(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-16
(54)【発明の名称】電気的に調光可能なグレージング
(51)【国際特許分類】
G02F 1/13 20060101AFI20221209BHJP
G02F 1/1334 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
G02F1/13 505
G02F1/1334
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022522800
(86)(22)【出願日】2020-10-08
(85)【翻訳文提出日】2022-04-14
(86)【国際出願番号】 EP2020078210
(87)【国際公開番号】W WO2021073992
(87)【国際公開日】2021-04-22
(32)【優先日】2019-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520204744
【氏名又は名称】コベストロ・インテレクチュアル・プロパティ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング・アンド・コー・カーゲー
(71)【出願人】
【識別番号】522151879
【氏名又は名称】オパーク スマート グラス ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハーゲン ライナー
(72)【発明者】
【氏名】クライン アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ナジャフ プール アグチェシュメ ハミード-レザ
【テーマコード(参考)】
2H088
2H189
【Fターム(参考)】
2H088EA36
2H088FA01
2H088GA01
2H088GA02
2H088GA04
2H088GA10
2H088HA01
2H088HA02
2H088MA20
2H189AA04
2H189BA01
2H189BA04
2H189CA03
2H189HA16
2H189LA01
2H189LA02
2H189LA03
2H189MA01
2H189MA15
(57)【要約】
本発明は、液晶デバイスにおけるコンポーネントとして使用するのに適しており、とりわけ2つの特定のポリカーボネート層を含む特定の多層複合材に関する。本発明はまた、多層複合材を製造する方法に関する。本発明は更に、本発明による多層複合材を含む液晶デバイス、その製造方法、並びに建築用グレージング、車両用グレージング、ヘッドライトカバー、光学フィルター、シャッター、フラットスクリーンディスプレイ、ガラス張りの広告デバイス、列車における間仕切り壁、及び関心地点デバイスにおけるその使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶デバイスの構成要素として適したサンドイッチ構造を有する多層複合材であって、
ネマチック液晶が中に分散されたポリマーマトリックス又はポリマーが中に分散された液晶マトリックスのいずれかからなるコア層と、
前記コア層の片方の表面上にそれぞれ配置されており、したがって前記コア層を取り囲んでいる、透明で導電性である2つの伝導性層と、
前記伝導性層の前記コア層とは反対側の表面上にそれぞれ配置されており、かつ前記コア層と向かい合った面上にクリアなハードコートコーティングをそれぞれ有する、透明である2つのポリカーボネート層と、
任意に、
前記ポリカーボネート層の前記コア層とは反対側の表面上にそれぞれ配置されている、透明である2つの粘着防止ハードコート層、及び/又は、
前記ポリカーボネート層の、又は存在するならば、前記粘着防止ハードコート層の前記コア層とは反対側の表面上にそれぞれ配置されている、透明である2つの接着層、
を含む、又はこれらのみからなる、多層複合材。
【請求項2】
前記コア層は、
(i)100μm~200μmの厚さを有し、及び/又は、
(ii)UV硬化性重合性モノマーから製造されたポリマーマトリックスを有し、及び/又は、
(iii)重合性液晶の種類を含む、ネマチックメソゲン、スメクチックメソゲン、強誘電性メソゲン、又は有機金属メソゲンの種類の1つから選択される液晶を有する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の多層複合材。
【請求項3】
前記伝導性層は、
(i)20nm~50nmの厚さを有し、及び/又は、
(ii)同一又は異なり、及び/又は、
(iii)ITO、IMITO、酸化スズ、又はガリウムドープされた酸化スズからなり、及び/又は、
(iv)DIN EN ISO 1302:2002-06に準拠して決定された、0.1μm未満の最大表面粗さRaを有し、及び/又は、
(v)100オーム未満の比シート抵抗R
□を有する、
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の多層複合材。
【請求項4】
前記ポリカーボネート層は、
(i)90μm~1000μmの厚さを有し、及び/又は、
(ii)同一又は異なり、及び/又は、
(iii)非晶質ポリカーボネートからなり、及び/又は、
(iv)少なくとも86%の透過率Tyを有し、及び/又は、
(v)2%未満のヘイズを有し、及び/又は、
(vi)押し出されたポリカーボネート層であり、及び/又は、
(vii)塗料コーティングであるクリアなハードコートコーティングを有し、及び/又は、
(viii)試験法ISO 306:2014-03及びB50法(試験荷重50N、加熱速度50K/時間、油中のプレスボード)によって決定された、145℃~160℃のビカット軟化温度を有し、及び/又は、
(ix)220℃~230℃の溶融範囲を有し、及び/又は、
(x)試験法US-FMVSS 302によって決定された、100mm/分以下の燃焼速度を有する、
ことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の多層複合材。
【請求項5】
前記粘着防止ハードコート層は、
(i)0.5μm~12μmの厚さを有し、及び/又は、
(ii)同一又は異なり、及び/又は、
(iii)シリカ又はパラフィンワックス等のワックス添加剤と混合された酸化ケイ素層からなる、
ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の多層複合材。
【請求項6】
以下の工程:
(i)2つの伝導性層と、片方の面にクリアなハードコートコーティングを有し、任意に、もう片方の面に粘着防止ハードコート層を有する2つのポリカーボネート層とを準備し、伝導性層を各ポリカーボネート層に適用し、ここで、前記伝導性層を、前記ポリカーボネート層のクリアなハードコートコーティングを有する面に適用して、第1の複合材を得る工程、
(ii)第1の複合材の前記伝導性層にコア層を、ナイフ塗布、キャスティング、又は印刷によって適用して、第2の複合材を得る工程、
(iii)更なる第1の複合材を前記第2の複合材の前記コア層に適用し、ここで、前記第1の複合材の前記伝導性層を前記第2の複合材に、特にUV硬化と組み合わせた貼合せ又は加圧によって適用して、第3の複合材を得る工程、
(iv)任意に、工程(i)においてまだ存在しなければ、2つの粘着防止ハードコート層を、前記第3の複合材の2つの面に適用して、第4の複合材を得る工程、及び/又は、
(vii)任意に、2つの接着層を、前記第3の複合材又は前記第4の複合材の2つの面に適用して、代替的な第4の複合材又は第5の複合材を得る工程、及び/又は、
(viii)任意に、前記第3の複合材、前記第4の複合材、又は前記第5の複合材を、射出成形法によるオーバーモールディング又はインモールドコーティングに供する工程、
を含む、又はこれらの工程のみからなる、請求項1~5のいずれか一項に記載の多層複合材を製造する方法。
【請求項7】
2枚のシート間に配置された請求項1~5のいずれか一項に記載の多層複合材を含み、伝導性層が電圧源と接続されている、液晶デバイス。
【請求項8】
以下の工程:
2枚のシートをそれぞれ請求項1~5のいずれか一項に記載の多層複合材の片面ずつに固定する工程、
を含む、又はこの工程のみからなる、請求項7に記載の液晶デバイスを製造する方法。
【請求項9】
建築用グレージングとしての、自動車用ガラス、特にミラー及びグレージングにおける、投光照明カバーとしての、光学フィルターにおける、シャッターにおける、平坦な視覚的表示スクリーンにおける、ガラス張りの広告デバイスにおける、列車の仕切り壁における、及び関心地点デバイスにおける、請求項7に記載の液晶デバイスの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶デバイスの構成要素として適しており、とりわけ2つの特定のポリカーボネート層を含む特定の多層複合材に関する。本発明は更に、多層複合材を製造する方法に関する。本発明は更に、本発明による多層複合材を含む液晶デバイス、その製造方法、並びに建築用グレージングとしての、自動車用ガラスにおける、投光照明カバーとしての、光学フィルターにおける、シャッターにおける、平坦な視覚的表示スクリーンにおける、ガラス張りの広告デバイスにおける、列車の仕切り壁における、及び関心地点デバイス(point-of-interest devices)におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
電圧を印加すると透明度が変化するスマートガラスは知られている。それらの設計に応じて、これらのガラスは、例えば、日除けとして機能するか(ガラスは透明のままで色が変化する)、又は目隠しスクリーンの機能を担う(ガラスは半透明になる)ことができる。使用分野は、例えば、窓及びドア用の建築用グレージング、列車の仕切り壁、自動車用グレージング、投光照明カバー、光学フィルター及びシャッター、平坦な視覚的表示スクリーンから、広告及び関心地点用のディスプレイにまで及ぶ。
【0003】
特許文献1は、電気的に配向可能な液晶要素を使用して、透明度又は不透明度を確立することができる窓又はドア用のインサート又はフロントアタッチメントを記載している。切り替え機能には、2つの偏光フィルター間で回転する液晶セルを使用することが必要とされる。この装置は、電圧が印加されると不透明になる。この技術は現在広く知られ、記載されており、液晶ディスプレイ要素において使用されている。偏光フィルターにより、スイッチング可能な要素が高価で複雑なものとなる。
【0004】
特許文献2は、偏光フィルターを必要としないポリマー分散型液晶(PDLC)に基づく技術を記載している。PDLC技術においては、ネマチック液晶をUV硬化性ポリマーフィルム中に分散させて、小さな液滴を含むエマルジョンを形成し、このエマルジョンが、2次元電極を備えた、好ましくは透明なポリマーフィルム間に導入され得る。電極に電圧を印加すると、液晶分子は力線に沿って配向状態となり、それにより透明な状態がもたらされるのに対して、無電界では分子は液滴表面に整列した状態となり、それにより光散乱、つまりフィルム複合材の半透明の状態がもたらされる。この場合のスイッチング電圧は15ボルト以上である。異なる電圧を印加すると、異なる正透過率を確立することができる。調光可能な要素は、特に2つのスイッチング状態に対して最適化されたスイッチング可能な要素と言語的に区別して言及される。
【0005】
特許文献3は、記載したばかりの液晶滴の形態ではなく、ポリマー滴の形態を有する液晶分散型ポリマー(LCDP)とも呼ばれるスイッチングが逆のPDLC技術を記載している。これは、透明な「オフ」状態(電界が印加されていない)及び半透明の「オン」状態(電界が印加されている)を特徴とする。PDLC技術は、伝導性コーティングされたガラス又はフィルムを基材として利用する。フィルムが取り扱い易いため、好ましい。
