(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-20
(54)【発明の名称】二環式ペプチドリガンド薬物コンジュゲート
(51)【国際特許分類】
C07K 7/08 20060101AFI20221213BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20221213BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221213BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221213BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20221213BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20221213BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20221213BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20221213BHJP
A61K 38/05 20060101ALI20221213BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20221213BHJP
A61K 47/65 20170101ALI20221213BHJP
【FI】
C07K7/08
C07K16/28 ZNA
A61P35/00
A61P43/00 105
A61P37/02
A61P29/00 101
A61P19/02
A61K45/00
A61K38/05
A61K47/64
A61K47/65
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022522669
(86)(22)【出願日】2020-10-15
(85)【翻訳文提出日】2022-06-07
(86)【国際出願番号】 GB2020052590
(87)【国際公開番号】W WO2021074622
(87)【国際公開日】2021-04-22
(32)【優先日】2019-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】519226757
【氏名又は名称】バイスクルテクス・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】ポール ベスウィック
(72)【発明者】
【氏名】ジェマ マッド
(72)【発明者】
【氏名】マイケル リグビー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC07
4C076CC27
4C076EE41
4C076EE59
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA14
4C084BA23
4C084BA41
4C084CA59
4C084DA32
4C084NA05
4C084NA13
4C084ZA961
4C084ZA962
4C084ZB071
4C084ZB072
4C084ZB151
4C084ZB152
4C084ZB211
4C084ZB212
4C084ZB261
4C084ZB262
4H045AA10
4H045BA32
4H045BA41
4H045EA20
4H045EA22
4H045FA50
4H045GA21
(57)【要約】
本発明は、2以上のペプチドループがスキャフォールドへの取付点の間に内在するように、非芳香族分子スキャフォールドに各々共有結合している少なくとも2つのポリペプチドを含む薬物コンジュゲートに関する。本発明はまた、該薬物コンジュゲートを含む医薬組成物、並びに疾患、例えば、細胞死によって緩和され得る疾患、特に、欠損細胞型を特徴とする疾患、癌などの増殖性障害、及び関節リウマチなどの自己免疫障害の予防、抑制、又は治療における該薬物コンジュゲートの使用に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
その各々が、少なくとも2つのループ配列によって隔てられた少なくとも3つの反応基を含むポリペプチド及び該ポリペプチドの反応基との共有結合を形成する非芳香族分子スキャフォールドを含み、その結果、少なくとも2つのポリペプチドループが該分子スキャフォールド上に形成される、同じであっても異なっていてもよい、少なくとも2つのペプチドリガンド
を含む、薬物コンジュゲート。
【請求項2】
前記ペプチドリガンドが同じ又は異なる標的に特異的である、請求項1記載の薬物コンジュゲート。
【請求項3】
前記ペプチドリガンドのうちの少なくとも1つが癌細胞上に存在するエピトープに特異的である、請求項1又は請求項2記載の薬物コンジュゲート。
【請求項4】
その両方が同じ標的に特異的である2つのペプチドリガンドを含む、請求項1~3のいずれか一項記載の薬物コンジュゲート。
【請求項5】
前記ペプチドリガンドのうちの少なくとも1つがネクチン-4に特異的である、請求項1~4のいずれか一項記載の薬物コンジュゲート。
【請求項6】
その両方がネクチン-4に特異的である2つのペプチドリガンドを含む、請求項5記載の薬物コンジュゲート。
【請求項7】
その両方がネクチン-4に特異的であり、かつその両方が同じペプチド配列を含む2つのペプチドリガンドを含む、請求項5又は請求項6記載の薬物コンジュゲート。
【請求項8】
前記ループ配列が3つ又は9つのアミノ酸を含む、請求項5~7のいずれか一項記載の薬物コンジュゲート。
【請求項9】
前記ループ配列が、その一方が3つのアミノ酸からなり、かつそのもう一方が9つのアミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つのシステイン残基を含む、請求項5~8のいずれか一項記載の薬物コンジュゲート。
【請求項10】
前記ネクチン-4に特異的なペプチドリガンドのうちの少なくとも1つが、
【化1】
というコア配列を有する、請求項5~9のいずれか一項記載の薬物コンジュゲート。
【請求項11】
前記ネクチン-4に特異的なペプチドリガンドのうちの少なくとも1つが、
【化2】
という完全配列を有する、請求項5~10のいずれか一項記載の薬物コンジュゲート。
【請求項12】
前記反応基がシステインを含む、請求項1~11のいずれか一項記載の薬物コンジュゲート。
【請求項13】
前記非芳香族分子スキャフォールドが1,1',1''-(1,3,5-トリアジナン-1,3,5-トリイル)トリプロパ-2-エン-1-オン(TATA)から選択される、請求項1~12のいずれか一項記載の薬物コンジュゲート。
【請求項14】
1以上の活性剤、例えば、小分子、インヒビター、アゴニスト、アンタゴニスト、部分アゴニスト及びアンタゴニスト、インバースアゴニスト及びアンタゴニスト、並びに細胞毒性剤にコンジュゲートされている、請求項1~13のいずれか一項記載の薬物コンジュゲート。
【請求項15】
1以上の細胞毒性剤にコンジュゲートされている、請求項1~14のいずれか一項記載の薬物コンジュゲート。
【請求項16】
前記細胞毒性剤が、(S)-N-((3R,4S,5S)-1-((S)-2-((1R,2R)-3-(((1S,2R)-1-ヒドロキシ-1-フェニルプロパン-2-イル)アミノ)-1-メトキシ-2-メチル-3-オキソプロピル)ピロリジン-1-イル)-3-メトキシ-5-メチル-1-オキソヘプタン-4-イル)-N,3-ジメチル-2-((S)-3-メチル-2-(メチルアミノ)ブタンアミド)ブタンアミド)(モノメチルオーリスタチンE; MMAE):
【化3】
である、請求項15記載の薬物コンジュゲート。
【請求項17】
前記ペプチドリガンドと各々の前記細胞毒性剤の間のリンカーをさらに含む、請求項15又は請求項16記載の薬物コンジュゲート。
【請求項18】
前記リンカーが、Val-Cit、β-Ala、p-アミノベンジルカルバメート(PABC)、Glu、及び1以上(例えば、10個)のサルコシン(Sar)残基、例えば、-PABC-Val-Cit-Glu-βAla-Sar
10-リンカー:のうちの1つ又は複数から選択され、ここで、前記二環式ペプチドがPEG10部分を介して両方のリジン残基で接続されている(すなわち、得られた二環式ペプチド薬物コンジュゲートが(MMAE-PABC-Val-Cit-Glu-βAla-Sar
10-二環式ペプチド)-PEG
10-(二環式ペプチド-Sar
10-βAla-Glu-Cit-Val-PABC-MMAE)部分を含む)、請求項17記載の薬物コンジュゲート。
【請求項19】
式(A)の化合物である、請求項15~18のいずれか一項記載の薬物コンジュゲート:
【化4】
。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか一項記載の薬物コンジュゲートを1以上の医薬として許容し得る賦形剤との組合せで含む、医薬組成物。
【請求項21】
疾患の予防、抑制、又は治療において使用するための、請求項1~19のいずれか一項記載の薬物コンジュゲート。
【請求項22】
前記疾患が細胞死によって緩和され得る疾患である、請求項21記載の使用のための薬物コンジュゲート。
【請求項23】
前記疾患が、欠損細胞型を特徴とする疾患、癌などの増殖性障害、及び関節リウマチなどの自己免疫障害から選択される、請求項22記載の使用のための薬物コンジュゲート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、2以上のペプチドループがスキャフォールドへの取付点の間に内在するように、非芳香族分子スキャフォールドに各々共有結合している少なくとも2つのポリペプチドを含む薬物コンジュゲートに関する。本発明はまた、該薬物コンジュゲートを含む医薬組成物、並びに疾患、例えば、細胞死によって緩和され得る疾患、特に、欠損細胞型を特徴とする疾患、癌などの増殖性障害、及び関節リウマチなどの自己免疫障害の予防、抑制、又は治療における該薬物コンジュゲートの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
