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特表2022-552809肝移植のための臨床予後マーカー及び分子予後マーカー
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-20
(54)【発明の名称】肝移植のための臨床予後マーカー及び分子予後マーカー
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6851 20180101AFI20221213BHJP
   C12Q 1/6886 20180101ALI20221213BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20221213BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALI20221213BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20221213BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221213BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20221213BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20221213BHJP
   G06V 10/70 20220101ALI20221213BHJP
【FI】
C12Q1/6851 Z
C12Q1/6886 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6876 Z
A61L27/36 100
A61P35/00
A61P1/16
G06T7/00 350B
G06V10/70
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022520660
(86)(22)【出願日】2020-10-02
(85)【翻訳文提出日】2022-04-28
(86)【国際出願番号】 EP2020077757
(87)【国際公開番号】W WO2021064230
(87)【国際公開日】2021-04-08
(31)【優先権主張番号】19201218.5
(32)【優先日】2019-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522132281
【氏名又は名称】オフィオミクス-インベスティガカオ イー デセンボルヴィメント エン バイオテクノロジア エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(74)【代理人】
【識別番号】100181906
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 一乃
(72)【発明者】
【氏名】バロッソ,エデュアルド
(72)【発明者】
【氏名】マークス,ヒューゴ,ピント
(72)【発明者】
【氏名】リール,ホセ,ペレイラ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァズ,ジョアナ,カルドソ
【テーマコード(参考)】
4B063
4C081
5L096
【Fターム(参考)】
4B063QA19
4B063QQ08
4B063QQ52
4B063QQ53
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QX02
4C081AB11
5L096AA06
5L096BA06
5L096GA51
5L096KA04
(57)【要約】
本発明は、肝細胞癌(HCC)の治療のための肝移植のアウトカムを予測するための方法、又は肝移植を受けるようにHCC患者を割り当てるための方法に関し、前記方法は、HCCに罹患している患者から得られた肝サンプルにおいて、デルマトポンチン、クラステリン、カルパイン小サブユニット1、Fボックス及びWDリピート含有タンパク質7及びSprouty RTKシグナル伝達拮抗薬2から選択される指標遺伝子の発現レベルを決定する工程、及び前記指標遺伝子の発現レベルを内部コントロール遺伝子の発現レベルと比較し、変数の総腫瘍体積と組み合わせて線形サポートベクターマシンアルゴリズムを使用して肝移植レシピエントのポジティブな予後を予測する工程を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝細胞癌(HCC)の治療のための肝移植のアウトカムを予測するための方法であって、
- 決定工程において、HCCに罹患する患者から得られた肝臓サンプルにおいて、
a. クラステリン(CLU、遺伝子ID GC08M027596)、及び
b. デルマトポンチン(DPT、遺伝子ID GC01M168664)
を含む指標遺伝子の群のそれぞれの発現レベルを決定する工程、
- 分類工程において、患者を、前記指標遺伝子の発現レベルに基づいて肝移植のアウトカムとして良好な予後に割り当てる工程、
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記指標遺伝子の群は、
a. カルパイン小サブユニット1(CAPNS1、遺伝子ID GC19P036434)
b. Fボックス及びWDリピート含有タンパク質7(FBXW7、遺伝子ID GC04M152321)
c. Sprouty RTKシグナル伝達拮抗薬2(SPRY2、遺伝子ID GC13M080335)
のうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項1に記載のHCCの治療のための肝移植のアウトカムを予測するための方法。
【請求項3】
前記指標遺伝子は、閾値に対して過剰発現している、請求項1又は2に記載のHCCの治療のための肝移植のアウトカムを予測するための方法。
【請求項4】
前記指標遺伝子の過剰発現、特にDPT及び/又はCLUの過剰発現は、良好な予後を示す、請求項1~3のいずれか一項に記載のHCCの治療のための肝移植のアウトカムを予測するための方法。
【請求項5】
a. DPT及びCLUの過剰発現、及び
b. 総腫瘍体積が115cm以下であること
は、良好な予後を示す、
請求項1~4のいずれか一項に記載のHCCの治療のための肝移植のアウトカムを予測するための方法。
【請求項6】
前記指標遺伝子の発現レベルは、ポリメラーゼ連鎖反応によって決定され、前記閾値に対する前記指標遺伝子の発現値は、前記指標遺伝子の閾値サイクル数と内部コントロール遺伝子の閾値サイクル数との差として決定され、ここで前記閾値サイクル数は、産物(前記指標遺伝子及び前記内部コントロール遺伝子)が検出されるPCRサイクル数である、請求項1~5のいずれか一項に記載のHCCの治療のための肝移植のアウトカムを予測するための方法。
【請求項7】
指標遺伝子の閾値サイクル数の差が、
a.DPTについて、DPTは7より高く、かつ
b.CLUは、-0.54より高い場合、
前記指標遺伝子は、過剰発現しているといえる、請求項1~6のいずれか一項に記載のHCCの治療のための肝移植のアウトカムを予測するための方法。
【請求項8】
患者のサンプルにおける1つ又は複数の前記指標遺伝子の発現レベル、及び/又は腫瘍体積の測定値は、疾患の再発の可能性を反映する値を提供するようにアルゴリズムに組み込まれ、特に前記アルゴリズムは、サポートベクターマシンアルゴリズムであり、より特に前記アルゴリズムは、線形カーネルサポートベクターマシンアルゴリズムである、請求項1又は7に記載のHCCの治療のための肝移植のアウトカムを予測するための方法。
【請求項9】
肝移植バイオマーカーの高発現を検出するためのシステムであって、DPTの発現、並びにCLU、CAPNS1、FBXW7及びSPRY2から選択される遺伝子の発現、特にDPT及びCLUの発現を決定するための手段を含む、前記システム。
【請求項10】
HCCの治療のための肝移植のアウトカムを予測するためのバイオマーカーを分析するためのキットにおける、DPT及びCLUの発現、並びに任意にCLU、CAPNS1、FBXW7及びSPRY2から選択される追加のバイオマーカーの発現の増幅及び検出のためのプライマーの使用。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか一項に記載のとおりの方法に従って患者が良好な予後を有する可能性があると分類されている、以前にHCCと診断されている患者を、肝移植の処置を用いて治療する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年10月2日付け欧州特許出願番号第EP19201218.5号の優先権を主張するものであり、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、肝細胞癌の治療過程において肝移植を受けることを予定している、或いは検討している患者の予後のための、又はポジティブなアウトカム(outcome)の可能性を判定するための方法に関する。患者の選択についての現在の基準と比較して、臨床マーカー及び分子マーカーの両方を統合的に適用することで肝移植の可能な候補者の選択を改善することができる。この適用は、肝細胞癌により肝移植が必要とされる患者の選択を改善することに貢献するであろう。
