(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-21
(54)【発明の名称】二環式化合物及びピット・ホプキンス症候群の処置におけるそれらの使用方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4985 20060101AFI20221214BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20221214BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20221214BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20221214BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20221214BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221214BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20221214BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20221214BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20221214BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20221214BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20221214BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
A61K31/4985
A61P25/00
A61P25/18
A61P25/20
A61P25/08
A61P43/00 121
A61K45/00
A61P25/22
A61P25/24
A61P25/28
A61P9/00
A61K39/39
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022523653
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(85)【翻訳文提出日】2022-05-27
(86)【国際出願番号】 US2020029739
(87)【国際公開番号】W WO2021080646
(87)【国際公開日】2021-04-29
(32)【優先日】2019-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 公開日 2019年5月17日 ウェブサイトのアドレス https://www.asx.com.au/asxpdf/20190517/pdf/4455ccb4gdmxtg.pdf
(71)【出願人】
【識別番号】516024567
【氏名又は名称】ニューレン ファーマシューティカルズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】コグラム, パトリシア
(72)【発明者】
【氏名】ピルチャー, ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】グラス, ローレンス アーウィン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZA011
4C084ZA012
4C084ZC022
4C084ZC032
4C084ZC412
4C084ZC751
4C085AA38
4C085EE06
4C085GG08
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB05
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA37
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZA05
4C086ZA12
4C086ZA15
4C086ZA18
4C086ZA36
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明の実施形態は、ピット・ホプキンス症候群及びその症状を処置するための、環状G-2-アリルプロリン及び他の環状グリシルプロリン化合物を含む、治療用ジケトピペラジンに関する、化合物、組成物、方法及び使用、ならびにかかる病態の治療に有用な、組成物、錠剤、カプセル剤、液体製剤、ゲル剤、注射用溶液及び他の製剤を含む医薬の製造法を提供するものである。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピット・ホプキンス症候群を有する哺乳動物を処置する方法であって、式:
【化1】
の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物(ここで、
X
1は、NR´、O及びSからなる群から選択され;
X
2は、CH
2、NR´、O及びSからなる群から選択され;
R
1、R
2、R
3、R
4及びR
5は、-H、-OR´、-SR´、-NR´R´、-NO
2、-CN、-C(O)R´、-C(O)OR´、-C(O)NR´R´、-C(NR´)NR´R´、トリハロメチル、ハロゲン、アルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、置換ヘテロアルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アリールアルキル、置換アリールアルキル、ヘテロアリールアルキル及び置換ヘテロアリールアルキルからなる群から独立して選択され;各R´は、-H、アルキル、ヘテロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリール及びヘテロアリールアルキルからなる群から独立して選択され;
または、一緒になったR
4及びR
5は、-CH
2-(CH
2)
n-CH
2-であり、ここで、nは0~6の整数であり;
または、一緒になったR
2及びR
3は、-CH
2-(CH
2)
n-CH
2-であり、ここで、nは0~6の整数であり;
但し、R
1=メチル及びR
2=R
3=R
4=Hである場合、R
5≠ベンジルであり;ならびに
R
1=Hである場合、R
2及びR
3の少なくとも1つが≠Hであることを条件とする)を、前記哺乳動物に投与することを含む、前記方法。
【請求項2】
R
1=メチルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
R
1=アリルである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
R
2=R
3=メチルであり、X
2=Sである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
R
1=アリル、R
2=R
3=R
4=R
5=H、X
1=NH、X
2=CH
2である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
R
1=メチル、R
2=R
3=H、一緒になったR
4及びR
5は、-CH
2-(CH
2)
3-CH
2-、X
1=NH、X
2=CH
2である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
R
1=メチル、R
2=R
3=H、一緒になったR
4及びR
5は、-CH
2-(CH
2)
2-CH
2-、X
1=NH、X
2=CH
2である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記方法は、薬学的に許容される賦形剤と共にあるか、またはゲル中にある前記化合物を投与することをさらに含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記方法は、薬学的に許容される賦形剤及び結合剤と共にある前記化合物を投与することをさらに含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記方法は、薬学的に許容される賦形剤と共にあるか、またはカプセル剤中にある前記化合物を投与することをさらに含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つの抗アポトーシス化合物、抗壊死化合物、神経保護剤または抗炎症剤を投与することをさらに含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記抗アポトーシス化合物、抗壊死化合物、または神経保護剤は、インスリン様増殖因子-I(IGF-I)、インスリン様増殖因子-II(IGF-II)、形質転換増殖因子-β1、アクチビン、成長ホルモン、神経成長因子、成長ホルモン結合タンパク質、IGFBP-3、塩基性線維芽細胞増殖因子、酸性線維芽細胞増殖因子、hst/Kfgk遺伝子産物、FGF-3、FGF-4、FGF-6、ケラチノサイト増殖因子、アンドロゲン誘導性増殖因子、int-2、線維芽細胞増殖因子相同因子-1(FHF-1)、FHF-2、FHF-3、FHF-4、ケラチノサイト増殖因子2、グリア細胞活性化因子、FGF-10、FGF-16、毛様体神経栄養因子、脳由来増殖因子、ニューロトロフィン3、ニューロトロフィン4、骨形成タンパク質2(BMP-2)、グリア細胞株由来神経栄養因子、活性依存性神経栄養因子、サイトカイン白血病抑制因子、オンコスタチンM、インターロイキン、α-インターフェロン、β-インターフェロン、γ-インターフェロン、コンセンサスインターフェロン、TNF-α、クロメチアゾール、キヌレン酸、セマックス(Semax)、タクロリムス、L-スレオ-1-フェニル-2-デカノイルアミノ-3-モルホリノ-1-プロパノール、副腎皮質刺激ホルモン-(4-9)類似体(ORG 2766)、ジゾルシピン[MK-801]、セレギリン、NPS1506、GV1505260、MK-801、GV150526、2,3-ジヒドロキシ-6-ニトロ-7-スルファモイルベンゾ(f)キノキサリン(NBQX)、LY303070、LY300164、ならびに抗MAdCAM-1抗体MECA-367からなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記化合物はcG-2-アリルPである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記化合物は環状シクロヘキシル-G-2MePである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記化合物は環状シクロペンチル-G-2MePである、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記処置は、Aberrant Behavior Checklist Community Edition(ABC)、Vineland Adaptive Behavior Scales、Clinical Global Impression of Severity(CGI-S)、Clinical Global Impression Improvement(CGI-I)、Caregiver Strain Questionnaire(CSQ)、障害に罹患していない対照動物と比較した、脳波(EEG)のスパイク周波数、EEGの周波数帯域における全体的な出力、半球EEG周波数コヒーレンス、常同的な手の動き、アイトラッキング、QTc変動、心拍変動(HRV)、不規則な呼吸、ならびに心機能と呼吸機能の異常な連関からなる群から選択される1つ以上の臨床検査を使用して評価しながら、前記障害の症状を改善する、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記処置は、不安、うつ、認知機能障害、認知機能不全、記憶喪失、空間定位の喪失、学習能力の減少、短期もしくは長期記憶を形成する能力の減少、エピソード記憶の減少、記憶を固定する能力の減少、空間記憶の減少、シナプス形成の減少、シナプス安定性の減少、実行機能の欠損、認知地図及び場面記憶の欠損、陳述及び関連記憶の欠損、迅速な構成的もしくは接続的関係の取得の低下、文脈特有の具体的事象のコード化及び想起の減少、エピソード及び/もしくはエピソード様記憶の減少、異常な恐怖条件付け、異常な社会的行動、反復的行動、異常な夜間行動、発作活性、異常な自発運動、リン酸化ERK1/2の異常発現、リン酸化Aktの異常発現、ならびに徐脈からなる群から選択される少なくとも1つの症状を低減させる、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
ピット・ホプキンス症候群の症状を、このような障害に罹患している哺乳動物において処置するための組成物であって、式:
【化2】
の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物(ここで、
X
1は、NR´、O及びSからなる群から選択され;
X
2は、CH
2、NR´、O及びSからなる群から選択され;
R
1、R
2、R
3、R
4及びR
5は、-H、-OR´、-SR´、-NR´R´、-NO
2、-CN、-C(O)R´、-C(O)OR´、-C(O)NR´R´、-C(NR´)NR´R´、トリハロメチル、ハロゲン、アルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、置換ヘテロアルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アリールアルキル、置換アリールアルキル、ヘテロアリールアルキル及び置換ヘテロアリールアルキルからなる群から独立して選択され;各R´は、-H、アルキル、ヘテロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリール及びヘテロアリールアルキルからなる群から独立して選択され;
または、一緒になったR
4及びR
5は、-CH
2-(CH
2)
n-CH
2-であり、ここで、nは0~6の整数であり;
または、一緒になったR
2及びR
3は、-CH
2-(CH
2)
n-CH
2-であり、ここで、nは0~6の整数であり;
但し、R
1=メチル及びR
2=R
3=R
4=Hである場合、R
5≠ベンジルであり;ならびに
R
1=Hである場合、R
2及びR
3の少なくとも1つが≠Hであることを条件とする)を含む、前記組成物。
【請求項19】
R
1=メチルである、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
R
1=アリルである、請求項18に記載の組成物。
【請求項21】
R
2=R
3=メチルであり、X
2=Sである、請求項18に記載の組成物。
【請求項22】
R
1=アリル、R
2=R
3=R
4=R
5=H、X
1=NH、X
2=CH
2である、請求項18に記載の組成物。
【請求項23】
R
1=メチル、R
2=R
3=H、一緒になったR
4及びR
5は、-CH
2-(CH
2)
3-CH
2-、X
1=NH、X
2=CH
2である、請求項18に記載の組成物。
【請求項24】
R
1=メチル、R
2=R
3=H、一緒になったR
4及びR
5は、-CH
2-(CH
2)
2-CH
2-、X
1=NH、X
2=CH
2である、請求項18に記載の組成物。
【請求項25】
薬学的に許容される賦形剤中、またはゲル中にある前記化合物をさらに含む、請求項18~24のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項26】
薬学的に許容される賦形剤及び結合剤を伴う前記化合物をさらに含む、請求項18~25のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項27】
使用は、薬学的に許容される賦形剤を伴うか、またはカプセル剤中にある前記化合物をさらに含む、請求項18~26のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項28】
少なくとも1つの抗アポトーシス化合物、抗壊死化合物、神経保護剤または抗炎症剤をさらに含む、請求項18~27のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項29】
前記抗アポトーシス化合物、抗壊死化合物、または神経保護剤は、インスリン様増殖因子-I(IGF-I)、インスリン様増殖因子-II(IGF-II)、形質転換増殖因子-β1、アクチビン、成長ホルモン、神経成長因子、成長ホルモン結合タンパク質、IGFBP-3、塩基性線維芽細胞増殖因子、酸性線維芽細胞増殖因子、hst/Kfgk遺伝子産物、FGF-3、FGF-4、FGF-6、ケラチノサイト増殖因子、アンドロゲン誘導性増殖因子、int-2、線維芽細胞増殖因子相同因子-1(FHF-1)、FHF-2、FHF-3、FHF-4、ケラチノサイト増殖因子2、グリア細胞活性化因子、FGF-10、FGF-16、毛様体神経栄養因子、脳由来増殖因子、ニューロトロフィン3、ニューロトロフィン4、骨形成タンパク質2(BMP-2)、グリア細胞株由来神経栄養因子、活性依存性神経栄養因子、サイトカイン白血病抑制因子、オンコスタチンM、インターロイキン、α-インターフェロン、β-インターフェロン、γ-インターフェロン、コンセンサスインターフェロン、TNF-α、クロメチアゾール、キヌレン酸、セマックス、タクロリムス、L-スレオ-1-フェニル-2-デカノイルアミノ-3-モルホリノ-1-プロパノール、副腎皮質刺激ホルモン-(4-9)類似体(ORG 2766)、ジゾルシピン[MK-801]、セレギリン、NPS1506、GV1505260、MK-801、GV150526、2,3-ジヒドロキシ-6-ニトロ-7-スルファモイルベンゾ(f)キノキサリン(NBQX)、LY303070、LY300164、ならびに抗MAdCAM-1抗体MECA-367からなる群から選択される、請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
前記化合物は環状G-2-アリルPである、請求項18~29のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項31】
前記化合物は環状シクロヘキシル-G-2MePである、請求項18~29のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項32】
前記化合物は環状シクロペンチル-G-2MePである、請求項18~29のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項33】
錠剤中に、1つ以上の賦形剤、担体、添加剤、アジュバントまたは結合剤をさらに含む、請求項18~32のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項34】
カプセル剤中に、マイクロエマルション、粗大なエマルション、または液晶をさらに含む、請求項18~33のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項35】
前記化合物の用量が約0.001mg/kg~約600mg/kgである、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記化合物の量が、約0.001mg/kg~約600mg/kgの範囲内にある化合物の投与量をもたらすのに十分である、請求項18~34のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項37】
前記動物または前記哺乳動物はヒトである、請求項1~36のいずれか1項以上に記載のもの。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本PCT国際特許出願は、2019年10月22日に出願された米国仮特許出願第62/924,452号に対する優先権を主張し、ジケトピペラジンに構造的に関連する二環式化合物、及びピット・ホプキンス症候群の処置におけるそれらの治療上の使用方法に関するものである。例えば、本開示は、ピット・ホプキンス症候群(PTHS)の処置における、環状グリシル-2-アリルプロリン(「環状G-2-アリルP」または「cG-2-アリルP」)、環状シクロヘキシル-G-2-MeP、環状シクロペンチル-G-2-MeP、ならびに/またはそれに関連する化合物及び医薬組成物を含む、環状グリシルプロリン(「cGP」)及びその類似体の使用に関する。本仮特許出願は、参照により完全に本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
ピット・ホプキンス症候群(PTHS)は、ヒト染色体18q21.1上の転写因子4(TCF4)遺伝子のヘテロ接合性低次形態またはヌル変異もしくは欠失によって生じるまれな遺伝性疾患である(Sweatt、2013)。TCF4ハプロ不全は、PTHSの根底をなす機序として提唱されてきた。TCF4は、塩基性ヘリックスループヘリックス(bHLH)転写因子をコードし、そのbHLH転写因子は、脳における神経発生及び神経細胞移動に重要な役割を果たす、いくつかの他のbHLH転写因子とヘテロ二量体化することが知られている。今のところ、PTHSに特化した治療薬または治療法はない。
