(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-22
(54)【発明の名称】変調性吸収前面保護層を備えた光調節型眼内レンズ
(51)【国際特許分類】
A61F 2/16 20060101AFI20221215BHJP
G02C 7/04 20060101ALI20221215BHJP
G02C 7/08 20060101ALI20221215BHJP
A61L 27/44 20060101ALI20221215BHJP
A61L 27/40 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
A61F2/16
G02C7/04
G02C7/08
A61L27/44
A61L27/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022522954
(86)(22)【出願日】2020-10-20
(85)【翻訳文提出日】2022-04-15
(86)【国際出願番号】 US2020056544
(87)【国際公開番号】W WO2021081013
(87)【国際公開日】2021-04-29
(32)【優先日】2019-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519254875
【氏名又は名称】アールエックスサイト インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】ゴールドシュレガー イリア
(72)【発明者】
【氏名】コンディス ジョン
(72)【発明者】
【氏名】シュレスタ リトゥ
【テーマコード(参考)】
2H006
4C081
4C097
【Fターム(参考)】
2H006BC04
2H006BC07
4C081AB22
4C081BB09
4C081CA082
4C081CA272
4C081CC01
4C081CE11
4C081DA16
4C081DB07
4C081DC01
4C097AA25
4C097BB01
4C097CC01
4C097CC02
4C097CC03
4C097CC05
4C097DD01
4C097EE13
4C097SA01
4C097SA05
(57)【要約】
変調性吸収光調節型レンズ(MALAL)の実施形態が、調整照射時に光学特性を変化させることができる、光修正可能材料を含む光調節型レンズと、変調刺激で変調させることができる吸収特性を有する変調性吸収化合物を含む変調性吸収前面保護層とを含む。他の実施形態は、予め眼に埋め込まれたMALALの変調性吸収前面保護層の変調性吸収化合物の吸収を変調刺激によって低減するステップと、調整照射を適用することによってMALALの光調節型レンズの光学特性を変化させるステップとを含む、変調性吸収光調節型レンズの光学特性を調整する方法を含む。
【選択図】
図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変調性吸収光調節型レンズ(MALAL)であって、
光修正可能材料を含む、調整照射時に光学特性を変化させることができる光調節型レンズと、
変調刺激で変調させることができる吸収特性を有する変調性吸収化合物を含む変調性吸収前面保護層と、
を含むことを特徴とするMALAL。
【請求項2】
前記光修正可能材料は、シリコーン系マトリクス、アクリレート系マトリクス、コラマー、ハイブリッドシリコーン-アクリレート系マトリクス、及び前記マトリクスのうちの少なくとも2つを組み合わせた多層マトリクスから成る群から選択されたポリマーホストマトリクスを含む、
請求項1に記載のMALAL。
【請求項3】
前記光修正可能材料は、光誘起重合可能なモノマー及びマクロマーの少なくとも一つを含む、
請求項1に記載のMALAL。
【請求項4】
前記光修正可能材料は、前記マクロマーとは別の光開始剤、又は前記マクロマーの末端の官能基を含む、
請求項1に記載のMALAL。
【請求項5】
分散した紫外線吸収剤を含む、
請求項1に記載のMALAL。
【請求項6】
光調節型レンズから延びるハプティックを含む、
請求項1に記載のMALAL。
【請求項7】
前記変調刺激は、電磁照明、レーザー照射、赤外線照射、紫外線照明、磁気刺激、電場、化学的又は熱的刺激、熱伝達、エネルギー伝達、超音波仲介刺激、機械刺激、熱刺激及び熱緩和から成る群から選択される、
請求項1に記載のMALAL。
【請求項8】
前記変調性吸収化合物は、前記光調節型レンズの前面領域に分散して前記変調性吸収前面保護層を形成する、
請求項1に記載のMALAL。
【請求項9】
前記変調性吸収化合物は、前記光調節型レンズの前記前面領域においてポリマーホストマトリクスに局在化される、
請求項8に記載のMALAL。
【請求項10】
前記変調性吸収化合物は、前記ポリマーホストマトリクスの架橋剤及び前記ポリマーホストマトリクスの鎖の少なくとも一つに対する1又は2以上の結合によって前記ポリマーホストマトリクスに局在化される、
請求項9に記載のMALAL。
【請求項11】
前記変調性吸収化合物を局在化させる前記1又は2以上の結合は、炭素、ケイ素、酸素、窒素、水素、硫黄及びハロゲン原子から成る群から選択された1つに炭素及びケイ素の一つを結合させる結合を含む、
請求項10に記載のMALAL。
【請求項12】
前記変調性吸収化合物は、ポリマーホストマトリクスに対して移動可能であり、及び光修正可能材料に相互浸透する長いポリマーである、
請求項8に記載のMALAL。
【請求項13】
前記変調性吸収前面保護層は、前記光調節型レンズの前面領域上に付着した層、及び前記光調節型レンズの前記前面領域上に堆積した層の一つである、
請求項1に記載のMALAL。
【請求項14】
前記変調性吸収前面保護層は、前記光調節型レンズの前方に配置され、前記光調節型レンズから少なくとも部分的に分離し、任意にキャリア構造によって適所に保持される、
請求項1に記載のMALAL。
【請求項15】
前記変調性吸収前面保護層の厚みは、前記光調節型レンズの厚みの50%、25%、5%及び2%のうちの1つよりも小さい、
請求項1に記載のMALAL。
【請求項16】
前記変調性吸収化合物は、アゾ芳香族化合物、ジアゼン、アゾピラゾール、ジエニルエテン、フルギド、アズレン、スピロピラン、エテン芳香族化合物、これらの化合物のうちの1つのマクロマー、これらの化合物のポリマー、これらの化合物のうちの1つを含む組成物、これらの化合物のうちの1つを側鎖として含む組成物、これらの化合物のうちの1つを側鎖を有する主鎖として含む組成物、これらの化合物のうちの1つに結合したナノ粒子、及びこれらの化合物のうちの1つをイオン性流体に溶解させたものから成る群から選択される、
請求項1に記載のMALAL。
【請求項17】
前記アゾ芳香族化合物は、アゾベンゼン及び4-メトキシアゾベンゼンの一つであり、前記アゾピラゾールはビニルフェニルアゾピラゾールであり、前記エテン芳香族化合物はスチルベンである、
請求項16に記載のMALAL。
【請求項18】
前記変調性吸収化合物は、光切替可能化合物、光活性化可能化合物、光異性化可能化合物、光発色性化合物、光変換可能化合物及び切替発色団から成る群から選択される、
請求項1に記載のMALAL。
【請求項19】
前記変調性吸収化合物は、少なくとも高吸収配座及び低吸収配座を有し、
前記変調性吸収化合物は、高-低変調刺激の吸収時に前記高吸収配座から前記低吸収配座に転移することができ、
前記変調性吸収化合物は、低-高変調刺激の吸収時に前記低吸収配座から前記高吸収配座に転移することができる。
【請求項20】
前記高-低変調刺激は、300~400nmの範囲の波長を中心とする帯域を有する光での高-低照明を含み、
前記低-高変調刺激は、400~700nmの範囲の波長を中心とする帯域を有する光での低-高照明及び熱緩和の一つを含む、
請求項19に記載のMALAL。
【請求項21】
300~400nmの範囲の波長における前記低吸収配座の吸光係数に対する前記高吸収配座の吸光係数の比率は2よりも大きい、
請求項20に記載のMALAL。
【請求項22】
前記変調性吸収化合物の前記高吸収配座は、周囲条件の平衡において、固相、希薄溶液及びホストマトリクス結合状態のうちの少なくとも1つにおいて前記低吸収配座における前記変調性吸収化合物の濃度に対する前記高吸収配座における前記変調性吸収化合物の濃度の比率が2よりも大きくなるように前記低吸収配座よりも低いエネルギーを有する、
請求項20に記載のMALAL。
【請求項23】
前記変調性吸収化合物は、300nm~400nmの波長範囲にわたる1mJ/cm
2~1,000mJ/cm
2の範囲の放射露光での高-低照明下において前記高吸収配座の少なくとも25%が前記低吸収配座に遷移するような化学組成を有する、
請求項20に記載のMALAL。
【請求項24】
前記変調性吸収化合物は、前記高吸収配座から前記低吸収配座への遷移の量子収量が0.01よりも大きくなるような化学組成を有する、
請求項23に記載のMALAL。
【請求項25】
前記変調性吸収化合物は、400nm~600nmの波長範囲にわたる1mJ/cm
2~1,000mJ/cm
2の範囲の放射露光での低-高変調刺激下において前記低吸収配座の少なくとも50%が前記高吸収配座に遷移するような化学組成を有する、
請求項20に記載のMALAL。
【請求項26】
前記変調性吸収化合物は、前記高-低変調刺激及び前記低-高変調刺激の吸収時に、それぞれ前記高吸収配座から前記低吸収配座への転移及び前記高吸収配座への逆転移を繰り返すことができる、
請求項19記載のMALAL。
【請求項27】
前記変調性吸収前面保護層は、300nm~400nmの波長範囲にわたって積分された3mW/cm
2を超えない強度の最大10,000mJ/cm
2の放射露光に曝された時に、前記光調節型レンズの光学特性の調整を防ぐのに十分な化学組成、吸光係数及び厚みを有するさらなる非変調可能紫外線吸収化合物をさらに含む、
請求項1に記載のMALAL。
【請求項28】
変調性吸収光調節型レンズ(MALAL)の光学特性を調整する方法であって、
予め眼に埋め込まれたMALALの変調性吸収前面保護層の変調性吸収化合物の吸収を変調刺激によって低減するステップと、
調整照射を適用することによって前記MALALの光調節型レンズの光学特性を変化させるステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項29】
前記吸収を低減する前記ステップは、前記変調性吸収化合物を高吸収配座から低吸収配座に転移させるための変調刺激として高-低変調刺激を適用するステップを含み、
前記光学特性を変化させる前記ステップの後に、前記変調刺激として低-高変調刺激を適用することによって前記変調性吸収化合物を前記低吸収配座から前記高吸収配座に転移させる、
請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記高-低変調刺激は、300~400nmの範囲の波長を中心とする帯域を有する光での高-低照明を含み、
前記低-高変調刺激は、400~700nmの範囲の波長を中心とする帯域を有する光での低-高照明及び熱緩和の一つを含む、
請求項29に記載のMALAL。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光調節型レンズに関し、具体的には、変調性吸収作用(modulable absorption)を有する光調節型レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
白内障手術の技術及びツールは継続的な目覚ましい進歩を遂げている。次世代の水晶体超音波乳化吸引術プラットフォーム及び新たに発明された手術用レーザーは、眼内レンズ(IOL)の配置精度を高め続け、望ましくない医療転帰を減少させ続けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第8,604,098号明細書
