(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-22
(54)【発明の名称】光受容細胞および網膜色素上皮の移植治療のための機械的に安定な高細胞密度の蜂巣状網膜足場設計
(51)【国際特許分類】
A61F 2/14 20060101AFI20221215BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
A61F2/14
A61L27/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022522920
(86)(22)【出願日】2020-10-12
(85)【翻訳文提出日】2022-06-15
(86)【国際出願番号】 US2020055273
(87)【国際公開番号】W WO2021076454
(87)【国際公開日】2021-04-22
(32)【優先日】2019-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】594106405
【氏名又は名称】ウィスコンシン・アルムナイ・リサーチ・ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】WISCONSIN ALUMNI RESEARCH FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】100129791
【氏名又は名称】川本 真由美
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】マー,ジェンチアン
(72)【発明者】
【氏名】リー,インキュ
(72)【発明者】
【氏名】リー,ジュファン
(72)【発明者】
【氏名】フィリップス,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ガム,デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】ゴン,シャオチン
【テーマコード(参考)】
4C081
4C097
【Fターム(参考)】
4C081AB21
4C081CA091
4C081CA121
4C081CA161
4C081CA211
4C081CA231
4C081CA271
4C081DA01
4C081DA06
4C081DA16
4C081DB03
4C097AA24
4C097BB01
4C097CC01
4C097CC03
4C097DD02
4C097DD04
4C097DD05
4C097EE08
4C097EE09
4C097EE11
4C097EE13
4C097FF05
4C097MM02
4C097MM03
4C097MM04
4C097MM07
(57)【要約】
移植された細胞の生存、組み込み、および機能的な視力の救済を改善し得る、網膜色素上皮細胞を伴うまたは伴わない組織化された光受容組織を移植するために使用し得る光受容器足場が、本明細書中に開示されている。足場は、複数の貫通孔に流体接続した少なくとも1つの蜂巣形状リザーバーおよび少なくとも1つの蜂巣形状リザーバー中の少なくとも1つの細胞を有する細胞支持層を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの蜂巣形状リザーバーを含む細胞支持層を含む足場であって、少なくとも1つの蜂巣形状リザーバーが、複数の貫通孔に流体接続している、足場。
【請求項2】
細胞支持層が、生体適合性の可撓性ポリマーを含む、請求項1に記載の足場。
【請求項3】
生体適合性の可撓性ポリマーが、シリコーンゴム、ポリウレタンゴム、スチレンブタジエンゴム、およびアクリロニトリルブタジエンゴム、天然ゴム、熱可塑性エラストマー、エポキシ、ポリイミド、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、ポリサッカライド、パリレン、ならびにその組合せからなる群から選択される、請求項2に記載の足場。
【請求項4】
生体適合性の可撓性ポリマーが、ポリジメチルシロキサン(PDMS)である、請求項2に記載の足場。
【請求項5】
生体適合性の可撓性ポリマーが、ポリ(セバシン酸グリセロール)(PGS)である、請求項2に記載の足場。
【請求項6】
細胞支持層が、生体分解性の可撓性ポリマーを含む、請求項1に記載の足場。
【請求項7】
