(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-15
(54)【発明の名称】閾値ベースのIDA除外リスト
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20221208BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20221208BHJP
H01J 49/26 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
G01N27/62 D
G01N27/62 X
H01J49/00 310
H01J49/00 360
H01J49/00 540
H01J49/26
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022522629
(86)(22)【出願日】2020-09-22
(85)【翻訳文提出日】2022-05-25
(86)【国際出願番号】 IB2020058824
(87)【国際公開番号】W WO2021074716
(87)【国際公開日】2021-04-22
(32)【優先日】2019-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510075457
【氏名又は名称】ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】バートン, ライル ローレンス
【テーマコード(参考)】
2G041
5C038
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA04
2G041FA12
2G041GA09
2G041HA01
2G041HA02
2G041HA03
2G041LA01
2G041MA05
5C038HH28
(57)【要約】
最初に、代謝物を含まない対照サンプルの質量範囲のMS走査が、実施され(601)、背景前駆体イオンに関する背景ピークm/zおよび強度値を生成する(602)。背景ピークが、除外リストに関して選択され、除外リストでは、m/z値および強度値が、背景ピーク毎に含まれる(604)。次に、代謝物を含む実験サンプルの質量範囲のMS走査が、実施され(610)、前駆体イオンに関するピークm/zおよび強度値を生成する(612)。ピークが、ピークリストに関して選択され、ピークリストでは、m/z値および強度値が、ピーク毎に含まれる(614)。最後に、除外リストの背景ピークのm/z値および強度値に対応するm/z値および強度値の両方を有するピークリストの各ピークが、ピークリストから除外される(616)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
代謝物イオンと同一の質量/電荷比(m/z)を有する内因性背景イオンを情報依存性入手(IDA)質量分析実験におけるピークリストから除外するためのシステムであって、
イオン源デバイスと、
タンデム質量分析計であって、前記タンデム質量分析計は、
(a)代謝物化合物を含まない対照サンプルをイオン化することによって生成された前記イオン源デバイスからのイオンビームを受け取り、前記イオンビームに対してある質量範囲の質量分析(MS)走査を実施し、背景前駆体イオンに関する背景ピークm/zおよび強度値を生成し、除外リストに関して前記背景前駆体イオンの背景ピークのうちの1つまたはそれを上回るものを選択し、前記選択された1つまたはそれを上回る背景ピークの背景ピーク毎のm/z値および強度値を前記除外リスト内に含めることによって、前記除外リストを作成することと、
(b)前記代謝物化合物を含む実験サンプルをイオン化することによって生成された前記イオン源デバイスからのイオンビームを受け取り、前記イオンビームに対して前記質量範囲のMS走査を実施し、前駆体イオンに関するピークm/zおよび強度値を生成し、ピークリストに関して前記前駆体イオンのピークのうちの1つまたはそれを上回るものを選択し、前記選択された1つまたはそれを上回るピークのピーク毎のm/z値および強度値を前記ピークリスト内に含めることによって、前記ピークリストを作成することと、
(c)前記除外リストの背景ピークのm/z値および強度値に対応するm/z値および強度値の両方を有する各ピークを前記ピークリストから除外することと
を行う、タンデム質量分析計と
を備える、システム。
【請求項2】
前記ピークリストのピークのm/z値および強度値は、前記m/z値が、m/z許容係数内に合致する場合、かつ前記強度値が、強度許容係数内に合致する場合、前記除外リストの背景ピークのm/z値および強度値に対応する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記タンデム質量分析計はさらに、ステップ(c)においてピークを比較する前に、前記ピークリストまたは前記除外リストをスケーリングする、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記タンデム質量分析計はさらに、
前記ピークリストおよび前記除外リスト上にある1つの既知の背景ピークを選択するステップと、
前記ピークリスト上の前記1つの既知の背景ピークの強度値および前記除外リスト上の前記1つの既知の背景ピークの強度値の比率を計算するステップと、
前記ピークリストまたは前記除外リスト上の各強度値を前記比率で乗算するステップと
によって、前記ピークリストまたは前記除外リストの強度をスケーリングする、請求項4に記載のシステム。
【請求項5】
前記タンデム質量分析計はさらに、
前記ピークリストおよび前記除外リスト上にある2つまたはそれを上回る既知の背景ピークを選択するステップと、
前記ピークリスト上の前記2つまたはそれを上回る既知の背景ピークの強度値の組み合わせおよび前記除外リスト上の前記2つまたはそれを上回る既知の背景ピークの強度値の組み合わせの比率を計算するステップと、
前記ピークリストまたは前記除外リスト上の各強度値を前記比率で乗算するステップと
によって、前記ピークリストまたは前記除外リストの強度をスケーリングする、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記タンデム質量分析計はさらに、サンプル導入デバイスを含み、前記タンデム質量分析計はさらに、
ステップ(a)において、前記サンプル導入デバイスから経時的に前記対照サンプルからの1つまたはそれを上回る化合物を受け取る前記イオン源デバイスからイオンビームを受け取り、前記イオンビームに対して、複数の異なる時間ステップにおいて前記質量範囲の複数のMS走査を実施し、経時的に背景前駆体イオンに関する背景ピークm/zおよび強度値を生成し、各時間ステップにおいて、前記除外リストに関して前記背景前駆体イオンの背景ピークのうちの1つまたはそれを上回るものを選択し、前記背景ピークのうちの選択された1つまたはそれを上回るものの背景ピーク毎のm/z値、強度値、および滞留時間値を前記除外リスト内に含め、
ステップ(b)において、前記サンプル導入デバイスから経時的に前記実験サンプルからの1つまたはそれを上回る化合物を受け取る前記イオン源デバイスからイオンビームを受け取り、前記イオンビームに対して、複数の異なる時間ステップにおいて前記質量範囲の複数のMS走査を実施し、経時的に前駆体イオンに関するピークm/zおよび強度値を生成し、各時間ステップにおいて、前記ピークリストに関して前記前駆体イオンのピークのうちの1つまたはそれを上回るものを選択し、前記選択された1つまたはそれを上回るピークのピーク毎のm/z値、強度値、および滞留時間値を前記ピークリスト内に含め、
ステップ(c)において、前記除外リストの背景ピークのm/z値、強度値、および滞留時間に対応するm/z値、強度値、および滞留時間を有する各ピークを前記ピークリストから除外する、
請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記ピークリストのピークのm/z値、強度値、および滞留時間は、前記m/z値が、m/z許容係数内に合致する場合、前記強度値が、強度許容係数内に合致する場合、かつ前記滞留時間値が、滞留時間許容係数内に合致する場合、前記除外リストの背景ピークのm/z値、強度値、および滞留時間に対応する、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
代謝物イオンと同一の質量/電荷比(m/z)を有する内因性背景イオンを情報依存性入手(IDA)質量分析実験におけるピークリストから除外するための方法であって、
タンデム質量分析計を使用して、代謝物化合物を含まない対照サンプルをイオン化することによって生成されたイオン源デバイスからのイオンビームを受け取るステップと、
前記タンデム質量分析計を使用して、前記イオンビームに対してある質量範囲の質量分析(MS)走査を実施し、背景前駆体イオンに関する背景ピークm/zおよび強度値を生成するステップと、
