(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-21
(54)【発明の名称】炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料、その製造方法および応用
(51)【国際特許分類】
B01J 27/24 20060101AFI20221214BHJP
B01J 35/08 20060101ALI20221214BHJP
B01J 23/755 20060101ALI20221214BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20221214BHJP
B01J 37/12 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
B01J27/24 M
B01J35/08 B
B01J23/755 M
B01J37/04 102
B01J37/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022523478
(86)(22)【出願日】2020-10-20
(85)【翻訳文提出日】2022-06-10
(86)【国際出願番号】 CN2020122090
(87)【国際公開番号】W WO2021078112
(87)【国際公開日】2021-04-29
(31)【優先権主張番号】201911001538.3
(32)【優先日】2019-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201911002419.X
(32)【優先日】2019-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202010503595.8
(32)【優先日】2020-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202010503588.8
(32)【優先日】2020-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503191287
【氏名又は名称】中国石油化工股▲ふん▼有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】509059424
【氏名又は名称】中国石油化工股▲ふん▼有限公司石油化工科学研究院
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】栄峻峰
(72)【発明者】
【氏名】于鵬
(72)【発明者】
【氏名】謝靖新
(72)【発明者】
【氏名】徐国標
(72)【発明者】
【氏名】宗明生
(72)【発明者】
【氏名】呉耿煌
(72)【発明者】
【氏名】林偉国
(72)【発明者】
【氏名】紀洪波
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BA21C
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB16C
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169BD06A
4G169BD06B
4G169BE08C
4G169BE14C
4G169BE18C
4G169CA07
4G169CA10
4G169CA13
4G169CA15
4G169CA17
4G169DA06
4G169EB18X
4G169EB18Y
4G169EC25
4G169EC27
4G169EE01
4G169FB05
4G169FB34
4G169FB40
4G169FB57
4G169FC07
4G169FC08
(57)【要約】
炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料と、その製造方法および応用を開示する。ナノ複合材料は、コア-シェル構造を有する炭素被覆酸化ニッケルナノ粒子を含んでいる。コア-シェル構造は、黒鉛化炭素膜(任意構成で窒素によりドープされている)である外殻と、酸化ニッケルナノ粒子を含んでいる内核と、を含んでいる。ナノ複合材料の炭素含有量は、ナノ複合材料の重量を基準として、0重量%超、約5重量%以下である。ナノ複合材料は、触媒として使用するときに優れた活性を示し、様々な反応の触媒に効果的に使用できるため、工業的における応用が特に期待されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア-シェル構造を有する炭素被覆酸化ニッケルナノ粒子を含んでいる、炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料であって、
上記コア-シェル構造は、黒鉛化炭素膜(任意構成で窒素によりドープされている)である外殻と、酸化ニッケルナノ粒子を含んでいる内核と、を有しており、
上記ナノ複合材料の炭素含有量は、当該ナノ複合材料の重量を基準として、0重量%超約5重量%以下であり、好ましくは約0.1~1重量%であり、より好ましくは約0.2~0.95重量%であり、特に好ましくは約0.4~0.95重量%である、
ナノ複合材料。
【請求項2】
下記(i)および/または(ii)を満たしている、請求項1に記載のナノ複合材料:
(i)X線光電子分光法によって測定される炭素元素含有量は、約15~60mol%であり、好ましくは約15~45mol%である;
(ii)上記ナノ複合材料の、X線光電子分光法によって測定される炭素元素質量含有量の元素分析によって測定される炭素元素質量含有量に対する比率は、約10以上であり、好ましくは約20~40である。
【請求項3】
上記ナノ複合材料のラマンスペクトルにおいて、1580cm
-1近傍に位置するGピークの強度の1320cm
-1近傍に位置するDピークの強度に対する比率は、約2超であり、好ましくは約2超約3以下である、請求項1または2に記載のナノ複合材料。
【請求項4】
上記コア-シェル構造の外殻は、窒素ドープされた黒鉛化炭素膜であり、
上記ナノ複合材料のX線光電子分光法によって測定される窒素元素含有量は、約0.1~5mol%であり、好ましくは約0.5~4mol%である、請求項1~3のいずれか1項に記載のナノ複合材料。
【請求項5】
上記炭素被覆酸化ニッケルナノ粒子の粒径は、約1~100nmであり、好ましくは約2~40nmである、請求項1~4のいずれか1項に記載のナノ複合材料。
【請求項6】
下記工程(i)~(iv)を含む、炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料の製造方法:
(i)ニッケル源、多塩基有機カルボン酸、および任意構成の窒素含有化合物を溶媒中で混合して、均一な溶液にする工程;
(ii)上記均一な溶液から上記溶媒を除去して、前駆体を得る工程;
(iii)不活性雰囲気下または還元性雰囲気下において、上記前駆体を熱分解する工程;
(iv)酸素の存在下において熱分解生成物を熱処理して、ナノ複合材料を得る工程;
ここで、
好ましくは、上記ニッケル源は、ニッケル粉末、水酸化ニッケル、酸化ニッケル、ニッケルの可溶性有機酸塩、ニッケルの塩基性炭酸塩およびニッケルの炭酸塩からなる群より選択される1つ以上であり、
好ましくは、上記多塩基有機カルボン酸は、クエン酸、マレイン酸、トリメシン酸、テレフタル酸、グルコン酸、リンゴ酸、エチレンジアミン四酢酸、ジピコリン酸、イミノ二酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸および1,3-プロパンジアミン四酢酸からなる群より選択される1つ以上であり、
好ましくは、上記窒素含有化合物は、尿素、メラミン、ジシアノジアミン、ヘキサメチレンテトラミンおよびアミノ酸からなる群より選択される1つ以上である、
製造方法。
【請求項7】
上記工程(iv)の熱処理は、上記熱分解生成物に酸素含有ガスを導入し、加熱する工程を含み、
上記酸素含有ガスの酸素濃度は、約10~40体積%であり、
上記熱処理の温度は、約200~500℃であり、
上記熱処理の時間は、約0.5~10時間である、
請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
上記工程(i)において、クエン酸、マレイン酸、トリメシン酸、テレフタル酸、グルコン酸、リンゴ酸からなる群より選択される1つ以上である多塩基有機カルボン酸と、上記ニッケル源とを、上記溶媒中で混合し、
上記ニッケル源の上記多塩基有機カルボン酸に対する質量比は、約1:(0.1~100)である、
請求項6または7に記載の製造方法。
【請求項9】
上記工程(i)において、エチレンジアミン四酢酸、ジピコリン酸、イミノ二酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸および1,3-プロピレンジアミン四酢酸からなる群より選択される1つ以上である多塩基有機カルボン酸と、上記ニッケル源とを、上記溶媒中で混合し、
上記ニッケル源の上記多塩基有機カルボン酸に対する質量比は、約1:(0.1~10)である、
請求項6または7に記載の製造方法。
【請求項10】
上記工程(i)において、クエン酸、マレイン酸、トリメシン酸、テレフタル酸、グルコン酸、リンゴ酸からなる群より選択される1つ以上である多塩基有機カルボン酸と、上記ニッケル源と、上記窒素含有化合物とを上記溶媒中で混合し、
上記ニッケル源と、上記多塩基有機カルボン酸と、上記窒素含有化合物との質量比は、約1:(0.1~10):(0.1~10)である、
請求項6または7に記載の製造方法。
【請求項11】
上記工程(iii)の熱分解は、不活性雰囲気または還元性雰囲気において上記前駆体を一定の温度段階まで加熱し、温度を当該一定の温度段階に一定時間保つ工程を含み、
上記加熱の速度は、約0.5~30℃/分であり、
上記一定の温度段階の温度は、約400~800℃であり、
上記一定の温度段階に保つ時間は、約20~600分間であり、
上記不活性雰囲気は、窒素またはアルゴンであり、
上記還元性雰囲気は、不活性ガスおよび水素の混合ガスである、
請求項6~10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
一酸化二窒素および接触分解用触媒を接触させて窒素および酸素を生成させる工程を含む、一酸化二窒素の分解を触媒する方法であって、
上記触媒は、請求項1~5のいずれか1項に記載のナノ複合材料を活性成分として含んでおり、
好ましくは、請求項1~5のいずれか1項に記載のナノ複合材料を上記触媒として用いる、
方法。
【請求項13】
上記接触分解の条件は、下記を満たしている、請求項12に記載の方法:
反応温度:約300~400℃;
反応空間速度:約1000~3000mLの反応ガス/(hr・触媒重量(g));