【0003】
臨床像
ピット・ホプキンス症候群(PTHS)は、中等度~重度の知的障害を伴う著しい発達の遅れと、行動上の違い、特徴的な顔貌、ならびに覚醒時の突発性の過呼吸及び/または呼吸停止とを特徴とする。発語が著しく遅れ、ほとんどの個人で言語を認めず、受容性言語が表出性言語よりも優れていることが多い。その他の共通する所見としては、自閉症スペクトラム障害の症状、睡眠障害、常同的な手の動き、けいれん、便秘、及び重度の近視がある(Sweetser et al,2012)。
【0004】
正式な有病率調査が実施されていないため、PTHSの真の有病率は確立されていない。Rosenfeld et al,(2009)は、PTHSに関連する染色体18q21欠失の頻度は、1:34,000から1:41,000の間であると推定した。Sweetser et al,(2012)は、欠失がPTHSを有する個人の約3分の1で認められる場合、本症の頻度は1;11,000の高さにもなるおそれがあると述べている。上記の有病率の推定範囲によると、米国の人口が現在少なくとも327,167,434人(米国国勢調査2018)であれば、8000人から30,000人の米国市民がPTHSに罹患している可能性があることになる。
【0005】
ピット・ホプキンス症候群は、男性と女性の両方で発症し、どの民族的または人種的背景を持つ個人でも発症し得る。ピット・ホプキンス財団による患者レジストリには、約1000人の罹患者が登録されている。
【0006】
ピット・ホプキンス症候群は重度に制限される障害であり、その罹患者は、まれにしかセルフケアをする、危害から自身を守る、正常な成人同士の関係を築く、または有給の職に就くための機能的能力を獲得することがない。このような重度の能力障害により、医療及び支援に多大なコストがかかる。また、本症は、介護者に急性的及び慢性的なストレスを与える挑発的な行動にも関連している。PTHSを適応症とする承認された製剤は見当たらない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、ピット・ホプキンス症候群をいかに効果的に処置するかという、本技術分野の新規課題を見出してきた。そのために、本発明者らはピット・ホプキンス症候群(PTHS)の動物モデルにおいて、ある種のジケトピペラジン類似体の効果を研究した。tcf4(TCF4)遺伝子の変異を有するマウス及び変異を有しないマウスを対照試験で検討した。tcf4変異マウスはPTHSの特徴を示すため、ジケトピペラジン、cG-2-アリルP、環状シクロヘキシル-G-2-MeP、環状シクロペンチル-G-2-MeP及び関連する環状ピペリジンの効果についての研究は、PTHSを有するヒトにおける効果を予測するものである。
【0008】
したがって、本発明者らは、PTHS患者をcG-2-アリルP、環状シクロヘキシル-G-2-MeP、環状シクロペンチル-G-2-MePまたは関連する環状ピペリジンで処置して、以下の機序を通じ(必ずしも必然的に通じるとは限らない)、興奮性シナプスにおける、異常な樹状突起形態の回復及びタンパク質合成の刺激により、cGPの天然の作用を模倣しながらTCF4欠損を回避した。
1.神経炎症及び病的なグリア細胞活性化の抑制;
2.PI3K-AKT-mTOR経路でのmTOR上流におけるAKTの発現及び活性化の正常化;
3.MAPK-ERKシグナル経路におけるERKの発現及び活性化の正常化;及び/または
4.IGF-1の正常なレベル及び/またはバイオアベイラビリティへの回復。
【0009】
後述するように、cG-2-アリルPを6週間経口投与すると、野生型の対照マウスに影響することなく、PTHSのTcf4+/-ノックアウトマウスモデルの表現型を回復し得る。
【0010】
環状GPはcG-2-アリルPであり、関連する化合物は式1で示される。
【化1】
【0011】
いくつかの態様において、式1の化合物は、以下の置換基を含む:
X1は、NR´、O及びSからなる群から選択され;
X2は、CH2、NR´、O及びSからなる群から選択され;
R1、R2、R3、R4、及びR5は、-H、-OR´、-SR´、-NR´R´、-NO2、-CN、-C(O)R´、-C(O)OR´、-C(O)NR´R´、-C(NR´)NR´R´、トリハロメチル、ハロゲン、アルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、置換ヘテロアルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アリールアルキル、置換アリールアルキル、ヘテロアリールアルキル及び置換ヘテロアリールアルキルからなる群から独立して選択され;各R´は、-H、アルキル、ヘテロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリール及びヘテロアリールアルキルからなる群から独立して選択され;または、一緒になったR4及びR5は、-CH2-(CH2)n-CH2-であり、ここで、nは0~6の整数であり;または、一緒になったR2及びR3は、-CH2-(CH2)n-CH2-であり、ここで、nは0~6の整数であり;但し、R1=メチル及びR2=R3=R4=Hである場合、R5≠ベンジルであり;ならびにR1=Hである場合、R2及びR3の少なくとも1つが≠Hであることを条件とする。
【0012】
さらなる態様において、本発明は、式1の化合物またはその薬学的に許容される塩、立体異性体もしくは水和物を提供し、ここで、R1=アリル、R2=R3=R4=R5=H、X1=NH、X2=CH2(環状グリシル-2-アリルプロリン)である。
【0013】
さらに他の態様では、本発明は、薬学的に許容される賦形剤及び治療有効量の環状G-2-アリルPを含む医薬組成物を提供する。
【0014】
さらなる態様において、本発明は、認知障害を有する動物を処置する方法を提供し、この方法は、有効量の環状G-2-アリルPを含む組成物を、その動物へ投与することを含む。また、さらなる態様では、処置される動物はヒトである。
【0015】
本開示を、その特定の実施形態を参照して説明する。本発明の他の態様は、図面を参照して理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】cG-2-アリルPの化学構造を示している。
【
図2】tcf4
+/-変異を有するマウスにおける、cG-2-アリルPまたはビヒクルの活動性低下(移動距離)に対する効果を、野生型マウスと比較してオープンフィールド研究した結果を示すグラフである。
【
図3】tcf4
+/-変異を有するマウスにおける、cG-2-アリルPまたはビヒクルの反復的行動(セルフグルーミングに費やした時間)に対する効果を、野生型マウスと比較して研究した結果を示すグラフである。
【
図4】tcf4
+/-変異を有するマウスにおける、cG-2-アリルPまたはビヒクルの恐怖条件付け(その場ですくむ時間)に対する効果を、野生型マウスと比較して研究した結果を示すグラフである。
【
図5】tcf4
+/-変異を有するマウスにおける、cG-2-アリルPまたはビヒクルの社交性(新奇マウスと共に費やした時間)に対する効果を、野生型マウスと比較して研究した結果を示すグラフである。
【
図6】tcf4
+/-変異を有するマウスにおける、cG-2-アリルPまたはビヒクルの日常生活(巣作り)に対する効果を、野生型マウスと比較して研究した結果を示すグラフである。
【
図7】tcf4
+/-変異を有するマウスにおける、cG-2-アリルPまたはビヒクルの運動能力(後肢の力)に対する効果を、野生型マウスと比較して研究した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
定義
「アルケニル」は、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する、不飽和分枝鎖、直鎖または環状炭化水素ラジカルを指す。ラジカルは、二重結合(複数可)の周囲でcisまたはtrans配座のいずれであってもよい。例示的なアルケニル基としては、アリル、エテニル、プロペニル、イソプロペニル、ブテニル、イソブテニル、シクロペンテニルなどが挙げられる。いくつかの実施形態では、アルケニル基は(C2-C6)アルケニルであり、他の実施形態では、アリルは特に有用となり得る。
【0018】
「アルキル」は、飽和分枝鎖、直鎖または環状炭化水素ラジカルを指す。例示的なアルキル基としては、メチル、エチル、イソプロピル、シクロプロピル、tert-ブチル、シクロプロピルメチル、ヘキシルなどが挙げられる。いくつかの実施形態では、アルキル基は(C1-C6)アルキルである。
【0019】
「アルキニル」は、少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を有する不飽和分枝鎖、直鎖または環状炭化水素ラジカルを指す。例示的なアルキニル基としては、エチニル、プロピニル、ブチニル、イソブチニルなどが挙げられる。いくつかの実施形態では、アルキニル基は(C2-C6)アルキニルである。
【0020】
「アリール」は、共役π電子系を有する不飽和環状炭化水素ラジカルを指す。例示的なアリール基としては、フェニル、ナフチルなどが挙げられる。いくつかの実施形態では、アリール基は(C5-C20)アリールである。
【0021】
「アリールアルキル」は、末端炭素と結合している水素原子の1個がアリール基で置き換えられている、直鎖アルキル、アルケニルまたはアルキニル基を指す。例示的なアリールアルキル基としては、ベンジル、ナフチルメチル、ベンジリデンなどが挙げられる。
【0022】
「認知機能障害」及び「認知機能不全」は、記憶喪失、空間定位の喪失、学習能力の減少、短期もしくは長期記憶を形成する能力の減少、エピソード記憶の減少、記憶を固定する能力の減少、空間記憶の減少、受容性言語及び/もしくはコミュニケーションの減少、表出性言語及び/もしくはコミュニケーションの減少、シナプス形成の減少、シナプス安定性の減少、実行機能の欠損、認知地図及び場面記憶の欠損、陳述及び関連記憶の欠損、迅速な構成的もしくは接続的関係の取得の低下、文脈特有の具体的事象のコード化及び想起の減少、エピソード及び/もしくはエピソード様記憶の減少、不安、異常な恐怖条件付け、異常な社会的行動、反復的行動、抑制的行動、異常な睡眠行動、攻撃的行動、自傷行動、常同的な手の動き、癇癪発作、発作活性、異常な自発運動、ERK1/2もしくは/及びAktの異常な発現もしくは活性化、ならびに徐脈のうちの1つ以上の兆候または症状を意味する。
【0023】
「含む(Comprising)」、及び「含む(Comprises)」は、列挙された要素を含むがそれらに限定されないことを意味する。
【0024】
「からなる」は、列挙された要素を含み、他の要素を含まないことを意味する。
【0025】
「から本質的になる」は、列挙された要素及びそれらと等価であるものを含むことを意味する。
【0026】
「増殖因子」は、細胞上の受容体と相互作用することによって細胞を刺激して成長または増殖させる、細胞外で活性なポリペプチドを指す。
【0027】
「ヘテロアルキル」は、1個以上の炭素原子が、N、P、O、S等の別の原子で置き換えられているアルキル部分を指す。例示的なヘテロアルキル基としては、ピロリジン、モルホリン、ピペリジン、ピペラジン、イミダゾリジン、ピラゾリジン、テトラヒドロフラン、(C1-C10)置換アミン、(C2-C6)チオエーテルなどが挙げられる。
【0028】
「ヘテロアリール」は、1個以上の炭素原子が、N、P、O、S等の別の原子で置き換えられているアリール部分を指す。例示的なヘテロアリール基としては、カルバゾール、フラン、イミダゾール、インダゾール、インドール、イソキノリン、プリン、ピラジン、ピラゾール、ピリダジン、ピリジン、ピロール、チアゾール、チオフェン、トリアゾールなどが挙げられる。
【0029】
「薬学的に許容される賦形剤」は、概して安全、非毒性かつ望ましい医薬組成物を調製するのに有用な賦形剤を指し、獣医学的使用ならびにヒトへの薬学的使用に許容される賦形剤を含む。このような賦形剤は、固体、液体、半固体、あるいはエアロゾル組成物の場合には、ガス状であってもよい。
【0030】
「薬学的に許容される塩」は、薬学的に許容され、所望の薬理学的特性を有する塩を指す。このような塩には、化合物中に存在する酸性プロトンが無機または有機塩基と反応することができる場合に形成され得る塩が含まれる。適切な無機塩には、アルカリ金属、例えばナトリウム及びカリウム、マグネシウム、カルシウムならびにアルミニウムと形成されるものが含まれる。適切な有機塩には、アミン塩基、例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、N-メチルグルカミンなどのような有機塩基と形成されるものが含まれる。このような塩には、無機酸(例えば、塩酸及び臭化水素酸)ならびに有機酸(例えば、酢酸、クエン酸、マレイン酸、ならびに、メタンスルホン酸及びベンゼンスルホン酸等のアルカン-及びアレーン-スルホン酸)と形成される酸付加塩も含まれる。2つの酸性基が存在する場合、薬学的に許容される塩は、モノ-酸モノ-塩またはジ-酸塩であってもよく;同様に、2つを超える酸性基が存在する場合、このような基のいくつかまたはすべては、塩として存在し得る。
【0031】
「保護基」は、有機合成においてそれに慣例的に関連する意味を有する、すなわち、化学反応を別の保護されていない反応部位上で選択的に行うことができるように、かつ選択的反応が完了した後に基を容易に除去できるように、多官能化合物中の1つ以上の反応部位を選択的にブロックする基である。
【0032】
「立体異性体」は、環状G-2-アリルプロリンの構造を有するが、キラル中心を有する分子である。用語「環状G-2-アリルプロリン」は、すべての立体異性体を含む。
【0033】
「置換されている」は、アルキル、ヘテロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリールまたはアリールアルキルラジカル上の水素原子の1個以上が、別の置換基で独立して置き換えられている場合を指す。置換基としては、-R´、-OR´、-SR´、-NR´R´、-NO2、-CN、-C(O)R´、-C(O)OR´、-C(O)NR´R´、-C(NR´)NR´R´、-NR´-C(NR´)-OR´、-NR´-C(NR´)-SR´、NR´-C(NR´)-NR´R´、トリハロメチル及びハロゲンが挙げられ、ここで、各R´は独立して、-H、アルキル、ヘテロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリールまたはヘテロアリールアルキルである。
【0034】
「症状(複数可)」は、記憶喪失、空間定位の喪失、学習能力の減少、短期もしくは長期記憶を形成する能力の減少、エピソード記憶の減少、記憶を固定する能力の減少、空間記憶の減少、受容性言語及び/もしくはコミュニケーションの減少、表出性言語及び/もしくはコミュニケーションの減少、シナプス形成の減少、シナプス安定性の減少、実行機能の欠損、認知地図及び場面記憶の欠損、陳述及び関連記憶の欠損、迅速な構成的もしくは接続的関係の取得の低下、文脈特有の具体的事象のコード化及び想起の減少、エピソード及び/もしくはエピソード様記憶の減少、不安、異常な恐怖条件付け、異常な社会的行動、反復的行動、抑制的行動、異常な睡眠行動、攻撃的行動、自傷行動、常同的な手の動き、癇癪発作、発作活性、異常な自発運動、ERK1/2または/及びAktの異常な発現もしくは活性化、ならびに徐脈のうちの1つ以上の兆候または症状である、1つ以上の認知機能障害または認知機能不全を意味する。
【0035】
「治療有効量」は、疾患を処置するために動物に投与された際に、疾患の処置を達成するのに十分な量を意味する。「治療有効量」は、有害な症状もしくは所見を減少させ、望ましい症状もしくは所見を促進し、かつ/または根本となる障害を処置する量、ならびに/あるいは治癒的である量を意味する。
【0036】
疾患を「処置すること」または疾患の「処置」には、疾患に罹る傾向があり得るが、まだ疾患の症状を経験していないか、または呈していない動物において、疾患の症状を阻害することを意味する予防、疾患を抑制すること(その発症を遅くするまたは抑止させること)、疾患の症状または副作用の軽減をもたらすこと(緩和処置を含む)、及び疾患を緩和すること(疾患の緩解をもたらすこと)が含まれる。処置には、ピット・ホプキンス症候群の遺伝子異常を正すことは含まれない。
【0037】
潜在的な水素原子(例えば、ピロール環上の水素等)は、明確性のために式から省略しているが、存在すると理解されるべきである。
【0038】
「ATF3」は、活性化転写因子3を意味する。
【0039】
「IL1-ベータ」は、インターロイキン1-ベータを意味する。
【0040】
「IL-6」は、インターロイキン-6を意味する。
【0041】
「BDNF」は、脳由来神経栄養因子を意味する。
【0042】
「Cdh2」は、カドヘリン-2を意味する。
【0043】
「Cebpb」は、CCAAT/エンハンサー結合タンパク質ベータを意味する。
【0044】
「Crem」は、環状AMP応答エレメント結合を意味する。
【0045】
「Egr1」は、初期増殖応答タンパク質1を意味する。
【0046】
「Gria 4」は、イオンチャネル型グルタミン酸受容体AMPA4を意味する。
【0047】
「Grm5」は、代謝型グルタミン酸受容体5を意味する。
【0048】
「Mapk 1」は、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ1を意味する。
【0049】
「Nr4a1」は、神経成長因子IBとしても公知の核内受容体サブファミリー4群Aメンバー1を意味する。
【0050】
「Ntf3」は、ニューロトロフィン3を意味する。
【0051】
「Ntf4」は、ニューロトロフィン4を意味する。
【0052】
「Pcdh8」は、プロトカドヘリン-8を意味する。
【0053】
「Plm1」は、mRNA前駆体漏出プロテイン1を意味する。
【0054】
「Ppp3ca」は、プロテインホスファターゼ3、触媒サブユニット、アルファを意味する。
【0055】
「Tnf」は、腫瘍壊死因子を意味する。
【0056】
PTHSは、ピット・ホプキンス症候群を意味する。
【0057】
「cG-2-アリルP」、「環状グリシル-2-アリルP」、「NNZ2591」、及び「NNZ-2591」は、それぞれ(8aS)-アリル-ヘキサヒドロピロロ[1,2-a]ピラジン-1,4-ジオンを意味する。
【0058】
「環状シクロヘキシル-G-2-MeP」は、(8aS)-メチル-スピロ[シクロヘキサン-1,3(4H)-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピラジン]-1,4(2H)-ジオンを意味する。
【0059】
「環状シクロペンチル-G-2-MeP」は、(8aS)-メチル-スピロ[シクロペンタン-1,3(4H)-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピラジン]-1,4(2H)-ジオンを意味する。
【0060】
「tcf4」及び「TCF4」は、PTHSに関係づけられる遺伝子を指す。
【0061】
「tcf4+/-」は、PTHSに関連するTCF4遺伝子のヘテロ接合性変異を意味する。
【0062】
「Tcf4+/+」は、野生型TCF4を意味する。
【0063】
ピット・ホプキンス症候群の遺伝子異常性
シナプスの構造及び機能の障害は、PTHSの基本的な特徴である。TCF4は、脳内の神経発生及び神経細胞移動を調節する転写因子である。ヒトにおいて、TCF4遺伝子の機能喪失により、知的障害、発達遅延、及び自閉症的行動によって特徴づけられる、まれな神経発達障害のPTHSに繋がる。TCF4は、胎児及び出生後初期の発生の間に高度に発現し(de Pontual et al,2009)、特に海馬で発現量が多い(Brzozka et al,2010;Sepp et al,2011;Navarrete et al,2013)。また、成人の脳、リンパ球、線維芽細胞、腸、筋肉、及び腸筋神経叢においても発現している(Pscherer et al,1996;Amiel et al,2007;Brockschmidt et al,2007;de Pontual et al,2009)。近年の認知及び画像研究では、TCF4が正常な脳機能に重要であることも示されてきている(Blake et al,2010;Navarrete et al,2013)。
【0064】
TCF4遺伝子の欠失及び変異により、神経系の発生及び機能に関連する遺伝子の下流活性を制御する、対応するタンパク質の能力が阻害される(Sweatt、2013)。特に、TCF4は、ASCL1、ATOH1、及びNEUROD1等の前神経遺伝子産物を含む転写因子の潜在的に広範なレパートリーと相互作用して、発達中の脳における神経発生、細胞分化、細胞シグナル伝達、及び生存を制御することが調査によって示されてきている(Flora et al,2007;Blake et al,2010;Brzozka et al,2010;Bertrand et al,2002;Forrest et al,2013)。
【0065】
