(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-16
(54)【発明の名称】新規なテトラゾール
(51)【国際特許分類】
C07D 473/18 20060101AFI20221209BHJP
C07D 487/04 20060101ALI20221209BHJP
C07D 513/04 20060101ALI20221209BHJP
A61K 31/52 20060101ALI20221209BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20221209BHJP
A61K 31/53 20060101ALI20221209BHJP
A61K 31/5025 20060101ALI20221209BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20221209BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
C07D473/18 CSP
C07D487/04 140
C07D487/04 146
C07D487/04 143
C07D487/04 144
C07D513/04 351
A61K31/52
A61K31/519
A61K31/53
A61K31/5025
A61P11/00
A61P11/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022522022
(86)(22)【出願日】2020-10-14
(85)【翻訳文提出日】2022-04-12
(86)【国際出願番号】 EP2020078856
(87)【国際公開番号】W WO2021074198
(87)【国際公開日】2021-04-22
(32)【優先日】2019-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503385923
【氏名又は名称】ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】フレック マルティン トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ビンダー フロリアン パウル クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ダーマン ゲオルク
(72)【発明者】
【氏名】ヘーン イェルク ピー
(72)【発明者】
【氏名】レッセル ウータ フリーデリーケ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルヴァチャー イェンス
【テーマコード(参考)】
4C050
4C072
4C086
【Fターム(参考)】
4C050AA01
4C050BB04
4C050BB05
4C050BB06
4C050CC07
4C050CC08
4C050EE03
4C050EE04
4C050EE05
4C050FF01
4C050GG03
4C050HH04
4C072AA01
4C072BB02
4C072CC03
4C072CC16
4C072EE13
4C072FF08
4C072GG07
4C072HH02
4C072HH07
4C072UU01
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086CB05
4C086CB06
4C086CB07
4C086CB08
4C086CB26
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA59
4C086ZA62
(57)【要約】
本発明は、テトラゾール、TRPA1活性の阻害剤としてのその使用、それを含有する医薬組成物、並びに線維性疾患、炎症性疾患、自己免疫疾患、及び中枢神経関連疾患の治療剤及び/又は予防剤としてそれを使用する方法に関する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下からなる群より選択される化合物。
【化1】
、
、
、
、
、
、
、
、及び
【請求項2】
請求項1に記載の化合物の塩、特に、医薬上許容される塩。
【請求項3】
請求項1に記載の少なくとも1つの化合物又はその医薬上許容される塩と、1又は複数の賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項4】
医薬としての使用のための、請求項1に記載の化合物又はその医薬上許容される塩。
【請求項5】
炎症性気道疾患、線維性疾患又は咳嗽の治療又は予防のための、請求項1に記載の化合物又はその医薬上許容される塩。
【請求項6】
特発性肺疾患(IPF)又は咳嗽の治療又は予防のための、請求項1に記載の化合物又はその医薬上許容される塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラゾール、TRPA1活性の阻害剤としてのその使用、それを含有する医薬組成物、並びに線維性疾患、炎症性疾患、自己免疫疾患、及び中枢神経関連疾患の治療剤及び/又は予防剤としてそれらを使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一過性受容体電位チャネル(TRPチャネル)は、多数の哺乳類細胞型において、主に細胞膜上に位置している電位依存性イオンチャネルの群である。ここで、およそ30個の構造的に関連するTRPチャネルがあり、TRPA、TRPC、TRPM、TRPML、TRPN、TRPP及びTRPVに分類されている。一過性受容器電位アンキリン1としても知られている一過性受容器電位陽イオンチャネルサブファミリーAメンバー1(TRPA1)は、TRPA遺伝子サブファミリーの唯一のメンバーである。構造上、TRPAチャネルは、アンキリン(Ankyrin)の命名における「A」のもとである、複数のN末端アンキリン反復(ヒトTRPA1のN末端に~14個がある)を特徴とする(Montell, 2005)。
【0003】
TRPA1は、皮膚にも肺にも働く後根神経節や下神経節における感覚神経の細胞膜のみならず、小腸、結腸、膵臓、骨格筋、心臓、脳、膀胱及びリンパ球(https://www.proteinatlas.org/)、並びにヒト肺線維芽細胞に高度に発現される。
【0004】
TRPA1は、疼痛、寒さ、痒みのような体性感覚障害(somatosensory modalities)を引き起こす環境刺激のセンサーとして最も知られている。TRPA1は、多くの反応性の求電子性刺激(例えば、アリルイソチオシアネート、活性酸素種)のみならず、非反応性の化合物(例えば、イシリン)により活性化され、喘息や、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や、特発性肺線維症(IPF)を伴う咳嗽、ウイルス感染後の咳嗽、慢性特発性咳嗽、又は敏感な患者における咳嗽に関与している(Song and Chang, 2015; Grace and Belvisi, 2011)。咳嗽を誘発したTGF-β上昇を示す研究に基づくと、咳嗽と肺損傷とが関連するため、TRPA1阻害剤は、咳嗽が非常に多いIPFの治療に有用である(Xie et al., 2009; Froese et al., 2016; Tschumperlin et al., 2003; Yamamoto et al., 2002; Ahamed et al., 2008)。TRPA1拮抗剤は、タバコの煙抽出物(CSE)酸化ストレス、炎症性メディエーター放出、及び減少させた抗酸化剤遺伝子発現のような咳嗽トリガーにより誘発されたカルシウムシグナル伝達を抑制する(Lin et al., 2015; Wang et al., 2019)。アトピー性皮膚炎(Oh et al., 2013; Wilson et al., 2013)、接触性皮膚炎(Liu et al., 2013)、乾癬関連の痒み(Wilson et al., 2013)及びIL-31依存性痒み(Cevikbas et al., 2014)の研究には、TRPA1拮抗剤が有効であった。ヒトTRPA1の機能獲得が、家族性偶発性疼痛症候群(familial episodic pain syndrome)と関連している(Kremeyer et al., 2010)。片頭痛関連アロディニアの行動モデルには、TRPA1拮抗剤が有効であった(Edelmayer et al., 2012)。TRPA1は、健康な歯にある三叉神経節の刺激によるTRPA1の発現と比較して、損傷した歯にある三叉神経節において選択的に増加する(Haas et al., 2011)。