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特表2022-552670核酸修飾酵素活性を測定するためのアッセイ法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-19
(54)【発明の名称】核酸修飾酵素活性を測定するためのアッセイ法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/34 20060101AFI20221212BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20221212BHJP
   C40B 40/08 20060101ALI20221212BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20221212BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20221212BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20221212BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20221212BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALN20221212BHJP
【FI】
C12Q1/34 ZNA
C12N15/55
C40B40/08
C12N15/63 Z
C12M1/00 A
C12M1/34 E
C12N15/09 110
C12Q1/6869 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022522592
(86)(22)【出願日】2020-10-15
(85)【翻訳文提出日】2022-06-06
(86)【国際出願番号】 SG2020050588
(87)【国際公開番号】W WO2021076053
(87)【国際公開日】2021-04-22
(31)【優先権主張番号】10201909632P
(32)【優先日】2019-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508305029
【氏名又は名称】エージェンシー フォー サイエンス, テクノロジー アンド リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】オン ティン シュン ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】チュー ウェイ レオン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA23
4B029BB16
4B029CC01
4B029FA15
4B029GA08
4B029GB06
4B029GB10
4B063QA12
4B063QA13
4B063QA20
4B063QQ28
4B063QQ34
4B063QQ42
4B063QQ62
4B063QR08
4B063QR14
4B063QR32
4B063QR42
4B063QR62
4B063QR66
4B063QS16
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】
本願は、核酸修飾酵素の活性を測定し、かつ酵素反応の1つまたは複数の可変要素をスクリーニングするためのマルチプレックス法を開示する。本方法は、以下を含む:(i)試験すべきDNA/RNA標的部位および可変要素、たとえば核酸修飾酵素バリアントをコードするポリヌクレオチド構築物のライブラリーを提供すること、(ii)ポリヌクレオチド構築物の単一のコピーをインビトロ転写翻訳(IVVT)試薬と共にコンパートメント化すること、(iii)各コンパートメント内で核酸修飾酵素およびDNA/RNA標的部位を発現させるIVVT反応を行うこと、(iv)コードされた核酸修飾酵素の機能に応じて、個々のポリヌクレオチド構築物/RNA標的が、切断されるか、インタクトであるか、または修飾されること、ならびに(v)切断されたか、インタクトであるか、または修飾されたポリヌクレオチド構築物/RNA標的をシーケンシングにより定量化することによって、各可変要素と関連づけられる酵素活性を直接特定しかつ定量化すること。具体的には、核酸修飾酵素は、CRISPR関連タンパク質(Cas)である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)複数のポリヌクレオチド構築物をコンパートメント内に隔離する工程であって、各コンパートメントが1つのポリヌクレオチド構築物を含み、各ポリヌクレオチド構築物が、
(i)第1のプロモーターに機能的に連結された、核酸修飾酵素またはそのバリアントをコードする第1のポリヌクレオチド配列;および
(ii)DNA標的を含むかまたはRNA標的をコードするDNA鋳型を含む、第2のポリヌクレオチド配列であって、前記第2のポリヌクレオチド配列がRNA標的をコードするDNA鋳型を含む場合、前記RNA標的は、前記第1のプロモーターに駆動されて、前記核酸修飾酵素と連続して一つのRNA転写物として同時発現される、前記第2のポリヌクレオチド配列
を含み、前記複数のポリヌクレオチド構築物が、前記核酸修飾酵素の異なるバリアントおよび/または異なるDNA標的もしくはRNA標的をコードする、工程;
(b)前記コンパートメントを、RNAおよびタンパク質のインビトロの発現を可能にする条件に供する工程;
(c)前記複数のコンパートメントを、DNA標的またはRNA標的に対する修飾活性を有する核酸修飾酵素による前記DNA/RNA標的の修飾を可能にする条件に供することによって、
(v)前記核酸修飾酵素により修飾されたポリヌクレオチド構築物および/またはRNA転写物もしくはその断片;
(vi)前記核酸修飾酵素により修飾されなかったポリヌクレオチド構築物および/またはRNA転写物
のうちの1つまたは複数を含むDNA/RNA分子の集団を生産する工程;
(d)工程(c)で生産されたDNA/RNA分子の集団を回収し、それを一分子シーケンシングに供する工程;
(e)シーケンシング結果に基づき、工程(c)(i)および(c)(ii)に記載のDNA/RNA分子を検出および集計する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記核酸修飾酵素が、RNA誘導型核酸修飾酵素であり、各コンパートメントが、ガイドRNAまたはそれをコードするヌクレオチド鋳型をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記核酸修飾酵素が、RNA誘導型核酸修飾酵素であり、各ポリヌクレオチドが、バリアントガイドRNA(gRNA)をコードする第3のポリヌクレオチド配列をさらに含み、前記複数のポリヌクレオチド構築物が、前記核酸修飾酵素の異なるバリアント、および/または異なるDNAもしくはRNA標的、および/または異なるgRNAをコードする、請求項1記載の方法。
【請求項4】
(a)複数のポリヌクレオチド構築物をコンパートメント内に隔離する工程であって、各コンパートメントが1つのポリヌクレオチド構築物を含み、各ポリヌクレオチド構築物が、
(i)第1のプロモーターに機能的に連結された、ガイドRNA(gRNA)をコードする第1のポリヌクレオチド配列;
(ii)DNA標的を含むかまたはRNA標的をコードするDNA鋳型を含む、第2のポリヌクレオチド配列であって、前記第2のポリヌクレオチド配列がRNA標的をコードするDNA鋳型を含む場合、前記RNA標的は、前記第1のプロモーターに駆動されて、前記gRNAと連続して一つのRNA転写物として同時発現される、前記第2のポリヌクレオチド配列
を含み、前記複数のポリヌクレオチド構築物が、異なるgRNAおよび/または異なるDNA標的もしくはRNA標的をコードし;かつ各コンパートメントが、RNA誘導型核酸修飾酵素もしくはそのバリアント、またはそれをコードするヌクレオチド鋳型をさらに含む、工程;
(b)前記コンパートメントを、RNAおよびタンパク質のインビトロの転写および/または翻訳を可能にする条件に供する工程;
(c)前記コンパートメントを、gRNAの存在下でDNA標的またはRNA標的に対する機能活性を有するRNA誘導型核酸修飾酵素による前記DNA標的および/またはRNA標的の修飾を可能にする条件に供することによって、
(iii)前記核酸修飾酵素により修飾されたポリヌクレオチド構築物および/またはRNA転写物もしくはその断片;
(iv)前記核酸修飾酵素により修飾されなかったポリヌクレオチド構築物および/またはRNA転写物
のうちの1つまたは複数を含むDNA/RNA分子の集団を生産する工程;
(d)工程(c)で生産されたDNA/RNA分子の集団を回収し、それを一分子ロングリードシーケンシングに供する工程;
(e)シーケンシング結果に基づき、工程(c)(i)および/または(c)(ii)に記載のDNA/RNA分子を検出および集計する工程
を含む、方法。
【請求項5】
核酸修飾酵素により修飾されたポリヌクレオチド構築物および/もしくはRNA転写物の数(Σ集計数修飾)を計算し、それを、核酸修飾酵素により修飾されなかったポリヌクレオチド構築物および/もしくはRNA転写物の数(Σ集計数無修飾)またはポリヌクレオチド構築物および/もしくはRNA転写物の合計数(Σ集計数修飾 + 無修飾)と比較すること
によって、DNA/RNA標的の1つまたは複数に対する1つまたは複数の核酸修飾酵素の修飾活性を評価する工程
をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
前記酵素活性が、次式:
のいずれか1つを用いて計算される値により表される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
工程(d)が、物理的方法または化学的方法によりコンパートメントを破壊することをさらに含む、請求項1~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
工程(d)が、回収されたDNA/RNA分子を精製して、反応からの過剰なDNA、RNA、および/またはタンパク質を除去することをさらに含む、請求項1~7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
前記回収されたDNA/RNA分子の集団が、一分子シーケンシング反応に供される前に、一分子シーケンシングに必要な修飾以外のさらなる修飾には供されない、請求項1~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
前記核酸修飾酵素により修飾されたDNA/RNA分子または修飾されなかったDNA/RNA分子の検出および集計が、一分子シーケンシングの間に生成されたデータのみに基づいており、DNA/RNA分子のさらなる修飾または処理を必要としない、請求項1~9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
前記修飾活性が切断活性であり、前記修飾もしくは無修飾ポリヌクレオチド構築物またはRNA転写物の検出および計算が、DNA/RNA分子のシーケンシング読取り値を、前記核酸修飾酵素の切断部位の窓を含む参照配列に対して整列させることにより行われ、
(i)DNA/RNA分子の3’末端が、切断部位の窓の3’下流領域に対しマップされる場合、そのDNA/RNA分子は無修飾ポリヌクレオチド構築物またはRNA標的であり;
(ii)DNA/RNA分子の3’末端が、切断部位の窓内領域に対しマップされる場合、そのDNA/RNA分子は修飾ポリヌクレオチド構築物またはRNA標的であり;
(iii)DNA/RNA分子の3’末端が、切断部位の窓の5’上流領域に対しマップされる場合、そのDNA/RNA分子は無情報であり、修飾活性の測定に使用されない、
請求項5~10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
第1のプロモーターに機能的に連結された、核酸修飾酵素またはそのバリアントをコードする第1のポリヌクレオチド配列、および
DNA標的を含む第2のポリヌクレオチド配列
を含む、ポリヌクレオチド構築物。
【請求項13】
第1のプロモーターに機能的に連結された、核酸修飾酵素またはそのバリアントをコードする第1のポリヌクレオチド配列、および
RNA標的をコードするDNA鋳型を含む、第2のポリヌクレオチド配列
を含む、ポリヌクレオチド構築物であって、
前記RNA標的が、前記第1のプロモーターに駆動されて、前記核酸修飾酵素と連続して一つのRNA転写物として同時発現される、前記ポリヌクレオチド構築物。
【請求項14】
複数の請求項12または13記載のポリヌクレオチド構築物を含む、構築物ライブラリーであって、
(a)前記複数のポリヌクレオチド構築物が、核酸修飾酵素の異なるバリアントをコードすること;
(b)前記複数のポリヌクレオチド構築物が、異なるDNA標的またはRNA標的をコードすること
のうちの1つまたは複数により特徴づけられる、前記ライブラリー。
【請求項15】
ガイドRNA(gRNA)をコードする第3のポリヌクレオチド配列をさらに含む、請求項12または13記載のポリヌクレオチド構築物。
【請求項16】
複数の請求項15記載のポリヌクレオチド構築物を含む、構築物ライブラリーであって、
(a)前記複数のポリヌクレオチド構築物が、核酸修飾酵素の異なるバリアントをコードすること;
(b)前記複数のポリヌクレオチド構築物が、異なるDNA標的またはRNA標的をコードすること;
(c)前記複数のポリヌクレオチド構築物が、異なるgRNAをコードすること
のうちの1つまたは複数により特徴づけられる、前記ライブラリー。
【請求項17】
第1のプロモーターに機能的に連結された、ガイドRNA(gRNA)をコードする第1のポリヌクレオチド配列、および
DNA標的を含む第2のポリヌクレオチド配列
を含む、ポリヌクレオチド構築物。
【請求項18】
第1のプロモーターに機能的に連結された、ガイドRNA(gRNA)をコードする第1のポリヌクレオチド配列、および
RNA標的をコードするDNA鋳型を含む、第2のポリヌクレオチド配列
を含む、ポリヌクレオチド構築物であって、
前記RNA標的の発現が、前記第1のプロモーターに駆動されて、前記gRNAと連続して一つのRNA転写物として同時発現される、前記ポリヌクレオチド構築物。
【請求項19】
複数の請求項21または22記載のポリヌクレオチド構築物を含む、構築物ライブラリーであって、
(a)前記複数のポリヌクレオチド構築物が、異なるDNA標的またはRNA標的をコードすること;
(b)前記複数のポリヌクレオチド構築物が、異なるgRNAをコードすること
のうちの1つまたは複数により特徴づけられる、前記ライブラリー。
【請求項20】
前記第1のポリヌクレオチド配列と前記第2のポリヌクレオチド配列が、完全にまたは部分的に重複している、請求項1~11のいずれか一項記載の方法または請求項12、13、15、17および18のいずれか一項記載のポリヌクレオチド構築物。
【請求項21】
前記DNA標的または前記RNA標的が、前記ガイドRNAに対し少なくとも部分的に相補的であるプロトスペーサーを含む、請求項2~11のいずれか一項記載の方法または請求項15、17および18のいずれか一項記載のポリヌクレオチド構築物。
【請求項22】
前記DNA標的が、近位のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列も含む、請求項2~12のいずれか一項記載の方法、請求項12、15および17のいずれか一項記載のポリヌクレオチド構築物、または請求項20および21のいずれか一項記載の方法もしくはポリヌクレオチド構築物。
【請求項23】