少なくとも1つの蜂巣形状リザーバーが、約10μm~約100μmの範囲の長さを有する、請求項1に記載の足場。
【請求項8】
少なくとも1つの蜂巣形状リザーバーが、約10μm~約100μmの範囲の高さを有する、請求項1に記載の足場。
【請求項9】
複数の貫通孔の単一の貫通孔が、約1μm~約7μmの直径を有する、請求項1に記載の足場。
【請求項10】
複数の貫通孔の単一の貫通孔が、約1μm~約25μmの高さを有する、請求項1に記載の足場。
【請求項11】
細胞支持層が、少なくとも第1の蜂巣形状リザーバーおよび第2の蜂巣形状リザーバーを含み、第1の蜂巣形状リザーバーが、第2の蜂巣形状リザーバーから約1μm~約5μm離間している、請求項1に記載の足場。
【請求項12】
複数の貫通孔に流体接続している少なくとも1つの蜂巣形状リザーバー、および少なくとも1つの蜂巣形状リザーバー中の少なくとも1つの細胞を含む細胞支持層を含む足場を含む細胞培養足場システム。
【請求項13】
少なくとも1つの蜂巣形状リザーバー中の細胞が、光受容細胞である、請求項12に記載の細胞培養足場システム。
【請求項14】
少なくとも1つの蜂巣形状リザーバーが、単一の光受容細胞を含む、請求項13に記載の細胞培養足場システム。
【請求項15】
少なくとも1つの蜂巣形状リザーバーが、少なくとも2つの光受容細胞を含む、請求項13に記載の細胞培養足場システム。
【請求項16】
少なくとも1つの蜂巣形状リザーバーが、単層の網膜色素上皮細胞および単層の網膜色素上皮細胞の上部の光受容細胞の層を含む、請求項12に記載の細胞培養足場システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本発明は、2019年10月16日出願の、米国仮特許出願第62/915,926号の優先権を主張するものであり、これは、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0002】
政府支援の記載
本発明は、米国国立衛生研究所によりそれぞれ付与された、EY025497およびEY027266の下で政府の支援によりなされたものである。政府は本発明に一定の権利を有する。
【0003】
本開示は一般的に、網膜色素上皮(RPE)を伴うまたは伴わない組織化された光受容組織(organized photoreceptor tissue)の移植において使用するための足場に関し、これは、移植された細胞の生存、組み込み、および機能的な視力の救済を改善し得る。さらに、これらの足場は、インビトロ(in vitro)の発生および疾患研究、ならびに薬物スクリーニングに使用し得る。
【背景技術】
【0004】
視力障害は、通常の手段、例えば眼鏡またはコンタクトレンズによって矯正することができない、視力の喪失である。世界的に約13億人の人々がある形態の視力障害と共に生きていると推定されており、視力障害を有する人々の数は、加齢人口の急速な増加によって上昇し続けることが予期される。例えば、加齢黄斑変性(AMD)は、変性網膜疾患であり、これは、60歳を超えた人々における重度の非可逆的な視力喪失の主要な原因であり、網膜の中心の小さい領域である黄斑が劣化する場合に生じる。黄斑は、無数の光感知細胞(光受容器)および支持細胞(網膜色素上皮(RPE))から構成されている。
【0005】
光受容器は、視力にとって重要なものであり、これらは、光子を捕捉し、網膜および脳の視覚中枢によって処理される電気化学シグナルに伝達する。光受容器に隣接しているのは、光受容器の健康および機能に必要な支持細胞である、RPEである。失明に至る全ての外側網膜の障害は、単独(網膜色素変性症の多くの形態において生じる)の、またはRPEを伴う(例えばAMD)のいずれかで、光受容器の機能不全および最終的な変性を伴う。現在、これらの患者は、治療オプションが限定的ないし全くない。1つの広範に適用可能な治療戦略は、光受容器を単独で、またはRPEと組み合わせて置換することである。
【0006】
唯一承認されている、現在ヒトにおいて進行中の胚性幹細胞(「ESC」)臨床試験は、細胞の単純な組織化されていないボーラス注入、または平面足場上のRPEのデリバリーを介する、RPEの移植を伴う。この研究によりこのアプローチの安全性が実証されている。しかしながら、光受容器が非可逆的に喪失された場合、RPEの移植のみでは、進行した疾患において視力は救済されない。視力を救済するためには、光感知光受容器も置換されなければならない。この可能性をより複雑にすることに、光受容器は、光感知光色素および基底軸末端を含有する、頂端外部セグメントを有する高度に極性化された特殊化された細胞種である。RPEを伴うまたは伴わない極性化された光受容器の移植が有意義な課題である一方で、微量製造技術は、これらの課題に対する潜在的な解決方法を提供する。