【特許文献2】米国特許第8,933,143号明細書
【特許文献3】米国特許第6、905、641号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、たとえ綿密な計画のもとでIOLを選択し、精密な手術器具を使用して水晶体嚢に埋め込んだ場合でも、埋め込み後の眼組織の治癒及び瘢痕化によって、眼の水晶体嚢内の予定された最適な位置からIOLが移動又は傾転してしまうことが多い。この定着プロセスには数週間かかることもある。この移動及び傾転は、IOLの光学性能、従って白内障手術の全般的な医療転帰を悪化させる恐れがある。
【0005】
近年、この問題に対処するために光調節型眼内レンズ(LAL)技術が発明され開発された。LALは、通常のIOLと同様に、水晶体嚢への埋め込み後の数週間かかる定着プロセス中に移動及び傾転を生じることがある。しかしながら、LALの移動又は傾転は、埋め込まれたLALの光学特性を調整することによって補正することができる。この調整は、慎重に選択された空間プロファイルを有する紫外線(UV)ビームでLALを照明することによって行うことができる。
【0006】
埋め込みと光調節手順との間の数週間内に太陽光のUV部分がLALの光学特性を変化させるのを防ぐために、患者はUV遮断用メガネを着用する指示に従うように要請される。しかしながら、患者が晴れた日に散歩に出ている間にUV遮断用サングラスをかけ忘れたりなどのわずかな順守違反があっただけでも、LALの光学特性に無制御な望ましくない変化が生じる恐れがある。Boydstonらに付与された、いずれも「オンデマンド光開始重合(On-demand photoinitiated polymerization)」という名称の米国特許第8,604,098号及び第8,933,143号では、この問題に対処するために「マスキング化合物」を導入することが提案されている。しかしながら、後述するように、これらの設計は、患者の違反によって生じる意図的でないレンズ修正の課題を解決するものではなかった。従って、UV遮断用メガネの着用を患者が厳格に順守する必要性を低減し、場合によっては排除する、光調節型レンズ技術の改善に対する満たされていない医療ニーズが依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述したニーズは、光修正可能材料(photo-modifiable material)を含む、調整照射時に光学特性を変化させることができる光調節型レンズと、変調刺激で変調させることができる吸収特性を有する変調性吸収化合物を含む変調性吸収前面保護層とを含む変調性吸収光調節型レンズ(MALAL)の実施形態によって対処される。
【0008】
他の実施形態は、予め眼に埋め込まれたMALALの変調性吸収前面保護層の変調性吸収化合物の吸収を変調刺激によって低減するステップと、調整照射を適用することによってMALALの光調節型レンズの光学特性を変化させるステップとを含む、変調性吸収光調節型レンズの光学特性を調整する方法を含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】過剰なUV照射によって光学特性が変化したゾーンの形成を示す図である。
【
図3A】変調性吸収光調節型レンズ(MALAL)100の実施形態を示す図である。
【
図3B】変調性吸収光調節型レンズ(MALAL)100の実施形態を示す図である。
【
図3C】変調性吸収光調節型レンズ(MALAL)100の実施形態を示す図である。
【
図3D】変調性吸収光調節型レンズ(MALAL)100の実施形態を示す図である。
【
図3E】変調性吸収光調節型レンズ(MALAL)100の実施形態を示す図である。
【
図3F】変調性吸収光調節型レンズ(MALAL)100の実施形態を示す図である。
【
図4】光修正可能材料111の化学的性質を示す図である。
【
図5A-C】MALAL100の光調整ステップを示す図である。
【
図5D-F】MALAL100の光調整ステップを示す図である。
【
図6】治療中の前面保護層120及びLAL110における単一光源照明の吸収を示す図である。
【
図7A】変調性吸収化合物300をポリマーホストマトリクス112に関連付けることができる様々な方法を示す図である。
【
図7B】変調性吸収化合物300をポリマーホストマトリクス112に関連付けることができる様々な方法を示す図である。
【
図7C】変調性吸収化合物300をポリマーホストマトリクス112に関連付けることができる様々な方法を示す図である。
【
図7D】変調性吸収化合物300をポリマーホストマトリクス112に関連付けることができる様々な方法を示す図である。
【
図8B】アゾベンゼンの吸収スペクトルを示す図である。
【
図9】ビニルフェニルアゾピラゾールのトランス型光異性体の化学組成及び吸収スペクトルを示す図である。
【
図10A】4-アミノアゾベンゼンの化学組成及び吸収スペクトルを示す図である。
【
図10B】4-(4’ヒドロキシフェニルアゾ安息香酸)の化学組成及び吸収スペクトルを示す図である。
【
図11】トランス-シス遷移中の吸光係数の時間発展を示す図である。
【
図12A】可視スペクトル内の波長域を拡大したトランス-シス遷移中の吸光係数の時間発展を示す図である。
【
図12B】可視スペクトル内の波長域を拡大したトランス-シス遷移中の吸光係数の時間発展を示す図である。
【
図14A】MALAL100における可能ではあるが非常に可能性が低い小ゾーンの形成を示す図である。
【
図14B】MALAL100における可能ではあるが非常に可能性が低い小ゾーンの形成を示す図である。
【
図14C】MALAL100における可能ではあるが非常に可能性が低い小ゾーンの形成を示す図である。
【
図15A】変調性吸収光調節型レンズの光学特性を調整する方法のステップを示す図である。
【
図15B】変調性吸収光調節型レンズの光学特性を調整する方法のステップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本文書では、上述した医療ニーズに関する改善をもたらす光調節型眼内レンズの実施形態について説明する。この説明は、光調節型レンズ技術を少し詳細に再考察することによって開始する。
【0011】
図1に、埋め込み中にハプティック12によって水晶体嚢内で安定化できる光調節型レンズ(LAL)10を示す。上述したように、LAL10は、白内障手術後の数週間内に、眼組織の瘢痕化及び治癒によって水晶体嚢内の予定された最適な位置から離れて移動又は傾転してしまうことがある。また、角膜の治癒が、結果として得られる屈折に大きな影響を与えることもある。LAL技術の重要な革新は、LAL10が水晶体嚢に定着した後に、LAL10の光学特性をどのように調整すればこの予定外の移動又は傾転を補償できるかが決定される点である。この決定は、客観的測定及び患者の主観的フィードバックを伴うことができる。その後に、決定されたLALの光学特性の調整を誘発して移動又は傾転を補償するように選択された空間プロファイル又はノモグラムを有する紫外線(UV)光でLAL10を照明する。
【0012】
LAL10の光学特性がUV光に敏感であることを考慮して、患者は、太陽放射のUV部分が誤ってLAL10の光学特性を修正するのを防ぐために、埋め込みと調整との間の数週間内にUV遮断用メガネを着用するように指示される。しかしながら、患者が外出時にUV遮断用メガネをかけ忘れるなどわずかに順守を怠っただけでも、LAL10の光学特性に大きな変化が生じる恐れがある。
【0013】
図2に、かなりの偶発的UV照明に曝された後のLAL10の断面を介してこのような不順守の結果を少し詳細に示す。UV照明は、LAL10のゾーン20をかなりの空間的範囲で光重合し、従ってLAL10の光学特性を無制御にかなりの程度まで調整しており、従って視覚的転帰を悪化させている。
【0014】
図3A~
図3Fに、偶発的不順守の場合にこのような望ましくないゾーンの形成を防ぐのに適した変調性吸収光調節型レンズ(MALAL)100の実施形態を示す。
図3AのMALAL100は、調整照射時にその光学特性を変化させることができる光調節型レンズLAL110を含み、LAL110は、光修正可能材料111と、変調刺激によって変調できる吸収特性を有する変調性吸収化合物300を含む変調性吸収前面保護層120とを含むことができる。LAL110の光学特性は、LAL110の形状、LAL110の屈折特性、屈折率、吸収特性又は偏光特性、或いはLAL110のこれらの特性の組み合わせを調整することによって調整することができ、これによってMALAL100の光学特性を変化させることもできる。MALAL100は、通常は光調節型レンズ110から延びるハプティック130をさらに含むことができる。ハプティック130の実施形態は、LAL110から延びる1つ、2つ、3つ又は4つ以上の個々のアームを含むことができる。他の実施形態では、ハプティックを、矩形の又は修正されて丸みを帯びた矩形の設計を有する、LAL110の平らで柔軟な延長部とすることができる。いくつかの実施形態では、ハプティック130が、変調性吸収前面保護層120又は補助構造から延びることができる。
【0015】
MALAL100の説明を文脈的に捉えるために、最初に
図4及び
図5A~
図5Fにおいて光調節型レンズLAL110自体について少し詳細に説明する。
【0016】
図4に、MALAL100のLAL110内で光修正可能材料111がポリマーホストマトリクス112を含むことができることを示す。ポリマーホストマトリクス112は、シリコーン系マトリクス、アクリレート系マトリクス、コラマー、ハイブリッドシリコーン-アクリレート系マトリクス、又はこれらのマトリクスのうちの少なくとも2つを組み合わせた多層マトリクスとすることができる。
【0017】
MALAL100のLAL110では、光修正可能材料111が、光誘起重合が可能な光重合性モノマー又はマクロマー113をさらに含むことができる。これらの光重合性モノマー/マクロマー113は、光重合性末端基(photopolymerizable endgroups)114をさらに含むことができる。また、光修正可能材料111は、光重合性モノマー/マクロマー113とは別のもの又は光重合性モノマー/マクロマー113の末端の官能基とすることができる光開始剤115を含むこともできる。
【0018】
上述したUV照明などの変調刺激は光開始剤115を活性化させることができ、光開始剤115は、典型的には光重合性モノマー/マクロマー113の光重合性末端基114を介して光重合性モノマー/マクロマー113の光重合をさらに誘起することができる。後述するように、この光重合プロセスは、LAL110の光学特性、ひいてはMALAL100の光学特性を調整する。
【0019】
MALAL100のLAL110は、分散した紫外線(UV)吸収剤116をさらに含むことができる。このUV吸収剤116は、異なる役割を果たすことができる。これらの役割の1つは、基本的に全ての入射UV照明がLAL110の内部で安全に吸収されることを確実にし、これによって目の網膜の安全性をもたらすことである。さらに、UV吸収剤116は、MALAL100の空間的に変化する深さプロファイルを制御して成形する役割を果たすこともできる。
【0020】
ここまで、調整照射としてのUV照明によって調整可能であるMALAL100の実施形態について説明した。他の実施形態では、調整照射が、UVスペクトルの特定の部分又は赤外線部分などの、電磁スペクトルの他の部分を含むことができる。また、調整照射は、LAL110の広い領域に同時に又は順次に走査方式で適用できるインコヒーレント又はコヒーレントなレーザー様照明とすることもできる。
【0021】
図5A~
図5Fに、MALAL100のLAL110の光学特性を調整するプロセスを少し詳細に示す。
図5Aには、LAL技術の最初のステップが白内障患者の眼球内へのLAL110の慣習的な埋め込みであることを示す。