前記ポリヌクレオチド構築物がRNA標的をコードするDNA鋳型を含む場合、前記RNA標的は、近位のプロトスペーサー隣接配列(PFS)をさらに含む、請求項2~11のいずれか一項記載の方法、請求項13、15および18のいずれか一項記載のポリヌクレオチド構築物、または請求項21~23のいずれか一項記載の方法もしくはポリヌクレオチド構築物。
【請求項24】
前記核酸修飾酵素が、CRISPR関連タンパク質(Cas)である、請求項1~11のいずれか一項記載の方法、請求項12、13、15のいずれか一項記載のポリヌクレオチド構築物、または請求項21~24のいずれか一項記載の方法もしくはポリヌクレオチド構築物。
【請求項25】
前記バリアント核酸修飾酵素が、1つまたは複数の不活化触媒部位を含み、DNA標的を修飾することなく前記DNA標的に結合しかつその発現を阻害することができる、請求項1~11のいずれか一項記載の方法、請求項12、13、15のいずれか一項記載のポリヌクレオチド構築物、または請求項20~24のいずれか一項記載の方法もしくはポリヌクレオチド構築物。
【請求項26】
前記バリアント核酸修飾酵素が、DNAまたはRNAを修飾することができる1つまたは複数の追加の機能性ドメインと融合されている、請求項1~11のいずれか一項記載の方法、請求項12、13、15のいずれか一項記載のポリヌクレオチド構築物、または請求項20~25のいずれか一項記載の方法もしくはポリヌクレオチド構築物。
【請求項27】
請求項12、13、15、17および18のいずれか一項記載のポリヌクレオチド構築物をそれぞれが含み、互いから隔離されている、1つまたは複数のコンパートメント。
【請求項28】
各コンパートメントが、インビトロ転写および翻訳(IVTT)試薬をさらに含み、前記IVTT試薬が、タンパク質および/またはRNAのインビトロの転写および/または翻訳を可能にする、請求項1~11のいずれか一項記載の方法、請求項20~26、または請求項27記載の1つもしくは複数のコンパートメント。
【請求項29】
前記コンパートメントがエマルション液滴である、請求項1~11のいずれか一項記載の方法、請求項20~26、または請求項27もしくは28記載の1つもしくは複数のコンパートメント。
【請求項30】
前記隔離が、微小流体、ヒドロゲル制限拡散、または区切られたウェルを用いて実現される、請求項1~11のいずれか一項記載の方法、請求項20~26、または請求項27~29のいずれか一項記載の1つもしくは複数のコンパートメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2019年10月15日に出願されたシンガポール特許仮出願第10201909632P号の優先権の恩典を主張するものであり、その全文が参照によりあらゆる目的で本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明は、バイオテクノロジーの分野に関し、具体的には、酵素活性の測定に好適なマルチプレックスアッセイの開発に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、およびクラスター化し規則的に配置された短い回文配列リピート(CRISPR)関連ヌクレアーゼなどの核酸修飾酵素は、バイオ医薬研究でもバイオテクノロジー業界でもツールとして非常に重要なものとなった。治療モダリティとしては、これらの核酸修飾酵素は、DNAまたはRNAを直接修飾することにより、それまで治療不可能だった遺伝子疾患の治療を可能にした。核酸修飾酵素の産業および医療における多大な潜在能力を実現するには、天然成分の限界に対応する必要がある。これらの限界としては、標的化効率や標的化特異性、免疫原性の問題、ならびに送達ベクターおよび機能付与タンパク質融合部分との適合性が挙げられる。これらの限界に対応するために、タンパク質操作と呼ばれるプロセスで、酵素を修飾し、そして酵素活性をアッセイする必要がある。CRISPR-Casなどの酵素は、タンパク質のアミノ酸配列を変更するか、または機能付与性タンパク質ドメインをCasタンパク質もしくはCRISPR複合体に融合/同時局在させるかのいずれかにより、強化された機能(たとえば標的に対し特異性が高くなる、標的化の効率が上がる)を有するように、かつ/または新規な機能(たとえば塩基編集、免疫回避、エピジェネティック修飾)を有するように操作することもできる。
【0004】
酵素を操作する一般的なアプローチは、次のように開始する。(i)(天然の野生型と比べてアミノ酸が変化している)酵素の多くの異なる配列をコードするDNAバリアントのライブラリーを設計し作成する、(ii)コンパートメント、たとえば細胞内またはインビトロで、これらのバリアントを発現させる、(iii)下流の生化学反応もしくは細胞表現型によって酵素活性を測定し、または酵素活性を関連づけ、続いて「スクリーニング(screening)」(したがって活性バリアントと不活性バリアントとを隔離するのに選択圧をかけない)または「選択(selecting)」(したがって活性バリアントと不活性バリアントとを隔離するのに選択圧をかける)のいずれかを行う。タンパク質、とくにプログラム可能なエンドヌクレアーゼ様CRISPR-Casの操作は、ほとんどが後者の「選択」アプローチにより行われている。このアプローチは、活性バリアントに二元的にバイアスをかけるものであり(細胞が、タンパク質の活性バージョンを発現する場合は生存し、タンパク質の不活性バージョンを発現する場合は死滅する;ポジティブ選択とも呼ばれる)、タンパク質活性の程度に関する情報は提供しないし(たとえば、高活性タンパク質と活性がその半分であるタンパク質とを区別しない)、不活性タンパク質バリアントに関する情報を考慮/提供することもない。ネガティブ選択が行われる場合もあり、したがって不活性バリアントのみが保持されかつ特定され、活性バリアントは枯渇させ、直接測定しない。どちらの場合も、活性の試験はライブラリーのメンバーの濃縮/枯渇に関連づけられ、かつそれによって顕現される。「スクリーニング」アプローチはスケーラブルではなく、その理由は、活性バリアントおよび不活性バリアント両者を維持しかつ測定するにはリソースを増やさなくてはならないためである。したがって、CRISPR-Casタンパク質などの核酸修飾酵素の操作およびアッセイは、試験可能なバリアントの数という点でも、各バリアントにつき可能な変異の数という点でも制限がある。CRISPR-Casタンパク質は、複数のアミノ酸置換をこのタンパク質に組み込むことにより、もっと良好に、速く、そして安全に働くよう操作され得るが、現行のアプローチではこの機能空間を探ることはできない。
【0005】
このように、酵素ライブラリーの数百万から数十億超という候補から、なおも正確かつ高効率にその核酸標的を認識する、切断する、または修飾することができる機能性バリアントを検出しかつ特定するための、ハイスループットスクリーニング技術の需要がある。そのような技術は、新規な核酸修飾酵素のスクリーニングおよび操作を可能にするとともに、酵素活性に影響するほかの要因、たとえばガイドRNAおよび標的配列のスクリーニングおよび最適化を可能にすると考えられる。したがって、本発明の目的は、上記の需要に応える改善された方法を提供することである。
【発明の概要】
【0006】
一局面では、本開示は、
a)複数のポリヌクレオチド構築物をコンパートメント内に隔離する工程であって、各コンパートメントが1つのポリヌクレオチド構築物を含み、各ポリヌクレオチド構築物が、
i)第1のプロモーターに機能的に連結された、核酸修飾酵素またはそのバリアントをコードする第1のポリヌクレオチド配列;および
ii)DNA標的を含むかまたはRNA標的をコードするDNA鋳型を含む、第2のポリヌクレオチド配列であって、該第2のポリヌクレオチド配列がRNA標的をコードするDNA鋳型を含む場合、該RNA標的は、該第1のプロモーターに駆動されて、該核酸修飾酵素と連続して一つのRNA転写物として同時発現される、第2のポリヌクレオチド配列
を含み、該複数のポリヌクレオチド構築物が、該核酸修飾酵素の異なるバリアントおよび/または異なるDNA標的もしくはRNA標的をコードする、工程;
b)該コンパートメントを、RNAおよびタンパク質のインビトロの発現を可能にする条件に供する工程;
c)該複数のコンパートメントを、DNA標的またはRNA標的に対する修飾活性を有する核酸修飾酵素による該DNA/RNA標的の修飾を可能にする条件に供することによって、
i.該核酸修飾酵素により修飾されたポリヌクレオチド構築物および/またはRNA転写物もしくはその断片;
ii.該核酸修飾酵素により修飾されなかったポリヌクレオチド構築物および/またはRNA転写物
のうちの1つまたは複数を含むDNA/RNA分子の集団を生産する工程;
d)工程(c)で生産されたDNA/RNA分子の集団を回収し、それを一分子シーケンシングに供する工程;
e)シーケンシング結果に基づき、工程c)iおよびc)iiに記載のDNA/RNA分子を検出および集計する工程
を含む、方法に関する。
【0007】
別の局面では、本開示は、
a)複数のポリヌクレオチド構築物をコンパートメント内に隔離する工程であって、各コンパートメントが1つのポリヌクレオチド構築物を含み、各ポリヌクレオチド構築物が、
i)第1のプロモーターに機能的に連結された、ガイドRNA(gRNA)をコードする第1のポリヌクレオチド配列;
ii)DNA標的を含むかまたはRNA標的をコードするDNA鋳型を含む、第2のポリヌクレオチド配列であって、該第2のポリヌクレオチド配列がRNA標的をコードするDNA鋳型を含む場合、該RNA標的は、該第1のプロモーターに駆動されて、該gRNAと連続して一つのRNA転写物として同時発現される、第2のポリヌクレオチド配列
を含み、該複数のポリヌクレオチド構築物が、異なるgRNAおよび/または異なるDNA標的もしくはRNA標的をコードし;かつ各コンパートメントが、RNA誘導型核酸修飾酵素もしくはそのバリアント、またはそれをコードするヌクレオチド鋳型をさらに含む、工程;
b)該コンパートメントを、RNAおよびタンパク質のインビトロの転写および/または翻訳を可能にする条件に供する工程;
c)該コンパートメントを、gRNAの存在下でDNA標的またはRNA標的に対する機能活性を有するRNA誘導型核酸修飾酵素による該DNA標的および/またはRNA標的の修飾を可能にする条件に供することによって、
i.該核酸修飾酵素により修飾されたポリヌクレオチド構築物および/またはRNA転写物もしくはその断片;
ii.該核酸修飾酵素により修飾されなかったポリヌクレオチド構築物および/またはRNA転写物
のうちの1つまたは複数を含むDNA/RNA分子の集団を生産する工程;
d)工程(c)で生産されたDNA/RNA分子の集団を回収し、それを一分子ロングリードシーケンシングに供する工程;
e)シーケンシング結果に基づき、工程c)iおよび/またはc)iiに記載のDNA/RNA分子を検出および集計する工程
を含む、方法に関する。
【0008】
別の局面では、本開示は、第1のプロモーターに機能的に連結された、核酸修飾酵素またはそのバリアントをコードする第1のポリヌクレオチド配列、およびDNA標的を含む第2のポリヌクレオチド配列、を含む、ポリヌクレオチド構築物に関する。
【0009】
別の局面では、本開示は、第1のプロモーターに機能的に連結された、核酸修飾酵素またはそのバリアントをコードする第1のポリヌクレオチド配列、およびRNA標的をコードするDNA鋳型を含む、第2のポリヌクレオチド配列を含む、ポリヌクレオチド構築物であって、該RNA標的は、該第1のプロモーターに駆動されて、該核酸修飾酵素と連続して一つのRNA転写物として同時発現される、ポリヌクレオチド構築物に関する。
【0010】
さらに別の局面では、本開示は、本明細書に開示される複数のポリヌクレオチド構築物を含む、構築物ライブラリーに関し、該ライブラリーは、以下の1つまたは複数により特徴づけられる:a)該複数のポリヌクレオチド構築物が、核酸修飾酵素の異なるバリアントをコードすること;b)該複数のポリヌクレオチド構築物が、異なるDNA標的またはRNA標的をコードすること。
【0011】
さらなる局面では、本開示は、本明細書に開示される複数のポリヌクレオチド構築物を含む、構築物ライブラリーに関し、該ライブラリーは、以下の1つまたは複数により特徴づけられる:a)該複数のポリヌクレオチド構築物が、核酸修飾酵素の異なるバリアントをコードすること;b)該複数のポリヌクレオチド構築物が、異なるDNA標的またはRNA標的をコードすること;c)該複数のポリヌクレオチド構築物が、異なるgRNAをコードすること。
【0012】
別の局面では、本開示は、第1のプロモーターに機能的に連結された、ガイドRNA(gRNA)をコードする第1のポリヌクレオチド配列、およびDNA標的を含む第2のポリヌクレオチド配列、を含む、ポリヌクレオチド構築物に関する。
【0013】
別の局面では、本開示は、第1のプロモーターに機能的に連結された、ガイドRNA(gRNA)をコードする第1のポリヌクレオチド配列;およびRNA標的をコードするDNA鋳型を含む、第2のポリヌクレオチド配列を含む、ポリヌクレオチド構築物であって、該RNA標的の発現は、該第1のプロモーターに駆動されて、該gRNAと連続して一つのRNA転写物として同時発現される、ポリヌクレオチド構築物に関する。
【0014】
さらに別の局面では、本開示は、本明細書に開示される複数のポリヌクレオチド構築物を含む、構築物ライブラリーに関し、該ライブラリーは、以下の1つまたは複数により特徴づけられる:a)該複数のポリヌクレオチド構築物が、異なるDNA標的またはRNA標的をコードすること;b)該複数のポリヌクレオチド構築物が、異なるgRNAをコードすること。
【0015】
別の局面では、本開示は、本明細書に開示されるポリヌクレオチド構築物をそれぞれが含む、1つまたは複数のコンパートメントに関し、該コンパートメントは互いから隔離されている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本発明は、詳細な説明を参照し、非限定的な実施例および添付の図面とともに考察すると、よりよく理解されよう。
図1】本発明の主要概念および工程の非限定的リストを例示する図。油中水滴型エマルション液滴の作製によってコンパートメント化が生じている。
図2】本開示に開示されるポリヌクレオチド構築物の非限定例を例示する図。「Casヌクレアーゼ」は、任意の核酸修飾酵素で置き換えてもよく、また、不活化されたCasヌクレアーゼ、または機能付与ドメインと融合もしくは結合させたCasタンパク質などのCasバリアントを指す場合もある。
図3】酵素がCasヌクレアーゼであり修飾がDNA切断である一例における、いかにしてDNA/RNA分子リードを集計して酵素活性を計算するかを示す概略図。この例では、DNA標的部位は、コードされたCasバリアントの3’にある。整列させた3’末端が、参照配列の予想Cas切断部位の窓の3’下流部位に対しマップされる(参照配列に対し整列させた)ナノポアシーケンシングリードは、切断されなかったとみなされ(「ナノポアシーケンシング(nanopore-seq)整列リード」の濃いグレーのバー;図3)、3’末端がCas切断部位の窓内に収まるリードアライメントは切断されたとみなされ(「ナノポアシーケンシング整列リード」の薄いグレーのバー;図3)、どちらの基準も満たさないリードは無情報として廃棄されるが、それは、これらが切断されたのか切断されなかったのかを実験的に決定することができないからである(「ナノポアシーケンシング整列リード」の白いバー;図3)。
