品を分析するiCIEFエレクトロフェログラムを示している。上から順に:ロット1(SOP)、ロット3、ロット4、ロット5。iCIEFプロファイルの違いは丸で囲まれている。
図10C】両性電解質ロット1(上、SOP)および2(下)を使用して基準タンパク質1製品を分析するiCIEFエレクトロフェログラムを示している。ロット2は、LC-MSの結果を分析した後に実行され、ロット1と最も類似したロットであると予測された(図10Aを参照)。
図11図11Aは、示された両性電解質の各ロットからのマーカーm/z906.261のイオンモビリティフィルタ処理された抽出イオンクロマトグラム(XIC)を示すプロットである。XICの応答は、ロット間の比較に使用される。図11Bは、示された両性電解質ロットの3つの複製(x軸はロットおよび複製を示す)対マーカー強度(y軸、カウント)におけるマーカーを示す傾向プロットである。マーカーは、現行のロットの3つの複製すべてで同定され、空白で検出されなかった場合に関連性があると見なされた。
図12】両性電解質ロットを特徴決定するために使用されたライブラリからの3つのマーカーの構造を示している。構造は、下部のm/z値を有するマーカーに対応している。これらは市販の解明結果である。
図13】現行の両性電解質試験プロセスを本明細書に記載の新しい両性電解質試験方法と比較する図である。新しい両性電解質ロットの液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)分析には4時間かかるため、現行の方法では分析時間が短縮される。さらに、新しい両性電解質試験方法により、タンパク質製品を消費することなく両性電解質の特徴決定が可能になる。最後に、新しい両性電解質の試験方法は、新しい両性電解質のベンダーに適用することができる。ベンダーごとに、両性電解質のロットを比較するために、ここで説明する方法を使用してマーカーの新しいライブラリを作成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
詳細な説明
本開示は、所望の下流用途に適切な活性を有する両性電解質組成物を同定する方法を提供し、方法は、(a)液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)を使用して、少なくとも1つの試験両性電解質組成物中および1つの基準両性電解質組成物中の少なくとも1つのマーカーを同定することと、(b)少なくとも1つの試験両性電解質組成物と基準両性電解質組成物との間の少なくとも1つのマーカーの類似性または差異の程度を決定することと、を含む。いくつかの実施形態において、マーカーは、基準両性電解質組成物と試験両性電解質組成物との間の差異に基づいて選択され、少なくとも1つのマーカーが少なくとも1つの試験両性電解質組成物と基準両性電解質組成物との間で異なる場合、少なくとも1つの試験両性電解質組成物は適切な活性を有する。いくつかの実施形態において、マーカーは、基準両性電解質組成物と試験両性電解質組成物との間の類似性に基づいて選択され、少なくとも1つのマーカーが少なくとも1つの試験両性電解質組成物と基準両性電解質組成物との間で類似している場合、少なくとも1つの試験両性電解質組成物は適切な活性を有する。マーカーは、質量分析によって測定された特定の質量電荷比(m/z)によって同定でき、レベルまたはマーカーは、任意選択で正規化可能である、示されたm/zピークの相対強度によって決定できる。この正規化は、分析で両性電解質組成全体の示されたm/zピークに対して測定された最大相対強度にまでなり得る。マーカーは、液体クロマトグラフィー分離工程での保持時間によってさらに特徴決定することができる。
【0020】
下流用途に適したアクティビティには、等電点電気泳動ゲル電気泳動(IEF)、およびキャピラリー等電点電気泳動(CIEF)や画像化されたCIEF(iCIEF)などのキャピラリー同等物が含まれるが、これらに限定されない。
【0021】
いくつかの実施形態において、方法は、基準両性電解質組成物および少なくとも1つの試験両性電解質組成物を使用して、基準タンパク質の画像化キャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)エレクトロフェログラムを生成し、それにより少なくとも1つの試験エレクトロフェログラムおよび1つの基準エレクトロフェログラムを生成することによって、少なくとも1つの試験両性電解質組成物を検証することをさらに含む。試験エレクトロフェログラムと基準エレクトロフェログラムの類似性は、基準エレクトロフェログラムと試験エレクトロフェログラムのピークの数、サイズ、面積、分解能、等電点(pI)、またはこれらすべての特性の組み合わせを比較することにより判断することができる。
【0022】
両性電解質組成物の使用
本開示は、1つまたは複数の下流用途に対する両性電解質組成物の適合性を判定するための方法を提供する。
【0023】
両性電解質組成物は、ファルマライトと呼ばれることもあり(例えば、GE Healthcareから商業的に製造された両性電解質)、等電点に基づいてタンパク質を分離するさまざまな方法に使用される。本明細書に記載の方法を使用して両性電解質組成物を最適化できる例示的な方法には、等電点電気泳動ゲル電気泳動(IEF)、ならびにキャピラリー等電点電気泳動(CIEF)および画像化されたCIEF(iCIEF)などのキャピラリー同等物が含まれるが、これらに限定されない。
【0024】
本明細書で使用される、「両性電解質」は、等電点(pI)値およびその近くで双性イオンとして振る舞う正電荷および負電荷の両方を含む化合物を指す。両性電解質は、導入される溶液のpHに応じて、酸または塩基として機能する。両性電解質は、たとえばiCIEFおよびCIEFでのフォーカシング中に、pH勾配の形成を支援する。
【0025】
等電点(pI)は、分子が正味の電荷を持たないpHである。タンパク質の場合、等電点は、タンパク質の全体的な電荷がゼロになるpHである。
【0026】
等電点電気泳動ゲル電気泳動(IEF)
IEFは、固定化pH勾配(IPG)ゲルに両性電解質溶液を添加することを含む、電荷に基づいてタンパク質を分離するための手法である。IPGは、pH勾配と共重合したアクリルアミドゲルマトリックスで構成され、これは、アクリルアミドマトリックスに担体両性電解質を埋め込むことで生成できる。結果として生じるpH勾配は、高アルカリ性(>12)のpH値を除いて、電界内で安定している。タンパク質分離のpH勾配は、pI値が変化する高分子両性電解質などの小分子の溶液を最初に電気泳動にかけることにより、タンパク質分析物を追加する前に完全に確立される。
【0027】
電界が印加されると、等電点(pI)より下のpH領域にあるタンパク質は正に帯電するため、カソード(負に帯電した電極)に向かって移動する。増加するpHの勾配を介して移動するにつれて、タンパク質の全体的な電荷は、タンパク質がそのpIに対応するpH領域に到達するまで減少する。この時点で正味の電荷がないため、移動が停止する(どちらの電極にも電気的な引力がないため)。その結果、タンパク質は鋭い静止バンドに集束し、各タンパク質はそのpIに対応するpH勾配のポイントに配置される。
【0028】
キャピラリー等電点電気泳動(CIEF)および画像化されたキャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)
キャピラリー等電点電気泳動(CIEF)および画像化されたキャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)は、主にタンパク質の等電点(pI)固有の正味電荷に基づいて、個別のタンパク質バリアントを使用する分析手法である。CIEFおよびiCIEFでは、試料の分離は、印加された電場を介して両親媒性のpH勾配でタンパク質試料を集束させることによって行われる。タンパク質試料は、担体両性電解質、添加剤、およびpIマーカーと事前に混合されている。次に、タンパク質試料は、両端に電解タンクを備えたキャピラリーカートリッジで分離される。一方のタンクは酸(陽極液)で満たされ、もう一方のタンクは塩基(陰極液)で満たされている。試料混合物を注入してキャピラリーカラムを満たし、陽極液タンクと陰極液タンクに電圧を印加する。これにより、キャピラリーに沿ったpIに基づいてタンパク質(分析物)を分離および集束するpH勾配が作成される。
【0029】
CIEFでは、集束工程の後に動員工程が続き、この工程では、集束された分析物がキャピラリーに沿ってキャピラリー出口に移動し、UVまたは蛍光検出器などの検出器を通過する。動員方法には、流体力学的または圧力動員、すなわちキャピラリーにガスを適用することによる動員、および陽極液または陰極液を高イオン強度または異なるpHの異なる電解質溶液に置き換える化学動員が含まれる。
【0030】
検出器全体わたりにタンパク質試料を移動させるCIEFとは対照的に、iCIEFでは、UVまたは蛍光検出器などの全カラム検出器がキャピラリー全体にわたりプロセス全体をリアルタイムで監視する。これにより、集束工程、その後の即座の最終電荷変動プロファイルを綿密に監視することができる。したがって、他の手法に対するiCIEFの利点には、高分解能、効率的な実行時間、および試料消費量の少なさが含まれ、バイオ医薬品業界でのタンパク質の特徴決定に適した手法にしている。
【0031】
変動性と両性電解質組成物
タンパク質のCIEF分析またはiCIEF分析の出力は、エレクトロフェログラムであり得る。エレクトロフェログラムでは、x軸は等電点または動員時間を示す。y軸は、検出器の読み取り値を、通常は吸光度単位で示す。エレクトロフェログラムのピークは、吸光度ピークと呼ばれることもある。両性電解質の組成の変動は、出力エレクトロフェログラムの変動を引き起こす可能性がある。
【0032】
試験両性電解質組成物を使用して生成された基準タンパク質のエレクトロフェログラムは、基準両性電解質組成物を使用して生成された同じ基準タンパク質のエレクトロフェログラムと比較して、以下の変化の1つまたは複数を有する可能性がある:(1)1つまたは複数のピークの獲得、(2)1つまたは複数のピークの損失、(3)複数のピークのpIまたは移動時間のシフト、(4)1つまたは複数のピークのピーク下面積の変化、および(4)1つまたは複数のピークの分解能の変化。
【0033】
したがって、本開示は、試験両性電解質組成物が、基準両性電解質によって生成される同じ基準タンパク質のエレクトロフェログラムと同様の基準タンパク質のエレクトロフェログラムを生成するかどうかを判定する方法を提供する。いくつかの実施形態において、方法は、(a)液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)を使用して、少なくとも1つの試験両性電解質組成物中および1つの基準両性電解質組成物中の少なくとも1つのマーカーを同定することと、(b)少なくとも1つの試験両性電解質組成物と基準両性電解質組成物との間の少なくとも1つのマーカーの類似性または差異の程度を決定することであって、少なくとも1つのマーカーが低い共分散を有しかつ少なくとも1つのマーカーのレベルが、少なくとも1つの試験両性電解質組成物と基準両性電解質組成物との間で異なる場合に少なくとも1つの試験両性電解質組成物が、適切な活性を有するか、または、少なくとも1つのマーカーが高い共分散を有しかつ少なくとも1つのマーカーのレベルが、少なくとも1つの試験両性電解質組成物と基準両性電解質組成物との間で類似する場合に少なくとも1つの試験両性電解質組成物は適切な活性を有する、決定することと、を含み、それによって、適切な活性を有する試験両性電解質組成物を同定する。