【0007】
特に、RPEを伴うまたは伴わない光受容器の極性化を提供し、天然の網膜組織を模倣するように足場を調製し得る場合、好都合である。これらの足場が、RPEを伴うまたは伴わない組織化された光受容組織を移植するための手段を提供し得る場合、さらに好都合であり、これは、単純なボーラス細胞注入と比較して、移植された細胞の生存、組み込みおよび機能的な視力の救済を改善し得る。さらに、以前に調製された足場と比較して、より良い機械的安定性、より高い細胞密度およびより均一な細胞分布を提供することができれば、望ましいであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示は、一般的に、RPEを伴うまたは伴わない組織化された光受容組織の移植のために使用し得る光受容器足場に関連し、これは、移植した細胞の生存、組み込みおよび機能的な視力の救済を改善し得る。特に、光受容器足場は、蜂巣状リザーバーを有する生体適合性のフィルムから構成され、各リザーバーは、貫通孔のアレイによってパターン化されている。これらの足場は、生体分解性および非生体分解性の材料から生成し得る。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様において、本開示は、少なくとも1つの蜂巣形状リザーバーを含む細胞支持層を含む足場を対象とし、ここで、少なくとも1つの蜂巣形状リザーバーは、複数の貫通孔に流体接続している。
【0010】
別の態様において、本開示は、複数の貫通孔に流体接続している少なくとも1つの蜂巣形状リザーバー、および少なくとも1つの蜂巣形状リザーバー中の少なくとも1つの細胞を含む細胞支持層を含む足場を含む細胞培養足場システムを対象とする。
【0011】
下記の詳細な説明を考慮すると、本開示はより理解され、上記のもの以外の特徴、態様および利点がより明らかになるであろう。そのような詳細な説明は以下の図面を参照とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1Aおよび1Bは、本開示の1つの例示的な足場を示す。具体的には、
図1Aは、RPE細胞を伴うまたは伴わない光受容細胞を捕捉し成長させるための六角形形状のリザーバーを示す蜂巣状足場の上面図である。
図1Bは、流体および栄養の輸送を促進するため、ならびに円筒形の貫通孔チャネルにわたる光受容器軸索の基底伸長をガイドするための貫通孔チャネルを示す、蜂巣状足場の底面図である。
【
図2】
図2は、本開示の一実施形態において使用するための、蜂巣形状細胞リザーバーおよび貫通孔の寸法および間隔を示す。
【
図3】
図3は、本開示の足場の作製において使用するための硬質PDMSマスター型を生成するためのシリコンウェハーの製造プロセスの一実施形態の概略図を示す。
【
図4】
図4A~4Fは、シリコンマスター型およびハイブリッドPDMSスタンプの製造プロセスならびに蜂巣状網膜足場を製造するための所望の足場材料を用いてハイブリッドPDMSスタンプを微細成型するプロセスの第2の実施形態の概略図を示す。
【
図5】
図5Aは、
図3、4Aおよび4Bに示すシリコンマスター型製造プロセスによって製造される1つの例示的なシリコンマスター型を示す。挿入図は、例示的なシリコンマスター型の接近図を示す。
図5Bは、
図5Aに示す例示的なシリコンマスター型の上面図を示す。挿入図は、例示的なシリコンマスター型の接近図を示す。
図5Cは、
図5Aに示す例示的なシリコンマスター型の断面図を示す。挿入図は、例示的なシリコンマスター型の接近図を示す。
図5Dは、
図4Cに示すスタンプ成型/脱型プロセスによって製造される、1つの例示的なハイブリッドPDMSスタンプを示す。挿入図は、例示的なハイブリッドPDMSスタンプの接近図を示す。
図5Eは、
図5Dに示す例示的なハイブリッドPDMSスタンプの上面図を示す。挿入図は、例示的なハイブリッドPDMSスタンプの接近図を示す。
図5Fは、
図5Dに示す例示的なハイブリッドPDMSスタンプの断面図を示す。挿入図は、例示的なハイブリッドPDMSスタンプの接近図を示す。
図5Gは、