図4】(エマルションによる)コンパートメント化IVTT反応対バルクIVTT反応からの精製されたIVTT Sp Cas9およびdCas9 DNA構築物のゲル可視化。750 ngのSp Cas9構築物をIVTT試薬(New England Biolabs PURExpress #E6800)と氷中で混合して、75 μLのIVTT水性混合物を作った。50 μLの水性混合物を、10 μLずつ5分割で、油と界面活性剤との混合物に、氷中、撹拌棒を1150 rpmで回転させながら2分間にわたって加えて、エマルション混合物を作製した。このエマルション混合物を、引き続き氷中でさらに1分間混合させた。一例では、次に、このエマルション混合物を均質化(8000 rpmで3分; IKA Ultraturrax T10ホモジナイザー)に供して、エマルション液滴サイズのさらなる単分散分布をもたらした。残った水性混合物25 μLは、対照として、バルクIVTT反応のため氷中に保持した。これをSp dCas9構築物でも繰り返した。次に、エマルション・バルクIVTT混合物を4時間、37℃でインキュベートしてIVTTを進行させ、続いて65℃で15分かけてタンパク質を不活化した。次に、すべてのIVTT反応からのDNAを個別に精製し、アリコートを、ゲル電気泳動によりサイズ分離した後、アガロースゲル上に可視化した。このデータは、IVTT試薬が、バルク反応でもエマルション液滴でも、タンパク質を成功裏に転写し、かつ翻訳することを示している。
図5】Sp Cas9構築物のインプット濃度が高い、エマルションIVTT自己切断アッセイからのナノポアシーケンシングリード。このサブライブラリーのリードの小サブセットがSp dCas9に対しマップされたので、プロットでは割当ミスと分類した(薄いグレーのセクション;図5)が、それはこのエマルションIVTT反応にはインプットとしてSp Cas9 DNAしか与えなかったからである。Sp Cas9エマルションIVTTナノポアシーケンシングリードは、切断構築物断片と無切断構築物断片との混合が検出されたことを示す(それぞれ白および黒のセクション;図5)。このデータはしたがって、ナノポア一分子シーケンシングが、エマルションIVTT反応からの修飾ポリヌクレオチド構築物および無修飾ポリヌクレオチド構築物(酵素活性または不活性の産物)の両者を検出できることを示す。
図6】Sp dCas9構築物のインプット濃度が高い、エマルションIVTT自己切断アッセイからのナノポアシーケンシングリード。アライメントクオリティーフィルターを通過できなかったリードは、そのように分類した。Sp dCas9エマルションIVTTナノポアシーケンシングリードは、予想どおり、圧倒的に無切断構築物断片として現れる(縞模様のグレーのセクション;図6)。このサブライブラリーのリードの小サブセットがSp Cas9に対しマップされたので、プロットでは割当ミスと分類した(薄いグレーのセクション;図6)が、それはこのエマルションIVTT反応にはインプットとしてSp dCas9 DNAしか与えなかったからである。この結果は、シーケンシングリードによりSp dCas9の不活性が精確に検出され、かつ測定されることから、方法がロバストであることを支持している。
図7】バルクIVTTおよび自己切断アッセイの時間経過実験の例示的ワークフローを結果のナノポアシーケンシングの読み取りとともに示す図。この例では、異なるCRISPR-Cas構築物(たとえばSp Cas9、Sa Cas9、As Cpf1、Lb Cpf1)について、氷中のバルクIVTT反応をセットアップし、該構築物はすべて、上記の核酸鋳型配列に記載されるものと類似の成分の配置(arrangement)が共通していた。次に、これらを各時点につき、5つの対応するアリコートとして、均等に分割した(図7パート1)。次に、これらのバルクIVTTアリコートを37℃でインキュベートし、指定の時点で取り出して、EDTA阻害剤および酵素でクエンチして、IVTT反応およびコードDNA構築物のCas切断を停止させた(図7パート2)。次に、クエンチしたIVTT反応をSPRIselectビーズクリーンアップで処理して、DNA断片を精製した(図7パート3)。次に、これらの異なるIVTT時点の異なるCasオルソログのDNA断片の小アリコートを、図8に示すように、ゲル電気泳動によりサイズ分離した後アガロースゲル上に可視化した。次に、残った精製DNA断片のアリコートを、それぞれの時点別に、ただし各時点のCasの種、すなわちSp Cas9、Sa Cas9その他のDNA断片にかかわらずプールし一つに混合し、そしてONT EXP-NBD104 PCRフリーネイティブバーコーディング拡張キット(PCR-Free native barcoding expansion kit)を用いて個別にバーコード化し(図7パート4)、それによってこれらのプールしたサブライブラリーをマルチプレックス化して、1ランのナノポアシーケンシングを行った(図7パート5)。次に、ナノポアシーケンシングの結果をフィルタリングしてクオリティーを高め、そして一般公開されている生物情報学ツールを用いて解析し、続いて本発明に開示される解析アプローチを実施した。
図8図7パート3に示す工程後、バルクIVTT反応からの精製された異なるCRISPR-CasオルソログのIVTT構築物のゲル可視化。このデータは、異なるCasタンパク質(バリアントまたはオルソログ)がバルク反応で成功裏に転写され、かつ翻訳されることを示す。
図9】バルクIVTTおよび自己切断アッセイの時間経過実験からナノポアシーケンシングにより検出された、CasをコードするDNA断片のプロット。このデータは、一分子シーケンシングが、マルチプレックス式に酵素産物を検出できかつ異なる核酸修飾酵素の酵素活性を測定できることを示す。
図10】バルクIVTT反応からの精製されたIVTT Sp Cas9およびdCas9 DNA構築物のゲル可視化。500 ngのSp Cas9(上述の配列)をIVTT試薬(New England Biolabs PURExpress #E6800)と氷中で、50 μLのIVTT水性混合物を作った。Sp dCas9構築物についても同じことをした。Sp dCas9構築物は本質的にSp Cas9構築物と同じDNA配列を含むが、Sp dCas9遺伝子をSp Cas9遺伝子に2つの不活化変異(D10AおよびH840A)を有して生じさせることにおいて異なる。これらの50 μLのバルクIVTT反応を37℃で4時間インキュベートしてIVTTを進行させ、続いて65℃で15分かけてタンパク質を不活化した。バルクIVTT反応に、20 mM EDTA(pH 8.0)阻害剤をRNaseカクテルおよびプロテイナーゼKとともに加えて、37℃で30分かけてIVTT反応から過剰なRNAおよびタンパク質を除去した。次に、両バルクIVTT反応からのDNA(ポリヌクレオチド構築物)をSPRIselect常磁性ビーズで個別に精製してから、そのアリコートを、ゲル電気泳動によりサイズ分離した後、アガロースゲル上に可視化した。このデータは、Casタンパク質がバルクIVTT反応で成功裏に転写され、かつ翻訳されることを示す。
図11】核酸修飾酵素により修飾された、または修飾されなかったポリヌクレオチドの直接の検出および集計の実証。図10にゲル可視化を示す、バルクIVTT反応からの精製されたSp Cas9 DNA構築物とSp dCas9 DNA構築物とを異なる比率で混合した。次に、これらの精製DNA構築物の混合物をナノポアシーケンシング用に調製した。すべてのナノポアシーケンシングリードをSp dCas9構築物参照配列に対し整列させることにより、切断Sp Cas9リードの存在を生物情報学ツールを用いて検出するが、それはシーケンシングデータ解析の当業者であれば実施できる。このワークフローは、参照配列に対し整列させた、配列決定されたリードにおけるバリエーション(インデル(挿入および欠失)またはSNP(一塩基多型))の検出を可能にする。特に関心対象であったのは、それ以外は同一であるSp dCas9構築物とSp Cas9構築物との予想される配列差、すなわちSp dCas9がSp Cas9に対しD10AおよびH840Aの触媒不活化変異を有することを表す、SNPの検出であった。生のナノポアシーケンシングリードのアライメントを、図3に示されるように、Sp dCas9参照配列に対する配列マッピングにより、切断対無切断に分類してから、アミノ酸残基の変更をもたらしたSNP検出のために処理した。フィルタリングした各リードアライメントのSp Cas9配列を、その対応するアミノ酸配列に翻訳し、Sp dCas9参照アミノ酸配列からのアミノ酸変更をもたらしたSNPを検出し、集計した。上記のプロットでは、検出されたSNPを、Sp dCas9にD10AおよびH840A触媒不活化変異を含有するSp dCas9参照における選択された関心対象領域のヒートマップとして表す。切断と分類されたリード(左の2サブプロット;図11)は、D10およびH840残基を有することに対応するSNPを濃縮し(ヒートマップ中、濃いグレーの四角;図11)、すなわちこれらの切断リードは、触媒活性のあるSp Cas9配列を含有していた。ヒートマップのはるかに薄いグレーの四角として上記プロット中に表される、検出されたほかのアミノ酸変異をもたらしたSNPは、現在利用可能なナノポアシーケンシング技術に固有の生シーケンシングエラーから生じる擬陽性である。このデータは、生ナノポアシーケンシングデータにおいて、無切断Sp dCas9 DNA断片の検出と区別できる、切断および無切断Sp Cas9 DNA断片の検出を実証するものである。特に、この方法は、精製Sp dCas9バルクIVTT DNA産物対精製Sp Cas9バルクIVTT DNA産物の1:10-5の混合物においても、切断Sp Cas9 DNA断片を検出することができる(図11)。
図12】Sp Cas9構築物のインプット濃度が制限されている、エマルションIVTT自己切断アッセイからのナノポアシーケンシングリード。Sp Cas9酵素について予想したとおり、エマルションIVTTナノポアシーケンシングリードは、切断構築物断片(白のセクション;図12)と無切断構築物断片(黒のセクション;図12)との混合が検出されることを示す。したがって、このデータは、IVTTおよび酵素反応がエマルション液滴中で行われるアッセイがロバストであることを支持している。このサブライブラリーのリードの小サブセットがSp dCas9に対しマップされたので、プロットでは割当ミスと分類した(薄いグレーのセクション;図12)が、それはこのエマルションIVTT反応にはインプットとしてSp Cas9 DNAしか与えなかったからである。
図13】Sp dCas9 構築物のインプット濃度が制限されている、エマルションIVTT自己切断アッセイからのナノポアシーケンシングリード。Sp dCas9エマルションIVTTナノポアシーケンシングリードは、予想どおり、圧倒的に無切断構築物断片(縞模様のグレーのセクション;図13)として現れ、Sp dCas9がたいていの場合は不活性であることを実証している。したがって、このデータも、IVTTおよび酵素反応がエマルション液滴中で行われるアッセイがロバストであることを支持している。このサブライブラリーのリードの小サブセットがSp Cas9に対しマップされたので、プロットでは割当ミスと分類した(薄いグレーのセクション;図13)が、それはこのエマルションIVTT反応にはインプットとしてSp dCas9 DNAしか与えなかったからである。
図14】等モル比で与えられるSp Cas9構築物とSp dCas9構築物とのインプット濃度が制限されている、エマルションIVTT自己切断アッセイからのナノポアシーケンシングリード。ナノポアシーケンシングリードは、予想どおり、Sp Cas9およびSp dCas9のマップされたリードの大体等しい分布を示す。さらには、Sp Cas9のマップされたリードは、切断断片と無切断断片とにほぼ均等に分かれる(それぞれ白および黒のセクション;図14)が、Sp dCas9のマップされたリードの大部分は無切断と分類される(縞模様のグレーのセクション;図14)。したがって、このデータは、本明細書に開示される方法が、異なるバリアント(この例ではCasバリアントであるが、この方法は、標的またはgRNAなどの酵素反応のほかの成分のバリアントをスクリーニングするのにも用いられ得る)の酵素活性を測定することができることを、さらに実証するものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
定義
本明細書全体で使用されているいくつかの用語を以下の段落において定義する。その他の定義も本明細書の本文中に見ることができる。
【0018】
本明細書で使用する場合、数に関する「約」および「およそ」という用語は、とくに断らないかぎり、または文脈からそうではないことが明白でないかぎり、その数のいずれかの方向(それよりも大きいまたは少ない)の20%、10%、5%、2.5%、2%、1.5%、または1%の範囲内の数を含むために用いられる(そのような数が可能な値の100%を超えるような場合は除く)。
【0019】
「ポリヌクレオチド」、「核酸」、および「オリゴヌクレオチド」という用語は、交換可能に用いられ、デオキシリボヌクレオチドであれ、リボヌクレオチドであれ、それらの類似体であれ、任意の長さのポリマー形態のヌクレオチドを指す。ポリヌクレオチドは、任意の三次元構造を有し得、既知であれ未知であれ、なんらかの機能を果たし得る。以下はポリヌクレオチドの非限定例である:遺伝子または遺伝子断片(たとえばプローブ、プライマー、EST、またはSAGEタグ)、エキソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、組換ポリヌクレオチド、分枝ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離DNA、任意の配列の単離RNA、核酸プローブ、およびプライマー。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチドおよびヌクレオチド類似体などの修飾ヌクレオチドを含み得る。ヌクレオチド構造に修飾が存在する場合、それは該ポリヌクレオチドの形成の前または後に付与され得る。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド成分により中断され得る。ポリヌクレオチドは、標識化成分の結合などにより、重合後さらに修飾される場合がある。この用語はまた、二本鎖および一本鎖分子の両方を指す。別段の記載または定めのないかぎり、ポリヌクレオチドは、二本鎖の形態、および該二本鎖の形態を構成するとわかっているまたは予想される2つの相補的一本鎖の形態の各々を包含する。本明細書で使用される場合、「ポリペプチド」という用語は、当業界で認識されている、アミノ酸のポリマーという意味を広く有する。この用語はまた、ポリペプチドの特定の機能的分類、たとえばヌクレアーゼ、抗体、その他などを指す。
【0020】
「機能的に連結される」という用語は、本明細書で使用される場合、並置を指し、ここで記載の成分はそれらが所期のように機能できる関係にある。機能性要素と「機能的に連結される」制御要素、たとえばプロモーターは、該機能性要素の発現および/または活性が、該制御要素と適合する条件下で実現するように、結合されている。いくつかの態様では、「機能的に連結される」制御要素は、関心対象のコード要素と連続しており(たとえば共有結合しており)、いくつかの態様では、制御要素は、関心対象の機能性要素に対しトランスで、またはそうでない場合は関心対象の機能性要素から作用する。
【0021】
「核酸修飾酵素」という用語は、マクロ分子の生物学的触媒を指し、それは天然のタンパク質または核酸であってもよく、かつ核酸を修飾する能力がある。「RNA誘導型核酸修飾酵素」という用語は、ガイドRNAと相互作用する、またはともに複合体を形成する、かつ普通は該gRNAの標的ドメインに対し相補的な配列を含む特定の配列のポリヌクレオチドを特異的に標的化できる、またはそれに特異的に結合できる酵素を広く指す。標的ポリヌクレオチドと結合すると、RNA誘導型核酸修飾酵素は、該標的ポリヌクレオチドと結合したままでいることもできるし、RNA誘導型核酸修飾酵素がヌクレアーゼであれば該標的ポリヌクレオチドを切断することもできるし、あるいは、該ポリヌクレオチドをほかの様式で修飾する機能性ドメインを有する場合はそのように修飾することもできる。一例では、RNA誘導型核酸修飾酵素は、CRISPR関連タンパク質(Cas)である。多くのCasタンパク質がエンドヌクレアーゼ活性をもち、Casヌクレアーゼとも呼ばれる。特定の例では、RNA誘導型核酸修飾酵素は、Cas3、Cas9、Cas10、Cas12a(Cpf1としても知られる)、Cas13a(C2c2としても知られる)、Cas13b、Cas13c、Cas13d、Cas14、CasX、CasΦ、およびそれらのバリアントからなる群より選択される。