【0034】
本開示はさらに、基準両性電解質組成物および少なくとも1つの試験組成物を使用してエレクトロフェログラムを生成し、それらが類似しているかどうかを判定するためにエレクトロフェログラムを比較することを含む、本明細書に記載の方法を使用して特徴決定される両性電解質組成物の活性を検証する方法を提供する。
【0035】
いくつかの実施形態において、少なくとも1つの試験エレクトロフェログラムおよび基準エレクトロフェログラムの類似性は、ピークの数、サイズ、分解能、もしくは等電点(pI)、またはそれらの組み合わせによって判定される。
【0036】
いくつかの実施形態において、類似のエレクトロフェログラムは、類似または同一の数のピークを有する(例えば、ピークの数は、3、2、1、または0個のピークの違いがある)。さらなる例として、試験エレクトロフェログラムおよび基準エレクトロフェログラムの両方が、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20個のピークを含むか、または本質的にそれらから成る。
【0037】
いくつかの実施形態において、少なくとも1つの試験エレクトロフェログラムおよび基準エレクトロフェログラムの類似性は、類似の分解能を含む。
【0038】
本明細書で使用される、「分解能」または「R」は、分離の品質の尺度であり、例えば、エレクトロフェログラムにおける一対の吸光度ピークの分離である。2つのピーク間の分解能を計算する方法は、図5A~5Cに示されている。1.5(0.15%の相互オーバーラップ)の分離能は、2つのピークのベースライン分離とクロマトグラフィーの最小基準と見なされる。分解能が高いほど、2つのピークの分離が良くなる。分離能は、分離の選択性と効率という2つの要素の組み合わせである。選択性は、2つのピークの最大値間の距離を考慮する。分離の効率が高くなると、ピークが狭くなる。したがって、狭いピークと大きなピークツーピークの分離が、大きなR値を生じさせる。分解能の計算では、2つのピークの移行時間またはpIの差違(Rt、Rt)およびピークのベース幅(W、W)を使用する。
【0039】
いくつかの実施形態において、試験エレクトロフェログラムおよび基準エレクトロフェログラムの類似性は、0.30未満、0.25未満、0.20未満、0.175未満、0.15未満、0.13未満、0.12未満、0.11未満、0.10未満、0.08未満、0.075未満、0.07未満、0.05未満、0.03未満、0.02未満、または0.01未満の分解能の差違を含む。いくつかの実施形態において、試験エレクトロフェログラムおよび基準エレクトロフェログラムの類似性は、0.075未満の分解能の差違を含む。いくつかの実施形態において、試験エレクトロフェログラムおよび基準エレクトロフェログラムの類似性は、0.072未満の分解能の差違を含む。
【0040】
いくつかの実施形態において、試験エレクトロフェログラムおよび基準エレクトロフェログラムの類似性は、同様の領域を有するエレクトロフェログラムの領域内の1つまたは複数のピークを含む。いくつかの実施形態において、試験エレクトロフェログラムおよび基準エレクトロフェログラムの特定の領域における1つまたは複数のピークの面積の差違は、0.05以下の確率値(p値)を有する。ピーク下面積を計算する方法は、当業者に周知であり、例えば、曲線の方程式をピークに適合させ、囲まれた面積を見つけるために積分することを含む。いくつかの実施形態において、ピーク面積が計算される基準エレクトロフェログラムおよび試験エレクトロフェログラムの特定の領域は、分析物混合物に含まれる特定のpIマーカーによって定義することができる。いくつかの実施形態において、ピーク面積が計算される基準エレクトロフェログラムおよび試験エレクトロフェログラムの特定の領域は、エレクトロフェログラムに共通する主要なピークの存在によって定義することができる。例えば、エレクトロフェログラムは、主要なピークと、主要なピークに対する酸性または塩基性の領域とに分けられる。
【0041】
有意性は、p値または確率値を計算することによって判定でき、これは、ヌルモデル(例えば、2つのピークが偶然同じ面積を持つ)が真になる確率である。p値の計算方法は、スチューデントのt検定、カイ2乗検定、分散分析(ANOVA)、ピアソン相関係数、ボンフェローニダンを含み、当業者に周知である。いくつかの実施形態において、p値が0.05未満である場合、結果は有意であると考えられる。いくつかの実施形態において、p値が0.04未満、0.03未満、0.02未満、または0.01未満である場合、結果は有意であると考えられる。
【0042】
いくつかの実施形態において、試験エレクトロフェログラムおよび基準エレクトロフェログラムの特定の領域における1つまたは複数のピークの面積の差違は、5%以下の変動係数(%RSD)を有する。パーセントRSDは、平均に対する標準偏差の比率として定義され、母集団の平均に関連する変動の程度を示す(例えば、エレクトロフェログラムの複製)。パーセントRSDを計算する方法は、当業者に知られているであろう。いくつかの実施形態において、%RSDが5%未満である場合、データセットは再現可能である。いくつかの実施形態において、%RSDが4%未満、3%未満、2%未満または1%未満である場合、データセットは再現可能である。
【0043】
液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)を使用した両性電解質組成物の特徴決定
液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)を使用して両性電解質組成物を特徴決定する方法が本明細書で提供される。いくつかの実施形態において、方法は、液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)を使用して、少なくとも1つの試験両性電解質組成物中および基準両性電解質組成物中の少なくとも1つのマーカーを同定することと、少なくとも1つの試験両性電解質組成物と基準両性電解質組成物との間の少なくとも1つのマーカーの類似性または差異の程度を決定することと、を含む。少なくとも1つのマーカーは、以下で論じるMSの質量電荷比(m/z)によって識別でき、少なくとも1つのマーカーのレベルは、所与のm/zの各マーカーについてMSによって測定される相対強度によって決定される。いくつかの実施形態において、方法は、液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)を使用して、少なくとも1つの試験両性電解質組成物中および基準両性電解質組成物中の複数のマーカーを同定することと、少なくとも1つの試験両性電解質組成物と基準両性電解質組成物との間の複数のマーカーの類似性または差異の程度を決定することと、を含む。
【0044】
液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)は、液体クロマトグラフィー(例えば、高速液体クロマトグラフィー、またはHPLC)の物理的分離機能と質量分析(MS)の質量分析機能を組み合わせた分析化学手法 である。質量分析は個々の成分の構造的同一性とレベルを高分子特異性と検出感度で提供する一方、液体クロマトグラフィーは複数の成分を含む混合物を分離する。
【0045】
液体クロマトグラフィーおよび質量分析はEP3143392に記載されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0046】
本明細書で使用される「クロマトグラフィー」という用語は、液体または気体を含む化学混合物が、固定液相または固相の周り、上、および/または中を流れる化学物質の異なる分布の結果として成分に分離されるプロセスを指す。「液体クロマトグラフィー」または「LC」は、流体が細かく分割された物質のカラムまたは毛細管通路を通って均一に浸透するときに、流体溶液の1つまたは複数の成分を選択的に遅延させるプロセスを指す。遅延は、1つまたは複数の固定相とバルク流体(すなわち、移動相)との間の混合物の成分の分布に起因し、これは、この流体が固定相に対して移動するためである。液体クロマトグラフィーには、逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、高速乱流液体クロマトグラフィー(HTLC)、および超高性能液体クロマトグラフィーが含まれるが、これらに限定されない。「保持時間」とは、両性電解質組成物成分などの特定の分析物が、溶出前に液体クロマトグラフィー基材によって保持される時間の長さを指す。
【0047】
本明細書で使用される「高速液体クロマトグラフィー」または「HPLC」という用語は、固定相、典型的には密に充填されたカラムを通して圧力下で移動相を強制することによって分離の程度が増加する液体クロマトグラフィーを指す。
【0048】
本明細書で使用される「超高性能液体クロマトグラフィー」または「UPLC」という用語は、HPLCと比較して速度、感度、および分解能が向上した液体クロマトグラフィー法を指す。一般に、UPLCは直径2μm未満の粒子に適用できる。UPLCでの分離と定量は、非常に高い圧力下(最大100MPa)で行われる。
【0049】
ガスクロマトグラフィー(GC)は、ガラスや金属のカラムなどのカラムを流れるガスを使用して、揮発性と液体固定相との相互作用に基づいて化合物を分離する分離手法を指す。キャリアガスである移動相は、通常、ヘリウムなどの不活性ガスまたは窒素などの不活性ガスである。
【0050】
質量分析は、質量分析計を使用して実行され、これは試料をイオン化し、さらに分析するための荷電分子を作成するためのイオン源を含む。様々な実施形態において、両性電解質組成物およびその成分は、当業者に周知の任意の方法によってイオン化され得る。さまざまなMS手法で使用されるイオン化源には、電子イオン化、化学イオン化、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、光イオン化、大気圧化学イオン化(APCT)、光イオン化、大気圧光イオン化(APPI)、高速原子衝撃(FAB)/液体二次イオン化(LSIMS)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)、フィールドイオン化、フィールド脱離、サーモスプレー/プラズマスプレーイオン化、表面増強レーザー脱離イオン化(SELDI)、誘導結合プラズマ(ICP)、粒子ビームイオン化およびイオンモビリティ分離(IMS)が含まれるが、これらに限定されない。当業者は、イオン化方法の選択が、測定される分析物、試料のタイプ、検出器のタイプ、ポジティブモード対ネガティブモードの選択などに基づいて決定され得ることを理解するであろう。
【0051】
