(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-22
(54)【発明の名称】加齢黄斑変性ならびに他の眼疾患および障害の治療のためのアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20221215BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20221215BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221215BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20221215BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20221215BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20221215BHJP
A61K 38/16 20060101ALN20221215BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C12N15/864 100Z
C12N5/10
A61K35/76
A61P27/02
A61K48/00
A61K38/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022523415
(86)(22)【出願日】2020-10-22
(85)【翻訳文提出日】2022-06-17
(86)【国際出願番号】 US2020056862
(87)【国際公開番号】W WO2021081203
(87)【国際公開日】2021-04-29
(32)【優先日】2019-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512075257
【氏名又は名称】アプライド ジェネティック テクノロジーズ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シャーマン,マーク
(72)【発明者】
【氏名】ティマース,エイドリアン
(72)【発明者】
【氏名】ニューマーク,ジュディス
(72)【発明者】
【氏名】ペノック,スティーヴン
(72)【発明者】
【氏名】ムレリ,ラクシャア
(72)【発明者】
【氏名】ソン,チュンジュアン
(72)【発明者】
【氏名】キーズ,リサ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4B065CA46
4C084AA13
4C084BA44
4C084MA58
4C084NA14
4C084ZA33
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA58
4C087NA14
4C087ZA33
(57)【要約】
本発明は、加齢黄斑変性および網膜の錐体細胞を侵す他の遺伝性疾患の治療のための単離されたプロモーター、導入遺伝子発現カセット、ベクター、キット、および方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切断型補体H因子(CFH)タンパク質をコードする核酸であって、該切断型CFHタンパク質が、CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP5、CCP6、CCP7、CCP8、CCP9、CCP10、CCP11、CCP12、CCP13、CCP14、CCP15、CCP16、CCP17、CCP18、CCP19およびCCP20からなる群より選択される5個以上の補体制御タンパク質モジュール(CCP)を含む、前記核酸。
【請求項2】
前記核酸が、CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP5、CCP6、CCP7、CCP8、CCP9、CCP10、CCP11、CCP12、CCP13、CCP14、CCP15、CCP18、CCP19およびCCP20を含むCFHタンパク質(tCFH1)をコードする、請求項1に記載の核酸。
【請求項3】
配列番号2または配列番号8を含む、請求項2に記載の核酸。
【請求項4】
配列番号2または配列番号8のヌクレオチド配列に対して少なくとも85%同一であるヌクレオチド配列を含む核酸。
【請求項5】
CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP18、CCP19およびCCP20を含むCFHタンパク質(tCFH2)をコードする、請求項1に記載の核酸。
【請求項6】
配列番号3を含む、請求項5に記載の核酸。
【請求項7】
配列番号3のヌクレオチド配列に対して少なくとも85%同一であるヌクレオチド配列を含む核酸。
【請求項8】
CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP5、CCP6、CCP7、CCP8、CCP9、CCP16、CCP17、CCP18、CCP19およびCCP20を含むCFHタンパク質(tCFH3)をコードする、請求項1に記載の核酸。
【請求項9】
配列番号4を含む、請求項8に記載の核酸。
【請求項10】
配列番号4のヌクレオチド配列に対して少なくとも85%同一であるヌクレオチド配列を含む核酸。
【請求項11】
CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP5、CCP6、CCP7、CCP18、CCP19およびCCP20を含むCFHタンパク質(tCFH4)をコードする、請求項1に記載の核酸。
【請求項12】
配列番号5を含む、請求項11に記載の核酸。
【請求項13】
配列番号5のヌクレオチド配列に対して少なくとも85%同一であるヌクレオチド配列を含む核酸。
【請求項14】
プロモーター;
請求項1~13のいずれか1項に記載の核酸;および
最小調節エレメント
を含む導入遺伝子発現カセット。
【請求項15】
前記核酸がヒト核酸である、請求項14に記載の発現カセット。
【請求項16】
請求項14または15に記載の発現カセットを含む核酸ベクター。
【請求項17】
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである、請求項16に記載のベクター。
【請求項18】
前記AAVベクターのカプシド配列の血清型およびITRの血清型が、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、およびAAV12からなる群より独立して選択される、請求項17に記載のベクター。
【請求項19】
前記カプシド配列の血清型がAAV2である、請求項18に記載のベクター。
【請求項20】
前記カプシド配列が突然変異体カプシド配列である、請求項18に記載のベクター。
【請求項21】
請求項16~20のいずれか1項に記載のベクターを含む哺乳動物細胞。
【請求項22】
プロモーターおよび請求項1~13のいずれか1項に記載の核酸を、アデノ随伴ウイルスベクターへと挿入するステップを含む、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを作製する方法。
【請求項23】
前記核酸がヒト核酸である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記AAVベクターのカプシド配列の血清型およびITRの血清型が、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、およびAAV12からなる群より独立して選択される、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
前記カプシド配列が突然変異体カプシド配列である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
請求項16~20のいずれか1項に記載のベクターを、それを必要とする被験体に投与し、それにより該被験体での眼疾患または障害を治療するステップを含む、眼疾患または障害を治療する方法。
【請求項27】
前記眼疾患または障害が補体経路の活性化に関連付けられる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記眼疾患または障害が網膜変性である、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記網膜変性が加齢黄斑変性(AMD)である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記AMDが湿潤性AMDである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記AMDが乾性AMDである、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記乾性AMDが早期型から進行型の乾性AMDである、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記眼疾患または障害が地図状萎縮(GA)である、請求項26に記載の方法。
【請求項34】
前記ベクターが網膜に投与される、請求項26~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
請求項16~20のいずれか1項に記載のベクターを個体の網膜へと投与するステップを含む、個体の目へと異種核酸を送達するための方法。
【請求項36】
請求項16~20のいずれか1項に記載のベクターおよび使用説明書を含むキット。
【請求項37】
前記ベクターの網膜送達のためのデバイスをさらに含む、請求項36に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年10月22日出願の米国特許仮出願第62/924,338号の合衆国法典第35巻第119条(e)に基づく利益を主張し、該出願の内容はその全体で参照により本明細書中に組み入れられる。
【0002】
配列表
本出願は、ASCII形式で電子的に提出され、かつその全体で参照により本明細書中に組み入れられる配列表を含む。2020年10月19日に作成された当該ASCIIコピーは119561-01720_SL.txtという名称であり、48,600バイトのサイズである。
【0003】
発明の分野
本発明は、被験体または細胞中で、単離されたポリヌクレオチドを発現するためのAAVベクターを含む、遺伝子療法の分野に関する。本開示はまた、核酸構築物、プロモーター、ベクター、およびポリヌクレオチドを含む宿主細胞、ならびに標的細胞、組織、臓器または生物に対して外因性DNA配列を送達する方法、ならびに加齢黄斑変性および他の眼疾患および障害の治療または予防での使用のための方法にも関する。
【背景技術】
【0004】
遺伝子療法は、遺伝子突然変異または遺伝子発現プロフィールでの異常により引き起こされる後天性疾患のいずれかに罹患した患者に対する臨床的帰結を改善することを目的とする。遺伝子療法は、障害、疾患、悪性腫瘍等をもたらし得る欠陥遺伝子または異常な調節もしくは発現(例えば、過小発現または過剰発現)から生じる医学的状態の治療または予防を含む。例えば、欠陥遺伝子により引き起こされる疾患または障害は、患者への修正的遺伝物質の送達により治療、予防もしくは改善することができるか、または、例えば、患者体内での遺伝物質の治療的発現を生じる患者への修正的遺伝物質を用いて、欠陥遺伝子を変化させるかもしくはサイレンシングすることにより、治療、予防もしくは改善することができるであろう。
【0005】
遺伝子療法の基礎は、例えば、正の機能獲得作用、負の機能喪失作用、または別の帰結を生じ得る、活性遺伝子産物(一部の場合には、導入遺伝子または治療的核酸と称される)を含む転写カセットを供給することである。そのような帰結は、抗体、機能的酵素、または融合タンパク質などの治療的タンパク質の発現に起因し得る。遺伝子療法はまた、他の因子により引き起こされる疾患または悪性腫瘍を治療するために用いることもできる。ヒトの単一遺伝子障害は、標的細胞への正常遺伝子の送達および発現により治療することができる。患者の標的細胞での修正的遺伝子の送達および発現は、遺伝子操作型ウイルスおよびウイルス遺伝子送達ベクターの使用を含む、多数の方法を介して行なうことができる。
【0006】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、パルボウイルス科に属し、より具体的にはディペンドパルボウイルス属を構成する。AAVから誘導されるベクター(すなわち、組み換えAAV(rAAV)またはAAVベクター)は、遺伝物質を送達するために魅力的であり、その理由は以下の通りである:(i) それらは、筋細胞およびニューロンをはじめとする広範囲の非分裂性および分裂性細胞タイプに感染(形質導入)することができ;(ii) ウイルス構造遺伝子を欠き、それによりウイルス感染に対する宿主細胞応答(例えば、インターフェロン媒介応答)が軽減され;(iii) 野生型ウイルスはヒトで非病原性であると考えられ;(iv) 宿主細胞ゲノムへとインテグレーションすることが可能である野生型AAVと比較して、複製欠損型AAVベクターはrep遺伝子を欠損し、かつ一般的にエピソームとして存在し、このことは挿入突然変異または遺伝毒性のリスクを限定し;および(v) 他のベクター系と比較して、AAVベクターは、一般的には比較的弱い免疫源であると考えられ、したがって、顕著な免疫応答を惹起せず(iiを参照されたい)、つまりベクターDNAの存続および、おそらくは、治療的導入遺伝子の長期的発現が得られる。
【0007】
加齢黄斑変性(AMD)は、先進国では高齢集団での不可逆的な失明の主な原因であり、60歳超の個体のうちの約15%が罹患する。推定6億人の個体が、この年齢層に入る。AMDの有病率は年齢と共に増加し;軽度または早期型は75歳以上の集団のうちの30%近くで生じ、進行型は約7%で生じる(Klein et al., Ophthalmol 1992; 99(6):933-943;Vingerling et al., Ophthalmol 1995 February; 102(2):205-210;Vingerling et al., Epidemiol Rev. 1995; 17(2):347-360)。AMDは、網膜色素上皮(RPE)および黄斑の光受容体の遅発性、慢性かつ進行性の変性である。臨床的には、AMDは、神経網膜および下層の組織の特殊化した領域である黄斑中で起こる変性性変化に起因する中心視力の進行性欠失により特徴付けられる。早期AMDは、RPEとブルッフ膜との間に生じる、AMDの発症に伴う特徴的な眼病変である、脂質およびタンパク質含有沈着物(ドルーゼン)を特徴とする。視覚機能は、通常は、暗順応での変化を別として、このステージでは最小限にしか妨げられない。
【0008】
いくつかの近年の研究が、AMDと補体カスケード中の主要タンパク質との関連を報告している。これらの研究により、ブルッフ膜(RPEと脈絡膜とを隔てるエラスチンおよびコラーゲンから構成される細胞外層)に沿ったドルーゼン内、およびドルーゼンに重なるRPE細胞内での、最終経路補体成分(C5、C6、C7、C8およびC9)および最終経路の活性化特異的補体タンパク質断片(C3b、iC3b、C3dgおよびC5b-9)ならびに種々の補体経路調節因子および阻害因子(H因子、I因子、D因子、CD55およびCD59を含む)が明らかになっている(Johnson et al., Exp Eye Res. 2000; 70:441-449;Johnson et al., Exp. Eye Res. 2001; 73:887-896;Mullins et al. FASEB J. 2000; 14:835-846;Mullins et al., Eye 2001; 15:390-395)。CFB、C2およびC3を含む補体関連遺伝子での突然変異が、AMDに対するリスク因子増大に関連づけられてきた。しかしながら、CFH遺伝子中の多型は、AMDに結び付けられた最も大きなリスク因子をもたらす。例えば、第二経路補体カスケードC3転換酵素の主要な阻害因子である、CFH中の402位でのチロシンからヒスチジンへのアミノ酸転移は、このY402H多型を保有する個体に対するAMDのリスクの6倍近い増大を生じる。
【0009】
H因子(FH)は、補体系の主要な調節因子として機能する多機能タンパク質である(Zipfel, 2001. Semin Thromb Hemost. 27:191-9)。H因子タンパク質活性は、以下のものを含む:(1) C反応性タンパク質(CRP)への結合性、(2) C3bへの結合性、(3) ヘパリンへの結合性、(4) シアル酸への結合性;(5) 内皮細胞表面への結合性、(6) 細胞性インテグリン受容体への結合性、(7) 微生物をはじめとする病原体への結合性、および(8) C3b補因子活性。HF1、CFHおよびHFとして知られるH因子遺伝子は、ヒト1番染色体の1q32位に位置する。1q32の特定の遺伝子座は、多数の補体経路関連遺伝子を含む。補体活性化調節因子(RCA)遺伝子クラスターと称されるこれらの遺伝子の一群は、H因子をコードする遺伝子、5種類のH因子関連遺伝子(それぞれ、FHR-1、FHR-2、FHR-3、FHR-4およびFHR-5またはCFHR1、CFHR2、CFHR3、CFHR4およびCFHR5)、および第XIII凝固因子のβサブユニットをコードする遺伝子を含む。H因子およびH因子関連遺伝子は、ほぼ全体が、短いコンセンサス反復(SCR)から構成される。H因子様タンパク質1(FHL1)と称されるCFHの天然に存在する切断型は、CFH遺伝子のオルタナティブスプライシングから生じる(Ripoche et al., Biochem J. 1988 Jan 15; 249(2):593-602)。FHL1は、固有の4個のアミノ酸C末端で終結する前の最初の7個の補体制御タンパク質(CCP)ドメインに関して、CFHと同一である。FHL1は、機能に対して必要なドメインのすべてを保持し、かつY402H多型も受ける。以前の研究により、RPE細胞によるFHL1発現が実証されている(Hageman et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2005 May 17; 102(20):7227-32;Weinberger et al., Ophthalmic Res. 2014; 51(2):59-66)。H因子およびCFHの天然に存在する切断型変異体形態であるFHL1は、それぞれ、SCR1~20および1~7から構成される。
【0010】
H因子cDNAの天然に存在する形態は、見た目の分子量155kDaを有する1231アミノ酸長のポリペプチドをコードする。ヒトH因子に関するcDNAおよびアミノ酸配列データは、登録番号Y00716.1の下にEMBL/GenBankデータライブラリー中で見出される。ヒトH因子の天然に存在する切断型は、GenBank登録番号X07523.1の下に見出される。
【0011】
現在、乾性AMDに対する承認された医学療法はなく、かつ進行型乾性AMDに対する利用可能な治療はない。補体第二経路(alternate complement pathway)の活性化および増幅での律速酵素(CFH活性の下流)であり、その機能不全がAMDの病因と関連付けられている補体D因子に対する選択的阻害剤であるラムパリズマブは、第III相臨床試験での主要評価項目を満たすことができなかった。
【0012】
AAVは、パルボウイルス科のメンバーである一本鎖非エンベロープ型DNAウイルスである。AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV6等をはじめとするAAVの異なる血清型が、組織分布の異なるプロフィールを示す。これらのAAVカプシドおよびカプシド変異体の多様な組織指向性が、AAVに基づくベクターを、肝臓、骨格筋、脳、網膜、心臓および脊髄に関するin vitroおよびin vivo両方での広範囲の遺伝子移入用途に対して使用されることを可能にしている(Wu, Z., et al., (2006) Molecular Therapy, 14: 316-327)。AAVベクターは、網膜での長期間の遺伝子発現を媒介することができ、かつ最小限の免疫応答を生起し、このことが、これらのベクターを目への遺伝子送達に対する魅力的な選択肢とする。しかしながら、AAVの最適なパッケージング容量は4.9kbであり、全部で20個の補体制御タンパク質モジュール(CCP)を含む全長CFH cDNAのサイズは3.69kbである。これにより、プロモーター、ポリアデニル化(SV40ポリA)シグナルおよび隣接するAAV逆位末端反復(ITR)などの必須の調節配列に対して、限られた余地しか残されない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Klein et al., Ophthalmol 1992; 99(6):933-943
【非特許文献2】Vingerling et al., Ophthalmol 1995 February; 102(2):205-210
【非特許文献3】Vingerling et al., Epidemiol Rev. 1995; 17(2):347-360
【非特許文献4】Johnson et al., Exp Eye Res. 2000; 70:441-449
【非特許文献5】Johnson et al., Exp. Eye Res. 2001; 73:887-896
【非特許文献6】Mullins et al. FASEB J. 2000; 14:835-846
【非特許文献7】Mullins et al., Eye 2001; 15:390-395
【非特許文献8】Zipfel, 2001. Semin Thromb Hemost. 27:191-9
【非特許文献9】Ripoche et al., Biochem J. 1988 Jan 15; 249(2):593-602
【非特許文献10】Hageman et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2005 May 17; 102(20):7227-32
【非特許文献11】Weinberger et al., Ophthalmic Res. 2014; 51(2):59-66
【非特許文献12】Wu, Z., et al., (2006) Molecular Therapy, 14: 316-327
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本開示は、眼疾患および障害、特に加齢黄斑変性の有効な治療または予防に対する必要性に対処し、AAV治療薬でのCFH遺伝子を用いるサイズ制約の難題にさらに対処する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
CFHは大型の遺伝子であり、すべての必要なエレメントと組み合わせる場合には、AAV遺伝子療法で用いるには歴史的には大き過ぎる。本開示は、この難題を解決し、rAAVのパッケージング容量(4.9kb未満)内にCFH発現カセットを収めながら、野生型CFHの生物学的機能を保持するCFH cDNAの遺伝子操作型改変を記載する。本明細書中に記載される技術は、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターからのCFHの発現による、加齢黄斑変性ならびに他の眼疾患および障害の治療または予防のための方法および組成物に関する。
【0016】
第1の態様では、本開示は、切断型補体H因子(CFH)タンパク質をコードする核酸を提供し、このとき、切断型CFHタンパク質は、CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP5、CCP6、CCP7、CCP8、CCP9、CCP10、CCP11、CCP12、CCP13、CCP14、CCP15、CCP16、CCP17、CCP18、CCP19およびCCP20からなる群より選択される5個以上の補体制御タンパク質モジュール(CCP)を含む。
【0017】