前記タンデム質量分析計を使用して、除外リストに関して前記背景前駆体イオンの背景ピークのうちの1つまたはそれを上回るものを選択し、前記選択された1つまたはそれを上回る背景ピークの背景ピーク毎のm/z値および強度値を前記除外リスト内に含めるステップと、
前記タンデム質量分析計を使用して、前記代謝物化合物を含む実験サンプルをイオン化することによって生成された前記イオン源デバイスからのイオンビームを受け取るステップと、
前記タンデム質量分析計を使用して、前記イオンビームに対して前記質量範囲のMS走査を実施し、前駆体イオンに関するピークm/zおよび強度値を生成するステップと、
前記タンデム質量分析計を使用して、ピークリストに関して前記前駆体イオンのピークのうちの1つまたはそれを上回るものを選択し、前記選択された1つまたはそれを上回るピークのピーク毎のm/z値および強度値を前記ピークリスト内に含めるステップと、
前記タンデム質量分析計を使用して、前記除外リストの背景ピークのm/z値および強度値に対応するm/z値および強度値の両方を有する各ピークを前記ピークリストから除外するステップと
を含む、方法。
【請求項9】
前記ピークリストのピークのm/z値および強度値は、前記m/z値が、m/z許容係数内に合致する場合、および前記強度値が、強度許容係数内に合致する場合、前記除外リストの背景ピークのm/z値および強度値に対応する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記除外リストの背景ピークのm/z値および強度値に対応するm/z値および強度値の両方を有する各ピークを前記ピークリストから除外する前に、前記ピークリストまたは前記除外リストをスケーリングするステップをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記ピークリストまたは前記除外リストをスケーリングするステップは、
前記ピークリストおよび前記除外リスト上にある1つの既知の背景ピークを選択するステップと、
前記ピークリスト上の前記1つの既知の背景ピークの強度値および前記除外リスト上の前記1つの既知の背景ピークの強度値の比率を計算するステップと、
前記ピークリストまたは前記除外リスト上の各強度値を前記比率で乗算するステップと
を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ピークリストまたは前記除外リストをスケーリングするステップは、
前記ピークリストおよび前記除外リスト上にある2つまたはそれを上回る既知の背景ピークを選択するステップと、
前記ピークリスト上の前記2つまたはそれを上回る既知の背景ピークの強度値の組み合わせおよび前記除外リスト上の前記2つまたはそれを上回る既知の背景ピークの強度値の組み合わせの比率を計算するステップと、
前記ピークリストまたは前記除外リスト上の各強度値を前記比率で乗算するステップと
を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
サンプル導入デバイスから経時的に前記対照サンプルからの1つまたはそれを上回る化合物を受け取る前記イオン源デバイスからイオンビームを受け取るステップと、
前記イオンビームに対して、複数の異なる時間ステップにおいて前記質量範囲の複数のMS走査を実施し、経時的に背景前駆体イオンに関する背景ピークm/zおよび強度値を生成するステップと、
各時間ステップにおいて、前記除外リストに関して前記背景前駆体イオンの背景ピークのうちの1つまたはそれを上回るものを選択し、前記背景ピークのうちの選択された1つまたはそれを上回るものの背景ピーク毎のm/z値、強度値、および滞留時間値を前記除外リスト内に含めるステップと、
前記サンプル導入デバイスから経時的に前記実験サンプルからの1つまたはそれを上回る化合物を受け取る前記イオン源デバイスからイオンビームを受け取るステップと、
前記イオンビームに対して、複数の異なる時間ステップにおいて前記質量範囲の複数のMS走査を実施し、経時的に前駆体イオンに関するピークm/zおよび強度値を生成するステップと、
各時間ステップにおいて、前記ピークリストに関して前記前駆体イオンのピークのうちの1つまたはそれを上回るものを選択し、前記選択された1つまたはそれを上回るピークのピーク毎のm/z値、強度値、および滞留時間値を前記ピークリスト内に含めるステップと、
前記除外リストの背景ピークのm/z値、強度値、および滞留時間値に対応するm/z値、強度値、および滞留時間値を有する各ピークを前記ピークリストから除外するステップと
をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記ピークリストのピークのm/z値、強度値、および滞留時間は、前記m/z値が、m/z許容係数内に合致する場合、前記強度値が、強度許容係数内に合致する場合、かつ前記滞留時間値が、滞留時間許容係数内に合致する場合、前記除外リストの背景ピークのm/z値、強度値、および滞留時間に対応する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
非一過性かつ有形コンピュータ可読記憶媒体を備えるコンピュータプログラム製品であって、前記非一過性かつ有形コンピュータ可読記憶媒体のコンテンツは、代謝物イオンと同一の質量/電荷比(m/z)を有する内因性背景イオンを情報依存性入手(IDA)質量分析実験におけるピークリストから除外するための方法を実施するように、プロセッサ上で実行される命令を伴うプログラムを含み、前記方法は、
システムを提供するステップであって、前記システムは、1つまたはそれを上回る明確に異なるソフトウェアモジュールを備え、前記明確に異なるソフトウェアモジュールは、制御モジュールと、分析モジュールとを備える、ステップと、
前記制御モジュールを使用して、代謝物化合物を含まない対照サンプルをイオン化することによって生成されたイオン源デバイスからのイオンビームを受け取るようにタンデム質量分析計に命令するステップと、
前記制御モジュールを使用して、前記イオンビームに対してある質量範囲の質量分析(MS)走査を実施し、背景前駆体イオンに関する背景ピークm/zおよび強度値を生成するように前記タンデム質量分析計に命令するステップと、
前記分析モジュールを使用して、除外リストに関して前記背景前駆体イオンの背景ピークのうちの1つまたはそれを上回るものを選択し、前記選択された1つまたはそれを上回る背景ピークの背景ピーク毎のm/z値および強度値を前記除外リスト内に含めるステップと、
前記制御モジュールを使用して、前記代謝物化合物を含む実験サンプルをイオン化することによって生成された前記イオン源デバイスからのイオンビームを受け取るように前記タンデム質量分析計に命令するステップと、
前記制御モジュールを使用して、前記イオンビームに対して前記質量範囲のMS走査を実施し、前駆体イオンに関するピークm/zおよび強度値を生成するように前記タンデム質量分析計に命令するステップと、
前記分析モジュールを使用して、ピークリストに関して前記前駆体イオンのピークのうちの1つまたはそれを上回るものを選択し、前記選択された1つまたはそれを上回るピークのピーク毎のm/z値および強度値を前記ピークリスト内に含めるステップと、
前記分析モジュールを使用して、前記除外リストの背景ピークのm/z値および強度値に対応するm/z値および強度値の両方を有する各ピークを前記ピークリストから除外するステップと
を含む、コンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、その内容が、参照することによってその全体として本明細書に組み込まれる、2019年10月17日に出願された、米国仮特許出願第62/916,759号の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
緒言
本明細書の教示は、情報依存性入手(IDA)質量分析実験においてサンプルの代謝物を検出するための質量分析装置に関する。より具体的には、質量分析計が、IDA除外リスト内に強度および滞留時間パラメータを含めることによって、類似する質量/電荷比(m/z)を有する背景イオンから代謝物イオンを区別するように動作される。
【0003】
本明細書に開示される装置および方法はまた、プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、または
図1のコンピュータシステム等のコンピュータシステムと併せて実施される。
質量分析の背景技術
【0004】
質量分析(MS)は、化学化合物から形成されるイオンのm/z値の分析に基づくそれらの化合物の検出および定量化のための分析技法である。MSは、前駆体イオンを生成する、サンプルからの1つまたはそれを上回る着目化合物のイオン化、および前駆体イオンの質量分析を伴う。
【0005】
タンデム質量分析または質量分析/質量分析(MS/MS)は、サンプルからの1つまたはそれを上回る着目化合物のイオン化、1つまたはそれを上回る化合物の1つまたはそれを上回る前駆体イオンの選択、1つまたはそれを上回る前駆体イオンの生成イオンへの断片化、および生成イオンの質量分析を伴う。
【0006】