本明細書で使用される「質量分析」または「MS」という用語は、化合物をそれらの質量によって同定するための分析手法を指す。MSは、質量電荷比(m/z)に基づいてイオンをフィルタリング、検出、および測定する方法を指す。MS技術には、一般に、化合物をイオン化して荷電種(イオンなど)を形成すること、およびイオンの正確な質量を電荷で割ったもの(m/z)を検出することを含む。化合物は、任意の適切な手段によってイオン化および検出することができる。「質量分析計」は、一般に、イオナイザーおよびイオン検出器を含む。一般に、対象となる1つまたは複数の分子がイオン化され、その後、イオンは質量分析機器に導入され、ここで、磁場と電場の組み合わせにより、イオンは質量(「m」)および電荷(「z」)に依存する空間内の経路をたどる。例えば、米国特許第6,204,500号、同6,107,623号、同6,268,144号、および同6,124,137号を参照されたい。
【0052】
MSは、正イオンと負イオンの両方を生成および検出できる。本明細書で使用される「イオン化」または「イオン化する」という用語は、1つまたは複数の電子単位に等しい正味電荷を有する分析物イオンを生成するプロセスを指す。陽イオンとは、1つまたは複数の電子単位の正味の正電荷を持つイオンである。負イオンは、1つまたは複数の電子単位の正味の負電荷を持つイオンである。「電子イオン化」または「EI」法では、気相または蒸気相の分析対象物が電子の流れと相互作用する。電子が分析物に衝突すると、分析物イオンが生成され、これを質量分析技術にかけることができる。EIは、ガスクロマトグラフィー(GC)または液体クロマトグラフィー法と組み合わせることができる。「化学イオン化」または「CI」では、試薬ガス(アンモニアなど)が電子衝撃を受け、試薬ガスイオンと分析物分子の相互作用によって分析物イオンが形成される。「高速原子衝撃」または「FAB」では、高エネルギー原子(多くの場合XeまたはAr)のビームが不揮発性試料に衝突し、試料に含まれる分子を脱離およびイオン化する。試験試料は、グリセロール、チオグリセロール、m-ニトロベンジJアルコール、18-クラウン-6クラウンエーテル、2-ニトロフェニルオクチルエーテル、スルホラン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの粘性液体マトリックスに溶解する。化合物または試料に適切なマトリックスを選択することは、経験的なプロセスである。
【0053】
本明細書で使用される「マトリックス支援レーザー脱離イオン化」または「MALDI」という用語は、非揮発性試料がレーザー照射に曝される方法を指し、これは、光イオン化、プロトン化、脱プロトン化、およびクラスター崩壊を含む様々なイオン化経路によって試料中の分析物を脱離およびイオン化する。MALDIの場合、試料は分析物分子の脱離が容易になるエネルギー吸収マトリックスと混合される。MALDI-TOFは、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化-飛行時間型(MALDI-TOF)質量分析(MS)を指す。MALDI-TOFは、最大約15,000ダルトンの化合物に有用である。
【0054】
「表面増強レーザー脱離イオン化」または「SELDI」は、光イオン化、プロトン化、脱プロトン化、クラスター崩壊などのさまざまなイオン化経路によって試料内の分析物を脱離およびイオン化するレーザー照射に非揮発性試料をさらす別の方法を指す。SELDIの場合、試料は通常、対象の1つまたは複数の分析物を優先的に保持する表面に結合する。MALDIの場合と同様に、このプロセスでもイオン化を促進するために、エネルギー吸収材料を使用することができる。
【0055】
「エレクトロスプレーイオン化」または「ESI」は、溶液が短い長さの毛細管に沿って通過し、その端に高い正または負の電位が印加される方法を指す。管の端に到達した溶液は、溶媒蒸気中の溶液の非常に小さな液滴のジェットまたはスプレーに気化(噴霧)される。この液滴のミストは、凝縮を防ぎ、溶媒を蒸発させるためにわずかに加熱される蒸発チャンバーを通って流れる。液滴が小さくなると、同様の電荷間の自然な反発によってイオンと中性分子が放出されるまで、電気的表面電荷密度が増加する。
【0056】
「大気圧化学イオン化」または「APCI」は、ESIに類似した質量分析法を指すが、ただし、APCIは、大気圧のプラズマ内で発生するイオン分子反応によってイオンを生成する。プラズマは、スプレーキャピラリーと対極の間の放電によって維持される。次に、イオンは通常、差動ポンプスキマーステージのセットを使用して質量分析計に抽出される。溶媒の除去を改善するために、乾燥および予熱されたN2ガスの向流が使用され得る。APCIの気相イオン化は、極性の低い化学種の分析にESIよりも効果的である。
【0057】
本明細書で使用される「大気圧光イオン化」または「APPI」という用語は、分子Mの光イオン化のメカニズムが分子M+を形成するための光子吸収および電子放出である質量分析の形態を指す。通常、光子エネルギーはイオン化ポテンシャルのすぐ上にあるため、分子イオンは解離の影響を受けにくくなる。
【0058】
本明細書で使用される「誘導結合プラズマ」または「ICP」という用語は、試料が、ほとんどの元素を噴霧およびイオン化するのに十分な高温で部分的にイオン化されたガスと相互作用する方法を指す。
【0059】
本明細書で使用される「イオンモビリティ分光分析」は、「イオンモビリティ分離」または「IMS」とも呼ばれ、衝突ガスおよびそれらの質量との相互作用に基づいて気相イオンを分離する分析化学法を指す。最初の工程では、イオンモビリティ分光計を使用して、ミリ秒のタイムスケールでバッファーガスを通過する移動度に応じてイオンを分離する。次に、分離されたイオンは2番目の工程で、マイクロ秒のタイムスケールで質量電荷比を決定することができる質量分析計に導入される。
【0060】
本明細書で使用される「電界脱離」という用語は、不揮発性試験試料がイオン化表面に配置され、分析物イオンを生成するために強電界を使用する方法を指す。
【0061】
本明細書で使用される「脱離」という用語は、表面からの分析物の除去および/または分析物の気相への侵入を指す。
【0062】
両性電解質組成物またはその成分がイオン化された後、m/zを決定するために、それによって生成されたイオンを分析することができる。m/zを決定するための適切な分析装置には、四重極分析装置、イオントラップ分析装置、飛行時間分析装置、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)分析装置、およびOrbitrap分光計が含まれる。イオンは、いくつかの検出モードのうちの1つを使用して検出することができる。例えば、選択されたイオンのみが、選択的イオン監視モード(SIM)を使用して検出され得るか、あるいは、複数のイオンが、走査モード、例えば、多重反応監視(MRM)または選択された反応監視(SRM)を使用して検出され得る。
【0063】
いくつかの実施形態において、m/zは、四重極分析器(機器)を使用して決定される。「四重極」または「四重極イオントラップ」機器では、振動する無線周波数フィールド内のイオンは、電極間に印加されるDC電位、RF信号の振幅、およびm/zに比例する力を経験する。電圧と振幅は、他のすべてのイオンが偏向する間、特定のm/zを持つイオンのみが四重極の長さを移動するように選択され得る。したがって、四重極機器は、機器に注入されたイオンの「質量フィルタ」と「質量検出器」の両方として機能し得る。飛行時間(ToF)では、イオンは、接地電極とリペラ電極を使用して、均一な静電界で加速される。運動エネルギーは一定に保たれ、イオンはフィールドフリーのToFチューブを移動する。運動エネルギーは一定であるため(KE=1/2MV^2)、m/zが小さいものほど、m/zが大きい場合に比べて速度が速くなる。「四重極飛行時間」または「QTof」質量分析は、衝突セルとして機能する四重極と飛行時間分析器を組み合わせた質量分析計を使用する一種の質量分析を指す。これにより、すべてのイオンを同時に高分解能、高質量精度で分析することができる。例示的なQTofシステムでは、試料は、オンライン液体クロマトグラフィーシステムによって送達され、イオン化される。次に、粒子ビームは、ToFアナライザーに渡される前に、イオンガイドを通って四重極に移動する。いくつかの実施形態において、MS手法は、「タンデム質量分析」または「MS/MS」を使用することができる。この手法では、対象の分子から生成された前駆イオン(親イオンとも呼ばれる)をMS機器でフィルタリングされ得、続いて、第2のMS手順で後に分析される1つまたは複数のフラグメントイオン(娘イオンまたはプロダクトイオンとも呼ばれる)を生成するために、前駆イオンをフラグメント化する。前駆イオンを注意深く選択することにより、特定の分析対象物によって生成されたイオンのみがフラグメンテーションチャンバーに渡され、そこで不活性ガスの原子との衝突によってフラグメントイオンが生成される。前駆イオンとフラグメントイオンの両方が、特定の一連のイオン化/フラグメンテーション条件下で再現性のある方法で生成されるため、MS/MS手法は非常に強力な分析ツールを提供することができる。例えば、濾過/断片化の組み合わせは、干渉物質を排除するために使用され得、そして生物学的試料などの複雑な試料において特に有用であり得る。
【0064】
通常質量分析計は、イオンスキャンまたは質量スペクトル、つまり、特定の範囲(例えば、400~1600m/z)で特定のm/zを持つ各イオンの相対存在量を、ユーザーに提供する。質量スペクトルは、当技術分野で知られている多くの方法による、試料中の分析物、例えば両性電解質組成物の成分の量に関連し得る。例えば、サンプリングと分析のパラメータが注意深く制御されている場合、所与のイオンの相対存在量(相対強度とも呼ばれる)を、その相対存在量を元の分子の絶対量に変換する表と比較することができる。あるいは、分子標準は、試料と、それらの標準から生成されたイオン信号に基づいて作成された標準曲線を使用して実行することができる。そのような標準曲線を生成および使用する方法は当技術分野で周知であり、当業者は適切な内部標準を選択することができる。イオンの量を元の分子の量に関連付けるための他の多くの方法は、当業者によく知られているであろう。
【0065】
イオンが検出器に衝突すると、電子のパルスが生成され、デジタル信号に変換される。取得したデータはコンピュータに中継され、コンピュータは単位時間あたりのイオンカウントをプロットする。特定のイオンに対応するピーク下面積、またはそのようなピークの振幅が測定され、面積または振幅は、両性電解質組成物中の対象成分またはマーカーの量と相関する。特定の実施形態において、所与のm/zを有する分析物の量を決定するために、フラグメントイオンおよび/または前駆イオンの曲線下面積またはピークの振幅を測定する。上記のように、相対強度と呼ばれることもある相対存在量、または特定のイオンの応答は、内部分子標準の1つまたは複数のイオンのピークに基づく較正標準曲線を使用して元の分析物の絶対量に変換できる。次に、LC-MSによって検出された両性電解質組成物成分の絶対量を、元の試料に存在していた成分の絶対量に変換できる。
【0066】