【0022】
「ガイドRNA」および「gRNA」という用語は、細胞内であれ細胞フリー環境であれ、RNA誘導型核酸修飾酵素が標的配列に特異的に結合(または「標的化」)するのを助長する任意の核酸を指す。gRNAは、単分子(1つのRNA分子を含み、キメラとも呼ばれる)であっても、モジュール型(2つ以上、典型的には2つの別々のRNA分子を含む、crRNAおよびtracrRNAなどであり、それらが普通はたとえばデュプレックス化により互いに結合している)であってもよい。
【0023】
本明細書で使用される場合、「標的」(または「標的部位」)という用語は、結合に十分な条件が存在する場合は結合分子が結合する核酸(またはポリヌクレオチド)の一部分を定める、核酸配列を指す。いくつかの態様では、標的部位は、本明細書に記載される核酸修飾酵素が結合する、かつ/またはそのような核酸修飾酵素により修飾される、核酸配列である。いくつかの態様では、標的は、本明細書に記載されるガイドRNAが結合する核酸配列である。標的は一本鎖または二本鎖であり得る。本明細書に開示される核酸修飾酵素は、DNAまたはRNAを修飾し得る。したがって、「標的」は、DNA配列またはRNA配列であり得、それぞれ「DNA標的」および「RNA標的」と呼ばれる。二量体化するヌクレアーゼ、たとえばFokI DNA切断ドメインを含むヌクレアーゼの文脈では、標的は、典型的には、左半分部位(ヌクレアーゼの一方のモノマーが結合する)、右半分部位(ヌクレアーゼの第2のモノマーが結合する)、およびこれら半分部位の間の切断がなされるスペーサー配列を含む。いくつかの態様では、左半分部位および/または右半分部位は、10~18ヌクレオチド長である。いくつかの態様では、半分部位の一方または両方が、もっと短い、またはもっと長い。いくつかの態様では、右半分部位と左半分部位とは、異なる核酸配列を含む。ジンクフィンガーヌクレアーゼの文脈では、標的は、いくつかの態様では、4~8塩基長の非特異的スペーサー領域を両側から挟んでいるそれぞれ6~18塩基長の2つの半分部位を含み得る。TALENの文脈では、標的は、いくつかの態様では、10~30塩基長の非特異的スペーサー領域を両側から挟んでいるそれぞれ10~23塩基長の2つの半分部位を含み得る。RNA誘導型(たとえばRNAプログラム可能)核酸修飾酵素の文脈では、標的は、典型的には、ガイドRNA(gRNA)に対し相補的なヌクレオチド配列(たとえばCRISPR-Casの「プロトスペーサー」)、およびガイドRNA相補配列に隣接する3'末端または5'末端のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を含む。RNAを標的とするCRISPR-Cas酵素(たとえばCas13ファミリー)の場合は、RNA標的は、PAM配列の代わりにプロトスペーサー隣接配列(PFS)を含み得る。Cas酵素のDNA標的またはRNA標的は、いくつかの態様では、gRNAに対し相補的な16~24ヌクレオチド長、および3~6塩基対のPAM/PFS(たとえばNNN、ここでNは任意のヌクレオチドを表す)を含み得る。
【0024】
本明細書で使用される場合、「結合(すること)」は、マクロ分子同士の(たとえばタンパク質とポリヌクレオチドとの)非共有結合の相互作用を指す。
【0025】
ポリヌクレオチドを「修飾すること」は、ポリヌクレオチドの成分または構造の任意の化学的または物理的な変更を指し、ポリヌクレオチドを破断/切断すること、二本鎖ポリヌクレオチドにニック(一本鎖破断)を生じさせること、1つもしくは複数のヌクレオチド塩基を置換すること、1つもしくは複数のヌクレオチド塩基を挿入もしくは欠失させること、または化学的およびエピジェネティックマーカーでヌクレオチド塩基を共有結合的に修飾すること(たとえばシトシンのメチル化およびヒドロキシメチル化)が挙げられる。
【0026】
本明細書で使用される場合、「バリアント」という用語は、参照物との有意な構造同一性を示すが、参照物と比べると、1つまたは複数の化学部分の存在下でまたはそのレベルにおいて参照物とは構造的に異なる任意の実体を指す。多くの態様では、バリアントは、その参照物とは機能的にも異なる。一般に、特定の実体が参照物の「バリアント」であると適切にみなされるかどうかの根拠は、参照物との構造同一性の程度である。当業者は理解しようが、どの生物学的または化学的参照物も、何らかの特徴的構造要素を有する。バリアントとは、そのような特徴的構造要素を1つまたは複数共有している、明確な化学的実体と定義される。ほんの数例を挙げると、あるポリペプチドは、線形または三次元空間において互いに対し定められた位置を有する、かつ/または特定の生物学的機能に寄与する複数のアミノ酸を含む、特徴的な配列要素を有し得、ある核酸は、線形または三次元空間において互いに対し定められた位置を有する複数のヌクレオチド残基で構成される特徴的配列要素を有し得る。たとえば、あるバリアントポリペプチドは、アミノ酸配列の1つもしくは複数の違い、および/またはポリペプチド主鎖に共有結合している化学部分(たとえば糖、脂質、その他)の1つもしくは複数の違いの結果として、参照ポリペプチドとは異なる場合がある。いくつかの態様では、バリアントポリペプチドは、参照ポリペプチド(たとえば本明細書に記載される核酸修飾酵素)との全体的な配列同一性を示し、それは少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、または99%である。あるいは、またはそれに加えて、いくつかの態様では、バリアントポリペプチドは、少なくとも1つの特徴的配列要素を参照ポリペプチドと共有しない。いくつかの態様では、参照ポリペプチドは、1つまたは複数の生物学的活性を有する。いくつかの態様では、バリアントポリペプチドは、参照ポリペプチドの生物学的活性の1つまたは複数、たとえば酵素活性を共有する。いくつかの態様では、バリアントポリペプチドは、参照ポリペプチドの生物学的活性の1つまたは複数をもたない。いくつかの態様では、バリアントポリペプチドは、参照ポリペプチドと比べて低下したレベルの1つまたは複数の生物学的活性(たとえば酵素活性)を示す。いくつかの態様では、関心対象のポリペプチドは、関心対象のポリペプチドが特定の位置の少数の配列変更を除いて親アミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を有する場合、親または参照ポリペプチドの「バリアント」とみなされる。典型的には、バリアントにおいて20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%よりも少ない残基が、親と比べて置換されている。いくつかの態様では、あるバリアントが、親と比べて、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1置換残基を有する。しばしば、バリアントは、非常に少数の(たとえば5、4、3、2、または1よりも少ない)置換された機能性残基(すなわち特定の生物学的活性に加わる残基)の数を有する。さらに、バリアントは、典型的には、親と比べて5、4、3、2、または1以下の付加または欠失を有し、また、しばしば付加または欠失を有さない。さらに、どんな付加または欠失も、典型的には、約25、約20、約19、約18、約17、約16、約15、約14、約13、約10、約9、約8、約7、約6残基よりも少なく、一般には約5、約4、約3、または約2残基よりも少ない。いくつかの態様では、親または参照ポリペプチドは、自然界に見られるものである。
【0027】
「ライブラリー」という用語は、本明細書で使用される場合、核酸またはタンパク質の文脈では、2つ以上の異なるポリヌクレオチド構築物またはタンパク質のそれぞれの集団を指す。いくつかの態様では、ポリヌクレオチド構築物のライブラリーが、核酸修飾酵素をコードする異なる配列を含む少なくとも2つのポリヌクレオチド構築物、ガイドRNAをコードする異なる配列を含む少なくとも2つのポリヌクレオチド構築物、異なるPAMを含む少なくとも2つのポリヌクレオチド構築物、および/または異なる標的部位を含む少なくとも2つの核酸分子を含む。いくつかの例では、ライブラリーが、少なくとも101、少なくとも102、少なくとも103、少なくとも104、少なくとも105、少なくとも106、少なくとも107、少なくとも108、少なくとも109、少なくとも1010、少なくとも1011、少なくとも1012、少なくとも1013、少なくとも1014、または少なくとも1015の異なる核酸鋳型を含む。いくつかの態様では、ライブラリーのメンバーは、ランダム化配列、たとえば完全または部分的ランダム化配列を含み得る。いくつかの態様では、ライブラリーは、互いに無関連の核酸分子、たとえば完全ランダム化配列を含む核酸を含む。ほかの態様では、ライブラリーの少なくとも一部のメンバーは関連があり得、たとえばそれらは特定の配列のバリアントまたは誘導体であり得る。
【0028】
本明細書で使用される場合、核酸配列の「発現」という用語は、該核酸配列からの任意の遺伝子産物の生成を指す。いくつかの例では、遺伝子産物は、RNA転写物であり得る。いくつかの態様では、遺伝子産物はポリペプチドであり得る。いくつかの態様では、核酸配列の発現には、以下の1つまたは複数が含まれる:(1)DNA配列からのRNA鋳型の生産(たとえば転写による);(2)RNA転写物のプロセシング(たとえばスプライシング、編集、5'キャップ形成、および/または3'末端形成による);(3)RNAをポリペプチドまたはタンパク質へと翻訳;ならびに/あるいは(4)ポリペプチドまたはタンパク質の翻訳後修飾。
【0029】
「コンパートメント」という用語は、本明細書で使用される場合、ポリヌクレオチド構築物をコンパートメント内に隔離する文脈では、任意の物理的なまたは事実上のコンパートメント、たとえばエマルション液滴およびナノウェル、ならびに事実上のコンパートメント、たとえば微小流体またはヒドロゲルにより可能にされる試薬および反応の隔離を指し得る。
【0030】
「プロモーター」という用語は、本明細書で使用される場合、精確な転写開始を与える転写プロモーターを指す。本明細書で使用されるプロモーターとしては、タンパク質(たとえばCasタンパク質)をコードするmRNA、またはRNA転写物(たとえばガイドRNA)を生産するのに用いることができる、任意のプロモーターが挙げられる。いくつかの例では、プロモーターは、細胞フリーインビトロ転写および翻訳反応との適合性がある。本発明の文脈で使用され得るプロモーターの例としては、限定ではないが、T7プロモーター、SP6プロモーター、Lacプロモーターその他が挙げられる。「ターミネーター」という用語は、本明細書で使用される場合、転写ユニット(たとえば遺伝子)の末端を定め、かつ新たに合成されたRNAを転写機構から放出するプロセスを開始する、転写ターミネーターを指す。ターミネーターの例としては、限定ではないが、T7ターミネーターおよびrrnBターミネーターが挙げられる。
【0031】
本発明の詳細な説明
本発明の発明者らは、とりわけ、核酸修飾酵素の活性を測定し、かつ酵素反応の1つまたは複数の可変要素をスクリーニングするためのマルチプレックス法を開発した。たとえば、本方法は、核酸修飾酵素バリアントの活性を、それ自体のコードDNA/RNAおよびそのDNA/RNA標的分子と、物理的に関連づけることができると同時に、個々の標的分子に関する各バリアントの酵素活性および不活性の両方を直接、活性レベルにかかわらず分子測定することができる(すなわち、ある活性バリアントがいかに活性であるか定量化し、不活性バリアントは「不活性」とも測定され得る)。これによって、強化されたまたは新規な機能性を有するよう核酸修飾酵素(たとえばCRISPR-Cas)を操作することに向けて、(活性バリアントにより)直接の経路が可能になると同時に、現在非生産的である配列バリエーションの適応度地形マップが(不活性または弱活性バリアントにより)造られる。同様に、ガイドRNAおよび/またはDNA/RNA標的のバリアントも、本明細書に開示される方法を用いてスクリーニングすることができる。
【0032】
本発明の主要概念の非限定的かつ非排他的なリストを以下に記載する:(i)試験すべきDNA/RNA標的部位および可変要素(たとえば核酸修飾酵素バリアント)をコードする、ポリヌクレオチド構築物、(ii)該DNAを、一般に入手可能なRNAおよびタンパク質発現試薬のいずれかと混合すること(いわゆる細胞フリー転写-翻訳(TXTL)/インビトロ転写-翻訳(IVTT)反応)、(iii)DNA構築物バリアントの単一のコピーをIVTT試薬と共に封入またはコンパートメント化すること、(iv)その他の多数のコンパートメントから単離された状態で、個々のコンパートメント内でIVTT反応をさせて、各コンパートメント内で核酸修飾酵素および(酵素がRNA誘導型酵素である場合は)sgRNA(および、いくつかの態様では、Cas転写物の一部として同時転写されるRNA標的)を発現させること、(v)コードされた核酸修飾酵素の機能に応じて、個々のポリヌクレオチド構築物(または、いくつかの態様では、構築物から転写されたRNA標的)が切断されるか、インタクトであるか、または修飾されること、(vi)切断されたか、インタクトであるか、または修飾されたポリヌクレオチド構築物(または、いくつかの態様ではRNA標的)を、たとえば一分子ロングリードシーケンシングによって並列定量化することによって、各可変要素と関連づけられる酵素活性を分子並列式に直接特定しかつ直接定量化すること。この技術は、コードされた可変要素(たとえば核酸修飾酵素バリアント)の表現型をそのコード配列と直接関連づけ、大バリアントライブラリーについて配列と機能との関係を迅速に決定することを可能にする。図1は、本発明の主要概念の非限定的リストを示す。
【0033】
方法
本明細書に開示される方法は、酵素活性を測定する方法として特徴づけられ得る。本方法は高度にスケーラブルであり、かつ多数のバリアントポリヌクレオチドをスクリーニングすることができるので、核酸(nucleic)修飾酵素、および/または(該核酸(nucleic)修飾酵素の)DNA/RNA標的、および/またはガイドRNA、および/またはポリヌクレオチド構築物上にコードされ得る酵素反応のほかの成分をスクリーニングする方法としても特徴づけられ得る。したがって、一局面では、本開示は、
a)複数のポリヌクレオチド構築物をコンパートメント内に隔離する工程であって、各コンパートメントが1つのポリヌクレオチド構築物を含み、各ポリヌクレオチド構築物が、
i)第1のプロモーターに機能的に連結された、核酸修飾酵素またはそのバリアントをコードする第1のポリヌクレオチド配列;および
ii)DNA標的を含むかまたはRNA標的をコードするDNA鋳型を含む、第2のポリヌクレオチド配列であって、該第2のポリヌクレオチド配列がRNA標的をコードするDNA鋳型を含む場合、該RNA標的は、該第1のプロモーターに駆動されて、該核酸修飾酵素と連続して一つの転写物として同時発現される、該第2のポリヌクレオチド配列
を含み、該複数のポリヌクレオチド構築物が、該核酸修飾酵素の異なるバリアントおよび/または異なるDNA標的もしくはRNA標的をコードする、工程;
b)該コンパートメントを、RNAおよびタンパク質のインビトロの発現を可能にする条件に供する工程;
c)該複数のコンパートメントを、DNA標的またはRNA標的に対する修飾活性を有する核酸修飾酵素による該DNA/RNA標的の修飾を可能にする条件に供することによって、
iii.該核酸修飾酵素により修飾されたポリヌクレオチド構築物および/またはRNA標的もしくはその断片;
iv.該核酸修飾酵素により修飾されなかったポリヌクレオチド構築物および/またはRNA標的
のうちの1つまたは複数を含むDNA/RNA分子の集団を生産する工程;
d)工程(c)で生産されたDNA/RNA分子の集団を回収し、それを一分子シーケンシングに供する工程;
e)シーケンシング結果に基づき、工程c)iおよびc)iiに記載のDNA/RNA分子を検出および集計する工程
を含む、方法に関する。
【0034】