イソフルランを含むいくつかの麻酔薬がTRPA1拮抗剤として知られ(Matta et al., 2008)、手術後の疼痛の緩和用のTRPA1阻害剤についての論理的根拠を与える。TRPA1ノックアウトマウス及び野生型マウスが、TRPA1拮抗剤で処理された後、抗不安及び抗うつのような表現型を表す(de Moura et al., 2014)。TRPA1拮抗剤は、AMPKとTRPA1との間の逆制御における機序関連性を示す研究に基づいて、糖尿病性神経障害の治療に有利であると期待されている(Hiyama et al., 2018; Koivisto and Pertovaara, 2013; Wang et al., 2018)。TRPA1ノックアウトマウスは、野生型マウスと比較して、より小さい心筋梗塞サイズを示す(Conklin et al., 2019)。TRPA1ノックアウト及び薬理学的介入が、マウスにおけるTNBS誘発大腸炎を抑制した(Engel et al., 2011)。マウス脳虚血モデルには、TRPA1ノックアウト及びTRPA1拮抗剤がミエリン損傷を減少する(Hamilton et al., 2016)。痛風の尿酸ナトリウムマウスモデルのTRPA1ノックアウトマウスには、尿酸塩結晶及び関節炎が減少される(Moilanen et al., 2015)。ラットにおけるTRPA1欠失が、急性痛風フレアのラットモデルにおける関節炎と痛覚過敏を寛解した(Trevisan et al., 2014)。TRPA1の活性化が、骨関節炎の軟骨細胞における炎症反応を誘発させる(Nummenmaa et al., 2016)。TRPA1の抑制及び遺伝子欠失が、骨関節炎のマウス軟骨細胞及びマウス軟骨組織にある炎症性メディエーターを減少させる(Nummenmaa et al., 2016)。最後に、TRPA1ノックアウトマウスには、MIAで誘発した膝の腫れモデルにおける骨関節炎の肢に対する体重負荷の改善が表われた(Horvath et al., 2016)。TRPA1の発現は、膀胱上皮ラット(Du et al., 2007)と膀胱出口部閉塞患者(Du et al., 2008)に差異がある。TRPA1受容体の制御が、脊髄損傷ラットモデルにおける膀胱過活動を減弱し(Andrade et al., 2011)、TRPA1拮抗剤のくも膜下腔内投与が、排尿反射亢進ラットにおけるシクロホスファミド誘発性膀胱炎を減弱する(Chen et al., 2016)。
【0005】
したがって、強力なTRPA1阻害剤を提供することが期待されている。
様々な構造的クラスのTRPA1阻害剤が、S. Skerratt, Progress in Medicinal Chemistry, 2017, Volume 56, 81-115 and in D. Preti, G. Saponaro, A. Szallasi, Pharm. Pat. Anal. (2015) 4 (2), 75-94にレビューされている。
WO2017/060488には、一般式を有するTRPA1拮抗剤である化合物が開示されている。
【化1】
テトラゾリル環を有する実施例28及び29のTRPA1活性は開示されていない。
L. Schenkel, et al., J. Med. Chem. 2016, 59, 2794-2809には、一般式の化合物を含む、キナゾリノンベースのTRPA1拮抗剤が開示されている。
【化2】
その中の、化合物31(式中、RがOHである。)は、FLIPRアッセイでの拮抗的TRPA1活性(IC
50=58nM)を有し、14μL/min/kgより少ないヒト肝ミクロソームの内因性クリアランスを有する。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、驚くほど強力なTRPA1阻害剤(アッセイA)であり、さらに以下に特徴付けられる新規なチエノピリミジノンを提供する。
-改善されたヒト肝ミクロソームにおける安定性(アッセイB)
-改善されたヒト肝細胞における安定性(アッセイC)
本発明の化合物は、p-クロロフェニル基に隣接したベンジリック炭素に結合したヒドロキシル置換基を含有する点、及びいくつかの化合物がまたメチレンリンカーを介してテトラゾリル環に結合した、異なる二環部分を有する点で、WO2017/060488における実施例28及び29の構造と異なる。本発明の化合物はまた、テトラゾリル環を有するという点で、L. Schenkel, et al., J. Med. Chem. 2016, 59, 2794-2809における化合物31の構造と異なる。これらの構造的相違は、予想外に(i)TRPA1の阻害、(ii)ヒト肝ミクロソームにおける安定性、(iii)ヒト肝細胞における安定性、及び(iv)僅かな望まないヒト代謝物、という好ましい組み合わせを導き出す。
したがって、本発明の化合物は、以下のパラメーターの組み合わせの点で、先行技術に開示された化合物より優れている。
-TRPA1阻害剤としての効力
-ヒト肝ミクロソームにおける安定性
-ヒト肝細胞における安定性
-僅かな望まないヒト代謝物の生成
【発明を実施するための形態】
【0007】
ヒト肝ミクロソームにおける安定性は、第一のスクリーニング工程として薬物動態学的に良好な性質を有する薬物を選択及び/又は設計する場合の化合物の生体内変換に対する感受性を指す。多数の薬物は主に肝臓で代謝される。ヒト肝ミクロソームは、シトクロムP450(CYPs)を含有するため、インビトロでの薬物代謝の第I相研究のモデルシステムを表す。ヒト肝ミクロソームにおける安定性の向上は、バイオアベイラビリティの増加及び十分な半減期を含むいくつかの利点を伴い、より少なくかつより低い頻度の患者への投与を可能とする。そのため、ヒト肝ミクロソームにおける安定性の向上は、薬物として使用しようとする化合物の好ましい特徴となる。したがって、本発明の化合物は、TRPA1を阻害し得ることに加えて、好ましいインビボでのクリアランスを有するため、ヒトにおける所望の作用持続時間が期待される。
【0008】
ヒト肝細胞における安定性は、薬物動態学的に良好な性質を有する薬物を選択及び/又は設計する場合の化合物の生体内変換に対する感受性を指す。多数の薬物は主に肝臓で代謝される。ヒト肝細胞は、シトクロムP450(CYPs)及びほかの薬物代謝酵素を含有するため、インビトロでの薬物代謝を研究するためのモデルシステムを表す。(重要なのは、肝ミクロソームアッセイに対して、肝細胞アッセイは、第II相の生体内変換も肝臓特異的輸送体を介したプロセスも包含するため、薬物代謝を研究するためのより完璧なシステムを表す。ヒト肝細胞における安定性の向上は、バイオアベイラビリティの増加及び十分な半減期を含むいくつかの利点を伴い、より少なくかつより低い頻度の患者への投与を可能とする。そのため、ヒト肝細胞における安定性の向上は、薬物として使用しようとする化合物の好ましい特徴となる。
【0009】
用語及び定義
本明細書で特に定義されていない用語は、本開示及び文脈に照らして当業者によってそれらの用語に与えられるであろう意味が与えられるべきである。しかしながら、本明細書で使用する場合、特に断りのない限り、下記用語は示された意味を有し、下記慣習に従う。
【0010】
用語「テトラゾリル」は、下記環の基を指す。
【化3】
特に示されていない限り、本明細書及び添付した特許請求の範囲の全体を通じて、化学式又は化学名称は、互変異性体、並びにすべての立体異性体、光学異性体及び幾何異性体(例えば、鏡像異性体、ジアステレオマー、E/Z異性体など)、それらのラセミ体のみならず、別々の鏡像異性体の異なる割合の混合物、ジアステレオマーの混合物、又はこのような異性体及び鏡像異性体が存在する上述の形態のいずれかの混合物、塩(医薬上許容されるその塩を含む)、並びにその水和物などの溶媒和物(例えば、遊離化合物の溶媒和物又は当該化合物の塩の溶媒和物を含む)を包含するものとする。
【0011】
一般的に、実質的に純粋な立体異性体は、当業者に知られる合成原理に従って、例えば、対応する混合物の分離によって、立体化学的に純粋な出発物質を使用することによって、及び/又は立体選択的合成によって、得ることができる。光学活性体を調製する方法は、当技術分野において公知であり、例えば、ラセミ形の分割によって、又は例えば、光学活性出発物質から出発する合成によって、及び/又はキラル試薬を使用することによって、調製することができる。
本発明の鏡像異性的に純粋な化合物又は中間体は、不斉合成を経て、例えば、公知の方法(例えば、クロマトグラフィー分離又は結晶化)で分離できる適切なジアステレオマー化合物若しくは中間体の調製及びその後の分離によって、及び/又はキラル試薬、例えばキラル出発物質、キラル触媒若しくはキラル補助剤を使用することによって調製可能である。