一部の態様に従えば、本開示は、配列番号1のヌクレオチド配列に対して少なくとも85%同一であるヌクレオチド配列を含む核酸を提供する。一部の実施形態に従えば、核酸は、CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP5、CCP6、CCP7、CCP8、CCP9、CCP10、CCP11、CCP12、CCP13、CCP14、CCP15、CCP18、CCP19およびCCP20を含むCFHタンパク質(tCFH1)をコードする。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号1を含む。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号1からなる。
【0018】
一部の態様に従えば、本開示は、配列番号2のヌクレオチド配列に対して、少なくとも85%同一、少なくとも90%同一、少なくとも91%同一、少なくとも92%同一、少なくとも93%同一、少なくとも94%同一、少なくとも95%同一、少なくとも96%同一、少なくとも97%同一、少なくとも98%同一、少なくとも99%同一であるヌクレオチド配列を含む核酸を提供する。一部の態様に従えば、本開示は、配列番号8のヌクレオチド配列に対して、少なくとも85%同一、少なくとも90%同一、少なくとも91%同一、少なくとも92%同一、少なくとも93%同一、少なくとも94%同一、少なくとも95%同一、少なくとも96%同一、少なくとも97%同一、少なくとも98%同一、少なくとも99%同一であるヌクレオチド配列を含む核酸を提供する。一部の実施形態に従えば、核酸は、CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP5、CCP6、CCP7、CCP8、CCP9、CCP10、CCP11、CCP12、CCP13、CCP14、CCP15、CCP18、CCP19およびCCP20を含むCFHタンパク質(tCFH1)をコードする。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号2を含む。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号2からなる。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号8を含む。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号8からなる。
【0019】
一部の態様に従えば、本開示は、配列番号3のヌクレオチド配列に対して、少なくとも85%同一、少なくとも90%同一、少なくとも95%同一、少なくとも96%同一、少なくとも97%同一、少なくとも98%同一、少なくとも99%同一であるヌクレオチド配列を含む核酸を提供する。一部の実施形態に従えば、核酸は、CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP18、CCP19およびCCP20を含むCFHタンパク質(tCFH2)をコードする。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号3を含む。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号3からなる。
【0020】
一部の態様に従えば、本開示は、配列番号4のヌクレオチド配列に対して、少なくとも85%同一、少なくとも90%同一、少なくとも95%同一、少なくとも96%同一、少なくとも97%同一、少なくとも98%同一、少なくとも99%同一であるヌクレオチド配列を含む核酸を提供する。一部の実施形態に従えば、核酸は、CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP5、CCP6、CCP7、CCP8、CCP9、CCP16、CCP17、CCP18、CCP19およびCCP20を含むCFHタンパク質(tCFH3)をコードする。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号4を含む。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号4からなる。
【0021】
一部の態様に従えば、本開示は、配列番号5のヌクレオチド配列に対して、少なくとも85%同一、少なくとも90%同一、少なくとも95%同一、少なくとも96%同一、少なくとも97%同一、少なくとも98%同一、少なくとも99%同一であるヌクレオチド配列を含む核酸を提供する。一部の実施形態に従えば、核酸は、CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP5、CCP6、CCP7、CCP18、CCP19およびCCP20を含むCFHタンパク質(tCFH4)をコードする。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号5を含む。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号5からなる。
【0022】
一部の態様に従えば、本開示は、配列番号6のヌクレオチド配列に対して、少なくとも85%同一、少なくとも90%同一、少なくとも95%同一、少なくとも96%同一、少なくとも97%同一、少なくとも98%同一、少なくとも99%同一であるヌクレオチド配列を含む核酸を提供する。一部の態様に従えば、本開示は、配列番号6のヌクレオチド配列からなる核酸を特徴とする。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号6からなる。
【0023】
一部の態様に従えば、本開示は、プロモーター、本明細書中の態様および実施形態のうちのいずれか1つの核酸、および最小調節エレメントを含む導入遺伝子発現カセットを提供する。一部の実施形態に従えば、核酸は、ヒト核酸である。一部の実施形態に従えば、本開示は、本明細書中の態様および実施形態のうちのいずれかの発現カセットを含む核酸ベクターを提供する。一部の実施形態に従えば、ベクターはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。一部の実施形態に従えば、該AAVベクターのカプシド配列の血清型およびITRの血清型は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、およびAAV12からなる群より独立して選択される。一部の実施形態に従えば、カプシド配列の血清型はAAV2である。一部の実施形態に従えば、カプシド配列は突然変異体カプシド配列である。
【0024】
一部の態様に従えば、本開示は、本明細書中の態様または実施形態のうちのいずれか1つのベクターを含む哺乳動物細胞を提供する。
【0025】
一部の態様に従えば、本開示は、プロモーターおよび本明細書中の態様または実施形態のうちのいずれか1つの核酸を、アデノ随伴ウイルスベクターへと挿入するステップを含む、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを作製する方法を提供する。一部の実施形態に従えば、核酸はヒト核酸である。一部の実施形態に従えば、該AAVベクターのカプシド配列の血清型およびITRの血清型は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、およびAAV12からなる群より独立して選択される。一部の実施形態に従えば、カプシド配列は突然変異体カプシド配列である。
【0026】
一部の態様に従えば、本開示は、本明細書中の態様または実施形態のうちのいずれか1つのベクターを、それを必要とする被験体に投与し、それにより被験体での眼疾患または障害を治療するステップを含む、眼疾患または障害を治療する方法を提供する。一部の実施形態に従えば、眼疾患または障害は、補体経路の活性化に関連付けられる。一部の実施形態に従えば、眼疾患または障害は網膜変性である。一部の実施形態に従えば、網膜変性は加齢黄斑変性(AMD)である。一部の実施形態に従えば、AMDは湿潤性AMDである。一部の実施形態に従えば、AMDは乾性AMDである。一部の実施形態に従えば、乾性AMDは進行型乾性AMDである。一部の実施形態に従えば、本開示は、本明細書中の態様または実施形態のうちのいずれか1つのベクターを、それを必要とする被験体に投与し、それにより被験体での眼疾患または障害を予防するステップを含む、眼疾患または障害を予防する方法を提供する。一部の実施形態に従えば、眼疾患または障害は、補体経路の活性化に関連付けられる。一部の実施形態に従えば、眼疾患または障害は網膜変性である。一部の実施形態に従えば、網膜変性は加齢黄斑変性(AMD)である。一部の実施形態に従えば、AMDは湿潤性AMDである。一部の実施形態に従えば、眼疾患または障害は地図状萎縮(GA)である。
【0027】
一部の実施形態に従えば、ベクターは、眼送達経路により投与される。一部の実施形態に従えば、ベクターは、網膜に投与される。一部の実施形態に従えば、ベクターは、網膜下に投与される。一部の実施形態に従えば、ベクターは、脈絡膜上に投与される。一部の実施形態に従えば、ベクターは、硝子体内に投与される。
【0028】
一部の態様に従えば、本開示は、個体の目に、例えば、個体の網膜下に、本明細書中の態様および実施形態のうちのいずれか1つのベクターを投与するステップを含む、個体の目に異種核酸を送達するための方法を提供する。
【0029】
一部の態様に従えば、本開示は、本明細書中の態様および実施形態のうちのいずれか1つのベクター、および使用説明書を含むキットを提供する。一部の実施形態に従えば、キットは、ベクターの眼送達のためのデバイスをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1Aは、全長ヒトCFH(3696bp)の20個の補体制御タンパク質モジュール(CCP)を示す模式図である。CCPモジュールは、楕円として示される。一部のCCPは、示される通りの他のタンパク質に対する特定された結合部位を有する。構築物pTR-CBA-flCFHは、全長ヒトCFHを含む。AMDに対する高リスク多型Y402Hは、天然に存在する変異体FHL-1にも含まれるCCP7に位置する。
図1Bは、様々なCCPを欠失させるために遺伝子操作されたCFH構築物を示す模式図である。構築物pTR-smCBA-tCFH1は、CCP16~17が欠失した全長ヒトCFHを含む。構築物pTR-smCBA-tCFH2は、CCP5~17が欠失した全長ヒトCFHを含む。構築物pTR-smCBA-tCFH3は、CCP10~15が欠失した全長ヒトCFHを含む。構築物pTR-smCBA-tCFH4は、CCP8~17が欠失した全長ヒトCFHを含む。構築物pTR-CBA-FHL-1は、天然に存在する変異体FHL-1を含む。2種類の構築物tCFH2およびtCFH4は、補体カスケード活性に対して重要であることが公知のCCPを欠失させるために遺伝子操作された。
【
図2】ヒト胎児腎臓293(HEK293)細胞のプラスミドトランスフェクション後のCFH変異体の発現を示すグラフである。HEK293細胞は、遺伝子操作型CFH変異体(
図1Aに示される通りのpTR-CFH変異体)を含むプラスミドを用いてトランスフェクションされた。馴化培地および細胞溶解物をトランスフェクションの48時間後に回収し、アッセイするまで-80℃で保存した。CFH濃度(ng/mL)を、溶解物中で測定した。
【
図3】CFH変異体によるヒト補体成分C3b(C3b)の切断をアッセイするための抗C3/C3b抗体を用いるウエスタンブロットの結果を示す図である。HEK293細胞をトランスフェクションし、細胞溶解物を、
図2に記載される通りに保存した。
図3は、効率的な切断がtCFH1レーン(レーン6、四角で示される)で観察されたことを示す。切断は、CFH変異体smCBA-tCFH2およびsmCBA-tCFH4によって生じないか、または低かった。結果に基づいて、以下のCFH変異体がAAV生成のために選択された: (1) pTR-smCBA-flCFH;(2) pTR-smCBA-tCFH1;(3) pTR-CBA-tCFH3;(4) pTR-CBA-FHL-1。
【
図4】HEK293細胞のAAV感染後のCFH変異体の発現を示すグラフである。HEK293細胞を、1×10
4の感染多重度(MOI)を用いて感染させた。感染から72時間後に培地を回収し、CFH濃度(ng/mL)を培地中で測定した。グラフに示される通り、HEK293細胞のAAV-CFH感染の72時間後に、遺伝子操作型CFH構築物の頑強な発現が見られた。
【
図5】
図4に記載される通りのAAV感染から72時間後の細胞培地中で検出した場合の、CFH変異体によるC3bの切断をアッセイするための、抗C3/C3b抗体を用いるウエスタンブロットの結果を示す図である。
図5に示される通り、C3bの切断は、FHL-1の場合に最も効率的であり、tCFH1およびflCFHがそれに続いた。バックグラウンドレベルのC3b切断のアーチファクトがレーン18(FBS)で観察され;このアーチファクトは、レーン17(DMEM/FBS)には存在しなかったことが注記される。
【
図6】網膜下(SubR)注入後のcfh
-/-マウスでのtCFH1またはFHL-1の発現を示す表である。CFH変異体FHL-1およびtCFH1の両方が、cfh
-/-マウスでのrAAVベクターの網膜下投薬後に発現される。表中の結果に示される通り、FHL-1発現での用量応答が観察された。一部の動物は、FHL-1またはtCFH1の発現に関して陰性であり、これは注入の失敗に起因した可能性があった。RPE/脈絡膜でのtCFH1またはFHL-1の発現レベルは、神経網膜でのレベルよりも高いことが見出された。
【
図7A】tCFH1変異体を注入されたcfh
-/-マウスでのB因子(FB)補体結合(FBの検出)を測定するためのウエスタンブロットの結果を示す図である。
図7Aは、tCFH1を注入したcfh
-/-マウスでのB因子結合(factor B fixation)を示す。
図7Aおよび
図7Bに示される結果は、rAAV-tCFH1網膜下注入により誘導されるtCFH1発現は、RPE/脈絡膜中でB因子(FB)を固定(fix)することができることを示す。CFH変異体FHL-1は、FB結合を示さなかった。これらの結果は、rAAVにより発現されるtCFH1の生物学的機能性を支持し、かつAAVにより発現されるCFH変異体が補体結合を示す最初のものである。
【
図7B】tCFH1変異体を注入されたcfh
-/-マウスでのB因子(FB)補体結合(FBの検出)を測定するためのウエスタンブロットの結果を示す図である。
図7Bは、tCFH1およびFHL-1発現を示す。
図7Aおよび
図7Bに示される結果は、rAAV-tCFH1網膜下注入により誘導されるtCFH1発現は、RPE/脈絡膜中でB因子(FB)を固定(fix)することができることを示す。CFH変異体FHL-1は、FB結合を示さなかった。これらの結果は、rAAVにより発現されるtCFH1の生物学的機能性を支持し、かつAAVにより発現されるCFH変異体が補体結合を示す最初のものである。
【
図8A】ビヒクルを注入されたcfh
-/-マウスからの網膜電図(ERG)試験の結果を示す図である。
【
図8B】tCFH1変異体中間用量を注入されたcfh
-/-マウスでの網膜電図(ERG)試験の結果を示す図である。
【
図9】群1~6のそれぞれに対する左目(注入)および右目(未注入)由来の眼組織のin vivo断層像の光コヒーレンストモグラフィーの結果を示す図である。
【
図10】群1~6のそれぞれに対する左目(注入)および右目(未注入)での眼組織の組織学検査の結果を示す図である。
【
図11】低用量、中間用量および高用量でtCFH1変異体を注入されたcfh
-/-マウスでのtCFHタンパク質発現を測定するためのウエスタンブロットの結果を示す図である。
【
図12】様々な用量でtCFH1変異体を注入されたcfh
-/-マウスでのB因子(FB)補体結合(FBの検出)を測定するためのウエスタンブロットの結果を示す図である。
【
図13】rAAV-CFH変異体の機能性を評価するためのin vitro溶血実験からの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
I. 定義
本開示は、本明細書中に記載される特定の方法論、プロトコール、細胞株、ベクター、または試薬に限定されず、なぜなら、それらは変更できるからである。さらに、本明細書中で用いられる用語は、特定の実施形態を説明するのみの目的のためのものであり、本開示の範囲を限定することを意図しない。
【0032】
そうでないと定義されない限り、本明細書中で用いられるすべての技術用語および科学用語ならびにいずれかの頭字語は、本発明の分野の当業者により通常理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中に記載されるものと類似または等価ないかなる方法および材料も本開示の実践で用いることができるが、例示的方法、デバイス、および材料が、本明細書中に記載される。
【0033】
そうでないと定義されない限り、本明細書中で用いられるすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する分野の当業者により通常理解される意味を有する。以下の参考文献は、本開示中で用いられる用語のうちの多数の一般的定義を、当業者に提供する:Singleton et al., Dictionary of Microbiology and Molecular Biology (2nd ed. 1994); The Cambridge Dictionary of Science and Technology (Walker ed., 1988);The Glossary of Genetics, 5th Ed., R. Rieger et al. (eds.), Springer Verlag (1991);およびHale & Marham, The Harper Collins Dictionary of Biology (1991)。本明細書中で用いる場合、以下の用語は、特に明記しない限り、下記でそれらのものとされる意味を有する。
【0034】
冠詞「a」および「an」は、該冠詞の文法的目的語のうちの1つまたは2つ以上(すなわち、少なくとも1つ)を意味するために本明細書中で用いられる。例えば、「an element」とは、1つの要素または2つ以上の要素を意味する。
【0035】
用語「が挙げられる」(including)は、語句「限定するものではないが~が挙げられる」を意味するために本明細書中で用いられ、かつこの語句と相互に交換可能に用いられる。
【0036】
用語「または」は、文脈がそうでないことを明らかに示さない限り、用語「および/または」を意味するために用いられ、かつこの用語と相互に交換可能に用いられる。
【0037】
用語「など」(such as)は、語句「限定するものではないが、~など」を意味するために本明細書中で用いられ、かつこの語句と相互に交換可能に用いられる。
【0038】
本明細書中で用いる場合、「投与する」、「投与すること」、「投与」等は、生物学的作用が望まれる部位への治療剤または医薬組成物の送達を可能にするために用いられる方法を意味することが意図される。特定の実施形態に従えば、これらの方法は、目への網膜下注入、脈絡膜上注入または硝子体内注入を含む。
【0039】
本明細書中で用いる場合、用語「担体」とは、いずれかおよびすべての溶媒、分散媒、ビヒクル、コーティング剤、希釈剤、抗細菌剤および抗真菌剤、等張化剤および吸収遅延剤、緩衝剤、担体溶液、懸濁液、コロイドなどを含むことを意味する。製薬上活性な物質に対するそのような媒体および薬剤の使用は、当技術分野で周知である。補助的有効成分もまた、組成物中に組み込むことができる。語句「製薬上許容される」とは、宿主に投与される際に、毒性、アレルギー性、または同様の有害な反応を生じない、分子実体および組成物を意味する。
【0040】
本明細書中で用いる場合、用語「発現ベクター」、「ベクター」または「プラスミド」は、核酸コード配列の一部または全部が、転写されることが可能であり、かつ遺伝子療法のためにつくられている、遺伝子産物をコードする核酸またはポリヌクレオチドを含む、AAVまたはrAAVベクターをはじめとする、いずれかのタイプの遺伝子構築物を含むことができる。転写産物は、タンパク質へと翻訳され得る。一部の場合には、転写産物が部分的に翻訳されるかまたは翻訳されないことができる。特定の実施形態では、発現は、遺伝子の転写および遺伝子産物へのmRNAの翻訳の両方を含む。他の実施形態では、発現は、対象となる遺伝子をコードする核酸の転写のみを含む。発現ベクターはまた、標的細胞でのタンパク質の発現を促進するために、コード領域に作動可能に連結された制御エレメントも含むことができる。制御エレメントと、発現のためにそれに機能的に連結されている遺伝子または遺伝子群との組み合わせは、一部の場合には「発現カセット」と称されることができる。
【0041】
本明細書中で用いる場合、用語「隣接する」(flanking)とは、別の核酸配列に対する、ある核酸配列の相対的位置を意味する。一般的に、配列ABCの中では、BにはAおよびCが隣接している。配置AxBxCについても同じことが言える。つまり、隣接配列は、隣接される配列に先立つかまたはその後に続くが、隣接される配列に連続的である必要、またはすぐに隣り合っている必要はない。
【0042】
本明細書中で用いる場合、用語「遺伝子送達」とは、外来性DNAが、遺伝子療法の適用のために宿主細胞に移入されるプロセスを意味する。
【0043】
本明細書中で用いる場合、用語「異種」とは、比較される対象であるかまたは誘導されるかもしくは組み込まれる対象である実体の残りの部分とは遺伝子型が異なる実体に由来することを意味する。例えば、異なる細胞タイプへと遺伝子操作技術により導入されるポリヌクレオチドは、異種ポリヌクレオチドである(かつ、発現される場合には、異種ポリペプチドをコードし得る)。同様に、ウイルスベクターへと組み込まれる細胞性配列(例えば、遺伝子またはその一部分)は、ベクターに対しては異種ヌクレオチド配列である。
【0044】
本明細書中で用いる場合、用語「増加する」、「強化する」、「上昇する」(および類似の用語)とは、一般的に、天然の、予測された、もしくは平均に対する、または対照状態に対する、濃度、レベル、機能、活性、または挙動の、直接的または間接的な、増加の作用を意味する。
【0045】
本明細書中で用いる場合、「逆位末端反復」または「ITR」配列とは、反対向きである、ウイルスゲノムの末端に見出される比較的短い配列を意味することが意図される。「AAV逆位末端反復(ITR)」配列は、当技術分野で十分に理解される用語であり、生来型一本鎖AAVゲノムの両端に存在する約145ヌクレオチドの配列である。ITRの最も外側の145ヌクレオチドは、2つの選択的な向きのうちのいずれかで存在することができ、これにより、異なるAAVゲノム間、および単一のAAVゲノムの2つの末端の間での、不均一性がもたらされる。最も外側の145ヌクレオチドはまた、自己相補的な数箇所の比較的短い領域(A、A'、B、B'、C、C'およびD領域と指定される)も含み、これにより、ITRのこの部分の内部で鎖内塩基対形成が生じることが可能になる。
【0046】
「野生型ITR」、「WT-ITR」または「ITR」とは、AAVまたは、例えば、Rep結合活性およびRepニック化能力を保持する他のディペンドウイルス(dependovirus)中に天然に存在するITR配列の配列を意味する。いずれかのAAV血清型に由来するWT-ITRのヌクレオチド配列は、遺伝的コードの縮重またはドリフトに起因して、カノニカルな天然に存在する配列とは若干異なる場合があり、したがって、本明細書中での使用のために包含されるWT-ITR配列は、生成プロセス中に生じる天然に存在する変化(例えば、複製エラー)の結果としてのWT-ITR配列を含む。
【0047】