この第1の局面では、ポリヌクレオチド構築物は、核酸修飾酵素(またはそのバリアント)およびDNA/RNA標的の両方をコードする。したがって、核酸修飾酵素またはDNA/RNA標的が、可変要素として試験され得、またはスクリーニングされ得る。方法が、特定の標的に対する異なる核酸修飾酵素の活性を試験または測定(すなわち酵素をスクリーニング)するのに用いられるいくつかの例では、複数のポリヌクレオチド構築物が、同じDNA/RNA標的を、しかし異なる核酸修飾酵素(または同じ核酸修飾酵素の異なるバリアント)を、コードし得る。方法が、異なるDNA/RNA標的に対する特定の核酸修飾酵素の活性を試験または測定(すなわちDNA/RNA標的をスクリーニング)するのに用いられるいくつかの例では、複数のポリヌクレオチド構築物が、同じ核酸修飾酵素を、しかし異なるDNA/RNA標的を、コードし得る。CRISPR-Cas標的の文脈では、「異なるDNA/RNA標的」という表現は、プロトスペーサー(ガイドRNAに対し相補的な配列)またはPAM/PFS配列が異なるDNA/RNA標的を指す場合がある。
【0035】
各ポリヌクレオチド構築物によりコードされる核酸修飾酵素がRNA誘導型核酸修飾酵素(たとえばCRISPR-Casヌクレアーゼまたはそのバリアント)であるいくつかの例では、核酸修飾酵素がDNA/RNA標的に結合する、かつ/またはそれを修飾するために、ガイドRNA(gRNA)を要する場合がある。いくつかの例では、gRNAが、gRNAの形態で、または該gRNAをコードするDNA鋳型の形態で、各コンパートメントに直接与えられる。したがって、核酸修飾酵素がRNA誘導型核酸修飾酵素である一例では、各コンパートメントが、ガイドRNAまたはそれをコードするヌクレオチド鋳型をさらに含む。
【0036】
いくつかのほかの例では、gRNAは、酵素およびDNA/RNA標的をコードするのと同じポリヌクレオチド構築物上にコードされ得る。したがって、一例では、核酸修飾酵素はRNA誘導型核酸修飾酵素であり、各ポリヌクレオチドが、バリアントガイドRNA(gRNA)をコードする第3のポリヌクレオチド配列をさらに含み、該複数のポリヌクレオチド構築物が、該核酸修飾酵素の異なるバリアント、および/または異なるDNAもしくはRNA標的、および/または異なるgRNAをコードする。この例では、本明細書に開示される方法が、
a)複数のポリヌクレオチド構築物をコンパートメント内に隔離する工程であって、各コンパートメントが1つのポリヌクレオチド構築物を含み、各ポリヌクレオチド構築物が、
i)第1のプロモーターに機能的に連結された、核酸修飾酵素またはそのバリアントをコードする第1のポリヌクレオチド配列であって、該核酸修飾酵素がRNA誘導型核酸修飾酵素である、第1のポリヌクレオチド配列;
ii)DNA標的を含むかまたはRNA標的をコードするDNA鋳型を含む、第2のポリヌクレオチド配列であって、該第2のポリヌクレオチド配列がRNA標的をコードするDNA鋳型を含む場合、該RNA標的は、該第1のプロモーターに駆動されて、該核酸修飾酵素と連続して一つの転写物として同時発現される、第2のポリヌクレオチド配列;および
iii)バリアントガイドRNA(gRNA)をコードする第3のポリヌクレオチド配列
を含み、該複数のポリヌクレオチド構築物が、該核酸修飾酵素の異なるバリアントおよび/または異なるDNA標的もしくはRNA標的、および/または異なるgRNAをコードする、工程;
b)該コンパートメントを、RNAおよびタンパク質のインビトロの発現を可能にする条件に供する工程;
c)該複数のコンパートメントを、gRNAの存在下でDNA標的またはRNA標的に対する機能活性を有する核酸修飾酵素による該DNA/RNA標的の修飾を可能にする条件に供することによって、
i.該核酸修飾酵素により修飾されたポリヌクレオチド構築物および/またはRNA標的もしくはその断片;
ii.該核酸修飾酵素により修飾されなかったポリヌクレオチド構築物および/またはRNA標的;
のうちの1つまたは複数を含むDNA/RNA分子の集団を生産する工程;
d)工程(c)で生産されたDNA/RNA分子の集団を回収し、それを一分子ロングリードシーケンシングに供する工程;
e)シーケンシング結果に基づき、工程c)iおよびc)iiに記載のDNA/RNA分子を検出および集計する工程
を含む。
【0037】
上記の例では、gRNA(または該gRNAをコードする配列)は、核酸修飾酵素およびDNA/RNA標的と物理的に連結されているので、gRNA、DNA/RNA標的、および核酸修飾酵素はどれでも可変要素として試験され得、かつスクリーニングされ得る。コードされたgRNAは、(たとえばコンパートメント内で)ポリヌクレオチド構築物から発現することになるので、ポリヌクレオチド構築物はgRNAの発現を促進するほかの要素を含み得、それは通常当業者には公知である。いくつかの例では、第3のポリヌクレオチド配列は第2のプロモーターに機能的に連結される。いくつかの例では、第2のプロモーターはT7プロモーターである。
【0038】
核酸修飾酵素のスクリーニング
方法が、特定の標的に対する異なる核酸修飾酵素の活性を試験または測定するために使用されるいくつかの例では、複数のポリヌクレオチド構築物は、同じDNA/RNA標的およびgRNAを、しかし異なる核酸修飾酵素(または同じ核酸修飾酵素の異なるバリアント)を、コードし得る。
【0039】
この方法を用いて試験、スクリーニング、および最適化がされ得る核酸修飾酵素の一例は、Casファミリーのヌクレアーゼである。近年、DNAおよびRNA編集用に様々なCRISPR-Casシステムが開発されており、医薬およびバイオテクノロジーのあらゆる分野に影響を与える広範囲な用途が可能になった。文献で十分に特徴決定されているCas9、Cas12(以前はCpf1として知られていた)、Cas13、およびCas14ヌクレアーゼを含むクラス2のCas(CRISPR関連)タンパク質が、とくに関心対象となっている。これらのCasタンパク質は、一成分ヌクレアーゼエフェクター(すなわち単一Casタンパク質であって、相異なるタンパク質のマルチマー複合体ではない)であり、典型的には、RNAオリゴヌクレオチド(ガイドRNA、gRNA;シングルガイドRNA、sgRNAとしても知られる改変体;交換可能に使用される)を利用してCasタンパク質をプログラムしDNAおよび/またはRNA上の特定の位置に共在させ、その後、切断(DNA/RNA中のヌクレオチド鎖切断による破断)などの酵素活性が生じることができる。gRNA配列のセグメント(スペーサー)は、DNA/RNAの標的配列(プロトスペーサー)に対し相補的である。機能的な標的化のために、プロトスペーサーに隣接する別の短い配列(典型的には2~6 nt長)が必要であり、それはプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM;DNAの場合)またはプロトスペーサー隣接配列(PFS;RNAの場合)としても知られる。各Cas-gRNAシステムは、一意のPAM/PFS部位を認識することができ、異なるgRNA:プロトスペーサー要件を有する。Casタンパク質は、新たなPAM/PFS部位を認識するように、さほどストリンジェントではないgRNA長または構造を有するように、かつもっと特異的で高効率であるように操作されてきたし、さらに操作され得る。Casヌクレアーゼを治療法として用いつつ、有害な免疫応答を最小限化するために、Casタンパク質の免疫原性エピトープを除去するまたはマスクすることもでき、それは具体的には、Cas機能を維持しながら、アミノ酸配列を欠失させる、または変更することによる。たとえば塩基編集(標的ヌクレオチドを別のものに変える)、エピジェネティック修飾、またはまだ実証されていない多くのほかの修飾をもたらすよう、Casタンパク質またはCas融合タンパク質に新たな機能を組み込むこともできる。これらの努力はふつう、Casバリアントライブラリーの何らかの形態の定向進化、タンパク質操作、選択、およびスクリーニングを伴う。本明細書に開示される方法は、大ライブラリーの酵素(たとえばCas)変異体の活性を測定しスクリーニングするのに有用であるが、それは、i)高度にスケーラブルであり、>109のコンパートメント化IVTT反応液滴/mLの並列ランが可能であって、かつii)比較的大きい配列空間に適合できるためであり、後者は、とくにCRISPR-Casタンパク質などの大きなタンパク質(>103 aa長)を調査する場合に重要かつ有用である。
【0040】
核酸修飾酵素のDNA/RNA標的のスクリーニング
方法が、特定のgRNAの存在下で異なるDNA/RNA標的に対する特定の核酸修飾酵素の活性を試験または測定するのに用いられるいくつかの例では、複数のポリヌクレオチド構築物は、同じ核酸修飾酵素およびgRNAを、しかし異なるDNA/RNA標的を、コードし得る。
【0041】
これらの例では、本明細書に開示される方法は、PAMまたはPFSバリアントがRNA誘導型核酸修飾酵素によるDNA/RNA標的の結合または修飾を指令する能力を評価するのに用いられ得る。本明細書に開示される方法は、任意の所与の標的部位についての複数のPAM/PFSバリアントの同時査定を可能にする。したがって、そのような方法から得られたデータを用いて、特定のDNA/RNA標的を修飾(たとえば切断)するPAMバリアントのリストをコンパイルすることができる。当業者には容易に明らかになろうが、酵素の活性に効果を有し得る、標的部位上のあらゆる非PAM/PFS配列も、この方法を用いて試験しかつスクリーニングすることができる。
【0042】
ガイドRNAのスクリーニング
方法が、異なる特定のgRNAの存在下で特定のDNA/RNA標的に対する特定の核酸修飾酵素の活性を試験または測定するのに用いられるいくつかの例では、複数のポリヌクレオチド構築物は、同じ核酸修飾酵素およびDNA/RNA標的を、しかし異なるgRNAを、コードし得る。
【0043】
これらの例では、本開示は、異なるgRNAが特定のDNA/RNA標的に対する核酸修飾酵素の結合および/または修飾を媒介する能力を査定する方法を提供する。したがって、この方法から得られた結果を用いて、特定の核酸修飾酵素による特定の標的の修飾を媒介するガイドRNAバリアントのリストをコンパイルすることができる。
【0044】
別の局面では、本開示は、
a)複数のポリヌクレオチド構築物をコンパートメント内に隔離する工程であって、各コンパートメントが1つのポリヌクレオチド構築物を含み、各ポリヌクレオチド構築物が、
i)第1のプロモーターに機能的に連結された、ガイドRNA(gRNA)をコードする第1のポリヌクレオチド配列;
ii)DNA標的を含むかまたはRNA標的をコードするDNA鋳型を含む、第2のポリヌクレオチド配列であって、該第2のポリヌクレオチド配列がRNA標的をコードするDNA鋳型を含む場合、該RNA標的は、該第1のプロモーターに駆動されて、該gRNAと連続して一つのRNA転写物として同時発現される、第2のポリヌクレオチド配列
を含み、該複数のポリヌクレオチド構築物が、異なるgRNAおよび/または異なるDNA標的もしくはRNA標的をコードし;かつ各コンパートメントが、RNA誘導型核酸修飾酵素もしくはそのバリアント、またはそれをコードするヌクレオチド鋳型をさらに含む、工程;
b)該コンパートメントを、RNAおよびタンパク質のインビトロの転写および/または翻訳を可能にする条件に供する工程;
c)該コンパートメントを、gRNAの存在下でDNA標的またはRNA標的に対する機能活性を有するRNA誘導型核酸修飾酵素による該DNA標的および/またはRNA標的の修飾を可能にする条件に供することによって、
i)該核酸修飾酵素により修飾されたポリヌクレオチド構築物および/またはRNA転写物もしくはその断片;
ii)該核酸修飾酵素により修飾されなかったポリヌクレオチド構築物および/またはRNA転写物
のうちの1つまたは複数を含むDNA/RNA分子の集団を生産する工程;
d)工程(c)で生産されたDNA/RNA分子の集団を回収し、それを一分子ロングリードシーケンシングに供する工程;
e)シーケンシング結果に基づき、工程c)iおよびc)iiに記載のDNA/RNA分子を検出および集計する工程
を含む、方法に関する。
【0045】
この局面では、ポリヌクレオチド構築物がガイドRNA(gRNA)およびDNA/RNA標的をコードするが、RNA誘導型核酸修飾酵素は各コンパートメントに別に与えられる。したがって、gRNAまたはDNA/RNA標的が可変要素として試験され得、またはスクリーニングされ得る。方法が、異なるgRNAの存在下で特定の標的に対する特定の核酸修飾酵素の活性を試験または測定(すなわちgRNAをスクリーニング)するのに用いられるいくつかの例では、複数のポリヌクレオチド構築物は、同じDNA/RNA標的を、しかし異なる核酸修飾酵素(または同じ核酸修飾酵素の異なるバリアント)を、コードし得る。方法が、異なるDNA/RNA標的に対する特定の核酸修飾酵素の活性を試験または測定(すなわちDNA/RNA標的をスクリーニング)するのに用いられるいくつかの例では、複数のポリヌクレオチド構築物は、同じgRNAを、しかし異なるDNA/RNA標的を、コードし得る。
【0046】
ポリヌクレオチド構築物のコンパートメント内隔離
ポリヌクレオチド構築物をコンパートメント内に隔離する、当業者には公知の複数の方法。一例では、当業界では周知の乳化法により、ポリヌクレオチド構築物をエマルション液滴内に隔離する。一般に、エマルションは、不混合液の任意の好適な組み合わせから生産され得る。ある典型例では、エマルションが水相を含み、該水相が、(a)インビトロの転写および翻訳に必要な成分、ならびに(b)本明細書に記載される核酸鋳型のライブラリーを包含する。エマルション中、水相は細分された液滴(分散、内部、または非連続相)の形態で存在する。エマルションは、液滴を懸濁させるマトリックス(非分散、連続、または外部相)としての疎水性不混合液(「油」)をさらに含む。そのようなエマルションは「油中水滴型」(W/O)と呼ばれ、液滴は「油中水滴型液滴」と呼ばれる。多くの油および多くの乳化剤が当業界で公知であり、油中水滴型エマルションの作製に用いられ得る。好適な乳化剤としては、たとえば、軽質白色鉱物油、および界面活性剤、たとえばソルビタンモノオレアート(Span 80;ICI)およびポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート(Tween 80;ICI)、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられる。一例では、乳化剤は、鉱物油、Span 80、および界面活性剤、たとえばTween 80;たとえば鉱物油 + 4.5%(v/v)Span 80 + 0.5%(v/v)Tween 80)を含む。異なる乳化剤の試験は、当業者の知識の範囲内である。いくつかの例では、エマルションは、機械的エネルギーによりこれらの相を強制的に一つにして生産される。限定ではないが、スタラー(たとえば磁気撹拌棒、プロペラおよびタービンスタラー、パドルデバイス、ならびに泡だて器)、ホモジナイザー(たとえばローター‐ステーターホモジナイザー、高圧バルブホモジナイザー、およびジェットホモジナイザー)、コロイドミル、ならびに超音波および「膜乳化」デバイスなどの機械的デバイスの使用を含め、様々な方法がとられ得る。エマルション液滴(コンパートメント)のサイズは、選択システムの要件にしたがいエマルションを形成するのに用いられるエマルション条件を当業者が調整することにより、変更され得る。
【0047】
ここで非限定例を記載する:以下の工程、または当業者に公知のほかの方法を用いての、油中水滴型(w/o)エマルション液滴の作製。要約すると、3 x 8 mm磁気撹拌棒を備えるクリオバイアルに950 μLの油と界面活性剤との混合物(鉱物油 + 4.5% (v/v) Span 80 + 0.5% (v/v) Tween 80)を加え、氷中に置く。≦1.66 fmolのDNAライブラリーをIVTT試薬(New England Biolabs PURExpress #E6800)と氷中で混合して、50 μLのIVTT水性混合物を作る。この50 μLの水性混合物を、10 μLずつ5分割で、油と界面活性剤との混合物に、氷中、撹拌棒を1150 rpmで回転させながら2分間にわたって加えて、エマルション混合物を作製する。このエマルション混合物を、引き続き氷中でさらに1分間混合させる。一例では、撹拌したエマルション混合物を、ホモジナイザー(たとえばIKA Ultraturrax T10ホモジナイザー)でさらに3分間、8000 rpmで混合して、エマルション液滴の直径のさらなる単分散分布を得る。