【背景技術】
【0003】
説明
肝細胞癌(Hepatocellular carcinoma(HCC))は、高頻度でみられる疾患であり、死亡率及びクオリティ・オブ・ライフに大きな影響を与える。この多因子病因及び複雑な病因を理解することは、現在の治療法における患者の層別化の情報を与えるため、又は患者のゲノムに最適化した個別化医療を設計するために重要である。肝移植(Liver transplantation(LT))は、肝硬変におけるHCCの最良の治療法であるが、この疾患について不良なアウトカムの可能性が高いため、臓器の利用可能性は限られている。さらに、現在の基準の拡大は、移植に対する需要のさらなる増加につながり、よって移植前リストの待機時間が長くなり、離脱率が増加し、治療意図(intention-to-treat)のアウトカムを悪化させると考えられている。臓器が入手できる場合でも、LTの利益はドナーのリスクと釣り合わなければならない。
【0004】
したがって、HCC患者の最適な選択が不可欠である。現在の臨床形態モデル、すなわちミラノ基準(MC)の逼迫により、優れた候補者、例えば、進行性であるが、今のところ「良性」の疾患経過の後期に発見される腫瘍を有する患者を除外する可能性がある。逆に、MCは、腫瘍挙動の侵襲性が高い形態であることを特徴とする初期のHCC患者を除外しない場合がある。肝硬変の状況でのHCC患者における肝移植の最良の候補者の特定は、肝移植(LT)の候補者の数を潜在的に増加させ、したがってドナープールの需要に影響を与える。
【0005】
分子バイオマーカーは、腫瘍の生物学的挙動に関する関連情報を提供することができる。しかし、現時点では、患者のHCC分子バイオマーカーを扱った研究はほとんどないため、移植するための患者の適切な選択を可能にする利用可能な合意に基づく予後バイオマーカーはない。腫瘍の形態に基づく基準は良好/不良な予後の患者を部分的にしか識別できないため、本発明者らは、予後に影響を与える遺伝子又は遺伝子シグネチャーに焦点を当てることが重要であると提案する。これらのうち、予後が良好なHCC患者で発現する遺伝子(すなわち、アップレギュレーションが良好なアウトカムをもたらす遺伝子)は、LTの恩恵を受ける可能性が高い患者の亜群を選択するために現在受け入れられている基準を補足することができる。もちろん、負の予測遺伝子にはまた、病気が再発する可能性のある患者を特定できるため、重要な役割がある。
【0006】
デルマトポンチン(Dermatopontin(DPT))
DPTは、TRAMP(チロシンリッチ酸性マトリックスタンパク質)(遺伝子ID GC01M168664)とも呼ばれ、細胞-マトリックス相互作用及びマトリックス集合において機能することができる細胞外マトリックスタンパク質である。このタンパク質は様々な組織に存在し、間葉細胞(線維芽細胞、及び筋線維芽細胞)及びマクロファージで発現すると考えられている。この分子は、細胞外マトリックス集合、細胞接着、及び創傷治癒に重要である。この分子はまた、コラーゲン原線維形成を加速し、インビボでの細胞外マトリックスの微小環境におけるデコリンとの相互作用を通じてTGF-betaの挙動を改変する。DPTは、デコリンTGF-beta1複合体の形成を阻害し、TGF-betaに対する細胞応答を増加させることができ、かつその生物学的活性を高めることができる。さらに、DPTは、ビタミンD受容体の下流標的として同定されている。ビタミンD受容体は、次いで1,25-ジヒドロキシビタミンDの下流のシグナル伝達を媒介して、HCCに対して抗増殖効果を発揮する。DPTは、細胞接着性及び腫瘍浸潤性と相関している。DPTの強力な発現は、口腔がん及び骨の巨大細胞腫瘍の転移抑制と関連している。DPTのダウンレギュレーションは、TGF-beta1及びその他の潜在的なメカニズムとの可能な相互作用を介して、HCCの発がん及び進行に関連している。DPTの発現レベルは、健康な肝臓よりもHCC組織内で有意に低くなっている。
【0007】
カルパイン小サブユニット1(Calpain small subunit 1(CAPNS1))
プロテアーゼのファミリーであるカルパインは、細胞接着分子及び細胞骨格成分の構造を変化させるか、又は細胞内シグナル伝達経路に干渉することによって、細胞の移動及び浸潤に関与している。その制御サブユニットであるCAPNS1及びCAPN4は、カルパイン活性に重要な役割を果たし得る。悪性内皮細胞におけるCAPNS1のノックダウンは、拡散する能力を低下させることができるが、CAPNS1のアップレギュレーションは、動物のHCC切除後の腫瘍サイズ、数、及びα-フェトプロテイン(alpha-fetoprotein(AFP))レベルの増加と相関している。
【0008】
クラステリン(Clusterin(CLU))
CLU遺伝子シャペロンによりコードされるタンパク質であり(CLU,遺伝子ID GC08M027596)、細胞質型と分泌型の両方がある。EIF3Iとの複合体を形成したCLUは、Akt経路を活性化し、次いでHCC細胞の転移を促進する。
【0009】
Fボックス及びWDリピート含有タンパク質7(F-box and WD repeat containing protein 7(FBXW7)、遺伝子ID GC04M152321)
Sel10、hCDC4、又はhAgoとも呼ばれる遺伝子である「Fボックス及びWDリピートドメイン含有タンパク質7(FBXW7)」は、SCF E3ユビキチンリガーゼの基質認識成分として機能するFボックスタンパク質のファミリーのメンバーをコードする。FBXW7タンパク質は、重要な腫瘍抑制因子であり、ヒトのがんで最もよく一般に脱調節されたユビキチン-プロテアソーム系タンパク質のうちの1つである。FBXW7は、サイクリンE、c-Myc、Mcl-1、mTOR、Jun、Notch、及びAURKAなどの腫瘍性タンパク質のプロテアソーム媒介性分解を制御する。この遺伝子の変異は、卵巣がん及び乳がんの細胞株で検出され、これはヒトのがんの病因におけるこの遺伝子の潜在的な役割を示唆している。インビトロの研究では、FBXW7を肝細胞癌の予後マーカーとして使用できることが示され、FBXW7の発現レベルが低いとHCC患者の生存の低下に関連していることが示された。このようにFBXW7は、HCCの進行に重要な役割を果たす。つまりFBXW7は、Notch1シグナル経路を介してHCC細胞の移動及び浸潤を阻止する。
【0010】
Sprouty RTKシグナル伝達拮抗薬2(SPRY2、遺伝子ID GC13M080335)
4つのホモログのSPRY1~4を含むショウジョウバエSpry(Drosophila Spry(dSPRY))遺伝子ファミリーは、HCC発がんに関連するRAF/MEK/ERK経路の負のフィードバックループに関与していると考えられている。特に、SPRY2は、受容体型チロシンキナーゼ(receptor tyrosine kinase(RTK))シグナル伝達を調節し、かつRAF/MEK/ERK経路を抑制することにより、成長因子媒介性の細胞増殖、移動、及び分化に拮抗する。このタンパク質は、血管新生、細胞増殖、浸潤、移動、及び細胞質分裂など、がんの発生に関与する不可欠な経路の重要な調節因子である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の最先端技術に基づいて、本発明の目的は、全てのHCC患者の中からLTの最良の候補を正確に選択するのに役立つ分子マーカーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
分子マーカーは、腫瘍の挙動及び侵襲性を予測できる必要がある。この目的は、本明細書の特許請求の範囲によって達成され、さらなる有利な実施形態が全体として本明細書に提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、検証セットにおける再発に応じた選択された遺伝子の発現差異のRT-qPCR結果を示す図である。再発あり(R:左)と再発なし(noR:右)。ウィルコクソン(マン-ホイットニー)検定(信頼水準=0.95)。
図2図2は、DPT発現及び腫瘍再発に関する受信者動作特性(ROC)分析を示す図である。曲線下面積(area under curve(AUC))は0.77である。ΔCtカットオフ値が7に選択され、84%の感度及び63%の特異度に対応する。