また、鏡像異性的に純粋な化合物を対応するラセミ混合物から調製する方法は当業者に知られており、例えば、キラル固定相上での対応するラセミ混合物のクロマトグラフィー分離によって;適切な分割剤を使用するラセミ混合物の分割によって、例えば、ラセミ化合物と光学活性酸若しくは塩基とのジアステレオマー塩形成、その後の塩の分割及び塩からの所望化合物の遊離を利用して;対応するラセミ化合物の光学活性キラル補助剤による誘導体化、その後のジアステレオマー分離及びキラル補助基の除去によって;ラセミ体の速度論的分割によって(例えば、酵素分割によって);適切な条件の下での鏡像結晶の集合体からのエナンチオ選択的結晶化によって;又は光学活性キラル補助剤の存在下での適切な溶媒からの(分画)結晶化によって、調製することができる。
【0012】
本明細書で使用する用語「医薬上許容される」は、健全な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、又は他の問題若しくは合併症がない使用に適しており、かつ、妥当的なベネフィット/リスク比に見合う当該化合物、材料、組成物、及び/又は剤形を意味する。
本明細書で使用する場合、「医薬上許容される塩」は、親化合物がその酸塩若しくは塩基塩又はその酸複合体若しくは塩基複合体を作ることによる開示化合物の誘導体を指す。
塩基性部分を含有する親化合物と医薬上許容される塩を作る酸の例には、鉱酸又は有機酸が含まれ、例えば、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、クエン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、ゲンチジン酸、臭化水素酸、塩酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、4-メチル-ベンゼンスルホン酸、リン酸、サリチル酸、コハク酸、硫酸及び酒石酸が挙げられる。
酸性部分を含有する親化合物と医薬上許容される塩を作る陽イオンや塩基の例には、Na+、K+、Ca2+、Mg2+、NH4
+、L-アルギニン、2,2’-イミノビスエタノール、L-リシン、N-メチル-D-グルカミン及びトリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタンが含まれる。本発明の医薬上許容される塩は、塩基性又は酸性部分を含有する親化合物から通常の化学的方法によって合成可能である。一般的に、かかる塩は、水中で又はエーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール、若しくはアセトニトリル、又はそれらの混合物のような有機希釈剤中で、これらの化合物の遊離酸又は遊離塩基を十分な量の適切な塩基又は酸と反応させることによって調製可能である。
上記酸以外の、例えば本発明の化合物を精製又は単離することに役立つ酸の塩(例えば、トリフルオロ酢酸塩)も、本発明の一部を構成する。
【0013】
生物学的アッセイ
アッセイA:TRPA1アッセイ
下記インビトロでのTRPA1細胞アッセイを使用することで、本発明の化合物の活性を示すことができる。
【0014】
方法:
化合物の効能及び効力の試験システムとして、ヒトTRPA1イオンチャネル(Perkin Elmer、製品番号AX-004-PCL)を過剰発現するヒトHEK293細胞株を使用した。FLIPR Tetraシステム(Molecular Devices)により、AITC(アリルイソチオシアナート)のアゴニズムによって誘発された細胞内カルシウム濃度への化合物の効果を測定することで、化合物の活性を決めた。
【0015】
細胞の培養:
細胞は、クライオバイアルに凍結した細胞として取得し、使用するまで-150℃に保存した。
細胞を培地(10%FCS及び0.4mg/MLジェネティシンを含むMEM/EBSS培地)中で増殖させた。重要なのは、密度が90%コンフルエンスを超えてはならないことである。継代培養のため、Versene液で細胞をフラスコから剥離した。当該アッセイを行う前日、細胞を剥離し、培地(10%FCSを含むMEM/EBSS培地)で2回洗浄し、20000個細胞(20μL/ウェル)をポリ-D-リシンでバイオコートされた384ウェルプレートに播種した(黒色、透明底面、カタログ番号356697、Corning製)。当該アッセイに使用する前に、プレートを37℃/5%CO2で24時間インキュベートした。
【0016】
化合物の調製:
試験化合物を100%DMSOに溶解し、10mMの濃度にして、第一工程においてDMSOで5mMの濃度に希釈し、続いて100%DMSOで連続希釈工程を行った。希釈工程における希釈倍率と回数は、必要に応じて変更することができる。典型的に、1:5の希釈によって8つの異なる濃度を調製し、さらにpH7.4のHBSS/HEPES緩衝液(1xHEPES、カタログ番号14065、Gibco製;20mM HEPES、カタログ番号83264、SIGMA製;0.1%BSA、カタログ番号11926、Invitrogen製)で物質の中間希釈(1:20)を行った。
【0017】
FLIPRアッセイ:
アッセイの日に細胞をアッセイバッファーで3回洗浄し、洗浄後に20μLバッファーをウェルに残した。10μLCa6キット(カタログ番号R8191、Molecular Devices)のHBSS/HEPES中のローディングバッファーを細胞に添加し、プレートに蓋をして37℃/5%CO2で120分間インキュベートした。中間希釈プレートからのHBSS/HEPES緩衝液/5%DMSO中の10μL化合物又はコントロールを慎重に細胞に添加した。FLIPRtetra装置で10分間発光(カルシウム流入又は放出を示す)を読み取り、効果(例えば、アゴニズム)を誘発する化合物をモニターした。最後に、HBSS/HEPES緩衝液/0.05%DMSOに溶解させた10μLのアゴニストAITC 50μM(最終濃度10μM)をウェルに添加した上で、FLIPRtetra装置でさらに10分間読み取った。AITC添加後のシグナル曲線下面積(AUC)を、IC50/%阻害の計算に使用した。
【0018】
データ評価及び計算:
各アッセイマイクロタイタープレートは、AITC誘発発光用のコントロール(100%CTL;高コントロール)とする化合物の代わりに、ビビクル(1%DMSO)コントロールを有するウェルと、発光における非特異的変化用のコントロール(0%CTL;低コントロール)とするAITCなしでのビビクルコントロールとを含有した。データ分析は、個々のウェルのシグナル曲線下面積の計算により行った。この数値に基づいて、各物質濃度の測定のための%値を、MegaLabソフトウェア(内部開発品)で算出した(AUC(サンプル)-AUC(低)×100/AUC(高)-AUC(低))。IC50値は、MegaLabソフトウェアを使用した%コントロール値から算出した。計算:[y=(a-d)/(1+(x/c)^b)+d]、a=低い値、d=高い値;x=conc M;c=IC50 M;b=hill;y=%コントロール
【0019】
表1:アッセイAで得られた本発明の化合物の生物学的データ
【表1】
【0020】
表2:アッセイAで得られた先行技術の化合物(WO2017/060488における実施例28及び29)の生物学的データ
【表2】
【0021】
表3:アッセイAで得られた先行技術文献の化合物(L. Schenkel, et al., J. Med. Chem. 2016, 59, 2794-2809における実施例31)の生物学的データ
【表3】
【0022】
アッセイB:ミクロソームクリアランス
試験化合物の代謝分解は、蓄えた肝臓ミクロソームを用いて37℃で検定した。各時点での100μLの最終インキュベーション容積は、室温でpH7.6のTRISバッファー(0.1M)、塩化マグネシウム(5mM)、ミクロソームタンパク質(1mg/mL)及び最終濃度1μMの試験化合物を含有する。
37℃での短いプレインキュベーション期間の後に、反応を、還元型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH、1mM)の添加により開始し、異なる時点(0、5、15、30、60分)後に一定分量を溶媒に移すことで終了させた。加えて、NADPH非依存性分解がNADPHなしでのインキュベーション中にモニターされ、最後の時点で終了させた。NADPH非依存性インキュベーション後の残りの試験化合物[%]が、パラメーターc(コントロール)(代謝安定性)によって反映される。クエンチしたインキュベーションが遠心分離(10000g、5分間)によってペレット状になる。一定分量の上清を、LC-MS/MSによって親化合物の量について検定する。半減期(t1/2、インビトロ)は、濃度-時間プロファイルの片対数プロットの勾配で決まる。
【0023】
