(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-16
(54)【発明の名称】プラズマカソードを用いた電子ビーム溶接システム
(51)【国際特許分類】
H01J 37/065 20060101AFI20221209BHJP
H01J 37/06 20060101ALI20221209BHJP
H05H 1/24 20060101ALI20221209BHJP
B23K 15/00 20060101ALI20221209BHJP
H01J 37/315 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
H01J37/065
H01J37/06 B
H05H1/24
B23K15/00 501D
H01J37/315
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022523118
(86)(22)【出願日】2020-10-16
(85)【翻訳文提出日】2022-06-01
(86)【国際出願番号】 US2020056043
(87)【国際公開番号】W WO2021076934
(87)【国際公開日】2021-04-22
(32)【優先日】2019-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522154294
【氏名又は名称】ユー.エス.エレクトロン・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】ヌーナン・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ウォルターズ・ディーン
【テーマコード(参考)】
2G084
4E066
5C101
【Fターム(参考)】
2G084AA12
2G084BB03
2G084CC33
2G084DD12
2G084DD39
4E066AB00
4E066BB05
5C101AA31
5C101BB09
5C101DD09
5C101DD22
5C101DD25
5C101DD30
(57)【要約】
一実施形態では、電子銃、集束システム、およびハウジングを含むシステムが提供される。電子銃は、低温カソード電子源および抽出電極を含むことができる。集束システムは、電子銃から抽出された電子のビームを焦点領域に集束させるように構成することができる。ハウジングは、電子銃を含み、電子ビームの方向にハウジング軸に沿って延びることができる。低温カソード源は、電子ビームの焦点領域における第2の動作圧力よりも高い第1の動作圧力で電子を放出するように構成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
システムであって、
低温カソード電子源および抽出電極を含む電子銃と、
前記電子銃から抽出された電子のビームを焦点領域に集束させるように構成された集束システムと、
前記電子銃を含み、前記電子ビームの方向にハウジング軸に沿って延びるハウジングと、
を含み、
前記低温カソード源は、前記電子ビームの前記焦点領域における第2の動作圧力よりも高い第1の動作圧力で電子を放出するように構成されている、システム。
【請求項2】
前記低温カソード電子源は、プラズマカソードであり、前記プラズマカソードは、
プラズマカソードチャンバと、
前記プラズマカソードチャンバの第1の壁に装着された第1のプラズマ電極と、
前記プラズマカソードチャンバの前記第1の壁の反対側の第2の壁に装着された第2のプラズマ電極と、
を含み、
前記プラズマカソードチャンバの軸は、前記第1のプラズマ電極と前記第2のプラズマ電極との間の方向に延びる、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記プラズマカソードは、約200℃未満の電子温度を有するプラズマを生成するように構成されている、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記プラズマカソードチャンバ軸は、前記ハウジング軸とほぼ整列している、請求項2に記載のシステム。
【請求項5】
前記プラズマカソードチャンバ軸は、前記ハウジング軸に対してほぼ垂直である、請求項2に記載のシステム。
【請求項6】
前記第1の動作圧力は、約6.666Pa~約66.661Pa(約50ミリトル~約500ミリトル)の範囲内である、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記第2の動作圧力は、約0.133Pa~約6.666Pa(約1ミリトル~約50ミリトル)の範囲内である、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記ハウジングは、前記電子銃と、前記焦点領域を囲む溶接チャンバと、を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記ハウジングは、前記電子銃に連結された第1の端部と第2の自由端部との間に延びる差動排気されるシュノーケルをさらに含み、前記シュノーケルは、前記第1の端部と前記第2の端部との間に選択された圧力勾配を提供するように構成され、前記焦点領域は、前記第2の自由端部にほぼ位置付けられている、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記シュノーケルは、それぞれの真空ポンプとそれぞれが流体連通する複数の真空エンクロージャを含む、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
方法であって、
低温カソード源および抽出電極を含む電子銃によって、第1の圧力で電子を生成することと、
前記抽出電極によって、前記低温カソード源から放出された電子を抽出することと、
前記抽出された電子のビームを、前記電子銃を収容するハウジングの軸に沿って焦点領域に集束させることと、
前記電子ビームの前記焦点領域をワークピースの表面に入射させて受け取ることと、
を含み、
前記ワークピースにおける第2の圧力は、前記第1の圧力よりも小さい、方法。
【請求項12】
前記電子を生成することは、
前記電子銃のプラズマカソードチャンバ内でガスの流れを受け取ることと、
前記プラズマカソードチャンバの第1の壁に装着された第1のプラズマ電極と、前記プラズマカソードチャンバの前記第1の壁の反対側の第2の壁に装着された第2のプラズマ電極との間に電界を生成することと、
を含み、
前記電界は、前記ガスからプラズマを形成するように構成され、