図4D~4Fに示すスタンプ成型/脱型プロセスおよび足場剥離プロセスによって製造される、1つの例示的なPGS足場を示す。挿入図は、例示的なPGS足場の断面図を示す。
図5Hは、
図5Gに示す例示的なPGS足場の接近上面図を示す。
図5Iは、
図5Gに示す例示的なPGS足場の接近底面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術的および科学的用語は、本開示が属する当業者が通常理解するのと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似または同等の任意の方法および材料は、本開示の実施または試験において使用し得るが、好ましい方法および材料を以下に記載する。
【0014】
本開示は、網膜色素上皮(RPE)を伴うまたは伴わない光受容器のデリバリーおよび極性化のための光受容器足場を対象とする。足場は、インビトロの発生および疾患研究ならびに薬物スクリーニングに使用し得る。これらの足場はさらに、RPEを伴うまたは伴わない組織化された光受容組織の移植に使用することができ、これは、移植された細胞の生存、組み込み、および機能的な視力の救済を改善し得る。足場は、本開示に対する先行技術において可能であったものよりも、圧力を外部に効果的に分配することによる改善された機械的安定性、細胞密度の上昇(すなわち、単位面積当たりの捕捉された細胞)、およびより一貫した細胞分布を提供する。さらに、蜂巣状構造は最小量の材料で最大細胞空間を提供するため、本開示の足場は、比較的低いコストで調製し得る。
【0015】
足場の構造
一般的に、足場は、細胞培養で使用するために提供される。足場は一般的に、複数の貫通孔に流体接続した少なくとも1つの蜂巣形状リザーバーを有する細胞支持層を含む。細胞支持層は、典型的には生体適合性の可撓性ポリマーで構成されており、いくつかの特に適切な実施形態において、ポリマーは生体分解性である。ポリマーは、多孔質であっても、または非多孔質であってもよい。適切なポリマーとしては、これらに限定されないが、合成ゴム、例えばシリコーンゴム(例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS))、ポリウレタンゴム、スチレンブタジエンゴム、およびアクリロニトリルブタジエンゴム、天然ゴム(例えば、ポリ-シス-イソプレン)、熱可塑性エラストマー(例えば、熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性コポリエステル、熱可塑性ポリアミド)、エポキシ(例えば、SU-8)、ポリイミド、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル(例えば、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(セバシン酸グリセロール)(PGS))、ポリ(クエン酸ジオール)、ポリサッカライド(例えば、キトサン)、パリレン、ならびにその組合せが挙げられる。これらのポリマーは、加えた力の印加時に可撓性であるという点で「プラスチック様」であり、それによって足場の移植および操作が容易になることが可能になることが好都合である。特定の一態様において、ポリマーはPDMSである。
【0016】
細胞支持層は、一般的に少なくとも2つの主要層:(1)光受容器およびRPE細胞が捕捉され、成長し得る1つの蜂巣形状リザーバー;および(2)蜂巣形状リザーバーに接続した貫通孔を有する。リザーバーと、細胞支持層を通って伸長する貫通孔との組合せ。本明細書において使用する場合、「蜂巣形状リザーバー」は、六角形形状を有する細胞リザーバーを指す。
【0017】
本明細書において使用する場合、「貫通孔」は、インビトロおよび、インビボ(in vivo)の足場分解の間の両方において流体、老廃物、および栄養の交換、ならびに光受容器軸索の基底伸長のような細胞の成長のガイドを可能にする、チャネルを指す。
【0018】
足場は、1)各六角形リザーバーが細胞、例えば光受容器およびRPE細胞の両方を全て適合させるのに十分な容積を有し;2)各円筒形貫通孔は、光受容細胞が貫通孔を通って滑るのを防止できる程度に狭く;3)リザーバーの高さは、ウェルの外部の細胞遊走を最小化できる程度に高く(high)(すなわち高い(tall));かつ4)リザーバー壁の幅は、壁の頂部に細胞が止まるのを防ぐ程度に薄くなるように、調製される。
