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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-22
(54)【発明の名称】操作された制御性T細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20221215BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221215BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20221215BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20221215BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20221215BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20221215BHJP
   C07K 14/725 20060101ALN20221215BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C12N5/10
C12N5/0783
C12N15/63 Z
A61K35/17 Z
A61P25/00
C07K14/725
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022523914
(86)(22)【出願日】2020-10-22
(85)【翻訳文提出日】2022-06-21
(86)【国際出願番号】 GB2020052657
(87)【国際公開番号】W WO2021079120
(87)【国際公開日】2021-04-29
(31)【優先権主張番号】1915359.2
(32)【優先日】2019-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507299817
【氏名又は名称】ユーシーエル ビジネス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】シュタウス, ハンス
(72)【発明者】
【氏名】トーマス, シャリン
(72)【発明者】
【氏名】プレハム, オリビエ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AA94Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087NA14
4C087ZA02
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA42
4H045DA50
4H045EA20
4H045EA21
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)ペプチドが主要組織適合抗原複合体(MHC)分子によって提示されたときに前記ペプチドまたはそのバリアントもしくは断片に特異的に結合することができるT細胞受容体(TCR)を含む操作された制御性T細胞(Treg)に関する。本発明は、さらに、操作されたTregを提供するための方法、ならびに前記操作されたTregおよびベクターの方法および使用ならびに前記Tregをコードするベクターのキットに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
T細胞受容体(TCR)を含む操作されたTregであって、前記TCRは、α鎖およびβ鎖を含み、
前記α鎖および前記β鎖は、それぞれ、3つの相補性決定領域(CDR)を含み、各CDR3の配列は、以下のとおり:
CDR3α-TVYGGATNKLI(配列番号1)
CDR3β-SARGGSYNSPLH(配列番号2)
または最大3つのアミノ酸変化を有するこれらの配列のバリアント、
である、操作されたTreg。
【請求項2】
前記TCRの前記α鎖が、以下のアミノ酸配列:
CDR1α-TISGTDY(配列番号3)
CDR2α-GLTSN(配列番号4)
CDR3α-TVYGGATNKLI(配列番号1)
または最大3つのアミノ酸変化を有するこれらの配列のバリアント
を有する3つのCDRを含み、
前記TCRの前記β鎖が、以下のアミノ酸配列:
CDR1β-DFQATT(配列番号5)
CDR2β-SNEGSKA(配列番号6)
CDR3β-SARGGSYNSPLH(配列番号2)
または最大3つのアミノ酸変化を有するこれらの配列のバリアント
を有する3つのCDRを含む、請求項1に記載の操作されたTreg。
【請求項3】
a)前記TCRの前記α鎖の可変領域が、配列番号7と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記配列同一性は、請求項4に記載されるCDR配列を含まず、および
(b)前記TCRの前記β鎖の可変領域が、配列番号8と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記配列同一性は、請求項4に記載されるCDR配列を含まない、
請求項2に記載の操作されたTreg。
【請求項4】
(a)前記TCRの前記β鎖が、配列番号27に示される位置22に対応する位置にシステイン残基を含むヒト定常領域アミノ酸配列を含むか;または
(b)前記TCRの前記α鎖が、配列番号26と少なくとも80%の配列同一性を有するヒト定常領域アミノ酸配列を含み、および/もしくは前記TCRの前記β鎖が、配列番号27と少なくとも80%の配列同一性を有するヒト定常領域アミノ酸配列を含む、
請求項1~3のいずれかに記載の操作されたTreg。
【請求項5】
前記TCRの前記α鎖およびβ鎖の定常領域ドメインがそれぞれ、追加のシステイン残基を含み、前記α鎖と前記β鎖との間での付加的なジスルフィド結合の形成を可能にする、先行する請求項のいずれかに記載の操作されたTreg。
【請求項6】
(a)前記TCRの前記α鎖が、配列番号9と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、および
(b)前記TCRの前記β鎖が、配列番号10と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、
先行する請求項のいずれかに記載の操作されたTreg。
【請求項7】
前記Tregが、対象から単離されたT細胞に由来する、先行する請求項のいずれかに記載の操作されたTreg。
【請求項8】
先行する請求項のいずれかに記載の操作されたTregを含む医薬組成物。
【請求項9】
疾患の処置における使用のための、先行する請求項のいずれかに記載の操作されたTregまたは医薬組成物。
【請求項10】
医薬の製造における、請求項1~8のいずれかに記載の操作されたTregまたは医薬組成物の使用。
【請求項11】
疾患を処置または予防することを必要とする対象において疾患を処置または予防するための方法であって、請求項1~8のいずれかに記載の操作されたTregまたは医薬組成物を前記対象に投与するステップを含む、方法。
【請求項12】
前記疾患が多発性硬化症である、請求項9~11のいずれかに記載の、使用のための操作されたTregもしくは医薬組成物、使用または方法。
【請求項13】
前記対象がHLADRB10401陽性対象である、請求項9~12のいずれかに記載の、使用のための操作されたTregもしくは医薬組成物、使用または方法。
【請求項14】
請求項1~7のいずれか1項に記載のTCRをコードする核酸配列と、FOXP3をコードする核酸配列とを含む、ベクター。
【請求項15】
(a)前記TCRの前記α鎖をコードする核酸配列が、配列番号28もしくは29と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含むか;
(b)前記TCRの前記β鎖をコードする核酸配列が、配列番号30もしくは31と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含むか;
(c)前記核酸配列が、配向5’α鎖-β鎖3’で前記TCR鎖を提供し、(i)前記TCRの前記α鎖をコードし、配列番号28と少なくとも90%の配列同一性を有する配列と、(ii)前記TCRの前記β鎖をコードし、配列番号30と少なくとも90%の配列同一性を有する配列とを含むか;または
(d)前記核酸配列が、配向5’β鎖-α鎖3’で前記TCR鎖を提供し、(i)前記TCRの前記β鎖をコードし、配列番号31と少なくとも90%の配列同一性を有する配列と、(ii)前記TCRの前記α鎖をコードし、配列番号29と少なくとも90%の配列同一性を有する配列とを含む、
請求項14に記載のベクター。
【請求項16】
請求項1~7のいずれか1項に記載のTCRをコードする核酸配列を含む第1のポリヌクレオチドまたはベクターと、FOXP3をコードする核酸配列を含む第2のポリヌクレオチドまたはベクターとを含む、ポリヌクレオチドまたはベクターのキット。
【請求項17】
請求項15に記載のポリヌクレオチドまたはベクターを含む、ポリヌクレオチドまたはベクターのキット。
【請求項18】
請求項1~7のいずれかに記載のTCRをコードするポリヌクレオチドをインビトロまたはエクスビボで細胞中に導入するステップを含む、請求項1~7のいずれかに記載の操作されたTregを産生するための方法。
【請求項19】
FOXP3タンパク質をコードするポリヌクレオチドをインビトロまたはエクスビボで前記細胞中に導入するステップをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記細胞がT細胞である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記T細胞が、FOXP3を発現する天然のTregである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記T細胞が典型的なT細胞である、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
TCRをコードする前記ポリヌクレオチドおよびFOXP3をコードする前記ポリヌクレオチドを導入するステップが、逐次に、別々に、または同時に行われる、請求項19~請求項22に記載の方法。
【請求項24】
TCRをコードする前記ポリヌクレオチドおよびFOXP3をコードする前記ポリヌクレオチドが、請求項16に記載のベクターを使用して前記細胞に導入される、請求項23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、操作された制御性T細胞(Treg)に関する。特に、本発明は、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)に特異的に結合することができるT細胞受容体(TCR)を含むTregに関する。本発明は、さらに、操作されたTregを提供するための方法、ならびに前記操作されたTregの方法および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
多くの自己免疫性および炎症性中枢神経系(CNS)疾患は、自己反応性T細胞を伴う。例えば、多発性硬化症(MS)は、中枢神経系の自己免疫性炎症性脱髄状態であり、若年成人において最も一般的な神経障害である。
【0003】
自己免疫性および炎症性CNS疾患に対する現在の処置は、一般に免疫系を抑制する。例えば、1つの処置には、細胞増殖抑制剤および免疫抑制薬の投与とともに骨髄を移植することが含まれる。自家造血幹細胞移植は、一部の患者にとって持続的な有益な効果を有し得るが、この手技は、実質的な毒性および危険性を伴う積極的な骨髄破壊的前処置を必要とする。
【0004】