環状ペプチドは、高い親和性及び標的特異性でタンパク質標的に結合することができ、それゆえ、治療薬の開発のための魅力的な分子クラスである。実際、いくつかの環状ペプチドは、例えば、抗菌ペプチドのバンコマイシン、免疫抑制薬のシクロスポリン、又は抗癌薬のオクトレオチドのように、診療所で使用されるのに既に成功している(Driggersらの文献(2008), Nat Rev Drug Discov 7(7), 608-24)。優れた結合特性は、ペプチドと標的との間で形成される比較的大きな相互作用表面だけでなく、環状構造の立体構造可撓性の低下にも起因する。通常、大環状分子は、環状ペプチドCXCR4アンタゴニストCVX15(400Å2; Wuらの文献(2007), Science 330, 1066-71)、インテグリンαVb3に結合するArg-Gly-Aspモチーフを有する環状ペプチド(355Å2)(Xiongらの文献(2002), Science 296(5565), 151-5)、又はウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子に結合する環状ペプチド阻害剤ウパイン-1(603Å2; Zhaoらの文献(2007), J Struct Biol 160(1), 1-10)のように、数百平方オングストロームの表面に結合する。
【0003】
その環状立体配置のために、ペプチド大環状分子は、直鎖状ペプチドよりも可撓性が低く、標的に結合したときのエントロピー損失がより小さくなり、結果的に、より高い結合親和性が生じる。可撓性の低下はまた、標的特異的立体構造の固定をもたらし、直鎖状ペプチドと比較して結合特異性を増加させる。この効果は、その環が開いたときに、他のMMPに対するその選択性を失うマトリックスメタロプロテイナーゼ8(MMP-8)の強力かつ選択的な阻害剤によって例証されている(Cherneyらの文献(1998), J Med Chem 41(11), 1749-51)。大環状化によって達成される有利な結合特性は、例えば、バンコマイシン、ナイシン、及びアクチノマイシンのような、複数のペプチド環を有する多環性ペプチドにおいてさらにより顕著である。
【0004】
様々な研究チームが、以前に、システイン残基を有するポリペプチドを合成分子構造に繋いでいる(Kemp及びMcNamaraの文献(1985), J. Org. Chem; Timmermanらの文献(2005), ChemBioChem)。Meloen及び共同研究者らは、トリス(ブロモメチル)ベンゼン及び関連分子をタンパク質表面の構造的模倣用の合成スキャフォールド上での複数のペプチドループの迅速かつ定量的な環化に使用した(Timmermanらの文献(2005), ChemBioChem)。候補薬物化合物(ここで、該化合物は、システイン含有ポリペプチドを、例えば、トリス(ブロモメチル)ベンゼンのような分子スキャフォールドに連結させることにより作製される)の作製方法は、WO 2004/077062号及びWO 2006/078161号に開示されている。分子スキャフォールドのさらに好適な例としては、Heinisらの文献(2014) Angewandte Chemie, International Edition 53(6) 1602-1606に記載されている非芳香族スキャフォールドが挙げられる。
【0005】
対象となる標的に対する二環式ペプチドの大型ライブラリーを作製及びスクリーニングするためのファージディスプレイに基づくコンビナトリアルアプローチが開発されている(Heinisらの文献(2009), Nat Chem Biol 5(7), 502-7及びWO 2009/098450号)。簡潔に述べると、3つのシステイン残基及び2つのランダムな6アミノ酸領域を含有する直鎖状ペプチド(Cys-(Xaa)6-Cys-(Xaa)6-Cys)のコンビナトリアルライブラリをファージ上に提示させ、システイン側鎖を低分子(トリス-(ブロモメチル)ベンゼン)に共有結合させることにより環化させた。
【発明の概要】
【0006】
(発明の概要)
本発明の第一の態様によれば、その各々が少なくとも2つのループ配列によって隔てられた少なくとも3つの反応基を含むポリペプチド及び該ポリペプチドの反応基との共有結合を形成する非芳香族分子スキャフォールドを含み、その結果、少なくとも2つのポリペプチドループが該分子スキャフォールド上に形成される、同じであっても異なっていてもよい、少なくとも2つのペプチドリガンドを含む薬物コンジュゲートが提供される。
【0007】
本発明の第二の態様によれば、少なくとも2つのループ配列によって隔てられた少なくとも3つの反応基を含むポリペプチド及び該ポリペプチドの反応基との共有結合を形成する非芳香族分子スキャフォールドを各々含み、その結果、少なくとも2つのポリペプチドループが該分子スキャフォールド上に形成される、同じであっても異なっていてもよい、少なくとも2つのペプチドリガンドにコンジュゲートされた1以上の細胞毒性剤を含む薬物コンジュゲートが提供される。
【0008】
本発明のさらなる態様によれば、本明細書で定義される薬物コンジュゲートを1以上の医薬として許容し得る賦形剤との組合せで含む医薬組成物が提供される。
【0009】
本発明のさらなる態様によれば、疾患、例えば、細胞死によって緩和され得る疾患、特に、欠損細胞型を特徴とする疾患、癌などの増殖性障害、及び関節リウマチなどの自己免疫障害の予防、抑制、又は治療における使用のための本明細書で定義される薬物コンジュゲートが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
(図面の簡単な説明)
【
図1】
図1: NCI-H292異種移植片を担持する雌のBalb/cヌードマウスにBCY8244を投与した後の体重変化及び腫瘍体積のトレース。データ点は、群平均体重を表す。エラーバーは、平均の標準誤差(SEM)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(発明の詳細な説明)
本発明の第一の態様によれば、その各々が、少なくとも2つのループ配列によって隔てられた少なくとも3つの反応基を含むポリペプチド及び該ポリペプチドの反応基との共有結合を形成する非芳香族分子スキャフォールドを含み、その結果、少なくとも2つのポリペプチドループが該分子スキャフォールド上に形成される、同じであっても異なっていてもよい、少なくとも2つのペプチドリガンドを含む薬物コンジュゲートが提供される。
【0012】
潜在的に異なる配列を有する複数のペプチドリガンドを含有する薬物コンジュゲートだけでなく、該ペプチドリガンドは、同じ又は異なる標的に特異的であり得ることが理解されるであろう。該薬物コンジュゲートが1つの標的に特異的な1つのペプチドリガンド及び異なる標的に特異的な1以上のさらなるペプチドリガンドを含む配置は、バイパラトピック結合として知られる。
【0013】
一実施態様において、該ペプチドリガンドのうちの少なくとも1つは、癌細胞上に存在するエピトープに特異的である。
【0014】
一実施態様において、該ペプチドリガンドのうちの少なくとも1つは、ネクチン、例えば、ネクチン-4に特異的である。ネクチン-4は、4つのメンバーを含むネクチンファミリーのタンパク質に属する表面分子である。ネクチンは、発生及び成体期における上皮、内皮、免疫、及び神経細胞の極性、増殖、分化、及び遊走などの様々な生物学的プロセスにおいて重要な役割を果たす細胞接着分子である。これらは、ヒトにおけるいくつかの病理学的プロセスに関与する。これらは、ポリオウイルス、単純ヘルペスウイルス、及び麻疹ウイルスの主要な受容体である。ネクチン-1(PVRL1)又はネクチン-4(PVRL4)をコードする遺伝子の突然変異は、他の異常と関連する外胚葉異形成症候群を引き起こす。ネクチン-4は、胎児発生期に発現される。成体組織では、その発現がファミリーの他のメンバーの発現よりも制限される。ネクチン-4は、乳癌、卵巣癌、及び肺癌の、それぞれ、50%、49%、及び86%における、主に、予後不良の腫瘍上の腫瘍関連抗原である。その発現は、対応する正常組織では検出されない。乳房腫瘍において、ネクチン-4は、主に、トリプルネガティブかつERBB2+の癌で発現される。これらの癌を有する患者の血清において、可溶性形態のネクチン-4の検出は、予後不良と関連している。血清ネクチン-4のレベルは、転移進行期に増大し、治療後に減少する。これらの結果は、ネクチン-4が癌の治療のための信頼できる標的となり得ることを示唆している。したがって、いくつかの抗ネクチン-4抗体が従来技術において記載されている。特に、エンホルツマブベドチン(ASG-22ME)は、ネクチン-4を標的とする抗体-薬物コンジュゲート(ADC)であり、固形腫瘍に罹患している患者の治療のために、現在、臨床研究されている。
【0015】
好適なネクチン-4特異的ペプチドリガンドの例は、GB 1810250.9号及びGB 1815684.4号に記載されており、その二環式ペプチドリガンドは、引用により本明細書中に組み込まれる。
【0016】
該ペプチドリガンドのうちの少なくとも1つがネクチン-4に特異的である実施態様において、該ループ配列は、3又は9つのアミノ酸を含む。さらなる実施態様において、該ループ配列は、その一方が3つのアミノ酸からなり、かつそのもう一方が9つのアミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つのシステイン残基を含む。
【0017】
一実施態様において、ネクチン-4に特異的な少なくとも1つのペプチドリガンドは、
【化1】
(GB 1815684.4号において配列番号212と称される)
:というコア配列を有する。
【0018】
さらなる実施態様において、ネクチン-4に特異的な少なくとも1つのペプチドリガンドは、
【化2】
(GB 1815684.4号においてBCY8238と称される)
:という完全配列を有する。
【0019】
別途定義されない限り、本明細書で使用される技術的及び科学的用語は全て、当該分野、例えば、ペプチド化学、細胞培養、及びファージディスプレイ、核酸化学、並びに生化学の分野の専門家によって一般に理解されているものと同じ意味を有する。標準的な技法が、分子生物学、遺伝学、及び生化学の方法に使用される(引用により本明細書中に組み込まれる、Sambrookらの文献、分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)、第3版、2001, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY; Ausubelらの文献、分子生物学のショートプロトコル(Short Protocols in Molecular Biology)(1999) 第4版、John Wiley & Sons社を参照)。