図5Bには、埋め込まれたLAL110が、ポリマーホストマトリクス112に埋め込まれた光重合性モノマー/マクロマー113を含むことができることを示す。LAL110は、埋め込み後の数週間にわたって水晶体嚢内で移動及び傾転することが多く、また上述したように角膜の治癒も眼の光学特性に影響を与える。数週間後にLAL110が水晶体嚢内で定着すると、調整照射210を適用することによってLAL110の光学特性を調整することにより、この移動、傾転及び角膜治癒の光学的結果を光学的に補償することができる。調整照射210は、LAL110の移動及び傾転を補償するためにLAL110の光学特性の調整を誘起するように設計されたノモグラムと呼ばれることもある空間プロファイルで適用される。いくつかの実施形態では、調整照射210を、水銀ランプ又はUV LEDなどのUV源によって生成することができる。所望の空間プロファイルは、生成された調整照射210をデジタルミラーデバイス又は好適な代替物で偏向又は変調させることによって達成することができる。
【0022】
図5Cには、調整照射210が、光重合性モノマー/マクロマー113の空間的に変化する部分を(太線で示す)光重合性マクロマー113pに予定された空間プロファイルで重合できることを示す。
【0023】
図5Dには、誘起された重合マクロマー113pの空間的に変化する密度が残りの未重合モノマー/マクロマー113の空間的に変化する密度を誘起していることを示す。これにより、未重合モノマー/マクロマー113をLAL110の中心領域に拡散させる空間的に変化する化学ポテンシャルが生じる。この拡散によってLAL110の中心領域が膨張し、従ってLAL110の屈折力が増加して遠視調整を生成する。上述した実施形態は、LAL110の形状を調整することによってLAL110の光学特性を調整するものである。光修正可能材料111のいくつかのクラスでは、調整照射210が、光修正可能材料111の屈折率を調整することなどの他の方法でLAL110の光学特性を調整することができる。最後に、いくつかの実施形態では、光修正可能材料111の形状及び屈折率の両方を調整照射210によって調整することができる。さらに、近視調整、すなわちLAL110の屈折力の低下が望ましい場合には、調整照射のプロファイル、従って誘起される重合をLAL110の中心ではなくその周辺部に集中させることができる。
【0024】
図5Eには、調整照射210によって重合しなかった光重合性モノマー/マクロマー113が調整照射210の後に残存しており、従ってUV含有周辺光がLAL110に到達した時に後で重合する可能性があるという事実を示す。このようなその後の重合は、LAL110の光学特性をさらに無制御に望ましくない形で変化させる。LAL技術は、調整照射210後しばらくしてからLAL110にロックイン照射(lock-in irradiation)220を適用して、基本的に全ての残りの光重合性モノマー/マクロマー113を重合させることによってこの課題に対処する。通常、このロックイン照射220は
図5Fに示すように倍率中立的(power neutral)であり、すなわちLAL110の光学特性をさらに調整するようには意図されていない。いくつかの事例では、何らかの理由で
図5Bの調整プロセスの結果が予定された光学的結果をもたらさなかった場合、非倍率中立的ロックイン照射220を適用することができる。ロックイン照射220によって基本的に全てのマクロマー113が重合された後には、その後の太陽光又は周囲光への曝露によってさらなる重合及びLAL110の光学特性のさらなる変化が誘起されることはあり得ない。従って、
図5A~5AFで説明したステップは、潜在的なLALの移動及び傾転、並びに埋め込み後の角膜治癒にもかかわらず、最適な予定された光学的結果をもたらすことができるLAL技術を構成するものである。
図5A~
図5Fに関連して説明したこのLAL調整プロセスは、Plattらに付与された「調整式レンズの術後倍率調整のための送達システム(Delivery System for post-operate power adjustment of adjustable lens)」という名称の同一出願人による米国特許第6,905,641号にさらに詳細に記載されており、この文献はその全体が引用により本明細書に組み入れられる。
【0025】
上述したように、患者は、意図していないLAL110の光学特性の変化を防ぐために、調整照射210及びロックイン照射220によって全ての光重合性マクロマー113が光重合されるまで
図5A~
図5Eのステップを通じてUV遮断用メガネを着用するように指示される。しかしながら、数週間もの長期間にわたるこの要件は、うっかりと順守を怠ることによってLAL110の望ましくない光学変化を引き起こしてしまう可能性がある患者にとって不便なものとなり得る。MALAL100の実施形態は、たとえ患者がUV遮断用メガネを着用し忘れたりなどして順守を怠った場合でも、MALAL100に含まれている時のLAL110の光学特性が制御下にあることを保証する改善された技術を提供するものである。
【0026】
再び
図3Aを参照すると、MALAL100は、変調刺激310で変調できる吸収特性を有する変調性吸収化合物300を含む、LAL110に対して前方に位置する変調性吸収前面保護層120をさらに含む。変調性吸収化合物300は、高吸収配座(high-absorption conformation)及び低吸収配座(low-absorption conformation)を有することができ、変調性吸収化合物300は、高-低変調刺激310-htlを吸収すると高吸収配座から低吸収配座に転移することができる。さらに、変調性吸収化合物300は、低-高変調刺激310-lthを吸収すると低吸収配座から高吸収配座に転移することができる。混乱を生じないように簡潔に説明すると、高-低変調刺激310-htl及び低-高変調刺激310-lthは、いずれも変調性吸収化合物300の吸収を変調するので、たとえこれらが異なるソースによって生成された場合であっても共に単純に変調刺激310と呼ぶことができる。さらに、高吸収配座にある変調性吸収化合物300は高吸収異性体300-hと呼ばれるのに対し、低吸収配座にある変調性吸収化合物300は低吸収異性体300-lと呼ばれることがある。さらに他の事例では、変調性吸収化合物300が発色団と呼ばれ、その高吸収配座が高吸収発色団300-hと呼ばれ、その低吸収配座が低吸収発色団300-lと呼ばれる。
【0027】
このようなMALAL100を
図5A~
図5FのLAL技術において使用する場合、MALAL100は、変調性吸収前面保護層120の変調性吸収化合物300が高吸収配座にある状態で製造し、この状態で眼内に埋め込むことができる。この製造法により、変調性吸収前面保護層120は、UV遮断用メガネの着け忘れなどの不順守によって潜在的に引き起こされる
図5Aのステップと
図5Bのステップとの間の数週間内における偶発的なUV暴露に対してLAL110の光修正可能材料111を強力に保護する。本節及びそれ以降では、LAL110がMALAL100の実施形態内のLAL110であるように意図される
図5A~
図5Fに示すステップを参照しながら光調整手順について説明する。
【0028】
MALAL100のいくつかの実施形態は、偶発的不順守からの保護を上回るものを提供することができる。いくつかのMALAL100は、MALAL100の埋め込みとロックインとの間にUV遮断メガネの着用さえも不要となるような十分に強力な保護を提供するように製造することができる。このMALAL100の利点は、患者の快適性を高めるとともに故意でない不順守のリスク及び望ましくない結果を基本的に排除するため患者及び医師にとっての大きな救いである。これらのMALAL100では、十分に高いUV吸収作用を有する変調性吸収化合物300及び十分に大きな厚みを有する変調性吸収前面保護層120が選択されることにより、
図5Aの埋め込みから
図5Bの調整手順を経て
図5Eのロックインに至るまでの数週間の間に、これらの要因が組み合わさってLAL110の光修正可能材料111を太陽UV照射から十分に保護し、従ってMALAL100の光学特性が太陽UV照射に曝されているにもかかわらず変化しないようにする。
【0029】
MALAL100が水晶体嚢内に定着すると、
図5Bで既に概説したようにMALAL100のLAL110の光学特性を調整する時が来る。この手順は、通常のLAL技術に加えて、最初に高-低変調刺激310-htlを適用して、変調性吸収化合物300を高吸収異性体300-hから低吸収異性体300-lに転移させることから開始する。この転移前には、調整照射210が変調性吸収前面保護層120の高吸収異性体300-hを通過することはできなかったが、この低吸収異性体300-lへの転移後には、調整照射210が変調性吸収前面保護層120を通過してLAL110に到達し、従ってその光学特性を調整できるようになる。
【0030】
図6に示すように、いくつかの実施形態では、変調刺激310のソースを、水銀ランプ又はUV LEDなどの調整照射210のソースと同じものとすることができる。このような単一の共有ソースの実施形態では、最初は支配的高-低変調刺激310-htlとして機能する共有ソースからのUVビームによってMALAL100を照明することができるが、照明によって正面保護層120内で変調性吸収化合物300が高吸収異性体300-hから低吸収異性体300-lに遷移すると、正面保護層120を通過してLAL110に到達するUVビームの割合が増加し、従って図示のようにますます支配的調整照射210として機能するようになる。いくつかの実施形態では、共有ソースからの照明の空間的に変化するプロファイルが時間と共に変化することができる。照明が支配的に変調刺激310である最初の期間では、LAL110の屈折力の調整を避けるために、空間的プロファイルを半径から大きく独立したフラットトップであるように選択できる一方で、照明が支配的に調整照射210である後の時点では、空間的に変化するプロファイルを、必要に応じて大きな半径で切断された多項式又はガウスなどの倍率調整プロファイルに切り替えることができる。他の実施形態では、空間的に変化するプロファイルを照明時間全体にわたって倍率調整することができる。最後に、さらに他の実施形態では、支配的に変調刺激310である間に照明をフラットトッププロファイルで適用した後に停止し、その後に支配的に調整照射210である時間間隔にわたって倍率調整プロファイルで再開することができる。
【0031】
ここまで、MALAL100の実施形態を、UV照明が変調刺激310であることによって調整可能であるように説明したが、他の実施形態では、変調刺激310が、電磁照明、レーザー照射、赤外線照射、紫外線照明、磁気刺激、電場、化学刺激、熱伝達、エネルギー伝達、超音波仲介刺激、機械刺激、熱刺激又は熱緩和を含む他の形態をとることもできる。
【0032】
図3A~
図3Fには、前面保護層120をLAL110に対して複数の異なる方法で前方に配置できることを示す。
図3Aの実施形態では、変調性吸収化合物300を光調節型レンズLAL110の前面領域122内で分散させて変調性吸収前面保護層120を形成することができる。
【0033】
図7A~
図7Dに、変調性吸収化合物300を様々な方法で光調節型レンズ110の前面領域122内のポリマーホストマトリクス112に局在化できることを示す。
図7Aには、ポリマーホストマトリクス112の架橋剤117への1又は2以上の結合(bond)302、又は
図7Bに示すようなポリマーホストマトリクスの鎖303によって、変調性吸収化合物300をポリマーホストマトリクス112に局在化できることを示す。このような実施形態では、変調性吸収化合物300を局在化する1又は2以上の化学結合302が、炭素、ケイ素、酸素、窒素、水素、硫黄又はハロゲン原子に炭素又はケイ素を結合させる化学結合を含むことができる。
【0034】
図7Cには、いくつかの実施形態では変調性吸収化合物300がポリマーホストマトリクス112に対して移動可能であり、又は光修正可能材料111に相互浸透する長鎖ポリマーであることができることを示す。最後に、
