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特表2022-552867燃料電池システムを運転および設計するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-20
(54)【発明の名称】燃料電池システムを運転および設計するための方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04746 20160101AFI20221213BHJP
   H01M 8/04664 20160101ALI20221213BHJP
   H01M 8/0438 20160101ALI20221213BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20221213BHJP
【FI】
H01M8/04746
H01M8/04664
H01M8/0438
H01M8/04 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022523261
(86)(22)【出願日】2020-09-18
(85)【翻訳文提出日】2022-04-18
(86)【国際出願番号】 EP2020076161
(87)【国際公開番号】W WO2021083579
(87)【国際公開日】2021-05-06
(31)【優先権主張番号】102019216712.8
(32)【優先日】2019-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】ブール,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】クヌープ,アンドレアス
【テーマコード(参考)】
5H127
【Fターム(参考)】
5H127AC05
5H127BA02
5H127BA03
5H127BA05
5H127BB02
5H127BB12
5H127BB22
5H127BB37
5H127DB21
5H127DB22
5H127DB23
5H127DB29
5H127DC22
5H127DC24
5H127EE18
(57)【要約】
本発明は、燃料電池を有する燃料電池システムを運転するための方法であって、前記燃料電池の陰極インレット側に、流体機械として構成された電気駆動されるガス供給装置(30)を用いて空気等の陰極ガスが供給され、前記流体機械の作業範囲が、サージラインおよびチョークラインを有する特性マップに表示可能となっている方法に関する。燃料電池システムの耐用年数を長くするために、電気駆動される前記ガス供給装置(30)の運転中に、それ自体が不都合であるサージ事象を、電気駆動される前記ガス供給装置(30)の、前記サージラインを超えた所定の作業範囲内で意図的に許容する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池(3)を有する燃料電池システム(1)を運転するための方法であって、前記燃料電池(3)の陰極インレット側(20)に、流体機械として構成された電気駆動されるガス供給装置(5;30)を用いて空気等の陰極ガス(21)が供給され、前記流体機械(5;30)の作業範囲が、サージライン(43)およびチョークライン(44)を有する特性マップ(40)に表示可能となっている方法において、
電気駆動される前記ガス供給装置(5;30)の運転中の、それ自体が不都合であるサージ事象を、電気駆動される前記ガス供給装置(5;30)の、前記サージライン(43)を超えた所定の作業範囲(48)内で意図的に許容することを特徴とする、燃料電池システム(1)を運転するための方法。
【請求項2】
電気駆動される前記ガス供給装置(5;30)の、それ自体が不都合であるサージ運転を、電気駆動される前記ガス供給装置(5;30)の、前記サージライン(43)を超えた下側の作業範囲(48)内で意図的に許容することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
電気駆動される前記ガス供給装置(5;30)の運転中の、それ自体が不都合であるサージ事象を、危険な圧力値(D)よりも小さい圧力値において、前記サージライン(43)を超えた側で意図的に許容することを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
