(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-15
(54)【発明の名称】マットな及び/又は構造化されたメタリック効果を有し、高光沢で研磨可能なコーティング及びその調製方法
(51)【国際特許分類】
B05D 1/36 20060101AFI20221208BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20221208BHJP
B05D 3/10 20060101ALI20221208BHJP
C23C 18/18 20060101ALI20221208BHJP
C23C 18/44 20060101ALI20221208BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
B05D1/36 Z
B05D7/24 303A
B05D3/10 K
C23C18/18
C23C18/44
C23C26/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022522600
(86)(22)【出願日】2020-10-14
(85)【翻訳文提出日】2022-06-08
(86)【国際出願番号】 EP2020078837
(87)【国際公開番号】W WO2021074187
(87)【国際公開日】2021-04-22
(32)【優先日】2019-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D-48165 Muenster,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】フランケ,ヘンドリク
(72)【発明者】
【氏名】ケーラー,トマス
【テーマコード(参考)】
4D075
4K022
4K044
【Fターム(参考)】
4D075AA01
4D075AA02
4D075AE03
4D075AE05
4D075BB01X
4D075BB01Z
4D075BB03X
4D075BB16X
4D075BB24Z
4D075BB65X
4D075BB65Z
4D075BB69X
4D075BB77Z
4D075BB79Z
4D075BB89X
4D075BB92Y
4D075CA47
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4K022AA11
4K022AA47
4K022BA01
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4K022DA01
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4K044AA16
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4K044BB15
4K044BC09
4K044CA04
4K044CA15
4K044CA53
4K044CA62
(57)【要約】
本発明は、基板上に多層コーティングを製造する方法であって、以下の工程、(i) 基板上にプライマーコート層(P)を形成する工程と;(ii) 前記コート層(P)の表面に銀メタル層(S)を形成する工程と;(iii) 前記銀メタル層(S)の表面上に1つ以上のクリアトップコート層(T)を形成する工程と、を有し、前記プライマーコート層が、つや消し剤及び構造化剤からなる群から選択される1つ以上の微粒子成分を含有し、前記銀メタル層(S)が、還元剤を用いることによって、可溶性銀塩を含有するアルカリ性アンモニア水溶液からの還元析出によって形成される。
本発明は上記方法によって得られ得る多層コーティング基板にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に多層コーティングを製造する方法であって、以下の工程、
(i) 基板上にプライマーコート層(P)を形成する工程と;
(ii) 前記コート層(P)の表面に銀メタル層(S)を形成する工程と;
(iii) 前記銀メタル層(S)の表面上に1つ以上のクリアトップコート層(T)を形成する工程と、を有し、
前記プライマーコート層が、つや消し剤及び構造化剤からなる群から選択される1つ以上の微粒子成分を含有し、前記銀メタル層(S)が、還元剤を用いることによって、可溶性銀塩を含有するアルカリ性アンモニア水溶液からの還元析出によって形成される、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記基板は、金属、ポリマー、木材、ガラス、鉱物ベース材料、及び前述のいずれかの材料の複合材料からなる群から選択される、前処理済み又は非前処理済みの、前コーティング済み又は非前コーティング済みの基板である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プライマーコート層(P)は、プライマート組成物から形成され、前記プライマート組成物は溶媒性コーティング組成物及び水性コーティング組成物からなる群から選択され、1液型組成物又は2液型組成物である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
プライマーコーティング組成物は、溶媒性2液型コーティング組成物である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記溶媒性2液型コーティング組成物は、エポキシ組成物又はポリオール-イソシアネート組成物である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記プライマーコート層(P)はクリアコート層である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記つや消し剤は、非晶質シリカ、沈殿シリカ、発熱性シリカ、シリカゲル、層状ケイ酸塩、珪藻土、Al、Zn、Ca又はMgのステアレート、ワックス化合物、カルボン酸系ワックス、尿素-ホルムアルデヒド縮合物からなる群から選択される、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記つや消し剤は、レーザー回折によって決定される2~20μm未満の体積中央値粒子径(D
50)を有している、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記構造化剤が無機材料、ポリアルキレン及びポリアミドからなる群から選択される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記構造化剤は、レーザー回折によって決定される20~150μmの体積中央値粒子径(D
50)を有している、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記銀メタル層の層厚は、クーロメトリック法に従って決定される0.5~2.5μmの範囲である、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
クリアトップコート層(P)は、クリアコート組成物から形成され、前記クリアコート組成物は、溶媒性コーティング組成物からなる群から選択され、及び/又は、ポリオール-イソシアネート2液型組成物である、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の方法によって得られ得る多層コーティング基板であって、
(a)基板と;
(b)前記基板上のプライマーコート層(P)と;
(c)前記コート層(P)の表面の上の銀メタル層(S)と;
(d)前記銀メタル層(S)の表面の上の、1つ以上のクリアトップコート層(T)と、
を有し、
前記プライマーコート層(P)はつや消し剤及び構造化剤からなる群から選択される1つ以上の微粒子成分を含有する、ことを特徴とする多層コーティング基板。
【請求項14】
乾燥及び/又は少なくとも部分的に硬化した前記プライマーコート層の層厚は、DIN EN ISO 2178によって決定される好ましくは10~150μmの範囲にあり、
前記銀メタル層(S)の層厚は、クーロメトリック法によって決定される好ましくは0.5~2.5μmの範囲にあり、
硬化した前記クリアトップコート層(T)の層厚は、DIN EN ISO 2178によって決定される好ましくは20~200μmの範囲にある、請求項13に記載の多層コーティング基板。
【請求項15】
前記つや消し剤についての、レーザー回折によって決定される体積中央値粒子径(D
50)は2~20μm未満であり、
前記構造化剤についての、レーザー回折によって決定される体積中央値粒子径(D
