(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-19
(54)【発明の名称】ミクロスフェア-薬物組合せ物
(51)【国際特許分類】
A61K 47/34 20170101AFI20221212BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221212BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20221212BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20221212BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
A61K47/34
A61P35/00
A61K31/337
A61K9/08
A61K9/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022522644
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(85)【翻訳文提出日】2022-06-10
(86)【国際出願番号】 GB2020052330
(87)【国際公開番号】W WO2021074584
(87)【国際公開日】2021-04-22
(32)【優先日】2019-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510133975
【氏名又は名称】ユーシーエル ビジネス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】リチャード デイ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA31
4C076AA94
4C076BB11
4C076BB32
4C076CC27
4C076EE24
4C076FF31
4C086AA01
4C086AA02
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4C086GA16
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA41
4C086MA66
4C086NA12
4C086ZB26
(57)【要約】
本発明は、不溶性活性薬剤成分(API)を、熱誘起相分離法(TIPS)によって製造したミクロスフェアに取付けるための方法であって、i) ミクロスフェアを水性溶液と混合して、第一の組成物を形成し;ii) 不溶性APIを第一の溶媒で溶解し、続いて、第一の溶媒中に溶解させた不溶性APIを第一の組成物に加えて、第二の組成物を形成し;そしてiii) 第二の組成物を混合すること、を含む方法に関する。本発明更に、その表面に不溶性APIを結合させた、熱誘起相分離法によって製造したミクロスフェア、及び治療法における使用のための前記ミクロスフェアを含む組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不溶性活性薬剤成分(API)を、熱誘起相分離法(TIPS)によって製造したミクロスフェアに取付けるための方法であって、以下の:
i) ミクロスフェアを水性溶液と混合して、第一の組成物を形成し;
ii) 不溶性APIを第一の溶媒で溶解し、そして続いて、第一の溶媒中に溶解させた前記不溶性APIを第一の組成物に加えて、第二の組成物を形成し;そして
iii) 第二の組成物を混合すること、
を含む方法。
【請求項2】
前記ミクロスフェアが容器内で前記水性溶液と混合され、かつ、前記容器が第二の組成物の形成中に転倒混和され、好ましくは前記第一の溶媒で溶解した前記不溶性APIの前記第一の組成物への添加が、針を介してである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱誘起相分離法が、以下の:
i) ポリマーを第二の溶媒で溶解して、溶液を形成し;
ii) クエンチング流体で前記溶液の液滴をクエンチし;そして
iii) 得られたスフェアを凍結乾燥すること、
を含み、好ましくは、ここで、前記溶液が、シリンジ、振動針又はアトマイザーを使用してクエンチ中に導入され、そして、より好ましくは、前記溶液を超音波処理するステップを更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
i) 前記ポリマーが、PLGAであり;
ii) 前記第二の溶媒が、ジメチルカルボナートであり;及び/又は
iii) 前記クエンチング流体が、液体窒素である、
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ミクロスフェアがPLGAを含む、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記不溶性APIが化学療法薬であり、好ましくは、前記化学療法薬がタキサンであり、そして、より好ましくは、ドセタキセルである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記不溶性APIが、結晶形態で前記ミクロスフェアの表面上に沈着している、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第一の溶媒が、アルコール、好ましくは、エタノールであり、任意に、前記エタノールが、第二の組成物中での終濃度で10%~30%v/vである、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
さらに以下の:
a. 水性溶液で洗浄することによって、前記第二の組成物からすべての結合していない不溶性APIを取り除き;及び/又は
b. 前記第二の組成物の混合が、回転によって実施されること、
を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
その表面に結合した不溶性APIを有する、熱誘起相分離法によって製造されたミクロスフェア。
【請求項11】
前記不溶性APIが、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法によってミクロスフェアに結合された、請求項10に記載のミクロスフェア。
【請求項12】
前記熱誘起相分離法が、以下の:
i) ポリマーを溶媒で溶解して、溶液を形成し;
ii) クエンチング流体で溶液の液滴をクエンチし;そして
iii) 得られたスフェアを凍結乾燥すること、
を含み、好ましくは、ここで、前記溶液が、シリンジ、振動針又はアトマイザーを使用してクエンチ中に導入され、そして、より好ましくは、前記溶液を超音波処理するステップを更に含む、請求項10又は11に記載のミクロスフェア。
【請求項13】
i) 前記ポリマーが、PLGAであり;
ii) 前記溶媒が、ジメチルカルボナートであり;及び/又は
iii) 前記クエンチング流体が、液体窒素である、
請求項12に記載のミクロスフェア。
【請求項14】
前記ミクロスフェアがPLGAを含む、請求項10又は11に記載のミクロスフェア。
【請求項15】
前記不溶性APIが化学療法薬であり、好ましくは、前記化学療法薬がタキサンであり、そして、より好ましくは、ドセタキセルである、請求項10~14のいずれか一項に記載のミクロスフェア。
【請求項16】
前記不溶性APIが、結晶形態で前記ミクロスフェアの表面上に沈着している、請求項10~15のいずれか一項に記載のミクロスフェア。
【請求項17】
前記ミクロスフェアが、10~900μm、好ましくは、50~450μm、より好ましくは、100~400μm、そしてより一層好ましくは、250~350μmの直径を有する、請求項10~16のいずれか一項に記載のミクロスフェア。
【請求項18】
治療法における使用のための、請求項10~17のいずれか一項に記載のミクロスフェアを含む組成物。
【請求項19】
癌治療における使用のための、請求項10~17のいずれか一項に記載のミクロスフェアを含む組成物であって、任意にここで、癌が、前立腺癌、乳癌、膀胱癌、結腸直腸癌、甲状腺癌、口腔癌、肺癌、腎臓癌、子宮癌又は卵巣癌から選択される組成物。
【請求項20】
前記癌が前立腺癌であって、好ましくはここで、前立腺癌を患っている患者が根治的前立腺切除を受けている、請求項19に記載の使用のための組成物。
【請求項21】
癌の治療薬の製造における、請求項10~17のいずれか一項に記載のミクロスフェアを含む組成物の使用であって、任意にここで、前記癌が、前立腺癌、乳癌、膀胱癌、結腸直腸癌、甲状腺癌、口腔癌、肺癌、腎臓癌、子宮癌又は卵巣癌から選択される使用。
【請求項22】
前記癌が前立腺癌であって、好ましくはここで、前立腺癌を患っている患者が根治的前立腺切除を受けている、請求項21に記載の組成物の使用。
【請求項23】
請求項10~17のいずれか一項に記載のミクロスフェアを含む組成物の、そのような治療を必要としている対象への投与を含む癌を治療する方法であって、任意にここで、前記癌が、前立腺癌、乳癌、膀胱癌、結腸直腸癌、甲状腺癌、口腔癌、肺癌、腎臓癌、子宮癌又は卵巣癌から選択される方法。
【請求項24】
前記癌が前立腺癌であって、好ましくはここで、前立腺癌を患っている対象が根治的前立腺切除を受けている、請求項23に記載の癌を治療する方法。
【請求項25】
癌を治療するためのキットであって、以下の:
i) 密封容器内に提供されたTIPSミクロスフェア;
ii) 第一の溶媒で溶解された不溶性API;及び
iii) 担体ビヒクル、
を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱誘起相分離法によって製造されたミクロスフェアに不溶性活性薬剤成分(APIs)を取付けるための方法、並びにそれらの表面に結合した不溶性APIを有する、熱誘起相分離法(TIPS)によって製造されたミクロスフェア及びそれらのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
熱誘起相分離(TIPS)ミクロスフェアは、先にWO2008/155558において説明されている。得られるミクロスフェアの構造体は、機械的強度、及び細孔サイズを選択する能力、並びにミクロスフェアが皮膚により被覆されるかどうかなどの、改善された特徴を提供する。TIPSミクロスフェアは、組織増殖を支持する新規の分解可能なスカフォールド構造体を提供し、かつ組織新生を促進する生体活性物質を送達することができる。本発明において利用されるミクロスフェアは、WO2008/155558に開示されたTIPSの適用によるか、又は他の好適な方法により、製造することができる。WO2008/155558の内容は、特にTIPSミクロスフェアを製造するために使用される方法に関連して、引用により本明細書中に組み込まれている。TIPSは、均等なサイズの多孔質ミクロスフェアの迅速な形成が可能である。TIPSミクロスフェアは、ポリマー性で生分解可能であり、かつ、薬物送達適用のために治療薬が付加されることができる。これらのミクロスフェアは、必要とされる位置に容易に送達されることができ、これらは組織腔の不規則な形状に合致することができ、これらは予測可能な分解時間を有し、これらは広範な薬物を送達することができ、並びにこれらは製造するのに費用効果が大きい。
