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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-19
(54)【発明の名称】電極組成物
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20221212BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20221212BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20221212BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20221212BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20221212BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20221212BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20221212BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20221212BHJP
   H02J 7/04 20060101ALI20221212BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20221212BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20221212BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20221212BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/36 C
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/485
H01M10/0562
H01M10/052
H01M10/44 Q
H02J7/04 L
H01M4/134
H01M4/133
H01M4/131
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022523139
(86)(22)【出願日】2020-10-16
(85)【翻訳文提出日】2022-05-19
(86)【国際出願番号】 EP2020079253
(87)【国際公開番号】W WO2021074406
(87)【国際公開日】2021-04-22
(31)【優先権主張番号】1914983.0
(32)【優先日】2019-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522154803
【氏名又は名称】ニョボルト・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】サイ・シヴァレディ
(72)【発明者】
【氏名】クレア・グレイ
【テーマコード(参考)】
5G503
5H029
5H030
5H050
【Fターム(参考)】
5G503AA01
5G503BA01
5G503BB02
5G503CB11
5G503DA04
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029AM12
5H029AM16
5H029EJ05
5H029HJ02
5H029HJ14
5H030BB03
5H030BB14
5H050AA05
5H050AA06
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050EA12
5H050FA04
5H050FA18
5H050GA18
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA14
(57)【要約】
本発明は、二次電極活物質上に配置されたニオブ含有金属酸化物の表面層を有する電極を提供する。ニオブ含有金属酸化物は、Nb多形体、NbOまたはNbであり得るか、またはニオブタングステン酸化物、チタンニオブ酸化物、またはニオブモリブデン酸化物などの混合金属酸化物であり得る。また、電極を含む電気化学セル、および高温または低温での例えばリチウムイオン電池におけるセルの使用もまた提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学セルを充電および/または放電する方法であって、前記電気化学セルが、二次電極活物質上に配置されたニオブ含有金属酸化物の表面層を有する作用電極を含み、前記電気化学セルの温度が45℃以上、例えば50℃以上、55℃以上、または60℃以上である、方法。
【請求項2】
電気化学セルを充電および/または放電する方法であって、前記電気化学セルが、二次電極活物質上に配置されたニオブ含有金属酸化物の表面層を有する作用電極を含み、前記電気化学セルの温度が10℃以下、例えば5℃以下、または0℃以下である、方法。
【請求項3】
前記作用電極がアノードである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ニオブ含有金属酸化物の層が、4.5nm以下の最大厚さを有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ニオブ含有金属酸化物が、Nb多形体、NbO、Nbまたはそれらの組み合わせから選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ニオブ含有金属酸化物が、リン、アルミニウム、銅、クロム、ジルコニウム、バナジウム、およびリチウムから選択される元素でドープされる、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ニオブ含有金属酸化物が、ニオブタングステン酸化物、チタンニオブ酸化物、ニオブモリブデン酸化物、ニオブバナジウム酸化物、またはそれらの組み合わせから選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ニオブ含有金属酸化物の層が、前記二次電極活物質の粒子上に配置される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ニオブ含有金属酸化物の層が、前記二次電極活物質のフィルム上に配置される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記二次電極活物質が、炭素、ケイ素、または金属酸化物から選択される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記二次電極活物質が、黒鉛、還元された酸化黒鉛、またはハードカーボンから選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記二次電極活物質が、チタン酸リチウム、チタンタンタル酸化物、タンタルモリブデン酸化物、およびリチウムバナジウム酸化物から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも5C、例えば少なくとも10C、少なくとも20C、少なくとも30C、少なくとも40C、少なくとも50C、または少なくとも60CのCレートで電気化学セルを充電および/または放電する方法である、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記電気化学セルを充電および放電する、または放電および充電するサイクルを含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
