(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-15
(54)【発明の名称】遺伝子治療発現カセットからの発現レベルを調節するための方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/864 20060101AFI20221208BHJP
C12N 15/861 20060101ALI20221208BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20221208BHJP
C12N 15/869 20060101ALI20221208BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20221208BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20221208BHJP
A61K 35/763 20150101ALI20221208BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20221208BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221208BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20221208BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20221208BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20221208BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20221208BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20221208BHJP
C12N 15/24 20060101ALN20221208BHJP
C12N 15/16 20060101ALN20221208BHJP
C12N 15/53 20060101ALN20221208BHJP
C12N 15/55 20060101ALN20221208BHJP
C12N 7/01 20060101ALN20221208BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C12N15/861 Z
C12N15/867 Z
C12N15/869 Z
A61K35/76
A61K35/761
A61K35/763
A61K48/00
A61P43/00 111
A61P37/08
A61P7/00
A61K31/7105
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/13
C12N15/24
C12N15/16
C12N15/53
C12N15/55
C12N7/01
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022522640
(86)(22)【出願日】2020-10-15
(85)【翻訳文提出日】2022-06-10
(86)【国際出願番号】 US2020055832
(87)【国際公開番号】W WO2021076794
(87)【国際公開日】2021-04-22
(32)【優先日】2019-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508057896
【氏名又は名称】コーネル・ユニバーシティー
【氏名又は名称原語表記】CORNELL UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】スタイルズ ケイティー
(72)【発明者】
【氏名】クリスタル ロナルド ジー.
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA95X
4B065AA95Y
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4C086MA52
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4C086MA66
4C086NA05
4C086ZA36
4C086ZB13
4C086ZC02
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
(57)【要約】
遺伝子治療ベクターからの発現を調節するための核酸配列を有する組成物および本組成物を使用する方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
予防用または治療用遺伝子産物をコードするオープンリーディングフレームと3’非翻訳領域(3’UTR)とを含む核酸配列に作動可能に連結したプロモーターを含む遺伝子治療ベクターであって、
前記ベクターが、前記オープンリーディングフレームに対して3’にある第1の転写調節領域をさらに含み、
前記第1の転写調節領域が、転写されたRNA中に存在する場合、
(i)低分子干渉RNA(siRNA)配列と相互作用することができ、前記相互作用により、前記転写されたRNAの翻訳を阻害するか、または
(ii)前記転写されたRNAの分解を増進し、
それによって、前記遺伝子産物の発現を阻害することができ、かつ/または
前記ベクターが、前記オープンリーディングフレームに対して5’にある第2の転写調節領域をさらに含み、
前記第2の転写調節領域が、転写されたRNA中に存在する場合、低分子活性化RNA(saRNA)配列と相互作用することができ、前記相互作用により、前記転写されたRNAの翻訳を可能にし、それによって、前記遺伝子産物を発現させることができる、
遺伝子治療ベクター。
【請求項2】
前記第1の転写調節領域を有するが、前記第2の転写調節領域を有しない、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
前記第2の転写調節領域を有するが、前記第1の転写調節領域を有しない、請求項1に記載のベクター。
【請求項4】
前記第1の転写調節領域および前記第2の転写調節領域を有する、請求項1に記載のベクター。
【請求項5】
ウイルスベクターである、請求項1~4のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項6】
前記ウイルスベクターが、AAVベクター、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、またはレトロウイルスベクターである、請求項5に記載のベクター。
【請求項7】
前記第2の転写調節領域を有する前記転写されたRNAが、少なくとも1つのヘアピン構造を形成する、請求項1または3~6のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項8】
前記saRNAと前記第2の転写調節領域を有する前記転写されたRNAとの前記相互作用により、リボソーム結合部位が露出する、請求項1または3~7のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項9】
前記第2の転写調節領域を有する前記転写されたRNAが、1~3個または2~5個の異なるヘアピンを形成する、請求項1または3~8のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項10】
前記第2の転写調節領域を有する前記転写されたRNAが、前記転写されたRNAにおける前記リボソーム結合部位および/または第1のAUGと重複する少なくとも1個のヘアピンを形成する、請求項1または3~9のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項11】
前記第2の転写調節領域が、トーホールド配列を含む、請求項1または3~10のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項12】
前記第1の転写調節領域が、RNAへの転写時に1つ超の異なるsiRNAに結合し得る1つ超のヌクレオチド配列を含む、請求項1~2または4~11のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項13】
前記第1の転写調節領域が、RNAへの転写時に複数のsiRNAに結合し得るヌクレオチド配列を含む、請求項1~2または4~11のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項14】
前記ヌクレオチド配列が、同じsiRNAのための複数のsiRNA結合部位を有する、請求項13に記載のベクター。
【請求項15】
前記オープンリーディングフレームが、治療用RNA、治療用抗体、抗がん遺伝子産物、補体因子、インターロイキン、サイトカイン、またはホルモンをコードする、請求項1~14のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項16】
前記遺伝子産物が、抗EGFR抗体、抗VEGF抗体、抗VEGFR抗体、アルファ1-アンチトリプシン、カタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、第9因子、IL-2R、アデノシンデアミナーゼ(ADA)、WAS、ベータ-グロビン、ABCD1、抗CD19抗体、抗IgG抗体、抗Siglec抗体、またはFK506結合タンパク質を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項17】
前記第1の転写調節領域が、配列番号4~6のうちの1つと少なくとも80%のヌクレオチド配列同一性を有するsiRNAに結合する配列を含む、請求項1~2または4~16のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項18】
以下を含む、システム:
(a)予防用または治療用遺伝子産物をコードするオープンリーディングフレームと3’非翻訳領域(3’UTR)とを含む核酸配列に作動可能に連結したプロモーターを含む遺伝子治療ベクターであって、
前記ベクターが、前記核酸配列に対して3’にある第1の転写調節領域をさらに含み、
前記第1の転写調節領域が、転写されたRNA中に存在する場合、低分子干渉RNA(siRNA)配列と相互作用することができ、前記相互作用により、(i)前記転写されたRNAの翻訳を阻害するか、または(ii)前記転写されたRNAの分解を増進し、それによって、前記遺伝子産物の発現を阻害することができる、
遺伝子治療ベクター、および
(b)siRNA。
【請求項19】
前記siRNAがベクターから発現される、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記siRNAがウイルスベクターから発現される、請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
前記siRNAが、単離されたsiRNAを含む、請求項18に記載のシステム。
【請求項22】
前記第1の転写調節領域が、配列番号1、2、または3のうちの1つと少なくとも80%のヌクレオチド配列同一性を有する配列を含む、請求項18~21のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項23】
以下を含む、システム:
(i)予防用または治療用遺伝子産物をコードするオープンリーディングフレームと3’非翻訳領域(3’UTR)とを含む核酸配列に作動可能に連結したプロモーターを含む遺伝子治療ベクターであって、
前記ベクターが、前記核酸配列に対して5’にある第2の転写調節領域をさらに含み、
前記第2の転写調節領域が、転写されたRNA中に存在する場合、低分子活性化RNA(saRNA)配列と相互作用することができ、前記相互作用により、前記転写されたRNAの翻訳を可能にし、それによって、前記遺伝子産物を発現させることができる、
遺伝子治療ベクター、および
(ii)前記saRNAに対応する配列を含むベクター。
【請求項24】
前記第2の転写調節領域が、トーホールド配列を含む、請求項23に記載のシステム。
【請求項25】
以下の工程を含む、哺乳動物における遺伝子治療ベクターの発現を制御する方法:
請求項1~17のいずれか一項に記載の遺伝子治療ベクターを有する哺乳動物を提供する工程、ならびに
前記ベクターによってコードされる前記遺伝子産物の発現を改変するのに有効な、前記siRNAおよび/または前記saRNAのための配列を含む核酸を含む組成物の量を、前記哺乳動物に投与する工程。
【請求項26】
前記オープンリーディングフレームが、タンパク質をコードする、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記オープンリーディングフレームが、治療用RNA、治療用抗体、ホルモン、サイトカイン、インターロイキン、またはリボザイムをコードする、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記組成物が、任意選択で1つ以上のヌクレオチド類似体を有するsiRNAを含む、請求項25~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記組成物が、前記siRNA配列または前記saRNA配列に対応する配列を有するDNAベクターを含む、請求項25~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記組成物が、複数の異なるsiRNAを含む、請求項25~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記組成物が、単離されたsaRNAを含む、請求項25~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記組成物が、前記siRNAまたはsaRNAの配列を含む前記核酸を含む核酸ベクターを含む、請求項25~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記組成物が、前記核酸を含むリポソームを含む、請求項25~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記組成物が、前記核酸を含むナノ粒子を含む、請求項25~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記組成物が、前記核酸を含むタンパク質複合体を含む、請求項25~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記組成物が、全身投与される、請求項25~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記組成物が、経口投与される、請求項25~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記組成物が、静脈内投与される、請求項25~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記組成物が、局所投与される、請求項25~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記組成物が、注射される、請求項25~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記組成物が、徐放性組成物である、請求項25~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記遺伝子治療ベクターを前記哺乳動物に投与する工程をさらに含む、請求項25~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
リポソームが、前記遺伝子治療ベクターを含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
ナノ粒子が、前記遺伝子治療ベクターを含む、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
タンパク質複合体が、前記遺伝子治療ベクターを含む、請求項42に記載の方法。
【請求項46】
ウイルスが、前記遺伝子治療ベクターを含む、請求項42に記載の方法。
【請求項47】
前記ベクターが、静脈内投与される、請求項42~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記ベクターが、局所投与される、請求項42~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記哺乳動物が、ヒトである、請求項25~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
転写されたRNA中に存在する場合に低分子活性化RNA(saRNA)配列と相互作用することができる第2の転写調節領域に隣接する相同性アームを有するベクターであって、前記相同性アームが、前記第2の転写調節領域の挿入のための部位に隣接する遺伝子治療ベクター配列に対応する配列を有する、ベクター。
【請求項51】
前記挿入のための部位が、プロモーターに対して3’にあり、かつ、予防用または治療用遺伝子産物のオープンリーディングフレームに対して5’にある、請求項50に記載のベクター。
【請求項52】
転写されたRNA中に存在する場合に低分子干渉RNA(siRNA)配列と相互作用することができる第1の転写調節領域に隣接する相同性アームを有するベクターであって、前記相同性アームが、前記第1の転写調節領域の挿入のための部位に隣接する遺伝子治療ベクター配列に対応する配列を有する、ベクター。
【請求項53】
前記挿入のための部位が、予防用または治療用遺伝子産物のオープンリーディングフレームに対して3’にあり、かつ、3’UTRの3’末端に対して5’にある、請求項52に記載のベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年10月15日に出願された米国特許出願第62/915,342号の出願日の利益を主張するものであり、その開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
背景
遺伝子治療における現在の課題は、ベクターが送達された後で、導入遺伝子発現カセットからの発現レベルを制御することである。現状では、遺伝子移入ベクターがレシピエントに投与されると、導入遺伝子からの発現は、調節することも、遮断することも、オンにすることもできない。投与されたベクターからの導入遺伝子発現を制御することは、安全性およびより良い有効性のために重要である。いくつかの種類の導入遺伝子の発現は、断続的に発現されるだけでよい。個々の患者における有害反応を理由に、他の導入遺伝子を遮断する必要がある場合がある。
【発明の概要】
【0003】
概要