電気駆動される前記ガス供給装置(5;30)の運転中の、それ自体が不都合であるサージ事象を、危険な圧力値(D)よりも大きい圧力値において、前記サージライン(43)を超えた側で許容しないことを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項5】
電気駆動される前記ガス供給装置(5;30)の運転中の、それ自体が不都合であるサージ事象を、危険な圧力値(D)よりも大きい圧力値において、センサ式に、特に音響的に検出することを特徴とする、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記危険な圧力値(D)を1乃至2の間とする、請求項3から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
燃料電池(3)を有する燃料電池システム(1)であって、前記燃料電池(3)の陰極インレット側(20)に、流体機械として構成された電気駆動されるガス供給装置(5;30)を用いて空気等の陰極ガス(21)が供給され、前記流体機械(5;30)の作業範囲が、サージライン(43)およびチョークライン(44)を有する特性マップ(40)に表示可能となっている形式のものにおいて、
電気駆動される前記ガス供給装置(5;30)のスラスト軸受システム(29)が、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法に従って意図的に許容された、電気駆動される前記ガス供給装置(5;30)のサージ事象を考慮して十分頑丈に設計されていることを特徴とする、燃料電池システム(1)。
【請求項8】
請求項7記載の燃料電池システム(1)を設計するための方法において、
前記燃料電池システム(1)の試験台運転中に試験台(37)上で、電気駆動されるガス供給装置(5;30)の運転中にサージ事象がいつ発生するかを検出し、かつ記憶することを特徴とする、燃料電池システム(1)を設計するための方法。
【請求項9】
前記燃料電池システム(1)の試験台運転中に前記試験台(37)上で、電気駆動される前記ガス供給装置(5;30)の運転中にサージ事象がいつ発生するかを音響的に検出することを特徴とする、請求項8記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池を有する燃料電池システムを運転するための方法であって、燃料電池の陰極インレット側に、流体機械として構成された電気駆動されるガス供給装置を用いて空気等の陰極ガスが供給され、流体機械の作業範囲が、サージラインおよびチョークラインを有する特性マップに表示可能となっている方法に関する。本発明はさらに、このような形式の燃料電池システムに関する。本発明はさらに、このような形式の燃料電池システムを設計するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1によれば、燃料電池システムを運転するための方法および燃料電池システムは公知であり、この公知の燃料電池システムは、陽極インレットおよび陰極インレットを備えた燃料電池スタックと、陰極インレットに通じる流体通路内に配置されたエアコンプレッサと、少なくとも1つのセンサとを有しており、このセンサは、初期サージ状態のためのサージインジケータを測定するように調整されており、このサージインジケータから、初期サージ状態がポンプコンプレッサ内のサージ事象に先行して発生することが知られており、この場合、初期サージ状態は、エアコンプレッサのアウトレット圧力および/または質量流量の特有の変動または振動が監視され、その際に燃料電池システムの運転中のサージ事象の発生とは逆に作用することによって検出される。この場合、劣化に関する作用、例えばエアコンプレッサの耐用年数に亘っての損耗が考慮され、このような損耗から、劣化に関する作用がサージラインの特性マップ構成に不都合な影響を与えることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】ドイツ連邦共和国特許公告第102009029837号明細書