相対存在量または相対強度は、マススペクトルのy軸として定義することもできる。いくつかの実施形態において、マーカーの量は、質量スペクトルの最も豊富なイオン(ベースピーク)の量に関連して定量化することができる。いくつかの実施形態において、マーカーの量は、応答係数または標準曲線を使用して定量化することができる。いくつかの実施形態において、マーカーの量を定量化することは、(1)試料中の内部標準、例えば、基準両性電解質および/または試験両性電解質組成物を含むこと、および(2)マーカーを試料中の内部標準に対して正規化することを含む。いくつかの実施形態において、マーカーの量を定量化することは、(3)複数の両性電解質組成物にわたって測定されたマーカーの最大補正量に対して前記マーカーを正規化することをさらに含む。例えば、マーカーは、同じメーカーの複数の両性電解質ロットから測定されたマーカーの最大補正応答(別名相対強度)に対して正規化できる。内部標準には、実行中期に溶出し、高いイオン化効率を示す13-カルバマゼピンが含まれるが、これに限定されない。
【0067】
いくつかの実施形態において、各m/zの応答値を正規化して、機器のドリフトを説明するために、内部標準の応答を使用することができる。
【0068】
いくつかの実施形態において、マーカー割り当てのパラメータの公差を設定するために、保持時間(RT)、衝突断面積(CCS)、またはその両方の変化、および実行中の内部標準のm/zを使用することができる。
【0069】
いくつかの実施形態において、両性電解質組成物のマーカーまたは成分の相対強度は、例えば、複数の両性電解質組成物にわたって測定されたそのマーカーの最大相対強度に対して正規化される。
【0070】
本明細書で使用される「測定された精密質量」と呼ばれることもある「精密質量」は、両性電解質組成成分などの分析物の元素組成を決定することを可能にするMSから実験的に決定された質量である。「精密質量/保持時間」または「AMRT」とは、(1)液体クロマトグラフィー中の両性電解質組成物の成分の保持時間と(2)質量分析によって測定された成分の精密質量の組み合わせを指す。
【0071】
本明細書で使用される「衝突断面積」またはCCSデータは、イオンモビリティ実験を通して得ることができる。これは、個々のイオンと中性ガス分子間の相互作用に有効な領域であり、化学構造や寸法などのイオンの特性に関連している。これは、ドリフトチューブイオンモビリティ測定や進行波IMSなどの方法を使用して導出することができる。例えば、CCS値を計算するために、さまざまな電界で複数の測定が行われる。
【0072】
いくつかの実施形態において、LC-MSは、超高速液体クロマトグラフィータンデムイオンモビリティ四重極飛行時間型質量分析(UPLC-IMS-Q-Tof_MS)を含む。
【0073】
適切なLC-MS機器およびシステムには、BioAccord LC-MS System for Biopharmaceuticals(Waters)、Waters Vion IMS-Q-ToF-MSと組み合わせたWaters Acquity UPLC H-Class、Agilent Ultivo LC/MSシステム、およびOrbitrap LC-MSシステム(ThermoFisher)が含まれるが、これらに限定されない。
【0074】
両性電解質組成物のマーカーの同定
本開示は、両性電解質組成物中の少なくとも1つのマーカーを同定する方法を提供し、この方法は、(i)少なくとも1つの試験両性電解質組成物および基準両性電解質組成物の複数の成分の精密質量/保持時間(AMRT)、または衝突断面積測定値を決定することと、(ii)S-プロットを使用して、少なくとも1つの試験両性電解質組成物由来および基準両性電解質組成物由来の複数の成分のAMRT測定値の共分散をプロットすることと、(iii)少なくとも1つの試験両性電解質組成物と基準両性電解質組成物との間で異なる少なくとも1つの成分を選択するか、または少なくとも1つの試験両性電解質組成物と基準両性電解質組成物との間で類似する少なくとも1つの成分を選択することと、を含み、それにより、少なくとも1つの試験両性電解質組成物の適合性を特徴決定するための少なくとも1つのマーカーを同定する。
【0075】
両性電解質組成成分のAMRT測定値間の類似性および差異は、当技術分野で知られている任意の統計的方法によって決定することができる。1つのアプローチには、少なくとも1つの試験両性電解質組成物および基準組成物の成分間のAMRT対の共分散を計算してプロットすることが含まれる。ここで使用される共分散とは、2つの確率変数の共同変動性を指す。一方の変数の大きい方の値が主にもう一方の変数の大きい方の値に対応し、小さい方の値にも同じことが当てはまる場合(つまり、変数が同様の動作を示す傾向がある場合)、共分散は正である。反対の場合、一方の変数の大きい値が主にもう一方の小さい値に対応する場合(つまり、変数が反対の動作を示す傾向がある場合)、共分散は負になる。
【0076】
共分散は、当業者に周知であろう、主成分分析(PCA)、潜在構造への直交射影-判別分析(OPLS-DA)、Waters S-プロットなどの方法を使用して計算することができる。
【0077】
「主成分分析」または「PCA」は、直交変換を使用して、相関している可能性のある変数のセットを、主成分と呼ばれる線形に相関のない変数の値のセットに変換する統計手順である。この変換は、最初の主成分が可能な限り最大の分散を持ち(つまり、データの変動を可能な限り多く説明する)、後続の各成分が、前のコンポーネントに直交しているという制約の下で可能な限り最大の分散を持つように定義される。したがって、PCAは多変量データの大規模なセットを主成分と呼ばれる無相関変数に減少させる。PCAは、個々の試料群に関する情報をプロットから確認できないという点で制限されている。
【0078】
いくつかの実施形態において、潜在構造への直交射影-判別分析(OPLS-DA)を使用してデータをさらにマイニングすることができる。この統計分析は、2つのグループ間で観察された全体的な違いに寄与する特定の特徴(例えば、両性電解質種)を特定させる。
【0079】
いくつかの実施形態において、PCAおよび任意選択で、OPLS-DAデータは、S-プロットとして見ることができる。S-プロットは、2つの値のグループ間に見られる非類似性をプロットする統計的方法である。したがって、S-プロットは2つの試料(例えば、n=3の測定値、最小)を比較する。例えば、基準および試験両性電解質組成物由来の成分のAMRT対および/またはCCS測定値は、S-プロットを使用してプロットすることができる。S-プロットでは、共分散または変化の大きさがx軸にプロットされ、相関、つまり変化の一貫性がy軸にプロットされる。マーカーがx軸の原点から遠くに配置されているほど、グループ間の分散への寄与が大きくなり、y軸に沿って遠いマーカーはより高い分析結果の信頼性を表す。例示的なS-プロットでは、少なくとも1つの試験両性電解質組成物および基準両性電解質からのAMRT対の共分散がプロットされている。S-プロット上のすべてのポイントは、関連するRTおよびCCS値を有する特定のm/zである。マーカーは、複製全体の一貫性および変化の大きさによってプロットされる。x軸に沿って原点から離れるほど、試料間の強度(または相対濃度)の差違が大きくなる。グループ間の違いは、1つのグループにのみ存在するマーカー、またはグループ間で強度に大きな変化があるマーカーに起因し得る。y軸の原点から離れるほど、3回の測定での分析結果の信頼性が高まる。S-プロットを使用して、ロット間で最も異なる特徴を特定し、両性電解質ロットを特徴決定するスクリーニングライブラリを生成するために、これらのマーカーを使用することができる。
【0080】
いくつかの実施形態において、両性電解質組成物の適合性を判定するために少なくとも1つのマーカーを同定する方法は、(i)少なくとも1つの試験両性電解質組成物および基準両性電解質組成物の複数の成分の精密質量/保持時間(AMRT)測定値を決定することと、(ii)S-プロットを使用して、少なくとも1つの試験両性電解質組成物由来および基準両性電解質組成物由来の複数の成分のAMRT測定値の共分散をプロットすることと、(iii)少なくとも1つの試験両性電解質組成物と基準両性電解質組成物との間で異なる少なくとも1つの成分を選択することであって、その差違は、S-プロットにおいて0未満である共分散を含む、選択することと、を含み、それにより、少なくとも1つの試験両性電解質組成物の適合性を特徴決定するための少なくとも1つのマーカーを同定する。S-プロットで共分散が0未満の場合、AMRTの対の値は、基準および試験両性電解質の組成の間で負の相関がある。したがって、少なくとも1つのマーカーは、基準両性電解質組成物と試験両性電解質組成物との間の差異に基づいて選択され、基準および試験両性電解質組成物間の少なくとも1つのマーカーの存在および/またはレベルの差異は、試験両性電解質組成物の適合性を判定する。
【0081】
いくつかの実施形態、例えば、少なくとも1つのマーカーが基準および試験両性電解質組成物との間の差異のマーカーである実施形態において、マーカーとして選択される少なくとも1つの成分は、S-プロットにおける複数の成分の少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、または少なくとも80%の共分散よりも小さいS-プロットにおける共分散を含む。
【0082】
いくつかの実施形態において、少なくとも1つのマーカーのレベルの差違は、少なくとも1つのマーカーの正規化されたレベルに対して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%のレベルの差違を含む。例えば、基準両性電解質組成物は、100%である少なくとも1つのマーカーの正規化されたレベルを含み、試験両性電解質組成物は、30%である少なくとも1つのマーカーの正規化されたレベルを含む。マーカーは、質量電荷比(m/z)、および本明細書に記載されている最大相対強度に対して正規化された相対強度によって決定されるマーカーのレベルによって特徴決定することができる。
【0083】
いくつかの実施形態において、両性電解質組成物の適合性を判定するために少なくとも1つのマーカーを同定する方法は、(i)少なくとも1つの試験両性電解質組成物および基準両性電解質組成物の複数の成分の精密質量/保持時間(AMRT)測定値を決定することと、(ii)S-プロットを使用して、少なくとも1つの試験両性電解質組成物由来および基準両性電解質組成物由来の複数の成分のAMRT測定値の共分散をプロットすることと、(iii)少なくとも1つの試験両性電解質組成物と基準両性電解質組成物との間で類似する少なくとも1つの成分を選択することであって、その類似性は、S-プロットにおいて0未満である共分散を含む、選択することと、を含み、それにより、少なくとも1つの試験両性電解質組成物の適合性を特徴決定するための少なくとも1つのマーカーを同定する。S-プロットで共分散が0超の場合、AMRTの対の値は、基準および試験両性電解質の組成の間で正の相関がある。したがって、少なくとも1つのマーカーは、基準両性電解質組成物と試験両性電解質組成物との間の類似性に基づいて選択され、基準および試験両性電解質組成物間の少なくとも1つのマーカーの存在および/またはレベルの類似性は、試験両性電解質組成物の適合性を判定する。