50)は30~200μmである、請求項13又は14に記載の多層コーティング基板。
【請求項16】
前記プライマーコート層(P)はクリアコート層である、請求項13~15のいずれか1項に記載の多層コーティング基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マットな及び/又は構造化されたメタリック効果(structured metallic effect)を有する高光沢で研磨可能な多層コーティング基板に関する。本発明はさらに、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板の表面のコーティングは、表面の保護のため、物理的特性の変更のため、装飾目的のため、又は基板の構造的完全性の向上など、さまざまな理由で有用であり得る。そのため、さまざまな基板の広い範囲をコーティングすることができる方法への関心は非常に高い。最も重要なのは金属とプラスチックのコーティングであるが、木材、ガラス及びその他の基板も重要である。
【0003】
近年、マットな及び/又は構造化された表面を有しながら、高光沢でメタリック効果を提供する装飾コーティングの需要が増加している。特に、自動車及びオートバイのコーティング、器具及び多くの他の領域のコーティングにおいて、マットな銀の様な効果を有するような表面が非常に望ましい。
【0004】
銀のような外観を有する表面を製造する方法は知られているが、そのような方法は、通常、表面がマットな及び/又は構造化されているというよりは、鏡面効果を示す表面をもたらす。このような方法では、特に2液型スプレーガンを使用し、該スプレーガンでは銀塩溶液及び還元溶液が2つの別々のノズルから噴射される。溶液が混合すると、還元液が銀塩溶液に含有される銀塩を還元し、金属銀が表面に析出する(precipitate)。析出した銀は基板に付着し、所望の鏡面が形成される。鏡面を洗浄し乾燥した後、透明(transparent)又は半透明(translucent)の保護ラッカーが通常は塗布される。このような透明又は半透明の保護層は損傷すると、多くの場合は腐食が生じるが、これは亜鉛粒子を含有するプライマー層(primer layer)上に銀層を堆積することによってある程度までは腐食を遅らせることが可能である。亜鉛粒子は銀層と共に局所要素を形成し、犠牲陽極として機能する。しかし、多層コーティングの硬化層間の如何なる反応も、他の特性(通常は機械的特性)を劣化させるため、回避する必要がある。
【0005】
WO2017/194547A1は、特殊な有機防食剤を含有する亜鉛粒子非含有のプライマーコート層上に銀層を形成し、その後、銀層上に透明又は半透明の保護層を形成することによって、鏡面効果を有する表面を提供し、そのことによってこの問題を解決している。この場合も、コーティングされた基板の外観は、マットな及び/又は構造化された外観というよりは、むしろ鏡面的である。
【0006】
一般に、単層又は多層コーティングのマットな及び/又は構造化された外観は、多層コーティングシステムの最外層、すなわちトップコート層に存在するワックス又はシリカ粒子及び/又は構造化剤などのいわゆるつや消し剤によって提供される。
【0007】
このようなトップコート層は、実質的にすべてのコーティングされた基板に塗布されて、そのような基板にマットな及び/又は構造化された効果を提供することができるが、そのような表面の触覚はかなり粗く(微小粗さ)、下の層はマットな及び/又は構造化された効果を提供する粒子によってある程度覆われており、したがって下の層によって提供されるメタリック効果を減少させて、最外表面は修復不可能なスクラッチ及び他の損傷を受けやすくなる。このような表面を研磨することは、コーティングの表面に含有される粒子の磨耗のために、研磨部品はそのマットな及び/又は構造化された外観を失うため、選択肢にない。通常、完全にコーティングされた部品は、補修コーティングされる部品の表面全体に均質なマットな及び/又は構造された効果を取り戻すために、再コーティングされる必要がある。
【0008】
したがって、本発明者らの目的は、高光沢を有し、損傷した場合には研磨可能でありながら、マットな及び/又は構造化された、好ましくは少なくともマットなメタリック効果を有するコーティングを提供することであった。このコーティングは、多くの基板に容易に適用でき、好ましくは、その効果を提供するために3層のみを要することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明のこの目的は、基板上の多層コーティングを製造するための方法を提供することによって達成され、前記方法は以下の工程、
(i) 基板上にプライマーコート層(P)を形成する工程と;
(ii) 前記コーティング層(P)の表面に銀メタル層(S)を形成する工程と;
(iii) 前記銀メタル層(S)の表面上に1つ以上のクリアトップコート層(T)を形成する工程であって、
前記プライマーコート層が、つや消し剤及び構造化剤からなる群から選択される1つ以上の微粒子成分を含有し、
前記銀メタル層(S)が、還元剤を用いることによって、可溶性銀塩を含有するアルカリ性アンモニア水溶液からの還元析出によって形成される工程と、
を含む。
【0011】
マットな及び/又は構造化された効果を達成するために、つや消し剤及び/又は構造化剤をトップコート層に提供するという確立された方法とは対照的に、本発明は、微粒子つや消し剤及び/又は構造化剤をプライマーコート層(P)に提供し、それによってプライマーコート層に、そこに含有される微粒子成分によって形成される「丘と谷」トポグラフィの存在による粗面を与えることを教示する。
【0012】
本明細書で使用される「つや消し剤」という用語は、ISO 4618:2014(EN)(塗料及びワニス)における定義に従って使用される。本発明に従って使用することができる典型的なつや消し剤は、詳細な説明の中で以下に記載される。本明細書で使用される「構造化剤」という用語は、単純なマットを超えてコーティングに均質な質感を提供する種を指す。
【0013】
プライマーコート層(P)の表面は、続いて、プライマーコート層(P)の表面トポグラフィに類似し、多層コーティングにメタリック効果を提供する銀メタル層(S)によってコーティングされる。
【0014】
本明細書で使用される「銀メタル層(S)」という用語は、層中に存在する銀メタルが、その元素の金属状態、すなわちAg0として実質的に存在することを意味する。
【0015】
最後に、銀メタル層(S)は、少なくとも1つの、好ましくはただ1つのクリアトップコート層(T)でコーティングされる。このトップコート層(T)は、保護層として機能し、典型的には、プライマーコート層(P)と銀メタル層(S)との組み合わせによって提供される効果を妨げることはない。トップコート層(T)は、典型的には、上記の種類又は他の種類の微粒子成分を含有しないため、トップコート層の表面は、非常に光沢があり、下の銀メタル層(S)のマットな及び/又は構造化されたトポグラフィに高光沢効果を提供する。このようなトップコート層は、微粒子成分の磨耗が推測されないため、研磨可能である。
【0016】
本明細書で使用される「クリアトップコート層」という用語は、ISO 4618:2014(EN)で定義される「クリアコーティング材料」及び「トップコート」という用語の定義に従って理解される。言い換えれば、「クリアトップコート層」は、「クリアコーティング材料」、すなわち基板に塗布される場合、保護的、装飾的又は特定の技術的特性を有する固体透明フィルムを形成するコーティング材料の塗布によって形成される「トップコート」層(すなわちコーティングシステムの最終コート層)である。
【0017】
本発明のさらなる主題は、本発明による方法に従って得ることができる多層コーティング基板である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明による方法
工程(i)
本発明の方法は、少なくとも工程(i)、(ii)及び(iii)を含み、その後この順序で実施される方法である。
【0019】
基板
本発明の方法においては、多種多様な材料が基板として使用されることができる。好ましくは、基板材料は、金属、ポリマー、木材、ガラス、鉱物ベース材料、及び前述のいずれかの材料の複合材料からなる群から選択される。
【0020】
金属という用語は、鉄、アルミニウム、亜鉛、銅のような金属元素、ならびに冷延鋼板、亜鉛メッキ鋼板のような鋼などの合金を含む。ポリマーは、熱可塑性ポリマー、デュロプラスチックポリマー又はエラストマーポリマーであり、デュロプラスチックポリマー及び熱可塑性ポリマーが好ましい。鉱物ベース材料は、例えば、硬化セメント及びコンクリートのような材料を包含する。複合材料は、例えば、繊維強化ポリマーなどである。