図3図3は、DPT発現による無病生存(disease-free survival(DFS))を示す図である。
図4A図4は、ミラノ基準(MC)内外の患者におけるDPT発現による生存を示す図である。
図4B図4は、ミラノ基準(MC)内外の患者におけるDPT発現による生存を示す図である。
図5A図5は、総腫瘍体積(total tumour volume(TTV))が115cmを超える(A)、低分化(B)、又は微小血管浸潤(C)の患者におけるDPT発現による無病生存を示す図である。
図5B図5は、総腫瘍体積(total tumour volume(TTV))が115cmを超える(A)、低分化(B)、又は微小血管浸潤(C)の患者におけるDPT発現による無病生存を示す図である。
図5C図5は、総腫瘍体積(total tumour volume(TTV))が115cmを超える(A)、低分化(B)、又は微小血管浸潤(C)の患者におけるDPT発現による無病生存を示す図である。
図6図6は、HCV患者の亜群におけるDPT発現による生存を示す。
図7図7は、CLU発現による無病生存を示す図である。
図8A図8は、「不良な予後」の亜群におけるCLU発現による無病生存を示す図である。A:MCを超える患者。
図8B図8は、「不良な予後」の亜群におけるCLU発現による無病生存を示す図である。B:TTVが115cmを超える患者。
図8C図8は、「不良な予後」の亜群におけるCLU発現による無病生存を示す図である。C:微小血管浸潤を有する患者。
図8D図8は、「不良な予後」の亜群におけるCLU発現による無病生存を示す図である。D:低分化腫瘍を有する患者。
図9図9は、C型肝炎ウイルス(HCV)患者のCLU発現による生存を示す図である。
図10図10は、複合DPT/CLUのスコアによる無病生存を示す図である。
図11A図11は、MC外(A)、TTVが115cmを超える(B)、低分化腫瘍(C)、及び微小血管浸潤(D)の患者における複合遺伝子スコアを使用したDFSを示す図である。
図11B図11は、MC外(A)、TTVが115cmを超える(B)、低分化腫瘍(C)、及び微小血管浸潤(D)の患者における複合遺伝子スコアを使用したDFSを示す図である。
図11C図11は、MC外(A)、TTVが115cmを超える(B)、低分化腫瘍(C)、及び微小血管浸潤(D)の患者における複合遺伝子スコアを使用したDFSを示す図である。
図11D図11は、MC外(A)、TTVが115cmを超える(B)、低分化腫瘍(C)、及び微小血管浸潤(D)の患者における複合遺伝子スコアを使用したDFSを示す図である。
図12図12は、TTVが115cm以下の患者における複合遺伝子スコアのDFSを示す図である。
図13図13は、DPTとCLUとを別々、又はその組み合わせの発現による無病生存を示す図である。DPTは、CLUと比較した場合、長期生存者を予測するためのより優れた機能を示す。
図14図14は、予測アルゴリズムの混同行列の図である。
図15図15は、コホートの総集団について、CLU値、DPT値、及びTTV値を使用したアルゴリズムに基づく無病生存のカプランマイヤー曲線を示す図である。
図16図16は、ミラノ基準外の患者について、CLU値、DPT値、及びTTV値を使用したアルゴリズムに基づく無病生存のカプランマイヤー曲線を示す図である。
図17図17は、ミラノ基準内の患者について、CLU値、DPT値、及びTTV値を使用したアルゴリズムに基づく無病生存のカプランマイヤー曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、LTの肝硬変HCC患者を選択するための臨床基準を改良し、集団における選択されたバイオマーカーの役割を評価した。本発明者らは、ミラノ基準の現在の絶対的な臨床基準を超える患者の亜群におけるLTの最良の候補を特に決定するために現在の臨床マーカーの役割を検証して、腫瘍の生物学に正確に対処するために臨床的及び分子的な特徴の両方を統合した。
【0015】
公開リポジトリの臨床データ、HCCの分子予後バイオマーカーの主題に関する系統的レビュー、及び発明者が利用できる社内の臨床データを使用して、可能性のある候補遺伝子のセットを識別した。本発明者らは、予後値を用いて単一遺伝子の変化を識別し、それらを組み合わせて予測多変量シグネチャーにした。系統的レビューにより、LT後の予後情報を提供すると想定されたHCCの進行に関連する遺伝子を識別することができ、結果としてLTの患者選択に貢献した。
【0016】
本発明者らは、本明細書において、DPT、CLU、CAPNS1、FBXW7、及びSPRY2が、LT後にHCCの再発有りの患者と無しの患者とにおいて発現差異を示すことを実証している。さらに、DPT及びCLUは、LT後のHCCの再発がない、したがってポジティブな予後の患者の亜群を、単独で又は組み合わせて効果的に識別する。
【0017】
「遺伝子発現」又は「発現」という用語、或いは「遺伝子産物」という用語は、核酸(RNA)の生成又はペプチド若しくはポリペプチドの生成のプロセス、及びその産物のいずれか、又は両方を指すことができ、それらはまた、ポリペプチド産物を生成するためのそれぞれの転写及び翻訳、又は遺伝子情報のプロセシングを調節する任意の中間プロセスを指す。「遺伝子発現」という用語はまた、RNA遺伝子産物、例えば、調節性RNA又は構造(例えば、リボソーム)RNAの転写及びプロセシングに適用することができる。発現したポリヌクレオチドがゲノムDNAに由来する場合、発現は真核細胞におけるmRNAのスプライシングを含み得る。発現は、転写及び翻訳のレベル、すなわちmRNA及び/又はタンパク質産物の両方でアッセイすることができる。
【0018】
本発明の文脈における「良好な予後」という用語は、LT後5年間にHHC疾患の再発がないことを指す。良好な予後は、実施例において患者の生存との直接的な関連によって測定され、したがって、全生存(overall survival(OS))又は無病生存(disease-free survival(DFS))はほぼ同意義である。
【0019】
本発明の文脈における「サポートベクターマシン(support vector machine),SVM」、「線形カーネルSVM」、又は「SVMアルゴリズム」という用語は、データの分類、及び/又は回帰分析の実行を可能にする教師ありの機械学習モデルを指す。これは、サポートベクターネットワークと呼ばれることもあり、本発明の文脈では、バイナリ線形分類アルゴリズムの一形態として使用される。本発明の文脈において、アルゴリズムは訓練工程を使用し、サンプルをあるカテゴリ又は別のカテゴリ、例えば、5年での生存又は生存なしに割り当てるモデルを構築するように、患者データのサンプルが遺伝子発現レベル又は腫瘍体積測定値を含むがこれらに限定されない変数のセットに関連づけられる。
【0020】
一態様では、本発明は、HCCの治療のための肝移植のアウトカムを予測するための方法に関する。この態様の代替では、本発明は、肝移植によるHCCの治療の方法に関する。別の代替の態様では、本発明は、HCC患者を、肝移植を受けることから利益を得る可能性がより高いか、又はより低いかの異なる群に、言い換えれば、誰が疾患の再発なしにLT後のより長い全生存を示すかの異なる群に層別化するための方法に関する。
【0021】
本発明のこの態様による方法は、決定工程を含み、肝臓サンプルにおける遺伝子バイオマーカー、又は指標遺伝子の発現レベル(特にmRNAレベル)(本明細書では指標遺伝子発現レベルともいう)は、HCCに罹患する患者から得られ、前記指標遺伝子は:
a. デルマトポンチン
b. クラステリン
c. カルパイン小サブユニット1
d. Fボックス及びWDリピート含有タンパク質7
e. Sprouty RTKシグナル伝達拮抗薬2
を含む一覧から選択される。
【0022】
特定の実施形態では、指標遺伝子はCLU又はDPTである。
【0023】
本発明のこの第1の態様の代替では、肝細胞癌(HCC)の治療のための肝移植のアウトカムを予測するための方法であって、前記方法は:
- 決定工程において、HCCに罹患する患者から得られた肝臓サンプル中のCLU及びDPTを含む指標遺伝子の群のそれぞれの発現レベルを決定する工程、
- 分類工程において、患者を、前記指標遺伝子の発現レベルに基づいて、肝移植のアウトカムとして良好な予後に割り当てる工程、
を含む。
【0024】
特定の実施形態では、指標遺伝子の群は:
- カルパイン小サブユニット1
- Fボックス及びWDリピート含有タンパク質7
- Sprouty RTKシグナル伝達拮抗薬2
のうちの少なくとも1つをさらに含む。
【0025】
特定の実施形態では、前記指標遺伝子のいずれの過剰発現は、良好な予後を示す。
【0026】
特定の実施形態では、DPT及び/又はCLUの発現の過剰発現は、良好な予後を示す。