【0048】
エマルション液滴を作製するほかの方法も可能であり、当業者であればわかるであろうが、そのような方法としては、水と油との混合物のボルテックス、またはDolomite-Bioのマイクロエンカプスレーターなどの微小流体デバイスを用いて微小流体チップジャンクションに供給される水および油のインプットの流量を制御して、水溶液を油に封入してエマルション液滴とすることが挙げられる。
【0049】
ほかのコンパートメント化法も当業者には公知である。事実上のコンパートメント化も物理的なコンパートメント化も、該コンパートメント化が物的封入(physical encapsulation)を生み出すことなくポリヌクレオチド構築物、試薬、および反応の隔離を可能にするかぎり、本明細書で使用される「コンパートメント」という用語に包含される。一例では、コンパートメントの隔離は、微小流体、ヒドロゲル制限拡散、または区切られたウェル(またはナノウェル)を用いて実現される。
【0050】
IVTTシステム
本明細書に開示される方法のいくつかの例では、各コンパートメントがインビトロ転写および翻訳(IVTT)試薬を含み、該IVTT試薬は、タンパク質および/またはRNAのインビトロの転写および/または翻訳を可能にする。IVTTがコンパートメントに含まれると、アッセイにおける細胞の使用が省略される。いくつかの態様では、IVTTシステムは、たとえば細菌、ウサギ網状赤血球、またはコムギ胚芽に由来する、細胞抽出物を含む。多くの好適なシステムが(たとえばThermoFisher、Promega、およびNew England Biolabsから)市販されている。一例では、システムは、ポリヌクレオチド構築物と共に乳化され得る。工程b)に記載されるようなインビトロの転写および翻訳に好適な条件は、文献または市販のキットのマニュアルを参照することにより、当業者には明白となる、またはアクセス可能である。一非限定例では、好適な条件は、4時間、37℃のインキュベーションである。IVTT反応は、当業界では周知の、または市販のキットのマニュアルに記載されている方法により、停止させることができる。一例では、IVTTを含むコンパートメントを65℃で15分間インキュベートして、IVTT試薬および任意の発現した核酸修飾酵素を熱不活化する。別の例では、20 mM EDTA(pH 8.0)阻害剤をコンパートメント(たとえばエマルション液滴)に加え、そして混合する。
【0051】
IVTT試薬のDNAとのコンパートメント化条件を制御することにより、IVTT試薬と共にポリヌクレオチド構築物のコピーが確実に1つだけ、フェムトリットルからナノリットルの範囲の体積で各コンパートメントに封入されることが可能になる。このことは、DNAの各バリアントのコピーを(そしてIVTT RNAおよびタンパク質産物も)各コンパートメント内に物理的に単離することを可能にし、したがってユーザーは、発現したRNAおよびタンパク質を、それぞれをコードするDNAとともに物理的に閉じ込めることが可能になる。
【0052】
既知の核酸修飾酵素によるDNA/RNA標的の修飾を可能にする条件は、当業界では一般に知られており、かつ/または簡単に発見もしくは最適化することができる。新たに発見された酵素については、そのような条件は一般に、特徴がより知られている近縁ヌクレアーゼ(たとえばホモログおよびオルソログ)についての情報を用いて近似させることができる。修飾は、標的の成分または構造の任意の化学的または物理的な変更を指し得、ポリヌクレオチドを破断/切断すること、二本鎖ポリヌクレオチドにニック(一本鎖破断)を生じさせること、1つもしくは複数のヌクレオチド塩基を置換すること、1つもしくは複数のヌクレオチド塩基を挿入もしくは欠失させること、または化学的およびエピジェネティックマーカーでヌクレオチド塩基を共有結合的に修飾すること(たとえばシトシンのメチル化およびヒドロキシメチル化)が挙げられる。
【0053】
各コンパートメントが1コピーのポリヌクレオチド構築物を含むので、DNA/RNA標的(ポリヌクレオチド構築物上に含まれるか、または該構築物から発現する)および核酸修飾酵素も、該コンパートメントに閉じ込められている。特定の構築物上にコードされる核酸修飾酵素の、同じ構築物上にコードされるDNA/RNA標的に対する活性(またはその欠如)は、該DNA/RNA標的の修飾(またはその欠如)として顕現する。複数のコンパートメントが共同で複数の異なるポリヌクレオチド構築物を含むので、工程c)はDNA/RNA分子の集団を生産し、該集団は、
i.該核酸修飾酵素により修飾されたポリヌクレオチド構築物および/またはRNA転写物もしくはその断片;
ii.該核酸修飾酵素により修飾されなかったポリヌクレオチド構築物および/またはRNA転写物
の1つまたは複数を含み、
ここでポリヌクレオチド構築物がDNA標的を含み、コードされた核酸修飾酵素が該DNA標的に対し活性を有する場合は、ポリヌクレオチド構築物が修飾されることになる。したがって、ポリヌクレオチド構築物の状態(修飾または無修飾)は、同じ構築物上に含まれる酵素特異的配列により酵素と関連づけられる。ポリヌクレオチド構築物がRNA標的をコードするDNA鋳型を含む場合、RNA標的は、該DNA鋳型から発現した転写物RNA上に含まれることになる。RNA標的は核酸修飾酵素と連続して一つの転写物として同時発現されるので、RNA標的の状態(修飾または無修飾)も、RNA転写物上に含まれる酵素特異的配列により酵素と関連づけられる。
【0054】
DNA/RNA分子の回収
DNA/RNA標的に対する核酸修飾酵素の活性を測定するために、工程c)で生産されたDNA/RNA分子の集団を回収してから、シーケンシングに供する。いくつかの例では、DNA/RNA分子の回収は、コンパートメントの破壊を要する。したがって、本明細書に開示される方法の一例では、工程d)は、物理的方法または化学的方法によりコンパートメントを破壊することをさらに含む。コンパートメントがエマルション液滴である例では、DNA/RNA分子の回収には、エマルション液滴の破壊が含まれる。
【0055】
エマルション液滴を破壊する方法は当業者には公知である。方法の一非限定例は、次のとおりである:エマルション混合物を2 mLの遠沈管に移し、室温で5分間、13000 gで遠心処理する。上部油層を捨てる。残った水層に1 mLの水飽和ジエチルエーテルを加え、ボルテックスし、上部溶媒層を除去する。この工程を1度繰り返す。残った水層を、真空中、室温で5分間遠心処理する。一例では、DNA/RNA分子を回収する工程は、IVTTをクエンチする工程も含む。IVTTをクエンチする工程は、たとえば、残った水層をRNaseカクテルおよびプロテイナーゼKで処理して、IVTT反応からの過剰なRNAおよびタンパク質を除去することにより、実施され得る。いくつかの例では、DNA/RNA分子を回収する工程は、DNA/RNA分子を精製するためのクリーンアップ工程も含む。DNA/RNAをクリーンアップする方法は、当業者には周知であり、このプロセス用の多くの市販のキット、たとえばDNA Clean & Concentrator-5(Zymo Research)またはSPRIselectビーズクリーンアップ(Beckman Coulter)がある。
【0056】
いくつかの例では、DNA/RNA分子を回収することは、回収されたDNA/RNA分子を精製して、反応からの過剰または不要なDNA、RNA、および/またはタンパク質を除去することを要する。したがって、本明細書に開示される方法の一例では、工程d)は、回収されたDNA/RNA分子を精製して、反応からの過剰なDNA、RNA、および/またはタンパク質を除去することをさらに含む。いくつかの例では、過剰なDNA、RNA、および/またはタンパク質としては、限定ではないが、gRNA、核酸修飾酵素、およびIVTT試薬が挙げられ得る。いくつかの例では、「過剰な」という用語は、シーケンシングに供される分子を記述する。
【0057】
シーケンシング
好ましい例では、シーケンシングは一分子シーケンシングである。「一分子シーケンシング」は、試料中に存在する個々のDNA鎖またはRNA鎖から塩基配列を直接読み取ることのできる技法を指す。少なくとも2つのタイプの一分子シーケンシングが市販されている:(a)波長よりも小さい導波路(ZMW)におけるフルオロフォア標識ヌクレオチドの検出および特定に基づく、Pacific Biosciencesのリアルタイム一分子シーケンシング(SMRT)、および(b)Oxford Nanopore Technologiesで用いられる、核酸(DNA/RNA)断片にナノポアを通過させたときのシグナルを読み取る電子手段を用いる標識フリーシーケンシング法。一分子シーケンシングは長いリード長により促進されるので、「ロングリードシーケンシング」または「一分子ロングリードシーケンシング」とも呼ばれ得る。一分子シーケンシングの使用は、バリアント配列の直接の特定を提供し、そのおかげで(i)オリゴヌクレオチドを所定のDNA/RNA末端に結合させること、および(ii)PCR増幅が省略される。
【0058】
個々のバリアントの酵素産物を「直接」検出すること、および修飾:無修飾DNA/RNA標的(またはポリヌクレオチド構築物/RNA転写物)を分子集計して、個々のバリアントの分子活性を定量化することは、本発明の重要な特徴である。「直接」という用語は、反応生成物の直接検出、または個々のバリアントの酵素活性の直接測定を指し得る。後者の意味では、「酵素機能の直接測定」という表現は、(大規模バリアント調査において)あるバリアント分子の表現型の活性を、関連づけられた遺伝子型の情報(一個の分子内にコードされてもいる(ポリヌクレオチド構築物またはRNA転写物のいずれか))により、直接計算するという文脈である。したがって、酵素活性は、現に相互作用している分子について直接測定される。本明細書に開示される方法に基づき、酵素活性の正確なレベルを、無修飾(または合計)集計数に対する修飾集計数に基づき、直接測定することができる。ある例では、1:1の修飾:無修飾標的部位と関連づけられる特定のバリアントは、その標的部位では50%の確率で活性であると決定される。
【0059】
したがって、いくつかの例では、回収されたDNA/RNA分子の集団は、一分子シーケンシング反応に供される前に、一分子シーケンシングに必要な修飾以外のさらなる修飾には供されない。これらの修飾としては、切断末端のアダプター連結、バーコード付加、DNA/RNA分子のPCR増幅その他など、従来のシーケンシングに必要なものが挙げられ得る。
【0060】
一例では、シーケンシングは、Oxford Nanopore Technologiesのプラットフォームを用いて実施される。シーケンシングプロセスの一非限定例を以下に記載する。
【0061】
シーケンシングデバイスのメーカー、たとえばMinION Mk1BデバイスのOxford Nanopore Technologies(ONT)が推奨するライブラリー調製プロトコルにしたがってロングリードシーケンシング用に精製DNAを調製し、それにしたがい該ライブラリーの配列決定を行う。このことは、いくつかの例では、一般的なDNAライブラリー調製用のONT SQK-LSK109ライゲーションシーケンシングキットを、ONT EXP-NBD104 PCRフリーネイティブバーコーディング拡張キットと一緒に用いて、バーコード化DNAサブライブラリーをマルチプレックス化することを含み得る。
【0062】
ロングリードシーケンシングデータを、一般公開されているリポジトリの生物情報学ツール、たとえばminimap2 (Li, H. (2018). Minimap2: pairwise alignment for nucleotide sequences. Bioinformatics, 34:3094-3100. doi:10.1093/bioinformatics/bty191)、NanoPack (De Coster, W. et al., (2018). NanoPack: visualizing and processing long-read sequencing data. Bioinformatics, 34:2666-2699. doi: 10.1093/bioinformatics/bty149)、samtools (Li, H. et al., (2009). The Sequence Alignment/Map format and SAMtools. Bioinformatics, 25:2078-9. doi: 10.1093/bioinformatics/btp352)、VarScan 2 (Koboldt, D.C. et al., (2012). VarScan 2: Somatic mutation and copy number alteration discovery in cancer by exome sequencing. Genome Research, 22: 568-576. doi: 10.1101/gr.129684.111)、またはシーケンシングデータ解析の当業者により生成され得るカスタムメイドのスクリプトを用いて処理し、かつ解析する。たとえば、いくつかの例では、シーケンシング解析の当業者は、次の工程によって、ONTシーケンシングデバイスから生成された生のナノポアシーケンシングリードを処理し、かつ解析する:
1. ONTが提供するグッピー(guppy)ツールキット(https://community.nanoporetech.com/protocols/Guppy-protocol/v/gpb_2003_v1_revm_14dec2018)を用いて生のナノポアシーケンシングリードを処理し、必要に応じてツールキットの塩基抽出アルゴリズムおよび多重分離アルゴリズムを使う。シーケンシング解析の当業者は、必要に応じて、マルチプレックス化バーコードクオリティスコアのフィルタリング閾値などの特定のパラメーターを調節することを所望し得る。これらのパラメーターは、通例それぞれのツールのマニュアルに記載されている。
2. シーケンシング解析の当業者は、リード長およびリードクオリティスコアなどのパラメーターに基づき、NanoPackなどのソフトウェアツールを用いてリードをさらにフィルタリングし、かつ処理することを所望し得る。
3. 次に、minimap2またはほかの配列アライメントツールを用いて、これらの処理済みリードを参照配列(のセット)に対し整列させて、リードアライメントのデータセットを生成することができる。同様に、シーケンシング解析の当業者は、必要に応じて、アライメント・スコアリング・マトリックスなどのリードアライメントパラメーターを調節することを所望し得る。これらのパラメーターは、通例それぞれのツールのマニュアルに記載されている。
4. 次に、ユーザーは、生成したリードアライメントファイルをパースして、無修飾リードおよび修飾リードの数を計算することができる。このことは、いくつかの態様では、samtoolsまたはVarScan2などのほかのアライメント処理ツールを使用して、整列シーケンシングリードと、該シーケンシングリードを揃えて整列させた参照配列との間のシーケンシングバリエーションを検出し特定することにより、行われ得る。同様に、シーケンシング解析の当業者は、必要に応じて、これらのツールのどのパラメーターを調節すべきかを決定することができ、たとえばバックグラウンドレベルのシーケンシングエラーから真のシーケンシングバリエーションを検出し特定するための最小リード集計数閾値を設定する。これらのパラメーターは、通例それぞれのツールのマニュアルに記載されている。
【0063】
分子の検出および集計