【0021】
もちろん、工程(i)で前処理された基板を使用することも可能であり、前処理は基板の化学的性質に正しく依存する。
【0022】
好ましくは、基板は使用前に洗浄され、例えば、埃、脂肪、油、又は一般的にさらなるコーティングの良好な接着を妨げる他の物質を除去する。基板はさらに、後続のコーティングの接着性を高めるために、接着促進剤で処理されることができる。
【0023】
金属基板は、プライマーコート層(P)でコーティングされる前に、いわゆる化成被膜層(conversion coat layer)及び/又は電着被膜層(electrodeposition coat layer)を含み得る。
【0024】
ポリマー基板の場合、前処理は、例えば、フッ素処理、又はプラズマ、コロナもしくは火炎処理などを含み得る。多くの場合、表面は研磨及び/又は仕上げ研磨もされる。洗浄はまた、事前の研削の有無にかかわらず、溶媒で拭き取ることにより手動で行うことができ、また、二酸化炭素洗浄のような一般的な自動化手順により行うことができる。
【0025】
上記のいずれの基板も、プライマーコート層(P)の形成前に、1つ以上のフィラー及び/又は1つ以上のベースコートでプレコートすることも可能である。そのようなフィラーは、例えばアルミニウム顔料のようなメタリック効果顔料;又は例えばマイカ顔料のような真珠光沢顔料などの着色顔料及び/又は効果顔料を含有することができる。
【0026】
プライマーコート層(P)
プライマーコート層(P)は、前処理済み又は非前処理済みの基板上に、又は、プレコート済み又は非プレコート済みの基板上にプライマー組成物を塗布することにより形成される。
【0027】
プライマー組成物
プライマート組成物は、水性組成物(water-borne compositions)であってよく、又は溶媒性組成物(solvent-borne compositions)であってよい。好ましくは、プライマー組成物は、溶媒性組成物である。
【0028】
本明細書で使用される「水性コーティング組成物」という用語は、コーティング組成物の揮発性含有量の50質量%以上が水であるコーティング組成物を示し、一方、「溶媒ベースのコーティング組成物」という用語は、コーティング組成物の揮発性含有量の50質量%までが水とは異なり、好ましくはコーティング組成物の揮発性含有量の50質量%までが1つ以上の有機溶媒であるコーティング組成物を示している。
【0029】
「揮発性含有量」は、コーティング組成物1gを120℃で90分間乾燥させることにより決定されることができる。質量損失は、それぞれのコーティング組成物の揮発性含有量に等しく、残りの部分は「固形分」(solids content)である。揮発性含有量は、コールドトラップに収集され、当業者に知られている従来の方法によって分析されることができる。水分含有量は、例えば、カールフィッシャー滴定によって決定されることができる。
【0030】
前述の定義は、プライマー組成物であるかトップコート組成物であるかにかかわらず、本明細書に記載されるすべてのタイプのコーティング組成物に適用される。
【0031】
実際に、そして好ましくは本明細書において、「水性コーティング組成物」は、コーティング組成物の揮発性含有量に基づいて、25質量%未満の有機溶媒、より好ましくは20質量%未満、最も好ましくは15質量%未満の有機溶媒を含有している。
【0032】
実際には、そして好ましくは本明細書において、「溶媒性コーティング組成物」は、コーティング組成物の総質量に基づいて、5質量%未満の水、より好ましくは3質量%未満、最も好ましくは1質量%未満の水、又は実質的に水を含有しない。
【0033】
さらに、プライマー組成物は、1液型組成物であってよく、又は2液型組成物であってよい。好ましくは、プライマー組成物は、2液型組成物である。
【0034】
「1液型コーティング組成物」(テキスト「Roempp Lexikon Lacke und Druckfarben」、Thieme、1998年に定義されている)は、以下に記載される2液型コーティング組成物とは反対に、成分間での早期反応なしに、ベース樹脂と硬化剤を一組成物で含むように製造及び供給されるコーティング組成物である。反応は、好ましくは、加熱/焼成、又は、空気中の湿気との反応のいずれかで引き起こされる。この定義は、プライマー組成物であるかトップコート組成物であるかにかかわらず、
本明細書で記載されるすべての1液型コーティング組成物に対して有効である。
【0035】
「2液型コーティング組成物」(テキスト「Roempp Lexikon Lacke und Druckfarben」、Thieme、1998年に定義されている)は、硬化が2つの成分(マスターバッチ「Stammlack」及び硬化剤「Haerter」)を特定の混合比で混合することによって行われる組成物である。成分はフィルムを形成しにくく又は耐久性のある膜を形成しないため、成分自体はコーティング組成物ではない。この定義は、それが、プライマー組成物であるかトップコート組成物であるかにかかわらず、本明細書に記載されるすべての2液型コーティング組成物に対して有効である。
【0036】
プライマーコート層(P)の形成のための工程(i)で使用される最も好ましいプライマー組成物は、溶媒性2液型組成物である。
【0037】
好ましいプライマー組成物として使用される溶媒性2液型組成物
本発明による方法においてプライマー組成物として使用される好ましい2液型組成物は、エポキシ2液型組成物であって、エポキシ樹脂がマスターバッチであり、好ましくはアミンが硬化剤であるエポキシ2液型組成物;及び、ポリオール-イソシアネート2液型組成物であって、ポリオールがマスターバッチであり、ジ-及び/又はポリイソシアネートが硬化剤であるポリオール-イソシアネート2液型組成物である。
【0038】
ポキシプライマー組成物では、エポキシ樹脂とその関連する硬化剤が反応性混合物としてエポキシ樹脂バインダーを形成し、それは重付加反応により硬化する。エポキシ樹脂(EP樹脂)は、エポキシド樹脂とも呼ばれ、1分子中に2個以上のエポキシド基を有するオリゴマー化合物である。硬化すると、バインダーのモノマー成分及びオリゴマー成分は、架橋反応を介して、高分子量の3次元ネットワークを形成する。ネットワークノードは、エポキシ樹脂の官能基と硬化剤の反応に由来する。この反応では、強い共有化学結合が形成される。完全に硬化したバインダー(熱硬化性ネットワーク)は、実質的に不溶性で不融性であり、化学的及び機械的に非常に堅牢である(Kittel,「Lehrbuch der Lacke und Beschichtungen」,第2巻、第2版、1998年、268~269頁を参照)。
【0039】
エポキシ樹脂は分子内に複数のオキシラン環を含み、オキシラン環の反応により硬化成分と硬化型エポキシ樹脂に変換されることができる。一般的なエポキシ樹脂は、反応性のフェノール、アルコール、酸、アミンとエピクロルヒドリンの反応によって調製され、オキシラン環をグリシジル基の形で含む。エピクロルヒドリンとの反応によりエポキシ樹脂を形成する反応性構造の数は事実上無限であるため、工業的に重要な樹脂が多数存在する。さらに、不飽和脂肪族及び環状脂肪族化合物は、例えば過酢酸を用いて直接エポキシ化される。
【0040】
原則として、前述のプロセスを経て得られ得るすべてのエポキシ樹脂を本発明の目的に使用することができる。
【0041】
本発明に従って使用され得るエポキシ樹脂は、好ましくはビスフェノールA-ジグリシジルエーテル、ビスフェノールF-ジグリシジルエーテル、エポキシド-ノバラック、エポキシド-o-クレゾール-ノバラック、1,3-プロパン-、1,4-ブタン-又は1,6-ヘキサン-ジグリシジルエーテル及びポリアルキレンオキシドグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル;ジグリシジルヘキサヒドロフタレートなどのグリシジルエステル;ジグリシジルアニリン又はテトラグリシジルメチレンジアニリンなどのグリシジルアミン;3,4-エポキシシクロヘキシルポキシエタン又は3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレートなどの脂環式エポキシド;及びトリスグリシジルイソシアヌレートなどのグリシジルイソシアヌレート、からなる群から選択される。
【0042】
本発明の2液型プライマー組成物に適したさらなるエポキシ樹脂は、例えば、EP0835910A1、EP2085426A1又はEP1141071A1にも開示されている。
【0043】
