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特表2022-552870改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質を有するアデノウイルス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-20
(54)【発明の名称】改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質を有するアデノウイルス
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/34 20060101AFI20221213BHJP
   C12N 15/861 20060101ALI20221213BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20221213BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
C12N15/34 ZNA
C12N15/861 Z
C12N5/0775
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022523434
(86)(22)【出願日】2020-10-20
(85)【翻訳文提出日】2022-06-20
(86)【国際出願番号】 EP2020079494
(87)【国際公開番号】W WO2021078735
(87)【国際公開日】2021-04-29
(31)【優先権主張番号】19204420.4
(32)【優先日】2019-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】506407062
【氏名又は名称】ウニヴェルズィテート・ウルム
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【弁理士】
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】コハネック、ステファン
(72)【発明者】
【氏名】クルツケ、リー
(72)【発明者】
【氏名】シュタイナー、ロビン
(72)【発明者】
【氏名】ラバース、オリビア
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質を有するカプシドを有するヒトアデノウイルス種Cを開示するものであり、前記改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質は改変型HVR1領域を有し、前記改変型HVR1領域は配列DEAATALEINLKKKKQAEQQ(配列ID番号:1)を有する。本発明はさらに、ヒト疾患の治療または予防に使用するための、本開示のアデノウイルスを開示する。本発明はさらに、改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質をコードする核酸を開示する。本発明はさらに、間葉系間質細胞(MSC)または腫瘍細胞を形質導入するための、本開示によるアデノウイルスの使用を開示する。本発明はさらに、MSCを形質導入するためのin vitroの方法、およびその方法によって得られる形質導入されたMSCを開示する。本発明はさらに、疾患の治療に使用するための、本開示の形質導入されたMSCを開示する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質を有するカプシドを有するヒトアデノウイルス種Cであって、前記改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質は改変型HVR1領域を有し、前記改変型HVR1領域は配列DEAATALEINLKKKKQAEQQ(配列ID番号:1)を有する、ヒトアデノウイルス種C。
【請求項2】
請求項1記載のアデノウイルスであって、前記アデノウイルスはアデノウイルス5型である、アデノウイルス。
【請求項3】
請求項1または2記載のアデノウイルスであって、前記アデノウイルスは、アデノウイルスベクターまたは腫瘍溶解性アデノウイルスである、アデノウイルス。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載のアデノウイルスであって、前記アデノウイルスは、導入遺伝子を有するものである、アデノウイルス。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1つに記載のアデノウイルスにおいて、前記カプシドは、少なくとも1つの追加のカプシド修飾を有し、前記追加のカプシド修飾は、好ましくは、改変型アデノウイルス繊維タンパク質である、アデノウイルス。
【請求項6】
ヒト疾患の治療または予防に使用するための、請求項1~5のいずれか1つに記載のアデノウイルス。
【請求項7】
ヒトアデノウイルス種Cの改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質をコードする核酸であって、前記改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質は改変型HVR1領域を有し、前記改変型HVR1領域は配列ID番号:1の配列を有する、核酸。
【請求項8】
請求項7記載の核酸であって、前記核酸は、配列ID番号:2の配列を有する、核酸。
【請求項9】
間葉系間質細胞(MSC)または腫瘍細胞を形質導入するための、請求項1~5のいずれか1つに記載のアデノウイルスの使用。
【請求項10】
請求項9記載の使用において、前記アデノウイルスは、MSCを形質導入するための形質導入エンハンサーと組み合わせて使用される、使用。
【請求項11】
請求項10記載の使用において、前記形質導入エンハンサーは、凝固第X因子、スペルミジン、スペルミン、臭化ヘキサメトリン、ポリL-リジン及びラクトフェリンからなる群から選択される、使用。
【請求項12】
MSCを形質導入するためのin vitroの方法であって、前記方法は、
請求項1~5のいずれか1つに記載のアデノウイルスを複数のMSCに接触させる工程
を有する、方法。
【請求項13】
請求項12記載の方法において、前記複数のMSCは形質導入エンハンサーとさらに接触されるものであり、前記形質導入エンハンサーは、好ましくは、凝固第X因子、スペルミジン、スペルミン、臭化ヘキサメトリン、ポリL-リジンおよびラクトフェリンからなる群から選択される、方法。
【請求項14】
請求項12または13記載の方法によって得られる、形質導入されたMSC。
【請求項15】
疾患の治療に使用するための請求項14記載の形質導入されたMSC。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質を有するカプシドを有するヒトアデノウイルス種Cに関するものであり、前記改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質は改変型HVR1領域を有し、前記改変型HVR1領域は配列DEAATALEINLKKKKQAEQQ(配列ID番号:1)を有する。本発明はさらに、ヒト疾患の治療または予防に使用するための、本発明のアデノウイルスに関するものである。本発明はさらに、改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質をコードする核酸に関するものである。本発明はさらに、間葉系間質細胞(MSC)または腫瘍細胞を形質導入するための、本発明のアデノウイルスの使用に関するものである。本発明はさらに、MSCを形質導入するためのin vitroの方法、およびその方法によって得られる形質導入されたMSCに関する。本発明はさらに、疾患の治療に使用するための、本発明の形質導入されたMSCに関する。
【背景技術】
【0002】
アデノウイルスは、アデノウイルス科に属する非エンベロープウイルスである。それらは約36キロベース(kb)のサイズの線状二本鎖DNAゲノムを持つ。現在、89の異なるヒトアデノウイルス(HAdV)タイプが知られており、種AからGと呼ばれる7つの種に分類されている。HAdV種Cは、1型、2型、5型、6型、57型、および、89型の6つのタイプを有する。
【0003】
組換えアデノウイルスは、核酸、タンパク質、または、その他の分子を患者の細胞内に導入するために、予防や治療の場面で使用されることがある。しかしながら、例えば、HAdVを全身投与した後、腫瘍に効率的に送達することは、いくつかの細胞性および非細胞性の非標的相互作用と隔離機構のために、まだ困難である。
【0004】
間葉系間質細胞(MSC)は腫瘍組織への自然な移動挙動を示すことから、腫瘍組織へのアデノウイルスの興味深い潜在的な担体である。しかし、アデノウイルスはほとんどの種類の標的細胞に感染する可能性があるが、コクサッキーウイルスおよびアデノウイルス受容体(CAR)を発現しないMSCは、in vitroではほとんどアデノウイルスに感染することがない。
【0005】
そのため、アデノウイルスを医療で使用するための現在の限界を克服する新しいツールおよび方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
第1の態様において、本発明は、改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質を有するカプシドを有するヒトアデノウイルス種Cに関し、前記改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質は改変型HVR1領域を有し、前記改変型HVR1領域は配列DEAATALEINLKKKKQAEQQ(配列ID番号:1)を有する。
【0007】
第2の態様において、本発明は、ヒト疾患を治療または予防するために使用するための本発明のアデノウイルスに関する。
【0008】
第3の態様において、本発明は、ヒトアデノウイルス種Cの改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質をコードする核酸に関し、前記改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質は改変型HVR1領域を有し、前記改変型HVR1領域は配列ID番号:1の配列を有する。
【0009】
さらなる態様において、本発明は、間葉系間質細胞(MSC)または腫瘍細胞を形質導入するための、本発明のアデノウイルスの使用に関するものである。
【0010】
さらなる態様において、本発明は、MSCを形質導入するためのin vitroの方法に関し、前記方法は、
複数のMSCを本発明のアデノウイルスと接触させる工程
を有する。
【0011】
さらなる態様において、本発明は、本発明の方法によって得ることができる形質導入されたMSCに関するものである。
【0012】
さらなる態様において、本発明は、疾患の治療に使用するための、本発明の形質導入されたMSCに関する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、HAdV5野生型およびHAdV5-Mut3ヘキソンタンパク質の超可変領域1のアミノ酸配列(図1A)、および、HAdV5野生型、HAdV5-ΔHVR1、HAdV5-Mut2、HAdV5-Mut3、HAdV5-Mut4、HAdV5-Mut5、HAdV5-Mut6ヘキソンタンパク質の超可変領域1(HVR1)、5(HVR5)、7(HVR7)のアミノ酸配列のアラインメントを示す。負に帯電したアミノ酸は太字で描かれている。挿入されたリジン残基はイタリック体で示されている。
図2図2は、HAdV5野生型およびHAdV5-Mut3ヘキソンタンパク質の超可変領域1をコードするヌクレオチド配列のアラインメントを示したものである。挿入されたリジン残基をコードするヌクレオチドは、大文字で示されている。
図3図3は、HAdV5-ΔHVR1およびHAdV5-Mut3では、HAdV5-Mut2およびHAdV5野生型(HAdV5)と比較して、銀染色でヘキソンタンパク質が小さく見えることを示している。5x10ウイルス粒子をSDS-PAGEで分離し、銀染色で染色した。
図4図4は、HAdV5-Mut3の表面電荷が、HAdV5野生型(HAdV5)、HAdV5-Mut2、およびHAdV5-ΔHVR1に比べ、著しく高いことを示す。HAdV5、HAdV5-Mut2、HAdV5-Mut3、およびHAdV5-ΔHVR1の2x1011ウイルス粒子を一晩透析し、PD MiniTrap G-25カラムで精製し、ゼータサイザーナノ-ZSで測定した。結果は、平均±標準偏差で示される(n=5~6)。***p≦0.0005。
図5図5は、HAdV5-Mut3が、HAdV5野生型(HAdV5)、HAdV5-Mut2、およびHAdV5-ΔHVR1に比べて、第X因子(FX)によるCAR陰性細胞への形質導入が著しく少ないことを示している。2x10 SKOV-3細胞をFX(+FX)(8μg/ml)またはFXなし(w/o FX)で処理し、2x10ウイルス粒子(pMOI 1000)に感染させて72時間培養し、フローサイトメトリーによりeGFP発現について分析した。結果は、平均±標準偏差で示される(n=14~15)。***p≦0.0005。
図6図6は、スカベンジャー受容体によるHAdV5-Mut3の取り込みがHAdV5野生型(HAdV5)と比較して著しく減少していることを示す。1x10J774.A1細胞は、必要に応じて、ポリイノシン酸(Poly-(I))(30μg/ml)で1時間処理し、続いて2x10ウイルス粒子(pMOI 2000)に感染させて、さらに21時間培養し、採取した後、DNA分離とqPCR分析が行われた。結果は平均±標準偏差で示される(n=6)。**p≦0.005。
図7図7は、FX結合を切断したHAdV5-Mut3ベクター粒子が天然IgMによる中和から逃れることを示している。HAdV5野生型(HAdV5)、HAdV5-ΔFXまたはHAdV5-Mut3をPBSまたはAd-naiveの、異なるドナーまたはマウス系統の、ヒルジン化(hirudinized)ヒトまたはマウス血漿サンプルとともに2E6 VP/μlの割合で37℃、10分間培養した。その後、A549細胞にpMOIを1,000で形質導入した。細胞によるeGFPの発現は、導入後24時間後にフローサイトメトリーにより分析した。結果は、平均±標準偏差で示される(n=7~12)。***p≦0.0005。