【0006】
特許文献4はまた、電圧の印加により透明度が可変であり、特に電圧の印加により透明状態と混濁状態又は不透明状態との間でスイッチング可能である車両用グレージングにおいて使用される層構造物を記載している。
【0007】
しかしながら、PDLC液晶デバイス及びLCDP液晶デバイスの製造は、今日までしばしば複雑なものであったことから、特に商業的生産において品質に関して困難を伴う。
【0008】
品質問題の原因の1つは、特許文献5に記載されている:液晶が包埋されるポリマーマトリックスの硬化は、化学線のUV光のおかげで、コーティングされる基材に高い熱応力を引き起こす。現在の技術水準は、2枚の外側透明PET(ポリエチレンテレフタレート)基材からなるPDLCフィルム複合材である。これらの基材にPDLC層が埋設される。PETフィルムは片面に、約100mm~500mmの厚さの伝導性金属酸化物層、例えばITO(インジウムスズ酸化物)層を備えており、それを経由してPDLC層に電界が印加され得る。しかしながら、PETフィルムは熱反りを受けやすく、弾力性が低く、つまり回復する傾向が低い。これは加工を複雑にし、ITO層に熱的破壊又は機械的破壊を起こす危険性をはらんでいる。また、ITO電極が破損すると、不均一な電圧分布及び力線がもたらされ、これにより更に透過の変動、つまりPDLC板において目に見える斑点が引き起こされる。
【0009】
特許文献6は、共役伝導性ポリマーの代替的な伝導性層を備えたスイッチング可能な要素を記載している。ポリマーは本来、蒸着される金属酸化物層、例えばITOよりも機械的に堅牢で脆性が低い。しかしながら、伝導性ポリマーは、ITOと比較してより高いシート抵抗を有する傾向がある。ポリマーはまた、高温で空間電荷を発生する傾向があることから、導電率を低下させる可能性がある。さらに、伝導性ポリマーは、可視スペクトル領域において僅かな呈色を示す。これらの問題のために、これらの伝導性ポリマーは光学用途において今日まで確立されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】独国特許出願公開第3816069号
【特許文献2】国際公開第92/12219号
【特許文献3】欧州特許出願公開第0927753号
【特許文献4】国際公開第2019/020298号
【特許文献5】米国特許第5,867,238号
【特許文献6】米国特許第4,963,206号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の課題は、商業的に比較的製造が容易であり、良好な品質を提供し、光学用途に適しており、低いシート抵抗を有する複合材である液晶デバイス用の多層複合材又は上記デバイス自体を提供することであった。より詳細には、液晶デバイス用の多層複合材又は上記デバイス自体は、あらゆるスイッチング状態及びあらゆる電圧レベルで、起動領域全体にわたり正透過率に高い不変性を有するべきである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、本発明者らにより、標準的なPET層ではなく、クリアなハードコートコーティングを有する特定のポリカーボネート層を使用することによって解決された。より詳細には、複合材の伝導性層がITO又はIMITO(屈折率整合インジウムスズ酸化物)層である場合に有利である。これらの伝導性層は透明であり、導電性である。
【0013】
ここで、既知であり市販されている、業界ではフィルムとも呼ばれるクリアなハードコートコーティングを有しない「単純な」ポリカーボネート層が不適であることは驚くべきことであった。この理由は、高温ではPETフィルムと比較してポリカーボネート(PC)のフィルムの寸法安定性がより良好であることが知られているにもかかわらず、PCのフィルムは完全に平面で欠陥のない表面を有していないため、結果として、適用された任意の伝導性層、特にITOコーティング又はIMITOコーティングも不均一性、つまり欠陥を有することとなるからである。PCの押出プロセスを最適化して不均一性を避けることは複雑である。それというのも、平滑に研磨された金属押出ロールでさえ長時間の作業において損傷を受け、頻繁に交換する必要があるためである。さらに、PCフィルムは一般的に引っ掻き傷を受けやすい。したがって、押し出された「単純な」ポリカーボネートフィルム上へのITOのコーティングは、上述の課題を解決することを可能にする適切な方法ではない。しかしながら、驚くべきことに、ハードコートコーティングを備えたポリカーボネート層が上記課題を解決するのに適していることが判明した。
【0014】
したがって、第1の態様においては、本発明は、液晶デバイスの構成要素として適したサンドイッチ構造を有する多層複合材であって、
ネマチック液晶が中に分散されたポリマーマトリックス又はポリマーが中に分散された液晶マトリックスのいずれかからなるコア層と、
コア層の片方の表面上にそれぞれ配置されており、したがってコア層を取り囲んでいる、透明で導電性である2つの伝導性層と、
伝導性層のコア層とは反対側の表面上にそれぞれ配置されており、かつコア層と向かい合った面上にクリアなハードコートコーティングをそれぞれ有する、透明である2つのポリカーボネート層と、
を含む、又はこれらのみからなる、多層複合材に関する。
【0015】
第2の態様においては、本発明は、以下の工程:
(i)2つの伝導性層と、片方の面にクリアなハードコートコーティングを有し、任意に、もう片方の面に粘着防止ハードコート層を有する2つのポリカーボネート層とを準備し、伝導性層を各ポリカーボネート層に適用し、ここで、伝導性層を、ポリカーボネート層のクリアなハードコートコーティングを有する面に適用して、第1の複合材を得る工程と、
(ii)第1の複合材の伝導性層にコア層を、ナイフ塗布、キャスティング、又は印刷によって適用して、第2の複合材を得る工程と、