図7Dには、ポリマーホストマトリクス112に絡みついた相互浸透ネットワーク118に変調性吸収化合物300を結合できることを示す。ポリマーホストマトリクス112に対する変調性吸収化合物300の移動性が高ければ高いほど、変調性吸収化合物300が眼球自体内又はLAL110内に拡散するのを防ぐために隔離層が必要になる可能性が高くなる。
【0035】
図3Bには、MALAL100の他の実施形態では、変調性吸収前面保護層120を、光調節型レンズLAL110の前面領域122上に付着した層、又は光調節型レンズLAL110の前面領域122上に堆積した層とすることができることを示す。これらの実施形態では、変調性吸収化合物300がLAL110内への拡散を示す可能性は低い。
【0036】
図3Cには、いくつかのMALAL100では変調性吸収前面保護層120を光調節型レンズLAL110の前面に少なくとも部分的に分離して配置できることを示す。このような実施形態は、変調性吸収前面保護層120とLAL110との間のさらに明確な分離、及び最適化できるさらなる設計特徴を提供する。
【0037】
図3Dには、いくつかのMALAL100では変調性吸収前面保護層120をLAL110から大きく又は完全に分離し、キャリア構造140又は略してキャリア140によって保持できることを示す。キャリア構造140は、図示のような開口部を有する後面を含むもの、又は他の設計では開口部を含まないものを含む多くの異なる設計を有することができる。
【0038】
最後に、
図3E~
図3Fには、いくつかの実装では変調性吸収前面保護層120を独立して挿入可能な眼内要素とすることができることを示す。変調性吸収前面保護層120は、キャリア140に挿入することも、或いはいくつかの実施形態では単にLAL110の前方の水晶体嚢に挿入することもできる。
【0039】
変調性吸収前面保護層120の物理的範囲は、相対的に言えば光調節型レンズLAL110の厚みの50%、25%、5%又は2%未満の厚みを特徴とすることができる。絶対的に言えば、変調性吸収前面保護層120の厚みは、1~200ミクロンの範囲、いくつかの事例では1~100ミクロンの範囲、さらにいくつかの事例では10~50ミクロンの範囲とすることができる。
【0040】
先に進む前に、Boydstonらに付与されたいずれも「オンデマンド光開始重合」という名称の米国特許第8,604,098号及び第8,933,143号に戻る。これらの特許では、光調節型レンズに「マスキング化合物」を導入して光調整の時点までの意図していない重合のリスクを低減し、この時点で光異性化をトリガしてレンズの調整を可能にすることが提案されている。しかしながら、これらの特許によって提案される解決策では、マスキング化合物が光調節型レンズの体積全体を通じて広く分布してしまうため問題を解決することができていなかった。マスキング化合物がレンズの体積全体を通じて分散するため、光調節型レンズの前面領域が十分な保護を得られずに望ましくないゾーンが形成されやすく、従ってその光学特性が無制御な望ましくない変化を生じやすかった。
【0041】
MALAL100の実施形態は、LAL110の体積全体を通じて化合物300を分散させる代わりに、LAL110に対して前方に形成され配置された前面保護層120内に保護用の変調性吸収化合物300を集中させることによって、この従来の提案で上手くいかなかったところを実現する。埋め込みから調整を経てMALAL100のロックインに至るまでの偶発的なゾーン形成及び無制御な光学変化を防ぐのは、この保護用の変調性吸収化合物300の前方配置のみであるため、この実施形態は、MALAL100がLAL110の最前方領域についてもUV光から完全に保護することを可能にする構造的改善である。
【0042】
図8A~
図8Bでは、変調性吸収化合物300の具体例を識別して説明することによってMALAL100の実施形態の説明を続行する。具体的にするために、この説明では、特定の例を詳述することから開始した後に数多くの代替解決策を示す。アゾベンゼンは、光による刺激時に吸収特性が変化することが知られている化合物の1つである。アゾベンゼンは、R-N=N-R’という一般形態によるアゾ化合物と呼ばれる族の最も単純な例の1つであり、ここでR及びR’はアリル、アルキル、又はこれらの基とすることができる。アゾベンゼンは、N=Nの二重結合と2つのフェニル環の一方との間の結合角が異なる2つの配座を有することが知られている。「トランス」配座は、360~370nmの波長範囲をピークとするUVスペクトルにおいて高い吸収作用を有し、この吸収はπ-π
*の電子遷移を伴う。様々な官能性アゾベンゼン類(functionalized azobenzenes)にも同様のピークが存在する。365nm付近の波長のUV光は、高-低変調刺激310-htlとしての役割を果たして、アゾベンゼンをトランス配座の高吸収異性体300-hからシス配座の低吸収異性体300-lに転移させることができる。図示のように、シス配座は365nm波長付近の吸収作用が大幅に低い。従って、アゾベンゼンは、そのトランス配座300-hでは入射UV光を大きく遮断するが、低吸収シス配座300-lに切り替わってLAL110に調整放射210を通すこともできる、前面保護層120の変調性吸収化合物300の一実施形態である。なお、完全を期すために言及しておくと、アゾベンゼン系化合物はさらなる配座を有することもできる。
【0043】
図6に関連して既に説明したように、UV光を使用してMALAL100を照明すると、最初にUV光が高-低変調刺激310-htlとして支配的に作用して、高吸収トランス異性体300-hからその低吸収シス異性体300-lに転移するアゾベンゼン変調性吸収化合物300の割合を増加させる。UV照明がトランス-シス転移を誘起することによってアゾベンゼンの吸収を変調し続けると、前面保護層120を通過してLAL110に到達し、そこで調整照射210として作用し、従ってLAL110の光学特性を変化させるUVビームの割合が増加する。UV照明は、LAL110の光学特性の計画調整をもたらす空間プロファイル、すなわちノモグラムで適用することができる。
【0044】
図5Bに関連するように、調整照射210としてのUVビームが、最終的にLAL110の光学特性の調整を誘起するのに必要な空間プロファイルで適用されると、
図5C~
図5Dに示すように光重合性マクロマー113の拡散が開始する。しかしながら、この拡散には1日又はそれよりも長くかかることがあるため、
図5Eのロックイン照射220が適用されるまでMALAL100を再び無制御なUV照明から保護する必要がある。この保護は、低-高変調刺激310-lthを適用して低吸収異性体310-lを高吸収異性体300-hに逆転移させることによって達成することができる。アゾベンゼンの場合には、このことがシス配座をトランス配座に逆転移させることに相当する。この変換は、低吸収シス異性体300-lの吸収極大付近に実質的なスペクトル重みを有する低-高変調刺激310-lthを適用することによって達成することができる。
【0045】
図8Bに、低吸収シス異性体300-lが、n-π
*の電子遷移を伴う450nm付近に吸収ピークを有することを示す。従って、450nm付近に強いスペクトル重みを有する照明は、低-高変調刺激310-lthとして機能し、シス-トランス変換を誘起して、基礎を成すLAL110のUV保護を再確立することができる。
【0046】
(1)専用光源を使用して低-高変調刺激310-lthを適用することは、いくつかの実施形態では有用であるが、他のいくつかの実施形態では不要である。少なくとも以下の他の薬剤は、シス配座300-lをトランス配座300-hに戻すことができる。(2)熱力学的緩和、トランス配座が有するエネルギーはシス配座よりも小さく、従って熱力学的緩和はアゾベンゼンをその初期トランス配座に効率よく復元させる。(3)次に詳述するように、太陽光又は周辺光自体が、アゾベンゼンを高濃度のトランス配座を含む駆動定常状態(driven steady state)に追いやるための効率的な反応促進剤として機能することができる。
【0047】
一般に、光異性化の全容は、トランス-シス及びシス-トランス反応の動的バランスと考えることができる。
【0048】
ここで、反応速度はスペクトル積分によって以下のように定めることができる。
【0049】
ここで、φt及びφcは、光誘起遷移/吸収光子として定められる吸収の量子収量であり、従って無次元である。関連する波長間隔におけるこれらの量子収量の波長依存性は最小であり、従って無視される。Is(λ)は、[mW/(cm2*nm)]などの[倍率/(面積*波長)]の単位の入射放射の分光放射照度である。π-π*遷移に関連するトランス-シス吸収は、λt1-λt2の範囲で光子を吸収することによって誘起されるのに対し、n-π*遷移に関連するシス-トランス吸収は、λc1-λc2の範囲で光子を吸収することによって誘起され、これらの2つの波長間隔は吸収帯とも呼ばれ、積分の境界を構成する。εt(λ)及びεc(λ)は、それぞれトランス状態及びシス状態における[リットル/(mol*cm)]などの[体積/(mol*長さ)]の単位のモル吸光係数(molar absorptivity)値であり、cc及びctは、[mol/リットル]の通常の単位の低吸収シス配座及び高吸収トランス配座における変調性吸収化合物300の濃度である。モル吸光係数は、吸収断面積と考えることもできる。方程式(2a)~(2b)からは、濃度ct/ccを介して逆時間定数kt/kcに関連する[(1/sec)*(reactions/cm3)]の単位の反応速度Rt/Rcが得られる。Rthermは、シス状態が熱的にトランス状態に減衰する速度である。Rthermはktherm
*ccとして推定することができ、ここでのkthermは、熱緩和の1/e時定数の逆数として定義することができる。いくつかの典型的な化合物では、通常はktherm
-1が1~20時間であり、場合によっては1~5日程の長さであるが、10~1,000秒の場合もある。周囲光さえも含む低-高変調刺激310-lthの存在下では、通常はRtherm項が積分項よりも2又は3桁小さく、この分析では無視される。さらに、トランス配座の濃度はctによって与えられ、シス配座の濃度はccによって与えられる。当然ながら、ct+cc=c0であり、変調性吸収化合物300の、この事例では時間的に変化しないアゾベンゼンの総濃度である。光の速さは単純にcによって表され、プランク定数はhによって表される。λ/hc=1/hν項は、これらの定数を使用して分光放射照度Is(λ)をそのエネルギーhνで除算し、これによって分光放射照度をパワー密度から光子数密度に変換する。
【0050】
定常的な動的平衡状態では、トランス-シス速度及びシス-トランス速度が等しく、
R
t
=R
c (3)
この関係は、この動的平衡におけるシス濃度とトランス濃度との比率を以下のように決定し、
(4)
個々のシス濃度及びトランス濃度に以下の関係をもたらす。
(5a)
(5b)
【0051】
これらの結果は、照明分光放射照度Is(λ)が変調性吸収化合物300に入射する際の状況を捉えたものであり、従って表面近くを保持するため、或いは薄い変調性吸収前面保護層120については近似である。z方向、すなわち深さ方向に延びた変調性吸収前面保護層120では、スペクトル放射照度が、前面保護層120内を伝播するにつれてz深さの増加と共に減衰する。より完全な処理は、この吸収に対する減衰の効果をz深度に依存するスペクトル放射照度Is(λ、z)の観点から捉え、z深度に沿って吸収プロセスの速度を積分する。このような突っ込んだ分析の結果は、上記の式によって十分に近似されることが多い。以下、放射照度の深度依存性の影響についてさらに分析する。
【0052】