図8図8は、第X因子の存在下で、MSCによるHAdV5-コード化治療用タンパク質TSG-6の有意に増強された分泌を示す。MSCに、TSG-6発現アデノウイルスベクターHAdV5-TSG6の非存在下、または存在下で、異なるpMOIを形質導入し、導入72時間後に細胞培養上清中のTSG-6濃度をELISAで定量化した(n=1)。
図9図9は、HAdV5-Mut3を用いた場合、HAdV5野生型(HAdV5)と比較して、いくつかの腫瘍細胞株の形質導入が改善または維持されることを示す。HAdV5-Mut3とHAdV5を用いて、UM-SCC-11B、MiaPaCa、Huh7、HepG2、およびA549細胞にpMOIが300と1000で形質導入を行った。形質導入の24時間後、フローサイトメトリーによりeGFP陽性細胞の割合を測定した。結果は平均±標準偏差で示される(n=3)。*p≦0.05。
図10図10は、HAdV5野生型(HAdV5)とエンハンサーとのプレインキュベーション、またはHAdV5-Mut3の利用によって、MSCの形質導入が有意に促進されたことを示す。MSCは、HAdV5(それぞれのエンハンサーとプレインキュベーションしたもの、またはしないもの)またはHAdV5-Mut3によって、pMOIが1000で形質導入された。導入の72時間後、eGFP発現をフローサイトメトリーで分析した。結果は、平均±標準偏差で示される(n=3)。*p≦0.05。
図11図11は、エンハンサーをプレインキュベーションしたHAdV5wtの使用、またはHAdV5-Mut3wtの使用による、MSCにおけるアデノウイルス複製の改善を示す。MSCは、300および1000のpMOIを有するHAdV5wt(それぞれのエンハンサーとプレインキュベーションされているかどうかに関係なく)またはHAdV5-Mut3wtによって感染した。感染後24、48、72、97時間で、MSCによって産生された感染性アデノウイルス粒子が定量化された。結果は、生物学的2連(n=1)の平均±標準偏差で示される。
図12図12は、HAdV5-Mut3とエンハンサーを組み合わせることで、eGFPの発現が増強されることを示す。MSCは、HAdV5-Mut3(それぞれのエンハンサーとプレインキュベートしたもの、またはしないもの)によって、100、300、600、900、1000または10000のpMOIで形質導入された。eGFP発現は、形質導入の72時間後にフローサイトメトリーで分析した。結果は、2人のドナー(それぞれ生物学的3連)の平均±標準偏差(n=2)で示される。
図13図13は、MSCの形質導入がUM-SCC-11B細胞への移動を阻害しないことを示す。増強分子と組み合わせたHAdV5野生型(HAdV5)を用いて、またはHAdV5-Mut3を用いて、非形質導入、または形質導入されたMSCの移動は、Boyden-Chamber-Assayで分析された。移動アッセイを開始してから18時間後に、細胞を固定し、DAPIで染色した。移動した細胞は、DAPIで染色した核を数えることで定量化した。結果は、平均±標準偏差で示される。
図14図14は、HAdV5野生型とHAdV5-Mut7、HAdV5-Mut8、HAdV5-Mut9ヘキソンタンパク質のHVR1のアミノ酸配列のアラインメントを示したものである。挿入されたリジン残基は太字で示されている。さらに挿入されたアミノ酸はイタリック体で示されている。
図15図15は、HAdV5-Mut3(HAdV-5-M3)を使用した場合、HAdV5野生型(HAdV-5)と比較していくつかの腫瘍細胞株の形質導入が改善または維持されること、およびHAdV5-ΔCAR(HAdV-5-ΔCAR)と比較してHAdV5-ΔCAR-Mut3(HAdV-5-ΔCAR-M3)を使用すると複数の腫瘍細胞株の形質導入が改善することを示す。特定のアデノウイルスベクターを用いて、UM-SCC-11B、MiaPaCa、Huh7、HepG2およびA549細胞を1000のpMOIで形質導入した。形質導入の24時間後、フローサイトメトリーによりeGFP陽性細胞の割合を測定した。結果は、平均±標準偏差で示される(n=9)。*p≦0.05、**p≦0.01、***p≦0.001、****p≦0.0001。
図16図16は、HAdV5-Mut3(HAdV-5-M3)およびHAdV5-ΔCAR-Mut3(HAdV-5-ΔCAR-M3)の利用によりMSCの導入が有意に促進し、HAdV5-ΔHVR1(HAdV-5-ΔHVR1)とHAdV5-Mut2(HAdV-5-M2)の利用ではMSCの形質導入が見られないことを示している。MSCは、pMOIが1000の特定のアデノウイルスベクターによって形質導入された。形質導入の24時間後、eGFPの発現をフローサイトメトリーで分析した。結果は平均±標準偏差で示される(n=3)。*p≦0.05、****p≦0.0001。
【発明を実施するための形態】
【0014】
第1の態様において、本発明は、改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質を有するカプシドを有するヒトアデノウイルス種Cに関し、前記改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質は改変型HVR1領域を有し、前記改変型HVR1領域は配列DEAATALEINLKKKKQAEQQ(配列ID番号:1)を有する。
【0015】
ヒトアデノウイルス(HAdV)種Cは、6つのタイプ、すなわち、1、2、5、6、57、89型を有する。全てのアデノウイルス種Cプロトタイプを表す完全なヌクレオチド配列は、GenBankに登録され、入手が可能である:HAdV-C1(AC_000017.1)、HAdV-C2(AC_000007.1)、HAdV-C5(AC_000008.1)、HAdV-C6(FJ349096.1)、HAdV-C57(HQ003817.1)およびHAdV-C89(MH121097.1)。
【0016】
アデノウイルスは正二十面体形状のカプシドを有する。カプシドの外殻は、ヘキソン、ペントンベース、および繊維の3種類の主要なタンパク質を有する。この3種類のカプシドタンパク質が、アデノウイルスの感染初期に必要な活動の大部分に寄与している。アデノウイルスのヘキソンタンパク質は、カプシドの外殻の大部分を占め、240個のホモ三量体を形成して、ウイルスゲノムや関連タンパク質を含むウイルスの大部分をカプシド化する。繊維タンパク質は正20面体の12個の頂点からそれぞれ突出しており、ペントンベースは各繊維タンパク質の底部に位置している。
【0017】
アデノウイルスヘキソンタンパク質は、HVR1~HVR7に指定された7つの超可変領域(HVR)を有する。本発明のアデノウイルスの改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質は、改変型HVR1領域を有し、前記改変型HVR1領域は、配列DEAATALEINLKKKKQAEQQ(配列ID番号:1)を有する。換言すると、改変型HVR1領域は、配列DEAATALEINLKKKKQAEQQ(配列ID番号:1)を有する。配列ID番号:1のアミノ酸配列は、野生型配列の13の連続するアミノ酸残基、すなわちEEEDDDNEDEVDE(配列ID番号:6)にわたるアミノ酸を4つの連続するリジン残基で置き換えることによってHAdV5型ヘキソンタンパク質のHVR1の野生型アミノ酸配列から誘導されたものである。改変型HVR1領域により、改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質はそれぞれの野生型アデノウイルスヘキソンタンパク質と異なっている。
【0018】
改変型HVR1領域は、配列ID番号:1のN末端またはC末端に位置する追加のアミノ酸を有することもできる。典型的には、改変型HVR1領域は、配列ID番号:1のC末端に位置し、それぞれの野生型アミノ酸に対応する5つの追加のアミノ酸を有する。
【0019】
本発明は、改変型HVR1領域を有する改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質において、前記改変型HVR1領域が配列ID番号:1のアミノ酸配列を有し、それにより改善された特性を有するアデノウイルスをもたらすという発見に基づくものである。重要なことは、HVR1領域の他の類似の修飾では、改善された特性が観察され得なかったことである。
【0020】
本発明者らは、それぞれがヘキソンタンパク質に異なるタイプの改変型HVR1領域を有する、6つの改変型(変異型)アデノウイルスベクターを作製することに着手した(図1B)。すべての変異体は、ウイルス粒子の表面負電荷を減少させる目的で設計された。HAdV5-Mut3と名付けられた変異体は、配列ID番号:1の配列を有する改変型HVR1領域を有する(図1A)。HAdV5-Mut3の改変型ヘキソンタンパク質のHVR1領域の完全な配列は、DEAATALEINLKKKKQAEQQKTHVF(配列ID番号:43)である。
【0021】
本発明者らは、HVR1領域の特定の改変が、変異ウイルスベクターの産生を実行不可能にすることを見出した。HAdV5-Mut4、HAdV5-Mut5、HAdV5-Mut6と名付けられた変異ベクターの産生は、実現不可能であった。
【0022】
さらに、それぞれヘキソンタンパク質に異なるタイプの改変型HVR1領域を有するHAdV5-Mut7、HAdV5-Mut8、およびHAdV5-Mut9(図14)と名付けたさらに3つの改変型(変異)アデノウイルスベクターの産生も不可能であることが判明した。
【0023】
さらに本発明者らは、負に帯電したHVR1ループを削除すると(変異型HAdV5-ΔHVR1)、ウイルス粒子の負の表面電荷がわずかに減少するのみであることを見出した。変異型HAdV5-Mut2の場合、4つのアスパラギン酸をリジンに置換すると、さらに負の表面電荷が減少した。しかし、興味深いことに、配列ID番号:1の改変型HVR1領域を有するHAdV5-Mut3は、HAdV5野生型、HAdV5-ΔHVR1、およびHAdV5-Mut2と比較して、負の表面電荷が有意に減少していることが示された。
【0024】
驚くべきことに、本発明者らはさらに、HAdV5-Mut3が、HAdV5野生型、HAdV5-ΔHVR1、およびHAdV5-Mut2と比較して、ヒト血液凝固第X因子(FX)を介したCAR陰性細胞の形質導入の有意な減少を示すことを見いだした。FXのHAdV5への結合は、肝細胞の形質導入を媒介するため、粒子の隔離を誘発する。これは、HAdVの全身投与後に、例えば腫瘍に効率的にHAdVを送達するための大きな障害の1つである。本発明のアデノウイルスは、この障害を克服している。一方、HAdV5-ΔHVR1およびHAdV5-Mut2は、HVR1領域の修飾がHAdV5-Mut3と類似しているにもかかわらず、FX結合の減少は見られなかった。
【0025】
HAdV5-Mut3へのFXの結合が有意に減少し、それによってHAdV5-Mut3の肝細胞の形質導入が減少したことは、予想外の発見であった。Albaら(Alba et al.,2009)によると、FXとHAdV5カプシドの相互作用は、アデノウイルスヘキソンタンパク質のHVR5およびHVR7との結合を介して行われるとのことである。また、FXとアデノウイルスのヘキソンタンパク質のHVR3、HVR5、HVR7との相互作用も報告されている。一方、HVR1がFXの結合に果たす役割は知られておらず、期待もされていなかった。したがって、アデノウイルスヘキソンタンパク質のHVR1領域の修飾がFX結合に影響を与えるというのは、驚くべき発見である。重要なことは、FX結合に影響を与えるためには、HVR1領域の修飾の種類が決定的であるということである。このことは、HAdV5-ΔHVR1およびHAdV5-Mut2は、HVR1領域の修飾がHAdV5-Mut3と類似しているにもかかわらず、FX結合の減少を示さなかったという事実により明らかである。
【0026】
より具体的には、4つまたは6つのリジン残基の数を導入するだけでは十分でない場合があることが、本発明者らの知見から判明している。HAdV5-Mut4では、5つのグルタミン酸残基と1つのアスパラギン酸残基がリジン残基で置換されていた。HAdV5-Mut4は実行可能ではなかった。HAdV5-Mut2では、4つのアスパラギン酸残基がリジン残基に置換されていた。しかし、HAdV5-Mut2はFX結合の減少を示さなかった。
【0027】
本発明者らの発見は、FX結合の低下が、連続して配置された4つのリジン残基が導入されたHAdV5-Mut3についてのみ観察されることを示している。したがって、調査結果は、4つの連続したリジン残基を導入することが必要であることを示している。
【0028】
同様に、HAdV5-ΔHVR1のように、リジン残基を導入せずにHVR1領域の13のアミノ酸のストレッチを削除するだけでは、FX結合に影響を与えるには十分でないことが、本発明者らの知見から判明した。
【0029】
さらに、本発明者らは、本発明のアデノウイルスがまた、例えば全身性HAdV投与後の腫瘍への効率的なHAdV送達するための別の障害、すなわち天然IgM抗体による中和を克服することを見出した。FX結合の減少も示すHAdV5-ΔFX粒子は、ヒトとマウスの両方の血漿と培養すると、天然のIgMによってほぼ完全に中和されたので、この発見は予想外であった。しかし、興味深いことに、HAdV5-Mut3はHAdV5-ΔFXと同程度のFX結合の低下を示すにもかかわらず、ヒトまたはマウスの血漿サンプルと培養してもこの効果は観察されなかった。このように、本発明者らは、HAdV5-Mut3の改変型HVR1領域によって、FXシールドを欠くベクター粒子が天然のIgMから逃れることを可能にすることを示した。これは、HAdVの全身、特に静脈内投与後の別の障壁である赤血球への本発明のアデノウイルスのIgM媒介結合を防ぐことにもなる。
【0030】
HAdVを効率的に全身投与するための別の問題は、クッパー細胞と呼ばれる肝臓に存在するマクロファージである。クッパー細胞は細胞表面にスカベンジャー受容体を持ち、これが負に帯電した分子と結合して捕捉することにより、HAdVを取り込ませる。マウスマクロファージによる取り込みは、HAdV5-ΔHVR1、HAdV5-Mut2、およびHAdV5-Mut3の3つの変異ベクターすべてにおいてHAdV5野生型に比べて著しく減少したが、その影響はHAdV5-Mut3において最も顕著に見られた。
【0031】
まとめると、本発明のアデノウイルスは、これまでに直面したHAdVの全身投与に関する複数の障壁を克服する。したがって、本発明のアデノウイルスは、全身投与に特に有用である。
【0032】