前記プラズマカソードチャンバの軸は、前記第1のプラズマ電極と前記第2のプラズマ電極との間の方向に延びる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記生成されたプラズマが、約200℃未満の電子温度を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記プラズマカソードチャンバ軸は、前記ハウジング軸とほぼ整列している、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記プラズマカソードチャンバ軸は、前記ハウジング軸に対してほぼ垂直である、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の圧力は、約6.666Pa~約66.661Pa(約50ミリトル~約500ミリトル)の範囲内である、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記第2の圧力は、約0.133Pa~約6.666Pa(約1ミリトル~約50ミリトル)の範囲内である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ワークピースを溶接チャンバ内に封入することをさらに含み、前記溶接チャンバは前記電子銃と流体連通している、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
前記ワークピースの表面とシュノーケルの自由端部との間に真空シールを形成することであって、前記シュノーケルは前記自由端部から前記電子銃まで延びる、ことと、
前記電子銃と前記自由端部との間の前記シュノーケルの長さに沿って選択された圧力勾配を確立することと、
をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
前記選択された圧力勾配を確立することは、前記シュノーケルのそれぞれの真空エンクロージャに異なるレベルの真空圧力を加えることを含む、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
〔関連出願の相互参照〕
本出願は、2019年10月16日に出願された「Electron Beam Welding Systems Employing A Plasma Cathode」という名称の米国仮特許出願第62/916,214号の利益を主張するものであり、その全体が参照により組み込まれる。
【0002】
〔背景〕
溶接は、2つの部品を含むワークピースが互いに接合されるプロセスである。一般に、2つの部品の表面は互いに接触して配置され、加熱される。熱によって2つの部品は溶け、その後冷却されると融合する。
【0003】
電子ビーム溶接(EBW)は、溶接のため金属部品を加熱するために開発された1つの技術である。高速電子が供給源から抽出され、ビームへと集束される。電子ビームの焦点領域は、2つの金属部品の表面が接触している溶接場所に向けられる。ビーム内の電子の運動エネルギーの一部は熱エネルギーに変換され、溶接プロセスのための熱を供給する。
【0004】
EBWはいくつかの利点をもたらす。一態様では、電子ビームは、比較的高い侵入深さ対幅の比率を示すことができ、これにより、複数のパスを実行する必要がなくなる。別の態様では、電子ビームを高精度で集束させることができ、正確な制御および再現性を提供する。電子ビームのエネルギーは、溶接領域の過熱を回避するように調整することもでき、収縮および歪みを低減する。
【0005】
既存のEBWシステムは、典型的には、電子源として熱電子カソードを使用する。しかし、熱電子カソードは課題を提示し得る。一例として、熱電子カソードは、動作するために比較的高い真空(例えば、約0.013Pa(約10-4トル)以下)を必要とする。より高い圧力では、熱電子カソードは真空中の残留ガスと反応し、蒸発によって熱電子カソードを容易に侵食する化合物を形成することができる。この侵食は熱電子カソードの寿命を減少させる。さらに、熱電子カソードを高真空に維持するためには、接合される部品、ならびにワークピース固定および位置付け機構を、やはり高真空下にある大きな溶接チャンバ内に設置しなければならない。真空中で固定および位置付け機構を囲むことは、他の溶接テクノロジーと比較して、EBWシステムのコスト、複雑性およびサイズを増加させる。これらの寿命およびコストの制限に加えて、熱電子カソードによって生成され得る電子電流にも制限がある。電子電流は、溶接の深さと範囲、および溶接され得る材料の種類を制限し得る。
【0006】
〔概要〕
本開示の実施形態は、電子ビーム溶接のための改良されたシステムおよび方法を提供する。以下でさらに詳細に説明するように、高温熱電子カソード(hot thermionic cathode)を低温プラズマカソードに置き換える。低温プラズマカソードは、実質的な腐食なしで、動作温度において比較的不活性である。その結果、プラズマカソードの寿命を大幅に延ばすことができる(例えば、30倍超)。プラズマカソードの不活性な性質はまた、従来の熱電子カソードよりもかなり高い圧力での動作を可能にする。その結果、プラズマカソードガンがワークピースを収容する溶接チャンバ内に後付けされる一実施形態では、溶接チャンバは、熱電子カソードを有するeビーム溶接機よりも高い圧力に維持されることもできる。例えば、溶接チャンバ圧力は、残留ガスからの顕著な電子ビーム散乱なしに、約0.133Pa~約6.666Pa(約1ミリトル~約50ミリトル)で動作することができる。プラズマカソードガンが差動排気されるハウジング(シュノーケルと呼ばれる)内に設置される別の実施形態では、溶接チャンバは排除される。溶接される部品、支持台および固定具(fixturing)は、真空エンクロージャ内ではなく外側に位置付けられる。部品、支持台、および固定具は、大気圧の状態にある。真空エンクロージャの外側に溶接チャンバを設けることにより、真空エンクロージャの容積を大幅に減少させることができ、熱電子カソードベースのEBWシステムと比較して、プラズマカソードベースのEBWシステムのコストおよび複雑性の低減を提供する。
【0007】
一実施形態では、電子銃、集束システム、およびハウジングを含むシステムが提供される。電子銃は、低温カソード電子源および抽出電極を含むことができる。集束システムは、電子銃から抽出された電子のビームを焦点領域に集束させるように構成することができる。ハウジングは、電子銃を含み、電子ビームの方向にハウジング軸に沿って延びることができる。低温カソード源は、電子ビームの焦点領域における第2の動作圧力よりも高い第1の動作圧力で電子を放出するように構成される。
【0008】
別の実施形態では、低温カソード電子源は、プラズマカソードである。プラズマカソードは、プラズマカソードチャンバ、第1のプラズマ電極、および第2のプラズマ電極を含むことができる。第1のプラズマ電極は、プラズマカソードチャンバの第1の壁に装着され得る。第2のプラズマ電極は、プラズマカソードチャンバの第1の壁の反対側の第2の壁に装着され得る。プラズマカソードチャンバの軸は、第1のプラズマ電極と第2のプラズマ電極との間の方向に延びることができる。