最初に、高-低変調刺激310-htlの場合について検討する。典型的な事例では、このような刺激310-htlを、水銀ランプ又はUV LEDなどの強力なUV光源によって適用することができる。このような光源は、しばしば相当に狭い帯域を有する照明を生成する。これは、水銀ランプの標準波長である365nmを中心とするディラックのデルタ(Dirac delta)によって近似することができ、これによって積分を積に単純化し、このような光送達デバイスLDDの濃度比aについての単純な式をもたらすことができる。
(6)
【0053】
アゾベンゼンでは、φt≒0.15及びφc≒0.5であり、モル吸光度(molar absorbances)の比率は約0.1であるため、aLDD≒0.3になる。このことは、高-低変調刺激310-htlの光源としてUV光源を適用すると、トランス配座の濃度ctがシス配座の濃度ccの約1/3となる動的平衡が誘起され、従ってトランス配座では変調性吸収化合物300が約100%の初期濃度に比べて約25%しか残らないことを意味する。この約4倍のトランス配座濃度の減少は、好適に選択された厚みの前面保護層120についてその後の調整照射210の大部分を前面保護層120を通過させてLAL110内に導入するのに十分なものである。明確に述べる価値がある上記導出の1つの側面は、高-低変調刺激310-htlの適用によって全ての高吸収異性体300-hが完全に低吸収異性体300-lに切り替わるのではなく、むしろ結果として部分的変調及び転移が行われる点である。
【0054】
次に、明確な光源を適用せず、むしろ2つの配座の濃度を周囲光によって単純に制御させた場合の特に単純な事例における、逆プロセスである低-高変調刺激310-lthについて説明する。この事例では、分光放射照度Is(λ)が、直接照射の場合、すなわち患者が直接太陽を見ている場合の太陽放射のものである。濃度比に影響を与える方程式(4)は太陽放射照度の比率のみによって制御され、拡散の影響はこの比率から相殺されるため、拡散した太陽光のみが眼に到達する間接的拡散露光では濃度比aは変化しない。
【0055】
角膜は短波長のUV光を効率的に吸収するので、IOLに到達する波長300nm未満の太陽放射照度の大きさは無視することができ、検討中のアゾベンゼン及び関連する化合物の500nmを上回るモル吸収も同様に無視することができる。従って、太陽分光放射照度を含むλ=300nm~500nmの波長域にわたって方程式(4)の積分を実行すると以下のようになる。
(7)
【0056】
後述する一部のアゾ化合物などでは、方程式(7)によって約3の濃度比が得られる。他のいくつかの変調性吸収化合物300では、aが5~10の範囲内である。これらの値は、a=3ではct=75%、a=5~10ではct=84~91%のトランス配座濃度に相当する。変調性吸収化合物が75~91%の範囲の濃度でその高吸収配座300-hにある前面保護層120は、下層のLAL110に対して強固なUV保護を提供することができる。
【0057】
完全を期すために、複数の異なる実施形態の低-高変調刺激310-lthを様々なMALAL100に採用することができる。(1)ここで説明したように、患者が単純に周囲光に曝されるだけで、高吸収異性体300-hの濃度を効率的な前面保護層120として機能できるレベルまで高めることができる。厚さ10~100μ、場合によっては20~50μの前面保護層、及び10~100ミリモルの範囲、場合によっては20~30ミリモルの範囲のc0の全体的モル濃度では、この濃度上昇のための時間が1~10秒の範囲であることができる。このような切り替え時間には、
図5Bの調整ステップ又は
図5Eのロックインステップの後に、この非常に短い時間でLAL110に無制御なゾーンが形成されるリスクを伴わずに眼科医の診察室で自然に対応することができる。(2)他の実施形態では、高吸収異性体300-hに戻る切り替え遷移をさらに高速に誘起するために、低-高変調刺激310-lthのソースとして専用光源を使用することができる。例えば、潜在的に300-lから300-hへの変換速度を最大化するUVフィルタと共に、ソーラーシミュレータ、白色懐中電灯、又はより強力な照明源を採用することができる。(3)最後に、高吸収異性体300-hのエネルギーは低吸収異性体300-lのエネルギーよりも低いので、修正可能な吸収化合物も単純な熱緩和によって保護的な高吸収配座300-hに戻る。上述したように、アゾベンゼンではこのプロセスが約100倍遅くなる可能性があるが、明確な低-高変調刺激310-lthを使用しなければこれでも数分にしかならない。従って、処置後に患者を数分間にわたって単純なオフィス照明条件内に放置しただけでも前面保護層120の保護効果を回復させることができる。
【0058】
上記考察では、狭帯域のUV変調刺激310-htlでは濃度比a<<1を有すると同時に太陽放射又は明確な低-高変調刺激310-lthでは濃度比a>>1を有する変調性吸収化合物300が、(1)このような変調性吸収化合物300は、埋め込みからロックインまでの無意識による患者の不順守によって引き起こされる無制御な光学調整からMALAL100を保護することができ、(2)同時にこれらは、変調刺激310によって引き起こされる配座変化による調整照明210の適用を可能にすることができる、という2つの有益な効果をもたらすのに適していることが示される。
【0059】
ここで、z深度の増加と共に分光放射照度が減衰する問題に戻る。注目すべきは、この減衰が「自己遮蔽効果」を誘起するので、MALAL100の有用性を高めるものにすぎない点である。低-高変調刺激310-lthとして作用する周囲太陽放射の情報的実施形態では、太陽放射が前面保護層120内により深く伝播するにつれて、太陽放射Is(λ、z)のUV部分が可視部分よりも速く吸収される。この理由は、予め決定されたct>25%などの現実的な量のトランス高吸収異性体300-hの存在下では可視域の吸光係数よりもUV域の吸光係数の方が高いからである。具体的に言えば、トランス高吸収異性体300-h及びシス低吸収異性体300-lの両方を含む典型的な変調性吸収化合物300では、これがε(λ=365nm)>ε(λ=450nm)に相当する。方程式(7)を濃度比asolarについて考察すると、UV域において分光放射照度Is(λ,z)がより速く減衰するとasolarがより速く増加することが分かる。単純化した説明では、前面保護層120の深部であればあるほど、変調性吸収化合物300をトランス高吸収異性体300-hからシス低吸収異性体300-lに転移させるUVフォトンが減少する一方で、相対的に言えばより多くの可視フォトンがシス低吸収異性体300-lからトランス高吸収異性体300-hへの逆プロセスを駆動し、これによって深度が増すほどasolarが増加して前面保護層120の全体的な保護UV遮断機能をさらに高める。
【0060】
次に、分光放射照度の深度依存性のもう1つの側面について明確に示す。遠位面を通じて前面保護層120から出る分光放射照度の全体的減少は、修正可能な吸収化合物300のモル吸光係数εと、修正可能な吸収化合物300のモル濃度cと、前面保護層120の厚みDとの積によって与えられる吸光度によって制御される。光学設計用語では、吸光度は光学濃度(optical density)と呼ばれることもある。従って、異なるモル濃度で異なるモル吸光係数を有し、異なる厚みを有する異なる変調性吸収化合物300を含む前面保護層120の異なる実施形態は、これらの3つの量の積が同じである限りほぼ同じ保護をもたらす。変調性吸収化合物300、その濃度及びその厚みの最終的選択は、患者の視覚体験の過度な黄変(yellowing)を避けたいという要望などのさらなる検討事項によって推進することができる。
【0061】
先に進む前に、既にいくつかについては上述したが、上記の前面保護層120を有するMALAL100の潜在的利点を既存の設計と比べて要約することが有用である。
【0062】
(1)前面保護層120を有するMALAL100は、UV遮断用メガネの着け忘れなどの患者による偶発的不順守に起因するLAL110の無制御な光学変化のリスクを大幅に低減することができる。
【0063】
(2)さらに、MALAL100では、LAL110の体積中に分散した大幅に低い濃度のUV吸収剤116を採用することができる。このようなLAL110が必要とするロックイン照射220のための線量は相当に低い。MALAL技術のUVロックイン照射の線量のあらゆる減少は、処置の安全性をさらに高める。
【0064】
(3)より吸収性の高い前面保護層120を有するMALAL100は、患者が埋め込みから調整を経てロックインまでUV遮断用メガネを着用する必要がないほど効果的なUV遮断を提供することさえもできる。このようなMALAL100は、偶発的な患者の不順守によって生じるリスクを基本的に排除するとともに、埋め込みからロックインまでの患者の快適性を大幅に改善するため、このことは非常に有益である。
【0065】
(4)さらに吸収性の高い前面保護層120を有するMALAL100は、
図5Eのロックインステップさえも不要とすることができる。前面保護層120によるUV遮断は、調整放射210の後にその高吸収異性体300-hに復元されると、数年及び数十年などの非常に長い期間にわたってUV放射がLAL110に入射するのを完全に防ぐことができるほど非常に効率的かつ非常に強固なものとなることができる。このような高度に保護されたMALAL100では、たとえそのLAL110が
図5Bの調整ステップから使い残された顕著な濃度の重合していない光重合性モノマー及びマクロマー113を含んでいる場合でも、前面保護層120による強固で長期的なUV吸収が、重合していないモノマー及びマクロマー113が数年及び数十年にわたって太陽照射によって光重合されず、従って
図5Bの調整ステップ中に調整照射210によって形成された光学性能をMALAL100が確実に維持して提供することを確実にする。このような「無ロックイン(no lock-in)」MALALは、患者に対して必要とされる訪問回数を1回の調整手順に低減することができる。
【0066】
(5)さらに注目すべき点として、一部の患者では埋め込まれたMALAL100が移動又は傾転しない場合もある。このような患者は、埋め込み後に自身の視力が高品質を保ったまま顕著な悪化がなかったと報告することがある。このような患者については、医師が、MALAL100の調整のために一度の追訪も必要がないと結論付けることもある。場合によっては調整及び/又はロックイン処置のために飛行機まで利用して長い距離を旅する必要がある全ての患者にとって、あらゆる種類の追訪が不要となる可能性は、これらの患者の全体的体験又は「旅」のさらなる質的改善を意味することができる。
【0067】
(6)最後に、ごく一部の場合ではあるが、白内障手術後に、他の様々な眼科的悪化、怪我又はいずれかの種類のショックによって眼に予期せぬ変化が起きることがある。このような場合、無ロックインMALAL100は、埋め込みから何年後であっても予期せぬ展開に対応して調整することができるので、このようなMALAL100が調整可能なままであり続けているという事実は非常に有益となり得る。
【0068】
変調性吸収化合物300の実施形態は、アゾベンゼン以外にも多くのものが存在する。変調性吸収化合物300は、アゾ芳香族化合物、ジアゼン、アゾピラゾール、ジエニルエテン、フルギド、アズレン、スピロピラン、エテン芳香族化合物、これらの化合物のうちの1つのマクロマー、これらの化合物のポリマー、これらの化合物のうちの1つを含む組成物、これらの化合物のうちの1つを側鎖として含む組成物、これらの化合物のうちの1つを側鎖を有する主鎖として含む組成物、これらの化合物のうちの1つに結合したナノ粒子、及びこれらの化合物のうちの1つをイオン性流体に溶解させたものとすることができる。変調性吸収化合物300は、上記の化合物のうちのいずれかをポリマーホストマトリクス112自体に組み込んだポリマーとすることもでき、従って側鎖として組み込まれる必要はない。いくつかのこのような化合物は、光に反応して屈曲するポリマーを含むこともできる。変調性吸収化合物300の実施形態の広範なリストを概観することによって説明を継続する。
【0069】
上述したように、アゾ芳香族化合物は、例えば以下の配座変化[1]を示すアゾベンゼンとすることができる。