さらに、本発明のアデノウイルスは、それぞれのHAdV野生型と比較して改善されているかまたは類似している腫瘍細胞の形質導入効率を有することがさらに見出された。したがって、本発明のアデノウイルスは、腫瘍溶解性ウイルスとしての利用にも特に有用である。
【0033】
本明細書で使用される用語「細胞の形質導入」は、アデノウイルスを用いて1つまたは複数の核酸を細胞に導入する工程を意味する。アデノウイルスは、典型的には、適切なパッケージング細胞によって産生された組換えアデノウイルスである。組換えアデノウイルスによる細胞の形質導入の重要な用途は、標的細胞、例えば、遺伝子治療中の患者の標的細胞への1つ以上の遺伝子のウイルス媒介送達である。
【0034】
本明細書で使用される用語「形質導入効率」は、細胞の形質導入後に、アデノウイルスによって正常に形質導入された標的細胞の割合またはパーセンテージを意味する。
【0035】
本明細書で使用される用語「標的細胞」は、アデノウイルスによって形質導入(感染)される細胞を意味する。
【0036】
本発明の基礎となる研究においてHAdV5が使用されたとしても、本発明はHAdV5に限定されるものではない。本発明者らの発見は、同様に、改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質を有する全てのHAdV種C型に適用され、ここで、改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質は、配列ID番号:1の配列を有する改変型HVR1領域を有する。
【0037】
好ましい実施形態では、アデノウイルスは、アデノウイルス5型である。アデノウイルス5型は、本明細書では、HAdV5型、HAdV-C5、HAdV-5またはHAdV5とも称される。HAdV5型に基づくウイルスベクターは、遺伝子治療研究において最も一般的に使用されるベクターに属する。これらは、特に癌治療のための腫瘍溶解性アデノウイルスとして、前臨床および臨床の両方で長年にわたって広範囲に研究されてきた。配列ID番号:1のアミノ酸配列は、HAdV5型ヘキソンタンパク質のHVR1領域の野生型アミノ酸配列の一部に由来するものである。
【0038】
別の実施形態では、アデノウイルスは、アデノウイルス1型、2型、6型、57型、または89型である。
【0039】
好ましい実施形態では、改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質は、未修飾(野生型)のHVR5および/またはHVR7領域を有する。
【0040】
好ましい実施形態では、アデノウイルスは、アデノウイルスベクターまたは腫瘍溶解性アデノウイルスである。
【0041】
本明細書で使用される用語「アデノウイルスベクター」は、複製欠損型アデノウイルスベクターを意味する。アデノウイルスに基づき、異なる複製欠損ベクタータイプが存在する。アデノウイルス(Ad)ベクターは、通常、少なくともE1AおよびE1B遺伝子の欠失を有し、したがって、ヒト細胞において複製欠損性である。産生は、E1AおよびE1Bタンパク質を発現し、E1AおよびE1B遺伝子が染色体に組み込まれているヒト相補性細胞株で行われる。例えば、デルタE1 Adベクター(E1-欠失Adベクターまたは第1世代Adベクターとも呼ばれる)は、実験ツールとして、前臨床研究開発、臨床研究、遺伝子治療または遺伝子ワクチン接種の文脈での製品開発で広く使用されている。このベクター型は、E1AおよびE1Bタンパク質をコードするE1領域を除去することにより、複製欠損にしたものです。さらに、このベクター型にはE3領域が欠失されている場合もある。第2世代Adベクターは、E1遺伝子の欠失(および任意にE3領域の欠失)に加えて、E2遺伝子および/またはE4遺伝子の欠失を有する。高容量Ad(HC-Ad)ベクター(ヘルパー依存性Adベクターとも呼ばれる)では、すべてのウイルスコード配列が目的の導入遺伝子で置き換えられる。
【0042】
アデノウイルスベクターは通常、プロモーター配列の制御下で、タンパク質をコードするRNA、あるいはタンパク質をコードしないRNA、例えば、スモールヘアピンRNA(shRNA)またはマイクロRNA(miRNA)などのノンコーディングRNAをコードするRNAが発現する発現カセットを運ぶ。
【0043】
本明細書で使用される用語「腫瘍溶解性アデノウイルス」は、複製コンピテントアデノウイルスを指す。複製コンピテントアデノウイルスは、主に癌、特に固形癌の治療のために臨床開発されている。これらのウイルスは、腫瘍細胞内で増殖し、腫瘍細胞を破壊する。安全な臨床使用に関しては、腫瘍選択的複製により、非腫瘍性の健康な組織への損傷を低減または防止することが考えられている。そのため、条件付き複製コンピテントアデノウイルスとも呼ばれている。腫瘍選択的活性を達成するために、多くの異なる戦略が追求されてきた。一般的な戦略は、E1A(デルタ-24と呼ばれる)のRb結合部位の欠失に関するもので、腫瘍細胞ではアデノウイルスの転写因子E2F依存性複製をもたらすが、非腫瘍細胞では起こらないというものであった。他の戦略は、腫瘍または組織特異的な制御プロモーターエレメントを使用して、特定の細胞型に必須のアデノウイルス遺伝子(例えばE1A)の発現を制御することに依存するものである。全体として、腫瘍溶解性アデノウイルスは、癌治療のための有望なツールである。
【0044】
以上のように、本発明のアデノウイルスは、それぞれのHAdV野生型と比較して改善されているかまたは類似している腫瘍細胞の形質導入効率を有することが見出された。したがって、本発明のアデノウイルスは、腫瘍溶解性ウイルスとしての利用に特に有用である。
【0045】
好ましい実施形態では、アデノウイルスは、導入遺伝子を有する。本明細書で使用される用語「導入遺伝子」は、アデノウイルスにとって非天然であり、導入遺伝子を有するアデノウイルスで標的細胞を形質導入することによって標的細胞に送達される遺伝子または遺伝物質を指す。好ましい実施形態では、アデノウイルスは、1つまたはいくつかの導入遺伝子、好ましくは2つまたは3つの導入遺伝子を有する。
【0046】
好ましい実施形態において、カプシドは、少なくとも1つの追加のカプシド修飾を有する。追加のカプシド修飾は、例えば、改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質および/またはアデノウイルス繊維タンパク質、ペントン基タンパク質またはマイナーカプシドタンパク質IXなどの異なるアデノウイルスカプシドタンパク質に存在することができる。特性が変化したアデノウイルスを得るために、これらのタンパク質にいくつかの修飾を導入することは知られている。
【0047】
好ましい実施形態では、追加のカプシド修飾は、改変型アデノウイルス繊維タンパク質である。好ましい実施形態において、改変型アデノウイルス繊維タンパク質は、繊維タンパク質をコードするウイルス遺伝子の遺伝子改変による繊維タンパク質のCAR結合部位の切除のために、コクサッキーウイルスおよびアデノウイルス受容体(CAR)結合を欠いている。CAR結合の欠損により、HAdVの赤血球への結合が阻害されるため、特に静脈内投与時に赤血球によるウイルス粒子の封じ込めを防止することができる。したがって、配列ID番号:1の配列を有する改変型HVR1領域を有する改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質と、CAR結合を欠く改変型アデノウイルス繊維タンパク質の両方を用いることにより、肝細胞との非標的相互作用、天然IgM抗体との非標的相互作用、および赤血球とのIgMまたはCAR媒介非標的相互作用がないアデノウイルスを得ることができる。このようなアデノウイルスは、全身投与に特に有用である。
【0048】
第2の態様において、本発明は、ヒト疾患を治療または予防するために使用するための本発明のアデノウイルスに関する。上述したように、本発明のアデノウイルスは、全身投与に特に有用である。したがって、本発明のアデノウイルスは、ヒト疾患を治療または予防するのに使用するのに特に好適である。
【0049】
好ましい実施形態では、疾患は、遺伝子治療によって治療または予防される。本明細書で使用される用語「遺伝子治療」は、疾患を治療または予防するための患者の細胞への核酸の治療的送達を意味する。核酸は、形質導入された細胞によって発現される、例えば、治療用タンパク質などの治療用分子をコードする。
【0050】
好ましい実施形態では、疾患は、遺伝的ワクチン接種によって治療または予防される。本明細書で使用される用語「遺伝子ワクチン接種」は、疾患に対して対象を保護するため、または既存の疾患を治療するために、保護または治療免疫学的応答を生成するために、対象の細胞への核酸の送達を指す。核酸は、形質導入された細胞によって発現され、免疫学的応答を誘導する免疫原または抗原をコードする。
【0051】
好ましい実施形態では、疾患は癌である。上述のように、腫瘍溶解性アデノウイルスは、癌を治療するための有望なツールであり、本発明のアデノウイルスは、腫瘍溶解性ウイルスとして利用するために特に有用である。
【0052】
第3の態様において、本発明は、ヒトアデノウイルス種Cの改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質をコードする核酸に関し、改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質は改変型HVR1領域を有し、改変型HVR1領域は配列ID番号:1の配列を有する。
【0053】
好ましい実施形態において、核酸は、配列ID番号:2の配列を有する。
【0054】
さらなる態様において、本発明は、間葉系間質細胞(MSC)または腫瘍細胞を形質導入するための、本発明によるアデノウイルスの使用に関するものである。
【0055】
間葉系幹細胞とも呼ばれる間葉系間質細胞(MSC)は、腫瘍に移動する能力を自然に備えている。したがって、アデノウイルスを腫瘍組織に運ぶための興味深い担体細胞である。形質導入されたMSCは、ウイルス粒子を隔離機構から隠し、細胞内ウイルス複製によりウイルス量を増加させ、新たに生成された粒子が遊離される腫瘍部位にそれらを輸送する。しかし、一般に使用されているHAdV5型野生型ベクターでは、MSCはほとんど形質導入されない。驚くべきことに、本発明者らは、本発明によるアデノウイルスを使用した場合、HAdVベクターによるMSCの形質導入が大幅に促進されることを見いだした。さらに、本発明者らは、本発明によるアデノウイルスでMSCを形質導入すると、野生型HAdVで形質導入した場合と比較して、MSCにおけるアデノウイルスの複製が改善されることを見出した。本発明者らはさらに、MSCの移動挙動が、本発明によるアデノウイルスによるMSCの形質導入によって、影響を受けないことを確認した。したがって、本発明に係るアデノウイルスは、MSCを形質導入するために特に有用である。
【0056】
好ましい実施形態において、MSCは、ヒトMSCである。
【0057】
以上のように、本発明のアデノウイルスは、それぞれのHAdV野生型と比較して、腫瘍細胞の形質導入効率が向上しているか、または同程度であることが判明した。したがって、本発明のアデノウイルスは、腫瘍細胞の形質導入にも有用である。
【0058】
好ましい実施形態において、腫瘍細胞は、ヒト腫瘍細胞である。
【0059】
好ましい実施形態では、アデノウイルスは、MSCを形質導入するための形質導入エンハンサーと組み合わせて使用される。本発明者らは、本発明によるアデノウイルスを用いたMSCの形質導入効率は、形質導入エンハンサーを用いることによりさらに向上することを見出した。
【0060】
好ましい実施形態では、形質導入エンハンサーは、凝固第X因子、スペルミジン、スペルミン、臭化ヘキサジメトリン、ポリ-L-リジンおよびラクトフェリンからなる群から選択される。
【0061】
好ましい実施形態では、形質導入エンハンサーは、凝固第X因子、スペルミジン、スペルミンまたは臭化ヘキサジメトリンである。
【0062】
さらに好ましい実施形態では、形質導入エンハンサーは凝固第X因子である。
【0063】
さらなる態様において、本発明は、MSCを形質導入するためのin vitroの方法に関し、前記方法は、
複数のMSCsを本発明によるアデノウイルスと接触させる工程
を有する。
【0064】
上述したように、本発明のアデノウイルスは、MSCを形質導入するのに特に有用である。これは、腫瘍組織へのアデノウイルスの担体としてMSCを使用するための道を開くものである。
【0065】
好ましい実施形態において、複数のMSCは、さらに、形質導入エンハンサーと接触され、前記形質導入エンハンサーは、好ましくは、凝固第X因子、スペルミジン、スペルミン、臭化ヘキサジメトリン、ポリ-L-リジンおよびラクトフェリンからなる群から選択される。
【0066】
さらなる態様において、本発明は、本発明の方法によって得ることができる形質導入されたMSCに関するものである。
【0067】
さらなる態様において、本発明は、疾患の治療に使用するための、本発明の形質導入されたMSCに関する。
【0068】
好ましい実施形態において、疾患は、ヒト疾患である。
【0069】
好ましい実施形態では、疾患は、遺伝子治療によって治療される。
【0070】
好ましい実施形態では、疾患は細胞療法によって治療される。本明細書で使用される用語「細胞療法」は、疾患を治療するために細胞材料を患者に治療的に送達することを意味する。細胞材料は、一般に、本発明の方法によって得ることができる形質導入されたMSCのような、無傷の生きた細胞である。
【0071】
さらに開示されるのは、腫瘍細胞を形質導入するためのin vivoの方法であり、前記方法は、
複数の腫瘍細胞と本発明によるアデノウイルスを接触させる工程
を有する。
【0072】
さらに開示されるのは、腫瘍細胞を形質導入するためのin vitroの方法であり、前記方法は、
複数の腫瘍細胞と本発明によるアデノウイルスを接触させる工程
を有する。
【0073】
上述したように、本発明のアデノウイルスは、腫瘍細胞の形質導入に特に有用である。
【0074】
好ましい実施形態において、複数の腫瘍細胞は、さらに、形質導入エンハンサーと接触され、前記形質導入エンハンサーは、好ましくは、凝固第X因子、スペルミジン、スペルミン、臭化ヘキサジメトリン、ポリ-L-リジンおよびラクトフェリンから成る群から選択される。形質導入エンハンサーを使用することにより、本発明のアデノウイルスによる腫瘍細胞の導入効率がさらに向上する。
【0075】
さらに、本開示による腫瘍細胞を形質導入するためのin vitroの方法によって得ることができる形質導入腫瘍細胞も開示される。
【0076】