【0020】
一実施態様において、該薬物コンジュゲートは、その両方が同じ標的に特異的である2つのペプチドリガンドを含む。さらなる実施態様において、該薬物コンジュゲートは、その両方がネクチン-4に特異的である2つのペプチドリガンドを含む。またさらなる実施態様において、該薬物コンジュゲートは、その両方がネクチン-4に特異的であり、かつその両方が同じペプチド配列を含む、2つのペプチドリガンドを含む。
【0021】
(命名法)
(付番)
本発明の二環式ペプチド内のアミノ酸残基位置に言及する場合、システイン残基(Ci、Cii、及びCiii)は不変であるので、これらは付番から省略され、それゆえ、本発明の選択された二環式ペプチド内のアミノ酸残基の付番は、以下のように言及される:
-Ci-P1-[1Nal]2-[dD]3-Cii-M4-K5-D6-W7-S8-T9-P10-[HyP]11-W12-Ciii (SEQ ID NO: 1)。
【0022】
この説明のために、全ての二環式ペプチドは、1,1',1''-(1,3,5-トリアジナン-1,3,5-トリイル)トリプロパ-2-エン-1-オン(TATA)で環化され、三置換構造を生じると考えられる。TATAによる環化は、Ci、Cii、及びCiii上で生じる。
【0023】
(分子フォーマット)
二環コア配列へのN-又はC-末端伸長は、ハイフンによって隔てられた、配列の左側又は右側に付加される。例えば、N-末端βAla-Sar10-Alaテールは:
βAla-Sar10-A-(SEQ ID NO: X)と表される。
【0024】
(逆向きのペプチド配列)
Nairらの文献(2003) J Immunol 170(3), 1362-1373における開示を考慮して、本明細書に開示されるペプチド配列は、そのレトロ-インベルソ(retro-inverso)形態でも有用性を見出すことが想定される。例えば、配列が逆転し(すなわち、N-末端がC-末端になり、C-末端がN-末端になる)、その立体化学も同様に逆転する(すなわち、D-アミノ酸がL-アミノ酸になり、L-アミノ酸がD-アミノ酸になる)。
【0025】
(ペプチドリガンド)
本明細書において言及されるペプチドリガンドは、分子スキャフォールドに共有結合したペプチド、ペプチジック、又はペプチドミメティックを指す。典型的には、そのようなペプチド、ペプチジック、又はペプチドミメティックは、天然又は非天然アミノ酸を有するペプチドと、スキャフォールドとの共有結合を形成することができる2以上の反応基(すなわち、システイン残基)と、ペプチド、ペプチジック、又はペプチドミメティックがスキャフォールドに結合するときにループを形成するのでループ配列と呼ばれる、該反応基間に内在する配列とを含む。この場合、ペプチド、ペプチジック、又はペプチドミメティックは、少なくとも3つのシステイン残基(本明細書において、Ci、Cii、及びCiiiと呼ばれる)を含み、かつスキャフォールド上に少なくとも2つのループを形成する。
【0026】
(ペプチドリガンドの利点)
本発明の特定の二環式ペプチドは、それを注射、吸入、経鼻、眼球、経口、又は局所投与のための好適な薬物様分子とみなすことができるいくつかの有利な特性を有する。そのような有利な特性としては、以下のもの挙げられる:
-種交差反応性。これは、前臨床的な薬力学及び薬物動態評価の典型的な必要条件である;
-プロテアーゼ安定性。二環式ペプチドリガンドは、理想的には、血漿プロテアーゼ、上皮(「膜固定型」)プロテアーゼ、胃腸プロテアーゼ、肺表面プロテアーゼ、細胞内プロテアーゼなどに対する安定性を示すべきである。プロテアーゼ安定性は、二環式リード候補を動物モデルで開発するだけでなく、自信を持ってヒトに投与することもできるように、異なる種の間で維持されるべきである;
-望ましい溶解度プロファイル。これは、製剤化及び吸収目的で重要である、荷電残基及び親水性残基と疎水性残基の比率並びに分子内/分子間H-結合の関数である;
-循環中での最適な血漿半減期。臨床的適応及び治療レジメンに応じて、循環中での保持が増強され、それゆえ、より慢性的な疾患状態の管理に最適である二環式ペプチドを開発するために、短期曝露用の二環式ペプチドを開発する必要があり得る。望ましい血漿半減期を推進する他の要因は、最大治療効率のための持続的曝露の要求と薬剤の持続的曝露による随伴毒性である;及び
-選択性。本発明の特定のペプチドリガンドは、他の受容体サブタイプに対する良好な選択性を示す。例えば、二環式ペプチドがネクチン-4に特異的である場合、該二環式ペプチドは、他のネクチンよりもネクチン-4に対して選択的であることが理想的である。
【0027】
(医薬として許容し得る塩)
塩形態は本発明の範囲内であり、ペプチドリガンドへの言及が該リガンドの塩形態を含むことが理解されるであろう。
【0028】
本発明の塩は、従来の化学的方法、例えば、医薬塩:特性、選択、及び使用(Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use)、P. Heinrich Stahl(編者)、Camille G. Wermuth(編者)、ISBN: 3-90639-026-8, ハードカバー, 388頁、2002年8月に記載されている方法によって、塩基性又は酸性部分を含有する親化合物から合成することができる。通常、そのような塩は、これらの化合物の遊離酸又は塩基形態を、適切な塩基又は酸と、水中もしくは有機溶媒中で、又はこれら2つの混合物中で反応させることにより調製することができる。
【0029】
酸付加塩(モノ塩又はジ塩)は、無機と有機の両方の多種多様な酸で形成することができる。酸付加塩の例としては、酢酸、2,2-ジクロロ酢酸、アジピン酸、アルギン酸、アスコルビン酸(例えば、L-アスコルビン酸)、L-アスパラギン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、4-アセトアミド安息香酸、ブタン酸、(+)カンファー酸、カンファースルホン酸、(+)-(1S)-カンファー-10-スルホン酸、カプリン酸、カプロン酸、カプリル酸、ケイ皮酸、クエン酸、シクラミン酸、ドデシル硫酸、エタン-1,2-ジスルホン酸、エタンスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、ギ酸、フマル酸、粘液酸、ゲンチジン酸、グルコヘプトン酸、D-グルコン酸、グルクロン酸(例えば、D-グルクロン酸など)、グルタミン酸(例えば、L-グルタミン酸など)、α-オキソグルタル酸、グリコール酸、馬尿酸、ハロゲン化水素酸(例えば、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸)、イセチオン酸、乳酸(例えば、(+)-L-乳酸、(±)-DL-乳酸)、ラクトビオン酸、マレイン酸、リンゴ酸、(-)-L-リンゴ酸、マロン酸、(±)-DL-マンデル酸、メタンスルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、ニコチン酸、硝酸、オレイン酸、オロト酸、シュウ酸、パルミチン酸、パモ酸、リン酸、プロピオン酸、ピルビン酸、L-ピログルタミン酸、サリチル酸、4-アミノサリチル酸、セバシン酸、ステアリン酸、コハク酸、硫酸、タンニン酸、(+)-L-酒石酸、チオシアン酸、p-トルエンスルホン酸、ウンデシレン酸、及び吉草酸、並びにアシル化アミノ酸及び陽イオン交換樹脂からなる群から選択される酸で形成されるモノ塩又はジ塩が挙げられる。
【0030】
塩の1つの特定の群は、酢酸、塩酸、ヨウ化水素酸、リン酸、硝酸、硫酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、マレイン酸、リンゴ酸、イセチオン酸、フマル酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、硫酸、メタンスルホン酸(メシル酸)、エタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、吉草酸、プロパン酸、ブタン酸、マロン酸、グルクロン酸、及びラクトビオン酸から形成される塩からなる。1つの特定の塩は、塩酸塩である。別の特定の塩は、酢酸塩である。
【0031】
化合物がアニオン性であるか、又はアニオン性であり得る官能基を有する(例えば、-COOHが-COO-であり得る)場合、塩を有機又は無機塩基で形成させ、好適なカチオンを生成させることができる。好適な無機カチオンの例としては、Li+、Na+、及びK+などのアルカリ金属イオン、Ca2+及びMg2+などのアルカリ土類金属カチオン、及びAl3+又はZn+などの他のカチオンが挙げられるが、これらに限定されない。適切な有機カチオンの例としては、アンモニウムイオン(すなわち、NH4
+)及び置換アンモニウムイオン(例えば、NH3R+、NH2R2
+、NHR3
+、NR4
+)が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの好適な置換アンモニウムイオンの例としては、メチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、プロピルアミン、ジシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペラジン、ベンジルアミン、フェニルベンジルアミン、コリン、メグルミン、及びトロメタミン、並びにリジン及びアルギニンなどのアミノ酸:に由来するものが挙げられる。一般的な第四級アンモニウムイオンの例は、N(CH3)4
+である。
【0032】
本発明の化合物がアミン機能を含有する場合、これらは、例えば、当業者に周知の方法によるアルキル化剤との反応によって、第四級アンモニウム塩を形成し得る。そのような第四級アンモニウム化合物は、本発明の化合物の範囲内である。
【0033】
(修飾誘導体)
本明細書で定義されるペプチドリガンドの修飾誘導体は、本発明の範囲内であることが理解されるであろう。そのような好適な修飾誘導体の例としては、N-末端及び/又はC-末端修飾; 1以上のアミノ酸残基の1以上の非天然アミノ酸残基による置換(例えば、1以上の極性アミノ酸残基の1以上の等配電子又は等電子アミノ酸による置換; 1以上の非極性アミノ酸残基の他の非天然等配電子又は等電子アミノ酸による置換);スペーサー基の付加; 1以上の酸化感受性アミノ酸残基の1以上の酸化抵抗性アミノ酸残基による置換; 1以上のアミノ酸残基の1以上の置換アミノ酸、例えば、アラニンによる置換、1以上のL-アミノ酸残基の1以上のD-アミノ酸残基による置換;二環式ペプチドリガンド内の1以上のアミド結合のN-アルキル化; 1以上のペプチド結合の代用結合による置換;ペプチド骨格長の修飾; 1以上のアミノ酸残基のα-炭素上の水素の別の化学基による置換、システイン、リジン、グルタミン酸/アスパラギン酸、及びチロシンなどのアミノ酸を官能基化するような、該アミノ酸の好適なアミン、チオール、カルボン酸、及びフェノール反応性試薬による修飾、並びに官能基化に好適である直交反応性を導入するアミノ酸、例えば、それぞれ、アルキン又はアジドを有する部分による官能基化を可能にするアジド又はアルキン基を有するアミノ酸の導入又は置換:から選択される1以上の修飾が挙げられる。