【0027】
特定の実施形態では、指標遺伝子は、閾値に対して過剰発現される。代替的な実施形態では、指標遺伝子の発現レベルは、各疾患のアウトカムのサブセットのために代表的な患者から選択されたコントロールサンプルと比較される。
【0028】
特定の実施形態では、指標遺伝子の発現レベルは、サンプル中に存在する指標遺伝子をコードするmRNAのレベルに感度を有する定量ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用することによって決定される。本発明によって特定される目的の指標遺伝子領域を増幅する特定のプライマーは、表6に提供され、これらは本発明によって提供される方法に従って指標遺伝子の発現レベルを決定するために特に使用することができる。グローバルRNAシーケンシングは、本発明に従って使用する遺伝子発現レベルを生成することができる代替の方法である。
【0029】
指標遺伝子の発現レベルは、内部コントロール遺伝子、特にハウスキーピング遺伝子の発現レベルと比較することができる。特定の実施形態では、指標遺伝子の発現レベルは、リボソームタンパク質L13A(RPL13A)(遺伝子ID 23521)の発現レベルと比較される。他の可能性には、GADPH及び/又はTBPなどの他のハウスキーピング遺伝子、又は遺伝子の組み合わせが含まれる。
【0030】
特定の実施形態において、指標遺伝子の発現レベルは、PCRによって決定される。閾値に対する指標遺伝子の発現値は、前記指標遺伝子の閾値サイクル数と内部コントロール遺伝子の閾値サイクル数との差として決定される。閾値サイクル数は、産物(前記指標遺伝子及び前記内部コントロール遺伝子)が検出されるPCRのサイクル数である。
【0031】
特定の実施形態では、以下の計算を使用して、指標遺伝子の発現レベルを反映する値を生成する:
標的の量=ΔCt
ΔCt(R)=Ct(R中のDPT)-Ct(R中の参照遺伝子)
ΔCt(nonR)=Ct(nonRのDPT)-Ct(nonRの参照遺伝子)
式中、Rは疾患の再発を伴うサンプルであり、nonRは疾患の再発を伴わないサンプルである。
【0032】
特定の実施形態では、指標遺伝子はDPTであり、その閾値は、7より高い遺伝子発現の差、又はΔCtである。
【0033】
特定の実施形態では、指標遺伝子はCLUであり、その閾値は、-0.54より高い遺伝子発現の差、又はΔCtである。
【0034】
特定の実施形態において、指標遺伝子の閾値サイクル数の差は、それを超える場合に遺伝子が過剰発現しているといわれ:
DPTの発現レベルのΔCt値は、DPTが7より高く、CLUの発現レベルのΔCt値は、-0.54より高いことである。
【0035】
本明細書で提供される閾値は、本発明による遺伝子発現レベルの分類に有用とされるΔCt値の例である。これらの閾値は、ハウスキーピング遺伝子を参照して遺伝子の発現を反映している。正の値を持つ遺伝子発現レベルは、ハウスキーピング参照遺伝子よりも多く発現され、負の発現値は、その遺伝子がハウスキーピング参照遺伝子よりも少なく発現されることを示す。指標遺伝子の過剰発現は、不良な予後の患者を良好な予後の患者から分離するためのΔCt閾値を超える発現として定義される。
【0036】
特定の実施形態では、115cm以下の総腫瘍体積の決定を伴うDPTの過剰発現は、良好な予後を示している。
【0037】
特定の実施形態では、115cm以下の総腫瘍体積の決定を伴うCLUの過剰発現は、良好な予後を示している。
【0038】
特定の実施形態では、例えば、CLU、DPTの発現レベル及び腫瘍体積の複数の患者因子又は変数を使用して、患者のアウトカムを予測する。本発明のこの態様の特定の実施形態では、特定の閾値を超える予測指標遺伝子であるCLU及びDPTの発現レベルは良好な予後を示す。関連の実施形態では、指標遺伝子発現及びHCC腫瘍体積≦115cmの追加の非遺伝的変数は、良好な予後を示している。
【0039】
特定の実施形態において、患者サンプル中の1つ又は複数の指標遺伝子の発現レベル、及び/又は腫瘍体積の測定値は、疾患の再発の可能性を反映する値を提供するためにアルゴリズムに組み込まれ、特に前記アルゴリズムは、サポートベクターマシンアルゴリズムであり、より特に前記アルゴリズムは、線形カーネルサポートベクターマシンアルゴリズムである。
【0040】
特定の実施形態では、指標遺伝子の発現レベル、及び腫瘍サイズの変数は、予測アルゴリズムで使用され、特に機械学習アルゴリズム、より特に、線形カーネルサポートベクターマシン(SVM)学習アルゴリズムで使用され、これらは患者を、良好な予後、特にLT後の次の5年間の良好な予後である可能性が高いか、又は低いかのサブセットに分類する。
【0041】
実施例に示されているデータは、CLUの過剰発現をこのコホートにおけるCt範囲が27.36~40.5に分類し、DPTの場合は33.49~35.69に分類した。コントロールと比較したCtの変化量として表示され(デルタ又はΔCtとも呼ばれる)、-0.54がCLUの過剰発現の有用な閾値であると決定した。同様に、ΔCt閾値が7であることは、患者サンプルにおけるDPT発現の有用な閾値として同定された。また、腫瘍体積が115cmより小さいことはまた、良好な予後を示すことがわかった。腫瘍体積の値は、患者の肝臓内に含まれる全ての腫瘍の合計を指し、腫瘍体積を定義するために使用できる有用な方法は、コンピュータ断層撮影及び磁気共鳴画像から選択することができる。
【0042】
患者のアウトカムの分類を支援するために、本発明のこの態様で特定されるような閾値は、患者の値を2値化するために特に使用することができる。実施例5で示されるデータは、CLU、DPT、及び腫瘍体積の有用な閾値を実証する。発現レベル又は体積がこれを下回るサンプルは0に割り当てられ、測定値が閾値を超えるサンプルはスコアが1に割り当てられる。得られたスコアがLT後の患者のアウトカムを示す分類システムを作成するために、この実施例では、患者のコホートからの2値形式の多変量データをSVMアルゴリズムに組み込むことが実行される。
【0043】
特定の実施形態では、決定工程には、DPTの発現と、CLU、CAPNS1、FBXW7及びSPRY2から選択される遺伝子の発現、特にDPT及びCLUの発現を決定することを含む。
【0044】
特定の実施形態では、CLU又はDPT単独の過剰発現は、良好な予後を示す。特定の実施形態では、本発明によって提供されるような指標遺伝子の発現レベル、総腫瘍体積(total tumour volume(TTV))、又はその2つの組み合わせに基づく予測分類は、ミラノ基準での評価など追加の予後予測因子と組み合わされる。実施例のデータは、CLUの発現レベルが、ミラノ基準外に分類されるHCC患者のサブセットにおいて、疾患のアウトカムを正確に予測できることを実証する。
【0045】
1996年にMazzaferroによって導入されたミラノ基準(Mazzaferroら,N Engl J Med.1996 Mar 14;334(11):693-9)では、HCCの成人に対する移植を次のとおり制限する:(1)単一腫瘍の径が5cm未満であること、(2)腫瘍病巣が3個以下で、それぞれが3cmを超えないこと、(3)血管浸潤がないこと、(4)肝外関与がないことである。
【0046】
さらに、本発明は、肝移植バイオマーカーの高発現を検出するシステムに関する。このシステムは、DPTの発現、及びCLU、CAPNS1、FBXW7及びSPRY2から選択される遺伝子の発現、特にDPT及びCLUの発現を決定する手段を含む。
【0047】
別の態様では、本発明は、HCCの治療のための肝移植のアウトカムを予測するために、バイオマーカーを分析するためのキットにおける、DPT及びCLUの発現、並びに任意にCLU、CAPNS1、FBXW7及びSPRY2から選択される追加のバイオマーカーの発現の増幅及び検出のためのプライマーの使用を包含する。
【0048】
さらに、本発明は、上記の態様及び実施形態のいずれか1つに規定されるとおりの方法に従って、患者が良好な予後である可能性が高いと分類されている過去にHCCと診断された患者を肝移植の処置を用いて治療する方法を含む。
【実施例
【0049】
実施例1:分子予後バイオマーカーの研究
本発明者らは、形態的特徴に基づく現在のいくつかの選択基準の性能を分析し、これらが良好な候補を除外し、かつ不良な候補を誤って含める可能性があることを示した。本発明者らは、移植後のHCC予後の推定バイオマーカーとして以前に同定された遺伝子を試験した。遺伝子DPT及びCLUは、単独で、又は組み合わせて、HCCのLT後の再発の可能性が非常に低い患者の亜群を効果的に識別することが可能であった。
【0050】
実施例2:肝細胞癌の分子予後マーカー