本明細書中で用いる場合、用語「末端反復」または「TR」は、いずれかのウイルス末端反復または少なくとも1箇所の最小必須複製起点および回文ヘアピン構造を含む領域を含む合成配列を含む。Rep結合性配列(「RBS」)(RBE(Rep結合性エレメント)とも称される)および末端分離部位(「TRS」)は一緒になって、「最小必須複製起点」を構成し、つまり、TRは少なくとも1箇所のRBSおよび少なくとも1箇所のTRSを含む。ポリヌクレオチド配列の所与のストレッチ内での互いに逆向きの相補体であるTRは、典型的には、それぞれ「逆位末端反復」または「ITR」と称される。ウイルスの文脈では、ITRは、複製、ウイルスパッケージング、インテグレーションおよびプロウイルスレスキューを媒介する。
【0048】
用語「in vivo」とは、多細胞動物などの生物中または生物内で起きるアッセイまたはプロセスを意味する。本明細書中に記載される態様のうちの一部では、細菌などの単細胞生物が用いられる場合、方法または使用が「in vivo」で起こると言われ得る。用語「ex vivo」とは、多細胞動物または植物の身体の外側である無傷の膜を有する生存細胞、例えば、外植片、初代細胞および細胞株、形質転換された細胞株をはじめとする培養細胞、ならびに抽出された組織または細胞(とりわけ、血液細胞を含む)を用いて行なわれる方法および使用を意味する。用語「in vitro」とは、細胞抽出物などの、無傷の膜を有する細胞の存在を必要としないアッセイおよび方法を意味し、かつ細胞または細胞系を含まない媒体(細胞抽出物など)などの非細胞系中のプログラム可能な合成的な生物学的回路の導入を指すことができる。
【0049】
本明細書中で用いる場合、「単離された」分子(例えば、核酸またはタンパク質)または細胞とは、それが特定されており、かつその天然の環境の構成要素から分離および/または回収されていることを意味する。
【0050】
本明細書中で用いる場合、「最小調節エレメント」とは、標的細胞中の遺伝子の有効な発現のために必要であり、かつ、したがって、導入遺伝子発現カセット中に含めるべき調節エレメントを意味することが意図される。そのような配列としては、例えば、プロモーターまたはエンハンサー配列、プラスミドベクター内でのDNA断片の挿入を促進するポリリンカー配列、ならびにmRNA転写産物のイントロンスプライシングおよびポリアデニル化を担う配列が挙げられる。色覚異常に対する遺伝子療法治療の最近の例では、発現カセットは、ポリアデニル化部位、スプライシングシグナル配列、およびAAV逆位末端反復の最小調節エレメントを含んでいた。例えば、Komaromy et al.(Hum Mol Genet. 2010 Jul 1; 19(13): 2581-2593)を参照されたい。
【0051】
本明細書中で用いる場合、用語「最小化する」、「低減する」、「減少させる」および/または「阻害する」(および類似の用語)とは、一般的に、天然の、予測された、もしくは平均に対する、または対照状態に対する、濃度、レベル、機能、活性、または挙動の、直接的または間接的な、減少の作用を意味する。
【0052】
本明細書中で用いる場合、「核酸」または「核酸分子」とは、例えば、DNA分子(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)などの、単量体ヌクレオチドの鎖から構成される分子を意味することが意図される。核酸は、例えば、プロモーター、CFH遺伝子もしくはその一部分、または調節エレメントをコードすることができる。核酸分子は、一本鎖または二本鎖であり得る。「CFH核酸」とは、CFH遺伝子もしくはその一部分、またはCFH遺伝子の機能的変異体もしくはその一部分を含む核酸を意味する。遺伝子の機能的変異体としては、例えば、サイレント突然変異、単一ヌクレオチド多型、ミスセンス突然変異、および遺伝子機能を顕著に変化させない他の突然変異または欠失などの、重大でない変異を有する遺伝子の変異体が挙げられる。
【0053】
DNA鎖およびRNA鎖の非対称的な末端は5'(ファイブプライム)末端および3'(スリープライム)末端と称され、5'末端は末端リン酸基を有し、かつ3'末端は末端ヒドロキシル基を有する。ファイブプライム(5')末端は、その末端に、デオキシリボースまたはリボースの糖環中の5番目の炭素を有する。核酸は、5'から3'方向にin vivoで合成され、なぜなら、新たな鎖を組み立てるために用いられるポリメラーゼは、ホスホジエステル結合を介して、3'-ヒドロキシル(-OH)基へとそれぞれの新たなヌクレオチドを連結させるからである。
【0054】
本明細書中で用いる場合、用語「核酸構築物」とは、天然に存在する遺伝子から単離されているか、またはそうでなければ天然に存在しないであろう様式で核酸のセグメントを含むために改変されているか、または合成である、一本鎖または二本鎖のいずれかである核酸分子を指す。核酸構築物との用語は、核酸構築物が本開示のコード配列の発現のために必要である制御配列を含む場合、用語「発現カセット」と同義である。
【0055】
特定のCFHタンパク質(その断片および一部分を含む)を「コードする」DNA配列は、特定のRNAおよび/またはタンパク質へと転写される核酸配列である。DNAポリヌクレオチドは、タンパク質へと翻訳されるRNA(mRNA)をコードすることができるか、またはDNAポリヌクレオチドは、タンパク質へと翻訳されないRNA(例えば、tRNA、rRNA、またはDNA標的化RNA;「非コード」RNAまたは「ncRNA」とも称される)をコードすることができる。
【0056】
本明細書中で用いる場合、用語「作動可能に連結された」または「機能的に連結された」または「カップリングされた」とは、遺伝的エレメントの並置を意味することができ、このとき、エレメント同士は、予測される様式でそれらが作動することを許容する関係にある。例えば、プロモーターがコード配列の転写の開始を助ける場合、プロモーターは、コード領域に作動可能に連結されていることができる。この機能的関係が維持される限り、プロモーターとコード領域との間に挟まれた残基があり得る。
【0057】
本明細書中で用いる場合、参照ポリペプチドまたは核酸配列に対する「配列同一性パーセント(%)」は、配列をアライメントするステップ、および、必要な場合に、最大の配列同一性パーセントを達成するためにギャップを導入するステップの後での、かついかなる保存的置換も配列同一性の一部分と見なさない、参照ポリペプチドまたは核酸配列中のアミノ酸残基またはヌクレオチドと同一である、候補配列中のアミノ酸残基またはヌクレオチドの割合(%)として定義される。アミノ酸または核酸配列同一性パーセントを決定する目的のためのアライメントは、例えば、公衆に利用可能なコンピューターソフトウェアプログラム(例えば、Current Protocols in Molecular Biology(Ausubel et al., eds., 1987)の補遺30、7.7.18節、Table 7.7.1に記載されるもの、BLAST、BLAST-2、ALIGNまたはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアを含む)を用いて、当技術分野での技能の範囲内である様々な様式で達成できる。アライメントプログラムの例は、ALIGN Plus(Scientific and Educational Software, Pennsylvania)である。当業者は、比較対象の配列の全長にわたって最大のアライメントを達成するために必要ないずれかのアルゴリズムをはじめとする、アライメントを測定するための適切なパラメーターを決定することができる。本明細書中の目的のために、所与のアミノ酸配列Bに対する、配列Bとの、または配列Bに対抗した、所与のアミノ酸配列Aのアミノ酸配列同一性%(所与のアミノ酸配列Bに対する、配列Bとの、または配列Bに対抗した、ある値のアミノ酸配列同一性%を有するかまたは含む所与のアミノ酸配列Aと代替的に表現することができる)は、以下の通りに算出される:分数X/Yの100倍であって、Xは、AおよびBのプログラムによるアライメント中での配列アライメントプログラムによって同一マッチとスコア付けされたアミノ酸残基の数であり、Yは、Bのアミノ酸残基の総数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと等しくない場合、Bに対するAのアミノ酸配列同一性%は、Aに対するBのアミノ酸配列同一性%とは等しくないであろうことが理解されるであろう。本明細書中の目的のために、所与の核酸配列Dに対する、配列Dとの、または配列Dに対抗した、所与の核酸配列Cの核酸配列同一性%(所与の核酸配列Dに対する、配列Dとの、または配列Dに対抗した、ある値の核酸配列同一性%を有するかまたは含む所与の核酸配列Cと代替的に表現することができる)は、以下の通りに算出される:分数W/Zの100倍であって、Wは、CおよびDのプログラムによるアライメント中での配列アライメントプログラムによって同一マッチとスコア付けされたヌクレオチドの数であり、Zは、Dのヌクレオチドの総数である。核酸配列Cの長さが核酸配列Dの長さと等しくない場合、Dに対するCの核酸配列同一性%は、Cに対するDの核酸配列同一性%とは等しくないであろうことが理解されるであろう。
【0058】
本明細書中で用いる場合、「医薬組成物」または「組成物」とは、限定するものではないが、担体、安定化剤、希釈剤、分散化剤、懸濁化剤、増粘剤、賦形剤等などの、少なくとも1種の製薬上許容される化学的成分と任意により混合された、本明細書中に記載される組成物または薬剤(例えば、組み換えアデノ随伴(rAAV)発現ベクター)を意味することが意図される。
【0059】
本明細書中で用いる場合、「ポリペプチド」および「タンパク質」は、アミノ酸残基の多量体を意味するために相互に交換可能に用いられ、かつ最小限の長さに限定されない。そのようなアミノ酸残基の多量体は、天然または非天然アミノ酸残基を含むことができ、かつ、限定するものではないが、ペプチド、オリゴペプチド、アミノ酸残基の二量体、三量体、およびマルチマーを含む。全長タンパク質およびその断片の両方が、定義に包含される。この用語はまた、ポリペプチドの発現後修飾、例えば、グリコシル化、シアル化、アセチル化、リン酸化なども含む。さらに、本開示の目的のために、「ポリペプチド」とは、タンパク質が所望の活性を維持する限り、生来型配列に対する、欠失、付加、および置換(一般的には保存的な性質の)などの改変を含むタンパク質を意味する。これらの改変は、部位特異的突然変異誘発を介するなどの意図的であり得るか、またはタンパク質を産生する宿主の突然変異もしくはPCR増幅に起因するエラーを介するなどの偶発的であり得る。
【0060】
本明細書中で用いる場合、「プロモーター」とは、特定の遺伝子の転写を促進するDNAの領域を意味することが意図される。転写のプロセスの一部分として、RNAを合成する酵素(RNAポリメラーゼとして知られる)が、遺伝子付近のDNAに結合する。プロモーターは、RNAポリメラーゼおよびRNAポリメラーゼを集合させる転写因子に対する初期結合部位を提供する特定のDNA配列および応答エレメントを含む。「ニワトリβ-アクチン(CBA)プロモーター」とは、ニワトリβ-アクチン遺伝子(例えば、GenBank Entrez Gene ID 396526により表わされる、セキショクヤケイ(Gallus gallus)βアクチン)から誘導されるポリヌクレオチド配列を意味する。「smCBA」プロモーターとは、ハイブリッドCMVニワトリβ-アクチンプロモーターの小型バージョンを意味する。
【0061】
本明細書中で用いる場合、用語「エンハンサー」は、核酸配列の転写活性化を増大するために、1種以上のタンパク質(例えば、活性化因子タンパク質、または転写因子)に結合する、シス作用性調節配列(例えば、50~1,500塩基対)を意味する。エンハンサーは、それらが調節する遺伝子開始部位の上流または遺伝子開始部位の下流の1,000,000塩基対までに位置することができる。
【0062】
プロモーターは、それが調節する核酸配列の発現を駆動するかまたはその転写を駆動すると言うことができる。語句「機能的に連結された」、「作動可能に配置された」、「作動可能に連結された」、「制御下に」および「転写制御下に」は、プロモーターが、それが該配列の転写開始および/または発現を制御するために調節する核酸配列との関係で、正しい機能的位置および/または向きにあることを示す。本明細書中で用いる場合、「逆位プロモーター」とは、核酸配列が逆向きであり、それにより、コード鎖であったものが非コード鎖となり、逆もまた同じである、プロモーターを意味する。逆位プロモーター配列は、スイッチの状態を調節するために様々な実施形態で用いることができる。加えて、様々な実施形態では、プロモーターは、エンハンサーと組み合わせて用いることができる。
【0063】
プロモーターは、所与の遺伝子もしくは配列のコードセグメントおよび/またはエクソンの上流に位置する5'非コード配列を単離することにより取得できる通りの、遺伝子または配列に天然に伴うものであり得る。そのようなプロモーターは、「内因性」であると称されることができる。同様に、一部の実施形態では、エンハンサーは、配列の下流または上流のいずれかに位置する、核酸配列に天然に伴うものであり得る。
【0064】
一部の実施形態では、コード核酸セグメントは、「組み換えプロモーター」または「異種プロモーター」の制御下に配置され、その両方が、その天然環境中で機能的に連結されるコード核酸配列に通常伴わないプロモーターを意味する。組み換えまたは異種エンハンサーとは、その天然の環境中で所与の核酸配列に通常伴わないエンハンサーを意味する。そのようなプロモーターまたはエンハンサーは、他の遺伝子のプロモーターまたはエンハンサー;いずれかの他の原核細胞、ウイルス、または真核細胞から単離されるプロモーターまたはエンハンサー;および「天然に存在」しない、すなわち、異なる転写調節領域の異なるエレメント、および/または当技術分野で公知の遺伝子操作法を通じて発現を変化させる突然変異を含む、合成プロモーターまたはエンハンサーを含むことができる。
【0065】
本明細書中で用いる場合、用語「組み換え」とは、(1) その天然に存在する環境から除去されているか、(2) 遺伝子がその中に天然に見出されるポリヌクレオチドの全部もしくは一部を伴っていないか、(3) 天然では連結されていないポリヌクレオチドに作動可能に連結されているか、または(4) 天然には存在しない、生体分子(例えば、遺伝子またはタンパク質)を意味することができる。用語「組み換え」は、クローニングされたDNA単離体、化学合成されたポリヌクレオチドアナログ、または異種系により生物学的に合成されるポリヌクレオチドアナログ、ならびにそのような核酸によりコードされるタンパク質および/またはmRNAに関連して用いることができる。
【0066】
本明細書中で用いる場合、本発明の方法により治療される対象である「被験体」または「患者」または「個体」とは、ヒトまたは非ヒト動物のいずれかを意味することが意図される。「非ヒト動物」としては、いずれかの脊椎動物または無脊椎動物生物が挙げられる。ヒト被験体は、いずれかの年齢、性別、人種または民族(例えば、白人、アジア人、アフリカ人、黒人、アフリカ系アメリカ人、アフリカ系欧州人、ヒスパニック系、中東系等)であり得る。一部の実施形態では、被験体は、患者または臨床環境での他の被験体であり得る。一部の実施形態では、被験体は、既に治療を受けている。一部の実施形態では、被験体は、新生児、幼児、小児、青年期、または成人である。
【0067】
本明細書中で用いる場合、用語「治療効果」とは、その結果が望ましくかつ有益であると判断される治療の結果を意味する。治療効果としては、直接的または間接的な、疾患の兆候の停止、減少、または除去が挙げられる。治療効果としてはまた、直接的または間接的な、疾患の兆候の進行の停止、減少、または除去も挙げられる。
【0068】
本明細書中に記載されるいずれかの治療剤に関して、治療上有効量は、予備的in vitro研究および/または動物モデルから最初に決定することができる。治療上有効用量はまた、ヒトデータから決定することもできる。適用される用量は、投与される化合物の相対的バイオアベイラビリティおよび効能に基づいて調整できる。上記の方法および他の周知の方法に基づいて最大効力を達成するために用量を調整するステップは、当業者の能力の範囲内である。参照により本明細書中に組み入れられるGoodman and Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics, 10th Edition, McGraw-Hill (New York) (2001)の第1章に見出すことができる、治療有効性を決定するための一般的原理が、下記に概説される。
【0069】
本明細書中で用いる場合、「中心網膜」とは、外側黄斑および/または内側黄斑および/または中心窩を意味する。用語「中心網膜細胞タイプ」とは、本明細書中で用いる場合、例えば、RPEおよび光受容体細胞などの、中心網膜の細胞タイプを意味する。
【0070】
本明細書中で用いる場合、用語「黄斑」は、周辺網膜と比較して、高い相対密度の光受容体細胞(具体的には、桿体および錐体)を含む、霊長類での中心網膜の領域を意味する。用語「外側黄斑」は、本明細書中で用いる場合、「周辺黄斑」とも称される場合がある。用語「内側黄斑」は、本明細書中で用いる場合、「中心黄斑」とも称される場合がある。
【0071】
本明細書中で用いる場合、用語「中心窩」とは、周辺網膜および黄斑と比較した場合に、高い相対密度の光受容体細胞(具体的には、錐体)を含む、直径約1.5mm以下の霊長類の中心網膜中の小さな領域を意味することが意図される。
【0072】
本明細書中で用いる場合、用語「網膜下腔」とは、光受容体細胞と網膜色素上皮細胞との間の網膜中の位置を意味する。網膜下腔は、流体のいずれかの網膜下注入の前などには、潜在的な空間であり得る。網膜下腔はまた、この潜在的な空間へと注入される流体を含むこともできる。この場合、流体は、「網膜下腔と接触」している。「網膜下腔と接触」している細胞は、RPEおよび光受容体細胞などの網膜下腔に接する細胞を含む。
【0073】
本明細書中で用いる場合、「導入遺伝子」とは、細胞に導入され、かつRNAへと転写されることならびに任意により適切な条件下で翻訳および/または発現されることが可能であるポリヌクレオチドを意味することが意図される。態様では、導入遺伝子は、導入された細胞に対して所望の特性を賦与するか、またはそうでなければ所望の治療的もしくは診断的帰結をもたらす。
【0074】
「導入遺伝子発現カセット」または「発現カセット」とは、相互に交換可能に用いられ、かつ導入遺伝子の転写に向かわせるために十分な1種以上のプロモーターまたは他の調節配列に機能的に連結された導入遺伝子を含むが、カプシドコード配列、他のベクター配列または逆位末端反復領域を含まない、核酸の線形ストレッチを意味する。発現カセットは、1つ以上のシス作用性配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、またはリプレッサー)、1つ以上のイントロン、および1つ以上の転写後調節エレメントを追加的に含むことができる。導入遺伝子発現カセットは、核酸ベクターが標的細胞へと送達する対象である遺伝子配列を含む。これらの配列としては、対象となる遺伝子(例えば、CFH核酸またはその変異体)、1種以上のプロモーター、および最小調節エレメントが挙げられる。
【0075】
本明細書中で用いる場合、疾患もしくは障害(例えば、AMDなど)を「治療」または「治療すること」とは、検出可能であるか検出不可能であるかにかかわらず、疾患もしくは障害の1種以上の徴候または症状の軽減、疾患または障害の程度の減少、疾患または障害の安定した(例えば、悪化していない)状態、疾患または障害の拡大を防止すること、疾患もしくは障害進行の遅延または減速、疾患もしくは障害状態の改善または緩和、および退行(部分的または全体的にかかわらず)を意味することが意図される。「治療」とはまた、治療を受けていない場合に予測される生存期間と比較して、延長した生存期間を意味することもできる。
【0076】
本明細書中で用いる場合、用語「ベクター」とは、in vitroまたはin vivoのいずれかで、宿主細胞へと送達される対象である核酸を含む組み換えプラスミドまたはウイルスを意味する。
【0077】
本明細書中で用いる場合、用語「発現ベクター」とは、ベクター上の転写調節配列に連結された配列からのRNAまたはポリペプチドの発現に向かわせるベクターを意味する。発現される配列は、必ずしもではないがしばしば、細胞に対して異種であろう。発現ベクターは、追加のエレメントを含むことができ、例えば、発現ベクターは、2つの複製系を有し、したがって、2種類の生物中(例えば、発現のためのヒト細胞中ならびにクローニングおよび増幅のための原核生物宿主中)に維持されることを可能にすることができる。用語「発現」とは、RNAおよびタンパク質の産生ならびに必要に応じたタンパク質の分泌に関与する細胞プロセスを意味し、適用可能な場合、限定するものではないが、例えば、転写、転写産物プロセシング、翻訳およびタンパク質フォールディング、修飾およびプロセシングを含む。「発現産物」は、遺伝子から転写されるRNA、および遺伝子から転写されるmRNAの翻訳により取得されるポリペプチドを含む。用語「遺伝子」とは、適切な調節配列に機能的に連結された場合に、in vitroまたはin vivoでRNAへと転写(DNA)される核酸配列を意味する。遺伝子は、コード領域に先立つかまたはその後に続く領域(例えば、5'非翻訳(5'UTR)配列または「リーダー」配列および3'UTR配列または「テイラー」配列)、ならびに個々のコードセグメント(エクソン)の間の介在配列(イントロン)を含むかまたは含まないことができる。
【0078】
本明細書中で用いる場合、「組み換えウイルスベクター」とは、1種以上の異種配列(すなわち、ウイルス起源でない核酸配列)を含む組み換えポリヌクレオチドベクターを意味する。組み換えAAVベクターの場合、組み換え核酸には、少なくとも1つの逆位末端反復配列(ITR)が隣接している。一部の実施形態では、組み換え核酸には、2つのITRが隣接している。
【0079】
本明細書中で用いる場合、「組み換えAAVベクター」(rAAVベクター)とは、少なくとも1つのAAV逆位末端反復配列(ITR)に隣接された、1種以上の異種配列(すなわち、AAV起源でない核酸配列)を含むポリヌクレオチドベクターを意味する。そのようなrAAVベクターは、好適なヘルパーウイルスに感染しており(または好適なヘルパー機能を発現し)、かつAAV repおよびcap遺伝子産物(すなわち、AAV Repタンパク質およびCapタンパク質)を発現している宿主細胞中に存在する場合、複製され、かつ感染性ウイルス粒子へとパッケージングされることができる。rAAVベクターが、より大きなポリヌクレオチドへと(例えば、染色体中に、またはクローニングもしくはトランスフェクションのために用いられるプラスミドなどの別のベクター中に)組み込まれる場合、rAAVベクターは、AAVパッケージング機能および好適なヘルパー機能の存在下で、複製およびカプシド化により「レスキュー」することができる「プロベクター」と称される場合がある。rAAVベクターは、限定するものではないが、プラスミド、線形人工染色体、脂質と複合体化した形態、リポソーム内にカプセル封入された形態、およびウイルス粒子(例えば、AAV粒子)中にカプシド化された形態をはじめとする、多数の形態のうちのいずれかであり得る。rAAVベクターは、AAVウイルスカプシドへとパッケージングされて、「組み換えアデノ随伴ウイルス粒子」(rAAV粒子)を生成することができる。
【0080】
本明細書中で用いる場合、「rAAVウイルス」または「rAAVウイルス粒子」とは、少なくとも1種のAAVカプシドタンパク質およびカプシド化されたrAAVベクターゲノムから構成されるウイルス粒子を意味する。
【0081】
本明細書中で用いる場合、「レポーター」とは、検出可能な読み出し値を提供するために用いることができるタンパク質を意味する。レポーターは、一般的に、蛍光、着色、または発光などの測定可能なシグナルを生成する。レポータータンパク質コード配列は、細胞または生物中でのその存在が容易に観察されるタンパク質をコードする。例えば、蛍光タンパク質は、特定の波長の光を用いて励起される場合に、細胞に蛍光を生じさせ、ルシフェラーゼは、細胞に光を生成する反応を触媒させ、β-ガラクトシダーゼなどの酵素は、基質を着色生成物へと変換する。実験または診断目的のために有用な例示的なレポーターポリペプチドとしては、限定するものではないが、β-ラクタマーゼ、β-ガラクトシダーゼ(LacZ)、アルカリホスファターゼ(AP)、チミジンキナーゼ(TK)、緑色蛍光タンパク質(GFP)および他の蛍光タンパク質、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、ルシフェラーゼ、および当技術分野で周知の他のものが挙げられる。
