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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-21
(54)【発明の名称】組織を開くためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/00 20060101AFI20221214BHJP
   A61B 34/20 20160101ALI20221214BHJP
【FI】
A61B17/00 700
A61B34/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022523834
(86)(22)【出願日】2020-10-23
(85)【翻訳文提出日】2022-06-21
(86)【国際出願番号】 US2020057130
(87)【国際公開番号】W WO2021081373
(87)【国際公開日】2021-04-29
(31)【優先権主張番号】62/925,094
(32)【優先日】2019-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508344512
【氏名又は名称】ザ トラスティーズ オブ コロンビア ユニバーシティ イン ザ シティ オブ ニューヨーク
【氏名又は名称原語表記】THE TRUSTEES OF COLUMBIA UNIVERSITY IN THE CITY OF NEW YORK
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】コノファゴウ,エリサ,イー.
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160JJ25
4C160JJ33
4C160JJ35
4C160JJ36
4C160JJ38
4C160JJ43
4C160KK03
4C160MM33
(57)【要約】
本発明の特定事項は、標的組織を開くための技術に関する。開示されるシステムは、標的組織を位置づける及び/又はモニターするように構成されたナビゲーションガイダンス装置と、集束超音波(FUS)で標的組織を刺激するためのシングルエレメントトランスデューサと、キャビテーションモードを決定するように構成されたプロセッサとを含み得る。ナビゲーションガイダンス装置は、キャビテーション検出器及びアームを含み得る。シングルエレメントトランスデューサは、アームに取り付けることができ、所定のパラメータでFUSを誘発して標的組織を開くように構成することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的組織を位置づける及び/又はモニターするように構成されたナビゲーションガイダンス装置であって、
キャビテーション検出器、及び
アーム
を含むナビゲーションガイダンス装置と、
集束超音波(FUS)で前記標的組織を刺激するための、前記アームに結合されたシングルエレメントトランスデューサであって、所定のパラメータで前記FUSを誘発して、前記標的組織を開くシングルエレメントトランスデューサと、
キャビテーションモードを決定するように構成されたプロセッサと、
を含む、対象の標的組織を開くためのシステム。
【請求項2】
前記アームは、4自由度を有するように、及びコントローラによって制御されるように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記シングルエレメントトランスデューサは、ファンクションジェネレータに接続されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記FUSに反応するように構成された微小気泡をさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記微小気泡は、前記FUSの所定のパルスに反応し、前記標的組織を開くためのキャビテーションを誘発するように構成されている、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記微小気泡のサイズが、約1ミクロンから約10ミクロンに及ぶ、請求項4に記載のシステム。
【請求項7】
前記微小気泡は、活性剤を担持するか又は活性剤で被覆されるように構成されている、請求項4に記載のシステム。
【請求項8】
前記キャビテーション検出器は、微小気泡のキャビテーションを検出するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記キャビテーション検出器は、キャビテーション信号を捕捉するように構成され、前記キャビテーション信号は、キャビテーションの大きさ、キャビテーションの持続時間、及び微小気泡の速度を含む群から選択される、請求項6に記載のシステム。
【請求項10】
前記プロセッサは、前記キャビテーション信号に基づき、安定したキャビテーション用量(SCD)及び慣性キャビテーション用量(ICD)を決定するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記ナビゲーションガイダンス装置は、画像ベースのナビゲータ装置である、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記標的組織を開くための前記所定のパラメータは、中心周波数、外径、内径、曲率半径、及びそれらの組み合わせを含む群から選択され、前記プロセッサは、数値シミュレーションを介して前記所定のパラメータの値を決定するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
前記中心周波数は、約0.2MHzから約0.35MHzに及ぶ、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記外径は、約60mmから約110mmに及び、前記曲率半径は、約70mmから約110mmに及び、前記内径は約44mmである、請求項12に記載のシステム。
【請求項15】
前記標的組織は、皮質脳構造体、皮質下脳構造体、又はそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項16】
対象の標的組織を開く方法であって、
キャビテーション検出器及びアームを含むナビゲーションガイダンス装置を使用して前記標的組織を位置づけるステップと、
前記標的組織内に微小気泡を投与するステップと、
シングルエレメントトランスデューサを使用してFUSを印加するステップであり、前記シングルエレメントトランスデューサは、所定のパラメータで前記FUSを誘発して前記標的組織を開き、前記所定のパラメータは、中心周波数、外径、内径、曲率半径、及びそれらの組み合わせを含む群から選択される、ステップと、
を含む方法。
【請求項17】
前記キャビテーション検出器を使用してキャビテーション信号を得るステップであって、前記キャビテーション信号は、キャビテーションの大きさ、キャビテーションの持続時間、及び微小気泡の速度を含む群から選択される、ステップ
をさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記キャビテーション信号に基づき、安定したキャビテーション用量(SCD)及び慣性キャビテーション用量(ICD)を計算することによってキャビテーションモードを決定するステップ
をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
数値シミュレーションを行うことによって前記所定のパラメータを決定するステップ
をさらに含む、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2019年10月23日に出願された米国仮特許出願第62/925,094号に対する優先権を主張するものであり、その全内容を、参照により本明細書に援用する。
【0002】
助成金に関する情報
本発明は、国立衛生研究所(the National Institutes of Health)によって与えられたGrant Numbers R01-EB009041及びR01-AG038961の下で政府の支援を受けてなされた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
集束超音波(FUS)は、砕石術、腫瘍アブレーション、神経調節、及び本態性振戦治療のための非侵襲的及び非電離性の治療技術であり得る。微小気泡を、超音波イメージングにおける造影剤として、及び超音波治療におけるストレスメディエータとして使用して、細胞、腫瘍、又は組織内に薬物を送達することができる。
【0004】
非侵襲的及び可逆的な血液脳関門(BBB)の開口には、特定のFUS技術を行うことができる。FUS媒介のBBB開口は、げっ歯類から非ヒト霊長類(NHPs)の動物モデルで行うことができる。特定の臨床試験が、例えば、頭蓋骨内で、経皮針を介して外部の電源に接続して装置を固定するによって、ヒト対象に対して行われてきた。特定の技術は、MRIボア内に埋め込まれた半球状アレイを介したFUSの生成を含む。そのような多要素アレイは、治療される対象のコンピュータ断層撮影(CT)スキャンに基づき、同時の治療モニタリング及び計画を行うように構成することができる。しかし、これらの技術は、複雑であり、FUSを誘発及びモニターするためにさらなる医療機器(例えば、CT及びMRI等)を必要とすることがある。さらに、特定のFUS技術は、ある種の損傷を組織に対して誘発し、安全な長期治療を提供することができないことがある。
【0005】
従って、安全性及び効率が改善された、組織を開くために使用することができるシンプルなFUS技術が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
開示される特定事項は、標的組織を開くための技術を提供する。開示される特定事項は、集束超音波(FUS)を用いて標的組織を開くためのシステム及び方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
