(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-22
(54)【発明の名称】栄養組成物及び医薬組成物のタンパク質カプセル化
(51)【国際特許分類】
A61K 9/50 20060101AFI20221215BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20221215BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20221215BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20221215BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20221215BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20221215BHJP
A61K 31/232 20060101ALI20221215BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221215BHJP
A61K 35/60 20060101ALI20221215BHJP
A61K 31/375 20060101ALI20221215BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20221215BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20221215BHJP
【FI】
A61K9/50
A61K47/42
A61K47/44
A61K47/26
A61K9/107
A61K9/14
A61K31/232
A61P43/00 105
A61K35/60
A61K31/375
A61P3/02 107
A23L5/00 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022523007
(86)(22)【出願日】2020-10-16
(85)【翻訳文提出日】2022-05-23
(86)【国際出願番号】 AU2020051120
(87)【国際公開番号】W WO2021072505
(87)【国際公開日】2021-04-22
(32)【優先日】2019-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518365581
【氏名又は名称】クローバー・コーポレイション・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Clover Corporation Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】グレン・エリオット
(72)【発明者】
【氏名】ジェシカ・ライアン
(72)【発明者】
【氏名】ルルデス・ウルバン-アランデテ
(72)【発明者】
【氏名】ボ・ワン
(72)【発明者】
【氏名】ユンユン・シュ
【テーマコード(参考)】
4B035
4C076
4C086
4C087
4C206
【Fターム(参考)】
4B035LC16
4B035LE07
4B035LG07
4B035LG12
4B035LG15
4B035LG16
4B035LG19
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4B035LG54
4B035LK14
4B035LP21
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4C206NA10
4C206ZB21
(57)【要約】
本開示は、カプセル材料によりカプセル化された1つ又は複数の疎水性物質を含むマイクロカプセル化組成物に関し、カプセル材料は、1つ又は複数の変性タンパク質及び/又はペプチドを含み、1つ又は複数の変性タンパク質及び/又はペプチドは、出発タンパク質に、1つ又は複数の変性タンパク質及び/又はペプチドの平均粒径が出発タンパク質と比べて減少するように高せん断プロセスを施すことにより、出発タンパク質から得られる。本開示は、疎水性物質を酸化分解から保護するため、疎水性物質の酸化安定性を改善するため、マイクロカプセル化組成物の表面遊離脂肪を減少させるための方法、並びに、疎水性物質を含む安定なエマルション及び組成物に更に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カプセル材料によりカプセル化された1つ又は複数の疎水性物質を含むマイクロカプセル化組成物であって、前記カプセル材料が、1つ又は複数の変性されたタンパク質及び/又はペプチドを含み、前記の1つ又は複数の変性されたタンパク質及び/又はペプチドが、1つ又は複数の変性タンパク質及び/又はペプチドの平均粒径が出発タンパク質と比べて減少するように出発タンパク質に高せん断プロセスを施すことによって出発タンパク質から得られたものである、マイクロカプセル化組成物。
【請求項2】
前記の1つ又は複数の変性されたタンパク質及び/又はペプチドの平均粒径が、出発タンパク質の平均粒径の約70%以下である、請求項1に記載のマイクロカプセル化組成物。
【請求項3】
前記の1つ又は複数の変性されたタンパク質の平均粒径が、出発タンパク質の平均粒径の約65%以下である、請求項2に記載のマイクロカプセル化組成物。
【請求項4】
約1.8%未満の表面遊離脂肪含有量を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載のマイクロカプセル化組成物。
【請求項5】
約1%未満の表面遊離脂肪含有量を有する、請求項4に記載のマイクロカプセル化組成物。
【請求項6】
約0.8%未満の表面遊離脂肪含有量を有する、請求項5に記載のマイクロカプセル化組成物。
【請求項7】
前記の高せん断プロセスが、アルカリ性pHにおいて実施された、請求項1から6のいずれか一項に記載のマイクロカプセル化組成物。
【請求項8】
前記の高せん断プロセスが約8のpHにおいて実施される、請求項7に記載のマイクロカプセル化組成物。
【請求項9】
前記の高せん断プロセスが、出発タンパク質に約20mPaから約300mPaの圧力を施す工程を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載のマイクロカプセル化組成物。
【請求項10】
前記の高せん断プロセスが、均質化プロセスである、請求項1から9のいずれか一項に記載のマイクロカプセル化組成物。
【請求項11】
前記の高せん断プロセスが、マイクロ流動化プロセスである、請求項1から10のいずれか一項に記載のマイクロカプセル化組成物。
【請求項12】
前記の1つ又は複数の変性されたタンパク質及び/又はペプチドが、タンパク質画分の形態である、請求項1から11のいずれか一項に記載のマイクロカプセル化組成物。
【請求項13】
変性されたタンパク質が、変性されたホエイタンパク質である、請求項1から12のいずれか一項に記載のマイクロカプセル化組成物。
【請求項14】
前記のカプセル材料が、1つ又は複数の炭水化物を更に含む、請求項1から13のいずれか一項に記載のマイクロカプセル化組成物。
【請求項15】
前記の1つ又は複数の炭水化物が、グルコースシロップ及びデキストロース一水和物、又はそれらの組合せから選択される、請求項14に記載のマイクロカプセル化組成物。
【請求項16】
前記の1つ又は複数の変性されたタンパク質及び/又はペプチドが、組成物の合計質量に対して約3%w/wから約25%w/wで存在する、請求項1から15のいずれか一項に記載のマイクロカプセル化組成物。
【請求項17】
カプセル材料の変性されたタンパク質成分と、カプセル材料の炭水化物成分との比が、約1:10から1:1の範囲である、請求項1から16のいずれか一項に記載のマイクロカプセル化組成物
【請求項18】
前記の疎水性物質が、食用油である、請求項1から17のいずれか一項に記載のマイクロカプセル化組成物。
【請求項19】
前記の疎水性物質が、1つ又は複数の長鎖多価不飽和脂肪酸(LCPUFA)を含む、請求項1から18のいずれか一項に記載のマイクロカプセル化組成物。
【請求項20】
LCPUFAが、オメガ-3脂肪酸及び/又はオメガ-6脂肪酸を含む、請求項19に記載のマイクロカプセル化組成物。
【請求項21】
LCPUFAが、トリグリセリド形態で存在する、請求項19又は20に記載のマイクロカプセル化組成物。