エポキシ樹脂を硬化させるのに有用な硬化剤は、関連する教科書文献(例えばKittel,「Lehrbuch der Lacke und Beschichtungen」,第2巻、第2版、1998年、267~318頁を参照)に沿って、「エポキシド硬化剤」としてそれらの機能で指定されている。
【0044】
エポキシ硬化剤は、官能基がオキシラン基(活性水素、特に窒素又は酸素に結合した水素を有する化合物)と反応可能な2つ以上の官能性を有する物質である。硬化剤は、エポキシ樹脂に対して実質的に化学量論的に採用されることが好ましい。エポキシ樹脂中のオキシラン環の濃度は、例えば、滴定法で決定されることができる。必要な硬化剤の量は、硬化剤の活性水素の当量(「H活性当量」)から算出されることができる。
【0045】
本発明に従って使用することができる硬化剤は、好ましくはジアミン及びポリアミン、ポリアミド、及び環状カルボン酸無水物からなる群から選択される。上記で言及したクラスの化合物の間で、ジアミン及びポリアミン及びポリアミドが特に好ましい。特に好ましいのは、ジアミン及びポリアミンである。したがって、その最も好ましい実施形態では、硬化剤は、アミン硬化剤とも称され得る。
【0046】
特に好ましいジアミン及びポリアミンは、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン又は3,3’,5-トリメチルヘキサメチレンジアミンなどの脂肪族アミン;1,2-シクロヘキシルジアミン、イソポロンジアミン及びその異性体混合物、又はm-キシリレンジアミンなどの脂環式アミン;メチレンジアニリン又は4,4-ジアミノジフェニルスルホンなどの芳香族アミン;マンニッヒ塩基(例えば、ジエチレントリアミン-フェノールマンニッヒ塩基)、又は3,3’,5-トリメチルヘキサメチレンジアミンとビスフェノール-A-ジグリシジルエーテルのアミン付加物などの修飾アミン、の群から選択され得る。
【0047】
ポリアミドタイプの硬化剤で特に好ましいのは、ポリアミノアミド又はジシアンジアミドである。
【0048】
環状カルボン酸無水物の代表としては、例えば、無水フタル酸又はヘキサヒドロフタル酸無水物などが挙げられる。しかしながら、環状カルボン酸無水物は、主に熱硬化性エポキシ樹脂システムで使用され、一方、本発明は、主に好ましくは室温(又は100℃未満)でさえも硬化するシステムに関する。
【0049】
適切なアミン硬化剤の非網羅的なコンパイルは、EP0835910A1に見出される。
【0050】
ポリオール-イソシアネートプライマー組成物では、ポリオールと関連する硬化剤、すなわち、イソシアネートが反応性混合物を形成し、重付加反応により硬化する。
【0051】
適切なポリオールは、原則として、少なくとも2つのヒドロキシ基を含むすべてのポリヒドロキシ官能性化合物である。3価又は多価のアルコール又はポリヒドロキシ化合物が使用される場合、得られる生成物は分岐及び架橋の程度がより大きい又はより小さい程度であり、共反応物の適切な選択を通じて特性のパターンを広い範囲で変化させることが可能である。
【0052】
特に好適なポリオールは、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール及びポリ(メタ)アクリレートポリオールなどのアクリルポリオールであるが、分子均一性のあるモノマーポリオールも使用可能である。
【0053】
ポリエステルポリオールは、ポリカルボン酸及びそれらの無水物もしくはハロゲン化物などの反応性誘導体を、好ましくはモノマーポリオールの過剰量と反応させることによって得られ得る。モノマーポリオールの例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、グリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどである。使用されるジカルボン酸は、アジピン酸、水素化フタル酸を含むフタル酸、及びそれらの無水物がよく用いられる。しかしながら、ポリエステルポリオールは、好ましくはモノマーポリオールを用いたラクトンとの開環重合によって得ることもできる。好適なラクトンの例は、ブチロラクトン、カプロラクトン、及びバレロラクトンである。
【0054】
ポリエーテルポリオールは、好ましくはエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドと、好ましくはモノマーポリオールとの付加反応によって得られる。
【0055】
ポリエステルポリオールの製造においてポリオールとして、すなわちポリカルボン酸ならびにそれらの無水物及びハロゲン化物などの反応性誘導体との反応物として、ポリエーテルポリオールを使用する場合に得られる、ポリエーテル-ポリエステル-ポリオールを使用することも可能である。
【0056】
しかし、最も好ましいのは、ポリ(メタ)アクリレートポリオールとも呼ばれる、ポリヒドロキシ官能性アクリル樹脂をポリオールとして使用することである。「(メタ)アクリレート」という用語は、「メタクリレート」ならびに「アクリレート」を包含する。
【0057】
特に好ましいポリ(メタ)アクリレートポリオールは、一般にヒドロキシル官能性(メタ)アクリレートと非ヒドロキシ官能性モノマー、特に好ましい非ヒドロキシ官能性(メタ)アクリレートから形成されるコポリマーである。
【0058】
使用されるヒドロキシル基含有モノマー単位は、好ましくは、ヒドロキシアルキルアクリレート及び/又はヒドロキシアルキルメタクリレート、例えば、特に、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-ヒドロキシプロピルアクリレート、3-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-ヒドロキシブチルアクリレート、3-ヒドロキシブチルメタクリレート並びに特に4-ヒドロキシブチルアクリレート及び/又は4-ヒドロキシブチルメタクリレートである。
【0059】
ポリ(メタ)アクリレートポリオールに使用されるさらなるモノマー単位は、好ましくは、アルキルメタクリレート及び/又はアルキルメタクリレート、例えば、好ましくは、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、tert-ブチルアクリレート、tert-ブチルメタクリレート、アミルアクリレート、アミルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、エチルヘキシルアクリレート、エチルヘキシルメタクリレート、3,3,5-トリメチルヘキシルアクリレート、3,3,5-トリメチルヘキシルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、ラウリルアクリレート又はラウリルメタクリレート、シクロアルキルアクリレート及び/又はシクロアルキルメタクリレート、例えばシクロペンチルアクリレート、シクロペンチルメタクリレート、イソボルニルアクリレート、イソボルニルメタクリレート又は特にシクロヘキシルアクリレート及び/又はシクロヘキシルメタクリレートである。
【0060】
ポリ(メタ)アクリレートポリオールに使用されるさらなるモノマー単位は、ビニル芳香族炭化水素、例えばビニルトルエン、α-メチルスチレン、又は特にスチレン、アクリル酸もしくはメタクリル酸のアミドもしくはニトリル、ビニルエステルもしくはビニルエーテル、ならびに、少量の、特に、アクリル酸及び/もしくはメタクリル酸である。
【0061】
ポリオール-イソシアネートプライマー組成物において硬化剤として好適なイソシアネートは、原則として2個以上のイソシアネート基を有するすべての種、すなわちジイソシアネート及びポリイソシアネートである。
【0062】
原則的には、ジイソシアネートを、芳香族ジイソシアネートに、例えば2,4-及び2,6-トリレンジイソシアネート(TDI)、1,5-ナフチレンジイソシアネート、1,3-及び1,4-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルエタンジイソシアネート、又は4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)又はジ及びテトラアルキル-ジフェニルメタンジイソシアネート;環状脂肪族ジイソシアネートに、より具体的には環状脂肪族ジイソシアネート、例えば、4,4’-ジシクロヘキシル-メタンジイソシアネート(H12MDI)、イソホロンイソシアネート(IPDI)、シクロヘキサン1,4-ジイソシアネート、又は2,4-及び2,6-メチルシクロヘキシルジイソシアネート(HTDI);芳香族脂肪族ジイソシアネート、より具体的には、芳香族脂肪族ジイソシアネート、例えばキシリレンジイソシアネート(XDI)、フタル酸ビスイソシアナトエチル、又はm及びpテトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI);脂肪族ジイソシアネートに、より具体的には脂肪族ジイソシアネート、例えばヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ドデカン1,12ジイソシアネート、二量体脂肪酸ジイソシアネート、テトラメトキシブタン1,4ジイソシアネート又は2,2,4及び2,4,4トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、特に好ましいのはHDI、に細分化することが可能である。