いくつかの疾患修飾処置(DMT)が臨床的再発の頻度を低下させるために承認されているが、ほとんどの患者は現在の治療スケジュール下で臨床的に悪化し続けている。DMTも幹細胞移植も、自己免疫性および炎症性CNS疾患の免疫病理のCNS特異的な抑制を媒介することはできない。
【0005】
現在、自己免疫性および炎症性CNS疾患に対する有効な処置は存在しない。処置は、通常は免疫系の全身的な抑制によって、単にその症状を軽減することに集中する。CNS疾患の発症および進行に関連する局所的な免疫応答を特異的に標的とする治療が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の局面の概要
本発明は、少なくとも部分的には、抗原特異的Tregを生成するためにT細胞受容体遺伝子導入技術を使用することができるという本発明者らの決定に基づいている。ヒト抗原特異的Tregは活性化されたT細胞を抑制できることが示されている。
【0007】
特に、本発明者らは、例えば、精製されたTreg中へのMBP-TCR遺伝子のレトロウイルス導入によって、ならびに/または典型的なCD4T細胞中へのMBP-TCRおよびフォークヘッドボックスP3(FOXP3)遺伝子のレトロウイルス導入によって、MBP特異的Tregを作製した。理論に拘束されることを望むものではないが、MBPに対して特異的なTCRを有するこれらの操作されたTregは、疾患、例えば自己免疫疾患の抑制において使用され得、この場合、中枢神経系(CNS)におけるMBP特異的Tregの局所的活性化は、MSおよびその他のCNS炎症状態において見られるようなCNS病理を抑制し得る。
【0008】
理論に拘束されることを望むものではないが、本発明者らが病原性T細胞の増殖を抑制するTregを開発することができたことは予想外であった。Treg中のTCRは、典型的な(conventional)T細胞中のTCRより自己抗原に対してより高い親和性を有することが当該分野で以前に示唆された(参照により本明細書に組み入れられるPacholczyk and Kern Immunology,2008.125(4)450-458)。膵島抗原特異的TCRを形質導入されたTregは、ウイルス抗原特異的TCRを発現するTregより効率が低かったことも報告されている。これはTreg特異的なTCR要件、例えばある種の親和性要件によるものであり得ることが示唆された。このように、Tregレパートリーは非常に多様であり、典型的なT細胞のレパートリーと比較してT細胞受容体の異なるセットを有すると考えられていた。本発明者らは、典型的なT細胞から単離されたMBP特異的TCRがTreg細胞において首尾よく発現されることができ、機能的Tregを産生することができることを予想外に実証した。
【0009】
さらに、多数のTCRを、外因性TCRとして首尾よく発現させることができない。特にTregにおいては、いずれのTCRが外因性TCRとして効果的に発現され得るかを予測することはできない。
【0010】
したがって、本発明は、T細胞受容体を含む操作された制御性T細胞(Treg)であって、前記TCRは、α鎖およびβ鎖を含み、
前記α鎖および前記β鎖は、それぞれ、3つの相補性決定領域(CDR)を含み、各CDR3の配列は、以下のとおり:
CDR3α-TVYGGATNKLI(配列番号1)
CDR3β-SARGGSYNSPLH(配列番号2)
または最大3つのアミノ酸変化を有するこれらの配列のバリアント、
である、操作された制御性T細胞(Treg)を提供する。
【0011】
MBP111-129(配列番号12)またはその断片と少なくとも90%の同一性を含むペプチドが主要組織適合抗原複合体(MHC)分子によって提示されると、TCRは、前記ペプチドに特異的に結合することが可能であり得る。
【0012】
MBP111-129ペプチドは、DRB10401(HLA-DR4)に弱く結合することが公知である。これは、例えば、HLA-DR15に対して高い親和性で結合するMBP81-99とは対照的である。
【0013】
TCRのα鎖は、以下のアミノ酸配列:
CDR1α-TISGTDY(配列番号3)
CDR2α-GLTSN(配列番号4)
CDR3α-TVYGGATNKLI(配列番号1)
または最大3つのアミノ酸変化を有するこれらの配列のバリアント
を有する3つのCDRを含み得、
TCRのβ鎖は、以下のアミノ酸配列:
CDR1β-DFQATT(配列番号5)
CDR2β-SNEGSKA(配列番号6)
CDR3β-SARGGSYNSPLH(配列番号2)
または最大3つのアミノ酸変化を有するこれらの配列のバリアント
を有する3つのCDRを含み得る。
【0014】
TCRのα鎖の可変領域は、配列番号7と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み得、配列同一性は、CDR配列を含まず、および
TCRのβ鎖の可変領域は、配列番号8と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み得、配列同一性は、CDR配列を含まない。
TCRのα鎖の可変領域は、配列番号7と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み得;および
TCRのβ鎖の可変領域は、配列番号8と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み得る。
【0015】
TCRのα鎖およびβ鎖の定常領域ドメインは、それぞれ、追加のシステイン残基を含み得、α鎖とβ鎖との間での付加的なジスルフィド結合の形成を可能にする。適切には、追加のジスルフィド結合は、内因性TCR鎖との誤対合を低減させる。
【0016】
適切には、TCRは、以下のように定常ドメインを含み得る:
(a)TCRのβ鎖が、配列番号27に示される位置22に対応する位置にシステイン残基を含むヒト定常領域アミノ酸配列を含み得るか;または
(b)TCRのα鎖が、配列番号26と少なくとも80%の配列同一性を有するヒト定常領域アミノ酸配列を含み得、および/もしくはTCRのβ鎖が、配列番号27と少なくとも80%の配列同一性を有するヒト定常領域アミノ酸配列を含み得る。
【0017】
TCRのα鎖は、配列番号9と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み得;および
TCRのβ鎖は、配列番号10と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み得る。
【0018】
一局面において、Tregは、対象から単離されたT細胞に由来する。
【0019】
別の局面において、本発明は、本発明による操作されたTregを含む医薬組成物を提供する。
【0020】
一局面において、本発明は、疾患の処置における使用のための本発明による操作されたTregまたは医薬組成物に関する。
【0021】
別の局面において、本発明は、医薬の製造における、本発明による操作されたTregまたは医薬組成物の使用に関する。
【0022】
一局面において、疾患を処置または予防することを必要とする対象において疾患を処置または予防するための方法であって、本発明による操作されたTregまたは医薬組成物を前記対象に投与するステップを含む、方法が提供される。
【0023】
別の局面において、疾患が多発性硬化症である、本発明による、使用のための操作されたTregもしくは医薬組成物、または使用または方法が提供される。
【0024】
一局面において、対象がHLADRB10401陽性対象である、本発明による、使用のための操作されたTregもしくは医薬組成物、または使用または方法が提供される。
【0025】
適切には、本発明は、本発明によるTCRをコードするベクターであって、
(a)前記TCRの前記α鎖をコードする核酸配列が、配列番号28もしくは29と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含むか;
(b)前記TCRの前記β鎖をコードする核酸配列が、配列番号30もしくは31と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含むか;
(c)前記核酸配列が、配向5’α鎖-β鎖3’前記でTCR鎖を提供し、(i)前記TCRの前記α鎖をコードし、配列番号28と少なくとも90%の配列同一性を有する配列と、(ii)前記TCRの前記β鎖をコードし、配列番号30と少なくとも90%の配列同一性を有する配列とを含むか;または
(d)前記核酸配列が、配向5’β鎖-α鎖3’で前記TCR鎖を提供し、(i)前記TCRの前記β鎖をコードし、配列番号31と少なくとも90%の配列同一性を有する配列と、(ii)前記TCRの前記α鎖をコードし、配列番号29と少なくとも90%の配列同一性を有する配列とを含む、
ベクターを提供する。
【0026】
別の局面において、本明細書で定義されるTCRをコードする核酸配列とFOXP3をコードする核酸配列とを含むベクターが提供される。
【0027】
一局面において、本明細書において定義されるTCRをコードする核酸配列を含む第1のポリヌクレオチドまたはベクターと、FOXP3をコードする核酸配列を含む第2のポリヌクレオチドまたはベクターとを含むポリヌクレオチドのキットまたはベクターのキットが提供される。適切には、第1および第2のポリヌクレオチドまたはベクターは別個である。
【0028】
一局面において、本明細書において定義されるTCRをコードするポリヌクレオチドをインビトロまたはエクスビボで細胞中に導入するステップを含む、本発明による操作されたTregを産生するための方法が提供される。
【0029】
適切には、T細胞は、FOXP3を発現する天然のTregである。
【0030】
一局面において、前記方法は、FOXP3タンパク質をコードするポリヌクレオチドをインビトロまたはエクスビボで細胞中に導入するステップをさらに含む。
【0031】
適切には、細胞はT細胞である。
【0032】
適切には、T細胞は「典型的な(conventional)」T細胞である。
【0033】
適切には、細胞は、ヒトT細胞などのヒト細胞である。適切には、細胞はヒトTreg細胞である。
【0034】
本発明の方法の一局面において、TCRをコードするポリヌクレオチドおよびFOXP3をコードするポリヌクレオチドを導入するステップは、逐次に、別々に、または同時に行われる。
【0035】
本発明の方法の別の局面において、TCRをコードするポリヌクレオチドおよびFOXP3をコードするポリヌクレオチドは、本発明のベクターを使用して細胞に導入される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】(A)MBP TCRαおよびβ鎖ならびに(B)FOXP3+TCRαおよびβ鎖をコードするpMP71レトロウイルスベクターの概略図を示す。
【0037】
図2】MS2-3C8 TCR pMP71。MS2-3C8 TCRは、HLA-DRB10401によって提示されるMBP111-129(配列番号12)を認識する。TCRはコドン最適化されており、定常αおよびβドメインの両方がマウス化されており、付加的なジスルフィド結合がc-αとc-βとの間に追加されている。
【0038】
図3】MS-2 TCRの上流のRsrIIおよびEcoR1部位中に挿入された、3’T2A部位でSTOPコドンが除去されたFOXP3遺伝子を含むFOXP3-2A-MS2-3C8 TCR pMP71。
【0039】
図4】研究デザインを示す概略図。A)操作されたTregにおけるMBP特異的抑制機能の実証。B)HLAトランスジェニックマウスモデルにおいてMS様免疫病理を抑制するための操作されたTregの使用
【0040】
図5】プロットは、マウスTCR定常領域およびFOXP3の発現を通じて形質導入のレベルを評価するために7日目に行われた代表的なフローサイトメトリー分析を示す。TregおよびTconv細胞を偽形質導入するか、またはTCR(MS-2)もしくはTCR+FOXP3(MS-2 FOXP3)で形質導入する。
【0041】