質量分析計は、多くの場合、サンプルから溶出する着目化合物を同定し、特性評価するために、クロマトグラフィまたは他の分離システムと結合される。そのような結合されたシステムでは、溶出する溶媒中の化合物は、イオン化され、一連の質量スペクトルが、規定された時間間隔において取得される。これらの時間は、例えば、1秒~100分またはそれを上回る時間に及ぶ。一連の質量スペクトルから導出された強度値は、クロマトグラムを形成する。例えば、全ての強度の合計は、全イオンクロマトグラム(TIC)を発生させ、1つの質量値の強度は、抽出イオンクロマトグラム(XIC)を発生させる。
【0007】
クロマトグラムに見出されるピークは、それらが滞留時間と呼ばれる既知の時間に溶出するため、サンプル中の既知のペプチドまたは化合物を同定または特性評価するために使用される。より具体的には、ピークの滞留時間および/またはピークの面積は、サンプル中の既知のペプチドまたは化合物を同定または特性評価(定量化)するために使用される。
【0008】
従来的分離結合質量分析システムでは、既知の化合物の前駆体イオンが、分析のために選択される。MS/MS走査が、次いで、前駆体イオンを含む質量範囲にわたって、各分離間隔において実施される。各MS/MS走査に見出される生成イオンの強度が、経時的に収集され、スペクトルの集合、または、例えば、XICとして分析される。
【0009】
MSおよびMS/MSは両方とも、定性的および定量的情報を提供することができる。測定された前駆体または生成イオンスペクトルは、着目分子を同定するために使用されることができる。前駆体イオンおよび生成イオンの強度はまた、サンプル中に存在する化合物の量を定量化するために使用されることができる。
【0010】
多数の異なるタイプの実験入手方法またはワークフローが、タンデム質量分析計を使用して実施されることができる。これらのワークフローの3つの広いカテゴリは、標的化入手、情報依存性入手(IDA)またはデータ依存性入手(DDA)、およびデータ非依存性入手(DIA)である。
【0011】
標的化入手方法では、生成イオンへの前駆体イオンの1つまたはそれを上回る遷移が、着目化合物に関して事前定義される、または既知である。サンプルがタンデム質量分析計の中に導入されるにつれて、1つまたはそれを上回る遷移が、複数の期間またはサイクルのうちの各期間またはサイクルの間に監視される。言い換えると、質量分析計は、各遷移の前駆体イオンを選択および断片化し、遷移の生成イオンに関して標的化質量分析を実施する。結果として、強度(生成イオン強度)が、遷移毎に生成される。標的化入手方法は、限定ではないが、多重反応監視(MRM)および選択反応監視(SRM)を含む。
【0012】
IDA方法では、ユーザは、サンプルがタンデム質量分析計の中に導入されている間に、生成イオンの非標的化質量分析を実施するための基準を規定することができる。例えば、IDA方法では、前駆体イオンまたは質量分析(MS)調査走査が、前駆体イオンピークリストを発生させるように実施される。ユーザは、ピークリスト上の前駆体イオンのサブセットに関してピークリストをフィルタ処理するための基準を選択することができる。MS/MSは、次いで、前駆体イオンのサブセットの各前駆体イオンに実施される。生成イオンスペクトルが、前駆体イオン毎に生成される。複数のMS/MS走査が続くMS調査走査は、サンプルがタンデム質量分析計の中に導入されるにつれて、前駆体イオンのサブセットの前駆体イオンに対して繰り返し(反復的に)実施されることができる。IDAはまた、データ依存性分析(Thermo Fisher)またはデータ指向分析(Waters)と呼ばれ得る。例えば、用語「DATA-DEPENDENT」は、Thermo Fisherの商標であり、用語「DDA」は、Watersの商標である。
【0013】
プロテオミクス、メタボロミクス等の異なるオーミクス技法による複雑な(例えば、生物学的)サンプルの測定は、異なるタイプ、多数、および広いダイナミックレンジの化合物につながる。プロテオミクスおよび多くの他のサンプルタイプでは、化合物の複雑性およびダイナミックレンジは、非常に大きい。これは、従来的な標的化およびIDA方法に関する課題を提起し、広範囲の分析物の同定および定量化の両方を行うために、サンプルを徹底的に照会するように超高速MS/MS入手を要求する。
【0014】
結果として、タンデム質量分析の第3の広いカテゴリである、DIA方法が、開発された。これらのDIA方法は、複雑なサンプルからのデータ収集の再現性および包括性を増加させるために使用されてきた。DIA方法はまた、非特異的断片化方法と呼ばれることもできる。従来的なDIA方法では、タンデム質量分析計の作用は、以前の前駆体または生成イオン走査において入手されるデータに基づいて、MS/MS走査の間で変動されない。代わりに、前駆体イオン質量範囲が、選択される。前駆体イオン質量選択窓が、次いで、前駆体イオン質量範囲を横断して漸進される。前駆体イオン質量選択窓内の全ての前駆体イオンが、断片化され、前駆体イオン質量選択窓内の全ての前駆体イオンの全ての生成イオンが、質量分析される。
内因性背景ピークの問題
【0015】
薬物代謝物同定研究を実施するとき、IDAが、投薬された対象からのサンプルに対して一般的に実施される。結果として生じるMS/MSスペクトルは、推定される代謝物が、実際に出発薬物に関連することを確認し、代謝変換の部位を位置特定するために使用される。
【0016】
図2は、IDA方法を使用して単純なサンプル中の薬物代謝物を同定するように動作されるタンデム質量分析計が、代謝物前駆体イオンに加えて、内因性背景前駆体イオンを含むIDAリストを生成し得る方法を示す、例示的略
図200である。
図2のIDA方法において、タンデム質量分析計は、最初に、単純なサンプルの完全MS走査210を実施する。MS走査210において、サンプルの全ての前駆体イオンが、質量フィルタにおいて選択され、解離デバイスを通して透過され、質量分析器において質量分析される。本図では、これらのデバイスは、四重極として示されるが、また、他のタイプのデバイスでもあり得る。質量分析器は、前駆体質量スペクトル212に示されるように、前駆体イオンに関する強度測定値を生成する。
【0017】
タンデム質量分析計は、次いで、ある閾値213を上回る強度を有する全ての前駆体イオンを選択する。閾値213を上回る強度を有する全ての前駆体イオンが、閾値リスト214に追加される。閾値リスト214上のイオンの数が、
図2に示されるような規定されたサイクル時間内でMS/MSによって分析されるほど十分に少ない場合、閾値リスト214は、IDAリスト216になる。IDAリスト214のみが、各前駆体イオンのm/zを含むことに留意されたい。また、閾値213を上回る強度を有する前駆体イオンが、m/z値に従って閾値リスト214に追加されることに留意されたい。しかしながら、下記に議論されるように、閾値リスト214上の前駆体イオンの順序を選択するための他の方法も、存在する。
【0018】
IDAリスト216上の前駆体イオン毎に、タンデム質量分析計は、MS/MS走査を実施する。例えば、MS/MS走査221において、114のm/z値を伴う前駆体イオンが、質量フィルタにおいて選択され、解離デバイスにおいて生成イオンに解離され、生成イオンが、質量分析器において質量分析される。同様に、MS/MS走査222および223において、IDAリスト216からのm/z値153および215を伴う前駆体イオンが、それぞれ、選択および解離され、それらの生成イオンが、質量分析される。
【0019】
MS/MS走査221、222、および223の生成イオンスペクトルは、それらが、代謝物に対応する可能性が高いかどうかを決定するために、既知の薬物に関する既知の生成イオンスペクトルと比較される。114および153のm/z値を伴う前駆体イオンが、内因性背景イオンピークであることに留意されたい。結果として、内因性背景イオンピークもまた、IDA方法における既知の代謝物ピークと比較され得る。単純なサンプルに関して、これは、問題ではない。
【0020】
しかしながら、より複雑なサンプルに関して、これは、利用可能なサイクル時間の多くが、内因性背景ピークの必要とされないMS/MSスペクトルを入手するために使用されるため、IDA方法が代謝物ピークのうちの1つまたは全てに対してトリガされないように妨げ得る。結果として、薬物代謝物は、同定されない場合がある。
【0021】
図3は、IDA方法を使用して複雑なサンプル中の薬物代謝物を同定するように動作されるタンデム質量分析計が、代謝物前駆体イオンを含まないIDAリストを生成し得る方法を示す、例示的略
図300である。
図3のIDA方法において、タンデム質量分析計は、最初に、複雑なサンプルの完全MS走査310を実施する。MS走査310において、サンプルの全ての前駆体イオンが、質量フィルタにおいて選択され、解離デバイスを通して透過され、質量分析器において質量分析される。本図では、これらのデバイスは、四重極として示されるが、また、他のタイプのデバイスでもあり得る。質量分析器は、前駆体質量スペクトル312に示されるように、前駆体イオンに関する強度測定値を生成する。
【0022】