2サイクル以上、5サイクル以上、10サイクル以上、50サイクル以上、100サイクル以上、500サイクル以上、1000サイクル以上、または2000サイクル以上を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
二次電極活物質上に配置されたニオブ含有金属酸化物の表面層を含む電極。
【請求項17】
前記電極がアノードである、請求項16に記載の電極。
【請求項18】
前記ニオブ含有金属酸化物の層が、45nm以下の最大厚さを有する、請求項16または17に記載の電極。
【請求項19】
前記ニオブ含有金属酸化物が、Nb多形体、NbO、Nb、またはそれらの組み合わせから選択される、請求項16から18のいずれか一項に記載の電極。
【請求項20】
前記ニオブ含有金属酸化物が、リン、アルミニウム、銅、クロム、ジルコニウム、バナジウムおよびリチウムから選択される元素でドープされている、請求項16から19のいずれか一項に記載の電極。
【請求項21】
前記ニオブ含有金属酸化物が、ニオブタングステン酸化物、チタンニオブ酸化物、ニオブモリブデン酸化物、ニオブバナジウム酸化物、またはそれらの組み合わせから選択される、請求項16から19のいずれか一項に記載の電極。
【請求項22】
前記ニオブ含有金属酸化物の層が、二次電極活物質のフィルム上に配置されている、請求項16から21のいずれか一項に記載の電極。
【請求項23】
前記ニオブ含有金属酸化物の層が、二次電極活物質の粒子上に配置されている、請求項16から21のいずれか一項に記載の電極。
【請求項24】
前記二次電極活物質が、炭素、ケイ素、または金属酸化物から選択される、請求項16から23のいずれか一項に記載の電極。
【請求項25】
前記二次電極活物質が、黒鉛、還元された酸化黒鉛、またはハードカーボンから選択される、請求項24に記載の電極。
【請求項26】
前記二次電極活物質が、チタン酸リチウム、チタンタンタル酸化物、タンタルモリブデン酸化物、およびリチウムバナジウム酸化物から選択される、請求項24に記載の電極。
【請求項27】
請求項16から26のいずれか一項に記載の電極を含む電気化学セル。
【請求項28】
請求項16から26のいずれか一項に記載の電極を含む全固体電池。
【請求項29】
電気化学セルの二次電極活物質上に配置されたニオブ含有金属酸化物の表面層を有する作用電極の使用であって。充電または放電中の前記電気化学セルの温度が、45℃以上、例えば50℃以上、55℃以上、または60℃以上である、作用電極の使用。
【請求項30】
電気化学セルの二次電極活物質上に配置されたニオブ含有金属酸化物の表面層を有する作用電極の使用であって、充電または放電中の前記電気化学セルの温度が、10℃以下、例えば5℃以下または0℃以下である、作用電極の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本件は、2019年10月16日に出願されたGB1914983.0に関連し、その利益を主張するものである。その内容は、参照により全体がここに組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は、電極、および電極を含むリチウムイオン電池などの電気化学セル、ならびに電気化学セル内で電極を使用する方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池は、15℃~40℃の温度で最適に動作するように広く設計されている。この動作の主な制限は、正極および負極に使用される材料とリチウムイオン含有電解質に起因する。このような最適な条件下で、バッテリー性能に関連する比エネルギー、比電力、サイクル寿命、貯蔵寿命、安全性などの特性が最大化される。
【0004】
この典型的な範囲を超えてリチウムイオン電池の動作温度が変化すると、エネルギー、電力、サイクル寿命、および安全性の性能が制限される。この変化は通常、季節や気候条件などの外的要因によって発生する。しかしながら、温度変化は、携帯電話、ノートパソコン、および電動工具などの携帯型電子デバイスへの応用や電気自動車(EV)での使用が意図された電池の使用からも発生する。
【0005】
このような電池駆動デバイスが、EVにおける高速充電や携帯電話の電池の高速充電(1時間以内に電池を完全に充電するか、30分以内に電池容量の80%を超える部分充電を行う)などの高電力領域において使用される場合、大電流からの発熱(オーム損失)により温度が急上昇し、持続的な電力を供給したり、より多くの充電を許容する電池の能力を制限する。
【0006】
電池の過熱は、熱暴走、火災、および爆発による突発故障を引き起こすと理解されている。リチウムイオン電池の充放電を制御する電池管理システムは、温度の急激な変化を防ぐためにデバイスの動作をシャットダウンする(Shuai Ma、他)。
【0007】
この制限を克服するために、大きな熱管理システムを使用して、電池の動作温度を最適な温度内に維持する。これらのシステムの重量は、通常、EVの範囲を40~50パーセント低減する。
【0008】
EVの範囲の同様の減少は、10℃以下などの低温環境でも発生する。特に、解放状態でEVを使用すると、範囲が大幅に減少する(American Automobile Association、2019年2月)。低温では、電池内の化学反応の進行がより遅くなり、凍結温度では、金属リチウムのめっきが黒鉛アノード(負極)表面で発生し得る。
【0009】
また、45℃以上の温度では、固体電解質界面(SEI)と呼ばれる電極材料と電解質との界面層が劣化するため、セルのサイクル寿命が短くなる。通常、アノード材料の表面に形成されるこのSEI層は、リチウムイオン電池の安定した動作を担っており、高温になるとSEI層が分解して、セルの容量が大幅に低下するため、45℃という上限が存在する。
【0010】
上記の課題に照らして、EVの範囲を拡大し、携帯用電池駆動デバイスに広い温度範囲で最適な電池機能を可能にするために、高レートおよび高温で動作可能なリチウムイオン電池用の新規の電極材料および表面を提供する必要がある。
【0011】