本開示は、外因性低分子非コードRNAの送達によって発現をオンまたはオフにすることを可能にする「スイッチ」を含有する遺伝子治療発現カセットを提供する。遺伝子治療ベクター導入遺伝子発現構築物は、特異的な標的化の、例えば、高度に特異的な標的化の、一実施形態では低分子非コードRNAに対する配列を組み込む。一実施形態では、カセットの3’UTR中の標的化配列は、例えば、断続的に、高度に特異的な配列に向けられた外因性低分子干渉RNA(siRNA)の存在下で、遺伝子発現をオフにするためのスイッチとして作用する。一実施形態では、ウイルスベクターなどのベクターにおけるカセットの3’UTR中の標的化配列は、例えば、永続的に、高度に特異的な配列に向けられた外因性マイクロRNA(miRNA)の存在下で、遺伝子発現をオフにするためのスイッチとして作用する。一実施形態では、5’UTR中のヘアピンに組み込まれた標的化配列は、特異的な配列に向けられた外因性低分子RNAの存在下で、遺伝子発現をオンにするためのスイッチとして作用する。
【0004】
一実施形態では、siRNA配列、例えば、shRNA配列を含む低分子非コードRNAは、mRNA転写物中の特定の相補的な、例えば、21~25ヌクレオチドの配列に結合することで遺伝子発現を低下させることにより、mRNAを破壊に向け、かつ対応する遺伝子のタンパク質産出量を低下または排除することができる。高度に特異的なsiRNA標的化配列を導入遺伝子発現カセットの3’非翻訳領域(UTR)に組み込むことで、標的配列に特異的な外因性siRNAの送達により、導入遺伝子の発現を遮断することができるようになる。導入遺伝子発現は、これらのsiRNAが存在する限りオフのままであり、siRNAの送達を停止することによって発現を再開することができる。高度に特異的なsiRNA標的化配列は、導入遺伝子カセットの3’UTR中でコードされているため、この戦略は、いずれのプロモーターおよび導入遺伝子の組み合わせでも普遍的に使用することができる。
【0005】
一実施形態では、miRNA配列を含む低分子非コードRNAは、mRNA転写物中の特定の相補的なヌクレオチド配列に結合することで遺伝子発現を低下させることにより、mRNAを破壊に向け、かつ対応する遺伝子のタンパク質産出量を低下または排除することができる。高度に特異的なmiRNA標的化配列を導入遺伝子発現カセットの3’非翻訳領域(UTR)に組み込むことで、例えばウイルスベクターによりコードされた標的配列に特異的な外因性miRNAの送達により、導入遺伝子の発現を遮断することができるようになる。導入遺伝子発現は、これらのmiRNAが存在する限りオフのままであり、例えば、構成的プロモーターから発現される場合、導入遺伝子発現は永続的に封じられる。高度に特異的なmiRNA標的化配列は、導入遺伝子カセットの3’UTR中でコードされているため、この戦略は、いずれのプロモーターおよび導入遺伝子の組み合わせでも普遍的に使用することができる。
【0006】
一実施形態では、低分子非コードRNAは、例えばトーホールドの様なスイッチを使用して、標的mRNAからのタンパク質翻訳を活性化するトリガーとして作用することにより、遺伝子発現を増加させるように作用することもできる。AUG開始コドンの上流のmRNA 5’UTR中のヘアピンには、例えば、ヘアピンを形成して導入遺伝子発現を効果的に排除することによって、リボソーム走査およびタンパク質翻訳を遮断するように作用する、低分子RNA標的部位、リンカー、および低分子RNA標的部位に相補的な配列が含まれる。標的部位に結合する低分子RNAの送達により、ヘアピンが開かれ、リボソーム走査およびタンパク質翻訳が可能になる。導入遺伝子発現は、外因性低分子トリガーRNAの存在下でのみオンのままである。ヘアピンを導入遺伝子カセットの5’UTRに組み込むことにより、この戦略は、遺伝子治療に使用されるいずれのプロモーターおよび導入遺伝子の組み合わせにも適用することができるようになる。
【0007】
一実施形態では、本開示は、連結した治療または予防用遺伝子の発現を制御するための1つ以上の領域を有する遺伝子治療ベクターを提供し、ここで、制御するための領域は、遺伝子に隣接する1つ以上の配列を有し、領域中の配列は、対応する転写されたRNAの翻訳、対応する転写されたRNAの翻訳の阻害および/もしくは対応する転写されたRNAの分解、または転写されたRNAの発現の増強を可能にする低分子RNA配列と相互作用し得る。一実施形態では、本開示は、ベクターおよび低分子RNA配列を使用する方法を提供する。
【0008】
一実施形態では、予防用または治療用遺伝子産物をコードするオープンリーディングフレームと3’非翻訳領域(3’UTR)とを含む核酸配列に作動可能に連結したプロモーターを含む遺伝子治療ベクターであって、本ベクターが、オープンリーディングフレームに対して3’にある第1の転写調節領域をさらに含み、第1の転写調節領域が、転写されたRNA中に存在する場合、i)低分子干渉RNA(siRNA)配列と相互作用することができ、この相互作用により、転写されたRNAの翻訳を阻害するか、またはii)転写されたRNAの分解を増進し、それによって、遺伝子産物の発現を阻害することができ、かつ/または本ベクターが、オープンリーディングフレームに対して5’にある第2の転写調節領域をさらに含み、第2の転写調節領域が、転写されたRNA中に存在する場合、低分子活性化RNA(saRNA;トリガーRNA)配列と相互作用することができ、この相互作用により、転写されたRNAの翻訳を可能にし、それによって、遺伝子産物を発現させることができる、遺伝子治療ベクターが提供される。一実施形態では、ベクターは、第1の転写調節領域を有するが、第2の転写調節領域を有しない。一実施形態では、ベクターは、第2の転写調節領域を有するが、第1の転写調節領域を有しない。一実施形態では、ベクターは、第1の転写調節領域および第2の転写調節領域を有する。一実施形態では、ベクターは、ウイルスベクターである。一実施形態では、ウイルスベクターは、AAVベクター、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、またはレトロウイルスベクターである。一実施形態では、第2の転写調節領域を有する転写されたRNAは、少なくとも1つのヘアピン構造を形成する。一実施形態では、saRNAと第2の転写調節領域を有する転写されたRNAとの相互作用により、リボソーム結合部位が露出する。一実施形態では、第2の転写調節領域を有する転写されたRNAは、1~3個または2~5個の異なるヘアピンを形成する。一実施形態では、第2の転写調節領域を有する転写されたRNAは、転写されたRNAにおけるリボソーム結合部位および/または第1のAUGと重複する少なくとも1個のヘアピンを形成する。一実施形態では、第2の転写調節領域は、トーホールド配列、例えば、RNA(活性化RNA;saRNA)のための認識部位、およびリボソーム結合部位(RBS)のための部位を含む配列、ならびに/またはオープンリーディングフレーム中の第1のAUGを含む配列、転写されたRNAにおいて、ヘアピンと1つ以上のループ(一本鎖領域)とを形成する配列、saRNAの非存在下でRBSおよび/または第1のAUGを含み、これにより翻訳を阻害するが、転写されたRNA中に存在する場合、およびsaRNAの存在下にある場合は、翻訳を可能にする配列、を含む。一実施形態では、第1の転写調節領域は、RNAへの転写時に1つ超の異なるsiRNAに結合し得る1つ超のヌクレオチド配列を含む。一実施形態では、第1の転写調節領域は、RNAへの転写時に複数のsiRNAに結合し得るヌクレオチド配列を含む。一実施形態では、ヌクレオチド配列は、同じsiRNAのための複数のsiRNA結合部位を有する。一実施形態では、オープンリーディングフレームは、治療用RNA、治療用抗体、抗がん遺伝子産物、補体因子、インターロイキン、サイトカイン、またはホルモンをコードする。一実施形態では、遺伝子産物は、抗EGFR抗体、抗VEGF抗体、抗VEGFR抗体、アルファ1-アンチトリプシン、カタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、第9因子、IL-2R、アデノシンデアミナーゼ(ADA)、WAS、ベータ-グロビン、ABCD1、抗CD19抗体、またはFK506結合タンパク質を含む。一実施形態では、第1の転写調節領域は、配列番号1または2のうちの一方と少なくとも80%のヌクレオチド配列同一性を有するsiRNAに結合する配列を含む。
【0009】
一実施形態では、システムであって、予防用または治療用遺伝子産物をコードするオープンリーディングフレームと3’非翻訳領域(3’UTR)とを含む核酸配列に作動可能に連結したプロモーターを含む遺伝子治療ベクターであって、本ベクターが、核酸配列に対して3’にある第1の転写調節領域をさらに含み、第1の転写調節領域が、転写されたRNA中に存在する場合、低分子干渉RNA(siRNA)配列と相互作用することができ、この相互作用により、転写されたRNAの翻訳を阻害するか、またはii)転写されたRNAの分解を増進し、それによって、遺伝子産物の発現を阻害することができる、遺伝子治療ベクターと、siRNAと、を含む、システムが提供される。一実施形態では、siRNAは、ベクターから発現される。一実施形態では、siRNAは、ウイルスベクターから発現される。一実施形態では、siRNAは、単離されたsiRNAを含む。一実施形態では、第1の転写調節領域は、配列番号1または2のうちの一方と少なくとも80%のヌクレオチド配列同一性を有するsiRNAに結合する配列を含む。
【0010】
一実施形態では、システムであって、予防用または治療用遺伝子産物をコードするオープンリーディングフレームと3’非翻訳領域(3’UTR)とを含む核酸配列に作動可能に連結したプロモーターを含む遺伝子治療ベクターであって、本ベクターが、核酸配列に対して5’にある第2の転写調節領域をさらに含み、第2の転写調節領域が、転写されたRNA中に存在する場合、低分子活性化RNA(saRNA)配列と相互作用することができ、この相互作用により、転写されたRNAの翻訳を可能にし、それによって、遺伝子産物を発現させることができる、遺伝子治療ベクターと、saRNAに対応する配列を含むベクターと、を含む、システムが提供される。一実施形態では、第2の転写調節領域は、トーホールド配列を含む。
【0011】
一実施形態では、哺乳動物における遺伝子治療ベクターの発現を増減させることにより、発現を制御する、例えば、発現を調節または再調節する方法が提供される。本方法には、遺伝子治療ベクターを有する哺乳動物を提供する工程と、ベクターによってコードされる遺伝子産物の発現を改変するのに有効な、siRNAおよび/またはsaRNAのための配列を含む核酸を含む組成物の量を、哺乳動物に投与する工程とが含まれる。一実施形態では、オープンリーディングフレームは、タンパク質をコードする。一実施形態では、オープンリーディングフレームは、治療用RNAをコードする。一実施形態では、遺伝子産物は、治療用抗体、ホルモン、サイトカイン、インターロイキン、またはリボザイムである。一実施形態では、組成物は、任意選択で1つ以上のヌクレオチド類似体を有するsiRNAを含む。一実施形態では、組成物は、siRNA配列またはsaRNA配列に対応する配列を有するDNAベクターを含む。一実施形態では、組成物は、複数の異なるsiRNAを含む。一実施形態では、組成物は、単離されたsaRNAを含む。一実施形態では、組成物は、複数の異なるsaRNAを含む。一実施形態では、組成物は、siRNAまたはsaRNAの配列を含む核酸を含む核酸ベクターを含む。一実施形態では、組成物は、核酸を含むリポソームを含む。一実施形態では、組成物は、核酸を含むナノ粒子を含む。一実施形態では、組成物は、核酸を含むタンパク質複合体を含む。一実施形態では、組成物は、全身投与される。一実施形態では、組成物は、経口投与される。一実施形態では、組成物は、静脈内投与される。一実施形態では、組成物は、局所投与される。一実施形態では、組成物は、注射される。一実施形態では、組成物は、徐放性組成物である。一実施形態では、本方法は、遺伝子治療ベクターを哺乳動物に投与する工程をさらに含む。一実施形態では、リポソームは遺伝子治療ベクターを含む。一実施形態では、ナノ粒子は遺伝子治療ベクターを含む。一実施形態では、タンパク質複合体は遺伝子治療ベクターを含む。一実施形態では、ウイルスは遺伝子治療ベクターを含む。一実施形態では、ベクターは、静脈内投与される。一実施形態では、ベクターは、局所投与される。一実施形態では、哺乳動物は、ヒトである。
【0012】
また、転写されたRNA中に存在する場合に低分子活性化RNA(saRNA)配列と相互作用することができる第2の転写調節領域に隣接する相同性アームを有するベクターが提供され、この相同性アームは、第2の転写調節領域の挿入のための部位に隣接する遺伝子治療ベクター配列に対応する配列を有する。一実施形態では、挿入のための部位は、プロモーターに対して3’にあり、かつ、予防用または治療用遺伝子産物のオープンリーディングフレームに対して5’にある。
【0013】
さらに、転写されたRNA中に存在する場合に低分子干渉RNA(siRNA)配列と相互作用することができる第1の転写調節領域に隣接する相同性アームを有するベクターが提供され、この相同性アームは、第1の転写調節領域の挿入のための部位に隣接する遺伝子治療ベクター配列に対応する配列を有する。一実施形態では、挿入のための部位は、予防用または治療用遺伝子産物のオープンリーディングフレームに対して3’にあり、かつ、3’UTRの3’末端に対して5’にある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】阻害性siRNAを使用した例示的な普遍的AAVベクター阻害。
【
図2】RNAがヘアピンスイッチをトリガーして、発現をオンにする。安定なヘアピン、重複するリボソーム結合部位およびAUG開始コドンは、タンパク質発現を遮断する。一実施形態では、トリガーRNAなしの漏出発現を回避するために、複数のヘアピンを用いてもよい。トリガーRNA(例えば、約23~30nt長)の結合によりヘアピンが解放され、これにより、今度はリボソームが結合し、発現がもたらされる。
【
図3】阻害性siRNAを使用した発現の断続的阻害のための例示的な普遍的AAVベクター。
【
図4】第2のベクター、例えば、AAVベクターを使用した発現の永続的阻害のための例示的な普遍的AAVベクター。
【
図5】調節可能なEpo発現のための例示的なベクター。
【
図6】A)EPOレベルの測定。B)発現の用量依存的阻害。
【
図8】アレルギー個体が、感作されたアレルゲンに曝露されると、肥満細胞に結合するアレルゲン特異的IgEアレルゲン免疫複合体が生じ、アナフィラキシー反応を媒介する。遺伝子治療は、一実施形態では、オマリズマブの重鎖および軽鎖をコードするAAV血清型rh.10遺伝子移入ベクターを使用する(Pagovich et al.,2016)。IV投与後、ベクターは、肝細胞を変更してオマリズマブを持続的に発現させ、肥満細胞の抗IgEアレルゲン活性化を遮断する持続的療法を提供する。
【
図9A】
図9A~9D.ベクター07を用いた確立されたピーナッツ抗原誘導性の全身性アナフィラキシーの治療。A)ベクター07の単回投与後の持続的発現である。B~D)ヒト化ピーナッツアレルギーマウスモデルにおける有効性データ(Pagovich et al.,2016)。
【
図10】遺伝子移入ベクター。ベクター07A(AAVrh.10抗IgE-T)は、抗IgEを発現する治療用ベクターである。ベクター07およびベクター07Aは、フューリン2A部位によって分離されている抗IgEオマリズマブの重鎖および軽鎖が後続する分泌シグナルを駆動するCAG高活性構成的プロモーターを使用する;発現されると、フューリン2A部位は切断され、重鎖と軽鎖とが組み合わさって機能的な抗IgEが生成され分泌される(Pagovich et al.,2016)。ベクター07Aは、抗IgE重鎖および軽鎖に対して3’に、ベクター09Aおよびベクター09Bによって発現される同族miRNAに対して5つの21bpの縦列標的配列を有することを除いて、ベクター07と同一である。ベクター09A(AdC7miRNA-E)は、ベクター07A標的配列と同族である8つの縦列miRNA配列をコードする血清型E1
-E3
- AdC7ベクターである。ベクター09B(AAV5miRNA-E)は、ベクター09Aと同じ縦列miRNA配列をコードする血清型5のAAVベクターである。ベクター09Aおよびベクター09Bはまた、レポーター遺伝子(それぞれ、mCherry、EGFP)を発現するため、トランスフェクトされた肝細胞を特定することができる。
【
図11】固有miRNA標的化配列の機能。21bpのmiRNA標的化配列(33ng/ウェル)をコードするプラスミドを、トランスフェクトし、293T細胞±同族siRNA(5pmol)である。24時間後、CAGで駆動したレポーター発現を、ウエスタンによって定量化した。
【発明を実施するための形態】
【0015】
詳細な説明
定義
「ベクター」は、ポリヌクレオチドを含むか、またはそれと会合し、インビトロまたはインビボのいずれかで、ポリヌクレオチドの細胞への送達を媒介するために使用され得る巨大分子または巨大分子の会合を指す。
例示的なベクターとしては、例えば、プラスミド、ウイルスベクター、リポソーム、および他の遺伝子送達ビヒクルが挙げられる。時には「標的ポリヌクレオチド」または「導入遺伝子」と称される、送達されるポリヌクレオチドは、遺伝子治療における目的のコード配列(治療目的のタンパク質をコードする遺伝子など)、ワクチン開発における目的のコード配列(哺乳動物における免疫応答の誘発に好適なタンパク質、ポリペプチド、もしくはペプチドを発現するポリヌクレオチドなど)、および/または選択可能もしくは検出可能なマーカーを含み得る。
【0016】
本明細書で使用される「形質導入」、「トランスフェクション」、「形質転換」、または「形質導入する」は、細胞におけるポリヌクレオチド、例えば、導入遺伝子の発現をもたらす宿主細胞中への外因性ポリヌクレオチドの導入のためのプロセスを指す用語であり、外因性ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための組換えウイルスの使用を含む。細胞におけるポリヌクレオチドの形質導入、トランスフェクション、または形質転換は、例えば、ELISA、フローサイトメトリー、およびウェスタンブロットによるタンパク質発現(定常状態レベルを含む)、ハイブリダイゼーションアッセイ、例えば、ノーザンブロット、サザンブロット、およびゲルシフト移動度アッセイによるDNAおよびRNAの測定を含むが、これらに限定されない、当該技術分野で周知の方法によって決定され得る。外因性ポリヌクレオチドの導入のために使用される方法には、ウイルス感染またはトランスフェクション、リポフェクション、形質転換、およびエレクトロポレーションなどの周知の技術、ならびに他の非ウイルス遺伝子送達技術が含まれる。導入されたポリヌクレオチドは、宿主細胞において安定にまたは一過性に維持され得る。
【0017】
「遺伝子送達」は、遺伝子移入のための細胞中への外因性ポリヌクレオチドの導入を指し、標的化、結合、取り込み、輸送、局在化、レプリコン組み込み、および発現を包含し得る。