【0063】
前述のすべての種類のジイソシアネートは、原則としてモノマーとして採用することができるが、モノマーの使用は、労働衛生上の理由から、禁止又は制限されることが多い。
【0064】
したがって、ジイソシアネートのオリゴマー又はポリマーの使用が優先される。特に好ましいのは、ジイソシアネートのウレトジオン、ビウレット、アロファネート、イミノオキサジアジンジオン及びイソシアヌレートの使用である。
【0065】
本発明で最も好ましいのは、脂肪族及び/又は環状脂肪族ジイソシアネートのオリゴマー又はポリマーの使用である。特に好ましいのは、HDI、H12MDI及びIPDIからなる群の少なくとも1つのジイソシアネートのオリゴマー又はポリマーであり;これらの中でも、特にHDIオリゴマーに関しては、イソシアヌレート環含有オリゴマー、さらにより好ましいHDI-三量体である。
【0066】
しかしながら、ポリ及びジイソシアネートの高分子ポリマー、又は上記の群の1つ以上のポリイソシアネートの混合物を使用することも可能である。
【0067】
混合比は、マスターバッチ中の種のヒドロキシル基含有量及び硬化剤中の種のイソシアネート基含有量に依存し、好ましくはOH-対-NCO比が1.0以上である。
【0068】
好ましいプライマー組成物として用いられる溶媒性2液型組成物の固形分は、プライマー組成物の総質量に基づいて、20~60質量%であり、30~50質量%であることがより好ましく、35~45質量%であることが最も好ましい。
【0069】
好ましいプライマー組成物として使用される溶媒性2液型組成物に使用される好ましい溶媒は、任意の非プロトン性溶媒(aprotic solvent)である。最も好ましい非プロトン性溶媒は、炭化水素であり、脂肪族又は芳香族であることができる。特に好ましいのは、非プロトン性溶媒としての芳香族炭化水素、例えば、キシリレン及びその異性体混合物である。
【0070】
好ましいプライマー組成物として用いられる溶媒性2液型組成物は、2-トルイレンスルホニルイソシアネートなどの硫黄含有イソシアネートを含有することが好ましい。
【0071】
プライマー組成物に使用されるつや消し剤(MA)及び構造化剤(SA)
本発明のプライマー組成物は、つや消し剤(MA)及び/又は構造化剤(SA)を含有する。
【0072】
つや消し剤(MA)と構造化剤(SA)との間の区別は、本発明の文脈において本質的ではないにもかかわらず、つや消し剤(MA)及び構造化剤(SA)の両方が、いくつかの共通の特性、すなわち、いくつかの質感をコーティング材料に提供するためにいくつかの共通の特性を有するが、いくつかの特性、特にサイズ関連特性が異なる可能性があるため、両方の作用剤が、本明細書に別々に記載されている。
【0073】
塗布されたコーティング膜が乾燥すると、つや消し剤粒子が微細な表面質感を生成する。その結果、入射光が拡散反射し、観察者にマットな表面という印象を与える。つや消し剤粒子の体積中央値粒子径(D50)は、通常、構造化剤の体積中央値粒子径よりも小さいが、両者は、存在する場合には、乾燥及び/又は硬化コーティング膜に均質に分布している必要がある。粉末の粒子の体積中央値粒子径分布は、レーザー回折法(ISO13320:2009)により決定されることができる。この目的に特に適しているのは、例えば、Malvern製のMastersizer3000である。
【0074】
つや消し剤は、無機又は有機の性質を有することができる。
【0075】
無機つや消し剤の例は、非晶質、沈殿もしくは発熱性シリカ、シリカゲル及び層状ケイ酸塩、例えば、水和ケイ酸マグネシウム(タルク);及び珪藻土である。無機つや消し剤は、未処理であってよく、又は有機化合物、例えば、適切な種類のワックスを用いて、又は無機化合物を用いて表面処理されていてもよい。好ましいつや消し剤は無機つや消し剤であり、最も好ましいつや消し剤は沈殿シリカ及び/又は発熱性シリカなどのシリカである。
【0076】
有機つや消し剤の例は、Al、Zn、Ca又はMgのステアレート;炭化水素ワックス、例えばポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、パラフィン、ポリフルオロエチレンワックスなど;カルボン酸系ワックス、例えばエステルワックス、モンタンワックス及びアミドワックスなど;及び尿素-ホルムアルデヒド縮合物である。
【0077】
つや消し剤は市販品として入手可能であり、当業者には公知である。それらは様々な粒子径で供給される。つや消し剤の選択された粒子径は、通常の方法でプライマーコート層(P)の乾燥膜厚に密接に調整することができる。粗いつや消し剤は、同じ細孔容積に対してより大きなつや消し効果を示すが、より粗い膜表面も生成する。つや消し剤の体積中央値粒子径(D50)は、2~20μm未満の範囲が好ましく、3~19μmがより好ましく、5~15μmが特に好ましい。例えばシリカ粒子をベースとする、そのような製品は、Evonik Industriesによって商標Acematt(登録商標)として販売されている。
【0078】
構造化剤はまた、無機又は有機の性質であってよい。それらはつや消し剤と同じ化学的性質を有することさえある(例えば、ポリプロピレンの場合)。そのような場合、本明細書では、つや消し剤と構造化剤とは、上記で決定された体積中央値粒子径(D50)によってのみ区別される。D50値が20μm以上である場合、その作用剤は、本明細書において構造化剤とみなされる。しかしながら、おおよそ約20μmの範囲の粒子は構造化及びマット特性を有するので、繰り返すが、両者を正確に区別する必要はない。適切な構造化剤の例としては、プラスチック材料、例えば、ポリアミド、又はポリプロピレン、ポリエチレン及びポリテトラフルオロエチレンなどのポリアルキレン;又はポリメチルメタクリレートなどが挙げられる。対応する製品は、例えば、Propyltex(登録商標)、Vestosint(登録商標)及びOrgasol(登録商標)又はShamrocks Texture(登録商標)シリーズという商品名で入手可能である。さらに、構造化剤として、すり砂又はすりガラスを使用することができる。構造化剤の体積中央値粒子径(D50)は、好ましくは20~150μmの範囲である。粉末の粒子の粒度分布は、つや消し剤と同様の方法で決定される。体積中央値粒子径(D50)は、好ましくは20~100μm、より好ましくは30~90μm、さらにより好ましくは35~80μm、最も好ましくは40~70μmである。
【0079】
上記したつや消し剤及び/又は構造化剤のいずれもプライマー組成物に使用できるが、つや消し剤及び構造化剤は、プライマー組成物の硬化中、固体のままであることが好ましい。これは、無機つや消し剤及び無機構造化剤については常に当てはまり、ポリプロピレンワックス及びポリアミドなどの高融点有機つや消し剤及び構造化剤によってほとんど満たされる。しかしながら、典型的には50~85℃の範囲の低融点を有するパラフィン類でさえ、例えば室温乾燥/硬化システムで使用されることができる。
【0080】
典型的には、つや消し剤及び/又は構造化剤はペースト(これらのペーストはつや消し剤及び/又は構造化剤を、好ましくはいくつかのバインダー、溶媒及び添加剤に加えて含有する)の形態で、プライマー組成物を形成するためにクリアコート組成物と混合されることによって、プライマーコート組成物に採用される。
【0081】
本発明による構造化剤を使用する場合、つや消し剤と組み合わせて使用することが好ましい。
【0082】
プライマー組成物に好ましく用いられるつや消し剤及び/又は構造化剤の総量は、プライマー組成物の総質量に基づいて、好ましくは0.5~10質量%、より好ましくは1~8質量%、最も好ましくは1.5~6質量%の範囲である。
【0083】
プライマー組成物のさらなる成分