【0082】
転写調節因子とは、本明細書中に記載される通りの切断型CFHなどの対象となる遺伝子の転写を活性化または抑制する転写活性化因子および抑制因子を意味する。プロモーターは、特定の遺伝子の転写を開始させる核酸の領域である。転写活性化因子は、典型的に、転写プロモーターの近傍に結合し、かつ転写を直接的に開始させるためにRNAポリメラーゼを集合させる。抑制因子は転写プロモーターに結合し、かつRNAポリメラーゼによる転写開始を立体的に妨害する。他の転写調節因子は、それらが結合する位置ならびに細胞および環境的条件に応じて、活性化因子または抑制因子のいずれかとして機能することができる。転写調節因子クラスの非限定的な例としては、限定するものではないが、ホメオドメインタンパク質、zincフィンガータンパク質、ウィングドヘリックス(フォークヘッド)タンパク質、およびロイシンジッパータンパク質が挙げられる。
【0083】
本明細書中で用いる場合、「抑制因子タンパク質」または「誘導因子タンパク質」は、調節配列エレメントに結合し、かつ、該調節配列エレメントに作動可能に連結された配列の転写を、それぞれ抑制または活性化するタンパク質である。本明細書中に記載される通りの好ましい抑制因子および誘導因子タンパク質は、少なくとも1種の入力物質または環境的入力の存在または非存在に感受性である。本明細書中に記載される通りの好ましいタンパク質は、例えば、分離可能なDNA結合性かつ入力物質結合性もしくは応答性のエレメントまたはドメインを含む、モジュール状である。
【0084】
本明細書中で用いる場合、用語「含むこと」(comprising)または「含む」(comprise)は、組成物、方法、および該方法または組成物に対して必須であるそのそれぞれの構成要素に関連して用いられるが、必須であるか否かにかかわらず、明記されない要素を包含する可能性がある。
【0085】
本明細書中で用いる場合、用語「本質的に~からなる」とは、所与の実施形態に対して必要なそれらの要素を意味する。この用語は、実施形態の基本的および新規または機能的特徴に物質的に影響しない要素の存在を許容する。「含むこと」(comprising)の使用は、限定ではなく包含を示す。
【0086】
用語「からなる」とは、実施形態のその記述中に明記されないいかなる要素も除外して、本明細書中に記載される通りの組成物、方法、およびそのそれぞれの構成要素を意味する。
【0087】
本明細書中で用いる場合、用語「本質的に~からなる」とは、所与の実施形態に対して必要なそれらの要素を意味する。この用語は、本発明のその実施形態の基本的および新規または機能的特徴に物質的に影響しない追加の要素の存在を許容する。
【0088】
用語「~が挙げられる」(including)は、語句「限定するものではないが~が挙げられる」を意味するために本明細書中で用いられ、かつこの語句と相互に交換可能に用いられる。
【0089】
用語「など」(such as)は、語句「限定するものではないが、~など」を意味するために本明細書中で用いられ、かつこの語句と相互に交換可能に用いられる。
【0090】
本明細書および添付の特許請求の範囲の中で用いる場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈がそうでないことを明らかに指示しない限り、複数形の参照を含む。つまり、例えば、「方法」(単数形)への参照は、1種以上の方法、および/または本明細書中に記載され、かつ/もしくは本開示などを読んだときに当業者に明らかになるであろうタイプのステップを含む。同様に、単語「または」は、文脈がそうでないことを明らかに示さない限り、「および」を含むことが意図される。本明細書中に記載されるものに類似または等価である方法および材料を、本開示の実践または試験で用いることができるが、好適な方法および材料が、以下に記載される。略語「e.g.」は、ラテン語の「exempli gratia」に由来し、かつ非限定的な例を示すために本明細書中で用いられる。つまり、略語「e.g.」は、用語「例えば」と同義である。
【0091】
本明細書中に開示される本発明の代替的な要素または実施形態のグループ化は、限定と解釈されるべきではない。各グループのメンバーが、個別に、またはグループの他のメンバーもしくは本明細書中に見出される他の要素とのいずれかの組み合わせで、参照および特許請求されることができる。グループの1つ以上のメンバーが、簡便性および/または特許可能性の理由のために、グループに含められ、またはグループから削除されることができる。いずれかのそのような包含または削除が生じる場合、本明細書は、改変された通りのグループを含むとここでは見なされ、つまり添付の特許請求の範囲で用いられるすべてのマーカッシュグループの記載された説明を満たす。
【0092】
態様のうちのいずれかの一部の実施形態では、本明細書中に記載される本開示は、ヒトのクローニングのためのプロセス、ヒトの生殖系列の遺伝的同一性を改変するためのプロセス、産業もしくは商業目的のためのヒト胎児の使用、またはヒトもしくは動物に対する実質的な医学的利益を有さずにそれらを侵す可能性がある、動物の遺伝的同一性を改変するためのプロセス、およびそのようなプロセスから得られる動物にも、関与しない。
【0093】
他の用語は、本発明の種々の態様の説明の中で、本明細書中で定義される。
【0094】
本出願全体を通して引用される、参考文献、発行された特許、公開特許出願、および同時継続特許出願をはじめとする、すべての特許および他の刊行物は、例えば、本明細書中に記載される技術との関連で用いることができるであろうそのような刊行物中に記載される方法論を、説明および開示する目的のために、参照により本明細書中に明白に組み入れられる。これらの刊行物は、本出願の出願日に先立つそれらの開示に関してのみ提供される。これに関して、何であっても、先行する発明を理由として、またはいずれかの他の理由のために、本発明者らがそのような開示を先行させる資格があるという了解として解釈されるべきではない。日付に関するすべての記述またはそれらの文献の内容に関する表明は、本出願人らに利用可能な情報に基づいており、かつそれらの文献の日付または内容の正しさに関するいかなる了解も構成しない。
【0095】
本開示の実施形態の説明は、網羅的であることまたは開示される精密な形態に対して本開示を限定することを意図しない。本開示の具体的実施形態、または本開示のための実施例は、例示的目的のために本明細書中に記載され、様々な等価な改変が、関連する技術分野の当業者が認識するであろう通り、本開示の範囲内で可能である。例えば、方法ステップまたは機能が所定の順序で提示されていても、代替的な実施形態は、異なる順序で機能を実行でき、または機能は実質的に同時に実行されることができる。本明細書中に提供される本開示の教示は、必要に応じて、他の手順または方法に適用することができる。本明細書中に記載される様々な実施形態は、さらなる実施形態を提供するために組み合わせることができる。本開示の態様は、必要であれば、上記の参考文献および出願の組成、機能および概念を用いるために改変して、本開示のまたさらなる実施形態を提供することができる。さらに、生物学的機能の等価性を考慮することにより、種類もしくは量について生物学的または化学的作用に影響を及ぼすことなく、タンパク質構造に幾分かの変更を加えることができる。これらおよび他の変更は、詳細な説明に鑑みて本開示に加えることができる。すべてのそのような改変は、添付の特許請求の範囲の範囲内に含められることが意図される。
【0096】
上述の実施形態のうちのいずれかの具体的要素は、組み合わせるか、または他の実施形態の要素と置き換えることができる。さらに、本開示の特定の実施形態に伴う利点がこれらの実施形態の文脈で記載されているが、他の実施形態もまた、そのような利点を示す場合があり、かつすべての実施形態が、本開示の範囲内に入るためにそのような利点を必ず示さなければならないわけではない。
【0097】
本明細書中に記載される技術が、以下の実施例によりさらに例示されるが、以下の実施例は、さらなる限定として少しも解釈されるべきではない。本発明は、本明細書中に記載される特定の方法論、プロトコール、および試薬等に限定されず、したがって変更することができることが理解されるべきである。本明細書中で用いられる用語は、特定の実施形態を説明する目的のみのためであり、本発明の範囲を限定することは意図されず、本発明の範囲は、特許請求の範囲のみによって規定される。
【0098】
II. 核酸
考えられる治療的使用のための核酸分子の特性決定および開発が、本明細書中に提供される。本開示は、眼疾患または障害(例えば、加齢黄斑変性)の治療で用いることができるプロモーター、発現カセット、ベクター、キット、および方法を提供する。本開示の特定の態様は、被験体の目に組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを投与するステップを含む、被験体の目へと異種核酸を送達することに関する。一部の態様に従えば、本開示は、被験体への本明細書中に記載されるrAAVベクターを含む組成物の送達を含む、眼疾患または障害(例えば、加齢黄斑変性)を治療する方法を提供し、このとき、rAAVベクターは、異種核酸(例えば、CFHをコードする核酸)を含み、かつ2つのAAV末端反復をさらに含む。一部の実施形態に従えば、異種核酸はプロモーターに機能的に連結される。
【0099】
いくつかの遺伝子変異体がAMDに関連付けられてきた。補体H因子(CFH)遺伝子中の一般的なコード変異体Y402Hが最初に特定された。「CFH遺伝子」は、補体H因子(CFH)タンパク質をコードする遺伝子である。CFHは、155kDa可溶性糖タンパク質の補体系の調節因子である。CFHは、血漿中に豊富であり、グリコサミノグリカン(GAG)およびシアル酸などのポリアニオンの認識を介して、宿主細胞膜および他の自己表面に伴う場合がある(Meri and Pangburn, Proc Natl Acad Sci U S A. 1990 May; 87(10):3982-6)。第二経路C3およびC5転換酵素のレベルでの介入を通して、CFHは流体相および表面結合型の両方の補体増幅を変化させる。H因子は、数種類の経路で機能する(Pangburn et al. J Exp Med. 1977 Jul 1; 146(1):257-70):C3bに対する結合に関してB因子と競合し、第二経路C3転換酵素(C3bBb)の形成を妨げる;二分子転換酵素複合体がアセンブリに成功する場合、CFHは、それらの引き続く解離(減衰)を加速させる;CFHはまた、第二経路C5転換酵素(C3b2Bb)の減衰も加速させる;およびCFHは、I因子が媒介するC3bからiC3bへのタンパク質分解性切断に対する補因子である。セリンプロテアーゼI因子の補因子として、CFHはまた、既に沈着したC3bのタンパク質分解も調節する(Hocking et al., J. Biol. Chem. 283:9475-9487(2008); Xue et al., Nat. Struct. Mol. Biol. 24:643-651(2017))。
【0100】
成熟CFH(155kDa)の1213個のアミノ酸残基(Ripoche et al., Biochem J. 1988 Jan 15; 249(2):593-602)は、それぞれが約60残基である20個の短いコンセンサス反復(SCR)からなる(Kristensen and Tack. Proc Natl Acad Sci U S A. 1986 Jun; 83(11):3963-7)。20個のSCRの複数のアライメントが、4個の不変のCys残基およびCys(III)とCys(IV)との間のほぼ不変のTrp残基を示す(Schmidt et al., Clin Exp Immunol. 2008 Jan; 151(1): 14-24)。CFH内では、3~8残基の「リンカー」が、あるSCRのCys(IV)(最後の残基)と次のSCRのCys(I)(最初の残基)との間に位置する。20個のSCRのそれぞれ(およびいずれかの末端でのリンカー内の1または2残基)は、補体制御タンパク質モジュール(CCP)と命名される独特な3次元(3D)構造へとフォールディングされ[(Soares and Barlow. Structural biology of the complement system. Boca Raton: CRC Press, Taylor & Francis Group; 2005. pp. 19-62)、Cys(I)-Cys(III)、Cys(II)-Cys(IV)ジスルフィド連結により安定化されると予測される。
図1Aに示される通り、全長ヒトCFHは、20個のCCP(CCP1~20)を含む。一部のCCPは、
図1Aに示される通り、他のタンパク質に対する特定された結合部位を有する。CCPおよびCCP結合性タンパク質は、補体カスケード調節で重要な役割を果たす。AMDに対する高リスク多型Y402Hは、天然に存在する変異体FHL-1にも含まれるCCP7に位置する。
【0101】
「CFH核酸」とは、CFH遺伝子もしくはその一部分、またはCFH遺伝子の機能的変異体もしくはその一部分を含む核酸を意味する。遺伝子の機能的変異体としては、例えば、サイレント突然変異、単一ヌクレオチド多型、ミスセンス突然変異、および遺伝子機能を顕著に変化させない他の突然変異または欠失などの、重大でない変異を有する遺伝子の変異体が挙げられる。
【0102】
一部の実施形態に従えば、本発明の核酸は、補体制御タンパク質モジュール(CCP)1~20を含むCFHタンパク質をコードする。一部の実施形態に従えば、本発明の核酸は、補体制御タンパク質モジュール(CCP)1~20からなるCFHタンパク質をコードする。切断型CFHタンパク質は、20個のCCPのうちの少なくとも1つ、またはそのうちの1つの一部分を欠失するCFHタンパク質である。
【0103】
一部の実施形態に従えば、発現されるCFHタンパク質は、眼疾患または障害の治療(例えば、加齢黄斑変性の治療および/または予防)の処置に対して機能的である。一部の実施形態では、発現されるCFHタンパク質は、免疫系反応を引き起こさない。
【0104】
一部の実施形態に従えば、全長CFH(補体制御タンパク質モジュール(CCP)1~20を含む)の核酸配列は、配列番号1として以下に示される。
【0105】
配列番号1
【0106】
【0107】
一部の実施形態に従えば、CFH核酸は、配列番号1の核酸配列を含む。一部の実施形態に従えば、CFH核酸は、配列番号1の核酸配列からなる。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号1に対して少なくとも85%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号1に対して少なくとも90%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号1に対して少なくとも95%、96%、97%、または98%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号1に対して少なくとも99%同一である。
【0108】
一部の実施形態に従えば、本発明の核酸は、CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP5、CCP6、CCP7、CCP8、CCP9、CCP10、CCP11、CCP12、CCP13、CCP14、CCP15、CCP16、CCP17、CCP18、CCP19およびCCP20からなる群より選択される5個以上の補体制御タンパク質モジュール(CCP)を含む切断型CFHタンパク質をコードする。一部の実施形態に従えば、本発明の核酸は、CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP5、CCP6、CCP7、CCP8、CCP9、CCP10、CCP11、CCP12、CCP13、CCP14、CCP15、CCP16、CCP17、CCP18、CCP19およびCCP20からなる群より選択される7個以上の補体制御タンパク質モジュール(CCP)を含む切断型CFHタンパク質をコードする。一部の実施形態に従えば、本発明の核酸は、CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP5、CCP6、CCP7、CCP8、CCP9、CCP10、CCP11、CCP12、CCP13、CCP14、CCP15、CCP16、CCP17、CCP18、CCP19およびCCP20からなる群より選択される10個以上の補体制御タンパク質モジュール(CCP)を含む切断型CFHタンパク質をコードする。一部の実施形態に従えば、本発明の核酸は、CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP5、CCP6、CCP7、CCP8、CCP9、CCP10、CCP11、CCP12、CCP13、CCP14、CCP15、CCP16、CCP17、CCP18、CCP19およびCCP20からなる群より選択される15個以上の補体制御タンパク質モジュール(CCP)を含む切断型CFHタンパク質をコードする。
【0109】
一部の実施形態に従えば、本発明の核酸は、CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP5、CCP6、CCP7、CCP8、CCP9、CCP10、CCP11、CCP12、CCP13、CCP14、CCP15、CCP18、CCP19およびCCP20を含む切断型CFHタンパク質(tCFH1)をコードする。一部の実施形態に従えば、本発明の核酸は、CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP5、CCP6、CCP7、CCP8、CCP9、CCP10、CCP11、CCP12、CCP13、CCP14、CCP15、CCP18、CCP19およびCCP20からなる切断型CFHタンパク質をコードする。一部の実施形態に従えば、切断型CFH(tCFH1)の核酸配列は、配列番号2として以下に示される。
【0110】
配列番号2
【0111】
【0112】
【0113】
一部の実施形態に従えば、切断型CFH(tCFH1)の核酸配列は、配列番号8として以下に示される。
【0114】
【0115】
一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号2を含む。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号8を含む。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号2からなる。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号8からなる。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号2に対して少なくとも85%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号8に対して少なくとも85%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号2に対して少なくとも90%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号8に対して少なくとも90%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号2に対して少なくとも95%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号8に対して少なくとも95%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号2に対して少なくとも96%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号8に対して少なくとも96%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号2に対して少なくとも97%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号8に対して少なくとも97%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号2に対して少なくとも98%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号8に対して少なくとも98%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号2に対して少なくとも99%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号8に対して少なくとも99%同一である。
【0116】
一部の実施形態に従えば、切断型CFHタンパク質(tCFH1)は、以下に示されるアミノ酸配列である配列番号9を含む。
【0117】
配列番号9
【0118】
【0119】
一部の実施形態に従えば、切断型CFHタンパク質(tCFH1)は、以下に示されるアミノ酸配列である配列番号10を含む。
【0120】
配列番号10
【0121】
【0122】
一部の実施形態に従えば、切断型CFHタンパク質(tCFH1)は、配列番号9または配列番号10に対して少なくとも85%同一なアミノ酸配列を含む。一部の実施形態に従えば、切断型CFHタンパク質(tCFH1)は、配列番号9または配列番号10に対して少なくとも90%同一なアミノ酸配列を含む。一部の実施形態に従えば、切断型CFHタンパク質(tCFH1)は、配列番号9または配列番号10に対して少なくとも95%同一なアミノ酸配列を含む。一部の実施形態に従えば、切断型CFHタンパク質(tCFH1)は、配列番号9または配列番号10に対して少なくとも96%同一なアミノ酸配列を含む。一部の実施形態に従えば、切断型CFHタンパク質(tCFH1)は、配列番号9または配列番号10に対して少なくとも97%同一なアミノ酸配列を含む。一部の実施形態に従えば、切断型CFHタンパク質(tCFH1)は、配列番号9または配列番号10に対して少なくとも98%同一なアミノ酸配列を含む。一部の実施形態に従えば、切断型CFHタンパク質(tCFH1)は、配列番号9または配列番号10に対して少なくとも99%同一なアミノ酸配列を含む。一部の実施形態に従えば、切断型CFHタンパク質(tCFH1)は、配列番号9または配列番号10からなる。
【0123】
一部の実施形態に従えば、本発明の核酸は、CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP18、CCP19およびCCP20を含む切断型CFHタンパク質(tCFH2)をコードする。一部の実施形態に従えば、本発明の核酸は、CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP18、CCP19およびCCP20からなる切断型CFHタンパク質をコードする。一部の実施形態に従えば、CFHタンパク質をコードする核酸は、1353bp長である。一部の実施形態に従えば、切断型CFH(tCFH2)の核酸配列は、配列番号3として以下に示される。
【0124】
配列番号3
【0125】
【0126】
一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号3を含む。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号3からなる。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号3に対して少なくとも85%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号3に対して少なくとも90%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号3に対して少なくとも95%、96%、97%、または98%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号3に対して少なくとも99%同一である。