反応ガス中の一酸化二窒素の体積濃度:約5~40%(好ましくは約30~40%)。
【請求項14】
揮発性有機化合物と酸化反応用触媒とを接触させる工程を含む、揮発性有機化合物の処理方法であって、
上記触媒は、請求項1~5のいずれか1項に記載のナノ複合材料を活性成分として含んでおり、
好ましくは、請求項1~5のいずれか1項に記載のナノ複合材料を上記触媒として用いており、
好ましくは、上記揮発性有機化合物および酸素を含んでいる混合ガスを、接触燃焼用触媒に接触させて酸化反応させる、
方法。
【請求項15】
上記混合ガスは、約0.01~2体積%の揮発性有機化合物と、約5~20体積%の酸素とを含んでおり、
好ましくは、上記揮発性有機化合物は、C
1~C
4炭化水素化合物からなる群より選択される1つ以上である、
請求項14に記載の方法。
【請求項16】
酸化反応の条件は、下記を満たしている、請求項14または15に記載の方法:
反応温度:約300~450℃;
反応空間速度:約1000~5000mLの反応ガス/(hr・触媒重量(g))。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願への相互参照〕
本出願は、中国特許出願第201911001538.3号(「炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料、その製造方法および応用」、2019年10月21日出願)、中国特許出願第201911002419.X号(「揮発性有機化合物の接触燃焼方法」、2019年10月21日出願)、中国特許出願第202010503595.8号(「炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料、その製造方法および応用」、2020年6月5日出願)、および中国特許出願第202010503588.8号(「揮発性有機化合物の接触燃焼方法」、2020年6月5日出願)の優先権を主張する。これらの特許出願の内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
〔技術分野〕
本出願は、触媒技術の分野に関する。とりわけ、本出願は、炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料と、その製造方法および応用に関する。
【背景技術】
【0003】
遷移金属の酸化物は、優れた触媒性能および電磁性能を有している。そのため、無機材料分野における研究が盛んにおこなわれており、エネルギー貯蔵材料、触媒材料、磁気記録材料および生物医学において幅広く応用されている。炭素材料は、導電性に優れ、化学的/電気化学的安定性に優れ、構造強度が高い。活性のある金属または金属酸化物のナノ粒子を炭素材料で被覆することにより、ナノ材料の導電性および安定性が効果的に向上する。また、炭素材料による被覆にはナノ粒子に対する封じ込め効果があるので、ナノ粒子は凝集しにくくなる。近年、炭素被覆ナノ材料は、電気触媒、スーパーキャパシタ材料、リチウムイオン電池用負極材料、生命工学などの分野で広く使用されている。しかし、触媒の分野における炭素被覆ナノ材料の使用は、限定的である。
【0004】
笑気ガスとして知られる一酸化二窒素(N2O)は、重大な温室効果ガスである。N2Oの地球温暖化係数(GWP)は、CO2のGWPの310倍であり、CH4のGWPの21倍である。さらに、N2Oは、大気中に平均で約150年残存し、成層圏におけるNOxの主要な根源でもある。N2Oは、オゾン層に深刻なダメージを与えるだけでなく、強い温室効果も有している。
【0005】
中国におけるアジピン酸生産は、主として、シクロヘキサノール硝酸酸化法が採用されている。この方法では、シクロヘキサノールを硝酸で酸化してアジピン酸を製造する。この方法は完成された技術であり、高収率かつ高純度で生成物が得られる。しかしこの方法は、硝酸の使用量が多く、反応過程で多量のN2Oが発生し、製造過程において排出されるテールガスは濃縮されて多量かつ高濃度(36~40%)になる。現在、シクロヘキサノール硝酸酸化法により年間15万トンのアジピン酸が製造されており、N2Oの年間排出量は4.5万トンに達する可能性がある。そのため、アジピン酸プラントで発生するテールガスの浄化およびN2Oの効果的な制御と削減が、環境触媒の分野における研究の焦点となっている。
【0006】
直接接触分解法は、N2Oを窒素と酸素に分解できる。これは、N2Oを除去するための最も効果的でクリーンな技術である。触媒は、直接接触分解法における中核を成している。現在開発・報告されているN2Oの分解用触媒としては、主として、貴金属触媒、イオン交換モレキュラーシーブ触媒、遷移金属酸化物触媒が挙げられる。貴金属触媒(Rh、Ruなど)は、N2Oの分解に関して、低温における高い触媒活性を有している(250~350℃においてN2Oを効率的に分解できる)。しかし、貴金属触媒は高価であるため、大規模な応用には制約がある。モレキュラーシーブ触媒および遷移金属酸化物触媒は、貴金属触媒よりも遥かに廉価である。しかし、現在入手できるこれら2種類の触媒は、N2O接触分解活性が比較的低く、効率的に分解できる温度は450~550℃である。また、分解に際して、高濃度の笑気ガスを約0.5~2%に稀釈する必要があり、工業コストが大幅に増加する。
【0007】
揮発性有機化合物(VOC)とは、室温における飽和蒸気圧が70Pa超であり、大気圧下における沸点が260℃以下の有機化合物である。VOCには様々な種類があり、主として、アルカン、芳香族化合物、エステル、アルデヒド、ハロゲン化炭化水素などが含まれる。多くのVOCは刺激臭を呈し、毒性および発癌性を有している。また、VOCは、光化学スモッグおよび大気粒子状物質であるPM2.5を生じさせる主要な原因である。中国は製造大国であるので、VOCの排出量が世界最大である。また、工業生産により排出されるVOCは、高濃度であり、長期間に及び、多様な汚染物質が含まれているため、人の健康を害しており、生態環境に重大な被害を与えている。近年、中国では、汚染物質であるVOCを体系的に予防・処理している。効率的なVOC浄化技術の開発およびVOCの排出量の抑制は、環境保護の分野で重要な課題となっている。
【0008】
VOCの浄化方法には、2種類が存在する。一つ目は物理吸収・吸着法であり、高濃度(5000mg/m3超)のVOCの回収に一般的に使用されている。しかし、物理吸収・吸着法は、低濃度(1000mg/m3未満)のVOCの浄化効果が小さく、吸着効率が低く、さらに吸着・吸収・溶離により二次的な廃水や固形廃棄物が発生する。二つ目は、化学反応法であり、VOCに酸化剤を導入して酸化させることにより、無毒な化学物質に転化させる。化学反応法は、主として中濃度または低濃度のVOCの処理に使用されている。
【0009】
化学反応法の中でも、燃焼技術は広く用いられている技術である。燃焼技術は、直接火炎燃焼および接触燃焼にさらに分類できる。直接火炎燃焼とは、VOCを直接の燃料として燃焼させる方法である。直接火炎燃焼は、600~900℃の高温で行う必要があるため、エネルギー消費量が多く、不完全燃焼による黒煙および異臭を発生させる可能性がある。接触燃焼とは、典型的な気体-固体触媒反応であり、触媒面に吸着させたVOCとO2との反応を触媒して、無害なCO2およびH2Oへと転化させることを本質とする。接触燃焼は、通常は300~500℃で行われるため、エネルギー消費量が少なく、二次汚染が発生しない。それゆえ、接触燃焼は、省エネルギーで、効果的で、経済的で、環境に優しい技術である。
【0010】
触媒は、接触燃焼技術の中核を成す。現時点で開発され知られている、VOCを接触分解して燃焼させる触媒としては、主として、貴金属触媒および非貴金属酸化物触媒が挙げられる。このうち、貴金属触媒(Pt、Ru、Au、Pdなど)は、良好な性能を有しているが、高価であり被毒しやすい。非貴金属酸化物触媒(Co2O3、MnO2、CeO2、CuO、TiO2、ペロブスカイトなど)は、廉価であり被毒しにくいが、触媒活性が比較的低い。
【0011】
そのため、上述の分野に適用できる廉価かつ高性能の触媒の開発が、解決すべき課題となっている。
【0012】
背景技術欄に記載の情報は、単に、本出願の背景の理解の一助とするために提供されている。それゆえ、当業者に既に知られている従来技術を構成しない情報を含んでいる場合があることに留意されたい。
【発明の概要】
【0013】
本出願の目的は、コア-シェル構造を有する炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料と、その製造方法および応用を提供することにある。コア-シェル構造は、黒鉛化炭素(任意構成で、窒素によりドープされている)のシェルと、酸化ニッケルのコアと、を含んでいる。炭素被覆酸化ニッケルナノ粒子は、触媒活性成分として使用するときに、優れた活性を有している。ナノ複合材料は、一酸化二窒素の接触分解および揮発性有機化合物の接触燃焼に有効に使用できる。ナノ複合材料は、アジピン酸プラントや硝酸プラントなどの製造工程で発生する高濃度のN2Oの除去や、VOCの浄化といった問題を解決する。それゆえ、ナノ複合材料は、環境保護、大気汚染の低減などに重要な意義を有しており、工業における応用が期待されている。
【0014】
上記の目的を達成するために、本出願は、ある態様において、コア-シェル構造を有する炭素被覆酸化ニッケルナノ粒子を含んでいる、炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料を提供し、
上記コア-シェル構造は、黒鉛化炭素膜(任意構成で窒素によりドープされている)である外殻と、酸化ニッケルナノ粒子を含んでいる内核と、を有しており、
上記ナノ複合材料の炭素含有量は、当該ナノ複合材料の重量を基準として、0重量%超約5重量%以下である。
【0015】
好ましくは、上記ナノ複合材料は、下記(i)および/または(ii)を満たしている:
(i)X線光電子分光法によって測定される炭素元素含有量は、約15~60mol%である;
(ii)X線光電子分光法によって測定される炭素元素質量含有量の元素分析によって測定される炭素元素質量含有量に対する比率は、約10以上である。
【0016】
好ましくは、上記ナノ複合材料のラマンスペクトルにおいて、1580cm-1近傍に位置するGピークの強度の1320cm-1近傍に位置するDピークの強度に対する比率は、約2超である。
【0017】
他の態様において、本出願は、下記工程を含む炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料の製造方法を提供する:
(i)ニッケル源、多塩基有機カルボン酸、および任意構成の窒素含有化合物を溶媒中で混合して、均一な溶液にする工程;
(ii)均一な溶液から上記溶媒を除去して、前駆体を得る工程;
(iii)不活性雰囲気下または還元性雰囲気下において、前駆体を熱分解する工程;