図6】非形質導入細胞上の(d0)または形質導入細胞集団(d7)に対してゲーティングしたTreg表面マーカーの相対発現を示すグラフ n=2~4。これらの結果は、制御性T細胞がインビトロ拡大中にFOXP3発現を維持することを実証している。
【0042】
図7】ペプチドによるエフェクターT細胞の再刺激を示すグラフ。チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞をヒトHLA-DR4およびCD80またはCD86で形質導入した。その後の実験のために、CD80またはCD86を発現する細胞を等量で一緒に混合した。飽和量(10μM/ml)のMBP111-129(配列番号12)(LSRFSWGAEGQRPGFGYGG)を含む培養培地中にCHO細胞を10×10/mLで再懸濁した。MS2またはMS2-FOXP3構築物で形質導入されたT細胞を洗浄し、計数し、完全RPMI中に0.5×10細胞/mlで再懸濁した。細胞をCHO細胞と1:1で播種し、ペプチドありまたはなしで4時間インキュベートした。細胞を固定し、透過処理した後、IL-2およびIFNγに対する抗体で染色した。T細胞の形質導入効率は、「Td=」によって示される。
【0043】
図8】ペプチドによるTreg細胞の再刺激を示すグラフ。この方法は、エフェクターT細胞の代わりにTregを使用して、図7について上に記載した。
【0044】
図9】ペプチドをパルスされた(pepide-pulsed)、照射されたAPCありまたはなしで、形質導入されたT細胞を4日間培養した。上清を収集し、ELISAによってIL-2およびIFNgについてアッセイした(n=2~4)。これらのデータは、TCRを形質導入されたTregおよびTCR-FOXP3変換されたTconvが同族ペプチドに対して低応答性であることを示している。
【0045】
図10】MS2 TCRを発現する細胞からのIL-2およびIFNγ産生、ならびにMS2 TCRおよびFOXP3を発現するT細胞からの産生を示す(n=3)。TCRおよびTCR+FOXP3で形質導入された典型的なT細胞(Tconv)が、TCRのみで形質導入された典型的な細胞よりも少ないIL-2を産生する。
【0046】
図11】TCRで形質導入されたTconvをCFSEで染色し、ペプチドをパルスされ、照射されたAPCありまたはなしで、1Tconv:0.1APCの比で4日間培養した。モックTreg(一番左端の棒)、MBP TCRで形質導入されたTreg(左から2番目の棒)、MBP TCR-FOXP3で形質導入されたTreg(左から3番目の棒)およびMBP TCR-FOXP3で形質導入されたTconv(各群で左から4番目の棒)を示された比で添加した。増殖は、CFSEで染色されたTconvの希釈物を分析することによって決定した(B)。これらのデータは、TCRを形質導入されたTregが抗原特異的にT細胞応答を抑制することを示している。
【0047】
図12】TCRで形質導入されたTconvをCFSEで染色し、ペプチドをパルスされ、照射されたAPCありまたはなしで、1Tconv:0.1APCの比で4日間培養した。モックTreg(一番左端の棒)、MBP TCRで形質導入されたTreg(左から2番目の棒)、MBP TCR-FOXP3で形質導入されたTreg(左から3番目の棒)およびMBP TCR-FOXP3で形質導入されたTconv(各群で左から4番目の棒)を示された比で添加した。上清を収集し、ELISAによってIL-2についてアッセイした。これらのデータは、TCRを形質導入されたTregが抗原特異的にT細胞応答を抑制することを示している。
【0048】
図13-1】ビーズ選別によって、HLA-DRB0401トランスジェニックマウスのリンパ節および脾細胞からCD4+CD25+Tregを単離した。TregをTCR+マウスFOXP3で形質導入した。形質導入された細胞および同等の数のCD45.1+OTIトランスジェニックT細胞を、4Gyの照射で前処置されたHLA-DRB0401トランスジェニック宿主に注入した。7日後、マウスの右または左側腹部の皮下に、フロイント不完全アジュバント中の30ugのオボアルブミン(OVA)または30ugのOVAおよび30ugのヒトミエリン塩基性タンパク質(MBP)を注射した。A.対になったFACSプロットは、同じマウスの右および左の鼠径リンパ節においてCD45.1によって同定されたOTI細胞を示す。左側のプロットは、注入されていない側腹部(ペプチドなし)からのデータを示し、右側は、OVAペプチドが注入された側腹部からのデータを示す。B.対になったFACSプロットは、同じマウスの右および左の鼠径リンパ節中のOTI細胞を示す。左側のプロットは、OVAを注射された側腹部からのデータを示し、右側は、OVA+MBPペプチドを注射した側腹部からのデータを示す。C.OVAまたはOVA+MBPを受けた側腹部の鼠径リンパ節中の%CD45.1+細胞(左パネル)およびCD45.1細胞の絶対数を示す3つの独立した実験からの累積データ(n=9)。
図13-2】同上。
図13-3】同上。
【0049】
図14-1】MS2-3C8 TCRおよびMS2-3C8 TCRの発現および機能研究のためのレトロウイルスベクターの模式的表示。(a)上のパネル:α鎖-P2A-β鎖-T2A-切断型マウスCD19(tmCD19)配置を使用して、以下のTCRをレトロウイルスpMP71ベクターにクローニングした:MS2-3C8野生型配列;MS2-3C8およびMS2-3C8マウス定常。下のパネル:MS2-3C8 ba TCRバリアントを、β鎖-P2A-α鎖-T2A-切断型マウスCD19配置を使用してレトロウイルスpMP71ベクターにクローニングした。切断型マウスCD19を形質導入効率のマーカーとして使用した。MS2-3C8野生型配列を除くすべてのTCRは、コドン最適化された可変ドメインおよび定常ドメインを含有した。(b)表記のTCRをコードするレトロウイルス構築物で形質導入されたJurkat細胞(内因性TCRを発現しない)を示す3つの独立した実験の代表的な例。上のパネル:CD19発現レベル。下のパネル:ゲーティングされたCD19high細胞におけるCD3発現レベルおよびTRBV20(IMGT命名法)発現レベル。CD3は、TCR細胞表面発現の代用マーカーとして使用される。可変β鎖発現を決定するために、抗TRBV20Abで細胞を染色した。(c)表記のTCRをコードするレトロウイルス構築物で形質導入された、MACS選別されたCD4+ヒトT細胞を示す4つの独立した実験の代表的な例。上のパネル:CD19発現レベル。下のパネル:ゲーティングされたCD19high細胞におけるTRBV20を発現するCD4+細胞のパーセンテージ。可変β鎖発現を決定するために、抗TRBV20Abで細胞を染色した。(d)表記のTCRで形質導入され、飽和濃度の関連ペプチドまたは対照ペプチドを負荷したAPCで刺激されたヒトCD4+T細胞を示す4つの独立した実験の代表的な例。BFAの存在下での刺激の18時間後に細胞内サイトカイン染色によって決定された、IL2および/またはIFNgを産生したゲーティングされたCD19highT細胞の頻度が示されている。APCは、CD80およびCD86およびHLA-DRB1401を発現するCHO細胞であった。(e)MBP特異的炎症促進性サイトカインの産生を評価する抑制アッセイ。FACS選別されたエフェクターCD4 T細胞(CD25lowCD127high)をMS2-3C8で形質導入し、ドナーを一致させたFACS選別されたTreg(CD4+CD25highCD127low)をMS2-3C8で形質導入するか、または偽形質導入した。96ウェルプレート中で、関連するMBP-ペプチドを負荷した5,000個のAPCとともに、ウェルあたり最大5万個のMS2-3C8発現Tregおよび5万個のTエフェクターを3日間共培養した。培養培地中のIL-2およびIFN-γ濃度をELISAによって測定した。
図14-2】同上。
図14-3】同上。
図14-4】同上。
図14-5】同上。
図14-6】同上。
図14-7】同上。
【0050】
図15-1】TCRを形質導入された制御性T細胞は、照射された宿主中に生着することができるが、TCR+FOXP3-細胞の蓄積を防ぐために外因性FOXP3発現を必要とする。 ビーズ選別によって、HLA-DRB0401トランスジェニックマウスのリンパ節および脾細胞からThy1.1+CD4+CD25+Tregを単離した。Tregを、TCR、TCR+マウスFOXP3で形質導入し、またはウイルスを含まない上清(モック)とともに培養した。形質導入の1日後に、4Gyの照射で前処置されたHLA-DRB0401トランスジェニック宿主中に、TCRまたはTCR+FOXP3を形質導入された細胞を注入した。7週間後、形質導入されたTregの生着を決定するためにフローサイトメトリーを使用した。A.形質導入後1日目でのヒト可変2.1およびマウスFoxp3の発現を通じて、形質導入効率を決定した。B.移入された細胞(上のパネル)ならびにFOXP3およびTCR(下のパネル)を同定するために、TCRまたはTCR+FOXP3で形質導入されたTregを与えられたマウスからの脾細胞をThy1.1で染色した。C.TCRまたはTCR+FOXP3を形質導入されたTregの注射日と比較した形質導入効率の倍数変化(左のパネル)および形質導入された細胞の絶対数の倍数変化(右のパネル)を示す累積データ(n=3)。エラーバーは、平均の標準誤差を示す。対応のないt検定による統計解析。D.移入の7週間後での形質導入された細胞内のFOXP3の代表的な発現。グラフは、7週目での形質導入された集団内のパーセンテージFOXP3+細胞の累積(左)および注射日と比較したFOXP3+細胞の倍数変化を示す(n=3)。エラーバーは、平均の標準誤差を示す。p≧0.05、**p≧0.01 対応のないt検定によって決定。
図15-2】同上。
【0051】
図16-1】外因性FOXP3を発現するTregはインビボで7週間後にTreg機能性を保持するが、外因性FOXP3を発現しないTregはエフェクターサイトカインを産生する能力を獲得する A 無関係のペプチドまたは10uM MBPをパルスしたCD86+HLA-DR4+CHO細胞とともに脾細胞を4時間培養した。フローサイトメトリーによってIL-2およびIFNgの産生を測定した。FACSプロットは、TCRのみを発現するTregを含有するCD45.1細胞(上のパネル)およびTCR+FOXP3を発現するTregを含有するThy1.1細胞を示す。B グラフは、TCRを発現する(濃い灰色)TregおよびTCR+FOXP3を発現する(薄い灰色)Tregによる累積的なIL-2およびIFNg産生を示す。エラーバーは、平均の標準偏差を示す(n=3)。
図16-2】同上。
【発明を実施するための形態】
【0052】
詳細な説明
ミエリン塩基性タンパク質(MBP)ペプチド
ミエリン塩基性タンパク質は、神経の髄鞘形成の過程において重要であり、乏突起膠細胞およびシュワン細胞などの神経系中の細胞のミエリン鞘中に見出される。MBP転写物は、骨髄および免疫系中にも見出される。ミエリン鞘の1つの機能は、軸索のインパルス伝導の速度を増加させることである。MBPは、ミエリンの正しい構造を維持するのに役立ち、ミエリン膜中の脂質と相互作用する。MBPは、CNSおよび様々な造血細胞に局在することが知られている。
【0053】
MBPは、多発性硬化症(MS)などの脱髄性疾患の病因に関与している。研究により、MSの病因におけるMBPに対する抗体の役割が実証されている。
【0054】
一局面において、MBPの例示的なアミノ酸配列は、配列番号11として示されるUniProtKBアクセッションP02686-1を有する配列を含む:
【化1】
【0055】
MBPの例示的なアミノ酸配列は、配列番号11またはそのバリアントもしくは断片を含み得る。
【0056】
適切には、MBPの例示的なアミノ酸配列は、UniProtKBアクセッションP02686-5などのUniProtKBアクセッションP02686-1のアイソフォームであり得る。アイソフォームP02686-5は、上記の基準配列(配列番号11)とは次のように異なる:アミノ酸残基1~133が欠損している。