【請求項22】
LCPUFAが、1つ又は複数のLCPUFA含有油として存在する、請求項19から21のいずれか一項に記載のマイクロカプセル化組成物。
【請求項23】
前記の1つ又は複数の油が、魚油を含む、請求項22に記載のマイクロカプセル化組成物。
【請求項24】
魚油が、マグロ油である、請求項23に記載のマイクロカプセル化組成物。
【請求項25】
組成物が、少なくとも1つのビタミンC供給源を更に含む、請求項1から24のいずれか一項に記載のマイクロカプセル化組成物。
【請求項26】
組成物が、水中油型エマルションの形態である、請求項1から25のいずれか一項に記載のマイクロカプセル化組成物。
【請求項27】
組成物が、噴霧乾燥粉末の形態である、請求項1から26のいずれか一項に記載のマイクロカプセル化組成物。
【請求項28】
疎水性物質を酸化分解から保護するための方法であって、
出発タンパク質に高せん断プロセスを施して1つ又は複数の変性されたタンパク質及び/又はペプチドを生成させ、それにより1つ又は複数の変性されたタンパク質及び/又はペプチドの平均粒径は出発タンパク質と比べて減少する工程;並びに
1つ又は複数の疎水性物質を、前記の1つ又は複数の変性されたタンパク質及び/又はペプチドを含むカプセル材料でカプセル化する工程、を含む方法。
【請求項29】
疎水性物質の酸化安定性を改善するための方法であって、
出発タンパク質に高せん断プロセスを施して1つ又は複数の変性されたタンパク質及び/又はペプチドを生成させ、それにより1つ又は複数の変性されたタンパク質及び/又はペプチドの平均粒径は出発タンパク質と比べて減少する工程;並びに
1つ又は複数の疎水性物質を、前記の1つ又は複数の変性されたタンパク質及び/又はペプチドを含むカプセル材料でカプセル化する工程、を含む方法。
【請求項30】
カプセル材料によってカプセル化された1つ又は複数の疎水性物質を含むマイクロカプセル化された組成物の表面遊離脂肪を減少させるための方法であって、
1つ又は複数の出発タンパク質及び/又はペプチドに高せん断プロセスを施して1つ又は複数の変性されたタンパク質及び/又はペプチドを生成させ、それにより1つ又は複数の変性されたタンパク質及び/又はペプチドの平均粒径が1つ又は複数の出発タンパク質及び/又はペプチドと比べて減少する工程、並びに
1つ又は複数の疎水性物質を、前記の1つ又は複数の変性されたタンパク質及び/又はペプチドを含むカプセル材料でカプセル化する工程、を含む方法。
【請求項31】
1つ又は複数の変性されたタンパク質及び/又はペプチドの平均粒径が、出発タンパク質の平均粒径の約70%以下である、請求項28から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
1つ又は複数の変性されたタンパク質及び/又はペプチドの平均粒径が、出発タンパク質の平均粒径の約65%以下である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
高せん断プロセスを、アルカリ性pHにおいて実施する、請求項28から32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
高せん断プロセスを、約8のpHにおいて実施する、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
疎水性物質が、1つ又は複数のLCPUFA(長鎖多価不飽和脂肪酸)を含む、請求項28から34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
1つ又は複数のLCPUFAが、トリグリセリドの形態である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
疎水性物質を含む安定なエマルションであって、1つ又は複数の変性されたタンパク質及び/又はペプチドを含み、前記の1つ又は複数の変性されたタンパク質及び/又はペプチドは、出発タンパク質から、出発タンパク質に高せん断プロセスを施すことによって得られたものであり、それによって1つ又は複数の変性されたタンパク質及び/又はペプチドの平均粒径が出発タンパク質と比べて減少している、エマルション。
【請求項38】
1つ又は複数の変性されたタンパク質及び/又はペプチドの平均粒径が、出発タンパク質の平均粒径の約70%以下である、請求項37に記載の安定なエマルション。
【請求項39】
1つ又は複数の変性されたタンパク質及び/又はペプチドの平均粒径が、出発タンパク質の平均粒径の約65%以下である、請求項38に記載の安定なエマルション。
【請求項40】
高せん断プロセスが、アルカリ性pHにおいて実施される、請求項37から39のいずれか一項に記載の安定なエマルション。
【請求項41】
高せん断プロセスが約8のpHにおいて実施される、請求項40に記載の安定なエマルション。
【請求項42】
前記疎水性物質が、1つ又は複数のLCPUFA(長鎖多価不飽和脂肪酸)を含む、請求項37から41のいずれか一項に記載の安定なエマルション。
【請求項43】
LCPUFAが、トリグリセリドの形態である、請求項42に記載の安定なエマルション。
【請求項44】
疎水性物質、並びに1つ又は複数の変性されたタンパク質及び/又はペプチドを含む組成物であって、前記1つ又は複数の変性されたタンパク質及び/又はペプチドは、出発タンパク質に高せん断プロセスを施すことによって出発タンパク質から得られたものであり、それによって前記の1つ又は複数の変性されたタンパク質及び/又はペプチドの平均粒径が出発タンパク質と比べて減少している、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、栄養用途及び医薬用途の両方に好適なカプセル化された組成物(以下、カプセル化組成物ともいう)、並びにカプセル化組成物中の疎水性物質を、酸化及び酸化分解から保護するための手段に広く関する。
【背景技術】
【0002】
様々な疎水性生物活性化合物、例えば長鎖多価不飽和脂肪酸(「LCPUFA」)、カロテノイド、水不溶性ビタミン、フェノール化合物、香味成分及び芳香成分により、様々な健康上の利益が得られることが良く知られている。詳細には、LCPUFAは、ヒトの食事の重要な栄養成分であり、多くの人々は、十分な量のこれらの必須脂肪酸、詳細にはオメガ-3脂肪酸、例えばエイコサペンタエン酸(EPA)及びドコサヘキサエン酸(DHA)を摂取することができていない。多数の研究により、オメガ-3脂肪酸は、心臓、脳及び眼の健康において、影響力の大きい役割を果たし、食事による摂取は、心血管性機能の改善及び様々な炎症性関連病態の抑制に深く関連していることが発見されている。例えば、最近の研究では、EPA及びDHAは、運動中の心拍及び酸素消費を低下させ、ひいてはアスリートの身体的及び精神的パフォーマンス向上に寄与する能力を有し得ることが示唆されている(Peopleら,Journal of Cardiovascular Pharmacology,2008年,52:540~547頁)。必須の栄養的役割のため、オメガ-3脂肪酸を含む組成物は、栄養補給及び医薬品としての両方の観点から重要である。
【0003】
したがって、オメガ-3脂肪酸、例えば魚油、藻油及び一部の植物種子油を食品製品に組み込んで、公衆衛生を促進する傾向が強まっている。しかし、これらの脂肪酸は、食品生産及び保存中に出現することが多い酸素、上昇温度、又は光に対する曝露の際の酸化又は分解に対して感受性であるため、製品をオメガ-3脂肪酸で適正に強化し、オメガ-3脂肪酸の安定性及び活性を維持することは難題である。オメガ-3脂肪酸の酸化及び/又は分解は、配合物の官能的性質又は生理学的性質に有害な影響を与え得る望ましくない酸化分解生成物を生成する。したがって、これらの機能性食品を生成、運搬及び保存することは難易度が高い。
【0004】
マイクロカプセル化技術により、生物活性化合物は、物理的保護シェル材料内に封入されることができ、この技術は、オメガ-3脂肪酸を酸化及び分解から保護するために適正に使用されている。噴霧乾燥(スプレー乾燥)は、マイクロカプセル粉末を製造するために最も幅広く使用されている技術である。典型的には、噴霧乾燥させたマイクロカプセル粉末は、オメガ-3が豊富な油を含有し、およそ30%(w/w)の油充填量及びおよそ1%(w/w)の表面遊離脂肪含有量を有する。メイラード(Maillard)反応生成物(MRP)の優れた機能性によって、オメガ-3油含有マイクロカプセル粉末は、およそ1%(w/w)の表面遊離脂肪含有量を保ちながら48±2%もの高さの油充填量で製造されているが、そのような生成物は、典型的にはちょうど50時間の誘導期間(カプセル化された油の酸化の開始前の時間数)を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2012/106777号
