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▶ ノーウェジアン・ユニバーシティ・オブ・サイセンス・アンド・テクノロジー(エヌティエヌユー)の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-19
(54)【発明の名称】同期機械における故障検出
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/024 20160101AFI20221212BHJP
   G01R 31/34 20200101ALI20221212BHJP
【FI】
H02P29/024
G01R31/34 A
G01R31/34 G
G01R31/34 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022522662
(86)(22)【出願日】2020-10-14
(85)【翻訳文提出日】2022-04-25
(86)【国際出願番号】 EP2020078951
(87)【国際公開番号】W WO2021074248
(87)【国際公開日】2021-04-22
(31)【優先権主張番号】1914844.4
(32)【優先日】2019-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522149854
【氏名又は名称】ノーウェジアン・ユニバーシティ・オブ・サイセンス・アンド・テクノロジー(エヌティエヌユー)
【氏名又は名称原語表記】Norwegian University of Science and Technology (NTNU)
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 英隆
(72)【発明者】
【氏名】エフヤ,ホセイン
(72)【発明者】
【氏名】ニスヴェーン,アーネ
【テーマコード(参考)】
2G116
5H501
【Fターム(参考)】
2G116BA01
2G116BB01
2G116BB02
2G116BB04
2G116BB08
2G116BC05
2G116BD01
2G116BD04
5H501BB08
5H501BB09
5H501DD04
5H501JJ03
5H501JJ04
5H501LL22
5H501LL23
5H501LL24
5H501LL29
5H501LL35
5H501LL47
5H501LL53
5H501MM09
(57)【要約】
同期機械における故障検出の方法は、少なくとも1つのセンサを使用して、磁場の強度、回転子電流または電圧、固定子電流または電圧、および振動のうちの1つ以上に基づくパラメータを含む、前記同期機械内で生成された前記磁場に関連するパラメータを決定することを含む。センサ測定値は、磁場に関連するデータアーチファクトを識別するために処理され、処理は、時間、周波数、ならびに時間および周波数の両方に基づく1つ以上の信号処理技術を含む。続いて、同期機械の故障を示す磁場の不規則性を識別し分類するために、信号処理の出力が分析される。分析ステップは、機械学習アルゴリズムを介するようなコンピュータ支援パターン認識技術の使用を介して、処理されたセンサ測定値におけるパターンを認識することを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同期機械における故障検出の方法であって、前記方法が、
少なくとも1つのセンサを使用して、磁場の強度、回転子電流または電圧、固定子電流または電圧、および振動のうちの1つ以上に基づくパラメータを含む、前記同期機械内で生成された前記磁場に関連するパラメータを決定することと、
センサ測定値を処理して、前記磁場に関連するデータアーチファクトを識別することであって、前記処理が、時間、周波数、ならびに時間および周波数の両方に基づく1つ以上の信号処理技術を含む、識別することと、
前記同期機械における故障を示す前記磁場における不規則性を識別および分類するために、前記信号処理の出力を分析することであって、前記分析が、機械学習アルゴリズムを介するなどのコンピュータ支援パターン認識技術の使用を介して、前記処理されたセンサ測定値におけるパターンを認識することを含む、分析することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記方法が、偏心故障、ダンパ巻線故障、および短絡故障のうちの1つ以上に関連する故障を検出するためのものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法が、水力発電機などの大型同期機械における故障検出のためのものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法が、前記機械の始動または停止中に生じる種類の過渡磁場が存在する期間中に実行される、請求項1、2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記センサが、少なくとも1つの既存のセンサまたは少なくとも1つの非侵襲的センサを含む、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記機械の監視および/または制御のために前記同期機械の動作中に使用するように構成された1つ以上の電圧または電流センサを含む、1つ以上の既存のセンサを使用することを含む、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1つの非侵襲的センサが、故障検出システムの一部として提供され、このセンサが、前記故障検出方法を実行するために前記機械とともに一時的に配置される、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記方法が、新しいセンサを配置または取り付けるために、前記同期機械に対するいかなる物理的修正も必要としない、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記センサ測定値が、前記回転子の可動部から転送されたデータを含まない、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記同期機械の計器用変圧器に設けられたセンサを使用することを含む、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記同期機械の前記回転子の回転半径を決定することと、前記回転半径を使用して前記磁場の不規則性を識別し分類することと、を含む、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
時系列データマイニングを介して取得された回転半径データを取得することと、前記回転半径データを使用してダンパ巻線故障または偏心故障を検出することと、を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記同期機械の界磁巻線における誘起電圧に対する位相空間をマッピングすることを含む、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記誘起電圧が、前記計器用変圧器におけるセンサを介して決定または測定される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
破損したダンパバーの形態でダンパ巻線故障を識別しようとすることを含み、前記分析するステップが、前記測定された回転半径を、正常な同期機械の回転半径の同等の測定値と比較することを含む、請求項11~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
偏心故障を識別しようとすることを含み、前記信号処理の出力を前記分析するステップが、正常であることが既知の機械の回転半径を参照して正規化回転半径を決定することを含み、前記正規化回転半径が、正常な同期機械の回転半径と測定回転半径との差として定義され、この差が、前記正常な回転半径で除算される、請求項11~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記正規化回転半径の値を閾値と比較して評価することによって、起こり得る偏心故障の自動識別および分類を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記コンピュータ支援パターン認識技術が、故障のない機械に関連することが既知の複数の処理されたセンサ測定値と、故障を有する機械に関連することが既知の複数の処理されたセンサ測定値とを用いて訓練された機械学習アルゴリズムに基づく、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