【0009】
別の実施形態では、プラズマカソードは、約200℃未満の電子温度を有するプラズマを生成するように構成され得る。
【0010】
別の実施形態では、プラズマカソードチャンバ軸は、ハウジング軸とほぼ整列され得る。
【0011】
別の実施形態では、プラズマカソードチャンバ軸は、ハウジング軸に対してほぼ垂直であり得る。
【0012】
別の実施形態では、第1の動作圧力は、約6.666Pa~約66.661Pa(約50ミリトル~約500ミリトル)の範囲内であり得る。
【0013】
別の実施形態では、第2の動作圧力は、約0.133Pa~約6.666Pa(約1ミリトル~約50ミリトル)の範囲内であり得る。
【0014】
別の実施形態では、ハウジングは、電子銃と、焦点領域を囲む溶接チャンバと、を含むことができる。
【0015】
別の実施形態では、ハウジングは、電子銃に連結された第1の端部と第2の自由端部との間に延びる差動排気されるシュノーケルをさらに含むことができる。シュノーケルは、第1の端部と第2の端部との間に選択された圧力勾配を提供するように構成され得、焦点領域は、第2の自由端部にほぼ位置付けられ得る。
【0016】
別の実施形態では、シュノーケルは、それぞれの真空ポンプとそれぞれが流体連通する複数の真空エンクロージャを含むことができる。
【0017】
一実施形態では、方法が提供される。この方法は、低温カソード源および抽出電極を含む電子銃によって、第1の圧力で電子を生成することを含むことができる。この方法は、抽出電極によって、低温カソード源から放出された電子を抽出することをさらに含むことができる。この方法は、抽出された電子のビームを、電子銃を収容するハウジングの軸に沿って焦点領域に集束させることをさらに含むことができる。この方法は、電子ビームの焦点領域をワークピースの表面に入射させて受け取ることをさらに含むことができ、ワークピースにおける第2の圧力は、第1の圧力よりも小さい。
【0018】
別の実施形態では、電子を生成することは、電子銃のプラズマカソードチャンバ内でガスの流れを受け取ることと、プラズマカソードチャンバの第1の壁に装着された第1のプラズマ電極と、プラズマカソードチャンバの第1の壁の反対側の第2の壁に装着された第2のプラズマ電極との間に電界を生成することと、を含むことができる。電界は、ガスからプラズマを形成するように構成することができ、プラズマカソードチャンバの軸は、第1のプラズマ電極と第2のプラズマ電極との間の方向に延びることができる。
【0019】
別の実施形態では、生成されたプラズマは、約200℃未満の電子温度を有することができる。
【0020】
別の実施形態では、プラズマカソードチャンバ軸は、ハウジング軸とほぼ整列され得る。
【0021】
別の実施形態では、プラズマカソードチャンバ軸は、ハウジング軸に対してほぼ垂直であり得る。
【0022】
別の実施形態では、第1の圧力は、約6.666Pa~約66.661Pa(約50ミリトル~約500ミリトル)の範囲内であり得る。
【0023】
別の実施形態では、第2の圧力は、約0.133Pa~約6.666Pa(約1ミリトル~約50ミリトル)の範囲内であり得る。
【0024】
別の実施形態では、本方法は、ワークピースを溶接チャンバ内に封入することをさらに含むことができる。溶接チャンバは、電子銃と流体連通することができる。
【0025】
別の実施形態では、本方法は、ワークピースの表面とシュノーケルの自由端部との間に真空シールを形成することをさらに含むことができ、シュノーケルは自由端部から電子銃まで延びる。この方法はまた、電子銃と自由端部との間のシュノーケルの長さに沿って選択された圧力勾配を確立することを含むことができる。
【0026】
別の実施形態では、選択された圧力勾配を確立することは、シュノーケルのそれぞれの真空エンクロージャに異なるレベルの真空圧力を加えることを含むことができる。
【0027】
これらの特徴および他の特徴は、以下の詳細な説明を添付図面と併せ読むことにより、さらに容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】高温熱電子カソードを収容するハウジングを含む電子ビーム溶接システムの例示的な一実施形態を示す図である。
【
図2】(例えば、z軸に沿って)ハウジングと整列した第1のプラズマカソードチャンバ内に位置付けられた低温プラズマカソードを含む電子ビーム溶接システムを含む動作環境の第1の例示的な実施形態を示す図である。
【
図3】(例えば、x軸に沿って)ハウジングに対してほぼ垂直に配向された第2のプラズマカソードチャンバ内に位置付けられた低温プラズマカソードを含む電子ビーム溶接システムの第2の例示的な実施形態を示す図である。
【
図4】低温プラズマカソードおよび差動排気されるハウジングを含む電子ビーム溶接システムの第3の例示的な実施形態を示す図である。
【
図5】
図2~
図4のビーム溶接システムを含む動作環境を示す図である。
【0029】
なお、図面は必ずしも縮尺通りではない。図面は、本明細書に開示された主題の典型的な態様のみを示すことを意図しており、したがって、本開示の範囲を限定するものと考えるべきではない。
【0030】
〔詳細な説明〕
高温熱電子カソードベースのEBWシステムと比較して、開示された低温プラズマカソードベースのEBWシステムの実施形態の特徴および利点をよりよく理解するために、熱電子カソードベースのEBWシステム100の例示的な実施形態を、
図1を参照して以下で論じる。図示されるように、熱電子カソードベースのEBWシステム100は、カソードチャンバ104を収容するハウジング102と、カソードチャンバ104内に位置付けられた熱電子カソード106と、ステージ112を収容する溶接チャンバ110と、を含む。ステージ112は、接合される第1の部品116aおよび第2の部品116bを含むワークピース114を固定して位置付けるように構成され得る。アノード120、集束コイル122、偏向コイル124が、カソードチャンバ104と溶接チャンバ110との間に置かれている。熱電子カソード106は、ケーブル126を介して高電圧電源(不図示)と電気通信している。熱電子カソード106、集束コイル122、偏向コイル124、およびアノード120は、まとめて熱電子銃130と呼ぶことができる。
【0031】