【0084】
いくつかの実施形態、例えば、少なくとも1つのマーカーが基準および試験両性電解質組成物間の類似性のマーカーである実施形態において、マーカーとして選択される少なくとも1つの成分は、S-プロットにおける複数の成分の少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%の共分散よりも大きいS-プロットにおける共分散を含む。
【0085】
いくつかの実施形態において、少なくとも1つの試験両性電解質組成物中および基準両性電解質組成物中の少なくとも1つのマーカーのレベルが類似している場合、少なくとも1つの試験両性電解質組成物は適切な活性を有する。いくつかの実施形態において、少なくとも1つのマーカーのレベルの類似性は、少なくとも1つのマーカーの正規化されたレベルと比較して、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%類似しているレベルを含む。例えば、基準両性電解質組成物は、100%である少なくとも1つのマーカーの正規化されたレベルを含み、試験両性電解質組成物は、少なくとも90%である少なくとも1つのマーカーの正規化されたレベルを含む。さらなる例として、基準両性電解質組成物は、100%である少なくとも1つのマーカーの正規化されたレベルを含み、試験両性電解質組成物は、少なくとも80%である少なくとも1つのマーカーの正規化されたレベルを含む。マーカーは、質量電荷比(m/z)、および本明細書に記載されている最大相対強度に対して正規化された相対強度によって決定されるマーカーのレベルによって特徴決定することができる。
【0086】
本開示は、少なくとも1つの試験電解質組成物および基準両性電解質組成物間の少なくとも1つのマーカーの類似性または差異の程度を決定する方法を提供する。いくつかの実施形態において、方法は、(i)少なくとも1つの試験両性電解質組成物中および基準両性電解質組成物中の少なくとも1つのマーカーのLC-MS質量スペクトルを決定すること、(ii)少なくとも1つの試験両性電解質組成物および基準両性電解質組成物の質量スペクトル中の少なくとも1つのマーカーにおける相対強度を決定することと、(iv)少なくとも1つのマーカーのベースピークの相対強度を、少なくとも1つの試験両性電解質組成物または基準両性電解質組成物から測定されるベースピーク最大相対強度に対して正規化することと、(iv)少なくとも1つの試験両性電解質組成物および基準両性電解質組成物における少なくとも1つのマーカーのベースピークの正規化された相対強度の相対強度を比較することと、を含む。
【0087】
いくつかの実施形態において、少なくとも1つのマーカーは、複数のマーカーを含む。いくつかの実施形態において、少なくとも1つのマーカーは、異なるm/zを有する少なくとも2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、75、または100個のマーカーを含む。
【0088】
いくつかの実施形態において、少なくとも1つのマーカーは、異なるm/zを有する1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、または16個のマーカーを含む。
【0089】
いくつかの実施形態において、少なくとも1つのマーカーは、異なるm/zを有する16個のマーカーを含む。いくつかの実施形態において、16個のマーカーは、m/zが280、m/zが319、m/zが329、m/zが347、m/zが373、m/zが375、m/zが376、m/zが431、m/zが504、m/zが506、m/zが508、m/zが520、m/zが534、m/zが562、m/zが906、およびm/zが980のマーカーを含む。
【0090】
試験両性電解質組成物を特徴決定するために使用することができる異なるm/zの適切な複数のマーカーは、本明細書に記載の方法を使用して、基準両性電解質組成物に対して新たに決定され得る。例えば、LC-MSを介して基準両性電解質組成物および試験両性電解質組成物を特徴決定し、S-プロットを介してAMRT対をプロットし、共分散に基づいて少なくとも1つ、または複数のマーカーを選択する。
【0091】
あるいは、またはさらに、試験両性電解質組成物は、本明細書に記載の方法を使用して以前に決定されたマーカーの所定のライブラリとの比較を介して、本明細書に記載の方法を使用して特徴決定され得る。例えば、試験両性電解質組成物の少なくとも1つまたは複数のマーカーの相対強度は、LC-MSを介して決定され、マーカーの所定の基準ライブラリまたは標準ライブラリと比較することができる。
【0092】
本記載は、多数の例示的な構成、方法、パラメータなどを示している。しかしながら、そのような記載は、本開示の範囲を限定することを意図するものではなく、例示的な実施形態の記載として提供されることを認識されたい。
【実施例
【0093】
実施例1:タンパク質電荷変異体レベルを決定するためおよび/またはタンパク質産物の同一性を判定するための画像化されたキャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)プロトコル
iCIEFは、原薬、製剤化された原薬、薬物製品、および書面による仕様が確立されているインプロセス材料の実験室試験に使用される。仕様に対するリリース試験に使用する場合は、iCIEFの標準操作手順(SOP)に準拠し、逸脱に対処する必要がある。以下は、SOPプロトコルで使用される両性電解質ロットのロット間の変動によって結果が影響を受ける例示的なiCIEFSOPプロトコルである。
【0094】
定義
iCIEF - 画像化されたキャピラリー等電点電気泳動。
pI - 等電点、正味電荷がゼロである分子のpH。
領域1(酸性) - iCIEFエレクトロフェログラムの最大ピークと比較して比較的酸性のピーク群。
領域2(中性) - 最大のタンパク質ピーク/ピーク[複数] に対応する主要なピーク。
領域3(基本) - iCIEFエレクトロフェログラムの最大ピークと比較して比較的基本的なピーク群。
両性イオン - pI値およびその近くで双性イオンとして動作する正電荷と負電荷の両方を含む化合物。両性電解質は、集束中のpH勾配の形成を支援する。
転送時間の測定 - 適切な試料注入を確実にするために実行された実験。測定は、iCE3計測器の起動時または新しいカートリッジの取り付け時に実行される。
プレミックスモード - タンパク質試料は、担体ファルマライト、添加物、およびpIマーカーとプレミックスされる。
【0095】
材料
・セーフロックエッペンドルフチューブ、1.5mL(VWR、cat。#21008-959)または同じ構造の同様のチューブ
・cIEFカートリッジFCコーティング(ProteinSimple、PN101701)
・10mLアンバーバイアル、22x75、キャップ付き(薄いセプタム)(ProteinSimple、PN045-139)
・300μL成形インサート付きポリプロピレンバイアル(ProteinSimple、PN045-133)
・セプタムパックiCE3(300μLキャップ)(ProteinSimple、PN045-134)
・電解質ピペット(ProteinSimple、PN101788)または同じ構造の同様のピペット
・マイクロインジェクショントランスファーキャピラリー、コーティング(ProteinSimple、PN102694)
・5mLマイクロチューブ、ナチュラル(ArgosTechnologies、カタログ番号T2076)、または同じ構造の同様のチューブ
・Ultracel-10メンブレンを備えたAmiconUltra-0.5遠心フィルタユニット(Millipore、カタログ番号UFC501096)
【0096】
化学製品
・Milli-Qシステムで精製された水、またはHPLC Grade Water(VWR、cat。#JT4218-3)などの購入した水、または注射用水(WFI)、(APP Pharmaceuticals、カタログ番号918510)
・適切な抗体参照標準物質(現行の標準ロット)
・尿素(Sigma-Aldrich、BioXtracat#U0631)
・3-10ファルマライト(VWRカタログ番号17-0456-01またはSigmaカタログ番号P1522-25ML)2~8℃で保管。
・0.5%メチルセルロース(MC)溶液(ProteinSimple、PN102505)
・1%メチルセルロース(MC)溶液(ProteinSimple、PN101876)
・電解質キット(ProteinSimple、PN102506):
○100mL0.08MH3PO4
○100mL0.1MNaOH
・pIマーカーpI5.12(ProteinSimple、PN102224)
・pIマーカーpI9.50(ProteinSimple、PN101996)
【0097】
装置
・試験調製物のためのマイクロ遠心機
・ProteinSimpleiCE3チャージバリアントアナライザー
・VWRシングルチャネルピペット(VWR#89130-554、556、560、562、566)または同様の範囲のピペット
・滅菌ピペットチップ(VWR)または使用するピペットに一致するチップ
・容積式ピペット(Rainin#MR-10、MR-100、MR-250、MR-1000)
・Raininポジティブピペットチップ(Rainin#C-10、C-100、C-250、C-1000)
・Eppendorf Repeater Plus Pipettor(VWR、カタログ番号21516-002)
・Eppendorf Combitipsピペットチップ(VWR、カタログ番号21516-138)
・分析バランス
【0098】
試薬溶液
試薬溶液の量は必要に応じて調整することができる。
【0099】
8M尿素溶液:8M尿素溶液を調製するには、5mLコニカルチューブに2.4gの尿素を量り取る。約4mLのマークまでゆっくりと水を添加する。尿素が溶解するまで混合物を攪拌する。水で溶液を5mLの最終容量にする。よく混合させる。毎日新しく調製する。
【0100】
マスターミックス:以下は、必要に応じてスケーリングする必要がある単一の調製である。一般的なiCIEF法では、酸性および塩基性マーカーとしてpI5.12マーカーおよびpI9.50マーカーが推奨される。マスターミックスはよく混合させ、毎日新しく調製する必要がある。
【0101】
(表1)マスターミックス
【0102】
手順
iCE3を開始するための標準的な起動手順を使用できる。
【0103】
参照標準物質の調製:システムの適合性を示すために、現行の参照標準物質を使用できる。適切な参照試料を、水を使用して2mg/mLに希釈する。標準液を穏やかに反転させて混合し、マイクロ遠心機でチューブを約15秒間回転させる。
【0104】
別のチューブで、40μLの2mg/mL参照標準物質または試験品の調製物を160μLのマスターミックスと組み合わせる。必須のシステム適合性注入のために、少なくとも2つのバイアルを準備する必要がある。この調製は、それに応じてスケーリングすることができる。穏やかに反転させて混合し、内容物をチューブの底に押し込むために、約15秒間回転させる。
【0105】