内因性クリアランス(CL_INTRINSIC)は、インキュベーションにおけるタンパク質の量を考えて算出する。
CL_INTRINSIC[μL/分/mgタンパク質]=(Ln 2/(半減期[分]×タンパク質含有量[mg/mL]))×1000
CL_INTRINSIC_インビボ[mL/分/kg]=(CL_INTRINSIC[μL/分/mgタンパク質]×MPPGL[mgタンパク質/g肝臓]×肝臓因子[g/kg体重])/1000
Qh[%]=CL[mL/分/kg]/肝臓血流[mL/分/kg])
肝細胞充実性(hepatocellularity)、ヒト:120×106細胞/g肝臓
肝臓因子、ヒト:25.7g/kg体重
血流、ヒト:21mL/(分×kg)
【0024】
表4:アッセイBで得られた本発明の化合物の生物学的データ
【表4】
【0025】
表5:アッセイBで得られた先行技術の化合物(WO2017/060488における実施例28及び29)の生物学的データ
【表5】
【0026】
表6:アッセイBで得られた先行技術文献の化合物(L. Schenkel, et al., J. Med. Chem. 2016, 59, 2794-2809における実施例31)の生物学的データ
【表6】
【0027】
アッセイC:肝細胞クリアランス
試験化合物の代謝分解は、肝細胞懸濁液で測定した。肝細胞(凍結保存したもの)を、5%又は50%種血清を含有するダルベッコ改変イーグル培地(3.5μgグルカゴン/500mL、2.5mgインシュリン/500mL及び3.75mg/500mLヒドロコルチゾンを補充したもの)でインキュベートした。
インキュベーター(37℃、10%CO2)で30分間のプレインキュベーションの後に、5μLの試験化合物の溶液(80μM;2mMのDMSO原液を培地で25倍希釈した)を395μL肝細胞懸濁液(細胞密度が、種によって0.25~5百万(Mio)細胞/mLであり、典型的に、1百万細胞/mLである;試験化合物の最終濃度が、1μMであり、DMSO最終濃度が、0.05%である)の中に添加した。
細胞を6時間インキュベートし(インキュベーター、オービタルシェーカー)、サンプル(25μL)を0、0.5、1、2、4及び6時間に採取する。サンプルをアセトニトリルの中に移し、遠心分離(5分間)によりペレット状にする。上清を新たな96-ディープウェルプレートに移し、窒素の下で蒸発させて再懸濁する。
【0028】
親化合物の減少を、HPLC-MS/MSによって分析する。
CLintは、下記のとおりに算出する。
CL_INTRINSIC=用量/AUC=(C0/CD)/(AUD+clast/k)×1000/60。C0:インキュベーションの最初濃度[μM]、CD:生細胞の細胞密度[106細胞/mL]、AUD:データ下面積[μM×h]、clast:最後のデータポイントの濃度[μM]、k:親化合物減少の回帰直線の勾配[h-1]。
算出したインビトロでの肝臓内因性クリアランスは、肝臓モデル(よく撹拌されたモデル)の使用によって、インビボでの内因性クリアランスにスケールアップされ、インビトロでの肝臓血液クリアランス(CL)の予測に用いることができる。
CL_INTRINSIC_INVIVO[mL/分/kg]=(CL_INTRINSIC[μL/分/106細胞]×肝細胞充実性[106細胞/g肝臓]×肝臓因子[g/kg体重])/1000
CL[mL/分/kg]=CL_INTRINSIC_INVIVO[mL/分/kg]×肝臓血流[mL/分/kg]/(CL_INTRINSIC_INVIVO[mL/分/kg]+肝臓血流[mL/分/kg])
Qh[%]=CL[mL/分/kg]/肝臓血流[mL/分/kg])
肝細胞充実性、ヒト:120×106細胞/g肝臓
肝臓因子、ヒト:25.7g/kg体重
血流、ヒト:21mL/(分×kg)
【0029】
表7:アッセイCで得られた本発明の化合物の生物学的データ
【表7】
【0030】
表8:アッセイCで得られた先行技術の化合物(WO2017/060488における実施例28及び29)の生物学的データ
【表8】
【0031】
表9:アッセイCで得られた先行技術文献の化合物(L. Schenkel, et al., J. Med. Chem. 2016, 59, 2794-2809における実施例31)の生物学的データ
【表9】
【0032】
アッセイD:インビトロでのヒト肝細胞における代謝
試験化合物の代謝経路を、懸濁液における初代ヒト肝細胞を用いて調べる。凍結保存からの回復後に、ヒト肝細胞を、5%ヒト血清を含有し、かつ、3.5μgグルカゴン/500mL、2.5mgインシュリン/500mL及び3.75mg/500mLヒドロコルチゾンを補充したダルベッコ改変イーグル培地でインキュベートした。
細胞培養インキュベーター(37℃、10%CO2)で30分間のプレインキュベーションの後に、試験化合物の溶液を肝細胞懸濁液の中に注入して、最終細胞密度1.0×106~4.0×106細胞/mL(初代ヒト肝細胞で観察された化合物の代謝回転速度による)、最終化合物濃度10μM、及び最終DMSO濃度0.05%となるようにする。
細胞を細胞培養インキュベーター内の水平型シェーカーの上で6時間インキュベートし、代謝回転速度によって0、0.5、1、2、4、又は6時間後にインキュベーションからサンプルを取り出す。サンプルをアセトニトリルでクエンチさせ、遠心分離によりペレット状にする。推定上の代謝物質の同定のための液体クロマトグラフィー-高分解能質量分析計による生体分析の前に、上清を96-ディープウェルプレートに移し、窒素下で蒸発させて再懸濁する。
【0033】
表10:アッセイDで得られた本発明の実施例5について観察された主要な代謝物質
【表10】
暫定的なLC-MS
n構造解析に基づくと、上述した代謝物質のいずれにもテトラゾール環の完全性が影響されていなかった。
【0034】
治療方法
本発明は、TRPA1活性と関連するか、若しくは前記活性によって調節される疾患及び/又は状態の予防及び/又は治療に有用である一般式1の化合物に係るものであって、線維性疾患、炎症性及び免疫調節性障害、呼吸器又は消化器の疾患又は愁訴、眼科疾患、関節の炎症性疾患、並びに鼻咽腔、目及び皮膚の炎症性疾患の治療及び/又は予防を含むが、これらに限定されない。上記の障害、疾患及び愁訴には、咳嗽、特発性肺線維症、他の間質性肺疾患及び他の線維性疾患、喘息又はアレルギー疾患、好酸球性疾患、慢性閉塞性肺疾患のみならず、関節リウマチやアテローム性動脈硬化のような自己免疫病態、疼痛、並びにうつ病のような神経学的障害が挙げられる。
【0035】
一般式1の化合物は、以下の予防及び/又は治療に有用である:
(1)咳嗽、例えば、慢性特発性咳嗽若しくは慢性難治性咳嗽、喘息、COPD及び肺がんに伴う咳嗽、ウイルス感染後の咳嗽;
(2)肺線維性疾患、例えば、膠原線維症(例えば、エリテマトーデス、全身性強皮症、関節リウマチ、多発性筋炎、皮膚筋炎)を伴う肺炎若しくは間質性肺炎、肺線維症(IPF)などの特発性間質性肺炎、非特異性間質性肺炎、呼吸細気管支炎関連間質性肺疾患(respiratory bronchiolitis-associated interstitial lung disease)、剥離性間質性肺炎、特発性器質化肺炎、急性間質性肺炎やリンパ球性間質性肺炎、リンパ脈管筋腫症、肺胞タンパク症、ランゲルハンス細胞組織球症、上葉性肺線維症、公知原因の間質性肺疾患、例えば、職業性曝露(例えば、石綿肺症、珪肺症、坑夫肺(炭塵)、農夫肺(干し草やカビ)、鳩飼育者肺(鳥)、他の職業の風媒性トリガー(例えば、メタルダスト、マイコバクテリア))の結果となった間質性肺炎や、治療(例えば、放射線、メトトレキサート、アミオダロン、ニトロフラントイン、化学療法薬)の結果となった間質性肺炎、多発血管炎性肉芽腫症、チャーグ・ストラウス症候群、サルコイドーシスなどの肉芽腫性疾患、過敏性肺炎、異なる起因(例えば、毒性ガス、蒸気の誤嚥や吸入)による間質性肺炎、心不全、X線、放射線、化学療法、サルコイドーシス(M.boeck、sarcoidosis)、肉芽腫症、嚢胞性線維症(cystic fibrosis、mucoviscidosis)若しくはα1-アンチトリプシン欠乏症による気管支炎、肺炎若しくは間質性肺炎;
(3)他の線維性疾患、例えば、肝臓架橋線維症(hepatic bridging fibrosis)、肝硬変、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、心房線維症、心内膜心筋線維症、陳旧性心筋梗塞、グリア性瘢痕、動脈スティフネス、関節線維症、デュピュイトラン拘縮、ケロイド、強皮症/全身性強皮症、縦隔線維症、骨髄線維症、ペロニー病、腎性全身性線維症、後腹膜線維症、癒着性関節包炎;