特定の実施形態において、開示されるシステムは、ナビゲーションガイダンス装置と、シングルエレメントトランスデューサと、プロセッサとを含み得る。非限定的な実施形態において、ナビゲーションガイダンス装置は、標的組織を位置づける及び/又はモニターするように構成することができる。一部の実施形態において、シングルエレメントは、所定のパラメータでFUSを誘発して、標的組織を開くように構成することができる。非限定的な実施形態において、プロセッサは、キャビテーションモードを決定するように構成することができる。
【0008】
特定の実施形態において、ナビゲーションガイダンスはキャビテーション検出器及びアームを含み得る。キャビテーション検出器は、キャビテーション信号を捕捉するように構成することができる。キャビテーション信号は、キャビテーションの大きさ、キャビテーションの持続時間、及び/又は微小気泡の速度であり得る。非限定的な実施形態において、キャビテーション検出器は、微小気泡のキャビテーションを検出するように構成することができる。一部の実施形態において、アームは、4自由度を有するように、及びコントローラによって制御されるように構成することができる。非限定的な実施形態において、ナビゲーションガイダンス装置は、画像ベースのナビゲータ装置であり得る。
【0009】
特定の実施形態において、シングルエレメントトランスデューサをファンクションジェネレータに接続して、所定のパラメータでFUSを誘発することができる。標的組織を開くための所定のパラメータを、中心周波数、外径、内径、曲率半径、及びそれらの組み合わせを含む群から選択することができる。非限定的な実施形態において、中心周波数は、約0.2MHzから約0.35MHzに及び得る。一部の実施形態において、外径は、約60mmから約110mmに及ぶ。非限定的な実施形態において、曲率半径は、約70mmから約110mmに及び得る。内径は約44mmであり得る。特定の実施形態において、シングルエレメントトランスデューサを、ナビゲーションガイダンス装置のアームに接続することができる。
【0010】
特定の実施形態において、プロセッサは、キャビテーションモードを決定するように構成することができる。プロセッサは、キャビテーション信号に基づき、安定したキャビテーション用量(SCD)及び慣性キャビテーション用量(ICD)を決定するように構成することができる。非限定的な実施形態において、プロセッサは、数値シミュレーションを介して所定のパラメータの値を決定するように構成することができる。
【0011】
特定の実施形態において、標的組織は、皮質脳構造体、皮質下脳構造体、又はそれらの組み合わせを含み得る。
【0012】
特定の実施形態において、開示される特定事項は、標的組織を開く方法を提供する。当該方法は、ナビゲーションガイダンス装置を使用して標的組織を位置づけるステップと、標的組織内に微小気泡を投与するステップと、シングルエレメントトランスデューサを使用してFUSを印加するステップとを含み得る。非限定的な実施形態において、ナビゲーションガイダンス装置は、キャビテーション検出器及びアームを含む。一部の実施形態において、シングルエレメントトランスデューサは、所定のパラメータでFUSを誘発して標的組織を開くことができる。所定のパラメータは、中心周波数、外径、内径、曲率半径、及びそれらの組み合わせであり得る。
【0013】
特定の実施形態において、当該方法は、キャビテーション検出器を使用してキャビテーション信号を得るステップをさらに含み得る。キャビテーション信号は、キャビテーションの大きさ、キャビテーションの持続時間、及び/又は微小気泡の速度であり得る。
【0014】
特定の実施形態において、当該方法は、キャビテーション信号に基づき安定したキャビテーション用量(SCD)及び慣性キャビテーション用量(ICD)を計算することによってキャビテーションモードを決定するステップをさらに含み得る。
【0015】
特定の実施形態において、当該方法は、数値シミュレーションを行うことによって所定のパラメータを決定するステップをさらに含み得る。
【0016】
開示される特定事項は、以下においてさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】開示される特定事項に従った、例となるシステムを示した図である。
図2】開示される特定事項に従った、(上から下の)異なるシングルエレメントトランスデューサを用いた超音波伝搬の例となる数値シミュレーションを示す画像を提供した図である。
図3】開示される特定事項に従った、ヒト頭蓋骨内の可変の深さの構造体を標的とする集束超音波トランスデューサを用いた超音波伝搬の例となる数値シミュレーションを示す画像を提供した図である。
図4】開示される特定事項に従った、ヒト頭蓋骨内のシミュレートされた圧力場の横方向プロファイル(上側)及び軸方向プロファイル(下側)を示すグラフを提供した図である。
図5図5A~5Cは、シミュレートされたヒト頭蓋骨誘発焦点ディストーションを示すグラフを提供した図である。図5Aは、ヒト頭蓋骨の存在によって引き起こされた半値全幅(FWHM)の変化を示すグラフを示している。図5Bは、軸方向及び横方向の次元に沿ったシミュレートされた焦点シフトを示すグラフを提供している。図5Cは、横方向及び軸方向の次元にわたる平均焦点シフトを示すグラフを提供している。
図6A】ヒト頭蓋骨誘発焦点ディストーションを示す図であって、ハイドロホンを使用して焦点ディストーションを測定するための例となるシステムを示す図を提供している。
図6B】ヒト頭蓋骨誘発焦点ディストーションを示す図であって、ラスタースキャンを行って、自由場における(図6B-左側)及びヒト頭蓋骨断片を有した場合の(図6B-右側)焦点体積を測定することができる。
図6C】ヒト頭蓋骨誘発焦点ディストーションを示す図であって、ラスタースキャンを行って、自由場における(図6C-左側)及びヒト頭蓋骨断片を有した場合の(図6C-右側)焦点体積を測定することができる。
図6D】ヒト頭蓋骨誘発焦点ディストーションを示すグラフを提供した図であって、半値全幅の変化を示すグラフを提供している。
図6E】ヒト頭蓋骨誘発焦点ディストーションを示すグラフを提供した図であって、横方向及び軸方向の次元に沿った焦点シフトを示すグラフを提供している。
図7A】ヒト頭蓋骨を介したパッシブキャビテーション検出を示す図であって、パッシブキャビテーション検出に対する例となるin vitroシステムを示す図を提供している。
図7B】ヒト頭蓋骨を介したパッシブキャビテーション検出を示すグラフを提供した図であって、自由場における0.4(左)、0.6(中央)、及び0.8(右)のメカニカルインデックス(MIs)に対する対照及び微小気泡のアコースティックエミッションのスペクトルを示すグラフを提供している。
図7C】ヒト頭蓋骨を介したパッシブキャビテーション検出を示すグラフを提供した図であって、ヒト頭蓋骨を介した対照及び微小気泡のアコースティックエミッションのスペクトルを示すグラフを提供している。
図7D】ヒト頭蓋骨を介したパッシブキャビテーション検出を示すグラフを提供した図であって、0.4(左)、0.6(中央)、及び0.8(右)のMIsでの、対照及び微小気泡に対する自由場における及びヒト頭蓋骨を介したキャビテーションレベルを示すグラフを提供している。
図8】0.4、0.6、及び0.8のメカニカルインデックス(MIs)、並びに、臨床的に関連のある超音波パラメータ(中心周波数:0.25MHz、パルス長:2500サイクル又は10ms、パルス繰り返し周波数:2Hz、デューティサイクル:2%、総持続時間:2分)で集束超音波トランスデューサを使用した頭蓋骨加熱を示すグラフを提供した図である。
図9】非ヒト霊長類(NHP)モデルにおける血液脳関門(BBB)の開口を示す画像を提供した図である。
図10図10A~10Iは、in vivoでのパッシブキャビテーション検出測定を示すグラフを提供した図である。図10Aは、微小気泡注入前の非ヒト霊長類(NHP)1のスペクトル振幅を示している。図10Bは、微小気泡注入後のNHP1のスペクトル振幅を示している。図10Cは、NHP1に対する治療セッション全体のスペクトログラムを示している。図10Dは、微小気泡注入前の非ヒト霊長類(NHP)2のスペクトル振幅を示している。図10Eは、微小気泡注入後のNHP2のスペクトル振幅を示している。図10Fは、NHP2に対する治療セッション全体のスペクトログラムを示している。図10Gは、NHP1の安定した高調波キャビテーションレベルを示している(g)。図10Hは、NHP2の安定した高調波キャビテーションレベルを示している。図10Iは、微小気泡投与(t>15秒)後の、NHP1(充填バー)及びNHP2(パターンバー)に対する集束超音波治療の間の平均の安定した高調波、安定した超高調波、及び慣性キャビテーション用量を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
上述の一般的な記載及び以下の詳細な記載の両方が例証的であり、開示される特定事項のさらなる説明を提供することを意図しているということが理解されたい。
【0019】
開示される特定事項は、標的組織を開くための技術を提供する。開示される特定事項は、集束超音波(FUS)を使用して標的組織を開くためのシステム及び方法を提供する。開示される特定事項は、特定のFUSパラメータを提供し、これは、超音波ビームの改善された減衰及び歪みを可能にし、ヒトに適し得る。
【0020】
別段の定めがない限り、本明細書において使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合には、定義を含む本願が優先される。特定の方法及び材料が以下において記載されるけれども、本明細書において記載されるものと類似又は同等の方法及び材料を、本開示の特定事項の実施又は試験において使用することができる。本明細書において言及される全ての出版物、特許出願、特許、及び他の参考文献は、その全体が参照により援用される。本明細書において開示される材料、方法、及び実施例は、単に例示的であり、限定的であると意図されない。
【0021】