Crux et al(2018)による、成熟神経細胞におけるTCF4の機能喪失と樹状突起スパインの因果関係に関する研究では、TCF4のホモ接合性及びヘテロ接合性喪失の両方で、樹状突起スパインの数の減少と、それらの形態変化が示された。この研究により、TCF4は、その発生上の機能とは独立して、成熟神経細胞のシナプス可塑性に重要な役割を果たし、TCF4の機能喪失は、PTHSの神経症状の一因となる可能性が示唆された。
【0066】
また、TCF4の変化は、IGFシグナル経路の構成要素の遺伝子発現を変化させ、特にIGF結合タンパク質3、4、及び5をコードする遺伝子を下方制御すると思われる(Forrest et al,2013)。環状グリシン-プロリンは、脳におけるIGF結合タンパク質3へのIGF-1の結合を制御し、結果として、IGF-1のバイオアベイラビリティを制御することが報告されている(Guan et al,2014)。この自動調節機序により、IGF-1が欠乏するとバイオアベイラビリティが向上し、IGF-1レベルが過剰になるとバイオアベイラビリティを低下するという、IGF-1の恒常性が維持される。また、cGP及びcG-2-アリルPの両方は、PTHSの根底をなす病態の一部であり、シナプスの形成と維持に重要なミクログリアの過剰活性化の一因となる、神経炎症も阻害する。神経発達障害の多数の動物モデルにわたって、cG-2-アリルPは、シナプスの機能と形態を回復させるのに役立つミクログリアの表現型を正常化している。
【0067】
ピット・ホプキンス症候群を評価するための臨床手段
ピット・ホプキンス症候群は、1つ以上の臨床検査、例えば、Aberrant Behavior Checklist Community Edition (ABC)、Aberrant Behavior Checklist (Stereotypy)、Vineland、Clinical Global Impression of Severity (CGI-S)、Caregiver Strain Questionnaire (CSQ)、Children´s Yale-Brown OC Scale (CYBOCS-PDD)、Child Autism Rating Scale、Interview of Repetitive Behaviors、Nisonger Child Behavior Rating Scale、Pervasive Developmental Disorder Behavior Inventory、Stereotyped Behavior Scale、Repetitive Behavior Scale、Rossago Scale、Repetitive Behavior Questionnaire、PedQL(商標)Measurement Model、及びStereotyped Behavior Scale、または、前記障害に罹患していない対照動物と比較した、脳波(EEG)のスパイク周波数、EEGの周波数帯域における全体的な出力、手の動き、QTc及び心拍変動(HRV)、ならびに不規則な呼吸からなる群から選択される1つ以上の生理学的検査を使用して評価し得る。
【0068】
不安は、Anxiety, Depression and Mood Scale (ADAMS)、Child and Adolescent Symptom Inventory (CASI)、Child Behavior Checklist (CBCL)、Multidimensional Anxiety Scale for Children (MASC)、Pediatric Autism Rating Scale (PARS)、Revised Child Anxiety and Depression Scale (RCAD)、Screen for Child Anxiety Related Disorders (SCARED)、Nisonger Child Behavior Rating Form、及びAnxiety Diagnostic Interview Scale (ADIS)を含む1つ以上の尺度を使用して評価し得る。
【0069】
社会的コミュニケーションは、臨床手段、例えば、ABAS-II Domain scores、Aberrant Behavior Checklist (ABC)-Lethargy/Social Withdrawal、ADI-R、Autism Diagnostic Observation Scale-Generic (ADOS-G)-new severity scores、Autism Impact Measure、Autism Spectrum Rating Scales、Autism Treatment Evaluation Checklist (ATEC)、Ball Toss Game、Behavior Assessment Scale (BAS)、Behavior Assessment System for Children 2nd Edition BASC-2(社会性に関するサブスケール)、Behavior Rating Inventory of Executive Function、California Verbal Learning Task-Children´s Version (VLT-C)及びModified VLT-C (MVLT-C)、Caregiver-Child Interaction, Jahromi 2009、CGI、Childhood Autism Rating Scale (CARS)、Children’s Social Behavior Questionnaire、Clinical Evaluation of Language Fundamentals (CELF-3及び4)-Pragmatics Profile、Communication and Symbolic Behavior Scales (CSBS)、Comprehension of Affective Speech Task、General Trust Scale、Gilliam Autism Rating Scale (GARS)、Joint Attention Measure from the ESCS (JAMES)、Let’s Face It!、Observational Assessment of Spontaneous Expressive Language (OSEL)、Parent Questionnaire, Nagaraj et al. 2006、Parent´s Rating Questionnaire, Chan et al, 2009、Pervasive Developmental Disorder Behavior Inventory (PDD-BI)(ショートバージョンあり: PDD-BI-Screening Version)、Reading the Mind in Films-Adult、Reading the Mind in Films-Child、Reading the Mind in the Eyes Task-Revised (RMET-R)-Adult、Reading the Mind in the Eyes Task-Revised (RMET-R)-Child、Reading the Mind in Voice-Adult、Social Communication Questionnaire (SCQ)、Social Responsiveness Scale、Social Skills Improvement System (SSiS)、Theory of Mind Test、ならびにVABS-Socialization及びCommunicationを使用して評価し得る。
【0070】
本発明の化合物
本開示のある種の実施形態は、以下に記載されるような構造を有する環状グリシルプロリン(「cGP」)の誘導体を含む。
【化2】
【0071】
ある種の実施形態では、式1の化合物は置換基を含み、
X1は、NR´、O及びSからなる群から選択され;
X2は、CH2、NR´、O及びSからなる群から選択され;
R1、R2、R3、R4及びR5は、-H、-OR´、-SR´、-NR´R´、-NO2、-CN、-C(O)R´、-C(O)OR´、-C(O)NR´R´、-C(NR´)NR´R´、トリハロメチル、ハロゲン、アルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、置換ヘテロアルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アリールアルキル、置換アリールアルキル、ヘテロアリールアルキル及び置換ヘテロアリールアルキルからなる群から独立して選択され;各R´は、-H、アルキル、ヘテロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリール及びヘテロアリールアルキルからなる群から独立して選択され;
または、一緒になったR4及びR5は、-CH2-(CH2)n-CH2-であり、ここで、nは0~6の整数であり;
または、一緒になったR2及びR3は、-CH2-(CH2)n-CH2-であり、ここで、nは0~6の整数であり;
但し、R1=メチル及びR2=R3=R4=Hである場合、R5≠ベンジルであり;
ならびにR1=Hである場合、R2及びR3の少なくとも1つが≠Hであることを条件とする。
【0072】
さらなる実施形態において、式1の化合物は以下の置換基を含む:
R1=メチル、R2=R3=R4=R5=H、X1=NH、X2=CH2;
R1=アリル、R2=R3=R4=R5=H、X1=NH、X2=CH2;
R1=R2=R3=H、R4=R5=メチル、X1=NH、X2=CH2;
R1=R4=R5=H、R2=R3=メチル、X1=NH、X2=CH2。
【0073】
本発明の他の実施形態では、式1の化合物は以下の置換基を含む:
一緒になったR4及びR5は、-CH2-(CH2)n-CH2-であり;
R1=メチル、R2=R3=H、n=0、X1=NH、X2=CH2;
R1=メチル、R2=R3=H、n=2、X1=NH、X2=CH2;
R1=アリル、R2=R3=H、n=0、X1=NH、X2=CH2;
R1=アリル、R2=R3=H、n=2、X1=NH、X2=CH2;
R1=メチル、R2=R3=H、n=3、X1=NH、X2=CH2;
R1=アリル、R2=R3=H、n=3、X1=NH、X2=CH2。
【0074】
本開示のさらにその他の実施形態では、式1の化合物は置換基を含み、R1=メチルまたはアリル、R2=R3=R4=Hであり、R5がアミノ酸:アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、ノルバリン、ノルロイシン、シトルリン、オルニチン、ホモシステイン、ホモセリン、アロイソロイシン、イソバリン、サルコシンなど、の側鎖からなる群から選択される。
【0075】
本発明のいっそうさらなる実施形態では、式1の化合物は以下の置換基を含む:
R1=メチル、R2=R3=メチル、R4=R5=H、X1=NH及びX2=S;
R1=アリル、R2=R3=メチル、R4=R5=H、X1=NH、及びX2=S。
【0076】
当業者であれば、上記の構造表現がキラル中心を含有し得、その数は種々の置換基に依存することを理解するであろう。キラリティーは、各中心でRまたはSのいずれであってもよい。構造図は、潜在的な互変異性体、立体ジアステレオマーまたはエナンチオマーのうちの1つのみを表し得、本発明は、本明細書に記載されるような生物学的または薬理学的活性を示す、任意の互変異性体、立体異性ジアステレオマーまたはエナンチオマーを包含すると理解されるべきである。
【0077】
薬理学及び有用性
環状グリシル-2-アリルプロリン(cG-2-アリルP)は、2006年4月7日に出願され、「Cyclic G-2Allyl Proline in Treatment of Parkinson’s Disease」と題された、米国実用出願第11/399,974号、現在は2010年8月17日に発行された米国特許第7,776,876号、2006年3月2日に出願され、「Neuroprotective Bicyclic Compounds and Methods for Their Use」と題された米国実用出願第10/570,395号、現在は米国特許第8,067,425号、「Neuroprotective Bicyclic Compounds and Methods for Their Use」と題された、PCT国際特許出願第PCT/US2004/028308号、2003年9月3日に出願され、「Neuroprotective Bicyclic Compounds and Methods for Their Use」と題された、米国仮特許出願第60/499,956号、及び2011年3月8日に出願され、「Cyclic Glycyl-2-AllylProline Improves Cognitive Performance in Impaired Animals」と題された、米国特許出願第13/043,215号において記述されている。上記の特許出願及び特許のそれぞれは、参照により完全に本明細書に明示的に組み込まれる。
【0078】
他の作用物質を本発明の化合物と共に投与し得る。このような他の作用物質は、例えば、増殖因子及び関連誘導体、例えば、インスリン様増殖因子-I(IGF-I)、インスリン様増殖因子-II(IGF-II)、トリペプチドGPE、形質転換増殖因子-β1、アクチビン、成長ホルモン、神経成長因子、成長ホルモン結合タンパク質、及び/またはIGF-結合タンパク質からなる群から選択されてもよい。
【0079】
治療用途
本発明の組成物及び方法は、認知機能障害及びピット・ホプキンス症候群に関連する症状に罹患しているヒト患者等の動物の処置における使用を見出している。またさらに一般的には、本開示の組成物及び方法は、記憶障害、知的障害、社会的相互作用の障害、言語及びコミュニケーションにおける機能障害、運動機能の障害、限定的かつ反復的興味及び行動、異常な睡眠行動、その他の異常な行動ならびにけいれんに罹患しているヒト患者等の哺乳動物の処置における使用を見出している。
【0080】
医薬組成物及び投与
cG-2-アリルP、環状シクロヘキシル-G-2-MeP、環状シクロペンチル-G-2-MeP、及び関連する環状ピペリジンは、医薬または医薬調製物の一部として投与され得る。これは、本発明の化合物を、任意の薬学的に適切な担体、アジュバントまたは賦形剤と合わせることを伴い得る。担体、アジュバントまたは賦形剤の選択は、当然ながら、通常は用いられる投与経路に依存することになる。
【0081】
概して、本開示の化合物は、当技術分野において公知の通常の様式のいずれかにより、治療有効量で、単独、または治療されている疾患に対する他の従来の治療薬との組み合わせのいずれかで投与されることになる。治療有効量は、疾患、その重症度、治療される動物の年齢及び相対的健康、化合物(複数可)の効力、ならびに他の要因に応じて広く変動し得る。環状G-2-アリルPの治療有効量は、動物のキログラム質量当たり0.001~600ミリグラムの範囲であり得、経口、全身(例えば、経皮)、乱切、または非経口(例えば、静脈内)投与等の方法による投与に適切である。当業者であれば、必要以上の実験をすることなく、その技能及び本開示を考慮して、化合物の治療有効量を決定することができるであろう。
【0082】
cG-2-アリルP、環状シクロヘキシル-G-2-MeP、環状シクロペンチル-G-2-MeP及び/または関連する環状ピペリジンならびに他のcGP関連化合物は、当技術分野において公知である任意の末梢経路を介して末梢から投与されてもよい。これらは、非経口経路、例えば、末梢循環への注射、皮下、眼窩内、点眼、髄腔内、大槽内、局所、注入(例えば、浸透圧ポンプもしくは皮膚パッチ剤等の緩徐性デバイスまたはミニポンプを使用する)、移植、エアロゾル、吸入、乱切、腹腔内、関節内、筋肉内、鼻腔内、経口、頬側、経皮、経肺、経直腸または経膣を含み得る。組成物は、治療有効量(例えば、患者の病的状態を解消するまたは低減させる量)で、ヒトまたは他の哺乳動物への非経口投与用に製剤化されて、上述した神経疾患の療法を提供し得る。
【0083】
望ましくは、cG-2-アリルP、環状シクロヘキシル-G-2-MeP、環状シクロペンチル-G-2-MeP及び/または関連する環状ピペリジンは、水溶液中で経口投与され得る。
【0084】
他の簡便な投与経路としては、皮下注射(例えば、0.9%塩化ナトリウム等の生理的適合性のある担体中に溶解したもの)が挙げられる。
【0085】
「直接的または循環を介して間接的」に関しては、本発明者らは、作用物質を循環に送達するために十分な血流量を有する任意の組織への、cG-2-アリルP、環状シクロヘキシル-G-2-MeP、環状シクロペンチル-G-2-MePまたは関連する環状ピペリジンの投与を意味する。非限定的な例としては、皮膚、鼻、咽頭、消化管、または他のこのような組織が挙げられる。このような組織に投与されると、作用物質は組織によって吸収され、その際、作用物質は、組織の間質液に入り、その後、細静脈、毛細管、小動脈またはリンパ管によって吸収される。次いで、作用物質は全身の体循環内に運ばれ、その際、作用物質は、脳を含む患部に送達され得る。作用物質が皮下または腹膜に投与されると、作用物質は隣接組織によって吸収され、次いで、作用物質は局所的に循環に入り、その後、全身循環に送達され、その際、脳に輸送され得る。作用物質が血液脳関門に接近すると、次いで、作用物質は脳内の、神経組織または脳脊髄液内のいずれかに拡散し得、その際、作用物質は神経組織に送達され得る。
【0086】
CNSにおける化合物の有効量は、本発明の化合物及び担体を含むプロドラッグ形態の化合物の投与によって増加させてもよく、ここで、担体は、患者体内での開裂または消化に感受性のある連結によって本発明の化合物と接合している。投与後に開裂または消化されることになる、任意の好適な連結が用いられ得る。
【0087】
しかしながら、出願人側には、他の投与形態を除外する意図はない。
【0088】
本開示のさらなる実施形態では、動物における神経機能を回復させることは、治療量の環状G-2-アリルPを、例えば、増殖因子及び関連誘導体(インスリン様増殖因子-I(IGF-I)、インスリン様増殖因子-II(IGF-II)、形質転換増殖因子-β1、アクチビン、成長ホルモン、神経成長因子、成長ホルモン結合タンパク質、IGF-結合タンパク質、IGFBP-3、塩基性線維芽細胞増殖因子、酸性線維芽細胞増殖因子、hst/Kfgk遺伝子産物、FGF-3、FGF-4、FGF-6、ケラチノサイト増殖因子、アンドロゲン誘導性増殖因子、int-2、線維芽細胞増殖因子相同因子-1(FHF-1)、FHF-2、FHF-3、及びFHF-4、ケラチノサイト増殖因子2、グリア細胞活性化因子、FGF-10、FGF-16、毛様体神経栄養因子、脳由来増殖因子、ニューロトロフィン3、ニューロトロフィン4、骨形成タンパク質2(BMP-2)、グリア細胞株由来神経栄養因子、活性依存性神経栄養因子、サイトカイン白血病抑制因子、オンコスタチンM、インターロイキン)、α-インターフェロン、β-インターフェロン、γ-インターフェロン、またはコンセンサスインターフェロン、ならびにTNF-αから選択される別の作用物質と組み合わせて投与することを含み得る。他の形態の治療薬としては、クロメチアゾール;キヌレン酸、セマックス(Semax)、タクロリムス、L-スレオ-1-フェニル-2-デカノイルアミノ-3-モルホリノ-1-プロパノール、副腎皮質刺激ホルモン-(4-9)類似体(ORG 2766)、ジゾルシピン(MK-801)、セレギリン;グルタミン酸拮抗薬、NPS1506、GV1505260、MK-801、GV150526;AMPA拮抗薬、2,3-ジヒドロキシ-6-ニトロ-7-スルファモイルベンゾ(f)キノキサリン(NBQX)、LY303070、LY300164、アドレシンMAdCAM-1及び/またはそのインテグリンα4受容体(α4β1及びα4β7)に対する抗炎症剤、抗MAdCAM-1mAb MECA-367(ATCCアクセッション番号HB-9478)が挙げられる。
【0089】
cG-2-アリルP、環状シクロヘキシル-G-2-MeP、環状シクロペンチル-G-2-MeP及び/または関連する環状ピペリジンならびに他のcGP関連化合物は、徐放性の系によって好適に投与される。徐放性組成物の好適な例としては、成形物形態の半透過性ポリマーマトリックス、例えば、フィルムまたはマイクロカプセルが挙げられる。徐放性マトリックスとしては、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号;EP 58,481)、L-グルタミン酸及びガンマ-エチル-L-グルタメートのコポリマー(Sidman et al., 1983, Biopolymers: 22: 547-56)、ポリ(メタクリル酸2-ヒドロキシエチル)(Langer et al., 1981, J. Biomed. Mater. Res.: 15: 267)、エチレン酢酸ビニル(Langer et al., 1981, J. Biomed. Mater. Res.: 15: 267)、またはポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸(EP 133,988)が挙げられる。徐放性組成物には、リポソームに封入された化合物も含まれる。化合物を含有するリポソームは、それ自体が公知の方法:DE 3,218,121、EP 52,322、EP 36,676、EP 88,046、EP 143,949、EP 142,641、日本特許出願第83-118008号、米国特許第4,485,045号及び同第4,544,545号、ならびにEP 102,324によって調製される。通常、リポソームは小型(約200~800オングストローム)単層タイプのものであり、それにおいて脂質含有量は、約30molパーセントのコレステロールより大きく、選択される割合は、最も効果的な療法に合わせて調整される。