【0018】
「遺伝子移入」は、標的化、結合、取り込み、輸送、局在化、およびレプリコン組み込みを包含し得るが、その後の遺伝子の発現とは異なり、それを意味しない、外因性ポリヌクレオチドの細胞中への導入を指す。
【0019】
「遺伝子発現」または「発現」は、遺伝子の転写、翻訳、および翻訳後修飾のプロセスを指す。
【0020】
「感染性」ウイルスまたはウイルス粒子は、細胞(この細胞に対してウイルス種が栄養性である)中に送達することができるポリヌクレオチド構成要素を含むものである。この用語は、必ずしもウイルスの任意の複製能力を意味しない。
【0021】
「ポリヌクレオチド」という用語は、デオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチド、またはそのアナログを含む、任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態を指す。ポリヌクレオチドは、メチル化またはキャッピングされたヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログなどの修飾ヌクレオチドを含み得、非ヌクレオチド構成要素によって中断され得る。存在する場合、ヌクレオチド構造に対する修飾は、ポリマーの組み立ての前または後に付与され得る本明細書で使用されるポリヌクレオチドという用語は、二本鎖および一本鎖分子を互換的に指す。別段の指定または要求がない限り、ポリヌクレオチドである本明細書に記載される任意の実施形態は、二本鎖形態、および二本鎖形態を作り上げることが知られているかまたは予想される2つの相補的な一本鎖形態の各々の両方を包含する。
【0022】
「単離された」ポリヌクレオチド、例えば、プラスミド、ウイルス、ポリペプチド、または他の物質は、物質または類似の物質が、天然に存在するか、または最初にそこから調製される所にそれもまた存在し得る他の構成要素の少なくともいくらかを欠いている物質の調製物を指す。したがって、例えば、単離された物質は、精製技術を使用して、供給源混合物からそれを濃縮することによって調製され得る。単離された核酸、ペプチドまたはポリペプチドは、それが天然に見出される形態または状況とは異なる形態または状況で存在する。例えば、所与のDNA配列(例えば、遺伝子)は、隣接する遺伝子に近接して宿主細胞染色体上に見出され、RNA配列、例えば、特定のタンパク質をコードする特定のmRNA配列は、多数のタンパク質をコードする多数の他のmRNAとの混合物として細胞において見出される。単離された核酸分子は、一本鎖または二本鎖の形態で存在し得る。単離された核酸分子がタンパク質を発現させるために利用される場合、分子は、最低でもセンス鎖またはコード鎖を含有する(すなわち、分子は、一本鎖であり得る)が、センス鎖およびアンチセンス鎖の両方を含有し得る(すなわち、分子は、二本鎖であり得る)。濃縮は、溶液の体積当たりの重量などの絶対的な基準で測定され得るか、または供給源混合物中に存在する第2の潜在的妨害物質との関連で測定され得る。本発明の実施形態の漸増的濃縮が想定される。したがって、例えば、2倍の濃縮、10倍の濃縮、100倍の濃縮、または1000倍の濃縮。
【0023】
「転写調節配列」は、それが作動可能に連結している遺伝子またはコード配列の転写を制御するゲノム領域を指す。本発明における使用の転写調節配列は、一般に、少なくとも1つの転写プロモーターを含み、1つ以上の転写のエンハンサーおよび/またはターミネーターもまた含み得る。
【0024】
「作動可能に連結された」は、そのように記載された構成要素が、それらが協調的に機能することを可能にする関係にある、2つ以上の構成要素の配置を指す。例示として、転写調節配列またはプロモーターは、TRSまたはプロモーターが、コード配列の転写を促進する場合、コード配列に作動可能に連結されている。作動可能に連結されたTRSは、一般に、コード配列とシスで連結されるが、必ずしもそれに直接的に隣接しない。
【0025】
「異種」は、それが比較される実体とは遺伝子型が異なる実体に由来することを意味する。例えば、遺伝子工学技術によって異なる細胞型中に導入されたポリヌクレオチドは、異種ポリヌクレオチドである(そして、発現される場合、異種ポリペプチドをコードし得る)。同様に、そのネイティブなコード配列から取り出され、異なるコード配列に作動可能に連結されたプロモーターなどの転写調節エレメントは、異種転写調節エレメントである。
【0026】
「ターミネーター」は、リードスルー転写を減少または防止する傾向があるポリヌクレオチド配列を指す(すなわち、ターミネーターの一方の側を起源とする転写が、ターミネーターの他方の側まで継続することを減少または防止する)。転写が中断される程度は、典型的には、塩基配列および/またはターミネーター配列の長さに応ずる。特に、多数の分子生物学的システムにおいて周知であるように、一般に「転写終結配列」と称される特定のDNA配列は、RNAポリメラーゼによるリードスルー転写を、おそらくRNAポリメラーゼ分子を停止させること、および/または転写されているDNAから離脱させることによって、中断する傾向がある特定の配列である。そのような配列特異的ターミネーターの典型的な例としては、ポリアデニル化(「ポリA」)配列、例えば、SV40ポリAが挙げられる。そのような配列特異的ターミネーターに加えて、またはその代わりに、プロモーターとコード領域との間の比較的長いDNA配列の挿入もまた、一般に、介在配列の長さに比例して、コード領域の転写を中断する傾向がある。この効果は、おそらく、転写されているDNAからRNAポリメラーゼ分子が離脱するようになるいくらかの傾向が常に存在し、コード領域に到達する前に横切られる配列の長さを増加させることが、一般に、コード領域の転写が完了する前、またはことによると開始される前にさえ離脱が生じる可能性を増加させることから生じる。したがって、ターミネーターは、一方向のみから(「一方向」ターミネーター)または両方向から(「二方向」ターミネーター)の転写を防止し得、配列特異的終結配列もしくは配列非特異的ターミネーター、またはその両方で構成され得る。様々なそのようなターミネーター配列が当該技術分野で既知であり、本発明の文脈内でのそのような配列の例示的な使用が以下に提供される。
【0027】
「宿主細胞」、「細胞株」、「細胞培養物」、「パッケージング細胞株」、および他のそのような用語は、本発明において、例えば、組換えウイルスまたは組換え融合ポリペプチドを産生するために有用な、ヒト細胞を含む哺乳動物細胞などの高等真核細胞を示す。これらの細胞は、形質導入された元の細胞の子孫を含む。単一細胞の子孫は、必ずしも元の親細胞と完全に同一ではない(形態またはゲノム補完が)場合があることが理解される。
【0028】
ポリヌクレオチドに適用される「組換え」は、ポリヌクレオチドが、クローニング、制限、および/またはライゲーションステップ、ならびに天然に見出されるポリヌクレオチドとは異なる構築物をもたらす他の手順の種々の組み合わせの産物であることを意味する。組換えウイルスは、組換えポリヌクレオチドを含むウイルス粒子である。この用語は、元のポリヌクレオチド構築物の複製物、および元のウイルス構築物の子孫をそれぞれ含む。
【0029】
「制御エレメント」または「制御配列」は、ポリヌクレオチドの複製、重複、転写、スプライシング、翻訳、または分解を含む、ポリヌクレオチドの機能調節に寄与する分子の相互作用に関与するヌクレオチド配列である。調節は、プロセスの頻度、速度、または特異性に影響を与え得、本来、増強的または阻害的であり得る。当該技術分野で既知の制御エレメントには、例えば、プロモーターおよびエンハンサーなどの転写調節配列が含まれる。プロモーターは、特定の条件下でRNAポリメラーゼに結合し、通常はプロモーターの下流(3’方向)に位置するコード領域の転写を開始することができるDNA領域である。プロモーターには、AAVプロモーター、例えば、P5、P19、P40、およびAAV ITRプロモーター、ならびに異種プロモーターが含まれる。
【0030】
「発現ベクター」は、目的の遺伝子産物をコードする領域を含むベクターであり、意図された標的細胞における遺伝子産物の発現をもたらすために使用される。発現ベクターはまた、標的におけるタンパク質の発現を促進するようにコード領域に作動可能に連結された制御エレメントを含む。制御エレメントと、発現のためにそれが作動可能に連結された1つまたは複数の遺伝子との組み合わせは、時には「発現カセット」と称され、その多数が、当該技術分野で既知であり、利用可能であるか、または当該技術分野で利用可能である構成要素から容易に構築され得る。
【0031】
「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指すために本明細書で互換的に使用される。この用語はまた、修飾された(例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、アセチル化、ホスホニル化、脂質付加、または標識構成要素とのコンジュゲーション)アミノ酸ポリマーを包含する。
【0032】
「外因性」という用語は、細胞または生物におけるタンパク質、遺伝子、核酸、またはポリヌクレオチドに関連して使用される場合、人工的なまたは天然の手段によって細胞または生物中に導入されたタンパク質、遺伝子、核酸、またはポリヌクレオチドを指す。外因性核酸は、異なる生物もしくは細胞からのものであり得、または生物もしくは細胞内で天然に存在する核酸の1つ以上の追加のコピーであり得る。非限定的な例として、外因性核酸は、天然細胞のものとは異なる染色体位置にあるか、またはそうでなければ、天然に見出されるものとは異なる核酸配列によって隣接されている(例えば、1つの遺伝子からのプロモーターを、異なる遺伝子からの遺伝子産物のオープンリーディングフレームに連結する発現カセット)。
【0033】
「形質転換された」または「トランスジェニック」は、少なくとも1つの組換えDNA配列の存在によって変化または増大させられた任意の宿主細胞または細胞株を含むように本明細書で使用される。本発明の宿主細胞は、典型的には、単離された直鎖DNA配列としての、プラスミド発現ベクター中のDNA配列を用いるトランスフェクション、または組換えウイルスベクターでの感染によって産生される。
【0034】
「配列相同性」という用語は、2つの核酸配列の間の塩基マッチの割合、または2つのアミノ酸配列の間のアミノ酸マッチの割合を意味する。配列相同性がパーセンテージとして表される場合(例えば、50%)、パーセンテージは、何らかの他の配列と比較される、選択された配列の長さにわたるマッチの割合を示す。ギャップ(2つの配列のいずれかにおける)はマッチングを最大化するために許容され、15塩基以下のギャップ長が通常使用される(6塩基以下、例えば、2塩基以下)。オリゴヌクレオチドをプローブまたは治療として使用する場合、標的核酸とオリゴヌクレオチド配列との間の配列相同性は、一般に、20個の可能なオリゴヌクレオチド塩基対マッチのうち17個以上の標的塩基対マッチ(85%)、10個の可能な塩基対マッチのうち9個以上のマッチ(90%)、または20個の可能な塩基対マッチのうち19個以上のマッチ(95%)である。
【0035】
2つのアミノ酸配列は、それらの配列の間に部分的なまたは完全な同一性が存在する場合、相同である。例えば、85%の相同性は、2つの配列が最大のマッチングのために整列させられたときに、アミノ酸の85%が同一であることを意味する。ギャップ(マッチングされる2つの配列のいずれかにおける)は、マッチングの最大化において許容される(5以下または2以下のギャップ長)。あるいは、2つのタンパク質配列(または少なくとも30アミノ酸長のそれらに由来するポリペプチド配列)は、変異データマトリックスおよび6以上のギャップペナルティでプログラムALIGNを使用して5超(標準偏差単位)のアラインメントスコアを有する場合、この用語が本明細書で使用されるように相同である。2つの配列またはその部分は、それらのアミノ酸が、ALIGNプログラムを使用して最適に整列させられたときに50%以上同一である場合、より相同である。
【0036】
「対応する」という用語は、ポリヌクレオチド配列が参照ポリヌクレオチド配列の全部または一部に構造的に関連すること、またはポリペプチド配列が参照ポリペプチド配列の全部または一部に構造的に関連することを意味するために本明細書で使用され、例えば、それらは少なくとも80%、85%、90%、95%、またはそれ以上、例えば、99%または100%の配列同一性を有する。これと対比して、「相補的」という用語は、相補配列が参照ポリヌクレオチド配列の全部または一部に相同であることを意味するために本明細書で使用される。例示のために、ヌクレオチド配列「TATAC」は、参照配列「TATAC」に対応し、参照配列「GTATA」に相補的である。
【0037】
「配列同一性」という用語は、2つのポリヌクレオチド配列が、比較のウィンドウにわたって同一である(すなわち、ヌクレオチドごとに)ことを意味する。「配列同一性のパーセンテージ」という用語は、2つのポリヌクレオチド配列が、比較のウィンドウにわたって同一である(すなわち、ヌクレオチドごとに)ことを意味する。「配列同一性のパーセンテージ」という用語は、2つの最適に整列させられた配列を比較のウィンドウにわたって比較し、同一の核酸塩基(例えば、A、T、C、G、U、またはI)が両方の配列において生じる位置の数を決定して、マッチした位置の数を得、マッチした位置の数を比較のウィンドウにおける位置の総数(すなわち、ウィンドウサイズ)で割り、結果に100を掛けて、配列同一性のパーセンテージを得ることによって計算される。本明細書で使用される「実質的な同一性」という用語は、ポリヌクレオチド配列の特徴を示し、ここで、ポリヌクレオチドは、少なくとも20個のヌクレオチド位置の比較ウィンドウにわたって、頻繁には、少なくとも20~50個のヌクレオチドのウィンドウにわたって、参照配列と比較して少なくとも85パーセントの配列同一性、例えば、少なくとも90~95パーセントの配列同一性、または少なくとも99パーセントの配列同一性を有する配列を含み、ここで、配列同一性のパーセンテージは、参照配列を、比較のウィンドウにわたって、参照配列の合計20パーセント以下になる欠失または付加を含み得るポリヌクレオチド配列と比較することによって計算される。
【0038】
「保存的」アミノ酸置換は、例えば、極性酸性アミノ酸としてのアスパラギン酸-グルタミン酸、極性塩基性アミノ酸としてのリジン/アルギニン/ヒスチジン、非極性または疎水性アミノ酸としてのロイシン/イソロイシン/メチオニン/バリン/アラニン/グリシン/プロリン、極性または非荷電親水性アミノ酸としてのセリン/スレオニンである。保存的アミノ酸置換はまた、側鎖に基づく群化を含む。例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸の群は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシンであり、脂肪族-ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸の群は、セリンおよびスレオニンであり、アミド含有側鎖を有するアミノ酸の群は、アスパラギンおよびグルタミンであり、芳香族側鎖を有するアミノ酸の群は、フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファンであり、塩基性側鎖を有するアミノ酸の群は、リジン、アルギニン、およびヒスチジンであり、含硫側鎖を有するアミノ酸の群は、システインおよびメチオニンである。例えば、ロイシンのイソロイシンまたはバリンでの、アスパラギン酸のグルタミン酸での、スレオニンのセリンでの置換、またはアミノ酸の構造的に関連するアミノ酸での同様な置換が、得られるポリペプチドの特性に対する大きな効果を有しないと予想することは合理的である。アミノ酸変化が機能性ポリペプチドをもたらすかどうかは、ポリペプチドの比活性をアッセイすることによって容易に決定され得る。天然に存在する残基は、一般的な側鎖特性に基づいて群に分けられる。(1)疎水性:ノルロイシン、met、ala、val、leu、ile、(2)中性親水性:cys、ser、thr、(3)酸性:asp、glu、(4)塩基性:asn、gln、his、lys、arg、(5)鎖配向に影響を及ぼす残基:gly、pro、および(6)芳香族;trp、tyr、phe。
【0039】
本開示はまた、非保存的置換を有するポリペプチドを想定する。非保存的置換は、上記のクラスのうちの1つのメンバーを別のものと交換することを必然的に伴う。
【0040】
ベクターおよび方法
従来の使用では、遺伝子移入ベクターがレシピエントに投与されると、導入遺伝子からの発現は、調節することも、遮断することも、オンにすることもできない。必要なときにベクターをオンにすることで発現または効能が強すぎる場合、以前に投与されたベクターの制御は安全のために重要である。
【0041】
いくつかの種類の導入遺伝子(例えば、治療用抗体、ホルモン、抗腫瘍療法など)の発現は、常に必要とされるわけではない。低分子非コードRNAを使用して、遺伝子の発現を増減させることができる。遺伝子発現を調節するための非コード化RNAのインビボ投与に関して広範な技術が開発されており、低分子非コード化RNAは、遺伝子を活発に抑制するために遺伝子移入ベクターに組み込まれる。本開示は、移入された遺伝子の発現を制御する(オンまたはオフにする)ための、ベクター媒介遺伝子移入後に独立して送達される低分子非コードRNAの使用を提供する。低分子干渉RNA(siRNA)または低分子活性化RNA(saRNA)の標的部位のベクター発現カセットへの組み込みにより、外因性siRNAまたはsaRNAの投与による必要に応じて、以前に投与されたベクター/発現カセットの導入遺伝子発現を制御することが可能になる。
【0042】
例示的な遺伝子治療ベクター
本開示は、遺伝子治療ベクターであって、治療または予防用遺伝子産物をコードするオープンリーディングフレームを有する核酸配列と、転写されたRNA中に存在する場合、i)低分子干渉RNA(siRNA)配列と相互作用することができ、その相互作用により、転写されたRNAの翻訳を阻害するか、または2)転写されたRNAの分解を増進して、遺伝子産物の発現を阻害することができる、オープンリーディングフレームに対して3’にある第1の転写調節領域を有する核酸配列と、を含み、かつ/またはベクターが、転写されたRNA中に存在する場合、低分子活性化RNA(saRNA)配列と相互作用することができ、その相互作用により、転写されたRNAの翻訳を可能にして、遺伝子産物を発現させることができる、オープンリーディングフレームに対して5’にある第2の転写調節領域を含む、遺伝子治療ベクター、を提供する。siRNAもしくはsiRNA発現のためのベクターを含むか、またはsaRNAもしくはsaRNAの発現のためのベクターを含む組成物も提供される。
【0043】
遺伝子治療ベクター、転写調節領域、siRNAおよび/またはsaRNA、ならびに方法の種々の態様を以下で考察する。各パラメータは別に考察するが、遺伝子治療ベクター、転写調節領域、siRNAおよび/またはsaRNA、ならびに方法は、治療または予防用遺伝子産物の制御を誘起するために、以下に記述されるパラメータの組み合わせを含む。したがって、遺伝子治療ベクター、転写調節領域、siRNAおよび/またはsaRNA、ならびに方法に従って、パラメータの任意の組み合わせを使用することができる。