タンデム質量分析計は、次いで、ある閾値313を上回る強度を有する全ての前駆体イオンを選択する。閾値313を上回る強度を有する全ての前駆体イオンが、閾値リスト314に追加される。
【0023】
複雑なサンプルが、走査されるため、前駆体質量スペクトル312は、代謝物ピークに加えて、6つの内因性背景前駆体イオンピークを含み、これは、215のm/z値を有する。規定されたサイクル時間が、MS/MS走査が5つの前駆体イオンピークに対して実施されるために十分な時間のみを提供する場合、閾値リスト314が、IDAリスト316にまとめられる。
【0024】
IDAリスト316上の前駆体イオン毎に、タンデム質量分析計は、MS/MS走査を実施する。IDAリスト316上に5つの前駆体イオンピークが、存在するため、5回のMS/MS走査321-325が、実施され、5つの生成イオンスペクトルを生成する。
【0025】
MS/MS走査321-325の生成イオンスペクトルは、次いで、既知の薬物に関する既知の生成イオンスペクトルと比較され、それらが代謝物に対応する可能性が高いかどうかを決定する。代謝物は、それ自体は「既知」ではない場合がある。前駆体イオンスペクトル312において、m/z215を伴う代謝物前駆体イオンが、6つの内因性背景前駆体イオンによって先行されることに留意されたい。IDAリスト316は、5つのみの前駆体イオンピークに限定されるため、m/z215を伴う代謝物前駆体イオンは、リストに追加されなかった。結果として、MS/MS走査321-325の生成イオンスペクトルは、内因性背景前駆体イオンの生成イオンのみを提供する。結果として、既知の薬物代謝物は、この場合では見出されない。
【0026】
IDA入手を介して分析を実施することは、自動化方式でMS/MS情報を発生させる最も広く使用される方法のうちの1つである。長年にわたって、解離されるべき前駆体イオンのサブセットに関する閾値ピークリストをフィルタ処理するためのいくつかのフィルタが、具体的用途において着目イオンの自動化選択を最適化するために開発されている。
【0027】
代謝物研究では、対照サンプルが、入手および分析されることができる。対照サンプルは、代謝サンプルに類似するが、薬物の投与の前の条件を表す。当然ながら、対照サンプルが実験サンプルに類似するほど、より良好である。例えば、対照サンプルは、投薬前であるが、対応する投薬されるサンプルに関して同一の対象からのものであり得る。推定される代謝物が、投薬されたサンプルに現れるが、対照サンプルに現れないピークを探索することによって見出される。
【0028】
投薬されたサンプルの入手の前の全てのピークを見出すことによって、対照サンプルを分析することが、可能である。ピークの本リストが、投薬されたサンプルに関するデータを入手するときに、IDA除外リストとして使用され得ることが、以前に示されている。これは、IDAが背景ピークに対してトリガされることを防止し、したがって、MS/MSが実際の着目薬物代謝物に関して入手されるであろう可能性を増加させる。
【0029】
図4は、タンデム質量分析計が、最初に、対照サンプルに対してMS走査を実施し、除外リストを生成するように動作され、次いで、複雑なサンプルに適用されるIDA方法において除外リストを使用することによって複雑なサンプル中の薬物代謝物を同定するように動作される方法を示す、例示的略
図400である。
図4のIDA方法において、タンデム質量分析計は、最初に、対照サンプルの完全MS走査401を実施する。対照サンプルは、いかなる着目代謝物も含まないことが既知である。MS走査401において、対照サンプルの全ての前駆体イオンが、質量フィルタにおいて選択され、解離デバイスを通して透過され、質量分析器において質量分析される。本図では、これらのデバイスは、四重極として示されるが、また、他のタイプのデバイスでもあり得る。質量分析器は、前駆体質量スペクトル402に示されるように、前駆体イオンに関する強度測定値を生成する。
【0030】
タンデム質量分析計は、次いで、ある閾値403を上回る強度を有する全ての前駆体イオンを選択する。閾値403を上回る強度を有する全ての前駆体イオンが、除外リスト404に追加される。対照サンプルは、着目代謝物を含まないため、除外リスト404上の全ての前駆体イオンは、内因性背景イオンである。
【0031】
タンデム質量分析計は、次いで、着目代謝物を含有することが既知である実験サンプルの完全MS走査410を実施する。MS走査410において、実験サンプルの全ての前駆体イオンが、質量フィルタにおいて選択され、解離デバイスを通して透過され、質量分析器において質量分析される。本図では、これらのデバイスは、四重極として示されるが、また、他のタイプのデバイスでもあり得る。質量分析器は、前駆体質量スペクトル412に示されるように、前駆体イオンに関する強度測定値を生成する。
【0032】
タンデム質量分析計は、次いで、ある閾値413を上回る強度を有する全ての前駆体イオンを選択する。閾値413を上回る強度を有する全ての前駆体イオンが、閾値リスト414に追加される。実験サンプルは、着目代謝物を含むため、閾値リスト414は、全ての内因性背景イオンに加えて、m/z215を伴う代謝物前駆体イオンを含む。
【0033】
タンデム質量分析計は、閾値リスト414から除外リスト404上にある前駆体イオンピークを除去する。これは、IDAリスト416を生成する。IDAリスト416は、ここでは、m/z215を伴う代謝物前駆体イオンのみを含む。
【0034】
IDAリスト416上の前駆体イオン毎に、タンデム質量分析計は、MS/MS走査を実施する。IDAリスト416上に1つのみの前駆体イオンピークが、存在するため、MS/MS走査421のみが、実施され、1つの生成イオンスペクトルを生成する。
【0035】
MS/MS走査421の生成イオンスペクトルは、次いで、既知の薬物に関する既知の生成イオンスペクトルと比較され、それらが代謝物に対応する可能性が高いかどうかを決定する。除外リスト404を使用することによって、MS/MS走査が、内因性背景前駆体イオンピークに対して実施されないことに留意されたい。これは、MS/MS走査421が、m/z215を伴う代謝物前駆体イオンに対して実施されることを確実にする。
【0036】
対照サンプルから導出される除外リストを使用することに伴う1つの問題は、ピーク強度が、背景ピークと比較される薬物代謝物に関してかなりより大きい場合であっても、MS/MSが、背景ピークに類似するm/zを有する薬物代謝物に関するピークに関してトリガされないであろうことである。
【0037】
図5は、対照サンプルに対して実施されるMS走査からの除外リストがまた、代謝物ピークおよび背景ピークが、類似するm/z値を有する場合、IDA方法において代謝物ピークを除去し得る方法を示す、例示的略
図500である。
図5のIDA方法において、タンデム質量分析計は、最初に、対照サンプルの完全MS走査501を実施する。対照サンプルは、着目代謝物を含まないことが既知である。MS走査501において、対照サンプルの全ての前駆体イオンが、質量フィルタにおいて選択され、解離デバイスを通して透過され、質量分析器において質量分析される。本図では、これらのデバイスは、四重極として示されるが、また、他のタイプのデバイスでもあり得る。質量分析器は、前駆体質量スペクトル502に示されるように、前駆体イオンに関する強度測定値を生成する。
【0038】
タンデム質量分析計は、次いで、ある閾値503を上回る強度を有する全ての前駆体イオンを選択する。閾値503を上回る強度を有する全ての前駆体イオンが、除外リスト504に追加される。
【0039】
タンデム質量分析計は、次いで、着目代謝物を含有することが既知である実験サンプルの完全MS走査510を実施する。MS走査510において、実験サンプルの全ての前駆体イオンが、質量フィルタにおいて選択され、解離デバイスを通して透過され、質量分析器において質量分析される。本図では、これらのデバイスは、四重極として示されるが、また、他のタイプのデバイスでもあり得る。質量分析器は、前駆体質量スペクトル512に示されるように、前駆体イオンに関する強度測定値を生成する。
【0040】
タンデム質量分析計は、次いで、ある閾値513を上回る強度を有する全ての前駆体イオンを選択する。閾値513を上回る強度を有する全ての前駆体イオンが、閾値リスト514に追加される。実験サンプルは、着目代謝物を含むため、閾値リスト514は、m/z190を伴う代謝物前駆体イオン518を含む。しかしながら、m/z190を伴う背景イオン517もまた、存在する。結果として、閾値リスト514は、m/z190を伴う2つのイオンピークを含む。
【0041】
次に、タンデム質量分析計は、閾値リスト514から除外リスト504上にある前駆体イオンピークを除去する。代謝物前駆体イオン518および背景イオン517は、190の同一のm/z値を有するため、それらは両方とも、除外される。結果として、IDAリスト516は、ここでは、いかなるイオンピークも含まず、いかなるMS/MS走査も、実施されない。結果として、代謝物および背景ピークが、類似するm/z値を有するとき、MS/MS走査は、対照サンプルおよび除外リストが、使用される場合であっても、薬物代謝物に関してトリガされない。