【0090】
非経口投与のために、一実施形態では、cG-2-アリルP、環状シクロヘキシル-G-2-MeP、環状シクロペンチル-G-2-MeP及び/または関連する環状ピペリジンは、概して、所望の純度のそれぞれを、単位投薬量注射剤形態(溶液、懸濁液またはエマルション)で、薬学的にまたは非経口的に許容される担体、すなわち用いられる投薬量及び濃度ではレシピエントに非毒性であり、製剤の他の原料と適合性があるものと混合することにより、製剤化され得る。
【0091】
本発明の化合物を粘膜組織へ送達するために、化合物をゲル製剤に組み込むことができる。粘膜(例えば、口腔、消化管、直腸)に送達されるとすぐに、作用物質はゲルから離れて拡散し得るか、またはゲルが分解して、それによって作用物質が組織内に放出され得、その際、作用物質は循環中に吸収され得る。例示的なゲル製剤としては、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、キチン、キトサン、デンプン、セルロース等のカルボキシ多糖、ヒアルロン酸等のタンパク質、またはポリビニルピロリジン、ポリビニルアルコール等の他のポリマー、ならびに当技術分野において公知である他のゲル材料で作製されているものを挙げることができる。
【0092】
概して、製剤は、cG-2-アリルP、環状シクロヘキシル-G-2-MeP、環状シクロペンチル-G-2-MeP及び/または関連する環状ピペリジンを、液体担体もしくは微粉化固体担体または両方と接触させることによって調製される。次いで、必要である場合、生成物は所望の製剤に成形される。好ましくは、担体は、非経口担体、より好ましくはレシピエントの血液と等張の溶液である。このような担体ビヒクルの例としては、水、生理食塩水、リンゲル液、緩衝溶液及びブドウ糖溶液が挙げられる。固定油及びオレイン酸エチル等の非水性ビヒクルも本明細書において有用である。
【0093】
担体は、好適には、等張性及び化学的安定性を増強する物質等の少量の添加剤を含有する。このような材料は、用いられる投薬量及び濃度ではレシピエントに非毒性であり、リン酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、酢酸、及び他の有機酸またはそれらの塩等の緩衝剤;アスコルビン酸等の酸化防止剤;低分子量(約10個未満の残基)ポリペプチド、例えば、ポリアルギニンまたはトリペプチド;血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー;グリシン;グルタミン酸、アスパラギン酸、ヒスチジンまたはアルギニン等のアミノ酸;単糖、二糖、及びセルロースもしくはその誘導体、グルコース、マンノース、トレハロースまたはデキストリンを含む他の炭水化物;EDTA等のキレート剤;マンニトールまたはソルビトール等の糖アルコール;ナトリウム等の対イオン;ポリソルベート、ポロキサマーまたはポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤;ならびに/または中性塩、例えば、NaCl、KCl、MgCl2、CaCl2などを含む。
【0094】
cG-2-アリルP、環状シクロヘキシル-G-2-MeP、環状シクロペンチル-G-2-MeP及び/または関連する環状ピペリジンならびに他のcGP化合物は、典型的には、このようなビヒクル中、約4.5~8のpHで製剤化される。前述の賦形剤、担体または安定剤の一定の使用により、化合物の塩の形成がもたらされることが理解されるであろう。最終調製物は、安定な液体または凍結乾燥固体であってもよい。
【0095】
医薬組成物中のcG-2-アリルP、環状シクロヘキシル-G-2-MeP、環状シクロペンチル-G-2-MeP及び/または関連する環状ピペリジンの製剤は、アジュバントも含み得る。錠剤、カプセル剤などに組み込まれ得る典型的なアジュバントは、アラビアゴム、コーンスターチまたはゼラチン等の結合剤;微結晶性セルロース等の賦形剤;コーンスターチまたはアルギン酸のような崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤;スクロースまたはラクトース等の甘味剤;ペパーミント、ヒメコウジまたはサクランボ等の香味剤である。剤形が錠剤である場合、cG-2-アリルP、環状シクロヘキシル-G-2-MeP、環状シクロペンチル-G-2-MeP及び/または関連する環状ピペリジン組成物は、結合剤、及び所望により、滑らかなコーティング剤を含み得る。剤形がカプセル剤である場合、上記の材料に加えて、脂肪油等の液体担体も含有してよい。種々のタイプの他の材料を、コーティング剤として、または投薬量単位の物理的形態の改質剤として使用してもよい。シロップ剤またはエリキシル剤は、活性化合物、スクロース等の甘味料、プロピルパラベンのような保存料、着色剤、及びサクランボ等の香味剤を含有してもよい。注射用滅菌組成物は、従来の医薬実務に従って製剤化され得る。例えば、水、またはゴマ、ピーナッツもしくは綿実油のような天然に存在する植物油、またはオレイン酸エチルなどのような合成脂肪ビヒクル等のビヒクル中に、活性化合物を溶解または懸濁させることが望ましい場合がある。緩衝剤、保存料、酸化防止剤などを、許容されている医薬実務に従って組み込むことができる。
【0096】
cG-2-アリルP、環状シクロヘキシル-G-2-MeP、環状シクロペンチル-G-2-MeP及び/または関連する環状ピペリジンを含有する医薬製剤は、通常、単回または複数回用量容器内に、例えば、密封したアンプルまたはバイアル内に、水溶液として、または再調製用の凍結乾燥製剤として保管されることになる。凍結乾燥製剤の一例として、10mLのバイアルを、滅菌濾過した1%(w/v)の化合物の水溶液5mLで満たし、得られた混合物を凍結乾燥させる。溶液は、静菌性注射用水を使用して凍結乾燥化合物を再調製することによって調製される。他の剤形及び種類の調製物を使用することができ、すべてが本開示の一部とみなされることを容易に理解することができる。
【0097】
化合物の調製
cG-2-アリルP、環状シクロヘキシル-G-2-MeP、環状シクロペンチル-G-2-MeP及び/または関連する環状ピペリジンを調製するのに使用される出発材料及び試薬は、Aldrich Chemical Company(Milwaukee, Wis.)、Bachem(Torrance, Calif.)、Sigma(St.Louis, Mo.)等の商業的な供給業者から入手可能であるか、または、Fieser and Fieser’s Reagents for Organic Synthesis, vols 1-17, John Wiley and Sons, New York, N.Y., 1991;Rodd’s Chemistry of Carbon Compounds, vols. 1-5 and supplements, Elsevier Science Publishers, 1989;Organic Reactions, vols. 1-40, John Wiley and Sons, New York, N.Y., 1991;March J;Advanced Organic Chemistry, 4th ed. John Wiley and Sons, New York, N.Y., 1992;及びLarock: Comprehensive Organic Transformations, VCH Publishers, 1989等の参考文献に記述された手順に準拠し、当業者に周知の方法によって調製されるかのいずれかである。ほとんどの事例では、アミノ酸及びそれらのエステルまたはアミド、ならびに保護されたアミノ酸は、広く市販されており、修飾されたアミノ酸及びそれらのアミドまたはエステルの調製は、化学及び生化学の文献において広範に記述されており、故に、当業者に周知である。
【0098】
本開示の出発材料、中間体及び最終生成物は、濾過、蒸留、結晶化、クロマトグラフィーなどを含む従来の技術を使用して、単離及び精製してもよい。これらは、物理定数及びスペクトルデータを含む従来の方法を使用して特徴づけてもよい。
【0099】
環状G-2-アリルPは環状ジペプチド(二環式2,5-ジケトピペラジン)であり、環状GP(「cGP」)として公知である化合物のクラスのメンバーである。概して、cGP及び環状G-2-アリルPは、ペプチド及び修飾されたペプチド合成の分野の当業者には既に周知であるような方法によって、本明細書に明記されている反応スキームに準拠して、またはペプチド及び類似体の合成分野の当業者に周知である他の方法に準拠することによって調製され得る。例えば、Bodanzsky: Principles of Peptide Synthesis, Berlin, New York: Springer-Verlag 1993を参照されたい。
【0100】
本開示のジケトピペラジン化合物の合成は、液相合成法によるか、またはMerrifield et al. 1963 J. Amer. Chem. Soc.: 85, 2149-2156によって例示されている固相合成法を介するものであってもよい。固相合成は、Applied Biosystemsモデル430A等の市販のペプチド合成機を使用して、機器のために確立されたプロトコールを用いて実施され得る。
【0101】
ジケトピペラジン合成の具体例は、Fischer, 2003, J. Peptide Science: 9: 9-35及びその中の参考文献において知ることができる。当業者であれば、その技能及び利用可能な知見、ならびに本開示を考慮して、本発明の化合物のための1つ以上の好適な合成方法を開発することは難しくないであろう。
【0102】
選択された方法(固相または液相)に適切な保護基、及び固相合成法が使用されるならば適切な基質の選択は、当業者の技能の範囲内であろう。ペプチド合成に適切な保護基としては、t-ブチルオキシカルボニル(Boc)、フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)、ベンジル(Bzl)、t-アミルオキシカルボニル(Aoc)、トシル(Tos)、ベンジルオキシカルボニル(ZまたはCbz)、o-ブロモ-ベンジルオキシカルボニル(BrZ)などが挙げられる。追加の保護基は、Goodman M. (ed.), “Synthesis of Peptides and Peptidomimetics” in Methods of organic chemistry (Houben-Weyl) (Workbench Edition, E22a,b,c,d,e;2004;Georg Thieme Verlag, Stuttgart, New York)において同定されている。
【0103】
選択された方法のためのカップリング剤の選択も、当業者の技能の範囲内にあろう。好適なカップリング剤としては、DCC(N,N´-ジシクロヘキシルカルボジイミド)、Bop(ベンゾトリアゾール-1-イル-オキシ-トリス-(ジメチルアミノ)-ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート)、PyBop(ベンゾトリアゾール-1-イル-オキシトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスフェート)、BopCl(ビス(2-オキソ-3-オキサゾリジニル)ホスフィン酸クロリド)、2-クロロ-1,3-ジメチルイミダゾリジニウムヘキサフルオロホスフェート(CIP)などが挙げられる。合成において、HOBt(N-ヒドロキシベンゾトリアゾール)及びHOAt(1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール)等の他の化合物を、例えばラセミ化を防止するために使用してもよい。
【0104】
実施形態
以下に示す特定の実施形態は、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。当業者は、以下に列記されている要素の1つ以上を、本明細書には具体的に記述されていない組み合わせに組み込むことによって、他の実施形態を作り出すことができる。このような実施形態のすべてが本発明の範囲内であるとみなされるべきである。
【0105】
実施形態1.PTHSの症状を、このような障害に罹患している動物において処置する方法であって、式:
【化3】
の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物(ここで、
X
1は、NR´、O及びSからなる群から選択され;
X
2は、CH
2、NR´、O及びSからなる群から選択され;
R
1、R
2、R
3、R
4及びR
5は、-H、-OR´、-SR´、-NR´R´、-NO
2、-CN、-C(O)R´、-C(O)OR´、-C(O)NR´R´、-C(NR´)NR´R´、トリハロメチル、ハロゲン、アルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、置換ヘテロアルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アリールアルキル、置換アリールアルキル、ヘテロアリールアルキル及び置換ヘテロアリールアルキルからなる群から独立して選択され;各R´は、-H、アルキル、ヘテロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリール及びヘテロアリールアルキルからなる群から独立して選択され;
または、一緒になったR
4及びR
5は、-CH
2-(CH
2)
n-CH
2-であり、ここで、nは0~6の整数であり;
または、一緒になったR
2及びR
3は、-CH
2-(CH
2)
n-CH
2-であり、ここで、nは0~6の整数であり;
但し、R
1=メチル及びR
2=R
3=R
4=Hである場合、R
5≠ベンジルであり;
ならびにR
1=Hである場合、R
2及びR
3の少なくとも1つが≠Hであることを条件とする)を動物に投与することを含む、前記方法。
【0106】
実施形態2.PTHSの症状を、このような障害に罹患している動物において処置する方法であって、式:
【化4】
の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物(ここで、
X
1は、NR´、O及びSからなる群から選択され;
X
2は、CH
2、NR´、O及びSからなる群から選択され;
R
1、R
2及びR
3は、-H、-OR´、-SR´、-NR´R´、-NO
2、-CN、-C(O)R´、-C(O)OR´、-C(O)NR´R´、-C(NR´)NR´R´、トリハロメチル、ハロゲン、アルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、置換ヘテロアルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アリールアルキル、置換アリールアルキル、ヘテロアリールアルキル及び置換ヘテロアリールアルキルからなる群から独立して選択され;各R´は、-H、アルキル、ヘテロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリール及びヘテロアリールアルキルからなる群から独立して選択され;
または、一緒になったR
2及びR
3は、-CH
2-(CH
2)
n-CH
2-であり、ここで、nは0~6の整数であり;
但し、少なくとも1つのR≠Hであることを条件とする)を動物に投与することを含む、前記方法。
【0107】
実施形態3.PTHSの症状を、このような障害に罹患している動物において処置する方法であって、式:
【化5】
の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物(ここで、
X
1は、NR´、O及びSからなる群から選択され;
X
2は、CH
2、NR´、O及びSからなる群から選択され;
R
1、R
2及びR
3は、-H、-OR´、-SR´、-NR´R´、-NO
2、-CN、-C(O)R´、-C(O)OR´、-C(O)NR´R´、-C(NR´)NR´R´、トリハロメチル、ハロゲン、アルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、置換ヘテロアルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アリールアルキル、置換アリールアルキル、ヘテロアリールアルキル及び置換ヘテロアリールアルキルからなる群から独立して選択され;各R´は、-H、アルキル、ヘテロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリール及びヘテロアリールアルキルからなる群から独立して選択され;
または、一緒になったR
2及びR
3は、-CH
2-(CH
2)
n-CH
2-であり、ここで、nは0~6の整数である)を動物に投与することを含む、前記方法。
【0108】
実施形態4.PTHSの症状を、このような障害に罹患している動物において処置する方法であって、式:
【化6】
の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物(ここで、
X
1、X
3、及びX
4は、S、O、及びNHからなる群から独立して選択され;
X
2は、S、O、CH
2及びNHからなる群から選択され;
R
1、R
2、R
3、R
4及びR
5は、-H、-OR´、-SR´、-NR´R´、-NO
2、-CN、-C(O)R´、-C(O)OR´、-C(O)NR´R´、-C(NR´)NR´R´、トリハロメチル、ハロゲン、アルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、置換ヘテロアルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アリールアルキル、置換アリールアルキル、ヘテロアリールアルキル及び置換ヘテロアリールアルキルからなる群から独立して選択され;各R´は、-H、アルキル、ヘテロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリール及びヘテロアリールアルキルからなる群から独立して選択され;
または、一緒になったR
4及びR
5は、-CH
2-(CH
2)
n-CH
2-であり、ここで、nは0~6の整数であり;
または、一緒になったR
2及びR
3は、-CH
2-(CH
2)
n-CH
2-であり、ここで、nは0~6の整数であり;
但し、少なくとも1つのR≠Hであり、X
3及びX
4の両方≠Oを条件とする)を動物に投与することを含む、前記方法。
【0109】
実施形態5.PTHSの症状を、このような障害に罹患している動物において処置する方法であって、式:
【化7】
の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物(ここで、
R
1及びR
2は、-H、-OR´、-SR´、-NR´R´、-NO
2、-CN、-C(O)R´、-C(O)OR´、-C(O)NR´R´、-C(NR´)NR´R´、トリハロメチル、ハロゲン、アルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、置換ヘテロアルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アリールアルキル、置換アリールアルキル、ヘテロアリールアルキル及び置換ヘテロアリールアルキルからなる群から独立して選択され;各R´は、-H、アルキル、ヘテロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリール及びヘテロアリールアルキルからなる群から独立して選択され;
または、一緒になったR
1及びR
2は、-CH
2-(CH
2)
n-CH
2-であり、ここで、nは0~6の整数である)を動物に投与することを含む、前記方法。
【0110】
実施形態6.PTHSの症状を、このような障害に罹患している動物において処置する方法であって、式:
【化8】
の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物(ここで、
R
1、R
2及びR
3は、-H、-OR´、-SR´、-NR´R´、-NO
2、-CN、-C(O)R´、-C(O)OR´、-C(O)NR´R´、-C(NR´)NR´R´、トリハロメチル、ハロゲン、アルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、置換ヘテロアルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アリールアルキル、置換アリールアルキル、ヘテロアリールアルキル及び置換ヘテロアリールアルキルからなる群から独立して選択され;各R´は、-H、アルキル、ヘテロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリール及びヘテロアリールアルキルからなる群から独立して選択され;