【特許文献2】米国特許第7374788B2号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Peopleら,Journal of Cardiovascular Pharmacology,2008年,52:540~547頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
疎水性化合物、とりわけオメガ-3油の酸化安定性を改善することが可能なカプセル化システム及び送達システムを開発する必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、1つ又は複数の変性されたタンパク質及び/又はペプチド(以下、変性タンパク質及び/又はペプチドとも記す)(この場合、変性タンパク質(1又は複数)及び/又はペプチド(1又は複数)は、出発タンパク質に高せん断プロセスを施すことによってその出発タンパク質から得られる)を含むカプセル材料の使用が、特に高い酸化安定性及びとりわけ低い表面遊離脂肪含有量(すなわち油のカプセル化効率が高い)の両方を有する疎水性物質含有組成物をもたらすことができるという、本発明者らの想定外の発見に基づく。特定の実施形態では、1つ又は複数の変性タンパク質及び/又はペプチドは、出発タンパク質に、変性タンパク質及び/又はペプチドの平均粒径が出発タンパク質と比べて減少するように高せん断プロセスを施すことにより、出発タンパク質から得られる。特定の実施形態では、変性タンパク質及び/又はペプチドの平均粒径は、出発タンパク質の平均粒径の約70%以下、例えば出発タンパク質の平均粒径の約65%以下である。いくつかの実施形態では、1つ又は複数の変性タンパク質及び/又はペプチドは、本開示の組成物又は方法に使用され、1つ又は複数の変性タンパク質は、それぞれの1つ又は複数の出発タンパク質から得られる。
【0009】
本開示の第1の態様は、1つ又は複数の疎水性物質を含むマイクロカプセル化された組成物(以下、マイクロカプセル化された組成物を、マイクロカプセル化組成物とも記す)であって、カプセル材料は、1つ又は複数の変性タンパク質及び/又はペプチドを含み、変性タンパク質及び/又はペプチドは、出発タンパク質に、変性タンパク質及び/又はペプチドの平均粒径が出発タンパク質と比べて減少するように高せん断プロセスを施すことによって出発タンパク質から得られる、マイクロカプセル化組成物を提供する。好ましい実施形態では、変性タンパク質及び/又はペプチドの平均粒径は、出発タンパク質の平均粒径の約70%以下、例えば出発タンパク質の平均粒径の約65%以下である。
【0010】
いくつかの好ましい実施形態によれば、マイクロカプセル化組成物は、約1.8%未満、例えば約1%未満、例えば約0.8%未満の表面遊離脂肪含有量を有する。
【0011】
いくつかの実施形態によれば、高せん断プロセスを、アルカリ性pH、例えば約8のpHで実施する。いくつかの実施形態では、高せん断プロセスは、出発タンパク質に約20mPaから約300mPaの圧力を施す工程を含む。いくつかの実施形態では、高せん断プロセスは、均質化プロセスである。いくつかの実施形態では、高せん断プロセスは、マイクロ流動化プロセスである。
【0012】
いくつかの実施形態によれば、1つ又は複数の変性タンパク質及び/又はペプチドは、タンパク質画分の形態である。いくつかの実施形態によれば、変性タンパク質は、変性されたホエイタンパク質(以下、変性ホエイタンパク質とも記す)である。
【0013】
いくつかの実施形態によれば、カプセル材料は、1つ又は複数の炭水化物、例えばグルコースシロップ及びデキストロース一水和物、又はそれらの組合せを更に含む。
【0014】
いくつかの実施形態によれば、1つ又は複数の変性タンパク質及び/又はペプチドは、組成物の合計質量に対して約3%w/wから約25%w/wで存在する。
【0015】
いくつかの実施形態によれば、カプセル材料の変性タンパク質成分と、カプセル材料の炭水化物成分との比は、約1:10から1:1の範囲である。
【0016】
いくつかの実施形態によれば、疎水性物質は、食用油である。いくつかの実施形態では、疎水性物質は、1つ又は複数の長鎖多価不飽和脂肪酸(LCPUFA)を含む。いくつかの実施形態では、LCPUFAオメガ-3脂肪酸及び/又はオメガ-6脂肪酸を含む。いくつかの実施形態では、LCPUFAは、トリグリセリド形態で存在する。いくつかの実施形態では、LCPUFAは、1つ又は複数のLCPUFA含有油として存在し、いくつかの実施形態では、1つ又は複数の油は、魚油を含む。そのようないくつかの実施形態では、魚油は、マグロ油である。
【0017】
いくつかの実施形態によれば、組成物は、少なくとも1つのビタミンC供給源を更に含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、組成物は、水中油型エマルションの形態である。いくつかの実施形態では、組成物は、噴霧乾燥粉末の形態である。
【0019】
第2の態様によれば、本開示は、疎水性物質を酸化分解から保護するための方法であって、
1つ又は複数の変性タンパク質及び/又はペプチドの平均粒径が出発タンパク質と比べて減少するように出発タンパク質に高せん断プロセスを施して、1つ又は複数の変性タンパク質及び/又はペプチドを生成される工程、並びに
1つ又は複数の疎水性物質を、1つ又は複数の変性タンパク質及び/又はペプチドを含むカプセル材料でカプセル化する工程、を含む方法を提供する。
【0020】
第3の態様によれば、本開示は、疎水性物質の酸化安定性を改善するための方法であって、
1つ又は複数の変性タンパク質及び/又はペプチドの平均粒径が出発タンパク質と比べて減少するように出発タンパク質に高せん断プロセスを施して、1つ又は複数の変性タンパク質及び/又はペプチドを生成させる工程、並びに
1つ又は複数の疎水性物質を、1つ又は複数の変性タンパク質及び/又はペプチドを含むカプセル材料でカプセル化する工程、を含む方法を提供する。
【0021】
第4の態様によれば、本開示は、カプセル材料によりカプセル化された1つ又は複数の疎水性物質を含むマイクロカプセル化組成物の表面遊離脂肪を減少させるための方法であって、1つ又は複数の変性タンパク質及び/又はペプチドの平均粒径が1つ又は複数の出発タンパク質及び/又はペプチドと比べて減少するように、1つ又は複数の出発タンパク質及び/又はペプチドに高せん断プロセスを施して、1つ又は複数の変性タンパク質及び/又はペプチドを生成させる工程、並びに1つ又は複数の疎水性物質を、1つ又は複数の変性タンパク質及び/又はペプチドを含むカプセル材料でカプセル化する工程、を含む方法を提供する。
【0022】
第2、第3、又は第4の態様による方法のいくつかの実施形態では、1つ又は複数の変性タンパク質及び/又はペプチドの平均粒径は、出発タンパク質の平均粒径の約70%以下、例えば約65%以下である。
【0023】
いくつかの実施形態では、高せん断プロセスを、アルカリ性pH、例えば約8のpHで実施する。
【0024】
いくつかの実施形態では、疎水性物質は、1つ又は複数のLCPUFAを、例えばトリグリセリド形態で含む。
【0025】
第5の態様によれば、本開示は、疎水性物質を含む安定なエマルションであって、1つ又は複数の変性タンパク質及び/又はペプチドを含み、ここで、1つ又は複数の変性タンパク質及び/又はペプチドは、1つ又は複数の変性タンパク質及び/又はペプチドの平均粒径が出発タンパク質と比べて減少するように、出発タンパク質に高せん断プロセスを施すことによって出発タンパク質から得られる、エマルションを提供する。
【0026】
いくつかの実施形態では、1つ又は複数の変性タンパク質及び/又はペプチドの平均粒径は、出発タンパク質の平均粒径の約70%以下、例えば約65%以下である。
【0027】
いくつかの実施形態では、高せん断プロセスを、アルカリ性pH、例えば約8のpHで実施する。
【0028】
いくつかの実施形態では、疎水性物質は、1つ又は複数のLCPUFAを、例えばトリグリセリド形態で含む。
【0029】