本明細書において使用される場合、「含む(comprise(s))」、「含む(include(s))」、「有している」、「有する」、「できる」、「含有する」という用語、及びそれらの変形は、さらなる行為又は構造を排除しないオープンエンドの移行句、用語、又は単語であることを意図している。「a」、「an」、及び「the」を伴う単数形は、別段の指示がない限り、その複数形を含む。本開示は、明示的に記載されているか否かを問わず、本明細書において示されている実施形態又は要素を「含む」、「それらから成る」、及び「本質的にそれらから成る」他の実施形態も熟考している。
【0022】
本明細書において使用される場合、「約」又は「ほぼ」という用語は、当業者によって決定される特定の値に対する許容可能な誤差範囲内のものを意味し、これは、値がどのように測定又は決定されるか、すなわち、測定システムの限界に部分的に依存する。例えば、「約」は、当技術分野における慣例によると、3又は3を超える標準偏差内のものを意味し得る。或いは、「約」は、所与の値の20%まで、10%まで、5%まで、及び1%までの範囲を意味し得る。或いは、特に生物学的システム又はプロセスに関して、この用語は、値の10倍以内、5倍以内、及び2倍以内を意味し得る。
【0023】
本明細書において使用される場合、「治療」又は「治療する」とは、例えば識別可能な症状の安定化等、身体的であろうと、例えば身体パラメータの安定化等、生理学的であろうと、又はその両方であろうと、疾患若しくは障害の進行を抑制すること、又は、疾患若しくは障害の発症を遅らせることを指す。本明細書において使用される場合、「治療」及び「治療する」等の用語は、所望の薬理学的及び/又は生理学的な効果を得ることを指す。この効果は、疾患又はその状態若しくは症状を完全に又は部分的に防ぐという点から予防的であってもよく、及び/又は、疾患若しくは障害及び/又は疾患若しくは障害に起因し得る有害作用に対する部分的又は完全な治癒という点から治療的であってもよい。本明細書において使用される場合、「治療」は、動物又はヒト等の哺乳動物における疾患若しくは障害のいかなる治療もカバーし、さらに:疾患による死のリスクを減らすこと;疾患にかかりやすいかもしれないがまだそれを有すると診断されていない対象において疾患又は障害が発生するのを防ぐこと;疾患又は障害を抑制すること、すなわち、その発達を抑止すること(例えば、疾患進行の速度を減らすこと等);及び、その疾患を軽減すること、すなわち、疾患を後退させること;を含む。
【0024】
本明細書において使用される場合、「対象」という用語は、任意のヒト又は非ヒト動物を含む。「非ヒト動物」という用語は、全ての脊椎動物、例えば、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウマ、ウシ、ニワトリ、両生類、爬虫類等、哺乳動物及び非哺乳動物等を含むが、これらに限定されない。特定の実施形態において、対象は小児患者である。特定の実施形態において、対象は成人患者である。
【0025】
特定の実施形態において、開示される特定事項は、標的組織を開くためのシステムを提供する。例となるシステム100は、ナビゲーションガイダンス装置と、シングルエレメントトランスデューサと、プロセッサとを含み得る。非限定的な実施形態において、ナビゲーションガイダンス装置は、キャビテーション検出器及びアームを含み得る。
【0026】
特定の実施形態において、シングルエレメントトランスデューサ101は、標的組織を開くためにFUSを誘発するように構成することができる(図1)。例えば、シングルエレメントトランスデューサは、音響放射力を生成し、標的組織においてキャビテーションを誘発することができる。シングルエレメントトランスデューサは、ファンクションジェネレータ102に接続され、さらに、キャビテーションを誘発し且つ標的組織を開くために所定の超音波パラメータを有することができる。非限定的な実施形態において、パラメータを、標的組織又は対象に応じて修正又は調整することができる。
【0027】
特定の実施形態において、所定の超音波パラメータは、中心周波数を含み得る。中心周波数は、約20キロヘルツ(kHz)から約1メガヘルツ(MHz)に及び得る。非限定的な実施形態において、中心周波数は、約0.1MHzから約1MHz、約0.1MHzから約0.5MHz、約0.1MHzから約0.35MHz、約0.2MHzから約0.35MHz、又は約0.2MHzから約0.25MHzに及び得る。非限定的な実施形態において、FUS刺激プローブの中心周波数は、約0.2、0.25、又は0.35MHzであり得る。開示される特定事項は、特定の周波数範囲においてヒト頭蓋骨によって引き起こされる特定の収差及び減衰を改善することができる。
【0028】
特定の実施形態において、所定の超音波パラメータは、開示されるシングルエレメントトランスデューサの外径、内径、及び曲率半径を含み得る。シングルエレメントトランスデューサの外径は、約30ミリメートル(mm)から約200mm、約30mmから約150mm、約30mmから約110mm、約40mmから約110mm、約50mmから約110mm、又は約60mmから約110mmに及び得る。非限定的な実施形態において、シングルエレメントトランスデューサの外径は、約60又は110mmであり得る。一部の実施形態において、シングルエレメントトランスデューサの内径は、約10(mm)から約60mm、約10mmから約50mm、約20mmから約50mm、又は約30mmから約50に及び得る。非限定的な実施形態において、シングルエレメントトランスデューサの内径は約44mmであり得る。一部の実施形態において、曲率半径は、約30ミリメートル(mm)から約200mm、約30mmから約150mm、約30mmから約110mm、約40mmから約110mm、約50mmから約110mm、約60mmから約110mm、又は約70mmから約110mmに及び得る。非限定的な実施形態において、曲率半径は、約70、76、又は110mmであり得る。
【0029】
特定の実施形態において、所定の超音波パラメータは、メカニカルインデックス、パルス長、パルス繰り返し周波数、ピーク負圧、及び超音波処理時間を含み得る。メカニカルインデックスは、約0.1から約1.9、約0.1から約1.5、約0.1から約1.0、約0.1から約0.9、約0.1から約0.8、約0.1から約0.7、約0.2から約0.7、約0.3から約0.7、又は約0.4から約0.7に及び得る。非限定的な実施形態において、メカニカルインデックスは、約0.4又は0.8であり得る。パルス長は、約0.001ミリ秒(ms)から約100ms、約0.001msから約90ms、0.001msから約80ms、0.001msから約70ms、0.001msから約60ms、0.001msから約50ms、0.001msから約40ms、0.001msから約30ms、0.001msから約20ms、又は0.001msから約10msに及び得る。非限定的な実施形態において、パルス長は約10msであり得る。パルス長はまた、約1サイクルから約5000サイクル、約1サイクルから約4000サイクル、約1サイクルから約10,000サイクル、約1サイクルから約5000サイクル、約1サイクルから約4000サイクル、約1サイクルから約3000サイクル、約1サイクルから約2500サイクル、約500サイクルから約2500サイクル、約1000サイクルから約2500サイクル、約1500サイクルから約2500サイクル、又は約2000サイクルから約2500サイクルに及び得る。非限定的な実施形態において、パルス長は約2500サイクルであり得る。パルス繰返し周波数は、約0.1Hzから約10kHz、約0.1Hzから約9kHz、約0.1Hzから約8kHz、約0.1Hzから約7kHz、約0.1Hzから約6kHz、約0.1Hzから約5kHz、約0.1Hzから約4kHz、約0.1Hzから約3kHz、又は約0.1Hzから約2kHzに及び得る。非限定的な実施形態において、パルス繰り返し周波数は約2Hzであり得る。
【0030】
特定の実施形態において、超音波処理時間は、約0.1分から約5分、約0.1分から約4分、約0.1分から約3分、約0.1分から約2分、約0.5分から約2分、又は約1分から約2分に及び得る。非限定的な実施形態において、超音波処理時間は約2分であり得る。
【0031】
特定の実施形態において、ピーク負圧は、約0.1MPaから約10MPa、約0.1MPaから約9MPa、約0.1MPaから約8MPa、約0.1MPaから約7MPa、約0.1MPaから約6MPa、約0.1MPaから約5MPa、約0.1MPaから約4MPa、約0.1MPaから約3MPa、約0.1MPaから約2MPa、約0.1MPaから約1MPa、約0.1MPaから約0.5MPa、約0.1MPaから約0.4MPa、約0.1MPaから約0.3MPa、又は約0.1MPaから約0.2MPaに及び得る。非限定的な実施形態において、ピーク負圧は約0.2MPaであり得る。
【0032】
特定の実施形態において、特定のパラメータ(例えば、音響インテンシティ、メカニカルインデックス、ピーク負圧等)は、対象特異的な数値シミュレーションを使用して出力レベルを下げることができる。出力レベルを下げた圧力(derated pressure)は、ヒト頭蓋骨を伝搬した後の圧力を指す。減衰係数を、数値シミュレーションを介して推定することができる。
【0033】
特定の実施形態において、開示されるシステムは、微小気泡を含み得る。微小気泡は、所定のパルスのFUSに反応し、標的組織を開くためのキャビテーションを誘発するように構成することができる。微小気泡のサイズは、約1ミクロンから約10ミクロン、約1ミクロンから約9ミクロン、約1ミクロンから約8ミクロン、約1ミクロンから約7ミクロン、約1ミクロンから約6ミクロン、約1ミクロンから約6ミクロン、約1ミクロンから約5ミクロン、約2ミクロンから約5ミクロン、約3ミクロンから約5ミクロン、又は約4ミクロンから約5ミクロンに及び得る。非限定的な実施形態において、微小気泡のサイズは、約1.2、約4、又は約5ミクロンであり得る。一部の実施形態において、微小気泡の用量は、対象に応じて調整することができる。例えば、超音波イメージング用途に対する微小気泡の臨床用量(例えば、約10μl/kg等)をヒト対象に投与することができる。
【0034】