【0042】
結果として、IDA方法においてタンデム質量分析計を動作させるための付加的システム方法が、類似するm/z値を有する背景および代謝物イオンを区別するために必要とされる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0043】
代謝物イオンと同一の質量/電荷比(m/z)を有する内因性背景イオンを情報依存性入手(IDA)質量分析実験におけるピークリストから除外するためのシステム、方法、およびコンピュータプログラム製品が、開示される。本システムは、イオン源デバイスと、タンデム質量分析計とを含む。
【0044】
タンデム質量分析計は、代謝物化合物を含まない対照サンプルをイオン化することによって生成されたイオン源デバイスからのイオンビームを受け取る。タンデム質量分析計は、イオンビームに対してある質量範囲のMS走査を実施し、背景前駆体イオンに関する背景ピークm/zおよび強度値を生成する。タンデム質量分析計は、除外リストに関して背景前駆体イオンの背景ピークのうちの1つまたはそれを上回るものを選択し、選択された1つまたはそれを上回る背景ピークの背景ピーク毎のm/z値および強度値を除外リスト内に含める。
【0045】
タンデム質量分析計は、次に、実験サンプルを分析することによってIDA方法に関するピークリストを作成する。タンデム質量分析計は、代謝物化合物を含む実験サンプルをイオン化することによって生成されたイオン源デバイスからのイオンビームを受け取る。タンデム質量分析計は、イオンビームに対してその質量範囲のMS走査を実施し、前駆体イオンに関するピークm/zおよび強度値を生成する。タンデム質量分析計は、ピークリストに関して前駆体イオンのピークのうちの1つまたはそれを上回るものを選択し、選択された1つまたはそれを上回るピークのピーク毎のm/z値および強度値をピークリスト内に含める。
【0046】
最後に、タンデム質量分析計は、除外リストの背景ピークのm/z値および強度値に対応するm/z値および強度値の両方を有する各ピークをピークリストから除外する。
【0047】
本出願人の教示のこれらおよび他の特徴が、本明細書に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0048】
当業者は、下記に説明される図面が、例証目的にすぎないことを理解するであろう。図面は、本教示の範囲をいかようにも限定することを意図していない。
【0049】
【
図1】
図1は、本教示の実施形態が実装され得る、コンピュータシステムを図示する、ブロック図である。
【0050】
【
図2】
図2は、情報依存性入手(IDA)方法を使用して単純なサンプル中の薬物代謝物を同定するように動作されるタンデム質量分析計が、代謝物前駆体イオンに加えて、内因性背景前駆体イオンを含むIDAリストを生成し得る方法を示す、例示的略図である。
【0051】
【
図3】
図3は、IDA方法を使用して複雑なサンプル中の薬物代謝物を同定するように動作されるタンデム質量分析計が、代謝物前駆体イオンを含まないIDAリストを生成し得る方法を示す、例示的略図である。
【0052】
【
図4】
図4は、タンデム質量分析計が、最初に、対照サンプルに対して質量分析(MS)走査を実施し、除外リストを生成するように動作され、次いで、複雑なサンプルに適用されるIDA方法において除外リストを使用することによって複雑なサンプル中の薬物代謝物を同定するように動作される方法を示す、例示的略図である。
【0053】
【
図5】
図5は、対照サンプルに対して実施されるMS走査からの除外リストがまた、代謝物ピークおよび背景ピークが、類似するm/z値を有する場合、IDA方法において代謝物ピークを除去し得る方法を示す、例示的略図である。
【0054】
【
図6】
図6は、種々の実施形態による、対照サンプルに対して実施されたMS走査からの除外リストに強度および滞留時間を追加することが、代謝物ピークおよび背景ピークが、類似するm/z値を有する場合、代謝物ピークがIDA方法において除去されることを防止し得る方法を示す、例示的略図である。
【0055】
【
図7】
図7は、種々の実施形態による、代謝物イオンと同一のm/zを有する内因性背景イオンをIDA質量分析実験におけるピークリストから除外するための装置の概略図である。
【0056】
【
図8】
図8は、種々の実施形態による、代謝物イオンと同一のm/zを有する内因性背景イオンをIDA質量分析実験におけるピークリストから除外するための方法800を示す、フローチャートである。
【0057】
【
図9】
図9は、種々の実施形態による、代謝物イオンと同一のm/zを有する内因性背景イオンをIDA質量分析実験におけるピークリストから除外するための方法を実施する、1つまたはそれを上回る明確に異なるソフトウェアモジュールを含む、システムの概略図である。
【0058】
本教示の1つまたはそれを上回る実施形態が、詳細に説明される前に、当業者は、本教示が、その用途において、以下の発明を行うための形態に記載される、または図面に図示される、構造、構成要素の配列、およびステップの配列の詳細に限定されないことを理解するであろう。また、本明細書で使用される表現および専門用語は、説明の目的のためであって、限定的と見なされるべきではないことを理解されたい。
【発明を実施するための形態】
【0059】
種々の実施形態の説明
コンピュータ実装システム
【0060】
図1は、本教示の実施形態が実装され得る、コンピュータシステム100を図示するブロック図である。コンピュータシステム100は、情報を通信するためのバス102または他の通信機構と、情報を処理するためにバス102と結合されたプロセッサ104とを含む。コンピュータシステム100はまた、プロセッサ104によって実行される命令を記憶するために、バス102に結合されるランダムアクセスメモリ(RAM)または他の動的記憶デバイスであり得るメモリ106も含む。メモリ106はまた、プロセッサ104によって実行される命令の実行の間、一時的変数または他の中間情報を記憶するためにも使用され得る。コンピュータシステム100はさらに、プロセッサ104のための静的情報および命令を記憶するために、バス102に結合された読取専用メモリ(ROM)108または他の静的記憶デバイスを含む。磁気ディスクまたは光ディスク等の記憶デバイス110が、情報および命令を記憶するために提供され、バス102に結合される。
【0061】
コンピュータシステム100が、情報をコンピュータユーザに表示するために、バス102を介して、ブラウン管(CRT)または液晶ディスプレイ(LCD)等のディスプレイ112に結合され得る。英数字および他のキーを含む入力デバイス114が、情報およびコマンド選別をプロセッサ104に通信するために、バス102に結合される。別のタイプのユーザ入力デバイスは、方向情報およびコマンド選別をプロセッサ104に通信し、ディスプレイ112上のカーソル移動を制御するためのマウス、トラックボール、またはカーソル方向キー等のカーソル制御116である。本入力デバイスは、典型的には、デバイスが平面において位置を指定することを可能にする2つの軸、すなわち、第1の軸(すなわち、x)および第2の軸(すなわち、y)において、2自由度を有する。
【0062】
コンピュータシステム100が、本教示を実施することができる。本教示のある実装によると、結果は、メモリ106内に含有される1つまたはそれを上回る命令の1つまたはそれを上回るシーケンスをプロセッサ104が実行することに応答して、コンピュータシステム100によって提供される。そのような命令は、記憶デバイス110等の別のコンピュータ可読媒体から、メモリ106内に読み込まれ得る。メモリ106内に含有される命令のシーケンスの実行は、プロセッサ104に、本明細書に説明されるプロセスを実施させる。代替として、有線回路が、本教示を実装するためのソフトウェア命令の代わりに、またはそれと組み合わせて、使用され得る。したがって、本教示の実装は、ハードウェア回路およびソフトウェアの任意の具体的組み合わせに限定されない。
【0063】
種々の実施形態では、コンピュータシステム100は、ネットワークを横断して、コンピュータシステム100のような1つまたはそれを上回る他のコンピュータシステムに接続され、ネットワーク化されたシステムを形成することができる。ネットワークは、プライベートネットワークまたはインターネット等のパブリックネットワークを含むことができる。ネットワーク化されたシステムでは、1つまたはそれを上回るコンピュータシステムが、データを記憶し、他のコンピュータシステムにサーブすることができる。データを記憶し、サーブする、1つまたはそれを上回るコンピュータシステムは、クラウドコンピューティングシナリオでは、サーバまたはクラウドと称され得る。1つまたはそれを上回るコンピュータシステムは、例えば、1つまたはそれを上回るウェブサーバを含むことができる。データをサーバまたはクラウドにおよびそこから送信および受信する、他のコンピュータシステムは、例えば、クライアントまたはクラウドデバイスと称され得る。
【0064】