【0003】
癌は世界の主要な死因の一つである。腫瘍切除術は一般的な治療形態であるが、切除術後の陽性外科縁(切除標本のインク縁における癌細胞の組織学的存在と定義される)は、その患者に取り残された残留腫瘍に起因する生化学的再発のより高いリスクに関連している。腫瘍から離れた縁をより確実に得られるであろう、外科切除に対するより積極的なアプローチを考慮するための要因としては、共存症、解剖学的要因、及び外科の経験が挙げられる。前立腺癌では、男性の最も多い癌の一つであり、根治的前立腺切除は、前立腺に限局している癌の標準的な治療選択肢であるが、積極的な切除術は、付随的組織損傷(サントリーニ網状構造、上腹部血管又は腸骨血管に対する血管損傷;神経傷害)による尿失禁及び勃起機能不全のより高いリスクに関連している。局限された疾患に関する治療的処置であるにもかかわらず、高リスク前立腺癌を患っている患者の約50%は5年以内に手術後の生化学的再発を発症し、そしてそれは、予後不良に関連している(Briganti A, Karnes RJ, Gandaglia G, Spahn M, Gontero P, Tosco L, et al. Natural history of surgically treated high-risk prostate cancer. Urol Oncol. 2015 Apr;33(4):163.e7-13)。これらの患者の多くが、アジュバント若しくはサルベージ(放射線)治療又は全身的ホルモン療法を必要とし、そしてそれには、勃起機能又は尿制御に対する機能的影響に関してより高いリスクがある。これらの治療法が失敗した後の男性は、より高い毒性リスクをもたらす第3選択のホルモン又は化学療法剤を必要とする。100%の確実性で腫瘍又は残留癌細胞のすべてを完全に切除することはできないので、腫瘍を取り除いた直後の外科手術中の抗癌剤の標的化送達を安全に可能にする新たなマルチモーダル治療は、転帰を改善し、再発リスク及び更なる治療法のための要件を軽減に有益であろう。
【0004】
化学療法は一般的な癌治療である。しかしながら、化学療法薬の全身送達による改善された生存に関する臨床的証拠は、腫瘍に到達したほんのわずかな薬物だけによる、数多くの薬物関連毒性と、治療効果を達成するのに必要とされる非特異的分配に関連していることが多い。
【0005】
ドセタキセル(DTX)は、斯かるタイプの化学療法薬の一つである。それは、微小管の脱重合を阻害して、有糸分裂停止と、アポトーシスに関連するシグナル伝達経路の活性化をもたらす細胞内のβ-チューブリンに結合するタキサンベースの化学療法である(Herbst RS, Khuri FR. Mode of action of docetaxel - a basis for combination with novel anticancer agents. Cancer Treat Rev. 2003 Oct;29(5):407-415)。
【0006】
前立腺などのように、多くの腫瘍部位は、解剖学的に接近可能であり、そのため、特に腹腔鏡やロボット技術の到来に伴った、直接送達の好適な標的である。しかしながら、前立腺への直接的なドセタキセル送達のモデル作成は、高い流体伝導度を有する組織の領域のため直接送達された輸液が容易に尿道に入るので、それが効果を生じにくいことを示した(Raghavan R, Brady ML, Sampson JH. Delivering therapy to target: improving the odds for successful drug development. Ther Deliv. 2016 Jul;7(7):457-481)。
【0007】
局限された標的化送達を達成するために、かつ、化学療法薬の全身送達に関連する好ましくない副作用を緩和するために、様々なポリマーベースの薬物送達システムが、悪性疾患部位における化学療法の高い治療濃度を達成するという企図で調査された。これらには、ポリマーナノ粒子、リポソーム、デンドリマー、及びナノチューブが挙げられる。しかしながら、これまで抗癌薬物送達のために考案された多くのナノスケール材料は、静脈内投与に依存し、そのため、治療濃度での腫瘍組織への薬物の標的化が必要とされる。そのうえ、体循環内へのそれらの投入は、網内細胞系による除去と隔離、及び標的外組織蓄積をもたらす可能性があり、その両方が、ナノスケールの範囲内で材料が開発されるとき、対処する必要がある大きな問題である。
【0008】
本発明は、腫瘍内に又は腫瘍に隣接して移植されたときに、これにより、臨床的有効度の可能性を広げ、かつ、標的外の付随的組織損傷を軽減する、局限され制御された、かつ、持続した薬物放出を提供し得る。アジュバント療法のための新規なアプローチは、腫瘍切除術時点で、薬物送達デポー剤システムの投与を可能にする。腫瘍切除術後に残っている残留癌細胞を破壊することを意図するこのシステムの主な特質としては、以下の:(i) 好適なゲージ針又は送達ポートを通じた最小限の侵襲性送達が可能であり;(ii) 残留腫瘍細胞に極めて接近した状態で医薬品の表面積を最大にするために、腫瘍切除術後にできた組織腔の形状に合わせることができ;(iii) 治療用量の徐放性送達;(iv) 標的部位における生成物の滞留;及び(v) 短い時間枠内での臨床使用のために理想的に移動できること、が挙げられる。
【0009】
そのため、本発明は、送達され得、かつ、腫瘍の切除術直後にできた組織腔の形状に一致する、熱誘起相分離法(TIPS)によって作製された既存の、臨床的に承認された、生分解性の、多孔性ミクロスフェアと、APIを組合せることによってこれらの標的特質を満たす、新規な制御放出型薬物送達デポー剤システムに関する。本発明のミクロスフェアは、外科手術後の組織修復工程を容易にするための足場として更に作用する。本発明の方法は更に、外科手術の時点での最小限に抑えた侵襲性送達に適合し得るTIPSミクロスフェアに付加されたAPIの一貫した量、及び第二に、API-TIPSミクロスフェア組合せ生成物のインビトロにおける有効性、を実現する、新規の、簡易で安定な付加レジームを提供する。
【発明の概要】
【0010】
本発明の第一の態様により、不溶性活性薬剤成分(API)を、熱誘起相分離法(TIPS)によって製造したミクロスフェアに取付けるための方法であって、以下の:
i) ミクロスフェアを水性溶液と混合して、第一の組成物を形成し;
ii) 不溶性APIを第一の溶媒で溶解し、続いて、第一の溶媒中に溶解させた不溶性APIを第一の組成物に加えて、第二の組成物を形成し;そして
iii) 第二の組成物を混合すること、
を含む方法を提供する。
【0011】
この簡易で安定な方法は、不溶性APIをTIPSミクロスフェアに付加するのに使用された。このアプローチは、作製工程中の溶媒へのAPIの曝露を避けることを含めた、従来技術のPACLIMER(登録商標)ミクロスフェアを製造するのに使用される、溶媒-乳濁液留去工程などの他のミクロスフェア薬物-デバイス製作技術を上回る利点を提供し、そして、高い薬物付加効率を達成できた。そのうえ、そのアプローチは、使用直前の薬物-デバイス組合せ物の調製を可能にするので、PLGA TIPSミクロスフェアが乾燥形式で保存されることを可能にし、これにより、分解を回避することによってそれらの保存期限を延長する。
【0012】
本発明の第二の態様によると、その表面に結合された不溶性APIを伴った、熱誘起相分離法によって製造されたミクロスフェアを提供する。
本発明の第三の態様によると、治療法に使用するために本発明のミクロスフェアを含む組成物を提供する。
本発明の第四の態様によると、癌治療に使用するために本発明のミクロスフェアを含む組成物を提供する。
本発明の第五の態様によると、癌の治療薬の製造における、本発明のミクロスフェアを含む組成物の使用を提供する。
【0013】
本発明の第六の態様によると、本発明のミクロスフェアを含む組成物を、そのような治療を必要としている対象に投与することを含む、癌を治療する方法を提供する。
本発明の第七の態様によると、癌を治療するためのキットであって、以下の:
i) 密封容器内に提供されたTIPSミクロスフェア;
ii) 第一の溶媒で溶解された不溶性API;及び
iii) 担体ビヒクル、
を含むキットを提供する。
【0014】
本発明のTIPSミクロスフェアは、必要ある部位における局限された送達とAPIの徐放性製剤を提供し、そして、腫瘍部位における増強されたAPIの局所濃度を可能にし、その結果、残留腫瘍細胞を破壊することによって不完全な腫瘍切除術により生じる疾患再発のリスクを低減する。そのうえ、斯かる局限された送達システムは、循環内へのAPIの損失や、従来の全身的送達経路を使用して送達された化学療法薬に関連する標的外毒性、例えば、好中球減少症、白血球減少症、神経学的な中毒作用、下痢、脱毛症、無力症及び吐き気など、のリスクを軽減する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、TIPSミクロスフェアへのDTXの付加工程の一例を例示する。(i) 20ml容の透明なType 1Bホウケイ酸ガラスバイアル内の5mgのPLGA TIPSミクロスフェアをブチル注射栓で密閉した。(ii) 4.5mLの超純水をそのバイアルに加えた。(iii) バイアルを10秒間ボルテックスした。(iv)エタノール中の0.1%(w/v) 0.5mlのドセタキセルを、バイアルを逆さにしながら、ゴム栓を貫いて25G針を備えた1mLのシリンジを使用して加えた。(v) 次に、バイアルを、10秒間ボルテックスし、そして、室温にて予定された時間、ローラーミキサー(IKA(登録商標) Roller 6 Digital;60rpm)上に置いた。
【
図2-1】
図2は、PLGA TIPSミクロスフェア上へのタキサンの固定を示す。(a) ミクロスフェア上に付加されたDTXの量は、付加相中の様々な時点で(UV吸収によって計測される)溶液中に残留するDTXの量を計算することによって間接的に定量化された。(b) 無付加対照TIPSミクロスフェア及び(c) 500μgのDTXを付加したDTX-TIPSミクロスフェアの代表的な走査電子顕微鏡法(SEM)画像。(d) TIPSミクロスフェアの表面への時間依存的なDTXの吸着を実証するSEM画像。(e) 対照TIPSミクロスフェア又はDTX-TIPSミクロスフェアの表面で得られた窒素(N1s)のX線電子分光法高エネルギー分解能スペクトル。