または、一緒になったR
2及びR
3は、-CH
2-(CH
2)
n-CH
2-であり、ここで、nは0~6の整数である)を動物に投与することを含む、前記方法。
【0111】
実施形態7.PTHSの症状を、このような障害に罹患している動物において処置する方法であって、式:
【化9】
の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物(ここで、
Rは、アルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、置換ヘテロアルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アリールアルキル、置換アリールアルキル、ヘテロアリールアルキル及び置換ヘテロアリールアルキルからなる群から選択される)を動物に投与することを含む、前記方法。
【0112】
実施形態8.R1=メチルである、実施形態1~4または6のいずれか1項に記載の方法。
【0113】
実施形態9.R1=アリルである、実施形態1~4または6のいずれか1項に記載の方法。
【0114】
実施形態10.R2=R3=メチルであり、X2=Sである、実施形態1~4のいずれかに記載の方法。
【0115】
実施形態11.R1=アリル、R2=R3=R4=R5=H、X1=NH、X2=CH2である、実施形態1に記載の方法。
【0116】
実施形態12.R1=メチル、R2=R3=H、一緒になったR4及びR5は、-CH2-(CH2)3-CH2-、X1=NH、X2=CH2である、実施形態1に記載の方法。
【0117】
実施形態13.R1=メチル、R2=R3=H、一緒になったR4及びR5は、-CH2-(CH2)2-CH2-、X1=NH、X2=CH2である、実施形態1に記載の方法。
【0118】
実施形態14.薬学的に許容される賦形剤を投与することをさらに含む、実施形態1~13のいずれか1項に記載の方法。
【0119】
実施形態15.薬学的に許容される賦形剤及び結合剤を投与することをさらに含む、実施形態1~13のいずれか1項に記載の方法。
【0120】
実施形態16.薬学的に許容される賦形剤及びカプセル剤を投与することをさらに含む、実施形態1~13のいずれか1項に記載の方法。
【0121】
実施形態17.少なくとも1つの他の抗アポトーシス剤、抗壊死剤または神経保護剤を投与することをさらに含む、実施形態1~13のいずれか1項に記載の方法。
【0122】
実施形態18.神経保護剤は、増殖因子及び関連誘導体(インスリン様増殖因子-I[IGF-I]、インスリン様増殖因子-II[IGF-II]、形質転換増殖因子-β1、アクチビン、成長ホルモン、神経成長因子、成長ホルモン結合タンパク質、IGF-結合タンパク質、IGFBP-3、塩基性線維芽細胞増殖因子、酸性線維芽細胞増殖因子、hst/Kfgk遺伝子産物、FGF-3、FGF-4、FGF-6、ケラチノサイト増殖因子、アンドロゲン誘導性増殖因子、int-2、線維芽細胞増殖因子相同因子-1(FHF-1)、FHF-2、FHF-3及びFHF-4、ケラチノサイト増殖因子2、グリア細胞活性化因子、FGF-10及びFGF-16、毛様体神経栄養因子、脳由来増殖因子、ニューロトロフィン3、ニューロトロフィン4、骨形成タンパク質2[BMP-2]、グリア細胞株由来神経栄養因子、活性依存性神経栄養因子、サイトカイン白血病抑制因子、オンコスタチンM、インターロイキン)、α-インターフェロン、β-インターフェロン、γ-インターフェロン、コンセンサスインターフェロン、TNF-α、クロメチアゾール、キヌレン酸、セマックス、タクロリムス、L-スレオ-1-フェニル-2-デカノイルアミノ-3-モルホリノ-1-プロパノール、副腎皮質刺激ホルモン-(4-9)類似体[ORG 2766]、ジゾルシピン[MK-801]、セレギリン、グルタミン酸拮抗薬、AMPA拮抗薬、ならびに抗炎症剤から選択される、実施形態17に記載の方法。
【0123】
実施形態19.前記グルタミン酸及び/またはNMDA拮抗薬は、NPS1506、GV1505260、MK-801、及びGV150526からなる群から選択される、実施形態18に記載の方法。
【0124】
実施形態20.前記AMPA拮抗薬は、2,3-ジヒドロキシ-6-ニトロ-7-スルファモイルベンゾ(f)キノキサリン(NBQX)、LY303070及びLY300164からなる群から選択される、実施形態18に記載の方法。
【0125】
実施形態21.前記抗炎症剤は、抗MAdCAM-1抗体ならびにインテグリンα4β1受容体及びインテグリンα4β7受容体に対する抗体からなる群から選択される、実施形態18に記載の方法。
【0126】
実施形態22.前記抗MAdCAM-1抗体はMECA-367である、実施形態21に記載の方法。
【0127】
実施形態23.前記化合物は環状G-2-アリルPである、実施形態1に記載の方法。
【0128】
実施形態24.前記化合物は環状シクロヘキシル-G-2MePである、実施形態1に記載の方法。
【0129】
実施形態25.前記化合物は環状シクロペンチル-G-2MePである、実施形態1に記載の方法。
【0130】
実施形態26.PTHSの症状を、このような障害に罹患している動物において処置する方法であって、環状グリシル-2-アリルプロリン(cG-2-アリルP)の薬学的有効量を動物に投与することを含む、前記方法。
【0131】
実施形態27.前記cG-2-アリルPは、水溶液及び1つ以上の薬学的に許容される賦形剤、添加剤、担体またはアジュバントを含む、実施形態26に記載の方法。
【0132】
実施形態28.錠剤またはカプセル剤中に、1つ以上の賦形剤、担体、添加剤、アジュバントまたは結合剤をさらに含む、実施形態26に記載の方法。
【0133】
実施形態29.化合物が直接的に投与されるか、または循環を介して間接的に投与される、実施形態1~30のいずれか1項に記載の方法。
【0134】
実施形態30.前記化合物は、経口、腹腔内、血管内、末梢循環、皮下、眼窩内、点眼、髄腔内、大槽内、局所、注入、移植、エアロゾル、吸入、乱切、腹腔内、関節内、筋肉内、鼻腔内、頬側、経皮、経肺、経直腸、または経膣経路を介して投与される、実施形態1~29のいずれか1項に記載の方法。
【0135】
実施形態31.前記有効量は、動物のキログラム(mg/kg)質量当たり約0.001ミリグラムの下限及び約200mg/kgの上限を有する、実施形態1~30のいずれか1項に記載の方法。
【0136】
実施形態32.有効性の評価が、動物のリンパ球におけるリン酸化ERK(pERK)またはリン酸化Akt(pAkt)の測定を介するものであり、その場合、pERKまたはpAktのいずれかの正常化が、前記障害の重症度の低下を指し示す、実施形態1~31のいずれか1項に記載の方法。
【0137】
実施形態33.前記処置は、Aberrant Behavior Checklist Community Edition(ABC)、Vineland Adaptive Behavior Scales、Clinical Global Impression of Severity(CGI-S)、Clinical Global Impression Improvement(CGI-I)、Caregiver Strain Questionnaire(CSQ)、からなる群から選択される1つ以上の臨床検査、または、前記障害に罹患していない対照動物と比較した、脳波(EEG)のスパイク周波数、EEGの周波数帯域における全体的な出力、半球EEG周波数コヒーレンス、常同的な手の動き、QTc及び心拍変動(HRV)、ERK1/2及びAktの異常な発現または活性化、成長関連タンパク質-43(GAP-43)の異常発現、シナプトフィジン(SYN)の異常発現、不規則な呼吸、ならびに心機能と呼吸機能の連関からなる群から選択される1つ以上の生理学的検査を使用して評価しながら、PTHSの症状を改善する、実施形態1~32のいずれか1項に記載の方法。
【0138】
実施形態34.前記PTHSの症状は、記憶喪失、空間定位の喪失、学習能力の減少、短期もしくは長期記憶を形成する能力の減少、エピソード記憶の減少、記憶を固定する能力の減少、空間記憶の減少、シナプス形成の減少、シナプス安定性の減少、実行機能の欠損、認知地図及び場面記憶の欠損、陳述及び関連記憶の欠損、迅速な構成的もしくは接続的関係の取得の低下、文脈特有の具体的事象のコード化及び想起の減少、エピソード及び/もしくはエピソード様記憶の減少、不安、異常な恐怖条件付け、異常な社会的行動、反復的行動、異常な夜間行動、発作活性、異常な自発運動、ERK1/2及びAktの異常な発現もしくは活性化、ならびに徐脈のうちの1つ以上の兆候または症状である、認知機能障害または認知機能不全である、実施形態1~33のいずれか1項に記載の方法。
【0139】
実施形態35.PTHSを有する対象の末梢リンパ球におけるリン酸化ERK1/2またはリン酸化Aktの発現量を、PTHSを有しない対象群の末梢リンパ球におけるリン酸化ERK1/2またはリン酸化Aktの発現量、あるいは処置前の対象の末梢リンパ球におけるリン酸化ERK1/2またはリン酸化Aktの発現量と比較して測定することを含む、先行実施形態のいずれか1項に記載の治療効果の存在、程度、または評価を検出するための方法。
【0140】
実施形態36.ピット・ホプキンス症候群の症状を処置するための医薬の製造における化合物の使用であって、前記化合物は、環状グリシル-2-アリルプロリン(cG-2-アリルP)、環状シクロヘキシル-G-2MeP、または環状シクロペンチル-G-2MePを含む薬学的有効量の化合物である、前記使用。
【0141】
実施形態37.前記化合物は環状シクロヘキシル-G-2MePである、実施形態36に記載の使用。
【0142】
実施形態38.前記化合物は環状G-2-アリルPである、実施形態36に記載の使用。
【0143】
実施形態39.前記化合物は環状シクロペンチル-G-2MePである、実施形態36に記載の使用。
【0144】
実施形態40.ピット・ホプキンス症候群の症状を、このような障害に罹患している哺乳動物において処置するための医薬の製造における化合物の使用であって、前記化合物は、式:
【化10】
の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物(ここで、
X
1は、NR´、O及びSからなる群から選択され;
X
2は、CH
2、NR´、O及びSからなる群から選択され;
R
1、R
2、R
3、R
4及びR
5は、-H、-OR´、-SR´、-NR´R´、-NO
2、-CN、-C(O)R´、-C(O)OR´、-C(O)NR´R´、-C(NR´)NR´R´、トリハロメチル、ハロゲン、アルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、置換ヘテロアルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アリールアルキル、置換アリールアルキル、ヘテロアリールアルキル及び置換ヘテロアリールアルキルからなる群から独立して選択され;各R´は、-H、アルキル、ヘテロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリール及びヘテロアリールアルキルからなる群から独立して選択され;
または、一緒になったR
4及びR
5は、-CH
2-(CH
2)
n-CH
2-であり、ここで、nは0~6の整数であり;
または、一緒になったR
2及びR
3は、-CH
2-(CH
2)
n-CH
2-であり、ここで、nは0~6の整数であり;
但し、R
1=メチル及びR
2=R
3=R
4=Hである場合、R
5≠ベンジルであり;ならびに
R
1=Hである場合、R
2及びR
3の少なくとも1つが≠Hであることを条件とする)である、前記使用。
【0145】
実施形態41.R1=メチルである、実施形態40に記載の使用。
【0146】
実施形態42.R1=アリルである、実施形態40に記載の使用。
【0147】
実施形態43.R2=R3=メチルであり、X2=Sである、実施形態40に記載の使用。
【0148】
実施形態44.R1=アリル、R2=R3=R4=R5=H、X1=NH、X2=CH2である、実施形態40に記載の使用。
【0149】
実施形態45.R1=メチル、R2=R3=H、一緒になったR4及びR5は、-CH2-(CH2)3-CH2-、X1=NH、X2=CH2である、実施形態40に記載の使用。
【0150】
実施形態46.R1=メチル、R2=R3=H、一緒になったR4及びR5は、-CH2-(CH2)2-CH2-、X1=NH、X2=CH2である、実施形態40に記載の使用。
【0151】
実施形態47.使用は、薬学的に許容される賦形剤中、またはゲル中にある前記化合物をさらに含む、実施形態40~46のいずれか1項に記載の使用。
【0152】
実施形態48.使用は、薬学的に許容される賦形剤及び結合剤を伴う前記化合物をさらに含む、実施形態40~47のいずれか1項に記載の使用。
【0153】
実施形態49.使用は、薬学的に許容される賦形剤を伴うか、またはカプセル剤中にある前記化合物をさらに含む、実施形態40~48のいずれか1項に記載の使用。
【0154】
実施形態50.少なくとも1つの抗アポトーシス化合物、抗壊死化合物、神経保護剤または抗炎症剤をさらに含む、実施形態40~49のいずれか1項に記載の使用。
【0155】
実施形態51.抗アポトーシス化合物、抗壊死化合物、または神経保護剤は、インスリン様増殖因子-I(IGF-I)、インスリン様増殖因子-II(IGF-II)、形質転換増殖因子-β1、アクチビン、成長ホルモン、神経成長因子、成長ホルモン結合タンパク質、IGFBP-3、塩基性線維芽細胞増殖因子、酸性線維芽細胞増殖因子、hst/Kfgk遺伝子産物、FGF-3、FGF-4、FGF-6、ケラチノサイト増殖因子、アンドロゲン誘導性増殖因子、int-2、線維芽細胞増殖因子相同因子-1(FHF-1)、FHF-2、FHF-3、FHF-4、ケラチノサイト増殖因子2、グリア細胞活性化因子、FGF-10、FGF-16、毛様体神経栄養因子、脳由来増殖因子、ニューロトロフィン3、ニューロトロフィン4、骨形成タンパク質2(BMP-2)、グリア細胞株由来神経栄養因子、活性依存性神経栄養因子、サイトカイン白血病抑制因子、オンコスタチンM、インターロイキン、α-インターフェロン、β-インターフェロン、γ-インターフェロン、コンセンサスインターフェロン、TNF-α、クロメチアゾール、キヌレン酸、セマックス、タクロリムス、L-スレオ-1-フェニル-2-デカノイルアミノ-3-モルホリノ-1-プロパノール、副腎皮質刺激ホルモン-(4-9)類似体(ORG 2766)、ジゾルシピン(MK-801)、セレギリン、NPS1506、GV1505260、MK-801、GV150526、2,3-ジヒドロキシ-6-ニトロ-7-スルファモイルベンゾ(f)キノキサリン(NBQX)、LY303070、LY300164、ならびに抗MAdCAM-1抗体MECA-367からなる群から選択される、実施形態50に記載の使用。
【0156】
実施形態52.前記化合物は環状G-2-アリルPである、実施形態40~50のいずれか1項に記載の使用。
【0157】
実施形態53.前記化合物は環状シクロヘキシル-G-2MePである、実施形態40~50のいずれか1項に記載の使用。
【0158】
実施形態54.前記化合物は環状シクロペンチル-G-2MePである、実施形態40~53のいずれか1項に記載の使用。
【0159】
実施形態55.錠剤中に、1つ以上の賦形剤、担体、添加剤、アジュバントまたは結合剤をさらに含む、実施形態40に記載の使用。
【0160】
実施形態56.カプセル剤中に、マイクロエマルション、粗大なエマルション、または液晶をさらに含む、実施形態40に記載の使用。
【0161】
実施形態57.ピット・ホプキンス症候群を有する哺乳動物を処置する方法であって、式:
【化11】
の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物(ここで、
X
1は、NR´、O及びSからなる群から選択され;
X
2は、CH
2、NR´、O及びSからなる群から選択され;
R
1、R
2、R
3、R
4及びR
5は、-H、-OR´、-SR´、-NR´R´、-NO
2、-CN、-C(O)R´、-C(O)OR´、-C(O)NR´R´、-C(NR´)NR´R´、トリハロメチル、ハロゲン、アルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、置換ヘテロアルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アリールアルキル、置換アリールアルキル、ヘテロアリールアルキル及び置換ヘテロアリールアルキルからなる群から独立して選択され;各R´は、-H、アルキル、ヘテロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリール及びヘテロアリールアルキルからなる群から独立して選択され;
または、一緒になったR
4及びR
5は、-CH
2-(CH
2)
n-CH
2-であり、ここで、nは0~6の整数であり;
または、一緒になったR
2及びR
3は、-CH
2-(CH
2)
n-CH
2-であり、ここで、nは0~6の整数であり;
但し、R
1=メチル及びR
2=R
3=R
4=Hである場合、R
5≠ベンジルであり;ならびに
R
1=Hである場合、R
2及びR
3の少なくとも1つが≠Hであることを条件とする)を、哺乳動物に投与することを含む、前記方法。
【0162】
実施形態58.R1=メチルである、実施形態57に記載の方法。
【0163】
実施形態59.R1=アリルである、実施形態57に記載の方法。
【0164】
実施形態60.R2=R3=メチルであり、X2=Sである、実施形態57に記載の方法。
【0165】
実施形態61.R1=アリル、R2=R3=R4=R5=H、X1=NH、X2=CH2である、実施形態57に記載の方法。
【0166】
実施形態62.R1=メチル、R2=R3=H、一緒になったR4及びR5は、-CH2-(CH2)3-CH2-、X1=NH、X2=CH2である、実施形態57に記載の方法。
【0167】
実施形態63.R1=メチル、R2=R3=H、一緒になったR4及びR5は、-CH2-(CH2)2-CH2-、X1=NH、X2=CH2である、実施形態57に記載の方法。
【0168】
実施形態64.方法は、薬学的に許容される賦形剤と共にあるか、またはゲル中にある前記化合物を投与することをさらに含む、実施形態57に記載の方法。
【0169】
実施形態65.方法は、薬学的に許容される賦形剤及び結合剤と共にある前記化合物を投与することをさらに含む、実施形態57に記載の方法。
【0170】
実施形態66.方法は、薬学的に許容される賦形剤と共にあるか、またはカプセル剤中にある前記化合物を投与することをさらに含む、実施形態57に記載の方法。
【0171】
実施形態67.少なくとも1つの抗アポトーシス化合物、抗壊死化合物、神経保護剤または抗炎症剤を投与することをさらに含む、実施形態57に記載の方法。
【0172】
実施形態68.抗アポトーシス化合物、抗壊死化合物、または神経保護剤は、インスリン様増殖因子-I(IGF-I)、インスリン様増殖因子-II(IGF-II)、形質転換増殖因子-β1、アクチビン、成長ホルモン、神経成長因子、成長ホルモン結合タンパク質、IGFBP-3、塩基性線維芽細胞増殖因子、酸性線維芽細胞増殖因子、hst/Kfgk遺伝子産物、FGF-3、FGF-4、FGF-6、ケラチノサイト増殖因子、アンドロゲン誘導性増殖因子、int-2、線維芽細胞増殖因子相同因子-1(FHF-1)、FHF-2、FHF-3、FHF-4、ケラチノサイト増殖因子2、グリア細胞活性化因子、FGF-10、FGF-16、毛様体神経栄養因子、脳由来増殖因子、ニューロトロフィン3、ニューロトロフィン4、骨形成タンパク質2(BMP-2)、グリア細胞株由来神経栄養因子、活性依存性神経栄養因子、サイトカイン白血病抑制因子、オンコスタチンM、インターロイキン、α-インターフェロン、β-インターフェロン、γ-インターフェロン、コンセンサスインターフェロン、TNF-α、クロメチアゾール、キヌレン酸、セマックス、タクロリムス、L-スレオ-1-フェニル-2-デカノイルアミノ-3-モルホリノ-1-プロパノール、副腎皮質刺激ホルモン-(4-9)類似体(ORG 2766)、ジゾルシピン[MK-801]、セレギリン、NPS1506、GV1505260、MK-801、GV150526、2,3-ジヒドロキシ-6-ニトロ-7-スルファモイルベンゾ(f)キノキサリン(NBQX)、LY303070、LY300164、ならびに抗MAdCAM-1抗体MECA-367からなる群から選択される、実施形態67に記載の方法。
【0173】
実施形態69.前記化合物はcG-2-アリルPである、実施形態57に記載の方法。
【0174】
実施形態70.前記化合物は環状シクロヘキシル-G-2MePである、実施形態57に記載の方法。
【0175】
実施形態71.前記化合物は環状シクロペンチル-G-2MePである、実施形態57に記載の方法。
【0176】
実施形態72.ピット・ホプキンス症候群の症状を処置するための組成物であって、環状グリシル-2-アリルプロリン(cG-2-アリルP)、環状シクロヘキシル-G-2MeP、または環状シクロペンチル-G-2MePを含む薬学的有効量の化合物を含む、前記組成物。