上記の課題に照らして、高温または低温で動作することができるリチウムイオン電池用の新規の電極材料を提供する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許出願公開第2016/0351973号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2013/0266858号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第3522268号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2019/0097226号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2015/0221933号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2017/0141386号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Shuai Ma et al., Temperature effect and thermal impact in lithium-ion batteries: A Review, Progress in Natural Science: Materials International, 2018年12月).
【非特許文献2】Electric Vehicle Range Testing: AAA proprietary research into the effect of ambient temperature and HVAC use on driving range and MPGe, American Automobile Association, 2019年2月
【非特許文献3】Griffith et al., Niobium tungsten oxides for high-rate lithium-ion energy storage, Nature, Vol559, 556-559頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、一般に、ニオブ含有金属酸化物表面を有する電極、電極を含む電気化学セル、および高温または低温での、例えばリチウムイオン電池におけるセルの使用を提供する。
【0015】
本発明者らは、セルが高温または低温でサイクルされる場合でも、リチウムイオンセルにおけるニオブ含有金属酸化物表面を有する電極材料を使用することによって、高エネルギー密度を達成できることを確立した。セルは、高温または低温で繰り返しサイクルされた場合に優れた容量保持率を示す。さらに、セルは、高温と低温のいずれにおいても高いCレートで充電および放電することができる。したがって、ニオブ含有金属酸化物表面を有する電極を含むリチウムイオンセルは、より広い動作温度範囲を有し、黒鉛電極を含む典型的なリチウムイオンセルと比較して、高温または低温で改善されたサイクル安定性を示す。
【0016】
ニオブ含有金属酸化物表面およびバルクを有する作用電極は、好ましいリチウム拡散特性を有し、したがって、優れたレート特性を示す。1.0Vvs.Li/Liを超えると、SEIの形成が最小限になり、これは、リチウムが電解質との副反応で失われることがないことを意味する。
【0017】
黒鉛電極を含む典型的なリチウムイオンセルは、1VvsLi/Li未満で動作し、セルが密閉される前に初期形成サイクルを経る必要がある。通常、この形成サイクルは、1サイクルでSEIを迅速に形成し、脱ガスを生じさせるために、高温、例えば60℃で行われる。これにより、セル製造プロセスにかなりの時間とコストが追加される。
【0018】
本発明によれば、ニオブ系金属酸化物表面は、初回充電サイクル中のリチウムイオン電池の初期形成ステップ中に黒鉛表面で通常観察されるSEI形成を最小化または排除する。
【0019】
さらに、例えばLiFePOに対するフルセルでは、LiN(CFSO(LiTFSI)は、標準的な市販の電解質において一般的に使用される、より毒性の高いLiPF電解質塩の代わりに使用できる。さらに、LiAl合金化電位(≦0.3VvsLi/Li)を回避しながら、より高価な銅の代わりにアルミニウムを集電体として使用できる。
【0020】
一般に、本発明は、電気化学セルを充電および/または放電する方法であって、電気化学セルが、ニオブ含有金属酸化物表面を有する作用電極を含み、電気化学セルの温度が45℃以上、例えば50℃以上、55℃以上、または60℃以上である、方法を提供する。
【0021】
一般に、本発明はまた、電気化学セルを充電および/または放電する方法であって、電気化学セルが、ニオブ含有金属酸化物表面を有する作用電極を含み、電気化学セルの温度が10℃以下、例えば5℃以下、または0℃以下である、方法を提供する。
【0022】
本発明の第1の態様では、電気化学セルを充電および/または放電する方法であって、電気化学セルが、二次電極活物質上に配置されたニオブ含有金属酸化物の表面層を有する作用電極を含み、電気化学セルの温度が、45℃以上、例えば、50℃以上、55℃以上、または60℃以上である、方法が提供される。
【0023】
本発明の第2の態様では、電気化学セルを充電および/または放電する方法であって、電気化学セルが、二次電極活物質上に配置されたニオブ含有金属酸化物の表面層を有する作用電極を含み、電気化学セルの温度が、10℃以下、例えば5℃以下または0℃以下である、方法が提供される。
【0024】
電気化学セルは、対極および電解質を含んでよく、任意選択で、電極は、電源に接続可能であるか、または接続されている。
【0025】
いずれの態様の方法も、少なくとも5C、例えば少なくとも10C、少なくとも20C、少なくとも30C、少なくとも40C、少なくとも50C、または少なくとも60CのCレートで電気化学セルを充電および/または放電することを含み得る。
【0026】
本方法は、電気化学セルを充電および放電、または放電および充電するサイクルを含み得、本方法は、2サイクル以上、5サイクル以上、10サイクル以上、50サイクル以上、100サイクル以上、500サイクル以上、1000サイクル以上、または2000サイクル以上を含み得る。
【0027】
ニオブ含有金属酸化物の層は、4.5nm以下の最大厚さを有し得る。
【0028】
ニオブ含有金属酸化物の層は、二次電極活物質の粒子上に配置され得る。あるいは、ニオブ含有金属酸化物の層は、二次電極活物質のフィルム上に配置され得る。
【0029】
ニオブ含有金属酸化物は、Nbの異なる多形体、NbO、Nbまたはそれらの組み合わせから選択され得る。
【0030】
ニオブ含有金属酸化物は、リン、アルミニウム、銅、クロム、ジルコニウム、バナジウム、およびリチウムなどの追加の元素でドープされ得る。
【0031】
ニオブ含有金属酸化物は、ニオブタングステン酸化物、チタンニオブ酸化物、ニオブモリブデン酸化物、またはそれらの組み合わせから選択され得る。ニオブバナジウム酸化物もまたニオブ含有金属酸化物として使用され得る。
【0032】
二次電極活物質は、炭素、ケイ素、または金属酸化物から選択され得る。リチウムおよび銀もまた二次電極活物質として使用され得る。
【0033】
二次電極活物質は、黒鉛、還元された酸化黒鉛、またはハードカーボンから選択され得る。