(iii)更なる第1の複合材を第2の複合材のコア層に適用し、ここで、第1の複合材の伝導性層を第2の複合材に、特にUV硬化と組み合わせた貼合せ又は加圧によって適用して、第3の複合材を得る工程と、
を含む、又はこれらの工程のみからなる、本発明による多層複合材を製造する方法に関する。
【0016】
第3の態様においては、本発明は、2枚のシート間に配置された本発明による多層複合材を含み、伝導性層が電圧源に接続されている、液晶デバイスに関する。
【0017】
第4の態様においては、本発明は、以下の工程:
2枚のシートをそれぞれ本発明による多層複合材の片面ずつに固定する工程、
を含む、又はこの工程のみからなる、本発明による液晶デバイスを製造する方法に関する。
【0018】
第5の態様においては、本発明は、建築用グレージングとしての、自動車用ガラスにおける、投光照明カバーとしての、光学フィルターにおける、シャッターにおける、平坦な視覚的表示スクリーンにおける、ガラス張りの広告デバイスにおける、列車の仕切り壁における、及び関心地点デバイスにおける、本発明による液晶デバイスの使用に関する。
【0019】
本発明の上記の及び更なる実施形態、特徴、及び利点は、以下の詳細な説明及び特許請求の範囲を検討することで当業者には明らかであろう。ここで、本発明の個別に記載された特徴又は実施形態は、本発明の範囲内で組み合わせて明示的に記載されていなくても、本発明の全ての他の特徴又は実施形態と組み合わせることが可能である。本明細書に含まれる実施例は本発明を説明及び例示することを目的としているが、それを限定するものではなく、本発明は特に実施例に限定されるものではないことが理解されよう。
【0020】
本明細書において小数位なしで指定された数値は、それぞれ小数点第1位で指定された完全な値を指す。例えば、「99%」は「99.0%」を表す。
【0021】
「x~y/xからyまで」の形式で示された数値範囲には、指定された値が含まれる。2つ以上の好ましい数値範囲がこの形式で示されている場合に、様々な終点の組合せから生じる全ての範囲も同様に包含されることが理解される。
【0022】
本発明の文脈において、物品、例えば、層、フィルム、複合材、又はデバイスは、その透過率Tyが少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも少なくとも85%、特に好ましくは少なくとも88%であることに加え、そのヘイズが5%未満、好ましくは3.5%未満である場合に透明であると見なされる。透過率Tyは、ISO 13468-2:2006-07(D65、10゜)に準拠して決定される。ヘイズは、ASTM D1003:2013に準拠して決定される。透過率が75%未満であるか、又はヘイズが5%を超える場合に、その物品は不透明であると見なされる。複合材及びデバイスにおいて、透明度及び透過率の決定は、当然ながら、それが透明であると想定されるコア層の状態において行われる。言い換えれば、PDLC型のコア層の場合には電圧が印加され、LCDP型の場合には電圧のない場合である。
【0023】
本発明は特に以下のものに関する。
【0024】
1. 液晶デバイスの構成要素として適したサンドイッチ構造を有する多層複合材であって、
ネマチック液晶が中に分散されたポリマーマトリックス又はポリマーが中に分散された液晶マトリックスのいずれかからなるコア層と、
コア層の片方の表面上にそれぞれ配置されており、したがってコア層を取り囲んでいる、透明で導電性である2つの伝導性層と、
伝導性層のコア層とは反対側の表面上にそれぞれ配置されており、かつコア層と向かい合った面上にクリアなハードコートコーティングをそれぞれ有する、透明である2つのポリカーボネート層と、
任意に、
ポリカーボネート層のコア層とは反対側の表面上にそれぞれ配置されている、透明である2つの粘着防止ハードコート層、及び/又は、
ポリカーボネート層の、又は存在するならば、粘着防止ハードコート層のコア層とは反対側の表面上にそれぞれ配置されている、透明である2つの接着層、
を含む、又はこれらのみからなる、多層複合材。
【0025】
2. コア層が、
(i)100μm~200μmの厚さを有し、及び/又は、
(ii)UV硬化性重合性モノマー、好ましくはウレタン-アクリル又はエポキシから製造されたポリマーマトリックスを有し、及び/又は、
(iii)重合性液晶の種類を含む、ネマチックメソゲン、スメクチックメソゲン、強誘電性メソゲン、又は有機金属メソゲンの種類の1つから選択される液晶を有する、
ことを特徴とする、実施形態1に記載の多層複合材。
【0026】
3. 伝導性層が、
(i)20nm~50nmの厚さを有し、及び/又は、
(ii)同一又は異なり、及び/又は、
(iii)ITO(インジウムスズ酸化物、In2-xSnxO3)、好ましくは最大25重量%、より好ましくは20重量%のスズ含有量を有するITO、IMITO(屈折率整合インジウムスズ酸化物)、酸化スズ、又はガリウムドープされた酸化スズ、好ましくはITO又はIMITO、より好ましくはIMITOからなり、及び/又は、
(iv)DIN EN ISO 1302:2002-06に準拠して決定された、0.1μm未満、好ましくは0.05μm未満、最も好ましくは0.025μm未満の最大表面粗さRaを有し、及び/又は、
(v)100オーム未満、好ましくは90オーム未満の比シート抵抗R□を有する、
ことを特徴とする、先行する実施形態のいずれかに記載の多層複合材。
【0027】
4. ポリカーボネート層が、
(i)90μm~1000μm、好ましくは125μm~375μmの厚さを有し、及び/又は、
(ii)同一又は異なり、及び/又は、
(iii)非晶質ポリカーボネートからなり、及び/又は、
(iv)少なくとも86%、好ましくは少なくとも87%の透過率Tyを有し、及び/又は、
(v)2%未満、好ましくは1%未満のヘイズを有し、及び/又は、
(vi)押し出されたポリカーボネート層であり、及び/又は、