第6の態様によれば、本開示は、疎水性物質、並びに1つ又は複数の変性タンパク質及び/又はペプチドを含む組成物であって、1つ又は複数の変性タンパク質及び/又はペプチドは、1つ又は複数の変性タンパク質及び/又はペプチドの平均粒径が出発タンパク質と比べて減少するように出発タンパク質に高せん断プロセスを施すことによって出発タンパク質から得られる組成物を提供する。
【0030】
本開示の模範的な実施形態は、以下の図面について、単なる非限定的な例として本明細書に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】1.0%w/wのuWPI及びmWPI(元の(すなわち本来の)pH及びpH8溶液)を有する、トウモロコシ油の界面張力を示す図である。
【
図2】未変性ホエイタンパク質単離物ベースのマイクロカプセル化粉末(uWPI粉末)及び変性ホエイタンパク質単離物ベースのマイクロカプセル化粉末(mWPI粉末)を調製するためのプロセスを示すスキームである。
【
図3】メイラード(Maillard)反応生成物(MRP)とカプセル化されたオメガ-3油含有マイクロカプセル粉末と比較した、オメガ-3油含有マイクロカプセル化uWPI及びmWPI粉末のOxipres分析の結果を示すグラフである。
【
図4】4週間の急速曝露期間にわたる、マイクロカプセル化uWPI及びmWPI粉末の全体的品質の図である。
【
図5】4週間の急速曝露期間にわたる、マイクロカプセル化uWPI&mWPI粉末の酸敗臭及び海産物臭、並びに香味の図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本明細書を通じて、文脈から別途必要とされない限り、「を含む(comprise)」という語、又は変形、例えば「を含む(comprises)」又は「を含むこと(comprising)」は、定められた工程若しくは要素若しくは整数、又は工程若しくは要素若しくは整数の群を包含することを意味するが、任意の他の工程若しくは要素若しくは整数、又は要素若しくは整数の群の排除を意味しないことが理解される。したがって、本明細書に関して、「を含むこと」という用語は、「を第一に含むが、必ずしもそれのみではない」を意味する。
【0033】
本明細書に関して、「約」という用語は、同一の機能又は結果を達成する状況下で、挙げられている値に等しいと当業者が考える数の範囲を指すと理解される。
【0034】
本明細書に関して、単数形の名詞は、そのものの1つ又は1より多い(すなわち少なくとも1つ)の文法上の対象を指す。例として、「要素」は、1つの要素又は1つより多い要素を意味する。
【0035】
「タンパク質」という用語は、ペプチド結合により一緒に連結したアミノ酸から構成されているポリマーを意味する。「ペプチド」という用語は、そのようなポリマーを指すためにも使用され得るが、いくつかの例では、ペプチドは、タンパク質より短い(すなわちより少ないアミノ酸残基で構成される)ことがある。「タンパク質」及び「ペプチド」という用語は、本明細書で互換的に使用され得る。
【0036】
本明細書で使用されている、疎水性物質及び化合物、例えばLCPUFAに関係した「酸化安定性」という用語は、酸素の存在下での、疎水性物質、例えばLCPUFA又はLCPUFA含有油の安定性、及び酸化又は酸化分解に対する耐性を意味する。したがって、より高い酸化安定性は、酸化及び酸化分解に対するより強い耐性を示している。典型的には、本開示によるカプセル化から生じた改善した酸化安定性への言及は、本開示によるカプセル材料なしで、又は代替カプセル材料の存在下で観察された酸化安定性を上回る改善を意味する。
【0037】
本開示の実施形態によれば、変性ホエイタンパク質は、マグロ油を含むマイクロカプセル化組成物においてカプセル材料として使用した。高せん断プロセスによるホエイタンパク質単離物の変性により、平均粒径の低下が引き起こされ、これは、水溶性タンパク質凝集物が分離したためと考えられる。詳細には、変性タンパク質の平均粒径は、元の(もともとの)pH及びアルカリ性pH(pH8)の両方で、出発タンパク質のものの約51%であった。
【0038】
この変性タンパク質を、重要なカプセル材料成分として使用して、噴霧乾燥させたマイクロカプセル化粉末を得て、オメガ-3油を、高いレベルの合計油充填量(>45%合計油充填量(w/w)(マグロ油)、詳細には約49%)、及び1.5±0.1%未満の低い表面遊離脂肪含有量(1.3±0.5%、また、pH8では0.6±0.1%のより一層低い表面遊離脂肪含有量)で安定化させた。生じたマイクロカプセル化粉末は、100時間を優に超える誘導期間できわめて高い酸化安定性、並びに、4週間の急速曝露期間にわたり、許容できる一次的及び二次的な酸化特性(過酸化物値、p-アニシジン値、全体的品質、並びに酸敗臭及び海産物臭を含む)も示した。本明細書で開示されている変性プロセスを、様々なタンパク質に適用して、オメガ-3油、カロテノイド、水不溶性ビタミン、フェノール化合物、香味成分及び芳香成分を含む、感受性がある様々な疎水性化合物の保存可能期間を延ばすために使用できるマイクロカプセル化システムを得ることができる。
【0039】
したがって、本開示の特定の実施形態は、1つ又は複数の疎水性物質を含むマイクロカプセル化組成物であって、カプセル材料が、変性タンパク質及び/又はペプチドを含み、その変性タンパク質及び/又はペプチドは、変性タンパク質及び/又はペプチドの平均粒径が出発タンパク質と比べて減少するように出発タンパク質に高せん断プロセスを施すことによって出発タンパク質から得られる、マイクロカプセル化組成物を提供する。
【0040】
変性タンパク質又はペプチドを使用して、1つ又は複数の疎水性物質をカプセル化して、1つ又は複数の疎水性物質を酸化又は酸化分解から保護する方法及び組成物も提供される。酸化又は酸化分解からの保護は、当業者に周知である任意の好適な手段により判定され得る。
【0041】
本開示のマイクロカプセル化組成物は、例えばエマルションの形態であってよく、又は固体形態であってよい。エマルションは、水中油型エマルションを含み得る。固体形態は、粉末であり得る。粉末は、例えばエマルションを噴霧乾燥させることにより得られる。一実施形態では、組成物は、流動性の高い粉末である。粉末は、約10μmから1000μm、又は約50μmから800μm、又は約100μmから300μmの平均粒径を有し得る。代替実施形態では、組成物は、顆粒の形態であり得る。
【0042】
本開示の組成物は、マイクロカプセル化によって生成され、カプセル材料は、変性タンパク質及び/又はペプチドを含むか、又はそれのみからなる。「変性タンパク質」又は「変性ペプチド」は、変性タンパク質又はペプチドの平均粒径が出発タンパク質と比べて減少するように、出発タンパク質又はペプチドに高せん断プロセスを施すことによって、出発タンパク質から得られる。いくつかの実施形態では、1つ又は複数の変性タンパク質は、本開示の組成物又は方法に使用され、1つ又は複数の変性タンパク質及び/又はペプチドは、それぞれ1つ又は複数の出発タンパク質から得られる。
【0043】
本明細書内での「タンパク質」への言及は、関連する状況により容易に理解されるように、出発タンパク質、変性タンパク質又はその両方を指し得る。
【0044】
高せん断プロセスを使用して、タンパク質の1つ又は複数の性質、例えばその粒径、溶解度、泡立ち、ゲル化性、及び/又は乳化性を変更できる。そのようなタンパク質及び脂肪の水溶液で形成されたエマルションの脂肪球の大きさも縮小でき、詳細には変性タンパク質に高せん断プロセスを施し、アルカリ性pH、例えば約8のpHで水溶液に使用される場合、油との界面張力を低下させることができる。任意の好適な高せん断プロセスを使用して、タンパク質を変性でき、多彩な高せん断プロセスが、当業者によく知られている。
【0045】
いくつかの実施形態では、高せん断プロセスは、均質化プロセスである。いくつかの典型的な実施形態では、均質化プロセスは、タンパク質が高速で狭い隙間を通って強制的に流される高圧均質化プロセスであり得る。いくつかの実施形態では、均質化プロセスは、マイクロ流動化である。マイクロ流動化プロセスは、高せん断速度及び均一な加工圧力を使用し、一貫したナノスケール粒径及び狭い粒径分布を有利に得られる。模範的なマイクロ流動化装置は、Microfluidics International Corporation社、USAから入手できる。いくつかの典型的な実施形態では、均質化プロセスは、超音波圧力波が媒体中で生成されて、均質化を引き起こす超音波圧力均質化プロセスであり得る。いくつかの実施形態では、均質化プロセスは、機械的均質化プロセス、例えば複数の段階での、例えばローターステーターホモジナイザー、又はブレードタイプホモジナイザーの使用であり得る。当業者は、本開示の範囲は、任意の特定の均質化プロセスへの言及によっては限定されないことを認識する。