【0044】
このため、「遺伝子治療ベクター」は、異種核酸配列を、コードされたタンパク質の合成が生じる場所である好適な宿主細胞中に運ぶ能力を有する任意の分子または組成物である。典型的には、遺伝子治療ベクターは、異種核酸配列を組み込むように、当該技術分野で既知である組換えDNA技術を使用して操作された核酸分子である。望ましくは、遺伝子治療ベクターは、DNAで構成されている。好適なDNAベースの遺伝子治療ベクターの例としては、プラスミドおよびウイルスベクターが挙げられる。しかしながら、遺伝子治療ベクターと転写調節領域のうちの1つ以上とを有するリポソームまたはナノ粒子などの核酸に基づかない遺伝子治療ベクターも用いられ得る。遺伝子治療ベクターは、単一の型の核酸(例えば、プラスミド)に基づいても、非核酸分子(例えば、脂質またはポリマー)に基づいてもよい。遺伝子治療ベクターは、宿主細胞ゲノム中に組み込まれ得るか、またはエピソームの形態で宿主細胞中に存在し得る。
【0045】
本開示の範囲内の遺伝子送達ベクターには、単離された核酸、例えば、染色体外で維持され得るプラスミドベースのベクター、およびウイルスベクター、例えば、組換えアデノウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス、パピローマウイルス、またはアデノ随伴ウイルスが含まれるが、これらに限定されず、リポソーム、例えば、DOSPA/DOPE、DOGS/DOPE、またはDMRIE/DOPEリポソームなどの中性またはカチオン性リポソーム中に存在する、および/あるいはDNA-抗DNA抗体-カチオン性脂質(DOTMA/DOPE)複合体または天然もしくは合成ポリマーなどの他の分子と会合したウイルスおよび非ウイルスベクターが含まれる。例示的なウイルス遺伝子送達ベクターを以下に記載する。遺伝子送達ベクターは、頭蓋内、髄腔内、筋肉内、頬側、直腸、静脈内、または冠状動脈内投与を含むが、これらに限定されない、任意の経路を介して投与され得、細胞への移入は、エレクトロポレーションおよび/またはイオントフォレシス、および/または細胞外マトリックスもしくはヒドロゲル、例えば、ヒドロゲルパッチなどの足場を使用して増強され得る。
【0046】
一実施形態では、siRNAまたはsaRNA発現のための遺伝子治療ベクターまたは他のベクターは、ウイルスベクターである。好適なウイルスベクターには、例えば、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、単純ヘルペスウイルス(HSV)ベースのベクター、パルボウイルスベースのベクター、例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベースのベクター、AAV-アデノウイルスキメラベクター、およびアデノウイルスベースのベクターが含まれる。これらのウイルスベクターは、例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning,a Laboratory Manual,3rd edition,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(2001)、およびAusubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Associates and John Wiley Sons,New York,N.Y.(1994)に記載される標準的な組換えDNA技術を使用して調製され得る。
【0047】
レトロウイルスベクター
レトロウイルスベクターは、宿主ゲノム中に安定かつ正確に組み込んで、長期導入遺伝子発現を提供するその能力を含むいくつかの特有の特徴を示す。これらのベクターは、全身感染および患者間伝播のリスクを最小化するために、感染性遺伝子粒子を除去するようにエクスビボで操作され得る。シュードタイプ化レトロウイルスベクターは、宿主細胞の向性を変化させ得る。
【0048】
レンチウイルス
レンチウイルスは、ヒト免疫不全ウイルスおよびネコ免疫不全ウイルスを含むレトロウイルス科に由来する。しかしながら、分裂細胞のみに感染するレトロウイルスとは異なり、レンチウイルスは、分裂細胞および非分裂細胞の両方に感染し得る。レンチウイルスは特定の向性を有するが、水泡性口内炎ウイルスでのウイルスエンベロープのシュードタイプ化は、範囲がより広いウイルスをもたらす(Schnepp et al.Meth.Mol.Med.,69:427(2002))。
【0049】
アデノウイルスベクター
アデノウイルスベクターは、ゲノムからのウイルス遺伝子発現を担う初期(E1AおよびE1B)遺伝子を欠失させることによって複製不全にされ得、染色体外形態で宿主細胞中に安定に維持される。これらのベクターは、複製細胞と非複製細胞との両方をトランスフェクトする能力を有する。アデノウイルスベクターは、インビボで治療遺伝子の一過性発現をもたらすことが示されており、7日でピークに達し、約4週間持続する。加えて、アデノウイルスベクターは、非常に高い力価で産生され得、少量のウイルスを用いた効率的な遺伝子治療を可能にする。
【0050】
アデノ随伴ウイルスベクター
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)は、非病原性パルボウイルスに由来し、細胞免疫応答を本質的に誘起せず、大部分のシステムにおいて数ヶ月持続する導入遺伝子発現をもたらす。さらに、アデノウイルスと同様に、アデノ随伴ウイルスベクターも、複製細胞および非複製細胞に感染する能力を有し、ヒトに対しては非病原性であると考えられる。
【0051】
AAVベクターには、AAV1、AAV2、AAV5、AAV7、AAV8、AAV9、またはAAVrh10(AAVゲノムが、キャプシドとは異なる供給源からのものであるキメラウイルスを含む)が含まれるが、これらに限定されない。
【0052】
プラスミドDNAベクター
プラスミドDNAは、より入念なパッケージングシステムの不在を示すために、しばしば「裸のDNA」と称される。インビボでの心筋細胞へのプラスミドDNAの直接注射が達成されている。プラスミドベースのベクターは、相対的に非免疫原性であり、非病原性であり、細胞ゲノム中に安定的に組み込まれる潜在力を有し、インビボでの有糸分裂後細胞における長期遺伝子発現をもたらす。さらに、プラスミドDNAは、血流中で迅速に分解され、したがって、遠位の器官系における導入遺伝子発現の見込みは無視できる。プラスミドDNAは、巨大分子複合体、例えば、リポソームまたはDNA-タンパク質複合体の一部として細胞に送達され得、送達は、エレクトロポレーションを含む技術を使用して増強され得る。
【0053】
例示的なAAVベクター
実施形態では、本開示は、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって、治療または予防用遺伝子産物をコードするオープンリーディングフレームを有する核酸配列と、転写されたRNA中に存在する場合、i)低分子干渉RNA(siRNA)配列と相互作用することができ、その相互作用により、転写されたRNAの翻訳を阻害するか、または2)転写されたRNAの分解を増進して、遺伝子産物の発現を阻害することができる、オープンリーディングフレームに対して3’にある第1の転写調節領域を有する核酸配列と、を含む、核酸配列を含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、かつ/またはベクターが、転写されたRNA中に存在する場合、低分子活性化RNA(saRNA)配列と相互作用することができ、その相互作用により、転写されたRNAの翻訳を可能にして、遺伝子産物を発現させることができる、オープンリーディングフレームに対して5’にある第2の転写調節領域を含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、を提供する。AAVベクターが、遺伝子産物と一方または両方の転写調節領域とをコードする核酸から本質的になる場合、AAVベクターに実質的に影響を与えない追加の構成要素(例えば、ポリ(A)配列、またはインビトロでのベクターの操作を容易にする制限酵素部位などの遺伝子エレメント)が含まれ得る。AAVベクターが、遺伝子産物と転写調節領域のうちの一方または両方とをコードする核酸配列からなる場合、AAVベクターは、いかなる追加の構成要素(すなわち、AAVに対して内因性ではなく、核酸配列の発現をもたらすために必要とされない構成要素)も含まない。
【0054】
アデノ随伴ウイルスは、パルボウイルス科のメンバーであり、約5,000ヌクレオチド未満の直鎖一本鎖DNAゲノムを含む。AAVは、効率的な複製のために、ヘルパーウイルス(すなわち、アデノウイルスまたはヘルペスウイルス)との共感染、またはヘルパー遺伝子の発現を必要とする。治療核酸の投与のために使用されるAAVベクターは、典型的には、DNA複製およびパッケージングのための認識シグナルを含有する末端反復(ITR)のみが残るように、親ゲノムの約96%が欠失している。これは、ウイルス遺伝子の発現に起因する免疫学的なまたは毒性の副作用を排除する。加えて、特定のAAVタンパク質を産生細胞に送達することは、所望であれば、AAV ITRを含むAAVベクターの、細胞ゲノムの特定の領域中への組み込みを可能にする(例えば、米国特許第6,342,390号および第6,821,511号を参照されたい)。組み込まれたAAVゲノムを含む宿主細胞は、細胞増殖または形態の変化を示さない(例えば、米国特許第4,797,368号を参照されたい)。
【0055】
AAV ITRは、非構造複製(Rep)タンパク質および構造キャプシド(Cap)タンパク質(ビリオンタンパク質(VP)としても知られる)のための特有のコードヌクレオチド配列に隣接する。末端の145ヌクレオチドは、自己相補的であり、T字形のヘアピンを形成するエネルギー的に安定な分子内二本鎖が形成され得るように編成されている。これらのヘアピン構造は、細胞DNAポリメラーゼ複合体のためのプライマーとして作用することによって、ウイルスDNA複製のための起点として機能する。Rep遺伝子は、Repタンパク質であるRep78、Rep68、Rep52、およびRep40をコードする。Rep78およびRep68は、p5プロモーターから転写され、Rep52およびRep40は、p19プロモーターから転写される。Rep78およびRep68タンパク質は、増殖性複製の間にヘリカーゼおよびニッカーゼ機能を行って、AAV末端の分解を可能にする多機能性DNA結合タンパク質である(例えば、Im et al.,Cell,61:447(1990)を参照されたい)。これらのタンパク質はまた、内因性AAVプロモーター、およびヘルパーウイルス内のプロモーターからの転写を調節する(例えば、Pereira et al.,J.Virol.,71:1079(1997)を参照されたい)。他のRepタンパク質は、Rep78およびRep68の機能を改変する。cap遺伝子は、キャプシドタンパク質であるVP1、VP2、およびVP3をコードする。cap遺伝子は、p40プロモーターから転写される。
【0056】
AAVベクターは、当該技術分野で既知の任意のAAV血清型を使用して生成され得る。いくつかのAAV血清型および100を超えるAAVバリアントが、アデノウイルスストックから、またはヒトもしくは非ヒト霊長類組織から単離されている(例えば、Wu et al.,Molecular Therapy,14(3):316(2006)において概説されている)。一般に、AAV血清型は、核酸配列およびアミノ酸配列のレベルで有意な相同性のゲノム配列を有しており、それで、異なる血清型は、遺伝子機能の同一のセットを有し、本質的に物理的および機能的に同等であるビリオンを産生し、実質的に同一の機構によって複製し、組み立てられる。AAV血清型1~5および7~9は、それらが、すべての他の既存の特徴付けられた血清型に特異的な中和血清と効率的に交差反応しないという点で、「真の」血清型として定義されている。対照的に、AAV血清型6、10(Rh10とも称される)、および11は、「真の」血清型の定義を遵守しないことから、「バリアント」血清型と考えられている。AAV血清型2(AAV2)は、その病原性の欠如、広範囲の感染性、および長期導入遺伝子発現を確立する能力に起因して、遺伝子治療適用のために広く使用されている(例えば、Carter,Hum.Gene Ther.,16:541(2005)、およびWu et al.,上記を参照されたい)。種々のAAV血清型のゲノム配列およびそれらの比較は、例えば、GenBankアクセッション番号U89790、J01901、AF043303、およびAF085716、Chiorini et al.,J.Virol.,71:6823(1997)、Srivastava et al.,J.Virol.,45:555(1983)、Chiorini et al.,J.Virol.,73:1309(1999)、Rutledge et al.,J.Virol.,72:309(1998)、およびWu et al.J.Virol.,74:8635(2000))に開示されている。
【0057】
AAVのrepおよびITR配列は、大部分のAAV血清型にわたって特に保存されている。例えば、AAV2、AAV3A、AAV3B、AAV4、およびAAV6のRep78タンパク質は、報告によれば、約89~93%同一である(Bantel-Schaal et al.,J.Virol.,73(2):939(1999)を参照されたい)。AAV血清型2、3A、3B、および6は、ゲノムレベルで約82%の全ヌクレオチド配列同一性を共有することが報告されている(Bantel-Schaal et al.,上記)。さらに、多くのAAV血清型のrep配列およびITRは、哺乳動物細胞におけるAAV粒子の産生の間に、他の血清型からの対応する配列を効率的に交差補完する(例えば、機能的に代わりをする)ことが知られている。
【0058】
一般に、AAV粒子の細胞向性を決定するcapタンパク質、および関連するcapタンパク質コード配列は、異なるAAV血清型にわたってRep遺伝子よりも有意に低く保存されている。他の血清型の対応する配列を交差補完するRepおよびITR配列の能力を考慮すると、AAVベクターは、血清型の混合物を含み得、それにより「キメラ」または「シュードタイプ化」AAVベクターであり得る。キメラAAVベクターは、典型的には、2つ以上(例えば、2つ、3つ、4つなど)の異なるAAV血清型に由来するAAVキャプシドタンパク質を含む。対照的に、シュードタイプ化AAVベクターは、別のAAV血清型のキャプシド中にパッケージングされた1つのAAV血清型の1つ以上のITRを含む。キメラおよびシュードタイプ化AAVベクターは、例えば、米国特許第6,723,551号、Flotte,Mol.Ther.,13(1):1(2006)、Gao et al.,J.Virol.,78:6381(2004)、Gao et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,99:11854(2002)、De et al.,Mol.Ther.,13:67(2006)、およびGao et al.,Mol.Ther.,13:77(2006)にさらに記載されている。
【0059】
一実施形態では、AAVベクターは、ヒトに感染するAAV(例えば、AAV2)を使用して生成される。あるいは、AAVベクターは、例えば、大型類人猿(例えば、チンパンジー)、旧世界サル(例えば、マカク)、および新世界サル(例えば、マーモセット)などの非ヒト霊長類に感染するAAVを使用して生成される。一実施形態では、AAVベクターは、ヒトに感染するAAVでシュードタイプ化された非ヒト霊長類に感染するAAVを使用して生成される。そのようなシュードタイプ化AAVベクターの例は、例えば、Cearley et al.,Molecular Therapy,13:528(2006)に開示されている。一実施形態では、AAV2逆位末端反復(ITR)でシュードタイプ化されたアカゲザルに感染するAAVからのキャプシドタンパク質を含むAAVベクターが生成され得る。特定の実施形態では、AAVベクターは、AAV2 ITRでシュードタイプ化されたアカゲザルに感染するAAV10(「AAVrh.10」とも称される)からのキャプシドタンパク質を含む(例えば、Watanabe et al.,Gene Ther.,17(8):1042(2010)、およびMao et al,.Hum.Gene Therapy,22:1525(2011)を参照されたい)。
【0060】
遺伝子産物と1つ以上の転写調節領域とをコードする核酸配列に加えて、AAVベクターは、宿主細胞における核酸配列の発現を提供する、プロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、転写ターミネーター、内部リボソーム侵入部位(IRES)などのような発現制御配列を含み得る。例示的な発現制御配列は、当該技術分野で既知であり、例えば、Goeddel,Gene Expression Technology:Methods in Enzymology,Vol.185,Academic Press,San Diego,CA.(1990)に記載されている。
【0061】
様々な異なる供給源からの、構成的、誘導性、および抑制可能プロモーターを含む多数のプロモーターが、当該技術分野で周知である。プロモーターの代表的な供給源には、例えば、ウイルス、哺乳動物、昆虫、植物、酵母、および細菌が含まれ、これらの供給源からの好適なプロモーターは、容易に入手可能であるか、または例えば、ATCCなどの保管所、ならびに他の商業的または個々の供給源から公的に入手可能な配列に基づいて合成的に作製され得る。プロモーターは、一方向性(すなわち、一方向に転写を開始する)または二方向性(すなわち、3’または5’のいずれかの方向に転写を開始する)であり得る。プロモーターの非限定的な例としては、例えば、T7細菌発現システム、pBAD(araA)細菌発現システム、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、SV40プロモーター、およびRSVプロモーターが挙げられる。誘導性プロモーターには、例えば、Tetシステム(米国特許第5,464,758号および第5,814,618号)、エクジソン誘導性システム(No et al.Proc.Natl.Acad.Sci.,93:3346(1996))、T-REXTMシステム(Invitrogen,Carlsbad,CA)、LACSWITCH(商標)システム(Stratagene,San Diego,CA)、およびCre-ERTタモキシフェン誘導性リコンビナーゼシステム(Indra et al.,Nuc.Acid.Res.,27:4324(1999)、Nuc.Acid.Res.,28:e99(2000)、米国特許第7,112,715号、およびKramer&Fussenegger,Methods Mol.Biol.,308:123(2005))が含まれる。
【0062】