熱電子カソード106は、フィラメント(例えば、タングステン「ヘアピン」フィラメント)の形態をとることができる。使用時には、高電圧電源からの電流が、熱電子カソード106を通して伝達され、熱電子カソード106の抵抗加熱および熱電子カソードからの電子の放出が生じる。熱電子カソード106は、例えば約60kV~約150kVの範囲内の、大きな負電圧でバイアスされる。抽出器電極132が、熱電子カソード106に近接して整列され、熱電子カソード106に比べて、約+400V~約+1000Vの範囲内の大きな正電圧でバイアスされる。抽出器電極132は、開口134を有し、これは、ほぼ接地電位にある、アノード120に向かって(例えばz方向に)熱電子を加速し、電子ビーム(熱電子ビーム(thermionic e-beam))136を形成する。熱電子ビーム136は、高エネルギーでアノード120を通って、集束コイル122および偏向コイル124に向かって伝達される。集束コイル122は、熱電子ビーム136をワークピース114の表面(例えば、第1の部品116aと第2の部品116bとの間の界面における初期溶接場所)における所定のサイズ(例えば、直径)の焦点領域140に集束させるように構成された第1の磁場を生成する。偏向コイル124は、(例えば、x-y平面内で)熱電子ビーム136の面内偏向を制御するように構成された第2の磁場を生成する。このようにして、熱電子ビーム136は、第1の部品116aと第2の部品116bとを接合する溶接部142を形成する。
【0032】
上述したように、熱電子カソード106は加熱されて電子を発生する。したがって、熱電子カソード106は「高温カソード」として分類される。しかしながら、典型的な動作温度(例えば、約1200℃)では、熱電子カソード106は反応性が高く、カソードチャンバ104内に存在するガスと化合物を容易に形成する。これらの化合物の形成は、それらが、純粋なカソード材料と比較して、電子放出のレベルを低減し、容易に蒸発するので、望ましくない。したがって、熱電子カソード106の寿命は、その蒸発速度によって制限される。一例として、典型的な蒸発速度を仮定すると、熱電子カソード106が約0.013Pa(約10-4トル)の圧力に維持される場合、その寿命は約30時間に制限される。
【0033】
熱電子カソード106の寿命は、カソードチャンバ104内の圧力を低下させることによって長くすることができる。しかし、電子銃130内で高真空圧力を維持するためには、溶接チャンバ110も密閉して高真空下で維持する必要がある。したがって、カソードチャンバ104内の圧力を低下させるためには、溶接チャンバ110内の圧力も同時に低下させる必要がある。一例として、熱電子カソード106の圧力を約0.001Pa(約10-5トル)に維持するために、溶接チャンバ110は、約0.013Pa(約10-4トル)の圧力に維持される。カソードチャンバ104および溶接チャンバ110の両方において高真空を維持する必要性は、他の接合および製造技術と比較して電子ビーム溶接を比較的高価なものにし得る。
【0034】
図2~
図4は、熱電子カソードベースのEBWシステム100の熱電子カソード106をプラズマカソードに置き換える、プラズマカソードベースのEBWシステムの実施形態を示す。以下でさらに詳細に説明するように、プラズマカソードは、熱電子カソードよりもかなり高い圧力で動作し得る。例えば、以下でさらに詳細に説明するように、通常の溶接条件では、プラズマカソードは、約6.666Pa(約50ミリトル(0.05トル))から約66.661Pa(約500ミリトル(0.5トル))までの圧力で動作することができ、これは、熱電子カソードベースのEBWシステム100などの現在の電子ビーム溶接システムにおける熱電子カソード106の動作圧力(例えば、≦0.013Pa(10
-4トル))よりも少なくとも2桁から3桁大きい。その結果、プラズマカソードの寿命は、1,000時間超(例えば、熱電子カソードの寿命の30倍超)となり得る。
【0035】
さらに、プラズマカソードチャンバ内の高真空の要件を排除することは、溶接チャンバをポンプダウンするために必要な時間も減少させ、システムの真空ポンプの要件を単純化し、システムの処理時間の速度(例えば、スループット)を増加させる。例えば、通常の溶接動作において、溶接チャンバは、約1.333Pa(約10ミリトル)以下(例えば、約0.133Pa(約1ミリトル)から約1.333Pa(約10ミリトル)まで)の圧力で動作することができる。開示された実施形態の動作パラメータ(例えば、プラズマ圧力、電極バイアス、パルス周波数、パルス幅など)も、高いビーム電流を達成し、それに伴って溶接速度、部品スループット、およびコストを改善するように変更され得る。
【0036】
特定の実施形態では、カソードチャンバの圧力は、プラズマ電子ビームの焦点領域(例えば、溶接チャンバ内)における圧力よりも高くすることができる。すなわち、プラズマカソードを用いたEBWシステムにおけるカソードチャンバと溶接チャンバの間の圧力勾配は、熱電子カソードを用いたEBWシステムと比較して逆転できる。
図2~
図3に関して説明した特定の実施形態では、溶接チャンバとプラズマカソードとの間の圧力勾配は、プラズマカソードチャンバと溶接チャンバとの間に差動排気されるオリフィスがあるので、差動排気なしに達成することができる。
【0037】
図2は、プラズマカソードを収容するハウジング202を含むプラズマカソードベースのEBWシステム200の第1の実施形態を示す。プラズマカソードベースのEBWシステム200は、ハウジング202のプラズマ電子銃部分230内に、アノード220、抽出器電極208、集束コイル222、および偏向コイル224をさらに含む。ステージ212およびワークピース114は、プラズマ電子銃部分230に隣接する、ハウジング202の溶接チャンバ部分210内に位置付けられ得る。
【0038】
図示のとおり、
図2では、プラズマカソードは、ハウジング202のプラズマ電子銃部分230のプラズマカソードチャンバ204を含むことができる。プラズマカソードは、2つのプラズマ電極、すなわち、本明細書では+NSP電極216bとも呼ばれる正のナノ秒プラズマ(NSP)電極216b、および本明細書では-NSP電極216aとも呼ばれる負のナノ秒プラズマ電極216a、をさらに含むことができる。プラズマ電極216a、216bは、プラズマカソードチャンバ204の両側に位置付けられ、高電圧プラズマ電源(不図示)と電気通信するように構成される。絶縁体232(例えばセラミック)が、抽出器電極208と、隣接するプラズマ電極(例えば、+NSP電極216b)との間に置かれている。抽出器電極208、アノード220、集束コイル222、偏向コイル224、およびステージ212は、
図1の熱電子カソードベースのEBWシステム100に関して上述したように動作することができる。
【0039】
プラズマ電源は、パルス高電圧交流AC電源とすることができる。一例として、電源電圧は、20kHzの周波数および数ナノ秒のパルス長で、±ENSP=約±15kV~約±24kVであり得る。
【0040】