同期機械における故障検出のための故障検出システムであって、前記故障検出システムが、磁場の強度、回転子電流または電圧、固定子電流または電圧、および振動のうちの1つ以上に基づくパラメータを含む、前記同期機械内で生成された前記磁場に関連するパラメータを受信するために、少なくとも1つのセンサに接続するためのデータ処理装置を含み、
前記データ処理装置が、
センサ測定値を処理して、前記磁場に関連するデータアーチファクトを識別することであって、前記処理が、時間、周波数、ならびに時間および周波数の両方に基づく1つ以上の信号処理技術を含む、識別することと、
前記同期機械における故障を示す前記磁場における不規則性を識別および分類するために、前記信号処理の出力を分析することであって、前記分析が、機械学習アルゴリズムを介するなどのコンピュータ支援パターン認識技術の使用を介して、前記処理されたセンサ測定値におけるパターンを認識することを含む、分析することと、を行うように構成されている、故障検出システム。
【請求項20】
前記データ処理装置が、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法を実行するように構成されている、請求項19に記載の故障検出システム。
【請求項21】
少なくとも1つの既存のセンサおよび/または少なくとも1つの非侵襲的センサを含む、請求項19または20に記載の故障検出システム。
【請求項22】
前記故障検出システムが、前記回転子の前記可動部からのデータ転送なしにセンサを使用する、請求項19、20または21に記載の故障検出システム。
【請求項23】
水力発電機として作用する大型同期機械であって、前記同期機械が、請求項19~22のいずれか一項に記載の故障検出システムを含む、大型同期機械。
【請求項24】
命令を含む、コンピュータプログラム製品であって、前記命令が、請求項19~23のいずれか一項に記載の故障検出システム内で実行されると、前記故障検出システムのデータ処理装置が、
センサ測定値を処理して、磁場に関連するデータアーチファクトを識別することであって、前記処理が、時間、周波数、ならびに時間および周波数の両方に基づく1つ以上の信号処理技術を含む、識別することと、
同期機械における故障を示す前記磁場における不規則性を識別および分類するために、前記信号処理の出力を分析することであって、前記分析が、機械学習アルゴリズムを介するなどのコンピュータ支援パターン認識技術の使用を介して、前記処理されたセンサ測定値におけるパターンを認識することを含む、分析することと、を行うように構成される、コンピュータプログラム製品。
【請求項25】
請求項1~18のいずれか一項に記載の他のステップを実行するようにデータ処理装置を構成するように構成された命令を含む、請求項24に記載のコンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期機械における故障検出の方法、ならびに同期機械と組み合わせることができる関連する故障検出システム、および対応するコンピュータプログラム製品に関する。
【背景技術】
【0002】
同期機械、特に水力発電機などの大型同期機械は、電力の生成において極めて重要な役割を果たしている。電力供給の高い信頼性は、これらの同期発電機に依存している。エネルギー生産センター(発電所)および生産ラインの計画外停止は、電力産業における最も重大な関心事の1つである。大規模なエネルギー生産システムは、すべて大型電気機械、特に同期機械に依存している。大型同期機械は、発電所における最も高価な機器の1つである。さらに、それらの保守および修理は費用がかかり、故障によりネットワークから同期機械が切り離されると、経済的損失につながる。今日、電気機械に関連する大部分の産業において、定期的な保守システムが使用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
同期機械では、様々な種類の電気的および機械的故障が発生する可能性がある。機械的故障は、振動、発電機の特定の部分または全体への不均衡な磁気引力を誘起する可能性がある。機械的故障は、不適切な動作条件、機械的劣化、または機械の組み立て中の障害によって引き起こされることがある。回転子コアと固定子コアとの間の最小空隙が変動する場合、同期発電機は、偏心故障と称される状態を有する。偏心には、静的偏心と動的偏心との2つの種類がある。静的偏心は、空隙の不均一な分布における最短の長さが一定の長さを有し、空間的に固定されている状態である。静的偏心は、同期発電機において一般的な故障の1つである。偏心が小さくても機械に損傷を与えることはないが、回転子コアが固定子コアおよび巻線を擦る前の初期段階で検出されるべきである。
【0004】
概して、故障は、電力網における深刻な短絡などの外部要因に起因して、または段階的な障害に起因して内部的に発生する可能性がある。故障に対する迅速な応答は、同期機械の保護システムの責任である。典型的な保護システムは、固定子の端子における電圧、電流プロファイル、またはそれらに関連する抽出データを使用している。水力発電機の場合、水力発電プラントは、異常な動作状態に迅速に応答して自動的にトリップする一部のサブシステムおよび機器に加えて、過電圧、過電流、差動リレーからなる高度な保護システムを有することが多い。保護システムの目的は、生産ユニットに接続された機械または電力網に重大な故障が発生した場合に、生産ユニットの即時かつ正確な切断を保証することである。保護システムは、高速で破壊的な故障から電気機械を保護するために、測定データに基づいて電気機械を電力システムから切り離すことができる。しかしながら、既存の保護システムは、将来の重大な故障につながり得る機械内部の段階的な障害を検出することができない。したがって、さらなる故障検出タスクを実行する状態監視システムを有することが有益である。本発明は、この文脈に使用される方法およびシステムに関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の態様から見て、本発明は、同期機械における故障検出の方法を提供し、本方法は、
少なくとも1つのセンサを使用して、磁場の強度、回転子電流または電圧、固定子電流または電圧、および振動のうちの1つ以上に基づくパラメータを含む、同期機械内で生成された磁場に関連するパラメータを決定することと、
センサ測定値を処理して、磁場に関連するデータアーチファクトを識別することであって、処理が、時間、周波数、ならびに時間および周波数の両方に基づく1つ以上の信号処理技術を含む、識別することと、
同期機械における故障を示す磁場における不規則性を識別および分類するために、信号処理の出力を分析することであって、分析が、機械学習アルゴリズムを介するなどのコンピュータ支援パターン認識技術の使用を介して、処理されたセンサ測定値におけるパターンを認識することを含む、分析することと、を含む。
【0006】
この方法を使用して、同期機械の故障をより効果的に判定することが可能になる。第1の態様の方法は、例えば、典型的には機械の内部に見出される、同期機械の機械的および/または電気的構成要素に関して、同期機械自体の内部の故障の検出に関する。機械内部の故障は、例えば、機械の磁化のための励磁システムまたは外部電気ネットワークに関して、機械外部の故障とは区別される。かかる構成要素の故障は、典型的には、機械に対する侵襲的な測定および/または修正なしに識別および診断することが困難である。効果的な非侵襲的技術を提供することが有利である。本方法は、水力発電機として使用される同期電気機械のような大型同期機械の場合に特に有利である。他の故障発見方法も存在するが、それらは、磁場を使用して、磁場における不規則性の識別および分類を通じて、同期機械に関する多数の問題を診断可能とすることに着目したものではない。本方法は、偏心、ダンパ巻線故障、および短絡のうちの1つ以上に関連する故障を検出するためのものであってもよい。
【0007】
同期機械は、AC電気機械であり、定常状態においてシャフトの回転が発生電圧の周波数と同期されるか、または機械がモータとして作用する場合には供給電圧と同期される。したがって、同期機械の回転周期は、極対の数によって与えられるACサイクルの整数倍またはACサイクルの分数倍に等しい。本明細書で説明する同期機械は、線電流の振動に合わせて回転する磁場を生成する多相AC電磁石を機械の固定子上に含み得る。