[1]
【0070】
変調性吸収化合物300の他の実施形態では、アゾ芳香族化合物を4-メトキシアゾベンゼン[2]とすることができる。
[2]
【0071】
変調性吸収化合物300は、[3]~[6]に示すようなインダゾール、様々なスペーサーリンク(spacer links)を有するアリル化アゾベンゼン、又はフェニルアゾピラゾールの別バージョンとすることもできる。
[3]
[4]
[5]
[6]
【0072】
図9に、さらに他の実施形態では、アゾピラゾールを、図示の吸光係数を有するビニルフェニルアゾピラゾール(「VPAP」)[7]とすることができることを示す。
[7]
【0073】
最後に、いくつかの実施形態では、エテン-芳香族化合物をスチルベン[8]とすることができる。
[8]
【0074】
図10A~
図10Bに、変調性吸収化合物300の実施形態のさらなる態様を示す。これらの図には、
図10Aでは4-アミノアゾベンゼンの場合の、
図10Bでは4-(4’ヒドロキシフェニルアゾ安息香酸)の場合の、高-低変調刺激310-htlのパワー密度に対する吸光係数曲線の依存性を示す。見て分かるように、4-アミノアゾベンゼンは、60秒にわたって適用される10mW/cm
2などの低いパワー密度すなわち放射照度に応答して既にその高吸収異性体300-hからその低吸収異性体300-lに遷移しているのに対し、4-(4’ヒドロキシフェニルアゾベンゾ酸)は、高-低変調刺激310-htlによって同じ60秒にわたって適用される100mW/cm
2前後のかなり高いパワー密度にのみ反応して遷移している。MALAL100の特定の実施形態において使用される特定の変調性吸収化合物300の選択は、
図10A~
図10Bに示すような特性、並びに上述した方程式(1)~(7)に見られる量子収量φ
t及びφ
cなどの量に基づくものとする。例えば、いくつかのMALAL100は、(太陽スペクトルの250~500nmの範囲部分にわたって積分した)約3mW/cm
2の太陽パワー密度よりもはるかに高いパワー密度のみが高吸収異性体300-hから低吸収異性体300-lへの変換を誘発すべきであるように設計することができる。いくつかの事例では、これらのパワー密度又は放射照度を、300~450nmなどのより狭い波長範囲にわたってスペクトルを積分することによって定めることができる。
【0075】
図11及び
図12A~
図12Bに、MALAL100の別の特性、すなわちビニルフェニルアゾピラゾール(VPAP)が変調性吸収化合物300である場合に高吸収トランス異性体300-hが低吸収シス異性体300-lに遷移又は変化する際の吸光係数の時間発展を示す。
図11では、高-低変調刺激310-htlの継続時間を0秒から60秒まで掃引した表示時間で吸収曲線を取り込んでいる。上記と同様に、異なるMALAL設計原理では、別の時間依存性よりも1つのタイプの時間依存性を有する変調性吸収化合物300が好ましいものになり得る。
【0076】
図12Aでは、450nm付近の吸光係数の時間依存性を拡大して、0~30秒の継続時間にわたって高-低変調刺激310-htlが適用された場合の吸光係数曲線を示している。(なお、
図12に示す量は、MALAL100全体にわたる吸収を特徴付ける吸光度である。この吸光度は、典型的には溶液中で測定される
図9~
図10に示すモル吸光係数に追従する。この吸光度は、約400nmの波長未満の大きな吸光度をさらにもたらす、LAL110中に分散したUV吸収剤116からの寄与も有する。)UV放射露光は、150mJ/cm
2に固定した。
図12Bは、特定の波長448nmにおける吸光係数又は関連する吸光度の時間依存性を変調刺激310の継続時間の関数としてプロットしたものである。これらの曲線は、高-低変調刺激310-htlが、150mJ/cm
2のUV放射露光を適用された場合に、変調性吸収化合物VPAP300の大部分を約20秒の時間をかけてその低吸光係数異性体300-lに変換できることを立証する。20秒は、この吸収変調MALAL技術が効率的な光処理という期待に適合することを実証できるほど十分に短い時間である。
【0077】
MALAL100の他の多くの実施形態では、高-低変調刺激310-htlが、300~400nmの範囲の波長を中心とする帯域を有する光での高-低照明を含むことができ、低-高変調刺激310-lthが、太陽スペクトルを含む300~700nmの範囲の波長を中心とする帯域を有する光での低-高照明を含むことができる。換言すれば、照明及びその波長について言及する場合、照明のソースは多くの場合コヒーレントレーザーではなく、従って照明は有限帯域幅すなわちスペクトル拡散を有するので、この波長は、言及した波長に中心ピークがある帯域を有する照明を意味し、帯域もこの中心波長周辺の帯域幅を有する。高-低変調刺激310-htlでは、このソースを、帯域の幅を1~50nmの範囲とすることができる、他の実施形態では1~10nmの範囲とすることができる、水銀ランプ又はUV LEDなどの狭帯域ソースとすることができる。低-高変調刺激310-lthでは、このソースが、約300nm~2,500nm超に及ぶ通常の太陽スペクトルさえも含む極めて広い帯域を有することができる。
【0078】
上述したように、いくつかの変調性吸収化合物300では、低吸収発色団300-lから高吸収発色団300-hへの遷移を誘起することによって低-高変調刺激310-lthの役割を果たすために、自然に発生する熱緩和で既に十分であることができる。低吸収発色団300-lを熱緩和で高吸収発色団300-hに遷移させるMALAL100では、帯域中心のピーク及び帯域幅を有する光源に関する説明は自然な特性化ではない。
【0079】
MALAL100のいくつかの実施形態では、「低吸収」及び「高吸収」という用語を定量的に明示することができる。いくつかのMALAL100では、300~400nmの範囲の波長における低吸収配座300-lの吸光係数に対する高吸収配座300-hの吸光係数の比率が2よりも大きくなり得る。一例として、
図10Aに示すように、4-アミノアゾベンゼン系変調性吸収化合物300では、350nmの基準波長を選択した場合に吸光係数の比率が約5である。この吸光係数の比率はコントラスト比とも呼ぶことができる。いくつかの目的で、360~370nmの範囲の波長などの他の波長値を選択することもできる。これらの実施形態のいくつかでは、上述した吸光係数比が3よりも大きく、場合によっては4よりも大きいことがある。
【0080】
MALAL100の多くの実施形態では、変調性吸収化合物300の高吸収配座300-hが低吸収配座300-lよりも低いエネルギーを有する。従って、平衡状態及び周囲条件では、固相、希薄溶液及びホストマトリクス結合状態のうちの少なくとも1つにおいて低吸収異性体300-lの濃度に対する高吸収異性体300-hの濃度の比率が2よりも大きい。低光条件では、これらの高吸収異性体300-h及び低吸収異性体300-lのエネルギーが、周囲条件におけるこれらの異性体の密度比を統計力学の指数関数的活性化因子に従って制御する。
【0081】
いくつかのMALAL100では、変調性吸収化合物300が、300nm~400nmの波長範囲にわたって積分した1mJ/cm2~1,000mJ/cm2の範囲の放射露光での高-低照射310-htl下で、高吸収配座300-hの少なくとも25%又は50%が低吸収配座300-lに遷移するような化学組成を有することができる。
【0082】
ここでは、照明の放射照度はmW/cm2単位で測定されるのに対し、放射露光はmJ/cm2単位で測定されることが想起される。大まかに言えば、放射露光は、放射露光=放射照度*時間として放射照度に関連することができる。しかしながら、MALAL100のいくつかの実施形態では、この関係が単純な積よりも複雑となり得る。放射照度は2倍であるが時間は半分である変調刺激310についてのMALAL100の吸収変調の量は、これらの2つの因子の積は同じであるにもかかわらず異なる場合がある。このような非線形関係は、相反性違反(violation of reciprocity)と呼ばれることがある。この違反は、例えば方程式(2b)の熱緩和率Rthermalが速くて他の熱緩和率に相当する場合に発生する。
【0083】
逆変換についても同様の特性化を適用することができる。いくつかのMALAL100の実施形態では、変調性吸収化合物300が、300nm~700nmの波長範囲にわたる1mJ/cm2~1,000mJ/cm2の範囲の放射露光での低-高変調刺激310-lth下で低吸収配座300-lの少なくとも50%が高吸収配座300-hに遷移するような化学組成を有することができる。多くの実施形態では、高-低変調刺激310-htlのソース及び調整照射210のソースを、例えばUVソースなどの同じ共有ソースであるように選択することができる。典型例は、365nm付近にスペクトルピークを有する水銀アークランプ又はUV LEDとすることができる。対照的に、ほとんどの実施形態では、通常、低-高変調刺激310-lthのソースの方がはるかに広いスペクトルを有する長い波長で動作し、従って共有ソースとは異なる。上述したように、MALAL100の関連するクラスでは、大部分が400~700nmの可視範囲に集中できるスペクトルで放射を行う医師の診察室の周囲光自体が低-高変調刺激310-lthの効果的なソースとなり得る。
【0084】
変調刺激310の効果を特性化する別の方法は、トランス-シス遷移及びシス-トランス遷移の量子収量φt及びφcに関する。このような場合、変調性吸収化合物300は、高吸収配座310-hから低吸収配座310-lへの遷移の量子収量φtが1%よりも大きくなるような化学組成を有することができる。いくつかのMALAL100では、この量子収量φtを5%よりも高くすることができ、いくつかのMALAL100では10%よりも高くすることができる。量子収量が高ければ高いほど、高吸収配座310-hを低吸収配座310-lに転移させるための放射露光は少なくて済む。ここでは、量子収量が、量子収量=誘導変換(induced transformations)数/吸収光子数という慣用的な形で定義される。
【0085】
量子収量の概念を使用して、変調性吸収化合物300を以下のようにさらに特性化することができる。変調性吸収化合物300は、高-低変調刺激310-htlに応答して高吸収異性体300-hから低吸収異性体300-lに遷移する量子収量φtが1~20%の範囲であり、低-高変調刺激310-lthに応答して低吸収異性体300-lから高吸収異性体300-hに逆遷移する量子収量φcが10~70%の範囲である化学組成を有することができる。他の実施形態では、これらの2つの量子収量が、それぞれφt=5~10%及びφc=40~60%の範囲であることができる。
【0086】
図13には、
図5Dで終了した調整手順の数日後に、MALAL100の増加した屈折力を
図5Eに示すようなロックイン照射220によってロックインする必要があることを示す。しかしながら、未重合光重合性マクロマー113は、調整手順の終了からロックイン手順までの間の時間内に偶発的なUV照射から保護する必要がある。この保護を行うために、前面保護層120の変調性吸収化合物300は、
図5Bの調整照射210の終了時に再び高吸収異性体300-hに切り替わることができ、
図5Eのロックイン照射220の開始時にのみ、再び高吸収配座300-hから低吸収配座300-lに転移する。明らかに、変調性吸収化合物300は、高-低変調刺激310-htl及び低-高変調刺激310-lthを吸収した時に繰り返し転移可能又は切り替え可能である必要がある。
図13には、変調性吸収化合物300がビニルフェニルアゾピラゾールである場合の、変調性吸収化合物300の往復変調の繰り返し後の吸光度を示す。この図は、450nm付近のシス-トランス吸収ピークを拡大したものである。
