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特表2022-553181擬似非晶質ポリアリールエーテルケトンをベースにした熱成形可能なポリマーシート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-22
(54)【発明の名称】擬似非晶質ポリアリールエーテルケトンをベースにした熱成形可能なポリマーシート
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20221215BHJP
   B29C 51/02 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
C08J5/18 CEZ
B29C51/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022522683
(86)(22)【出願日】2020-10-14
(85)【翻訳文提出日】2022-06-13
(86)【国際出願番号】 EP2020078891
(87)【国際公開番号】W WO2021074218
(87)【国際公開日】2021-04-22
(31)【優先権主張番号】62/915,096
(32)【優先日】2019-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ロデリック・リーバー・ザ・サード
(72)【発明者】
【氏名】ジェイソン・ライアンズ
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン・ジュアノー
(72)【発明者】
【氏名】ブルース・クレイ
【テーマコード(参考)】
4F071
4F208
【Fターム(参考)】
4F071AA51
4F071AA88
4F071AB26
4F071AB28
4F071AD01
4F071AE05
4F071AE09
4F071AE17
4F071AH05
4F071AH07
4F071AH12
4F071AH17
4F071AH19
4F071BB03
4F071BB06
4F071BB13
4F071BC01
4F071BC03
4F208AA32
4F208AB06
4F208AB11
4F208AB12
4F208AC03
4F208AR06
4F208MA01
4F208MA05
4F208MB01
4F208MC03
4F208MG22
4F208MH06
4F208MH10
4F208MK08
4F208MK13
(57)【要約】
熱成形半結晶性物品の生産にとって有用である、1000から10,000ミクロンの厚さを有するシートは、平行平板型レオメーターによって測定される、100秒-1で少なくとも約400Pa・sの360℃での粘度を有するポリアリールエーテルケトンをベースとする。ポリアリールエーテルケトンは、熱成形可能なシート中で擬似非晶質状態にある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーを含むシートであって、前記シートが、1000から10,000ミクロンの厚さを有し、前記ポリマーが、平行平板型レオメーターによって測定される、100秒-1で少なくとも400Pa・sの360℃での粘度を有する擬似非晶質状態のポリアリールエーテルケトン(PAEK)である、シート。
【請求項2】
前記ポリマーが、平行平板型レオメーターによって測定される、100秒-1で少なくとも600Pa・sの360℃での粘度を有する、請求項1に記載のシート。
【請求項3】
前記ポリマーが、平行平板型レオメーターによって測定される、100秒-1で少なくとも800Pa・sの360℃での粘度を有する、請求項1に記載のシート。
【請求項4】
前記ポリマーが、平行平板型レオメーターによって測定される、100秒-1で5000Pa・s以下の360℃での粘度を有する、請求項1に記載のシート。
【請求項5】
前記ポリアリールエーテルケトン(PAEK)が、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載のシート。
【請求項6】
前記ポリアリールエーテルケトン(PAEK)が、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)である、請求項1に記載のシート。
【請求項7】
前記ポリエーテルケトンケトン(PEKK)が、50:50から90:10のT:I異性体比を有する、請求項6に記載のシート。
【請求項8】
前記ポリエーテルケトンケトン(PEKK)が、65:35から75:25のT:I異性体比を有する、請求項6に記載のシート。
【請求項9】
前記ポリエーテルケトンケトン(PEKK)が、68:32から72:28のT:I異性体比を有する、請求項6に記載のシート。
【請求項10】
前記ポリエーテルケトンケトン(PEKK)が、約70:30のT:I異性体比を有する、請求項6に記載のシート。
【請求項11】
1種又は複数の非核形成充填剤を更に含む、請求項1に記載のシート。
【請求項12】
強化繊維、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、ガラス球、シリカ、及びタルクからなる群から選択される1種又は複数の非核形成添加剤を更に含む、請求項1に記載のシート。
【請求項13】
透明である、請求項1に記載のシート。
【請求項14】
モールドを使用して請求項1に記載のシートを熱成形する工程を含む、半結晶性物品を製造する方法。
【請求項15】
a)軟化工程として、請求項1に記載のシートを、ポリマーのガラス転移温度を超える温度まで加熱して、ポリマーを軟化させる工程、
b)結晶化工程として、ポリマーを結晶化させるのに十分な時間、前記シートを、ポリマーのガラス転移温度を超え、且つポリマーの溶融温度未満である温度に加熱する工程、
c)前記軟化工程の間、又は結晶化が起こる前の前記結晶化工程の間に、モールド上に前記シートを置く工程、並びに
d)半結晶性成型物品を形成する工程
を含む、半結晶性物品を製造する方法。
【請求項16】
モールドと比較して3%未満の寸法変化を示す、請求項14又は15に従って得られる半結晶性物品。
【請求項17】
請求項1に記載のシートを作製する方法であって、
a)ポリマーを含む樹脂組成物を、ポリマーの融点を超える適切な加工温度まで加熱して、溶融樹脂組成物を得る工程、
b)前記溶融樹脂組成物をシートに形成する工程、並びに
c)擬似非晶質状態のポリマーを得るのに有効な速度で、前記シートを急冷する工程