【0127】
一部の実施形態に従えば、本発明の核酸は、CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP5、CCP6、CCP7、CCP8、CCP9、CCP16、CCP17、CCP18、CCP19およびCCP20を含む切断型CFHタンパク質(tCFH3)をコードする。一部の実施形態に従えば、本発明の核酸は、CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP5、CCP6、CCP7、CCP8、CCP9、CCP16、CCP17、CCP18、CCP19およびCCP20からなる切断型CFHタンパク質をコードする。一部の実施形態に従えば、CFHタンパク質をコードする核酸は、2610bp長である。一部の実施形態に従えば、切断型CFH(tCFH3)の核酸配列は、配列番号4として以下に示される。
【0128】
配列番号4
【0129】
【0130】
一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号4を含む。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号4からなる。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号4に対して少なくとも85%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号4に対して少なくとも90%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号4に対して少なくとも95%、96%、97%、または98%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号4に対して少なくとも99%同一である。
【0131】
一部の実施形態に従えば、本発明の核酸は、CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP5、CCP6、CCP7、CCP18、CCP19およびCCP20を含む切断型CFHタンパク質(tCFH4)をコードする。一部の実施形態に従えば、本発明の核酸は、CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP5、CCP6、CCP7、CCP18、CCP19およびCCP20からなる切断型CFHタンパク質をコードする。一部の実施形態に従えば、CFHタンパク質をコードする核酸は、1893bp長である。一部の実施形態に従えば、切断型CFH(tCFH4)の核酸配列は、配列番号5として以下に示される。
【0132】
配列番号5
【0133】
【0134】
一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号5を含む。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号5からなる。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号5に対して少なくとも85%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号5に対して少なくとも90%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号5に対して少なくとも95%、96%、97%、または98%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号5に対して少なくとも99%同一である。
【0135】
一部の実施形態に従えば、本発明の核酸は、CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP5、CCP6およびCCP7を含む切断型CFHタンパク質(FHL-1)をコードする。一部の実施形態に従えば、本発明の核酸は、CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP5、CCP6およびCCP7からなる切断型CFHタンパク質をコードする。一部の実施形態に従えば、CFHタンパク質をコードする核酸は、1357bp長である。一部の実施形態に従えば、切断型CFHタンパク質(FHL-1)の核酸配列は、配列番号6として以下に示される。
【0136】
配列番号6
【0137】
【0138】
一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号6を含む。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号6からなる。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号6に対して少なくとも85%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号6に対して少なくとも90%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号6に対して少なくとも95%、96%、97%、または98%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号6に対して少なくとも99%同一である。
【0139】
一部の実施形態に従えば、本発明の核酸は、補体カスケード活性に対して重要であることが公知であるCCPの欠失を有するCFHタンパク質をコードする。一部の実施形態に従えば、tCFH2およびtCFH4は、補体カスケード活性に対して重要であることが公知であるCCPを欠失させるために遺伝子操作された。
【0140】
特定の実施形態に従えば、核酸は、ヒト核酸(すなわち、ヒトCFH遺伝子から誘導される核酸)である。他の実施形態では、核酸は、非ヒト核酸(すなわち、非ヒトCFH遺伝子から誘導される核酸)である。
【0141】
核酸の生成
本発明の核酸分子(例えば、CFH核酸を含む)は、標準的な分子生物学技術を用いて単離することができる。ハイブリダイゼーションプローブとして対象となる核酸配列の全部または一部分を用いて、核酸分子を、標準的なハイブリダイゼーションおよびクローニング技術を用いて単離することができる(例えば、Sambrook, J., Fritsh, E. F., and Maniatis, T. Molecular Cloning. A Laboratory Manual. 2nd, ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989に記載される通り)。
【0142】
本発明の方法での使用のための核酸分子はまた、対象となる核酸分子の配列に基づいて設計された合成オリゴヌクレオチドプライマーを用いるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、単離することもできる。本発明の方法で用いられる核酸分子は、標準的PCR増幅技術に従って、鋳型としてのcDNA、mRNAまたは、代替的に、ゲノムDNA、および適切なオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、増幅することができる。
【0143】
さらに、対象となるヌクレオチド配列に対応するオリゴヌクレオチドはまた、標準的技術を用いて化学的に合成することもできる。ポリデオキシヌクレオチドを化学的に合成する多数の方法が公知であり、市販のDNA合成機で自動化されてきた固相合成を含む(例えば、Itakura et al. 米国特許第4,598,049号;Caruthers et al. 米国特許第4,458,066号;およびItakura米国特許第4,401,796号および同第4,373,071号を参照されたい。これらは参照により本明細書中に組み入れられる)。合成オリゴヌクレオチドを設計するための自動化法が利用可能である。例えば、Hoover, D.M. & Lubowski, 2002. J. Nucleic Acids Research, 30(10): e43を参照されたい。
【0144】
本発明の多数の実施形態が、CFH核酸を含む。本発明の一部の態様および実施形態は、単離されたプロモーターまたは調節エレメントなどの他の核酸を含む。核酸は、例えば、cDNAまたは化学合成された核酸であり得る。cDNAは、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いる増幅により、または適切なcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、取得することができる。あるいは、核酸は、化学的に合成することができる。
【0145】
III. プロモーター、発現カセットおよびベクター
本開示のプロモーター、CFH核酸、調節エレメント、および発現カセット、およびベクターは、当技術分野で公知の方法を用いて生成することができる。以下に記載される方法は、そのような方法の非限定的な例として提供される。
【0146】
プロモーター
AAVベクターからの本明細書中に記載される通りのCFHタンパク質の発現は、本明細書中に記載される通りのプロモーターのうちの1種以上を用いて、空間的および時間的の両方で達成できる。
【0147】
CFHタンパク質の発現のためのAAVベクターの発現カセットは、全体的な発現レベルに影響を及ぼし得るプロモーターを含むことができる。例示的なプロモーターとしては、限定するものではないが、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター、RSV LTR、MoMLV LTR、ホスホグリセリン酸キナーゼ-1(PGK)プロモーター、シミアンウイルス40(SV40)プロモーターおよびCK6プロモーター、トランスサイレチンプロモーター(TTR)、TKプロモーター、テトラサイクリン応答性プロモーター(TRE)、HBVプロモーター、hAATプロモーター、LSPプロモーター、キメラ型肝臓特異的プロモーター(LSP)、E2Fプロモーター、テロメラーゼ(hTERT)プロモーター;ニワトリβ-アクチンプロモーター、ハイブリッドCMV-ニワトリβ-アクチンプロモーターの小型バージョン(smCBA)(Pang et al., Invest Ophthalmol Vis Sci. 2008 Oct; 49(10):4278-83);ニワトリβ-アクチン(CBA)プロモーターに連結されたサイトメガロウイルスエンハンサー;サイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリβ-アクチン/ウサギβ-グロビンプロモーター(CAGプロモーター;Niwa et al., Gene, 1991, 108(2):193-9)および伸長因子1-αプロモーター(EF1α)プロモーター(Kim et al., Gene, 1990, 91(2):217-23およびGuo et al., Gene Ther., 1996, 3(9):802-10)が挙げられる。一部の実施形態では、プロモーターは、ニワトリβ-アクチンプロモーターを含む。一部の実施形態に従えば、プロモーターは、ハイブリッドCMV-ニワトリβ-アクチンプロモーターの小型バージョン(smCBA)を含む。プロモーターは、構成的、誘導可能または抑制可能プロモーターであり得る。一部の実施形態では、プロモーターは、目の細胞で異種核酸を発現することが可能である。一部の実施形態では、プロモーターは、光受容体細胞またはRPEで異種核酸を発現することが可能である。一部の実施形態では、プロモーターは、多数の網膜細胞で異種核酸を発現することが可能である。
【0148】
発現カセット
別の態様では、本発明は、(a) プロモーター;(b) 本明細書中に記載される通りのCFH核酸を含む核酸;および(c) 最小調節エレメントを含む導入遺伝子発現カセットを提供する。本発明のプロモーターは、上記で議論されたプロモーターを含む。一部の実施形態に従えば、プロモーターはCBAである。一部の実施形態に従えば、プロモーターはsmCBAである。
【0149】
一部の実施形態に従えば、本発明の核酸は、CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP5、CCP6、CCP7、CCP8、CCP9、CCP10、CCP11、CCP12、CCP13、CCP14、CCP15、CCP18、CCP19およびCCP20を含む切断型CFHタンパク質(tCFH1)をコードする。一部の実施形態に従えば、本発明の核酸は、CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP5、CCP6、CCP7、CCP8、CCP9、CCP10、CCP11、CCP12、CCP13、CCP14、CCP15、CCP18、CCP19およびCCP20からなる切断型CFHタンパク質をコードする。一部の実施形態に従えば、CFHタンパク質をコードする核酸は、3358bp長である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号2を含む。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号2からなる。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号2に対して少なくとも85%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号2に対して少なくとも90%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号2に対して少なくとも95%、96%、97%、または98%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号2に対して少なくとも99%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号8を含む。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号8からなる。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号8に対して少なくとも85%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号8に対して少なくとも90%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号8に対して少なくとも95%、96%、97%、または98%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号8に対して少なくとも99%同一である。
【0150】
一部の実施形態に従えば、本発明の核酸は、CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP18、CCP19およびCCP20を含む切断型CFHタンパク質(tCFH2)をコードする。一部の実施形態に従えば、本発明の核酸は、CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP18、CCP19およびCCP20からなる切断型CFHタンパク質をコードする。一部の実施形態に従えば、CFHタンパク質をコードする核酸は、1353bp長である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号3を含む。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号3からなる。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号3に対して少なくとも85%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号3に対して少なくとも90%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号3に対して少なくとも95%、96%、97%、または98%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号3に対して少なくとも99%同一である。
【0151】
一部の実施形態に従えば、本発明の核酸は、CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP5、CCP6、CCP7、CCP8、CCP9、CCP16、CCP17、CCP18、CCP19およびCCP20を含む切断型CFHタンパク質(tCFH3)をコードする。一部の実施形態に従えば、本発明の核酸は、CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP5、CCP6、CCP7、CCP8、CCP9、CCP16、CCP17、CCP18、CCP19およびCCP20からなる切断型CFHタンパク質をコードする。一部の実施形態に従えば、CFHタンパク質をコードする核酸は、2610bp長である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号4を含む。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号4からなる。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号4に対して少なくとも85%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号4に対して少なくとも90%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号4に対して少なくとも95%、96%、97%、または98%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号4に対して少なくとも99%同一である。
【0152】
一部の実施形態に従えば、本発明の核酸は、CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP5、CCP6、CCP7、CCP18、CCP19およびCCP20を含む切断型CFHタンパク質(tCFH4)をコードする。一部の実施形態に従えば、本発明の核酸は、CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP5、CCP6、CCP7、CCP18、CCP19およびCCP20からなる切断型CFHタンパク質をコードする。一部の実施形態に従えば、CFHタンパク質をコードする核酸は、1893bp長である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号5を含む。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号5からなる。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号5に対して少なくとも85%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号5に対して少なくとも90%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号5に対して少なくとも95%、96%、97%、または98%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号5に対して少なくとも99%同一である。
【0153】
一部の実施形態に従えば、本発明の核酸は、CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP5、CCP6およびCCP7を含む切断型CFHタンパク質(FHL-1)をコードする。一部の実施形態に従えば、本発明の核酸は、CCP1、CCP2、CCP3、CCP4、CCP5、CCP6およびCCP7からなる切断型CFHタンパク質をコードする。一部の実施形態に従えば、CFHタンパク質をコードする核酸は、1357bp長である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号6を含む。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号6からなる。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号6に対して少なくとも85%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号6に対して少なくとも90%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号6に対して少なくとも95%、96%、97%、または98%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号6に対して少なくとも99%同一である。
【0154】
一部の実施形態に従えば、組み換え核酸には、少なくとも2つのITRが隣接している。
【0155】
一部の実施形態に従えば、構築物は、全長ヒトCFH、ニワトリβアクチンプロモーターおよび逆位末端反復を含む(pTR-CBA-flCFH)。
【0156】
一部の実施形態に従えば、構築物は、CFH CCP16~17が欠失した全長ヒトCFH、ハイブリッドCMV-ニワトリβ-アクチンプロモーターの小型バージョンおよび逆位末端反復を含む(pTR-smCBA-tCFH1)。
【0157】
一部の実施形態に従えば、構築物は、CFH CCP5~17が欠失した全長ヒトCFH、ハイブリッドCMV-ニワトリβ-アクチンプロモーターの小型バージョンおよび逆位末端反復を含む(pTR-smCBA-tCFH2)。
【0158】
一部の実施形態に従えば、構築物は、CFH CCP10~15が欠失した全長ヒトCFH、ハイブリッドCMV-ニワトリβ-アクチンプロモーターの小型バージョンおよび逆位末端反復を含む(pTR-smCBA-tCFH3)。
【0159】
一部の実施形態に従えば、構築物は、CFH CCP8~17が欠失した全長ヒトCFH、ハイブリッドCMV-ニワトリβ-アクチンプロモーターの小型バージョンおよび逆位末端反復を含む(pTR-smCBA-tCFH4)。
【0160】
一部の実施形態に従えば、構築物は、CCP1~7を含む天然に存在するCFH変異体、ニワトリβ-アクチンプロモーターおよび逆位末端反復を含む(pTR-CBA-FHL-1)。一部の実施形態に従えば、pTR-CBA-FHL-1は、配列番号7の核酸配列を含む。一部の実施形態に従えば、pTR-CBA-FHL-1は、配列番号7の核酸配列からなる。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号7に対して少なくとも85%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号7に対して少なくとも90%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号7に対して少なくとも95%、96%、97%、または98%同一である。一部の実施形態に従えば、核酸は、配列番号7に対して少なくとも99%同一である。
【0161】
配列番号7
【0162】
【0163】
「最小調節エレメント」は、標的細胞での遺伝子の効果的な発現に対して必要な調節エレメントである。そのような調節エレメントとしては、例えば、プロモーターまたはエンハンサー配列、プラスミドベクター内のDNA断片の挿入を促進するポリリンカー配列、ならびにmRNA転写産物のイントロンスプライシングおよびポリアデニル化を担う配列が挙げられる。色覚異常に対する遺伝子療法治療の最近の例では、発現カセットは、ポリアデニル化部位、スプライシングシグナル配列、およびAAV逆位末端反復の最小調節エレメントを含んだ。例えば、Komaromy et al.を参照されたい。本発明の発現カセットはまた、標的細胞への遺伝子の効果的な組み込みに対して必要ではない追加的な調節エレメントも任意により含むことができる。