【0019】
例示的な細胞支持層を
図1Aおよび1Bに示す。
図1Aおよび1Bに示すように、細胞支持層10は、少なくとも1つの蜂巣形状リザーバー12を含み、各リザーバー12は、複数の貫通孔14に流体接続している。本明細書において使用する場合、「複数」は、少なくとも2つの貫通孔を指し、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つ、少なくとも9つ、またはそれ以上の貫通孔が含まれる。示されるように、細胞支持層10は、複数の蜂巣形状リザーバー12を含み、細胞支持層は、示されている複数の蜂巣形状リザーバーよりも少ない、例えば単一の蜂巣形状リザーバー、または示されている複数の蜂巣形状リザーバーよりも多い蜂巣形状リザーバーを、本開示の範囲から逸脱することなく含み得ることは、当業者により理解されるべきである。
【0020】
一実施形態において、
図2に示されるように、蜂巣形状リザーバー12は、6つの側面(すなわち六角形)を含む。L1に示される、各側面長は、約10μm~約100μmであり、例えば、約10μm~約50μm、適切には約37.2μmである。特定の適切な実施形態において、示されていない蜂巣形状リザーバーの高さは、約10μm~約100μmの範囲であり、例えば約40μmである。
【0021】
貫通孔14の直径D1は、典型的には、約1μm~約7μmの範囲であり、例えば約4μmである。さらに、複数の貫通孔の単一の貫通孔は、約1μm~約25μmの範囲、例えば約10μmの高さ(図示しない)を有する。
【0022】
複数の蜂巣形状リザーバーが貫通孔に流体接続されている場合、個々の蜂巣形状リザーバーは、約1μm~約5μm、例えば約3.5μm離間している(「S1」として示す)。
【0023】
複数の貫通孔が蜂巣形状リザーバーに流体接続している場合、個々の貫通孔は、約4μm~約7.5μm離間している(「S2」として示す)。
【0024】
RPEを伴わない光受容細胞のための足場を使用する場合、光受容細胞の軸索となる突起は、貫通孔内で下向きに成長するものであることは当業者には理解されるべきである。外部セグメントは、光感受性のオプシン分子(錐体および杆体オプシン)を用いて光を捕捉する光受容器の特殊化された構造であり、これらは対向する末端(すなわち捕捉ウェルの頂部)において形成する。光受容器軸索は、光受容器からの情報を中継し、二次網膜ニューロンに送り、次いで最終的には脳の視覚中枢に送る。極性化された方法で光受容器を成長させることによって、インビボにおけるその正常の配向を再現する。RPEおよび二次ニューロンとシナプスとの平衡を保っている軸索に接触するように配置された外部セグメントを有する光受容器を移植することによって、これらの細胞種間の重要な相互作用が促進され、細胞の組み込みの増強および機能的な視力の救済の上昇を引き起こすはずである。
【0025】
光受容器の高いパッケージング密度は、最適な視覚の鋭敏さにとって重要であるため、蜂巣形状リザーバーが、最大細胞空間(したがって、より近接な培養光受容細胞)を提供し、それによって、足場が移植されると、視覚の鋭敏さの改善が提供されるのが特に好都合である。したがって、一実施形態において、細胞支持層は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)から構成され、ここで、蜂巣形状リザーバーの長さL1は、細胞支持層を伸展し、次いで蜂巣形状リザーバーが、伸展力の除去時に元の長さを回復することを可能にすることによって、上昇し得る。特に、本実施形態において、1つまたは複数の細胞は、伸展構成の蜂巣形状リザーバーによって受容される。特に、このリザーバー構成によって、約85の光受容器が、単一のリザーバーに適合し得る。伸展力が除去されると、細胞は、細胞リザーバー内に保持される。このような実施形態は、伸展力を除去した際に、蜂巣形状リザーバーが、より多数の光受容細胞と共により近接した間隔であることが可能であるため、好都合である。
【0026】
上で議論するように、単一の蜂巣形状リザーバー12は、複数の貫通孔14に流体接続されている。本明細書において使用する場合、「流体接続されている」は、蜂巣形状リザーバーによって受容される細胞が、細胞リザーバーと貫通孔との間で移動/成長し得るように、複数の貫通孔と接触した蜂巣形状リザーバーを指す。
【0027】
