(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-22
(54)【発明の名称】血清尿酸値の低下、尿酸性腎症の予防・治療のための薬物の製造におけるシナユリノキ又はその抽出物の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 36/57 20060101AFI20221215BHJP
A61P 19/06 20060101ALI20221215BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
A61K36/57
A61P19/06
A61P13/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022520953
(86)(22)【出願日】2020-10-23
(85)【翻訳文提出日】2022-04-05
(86)【国際出願番号】 CN2020123257
(87)【国際公開番号】W WO2021078252
(87)【国際公開日】2021-04-29
(31)【優先権主張番号】201911017671.8
(32)【優先日】2019-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522136946
【氏名又は名称】四川科瑞欣医▲葯▼科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】▲馬▼ 良
(72)【発明者】
【氏名】付 平
【テーマコード(参考)】
4C088
【Fターム(参考)】
4C088AB65
4C088AC02
4C088AC06
4C088AC11
4C088BA09
4C088BA10
4C088CA05
4C088CA06
4C088CA08
4C088MA52
4C088MA66
4C088NA14
4C088ZA81
4C088ZA96
(57)【要約】
本発明は、血清尿酸値の低下、尿酸性腎症の予防・治療のための薬物の製造におけるシナユリノキ又はその抽出物の使用に関し、医薬分野に属する。本発明は、血清尿酸値を低下させる薬物の製造におけるシナユリノキ又はその抽出物の使用を提供する。また、本発明は、尿酸性腎症を治療及び/又は予防する薬物の製造におけるシナユリノキ又はその抽出物の使用を提供する。動物実験により、シナユリノキは血清尿酸値を明らかに低下させるとともに、高尿酸血症マウスの尿細管拡張、糸球体硬化及び腎臓間質線維化の程度を改善できることを実証した。更なる研究により、シナユリノキは腎臓尿酸排泄を促進することにより血清尿酸値を低下させる作用を果たすことが明らかになった。本発明を適用すれば、高尿酸血症及びそれに起因する高尿酸腎症の臨床治療のために新しい薬物を提供することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血清尿酸値を低下させる薬物の製造におけるシナユリノキ(Liriodendron chinense (Hemsl.) Sarg.)又はその抽出物の使用。
【請求項2】
痛風を治療及び/又は予防する薬物の製造におけるシナユリノキ(Liriodendron chinense (Hemsl.) Sarg.)又はその抽出物の使用。
【請求項3】
尿酸性腎症を治療及び/又は予防する薬物の製造におけるシナユリノキ(Liriodendron chinense (Hemsl.) Sarg.)又はその抽出物の使用。
【請求項4】
前記薬物は血清クレアチニン、血清尿酸、血清尿素窒素、尿微量アルブミンのうちの少なくとも1種の値を低下させることと、
前記薬物は尿細管拡張及び/又は糸球体硬化を改善することと、
前記薬物は腎臓線維化を改善することと、
前記薬物は腎臓におけるコラーゲン線維1、フィブロネクチン、α-平滑筋アクチンのうちの少なくとも1種の表現量を低下させることとのうちの少なくとも1つを満たす、ことを特徴とする請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記薬物は腎臓尿酸の排泄を促進する、ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記薬物はシナユリノキ又はその抽出物を有効成分とし、薬学上許容できる補助物質又は補助成分を加えて製造した製剤である、ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記製剤は経口製剤又は注射製剤である、ことを特徴とする請求項6に記載の使用。