【0177】
実施形態73.前記化合物は環状シクロヘキシル-G-2MePである、実施形態72に記載の組成物。
【0178】
実施形態74.前記化合物は環状G-2-アリルPである、実施形態72に記載の組成物。
【0179】
実施形態75.前記化合物は環状シクロペンチル-G-2MePである、実施形態72に記載の組成物。
【0180】
実施形態76.ピット・ホプキンス症候群の症状を、このような障害に罹患している哺乳動物において処置するための組成物であって、式:
【化12】
の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物(ここで、
X
1は、NR´、O及びSからなる群から選択され;
X
2は、CH
2、NR´、O及びSからなる群から選択され;
R
1、R
2、R
3、R
4及びR
5は、-H、-OR´、-SR´、-NR´R´、-NO
2、-CN、-C(O)R´、-C(O)OR´、-C(O)NR´R´、-C(NR´)NR´R´、トリハロメチル、ハロゲン、アルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、置換ヘテロアルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アリールアルキル、置換アリールアルキル、ヘテロアリールアルキル及び置換ヘテロアリールアルキルからなる群から独立して選択され;各R´は、-H、アルキル、ヘテロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリール及びヘテロアリールアルキルからなる群から独立して選択され;
または、一緒になったR
4及びR
5は、-CH
2-(CH
2)
n-CH
2-であり、ここで、nは0~6の整数であり;
または、一緒になったR
2及びR
3は、-CH
2-(CH
2)
n-CH
2-であり、ここで、nは0~6の整数であり;
但し、R
1=メチル及びR
2=R
3=R
4=Hである場合、R
5≠ベンジルであり;ならびに
R
1=Hである場合、R
2及びR
3の少なくとも1つが≠Hであることを条件とする)を含む、前記組成物。
【0181】
実施形態77.R1=メチルである、実施形態76に記載の組成物。
【0182】
実施形態78.R1=アリルである、実施形態76に記載の組成物。
【0183】
実施形態79.R2=R3=メチルであり、X2=Sである、実施形態76に記載の組成物。
【0184】
実施形態80.R1=アリル、R2=R3=R4=R5=H、X1=NH、X2=CH2である、実施形態76に記載の組成物。
【0185】
実施形態81.R1=メチル、R2=R3=H、一緒になったR4及びR5は、-CH2-(CH2)3-CH2-、X1=NH、X2=CH2である、実施形態76に記載の組成物。
【0186】
実施形態82.R1=メチル、R2=R3=H、一緒になったR4及びR5は、-CH2-(CH2)2-CH2-、X1=NH、X2=CH2である、実施形態76に記載の組成物。
【0187】
実施形態83.薬学的に許容される賦形剤中、またはゲル中にある前記化合物をさらに含む、実施形態76~82のいずれか1項に記載の組成物。
【0188】
実施形態84.薬学的に許容される賦形剤及び結合剤を伴う前記化合物をさらに含む、実施形態76~83のいずれか1項に記載の組成物。
【0189】
実施形態85.使用は、薬学的に許容される賦形剤を伴うか、またはカプセル剤中にある前記化合物をさらに含む、実施形態76~84のいずれか1項に記載の組成物。
【0190】
実施形態86.少なくとも1つの抗アポトーシス化合物、抗壊死化合物、神経保護剤または抗炎症剤をさらに含む、実施形態76~85のいずれか1項に記載の組成物。
【0191】
実施形態87.抗アポトーシス化合物、抗壊死化合物、または神経保護剤は、インスリン様増殖因子-I(IGF-I)、インスリン様増殖因子-II(IGF-II)、形質転換増殖因子-β1、アクチビン、成長ホルモン、神経成長因子、成長ホルモン結合タンパク質、IGFBP-3、塩基性線維芽細胞増殖因子、酸性線維芽細胞増殖因子、hst/Kfgk遺伝子産物、FGF-3、FGF-4、FGF-6、ケラチノサイト増殖因子、アンドロゲン誘導性増殖因子、int-2、線維芽細胞増殖因子相同因子-1(FHF-1)、FHF-2、FHF-3、FHF-4、ケラチノサイト増殖因子2、グリア細胞活性化因子、FGF-10、FGF-16、毛様体神経栄養因子、脳由来増殖因子、ニューロトロフィン3、ニューロトロフィン4、骨形成タンパク質2(BMP-2)、グリア細胞株由来神経栄養因子、活性依存性神経栄養因子、サイトカイン白血病抑制因子、オンコスタチンM、インターロイキン、α-インターフェロン、β-インターフェロン、γ-インターフェロン、コンセンサスインターフェロン、TNF-α、クロメチアゾール、キヌレン酸、セマックス、タクロリムス、L-スレオ-1-フェニル-2-デカノイルアミノ-3-モルホリノ-1-プロパノール、副腎皮質刺激ホルモン-(4-9)類似体(ORG 2766)、ジゾルシピン[MK-801]、セレギリン、NPS1506、GV1505260、MK-801、GV150526、2,3-ジヒドロキシ-6-ニトロ-7-スルファモイルベンゾ(f)キノキサリン(NBQX)、LY303070、LY300164、ならびに抗MAdCAM-1抗体MECA-367からなる群から選択される、実施形態86に記載の組成物。
【0192】
実施形態88.前記化合物は環状G-2-アリルPである、実施形態76~87のいずれか1項に記載の組成物。
【0193】
実施形態89.前記化合物は環状シクロヘキシル-G-2MePである、実施形態76~87のいずれか1項に記載の組成物。
【0194】
実施形態90.前記化合物は環状シクロペンチル-G-2MePである、実施形態76~87のいずれか1項に記載の組成物。
【0195】
実施形態91.錠剤中に、1つ以上の賦形剤、担体、添加剤、アジュバントまたは結合剤をさらに含む、実施形態76に記載の組成物。
【0196】
実施形態92.カプセル剤中に、マイクロエマルション、粗大なエマルション、または液晶をさらに含む、実施形態76に記載の組成物。
【0197】
実施形態93.前記処置は、Aberrant Behavior Checklist Community Edition(ABC)、Vineland Adaptive Behavior Scales、Clinical Global Impression of Severity(CGI-S)、Clinical Global Impression Improvement(CGI-I)、Caregiver Strain Questionnaire(CSQ)からなる群から選択される1つ以上の臨床検査、または、前記障害に罹患していない対照動物と比較した、脳波(EEG)のスパイク周波数、EEGの周波数帯域における全体的な出力、半球EEG周波数コヒーレンス、常同的な手の動き、QTc及び心拍変動(HRV)、ERK1/2及びAktの異常な発現または活性化、成長関連タンパク質-43(GAP-43)の異常発現、シナプトフィジン(SYN)の異常発現、不規則な呼吸、ならびに心機能と呼吸機能の連関からなる群から選択される1つ以上の生理学的検査を使用して評価しながら、PTHSの症状を改善する、実施形態57~71のいずれか1項に記載の方法。
【0198】
実施形態94.前記PTHSの症状は、記憶喪失、空間定位の喪失、学習能力の減少、短期もしくは長期記憶を形成する能力の減少、エピソード記憶の減少、記憶を固定する能力の減少、空間記憶の減少、シナプス形成の減少、シナプス安定性の減少、実行機能の欠損、認知地図及び場面記憶の欠損、陳述及び関連記憶の欠損、迅速な構成的もしくは接続的関係の取得の低下、文脈特有の具体的事象のコード化及び想起の減少、エピソード及び/もしくはエピソード様記憶の減少、不安、異常な恐怖条件付け、異常な社会的行動、反復的行動、異常な夜間行動、発作活性、異常な自発運動、ERK1/2及びAktの異常な発現もしくは活性化、ならびに徐脈のうちの1つ以上の兆候または症状である、認知機能障害または認知機能不全である、実施形態57~71または93のいずれか1項に記載の方法。
【0199】
実施形態95.化合物の用量が約0.001mg/kg~約600mg/kgである、実施形態1~71または93~94のいずれか1項に記載の方法。
【0200】
実施形態96.化合物の量が、約0.001mg/kg~約600mg/kgの範囲内にある化合物の投与量をもたらすのに十分である、実施形態72~92のいずれか1項に記載の組成物。
【0201】
実施形態97.前記動物または哺乳動物はヒトである、実施形態1~96のいずれか1項以上に記載のもの。
【実施例】
【0202】
本開示を、以下の実施例によりさらに説明する。これらの実施例は、単に実例として示されるものであり、本発明の範囲の限定を意図するものではない。
【0203】
実施例1:化合物の一般的な合成方法
フラッシュクロマトグラフィーは、Scharlau 60(40~60μmメッシュ)シリカゲルを使用して実施した。分析用薄層クロマトグラフィーを0.20mmプレコートシリカゲルプレート(ALUGRAM(登録商標)SIL G/UV254)上で行い、化合物を、UV蛍光を使用するか、またはアルカリ性溶液中の過マンガン酸カリウムに浸したプレートを加熱して可視化した。
【0204】
摂氏温度(℃)での融点は、Electrothermal(登録商標)融点測定装置で補正せずに測定した。
【0205】
旋光度は、Perkin Elmer 341旋光計で光路長10cmセルを使用して20℃にて測定し、単位は10-1degcm2g-1で示している。試料は、必要とされる溶媒中で、規定の濃度(g/100cm3で測定)にて調製した。IRスペクトルは、Perkin Elmer Spectrum One FT-IR分光計で記録した。試料は、塩化ナトリウムディスク上の薄膜として、または臭化カリウムディスク中の固体として調製した。幅広いシグナルは、brで指し示した。吸収極大の周波数(ν)は波数(cm-1)で示す。
【0206】
NMRスペクトルは、Bruker AVANCE DRX400(1H、400MHz;13C、100MHz)またはBruker AVANCE300(1H、300MHz;13C、75MHz)分光計で、周囲温度にて記録した。1H NMRデータについて、化学シフト値は、SiMe4から低磁場に百万分率(ppm)で記載し、位置(δH)、積分比、多重度(s=一重線、d=二重線、t=三重線、dd=二重線の二重線、m=多重線、br=幅広線)、結合定数J/Hz)及び帰属として連続的に報告する。13C NMRデータについて、化学シフト値は、CDCl3と比較してppmで記載し、位置(δC)、DEPT法で判別された混成の度合い及び帰属として連続的に報告する。1H NMRスペクトルでは、SiMe4(δ0.00)またはCDCl3(δ7.26)を内部基準とした。13C NMRスペクトルでは、CDCl3(δ77.0)を内部基準とした。グリシン-プロリンアミド結合周辺の異なる立体構造に起因して、NMRスペクトルに2セットのピークが生じる場合、少数のcis立体構造異性体についての化学シフトにアスタリスク(*)で印を付ける。
【0207】
正確な質量は、VG-70SE質量分析計で測定し記録した。
【0208】
ヘキサン及びジクロロメタンは、使用する前に蒸留した。メタノールは、マグネシウムの削りくず及びヨウ素を使用して乾燥し、窒素下で蒸留した。トリエチルアミンは、水素化カルシウム上で乾燥し、窒素下で蒸留した。
【0209】
実施例2:(8aS)-メチル-ヘキサヒドロピロロ[1,2-a]ピラジン-1,-ジオン(環状G-2MeP)の合成
【化13】
スキーム1:試薬、条件及び収量:(i)LDA、THF、-78℃、ヨードメタン、-78->-50℃、2時間(63%);(ii)SOCl
2、CH
3OH、還流、N
2、2.5時間(98%);(iii)Et
3N、BoPCl、CH
2Cl
2、室温、N
2、20.5時間(78%);(iv)10%Pd/C、CH
3OH、室温、15時間(98%)。
【0210】
(2R,5S)-4-メチル-2-トリクロロメチル-1-アザ-3-オキサビシクロ[3.3.0]オクタン-4-オン 9
n-BuLi(1.31M、4.68cm3、6.14mmol)を、乾燥テトラヒドロフラン(10cm3)中のジイソプロピルアミン(0.86cm3、6.14mmol)撹拌溶液に、窒素雰囲気下、-78℃で滴加した。溶液を5分間撹拌し、0℃に温め、15分間撹拌した。次いで、溶液を乾燥テトラヒドロフラン(20cm3)中のオキサゾリジノン 8(1.00g、4.09mmol)溶液に、-78℃で20分間かけて滴加し(暗褐色に変化)、さらに30分間撹拌し、次いで、ヨードメタン(0.76cm3、12.3mmol)を5分間かけて滴加した。溶液を2時間かけて-50℃に温めた。水(15cm3)を添加し、溶液を室温に温め、クロロホルム(3×40cm3)で抽出した。合わせた有機抽出物を乾燥し(MgSO4)、濾過し、減圧下で乾燥状態まで蒸発させて、暗褐色の半固体を得た。残留物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(15%酢酸エチル-ヘキサン)で精製することにより、淡黄色固体としてオキサゾリジノン 9(0.67g、63%)を得た:融点55-57℃(文献値,57-60℃);δH(300MHz,CDCl3)1.53(3H,s,CH3),1.72-2.02(3H,m,Proβ-H及びProγ-H2),2.18-2.26(1H,m,Proβ-H),3.15-3.22(1H,m,Proδ-H),3.35-3.44(1H,m,Proδ-H)及び4.99(1H,s,NCH)。
【0211】
L-2-メチルプロリン酸メチル塩酸塩 10
a)塩化アセチルの使用
オキサゾリジノン 9(0.60g、2.33mmol)を、窒素雰囲気下、乾燥メタノール(15cm3)中に溶解し、塩化アセチル(0.33cm3、4.66mmol)を氷冷溶液に滴加した。溶液を還流しながら4.5時間加熱し、次いで、減圧下で溶媒を除去して、褐色油を得、これをフラッシュカラムクロマトグラフィー(10%CH3OH-CH2Cl2)で精製することにより、鱗状の白色固体として塩酸塩 10(0.2g、48%)を得た:融点107-109℃(文献値,106-108℃);δH(300MHz,CDCl3)1.81(3H,s,CH3),1.93-2.14(3H,m,Proβ-HAHB及びProγ-H2),2.33-2.39(1H,m,Proβ-HAHB),3.52-3.56(2H,m,Proδ-H2)及び3.82(3H,s,CO2CH3)。
【0212】
b)塩化チオニルの使用
乾燥メタノール(1cm3)中のオキサゾリジノン 9(53mg、0.21mmol)氷冷溶液を、塩化チオニル(0.045cm3、0.62mmol)で滴下処理した。溶液を還流しながら2.5時間加熱し、冷却し、減圧下で溶媒を除去して、褐色油を得た。油をトルエン(5cm3)中に溶解し、乾燥状態まで濃縮して、残留している塩化チオニル及びメタノールを除去し、次いで、フラッシュカラムクロマトグラフィー(10%CH3OH-CH2Cl2)で精製して、鱗状の白色固体として塩酸塩 10(16mg、43%)を得た。1H NMRの帰属は上で報告したものと一致した。
【0213】
メチル-N-ベンジルオキシカルボニル-グリシル-L-2-プロリン酸メチル 12
乾燥トリエチルアミン(0.27cm3、1.96mmol)を、乾燥ジクロロメタン(35cm3)中の塩酸塩 10(0.11g、0.61mmol)及びN-ベンジルオキシカルボニル-グリシン 11(98.5%)(0.17g、0.79mmol)溶液に、窒素雰囲気下、室温で滴加し、反応混合物を10分間撹拌した。Bis(2-オキソ-3-オキサゾリジニル)ホスフィン酸クロリド(BoPCl、97%)(0.196g、0.77mmol)を添加し、得られた無色溶液を20.5時間撹拌した。溶液を10%塩酸水溶液(30cm3)及び炭素水素ナトリウム飽和水溶液(30cm3)で続けて洗浄し、乾燥し(MgSO4)、濾過し、減圧下で乾燥状態まで蒸発させた。得られた残留物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(50~80%酢酸エチル-ヘキサン;グラジエント溶出)で精製して、ジペプチド 12(0.18g、92%)を無色油として得た。アミド 12は、13C NMR分析によって、trans:cisが98:2の立体構造異性体の混合物として存在することが示された(比は、少数及び多数の立体構造異性体それぞれのProγ-C原子に帰属されるδ20.8及び23.5での共鳴の相対強度から推定した):[α]D-33.0(MeOH中c1.0);νmax(フィルム)/cm-13406,2952,1732,1651,1521,1434,1373,1329,1310,1284,1257,1220,1195,1172,1135,1107,1082,1052,1029,986,965,907,876,829,775,738及び699;δH(300MHz,CDCl3)1.49(3H,s,CH3),1.77-2.11(4H,m,Proβ-H2及びProγ-H2),3.43-3.48(2H,m,Proδ-H2),3.61(3H,s,OCH3),3.85-3.89(2H,m,Glyα-H2),5.04(2H,s,PhCH2),5.76(1H,brs,N-H)及び7.21-7.28(5H,s,ArH);δC(75MHz,CDCl3)13.8*(CH3,Proα-CH3),21.1(CH3,Proα-CH3),20.8*(CH2,Proγ-C),23.5(CH2,Proγ-C),38.0(CH2,Proβ-C),40.8*(CH2,Proβ-C),43.3(CH2,Glyα-C),45.5*(CH2,Glyα-C),46.6(CH2,Proδ-C),48.7*(CH2,Proδ-C),51.9*(CH3,OCH3),52.1(CH3,OCH3),60.0*(四重線,Proα-C),66.0(四重線,Proα-C),66.3(CH2,PhCH2),68.6*(CH2,PhCH2),127.5(CH,Ph),127.6(CH,Ph),127.9*(CH,Ph),128.1(CH,Ph),128.3*(CH,Ph),136.2(四重線,Ph),155.9(四重線,NCO2),166.0(四重線,Gly-CON),169.4*(四重線,Gly-CON)及び173.6(四重線,CO2CH3);m/z(EI+)334.1535(M+.C17H22N2O5に対する計算値334.1529)。
【0214】
(8aS)-メチル-ヘキサヒドロピロロ[1,2-a]ピラジン-1,4-ジオン(環状G-2MeP)
メタノール(8.0cm3)中のジペプチド 12(0.167g、0.51mmol)溶液に、活性炭上の10%Pd(8.1mg、0.076mmol)を添加し、容器に水素ガスを流した。得られた懸濁液を、水素雰囲気下、激しく15時間撹拌した。次いで、混合物をCeliteパッド、さらに短いシリカゲルプラグに通してメタノールで濾過し、減圧下で溶媒を除去して、環状G-2MeP(83mg、98%)を黄色固体として得た:融点133-135℃;[α]D-128.1(MeOH中c0.52);δH(300MHz,CDCl3)1.36(3H,s,CH3),1.87-2.01(3H,m,Proβ-HAHB及びProγ-H2),2.07-2.21(1H,m,Proβ-HAHB),3.45-3.64(2H,m,Proδ-H2),3.82(1H,dd,J17.1及び4.1,CHAHBNH),3.99(1H,d,J17.1,CHAHBNH)及び7.66(1H,brs,N-H);δC(75MHz,CDCl3)20.2(CH2,Proγ-C),23.2(CH3,Proα-CH3),35.0(CH2,Proβ-C),44.7(CH2,Proδ-C),45.9(CH2,CH2NH),63.8(四重線,Proα-C),163.3(四重線,NCO)及び173.3(四重線,CONH);m/z(EI+)168.08986(M+.C8H12N2O2に対する計算値168.08988)。
【0215】
実施例3:(8aS)-メチル-スピロ[シクロヘキサン-1,3(4H)-
テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピラジン]-1,4(2H)-ジオン(環状シクロヘキシル-G-2-MeP)の合成
【化14】
スキーム2:試薬、条件及び収量:(i)BnO
2CCl、Na
2CO
3、H
2O-ジオキサン(3:1)、19時間、96%;(ii)Et
3N、HOAt、CIP、1,2-ジクロロエタン、還流、N
2、19時間(23%);(iii)10%Pd/C、CH
3OH、室温、17時間(65%)。
【0216】
N-ベンジルオキシカルボニル-1-アミノシクロヘキサン-1-カルボン酸(14)