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱成形用途に使用するのに適切なポリマーシートに関係し、ポリマーシートは、ある一定の溶融粘度特質を有する擬似非晶質ポリアリールエーテルケトン(PAEK)ポリマーをベースとする。
【背景技術】
【0002】
高温熱可塑性ポリマー、例えば、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)は、航空宇宙産業及び集積回路産業における用途を含む、多数の用途における選択肢として評価され続けている。一般的に、PAEKは、耐高温及び耐薬品性、非常に良好な機械的特性、優秀な耐摩耗性、並びに天然の難燃性を含む、並外れた特徴を持っている。PAEK部品は、熱成形法を含む、多数の方法によって生産され得る。しかし、従来の熱成形法によって成形されたPAEK部品は、数ある特性の中でもとりわけ、高温での変形に対して所望の耐性を示さない可能性がある。
【0003】
熱成形のプロセスは、日常的な製造法である。従来の熱成形においては、プラスチックシートを高温まで加熱し、冷たい(又は室温の)モールドに接触させて置いて、所望の形状を成形する。そのような従来の熱成形法によって擬似非晶質シートを熱成形する場合、熱成形した部品は、急速に冷却されるので非晶質のままでもあり、熱成形を受けた非晶質シートの特性を保持する。しかし、ある一定の用途において、所望のモールドの形状を有する半結晶性部品を成形することが望ましいこともある。擬似非晶質シートから半結晶性部品を生産し、したがって、従来の熱成形法によって成形された擬似非晶質部品と比較して、耐熱性の向上、耐薬品性の改善、及び機械的特性の改善を示す成型部品を生産できる、熱成形法に対する必要性が依然としてある。
【0004】
国際公開第2018/232119号はそのような方法を記載しており、この開示全体は、あらゆる目的のための参照によって本明細書に組み込まれる。この方法は、以下の工程:
軟化工程として、少なくとも1種の擬似非晶質ポリマーを含むシートを、擬似非晶質ポリマーのガラス転移温度を超える温度まで加熱して、擬似非晶質ポリマーを軟化させる工程、
結晶化工程として、擬似非晶質ポリマーを結晶化させるのに十分な時間、擬似非晶質ポリマーを含むシートを、擬似非晶質ポリマーのガラス転移温度を超えて擬似非晶質ポリマーの溶融温度未満である温度に加熱する工程、
軟化工程の間、又は結晶化が起こる前の結晶化工程の間に、モールド上に擬似非晶質ポリマーを含むシートを置く工程、並びに
半結晶性成型物品を形成する工程
を含み、
擬似非晶質ポリマーは、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)、及びそれらの混合物からなる群から選択される、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)である。
【0005】
ポリアリールエーテルケトンが非晶質又はほんの僅か結晶性(結晶化度5wt%以下)である、熱成形可能なポリアリールエーテルケトンシートは、米国特許第4,996,287号明細書の開示によって例示されている通り、当技術分野において既知である。しかし、そのようなPAEKシートの調製のための米国特許第4,996,287号明細書に記載されている手順には、重大な限界がある。注目すべきことに、この特許は、そのようなシートを調製するために使用されたPEKKのT:I比が相対的に高い(例えば、70:30又は80:20)場合、達成できる最大のシート厚は、わずかに625ミクロンであることを教示している(表1参照)。したがって、本発明の以前に、厚さが大きく(例えば、少なくとも1000ミクロン)かつT:I比が高い擬似非晶質PEKKシートも、そのようなシートを得る方法のいずれも、知られていなかった。しかし、熱成形されたPEKKシートの特性は、シート厚及びT:I比の両方によって有意に影響を及ぼされるので、高いT:I比(例えば、70:30)を有するPEKKを含む、比較的厚い、熱成形可能な擬似非晶質シートを生産することが可能な方法及び組成物を開発することが、非常に望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2018/232119号
【特許文献2】米国特許第4,996,287号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Choupin、「Mechanical performances of PEKK thermoplastic composites linked to their processing parameters」(2017)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、ポリマーを含むシートであって、シートが、約1000ミクロンから約10,000ミクロン(例えば、1000ミクロンから10,000ミクロン)の厚さを有し、ポリマーが、平行平板型レオメーターよって測定される、100秒-1で少なくとも約400Pa・s(例えば、少なくとも400Pa・s)の360℃での粘度を有する擬似非晶質状態のポリアリールエーテルケトン(PAEK)である、シートを提供する。そのような粘度要件(すなわち、平行平板型レオメーターよって測定される、100秒-1で少なくとも約400Pa・sの360℃での粘度)を満たすPAEKを使用することは、性質が擬似非晶質なのでモールドを伴う熱成形法に使用するのに適切である、PAEKを含む比較的厚いポリマーシートを押し出して、半結晶性成型物品を生産することを可能にする鍵であることが、ここに見出された。より高い結晶化度のPAEKシートは、堅すぎて、熱成形法の成型工程において容易に使用できない傾向にあるので、熱成形用のシート中に擬似非晶質状態のポリアリールエーテルケトンを有することが、望ましい。
【0009】
本発明のさらなる態様は、モールドを使用して上記によるシートを熱成形することによって、半結晶性物品を製造する方法を提供する。この方法は、工程:
a)軟化工程として、上記によるシートを、ポリマーのガラス転移温度を超える温度まで加熱して、ポリマーを軟化させる工程、
b)結晶化工程として、ポリマーを結晶化させるのに十分な時間、シートを、ポリマーのガラス転移温度を超えてポリマーの溶融温度未満である温度に加熱する工程、
c)軟化工程の間、又は結晶化が起こる前の結晶化工程の間に、モールド上にシートを置く工程、並びに
d)半結晶性成型物品を形成する工程
を含んでもよい。
【0010】
このようにして得られる半結晶性物品は、モールドと比較して、約5%未満、約4%未満、約3%未満、約2%未満、又は約1%未満の寸法変化を示し得る。