別の実施形態において、細胞支持層は、ポリマー性層を親水性にするために、処理および/またはコーティングされる。可撓性ポリマーを親水性にするための、当技術分野で公知の任意の方法は、本開示の範囲から逸脱することなく使用し得る。例えば、ポリマーの表面上の酸素プラズマ処理は、極性官能基を導入することによって、疎水性表面を親水性表面に形質転換し、これによって完全に湿潤性表面が得られる。したがって、表面処理の方法としては、これらに限定されないが、酸素プラズマ処理、紫外線(UV)照射、UV/オゾン処理、コロナ放電、および当技術分野で公知のある特定の種類のポリマーまたはコポリマーのコーティングが挙げられる。
【0028】
貫通孔は、典型的に足場に含まれ、これによって、媒体および/または代謝物が、足場内および足場外に流れることが可能になる。適切な実施形態において、貫通孔は、約4μmの直径を有する。
【0029】
足場の調製方法
図3に示すように、足場は、細胞支持層のためのポリマー型を形成することによって調製し得る。例えば、足場を調製するために、フォトリトグラフィーを使用してシリコンウェハー上で微小スケールの六角形パターンを有する型を調製し、次いで深掘り反応性イオンエッチング(DRIE)、急斜面の穴または約定(treaties)をシリコンウェハー中に作出するために使用される高度に異方性のエッチングプロセスが行われる。貫通孔パターンのアレイのためのフォトレジストマスクは、シリコンウェハー上のフォトリトグラフィーによって最初に構築される(
図3、第1の工程)。暴露された穴パターンは、DRIEプロセスを介して垂直にエッチングされる。エッチングされたシリコンウェハーを溶媒(例えば、アセトンおよびイソプロピルアルコール(IPA))を使用して完全に洗浄した後、別のフォトレジストマスクを、エッチングしたシリコンウェハー上に作出する。第2のマスクによって、多数の貫通孔がカバーされる、蜂巣形状リザーバーのアレイが画定される(
図3、第2の工程)。所望の数の穴ならびに所望の深度の穴およびリザーバーを、この工程において選択し得る。貫通孔を含む暴露された六角形領域は、再びDRIEプロセスを介してエッチングされる。エッチングされたシリコンウェハー上の残存するフォトレジストマスクを有機溶媒およびプラズマアッシングによって完全に洗浄した後、ウェハーをオクタフルオロシクロブタン(C
4F
8)ガスによって不動態化し、これによってテフロンに類似した化学的に不活性の層が生じる。エッチングされたシリコンウェハー上の不動態化層は、鋳造されたポリマーが、シリコンウェハーに結合するのを防止する。
【0030】
シリコン表面が疎水性になると、ハイブリッドポリジメチルシロキサン(軟質PDMSおよび硬質PDMSの混合物)に基づくエラストマースタンプを製造する。ここで、ハイブリッドPDMSが、軟質PDMSまたは硬質PDMSの代わりに選択されるが、これは、成型した構造を、変形、座屈、または崩壊から確固として維持するために、十分な剛性を維持しながら、シリコンマスター型からスタンプを脱型するための適当な軟質性レベルを提供し得るためである。混合比率4:1(軟質PDMS:硬質PDMS)の液体ハイブリッドPDMS混合物を、製造したシリコンマスター型上に注いだ後、内部の泡を除くために真空乾燥によって脱気する。次いで、室温で約12時間硬化した後、60℃のオーブン内で2時間、過剰の硬化プロセスを行い、シリコンマスター型から注意深く再成型する(remolded)。最終的に、スタンプの表面を単層の疎水性シラン(真空下の非付着性層)を用いてコーティングする。
【0031】
その後、h-PDMSスタンプおよびポリ(セバシン酸グリセロール)(PGS)プレポリマーを使用した微量成型プロセスを実行して蜂巣状網膜PGS足場を製造する。最初に、固体のPGS材料を清潔なシリコンウェハー上に置き、約120℃の温度において、ホットプレート上で溶融する。次いで、ハイブリッドPDMSスタンプを液体PGSに対して置き、ガラススライドおよび重り(約620g)をスタンプ上に置き、スタンプをシリコンウェハーに対して押圧する。次いで、スタンプおよびウェハーを真空オーブン内に置き、120℃で72時間硬化させる。硬化プロセスの終了時に、スタンプを注意深く単一のカミソリ刃を使用して取り外し、IPA中で20分間、音波作用処理によって展開する。最終的に、足場を細胞成長用のトランスウェルに取り付ける。トランスウェルインサートの細胞播種面積は、約19.63mm2(内部直径:5mm)である。トランスウェルインサートのサイズは、本開示から逸脱することなく変動し得ることは理解されるべきである。