ほとんどの従来のプライマー組成物とは対照的に、本明細書で使用されるプライマー組成物は、好ましくは、必須のつや消し剤(MA)及び/又は構造化剤(SA)のほかは、顔料及び/又はフィラー及び/又は金属粒子などのさらなる粒子成分を含まない。そのような顔料及び/又はフィラーが少量含まれる場合、そのような量は、所望のマット効果及び/又は構造化効果と競合してはならない。しかしながら、当業者であれば、そのような顔料及び/又はフィラーの存在によって所望のマットな及び/又は構造化された効果が悪化する場合には、必要に応じて、さらなる顔料及び/又はフィラーの量をゼロまで容易に減少させることが可能である。亜鉛粒子などの金属粒子も、その後に適用される銀メタル層(S)との反応(局所的なセル形成)を防止するために避けるべきである。好ましくは、プライマー組成物はクリアコート組成物である。
【0084】
プライマー組成物はまた、セルロースエステル、特に好ましいセルロースアセトブチレートなどのバインダーをさらに含んでよい。
【0085】
プライマー組成物は、例えば光安定剤、UV吸収剤、増粘剤、接着促進剤、表面活性剤、触媒、難燃剤、着色剤などの色素、湿潤剤及び分散剤、WO2017/194547A1に記載されているような腐食防止剤などの典型的なコーティング添加剤をさらに含んでよい。コーティングのためのさらなる典型的な添加剤は、例えば、「Additives for Coatings」、J.Bieleman、Wiley-VCH、2001年再版、248~253頁に記載されている。
【0086】
触媒は、バインダー成分間、特に2液型組成物におけるマスターバッチと硬化剤との間の反応を触媒する。上記のようなエポキシ/硬化剤組成物のための好適な触媒は、例えば、テキスト「Additives for Coatings」、J.Bieleman、Wiley-VCH、2001年再版、248~253頁に記載されているものである。上記のようなエポキシ/硬化剤組成物のための好適な触媒は、例えば、テキスト「Additives for Coatings」、J.Bieleman、Wiley-VCH、2001年再版、238~242頁に記載されているものであり;特にスズ又はビスマス含有触媒である。
【0087】
溶媒性2液型プライマー組成物に含まれる溶媒
溶媒性プライマー組成物、好ましくは、すでに上記したように、非プロトン性有機溶媒を含む。典型的な溶媒は、特に、プライマー組成物の成分に対して化学的に不活性であり、特に、プライマー組成物を硬化させる際に他の成分と反応しないものである。そのような溶媒の例は、トルエン、キシレン、溶媒ナフサ、Solvesso100又はHydrosol(登録商標)(ARALから入手可能)、パラクロロベンゾトリフルオリドなどの脂肪族及び/又は芳香族炭化水素、ケトン、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン又はメチルアミルケトン、エステル、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル又は3-エトキシプロピオン酸エチル、エーテル又は前記溶媒の混合物などが挙げられる。非プロトン性溶媒又は溶媒混合物は、好ましくは、溶媒質量に基づいて、1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下の水分含有量を有する。
【0088】
プライマーコート層(P)を形成するためのプライマー組成物の塗布
本発明による方法においてプライマーコート層(P)の形成に用いられるようなプライマー組成物は、例えば、スプレー、ナイフコーティング、散布、注入、浸漬、含浸、散水又はローリングなどの典型的な塗布方法のいずれかによって適用されることが可能である。このような塗布の間、コーティングされる基板は、塗布装置又は塗布ユニットを移動させる状態で、それ自体静止していることができる。あるいは、コーティングされる基板、特にコイルは、塗布ユニットが基板に対して静止している状態又は適切に移動させられている状態で、移動させてもよい。
【0089】
例えば、従来のエアガンスプレー、高容量低圧スプレー又は低容量低圧スプレーなどの圧縮空気スプレー、エアレススプレー、静電スプレー塗布(ESTA)などのスプレー塗布方法を採用することが好ましい。各層について、コーティング組成物は、単一スプレーパス又は複数スプレーパスで噴霧することができる。したがって、単一プライマー層は、1回以上のスプレーパス、好ましくは最大2回のスプレーパスによって形成される。
【0090】
スプレーパスの間に、塗布されたコーティング組成物は、約15~25℃でフラッシュオフされることができ、つまり、少なくとも溶媒のいくつかが蒸発させられる。好ましいフラッシュオフ時間は5~30分であり、より好ましくは10~25分、例えば15分±5分である。
【0091】
プライマー組成物の塗布後、好ましくは銀メタル層(S)の形成直前に、湿潤プライマーコート層膜を乾燥及び/又は少なくとも部分的に硬化させて、プライマーコート層(P)を形成させる。
【0092】
乾燥及び/又は少なくとも部分的に硬化したプライマーコート層の層厚は、好ましくは10~150μmの範囲、より好ましくは30~80μmの範囲、最も好ましくは40~70μmの範囲である。層厚は、DIN EN ISO 2178に従って決定され得る。
【0093】
層厚は、プライマー組成物の固形分及び/又はスプレーパスの数によって調整することができる。
【0094】
乾燥及び/又は少なくとも部分的な硬化は、好ましくは約15~80℃、より好ましくは20~60℃の温度で達成され;好ましくは約5分~12時間、より好ましくは10分~5時間又は15分~1時間の範囲の期間で達成される。短波又は中波の赤外線乾燥も可能である。
【0095】
続いて、プライマーコート層(P)を、好ましくは蒸留水ですすぐ。
【0096】
活性化剤(AA)
典型的には、プライマーコート層(P)は工程(ii)における銀層(S)の堆積を容易にするために、さらに活性化される。活性化は、好ましくは、酸安定化剤、好ましくは塩化スズ(II)などのスズ(II)塩のような酸安定化活性化剤で、好ましくはスプレー塗布により行われる。こうして活性化されたプライマーコート層(P)は、その後、好ましくは蒸留水ですすがれる。
【0097】
好ましくは、活性化剤は水溶液の形態で使用され、活性化剤は、0.5~10g/L、より好ましくは1~8g/L、最も好ましくは2~6g/L、例えば5g/Lの活性化剤の水溶液で存在する。好ましくは、このような水溶液に採用される活性化剤は、塩化スズ(II)二水和物である。
【0098】
好ましくは、活性化剤水溶液の安定化剤は酸である。安定化剤として塩酸を用いる場合、活性化剤の水溶液に採用される37質量%塩酸水溶液の量は、活性化剤の水溶液の100~300ml/Lの範囲であることが好ましい。
【0099】
活性化後、好ましくは、表面を脱塩水で十分にすすぐが、すすぎ水の導電率が30μS未満になるまで布等で拭かない。
【0100】
工程(ii)
銀メタル層(S)
銀メタル層(S)は、還元剤の使用により、可溶性銀塩を含有するアルカリ性アンモニア水溶液から還元析出(reductive deposition)によって形成される(銀塩は最も好ましくは、硝酸銀、酢酸銀、乳酸銀、硫酸銀及び塩化銀からなる群から選択される)。このようなアルカリ性アンモニア溶液では、1価の銀は[Ag(NH3)2]+カチオンとして錯化される。このような水溶液中の銀(Ag0)に関する銀塩の典型的な濃度は、約0.05~0.15molAg/Lである。
【0101】
還元剤は、好ましくは炭素数1~10のアルデヒド、例えばホルムアルデヒド又はエタノール、還元糖、例えばアルドースのようなグルコース、フルクトース、ガラクトース、好ましくはグルコースである。還元剤もまた、好ましくは水溶液として提供される。
【0102】
別の好ましい還元剤は、水溶液の形態のホルムアルデヒドである。このような水溶液中でホルムアルデヒドは、ホルムアルデヒド水溶液の総質量に基づいて、好ましくは、0.1から5質量%、より好ましくは、0.2から2.0質量%、例えば0.3から1.5質量%などで存在する。例えば、上記のアセトアルデヒドのような高級アルデヒド又は還元糖の溶液など、他の還元剤が使用される場合、水溶液中のそのような還元剤の濃度は、同等のホルムアルデヒド溶液とほぼ同じ還元電位を有するように適合される。
【0103】
プライマーコート層(P)上に銀メタル層(S)を製造する好ましい方法は、いわゆるスプレーメタライゼーションである。この方法では、銀メタル層は基板上にスプレーすることによって堆積されるが、通常、2液型スプレーガンが使用され、そこでは、上記のアルカリアンモニア銀塩水溶液と還元剤の水溶液とが別々のノズルから放出される。溶液が混合すると、還元剤はアルカリアンモニア銀塩水溶液に含有する銀塩を還元し、金属銀粒子が沈殿する。沈殿した銀は基板に付着し、先行するプライマーコート層(P)と同様のトポグラフィを呈する銀メタル層(S)を形成する。
【0104】