【0057】
UniProtKBアクセッションP02686-5を配列番号13として示す:
【化2】
【0058】
特に明記しない限り、本明細書で使用されるMBP XXX-XXXは、参照により本明細書に組み込まれるMuraroら、JCI1997;100,2,339-349において使用される、または配列番号13(開始因子であるメチオニンを含まない)を参照することによる付番を指す。
【0059】
当技術分野において利用可能な方法を使用して、ペプチドがMHC分子によって提示され、T細胞によって認識されることが可能かどうかを決定し得る。例えば、アッセイは、試験されるべきMHC:ペプチド複合体を発現する抗原提示細胞(APC)を、本明細書で定義されるTCRを含むT細胞と共培養することを含み得る。次いで、ペプチドの提示の成功の指標として(例えば、カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)アッセイによって)、T細胞増殖を測定することができる。あるいは、エフェクターサイトカイン産生も測定され得る。
【0060】
本明細書で使用される場合、「特異的に結合する」とは、TCRが当該ペプチドに結合するが、他のペプチドには結合しない、または他のペプチドに対してより低い親和性で結合することを意味する。
【0061】
2つの分子、例えば、TCRとペプチドまたはその断片間での結合親和性は、例えば、解離定数(KD)の決定によって定量され得る。KDは、TCRとペプチド間での複合体形成および解離の速度論の測定によって、例えば表面プラズモン共鳴(SPR)法(Biacore(商標))によって決定することができる。複合体の会合および解離に対応する速度定数は、それぞれ、会合速度定数ka(またはkon)および解離速度定数kd(またはkoff)と称される。KDは、式KD=kd/kaを通じてkaおよびkdに関係づけられる。
【0062】
異なる分子相互作用に関連する結合親和性、例えば、異なるTCRおよびペプチドの結合親和性の比較は、個々のTCR/ペプチド複合体に対するKD値の比較によって比較され得る。
【0063】
ペプチドは、任意のヒト白血球抗原-抗原D関連(HLA-DR)によって提示されることが可能であり得る。
【0064】
一局面において、ペプチドは、HLA-DR4によって提示されることが可能である。
【0065】
一局面において、ペプチドは、HLA-DRB10401分子によって提示されることが可能である。
【0066】
一局面において、ペプチドは、MBP111-129:LSRFSWGAEGQRPGFGYGG(配列番号12)と少なくとも90%の同一性を有する。MBPペプチドは、MBP111-129(配列番号12)と比較して変異され得る。例えば、改変されたMBPペプチドが改変されていないペプチドのMHC結合特異性を保持し、T細胞に提示されることが可能である限り、MBPペプチドは、アミノ酸の挿入、欠失または置換によって変異され得る。ペプチドは、例えば、MBP111-129(配列番号12)に対して3、2、1または0の変異を有し得る。適切には、ペプチドは、例えば、MBP111-129(配列番号12)に対して3、2、1または0の保存的変異を有し得る。適切には、ペプチドは、例えば、MBP111-129(配列番号12)に対して3、2、1または0の挿入を有し得る。適切には、MBPペプチド断片は、例えば、MBP111-129(配列番号12)に対して3、2、1または0の欠失を有し得る。適切には、MBP111-129(配列番号12)ペプチド断片は、MBP111-129(配列番号12)ペプチドのMHC結合特異性を保持し、T細胞に提示されることが可能である。
T細胞受容体(TCR)
【0067】
TCRα鎖およびβ鎖の両方の可変ドメインは、3つの超可変または相補性決定領域(CDR)を有する。CDR3は、処理された抗原の認識に関与する主要なCDRであるが、α鎖のCDR1は抗原性ペプチドのN末端部分と相互作用することも示されているのに対して、β鎖のCDR1はペプチドのC末端部分と相互作用する。CDR2はMHC分子を認識すると考えられている。フレームワーク領域(FR)は、CDR間に配置されている。これらの領域は、TCR可変領域の構造を提供する。
【0068】
本発明のTCRは、そのペプチド/MHC複合体と相互作用することができるのに十分なその可変ドメインを含む。このような相互作用は、例えば、Biacore(商標)装置を使用して測定することができる。適切には、TCRはHLA-DR4またはHLADRB10401と相互作用し得る。
【0069】
TCR可変領域のレパートリーは、可変(V)、連結(J)および多様性(D)遺伝子の組み合わせ的連結によって、ならびにN領域の多様化(酵素デオキシヌクレオチジル-トランスフェラーゼによって挿入されたヌクレオチド)によって生成される。
【0070】
α鎖は、VセグメントとJセグメント間での組換え事象から形成される。β鎖は、V、DおよびJセグメントを伴う組換え事象から形成される。
【0071】
TCRδ遺伝子座も含むヒトTCRα遺伝子座は、14番染色体上(14q11.2)に位置する。TCRβ遺伝子座は7番染色体(7q34)上に位置する。TCRα鎖の可変領域は、46個の異なるVα(可変)セグメントのうちの1つと58個のJα(連結)セグメントのうちの1つとの間での組換えによって形成される(参照により本明細書に組み入れられるKoopら;1994;Genomics;19:478-493)。TCRβ鎖の可変領域は、54個のVβ、14個のJβおよび2個のDβ(多様性)セグメント間での組換えから形成される(参照により本明細書に組み入れられるRowenら、1996;Science;272:1755-1762)。
【0072】
各TCR鎖遺伝子座に対するVおよびJ(および適宜D)遺伝子セグメントが同定されており、各遺伝子の生殖系列配列は公知であり、アノテーションが付されている(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Scaviner&Lefranc;2000;Exp Clin Immunogenet;17:83-96およびFolch&Lefranc;2000;Exp Clin Immunogenet;17:42-54を参照)。
【0073】
天然のTCRのα鎖のFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3およびCDR3は、Vα遺伝子によってコードされる。天然TCRのβ鎖のFR1、CDR1、FR2、CDR2およびFR3は、Vβ遺伝子によってコードされる。
【0074】
各可変遺伝子の生殖系列配列は当技術分野において公知であるので(Scaviner&Lefrancを参照;上記のとおり、およびFolch&Lefranc;上記)、特定のTCRのVαおよび/またはVβを配列決定することができ、TCRにおいて利用される生殖系列Vセグメントを同定することができる(例えば、Hodgesら;2003;J Clin Pathol;56:1-11,Zhouら;2006;Laboratory Investigation;86;314-321、参照により本明細書に組み入れられる)。
【0075】
本発明は、操作されたT細胞受容体を含む操作されたTregを提供する。
【0076】
本発明は、MBP111-129(配列番号12)と少なくとも90%の同一性を含むペプチドが主要組織適合抗原複合体(MHC)分子によって提示されると、前記ペプチドまたはその断片に特異的に結合することが可能であるTCRを含む操作されたTregを提供する。
【0077】
一局面において、TCRは、α鎖およびβ鎖を含み、
前記α鎖および前記β鎖は、それぞれ、3つの相補性決定領域(CDR)を含み、各CDR3の配列は、以下のとおり:
CDR3α-TVYGGATNKLI(配列番号1)
CDR3β-SARGGSYNSPLH(配列番号2)
または最大3つのアミノ酸変化を有するこれらの配列のバリアント、
である。
【0078】
一局面において、TCRのα鎖は、以下のアミノ酸配列:
CDR1α-TISGTDY(配列番号3)
CDR2α-GLTSN(配列番号4)
CDR3α-TVYGGATNKLI(配列番号1)
または最大3つのアミノ酸変化を有するこれらの配列のバリアント
を有する3つのCDRを含み、
TCRのβ鎖は、以下のアミノ酸配列:
CDR1β-DFQATT(配列番号5)
CDR2β-SNEGSKA(配列番号6)
CDR3β-SARGGSYNSPLH(配列番号2)
または最大3つのアミノ酸変化を有するこれらの配列のバリアント
を有する3つのCDRを含む。
【0079】
適切には、CDR中のアミノ酸変化は、保存的置換、挿入または欠失である。好ましくは、アミノ酸変化は保存的置換である。
【0080】
一局面において、TCRのα鎖の可変領域は、配列番号7と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、TCRのβ鎖の可変領域は、配列番号8と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、配列同一性はCDR配列を含まない。適切には、CDR配列は本明細書に開示されるとおりである。
【0081】
適切には、TCRのα鎖の可変領域は、配列番号7と少なくとも80%、85%、90%、95%または97%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み;およびTCRのβ鎖の可変領域は、配列番号8と少なくとも80%、85%、90%、95%または97%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0082】
適切には、TCRのα鎖の可変領域は、配列番号7と少なくとも85%の配列同一性を有し得るアミノ酸配列を含み、TCRのβ鎖の可変領域は、配列番号8と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、配列同一性はCDR配列を含まない。適切には、TCRのα鎖の可変領域は、配列番号7と少なくとも90%の配列同一性を有し得るアミノ酸配列を含み、TCRのβ鎖の可変領域は、配列番号8と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、配列同一性はCDR配列を含まない。適切には、TCRのα鎖の可変領域は、配列番号7と少なくとも95%の配列同一性を有し得るアミノ酸配列を含み、TCRのβ鎖の可変領域は、配列番号8と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、配列同一性はCDR配列を含まない。適切には、TCRのα鎖の可変領域は、配列番号7と少なくとも97%の配列同一性を有し得るアミノ酸配列を含み、TCRのβ鎖の可変領域は、配列番号8と少なくとも97%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、配列同一性はCDR配列を含まない。適切には、TCRのα鎖の可変領域は、配列番号7に記載されているアミノ酸配列を含み、TCRのβ鎖の可変領域は、配列番号8に記載されているアミノ酸配列を含み、配列同一性はCDR配列を含まない。
【0083】
換言すれば、TCRは、本明細書で定義されるα鎖およびβ鎖CDR、ならびに配列番号7および/または配列番号8の残りの配列にわたって少なくとも80%、85%、90%、95%または97%の配列同一性を含み得る。
【0084】
別の局面において、TCRのα鎖の可変領域は、配列番号7と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み;およびTCRのβ鎖の可変領域は、配列番号8と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0085】