さらに開示されるのは、配列ID番号:3の改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質を有するカプシドを有するヒトアデノウイルスである。
【0077】
配列ID番号:3の改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質のアミノ酸配列は、野生型配列のHVR1領域における13の連続したアミノ酸残基を4つの連続したリジン残基に置き換えることによって、HAdV5型ヘキソンタンパク質の野生型アミノ酸配列から誘導される。配列ID番号:3の改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質は、配列ID番号:1の配列を有する改変型HVR1領域を有する。したがって、配列ID番号:3の改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質の存在は、アデノウイルスヘキソンに改良された特性を与える。より具体的には、上述したように、そのようなアデノウイルスは、全身投与に特に有用である。
【0078】
好ましい実施形態において、アデノウイルスは、アデノウイルス種C、好ましくはアデノウイルス5型である。
【0079】
さらに開示されるのは、改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質を有するカプシドを有するヒトアデノウイルス種Cであり、前記改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質は改変型HVR1領域を有し、前記改変型HVR1領域は3~8個の連続したリジンまたはアルギニン残基を有する。
【0080】
配列ID番号:1の配列を有する改変型HVR1領域は、4つの連続したリジン残基を有する。4つの連続したリジン残基がHVR1領域の配列ID番号:1における位置とは異なる位置に挿入される場合にも、それぞれ改変型ヘキソンタンパク質を有するアデノウイルスに見られる効果が得られると期待できる。さらに、改変型HVR1領域が3~8個の連続したリジン残基を有する場合にも、同様に効果が得られると期待できる。アルギニン残基は、リジン残基と化学的に類似した性質、特に正電荷を有するので、改変型HVR1領域が3~8個の連続したアルギニン残基を有する場合にも、同様に効果が得られるとさらに期待できる。
【0081】
好ましい実施形態において、3~8個の連続するリジンまたはアルギニン残基は、負に帯電していない1つまたはいくつかのアミノ酸残基に直接隣接している。直接隣接するアミノ酸残基は、3~8個の連続するリジンまたはアルギニン残基のN-末端および/またはC-末端に位置するアミノ酸残基である。
【0082】
好ましい実施形態では、改変型HVR1領域は、4~8個の連続したリジンまたはアルギニン残基を有する。
【0083】
好ましい実施形態において、改変型HVR1領域は、3~8個、好ましくは4~8個の連続したリジン残基を有する。
【0084】
さらなる好ましい実施形態において、改変型HVR1領域は、4つの連続したリジン残基を有する。
【0085】
さらなる態様において、本開示は、MSCを形質導入するためのin vitroの方法に関し、前記方法は、
複数のMSCをアデノウイルスおよび形質導入エンハンサーと接触させる工程であって、前記形質導入エンハンサーが凝固第X因子、スペルミジン、スペルミン、臭化ヘキサジメトリン、ポリL-リジンおよびラクトフェリンからなる群から選択される、接触させる工程
を有する。
【0086】
コクサッキーウイルスおよびアデノウイルス受容体(CAR)を発現していないMSCは、in vitroではアデノウイルスにほとんど感染しない。本発明者らは、形質導入エンハンサーを用いることで、MSCへのアデノウイルスの導入が著しく促進されることを見出した。これにより、腫瘍組織へのアデノウイルスの担体としてMSCを使用することが容易になる。本発明者らは、さらに、形質導入エンハンサーの使用は、MSCにおけるアデノウイルスの複製を改善することにつながり、これは、アデノウイルスの担体としてのMSCの医療上の使用にも利益をもたらすことを見出した。さらに、本発明者らは、MSCの移動挙動が、形質導入エンハンサーの使用によって影響を受けないことを確認した。
【0087】
好ましい実施形態において、アデノウイルスは、ヒトアデノウイルス種Cであり、前記アデノウイルスは、好ましくは、アデノウイルス5型である。
【0088】
好ましい実施形態では、形質導入エンハンサーは、凝固第X因子、スペルミジン、スペルミンまたは臭化ヘキサジメトリンである。
【0089】
さらに好ましい実施形態では、形質導入エンハンサーは、スペルミジンまたはスペルミンである。本発明者らは、スペルミジンまたはスペルミンが形質導入エンハンサーとして使用された場合に、アデノウイルスによるMSCの増強された形質導入が最も顕著であることを見出した。
【0090】
別のさらに好ましい実施形態では、形質導入エンハンサーは、凝固第X因子である。本発明者らは、それぞれの組換えアデノウイルスを導入したMSCによる治療用タンパク質の発現およびその後の分泌が、形質導入エンハンサーとして凝固第X因子の存在下で有意に増強されることを見出した。
【0091】
好ましい実施形態では、アデノウイルスは、導入遺伝子を有する。
【0092】
配列
HAdV5ヘキソンのアミノ酸配列は、GenBank AY339865.1、18,842-21,700位にしたがって示されている。ヘキソンタンパク質の超可変領域1(HVR1)は、Khare et al.2012にしたがって、それぞれ太字で示される。
HAdV5野生型ヘキソンのアミノ酸配列:
MATPSMMPQWSYMHISGQDASEYLSPGLVQFARATETYFSLNNKFRNPTV
APTHDVTTDRSQRLTLRFIPVDREDTAYSYKARFTLAVGDNRVLDMASTY
FDIRGVLDRGPTFKPYSGTAYNALAPKGAPNPCEWDEAATALEINLEEED
DDNEDEVDEQAEQQKTHVFGQAPYSGINITKEGIQIGVEGQTPKYADKTF
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LDMTFEVDPMDEPTLLYVLFEVFDVVRVHQPHRGVIETVYLRTPFSAGNA
TT
(配列ID番号:5)
【0093】
HAdV5野生型ヘキソンのHVR1のアミノ酸配列:
DEAATALEINLEEEDDDNEDEVDEQAEQQKTHVF
(配列ID番号:42)
【0094】
本発明のアデノウイルスの改変型ヘキソンタンパク質のアミノ酸配列、すなわちHAdV5-Mut3ヘキソンのアミノ酸配列:
MATPSMMPQWSYMHISGQDASEYLSPGLVQFARATETYFSLNNKFRNPTV
APTHDVTTDRSQRLTLRFIPVDREDTAYSYKARFTLAVGDNRVLDMASTY
FDIRGVLDRGPTFKPYSGTAYNALAPKGAPNPCEWDEAATALEINLKKKK
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APGLVDCYINLGARWSLDYMDNVNPFNHHRNAGLRYRSMLLGNGRYVPFH
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FDSICLYATFFPMAHNTASTLEAMLRNDTNDQSFNDYLSAANMLYPIPAN
ATNVPISIPSRNWAAFRGWAFTRLKTKETPSLGSGYDPYYTYSGSIPYLD
GTFYLNHTFKKVAITFDSSVSWPGNDRLLTPNEFEIKRSVDGEGYNVAQC
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KYKDYQQVGILHQHNNSGFVGYLAPTMREGQAYPANFPYPLIGKTAVDSI
TQKKFLCDRTLWRIPFSSNFMSMGALTDLGQNLLYANSAHALDMTFEVDP
MDEPTLLYVLFEVFDVVRVHQPHRGVIETVYLRTPFSAGNATT
(配列ID番号:3)
【0095】
HAdV5-Mut3ヘキソンのHVR1のアミノ酸配列:
DEAATALEINLKKKKQAEQQKTHVF
(配列ID番号:43)
【0096】
HAdV5ヘキソンの塩基配列は、GenBank AY339865.1、18,842-21,700位にしたがって示されている。ヘキソンのHVR1は、Khare et al.2012にしたがって、それぞれ太字で示されている。挿入されたリジン残基をコードするヌクレオチドは、大文字で示されている。
【0097】
HAdV5野生型ヘキソンのヌクレオチド配列:
(配列ID番号:4)
【0098】
HAdV5-Mut3ヘキソンのヌクレオチド配列:
(配列ID番号:2)
【0099】
HAdV5野生型ヘキソンのHVR1のヌクレオチド配列:
gatgaagctgctactgctcttgaaataaacctagaagaagaggacgatgacaacgaagacgaagtagacgagcaagctgagcagcaaaaaactcacgtattt
(配列ID番号:44)
【0100】
HAdV5-Mut3ヘキソンのHVR1のヌクレオチド配列:
gatgaagctgctactgctcttgaaataaacctaAAAAAGAAAAAGcaagctgagcagcaaaaaactcacgtattt
(配列ID番号:45)
【0101】
HAdV5-ΔHVR1ヘキソンのHVR1のアミノ酸配列:
DEAATALEINLQAEQQKTHVF
(配列ID番号:46)
【0102】
HAdV5-Mut2ヘキソンのHVR1のアミノ酸配列:
DEAATALEINLEEEKKKNEKEVDEQAEQQKTHVF
(配列ID番号:47)
【0103】
HAdV5-Mut4ヘキソンのHVR1のアミノ酸配列:
DEAATALKINLKKNKVKQAKQQKTHVF
(配列ID番号:48)
【0104】
HAdV5-Mut5ヘキソンのHVR1のアミノ酸配列:
DEAATALEINLKKKKQAEQQKTHVF
(配列ID番号:43)
【0105】
HAdV5-Mut6ヘキソンのHVR1のアミノ酸配列:
DEAATALKINLKKNKVKQAKQQKTHVF
(配列ID番号:48)
【0106】
HAdV5-Mut7ヘキソンのHVR1のアミノ酸配列:
DEAATALEINLKKKKKKQAEQQKTHVF
(配列ID番号:51)
【0107】
HAdV5-Mut8ヘキソンのHVR1のアミノ酸配列:
DEAATALEINLKKKKKKKKQAEQQKTHVF
(配列ID番号:52)
【0108】
HAdV5-Mut9ヘキソンのHVR1のアミノ酸配列:
DEAATALEINLGGSGGGSGKKKKKKKKGSGGGSGGQAEQQKTHVF
(配列ID番号:53)
【0109】
ヒトアデノウイルス1型(HAdV1)、2型(HAdV2)、6型(HAdV6)、および57型(HAdV57)ヘキソンタンパク質のHVR1領域で、配列ID番号:1のアミノ酸配列に置き換えられた部分は、以下の通りである(aa、アミノ酸):
HAdV1:HAdV1ヘキソンのaa 136-173(GenBank:BAG48778.1):
EQEEPTQEMAEELEDEEEAEEEEAEEEAEAPQADQKVK
(配列ID番号:7)
HAdV2:HAdV2ヘキソンのaa 136-171(GenBank:CAC67477.1):
EQTEDSGRAVAEDEEEEDEDEEEEEEEQNARDQATK
(配列ID番号:8)
HAdV6:HAdV6ヘキソンのaa 136-167(GenBank:BAU36782.1)
EQNETAQVDAQELDEEENEANEAQAREQEQAK
(配列ID番号:9)
HAdV57:HAdV57ヘキソンのaa 136-166(GenBank:BBF89158.1):
DEDDTQVQVAAEDDQDDDEEEEQLPQQRNGK
(配列ID番号:10)
HAdV89:HAdV89ヘキソンのaa 136-172(GenBank:AZR67181):
EQTEDSGRAVAEDEEEEEDEDEEEEEEEQNARDQATK
(配列ID番号:49)
【0110】
得られた改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質のアミノ酸配列を以下に示す。
【0111】
本発明のアデノウイルスの改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質のアミノ酸配列であって、前記アデノウイルスがアデノウイルス1型のアミノ酸配列(HAdV1-Mut3ヘキソンのアミノ酸配列):
MATPSMMPQWSYMHISGQDASEYLSPGLVQFARATETYFSLNNKFRNPTVAPTHDVTTDRSQRLTLRFIPVDREDTAYSYKARFTLAVGDNRVLDMASTYFDIRGVLDRGPTFKPYSGTAYNALAPKGAPNSCEWDEAATALEINLKKKKQAEQQKTHVYAQAPLAGEKITANGLQIVSDTQTEGNPVFADPTYQPEPQVGESQWNEAEATASGGRVLKKTTPMKPCYGSYARPTNKNGGQGILVANNQGALESKVEMQFFAPSGTAMNERNAVQPSIVLYSEDVNMETPDTHISYKPSKTDENSKAMLGQQAMPNRPNYIAFRDNFIGLMYYNSTGNMGVLAGQASQLNAVVDLQDRNTELSYQLLLDSIGDRTRYFSMWNQAVDSYDPDVRIIENHGTEDELPNYCFPLGGIGVTDTYQGIKSNGNGNPQNWTKNDDFAARNEIGVGNNFALEINLNANLWRNFLYSNIALYLPDKLKYTPTNVEISPNPNSYDYMNKRVVAPGLVDCYINLGARWSLDYMDNVNPFNHHRNAGLRYRSMLLGNGRYVPFHIQVPQKFFAIKNLLLLPGSYTYEWNFRKDVNMVLQSSLGNDLRVDGASIKFDSICLYATFFPMAHNTASTLEAMLRNDTNDQSFNDYLSAANMLYPIPANATNVPISIPSRNWAAFRGWAFTRLKTKETPSLGSGYDPYYTYSGSIPYLDGTFYLNHTFKKVAITFDSSVSWPGNDRLLTPNEFEIKRSVDGEGYNVAQCNMTKDWFLVQMLANYNIGYQGFYIPESYKDRMYSFFRNFQPMSRQVVDDTKYKDYQQVGILHQHNNSGFVGYLAPTMREGQAYPANFPYPLIGKTAVDSITQKKFLCDRTLWRIPFSSNFMSMGALTDLGQNLLYANSAHALDMTFEVDPMDEPTLLYVLFEVFDVVRVHQPHRGVIETVYLRTPFSAGNATT