【0011】
本発明によってまた、ポリマーを含むシートを作製する方法であって、シートが、約1000ミクロンから約10,000ミクロン(例えば、1000ミクロンから10,000ミクロン)の厚さを有し、ポリマーが、平行平板型レオメーターによって測定される、100秒-1で少なくとも約400Pa・s(又は、少なくとも400Pa・s)の360℃での粘度を有する擬似非晶質状態のポリアリールエーテルケトン(PAEK)であり、方法が、
a)ポリマーを含む樹脂組成物を、ポリマーの融点を超える適切な加工温度まで加熱して、溶融樹脂組成物を得る工程、
b)溶融樹脂組成物を(例えば、好適な大きさのダイによる溶融押出によって)シートに成形する工程、並びに
c)擬似非晶質状態のポリマーを得るのに有効な速度で、シートを急冷する工程
を含む、方法も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明による、押出後のPEKKシートのWAXD回折パターンを示す図である。
図2】本発明の一態様による熱成形後のPEKKシートのWAXD回折パターンを示す図である。上に星「*」があるピークは、PEKK結晶形IIを表すのに対して、星のないピークは、PEKK結晶形Iを表す。
図3】熱成形後、本発明によるPEKK(T:I=70:30、厚さ3mm)のシートの写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において使用されるとき、用語「物品(article)」は、「部品(part)」又は「物体(object)」と互換的に使用されてよい。本発明の代表的な物品は、例えば、スピーカーコーン、スピーカースパイダー、バックエンド/バーンイン集積回路(IC)テストソケット、ICウエハキャリヤ、ICウエハハンドリング工具、ICハンドリングトレイ、電子パッケージング、ブリスター包装、3D電子回路、ベアリング、バッキングプレート、ブッシング、センサー、スイッチ、電子筐体、チュービング、シリンダー、カップ、容器、容器の蓋、衛星パネル、鏡、ポンプ部品(例えば、羽根車、固定子、筐体)、航空宇宙産業部品(例えば、キャビネット、キャビネットの扉、シンク、制御盤、便器、背面及び底面を含む座席の部品)、圧縮天然ガス(CNG)又は圧縮液化石油ガス(CLPG)複合材タンクフォーム、複合材ツーリングフォーム、ラミネート保護カバーフィルム(例えば、FFF/FDM/RFFツーリング)、及び薬品貯蔵容器を含んでもよい(又はそれらの部品を含んでもよい)。本発明の代表的な物品は、有望な用途を有する複雑な形状の特殊部品を含んでもよく、とりわけ、航空宇宙、航空機、石油及びガス、電子工学、建築及び建設、ダクティング、並びに高温容器を含むが、これらに限定されない。
【0014】
「熱成形」(「真空成形」を含む)は、本明細書及び当技術分野において使用されるとき、材料のシートを(例えば、オーブン中で)曲げやすい温度まで加熱すること、及び加熱されたシートをモールド上で成形することを含む。選択された熱成形法によって、(引き続きより詳細に説明される通り)、モールドは、相対的に冷たくても相対的に温かくてもよい。例えば、モールドは、約室温であってもよいが、しかし、その他の実施形態において、熱成形されるシート中に含有されるポリマーのガラス転移温度以下の温度等の、室温より高い温度であってもよい。加熱したシートは、真空を使用してモールドの上又はそれを覆って延伸してもよく、そこで冷却して成型物品にすることができる。従来の熱成形法は、(例えば、オーブン中で)プラスチックシート等の材料のシートを、材料のガラス転移温度を超える温度等の高温まで加熱すること、及び加熱されたシートを冷たい(例えば、室温の)モールドと接触させて置いて、所望の形状を成形することを伴う。シートは、例えば真空を使用して、モールドの中又は上へ延伸させてもよい。擬似非晶質材料のシートがそのような従来の熱成形法を受ける場合、熱成形された部品は、モールド上で急速に冷却され、その結果、モールドの形になる。急速に冷却されて熱成形された部品は、熱成形を受けた擬似非晶質シートの特性を保持する。
【0015】
本明細書において使用されるとき、用語「シート」は、典型的に平坦な又は実質的に平面状であって、物品の長さ及び幅より有意に薄い厚さを有する、三次元の物品のことである(ペレット、タブレット、又は円筒とは異なる)。例えば、シートは、長さ及び幅の両方の10%未満又は5%未満の厚さを有してもよい。シートは、厚さが大きいことによってフィルムと区別される。シートは、500ミクロン以上の厚さを有するのに対して、フィルムは、500ミクロン未満の厚さを有する。シートは、基材に付着していてもよく、又は基材から完全に独立していてもよい。シートは、用途及び使用によって、非多孔質、多孔質、微孔質等であってもよい。シート厚は、例えば標準的なマイクロメーターを使用して測定することができる。
【0016】
本明細書において使用されるとき、用語「擬似非晶質(pseudo-amorphous)」ポリマーは、X線回折よって測定される、0質量パーセントの結晶化度から5質量パーセントの結晶化度を有するポリマーのことである。したがって、用語「擬似非晶質」は、完全に非結晶性ポリマー(0質量パーセントの結晶化度、非晶質ポリマーともまた呼ばれてよい)も、限られた程度の結晶化度(最大5wt%まで)を含有するポリマーも、両方とも含む。例えば、本明細書において考察される擬似非晶質ポリマーは、5質量パーセント未満の結晶化度、好ましくは3質量パーセント未満の結晶化度、又は2質量パーセント未満の結晶化度であってよい。本明細書において使用されるとき、用語「半結晶性(semi-crystalline)」ポリマーは、X線回折によって測定された5質量パーセントを超える結晶化度を有するポリマーのことである。本明細書において考察される半結晶性ポリマーは、X線回折によって測定される、少なくとも6質量パーセントの結晶化度又は少なくとも7質量パーセントの結晶化度を有してよい。
【0017】
本明細書において使用されるとき、用語「約(about)」は、明記された正確な値もまた含む。例えば、範囲「約Xから約Y」は、範囲「XからY」もまた含むと理解される。更に、提示されたいずれの範囲も、その端点もまた含むと理解される(例えば、「XからY」は、X及びYの両方の値を含む)。
【0018】