(iv)酸素の存在下において熱分解生成物を熱処理して、ナノ複合材料を得る工程;
ここで、
好ましくは、上記ニッケル源は、ニッケル粉末、水酸化ニッケル、酸化ニッケル、ニッケルの可溶性有機酸塩、ニッケルの塩基性炭酸塩およびニッケルの炭酸塩からなる群より選択される1つ以上であり、
好ましくは、上記多塩基有機カルボン酸は、クエン酸、マレイン酸、トリメシン酸、テレフタル酸、グルコン酸、リンゴ酸、エチレンジアミン四酢酸、ジピコリン酸、イミノ二酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸および1,3-プロパンジアミン四酢酸からなる群より選択される1つ以上であり、
好ましくは、上記窒素含有化合物は、尿素、メラミン、ジシアノジアミン、ヘキサメチレンテトラミンおよびアミノ酸からなる群より選択される1つ以上である。
【0018】
好ましくは、上記工程(iv)の熱処理は、熱分解生成物に酸素含有ガスを導入し、加熱する工程を含み、
上記酸素含有ガスの酸素濃度は、約10~40体積%であり、
上記熱処理の温度は、約200~500℃であり、
上記熱処理の時間は、約0.5~10時間である。
【0019】
さらなる態様において、本出願は、一酸化二窒素および接触分解用触媒を接触させて窒素および酸素を生成させる工程を含む、一酸化二窒素の分解を触媒する方法を提供し、
上記触媒は、本出願のナノ複合材料を活性成分として含んでいる。
【0020】
さらに他の態様において、本出願は、揮発性有機化合物と酸化反応用触媒とを接触させる工程を含む、揮発性有機化合物の処理方法を提供し、
上記触媒は、本出願のナノ複合材料を活性成分として含んでいる。
【0021】
好ましくは、上記揮発性有機化合物および酸素を含んでいる混合ガスを、接触燃焼用触媒に接触させて酸化反応させる。
【0022】
本出願の炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料は、黒鉛化炭素(任意構成で、窒素によりドープされている)のシェルと酸化ニッケルのコアとを含んでいるコアシェル構造を有しており、その固有の構造および組成のため、N2Oの分解触媒として用いたときに優れた活性を示す。従来の触媒は処理前の産業廃ガスに含まれるN2Oを稀釈する必要があるのに対して、本出願のナノ複合材料は、工業生産により発生する高濃度の一酸化二窒素を含有する廃ガスの分解を、低温、99%以上の分解効率にて直接に触媒できる。そのため、環境保護や大気汚染の低減に関して大きな意義を有している。さらに、ナノ複合材料は、VOCの酸化および燃焼を、低温において効果的に触媒することもできる。このことは、VOCの浄化および大気汚染の低減に係る問題の解決に有益である。
【0023】
本明細書の一部を形成する図面は、本出願の理解の一助とするために提供されており、
限定的に解釈してはならない。本出願は、下記の図面と後述の詳細な説明とを組合せて参照することにより解釈されうる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、実施例I-1で得られたナノ複合材料のX線回析パターンを表す。
【
図2】
図2は、実施例I-1で得られたナノ複合材料の透過型電子顕微鏡像を表す。
【
図3】
図3は、実施例I-1で得られたナノ複合材料のラマンスペクトルを表す。
【
図4】
図4は、実施例I-2で得られたナノ複合材料のX線回析パターンを表す。
【
図5】
図5は、実施例I-2で得られたナノ複合材料の透過型電子顕微鏡像を表す。
【
図6】
図6は、実施例I-2で得られたナノ複合材料のラマンスペクトルを表す。
【
図7】
図7は、比較例I-1で得られた物質のX線回析パターンを表す。
【
図8a】
図8aおよび8bは、比較例I-1で得られた物質の、それぞれ異なる倍率によるTEM像を表す。
【
図9】
図9は、実施例II-1で得られたナノ複合材料のX線回析パターンを表す。
【
図10】
図10は、実施例II-1で得られたナノ複合材料の透過型電子顕微鏡像を表す。
【
図11】
図11は、実施例II-1で得られたナノ複合材料のラマンスペクトルを表す。
【
図12】
図12は、実施例II-2で得られたナノ複合材料のX線回析パターンを表す。
【
図13】
図13は、実施例II-2で得られたナノ複合材料のTEM像を表す。
【
図14】
図14は、実施例II-2で得られたナノ複合材料のラマンスペクトルを表す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
下記の種々の実施形態または実施例は、当業者が本明細書の記載を参照しながら本発明を実施できるようにするためのものである。もちろん、これらの実施形態または実施例は単なる例示であり、本出願の限定を意図していない。本明細書に記載されている、数値範囲の端点を伴う任意の具体的な数値は、その厳密な値に限定されない。そうではなく、具体的な数値には、厳密な値に近い全ての値がさらに含まれると解釈せねばならない。さらに、本願明細書に記載の任意の数値範囲に関連して、数値範囲の端点同士、数値範囲の端点と当該数値範囲内の任意の具体的な値、および、数値範囲内の任意の具体的な値同士を任意に組合せて、1つ以上の新しい数値範囲とすることができる。このような新たな数値範囲もまた、本出願に具体的に記載されているとみなさねばならない。
【0026】
特に明記しない限り、本明細書において使用される用語は、当業者によって通常に理解されているものと同じの意味を有している。本明細書において用語が定義され、その定義が本技術分野で通常に理解されているものと異なるときは、本明細書の定義を優先する。
【0027】
本明細書において引用されている特許および非特許文献(教科書および雑誌記事が含まれるが、これらには限定されない)は、その全体が参照により組み込まれる。
【0028】
本明細書において用いられるとき、用語「コア-シェル構造」とは、外側にある黒鉛化炭素のシェルと、酸化ニッケルナノ粒子を含んでいる内核とを有するコア-シェル構造を表す。酸化ニッケルナノ粒子を黒鉛化炭素のシェルで被覆して形成される複合材料の粒子は、球状またはほぼ球状である。
【0029】
用語「黒鉛化炭素のシェル/フィルム」とは、黒鉛化した炭素から主に構成される薄膜構造を表す。
【0030】
用語「窒素」とは、「窒素ドープされている」または「窒素によりドープされている」という表現において登場する場合、窒素元素を表す。具体的には、炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料の製造において形成される黒鉛化炭素層の中に様々な形態で存在する、窒素元素を表す。用語「窒素含有量」とは、全ての形態の窒素元素の含有量の合計を表す。
【0031】
用語「X線光電子分光法によって測定される炭素元素含有量」とは、分析機器としてX線光電子分光器を使用した定量元素分析によって測定される、材料表面における炭素元素の相対的な含有量を表す。このパラメータは、通常はmol%で表され、単純な変換により対応する質量%を計算できる。
【0032】
用語「X線光電子分光法によって測定される窒素元素含有量」とは、分析機器としてX線光電子分光器を使用した定量元素分析によって測定される、材料表面における窒素元素の相対的な含有量を表す。このパラメータは、通常はmol%で表される。
【0033】
用語「元素分析によって測定される炭素元素含有量」とは、分析機器として元素分析装置を使用した定量元素分析によって測定測定される、材料の全炭素元素の相対的な含有量を表す。このパラメータは、通常は重量%で表される。
【0034】
本出願に関して、反応空間速度とは、所与の条件下において単位時間および触媒の単位質量あたりに処理されるガスの量を表す。このパラメータは、反応ガス量(mL)/(hr・触媒重量(g))で表す。
【0035】
上述の通り、第1の態様において、本出願は、コア-シェル構造を有する炭素被覆酸化ニッケルナノ粒子を含んでいる炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料を提供し、
上記コア-シェル構造は、黒鉛化炭素膜(任意構成で窒素によりドープされている)である外殻と、酸化ニッケルナノ粒子を含んでいる内核とを含んでおり、
上記ナノ複合材料の炭素含有量は、ナノ複合材料の重量を基準として、0重量%超であり、約5重量%以下である。
【0036】
好適な実施形態において、ナノ複合材料は、本質的に、コア-シェル構造を有している炭素被覆酸化ニッケルナノ粒子からなる。
【0037】
好適な実施形態において、内核は、本質的に、酸化ニッケルナノ粒子からなる。
【0038】
本出願によれば、ナノ複合材料の重量基準の炭素含有量は、元素分析によって測定される炭素元素含有量であってもよい。好適な実施形態において、ナノ複合材料の炭素含有量は、ナノ複合材料の重量を基準として、約1重量%以下であり(約0.1~1重量%など)、好ましくは約1重量%未満であり(約0.1~0.99重量%、約0.1~0.95重量%、0.2~0.95重量%、0.3~0.95重量%、0.4~0.95重量%、0.5~0.95重量%、0.5~0.9重量%など)、より好ましくは約0.2~0.95重量%であり、特に好ましくは約0.4~0.95重量%である。
【0039】
本出願によれば、炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料は、外殻層および内核層を有するコア-シェル構造を有している。外殻層は、主として黒鉛化炭素膜から構成されており、任意構成で窒素によりドープされている。黒鉛化炭素膜は薄膜構造を有しており、この薄膜構造は主として黒鉛化炭素から構成されており、任意構成で窒素によりドープされている。黒鉛化炭素膜は、酸化ニッケルナノ粒子の表面を被覆している。本出願の発明者らが見出したところによると、驚くべきことに、外面が黒鉛化炭素膜で被覆されているコア-シェル構造は、シェル層の炭素含有量が比較的低いにもかかわらず、材料全体としての性能(とりわけ、触媒能)を大幅に向上させる。いかなる理論にも拘束されないが、出願人は次のように考えている。すなわち、本出願に係るナノ複合材料の黒鉛化炭素膜は閉じ込め効果を有しており、コアにおいて酸化ニッケルナノ粒子の凝集および成長を効果的に防止している。これにより、複合材料の触媒活性が安定し、複合材料全体としての触媒活性を相乗的に増加させられる。その結果、黒鉛性炭素膜で被覆されていない純粋な酸化ニッケルに比べて、複合材料の触媒活性は著しく向上する。加えて、窒素をドープすると、炭素材料の元素組成を変化させることができ、炭素材料の電気化学的特性および表面活性を調節および制御できる。したがって、窒素のドープは、炭素被覆た酸化ニッケルナノ複合材料の機能のさらなる向上および拡張に有用である。
【0040】