銀メタル層の層厚は、好ましくは0.5~2.5μm、より好ましくは0.7~2.0μm、最も好ましくは0.8~1.5μmの範囲である。層厚は、DIN 509 55及びISO 2177(クーロメトリック手順)に従って決定することができる。
【0105】
層厚は、アルカリ性アンモニア性銀塩水溶液と還元剤の水溶液とから形成される混合物をプライマーコート層(P)の表面に接触させる時間によって調整することが可能である。接触時間が長いほど、銀メタル層(S)は厚くなる。
【0106】
層厚が薄すぎる場合、本発明による方法で得られる多層コーティングは灰色から黒色に見え、十分なメタリック効果及びコーティング性を欠くことになる。層厚が厚すぎる場合、本発明による方法で得られる多層コーティングのマット効果又は構造/質感が低下するおそれがある。
【0107】
銀メタル層(S)の形成後、銀メタル層(S)を、好ましくは脱イオン水で、好ましくはすすぎ水の導電率が30μS未満になるまですすぎ、工程(iii)を行う前に、循環している無塵の、好ましくは濾過された、好ましくは予熱された空気で乾燥し、空気温度は30~50℃が好ましい。乾燥時間は、好ましくは30分~8時間、より好ましくは1時間~5時間である。
【0108】
工程(iii)
トップコート層(T)
上記のように、本発明の方法において、銀メタル層(S)は、少なくとも1つのクリアトップコート層(T)、より好ましくは1つのクリアトップコート層で覆われる。このようなクリアトップコート層は、通常、フィラー及びコーティング量の顔料を含まない。しかし、クリアコートの特性を低下させない限り、少量の透明顔料は許容され得る。
【0109】
クリアトップコート組成物
トップコート(少なくとも屋外で使用されるもの)は、-40℃という低い温度又は最大60℃の温度、極度の日光暴露、酸性雨、砂及び砂利などの極端な風化条件にさらされることが多いため、第一の選択は、そのような条件に耐えられる2液型コーティング組成物又は1液型焼付ワニスを使うことがほとんどである。
【0110】
好ましくは、溶媒性クリアコート組成物を使用して、クリアトップコート層(複数可)を調製する。
【0111】
溶媒性クリアコート組成物の中でも、2液型コーティング組成物を使用することがさらに好ましい。
【0112】
さらに、溶媒性2液型クリアコート組成物の中でも、ポリオール-イソシアネート化学に基づくものが好ましい。
【0113】
好ましい溶媒性2液型ポリオール-イソシアネートクリアコーティング組成物は、ポリオール-イソシアネートプライマー組成物について記載されたポリオール及びイソシアネートを用いて構成することが好ましい。したがって、プライマー組成物について記載されたポリオール及びイソシアネートは、クリアコート組成物にも好適である。プライマー組成物に関して、特定のタイプのポリオール及び特定のタイプのイソシアネートに与えられた選好性はクリアコート組成物にも適用される。
【0114】
したがって、例えば、ポリオールとして最も好ましくは、上記のポリ(メタ)アクリレートポリオール及び/又はポリエステルポリオールが使用される。イソシアネートに関しては、ジイソシアネートのオリゴマー又はポリマーの使用が優先される。特に好ましいのは、ジイソシアネートのウレトジオン、ビウレット、アロファネート、イミノオキサジアジンジオン及びイソシアヌレートの使用である。最も好ましいのは、脂肪族及び/又は環状脂肪族ジイソシアネートのオリゴマー又はポリマーの使用である。特に好ましいのは、HDI、H12MDI及びIPDIからなる群の少なくとも1つのジイソシアネートのオリゴマー又はポリマーであり、これらの中でもイソシアヌレート環含有オリゴマーが好ましい。
【0115】
ポリオール-イソシアネートクリアコート組成物に用いられるポリオール及びイソシアネートは、プライマー組成物に用いられるものと必須的に同じでなければならないわけではないが、しかしながら、同じポリオール及びイソシアネートが、プライマー組成物及びクリアコート組成物にそれぞれ用いられることは可能である。
【0116】
したがって、好ましい実施形態において、プライマー組成物及びクリアコート組成物は、本質的に、プライマー組成物が少なくとも1つのつや消し剤及び/又は構造化剤をさらに含み、一方、クリアコート組成物は含まないという点で異なる。しかしながら、クリアコート層は、UV吸収剤などの典型的なトップコート添加剤をさらに含むことが好ましい。
【0117】
溶媒性2液型クリアコート組成物に使用される溶媒、及びさらなる成分は、プライマー組成物について記載されたものと同じである。
【0118】
クリアコート組成物は、所望により、色効果を達成するためにわずかに着色することができる。しかしながら、着色は、そこに使用される顔料(複数可)に応じて、非常に低い濃度であることが好ましい。顔料の下限はクリアコート組成物の総質量に基づいて0質量%であるが、上限は顔料に依存し、それでも所望のメタリック外観、マット/構造化効果、光沢及び研磨性を保証することが必要である。しかしながら、色効果が必要な場合は、顔料の代わりに、あるいは顔料に加えて、インクなどの可溶性着色剤を使用し、それによって、顔料を避けるか濃度を下げることが好ましい。
【0119】
クリアトップコート層(T)を形成するためのクリアコート組成物の塗布方法は、プライマー組成物について記載されたものと同様である。しかしながら、クリアコート組成物には、平滑な表面を確保するための添加剤としてレベリング剤を含有させ、光沢をさらに向上させることも好ましい。
【0120】
また、従来の例えばエアガンスプレー、高容量低圧スプレー又は低容量低圧スプレーなどの圧縮エアスプレー、エアレススプレー、静電スプレー塗布(ESTA)などのスプレー塗布方法を採用することが好ましい。各層について、コーティング組成物は、1回のスプレーパス又は複数のスプレーパスで噴霧されることができる。したがって、単一のプライマーコート層は、1回以上のスプレーパス、好ましくは1~2回のスプレーパスによって形成される。
【0121】
スプレーパスの間に、塗布されたコーティング組成物は、約15~25℃でフラッシュオフされることができ、つまり、少なくとも一部の溶媒が蒸発することが可能であることを意味する。好ましいフラッシュオフ時間は1~10分、より好ましくは2~5分の範囲、例えば3分±1分である。
【0122】
好ましい溶媒性2液型クリアコート組成物の場合、乾燥及び硬化は、好ましくは約15~80℃、より好ましくは20~70℃の温度で;好ましくは約5分~12時間、より好ましくは10分~5時間又は15分~1時間の範囲の時間で達成される。短波又は中波の赤外線乾燥も可能である。
【0123】
乾燥及び硬化されたクリアトップコート層の層厚は、好ましくは20~200μmの範囲、より好ましくは30~100μmの範囲、最も好ましくは40~60μmの範囲である。層厚は、上記のように決定されることができる。クリアトップコート層を1層より多く塗布する場合、前述の厚み及び厚み範囲は、それぞれ、すべてのクリアトップコート層の厚みの合計を指す。
【0124】
層厚は、クリアコート組成物の固形分及び/又はスプレーパスの回数によって調整されることができる。
【0125】
本発明による多層膜コーティング基板
本発明のさらなる目的は、高光沢を有し、研磨可能であり、マットな及び/又は構造化されたメタリック効果を有する多層コーティング基板を提供することであった。そのような多層コーティングは、本発明による方法によって得ることができる。
【0126】
この目的は、多層コーティング基板を提供することにより達成され、前記多層コーティング基板は、
(a)基板と;
(b)前記基板上のプライマーコート層(P)であって、前記プライマーコート層(P)はつや消し剤及び構造化剤からなる群から選択される1つ以上の微粒子成分を含有する、プライマーコート層と;
(c)前記コーティング層(P)の表面の上にある銀メタル層(S)と;
(d)前記銀メタル層(S)の表面の上の、1つ以上のクリアトップコート層(T)と、
を含む。
【0127】
好ましくは、基板は、金属、合金、ポリマー、木材、ガラス、鉱物ベース材料、及び前述のいずれかの材料の複合材料からなる群から選択される。いずれの基板も、上記したように前処理及び/又は前コーティングを施されることができる。基板のさらに好ましい実施形態、及び前処理及び前コーティングの方法は、すでに上記したとおりである。
【0128】
乾燥及び/又は少なくとも部分的に硬化したプライマーコート層(P)の層厚は、好ましくは10~150μmの範囲、より好ましくは30~80μmの範囲、最も好ましくは40~70μmの範囲である。層厚は、DIN EN ISO 2178によって決定されることができる。
【0129】