特定の実施形態において、微小気泡は、活性剤を担持するか又は活性剤で被覆されるように構成される。微小気泡は、活性剤(例えば、小分子等)を担持するように、及び音響的に活性化されるように構成することができる。例えば、分子を担持する微小気泡は、医薬分子及び/又は造影剤及び/又はバイオマーカー及び/又はリポソームを担持するか又はそれらで被覆することができる。医薬分子及び/又は造影剤は、標的領域の近くに別々に置くこともできる。例えば、活性剤は、モノクローナル抗体、神経成長因子、化学療法剤、又はそれらの組み合わせを含み得る。一部の実施形態において、FUS誘発微小気泡キャビテーションは、標的組織に損傷を与えることなく標的組織を開くことができる。
【0035】
特定の実施形態において、開示されるシステムは、標的組織を位置づける及び/又はモニターするように構成することができるナビゲーションガイダンス装置を含み得る。ナビゲーションガイダンス装置は、キャビテーション検出器103及びアーム104を含み得る。非限定的な実施形態において、ナビゲーションガイダンス装置は、画像ベースのナビゲータ装置であり得る。
【0036】
特定の実施形態において、キャビテーション検出器103は、FUS誘発キャビテーションをリアルタイムで検出するように構成することができる。非限定的な実施形態において、キャビテーション検出器は、シングルエレメントトランスデューサと共に位置合わせされたパッシブキャビテーション検出器(PCD)であり得る。PCDは、骨(例えば、ヒト頭蓋骨等)を介したキャビテーション信号の検出を可能にし得る特定のイメージングパラメータを有し得る。例えば、イメージングパラメータは、中心周波数、直径、及び焦点深度を含み得る。PCDの中心周波数は、約0.1メガヘルツ(MHz)から約10MHz、約0.1MHzから約9MHz、約0.1MHzから約8MHz、約0.1MHzから約7MHz、約0.1MHzから約6MHz、約0.1MHzから約5MHz、約0.1MHzから約4MHz、約0.1MHzから約3MHz、又は約0.1MHzから約2MHzに及び得る。非限定的な実施形態において、PCDの中心周波数は約1.5MHzであり得る。PCDの直径は、約10ミリメートル(mm)から約60mm、約10mmから約50mm、約10mmから約40mm、約20mmから約40mm、又は約30mmから約40mmに及び得る。非限定的な実施形態において、PCDの直径は約32mmであり得る。PCDの焦点深度は、約30ミリメートル(mm)から約200mm、約30mmから約150mm、約40mmから約150mm、約50mmから約150mm、又は約100mmから約150mmに及び得る。非限定的な実施形態において、PCDの焦点深度は約114mmであり得る。
【0037】
特定の実施形態において、PCDは、キャビテーション信号を検出してキャビテーションのタイプ/モードを決定することができる。例えば、PCDは、高調波ピーク、超高調波ピーク、広帯域発光、キャビテーションの大きさ、キャビテーションの持続時間、及び微小気泡の速度を検出して、安定したキャビテーション又は慣性キャビテーションを特定することができる。安定したキャビテーションにおいて、微小気泡は、いくつかのサイクルにわたる音圧の希薄化及び圧縮で膨張及び収縮し、そのような作用によって、拡張及び収縮を介した血管直径の変位が生じ得る。慣性キャビテーションにおいて、気泡は、その平衡半径よりも数倍膨張し、その後、周囲媒体の慣性により崩壊し、従って、血管生理学のあり得る変化を誘発することもある。PCDは、安定した高調波のキャビテーションレベル、安定した超高調波のキャビテーションレベル、及び慣性キャビテーションレベルを計算するために使用することができるキャビテーション信号を検出することができる。
【0038】
特定の実施形態において、ナビゲーションガイダンス装置はアーム104を含む。非限定的な実施形態では、キャビテーション検出器103と共に位置合わせされたシングルエレメントトランスデューサ101をアーム104に取り付けることができる。アームは、4自由度を有するロボットアームであり得る。ロボットアームの動きは、コントローラ105(例えば、ジョイスティック等)によって制御することができる。
【0039】
特定の実施形態において、画像ベースのナビゲータ装置は、FUSの印加前後に標的組織を画像化し、3D画像を再構築するように構成することができる。3Dの皮膚頭皮及び脳の再構築によって、標的領域において焦点体積を正確に配置することが可能になり得る。計画され且つ達成される軌跡を、リアルタイムで可視化することができる。
【0040】
特定の実施形態において、開示されるシステムは、トランスデューサトラッカー106、位置センサ107、高周波増幅器108、ポータブルチェア109、及びディスプレイ110をさらに含み得る。トランスデューサ及び対象トラッカーは、赤外光反射球を含んでもよく、空間におけるトランスデューサ及び対象の位置をリアルタイムでモニターするように構成することができる。高周波は、シングルエレメントトランスデューサ上への適用前に、ファンクションジェネレータによって生成された信号の増幅(例えば、55-dB)を行うことができる。
【0041】
特定の実施形態において、開示されるシステムは、シングルエレメントトランスデューサ及び/又はナビゲーションガイダンス装置に結合されたプロセッサを含み得る。非限定的な実施形態において、プロセッサを、プローブに直接的に(例えば、配線接続又はプローブ内への設置等)又は間接的に(例えば、無線接続等)結合させることができる。プロセッサは、ハードドライブ、リムーバブル記憶媒体、又は任意の他の記憶媒体に記憶されたソフトウェアによって指定された命令を行うように構成することができる。ソフトウェアは、例えば、MATLAB(登録商標)及び/又はMicrosoft Visual C++等、種々の言語で書くことができるコンピュータコードを含み得る。追加的又は代替的に、プロセッサは、特定用途向け集積回路(ASIC)に実装される論理等のハードウェア論理を含み得る。プロセッサは、上記のシステム構成要素のうち1つ以上を制御するように構成することができる。例えば、本明細書において具体化されるように、プロセッサは、画像化及び超音波刺激を制御するように構成することができる。追加的又は代替的に、プロセッサは、FUSを対象に提供するために、ファンクションジェネレータ及び/又はトランスデューサの出力を制御するように構成することができる。
【0042】
特定の実施形態において、プロセッサは、検出されたキャビテーション信号を分析し、キャビテーションのモードを決定するように構成することができる。プロセッサは、キャビテーション検出器によって測定されるキャビテーション信号を分析することができる。例えば、プロセッサは、PCDにより検出される、高調波ピーク、超高調波ピーク、広帯域発光、キャビテーションの大きさ、キャビテーションの持続時間、及び微小気泡の速度の信号を分析することによって、安定した高調波のキャビテーションレベル、安定した超高調波のキャビテーションレベル、及び慣性キャビテーションレベルを計算することができる。キャビテーション用量は、治療期間を通してのキャビテーションレベルの合計として計算することができる。安定したキャビテーション用量は、安定した反復性のキャビテーションの大きさを定量化することができ、慣性キャビテーション用量は、一過性の慣性キャビテーションの大きさを定量化することができる。安定したキャビテーションと慣性キャビテーションの相対的な重み付けは、超音波治療に対する安全性決定因子であり得る。
【0043】
特定の実施形態において、プロセッサは、数値シミュレーションを行って、標的組織を開くための超音波パラメータを決定するように構成することができる。数値シミュレーションは、超音波伝搬に対するトランスデューサの所定のパラメータの効果をシミュレートするために使用することができる。例えば、プロセッサは、ヒト頭蓋骨を通る超音波伝搬の数値シミュレーションを行って、異なるトランスデューサの特徴を試験することができる。非限定的な実施形態において、プロセッサは、数値シミュレーションを介して、標的組織内(例えば、頭蓋骨内)の焦点深度と開口サイズとの間のトレードオフ(例えば、F値等)を特定することができる。プロセッサは、標的組織を開いて治療エンベロープを広げるのを可能にする超音波パラメータ(例えば、中心周波数、外径、及び曲率半径等)を決定することもできる。非限定的な実施形態において、数値シミュレーションを介して決定された超音波パラメータを使用して、ヒト脳の皮質領域及び皮質下領域の両方を標的にすることができる。例えば、不均一な媒体における複雑な音波場を決定するための擬似スペクトルk空間法に基づくk-Waveツールボックスを使用したMatlabにおいて数値シミュレーションを行うことができる。一部の実施形態において、定められた標的及び軌跡における近似された減衰係数を導出するために、対象のCTスキャン又はMRIスキャンを考慮に入れると、数値シミュレーションを患者毎に行うことができる。
【0044】
特定の実施形態において、標的組織は、任意の組織であり得る。例えば、標的組織は、神経、脳、心臓、筋肉、腱、靭帯、皮膚、血管、又はそれらの組み合わせであり得る。非限定的な実施形態において、標的組織は、脳の皮質領域及び/又は皮質下領域であり得る。
【0045】
特定の実施形態において、開示される特定事項は、標的組織を開く方法を提供する。例となる方法は、ナビゲーションガイダンス装置を使用して標的組織を位置づけるステップと、標的組織内に微小気泡を投与するステップと、シングルエレメントトランスデューサを使用してFUSを印加するステップとを含み得る。非限定的な実施形態において、ナビゲーションガイダンス装置は、キャビテーション検出器及びアームを含み得る。シングルエレメントトランスデューサは、キャビテーション検出器と共に位置合わせし、アームに取り付けることができる。シングルエレメントトランスデューサは、標的組織を開くための所定の超音波パラメータを有し得る。所定のパラメータは、中心周波数、外径、内径、曲率半径、及びそれらの組み合わせを含む群から選択することができる。非限定的な実施形態において、所定のパラメータは、標的組織又は対象に基づき調整することができる。