【0008】
本文脈では、同期機械と誘導機械との間の違いを理解することが重要である。同期機械は、回転子の磁場を生成するための電流誘起に依存しないので、線周波数にロックされた速度で回転する。対照的に、誘導機械はスリップを必要とし、回転子は、回転子巻線に電流を誘起するためにAC交流よりもわずかに遅く回転する必要がある。ここで説明する方法は、誘導機械に関するものではない。
【0009】
本方法は、線周波数よりも高い周波数に関して信号処理技術を使用することを含み得る。すなわち、本方法は、電力周波数範囲(典型的には50Hzまたは60Hz)内の信号のみでは機能せず、実際には、その周波数範囲内で識別可能なパターンを使用する信号処理技術に特に関連しない場合がある。したがって、本方法は、電力周波数範囲よりも高い(任意で電力周波数範囲を含まない)、すなわち60Hzよりも高い周波数で動作することを含み得る。本方法は、有利には、線周波数の超高調波である周波数、典型的には線周波数を十分に上回る周波数に基づく信号処理技術を伴い、これは、75Hzを上回る周波数、例えば75Hz~400Hzであってもよく、かつ/またはkHz範囲およびそれを上回る周波数を含んでもよい。したがって、第1の態様の方法で使用される周波数は、1kHzを超える周波数であってもよく、特に、同期機械の線周波数の超高調波であってもよい。したがって、出力を分析するステップは、かかる周波数を含む処理されたセンサ測定値におけるパターンを認識することを含んでもよく、パターンは、これらのより大きい周波数範囲において識別可能である。信号処理技術は、5kHzもしくは10kHzまたはそれ以上のサンプリング周波数などのkHz範囲のサンプリング周波数を使用することを含み得る。
【0010】
上述したように、本方法は、水力発電機のような大型同期機械における故障検出に使用することができる。この文脈では、大型同期機械は、発電機として作用するとき、100kW~500MW、またはそれ以上の電気を生成し得るものである。水力発電機は、水流から電気を発生させるために使用される電気機械であり、典型的には突極同期発電機であり得る。故障検出方法は、突極同期発電機に特に有益であり得る。
【0011】
故障検出方法は、同期機械の磁場の不規則性を利用する。これは、例えば機械の始動または停止中に発生する過渡磁場であり得る。かかる過渡磁場は、水力発電機が定常速度で動作しているとき、または別様で発電のために連続的に使用されているときなど、同期機械の進行中の使用中に生じる定常状態磁場または変動磁場とは区別され得る。故障検出は、かかる過渡磁場における不規則性を識別し分類することによって向上させることができることが判明している。したがって、本方法は、故障を示す不規則性を見出すために過渡磁場が存在する期間中に使用することができ、したがって、同期機械の始動中の故障検出を伴い得る。本発明者らは、一部の故障タイプが、過渡磁場が存在する間に最もよく検出され得るか、または機械が過渡状態にあるときにのみ検出され得ることを発見した。
【0012】
本方法は、少なくとも1つの既存のセンサまたは少なくとも1つの非侵襲的センサを使用することを伴い得る。これにより、追加の侵襲的センサを必要とすることなく、また同期機械に対する修正を必要とすることなく、故障検出において、上述した種々の利点を得ることができる。これは、既存の機械における故障検出に有益である。代替的に、故障発見能力が統合された新しい機械を設計する場合を含めて、好適な場合には、従来の大型同期機械と比較して追加のセンサが提供されてもよい。特に、回転子と固定子との間の空隙内などに侵襲的に設置された要素を有するセンサを介して磁場信号をより直接的に測定することが有益であり得る。一部の例では、本方法は、空隙内に設置されたホール効果センサまたはサーチコイルを利用する。
【0013】
既存のセンサが使用される場合、既存のセンサは、機械の制御のために同期機械の動作中に使用される1つ以上のセンサなど、同期機械にすでに設けられているセンサであってもよい。例えば、これは、機械の性能を監視するために使用される電圧または電流センサであってもよい。既存のセンサは、非侵襲的センサ、すなわち機械の外部に取り付けられたセンサおよび/もしくは非接触方式で測定を行うセンサであってもよく、または同期機械内に一体化されたセンサであってもよい。
【0014】
代替的にまたは追加的に、少なくとも1つの非侵襲的センサが、故障検出システムの一部として提供されるセンサなど、特に故障検出のために機械とともに使用されてもよく、この場合、このセンサは、故障検出方法を実行するために機械とともに一時的に配置される。使用され得る非侵襲的センサは、電圧、電流、抵抗または関連パラメータ等の電気的特性の測定を行うセンサを含む。これは、追加のセンサを介して、または同期機械の計器用変圧器に設けられた電圧検知などの既存のセンサを介して行うことができる。さらに、振動信号取得のために加速度計を使用することが可能であり、この加速度計は、機械の外部に、すなわち非侵襲的に配置される。
【0015】
本方法は、複数のセンサを使用してもよく、複数の異なる測定が、既存のセンサおよび/または非侵襲的センサを含む2つ以上のセンサによって行われる。
【0016】
一部の例では、本方法は、既存のセンサおよび/または非侵襲的センサのみを使用する。したがって、新しい侵襲的センサは使用されない。例えば、本方法は、新しいセンサを設置または取り付けるために、同期機械に対するいかなる物理的修正も必要としない場合がある。
【0017】
有利には、本方法は、回転子の可動部からのデータ転送を全く伴わなくてもよく、したがって、回転子の可動部上に配置されたセンサがなくてもよく、かつ/またはデータ転送のための追加のスリップリングもしくは他の修正がなくてもよい。これにより、機械の可動部が追加のセンサによって妨害されないので、機械の性能に対する故障検出方法の影響が最小となる。
【0018】
本方法は、同期機械の計器用変圧器(PT)に設けられたセンサなど、電圧および/または電流のセンサを使用することができる。典型的には、計器用変圧器における電圧および/または電流のための1つ以上のセンサが存在する。これにより、既存のセンサを提案された方法に使用でき、計器用変圧器からのセンサ測定値を使用して、機械が始動する間の過渡磁場中などの磁場の不規則性が識別される。かかる測定値は、例えば、ダンパ巻線故障または偏心故障などの故障を識別および分類するために使用され得る。
【0019】
本方法は、同期機械の回転子の回転半径を決定することと、回転半径を使用して磁場の不規則性を識別し分類することと、を含み得る。以下でさらに説明するように、回転半径を評価して、種々の故障を決定することができる。場合によっては、実施例では、回転半径を決定するために、計器用変圧器におけるセンサからの測定値が使用され得る。
【0020】
センサ測定値を処理するステップは、1つ以上の信号処理技術を含む。例としては、時系列データマイニング(TSDM)、フーリエ変換(FT)、高速フーリエ変換(FFT)、ヒルベルト変換(HT)、ヒルベルト-ファン変換(HHT)、連続ウェーブレット変換(CWT)および離散ウェーブレット変換(DWT)が挙げられる。これらの技術は、5kHzもしくは10kHzまたはそれ以上のサンプリング周波数などのkHz範囲のサンプリング周波数を使用することを含み得る。
【0021】
一部の例示的な実装形態では、本方法は、ダンパ巻線故障を検出するために、特にダンパバーの破損を検出するために、任意で時系列データマイニングを介して取得された回転半径データの使用を含み得る。これは、同期機械の界磁巻線における誘起電圧に対する位相空間をマッピングすることによって行うことができる。有利には、この電圧は、計器用変圧器におけるセンサを介して決定または測定することができる。ダンパバーが破損した場合、同期機械の界磁巻線における誘起電圧の位相空間に基づいてマッピングされた回転半径は、ダンパバーが破損していない機械とは異なることが判明している。この違いにより、位相空間図における特徴的なパターンを認識することに基づいて、破損したダンパバーを示す磁場の不規則性をパターン認識技術が自動的に識別することが可能となる。基本的には、回転半径の振幅は、ダンパバーが破損したときに増大する。本方法は、正常であることが既知の同期機械の測定結果と、破損したダンパバーを有することが既知の同期機械の測定結果との間の区別(またはマッチング)に基づくパターン認識を含み得る。同様の方法が、他の故障を有することが既知の同期機械の測定のためのパターン認識に基づいて他の種類の故障を検出する方法を提供し得ることが理解されよう。