【
図2-2】
図2は、PLGA TIPSミクロスフェア上へのタキサンの固定を示す。 (f) 乾式TIPS PLGAミクロスフェア、「事前湿式」TIPS PLGAミクロスフェア及びPLGAポリマー固体マイクロ粒子に関するDTX付加率を示す。
【
図2-3】
図2は、PLGA TIPSミクロスフェア上へのタキサンの固定を示す。 (g) TIPSミクロスフェアには、貧溶媒沈殿を介してドセタキセル、パクリタキセル及びカバジタキセルを付加した。ミクロスフェアの走査電子顕微鏡法は、無付加対照TIPSミクロスフェアと比較して、パクリタキセル又はカバジタキセル溶液中でインキュベートしたミクロスフェアの表面上の結晶物質の存在を明らかにした。(h) ドセタキセルは、カバジタキセルと比較して、ミクロスフェア上へのより速い付加速度を示した。約80%のドセタキセルが、混合開始後60分以内に溶液からミクロスフェアに付加された。同じ時点で、約60%のカバジタキセルが、溶液からミクロスフェアに付加された。ドセタキセル付加の更なる増加がないことは、全付加相中で60分間検出された。
【
図3】
図3は、注射製剤(例えば、Taxol(登録商標))のためのパクリタキセル中に存在する賦形剤が、貧溶媒沈殿工程と干渉し、そして、ミクロスフェアの表面上への薬物の付加を妨げることを示す。ミクロスフェアの走査電子顕微鏡法は、賦形剤の添加がないドセタキセル及びパクリタキセルの純粋な製剤とインキュベートしたTIPSミクロスフェアと比較して、ドセタキセル及びパクリタキセルの注射製剤中でインキュベートしたミクロスフェアの表面上の少ない結晶物質の存在を明らかにした。
【
図4】
図4は、(a) 注射用のドセタキセル(例えば、Taxotere(登録商標))は、投与前に生理食塩水で更に希釈される、Tween(登録商標)80とエタノールの1:1混合物から成るビヒクルで処方されていることを示す。(b) 注射用のパクリタキセル(例えば、Taxol(登録商標))は、投与前に生理食塩水で5~20倍に希釈される、Cremophor ELとエタノールの1:1混合物から成るビヒクルで処方されている。注射製剤中に存在する賦形剤が、貧溶媒沈殿工程と干渉し、そして、ミクロスフェアの表面上への薬物の付加を妨げる。
【
図5】
図5は、ミクロスフェアの走査電子顕微鏡法は、「湿式」及び「乾式」ミクロスフェアの表面上の結晶物質の同様の分布を明らかにしたことを示す。
【
図6】
図6は、ドセタキセルの累積放出が、最初の72時間にわたり「湿式」及び「乾式」ドセタキセル付加TIPSミクロスフェアに関して類似した遊離率傾向を示したことを示す。
【
図7】
図7は、獲得した画像から計算されたスフェロイドの直径が、「湿式」及び「乾式」ドセタキセル付加TIPSミクロスフェアから回収した潅流液と類似効果を生じながら、そのスフェロイドの出発サイズと、同じ時点で計測された対照群のスフェロイドの両方と比較して、サイズの有意な低下を示したことを示す。
【
図8】
図8は、1カ月にわたる保管後にTIPSミクロスフェアの表面上の匹敵する数量のドセタキセルの存在を確認するSEM画像を示す。
【
図9】
図9は、(a) 229nmのUV吸収を使用して計測されたDTX-TIPSミクロスフェアからのDTXの累積放出を示す。(b) 12日間の期間にわたりDTX-TIPSミクロスフェアから1日おきに回収された潅流液と48時間にわたりPC3細胞をインキュベートすることによって実施したコロニー形成アッセイ。様々な時点から回収された潅流液に晒された細胞を、ペトリディッシュ内で再平板培養し、2週間インキュベートした後に染色コロニーをカウントした。(c) 1、5及び10日目の回収DTX-TIPSミクロスフェアの潅流液を伴った48時間にわたるPC3細胞のインキュベーション後にアポトーシスに関連する形態学的変化を示す細胞の定量化。細胞の形態を、新鮮な完全培地中で48時間のインキュベーション後、並びに5及び10日間のインキュベーション後に評価した。
【
図10】
図10は、(a) 12日間にわたりDTX-TIPS又は無付加対照TIPSミクロスフェアから回収した潅流液中でインキュベートしたPC3細胞の3Dスフェロイド培養物を示す。培地を、対応する時点で回収された潅流液に置換した。スフェロイドの直径と体積を、インキュベーション期間を通じて得た画像から計算した。DTX-TIPSからの潅流液とインキュベートしたスフェロイドは経時的に小さくなった。(b) 組織培養ウェル内、2Dで培養したPC3細胞を同じ様式で処理し、細胞毒性の形態学的特徴を示した。(c) 12日目に、潅流液と共にインキュベートされたスフェロイドの細胞生存率を、Live/Dead(登録商標)染色(カルセインAM-生細胞及びエチジウムホモ二量体-1(EthD-1)死細胞)を使用して分析した、スケールバー200μm。(d) スフェロイド状態のPC3細胞は、DTX-TIPSミクロスフェアからの潅流液と共にインキュベートし、12日目に組織培養プレートに移すと、スフェロイドから遊走し、そして、生育不能に見えたが、その一方で、対照ミクロスフェアと共にインキュベートしたスフェロイドからの細胞は、生存し、そして、スフェロイドから遊走した、スケールバー200μm。データは、n=20からの平均±標準偏差を表す。***対照とDTX処理サンプルとの間でp<0.001。
【
図11】
図11は、DTX-TIPSが全身的毒性なしでインビボにおける腫瘍の増殖を阻害することを示す。(a) IV DTXを受けたマウスは、全身的毒性を示す進行性の有意な体重低下を示した。(b) 腫瘍の体積は、対照TIPSミクロスフェア又はIV生理食塩水を受けたマウスにおける研究時間にわたる着実に増大した。(c) 14日目にIV DTXを受けたマウスでは、DTX IV及びDTX-TIPSを受けたマウスの間で腫瘍サイズ増大における有意差がなく、DTX-TIPSが腫瘍増殖の予防において同等に有効であることを示した。
【
図12】
図12は、非腫瘍担持BALB/cAnNCrlマウスから回収された血漿中のDTXの計測を示す。DTX-TIPSミクロスフェアの送達の1時間及び24時間後にのみ、低レベルのDTXが血漿中で検出可能であった。1時間及び24時間のDTXのより高いレベルは、48時間及び72時間、また10日目(240時間)及び15日目(360時間)にも維持されるDTXの検出可能なレベルで、I.V. DTX投与後に検出された。
【
図13】
図13は、切除されたPC3異種移植腫瘍(T)の組織像を示す。腫瘍周辺に移植されたDTX-TIPSミクロスフェア(*)は、35日目にて送達部位に残った。ミクロスフェアは疎結合組織に囲まれる。より高い倍率(はめ込み)では、ミクロスフェアが移植後に元の状態のままであることが明らかになった。
【
図14】
図14は、(a) 腫瘍体積の最大増大が、I.V.生理食塩水又は対照TIPSミクロスフェアを受けた群で観察されたことを示す。I.V. DTXを受けた群では腫瘍体積の増大が観察されなかった。腫瘍体積の増加は、DTX-TIPSを受けた群で減弱された。(b) 異なった処置群に関連する腫瘍体積の差異を例示する代表的な切除PC3前立腺癌の異種移植腫瘍の巨視的画像。(c) 処理後のNSG(商標)免疫不全マウスの体重の変化。進行性の体重低下が、I.V. DTXを受けたマウスで観察された。DTX-TIPSを受けたマウスでは、あらゆる有意な差異がある重量変化は観察されなかった。(****p<0.0001)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の詳細な説明
本発明の第一の態様により、不溶性活性薬剤成分(API)を、熱誘起相分離法(TIPS)によって製造したミクロスフェアに取付けるための方法であって、以下の:
i) ミクロスフェアを水性溶液と混合して、第一の組成物を形成し;
ii) 不溶性APIを第一の溶媒で溶解し、続いて、第一の溶媒中に溶解させた不溶性APIを第一の組成物に加えて、第二の組成物を形成し;そして
iii) 第二の組成物を混合すること、
を含む方法を提供する。
【0017】
当該方法は、不溶性APIをTIPSミクロスフェアに付加することを可能にする。先に概説したように、そのアプローチは、作製工程中にAPI剤の溶媒への曝露を回避するので、高い薬物付加効率を達成できる。
「付加」という用語、本明細書中で使用される場合、あらゆる形態の付加も包含するが、好ましくは受動的付加を指す。好ましくは、不溶性APIはミクロスフェアの表面上に沈着される。不溶性APIを物理吸着によってミクロスフェアに付着させてもよい。好ましくは、不溶性APIは結晶形態でミクロスフェアの表面上に沈着される。
「不溶性」とは、APIが水性溶液中に可溶性でないことが意味される。
【0018】
APIという用語は、本明細書中で使用される場合、最終的な医薬製品に使用でき、薬理活性を提供するか、そうでなければ、疾患の診断、治癒、軽減対策、治療又は予防に直接作用するか、或いはヒトの生理機能を復元、補正又は修飾するのに直接作用することが意図される物質を意味する。
【0019】
用語「ミクロスフェア」とは、均質な実質的に球形の粒子の調製品の一つを指す。この用語は、当該技術分野において周知である。ミクロスフェアは、数多くの放射状の細孔を含むことができる。これは、細孔が、ミクロスフェアの中心部分から表面へと、好ましくは実質的にミクロスフェアの半径に平行して、広がっていることを意味する。細孔は、好ましくは管状でありかつ相互接続している。放射状の細孔は、機械的強度レベルのあるミクロスフェアを提供する。
【0020】
本構造体は、熱誘起相分離法により製造される。特に、本構造体は、その開示がその全体で参照により組み入れられている、WO2008/155558に開示されたいずれかの方法により製造されることができる。
【0021】
その方法は、ミクロスフェアを水性溶液と混合して第一の組成物を形成することを含む。好ましくは、水性溶液は、水、生理食塩水、リンゲル液、又はその混合物を含む。水が使用される場合、その水は更に、塩化ナトリウム及び/又はデキストロースを含んでもよい。混合は、例えば、振盪、回転(rotating)、ローリング(rolling)又はボルテックスすることなどの、好適な任意の手段によって実施され得る。好ましくは、混合は、例えば、2、5、10、15又は数秒間などの好適な時間にわたりボルテックスすることによって実施される。好ましくは、ボルテックスは、約10秒間にわたり実施される。
【0022】
一実施形態において、ミクロスフェアは、水性溶液と混合されて、容器内に第一の組成物を形成する。その容器は、例えば、ビーカー、フラスコ、ボトル、ジャー、試験管、シリンダ、遠心分離管、マイクロチューブ又はバイアルなどの当業者に知られている任意の好適な容器であり得る。好ましくは、容器はバイアルである。容器は、API用量が、例えば、プラスチック又はガラスなどに吸着しない任意の好適な材料から製造され得る。好ましくは、容器は、例えば、ホウケイ酸ガラスなどのガラスから製造される。好ましくは、容器は、ガラスバイアル、凍結乾燥バイアル又はシリコン処理バイアル、より好ましくはホウケイ酸ガラスバイアルである。