【0046】
いくつかの実施形態では、高せん断プロセスは、高せん断の配置を通る複数回の通過を含む。例えば、高圧均質化プロセスを使用する実施形態では、物質は、望ましい均質化を達成するために、狭い隙間を通る複数回の通過を経ることがある。例えば、高せん断プロセスは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10回以上の通過を含み得る。
【0047】
いくつかの実施形態では、高せん断プロセスは、出発タンパク質に約20mPaから約300mPa、例えば約50mPaから約300mPa、例えば約100mPaから約300mPa、例えば約100mPaから約250mPa、例えば約100mPaから約200mPa、例えば約125mPaから約175mPa、例えば約150mPa、或いは約125mPaから約300mPa、例えば約150mPaから約300mPa、例えば約175mPaから約300mPa、例えば約200mPaから約300mPa、例えば約225mPaから約300mPa、例えば約250mPaから約300mPaの圧力を施す工程を含む。
【0048】
いくつかの特定の実施形態では、高せん断プロセスは、均質化プロセスを含み、均質化は、出発タンパク質に約20mPaから約300mPa、例えば約50mPaから約300mPa、例えば約100mPaから約300mPa、例えば約100mPaから約250mPa、例えば約100mPaから約200mPa、例えば約125mPaから約175mPa、例えば約150mPa、或いは、約125mPaから約300mPa、例えば約150mPaから約300mPa、例えば約175mPaから約300mPa、例えば約200mPaから約300mPa、例えば約225mPaから約300mPa、例えば約250mPaから約300mPaの圧力を施す工程を含む。
【0049】
いくつかの特定の実施形態では、高せん断プロセスは、均質化プロセスを含み、均質化は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10回以上の通過で、出発タンパク質に約20mPaから約300mPa、例えば約50mPaから約300mPa、例えば約100mPaから約300mPa、例えば約100mPaから約250mPa、例えば約100mPaから約200mPa、例えば約125mPaから約175mPa、例えば約150mPa、或いは、約125mPaから約300mPa、例えば約150mPaから約300mPa、例えば約175mPaから約300mPa、例えば約200mPaから約300mPa、例えば約225mPaから約300mPa、例えば約250mPaから約300mPaの圧力を施す工程を含む。
【0050】
いくつかの特定の実施形態では、高せん断プロセスは、アルカリ性環境、例えばアルカリ性水溶液中で実施され、例えばタンパク質に高せん断プロセスを約8のpHの水溶液中において施す。
【0051】
出発タンパク質に高せん断プロセスを施す工程は、出発タンパク質と比べて減少した平均粒径を有する変性タンパク質又はペプチドを得るために使用され得る。詳細には、変性タンパク質又はペプチドの平均粒径は、出発タンパク質の平均粒径の約70%以下、例えば出発タンパク質の平均粒径の約65%以下であり得る。いくつかの実施形態では、変性タンパク質又はペプチドの平均粒径は、出発タンパク質の平均粒径の約60%以下、例えば出発タンパク質の平均粒径の約55%以下であり得る。タンパク質の平均粒径の減少は、当業者に容易に利用できる任意の好適な方法により容易に判定され得る。出発タンパク質、及び変性タンパク質又はペプチドの平均粒径を判定し、ひいては減少が発生したかどうかを判定するために用いられ得る詳細な一方法は、例えばMalvern Zetasizer(Malvern Panalytical社)を使用することによる、動的光散乱の原理の使用である。
【0052】
本開示の範囲は、任意の特定のタンパク質への言及によって限定されるべきではない。任意の好適な出発タンパク質及び変性タンパク質又はペプチドを、本開示の組成物及び方法に使用できる。タンパク質は、例えば、天然供給源、例として細胞又は組織供給源から得られたタンパク質画分の形態であり得る。細胞又は組織供給源は、任意の好適な供給源、例えば動物又は植物源から得られる。典型的な実施形態では、タンパク質は、ホエイタンパク質単離物であり、出発タンパク質は、未変性ホエイタンパク質単離物であり、変性タンパク質は、変性ホエイタンパク質単離物である。別の典型的な実施形態では、タンパク質は、ホエイタンパク質濃縮物であり、出発タンパク質は、未変性ホエイタンパク質濃縮物であり、変性タンパク質は、変性ホエイタンパク質濃縮物である。他の実施形態では、タンパク質は、植物源に由来することができ、例えば、エンドウマメ若しくはダイズ由来タンパク質、又はエンドウマメタンパク質単離物若しくはダイズタンパク質単離物を含み得る。
【0053】
任意の好適な分子量のタンパク質を、本開示に従って用いることができる。例えば、出発タンパク質、及び/又は変性タンパク質若しくはペプチドは、約500Daから約150kDaの範囲の分子量を有し得る。例えば、タンパク質は、約500Da、1kDa、2kDa、3kDa、4kDa、5kDa、10kDa、15kDa、20kDa、25kDa、30kDa、35kDa、40kDa、45kDa、50kDa、55kDa、60kDa、65kDa、70kDa、75kDa、80kDa、85kDa、90kDa、95kDa、100kDa、105kDa、110kDa、115kDa、120kDa、125kDa、130kDa、135kDa、140kDa、145kDaまで、又は約150kDaまでの分子量を有し得る。
【0054】
任意の好適な分子サイズのタンパク質を、本開示に従って用いることができる。例えば、出発タンパク質、及び/又は変性タンパク質若しくはペプチドは、約0.5nmから約5nmの範囲の粒子半径を有し得る。例えば、タンパク質は、約0.5nm、0.6nm、0.7nm、0.8nm、0.9nm、1.0nm、1.1nm、1.2nm、1.3nm、1.4nm、1.5nm、1.6nm、1.7nm、1.8nm、1.9nm、2.0nm、2.1nm、2.2nm、2.3nm、2.4nm、2.5nm、2.6nm、2.7nm、2.8nm、2.9nm、3.0nm、3.1nm、3.2nm、3.3nm、3.4nm、3.5nm、3.6nm、3.7nm、3.8nm、3.9nm、4.0nm、4.1nm、4.2nm、4.3nm、4.4nm、4.5nm、4.6nm、4.7nm、4.8nm、4.9nm又は約5.0nmの粒子半径を有し得る。
【0055】
変性タンパク質及び/又はペプチドは、均質な水性分散体又はスラリーが形成されるように、エマルション又は組成物の調製における任意の段階でエマルション又は組成物に導入してもよい。当業者は、過度の負担又は実験なしで、導入されるタンパク質及び/又はペプチドの量及び分子量を最適化できる。いくつかの好ましい実施形態では、タンパク質及び/又はペプチドの分子量は、マイクロカプセル化を促進するのに十分なほど低くなり得るが、前記タンパク質及び/又はペプチドの量は、カプセル材料として有効な保護を生じるのに十分になり得る。水中油型エマルションの場合では、粘度もコントロールできる。粘度が高すぎる場合、噴霧乾燥が妨げられるおそれがある。適切なタンパク質含有量及び適切な粘度の判定は、十分に当業者の能力の範疇である。
【0056】
典型的な実施形態では、変性タンパク質及び/又はペプチドは、組成物の合計質量に対して約3%(w/w)から約30%(w/w)、又は組成物の合計質量に対して約3%(w/w)から約25%(w/w)で存在し得る。水中油エマルションのケースでは、これは、水性相と油相の合計質量に対して約3%(w/w)から約30%(w/w)、又は約3%(w/w)から約25%(w/w)を意味する。例えば、タンパク質及び/又はペプチドは、組成物の合計質量に対して約3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%又は30%w/wで存在し得る。
【0057】
