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特表2022-553264変態速度が遅い鋼合金、変態速度が遅い鋼合金を製造する方法、および変態速度が遅い鋼合金からなる構成要素を有する水素貯蔵器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-22
(54)【発明の名称】変態速度が遅い鋼合金、変態速度が遅い鋼合金を製造する方法、および変態速度が遅い鋼合金からなる構成要素を有する水素貯蔵器
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20221215BHJP
   C22C 38/46 20060101ALI20221215BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C38/46
C21D1/18 P
C21D1/18 E
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022523263
(86)(22)【出願日】2020-10-28
(85)【翻訳文提出日】2022-04-18
(86)【国際出願番号】 EP2020080266
(87)【国際公開番号】W WO2021094088
(87)【国際公開日】2021-05-20
(31)【優先権主張番号】102019217369.1
(32)【優先日】2019-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】クンツ,マティアス
(72)【発明者】
【氏名】ミューレダー,フレドリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】ファイエク,パトリック
(57)【要約】
【課題】
本発明は、水素貯蔵器の水素が入れられる、または流れるように形成された構成要素のための変態速度が遅い鋼合金に関する。
【解決手段】
変態速度が遅い鋼合金が少なくとも300HVのビッカース硬さを有し、変態速度が遅い鋼合金が合金元素としてC、Si、Mn、P、S、Cr、Mo、Niおよび/またはVを含有し、合金元素の質量分率が、-C:少なくとも0.125%~最大で0.525%、-Si:0.0%~最大で0.375%、-Mn:0.0%~最大で0.375%、-P:0.0%~最大で0.0145%、-S:0.0%~最大で0.225%、-Cr:0.0%~最大で0.25%、-Mo:少なくとも0.81%~最大で4.05%、-Ni:少なくとも0.50%~最大で3.75%および-V:少なくとも0.15%~最大で0.45%である。さらに、本発明は、変態速度が遅い鋼合金を製造する方法、および変態速度が遅い鋼合金からなる構成要素を有する水素貯蔵器に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素貯蔵器の水素が入れられる、または流れるように形成された構成要素のための変態速度が遅い鋼合金であって、前記変態速度が遅い鋼合金が少なくとも300HVのビッカース硬さを有し、前記変態速度が遅い鋼合金が合金元素としてC、Si、Mn、P、S、Cr、Mo、Niおよび/またはVを含有する、変態速度が遅い鋼合金において、
前記合金元素の質量分率が、
-C:少なくとも0.125%~最大で0.525%、
-Si:0.0%~最大で0.375%、
-Mn:0.0%~最大で0.375%、
-P:0.0%~最大で0.0145%、
-S:0.0%~最大で0.0225%、
-Cr:0.0%~最大で0.25%、
-Mo:少なくとも0.81%~最大で4.05%、
-Ni:少なくとも0.50%~最大で3.75%および
-V:少なくとも0.15%~最大で0.45%
であることを特徴とする、変態速度が遅い鋼合金。
【請求項2】
前記合金元素の質量分率が、
-C:少なくとも0.1875%~最大で0.4375%、
-Si:少なくとも0.0075%~最大で0.3125%、
-Mn:少なくとも0.0075%~最大で0.3125%、
-P:少なくとも0.00225%~最大で0.01125%、
-S:少なくとも0.00225%~最大で0.01875%、
-Cr:少なくとも0.075%~最大で0.125%、
-Mo:少なくとも1.5%~最大で3.375%、
-Ni:少なくとも1.125%~最大で3.125%および
-V:少なくとも0.225%~最大で0.375%
であることを特徴とする、請求項1に記載の変態速度が遅い鋼合金。