【0023】
水性溶液の体積は、利用した容器に好適な任意の体積であり得る。例えば、容器が20ml容バイアルであるとき、水量は0.5~5ml、好ましくは1.5~4.5ml、より好ましくは3~4.5mlであり得る。
好ましくは、容器は、当業者に知られている任意の好適な手段によって混合する間に密封される。斯かる手段としては、リッド、キャップ、バングス(bungs)、栓(stoppers)又はパラフィルムが挙げられる。好ましくは、容器は栓で封をされる。好ましい栓の例はブチル注射栓である。
【0024】
不溶性APIは第一の溶媒で溶解される。第一の溶媒は、当業者に知られているQ3C-Tables and List Guidance for Industry(http://academy.gmp-compliance.org/guidemgr/ files/ UCM073395. PDF)から選択され得る。好ましくは、溶媒はClass3溶媒から選択される。
【0025】
第一の溶媒は、酢酸、アセトン、ニトロメタン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ピリジン、メチルエチルケトン、DMSO、酢酸メチル、ハロゲン化炭化水素、グリセリン、トルエン、ホルムアミド、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、低級アルコール及びその混合物から選択され得る。ハロゲン化炭化水素としては、これらに限定されるものではないが、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロルエタン及びトリクロロエタンが挙げられる。低級アルコールとしては、これらに限定されるものではないが、イソプロピルアルコールと、メタノール及びエタノールが挙げられる。
【0026】
好ましくは、溶媒は低級アルコールであり、そして、最も好ましくは、溶媒はエタノールである。好ましくは、エタノールは、45%~100%のエタノール、より好ましくは95%又は100%のエタノールである。
好ましくは、第一の溶媒は、1~30%v/v、好ましくは10~30%v/v、より好ましくは10~20%v/v、及び最も好ましくは10%v/vの第二の組成物中の終濃度をもたらすように、斯かる体積で不溶性APIに加えられる。第二の組成物中で30%v/vを超える濃度にて、ミクロスフェアが一緒に凝集し得る。
【0027】
第一の溶媒での不溶性APIの溶解に続いて、第一の溶媒で溶解させた不溶性APIは、第一の組成物に加えられて、第二の組成物を形成する。好ましくは、このステップ中、ミクロスフェアと水性溶液を含む容器は転倒混和され、ミクロスフェアはそのバイアルの開口部を密封するゴム栓から遠くに移動する結果となる。第一の組成物中に存在する水性溶液で第一の溶媒を希釈することは、ミクロスフェアが、ミクロスフェアの集塊をもたらし得る第一の溶媒と直接接触するのを予防する。
【0028】
好ましくは、第一の組成物に第一の溶媒で溶解させた不溶性APIの添加は針を介したものである。好ましくは、取付けられた針を備えたシリンジは、バイアルを逆さにしている間に、バイアルを密封しているゴム栓シーリングを貫くのに使用される。
【0029】
次に、第二の組成物が混合される。混合は、例えば、振盪、回転、ローリング又はボルテックスすることなどの、好適な任意の手段によって実施され得る。好ましくは、混合は、例えば、2、5、10、15又は数秒間などの好適な時間にわたりボルテックスすることによって実施される。好ましくは、ボルテックスは、約10秒間にわたり実施される。好ましくは、ボルテックスは約10秒間にわたり実施される。好ましくは、ボルテックスには、次に、例えば、5分間~24時間、好ましくは30分間~60分間にわたる、回転又はローリングの時間が続く。
【0030】
熱誘起相分離法は、好ましくは、以下の:
i) ポリマーを第二の溶媒で溶解して、溶液を形成し;
ii) クエンチング流体で溶液の液滴をクエンチし;及び
iii) 得られたスフェアを凍結乾燥すること、
を含み、好ましくは、ここで、該溶液は、シリンジ、振動針又はアトマイザーを使用してクエンチ中に導入され、そして、より好ましくは、該溶液を超音波処理するステップを更に含む。
【0031】
任意の疎水性ポリマーを使用することができるが、このポリマーは、医薬として許容され得、かつ溶媒中に完全に可溶性であることが好ましい。このポリマーは、分解性であるか又は非分解性であってよい。これは、合成であるか又は非合成であってよい。ポリマーの組合せを使用することができ、例えば、合成ポリマーは、非合成ポリマーと組合せて使用される。ポリマーの例としては、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(PLGA)、ポリ(α-ヒドロキシエステル)、ポリアンヒドリド、ポリオルトエステル、ポリホスファジン、ポリプロピレンフマレート、ポリ(プロピレン-フマレート-コ-エチレングリコール)、ポリエチレンオキシド、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)及びポリヒドロキシ吉草酸(PHV)が挙げられる。2種以上のポリマーのコ-ポリマー、特にPHB及びPHVも、使用することができる。他のものは、ポリ(α-ヒドロキシエステル)-コ-PEGコポリマー、又はペグ化された薬物を含むコ-ポリマーが挙げられる。使用することができる天然のポリマーは、フィブリンを含む。好ましくはこのポリマーは、キトサンではない。
【0032】
ポリマーの種類(例えば、永久(permanent)又は分解性、天然又は合成)、多孔性、機械的強度及びサイズは、ミクロスフェアの用途又は選択された送達部位に応じて選択されてよい。例えば、分解性物質は、送達部位由来の組織が、この構造体の一時的スカフォールド機能に取って代わる場合に、好ましいことがある。最も好ましくは、このポリマーは、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(PLGA)である。
【0033】
第二の溶媒は、クエンチング流体の温度よりも高い比較的高い凍結温度を有するように選択することができる。溶媒の例としては、炭酸ジメチル、クロロホルム、アセトン、ジメチルクロリド、テトラヒドロフラン及び超臨界二酸化炭素が挙げられる。好ましくは、第二の溶媒はジメチルカルボナートである。
【0034】
好ましくは、その方法は、溶液を超音波処理するステップを更に含む。
ミクロスフェアを形成するために使用されるクエンチング流体は、液体又は気体であることができる。クエンチング流体の例としては、液体窒素、液体酸素、液体CO2、フレオン、水、エタノール、メタノールが挙げられる。好ましくは、クエンチング流体は液体窒素である。
【0035】
前記溶液は、いずれか適切な方法を使用し、クエンチング流体に導入することができる。例えば、液滴は、シリンジ又は振動針を使用し製造することができる。あるいは、この溶液は、例えば、エアゾール噴射された又はポンプ輸送されたシステムを使用し、アトマイザーを通して噴霧されるか、又は静電力もしくは同軸空気流を使用し、クエンチング流体へ引き寄せることができる。
【0036】
好ましくは、不溶性APIは化学療法薬である。「化学療法薬」とは、剤が悪性細胞及び組織に対して選択的に破壊的であることを意味する。化学療法薬の包括的ではない例は、例えば、クロラムブシル、メルファラン、ダカルバジン、及びテモゾロミドなどのアルキル化剤;例えば、イダルビシン、及びバルルビシンなどのアントラサイクリン;例えば、ボリノスタット及びロミデプシンなどのヒストンデアセチラーゼ阻害剤;例えば、エトポシド、テニポシド及びタフルポシドなどのトポイソメラーゼ阻害剤;例えば、ボルテゾミブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、イマチニブ、ベムラフェニブ及びビスモデギブなどのキナーゼ阻害剤;例えば、アザシチジン、アザチオプリン、フルオロウラシル、メルカプトプリン、メトトレキサート及びチオグアニンなどのヌクレオチド類似体及び前駆体類似体;例えば、カルボプラチン、シスプラチン及びオキサリプラチンなどのプラチナベースの剤;例えば、トレチノイン、アリトレチノイン及びベキサロテンなどのレチノイド;例えば、ビンブラスチン及びビンデシンなどのビンカアルカロイド及び誘導体、並びに例えば、カバジタキセル、パクリタキセル及びドセタキセルなどのタキサンである。
【0037】
好ましくは、化学療法薬は、タキサン、より好ましくはカバジタキセル、パクリタキセル又はドセタキセル、より一層好ましくはドセタキセルである。
【0038】
ミクロスフェアに結合していないすべての不溶性APIは、水性溶液で洗浄することによって第二の組成物から取り除かれる。好ましくは、水性溶液は、水、生理食塩水、リンゲル液又はその混合物を含む。水が使用される場合、その水は、塩化ナトリウム及び/又はデキストロースを更に含んでもよい。洗浄手順の制限されることのない例は:(i) 第一の溶媒で溶解させたAPIを取り除き;(ii) 同じ体積の水性溶液を加え;及び(iii) 例えば、振盪、回転、ローリング又はボルテックスなどの好適な任意の手段によって洗浄すること、を含んでもよい。好ましくは、洗浄は、例えば、10秒間~5分間などの好適な時間にわたりボルテックスによって実施される。好ましくは、ボルテックスは約2分間にわたり実施される。このステップの後に、水性溶液を取り除いてもよい。好ましくは、除去は吸引によって実施される。
【0039】
本発明の第二の態様によると、その表面に結合された不溶性APIを伴った、熱誘起相分離法によって製造されたミクロスフェアに関する。
好ましくは、不溶性APIは、先に記載した方法によってミクロスフェアに結合させる。
好ましくは、熱誘起相分離法は、好ましくは、以下の:
i) ポリマーを第二の溶媒で溶解して、溶液を形成し;
ii) クエンチング流体で溶液の液滴をクエンチし;及び
iii) 得られたスフェアを凍結乾燥すること、
を含み、好ましくは、ここで、該溶液は、シリンジ、振動針又はアトマイザーを使用してクエンチ中に導入され、そして、より好ましくは、該溶液を超音波処理するステップを更に含む。
【0040】
本発明のこの実施形態における溶媒は、上記方法に記載した第二の溶媒である。
好ましくは、ポリマーはPLGAであり、溶媒はジメチルカルボナートであり、及び/又はクエンチング流体は液体窒素である。
【0041】
「ミクロスフェア」という用語は、先に定義されており、本明細書中で使用される場合、不溶性APIを取付けるのに好適なサイズである略球状粒子を包含し得る。好ましくは、ミクロスフェアは、走査電子顕微鏡法などの電子顕微鏡法によって特徴づけられるとおり、直径約10~900μmである。好ましくは、ミクロスフェアは、直径約50~450μm、より好ましくは直径約100~400μm、より一層好ましくは直径250~350μmであり得る。