好適な実施形態において、本出願のナノ複合材料は、次の(i)および/または(ii)の条件を満たしている。(i)X線光電子分光法によって測定される炭素元素含有量が、約15~約60mol%であり、好ましくは約15~約45mol%である。(ii)X線光電子分光法によって測定される炭素元素質量含有量の、元素分析によって測定される炭素元素質量含有量に対する比率が、約10以上であり、好ましくは約20~約40である。上述の通り、X線光電子分光法によって測定される炭素元素含有量は、分析機器としてX線光電子分光器を使用した定量元素分析によって測定される、材料表面の炭素元素の相対的な含有量を表す。元素分析によって測定される炭素元素含有量とは、分析機器として元素分析装置を使用した定量元素分析によって測定される、材料の全炭素元素の相対的な含有量を表す。X線光電子分光法によって測定される炭素元素含有量の元素分析によって測定される炭素元素含有量に対する比率が大きいほど、ナノ複合材料に存在する炭素が材料の表面に局在していることになる。その結果、炭素のシェル層(ひいては、コア-シェル構造)が形成されるようになる。
【0041】
いくつかの好適な実施形態において、コア-シェル構造の外殻は窒素ドープされた黒鉛化炭素膜であり、X線光電子分光法によって測定されるナノ複合材料の窒素含有量は、約0.1~5mol%である。窒素含有量は、例えば、約0.1mol%、約0.4mol%、約2.8mol%、約3.6mol%、約4.2mol%、約4.7mol%などであってよく、好ましくは約0.5~4mol%であり、より好ましくは約0.5~3mol%である。
【0042】
好適な実施形態においては、ナノ複合材料のラマンスペクトルにおいて、1580cm-1近傍に位置するGピークの強度の1320cm-1近傍に位置するDピークの強度に対する比率は、約2超であり、好ましくは約2超約3以下である。当業者に周知の通り、DピークおよびGピークはいずれも、ラマンスペクトルにおける炭素原子結晶の特徴ピークである。Dピークは、炭素原子結晶の格子欠陥を表す。Gピークは、炭素原子のsp2混成軌道の面内伸縮振動を表す。理解されるであろうことには、Gピーク強度のDピーク強度に対する比が大きくなるほど、ナノ複合材料中に存在する黒鉛性炭素が非晶質炭素よりも多くなる。本出願のナノ複合材料において、炭素元素は、主として黒鉛性炭素の形態で存在している。黒鉛性炭素は耐酸化性に優れており、内核に含まれている酸化ニッケルナノ粒子と協働して触媒活性を向上させられる。その結果、複合材料全体としの性能が向上する。
【0043】
好適な実施形態において、コア-シェル構造を有している炭素被覆酸化ニッケルナノ粒子の粒径は、約1~100nmであり、好ましくは約2~40nmである(約2nm、約15nm、約20nm、約25nm、約30nm、約35nm、約40nmなど)。
【0044】
第2の態様において、本出願は、下記工程を含む炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料の製造方法を提供する:
(i)ニッケル源、多塩基有機カルボン酸、および任意構成の窒素含有化合物を溶媒中で混合して、均一な溶液にする工程;
(ii)均一な溶液から溶媒を除去して前駆体を得る工程;
(iii)不活性雰囲気下または還元性雰囲気下において前駆体を熱分解する工程;
(iv)酸素の存在下において熱分解生成物を熱処理して、ナノ複合材料を得る工程。
【0045】
本出願に係る製造方法においては、まず、単体ニッケルの反応により、単体ニッケルの外面を密着して被覆する黒鉛化炭素層を形成させる。次に、酸素の存在下における熱処理により、内核に含まれる単体ニッケルを酸化ニッケルに転化させる。これと同時に、酸素の存在下における熱処理により、非晶質炭素を除去する。その結果、少量の黒鉛性炭素で被覆された酸化ニッケルのナノ複合材料が得られる。ナノ複合材料のXRD分析においては、通常、酸化ニッケルの特徴ピークのみが見られ、単体ニッケルの特徴ピークは見られない。このことは、ナノ複合材料のコアに含まれているニッケルが、実質的に酸化ニッケルの形態であることを示している。
【0046】
特定の実施形態において、工程(ii)で得られる前駆体は、水溶性混合物である。この水溶性混合物は、ニッケル源、多塩基有機カルボン酸、および任意構成の窒素含有化合物を、溶媒(水およびエタノールなど)に溶解させて均一な溶液とし、溶媒を蒸発させることによって得られる。溶媒を蒸発させる温度および方法は、従来技術で使用されるものであってよい。例えば、約80~120℃にて噴霧乾燥してもよいし、オーブン乾燥してもよい。
【0047】
好適な実施形態において、ニッケル源は、ニッケル粉末、水酸化ニッケル、酸化ニッケル、ニッケルの可溶性有機酸塩、ニッケルの塩基性炭酸塩およびニッケルの炭酸塩のうちの1つ以上であってもよい。ニッケルの可溶性有機酸塩は、溶媒中で多塩基有機カルボン酸と混合して均一な溶液にできるものであれば、本明細書において特に限定されない。可溶性有機酸塩は、ヘテロ原子を含んでいない有機カルボン酸とニッケルとの塩であってもよい(酢酸ニッケルなど)。
【0048】
多塩基有機カルボン酸は、溶媒中でニッケル源と混合して均一な溶液にできるものであれば、本明細書において特に限定されない。多塩基有機カルボン酸は、窒素を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。多塩基有機カルボン酸の例としては、クエン酸、マレイン酸、トリメシン酸、テレフタル酸、グルコン酸、リンゴ酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ピリジンジカルボン酸、イミノ二酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸および1,3-プロパンジアミン四酢酸からなる群より選択される1つ以上であってもよい。好ましくは、ジピコリン酸は、2,3-ジピコリン酸、2,4-ジピコリン酸、2,5-ジピコリン酸、2,6-ジピコリン酸、3,4-ジピコリン酸または3,5-ジピコリン酸であってもよい。
【0049】
好適な実施形態において、窒素含有化合物は、尿素、メラミン、ジシアノジアミン、ヘキサメチレンテトラミンおよびアミノ酸からなる群より選択される1つ以上であってもよい。理解できるであろうことには、多塩基有機カルボン酸が窒素含有有機カルボン酸であるならば(エチレンジアミン四酢酸、ジピコリン酸、イミノ二酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸および1,3-プロピレンジアミン四酢酸など)、上述した窒素含有化合物を別途加えなくとも、窒素ドープされた黒鉛化炭素のシェルを有している本出願のナノ複合材料が得られる。
【0050】
いくつかの好適な実施形態においては、工程(i)において、ニッケル源と、クエン酸、マレイン酸、トリメシン酸、テレフタル酸、グルコン酸およびリンゴ酸からなる群より選択される1つ以上である多塩基有機カルボン酸とを、溶媒中で混合する。ニッケル源の多塩基有機カルボン酸に対する質量比は、約1:(0.1~100)であり、好ましくは約1:(0.1~10)である。
【0051】
いくつかの好適な実施形態においては、工程(i)において、ニッケル源と、エチレンジアミン四酢酸、ジピコリン酸、イミノ二酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸および1,3-プロパンジアミン四酢酸からなる群より選択される1つ以上である多塩基有機カルボン酸とを、溶媒中で混合する。ニッケル源の多塩基有機カルボン酸に対する質量比は、約1:(0.1~10)であり、好ましくは約1:(0.5~5)である。
【0052】
いくつかの好適な実施形態においては、工程(i)において、ニッケル源、多塩基有機カルボン酸および窒素含有化合物を溶媒中で混合する。このとき、多塩基有機カルボン酸は、クエン酸、マレイン酸、トリメシン酸、テレフタル酸、グルコン酸およびリンゴ酸からなる群より選択される1つ以上である。また、ニッケル源、多塩基有機カルボン酸および窒素含有化合物の質量比は、約1:(0.1~10):(0.1~10)、好ましくは約1:(0.5~5):(0.5~5)であり、より好ましくは約1:(0.8~2):(1~2)である(約1:1:2、約1:1:1など)。
【0053】
さらに好適な実施形態においては、工程(i)において、ニッケル源、多塩基有機カルボン酸および窒素含有化合物とは異なる他の有機化合物を加えて、均一な溶液としてもよい。他の有機物は、製品において必要とされる炭素源を補うことができる、他のドーピング原子を含んでいない任意の有機化合物であってもよい。他の有機物は、好ましくは、不揮発性有機化合物である(有機ポリオール、乳酸など)。さらに好適な実施形態において、ニッケル源、多塩基有機カルボン酸および他の有機化合物の質量比は、約1:(0.1~10):(0~10)であり、好ましくは約1:(0.5~5):(0~5)であり、より好ましくは約1:(0.8~3):(0~3)である。
【0054】
好適な実施形態において、工程(iii)の熱分解は、不活性雰囲気または還元性雰囲気において前駆体を一定の温度段階まで加熱する工程と、温度を一定の温度段階に一定時間保つ工程と、を含む。好ましい条件は、次の通りである。加熱の速度は、約0.5~30℃/分であり、好ましくは約1~10℃/分である。一定の温度段階は、約400~800℃であり、好ましくは500~800℃である。一定の温度段階に保つ時間は、約20~600分間であり、好ましくは約60~480分間である。不活性雰囲気は窒素またはアルゴンであり、還元性雰囲気は不活性ガスおよび水素の混合ガスである(少量の水素を含有する不活性雰囲気など)。
【0055】
いかなる理論にも束縛されるものではないが、本出願人は、次のように考えている。すなわち、工程(iii)における熱分解後に得られる生成物は、黒鉛化炭素層で被覆されたニッケルのナノ複合材料である。この「黒鉛化炭素層」は層状の炭素構造であり、非晶質の炭素構造ではない。このことは、高分解能透過型電子顕微鏡により明確に観察できる。ナノ複合材料は、黒鉛化炭素の層により密着して被覆されている、ニッケルナノ粒子を含んでいる。そのため、ニッケルナノ粒子は、外部環境との接触が実質的に阻害されている。黒鉛化炭素層によるニッケル表面の被覆の密着性は、「酸洗損失」というパラメータを用いて決定できる。黒鉛化炭素層によるニッケルの被覆の密着性が低いと、酸洗処理によって酸中へとニッケルが溶解してしまうので、コアに含まれているニッケルの損失が発生しうる。酸洗損失が大きいほど、黒鉛化炭素層によるニッケルの被覆の密着性が低い。酸洗損失が小さいほど、黒鉛化炭素層によるニッケルの被覆の密着性が高い。
【0056】
本出願において、酸洗処理の条件には、通常、90℃にて8時間、サンプルを硫酸水溶液で処理する工程が含まれる。硫酸水溶液の濃度は1mol/Lであり、サンプル1gあたり20mLの硫酸水溶液を使用する。処理後、脱イオン水でサンプルを洗浄して中性化させ、乾燥、秤量および分析する。酸洗損失は、下記式により算出する。