インプロセス試料の調製:インプロセス試料を、水を使用して2mg/mLに希釈する。穏やかに反転させて混合する。フィルタをきれいなマイクロ遠心チューブに入れて、遠心ろ過装置を組み立てる。400μLの水をフィルタにピペッティングしフィルタのメンブレンを事前に濡らし、メンブレン全体を確実に濡らすようにする。ピペッティングによりフィルタから水を取り除き、水を廃棄物容器に廃棄する。希釈した2mg/mLのインプロセス試料200μLを事前に濡らしたフィルタに充填する。付属のフィルタにマイクロ遠心チューブをかぶせて、遠心ろ過装置を閉じる。装置を14,000の相対遠心力(rcf)で15分間遠心分離する。
【0106】
遠心分離機から装置を取り外す。装置からフィルタを取り外し、きれいなマイクロ遠心チューブに逆さにする。除去したバッファーが入っているマイクロ遠心チューブを廃棄する。フィルタをきれいなマイクロ遠心チューブに入れると、キャップをかぶせることができなくなる。逆フィルタ付きのキャップのない装置を遠心分離機に入れ、1,000rcfで2分間回転させる。その後遠心分離させると、濃縮されたタンパク質はマイクロ遠心チューブ内にある。フィルタを破棄する。
【0107】
濃縮したタンパク質を180μLの水で再構成させる。穏やかに反転させて混合し、内容物をチューブの底に押し込むために、約15秒間回転させる。
【0108】
ろ過した試料40μLを160μLマスターミックスと混合する。穏やかに反転させて混合し、内容物をチューブの底に押し込むために、約15秒間回転させる。
【0109】
原薬、製剤化された原薬および/または製剤の調製:試料濃度が20mg/mL未満の場合は、以下の原薬、製剤化された原薬および/または製剤の調製についてのプロトコルの代わりに、インプロセス試料についての上記のバッファー交換手順に従う必要がある。
【0110】
原薬、製剤化された原薬または製剤が抗体である場合、調製中のいかなるときもボルテックスしてはならない。
【0111】
試験品(原薬、製剤化原薬または製剤)を水で2mg/mLに希釈する。穏やかに反転させて混合し、マイクロ遠心機でチューブを約15秒間回転させる。別のチューブで、40μLの2mg/mL試験品調製物を160μLのマスターミックスと組み合わせる。穏やかに反転させて混合し、内容物をチューブの底に押し込むために、約15秒間回転させる。
【0112】
ブランクの調製:40μLの水を160μLのマスターミックスと混合する。穏やかに反転させて混合し、内容物をチューブの底に押し込むために、約15秒間回転させる。
【0113】
iCE3計測器を使用した試料ローディング:iCE3プレミックスモードを使用する。上記のように調製した試料(参照標準物質/参照溶液、試験品、ブランク調製物)の上清150μLを、300μLの成形インサートを備えたポリプロピレンバイアルに移す。バイアルの底に気泡がないことを確認する。
【0114】
試料バイアルをAlcott720オートサンプラーに入れる。10mLの琥珀色のバイアルに約8mLの0.5%メチルセルロース(MC)を充填し、オートサンプラーの「D」位置に配置する。微生物の増殖を防ぐために、毎日新鮮なMC溶液を使用する。ウォーターラインをMilli-Q水の新しいボトルに挿入し、機器の上に置く。廃棄物ラインを指定された廃棄物コンテナに入れる。
【0115】
バッチセットアップと開始(iCE3):CFRソフトウェアを開く。[バッチ/データ]をクリックして、[展開]を選択する。「バッチファイル制御」ウィンドウが表示される。次のいずれかのオプションを使用してバッチファイルを作成する。
(1)新しいバッチファイルを作成するには、バッチファイル名を入力し、バッチを保存するフォルダを選択する。注入実行の数を選択し、[新しいファイル]をクリックする。
(2)以前に保存したバッチファイルをテンプレートとして使用して新しいバッチファイルを開始するには、[バッチファイルコントロール]ウィンドウの左区画で目的のファイルを見つける。[ファイルを開く]をクリックする。[名前を付けて保存]ボタンをクリックし、新しいファイル名を入力して[OK]をクリックする。
【0116】
バッチでは、最初の注入はブランクにする必要がある。試験品は、適切な製品参照標準物質を少なくとも5回注入することによりブラケットされる必要がある。合計5回の参照標準物質注入に対して、試験品注入前に3回参照標準物質注入し、次に2回参照標準物質注入することが推奨される。
【0117】
たまに注入を逃したり、タンパク質プロファイルを妨害するランダムなスパイクが発生したりし、非定型のエレクトロフェログラムが生じる場合がある(強度、数、およびピークのパターンに関して)。ブランク、参照標準物質、および試験品の再注入は、使用する参照標準物質が関連する試料注入に適切である場合、ブラケットとして少なくとも5回の参照標準物質注入を使用して、最初の注入から24時間以内に行うことができる。
【0118】
バッチフォーカス時間設定のセットアップ:注入ごとに一意でわかりやすいファイル名を入力する。試料IDには、参照標準物質/参照溶液指定、LIMS番号、またはその他の試料識別子を入力する。バイアルに順番に番号を付ける。フォーカス時間1(プリフォーカス)は次の設定を使用する:1500Vで1分。フォーカス時間2(フォーカス)は次の設定を使用する:3000Vで7分。洗浄時間は90秒、転送時間遅延は0.00分。
【0119】
オートサンプラーパラメータを設定する。
・温度制御:はい;10℃に設定。
・バッファー注入時間:デフォルト値。
・試料注入時間:デフォルト値。
・ロード時間:6秒。
・バイアルタイプ:2mL、300μLインサート。
・針の深さ:48mm。
【0120】
試料およびバッファー注入時間は、転送時間測定(スタートアップ/カートリッジインストールのシステムチェック)中に決定され、プラトーが現れるまでの時間の長さに基づいている。プラトーの時間より少なくとも10秒長くすることを推奨する。
【0121】
試料条件の下で次の情報を入力する。
・担体両性電解質:4%3~10ファルマライト
・添加剤:2M尿素、0.35%MC
・低pIマーカー:マスターミックスの酸性マーカーのpI値(5.12)
・高pIマーカー:マスターミックスの塩基性マーカーのpI値(9.50)
・濃度[μg/μL]:0.40
・試料タイプの選択(オプション)
【0122】
濃度について、ブランクの濃度は0であることに注意する。処理中の試料の最終濃度は、使用する希釈係数によって異なる場合がある。
【0123】
データ変換
データ変換は、iCECFRソフトウェアを使用して実行できる。CFRソフトウェアを使用して、エレクトロフェログラムを生成し、ブランク、リファレンス標準、および試験試料のエレクトロフェログラムのpIマークを設定できる。CFRソフトウェアを使用して、追加の分析のためにデータをEmpowerなどの他の形式に変換することもできる。
【0124】
システムの適合性
酸性(低)および塩基性(高)pIマーカーの両方が、ブランク、参照標準物質、および試験品の注入のエレクトロフェログラムに存在する必要がある。複製参照標準物質注入は、プロファイルが類似している必要がある(つまり、強度、数、およびピークのパターンの点で)。少なくとも5回の反復参照標準物質注入の領域1および領域2は、それぞれ、%RSD≦5%の製品仕様を満たす平均%面積結果を持っている必要がある。
【0125】
アッセイの妥当性チェック
試験品のプロファイルは、強度、数、およびピークのパターンの点で、製品固有のジョブエイドからの例のエレクトロフェログラムと質的に類似している必要がある。適切な製品固有のジョブエイドに統合されるため、対象のブランクインジェクションタンパク質領域にピークがあってはならない。
【0126】
タンパク質電荷変異体分析
結果は小数点第1位まで報告される。参照標準物質については、すべての注入からの領域1、2、および3の平均複製%面積が報告される。領域1、2、および3のすべてのレプリケートインジェクション間の%RSD、および領域2の平均pI値(情報のみ)も報告される。試験物品(試験試料と呼ばれることもある)については、適切な製品仕様またはプロトコルで指定されているデータが報告される。使用可能なプロトコルがない場合は、領域1、2、および3の%領域が報告される。情報提供のみを目的として、領域2の平均pI値が報告されている。
【0127】
実施例2:両性電解質ロットの変動がエレクトロフェログラムの相違を引き起こす
両性電解質は、iCIEFアッセイの重要な試薬である。ただし、同じ基準タンパク質を分析する場合でも、異なるロットの両性電解質は異なるエレクトロフェログラムを示し、品質管理試験の失敗につながる(図1Aと1Bを比較)。
【0128】
基準タンパク質1を、上記の実施例1で説明したように、iCIEFを使用して、両性電解質ロット1(現行の標準)とさまざまな試験両性電解質ロットを使用して分析した。以下の表1は、この分析の過程で試験されたGE両性電解質ロットをまとめたものである。
【0129】
(表1)GE HealthcareファルマライトpH3~10ロット
【0130】
両性電解質ロットが異なるが他の点では同一の条件下で生成された、基準タンパク質1のiCIEFエレクトロフェログラムは、プロファイルに実質的な違いを示した(例えば、図1A図1Bを比較、図4Aまたは図10Bのエレクトロフェログラムを比較)。
【0131】
iCIEF分析での薬剤濃度の変化は、両性電解質濃度のわずか2%の変化がエレクトロフェログラムの変化を引き起こす可能性があることを示した。例えば、両性電解質の濃度を4%から6%に変更すると、基準タンパク質1の領域1の面積が1%減少した(図3)。
【0132】
両性電解質ロットの違いも、iCIEFエレクトロフェログラムのピークの分解能に影響を与えた。図5A~5Cに示されるように、各両性電解質の分解能は、7.0~7.05のpIについて計算された。図4A~4Bに示されるように、両性電解質のロットが異なれば、ピークの分解能も7.0~7.05異なる。
【0133】
実施例3:LC-MSおよびマーカーライブラリの作成による両性電解質ロットの特徴決定
従来、両性電解質ロットは、iCIEFアッセイの性能を評価することによって間接的に評価されている。本発明者らは、直接両性電解質ロットの特徴決定の方法を開発した。これら方法は、既知のタンパク質リファレンスのエレクトロフェログラムを生成する両性電解質ロットの能力を分析するのではなく、LC-MSを使用して両性電解質自体を分析する。この方法は、UPLC IMS-Q-ToF-MSによって両性電解質自体の化学組成を特徴決定し、既知の基準タンパク質を使用してiCIEFアッセイのパフォーマンスと相関させる。
【0134】
GE両性電解質ロット1を、標準操作手順(SOP)の基準を確立するために使用した。ただし、交換ロットを必要とした。GE両性電解質ロット全体でロット間のばらつきが観察されており、これらの違いにより、同じ試料の繰り返し分析中に異なるエレクトロフェログラムが生じ、QC試験が失敗した。これは実施例2に見られる。
【0135】
したがって、UPLC IMS-Q-ToF-MSを使用して両性電解質の特徴決定方法を開発し、候補ロットを評価した。目的は、両性電解質ロットを化学的に特徴決定し、それらの間で変化する成分を監視することである。これは、将来のGE候補ロットの両性電解質の特徴決定方法を提供し、他のベンダーに適用できるワークフローとして機能する。ベンダーが提供する両性電解質の組成がなくても、この方法では、多変量統計分析を使用して候補ロットを現行のロットと比較し、違いを評価することができる。