図13には、6回の往復切り替え後でも基本的に吸収スペクトルが変化せず、従って変調性吸収化合物300の少なくともいくつかの実施形態が高吸収配座と低吸収配座との間の反復変調に適していることを示す。いくつかの変調性吸収化合物300は、最小限の又は測定不能なほどのわずかな劣化で1,000~1,000,000回繰り返し切り替え可能であることが実証された。
【0087】
いくつかの実施形態では、変調性吸収化合物300が、1又は2以上の重合可能部分に連結された光異性化可能部分を含む。いくつかの実施形態では、変調性吸収化合物300が以下の式[9]によって表され、
[9]
ここで、Yは(例えば、上述したような)光異性化可能部分であり、n1及びn2はそれぞれ独立して0、1、2又は3であり、各Z
1及びZ
2は、独立して任意のリンカーを介してYに連結された重合可能部分又は架橋部分である。
【0088】
いくつかの実施形態では、式[9]において、n1及びn2がそれぞれ1であり、Z1及びZ2がそれぞれ独立して長さ1~20の原子(例えば、長さ1~6の原子)のリンカーを介してYに連結される。いくつかの実施形態では、n1が2又は3であり、各Z1が分岐リンカー(例えば、アミノ又はアンモニウム含有リンカー)を介してYに付着する。いくつかの実施形態では、n1及び/又はn2が2又は3である場合、各Z1及び/又はZ2は、分岐していない線形的リンカーを介して独立してYに連結される。いくつかの実施形態では、Yがアゾアリーレン、ジアリールエテン又はジチエニルエテンである。いくつかの実施形態では、各Z1及びZ2が、ビニル、ビニリデン、ジエン、オレフィン、アリル、アクリレート、アクリルアミド及びアクリル酸から独立して選択される。
【0089】
いくつかの実施形態では、式[9]において、変調性吸収化合物300が、構造Ar
1-N=N-Ar
2又はAr
1-C=C-Ar
2を有し、ここでのAr
1及びAr
2は、置換又は非置換であって1又は2以上のヘテロ原子を含むことができる芳香族6員環から独立して選択される。いくつかの実施形態では、変調性吸収化合物300が、(例えば、Ar
1及びAr
2がフェニルである)アゾベンゼン部分を含む。いくつかの実施形態では、変調性吸収化合物300が、例えば以下に示すAr
1-N=N-Ar
2化合物について例示するように、トランス異性体からシス異性体に光異性化することができる。いくつかの実施形態では、変調性吸収化合物300のシス異性体が自発的にトランス異性体に逆異性化する。
【0090】
いくつかの実施形態では、アゾベンゼン部分が、(本明細書で使用及び説明する光開始剤のうちのいずれかなどの)光開始剤の付近に吸収極大を有する光異性化可能発色団である。いくつかの実施形態では、アゾベンゼン部分が、光開始剤の吸収極大から約50nm以下(例えば、約40nm以下、約30nm以下、約20nm以下、又は約10nm以下)の吸収極大を有する。
【0091】
いくつかの実施形態では、熱力学的により安定したトランスアゾベンゼン(t-AB)部分が、対応するシスアゾベンゼン(c-AB)異性体よりも低い波長で吸収する傾向にある。照射時には、光異性化が容易かつ定量的になることができる。いくつかの実施形態では、c-AB部分からt-AB異性体への熱緩和が周囲温度で数時間以内(例えば、6時間、5時間、4時間、3時間、2時間又は1時間以内などの12時間以内)に発生する。t-AB部分をその吸収極大付近で照射すると、シス異性体への異性化が生じて吸収スペクトルが変化する(例えば、吸収極大がシフトする)。
【0092】
いくつかの実施形態では、変調性吸収化合物300が、重合可能部分、すなわち好適な刺激(例えば、光開始剤の活性化)の適用時にプレポリマー組成物中で重合可能な官能基をさらに含む。重合可能部分は、アルケニル、ビニル、ビニリデン、ジエン、オレフィン、アリル、アクリレート又は(メタ)アクリル官能基などの官能基を含むことができる。いくつかの実施形態では、重合可能部分がアリル基又はビニル基である。
【0093】
いくつかの実施形態では、変調性吸収化合物300が重合可能部分を含む場合、変調性吸収化合物300を関心組成物の別の成分に化学的に組み込むことができる。例えば、変調性吸収化合物300は、マトリクス材として存在するポリマーの骨格(backbone of a polymer)に組み込むことができる(下記参照)。また、例えば、変調性吸収化合物300は、プレポリマーの骨格に又は側基(sidegroup)として組み込むこともできる(下記参照)。このようにして、低分子変調性吸収化合物300sを関心組成物のポリマー成分に化学的に組み込むことができる。いくつかの実施形態及びいくつかの用途では、このようにして変調性吸収化合物300sを組み込むことにより、マスキング成分が関心組成物から拡散する可能性が低下する。
【0094】
いくつかの実施形態では、変調性吸収化合物300が以下の式[10]の構造によって表され、
[10]
ここで、
n
3及びn
4はそれぞれ独立して0、1、2又は3であり、
(Z
3)
n3-L
3-及び-L
4-(Z
4)
n4は、独立して存在せず又は存在することができ、
各Z
3及びZ
4は、独立して重合可能部分又は架橋性部分であり、
L
3及びL
4はリンカーであり、
n
5及びn
6は、それぞれ独立して0、1、2、3、4又は5であるが、(Z
3)
n3-L
3-が存在する場合にはn
5は5ではなく、-L
4-(Z
4)
n4が存在する場合にはn
6は5ではなく、
各Rは、水素、ヒドロカルビル(例えば、アルキル、アルケニル、アリルなど)、複素環、ハロゲン、ハロアルキル又はパーハロアルキル(例えば、トリフルオロメチル)、アミノ、ヒドロキシル、エーテル、ニトロ、シアノ、カルボキシ、アシル、アミド、エステル、チオール、チオエーテル、スルホニル及びスルホンアミドから成る群から独立して選択される。
【0095】
いくつかの実施形態では、式[10]において、各Z3及びZ4が、ビニル、ビニリデン、ジエン、オレフィン、アリル、アクリレート、アクリルアミド及びアクリル酸から独立して選択される。
【0096】
いくつかの実施形態では、式[10]において、L3及びL4がそれぞれ独立して長さ1~6の原子などの長さ1~20の原子のリンカーである。いくつかの実施形態では、リンカーL3及び/又はL4が存在する場合、これらは重合可能部分又は架橋性部分に連結するアミノ基を含むことができる。いくつかの実施形態では、2つ又は3つの重合可能部分及び/又は架橋性部分をアゾベンゼンに連結するための分岐アミノ基(例えば、三価アミノ基又は四価アンモニウム基)を含むリンカーが存在する。いくつかの実施形態では、L3及び/又はL4が分岐アミノ(-N=)基である。いくつかの実施形態では、L3及び/又はL4が分岐アンモニウム(-N(+)=)基である。いくつかの実施形態では、L3が分岐アミノ基又はアンモニウム基を含み、n3が2又は3であり、Z3がアリル又はビニルである。
【0097】
いくつかの実施形態では、式[10]においてL3及びL4が存在する場合、これらはいずれかの便利な位置でアゾベンゼン環に付着することができる。例えば、L3は、アゾ置換基に対して2、3又は4の位置で第1のフェニル環に付着することができる。例えば、L4は、アゾ置換基に対して2’、3’又は4’位置で第2のフェニル環に付着することができる。L3及び/又はL4は、それぞれ第1及び第2のフェニル環の周囲に配置される全ての組み合わせが想定される。例えば、L3及びL4は、それぞれ2及び2’の位置に付着することができる。例えば、L3及びL4は、それぞれ3及び3’の位置に付着することができる。例えば、L3及びL4は、それぞれ4及び4’の位置(すなわち、パラ)に付着することができる。或いは、L3は第1のフェニル環の4の位置に付着することができ、L4は第2のフェニル環の2’の位置に付着することができる。後述する化合物にL3及びL4の例示的な配置を示す。
【0098】
いくつかの実施形態では、変調性吸収化合物300が以下の式[11]の構造によって表され、
[11]
ここで、L
3及びL
4はリンカーであり、
n
5及びn
6はそれぞれ独立して0、1、2、3又は4であり、
各Rは、水素、ヒドロカルビル(例えば、アルキル、アルケニル、アリルなど)、複素環、ハロゲン、ハロアルキル又はパーハロアルキル(例えば、トリフルオロメチル)、アミノ、ヒドロキシル、エーテル、ニトロ、シアノ、カルボキシ、アシル、アミド、エステル、チオール、チオエーテル、スルホニル及びスルホンアミドから成る群から独立して選択される。
【0099】
いくつかの実施形態では、変調性吸収化合物300が、本明細書で説明したように末端アリル基の一方又は両方をいずれかの便利な重合可能部分又は架橋性部分に独立して置換できる点を除き、[11]によって表す通りである。
【0100】
いくつかの実施形態では、式[11]において、L3及びL4の一方又は両方が、カルボニル、エステル、アミド、スルホニル又はスルホンアミドなどの電子求引性置換基(electron withdrawing substituent)を介してアゾベンゼンに連結される。いくつかの実施形態では、L3及びL4が独立して-(CH2)m1-Z4-(CH2)m2-であり、m1及びm2がそれぞれ独立して0又は1~6の整数であり、Z4が、カルボニル(-C(=O)-)、エステル(-C(=O)O-)、アミド(例えば、-C(=O)NH-)、カルバメート(例えば、-OC(=O)NH-)、スルホニル(-SO2-)、スルホンアミド(例えば、-SO2NH-)、エーテル(-O-)、チオエーテル(-S-)又は尿素基(例えば、-NHC(=NH)NH-)から選択される。いくつかの実施形態では、m1が2であり、m2が0である。いくつかの実施形態では、Z4が-O-である。
【0101】
いくつかの実施形態では、変調性吸収化合物300が以下の式[12]~[14]のうちの1つによって表され、
[12]
[13]
[14]
ここで、L
3、L
4、(R)
n5及び(R)
n6は、上記で式[11]について定義したものである。いくつかの実施形態では、L
3及びL
4が独立して-O-及び-O(CH
2)
m-から選択され、ここでmは1~6の整数である(例えば、mは2である)。ある実施形態では、各Rが水素である。
【0102】
いくつかの実施形態では、変調性吸収化合物300が以下の式[15]又は[16]の構造によって表され、
[15]
[16]
ここで、R
1~R
8は、水素、ヒドロカルビル(例えば、アルキル、アルケニル、アリルなど)、複素環、ハロゲン、ハロアルキル又はパーハロアルキル(例えば、トリフルオロメチル)、アミノ、ヒドロキシル、エーテル、ニトロ、シアノ、カルボキシ、アシル、アミド、エステル、チオール、チオエーテル、スルホニル及びスルホンアミドから成る群からそれぞれ独立して選択される。
【0103】
いくつかの実施形態では、式[15]又は[16]において、R1~R8のうちの1つ又は2つ以上が-L5-O-CH2CH=CH2であり、ここでL5は任意のリンカー基である。いくつかの実施形態では、式[15]又は[16]において、各L5がC1~C6アルキル鎖(例えば、C2アルキル)である。いくつかの実施形態では、式[15]又は[16]において、各L5が存在しない。いくつかの実施形態では、式[15]又は[16]において、R1~R8がそれぞれ水素である。
【0104】
いくつかの実施形態では、変調性吸収化合物300が以下の式[17]の構造によって表され、
[17]
ここで、Aは複素環であり、
n
7は0又は1~5の整数であり、
各Rは、水素、1、2又は3をmとする-L
5-(Z
5)
m、ヒドロカルビル(例えば、アルキル、アルケニル、アリルなど)、複素環、ハロゲン、ハロアルキル又はパーハロアルキル(例えば、トリフルオロメチル)、アミノ、ヒドロキシル、エーテル、ニトロ、シアノ、カルボキシ、アシル、アミド、エステル、チオール、チオエーテル、スルホニル及びスルホンアミドから成る群から独立して選択され、
R
11~R