酸洗損失=[1-(酸洗後の複合材料中のニッケルの質量分率×酸洗後の複合材料の質量)÷(処理前の複合材料中のニッケルの質量分率×処理前の複合材料の質量)]×100%
【0057】
上記式における「複合材料」とは、工程(iii)を経て熱分解されているが、工程(iv)を経て熱処理される前の複合材料をいう。好適な実施形態において、工程(iii)における熱分解後に得られるナノ複合材料の酸洗損失は、通常は40%以下である(30%以下、20%以下または10%以下など)。
【0058】
好適な実施形態において、工程(iv)の熱処理(本明細書においては「酸素処理」とも称する)は、酸素含有ガスを熱分解生成物に導入し加熱する工程を含む。酸素含有ガスの酸素濃度は、約10~40体積%であってもよく、好ましくは約10~20体積%である(約10%、約12体積%、約15体積%、約17体積%、約20体積%など)。好ましくは、酸素含有ガスは、酸素およびバランスガスを含んでいる。バランスガスは、不活性ガス(窒素またはアルゴンなど)であってもよく、好ましくは窒素である(ただし、これらには限定されない)。
【0059】
好適な実施形態において、工程(iv)の熱処理の温度は、約200~500℃であり、好ましくは約300~400℃である。熱処理の時間は、約0.5~10時間であり、好ましくは約1~10時間であり、より好ましくは約4~8時間である(約4時間、約5時間、約5.5時間、約6時間、約7時間、約7.8時間など)。
【0060】
上述の通り、本出願に係る製造方法の工程(iii)における熱分解により、ニッケルの内核が黒鉛性炭素シェルにより被覆されているナノ複合材料が得られる。ナノ複合材料の炭素含有量は、約15~60重量%である。ナノ複合材料に含まれているニッケルナノ粒子は、黒鉛化炭素層により密着して被覆されており、外部環境との接触が実質的に阻害されている。当業者に周知の通り、高温において炭素と酸素を接触させると、炭素は酸化されてガスを発生させる。それゆえ、工程(iv)の加熱処理後において、熱分解生成物中の炭素の大部分は、酸化反応によって失われるはずである。しかし驚くべきことに、本出願の発明者らが見出したところによると、熱処理後に得られた材料においては、炭素の大部分が燃焼し、コアに含まれているニッケルが酸化されているるものの、炭素の一部が残存していた。上述の通り、XPSおよびラマンスペクトルを用いた検出および分析が示すところによると、残存している一部の炭素は、酸化ニッケルの表面を被覆している黒鉛化炭素の薄膜層となっている。さらに、この炭素の薄膜層により、ナノ複合材料は、複数の優れた特性(とりわけ触媒活性)を有するようになった。また、窒素含有多塩基有機カルボン酸および/または窒素含有化合物を使用すると、黒鉛化炭素膜にさらに少量の窒素が残存することになる。このような窒素は、材料の電気化学的特性および表面活性の調節および制御に有用である。
【0061】
第3の態様においては、本出願の製造方法によって得られる炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料が提供される。このナノ複合材料は、本出願の第1の態様で説明した特徴を有している。本明細書では、簡便のため詳細な説明を省略する。
【0062】
第4の態様においては、本出願に係るナノ複合材料の触媒としての使用が提供される。本出願のナノ複合材料は触媒活性を有しており、工業生産における種々の反応の触媒として使用できる。例えば、ナノ複合材料を触媒として用いると、一酸化二窒素の接触分解や揮発性有機化合物の接触燃焼に有効に利用でき、工業における応用が期待される。
【0063】
第5の態様において、本出願は、一酸化二窒素および接触分解用触媒を接触させて窒素および酸素を生成させる工程を含む、一酸化二窒素の分解を触媒する方法を提供し、
上記触媒は、本出願のナノ複合材料を活性成分として含んでおり、
好ましくは、本出願のナノ複合材料を触媒として用いる。
【0064】
特定の実施形態において、この方法は、接触分解用触媒を装填した反応器に一酸化二窒素を含んでいるガスを流通させる工程を含む。
【0065】
好適な実施形態において、接触分解の条件は、次の通りである。温度は、約300~400℃であり、好ましくは約350~380℃である。反応空間速度は、約1000~3000mLの反応ガス/(hr・触媒重量(g))である。本出願では、高い反応空間速度が実現できる。このことが表しているのは、本出願に係るナノ複合材料を反応に応用すると高い活性を示し、それゆえプラントの処理能力を向上させられるということである。
【0066】
本出願によれば、上述の通り、現在研究・報告されているN2Oの分解用触媒は、主として、貴金属触媒、イオン交換モレキュラーシーブ触媒および遷移金属酸化物触媒である。貴金属触媒は分解温度が低いが、高価であるため、大規模な工業生産に適していない。モレキュラーシーブ触媒および遷移金属酸化物触媒にとって効率的な分解温度は450~550℃であり、高温で反応させる必要があるため、工業コストが大幅に増大する。加えて、一酸化二窒素の分解により酸素が発生するので、触媒が失活しやすい。さらに、高温において金属活性中心が凝集することも、これらの触媒の触媒性能に対して影響を及ぼしやすい。
【0067】
しかし、本願発明者らの知見によると、本出願の炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料を触媒として使用すると、一酸化二窒素を窒素および酸素に効果的に分解でき、反応時の触媒活性の安定性が優れている。さらに、既存の触媒を使用して一酸化二窒素の分解を触媒すると、工業生産から得られる高濃度の一酸化二窒素を、通常は約0.5~2%に稀釈する必要があった。しかし、本出願に係るナノ複合材料は分解速度が速いため、稀釈操作を経ることなく一酸化二窒素を直接分解できる。例えば、反応ガス中の一酸化二窒素の濃度が約5~40体積%(約30~40体積%など)であるときに、直接的に接触分解することができ、分解効率は99%以上であるため、工業コストを大幅に削減できる。この方法には、工業における応用について有望な見通しがある。
【0068】
第6の態様において、本出願は、揮発性有機化合物と酸化反応用触媒とを接触させる工程を含む、揮発性有機化合物の処理方法を提供し、
上記触媒は、本出願のナノ複合材料を活性成分として含んでおり、
好ましくは、本出願のナノ複合材料を触媒として用いる。
【0069】
好適な実施形態において、揮発性有機化合物は、C1~C4炭化水素化合物からなる群より選択される1つ以上である。例えば、n-ブタン、n-プロパン、エタンおよび/またはメタンであってもよい。
【0070】
好適な実施形態においては、揮発性有機化合物および酸素を含んでいる混合ガスを接触燃焼用触媒に接触させることにより、酸化反応をさせる。好ましくは、混合ガスに含まれている揮発性有機化合物は、約0.01~2体積%である(約0.01体積%、約0.05体積%、約0.09体積%、約0.1体積%、約0.15体積%、約0.18体積%、約0.2体積%など)。混合ガスに含まれている酸素は、約5~20体積%である(約5体積%、約10体積%、約15体積%、約18体積%、約20体積%など)。いくつかのさらなる好適な実施形態において、混合ガスは、不活性ガス(窒素またはアルゴンなど)をさらに含んでいてもよい。
【0071】
好適な実施形態において、酸化反応の空間速度は、約1000~5000mLの反応ガス/(hr・触媒重量(g))である。本出願では、高い反応空間速度が実現できる。このことが表しているのは、本出願に係るナノ複合材料を反応に応用すると高い活性を示し、それゆえプラントの処理能力を向上させられるということである。
【0072】
好適な実施形態において、酸化反応の温度は、約300~450℃であり、好ましくは約350~400℃である。このことは、本出願のナノ複合材料を使用すると、低温においても接触酸化反応を首尾よく進められることを表している。
【0073】
本発明によれば、上述の通り、産業廃ガスには揮発性有機化合物(VOC)が含まれていることが多い。VOCは、光化学スモッグの主な原因の一つであり、窒素酸化物や吸引性粒子などとともに、大気の質を制御する上で重要な汚染物質とされている。さらに、VOCは、毒性が高く、発癌の危険性もある。それゆえ、VOCを処理するための性能に優れた接触酸化材料に、差し迫った要望が存在している。本出願に係るナノ複合材料を揮発性有機化合物の接触燃焼に使用すると、触媒活性および安定性に優れ、低温におけるVOCの酸化燃焼を高効率で触媒できる。したがって、ナノ複合材料は、VOCの浄化における問題の解決に有用であり、大気汚染の低減に重要な意義を有している。
【0074】
好適な実施形態において、本出願は、下記の技術的解決手段を提供する。
<項目A1>
コア-シェル構造を有している炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料であって、
上記コア-シェル構造は、外側の黒鉛化炭素のシェルと、酸化ニッケルナノ粒子を含んでいる内核と、を含んでおり、
上記ナノ複合材料の炭素含有量は、5重量%以下である、
炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料。
<項目A2>
上記ナノ複合材料の炭素含有量は、1重量%以下である、項目A1に記載のナノ複合材料。
<項目A3>
上記ナノ複合材料は、X線光電子分光法によって測定される炭素元素質量含有量の元素分析によって測定される炭素元素質量含有量に対する比率が10以上である、項目A1に記載のナノ複合材料。
<項目A4>
上記ナノ複合材料のラマンスペクトルにおいて、1580cm-1近傍に位置するGピークの強度の1320cm-1近傍に位置するDピークの強度に対する比率は2超である、項目A1に記載のナノ複合材料。
<項目A5>
上記コア-シェル構造の粒径は、1~100nmである、項目A1に記載のナノ複合材料。
<項目A6>
項目A1~A5のいずれかに記載の炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料の製造方法であって、下記工程を含む方法:
混合用溶媒にニッケル源および多塩基有機カルボン酸を加えて、均一な溶液にする工程;
均一な溶液から溶媒を除去して、前駆体を得る工程;
不活性雰囲気または還元性雰囲気において上記前駆体を熱分解する工程;および、
熱分解生成物を酸素処理して、上記ナノ複合材料を得る工程。
<項目A7>
上記酸素処理は、酸素含有ガスを上記熱分解生成物に導入して加熱する工程を含み、
上記酸素含有ガスは、酸素およびバランスガスを含んでおり、
上記酸素の濃度は、10~40体積%である、
項目A6に記載の製造方法。
<項目A8>
上記酸素処理の温度は、200~500℃であり、
上記酸素処理の時間は、0.5~10時間である、
項目A6に記載の製造方法。
<項目A9>