(vii)塗料コーティング、好ましくは耐引掻性塗料コーティングであり、より好ましくは、ポリカーボネート層への結合層として機能するオルガノシロキサン、アクリレート、又はポリオレフィンの下層を任意に有する酸化ケイ素層からなり、かつ好ましくは、10μm未満、好ましくは3μm~5μmの厚さを有する、クリアなハードコートコーティングを有し、及び/又は、
(viii)試験法ISO 306:2014-03及びB50法(試験荷重50N、加熱速度50K/時間、油中のプレスボード)によって決定された、145℃~160℃、好ましくは150℃~160℃のビカット軟化温度を有し、及び/又は、
(ix)220℃~230℃の溶融範囲を有し、及び/又は、
(x)試験法US-FMVSS 302によって決定された、100mm/分以下の燃焼速度を有する、
ことを特徴とする、先行する実施形態のいずれかに記載の多層複合材。
【0028】
5. 粘着防止ハードコート層が、
(i)0.5μm~12μm、好ましくは2μm~8μmの厚さを有し、及び/又は、
(ii)同一又は異なり、及び/又は、
(iii)シリカ又はパラフィンワックス等のワックス添加剤と混合された酸化ケイ素層からなる、
ことを特徴とする、先行する実施形態のいずれかに記載の多層複合材。
【0029】
6. 以下の工程:
(i)2つの伝導性層と、片方の面にクリアなハードコートコーティングを有し、任意に、もう片方の面に粘着防止ハードコート層を有する2つのポリカーボネート層とを準備し、伝導性層を各ポリカーボネート層に適用し、ここで、伝導性層を、ポリカーボネート層のクリアなハードコートコーティングを有する面に、好ましくは陰極アトマイゼーション(cathodic atomization)(スパッタリング)によって、反応性熱蒸発によって、又はゾル-ゲル法によって適用して、第1の複合材を得る工程、
(ii)第1の複合材の伝導性層にコア層を、ナイフ塗布、キャスティング、又は印刷によって適用して、第2の複合材を得る工程、
(iii)更なる第1の複合材を第2の複合材のコア層に適用し、ここで、第1の複合材の伝導性層を第2の複合材に、特にUV硬化と組み合わせた貼合せ又は加圧によって適用して、第3の複合材を得る工程、
(iv)任意に、工程(i)においてまだ存在しなければ、2つの粘着防止ハードコート層を、第3の複合材の2つの面に適用して、第4の複合材を得る工程、及び/又は、
(v)任意に、2つの接着層を、第3の複合材又は第4の複合材の2つの面に適用して、代替的な第4の複合材又は第5の複合材を得る工程、及び/又は、
(vi)任意に、第3の複合材、第4の複合材、又は第5の複合材を、射出成形法によるオーバーモールディング又はインモールドコーティングに供する工程、
を含む、又はこれらの工程のみからなる、本発明による多層複合材を製造する方法。
【0030】
7. 2枚のシート間に配置された本発明による多層複合材を含むポリマー分散型液晶デバイスであって、伝導性層が電圧源に接続されており、上記シートが、好ましくはポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、又はガラスからなる、ポリマー分散型液晶デバイス。
【0031】
8. 以下の工程:
2枚のシートをそれぞれ本発明による多層複合材の片面ずつに固定する工程を含み、又はこの工程からなり、固定が、好ましくは接着接合であり、及び/又はシートが、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、又はガラスからなる、実施形態7に記載のポリマー分散型液晶デバイスを製造する方法。
【0032】
9. 建築用グレージングとしての、自動車用ガラス、特にミラー及びグレージングにおける、投光照明カバーとしての、光学フィルターにおける、シャッターにおける、平坦な視覚的表示スクリーンにおける、ガラス張りの広告デバイスにおける、及び関心地点デバイスにおける、実施形態7に記載のポリマー分散型液晶デバイスの使用。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の多層複合材は、いわゆるサンドイッチ構造である。これは、電圧を印加すると透明度が変化し得るコア層が、少なくともそれぞれの場合に2つの伝導性層及び2つのポリカーボネート層によって対称的に取り囲まれていることを意味する。
【0034】
この場合のコア層は、ネマチック液晶が中に分散されたポリマーマトリックスからなるか、又はポリマーが中に分散された液晶マトリックスからなり、液晶デバイスにおける使用について記載されている、従来技術において知られる市販の層である。したがって、コア層は、電圧を印加することで透明度を変化させることができる。この層は、液晶材料とも呼ばれ、例えばH. Sun et. al. "Dye-Doped Electrically Smart Windows Based on Polymer-Stabilized Liquid Crystal", Polymers 2019, 11, pages 694 ff.、特許文献3、及び国際公開第92/11219号に記載されている。本発明に適した重合性液晶は、同様に、米国特許出願公開第2019/071605号に記載されている。本発明の他の適切なメソゲンは、例えば、国際公開第95/01410号に記載されている。これらはまた、例えば、JNC CorporationからLixon(商標)の商品名で市販されている。本発明においては、PDLC液晶材料(すなわち、ネマチック液晶が分散されたポリマーマトリックス)及びLCDP液晶材料(すなわち、ポリマーが分散された液晶マトリックス)の両方が適している。
【0035】
コア層は、好ましくは100μm~200μmの厚さを有する。さらに、PDLCコア層が、電圧を印加すると、少なくとも86%、好ましくは少なくとも87%の透過率Tyを有し、及び/又は電圧を印加すると、2%未満、好ましくは1%未満のヘイズを有することが好ましい。さらに、LCDPコア層が、電圧なしで、少なくとも86%、好ましくは少なくとも87%の透過率Tyを有し、及び/又は電圧なしで、2%未満、好ましくは1%未満のヘイズを有することが好ましい。