本明細書で使用されるような用語「コンピュータ可読媒体」は、実行のために命令をプロセッサ104に提供する際に関与する任意の媒体を指す。そのような媒体は、限定されないが、不揮発性媒体、揮発性媒体、および伝送媒体を含む、多くの形態をとり得る。不揮発性媒体は、例えば、記憶デバイス110等の光学または磁気ディスクを含む。揮発性媒体は、メモリ106等の動的メモリを含む。伝送媒体は、バス102を備える配線を含む、同軸ケーブル、銅線、および光ファイバを含む。
【0065】
コンピュータ可読媒体またはコンピュータプログラム製品の一般的形態は、例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ、または任意の他の磁気媒体、CD-ROM、デジタルビデオディスク(DVD)、ブルーレイディスク、任意の他の光学媒体、サムドライブ、メモリカード、RAM、PROM、およびEPROM、フラッシュ-EPROM、任意の他のメモリチップまたはカートリッジ、またはコンピュータが読み取ることができる任意の他の有形媒体を含む。
【0066】
コンピュータ可読媒体の種々の形態は、実行のために、1つまたはそれを上回る命令の1つまたはそれを上回るシーケンスをプロセッサ104に搬送することに関わり得る。例えば、命令は、最初は、遠隔コンピュータの磁気ディスク上で搬送され得る。遠隔コンピュータは、命令をその動的メモリ内にロードし、モデムを使用して、電話回線を介して、命令を送信することができる。コンピュータシステム100にローカルのモデムが、データを電話回線上で受信し、赤外線送信機を使用して、データを赤外線信号に変換することができる。バス102に結合された赤外線検出器が、赤外線信号で搬送されるデータを受信し、データをバス102上に設置することができる。バス102は、データをメモリ106に搬送し、そこから、プロセッサ104は、命令を読み出し、実行する。メモリ106によって受信された命令は、随意に、プロセッサ104による実行の前後のいずれかにおいて、記憶デバイス110上に記憶され得る。
【0067】
種々の実施形態によると、方法を実施するためにプロセッサによって実行されるように構成される命令が、コンピュータ可読媒体上に記憶される。コンピュータ可読媒体は、デジタル情報を記憶するデバイスであることができる。例えば、コンピュータ可読媒体は、ソフトウェアを記憶するために、当技術分野において周知のように、コンパクトディスク読取専用メモリ(CD-ROM)を含む。コンピュータ可読媒体は、実行されるように構成される命令を実行するために好適なプロセッサによってアクセスされる。
【0068】
本教示の種々の実装の以下の説明は、例証および説明の目的のために提示されている。これは、包括的でもなく、本教示を開示される精密な形態に限定するものでもない。修正および変形例が、上記の教示に照らして可能である、または本教示の実践から取得され得る。加えて、説明される実装は、ソフトウェアを含むが、本教示は、ハードウェアおよびソフトウェアの組み合わせとして、またはハードウェア単独において、実装され得る。本教示は、オブジェクト指向および非オブジェクト指向両方のプログラミングシステムによって実装され得る。
強度および滞留時間を伴うIDA除外リスト
【0069】
上記に説明されるように、薬物代謝物同定研究を実施するとき、IDAが、投薬された対象からのサンプルに対して一般的に実施される。結果として生じるMS/MSスペクトルは、推定される代謝物が、実際に出発薬物に関連することを確認し、代謝変換の部位を位置特定するために使用される。単純なサンプルに関して、従来のIDAは、良好に機能する。しかしながら、より複雑なサンプルに関して、内因性背景イオンは、利用可能なサイクル時間の多くが、内因性背景ピークの必要とされないMS/MSスペクトルを入手するために使用されるため、IDA方法が代謝物ピークのうちの1つまたは全てに対してトリガされないように妨げ得る。結果として、薬物代謝物は、同定されない場合がある。
【0070】
本問題に対する1つの解決策は、最初に、背景イオンピークリストを発生させるために、代謝物を含有しない類似する対照サンプルを分析することである。本リストは、次いで、投薬されたサンプルに関するデータを入手するとき、IDA除外リストとして使用されることができる。これは、IDAが背景ピークに対してトリガされることを防止し、したがって、MS/MSが実際の着目薬物代謝物に関して入手されるであろう可能性を増加させる。
【0071】
対照サンプルから導出される除外リストを使用することに伴う1つの問題は、MS/MSが、背景ピークに類似するm/z値を有する薬物代謝物に関するピークに関してトリガされないであろうことである。結果として、IDA方法においてタンデム質量分析計を動作させるための付加的システム方法が、類似するm/z値を有する背景および代謝物イオンを区別するために必要とされる。
【0072】
種々の実施形態では、タンデム質量分析計が、IDA除外リスト内に各背景ピークの強度を含める。次いで、IDA方法は、対照サンプルに関するいかなる対応するピークも存在しないか、または対照サンプルにおけるピークが、強度においてより小さいかのいずれかの場合、投薬されたサンプルに関するMS/MS走査をトリガする。許容係数が、ピーク強度を比較する際に使用されることができる。例えば、IDA方法は、強度が、背景ピークのものの1.5倍またはそれを上回る場合のみMS/MS走査をトリガする。IDA方法の本変更は、除外リストを使用するとき、MS/MS走査が、薬物代謝物に関してトリガされないであろう可能性を減少させる。
【0073】
上記に説明されるように、質量分析計は、多くの場合、サンプルから溶出する着目化合物を同定し、特性評価するために、クロマトグラフィまたは他の分離システムと結合される。そのような結合されたシステムでは、溶出する溶媒中の化合物は、イオン化され、一連の質量スペクトルが、規定された時間間隔において取得される。分析物または代謝物が注入から検出まで溶出するためにかかる時間は、滞留時間(RT)と称される。結果として、代謝物イオンもまた、それらの滞留時間に基づいて、内因性背景イオンから区別されることができる。
【0074】
種々の実施形態では、したがって、タンデム質量分析計が、IDA除外リスト内に各背景ピークの強度および滞留時間を含める。次いで、IDA方法は、対照サンプルに関するいかなる対応するピークも存在しないか、または対照サンプルにおけるピークが、同一の滞留時間を有し、強度においてより小さいかのいずれかの場合、投薬されたサンプルに関するMS/MS走査をトリガする。
【0075】
図6は、種々の実施形態による、対照サンプルに対して実施されたMS走査からの除外リストに強度および滞留時間を追加することが、代謝物ピークおよび背景ピークが、類似するm/z値を有する場合、代謝物ピークがIDA方法において除去されることを防止し得る方法を示す、例示的略
図600である。
図6のIDA方法において、タンデム質量分析計は、最初に、対照サンプルが、分離デバイスを使用して溶出されるにつれて、対照サンプルのいくつかの完全MS走査を実施する。3次元クロマトグラム602は、4つの内因性背景イオン毎に生成される質量ピークを示す。対照サンプルは、着目代謝物を含まないことが既知である。異なる時間ステップにおいて実施される各MS走査601において、対照サンプルの全ての前駆体イオンが、質量フィルタにおいて選択され、解離デバイスを通して透過され、質量分析器において質量分析され、時間ステップ毎に前駆体イオンスペクトルを生成する。本図では、これらのデバイスは、四重極として示されるが、また、他のタイプのデバイスでもあり得る。
【0076】
各時間ステップにおいて、タンデム質量分析計は、次いで、ある閾値603を上回る強度を有する全てのピークを選択する。閾値603を上回る強度を有する全ての前駆体イオンピークが、除外リスト604に追加される。加えて、各ピークの強度および滞留時間もまた、除外リスト604に追加され、ここで、除外リスト604において3つの列を生成する。
【0077】
タンデム質量分析計は、次いで、着目代謝物を含有することが既知である実験サンプルのいくつかの完全MS走査610を実施する。異なる時間ステップにおいて実施される各MS走査610において、実験サンプルの全ての前駆体イオンが、質量フィルタにおいて選択され、解離デバイスを通して透過され、質量分析器において質量分析され、時間ステップ毎に前駆体イオンスペクトルを生成する。3次元クロマトグラム612は、生成された質量ピークを示す。
【0078】
タンデム質量分析計は、次いで、ある閾値613を上回る強度を有する全てのピークを選択する。閾値613を上回る強度を有する全ての前駆体イオンピークが、閾値リスト614に追加される。加えて、各ピークの強度および滞留時間もまた、閾値リスト614に追加され、ここで、閾値リスト614において3つの列を生成する。実験サンプルは、着目代謝物を含むため、閾値リスト614は、m/z190、強度1500、滞留時間41分を伴う代謝物前駆体イオンピーク618を含む。しかしながら、m/z190、強度1000、および滞留時間41分を伴う背景イオンピーク617もまた、存在する。結果として、閾値リスト614は、m/z190を伴う2つのイオンピークを含む。