適切には、TCRのα鎖の可変領域は、配列番号7と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み;およびTCRのβ鎖の可変領域は、配列番号8と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。適切には、TCRのα鎖の可変領域は、配列番号7と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み;およびTCRのβ鎖の可変領域は、配列番号8と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。適切には、TCRのα鎖の可変領域は、配列番号197と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み;およびTCRのβ鎖の可変領域は、配列番号8と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。適切には、TCRのα鎖の可変領域は、配列番号7と少なくとも97%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み;およびTCRのβ鎖の可変領域は、配列番号8と少なくとも97%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
例示的なTCRα鎖可変領域(配列番号7)
【化3】
例示的なTCRβ鎖可変領域(配列番号8)
【化4】
【0086】
適切には、TCRのα鎖は、配列番号26と少なくとも80%の配列同一性を有するヒト定常領域アミノ酸配列を含み;および/またはTCRのβ鎖は、配列番号27と少なくとも80%の配列同一性を有するヒト定常領域アミノ酸配列を含む。
【0087】
適切には、TCRα鎖定常領域は、配列番号26と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み得る。適切には、TCRα鎖定常領域は、配列番号26と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み得る。
【0088】
適切には、TCRα鎖定常領域は、配列番号27と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み得る。適切には、TCRα鎖定常領域は、配列番号27と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み得る。
【0089】
適切には、TCRのβ鎖は、配列番号27に示されている位置22にシステイン残基を含むヒト定常領域アミノ酸配列を含む。
例示的なTCRα鎖定常領域(配列番号26)
【化5】
例示的なTCRβ鎖定常領域(配列番号27)
【化6】
【0090】
一局面において、TCRのα鎖は、配列番号9と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み;およびTCRのβ鎖は、配列番号10と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
例示的なTCRα鎖(配列番号9)
【0091】
【化7】
例示的なTCRβ鎖(配列番号10)
【0092】
【化8】
【0093】
適切には、TCRのβ鎖は、配列番号10に示されるように、定常領域(下線が付されている)の位置22にシステイン残基を含むヒト定常領域アミノ酸配列を含む。
【0094】
適切には、TCRのα鎖は、配列番号9と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み;およびTCRのβ鎖は、配列番号10と少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。適切には、TCRのα鎖は、配列番号9と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み;およびTCRのβ鎖は、配列番号10と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。適切には、TCRのα鎖は、配列番号9と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み;およびTCRのβ鎖は、配列番号10と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。適切には、TCRのα鎖は、配列番号9と少なくとも97%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み;およびTCRのβ鎖は、配列番号10と少なくとも97%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0095】
別の局面において、TCRのα鎖およびβ鎖の定常領域ドメインは、それぞれ、追加のシステイン残基を含み、α鎖とβ鎖との間での付加的なジスルフィド結合の形成を可能にする。
【0096】
適切には、さらなるジスルフィド結合の形成のために、定常α鎖中の残基48はトレオニンからシステインに変換され、定常β鎖の残基57はセリンからシステインに変換される。
【0097】
適切には、TCRはコドン最適化される。
【0098】
適切には、TCRは、マウスにおける発現のためにコドン最適化される。
【0099】
一局面において、TCR中で用いられる定常ドメインはマウス配列である。
【0100】
適切には、定常領域はマウス化されている。例えば、定常-αおよび定常-βドメインの両方がマウス化されている。
【0101】
別の局面において、TCRは、ヒトにおける発現のためにコドン最適化される。適切には、TCRにおいて用いられる定常ドメインはヒト配列である。
【0102】
一局面において、TCRは、例えば、ヒト可変領域およびマウス定常領域を含み得る。
【0103】
本TCRは、生殖系列VαまたはVβ遺伝子によってコードされない本明細書で定義される1またはそれを超えるアミノ酸残基を含み得る。換言すれば、TCRは、変化していない生殖系列VαまたはVβ遺伝子によってコードされる対応するα鎖および/またはβ鎖と比較して、本明細書に記載される位置の1またはそれより多くにおいて変化したアミノ酸残基を含むα鎖および/またはβ鎖の一部を含み得る。
【0104】
本明細書においてフレームワーク(FR)または相補性決定領域(CDR)として同定されるアミノ酸残基は、International ImMunoGeneTics information system’(IMGT)に従って同定される。この系は当技術分野において周知であり(Lefranceら;2003;Dev Comp Immunol;27:55-77)、可変領域の構造の高度な保存に基づいている。付番は、FRおよびCDRの定義、X線回折研究からの構造データ、および超可変ループの特徴付けを考慮し、組み合わせている。
【0105】
FRおよびCDR領域の境界画定は、IMGT付番システム内で定義されている。FR1領域は、位置23に第1のCYSを有する位置1~26(V-GENE群またはサブグループに応じて25~26のアミノ酸)を含む。FR2領域は、位置41に保存されたTRPを有する位置39~55(16~17のアミノ酸)を含む。FR3領域は、位置89に保存された疎水性アミノ酸および位置104に第2のCYSを有する位置66~104(VGENE群またはサブグループに応じて36~39アミノ酸)を含む。IGMT付番システムの残基1は、FR1中の最初の残基である。IGMT付番システムの残基104は、FR3中の最後の残基である。
【0106】
本発明によるTCRを生成するのに適した方法は、当技術分野において公知である。
【0107】
例えば、TCRをコードする核酸配列中の特定のヌクレオチドを変化させるために、変異誘発が実施され得る。このような変異誘発は、本明細書に記載のアミノ酸残基の1またはそれより多くを含むようにTCRのアミノ酸配列を変化させる。
【0108】
変異誘発法の一例は、Quikchange法(Papworthら;1996;Strategies;9(3);3-4)である。この方法は、pfuポリメラーゼなどの高忠実度非鎖置換DNAポリメラーゼを使用する熱サイクリング反応における鋳型核酸配列を増幅するための相補的変異原性プライマーの対の使用を含む。
【0109】
本明細書で使用される「1またはそれを超える」または「少なくとも1つ」という用語は、本明細書に記載の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20またはそれを超えるアミノ酸残基を含み得る。
【0110】
本明細書で使用される「2またはそれを超える」という用語は、本明細書に記載の2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20またはそれを超えるアミノ酸残基を含み得る。
保存的置換
【0111】
適切には、本発明において所与の位置に存在するアミノ酸残基は、所与の配列番号について列挙されたアミノ酸と生化学的に類似する残基として定義され得る。
【0112】
類似の生化学的特性を有するアミノ酸は、保存的置換を介して置換され得るアミノ酸として定義され得る。
【0113】
保存的アミノ酸置換は、TCRの高い発現が保持される限り、残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性、および/または両親媒性の性質の類似性に基づいて行われ得る。例えば、負に荷電したアミノ酸としては、アスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられ、正に荷電したアミノ酸としては、リジンおよびアルギニンが挙げられ、類似の親水性値を有する非荷電極性頭部基を有するアミノ酸としては、ロイシン、イソロイシン、バリン、グリシン、アラニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、フェニルアラニンおよびチロシンが挙げられる。
【0114】
保存的置換は、例えば以下の表3に従って行われ得る。第2の列内の同じブロック内の、好ましくは第3の列内の同じ行内のアミノ酸は、互いに対して代用できる:
表3
【表3】
【0115】
本発明は、相同置換(本明細書において、置換および置き換えはいずれも、既存のアミノ酸残基の代替残基での交換を意味するために使用される)、すなわち、塩基性から塩基性、酸性から酸性、極性から極性などのような同様のものから同様のものへの置換(like-for-like substitution)も包含する。
【0116】
特定の個々のアミノ酸を参照することによって本明細書で明示的に述べられていなければ、アミノ酸は、以下に列挙される保存的置換を使用して置換され得る。
【0117】
脂肪族非極性アミノ酸は、グリシン、アラニン、プロリン、イソロイシン、ロイシンまたはバリン残基であり得る。
【0118】
脂肪族極性非荷電アミノは、システイン、セリン、トレオニン、メチオニン、アスパラギンまたはグルタミン残基であり得る。
【0119】
脂肪族極性荷電アミノ酸は、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジンまたはアルギニン残基であり得る。
【0120】
芳香族アミノ酸は、ヒスチジン、フェニルアラニン、トリプトファンまたはチロシン残基であり得る。
【0121】
適切には、表3の同じ行内のアミノ酸間で保存的置換が行われ得る。
配列
【0122】
本発明は、さらに、本明細書に記載のTCRα鎖および/またはβ鎖をコードするヌクレオチド配列を提供する。一局面において、本明細書に記載のTCRをコードするヌクレオチド配列が細胞中に導入され得る。
【0123】
適切には、TCRα鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列は、配列番号14もしくは32、または配列番号14もしくは32と少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含み得る。適切には、ヌクレオチド配列は、配列番号14と少なくとも85%、90%、95%または99%の同一性を有し得る。