本明細書に記載されている特定の実施形態では、カプセル材料は、変性タンパク質及び/又はペプチドに加えて、化合物、物質又は部分を含む。例えば、カプセル材料は、変性タンパク質と1つ又は複数のポリサッカリド又は炭水化物成分の組合せを含み得る。例えば、還元糖官能基を有する炭水化物は、タンパク質、デキストロース(デキストロース一水和物を含む)、グルコース、ラクトース、スクロース、オリゴ糖、及び乾燥グルコースシロップと反応し得る。更なる実施形態では、ポリサッカリド、高メトキシルペクチン又はカラギーナンは、いくつかの配合物において、タンパク質-炭水化物混合物に添加され得る。タンパク質及び炭水化物を反応させて、この状態がタンパク質の大規模なゲル化又は凝固を生じないことを確実にする際には注意が必要であるが、その理由は、これにより、タンパク質が良好なフィルムを形成できないようになるからである。
【0058】
典型的な実施形態では、本開示の組成物は、カプセル材料のポリサッカリド又は炭水化物成分を、任意選択で場合によっては高せん断混合機を使用して、変性タンパク質を含有する水性相に可溶化することにより調製され得る。混合物は、次いで約50℃から80℃の温度に加熱してよく、その後、1つ又は複数の抗酸化剤を必要に応じて添加してよい。疎水性物質は、水性混合物にインライン投入してよく、これに高せん断混合機を通過させて、粗エマルションを形成する。粗エマルションは、次いで均質化を通過させてよい。粉末化生成物を調製することが望ましい場合、エマルションは、約180℃の注入口温度及び80℃の流出口温度で加圧及び噴霧乾燥してよい。
【0059】
例として、好適なポリサッカリド及び炭水化物成分は、マルトデキストリン、デキストロース(デキストロース一水和物を含む)、グルコース、ラクトース、スクロース、オリゴ糖及び乾燥グルコースシロップ、又はそれらの1つ又は複数の組合せを含み得る。更なる実施形態では、ポリサッカリド、高メトキシルペクチン又はカラギーナンは、いくつかの配合物において、タンパク質-炭水化物混合物に添加され得る。タンパク質及び炭水化物を反応させて、この状態がタンパク質の大規模なゲル化又は凝固を生じないことを確実にする際には注意が必要であるが、その理由は、これによって、タンパク質が良好なフィルムを形成できないようになるからである。変性タンパク質とカプセル材料のポリサッカリド又は炭水化物成分との比(質量で)は、例えば、約3:1、2.5:1、2:1、1.5:1、1:1、1:1.5、1:2、1:2.5、1:3、1:3.5、1:4、1:4.5、1:5、1:5.5、1:6、1:6.5、1:7、1:7.5、1:8、1:8.5、1:9、1:9.5又は1:10であり得る。
【0060】
特定の実施形態では、カプセル材料のタンパク質成分と、カプセル材料の炭水化物成分との比(質量で)は、約1:10から約1:1.5であり得る。例えば、タンパク質成分の炭水化物成分に対する比は、約1:10、1:9.5、1:9、1:8.5、1:8、1:7.5、1:7、1:6.5、1:6、1:5.5、1:5、1:4.5、1:4、1:3.5、1:3、1:2.5、1:2又は1:1.5であり得る。タンパク質成分と炭水化物成分との比は、約1:5から約1:1.5、例えば約1:4、1:3、1:2.9、1:2.8、1:2.7、1:2.6、1:2.5、1:2.4、1:2.3、1:2.2、1:2.1、1:2、1:1.9、1:1.8、1:1.7、1:1.6又は1:1.5であり得る。タンパク質成分と炭水化物成分との比は、約1:2から約1:1.9、例えば約1:2、1:1.99、1:1.98、1:1.97、1:1.96、1:1.95、1:1.94、1:1.93、1:1.92、1:1.91又は1:1.9であり得る。典型的な実施形態では、タンパク質成分と炭水化物成分との比は、約1:1.99である。
【0061】
ポリサッカリド又は炭水化物成分は、約0から100、約10から70、約20から60又は約20から40のDE値を有し得る。DE値は、約0、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95又は100であり得る。
【0062】
当業者は、代替炭水化物供給源も、1つ又は複数の変性タンパク質と組み合わせたカプセル材料に用いてよいことを認識する。例えば、炭水化物供給源は、オクテニルコハク酸無水物-変性デンプン、及び、WO2012/106777で以前に記載されており、その開示を参照により本明細書に援用する、約0から80のデキストロース当量値を有する1つ若しくは複数、又は2つ以上の還元糖供給源を含み得る。簡潔には、デンプンは、一次及び/又は二次変性を含むことができ、エステル又はハーフエステルであり得る。好適なオクテニルコハク酸無水物-変性デンプンは、例えば、ワキシーコーンベースのもの、及び、Ingredion ANZ Pty Ltd社、Seven Hills、NSW、AustraliaによりPURITY GUM(登録商標)、CAPSUL(登録商標)IMF及びHI CAP(登録商標)IMFの商品名で販売されているものを含む。オクテニルコハク酸無水物-変性デンプンは、組成物の合計質量の約18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6.5%、6%、5.5%、5%、4.5%、4%、3.5%、3%、2.5%、2%未満の量又は1%未満の量で存在し得る。
【0063】
還元糖供給源は、当業者に周知であり、単糖及び二糖、例えばグルコース、フルクトース、マルトース、ガラクトース、グリセルアルデヒド及びラクトースを含む。好適な還元糖供給源は、オリゴ糖、例えばグルコースポリマー、例としてデキストリン及びマルトデキストリン、並びにグルコースシロップ固体も含む。還元糖は、典型的には質量に対して20%以上の還元糖を含有するグルコースシロップにも由来し得る。
【0064】
本開示によるマイクロカプセル化組成物の表面遊離脂肪含有量は、約10%以下、約9%以下、約8%以下、約7%以下、約6%以下、約5%以下、約4%以下、約3%以下、約2.5%以下、約2.4%以下、約2.3%以下、約2.2%以下、約2.1%以下、約2%以下、約1.9%以下、約1.8%以下、約1.7%以下、約1.6%以下、約1.5%以下、約1.4%以下、約1.3%以下、約1.2%以下、約1.1%以下、約1%以下、又は約0.8%未満であり得る。特定の好ましい実施形態では、表面遊離脂肪含有量は、約1.8%未満、例えば約1.5%未満、例えば約1.4%未満、例えば約1%未満である。例えばタンパク質に、アルカリ性pHで、例えば約8のpHで高せん断プロセスを施すいくつかの実施形態では、表面遊離脂肪含有量は、約1%未満、例えば約0.8%未満であり得る。特定の実施形態では、この表面遊離脂肪含有量は、エマルションに由来する、又はそれから生成される粉末で判定される。
【0065】
本開示によるマイクロカプセル化組成物の酸化安定性は、例えば、以下の実施例7に記載されている、ML Oxipres(Mikrolab Aarhus社)を使用して測定した誘導期間の観点から測定され得る(「Oxipres」は、潜在的な酸化安定性の間接的測定である)。特定の好ましい実施形態では、本開示によるマイクロカプセル化組成物の誘導期間は、70℃にて、5barの圧力で測定される場合、少なくとも約50時間、例えば少なくとも約60時間、例えば少なくとも約70時間、例えば少なくとも約80時間、例えば少なくとも約90時間である。いくつかの実施形態では、誘導期間は、少なくとも約100時間である。いくつかの実施形態では、誘導期間は、少なくとも約120時間、例えば少なくとも約130時間である。
【0066】
本開示の組成物及びエマルションは、1つ又は複数の疎水性物質を含む。「疎水性物質」という用語は、純粋疎水性化合物、疎水性混合物、及び疎水性組成物を含む。疎水性物質は、本開示に従ってマイクロカプセル化することが望ましい任意の疎水性化合物又は組成物であり得る。本開示に従って使用され得る疎水性物質の例は、生物活性物質、例えばLCPUFA及びLCPUFAを含む油、カロテノイド、水不溶性ビタミン、例えばビタミンA、D、E及びK、フェノール化合物、香味及び芳香化合物、並びに食用油を含む。疎水性物質は、対象に投与された場合に、1つ又は複数の健康上の利益をもたらしうる。特定の実施形態では、疎水性物質は、1つ若しくは複数のLCPUFA、又は1つ若しくは複数のLCPUFAを含む油であり得る。そのような油は、自然に存在する、若しくは自然に由来する、又は遺伝子改変若しくは非遺伝子改変供給源から合成され得る。本開示に関して、「自然に存在する」及び「自然に由来する」という用語は、天然供給源、例えば本明細書で列挙された生物から抽出され得る、或いは、そのような天然供給源で見出される油又は1つ若しくは複数の脂質に由来し得る、又はそれから変性される油及び脂質組成物を含む。当業者は、本開示の範囲は、疎水性物質、或いは1つ若しくは複数のLCPUFA、又は1つ若しくは複数のLCPUFAを含む油の実体又は供給源への言及によって限定されないことを認識する。