【請求項3】
前記合金元素の質量分率が、
-C:少なくとも0.225%~最大で0.385%、
-Si:少なくとも0.009%~最大で0.275%、
-Mn:少なくとも0.009%~最大で0.275%、
-P:少なくとも0.0027%~最大で0.0099%、
-S:少なくとも0.0027%~最大で0.0165%、
-Cr:少なくとも0.09%~最大で0.11%、
-Mo:少なくとも1.8%~最大で2.92%、
-Ni:少なくとも1.35%~最大で2.75%および
-V:少なくとも0.27%~最大で0.33%
であることを特徴とする、請求項1または2に記載の変態速度が遅い鋼合金。
【請求項4】
前記合金元素の質量分率が、
-C:少なくとも0.25%~最大で0.35%、
-Si:少なくとも0.01%~最大で0.25%、
-Mn:少なくとも0.01%~最大で0.25%、
-P:少なくとも0.003%~最大で0.009%、
-S:少なくとも0.003%~最大で0.015%、
-Cr:0.1%、
-Mo:少なくとも2%~最大で2.7%、
-Ni:少なくとも1.5%~最大で2.5%および
-V:0.3%
であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の変態速度が遅い鋼合金。
【請求項5】
前記合金元素の質量分率が、
-C:0.25%または0.35%、
-Si:0.01%または0.25%、
-Mn:0.01%または0.25%、
-P:0.003%または0.009%、
-S:0.003%または0.015%
-Cr:0.1%、
-Mo:2%または2.7%、
-Ni:1.5%または2.5%および
-V:0.3%
であることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の変態速度が遅い鋼合金。
【請求項6】
前記変態速度が遅い鋼合金の残りの質量分率がFeによってなることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の変態速度が遅い鋼合金。
【請求項7】
前記変態速度が遅い鋼合金が二次炭化物を有することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の変態速度が遅い鋼合金。
【請求項8】
前記変態速度が遅い鋼合金が700MPaから1500MPaの範囲の引張強さを有することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の変態速度が遅い鋼合金。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の水素貯蔵器の水素が入れられる、または流れるように形成された構成要素のための変態速度が遅い鋼合金を製造する方法であって、前記変態速度が遅い鋼合金が空気で焼入れされ、および/または前記変態速度が遅い鋼合金が焼戻しされる、方法。
【請求項10】
水素が入れられる、または流れるように形成された少なくとも1つの構成要素を有する水素貯蔵器であって、前記少なくとも1つの構成要素が請求項1から8までのいずれか1項に記載の変態速度が遅い鋼合金からなる、水素貯蔵器。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
特許文献1は、優れた低温靭性および溶接熱影響ゾーンの靭性を有するという高強度鋼を開示する。高強度鋼は、質量で、C:0.02~0.10%、Si:最大で0.8%、Mn:1.5~2.5%、P:最大で0.015%、S:最大で0.003%、Ni:0.01~2.0%、Mo:0.2~0.8%、Nb:最大で0.009%、Ti:最大で0.030%、Al:最大で0.1%、N:最大で0.008%、ならびに任意的に、V:0.001~0.3%、Cu:0.01~1.0%、Cr:0.01~1.0%、Ca:0.0001~0.01%、SEM:0.0001~0.02%、および/またはMg:0.0001~0.006%の合金元素を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、下記の式により定義される鋼のP値が1.9~3.5の範囲にあり、鋼のミクロ組織が主にマルテンサイトとベイナイトから構成される:P=2.7C+0.4Si+Mn+0.8Cr+0.45Ni+Cu+2V+Mo-0.5。
【0002】
