(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-21
(54)【発明の名称】クロシホスの工業的分割方法
(51)【国際特許分類】
C07F 9/6574 20060101AFI20221214BHJP
【FI】
C07F9/6574 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022523199
(86)(22)【出願日】2020-10-13
(85)【翻訳文提出日】2022-06-13
(86)【国際出願番号】 IB2020059589
(87)【国際公開番号】W WO2021074778
(87)【国際公開日】2021-04-22
(31)【優先権主張番号】201921041836
(32)【優先日】2019-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515120154
【氏名又は名称】ハイカル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】ガノルカー ラケシュ ラメシュ
(72)【発明者】
【氏名】ナンビア スディール
(72)【発明者】
【氏名】チャコール ナラヤン スバシュ
(72)【発明者】
【氏名】グルパダスワミィ エイチ ディー
(72)【発明者】
【氏名】シェラー シャムラオ バプラオ
【テーマコード(参考)】
4H050
【Fターム(参考)】
4H050AA02
4H050AD17
4H050BB14
(57)【要約】
本発明は、対応する(S)-異性体又は(R)-異性体を得るための式(I)のクロシホスの分割方法に関する。本発明は、(R)-(+)-α-メチルベンジルアミンを使用して(S)-クロシホスを得て、(S)-(-)-α-メチルベンジルアミンを使用して(R)-クロシホスを得る方法にさらに関する。該分割方法は、98%を超えるキラル純度で対応する異性体を与える。
(I)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性異性体を得るための式(I)のクロシホスの分割方法であって、該方法は、
【化1】
(I)
a)式(I)のクロシホスを溶媒中において光学活性α-メチルベンジルアミン分割剤で処理してジアステレオマー塩を得るステップと、
【化2】
b)前記ジアステレオマー塩を溶媒中において酸で処理して式(Ia)又は式(Ib)の所望の光学活性エナンチオマーを得るステップと、
【化3】
c)任意選択で、不所望の異性体を回収するステップとを含む、方法。
【請求項2】
ステップ(a)で使用される前記光学活性α-メチルベンジルアミンが、S-(-)-α-メチルベンジルアミン及びR-(+)-α-メチルベンジルアミンから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
式(Ib)の活性異性体の場合、前記方法は、
a)式(I)のクロシホスを溶媒中において(R)-(+)-α-メチルベンジルアミンで処理してジアステレオマー塩を得るステップと、
b)前記ジアステレオマー塩を溶媒中において酸で処理して式(Ib)の(S)-クロシホスを得るステップと、
c)任意選択で、式(Ia)の不所望の(R)-異性体を回収するステップとを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
式(Ia)の活性異性体の場合、前記方法は、
a)式(I)のクロシホスを溶媒中において(S)-(-)-α-メチルベンジルアミンで処理してジアステレオマー塩を得るステップと、
b)前記ジアステレオマー塩を溶媒中において酸で処理して式(Ia)の(R)-クロシホスを得るステップと、
c)任意選択で、式(Ib)の不所望の(S)-異性体を回収するステップとを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(a)及びステップ(b)で使用される前記溶媒が、水;メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶媒;酢酸エチル及び酢酸イソプロピルなどの酢酸エステル溶媒からなる群から選択される、請求項1、3及び4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
不所望の異性体を回収する場合、前記方法は、
a)ジアステレオマー塩を酸で処理するステップと、
b)反応混合物をろ過して固形物を得るステップと、