【0042】
250~350μmの望ましいサイズ範囲は、該ミクロスフェアを、薬物放出のために表面積を増加させるために詰まったミクロスフェア間で十分広い隙間を提供し、かつ、密に詰まったミクロスフェア間で組織浸潤を可能にすると同時に、最小限の侵襲アプローチにより好適なゲージ針又は送達ポートを介して患者に容易に送達できるということである。
【0043】
ミクロスフェアの細孔径はまた、意図された使用及び必要な機械的強度によって選択されてもよく、及びミクロスフェアの直径によって選択されてもよい。更に、細孔は、好ましくはサイズが均一なものである。すなわち、細孔は、好ましくは実質的に同じ直径である、すなわち、細孔の直径は好ましくは差異が10%以下である。多孔性ミクロスフェアは、細孔の性質により良好な機械的強度を有する。
【0044】
本発明の第三の態様によると、治療法に使用するために本発明のミクロスフェアを含む組成物に関する。
本発明の第四の態様によると、癌治療に使用するために本発明のミクロスフェアを含む組成物を提供する。
【0045】
癌が「治療される」とき、これは、癌の1若しくは複数の臨床徴候が改善されることを意味する。それは、いくつかの方法において、そうであってもよいが、癌の症状がもう患者に存在しないような、完全に矯正されることを意味するものではない。「治療」は、治療前に比べて、1若しくは複数の癌の症状の重症度が下がる結果をもたらす。例えば、腫瘍は、サイズが削減されても、又は完全に根絶されてもよい。
【0046】
癌は、あらゆるタイプの癌、好ましくは癌腫、肉腫又はリンパ腫であってもよい。好ましくは、癌は、前立腺癌、乳癌、膀胱癌、結腸直腸癌、甲状腺癌、口腔癌、肺癌、腎臓癌、子宮癌又は卵巣癌から選択される。より好ましくは、癌は前立腺癌である。特に好ましい実施形態において、前立腺癌を患っている患者は、根治的前立腺切除を受けた。
【0047】
本発明のミクロスフェアを含む組成物は、腫瘍切除術又は、例えば、根治的前立腺切除後にできた組織腔内に直接投与される。必要な部位に化学療法薬を直接送達することに加えて、TIPSミクロスフェアは、外科手術後に適合性組織足場として作用し得る。ミクロスフェアは、薬物放出のために表面積を増加させるために、近い詰まったミクロスフェア間で十分広い隙間を提供し、かつ、密に詰まったミクロスフェア間で組織浸潤を可能にすると同時に、最小限の侵襲性アプローチにより好適なゲージ針又は送達ポートを介して容易に送達され得る。
【0048】
本発明の第五の態様によると、癌の治療薬の製造における、本発明のミクロスフェアを含む組成物の使用を提供する。
本発明の第六の態様によると、本発明のミクロスフェアを含む組成物を、そのような治療を必要としている対象に投与することを含む、癌を治療する方法を提供する。
【0049】
本発明の第七の態様によると、癌を治療するためのキットであって、以下の:
i) 密封容器内に提供されたTIPSミクロスフェア;
ii) 第一の溶媒で溶解された不溶性API;及び
iii) 担体ビヒクル、
を含むキットを提供する。
【0050】
その容器は、例えば、ビーカー、フラスコ、ボトル、ジャー、試験管、シリンダ、遠心分離管、マイクロチューブ又はバイアルなどの当業者に知られている任意の好適な容器であり得る。好ましくは、容器はバイアルである。容器は、API用量が、例えば、プラスチック又はガラスなどに吸着しない任意の好適な材料から製造され得る。好ましくは、容器は、例えば、ホウケイ酸ガラスなどのガラスから製造される。好ましくは、容器は、ガラスバイアル、凍結乾燥バイアル又はシリコン処理バイアル、より好ましくはホウケイ酸ガラスバイアルである。
【0051】
好ましくは、容器は減圧下で密封される。斯かる状態下の乾式TIPSミクロスフェアは6年間を超える保存期限を有する。
不溶性API及び第一の溶媒は、先に記載したとおりのものである。
【0052】
担体ビヒクルは、好適な1若しくは複数の好適な賦形剤を含んでもよい。治療使用に許容される賦形剤は、医薬技術分野で周知であり、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co. (A. R. Gennaro edit. 1985)に記載されている。ビヒクルは、賦形剤である、あらゆる好適な結合剤、滑沢剤、懸濁化剤、被覆剤又は可溶性剤として含まれても、又はそれらに加えられてもよい。一実施形態において、担体ビヒクルはヒドロゲルを含んでもよい。
【0053】
キットは更に、注射剤形態で送達するのに好適な水性溶液を含んでもよい。水性溶液は、水、生理食塩水、リンゲル液、又はその混合物を含んでもよい。水性溶液が水である場合、水は更に、塩化ナトリウム及び/又はデキストロースを含んでもよい。
キットは、患者に担体ビヒクル中のミクロスフェアの送達のために好適なゲージ、例えば、16G~30G、のシリンジ、針、及び/又はカニューレを更に含んでもよい。
【0054】
当業者は、本発明のすべての態様は、それらが、例えば、取付け方法、ミクロスフェア、使用、又は治療法に関連するかどうかにかかわらず、本発明の他の態様のすべてに等しく適切であることを十分に理解する。特に、例えば、取付け方法の態様は、本発明の他の態様、例えば、ミクロスフェアの使用、に比べてより詳細に記載されてもよかった。しかしながら、当業者は、より詳細な情報が本発明の特定の態様に与えられる場合、この情報が概して等しく本発明の他の態様に適切であることを理解する。
本発明は、図面に関して一例としてのみ、より詳細にここで記載する。
【実施例】
【0055】
実施例1
材料と方法
TIPSミクロスフェアの製作
ポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)(PLGA)から成るTIPSミクロスフェアを先に記載したとおりに調製した(Ahmadi R, Mordan N, Forbes A, Day RM. Enhanced attachment, growth and migration of smooth muscle cells on microcarriers produced using thermally induced phase separation. Acta Biomater. 2011 Apr;7(4):1542-1549)。PLGA PURASORB7507(75:25)ポリマー(Corbion, Amsterdam, Netherlands)を、磁気撹拌器を使用して一晩、ジメチルカルボナート(Sigma Aldrich, Dorset, UK)で溶解して、10%(w/v)のポリマー水性溶液を製造した。次に、ポリマー水性溶液を、シリンジポンプ(Harvard Apparatus, Kent, UK)によって2mL/分の一定流速でNisco Encapsulator Unit(Nisco Engineering, Zurich, Switzerland; Frequency: 2.75 kHz, Amplitude: 70%)に送り込んだ。ポリマー液滴を100μmのサファイアノズルを使用して形成し、そして、液体窒素中に回収した。残留溶媒を、48時間にわたる凍結乾燥によって凍っているポリマー液滴から取り除いた。乾式PLGA TIPSミクロスフェアを、250~350μmの粒径範囲にふるい分け、そして、減圧下で室温にてゴム栓をしたガラスバイアル内で保存した。
【0056】
TIPSミクロスフェアを用いたTaxanesの付加
簡便法を開発して、貧溶剤沈殿によってTIPSミクロスフェア上にDTX及び、例えば、パクリタキセルやカバジタキセルなどの他のタキサンを付加した(
図1)。5mgのPLGA TIPSミクロスフェアを、20ml容の透明なType 1Bホウケイ酸ガラスバイアルに移し、そして、ブチル注射栓で封をした。4.5mLの超純水をそのバイアルに加え、そして、10秒間ボルテックスした。エタノール中の0.5mlの0.1%(w/v)タキサン、又はドセタキセル若しくはパクリタキセルに対応するTaxotere(登録商標)又はTaxol(登録商標)の製剤を、バイアルを逆さにしたときに、ゴム栓を貫いて25G針を備えた1mLのシリンジを使用して加えた。次に、そのバイアルを、10秒間ボルテックスし、そして、室温にて予定された時間(5、15、30、60、120分)、ローラーミキサー(IKA(登録商標) Roller 6 Digital;60rpm)上に置いた。
【0057】
各時点におけるTIPSミクロスフェア上へのタキサン、例えばDTXなどの薬物付加効率(DLE)を、方程式1に従って計算した。溶液中に残っている遊離タキサンの量を、Nanodrop 2000c分光光度計(Thermo Scientific, Waltham, MA, USA)を使用して229nmの波長にてUV分光法によって計測した。
【0058】
【0059】
走査電子顕微鏡法を使用して、タキサンの付加によるTIPSミクロスフェアの表面で形態学的変化を調査した。未結合タキサンを、5mlの超純水で3回洗浄し、続いて、減圧下での乾燥によってミクロスフェアから取り除いた。乾燥粒子のサンプルを、Q150R ES金被覆器(Quorum Technologies, Oxford, UK)を使用して60秒間にわたり金で被覆した。サンプルを、Hitachi S3400N走査電顕を使用して画像化した。
X線電子分光法(XPS)を、単色Alkα放射を使用したThermo Scientific Kα光電子分光計を使用して実施した。より高い分解能走査を、50eVのパスエネルギーにてN(1)、C(1)の第一ピークに関して記録した。
【0060】
PLGA TIPSミクロスフェア上にAPIを付加するために使用した方法の比較
1. 乾式TIPS PLGAミクロスフェア(250~350μmの粒径範囲):ドセタキセルを、直前に記載したように5mgのPLGA TIPSミクロスフェア上に付加した。乾式付加TIPSミクロスフェアを、洗浄ミクロスフェアを少なくとも7日間にわたり乾燥器内に置くか又は凍結乾燥によって過剰水を取り除く(「凍結乾燥」)ことによって調製した。
【0061】
2. 「事前湿式」TIPS PLGAミクロスフェア:5mgのPLGA TIPSミクロスフェアを、10%(v/v)胎仔ウシ血清(FBS)及び1%の抗生物質を補った完全培地(Ham’s F12-K培地(Kaighn変法)(Invitrogen, 21127-022)と混合し、それに続いて7%(v/v)の濃度までエタノールを加えた。
【0062】