【0022】
代替的または追加的に、一部の例示的な実装形態では、本方法は、有利には静的偏心故障を含む偏心故障を検出するために、任意で時系列データマイニングを介して取得される回転半径データの使用を含み得る。これは、同期機械の界磁巻線における誘起電圧に対する位相空間をマッピングすることによって行うことができる。上述のダンパ巻線故障検出と同様に、この電圧は、計器用変圧器におけるセンサを介して決定または測定することができる。偏心故障を検出する場合、(例えば、時系列データマイニングからの)信号処理の出力を分析するステップは、正常であることが既知の機械の回転半径を参照して正規化回転半径を決定することを含み得る。正規化回転半径は、正常な回転半径と測定された(すなわち故障が疑われる)回転半径との差を正常な回転半径で除算したものとして定義することができる。これにより、正規化回転半径の値(正常な機械では0である)を評価することによって、偏心故障の自動識別および分類を可能にする指数が得られる。
【0023】
分析するステップは、コンピュータ支援パターン認識技術の使用を介して、処理されたセンサ測定値におけるパターンを認識することを含む。したがって、本方法は、処理されたセンサ測定値に見られるパターンを、同期機械の故障を示すと考えられるパターンと比較することを含み得る。これは、パターン認識が故障の明確な診断を与え得るような、特定の故障であってもよい。代替として、これは、故障タイプが診断され得る前に、他の処理されたセンサ測定値(および任意にその中のパターン)を含む他の測定値を参照してさらなる調査または考慮を必要とする、非特定の故障のインジケータであってもよい。コンピュータ支援パターン認識技術は、機械学習アルゴリズムに基づく技術であり得る。例えば、パターン認識は、故障のない機械に関連することが既知の複数の処理されたセンサ測定値と、故障を有する機械に関連することが既知の複数の処理されたセンサ測定値とを用いて訓練された機械学習アルゴリズムに基づいていてもよい。機械学習プロセスは、故障の特定のカテゴリ(例えば、偏心故障またはダンパ巻線故障、および短絡)および/または故障の特定の種類(例えば、破損したダンパバーの形態のダンパ巻線故障)に関連することが既知の複数の処理されたセンサ測定値を用いた訓練を含み得る。
【0024】
第2の態様から見て、本発明は、同期機械における故障検出のための故障検出システムを提供し、故障検出システムが、磁場の強度、回転子電流または電圧、固定子電流または電圧、および振動のうちの1つ以上に基づくパラメータを含む、同期機械内で生成された磁場に関連するパラメータを受信するために、少なくとも1つのセンサに接続するためのデータ処理装置を含み、
データ処理装置が、
センサ測定値を処理して、磁場に関連するデータアーチファクトを識別することであって、処理が、時間、周波数、ならびに時間および周波数の両方に基づく1つ以上の信号処理技術を含む、ことと、
同期機械における故障を示す磁場における不規則性を識別および分類するために、信号処理の出力を分析することであって、分析が、機械学習アルゴリズムを介するなどのコンピュータ支援パターン認識技術の使用を介して、処理されたセンサ測定値におけるパターンを認識することを含む、ことと、を行うように構成されている。
【0025】
データ処理装置は、第1の態様およびその任意の特徴に関連して上述したステップを実行するように構成されてもよい。本発明はさらに、故障検出システムを含む、水力発電機として作用する大型同期機械などの同期機械にも及ぶ。故障検出システムは、第1の態様およびその任意の特徴に関連して上述したような構造的および/または機能的特徴を含み得る。故障検出システムは、同期機械内の故障の検出のために構成され、使用され、これは、上述したように、励磁システムまたは外部電気ネットワークに関連する問題などの機械の外部の故障と区別される。故障検出システムは、上述したように、線周波数/電力周波数よりも高い周波数に有利に関係する。
【0026】
例えば、故障検出システムは、少なくとも1つの既存のセンサまたは少なくとも1つの非侵襲的センサ、または上述した他のセンサを含んでもよい。これは、磁場の強度、回転子電流または電圧、固定子電流または電圧、および振動のうちの1つ以上に基づくパラメータを検出するために同期機械に配置された既存のおよび/または非侵襲的なセンサであってもよい。既存のセンサは、機械の制御のために同期機械の動作中に使用するために提供される1つ以上のセンサなど、同期機械にすでに設けられているセンサであってもよい。例えば、これは、機械の性能を監視するために使用される電圧または電流センサであってもよい。既存のセンサは、非侵襲的センサ、すなわち機械の外部に取り付けられるように構成されたセンサおよび/または非接触方式で測定を行うセンサであってもよく、あるいは同期機械内に一体化されたセンサであってもよい。代替的にまたは追加的に、少なくとも1つの非侵襲的センサは、故障検出システムの一部として提供されるセンサなど、特に故障検出のために機械とともに使用されてもよい。この場合、このセンサは、故障検出を実行するために機械とともに一時的に配置されるように構成される。故障検出システムは、複数のセンサを含んでもよく、複数の異なる測定値が、既存のおよび/または非侵襲的センサを含む2つ以上のセンサによってデータ処理装置に提供される。
【0027】
一部の例では、故障検出システムは、同期機械の既存のセンサおよび/または非侵襲的センサのみからなる。したがって、機械に新たなセンサを設置する必要がなく、特に、同期機械に物理的な修正を必要とするような新たな侵襲的センサを設置する必要がない。
【0028】
故障検出システムは、回転子の可動部からのデータ転送なしにセンサを使用するように構成されてもよく、したがって、回転子の可動部上に配置されたセンサは存在しなくてもよい。これにより、機械の可動部が追加のセンサによって妨害されないので、機械の性能に対する故障検出方法の影響が最小となる。
【0029】
データ処理装置は、必要な方法ステップを実行するように適切に構成された任意の装置であり得る。データ処理装置は、故障検出システムの専用プロセッサであってもよく、したがって、適切なデータ入力および出力接続を伴うコンピュータプロセッサ等の好適なプロセッサを含んでもよい。代替的に、故障検出システムは、デスクトップコンピュータ、ラップトップコンピュータ、タブレットまたはスマートフォンなどの汎用コンピュータデバイスを含んでもよく、このコンピュータデバイスは、汎用コンピュータデバイス上にインストールされるように提供されるソフトウェアアプリケーションの使用を介するなど、その主要な役割または二次的な役割のいずれかとして、必要な方法ステップを実行するように構成される。
【0030】
故障検出システムは、センサからデータ処理装置への出力信号の送信のための有線または無線システムなど、データ処理装置へのセンサ信号の通信のための適切なインターフェースを含んでもよい。
【0031】
第3の態様から見て、本発明は、第2の態様のような故障検出システム内で実行されると、故障検出システムのデータ処理装置が、センサ測定値を処理して、磁場に関連するデータアーチファクトを識別することであって、処理が、時間、周波数、ならびに時間および周波数の両方に基づく1つ以上の信号処理技術を含む、ことと、同期機械における故障を示す磁場における不規則性を識別および分類するために、信号処理の出力を分析することであって、分析が、機械学習アルゴリズムを介するなどのコンピュータ支援パターン認識技術の使用を介して、処理されたセンサ測定値におけるパターンを認識することを含む、ことと、を行うように構成される命令を含む、コンピュータプログラム製品を提供する。
【0032】
コンピュータプログラム製品は、第1の態様およびその任意の特徴の方法に関連して上述した他のステップを実行するようにデータ処理装置を構成するように構成された命令を含み得る。コンピュータプログラム製品は、例えば、専用プロセッサ用のファームウェアまたは汎用コンピュータデバイス用のソフトウェアなどの、データ処理装置用に構成されたファームウェアまたはソフトウェアであってもよい。
【0033】
ここで、本発明の特定の例示的な実施形態を、単なる例として、添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】故障検出システムのフローチャートである。