【0067】
LCPUFAを含有する、若しくはLCPUFAが豊富である、又はそうであるように変性できる、又はLCPUFA含有量に対する変性なしで使用され得る模範的な油は、海洋生物、例えば、甲殻類、例えばオキアミ、軟体動物、例えばカキ、及び魚、例えばマグロ、サケ、マス、イワシ、サバ、スズキ、メンヘーデン、ニシン、ピルチャード、キッパー、ウナギ又はシラスからの油を含む。油は、1種又は複数の海洋生物、例えば本明細書で列挙されたものの卵からであり得る。典型的な実施形態では、油は、マグロ油、オキアミ油、又は魚卵からの脂質抽出物であるか、又はそれを含む。特定の実施形態では、疎水性物質は、マグロ油である。
【0068】
LCPUFAを含有する、若しくはLCPUFAが豊富である、又はそうであるように変性され得る、又はLCPUFA含有量に対する変性なしで使用され得る他の典型的な油は、植物源及び微生物源を含む。植物源は、亜麻仁、ウォールナッツ、ヒマワリ種子、キャノーラ、ベニバナ、ダイズ、コムギ胚芽、トウモロコシ、及び葉菜類(leafy green plants)、例えばケール、ホウレンソウ及びパセリを含むが、それらに限定されない。微生物源は、藻類及び真菌を含む。
【0069】
疎水性物質は、組成物の合計質量の約0.1%から80%の量で、又は組成物の合計質量の約1%から80%の量で、又は約1%から75%の量で、又は約5%から80%の量で、又は約5%から75%の量で、又は約5%から70%の量で存在し得る。油がマグロ油である典型的な実施形態では、油は、組成物の合計質量の約2%、4%、6%、8%、10%、12%、14%、16%、18%、20%、22%、24%、26%、28%、30%、32%、34%、36%、38%、40%、42%、44%、46%、48%、49%、50%、52%、54%、56%、58%、60%、62%、64%、66%、68%、70%、72%、74%、76%、78%又は80%の量で存在し得る。
【0070】
LCPUFAを含む疎水性物質は、典型的には、1つ若しくは複数のオメガ-3脂肪酸及び/又は1つ若しくは複数のオメガ-6脂肪酸、或いはそれらの混合物を含む。脂肪酸は、DHA、AA、EPA、DPA、及び/若しくはステアリドン酸(SDA)、又はそれらの混合物を含み得る。一実施形態では、脂肪酸は、DHA及びEPAを含む。
【0071】
本開示により想定される組成物は、追加の成分、例えば、抗酸化剤、固化防止剤、香味剤、着色剤、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、キレート剤を更に含み得る。
【0072】
好適な抗酸化剤は、当業者に周知であり、水溶性であっても油溶性であってもよい。好適な水溶性抗酸化剤は、例えば、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸カリウム、アスコルビン酸、グルタチオン、リポ酸、及び尿酸を含む。ある実施形態では、水溶性抗酸化剤は、合計組成物の約0~10%wt/wtの範囲で組成物に存在し得る。好適な油溶性抗酸化剤は、例えば、トコフェロール、パルミチン酸アスコルビル、トコトリエノール、フェノール、ポリフェノールを含む。ある実施形態では、油溶性抗酸化剤は、合計組成物の約0~10%wt/wtの範囲で油相に存在する。
【0073】
本開示の組成物と適合する固化防止剤は、当業者の間で周知であり、リン酸カルシウム、例えばリン酸三カルシウム及び炭酸三カルシウム、例として炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウム、並びに二酸化ケイ素を含む。
【0074】
組成物は、1つ又は複数の低分子量乳化剤を更に含み得る。好適な低分子量乳化剤は、例えば、モノ及びジグリセリド、レシチン及びソルビタンエステルを含む。他の好適な低分子量乳化剤は、当業者に周知である。低分子量乳化剤は、組成物の合計質量の約0.1%から3%の量で、又は組成物の合計質量の約0.1%から約2%の量で、又は約0.1%から0.5%の量で、又は約0.1%から0.3%の量で、存在し得る。例えば、低分子量乳化剤は、組成物の合計質量の約0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1%、1.1%、1.2%、1.3%、1.4%、1.5%、1.6%、1.7%、1.8%、1.9%又は2%の量で存在し得る。
【0075】
本明細書で検討されている組成物は、任意の好適な経路、典型的には経口投与による対象への投与のために製剤化され得る。組成物は、液体又は固体形態であってよく、そのまま消費され得る(例えばシロップ若しくは他の好適な液体の形態で、又はカプセル若しくは他の好適な固体形態として)。或いは、組成物は、食品又は飲料製品に組み込まれ得る。
【0076】
本発明に対して多数の変形及び/又は変更が、広く記載されている本発明の精神又は範囲から逸脱することなくなされることは当業者により認識される。本実施形態は、したがって、あらゆる点で例証として考えられるべきであり、限定的と考えられるべきではない。
【0077】
本明細書における任意の先行文献(又はそれに由来する情報)、又は公知の任意の物質への言及は、先行文献(又はそれに由来する情報)又は公知の物質が、本明細書が関する試みの分野における共通の一般知識の一部を形成するという承認若しくは了解、又は何らかの形態の示唆と解釈されず、またそうされるべきではない。
【0078】
本発明は、決して本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない後続する特定の実施例を参照することによって、以下に更により詳細に説明される。
【実施例】
【0079】
(実施例1 - ホエイタンパク質単離物の変性)
ホエイタンパク質単離物(WPI)及びホエイタンパク質濃縮物(WPC)を、10%(w/w)で水にそれぞれ溶解した。いくつかのWPI溶液のpHは、8に調整した。溶液(WPI、WPC及びWPI(pH8))を、穏やかなせん断下で、50℃にて30分かき混ぜた。続いて、混合物を1500bar(150mPa)で6回均質化して、ホエイタンパク質の変性を誘導した。氷嚢を使用して、均質化中に、60℃未満でWPI及びWPCの温度を維持した。
【0080】
(実施例2 - タンパク質水溶液の粒径分析)
実施例1で得られた未変性ホエイタンパク質単離物(uWPI)及び変性ホエイタンパク質単離物(mWPI)、並びに未変性ホエイタンパク質濃縮物(uWPC)及び変性ホエイタンパク質濃縮物(mWPC)の1.0%w/w溶液のタンパク質粒径は、Malvern Zetasizerを使用して動的光散乱の原理により測定した。後方散乱(BS)により、広範囲の粒径が検査される一方、前方散乱(FS)により、大きい粒径範囲が捕捉される。結果は、以下の表1に示されている。
【0081】
【0082】
すべての試料は多分散性であり、したがって表1に示したように、きわめて大きい粒子が存在すると、平均粒径(Z-Av)はかなり影響を受け得る。ホエイタンパク質単離物(mWPI)を変性すると、pHに関係なく、未変性のもの(uWPI)とは対照的にタンパク質粒径の著しい減少が認められる。これは、圧力変性が、可溶性タンパク質凝集物の大半を分離するためと考えられる。uWPCは、uWPIと同様の平均粒径を有するが、FSの結果で見られるように実質的に小さい可溶性タンパク質凝集物を有する。粒径減少に対する圧力変性の程度は、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)に対して作用した場合と同様である。WPI及びWPCの両方に対して、1500bar/6回の圧力変性で、平均タンパク質粒径においてほぼ2分の1の減少であった。
【0083】
(実施例3 - タンパク質水溶液の表面電荷分析)
実施例1において、元のpH(すなわち一切のpH調整なし)及びpH8の両方で得られたuWPI及びmWPIの1.0%w/w水溶液/水性分散体の表面電荷は、界面動電位を測定するZetasizerを使用して測定した。結果は、以下の表2に示されている。
【0084】
【0085】
mWPI溶液の表面電荷(ゼータ電位;ZP)におけるわずかな差は、可溶性タンパク質凝集物の減少に起因し得る。アルカリ性pH8を使用して、WPIの水和性を改善し、更に負の表面電荷を観察した。
【0086】
(実施例4 - タンパク質水溶液とトウモロコシ油の界面張力)