【0046】
特定の実施形態において、当該方法は、キャビテーション検出器を使用してキャビテーション信号を得るステップをさらに含み得る。非限定的な実施形態において、キャビテーション信号は、高調波ピーク、超高調波ピーク、広帯域発光、キャビテーションの大きさ、キャビテーションの持続時間、及び微小気泡の速度の信号を含む群から選択することができる。
【0047】
特定の実施形態において、当該方法は、キャビテーション信号に基づき安定したキャビテーション用量(SDCh)、安定した超高調波(SDCu)、及び慣性キャビテーション用量(ICD)を計算することによってキャビテーションモードを決定するステップをさらに含み得る。例えば、SDCh、SDCu、及びICDは、キャビテーションモードを決定するためにプロセッサによって計算することができる。
【0048】
特定の実施形態において、当該方法は、数値シミュレーションを行うことによって、標的組織を開くための所定の超音波パラメータを決定するステップをさらに含み得る。例えば、プロセッサは、ヒト頭蓋骨を通る超音波伝搬の数値シミュレーションを行って、異なるトランスデューサの特徴を試験することができる。決定された超音波パラメータ(例えば、中心周波数、外径、及び曲率半径等)は、標的組織の開口を可能にし、治療エンベロープを広げることができる。非限定的な実施形態において、数値シミュレーションを介して決定された超音波パラメータを使用して、ヒト脳の皮質領域及び皮質下領域の両方を標的にすることができる。
【0049】
特定の実施形態において、開示される技術は、インラインMRIガイダンスを必要とすることなく、標的組織を開くためのシステム及び方法を提供することができる。開示される技術は、臨床的に関連する超音波曝露で標的組織(例えば、血液脳関門等)の開口を達成することができる。提案されるFUSシステムは、その迅速な印加、低コスト、及び可搬性のために、非侵襲的なFUS媒介治療を提供することができる。
【実施例1】
【0050】
実施例1:ニューロナビゲーションによりガイドされるシングルエレメント集束超音波トランスデューサを使用した非侵襲的な血液脳関門の開口のための臨床システム
数値シミュレーション:ヒト頭蓋骨を通る超音波伝搬の数値シミュレーションを、k-Wave音響ツールボックスを使用して二次元で行って、異なるトランスデューサの特徴を評価した。焦点深度と開口サイズとの間のトレードオフ、すなわち、ヒト頭蓋骨内のF値を試験した。開示される特定事項は、中心周波数、外径、及び曲率半径を決定するために使用することができ、ヒト脳の皮質領域及び皮質下領域の両方を標的にすることができ、従って、治療エンベロープを広げることができる。市販の低周波モデル(トランスデューサ1:Sonic Concepts H-149、トランスデューサ2:Sonic Concepts H-209)及び特注設計のトランスデューサ(トランスデューサ3)に基づき決定した3つの異なるトランスデューサ構成(表1)を試験した。
【0051】
【表1】
市販のモデルであるH-149及びH-209を、それぞれ小さいF値及び大きいF値の例として選んだ(0.64対1.27)。特注設計のトランスデューサ(例えば、外径:110mm、曲率半径:110mm、F値:1等)を、異なる設計の多数の反復後に最適化し、外径(例えば、探索空間:60~140mm等)及び曲率半径(例えば、探索空間:70~120mm等)に重点を置いた。PCDトランスデューサ又は受信超音波アレイの挿入を可能にするために、直径が44mmの内側のギャップを、全てのトランスデューサ設計において適用した。
【0052】
本シミュレーションでは、Cancer Imaging ArchiveからのヒトCT頭蓋骨DICOMファイルを入力として使用した。ハンスフィールドCT単位を音速及び媒体密度に変換した。脳内の音速、媒体密度、及び減衰係数を、(例えば、それぞれ1524m/s、1000kg/m3、及び3.5×10-4dB/MHz・cm等)37℃の水と等しくなるように設定した。妥当な曲率半径及び現実的なハウジング寸法を維持しながら(表1)、実行可能な限り脳の正中面の近くに焦点体積を配置するための努力の一環として、トランスデューサを頭蓋骨の近くに置いた。異なる深さにわたる焦点シフトの発展を決定するために、多くの軸方向オフセット(例えば、範囲:-30から+30mm等)を試験した。0mmの軸方向オフセットの場合、トランスデューサの公称焦点を、ヒト脳正中線に置いた。焦点体積の歪みに対する異なる焦点深度の効果を評価するためにシミュレーションを行った。横方向オフセットを導入することによって、入射角に大きな変動が生じることがあり、所望の90°の入射角から著しく逸脱する。従って、FUSトランスデューサの中心の横方向位置を、y=0mmで固定した。ヒト頭蓋骨内での干渉波及び定常波の効果を調査するために、異なる長さ(例えば、1、5、25、及び2500サイクル)を有するパルスを使用した。ヒト頭蓋骨を通る理論的な超音波透過係数を計算するために、ヒト頭蓋骨を水と交換することによって、自由場において異なるパルス長でシミュレーションを繰り返した。シミュレーショングリッドは、1mm空間分解能で300×300mmに等しかったが、時間分解能は、合計7000回又は1msの曝露時間で、143nsであった。2500サイクルのパルス長に対しては、in vivoBBB開口に使用される治療スキームとの比較を可能にするために、シミュレーションは、70,000回又は10msから成った。これらのシミュレーションではせん断波は考慮しなかった。軸方向(すなわち、x)及び横方向(すなわち、y)軸を、FUSトランスデューサに関して定め、それぞれ左右方向及び前後方向を有した。
【0053】
シングルトランスデューサの臨床システム:図1において示されているように、低い中心周波数(例えば、0.25MHz等)を有するシングルトランスデューサの臨床システムを、ヒト頭蓋骨によって引き起こされる減衰を減少させ、キャビテーション誘発に対する圧力閾値を減らすために開発した。シングルエレメント球台トランスデューサの寸法及び特徴を、数値シミュレーションに基づき精緻化した。次に、選んだシングルエレメントFUSトランスデューサ(例えば、中心周波数:0.25MHz等)を構築し、それをロボットアーム上に取り付けた。ロボットアームは、4自由度及び4.4kgの最大ミッドレンジ積載能力を有し、ジョイスティックを介して制御した。構築物全体をホイール付きカート上に固定し、システムを任意の場所まで運搬可能にした。
【0054】
臨床FUSトランスデューサを、臨床的に関連のあるパラメータ(表2)を使用して、55dBの高周波電力増幅器(A150、E&I、Rochester, NY, USA)を介して、ファンクションジェネレータ(33500B Series, Agilent Technologies, Santa Clara, CA, USA)によって駆動した。
【0055】
【表2】
水脱気システムを使用して、脱気水でトランスデューサコーンを満たし、超音波処理される位置に従ってコーンを膨張又は収縮させた。反射ビーズをトランスデューサに取り付けて、位置センサとして作用する赤外線カメラ及びニューロナビゲーションガイダンスを介したその位置のリアルタイム追跡を可能にした。ブルズアイビュー機能を使用することによって、開示される特定事項は、2mm未満の空間誤差で、改善された標的化精度を達成した。
【0056】
1.5MHzのパッシブキャビテーション検出器(PCD:例えば、直径:32mm、焦点深度:114mm等)を用いて、微小気泡のアコースティックエミッションを記録した(例えば、サンプリング周波数:50MHz、取込時間(capture length):10ms等)。PCDは、別個のトランスデューサ又は治療トランスデューサのみを使用した焦点体積内のキャビテーションの大きさ、持続時間、及びモードに関する情報を提供する。キャビテーション信号も、ドップラー効果を介して微小気泡の速度に関する間接的な情報を提供し、これは、シングルエレメントPCDを用いて又はレシーバのアレイを使用して得ることができる。PCDを使用して、安定したキャビテーション用量(SCD)及び慣性キャビテーション用量(ICD)を計算することによって、in vitro及びin vivoでのキャビテーションモードを定めた。記録された時間領域信号を、高速フーリエ変換(例えば、セグメントサイズ:524,288データポイント等)を介して周波数領域に変換し、MATLABにおいて行った。以下のように、3つのスペクトル領域にフィルターをかけて、関連する1パルスあたりのキャビテーションレベル又はキャビテーション用量を得た:1)高調波ピーク、fh,n=nf、2)超高調波ピーク、fu,n=(n-1/2)f、3)f h,n+10 kHz<f<fu,n-10kHz及びfu,n+10kHz<f<fh,n+1-10kHzでのブロードバンドエミッションf。fは、中心周波数(例えば、0.25MHz)であり、nは高調波数(例えば、n=3,4,5,...10)である。基本的な第2の高調波は、制御実験において除外された周波数であった。
【0057】
次に、安定した高調波(dSCDh)、安定した超高調波(dSDCu)、及び慣性キャビテーション(dICD)レベルを、以下のように、音響パルスごとの各周波数領域内の検出された信号の最大絶対高速フーリエ変換(FFT)振幅の二乗平均平方根(RMS)として計算した:
【0058】
【数1】
in vivoでの総キャビテーション用量を、FUS治療を通してのキャビテーションレベル全ての合計として計算した:
【0059】
【数2】
総超音波処理時間は2分(T=2分)であった。
【0060】