使用時には、中性ガス(不活性ガスとも呼ばれる)がプラズマカソードチャンバ204に供給される。一例として、中性ガスはアルゴンであり得る。中性ガスの他の例は、ヘリウム、窒素、および水素を含むことができる。2つ以上の中性ガスの組み合わせを使用することもできる。プラズマカソードチャンバ204内の圧力は、通常の溶接動作で、約6.666Pa~約66.661Pa(約50ミリトル~約500ミリトル)の範囲内であり得る。
【0041】
同時に、プラズマ電源は、プラズマ電極216a、216b間に電位差を印加する。この電位差により、プラズマ電極216aおよび216b間に電界が発生する。パルス電圧は、プラズマ242(例えば、電子およびイオンの雲)を生成するために中性ガス中に放電を生成する。高い負にバイアスされた電極(本明細書では-Egunと呼ぶ)が、プラズマカソードチャンバ204内の抽出開口部または開口234に位置付けられる。電子は、負にバイアスされた抽出器電極に対して正にバイアスされた追加の電極を用いてプラズマ242から抽出される。このようにして形成されたプラズマ電子の一部は、抽出器電極208によって抽出され、コリメートされ得る。
【0042】
プラズマ242の温度は、動作条件下で約200℃未満であり、「低温カソード」として分類することができる。対照的に、高温熱電子カソード106の典型的な動作温度は、約1200℃であり得る。動作温度が低いため、プラズマカソードは熱電子カソード106よりも著しく小さい熱放射率を示す。その結果、プラズマカソードから抽出され、抽出器電極208の開口214によってコリメートされたプラズマ電子は、熱電子カソード106よりも低いビームエミッタンス(ビーム発散とも呼ばれる)を示すことができる。したがって、プラズマカソードを用いて生成されたプラズマ電子ビーム(プラズマeビーム)の焦点領域240は、溶接部においてより小さな直径を有することができ、より正確な溶接を達成することができる。
【0043】
プラズマカソードチャンバの実施形態は、様々な構成を採用することができる。
図2は、+NSP電極216bと-NSP電極216aとがz方向に沿って互いから分離された第1の構成を示している。プラズマチャンバ軸A
PCは、+NSP電極216bと-NSP電極216aとの間の方向に延びている。ハウジング202のハウジング軸A
Hは、電子ビーム236の方向(例えばz方向)に延びている。したがって、この第1の構成では、プラズマチャンバ軸A
PCは、ハウジング軸A
Hとほぼ整列している。+NSP電極216bは、抽出器電極208に印加された負の電子銃電位‐E
gunと電気的につながっている。‐E
gunは、-60kV~約-150kVの範囲で選択され得る。-NSP電極216aは、プラズマ電源の他方の出力に接続されている。
【0044】
プラズマカソードチャンバ204のこの第1の構成の利点は、-NSP電極216a、+NSP電極216b、および抽出器電極208に対してそれぞれ1つずつ、3つの高電圧フィードスルーを必要とすることである。
図1の熱電子カソードベースのEBWシステム100も3つの高電圧真空フィードスルーを使用するので、プラズマカソードチャンバ204のこの第1の構成は、電子銃フランジ244およびハウジング202を再利用することができる。
【0045】
しかしながら、プラズマカソードチャンバ204のこの第1の構成は、プラズマ電源に関する課題にも直面し得る。特に、プラズマ電源は、出力電圧の電圧分離を有するが、パルスは非対称であり得る。パルスは、正のプラズマ電極+NSP216bが‐Egunに接続されているため、プラズマ電源コモンに対して不平衡になる可能性がある。これにより、絶縁変圧器が平均バイアス電圧をシフトさせ得、未知の電圧の仮想コモンを生成し、プラズマ電源の修正を必要とする。この修正に影響を与える1つの方法は、高速スイッチング変圧器を使用して変圧器のインダクタンスを低減し、蓄積されたエネルギーを十分に迅速に消散させて、仮想コモンを約0ボルトにすることによるものであってよい。
【0046】
第2のプラズマカソード構成を有するプラズマカソードベースのEBWシステム300の形態の別のプラズマカソードベースのEBWシステムが、
図3に示される。図示のように、プラズマカソードベースのEBWシステム300は、+NSP電極316aおよび-NSP電極316bがx方向に沿って互いから分離されかつ-E
gunから絶縁されるように回転される302プラズマカソードチャンバ304を有するハウジング302を含む。したがって、ハウジング軸A
Hは、プラズマカソードチャンバの軸A
PCに対してほぼ垂直である。
図3のプラズマカソードベースのEBWシステム300の残りの部品は、特に断りのない限り、
図2のプラズマカソードベースのEBWシステム200に関して上述したものと同じであり得る。
【0047】
プラズマカソードチャンバ304の第2の構成の利点は、プラズマ電源出力が電子銃電圧-Egunに対して対称であることである。すなわち、-Egunは、プラズマ電源の中性電圧(共通接地)出力に接続される。したがって、プラズマ電源は、プラズマカソードチャンバ304の第2の構成を実現するために、修正を必要としない。しかしながら、プラズマカソードチャンバ304および電子銃真空フランジ344は、それらの従来の設計に対して修正を必要とし得る。一態様では、熱電子銃部分230によって使用される3つのフィードスルーに加えて、第4の高電圧フィードスルーを含むように修正することが必要とされ得る。
【0048】
別の態様では、プラズマ242からの電子の抽出、および(接地された)アノード220への電子の加速は、新しい抽出器電極308および構成を必要とし得る。一般に、電子ビーム溶接機用の熱電子銃は、電子を加速するために、熱電子カソードがアノードに比べて高い負電位でバイアスされる、ウェーネルト電子光学設計を使用する。
図3の第2の構成では、プラズマ電極+NSP316aおよび-NSP316bは、銃のエネルギーとは無関係にバイアスされる。新しい電極およびケーブルの設置が必要であり、-E
gun電圧でバイアスされる。新しい電極は、+NSP電極と-NSP電極との間で物理的に平衡するようにプラズマカソードチャンバ304のほぼ中央に位置付けられる。プラズマカソードチャンバ304は、電子抽出を可能にするために、抽出器電極208の開口334と整列した開口334’を有する。ウェーネルト電子光学基準を満たすために、新しい中心電極は、プラズマカソードチャンバ304と抽出器電極308との間に位置付けられる。
【0049】
以下の表1は、約100mAの電子ビーム電流の抽出を達成することができる、
図2の第1の構成におけるプラズマカソードチャンバ204の動作パラメータを示す。-NSP電極216bは、-E
gun電圧(例えば、約-60kV)に電気的に接続されている。抽出器電極208は、プラズマ242から電子を抽出するために、-E
gun電圧に対して約400V~約1,000Vの範囲内でバイアスされる。プラズマ242は、-E