(4)炎症性、自己免疫又はアレルギー疾患及び状態、例えば、アレルギー性若しくは非アレルギー性鼻炎若しくは副鼻腔炎、慢性副鼻腔炎若しくは鼻炎、鼻ポリポーシス、慢性副鼻腔炎、急性副鼻腔炎、喘息、小児喘息、アレルギー性気管支炎、肺胞炎、過反応性気道疾患(hyperreactive airways)、アレルギー性結膜炎、気管支拡張症、成人型呼吸窮迫症候群、気管支浮腫及び肺水腫、気管支炎若しくは肺炎、好酸球性蜂巣炎(例えば、ウェルズ症候群)、好酸球性肺炎(例えば、レフレル症候群、慢性好酸球性肺炎)、好酸球性筋膜炎(例えば、シュルマン症候群)、遅延型過敏反応、非アレルギー性喘息;運動誘発性気管支収縮;慢性閉塞性肺疾患(COPD)、急性気管支炎、慢性気管支炎、咳嗽、肺気腫;全身性アナフィラキシー若しくは過敏性反応、薬物アレルギー(例えば、ペニシリン、セファロスポリンに対する)、汚染トリプトファンの摂取が原因である好酸球増加筋肉痛症候群、虫刺されアレルギー;自己免疫疾患、例えば、関節リウマチ、グレーブス病、シェーグレン症候群、乾癬性関節炎、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、重症筋無力症免疫性、血小板減少症(成人ITP、新生児血小板減少症、小児ITP)、免疫性溶血性貧血(自己免疫や薬物による誘発)、エバンス症候群(血小板と赤血球の免疫性血球減少症)、新生児Rh式疾患、グッドパスチャー症候群(抗GBM病)、セリアック病、自己免疫性心筋症、若年型糖尿病;糸球体腎炎、自己免疫性甲状腺炎、ベーチェット病;同種移植片拒絶若しくは移植片対宿主病を含む、移植片拒絶(例えば、移植中);炎症性腸疾患、例えば、クローン病、潰瘍性大腸炎;脊椎関節症;強皮症;乾癬(T細胞媒介性乾癬を含む)と、炎症性皮膚疾患、例えば、皮膚炎、湿疹、アトピー性皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎、じんま疹;血管炎(例えば、壊死性血管炎、皮膚血管炎、過敏性血管炎);結節性紅斑;好酸球性筋炎、好酸球性筋膜炎、皮膚若しくは器官のリンパ球浸潤を伴うがん;眼科疾患、例えば、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症及び糖尿病黄斑浮腫、角膜炎、好酸球性角膜炎、角結膜炎、春季カタル、瘢痕、前眼部瘢痕(anterior segment scarring)、眼瞼炎、眼瞼結膜炎、水疱性障害、瘢痕性類天疱瘡、結膜黒色腫、乳頭結膜炎、ドライアイ、上強膜炎、緑内障、グリオーシス、環状肉芽腫、グレーブス眼症、眼球内黒色腫、瞼裂斑、増殖性硝子体網膜症、翼状片、強膜炎、ぶどう膜炎;急性痛風フレア、痛風若しくは変形性関節症;
(5)疼痛、例えば、慢性特発性痛症候群、神経障害性疼痛、異常感覚、異痛症、片頭痛、歯痛、及び手術後の疼痛;
(6)うつ病、不安、糖尿病性ニューロパチー、及び膀胱障害、例えば、膀胱下尿道閉塞、過活動膀胱、膀胱炎;心筋再灌流障害若しくは脳虚血障害。
【0036】
したがって、本発明は、医薬としての使用のための一般式1の化合物に関する。
【0037】
さらに、本発明は、TRPA1活性と関連するか、若しくは前記活性によって調節される疾患及び/又は状態の治療及び/又は予防のための、一般式1の化合物の使用に関する。
【0038】
さらに、本発明は、線維性疾患、炎症性及び免疫調節性障害、呼吸器又は消化器の疾患又は愁訴、眼科疾患、関節炎症性疾患、並びに鼻咽腔、目及び皮膚の炎症性疾患の治療及び/又は予防のための、一般式1の化合物の使用に関する。上記の障害、疾患及び愁訴には、咳嗽、特発性肺線維症、他の間質性肺疾患及び他の線維性疾患、喘息又はアレルギー疾患、好酸球性疾患、慢性閉塞性肺疾患のみならず、関節リウマチやアテローム性動脈硬化のような自己免疫病態が挙げられる。
【0039】
さらに、本発明は、以下の治療及び/又は予防のための一般式1の化合物の使用に関する:
(1)咳嗽、例えば、慢性特発性咳嗽若しくは慢性難治性咳嗽、喘息、COPD及び肺がんを伴う咳嗽、ウイルス感染後の咳嗽;
(2)肺線維性疾患、例えば、膠原線維症(例えば、エリテマトーデス、全身性強皮症、関節リウマチ、多発性筋炎、皮膚筋炎)を伴う肺炎若しくは間質性肺炎、肺線維症(IPF)などの特発性間質性肺炎、非特異性間質性肺炎、呼吸細気管支炎関連間質性肺疾患、剥離性間質性肺炎、特発性器質化肺炎、急性間質性肺炎やリンパ球性間質性肺炎、リンパ脈管筋腫症、肺胞タンパク症、ランゲルハンス細胞組織球症、上葉性肺線維症、公知原因の間質性肺疾患、例えば、職業性曝露(例えば、石綿肺症、珪肺症、坑夫肺(炭塵)、農夫肺(干し草やカビ)、鳩飼育者肺(鳥)、他の職業の風媒性トリガー(例えば、メタルダスト、マイコバクテリア))の結果となった間質性肺炎や、治療(例えば、放射線、メトトレキサート、アミオダロン、ニトロフラントイン、化学療法薬)の結果となった間質性肺炎、多発血管炎性肉芽腫症、チャーグ・ストラウス症候群、サルコイドーシスなどの肉芽腫性疾患、過敏性肺炎異なる起因(例えば、毒性ガス、蒸気の誤嚥や吸入)による間質性肺炎、心不全、X線、放射線、化学療法、サルコイドーシス(M.boeck、sarcoidosis)、肉芽腫症、嚢胞性線維症(cystic fibrosis、mucoviscidosis)若しくはα1-アンチトリプシン欠乏症による気管支炎、肺炎若しくは間質性肺炎;
(3)他の線維性疾患、例えば、肝臓架橋線維症、肝硬変、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、心房線維症、心内膜心筋線維症、陳旧性心筋梗塞、グリア性瘢痕、動脈スティフネス、関節線維症、デュピュイトラン拘縮、ケロイド、強皮症/全身性強皮症、縦隔線維症、骨髄線維症、ペロニー病、腎性全身性線維症、後腹膜線維症、癒着性関節包炎;
(4)炎症性、自己免疫又はアレルギー疾患及び状態、例えば、アレルギー性若しくは非アレルギー性鼻炎若しくは副鼻腔炎、慢性副鼻腔炎若しくは鼻炎、鼻ポリポーシス、慢性副鼻腔炎、急性副鼻腔炎、喘息、小児喘息、アレルギー性気管支炎、肺胞炎、過反応性気道疾患、アレルギー性結膜炎、気管支拡張症、成人型呼吸窮迫症候群、気管支浮腫及び肺水腫、気管支炎若しくは肺炎、好酸球性蜂巣炎(例えば、ウェルズ症候群)、好酸球性肺炎(例えば、レフレル症候群、慢性好酸球性肺炎)、好酸球性筋膜炎(例えば、シュルマン症候群)、遅延型過敏反応、非アレルギー性喘息;運動誘発性気管支収縮;慢性閉塞性肺疾患(COPD)、急性気管支炎、慢性気管支炎、咳嗽、肺気腫;全身性アナフィラキシー若しくは過敏性反応、薬物アレルギー(例えば、ペニシリン、セファロスポリンに対する)、汚染トリプトファンの摂取が原因である好酸球増加筋肉痛症候群、虫刺されアレルギー;自己免疫疾患、例えば、関節リウマチ、グレーブス病、シェーグレン症候群、乾癬性関節炎、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、重症筋無力症、免疫性血小板減少症(成人ITP、新生児血小板減少症、小児ITP)、免疫性溶血性貧血(自己免疫や薬物によって誘発された)、エバンス症候群(血小板と赤血球の免疫性血球減少症)、新生児Rh式疾患、グッドパスチャー症候群(抗GBM病)、セリアック病、自己免疫性心筋症、若年型糖尿病;糸球体腎炎、自己免疫性甲状腺炎、ベーチェット病;同種移植片拒絶若しくは移植片対宿主病を含む、移植片拒絶(例えば、移植中);炎症性腸疾患、例えば、クローン病、潰瘍性大腸炎;脊椎関節症;強皮症;乾癬(T細胞媒介性乾癬を含む)と、炎症性皮膚疾患、例えば、皮膚炎、湿疹、アトピー性皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎、じんま疹;血管炎(例えば、壊死性血管炎、皮膚血管炎、過敏性血管炎);結節性紅斑;好酸球性筋炎、好酸球性筋膜炎、皮膚若しくは器官のリンパ球浸潤を伴うがん;眼科疾患、例えば、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症や糖尿病黄斑浮腫、角膜炎、好酸球性角膜炎、角結膜炎、春季カタル、瘢痕、前眼部瘢痕、眼瞼炎、眼瞼結膜炎、水疱性障害、瘢痕性類天疱瘡、結膜黒色腫、乳頭結膜炎、ドライアイ、上強膜炎、緑内障、グリオーシス、環状肉芽腫、グレーブス眼症、眼球内黒色腫、瞼裂斑、増殖性硝子体網膜症、翼状片、強膜炎、ぶどう膜炎;急性痛風フレア、痛風若しくは変形性関節症;
(5)疼痛、例えば、慢性特発性痛症候群、神経障害性疼痛、異常感覚、異痛症、片頭痛、歯痛、手術後の疼痛;
(6)うつ病、不安、糖尿病性ニューロパチー、及び膀胱障害、例えば、膀胱下尿道閉塞、過活動膀胱、膀胱炎;心筋再灌流障害若しくは脳虚血障害。
【0040】
さらなる態様では、本発明は、上述した疾患及び状態の治療並びに/又は予防に用いられる一般式1の化合物に関する。