【特許文献2】ドイツ連邦共和国特許公開第102012224052号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、燃料電池の陰極インレット側に、流体機械として構成された電気駆動されるガス供給装置を用いて空気等の陰極ガスが供給され、流体機械の作業範囲が、サージラインおよびチョークラインを有する特性マップに表示可能となっている形式の燃料電池を有する燃料電池システムの耐用年数を長くすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題は、燃料電池の陰極インレット側に、流体機械として構成された電気駆動されるガス供給装置を用いて空気等の陰極ガスが供給され、流体機械の作業範囲が、サージラインおよびチョークラインを有する特性マップに表示可能となっている、燃料電池を有する燃料電池システムを運転するための方法において、電気駆動されるガス供給装置の運転中の、それ自体が不都合であるサージ事象が、電気駆動されるガス供給装置の、サージラインを超えた所定の作業範囲内で意図的に許容されるようになっていることによって解決される。この場合、燃料電池システムの運転中のサージ事象の発生とは逆に作用するという、例えば冒頭で評価した特許文献1に記載されているような広く周知された見解と対立する。本発明の枠内で実施された実験および研究によれば、電気駆動されるガス供給装置の所定の作業範囲内で、それ自体が不都合であるサージ事象は、燃料電池システム、特に電気駆動されるガス供給装置の損傷を必ずしも生ぜしめることはない、ということが分かった。サージ事象のこのような意図的な許容は、好適には、燃料電池システムのアイドリング運転または無負荷運転中に、ちょうど燃料電池内の電気化学反応のために必要とされるだけの、陰極ガス量、特に空気がガス供給装置によって供給されるように、拡大される。これによって他方では、燃料電池システムの多く供給され過ぎた空気による不都合な乾燥は阻止される。このことはまた、燃料電池の劣化を遅くする。
【0006】
この方法の好適な実施例は、電気駆動されるガス供給装置の、それ自体が不都合であるサージ運転が、電気駆動されるガス供給装置の、サージラインを超えた下側の作業範囲内で意図的に許容されることを特徴としている。下側の作業範囲という概念は、電気駆動されるガス供給装置の特性マップに関連している。特性マップは、例えば電気駆動されるガス供給装置による質量流量が適切な測定単位でx軸に示されているデカルト座標である。特性マップのy軸には、燃料電池システムの運転中に電気駆動されるガス供給装置によって生ぜしめられる、例えば圧力値が示されている。特性マップの下側の範囲内において、圧力値および体積流量は比較的僅かである。
【0007】
この方法の別の好適な実施例によれば、電気駆動されるガス供給装置の運転中のそれ自体が不都合であるサージ事象が、危険な圧力値よりも小さい圧力値において、サージラインを超えた側で意図的に許容されることを特徴としている。圧力値は、場合によっては既存の圧力センサで比較的簡単に検出され得る。従って、制御技術的に簡単に実現可能な、燃料電池システムの耐用年数を効果的に延長することができる手段が提供される。
【0008】
この方法の別の好適な実施例は、電気駆動されるガス供給装置の運転中のそれ自体が不都合であるサージ事象が、危険な圧力値よりも大きい圧力値において、サージラインを超えた側で許容されないことを特徴としている。燃料電池システムの運転中に危険な圧力値が超過されると、この場合、不都合なサージ事象は従来の手段によって避けることができる。このために、例えば電気駆動されるガス供給装置の回転数が低下されるか、またはバイパスが開放される。
【0009】
この方法の別の好適な実施例は、電気駆動されるガス供給装置の運転中の、それ自体が不都合であるサージ事象が、危険な圧力値よりも大きい圧力値において、センサ式に、特に音響的に検出されることを特徴とする。センサ式に検出するために、例えば固体伝播音センサが使用される。音響的な測定のためにマイクロフォンが使用される。選択的にまたは追加的に、電気駆動されるガス供給装置の電気駆動装置の電流が測定され得る。
【0010】
この方法の別の好適な実施例は、危険な圧力値が1乃至2の間であることを特徴とする。本発明の枠内で実施される実験および研究によれば、危険な圧力値のための値が1.5であれば有利であることが証明された。
【0011】
燃料電池を有する燃料電池システムであって、燃料電池の陰極インレット側に、流体機械として構成された電気駆動されるガス供給装置を用いて空気等の陰極ガスが供給され、流体機械の作業範囲が、サージラインおよびチョークラインを有する特性マップに表示可能となっている形式のものにおいて、前記課題は選択的にまたは追加的に、電気駆動されるガス供給装置のスラスト軸受システムが、前記方法に従って意図的に許容された、電気駆動されるガス供給装置のサージ事象を考慮して、十分頑丈に設計されていることによって、解決される。スラスト軸受システムは、好適にはダイナミックな空気軸受を有している。ダイナミックな空気軸受は、少なくとも1つのフォイルベアリングとも呼ばれる空気軸受を有しており、この空気軸受によって、ガス供給装置の電動機駆動装置の軸が軸方向に軸受けされている。