実施例1で得られたuWPI及びmWPIの1.0%w/w水溶液の界面張力は、
図1に示されている。
【0087】
トウモロコシ油と水の界面張力は、およそ27mN/mである。1.0%w/w WPI溶液は、トウモロコシ油と水の界面張力を効率的に低下させ、界面において良好な表面活性&吸着挙動が実証された。より小さい平均粒径を有し、良好に水和し(pH8)、ひいては界面に早く分散するmWPI溶液は、uWPI溶液とは対照的に界面張力値を更に低下させた。
【0088】
(実施例5 - タンパク質/油エマルション)
実施例1で得られたuWPI及びmWPIの1%w/w水溶液、並びに混合された天然トコフェロールを含有する精製マグロ油を使用して、水中油型エマルション(タンパク質対油の質量比1:3)を調製した。WPI溶液及びマグロ油の混合物は、UltraTurraxを10,000RPMで10分使用して粗均質化した。油球のメジアン径d(0.5)及び油球の平均サイズD[4.3](マイクロメートル単位)は、粒径分析計(Malvern Instruments社、Mastersizer MS3000)をレーザー回折原理に基づいて使用して測定し、結果は、以下の表3に示されている。表3に示されている「EAI」は、エマルション活性度指数を指し、「ESI」は、エマルション安定性指数を指す。EAIは、油-水界面におけるタンパク質の吸着能力を反映し、ESIは、エマルションの、例えば、軟凝集及びクリーミングに対する不安定性への抵抗を反映する。
【0089】
【0090】
油球のメジアン径d(0.5)及び油球の平均サイズD[4.3]は、mWPI(pH8)でより小さかった。いずれのパラメーターも、変性又はpH処理に関係なく、経時的に増加したが、変化の規模は、1週間の保存時間後にmWPI(pH8)で最小であった。これは、実施例4において示したmWPI(pH8)溶液の優れた界面活性、及び経時的に良好なエマルション安定性を与える吸着挙動に一致する。
【0091】
(実施例6 - 未変性及び変性タンパク質カプセル材料を使用した疎水性物質のカプセル化)
実施例1で得られた未変性ホエイタンパク質単離物(uWPI)及び変性ホエイタンパク質単離物(mWPI)を使用して、マイクロカプセル化組成物を調製した。混合された天然トコフェロールを含有する精製マグロ油を、疎水性コア材料として使用した。マイクロカプセル化組成物のそれぞれの配合は、以下の表4に示されている。各組成物の調製方法は、
図2に示されており、以下で詳細に論じられている。
【0092】
【0093】
<uWPI及び炭水化物カプセル材料を使用したマイクロカプセル化粉末化組成物(「uWPI-マイクロカプセル化粉末」)の調製>
WPI(15.00%(w/w))、デキストロース一水和物(14.50%(w/w))、乾燥グルコースシロップ(DE値30)(15.10%(w/w))、及びアスコルビン酸ナトリウム(5.35%(w/w))を水に溶かした。この水性相を穏やかなせん断下で50℃にて35分かき混ぜた。マグロ油を含有する抗酸化剤(50.05%(w/w))を次いで添加し、その後、エマルションを以下のように調製した:高せん断混合を10,000rpmで10~15分間使って、粗エマルションを生成させ、続いて400/200bar(合計600bar)で3回二段階均質化して、微細エマルションを生成させた。最終水中油エマルションは、注入口及び流出口温度がそれぞれ170及び90~100℃のベンチトップ噴霧乾燥機を使用して噴霧乾燥した。生成した粉末を保護ガスとしてのN2下でアルミニウムサシェに充填した。uWPI粉末を25℃にて保存してから使用した。uWPI粉末における合計油充填量は、50%(w/w)であった。
【0094】
<mWPI及び炭水化物カプセル材料を使用したマイクロカプセル化粉末化組成物(「mWPI-マイクロカプセル化粉末」)の調製>
WPIを、実施例1に記載されているように変性させた。mWPIデキストロース一水和物(14.50%(w/w))の水性相に、乾燥グルコースシロップ(DE値30)(15.10%(w/w))及びアスコルビン酸ナトリウム(5.35%(w/w)を50℃にて添加した。混合された天然トコフェロールを含有する精製マグロ油を添加し(50.05%(w/w))、その後、エマルションを以下のように調製した:高せん断混合を10,000rpmで10~15分間使って、粗エマルションを生成させ、続いて400/200bar(40/20mPa)(合計600bar(60mPa))で3回二段階均質化して、微細エマルションを生成させた。最終の水中油型エマルションを、注入口及び流出口温度の範囲がそれぞれ170及び90~100℃のベンチトップ噴霧乾燥機を使用して噴霧乾燥させた。生成された粉末を保護ガスとしてのN2下でアルミニウムサシェに充填した。mWPI粉末における合計油充填量は、50%(w/w)であった。
【0095】
<mWPI(pH8溶液)及び炭水化物カプセル材料を使用したマイクロカプセル化粉末化組成物(「mWPI-マイクロカプセル化粉末(pH8)」)の調製>
WPI溶液を、pH8に調整し、実施例1に記載されているように変性させた。mWPIデキストロース一水和物(14.50%(w/w))の水性相に、乾燥グルコースシロップ(DE値30)(15.10%(w/w))及びアスコルビン酸ナトリウム(5.35%(w/w)を50℃にて添加した。混合された天然トコフェロールを含有する精製マグロ油を添加し(50.05%(w/w))、その後、エマルションを以下のように調製した:高せん断混合を10,000rpmで10~15分間使って、粗エマルションを生成させ、続いて400/200bar(40/20mPa)(合計600bar(60mPa))で3回二段階均質化して、微細エマルションを生成させた。最終の水中油型エマルションは、注入口及び流出口温度の範囲がそれぞれ170及び90~100℃のベンチトップ噴霧乾燥機を使用して噴霧乾燥させた。生成された粉末を保護ガスとしてのN2下でアルミニウムサシェに充填した。mWPI粉末における合計油充填量は、50%(w/w)であった。
【0096】
(実施例7 - マイクロカプセル粉末中のマグロ油の表面遊離脂肪及び酸化安定性の評価)
マイクロカプセル化粉末の酸化安定性は、迅速且つ信頼性が高い計測法として、Oxipresを使用して分析した。合計4gの油を有するマイクロカプセル化粉末を容器中に封止し、酸素下において、5bar(0.5mPa)で70℃にて加熱した。容器中の酸素圧力が低下し始めた時間を誘導期間(IP)として記録し、これにより、酸化の発生が示唆された。
図3は、US7374788B2に記載されているメイラード反応生成物(MRP)とカプセル化されたオメガ-3油含有マイクロカプセル粉末と比較した、オメガ-3含有マイクロカプセル化粉末のOxipres分析を示す。
【0097】
表面遊離脂肪の百分率は、粉末を軽油に短時間(15分)さらして、表面遊離脂肪を抽出することによって測定した;壁材料/カプセル化油を、濾紙を使って除去し、「洗浄した」脂肪を含有する溶媒を次いで蒸発させて、残留質量、すなわち油を、使用された粉末の質量(g単位)で除算し、100%で乗算して、表面遊離脂肪%を得た。結果は、以下の表5に示されている。
【0098】
【0099】
図3に示されているように、誘導期間は、変性タンパク質カプセル材料を使用することにより大幅に長くなった。表5に示されているように、mWPIマイクロカプセル化粉末は、uWPIより著しく低い表面遊離脂肪(SFF)値を示す。mWPI(pH8)は、1%未満のSFFを有しており、これは、典型的な粉末の要件を満たす一方、高い(約50%)油充填量及び良好な酸化安定性も備えていた。すべての試料が、Oxipres(70℃、5bar)により、100時間を超えるIPで良好な酸化安定性を示した。
【0100】
良好な酸化安定性は、一次的及び二次的な酸化特性の観点から、以下の表6に更に示されており、マイクロカプセル化された粉末に、温度40℃への曝露を4週間施した。4週間の終わりまで、すべての試料は、過酸化物値(POV;5meq O2/Kg脂肪)及びp-アニシジン値(p-AV;20)に関して、十分に規格の範囲内であった。
【0101】
【0102】
マイクロカプセル化uWPI&mWPIの知覚的特性も、4週間の急速曝露期間にわたって評価した。結果は、
図4及び
図5に示されている。15例の最高スコアは、優れた品質/特性を示す。全体的品質(
図4)は、保存期間の終わりまでに、すべての試料にわたって、良好と格付けされ、知覚できる酸敗臭及び海産物臭、並びに香味はなかった(
図5)。
【国際調査報告】