15は、水素、ヒドロカルビル(例えば、アルキル、アルケニル、アリルなど)、複素環、ハロゲン、ハロアルキル又はパーハロアルキル(例えば、トリフルオロメチル)、アミノ、ヒドロキシル、エーテル、ニトロ、シアノ、カルボキシ、アシル、アミド、エステル、チオール、チオエーテル、スルホニル、スルホンアミドアヒドロカルビル(例えば。アルキル、アルケニル、アリルなど)、複素環、ハロゲン、ハロアルキル又はパーハロアルキル(例えば、トリフルオロメチル)、アミノ、ヒドロキシル、エーテル、ニトロ、シアノ、カルボキシ、アシル、アミド、エステル、チオール、チオエーテル、スルホニル及びスルホンアミド、並びに-L
5-Z
5から成る群からそれぞれ独立して選択され、
L
5はリンカーであり、各Z
5は独立して重合性基又は架橋性基である。
【0105】
いくつかの実施形態では、式[17]において、Aが、以下に限定するわけではないが、モルホリノ、チオモルホリノピペリジノ、ピペラジノ、ホモピペラジン、アゼパノ、又はピロリジノなどのN-結合型複素環である。いくつかの実施形態では、式[17]において、AがN-結合型複素環(例えば、Nmorpholino又はN-piperidinyl)である。
【0106】
いくつかの実施形態では、変調性吸収化合物300が以下の式[18]の構造によって表され、
[18]
ここで、YはO又はN-R
21であり、R
21は水素、アルキル、アリル、アシル、ヘテロシクル又は-L
3-Z
3であり、
R
16~R
20は、水素、ヒドロカルビル(例えば、アルキル、アルケニル、アリルなど)、複素環、ハロゲン、ハロアルキル又はパーハロアルキル(例えば。トリフルオロメチル)、アミノ、ヒドロキシル、エーテル、ニトロ、シアノ、カルボキシ、アシル、アミド、エステル、チオール、チオエーテル、スルホニル及びスルホンアミド、並びに-L
5-Z
5から成る群からそれぞれ独立して選択され、
L
5はリンカーであり、Z
5は重合性基又は架橋性基である。
【0107】
いくつかの実施形態では、式[18]において、各L5が独立してC1~C6アルキル鎖(例えば、C2アルキル)である。
【0108】
いくつかの実施形態では、式[18]において、R16~R20及びR21のうちの少なくとも1つ(例えば、2つ)が重合可能部分(例えば、アリル基)又は架橋性部分を含む。いくつかの実施形態では、式[18]において、R16~R20及びR21のうちの少なくとも1つがアリル基又はビニル基を含む。いくつかの実施形態では、式[18]において、R18が-(CH2)m1-L6-(CH2)m2-Z6であり、m1及びm2がそれぞれ独立して0又は1~6の整数であり、L6が、カルボニル(-C(=O)-)、エステル(-C(=O)O-)、アミド(例えば、-C(=O)NH-)、カルバメート(例えば、-OC(=O)NH-)、スルホニル(-SO2-)、スルホンアミド(例えば、-SO2NH-)、エーテル(-O-)、チオエーテル(-S-)又は尿素基(例えば、-NHC(=NH)NH-)から選択される。いくつかの実施形態では、m1が2であり、m2が0である。いくつかの実施形態では、L6が-O-である。
【0109】
いくつかの実施形態では、R16~R20及びR21のうちの少なくとも1つ(例えば、R18、R19又はR20)が-L7-O-CH2CH=CH2であり、L7が任意のリンカー基であり、場合によってはC1~C6アルキル鎖(例えば、C2アルキル)である。
【0110】
いくつかの実施形態では、式[18]において、YがOである。いくつかの実施形態では、式[18]において、R16~R20のうちの1つ又は2つ以上がニトロである。いくつかの実施形態では、式[18]において、R18がニトロであり、R16、R17、R19及びR20が水素である。
【0111】
いくつかの実施形態では、変調性吸収化合物300が以下の式[19]~[25]のうちの1つから選択される。
[19]
[20]
[21]
[22]
[23]
[24]
[25]
【0112】
治癒中に周囲太陽光によって誘起される望ましくない光開始重合又は架橋を回避するために、変調性吸収化合物300は、入射光のUV成分を吸収することによってこのような光開始を阻止するように前面保護層120に含まれる。光開始剤115及び変調性吸収化合物300は、光開始剤115の活性化を防ぐのに十分な周囲UVを吸収できるように、重なり合う吸収スペクトルを有するように選択することができる。高-低変調刺激310-htlを適用すると、高吸光係数異性体300-hの変調性吸収化合物の光異性化によって変調性吸収化合物300の吸収極大が光開始剤115の吸収極大から離れてシフトし、これによって光開始剤115の活性化に適した波長では光異性化した変調性吸収化合物300と光開始剤115との吸収スペクトルの重なりが大幅に減少するようになる。
【0113】
いくつかの実施形態では、変調性吸収化合物300の光異性化が、シス-トランス異性化、環化反応又は開環反応を介して発生する。便利な光異性化可能化合物としては、光開始剤115による吸収を阻止できるとともに、好適な修正刺激310の適用時に吸収極大が大幅にシフトする化合物が挙げられる。いくつかの実施形態では、変調性吸収化合物300が、修正刺激310の吸収時に環化又は開環光異性化を受ける。
【0114】
いくつかの実施形態では、変調性吸収化合物300が、スチルベン(例えば、アザスチルベン)、アゾベンゼン部分、アゾアリーレン、フルギド、スピロピラン、ナフトピラン、キノン、スピロオキサジン、ニトロン、トリアリールメタン(例えば、トリフェニルメタン)、チオインジゴ、ジアリールエテン、ジチエニルエテン又は過密なアルケン(overcrowded alkene)である光異性化可能部分を含む。いくつかの実施形態では、変調性吸収化合物300が、シス-トランス遷移を介して光異性化を受けるアルケニル(C=C)又はアゾ部分(-N=N-)部分を含む。いくつかの実施形態では、変調性吸収化合物300が、電子環状環化反応(electrocyclic cyclization reaction)を介して光異性化を受けるジアリールエテンを含む。いくつかの実施形態では、変調性吸収化合物300が、開環遷移(ring opening transition)を介して光異性化を受けるスピロピランを含む。
【0115】
いくつかの実施形態では、光異性化可能部分が、アゾアリーレン、ジアリールエテン及びジチエニルエテンから選択される。
【0116】
いくつかの実施形態では、変調性吸収化合物300の光異性化によって熱的に不安定な第2の異性体が生じ、例えば第2の異性体は、光源が除去されると第1の異性体に戻る。このような事例では、光異性化が可逆的である。
【0117】
いくつかのMALAL100では、変調性吸収前面保護層120が、3mW/cm2を超えない照射量で300nm~400nmの波長範囲にわたって積分した最大10,000mJ/cm2の放射露光に曝された時に光調節性レンズの光学特性の調整を防ぐのに十分な化学組成、吸光係数及び厚みを有するさらなる非変調可能紫外線吸収化合物(non-modulable ultraviolet-absorbing compound)をさらに含むことができる。いくつかの実施形態では、放射露光を最大50,000mJ/cm2とすることができる。
【0118】
図14A~
図14Cに、ここで説明したMALAL100の実施形態のもう1つのさらに魅力的な態様を示す。変調性吸収前面保護層120の存在により、過剰な量のUV照射に曝されるという非常に稀な場合でも、入射UV照射のごく一部しか前面保護層120を通過することができない。従って、たとえこのような稀な場合にゾーン20が形成されたとしても、そのサイズは、例えば
図2A~Bに示すようなこのような前面保護層120を有していないLALにおいて形成されるゾーンよりもかなり小さい。
図14Aには、MALAL100の断面内に形成された非常に小さなゾーン20を示しており、
図14B~
図14Cには、標準的な干渉計に現れる急速に変化する干渉パターン40を介して検出された小さなゾーン20の形成を示す。
【0119】
偶発的ゾーン20のサイズが非常に小さい場合には、
図5Bの調整ステップの前にさらなる測定を行って、偶発的ゾーン20と修正された調整照射210との複合効果が共にLAL110の光学特性の予定された調整を誘起するように調整照射210の空間プロファイルを修正することができる。他の実施形態では、調整照射210を、小ゾーン20の光学的効果を単純におおよそ補償する空間プロファイルで適用することができる。
図5Bの調整ステップの後であって
図5Eのロックインステップの前に偶発的ゾーン20が形成された場合にも同じ処理を実行することができ、この場合、ロックイン照射220のプロファイルは、偶発的ゾーン20の存在を補償するよう調整すべきである。
【0120】
さらに別の方法で前面保護層120の保護能力を捉えることもでき、MALAL100のいくつかの実施形態では、前面保護層120の吸収変調時間Tamを光調節型レンズ110のゾーン形成時間Tzfよりも短くすることができる:Tam<Tzf。いくつかの代表的な事例では、吸収変調時間(変調性吸収化合物300が低吸光係数異性体300-lから高吸光係数異性体300-hに遷移する時間)を0.1秒~10秒の範囲とすることができ、他のいくつか事例では0.1秒~1秒の範囲とすることができる一方で、LAL110のゾーン形成時間は5秒~100秒の範囲とすることができ、他のいくつかの事例では10秒~50秒の範囲とすることができる。このような前面保護層120は、変調性吸収化合物300が気付かずに高吸収異性体300-hから低吸収異性体300-lに遷移するという非常に稀な場合でもゾーン形成を効率的に防ぐことができ、前面保護層120はゾーン形成前に自己回復することができる。
【0121】
最後に、
図15A~
図15Bに、変調吸収光調節型レンズMALAL100の光学特性を調整する方法400を示しており、この方法は以下のステップを含む。
【0122】
- 予め眼に埋め込まれたMALAL100の変調性吸収前面保護層120の変調性吸収化合物300の吸収を変調刺激310によって低減するステップ(410)。
【0123】
- 調整照射210を適用することによってMALAL100の光調節型レンズの光学特性を変化させるステップ(420)。
【0124】
方法400のいくつかの実施形態では、吸収を低減するステップ(410)が、変調性吸収化合物300を高吸収配座300-hから低吸収配座300-lに転移させるための変調刺激として高-低変調刺激310-htlを適用するステップ(415)を含む。
【0125】
光学特性の変化(420)後には、変調刺激310として低-高変調刺激310-lthを適用することによって、変調性吸収化合物300を低吸収配座300-lから高吸収配座300-hに転移させる(425)。いくつかの事例では、高-低変調刺激310-htlが、300~400nmの範囲の波長を中心とする狭帯域を有する光での高-低照明を含み、低-高変調刺激310-lthが、300~700nmの範囲の波長を中心とする広帯域を有する光での低-高照明、環境照明及び熱緩和のうちの1つを含む。
【0126】
本文書は多くの仕様、詳細及び数値範囲を含んでいるが、これらの仕様、詳細及び数値範囲は、本発明の範囲を限定するものとして解釈すべきではなく、むしろ本発明の特定の実施形態に固有の特徴を説明するものとして解釈すべきである。本文書において個別の実施形態の文脈で説明したいくつかの特徴は、単一の実施形態において組み合わせて実装することもできる。これとは逆に、単一の実施形態の文脈で説明した様々な特徴は、複数の実施形態において個別に、又はいずれかの好適な部分的組み合わせの形で実装することもできる。さらに、上記ではいくつかの組み合わせで機能するように特徴を説明し、最初はこのように特許請求していることもあるが、場合によっては、特許請求する組み合わせから生じる1又は2以上の特徴をこれらの組み合わせから削除することもでき、特許請求する組み合わせを別の部分的組み合わせ又は部分的組み合わせの変形例に向けることもできる。
【符号の説明】
【0127】
100 変調性吸収光調節型レンズ
110 LAL
111 光修正可能材料
120 変調性吸収前面保護層
122 前面領域
130 ハプティック
300 変調性吸収化合物
【国際調査報告】