【0032】
フォトリトグラフィー、DRIEおよび成型を使用して足場を調製すると本明細書で記載されているが、当技術分野で公知のポリマー性足場の調製についての任意の手段が、本開示から逸脱することなく使用することができることは理解されるべきである。他の適切な方法としては、例えば、3Dプリンターを用いた直接プリンティングまたは微量注入成型機器を使用した成型が挙げられる。
【0033】
さらに、PGSを使用すると本明細書で記載されているが、他の生体適合性または生体分解性ポリマー、例えば合成ゴム、例えばPDMS、シリコーンゴム、ポリウレタンゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、天然ゴム(例えば、ポリ-シス-イソプレン)、エポキシ(例えば、SU-8)、ポリイミド、ポリ(p-キシレン)(例えば、パリレン)、ポリエステル(例えば、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(ラクチド-コ-ε-カプロラクトン)(PLCL)、ポリ(クエン酸グリセロール)(PGC)、ポリ(セバシン酸クエン酸グリセロール)(PGSC))、熱可塑性エラストマー(例えば、熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性コポリエステル、熱可塑性ポリアミド)、脂肪族ポリカルボネート、ポリウレタン、ポリサッカライド(例えば、キトサン)、およびその組合せは、本開示の範囲から逸脱することなく、PGSに加えて、またはPGSの代替として使用し得ることは理解されるべきである。
【0034】
細胞培養における足場システムの使用
本開示の足場は、細胞培養、移植、発達モデル形成、疾患モデル形成および薬物スクリーニングに使用し得るのが好都合である。
【0035】
細胞培養のために使用する場合、細胞培養足場システムは一般的に、細胞支持層を含む足場を含む。細胞支持層は典型的には、生体適合性または生体分解性ポリマーから構成され、いくつかの特に適切な実施形態において、ポリマーは生体分解性である。ポリマーは、多孔質であってもまたは非多孔質であってもよい。適切なポリマーとしては、これらに限定されないが、合成ゴム、例えばシリコーンゴム、ポリウレタンゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、天然ゴム(例えば、ポリ-シス-イソプレン)、エポキシ(例えば、SU-8)、ポリイミド、ポリ(p-キシレン)(例えば、パリレン)、ポリエステル(例えば、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(ラクチド-コ-ε-カプロラクトン)(PLCL)、ポリ(セバシン酸グリセロール)(PGS)、ポリ(クエン酸グリセロール)(PGC)、ポリ(セバシン酸クエン酸グリセロール)(PGSC))、熱可塑性エラストマー(例えば、熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性コポリエステル、熱可塑性ポリアミド)、脂肪族ポリカルボネート、ポリウレタン、ポリサッカライド(例えば、キトサン)およびその組合せが挙げられる。特定の一態様において、ポリマーはPDMSである。別の特定の態様において、ポリマーはPGSである。
【0036】
細胞支持層は、複数の貫通孔に流体接続した、少なくとも1つの蜂巣形状リザーバーを含み、貫通孔に流体接続した少なくとも1つの蜂巣形状リザーバーは、細胞支持層を通って伸長する。蜂巣形状リザーバーは上述の通りである。特に、蜂巣形状リザーバーは、貫通孔の直径よりも大きい長さを有する。
【0037】
上述の通り、細胞支持層は、単一より多い、複数の貫通孔に接続した蜂巣形状リザーバーを含み得ることは、当業者は理解するべきである。特に、細胞培養足場の細胞支持層は、本開示の範囲から逸脱することなく、それぞれ分離して複数の貫通孔に流体接続している、複数の蜂巣形状リザーバーを含み得る。
【0038】
複数の蜂巣形状リザーバーが貫通孔に接続している場合、個々の蜂巣形状リザーバーは、約1μm~約5μm、例えば約3.5μm離間している。
【0039】
典型的には、細胞支持層は、約11μm~約125μmの範囲、例えば約25μm~約75μm、例えば約50μmの厚さを有する。
【0040】