上記ニッケル源の上記多塩基有機カルボン酸に対する質量比は、1:(0.1~100)であり、
上記ニッケル源は、ニッケルの有機酸塩、炭酸ニッケル、塩基性炭酸ニッケル、水酸化ニッケルおよび酸化ニッケルからなる群より選択される1つ以上であり、
上記多塩基有機カルボン酸は、クエン酸、マレイン酸、トリメシン酸、テレフタル酸、グルコン酸およびリンゴ酸からなる群より選択される1つ以上である、
項目A6に記載の製造方法。
<項目A10>
上記熱分解は、不活性雰囲気または還元性雰囲気において上記前駆体を一定の温度段階まで加熱し、温度を当該一定の温度段階に保つ工程を含み、
上記加熱の速度は、0.5~30℃/分であり、
上記一定の温度段階は、400~800℃であり、
上記一定の温度段階に保つ時間は、20~600分間であり、
上記不活性雰囲気は、窒素またはアルゴンであり、
上記還元性雰囲気は、不活性ガスおよび水素の混合ガスである、
項目A6に記載の製造方法。
<項目A11>
項目A1~A5のいずれかに記載のナノ複合材料の、触媒としての使用。
<項目A12>
項目A1~A5のいずれかに記載のナノ複合材料の、一酸化二窒素の分解触媒としての使用であって、
接触分解のために上記触媒および上記一酸化二窒素を接触させて、窒素および酸素を生成させる工程を含む、
使用。
<項目A13>
上記接触分解の温度は、300~400℃である、項目A12に記載の使用。
<項目A14>
上記接触分解の空間速度は、1000~3000mLの反応ガス/(hr・触媒重量(g))である、項目A12に記載の使用。
<項目A15>
上記一酸化二窒素の濃度は、30~40体積%である、項目A12に記載の使用。
<項目B1>
炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料を触媒として用いることにより揮発性有機化合物の酸化反応を触媒する工程を含む、揮発性有機化合物の接触燃焼方法であって、
上記ナノ複合材料は、コア-シェル構造を有しており、
上記コア-シェル構造は、外側の黒鉛化炭素のシェルと、酸化ニッケルナノ粒子を含んでいる内核と、を含んでおり、
上記ナノ複合材料の炭素含有量は、5重量%以下である、
方法。
<項目B2>
上記酸化反応は、混合ガスと接触燃焼用触媒とを接触させる工程を含み、
上記混合ガスは、揮発性有機化合物および標準ガスを含んでおり、
上記標準ガスは、酸素を含んでいる、
項目B1に記載の方法。
<項目B3>
上記混合ガスは、
上記揮発性有機化合物を0.01~2体積%含んでおり、
上記酸素を5~20体積%の酸素含んでいる、
項目B2に記載の方法。
<項目B4>
上記揮発性有機化合物は、炭素原子数が1~4である炭化水素化合物からなる群より選択される1つ以上である、項目B1に記載の方法。
<項目B5>
上記酸化反応の空間速度は、1000~5000mLの反応ガス/(hr・触媒重量(g))である、項目B1に記載の方法。
<項目B6>
上記酸化反応の温度は、300~450℃である、項目B1に記載の方法。
<項目B7>
上記ナノ複合材料の炭素含有量は、1重量%以下である、項目B1に記載の方法。
<項目B8>
上記ナノ複合材料は、X線光電子分光法によって測定される炭素含有量の元素分析によって測定される炭素含有量に対する比率が10以上である、項目B1に記載の方法。
<項目B9>
上記ナノ複合材料のラマンスペクトルにおいて、1580cm-1近傍に位置するGピークの強度の1320cm-1近傍に位置するDピークの強度に対する比率は2超である、項目B1に記載のナノ複合材料。
<項目B10>
上記コア-シェル構造の粒径は、1~100nmである、項目B1に記載の方法。
<項目C1>
コア-シェル構造を有している炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料であって、
上記コア-シェル構造は、窒素ドープされた黒鉛化炭素膜の外殻と、酸化ニッケルナノ粒子を含んでいる内核と、を含んでおり、
上記ナノ複合材料の炭素含有量は、5重量%以下である、炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料。
<項目C2>
上記ナノ複合材料の炭素含有量は、1重量%以下である、項目C1に記載のナノ複合材料。
<項目C3>
上記ナノ複合材料は、X線光電子分光法によって測定される窒素元素含有量が、0.1~5mol%である、項目C1に記載のナノ複合材料。
<項目C4>
上記ナノ複合材料は、X線光電子分光法によって測定される炭素元素質量含有量の元素分析によって測定される炭素元素質量含有量に対するの比率が10以上である、項目C1に記載のナノ複合材料。
<項目C5>
上記ナノ複合材料のラマンスペクトルにおいて、1580cm-1近傍に位置するGピークの強度の1320cm-1近傍に位置するDピークの強度に対する比率は2超である、項目C1に記載のナノ複合材料。
<項目C6>
上記コア-シェル構造の粒径は、1~100nmである、項目C1に記載のナノ複合材料。
<項目C7>
項目C1~C6のいずれかに記載の炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料の製造方法であって、下記工程を含む方法:
混合用溶媒にニッケル源およびカルボン酸を加えて、均一な溶液にする工程;
上記均一な溶液から溶媒を除去して、前駆体を得る工程;
不活性雰囲気または還元性雰囲気において、前駆体を熱分解する工程;および、
熱分解生成物を酸素処理して、上記ナノ複合材料を得る工程;
ここで、上記カルボン酸は、多塩基有機カルボン酸と、窒素含有化合物または窒素含有有機カルボン酸との混合物である。
<項目C8>
上記酸素処理の前に、上記熱分解生成物を酸洗処理する工程さらに含む、項目C7に記載の製造方法。
<項目C9>
上記酸洗処理後の生成物の酸洗損失は、40%以下である、項目C8に記載の製造方法。
<項目C10>
上記酸素処理は、上記熱分解生成物に標準ガスを導入し、加熱する工程を含み、
上記標準ガスは、酸素およびバランスガスを含んでおり、
上記酸素の濃度は、10~40体積%である、
項目C7に記載の製造方法。
<項目C11>
上記酸素処理の温度は、200~500℃であり、
上記酸素処理の時間は、0.5~10時間である、
項目C7に記載の製造方法。
<項目C12>
下記(i)または(ii)を満たしている、項目C7に記載の製造方法:
(i)上記カルボン酸は多塩基有機カルボン酸と窒素含有化合物との混合物であり、上記ニッケル源、上記多塩基有機カルボン酸および上記窒素含有化合物の質量比は、1:(0.1~10):(0.1~10)である;
上記カルボン酸は窒素含有有機カルボン酸であり、上記ニッケル源の上記窒素含有有機カルボン酸に対する質量比は、1:(0.1~10)である。
<項目C13>
上記ニッケル源は、ニッケル粉末、水酸化ニッケル、酸化ニッケル、ニッケルの可溶性有機酸塩、ニッケルの塩基性炭酸塩およびニッケルの炭酸塩からなる群より選択される1つ以上であり、
上記多塩基有機カルボン酸は、クエン酸、マレイン酸、トリメシン酸、テレフタル酸、グルコン酸、リンゴ酸、エチレンジアミン四酢酸、ジピコリン酸、イミノ二酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸および1,3-プロパンジアミン四酢酸からなる群より選択される1つ以上であり、
上記窒素含有化合物は、尿素、メラミン、ジシアノジアミン、ヘキサメチレンテトラミンおよびアミノ酸からなる群より選択される1つ以上である、
項目C7に記載の製造方法。
<項目C14>
上記熱分解は、不活性雰囲気または還元性雰囲気において上記前駆体を一定の温度段階まで加熱し、温度を当該一定の温度段階に保つ工程を含み、
上記加熱の速度は0.5~30℃/分であり、
上記一定の温度段階は、400~800℃であり、
上記一定の温度段階に保つ時間は、20~600分間であり、
上記不活性雰囲気は、窒素またはアルゴンであり、
上記還元性雰囲気は、不活性ガスおよび水素の混合ガスである、
項目C7に記載の製造方法。
<項目C15>
項目C1~C6のいずれかに記載のナノ複合材料の、化学反応の触媒における触媒の活性成分としての使用。
<項目C16>
一酸化二窒素および接触分解用触媒を接触させて、窒素および酸素を生成させる工程を含む、一酸化二窒素の分解を触媒する方法であって、
上記触媒は、項目C1~C6のいずれかに記載のナノ複合材料を含んでいる、
方法。
<項目C17>
上記接触分解において、
反応温度は、300~400℃であり、
反応空間速度は、1000~3000mLの反応ガス/(hr・触媒重量(g))であり、
一酸化二窒素の濃度は、30~40体積%である、
項目C16に記載の方法。
<項目D1>
炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料を含んでいる触媒の使用によって揮発性有機化合物の酸化反応を触媒する工程を含む、揮発性有機化合物の接触燃焼方法であって、
上記ナノ複合材料は、コア-シェル構造を有しており、
上記コア-シェル構造は、窒素ドープされた黒鉛化炭素膜である外殻と、酸化ニッケルナノ粒子を含んでいる内核と、を含んでおり、
上記ナノ複合材料の炭素含有量は、5重量%以下である、。
<項目D2>
上記酸化反応は、上記揮発性有機化合物および酸素を含有している混合ガスと、上記接触燃焼用触媒とを接触させる工程を含む、項目D1に記載の方法。
<項目D3>
上記混合ガスは、
上記揮発性有機化合物を0.01~2体積%含んでおり、
上記酸素を5~20体積%含んでいる、
項目D2に記載の方法。
<項目D4>
上記揮発性有機化合物は、C1~C4炭化水素化合物からなる群より選択される1つ以上である、項目D1に記載の方法。
<項目D5>
上記酸化反応の空間速度は、1000~5000mLの反応ガス/(hr・触媒重量(g))である、項目D1に記載の方法。
<項目D6>
上記酸化反応の温度は、300~450℃である、項目D1に記載の方法。
<項目D7>
上記ナノ複合材料の炭素含有量は、1重量%以下である、項目D1に記載の方法。
<項目D8>
上記ナノ複合材料は、X線光電子分光法によって測定される窒素元素含有量が0.1~5mol%である、項目D1に記載のナノ複合材料。
<項目D9>
上記ナノ複合材料は、X線光電子分光法によって測定される炭素元素質量含有量の元素分析によって測定される炭素元素質量含有量に対するの比率が10以上である、項目D1に記載のナノ複合材料。
<項目D10>
上記ナノ複合材料のラマンスペクトルにおいて、1580cm-1近傍に位置するGピークの強度の1320cm-1近傍に位置するDピークの強度に対する比率は2より大きい、項目D1に記載のナノ複合材料。
<項目D11>
上記コア-シェル構造の粒径は、1~100nmである、項目D1に記載のナノ複合材料。
【実施例】
【0075】
下記実施例を参照しながら、本出願をさらに説明する。しかし、本出願は、これに限定されるものではない。
【0076】