【0036】
伝導性層は、透明で導電性の層である。伝導性層は、好ましくは、例えばVan der Pauwによる4点測定によって、又は物理モデルによる光スペクトルとシート抵抗との間の相関を確立する較正曲線に基づく可視波長範囲及び赤外波長範囲における光透過率測定及び/又は反射率測定によって決定された100オーム未満、好ましくは90オーム未満の比シート抵抗R□を有する。伝導性層は、好ましくは、少なくとも86%、好ましくは少なくとも87%の透過率Tyを有し、及び/又は2%未満、好ましくは1%未満のヘイズを有する。
【0037】
伝導性層に適した材料は、特に、ITO(インジウムスズ酸化物、In2-xSnxO3)、好ましくは最大25重量%、より好ましくは20重量%のスズ含有量を有するITO、IMITO(屈折率整合インジウムスズ酸化物)、酸化スズ、又はガリウムドープされた酸化スズ、より好ましくはITO又はIMITO、最も好ましくはIMITOである。これらの材料はまた当業者に知られており、市販されている。この層がIMITO層である場合に、伝導性層に存在する屈折率整合層は、複合材中のコア層とは反対側にある。
【0038】
ポリカーボネート層は透明な層であり、片面にクリアなハードコートコーティングを有する。このクリアなハードコートコーティングは、好ましくは塗料(lacquer)層、特に耐引掻性塗料層である。塗料層は、好ましくは、シリコーン又はアクリル、特にシリコーンに基づく。クリアなハードコートコーティングは、例えば、熱硬化又はUV硬化を伴う流し塗り法によって適用される。
【0039】
ポリカーボネート層は、好ましくは90μm~1000μmの厚さを有し、存在するクリアなハードコートコーティングは、10μm未満、より好ましくは3μm~5μmの厚さを有する。理論に一切縛られるものではないが、特定のポリカーボネート層が伝導性層に対する平坦化材(planarizer)として機能するため、複合材の優れた透明度が達成され得ると想定される。肉眼又はカメラによって系を通して見られる画像の何らかの歪みは、あるとしても殆どない。クリアなハードコートコーティングについては、特に適切な厚さは10μm未満であることが分かっている。ポリカーボネート層は、好ましくは、押し出された後にクリアなハードコートコーティングが適用されたポリカーボネート層であり得る。
【0040】
より詳細には、非晶質ポリカーボネートが好ましい。ポリカーボネート層は、好ましくは、150℃~160℃の軟化温度、及び/又は220℃~230℃の溶融範囲を有する。試験法US-FMVSS 302によって決定された100mm/分以下の燃焼速度も有利である。
【0041】
ポリカーボネート層は、好ましくは、少なくとも86%、好ましくは少なくとも87%の透過率Tyを有し、及び/又は2%未満、好ましくは1%未満のヘイズを有する。
【0042】
市販されている1つの例は、Covestro AGからのMakrofol(商標)HS340 G-1 020010である。市販のポリカーボネート層(フィルムとも呼ばれる)は、取り外し可能な保護ポリエチレンフィルムを有することが多い。
【0043】
上記のポリカーボネート層は、好ましくは、135℃~140℃で、例えば最大1分間にわたる短時間の熱応力に耐えることができる。クリアなハードコートコーティングが存在すると、コーティングされた面が耐引掻性及び耐薬品性になり、UV放射から保護される。さらに、ポリカーボネート層は非常に良好な電気絶縁特性及び非常に良好な誘電特性を有する。ポリカーボネート層は一般的に良好な機械的耐久性を有し、塗装されていない面に印刷が可能である。
【0044】
多層複合材はまた、任意に、同様に透明である2つの粘着防止ハードコート層及び/又は2つの接着層を有し得る。
【0045】
粘着防止ハードコート層は、好ましくは、低い摩擦係数及び/又は細かい粒子分布を有する。粘着防止ハードコート層は市販されており、シリカ又はパラフィンワックス等のワックス添加剤が添加された酸化ケイ素層からなる。粘着防止ハードコート層は、好ましくは、少なくとも86%、好ましくは少なくとも87%の透過率Tyを有し、及び/又は2%未満、好ましくは1%未満のヘイズを有する。
【0046】
粘着防止ハードコート層は、ポリカーボネート層上に既に存在し得るか、又はコア層、伝導性層、及びポリカーボネート層から構成されるサンドイッチ複合材へと両方のポリカーボネート層の上に、それぞれの場合にコア層とは反対の面に後に適用され得る。既に粘着防止ハードコート層を有する適切なポリカーボネート層は、例えば、国際公開第2015/044275号に記載されている。
【0047】
適切な任意の接着層は当業者に知られており、例えば、接着生成溶剤(adhesion-creating solvents)、接着性塗料、又は反応性接着剤から得られる。
【0048】
本発明の多層複合材は、伝導性層を各ポリカーボネート層に適用することによって製造され、ここで、伝導性層をポリカーボネート層のクリアなハードコートコーティングを有する面に、好ましくは陰極アトマイゼーション(スパッタリング)によって、反応性熱蒸発によって、又はゾル-ゲル法によって適用して、第1の複合材を得る。この場合、大きな面積、特に500mm×500mmより大きな面積の場合には、300℃を上回る温度の空気下での反応性熱蒸発、及びゾル-ゲル法が好ましい。次の工程において、第1の複合材の伝導性層にコア層を、ナイフ塗布、キャスティング、又は印刷によって適用して、第2の複合材を得る。この複合材において、更なる第1の複合材が第2の複合材に適用され、ここで、第1の複合材の伝導性層を第2の複合材に、特にUV硬化と組み合わせた貼合せ又は加圧によって適用して、第3の複合材を得る。次の工程において、2つの粘着防止ハードコート層及び/又は2つの接着層を適用することが可能である。複合材を、任意に、射出成形法によるオーバーモールディング又はインモールドコーティングに供することができる。