【0034】
一実施態様において、修飾誘導体は、N-末端及び/又はC-末端修飾を含む。さらなる実施態様において、ここで、修飾誘導体は、好適なアミノ反応化学を用いるN-末端修飾、及び/又は好適なカルボキシ反応化学を用いるC-末端修飾を含む。さらなる実施態様において、該N-末端又はC-末端修飾は、限定されないが、細胞毒性剤、放射性キレート剤、又は発色団を含む、エフェクター基の付加を含む。
【0035】
さらなる実施態様において、修飾誘導体は、N-末端修飾を含む。さらなる実施態様において、N-末端修飾は、N-末端アセチル基を含む。この実施態様において、N-末端残基は、ペプチド合成の間に無水酢酸又は他の適切な試薬でキャッピングされ、N-末端がアセチル化された分子をもたらす。この実施態様は、アミノペプチダーゼの潜在的な認識点を除去するという利点を提供し、二環式ペプチドの分解の可能性を回避する。
【0036】
代わりの実施態様において、N-末端修飾は、エフェクター基のコンジュゲーション及びその標的に対する二環式ペプチドの効力の保持を促進する分子スペーサー基の付加を含む。
【0037】
さらなる実施態様において、修飾誘導体は、C-末端修飾を含む。さらなる実施態様において、C-末端修飾は、アミド基を含む。この実施態様において、C-末端残基は、ペプチド合成の間にアミドとして合成され、C-末端がアミド化された分子をもたらす。この実施態様は、カルボキシペプチダーゼの潜在的な認識点を除去するという利点を提供し、二環式ペプチドのタンパク質分解の可能性を低下させる。
【0038】
一実施態様において、修飾誘導体は、1以上のアミノ酸残基の1以上の非天然アミノ酸残基による置換を含む。この実施態様においては、分解性プロテアーゼによって認識されることも、標的効力に何らかの有害作用を有することもない等配電子/等電子側鎖を有する非天然アミノ酸を選択してもよい。
【0039】
或いは、近くのペプチド結合のタンパク質分解性加水分解が立体構造的に及び立体的に妨害されるように、拘束されたアミノ酸側鎖を有する非天然アミノ酸を使用してもよい。特に、これらは、プロリン類似体、嵩高い側鎖、Cα-二置換誘導体(例えば、アミノイソ酪酸、Aib)、及びアミノ-シクロプロピルカルボン酸の単純な誘導体であるシクロアミノ酸に関する。
【0040】
一実施態様において、修飾誘導体は、スペーサー基の付加を含む。さらなる実施態様において、修飾誘導体は、N-末端システイン(Ci)及び/又はC-末端システイン(Ciii)へのスペーサー基の付加を含む。
【0041】
一実施態様において、修飾誘導体は、1以上の酸化感受性アミノ酸残基の1以上の酸化抵抗性アミノ酸残基による置換を含む。さらなる実施態様において、修飾誘導体は、トリプトファン残基のナフチルアラニン又はアラニン残基による置換を含む。この実施態様は、得られる二環式ペプチドリガンドの医薬安定性プロファイルを改善するという利点を提供する。
【0042】
一実施態様において、修飾誘導体は、1以上の荷電アミノ酸残基の1以上の疎水性アミノ酸残基による置換を含む。代わりの実施態様において、修飾誘導体は、1以上の疎水性アミノ酸残基の1以上の荷電アミノ酸残基による置換を含む。荷電アミノ酸残基と疎水性アミノ酸残基の正しいバランスは、二環式ペプチドリガンドの重要な特徴である。例えば、疎水性アミノ酸残基は、血漿タンパク質結合の程度、したがって、血漿中の利用可能な遊離画分の濃度に影響を及ぼし、一方、荷電アミノ酸残基(特に、アルギニン)は、ペプチドと細胞表面のリン脂質膜との相互作用に影響を及ぼす可能性がある。この2つの組合せは、ペプチド薬の半減期、分布容積、及び曝露に影響を及ぼす可能性があり、臨床的なエンドポイントに応じて調整することができる。さらに、荷電アミノ酸残基と疎水性アミノ酸残基の正しい組合せ及び数は、注射部位(ペプチド薬が皮下投与された場合)での刺激を軽減することができる。
【0043】
一実施態様において、修飾誘導体は、1以上のL-アミノ酸残基の1以上のD-アミノ酸残基による置換を含む。この実施態様は、立体障害により及びβ-ターン立体構造を安定化させるD-アミノ酸の傾向により、タンパク質分解の安定性を高めると考えられる(Tugyiらの文献(2005) PNAS, 102(2), 413-418)。
【0044】
一実施態様において、修飾誘導体は、任意のアミノ酸残基の除去及びD-アラニンなどのアラニンによる置換を含む。この実施態様は、重要な結合残基を同定し、潜在的なタンパク質分解攻撃部位を除去するという利点を有する。
【0045】
上述の修飾の各々は、ペプチドの効力又は安定性を意図的に向上させる役割を果たすことに留意すべきである。修飾に基づくさらなる効力向上は、以下の機序によって達成することができる:
-より高い親和性が達成されるように、疎水性効果を利用し、より低い解離速度をもたらす疎水性部位を組み込むこと;
-長距離イオン相互作用を利用し、より速い会合速度をもたらし、より高い親和性をもたらす荷電基を組み込むこと(例えば、Schreiberらの文献、タンパク質の急速静電アシスト会合(Rapid, electrostatically assisted association of proteins)(1996)、Nature Struct. Biol. 3, 427-31を参照);並びに
-例えば、エントロピーの損失が標的結合時に最小になるように、アミノ酸の側鎖を正しく拘束すること、エントロピーの損失が標的結合時に最小になるように、骨格のねじれ角度を拘束すること、及び同一の理由で分子内にさらなる環化を導入することにより、さらなる拘束性をペプチドに組み込むこと
(総説については、Gentilucciらの文献、Curr. Pharmaceutical Design(2010), 16, 3185-203、及びNestorらの文献、Curr. Medicinal Chem(2009), 16, 4399-418を参照)。
【0046】
(同位体バリエーション)
本発明は、1以上の原子が、同じ原子番号を有するが、天然に通常見られる原子質量又は質量数とは異なる原子質量又は質量数を有する原子によって置き換えられている、本発明の医薬として許容し得る全ての(放射性)同位体標識ペプチドリガンド、並びに関連する(放射性)同位体を保持することができる金属キレート基が取り付けられている本発明のペプチドリガンド(「エフェクター」と呼ばれる)、並びに特定の官能基が関連する(放射性)同位体又は同位体標識された官能基で共有結合的に置き換えられている本発明のペプチドリガンドを含む。
【0047】
本発明のペプチドリガンドに含めるために好適な同位体の例は、水素の同位体、例えば、2H(D)及び3H(T)、炭素の同位体、例えば、11C、13C及び14C、塩素の同位体、例えば、36Cl、フッ素の同位体、例えば、18F、ヨウ素の同位体、例えば、123I、125I、及び131I、窒素の同位体、例えば、13N及び15N、酸素の同位体、例えば、15O、17O、及び18O、リンの同位体、例えば、32P、硫黄の同位体、例えば、35S、銅の同位体、例えば、64Cu、ガリウムの同位体、例えば、67Ga又は68Ga、イットリウムの同位体、例えば、90Y、並びにルテチウムの同位体、例えば、177Lu、並びにビスマスの同位体、例えば、213Biを含む。
【0048】
本発明の特定の同位体標識ペプチドリガンド、例えば、放射性同位体を組み込んでいるものは、薬物及び/又は基質の組織分布研究において、並びに罹患組織上のEphA2標的の存在及び/又は不在を臨床的に評価するために有用である。本発明のペプチドリガンドは、標識化合物と他の分子、ペプチド、タンパク質、酵素、又は受容体との間の複合体の形成を検出又は同定するために使用することができるという点で、価値ある診断特性をさらに有することができる。検出又は同定方法は、例えば、放射性同位体、酵素、蛍光物質、発光物質(例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、イクオリン、及びルシフェラーゼ)などの標識剤で標識されている化合物を使用することができる。放射性同位体のトリチウム、すなわち、3H(T)及び炭素-14、すなわち、14Cは、その組込みの容易さ及び検出の手段が用意されていることを考慮して、この目的のために特に有用である。
【0049】
重水素、すなわち、2H(D)などのより重い同位体による置換は、より大きい代謝安定性、例えば、増加したインビボ半減期又は低下した必要投薬量の結果として得られる、特定の治療的利点をもたらす場合があり、それゆえ、いくつかの状況では、好ましい場合がある。
【0050】
11C、18F、15O、及び13Nなどの陽電子放出同位体による置換は、標的占有率を調べるための陽電子放出トポグラフィー(PET)試験において有用であり得る。
【0051】
本発明のペプチドリガンドの同位体標識化合物は、通常、当業者に公知の従来の技法によるか、又は以前に利用されていた非標識試薬の代わりに適切な同位体標識試薬を使用する添付の実施例に記載されているものと類似のプロセスによって調製することができる。
【0052】
(反応基)
本発明の分子スキャフォールドは、ポリペプチド上の官能基又は反応基を介してポリペプチドに結合していてもよい。これらは、典型的には、ポリペプチドポリマー中に見られる特定のアミノ酸の側鎖から形成される。
【0053】
反応基は、分子スキャフォールドとの共有結合形成することができる基である。典型的には、反応基は、ペプチド上のアミノ酸側鎖に存在する。例としては、リジン、アルギニン、ヒスチジン、並びに硫黄含有基、例えば、システイン、メチオニン、及びセレノシステインなどの類似体がある。
【0054】
一実施態様において、該反応基は、システインを含む。
【0055】