配列番号14
【化9】
配列番号32
【化10】
【0124】
適切には、TCRβ鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列は、配列番号15もしくは33、または配列番号15もしくは33と少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含み得る。適切には、ヌクレオチド配列は、配列番号15と少なくとも85%、90%、95%または99%の同一性を有し得る。
配列番号15
【化11】
配列番号33
【化12】
【化13】
【0125】
適切には、TCRα鎖をコードするヌクレオチド配列は、配列番号16、または配列番号16と少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含み得る。適切には、ヌクレオチド配列は、配列番号16と少なくとも85%、90%、95%または99%の同一性を有し得る。
配列番号16
【化14】
【0126】
適切には、TCRβ鎖をコードするヌクレオチド配列は、配列番号17、または配列番号17と少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含み得る。適切には、ヌクレオチド配列は、配列番号17と少なくとも85%、90%、95%または99%の同一性を有し得る。
配列番号17
【化15】
【0127】
適切には、TCRのα鎖をコードする核酸配列は、配列番号28または30と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む。適切には、TCRのα鎖をコードする核酸配列は、配列番号28または30と少なくとも95%または少なくとも99%の配列同一性を有する配列を含む。
【0128】
適切には、TCRのβ鎖をコードする核酸配列は、配列番号29または31と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む。適切には、TCRのα鎖をコードする核酸配列は、配列番号29または31と少なくとも95%または少なくとも99%の配列同一性を有する配列を含む。
【0129】
適切には、核酸配列は、配向5’α鎖-β鎖3’のTCR鎖を提供し、(i)TCRのα鎖をコードし、配列番号28と少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%の配列同一性を有する配列と、(ii)TCRのβ鎖をコードし、配列番号30と少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%の配列同一性を有する配列とを含む。
【0130】
適切には、核酸配列は、配向5’β鎖-α鎖3’のTCR鎖を提供し、(i)TCRのβ鎖をコードし、配列番号31と少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%の配列同一性を有する配列と、(ii)TCRのα鎖をコードし、配列番号29と少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%の配列同一性を有する配列とを含む。
配列番号28-例示的なTCRα鎖
【化16】
配列番号29-例示的なTCRα鎖
【化17】
配列番号30-例示的なTCRβ鎖
【化18】
配列番号31-例示的なTCRβ鎖
【化19】
【0131】
本明細書で使用される場合、「導入された」という用語は、外来DNAを細胞中に挿入するための方法を指す。本明細書で使用される場合、導入されるという用語は、形質導入方法と形質移入方法の両方を含む。形質移入は、非ウイルス法によって核酸を細胞中に導入するプロセスである。形質導入は、ウイルスベクターを介して外来DNAを細胞中に導入するプロセスである。
【0132】
本明細書で使用される場合、「ポリヌクレオチド」および「核酸」という用語は、互いに同義であることを意図している。核酸配列は、合成RNA/DNA配列、cDNA配列または部分ゲノムDNA配列などの任意の適切なタイプのヌクレオチド配列であり得る。
【0133】
本明細書で使用される「ポリペプチド」という用語は、通常の意味で使用され、典型的にはα-アミノ基と隣接するアミノ酸のカルボキシル基との間でのペプチド結合によって一方が他方に連結された一連の残基、典型的にはL-アミノ酸を意味する。本用語は、「タンパク質」と同義である。
【0134】
遺伝暗号の縮重の結果として、多数の異なるポリヌクレオチドおよび核酸が同じポリペプチドをコードし得ることが当業者によって理解される。さらに、ポリペプチドがその中で発現される任意の特定の宿主生物のコドン使用頻度を反映するために、当業者は、日常的な技術を使用して、本明細書に記載されたポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド配列に影響を及ぼさないヌクレオチド置換を行い得ることを理解されたい。
【0135】
本発明による核酸は、DNAまたはRNAを含み得る。本発明による核酸は、一本鎖または二本鎖であり得る。本発明による核酸は、それらの中に合成ヌクレオチドまたは修飾されたヌクレオチドを含むポリヌクレオチドでもあり得る。オリゴヌクレオチドに対する多数の異なるタイプの修飾が、当技術分野において公知である。これらには、メチルホスホナートおよびホスホロチオアート骨格、分子の3’および/または5’末端におけるアクリジンまたはポリリジン鎖の付加が含まれる。本明細書に記載されている使用のために、ポリヌクレオチドは、当技術分野において利用可能な任意の方法によって修飾され得ることを理解されたい。このような修飾は、関心対象のポリヌクレオチドのインビボ活性または寿命を増強するために行われ得る。
【0136】
ポリヌクレオチドは、単離された形態または組換え形態であり得る。ポリヌクレオチドはベクター中に組み込まれ得、ベクターは宿主細胞中に組み込まれ得る。このようなベクターおよび適切な宿主は、本発明のさらに別の局面を形成する。
【0137】
ポリヌクレオチドは、二本鎖または一本鎖であり得、RNAまたはDNAであり得る。
【0138】
ポリヌクレオチドは、コドン最適化され得る。異なる細胞は、特定のコドンの使用頻度が異なる。このコドンバイアスは、細胞型における特定のtRNAの相対存在量のバイアスに対応する。コドンが対応するtRNAの相対存在量と一致するように調整されるように配列中のコドンを変更することによって、発現を増加させることが可能である。適切には、ポリヌクレオチドは、疾患のマウスモデルにおける発現に対してコドン最適化され得る。適切には、ポリヌクレオチドは、ヒト対象における発現に対してコドン最適化され得る。
【0139】
HIVおよび他のレンチウイルスを含む多くのウイルスは、多数の稀なコドンを使用し、これらを一般的に使用される哺乳動物コドンに対応するように変更することによって、哺乳動物の産生細胞中でのパッケージング成分の発現の増加を達成することができる。コドン使用頻度表は、哺乳動物細胞および様々な他の生物について当技術分野で公知である。
【0140】
コドン最適化は、mRNA不安定性モチーフおよび潜在的スプライス部位の除去も含み得る。
【0141】
ポリヌクレオチドは、α鎖をコードする核酸配列とβ鎖をコードする核酸配列の両方が同じmRNA転写物から発現されることを可能にする核酸配列を含み得る。
【0142】
例えば、ポリヌクレオチドは、α鎖をコードする核酸配列とβ鎖をコードする核酸配列との間に配列内リボソーム進入部位(IRES)を含み得る。IRESは、mRNA配列の中央での翻訳開始を可能にするヌクレオチド配列である。
【0143】
ポリヌクレオチドは、α鎖をコードする核酸配列と、内部自己切断配列によって連結された、β鎖をコードする核酸配列とを含み得る。
【0144】
内部自己切断配列は、α鎖を含むポリペプチドとβ鎖を含むポリペプチドとが分離されることを可能にする任意の配列であり得る。
【0145】
切断部位は、ポリペプチドが産生されたときに、いかなる外部切断活性も必要とせずにポリペプチドが個々のペプチドに直ちに切断されるような、自己切断性であり得る。
【0146】
便宜上、本明細書においては「切断」という用語が使用されるが、切断部位は、古典的な切断以外の機構によってペプチドを個々の実体に分離させ得る。例えば、口蹄疫ウイルス(FMDV)2A自己切断ペプチドの場合、宿主細胞プロテイナーゼによるタンパク質分解、自己タンパク質分解または翻訳効果など、「切断」活性を説明するための様々なモデルが提案されてきた(参照により本明細書に組み入れられるDonnellyら(2001)J.Gen.Virol.82:1027-1041)。タンパク質をコードする核酸配列の間に配置されたときに、切断部位がタンパク質を別個の実体として発現させる限り、このような「切断」の正確な機構は、本発明の目的にとって重要ではない。
【0147】
自己切断性ペプチドは、アフトウイルスまたはカルジオウイルス由来の2A自己切断ペプチドであり得る。
【0148】
類似性(すなわち、類似の化学的特性/機能を有するアミノ酸残基)に関してバリアントを考えることが可能であり、好ましくは、バリアントは配列同一性に関して表される。
【0149】
配列比較は、目測で、またはより一般的には、容易に利用可能な配列比較プログラムの助けを借りて行うことができる。これらの公的におよび商業的に入手可能なコンピュータプログラムは、2またはそれを超える配列間の配列同一性を計算することができる。
【0150】
配列同一性は、連続した配列にわたって計算され得る、すなわち、一方の配列を他方の配列と整列させ、一方の配列中の各アミノ酸を他方の配列中の対応するアミノ酸と一度に1残基ずつ直接比較する。これは「ギャップなし」アラインメントと呼ばれる。典型的には、このようなギャップなしアラインメントは、比較的少数の残基(例えば、50個未満の連続するアミノ酸)にわたってのみ行われる。
【0151】
これは非常に単純で一貫性のある方法であるが、例えば、他の点では同一の配列の対において、1つの挿入または欠失が、その後のアミノ酸残基をアラインメントから除外し、したがって、全体的なアラインメントを実施した場合に、潜在的に%相同性の大きな低下をもたらすことを考慮に入れることができない。そのため、ほとんどの配列比較法は、全体的な相同性スコアに過度に不利にすることなく、可能性のある挿入および欠失を考慮に入れる最適なアラインメントを生成するように設計される。これは、局所相同性を最大化することを試みるために配列アラインメント中に「ギャップ」を挿入することによって達成される。
【0152】
しかしながら、同じ数の同一のアミノ酸について、可能な限り少ないギャップを有する(2つの比較される配列間のより高い関連性を反映する)配列アラインメントが、多くのギャップを有する配列よりも高いスコアを達成するように、これらのより複雑な方法は、アラインメント中に生じる各ギャップに「ギャップペナルティ」を割り当てる。ギャップの存在に対して相対的に高いコストを課し、ギャップ内の各後続する残基に対してより小さなペナルティを課す「アフィンギャップコスト」が、通例、使用される。これは、最も一般的に使用されるギャップスコアリングシステムである。高いギャップペナルティは、当然、より少ないギャップを有する最適化されたアラインメントを生じる。ほとんどのアラインメントプログラムは、ギャップペナルティを修正することを可能にする。しかしながら、配列比較のためにこのようなソフトウェアを使用する場合、デフォルト値を使用することが好ましい。例えば、GCG Wisconsin Bestfitパッケージ(下記参照)を使用する場合、アミノ酸配列に対するデフォルトのギャップペナルティは、ギャップに対して-12、各伸長に対して-4である。
【0153】