したがって十分に頑丈な設計は、好適には特にスラスト軸受システムに関する。何故ならば、サージ運転中に意図的に許容されるサージ事象において、燃料電池システムの運転中に電気駆動されるガス供給装置内に発生する軸方向力の強い変動がもたらされるからである。さらにサージ運転時に、特に、場合によっては得られた音響的な効果がマイナスに作用しないことが考慮される。つまり、特に、音響的な効果は車両使用者が聞き取れるものであってはならない、ということである。このために、燃料電池システムの運転、特に電気駆動されるガス供給装置の運転は、センサ式に、特に音響的に監視されてよい。このために、加速度センサが使用される。この方法によって、上側の特性マップ範囲内のサージ運転も確実に検出され、かつ避けられる。
【0012】
上記燃料電池システムを設計するための方法において、上記の課題は選択的にまたは追加的に、燃料電池システムの試験台運転中に試験台上で、電気駆動されるガス供給装置の運転中にサージ事象がいつ発生するかを検出し、かつ記憶することによって、解決されている。検出され、かつ記憶された値、例えば圧力値、回転数、および電気駆動されるガス供給装置によって提供される質量流量は、試験台の適切なコントロールユニットで検出され、かつ記憶される。燃料電池システムの運転中に、この値は、サージ事象を検知し、かつ評価するために使用され得る。燃料電池システムの高価なセンサ装置はそれ自体が安上がりに省かれてよい。
【0013】
この方法の好適な実施例は、燃料電池システムの試験台運転中に試験台上で、電気駆動されるガス供給装置の運転中にサージ事象がいつ発生するかを音響的に検出することを特徴とする。サージ事象は、測定された圧力値、質量流量、回転数その他と一緒に記憶されてよい。
【0014】
本発明は、場合によっては、燃料電池システムを設計するための方法が実施される試験台に関するものでもある。試験台は、燃料電池システムの運転中にサージ事象を検出するために、例えば少なくも1つの音響式の測定装置を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】概略的にのみ示された試験台上に載せられた、ハウジングを有する圧縮機の側面図である。
図2】燃料電池システムのガス供給装置の特性マップを示すデカルト座標グラフである。
図3】ガス供給装置を有する燃料電池システムの概略図である。
図4】請求された方法を具体的に示すためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のその他の利点、特徴および詳細は、図面を参照して様々な実施例の詳細が記載されている以下の説明から得られる。
【0017】
図3に燃料電池システム1が概略的に示されている。燃料電池システムは例えば特許文献2により公知である。燃料電池システム1は、破線の矩形で略示された燃料電池3を有している。燃料電池3は少なくとも1つのスタック2を有しており、このスタック2は代替的に弁記号で示されている。
【0018】
矢印4によって、空気圧縮機として構成された燃料電池3の空気供給装置5を介して供給される空気質量流量が略示されている。矢印6によって、圧縮された空気質量流量6が略示されており、この空気質量流量6から、冷却空気質量流量7が分岐される。冷却空気質量流量7は、同様に矢印によって略示されているだけであって、冷却空気回路19の一部であって、この冷却空気回路19を介して、空気圧縮機5に冷却空気入口23から冷却空気が供給される。
【0019】
冷却空気回路19を介して供給された冷却空気は、例えば空気軸受の冷却のために用いられる。この空気軸受によって空気圧縮機5の軸が回転可能に軸受けされている。冷却空気質量流量7は、圧縮された空気質量流量6内の損失を示している。何故ならば、分岐された冷却空気質量流量7は、もはや燃料電池3のスタック2内に提供可能ではないからである。
【0020】
冷却空気質量流量7は空気圧縮機5を介して内部冷却のために提供されるので、この冷却空気質量流量7を生ぜしめるために、エネルギ、特に電気エネルギが必要とされる。このエネルギは、燃料電池システム1を介して駆動される自動車の電気駆動機械の全効率に不都合に作用する。
【0021】
残存する空気質量流量6は、空気供給管路8を介して燃料電池3に供給される。燃料電池3は、図示していない燃料供給管路を介して供給された燃料と酸化剤との化学的な反応エネルギを電気エネルギに変換するガルヴァーニ電池である。
【0022】