【0079】
次に、タンデム質量分析計は、閾値リスト614から除外リスト604上にある前駆体イオンピークを除去する。以前に、閾値リスト614の代謝物前駆体イオンピーク618および背景イオンピーク617は、除外リスト604の背景イオンピークと同一の190のm/z値を有していたため、それらは両方とも、除外された。
【0080】
しかしながら、ここでは、閾値リスト614の前駆体イオンピーク618および背景イオンピーク617の滞留時間および強度は、加えて、除外リスト604の背景イオンピークの滞留時間および強度と比較される。本比較から、閾値リスト614の背景イオンピーク617は、除外604の背景イオンピークと合致することが見出され、除外される。しかしながら、閾値リスト614の代謝物前駆体イオンピーク618のm/zおよび滞留時間が、除外604の背景イオンピークのm/zおよび滞留時間と合致しても、強度は、合致しない。結果として、閾値リスト614の代謝物前駆体イオンピーク618は、除外されず、したがって、IDAリスト616に追加される。閾値リスト614の全ての他のピークが、除外リスト604のピークに合致し、除外されることに留意されたい。
【0081】
また、IDAリスト616が、別個のリストとして示されるが、IDAリスト616が、単純に、ピークが除外された後の閾値リスト614であり得ることに留意されたい。さらに、閾値リスト614が、ピークが分離の間に入手されるにつれてリアルタイムで常に更新および除外されており、したがって、IDAリスト616もまた、分離の間に常に変化していることに留意されたい。
【0082】
分離の間、IDAリスト616上の前駆体イオンピーク毎に、タンデム質量分析計は、前駆体イオンピークがIDAリスト616上にある間にMS/MS走査を実施する。この場合では、IDAリスト616上に1つのみの前駆体イオンピークが、存在するため、代謝物前駆体イオンピーク618がIDAリスト616上にある限り、MS/MS走査621のみが、実施され、MS/MS走査毎に生成イオンスペクトルを生成する。
【0083】
MS/MS走査621の生成イオンスペクトルは、次いで、既知の薬物に関する既知の生成イオンスペクトルと比較され、それらが代謝物に対応する可能性が高いかどうかを決定する。付加的強度および滞留時間パラメータ値を伴う除外リスト604を使用することによって、MS/MS走査が、類似するm/z値を有するが、異なる強度または異なる滞留時間を有する内因性背景前駆体イオンピークおよび代謝物イオンピークの両方に対して実施されないことに留意されたい。言い換えると、代謝物イオンピークは、もはや誤って除外されない。
【0084】
種々の実施形態では、閾値リストと除外リストとの間でm/z、滞留時間、および強度を比較するとき、各パラメータの値を合致させるための異なる許容係数が、使用される。例えば、強度に関する許容係数は、限定ではないが、1.5の係数であり得る。これは、m/zおよび滞留もまた、合致する場合、強度が、除外リスト604上のピークの強度の1.5倍である場合にのみ、MS/MS走査が、閾値リスト614のピークに関してトリガされることを意味する。
【0085】
対照サンプルおよび実験サンプルの濃度が、異なり得ることに留意されたい。結果として、種々の実施形態では、閾値リスト614または除外リスト604の強度は、2つのリストが比較される前に、スケーリングされる。例えば、対照および実験尿サンプルが、異なる体積を有し得る。尿は、クレアチニン等のある化合物を自然に含有することが公知である。結果として、閾値リストおよび除外リストにおけるクレアチニンに関する強度の比率が、閾値リストまたは除外リストにおける全ての強度をスケーリングするために使用されることができる。
ピークリストから背景ピークを除外するためのシステム
【0086】
図7は、種々の実施形態による、代謝物イオンと同一のm/zを有する内因性背景イオンをIDA質量分析実験におけるピークリストから除外するための装置の概略
図700である。
図7のシステムは、イオン源デバイス710と、タンデム質量分析計701とを含む。
【0087】
イオン源デバイス710は、限定ではないが、エレクトロスプレーイオン源(ESI)デバイス、大気圧化学イオン化源(APCI)デバイス等の化学イオン化(CI)源デバイス、大気圧光イオン化(APPI)源デバイス、またはマトリクス支援レーザ脱離源(MALDI)デバイスであり得る。例示的実施形態では、イオン源デバイス710は、ESIデバイスである。
【0088】
タンデム質量分析計701は、例えば、質量フィルタデバイス720と、解離デバイス730と、質量分析器740とを含む。
図7のシステムでは、質量フィルタデバイス720、解離デバイス730、および質量分析器740は、四重極デバイスとして示される。当業者は、これらの段のうちのいずれかが、限定ではないが、イオントラップ、オービトラップ、イオン移動度デバイス、飛行時間(TOF)デバイス、電子ベースの解離(ExD)衝突セル、またはフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FT-ICR)デバイスを含む、他のタイプの質量分析デバイスを含み得ることを理解することができる。
【0089】
タンデム質量分析計701は、最初に、対照サンプルを分析することによって除外リストを作成する。タンデム質量分析計701は、代謝物化合物を含まない対照サンプルをイオン化することによって生成されたイオン源デバイス710からのイオンビームを受け取る。
図7では、イオン源デバイス710が、タンデム質量分析計701の一部として示されることに留意されたい。しかしながら、イオン源デバイス710はまた、別個のデバイスでもあり得る。
【0090】
タンデム質量分析計701は、イオンビームに対してある質量範囲のMS走査を実施し、背景前駆体イオンに関する背景ピークm/zおよび強度値を生成する。タンデム質量分析計701は、除外リストに関して背景前駆体イオンの背景ピークのうちの1つまたはそれを上回るものを選択し、選択された1つまたはそれを上回る背景ピークの背景ピーク毎のm/z値および強度値を除外リスト内に含める。
【0091】
タンデム質量分析計701は、次に、実験サンプルを分析することによってIDA方法に関するピークリストを作成する。タンデム質量分析計701は、代謝物化合物を含む実験サンプルをイオン化することによって生成されたイオン源デバイスからのイオンビームを受け取る。タンデム質量分析計701は、イオンビームに対してその質量範囲のMS走査を実施し、前駆体イオンに関するピークm/zおよび強度値を生成する。タンデム質量分析計701は、ピークリストに関して前駆体イオンのピークのうちの1つまたはそれを上回るものを選択し、選択された1つまたはそれを上回るピークのピーク毎のm/z値および強度値をピークリスト内に含める。
【0092】
最後に、タンデム質量分析計701は、除外リストの背景ピークのm/z値および強度値に対応するm/z値および強度値の両方を有するピークリストの各ピークを除外する。
【0093】
種々の実施形態では、タンデム質量分析計701はさらに、代謝物化合物を同定するために、ピークリスト上の各前駆体イオンピークのMS/MS走査を実施する。
【0094】
種々の実施形態では、タンデム質量分析計701は、ある閾値強度レベルを上回って測定される最初のN個のピークを選択することによって、ピークリストに関して前駆体イオンのピークのうちの1つまたはそれを上回るものを選択する。別の実施形態では、タンデム質量分析計701は、最も高い強度を伴うN個のピークを選択することによって、ピークリストに関して前駆体イオンのピークのうちの1つまたはそれを上回るものを選択する。
【0095】
種々の実施形態では、ピークリストのピークのm/z値および強度値は、m/z値が、m/z許容係数内に合致する場合、かつ強度値が、強度許容係数内に合致する場合、除外リストの背景ピークのm/z値および強度値に対応する。上記に説明されるように、強度許容係数は、例えば、除外リストの背景ピークの強度の1.5倍であり得る。
【0096】
種々の実施形態では、タンデム質量分析計701はさらに、2つのリストにおけるピークを比較し、合致させる前に、ピークリストまたは除外リストをスケーリングする。上記に説明されるように、単一の既知の背景ピークが、ピークリストまたは除外リストをスケーリングするために使用されることができる。例えば、タンデム質量分析計701は、ピークリストおよび除外リスト上にある1つの既知の背景ピークを選択する。タンデム質量分析計701は、ピークリスト上の1つの既知の背景ピークの強度値および除外リスト上の1つの既知の背景ピークの強度値の比率を計算する。タンデム質量分析計701は、次いで、ピークリストまたは除外リスト上の各強度値をその比率で乗算する。
【0097】