特に明記しない限り、本出願の実施例および比較例において使用する試薬は、分析純度である。
【0077】
本出願では、X線光電子スペクトル分析装置(XPS)を用いて材料表面の元素を検出する。X線光電子スペクトル分析装置としては、ESCALab220i-XLX線光電子スペクトル分析装置(VG Scientifc)を使用し、この装置はAvantage V5.926ソフトウェアを備えていた。X線光電子スペクトル分析装置の分析・試験条件は、次の通りである。励起光源:単色化AlKα線、出力:330W、分析・試験用の基底真空度:3×10-9mbar。
【0078】
炭素(C)元素の分析には、Elementar Micro Cube元素分析装置を使用した。この装置は、主として、炭素(C)、水素(H)、酸素(O)および窒素(N)の4元素の分析に使用される装置である。操作および条件は、次の通りである。1~2mgのサンプルを錫製のカップに秤量して、サンプルを自動サンプル導入ディスクに入れた。ボール弁を通じてサンプルを燃焼管に通し、1000℃にて燃焼させた(ヘリウムガスをパージして、サンプル導入の際の大気の干渉を防いだ)。次に、還元銅を用いて燃焼ガスを還元し、窒素、二酸化炭素および水を生成させた。3つの脱着カラムによって混合ガスを分離し、TCD検出器に連続的に流通させて検出した。酸素元素の分析は、熱分解に際してサンプル中の酸素を炭素触媒の作用によりCOに転化させた後、TCDによりCOを検出することにより行った。本発明の複合材料は、炭素、窒素および金属酸化物のみを含んでいるので、炭素元素および窒素元素の含有量から金属酸化物の総含有量が求められる。
【0079】
異なる金属酸化物の比率は、蛍光X線分光器(XRF)によって測定した。複合材料における異なる金属酸化物の含有量は、炭素元素含有量に基づいて計算した。本出願において使用する蛍光X線スペクトル分析器(XRF)は、Rigaku 3013蛍光X線スペクトル分析器である。蛍光X線スペクトルの分析および試験条件は、走査時間:100秒間および空気雰囲気とした。
【0080】
本出願のラマン検出には、LabRAM HR UV-NIRレーザ共焦点ラマン分光器(株式会社堀場製作所)を用いた。レーザの波長は、325nmであった。
【0081】
本出願で使用する高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)は、JEM-2100(日本電子株式会社)である。高分解能透過型電子顕微鏡の試験条件は、加速電圧:200kVとした。
【0082】
本出願で使用するXRD回折計は、XRD-6000X線粉末回折計(株式会社島津製作所)である。XRDの試験条件は、Cuターゲット、Kα線(波長λ=0.154nm)、管電圧:40kV、管電流:200mA、走査速度:10°(2θ)/分とした。
【0083】
〔実施例I-1〕
本実施例は、本出願に係る炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料の製造について説明するために提供されている。
(1)10gの炭酸ニッケルおよび10gのクエン酸を秤量し、100mLの脱イオン水を入れたビーカーに加えた。70℃にて攪拌して均質な溶液を得てから、溶液が蒸発乾固するまでさらに過熱して、固体前駆体を得た。
(2)工程(1)で得た固体前駆体を磁製ボートに入れ、さらに磁製ボートを管状炉の恒温区域に入れた。100mL/分の流速で窒素を導入しながら、600℃になるまで4℃/分の速度で加熱し、600℃にて2時間保持した。次に、加熱を停止し、窒素雰囲気下にて室温まで冷却し、黒色固体を得た。上述の方法により測定・計算した黒色固体の酸洗損失は、36.7%であった。
(3)工程(2)で得た黒色固体を磁製ボートに入れ、さらに磁製ボートを管状炉の恒温区域に入れた。100mL/分の流速で酸素含有ガス(酸素:15%、バランスガス:窒素)を導入し、350℃になるまで2℃/分の速度で加熱し、350℃で8時間保持した。次に、加熱を停止し、酸素含有ガス雰囲気下にて室温まで冷却し、黒色固体(本出願のナノ複合材料)を得た。
【0084】
(材料のキャラクタライゼーション)
図1は、実施例I-1のナノ複合材料のX線回析パターン(XRD)を示す。同図から分かるように、ナノ複合材料に含まれているニッケルは、穏やかな酸化処理の後において、酸化物の形態で存在している。
【0085】
図2は、実施例I-1のナノ複合材料の透過型電子顕微鏡像(TEM像)を示す。同図から分かるように、材料は表面に炭素膜層を有しており、粒径が約5~20nmである。
【0086】
蛍光X線分光法(XRF)および元素分析によって測定したところ、ナノ複合材料の炭素含有量は0.64重量%であり、酸化ニッケル含有量は99.36重量%であった。
【0087】
X線光電子分光法(XPS)分析によると、ナノ複合材料の表層の元素として、炭素、酸素およびニッケルが検出された。表層における炭素元素質量含有率の総炭素元素質量含有率に対する比率は、32.7/1であった。このことから分かるように、材料に含まれている炭素は、主として粒子表面に分布している。
【0088】
図3は、ナノ複合材料のラマンスペクトルを示す。Gピーク(1580cm
-1)の強度のDピーク(1320cm
-1)の強度に対する比率は、2.2/1であった。このことから分かるように、材料に含まれている炭素は、ほとんどが黒鉛性炭素である。
【0089】
〔実施例I-2〕
本実施例は、本出願に係る炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料の製造について説明するために提供されている。
(1)10gの酢酸ニッケルおよび10gのクエン酸を秤量し、100mLの脱イオン水を入れたビーカーに加えた。70℃にて攪拌して均一な溶液を得てから、溶液が蒸発乾固するまでさらに加熱して、固体前駆体を得た。
(2)工程(1)で得た固体前駆体を磁製ボートに入れ、さらに磁製ボートを管状炉の恒温区域に入れた。100mL/分の流速で窒素を導入しながら、650℃になるまで2℃/分の速度で加熱し、650℃にて2時間保持した。次に、加熱を停止し、窒素雰囲気下にて室温まで冷却して、黒色固体を得た。上述の方法によって測定・計算した黒色固体の酸洗損失は、31.9%であった。
(3)工程(2)で得た黒色固体を磁製ボートに入れ、さらに磁製ボートを管状炉の恒温区域に入れた。100mL/分の流速で酸素含有ガス(酸素:15%、バランスガス:窒素)を導入しながら、2℃/分の速度で330℃になるまで加熱し、330℃にて8時間保持した。次に、加熱を停止し、酸素含有ガス雰囲気下にて室温まで冷却し、黒色固体(本出願のナノ複合材料)を得た。
【0090】
(材料のキャラクタライゼーション)
図4は、実施例I-2のナノ複合材料のX線回析パターンを示す。同図から分かるように、ナノ複合材料に含まれているニッケルは、穏やかな酸化処理の後において、酸化物の形態で存在している。
【0091】
図5は、実施例I-2のナノ複合材料の透過型電子顕微鏡像を示す。同図から分かるように、材料は表面に炭素膜層を有しており、粒径が約5~20nmである。
【0092】
蛍光X線分光法(XRF)および元素分析によって測定したところ、ナノ複合材料の炭素含有量は0.91重量%であり、酸化ニッケル含有量は99.09重量%であった。
【0093】
X線光電子分光法(XPS)分析によると、ナノ複合材料の表層の元素として、炭素、酸素およびニッケルが検出された。表層における炭素元素質量含有率の総炭素元素質量含有率に対する比率は、22.4/1であった。このことから分かるように、材料に含まれている炭素は、主として粒子表面に分布している。
【0094】
図6は、ナノ複合材料のラマンスペクトルを示す。Gピーク(1580cm
-1)の強度のDピーク(1320cm
-1)の強度に対する比率は、2.4/1であった。このことから分かるように、材料に含まれている炭素は、ほとんどが黒鉛性炭素である。
【0095】
〔比較例I-1〕
10gの酢酸ニッケル固体を磁製ボートに入れ、さらに磁製ボートを管状炉の恒温部に入れた。150mL/分の流速で空気を導入しながら、500℃になるまで2℃/分の速度で加熱し、500℃にて2時間保持した。次に、加熱を停止し、空気雰囲気中にて室温まで冷却し、サンプル材料を得た。
【0096】
図7は、比較例I-1で得られた材料のX線回折パターンを示す。同図から分かるように、材料のXRDパターンには酸化ニッケルの特徴ピークが見られ、ニッケルが主として酸化ニッケルの形態で存在している。
【0097】
図8aおよび
図8bは、比較例I-1で得られた材料の、様々な倍率におけるTEM像を示す。同図から分かるように、酸化ニッケルが高度に凝集している。このことから分かるように、炭素膜で被覆されていない酸化ニッケルナノ粒子は、非常に凝集しやすい。
【0098】
XRFおよび元素分析によって測定したところ、比較例I-1で得られた材料の炭素含有量は0.12重量%であり、酸化ニッケル含有量は99.88重量%であった。
【0099】
〔応用例I-1〕
本応用例は、一酸化二窒素の接触分解用触媒としての実施例I-1のナノ複合材料の使用について説明するために提供されている。
【0100】
0.5gの触媒を連続流固定床反応器に装填し、15mL/分の流速で混合ガス(N2O:38.0体積%、バランスガス:窒素)を導入した。300~500℃における活性を評価した。異なる温度において触媒により接触分解されたN2Oの転化率を、表I-1に示す。
【0101】
〔応用例I-2〕
実施例I-2のナノ複合材料を触媒として使用した以外は、応用例I-1に記載の通りにN2Oを分解した。結果を表I-1に示す。
【0102】
〔比較応用例I-1〕
比較例I-1の材料を触媒使用した以外は、応用例I-1に記載の通りにN2Oを分解した。結果を表I-1に示す。
【0103】
〔比較応用例I-2〕
市販の酸化ニッケル(NiO、分析グレードの純度、バッチ番号:20160803、製造業者:Sinopharm Chemical Reagent Company Limited)を触媒として使用した以外は、応用例I-1に記載の通りにN2Oを分解した。結果を表I-1に示す。
【0104】
【0105】
上記表I-1から分かるように、本出願の炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料は、N2O分解に関して、被覆されていない純粋な酸化ニッケルよりも優れた触媒性能を示し、比較的低温域において高効率でN2Oの分解を触媒できた。比較例I-1の材料は、N2O転化率を99%超にするためには、490℃以上を必要とした。市販の酸化ニッケルは、比較的高い分解温度を必要とした。
【0106】