c)前記固形物を水で洗浄し、乾燥させて、(R)-異性体(Ia)又は(S)-異性体(Ib)を得るステップとを含む、請求項1、3及び4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
使用される前記酸が、塩酸、臭化水素酸、硫酸及びリン酸からなる群から選択される、請求項1、3、4及び6のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2019年10月16日に出願されたインド仮出願第201921041836号に対する利益を主張するものであり、該仮出願の内容は参照により本明細書に援用される。
本発明は、対応する(S)-異性体又は(R)-異性体を得るための式(I)のクロシホス(chlocyphos)の分割方法に関する。本発明は、(R)-(+)-α-メチルベンジルアミンを使用して(S)-クロシホスを得て、(S)-(-)-α-メチルベンジルアミンを使用して(R)-クロシホスを得る方法にさらに関する。該分割方法は、98%を超えるキラル純度で対応する異性体を与える。
【化1】
(I)
【背景技術】
【0002】
CAS番号98634-28-7を有する式(I)のクロシホスは非環状リン酸誘導体であり、クロシホスの光学活性異性体は、様々な中間体及び医薬品の光学活性異性体を分離するための有効な分割剤である。クロシホスの光学活性異性体は、ベダキリン、D-セリン、メトプロロール、ロチゴチン、バリン等のような様々な化合物を分割するのに使用される。
【化2】
(I)
ラセミ体クロシホス(racemic chlocyphos)をその活性(R)-異性体又は(S)-異性体に分割するための様々な分割剤が開示されている。分割剤のうちの1つ、(-)-(p-ヒドロキシフェニルグリシン)は、クロシホスを分離し、対応する(S)-クロシホスをもたらすことが知られていた(JOC、1985年、第50(23)巻、第4508~14頁)が、これは工業規模において採算の合う試薬ではない。
【0003】
米国特許第6,800,778B1号明細書は様々な環状リン酸誘導体を開示しており、これらの環状リン酸誘導体は異なるキラルアミンを使用した光学分割によって分離された。該米国特許は、光学アミン(optical amine)が具体的な環状リン酸誘導体によって変化するため、どの(光学)活性アミノ化合物が特定の環状リン酸誘導体の分割に適しているかを見い出すことが難しいことをさらに開示している。当該技術分野において利用可能な分割剤は数多く存在するが、実際に有用なものは少ない可能性がある。従って、いくつかの分割剤をスクリーニングしてラセミ体と分割剤との良好な組合せを見つける必要がある。クロシホスを含むリン酸の大部分は、(-)-エフェドリン、(-)-(p-ヒドロキシフェニル)グリシン、(+)-2-アミノ-1-フェニル-1,3-プロパンジオールを使用して分離されたが、これらの試薬は商業的に有望なものではない。
初めに、本発明は、対応する異性体を得るために光学活性α-メチルベンジルアミンを使用したクロシホスの分割を提供する。これは、ジアステレオマー塩の形成による、費用効率の高い分割剤を使用したクロシホスの分割を可能にする。本発明はまた、不所望の異性体の回収及びさらなるラセミ化も包含する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の主な目的は、適当な分割剤を使用した式(I)のクロシホスの分割方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、98%を超えるキラル純度で対応する異性体を得るために適当な分割剤を使用した式(I)のクロシホスの分割方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、単純で商業的に有望な、式(I)のクロシホスを分割する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様において、本発明は、光学活性異性体を得るための式(I)のクロシホスの分割方法を提供し、該方法は、
【化3】
(I)
a)式(I)のクロシホスを溶媒中において分割剤として光学活性α-メチルベンジルアミンで処理して対応するジアステレオマー塩を得るステップと、
b)ジアステレオマー塩を溶媒中において酸で処理して所望の光学活性エナンチオマーを得るステップと、
c)任意選択で、不所望の異性体を回収する任意のステップとを含む。
別の態様において、本発明は、(S)-異性体を得るための式(I)のクロシホスの分割方法を提供し、この方法は、
a)式(I)のクロシホスを溶媒中において(R)-(+)-α-メチルベンジルアミンで処理してジアステレオマー塩を得るステップと、