【0164】
ベクター
本発明はまた、先行する節で議論された発現カセットのうちのいずれか1つを含むベクターも提供する。一部の実施形態では、ベクターは、発現カセットの配列を含むオリゴヌクレオチドである。具体的な実施形態では、オリゴヌクレオチドの送達は、in vivoエレクトロポレーション(例えば、Chalberg, TW, et al. Investigative Ophthalmology &Visual Science, 46, 2140-2146 (2005) (本明細書中、以下では、Chalberg et al., 2005)を参照されたい)または電子雪崩トランスフェクション(例えば、Chalberg, TW, et al. Investigative Ophthalmology &Visual Science, 47, 4083-4090 (2006) (本明細書中、以下では、Chalberg et al., 2006))により遂行することができる。さらなる実施形態では、ベクターは、DNA凝縮性ペプチド(例えば、Farjo, R, et al. PLoS ONE, 1, e38 (2006)(本明細書中、以下では、Farjo et al., 2006)を参照されたい。ポリエチレングリコールに結合したシステイン残基およびそれに続く30個のリジンを含むペプチドであるCK30が、光受容体に対する遺伝子移入のために用いられた)、細胞浸透特性を有するペプチド(眼細胞へのペプチド送達の例に関して、Johnson, LN, et al., Cell-penetrating peptide for enhanced delivery of nucleic acids and drugs to ocular tissues including retina and cornea. Molecular Therapy, 16(1), 107-114 (2007)(本明細書中、以下では、Johnson et al., 2007)、Barnett, EM, et al. Investigative Ophthalmology & Visual Science, 47, 2589-2595 (2006)(本明細書中、以下では、Barnett et al., 2006)、Cashman, SM, et al. Molecular Therapy, 8, 130-142 (2003)(本明細書中、以下では、Cashman et al., 2003)、Schorderet, DF, et al. Clinical and Experimental Ophthalmology, 33, 628-635 (2005)(本明細書中、以下では、Schorderet et al., 2005)、Kretz, A, et al.. Molecular Therapy, 7, 659-669 (2003)(本明細書中、以下では、Kretz et al. 2003)を参照されたい)、またはDNAカプセル化リポプレックス、ポリプレックス、リポソーム、もしくはイムノリポソーム(例えば、Zhang, Y, et al. Molecular Vision, 9, 465-472 (2003)(本明細書中、以下では、Zhang et al. 2003)、Zhu, C, et al. Investigative Ophthalmology & Visual Science, 43, 3075-3080 (2002)(本明細書中、以下では、Zhu et al. 2002)、Zhu, C., et al. Journal of Gene Medicine, 6, 906-912. (2004)(本明細書中、以下では、Zhu et al. 2004)を参照されたい)である。
【0165】
好ましい実施形態では、ベクターは、アデノ随伴ウイルス、アデノウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、ワクシニア/ポックスウイルス、またはヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス(HSV))から誘導されるベクターなどのウイルスベクターである。例えば、Howarth, JL et al., Using viral vectors as gene transfer tools. Cell Biol Toxicol 26:1-10 (2010)を参照されたい。最も好ましい実施形態では、ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。
【0166】
12種類のヒト血清型(AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、およびAAV12)および非ヒト霊長類由来の100種類超の血清型をはじめとする、アデノ随伴ウイルス(AAV)の複数の血清型が、現在特定されている(Howarth JL et al., 2010)。ベクターがAAVベクターである本発明の実施形態では、AAVベクターの逆位末端反復(ITR)の血清型は、いずれかの公知のヒトまたは非ヒトAAV血清型から選択することができる。好ましい実施形態では、AAVベクターのAAV ITRの血清型は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、およびAAV12からなる群より選択される。さらに、ベクターがAAVベクターである本発明の実施形態では、AAVベクターのカプシド配列の血清型は、いずれかの公知のヒトまたは動物AAV血清型から選択することができる。一部の実施形態では、AAVベクターのカプシド配列の血清型は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、およびAAV12からなる群より選択される。好ましい実施形態では、カプシド配列の血清型はAAV2である。ベクターがAAVベクターである一部の実施形態では、偽型化アプローチが利用され、このアプローチでは、あるITR血清型のゲノムが、異なる血清型のカプシドへとパッケージングされる。例えば、Zolutuhkin S. et al. Methods 28(2): 158-67 (2002)を参照されたい。好ましい実施形態では、AAVベクターのAAV ITRの血清型およびAAVベクターのカプシド配列の血清型は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、およびAAV12からなる群より独立して選択される。
【0167】
ベクターがrAAVベクターである本発明の一部の実施形態では、突然変異体カプシド配列が利用される。突然変異体カプシド配列、ならびに合理的突然変異誘発(rational mutagenesis)、ペプチドを標的化する遺伝子操作、キメラ型粒子の生成、ライブラリーおよび指向性進化アプローチ、および免疫回避改変などの他の技術を、免疫回避および治療出力の強化などの目的のためにAAVベクターを最適化するために、本発明中で利用することができる。例えば、Mitchell A.M. et al. AAV's anatomy: Roadmap for optimizing vectors for translational success. Curr Gene Ther. 10(5): 319-340を参照されたい。
【0168】
AAVベクターは、網膜での長期間の遺伝子発現を媒介し、かつ最小限の免疫応答を生起することにより、これらのベクターを目への遺伝子送達のための魅力的な選択肢とすることができる。
【0169】
IV. ウイルスベクターの生成方法
本開示はまた、本明細書中に記載される核酸のうちのいずれか1種をアデノ随伴ウイルスベクターへと挿入するステップを含む、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターの作製方法も提供する。一部の実施形態に従えば、rAAVベクターは、1つ以上のAAV逆位末端反復(ITR)をさらに含む。
【0170】
本開示により提供されるrAAVベクターの作製方法に従えば、該AAVベクターのカプシド配列の血清型およびITRの血清型は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、およびAAV12からなる群より独立して選択される。つまり、本開示は、偽型化アプローチを用いるベクターを包含し、このとき、あるITR血清型のベクターゲノムが、異なる血清型カプシドへとパッケージングされる。例えば、Daya S. and Berns, K.I., Gene therapy using adeno-associated virus vectors. Clinical Microbiology Reviews, 21(4): 583-593 (2008)(本明細書中、以下では、Daya et al.)を参照されたい。さらに、一部の実施形態では、カプシド配列は突然変異体カプシド配列である。
【0171】
AAVベクター
AAVベクターは、アデノ随伴ウイルスから誘導され、アデノ随伴ウイルスの名称は、アデノウイルス調製物の混入物として元々記載されたことを理由とする。AAVベクターは、他のタイプのベクターに対して、多数の周知の利点を提供する:野生型株が疾患または有害作用の形跡なしにヒトおよび非ヒト霊長類に感染し;AAVカプシドが、非常に低い免疫原性ならびにそれと組み合わされた化学的および物理的安定性を示し、これにより、ウイルス精製および濃縮の厳密な方法が許容され;AAVベクター形質導入は、有糸分裂後の非分裂性細胞での持続的な導入遺伝子発現をもたらし、かつ長期的な機能獲得を提供し;かつ様々なAAVサブタイプおよび変異体が、選択された組織および細胞タイプを標的化する可能性を提供する(Heilbronn R & Weger S, Viral Vectors for Gene Transfer: Current Status of Gene Therapeutics, in M. Schafer-Korting (ed.), Drug Delivery, Handbook of Experimental Pharmacology, 197: 143-170 (2010)(本明細書中、以下では、Heilbronn))。AAVベクターの主な制限は、AAVが、一本鎖DNAを含む慣用のベクターに対して、限られた導入遺伝子容量(4.9kb未満)しか提供しないことである。
【0172】
AAVは、20面体の20nm径のカプシドによりカプシド化された、非エンベロープ型で小型の一本鎖DNA含有ウイルスである。ヒト血清型AAV2が、AAVの初期の研究のうちの大多数で用いられた(Heilbronn (2010))。AAVは、2つのオープンリーディングフレームrepおよびcap(「rep」は複製(replication)を意味し、「cap」はカプシド(capsid)を意味する)を含む、4.7kbの線形一本鎖DNAゲノムを含む。repは、4種類の重複する非構造タンパク質:Rep78、Rep68、Rep52、およびRep40をコードする。Rep78およびRep69は、AAVベクター産生の必須ステップである、ヘアピン構造逆位末端反復(ITR)でのAAV DNA複製の開始をはじめとする、AAV生活環の大部分のステップに必要とされる。cap遺伝子は、3種類のカプシドタンパク質VP1、VP2、およびVP3をコードする。rep およびcapには、145bpのITRが隣接している。ITRは、DNA複製起点およびパッケージングシグナルを含み、染色体インテグレーションを媒介するために機能する。ITRは一般的に、AAVベクター構築物中で維持される唯一のAAVエレメントである。
【0173】
複製を達成するためには、AAVは、ヘルパーウイルスと共に標的細胞に共感染されなければならない(Grieger JC & Samulski RJ, Adeno-associated virus as a gene therapy vector: Vector development, production, and clinical applications. Adv Biochem Engin/Biotechnol 99:119-145 (2005))。典型的には、ヘルパーウイルスは、アデノウイルス(Ad)または単純ヘルペスウイルス(HSV)のいずれかである。ヘルパーウイルスの非存在下では、AAVは、ヒト19番染色体上の部位へとインテグレーションされることにより、潜伏感染を確立することができる。AAVが潜伏感染した細胞のAdまたはHSV感染は、インテグレーションされたゲノムをレスキューし、かつ増殖感染を開始させるであろう。ヘルパー機能に必要とされる4種類のAdタンパク質が、E1A、E1B、E4、およびE2Aである。加えて、Adウイルス関連(VA)RNAの合成が必要である。ヘルペスウイルスもまた、増殖性のAAV複製のためのヘルパーウイルスとして機能することができる。ヘリカーゼ-プライマーゼ複合体(UL5、UL8、およびUL52)およびDNA結合性タンパク質(UL29)をコードする遺伝子が、HSVヘルパー作用を媒介するために十分であることが見出されている。rAAVベクターを利用する本発明の一部の実施形態では、ヘルパーウイルスはアデノウイルスである。rAAVベクターを利用する他の実施形態では、ヘルパーウイルスはHSVである。
【0174】
組み換えAAV(rAAV)ベクターの作製
本発明のrAAVベクターの生成、精製、および特性決定は、当技術分野で公知の多数の方法のうちのいずれかを用いて行なうことができる。実験室規模の生成方法の総説に関して、例えば、Clark RK, Kidney Int. 61s:9-15 (2002); Choi VW et al., Current Protocols in Molecular Biology 16.25.1-16.25.24 (2007)(本明細書中、以下では、Choi et al.);Grieger JC & Samulski RJ, Adv Biochem Engin/Biotechnol 99:119-145 (2005)(本明細書中、以下では、Grieger & Samulski);Heilbronn R & Weger S, in M. Schafer-Korting (ed.), Drug Delivery, Handbook of Experimental Pharmacology, 197: 143-170 (2010)(本明細書中、以下では、Heilbronn);Howarth JL et al., Cell Biol Toxicol 26:1-10 (2010)(本明細書中、以下では、Howarth)を参照されたい。下記の生成方法は、非限定的な例として意図される。
【0175】
AAVベクター生成は、パッケージングプラスミドの共トランスフェクションにより達成できる(Heilbronn)。細胞株は、欠失されたAAV遺伝子repおよびcapならびに必要とされるヘルパーウイルス機能を提供する。アデノウイルスヘルパー遺伝子であるVA-RNA、E2AおよびE4は、2種類の別個のプラスミドまたは単一のヘルパー構築物のいずれかに載せて、AAV repおよびcap遺伝子と共にトランスフェクションされる。ITRにより両側から挟まれる、導入遺伝子発現カセット(本明細書中に記載される通りの対象となる遺伝子(例えば、CFH核酸);プロモーター;および最小調節エレメントを含む)を用いてAAVカプシド遺伝子が置き換えられている組み換えAAVベクタープラスミドも、トランスフェクションされる。これらのパッケージングプラスミドは、接着性または懸濁細胞株へとトランスフェクションすることができる。一部の実施形態に従えば、これらのパッケージングプラスミドは、典型的には、残余の必要とされるAdヘルパー遺伝子E1AおよびE1Bを構成的に発現するヒト細胞株である、HEK293細胞またはHEK293T細胞へとトランスフェクションされる。これにより、対象となる遺伝子を担持するAAVベクターの増幅およびパッケージングがもたらされる。
【0176】
12種類のヒト血清型および非ヒト霊長類由来の100種類超の血清型をはじめとする、AAVの複数の血清型が、現在特定されている(Howarth et al.)。本発明のAAVベクターは、いずれかの公知の血清型のAAV由来のカプシド配列を含むことができる。本明細書中で用いる場合、「公知の血清型」とは、当技術分野で公知の方法を用いて作製できるカプシド突然変異体を包含する。そのような方法としては、例えば、ウイルスカプシド配列の遺伝子操作、異なる血清型同士のカプシド領域の露出表面のドメインスワッピング、およびマーカーレスキューなどの技術を用いるAAVキメラの作製が挙げられる。Bowles et al. Journal of Virology, 77(1): 423-432 (2003)、ならびにその中で引用される参考文献を参照されたい。さらに、本発明のAAVベクターは、いずれかの公知の血清型のAAV由来のITRを含むことができる。優先的には(preferentially)、ITRは、ヒト血清型AAV1~AAV12のうちの1種類に由来する。本発明の一部の実施形態では、偽型化アプローチが用いられ、このとき、あるITR血清型のゲノムが、異なる血清型カプシドへとパッケージングされる。
【0177】
優先的には、本発明で用いられるカプシド配列は、ヒト血清型AAV1~AAV12のうちの1種類に由来する。AAV5血清型カプシド配列を含む組み換えAAVベクターは、in vivoで網膜細胞を標的化することが実証されている。例えば、Komaromy et al.を参照されたい。したがって、本発明の好ましい実施形態では、AAVベクターのカプシド配列の血清型はAAV2である。他の実施形態では、AAVベクターのカプシド配列の血清型は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、またはAAV12である。カプシド配列の血清型が天然に網膜細胞を標的化しない場合であっても、特定の組織標的化(specific tissue targeting)の他の方法を利用することができる。Howarth et al.を参照されたい。
【0178】
組み換えAAV(rAAV)ベクターの生成、精製、および特性決定のための1つの考えられるプロトコールが、Choi et al.に提供されている。概して、以下のステップが含まれる:導入遺伝子発現カセットを設計すること、特定の受容体を標的化するためのカプシド配列を設計すること、アデノウイルス不含rAAVベクターを作製すること、精製および力価決定すること。これらのステップは、下記に概説され、かつChoi et al.に詳細に説明されている。
【0179】
導入遺伝子発現カセットは、一本鎖AAV(ssAAV)ベクターまたは偽二本鎖導入遺伝子としてパッケージングされる「二量体」もしくは自己相補的AAV(scAAV)ベクターであり得る(Choi et al.;Heilbronn;Howarth)。従来型のssAAVベクターの使用は、一般的に、二本鎖DNAへの一本鎖AAV DNAの必要とされる変換に起因して、遺伝子発現の遅延した開始(導入遺伝子発現のプラトーに達するまで数日間から数週間)を生じる。対照的に、scAAVベクターは、静止細胞の形質導入から数日間以内にプラトーに達する、数時間以内の遺伝子発現の開始を示す(Heilbronn)。しかしながら、scAAVベクターのパッケージング能力は、従来型のssAAVベクターの約半分である(Choi et al.)。あるいは、導入遺伝子発現カセットを、2つのAAVベクターに分けることができ、これにより、より長い構築物の送達が可能になる。例えば、Dyka et al. Hum Gene Ther. 2019 Sep 30を参照されたい。ssAAVベクターは、repおよびcap断片を除去するために制限エンドヌクレアーゼを用いて適切なプラスミド(例えば、CFH遺伝子を含むプラスミドなど)を消化するステップ、およびAAVwt-ITRを含むプラスミド骨格をゲル精製するステップにより、構築することができる(Choi et al.)。続いて、所望の導入遺伝子発現カセットを、適切な制限部位の間に挿入することにより、一本鎖rAAVベクタープラスミドを構築することができる。scAAVベクターは、Choi et al.に記載される通りに構築することができる。
【0180】
続いて、rAAVベクターおよび好適なAAVヘルパープラスミドおよびpXX6 Adヘルパープラスミドの大規模プラスミド調製物(少なくとも1mg)を、精製することができる(Choi et al.)。好適なAAVヘルパープラスミドは、AAV血清型1~12およびその変異体のカプシドへのAAV2 ITRゲノムの交差パッケージングをそれぞれが可能にする、pXRシリーズのpXR1~pXR5から選択することができる。適切なカプシドは、対象となる細胞のカプシドによる標的化の効率に基づいて、選択することができる。例えば、本発明の好ましい実施形態では、rAAVベクターのカプシド配列の血清型はAAV2であり、なぜなら、このタイプのカプシドは、網膜細胞を効率的に標的化することが公知であるからである。ゲノム(すなわち、導入遺伝子発現カセット)長およびAAVカプシドを変化させる公知の方法を、発現および/または特定の細胞タイプ(例えば、網膜錐体細胞)への遺伝子移入を改善するために、利用することができる。例えば、Yang GS, Journal of Virology, 76(15): 7651-7660を参照されたい。
【0181】
次に、HEK293細胞またはHEK293T細胞を、pXX6ヘルパープラスミド、rAAVベクタープラスミド、およびAAVヘルパープラスミドを用いてトランスフェクションする(Choi et al.)。続いて、分画した細胞溶解物を、rAAV精製の複数ステッププロセス、およびそれに続くCsCl勾配精製またはヘパリンセファロースカラム精製のいずれかに供する。rAAVビリオンの生成および定量化は、ドットブロットアッセイを用いて測定できる。細胞培養物中のrAAVのin vitro形質導入を、ウイルスの感染性および発現カセットの機能性を確認するために用いることができる。
【0182】
Choi et al.に記載される方法に加えて、AAVの生成のための様々な他のトランスフェクションおよび精製法を、本発明の文脈で用いることができる。例えば、リン酸カルシウム沈殿またはPEIプロトコールに依る方法をはじめとする、一時的トランスフェクション法が利用可能である。様々な精製法としては、イオジキサノール勾配精製、アフィニティーおよび/またはイオン交換体カラムクロマトグラフィーが挙げられる。
【0183】
rAAVベクターを生成するための実験室規模の方法に加えて、本発明は、例えば、Heilbronn;Clement, N. et al. Human Gene Therapy, 20: 796-606をはじめとする、AAVベクターのバイオリアクター規模の製造に関する当技術分野で公知の技術を利用することができる。一部の実施形態に従えば、rAAVベクターを生成するための方法は、Chulay et al.(Hum Gene Ther. 2011 Feb;22(2):155-65、その全体で参照により本明細書中に組み入れられる)に記載される通りに行なわれる。
【0184】
V. 治療方法
本開示は、AAV1~12、またはその一部分もしくは変異体を含むrAAV粒子が被験体の網膜へと送達される、眼障害に対する遺伝子療法の方法を提供する。一態様に従えば、本開示は、本明細書中に記載される通りの発現ベクターを、それを必要とする被験体に投与し、このとき、発現ベクターはCFHをコードする核酸を含み、それにより、被験体での眼疾患または障害を治療するステップを含む、眼疾患または障害を治療する方法を提供する。一部の実施形態に従えば、発現ベクターは、2つのAAV末端反復をさらに含む。一態様に従えば、本開示は、本明細書中に記載される通りの発現ベクターを、それを必要とする被験体に投与し、このとき、発現ベクターはCFHをコードする核酸を含み、それにより、被験体での眼疾患もしくは障害の進行を予防するかまたは停止させるステップを含む、眼疾患もしくは障害の進行を予防するかまたは停止させる方法を提供する。別の態様に従えば、本開示は、本明細書中に記載される通りの発現ベクターを、それを必要とする被験体に投与し、このとき、発現ベクターはCFHをコードする核酸を含み、それにより、被験体での眼疾患または障害の進行を逆転させるステップを含む、眼疾患または障害の進行を逆転させる方法を提供する。一部の実施形態に従えば、発現ベクターは、少なくとも2つのAAV末端反復をさらに含む。一部の実施形態に従えば、眼疾患または障害は、補体経路の活性化に関連付けられる。一部の実施形態に従えば、眼疾患または障害は、網膜変性である。一部の実施形態に従えば、網膜変性は、加齢黄斑変性(AMD)である。一部の実施形態に従えば、治療対象である被験体は、眼障害の1種以上の徴候または症状を呈している。