gunに対して絶縁されバイアスされた、パルス高電圧源によって駆動される。抽出器電極208は、電子をアノード220、集束コイル222、および偏向コイル224に伝達するための開口234’を有する。上述のように、アノード、ステアリング要素(例えば、偏向コイル224)、および集束要素(例えば、集束コイル222)は、従来のeビーム溶接ガンで使用されるものと同様であり得る。プラズマカソードの列挙された動作パラメータは、本明細書(例えば、
図2、
図3および
図4)で論じる実施形態の全てに適用可能である。プラズマ励起およびビーム抽出は、プラズマカソードチャンバ204の構成と無関係である。
【0050】
【0051】
【0052】
以下の表2は、プラズマカソードを使用する60kV電子ビーム溶接ガンのプラズマ動作条件ならびに出力電流および電力の最大範囲を示す。通常の溶接動作のプラズマパラメータは、より小さな範囲を有する。例えば、表1は、約6kWのプラズマ電子ビームを生成することができる、100mAでの動作の例示的なパラメータを与える。これは、名目上、溶接に有効な最小電力である。これらの動作パラメータは、本明細書(例えば、
図2、
図3および
図4)で説明するプラズマカソードの全ての構成に適用可能である。しかしながら、本開示の実施形態は、開示された動作パラメータに限定されず、他の適切な動作パラメータが制限なく使用され得ることが理解され得る。
【0053】
【0054】
追加の動作構造が、例として、約60kWを超える出力電力に対して想定される。しかしながら、プラズマ電源は、プラズマeビームのより高い出力電力で動作するように修正を必要とすることが理解され得る。具体的には、電力出力は、プラズマのより高い電子流束を加速するために、増加される必要がある。
【0055】
上述したように、
図2~
図3のプラズマカソードベースのEBWシステム200、300は、ほとんどまたは全く修正することなく、既存の熱電子カソードベースのEBWシステムのハウジング内に後付けされ得る。一例として、熱電子カソードベースのEBWシステムにおけるウェーネルトバイアスリングの典型であるアノードの1mmの開口は、約0.09L/sのガスコンダクタンスを有することができる。この条件下で、差圧は式1によって得られる:
C
ring*(P
TC-P
WC)=S
WC*P
WC (1)
式中、C
ringはガスコンダクタンスであり、P
TCはプラズマカソードチャンバの圧力であり、P
WCは溶接チャンバの圧力であり、S
WCは溶接チャンバのポンピング速度である。プラズマカソードチャンバ内の1.333Pa(10ミリトル)での圧力については、毎秒約1リットル未満を発生するポンプは、プラズマカソードチャンバと溶接チャンバとの間の圧力伝達に必要な時間のため、漏れがないと仮定すると、プラズマカソードチャンバと溶接チャンバとの間に約1桁の圧力差を維持することができる(例えば、プラズマカソードチャンバ内の約1.333Pa(約10ミリトル)と溶接チャンバ内の約0.133Pa(約1ミリトル)との間)。約13.332Pa(約100ミリトル)のプラズマ圧力の場合、ポンプ速度は約10リットル/秒である。
【0056】
熱電子カソードと比較して比較的高い圧力で動作する低温プラズマカソードの能力は、新しい構成の使用も可能にする。
図4は、差動排気されるプラズマカソードベースのEBWシステム400の例示的な一実施形態を示す。図示のように、差動排気されるEBWシステム400は、プラズマ電子銃404を収容するハウジング402と、本明細書ではシュノーケルと呼ばれる多段式真空エンクロージャ406と、を含む。
【0057】
図4のプラズマ電子銃404は、電子生成および抽出部分404aと、集束およびステアリング部分404bと、を含む。電子生成および抽出部分404aは、プラズマカソードチャンバ、プラズマカソード、アノード、および抽出電極を含むことができる。集束およびステアリング部分は、集束コイルおよび偏向コイルを含むことができる。これらの部品のそれぞれは、上述したように動作することができる。さらなる実施形態では、
図2の第1の構成または
図3の第2の構成に関して上述したように、プラズマ電極およびカソードチャンバを設けることができる。
【0058】
シュノーケル406は、複数の真空エンクロージャまたはステージを含む。図示のように、第1の真空エンクロージャVE1は、シュノーケル406の一端部に、プラズマ電子銃404の集束およびステアリング部分404bに隣接して、かつこれと流体連通して位置付けられる。第2の真空エンクロージャVE2は、シュノーケル406の反対側の端部に位置付けられる。オプションとして、1つ以上の第3の真空エンクロージャVE3が、第1の真空エンクロージャVE1と第2の真空エンクロージャVE2との間に置かれ得る。真空エンクロージャVE1、VE2、VE3はそれぞれ、それぞれの真空ライン410を介して専用の真空ポンプ(不図示)とさらに流体連通している。
【0059】
真空エンクロージャVE1、VE2、VE3のそれぞれを分離する壁は、プラズマ電子銃404(例えば、プラズマ電子銃の遠位端部404d)から、溶接される部品(ワークピース114)の表面まで延びている。シュノーケル406の、このように構成された各真空エンクロージャVE1、VE2、VE3は、隣接する(例えば、最近傍の)真空エンクロージャとは異なるほぼ一定の圧力を維持することができる。よって、所定の圧力勾配が、ワークピース114からプラズマ電子銃404まで確立され得る。すなわち、第2の真空エンクロージャVE2と第1の真空エンクロージャVE1との間である。一例として、第2のエンクロージャVE2内の圧力は、第1のエンクロージャVE1内の圧力よりも小さくすることができる。存在する場合、第3のエンクロージャVE3内の圧力は、第1のエンクロージャVE1および第2のエンクロージャVE2の圧力の中間である。プラズマカソードチャンバは、抽出器電極の小さな開口(例えば直径約1mm)を使用して絶縁され得る。
【0060】
使用時に、シュノーケル406(例えば、第2の真空エンクロージャVE2の遠位端部)は、初期溶接部408の場所に隣接するワークピース114の外側表面と接触して配置され、真空シール412を形成する。したがって、溶接部408に隣接するワークピース114の部分は、VE2にほぼ等しい圧力に保持される。プラズマカソードから抽出された電子ビーム414は、(例えば数トルまでの)中程度の真空中で集束およびステアリング部分404bを通って伝達され、溶接部408に入射する。シュノーケル406は、整列ステージ(不図示)上に装着され、整列構造体(例えば、六脚支持体)を用いて溶接線に沿って移動され得る。シュノーケル406内の圧力は、電子ビーム414がプラズマ電子銃404からワークピース114に最小のビーム発散および吸収で伝達されることを可能にするのに十分に低い。溶接部408に隣接するワークピース114の部分は、ほぼ第2の真空エンクロージャVE2の圧力に維持されるので、ステージおよび他のワークピース位置付け機構は、大気圧に近いか、乾燥アルゴングローブボックスのような制御された環境にあることができる。