3. 5mgのPLGA TIPSミクロスフェアを、20ml容の透明なType 1Bホウケイ酸ガラスバイアルに移し、そして、ブチル注射栓で封をした。4.5mLの超純水をそのバイアルに加え、そして、10秒間ボルテックスした。エタノール中の0.5mlの0.1%(w/v)ドセタキセルを、バイアルを逆さにしたときに、ゴム栓を貫いて25G針を備えた1mLのシリンジを使用して加えた。次に、そのバイアルを、10秒間ボルテックスし、そして、室温にて予定された時間(5、15、30、60、120分)、ローラーミキサー(IKA(登録商標) Roller 6 Digital;60rpm)上に置いた。
【0063】
4. 各時点におけるTIPSミクロスフェア上へのドセタキセル(DTX)の薬物付加効率(DLE)を、方程式1に従って計算した。溶液中に残っている遊離ドセタキセルの量を、Nanodrop 2000c分光光度計(Thermo Scientific, Waltham, MA, USA)を使用して229nmの波長にてUV分光法によって計測した。
【0064】
DTX-TIPSミクロスフェア組合せ生成物からのドセタキセル放出
TIPSミクロスフェアからのDTXの放出プロフィールを、動的潅流系を使用して調査して、根治的前立腺切除後に臨床的に使用したときに、生理学的環境における薬物-デバイス組合せ物の組織潅流をシミュレートした。よって、潅流系を37℃のインキュベータ内に置いて、生理学的にシミュレートした培地(リン酸緩衝生理食塩水(PBS);pH7.4)を潅流液として使用した。DTX付加ミクロスフェアを、超純水で希釈した100μlの70%(v/v)GranuGel(登録商標)(Convatec, UK)と混合し、そして、その混合物を、二枚の25mm円形濾紙(Whatman(登録商標) qualitative cellulose filter paper, Grade 1)の間に配置し、そこでは、それらの位置をSwin-Lok(商標)プラスチック膜フィルターホルダーによって保持した。フィルターホルダーの出口に接続した皮下注射針(18G×40mm)を、50mlのポリプロピレンコンテナのリッドを通して挿入して、潅流液を回収した。PBSを、フィルターホルダーを通して、蠕動ポンプ(Harvard Apparatus)によって0.01mL/分の流量にてポンプで送った。調整潅流液を、指定した間隔でサンプリングし、追加実験に使用した。
【0065】
潅流液中に放出されたDTXの量を、予定した検量線を使用して決定した。各計測にて、ポリプロピレンコンテナ内の回収した放出培地中のDTXの濃度を、先に記載したように229nmにてUV分光法によって測定して、方程式2に従って累積DTX放出について計算した。
【0066】
【0067】
DTX-TIPSミクロスフェア組合せ生成物から放出されたドセタキセルのインビトロにおける有効性
ヒト前立腺癌細胞(PC3、American Type Culture Collection)を、DTX-TIPSミクロスフェアから放出されたドセタキセルの活性を試験するのに使用した。PC3細胞を、10%(v/v)胎仔ウシ血清(FBS)及び1%の抗生物質を補ったHam’s F12-K培地(Kaighn変法)(Invitrogen, 21127-022)(以降、完全培地と称する)中で維持した。細胞を、加湿インキュベータ内で37℃にて5%のCO2雰囲気下で培養した。6ウェルプレート内で培養したPC3細胞を、先に概説した潅流系に付加したDTX-TIPSミクロスフェアから回収した2mlの潅流液(調整完全培地)中で48時間インキュベートした。コロニー形成アッセイを以前に記載したとおり実施した(Franken NAP, Rodermond HM, Stap J, Haveman J, van Bree C. Clonogenic assay of cells in vitro. Nat Protoc. 2006;1(5):2315-2319)。潅流液に晒したPC3細胞を、トリプシン-EDTA溶液(フェノールレッドを伴ったHank's Balanced Salt Solution中の0.5g/lのブタトリプシン及び0.2g/lのEDTA.4Na;Sigma-Aldrich)を使用して6ウェルプレートから剥離し、新鮮な完全培地で洗浄し、単個細胞懸濁液を作製し、新鮮な完全培地で再懸濁し、1ディッシュあたり400細胞の密度にて直径9cmのペトリディッシュ内で再平板培養した。平板接種後に、そのディッシュを、2週間にわたり加湿インキュベータ内で37℃にて5%のCO2雰囲気下でインキュベートして、コロニーを形成させた。コロニーを、20分間にわたりメタノールで固定し、蒸留水中の0.5%のクリスタルバイオレット(Sigma Aldrich, Dorset, UK)で2時間染色した。コロニーを、「Colony Counter」プラグイン(処理パラメータ:サイズ100~30,000;真円度0.5~1)(https://imagej.nih.gov/ij/plugins/colony-counter.html)を使用したImageJによりカウントした。
【0068】
平板培養効率(PE)を、最初に播種した細胞数によってカウントしたコロニー数を割ることによって概算した。この数字を生存率(SF)について計算する際の正規化に使用した。
【0069】
【0070】
2D培養におけるアポトーシスの形態学的検出
膜結合型アポトーシス体への萎縮と断片化を含めたアポトーシスを暗示するPC3細胞に対する形態学的変化を、潅流液調整完全培地への曝露後に評価した。細胞を、24時間間隔で12日間にわたって回収した潅流液調整完全培地中で24時間インキュベートした。細胞形態の画像をZeiss Primovert顕微鏡を使用した位相差顕微鏡を使用して得、そして、各群で少なくとも100細胞を分析して、各画像内で核断片化を示す細胞数を計算した。
【0071】
腫瘍スフェロイドを用いた有効性試験
PC3細胞の3Dスフェロイドを、先に記載したとおり(Korff T. (2004) Three-Dimensional Spheroid Culture of Endothelial Cells. In: Augustin H.G. (eds) Methods in Endothelial Cell Biology. Springer Lab Manuals. Springer, Berlin, Heidelberg)、メチルセルロースを足場として使用することによって作製した。PC3を、96ウェル超低付加u字底プレート内に2×104細胞/20%wtメチルセルロース含有200μLの完全培地の濃度にて播種した。細胞を、スフェロイドを形成するまで、加湿インキュベータ内で37℃にて5%のCO2雰囲気下で2日間インキュベートした。培地を、12又は14日間にわたり対応する時点で潅流系から回収した培地に毎日置換された200μLの潅流液調整完全培地に置換した。スフェロイドの画像を培養に際し毎日取得した。画像化したスフェロイドの寸法をImage Jを使用して計測し、Feret直径を用いてスフェロイドの平均直径を見積り、そして、時間に対してプロットした(GraphPad Prismソフトウェア)。
【0072】
インビボにおける前立腺腫瘍形成
500万個のヒト前立腺癌細胞(PC3、American Type Culture Collection)を、雌NSG(商標)(NOD scid γ)免疫不全マウス(6~7週齢)の脇腹に皮下注射した。2週間後に~20mm3と計測される触診可能な腫瘍が形成された。それぞれの腫瘍のサイズとそれぞれの動物の体重を、1週間に3回記録した。
【0073】
腫瘍の治療
マウスを4種類の処理群(DTX-TIPSミクロスフェアn=7;対照TIPSミクロスフェアn=7;天然DTX n=7;生理食塩水n=4)のうちの1つに割り付け、以下の治療計画を与えた:
【0074】
1. DTX-TIPSミクロスフェアの腫瘍周囲への送達:500μgのDTX溶液(実施例1に記載)を付加した5mgのPLGA TIPSミクロスフェアを、100μlのGranuGelと混合した。
2. 対照TIPSミクロスフェアの腫瘍周囲への送達:5mgのPLGA TIPSミクロスフェアを、100μlのGranuGelと混合した。
【0075】
3. エタノールとTween(登録商標)80で溶解して、10mg/mlの溶液を作製し、続いて、生理食塩水で1mg/mlに希釈した10mgのDTXの尾静脈注射。マウスには10mg/kg;3週間にわたり1週間に1回を与えた。
4. 生理食塩水(10μl/g)の尾静脈注射;3週間にわたり1週間に1回。
生活相の最後の時点で、動物を人道的に殺処分した。腫瘍を切除し、組織学的分析前に秤量した。
【0076】
DTX-TIPSミクロスフェアからインビボにおいて放出されたDTXの計測
ドセタキセル付加TIPSミクロスフェアを、先に概説したように、貧溶媒沈殿によって調製した。処理後に循環中に存在するDTXの濃度を測定するために、DTX-TIPSミクロスフェアを、100μlの70%(v/v)のGranuGelによる均一な懸濁液に混合し、腫瘍を担持していないBALB/cAnNCrlマウス(n=5)(7~8週、17~20g、Charles River)に1mLのシリンジと16Gの針を使用して、1×100μlのデポー剤によって皮下移植した。対照動物に、対照TIPSミクロスフェア(n=5)又はI.V. DTX 10mg/kgのいずれかを3週間にわたり週に1回、尾静脈送達によって与えた(n=5)。血漿中の循環DTXの計測のために、血液サンプルを、0日目(投薬前)、及び1、2、3、7、10日目、その後、生活相が終わる直前の35日目まで5日毎に尾静脈を介して採集した。血液サンプルを、ヘパリンナトリウム(Hirschmann, Eberstadt, Germany)を含有する10μlのキャピラリー管に回収し、2mlのディープウェルプレートのウェル内に入れ、そしてそれを抽出まで-80℃にて保存した。
【0077】
抽出の日に、検量線とサンプルプレートを解凍した。0.4%の血液を含有する125μlの70:30の水:アセトニトリルを、ブランク、検量線、及びQCに追加した。0.4%のDMSOを含有する125μlの70:30の水:アセトニトリルを、すべてのサンプルに追加した。40μlのそれぞれの血液:水:アセトニトリルサンプルを採取し、タンパク質をDTX-D9(25nM)を含有した120μlのアセトニトリルで沈殿させた。サンプルを混合し、そして、遠心分離した。上清を採取し、酢酸アンモニウム(10mM、pH5)中の0.5%の酢酸ナトリウム(20μM)で40:60に希釈した。
【0078】
液体クロマトグラフィー-質量分析法を、10mMの酢酸アンモニウム(pH5.0)とアセトニトリル移動相から成るグラジエントを用いて、Waters Acquity HSS PFPカラム(1.8μm、50mm×2.1mm id)によりWaters(Milford, MA)H-クラスAcquity溶媒マネージャ及びサンプルマネージャを用いて実施した。流量は0.6ml/分であり、そして、ランタイムは5.6分間であった。検体と内部標準を、正イオンモードによる電子スプレーイオン化を使用してイオン化した。検体の検出を、多段階反応モニタリング(MRM)モードのWaters Xevo TQ-S質量分析計を使用したタンデム質量分析法(MS/MS)によるものであった。DTX及びDTX-D9(IS)に関して、それぞれ遷移状態m/z 830.4~248.1/304.2及びm/z 839.4~313.0を観察した。検量線は、濃度範囲1~10,000nMにわたり線状であった。