水-ジオキサン(21cm3、3:1)中に溶解した1-アミノシクロヘキサンカルボン酸 13(0.72g、5.02mmol)及び炭酸ナトリウム(1.6g、15.1mmol)の懸濁液に、クロロギ酸ベンジル(0.79cm3、5.52mmol)を滴加し、溶液を室温で19.5時間撹拌した。水層をジエチルエーテル(60cm3)で洗浄し、2MのHClで酸性化し、酢酸エチル(2×60cm3)で抽出した。有機層を合わせ、乾燥し(MgSO4)、濾過し、減圧下で蒸発させて、静置させると白色固体としての粗製カルバミン酸塩 14(1.23g、88%)に固化する無色油を得た:融点152-154℃(文献値,148-150℃);δH(400MHz,CDCl3)1.27-1.56(3H,m,3xシクロヘキシル-H),1.59-1.73(3H,m,3xシクロヘキシル-H),1.85-1.91(2H,m,2xシクロペンチル-H),2.05-2.09(2H,m,2xシクロペンチル-H),5.02(1H,brs,N-H),5.12(2H,s,OCH2Ph)及び7.27-7.36(5H,s,Ph);δC(100MHz,CDCl3)21.1(CH2,2xシクロヘキシル-C),25.1(CH2,2xシクロヘキシル-C),32.3(CH2,シクロヘキシル-C),59.0(四重線,1-C),67.1(CH2,OCH2Ph),128.1(CH,Ph),128.2(CH,Ph),128.5(CH,Ph),136.1(四重線,Ph),155.7(四重線,NCO2)及び178.7(四重線,CO2H)。
【0217】
メチル-N-ベンジルオキシカルボニル-シクロヘキシル-グリシル-L-2-プロリン酸メチル(15)
乾燥トリエチルアミン(0.21cm3、1.5mmol)を乾燥1,2-ジクロロエタン(26cm3)中の塩酸塩 10(84.0mg、0.47mmol)、カルボン酸 14(0.17g、0.61mmol)及び1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(16mg、0.12mmol)溶液に、窒素雰囲気下、室温で滴加し、反応混合物を10分間撹拌した。2-クロロ-1,3-ジメチルイミダゾリジニウムヘキサフルオロホスフェート(0.13g、0.47mmol)を添加し、得られた溶液を還流しながら21時間加熱し、次いで、10%塩酸水溶液(30cm3)及び炭素水素ナトリウム飽和水溶液(30cm3)で続けて洗浄し、乾燥し(MgSO4)、濾過し、減圧下で乾燥状態まで蒸発させた。得られた残留物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(40~50%酢酸エチル-ヘキサン;グラジエント溶出)で精製して、アミド 15(16mg、9%)を白色固体として得た。アミド 15は、13C NMR分析によって、trans:cisが11:1の立体構造異性体の混合物として存在することが示された(比は、少数及び多数の立体構造異性体それぞれのProδ-C原子に帰属されるδ41.3及び48.2での共鳴の相対強度から推定した):融点219-222℃;[α]D-44.9(CH2Cl2中c1.31);νmax(フィルム)/cm-13239,2927,1736,1707,1617,1530,1450,1403,1371,1281,1241,1208,1194,1165,1150,1132,1089,1071,1028,984,912,796,749,739及び699;δH(400MHz,CDCl3)1.24-2.10(17H,m,Proα-CH3,Proβ-H2,Proγ-H2及び5xシクロヘキシル-H2),3.25-3.48(1H,brm,Proδ-HAHB),3.61-3.87(4H,brm,OCH3及びProδ-HAHB),4.92-5.19(3H,m,N-H及びOCH2Ph)及び7.35-7.37(5H,s,Ph);δC(100MHz,CDCl3)21.26(CH2,シクロヘキシル-C),21.33(CH2,シクロヘキシル-C),21.7(CH3,Proα-CH3),24.8(CH2,シクロヘキシル-C),25.0(CH2,Proγ-C),29.4*(CH2,シクロヘキシル-C),29.7*(CH2,シクロヘキシル-C),31.1(CH2,シクロヘキシル-C),31.6(CH2,シクロヘキシル-C),31.9*(CH2,シクロヘキシル-C),32.2*(CH2,シクロヘキシル-C),32.8*(CH2,シクロヘキシル-C),37.3(CH2,Proβ-C),41.4*(CH2,Proδ-C),48.2(CH2,Proδ-C),52.1(CH3,OCH3),59.1(四重線,Glyα-C),66.7(CH2,OCH2Ph),67.3*(CH2,OCH2Ph),67.4(四重線,Proα-C),128.0*(CH,Ph),128.1*(CH,Ph),128.3(CH,Ph),128.5(CH,Ph),128.7(CH,Ph),136.6(四重線,Ph),153.7(四重線,NCO2),171.0(四重線,Gly-CO)及び174.8(四重線,CO2CH3);m/z(EI+)402.2151(M+.C22H30N2O5に対する計算値402.2155)。
【0218】
(8aS)-メチル-スピロ[シクロヘキサン-1,3(4H)-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピラジン]-1,4(2H)-ジオン(環状シクロヘキシル-G-2MeP)
メタノール(3.3cm3)中のアミド 15(40mg、0.01mmol)溶液に、活性炭上の10%Pd(1.6mg、0.015mmol)を添加し、容器に水素ガスを流した。得られた懸濁液を、水素雰囲気下、激しく61.5時間撹拌し、次いで、Celite(商標)パッドに通してメタノール(15cm3)で濾過した。濾液を減圧下で乾燥状態まで濃縮して、黄色の半固体を得、これを逆相C18フラッシュカラムクロマトグラフィー(0~10%CH3CN/H2O;グラジエント溶出)で精製して、環状シクロヘキシル-G-2MeP(19mg、81%)を白色固体として得た:融点174-177℃;[α]D-63.8(CH2Cl2中c1.13);νmax(フィルム)/cm-13215,2925,2854,1667,1646,1463,1427,1276,1232,1171,1085,1014,900,868,818,783,726及び715;δH(400MHz,CDCl3)1.31-1.89(12H,m,9xシクロヘキシル-H及び8a-CH3),1.94-2.15(4H,m,7-H2及び8-H2),2.26(1H,td,J13.7及び4.5,1xシクロヘキシル-H),3.44-3.51(1H,m,6-HAHB),3.79-3.86(1H,m,6-HAHB)及び6.40(1H,brs,N-H);δC(100MHz,CDCl3)19.5(CH2,7-C),20.6(CH2,シクロヘキシル-C),20.8(CH2,シクロヘキシル-C),24.5(CH2,シクロヘキシル-C),25.0(CH3,8a-CH3),33.7(CH2,シクロヘキシル-C),36.3(CH2,8-C),36.5(CH2,シクロヘキシル-C),44.7(CH2,6-C),59.5(四重線,8a-C),64.0(四重線,3-C),168.1(四重線,4-C)及び171.6(四重線,1-C);m/z(EI+)236.15246(M+.C13H20N2O2に対する計算値236.15248)。
【0219】
実施例4:(8aS)-アリル-ヘキサヒドロピロロ[1,2-a]ピラジン-1,4-ジオン(環状G-2-アリルP)の合成
【化15】
スキーム3:試薬、条件及び収量:(i)LDA、THF、-78℃、臭化アリル、-78->-30℃、N
2、4時間(60%);(ii)塩化アセチル、CH
3OH、還流、N
2、24時間(63%);(iii)Et
3N、BoPCl、CH
2Cl
2、室温、N
2、19.5時間(45%);(iv)TFA、CH
2Cl
2、1時間、次いでEt
3N、CH
2Cl
2、23時間(37%)。
【0220】
(2R,5S)-4-アリル-2-トリクロロメチル-1-アザ-3-オキサビシクロ[3.3.0]オクタン-4-オン 17
n-BuLi(1.31M、9.93cm3、13.0mmol)を、乾燥テトラヒドロフラン(20cm3)中のジイソプロピルアミン(1.82cm3、13.0mmol)撹拌溶液に、窒素雰囲気下、-78℃で滴加した。溶液を5分間撹拌し、0℃に温め、15分間撹拌し、次いで、乾燥テトラヒドロフラン(40cm3)中のプロオキサゾリジノン 16(2.12g、8.68mmol)溶液に、-78℃で20分間かけて滴加し、反応混合物をさらに30分間撹拌し、次いで、臭化アリル(2.25cm3、26.0mmol)を5分間かけて滴加した。溶液を-30℃に4時間かけてゆっくり温め、H2O(30cm3)でクエンチし、混合物を室温に温め、クロロホルム(3×80cm3)で抽出した。合わせた有機抽出物を乾燥し(MgSO4)、濾過し、減圧下で乾燥状態まで蒸発させて、暗褐色の半固体を得、これをフラッシュカラムクロマトグラフィー(10~20%酢酸エチル-ヘキサン;グラジエント溶出)で精製して、0℃で固化する橙色油としてオキサゾリジノン 17(1.48g、60%)を得た。これに関するnmrデータは、文献において報告されているものと一致した:δH(400MHz,CDCl3)1.58-1.92(2H,m,Proγ-H2),1.96-2.14(2H,m,Proβ-H2),2.50-2.63(2H,m,Proδ-H2),3.12-3.23(2H,m,CH2-CH=CH2),4.97(1H,s,NCH),5.13-5.18(2H,m,CH=CH2)及び5.82-5.92(1H,m,CH=CH2);δC(100MHz,CDCl3)25.1(CH2,Proγ-C),35.1(CH2,Proβ-C),41.5(CH2,Proδ-C),58.3(CH2,CH2CH=CH2),71.2(四重線,Proα-C),100.4(四重線,CCl3),102.3(CH,NCH),119.8(CH2,CH2CH=CH2),131.9(CH,CH2CH=CH2)及び176.1(四重線,C=O);m/z(CI+)284.0009[(M+H)+.C10H13
35Cl3NO2に対する計算値284.0012],285.9980[(M+H)+.C10H13
35Cl2
37ClNO2に対する計算値285.9982],287.9951[(M+H)+.C10H13
35Cl37Cl2NO2に対する計算値287.9953]及び289.9932[(M+H)+.C10H13
37Cl3NO2に対する計算値289.9923]。
【0221】
L-2-プロリン酸アリルメチル塩酸塩 18
乾燥メタノール(15cm3)中のオキサゾリジノン 17(0.64g、2.24mmol)氷冷溶液を、メタノール(5cm3)中の塩化アセチル(0.36cm3、5.0mmol)溶液で、滴下処理した。溶液を還流しながら24時間加熱し、次いで冷却し、減圧下で溶媒を除去した。得られた褐色油をトルエン(40cm3)中に溶解し、乾燥状態まで濃縮して、残留している塩化チオニル及びメタノールを除去し、次いで、フラッシュカラムクロマトグラフィー(5~10%CH3OH-CH2Cl2;グラジエント溶出)で精製して、塩酸塩 18(0.29g、63%)を緑色固体として得た。これに関するnmrデータは、文献において報告されているものと一致した:δH(300MHz,CDCl3)1.72-2.25(3H,m,Proβ-HAHB及びProγ-H2),2.32-2.52(1H,m,Proβ-HAHB),2.72-3.10(2H,m,Proδ-H2),3.31-3.78(2H,m,CH2CH=CH2),3.84(3H,s,CO2CH3),5.20-5.33(2H,m,CH=CH2),5.75-5.98(1H,m,CH=CH2)及び8.06(1H,brs,N-H);m/z(CI+)170.1183[(M+H)+.C9H16NO2に対する計算値170.1181]。
【0222】
メチル-N-tert-ブチルオキシカルボニル-グリシル-L-2-プロリン酸アリル 20
乾燥トリエチルアミン(0.28cm3、2.02mmol)を、乾燥ジクロロメタン(35cm3))中の塩酸塩 18(0.13g、0.63mmol)及びN-tert-ブチルオキシカルボニル-グリシン 19(0.14g、0.82mmol)溶液に、窒素雰囲気下、室温で滴加し、反応混合物を10分間撹拌した。Bis(2-オキソ-3-オキサゾリジニル)ホスフィン酸クロリド(BoPCl、97%)(0.20g、0.80mmol)を添加し、溶液を19.5時間撹拌した。次いで10%塩酸水溶液(35cm3)及び炭素水素ナトリウム飽和水溶液(35cm3)で続けて洗浄し、乾燥し(MgSO4)、濾過し、減圧下で乾燥状態まで蒸発させた。得られた残留物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(40%酢酸エチル-ヘキサン)で精製して、ジペプチド 20(0.09g、45%)を淡黄色油として得た:[α]D+33.8(CH2Cl2中c0.83);νmax(フィルム)/cm-13419,3075,2977,2930,2874,1739,1715,1656,1499,1434,1392,1366,1332,1268,1248,1212,1168,1122,1051,1026,1003,943,919,867,830,779,739,699及び679;δH(300MHz,CDCl3)1.42[9H,s,C(CH3)3],1.93-2.08(4H,m,Proβ-H2及びProγ-H2),2.59-2.67(1H,m,CHAHBCH=CH2),3.09-3.16(1H,m,CHAHBCH=CH2),3.35-3.44(1H,m,Proδ-HAHB),3.56-3.62(1H,m,Proδ-HAHB),3.70(3H,s,OCH3),3.89(2H,d,J4.2,Glyα-H2),5.06-5.11(2H,m,CH=CH2),5.42(1H,brs,Gly-NH)及び5.58-5.72(1H,m,CH=CH2);δC(75MHz,CDCl3)23.7(CH2,Proγ-C),28.3[CH3,C(CH3)3],35.0(CH2,Proβ-C),37.6(CH2,CH2CH=CH2),43.3(CH2,Glyα-C),47.5(CH2,Proδ-C),52.5(CH3,OCH3),68.8(四重線,Proα-C),79.5[四重線,C(CH3)3],119.4(CH2,CH=CH2),132.9(CH,CH=CH2),155.7(四重線,NCO2),166.9(四重線,Gly-CON)及び173.8(四重線,CO2CH3);m/z(EI+)326.1845(M+.C16H26N2O5に対する計算値326.1842)。
【0223】
(8aS)-アリル-ヘキサヒドロピロロ[1,2-a]ピラジン-1,4-ジオン(環状G-2アリルP)
ジクロロメタン(9cm3)中のジペプチド 20(0.09g、0.28mmol)溶液に、トリフルオロ酢酸(1cm3、0.013mmol)を室温で滴加し、反応混合物を、窒素雰囲気下、1時間撹拌した。溶液を減圧下で蒸発させて、無色油を得、これをジクロロメタン(10cm3)中に溶解し、乾燥トリエチルアミン(0.096cm3、0.69mmol)を添加し、反応混合物を4.5時間撹拌し、その後さらに、トリエチルアミン(0.096cm3、0.69mmol)を添加した。反応混合物を一晩撹拌し、乾燥状態まで濃縮して緑色油を得、これをフラッシュカラムクロマトグラフィー(10%CH3OH-CH2Cl2)で精製して、環状G-2アリルP(20mg、37%)をオフホワイト固体として得た:融点106-109℃;[α]D-102.7(CH2Cl2中c0.95);νmax(CH2Cl2)/cm-13456,3226,2920,1666,1454,1325,1306,1299,1210,1133,1109,1028,1010,949,928,882,793,761及び733;δH(400MHz,CDCl3)1.92-2.01(2H,m,Proγ-H2),2.09-2.16(2H,m,Proβ-H2),2.39-2.56(2H,m,CH2CH2=CH2),3.46-3.53(1H,m,Proδ-HAHB),3.78-3.87(2H,m,Proδ-HAHB及びGlyα-HAHB),4.09(1H,d,J17.2,Glyα-HAHB),5.16-5.20(2H,m,CH=CH2),5.73-5.84(1H,m,CH=CH2)及び7.17(1H,brs,N-H);δC(100MHz,CDCl3)20.1(CH2,Proγ-C),34.1(CH2,Proβ-C),41.7(CH2,CH2CH2=CH2),44.9(CH2,Proδ-C),46.4(CH2,Glyα-C),67.2(四重線,Proα-C),120.9(CH2,CH=CH2),131.0(CH,CH=CH2),163.4(四重線,NCO)及び171.7(四重線,CONH);m/z(EI+)195.1132(M+.C10H15N2O2に対する計算値195.1134)。
【0224】
実施例5:(8aS)-メチル-スピロ[シクロペンタン-1,3(4H)-
テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピラジン]-1,4(2H)-ジオン(環状シクロペンチル-G-2-MeP)の合成
【化16】
スキーム4:試薬、条件及び収量:(i)Et
3N、HOAt、CIP、1,2-ジクロロエタン、83℃、N
2、19時間(23%);(ii)10%Pd/C、CH
3OH、室温、17時間(65%)。
【0225】
N-ベンジルオキシカルボニル-1-アミノシクロペンタン-1-カルボン酸 21
ジオキサン(2.5cm3)中のクロロギ酸ベンジル(0.290g、1.1mmol)溶液を、水(5cm3)中の1-アミノシクロペンタンカルボン酸(Fluka)(0.2g、1.54mmol)及び炭酸ナトリウム(0.490g、4.64mmol)溶液に、0℃で滴加した。撹拌を室温で一晩継続し、反応混合物をエーテルで洗浄した。水層を2Mの塩酸で酸性化し、酢酸エチルで抽出し、乾燥し((Na2SO4)、濾過し、溶媒を除去して、静置すると固化する油としてカルバミン酸塩 21(0.253g、62%)を得た。カルバミン酸塩 21は、1H NMR分析によって、70:30の立体構造異性体混合物であることが示された(比は、多数及び少数の立体構造異性体それぞれのN-Hプロトンに帰属されるδ5.31及び7.29~7.40での共鳴の積分から推定した):融点70-80°C(文献値182-86°C,酢酸エチル,石油エーテル);δH(400MHz;CDCl3;Me4Si)1.83(4H,brs,2xシクロペンチル-H2),2.04(2H,brs,シクロペンチル-H2),2.20-2.40(2H,m,シクロペンチル-H2),5.13(2H,brs,OCH2Ph),5.31(0.7H,brs,N-H)及び7.29-7.40(5.3H,m,Ph及びN-H*);δC(100MHz;CDCl3)24.6(CH2,シクロペンチル-C),37.5(CH2,シクロペンチル-C),66.0(四重線,シクロペンチル-C),66.8(CH2,OCH2Ph),128.0(CH,Ph),128.1(CH,Ph),128.4(CH,Ph),136.1(四重線,Ph),155.8(四重線,NCO2)及び179.5(四重線,CO2H)。
*は少数の立体構造異性体に帰属される共鳴を意味する。
【0226】
N-ベンジルオキシカルボニルシクロペンチル-グリシル-L-2-メチルプロリン酸メチル 22
乾燥トリエチルアミン(0.19cm3、1.4mmol)を乾燥1,2-ジクロロエタン(24cm3)中の塩酸塩 10(78mg、0.43mmol)、カルボン酸 21(0.15g、0.56mmol)及び1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(Acros)(15mg、0.11mmol)溶液に、窒素雰囲気下、室温で滴加し、反応混合物を10分間撹拌した。2-クロロ-1,3-ジメチルイミダゾリジニウムヘキサフルオロホスフェート(CIP)(Aldrich)(0.12g、0.43mmol)を添加し、得られた溶液を還流しながら19時間加熱した。次いで、10%塩酸水溶液(30cm3)及び炭素水素ナトリウム飽和水溶液(30cm3)で続けて洗浄し、乾燥し(MgSO4)、濾過し、減圧下で乾燥状態まで蒸発させた。得られた残留物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(60%酢酸エチル-ヘキサン)で精製して、アミド 22(39mg、23%)を白色固体として得た。アミド 22は、13C NMR分析によって、trans:cisが3:1のカルバミン酸塩の立体構造異性体混合物として存在することが示された(比は、多数及び少数の立体構造異性体それぞれのカルバミン酸カルボニル-C原子に帰属されるδ154.1及び155.7での共鳴の相対強度から推定した):融点200-203℃;[α]D-54.5(CH2Cl2中c1.52);νmax(フィルム)/cm-13432,3239,3042,2953,1736,1712,1627,1540,1455,1417,1439,1374,1282,1256,1216,1194,1171,1156,1136,1100,1081,1042,1020,107,953,917,876,756及び701;δH(400MHz,CDCl3)1.33-1.53(3H,brm,Proα-CH3),1.62-2.20(11H,m,Proβ-H2,Proγ-H2及び7xシクロペンチル-H),2.59-2.71(1H,brm,1xシクロペンチル-H),3.31-3.42(1H,brm,Proδ-HAHB),3.58-3.79(4H,brm,OCH3及びProδ-HAHB),4.92-5.17(3H,m,N-H及びOCH2Ph)及び7.27-7.42(5H,s,Ph);δC(100MHz,CDCl3)21.7(CH3,Proα-CH3),24.1*(CH2,シクロペンチル-C),24.2(CH2,シクロペンチル-C),24.4(CH2,Proγ-C),24.5(CH2,シクロペンチル-C),36.4(CH2,シクロペンチル-C),37.1(CH2,シクロペンチル-C),37.2*(CH2,シクロペンチル-C),37.7(CH2,Proβ-C),38.2*(CH2,シクロペンチル-C),48.5(CH2,Proδ-C),52.1(CH3,OCH3),66.6(CH2,OCH2Ph),66.9(四重線,Proα-C),67.2(四重線,Glyα-C),127.8(CH,Ph),128.2(CH,Ph),128.4(CH,Ph),136.6(四重線,Ph),154.1(四重線,NCO2),155.7*(四重線,NCO2),170.5(四重線,Gly-CO)及び174.7(四重線,CO2CH3);m/z(EI+)388.1991(M+.C21H28N2O5に対する計算値388.1998)。