肝切除(liver resection(LR))におけるバイオマーカーを用いた研究を、重要な情報がLRを受けた患者のコホートにおいて得られるため解析に含めた。単一遺伝子とは異なり、シグネチャー間の重複は文献上珍しく、遺伝子シグネチャーは再現性がない場合が多い。そのため、本発明者らは特に、遺伝子シグネチャーではなく、単一遺伝子のバイオマーカーに着目した。さらに、バイオマーカーの多くは元の研究の設定外ではさらなる試験及び検証がなされていないため、現在の研究においてそれらを使用することは、少なくとも外部検証の努力を表している。
【0051】
本発明者らは、以下のデータを検索した:データの種類(mRNA、miRNA及びタンパク質)、予後情報、関与する特定の遺伝子、良好又は不良の予後遺伝子、変化の種類(過剰発現、ダウンレギュレーション、高/低メチル化、変異)、患者サンプル及び統計データ及び著者の観察。
【0052】
実施例3:試験的セット(pilot set)
この第1の群を、文献調査を通して特定されたより良好な予後に関連するバイオマーカーをより適切にトリミングし、また早期再発に関連する推定バイオマーカーの数をさらに減らすために実行した。最初に提案された20人の患者(実施例6、サンプル収集を参照)から、より高齢の症例に属する第1のサンプルからのRNA抽出が困難なため、9人の追加の患者を試験セットに含めた。3人の患者からのサンプルは、サンプルが不適当であるため使用されなかった。したがって、試験的セットは26人の患者からなった(再発のないMCを超えた6人の患者;再発のあるMCを超えた7人の患者;再発のないMC内の7人の患者;再発のあるMC内の6人の患者)。RNA抽出後、cDNAを得てRT-qPCRを実施した。最後に、評価した遺伝子の発現差異は、臨床データと相関した。表1は、MC内又はMCを超える再発に応じた試験セットの結果を示す。
【0053】
【表1】
【0054】
MC内の患者では、クラステリン(CLU、p=0.09)、CAPNS1(p=0.05)、及びFBXW7(p=0.04)が再発に応じて有意な発現差異を有した。MC外の患者では、クラステリン(p=0.02)、デルマトポンチン(p=0.06)、及びSLC16A4(p=0.08)もまた再発に応じて有意な発現差異を有した。クラステリンは全再発を識別する最も優れたマーカーであった(p=0.01)。次に、試験的研究の選択基準に合格した選択されたバイオマーカーCAPNS1、DPT、CLU、及びFBXW7のサブセットを検証セットに適用した。さらに、発明者はSPRY2を、他の2つの群では有意ではなかったにもかかわらず、試験的セットの「ミラノ基準内」の群ではp値は有意差がボーダーラインレベル(p=0.13)であったため、この検証セットのさらなる下流分析のために含めた。群「全基準」で有意差がボーダーラインレベルのp値(p=0.14)を示す他の遺伝子であるMUC15は、検証セットで試験される遺伝子の群に含めなかった。この除外は、非常に低い発現レベルに関連する可能性が高いRT-qPCRにおけるその機能の低下(Ctが高すぎ、サンプル破損が頻繁)のためである。
【0055】
実施例4:検証セット(validation set)
1992年9月から2014年2月の間にHCCのためにLTの対象にされた301人の患者の完全な集団が考慮された。包含及び除外基準(実施例6、研究の集団を参照)によれば、組織学的にHCCが確認された合計275人の患者をこの分析で特定した。除外された44人の患者のうち、32人は周術期死亡があり、12人は残存及び/又は肝外疾患を有した。以前に試験的セットに含まれていた患者(26)も、並びにLT後5年未満の患者(38)も除外した。最初の研究の集団は167人の患者からなった。33人の患者(19.7%)では、広範な腫瘍壊死(14/167;8.3%)、品質の低いRNA抽出(12/167;7.2%)、又はホルマリン固定パラフィン包埋組織が利用できないため(7/167;4.2%)、サンプル分析は不可能であった。その結果、LT後5年未満の20人の追加患者が追加され、検証セットは合計154人の患者となった。患者のサンプルが分子マーカーについて分析された患者の総数は180人であった。試験的セット(n=26)、検証セット(n=154)、及び全体の集団(n=180)の一般的な特性を表2に示す。
【0056】
期待のとおり、MC内及びMC外の患者がこの第1のセットに均等に分布していたため、試験的セットは検証セットと比較してより侵襲的な腫瘍特性を示した。試験的セットの患者は、より頻繁に血管浸潤、腫瘍サイズの増加、TTVの増加、及びMC内の患者の割合の低下を有する。全集団では、ドナー年齢の中央値は38歳であり、FAPドナーの割合が高いことと一致している(家族性アミロイド多発神経障害(Familial Amyloid Polyneuropathyに罹患する患者)は生体移植で治療されるが、患者の肝臓は他の患者の治療に利用できるようになる)。VHCが優勢であり、46%の患者が感染していた。重要な観察結果は、LTまでの待機時間が短いことであり、中央値は1か月で、平均待機時間は2.2か月(0~18)に対応する。腫瘍の中央値は1であり、平均2.17(1~11)に対応し、最大の腫瘍サイズの中央値は2.75cm(平均3.25cm,0.3~20cmまで変動)であった。120人(66.7%)の患者のみがMC内にあり、154人(85.6%)がTTV<115cm内であった。
【0057】
【表2】
【0058】
CAPNS1、DPT、CLU、FBXW7、SLC16A4、及びSPRY2の発現レベルを検証セットで解析した。多くのサンプルでは、SLC16A4の発現が低すぎて決定できず、この特定のバイオマーカーのさらなる解析は断念した。図1は、ウィルコクソン(マン-ホイットニー)検定を用いて、再発に従う選択された遺伝子の発現差異を示す。
【0059】
カルパイン小サブユニット1(Calpain small subunit 1(CAPNS1))
CAPNS1は、試験的セットでミラノ基準内の患者の再発に対してわずかな発現差異(p=0.05)を示したため検証セットに含めた。その結果、検証セットでは、腫瘍組織におけるCAPNS1の発現レベルは再発によって有意に異なっていた(OR 1.448,C.I.1.140~1.840,p=0.002).しかし、DFS(HR 1.073,C.I.0.978~1.178,p=0.136)、又はOS(HR 1.014,C.I.0.913~1.125,p=0.796)のいずれに関して、ハザード比(Hazard Ratio)の対応する有意差に反映されなかった。再発のカットオフ値を決定するためにROC曲線を使用した。AUCが0.63であることから、最適なカットオフ値はデルタCT値が0.20であると考えられ、感度65%、及び特異度45%に相当した。しかしながら、この変数を分類したところ、DFS(p=0.378)、又はOS(p=0.655)への影響は認められなかった。このマーカーは、再発との関連性を示すが、その分布により再発患者と非再発患者との間でかなり重複していることがわかった。
【0060】
デルマトポンチン(Dermatopontin(DPT))
DPTは、ミラノ基準を超えた患者において、再発に対するその発現差異がほぼ有意であったため、検証セットに含めた(p=0.06)。DPTは検証セットにおいて再発との強い関連を示した(OR 1.283,C.I.1.103~1.494,p=0.001)。DFS(HR 1.048,C.I.0.977~1.123,p=0.192)又はOS(HR 1.036,C.I.0.961~1.116,p=0.357)との関連は当初明らかでなかった。ROC曲線解析により、AUCは0.77であることがわかり(図2)、デルタCTのカットオフ値を7と決定することが可能であり、これは感度84%、及び特異度63%に相当した。この値を用いると、HR値0.480(C.I.0.295~0.782、p=0.003)がDFSについて観察された。ORについてHRは0.503(C.I.0.305~0.831、p=0.007)であった。強いDPT発現により再発リスクは約9倍に減少する(OR 0.116,C.I.O.037~O.363,p<0.001)。
【0061】
以上のことから、DPTの過剰発現はLT後に良好な予後であることを示す。DPTの強い発現を有する患者では、再発のリスクが5倍減少し、無病生存が50%、かつ全生存が40%増加した。DPTの発現は、LT後の良好な予後の患者を予後不良群から識別することができた。CLUの発現との可能な相乗効果により、微小血管への浸潤との関連性を見出した。この関連は、細胞外マトリックス集合及び細胞接着の機能に関連し、最終的には微小血管浸潤に影響すると考えられる。これは、DPTの発現とHCCに対するLT後の予後とを関連づけた最初の報告であり、この遺伝子が独立した良好な予後の予測因子であることを証明したことは初めてである。
【0062】
Sprouty RTKシグナル伝達拮抗薬2(SPRY2)