【請求項8】
シナユリノキの薬用部位が根、樹皮、枝、葉のうちの少なくとも1種である、ことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
前記抽出物はアルコール及び/又は水による抽出物であり、好ましくは、前記アルコールはC1~C6脂肪族アルコールであり、さらに好ましくは、前記アルコールはエタノールである、ことを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
前記抽出物の製造方法は、
シナユリノキを採取してエタノール水溶液に加えて抽出し、抽出液を濃縮することにより抽出物を得るステップを含む、ことを特徴とする請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記抽出は、
シナユリノキを75v/v%のエタノール水溶液に加えて抽出することと、
シナユリノキとエタノール水溶液の比は500g/5Lであることと、
加熱沸騰の条件で3時間抽出することと、のうちの少なくとも1つを満たす、ことを特徴とする請求項10に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血清尿酸値(serum uric acid level)の低下、尿酸性腎症の予防・治療のための薬物の製造におけるシナユリノキ(Liriodendron chinense (Hemsl.) Sarg.)又はその抽出物の使用に関し、医薬分野に属する。
【背景技術】
【0002】
高尿酸血症とは、プリン体が正常な範囲の飲食の状況下で、空腹時血清尿酸値を異なる日に2回測定した結果、男性≧416μmol/L(7mg/dl)、女性≧357μmol/L(6mg/dl)である状態を指す。近年、中国国内外の多くの研究により、高尿酸血症は痛風、心血管疾患、メタボリックシンドローム、高血圧及び腎臓疾患の発生及び発展と密接に関連していることが証明された。高尿酸血症は慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease,CKD)の罹患率が高くなる重要な原因であり、しかもCKDが進行する独立したリスク因子である。研究から明らかなように、血清尿酸値を低下させることは腎臓疾患の進行を遅らせることができる。高尿酸腎症の治療は高尿酸血症の予防、改善、血清尿酸値の低減、尿酸塩の腎臓への蓄積を防止することが重点である。
【0003】
シナユリノキ(Liriodendron chinense (Hemsl.) Sarg.)は、中国では馬褂木という別名があり、モクレン科ユリノキ属植物である。文献によると、シナユリノキの樹皮は風邪や湿邪を取り除き、咳を止め、リウマチ関節痛を治療するなどの作用がある。しかし、血清尿酸値を低下させ、尿酸性腎症を改善する作用があるか否かはまだ報告されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来技術に存在する技術的課題の1つを少なくとも解決することを目的とする。このため、本発明の目的は、血清尿酸値を低下させる薬物の製造におけるシナユリノキ又はその抽出物の使用を提供することである。本発明の他の目的は、尿酸性腎症を治療及び/又は予防する薬物の製造におけるシナユリノキ又はその抽出物の使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、血清尿酸値を低下させる薬物の製造におけるシナユリノキ(Liriodendron chinense (Hemsl.) Sarg.)又はその抽出物の使用を提供する。
【0006】
本発明は、尿酸性腎症を治療及び/又は予防する薬物の製造におけるシナユリノキ(Liriodendron chinense (Hemsl.) Sarg.)又はその抽出物の使用を提供する。
【0007】
さらに、前記使用は、
前記薬物は血清クレアチニン、血清尿酸、血清尿素窒素、尿微量アルブミンのうちの少なくとも1種の値を低下させることと、
前記薬物は尿細管拡張及び/又は糸球体硬化を改善することと、
前記薬物は腎臓線維化を改善することと、
前記薬物は腎臓におけるコラーゲン線維1、フィブロネクチン、α-平滑筋アクチンのうちの少なくとも1種の表現量を低下させることとのうちの少なくとも1つを満たす。