図2】シミュレートされた突極同期発電機の二次元スキームを示す。
図3】SPSGにおけるダンパバーの分布位置を示す。
図4】SPSGの回転子界磁巻線における誘起電圧を、異なる数のBDBについて正常な場合と故障のある場合とで比較した2つのプロットを含む。
図5】SPSG回転子極の縁部における正常なダンパバーと1つの破損したダンパバーの位相空間を示す図である。
図6】SPSGの破損したダンパバーの位置の例を、これが空隙磁場の非対称性にどのように影響するかを、(a)各対向する極における6つのBDB、(b)2つの隣接する極の縁部における2つのBDB、(c)2つの対向する極の縁部における2つのBDB、(d)2極ピッチ距離における2つのBDBを参照して示す。
図7】左側の図は、シミュレートされた突極同期発電機および空隙内に設置されたホール効果センサの位置を示し、右側の図は、正常な(および20%未満の)静的偏心故障における右側のセンサの磁束密度を示す。
図8】a)右センサ、およびb)左センサについて、各極のシミュレートされた平均磁束密度を極図で示す。
図9】ウェーブレット変換の詳細な信号抽出の手順を示す図である。
図10】正常な機械および静的偏心故障を有する機械におけるD7の値のウェーブレット係数を示す。
図11】7回の短絡ターンでの無負荷時のSPSGの空隙磁束密度を示すプロットである。
図12】無負荷時のSPSG極の平均磁束密度の極図である。
図13】無負荷時の半径方向磁束密度の周波数スペクトルを示す。
図14】無負荷での2つのセンサの合計に対する磁束密度の周波数スペクトルを示す。
図15】無負荷条件下での半径方向磁束密度測定の実験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
上述したように、同期機械の故障検出方法は、磁場の強度、回転子電流または電圧、固定子電流または電圧、および振動のうちの1つ以上に基づくパラメータを含む、同期機械内で生成される磁場に関連する種々のパラメータを使用することができる。これらのセンサ測定値は、故障を診断するために磁場の不規則性を示すパターンを見出すことを意図して、磁場に関連するデータアーチファクトを識別するように処理される。センサ測定値の処理は、時間、周波数、および時間と周波数の両方に基づく1つ以上の信号処理技術を含む。対象となる周波数は、同期機械の線周波数よりも高く、その周波数の高調波である。これらは、75Hzを超える周波数、例えば75Hz~400Hzであってもよく、かつ/またはkHz範囲以上の周波数を含んでもよい。典型的には、この方法に使用されるサンプリング周波数は、kHz範囲またはそれ以上である。図1は、例示的な故障検出プロセスの主なステップのフローチャートを示している。
【0036】
以下の例に示すように、本提案は、同期機械の故障を示す磁場の不規則性を識別し分類するために、信号処理の出力を分析することを含む。この分析は、処理されたセンサ測定値におけるパターンを認識するためのコンピュータ支援パターン認識技術を利用し得ることが理解されよう。複数の可能な実施例が以下に説明されており、故障の種類が異なるかかる方法を実装するための可能な方法を示す。
【0037】
実施例1-破損したダンパバー(BDB)
従来、大型突極同期発電機(SPSG)におけるBDBおよびエンドリング故障に関する検討は、他の種類の故障と比較してこの故障の統計的母集団が低いため、限定的なものであった。ダンパバーは、SPSGおよび迅速応答過渡現象の同期化のために使用される。さらに、ダンパバーは、固定子バーにおける短絡故障中に回転子巻線を保護する。同期機械におけるBDB故障は、ダンパバーとエンドリングとの間の不十分な堅固な接続に起因して発生する可能性がある。BDBの隣接するバーにおける電流密度は、小さな破断であっても増加する。BDBの電流は隣接するダンパバーを通って流れ、これが過剰な抵抗損失をもたらし、その結果温度が上昇する。したがって、BDB故障は、隣接するバーの周囲にホットスポットを生じさせ、これは次に隣接するバーの破断速度を増加させる。
【0038】
BDB故障を有する揚水式貯蔵機械の検討により、一部の有用な結果が得られている。機械の始動中に必要とされる電磁トルクは、ダンパバーを通る電流によって部分的に提供される。故障条件下で機械の磁束密度が検討された。BDB故障は非対称磁場を引き起こすことが示された。加えて、故障状態下での機械の始動時間も調査され、故障により増加することが証明された。しかし、ミスアライメント、偏心故障、または負荷状態などの多くの要因が機械始動時間に影響を及ぼす可能性があるため、始動時間は、BDB故障を診断するための適切な指標ではない。
【0039】
同期モータのダンパバーは、回転子が同期速度に達するまで、同期および減衰の目的で使用される。したがって、同期機械の特性は、同期前の誘導電動機と同様である。定常状態条件では、バーを通過する電流の振幅は低く、BDB故障検出が困難である。
【0040】
本実施例は、始動時間中にSPSGにおけるBDB故障を検出する新規な手法を提案する。この方法における始動手順は、最初に機械を公称速度で回転させ、その後、回転子界磁巻線の励磁電流を数秒でランプ関数として増加させる。
【0041】
FEMを用いたBDBによるSPSGのモデル化
有限要素法(FEM)を使用してシミュレートされたSPSGの二次元(2-D)スキームを図2に示している。固定子スロット、回転子極の突極性、ダンパバーのようなシミュレートされたSPSGの完全な幾何学的および物理的詳細を考慮している。積層磁気コアの非線形特性、渦効果を、正常な状態およびBDB故障状態におけるSPSGをシミュレートするために考慮している。このシミュレーションでは、SPSGは同期速度下で、回転子界磁電流を0からその公称値まで増加させて分析される。このSPSGをシミュレートするために、機械の電圧上昇中の過渡分析を行った。このFEMモデルでは、運動方程式が磁力と結合された機械力を含むように考慮され、電気方程式が回転子磁場供給を記述するように考慮される。
【0042】
さらに、飽和状態、固定子および回転子のスロット設計は、FEMモデリングにおいて考慮すべき故障シグネチャに大きな影響を有する。機械の巻線構成および電源による時間および空間高調波は、故障検出手順において重要な役割を果たす。パワーエレクトロニクスによって回転子界磁巻線に供給される直流電流は、空隙磁場に特別な時間高調波を生じさせる可能性がある。さらに、固定子の分数スロット巻線はまた、磁束密度および結果として生じる固定子端子電圧および負荷電流に対して顕著な副作用を有する可能性がある。
【0043】
このモデルでは、M-400材料からなる固定子および回転子の積層体を有する、定格電力100kVAのSPSGがシミュレートされる。例示的なSPSGの仕様を表Iに示している。シミュレートされたSPSGモデルは、分数スロット固定子巻線の2つの層と、理想的な直流電源によって給電される回転子界磁巻線とを有する。SPSGの始動中のBDBは、FEMを使用してモデル化される。図3は、SPSGにおけるダンパバーの分布位置を示している。故障の場合、ダンパバーが完全に破損し、対応する電流が0であると想定される。
【0044】
【表1】
【0045】
BDB故障の理論的分析
故障のあるダンパバーによる脈動磁場
SPSGの空隙内の磁場は、ダンパ巻線からの脈動磁束密度に加えて、固定子と回転子の両方からの磁場からなる。始動時の空隙内の磁束密度は、回転子およびダンパバーの磁束密度のみを含む。故障診断の周知な実用的な方法の1つは、空隙磁束密度の監視に焦点を当てたものである[8]。この信号を取得するために、固定子歯またはスロットに取り付けられたホール効果センサまたはサーチコイルを利用する必要がある。同期機械の過渡動作では、空間高調波に加えて時間高調波が回転子ダンパバーに電圧を誘起する。ダンパバーは、回転子極の両端でエンドリングによって短絡される。その結果、電流はダンパバーを通過することができ、空隙内に磁場を生成する。この磁場の振幅は、過渡状態動作から定常状態動作まで著しく変動する。
【0046】
機械始動中の脈動磁場を分析的に監視するために、ダンパバーの起磁力(MMF)を以下に説明するように計算することができる。
【0047】
【数1】
【0048】
式中、pは極対の数であり、αはラジアン単位の2-D平面における基準点に対するダンパバーの角度であり(図4)、Iはダンパバー電流であり、ωは角速度であり、巻線関数の高調波はζ=1±6n(nは整数)によって表されるため、ζは空間高調波数である。