酸化剤は、燃料電池3の空気供給管路8を介して供給される空気である。燃料は、好適には水素またはメタンまたはメタノールであってよい。相応に、排ガスとして水蒸気および二酸化炭素が発生する。排ガスは、排ガス質量流量10の形で、矢印10で略示されているように排ガス管路9を介して導出される。
【0023】
排ガス質量流量10は、矢印で略示されているように、排気タービン11を介して排ガスアウトレット12に導出される。空気圧縮機5は空気供給管路8内に配置されている。排気タービン11は排ガス管路9内に配置されている。空気圧縮機5と排気タービン11とは、軸を介して機械的に結合されている。
【0024】
軸は、電動機14によって電気的に駆動可能である。排気タービン11は、空気圧縮機5の駆動時に電動機14をサポートするために用いられる。空気圧縮機5と排気タービン11と軸および電動機14とは共に、ターボ機械とも呼ばれる1つのターボ圧縮機15を形成する。
【0025】
燃料電池システム1は、さらにバイパス管路13を有しており、このバイパス管路13内にバイパスバルブ16が配置されている。バイパスバルブ16を有するバイパス管路13を介して、バイパス空気質量流量17が、圧力を低下させるために空気供給管路8から燃料電池3のスタック2を迂回して排ガス管路9内へ導出され得る。これは例えば、燃料電池3の空気供給管路8を介して供給された空気質量流量内の圧力を低下させるために好都合である。
【0026】
燃料電池システム1は、さらに中間冷却器18を有しており、この中間冷却器18は、破線の矩形によって略示されている。中間冷却器の主要な課題は、燃料電池3のための空気の冷却である。中間冷却器18の副次的な課題は、冷却空気質量流量7が冷却空気回路19を介して分岐される前に、圧縮された空気質量流量6を冷却することである。
【0027】
空気供給装置5は、一般的にガス供給装置5とも呼ばれる。圧縮された空気質量流量6は、陰極側20の空気供給管路8を介して陰極ガス21として燃料電池3に供給される。
【0028】
図1には、圧縮機の1実施例が側面図で示されている。コンプレッサとも呼ばれる圧縮機30はハウジング31を有しており、このハウジング31内で、回転子とも呼ばれる軸32、例えばコンプレッサ軸32が回転可能に支承されている。圧縮機またはコンプレッサ30を介して、図3に示されているように、空気が燃料電池システムの燃料スタック内に圧送される。
【0029】
圧縮機30のハウジング31はハウジング渦形室35を有しており、このハウジング渦形室35に固体伝播音センサ33が取り付けられている。この固体伝播音センサ33は、破線で略示された開ループ制御ラインを介して開ループ制御装置34に接続されている。
【0030】
図1には、コントロールユニット38を有する試験台37が概略的に示されている。試験台37は、床39上に定置に配置されている。軸32は、スラスト軸受システム29を用いて回転可能に支承されている。スラスト軸受システム29は、フォイルベアリングとも呼ばれる少なくとも1つの空気軸受を有している。さらに軸32は、好適には同様にフォイルベアリングまたは空気軸受として構成された軸受を用いて、ハウジング31内で半径方向に軸受けされている。
【0031】
図2には、x軸41およびy軸42を有するデカルト座標グラフが示されている。x軸41には、ガス供給装置5;30を有する燃料電池システム1内に提供される圧力値が示されている。x軸41には、所属の質量流量が適切な測定単位で示されている。
【0032】
デカルト座標グラフに、好適には遠心圧縮機として構成されたガス供給装置5;30の特性マップ40が示されている。特性マップ40内で、直線43は遠心圧縮機のサージラインを示す。曲線44は遠心圧縮機のチョークラインを示す。
【0033】
別の曲線45は、一定の回転数を有するラインを示し、この場合、符号45で示された曲線は、遠心圧縮機の運転中の最大許容回転数を示す。特性マップ40内に、一定の効率を有するアイランド46が示されている。
【0034】
遠心圧縮機の最大質量流量は、たいていは圧縮機インレットの横断面によって制限されている。空気が圧縮機インレット内で音速に達すると、流量のそれ以上の増大はもはや不可能である。これはチョークライン44とも呼ばれる。
【0035】
サージライン43は、特性マップ40の特性マップの左端を制限する。少なすぎる体積流量および高すぎる圧力値では、流れは圧縮機羽根から剥離する。それによって、圧送過程は中断される。空気は、好ましい体積流量を有する安定的な圧力値が再び生じるまで、圧縮機を通って後方へ流れる。圧力は再び上昇する。この過程は、速い連続で繰り返される。この時に発生する騒音からサージの表示が導き出される。