このタンパク質は、血管新生、細胞増殖、浸潤、移動、及び細胞質分裂など、がんの発生に関与する不可欠な経路の重要な調節因子である。Songら(Hepatobiliary & Pancreatic Diseases International 2012;11(2):177-184)は、肝切除を受けた無作為抽出のHCC患者240人のサンプルを用いて、組織マイクロアレイでのSPRY2の発現を調査した。207人の患者(86.3%)は、SPRY2発現のダウンレギュレーションを示し、これは、生存の低下(p=0.002)と再発の増加(p=0.003)と相関し、HCC患者における術後再発の独立予測因子として作用した(HR=1.47;95%CI、1.02~2.08;p=0.037)。本発明者らの研究は、SPRY2の過剰発現をHCCのためにLTに供された患者の集団における再発の増加と相関させる最初の研究である。しかしながら、本発明者らは、再発患者と非再発患者とを効果的に区別することができるカットオフ値を、2つの群の間に有意な重複が存在したため決定することができなかった。したがって、SPRY2の臨床的関連性は、依然としてさらなる研究で試験されるものである。
【0063】
SPRY2は、試験的セットにおいて、ミラノ基準内の再発に対していくらかの発現差異を示した(p=0.13)。検証セットでは、SPRY2は再発と有意に相関し、ORは1.342(C.I.1.106~1.628,p=0.003)であった。しかしながら、DFS(HR 1.050,C.I.0.962~1.145,p=0.273)、又はOS(HR 1.030,C.I.0.943~1.125,p=0.514)について関連性は認められなかった。AUCが0.68であったことから、最適なカットオフ値はデルタCT値が7.6であると決定され、感度69%、特異度65%に相当した。しかし、DFS(HR 1.420,C.I.0.897~2.248,p=0.134)、又はOS(HR 1.305,C.I.0.814~2.094,p=0.269)について関連性は認められなかった。
【0064】
クラステリン
試験的セットでは、CLUはミラノ基準を超えた患者における再発に対する発現差異を明らかにし(P=0.02)、全セットのサンプルにおいても同様であった(P=0.01)。検証セットでは、ウィルコクソン検定により、CLUの発現は再発と関連していないようであった(図36)。しかしながら、ロジスティック回帰分析により、検証セットではCLUの発現が再発と相関することが明らかになった(OR 1.219,C.I.1.059~1.403,p=0.006)。ウィルコクソン検定は、非常に堅牢な統計的検定であるが、群の間の微妙な違いに感度がないため、本ケースでは、再発群と非再発群の間の微妙な発現差異として反映された。DFS(HR 1.073,C.I.0.978~1.178,p=0.136)、又はOS(HR 1.014,C.I.0.913~1.125,p=0.796)との関連は当初みられなかった。ROC曲線を用いてΔCTのカットオフ値-0.54が決定され、AUCは0.59に相当した(感度77%、特異度35%)。このカットオフでは、DFSのHRは1.568であり(C.I.0.951~2.584、p=0.078)、かつOSのHRは1.550であった(C.I.0.926~2.595、p=0.096)。この関連性は弱いと思われるが、多重ロジスティック回帰分析及びコックス回帰分析で試験するのに十分なものであると考えられた。
【0065】
Fボックス及びWDリピート含有タンパク質7(FBXW7)
FBXW7のレベルは、試験的セットにおけるミラノ基準内の患者において、再発に応じて発現差異を示すと思われた(p=0.04)。しかし、検証セットではこの差は確認されなかった。ロジスティック回帰では、再発のORは1.238(C.I.0.894~1.052、p=0.545)であることが明らかになった。コックス回帰分析では、DFSのHRは1.023が得られ(C.I.0.929~1.128、p=0.640)、OSは1.000(C.I.0.900~1.113、p=0.994)が得られた。
【0066】
実施例5:総集団の分析
本発明者らは、180人の患者の全集団を分析した。検証セットで得られた結果を考慮し、腫瘍組織におけるハウスキーピング遺伝子の発現に対してΔCT値によって測定されたCLUとDPTの発現レベルをこの分析に含めた。
【0067】
この集団において再発に関連する因子を多重ロジスティック回帰で検定した(表3)。本発明者らは、腫瘍の数、微小血管浸潤及び低分化が、組織学的総腫瘍体積(TTV)のように、再発と独立して関連していることを観察した。DPT発現を使用すると、再発の予測リスクは5倍を超えて減少したが、CLU発現は再発リスクの61%までの減少が予測された。ただし、両方がモデルに導入された場合、DPT発現のみが依然として独立して再発を予測したが(OR 0.178、C.I.0.063~0.507、P=0.001)、CLU(OR 0.729、C.I.0.063~0.507、P=0.554)はそうではなかった。変数「DPT発現」と「CLU発現」の間の統計的交互作用は、再発をアウトカムの変数として使用して検出されなかった(p=0.402)。CLU(p=0.94)とDPT(p=0.960)の両方の発現は、低分化腫瘍との関連はなかった。
【0068】
【表3】
【0069】
DPTの強い発現は微小血管浸潤の減少と関連していたのに対し(OR 0.370,C.I.0.140~0.979,p=0.045)、CLUの発現はそうではなかった(p=0.173)。しかし、微小血管浸潤をアウトカムの変数とした場合、DPTとCLUとの間に相互作用が検出された(p=0.033)、これは、DPT発現が低い又は高い腫瘍における微小血管浸潤の発生がCLUの発現と強い相関があることを意味している。本研究では、DPTの発現が低い患者の21.2%(14/66)が微小血管浸潤を有していた。この亜群では、CLUが強く発現している場合、微小血管浸潤の発生は4.8%(1/21)であり、同時にCLUが低く発現している場合は、28.9%(13/45)の患者に微小血管浸潤がみられた(p=0.027)。この相互作用は科学文献では検出されたことがなく、今後の研究で説明されるべきものであり、これらの遺伝子間の関連性を示唆している。
【0070】
【表4】
【0071】
表4は、総集団におけるDFSの多変量コックス回帰分析の結果を示す。微小血管浸潤はDFSの減少と相関する唯一の因子であった。一方、DPT及びCLUの強い発現レベルは、正の予測因子として働き、生存の増加と相関していた。CLU及びDPTの両方を同時にモデルに導入する場合、CLUは独立変数ではなくなるが(HR 0.600,C.I.0.351~1.026,p=0.062)、CLUとDPTとの間に統計的相互作用は検出されなかった(p=0.822)。
【0072】
デルマトポンチン(Dermatopontin(DPT))
本発明者らは、DPTの発現が強いか弱いかでDFSを観察した(図3)。ΔCTレベルが7を超えるとして定義される強いDPT発現を示す患者は、5年及び10年でそれぞれ70%及び52.2%のDFSとなった。強いDPT発現により、MCを超えた患者でも、予後がより良好な患者の亜群を特定することも可能であった(図4)。これは、TTV>115cm、微小血管浸潤の存在、又は低分化など、他の予後不良基準を示す患者にも適用した(図5A、B、及びC)。最後に、強いDPT発現を示すHCV患者の亜群では、5年及び10年のDFSがそれぞれ79.2%及び58.8%であった(図6)。
【0073】
クラステリン(CLU)
CLUの発現は、組織マイクロアレイを用いて198個のHCC標本で解析した(Wangら,Oncotarget 2015;6(5);2903-16)。CLUタンパク質は、腫瘍細胞の細胞質で主に検出された。多変量コックス回帰分析により、CLUの過剰発現は、切除後の腫瘍再発の独立した予後因子であることが示された(HR 1.628)。また、同じ研究で、CLUの過剰発現は、インビトロでHCC細胞の浸潤を有意に促進し、かつインビボで遠隔肺転移を促進するが、CLUをサイレンシングすることによりインビトロ及びインビボでHCC細胞の浸潤能が低下することが見出された。CLUの過剰発現は、前立腺がん、腎細胞がん、胆嚢がん、及び乳がんにおける転移能を増強することができる。
【0074】
今回のコホートでは、CLUの過剰発現は再発及び生存との関連を示し、かつLT後の予後が良好な患者を予後不良群から識別することができた。また、CLUは無病生存(DFS)にも重要な影響を及ぼした(図7)。強いCLUの発現を有する患者は、5年生存が68.9%、10年生存が56.1%を示した。DPTほど顕著ではないが、CLU発現値単独は、ミラノ基準を超える患者(A)又はTTVが115cmを超える患者(B)など、予後不良の群内で使用した場合、より良好なアウトカムを有する患者を選択することができる。微小血管浸潤(C)又は低分化(D)の患者は、明確な傾向が認められたが、CLU発現による生存との統計的な有意な関連性はなかった(図8)。CLU発現が強いHCV患者の亜群は、5年及び10年のDFSがそれぞれ74%及び67%であった(図9)。