いくつかの実施形態において、細胞支持層を、上述のようにポリマーを親水性にするために処理および/またはコーティングする。
【0041】
細胞培養足場システムは、細胞支持層中に少なくとも1つの細胞をさらに含む。細胞支持層の蜂巣形状リザーバーによって受容される細胞は、細胞支持層の蜂巣形状リザーバーと貫通孔との間で移動/成長し得る。インビトロの発生および疾患研究ならびに薬物スクリーニングのための足場システムにおいて使用するための、当技術分野において公知の任意の細胞は、本開示の細胞培養足場システムとともに使用し得る。特に、適切な細胞としては、光受容細胞、網膜色素上皮(RPE)細胞、双極細胞、ガングリオン細胞、およびその組合せが挙げられる。
【0042】
細胞培養足場システムの使用によって、インビボで観察される細胞構造および組織を模倣する組織化された多細胞コンストラクトの形成がもたらされ、移植された細胞の生存、組み込み、および機能的な視力の救済の改善が可能になる。さらに、これらの構造によって、ボーラス注入の使用によって現在見出されているものと同等の逆流が防止される。
【0043】
より具体的には、適切な一実施形態において、足場システムは、少なくとも1つの光受容細胞および少なくとも1つの網膜色素上皮(RPE)細胞を細胞支持層中に含む。光受容器は、視界の門番であり、これらは光子を捕捉し、網膜および脳の視覚中枢によって処理される電気化学シグナルに伝達する。光受容器は、光感知光色素および基底軸索末端を含有する頂端外部セグメントを有する、高度に極性化された特殊化された細胞種である。天然に見出される場合、光受容器に隣接しているのは、光受容器の健康および機能に必要な、支持細胞であるRPE細胞である。特に、RPE単層は、光受容器極性化について、細胞および構造の手がかりを提供する。特に、細胞支持層は、各蜂巣形状リザーバーの底部の単層のRPEおよびRPEの頂部の光受容細胞の層を含有するようなサイズになっている。この組み合わせた光受容器+RPE足場について、根底にある貫通孔は、RPE機能、例えば代謝物、水および老廃物の輸送を支持する。本実施形態において、一度配置されると、光受容器は、その突起の成長を開始することができ、これは最終的には、RPEに向かう外部セグメントになる。これらの極性化された光受容器は次いで、インビトロの試験または移植の準備ができている。
【0044】
光受容器のみの適用については、足場の底部の貫通孔は、光受容器軸索を直接伸長することによって、極性化を促進する。
【0045】
移植のために使用する場合、上述の細胞培養足場システムは、コンストラクトを形成するように細胞を培養するために使用され、次いで、培養されたコンストラクトは、標準的な網膜硝子体手術技術を使用して対象の眼に移植される。これらのコンストラクトを潜在的に使用し得る適切な疾患および/または状態としては、光受容器の機能不全および/もしくは死滅を伴う、またはRPEおよび光受容器の機能不全および/もしくは死滅を伴う、先天性または後天性の全ての疾患または網膜損傷が含まれる。これらには、これらに限定されないが、加齢黄斑変性(「萎縮型」または「滲出型」AMD)、網膜色素変性症(RP)、網膜剥離、錐体ジストロフィー、錐体杆体ジストロフィー、アッシャー症候群、ベスト病、全脈絡膜萎縮、脳回転状萎縮症、近視性変性、ソースビー眼底ジストロフィー、doyne蜂巣状黄斑ジストロフィー、およびスタルガルト黄斑ジストロフィーが挙げられる。
【0046】
足場システムを薬物スクリーニングに使用する場合、候補剤を培養培地に添加する。次いで、細胞の健康および生存を標準的な技術を使用して評価し得る。さらに、足場システムによって、足場システムの補助がなければ典型的には発達しない細胞構造、例えば光受容器外部セグメントの発達に対する候補剤の影響を調べることが可能になる。多くの失明に至る網膜障害は、光受容器外部セグメントにおいて生じ、光受容器特異的タンパク質発現の不在、ミスフォールディングされたタンパク質、タンパク質の不正確なパッケージング、または光受容器内におけるこれらのタンパク質の異所性の局在を伴う。疾患のこれらの構成要素および潜在的な候補は、典型的な二次元培養システム(平面表面上で成長する細胞)において評価するのが困難である。さらに、多くの疾患は、RPE-光受容器相互作用のモデル形成を必要とする。これらの相互作用の検討は、このシステムを用いると可能であるが、従来の二次元培養では可能ではなく、これはRPEおよび光受容器が、二次元培養中で互いの上部では成長しないためである。
【国際調査報告】