【0036】
本発明の枠内で、サージライン43を超えた側での圧縮機の運転がテストされている。空気供給のための遠心圧縮機を備えた燃料電池システムにおいて、サージライン43に基づいて運転制限が得られる。運転制限は特に、燃料電池システムの空気供給がダイナミックな空気軸受を有している場合に、適用される。
【0037】
ダイナミックな空気軸受は、その機能のために最小回転数を必要とする。概ね毎分2万回転の回転数においてはじめて、一方では圧縮機の回転子の重量を支持するための、他方では例えば悪路振動による加速度を補正できるようにするための、十分な負荷能力を有するエアクションが形成される。図2の特性マップ40に、この関係が、圧縮機の下側の作業範囲を示す点によって強調されている。
【0038】
前記制限によって、燃料電池システムのアイドリング運転中に、燃料電池内の電気化学反応のために必要とされるよりも多くの空気が圧送されるようになる。基本的に、燃料電池は理論混合比を上回って運転されるが、必要な空気過剰率は1.6乃至2.0の間である。空気供給システムの前記制限によって、場合によっては、5.0の範囲内の空気ラムダ値が得られる。
【0039】
追加的な手段なしで、このように運転された燃料電池システムは乾燥される。何故ならば、供給された空気は、燃料電池内で電気化学反応によって生ぜしめられるよりも多くの水を連れ去るからである。これによって2つのマイナスの効果が生じる。燃料電池の薄膜を通しての、水に依存するプロトン搬送は低下され、燃料電池の劣化が高まる。
【0040】
以上のような理由により、本発明の枠内で、前記マイナスの効果を避けるために、圧縮機特性マップ40の下側の作業範囲48内で、不都合なサージ運転を許容することが提案される。このために、存在するスラスト軸受システム(図1の29)は十分に頑丈に設計されなければならない。何故ならば、サージ発生時に軸方向力の強い変動が発生するからである。
【0041】
サージ運転時に、発生した音響的な効果が場合によっては車両使用者に不都合に作用することを考慮しなければならない。したがって、サージ運転を例えば固体伝播音測定装置で監視する必要がある。このために、好適な形式で加速度センサが使用される。このようなやり方によって、上側の特性マップ範囲内のサージ運転も確実に検出することができ、ひいては避けることができる。
【0042】
音響的な効果に関わっているので、サージの検出のためにマイクロフォンも使用可能である。その他の可能性は、圧縮機の電動機駆動時に必要とされる電流を評価する点にある。サージ運転はトルク変動を生ぜしめ、このトルク変動は電流変動として測定可能である。
【0043】
図2には危険な回転数値Dが示されている。危険な圧力値Dは概ね1.5である。危険な圧力値Dの下側では、電気的に駆動されるガス供給装置の運転中にそれ自体が不都合であるサージ事象が許容される。危険な圧力値Dの上側では、不都合なサージ事象は阻止される。
【0044】
図4は、長方形51乃至53、ひし形54および矢印55乃至58を有する相応のフローチャートを示す。長方形51は燃料電池システムの運転を表す。長方形52は、燃料電池システムの運転中に、サージ事象が発生しているかどうかが検査されることを示す。ひし形54で、危険な圧力値Dが超えられているかどうかが検査される。圧力値Dが超えられていなければ、矢印56によって、サージ運転が許容されることを意味する。危険な圧力値Dが超えられると、矢印57および長方形53によって、サージが阻止されることを意味する。
【0045】
長方形53内で例えば事前サージ検知が実行され得る。適切な電子制御回路により、事前サージ検知が得られると、圧縮機回転数のそれ以上の上昇が阻止される。選択的にまたは追加的に、事前サージ検知が考慮されるかまたはバイパス16が開放されると、圧縮機の運転中に圧縮機回転数が低下される。
【符号の説明】
【0046】
1 燃料電池システム
2 スタック
3 燃料電池
4 矢印、空気質量流量
5 空気供給装置、ガス供給装置、空気圧縮機
6 矢印、空気質量流量
7 矢印、冷却空気質量流量
8 空気供給管路
9 排ガス管路
10 矢印、排ガス質量流量
11 排気タービン
12 排ガスアウトレット
13 バイパス管路
14 電動機
15 ターボ圧縮機
16 バイパスバルブ、バイパス
17 バイパス空気質量流量
18 中間冷却器
19 冷却空気回路
20 陰極インレット側、陰極側
21 陰極ガス
23 冷却空気入口
29 スラスト軸受システム
30 圧縮機、コンプレッサ、ガス供給装置
31 ハウジング