銀メタル層(S)の層厚は、好ましくは0.5~2.5μm、より好ましくは0.7~2.0μm、が最も好ましくは0.8~1.5μmの範囲である。層厚は、DIN 509 55及びISO 2177(クーロメトリック手順)に従って決定されることができる。
【0130】
乾燥及び硬化したクリアトップコート層(T)の層厚は、好ましくは20~200μm、より好ましくは30~100μm、最も好ましくは40~60μmの範囲である。層厚は、上記のように決定することができる。好ましくは、1つのクリアトップコート層が存在する。複数のクリアトップコート層が塗布される場合、前述の厚さは、すべてのクリアトップコート層厚の合計を指す。
【0131】
プライマーコート層(P)に含有されるつや消し剤(MA)及び/又は構造化剤(SA)は、上記と同じであって、すでに上記したように好ましい体積中央値粒子径を有する。
【0132】
好ましくは、プライマーコート層(P)は、クリアコート層である。
【0133】
さらに、プライマーコート層(P)及びクリアトップコート層(T)の両方が、それぞれ、銀コート層(S)の腐食を防止するための防食性化合物を含有することが好ましい。
【0134】
本発明による多層コーティング基板は、平滑なクリアトップコート層(複数可)によって高光沢を示すが、先行するプライマーコート層(P)の質感を伝えるシルバーコート層(S)によるマットな及び/又は構造化されたメタリック外観も示す。多層コーティング基板は、マットな及び/又は構造化されたメタリック効果を劣化させることなく研磨可能である。
【0135】
多層コーティング基板は、自動車部品、家庭用品、家電製品、電子筐体、携帯電話、楽器、装飾品などであることが好ましい。
【0136】
本発明のさらなる特徴及び本発明から得られる利点は、それに基づいて本発明が説明される以下の例示的な実施形態から明らかになる。
【0137】
実施例
基板の調製
カチオン電着塗装コーティング及びさらにブラウン塗装を施した鋼パネル(各30×15cm)を基板として使用した。洗浄には、ホワイトスピリットを染み込ませた布で表面をこすった。周囲条件(23℃、相対湿度約50%)で2分後、細かい研磨剤(P600研磨紙)で表面が均一にマットになるまで手作業で粗面化した。その後、ホワイトスピリットを染み込ませた布で、表面が完全にきれいになるまで再度こすった。これは、布が着色された研削粉を吸収しなくなり、さらに表面をこすっても布が変色しないことからわかる。
【0138】
マット/構造化プライマーコート層の塗布
プライマーコート組成物として、マットな溶媒性ポリオール-イソシアネート2液型組成物を使用した。組成物は、マットペーストを補充したクリアコート組成物を使用し、その後、補充したクリアコート組成物をポリイソシアネート含有硬化剤組成物及び希釈剤と混合することによって製造された。
【0139】
硬化剤組成物及び希釈剤を添加する前のマットクリアコート組成物は、約38質量%の固形分を有していた。
【0140】
このマットクリアコート組成物は、硬化剤組成物及び希釈剤混合物及びと混合する前のすべてのマットクリアコート組成物の総質量に基づいて、約4.5質量%のつや消し剤(平均粒子径D50 6.3μmのシリカ)、約2.6質量%のヒドロキシ官能性ポリエステル、約5.2質量%のセルロースアセトブチレート、約23.2質量%のヒドロキシ官能性ポリアクリレート樹脂、約2.5質量%の添加剤パッケージ(UV吸収剤、光安定剤、レオロジー添加剤、安息香酸、シリコーン表面添加剤、触媒及び分散及び湿潤剤を含む)、ならびに約62質量%の溶媒混合(酢酸ブチル、メチルイソブチルケトン、溶媒ナフサ、エチル-3-エトキシプリオピオネート及びキシレンを含有する)を含有する。
【0141】
このマットクリアコート組成物100体積部に対して、硬化剤組成物の全質量に基づいて、約56質量%のヘキサメチレンジイソシアネート三量体、約0.4質量%の水分捕捉剤、及び約43.6質量%の混合溶媒(溶媒ナフサ、酢酸メトキシプロジル、酢酸ブチルグリコール及びメチルイソアミルケトンを含有する)を含有する硬化剤組成物を50体積部添加した。最後に、10体積部の希釈剤混合物(酢酸ブチル、溶媒ナフサ、キシレン、酢酸メトキシプロピル、酢酸ブチルグリコール及びShellsol A150 NDを含有する)を添加した。
【0142】
このすぐに使える混合物を、空気噴霧式スプレーガンを用いて塗布した。1.3mmのノズルニードルと2barのスプレー圧を伴うコンプライアントフローカップガンを使用した。混合物の塗布は手作業で行った。これらの混合物の約100μm(湿潤膜厚)を各パネルに2回スプレーパスで塗布した。
【0143】
コーティングされた鋼パネルは、周囲条件(23℃、相対湿度50%)で20分間保管された。これらの予備乾燥されたパネルは、次に、60℃で少なくとも20分間乾燥された。得られた乾燥膜厚は約60±10μmであった。パネルが冷却された後、以下のように銀被覆を行った。
【0144】
反射性銀メタル層の塗布
表面を脱塩水で十分にすすぎ、すすぎ水の導電率が30μS未満になるまで布などで拭かなかった。
【0145】
活性化のため、二塩化スズ二水和物溶液(5g/L SnCl2
*2 H2O)をフローカップガン(ノズルニードル1.1mm、スプレー圧2bar)を用いて全面に均一に噴霧した。安定化剤として塩酸(37質量%HCL)を活性化溶液1L中に200mL含有させた。
【0146】
表面を再び脱塩水で十分にすすいだが、すすぎ水の導電率が30μS未満になるまで布などで拭かなかった。
【0147】
鏡面効果は、トーレンス反応を採用することで得られた。アンモニア性硝酸銀溶液は、このために新たに調製された。さもなければ、爆発性の高い窒化銀Ag3Nが析出してしまう。
【0148】
アンモニア性硝酸銀溶液は、17gの硝酸銀を1Lの水に溶解させることによって調製され、その後白色沈殿が再び溶解するまでアンモニア溶液を添加した。その後、水酸化ナトリウムペレットを添加して溶解し、水の飽和グルコース溶液を約60mL添加した。
【0149】
混合物を調製し、フローカップガン(ノズルニードル1.1mmm、スプレー圧2bar)を用いて全面に均一に噴霧した。
【0150】
このようにして塗布された銀層は、約1μmの層厚を有していた。この厚さは、表面が所望の鏡面効果を有するとすぐに到達した。この層が小さすぎると、表面が黒から灰色に見えてしまう。
【0151】
排水は安全性を考慮して弱酸で中和された。
【0152】
表面全体を脱塩水で十分にすすいだが、すすぎ水の導電率が30μS未満になるまで布などで拭かなかった。
【0153】
得られた銀層コーティングパネルは、塗装室内で、わずかに加熱された(約40℃)循環式クリーンエアメイを用いて3時間乾燥させた。
【0154】
クリアトップコート層の塗布
硬化剤組成物及び希釈剤と混合する前のクリアコート組成物は、すべて硬化剤組成物及び希釈剤混合物及びと混合する前のマットクリアコート組成物の総質量に基づいて、約58質量%の固形分を有し、約54質量%のヒドロキシ官能性ポリアクリレート、約4質量%の添加剤混合物(シリコーンベースレベリング剤、接着促進剤、UV吸収剤、光安定剤、触媒及び安息香酸を含有する)及び約42質量%の溶媒混合(酢酸ブチル、メチルイソブチルケトン、溶媒ナフサ及びエチル-3-エトキシプリオピオネート及びキシレンを含有する)を有していた。
【0155】
すぐに使用できるクリアコート組成物は、100体積部の上記クリアコート組成物及び50体積部の硬化剤組成物(プライマーコート組成物に用いたものと同じ)及び10体積部の希釈剤(プライマーコート組成物に用いたものと同じ)から作られ、したがって、DIN4カップのランアウトタイムが16秒であった。この混合は、フローカップスプレーガン、特に1.3mmのノズル、2.5barのスプレー圧及び0.7barのノズル内圧を備えたHVLPピストル(高容量低圧)を使用して処理された。塗布は手作業で行われた。最初の均一な薄膜コーティングの後、表面を室温で約3分間フラッシュオフした。これに続いて、別のクローズドスプレーパスを行った。約110±10μmの湿潤膜厚を塗布した。
【0156】
このようにコーティングされたパネルは、周囲条件(23℃、相対湿度50%)で20分間保管された後、オーブン内で60℃で乾燥された(乾燥膜厚50±10μm)。
【0157】
冷却後、金属表面の外観は光学的にマットで、マット効果及び光沢を失うことなく研磨可能であった。
【0158】
マットペーストの代わりに、構造化ペースト(レーザー回折による平均粒子径D50=6.3μmのシリカを含有する)を用いて同様の手順を実施し、該構造化ペーストはつや消し剤(レーザー回折による平均粒子径D50=6.3μmのシリカ)も含有する。構造化剤は、つや消し剤の約半分の量で使用された。この場合も、金属表面の外観は光学的にマットであるだけでなく、構造化されており、効果を失うことなく研磨可能であった。
【国際調査報告】