b)ジアステレオマー塩を溶媒中において酸で処理して式(Ib)の(S)-クロシホスを得るステップと、
【化4】
c)任意選択で、式(Ia)の不所望の(R)-異性体を回収する任意のステップとを含む。
【0006】
別の態様において、本発明は、対応する(R)-異性体を得るための式(I)のクロシホスの分割方法を提供し、この方法は、
a)式(I)のクロシホスを溶媒中において(S)-(-)-α-メチルベンジルアミンで処理してジアステレオマー塩を得るステップと、
b)ジアステレオマー塩を溶媒中において酸で処理して式(Ia)の(R)-クロシホスを得るステップと、
【化5】
c)任意選択で、式(Ib)の不所望の(S)-異性体を回収する任意のステップとを含む。
さらに別の態様において、本発明はクロシホスの不所望の異性体の回収方法を提供し、この方法は、
a)ジアステレオマー塩のうちのいずれか一種を酸で処理するステップと、
b)反応混合物をろ過して固形物を得るステップと、
c)固形物を水で洗浄し乾燥させて、対応する(R)-異性体又は(S)-異性体を得るステップとを含む。
【発明を実施するための形態】
【0007】
これより本発明についてより詳細に以下で説明する。本発明は、多くの異なる形態で具体化され、本明細書に記載する実施形態に限定されると解釈されるべきではなく、むしろ、これらの実施形態は、本開示が適用可能な法的要件を満たすように提供される。本明細書及び添付の特許請求の範囲で用いられる場合、単数形「a」「an」及び「the」は、文脈が明らかに他のことを示していない限り、複数の指示対象を含む。
【0008】
本発明は、対応する(S)-異性体又は(R)-異性体を得るための式(I)のクロシホスの分割方法に関する。式(Ia)の(R)-クロシホス及び式(Ib)の(S)-クロシホスは、それぞれ、(R)-(+)-4-(2-クロロフェニル)-5,5-ジメチル-2-ヒドロキシ-1,3,2-ジオキサホスフィナン2-オキシド及び(S)-(-)-4-(2-クロロフェニル)-5,5-ジメチル-2-ヒドロキシ-1,3,2-ジオキサホスフィナン2-オキシドとして知られている。
本発明は、分割剤として(R)-(+)-α-メチルベンジルアミン又は(S)-(-)-α-メチルベンジルアミンによりジアステレオマー塩を形成して対応する(S)-異性体又は(R)-異性体の塩をそれぞれ得ることと、対応する(S)-異性体又は(R)-異性体のジアステレオマー塩を酸でさらに処理して、純粋なエナンチオマー(S)-クロシホス又は(R)-クロシホスを得ることと、任意選択で、不所望のエナンチオマーを別途回収することとによって、式(I)のクロシホスの分割を可能にする。該分割方法は、98%を超えるキラル純度で対応する異性体を与える。
【0009】
上記方法は、下記の一般的な合成スキーム1に示される。
スキーム1:
【化6】
本明細書で使用される溶媒という用語は、単一溶媒又は混合溶媒を指す。
本発明の別の実施形態において、ステップ(a)で使用される溶媒は、水;メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶媒;酢酸エチル、酢酸イソプロピルなどの酢酸エステル溶媒などからなる群から選択される。
本発明の別の実施形態において、ステップ(b)で使用される該酸は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸などからなる群から選択される。
本発明の別の実施形態において、ステップ(b)で使用される溶媒は、水;メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶媒;酢酸エチル、酢酸イソプロピルなどの酢酸エステル溶媒などからなる群から選択される。
【0010】
本発明は、安価で容易に入手可能である(R)-(+)-α-メチルベンジルアミンを使用して、(S)-クロシホス(Ib)を生成する。
本発明の別の実施形態において、ステップ(a)の反応温度は20℃~85℃であり、ステップ(b)の反応温度は20℃~85℃であり、ステップ(c)の反応温度は20℃~40℃である。
本発明の別の実施形態において、ステップ(a)の反応時間は1~10時間であり、ステップ(b)の反応時間は2~6時間であり、ステップ(c)の反応時間は1~3時間である。
本発明の別の実施形態において、式(Ia)又は式(Ib)の光学活性エナンチオマーは、98%を超える化学的純度及び98%を超えるキラル純度で得られる。
【0011】
本発明の別の実施形態において、式(I)のラセミ体クロシホスは合成スキーム2に示す方法によって調製される。
スキーム2:
【化7】