本明細書で使用される「エンハンサー」という用語は、例えば、それが作動可能に連結している核酸配列の、転写を増加させるDNA配列を指す。エンハンサーは、核酸配列のコード領域から何キロベースも離れて位置し得、調節因子の結合、DNAメチル化のパターン、またはDNA構造の変化を媒介し得る。様々な異なる供給源からの多数のエンハンサーが、当該技術分野で周知であり、クローン化されたポリヌクレオチドとして、またはクローン化されたポリヌクレオチド内で(例えば、ATCCなどの保管所、ならびに他の商業的または個々の供給源から)入手可能である。プロモーター(一般的に使用されるCMVプロモーターなど)を含むいくつかのポリヌクレオチドは、エンハンサー配列もまた含む。エンハンサーは、コード配列の上流、コード配列内、またはコード配列の下流に位置し得る。一実施形態では、EPOまたは抗体をコードする核酸配列は、CMVエンハンサー/ニワトリベータアクチンプロモーター(「CAGプロモーター」とも称される)に作動可能に連結される(例えば、Niwa et al.,Gene,108:193(1991)、Daly et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,96:2296(1999)、およびSondhi et al.,Mol.Ther.,15:481(2007)を参照されたい)。
【0063】
典型的には、AAVベクターは、十分に特徴付けられたプラスミドを使用して産生される。例えば、ヒト胎児腎臓293T細胞を、導入遺伝子特異的プラスミドのうちの1つと、アデノウイルスヘルパーならびにAAVのrepおよびcap遺伝子(必要に応じてAAVrh.10、8、または9に特異的)を含有する別のプラスミドとを用いてトランスフェクトする。72時間後、細胞を回収し、ベクターを5回の凍結/解凍サイクルによって細胞から遊離させる。その後の遠心分離およびbenzonase処理は、細胞デブリおよびキャプシド形成されていないDNAを除去する。各AAVベクターをさらに精製するために、ヨウジキサノール勾配およびイオン交換カラムを使用し得る。次に、精製されたベクターを、サイズ排除遠心スピンカラムによって必要とされる濃度まで濃縮する。最後に、緩衝液を交換して、1×リン酸緩衝食塩水中に(例えば)製剤化された最終ベクター産物を作製する。ウイルス力価を、TaqMan(登録商標)リアルタイムPCRによって測定してもよく、ウイルス純度を、SDS-PAGEによって評価してもよい。
【0064】
医薬組成物および送達
本開示は、上記の遺伝子治療ベクターと、薬学的に許容される(例えば、生理学的に許容される)担体と、を含むか、本質的にそれからなるか、またはそれからなり、かつ/あるいはsiRNA、saRNA、またはsiRNAおよび/もしくはsaRNAの発現のためのベクターを含む、組成物を提供する。組成物が、例えば、遺伝子治療ベクターと、薬学的に許容される担体と、から本質的になる場合、組成物に実質的に影響を与えない追加の構成要素(例えば、アジュバント、緩衝剤、安定化剤、抗炎症剤、可溶化剤、保存剤など)が含まれ得る。組成物が、例えば、遺伝子治療ベクターと、薬学的に許容される担体と、からなる場合、組成物は、いかなる追加の構成要素も含まない。任意の好適な担体が、本開示の文脈内で使用され得、そのような担体は、当該技術分野で周知である。担体の選択は、部分的に、組成物が投与され得る特定の部位、および組成物を投与するために使用される特定の方法によって決定される。組成物は、任意選択で、本明細書に記載される遺伝子治療ベクターを例外として、無菌であり得る。組成物は、貯蔵のために凍結または凍結乾燥され、使用前に好適な無菌担体中で再構成され得る。組成物は、例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,21st Edition,Lippincott Williams&Wilkins,Philadelphia,PA(2001)に記載される従来の技術に従って生成され得る。
【0065】
組成物に好適な製剤には、水性および非水性溶液、等張無菌溶液(これは、抗酸化剤、緩衝剤、および静菌剤を含有し得る)、ならびに懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、および保存剤を含み得る水性および非水性無菌懸濁液が含まれる。製剤は、単位用量または複数回用量の密封容器、例えば、アンプルおよびバイアル中で提示され得、使用直前に無菌液体担体、例えば、水の添加のみを必要とする、フリーズドライ(凍結乾燥)状態で貯蔵され得る。即時性溶液および懸濁液は、以前に記載された種類の無菌粉末、顆粒、および錠剤から調製され得る。一実施形態では、担体は、緩衝食塩水溶液である。一実施形態では、遺伝子治療ベクター、siRNA、またはsaRNAは、投与前後に遺伝子治療ベクター、siRNA、またはsaRNAを損傷から保護するように製剤化された組成物中で投与される。例えば、組成物は、ガラス器具、シリンジ、または針などの遺伝子治療ベクターを調製、貯蔵、または投与するために使用されるデバイス上での遺伝子治療ベクターの損失を低減するように製剤化され得る。組成物は、遺伝子治療ベクターの光感受性および/または温度感受性を低下させるように製剤化され得る。この目的のために、組成物は、例えば、上記のものなどの薬学的に許容される液体担体、およびポリソルベート80、L-アルギニン、ポリビニルピロリドン、トレハロース、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される安定化剤を含み得る。そのような組成物の使用は、遺伝子治療ベクターの有効期間を延長し、投与を容易にし、方法の効率を増加させる。遺伝子治療ベクター含有組成物のための製剤は、例えば、Wright et al.Curr.Opin.Drug Discov.Devel.,6(2):174-178(2003)およびWright et al.,Molecular Therapy,12:171-178(2005))にさらに記載されている。
【0066】
組成物はまた、形質導入効率を高めるように製剤化され得る。加えて、当業者は、遺伝子治療ベクターが、他の治療剤または生物活性剤とともに組成物中に存在し得ることを理解するであろう。例えば、イブプロフェンまたはステロイドなどの炎症を制御する因子は、遺伝子治療ベクターのインビボ投与に関連する腫脹および炎症を低減するために組成物の一部となり得る。免疫系刺激剤またはアジュバント、例えば、インターロイキン、リポ多糖、および二本鎖RNAは、免疫応答を増強または修飾するために投与され得る。抗生物質、すなわち、殺菌剤および殺真菌剤は、既存の感染症を治療するため、および/または遺伝子治療手順に関連する感染症などの将来の感染症のリスクを低減するために存在し得る。
【0067】
注射用デポー形態は、ポリラクチド-ポリグリコリドなどの生分解性ポリマー中で、対象化合物のマイクロカプセルマトリックスを形成することによって作製される。ポリマーに対する薬物の比率、および用いられる特定のポリマーの性質に応じて、薬物放出の速度は制御され得る。他の生分解性ポリマーの例としては、ポリ(オルトエステル)およびポリ(無水物)が挙げられる。デポー注射用製剤はまた、体組織と適合性であるリポソームまたはマイクロエマルジョン中に薬物を封入することによって調製される。
【0068】
特定の実施形態では、製剤は、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアルキレン、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルのポリマー、ポリビニルポリマー、ポリグリコリド、ポリシロキサン、ポリウレタンおよびそのコポリマー、セルロース、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、乳酸およびグリコール酸のポリマー、ポリ無水物、ポリ(オルト)エステル、ポリ(酪酸)、ポリ(吉草酸)、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)、多糖、タンパク質、ポリヒアルロン酸、ポリシアノアクリレート、ならびにそれらのブレンド、混合物、またはコポリマーからなる群から選択される生体適合性ポリマーを含む。
【0069】
組成物は、スポンジ、生体適合性メッシュワーク、機械的リザーバー、または機械的インプラントなどの、制御放出または徐放を可能にするデバイスの中または上で投与され得る。インプラント(例えば、米国特許第5,443,505号を参照されたい)、デバイス(例えば、米国特許第4,863,457号を参照されたい)、例えば、植え込み型デバイス、例えば、機械的リザーバー、またはポリマー組成で構成されたインプラントもしくはデバイスは、遺伝子治療ベクターの投与に特に有用である。組成物はまた、例えば、ゲルフォーム、ヒアルロン酸、ゼラチン、コンドロイチン硫酸、ポリホスホエステル、例えば、ビス-2-ヒドロキシエチル-テレフタレート(BHET)、および/またはポリ乳酸-グリコール酸を含む徐放性製剤(例えば、米国特許第5,378,475号を参照されたい)の形態で投与され得る。
【0070】
遺伝子治療ベクター、またはsiRNAおよび/もしくはsaRNA、またはその発現のためのベクターを含む組成物の送達は、当該技術分野で既知のデバイスを使用して、脳内(実質内、脳室内、もしくは大槽内を含むが、これらに限定されない)、髄腔内(腰部もしくは大槽を含むが、これらに限定されない)、または全身(静脈内を含むが、これに限定されない)、あるいはそれらの任意の組み合わせであり得る。送達はまた、植え込まれるデバイスの外科的移植を介したものであり得る。
【0071】
哺乳動物に投与される組成物中の遺伝子治療ベクター、siRNAもしくはsaRNA、またはその発現のためのベクターの用量は、哺乳動物のサイズ(質量)、任意の副作用の程度、特定の投与経路などを含むいくつかの要因に依存する。一実施形態では、方法は、「治療有効量」の、本明細書に記載される遺伝子治療ベクターを含む組成物を投与することを含む。「治療有効量」は、所望される治療結果を達成するために、必要な期間および投薬量で、有効な量を指す。治療有効量は、病態の程度、個体の年齢、性別、および体重、ならびに個体において所望される応答を誘発する遺伝子治療ベクターの能力などの要因に応じて変動し得る。特定の治療効果を達成するために必要とされる組成物中の遺伝子治療ベクターの用量は、典型的には、細胞当たりのベクターゲノムコピー(gc/細胞)またはキログラム体重当たりのベクターゲノムコピー(gc/kg)の単位で投与される。当業者は、これらおよび当該技術分野で周知である他の要因に基づいて、特定の疾患または障害を有する患者を治療するための適切な遺伝子治療ベクター用量範囲を容易に決定し得る。治療有効量は、1×1010ゲノムコピー~1×1013ゲノムコピーであってもよい。治療有効量は、1×1011ゲノムコピー~1×1014ゲノムコピーであってもよい。治療有効量は、1×1012ゲノムコピー~1×1015ゲノムコピーであってもよい。治療有効量は、0.5~2×1013ゲノムコピー(gc)~0.5~2×1016gc、例えば、ヒトにおける全用量、例えば、1×1013gc~1×1014gc、1×1014gc~1×1015gc、または1×1015gc~1×1014gcであってもよい。一実施形態では、ヒトにおける総用量は、約1×108gc/kg~約2×1010gc/kg、例えば、1.5×109gc/kg~約1.5×1011gc/kg、1.5×1010gc/kg~約1.5×1012gc/kg、または1.5×1012gc/kg~約1.5×1013gc/kgである。70kgのヒトを想定すると、用量範囲は、1.4×108gc/kg~1.4×1011gc/kg、1.4×109gc/kg~1.4×1012gc/kg、1.4×1010gc/kg~1.4×1013gc/kg、または1.4×1011gc/kg~1.4×1014gc/kgであってもよい。
【0072】
一実施形態では、遺伝子治療ベクター、siRNA、もしくはsaRNA、またはその発現のためのベクターを含む組成物は、哺乳動物に1回投与される。しかしながら、特定の場合では、組成物への細胞の十分な曝露を確実にするために、治療期間の間に組成物を複数回投与することが適切であり得る。例えば、組成物は、治療期間の間に、哺乳動物に2回以上(例えば、2、3、4、5、6、6、8、9、または10回、またはそれ以上)投与され得る。
【0073】
対象
対象は、ヒトおよび非ヒト動物を含む任意の動物であり得る。非ヒト動物には、すべての脊椎動物、例えば、哺乳動物および非哺乳動物、例えば、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ニワトリ、両生類、および爬虫類が含まれるが、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウシ、およびウマなどの哺乳動物が対象として想定される。対象はまた、家畜、例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、家禽、およびウマ、またはペット、例えば、イヌおよびネコであり得る。
【0074】
一実施形態では、対象には、本明細書に記載される医学的疾患および障害に罹患しているか、またはそのリスクがあるヒト対象が含まれる。対象は、一般に、当業者、例えば、医師によって状態と診断される。
【0075】
本明細書に記載される方法は、任意の種、性別、年齢、民族集団、または遺伝子型の対象のため用いられ得る。したがって、対象という用語は、男性および女性を含み、高齢者、高齢者~成人移行年齢の対象、成人~成人前移行年齢の対象、ならびに思春期、小児、および乳幼児を含む成人前を含む。
【0076】
ヒト民族集団の例としては、コーカサス人、アジア人、ヒスパニック、アフリカ人、アフリカ系アメリカ人、ネイティブアメリカン、セム人、およびパシフィックアイランダーズが挙げられる。方法は、コーカサス人、特に北欧人集団、ならびにアジア人集団などのいくつかの民族集団により適切であり得る。
【0077】
対象という用語はまた、上記のように、それらが治療を必要とする限り、任意の遺伝子型または表現型の対象を含む。加えて、対象は、任意の毛髪の色、眼の色、皮膚の色、またはそれらの任意の組み合わせのための遺伝子型または表現型を有し得る。対象という用語は、任意の身長、体重、または任意の器官もしくは身体部分のサイズもしくは形状の対象を含む。
【0078】
例示的なナノ粒子製剤
生分解性ナノ粒子(例えば、遺伝子治療ベクターまたは単離されたsiRNAもしくはsaRNA核酸、またはsiRNAもしくはsaRNAの発現のためのベクターを含む)は、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、PLAおよびPGAのコポリマー(すなわち、ポリ乳酸-コ-グリコール酸(PLGA))、ポリ-ε-カプロラクトン(PCL)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(p-ジオキサノン)、ポリプロピレンフマレート、ポリ(オルトエステル)、ポリオール/ジケテンアセタール付加ポリマー、ポリ-アルキル-シアノ-アクリレート(PAC)、ポリ(セバシン酸無水物)(PSA)、ポリ(カルボキシビスカルボキシフェノキシフェノキシヘキソン)(PCPP)ポリ[ビス(p-カルボキシフェノキシ)メタン(PCPM)、PSA、PCPP、およびPCPMのコポリマー、ポリ(アミノ酸)、ポリ(シュードアミノ酸)、ポリホスファゼン、ポリ[(ジクロロ)ホスファゼン]およびポリ[(オルガノ)ホスファゼン]の誘導体、ポリヒドロキシ酪酸、またはS-カプロン酸、エラスチン、またはゼラチンを含み得るが、これらに限定されない生分解性ポリマー分子を含み得るかまたはそれから形成され得る。(例えば、Kumari et al.,Colloids and Surfaces B:Biointerfaces 75(2010)1-18、および米国特許第6,913,767号、第6,884,435号、第6,565,777号、第6,534,092号、第6,528,087号、第6,379,704号、第6,309,569号、第6,264,987号、第6,210,707号、第6,090,925号、第6,022,564号、第5,981,719号、第5,871,747号、第5,723,269号、第5,603,960号、および第5,578,709号、ならびに米国出願公開第2007/0081972号、ならびに国際出願公開第WO2012/115806号および第WO2012/054425号(その内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい)。
【0079】
生分解性ナノ粒子は、当該技術分野で既知の方法によって調製され得る。(例えば、Nagavarma et al.,Asian J.of Pharma.And Clin.Res.,Vol 5,Suppl 3,2012,16~23頁、Cismaru et al.,Rev.Roum.Chim.,2010,55(8),433-442、ならびに国際出願公開第WO2012/115806号および第WO 2012/054425(その内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい)。ナノ粒子を調製するための好適な方法には、溶媒蒸発、ナノ沈殿、乳化/溶媒拡散、塩析、透析、および超臨界流体技術を含み得るが、これらに限定されない、予め形成されたポリマーの分散液を利用する方法が含まれ得る。いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、ダブルエマルジョン(例えば、水中油中水)を形成し、その後溶媒蒸発を行うことによって調製され得る。開示される方法によって得られたナノ粒子は、所望により、洗浄および凍結乾燥などのさらなる処理ステップに供され得る。任意選択で、ナノ粒子は、保存剤(例えば、トレハロース)と合わされ得る。
【0080】
典型的には、ナノ粒子は、1ミクロン未満の平均有効径を有し、例えば、ナノ粒子は、約25nm~約500nm、例えば、約50nm~約250nm、約100nm~約150nm、または約450nm~650nmの平均有効径を有する。粒子のサイズ(例えば、平均有効径)は、透過型電子顕微鏡法(TEM)、走査型電子顕微鏡法(SEM)、原子間力顕微鏡法(AFM)、光子相関分光法(PCS)、ナノ粒子表面積モニター(NSAM)、凝縮式粒子計数器(CPC)、微分型電気移動度分析器(DMA)、走査型電気移動度粒径測定器(SMPS)、ナノ粒子トラッキング分析(NTA)、X線回折(XRD)、エアロゾル飛行時間型質量分析法(ATFMS)、およびエアロゾル粒子質量分析器(APM)を含み得るが、これらに限定されない当該技術分野で既知の方法によって評価され得る。
【0081】
生分解性ナノ粒子は、標的細胞による取り込みを容易にするゼータ電位を有し得る。典型的には、ナノ粒子は、0超のゼータ電位を有する。いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、約5mV~約45mV、約15mV~約35mV、または約20mV~約40mVのゼータ電位を有する。ゼータ電位は、電気泳動移動度または動的電気泳動移動度を含む特徴によって決定され得る。電気運動現象および電気音響現象を利用して、ゼータ電位を計算し得る。