【0227】
(8aS)-メチル-スピロ[シクロペンタン-1,3(4H)-テトラヒドロピロロ[1,2-a]ピラジン]-1,4(2H)-ジオン(環状シクロペンチル-G-2MeP)
メタノール(4.6cm3)中のアミド 22(54mg、0.14mmol)溶液に、活性炭上の10%Pd(2.2mg、0.021mmol)を添加し、容器に水素ガスを流した。得られた懸濁液を、水素雰囲気下、激しく17時間撹拌し、次いで、Celite(商標)パッドに通してメタノール(15cm3)で濾過した。濾液を減圧下で乾燥状態まで濃縮して、黄色の半固体を得、これを逆相C18フラッシュカラムクロマトグラフィー(0~10%CH3CN/H2O;グラジエント溶出)で精製して、環状シクロペンチル-G-2MeP(20mg、65%)を黄色固体として得た:融点160-163℃;[α]D-97.9(CH2Cl2中c1.61);νmax(フィルム)/cm-13429,2956,2928,2856,1667,1643,1463,1432,1373,1339,1254,1224,1175,1086,1048,976,835,774及び730;δH(300MHz,CDCl3)1.47(3H,brs,8a-CH3),1.56-2.19(11H,m,8-H2,7-H2及び7xシクロペンチル),2.58-2.67(1H,brm,1xシクロペンチル),3.48-3.56(1H,m,6-HAHB),3.72-3.82(1H,m,6-HAHB)及び6.56(1H,brs,N-H);δC(75MHz,CDCl3)19.9(CH2,7-C),24.6(CH2,シクロペンチル),24.92(CH3,8a-CH3),24.93(CH2,シクロペンチル),36.0(CH2,8-C),38.7(CH2,シクロペンチル),41.9(CH2,シクロペンチル),44.8(CH2,6-C),64.3(四重線,8a-C),66.8(四重線,3-C),168.3(四重線,4-C)及び172.2(四重線,1-C);m/z(EI+)222.1369(M+.C12H18N2O2に対する計算値222.1368)。
【0228】
In Vitro及びIn Vivo試験
以下の薬理学的研究は、PTHSの症状を減弱させる環状G-2-アリルPの有効性を実証している。それらは、限定することを意図するものではなく、本発明の他の組成物及び方法が、過度の実験を伴うことなく開発され得る。それらの組成物及び方法のすべては、本開示の一部であるとみなされる。以下の実験はすべて、University of Chile Animal Ethics Committeeまたは同等の規制機関によって承認されたガイドラインの下で開発されたプロトコールを使用して行った。
【0229】
実施例6:経口投与後におけるcG2-アリルPの脳内への送達
In vivo研究において、雄のSprague Dawleyラット(14週齢)に、cG-2-アリルP(100mg/kgまたは200mg/kgのいずれか)を単回経口投与した。投与後1.5時間及び4時間の時点で脳脊髄液(CSF)及び全血を収集し、投与後4時間の時点で脳組織を収集して、cG-2-アリルPの曝露量を評価した。投与後1.5時間でのCSF及び血液中のcG-2-アリルP、ならびに投与後4時間でのCSF、血液、及び脳内のcG-2-アリルPについて、以下の表1に示す。
【0230】
【0231】
単回経口投与1.5時間後の血液及びCSF中cG-2-アリルP、ならびに4時間後の血液、CSF及び脳内のcG-2-アリルPの濃度は、ほぼ比例して増加した。投与4時間後の血液及び脳組織中のcG-2-アリルPの濃度は、ほぼ同等であった。
【0232】
実施例7:ピット・ホプキンス症候群のTcf4+/-マウスモデルにおけるcG-2-アリルPの効果
A.マウスモデルの関連性
数種の遺伝子操作されたPTHSげっ歯類モデルが作製されている(Thaxton et al,2018;Sweatt, 2013)。これらのモデルは、ヘテロ接合性Tcf4(Tcf4+/-)の周囲に共通の塩基を持つ。ハプロ不全のマウス(Tcf4+/-)は、PTHSのモデル系として特徴づけられている(Kennedy et al,2016)。Kennedy et al(2016)による研究では、Tcf4+/-マウスが、社会的相互作用に対する嫌悪、学習能力の欠如、及び総合的な運動制御の障害を含む、PTHSに関連する認知及び運動調節障害に一致する行動を示すことが明らかになった。
【0233】
B.実験計画
In vivo行動研究は、Gen.DDI(Santiago,Chile)が、Tcf4+/-変異マウス及び野生型同腹仔対照(WT)マウスで実施した。同腹仔対照は、Tcf4+/+の遺伝子型で構成される。Tcf4ホモ接合性変異体は胎生期から生後1日目で致死するため、Tcf4変異マウスはすべてTcf4ヘテロ接合性変異体を使用した。行動実験には、14週齢のマウスを処置群当たり10匹使用した。実験は、UK Animals (Scientific Procedures) Act, 1986の要件に沿って行った。マウスはプラスチックケージ(35×30×12cm)に5匹ずつ収容し、試験開始前に少なくとも1週間、動物施設に馴化させた。室温(21℃±2℃)、相対湿度(55%±5%)、12時間の明暗サイクル(午前7時から午後7時まで点灯)、及び空気交換を自動制御した。動物は市販の固形飼料及び水を自由に摂取できた。試験は概日周期の明期に実施し、試験の順序は最もストレスのかかる試験を最後に行うという原則で決定した。アッセイは、Tcf4+/-マウスの当初の行動学的特徴を再現し、拡張させるように設計した。Tcf4+/-及びWT対照マウスを、試験前に6週間処理し、以下の表2に記載するように、cG-2-アリルPの投与30分後に試験した。
【0234】
【0235】
実施例8:オープンフィールドでの活動性低下
オープンフィールド(OF)試験は、不安/多動の判定、及び学習の最も初歩的な形態の1つである新奇環境に対する馴化に用いられる複合試験であり、その際、同一の環境に繰り返し曝す作用による探索の減少が、記憶の指標とされるものである。この試験は、通常、10分及び24時間の馴化セッションである、2回のオープンフィールドへの曝露セッションで研究される。
【0236】
この研究で使用するデバイスは、10cm四方に分割された、50×30cmの灰色のPVC製閉鎖的活動領域である。マウスを試験5~20分前に実験室に入れる。マウスを角に面した角の区画に配置し、3分間観察する。入った区画(体全体)の数と立ち上がり(グルーミングは別として両前足が地面から離れること)の数をカウントする。初回の立ち上がりまでの潜時にも留意する。フィールド内でのマウスの移動を映像追跡デバイス(vNT4.0,Viewpoint)で300秒間記録した。マウスがフィールドの最も明るい中心部に入るまでの潜時、この中心領域で過ごした時間、及び全活動量(軌跡のセンチメートル単位の長さに関する)を記録した。
【0237】
オープンフィールド(OF)試験は、新奇及び馴染みのある条件下での日々の扱いに馴化した動物において、探索行動、不安、ならびに/または活動性低下及び多動を特徴づけるために用いられる試験である。オープンフィールドに曝露されている間、マウスはその環境に馴化していくため、経時的にマウスの探索行動は減り、移動量が減少することが示される。
【0238】
本実験では、初回の曝露時(T1)、10分後の2回目の曝露時(T2)、及び24時間後の3回目の曝露時(T3)に、移動と立ち上がりを記録した。10分及び24時間の時点で自発運動または立ち上がりが減らなかった場合、それぞれ、短期記憶と長期記憶の欠損が指し示される。
【0239】
PTHSの活動性低下を処置することに対して、cG-2-アリルPが有効であるかどうかを評価するために、オープンフィールド研究を実施した。30分の試験セッションにわたり、Tcf4+/-では、WT同腹仔と比較して、オープンフィールド自発運動の測定でより低いスコアが検出された。
【0240】
【0241】
縦軸に相対的な移動距離、横軸に動物及びそれらの処置法を示している。ビヒクルのみで処置した野生型(WT)マウス(左列)を100%の移動とみなした。ビヒクルのみで処置したTcf4+/-マウス(左から2列目)は、WTマウスと比較して約60%の移動度しか示さなかったため、活動性低下であることが認められた。NNZ-2591(cG-2-アリルP)で処置したWTマウス(左から3列目)は、ビヒクルで処置したWTマウスよりもわずかに高い移動度を示したが、この差は小さく、統計的に有意ではなかった。ビヒクルのみで処置したTcf4+/-マウスとは対照的に、100mg/kgのNNZ-2591(cG-2-アリルP)で処置したTcf4+/-マウス(左から4列目)は、驚くべきことに、ビヒクルのみで処置したWTマウスの場合とほぼ同じ移動度を示すことが認められた。200mg/kgのNNZ-2591(cG-2-アリルP)で処置したWTマウス(左から5列目)は、ビヒクルのみ、または100mg/kgのNNZ-2591(cG-2-アリルP)のいずれかで処置したWTマウスの場合とほぼ同一の移動度を示した。NNZ-2591(cG-2-アリルP)の効果は、統計的に有意であった。本発明者らは、100mg/kgまたは200mg/kgのいずれかのNNZ-2591(cG-2-アリルP)により、Tcf4+/-マウスにおけるこの軽度~中等度の活動性低下が正常化された、と結論づける。
【0242】
オープンフィールド(活動性低下)
ANOVA=分散分析;ns=有意ではない;WT=野生型同腹仔対照;
****=p<0.00001
【0243】
【0244】
【0245】
実施例9:セルフグルーミング
反復的なセルフグルーミングはマウスの特徴である。Tcf4
+/-マウスでは、野生型マウスと比較して、セルフグルーミングの回数が増加することが示されている。NNZ-2591(cG-2-アリルP)により、Tcf4
+/-マウスのセルフグルーミング行動が正常化され得るかどうかを確認するために、
図3に示すように、一連の研究を行った。
【0246】
縦軸に10分間の試験時間中グルーミングに費やした時間(秒)、横軸に動物及び処置法を示している。ビヒクルのみで処置した野生型(WT)マウス(左列)は、約110秒間セルフグルーミングをした。ビヒクルのみで処置したTcf4+/-マウス(左から2列目)は、ビヒクルのみで処置したWTマウスと比較して、セルフグルーミンを多く行った。100mg/kgのNNZ-2591(cG-2-アリルP)で処置したWTマウス(左から3列目)は、ビヒクルのみで処置したWTマウスの場合とほぼ同一の時間、セルフグルーミングをした。この差は統計的に有意ではなかった。予想外にも、100mg/kgのNNZ-2591(cG-2-アリルP;左から4列目)または200mg/kg(右列)で処置したTcf4+/-マウスでは、WTビヒクル処置マウスとほぼ同一のセルフグルーミング時間であり、ビヒクルのみで処置したTcf4+/-マウスがセルフグルーミングに費やした時間よりも短かったことが認められた。この統計的に有意な所見は、Tcf4+/-マウスにおいて全く予想外なものであった。
【0247】
セルフグルーミング/反復行動
ANOVA=分散分析;ns=有意ではない;WT=野生型同腹仔対照
****=p<0.0001
【0248】
【0249】
【0250】
本発明者らは、Tcf4+/-変異の結果としての反復行動(セルフグルーミング)の上昇は、100mg/kgまたは200mg/kgのいずれかの用量における、cG-2-アリルPでの処置によって修正された、と結論づける。
【0251】
実施例10:恐怖条件付け
事象または文脈のいずれかに対する恐怖条件付けは、多くの種でよく研究されている連合学習の一形態である。マウスでは、すくみ行動としても知られている動作の停止で恐怖が示されることが多い。捕食動物は動いている獲物を見つけることが多いので、すくみは獲物となる種にとって適応的である。文脈的(遅延)恐怖条件付けに用いられる従属指標は、無条件刺激(フットショック)と条件刺激(CS;例えば、可聴音)とのペアリング、特定の文脈及び/または手がかりなどの後に生じる、すくみ反応である。条件付けする文脈において、音とペアリングされるフットショックを施したとしたら、音だけでなくその文脈も学習されることになる。
【0252】
文脈的恐怖条件付けは、条件付けの基本的な方法である。この方法は、動物を新奇環境に配置し、嫌悪刺激を与え、次いで、それを除去することを要する。動物がその環境と嫌悪刺激とを記憶し関連付けている場合、その動物を同一環境に戻すと、動物は一般にすくみ反応を示す。すくみは恐怖に対する反応であり、「呼吸以外の動作がないこと」と定義されている。このすくみ行動は、嫌悪刺激の強度、提示回数、及び対象が達した学習の程度に依存して、数秒から数分間続くことがある。
【0253】
Tcf4
+/-変異を有する動物では、野生型マウスよりもすくみ行動が少ないことが示されている。この不適応行動は深刻な結果をもたらす可能性がある。したがって、NNZ-2591(cG-2-アリルP)により、Tcf4
+/-マウスにおいて正常な恐怖条件付けに回復できるかどうかを判定するために、一連の研究を行った。
図4は、これらの研究結果を示している。
【0254】
図4の縦軸に、5分間の試験時間にわたってすくみに費やされた時間の割合を示す。横軸に動物及びそれらの処置法を示している。
【0255】
ビヒクルのみで処置した野生型マウス(左列)は、約50%の時間をすくみ行動に費やした。対照的に、Tcf4+/-マウス(左から2列目)では、すくみ行動に費やした時間に大幅な減少が示された。これは統計的に有意であった。
【0256】
100mg/kg(左から3列目)または200mg/kg(左から5列目)のいずれかのNNZ-2591(cG-2-アリルP)で処置したWTマウスは、ビヒクルのみで処置したWTマウスとほぼ同一の時間、すくみ行動を示した。
【0257】
ビヒクルで処置したTcf4+/-マウスとは対照的に、100mg/kg(左から4列目)または200mg/kg(右列)のいずれかで処置したマウスは、WTマウスと同様の時間をすくみ行動に費やした。WTと200mg/kgで処置した動物との差は、統計的に有意ではなかった。但し、NNZ-2591(cG-2-アリルP)で処置したマウスでは、すくみ行動に費やされた時間が、ビヒクルで処置したTcf4+/-マウスより、大幅かつ統計的有意に長かった。
【0258】
恐怖条件付け
ANOVA=分散分析;ns=有意ではない;WT=野生型同腹仔対照;
****=p<0.0001:***=p<0.001;*=p<0.05
【0259】
【0260】
【0261】
実施例11:社会的相互作用
ヒトにおいて、社会的認知及び社会性記憶は非常に重要である。PTHSを有するヒトでは、PTHSを有しないヒトと比較して、社会的認知及び社会性記憶の量が少ないことが示されている。同様に、Tcf4+/-マウスでは、野生型マウスと比較して、社会的相互作用が大幅に低減していることが示されている。したがって、NNZ-2591(cG-2-アリルP)がこの状態を正常化するのに有効であり得るかどうかを判定するために、マウスで一連の研究を行った。この研究では、マウスが新奇マウスを嗅ぐ動作に費やした時間を測定した。
【0262】
これらの研究を行うために、親密性を誘発し、新奇刺激動物が導入される際に嗅ぐ動作を高レベルに回復させるための曝露を繰り返し、その際に新奇マウスを嗅ぐ動作に費やした時間によってマウスを評価した。各群の動物における嗅ぐ動作の発生回数を測定した。これらの研究の結果を
図5に示す。縦軸に新奇マウスを嗅ぐ動作に費やした時間、横軸に動物及び処置法を示している。
【0263】
ビヒクルのみで処置したWTマウス(左列)が新奇マウスを嗅ぐ動作に費やした時間を、実験における対照として用いた。ビヒクルのみで処置したTcf4+/-マウス(左から2列目)では、新奇マウスを嗅ぐ動作の時間が大幅に少なくなることが示された。100mg/kg(左から3列目)または200mg/km(左から5列目)のいずれかで処置したWTマウスでは、新奇マウスを嗅ぐ動作に費やした時間がほぼ同じであることが示された。100mg/kg(左から4列目)または200mg/kg(右列)のいずれかの用量におけるcG-2-アリルPで処置したTcf4+/-マウスでは、ビヒクルのみで処置したTcf4+/-マウスと比較して、新奇マウスと共に費やした時間が大幅かつ統計的有意に増加したことが示された。
【0264】
社交性
ANOVA=分散分析;ns=有意ではない;WT=野生型同腹仔対照;
****=p<0.0001
【0265】
【0266】
実施例12:巣作り
巣作りはマウスが子孫を育てるために必要な活動であり、社会適応及び日常生活動作の指標となる。Tcf4
+/-マウスは、野生型マウスよりも大幅に質が低い巣を作る。したがって、NNZ-2591(cG-2-アリルP)により、巣作りの質が回復し得るかどうかを判定するために、一連の研究を行った。結果を
図6に示す。縦軸に巣作りの質を1~5のグレードで示し、横軸に動物及び処置法を示す。
【0267】
ビヒクルのみで処置した野生型マウスでは、巣作りの質は約5を示した。対照的に、ビヒクルのみで処置したTcf4+/-マウス(左から2列目)は、大幅に質が低い巣を作った。100mg/kg(左から3列目)または200mg/kg(左から5列目)のいずれかのNNZ-2591(cG-2-アリルP)で処置したWTマウスは、ビヒクルで処置したWTマウスの巣とほぼ同質の巣を作った。100mg/kg(左から4列目)または200mg/kg(右列)のいずれかのNNZ-2591(cG-2-アリルP)で処置したTcf4+/-マウスでは、巣の質がWTマウスとほぼ同じレベルまで正常化された。NNZ-2591で処置したTcf4+/-マウスにより作られた巣の質の差については、ビヒクルのみで処置したTcf4+/-マウスにより作られた巣よりも、大幅かつ統計的有意に良好であった。
【0268】
日常生活試験
ANOVA=分散分析;ns=有意ではない;WT=野生型同腹仔対照;****=p<0.0001。
【0269】
【0270】
【0271】
実施例13:後肢の力
後肢の力は、捕食動物から飛び離れるマウスの能力を測るのに重要である。しかしながら、Tcf4
+/-変異を有する動物では、捕食動物から飛び離れる能力が大幅に低く、したがってこの変異は、非常に深刻なものとなり、生命を脅かす可能性がある。また、後肢の力は、ヒトの運動機能の代替とみなされている。NNZ-2591(cG-2-アリルP)により、この状態の有用な処置が提供され得るかどうかを判定するために、後肢の力を測定する一連の研究を行った。これらの結果を
図7に示す。縦軸にニュートン単位の力(N)、横軸に動物及び処置法を示している。
【0272】
ビヒクルのみで処置した野生型マウスは、約0.8Nの力を発生させることができた。対照的に、ビヒクルで処置したTcf4+/-マウス(左から2列目)は、約0.3Nしか発生させることができなかった。これは大幅かつ統計的有意な欠損である。100mg/kg(左から3列目)または200mg/kg(左から5列目)のいずれかのNNZ-2591で処置したWTマウスは、ビヒクルで処置したWTマウスとほぼ同一レベルの力を発生させることができた。100mg/kg(左から4列目)または200mg/kg(右列)のいずれかのNNZ-2591で処置したTcf4+/-マウスでは、WTマウスが発生させた力とほぼ同じ力を発生させた。対照的に、100mg/kg(左から4列目)または200mg/kgのいずれかのNNZ-2591で処置したTcf4+/-マウスは、ビヒクルで処置したTcf4+/-マウスよりも、大幅かつ統計的有意に大きな力を発生させることができた。したがって、本発明者らは、PTHSに起因する虚弱及び運動機能障害は、cG-2-アリルPで処置することにより正常化される、と結論づける。
【0273】
力の試験(後肢)
ANOVA=分散分析;ns=有意ではない;WT=野生型同腹仔対照;
****=p<0.00001。
【0274】
【0275】
【0276】
概要
表3に要約したように、Tcf4+/-マウスモデルを用いて、200mg/kgのcG-2-アリルPで6週間処置すると、試験したPTHS表現型の行動のすべてが回復した。100mg/kgのcG-2-アリルPで処置すると、恐怖条件付けを除く試験した行動のすべてが回復した。なお、恐怖条件付けは改善されたが、野生型との有意差は残った。
【0277】
【0278】
参考文献:
参照したすべての特許及び特許出願、ならびに以下の参考文献は、参照により本明細書に完全に組み込まれる。
【0279】
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