【0034】
二次電極活物質は、チタン酸リチウム、チタンタンタル酸化物、またはタンタルモリブデン酸化物から選択され得る。リチウムバナジウム酸化物、リチウムチタンシリケート、およびリチウムバナジウム酸化物相もまた二次電極活物質として使用され得る。
【0035】
本発明の第3の態様では、ニオブ含有金属酸化物表面を有する、作用電極と称され得る電極が提供される。作用電極は、リチウムイオン電池の電極として使用するのに適している。
【0036】
作用電極は、二次電極活物質上に配置されたニオブ含有金属酸化物の表面層を含む。
【0037】
ニオブ含有金属酸化物の層は、二次電極活物質の粒子上に配置され得る。あるいは、ニオブ含有金属酸化物の層は、二次電極活物質のフィルム上に配置され得る。
【0038】
ニオブ含有金属酸化物は、Nb多形体、NbO、Nb、またはそれらの組み合わせから選択され得る。
【0039】
ニオブ含有金属酸化物は、リン、アルミニウム、銅、クロム、ジルコニウム、バナジウム、およびリチウムなどの追加の元素でドープされ得る。
【0040】
ニオブ含有金属酸化物は、ニオブタングステン酸化物、チタンニオブ酸化物、ニオブモリブデン酸化物、またはそれらの組み合わせから選択され得る。ニオブバナジウム酸化物もまたニオブ含有金属酸化物として使用され得る。
【0041】
二次電極活物質は、炭素、ケイ素、または金属酸化物から選択され得る。リチウムおよび銀もまた二次電極活物質として使用され得る。
【0042】
二次電極活物質は、黒鉛、還元された酸化黒鉛、またはハードカーボンから選択され得る。
【0043】
二次電極活物質は、チタン酸リチウム、チタンタンタル酸化物、およびタンタルモリブデン酸化物から選択され得る。リチウムバナジウム酸化物、リチウムチタンシリケート、およびリチウムバナジウム酸化物相もまた、二次電極活物質として使用され得る。
【0044】
本発明の第4の態様では、本発明の作用電極を含む電気化学セルが提供される。
【0045】
本発明の第5の態様では、本発明の1つまたは複数の電気化学セルを含むリチウムイオン電池が提供される。複数のセルがある場合、これらは直列または並列に提供され得る。
【0046】
本発明の第6の態様では、電気化学セルにおける二次電極活物質上に配置されたニオブ含有金属酸化物の表面層を有する作用電極の使用であって、充電または放電中の電気化学セルの温度が、45℃以上、例えば50℃以上、55℃以上、または60℃以上である、使用が提供される。
【0047】
本発明の第7の態様では、電気化学セルにおける二次電極活物質上に配置されたニオブ含有金属酸化物の表面層を有する作用電極の使用であって、充電または放電中の電気化学セルの温度が、10℃以下、例えば5℃以下、または0℃以下である、使用が提供される。
【0048】
本発明のこれらのおよび他の態様および実施形態は、以下でより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】中間金属酸化物層あり(上)と中間金属酸化物層なし(下)のニオブ含有金属酸化物表面層を有する作用電極粒子を示す。
図2図2aは、60℃(上)、25℃(中央)、および10℃(下)でのセル動作温度によるNWO(Nb1655)/NMC(LiNi0.6Co0.2Mn0.2)セルのレート特性を示す。図2bは、60℃、10CレートでのNWO/NMCセルの長期サイクル特性を示す。図2cは、5Cレート条件下での25℃(上)および10℃(下)でのNWO/NMCセルの長期サイクル特性を示す。図2dは、60℃(上)、25℃(中央)、および10℃(下)の温度によるNWO/LFPセルのレート特性の比較を示す。図2Eは、5CレートにおけるNWO/LFPセルの10、25、60℃での長期サイクル特性を示す。
図3図3aは、65℃での黒鉛二次活物質上に配置されたニオブ含有金属酸化物表面層を有するアノードを含むセルのレート特性(上)、および65℃でのニオブ含有表面層が溶解するアノードを含むセルのレート特性(下)を示す。図3bは、65℃でのニオブコーティングセル(上)とコーティングのないセル(下)の長期サイクル特性を示す。図3cは、65℃(上)と25℃(下)でのニオブコーティングセルのレート特性を示す。図3dは、65℃(下)と25℃(上)でのニオブコーティングセルの長期サイクル特性を示す。
図4図4aは、本発明の実施形態によるアノードの調製に使用されるニオブ系金属酸化物の一次粒子の走査型電子顕微鏡写真である。図4bは、不規則な黒鉛粒子にコーティングされたニオブ含有金属酸化物の走査型電子顕微鏡写真である。図4cは、不規則な黒鉛粒子にコーティングされたニオブ含有金属酸化物の走査型電子顕微鏡写真である。図4dは、規則的な黒鉛粒子にコーティングされたニオブ含有金属酸化物の走査型電子顕微鏡写真である。
図5図5aは、本発明の実施形態によるパウチセルを示す。図5bは、本発明の実施形態による円筒形セルを示す。図5cは、集電体上にコーティングされた本発明の実施形態によるアノード電極を示す。図5dは、本発明の実施形態による電気化学セルを作製するために電解質と共に金属缶(右)の内部に配置されるセパレータ(左)を備えたゼリーロールのアノードおよびカソード電極を示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明は、一般に、ニオブ含有金属酸化物表面を有する電極、電極を含む電気化学セル、および高温または低温での、例えばリチウムイオン電池におけるセルの使用を提供する。
【0051】
ニオブタングステン酸化物を含む電極は、例えば、グリフィスらによる文献に記載されている。しかしながら、ニオブタングステン酸化物の電気化学的特性は、対極としてリチウム金属を使用して、293±2Kの温度制御された部屋で試験されている。電気化学的特性は、高温または低温で試験されていない。
【0052】
二次電極活物質上の酸化アルミニウム(Al)または酸化チタン(TiO)を含む原子的に薄いコーティングからなる電極も報告されている(Lee Se-Hee、他、US9,196,901B2)。しかしながら、コーティングされた電極の電気化学的特性は、高温または低温で試験されていない。
【0053】
本発明者は、高温または低温でサイクルされた場合でも、好ましいリチウムイオン拡散特性、高い体積エネルギー密度、および高容量を有するニオブ含有金属酸化物表面を有する電極を含む電気化学セルを開発した。
【0054】
本明細書に記載されている電圧値は、当技術分野で一般的であるように、Li/Liを基準とするものである。
【0055】
Cレートは、最大容量に対して電池が放電されるレートの尺度である。Cレートは、定義された最大容量に到達するまでの時間数の逆数として定義され得るものであり、例えば、10Cは6分の放電または充電時間に相当する。最大容量は、理論上の最大容量または経験的に決定された最大容量であり得る。例えば、理論上の最大容量は、電極活物質中の遷移金属原子当たり1つの電子移動に対して定義され得る。
【0056】
高い充電および放電レートは、電極活物質の重量に対する(重量)電流密度を基準としても説明され得る。
【0057】