【0079】
インビボにおける腫瘍増殖阻害活性
雌NSG(商標)免疫不全マウス(NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Wjl/SzJ; Charles River)、6~7週齢及び18~20gの体重、を腫瘍細胞の注射前に1週間順応した。PC3細胞(100μlのリン酸緩衝生理食塩水[PBS]中5.0×106細胞)をそれぞれのマウスの右脇腹に皮下注射した。腫瘍の寸法を、デジタルノギスを使用して週に3回計測し、そして、腫瘍体積を以下の式を使用して計算した:
【0080】
【0081】
細胞注射後14日目に、マウスを4つの群:群1 静脈(I.V.)DTX(3週間にわたり週1回、10mg/kgを尾静脈送達;n=7);群2 DTX-TIPSミクロスフェアの腫瘍周囲への注射(n=7);群3 対照TIPSミクロスフェアの腫瘍周囲への注射(n=7);群4 I.V.生理食塩水(10μl/g体重;n=4)、に無作為化した。群2及び3のマウスには、100μlの70%(v/v) GranuGel中の均一懸濁液へとミクロスフェアを混合した後に、TIPSミクロスフェア(+/- DTX)を与えた。GranuGel中のTIPSミクロスフェアの懸濁液を、腫瘍の末梢周辺に、1mLのシリンジ及び16Gの針を使用して1×100μlのデポー剤により皮下送達した。マウスを、試験期間にわたり毒性の標徴(体重減少、体調、及び非協調運動)に関して観察した。出発体重の15%を超える体重減少又はマウスが毒性の過度の兆候を示した場合、マウスを安楽死させた。
【0082】
生活相の終了時に(処理後1、10、及び35日目)、マウスを、過剰量のCO2で安楽死させ、続いて、頸椎脱臼し、臓器(心臓、肝臓、腎臓、肺及び脾臓)を回収し、重量を計り、そして、更なる分析まで-80℃で保存する直前に、液体窒素で冷凍した。ドセタキセル濃度の評価を、Precellys24ホモジナイザ(Bertin technologies, Montigny-le-Bretonneux, France)を使用した3ml/g(脾臓5ml/g)の10mM PBS中での組織の均質化に続く、組織の液体クロマトグラフィータンデム質量分析法によって実施した。45μlの組織ホモジネートを5μlのDMSOでスパイクし、そして、サンプルを混合し、そして、タンパク質を、内部標準(25nM)としてのDTX-D9を含有した150μlのアセトニトリルで沈殿させた。サンプルを混合し、そして、遠心分離した。上清を採取し、酢酸アンモニウム(10mM、pH5)中の0.5%の酢酸ナトリウム(20μM)で40:60に希釈した。ブランク、検量線、及びQCを、同じマウス系統(NSG)から得られた組織を使用し、それぞれ、DMSO、作業用較正標準及び作業用QCでスパイクし、上述のとおり調製した。ブランクは、アセトニトリル単独で沈殿させたタンパク質から成り、ブランク+、標準及びQCは、DTX-D9を含有するアセトニトリルで沈殿させたタンパク質であった。
【0083】
腫瘍を、外植し、そして組織像のために加工した。組織を、10%のホルマリンで固定し、脱水し、低融点ワックス(Paraplast X-TRAR, Sigma)内に包埋した。ワックス包埋組織から切り出した組織切片を、ヘマトキシリン及びエオシンで染色した。
【0084】
統計的方法
データを、GraphPad Prismソフトウェアを使用してガウス分布について検定し、そして、統計的有意性について分析した。ガウス分布があったデータセットに関して、統計的評価を、図面解説で別段の記述がない限り、多重比較のためのダネット検定を用いてTwo-Way ANOVAによって実施した。非ガウス分布のデータセットに関して、統計的評価を、フリードマン検定で実施した。
【0085】
実施例2
PLGA TIPSミクロスフェア上へのDTXの固定
PLGA TIPSミクロスフェアの第二の組成物は、最初、DTX溶液の上部に浮いていたが、付加相を通じてガラスバイアルの回転によって溶液を絶えず混合した。ミクロスフェア上に付加されるDTXの量を、付加相の間の様々な時点で溶液中に残るDTXの量を計算することによって間接的に定量化した。約80%のDTXを、混合開始から60分以内に溶液からミクロスフェア上に付加した(
図2a)。付加の更なる増大は、付加相の間で60分以降には検出されなかった。1時間以内のTIPSミクロスフェアの急速な付加は、それらの異常に高い表面静電帯電によって増強される傾向がある。斯かる急速な付加は、生分解性デバイスを使用するときに有益である。ミクロスフェアの走査電子顕微鏡法は、無付加対照TIPSミクロスフェアと比較して、DTX溶液中でインキュベートしたミクロスフェア表面上の結晶物質の存在を明らかにした(
図2b及びc)。その結晶物質は、インキュベーションの1分以内にミクロスフェアの表面に見ることができ、そして、インキュベーション時間の持続と共に次第に増加した(
図2d)。DTX(C
43H
53NO
14)の分子組成は、ミクロスフェア表面上の結晶物質の元素組成を確認するのに使用される窒素のX線電子分光(XPS)分析を可能にした(
図2e)。強い窒素シグナルを、DTX付加ミクロスフェア上で検出したが、それは無付加対照ミクロスフェアに存在しなかった。同様に、速い速度の薬物付加は、特定のPLGAポリマーで構成された固形ミクロスフェア又は「事前湿式」TIPSミクロスフェア後に付加されたPLGA TIPSミクロスフェアと比較して、乾式PLGA TIPSミクロスフェアを用いて達成される(エタノール添加前にミクロスフェアを培地中に浸漬する、実施例1のPLGA TIPSミクロスフェア上にAPIを付加するのに使用した方法の比較を参照のこと)(
図2f)。
【0086】
TIPSミクロスフェアの走査電子顕微鏡法はまた、無付加対照TIPSミクロスフェアと比較して、パクリタキセル又はカバジタキセル溶液中でインキュベートしたTIPSミクロスフェアの表面上の結晶物質の存在を明らかにした(
図2g)。
【0087】
TIPSミクロスフェアの表面上のタキサン結晶の存在は、タキサンが、粒子中への取り込みによる代わりに、表面上に付加されたことを示す。TIPS粒子上で観察したタキサン結晶は、貧溶媒沈殿によって恐らく形成され、そして、溶媒留去の結果として乾燥工程中に成長した。PLGA TIPSミクロスフェアの疎水性及び多孔性の性質は、それが薬剤の核生成を容易にし、これにより、表面上の結晶化を促進するので、タキサン沈殿にとって好適な表面を提供し、そして、~80%の高い薬物付加効率を説明した。TIPS粒子上へのDTXの最大付加は、加熱及び冷却ステップの利用なしに60分以内に起こり、それが治療現場での薬物-デバイス組合せ物を調製するための実現可能な時間枠にした。しかしながら、TIPSミクロスフェアの貧溶媒沈殿付加の速度が様々なタキサンと異なっていることに注意した。ドセタキセルは、カバジタキセルと比較して、TIPSミクロスフェア上へのより速い付加速度を示した。約80%のドセタキセルが、混合開始後60分以内に溶液からミクロスフェアに付加された(
図2h)。同じ時点で、約60%のカバジタキセルが、溶液からミクロスフェアに付加された。ドセタキセル付加の更なる増加がないことは、全付加相中で60分間検出された。
【0088】
実施例3
タキサンの注射製剤中の賦形剤は、TIPSミクロスフェア上への貧溶媒沈殿薬物付加を妨害する
注射用のドセタキセル(例えば、Taxotere(登録商標))を、投与前に生理食塩水で更に希釈される、Tween(登録商標)80とエタノールの1:1の混ぜ合わせから成るビヒクルで処方される。注射用のパクリタキセル(例えば、Taxol(登録商標))を、投与前に生理食塩水で5~20倍に希釈される、Cremophor ELとエタノールの1:1の混ぜ合わせから成るビヒクルで処方される。賦形剤を含有するタキサンの注射製剤の使用は、TIPSミクロスフェアへのタキサンの付加に適合できていない。
【0089】
ミクロスフェアの走査電子顕微鏡法は、賦形剤の添加がないドセタキセル及びパクリタキセルの純粋な製剤とインキュベートしたTIPSミクロスフェアと比較して、ドセタキセル及びパクリタキセルの注射製剤中でインキュベートしたミクロスフェアの表面上の少ない結晶物質の存在を明らかにした(
図3)。
【0090】
ドセタキセル又はパクリタキセルに対応するTaxotere(登録商標)又はTaxol(登録商標)の製剤は、賦形剤の添加がない純粋な製剤と比較して、ミクロスフェア上へのずっと少ない薬物付加を示した(
図4)。混合開始の3時間後に、約<10%のドセタキセルを溶液からミクロスフェア上に付加した。混合開始の4時間後に、約<10%のパクリタキセルを溶液からミクロスフェア上に付加した。
【0091】
実施例4
貧溶媒沈殿によって薬物に付加したTIPSミクロスフェアの凍結乾燥は、TIPSミクロスフェアからのタキサン放出に影響しない
TIPSミクロスフェア上への薬物の貧溶媒沈殿付加に続いて、そのミクロスフェアは、最終的な洗浄段階直後に使用され得るか(「湿式」)、又はそれに続いて乾燥を受けて、ミクロスフェアの長期の乾燥保存を可能にされ得る。ミクロスフェアが水に晒されると加水分解劣化を受けるポリマーであるPLGAで構成されるので、乾燥保存は重要である。そのため、保存された完成製品内に存在するあらゆる残留水がミクロスフェアの分解をもたらす。これは、ミクロスフェア構造の損失とミクロスフェアの表面上に付加した薬物の放出をもたらす。
【0092】
ミクロスフェアの走査電子顕微鏡法は、「湿式」及び「乾式」ミクロスフェアの表面上の結晶物質の同様の分布を明らかにした(
図5)。
ドセタキセルの累積放出が、最初の72時間にわたり「湿式」及び「乾式」ドセタキセル付加TIPSミクロスフェアに関して類似した遊離率傾向を示した(
図6)。
【0093】
獲得した画像から計算されたスフェロイドの直径が、「湿式」及び「乾式」ドセタキセル付加TIPSミクロスフェアから回収した潅流液と類似効果を生じながら、そのスフェロイドの出発サイズと、同じ時点で計測された対照群のスフェロイドの両方と比較して、サイズの有意な低下を示した(
図7)。
【0094】
実施例5
タキサン付加TIPSミクロスフェアは、様々な温度にて乾燥状態で保存されると安定する。
ドセタキセル付加TIPSミクロスフェアの長期間安定性は、生成物が臨床使用前に保存されることを可能にする。薬物付加ミクロスフェアが安定する気候条件を測定することは重要である。SEM画像化では、1カ月の保存後にTIPSミクロスフェアの表面上に存在する同等な数量のドセタキセルを確認した(
図8)。
【0095】