本明細書において使用されるとき、それぞれの化合物は、その化学式、化学名、略称等に関して、互換的に考察することができる。例えば、PAEKは、ポリアリールエーテルケトンと互換的に使用されてよく、PEKKは、ポリエーテルケトンケトンと互換的に使用されてよい。更に、本明細書に記載されたそれぞれの化合物は、別段の指定がない限り、ホモポリマー及びコポリマーを含む。用語「コポリマー」は、2種以上の異なるモノマーを含有するポリマーを含むことを意味し、例えば、2、3、又は4種の異なる繰り返しモノマー単位を含有するポリマーを含むことができる。
【0019】
本明細書及び請求の範囲において使用されるとき、用語「含む(comprising)」及び「含む(including)」は、包括的又は無制限であり、追加の列挙されなかった要素、組成上の成分、又は方法の工程を除外しない。したがって、用語「含む(comprising)」及び「含む(including)」は、より制限的な用語「から本質的になる」及び「からなる」を包含する。
【0020】
用語ポリアリールエーテルケトン(「PAEK」)は、全てのホモポリマー及びコポリマー(例えば、ターポリマーを含む)等を網羅することを意図する。一実施形態において、ポリアリールエーテルケトンは、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)、及びそれらの混合物からなる群から選択される。少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンは、場合によって、複数のポリアリールエーテルケトンを含んでもよい。実施形態において、「少なくとも1種のポリマー」は、少なくとも1種のPAEK、特に少なくとも1種のPEKKを、含んでもよい、それから本質的になってもよい、又はそれからなってもよい。
【0021】
すでに述べた通り、本発明者らは、熱成形可能なシートを製作するために使用される、ポリマー又はポリマーの組合せの溶融粘度が、厚くて(厚さが少なくとも約1000ミクロン)、擬似非晶質状態の(すなわち、半結晶性でない)ポリマーを含有する、シートを得ることに成功できる重要な変数であることを見出した。特に、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)又は少なくとも1種のPAEKを含むポリマーの組合せが、平行平板型レオメーターよって測定される、100秒-1で少なくとも約600Pa・sの360℃での粘度を有するはずであることが分かった。粘度は、ASTM D4440-15を使用して測定されてよい。360℃での粘度が、平行平板型レオメーターよって測定される、100秒-1で約600Pa・s未満である場合、ポリマーの溶融強度は、所望の実質的に均一な厚さを有する厚いシート(≧1000ミクロン)の押出を可能にするには不十分である可能性が高い(すなわち、押出シートの厚さに、むらがある可能性が高くなる)。好ましくは、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)又は少なくとも1種のPAEKを含むポリマーの組合せは、平行平板型レオメーターよって測定される、100秒-1で少なくとも約700Pa・sの360℃での粘度を有する。より好ましくは、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)又は少なくとも1種のPAEKを含むポリマーの組合せは、平行平板型レオメーターよって測定される、100秒-1で少なくとも約800Pa・sの360℃での粘度を有する。ある一定の実施形態によれば、PAEK又は少なくとも1種のPAEKを含むポリマーの組合せの360℃での粘度は、平行平板型レオメーターよって測定される、100秒-1で約5000Pa・sを超えない。
【0022】
代表的な実施形態において、ポリアリールエーテルケトンは、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)を、含む、それらから本質的になる、又はそれらからなる。本発明において使用するのに適切なポリエーテルケトンケトンは、以下の式I及びIIによって表される繰り返し単位を、含んでもよい、又はそれらから本質的になってもよい、又はそれらからなってもよい。
-A-C(=0)-B-C(=0)- I
-A-C(=0)-D-C(=0)- II
Aは、ρ,ρ'-Ph-O-Ph-基であり、Phは、フェニレン基であり、Bは、p-フェニレンであり、Dは、m-フェニレンである。ポリエーテルケトンケトン中の式I:式II(T:I)異性体比は、100:0から0:100の範囲内であり得るが、しかし、本発明の多様な実施形態において、50:50から90:10、又は65:35から75:25、又は68:32から72:28、又は約70:30、又は70:30であってよい。異性体比は、例えば、ポリエーテルケトンケトンを調製するために使用される異なるモノマーの相対量を変化させることによって、ある一組の特性を獲得するのに望ましいように簡単に変化させ得る。一般的に言えば、相対的に高い式I:式II比を有するポリエーテルケトンケトンは、より低い式I:式II比を有するポリエーテルケトンケトンと比較して、より速い結晶化速度を有することになる。当技術分野において知られている通り、擬似非晶質であり(すなわち、PEKKは、5wt%以下の結晶化度を示して、擬似非晶質状態にある)、それにもかかわらず、ある一定の熱処理又は試料の加工によって、性質が半結晶性である試料に転換できる、高いT:I比のPEKKを含む試料を調製することは可能である。
【0023】
したがって、T:I比は、パラメーターの中でもとりわけ、PEKKにおける結晶化の速度を制御するために調整されてよい。一般的に言えば、より低いT:I比は、PEKKを含む押出シートにおける、より遅い結晶化速度を、したがって、より長い加工ウインドウをもたらすことになる。逆に、より高いT:I比は、結晶化のより速い速度を、したがって、より短い加工ウインドウをもたらすことになる。一実施形態において、約50:50から約90:10のT:I異性体比を有するポリエーテルケトンケトンが、使用されてよい。
【0024】
例えば、全てパラフェニレン結合のポリエーテルケトンケトンの繰り返し単位のための化学構造[PEKK(T)]は、以下の式IIIによって表されてよい。
【0025】
【化1】
【0026】
主鎖に1つのメタフェニレン結合を有するポリエーテルケトンケトンの繰り返し単位のための化学構造[PEKK(I)]は、以下の式IVによって表されてよい。
【0027】
【化2】
【0028】
T及びIの異性体が完全に交互に現れる、ポリエーテルケトンケトンの繰り返し単位のための化学構造、例えば、T及びIの異性体の両方を50%有するホモポリマー[PEKK(T/I)、すなわち、50:50のT:I比を有するPEKK]は、以下の式Vによって表すことができる。
【0029】
【化3】
【0030】