in vitroでの特徴づけ:頭蓋骨誘発性異常を水槽において特徴づけた。カプセルハイドロホン(例えば、±3dBの周波数範囲:0.25~40MHz、電極開口:200μm)を使用して、自由場における及びビーム経路内にヒト頭蓋骨断片を有した場合の放出圧力プロファイルを測定した。頭蓋骨断片を水中に沈め、真空ポンプを使用して実験前に脱気して、骨内のガス含有量を減少させた。焦点周囲のラスタースキャンを、横方向に0.1mm及び軸方向に1mmの空間分解能で行った。スキャンは、それぞれ10及び60mmの横方向/高さ方向(elevational)及び軸方向範囲を有し、FUSトランスデューサの幾何学的焦点(例えば、トランスデューサ表面から110mm等)の中心に位置していた。ビームの軸対称の歪みを仮定して、横方向及び高さ方向の次元に沿ったシフトを平均した。ヒト頭蓋骨を通る超音波の圧力透過係数を、シミュレーション及び実験の両方について、頭蓋骨配置後の焦点体積の最大圧力を、自由場における焦点体積の最大圧力で割ることによって(%で)計算した。経頭蓋圧力損失を、100%-透過係数として計算した。NHP頭蓋骨を介した超音波減衰を決定するために、ヒト頭蓋骨断片をNHP頭蓋骨断片と交換した。ヒト及びNHPの頭蓋骨断片を、水コーン(water cone)のすぐ上に垂直な入射角で置いて、臨床シナリオを模倣した。圧力プロファイル及び経頭蓋損失は、入射角及びトランスデューサ表面からの距離に非常に敏感であると予想された。背外側前頭前皮質の治療に臨床的に関連する入射角(例えば、~90°等)及びトランスデューサ表面-頭蓋骨の距離(例えば、62mm等)を試験した。減衰が頭蓋骨の厚さに依存するため、圧力プロファイル及び損失を、可変の厚さの頭蓋骨の位置(例えば、n=10、厚さ範囲:3~7.5mm、キャリパーで測定)において推定した。圧力値は、出力レベルを下げたピーク負圧を指す。
【0061】
ヒト頭蓋骨を介したキャビテーション検出も水槽内で実行した。0.8mmのシリコンエラストマーチューブを沈め、臨床トランスデューサの焦点体積内の水平位置(トランスデューサ表面から120mm)において固定した。チューブを、対照として役立つ水、又は1.8mL/分の速度で流れるDefinity微小気泡(0.2mL微小気泡/Lの溶液)のいずれかで満たした。測定を、自由場において、及びトランスデューサ表面から62mm離れた所に置かれたビーム経路内のヒト頭蓋骨断片を有して実行した。本発明者等は、それぞれ0.4、0.6、及び0.8のMIに対応する、200、300、及び400kPaの3つの出力レベルを下げた音圧を試験した。各音圧においてヒト頭蓋骨を介してキャビテーション信号を検出するPCDトランスデューサの能力を確立するために、キャビテーションレベルを、実験条件(各条件につきn=10の連続パルス)にわたって計算した。
【0062】
組織移植可能なTタイプの熱電対を頭蓋骨表面に取り付けて、臨床的に関連するFUS曝露中の加熱プロファイルを測定した(例えば、MI:0.4~0.8、デューティサイクル:2%,表2)。より高いデューティサイクル(0.8のMIで20%)での陽性対照の超音波処理を、低いデューティサイクルのBBB開口スキームと比較するために実行した。温度データを、100サンプル/秒のサンプリングレートで記録した。頭蓋骨表面の温度上昇を、FUS曝露中に測定された値(例えば、n=3等)からFUS曝露前の温度を差し引くことによって計算した。
【0063】
In vivoでの実現可能性:全ての動物試験は、地域の動物実験委員会によって審査及び承認され、さらに、動物福祉に対するNational Institutes of Healthのガイドラインに従った。2匹の雄の成体のアカゲザル(Rhesus macaques)(例えば、体重:8~11kg、年齢:12~20歳)を臨床FUSトランスデューサで処理し、視床(NHP1)及び背外側前頭前皮質(NHP2)を標的として、皮質領域及び皮質下領域の両方においてシステムの性能を検査した。NHP実験に適応させるため、患者チェア(図1)を、頭部固定用の定位固定装置を備えた手術台と交換した。NHPを、最初に、筋肉注射によってケタミン(例えば、10mg/kg等)とアトロピン(例えば、0.02mg/kg等)との混合物で鎮静させた。鎮静させると、動物に挿管し、伏在静脈を介してカテーテル処置した。酸素(例えば、1%~2%等)と混ぜ合わせた吸入可能イソフルランを使用して、実験を通じて麻酔を誘発及び維持した。
【0064】
ここで使用した超音波パラメータ(表2)は、本システムを使用してアルツハイマー病患者において使用するためにFDAによって承認されたものと同一であった(出力レベルを下げたピーク負圧:0.2MPa、パルス長:10ms、パルス繰り返し周波数:2Hz、総超音波処理時間:2分)。安全性を損なうことを避けるために、Definity微小気泡を用いた超音波イメージング用途に対するFDA承認限界よりも下にMIを維持した。NHPモデルにおけるBBB開口を、0.2MPaのピーク負圧又は0.4のMIで試みた。このMIは、イメージング用途に対してFDAによって承認された最大MI(すなわち、1.9のMI)の約5分の1であり、ヒトにおけるBBB開口閾値の2分の1である。市販のDefinity微小気泡を、超音波イメージング用途に対してFDAにより承認された臨床用量(例えば、10μL/kg等)で使用した。Definity微小気泡を、治療開始時に、単一注入を介してボーラスとして注入した。
【0065】
血液脳関門の開口を、T1強調MRI(例えば、3-Dスポイルドグラジエントエコー、TR/TE:20/1.4ms、フリップ角:30°、励起の数[NEX]:2、空間分解能:500×500μm、スライス厚:1mm、スライス間ギャップはなし等)を用いた超音波処理の約60分後に評価した。T1強調スキャンを、通常はBBBに対して不浸透性である(例えば、分子量:591.7Da等)0.2mL/kgのガドジアミドMRI造影剤の静脈内投与の前後に取得した。BBB開口を、造影剤投与前後のT1スキャンを比較することによって定量化した。安全性アウトカムを、軸方向T2強調MRI(例えば、TR/TE:3000/80ms、フリップ角:90°、NEX:3、空間分解能:400×400μm2、スライス厚:2mm、スライス間ギャップなし等)、及び磁化率強調画像法(SWI、例えば、TR/TE:19/27ms、フリップ角:15°、NEX:1、空間分解能:400×400μm2、スライス厚:1mm、スライス間ギャップなし等)で評価した。全てのスキャンを、3-T臨床MRIスキャナで行った。
【0066】
BBB開口の定量化:BBB開口の定量化及び分析のためにMATLABにおいてグラフィックスユーザインタフェース(GUI)を開発した。BBB開口の体積を計算するために、造影剤投与前のT1スキャンを造影剤投与後のT1スキャンから差し引いた。差分画像内のBBB開口領域を分離するために強度閾値を設定し、選択された関心領域内の閾値を超えるピクセルに等高線プロットを適用した。BBB開口輪郭の面積を冠状断像MRIスライスごとに計算し、全てのスライスにおけるBBB開口面積を合計することによって、総BBB開口体積を(mmで)求めた。
【0067】
統計解析:提示された測定値は平均±標準偏差として表されている。シミュレーションを、n=4のパルス長及びn=6のトランスデューサ軸方向位置に対して行った。キャビテーション検出を、MATLAB(n=10パルス)における2サンプルt検定を使用して、自由場における及びヒト頭蓋骨を介した対照及び微小気泡により結実されたキャビテーションレベルを比較することによって確立した。統計学的有意差はp<0.05と仮定した。
【0068】
データ-数値シミュレーション:数値シミュレーションによって、トランスデューサ3は、多数のサイドローブなしで、強く集束されたビームを維持しながら、脳の正中面を標的にすることができたということが明らかになった(図2)。図2は、可変長(左から右:1、5、25、2500サイクル)のパルスを放出する異なるシングルエレメントトランスデューサ(上から下:1、2、3)を用いた超音波伝搬の数値シミュレーションを示している。トランスデューサ3は、ヒト頭蓋骨内の多数のサイドローブを提示することなく、深部構造体を治療することができた。バーは、正規化された焦点圧力を示している。-3dB焦点体積を例示するために、各圧力プロファイルを、頭蓋骨内の最大音圧に自己正規化した。圧力値は、各位置における最大瞬時圧力を指す。トランスデューサ1は、その低いF値のために、ヒト頭蓋骨に対して十分に長い焦点深度を生成するのに十分な曲率半径を有していなかった。トランスデューサ2は、その大きなF値、及び低い外径と内径との比のために、メインローブと振幅が類似した多数のサイドローブを生成した。さらに、トランスデューサ1及び3と比較してより高い中心周波数(例えば、0.35MHz対0.2MHz及び0.25MHz)のために、焦点体積はより大きな歪みを受けた。シングルエレメントトランスデューサの場合、1のF値(トランスデューサ3)は、試験されたサブセット内のより低い又はより大きいF値と比較して、ヒト脳内での適用により適していた。
【0069】
そのようなトランスデューサの設計によって、表在皮質領域及びより深部の皮質下領域の両方を標的とすることが可能になる(図3)。図3は、ヒト頭蓋骨内の可変の深さの構造体を標的とする臨床集束超音波トランスデューサを用いた超音波伝搬の数値シミュレーションを示している。図3では、-30から20mmのトランスデューサ軸方向オフセットに対するサンプルが示されている(例えば、自由場における焦点が正中線と一致する場合、オフセット=0mmである)。中心周波数は約0.25MHzであり、パルス長は約2500サイクルであった。バーは、正規化された焦点圧力を示している。-3dB焦点体積を例示するために、各圧力プロファイルを、頭蓋骨内の最大音圧に自己正規化した。圧力値は、各位置における最大瞬時圧力を指す。頭蓋骨表面に向けて/頭蓋骨表面から離れるようにFUSトランスデューサを物理的に動かすことによって、深さ80mmまでの治療エンベロープを達成することができる。シミュレーションによって、焦点寸法、圧力プロファイル、及び頭蓋骨誘発焦点シフトは、トランスデューサ軸方向オフセット及びパルス長に依存することが明らかになった(図4)。図4は、ヒト頭蓋骨内のシミュレートされた圧力場の横方向(上)及び軸方向(下)のプロファイルを示している。1サイクルより長いパルス長に対して、横方向のサイドローブ及び干渉パターンが出現する。遠位の頭蓋骨からの干渉の空間的長さは、パルス長に対して直線的に増加する。トランスデューサ軸方向オフセットを、シミュレーション中心からの自由場焦点の距離(例えば、x=0mm等)として定めた。頭蓋内音圧は軸方向オフセットを通して適度に変化した。最も高い圧力を、頭蓋骨中心付近で観察したが、近位及び遠位の頭蓋骨に向かって7%まで低下した。横方向サイドローブの振幅はパルス長と共に増加し、1サイクルでのメインローブの49%から2500サイクルでのメインローブの76%まで増加した。図2及び3において示されている全ての圧力プロファイルを頭蓋骨内の最大圧力に正規化し、範囲[0.5,1]でプロットして、経頭蓋超音波伝搬後の-3-dB焦点体積を可視化した。