実施例6
前立腺癌細胞に対する持続したDTX放出の細胞毒性活性
動的な系をシミュレートする組織潅流内に置いたときに、持続的な薬物放出性をミクロスフェアから観察した。TIPSミクロスフェアからのDTXの放出プロフィールを、薬物-デバイス組合せ物の意図した臨床使用中にインビボにおける組織潅流をシミュレートするように設計した動的な潅流系を使用して調査した。TIPSミクロスフェアからのDTX含有潅流液を、一定の間隔を置いて回収し、そして、UV吸光度を使用してDTXの数量を計測した。DTXの累積放出に関するプロットは、TIPSミクロスフェアに付加したDTXの総量の約95%が、最初の24時間の間に約3分の1が放出されて、5日間にわたり放出されたことを示した(
図9a)。5日を過ぎた時点で放出されたDTXの数量は、UV吸光度に使用したシステムの検出閾値を下回っていた。そのため、潅流液中でTIPSミクロスフェアから放出されたDTXに関して、持続する細胞毒活性が存在したかどうか評価するために、PC3前立腺癌細胞を使用するツーセルベースのアッセイを使用した。コロニー形成アッセイは、最長10日目まで全時点から回収したTIPSミクロスフェアから潅流液中に放出されたDTXが、PC3細胞コロニー形成に対して抑制効果を有し続けていたことを明らかにした(
図9b)。1~4日目から回収した潅流液中に存在するDTXは、すべてのコロニーの形成を完全に抑制した。5~8日目の間に回収した潅流液中でのインキュベーション後のコロニーの形成は、DTXを含有しない対照群で樹立されたコロニー数の25%未満であった。10日目に形成されたコロニー数は、DTXを含有しない対照群で樹立されたコロニー数の約50%であった。持続する細胞毒効果の更なる確認は、48時間にわたりDTX-TIPS潅流液中で最初にインキュベートし、続いて、1、5又は10日間にわたり新鮮な完全培地中でインキュベートした細胞の形態学的解析によって明らかになった(
図9c)。位相差顕微鏡は、核断片化、萎縮による細胞円形化及び細胞質縮合(初期アポトーシスの兆候)、並びにアポトーシス体(後期アポトーシスの兆候)を含めたアポトーシスの特徴的な形態学的特徴を明らかにした。
【0096】
DTXはミクロスフェアの表面に付加されたので、DTXの放出は、PLGAポリマーの分解によらずに、DTX結晶溶解によって主に制御される。DTXの結晶は時間と共にゆっくり溶解し、そして、拡散のための濃度勾配を維持し、5日間にわたる徐放をもたらした。薬物-デバイス組合せ物は、(その長期にわたる局限した放出が、外科手術中に放出された残留又は脱落腫瘍細胞を根絶する助けとなり、再発の機会を最小限にする)腫瘍切除術部位に移植されるので、これは有益である。インビボにおける放出と局限活性をシミュレートする、DTX放出アッセイの最初の5日間に潅流液中に放出されたDTXの量は、コロニー形成アッセイのPC3細胞に対して100%の毒性を達成するのに十分であり、かつ、ミクロスフェアから放出されるDTXの約95%に相当した。ミクロスフェアからのDTX放出は、最長10日目まで1日おきに回収した潅流液中に存在するDTXの数量で5日を過ぎて、UV仕様の検出閾値を下回り有糸分裂停止を示すまで続いた。後期の時点で回収した潅流液中でインキュベートしたPC3前立腺癌細胞は、数が減少し、かつ、アポトーシスに典型的な表現型特性を示した。
【0097】
実施例7
前立腺癌スフェロイドに対する持続性DTX放出の細胞毒性活性
規定時間間隔にて回収したミクロスフェアから潅流液中に放出された薬物は、コロニー形成を阻害し、かつ、10日間にわたるPC3前立腺癌細胞に対する持続的な細胞毒性を示した。より生理学的な3D培養系におけるDTX-TIPS組合せ物から放出されたDTXの細胞毒性を次のようにして評価した。PC3細胞から成る3Dスフェロイドを、12日間にわたり毎日回収した潅流液と共にインキュベートした。スフェロイドを含有する培地を、応当日に潅流系から回収した潅流液で毎日取り替えた。スフェロイドの直径と体積を、実験を通じて得られた画像から計算し、スフェロイドの出発サイズ及び同じ時点で計測される対照群のスフェロイドの両方と比較して、サイズの有意な低減を示した(
図10a)。12日間の時点まで毎日回収した潅流液に晒した組織培養ウェル内、2Dで培養したPC3細胞は、コロニー形成アッセイで観察したものと類似した細胞毒性の形態学的特徴を示した(
図10b)。Calcein AM(受動的に入り込み、そして、すべての代謝的に活性な細胞を染色する酵素的蛍光色素)とEthidiumホモ二量体-1(EthD-1;それらの損傷膜を通り抜けた後に核酸に結合することによって死細胞を染色するだけの蛍光色素)を用いたLive/Dead(登録商標)染色を、12日目の時間にわたり回収した潅流液と共にインキュベートしたスフェロイドに対して実施した(
図10c)。DTX処理及び対照スフェロイドの両方において、死細胞をそのスフェロイドの中心に向かって可視し、酸素及び栄養物の拡散限界による壊死性コアの存在を示した。12日目の潅流液中のDTXに対するスフェロイドの曝露は、スフェロイド直径のサイズ減少をもたらした。残留スフェロイド状態のPC3細胞は、Calcein AM及びEthD-1で陽性に染色されたが、DTXに晒されたスフェロイドの末梢のEthD-1陽性細胞の割合は対照群と比べて増加した。3Dスフェロイド培養物に対するDTX-TIPS粒子から放出されたDTXの細胞毒性効果を、12日目に組織培養プレートにスフェロイドを移すことによって確認した。スフェロイドから遊走する生存細胞は、DTX処理スフェロイドには見られなかったが、それに対して、対照群ではスフェロイドから遊走する細胞が見られた。
【0098】
実施例8
DTX-TIPSは、全身毒性なしにインビボにおいて腫瘍増殖を阻害する
(上記実施例1のインビボにおける前立腺腫瘍形成と腫瘍処置に記載のとおり)IV DTXを受けたマウスは、進行性の有意な体重減少を示し、そして、全身的毒性を示した(
図11a)。IV生理食塩水又は対照TIPSミクロスフェアを受けたマウスと比較して、DTX-TIPSを受けたマウスでは有意な重量変化が観察されず、全身毒性は示唆されなかった。
【0099】
腫瘍の体積は、対照TIPSミクロスフェア又はIV生理食塩水を受けたマウスにおいて研究期間を通じて着実に増加した(
図11b)。DTX-TIPSを受けたマウスにおける腫瘍の体積は、生理食塩水又は対照ミクロスフェア群と比べて実質的に減少した。腫瘍生育阻害はIV DTXを受けたマウスにおいて最も明らかであった。
【0100】
14日目では、DTX IVとDTX-TIPSを受けたマウスの間の腫瘍サイズ増大に有意差がなく、DTX-TIPSが腫瘍増殖の予防に関して等しく有効であることを示した(
図11c)。腫瘍サイズの増大は、IV生理食塩水を受けたマウス及び対照TIPSミクロスフェアを受けたマウスと比べて、DTX-TIPSを受けたマウスで有意に低かった。
【0101】
実施例9
貧溶媒沈殿によって調製したドセタキセル付加TIPSミクロスフェアは、インビボにおいて効果的に腫瘍増殖を停止するDTXの無毒性治療量の局限及び持続放出を提供する
ドセタキセル付加TIPSミクロスフェアの有効性を、PC3異種移植腫瘍モデルにおける腫瘍周辺への注射後にインビボにおいて検証したが、ここでは、腫瘍装飾阻害のレベルはDTXの静脈内送達で達成される効果と同等であった。しかしながら、DTXの静脈内送達と異なって、DTX-TIPSミクロスフェアの移植は、臓器、組織又は血漿において毒性を伴わないか、又はDTXの全身的レベルを上げた。インビボにおけるDTX放出プロフィールの分析を、腫瘍を担持しないBALB/cAnNCrlマウスから回収した血漿で調査した。TIPSミクロスフェアから放出されたDTXの検出可能なレベルを、投与後1時間と24時間で観察した。その後、DTXは血漿中で検出されなかった。3週間にわたり週1回I.V. DTXを受けた群から回収した血漿サンプルは、DTX-TIPS群と比較して、投与後1時間(102倍の増大)及び24時間(8倍の増大)にて有意に高いレベルのDTXを含んだ(p<0.01)(
図12)。I.V. DTXの投与は、7日目及び14日目に送達されるI.V. DTXの第二及び第三の用量に対応した、48時間及び72時間、並びに10日目及び15日目の血漿中に残る検出可能なレベルのDTXをもたらした。
【0102】
DTX-TIPSミクロスフェアの抗新生物活性と全身毒性を、NSGマウスのヒト前立腺腫瘍異種移植モデルを使用してインビボにおいて調査した。PC3細胞を、免疫不全マウスに皮下移植した。細胞注射後14日目には、触診可能な腫瘍が形成され、0.03~0.05cm
3と計測された。TIPSミクロスフェア(+/- DTX)の腫瘍周辺への送達及び移植部位における滞留を、試験中のインサイチュにおけるミクロスフェアの残留で組織像によって確認した(
図13)。
【0103】
I.V. DTXを受けたマウスにおける腫瘍体積測定では、試験中に増強されなかった(
図14a)。DTX-TIPSミクロスフェアを受けたマウスでは、21日目までの間、I.V. DTXを受けたマウスと比較して、腫瘍体積の有意な増大はなかった(p<0.05)。この時点で、DTX-TIPSミクロスフェアで処理した群の腫瘍体積の増大は、同じ時点で生理食塩水のみで処理した群と比較して、約6倍であった。TIPSミクロスフェアのみ又はI.V.生理食塩水のいずれかを受けたマウスでは、腫瘍体積は、I.V. DTXを受けたマウスと比較して、それぞれ16日目(p<0.05)及び14日目(p<0.05)で有意に増大した。試験終了時に切除した腫瘍の質的な巨視的な評価では、DTXで処理した群から回収した目に見えるほど小さい腫瘍を明らかにした(
図14b)。
【0104】
有意な毒性はDTXのI.V.送達と関連したが、7日目から続く進行性の体重減少によって示され、出発体重と比較して、そして、28日目にて-7.0%±2.3%、35日目にて-12. 7%±3.5%に至った(p<0.0001;体重減少は3/7匹のマウスにおいて35日目に>15%を超えた)。対照的に、DTX-TIPSミクロスフェア、TIPSミクロスフェアのみ又はI.V.生理食塩水を受けた群において、有意な体重減少は観察されなかった(
図14c)。
【0105】
外植臓器(心臓、腎臓、肺、脾臓、肝臓)のDTXの組織レベルを、以下の表1に示したとおり投与後1、10、及び35日目に分析した。高レベルのDTXを、35日目の肝臓と脾臓を除いて、DTX-TIPS投与と比較して、DTXのI.V.投与後、すべての臓器ですべての時点にて検出し、ここで、DTXはいずれの処置群についても不検出であった。
【0106】
【表1】
表1-DTX-TIPSミクロスフェア又はI.V. DTXの投与後1、10及び35日目に外植臓器からの組織において計測したDTX濃度(各群につき1時点あたりn=5~6サンプル)。
【0107】
すべての引用文献をその全体として本明細書中に援用する。
【国際調査報告】