したがって、最大%配列同一性の計算は、まず、ギャップペナルティを考慮に入れて、最適なアラインメントの生成を必要とする。このようなアラインメントを実施するための適切なコンピュータプログラムは、GCG Wisconsin Bestfitパッケージ(University of Wisconsin,U.S.A.;参照によって本明細書に組み入れられるDevereuxら、1984,Nucleic Acids Research 12:387)である。配列比較を実行することができる他のソフトウェアの例には、BLASTパッケージ(Ausubelら、1999同書-Chapter 18を参照)、FASTA(参照により本明細書に組み込まれるAtschulら,1990,J.Mol.Biol.,403-410)および比較ツールのGENEWORKS一式が含まれるが、これらに限定されない。BLASTおよびFASTAはいずれも、オフラインおよびオンライン検索に利用可能である(参照により本明細書に組み込まれるAusubelら、1999同書,pages7-58~7-60を参照)。しかしながら、GCG Bestfitプログラムを使用することが好ましい。
【0154】
一態様において、配列同一性は、配列の全体にわたって決定される。一態様において、配列同一性は、本明細書に列挙される配列と比較されている候補配列の全体にわたって決定される。
【0155】
最終的な配列同一性は同一性に関して測定することができるが、アラインメント過程自体は、典型的には、全か無かの対比較に基づいていない。代わりに、化学的類似性または進化的距離に基づいて各対比較にスコアを割り当てるスケール化された類似性スコア行列が一般に使用される。一般的に使用されるこのような行列の例は、プログラムのBLAST一式のデフォルト行列であるBLOSUM62行列である。GCG Wisconsinプログラムは、一般に、供給される場合、公のデフォルト値または特注の記号比較表のいずれかを使用する(さらなる詳細についてはユーザマニュアルを参照)。GCGパッケージについては公のデフォルト値、または他のソフトウェアの場合にはBLOSUM62などのデフォルト行列を使用することが好ましい。
【0156】
ソフトウェアが最適なアラインメントを生成すると、%配列同一性を計算することが可能である。ソフトウェアは、通例、配列比較の一部としてこれを行い、数値結果を生成する。
【0157】
本発明による「バリアント」という用語は、得られたアミノ酸配列が非修飾配列と実質的に同じ活性を保持するという場合には、配列からのまたは配列への1(またはそれを超える)アミノ酸の任意の置換、変動、修飾、置き換え、欠失または付加を含む。例えば、保存的アミノ酸置換が行われ得る。本明細書で使用される場合、バリアントポリペプチドは、本明細書に示される配列と少なくとも70、80、85、90、95、98または99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドを含むと見なされる。
【0158】
一局面において、バリアントは親配列の機能を維持する。
FOXP3
【0159】
一局面において、本発明による細胞は、同じくこの細胞に導入されたFOXP3タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む。
【0160】
一局面において、本発明の細胞、操作されたTregまたは医薬組成物は、FOXP3タンパク質をコードする操作された核酸配列を含み得る、言い換えれば、操作された核酸配列は、細胞の内因性ゲノムの一部ではない。
【0161】
FOXP3は、転写因子のFOXタンパク質ファミリーのメンバーであり、制御性T細胞の発達および機能における制御経路の主要な制御因子として機能する。
適切には、FOXP3ポリペプチドは、ヒト由来であり、例えば、UniProtKBアクセッション:Q9BZS1:
【化20】
【0162】
適切には、FOXP3ポリペプチドは、配列番号18に示されるアミノ酸配列またはその断片を含む。適切には、FOXP3ポリペプチドは、配列番号18と少なくとも80%同一であるアミノ酸配列またはその断片を含む。適切には、ポリペプチドは、配列番号18と85、90、95、98もしくは99%同一であるアミノ酸配列またはその断片を含む。適切には、断片はFOXP3活性を保持する。適切には、断片は、FOXP3標的に結合し、転写因子として作用することができる。
【0163】
適切には、FOXP3ポリペプチドは、配列番号18の天然のバリアントであり得る。適切には、FOXP3ポリペプチドは、配列番号18のアイソフォームである。例えば、FOXP3ポリペプチドは、配列番号18と比較して、アミノ酸位置72~106の欠失を含み得る。あるいは、FOXP3ポリペプチドは、配列番号18と比較して、アミノ酸位置246~272の欠失を含み得る。
【0164】
適切には、FOXP3ポリペプチドは、配列番号19に示されるアミノ酸配列を含む:
【化21】
【0165】
適切には、FOXP3ポリペプチドは、配列番号19に示されるアミノ酸配列またはその断片を含む。適切には、FOXP3ポリペプチドは、配列番号19と少なくとも80%同一であるアミノ酸配列またはその断片を含む。適切には、ポリペプチドは、配列番号19と85、90、95、98もしくは99%同一であるアミノ酸配列またはその断片を含む。適切には、断片はFOXP3活性を保持する。適切には、断片は、FOXP3標的に結合し、転写因子として作用することができる。
【0166】
適切には、FOXP3ポリペプチドは、配列番号19の天然のバリアントであり得る。適切には、FOXP3ポリペプチドは、配列番号19のアイソフォームである。例えば、FOXP3ポリペプチドは、配列番号9と比較して、アミノ酸位置72~106の欠失を含み得る。あるいは、FOXP3ポリペプチドは、配列番号19と比較して、アミノ酸位置246~272の欠失を含み得る。
【0167】
適切には、FOXP3ポリペプチドは、配列番号20に示されるポリヌクレオチド配列によってコードされる:
【化22】
【化23】
【0168】
本発明のいくつかの態様において、FOXP3ポリペプチドまたはバリアントをコードするポリヌクレオチドは、配列番号20と少なくとも80%同一であるポリヌクレオチド配列またはその機能的断片を含む。適切には、FOXP3ポリペプチドまたはバリアントをコードするポリヌクレオチドは、配列番号20と少なくとも85、90、95、98または99%同一であるポリヌクレオチド配列またはその機能的断片を含む。本発明のいくつかの態様において、FOXP3ポリペプチドまたはバリアントをコードするポリヌクレオチドは、配列番号20またはその機能的断片を含む。
【0169】
適切には、FOXP3ポリペプチドは、配列番号21に示される核酸配列によってコードされる:
【化24】
【0170】
適切には、FOXP3ポリペプチドは、配列番号21に示される核酸配列またはその断片によってコードされる。適切には、FOXP3ポリペプチドは、配列番号21と少なくとも80%同一である核酸配列またはその断片によってコードされる。適切には、FOXP3ポリペプチドは、配列番号21と85、90、95、98または99%同一である核酸配列またはその断片によってコードされる。適切には、断片はFOXP3活性を保持する。適切には、断片によってコードされるポリペプチドは、FOXP3標的に結合し、転写因子として作用することができる。
【0171】
TCRおよび/またはFOXP3をコードする核酸は、開始コドンの上流にリーダー配列を含み得る。この配列は、転写物の翻訳を調節し得る。例として、本発明において使用するための適切リーダー配列は、MEKMLECAFIVLWLQLGWLSG(配列番号22)およびMLCSLLALLLGTFFGVR(配列番号23)である。
【0172】
さらなる局面において、本発明は、本明細書で定義されるTCRをコードする第1の核酸配列と、FOXP3をコードする第2の核酸とを含む核酸配列のキットを提供する。
ベクター
【0173】
本発明は、本明細書に記載のTCRをコードするヌクレオチド配列を含むベクターも提供する。適切には、ベクターは、フォークヘッドボックスP3(FOXP3)ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列をさらに含み得る。一局面において、本明細書で定義されるTCRをコードする核酸およびFOXP3をコードする核酸などの本発明の1またはそれを超える核酸配列を含むベクターのキットが提供される。
【0174】
「ベクター」という用語は、発現ベクター、すなわちTCRの発現を可能にする構築物、すなわち本発明によるα鎖および/またはβ鎖を含む。適切には、発現ベクターはさらに、FOXP3ポリペプチドの発現を可能にする。いくつかの態様において、ベクターはクローニングベクターである。
【0175】
ベクターが、FOXP3をコードするポリヌクレオチドに加えて、TCRをコードするポリヌクレオチドを含む場合;ベクターは、5’FOXP3-TCR3’の配向を有し得る。したがって、FOXP3をコードするポリヌクレオチドは、TCRをコードするポリヌクレオチドに対して5’であり得る。
【0176】
適切には、FOXP3をコードするポリヌクレオチドは、FOXP3をコードする核酸配列とTCRをコードする核酸配列の両方が同じmRNA転写物から発現されることを可能にする核酸配列によって、TCRをコードするポリヌクレオチドから分離され得る。
【0177】
例えば、ポリヌクレオチドは、(i)FOXP3をコードする核酸配列と(ii)TCRをコードする核酸配列との間に配列内リボソーム進入部位(IRES)を含み得る。IRESは、mRNA配列の中央での翻訳開始を可能にするヌクレオチド配列である。
【0178】
ポリヌクレオチドは、内部自己切断配列によって連結された(i)FOXP3および(ii)TCRをコードする核酸配列を含み得る。TCRαおよびβ鎖をコードするポリヌクレオチドは、内部自己切断配列によっても分離され得る。
【0179】
適切には、ベクターは、構造:5’強力なプロモーター(例えば、LTR)-FoxP3-2A-TCR-3’LTRを有し得る。ここで、FOXP3発現は、最適な発現のために強力なLTRプロモーターによって直接駆動される。TCRの前には2A配列が存在し、したがって、TCRの発現は、LTRプロモーター活性および2A切断活性の両方に依存する。重要なことに、5’から3’方向にFOXP3がTCRに先行する配置は、FOXP3が発現された場合にのみTCR発現が起こり得ること、および、FOXP3なしでのTCRの発現が起こらないことを確実にする。操作されたTregがエフェクター表現型を獲得するリスクを低下させ、および/またはTCRを出発集団中に存在するTエフェクター細胞中に導入することに関連するリスクを低下させるので、これは、操作されたTregの本文脈における具体的な利点である。
【0180】
切断配列は、(i)FOXP3および(ii)TCRを含むポリペプチドが分離されることを可能にする任意の配列であり得る。
【0181】
切断部位は、ポリペプチドが産生されたときに、いかなる外部切断活性も必要とせずにポリペプチドが個々のペプチドに直ちに切断されるような、自己切断性であり得る。
【0182】
便宜上、本明細書においては「切断」という用語が使用されるが、切断部位は、古典的な切断以外の機構によってペプチドを個々の実体に分離させ得る。例えば、口蹄疫ウイルス(FMDV)2A自己切断ペプチドの場合、宿主細胞プロテイナーゼによるタンパク質分解、自己タンパク質分解または翻訳効果など、「切断」活性を説明するための様々なモデルが提案されてきた(参照により本明細書に組み入れられるDonnellyら(2001)J.Gen.Virol.82:1027-1041)。タンパク質をコードする核酸配列の間に配置されたときに、切断部位がタンパク質を別個の実体として発現させる限り、このような「切断」の正確な機構は、本発明の目的にとって重要ではない。
【0183】
自己切断性ペプチドは、アフトウイルスまたはカルジオウイルス由来の2A自己切断ペプチドであり得る。
【0184】