【0136】
さらなる利点として、これらの方法を使用すると、タンパク質参照標準物質が消費されず、70:1の試料節約、または消費される試料が減少する。
【0137】
両性電解質試験方法の概要を図7に示す。簡単に言えば、両性電解質のロットは3回ニートで分析される。両性電解質ロットは、Waters VION IMS QTofイオンモビリティ四重極飛行時間型質量分析(LC-IMS-Q-TOF-MS)を使用して分離され、C4カラムとフルスキャンにより、質量電荷比(m/z)50~2000で両性電解質ロットの成分が同定されるが、この範囲は変動する可能性がある。成分は、イオンモビリティ分光分析(IMS)、m/z、およびリテンションタイム(RT)の許容範囲内で割り当てられた。LC-MSによって特定された成分の違いは、多変量分析によって分析され、Waters S-プロットを使用してプロットした。多変量分析により、ロット間の差異を評価するために使用できる、成分ライブラリを作成するために使用される両性電解質ロット間の差異が特定され、このロットは基準タンパク質を使用したiCIEFアッセイで標準の両性電解質ロットと同様に動作するであろう。
【0138】
図8Aは、成分ライブラリを作成するためにLC-MSによって分析された両性電解質ロットを示している。
【0139】
図8Bは、両性電解質LC-MSデータの例示的なWaters S-プロットを示している。Waters S-プロットは、2ロットの両性電解質間の精密質量(AMRT)の非類似性を示している。AMRT対は、共分散によってプロットされる。変化の大きさはx軸に示され、相関、または変化の一貫性はy軸に示される。つまり、x軸に沿って遠くにマーカーコンポーネントが配置されるほど、両性電解質ロット間の分散に対するそのマーカーの寄与が大きくなり、ロット間のマーカーの濃度の差違が大きくなる。y軸に沿って遠くにマーカーコンポーネントが配置されるほど、レプリケート間の結果の一貫性が高まる。両性電解質間の違いは、1つまたは複数の両性電解質ロットに存在する、または存在しない成分、および/またはロット間の選択マーカーの濃度の変化に起因する可能性がある。
【0140】
UPLC IMS-Q-ToF-MS手順:
分離を、デガッサ、チラー、クォータナリポンプ、およびオートサンプラーを備えたWatersAcquity UPLC H-Classシステムで実行した。粒子径1.7μmのWaters BEHTMC42.1×100mm分析カラムを、0.2mL/分の流速で操作した。試料注入には10μLのアリコートを使用した。移動相は、水中の0.1%ギ酸(A)およびアセトニトリル中の0.1%ギ酸(B)で構成されていた。勾配は、95%Aおよび5%Bを5分間保持することから始まり、35分後に95%Bまで直線的に上昇させた。この状態を5分間維持した後、50分で95%Aに戻した。カラムの再平衡化のために、カラムをこの状態でさらに10分間保持した。合計実行時間は60分であった。
【0141】
Waters Vion IMS-Q-ToF-MSを、MSeデータモードでの精密質量スクリーニングでポジティブエレクトロスプレーイオン化(+ESI)の下で使用した。質量分析計の設定は、キャピラリー電圧(2.00kV)、ソース温度(150℃)、脱溶媒和温度(200℃)、コーンガス(25L/時)、脱溶媒和ガス(800L/時)であった。データの収集と分析は、UNIFI(商標)ソフトウェアバージョン1.9.4.0を使用して実行した。
【0142】
5つの両性電解質ロット(-1、-2、-3、-4、および-5)を評価し、500μLの各ロットを、1μgmL-1の13-カルバマゼピン(これは中間溶出と高いイオン化効率により、内部標準として選択された)25μLでスパイクさせた。内部標準の応答を使用して、各m/zマーカーの応答値を正規化し、機器のドリフトを考慮した。さらに、保持時間(RT)、衝突断面積(CCS)、および実行中の内部標準のm/zの変化を使用して、マーカー割り当てのパラメータの公差を設定した。各両性電解質試料を、同じバイアルからニートで注入した(n=3)。開始移動相組成ブランクも各ロット間で分析した。
【0143】
データ処理は、フィルタリングと統計分析から始めた。主成分分析(PCA)により、多変量データの大規模なセットを主成分と呼ばれる無相関変数に減らすことができる。PCAは、プロットから個々の試料グループに関する情報を確認できないという制限があるが、潜在構造への直交射影-判別分析(OPLS-DA)を使用してデータをさらにマイニングすることができる。この統計分析により、2つのグループ間で観察された全体的な違いに寄与する特定の特徴(つまり、両性電解質種)を特定でき、S-プロットとして表示できる。S-プロットは2つの試料を比較し(n=3測定、最小)、S-プロット上のすべてのポイントは、特定のm/zであり、関連するRTおよびCCS値を有する。マーカーは、複製全体の一貫性および変化の大きさによってプロットされる。x軸に沿って原点から離れるほど、試料間の強度(または相対濃度)の差違が大きくなる。グループ間の違いは、1つのグループにのみ存在するマーカー、またはグループ間で強度に大きな変化があるマーカーに起因し得る。y軸の原点から離れるほど、3回の測定での分析結果の信頼性が高まる。S-プロットを使用して、ロット間で最も異なる機能を特定し、それらのマーカーをスクリーニングライブラリに追加した。選択されたマーカーは、両性電解質試料の3つの測定すべてに存在している必要があり、ブランクに存在していてはならない。次に、このライブラリを使用して、各ロットに対する特定のマーカーの有無、および特定の強度での存在を評価した。アッセイ性能に大きな影響を与えると疑われるマーカーは、構造を解明し、データベース検索を実行して同定することにより、さらに調査された。
【0144】
結果:
図10B~10Cは、ロット1、3、4および5を使用して生成されたiCIEFプロファイルの変動を示している。iCIEFによる試験では、ロット1と比較した場合にロット5のパフォーマンスが最も異なることがわかった(図10B~10C)。図10Bでは、エレクトロフェログラムは、ロット1から下に向かって、ロット1とは次第に異なって成長する。ロット2を使用して生成されたエレクトロフェログラム(図10C)は、ロット1によって生成されたものと最も類似していた。図10Aのマーカーライブラリから、ロット2は、両性電解質成分において、現行の標準的な両性電解質ロットであるロット1と最も類似していると予測された。図10Cから分かるように、ロット2が基準タンパク質1のiCIEFプロファイルを生成するために使用された場合、このプロファイルは、ロット3、4または5によって生成されたどのiCIEFプロファイルよりもロット1基準タンパク質1プロファイルにより類似していた(図10B)。したがって、両性電解質コンポーネントライブラリを使用して、標準ロットであるロット1に類似するiCIEFプロファイルを生成する両性電解質ロットを直接識別することができる。
【0145】
図9A~9Cは、3つの異なる両性電解質ロットを現行の標準ロットであるロット1と比較したWaters S-プロットを示している。1対5のS-プロットは、ロット1には、ロット5では存在しないかまたはより低い強度である、多くの特徴があることを示した(図9C)。最も変化したマーカーは、他の両性電解質ロットを特徴決定するために使用されるライブラリに追加した(図10Aを参照)。図9Aの1対2のS-プロットは、2つのロット間の一致を示した。この発見は、iCIEFの結果によって裏付けられ、この結果では、試験されたすべてのGEロットのうち、2が最も1に類似した結果を示した。このS-プロットからマーカーは選択されなかった。
【0146】
図10Cの四角で囲まれた点は、両性電解質ロットを特徴決定するために使用される成分のライブラリのために選択された成分を示す。S-プロットから特定されたマーカーを手動で評価して、検出されたロットの3つの測定すべてに存在し、両性電解質に固有であり、ブランクには存在しないことを確認した(図11B)。
【0147】
さらに、抽出されたイオンクロマトグラム(XIC)をモニターして、ガウスピークが観察されたことを確認した(図11A)。基準を満たすすべてのマーカーをスクリーニングライブラリに追加した。次に、このライブラリを使用して、どのマーカーがどのロットにどの強度で存在するかを評価した。対象のマーカーのヒートマップが作成され、各ロットの内部標準正規化応答が5ロット全体の最大正規化応答で除し、100を乗じ、百分率を得た(図10A)。ヒートマップで観察された傾向は、iCIEF試験の結果によって裏付けられた。ロット1と他のロットのマーカー間で検出された差違が大きいほど、SOPから逸脱したエレクトロフェログラムが大きくなる。高衝突エネルギーデータのデータ(構造については図12を、識別に使用されるクロマトグラムの例については図11Aを参照)の元素組成計算、構造データベース検索、フラグメントマッチングに基づくUNIFI科学情報システムを使用して、構造を解明し、同定のためのデータベース検索を実行することにより、アッセイ性能に大きな影響を与えると疑われるマーカーをさらに調査した(図12)。
【0148】
結論:
UPLC IMS-Q-ToF-MSを使用した両性電解質のロット間の変動の特徴決定は、iCIEF試験中のロットパフォーマンスの予測に成功した。この方法により、新しい両性電解質ロットの選択効率が向上し、iCIEF試験の量が減り、参照基準タンパク質が節約される。この同じワークフローは、将来のロット間の変動が観察された場合、複数の材料およびベンダーに対して機能し得る。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11
図12
図13
【手続補正書】
【提出日】2022-06-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】全図
【補正方法】変更
【補正の内容】
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6
図7-1】
図7-2】
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11
図12
図13
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0017
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0017】
本開示の方法のいくつかの実施形態において、適切な活性は、キャピラリー等電点電気泳動(CIEF)または画像化されたキャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)を含む。いくつかの実施形態において、iCIEFは、タンパク質薬物製品または原薬を特徴決定するために使用される。
[本発明1001]
適切な活性を有する試験両性電解質組成物を同定する方法であって、