US2017/0141386には、二次電極活物質上ではなく、導電性材料(カーボンブラック)上にコーティングされたLiNbOの層を含む負極の調製について記載されている。これは、二次電極活物質をニオブ含有金属酸化物でコーティングすることに反する教示である。
【0058】
US2019/0097226には、ニオブ含有正極活物質の調製について記載されている。材料は単一の構成要素であり、二次電極活物質上に配置されるものではない。これは、層状の構成に反し、負極にニオブを使用することに反する教示である。
【0059】
EP3522268には、NMC活物質上にニオブ酸リチウムの層を含む正極が記載されている。これは、負極にニオブを使用することに反する教示である。
【0060】
US2015/0221933には、表面の一部に焼結されたニオブ酸化物化合物を有するNMC活物質を含む正極が記載されている。
【0061】
〔作用電極〕
本発明は、ニオブ含有金属酸化物表面を有する作用電極を提供する。作用電極は導電性であり、例えば電気化学セル内で対極と電気的に接続可能である。
【0062】
作用電極は、例えばリチウムイオン電池において、放電ステップ中のアノード(負極)またはカソード(正極)であり得る。通常、作用電極は放電ステップ中のアノードである。
【0063】
作用電極は、ニオブ含有金属酸化物表面を有する。すなわち、作用電極の表面は、ニオブ(Nb)を含む金属酸化物で終端している。ニオブ含有金属酸化物表面は、電気化学セルの活性電極表面である。つまり、ニオブ含有金属酸化物の表面は、典型的な電気化学セルにおいて電解質に接触する表面である。
【0064】
作用電極は、二次電極活物質上に配置されたニオブ含有金属酸化物の層を含み得る。ニオブ含有金属酸化物の層は、二次電極活物質上のコーティングであり得る。
【0065】
ニオブ含有金属酸化物の層の厚さは既知であるか、またはSEMなどの標準的な技術を使用して決定することができる。
【0066】
一実施形態では、ニオブ含有金属酸化物の層は、10μm以下、例えば、5μm以下、4μm以下、3μm以下、または2μm以下の最大厚さを有し得る。
【0067】
好ましくは、ニオブ含有金属酸化物の層は、5nm以下、例えば、4.5nm以下、4.0nm以下、3nm以下、または2nm以下の最大厚さを有する。
【0068】
ニオブ含有金属酸化物の層は、0.1nm以上、例えば、0.2nm以上、0.3nm以上、0.4nm以上、または0.5nm以上の最小厚さを有し得る。
【0069】
ニオブ含有金属酸化物は、上記の最大量および最小量から選択された範囲内の厚さを有し得る。本発明者らは、電極の温度安定性を維持し、SEI形成を軽減しながら、より厚い層と比較してインピーダンスが低減されていることから、ニオブ含有金属酸化物のより薄いコーティングが好ましいことを見出した。
【0070】
ニオブ含有金属酸化物の層は、二次電極活物質上に直接配置してよく、または活物質の中間層が存在してもよい。
【0071】
酸化ニオブの層は、二次電極活物質の粒子上に配置され得る。
【0072】
二次電極活物質の粒子のサイズは既知であるか、またはSEMなどの標準的な技術を使用して決定され得る。
【0073】
二次電極活物質の粒子は、100μm以下、例えば、50μm以下、40μm以下、30μm以下、または20μm以下の最大一次粒子サイズを有し得る。
【0074】
二次電極活物質の粒子は、5nm以上、例えば、10nm以上、15nm以上、20nm以上、または25nm以上の一次粒子サイズを有し得る。
【0075】
二次電極活物質の粒子は、上記の最大量および最小量から選択された範囲内の一次粒子サイズを有し得る。
粒子の形状は規則的または不規則であり得る。
【0076】
代替的に、ニオブ含有金属酸化物の層は、二次電極活物質のフィルム上に配置され得る。
二次電極活物質のフィルムの厚さは特に制限されない。
【0077】
金属酸化物でフィルムまたは粒子をコーティングする方法は知られており、化学溶液堆積、スピンコーティング、ディップコーティング、化学蒸着、原子層堆積、分子層堆積、スパッタリング、および物理蒸着が含まれる。
【0078】
代替的に、ニオブ含有金属酸化物表面は、ニオブが豊富な表面層およびニオブが少ない内部を含む単一の材料の濃度勾配として存在し得る。
【0079】
ニオブ含有金属酸化物は、Nb多形体、NbO、Nb、またはそれらの組み合わせから選択され得る。
【0080】
ニオブ含有金属酸化物は、リン(P)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)およびリチウム(Li)などの追加の元素でドープされ得る。
【0081】
ニオブ含有金属酸化物は、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、LiNbO LiNbVO LiNbLaZrO(ガーネット類)、LiNbSPO(LISICON類)、LiNbAlTiP/LiNbAlGeP(NASICON類)などのリチウム伝導体であり得る。
【0082】
ニオブ含有金属酸化物は、ニオブ酸化物と追加の金属酸化物との混合物(例えば、アモルファス混合物)であり得る。適切な追加の金属酸化物には、酸化チタン、酸化ハフニウム、酸化タンタルまたは酸化アルミニウムが含まれる。酸化バナジウムも適切な金属酸化物である。
【0083】
ニオブ含有金属酸化物は、ニオブ酸化物と追加の金属酸化物との化合物(例えば、結晶構造を有する)であり得る。適切なニオブ含有金属酸化物には、ニオブタングステン酸化物(例えば、Nb1655またはNb181693)、チタンニオブ酸化物(例えば、TiNb)、ニオブモリブデン酸化物(例えば、NbMo14)、またはそれらの組み合わせが含まれる。ニオブバナジウム酸化物もまた使用され得る。
【0084】
適切なニオブタングステン酸化物には、Nb12WO33、Nb2677、Nb1444、Nb1655、Nb1869、NbWO、Nb181693、Nb2220115、Nb47、Nb5482381、Nb2031143、Nb31、またはNb1550、またはそれらの組み合わせが含まれる。
【0085】
二次電極活物質は、リチウムイオン(Li)が可逆的に挿入可能な材料である。
二次電極活物質は、炭素、ケイ素、または金属酸化物から選択され得る。二次電極活物質としてリチウムおよび銀もまた使用され得る。
【0086】
二次電極活物質は、黒鉛、還元された酸化黒鉛、またはハードカーボンから選択され得る。
【0087】
二次電極活物質は、チタン酸リチウム(LTO;LiTi12)、チタンタンタル酸化物(例えば、TiTa)、またはタンタルモリブデン酸化物(例えば、Ta47)から選択され得る。リチウムバナジウム酸化物(例えば、LiV)、リチウムチタンシリケート、およびリチウムバナジウム酸化物相もまた二次電極活物質として使用され得る。
【0088】
作用電極は、導電性を改善するために導電性炭素材料を含み得る。導電性炭素材料は、カーボンブラック、黒鉛、ナノ粒子炭素粉末、炭素繊維および/またはカーボンナノチューブであり得る。導電性炭素材料は、ケッチェンブラック、スーパーP炭素、またはハードもしくはソフトアモルファスカーボンであり得る。
【0089】