【0008】
さらに、前記薬物は、腎臓尿酸の排泄を促進する。
【0009】
さらに、前記薬物はシナユリノキ又はその抽出物を有効成分とし、薬学上許容できる補助物質又は補助成分を加えて製造した製剤である。
【0010】
さらに、前記製剤は経口製剤又は注射製剤である。
【0011】
さらに、シナユリノキの薬用部位が根、樹皮、枝、葉のうちの少なくとも1種である。
【0012】
さらに、前記抽出物はアルコール及び/又は水による抽出物である。
【0013】
好ましくは、前記アルコールはC1~C6脂肪族アルコールである。
【0014】
さらに好ましくは、前記アルコールはエタノールである。
【0015】
さらに、前記抽出物の製造方法は、
シナユリノキを採取してエタノール水溶液に加えて抽出を行い、抽出液を濃縮することにより抽出物を得るステップを含む。
【0016】
さらに、前記抽出は、
シナユリノキを75v/v%のエタノール水溶液に加えて抽出することと、
シナユリノキとエタノール水溶液の比は500g/5Lであることと、
加熱沸騰の条件で3時間抽出することとのうちの少なくとも1つを満たす。
【0017】
本発明は、血清尿酸値を低下させるためのシナユリノキ(Liriodendron chinense (Hemsl.) Sarg.)またはその抽出物を提供する。
【0018】
本発明は、痛風を治療及び/又は予防するためのシナユリノキ(Liriodendron chinense (Hemsl.) Sarg.)またはその抽出物を提供する。
【0019】
本発明は、尿酸性腎症を治療及び/又は予防するためのシナユリノキ(Liriodendron chinense (Hemsl.) Sarg.)またはその抽出物を提供する。
【0020】
本発明は、血清尿酸値を低下させる必要のある患者にシナユリノキ(Liriodendron chinense (Hemsl.) Sarg.)またはその抽出物を投与することによって血清尿酸値を低下させるための方法を提供する。
【0021】
本発明は、痛風を治療及び/又は予防する必要のある患者にシナユリノキ(Liriodendron chinense (Hemsl.) Sarg.)またはその抽出物を投与することによって痛風を治療及び/又は予防する方法を提供する。
【0022】
本発明は、尿酸性腎症を治療及び/又は予防する必要のある患者にシナユリノキ(Liriodendron chinense (Hemsl.) Sarg.)またはその抽出物を投与することによって尿酸性腎症を治療及び/又は予防する方法を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、血清尿酸値の低下、尿酸性腎症の予防・治療のための薬物の製造におけるシナユリノキ又はその抽出物の使用を提供する。動物実験により、シナユリノキは血清尿酸値を明らかに低下させるとともに、高尿酸血症マウスの尿細管拡張、糸球体硬化及び腎臓間質線維化の程度を改善できることを実証した。更なる研究により、シナユリノキは腎臓尿酸排泄を促進することにより血清尿酸値を低下させる作用を果たすことが明らかになった。本発明を適用すれば、高尿酸血症及びそれに起因する高尿酸腎症の臨床治療のために新しい薬物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施例1におけるマウスの血清クレアチニン、血清尿酸、血清尿素窒素、尿微量アルブミンの検出結果図である。
【
図2】実施例1におけるマウスの腎臓組織のPAS染色図である。
【
図3】実施例2におけるマウスの腎臓MASSON染色及びα-平滑筋アクチンの免疫組織化学染色図である。
【
図4】実施例2におけるマウスの腎臓コラーゲン線維1、フィブロネクチン、α-平滑筋アクチンの発現量の検出結果図である。
【
図5】実施例3におけるマウスの24時間尿中尿酸排泄量の検出結果図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、実施例を参照しながら本発明の解決手段を説明する。当業者であれば、以下の実施例は本発明を説明するためにのみ使用され、本発明の範囲を限定するものとはみなされないことを理解できる。実施例において具体的な技術又は条件が明記されていない場合、当分野の文献に記載の技術又は条件に基づいて、又は製品の取扱書に基づいて行う。使用する試薬又は機器にメーカーが明記されていない場合は、いずれも市販品として入手できる通常の製品である。