天然アミノ酸の反応基の例は、システインのチオール基、リジンのアミノ基、アスパラギン酸もしくはグルタミン酸のカルボキシル基、アルギニンのグアニジウム基、チロシンのフェノール基、又はセリンのヒドロキシル基である。非天然アミノ酸は、アジド、ケト-カルボニル、アルキン、ビニル、又はアリールハライド基を含む広範な反応基を提供することができる。ポリペプチドの末端のアミノ及びカルボキシル基も、分子スキャフォールド/分子コアとの共有結合を形成する反応基としての役割を果たすことができる。
【0056】
本発明のポリペプチドは、少なくとも3つの反応基を含有する。該ポリペプチドは、4以上の反応基を含有することもできる。反応基をより多く使用すればするほど、より多くのループを分子スキャフォールド中に形成することができる。
【0057】
好ましい実施態様において、3つの反応基を有するポリペプチドが生成される。該ポリペプチドと3回転対称を有する分子スキャフォールド/分子コアとの反応により、単一生成物異性体が生成される。単一生成物異性体の生成は、いくつかの理由によって好ましい。化合物ライブラリーの核酸は、ポリペプチドの一次配列のみをコードするが、ポリペプチドと分子コアとの反応時に形成される異性状態の分子をコードしない。ただ1つの生成物異性体が形成されることができる場合、生成物異性体への核酸の帰属は、明確に規定される。多数の生成物異性体が形成される場合、核酸は、スクリーニング又は選択プロセスで単離された生成物異性体の性質に関する情報を与えることができない。単一生成物異性体の情報は、本発明のライブラリーの特定のメンバーが合成される場合にも有利である。この場合、ポリペプチドと分子スキャフォールドとの化学反応により、異性体の混合物ではなく、単一生成物異性体が産出される。
【0058】
本発明の別の実施態様において、4つの反応基を有するポリペプチドが生成される。該ポリペプチドと4面体対称を有する分子スキャフォールド/分子コアとの反応により、2つの生成物異性体が生成される。2つの異なる生成物異性体が1つの同じ核酸によってコードされるとしても、両方の異性体を化学合成し、2つの異性体を分離し、両方の異性体を標的リガンドとの結合について試験することにより、単離された異性体の性質を決定することができる。
【0059】
本発明の一実施態様において、ポリペプチドの反応基の少なくとも1つは、残りの反応基に対して直交性である。直交性反応基の使用は、該直交性反応基を分子コアの特定の部位に向けることを可能にする。直交性反応基が関係する連結戦略を用いて、形成される生成物異性体の数を制限することができる。言い換えると、少なくとも3つの結合のうちの残りのものに対して選択された反応基と別個の又は異なる反応基を少なくとも3つの結合のうちの1つ又は複数に対して選択することにより、分子スキャフォールド上の特定の位置へのポリペプチドの特定の反応基の特定の順序の結合又は方向付けを有効に達成することができる。
【0060】
別の実施態様において、本発明のポリペプチドの反応基は、分子リンカーと反応し、その場合、該リンカーは、該リンカーが最終的な結合状態の分子スキャフォールドとポリペプチドの間に入るように、分子スキャフォールドと反応することができる。
【0061】
チオール媒介性コンジュゲーションに代わるものを用いて、共有結合的相互作用を介して、分子スキャフォールドをペプチドに結合させることができる。或いは、これらの技法は、さらなる部分(例えば、分子スキャフォールドと異なる対象となる低分子)が本発明に従って選択又は単離された後、ポリペプチドへの該さらなる部分の修飾又は結合において使用することができ-この実施態様においては、明らかに、該結合は、共有結合的である必要はなく、非共有結合的な結合を包含し得る。これらの方法は、相補的反応基を有する低分子と組み合わせて必要な化学反応基を有する非天然アミノ酸を有するタンパク質及びペプチドを提示するファージを産生することによるか、又は分子が選択/単離段階の後に作製されているときに、非天然アミノ酸を化学的にもしくは組換えにより合成されたポリペプチドに組み入れることにより、チオール媒介法の代わりに(又はそれと組み合わせて)使用することができる。さらなる詳細は、WO 2009/098450号又はHeinisらの文献、Nat Chem Biol 2009, 5(7), 502-7において見出すことができる。
【0062】
ループ状の二環式ペプチド構造は、少なくとも1つのチオエーテル結合を介して、分子スキャフォールドにさらに結合していることが理解されるであろう。チオエーテル結合は、二環式ペプチドの形成時にアンカーを提供する。一実施態様において、ただ1つのそのようなチオエーテル結合が存在する。さらなる実施態様において、1つのそのようなチオエーテル結合と2つのアミノ結合が存在する。さらなる実施態様において、1つのそのようなチオエーテル結合と2つのアルキルアミノ結合が存在する。好適には、チオエーテル結合は、二環式又は多環式ペプチドコンジュゲートの中心結合である、すなわち、ペプチド配列において、ペプチドのアミノ結合を形成する2つの残基(例えば、ジアミノプロピオン酸残基)は、チオエーテル結合を形成するアミノ酸残基(例えば、リジン)の両側に間隔を空けて、位置している。それゆえ、好適には、ループ状のペプチド構造は、中心チオエーテル結合と2つの末梢アミノ結合を有する二環式ペプチドコンジュゲートである。いくつかの実施態様において、チオエーテル結合の配置は、2つのN-アルキルアミノ結合のN-末端又はC-末端であることができる。
【0063】
一実施態様において、反応基は、1つのシステイン残基と2つのL-2,3-ジアミノプロピオン酸(Dap)又はN-β-C1-4アルキル-L-2, 3-ジアミノプロピオン酸(N-AlkDap)残基を含む。
【0064】
(非芳香族分子スキャフォールド)
「非芳香族分子スキャフォールド」という用語への本明細書における言及は、芳香族(すなわち、不飽和)炭素環式又はヘテロ環式環系を含有しない本明細書で定義される任意の分子スキャフォールドを指す。
【0065】
非芳香族分子スキャフォールドの好適な例は、Heinisらの文献(2014) Angewandte Chemie, International Edition 53(6) 1602-1606に記載されている。
【0066】
前述の文書に記載されているように、分子スキャフォールドは、低有機分子などの低分子であってもよい。
【0067】
一実施態様において、分子スキャフォールドは、高分子であってもよい。一実施態様において、分子スキャフォールドは、アミノ酸、ヌクレオチド、又は炭水化物から構成される高分子である。
【0068】
一実施態様において、分子スキャフォールドは、ポリペプチドの官能基と反応して、共有結合を形成することができる反応基を含む。
【0069】
分子スキャフォールドは、ペプチドとの結合を形成する化学基、例えば、アミン、チオール、アルコール、ケトン、アルデヒド、ニトリル、カルボン酸、エステル、アルケン、アルキン、アジド、無水物、スクシンイミド、マレイミド、ハロゲン化アルキル、及びハロゲン化アシルを含み得る。
【0070】
αβ不飽和カルボニル含有化合物の例は、1,1',1''-(1,3,5-トリアジナン-1,3,5-トリイル)トリプロパ-2-エン-1-オン(TATA)である(Angewandte Chemie, International Edition(2014), 53(6), 1602-1606)。
【0071】
(追加の薬剤)
一実施態様において、該薬物コンジュゲートは、1以上の活性剤にさらにコンジュゲートされる。
【0072】
好適な「活性」剤の例としては、二環式ペプチド複合体がその標的に結合したときに、細胞活性を発揮することができる任意の好適な薬剤が挙げられる。そのような薬剤としては、小分子、インヒビター、アゴニスト、アンタゴニスト、部分アゴニスト及びアンタゴニスト、インバースアゴニスト及びアンタゴニスト、並びに細胞毒性剤が挙げられる。
【0073】
さらなる実施態様において、該薬物コンジュゲートは、1以上の細胞毒性剤にさらにコンジュゲートされる。
【0074】
したがって、本発明の第二の態様によれば、少なくとも2つのループ配列によって隔てられた少なくとも3つの反応基を含むポリペプチド及び該ポリペプチドの反応基との共有結合を形成する非芳香族分子スキャフォールドを各々含み、その結果、少なくとも2つのポリペプチドループが該分子スキャフォールド上に形成される、同じであっても異なっていてもよい、少なくとも2つのペプチドリガンドにコンジュゲートされた1以上の細胞毒性剤を含む薬物コンジュゲートが提供される。
【0075】
細胞毒性剤の好適な例としては:シスプラチン及びカルボプラチン、並びにオキサリプラチン、メクロレタミン、シクロホスファミド、クロラムブシル、イホスファミドなどのアルキル化剤;プリン類似体のアザチオプリン及びメルカプトプリン又はピリミジン類似体を含む代謝拮抗剤;ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、及びビンデシンなどのビンカアルカロイドを含む植物アルカロイド及びテルペノイド;ポドフィロトキシン並びにその誘導体エトポシド及びテニポシド;当初はタキソールとして知られた、パクリタキセルを含む、タキサン;カンプトテシンを含むトポイソメラーゼ阻害剤;イリノテカン及びトポトテカン、並びにアムサクリン、エトポシド、リン酸エトポシド、及びテニポシドを含むII型阻害剤が挙げられる。さらなる薬剤としては、免疫抑制物質ダクチノマイシン(これは、腎移植に使用される)、ドキソルビシン、エピルビシン、ブレオマイシン、カリケアマイシンなどを含む抗腫瘍性抗生物質を挙げることができる。
【0076】
本発明の一実施態様において、細胞毒性剤は、メイタンシノイド(例えば、DM1)又はモノメチルオーリスタチン(例えば、MMAE)から選択される。
【0077】
DM1は、メイタンシンのチオール含有誘導体である細胞毒性剤であり、以下の構造を有する:
【化3】
。
【0078】
モノメチルオーリスタチンE(MMAE)は、合成抗新生物剤であり、以下の構造を有する:
【化4】
。
【0079】
本発明の1つのまたさらなる特定の実施態様において、細胞毒性剤は、(S)-N-((3R,4S,5S)-1-((S)-2-((1R,2R)-3-(((1S,2R)-1-ヒドロキシ-1-フェニルプロパン-2-イル)アミノ)-1-メトキシ-2-メチル-3-オキソプロピル)ピロリジン-1-イル)-3-メトキシ-5-メチル-1-オキソヘプタン-4-イル)-N,3-ジメチル-2-((S)-3-メチル-2-(メチルアミノ)ブタンアミド)ブタンアミド)(モノメチルオーリスタチンE; MMAE)である。
【0080】