ポリアリールエーテルケトンは、任意の適切な方法によって調製することができ、多くのそのような方法が存在し、当技術分野において周知である。例えば、ポリアリールエーテルケトンは、少なくとも1種のビスフェノール及び少なくとも1種のジハロベンゾイド化合物又は少なくとも1種のハロフェノール化合物の実質的に等モルの混合物を加熱することによって形成されてよい。別の例として、ポリアリールエーテルケトンは、ルイス酸の存在下、少なくとも1種の芳香族酸塩化物と少なくとも1種の芳香族エーテルとを接触させることによって形成されてよい。ポリマーは、擬似非晶質(非晶質を含む)又は半結晶性であってよく、これは、ポリマーの合成及び加工を通じて制御できる。本明細書に開示された実施形態において使用されたポリマーは、好ましくは、擬似非晶質(非晶質を含む)である。更に、ポリマーはまた、(最小値の溶融粘度要件が満たされる条件で)いずれかの適切な分子量であってよく、所望であれば、官能化又はスルホン化されてよい。一実施形態において、ポリマーは、スルホン化又は当業者にとって既知であるいずれかの模範的な表面改質を受ける。
【0031】
適切なポリエーテルケトンケトン(PEKK)は、多様な商標名でいくつかの商品供給元から入手可能である。例えば、ポリエーテルケトンケトンは、Arkema Inc社によって商標名KEPSTAN(登録商標)で販売されている。複数の異なるポリエーテルケトンケトンポリマーが、Arkema Inc社によって製造及び供給されている。
【0032】
本明細書に開示された実施形態において使用される擬似非晶質ポリマーは、1種又は複数のポリアリールエーテルケトンに加えて、その他のポリマーを含んでもよい。一実施形態において、その他のポリマーは、同様の融点、溶融安定性等を共有し、互いに、完全な又は部分的混和性を示すことによって、適合する。特に、ポリアリールエーテルケトンと機械的適合性を示すその他のポリマーが、組成物に加えられてよい。しかし、ポリマーが、ポリアリールエーテルケトンと適合する必要がないこともまた想定される。その他のポリマーは、例えば、ポリアミド(例えば、Rilsan(登録商標)の名前でArkema社から市販されているポリアミド11及びポリアミド12、ポリ(ヘキサメチレンアジパミド)又はポリ(8-カプロアミド));フッ素化ポリマー(例えば、PVDF、PTFE、及びFEP);ポリイミド(例えば、ポリエーテルイミド(PEI)、熱可塑性ポリイミド(TPI)、及びポリベンゾイミダゾール(PBI));ポリスルホン/スルフィド(例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンスルホン(PPSO2)、ポリエーテルスルホン(PES)、及びポリフェニルスルホン(PPSU));ポリ(アリールエーテル);並びにポリアクリロニトリル(PAN)を含んでもよい。一実施形態において、その他のポリマーは、ポリアミドポリマー及びコポリマー、ポリイミドポリマー及びコポリマー等を含む。ポリアミドポリマーは、高温用途において特に適切であり得る。追加のポリマーは、従来の方法によってポリアリールエーテルケトンと混合されてよい。
【0033】
本明細書に開示された実施形態において使用される擬似非晶質ポリマーは、特定の用途において望ましい特異な性質を獲得するために、充填剤又は添加剤等の追加の成分、例えば、コアシェル衝撃改質剤;充填剤若しくは補強剤、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維等;可塑剤;顔料若しくは染料;熱安定剤;紫外線安定剤若しくは吸収剤;酸化防止剤;加工助剤若しくは潤滑剤;難燃相乗剤、例えば、Sb2O3、ホウ酸亜鉛等;又はそれらの混合物もまた含んでもよい。これらの成分は、場合によって、ポリマーシート又は物品(開示された実施形態の半結晶性物品を形成するために使用される、ここで、物品は半結晶性状態のポリマー、特にPAEKを含む)が形成される組成物の総質量に対して、例えば、約0.05質量パーセントから約70質量パーセントの量で存在してよい。好ましくは、いずれのそのような充填剤又は添加剤も、非核形成性である。
【0034】
適切な充填剤は、繊維、粉末、薄片等を含んでもよい。補強用充填剤が使用されてよい。例えば、適切な充填剤は、カーボンナノチューブ、カーボン繊維、ガラス繊維、ポリアミド繊維、ヒドロキシアパタイト、酸化アルミニウム、酸化チタン、窒化アルミニウム、シリカ、アルミナ、硫酸バリウム、グラフェン、グラファイト等の少なくとも1種を含んでもよい。充填剤の大きさ及び形状はまた、特に限定されない。そのような充填剤は、場合によって、(開示された実施形態において使用されるポリマーシート又は物品が形成される組成物の総質量に対して)約0.1質量パーセントから約70質量パーセント、又は約10質量パーセントから約70質量パーセントの量で存在してよい。
【0035】
1種又は複数のポリアリールエーテルケトンを含み、上に記載の1種若しくは複数のその他のポリマー、充填剤、及び/又はその他の添加剤と組み合わせて含んでもよい樹脂組成物は、以下の一般的な手順を使用してシートに成形することができ、手順は、加工される特定の樹脂組成物及びそれによって得られた熱成形可能なシートに望まれる特徴(例えば、厚さ、結晶化の程度)に最も合うように、適応させる又は変更することができる。
【0036】
本発明のシートは、相対的に厚く(すなわち、シートは、少なくとも約500ミクロン、例えば、約1000ミクロンから約10,000ミクロン、好ましくは、約1000から約3500ミクロンの厚さを有する)、擬似非晶質状態にある少なくとも1種のポリアリールエーテルケトン、例えばポリエーテルケトンケトンを含有する。一般的に言えば、そのようなシート厚は、実質的に均一である。シートの長さ及び幅は、擬似非晶質シートを熱成形することによって調製できる半結晶性成型物品を含む、成型物品の寸法によって、特定の最終使用の用途のために望まれる通り変化させてよい。
【0037】
本発明による熱成形可能なシートは、好ましくは、溶融押出によって作られる。従来の単軸スクリュー又は二軸スクリュー押出機、シート押出ダイ、及び熱可塑性樹脂を押し出してシートにするために設計された取り出しデバイスが、使用されてよい。押出温度は、ポリマー溶融温度(PEKKの場合、T:I比に影響される)及び分子量又は溶融粘度に依存することになる。例えば、PEKKにおけるT:I異性体比が70:30又は50:50の場合、好ましい押出温度は、約360℃から約380℃の間である。さらなる例として、T:I異性体比が60:40の場合、好ましい押出温度は、約325℃から約360℃の間である。一般的に、ポリアリールエーテルケトンの融点を超える、約5℃から約70℃又は約10℃から約50℃の押出温度で、十分である。上記の範囲の下限に近い押出温度が好ましく、好ましくは、400℃未満であるべきである。より低い押出温度は、押し出される樹脂組成物が均一な厚さ及び許容可能な構造の完全性を有するシートの押出を促進する粘度を有するために、及び結晶化ウインドウタイムを削減するために、好まれ得る。また、シート厚が増加されるにつれて、使用可能な温度範囲の下限で操作することが、通常好ましい。より高い押出温度は可能であるが、熱成形法の結晶化段階における望ましくないより長時間の原因となり得る。