【0185】
AMDは、全世界の高齢者での法的盲および失明の主な原因である複雑な進行性の目の疾患である(Pennington et al., Eye Vis. 2016, 3, 34)。その実際の病因は不明なままであるが、AMDは、環境的要因および遺伝的要因の両方から生じる。AMDを罹患する個体数は、約1億9600万人であり、2040年には2億8800万人まで増加すると推定されている(Wong et al., Lancet Health 2014, 2, e106-e116)。AMDの主要な臨床的症状は、最終的に完全な失明をもたらし得る、中心視力の障害である。定義によれば、高齢が、主なAMDリスク因子である。時系列では、AMDは、早期型および後期型として分類することができる。早期AMDは、ブルッフ膜とRPEとの間の細胞外残屑の沈着の存在および増加により象徴される。これらの残屑はドルーゼンと称され、それらの存在は、AMD進行に伴って現れる(Joachim et al., Ophthalmology 2014, 121, 917-925)。後期AMDは、2つの形態、萎縮性(乾性)および血管新生性(湿潤性)で現われ得る。一部の実施形態に従えば、AMDは、乾性AMDである。一部の実施形態に従えば、乾性AMDは、進行型乾性AMDである。AMDの乾性型は、AMDの比較的一般的な形態であり、加齢黄斑変性の全症例のうちの85~90パーセントを占める。乾性AMDは、網膜の下のドルーゼンと称される黄色がかった沈着物の積層および時間と共に緩やかに悪化する視力低下を特徴とする。この状態は、典型的には、両目での視力に影響を及ぼすが、視力低下はしばしば、一方の目で他方よりも前に起きる。一部の実施形態に従えば、AMDは湿潤性AMDである。加齢黄斑変性の湿潤性型は、迅速に悪化し得る重度の視力低下を伴う。状態のこの形態は、黄斑の底部の異常な脆弱血管の成長により特徴付けられる。これらの血管は、血液および体液を漏出し、これが黄斑を損傷させ、かつ中心視力をぼやけて歪ませる。現行の湿潤性AMD薬物治療は、血管生成を刺激する血管内皮増殖因子(VEGF)の阻害に着目している。しかしながら、VEGF治療の長期的効果の可能性が残っている。マウスモデルでは、抗VEGF療法を用いる長期的治療は、光受容体および網膜内のそれらの支持細胞の死滅の増加に関連する(Ford et al., 2012. Invest. Ophthamol. Vis. Sci. 53, 7520-7527; Saint-Genie et al., 2008. PLoS ONE 3, e3554)。
【0186】
一部の実施形態に従えば、本開示は、そのような治療を必要とする被験体へと本発明のベクターのうちのいずれかを投与し、それにより被験体を治療するステップを含む、眼疾患または障害(例えば、AMD)を治療するための方法をさらに提供する。
【0187】
治療方法のうちのいずれかでは、ベクターは、当技術分野で公知のいずれかのタイプのベクターであり得る。一部の実施形態では、ベクターは、裸のDNAプラスミド、オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、小分子RNA(siRNA)、二本鎖オリゴデオキシヌクレオチド、または一本鎖DNAオリゴヌクレオチドなど)などの非ウイルスベクターである。オリゴヌクレオチドベクターを含む具体的な実施形態では、送達は、in vivoエレクトロポレーション(例えば、Chalberg et al., 2005を参照されたい)または電子雪崩トランスフェクション(例えば、Chalberg et al. 2006を参照されたい)により遂行できる。さらなる実施形態では、ベクターは、任意により水溶性ポリマー中にカプセル化することができるデンドリマー/DNA複合体、DNA凝縮性ペプチド(例えば、Farjo et al. 2006を参照されたい。ポリエチレングリコールに結合したシステイン残基およびそれに続く30個のリジンを含むペプチドであるCK30が、光受容体に対する遺伝子移入のために用いられた)、細胞浸透特性を有するペプチド(眼細胞へのペプチド送達の例に関して、Johnson et al. 2007;Barnett et al., 2006;Cashman et al., 2003;Schorder et al., 2005;Kretz et al. 2003を参照されたい)、またはDNAカプセル化リポプレックス、ポリプレックス、リポソーム、もしくはイムノリポソーム(例えば、Zhang et al. 2003;Zhu et al. 2002;Zhu et al. 2004を参照されたい)である。一部の実施形態に従えば、ベクターは、アデノ随伴ウイルス、アデノウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、ワクシニア/ポックスウイルス、またはヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス(HSV))から誘導されるベクターなどのウイルスベクターである。例えば、Howarthを参照されたい。好ましい実施形態では、ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。
【0188】
一部の実施形態に従えば、本開示は、本明細書中に記載されるrAAVベクターを投与するステップであって、rAAVベクターがCFHをコードする核酸配列を含むステップを含む、眼疾患または障害(例えば、AMD)を治療するための方法を提供する。
【0189】
一部の実施形態に従えば、本明細書中に記載される核酸配列は、細胞へと直接的に導入され、このとき、核酸配列は、得られる組み換え細胞のin vivoでの投与に先立って、コードされる産物を生成するために発現される。これは、当技術分野で公知の多数の方法のうちのいずれかにより、例えば、エレクトロポレーション、リポフェクション、リン酸カルシウム媒介トランスフェクションなどの方法により、遂行することができる。
【0190】
医薬組成物
一部の態様に従えば、本開示は、任意により製薬上許容される賦形剤中に、本明細書中に記載されるベクターのうちのいずれかを含む、医薬組成物を提供する。
【0191】
当技術分野で周知である通り、製薬上許容される賦形剤は、薬理学的に有効な物質の投与を促進し、かつ液体溶液もしくは懸濁液として、エマルジョンとして、または使用前の液体中での溶解もしくは懸濁に好適な固体形態として供給されることができる、比較的不活性な物質である。例えば、賦形剤は、形状もしくは粘稠度を与えるか、または希釈剤として機能することができる。好適な賦形剤としては、限定するものではないが、安定化剤、湿潤化剤および乳化剤、浸透圧を変更するための塩、カプセル化剤、pH緩衝物質、および緩衝剤が挙げられる。そのような賦形剤は、過度な毒性を伴うことなく投与することができる、目への直接的送達のために好適ないずれかの薬剤を含む。製薬上許容される賦形剤としては、限定するものではないが、ソルビトール、様々なTWEEN(登録商標)化合物のうちのいずれか、ならびに水、生理食塩液、グリセロールおよびエタノールなどの液体が挙げられる。製薬上許容される塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩等などの鉱酸塩;ならびに酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩等などの有機酸の塩を、その中に含めることができる。製薬上許容される賦形剤の詳細な議論は、REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCES(Mack Pub. Co., N.J. 1991)の中で利用可能である。
【0192】
一般的に、これらの組成物は、眼注入による投与のために製剤化される。したがって、これらの組成物は、生理食塩液、リンゲル平衡塩溶液(pH7.4)等などの製薬上許容されるビヒクルと組み合わせることができる。必要ではないが、組成物は、任意により正確な量の投与のために好適な単位投与剤型で供給されることができる。
【0193】
投与方法
本発明の治療方法に従えば、本明細書中に記載されるベクターを含む組成物の投与は、当技術分野で公知のいずれかの手段により遂行することができる。一部の実施形態に従えば、治療的組成物(例えば、本明細書中に記載される通りの全長または切断型CFHタンパク質(例えば、tCFH1)をコードする核酸)は、単独で(すなわち、送達用のベクターを用いずに)投与される。一部の実施形態に従えば、投与は眼注入による。一部の実施形態に従えば、投与は網膜下注入による。網膜下送達の方法は、当技術分野で公知である。例えば、国際公開第2009/105690号(その全体で参照により本明細書中に組み入れられる)を参照されたい。一部の実施形態に従えば、組成物は、中心網膜の外側の網膜下腔へと直接注入される。他の実施形態では、投与は、眼内注入、硝子体内注入、脈絡膜上、または静脈内注入による。網膜へのベクターの投与は、片側または両側であり得、かつ全身麻酔の使用を伴うかまたは伴わずに遂行することができる。
【0194】
本明細書中に記載されるベクターを含む組成物を用いて安全かつ効果的に眼細胞(例えば、RPE)を形質導入するステップであって、ベクターがCFHをコードする核酸を含むステップにより、本発明の方法は、個体(例えば、眼障害(例えば、AMD)を有するヒト)を治療するために用いることができ、このとき、形質導入された細胞は、眼障害を治療するために十分な量でCFHを産生する。
【0195】
一部の実施形態に従えば、組成物は、同じ手順の間に、または数日間、数週間、数ヵ月間、もしくは数年間離すかのいずれかで、1回以上の網膜下注入により投与することができる。一部の実施形態に従えば、本明細書中に記載されるベクターを含む組成物の複数回の注入は、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、9時間、12時間または24時間以下、離れている。一部の実施形態に従えば、本明細書中に記載されるベクターを含む組成物の複数回の注入は、約1ヵ月間、2ヵ月間、3ヵ月間、4ヵ月間、5ヵ月間、6ヵ月間、7ヵ月間、8ヵ月間、9ヵ月間、10ヵ月間、11ヵ月間、12ヵ月間またはそれを超えて、離れている。一部の実施形態に従えば、本明細書中に記載されるベクターを含む組成物の複数回の注入は、1年間、2年間、3年間、4年間、5年間またはそれを超えて、離れている。一部の実施形態に従えば、複数のベクターを、被験体を治療するために用いることができる。
【0196】
本発明の治療方法に従えば、送達されるベクターの体積は、被験体の年齢などの治療を受ける被験体の特性およびベクターが送達される対象の領域の体積に基づいて決定することができる。目のサイズおよび網膜下腔または眼腔(ocular space)の体積は、個体によって異なり、かつ被験体の年齢と共に変化し得ることが公知である。一部の実施形態に従えば、網膜の網膜下腔に注入される組成物の体積は、1μL、2μL、3μL、4μL、5μL、6μL、7μL、8μL、9μL、10μL、15μL、20μL、25μL、50μL、75μL、100μL、200μL、300μL、400μL、500μL、600μL、700μL、800μL、900μL、もしくは1mLのうちのおおよそいずれか1つ超、またはそれらの間のいずれかの量である。ベクターが網膜下に投与される実施形態に従えば、ベクター体積は、網膜下腔もしくは眼腔の全部または一定の割合(%)を覆う目的で、または特定の数のベクターゲノムが送達されるように、選択することができる。
【0197】
本開示の治療方法に従えば、投与されるベクターの濃度は、製造方法に応じて異なる場合があり、かつ特定の投与経路に対して治療上有効であると決定された濃度に基づいて、選択または最適化することができる。一部の実施形態に従えば、1ミリリットル当たりのベクターゲノム(vg/mL)での濃度は、約108vg/mL、約109vg/mL、約1010vg/mL、約1011vg/mL、約1012vg/mL、約1013vg/mL、および約1014vg/mLまたはそれらの間のいずれかの量からなる群より選択される。好ましい実施形態では、濃度は、1010vg/mL~1013vg/mLの範囲で、約0.05mL、約0.1mL、約0.2mL、約0.4mL、約0.6mL、約0.8mL、および約1.0mLの体積で網膜下注入または硝子体内注入により送達される。
【0198】
一部の実施形態に従えば、1種以上の追加の治療剤を、被験体に投与することができる。例えば、抗血管新生剤(例えば、核酸またはポリペプチド)を、被験体に投与することができる。
【0199】
本明細書中に記載される組成物の有効性は、数種類の基準によりモニタリングすることができる。例えば、本開示の方法を用いる被験体での治療後に、例えば、本明細書中に記載されるものをはじめとする1種以上の臨床的パラメーターにより、疾患状態の1種以上の徴候もしくは症状の進行の、改善および/または安定化および/または遅延に関して、被験体を評価することができる。そのような試験の例は、当技術分野で公知であり、かつ客観的ならびに主観的(例えば、被験体が報告した)尺度を含む。例えば、被験体の視覚機能に対する治療の有効性を測定するために、以下の機能のうちの1種以上を評価することができる:被験体の視覚の主観的質、被験体の暗順応、被験体の中心視力機能の改善(例えば、被験体が流暢に読む能力および顔を認識する能力の改善)、被験体の視覚的可動性(例えば、迷路を進むために必要な時間の減少)、被験体の視覚的鋭敏さ(例えば、被験体のLogMARスコアの改善)、微小視野計測(例えば、被験体のdBスコアの改善)、暗順応視野計測(例えば、被験体のdBスコアの改善)、ファインマトリックスマッピング(例えば、被験体のdBスコアの改善)、ゴールドマン視野計測(例えば、暗点領域(すなわち、盲目の領域)のサイズ減少および比較的小さな標的を解像する能力の改善)、点滅感受性(例えば、ヘルツの改善)、自家蛍光、および電気生理学測定(例えば、ERGの改善)。一部の実施形態に従えば、視覚機能は、被験体の暗順応により測定される。暗順応試験は、暗がりでのその感受性を増大させる桿体光受容体の能力を測定するために用いられる試験である。この試験は、桿体錐体系が、明るい光源への曝露後に暗がりで感受性を回復する速度の測定である。一部の実施形態に従えば、視覚機能は、被験体の視覚的可動性により測定される。一部の実施形態に従えば、視覚機能は、被験体の視覚的鋭敏さにより測定される。一部の実施形態に従えば、視覚機能は、微小視野計測により測定される。一部の実施形態に従えば、視覚機能は、暗順応視野計測により測定される。一部の実施形態に従えば、視覚機能は、ERGにより測定される。一部の実施形態に従えば、視覚機能は、被験体の視覚の主観的質により測定される。
【0200】
AMDのin vitroおよびin vivoモデル
ヒト胎児RPE(hfRPE)の初代培養は、それらが生来型RPEの機能および代謝活性をモデル化するので、AMD研究での有用なツールであることが示されてきた(Ablonczy et al., 2011. Invest. Ophthamol. Vis. Sci. 52, 8614-8620)。AMD研究で用いられる他のRPE細胞タイプとしては、幹細胞由来のRPEおよび不死化ARPE-19細胞株が挙げられる(Dunn et al., 1996, Exp. Eye Res. 62, 155-170)。
【0201】
Cfh-/-マウスモデルは、AMDを研究するために用いることができるin vivoモデルである。補体H因子(CFH)は、B因子とのC3bの結合を妨げ、かつC3転換酵素の形成を阻害することにより、第二経路で重要な調節的役割を果たす(Pickering and Cook, 2008. Clin Exp Immunol. 2008 Feb; 151(2):210-30)。CFH機能の欠損は、第二経路の脱調節をもたらし、これがC3の低い全身レベル、糸球体基底膜でのC3の沈着、および最終的にII型膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)を生じさせる(Pickering and Cook, 2008)。補体H因子を欠損するように遺伝子操作されたマウスはまた、MPGNおよびAMDを想起させる網膜異常も発症する(Coffey et al., 2007. Proc Natl Acad Sci U S A. 2007 Oct 16; 104(42):16651-6;Pickering et al., 2002. Nat Genet. 2002 Aug; 31(4):424-8)。2歳の時点で、これらの動物は、水迷路で測定した場合の視覚的鋭敏さの低下、桿体駆動型網膜電図(ERG)a波およびb波応答の低下、網膜下自家蛍光の増大、網膜中の補体沈着、および光受容体外節の崩壊を実証した。
【0202】
トランスジェニックCFH Y402Hマウスモデルは、AMDを研究するために用いることができるin vivoモデルである。CFH突然変異がAMDに寄与するメカニズムをさらに明らかにするために、ヒトApoEプロモーターの制御下にY402H多型を発現するトランスジェニックマウス系統を構築した(Ufret-Vincenty et al., 2010. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2010 Nov; 51(11):5878-87)。このマウスモデルでのAMD様症状の発症は、高脂肪食も必要とする。ApoE遺伝子は、脂質輸送のためのリポタンパク質の形成に重要なアポリポタンパク質Eをコードする。1歳の時点で、これらの動物は、野生型マウスまたはCfh-/-マウスで見られるよりも多数のドルーゼン様沈着物を示した。免疫組織化学により、網膜下腔での増加した数のミクログリアおよびマクロファージが明らかになり、電子顕微鏡観察は、ブルッフ膜の肥厚化およびC3dの基底膜沈着を示した。
【0203】
VI. キット
本明細書中に記載される通りのrAAV組成物は、本明細書中に記載される通りの本開示の方法のうちの1つでの使用のために設計されるキット内に含めることができる。一部の実施形態に従えば、本開示のキットは、(a) 本開示のベクターのうちのいずれか1種、および(b) その使用説明書を含む。一部の実施形態に従えば、本開示のベクターは、上記の通りの非ウイルスまたはウイルスベクターをはじめとする、当技術分野で公知のいずれかのタイプのベクターであり得る。一部の実施形態に従えば、ベクターは、アデノ随伴ウイルス、アデノウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、ワクシニア/ポックスウイルス、またはヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス(HSV))から誘導されるベクターなどの、ウイルスベクターである。好ましい実施形態に従えば、ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。
【0204】
一部の実施形態に従えば、キットは、使用説明書をさらに含むことができる。一部の実施形態に従えば、キットは、本明細書中に記載されるrAAVベクターの組成物の眼送達(例えば、眼内注入、硝子体内注入、脈絡膜上、または静脈内注入)のためのデバイスをさらに含む。一部の実施形態に従えば、使用説明書は、本明細書中に記載される方法のうちの1つに従う説明書を含む。キットと共に提供される説明書は、どのようにしてベクターを治療目的のために、例えば、眼疾患または障害(例えば、AMD)を治療するために投与できるかを説明することができる。キットが治療目的のために用いられる予定である一部の実施形態に従えば、説明書は、推奨される投与量および投与経路に関する詳細を含む。
【0205】
一部の実施形態に従えば、キットは、バッファーおよび/または製薬上許容される賦形剤をさらに含む。追加の成分、例えば、保存料、緩衝剤、等張化剤、抗酸化剤および安定化剤、非イオン性湿潤化剤または清澄化剤、増粘剤などもまた、用いることができる。本明細書中に記載されるキットは、単一単位投与量または複数投与量形態で包装することができる。キットの内容物は、一般的に、無菌かつ実質的に等張な溶液として製剤化される。
【0206】
本明細書中で言及されるすべての特許および刊行物は、本開示と共に用いることができる、それらの中で報告されるタンパク質、酵素、ベクター、宿主細胞、および方法論を説明および開示する目的のために法律により許容される程度まで、参照により本明細書中に組み入れられる。しかしながら、本開示が、先行する開示を理由にそのような開示に先行する資格がないという了解として解釈されるべきものは、本明細書中にはない。
【0207】
本開示は、以下の実施例によりさらに例示されるが、これらの実施例は、さらなる限定として解釈されるべきではない。すべての図ならびに本出願全体を通して引用されるすべての参考文献、特許および公開特許出願、ならびに図面は、それらの全体で参照により本明細書中に明示的に組み入れられる。
【実施例】
【0208】
実施例1. 構築物設計およびクローニング
CFHは、他のタンパク質に対する結合部位として機能する20個のCCPから構成される。最初の7個のCCPは、天然に存在する切断型CFHである「FHL-1」から明らかである通り、補体調節に対して重要であることが公知である。このCFHの切断型(配列番号7として示される)は、最初の7個のCCPから構成され、かつ補体調節因子としての一部の機能を保持する。つまり、本発明者らは、公知の機能を有しないCCP、または冗長な結合部位を有するものを除去することにより、CFHを切断することを目指した。2つの追加の切断型構築物が「概念実証」のために生成され、これらの構築物では、機能のために重要であることが公知であるCCPが、機能喪失対照として働くために欠失された。
【0209】
CBAプロモーターは、多数の細胞タイプにわたるGOI発現を駆動することが可能である、広く用いられる頑強なプロモーターである。CBAプロモーターの欠点は、その大きなサイズである。本研究では、CBAプロモーターの切断型が、AAVベクター構築物中のスペースを節約するために試験および使用された。
【0210】
CBAプロモーターは、CMV ieエンハンサー、コアニワトリβ-アクチンプロモーター、短いエクソン、および長いイントロンからなる。CMV ieエンハンサーおよびイントロンは、全長プロモーターの最も大きなセグメントであり、かつプロモーター機能に重要ではなく、むしろエンハンサーエレメントとして機能する。つまり、目的は、CMV ieエンハンサーおよびイントロンの一部分を欠失することによりプロモーターを切断することであった。加えて、以前に作製された小型CBAプロモーター(smCBA)が評価され、かつ構築物中に含められた。
【0211】
pTR-CBA-flCFH:pTR-CBA-flCFH構築物を作製するために、flCFH断片をNotI消化によりpUC57-flCFHから切り出し、引き続いてpTR-CBA-flCFHを作製した。
【0212】
pTR-CBA-FHL-1:pTR-CB-flCFH構築物に対するのと同じクローニング戦略を、pTR-CB-FHL-1プラスミドクローニングのために用いた。FHL-1 cDNA配列(NCBI CCDS ID: 53452.1)および両端の適切なクローニング部位(NotI)を、pTR-CBA_FHL-1を作製するために合成した。
【0213】
pTR-smCBA-flCFH:pTR-smCBA-flCFHを、pTR-CBA-flCFH中の完全CBAプロモーターをsmCBAプロモーターに置き換えることにより構築した。全長CBAおよびsmCBAの両方を、それらの親プラスミドから切り出すことができる。