【0082】
一実施形態では、非ウイルス送達ビヒクルは、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、ポリ乳酸(PLA)、異なる分子量(例えば、2、22、および25kDa)を有する直鎖および/もしくは分岐PEI、ポリアミドアミン(PAMAM)およびポリメトアクリレートなどのデンドリマー、カチオン性リポソーム、カチオン性エマルション、DOTAP、DOTMA、DMRIE、DOSPA、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、DOPE、もしくはDCコレステロールを含むが、これらに限定されない脂質、ポリ-L-リジンもしくはプロタミンを含むが、これらに限定されないペプチドベースのベクター、またはポリ(β-アミノエステル)、キトサン、PEI-ポリエチレングリコール、PEI-マンノース-デキストロース、DOTAP-コレステロール、もしくはRNAiMAXを含むが、これらに限定されないポリマーを含む。
【0083】
一実施形態では、送達ビヒクルは、種々のポリヌクレオチド型と複合体形成し、ナノ粒子を形成する能力を有する、グリコポリマーベースの送達ビヒクルであるポリ(グリコアミドアミン)(PGAA)である。これらの材料は、種々の炭水化物(D-グルカレート(D)、メソ-ガラクタレート(G)、D-マンナレート(M)、およびL-タータレート(T))のメチルエステルまたはラクトン誘導体を、一連のオリゴエチレンアミンモノマー(1~4個のエチレンアミンを含有する)と重合することによって作製される(Liu and Reineke,2006)。ポリマー反復単位中のこれらの炭水化物および4つのエチレンアミンから構成されるサブセットは、卓越した送達効率をもたらした。
【0084】
一実施形態では、送達ビヒクルは、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリアミドアミン(PAMAM)、PEI-PEG、PEI-PEG-マンノース、デキストラン-PEI、OVA抱合体、PLGA微粒子、もしくはPAMAMでコーティングされたPLGA微粒子、またはそれらの任意の組み合わせを含む。開示されるカチオン性ポリマーには、ポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマーが含まれ得るが、これに限定されない。本開示のナノ粒子を調製するために好適なポリアミドアミンデンドリマーには、第3、第4、第5、または少なくとも第6世代のデンドリマーが含まれ得る。
【0085】
一実施形態では、送達ビヒクルは、脂質、例えば、N-[1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロペル]-N,N,N-トリメチルアンモニウム(DOTMA)、2,3-ジオレイルオキシ-N-[2-スペルミンカルボキサミド]エチル-N,N-ジメチル-1-プロパンアンモニウムトリフルオルアセテート(DOSPA,Lipofectamine)、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(DOTAP)、N-[1-(2,3-ジミリストルオキシ)プロピル]、N,N-ジメチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムブロミド(DMRIE)、3-β-[N-(N,N’-ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール(DC-Chol)、ジオクタデシルアミドグリセリルスペルミン(DOGS,Transfectam)、またはイメチルジオクタデクリアンモニウムブロミド(DDAB)を含む。カチオン性脂質の正に荷電した親水性頭部基は、通常、第三級および第四級アミン、ポリアミン、アミジニウム、またはグアニジニウム基などのモノアミンからなる。一連のピリジニウム脂質が開発されている(Zhu et al.,2008、van der Woude et al.,1997、Ilies et al.,2004)。ピリジニウムカチオン性脂質に加えて、他の型の複素環式頭部基には、イミダゾール、ピペリジン、およびアミノ酸が含まれる。カチオン性頭部基の主な機能は、負に荷電した核酸を、わずかに正に荷電したナノ粒子に静電相互作用によって縮合し、細胞取り込みおよびエンドソーム脱出の増強をもたらすことである。
【0086】
DOTMA、DOTAPおよびSAINT-2、またはDODACなどの2つの直鎖脂肪酸鎖を有する脂質は、N,N-ジオレイル-N,N-ジメチルアンモニウムクロリド(DODAC)の二量体であるテトラアルキル脂質鎖界面活性剤と同様に、送達ビヒクルとして用いられ得る。すべてのトランス配向脂質は、その疎水性鎖長にかかわらず(C16:1、C18:1、およびC20:1)、それらのシス配向対応物と比較してトランスフェクション効率を増強させるようである。
【0087】
送達ビヒクルとして有用なカチオン性ポリマーの構造には、キトサンおよび直鎖ポリ(エチレンイミン)などの直鎖ポリマー、分岐ポリ(エチレンイミン)(PEI)などの分岐ポリマー、シクロデキストリンなどの環様ポリマー、架橋ポリ(アミノ酸)(PAA)などのネットワーク(架橋)型ポリマー、ならびにデンドリマーが含まれるが、これらに限定されない。デンドリマーは、そこからいくつかの高度に分岐したアームが「成長」して、対称または非対称の様式で樹様構造を形成する、中心コア分子からなる。デンドリマーの例としては、ポリアミドアミン(PAMAM)およびポリプロピレンイミン(PPI)デンドリマーが挙げられる。
【0088】
DOPEおよびコレステロールは、カチオン性リポソームを調製するために一般的に使用される中性共脂質である。分岐PEI-コレステロール水溶性リポポリマー抱合体は、カチオン性ミセルに自己組織化する。非イオン性ポリマーであるPluronic(ポロキサマー)、ならびにPluronic L61およびF127の組み合わせであるSP1017もまた使用され得る。
【0089】
一実施形態では、PLGA粒子は、カプセル化頻度を増加させるために用いられるが、PLLとの複合体形成もまた、カプセル化効率を増加させ得る。他のカチオン性材料、例えば、PEI、DOTMA、DC-Chol、またはCTABは、ナノスフェアを作製するために使用され得る。
【0090】
一実施形態では、複合体は、ポロキサマー、ポリアクリルアミド、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、カルボキシビニルポリマー(例えば、Carbopol 934、Goodrich Chemical Co.)、セルロース誘導体、例えば、メチルセルロース、酢酸セルロース、およびヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンもしくはポリビニルアルコール、またはそれらの組み合わせのヒドロゲルを含むが、これらに限定されない材料中に包埋されるか、またはそれに適用される。
【0091】
いくつかの実施形態では、生体適合性ポリマー材料は、コラーゲン、例えば、ヒドロキシル化コラーゲン、フィブリン、ポリ乳酸-ポリグリコール酸、またはポリ無水物などの生分解性ポリマーに由来する。他の例には、任意の生体適合性ポリマー(親水性、疎水性、または両親媒性のいずれでも)、例えば、エチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、N-イソプロピルアクリルアミドコポリマー、ポリ(エチレンオキシド)/ポリ(プロピレンオキシド)ブロックコポリマー、ポリ(エチレングリコール)/ポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)ブロックコポリマー、ポリグリコリド、ポリラクチド(PLLAまたはPDLA)、ポリ(カプロラクトン)(PCL)、またはポリ(ジオキサノン)(PPS)が含まれるが、これらに限定されない。
【0092】
別の実施形態では、生体適合性材料には、ポリエチレンテレフアレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンオキシドおよびポリプロピレンオキシドのコポリマー、ポリグリコール酸およびポリヒドロキシアルカノエートの組み合わせ、ゼラチン、アルギネート、ポリ-3-ヒドロキシブチレート、ポリ-4-ヒドロキシブチレート、ならびにポリヒドロキシオクタノエート、ならびにポリアクリロニトリルポリビニルクロリドが含まれる。
【0093】
一実施形態では、以下のポリマー、例えば、デンプン、キチン、グリコサミノグリカン、例えば、ヒアルロン酸、デルマタン硫酸、およびクロンドロチン硫酸などの天然ポリマー、ならびに微生物ポリエステル、例えば、ヒドロキシバレレートおよびヒドロキシブチレートコポリマーなどのヒドロキシアルカノエート、ならびに合成ポリマー、例えば、ポリ(オルトエステル)およびポリ無水物、ならびにグリコリドおよびラクチドのホモおよびコポリマーを含む(例えば、ポリ(L-ラクチド、ポリ(L-ラクチド-コ-D,L-ラクチド)、ポリ(L-ラクチド-コ-グリコリド、ポリグリコリドおよびポリ(D,L-ラクチド)、ポル(D,L-ラクチド-コグリコリド)、ポリ(乳酸コリジン)、およびポリカプロラクトンが用いられ得る。
【0094】
一実施形態では、生体適合性材料は、単離された細胞外マトリックス(ECM)に由来する。ECMは、種々の細胞集団、組織、および/または器官の内皮層、例えば、温血脊椎動物の皮膚、肝臓、消化管、気道、腸管、尿路、または生殖器の真皮を含む任意の器官または組織供給源から単離され得る。本発明において用いられるECMは、供給源の組み合わせからものであり得る。単離されたECMは、シートとして、粒子形態、ゲル形態などで調製され得る。
【0095】
生体適合性足場ポリマーは、シルク、エラスチン、キチン、キトサン、ポリ(d-ヒドロキシ酸)、ポリ(無水物)、またはポリ(オルトエステル)を含み得る。より具体的には、生体適合性ポリマーは、ポリエチレングリコール、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、乳酸およびグリコール酸のコポリマー、乳酸およびグリコール酸のポリエチレングリコールとのコポリマー、ポリ(E-カプロラクトン)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(p-ジオキサノン)、ポリプロピレンフマレート、ポリ(オルトエステル)、ポリオール/ジケテンアセタール付加ポリマー、ポリ(セバシン酸無水物)(PSA)、ポリ(カルボキシビスカルボキシフェノキシフェノキシヘキソン(PCPP)ポリ[ビス(p-カルボキシフェノキシ)メタン](PCPM)、SA、CPP、およびCPMのコポリマー、ポリ(アミノ酸)、ポリ(シュードアミノ酸)、ポリホスファゼン、ポリ(ジクロロ)ホスファゼンまたは[ポリ(オルガノ)ホスファゼン]の誘導体、ポリ-ヒドロキシ酪酸、またはS-カプロン酸、ポリラクチド-コ-グリコリド、ポリ乳酸、ポリエチレングリコール、セルロース、酸化セルロース、アルギネート、ゼラチン、またはそれらの誘導体で形成され得る。
【0096】
したがって、ポリマーは、天然に存在するポリマー、合成ポリマー、またはそれらの組み合わせを含むポリマーを含む広範囲の材料のうちのいずれかで形成され得る。一実施形態では、足場は、生分解性ポリマーを含む。一実施形態では、天然に存在する生分解性ポリマーは、天然に存在するポリマーに由来する合成生分解性ポリマーを提供するために修飾され得る。一実施形態では、ポリマーは、ポリ(乳酸)(「PLA」)またはポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(「PLGA」)である。一実施形態では、足場ポリマーには、アルギネート、キトサン、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、キシログルカン、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンのコポリマー、ポリ(ビニルアルコール)、シリコーン、疎水性ポリエステルおよび親水性ポリエステル、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)、N-イソプロイルアクリルアミドコポリマー、ポリ(エチレンオキシド)/ポリ(プロピレンオキシド)、ポリ乳酸、ポリ(オルトエステル)、ポリ無水物、ポリウレタン、2-ヒドロキシエチルメタクリレートおよびメタクリル酸ナトリウムのコポリマー、ホスホリルコリン、シクロデキストリン、ポリスルホンおよびポリビニルピロリジン、デンプン、ポリ-D,L-乳酸-パラ-ジオキサノン-ポリエチレングリコールブロックコポリマー、ポリプロピレン、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリ-イプシロン-カプロラクトン、または架橋キトサンヒドロゲルが含まれるが、これらに限定されない。
【0097】
あるいは、核酸またはベクターは、少なくとも約0.0001mg/kg~約1mg/kg、少なくとも約0.001mg/kg~約0.5mg/kg、少なくとも約0.01mg/kg~約0.25mg/kg、または少なくとも約0.01mg/kg~約0.25mg/kg体重の投薬量で投与され得るが、他の投薬量は有益な結果を与え得る。
【0098】
あるいは、核酸またはベクターは、少なくとも約0.0001mg/kg~約1mg/kg、少なくとも約0.001mg/kg~約0.5mg/kg、少なくとも約0.01mg/kg~約0.25mg/kg、または少なくとも約0.01mg/kg~約0.25mg/kg体重の投薬量で投与され得るが、他の投薬量は有益な結果を与え得る。
【0099】
例示的な実施形態
一実施形態では、予防または治療に有用な遺伝子産物のためのオープンリーディングフレームと3’非翻訳領域(3’UTR)とを含む核酸配列に作動可能に連結したプロモーターを含む遺伝子治療ベクターであって、本ベクターが、核酸配列に対して3’にある第1の転写調節領域をさらに含み、第1の転写調節領域が、転写されたRNA中に存在する場合、低分子干渉RNA(siRNA)配列と相互作用することができ、この相互作用により、転写されたRNAの翻訳を阻害するか、または転写されたRNAの分解を増進し、それによって、遺伝子産物の発現を阻害することができ、かつ/または本ベクターが、核酸配列に対して5’にある第2の転写調節領域をさらに含み、第2の転写調節領域が、転写されたRNA中に存在する場合、低分子活性化RNA(saRNA)配列と相互作用することができ、この相互作用により、転写されたRNAの翻訳を可能にし、それによって、遺伝子産物を発現させることができる、遺伝子治療ベクターが提供される。一実施形態では、ベクターは、第1の転写調節領域を有するが、第2の転写調節領域を有しない。一実施形態では、ベクターは、第2の転写調節領域を有するが、第1の転写調節領域を有しない。一実施形態では、ベクターは、第1および第2の転写調節領域を有する。一実施形態では、ベクターは、ウイルスベクターである。一実施形態では、ウイルスベクターは、AAVベクター、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、またはレトロウイルスベクターである。一実施形態では、第2の転写調節領域は、少なくとも1つのヘアピン構造を形成する。一実施形態では、saRNAと第2の転写調節領域との相互作用により、リボソーム結合部位が露出する。一実施形態では、第2の転写調節領域は、1~3個または2~5個の異なるヘアピンを形成する。一実施形態では、第2の転写調節領域は、転写されたRNAにおけるリボソーム結合部位および/または第1のAUGと重複する少なくとも1個のヘアピンを形成する。一実施形態では、第2の転写調節領域は、トーホールド配列を含む。一実施形態では、第1の転写調節領域は、RNAへの転写時に1つ超の異なるsiRNAに結合し得る1つ超のヌクレオチド配列を含む。一実施形態では、第1の転写調節領域は、RNAへの転写時に複数のsiRNAに結合し得るヌクレオチド配列を含む。一実施形態では、ヌクレオチド配列は、同じsiRNAのための複数のsiRNA結合部位を有する。一実施形態では、オープンリーディングフレームは、治療用RNA、治療用抗体、抗がん遺伝子産物、補体因子、インターロイキン、サイトカイン、またはホルモンをコードする。一実施形態では、遺伝子産物は、抗EGFR抗体、抗VEGF抗体、抗VEGFR抗体、アルファ1-アンチトリプシン、カタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、第9因子、IL-2R、アデノシンデアミナーゼ(ADA)、WAS、ベータ-グロビン、ABCD1、抗CD19抗体、またはFK506結合タンパク質を含む。一実施形態では、ベクターは、配列番号1~3、7~9、もしくは17~20、またはそれと少なくとも80%、85%、90%、92%、94%、95%、98%、または99%のヌクレオチド配列同一性を有するヌクレオチド配列の少なくとも1つのコピーを含む。一実施形態では、ベクターから発現されるRNAの阻害または活性化のためのsiRNAまたはmiRNA配列は、配列番号4~6もしくは12~16、またはそれと少なくとも80%、85%、90%、92%、94%、95%、98%、または99%のヌクレオチド配列同一性を有するヌクレオチド配列の少なくとも1つのコピーを含む。
【0100】
ベクターを含む宿主細胞がさらに提供される。一実施形態では、細胞は、哺乳動物細胞である。一実施形態では、細胞は、ヒト細胞である。一実施形態では、細胞は、宿主生物である。一実施形態では、宿主生物は、哺乳動物である。一実施形態では、哺乳動物は、非ヒト霊長類である。一実施形態では、哺乳動物は、ヒトである。
【0101】
哺乳動物における遺伝子治療ベクターの発現を制御する方法がさらに提供される。本方法には、遺伝子治療ベクターを有する哺乳動物を提供する工程と、ベクターによってコードされる遺伝子産物の発現を改変するのに有効な、siRNAおよび/またはsaRNAのための配列を含む核酸を含む組成物の量を、哺乳動物に投与する工程とが含まれる。一実施形態では、オープンリーディングフレームは、タンパク質をコードする。一実施形態では、オープンリーディングフレームは、治療用RNAをコードする。一実施形態では、遺伝子産物は、治療抗体、ホルモン、サイトカイン、インターロイキン、またはリボザイムである。一実施形態では、組成物は、任意選択で1つ以上のヌクレオチド類似体を有するRNAを含む。一実施形態では、組成物は、siRNA配列またはsaRNA配列に対応する配列を有するDNAベクターを含む。一実施形態では、組成物は、複数の異なるsiRNAを含む。一実施形態では、組成物は、複数の異なるsaRNAを含む。
【0102】