【0061】
シュノーケル406の実施形態は、様々な構成を採用することができる。一態様では、真空エンクロージャセグメントの数は、ワークピース114とプラズマ電子銃404との間の所望の圧力勾配に応じて、少なくとも2つ(例えば、第3の真空エンクロージャVE3は省略する)から6つ以上(例えば、第1の真空エンクロージャVE1、第2の真空エンクロージャVE2および4つ以上の第3の真空エンクロージャVE3)の範囲とすることができる。
【0062】
一般に、より多数の真空エンクロージャセグメントを有するシュノーケル406は、第2の真空エンクロージャVE2と第1の真空エンクロージャVE1との間に一定圧力のより多くのゾーンを確立することを可能にし、シュノーケル406内のビーム軸に沿った圧力のより小さな変化率を可能にする。2つの真空エンクロージャセグメントの場合、第1の真空エンクロージャVE1と第2の真空エンクロージャVE2との間の圧力変化率は比較的大きく、高速ポンプと流体連通している第2のエンクロージャVE2と、電子ビーム414が溶接接合部に伝達される第1の真空チャンバVE1との間に著しい乱流をもたらし得る。この乱流は、プラズマ電子ビーム414を発散させ得、これにより、より広い溶接部408を生成する。シュノーケル406にさらに真空エンクロージャを追加すること(例えば、第3の真空エンクロージャVE3の数を増やすこと)によって、シュノーケル406内のビーム軸に沿った圧力の変化率を減少させることができ、電子ビーム開口における乱流が減少する。
【0063】
図4のシュノーケルの1つの例示的な実施形態は、3つの真空エンクロージャVE
1、VE
2、VE
3を含むことができ、各真空エンクロージャ内の圧力は、以下のように提供することができる。一般に、真空エンクロージャは、シュノーケル406の外側の大気圧と、最も低い圧力を有する第1の真空エンクロージャVE
1との間に差圧を生じるように構成される。一実施形態では、第2の真空エンクロージャVE
2は約13.332Pa(約100ミリトル)の圧力にすることができ、第3の真空エンクロージャVE
3は約66.661Pa(約500ミリトル)の圧力にすることができ、第1の真空エンクロージャVE
1は約0.133Pa(約1ミリトル)の圧力にすることができる。(例えば、ステージを収容する)シュノーケルの外側の環境は、ほぼ大気圧(例えば、約101.325Pa(約760ミリトル))とすることができる。
【0064】
さらなる態様では、溶接される第1の部品116aおよび第2の部品116bが大きく滑らかな表面を有する状況下では、アノードの開口の直径は比較的大きくすることができる(例えば、直径約100cm)。この場合、アノード開口の直径は、大きな溶接接合部にまたがるように設計することができる。偏向コイルは、プラズマ電子ビーム414を偏向させて溶接部をたどるように構成することができる。
【0065】
別の態様では、溶接される第1の部品116aおよび第2の部品116bが不規則な表面を有する状況下では、大きな外側ポンピングゾーン(例えば、真空エンクロージャVE2)とワークピース114との間に確実な真空シール412を形成することは困難であり得る。この状況では、外側ポンピングゾーンシールは、溶接接合部外形に沿って電子ビーム414を操縦するには小さすぎる可能性がある。電子ビーム414を溶接部408に伝達するためのVE1開口は、比較的小さくすることができる(例えば、約2cm~約3cm)。この場合、シュノーケル406は、プラズマ電子ビーム414を操縦するのではなく、溶接部408をたどるように移動することができる。
【0066】
また、不規則なワークピース表面によって、溶接プロセスの制御が困難になる場合がある。一般に、溶接部408のサイズおよび溶接プロセスの温度などの溶接パラメータは、長さに沿った溶接部408の均一性を達成するために、ほぼ一定であることが望ましい。しかしながら、溶接パラメータは、少なくとも部分的に、焦点領域のサイズに依存する。シュノーケル406が不規則な表面(例えば丘または谷)上を移動すると、ワークピース114と電子銃404との間の作動距離が変化し、これにより焦点領域のサイズが変化する。
【0067】
不規則な表面は焦点領域のサイズを変化させ、溶接部が不均一になり得ることを認識すると、
図4のプラズマカソードベースのEBWシステム400のさらなる実施形態は、ワークピース表面においてほぼ一定の焦点領域サイズを維持するために、プラズマ電子ビーム414の集束を動的に調節するように修正され得る。
図5に示すように、
図4のプラズマカソードベースのEBWシステムは、伸縮式シュノーケル500を含むように修正される。
【0068】
伸縮式シュノーケル500は、ワークピース表面の高さの変化に応じて長さを変化させるように構成されている。一例として、伸縮式シュノーケル500の真空エンクロージャは、ハウジング軸AHの方向にスライドするように構成されたスライドシールを含むことができ、これは、第2の真空エンクロージャVE2の遠位端部がワークピース表面の隆起部分に接触すると後退し、第2の真空エンクロージャVE2の遠位端部がワークピース表面の陥凹部に接触すると伸長する。このようにして、真空エンクロージャは、プラズマ電子銃404とワークピース114との間の作動距離WDの変化に適応する。
【0069】
使用時には、伸縮式シュノーケル500は、ワークピース114の表面より上に設置された支持構造体502(例えば、ロボットアーム、ガントリー、六脚構造体、トラックレールなど)に装着され得る。支持構造体502は、カソードベースのEBWシステムをワークピース114に対して移動させるように構成することができる。
図5に示すように、支持構造体502はレールであり、カソードベースのEBWシステムはレールに沿った経路(例えば、円形の経路)内で移動する。明確にするために、伸縮式シュノーケル500のみが示されている。ガンレールの経路は、プラズマ電子銃404の遠位端部(例えば、ワークピース114に最も近い、プラズマ電子銃404の端部)とみなすことができ、溶接輪郭経路504は、ワークピース114の表面とみなすことができる。伸縮式シュノーケル500がガンレールに沿って移動すると、作動距離WDが変化することが観察され得る。
【0070】
有益なことに、
図4~
図5の差動排気されるプラズマカソードベースのEBWシステムの実施形態は、従来の熱電子ベースのEBWシステムとは対照的に、大きな高真空エンクロージャの必要性を排除することができる。
【0071】