【0049】
ダンパバーの脈動磁束密度(B)は、機械極の有効長さ(l)におけるダンパループの生成された起磁力に関して、以下の式によって与えられる。
【0050】
【数2】
【0051】
SPSGの通常の動作では、回転子磁場とダンパバーからの空隙磁場とは対称である。上記の式によれば、故障のあるバーの電流は隣接するバーを通過し、これがループの電流密度を増加させ、局所的飽和を引き起こす。SPSG回転子バーにおける非対称な電流分布は、空隙における不均衡な磁場をもたらす。
【0052】
BDB故障による界磁巻線の誘起電圧
BDB故障による空隙内の不平衡磁場は、回転子界磁巻線に電圧を誘起する。極とダンパバーとを連結するこの分布空隙磁束密度による全磁束は、次のように与えられる。
【0053】
【数3】
【0054】
αおよびαは磁束結合が通過する回転子極の位置であるので、rは回転子の外径である。ファラデーの法則により、回転子界磁巻線の誘起電圧は以下のようになる。
【0055】
【数4】
【0056】
式中、Nは回転子巻線のターン巻数である。図4は、正常な場合と故障のある場合におけるSPSGの界磁巻線における誘起電圧を示している。正常な場合の誘起電圧は、回転子および固定子スロット高調波ならびに機械の固有の非対称性によるものである。BDB故障は、空隙磁場を歪ませる脈動磁場を増大させ、その結果、回転子界磁巻線における誘起電圧の振幅を増大させる。
【0057】
SPSGの回転子界磁巻線における誘起電圧の振幅は、回転子極におけるBDBの位置および数に直接関係している。中間バーにおける電流振幅は、隣接するバーよりも小さい。鎖交磁束が中間バーを通って固定子コアに到達する経路のリラクタンスは、回転子極の縁部における他のバーよりも小さい。そのため、回転子極の中央におけるBDBの場合の励磁巻線における誘起電圧の振幅は、回転子極の縁部よりも小さくする必要がある。図4に見られるように、極の中央に3つのBDBがある場合の誘起電圧の振幅は、回転子極の縁部における1つのBDBよりも小さい。
【0058】
特徴抽出
特徴抽出は、電気機械の故障検出手順の本質的な部分である。BDB故障下のSPSGの最も影響を受けた信号を検査するために、適切な指標を使用する必要がある。FEシミュレーションにより得られた信号のBDB故障に対する感度を調べ、回転子界磁巻線の誘起電圧が選択される。これは、他の信号と比較して故障感度が高いためである。一方、機械の空隙磁場は、おそらく、種々の故障検出目的に使用できる最も信頼性の高い信号である。しかしながら、空隙磁束密度に基づく故障検出は、機械内部にセンサを設置することを必要とする侵襲的な方法であり、これはほとんど不可能なものである。電気機械の故障検出のための信号処理ツールも重要である。過渡期間中に取得された信号は非定常であり、したがって、FFTなどの大部分の信号処理ツールは適用可能ではない。
【0059】
回転半径(RG)は、SPSGにおけるBDB故障の傾向を精査するための適切な指標として使用することができる。RGは、任意の数の破損したダンパバーに対して特定の値を有する。RGは、時系列データマイニング(TSDM)アプローチに基づく。TSDMは、過渡状態中のSPSGにおけるBDB故障による隠れパターンを検出するために、回転子界磁巻線における誘起電圧に適用される。
【0060】
時系列データマイニング方法
TSDMは、動的システム理論に基づいて再構成された位相空間の離散確率モデル上に見出される非線形信号処理アプローチである。計量的に等価な状態空間は、単一のサンプリングされた状態変数によって再生成され得ることが証明される。換言すれば、動的不変量も、再構成された状態空間において保存される。SPSGの状態空間を回復するために、正常な場合と故障のある場合の2つの状態における回転子界磁巻線の誘起電圧を状態変数とみなす。換言すれば、取得された信号は、正常な場合または故障のある場合において、SPSGの元のシステムと同様のトポロジー的に等価な状態空間を再現することができる。
【0061】
状態空間を再構成するために2つの方法を使用することができ、それらはそれぞれ、時間遅延埋め込みおよび微分埋め込みである。微分埋め込みは実験結果に対して実用的な方法ではない。かかる結果はノイズに敏感な高次の微分を有するためである。したがって、動的システムの不変量を見出すために、スカラーポイントをベクトル形式に変換する時間遅延埋め込みが選択される。界磁巻線の誘起電圧の時系列が次のようになると仮定する。
【0062】
e={e(j)-e(j-1),j=2,3,...,K}
【0063】
式中、jは時間指数であり、Kはサンプリングされた信号の数である。正常なSPSGおよび故障のあるSPSGについて、jが10に等しい場合の再構成された状態空間(位相空間とも称される)が図5に示されている。RGは、正常な状態と故障のある状態とを区別するために、TSDMによって生成された質量体の面積における任意の変化を定量化するために使用され、これは以下のように示される。
【0064】
【数5】
【0065】
式中、lは位相空間の時間遅延であり、μおよびμはそれぞれの次元の回転中心である。
【0066】
BDB故障が発生すると、RGの振幅が増加する。機械がある程度の固有の非対称性を有するので、RGの振幅は正常な場合でも存在していた。図5は、1つのBDBを有する正常なSPSGおよび故障のあるSPSGの位相空間を示している。図5によると、正常な場合の半径が0.1119であり、ダンパバーが1つ破損した場合は2.4307に増加するため、BDB障害は質量体の半径を増加させる。回転子極(DB-4)の中央のダンパバーが破損したときには、最も低い電流密度がそのバーを通過しているので、RGの振幅には大きな感度がないことがわかる。
【0067】
さらに、極の中央に3つのBDBを有する場合のRGの大きさは、縁部における1つのBDBよりも小さい。これは、それらの電流が低いからである。しかし、故障によるRGの増分は、BDBの位置および数に依存する。例えば、回転子極の縁部にあるバーを通過する電流量が最も多く、その結果、他のバーに対する変動がより顕著になるはずである。BDBの位置は、RGの振幅を修正し得る重要な因子である。BDB故障が同じ極の2つの縁部バーで発生する場合、そのRG値は、縁部にBDBが1つある場合よりも小さい。極の縁部における2つのBDBによる脈動磁場は、1つのBDBの2倍である。しかし、故障の対称性により、脈動磁場はほとんど相殺された。しかしながら、それらの影響を完全には払拭しないので、RG指数を生じさせる空隙磁場における非対称性が依然として存在する。RGの振幅を著しく増大させる最悪のケースは、同じ極に2つのBDBが隣接している場合である。この場合、2つのBDBの電流は、局所的な飽和を引き起こす第3のBDBを通過する。その結果、脈動磁場、局所的飽和、およびBDBによる磁場の欠如は、強い不平衡磁場をもたらし、回転子界磁巻線に大きな電圧を誘起する。
【0068】
提案された指数に対する破損したダンパバーの位置の影響
RGの大きさは、BDB故障の位置によって生じる空隙磁場の非対称レベルに依存する。図6は、異なる回転子極におけるBDB故障の位置を示している。表IIの第3列および第4列は、異なる極におけるBDB故障の位置に対するRG指数の変動を示している。
【0069】
【表2】
【0070】
ケース(a)では、1つの極における3つのBDBと比較して、RGの振幅は2倍増加する。しかしながら、中間バーの電流密度が低いため、BDBの数に応じてその値を増やすべきではないと予想される。隣接する回転子極の2つの縁部に2つのBDBを有するケース(b)では、より高い程度のRGを有することが予想されるが、1つの極の縁部に1つのBDBがある場合と比較して振幅は大きくならない。磁束密度レベルは、一方の極(北または南)の円周にわたって変動する。ケース(c)では、回転子極の両方が同じ磁束密度極性を有しており、これにより、極の縁部におけるBDBの2倍だけRGの振幅が増大する。ケース(d)では、振幅は増加せず、部分的に減少しており、これはケース(b)に基づいて説明することができる。
【0071】
結論
この実施例は、BDB故障下でのSPSGの詳細なモデル化、分析検討、および状態監視を扱う。解析的手法は、空隙磁束密度を歪める可能性があるBDB故障の結果としてのダンパバー電流の変動に起因して、ダンパバーが脈動磁場を誘起することが証明された。この磁束歪みは、非侵襲的方法と比較してBDB故障に対して極端な感度を有する回転子界磁巻線に起電力を誘起する。BDB故障を診断するための正確な特徴を抽出するために、時系列データマイニング法を回転子界磁端子における誘起電圧に適用した。この指数は、BDB故障に対して高い感度を有することが示された。さらに、RGに対するバーの数およびその位置の効果を検討した。RGの振幅は、BDBの数の増加によって増加することが示された。さらに、RGの大きさは、BDBが同じ極性を有する極に配置された場合に増大し得る。