哺乳動物に遺伝子治療ベクターを導入する工程と、ベクターによってコードされる遺伝子産物の発現を改変するのに有効な、siRNAおよび/またはsaRNAのための配列を含む核酸を含む組成物の量を、哺乳動物に投与する工程とを含む、哺乳動物における遺伝子治療ベクターの発現を制御する方法も提供される。一実施形態では、組成物は、核酸を含むリポソームを含む。一実施形態では、組成物は、核酸を含むナノ粒子を含む。一実施形態では、組成物は、核酸を含むタンパク質複合体を含む。一実施形態では、組成物は、全身投与される。一実施形態では、組成物は、経口投与される。一実施形態では、組成物は、静脈内投与される。一実施形態では、組成物は、局所投与される。一実施形態では、組成物は、注射される。一実施形態では、組成物は、徐放性組成物である。一実施形態では、ベクターは、静脈内投与される。一実施形態では、ベクターは、局所投与される。
【0103】
一実施形態では、転写されたRNA中に存在する場合に低分子活性化RNA(saRNA)配列と相互作用することができる第2の転写調節領域に隣接する相同性アームを有するベクターであって、相同性アームが、第2の転写調節領域の挿入のための部位に隣接する遺伝子治療ベクター配列に対応する配列を有する、ベクターが提供される。一実施形態では、挿入のための部位は、プロモーターに対して3’にあり、かつ、予防用または治療用遺伝子産物のオープンリーディングフレームに対して5’にある。
【0104】
一実施形態では、転写されたRNA中に存在する場合に低分子干渉RNA(siRNA)配列と相互作用することができる第1の転写調節領域に隣接する相同性アームを有するベクターであって、相同性アームが、第1の転写調節領域の挿入のための部位に隣接する遺伝子治療ベクター配列に対応する配列を有する、ベクターが提供される。一実施形態では、挿入のための部位は、予防用または治療用遺伝子産物のオープンリーディングフレームに対して3’にあり、かつ、3’UTRの3’末端に対して5’にある。
【0105】
本発明を、以下の非限定的な実施例によってさらに説明する。
【実施例】
【0106】
実施例1
図1および3は、siRNA認識部位をベクター構築物の3’UTRに挿入することによって発現をオフにするためのベクターを示す。一実施形態では、3’UTRへの挿入は、すべてのベクター構築物、例えば、標的外のものがない非常に特異的な配列に対して普遍的である配列である。mRNA分解およびタンパク質発現の阻害は、十分な量の阻害性siRNAの存在に依存する。一実施形態では、1つ以上のsiRNA標的配列を例えば2~10コピー組み込むことで、阻害を増加させることができる。発現は、標的化siRNAの存在下でのみオフにされる。
【0107】
図2は、発現をオンにするためのベクターを図示する。例えば、トーホールドスイッチが、細菌に見出され、合成生物学において使用される(例えば、ウイルスmRNAまたはmiRNAのセンサとして)。リボソーム結合部位および/またはAUG開始コドンと重複する安定なヘアピンは、タンパク質発現を遮断する。例えば1~3個のヘアピンを含めることで、トリガーRNAなく漏出発現がないことを確実にできる。トリガーRNA(例えば、約23~30nt長を有する)の結合によりヘアピンが解放され、その結果、リボソームが結合し、発現が進行する。このため、発現は、トリガーRNAの存在下で「オン」である。
【0108】
これにより、遺伝子治療ベクターに、外因性低分子RNAの適用によって調節され得る導入遺伝子発現レベルが提供される。遺伝子治療ベクターからの導入遺伝子発現は、外因性低分子RNAの適用によって大きくすることも小さくすることもできる。RNA認識配列は、ベクター導入遺伝子産物の5’および/または3’UTRに構築され、すべての導入遺伝子に対して普遍的であり得る。調整可能な導入遺伝子発現の利点には、例えば、限定された時間のみ発現をオンにすること、または例えば安全性の向上もしくは毒性の低下のために発現をオフにすること、ならびに同じベクターにおけるオンスイッチおよびオフスイッチの組み合わせの使用が含まれる。
【0109】
実施例2
図5は、調節可能なEPO発現のためのベクターを示す。ベクター由来のhEPOは、赤血球産生を促進し、CAGプロモーターは、EPOを構成的に発現する。標的部位により、ベクター由来のEPOの発現の外因性siRNAノックダウンが可能になり、EPOおよびヘマトクリットレベルの調節ができるようになる。
【0110】
例示的な標的部位には、siSPOTRアルゴリズムにおいて99.99%および99.67%より優れたスコアを有し、かつ、例えば、ヒトまたはマウスゲノムのいずれかにおいて12~13/21ヌクレオチドのみと一致するシード配列を有するsiRNAが含まれるが、これに限定されない。
【0111】
ベクターにおける例示的な標的配列を以下に示す。
標的1:AAGATCGTCGTAAGCGCGTAA(配列番号1)
標的2:AAGTTACGCGACTTACGCGAT(配列番号2)
標的3:ACGATCGTTCATATCGCGTAT(配列番号3)
【0112】
例えば標的1~3についてトランスで供給される例示的なsiRNAは、次のとおりである。
siRNA1:GAUCGUCGUAAGCGCGUAAuu(センス)(配列番号4)
siRNA2:GUUACGCGACUUACGCGAUuu(センス)(配列番号5)
siRNA3:GAUCGUUCAUAUCGCGUAUuu(センス)(配列番号6)
【0113】
例示的な標的4~6は、miRNAを用いるシステムにおいて、例えば、AAV/Adによって発現されたmiRNAのために用いられてもよい(例えば、
図4および
図10を参照されたい)。
標的4:CTATTGACGTATGACGCGTAA(配列番号7)
標的5:CAATCCATCATTACGCGTTAA(配列番号8)
標的6:CAATCCATCAATTACGCGTTA(配列番号9)
【0114】
オンスイッチの目的で(
図2)、ヘアピンをトリガーする例示的な配列は、阻害のためのsiRNA(標的1~3、siRNA1~3)と同じであってもよい。
【0115】
同じ基準を使用して、2つの可能性のある陰性対照siRNAを設計した(標的化siRNAに類似したシード配列を有するものはいずれも除外した)。
対照siRNA1:AAGATCCCGATTGTCGATCGT(配列番号10)
対照siRNA2:ACGTCGTACGTTACCGTACGA(配列番号11)
【0116】
実施例3
ベクターを、アレルゲン特異的免疫グロビンE(IgE)に連結させたI型過敏性応答によって媒介される激しい応答(アナフィラキシー)を予防するための治療用に調製した(Pate et al.,2010、Burton&Oettgen,2011、WuZarrin,2014)(
図8)。IgE-アレルゲン複合体は、肥満細胞および好塩基球を活性化し、アレルゲンに対するアナフィラキシー応答の原因となるメディエーターを放出する(Pate et al.,2010、Burton&Oettgen,2011、Wu&Zarrin,2014)。アレルゲン特異的IgEによるアナフィラキシーの励起を妨害するための現在の療法は、ヒト免疫グロブリンE(IgE)に結合する組換えDNA由来のヒト化IgG1Kモノクローナル抗体であるオマリズマブ(Xolair(登録商標))であり(Babu et al.,2013)、これは、肥満細胞および好塩基球の表面上のIgE受容体(FcεRI)へのIgEの結合を阻害し、FcεRIを保有する細胞からのアレルギー応答のメディエーターの放出を抑制する(Holgate et al.,2005)。循環IgE抗体は、抗IgEと結合すると、特異的な高親和性Fc受容体に結合することができず、IgEに結合した抗IgEの複合体が循環から除去される(Babu e al.,2013)。オマリズマブは有効であるが(Babu e al.,2013、Leung et al.,2003、Schneider et al.,2013、Shikh&Burks,2013)、これを予防薬として使用することは、単回投与によって提供される保護が短く(2~4週間)、持続的で有効な療法を維持するためには毎月の非経口投与が必要となるため、困難である(Lowe et al.,2009、Lieberman&Chehade,2013)。反復投与の要件を避けるための戦略として、オマリズマブをコードする血清型rh.10アデノ随伴ウイルス(AAV)(AAVrh.10抗IgE)の単回投与により、抗IgEの長期発現が得られ、アレルゲン特異的誘導性アレルギー応答から保護する、ベクター07。ピーナッツ特異的ヒト血中単核細胞で再構成したNOD-scid IL2Rガンマ
null免疫不全マウスを使用して、ピーナッツに応答するヒトIgE媒介性アナフィラキシーのヒト化マウスモデルを創出した(Pagovich et al.,2016)。これらのマウスでは、ピーナッツアレルギーの個体に由来する単核細胞を生着させた後、総IgEレベルおよびピーナッツ特異的IgEレベルが生成され、ピーナッツ抽出物によるチャレンジ後のメディエーターの放出によってピーナッツ特異的アナフィラキシーが誘導された。ベクター07の単回投与では、ピーナッツ感作前の予防薬として投与した場合、またはマウスがピーナッツ誘導性アナフィラキシー関連症状を呈した後の治療薬として投与した場合のいずれでも、ピーナッツ誘導性の重度のアレルギーが持続的に防止された(
図9)。
【0117】
一実施形態では、本開示は、例えば抗IgEの発現を急性に(例えば、アナフィラキシーに対処するために)、および慢性に(例えば、寄生虫感染に対処するために)遮断する「オフスイッチ」を有するベクターを提供する。「オフスイッチ」戦略は、治療用発現カセットに、ベクター07によって指向される抗IgE発現をシャットダウンするマイクロRNA(miRNA)に応答性である配列を埋め込むことに基づく。抗IgE発現の迅速であると同時に持続的である遮断を可能にするために、抗IgEコード配列に対して3’にある21bpのmiRNA標的配列の5回の縦列反復を含むように、ベクター07をベクター07A(ベクター7A、AAVrh.10h抗IgE-T;
図10)に修飾した。ベクター07Aおよび同族miRNA送達ベクター(ベクター09Aおよびベクター09B(
図10))の設計は、Boudreau et al.(2013)およびBirmingham et al.(2007)のアルゴリズムを使用した、ヒトまたはマウスゲノムに存在しない固有の21bpのmiRNA標的部位の特定に基づく。この固有の標的は、標的外効果がない確率が99.99%超である。一実施形態では、抗IgEのベクター07A媒介性発現をシャットダウンするために、2つの遺伝子移入「オフ」ベクターを設計した。IV投与後、これらのベクターは、肝臓を標的とし、ベクター07Aにより生成されたmRNA中の同族標的に結合するエフェクターmiRNAを発現することで、破壊のためのmRNAを特定し、抗IgEのベクター07A媒介性発現を遮断する。ベクター07Aからの抗IgE発現を迅速にシャットダウンするために、ベクター07A miRNA標的と同族であるmiRNAをコードする血清型C7アデノウイルス(AdC7)ベクターであるベクター09A(AdC7miRNA-E)を用いる。AdC7は、相同エピトープが存在しないため、AdとAAVベクターとの間に交差反応性が存在しない(Blacklow et al.,1967、McCaffrey et al.,2008、De et al.,2008)ことを理由に、ベクター07Aによって誘起される免疫にもかかわらず有効であり、AdC7は、ヒト集団が既存の免疫を有しないチンパンジーに由来する(Zhi et al.,2006、Roy et al.,2004、Basnight et al.,1971、Reyes-Sandoval et al.,2004)。Adベクターの既知の薬物動態に基づいて、IV投与後、ベクター09Aは、肝臓において同族miRNAを8時間以内に発現させるため、抗IgEのベクター07A媒介性肝細胞発現を迅速にシャットダウンする(McCaffrey et al.,2008、De et al.,2008、Wen et al.,2000)。ベクター07A(AAVrh.10抗IgE-T)からの抗IgE発現を永続的にシャットダウンするために、抗AAVrh.10免疫がベクター7A(AAVrh.10ベクター)の以前の投与によって誘起されているにもかかわらずエフェクターmiRNAを発現するために効果的に機能する血清型5 AAVベクター(De et al.,2006)であるベクター09B(AAVSmiRNA-E)を用いる。AAVrh.10およびAAV5のキャプシドは、AAVrh.10に対する以前の免疫が、ベクター07Aからの抗IgE発現をシャットダウンするために使用されるAAV5ベースのベクター(ベクター09B)からの正常な発現を妨害しない、十分に異なる分岐群に由来する(Sondhi et al.,2007、Gao et al.,.2004、Piguet et al.,2012)。最後に、ベクター09Aおよびベクター09Bの組み合わせは、一緒に、急性および慢性にベクター07Aをシャットダウン、例えば、投与の8時間後に開始して無期限に抗IgE発現を永続的にシャットダウンする。
【0118】
一実施形態では、rAAVは、AAV8、AAV9、AAV5、AAV2、またはAAVrh10キャプシドを含む、目的の遺伝子、例えば、抗IgEまたは抗Siglecなどの抗体をコードするrAAVゲノムを含む。rAAVゲノムは、AAV8、AAV9、AAV5、AAV2、またはAAVrh10ゲノムを含むが、これらに限定されない任意のAAV血清型のものであってもよい。一実施形態では、第2のウイルスベクターは、siRNAをshRNAの形態で、またはsaRNA(トリガーRNA)をmiRNAとして発現する。一実施形態では、AAV8、AAV9、AAV5、AAV2、またはAAVrh10キャプシドを含むrAAVを投与した後、rAAV4またはrAAV5を投与してもよい。一実施形態では、rAAVを投与した後、非AAVウイルスベクター、例えば、アデノウイルス、レンチウイルス、ヘルペスウイルス、またはレトロウイルスベクターを投与する。
【0119】
一実施形態では、目的の遺伝子をコードする組換えアデノウイルス、レンチウイルス、ヘルペスウイルス、またはレトロウイルスが用いられる。一実施形態では、第2のウイルスベクターは、siRNAをshRNAの形態で、またはsaRNAをmiRNAとして発現する。一実施形態では、組換えアデノウイルス、レンチウイルス、ヘルペスウイルス、またはレトロウイルスベクターを投与した後、第2の異種ウイルスベクター、例えば、rAAV8、rAAV9、rAAV5、rAAV2、またはrAAVrh10ベクターを投与してもよい。
【0120】
実施例4
導入
米国における相当数の致命的およびほぼ致命的なアナフィラキシー反応の主因がアレルゲンである(Sheikh&Burks,2013、Liu et al.,2010)。重度のアレルギーを有する個体は、感作されたアレルゲンに曝露されることで、掻痒、じんましん、腫脹、湿疹、気道狭窄、腹痛、低血圧、およびアナフィラキシーを示す(Simons et al.,2011、Taylor et al.,2010)。アレルゲンによって誘導されるアナフィラキシーには、嘔吐、下痢、腹痛、血管性浮腫、喉頭水腫、気管支痙攣、下気道閉塞、低血圧、意識喪失、および時には死亡が含まれる(Simons et al.,2011、Taylor et al.,2010)。ほとんどのアレルギーは小児期に開始し、多くは成長とともに寛解しない(Sheikh &Burks,2013、Sampson,2013)。罹患している個体は、アレルゲンを厳重に避け、エピネフリン自動注射器に素早くアクセスできる状態でなければならない(Schneider et al.,,2013、Simons et al.,2011、Du et al.,2015、Sicherer et al.,2010)。利用可能な唯一の療法は、エピネフリン、脱感作、または抗IgEモノクローナルの急性使用である。抗IgEモノクローナルオマリズマブは有効であるが、ベクター7Aが好ましい理由はいくつかあり、これらには、(1)抗IgEモノクローナルは、2~4週間ごとに投与しなければならない(Lowe et al.,2009)が、ベクター07Aによる治療は単回投与であること、(2)抗IgEモノクローナルの全身投与により、即時に高い抗IgEレベルが生じるものの、続いてレベルは下がり、提供される保護は、時間の経過とともに低下するが、対照的に、ベクター07Aによって発現される血清抗IgEレベルは一定であり、薬物動態特性がより最適であること、(3)抗IgEモノクローナルを繰り返して与えるための要件は、ケアの費用を増加させ、医療提供者による繰り返しの非経口投与を必要とし、治療される個体にとって不都合であること、が含まれる。
【0121】
例示的なベクターおよび方法
ベクター07Aによる1回限りの治療は、反復的な重度のアレルギー反応のリスクを未然に防ぐ。ベクター07Aの安全性を確実にするために、AAV媒介性遺伝子治療のための「オフスイッチ」が用いられ、この戦略は、ベクター07A抗IgE遺伝子治療だけでなく、発現カセットに構築されたmiRNA標的を用いてあらゆる遺伝子治療をシャットダウンするために使用することができるプラットフォームとしても有用である。
【0122】
ベクター07A(AAVrh.10抗IgE-T)は、CAG高活性構成的プロモーターの制御下でオマリズマブを発現する非ヒト霊長類血清型rh.10 AAVベクターである。これは、ベクター07と同一であるが、ベクター09Aおよびベクター09Bによって発現されるmiRNAの標的として機能する21bp配列の5つの縦列反復を含む(オマリズマブ抗IgE重鎖および軽鎖コード配列の3’)(
図11)。21bp標的およびその同族miRNAは、マウスまたはヒトゲノムに存在しない固有の配列である。IV投与後、ベクター07Aの90%超は、AAVベクターによって媒介される遺伝子治療産物の発現および分泌に高度に有効である器官である肝臓で発現される(Pagovich et al.,2016、Mingozzi&High,2011、Sands,2011、van der Laan et al.,2011)。実験動物(Piguet et al.,Rosenberg et al.,2018、Sondhi et al.,2012、Chiuchiolo et al.,2013、Rosenberg et al.,2014、Zerah et al.,2015)およびヒトへのAAVrh.10の投与の安全性が実証されている(BB-IND1539)。オマリズマブは、リンパ球の表面上の遊離IgEおよび膜結合IgEに特異的に結合するFDAによって承認された抗IgE IgG1kモノクローナル(商品名Xolair(登録商標)、特許切れのUS2001 /6329509)である(Chang et al.,2007、Sch%ulman,2001)。ベクター07Aの候補患者を、まずオマリズマブを用いて試験して、最初の投与で最も頻繁に発生するアナフィラキシーのリスクがあるかどうかを決定する(Lieberman&Chehade,2013、Kim et al.,2010)。追加の安全戦略として、抗IgEの持続的な肝臓肝細胞発現を媒介する治療用AAVrh.10ベクターの急速かつ持続的なシャットダウンを媒介する2つのベクター07A「オフスイッチ」を調製する。ベクター07Aは、同族miRNAに基づく場合、安全性の問題のために必要であれば、抗IgEの発現をシャットダウンする埋め込みmiRNA標的配列を有する(