一実施態様において、細胞毒性剤は、ジスルフィド結合又はプロテアーゼ感受性結合などの切断可能な結合によって二環式ペプチドに連結される。さらなる実施態様において、ジスルフィド結合に隣接する基は、ジスルフィド結合の障害、並びにこれにより、細胞毒性剤の切断及びそれに付随する放出の速度を制御するように修飾される。
【0081】
発表された研究により、ジスルフィド結合のどちらかの側に立体障害を導入することにより、還元に対するジスルフィド結合の感受性を修飾する可能性が確立された(Kelloggらの文献(2011) Bioconjugate Chemistry, 22, 717)。より大きい程度の立体障害は、細胞内グルタチオン、そしてまた細胞外(全身)還元剤による還元の速度を低下させ、結果的に、細胞の内側と外側の両方において、毒素が放出される容易さを低下させる。したがって、細胞内環境における効率的な放出(これは、治療効果を最大化する)の最適化と対比した循環中のジスルフィド安定性(これは、毒素の望ましくない副作用を最小化する)における最適条件の選択は、ジスルフィド結合のどちらかの側における障害の程度の注意深い選択によって達成することができる。
【0082】
ジスルフィド結合のどちらかの側における障害は、標的化実体(ここでは、二環式ペプチド)又は分子コンストラクトの毒素側のどちらかに1以上のメチル基を導入することにより調節される。
【0083】
一実施態様において、細胞毒性剤及びリンカーは、WO 2016/067035号に記載されているものの任意の組合せから選択される(該細胞毒性剤及びそのリンカーは、引用により本明細書中に組み込まれる)。
【0084】
一実施態様において、該細胞毒性剤と該二環式ペプチドの間のリンカーは、1以上のアミノ酸残基を含む。好適なリンカーとしての好適なアミノ酸残基の例としては、Ala、Cit、Lys、Trp、及びValが挙げられる。さらなる実施態様において、該細胞毒性剤と該二環式ペプチドの間のリンカーは、Val-Cit部分を含む。さらなる実施態様において、該細胞毒性剤と該二環式ペプチドの間のリンカーは、β-Ala部分を含む。
【0085】
一実施態様において、該細胞毒性剤と該二環式ペプチドの間のリンカーは、p-アミノベンジルカルバメート(PABC)を含む。
【0086】
一実施態様において、該細胞毒性剤と該二環式ペプチドの間のリンカーは、グルタリル部分を含む。
【0087】
一実施態様において、該細胞毒性剤と該二環式ペプチドの間のリンカーは、1以上の(例えば、10個の)サルコシン(Sar)残基を含む。
【0088】
さらなる実施態様において、該細胞毒性剤と該二環式ペプチドの間のリンカーは、-PABC-Val-Cit-Glu-βAla-Sar10-リンカーを含み、ここで、該二環式ペプチドは、PEG10部分を介して、両方のリジン残基で接続されている(すなわち、得られる二環式ペプチド薬物コンジュゲートは、(MMAE-PABC-Val-Cit-Glu-βAla-Sar10-二環式ペプチド)-PEG10-(二環式ペプチド-Sar10-βAla-Glu-Cit-Val-PABC-MMAE)部分を含む)。
【0089】
一実施態様において、該コンジュゲートは、2つの二環式ペプチドを含み、両方の二環式ペプチドは、ネクチン-4(すなわち、ネクチン-4ホモタンデム)に特異的であり、細胞毒性剤はMMAEであり、かつ薬物コンジュゲートは、式(A)の化合物を含む:
【化5】
。
【0090】
式(A)のBDCは、本明細書において、BCY8244として知られる。BCY8244がSPR結合アッセイにおいて良好な結合レベルを示すことを示したデータが、本明細書中、表1に示されている。特に、ネクチン-4ホモタンデムBCY8244は、SPR結合アッセイにおいて、単量体ネクチン-4二環式ペプチドBCY8126よりも3.5倍大きい結合活性を示した。BCY8244がH292異種移植モデルにおいて腫瘍を強力に退縮させることを示したデータも
図1及び表4及び5に示されている。
【0091】
(合成)
本発明のペプチドは、標準的な技法によって合成的に製造した後、インビトロで分子スキャフォールドと反応させることができる。これを実施する場合、標準的な化学を使用することができる。これにより、さらなる下流での実験又は検証のための可溶性材料の迅速な大規模調製が可能になる。そのような方法は、Timmermanらの文献(上記)に開示されているもののような従来の化学を用いて達成され得る。
【0092】
したがって、本発明はまた、本明細書に記載されているように選択されるポリペプチド又はコンジュゲートの製造に関するものであり、ここで、該製造は、以下に説明されるような任意のさらなる工程を含む。一実施態様において、これらの工程は、化学合成によって作られた最終生成物のポリペプチド/コンジュゲートに対して実施される。
【0093】
任意に、対象となるポリペプチド中のアミノ酸残基は、コンジュゲート又は複合体を製造するときに置換されてもよい。
【0094】
ペプチドを伸長させて、例えば、別のループを組み込み、それゆえ、複数の特異性を導入することもできる。
【0095】
ペプチドを伸長させるために、それは、単純に、標準的な固相又は液相化学を用いて、直交保護されたリジン(及び類似体)を用いて、そのN-末端もしくはC-末端で又はループ内で化学的に伸長されてもよい。標準的な(バイオ)コンジュゲーション技法を用いて、活性化された又は活性化可能なN-又はC-末端を導入してもよい。或いは、付加は、例えば、(Dawsonらの文献、1994、ネイティブケミカルライゲーションによるタンパク質の合成(Synthesis of Proteins by Native Chemical Ligation). Science 266:776-779)に記載されている断片縮合もしくはネイティブケミカルライゲーションによるか、又は例えば(Changらの文献、Proc Natl Acad Sci U S A. 1994 Dec 20; 91(26):12544-8もしくはHikariらの文献、Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters、第18巻、第22号、2008年11月15日、6000~6003頁)に記載されているサブチリガーゼを用いて、酵素により行われてもよい。
【0096】
或いは、ペプチドは、ジスルフィド結合を介するさらなるコンジュゲーションによって伸長又は修飾されてもよい。これは、第一及び第二のペプチドが細胞の還元環境内で互いに解離することを可能にするという追加の利点を有する。この場合、分子スキャフォールド(例えば、TATA)は、3つのシステイン基と反応するように第一のペプチドの化学合成の間に付加されることができ;その後、さらなるシステイン又はチオールが第一のペプチドのN又はC-末端に付加されることができ、その結果、このシステイン又はチオールが第二のペプチドの遊離のシステイン又はチオールとのみ反応して、ジスルフィド結合した二環式ペプチド-ペプチドコンジュゲートを形成した。
【0097】
同様の技法は、四重特異性分子を潜在的に生じさせる、2つの二環式二重特異性大環状分子の合成/カップリングに等しく適用される。
【0098】
さらに、他の官能基又はエフェクター基の付加は、適切な化学を用いて、N-もしくはC-末端で、又は側鎖を介してカップリングさせて、同じ方法で達成されてもよい。一実施態様において、カップリングは、いずれかの実体の活性を遮断しないような方法で実行される。
【0099】
(医薬組成物)
本発明のさらなる態様によれば、本明細書で定義されるペプチドリガンド又は薬物コンジュゲートを1以上の医薬として許容し得る賦形剤との組合せで含む医薬組成物が提供される。
【0100】
通常、本ペプチドリガンドは、薬理学的に適切な賦形剤又は担体と一緒に精製された形態で利用される。典型的には、これらの賦形剤又は担体は、生理食塩水及び/又は緩衝化媒体を含む、水性もしくはアルコール/水性溶液、エマルジョン、又は懸濁液を含む。非経口ビヒクルとしては、塩化ナトリウム溶液、リンガーデキストロース、デキストロース、及び塩化ナトリウム、並びに乳酸加リンガーが挙げられる。生理的に許容し得る好適なアジュバントは、ポリペプチド複合体を懸濁状態に保つために必要な場合、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、及びアルギネートなどの増粘剤から選択されてもよい。
【0101】
静脈内ビヒクルとしては、流体及び栄養補充液及び電解質補充液、例えば、リンガーデキストロースに基づくものが挙げられる。また、防腐剤並びに他の添加物、例えば、抗微生物薬、抗酸化剤、キレート剤、及び不活性ガスが存在してもよい(Mackの文献(1982)、レミントンの医薬品化学(Remington's Pharmaceutical Sciences)、第16版)。
【0102】
本発明のペプチドリガンドは、別々に投与される組成物として、又は他の薬剤と併せて使用されてもよい。これらとしては、抗体、抗体断片、並びに様々な免疫療法薬、例えば、シルコスポリン、メトトレキサート、アドリアマイシン、又はシスプラチン、及び免疫毒素を挙げることができる。医薬組成物は、本発明のタンパク質リガンドと併せた様々な細胞毒性剤もしくは他の薬剤の「カクテル」、又は投与前にプールされているか、プールされていないかを問わず、異なる標的リガンドを用いて選択されたポリペプチドなどの、異なる特異性を有する本発明による選択されたポリペプチドの組合せさえも含むことができる。
【0103】
本発明による医薬組成物の投与の経路は、当業者に一般的に公知の任意のものであってもよい。療法のために、本発明のペプチドリガンドは、標準的な技法に従って任意の患者に投与することができる。投与は、非経口、静脈内、筋肉内、腹腔内、経皮的、肺経路を介するもの、又は同じく適切に、カテーテルを用いる直接注入によるものを含め、任意の適切な様式によるものであることができる。好ましくは、本発明による医薬組成物は、吸入によって投与される。投薬量及び投与の頻度は、患者の年齢、性別、及び状態、他の薬物の同時的な投与、禁忌、並びに臨床医によって考慮される他のパラメーターによって決まる。
【0104】
本発明のペプチドリガンドは、保存前に凍結乾燥し、使用前に好適な担体中で再構成することができる。この技法は、効果的であることが示されており、当技術分野で公知の凍結乾燥及び再構成技法を利用することができる。凍結乾燥及び再構成は様々な程度の活性損失をもたらし得ること、及び補償するために、レベルを上方に調整する必要があり得ることが当業者によって理解されるであろう。
【0105】