【0070】
1サイクルよりも長いパルス長は、頭蓋骨の遠位部分において建設的且つ破壊的な干渉をもたらし、節及び腹は半波長(例えば、3mm等)の間隔で現れる。干渉空間の程度は、(例えば、5サイクル又は30mmのパルス長に対して2.5サイクル又は15mm等)音響パルスの空間的長さの半分に等しかった。2500サイクルの臨床的に関連するパルス長に対して、干渉プロファイルは平衡に達し、ヒト頭蓋骨の内部全体に広がった。0.25MHz及び130mmの頭蓋骨サイズでの定常波発生に対する理論的限界は43サイクルである。
【0071】
ヒト頭蓋骨の存在は、シミュレートされた焦点体積の歪み及び空間変位をもたらした(図5)。図5は、シミュレートされたヒト頭蓋骨誘発焦点ディストーションを示している。図5Aは、ヒト頭蓋骨の存在によって引き起こされる半値全幅(FHWM)の変化を示している。FWHMの変化は、第一に、軸方向オフセットごとにパルス長にわたって平均化し(n=4のパルス長)、次に、全ての深部にわたって平均化した(n=6の軸方向オフセット)。図5Bは、軸方向(クロス:501)及び横方向(ボックス:502)の次元に沿ったシミュレートされた焦点シフトを示している。斜めの点線及び平行の点線は、それぞれゼロに等しい軸方向及び横方向のシフト(n=4のパルス長)を示している。(c)横方向及び軸方向の次元にわたる平均焦点シフト(n=6の軸方向オフセット)を示している。データは、平均±標準偏差として表されている。ヒト頭蓋骨を有していない水媒体では、軸方向及び横方向の半値全幅(FHWM)を、65.5×5.6mmであるとシミュレートした。頭蓋骨誘発異常(n=4のパルス長及びn=6のトランスデューサ位置)のために、焦点の幅及び長さは、それぞれ横方向及び軸方向の次元に沿って2.7±2.4%だけ及び8.4±4.8%だけ減少した。焦点はまた、トランスデューサに向かって負にシフトした(図5B)。軸方向のシフトは、トランスデューサの位置に依存した。興味深いことに、シフトは、オフセットが大きいほど小さかった。焦点が脳の正中線から離れるほど、軸方向のシフトは小さくなる。平均すると、軸方向及び横方向の焦点シフトは、それぞれ6.1±2.4mm及び0.1±0.2mmであった(図5C)。ヒト頭蓋骨によって引き起こされる圧力減衰は、36.1±3.4%であるようにシミュレートされた(例えば、n=10の異なるCTスライス等)。
【0072】
in vitroでの特徴づけ:シミュレーション所見を確かめるために、ヒト頭蓋骨断片の存在の有無にかかわらず、横方向/高さ方向及び横方向/軸方向の次元に沿って2-Dビームプロファイルの詳細な推定を行った(図6)。
【0073】
図6は、ヒト頭蓋骨誘発焦点ディストーションを示している。図6Aは、ハイドロホンを使用して焦点ディストーションを測定するためのシステムを示している。ラスタースキャンを行って、自由場における(601及び603)並びにヒト頭蓋骨断片を有した場合の(602及び604)焦点体積を測定した。圧力最大は、幾何学的焦点と比較して、トランスデューサに10mm近かった。第1の十字605は、自由場の焦点の位置を示している。第2の十字606は、経頭蓋伝搬後の焦点の位置を示している。図6Dは、半値全幅の変化を示し、図6Eは、横方向及び軸方向の次元に沿った焦点シフトを示している。データは、平均±標準偏差として表されている(異なる厚さの頭蓋骨セグメントを超音波が伝搬する場合、n=10のスキャン)。カプセルハイドロホン及び3-D位置決めシステムを使用して(図6A)、圧力プロファイルを軸方向、横方向、及び高さ方向の次元に沿って測定した。自由場の焦点距離及び幅は47.6×5.6mmであった(図6B及び6C:左側)。これらの値は、製造業者によって提供される49×6mmの公称焦点寸法に近かった。ヒト頭蓋骨を通る超音波伝搬は減衰し且つ音響焦点をシフトさせることが予想された。ビーム経路内に頭蓋骨断片を挿入すると、圧力振幅が44.4±1.3%だけ減衰し、焦点領域が歪んだ(図6B及び6C:右側)。横方向及び軸方向のFWHMは、それぞれ3.3±1.5%及び3.9±1.8%だけ減少した(図6D)。横方向及び軸方向の次元に沿った実験的焦点シフトは、それぞれ0.5±0.4mm及び2.1±1.1mmであった(図6E)。
【0074】
パッシブキャビテーション検出測定によって、1.5MHzのPCDトランスデューサがヒト頭蓋骨を介したキャビテーション信号を検出することができるということが確認された(図7)。図7は、ヒト頭蓋骨を介したパッシブキャビテーション検出を示している。パッシブキャビテーション検出のための例となるシステムが、図7Aにおいて示されている。Definity微小気泡で満たされた0.8mmチューブを、血管模倣ファントムとして使用した。図8Bは、自由場における0.4(左)、0.6(中央)、及び0.8(右)のメカニカルインデックス(MI)に対する対照701及び微小気泡702のアコースティックエミッションのスペクトルを示している。図7Cは、ヒト頭蓋骨を通った対照及び微小気泡のアコースティックエミッションのスペクトルを示している。図7Dは、0.4(左)、0.6(中央)、及び0.8(右)のMIでの、対照(薄いバー706)及び微小気泡(濃いバー707)に対する、自由場における(円形703)及びヒト頭蓋骨を介した(クロス704、ダイヤモンド705)キャビテーションレベルを示している。データは、平均±標準偏差として表されている(n=10のパルス)。
【0075】
先に記載したin vitroシステム(図7A)を使用して、チューブ及びヒト頭蓋骨の両方から、対照実験に対する基本波及び第2の高調波において定常反射を観察した(図7B)。Definity微小気泡が血管ファントムを流れると、より高い(例えば、第5の高調波又は1.25MHzまでの)高調波及び(例えば、第3の超高調波又は0.825MHzまでの)超高調波において上昇を観察した。
【0076】
より高い音圧は、一般に、より高い高調波及び超高調波のピークにつながった。図7dにおいて、薄い色のバーは対照の超音波処理を表し、濃い色のバーはDefinity微小気泡による超音波処理を表している。各キャビテーション用量における2本の左端のバーは自由場の超音波処理を表し、2本の右端のバーはヒト頭蓋骨断片を介した超音波処理を表している。10の異なる治療パルスを、条件ごとに放出した。
【0077】
高調波安定キャビテーションレベルは、自由場において及びヒト頭蓋骨を通った場合の両方で0.4及び0.6のMIで、対照よりも微小気泡に対して有意に高かった(図7D)。微小気泡による超高調波安定キャビテーションレベルは、自由場においてのみ、0.4及び0.6のMIにおいて、対照のものより有意に高かった。ヒト頭蓋骨を通った場合に、0.4のMIにおいて有意差が存在したが、0.6のMIにおいて有意な増加は存在しなかった。最高音圧では、安定した高調波のキャビテーションレベル及び慣性キャビテーションレベルは、微小気泡よりも対照に対して有意に高かった。これはおそらく、ヒト頭蓋骨断片の不十分な脱気によるものであり、これによって、対照実験において頭蓋内キャビテーション核が生じた。慣性キャビテーションレベルは、自由場において全てのMIで、また、0.6及び0.8のMIに対して頭蓋骨存在下での対照実験中に、ノイズレベルを超えてかなり上昇した。
【0078】
超音波誘発加熱を、臨床的に関連する超音波曝露中に測定した。ワイヤ熱電対を、ヒト頭蓋骨断片の下及び超音波ビーム経路内に取り付けた。臨床シナリオをシミュレートするために、臨床を対象としたパラメータを使用して2分間の超音波処理を行った(表2)。最大の温度上昇は、0.4~0.8のMIにおける超音波処理中の0.11±0.05℃から0.16±0.03℃(n=3)であった(図8)。図8は、0.4(801)、0.6(802)、及び0.8(803)のメカニカルインデックス(MIs)、並びに臨床的に関連する超音波パラメータ(中心周波数:0.25MHz、パルス長:2500サイクル又は10ms、パルス繰り返し周波数:2Hz、デューティサイクル:2%、総持続時間:2分)において臨床集束超音波トランスデューサを使用した頭蓋骨加熱を示している。より高いデューティサイクル(すなわち、DC:20%)を、加熱に対する陽性対照として使用した(804)。データは、平均±標準偏差として表されている(n=3)。BBB開口に使用される低いデューティサイクルの超音波パルスシーケンスを考慮に入れると(例えば、2%)、この無視できる加熱が予想された。10倍高いデューティサイクル(例えば、20%等)及び0.8のMIでの対照の超音波処理は、0.59±0.23℃だけ温度を上昇させた。
【0079】
in vivoでの実現可能性:臨床的に推奨されるDefinity用量(例えば、10μL/kg等)を使用して、200kPaのピーク負圧又は0.4のMIで、NHPモデルに対して非侵襲的な標的化BBB開口を行うために、開示される臨床システムを使用した。2匹のNHPを治療し、視床(NHP1)及び背外側前頭前皮質(NHP2)を標的とした。2つの標的を、それぞれ深部及び表在の構造体の例として選択した。低い圧力及び微小気泡の用量にもかかわらず、BBB開口を、両方の標的構造体において観察した(図9)。BBB開口は、白質路よりむしろ灰白質においてより顕著であった。総BBB開口量は、NHP1に対して153mm3、及びNHP2に対して164mm3であった。安全性を、T2強調MRI及びSWIを用いて評価した(図9)。NHP1(左)及びNHP2(右)に対する冠状断像T1強調、T2強調、及び磁化率強調画像法(SWI)が、図9において示されている。T1強調磁気共鳴画像法は、臨床的に関連するパラメータ(MI:0.4)及び微小気泡用量(10μL/kg)で臨床集束超音波(FUS)トランスデューサを使用して、視床(NHP1)及び背外側前頭前皮質(NHP2)において血液脳関門の開口を確認した。T2強調画像法及びSWIは、FUS治療後に急性出血又は浮腫がないことを明らかにした。超音波処理1時間後のT2スキャンにおける高信号域又はSWIにおける低信号域のいずれも存在せず、超音波処理した領域には出血又は浮腫はなかったことを示している。