【0041】
さらなる態様では、本発明は、上述した疾患及び状態の治療用並びに/又は予防用医薬の調製のための一般式1の化合物の使用に関する。
【0042】
さらなる態様では、本発明は、上述した疾患及び状態の治療又は予防のための方法に関し、当該方法は、有効量の一般式1の化合物のヒトへの投与を含む。
【0043】
併用療法
本発明の化合物はまた、1又は複数の、好ましくは1つの追加の治療剤と併用してもよい。1つの実施形態によると、追加の治療剤は、上記に記載された疾患又は状態(特に、線維性疾患、炎症性及び免疫調節性障害、呼吸器若しくは消化器の疾患若しくは愁訴、関節炎症性疾患、若しくは鼻咽腔、目及び皮膚の炎症性疾患、又は状態、例えば、咳嗽、特発性肺線維症、他の間質性肺疾患、喘息若しくはアレルギー性疾患、好酸球性疾患、慢性閉塞性肺疾患、アトピー性皮膚炎のみならず、自己免疫性病態、例えば、関節リウマチ、アテローム性動脈硬化と関連する)の治療に有用である治療剤、又は眼科疾患、疼痛及びうつ病の治療に有用である治療剤の群から選択される。
【0044】
かかる併用に適した追加の治療剤としては、特に例えば、上記の記載の1つに関して1若しくは複数の活性物質の治療効果を増強させるもの、及び/又は1若しくは複数の活性物質の投与量を減少させるものが挙げられる。
したがって、本発明は、抗線維化薬、鎮咳薬、抗炎症薬、抗アトピー性皮膚炎薬、鎮痛薬、抗痙攣薬、抗不安薬、鎮静薬、骨格筋弛緩薬及び抗うつ薬からなる群より選択される1又は複数の追加の治療剤と併用することが可能である。
【0045】
抗線維化薬の例としては、ニンテダニブ、ピルフェニドン、ロフルミラストなどのホスホジエステラーゼ-IV(PDE4)阻害剤、GLPG-1690やBBT-877などのオートタキシン阻害剤;パムレブルマブなどの結合組織増殖因子(CTGF)遮断抗体薬;ラナデルマブなどのB細胞活性化因子受容体(BAFF-R)遮断抗体薬;BG-00011/STX-100などのα-V/β-6遮断阻害剤、PRM-151などの組換えペントラキシン-2(PTX-2);CC-90001などのc-JunN末端キナーゼ(JNK)阻害剤;TD-139などのガレクチン-3阻害剤;GLPG-1205などのGタンパク質共役型受容体84(GPR84)阻害剤;PBI-4050などのGタンパク質共役型受容体84/Gタンパク質共役型受容体40の二重阻害剤;KD-025などのRho関連コイルドコイル含有タンパク質キナーゼ2(ROCK2)阻害剤;BMS-986263/ND-L02-s0201などの熱ショックタンパク質47(HSP47)の低分子干渉RNA;SM-04646などのWnt経路阻害剤;チペルカストなどのLD4/PDE3/4阻害剤;ATYR-1923などのヒスチジルtRNA合成酵素(HARS)の組換え免疫調節性ドメイン;ZL-2102/SAR-191801などのプロスタグランジン合成酵素阻害剤;15-ヒドロキシエイコサペンタエン酸(15-HEPE、例えば、DS-102);PAT-1251、PXS-5382/PXS-5338などのリシルオキシダーゼ様2(LOXL2)阻害剤;HEC-68498などのホスホイノシチド3キナーゼ(PI3K)/哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)の二重阻害剤;BLD-2660などのカルパイン阻害剤;MG-S-2525などのマイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼキナーゼ(MAP3K19)阻害剤;OATD-01などのキチナーゼ阻害剤;MMI-0100などのマイトジェン活性化プロテインキナーゼ-活性化プロテインキナーゼ2(MAPKAPK2)阻害剤;TRK250/BNC-1021などのトランスフォーミング増殖因子β1(TGF-β1)低分子干渉RNA;BMS-986278などのリゾホスファチジン酸受容体拮抗剤が挙げられる。
【0046】
鎮咳薬の例としては、ゲーファピキサント、S-600918、BAY-1817080や、BLU-5937などのプリン受容体3(P2X3)受容体拮抗剤;オルベピタント、アプレピタントなどのニューロキニン1(NK-1)受容体拮抗剤;ATA-101/ブラダニクリンなどのニコチン性アセチルコリン受容体α7サブユニット刺激剤;コデイン、ガバペンチン、プレガバリン、アジスロマイシンが挙げられる。
【0047】
抗炎症薬の例としては、プレドニゾロンやデキサメタゾンなどの副腎皮質ステロイド;セレコキシブ、ロフェコキシブ、パレコキシブ、バルデコキシブ、デラコキシブ、エトリコキシブやルミラコキシブなどのシクロオキシゲナーゼ-2(COX2)阻害剤;プロスタグランジンE2拮抗剤;ロイコトリエンB4拮抗剤;モンテルカストなどのロイコトリエンD4拮抗剤;5-リポキシゲナーゼ阻害剤;アスピリン、ジクロフェナク、ジフルニサル、エトドラク、イブプロフェンやインドメタシンなどの他の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が挙げられる。
【0048】
抗アトピー性皮膚炎薬の例としては、シクロスポリン、メトトレキサート、ミコフェノール酸モフェチル、アザチオプリン、ホスホジエステラーゼ阻害剤(例えば、アプレミラスト、クリサボロール)、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤(例えば、トファシチニブ)、抗IL-4/IL-13中和抗体(例えば、デュピルマブ)、抗IL-13中和抗体(例えば、レブリキズマブ、トラロキヌマブ)、抗IL-31中和抗体(ネモリズマブ)が挙げられる。
【0049】
鎮痛薬の例としては、オピオイド系に関して、例えば、モルヒネ, オキシモルフィン、レボルファノール、オキシコドン、プロポキシフェン、ナルメフェン、フェンタニル、ヒドロコドン、ヒドロモルフォン、メリピジン(meripidine)、メサドン、ナロルフィン、ナロキソン、ナルトレキソン、ブプレノルフィン、ブトルファノール、ナルブフィン、ペンタゾシンが挙げられ;非オピオイド系に関して、例えば、アセトフェナミン(acetophenamine)が挙げられる。
【0050】
抗うつ薬の例としては、アミトリプチリン、クロミプラミン、デシプラミン(despramine)、ドキセピン、デシプラミン(desipramine)、イミプラミン、ノルトリプチリンなどの三環系抗うつ薬;フルオキセチン、パロキセチン、セルトラリン、シタロプラム、エスシタロプラムなどの選択的セロトニン再取り込み阻害剤抗うつ薬(SSRIs);マプロチリン、ロフェプラミン、ミルタザピン、オキサプロチリン、フェゾラミン、トモキセチン、ミアンセリン、ブプロピオン、ヒドロキシブプロピオン、ノミフェンシン、ヴィロキサジンなどのノルエピネフリン再取り込み阻害剤抗うつ薬(SNRIs);デュロキセチン、ベンラファキシン、デスベンラファキシン、レボミルナシプランなどの二重セロトニン-ノルエピネフリン再取り込み阻害剤抗うつ薬(SNRIs);トラゾドン、ミルタザピン、ボルチオキセチン、ビラゾドン、ブプロピオンなどの非定型抗うつ薬;トラニルシプロミン、フェネルジン、イソカルボキサジドなどのモノアミンオキシダーゼ阻害剤抗うつ薬(モノアミンオキシダーゼ阻害剤)が挙げられる。
【0051】
抗不安薬の例としては、アルプラゾラム、ブロマゼパム、クロルジアゼポキシド、クロナゼパム、クロラゼプ酸、ジアゼパム、フルラゼパム、ロラゼパム、オキサゼパム、テマゼパム、トリアゾラム、トフィソパムなどのベンゾジアゼピン系薬;エスゾピクロン、ザレプロン、ゾルピデム、ゾピクロンなどの非ベンゾジアゼピン系催眠剤;メプロバメート、カリソプロドール、チバメート、ロルバマートなどのカルバメート系;ヒドロキシジン、クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミンなどの抗ヒスタミン剤が挙げられる。
【0052】
鎮静薬の例としては、アモバルビタール、アプロバルビタール、ブタバルビタール、ブタルビタール、メホバルビタール、メタルビタール、メトヘキシタール、ペントバルビタール、セコバルビタール、タルブタール、チアミラール、チオペンタールなどのバルビツール酸系鎮静薬;グルテチミド、メプロバメート、メタカロン、ジクロラールフェナゾンなどの非バルビツール酸系鎮静薬が挙げられる。
【0053】
骨格筋弛緩薬の例としては、バクロフェン、メプロバメート、カリソプロドール、シクロベンザプリン、メタキサロン、メトカルバモール、チザニジン、クロルゾキサゾン、オルフェナドリンが挙げられる。
【0054】
他の適した併用相手薬は、ドネペジルなどのアセチルコリンエステラーゼ阻害剤;オンダンセトロンなどの5-HT-3拮抗剤;代謝型グルタミン酸受容体拮抗剤;メキシレチン、フェニトインなどの抗不整脈薬;又は抗不整脈薬受容体拮抗剤である。