本発明のペプチドリガンド又はそのカクテルを含有する組成物は、予防的及び/又は治療的処置のために投与することができる。特定の治療用途において、選択される細胞の集団の少なくとも部分的な阻害、抑制、調節、死滅化、又は何らかの他の測定可能なパラメーターを達成するために十分な量は、「治療有効用量」として定義される。この投薬量を達成するために必要とされる量は、疾患の重症度及び患者自身の免疫系の全般的な状態によって決まるが、概ね、体重1キログラム当たり0.005~5.0mgの選択されるペプチドリガンドの範囲であり、0.05~2.0mg/kg/の用量がより一般的に使用される。予防用途のために、本ペプチドリガンド又はそのカクテルを含有する組成物はまた、同様の又はわずかに少ない投薬量で投与されてもよい。
【0106】
本発明によるペプチドリガンドを含有する組成物を予防的及び治療的な設定で利用して、哺乳動物における選択標的細胞集団の変化、不活性化、死滅化、又は除去を助けることができる。さらに、本明細書に記載されるペプチドリガンドを体外で又はインビトロで選択的に用いて、細胞の異成分集合体から標的細胞集団を選択的に死滅させるか、枯渇させるか、又は他の形で効果的に除去することができる。哺乳動物由来の血液を選択されたペプチドリガンドと体外で組み合わせることができ、それにより、標準的な技法に従って哺乳動物に戻すために、望ましくない細胞を死滅させるか、又は別の形で血液から除去する。
【0107】
(治療的使用)
細胞毒性剤の存在により、本発明の薬物コンジュゲートは、細胞死によって緩和され得る疾患の治療において特定の有用性を有する。好適な疾患の例としては、欠損細胞型を特徴とする疾患、癌などの増殖性障害、及び関節リウマチなどの自己免疫障害が挙げられる。
【0108】
癌細胞に結合する二環式ペプチドにカップリングした細胞毒性剤の存在により、本発明の二環式ペプチドは、癌の治療において特定の有用性を有する。したがって、本発明のさらなる態様によれば、癌(例えば、腫瘍)の予防、抑制、又は治療において使用するための、本明細書で定義される薬物コンジュゲートが提供される。
【0109】
本発明のさらなる態様によれば、癌(例えば、腫瘍)を予防、抑制、又は治療する方法であって、それを必要としている患者に、本明細書で定義される薬物コンジュゲートを投与することを含む、方法が提供される。
【0110】
治療(又は抑制)され得る癌(及びその良性対応物)の例としては、上皮起源の腫瘍(腺癌、扁平上皮癌、移行細胞癌、及び他の癌腫を含む、様々なタイプの腺腫及び癌腫)、例えば、膀胱及び尿路、乳房、消化管(食道、胃(stomach)(胃(gastric))、小腸、結腸、直腸、並びに肛門を含む)、肝臓(肝細胞癌)、胆嚢及び胆管系、外分泌膵臓、腎臓、肺(例えば、腺癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、気管支肺胞上皮癌、及び中皮腫)、頭頸部(例えば、舌、口腔、喉頭、咽頭、上咽頭、扁桃、唾液腺、鼻腔、及び副鼻腔の癌)、卵巣、卵管、腹膜、膣、外陰部、陰茎、子宮頸部、子宮筋層、子宮内膜、甲状腺(例えば、甲状腺濾胞癌)、副腎、前立腺、皮膚、及び付属器の癌(黒色腫、基底細胞癌、扁平上皮細胞癌、角化棘細胞腫、異形成母斑);血液悪性腫瘍(すなわち、白血病、リンパ腫)並びに前悪性血液障害及びリンパ系譜の血液悪性腫瘍及び関連疾患を含む境界領域悪性腫瘍(例えば、急性リンパ性白血病[ALL]、慢性リンパ性白血病[CLL]、B細胞リンパ腫、例えば、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫[DLBCL]、濾胞性リンパ腫、バーキットリンパ腫、マントル細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫及び白血病、ナチュラルキラー[NK]細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、有毛細胞白血病、意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症、形質細胞腫、多発性骨髄腫、及び移植後リンパ増殖性障害)、並びに骨髄系譜の血液悪性腫瘍及び関連疾患(例えば、急性骨髄性白血病[AML]、慢性骨髄性白血病[CML]、慢性骨髄単球性白血病[CMML]、好酸球増多症候群、骨髄増殖性障害、例えば、真性多血症、本態性血小板血症、及び原発性骨髄線維症、骨髄増殖性症候群、骨髄異形成症候群、並びに前骨髄細胞性白血病);間葉起源の腫瘍、例えば、軟部組織、骨、もしくは軟骨の肉腫、例えば、骨肉腫、線維肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、脂肪肉腫、血管肉腫、カポジ肉腫、ユーイング肉腫、滑膜肉腫、類上皮性肉腫、消化管間質性腫瘍、良性及び悪性の組織球腫、並びに隆起性皮膚線維肉腫;中枢もしくは末梢神経系の腫瘍(例えば、星細胞腫、神経膠腫、及び膠芽細胞腫、髄膜腫、上衣腫、松果体腫瘍、及びシュワン細胞腫);内分泌腫瘍(例えば、下垂体腫瘍、副腎腫瘍、膵島細胞腫瘍、副甲状腺腫瘍、カルチノイド腫瘍、及び甲状腺の髄様癌);眼球及び付属器腫瘍(例えば、網膜芽腫);生殖細胞及び栄養膜腫瘍(例えば、奇形腫、精上皮腫、未分化胚細胞腫、胞状奇胎、及び絨毛癌);並びに小児性及び胎児性腫瘍(例えば、髄芽腫、神経芽腫、ウィルムス腫瘍、および未分化神経外胚葉性腫瘍);又は患者を悪性腫瘍に罹りやすい状態にしておく先天性もしくはその他の症候群(例えば、色素性乾皮症)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0111】
さらなる実施態様において、癌は、乳癌、肺癌、胃癌、膵臓癌、前立腺癌、肝臓癌、膠芽細胞腫、及び血管新生:から選択される。
【0112】
「予防」という用語への本明細書における言及は、疾患の誘導前の防御的な組成物の投与を含む。「抑制」は、誘導性事象の後であるが、疾患の臨床的出現の前の組成物の投与を指す。「治療」は、疾患症状が顕在化した後の防御的な組成物の投与を含む。
【0113】
疾患からの防御又は疾患の治療におけるペプチドリガンドの有効性をスクリーニングするために使用することができる動物モデル系が利用可能である。動物モデル系の使用は、ヒト及び動物の標的と交差反応することができるポリペプチドリガンドの開発を可能にする本発明によって促進される。
【0114】
本発明を、以下の実施例を参照して、以下でさらに説明する。
【実施例】
【0115】
【0116】
(材料及び方法)
(ペプチド合成)
ペプチド合成は、Peptide Instrumentsにより製造されたSymphonyペプチド合成装置及びMultiSynTech製のSyro II合成装置を用いるFmoc化学に基づいた。標準的なFmoc-アミノ酸(Sigma, Merck)を適切な側鎖保護基とともに利用し:適用可能な場合、標準的なカップリング条件を各々の場合に使用し、その後、標準的な方法論を用いて、脱保護を行った。
【0117】
或いは、HPLCを用いてペプチドを精製し、単離後、これを1,3,5-トリアクリロイルヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジン(TATA、Sigma)で修飾した。このために、直鎖状ペプチドを50:50のMeCN:H2Oで約35mLまで希釈し、アセトニトリル中の約500μLの100mM TATAを添加し、H2O中の5mLの1M NH4HCO3で反応を開始させた。反応をRTで約30分から60分間進行させておき、(MALDIにより判断して)反応が終了したら、凍結乾燥させた。終了したら、H2O中の1mlの1M L-システイン塩酸塩一水和物(Sigma)を反応液にRTで約60分間添加して、余分なTATAをクエンチした。
【0118】
凍結乾燥後、修飾されたペプチドを上記のように精製し、一方、Luna C8をGemini C18カラム(Phenomenex)と交換し、酸を0.1%トリフルオロ酢酸に変更した。正しいTATA修飾材料を含有する純粋な画分をプールし、凍結乾燥させ、保存のために-20℃で保持した。
【0119】
別途特記しない限り、アミノ酸は全て、L-立体配置で使用した。
【0120】
場合によっては、ペプチドを活性化ジスルフィドに変換した後、以下の方法を用いて、毒素の遊離チオール基とカップリングさせる; 4-メチル(スクシンイミジル 4-(2-ピリジルチオ)ペンタノエート)(100mM)の無水DMSO(1.25mol当量)溶液をペプチド(20mM)の無水DMSO(1mol当量)溶液に添加した。反応液をよく混合し、DIPEA(20mol当量)を添加した。反応を終了するまでLC/MSによりモニタリングした。
【0121】
(BCY8244の調製)
【化6】
(化合物3の調製のための一般的な手順)
【化7】
化合物2(216.11mg、67.44μmol、1.0当量)のDMA(5mL)溶液に、DIEA(26.15mg、202.31μmol、35.24μL、3.0当量)及び化合物1(0.090g、67.44μmol、1.0当量)を添加した。混合物を20℃で12時間撹拌した。LC-MSにより、化合物1が完全に消費され、所望のm/zを有する1つの主要なピークが検出されることが示された。
【0122】
ヒドラジン水和物(154.50mg、3.09mmol、0.15mL、45.88当量)を添加した。混合物を25℃で15分間撹拌した。LC-MSにより、cpd9-中間体が完全に消費され、所望のm/zを有する1つの主要なピークが検出されることが示された。反応物を分取HPLC(中性条件)によりそのまま精製した。化合物3(0.192g、46.47μmol、69.08%収率)が白色の固形物として得られた。LCMS m/z実測値1378.1[M+H]3+、RT=0.82分。
【0123】
(BCY8244の調製のための一般的な手順)
化合物3(0.192g、46.47μmol、3.0当量)のDMA(2mL)溶液に、DIEA(8.01mg、61.96μmol、10.79μL、4.0当量)及びNHS-PEG10-NHS(11.66mg、15.49μmol、1.0当量)を添加した。混合物を20℃で16時間撹拌した。LC-MSにより、化合物3が完全に消費され、所望のm/zを有する1つの主要なピークが検出されることが示された。反応物を分取HPLC(TFA条件)によりそのまま精製した。化合物BCY8244(0.0354g、3.84μmol、24.81%収率、95.4%純度)が白色の固形物として得られた。LCMS m/z実測値1758.2[M+H]5+、RT=1.1分。
【0124】
(データ)