【0026】
シナユリノキ抽出物の製造では、シナユリノキ(樹皮、枝、葉の部分を含む)500gを5Lの75v/v%エタノール水溶液に加えて3時間加熱して沸騰した後、濾過し、溶媒を蒸発除去し、茶色の固形抽出物を得る。
【0027】
実験方法は、オスのC57BL/6マウスをランダムに正常群、モデル群、陽性対照群(アロプリノール10mg/kg/d)、シナユリノキ抽出物低用量治療群(250mg/kg/d)及びシナユリノキ抽出物高用量治療群(500mg/kg/d)に分け、各群は6匹であった。アデニン(160mg/kg/d)とオキソン酸カリウム(2400mg/kg/d)を各モデル群と治療群のマウスに胃内投与してモデルを作成し、正常群は同体積の二重蒸留水を胃内投与し、連続して3週間モデルを作成する。モデルを作成すると同時に、シナユリノキ抽出物とアロプリノールを各治療群に胃内投与し、正常群とモデル群には同体積の再蒸留水を胃内投与し、連続して3週間治療した。21日目に代謝ケージを用いてマウスの尿を24時間採取した後、マウスを殺した。
【0028】
実施例1 血清尿酸低下及び尿酸性腎症の予防・治療におけるシナユリノキの作用
【0029】
室温、3000r/minでマウス血液サンプルを15min遠心分離した後、血清を採取して生化学指標を測定し、室温、800g/minでマウス尿液サンプルを10min遠心分離した後、上層尿液を採取して尿微量アルブミン値を測定した。そのうち、血清クレアチニンと血清BUNは全自動生化学分析装置(TC6010L、江西特康科技有限責任公司製)を用いて検出し、血清尿酸と尿微量アルブミンは全自動生化学分析装置(BS-240、深セン邁瑞生物医療電子股フン有限公司製)を用いて検出した。実験結果を
図1に示す。マウスの腎臓組織に対してPAS染色を行い、結果を
図2に示す。
【0030】
図1から分かるように、シナユリノキは血清尿酸値を明らかに低減でき、腎臓機能を改善した(血清クレアチニン、血清尿素窒素BUN及び尿微量アルブミン値を低下させた)。しかも、シナユリノキ高用量治療群では、血清クレアチニン、血清尿素窒素BUN及び尿微量アルブミンに対する改善作用が低用量治療群より明らかに優れている(正常群と比べて、**P<0.01、****P<0.0001;モデル群と比べて、§P<0.05、§§P<0.01、§§§P<0.001、§§§§P<0.0001)。
【0031】
図2から分かるように、シナユリノキで治療した結果、高尿酸血症マウスでは、腎臓尿細管拡張、糸球体硬化は顕著に改善した。
【0032】
実施例2 慢性尿酸性腎線維化に対するシナユリノキの改善作用
【0033】
MASSON染色により腎臓のコラーゲン線維の発現を評価し、同時に腎臓α-SMA(α-平滑筋アクチン)の免疫組織化学染色を行った。実験結果を
図3に示す。腎臓Western blotの結果を
図4に示す。
【0034】
図3から分かるように、シナユリノキで治療した結果、高尿酸血症マウスでは、腎臓間質線維化の程度は顕著に改善した。α-SMA免疫組織化学染色から明らかなように、シナユリノキは間質α-SMA発現を有効に抑制できた。
【0035】
図4から分かるように、高尿血症マウスでは、腎臓のコラーゲン線維1、フィブロネクチン、α-平滑筋アクチンの発現は明らかに上昇しており、シナユリノキで治療した結果、腎臓でのこれらの発現は顕著に低下した。
【0036】
実施例3 シナユリノキによる腎臓尿酸排泄促進による血清尿酸値の低下
【0037】
実験の21日目に、代謝ケージを用いてマウスの24時間尿液を収集し、尿液体積を記録した。室温、800g/minでマウス尿液標本を10min遠心分離した後、上層尿液を採取し、全自動生化学分析装置(BS-240、深セン邁瑞生物医療電子股フン有限公司製)を用いて尿中尿酸値を測定し、24時間尿中尿酸排泄量=24時間尿液体積×24時間尿中尿酸濃度であった。実験結果を
図5に示す。
【0038】
図5から分かるように、モデル群マウスでは、24時間尿中尿酸排泄量は明らかに低下した(正常群と比べてP<0.0001)が、シナユリノキで治療した結果、尿中尿酸排泄量は著しく増加し、しかも高用量(モデル群と比べてP<0.0001)は低用量群(モデル群と比べてP<0.01)より優れている。
【0039】
以上の結果から明らかなように、シナユリノキは腎臓尿酸排泄を促進することにより血清尿酸値を低下させた。
【国際調査報告】