(配列ID番号:11)
【0112】
本発明のアデノウイルスの改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質のアミノ酸配列であって、前記アデノウイルスがアデノウイルス2型のアミノ酸配列(HAdV2-Mut3ヘキソンのアミノ酸配列):
MATPSMMPQWSYMHISGQDASEYLSPGLVQFARATETYFSLNNKFRNPTVAPTHDVTTDRSQRLTLRFIPVDREDTAYSYKARFTLAVGDNRVLDMASTYFDIRGVLDRGPTFKPYSGTAYNALAPKGAPNSCEWDEAATALEINLKKKKQAEQQKTHVYAQAPLSGETITKSGLQIGSDNAETQTKPVYADPSYQPEPQIGESQWNEADANAAGGRVLKKTTPMKPCYGSYARPTNPFGGQSVLVPDEKGVPLPKVDLQFFSNTTSLNDRQGNATKPKVVLYSEDVNMETPDTHLSYKPGKGDENSKAMLGQQSMPNRPNYIAFRDNFIGLMYYNSTGNMGVLAGQASQLNAVVDLQDRNTELSYQLLLDSIGDRTRYFSMWNQAVDSYDPDVRIIENHGTEDELPNYCFPLGGIGVTDTYQAIKANGNGSGDNGDTTWTKDETFATRNEIGVGNNFAMEINLNANLWRNFLYSNIALYLPDKLKYNPTNVEISDNPNTYDYMNKRVVAPGLVDCYINLGARWSLDYMDNVNPFNHHRNAGLRYRSMLLGNGRYVPFHIQVPQKFFAIKNLLLLPGSYTYEWNFRKDVNMVLQSSLGNDLRVDGASIKFDSICLYATFFPMAHNTASTLEAMLRNDTNDQSFNDYLSAANMLYPIPANATNVPISIPSRNWAAFRGWAFTRLKTKETPSLGSGYDPYYTYSGSIPYLDGTFYLNHTFKKVAITFDSSVSWPGNDRLLTPNEFEIKRSVDGEGYNVAQCNMTKDWFLVQMLANYNIGYQGFYIPESYKDRMYSFFRNFQPMSRQVVDDTKYKEYQQVGILHQHNNSGFVGYLAPTMREGQAYPANVPYPLIGKTAVDSITQKKFLCDRTLWRIPFSSNFMSMGALTDLGQNLLYANSAHALDMTFEVDPMDEPTLLYVLFEVFDVVRVHQPHRGVIETVYLRTPFSAGNATT
(配列ID番号:12)
【0113】
本発明のアデノウイルスの改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質のアミノ酸配列であって、前記アデノウイルスがアデノウイルス6型のアミノ酸配列(HAdV6-Mut3ヘキソンのアミノ酸配列):
MATPSMMPQWSYMHISGQDASEYLSPGLVQFARATETYFSLNNKFRNPTVAPTHDVTTDRSQRLTLRFIPVDREDTAYSYKARFTLAVGDNRVLDMASTYFDIRGVLDRGPTFKPYSGTAYNALAPKGAPNSCEWDEAATALEINLKKKKQAEQQKTHVYAQAPLSGIKITKEGLQIGTADATVAGAGKEIFADKTFQPEPQVGESQWNEADATAAGGRVLKKTTPMKPCYGSYARPTNSNGGQGVMVEQNGKLESQVEMQFFSTSTNATNEVNNIQPTVVLYSEDVNMETPDTHLSYKPKMGDKNAKVMLGQQAMPNRPNYIAFRDNFIGLMYYNSTGNMGVLAGQASQLNAVVDLQDRNTELSYQLLLDSIGDRTRYFSMWNQAVDSYDPDVRIIENHGTEDELPNYCFPLGGIGITDTFQAVKTTAANGDQGNTTWQKDSTFAERNEIGVGNNFAMEINLNANLWRNFLYSNIALYLPDKLKYNPTNVEISDNPNTYDYMNKRVVAPGLVDCYINLGARWSLDYMDNVNPFNHHRNAGLRYRSMLLGNGRYVPFHIQVPQKFFAIKNLLLLPGSYTYEWNFRKDVNMVLQSSLGNDLRVDGASIKFDSICLYATFFPMAHNTASTLEAMLRNDTNDQSFNDYLSAANMLYPIPANATNVPISIPSRNWAAFRGWAFTRLKTKETPSLGSGYDPYYTYSGSIPYLDGTFYLNHTFKKVAITFDSSVSWPGNDRLLTPNEFEIKRSVDGEGYNVAQCNMTKDWFLVQMLANYNIGYQGFYIPESYKDRMYSFFRNFQPMSRQVVDDTKYKDYQQVGIIHQHNNSGFVGYLAPTMREGQAYPANVPYPLIGKTAVDSITQKKFLCDRTLWRIPFSSNFMSMGALTDLGQNLLYANSAHALDMTFEVDPMDEPTLLYVLFEVFDVVRVHQPHRGVIETVYLRTPFSAGNATT
(配列ID番号:13)
【0114】
本発明のアデノウイルスの改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質のアミノ酸配列であって、前記アデノウイルスがアデノウイルス57型のアミノ酸配列(HAdV57-Mut3ヘキソンのアミノ酸配列):
MATPSMMPQWSYMHISGQDASEYLSPGLVQFARATETYFSLNNKFRNPTVAPTHDVTTDRSQRLTLRFIPVDREDTAYSYKARFTLAVGDNRVLDMASTYFDIRGVLDRGPTFKPYSGTAYNALAPKGAPNSCEWDEAATALEINLKKKKQAEQQKTHVYAQAPFAGEAINKNGLQIGTNGAATEGNKEIYADKTYQPEPQIGESQWNEAESSVAGGRVLKKTTPMKPCYGSYARPTNSNGGQGVMVEQNGKLESQVEMQFFSTSVNAMNEANAIQPKLVLYSEDVNMETPDTHLSYKPGKSDDNSKAMLGQQSMPNRPNYIAFRDNFIGLMYYNSTGNMGVLAGQASQLNAVVDLQDRNTELSYQLLLDSIGDRTRYFSMWNQAVDSYDPDVRIIENHGTEDELPNYCFPLGGIGVTDTYQAIKATNGNGGATTWAQDNTFAERNEIGVGNNFAMEINLNANLWRNFLYSNIALYLPDKLKYNPTNVEISDNPNTYDYMNKRVVAPGLVDCYINLGARWSLDYMDNVNPFNHHRNAGLRYRSMLLGNGRYVPFHIQVPQKFFAIKNLLLLPGSYTYEWNFRKDVNMVLQSSLGNDLRVDGASIKFDSICLYATFFPMAHNTASTLEAMLRNDTNDQSFNDYLSAANMLYPIPANATNVPISIPSRNWAAFRGWAFTRLKTKETPSLGSGYDPYYTYSGSIPYLDGTFYLNHTFKKVAITFDSSVSWPGNDRLLTPNEFEIKRSVDGEGYNVAQCNMTKDWFLVQMLANYNIGYQGFYIPESYKDRMYSFFRNFQPMSRQVVDDTKYKDYQQVGILHQHNNSGFVGYLAPTMREGQAYPANFPYPLIGKTAVDSITQKKFLCDRTLWRIPFSSNFMSMGALTDLGQNLLYANSAHALDMTFEVDPMDEPTLLYVLFEVFDVVRVHQPHRGVIETVYLRTPFSAGNATT
(配列ID番号:14)
【0115】
本発明のアデノウイルスの改変型アデノウイルスヘキソンタンパク質のアミノ酸配列であって、前記アデノウイルスがアデノウイルス89型のアミノ酸配列(HAdV89-Mut3ヘキソンのアミノ酸配列):
MATPSMMPQWSYMHISGQDASEYLSPGLVQFARATETYFSLNNKFRNPTVAPTHDVTTDRSQRLTLRFIPVDREDTAYSYKARFTLAVGDNRVLDMASTYFDIRGVLDRGPTFKPYSGTAYNALAPKGAPNSCEWDEAATALEINLKKKKQAEQQKTHVYAQAPLSGETITKSGLQIGSDNAETQAKPVYADPSYQPEPQIGESQWNEADANAAGGRVLKKTTPMKPCYGSYARPTNPFGGQSVLVPDEKGVPLPKVDLQFFSNTTSLNDRQGNATKPKVVLYSEDVNLETPDTHLSYKPGKGDENSKAMLGQQSMPNRPNYIAFRDNFIGLMYYNSTGNMGVLAGQASQLNAVVDLQDRNTELSYQLLLDSIGDRTRYFSMWNQAVDSYDPDVRIIENHGTEDELPNYCFPLGGIGVTDTYQAIKANGNGAGDNGNTTWTKDETFATRNEIGVGNNFAMEINLNANLWRNFLYSNIALYLPDKLKYNPTNVEISDNPNTYDYMNKRVVAPGLVDCYINLGARWSLDYMDNVNPFNHHRNAGLRYRSMLLGNGRYVPFHIQVPQKFFAIKNLLLLPGSYTYEWNFRKDVNMVLQSSLGNDLRVDGASIKFDSICLYATFFPMAHNTASTLEAMLRNDTNDQSFNDYLSAANMLYPIPANATNVPISIPSRNWAAFRGWAFTRLKTKETPSLGSGYDPYYTYSGSIPYLDGTFYLNHTFKKVAITFDSSVSWPGNDRLLTPNEFEIKRSVDGEGYNVAQCNMTKDWFLVQMLANYNIGYQGFYIPESYKDRMYSFFRNFQPMSRQVVDDTKYKDYQQVGIIHQHNNSGFVGYLAPTMREGQAYPANVPYPLIGKTAVDSITQKKFLCDRTLWRIPFSSNFMSMGALTDLGQNLLYANSAHALDMTFEVDPMDEPTLLYVLFEVFDVVRVHQPHRGVIETVYLRTPFSAGNATT
(配列ID番号:50)
【0116】
本発明のさらなる態様は、同封の実施例の説明、特に科学的結果によって当業者には明らかになるであろう。
【0117】
実施例
材料および方法
細胞
すべての細胞は、湿度90%、CO2 5%、37℃で培養し、週2回、指示された分割率で継代した。細胞は、スクレイピングにより剥離されたJ774A.1細胞を除いて、0.05%トリプシン-EDTAで剥離した。
【0118】
A549細胞(ATCC#CCL-185;分割率:1:8)を、10%FBSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシン/グルタミンを補充したイーグル最小必須培地(Gibco)中で増殖させた。
【0119】
J774A.1細胞(ATCC#TIB-67;分割率:1:10)を、10%FBSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシン/グルタミンを補充したダルベッコ改変イーグル培地(Gibco)中で増殖させた。
【0120】
SKOV-3細胞(ATCC#HTB-77;分割率:1:3)を、5%FBSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシン/グルタミンを補充したロズウェルパーク記念研究所1640培地(Gibco)中で増殖させた。
【0121】
UM-SCC-11B細胞(ヒト頭頸部扁平上皮癌由来の癌細胞、University Clinicの教授、Dr.Brunnerの好意により提供された、分割率:1:10)を、10%FCSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシン/グルタミンを補充したダルベッコ改変イーグル培地(Gibco)中で増殖させた。
【0122】
MiaPaCa細胞(ATCC#CRL-1420,分割率1:7~1:15)は、ダルベッコ改変イーグル培地:栄養混合物F-12(Gibco)に10% FBS、1xGlutaMAX(商標)、1xペニシリン/ストレプトマイシンで増殖させた。
【0123】
Huh7細胞(JCRB0403、分割率1:10)を、10%FCSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシン/グルタミンを補充したダルベッコ改変イーグル培地(Gibco)で増殖させた。
【0124】
HepG2細胞(ATCC#HB-8065,分割率1:4~1:7)は、10% FBSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシン/グルタミンを補充したイーグル最小必須培地(Gibco)中で増殖させた。
【0125】
ヒト間葉系間質細胞(MSC)(Institute for Clinical Transfusion Medicine and Immunogenetics,German Red Cross Ulm,ドイツの好意により提供され、Fekete,Rojewski et al.に記載のように調製された)を、8%照射プールヒト血小板溶解液(PL)(Fekete, Gadelorge et al.,2012に記載のように調製され、Institute for Clinical Transfusion Medicine and Immunogenetics,German Red Cross Ulmから提供された)および500単位のヘパリン(Ratiopharm)を補充したBioWhittaker(登録商標)アルファ イーグル最小必須培地(Lonza)中で増殖させた。
【0126】
ウイルスとベクター
複製不能なヒトアデノウイルス5型(HAdV5)ベクター粒子は、欠失したE1領域(GenBank ID:AY339865.1、nt 1-440とnt 3523-35935の配列)を有し、その欠失したE1領域に逆向きに挿入されたpEGFP-N1プラスミド(Clontech 6085-1)からサブクローン化されたCMVプロモーター駆動の増強GFP(eGFP)の発現カセットを運搬した。
【0127】
HAdV5-ΔCARベクター粒子はさらに、ファイバーノブに点変異(Y→477A)を運搬し、CAR結合を著しく低下させる(Kirby et al.,2000)。
【0128】