作用電極は、集電表面への活物質の接着を改善するためのバインダを含み得る。典型的なバインダの例は、PVDF、PTFE、CMC、PAA、PMMA、PEO、SBR、およびそれらのコポリマーである。
【0090】
作用電極は、通常、銅またはアルミニウムの集電体などの集電体に固定されており、これはプレートの形態であり得る。
【0091】
本発明者らは、電解質としてエチレンカーボネート/ジメチルカーボネート中に1.0MLiPFを含むものを使用した2032型のコインセルにおいて、NMCまたはLiFePO対極に対して、9:0.5:0.5の活物質/炭素/バインダの電極構成を使用し、活物質の量が8~10mg・cm-2であり、電極面積1.27cmであるニオブタングステン酸化物(NWO)表面を含む作用電極を評価した。
【0092】
本発明者らは、NWO/NMCセルを60℃(10Cレート)で300サイクルをサイクルすると、放電容量の30.8%が失われるのに対し、セルを10℃(5Cレート)でサイクルすると、15.5%の容量損失を示すことを見出した。NWO/LFPセルを60℃(5Cレート)で1000サイクルをサイクルすると、18.1%の容量損失を示し、10℃(5Cレート)でサイクルすると、6.9%の容量損失を示した。
【0093】
〔電気化学セル〕
本発明はまた、本発明の作用電極を含む電気化学セルを提供する。作用電極は、例えばリチウムイオン電池において、放電ステップ中のアノードまたはカソードであり得る。通常、作用電極は放電ステップ中のアノードであり得る。
【0094】
電気化学セルは、通常、対極および電解質を含む。電気化学セルは、集電プレートを含み得る。電気化学セルは、電源と電気的に接続され得る。電気化学セルは、測定装置、例えば、電流計または電圧計と電気的に接続され得る。
【0095】
電気化学セルは、リチウムイオンセルであり得る。
対極は、例えばリチウムイオン電池において、放電ステップ中のアノードまたはカソードであり得る。対極は、通常、放電ステップ中のカソードである。
【0096】
適切なカソード材料には、リチウム金属酸化物などのリチウム含有またはリチウム挿入材料が含まれ、金属は通常、Co、Fe、Ni、V、またはMnなどの遷移金属、またはそれらの組み合わせである。正極材料のいくつかの例には、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC、LiNiMnCoO、例えば、LiNi0.6Co0.2Mn0.2)、リチウムバナジウムフルオロホスフェート(LiVPOF)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(NCA、LiNiCoAlO)、リン酸鉄リチウム(LFP、LiFePO)、およびマンガン系スピネル(例:LiMn)が含まれる。
【0097】
対極は、導電性を改善するために導電性炭素材料を含み得る。導電性炭素材料は、カーボンブラック、黒鉛、ナノ粒子炭素粉末、炭素繊維および/またはカーボンナノチューブであり得る。導電性炭素材料は、ケッチェンブラック、スーパーP炭素、またはハードもしくはソフトアモルファスカーボンであり得る。
【0098】
対向電極は、集電表面への活物質の接着を改善するためのバインダを含み得る。典型的なバインダの例は、PVDF、PTFE、CMC、PAA、PMMA、PEO、SBR、およびそれらのコポリマーである。
【0099】
対極は、通常、銅またはアルミニウムの集電体などの集電体に固定されており、これはプレートの形態であり得る。
【0100】
通常、電気化学セルの電解質は、リチウムイオンを可溶化するのに適する。
通常、充電および放電されたセルの電解液にはリチウムイオンが含まれる。
【0101】
通常、電解質は、LiTFSI(ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミドリチウム塩、LiPF、LiBF、LiClO、LiTF(リチウムトリフレート)またはリチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)などのリチウム塩を含む。
【0102】
電解質は、周囲温度、例えば25℃の液体などの液体電解質であり得る。好ましい電解質は、高温および低温で安定である。
【0103】
電解質は非水性電解質であり得る。電解質は、極性非プロトン性溶媒を含み得る。電解質は有機溶媒を含み得る。リチウムイオンを溶解するための溶媒は、当技術分野でよく知られている。
【0104】
適切な溶媒には、カーボネート溶媒が含まれる。例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロカーボネート溶媒(例えば、フルオロエチレンカーボネートおよびトリフルオロメチルプロピレンカーボネート)、ならびにジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、およびエチルプロピルカーボネート(EPC)などのジアルキルカーボネート溶媒。
【0105】
適切な溶媒には、スルホン溶媒も含まれる。例えば、メチルスルホン、エチルメチルスルホン、メチルフェニルスルホン、メチルイソプロピルスルホン(MiPS)、プロピルスルホン、ブチルスルホン、テトラメチレンスルホン(スルホラン)、フェニルビニルスルホン、アリルメチルスルホン、メチルビニルスルホン、ジビニルスルホン(ビニルスルホン)、ジフェニルスルホン(フェニルスルホン)、ジベンジルスルホン(ベンジルスルホン)、ビニレンスルホン、ブタジエンスルホン、4-メトキシフェニルメチルスルホン、4-クロロフェニルメチルスルホン、2-クロロフェニルメチルスルホン、3,4-ジクロロフェニルメチルスルホン、4-(メチルスルホニル)トルエン、2-(メチルスルホニル)エタノール、4-ブロモフェニルメチルスルホン、2-ブロモフェニルメチルスルホン、4-フルオロフェニルメチルスルホン、2-フルオロフェニルメチルスルホン、4-アミノフェニルメチルスルホン、スルトン(例:1,3-プロパンスルトン)、およびエーテル基を含むスルホン溶媒(例:2-メトキシエチル(メチル)スルホンおよび2-メトキシエトキシエチル(エチル)スルホン)。
【0106】
適切な溶媒にはまた、シロキサンまたはシランなどのケイ素含有溶媒も含まれる。例えば、ヘキサメチルジシロキサン(HMDS)、1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン、ポリシロキサン、およびポリシロキサン-ポリオキシアルキレン誘導体。シラン溶媒のいくつかの例には、メトキシトリメチルシラン、エトキシトリメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、メチルトリメトキシシラン、および2-(エトキシ)エトキシトリメチルシランが含まれる。
【0107】