より適した併用相手薬は、尿失禁薬物、例えば、オキシブチニン、トルテロジン、ダリフェナシン、フェソテロジン、ソリフェナシン、トロスピウムなどの抗コリン薬;ミラベグロンなどの膀胱筋弛緩薬;又はタムスロシン、アルフゾシン、シロドシン、ドキサゾシン、テラゾシンなどのα阻害薬である。
【0055】
上述した併用相手薬の投与量は、一般的に、通常推奨される最低用量の1/5から通常推奨される用量の1/1までである。
したがって、別の態様では、本発明は、本発明に係る化合物の、上記及び下記のTRPA1によって影響若しくは調節され得る疾患若しくは状態(特に、上記及び下記の疾患若しくは状態)の治療用の1又は複数の追加の治療剤と組み合わせた使用に関する。
【0056】
さらなる態様では、本発明は、患者におけるTRPA1阻害によって影響され得る疾患又は状態を治療する方法であって、治療上有効量の式(I)の化合物又はその医薬上許容される塩と治療上有効量の1又は複数の追加の治療剤とを併用して、かかる治療が必要である患者に投与する工程を含む方法に関する。
【0057】
さらなる態様では、本発明は、式(I)の化合物又はその医薬上許容される塩の、TRPA1の阻害によって影響され得る疾患又は状態の治療が必要である患者において、当該治療用の1又は複数の追加の治療剤と組み合わせた使用に関する。
【0058】
もう一つの態様では、本発明は、患者におけるTRPA1活性によって調節される疾患又は状態の治療のための方法であって、治療上有効量の本発明の化合物と治療上有効量の上記及び下記の1又は複数の追加の治療剤とを併用して、かかる治療が必要である患者(好ましいのは、ヒトである)に投与する工程を含む方法に関する。
【0059】
本発明に係る化合物と追加の治療剤との併用は、同時に又は時間差で行ってもよい。
本発明に係る化合物と追加の治療剤は、ともに1つの製剤、例えば、錠剤やカプセルに存在してもよく、又は別々に同一の若しくは異なる2つの製剤、例えば、いわゆるパーツのキット(kit-of-parts)に存在してもよい。
【0060】
結果的に、別の態様では、本発明は、本発明に係る化合物と、上記及び下記の1又は複数の追加の治療剤とを含み、任意的に1又は複数の不活性担体及び/若しくは希釈剤を含んでもよい医薬組成物に関する。
【0061】
もう一つの態様では、本発明は、咳嗽測定装置における本発明に係る化合物の使用に関する。
本発明の他の特徴及び利点は、本発明の原理を例として説明する以下のより詳細な実施例から明らかになるであろう。
【0062】
調製
本発明に係る化合物及びそれらの中間体は、当業者に知られており、有機合成の文献に記載されている合成方法を用いることで、例えば、“Comprehensive Organic Transformations”, 2nd Edition, Richard C. Larock, John Wiley & Sons, 2010、及び“March’s Advanced Organic Chemistry”, 7th Edition, Michael B. Smith, John Wiley & Sons, 2013に記載されている方法を用いることで、得ることができる。本発明の化合物は、下記により十分に説明される調製方法(特に、実験の段落に記載されたように)に類似している方法により得るのが好ましい。場合によって、反応スキームの実行に採用される順序を変えてもよい。当業者に知られるが本明細書に詳しく記載されていないそれらの反応の変形を使用してもよい。本発明に係る化合物を調製するための一般的プロセスは、当業者が下記スキームを研究することで明らかになろう。出発物質化合物は、商業的に入手可能なものであるか、或いは文献や本明細書に記載されている方法により調製され得るもの、又は同様な若しくは類似している方法により調製され得るものである。反応を実行する前に、出発化合物における対応するあらゆる官能基を慣用の保護基で保護してもよい。それらの保護基は、文献(例えば、“Protecting Groups”, 3rd Edition, Philip J. Kocienski, Thieme, 2005、“Protective Groups in Organic Synthesis”, 4th Edition, Peter G. M. Wuts, Theodora W. Greene, John Wiley & Sons, 2006)に記載されている当業者によく知られている方法を用いることで、反応順序内の好適な段階で再び切断されてもよい。用語「周囲温度」と「室温」は交換可能に使用されており、約20℃の温度、例えば、19℃と24℃との間の温度を指す。
【0063】
【実施例】
【0064】
出発化合物の調製
中間体I
中間体I.1
1-(4-ブロモフェニル)-2-[5-(クロロメチル)-2H-1,2,3,4-テトラゾール-2-イル]エタン-1-オン
【化4】
K
2CO
31.63g(11.8mmol)をDMA15mL中の4-クロロフェナシルブロミド2.17g(9.28mmol)と5-(クロロメチル)-2H-1,2,3,4-テトラゾール1.00g(8.44mmol)に添加する。混合物をろ過する前に、反応混合物を室温で30分間撹拌する。溶液を水と飽和NaCl水溶液で希釈し、EtOAcで3回抽出する。合わせた有機相を水で洗浄し、Na
2SO
4で乾燥し、活性炭上でろ過して、溶媒を真空中で除去する。残留物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル;CH/EtOAc、8/2→1/1)により精製する。
C
10H
8Cl
2N
4O(M=271.1g/mol)
ESI-MS:271[M+H]
+
R
t(HPLC):1.01分(方法B)
【0065】
中間体II
中間体II.1
(1R)-1-(4-クロロフェニル)-2-[5-(クロロメチル)-2H-1,2,3,4-テトラゾール-2-イル]エタン-1-オール
【化5】
1-(4-クロロフェニル)-2-[5-(クロロメチル)-2H-1,2,3,4-テトラゾール-2-イル]エタン-1-オン(中間体I.1)1.30g(4.80mmol)を不活性雰囲気下でACN20mLに添加する。ギ酸トリエチルアミン錯体(5:2)0.72mL(1.73mmol)を滴下して添加する前に、クロロ([(1S,2S)-(-)-2-アミノ-1,2-ジフェニルエチル](4-トルエンスルホニル)アミド)(メシチレン)ルテニウム(II)(CAS:174813-81-1)11.9mg(0.02mmol)を添加する。室温で3時間撹拌した後、溶媒を真空下で除去する。水を残りの粗混合物に添加し、この混合物をEtOAcで抽出する。有機層を合わせ、Na
2SO
4で乾燥し、活性炭上でろ過して、溶媒を真空中で除去する。
C
10H
10Cl-
2N
4O(M=273.1g/mol)
ESI-MS:273[M+H]
+
R
t(HPLC):0.96分(方法B)
【0066】
中間体III
中間体III.1
4-アミノ-2-メタンスルホニル-1,3-チアゾール-5-カルボン酸エチル
【化6】
DCM500mLを撹拌しながら、4-アミノ-2-(メチルスルファニル)-1,3-チアゾール-5-カルボン酸エチル(CAS:39736-29-3)20.0g(0.092mol)を添加する。混合物を0℃に冷却して、反応混合物の温度を24℃未満に維持しつつ、3-クロロ過安息香酸(70%)35.0g(0.142mol)を少しずつ添加する。3-クロロ過安息香酸(70%)10.0g(0.041mol)を添加する前に混合物を周囲温度で一晩撹拌してDCM300mLで希釈し、混合物を周囲温度でさらに2.5時間撹拌する。さらなる10g(0.041mmol)を添加し、反応混合物を2時間撹拌する。そして、混合物を飽和Na
2SO
3溶液の添加によりクエンチさせ、10分間撹拌する。有機相を分離し、2MNa
2CO
3水溶液(2回)と塩水で洗浄する。そして、有機抽出物をMgSO
4で乾燥し、ろ過して濃縮し、所望の産物を得る。
C
7H
10N
2O
4S
2(M=250.3g/mol)
ESI-MS:251[M+H]
+
R
t(HPLC):0.96分(方法E)
【0067】
中間体III.2
4-アミノ-1,3-チアゾール-5-カルボン酸エチル
【化7】
EtOH(100mL)を4-アミノ-2-メタンスルホニル-1,3-チアゾール-5-カルボン酸エチル7.0g(28.0mmol)に添加し、混合物を0℃に冷却する。水素化ホウ素ナトリウム3.14g(83.9mmol)を少しずつ添加し、反応混合物を周囲温度で3時間撹拌する。反応混合物を濃縮し、水とEtOAcを残留物に添加する。有機相を分離し、飽和NaHCO
3水溶液で洗浄し、MgSO
4で乾燥し、ろ過して濃縮し、所望の生産物を得る。
C