【0075】
【表5】
【0076】
全生存(overall survival:OS)の多変量コックス回帰分析もまた実施した。エタノール摂取と微小血管浸潤は、独立してOSの減少と関連していた。微小血管浸潤は知られている危険因子であるが、エタノール摂取によるOSの減少は、対応するDFSの減少を伴わず、エタノール心筋症などエタノール中毒によくみられる関連併存疾患と関係し得る。DPTとCLUの両方の強い発現は、独立してOSの増加と関連していた(表5)。
【0077】
予測力を有する多変量解析の組み合わせ
HCCのアウトカムに関連する遺伝子の予後力(prognostic power)を強化するために、全ての遺伝子の予測力を組み合わせた多遺伝子モデルを開発し、DPTとCLUとの間の相乗効果について調査した。この2つの遺伝子を合わせた発現に基づく単純なスコアを使用した。それらのDFSのハザード比は類似していたため、各遺伝子に対して同じポイントであり:両方の遺伝子の弱い発現の場合は0ポイント、1つの遺伝子の強い発現の場合は1ポイント、両方の遺伝子の強い発現の場合は2ポイントである。両方の遺伝子の強い発現は、5年及び10年でそれぞれ78%及び60%の生存と関連しており、遺伝子の組み合わせはDPT単独又はCLU単独よりも優れていた(図10)。このスコアは、ミラノ基準によって除外された患者(図11A)、TTVが115cmを超える患者(図11B)、及び低分化腫瘍の患者(図11C)のLT後の良好な予後を識別する。この場合も、統計的有意性には達していないが、微小血管浸潤のある患者では生存が増加する傾向が認められた(図11D)。結果は、各遺伝子によって個別に得られたものよりも優れている。図12は、TTVが115cm以下と組み合わせたこの単純な構成遺伝子スコアを使用して予測生存を示す。この組み合わせにより、LT後の予後が非常に良好な患者の群、LT後の予後は中程度であるが依然として許容できる群、及びLT後の予後が不良な群が特定される。
【0078】
それぞれの個々の遺伝子の以前に示された結果によると、DPTはCLUと比較した場合に優れた予測力を持っている可能性がある。その結果として、この2つの遺伝子のうち1つだけを強く発現している患者の予後力をより良好にアッセイするために、これらの遺伝子の組み合わせを、スコアを使用せずに評価した(図13)。
【0079】
複数の遺伝子をHCCの予測戦略に組み込む第2のアプローチでは、線形カーネルサポートベクターマシン分類アルゴリズムにおいて、2つの遺伝子CLU及びDPTの発現レベルの値をTTVと共に使用した。アルゴリズムの性能を評価するためにジャックナイフ戦略を使用した。つまり、アルゴリズムは1つを除く全てのデータポイントを使用して訓練され、この1つを使用して評価し、次いでこのプロセスが全てのデータポイントに対して繰り返され、結果を収集した。テストサンプルを削除した後、残りのデータセットはデータ拡張(SMOTE)及び正規化(単位分散及びゼロ平均)手順にかけた。これは、バランスの取れた訓練データセットを取得し、かつ最も支配的な分類への過剰適合を防ぎ、かつ全ての特徴が分類特徴空間で同等であることも確認するために実施された。
【0080】
154人の患者で構成されるコホートは、3つの変数を使用した多変量アルゴリズムを用いて評価した。変数は、閾値を下回る患者にはその特徴に対して0の値が割り当てられ、閾値を超える患者には1の値が割り当てられる閾値手法を使用して2値化した。閾値の単位はそれぞれの特徴と同じである(遺伝子発現についてはΔCt、腫瘍体積については体積単位)。使用した閾値の値は、CLUについては-0.54のΔCt、DPTについては7のΔCt、TTVについては115cmであった。以下の結果は、評価手順の後に得られ、複数の指標遺伝子と腫瘍体積とからのバイナリデータを組み込んだアルゴリズムが、HCCを治療するためにLT後に疾患の再発を示す可能性のある患者を正確に分類することを実証している(正確度67%、偽陽性22%、精度91%、再現率64%、図14図15)。分類の精度率は、現在の臨床診療で使用されるミラノ基準内(正確度69%、偽陽性36%、精度92%、再現率71%、図16)又はミラノ基準外(正確度62%、偽陽性11%、精度87%、再現率45%、図17)としていずれかに分類された患者のサブセットで実行された場合にも良好であり、指標遺伝子発現(並びに腫瘍体積)の閾値に基づくバイナリスコアに基づく患者の分類はLT後の良好なアウトカムの可能性のある患者のサブセットを識別でき、そうでなければ、この処置を受けることから除外することができることを示唆している。
【0081】
例として、患者1は以下の値:DPT=10.48、CLU=5.34、及びTTV=18.0を有し、患者2はDPT=4.39、CLU=0.84、TTV=5.0有する。次に、これらの値はそれぞれの閾値を使用して2値化され、各変数のバイナリ値が得られる。この変数は、再発の予測を示すバイナリ値を生成するために線形カーネルSVMアルゴリズムにかけられる。このモデルは推定確率を生成することができ、この例では、出力を簡略化するために、結果自体が2値化されて、50%の確率を上回る値及び下回る値を分離する。結果の解釈は単純であり、再発の発生が予測されるか(R,0)、又は再発が予測されないか(NR,1)を単に示すバイナリ値が出力される(表7)。
【0082】
【表6】
【0083】
最後に、不均一性(heterogeneity)の問題も検討した。同じ腫瘍の異なる場所からのサンプルが7人の患者で利用可能であった。発現レベルの変動をCLU及びDPTについてハウスキーピング遺伝子に関して測定し、かつ異なる値が、以前に計算されたカットオフ値により設定された群の移動を引き起こすかどうか(「群の移動(group migration)」)を測定した。これらのサンプルでは、DPTの発現レベルにほとんど変化がなく、これらの値に基づいて別の群に移動しなければならない患者はいなかった。一方、CLUの発現は、腫瘍の不均一性と関連しているようであった。これらの結果は、DPTの腫瘍内遺伝子発現が均一性である可能性が高いことを示唆している。
【0084】
CAPNS1
HCCのLTを受けている192人の患者を含む研究では、CAPNS1の過剰発現は、腫瘍の数とサイズ、腫瘍のカプセル化、静脈浸潤、及びpTNM病期と有意に関連していた。多変量解析により、CAPN4の発現がHCC患者の生存の強力な独立した予後因子であることが明らかになった(HR 4.068、C.I.2.524~6.555;p<0.001)。本発明者らは、CAPNS1発現と再発との関連を実証した(p<0.001)。しかしながら、OS又はDFSとの相関は実証されず、ΔCtのカットオフ値が再発する患者又は再発しない患者を区別するのに有用であることが証明されなかった。CAPNS1は、他の識別マーカーとの組み合わせに有望なマーカーである。
【0085】
実施例6:材料と方法
分子予後バイオマーカー
予後に関する臨床的要因が特定された後、本発明者らは、HCCの予後に関してより大きな識別力を有する可能性がある分子バイオマーカーを特定することを目的とした。このため、カレーカブラル病院(Curry Cabral Hospital)のCHBPTとOphiomics精密医療社(Ophiomics-Precision Medicine)との間で共同研究が確立され、主任研究員にはJose Pereira Leal教授が就き、一共同研究員にはJoana Cardoso Vazが就いた。分子バイオマーカーの研究には、HCC患者の公的リポジトリ及びHCCのバイオマーカーに関する公開された文献のデータマイニング及びバイオインフォマティクス解析が含まれた。
【0086】
データマイニング及びバイオインフォマティクス解析
肝切除及び移植を受けたHCC患者の公的リポジトリにある分子データのマイニング及びバイオインフォマティクス解析を行った。HCC患者に関する利用可能な公開データを、miRNA及びmRNAの発現プロファイリングデータを含む本発明者らの解析パイプラインで再解析した。
【0087】
肝細胞癌の予後分子マーカー:系統的レビュー
本発明者らは、LTを受けたHCC患者に関する以前に公開されたバイオマーカーについて文献を調査した。LT患者におけるデータは乏しく、重要な情報は肝切除を受けた患者のコホートで得ることができるため、LR(肝切除)におけるバイオマーカーを用いた研究もこの解析に含まれた。HCCの切除又は移植を受ける患者の予後に対する分子バイオマーカーの役割について利用可能なエビデンスの系統的な文献レビューを実施した。このレビューは、米国アカデミー協会医学研究所の系統的レビューの基準の一般的なガイドラインに従った。このレビューの目的は、HCCに対してLR又はLTを受けた患者の予後における分子バイオマーカーの役割を評価することである。