【0072】
実施例2-静的偏心
回転子コアと固定子コアとの間の最小空隙が変動する場合、同期発電機は、偏心故障と称される状態を有する。偏心には、静的偏心と動的偏心との2つの種類がある。静的偏心は、空隙の不均一な分布における最短の長さが一定の長さを有し、空間的に固定されている状態である。静的偏心は、同期発電機において一般的な故障の1つである。偏心が小さくても機械に損傷を与えることはないが、回転子コアが固定子コアおよび巻線を擦る前の初期段階で検出されるべきである。
【0073】
長年にわたって、同期発電機における静的偏心故障を診断するために多くの方法が検討されてきた。固定子端子電圧もしくは電流、または機械パラメータのような非侵襲的手法に基づく故障検出が、同期発電機における偏心故障を検出するために使用されてきた。しかしながら、これらの方法は、回転子のトポロジーが上述の信号における故障指標を覆い隠す可能性があるので、故障を早期に検出することができない。
【0074】
本実施例では、空隙の磁束密度を利用して突極同期発電機の静的偏心故障を検出する。同期機械をシミュレートするために、有限要素アプローチが使用される。機械の空隙内に設置されたホール効果センサの位置および数について説明する。ウェーブレット変換は、磁場信号を扱うための処理ツールとして使用される。静的偏心故障を検出するために新しい指標が導入される。提案された基準指数は、機械の正常な状態または故障のある状態、および故障の重大度を正確に検出できることが実証される。
【0075】
有限要素モデリング:
100kVA突極同期発電機が二次元有限要素手法を使用してモデル化されている。同期機械は、2つのケース、すなわち、異なるレベルの重大度を有する正常な偏心および静的偏心においてモデル化されている。同期発電機は、無負荷で、一定の同期速度および回転子界磁巻線の定格電流で検査される。正常な場合の同期機械の有限要素モデリングを図7に示している。同期発電機の仕様を以下の表IIIに記載する。
【0076】
【表3】
【0077】
静的偏心の測定点:
磁束密度分布は、静的偏心故障の下では回転子の全回転内で変動しない。ただし、これは、回転子界磁巻線ターン間故障または動的偏心故障には当てはまらない。静的偏心は位置による磁束密度の変動を生じさせるので、磁束密度測定点の位置が重要となる。図7は、2つの対を形成する同期発電機の空隙における測定点の位置を示している。2つの測定点は右測定点および左測定点と称され、他の2つの点は上測定点および下測定点と称される(センサの位置は赤丸で示されている)。上下の測定点の位置は、左右の測定点に対して90度の角度で割り当てられる。
【0078】
測定点の各対が正常なまたは静的な偏心条件下で磁束密度の同じ変動を経るには、同期機械の正反対の側に配置する必要がある。しかしながら、各測定点における磁束密度の変動は、遅延磁束現象のために正確に同じであってはならない。
【0079】
磁束密度測定点は、偏心故障の配向に関係なく、静的な偏心故障を検出する必要がある。測定点が静的偏心の配向に対して直角に配置されている場合には、空隙の磁束密度の顕著な変動はない。その結果、直軸および横軸における測定された磁場が分離され、静的偏心故障の方向を検出するために使用され得る。しかしながら、上述の構成を有する空隙に沿って分散された4つの測定点では、偏心故障は、故障の配向を無視して1対の測定点で検出する必要がある。測定点と静的偏心の配向との間の最大角度は、90度を超えてはならない。図7は、正常および20%未満の静的偏心故障における正しい測定点における磁束密度の変動を示している。
【0080】
この例では、すべてのシミュレーションにおいて、正のx軸、y軸、および正のx軸に関して45度に沿って静的な偏心を課した。空隙長は、右側の測定点で増加し、左側の測定点で等しく減少する。換言すれば、所与のレベルの静的偏心率の下での左測定点における磁束密度の振幅は、正常な場合と比較して増加する。図8は、正常状態および偏心故障状態下での右および左測定点に対する各極の平均磁束密度の極図を示している。
【0081】
信号処理:
ウェーブレット変換(WT)は、電力システムおよび電気機械分析のなどの種々の分野で使用される有用な信号処理ツールである。ウェーブレット変換では、信号の異なる周波数成分の時間的局在を利用する。ウェーブレット変換は、従来の周波数領域信号処理ツールとは異なり、固定幅ウィンドウを使用しない。ウェーブレット解析機能は、所与の信号の周波数成分に従ってその時間幅を調整し、低い周波数は広いウィンドウにあり、高い周波数は狭いウィンドウにある。すなわち、ウェーブレット変換を用いて、高周波成分を短い時間間隔で分解し、低周波成分を長い時間間隔で分解することにより、振動および局在インパルスを有する信号を扱うことができる。
【0082】
この例では、マザーウェーブレットとしてDaubechies-8を用いている。より高次のウェーブレットは、D-8と同様に、電気機械における故障検出の品質を向上させるために、より高い解像度を有している。図9は、離散ウェーブレット変換を使用する信号分解の手順を示しており、ここで、Sは入力信号であり、LPFおよびHPFはローパスフィルタおよびハイパスフィルタである。事前に、ウェーブレット変換への所与の信号は、LPFおよびHPFの入力である2つの半分に分割される。第1のレベルのLPFの出力は、周波数帯域幅の半分に分離される。この手順は、所与の信号がそのレベルの予め定義された値に分解されるまで続けられる。本明細書におけるサンプリング周波数は10kHzであり、ナイキストの定理に基づいて、信号が含み得る最高周波数は5kHzである。その結果、ウェーブレット変換の第1のレベルの周波数帯域幅は5~2.5kHzとする必要がある。
【0083】
故障検出:
ウェーブレット変換(Daubechies-8)は、空隙内のホール効果センサを使用して取得された磁場信号に適用される。ウェーブレット変換のレベル7は、突極同期発電機における他のウェーブレットレベルと比較して、静的偏心率の増大に対するより良好な感度を示している。図10は、正常ならびに2.5%、10%および20%未満の静的偏心率におけるレベル7(D7)係数での詳細なシグナルの絶対値を提示する。異なる重大度レベル下での静的偏心の場合におけるウェーブレット係数の大きさの比較は、故障がD7における振動レベルを増加させることを示している。これは、磁場における低調波の振幅の増加につながる空隙の不規則性によるものである。異なる偏心故障レベルの下でD7の値を定量化するために、新規の基準指数が提案される。
【0084】
【数6】
【0085】
ここで、ウェーブレット係数(D7)の絶対値の振動は、空隙磁場の平均値に関する単位ごとに定義される。表VIに従って、右センサについて提案された指数の値は減少し、左センサについての指数の振幅は増加する。なぜならば、正のx軸方向の静的偏心の場合、右側の空隙長が増加し、これは空隙内の磁場の減少につながるためである。したがって、提案された特徴は減少するはずである。基準指数は、正常な場合の0.6007から、2.5%、10%、および20%の静的偏心率の場合の0.5969、0.5975、および0.5597に減少したことが示される。正常な基準指数と2.5%の静的偏心率との間の差は、指定された特徴がその初期段階で静的偏心故障を検出できることを証明している。
【0086】
【表4】
【0087】
結論:
本実施例では、突極同期発電機の静的偏心故障を早期に検出するための基準指標として新規な特徴を導入している。同期機械の空隙内に設置されたホール効果センサを使用して取得された磁場は、空隙内の故障による不規則性に関する適切な情報を有するので、これを利用することとした。すべての詳細な幾何学的形状および材料特性を考慮することにより、正常な場合および故障のある場合における同期機械をモデル化するための有限要素アプローチが使用される。Daubechies-8は、正常な状態および故障のある状態における磁場を分析するためのマザーウェーブレットとして使用される。その精度は、この指標が早期に故障を検出できることを示している。本明細書の最終バージョンでは、2つの他の軸(y軸、正のx軸に対して45度)における偏心の結果が追加される。また、故障箇所の検出方法に関する部分が追加される。さらに、シミュレーションは、実験結果によって検証される。