32 回転子、軸、コンプレッサ軸
33 固体伝播音センサ
34 開ループ制御装置
35 ハウジング渦形室
37 試験台
38 コントロールユニット
39 床
40 特性マップ
41 x軸
42 y軸
43 直線、サージライン
44 曲線、チョークライン
45 別の曲線
46 アイランド
48 所定の作業範囲
51,52,53 長方形
54 ひし形
55、56,57,58 矢印
圧力値
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2022-04-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池(3)を有する燃料電池システム(1)を運転するための方法であって、前記燃料電池(3)の陰極インレット側(20)に、流体機械として構成された電気駆動されるガス供給装置(5;30)を用いて空気等の陰極ガス(21)が供給され、前記流体機械(5;30)の作業範囲が、サージライン(43)およびチョークライン(44)を有する特性マップ(40)に表示可能となっている方法において、
電気駆動される前記ガス供給装置(5;30)の運転中の、それ自体が不都合であるサージ事象を、電気駆動される前記ガス供給装置(5;30)の、前記サージライン(43)を超えた所定の作業範囲(48)内で意図的に許容することを特徴とする、燃料電池システム(1)を運転するための方法。
【請求項2】
電気駆動される前記ガス供給装置(5;30)の、それ自体が不都合であるサージ運転を、電気駆動される前記ガス供給装置(5;30)の、前記サージライン(43)を超えた下側の作業範囲(48)内で意図的に許容することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
電気駆動される前記ガス供給装置(5;30)の運転中の、それ自体が不都合であるサージ事象を、危険な圧力値(DK)よりも小さい圧力値において、前記サージライン(43)を超えた側で意図的に許容することを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
電気駆動される前記ガス供給装置(5;30)の運転中の、それ自体が不都合であるサージ事象を、危険な圧力値(DK)よりも大きい圧力値において、前記サージライン(43)を超えた側で許容しないことを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項5】
電気駆動される前記ガス供給装置(5;30)の運転中の、それ自体が不都合であるサージ事象を、危険な圧力値(DK)よりも大きい圧力値において、センサ式に検出することを特徴とする、請求項4記載の方法。
【請求項6】
電気駆動される前記ガス供給装置(5;30)の運転中の、それ自体が不都合であるサージ事象を、危険な圧力値(DK)よりも大きい圧力値において、音響的に検出することを特徴とする、請求項4記載の方法。
【請求項7】
前記危険な圧力値(DK)を1乃至2の間とする、請求項3からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
燃料電池(3)を有する燃料電池システム(1)であって、前記燃料電池(3)の陰極インレット側(20)に、流体機械として構成された電気駆動されるガス供給装置(5;30)を用いて空気等の陰極ガス(21)が供給され、前記流体機械(5;30)の作業範囲が、サージライン(43)およびチョークライン(44)を有する特性マップ(40)に表示可能となっている形式のものにおいて、
電気駆動される前記ガス供給装置(5;30)のスラスト軸受システム(29)が、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法に従って意図的に許容された、電気駆動される前記ガス供給装置(5;30)のサージ事象を考慮して十分頑丈に設計されていることを特徴とする、燃料電池システム(1)。
【請求項9】
請求項記載の燃料電池システム(1)を設計するための方法において、
前記燃料電池システム(1)の試験台運転中に試験台(37)上で、電気駆動されるガス供給装置(5;30)の運転中にサージ事象がいつ発生するかを検出し、かつ記憶することを特徴とする、燃料電池システム(1)を設計するための方法。
【請求項10】
前記燃料電池システム(1)の試験台運転中に前記試験台(37)上で、電気駆動される前記ガス供給装置(5;30)の運転中にサージ事象がいつ発生するかを音響的に検出することを特徴とする、請求項記載の方法。
【国際調査報告】