種々の実施形態では、2つまたはそれを上回る背景イオンが、ピークリストまたは除外リストをスケーリングするために使用されることができる。例えば、タンデム質量分析計701は、ピークリストおよび除外リスト上にある2つまたはそれを上回る既知の背景ピークを選択する。タンデム質量分析計701は、ピークリスト上の2つまたはそれを上回る既知の背景ピークの強度値の組み合わせおよび除外リスト上の2つまたはそれを上回る既知の背景ピークの強度値の組み合わせの比率を計算する。2つまたはそれを上回る既知の背景ピークの強度値の組み合わせは、限定ではないが、平均値、中央値、または強度加重平均であり得る。タンデム質量分析計701は、次いで、ピークリストまたは除外リスト上の各強度値をその比率で乗算する。
【0098】
種々の実施形態では、タンデム質量分析計701はさらに、サンプル導入デバイス760を含む。サンプル導入デバイス760は、例えば、サンプルからの1つまたはそれを上回る着目化合物をイオン源デバイス710に経時的に導入する。サンプル導入デバイス760は、限定ではないが、注入、液体クロマトグラフィ、ガスクロマトグラフィ、キャピラリ電気泳動、またはイオン移動度を含む技法を実施することができる。
【0099】
サンプル導入デバイス760を使用するとき、タンデム質量分析計701は、サンプル導入デバイス760から経時的に対照サンプルからの1つまたはそれを上回る化合物を受け取るイオン源デバイス710からイオンビームを受け取る。タンデム質量分析計701は、次いで、イオンビームに対して、複数の異なる時間ステップにおいてある質量範囲の複数のMS走査を実施し、経時的に背景前駆体イオンに関する背景ピークm/zおよび強度値を生成する。各時間ステップにおいて、タンデム質量分析計701は、除外リストに関して背景前駆体イオンの背景ピークのうちの1つまたはそれを上回るものを選択し、背景ピークのうちの選択された1つまたはそれを上回るものの背景ピーク毎のm/z値、強度値、および滞留時間値を除外リスト内に含める。
【0100】
次に、タンデム質量分析計701は、サンプル導入デバイス760から経時的に実験サンプルからの1つまたはそれを上回る化合物を受け取るイオン源デバイス710からイオンビームを受け取る。タンデム質量分析計701は、イオンビームに対して、複数の異なる時間ステップにおいてその質量範囲の複数のMS走査を実施し、経時的に前駆体イオンに関するピークm/zおよび強度値を生成する。時間ステップ毎に、タンデム質量分析計701は、ピークリストに関して前駆体イオンのピークのうちの1つまたはそれを上回るものを選択し、選択された1つまたはそれを上回るピークのピーク毎のm/z値、強度値、および滞留時間値をピークリスト内に含める。
【0101】
最後に、タンデム質量分析計701は、除外リストの背景ピークのm/z値、強度値、および滞留時間に対応するm/z値、強度値、および滞留時間を有する各ピークをピークリストから除外する。
【0102】
種々の実施形態では、ピークリストのピークのm/z値、強度値、および滞留時間は、m/z値が、m/z許容係数内に合致する場合、強度値が、強度許容係数内に合致する場合、かつ滞留時間値が、滞留時間許容係数内に合致する場合、除外リストの背景ピークのm/z値、強度値、および滞留時間に対応する。
【0103】
種々の実施形態では、プロセッサ750が、上記に説明されるステップのうちのいずれかを実施するように、または上記に説明されるステップのうちの1つまたはそれを上回るものを独立して実施するようにタンデム質量分析計701を制御する、またはそれに命令するために使用されることができる。プロセッサ750は、例えば、1つまたはそれを上回る電圧、電流、または圧力源(図示せず)を制御することによって、命令を制御または提供する。プロセッサ750は、限定ではないが、コンピュータ、マイクロプロセッサ、
図1のコンピュータシステム、またはタンデム質量分析計に、およびそれから制御信号およびデータを送信および受信し、データを処理することが可能な任意のデバイスであり得る。プロセッサ750は、タンデム質量分析計701と通信する。プロセッサ750は、別個のデバイスとして示されるが、タンデム質量分析計701または別のデバイスのプロセッサまたはコントローラでもあり得る。
ピークリストから背景ピークを除外するための方法
【0104】
図8は、種々の実施形態による、代謝物イオンと同一のm/zを有する内因性背景イオンをIDA質量分析実験におけるピークリストから除外するための方法800を示す、フローチャートである。
【0105】
方法800のステップ810において、タンデム質量分析計を使用して、代謝物化合物を含まない対照サンプルをイオン化することによって生成されたイオンビームが、イオン源デバイスから受け取られる。
【0106】
ステップ820において、タンデム質量分析計を使用して、ある質量範囲の質量分析(MS)走査が、イオンビームに対して実施され、背景前駆体イオンに関する背景ピークm/zおよび強度値を生成する。
【0107】
ステップ830において、タンデム質量分析計を使用して、背景前駆体イオンの背景ピークのうちの1つまたはそれを上回るものが、除外リストに関して選択され、除外リストにおいて、m/z値および強度値が、選択された1つまたはそれを上回る背景ピークの背景ピーク毎に含められる。
【0108】
ステップ840において、タンデム質量分析計を使用して、代謝物化合物を含む実験サンプルをイオン化することによって生成されたイオンビームが、イオン源デバイスから受け取られる。
【0109】
ステップ850において、タンデム質量分析計を使用して、その質量範囲のMS走査が、イオンビームに対して実施され、前駆体イオンに関するピークm/zおよび強度値を生成する。
【0110】
ステップ860において、タンデム質量分析計を使用して、前駆体イオンのピークのうちの1つまたはそれを上回るものが、ピークリストに関して選択され、ピークリストにおいて、m/z値および強度値が、選択された1つまたはそれを上回るピークのピーク毎に含められる。
【0111】
ステップ870において、タンデム質量分析計を使用して、除外リストの背景ピークのm/z値および強度値に対応するm/z値および強度値の両方を有するピークリストの各ピークが、除外される。
ピークリストから背景ピークを除外するためのコンピュータプログラム製品
【0112】
種々の実施形態では、コンピュータプログラム製品が、そのコンテンツが、代謝物イオンと同一のm/zを有する内因性背景イオンをIDA質量分析実験におけるピークリストから除外するための方法を実施するように、プロセッサ上で実行される命令を伴う、プログラムを含む、有形コンピュータ可読記憶媒体を含む。本方法は、1つまたはそれを上回る明確に異なるソフトウェアモジュールを含む、システムによって実施される。
【0113】
図9は、種々の実施形態による、代謝物イオンと同一のm/zを有する内因性背景イオンをIDA質量分析実験におけるピークリストから除外するための方法を実施する、1つまたはそれを上回る明確に異なるソフトウェアモジュールを含む、システム900の概略図である。システム900は、制御モジュール910と、分析モジュール920とを含む。
【0114】
制御モジュール910は、代謝物化合物を含まない対照サンプルをイオン化することによって生成されたイオン源デバイスからのイオンビームを受け取るようにタンデム質量分析計に命令する。制御モジュール910は、イオンビームに対してある質量範囲のMS走査を実施し、背景前駆体イオンに関する背景ピークm/zおよび強度値を生成するようにタンデム質量分析計に命令する。分析モジュール920は、除外リストに関して背景前駆体イオンの背景ピークのうちの1つまたはそれを上回るものを選択し、選択された1つまたはそれを上回る背景ピークの背景ピーク毎のm/z値および強度値を除外リスト内に含める。
【0115】
制御モジュール910は、代謝物化合物を含む実験サンプルをイオン化することによって生成されたイオン源デバイスからのイオンビームを受け取るようにタンデム質量分析計に命令する。制御モジュール910は、イオンビームに対してその質量範囲のMS走査を実施し、前駆体イオンに関するピークm/zおよび強度値を生成するようにタンデム質量分析計に命令する。分析モジュール920は、ピークリストに関して前駆体イオンのピークのうちの1つまたはそれを上回るものを選択し、選択された1つまたはそれを上回るピークのピーク毎のm/z値および強度値をピークリスト内に含める。最後に、分析モジュール920は、除外リストの背景ピークのm/z値および強度値に対応するm/z値および強度値の両方を有する各ピークをピークリストから除外する。
【0116】
さらに、種々の実施形態の説明において、本明細書は、ステップの特定のシーケンスとして、方法および/またはプロセスを提示し得る。しかしながら、方法またはプロセスが、本明細書に記載されるステップの特定の順序に依拠しないという点において、方法またはプロセスは、説明されるステップの特定のシーケンスに限定されるべきではない。当業者が理解するであろうように、ステップの他のシーケンスも可能であり得る。したがって、本明細書に記載されるステップの特定の順序は、請求項に関する限定として解釈されるべきではない。加えて、方法および/またはプロセスを対象とする請求項は、それらのステップの実施を書かれた順序に制限されるべきではなく、当業者は、シーケンスが、変動され得、依然として、種々の実施形態の精神および範囲内に留まることを容易に理解することができる。
【国際調査報告】