HAdV5-ΔFXベクター粒子はさらに、ヘキソンタンパク質の超可変領域(HVR)7に点変異(E→451Q)を運搬し、血液凝固第X因子のベクターカプシドへの結合を消失はさせないが、著しく減少させる(Krutzke et al.,2016)。
【0129】
HAdV5-ΔHVR1粒子は、ヘキソンタンパク質のHVR1の負電荷領域内で13のアミノ酸欠失(ΔEEEDDDNEDVDE(配列ID番号:6);nt 19280-19318)を運搬し、HAdV5粒子の負の表面電荷を減らした(Alemany et al.,2000)。
【0130】
HAdV5-Mut3粒子の場合、HVR1内のこれら13のアミノ酸は、4つのリジン残基で置換された(EEEDDDNEDEVDE(配列ID番号:6)→KKKK(配列ID番号:15);nt 19280-19318)。
【0131】
HAdV5-Mut2については、この13のアミノ酸ストレッチのアスパラギン酸の一部は、リジン残基で置換された(EEEDDDNEDEVDE(配列ID番号:6)→EEEKKKNEKEVDE(配列ID番号:16);nt 19289-19306)。
【0132】
HAdV5-Mut4については、HVR1内のいくつかの負に帯電したアミノ酸は、リジン残基で置換された(EINLEEEDDDNEDEVDEQAE(配列ID番号:17)→KINLKKNKVKQAK(配列ID番号:18))。
【0133】
HAdV5-Mut5については、HVR1内のいくつかのアミノ酸(EEEDDDNEDEVDE(配列ID番号:6)→KKKK(配列ID番号:15))、HVR5内のいくつかのアミノ酸(STTEAAAGNGDNLTPK(配列ID番号:19)→STTKAAAGNGKNLTPK(配列ID番号:20))、およびHVR7内のいくつかのアミノ酸(GGVINTETLTKVKPKTGQENGWEKDATEFSDKNEIRVGNNF(配列ID番号:21)→GGVINTETLTKVKPKTGQKNGWKKKATEFSDKNEIRVGNNF(配列ID番号:22))はリジン残基で置換された。
【0134】
HAdV5-Mut6については、HVR1内のいくつかの負に帯電したアミノ酸(EINLEEEDDDNEDEVDEQAE(配列ID番号:17)→KINLKKNKVKQAK(配列ID番号:18))、HVR5内のいくつかの負に帯電したアミノ酸(STTEAAAGNGDNLTPK(配列ID番号:19)→STTKAAAGNGKNLTPK(配列ID番号:20))、およびHVR7内のいくつかの負に帯電したアミノ酸(GGVINTETLTKVKPKTGQENGWEKDATEFSDKNEIRVGNNF(配列ID番号:21)→GGVINTETLTKVKPKTGQKNGWKKKATEFSDKNEIRVGNNF(配列ID番号:22))はリジン残基で置換された。
【0135】
HAdV5-Mut7については、HVR1内の配列ID番号:6の13のアミノ酸は、6つのリジン残基で置換された。
【0136】
HAdV5-Mut8については、HVR1内の配列ID番号:6の13のアミノ酸は、8つのリジン残基で置換された。
【0137】
HAdV5-Mut9については、HVR1内の配列ID番号:6の13のアミノ酸は、24のアミノ酸、すなわちグリシンおよびセリンから選ばれた8つのアミノ酸の柔軟なGS-リンカーによって両側に挟まれた8つのリジン残基のストレッチによって置換された。
【0138】
HAdV5-ΔCAR-Mut3ベクター粒子については、HVR1内の配列ID番号:6の13のアミノ酸が4つのリジン残基で置換され、ベクター粒子はさらにファイバーノブに点変異(Y→477A)を運搬し、CAR結合を著しく減少させる(Kirby et al.,2000)。
【0139】
HAdV5-TSG6ベクターは、eGFP発現カセットの代わりに、ヒト腫瘍壊死因子(TNF)刺激遺伝子6(TSG-6)タンパク質(ヌクレオチドアクセッション GenBank:AJ419936.1)をコードするcDNAをヒトCMVプロモーター制御下でE1領域に運搬する。TSG-6は、抗炎症活性を有するタンパク質であるため、抗炎症治療薬として使用することができる。
【0140】
複製コンピテント野生型アデノウイルス粒子(HAdV5wt)は欠失を有さないが、E1AとE1B(1648/1649位)の間の非コード領域に順方向に挿入されたeGFP発現カセットを運搬する。
【0141】
ベクターとウイルスレスキューおよび産生
複製不能なベクターはE1-トランス補体N52.E6細胞で産生され、複製コンピテントウイルスはA549細胞で産生された。
【0142】
ベクターおよびウイルスDNAはそれぞれ、SwaI制限酵素消化によって環状バクミドDNAから切り出され、その後、標準的な手順で精製された。産生細胞(N52.E6またはA549細胞)を、遺伝子導入剤ポリエチレンイミン(PEI)を用いて、上記のように調製した線状DNAを遺伝子導入した。ベクター粒子とウイルス粒子はそれぞれ、細胞数の増加に伴う連続的な採取および感染サイクルを行うことで増幅させた。2x10~4x10の細胞に感染させた後、感染後48時間で細胞を回収し、50mM HEPES、150mM NaCl、pH7.4に再懸濁し、3回の連続凍結/解凍サイクルで溶解した。粒子を1回のCsClステップ勾配(密度下部:1.41g/ml、密度上部:1.27g/ml;176,000xg、4℃で2時間)および1回の連続したCsCl勾配(密度:1.34g/ml;176,000xg、4℃で20時間)により精製した。その後、PD-10サイズ排除カラム(GEヘルスケア)を用いて粒子を脱塩し、10%グリセロールを含むバッファー(50mM Hepes、150mM NaCl、pH7.4)中で-80℃にて保存した。物理的力価は、単離されたウイルス/ベクターDNAのOD260nmにおける光学密度測定によって決定された。
【0143】
相同組換え
HAdV5-ΔHVR1、HAdV5-Mut2、HAdV5-Mut3、HAdV5-Mut4、HAdV5-Mut5、およびHAdV5-Mut6ベクターのHVR1、HVR5およびHVR7領域の改変は、適宜、バクミドキット「Counter-Selection BAC Modification Kit Red/ET Recombination」にしたがって相同組み換えで行われた。したがって、HAdV5配列を運搬するバクミドは、ストレプトマイシン耐性大腸菌(E.coli)株ElectroMAX(商標)DH10B(商標)にエレクトロポレーションにより形質導入された。細菌を、クロラムフェニコール(20μg/ml)を添加した溶原培地(LB)寒天プレートにストリークし、37℃で一晩培養した。ストレプトマイシン(50μg/ml)およびクロラムフェニコール(20μg/ml)耐性を確認した後、キットに付属のpRed/ETプラスミドを用いてエレクトロポレーションによりE.coliを形質導入した。テトラサイクリン(3μg/ml)およびクロラムフェニコール(20μg/ml)を含むLB寒天培地プレート上に細菌をストリークした。プレートは30℃で20時間インキュベートされた。翌日、単一コロニーを選び、30℃で一晩培養し、L-アラビノースと37℃への温度シフトによって、Red/ETプラスミドからの組換えタンパク質RedαおよびRedβの発現を誘導した。その後、目的の遺伝子領域について相同アームを持つrpsL-neoカセットを運搬するポリメラーゼ連鎖反応(PCR)産物で細菌は形質導入された。細菌懸濁液をテトラサイクリン(3μg/ml)、クロラムフェニコール(20μg/ml)、カナマイシン(15μg/ml)を含むLB寒天培地にストリークし、30℃で24時間以上培養した。次に、ストレプトマイシン感受性と制限酵素分析によって確認されたデオキシリボ核酸(DNA)の完全性でクローンを選別した。rpsL-neoカセットの導入が確認された後、L-アラビノースと37℃への温度シフトによりRed/ET遺伝子の発現が再度誘導された。細菌は、それぞれHVR1、HVR5、またはHVR7のいずれかの変異を運搬する第2のPCR産物で形質転換された。これらの第2のPCR産物も目的の遺伝子領域に対して相同なアームを運搬し、うまく組み換えられたクローンはクロラムフェニコール(20μg/ml)およびストレプトマイシン(50μg/ml)を含むLB寒天上で、37℃で一晩選択された。予想される変異について、DNA制限分析で単一コロニーを解析した。大規模なバクミド調製後、陽性クローンは配列決定によってさらに検証された。
【0144】
相同組換え用PCR産物を生成するためのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)
HAdV5-ΔHVR1、HAdV5-Mut2、HAdV5-Mut3、HAdV5-Mut4、HAdV5-Mut5、およびHAdV5-Mut6の生成には、それぞれのrpsL-neoカセットをコードするPCR産物は、目的の遺伝子領域と相補的に隣接した相同性アームを付加したものである。使用したプライマーは74塩基対(bp)(目的の遺伝子領域に相補的な5’-50bpとrpsL-neo-3’に相補的な24bp)により構成された。PCR反応において、5μl Pfx増幅バッファー(10x)、1μl MgSO(50mM)、2μl dNTP’s(10mM)、1μlの各プライマー10μM
(HVR1について:
rpsL-neo fw:
caaatccttgcgaatgggatgaagctgctactgctcttgaaataaacctaggcctggtgatgatggcgggatcg
(配列ID番号:23),
rpsL-neo rev:
ccagaataaggcgcctgcccaaatacgtgagttttttgctgctcagcttgtcagaagaactcgtcaagaaggcg
(配列ID番号:24),
HVR5について:
rpsL-neo fw:
ggagggcaaggcattcttgtaaagcaacaaaatggaaagcta-
gaaagtcaagGGCCTGGTGATGATGGCGGGATCG
(配列ID番号:25),
rpsL-neo rev:
gtctggggtttctatatctacatcttcactgtacaataccactttaggagtcTCAGAA-
GAACTCGTCAAGAAGGCG
(配列ID番号:26);
HVR7について:
rpsL-neo fw:
catggaactgaagatgaacttccaaattactgctttccactgg-
gaggtgtgGGCCTGGTGATGATGGCGGGATCG
(配列ID番号:27),
rpsL-neo rev:
ctccacaggttggcatttagattgatttccatggcaaaattatttccaactcTCAGAA-
GAACTCGTCAAGAAGGCG
(配列ID番号:28);
すべてのプライマー配列は5’→3’方向で表示)、
0.5μl rpsL-neoカセットテンプレート、および、0.5μl Platinum(登録商標)Pfx DNAポリメラーゼ(2.5U/μl)は、最終容量50μlで混合された。PCRサイクルは以下のように行った:1サイクル:95℃で5分(初期変性);27サイクル:95℃で45秒(変性)、60℃で45秒(アニーリング)、68℃で2分(伸長);1サイクル:68℃で10分(最終伸長)。
【0145】
以前に挿入されたrpsL-neoカセットを置換する2番目のPCR産物は、HAdV5-ΔHVR1、HAdV5-Mut2、HAdV5-Mut3、HAdV5-Mut4、HAdV5-Mut5、または、HAdV5-Mut6に所望の変異を運搬した、Invitrogen GeneArtから購入した合成テンプレートを使用して生成された。PCR反応において、5μl Pfx増幅バッファー(10x)、1μl MgSO(50mM)、2μl dNTP’s(10mM)、1μlの各プライマー10μM
(HVR1 fw:ttttaagccctactctggcactgc(配列ID番号:29),
HVR1 rev:CCTTCGACACCTATTTGAATACCC(配列ID番号:30);
HVR5 fw:cacaaatgaaaatggagggcaagg,(配列ID番号:31),
HVR5 rev:gtgggcatgtaagaaatatgagtg(配列ID番号:32);
HVR7 fw:gacagctatgatccagatgttagaa(配列ID番号:33),
HVR7 rev:ctccacaggttggcatttagattg(配列ID番号:34);
すべてのプライマー配列は5’→3’方向で表示)、
100ngのテンプレートプラスミドDNA、および、0.5μl Platinum(登録商標)Pfx DNAポリメラーゼ(2.5U/μl)は、最終容量50μlで混合された。PCRサイクルは以下のように行った:1サイクル:95℃で5分(初期変性);27サイクル:95℃で45秒(変性)、55℃で45秒(アニーリング)、68℃で2分(伸長);1サイクル:68℃で10分(最終伸長)。
【0146】
PCR産物はトリス酢酸-エチレンジアミン四酢酸(TAE)ゲルでのアガロースゲル電気泳動で分離された。所望のバンドを切り出し、フェノール-クロロホルム抽出後、エタノール沈殿で精製した。
【0147】
HAdV5-Mut7、HAdV5-Mut8、および、HAdV5-Mut9の作製も同様の手順で行った。
【0148】
銀染色
5x10ベクター粒子を、β-メルカプトエタノールを含む1xSDS-ローディングバッファー20μl PBSに溶解し、70℃で5分間変性させた。その後、ウイルスタンパク質をSDS-PAGEで分離した(5%スタッキングゲル、8%分離/ランニングゲル)。ウイルスタンパク質を可視化するために、銀染色を行った。タンパク質は固定用バッファー(50%メタノール、12%酢酸、0.05%のホルムアルデヒド37%)で30分間固定し、洗浄バッファー(50%エタノール)で15分間洗浄した後、平衡化バッファー(0.8mMチオ硫酸ナトリウム)で1分間前処理を行った。次に、ゲルをdHOで3回洗浄し、含浸バッファー(11.78mM 硝酸銀、0.05%のホルムアルデヒド37%)で20分間インキュベーションした。タンパク質の染色は、ゲルを展開バッファー(0.57M 炭酸ナトリウム、0.05%のホルムアルデヒド37%、15.8μM チオ硫酸ナトリウム)中で適当な時間インキュベートすることによって行われた。タンパク質のバンドは非常に明瞭であるが、マーカーのバンドがほとんど見えなくなった時点で、停止バッファー(50%メタノール、12%酢酸)で現像を停止した。
【0149】
ゼータ電位測定