こうして、酵素活性は、核酸修飾酵素により修飾されたポリヌクレオチド構築物および/またはRNA転写物と、核酸修飾酵素により修飾されなかったポリヌクレオチド構築物および/またはRNA転写物とを検出しかつ集計することにより、直接検出することができる。ポリヌクレオチド構築物はDNA標的を含み得、RNA転写物はRNA標的を含み得る。
【0064】
したがって、いくつかの例では、方法は、核酸修飾酵素により修飾されたポリヌクレオチド構築物および/もしくはRNA転写物の数(Σ集計数修飾)を計算し、それを、核酸修飾酵素により修飾されなかったポリヌクレオチド構築物および/もしくはRNA転写物の数(Σ集計数無修飾)またはポリヌクレオチド構築物および/もしくはRNA転写物の合計数(Σ集計数修飾 + 無修飾)と比較することによって、DNA/RNA標的の1つまたは複数に対する1つまたは複数の核酸修飾酵素の修飾活性を評価する工程をさらに含む。
【0065】
一例では、酵素活性は、次式:
のいずれか1つを用いて計算される値により表される。
【0066】
核酸修飾酵素により修飾された、または修飾されなかったポリヌクレオチド構築物および/またはRNA転写物もしくはその断片は、当業者には利用可能なシーケンシングプラットフォームにより生成されたシーケンシングデータを用いて検出され得、かつ集計され得る。DNA/RNA分子は一分子シーケンシングにより直接配列決定されるので、一例では、核酸修飾酵素により修飾されたDNA/RNA分子または修飾されなかったDNA/RNA分子の検出および集計は、一分子シーケンシングの間に生成されたデータのみに基づいており、DNA/RNA分子のさらなる修飾または処理を必要としない。
【0067】
一例では、修飾活性は切断活性であり、修飾または無修飾ポリヌクレオチド構築物またはRNA標的の検出および計算は、DNA/RNA分子のシーケンシング読取り値を、核酸修飾酵素の切断部位の窓を含む参照配列に対して整列させることにより行われ、
i)DNA/RNA分子の3’末端が、切断部位の窓の3’下流領域に対しマップされる場合、そのDNA/RNA分子は無修飾ポリヌクレオチド構築物またはRNA標的であり;
ii)DNA/RNA分子の3’末端が、切断部位の窓内領域に対しマップされる場合、そのDNA/RNA分子は修飾ポリヌクレオチド構築物またはRNA標的であり;
iii)DNA/RNA分子の3’末端が、切断部位の窓の5’上流領域に対しマップされる場合、そのDNA/RNA分子は無情報であり、修飾活性の測定に使用されない。
【0068】
一例では、シーケンシングリードは、それぞれがマップされた終点(すなわちシーケンシングリードが終了するところ)により決定されて、それら終点が予想切断部位の小窓内(「Cas参照配列(Cas reference seq)」上のグレーの三角形および点線;図3)に収まるかどうかが決定される。以下に一非限定例を記載しており、そこでDNA標的部位は、コードされたCasヌクレアーゼバリアントの3’にある。この測定法によると、3’末端が、参照配列の予想Cas切断部位の窓の3’下流部位に対しマップされる(参照配列に対し整列させた)リードアライメントは、切断されなかったとみなされ(濃いグレー;図3)、3’末端がCas切断部位の窓内に収まるリードアライメントは切断されたとみなされ(薄いグレー;図3)、そして最後に、どちらの基準も満たさないリードは無情報として廃棄されるが、それは、これらが切断されたのか切断されなかったのかを実験的に決定することができないからである(白;図3)。これらの例では、切断されたCas切断部位はそれぞれ、修飾された1つのポリヌクレオチド構築物/RNA転写物を表す。同様に、切断されなかったCas切断部位はそれぞれ、修飾されなかった1つのポリヌクレオチド構築物/RNA転写物を表す。
【0069】
いくつかの例では、このシーケンシング技術は、標的がCasバリアントにより修飾されたか否かを決定するために、標的部位の化学的および配列的アイデンティティーを検出または検知することができる。たとえば、ヌクレオチドに対する化学修飾、たとえばメチル化を、ナノポアシーケンシングリードにおける化学修飾されたヌクレオチドを抽出するよう設計された、一般公開されている生物情報学ツールを用いて、検出することができる(Liu, Q., et al. (2019). Detection of DNA base modifications by deep recurrent neural network on Oxford Nanopore sequencing data. Nat Commun 10(1): 2449, doi : 10.1038/s41467-019-10168-2; Liu, Q., et al. (2019). NanoMod: a computational tool to detect DNA modifications using Nanopore long-read sequencing data. BMC Genomics 20(Suppl 1): 78, doi: 10.1186/s12864-018-5372-8; Rand, A. C., et al. (2017). Mapping DNA methylation with high-throughput nanopore sequencing. Nat Methods 14(4): 411-413, doi: 10.1038/nmeth.4189; Simpson, J. T., et al. (2017). Detecting DNA cytosine methylation using nanopore sequencing. Nat Methods 14(4): 407-410, doi: 10.1038/nmeth.4184)。コードされたCasヌクレアーゼがRNA構築物を標的とするほかの例では、IVTT反応後、市販のキット、たとえばRNA Clean & Concentrator-5(Zymo Research)を用いてRNA分子を回収しかつ精製することができるが、Oxford Nanopore Technologiesは、同社が販売するSQK-RNA002 Direct RNA Sequencing Kitにより、回収されたRNA分子の直接のナノポアシーケンシングを提供する。このように、このシーケンシング技術は、限定ではないが、鎖破断、配列変更、およびエピジェネティック生化学マークを含め、様々なタイプの修飾を検出するのに用いることができる。
【0070】
ポリヌクレオチド構築物およびライブラリー
本開示は、様々なポリヌクレオチド構築物、構築物ライブラリー、およびコンパートメントにも関する(たとえばポリヌクレオチド構築物のいくつかの例について、図2を参照されたい)。
【0071】
構築物1:一局面では、本開示は、第1のプロモーターに機能的に連結された、核酸修飾酵素またはそのバリアントをコードする第1のポリヌクレオチド配列、およびDNA標的を含む第2のポリヌクレオチド配列、を含む、ポリヌクレオチド構築物に関する。
【0072】
構築物2:別の局面では、本開示は、第1のプロモーターに機能的に連結された、核酸修飾酵素またはそのバリアントをコードする第1のポリヌクレオチド配列、およびRNA標的をコードするDNA鋳型を含む、第2のポリヌクレオチド配列を含む、ポリヌクレオチド構築物に関し、該RNA標的は、該第1のプロモーターに駆動されて、該核酸修飾酵素と連続して一つのRNA転写物として同時発現される。
【0073】
別の局面では、本開示は、構築物1または構築物2として本明細書に開示される複数のポリヌクレオチド構築物を含む、構築物ライブラリーに関し、該ライブラリーは、以下の1つまたは複数により特徴づけられる:
a. 該複数のポリヌクレオチド構築物が、核酸修飾酵素の異なるバリアントをコードすること;
b. 該複数のポリヌクレオチド構築物が、異なるDNA標的またはRNA標的をコードすること。
【0074】
構築物3:一例では、本開示は、構築物1または構築物2のポリヌクレオチド構築物にも関し、該ポリヌクレオチド構築物は、ガイドRNA(gRNA)をコードする第3のポリヌクレオチド配列をさらに含む。コードされたgRNAは、(たとえばコンパートメント内で)ポリヌクレオチド構築物から発現することになるので、ポリヌクレオチド構築物はgRNAの発現を促進するほかの要素を含み得、それは通常当業者には公知である。いくつかの例では、第3のポリヌクレオチド配列は第2のプロモーターに機能的に連結される。いくつかの例では、第2のプロモーターはT7プロモーターである。
【0075】
別の局面では、本開示は、構築物3として本明細書に開示される複数のポリヌクレオチド構築物を含む、構築物ライブラリーに関し、該ライブラリーは、以下の1つまたは複数により特徴づけられる:
a. 該複数のポリヌクレオチド構築物が、核酸修飾酵素の異なるバリアントをコードすること;
b. 該複数のポリヌクレオチド構築物が、異なるDNA標的またはRNA標的をコードすること;
c. 該複数のポリヌクレオチド構築物が、異なるgRNAをコードすること。
【0076】
構築物4:さらに別の局面では、本開示は、第1のプロモーターに機能的に連結された、ガイドRNA(gRNA)をコードする第1のポリヌクレオチド配列、およびDNA標的を含む第2のポリヌクレオチド配列、を含む、ポリヌクレオチド構築物に関する。
【0077】
構築物5:さらに別の局面では、本開示は、第1のプロモーターに機能的に連結された、ガイドRNA(gRNA)をコードする第1のポリヌクレオチド配列、およびRNA標的をコードするDNA鋳型を含む、第2のポリヌクレオチド配列を含む、ポリヌクレオチド構築物に関し、該RNA標的の発現は、該第1のプロモーターに駆動されて、該gRNAと連続して一つのRNA転写物として同時発現される。
【0078】
別の局面では、本開示は、構築物4として本明細書に開示される複数のポリヌクレオチド構築物を含む、構築物ライブラリーに関し、該ライブラリーは、以下の1つまたは複数により特徴づけられる:
a. 該複数のポリヌクレオチド構築物が、異なるDNA標的またはRNA標的をコードすること;
b. 該複数のポリヌクレオチド構築物が、異なるgRNAをコードすること。
【0079】
本明細書に開示される方法またはポリヌクレオチド構築物のいくつかの例では、第1のポリヌクレオチド配列と第2のポリヌクレオチド配列が、完全にまたは部分的に重複している。たとえば、DNA/RNA標的(「第2のポリヌクレオチド」)は、核酸修飾酵素(「第1のポリヌクレオチド」)のコード配列内にコードされている場合がある。
【0080】
本明細書に開示される方法またはポリヌクレオチド構築物のいくつかの例では、DNA標的またはRNA標的は、ガイドRNAに対し少なくとも部分的に相補的であるプロトスペーサーを含む。本明細書に開示される方法またはポリヌクレオチド構築物のいくつかの例では、DNA標的は、近位のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列も含む。本明細書に開示される方法またはポリヌクレオチド構築物のいくつかの例では、ポリヌクレオチド構築物がRNA標的をコードするDNA鋳型を含む場合、RNA標的は、近位のプロトスペーサー隣接配列(PFS)をさらに含む。
【0081】
本明細書に開示される方法またはポリヌクレオチド構築物のいくつかの例では、RNA誘導型核酸修飾酵素はCRISPR関連(Cas)タンパク質である。特定の例では、RNA誘導型核酸修飾酵素は、Cas3、Cas9、Cas10、Cas12a(Cpf1としても知られる)、Cas13a(C2c2としても知られる)、Cas13b、Cas13c、Cas13d、Cas14、CasX、CasΦ、およびそれらのバリアントからなる群より選択される。
【0082】
本明細書に開示される方法またはポリヌクレオチド構築物のいくつかの例では、バリアント核酸修飾酵素は、1つまたは複数の不活化触媒部位を含み、DNA標的を修飾することなく該DNA標的に結合しかつその発現を阻害することができる。
【0083】
本明細書に開示される方法またはポリヌクレオチド構築物のいくつかの例では、バリアント核酸修飾酵素は、DNAまたはRNAを修飾することができる1つまたは複数の追加の機能性ドメインと融合されている。いくつかの特定の例では、追加の機能性ドメインとしては、限定ではないが、シチジンデアミナーゼドメイン、デノボDNAメチルトランスフェラーゼ3A(DNMT3A)ドメイン、シトシン-5メチルトランスフェラーゼドメイン、テン-イレブントランスロケーションジオキシゲナーゼ1(TET1)触媒ドメイン、RNAに作用するアデノシンデアミナーゼ(ADAR2)デアミナーゼドメイン、およびDNAデオキシアデノシンデアミナーゼドメインその他が挙げられる。
【0084】
説明および例示の目的で、以下にポリヌクレオチド構築物の配列を示す。
太字および下線つきの配列は、以下に別途注釈をつける要素を指している。
T7/lacOプロモーター:
RBS(リボソーム結合部位):AAGGAG(SEQ ID NO: 2)
Sp Cas9遺伝子(コード配列):
合成ターミネーター配列(L3S1P52):
T7プロモーター:
gRNA標的配列(プロトスペーサー):
SpCas9 gRNA足場:
T7ターミネーター:
標的領域(DNA標的):
【0085】
上に例示したようないくつかの例では、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)が、(プロトスペーサーとして知られる)標的配列の隣に見られ、たとえば、Cpflタイプ(Cas12としても知られる)Casタンパク質の場合は5’PAM部位TTTV(SEQ ID NO: 11)、Sp Cas9の場合は3’PAM部位NGG、およびSa Cas9タンパク質の場合は3’PAM部位NNGRRT(SEQ ID NO: 12)が、プロトスペーサー配列
に隣接している。ここで、および本明細書全体で、標準的なIUPAC核酸表記法を用いる。
【0086】
コンパートメント
一局面では、本開示は、本明細書に開示されるポリヌクレオチド構築物をそれぞれが含む、1つまたは複数のコンパートメントに関し、該コンパートメントは互いから隔離されている。いくつかの例では、各コンパートメントがインビトロ転写および翻訳(IVTT)試薬をさらに含み、該IVTT試薬は、タンパク質および/またはRNAのインビトロの転写および/または翻訳を可能にする。いくつかの例では、コンパートメントは、体積が、1000 μm3、100 μm3、10 μm3、または1 μm3よりも小さい。いくつかの例では、コンパートメントは、油中水滴型のエマルション液滴である。いくつかの例では、隔離は、微小流体、ヒドロゲル制限拡散、または区切られたウェルを用いて実現される。
【実施例
【0087】
実施例1:エマルション液滴中Sp Cas9構築物のIVTTおよび切断
油中水滴型(w/o)エマルション液滴を、上記のプロトコルに概説される工程にしたがい作製した。要約すると、3 x 8 mm磁気撹拌棒を備えるクリオバイアルに950 μLの油と界面活性剤との混合物(鉱物油 + 4.5% (v/v) Span 80 + 0.5% (v/v) Tween 80)を加え、氷中に置いた。
【0088】
高DNAインプット:エマルション液滴1個につき>1の配列コピーを封入 - バルクIVTT反応から発現したCasにつき、乳化がCas活性を維持することを実証。
【0089】
この実験のために、約750 ngのSp Cas9構築物(配列は上記のとおり)をIVTT試薬(New England Biolabs PURExpress #E6800)と氷中で、75 μLのIVTT水性混合物を作った。50 μLの水性混合物を、10 μLずつ5分割で、油と界面活性剤との混合物に、氷中、撹拌棒を1150 rpmで回転させながら2分間にわたって加えて、エマルション混合物を作製した。このエマルション混合物を、引き続き氷中でさらに1分間混合させた。次に、このエマルション混合物を均質化(8000 rpmで3分; IKA Ultraturrax T10ホモジナイザー)に供して、エマルション液滴サイズのさらなる単分散分布をもたらした。残った水性混合物25 μLは、対照として、バルクIVTT反応のため氷中に保持した。これをSp dCas9構築物でも繰り返した。