【0038】
ポリアリールエーテルケトンを含む押出シートは、ダイから、直接、「冷却ロール」と通常称される、滑らかな金属の又は織目加工のロール上へ運ばれ、それは、これらのロールの表面温度が、ポリマーの溶融温度未満のレベルで維持されているからである。空気又はその他のガスの流れが、冷却を促進するために押出シートに向けられてもまたよい。シートが冷却され(急冷速度(quench rate)と称される)凝固される速度は、擬似非晶質シート構造を達成するのに重要な側面である。急冷速度は、冷却ロールの温度、シート厚、及びラインの速度によって主に決定され、反った、しわになった、又は丸まったシートが生じるほど速くなく、実現されるシートの所望の擬似非晶質の特徴のためには十分速くなければならない。典型的に、押出シートは、シートのいかなる反り、しわ、又は丸まりも回避しながら、約室温までできるだけ速く冷却されるのが望ましい。急冷速度に対する物理的特性及び熱成形性の依存性は、ガラス転移温度によって冷却するので、固有のポリマー特性、例えば、結晶化速度及びポリマーの凝固の速度に関係すると考えられる。押出及び急冷に続いて、押出シートを、切断又は分割して、特定の所望の熱成形操作において使用するのに適切な寸法を有する個別のシートを提供してよい。
【0039】
ある一定の実施形態によれば、本発明によるシートは、シートが(有意な結晶化なしに)軟化された状態まで再加熱され、次に、物品に成形されてよく、次に、成形された物品中に存在するポリマー(例えば、PAEK)は、(例えば、結晶化が起こるより高い温度まで加熱することによって)結晶化される。
【0040】
本発明によるシートは、任意の種類の成型方法において使用されて、完成成型物品を生産することができるが、熱成形に使用するのに特に非常に適している。以後より詳細に記載される通り、そのようなシートは、シートのポリマー成分が、擬似非晶質状態から半結晶性状態へ転換された、半結晶性成型物品の生産において特に有用である。
【0041】
造形物品は、熱成形法を使用して、本発明によるシートから調製できる。熱成形は、熱可塑性シートを、その加工温度まで加熱し、機械的方法又は真空によって創られる差圧及び/若しくは圧力を使用してモールド表面と接触させ、モールドの形状を保つまでモールドの輪郭に押し付けながら冷却させる方法である。このようにして得られた熱成形半結晶性成型物品は、そのような物品を創るのに使用されるモールドの寸法に、非常に近い寸法を有することができるので、本発明のシートは、そのような方法において特に有用である。例えば、半結晶性成型物品は、モールドと比較した寸法変化、約5%未満、約4%未満、約3%未満、約2%未満、又は約1%未満さえ示し得る。したがって、本発明のシートは、当技術分野において既知のその他のPAEKをベースとしたシートと比較して、より少ない変形、より少ない収縮、及び/又はより良好な寸法許容差を示す、熱成形物品の生産を可能にする。熱成形の前のシートは、透明であってもよい。シートが熱成形され、ポリアリールエーテルケトンの結晶化度が上昇する結果として、初めに透明であったシートから得られた成型物品は、不透明になってもよい。
【0042】
本発明のシートは、真空、圧力、機械、又はツインシート熱成形等の、標準的な装置を使用する標準的な方法によって、容易に熱成形できる。最適な熱成形条件は、熱成形機の具体的な種類及び使用されるモールドによって変化することになるが、そのような条件は、当技術分野において通常及び従来から使用されている技術によって、容易に確定できる。ポリアリールエーテルケトンがポリエーテルケトンケトン(PEKK)である場合、例えば、シートのための熱成形温度範囲(すなわち、熱成形の間のシートの温度)は、典型的に、160℃から300℃の範囲内である。しかし、220℃を超えるシート温度は、速すぎる結晶化速度をもたらし得るので、約160℃から約220℃のシート温度が、一般的に好まれる。
【0043】
成形現象の前に熱成形温度範囲までシートを加熱するのに必要な時間は、本発明のシートを熱成形する方法において重要な変数であり得る。一般的に言えば、ある種類の熱成形手順において、成形工程において均一な引き出しを達成するために、シート中に均一な熱分布をずっと維持しながら予熱時間を最小にすることが、望ましいことになる。滞留時間は、プロセス変数、例えば、シートの寸法(特に、シート厚)、特定のオーブンの熱の特徴、及び所望の成形温度範囲に依存するので、理想的な成形条件は、実験によって決定されなければならないが、当プラスチック熱成形技術者によって容易に確定できる。PEKKをベースとするシートのための滞留時間は、典型的に短い、例えば1から5分になる。
【0044】
輻射式(radiant)又は対流式オーブンのどちらも予熱に適切であるが、輻射式ヒーターが、効率性がよいので一般的に好まれる。輻射式ヒーターの表面温度は、通常、500℃から1100℃の間、好ましくは、600℃から900℃の間で維持される。過剰に高いシート温度又はオーブン滞留時間は、擬似非晶質のポリアリールエーテルケトン含有シートの貧弱な成形特徴、例えば、不十分な引き出し又は成型不良、及び成形された物品における脆性をもたらし得る。
【0045】
シートの熱成形は、圧力若しくはプラグアシストがある又はそれらがない、真空成形によって達成できる。真空レベルは、典型的に、少なくとも68kPaである。成形圧力は、大気圧から690kPaの範囲であってよい。モールド温度は、例えば、室温から290℃の範囲であってよい。本発明のある一定の実施形態によれば、約160℃から約280℃のモールド温度が使用されてよい。モールド温度の上昇及び/又は圧力の追加によって、一般的に、内部応力が最小化し、より良好な細部及び材料分布が実現して、その結果より均一な部品が得られる。
【0046】