特許文献2は、少なくとも930MPaの引張強さを有する金属板を開示する。金属板は、表示される重量パーセントの下記の合金元素:0.05%~0.10%のC、1.7%~2.1%のMn、0.015%未満のP、0.003%未満のS、0.001%~0.006%のN、0.2%~1.0%のNi、0.01%~0.10%のNb、0.005%~0.03%のTi、および0.25%~0.6%のMo、0.01%~0.1%のV、1%未満のCr、1%未満のCu、0.6%未満のSi、0.06%未満のAl、0.002%未満のB、0.006%未満のCa、0.02%未満の希土類金属、および0.006%未満のMgを含み、残部が鉄と不可避的不純物である再熱鋼から製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】欧州特許第1375681号明細書
【特許文献2】独国特許出願公表第69834932T2号明細書
【発明の概要】
【0004】
第1の態様によれば、本発明は、水素貯蔵器の水素が入れられる、または流れるように形成された構成要素のための変態速度が遅い(umwandlungstraege)鋼合金に関し、変態速度が遅い鋼合金が少なくとも300HVのビッカース硬さを有し、変態速度が遅い鋼合金が合金元素としてC、Si、Mn、P、S、Cr、Mo、Niおよび/またはVを含有し、合金元素の質量分率が、
C:少なくとも0.125%~最大で0.525%、
Si:0.0%~最大で0.375%、
Mn:0.0%~最大で0.375%、
P:0.0%~最大で0.0145%、
S:0.0%~最大で0.0225%、
Cr:0.0%~最大で0.25%、
Mo:少なくとも0.81%~最大で4.05%、
Ni:少なくとも0.50%~最大で3.75%および
V:少なくとも0.15%~最大で0.45%
である。
【0005】
本発明の第1の態様による変態速度の遅い鋼合金の利点は、特に、これが空気で冷却もしくは焼入れされ得るが、それでも良好な強度と高い硬度に達することである。それによって、本発明の第1の態様による変態速度が遅い鋼合金は、焼入れのための、例えば油または水などの特別な媒体なしに熱処理を可能にする。
【0006】
他の媒体を用いる焼入れと比べて空気での焼入れは、部品が大型の場合に特に有利である。したがって変態速度が遅い鋼合金は、水素が入れられる、または流れるように形成されている水素貯蔵器の構成要素のために非常に良く適している。このような構成要素は、例えば水素を入れる、もしくは貯蔵するためのタンク、すなわち水素タンクであり得る。このような構成要素は、例えば水素が流れるもしくは運ばれる管でもあり得る。したがって、このような部品は、大抵の場合、比較的大きく寸法設定されている。それに対応して、このような構成要素が望むように良好な強度と高い硬度を達成するべく空気ではなく別の媒体で焼入れされる場合には製造に手間とコストがかかる。
【0007】
当然のことながら、本発明の第1の態様による変態速度が遅い鋼合金は、水素貯蔵器の水素が入れられる、または流れるように形成された構成要素に限定されず、別の目的および部品にも使用することができる。しかしながら、これが水素雰囲気中での使用に特に良く適していることが明らかになった。
【0008】
完全を期すためにのみ、合金元素名を以下に挙げておく:C:炭素、Si:ケイ素、Mn:マンガン、P:リン、S:硫黄、Cr:クロム、Mo:モリブデン、Ni:ニッケルおよびV:バナジウム。変態速度が遅い鋼合金の圧倒的な質量分率はFe:鉄からなる。
【0009】
合金元素の質量分率が、
C:少なくとも0.1875%~最大で0.4375%、
Si:少なくとも0.0075%~最大で0.3125%、
Mn:少なくとも0.0075%~最大で0.3125%、
P:少なくとも0.00225%~最大で0.01125%、
S:少なくとも0.00225%~最大で0.01875%、
Cr:少なくとも0.075%~最大で0.125%、
Mo:少なくとも1.5%~最大で3.375%、
Ni:少なくとも1.125%~最大で3.125%および
V:少なくとも0.225%~最大で0.375%であることが好ましい。
【0010】
これによって、空気での焼入れによりさらに高いビッカース硬さを達成するために、変態速度の遅い鋼合金を改質することができる。
【0011】
合金元素の質量分率が、
C:少なくとも0.225%~最大で0.385%、
Si:少なくとも0.009%~最大で0.275%、
Mn:少なくとも0.009%~最大で0.275%、
P:少なくとも0.0027%~最大で0.0099%、
S:少なくとも0.0027%~最大で0.0165%、