通常、性能を向上させるために、電解質に添加剤が含まれ得る。例えば、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート、アリルエチルカーボネート、t-ブチレンカーボネート、ビニルアセテート、ジビニルアジペート、アクリル酸ニトリル、2-ビニルピリジン、マレイン酸無水物、ケイ皮酸メチル、エチレンカーボネート、ハロゲン化エチレンカーボネート、α-ブロモ-γ-ブチロラクトン、クロロギ酸メチル、1,3-プロパンスルトン、エチレンサルファイト(ES)、プロピレンサルファイト(PS)、ビニルエチレンサルファイト(VES)、フルオロエチレンサルファイト(FES)、12-クラウン-4エーテル、二酸化炭素(CO)、二酸化硫黄(SO)、および三酸化硫黄(SO)。
【0108】
電気化学セルはまた、負極と正極との間に配置された固体多孔質膜を含み得る。固体多孔質膜は、液体電解質と部分的または完全に置き換えることができる。固体多孔質膜は、ポリマー(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはそれらのコポリマー)、または遷移金属酸化物(例えば、チタニア、ジルコニア、イットリア、ハフニア、またはニオビア)、またはガラス繊維の形態であり得る酸化ケイ素などの典型元素金属酸化物などの無機材料を含み得る。
【0109】
固体の非多孔質膜は、リチウムイオン伝導体を含み得る。例えば、LLZO(ガーネット類)、LSPO(LISICON類)、LGPS(thio-LISICON類)、LATP/LAGP(NASICON類)、LLTO(ペロブスカイト類)、およびリン化物/硫化物ガラスセラミック。
【0110】
〔方法〕
本発明は、高温または低温で電気化学セルを充電および/または放電する方法を提供する。電気化学セルは、作用電極ニオブ含有金属酸化物表面を含む。通常、電気化学セルには対極および電解質が含まれる。
【0111】
好ましくは、本方法は、高温(周囲温度;約20℃より高い)で電気化学セルを充電および/または放電する方法である。例えば、本方法は、30℃以上、例えば40℃以上、45℃以上、50℃以上、55℃以上、または60℃以上で実施され得る。
【0112】
本発明者らは、ニオブ含有金属酸化物表面を有する作用電極が、600℃まで安定し得ることを見出した。従って、高温で電気化学セルを充電および/または放電する方法の最高温度は、電解質および対極の材料の選択によって定義される。例えば、ニオブ含有金属酸化物表面を有する作用電極、固体セラミック電解質、およびLPF対極を含む電気化学セルは、300℃でサイクルされると予想される。
【0113】
代替的に、本方法は、低温(周囲温度;約20℃未満)で電気化学セルを充電および/または放電する方法である。例えば、本方法は、18℃以下、例えば、15℃以下、10℃以下、5℃以下、または0℃以下で実施され得る。
【0114】
本発明者らは、低温で電気化学セルを充電および/または放電する方法の最低温度は、電解質の選択によって定義されると考える。電解質を適切に選択することにより、低温で電気化学セルを充電および/または放電する方法は、少なくとも-70℃の最低温度で行われ得る。
【0115】
本方法は、少なくとも750mA・g-1、例えば少なくとも800mA・g-1の電流密度で電気化学セルを充電および/または放電する方法であり得る。好ましくは、本方法は、少なくとも800mA・g-1、850mA・g-1、900mA・g-1、950mA・g-1、1000mA・g-1、1050mA・g-1、1100mA・g-1、1200mA・g-1、または1300mA・g-1の電流密度で電気化学セルを充電および/または放電する方法である。
【0116】
本方法は、電気化学セルを充電および放電、または放電および充電するサイクルを含み得る。このサイクルは複数回繰り返され得る。従って、本方法は、2サイクル以上、5サイクル以上、10サイクル以上、50サイクル以上、100サイクル以上、500サイクル以上、1000サイクル以上、または2000サイクル以上を含む。
【0117】
〔電池〕
本発明はまた、本発明の1つまたは複数の電気化学セルを含む電池を提供する。電池はリチウムイオン電池であり得る。
複数のセルがある場合、これらは直列または並列に提供され得る。
【0118】
本発明の電池は、自動車、原付またはトラックなどの道路車両に提供され得る。あるいは、本発明の電池は、列車または路面電車などの鉄道車両に提供され得る。本発明の電池はまた、電動自転車(eバイク)、ドローン、電動航空機、および電動またはハイブリッドボートに提供され得る。同様に、本発明の電池は、電動ドリルもしくは鋸などの動力工具、芝刈り機または草刈り機などの園芸工具、または歯ブラシまたはヘアドライヤなどの家電製品に提供され得る。
【0119】
本発明の電池は、回生ブレーキシステムに提供され得る。
本発明の電池は、携帯電話、ノートパソコン、またはタブレットなどの携帯型電子機器に提供され得る。
本発明の電池は、電力グリッド管理システムに提供され得る。
【0120】
〔使用〕
本発明は、一般に、本明細書に記載の電気化学セルなどの電気化学セルにおいて、ニオブ含有金属酸化物表面を有する作用電極の使用を提供する。通常、充電または放電中の電気化学セルの温度は、45℃以上、例えば、50℃以上、55℃以上、または60℃以上である。代替的に、充電または放電中の電気化学セルの温度は、10℃以下、例えば、5℃以下または0℃以下である。
作用電極は、本明細書に記載の方法で使用することができる。
【0121】
〔その他の選択〕
上記の実施形態のすべての互換性のある組み合わせは、すべての組み合わせが個別に明示的に記載されているように、本明細書に明示的に開示されている。
本発明の様々なさらなる態様および実施形態は、本開示を考慮して当業者には明らかであろう。
【0122】
本明細書で使用される「および/または」は、他方の有無にかかわらず、2つの特定の特徴または構成要素のそれぞれの特定の開示として解釈されるべきである。例えば、「Aおよび/またはB」は、それぞれが本明細書に個別に記載されているように、(i)A、(ii)B、および(iii)AおよびBのそれぞれの特定の開示と解釈されるべきである。
【0123】
文脈において別段の指示がない限り、上記の特徴の説明および定義は、本発明の特定の態様または実施形態に限定されず、記載されるすべての態様および実施形態に等しく適用される。
本発明の特定の態様および実施形態を、例として、上記の図面を参照して説明する。
【0124】
〔実験〕
以下の実施例は、本発明を説明するために提供されるものであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
・実施例1
〔Nb1655の合成〕
NbO(Alfa Aesar、99+%)または白色Nb(Sigma、99.9985%)とWO(Alfa Aesar、99.9%)を約1から5グラムのバッチで共熱酸化することによってNb1655(NWO)を合成した。部分的に還元された酸化物を、16:5のモル比で0.001g内にまとめ、めのう乳鉢と乳棒を使用して手動で粉砕し、10MPaでペレットに圧縮し、白金るつぼで10K・min-1の速度で1473Kまで加熱して、炉内で約2時間自然冷却した。NWO粉末はX線回折により相純粋であることが確認された。
【0125】
〔電極の調整〕