本発明によるシートは、国際公開第2018/232119号に記載された熱成形手順において使用するのに特に適切であり、この開示全体は、あらゆる目的のための参照によって本明細書に組み込まれる。上述の公開特許明細書に記載された手順は、本発明によるシート等の擬似非晶質ポリマーシートから半結晶性である熱成形部品を生産することを可能にする。本発明の実施形態によれば、成型部品を生産する方法は、半結晶性成型物品を生産するのに有効な条件下で、本発明によるシートを熱成形することを含む。
【0047】
実施形態によれば、少なくとも1種の擬似非晶質ポリマーを含むシートから半結晶性物品を製造する方法は、シートを、擬似非晶質ポリマーを実質的に結晶化することなく、擬似非晶質ポリマーのガラス転移温度を超える温度まで加熱して、擬似非晶質ポリマーを軟化させる軟化工程、及び少なくとも1種の擬似非晶質ポリマーを、擬似非晶質ポリマーを結晶化させるのに十分な時間、擬似非晶質ポリマーのガラス転移温度を超えて擬似非晶質ポリマーの溶融温度未満である温度に加熱する(それによって半結晶性ポリマーを形成する)結晶化工程を含む。軟化工程の間に結晶化が幾分か起こり得るが、しかし、好ましくは、結晶化が軟化工程で起こる場合、そのような結晶化は、約10wt%未満、約5wt%未満、約2wt%未満、約0.5wt%未満、約0.1wt%未満、又は約0.01wt%未満であると考えられる。いくつかの実施形態において、擬似非晶質ポリマーを含むシートは、軟化工程の間にモールド上に置かれてよい。いくつかの実施形態において、擬似非晶質ポリマーを含むシートは、結晶化が少なくとも幾分か起こる前に、結晶化工程の間にモールド上に置かれてよい。半結晶性成型物品は、モールド上で形成されてよい。半結晶性成型物品は、不透明であってよい。しかし、ある一定の実施形態において、半結晶性物品は、ほぼ半透明又は半透明であってよい。
【0048】
シートは、シート厚等の因子によって、数秒から数分の範囲の時間、結晶化工程の間にモールド上で維持されてよい。例えば、シートが約1000ミクロンから約2000ミクロンの厚さである場合、シートは、約30秒から約1分の時間、モールド上で維持されてよい。別の例として、シートが約3000ミクロンの厚さの場合、シートは、4分以上の間(例えば、最大約6から7分まで)、モールド上で維持されてよい。
【0049】
いくつかの実施形態において、モールドは、少なくとも一方の面を加熱されてよい。いくつかの実施形態おいて、擬似非晶質ポリマーを含むシートは、軟化工程の間に擬似非晶質ポリマーのガラス転移温度(Tg)を超える温度まで、例えば、軟化工程の間に約160℃から約220℃又は約190℃から約215℃の範囲内の温度まで、加熱されてよい。軟化工程の間に、いくつかの実施形態において、シートの温度は、非接触方法を使用して、例えば、非接触赤外線ガンを使用することによって、測定されてよい。いくつかの実施形態において、モールド及び擬似非晶質ポリマーを含むシートは、結晶化工程の間に約210℃から約280℃、約230℃から260℃の範囲内の温度、又は約250℃まで加熱されてよい。いくつかの実施形態において、擬似非晶質ポリマーを含むシートの温度は、モールド内の探針を使用することによって測定されてよい。
【0050】
いくつかの実施形態において、擬似非晶質ポリマーを含むシートは、結晶化工程の間又は直前に、モールド上に置かれる。いくつかの実施形態において、擬似非晶質ポリマーを含むシートは、軟化工程の後で、真空を使用してモールド上へ置かれてよい。その他の実施形態において、擬似非晶質ポリマーを含むシートは、軟化工程と結晶化工程の両方の間、モールド上で維持される。
【0051】
いくつかの実施形態において、生産された成型物品は、擬似非晶質ポリマーを含むシートと比較して、少なくとも1wt%高い結晶化度(絶対値で)、少なくとも5wt%高い結晶化度、少なくとも10wt%高い結晶化度、少なくとも15wt%高い結晶化度、少なくとも20wt%高い結晶化度、若しくは少なくとも25wt%高い結晶化度、又は擬似非晶質ポリマーを含むシートの結晶化度より約10から約30wt%若しくは約10から約25wt%高い結晶化度を示してよい。例えば、25wt%結晶化度を有する成型物品は、2wt%の結晶化度を有する擬似非晶質形態のPEKKを含むシートから生産されてよい(結晶化度において23wt%上昇、すなわち、成型物品は、出発擬似非晶質PEKKベースのシートより23wt%高い結晶化度を有する)。
【0052】
本発明の実例となる態様は、以下の通り要約することができる。
態様1: ポリマーを含むシートであって、シートが、約1000から約10,000ミクロン(又は1000ミクロンから10,000ミクロン)の厚さを有し、ポリマーが、平行平板型レオメーターによって測定される、100秒-1で少なくとも約400Pa・s(又は少なくとも400Pa・s)の360℃での粘度を有する擬似非晶質状態のポリアリールエーテルケトン(PAEK)である、シート。
【0053】
態様2: ポリマーが、平行平板型レオメーターによって測定される、100秒-1で少なくとも約600Pa・s(又は少なくとも600Pa・s)の360℃での粘度を有する、態様1のシート。
【0054】
態様3: ポリマーが、平行平板型レオメーターによって測定される、100秒-1で少なくとも約800Pa・s(又は少なくとも800Pa・s)の360℃での粘度を有する、態様1のシート。
【0055】
態様4: ポリマーが、平行平板型レオメーターによって測定される、100秒-1で約5000Pa・s以下(又は5000Pa・s以下)の360℃での粘度を有する、態様1のシート。
【0056】
態様5: ポリアリールエーテルケトン(PAEK)が、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)、及びそれらの組合せからなる群から選択される、態様1から4のいずれかのシート。
【0057】
態様6: ポリアリールエーテルケトン(PAEK)が、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)である、態様1から5のいずれかのシート。
【0058】
態様7: ポリエーテルケトンケトン(PEKK)が、約50:50から約90:10(又は50:50から90:10)のT:I異性体比を有する、態様6のシート。
【0059】
態様8: ポリエーテルケトンケトン(PEKK)が、約65:35から約75:25(又は65:35から75:25)のT:I異性体比を有する、態様6のシート。
【0060】
態様9: ポリエーテルケトンケトン(PEKK)が、約68:32から約72:28(又は68:32から72:28)のT:I異性体比を有する、態様6のシート。
【0061】
態様10: ポリエーテルケトンケトン(PEKK)が、約70:30(又は70:30)のT:I異性体比を有する、態様6のシート。