ゼータ電位の測定は、ゼータサイザーナノ-ZS(Malvern,UK)を用いて行った。2x1011ベクター粒子をSlide-A-Lyzer透析カセット(3.5K MWCO 0.5ml,Thermo Fisher Scientific)で50mM HEPES(pH7.4)と共に4℃で容易に撹拌しながら3回(2時間後に一晩、および6時間)透析を行った。続いて、PD MiniTrap G-25カラム(GE Healthcare Life Sciences)を使用したサイズ排除クロマトグラフィーを、フィルターなしでメーカーに従って実施し、グリセロールを除去した。透明な使い捨てゼータセルキュベット(Malvern,UK)の必要容量は1mlであったため、精製ベクター粒子を50mM HEPES(pH7.4 滅菌ろ過)で1mlまで充填した(Krutzke et al,2016)。DTSNano 5.10 ソフトウェアでの測定と解析には、以下の設定を適用した:測定タイプ ゼータ電位;サンプル材料 タンパク質 RI 1.450、Absor 0.00;サンプル分散媒 水温25℃、粘度0.8872CP、RI 1.330、誘電率78.5;サンプル一般オプション Smoluchowski;サンプル温度25℃、測定開始時 2分平衡時間;サンプルセル DTS 1060C 透明ディスポーザブルゼータセル;測定自動最小10、最大15;測定回数 1。
【0150】
FXを介したSKOV-3細胞の形質導入
SKOV-3細胞を200μlの血清含有ロズウェルパーク記念研究所1640培地に2x10細胞/ウェルの密度で播種した。翌日、細胞を洗浄し、8μg/mlのFXを含むまたは含まない(対照として)100μlの無血清ロズウェルパーク記念研究所1640培地培地を提供した。細胞にpMOI 1000を形質導入した(2x10VP)。37℃で3時間インキュベートした後、細胞を洗浄し、200μlの血清含有ロズウェルパーク記念研究所1640培地を添加した。形質導入後72時間で、細胞を回収し、フローサイトメトリーによりeGFP発現を分析した。
【0151】
スカベンジャー受容体を介した取り込み
J774A.1細胞は、24ウェルプレートに1x10細胞/ウェルの密度で1mlの血清含有ダルベッコ改変イーグル培地に播種し、37℃で一晩培養を行った。翌日、細胞を洗浄し、500μlの無血清ダルベッコ改変イーグル培地を提供した。指示された場合、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水に溶解したポリイノシン酸(Poly-(I))(30μg/ml)を細胞に加え、細胞を37℃で1時間インキュベートした。最後に、2000のpMOI(1x10VP)で細胞を形質導入した。37℃での3時間のインキュベートした後、細胞を2回洗浄し、続いて1mlの血清含有ダルベッコ改変イーグル培地中でインキュベートした。形質導入の24時間後に、ウェルあたり200μlのダルベッコリン酸緩衝食塩水、20μlのプロテイナーゼK、および20μlのRNaseを加えて細胞を回収した。室温で2分間インキュベートした後、さらに200μlのALバッファー("QIAmp DNA Mini Kit")を加え、56℃で10分間インキュベートした。その後、"QIAmp DNA Mini Kit"(Krutzke et al.,2016)のプロトコルに従い、溶解した細胞のDNAを単離した。
【0152】
単離した全DNAサンプルのアデノウイルス含有量を定量化するために、アデノウイルスE4遺伝子の定量PCR(qPCR)を行った。マウスβ-アクチンのコピー数は、異種細胞採取効率を除外するための正規化に使用された。単離した全DNAサンプルのアデノウイルス含有量を定量化するために、アデノウイルスE4遺伝子の定量PCR(qPCR)を行った。マウスβ-アクチンのコピー数は、異種細胞採取効率を除外するための正規化に使用された。qPCR反応は、10μlのKapa SYBRE FAST qPCRマスターミックス、0.4μlの各プライマー(10μM)
(マウスβ-アクチンについて:
fw:caaggagtgcaagaacacag(配列ID番号:35);
rev:gccttggagtgtgtattgag(配列ID番号:36);
Ad5 E4について:
fw:tagacgatccctactgtacg(配列ID番号:37);
rev:ccggacgtagtcatatttcc(配列ID番号:38);
すべてのプライマー配列は5’→3’方向で表示)、
および2μlの単離全DNAを最終容量20μlで含んだ。
【0153】
PCRサイクルは以下のように行った:1サイクル:95℃で10分(初期変性);40サイクル:95℃で30秒(変性)、60℃で30秒(アニーリング)、72℃で20秒(伸長);1サイクル:95℃で1分(変性)、55℃で30秒(アニーリング);1サイクル:95℃で30秒(最終伸長)。
【0154】
IgMを介した中和
A549細胞は、96ウェルプレートの200μlの血清含有最小必須培地(Gibco)に播種した。翌日、示されたウイルスベクター粒子を、2E6 VP/μlの割合でPBSまたは血漿サンプルとともに37℃で10分間インキュベートした。ナイーブなヒトおよびマウスの血漿サンプルは、800xgで10分間遠心分離することにより全血から調製した。補体活性を維持するために、血液サンプルは100μg/mlのヒルジン(Celgene)で抗凝固処理した。細胞を洗浄し、100μlの無血清培地中でpMOIが1000のプレインキュベーションウイルスベクターで形質導入し、37℃で3時間インキュベートした。その後、細胞を洗浄し、200μlの血清含有培地を補充した。37℃で24時間インキュベートした後、細胞を剥離し、フローサイトメトリーでeGFPの発現を解析した。
【0155】
HAdV5-TSG6と凝固第X因子(FX)を導入エンハンサーとしたMSCの形質導入
2~3x10MSCをアルファ-イーグル最小必須培地(Lonza)を含む6ml PLの6cmディッシュに播種し、37℃にて一晩培養した。翌日、FX(2μg/ml)を、アルファ-最小必須培地中で、対応する量のTSG-6発現ベクター粒子HAdV5-TSG6とともに、最終容量290μlで、37℃で20~30分プレインキュベートした。ベクター粒子とFXのプレインキュベーションの間、細胞を洗浄し、6cmディッシュあたり2.7mlの補充を含まないアルファ-最小必須培地を提供した。最後に、プレインキュベートしたベクター粒子溶液を細胞に加え、37℃で3時間インキュベートした後、アルファ-最小必須培地で3回洗浄を行った。この細胞をアルファ-最小必須培地を含むPL中でさらに72時間37℃で培養した。細胞培養上清を回収し、細胞培養上清中のTSG-6の濃度をサンドイッチTSG-6 ELISAで分析した。
【0156】
この目的のために、96ウェル MaxiSorb Nuncプレートは、100μl/ウェルのコーティング液(0.1M 炭酸/重炭酸ナトリウムバッファー pH9.6中の1μg/ml TSG-6モノクローナルマウスIgG Santa Cruz SC-65886)とともに、4℃で一晩インキュベートされた。翌日、プレートをELISAプレート洗浄機"Well Wash Versa"で300μl/ウェルの0.05% Tween-PBSで3回洗浄後、300μl/ウェルのSuperBlock(Thermo Fisher)で室温において、シェーカーで1時間インキュベーションした。別の洗浄後、対応する希釈液またはTSG-6 タンパク質標準品(R&D 2104-TS-050)のサンプルを100μl/ウェルずつウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。再度、プレートを洗浄し、検出液(0.25μg/ml 抗-TSG-6ゴートポリクローナルIgG R&D BAF2104,PBS)100μl/ウェルは、室温において、シェーカーで1時間インキュベートされた。100μl/ウェルのストレプトアビジン-西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート(Dako P0397 c=0.020μg/ml)を添加し、続いて室温において1時間シェーカーでインキュベートする前に、プレートを再度洗浄した。最後に、別の洗浄工程の後、検出基質(1-StepUltra TMB ELISA Substrate Thermo Fisher 34028)を100μl/ウェルずつウェルごとに添加し、暗所で酵素反応を開始させた。15分後、100μl/ウェルの硫酸(2M)を加えて反応を停止し、ELISAリーダーにおいて450nmで測定した。
【0157】
HAdV5とHAdV5-Mut3、および、HAdV5-ΔCAR-Mut3とHAdV5-ΔCARによる腫瘍細胞株の形質導入
異なる腫瘍細胞株(UM-SCC-11B、MiaPaCa、Huh7、HepG2、A549)を96ウェルプレートのそれぞれの培地200μlに播種した。翌日、細胞を洗浄し、100μLの無血清培地中でHAdV5またはHAdV5-Mut3のいずれかにより300または1000のpMOIで形質導入した。37℃で2時間インキュベートした後、細胞を洗浄し、200μLの真菌培地を加えた。導入後24時間後に細胞を採取し、フローサイトメトリーによりeGFPの発現を分析した。
【0158】
pMOIが1000のHAdV5-ΔCAR-Mut3およびHAdV5-ΔCARによる異なる腫瘍細胞株の形質導入にも同じ手順が適用された。
【0159】
増強分子あり、または、増強分子なしのHAdV5またはHAdV5-Mut3によるMSCの形質導入
MSCは、24ウェルプレートで1mLのPL含有BioWhittaker(登録商標)アルファ最小必須培地(Lonza)に播種された。翌日、PLフリー培地中、300μLの総容量で、37℃で30分間、示されたウイルスベクター粒子を増強分子とともに、または増強分子なしでプレインキュベーションした。増強分子として、第X因子(250~2000ng/mL)、スペルミジン(1~625ng/μL)、スペルミン(1~1000ng/μL)、Polybrene(0.08~81μg/μL)、ポリ-L-リジン(1~25% v/v)およびラクトフェリン(1~1000μg/mL)が使用された。その後、MSCを洗浄し、500μLのPLフリー培地を提供した。細胞を、300μLのプレインキュベートされたウイルス粒子を添加することによって形質導入し(示されたpMOIをもたらす)、37℃で2時間インキュベートした。その後、細胞を洗浄し、1mLのPL含有培地を添加した。導入から72時間後にMSCを剥離し、フローサイトメトリーによりeGFPの発現を分析した。
【表1】
【0160】
MSCは、24ウェルプレートで1mLのPL含有BioWhittaker(登録商標)アルファ最小必須培地(Lonza)に播種された。翌日、PLフリー培地中、300μLの総容量で、37℃で30分間、示されたウイルスベクター粒子を増強分子とともに、または増強分子なしでプレインキュベーションした。増強分子としては、第X因子(4fg/ウイルス粒子)、スペルミジン(500fg/ウイルス粒子)、ポリブレン(18fg/ウイルス粒子)をHAdV5wtと組み合わせて使用した。HAdV5-Mut3wtはエンハンサーなしで使用された。その後、MSCを洗浄し、500μLのPLフリー培地を提供した。300μLのプレインキュベートしたウイルス粒子を添加することにより細胞を感染させ(pMOIが300または1000となる)、37℃で2時間インキュベートした。その後、細胞を洗浄し、PL含有培地1mLを加えた。感染後24、48、72、96時間後に細胞および上清を回収し、溶解した。24時間前に24ウェルプレートに事前に播種したA549への再感染には、MSCライセートを使用した。再感染から4時間後に、GenElute(商標)Mammalian Genomic DNA Miniprep Kit(Sigma-Aldrich)を用いてA549 DNAを単離した。得られたA549 DNAサンプルを用いて、リアルタイム定量PCR(qPCR)により、MSCが産生する感染性アデノウイルスを定量化した。qPCR解析には、アデノウイルスE4転写単位の一部が増幅された
(フォワードプライマー:TAGACGATCCCTACTGTACG(配列ID番号:37);
リバースプライマー:GGAAATATGACTACGTCCGG(配列ID番号:39);
すべてのプライマー配列は5’→3’方向で表示)。
標準化のため、β-アクチンも分析された
(フォワードプライマー:GCTCCTCCTGAGCGCAAG(配列ID番号:40);
リバースプライマー:CATCTGCTGGAAGGTGGACA(配列ID番号:41);
すべてのプライマー配列は5’→3’方向で表示)。
【0161】
Kapa SYBR FAST qPCR Universal Master Mix(PEQLAB Biotechnologie)を製造元のプロトコルに沿って使用した。
【0162】
形質導入されていないMSCおよび形質導入されたMSC移動アッセイ
MSC移動(HAdV5またはHAdV5-Mut3により形質導入していない、または形質導入した)を評価するために、ボイデンチャンバーアッセイを実施した。そのために、MSCを6ウェルプレートの3mL PL含有BioWhittaker(登録商標)α最小必須培地(Lonza)に播種した。翌日、PLフリー培地中、300μLの総容量で、37℃で30分間、標記ウイルスベクター粒子を増強分子とともに、または増強分子なしでプレインキュベーションした。増強分子として、第X因子、スペルミジン、スペルミン、ポリブレン、ポリ-L-リジンおよびラクトフェリンを使用した。その後、MSCを洗浄し、3000μLのPLフリー培地を提供した。細胞を、300μLのプレインキュベーションされたウイルス粒子を添加することによって形質導入し(示されたpMOIになる)、37℃で2時間インキュベートした。その後、細胞を洗浄し、1mLのPL含有培地を添加した。形質導入4時間後にMSCを剥離し、トランスウェルインサートに播種した(孔径8μM、トランスウェルあたり1x10細胞)。トランスウェルは、前日に1x10UM-SCC-11B細胞が播種された24ウェルプレート上に設置された。対照として、UM-SCC-11B培養培地(3%FBSを含むDMEM)に対するMSC移動を分析した。MSCをトランスウェルに播種してから18時間後に、トランスウェルをPBSで洗浄し、氷冷メタノールを用いて細胞を固定した。その後、10μg/mLの4’,6-ジアミジン-2-フェニルインドール(DAPI)およびPBSで希釈した1%Triton-Xを用いて、MSCを染色した。移動した細胞は、DAPIで染色された核を数えることによって定量化された。
【0163】
HAdV5、HAdV5-Mut3、HAdV5-ΔCAR-Mut3、HAdV5-ΔHVR1またはHAdV5-Mut2によるMSCの形質導入