【0088】
実施例3-短絡
この実施例は、FE法を用いた正常なおよび初期のターン間短絡故障におけるSPSGの詳細な電磁解析を含む。平均径方向磁束、極線図、2つのセンサ磁束密度の和、および周波数スペクトル監視に基づいて、励磁巻線における短絡障害のための手順が提案される。センサ位置、サンプリング周波数、およびデータの再サンプリングの影響が検討される。提案された方法に対する負荷効果を検討する。シミュレーション結果は、特注の100kVA SPSGによって検証される。
【0089】
電磁分析
信頼性のある故障診断には、十分に正確なモデル化方法が必要となる。この実施例では、時間ステップ有限要素法を用いてSPSGをシミュレートする。このモデル化では、固定子スロットおよび回転子ダンパバーなどの機械の詳細な幾何学的複雑性が考慮される。加えて、回転子極の突極性、電機子巻線の空間分布、コア材料の非線形性が含まれる。提案されたSPSGの仕様を以下の表Vに要約した。
【0090】
【表5】
【0091】
ターン間短絡故障下の故障極の総起磁力が低減される。その結果、作用極の磁束密度が低下し、空隙磁場が歪む。2つのホール効果センサは、空隙半径方向磁場を測定するために、固定子歯上に反対方向に配置される(これらの2つのセンサは、右および左の点として命名されている)。モデル化されたSPSGは14個の極を有し、それらの各々は35ターンを有する。1~10ターンの重大度を有する異なる程度のターン間短絡故障がシミュレートされる。図11は、1つの完全な回転子回転に対する空隙磁場の変動を示しており、35ターンのうちの7ターンが1つの極で短絡されている。アンペアターンが減少した故障した極は起磁力が減少するため、故障した極がセンサによって掃引されるとき、空隙内の磁束密度は正常な極と比較して振幅が小さくなる。各極の平均磁束密度を比較することにより、ターン間の短絡故障診断が可能である。しかし、短絡ターン数または全極ターン数に対する短絡ターン数の割合が低い場合には、故障検出が困難である。
【0092】
図12は、正常な同期発電機および故障した同期発電機の極図として、空間内の各極の平均磁束密度を示している。正常で理想的な機械では、極図の原点から各極の平均値までの半径方向距離は等しい。回転子極磁場の平均値は、短絡ターン数を増やすことによって減少する。短絡ターン数が1回、2回、3回、7回、10回の全極の平均磁束密度に対する故障極の平均磁束密度は、それぞれ99%、97.9%、96.8%、93.7%、88.8%である。
【0093】
図13における空隙磁場の周波数スペクトルは、励磁巻線におけるターン間短絡故障の結果としての側波帯高調波の急速な変化を示している。故障関連高調波の振幅は、短絡ターン数の増加とともに増加した。指数周波数識別子は以下の通りである。
【0094】
fault=f±k.f
【0095】
式中、fは電気的周波数、fは回転子の機械的周波数、pは極対数、kは整数である。図13のプロットは、正常な機械について最大振幅スパイクを有しており、小さい振幅のスパイクは、上から下に向かって10、7、3、2、1、場合によっては正常にオーバーレイされている。周波数スペクトルにおける最も重要な故障関連高調波成分は、基本高調波より低い周波数に現れる。1つの短絡ターンを有する7.14Hz成分の振幅は、約60.22dBまたは約1mTである。2つの短絡ターンでは、振幅は約2mTまで増加し、10ターンでは、振幅は約10.3mTである。すべての故障関連高調波の大きさは、短絡ターン数の増加に伴って振幅がほぼ直線的に増加することを示している。
【0096】
空隙内に設置された2つのホール効果センサの磁場の合計の周波数スペクトルも、機械状態を明らかにすることができる。正常でバランスのとれた動作状態では、理論に基づく2つのセンサは、磁束密度の同一の変動を経ており、それらの合計が0になる。界磁巻線の短絡ターンの場合には、故障のある極の減少した磁束密度は、故障のある極が測定点の1つを通過するたびに、磁束密度の合計にスパイクを生じさせる。正常な同期発電機のシミュレーション結果は、図14に示されるように、基本成分およびその奇数倍が周波数スペクトルにおいて効果的に相殺されることを示している。したがって、図14のプロットは、正常な機械の構成要素が相殺されており、残りのスパイクは、上から下に、10、7、3、2、および1ターンがオーバーレイされていることを示している。周波数スペクトルに現れる周波数成分は、正常な機械の固有の磁気対称性を歪ませる界磁巻線の短絡ターンの直接的な結果である。加えて、周波数スペクトルには、故障に関連する高調波がより少ない。このスペクトルは奇数倍の周波数スペクトルのみを含む。磁場スペクトルの合計の振幅は、故障検出を容易にする半径方向磁束スペクトルよりも高い。
【0097】
実験用試験装置
100kVA突極同期発電機を使用して、提案された理論を検証した。サイズは別として、発電機のトポロジーは、ノルウェーで使用されるような典型的な水力発電プラントにおける実際の水力発電機に似ている。実験用SPSGは14個の極を有し、空隙の長さは、適切な同期リアクタンスを達成するために1.75mmである。
【0098】
右センサを通過する故障極および2つの後方極の磁束密度の絶対値が図15に示されている。故障のある極は予想通りに応答し、磁束密度は短絡ターン数の増加とともに減少する。したがって、図15の最も左のセクションでは、最も高い線が正常なものであり、次いで、線は、下に向かって順に、1、2、3、7および10ターンを示し、10ターンが最も低い線である。反対の極性を有する隣接する極の磁束密度も、短絡ターン数が増加するにつれてわずかに減少する。これは、故障のある極を通って反対の極性の隣接する極への経路をたどる磁束が減少した結果である。
【0099】
結論
本実施例では、FE法を用いて、空隙磁場による突極同期発電機の励磁巻線のターン間短絡故障が検討される。100kVの実験結果特注のSPSGを使用してFE結果が検証される。ターン間短絡故障検出のための提案された手順は、反対方向の2つのホール効果センサを使用することに基づいている。極図における平均磁場、2つのセンサの磁場の合計、およびそれらの周波数スペクトルを比較することにより、故障の重大度および位置を明らかにすることができる。実験による検証結果は次の通りである。平均磁場分布または極図を分析することによって、多数の短絡ターンを直ちに検出することができた。磁束密度スペクトルにおける低次高調波成分の振幅の均一な増加を観察することができた。短絡故障のみを有する機械における2つのセンサの磁束の合計を監視することは、磁束密度スペクトルの合計の大きさが短絡ターン数を増加させることによってより良好な応答を示すので、診断目的のための非常に貴重なツールであり得る。測定は、故障のある極の位置を識別するためにエンコーダと調整する必要がある。
【0100】
機械学習
機械学習アルゴリズムを使用することは、処理された信号におけるパターンの認識のための自動化および再現性を提供することによって、上記の例の有効性が高まる。実施例1を参照すると、機械学習パターン認識システムを利用して、測定/計算された回転半径と、破損したダンパバーを示す既知の回転半径パターンとの一致を判定することができる。実施例2に関連して、機械学習パターン認識システムを使用して、起こり得る静的偏心故障の表示を識別するために、基準指数を含むデータを評価することができる。実施例3を参照すると、機械学習システムを使用して、平均磁場分布または極図の分析に関連する人間の入力の一部または全部を置き換えることができる。
【0101】
上記の実施例で使用されるセンサの種類、ならびに本明細書で論じられる他のセンサの種類は、組み合わせて使用されてもよく、種々の信号処理ステップおよび指数の生成もまた、組み合わせて行われる。組み合わされた信号処理システムは、信号処理のすべてを実行することができ、結果として得られる処理されたデータは、種々の種類の故障をチェックするために、機械学習システムなどを介して自動的に評価される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6a)】
図6b)】
図6c)】
図6d)】
図7
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図10
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図12
図13
図14
図15
【国際調査報告】