6H
8N
2O
2S(M=172.2g/mol)
ESI-MS:173[M+H]
+
R
t(HPLC):0.77分(方法B)
【0068】
中間体III.3
6H,7H-[1,3]チアゾロ[4,5-d]ピリミジン-7-オン
【化8】
ホルムアミジニウムアセテート650mg(6.2mmol)をEtOH(5.0mL)中の4-アミノ-1,3-チアゾール-5-カルボン酸エチル250mg(1.45mmol)に添加する。反応混合物を80℃に加熱し、この温度で16時間撹拌する。周囲温度に冷却した後、ホルムアミジニウムアセテート605mg(5.8mmol)を添加して、反応混合物を80℃に加熱し、この温度で5時間撹拌する。さらに110℃に加熱し、この温度でさらに16時間撹拌する。周囲温度に冷却した後、混合物を分取HPLC(X-Bridge C18、0.1%TFA勾配を含有するACN/H
2O)により精製し、所望の生産物を得る。
C
5H
3N
3OS(M=153.2g/mol)
ESI-MS:154[M+H]
+
R
t(HPLC):0.12分(方法A)
【0069】
中間体IV
中間体IV.1
1-メチル-1H,6H,7H-イミダゾ[4,5-d]ピリダジン-7-オン臭化水素酸塩
【化9】
オートクレーブ反応容器において、Pd/C(10%)200mgをMeOH75mL中の2-ブロモ-1-メチル-1H,6H,7H-イミダゾ[4,5-d]ピリダジン-7-オン5.3g(23.1mmol)の混合物に添加する。反応混合物の上の空間を真空にして水素圧力50psiでチャージする。反応混合物を周囲温度において、水素圧力50psi下で一晩撹拌する。水素を除去して窒素で充填した後、反応混合物を温水300mLで希釈してろ過する。ろ液を濃縮乾固し、所望の生産物を得る。
C
6H
6N
4O(M=231.1g/mol)
ESI-MS:11[M-HBr+H]
+
R
t(HPLC):0.12分(方法C)
【0070】
中間体V
中間体V.1
2-(7-メチル-6-オキソ-6,7-ジヒドロ-1H-プリン-1-イル)アセトニトリル
【化10】
K
2CO
32.07g(15.0mmol)をDMF15mL中の7-メチル-6,7-ジヒドロ-1H-プリン-6-オン0.750g(4.99mmol)の溶液に添加し、混合物を周囲温度で30分間撹拌する。そして、ブロモアセトニトリル0.418mL(5.99mmol)を添加し、反応混合物を周囲温度で一晩撹拌する。混合物をろ過し、得られたろ液を濃縮する。沈殿物をジイソプロピルエーテルに懸濁させ、残りの固体をろ過により集める。集めたものをさらに冷ジイソプロピルエーテルで洗浄し、50℃において真空下で乾燥し、所望の生産物を得る。
C
8H
7N
5O(M=189.7g/mol)
ESI-MS:190[M+H]
+
R
t(HPLC):0.18分(方法B)
【0071】
中間体V.2
7-メチル-1-[(2H-1,2,3,4-テトラゾール-5-イル)メチル]-6,7-ジヒドロ-1H-プリン-6-オン
【化11】
アジ化ナトリウム0.480g(7.39mmol)と塩化アンモニウム0.395g(7.39mmol)とを、DMF15mL中の2-(7-メチル-6-オキソ-6,7-ジヒドロ-1H-プリン-1-イル)アセトニトリル1.27g(6.71mmol)の混合物に添加する。反応混合物を95℃に加熱し、この温度で一晩撹拌する。周囲温度に冷却した後、沈殿物をろ過により集め、MeOHで洗浄する。得られた固体を50℃において真空下で乾燥し、所望の生産物を得る。
C
8H
8N
8O(M=232.2g/mol)
ESI-MS:233[M+H]
+
R
t(HPLC):0.17分(方法B)
【0072】
中間体V.3
1-({2-[2-(4-クロロフェニル)-2-オキソエチル]-2H-1,2,3,4-テトラゾール-5-イル}メチル)-7-メチル-6,7-ジヒドロ-1H-プリン-6-オン
【化12】
7-メチル-1-[(2H-1,2,3,4-テトラゾール-5-イル)メチル]-6,7-ジヒドロ-1H-プリン-6-オン100mg(0.431mmol)とK
2CO
383.3mg(0.603mmol)とを、ACN5mL中の4-クロロフェナシルブロミド111mg(0.474mmol)の溶液に添加する。反応混合物を70℃で一晩撹拌する。冷却後、DMA2.5mLを添加し、混合物をさらに70℃で14時間撹拌する。周囲温度に冷却した後、反応混合物をろ過し、濃縮して分取HPLC(ACN/H
2O/TFA勾配)により2回精製し、所望の生産物を得る。
C
16H
13ClN
8O
2(M=384.8g/mol)
ESI-MS:385[M+H]
+
R
t(HPLC):0.82分(方法B)
【0073】
最終化合物の調製
実施例1(一般的なルート)
3-({2-[(2R)-2-(4-クロロフェニル)-2-ヒドロキシエチル]-2H-1,2,3,4-テトラゾール-5-イル}メチル)-5-メチル-4-オキソ-3H,4H-チエノ[2,3-d]ピリミジン-6-カルボキサミド
【化13】
1-メチル-1H,6H,7H-[1,2,3]トリアゾロ[4,5-d]ピリミジン-7-オン50.0mg(0.331mmol)をDMF1.0mLに添加する。そして、K
2CO
3137mg(0.993mmol)と中間体II.1 108.4g(0.397mmol)とを添加し、混合物を50℃で4時間撹拌する。室温に冷却した後、混合物をアセトニトリルとメタノールで希釈し、ろ過して分取HPLC(ACN/H
2O/TFA)により精製し、所望の生産物を得る。
C
15H
14ClN
9O
2(M=387.8g/mol)
ESI-MS:388[M+H]
+
R
t(HPLC):0.43分(方法B)
1H NMR(400 MHz, DMSO-d
6)δ ppm 4.36(s, 3H), 4.73 - 4.83 (m, 2H), 5.12 (dd, J=7.4, 5.4 Hz, 1H), 5.55 (s, 2H), 5.61 - 6.38 (br s, 1H), 7.31 - 7.43 (m, 4H), 8.61 (s, 1H).
【0074】
下記化合物が、上記一般的な手順(実施例1)に基づいて調製される。
【表12】
【0075】
上記表に記載される化合物の分析データ:
【表13】
【0076】
実施例9
1-({2-[(2R)-2-(4-クロロフェニル)-2-ヒドロキシエチル]-2H-1,2,3,4-テトラゾール-5-イル}メチル)-7-メチル-6,7-ジヒドロ-1H-プリン-6-オン
【化14】
クロロ([(1S,2S)-(-)-2-アミノ-1,2-ジフェニルエチル](4-トルエンスルホニル)アミド)(メシチレン)ルテニウム(II)(CAS:174813-81-1)0.194mg(0.32μmol)を不活性雰囲気下でMeCN(1.0mL)中の中間体V3 30mg(0.078mmol)に添加し、続いてギ酸トリメエチルアミン錯体(5:2)12μL(0.028mmol)を滴下して添加する。反応混合物を周囲温度で3時間撹拌する。混合物を濃縮し、残留物を水で希釈する。混合物をEtOAcで2回抽出する。合わせた有機抽出物をMgSO
4で乾燥し、ろ過して分取HPLCにより精製する。
C
16H
15ClN
8O
2(M=386.8g/mol)
ESI-MS:387[M+H]+
R
t(HPLC):0.55分(方法G)
1H NMR (400 MHz,DMSO‐d
6) δ ppm 3.96 (s, 3H), 4.75 ‐ 4.82 (m, 2H), 5.12 (dd, J=7.4, 5.4 Hz, 1H), 5.52 (s, 2H), 7.34 ‐ 7.42 (m, 4H), 8.25 (d, J=0.4 Hz, 1H), 8.47 (s, 1H).
【0077】
分析HPLC方法
方法A
【表14】
分析カラム:XBridge BEH C18_2.1×30mm、1.7μm;
カラム温度:60℃
【0078】
方法B
【表15】
分析カラム:StableBond(Agilent) 1.8μm;3.0×30mm;
カラム温度:60℃
【0079】
方法C
【表16】
分析カラム:Sunfire(Waters) 2.5μm;3.0×30mm;
カラム温度:60℃
【0080】
方法D
【表17】
分析カラム:XBridge C18_3.0×30mm_2.5μm(Waters);
カラム温度:60℃
【0081】
方法E
【表18】
分析カラム:XBridge C18_3.0×30mm_2.5μm;
カラム温度:60℃
【0082】
方法F
【表19】
分析カラム:XSelect HSS PFP 2.1×30mm、1.8μm;
カラム温度:60℃
【0083】
方法G
【表20】
分析カラム:Sunfire C18、3.0×30mm、2.5μm;
カラム温度:60℃
【国際調査報告】