【0062】
態様11: 1種又は複数の非核形成充填剤を更に含む、態様1から10のいずれかのシート。
【0063】
態様12: 強化繊維、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、ガラス球、シリカ、及びタルクからなる群から選択される、1種又は複数の非核形成充填剤を更に含む、態様1から11のいずれかのシート。
【0064】
態様13: 透明である、態様1から12のいずれかのシート。
【0065】
態様14: モールドを使用して態様1から13のいずれかによるシートを熱成形する工程を含む、半結晶性物品を製造する方法。
【0066】
態様15: a)軟化工程として、態様1から13のいずれかによるシートを、ポリマーのガラス転移温度を超える温度まで加熱して、ポリマーを軟化させる工程、
b)結晶化工程として、ポリマーを結晶化させるのに十分な時間、シートを、ポリマーのガラス転移温度を超えてポリマーの溶融温度未満である温度に加熱する工程、
c)軟化工程の間、又は結晶化が起こる前の結晶化工程の間に、モールド上にシートを置く工程、並びに
d)半結晶性成型物品を形成する工程
を含む、半結晶性物品を製造する方法。
【0067】
態様16: モールドと比較して約3%未満(又は3%未満)の寸法変化を示す、態様14又は態様15に従って得られる半結晶性物品。
【0068】
態様17: 態様1から13のいずれかに記載のシートを作製する方法であって、
a)ポリマーを含む樹脂組成物を、ポリマーの融点を超える適切な加工温度まで加熱して、溶融樹脂組成物を得る工程、
b)溶融樹脂組成物をシートに成形する工程、並びに
c)擬似非晶質状態のポリマーを得るのに有効な速度で、シートを急冷する工程
を含む、方法。
【0069】
本明細書内において、実施形態は、明確で簡潔な明細書を書くことができるように記載してきたが、しかし、実施形態が本発明から逸脱することなく、多様に組み合わせ又は分離され得ることが、意図され、認識されるであろう。例えば、本明細書に記載の全ての好ましい特徴は、本明細書に記載の発明の全ての態様に適用可能であることが認識されるであろう。
【0070】
いくつかの実施形態において、本明細書の発明は、組成物又は方法の基本的及び新規の特徴に実質的に影響を与えない、いずれの要素又は方法工程も除外すると解釈できる。更に、いくつかの実施形態において、本発明は、本明細書に特定されていない、いずれの要素又は方法工程も除外すると解釈できる。
【0071】
本発明は、具体的な実施形態に準拠して、本明細書において説明され、記載されているが、本発明は、示された細部に限定されることを意図しない。むしろ、多様な変更は、本発明から逸脱することなく、本請求項の均等物の領域及び範囲内において、詳細になされてよい。
【実施例
【0072】
(実施例1)
擬似非晶質の厚さ3mmのシートを、単軸スクリュー押出機及び2冷却ロールシステムを使用して、T:I比70:30及び平行平板型レオメーターによって測定される、100秒-1で850Pa・sの360℃での粘度を有するPEKKコポリマーから生産した。押出温度は、375℃に設定し、ライン速度は、0.5m/分であり、冷却は、冷却ロール及び周囲空気だけで行われた。
【0073】
シートを、真空成形の雌型モールドを備えたシャトル型熱成形機を使用して、熱成形した。シートを、加熱オーブンに入れ、シートの表面温度が210℃に到達したとき引き出した。次に、シートを、モールド上に素早く置き、電気カートリッジヒーターによって250℃まで加熱した。真空成形後、部品は、結晶化を起こすことができるように4分間モールドに接触させてから取り出した。得られた物体は、モールドに接触した範囲は不透明で結晶性であり、モールドに接触しなかった範囲は透明であった。熱成形の前及び後にシート上で広角X線回折を実施し、結晶化度が、熱成形前<1wt%から、熱成形後約29wt%まで上昇したことを示した。
【0074】
WAXD条件
ポリマーシートのWAXD回折パターンを、以下の手順を使用して得た。X線回折実験を、株式会社リガクのSmartLab回折パターンで行った。全てのデータ取得は、1 Dモードで行った。
実験の取得条件:
WAXS: 1.0°~80.0°の2θ範囲。ステップ=0.03°。スキャン速度=1.0°/分。
IS=1.0mm、RS1=3.0mm、RS2=3.1mm。クロスビームオプティックス。
【0075】
(実施例2)
この実施例において、計算機による研究を行って、T:I比が68:32から74:26の間であり厚さが1mmから10mmの間である押出PEKKシートの結晶化度を、有限要素モデルを使用して測定した。モデルは、それぞれのPEKKグレードの密度、熱伝導率、及び熱容量、押出機温度380℃、押出速度10cm/分、熱伝達係数65W/m2/Kを使用して25℃の周囲空気での対流冷却(いくらかの空気循環を想定)、並びに1mmから10mmの間のシート厚を特定する。モデルは、パラメーターを、それぞれのグレードの測定された結晶化ハーフタイム(crystallinity half-time)に合うように調整して、Choupin、「Mechanical performances of PEKK thermoplastic composites linked to their processing parameters」(2017)の等温及び非等温結晶化方程式に基づいた結晶化速度を使用する。表1は、シートのいずれの部分においても5wt%以下の結晶化度を維持するのに必要な、グレード(T:I比)ごとの押出PEKKシートの推定最大厚を収載する。
【0076】
【表1】
【0077】
比較例1
擬似非晶質の厚さ3mmのシートを、単軸スクリュー押出機及び2冷却ロールシステムを使用して、T:I比70:30及び平行平板型レオメーターによって測定される、100秒-1で850Pa・sの360℃での粘度を有するPEKKコポリマーから生産した。押出温度は、375℃に設定し、ライン速度は、0.5m/分であり、冷却は、冷却ロール及び周囲空気だけで行われた。
【0078】
シートを、真空成形の雌型モールドを備えたシャトル型熱成形機を使用して、熱成形した。シートを、加熱オーブンに入れ、シートの表面温度が210℃に到達したとき引き出した。次に、シートを、モールド上に素早く置き、電気カートリッジヒーターによって120℃までだけ加熱した。真空成形後、部品は、4分間モールドに接触させてから取り出した。得られた物体は、透明であった。熱成形の前及び後にシート上で広角X線回折を実施し、結晶化度が、熱成形前及び熱成形後に<1wt%のままであったことを示した。
図1
図2
図3
【国際調査報告】