NMC-662をTargrayUSA社から入手した。スーパーP(TIMCAL)と、N-メチル-2-ピロリドンに分散させたポリフッ化ビニリデン(PVdF;Kynar)を、それぞれ導電性材料とバインダとして使用した。すべてのスラリは、90%の活物質、5%のスーパーP、および5%のPVdFバインダから構成され、混合はThinkyミキサ250を使用して行った。NMCおよびLFP電極を、80℃のオーブンで乾燥室において2時間乾燥させ、NWO電極は周囲雰囲気下で60℃のオーブンで一晩乾燥させた。すべての電極は室温でカレンダ加工され、電極の充填量は8.0~8.3mg/cm(NMC)、8.4~8.7mg/cm(LFP)、および8.8~9.4mg/cm(NWO)であった。
【0126】
〔電気化学的特性評価〕
すべての電気化学的測定は、2032型のステンレス鋼コインセルを使用して評価した。準備したカソード電極とアノード電極を100℃で3時間真空下で乾燥させた後、空気にさらさずにアルゴンを充填したグローブボックス(MBraun)に移動させた。グローブボックス内で、エチレンカーボネート(EC):ジメチルカーボネート(DMC)(1:1v/v)中に1.0Mのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を含むLP30電解質(Sigma-Aldrich)を使用してハーフセルおよびフルセルを組み立てた。40℃で2時間真空下で乾燥させた後、ポリエチレンセパレータ(東レ)を使用した。電解質分析では、ガラス繊維フィルタ(Whatman、GE)をセパレータとして使用した。フィルタも乾燥オーブン(Buchi)内で真空下で150℃で乾燥させた。10、25、および60℃の温度制御オーブン内でガルバノスタット/ポテンシオスタット(BioLogic)を使用することにより、さまざまな電流密度で定電流電気化学試験を実施した。すべてのテストセルの負と正の容量比は1.1~1.2であり、これは活物質の実際の容量、つまり、NWOの場合は171.3mAh/g、NMCの場合は175mAh/g、LFPの場合は165mAh/gに基づいて計算される。この試験のフルセル容量は、カソードの活物質質量によって計算される。対称セルテストでは、同じ充填量を有する2つのフルセルを0.2Cで動作させ、充電ステップ中にインピーダンスを2.0Vで測定した。1MHz~100mHzの周波数で10mVの振幅を適用してスキャンした。その後、セルをグローブボックス内で分解し、2つの対称セルを新しいLP30電解質を使用して組み立てた。同じ条件下で対称セルで電気化学的インピーダンスを再度測定した。
【0127】
〔電極の特性評価〕
特性評価のために、セルを分解し、DMCですすいだ後、真空下のプレチャンバで完全に乾燥させた。初期の電極と使用した電極のX線回折パターンを、CuKα源を使用して周囲温度でX線回折計(Empyrean、Panalytical)から透過モードで取得した。材料の格子定数、相および純度は、Fullprofソフトウェアを使用したリートベルト解析によって決定した。
【0128】
〔熱安定性〕
NWO/NMCおよびNWO/LFPセルの熱性能安定性を、10、25、および60℃でテストした(図2)。両方のセルにおいて、60℃(10C)で異なるCレートでテストしたセルの放電容量が、25℃と比較して相対的に高い(低い)値を示している。これらの現象は、セル内の電荷移動および拡散反応の速度論におそらく関連している。NWO/NMCセルの長期サイクル特性は、3つの異なる条件:60℃で10C(図2b)、ならびに10℃および25℃で5C(図2c)の下で300サイクル評価した。60℃(10C)でのセルサイクルは放電容量の30.8%の損失をもたらしたが、25℃(5C)および10℃(5C)では9.2%および15.5%の容量損失を示した。NWO/LFPセルの可変温度サイクルは、5Cレートで1000サイクル実施した。10、25、および60℃の温度(図2e)では、1000サイクルにわたって、それぞれ6.9%、7.9%、および18.1%の容量損失が観察された。これは、NWO/LFPの組み合わせが、ここで使用されている電解質を使用したNWO/NMCよりも優れたサイクル安定性および動作温度範囲を有することを示唆している。
【0129】
〔実施例2〕
0.1Ahから5Ahの範囲の異なる容量で複数のセルを構築した。アノードは、リチウムニオブ酸化物表面層を有するプレートレット状黒鉛のような小板を含む。92%の活物質、3%の導電性材料、および5%のバインダ(PVDFまたはSBR/CMC)のスラリを調製し、混合して、アルミニウムまたは銅などの集電体にコーティングとして堆積させた。これを、NMC622またはN811などのリチウム金属酸化物を含むカソードと対にして、ポリプロピレンまたはポリエチレン系セパレータとともに巻回して、ゼリーロールを得た(図5参照)。
【0130】
ゼリーロールを金属製の缶またはパウチ内に配置し(図5)、LiPFなどのリチウム塩を含む電解液を充填して密封した。密閉されたセルは、外部電源を使用して定電流、定電圧モードで充電して、セルを3Vまたは4.2Vなどの目的の電圧まで充電し、次に定電流によって1Vまたは0Vまで放電する。
【0131】
1Ahセルの場合、1Cは1Aの充電または放電電流に等しく、1時間でセルが完全に充電/放電される。2Cでは、同じセルが0.5時間で充電/放電され、0.5Cでは2時間で充電/放電される。サイクルデータは、充電中にセルに入力されるか、放電中にセルから取得されるCレートまたは電流を変化させることによって生成される。
【0132】
〔熱安定性〕
図3は、0.16Ahの容量を有するセルの熱性能安定性を示す。セルは、リチウムニオブ酸化物表面層を有さないセルに対して、65℃でテストする。放電レートは0.5C(155mhA)であり、充電レートは0.5Cから10Cの間で変化させた(図3a)。コーティングのないアノードを含むセルは、10Cの充電で50%近くの容量損失を示し、一方、表面ニオブ含有金属酸化物層を有するアノードを含むセルは、10Cで15%未満の容量損失を示す。コーティングされたセルの長期サイクル特性は、12Cの充電および0.5Cの放電レジームの下で500サイクルで評価する(図3b)。コーティングされていないセルは、65℃で500サイクルにわたって50%近くの容量の減少を示す。対照的に、コーティングされたアノードを含むセルは、65℃で500サイクルにわたって容量損失をほとんど示さない(5%未満)。
【0133】
図3cおよび3dは、リチウムニオブでコーティングされたアノードを含むセルの60℃と25℃でのサイクルの比較を示す。テストしたCレートでのセルのサイクルでは、容量の損失はわずか20%であり(図3c)、容量は400サイクルにわたってほぼ保持されていることがわかる(図3d)。これは、ニオブ含有金属酸化物でコーティングされたアノードセルが、コーティングされていないアノードセルと比較して、高温で優れたサイクル安定性を有することを示している。
【0134】
〔追加の実施例〕
負極組成物が、ニオブタングステン酸化物表面を有するプレートレット状黒鉛を含む追加のセルを構築した。セルはまた、高温で優れたサイクル安定性を示した。
図1
図2
図3
図4a
図4b
図4c
図4d
図5a
図5b
図5c
図5d
【国際調査報告】