図11)。ベクター09Aは、IV投与時に肝臓肝細胞で発現し、ベクター7Aによって媒介される抗IgE発現を急速にシャットダウンする、同族miRNAをコードする血清型C7 Adである。ベクター09Bは、IV投与時に肝臓肝細胞で発現し、抗IgE発現を持続的にシャットダウンする、同一の同族miRNAをコードする血清型5 MVである。ベクター09Aおよびベクター09Bは、産物特異的ではなく、これらは、miRNA標的配列が治療ベクター内に構築されている限り、発現を遮断する能力が重要な安全性特徴であるいずれの遺伝子治療ベースの治療戦略にも使用することができる。
【0123】
米国では1500万人が食物アレルギーを有している(Branum&Lukacs,2010、Gupta,2011、Liu et al.,2010)。ピーナッツ、木の実、魚、および貝類に対するアレルギーは、概して生涯にわたるものである(Skripak et al.,2007、Savage et al.,2010、Savage et al.,2007、Keet et al.,2009、Sicherer et al.,2004)。小児の場合、食物アレルギーにより、年間300,000件の外来ケアユニットおよび年間9,500件の入院が生じている((Branum&Lukacs,2010)。食物アレルギー反応のための救急診療は年間200,000件あり、食物アレルギーはアナフィラキシーの主要な原因である(Sampson,2003、Clark et al.,2011)。昆虫刺傷アレルギーは、米国人口の5%に影響を及ぼし、昆虫刺傷アナフィラキシーに起因する死亡は年間90~100件である。ベクター07Aの利点は、1回限りの治療で、重度のアレルギー発症を顕著に減少させることである。
【0124】
このため、ベクター07A遺伝子治療は、アレルゲンチャレンジに起因するアナフィラキシーからの持続的な保護を提供するために、単回投与のみを必要とする。これは、いずれのIgE媒介性アレルギーにも適用することができる。オフスイッチ標的化配列を有するベクター07A、ならびに急速な(ベクター09A)および持続的な(ベクター09B)「オフスイッチ」を有するベクターの開発は、AAV創薬について一般的である。
【0125】
予備研究。ベクター07の有効性を、ピーナッツアレルギーのヒト化モデルで実証した。ベクター07Aは、抗IgE配列に対して3’にある追加のmiRNA標的外配列を除いて、ベクター07と同一である。ベクター07Aにおけるこの固有の21bpのmiRNA標的の機能を実証するために、ベクター07Aと同じプロモーター(CAG)を有するが、レポーター遺伝子を有し、ガイド鎖がベクター07Aにおける固有のkDa標的化部位に相補的な配列によって置き換えられた修飾されたmir155ベースの骨格に由来するエフェクターmi RNA(miRNA-E)(Fowler et al.,2016)が3’に続く、プラスミドを設計した。プラスミドを293T細胞±siRNA(ベクター09Aおよびベクター09Bによって発現されるmiRNAの配列と同一)にトランスフェクションすることにより、レポーター遺伝子のmRNA発現の99%を超える抑制が実証された(
図11)。
【0126】
AdC7。ベクター09A(AdC7miRNA-E、
図10)は、チンパンジーAdC7ベクターに基づく(Roy et al.,2004、Krause et al.,2013、Zhi et al.,2005)。AdC7は、抗AAV中和抗体によって認識されない。AdC7ベクターの構築および産生は、Zhi et al.(2005)およびWorgall et al.(2005)に記載のとおりである。AAV5。ベクター09B(AAVSmiRNA-E;
図10)は、De et al.(De et al.,20060にあるように構築し、産生させる。抗AAVrh.10免疫の文脈におけるAAV5の有効性。インビボ遺伝子治療の1つの課題は、AAVベクターの投与により、AAVキャプシドへの中和免疫が誘導され、その結果、同じまたは類似のキャプシドの反復投与が無効になることである。中和抗キャプシド免疫は、反復投与のキャプシドがその同族受容体に到達することを防止する。これは、血清スイッチ(seroswitch)によって、すなわち、異なる分岐群のキャプシドを使用して、回避することができる。このアプローチは、AAVrh.10中和免疫の文脈におけるAAV5ベクターによる効率的な発現の実証を含む、Ad71およびAAVベクターについて成功している(Gao et al.,2002、Davidoff et al.,2005)(De et al.(2006)の
図6を参照されたい)。
【0127】
急速かつ持続的な発現を媒介するためのAdベクターとAAVベクターとの併用投与。AAVベクターは、単回投与後に持続的な発現を提供するが、発現の開始は約1週間であり、抗抗IgE誘導性アナフィラキシーの文脈においてベクター07A抗IgE発現を遮断するのに必要な急性治療を提供するには不十分である。対照的に、Adベースのベクターの発現の開始は8時間である(McCaffrey et al.,2008、Wen et al.,2000、Chu et al.,2019、Greenberg et al.,2020)。ベクター07Aの急速かつ持続的な遮断を提供するために、ベクター09A(AdC7)とベクター09B(AAV5)との併用投与を用いて、miRNA-Eの急速かつ持続的な発現を提供する。上で考察したように、Adベクターは、AAVベクターによって誘起される免疫によっては見えず、AAV5ベクターは、抗AAVrh.10免疫の文脈において、その導入遺伝子を効果的に発現する(De et al.,2006)。AdベクターとAAVベクターとの併用投与により、同じ導入遺伝子の迅速かつ持続的な発現が提供される(De et al.,2008)。
【0128】
試験。ベクター07を、抗IgEのベクター07 A媒介性肝臓肝細胞発現をシャットダウンするAdC7(急速)および/またはAAV5(永続的)「オフスイッチ」に応答する標的miRNAを含むように改変して、ベクター07Aにする。試験の概要は表Iにあり、その後に試験の詳細が続く。
【0129】
ベクター07Aの検査。ベクター07 Aおよびベクター07の特性に関して、IV投与(各2用量)後、マウスを、肝臓抗IgE mRNAおよび血清抗IgEタンパク質レベルの等価性(±20%)について、4週目および8週目に評価する(詳細についてPagovich et al.(2016)を参照されたい)。
【0130】
ベクター09Aおよびベクター09Bの検査。ベクター09Aおよびベクター09Bを、肝臓ホモジネートのTaqMan定量化によって、エフェクターmiRNAの肝臓発現について検査する。評価は、投与の1日後、1週間後、4週間後および8週間後に行う。AdベクターおよびAAVベクターに基づいて、ベクター09A(AdC7 mCherry-miRNA-E)は、1日目(8時間)に発現し、7日目にピークとなり、4週間でピークの5%未満となる。ベクター09B(AAV5EGFP-miRNA-E)は、2週目までに75%発現され、3~4週目までに100%発現され、その後、同じレベルで持続的に発現される。
【0131】
ベクターの遮断(抗IgEのベクター07 A媒介性発現のシャットダウン)。ベクター07A投与の4週間後、抗IgE mRNA(肝臓)およびタンパク質(血清)のレベルが安定化したときに(Pagovich et al.,2016)、ベクター07 A発現をシャットダウンするための試験を実行し、急性オフベクター(ベクター09A)および持続的オフベクター(ベクター09)の一方または両方をIV投与する。「オフ」成功の評価には、ベクター07 A単独の10%未満である肝臓抗IgE mRNA(TaqMan)および血清抗IgEタンパク質(ELISA)が含まれる。ベクター09A miRNA産物が、ベクター07 A抗IgE産物と同じ肝臓細胞で発現されることを検証するために、各時点での肝臓を、ベクター07 A mRNA(インサイツハイブリダイゼーション)(Chu et al.,2019、Greenberg et al.,2020)、およびベクター09A(mCherry )もしくはベクター09B(EGFP、いずれも免疫蛍光によって評価)によって発現されるマーカー遺伝子(mCherryまたはEGFP)(Fe et al.,2017)について評価する。
【0132】
ベクター09A(AdC7ベース)およびベクター09B(AAV9ベース)の「オフ」ベクターを、治療用ベクター(AAVrh.10に基づく)であるベクター07Aの投与によって誘起される抗AAVrh.10免疫の文脈において機能するように設計した。すべてのベクターによって誘起される免疫を評価するために、AAVrh.10、AdC7、およびAAV5に対する中和抗体について、すべての時点を評価する(De et al.,2006、Rosenberg et al.,2018、Sondhi et al.,2012、Wang et al.,2014)。
【0133】
詳細な方法。ベクター07、7A、ならびに9A AAVrh.10ベクターおよびベクター09A AdC7ベクターを、以前に説明されているように製造、精製、および検査した(De et al.,2008、De et al.,2006、Sondhi et al.,2007、Rosenberg et al.,2018、Krause et al.,2011)。肝臓抗IgE mRNA(TaqMan)および血清抗IgE(ELISA)については、Pagovich et al.(2016)を参照されたい。導入遺伝子の肝臓肝細胞共発現を、抗IgEインサイツハイブリダイゼーション、mCherryおよびEGFP免疫蛍光によって評価する(Fe et al.,2017)。AAVrh.10、AdC7、およびAAV5に対する血清中和抗体を、インビトロでキャプシドマーカー遺伝子発現により評価する(De et al.,2006、Rosenberg et al.,2018)。
【0134】
(表I)ベクター07A、ベクター09A、およびベクター09Bを検査するためのマウス試験
1
【0135】
全試験は6~8週齢のCS7Bl/6マウスにおける;3つすべての目的についてPBS(リン酸緩衝生理食塩水)対照;
2ベクターの説明については
図10を参照;ベクターまたはPBSは100μlのIVで尾静脈を介して投与;
3ベクター07、ベクター07A、およびベクター09B(すべてAAVベクター)の用量はゲノムコピー単位である;ベクター09A(Adベクター)の用量は粒子単位である;目的1、2については、2用量を検査する;目的3については、目的1、2の最適用量を使用する;
4各時点について、各用量および各ベクター(またはPBS)は、n=雄5匹、雌5匹である。目的1については、評価の時点は投与後4、8週目である:目的2については、投与後1日目、1週目、4週目、8週目である;目的3については、ベクター07後4週目、その後、第2のベクター後1日目、1週目、4週目、8週目である;PBS対照については、事前;第1の投与後4週目、1日目;4、8週目。ベクター09A「オフ」についての「1日目」評価は、8時間目に行う(AdC7ベクターは8時間で発現し、7日目でピークに達する);
5目的1-肝臓抗IgE mRNA、血清抗IgEタンパク質、血清中和抗体:目的2-肝臓miRNA-E、血清中和抗体:目的3-全パラメータ;PBS-全パラメータ。
【0136】
統計。統計分析は、用量、性別、および評価時間の反復測定のための因子を用いて、各アッセイに個別に適用した反復測定ANOVA(表Iを参照)を使用して行う。次に、適切な事前対比を検討して、主要仮説を評価する。例えば、4週および8週以内ならびに両方の組み合わせについて対比する1つの試験(抗IgE mRNA、タンパク質、インサイツ抗IgE、および抗体に対する)を使用して、ベクター07Aとベクター07との間の何か有意差、およびPBSと比較した各々の有意差があるかどうかを特定し、同様に、何らかの用量の差異による影響を予測し、類似のアプローチを行って(例えば、miRNA-E、肝細胞mCherry、EGFPアッセイのため)、用量における差を評価し、また予期される経時的変化についての仮説(例えば、ベクター09Aの予期されるレベルが1日目および1週目のベクター09Bよりも有意に高く、4週目および8週目については逆である)を評価する。別の試験では、適切な対比を使用して、PBSと比較した差異を評価し、異なる時点での第2のベクター評価の前後を比較して、ベクター09A(例えば、ベクター07A「オフ」で、1日目、1週目で高くなることが予期される)、ベクター09B(ベクター07A「オフ」で、4週目、8週目で高くなる)、およびベクター09A+ベクター09B(第2のベクターの全時点/ベクター07A「オフ」で高くなる)についての抗IgEアッセイにおける有意な変化を評価する。ベクター07の投与からの抗IgEレベル(例えば、
図9を参照)を考慮し、また同様の試験ベクター発現を仮定すると、試料サイズ(例えば、用量当たり、時点当たり、5匹のM/Fマウス)は、これらの対比を治療の有意な影響を検出するために十分に強力にする。
【0137】
反復数は、8から6または4または2に減少させてもよい。ベクター07Aのシャットダウンが完了していない場合、追加の固有の標的およびエフェクターmiRNAの組み合わせを、ベクター07Aおよびベクター09A、ベクター09Bに、それぞれ加えることができる。
【0138】
マウスは、8週齢の成体として処理し、4週目および8週目、ならびに1日目、1週目、4週目、および8週目、ならびにAAVおよび/またはAdによる治療後のいくつかの時点について評価する。AAVrh.10、AAV5、およびAdC7は、2用量(1×1010および1×1011gc)で、続いて1用量で試験してもよい。例えば、2つのベクター(ベクター07、ベクター07A)×2用量×10マウス(M5匹/F5匹)/用量×2時点を使用するか、2つのベクター(ベクター09A、ベクター09B)×2用量×10マウス(M5匹/F5匹)/用量×4時点を使用するか、または4つの処置群×1用量×5時点×10マウス(M5匹/F5匹)/時点を使用し、加えてPBS対照群を使用する。
【0139】
AAVベクターおよびAdベクターの投与には、マウスへの尾静脈を介した静脈内送達経路の非外科的処置が伴う。簡潔に述べると、マウスを温めて(ヒートランプを用いる)、静脈拡張を生じさせて、血管アクセスの容易性を増加させる。マウスを、外側尾静脈にアクセスできるように、拘束装置に置く。注射前に尾部を滅菌アルコールワイプで清潔にする。インスリン28G針を外側尾静脈に向け、注射液(AA V、Ad、またはPBS)をゆっくりと投与し、注射部位に対して頭蓋に腫脹が検出されないことを確認する。静脈から針を引き抜いた後、ガーゼ(または同様の材料)を用いて約30秒間、注射部位に圧力をかけて、血腫の形成を防止し、止血が達成されたことを確認する。
【0140】
図4および
図10に記載されるベクターの標的部位およびmiRNAの例示的な配列は以下のとおりであり、miRNAは、Fowler et al.(2016)に記載されている修飾されたmir155足場に由来する。
miRNA1:
CTGGAGGCTTGCTTTGGGCTGTATGCTGTTACGCGTCATACGTCAATAGGTTTTGGCCACTGACTCGACTTATGATTATGACGCGTAACAGGACACAAGGCCCTTTATCAGCACTCACATGGAACAAATGGCCACCGTGGGAGGATGACAA(配列番号12)
miRNA2:
CTGGAGGCTTGCTTTGGGCTGTATGCTGTTACGCGTCATACGTCAATAGGTTTTGGCCACTGACTCGACTTATTATGATGACGCGTAACAGGACACAAGGCCCTTTATCAGCACTCACATGGAACAAATGGCCACCGTGGGAGGATGACAA(配列番号13)
miRNA3:
CTGGAGGCTTGCTTTGGGCTGTATGCTGTTAACGCGTAATGATGGATTGGTTTTGGCCACTGACTCGACTAATTATATTACGCGTTAACAGGACACAAGGCCCTTTATCAGCACTCACATGGAACAAATGGCCACCGTGGGAGGATGACAA(配列番号14)
miRNA4:
CTGGAGGCTTGCTTTGGGCTGTATGCTGTTAACGCGTAATGATGGATTGGTTTTGGCCACTGACTCGACTAATCATTTTACGCGTTAACAGGACACAAGGCCCTTTATCAGCACTCACATGGAACAAATGGCCACCGTGGGAGGATGACAA(配列番号15)
miRNA5:
CTGGAGGCTTGCTTTGGGCTGTATGCTGTAACGCGTAATTGATGGATTGGTTTTGGCCACTGACTCGACTAATTATAATTACGCGTTACAGGACACAAGGCCCTTTATCAGCACTCACATGGAACAAATGGCCACCGTGGGAGGATGACAA(配列番号15)
miRNA6:
CTGGAGGCTTGCTTTGGGCTGTATGCTGTAACGCGTAATTGATGGATTGGTTTTGGCCACTGACTCGACTAATCATTATTACGCGTTACAGGACACAAGGCCCTTTATCAGCACTCACATGGAACAAATGGCCACCGTGGGAGGATGACAA(配列番号16)
【0141】
図2に示されるオンスイッチについてのヘアピンの例示的な配列は、以下のとおりである。
ヘアピン1A
AAAAGATCGTCGTAAGCGCGTAATTTTCCATCAAGAACAGGCCACCATGGAAAATTACGCGAACCTGGCGGCAGCGCAAAAGATGGGGGTGCACGAATGTCCTGCC(配列番号17)
ヘアピン1B
AAAAGATCGTCGTAAGCGCGTAATTTTCCATCTAGAAGACGCCACCATGGAAAATTACGCGAACCTAGCCCCAGCCCAAAAGATGGGGGTGCACGAATGTCCTGCC(配列番号18)
ヘアピン2A
AAAAGTTACGCGACTTACGCGATTTTTCCATCAAGAACAGGCCACCATGGAAAAATCGCGTAACCTGGCGGCAGCGCAAAAGATGGGGGTGCACGAATGTCCTGCC(配列番号19)
ヘアピン2B
AAAAGTTACGCGACTTACGCGATTTTTCCATCAAGAAGACGCCACCATGGAAAAATCGCGTTACCTAGCCCCAGCCCAAAAGATGGGGGTGCACGAATGTCCTGCC(配列番号20)
【0142】
対応するトリガーは、siRNA#1およびsiRNA#2である。
【0143】
【0144】
すべての刊行物、特許、および特許出願は、参照により本明細書に組み込まれる。先の明細書において、本発明を、その特定の実施形態との関連で説明し、例示の目的で多くの詳細を記述しているが、本発明には追加の実施形態を受け入れる余地があること、および本明細書に記載される詳細のいくらかは、本発明の基本原理から逸脱することなく相当に変動され得ることは当業者には明白であろう。
【手続補正書】
【提出日】2022-06-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】