【0090】
次に、エマルションIVTT混合物およびバルクIVTT混合物を4時間、37℃でインキュベートしてIVTTを進行させ、続いて65℃で15分かけてタンパク質を不活化した。
【0091】
次に、エマルションIVTT混合物を上記のように処理して、エマルションを破壊した。20 mM EDTA(pH 8.0)阻害剤をエマルションに加え、そしてボルテックスにより短時間だけ混合した。次に、エマルション混合物を室温で5分間、13000 gで遠心処理した。上部油層を除去した。残った水層に1 mLの水飽和ジエチルエーテルを加え、ボルテックスし、上部溶媒層を除去した。この工程を1度繰り返した。残った水層を、真空中、室温で5分間遠心処理してから、RNaseカクテルおよびプロテイナーゼKで処理して、37℃で30分かけてIVTT反応からの過剰なRNAおよびタンパク質を除去した。バルクIVTT反応も、20 mM EDTA(pH 8.0)およびRNaseカクテルとプロテイナーゼKとの混合物で処理して、37℃で30分かけてIVTT反応からの過剰なRNAおよびタンパク質を除去した。次に、すべてのIVTT反応からのDNAをSPRIselect常磁性ビーズで個別に精製し、アリコートを、ゲル電気泳動によりサイズ分離した後、アガロースゲル上に可視化した(図4)。エマルションIVTT反応では、活性Sp Cas9をコードする構築物は切断された(より小さいバンドの存在)が、不活性Sp dCas9をコードする構築物は切断されなかった(より小さいバンドの不存在)。このことは、コードDNA構築物がエマルション液滴中にコンパートメント化されていようと、バルク溶液中に自由に浮遊していようと、CRISPR-Cas IVTT自己切断アッセイはうまくいくことを実証するものである。
【0092】
エマルションIVTT反応からの精製されたDNAはまた、Oxford Nanopore Technologies(ONT)が販売するSQK-LSK109ライゲーションシーケンシングキットを用いてナノポアシーケンシング用に処理し、そしてONT EXP-NBD104 PCRフリーネイティブバーコーディング拡張キットを用いてバーコード化して、それらが任意選択により、プールされた1つのDNAライブラリーでマルチプレックス化できるようにした。次に、このプールしたDNAライブラリーに対し、ONT MinION Mk1Bシーケンシングデバイスを用いて、一分子ロングリードナノポアシーケンシングを実施した。次に、ナノポアシーケンシングの結果をフィルタリングしてクオリティーを高め、そして一般公開されている生物情報学ツールを用いて解析した。Sp Cas9エマルションIVTTナノポアシーケンシングリードは、切断構築物断片と無切断構築物断片との混合が検出されたことを示す(図5)。Sp dCas9エマルションIVTTナノポアシーケンシングリードは、予想どおり、圧倒的に無切断構築物断片として現れ(図6)、「切断」Sp dCas9構築物断片と分類されたほんの少数のリードは、ナノポアシーケンシング中に切断された/不完全なリードの結果、および/またはランダムDNA断片化イベントの結果、および/またはシーケンシングデバイスのエラーの結果と思われる。各サブライブラリーの一部のリードは、誤配列に対しマップされ、たとえば、Sp Cas9のみのサブライブラリーで、リードがSp Cas9ではなくSp dCas9に対しマップされた。これらは、シーケンシングデバイスのランダムシーケンシングエラーの結果、またはバーコード化ナノポアシーケンシングリードの多重分離中のそれぞれのサブライブラリーへの割当ミスの結果と思われるので、割当ミスとして分類し、プロットでもそのように示した。
【0093】
実施例2:バルクIVTT反応後のDNA構築物のマルチプレックス一分子ロングリードシーケンシングによるCRISPR-Casの切断活性の定量化
異なるCRISPR-Cas構築物(Sp Cas9、Sa Cas9、As Cpf1、Lb Cpf1)について、氷中のバルクIVTT反応をセットアップし、該構築物はすべて、上記の核酸鋳型配列に記載されるものと類似の成分の配置が共通していた。次に、これらを各時点につき、5つの対応するアリコートとして、均等に分割した(図7パート1)。次に、これらのバルクIVTTアリコートを37℃でインキュベートし、指定の時点で取り出して、EDTA阻害剤および酵素でクエンチして、IVTT反応およびコードDNA構築物のCas切断を停止させた(図7パート2)。次に、クエンチしたIVTT反応をSPRIselectビーズクリーンアップで処理して、DNA断片を精製した(図7パート3)。
【0094】
次に、これらの異なるIVTT時点の異なるCasオルソログのDNA断片の小アリコートを、図8に示すように、ゲル電気泳動によりサイズ分離した後アガロースゲル上に可視化した。
【0095】
次に、残った精製DNA断片のアリコートを、それぞれの時点別に、ただし各時点のCasの種、すなわちSp Cas9、Sa Cas9その他のDNA断片にかかわらずプールし一つに混合し、そしてONT EXP-NBD104 PCRフリーネイティブバーコーディング拡張キットを用いて個別にバーコード化し(図7パート4)、それによってこれらのプールしたサブライブラリーをマルチプレックス化して、1ランのナノポアシーケンシングを行った(図7パート5)。次に、ナノポアシーケンシングの結果をフィルタリングしてクオリティーを高め、そして一般公開されている生物情報学ツールを用いて解析し、続いて本発明に開示される解析アプローチを実施した。
【0096】
図9は、IVTTインキュベーションの選択された5つの時点(0~4時間)にわたる、各活性Cas構築物をコードする切断されたDNA断片の数を、それぞれのCas構築物をコードする切断および無切断DNA断片の合計数に対し正規化した図である。IVTTインキュベーションの持続時間が増加すれば、発現したCasタンパク質は、より多くのコードDNA構築物を切断するためのより多くの時間を有し、その結果、後の時点ほど、切断断片の発生率が各種で高くなる。図9にプロットしたナノポアシーケンシング解析の結果は、図8の精製IVTT DNA断片のゲル画像との質的一致を示しており、両アッセイは、図7パート3に示すワークフロー工程から得られた同じ精製DNAインプットを共有している。この例は、本発明者らのワークフローで複数のCRISPR-Cas自己切断アッセイの個々のIVTT反応からの核酸産物を調査するという本発明者らの主張を実証するものである。
【0097】
実施例3:バルクIVTT反応からの精製されたCRISPR-Cas DNA最終産物の滴定比による、ナノポアシーケンシングアッセイの感度の実証
この実験のために、500 ngのSp Cas9(上述の配列)をIVTT試薬(New England Biolabs PURExpress #E6800)と氷中で、50 μLのIVTT水性混合物を作った。Sp dCas9構築物についても同じことをした。Sp dCas9構築物は本質的にSp Cas9構築物と同じDNA配列を含むが、Sp dCas9遺伝子をSp Cas9遺伝子に2つの不活化変異(D10AおよびH840A)を有して生じさせることにおいて異なる。これらの50 μLのバルクIVTT反応を37℃で4時間インキュベートしてIVTTを進行させ、続いて65℃で15分かけてタンパク質を不活化した。バルクIVTT反応に、20 mM EDTA(pH 8.0)阻害剤をRNaseカクテルおよびプロテイナーゼKとともに加えて、37℃で30分かけてIVTT反応からの過剰なRNAおよびタンパク質を除去した。次に、両バルクIVTT反応からのDNAをSPRIselect常磁性ビーズで個別に精製してから、そのアリコートを、図10に示すようにゲル電気泳動によりサイズ分離した後アガロースゲル上に可視化した。
【0098】
Sp dCas9およびSp Cas9のバルクIVTT反応からの精製されたDNAの濃度を定量化し、そして質量比1:1、1:10-1、1:10-2、1:10-3、1:10-4、1:10-5、1:0で混合した。次に、精製Sp dCas9バルクIVTT DNA産物と精製Sp Cas9バルクIVTT DNA産物とのこれらの滴定比を有する7つの混合物を、ナノポアシーケンシング用にONT SQK-LSK109ライゲーションシーケンシングキットを用いて処理し、また7つの混合物それぞれをONT EXP-NBD104 PCRフリーネイティブバーコーディング拡張キットを用いて個別にバーコード化した。次に、このDNAライブラリーに対し、ONT MinION Mk1Bシーケンシングデバイスを用いて一分子ロングリードナノポアシーケンシングを実施した。次に、ナノポアシーケンシングの結果をフィルタリングしてクオリティーを高め、そして一般公開されている生物情報学ツールを用いて解析し、続いて本発明に開示される解析アプローチを実施した。
【0099】
このアッセイの目的は、本発明者らの発明において主張される能力、DNA/RNA修飾イベントの大規模調査に用いられるナノポアシーケンシングアッセイの感度を査定することであった。具体的にこの例では、Sp Cas9 IVTT構築物の自己切断イベントを、無切断のSp dCas9 IVTT構築物に対し滴定した。上記の生物情報学アプローチの組み合わせを用いて、本発明らは、生のナノポアシーケンシングデータにおいて、無切断Sp dCas9 DNA断片の検出と区別できる、切断および無切断Sp Cas9 DNA断片の検出を実証した。特に、本発明らは、精製Sp dCas9バルクIVTT DNA産物対精製Sp Cas9バルクIVTT DNA産物の1:10-5の混合物においても、切断Sp Cas9 DNA断片を検出することができた(図11)。
【0100】
実施例4:エマルション液滴中Sp Cas9構築物のIVTTおよび切断
DNAインプットを制限:エマルション液滴1個につき、≦1の配列コピーを封入 - 1コピーのDNA構築物の乳化効率を測定。
【0101】
この実験のために、≦1.66 fmolのSp Cas9構築物(配列は上記のとおり)をIVTT試薬(New England Biolabs PURExpress #E6800)と氷中で、50 μLのIVTT水性混合物を作った。この50 μLの水性混合物を、10 μLずつ5分割で、油と界面活性剤との混合物に、氷中、撹拌棒を1150 rpmで回転させながら2分間にわたって加えて、エマルション混合物を作製した。このエマルション混合物を、引き続き氷中でさらに1分間混合させた。次に、このエマルション混合物を均質化(8000 rpmで3分; IKA Ultraturrax T10ホモジナイザー)に供して、エマルション液滴サイズのさらなる単分散分布をもたらした。これをSp dCas9構築物で、そしてSp Cas9構築物とSp dCas9構築物との1:1の等モル混合物でも繰り返した。
【0102】
なお、Sp Cas9 DNA構築物とSp dCas9 DNA構築物との混合物の使用は、エマルション液滴1個につき≦1のDNA構築物を封入する効率を測定するものである。液滴1個につきDNA構築物を≦1だけ封入する完全効率では、混合DNAインプット条件のアッセイ終了時にナノポアシーケンシングにより検出されるSp dCas9配列は、まったく切断されていないはずである。非完全効率では、同じ液滴中で活性Sp Cas9に曝露されるものもあろうから、一部のSp dCas9 DNA構築物は切断され得る。したがって、混合されたSp Cas9構築物とSp dCas9構築物とのアッセイで、切断Sp dCas9構築物の検出率が、ロングリードのナノポアシーケンシングで予想されるランダムシーケンシングエラー率に匹敵するほど非常に低い場合、そのデータは、これらの条件下で各エマルション液滴に≦1の配列コピーが封入されたことを示す。この例は、図1に示す本発明の全ワークフローも実証するものである。
【0103】
次に、作製したエマルションIVTT混合物を4時間、37℃でインキュベートしてIVTTを進行させ、続いて65℃で15分かけてタンパク質を不活化した。
【0104】
次に、エマルションIVTT混合物を上記のように処理して、エマルションを破壊した。20 mM EDTA(pH 8.0)阻害剤をエマルションに加え、そしてボルテックスにより短時間だけ混合した。次に、エマルション混合物を室温で5分間、13000 gで遠心処理した。上部油層を除去した。残った水層に1 mLの水飽和ジエチルエーテルを加え、ボルテックスし、上部溶媒層を除去した。この工程を1度繰り返した。残った水層を、真空中、室温で5分間遠心処理してから、RNaseカクテルおよびプロテイナーゼKで処理して、37℃で30分かけてIVTT反応からの過剰なRNAおよびタンパク質を除去した。次に、すべてのIVTT反応からのDNAを、市販のカラム精製キット(DNA Clean and Concentrator-5、Zymo Research)で、メーカーの指示にしたがい、個別に精製した。
【0105】
次に、IVTT反応からの精製されたDNAを、ONT SQK-LSK109ライゲーションシーケンシングキットを用いてナノポアシーケンシング用に処理し、そしてONT EXP-NBD104 PCRフリーネイティブバーコーディング拡張キットを用いて個別にバーコード化した。次に、このDNAライブラリーに対し、ONT MinION Mk1Bシーケンシングデバイスを用いて、一分子ロングリードナノポアシーケンシングを実施した。次に、ナノポアシーケンシングの結果をフィルタリングしてクオリティーを高め、そして一般公開されている生物情報学ツールを用いて解析し、続いて本発明に開示される解析アプローチを実施した。
【0106】
Sp Cas9エマルションIVTTナノポアシーケンシングリードは、切断構築物断片と無切断構築物断片との混合が検出されたことを示し(図12)、標的の一部に対しSp Cas9が活性であることを実証している(バルク反応で実証されたように)。Sp dCas9エマルションIVTTナノポアシーケンシングリードは、予想どおり、圧倒的に無切断構築物断片として現れ、Sp dCas9がたいていの場合は不活性であることを実証しており(図13)、「切断」Sp dCas9構築物断片と分類された少数のリードは、ナノポアシーケンシング中に切断された/不完全なリードの結果、および/またはランダムDNA断片化イベントの結果と思われる。
【0107】
なお、Sp Cas9のみの、およびSp dCas9のみのサブライブラリーの一部のリードが、誤配列に対しマップされ、たとえば、Sp Cas9のみのサブライブラリーで、リードがSp Cas9ではなくSp dCas9に対しマップされ、これらはシーケンシングデバイスのランダムシーケンシングエラーの結果、またはバーコード化ナノポアシーケンシングリードの多重分離のエラーの結果と思われるので、割当ミスとして分類し、プロットでもそのように示した。
【0108】
制限された濃度で加えられたSp Cas9構築物とSp dCas9構築物との1:1の混合物を有するエマルションIVTT反応から生成したナノポアシーケンシングリードは、予想どおり、Sp Cas9およびSp dCas9のマップされたリードの大体等しい分布を示す(図14)。Sp Cas9のマップされたリードは、切断断片と無切断断片とにほぼ均等に分かれるが、Sp dCas9のマップされたリードの大部分は無切断と分類される。Sp dCas9のマップされたリードの少数が、切断されたと分類されるが、それは、部分的にはシーケンシングまたは多重分離におけるエラーで有り得、なぜなら、これらのシーケンシングエラーは、断片の混合物の配列決定をした場合、または酵素複合体の相互汚染のエラーにより、シーケンシングデバイスで発生することが知られているからであるが、本発明の概念の範囲内で技術的最適化によりさらに削減することができる。まとめると、この例は、開示される本発明を体現し、かつ実証するものであり、ここで計量されたバリアントの酵素活性レベルは、一分子ベースで直接集計し、かつ決定することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【配列表】
2022552670000001.app
【国際調査報告】