(ネクチン-4 Biacore SPR結合アッセイ)
ヒトネクチン-4タンパク質(Charles Riverから入手)に結合する単量体ペプチドのka(M-1s-1)、kd(s-1)、KD(nM)値を決定するために、Biacore実験を行った。
【0125】
gp67シグナル配列及びC-末端FLAGタグを有するヒトネクチン-4(残基Gly32-Ser349; NCBI RefSeq: NP_112178.2)をpFastbac-1にクローニングし、標準的なBac-to-Bac(商標)プロトコル(Life Technologies)を用いて、バキュロウイルスを作製した。27℃のExcell-420培地(Sigma)中の1×106ml-1のSf21細胞を、2のMOIで、P1ウイルスストックに感染させ、上清を72時間で回収した。この上清を、PBS中で洗浄した抗FLAG M2親和性アガロース樹脂(Sigma)と4℃で1時間バッチ結合させ、その後、樹脂をカラムに移し、PBSで徹底洗浄した。タンパク質を100μg/ml FLAGペプチドで溶出させた。溶出したタンパク質を2mlに濃縮し、S-200 Superdexカラム(GE Healthcare)に、PBS中、1ml/分で充填した。2ml画分を回収し、ネクチン-4タンパク質を含有する画分を16mg/mlに濃縮した。
【0126】
EZ-Link(商標)スルホ-NHS-LC-LC-ビオチン試薬(Thermo Fisher)を製造元の提案したプロトコルの通りに用いて、タンパク質をPBS中でランダムにビオチン化した。タンパク質を徹底的に脱塩し、カップリングされていないビオチンをスピンカラムを用いてPBS中に除去した。
【0127】
ペプチド結合の解析のために、CM5チップ(GE Healthcare)を利用するBiacore 3000装置を使用した。HBS-N(10mM HEPES、0.15M NaCl、pH 7.4)を泳動バッファーとする25℃での標準的なアミンカップリング化学を用いて、ストレプトアビジンをチップ上に固定化した。簡潔に述べると、カルボキシメチルデキストラン表面を10μl/分の流量での1:1の比の0.4M 1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)/0.1M N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)の7分間の注入で活性化させた。ストレプトアビジンの捕捉のために、タンパク質を0.2mg/mlまで10mM酢酸ナトリウム(pH 4.5)に希釈し、120μlのストレプトアビジンを活性化チップ表面上に注入することにより捕捉した。残りの活性化基を1Mエタノールアミン(pH 8.5)の7分間の注入でブロッキングし、ビオチン化ネクチン-4を1,200~1,800RUのレベルまで捕捉した。バッファーをPBS/0.05%Tween 20に交換し、ペプチドの希釈系列をこのバッファー中に0.5%の最終DMSO濃度で調製した。最大ペプチド濃度は、6回のさらなる2倍希釈により、100nMとした。SPR解析を、個々のペプチドに応じて、60秒の会合と400秒~1,200秒の解離にして、25℃で、50μl/分の流量で実行した。データをDMSO排除体積効果について補正した。全てのデータを、標準的な処理手順を用いて、ブランク注入及び基準面について二重参照し、データ処理及び動力学的フィッティングを、Scrubberソフトウェア、バージョン2.0c(BioLogic Software)を用いて実施した。データを単純な1:1結合モデルを用いてフィッティングし、適宜、質量移動効果を考慮に入れた。
【0128】
BCY8244(及びその構成要素である単量体ネクチン-4二環式ペプチド、BCY8126)を両方とも上述のネクチン-4結合アッセイにおいて試験した。結果は、表1に示されている:
表1
【表2】
【0129】
(Balb/cヌードマウスのNCI-H292異種移植片の処置におけるBCY8244のインビボ有効性試験)
(1.試験目的)
この研究の目的は、Balb/cヌードマウスのNCI-H292異種移植モデルの処置におけるBCY8244のインビボ抗腫瘍有効性を評価することである。
【0130】
【0131】
(3.材料)
(3.1 動物及び飼育条件)
(3.1.1.動物)
種:マウス(Mus Musculus)
系統: Balb/cヌード
齢: 6~8週
性別:雌
体重: 18~22g
動物の数: 43匹のマウス+スペア
動物の供給元: Shanghai Lingchang Biotechnology Experimental Animal Co. Ltd
【0132】
(3.1.2.飼育条件)
マウスは、一定の温度及び湿度の個々の換気ケージ内で、各々のケージに動物を3又は4匹にして、飼育した。
・温度: 20~26℃
・湿度40~70%
ケージ:ポリカーボネート製。サイズは、300mm×180mm×150mmである。動物に寝床を与える材料はトウモロコシの穂軸であり、これは、週に2回交換する。
食餌:全試験期間中、動物は照射滅菌されたドライグラニュールフードを自由に摂取することができた。
水:動物は、滅菌飲料水を自由に摂取することができた。
ケージ識別:各々のケージの識別表示には、以下の情報が含まれた:動物の数、性別、系統、受入日、処置、試験数、群番号、及び処置の開始日。
動物識別:動物は、耳コーディングによりマーキングした。
【0133】
(3.2 試験品及び陽性対照品)
製品識別: BCY00008244
製造元: Bicycle Therapeutics
ロット数: 1
物理的記述:凍結乾燥粉末
分子量: 8786.4
純度: 95.00%
包装及び保存条件: -80℃で保存
【0134】
(4.実験の方法及び手順)
(4.1 細胞培養)
NCI-H292腫瘍細胞を、大気中5%CO2の雰囲気下、37℃で、10%熱非働化胎仔ウシ血清が補充されたRPMI-1640培地中で、単層培養物としてインビトロで維持した。腫瘍細胞を、トリプシン-EDTA処理により、週に2回、定期的に継代培養した。指数増殖期の細胞増殖物を回収し、腫瘍接種用に計数した。
【0135】
(4.2 腫瘍接種)
腫瘍を発生させるために、各々のマウスの右脇腹に、0.2mlのPBS中のNCI-H292腫瘍細胞(10×106個)を皮下接種した。平均腫瘍体積が168mm3に達したとき、43匹の動物を無作為に割り付けた。試験品投与及び各々の群の動物数を実験デザインの表に示した。
【0136】
【0137】
(4.4 観察)
試験における動物の取扱い、管理、及び処置に関する手順は全て、実験動物管理評価認証協会(Association for Assessment and Accreditation of Laboratory Animal Care)(AAALAC)のガイダンスに従って、WuXi AppTecの施設内動物管理使用委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)(IACUC)によって承認されたガイドラインに準拠して行われた。定期モニタリングのときに、動物を、移動性、食物及び水の消費(目視のみによる)、体重の増加/減少、目/髪の毛のマット化などの通常の行動に対する腫瘍増殖及び処置の任意の効果、並びにプロトコルに記載されている任意の他の異常効果についてチェックした。死亡及び観察された臨床症状を各々のサブセット内の動物の数に基づいて記録した。
【0138】
(4.5 腫瘍測定及びエンドポイント)
主要エンドポイントは、腫瘍増殖を遅延させることができるかどうか、又はマウスを治癒させることができるかどうかを確かめることであった。腫瘍体積は、キャリパーを用いて、2次元で週に3回測定し、体積は、式: V=0.5a×b2(式中、a及びbは、それぞれ、腫瘍の長径と短径である)を用いてmm3で表した。次に、この腫瘍サイズをT/C値の算出に用いた。T/C値(%単位)は、抗腫瘍効果の指標であり; T及びCは、それぞれ、所与の日の処置群及び対照群の平均体積である。
【0139】
TGIは、式: TGI(%)=[1-(Ti-T0)/(Vi-V0)]×100を用いて、各々の群について算出し; Tiは、所与の日の処置群の平均腫瘍体積、T0は、処置開始日の処置群の平均腫瘍体積、Viは、Tiと同じ日のビヒクル対照群の平均腫瘍体積、V0は、処置開始日のビヒクル群の平均腫瘍体積である。
【0140】
(4.6 試料回収)
試験の最後に、第2群、第5群、第9群、第10群、第11群、第12群のマウスの血漿を、最後の投与から5分後、15分後、30分後、1時間後、及び2時間後に回収した。第1群、第5群、第6群、第12群のマウスの腫瘍を、最後の投与から2時間後に、FFPE用に回収した。
【0141】
(4.7 統計解析)
平均及び平均の標準誤差(SEM)を含む簡易統計を各々の時点における各々の群の腫瘍体積について提供した。
【0142】
群間の腫瘍体積の差の統計解析を最終投与後の最良の処置時点で得られたデータに対して行った。
【0143】
t-検定を行って、群間及び有意な場合の腫瘍体積を比較した。データは全て、Prismを用いて解析した。P<0.05を統計的に有意であるとみなした。
【0144】
(5.結果)
(5.1 体重変化及び腫瘍増殖曲線)
体重及び腫瘍増殖曲線は、
図1に示されている。
【0145】
(5.2 腫瘍体積トレース)
NCI-H292異種移植片を担持する雌Balb/cヌードマウスにおける経時的な平均腫瘍体積は、表4に示されている。
表4:経時的な腫瘍体積トレース
【表5】
【0146】
(5.3 腫瘍増殖阻害解析)
NCI-H292異種移植モデルにおける試験品の腫瘍増殖阻害率を、処置の開始から14日後の腫瘍体積測定値に基づいて算出した。
表5:腫瘍増殖阻害解析
【表6】
a.平均±SEM
b.腫瘍増殖阻害は、処置群の群平均腫瘍体積を対照群の群平均腫瘍体積で除すること(T/C)により算出される。
【0147】
(6.結果のまとめ及び考察)
本試験では、NCI-H292異種移植モデルにおけるBCY8244の治療有効性を評価した。様々な時点における全ての処置群の測定された体重及び腫瘍体積は、
図1並びに表4及び5に示されている。
【0148】
ビヒクル処置マウスの平均腫瘍サイズは、14日目に843mm3に達した。
【0149】
BCY8244は、優れたレベルの腫瘍阻害効果を示し、腫瘍を強力に退縮させた。
【0150】
本試験では、全てのマウスが体重を良好に維持した。
【手続補正書】
【提出日】2022-08-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】