【0088】
集団:調査は英語の学術論文に限定し、2008年1月から2016年10月まで実施した。抄録形式でのみ発表された研究、未発表の研究、査読なしのジャーナルに発表された記事は含まれなかった。動物実験及びインビトロ研究も除外された。HCCの予後に関連しない分子マーカーの研究も除外された。治療介入:HCCのための肝切除及び移植。切除を選択する理由は、LTに関する研究の不足のためであった。アウトカム:調査された主なアウトカムは、無病生存、再発及び全生存である。研究の設計:この設定ではランダム化比較試験(randomized controlled trial(RCT))及びコントロール試験はまれであるため、データが不足しているため遡及的性質であっても包含することに対してコホート研究が適格であった。レビューには症例シリーズは容認され、症例報告は除外した。経済評価もまた除外した。PubMed、Clinical key、及びCochraneのデータベースの調査は、様々な組み合わせで次のキーワード:肝細胞癌、手術、切除、移植、予後、分子及びバイオマーカーを使用して実行した。特定された論文の引用文献は、さらに関連する出版物を探すために使用した。取得したデータには、データの種類(mRNA、miRNA、タンパク質)、予後情報、関連する特定の遺伝子、良好又は不良な予後の遺伝子、変化の種類(過剰発現、ダウンレギュレーション、高メチル化及び変異)、患者サンプル、統計データ、及び著者の観察結果が含まれた。バイオマーカーは、予測力、様々なセンター間の引用数、技術を再現する能力、及び利用可能な試薬に従って選択した。上位のバイオマーカーの候補を選択した後、試験的研究を実施した。
【0089】
研究集団
包含基準及び除外基準は、臨床バイオマーカーに関する研究で以前に使用されたものと同じであった。包含基準:肝細胞癌のために肝移植を受けた患者。除外基準:18歳未満の年齢;肝硬変なし;線維層状組織学的又は肝胆管癌の組織学的な種類;HCCの組織学的確認の不在;及びさらに、本発明者らの主なアウトカムの尺度は再発/無病生存であったため、本発明者らは、周術期死亡、肝外浸潤及び残存疾患を有する症例を除外した。1992年9月から2014年2月の間にHCCのためにLTを受けた301人の患者の完全な集団を考慮した。除外基準を適用した後に得られた231人の患者から、発明者は5年を超える追跡調査(フォローアップ)を行った患者のみを含めた。本研究で使用されたサンプルの最終セット(試験的セットと検証セット)には、180人の患者が含まれた。試験的セット:試験的セットには、ミラノ基準を超えた再発ありの患者(n=6)と再発なしの患者(n=7)、及びミラノ基準内で早期再発ありの患者(n=6)と再発なしの患者(n=7)が含まれた。試験的研究における選択基準に合格したバイオマーカーのサブセットは、検証セットを使用して2ラウンドの分析を行った。検証セット:275人の患者の初期集団から、以前に試験的セットに含まれていた患者、周術期死亡、肝外浸潤、残存疾患、及びフォローアップが5年未満の患者を除外し、最初に検証セットに含まれた患者は154人であった。
【0090】
サンプル収集
カレーカブラル病院の肝胆膵移植センターで肝移植を受けた180人の患者について、この患者らの腫瘍標本はホルマリンで固定しパラフィンブロックに保存されていた。選択された全てのブロックについて、経験のある病理学者の監督のもと、ヘマトキシリン・エオシン(HE)染色された切片に対して病理組織学的な特徴付け及び領域の選択が行われた。カレーカブラル病院の医療倫理審査委員会及びNOVA医科大学の倫理審査委員会の双方は本研究を承認した。
【0091】
RNA抽出とcDNA合成
保存されたホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織切片(5μm)を脱パラフィン化し、マイヤ-(Mayer)のヘマトキシリン・エオシンで対比染色した。全てのサンプルは、病理医の指導のもとマクロ解剖した。全RNAはRNeasy FFPEキット(Qiagen)を用いて、若干の修正を加え製造元の指示に従い抽出した:56℃でのプロテイナーゼK細胞溶解は一晩実施した。RNaseフリーDNaseセット(Qiagen)の「オンカラム」DNA消化手順が含まれた。抽出された各RNAサンプルは、SuperScript(商標)VILO(商標)cDNA合成キット(Thermo Fisher Scientific)を使用して逆転写した。
【0092】
【表7】
【0093】
定量的リアルタイムPCR
知られているFFPE分解の問題と少量の抽出サンプルのため、標準的な方法ではRNA濃度と完全性を評価できなかった。そのため、本発明者らは、Agilent 2200 TapeStationシステム(Agilent)で、高感度なRNA ScreenTape(Agilent)を使用して、単離されたRNAサンプルの量と質を取得した。プライマーセットは、NCBIプライマーBLASTツール(Yeら,BMC Bioinformatics 2012;13:134)を使用して、60℃で動作し、増幅産物長は70~100bp(表6)であるように設計し、そしてそれらをInvitrogen(Thermo Fisher Scientific)から購入した。各サンプルの複製は、テンプレート(1μL、0.5~1ng/μL)及びプライマー(それぞれ0.5μM)を含む10μLの反応混合物においてSsoFast(商標)EvaGreen(登録商標)Supermix試薬(BioRad、ハーキュリーズ、カリフォルニア州、米国)を使用してRT-qPCRによって分析した。サンプルは、CFX96 Touch(商標)リアルタイムPCR検出システム(BioRad、ハーキュリーズ、カリフォルニア州、米国)で以下のサイクルプログラムに従って処理した:120秒間98℃、5秒間98℃及び15秒間60℃で50サイクル。蛍光データ収集は60℃で行った。データ及び統計解析については、RT-qPCRによる標的遺伝子の相対的な発現差異解析は、2ΔΔCt、又はΔCtの方法に基づいて発現の倍数変化を計算した。ここでは、Livakら,Methods 2001;25(4):402-8による、キャリブレーター遺伝子のリボソームタンパク質L13a(RPL13A)のCtと比較しサイクル閾値(Ct)として複製の平均定量サイクルを使用し、1を超える値はアップレギュレーションを指し、1未満の値はダウンレギュレーションを示している。疾患の再発のある(R)及び再発のない(nonR)サンプルのセットの間のRT-qPCRデータを使用する標的遺伝子の発現差異は、統計計算用のR言語(Team RDC、オーストリア、2009)を使用して実行し、統計的有意性はウィルコクソンの順位和検定(信頼水準=0.95)を使用して計算した。
【0094】
さらに、得られたRT-qPCRデータはまた、臨床マーカーについて前述したのと同じ方法を使用して、各候補の標的遺伝子について患者の無病生存と個別に相関させた。連続変数は、四分位範囲(interquartile range:IQR)の中央値又は平均及び標準偏差(SD)として表され、独立したサンプルのt検定を使用して比較した。移植患者の目的の人口統計変数は、必要に応じてスチューデントのt検定、ピアソンのカイ2乗検定、又はフィッシャーの直接確率検定を使用して比較した。アウトカムの変数は、再発(無病生存)及び死亡(全生存)であった。アウトカムまでの時間は、移植日からイベント日まで、又はイベントを経験しなかった患者の最後のフォローアップ期間の日までを使用して計算した。カプランマイヤー生存曲線は、移植後のアウトカム分析のために作成した。ログランク検定とコックス回帰モデルとを使用して、無病生存と全生存とに対する人口統計変数の効果を調べた。カットオフ値は、受信者動作特性(ROC)分析によって決定した。多変量解析では、アウトカムのP<0.20に対して有意な全ての変数を、アウトカムの種類に応じてコックス比例ハザードモデル(Therneauら、Springer-Verlag、2000)又は多重ロジスティック回帰モデルに含めた。有意な変数を保持するために、後退的選択法(backward selection)を実行した。必要に応じて、個別の層別生存率解析を実施した。P値が0.05未満の場合は有意とした。統計分析は、SPSSバージョン22.0及び24.0(SPSS Inc.、シカゴ、イリノイ州)を使用して実行した。線形カーネルSVMアルゴリズムは、データ操作及び分類のために以下のパッケージを使用して、Python3.6.7環境で開発した:scikit-learn(0.23.2);numpy(1.19.1);pandas(0.23.4)。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【配列表】
2022552809000001.app
【国際調査報告】