本出願のナノ複合材料は、一酸化二窒素の分解に関して優れた触媒性能を示し、低温における効果的なN2Oの分解および除去に利用できることが分かる。したがって、アジピン酸プラントや硝酸プラントの製造工程で発生する高濃度のN2Oテールガスの処理など、工業生産の廃ガスに含まれているN2Oの処理にナノ複合材料を使用すれば、反応温度およびエネルギー消費を大幅に減少させることができる。それゆえ、本出願のナノ複合材料は、工業における応用について有望な見通しがある。
【0107】
〔応用例I-3〕
本応用例は、VOCの接触燃焼用触媒としての実施例I-1のナノ複合材料の使用を説明するために提供されている。
【0108】
0.2gの触媒を連続流固定床反応器に装填し、15mL/分の流速で混合ガス(n-ブタン:0.5体積%、酸素:8体積%、バランスガス:窒素)を導入した。300~500℃における活性を評価した。異なる温度において触媒によって接触燃焼されたVOCの転化率を、表I-2に示す。
【0109】
〔応用例I-4〕
実施例I-2のナノ複合材料を触媒として使用した以外は、応用例I-3に記載の通りにVOCを接触燃焼させた。結果を表I-2に示す。
【0110】
〔比較応用例I-3〕
比較例I-1の材料を触媒として使用した以外は、応用例I-3に記載の通りにVOCを接触燃焼させた。結果を表I-2に示す。
【0111】
〔比較応用例I-4〕
市販の酸化ニッケル(NiO、分析グレードの純度、バッチ番号:20160803、製造業者:Sinopharm Chemical Reagent Company Limited)を触媒として使用した以外は、応用例I-3に記載の通りにVOCを接触燃焼させた。結果を表I-2に示す。
【0112】
【0113】
上記表I-2から分かるように、n-ブタンをモデル分子として用いた接触燃焼評価実験において、本出願の炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料は、被覆されていない純粋な酸化ニッケルよりも、VOCの燃焼に関して優れた触媒性能を示した。被覆されていない酸化ニッケル触媒は、n-ブタンを完全燃焼させるために500℃以上を必要とした。本出願の材料は、350~400℃において、n-ブタンの完全燃焼を効率的に触媒して二酸化炭素および水を生成させることができる。これにより、反応温度およびエネルギー消費を大幅に減少させることができる。それゆえ、本出願のナノ複合材料は、工業における応用について有望な見通しがある。
【0114】
〔実施例II-1〕
本実施例は、本出願の窒素ドープされた炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料の製造について説明するために提供されている。
(1)10gの酢酸ニッケル、10gのクエン酸、20gのヘキサメチレンテトラミンを、100mLの脱イオン水に加えた。70℃にて攪拌して均質な溶液を得てから、溶液が蒸発乾固するまでさらに加熱して、固体前駆体を得た。
(2)前駆体を磁製ボートに入れ、さらに磁製ボートを管状炉の恒温区域に入れた。100mL/分の流速で窒素を導入しながら、550℃になるまで5℃/分の速度で加熱し、550℃にて2時間保持した。次に、加熱を停止し、窒素雰囲気下にて室温まで冷却して、黒色固体を得た。上述の方法によって測定・計算した黒色固体の酸洗損失は、17.6%であった。
(3)工程(2)で得た黒色固体を磁製ボートに入れ、さらに磁製ボートを管状炉の恒温区域に入れた。100mL/分の流速で酸素含有ガス(酸素:15体積%、バランスガス:窒素)を導入し、320℃になるまで2℃/分の速度で加熱し、320℃にて8時間保持した。次に、加熱を停止し、酸素含有ガス雰囲気下にて室温まで冷却し、黒色固体(本出願の窒素ドープされた炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料)を得た。
【0115】
図9は、窒素ドープされた炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料のX線回折パターン(XRD)を示す。
図10は、ナノ複合材料のTEM像を示す。
図9から分かるように、ナノ複合材料に含まれているニッケルは、穏やかな酸化処理の後において、酸化物の形態で存在している。
図10から分かるように、ナノ複合材料の粒径は、約5~20nmである。
【0116】
元素分析によって測定したところ、ナノ複合材料の炭素含有量は0.82重量%であり、窒素含有量は0.01重量%であり、酸化ニッケル含有量は99.17重量%であった。
【0117】
XPS分析によると、ナノ複合材料の表層の元素として、炭素、窒素、酸素およびニッケルが検出された。表層における窒素含有量は、1.04mol%であった。表層における炭素元素質量含有量の総炭素元素質量含有量に対する比率は、29.6/1であった。このことから分かるように、材料に含まれている炭素は主として粒子表面に存在し、炭素層は窒素によりドープされている。
【0118】
図11は、実施例II-1の炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料のラマンスペクトルを示す。Gピーク(1580cm
-1)の強度のDピーク(1320cm
-1)の強度に対する比率は、2.1/1であった。このことから分かるように、材料に含まれている炭素は、ほとんどが黒鉛性炭素である。
【0119】
〔実施例II-2〕
本実施例は、本出願の窒素ドープされた炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料の製造について説明するために提供されている。
(1)20gの酢酸ニッケルおよび10gのエチレンジアミン四酢酸を、150mLの脱イオン水に加えた。60℃にて攪拌し、24時間反応させてから、溶液が蒸発乾固するまで加熱した。得られた固体を粉砕して、固体前駆体を得た。
(2)前駆体を磁製ボートに入れ、さらに磁製ボートを管状炉の恒温区域に入れた。100mL/分の流速で窒素を導入しながら、600℃になるまで4℃/分の速度で加熱し、600℃にて2時間保持した。次に、加熱を停止し、窒素雰囲気下にて室温まで冷却して、黒色固体を得た。上述の方法によって測定・計算した黒色固体の酸洗損失は、21.7%であった。
(3)工程(2)で得た黒色固体を磁製ボートに入れ、さらに磁製ボートを管状炉の恒温区域に入れた。100mL/分の流速で酸素含有ガス(酸素:15体積%、バランスガス:窒素)を導入しながら、320℃になるまで2℃/分の速度で加熱し、320℃にて8時間保持した。次に、加熱を停止し、酸素含有ガス雰囲気下にて室温まで冷却し、黒色固体(本出願の窒素ドープされた炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料)を得た。
【0120】
図12に、窒素ドープされた炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料のX線回折パターン(XRD)を示す。
図13に、複合材料のTEM像を示す。
図12から分かるように、ナノ複合材料に含まれているニッケルは、穏やかな酸化処理の後において、酸化物の形態で存在している。
図13から分かるように、ナノ複合材料の粒径は、約5~20nmである。
【0121】
元素分析によって測定したところ、ナノ複合材料の炭素含有量は0.62重量%であり、窒素含有量は0.01重量%であり、酸化ニッケル含有量は99.37重量%であった。
【0122】
XPS分析によると、ナノ複合材料の表層の元素として、炭素、窒素、酸素およびニッケルが検出された。表層における窒素含有量は、0.91mol%であった。表層における炭素要素質量含有量の総炭素要素質量含有量に対する比率は、26.9/1であった。このことから分かるように、ナノ複合材料に含まれている炭素は主として粒子表面に分布しており、炭素層は窒素によりドープされている。
【0123】
図14は、実施例II-2の炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料のラマンスペクトルを示す。Gピーク(1580cm
-1)の強度のDピーク(1320cm
-1)の強度に対する比率は、2.4/1であった。このことから分かるように、材料に含まれている炭素は、ほとんどが黒鉛性炭素である。
【0124】
〔応用例II-1〕
本応用例は、一酸化二窒素の分解を触媒するための実施例II-1のナノ複合材料の使用について説明するために提供されている。
【0125】
0.5gの触媒を連続流固定床反応器に装填し、15mL/分の流速で混合ガス(N2O:38.0体積%、バランスガス:窒素)を導入した。表II-1に示す温度領域における活性を評価した。それぞれの温度において触媒により接触分解されたN2Oの転化率を、表II-1に示す。
【0126】
〔応用例II-2〕
実施例II-2のナノ複合材料を触媒として使用した以外は、応用例II-1に記載の通りにN2Oを分解した。結果を表II-1に示す。
【0127】
【0128】
上記表II-1から分かるように、本出願の窒素ドープされた炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料は、N2O分解に関して、被覆されていない純粋な酸化ニッケルよりも優れた触媒性能を示し、比較的低温において効果的にN2Oの分解を触媒できた。
【0129】
〔応用例II-3〕
本応用例は、VOCの接触燃焼用触媒としての実施例II-1のナノ複合材料の使用について説明するために提供されている。
【0130】
0.2gの触媒を連続流固定床反応器に装填し、15mL/分の流速で混合ガス(n-ブタン:0.5体積%、酸素:8.0体積%、バランスガス:窒素)を導入した。表II-2に示す温度範囲における活性を評価した。それぞれの温度において触媒により接触燃焼されたVOCの転化率を、表II-2に示す。
【0131】
〔応用例II-4〕
本出願の実施例は、VOCの接触燃焼用触媒としての実施例II-2のナノ複合材料の使用について説明するために提供されている。
【0132】
0.5gの触媒を連続流固定床反応器に装填し、15mL/分の流速で混合ガス(n-ブタン:0.2体積%、酸素:8.0体積%、バランスガス:窒素)を導入した。表II-2に示す温度範囲における活性を評価した。それぞれの温度において触媒により接触燃焼されたVOCの転化率を、表II-2に示す。
【0133】
【0134】
上記表II-2から分かるように、n-ブタンをモデル分子として用いた接触燃焼評価実験において、本出願の窒素ドープされた炭素被覆酸化ニッケルナノ複合材料は、被覆されていない純粋な酸化ニッケルよりも、VOCの燃焼に関して優れた触媒性能を示した。
【0135】
上記の説明においては、本出願の発明の概念を、具体的な実施形態を参照して説明した。しかし、理解されたいことには、添付の特許請求の範囲に記載の本出願の範囲から逸脱することなく、様々な修正および変更を施せる。したがって、説明および図面を限定的に解釈してはならず、例示的に解釈せねばならない。上述の修正および変更は全て、本出願の範囲に含まれることが意図される。
【国際調査報告】