【0080】
安全性アウトカムが、捕捉されたPCDデータによって確証され、これは、焦点体積内にひどいキャビテーション事象がないことをリアルタイムで確かめた(図10)。in vivoでのパッシブキャビテーション検出測定によって、臨床的に関連のある条件での超音波治療を通して、安定したキャビテーションが支配したということが確認された。非ヒト霊長類(NHP)1及びNHP2に対する微小気泡注入前のスペクトル振幅(図10A及び10D)及び微小気泡注入後のスペクトル振幅(図10B及び10E)が示されている。NHP1(図10C)及びNHP2(図10F)に対する治療セッション全体のスペクトログラムが示されている。焦点体積内に微小気泡が入った後の広帯域フロア(broadband floor)における実質的な増加はなく(破線:1001)、より高い高調波放出を検出した。図10G及び10Hは、NHP1及びNHP2の両方に対して、微小気泡投与直後に安定した高調波のキャビテーションレベルが上昇し(破線:1002)、超音波処理を通して比較的一定のままであったことを示している。安定した超高調波のキャビテーションレベル1003及び慣性キャビテーションレベル1004は、適度な増加を有し、0.4のMIにおいてひどいキャビテーション事象はないことを示した。矢印1005は、図10B及び10Eにおいて示されている時点を示している。図10Iは、微小気泡投与(t>15秒)後の、NHP1(充填バー)及びNHP2(パターンバー)に対する、集束超音波処理中の平均の安定した高調波のキャビテーション用量(1006)、安定した超高調波のキャビテーション用量(1007)、及び慣性キャビテーション用量(1008)を示している。データは、平均±標準偏差として表されている(n=210のパルス)。微小気泡投与前に、受信した信号のスペクトル含有量は、基本周波数(例えば、0.25MHz等)及び最初の2つ又は3つの高調波を含んでいた(図10A及び10D)。微小気泡ボーラス注入の後、より高い高調波が増加し、NHP2に対しては、超高調波が増加した(図10B及び10E)。しかし、両方のFUS治療のスペクトログラムにおいて例示されているように、微小気泡投与後の広帯域信号フロアにおいて考慮すべき増加はなかった(図10C及び10F)。これらの定性的特性を、SCD及びICDで定量化した(図10G~10I)。SCDhは、微小気泡注入(t>15秒)で5.44±1.16倍増加し、SCDu及びICDは、それぞれ1.46±0.01倍及び1.48±0.21倍増加した。微小気泡は、安定した反復振動を受け、安定したキャビテーションが、治療を通して、過渡的及び慣性キャビテーションより優勢であった。平均して、総キャビテーション用量は、1.37±0.17×104mVであった。
【0081】
BBB開口のためのシングルエレメントトランスデューサ及びニューロナビゲーションガイダンスを使用した臨床システムは、代替のアプローチと比較して明確な利点を提供する。第一に、BBB開口は、非侵襲的な様式で達成することができ、これは、特に、AD又はPDにおいて必要とされる長期間の繰り返し治療に対して有利であり得る。第二に、そのようなシステムは、異なる深さにおける大きな軸方向対横方向の焦点サイズ比及び可変の焦点ディストーションを犠牲にする(図5)けれども、浅い(すなわち、皮質の)及び深い(すなわち、皮質下の)脳領域の両方へのアクセスを提供することができる(図3~5)。また、特に温度上昇が発生しないことを考慮に入れると、FUS媒介治療の広範な使用のためには費用がかかって恐るべきハードルであり得る治療BBB開口中のMRIシステムの必要性もない。ニューロナビゲーションシステムは、脳神経外科手術に利用可能であるため、病院にとって唯一の追加コストは、シングルエレメントトランスデューサ、駆動エレクトロニクス、及びロボットアームである。MRガイド下FUS治療(例えば、3~4時間等)とは対照的に、標的化及び超音波処理は、効率的でシンプル(<30分)である。さらに、NgFUSはポータブルであるため、MRIユニットを必要とすることなく、任意の場所で治療を行うことができる。低い周波数及び低いデューティサイクルの治療は、それぞれ頭蓋骨誘発異常(図5及び6)並びにFUS誘発頭蓋骨加熱(図8)を制限する。
【0082】
低い周波数は、低い音圧でのキャビテーション媒介バイオ効果を支持する。BBBを、NHPモデルにおいて0.4のMIで開くことができ(図9)、これは、ヒトにおいて非集束の植え込み1.05-MHzトランスデューサを使用した場合に必要とされる最小のMIの2分の1である。低圧治療は、安全性を保証するだけでなく(図9)、日常的に使用される超音波イメージングプロトコルに適合するため、規制当局の承認も容易にする。そのような音圧は、共整列PCDトランスデューサ(図7)を用いてリアルタイムで検出可能なキャビテーション活性を扇動し、安定したキャビテーション放出が、NHPモデルにおけるFUS治療中のスペクトルを支配した(図10)。従って、臨床的に関連するパラメータ(表2)が、ひどい慣性キャビテーションをもたらすことは予想されず、これはより高いMI超音波処理において検出された(図7)。
【0083】
成功したBBB開口を、10ms長のパルスを使用して行った。特定の実施形態において、開示される特定事項は、マイクロ秒ほどのより短いパルスを使用して(<50サイクル)、定常波の形成を回避することができる。短パルスは、(例えば、絶対飛行時間情報を使用した)治療及びイメージングプロセスの同期化を介して、キャビテーション信号の改善されたパッシブマッピングを可能にし得る。シングルエレメントPCDトランスデューサを、受信モードで動作するマルチエレメントリニアアレイと交換することによって、時間又は周波数領域のいずれかにおけるPAMを達成することができる。PAMアレイを使用して、受信における頭蓋骨誘発異常を説明し、より正確な様式で音響キャビテーション活性を局在化することができる。
【0084】
開示されるシステムを使用して、軸方向の次元に沿った軸対称ビームプロファイルを仮定して、2D空間において数値シミュレーションを行った。ヒト頭蓋骨は、3D空間において非対称且つ高度に不均質であり、従って、シミュレートされたプロファイルは一次近似である。シングルエレメントトランスデューサを、同時に発射する1mmの点源の集合として、k‐Waveにおいてシミュレートした。異なる深さで治療ビームを集束させることの効果を試験するために(図3~5)、入射角(例えば、約90°等)を両方のシミュレーションに対して設定した。一部の実施形態において、FUSトランスデューサの横方向の位置は、数値シミュレーションにおいて一定のままであった。経頭蓋伝搬後のシミュレートされた圧力損失と実験圧力損失との間には矛盾があった(36%対44.4%)が、これは、3Dシミュレーション、より細かいグリッド及び時間、並びに同じ頭蓋骨形状/寸法を使用することによって減らすことができる。開示される特定事項は、0.5mmの等方性分解能を有するグリッド、特定のビーム軌道、及び前頭前皮質内の明確に定められた標的を使用して、患者ごとの3Dシミュレーションに使用することができる。
【0085】
平均して、軸方向シフトは、実験におけるものよりもシミュレーションにおいて予測されたものと類似の大きさであった(図5及び6)。シミュレーションにおける平均化を、異なるパルス長及び焦点深度にわたって行い(図5)、実験的測定(図6)を、単一のパルス長(例えば、25サイクル等)及び固定されたトランスデューサ-頭蓋骨距離(例えば、62mm等)で実行した。実験的な頭蓋骨-トランスデューサ距離(例えば、-30mmの軸方向シフト)に似たシミュレーションにおける軸方向シフトは、2.25±1.92mmであり(図5)、2.1±1.1mmの実験的に得られたシフトと類似していた(図6)。in vitroでのキャビテーション検出実験を、in vivoでの脈管構造の複雑性及び可変性を捕らえない単一の0.8mm血管模倣チューブを使用して実行した。全てのシミュレーション及びベンチトップ実験はヒト頭蓋骨に焦点を当てたけれども、NgFUSシステムの最初のin vivoでの実現可能性試験は、2匹のNHPを使用して実行した。
【0086】
開示される特定事項は、ニューロナビゲーションガイダンス及びリアルタイムキャビテーションモニタリングを有する、シングルエレメントトランスデューサに基づくBBB開口に対する臨床システムを提供する。このシステムを使用して、制限された焦点ディストーション及び誘発頭蓋骨加熱で、非侵襲的で標的化されたBBB開口を達成することができる。横方向及び軸方向のシフトを、0.5±0.4mm及び2.1±1.1mmであると実験的に測定し、0.1±0.2mm及び6.1±2.4mmとしてシミュレートした。焦点体積は、ヒト頭蓋骨断片を透過した後に、それぞれ横方向及び軸方向の次元に沿って3.3±1.4%及び3.9±1.8%だけ減少した。頭蓋骨表面上での最大温度上昇は0.16±0.03℃であった。この臨床システムを使用して、153±5.5mmのBBB開口を、臨床的に関連するパラメータを用いて、検出可能な損傷はなく、NHPモデルにおいて行った。
【0087】
本明細書において記載される特定事項は、上記の利益及び利点を達成するために十分に計算されていることは明らかになるけれども、本明細書において開示される特定事項は、本明細書において記載される特定の実施形態によって範囲を限定されることはない。開示される特定事項は、その真意から逸脱することなく、修正、変更、及び変化の影響を受けやすいということが正しく理解されることになる。当業者は、本明細書において記載される特定の実施形態に対する多くの等価物を、日常の実験のみを使用して認識することになるか又は確かめることができる。そのような等価物は、添付の特許請求の範囲に包含されると意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図7A
図7B
図7C
図7D
図8
図9
図10
【国際調査報告】