特定の例示的な実施形態は、本明細書に開示されるシステム、デバイス、および方法の構造、機能、製造、および使用の原理の全体的な理解を提供するために記載されている。これらの実施形態の1つ以上の実施例を添付の図面に示した。当業者であれば、本明細書に具体的に記載され、添付図面に示されるシステム、デバイス、および方法は、非限定的な例示的実施形態であり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によってのみ定義されることを理解するであろう。1つの例示的な実施形態に関連して図示または説明された特徴は、他の実施形態の特徴と組み合わせることができる。このような修正および変形は、本発明の範囲内に含まれることが意図される。さらに、本開示では、実施形態の類似の名前の付いた構成要素は、一般に類似の特徴を有し、したがって、特定の実施形態内では、類似の名前の付いた各構成要素の各特徴は、必ずしも十分には詳述されていない。
【0072】
本明細書および特許請求の範囲全体にわたって使用される近似の言い回しApproximating language)は、それが関係する基本機能の変化を生じることなく許容可能に変化し得る任意の定量的表現を修飾するために適用され得る。したがって、「約(about)」、「約(approximately)」、「実質的に(substantially)」などの1つまたは複数の用語によって修飾される値は、特定された正確な値に限定されるものではない。少なくともいくつかの例では、近似の言い回しは、値を測定するための器具の精度に対応し得る。ここで、また本明細書および特許請求の範囲全体にわたって、範囲制限は、組み合わせおよび/または交換することができ、そのような範囲は、文脈または言い回しで別段指示されない限り、特定され、その中に含まれるすべての部分的範囲を含むものである。
【0073】
当業者は、上述の実施形態に基づく本発明のさらなる特徴および利点を理解するであろう。したがって、本出願は、添付の特許請求の範囲によって示される場合を除き、具体的に示され、説明されたものによって制限されるものではない。本明細書に引用されるすべての刊行物および参考文献は、その全体が参照により明示的に組み込まれる。
【0074】
〔実施の態様〕
(1) システムであって、
低温カソード電子源および抽出電極を含む電子銃と、
前記電子銃から抽出された電子のビームを焦点領域に集束させるように構成された集束システムと、
前記電子銃を含み、前記電子ビームの方向にハウジング軸に沿って延びるハウジングと、
を含み、
前記低温カソード源は、前記電子ビームの前記焦点領域における第2の動作圧力よりも高い第1の動作圧力で電子を放出するように構成されている、システム。
(2) 前記低温カソード電子源は、プラズマカソードであり、前記プラズマカソードは、
プラズマカソードチャンバと、
前記プラズマカソードチャンバの第1の壁に装着された第1のプラズマ電極と、
前記プラズマカソードチャンバの前記第1の壁の反対側の第2の壁に装着された第2のプラズマ電極と、
を含み、
前記プラズマカソードチャンバの軸は、前記第1のプラズマ電極と前記第2のプラズマ電極との間の方向に延びる、実施態様1に記載のシステム。
(3) 前記プラズマカソードは、約200℃未満の電子温度を有するプラズマを生成するように構成されている、実施態様2に記載のシステム。
(4) 前記プラズマカソードチャンバ軸は、前記ハウジング軸とほぼ整列している、実施態様2に記載のシステム。
(5) 前記プラズマカソードチャンバ軸は、前記ハウジング軸に対してほぼ垂直である、実施態様2に記載のシステム。
【0075】
(6) 前記第1の動作圧力は、約6.666Pa~約66.661Pa(約50ミリトル~約500ミリトル)の範囲内である、実施態様1に記載のシステム。
(7) 前記第2の動作圧力は、約0.133Pa~約6.666Pa(約1ミリトル~約50ミリトル)の範囲内である、実施態様6に記載のシステム。
(8) 前記ハウジングは、前記電子銃と、前記焦点領域を囲む溶接チャンバと、を含む、実施態様1に記載のシステム。
(9) 前記ハウジングは、前記電子銃に連結された第1の端部と第2の自由端部との間に延びる差動排気されるシュノーケルをさらに含み、前記シュノーケルは、前記第1の端部と前記第2の端部との間に選択された圧力勾配を提供するように構成され、前記焦点領域は、前記第2の自由端部にほぼ位置付けられている、実施態様1に記載のシステム。
(10) 前記シュノーケルは、それぞれの真空ポンプとそれぞれが流体連通する複数の真空エンクロージャを含む、実施態様9に記載のシステム。
【0076】
(11) 方法であって、
低温カソード源および抽出電極を含む電子銃によって、第1の圧力で電子を生成することと、
前記抽出電極によって、前記低温カソード源から放出された電子を抽出することと、
前記抽出された電子のビームを、前記電子銃を収容するハウジングの軸に沿って焦点領域に集束させることと、
前記電子ビームの前記焦点領域をワークピースの表面に入射させて受け取ることと、
を含み、
前記ワークピースにおける第2の圧力は、前記第1の圧力よりも小さい、方法。
(12) 前記電子を生成することは、
前記電子銃のプラズマカソードチャンバ内でガスの流れを受け取ることと、
前記プラズマカソードチャンバの第1の壁に装着された第1のプラズマ電極と、前記プラズマカソードチャンバの前記第1の壁の反対側の第2の壁に装着された第2のプラズマ電極との間に電界を生成することと、
を含み、
前記電界は、前記ガスからプラズマを形成するように構成され、
前記プラズマカソードチャンバの軸は、前記第1のプラズマ電極と前記第2のプラズマ電極との間の方向に延びる、実施態様11に記載の方法。
(13) 前記生成されたプラズマが、約200℃未満の電子温度を有する、実施態様11に記載の方法。
(14) 前記プラズマカソードチャンバ軸は、前記ハウジング軸とほぼ整列している、実施態様12に記載の方法。
(15) 前記プラズマカソードチャンバ軸は、前記ハウジング軸に対してほぼ垂直である、実施態様12に記載の方法。
【0077】
(16) 前記第1の圧力は、約6.666Pa~約66.661Pa(約50ミリトル~約500ミリトル)の範囲内である、実施態様12に記載の方法。
(17) 前記第2の圧力は、約0.133Pa~約6.666Pa(約1ミリトル~約50ミリトル)の範囲内である、実施態様16に記載の方法。
(18) 前記ワークピースを溶接チャンバ内に封入することをさらに含み、前記溶接チャンバは前記電子銃と流体連通している、実施態様11に記載の方法。
(19) 前記ワークピースの表面とシュノーケルの自由端部との間に真空シールを形成することであって、前記シュノーケルは前記自由端部から前記電子銃まで延びる、ことと、
前記電子銃と前記自由端部との間の前記シュノーケルの長さに沿って選択された圧力勾配を確立することと、
をさらに含む、実施態様11に記載の方法。
(20) 前記選択された圧力勾配を確立することは、前記シュノーケルのそれぞれの真空エンクロージャに異なるレベルの真空圧力を加えることを含む、実施態様19に記載の方法。
【国際調査報告】