【0214】
pTR-smCBA-tCFH1:切断型CFH遺伝子「tCFH1」を、PCR増幅を介して生成し、続いて、pTR-smCBA骨格へとクローニングした。ライゲーションのための特異的制限部位に隣接された2つのPCR断片(一方はCCP1~15を含み、他方はCCP18~20を含む)を作製し、XhoI/KpnIまたはKpnI/NotIを用いて消化し、続いてpTR-smCBA骨格へと組み合わせた。配列番号2は、tCFH1の核酸配列を示す。
【0215】
pTR-smCBA-tCFH2:切断型CFH遺伝子「tCFH2」を、PCR増幅を介して生成し、続いて、pTR-smCBA骨格へとクローニングした。2つのPCR断片(一方はCCP1~4を含み、他方はCCP18~20を含む)を作製し、XhoI/KpnIまたはKpnI/NotIを用いて消化し、続いて3ピースライゲーションを通してpTR-smCBA骨格へと組み合わせた。配列番号3は、tCFH2の核酸配列を示す。
【0216】
pTR-smCBA-tCFH3:切断型CFH遺伝子「tCFH3」を、PCR増幅を介して生成し、続いて、pTR-smCBA骨格へとクローニングした。2つのPCR断片(一方はCCP1~9を含み、他方はCCP16~20を含む)を作製し、XhoI/KpnIまたはKpnI/NotIを用いて消化し、続いて3ピースライゲーションを通してpTR-smCBA骨格へと組み合わせた。配列番号4は、tCFH3の核酸配列を示す。
【0217】
pTR-smCBA-tCFH4:切断型CFH遺伝子「tCFH4」を、PCR増幅を介して生成し、続いて、pTR-smCBA骨格へとクローニングした。2つのPCR断片(一方はCCP1~7を含み、他方はCCP18~20を含む)を作製し、XhoI/KpnIまたはKpnI/NotIを用いて消化し、続いて3ピースライゲーションを通してpTR-smCBA骨格へと組み合わせた。配列番号5は、tCFH4の核酸配列を示す。
【0218】
図1Aは、全長ヒトCFH(3696bp)の20個の補体制御タンパク質モジュール(CCP)を示す模式図である。CCPモジュールは、楕円として示される。一部のCCPは、示される通りの他のタンパク質に対する特定された結合部位を有する。構築物pTR-CBA-flCFHは、全長ヒトCFHを含む。AMDに対する高リスク多型Y402Hは、天然に存在する変異体FHL-1にも含まれるCCP7に位置する。
【0219】
図1Bは、様々なCCPを欠失させるために遺伝子操作されたCFH構築物を示す模式図である。構築物pTR-smCBA-tCFH1は、CCP16~17が欠失した全長ヒトCFHを含む。構築物pTR-smCBA-tCFH2は、CCP5~17が欠失した全長ヒトCFHを含む。構築物pTR-smCBA-tCFH3は、CCP10~15が欠失した全長ヒトCFHを含む。構築物pTR-smCBA-tCFH4は、CCP8~17が欠失した全長ヒトCFHを含む。構築物pTR-CBA-FHL-1は、天然に存在する変異体FHL-1を含む。2種類の構築物tCFH2およびtCFH4は、補体カスケード活性に対して重要であることが公知であるCCPを欠失させるために遺伝子操作された。
【0220】
実施例2. rAAV生成
組み換えAAVベクターを、以前に記載された通りにヒト胎児腎臓癌293細胞(HEK-293)のトランスフェクションにより生成させた(Xiao et al. (1998) J. Virol. 72:2224-2232)。導入遺伝子は、ニワトリβ-アクチン(CBA)プロモーターまたはCBAプロモーターの短いバージョン(SmCBA)の制御下にあった。ウイルスを、トランスフェクションから68~76時間後に回収し、イオジキサノール(IOD)勾配超遠心を用いて2回精製した。精製後、次に、分子量カットオフフィルターを用いてウイルスを濃縮し、BSST(0.014%Tween(登録商標)20を含むAlcon平衡塩溶液)中に製剤化した。
【0221】
実施例3. in vitro研究
最初に、CFH変異体を用いてトランスフェクションされたHEK293細胞を用いて、実験を行なった。ELISAアッセイを、培地中のCFH濃度(ng/mL)を測定するために行なった。
図2は、ヒト胎児腎臓293(HEK293)細胞のプラスミドトランスフェクション後のCFH変異体の発現を示すグラフである。HEK293細胞は、遺伝子操作型CFH変異体を含むプラスミド(
図1Aに示される通りのpTR-CFH変異体)を用いてトランスフェクションされた。トランスフェクションから48時間後に細胞溶解物を回収し、アッセイするまで-80℃で保存した。CFH濃度(ng/mL)を溶解物中で測定した。
【0222】
CFH変異体によるヒト補体成分C3b(C3b)の切断を測定するために、細胞溶解物を用いて切断アッセイを行なった。
図3は、CFH変異体によるヒトC3bの切断をアッセイするための、抗C3/C3b抗体(Abcam社、cat#129945)を用いるウエスタンブロットの結果を示す。プラスミドを用いてHEK293細胞をトランスフェクションし、回収したサンプルを、
図2に記載される通りに保存した。
図3は、効率的な切断がsmCBA-tCFH1レーン(レーン6、四角で示される)で観察されたことを示す。切断は、CFH変異体smCBA-tCFH2およびsmCBA-tCFH4によって生じないか、または低かった。同じ手順を、類似の予測される結果を伴って、細胞上清を用いて行なうことができる。
【0223】
これらの結果に基づいて、以下のCFH変異体が、AAV生成のために選択された:1) pTR-smCBA-flCFH;2) pTR-smCBA-tCFH1;3) pTR-CBA-tCFH3;4) pTR-CBA-FHL-1。
【0224】
次に、HEK293細胞のrAAV-CFH感染を行なった。培地中のCFH濃度(ng/mL)を測定するために、ELISAアッセイを用いた。
図4は、1×10
4vgの感染多重度(MOI)を用いるHEK293細胞のrAAV感染後のCFH変異体の発現を示すグラフである。感染から72時間後にサンプルを回収し、CFH濃度(ng/mL)を培地中で測定した。グラフに示される通り、HEK293細胞のrAAV-CFH感染の72時間後に、遺伝子操作型CFH構築物の頑強な発現が見られた。
【0225】
rAAVにより発現されたCFH変異体によるヒト補体成分C3b(C3b)の切断を測定するために、細胞溶解物を用いてアッセイを行なった。結果を
図5に示す。
図5に示される通り、C3bの切断は、FHL-1により最も効率的であり、tCFH1およびflCFHがそれに続いた。
【0226】
実施例4. 溶血実験
本研究の目的は、ウサギ赤血球での溶解を誘導し/ヒツジ赤血球の溶解を阻害する各構築物の能力を評価することにより、in vitroでのrAAV-CFH変異体の機能性を評価することであった。
【0227】
補体H因子(CFH)タンパク質は、補体第二経路活性化でそれぞれ重要な機能を果たす20個の補体制御タンパク質(CCP)から構成される。CCP1~4は、流体相でのC3b結合性(C3bからiC3bへの切断)に対して重要であり、CCP19~20は、C3bに結合することに加えて、自己表面上で見出されるグリコサミノグリカン(GAG)およびシアル酸(SA)に結合する(Kerr et al., J. Biol. Chem. 2017; 292(32):13345-13360)。すべてのCCPが、外来性表面上での補体活性化および自己表面上での補体阻害を達成するために、協調的な様式で働くが、重要なCCPの不在は、生物学的環境(biological setting)でのCFHタンパク質の主要な機能を阻むことができる。
【0228】
CFH変異体は、野生型CFHからのCCP(
図1Aに示される通り)の欠失を含むので、溶血アッセイでそれらを試験することは、CFHの流体相活性および膜結合活性などの、主要な機能について重要であるCCPを決定することを助ける。
【0229】
CFHは、血清中での補体第二経路のin vitro活性化で重要な役割を果たす。赤血球(RBC)は、それらを溶血させ、かつヘモグロビンを放出させるこの補体活性化に対して感受性である。つまり、RBCの溶解は、実験希釈剤を赤くし、放出されたヘモグロビンの量に相当する赤色の強度は、415nmで光度測定により測定することができる。
【0230】
CFHなどの第二経路補体調節タンパク質は、非自己から自己を認識することに関与する。ヒト調節タンパク質を発現しない外来性病原体は、第二経路(AP)により認識および破壊される。B因子、D因子およびプロペルジンタンパク質は、第二補体系に固有である。AP経路は、自発的に起こってタンパク質のコンホメーション変化を生じさせるC3の「チックオーバー」を介して自己活性化することが可能である。この修飾型C3は、B因子に結合して、そのコンホメーション変化を引き起こすことが可能である。修飾型B因子は、活性な血清プロテアーゼであるD因子により切断されて、BaおよびBbが生じる。Bbタンパク質は、複合体に会合したままであり、これが続いて追加のC3分子を切断し、C3bを生じさせることができる。C3bは、B因子と会合して、さらなるC3転換酵素(C3bBb)を生じる。上記のステップは、血清タンパク質であるプロペルジンにより増強され、プロペルジンは、タンパク質:タンパク質相互作用の安定化を担う。つまり、APは、C3bがB因子に結合したときに、増幅ループとして開始されることができる(Thurman et al., J Immunol 2006; 176(3):1305-1310)。つまり、遊離のB因子の不在は、補体系の連続的な活性化を示す。
【0231】
AP経路は自発的に活性化されることができるので、系の連続的制御が必要である。CFHは、活性なAP阻害因子であり、かつC3bに結合することおよびそれを不活性なC3bまたはiC3bへと転換し、それによりAPループの増幅を防止することにより機能する。つまり、C3bBb転換酵素は形成されず、血清中に遊離B因子が残る。
【0232】
RBCへの血清の添加は、C3の活性化およびAPループの増幅を引き起こし、これは、血清がCFHなどの制御タンパク質を欠いている場合、調節なしに進む。ウサギRBC膜は、効率的にC3bに結合し、かつそれらが膜上のシアル酸残基を欠失しているので、調節タンパク質の不活性化に対して抵抗性であることが示される(Fearon et al., J Exp Med 1977; 146(1): 22-33)。C3の自発的な流体相活性化は、遊離B因子を使い尽くして、CFH枯渇血清中でのCFHによる調節なしに起こる。遊離B因子の不在に起因して、APループは連続的に増幅されず、それゆえ、C3bは形成されない。CFHを枯渇させたヒト血清はC3オプソニン化を示さないことが示されている。生理学的レベルまでのCFH枯渇血清の再構成は、C3オプソニン化を生じた(van der maten et al., JID 2016; 213:1820-1827)。CFH枯渇血清をCFHと共にウサギRBCに添加する場合、AP活性化がRBC膜上でのC3b沈着へとつながり、かつAP進行が、RBCの溶解を引き起こす膜侵襲複合体(MAC)形成につながる。CFHの濃度を増加させることによる溶解の誘導は、415nmで光度測定により測定される。血清中のCFHが生理学的レベルまで回復する場合に、100%溶解が観察される。
【0233】
正常ヒト血清は、生理学的レベルのCFHを含有する。それゆえ、C3活性化はCFHの調節下で進む。抗体感作ヒツジ赤血球に正常ヒト血清を添加する場合、C3bが結合して、ヒツジRBC膜上でAPを活性化する。ヒツジRBCは、CFHのC末端に結合できるシアル酸富化表面を有する(Yoshida et al., PLoS One 2015; 10(5): 1-21)。つまり、CFHが反応に添加される場合、CFHはヒツジRBC膜に結合して、C3増幅ループを効率的に阻害する。結果として、ヒツジRBCの溶血が阻害される。
【0234】
ヒツジおよびウサギRBCは、CFHの異なる機能の評価を助ける。ヒツジRBCの溶血は、CCP19~20により調節されるCFHの膜結合活性を明らかにする。ウサギRBCの溶血は、CCP1~4により主に調節されるCFHの流体相活性を明らかにする。本明細書中に記載されるCFH変異体は、それらの機能性を評価するために、ヒツジおよびウサギの両方のRBCに対して試験された。
【0235】
アッセイ条件は、以下の通りである:
【0236】
【0237】
MgEGTA、血清およびCFHタンパク質(精製された、トランスフェクションまたは感染上清)を含有するバッファーとRBCを混合することにより、反応物を調製し、37℃で30分間インキュベートした。MgEGTAは、選択的かつ増強されたAP活性化に対して重要である(des Prez at al., Infection and Immunity 1975; 11(6):1235-1243)。RBCを遠心分離し、上清の415nmでの光学密度を、反応物のそれぞれについて測定した。反応は、2回反復で行なった。
【0238】
HEK293T細胞を、CFHプラスミド変異体を用いてトランスフェクションし、トランスフェクションの72時間後に上清を回収した。CFHレベルを、溶血アッセイに先立って、上清中で測定した。
【0239】
HEK293T細胞を、rAAV-CFH変異体を用いて感染させ、感染の72時間後に上清を回収した。CFHレベルを、溶血アッセイに先立って、上清中で測定した。
【0240】
結果を
図13に示す。
図13に示される通り、rAAV-CFH変異体は、ウサギRBCに対する溶解促進機能を有した。グラフの上部のバーは、ウサギRBCに対してCFHにより誘導される溶解のレベルを示す。溶解のレベルが測定され、グラフ中にプロットされる。野生型CFHの機能性は、HAタグを含む場合および含まない場合のtCFH1と同等である。このことは、切断型tCFH1が、分泌機能に対して重要なすべてのCCP領域からなることを示す。HAタグは、tCFH1機能性を障害しない。FHL1およびtCFH3機能性は、CFH構築物の同じ分泌機能を測定する切断アッセイと比較して、比較的低い。切断アッセイは、反応中に1ng未満のC3bを用い、かつ血清中でのAP経路の複雑さを模倣しない。つまり、本発明者らは、これらの2種類のin vitroアッセイでのFHL1およびtCFH3の活性での相違を観察する。これもまた
図13に示される通り、rAAV-CFH変異体は、ヒツジRBCに対してCFHの保護的機能を有する。グラフの下部のバーは、ヒツジRBCに対してCFHにより発揮される保護的機能のレベルを示す。対照血清は、本来のCFHレベルを有し、これは溶解に対する高い度合の保護を示さない。しかしながら、反応中に供給されるCFH構築物は、ヒツジ赤血球に結合し、かつAP経路を妨げて、それによりRBCの破裂を阻害することができ、このことは、低下したOD415nm読み出し値として反映される。FHL1による減少した溶解活性は、CCP19~20が膜結合活性に対して重要であることを示す。このことは、FHL-1を、良好な概念実証対照とする。野生型CFHの機能性は、HAタグを含む場合および含まない場合のtCFH1と同等である。このことは、切断型tCFH1が、分泌ならびに膜結合機能性に対して重要なすべてのCCP領域からなることを示す。HAタグは、tCFH1機能性を障害しない。CCP10~15はまた、CFHのC3b結合活性で役割を果たすことも示されている。この機能性もまた、CFHの溶血活性に寄与する。これが、溶解からのヒツジRBCの保護でのtCFH3の低下した機能性を説明する。
【0241】
実施例5. cfh-/-マウスでのFHL-1およびtCFH1構築物のin vivo試験
AAV-FHL-1ベクターおよびAAV-tCFH1の活性を、CFH欠損(cfh-/-)マウスで測定した。マウスに、1.012、1.011および1.010vg/mLのAAV-FHL-1または1.012vg/mLのAAV-tCFH1を用いて、目へと網膜下投与した。8週間後、マウスを屠殺し、CFH発現について目を分析した。1.010vg/mLを投与された目を除く大部分の目が、CFH発現に関して陽性であった(用量応答が検出された)。AAV-tCFH1を投与された目の大多数が、発現レベルに加えてFB結合を明らかにし、FHL-1対して陽性の目はこれを示さなかった。
【0242】
図6は、網膜下(SubR)注入後のcfh
-/-マウスでのtCFH1またはFHL-1の発現を示す表である。CFH変異体FHL-1およびtCFH1の両方が、cfh
-/-マウスでのrAAVベクターの網膜下投薬後に発現された。表中の結果に示される通り、FHL-1発現での用量応答が観察された。一部の動物は、FHL-1またはtCFH1の発現に関して陰性であり、これは注入の失敗に起因する可能性があった。RPE/脈絡膜でのtCFH1またはFHL-1の発現レベルは、神経網膜でのレベルよりも高いことが見出された。
【0243】
図7Aおよび
図7Bは、tCFH1変異体による補体結合(B因子(FB)の検出)を測定するためのウエスタンブロットの結果を示す。
図7Aは、tCFH1を注入したcfh
-/-マウスでのB因子結合を示す。
図7Bは、tCFH1およびFHL-1発現を示す。
図7Aおよび
図7Bに示される結果は、rAAV-tCFH1網膜下注入により誘導されるtCFH1発現が、RPE/脈絡膜中でB因子(FB)を結合できることを示す。CFH変異体FHL-1は、FB結合を示さなかった。これらの結果は、rAAVにより発現されるtCFH1の生物学的機能性を支持し、かつAAVにより発現されるCFH変異体が補体結合を示す最初のものである。
【0244】
実施例6. cfh-/-マウスでのtCFH1構築物用量範囲設定試験
高用量、中間用量および低用量でのAAV-tCFH1の活性を、CFH欠損(cfh-/-)マウスで測定した。以下の表は、研究の詳細を示す:
【0245】
【0246】
網膜電図(ERG)は、光刺激に対して応答する網膜の電気的活動を測定する、診断試験である。ERGのb波は、on双極細胞の活性化を反映すると広く考えられている。屠殺前に、ビヒクルおよび中間用量rAAV2tYF-smCBA-tCFH1マウスに対する暗所b波ERGを測定した。BMAX1は、暗所ERGの桿体支配的成分であり、BMAX2は、暗所ERGの錐体支配的成分である。
図8Aは、ビヒクルを投与されたマウスでの結果を示す。
図8Bは、tCFH1中間用量を投与されたマウスの結果を示す。すべての注入された目でのERGの幾分かの低減が見られ、これは手術手順に起因した。中間用量群および低用量群での最小限の低減は、ベクターの安全性を示す。より大きな低減が高用量群で見られ、このことは、高用量での幾分かのベクター毒性を示す。
【0247】
光コヒーレンストモグラフィー(OCT)を用いて、屠殺前の左目(注入)および右目(未注入)由来の眼組織のin vivo断片像を生成した。群1~6のそれぞれについての結果を、
図9に示す。
図9に示される通り、幾分かの外顆粒層(ONL)の薄層化が、手術手順に関連してすべての注入された目で観察された。注入領域を越えたさらに大きなONL薄層化が高用量群で観察され、このことは、高用量での幾分かのベクター毒性を示した。未注入の目では、ONLでの変化は観察されなかった。屠殺後の目に対して組織学的検査を行ない、群1~6のそれぞれに関する左目(注入)および右目(未注入)に対する眼組織由来の代表的組織学的画像を、
図10に示す。幾分かの光受容体層の薄層化および免疫細胞浸潤がすべての注入された目で見て取れ、手術手順に関連付けられた。しかしながら、
図10に示される通り、より大きな光受容体層の薄層化および免疫細胞浸潤が高用量群で見られ、このことは、高用量での幾分かのベクター毒性を示した。未注入の目では、変化は観察されなかった。
【0248】
閉鎖帯-1(zonula occludens-1;ZO-1)は、細胞間接合部の主要な構造タンパク質である。次に、ZO-1染色を、網膜色素上皮(RPE)異形成(dyspmorphia)を評価するために行ない、これは群1~6のそれぞれでのRPEストレスを示すであろう。未注入の目を対照として用いた。各群および対照から得られたRPEシートの平面プレパラートを、ZO-1およびHoechst(核)に関して染色し、共焦点顕微鏡を用いて撮影した。幾分かの細胞の無秩序化および免疫細胞がすべての注入された目で観察され、これは手術手順に関連付けられた(図示していない)。未注入の目では、RPE形態学は、網膜全体を通して均一なサイズの細胞の規則的な六角形配列に似ていた。しかしながら、より大きな細胞の無秩序化および免疫細胞が高用量群で観察され、このことは、高用量での幾分かのベクター毒性を示した(図示していない)。
【0249】
低用量、中間用量および高用量でtCFH1変異体を注入されたcfh
-/-マウスでのtCFHタンパク質発現を、ウエスタンブロットにより確認した。
図11に示される通り、tCFHタンパク質発現での用量応答(dose repose)が見られ、顕著なレベルのtCFH1発現が、高用量および中間用量で観察された。低用量では、最小限のtCFH1発現が観察された。正常C57Bl6マウスおよび正常ヒトCFHを発現するトランスジェニックマウス由来の網膜抽出物を、陽性対照として用いた。tCFH1発現を確認するために、ELISAも用いた。ELISA実験から得られた結果は、ウエスタンブロットからの結果を確認し、tCFHタンパク質発現での用量応答(dose repose)が見られ、顕著なレベルのtCFH1発現が、高用量および中間用量で観察された。低用量では、最小限のtCFH1発現が観察された。以下の表は、ELISAにより測定されたtCFH1タンパク質発現を示す。
【0250】
【0251】
補体系は、内因性条件下で、網膜、RPE、および脈絡膜中で活性である。B因子(FB)成分は、正常網膜中で検出されており、かつB因子などの数種類のヒト補体成分および調節因子での遺伝子変異が、AMDの発生と関連付けられてきた(Gold B, et al. Nat Genet. 2006;38:458-62)。
図12は、様々な用量でtCFH1変異体を注入されたcfh
-/-マウスでのB因子(FB)補体結合(FBの検出)を測定するためのウエスタンブロットの結果を示す。
図12に示される通り、用量応答が観察され、比較的高用量では、tCFH1発現とFB結合との間のより良い相関を伴った。高用量および中間用量でFB復元が示されたが、低用量ではFB復元は観察されなかった。
【0252】
実施例7. CFH H402マウスでのrAAV-CFHベクターのin vivo試験
本研究の目的は、CFH H402マウス(CFH-HH:cfh-/-)でのrAAV-CFHベクターの有効性を評価することである。
【0253】
補体H因子(CFH)単一ヌクレオチド多型(SNP)は、加齢黄斑変性(AMD)病因に対する重要な遺伝的リスク因子として報告されてきている。Y402H多型は、AMD感受性に対する最も高いリスク因子であることが見出されている。cfh-/-マウスバックグラウンドで全長ヒトCFH H402を発現するトランスジェニックマウスモデル(CFH-HH:cfh-/-)を、rAAV-CFHベクターの効果を試験するために用いる。マウスは、90週齢まで加齢し、高脂肪コレステロール富化(HFC)食を与えられる。視力低下、網膜色素上皮(RPE)損傷の増加およびRPE下沈着物形成の増加を含むAMD様表現型が観察される。
【0254】
rAAV-hCFHベクターがこのCFH-HH:cfh-/-ネズミモデルで試験され、かつERGを回復させ、RPE異常形態形成を停止または低減させ、かつRPE下沈着物蓄積を停止または低減させる有効性について評価されるであろう。
【0255】
研究設計
視力低下、網膜色素上皮(RPE)損傷およびRPE下沈着物形成を含むAMD様病理学的表現型の阻害に対するその有効性を評価するために、rAAV-tCFH1が、H402マウスモデル(90週齢超CFH-HH:cfh-/-マウス、HFC食)へと網膜下投与されるであろう。一方の目のみに注入されるであろう。
【0256】
研究設計の表を、以下に示す。
【0257】
【0258】
等価物
当業者は、慣用の実験以上のものを用いずに、本明細書中に記載される本発明の具体的実施形態に対する多数の等価物を認識するか、または究明できるであろう。そのような等価物は、以下の特許請求の範囲に包含されることが意図される。
【配列表】
【国際調査報告】