【0049】
本発明は更に、2枚のシート間に配置された本発明による多層複合材を含む液晶デバイスであって、伝導性層が電圧源に接続されており、上記シートが、好ましくはポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、又はガラスからなる、液晶デバイスを含む。
【0050】
この場合、液晶デバイスは、2枚のシートを本発明による多層複合材の各面に1枚ずつ固定することによって製造され、ここで、固定は、好ましくは接着接合であり、及び/又はシートは、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、又はガラスからなる。適切な接着剤は、粘着性溶剤、接着性塗料、又は反応性接着剤である。さらに、熱及び/又は圧力を使用して接合を可能にすることができ、特に超音波法が可能である。
【0051】
液晶デバイスは、特に建築用グレージングとして、自動車用ガラス、特にミラー及びグレージングにおいて、投光照明カバーとして、光学フィルターにおいて、シャッターにおいて、平坦な視覚的表示スクリーンにおいて、ガラス張りの広告デバイスにおいて、及び関心地点デバイスにおいて使用され得る。自動車用グレージングにおけるLDCP液晶デバイスが特に好ましい。それというのも、これらは通常透明であると想定されているため、LDCP技術によりエネルギーが削減されるからである。
【0052】
本発明は、以下の実施例及び図面によって例示されるべきであるが、本発明をこれらの実施例及び図面に限定することは一切意図されていない。
【実施例】
【0053】
例1(本発明による):
本発明による多層複合材から作られた試験片における光透過率及びヘイズの測定
片面(表側の面)に酸化ケイ素の高光沢ハードコート層が設けられており、反対面(裏側の面)に光沢があるCovestro Deutschland AG製の市販のMakrofol(商標)HS340 G-1 020010型のポリカーボネートフィルムを使用して、本発明による多層複合材から試験片を製造した。厚さ385μm(試験法:ISO 4593:1993-11)のこのフィルムをロール材の形で使用し、スパッタリング法において表側の面にインジウムスズ酸化物(ITO)をコーティングした。ITO層の抵抗は(90±5)Ω/□であった。こうして製造されたフィルムを、約200mm×300mmの形式で枚葉、すなわち枚葉材に切断した。こうして得られた枚葉材は、略して「PC-ITO枚葉(PC-ITO leaves)」、単数形では「PC-ITO枚葉(PC-ITO leaf)」とも呼称する。
【0054】
この例1による2枚のそのようなPC-ITO枚葉を、以下で本発明による多層複合材における試験片用の基材として使用した。およそ150μmの値での厚さの高い不変性を有するPC-ITO枚葉の良好な表面平坦性のため、ポリマー分散型液晶ペースト(PDLCペースト)をナイフ塗布によってITO層上に適用することで、PDLC層が製造されることが判明した。カプセル化された液晶を製造する方法、及びキャリア材料上に連続的なPDLC層を製造する方法は以前に記載されており、ここでそれを使用した。これらの方法は、モノマー、架橋剤、光開始剤、及び液晶混合物からなるUV硬化性混合物の光化学重合に基づいている。プロセスの詳細は、例えば、Fergason J. L.による米国特許第4,435,047号の特許明細書「Encapsulated liquid crystal and method」、及びKashima M, Cao H, Meng Q, Liu H, Wang D, Li F, et al.著の「The influence of crosslinking agents on the morphology and electro-optical performances of PDLC films」, J. Appl. Pol. Sci. 2010 (117), 3434-3440において収集することができる。PDLC層は、PC-ITO枚葉の端まで行き渡っている。PDLC層を、この例1による2枚目のPC-ITO枚葉によって封止した。これは、2枚のPC-ITO枚葉のそれぞれのITO層がPDLC層の真上に配置されるように、つまり2枚のPC-ITO枚葉のITO層がPDLC層のみによって互いに隔離されるように行われた。
【0055】
図1は、本発明による多層構造物の概略的構造を示している(正確な縮尺ではない)。この図において:
11a 1枚目のPC-ITO枚葉のポリカーボネート層、
12a 1枚目のPC-ITO枚葉のハードコート層、
13a 1枚目のPC-ITO枚葉のITO層、
14 PDLC層、
13b 2枚目のPC-ITO枚葉のITO層、
12b 2枚目のPC-ITO枚葉のハードコート層、
11b 2枚目のPC-ITO枚葉のポリカーボネート層。
【0056】
こうして得られた本発明による多層複合材の総厚さは、マイクロメートルキャリパー(micrometer screw)で測定して920μm~930μmであった。電気接点接続のために、電線を金属製スプリングクランプによって、PC-ITO枚葉ごとに1つずつ外縁に接続した。1枚目のPC-ITO枚葉のITO層13aの接点接続のために、2枚目のPC-ITO枚葉をメスで少し持ち上げた。つまり、複合材をPDLC層14のところで分離し、2枚目のPC-ITO枚葉の端部から約1cm2を切り取った。この時点で、1枚目のPC-ITO枚葉のITO層13aをスプリングクランプと接触させることが可能であった。ITOの上のPDLC層14を機械的にこすり落とすと、電気的接触が向上する。2枚目のPC-ITO枚葉のITO層14aの接触についても手順は同様である。この場合に、1枚目のPC-ITO枚葉の一部が切り取られる。したがって、2つ目の電極との第2の接点を確立することが可能である。2つの接点は、例えば数センチメートル離れているが、多層複合材の同端部にある。したがって、プレートコンデンサの原理により、隣接する2つの導電性ITO層を介してPDLCに電界を印加することが可能であった。光学測定デバイスの試料チャンバー内での測定のために、こうして得られた本発明による多層複合材の更なる定寸切断(cutting-to-size)が必要であり、はさみを用いた定寸切断によって行った。本発明による多層複合材の試験片が得られた。