a.液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)を使用して、少なくとも1つの試験両性電解質組成物中および1つの基準両性電解質組成物中の少なくとも1つのマーカーを同定することと、
b.前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物と前記基準両性電解質組成物との間の前記少なくとも1つのマーカーの類似性または差異の程度を決定することであって、
前記少なくとも1つのマーカーが低い共分散を有しかつ前記少なくとも1つのマーカーのレベルが前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物と前記基準両性電解質組成物との間で異なる場合、前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物が、適切な活性を有するか、
または、前記少なくとも1つのマーカーが高い共分散を有しかつ前記少なくとも1つのマーカーのレベルが前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物と前記基準両性電解質組成物との間で類似している場合、前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物が、適切な活性を有する、
前記決定することと
を含み、
それにより、適切な活性を有する試験両性電解質組成物を同定する、
前記方法。
[本発明1002]
工程(a)が、
i.前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物および前記基準両性電解質組成物の複数の成分について、精密質量/保持時間(AMRT)および/または衝突断面積測定値を決定することと、
ii.S-プロットを使用して、前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物由来および前記基準両性電解質組成物由来の前記複数の成分の前記AMRTおよび/または衝突断面積測定値の共分散をプロットすることと、
iii.前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物と前記基準両性電解質組成物との間で異なる少なくとも1つの成分を選択することであって、その差違が、前記S-プロットにおいて非0である共分散を含む、前記選択することと
を含み、
それにより、前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物の適合性を特徴決定するための少なくとも1つのマーカーを同定する、
本発明1001の方法。
[本発明1003]
前記少なくとも1つの成分が、前記S-プロットにおける前記複数の成分の少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、または少なくとも80%の共分散よりも小さい前記S-プロットにおける共分散を含む、本発明1002の方法。
[本発明1004]
前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物中および前記基準両性電解質組成物中の前記少なくとも1つのマーカーのレベルが異なる場合、前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物が、適切な活性を有する、本発明1002または1003の方法。
[本発明1005]
前記少なくとも1つのマーカーのレベルの差違が、前記少なくとも1つのマーカーの正規化されたレベルに対して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%のレベルの差違を含む、本発明1004の方法。
[本発明1006]
工程(a)が、
i.前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物および前記基準両性電解質組成物の複数の成分について、精密質量/保持時間(AMRT)または衝突断面積測定値を決定することと、
ii.S-プロットを使用して、前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物由来および前記基準両性電解質組成物由来の前記複数の成分の前記AMRTまたは衝突断面積測定値の共分散をプロットすることと、
iii.前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物と前記基準両性電解質組成物との間で類似する少なくとも1つの成分を選択することであって、その類似性が、前記S-プロットにおいて非0である共分散を含む、前記選択することと
を含み、
それにより、前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物の適合性を特徴決定するための少なくとも1つのマーカーを同定する、
本発明1001の方法。
[本発明1007]
前記少なくとも1つの成分が、前記S-プロット内の前記複数の成分の少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%の共分散よりも大きい前記S-プロットにおける共分散を含む、本発明1006の方法。
[本発明1008]
前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物中および前記基準両性電解質組成物中の前記少なくとも1つのマーカーのレベルが類似している場合、前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物が、適切な活性を有する、本発明1006または1007の方法。
[本発明1009]
前記少なくとも1つのマーカーのレベルの類似性が、前記少なくとも1つのマーカーの正規化されたレベルと比較して、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%類似しているレベルを含む、本発明1008の方法。
[本発明1010]
前記少なくとも1つのマーカーが、質量電荷比(m/z)によって同定される、本発明1001~1009のいずれかの方法。
[本発明1011]
前記少なくとも1つのマーカーのレベルが、質量スペクトルにおけるm/zの相対強度によって特徴決定される、本発明1010の方法。
[本発明1012]
工程(b)が、
i.前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物中および前記基準両性電解質組成物中の前記少なくとも1つのマーカーのLC-MS質量スペクトルを決定することと、
ii.前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物および前記基準両性電解質組成物の前記質量スペクトルにおける前記少なくとも1つのマーカーのベースピークの相対強度を決定することと、
iii.前記少なくとも1つのマーカーの前記ベースピークの前記相対強度を、前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物または前記基準両性電解質組成物から測定された前記ベースピークの最大相対強度に対して正規化することと、
iv.前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物および前記基準両性電解質組成物における前記少なくとも1つのマーカーの前記ベースピークの正規化された前記相対強度を比較することと
を含む、本発明1011の方法。
[本発明1013]
前記少なくとも1つのマーカーが、異なるm/zを有する1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、または16個のマーカーを含む、本発明1001~1012のいずれかの方法。
[本発明1014]
前記少なくとも1つのマーカーが、異なるm/zを有する16個のマーカーを含む、本発明1001~1012のいずれかの方法。
[本発明1015]
m/zが280、m/zが319、m/zが329、m/zが347、m/zが373、m/zが375、m/zが376、m/zが431、m/zが504、m/zが506、m/zが508、m/zが520、m/zが534、m/zが562、m/zが906、およびm/zが980のマーカーを、前記16個のマーカーが含む、本発明1014の方法。
[本発明1016]
前記質量分析が、イオンモビリティ四重極飛行時間型質量分析(IMS-Q-ToF-MS)を含む、本発明1001~1015のいずれかの方法。
[本発明1017]
前記液体クロマトグラフィーが高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を含む、本発明1001~1016のいずれかの方法。
[本発明1018]
前記HPLCがC4シリカカラムを含む、本発明1017の方法。
[本発明1019]
前記基準両性電解質組成物および前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物を使用して基準タンパク質の画像化されたキャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)エレクトロフェログラムを生成し、それにより少なくとも1つの試験エレクトロフェログラムおよび1つの基準エレクトロフェログラムを生成することによって、前記少なくとも1つの試験両性電解質組成物を検証することをさらに含む、本発明1001~1018のいずれかの方法。
[本発明1020]
前記少なくとも1つの試験エレクトロフェログラムおよび前記基準エレクトロフェログラムが類似しているかどうか前記試験両性電解質組成物が検証される、本発明1019の方法。
[本発明1021]
前記少なくとも1つの試験エレクトロフェログラムおよび前記基準エレクトロフェログラムの類似性が、ピークの数、サイズ、もしくは等電点(pI)、またはそれらの組み合わせによって判定される、本発明1020の方法。
[本発明1022]
前記少なくとも1つの試験エレクトロフェログラムおよび前記基準エレクトロフェログラムの類似性が、同一の数のピークを有することを含む、本発明1020または1021の方法。
[本発明1023]
前記少なくとも1つの試験エレクトロフェログラムおよび前記基準エレクトロフェログラムの類似性が、0.05未満のp値を有する前記基準エレクトロフェログラムおよび前記少なくとも1つの試験エレクトロフェログラムの1つの領域のピーク下面積の差違を含む、本発明1020~1022のいずれかの方法。
[本発明1024]
前記領域が、主要な基準ピーク、前記主要な基準ピークよりも酸性である領域、または前記主要な基準ピークよりも塩基性である領域を含む、本発明1023の方法。
[本発明1025]
前記適切な活性が、キャピラリー等電点電気泳動(CIEF)または画像化されたキャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)を含む、本発明1001~1024のいずれかの方法。
[本発明1026]
前記iCIEFが、タンパク質薬物製品または原薬を特徴決定するために使用される、本発明1025の方法。
【国際調査報告】