Cr:少なくとも0.09%~最大で0.11%、
Mo:少なくとも1.8%~最大で2.92%、
Ni:少なくとも1.35%~最大で2.75%および
V:少なくとも0.27%~最大で0.33%
であることがさらに好ましい。
【0012】
これによっても、空気での焼入れ後にさらに高いビッカース硬さを達成するために、変態速度が遅い鋼合金をさらに改質することができる。
【0013】
さらに、合金元素の質量分率が、
C:少なくとも0.25%~最大で0.35%、
Si:少なくとも0.01%~最大で0.25%、
Mn:少なくとも0.01%~最大で0.25%、
P:少なくとも0.003%~最大で0.009%、
S:少なくとも0.003%~最大で0.015%
Cr:0.1%、
Mo:少なくとも2%~最大で2.7%、
Ni:少なくとも1.5%~最大で2.5%および
V:0.3%
であることが好ましい。
【0014】
これによっても、空気での焼入れによりさらに高いビッカース硬さを達成するために、変態速度が遅い鋼合金をさらに改質することができる
【0015】
さらに、合金元素の質量分率が、
C:0.25%または0.35%、
Si:0.01%または0.25%、
Mn:0.01%または0.25%、
P:0.003%または0.009%、
S:0.003%または0.015%
Cr:0.1%、
Mo:2%または2.7%、
Ni:1.5%または2.5%および
V:0.3%
であることが好ましい。
【0016】
例えば、変態速度が遅い鋼合金は、C:0.25%、Si:0.25%、Mn:0.25%、P:0.009%、S:0.015%、Cr:0.1%、Mo:2.7%、Ni:2.5%およびV:0.3%の合金元素の質量分率であり得る。さらに例えば、変態速度が遅い鋼合金は、C:0.35%、Si:0.25%、Mn:0.25%、P:0.009%、S:0.015%、Cr:0.1%、Mo:2%、Ni:1.5%およびV:0.3%の合金元素の質量分率であり得る。これに加えて、例えば、変態速度が遅い鋼合金は、C:0.35%、Si:0.01%、Mn:0.01%、P:0.003%、S:0.003%、Cr:0.1%、Mo:2%、Ni:1.5%およびV:0.3%の合金元素の質量分率であり得る。
【0017】
さらに、変態速度が遅い鋼合金の残りの質量分率がFeによってなることが好ましい。その限りでは、変態速度が遅い鋼合金は他の合金元素を有していない。しかし注意すべきは、変態速度が遅い鋼合金が当然のことながら望まざる、しかし場合によっては、避けられない不純物を有し得るということである。
【0018】
さらに、変態速度が遅い鋼合金が二次炭化物を有することが好ましい。これらは、変態速度が遅い鋼合金の硬化時に析出され得る。特に、合金元素MoおよびVは、変態速度が遅い鋼合金の焼戻し熱処理時にこれらの二次炭化物の形成を可能にする。それによってビッカース硬さの40HV以上の増大を達成することができる。
【0019】
さらに、変態速度が遅い鋼合金が700MPaから1500MPaの範囲、特に800MPa~1200MPaの範囲の引張強さを有することが好ましい。変態速度が遅い鋼合金は、この引張強さの範囲の場合に、水素貯蔵器の構成要素を製造するために特に非常に良く適する。
【0020】
第2の態様によれば、本発明は、水素が入れられる、または流れるように形成された少なくとも1つの構成要素を有する水素貯蔵器に関し、少なくとも1つの構成要素は、本発明による変態速度が遅い鋼合金からなる。少なくとも1つの構成要素は、例えば水素が入れられる、もしくは貯蔵されるタンク、すなわち水素タンクであり得る。これに代えて、またはこれに加えて、少なくとも1つの構成要素は、例えば水素が流れる、もしくは運ばれる管であり得る。水素貯蔵器は、特に移動式水素貯蔵器であり得る。そのような移動式水素貯蔵器は、例えば燃料電池駆動装置を備える自動車において使用することができる。
【0021】
第3の態様によれば、本発明は、本発明による変態速度が遅い鋼合金を製造する方法に関し、変態速度が遅い鋼合金が空気で焼入れされ、および/または変態速度が遅い鋼合金が焼戻しされる。第1のステップにおいて、変態速度が遅い鋼合金がオーステナイト化され得る。第2のステップにおいて、変態速度が遅い鋼合金が空気で焼入れされ得る。第3のステップにおいて、変態速度が遅い鋼合金が焼戻しされ得る。焼戻し時の焼戻し温度は、例えば200℃~800℃、特に300℃~700℃、さらに特に400℃~650℃の範囲であり得る。例えば、焼戻し温度は約600℃であり得る。
【国際調査報告】