【0057】
幅約120mmの試験片を、D65標準光源を備えたヘイズメーターNDH 2000(日本電色工業株式会社製)において、ヘイズ及び透過率について、それぞれの場合に電圧を印加せずに(0ボルト)1回、そして電圧を印加して(36ボルト)1回分析した。
【0058】
測定結果は表1に見られる。
【0059】
本発明による多層複合材の試験片は、ノーマル状態で97.26%の高いヘイズ及び88.87%の高い透過率を有し、同時にスイッチを入れた状態で4.0%の低い残留ヘイズを有する。
【0060】
ITO層もPDLC層も有さず、他の点では、本発明による多層構造物の製造に使用されたフィルムに対応するハードコート層を備えたポリカーボネートフィルムMakrofol(商標)HS340 G-1 020010のヘイズ値0.98%との比較は、接続された状態における試験片の総ヘイズに対するPDLC層の寄与が小さいことを示している。
【0061】
【0062】
例2(比較):
本発明によるものではないPETに基づく試験片における光透過率及びヘイズの測定
例1からの本発明による多層複合材と比べて、市販のPET-ITO層複合材(OPAK Smart Glas GmbHからのTL42)から構成される試験片を使用した。PET-ITO層複合材TL42は、PDLCコア層を有し、その化学原料及び処方は、例1からのコア層と同一である。2枚のキャリアフィルムは、ITO層を備えた188μm厚のPETである。
【0063】
PET-ITO層複合材TL42の2枚のキャリアフィルムのそれぞれのITO層は、PDLC層の真上に配置されている。言い換えれば、PET-ITO層複合材TL42の2枚のキャリアフィルムのITO層は、PDLC層のみによって互いに隔離されていた。
【0064】
図2は、PET-ITO層複合材TL42の概略的構造を示している(正確な縮尺ではない)。この図において:
21a PET層、
23a ITO層、
24 PDLC層、
23b ITO層、
21b PET層。
【0065】
ヘイズ及び透過率についての測定結果は表2に見られる。
【0066】
【0067】
比較試験片は、ノーマル状態において97.26%の高いヘイズを有する。これは、本発明による多層複合材と同一である。
【0068】
接続された状態における比較試験片は、高電圧を印加したにもかかわらず、81.89%の比較的低い透過率、及び4.10%の高い残留ヘイズを有する。
【0069】
コーティングされていないPETフィルムのヘイズ値0.8%との比較は、接続された状態における比較試験片の総ヘイズに対するPDLC層の寄与が高く、特に例1からの本発明による多層複合材の場合よりも高いことを示している。
【0070】
例3(比較):
ポリカーボネートに基づく本発明によるものではない試験片における光透過率及びヘイズの測定
例1からの本発明による多層複合材と比べて、例3においては、市販の高光沢ポリカーボネートフィルム(Covestro Deutschland AGからのMakrofol(商標)DE 1-1)を、製造された試験片の裏側の面に使用した。このフィルムを、約150mm×150mmの形式をそれぞれ有する枚葉(ここでも「PC-ITO枚葉(PC-ITO leaves)」、又は単数形では「PC-ITO枚葉(PC-ITO leaf)」と呼称される)に切断し、これらのPC-ITO枚葉を個別に、スパッタリング法において表側の面にインジウムスズ酸化物(ITO)をコーティングした。ICO層の抵抗は(90±5)Ω/□であった。
【0071】
次に、この例3による本発明によるものではないそのようなPC-ITO枚葉及び例1に従って製造された例1からの本発明によるPC-ITO枚葉を、それぞれ構築されるPDLC試験片の裏側の面及び表側の面に使用した。この例3による試験片を製造するプロセスは、例1からのプロセスに対応するものである。
【0072】
図3は、この例3による試験片の概略的構造を示している(正確な縮尺ではない)。この図において:
31a 1枚目のPC-ITO枚葉のポリカーボネート層、
33a 1枚目のPC-ITO枚葉のITO層、
34 PDLC層、
33b 2枚目のPC-ITO枚葉のITO層、
31b 2枚目のPC-ITO枚葉のポリカーボネート層。
【0073】
Makrofol(商標)DE 1-1フィルムは、385μm厚であった(試験法:ISO 4593:1993-11)。
【0074】
幅約50mmの試験片を、D65標準光源を備えたヘイズメーターNDH 2000(日本電色工業株式会社製)において、ヘイズ及び透過率について、それぞれの場合に電圧を印加せずに(0ボルト)1回、そして電圧を印加して(36ボルト)1回分析した。
【0075】
測定結果は表3に見られる。
【0076】
不透明なノーマル状態におけるこの例3による試験片は、例1からの本発明による試験片と比較してより低いヘイズを有する(97.26%と比較して91.39%)。
【0077】
透明な接続された状態におけるこの例3による試験片は、例1からの本発明による試験片と比較してより低い透過率を有し(88.87%と比較して84.83%)、同時により高い残留ヘイズを有する(3.74%と比較して3.99%)。これは、両方の接続状態において、本発明によるものではない(耐引掻性仕上げを有しないPCフィルムを用いた)試験片の光学特性が、本発明による試験片よりも悪いことを示している。
【0078】
【国際調査報告】