本発明の別の実施形態において、式(I)のラセミ体クロシホスを調製するための合成スキーム2に示す方法は、(i)式(II)の2-クロロベンズアルデヒドと式(III)のイソブチルアルデヒドとを溶媒中において塩基の存在下で反応させて式(IV)の化合物を得ることと、
(ii)式(IV)の化合物を溶媒中において塩素化剤で処理して式(V)の化合物を得ることと、
(iii)式(V)の化合物を溶媒中において塩基で処理して式(I)のラセミ体クロシホスを得ることとを含む。
本発明の別の実施形態において、粗化合物はすべてそのまま使用されるか、或いは蒸留若しくは結晶化によって又は当業者によく理解された異なる技術によって精製される。
本発明において使用される出発物質及び試薬の調製は、従来技術においてよく知られている。
本発明について下記の実施例によってさらに説明する。これらの実施例は本発明の範囲を何ら限定すると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0012】
実験
実施例1:(R)-クロシホス(Ia)を得るために(S)-(-)-α-メチルベンジルアミンを使用したクロシホスの分割
エタノール(42mL、6V)及びラセミ体クロシホス(7g、0.0253モル、1eq)を反応器に装填し、室温で15~30分間撹拌した。S-(-)-α-メチルベンジルアミン(3.0g、0.0254モル、1eq)を加えて、室温で15~30分間撹拌した。反応マスを加熱還流して、2時間維持した。反応マスを20℃~30℃に冷却し、8時間撹拌した。スラリーをろ過し、エタノールで洗浄した。湿潤ケーキ及びエタノール(21mL)を反応器に入れ、2時間加熱還流した。反応マスを20℃~30℃に冷却し、2時間撹拌した。スラリーをろ過し、エタノールで洗浄した。ろ液は、不所望のエナンチオマーを回収するために、別途処理した。湿潤ケーキ及び希塩酸(HCl)(21mL)を室温で3~6時間撹拌した。スラリーをろ過して、水で洗浄し、乾燥させ、生成物を白色固形物として得た。(収量:2.38g(34%収率))[α]578 +49°;HPLCによる純度99.62%及びキラル純度97.30%。
1H-NMR(CDCl3、400MHz):7.38-7.50(m、4H)、5.66(d、1H、J=(1.6Hz)、4.21(d、1H、J=11.2Hz)、3.87-3.96(m、1H)、1.00(s、3H)、0.73(s、3H)。
【0013】
実施例2:(S)-クロシホス(Ib)を得るために(R)-(+)-α-メチルベンジルアミンを使用したクロシホスの分割
エタノール(420L、6V)及びラセミ体クロシホス(70Kg、253モル、1eq)を反応器に装填し、室温で15~30分間撹拌した。R-(+)-α-メチルベンジルアミン(30.8Kg、254.2モル、1eq)を加えて、室温で15~30分間撹拌した。反応マスを加熱還流し、1~5時間維持した。反応マスを冷却し、8時間撹拌した。スラリーをろ過し、エタノールで洗浄した。湿潤ケーキ及びエタノール(210L)を反応器に入れ、2時間加熱還流した。反応マスを冷却し、2時間撹拌した。スラリーをろ過し、エタノールで洗浄した。ろ液は、別のエナンチオマーを回収するために、別途処理した。湿潤ケーキ及び希塩酸(HCl)(210L)を室温で3~6時間撹拌した。スラリーをろ過して、水で洗浄し、乾燥させ、生成物を白色固形物として得た。(収量:23.8kg(34%収率)、[α]578 -49°;HPLCによる純度99.97%及びキラル純度98.66%。
1H-NMR(CDCl3、400MHz):7.38-7.50(m、4H)、5.66(d、1H、J=2Hz)、4.21(d、1H、J=11.2Hz)、3.87-3.96(m、1H)、1.00(s、3H)、0.73(s、3H);
13C-NMR(DMSO-d6、400MHz):134.08、133.98、131.98、130.15、130.07、129.33、127.04、81.23、81.18、77.20、77.14、36.84、36.81、20.01、17.35。
【0014】
(S)-クロシホス又は(R)-クロシホスの一般的な回収方法
ろ液(実施例1又は2から得たもの)を最少量まで蒸留除去した。これに20%HClを加え、反応混合物を20℃~40℃で3時間撹拌して固形物を得た。該固形物をろ過し、水で洗浄し、乾燥させて、対応する異性体を得た。
【0015】
実施例3:(R)-クロシホス(Ia)の回収方法
ろ液(実施例1又は2から得たもの)を最少量まで蒸留除去した。これに20%HClを加え(5V)、反応混合物を20℃~40℃で3時間撹拌して固形物を得た。該固形物をろ過し、水で洗浄し、55℃~65℃で乾燥させて、白色固形物として(R)-クロシホスを得た(収率:32%)。
【国際調査報告】