pMOIが1000のMSCの形質導入は、MSCを剥離し、導入24時間後にeGFP発現をフローサイトメトリーで分析した以外は、「増強分子あり、または、増強分子なしのHAdV5またはHAdV5-Mut3によるMSCの形質導入」の項で述べたように実施された。増強分子は使用しなかった。
【0164】
統計解析
結果は、平均値±標準偏差で示した。統計解析は、対応のない2標本(ウェルチ)スチューデントのt-検定またはWilcox検定で行った。計算はRStudio-software Version 2.15.0またはGraphPad Prism Version 6.07で行った。P値≦0.05を統計的に有意とした。
【0165】
結果
変異体ベクターの作製と特性評価
図1は、HAdV5野生型とHAdV5-Mut3ヘキソンタンパク質のHVR1(図1A)と、HAdV5野生型、HAdV5-ΔHVR1、HAdV5-Mut2、HAdV5-Mut3、HAdV5-Mut4、HAdV5-Mut5、HAdV5-Mut6のHVR1、HVR5およびHVR7(図1B)のアミノ酸配列のアライメントを示したものである。負に帯電したアミノ酸は太字で描かれている。挿入されたリジン残基はイタリック体で示されている。
【0166】
注目すべきことに、変異ベクターHAdV5-Mut4、HAdV5-Mut5、HAdV5-Mut6の産生は、N52.E6細胞に切断したバクミドDNAを遺伝子導入してもウイルスレスキューがなかったため、実行不可能であり、このベクターは生存不可能であることを示している。
【0167】
図14は、HAdV5野生型とHAdV5-Mut7、HAdV5-Mut8、HAdV5-Mut9ヘキソンタンパク質のHVR1のアミノ酸配列のアラインメントを示したものである。挿入されたリジン残基は太字で描かれている。さらに挿入されたアミノ酸はイタリック体で示されている。
【0168】
変異ベクターHAdV5-Mut7、HAdV5-Mut8、HAdV5-Mut9の産生は、N52.E6細胞に切断したバクミドDNAを遺伝子導入してもウイルスレスキューがなかったため、実行不可能であり、それぞれこのベクターは生存できず、機能的ウイルス粒子は形成できないことを示している。
【0169】
図2は、HAdV5野生型およびHAdV5-Mut3ヘキソンタンパク質の超可変領域1をコードするヌクレオチド配列のアラインメントを示している。挿入されたリジン残基をコードするヌクレオチドは、大文字で示されている。
【0170】
ウイルスタンパク質の完全性は銀染色により確認された(図3)。対照として、未修飾のベクター粒子(HAdV5)を用い、ヘキソンタンパク質の分子量108kDaを明らかにした。銀染色により、HAdV5-ΔHVR1ではHVR1のネガティブループの欠失が、HAdV5-Mut3ではHVR1領域の変異が確認された。これらの改変はいずれも、ヘキソンタンパク質の分子量をそれぞれ目に見える形で減少させる結果となった。一方、アスパラギン酸の代わりにリジンが挿入されたヘキソンタンパク質(HAdV5-Mut2)は、予想通り、未修飾のヘキソンタンパク質と同じ分子量を示した。
【0171】
ベクター粒子の表面電荷を決定するためのゼータ電位測定では、対照ベクターHAdV5で-22.8mVの負の表面電荷が明らかになり、これは文献と一致した(図4)。興味深いことに、負に帯電したHVR1ループを欠失させた場合(HAdV5-ΔHVR1)、粒子の負の表面電荷は統計的に有意ではなく、わずかに減少しただけだった(-19.4mV)。HAdV5-Mut2の場合、アスパラギン酸をリジンに置換すると、表面電荷はさらに減少した(-17.33mV)。しかし、興味深いことに、HAdV5-Mut3は、HAdV5、HAdV5-ΔHVR1、およびHAdV5-Mut2と比較して、統計的に有意な表面電荷の減少を示した(-8.1mV;HAdV5と比較:p<4.303x10-5;HAdV5-ΔHVR1と比較:p<2.738x10-4;HAdV5-Mut2と比較:p<1.139x10-7)。
【0172】
HAdV5-Mut3は、HAdV5野生型(HAdV5)、HAdV5-Mut2、およびHAdV5-ΔHVR1よりも、FXを介したCAR陰性SKOV-3細胞の形質導入が有意に少ないことを示す
ヒト血液凝固第X因子(FX)がHAdV5に結合すると、肝細胞の形質導入を仲介し、その結果、粒子の封じ込めを誘発する。FXに関連する結合残基は、ヘキソンタンパク質のHVR5及びHVR7内に位置している(Alba et al.,2009)。CARを介した細胞導入を除外するために、本発明者らは、CAR陰性SKOV-3細胞を用い(図5)、FXが変異ベクターの細胞形質導入を促進するかどうかを分析した。HAdV5-ΔFXベクター粒子は、HVR7内の点変異により著しく減少したFX結合を示すことが知られており(Krutzke et al.,2016)、対照として使用された。HAdV5-ΔFXによるFXを介した細胞形質導入は、FX存在下のHAdV5と比較して有意に減少した(p<3.686x10-5)。驚くべきことに、同様の効果はHAdV5-Mut3でも観察され、FX存在下ではHAdV5と比較して統計的に有意な細胞形質導入の減少を示した(p<1.135x10-5)。興味深いことに、FXを介したHAdV5-ΔHVR1の形質導入効率は、HAdV5と比較して有意に低下していなかった。また、HVR1にアスパラギン酸残基の代わりにリジン残基を導入したもの(HAdV5-Mut2)は、FXを介した取り込みを減少させないことが示された。以上の結果から、HAdV5-ΔHVR1とHAdV5-Mut2はFX結合能の低下は見られないが、HAdV5-Mut3はHAdV5-ΔFXと同程度の有意なFX結合能の低下が見られることが判明した。
【0173】
スカベンジャー受容体によるHAdV5-Mut3の取り込みは、HAdV5野生型(HAdV5)と比較して有意に減少する
全身投与されたHAdV5の主な受け手は、クッパー細胞(Alemany et al.,2000;Khare et al.,2012)と呼ばれる肝臓に常在するマクロファージである。これらの細胞は、細胞表面に負に帯電した分子と結合し捕捉するスカベンジャー受容体を持っていることが知られている。HAdV5は、全体として負の表面電荷を示すが、これは主にHVR1内の負に帯電したアミノ酸のストレッチに起因する(Khare et al.,2012)。粒子の負の表面電荷を減らすために、本発明者らは、負に帯電したHVR1ループを削除するか(HAdV5-ΔHVR1)、ストレッチ内にアスパラギン酸の代わりにリジンを挿入するか(HAdV5-Mut2)、ストレッチ全体を4つのリジン残基で置換した(HAdV5-Mut3)(図4)。その結果、マウスマクロファージによる3つの変異ベクターHAdV5-ΔHVR1、HAdV5-Mut2、およびHAdV5-Mut3全ての取り込みが対照ベクターHAdV5と比較して有意に減少することが明らかになった(HAdV5-ΔHVR1 p<0.001462;HAdV5-Mut2 p<0.001219;HAdV5-Mut3 p<0.001241)(図6)。この効果はHAdV5-Mut3ではさらに顕著であった。マクロファージによるHAdV5粒子の取り込みは、ポリイノシン酸(Poly-(I))の存在下で有意に抑制された。Poly-(I)はスカベンジャー受容体に結合し、飽和させるため、スカベンジャー受容体を介したウイルス取り込み機構が確認された。細胞とPoly-(I)のプレインキュベーションは、マクロファージによるHAdV5-ΔHVR1およびHAdV5-Mut2の取り込みに影響を与えなかった。興味深いことに、Poly-(I)と細胞のプレインキュベーションは、マクロファージによるHAdV5-Mut3粒子の取り込みを増加させた。
【0174】
FX結合を切断したHAdV5-Mut3ベクター粒子は天然IgMによる中和から逃れる
他の者及び本発明者らは、FXがアデノウイルス5型ベクター粒子を天然のIgM抗体による中和から遮蔽することを示した(Krutzke et al.,2016)。本発明者らは、HAdV5-Mut3が有意に減少したFX結合を示すことを確認したので(図5)、これらの粒子がヒト及びマウスのIgMによる中和を受けやすくなるかどうかを分析した。したがって、本発明者らは、異なるドナー及びマウス系統の検証可能なAd-ナイーブヒトおよびマウス血漿サンプルとベクター粒子をインキュベートし、続いてA549細胞形質導入を分析した(図7)。FXと正常に結合する対照HAdV5ベクター粒子(図5)は、ヒトまたはマウス血漿の存在下で、PBSでインキュベートしたときと同じ効率でA549細胞を形質導入した。一方、FXとの結合が低下しているHAdV5-ΔFX粒子(図5)をプレインキュベーションすると、ヒトおよびマウスの両方の血漿とのインキュベーションで天然IgMによりほぼ完全に中和された。しかしながら、興味深いことに、HAdV5-Mut3がHAdV5-ΔFXと同等のFX結合の減少を示すにもかかわらず(HAdV5-ΔFXのそれぞれのプレインキュベーションと比較してp<5x10-11)、本発明者らはこの効果を観察しなかった(図5)。このように、本発明者らは、導入したMut3変異により、FX遮蔽を欠いたベクター粒子が天然のIgMから逃れることができることを示す。
【0175】
形質導入エンハンサーとしての第X因子の存在下でHAdV5-TSG6を形質導入したMSCによるHAdV5にコードされた治療用タンパク質TSG-6の分泌の有意な増強
第X因子(FX)の存在下で、MSCによる代表的な治療用タンパク質としてのTSG-6の発現およびその後の分泌は、有意に促進されることがわかった(図8)。FX存在下においてpMOI900で形質導入された細胞の上清中のTSG-6濃度は、FX非存在下においてpMOI20000で形質導入された細胞の上清中のTSG-6濃度と比較して約3倍であった。
【0176】
HAdV5-Mut3を使用すると、HAdV5野生型(HAdV5)と比較して、いくつかの腫瘍細胞株の形質導入が改善または維持される
HAdV5-Mut3をHAdV5と比較すると、いくつかの腫瘍細胞株への導入効率が向上もしくは維持されていることがわかり、HAdV5-Mut3を腫瘍溶解性ウイルスとして利用するメリットがあることが示唆された(図9)。例えば、eGFP陽性のUM-SCC-11B細胞の割合は、HAdV5(pMOI 300)と比較してHAdV5-Mut3を用いた場合、約20%から約75%増加することができる。
【0177】
HAdV5野生型(HAdV5)とエンハンサーとのプレインキュベーション、またはHAdV5-Mut3の利用により、MSCの形質導入が有意に促進された
MSCがHAdV5のみで形質導入されるとeGFP発現はほとんど検出されないが、すべての増強分子(エンハンサー)および変異型HAdV5-Mut3ウイルスベクターは平均蛍光強度(MFI)を800倍以上まで統計的に有意に改善することがわかった(図10)。驚くべきことに、HAdV5-Mut3による導入では、増強分子を使用せずに高いeGFP発現(HAdV5導入に比べてMFIが600倍以上増加)が得られた。
【0178】
HAdV5-Mut3と増強分子であるスペルミジン(500fg/ウイルス粒子)、スペルミン(1250fg/ウイルス粒子)、第X因子(4fg/ウイルス粒子)の組み合わせも検討した(図12)。その結果、HAdV5-Mut3による細胞の形質導入は、増強分子によってわずかに(3倍)増強されることがわかった。
【0179】
エンハンサーでプレインキュベートしたHAdV5wtを使用するか、HAdV5-Mut3wtを使用することによる、MSCでのアデノウイルス複製が改善
HAdV5-Mut3wtだけでなく、増強分子もHAdV5wt単独での感染と比較して、アデノウイルスの複製を改善することがわかった。特に、HAdV5-Mut3wtは、使用するpMOIに依存せず、48時間後に最大約5x10の感染性粒子/MSCを示すことが明らかになった。スペルミジンとHAdV5wtのpMOIが1000の組み合わせのみが、同様に高いウイルス収量(~4.7x10ウイルス粒子/MSC)となる。HAdV5wtとエンハンサーの他の全ての組み合わせでは、感染性アデノウイルス粒子が時間の経過とともに蓄積し(おそらく、最初は感染していなかったMSCの一定の再感染が原因)、検出可能なピークを示さなかった。
【0180】
MSCの導入は、UM-SCC-11B細胞への移動を抑制しない
MSCはUM-SCC-11B細胞への移動が、単独培養培地に比べて有意に増加していることがわかった(図13)。驚くべきことに、UM-SCC-11B細胞への移動は、HAdV5またはHAdV5-Mut3で細胞を形質導入しても阻害されないことがわかった。試験した増強分子はいずれも否定的な効果を示さなかった。
【0181】
HAdV5-Mut3(HAdV-5-M3)を使用すると、HAdV5野生型(HAdV-5)と比較して、いくつかの腫瘍細胞株の形質導入が改善または維持され、HAdV5-ΔCAR-Mut3(HAdV-5-ΔCAR-M3)を使用すると、HAdV5-ΔCAR(HAdV-5-ΔCAR)と比較して、いくつかの腫瘍細胞株の形質導入が改善された
HAdV5-Mut3をHAdV5と比較すると、いくつかの腫瘍細胞株の形質導入効率が改善または維持されていることがわかった(図15図9も参照)。
【0182】
また、HAdV5-ΔCAR-Mut3を用いた場合、HAdV5-ΔCARと比較して、いくつかの腫瘍細胞株の形質導入効率が著しく改善されることがわかった(図15)。これは、HAdV5-ΔCAR-Mut3により、腫瘍細胞のCAR非依存的な形質導入が可能になることを示している。
【0183】
HAdV5-Mut3(HAdV-5-M3)とHAdV5-ΔCAR-Mut3(HAdV-5-ΔCAR-M3)を利用すると、MSCの形質導入が有意に向上し、HAdV5-ΔHVR1(HAdV-5-ΔHVR1)とHAdV5-Mut2(HAdV-5-M2)を利用してもMSCの形質導入が行われない。
MSCはHAdV5-Mut3およびHAdV5-ΔCAR-Mut3ベクターによって効率的に形質導入される一方、HAdV5野生型(HAdV-5)によって形質導入されるとeGFP発現がほとんど検出されないことがわかった(図16、HAdV5-Mut3およびHAdV5については図10も参照のこと)。
【0184】
さらに、MSCはHAdV5-ΔHVR1およびHAdV5-Mut2によって形質導入されないことが判明した(図16)。
【0185】
参考文献
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【国際調査報告】