類似性(すなわち、類似の化学的特性/機能を有するアミノ酸残基)に関してバリアントを考えることが可能であり、好ましくは、バリアントは配列同一性に関して表される。
【0185】
配列比較は、目測で、またはより一般的には、容易に利用可能な配列比較プログラムの助けを借りて行うことができる。これらの公的におよび商業的に入手可能なコンピュータプログラムは、2またはそれを超える配列間の配列同一性を計算することができる。
【0186】
適切には、本発明のベクターから発現されるFOXP3ポリペプチドは、自己切断ペプチド、例えば2A自己切断ペプチドのN末端に配置され得る。このようなFOXP3-2Aポリペプチドは、配列番号24もしくは25として示される配列またはこれらと少なくとも80%同一である配列番号24もしくは25のバリアントを含み得る。適切には、バリアントは、配列番号24または25と少なくとも85、90、95、98または99%同一であり得る。
配列番号24
【化25】
配列番号25
【化26】
【0187】
適切なベクターとしては、限定されないが、プラスミド、ウイルスベクター、トランスポゾン、ポリペプチドと複合体化されたまたは固相粒子上に固定化された核酸が挙げられ得る。
【0188】
ウイルス送達系としては、限定されないが、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、ヘルペスウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、バキュロウイルスベクターが挙げられる。
【0189】
レトロウイルスは、溶菌ウイルスとは異なる生活環を有するRNAウイルスである。これに関して、レトロウイルスは、DNA中間体を介して複製する感染実体である。レトロウイルスが細胞に感染すると、逆転写酵素によってそのゲノムがDNA形態に変換される。DNAコピーは、新しいRNAゲノムおよび感染ウイルス粒子の構築に必要な、ウイルスによってコードされるタンパク質の産生のための鋳型として機能する。
【0190】
多くのレトロウイルス、例えば、マウス白血病ウイルス(MLV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)、マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、藤浪肉腫ウイルス(FuSV)、モロニーマウス白血病ウイルス(Mo-MLV)、FBRマウス骨肉腫ウイルス(FBR MSV)、モロニーマウス肉腫ウイルス(Mo-MSV)、エーベルソンマウス白血病ウイルス(A-MLV)、トリ骨髄球腫症ウイルス-29(MC29)、およびトリ赤芽球症ウイルス(AEV)、ならびにレンチウイルスを含むすべての他のレトロウイルス科(retroviridiae)が存在する。
【0191】
レトロウイルスの詳細なリストは、参照により本明細書に組み入れられるCoffinら(“Retroviruses”1997 Cold Spring Harbour Laboratory Press Eds:JM Coffin,SM Hughes,HE Varmus pp758-763)に見出すことができる。
【0192】
レンチウイルスもレトロウイルス科に属するが、レンチウイルスは、参照により本明細書に組み込まれる分裂細胞および非分裂細胞(Lewisら(1992)EMBO J.3053-3058)の両方に感染することができる。
【0193】
ベクターは、本発明のポリヌクレオチドを細胞、例えば本明細書で定義される宿主細胞に導入することが可能であり得る。ベクターは、理想的には、α鎖および/またはβ鎖が宿主細胞中で適切に発現されるように、宿主細胞中で持続的な高レベルの発現をすることができるべきである。
【0194】
ベクターはレトロウイルスベクターであり得る。ベクターは、MP71ベクター骨格を基礎とし得る、またはMP71ベクター骨格から誘導可能であり得る。ベクターは、ウッドチャック肝炎応答エレメント(WPRE)の完全長バージョンまたは短縮バージョンを欠如し得る。
【0195】
ヒト細胞の効率的な感染のために、ウイルス粒子は両種指向性エンベロープまたはテナガザル白血病ウイルスエンベロープでパッケージングされ得る。
細胞
【0196】
本発明はさらに、本発明によるポリヌクレオチドまたはベクターを含む細胞、例えば宿主細胞を提供する。
【0197】
宿主細胞は、TCRを発現および産生するために使用することができる任意の細胞であり得る。
【0198】
適切には、細胞は、典型的なT細胞などのT細胞である。
【0199】
適切には、細胞はTreg細胞である。
【0200】
一局面において、T細胞またはTregなどの細胞は、対象から得られた血液から単離され得る。適切には、T細胞またはTregなどの細胞は、対象から得られた末梢血単核球(PBMC)から単離される。
【0201】
適切には、細胞は、FOXP3を発現する天然のTregである。
【0202】
一局面において、細胞は幹細胞である。
【0203】
別の局面において、細胞は前駆細胞である。
【0204】
本明細書で使用される場合、「幹細胞」という用語は、同じ種類のより多くの幹細胞を無限に生じさせることができ、分化によってそこから他の特殊化された細胞が生じ得る未分化細胞を意味する。幹細胞は複能性である。幹細胞は、例えば、胚性幹細胞または成体幹細胞であり得る。
【0205】
本明細書で使用される場合、「前駆細胞」という用語は、分化して1またはそれを超える種類の細胞を形成することができるが、インビトロで制限された自己再生を有する細胞を意味する。
【0206】
適切には、細胞は、TregなどのT細胞に分化することができる。
【0207】
適切には、細胞は、TregなどのFOXP3を発現するT細胞に分化する能力を有する。
【0208】
適切には、細胞はヒト細胞である。適切な細胞はヒトTregである。
【0209】
適切には、細胞は胚性幹細胞(ESC)であり得る。適切には、細胞は造血幹細胞または造血前駆細胞である。適切には、細胞は人工多能性幹細胞(iPSC)である。適切には、細胞は臍帯血から取得され得る。適切には、細胞は成体末梢血から取得され得る。
【0210】
いくつかの局面において、造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)は臍帯血から取得され得る。臍帯血は、当技術分野において公知の技術に従って採取することができる(例えば、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第7,147,626号および同第7,131,958号)。
【0211】
一局面において、HSPCは、多能性幹細胞源、例えば、人工多能性幹細胞(iPSC)および胚性幹細胞(ESC)から取得され得る。
【0212】
本明細書で使用される場合、「造血幹細胞・前駆細胞」または「HSPC」という用語は、抗原マーカーCD34を発現する(CD34+)細胞およびこのような細胞の集団を指す。特定の態様において、「HSPC」という用語は、抗原マーカーCD34の存在(CD34+)および系統(lin)マーカーの非存在によって同定される細胞を指す。CD34+および/またはLin(-)細胞を含む細胞の集団は、造血幹細胞および造血前駆細胞を含む。
【0213】
HSPCは、大腿骨、股関節、肋骨、胸骨および他の骨を含む成体の骨髄から取得または単離することができる。HSPCを含有する骨髄吸引液は、針および注射器を使用して股関節から直接取得または単離することができる。HSPCの他の供給源としては、臍帯血、胎盤血、動員末梢血、ワルトン膠様質、胎盤、胎児血液、胎児肝臓または胎児脾臓が挙げられる。特定の態様において、治療用途において使用するために十分な量のHSPCを採取することは、対象中の幹細胞および前駆細胞を動員することを必要とし得る。
【0214】
本明細書で使用される場合、「人工多能性幹細胞」または「iPSC」という用語は、多能性状態に再プログラムされた非多能性細胞を指す。対象の細胞が多能性状態に再プログラムされたら、次いで、細胞は、造血幹細胞または造血前駆細胞(それぞれ、HSCおよびHPC)などの所望の細胞型にプログラムされ得る。
【0215】
本明細書で使用される場合、「リプログラミング」という用語は、細胞の分化能(potency)をより分化していない状態へと増加させる方法を指す。
【0216】
本明細書で使用される場合、「プログラミング」という用語は、細胞の分化能を減少させ、または細胞をより分化した状態に分化させる方法を指す。
【0217】
適切には、細胞は対象に合致しているか、または対象にとって自家である。細胞は、患者自身の末梢血(第一者)から、またはドナー末梢血(第二者)からの造血幹細胞移植の状況で、または関係のないドナー(unconnected donor)(第三者)からの末梢血のいずれかからエクスビボで生成され得る。
【0218】
適切には、細胞は対象にとって自家である。適切には、対象はヒトである。
【0219】
いくつかの局面において、細胞は、誘導性前駆細胞または胚性前駆細胞の免疫細胞へのエクスビボ分化に由来し得る。これらの例では、細胞は、ウイルスベクターによる形質導入、DNAまたはRNAによる形質移入を含む多くの手段のうちの1つによって本発明のTCRをコードするDNAまたはRNAを導入することによって生成される。
【0220】
適切には、細胞は、本発明のTCRに加えて、ウイルスベクターによる形質導入、またはDNAもしくはRNAによる形質移入を含む多くの手段のうちの1つによってFOXP3をコードするDNAまたはRNAを導入することによって生成される。
【0221】
本明細書で使用される場合、「典型的なT細胞」またはTconvという用語は、αβT細胞受容体(TCR)に加えて、表面抗原分類4)CD4または表面抗原分類8(CD8)であり得る補助受容体を発現するTリンパ球細胞を意味する。典型的なT細胞は、末梢血、リンパ節および組織中に存在する。FOXP3は、胸腺由来のTregによって発現され、最近活性化された典型的なT細胞によって発現され得る。
【0222】
本明細書で使用される場合、「制御性T細胞」またはTregという用語は、マーカーCD4、CD25およびFOXP3(CD4CD25FOXP3)を発現するT細胞を意味する。Tregはまた、表面タンパク質CD127の非存在下でまたは表面タンパク質CD127の低レベル発現と組み合わせて、細胞表面マーカーCD4およびCD25を使用して同定され得る(CD4CD25CD127)。Tregはまた、細胞表面上に高レベルのCTLA-4(細胞傷害性Tリンパ球関連分子-4)またはGITR(糖質コルチコイド誘導性TNF受容体)を発現し得る。典型的なT細胞とは異なり、制御性T細胞はIL-2を産生せず、したがってベースラインにおいてアネルギーである。Treg細胞には、胸腺由来の天然のTreg(nTreg)細胞および末梢で生成された誘導性Treg(iTreg)細胞が含まれる。
【0223】
一局面において、Tregは、CD4CD25FOXP3T細胞である。
【0224】
一局面において、Tregは、CD4CD25CD127T細胞である。
【0225】
一局面において、Tregは、CD4CD25FOXP3CD127T細胞である。
【0226】
本明細書で使用される場合、「天然のTreg」という用語は、胸腺由来のTregを意味する。天然のTregは、CD4CD25FOXP3ヘリオスニューロピリン1である。iTregと比較して、nTregは、PD-1(プログラム細胞死-1、pdcd1)、ニューロピリン1(Nrp1)、ヘリオス(Ikzf2)およびCD73のより高い発現を有する。nTregは、個別に、ヘリオスタンパク質またはニューロピリン1(Nrp1)の発現に基づいてiTregと区別され得る。
【0227】
本明細書で使用される場合、「誘導性制御性T細胞」(iTreg)という用語は、胸腺の外部で成熟したCD4+の典型的なT細胞から発生するCD4CD25FOXP3ヘリオスニューロピリン1T細胞を意味する。例えば、iTregは、IL-2およびTGF-βの存在下でCD4+CD25-FOXP3-細胞からインビトロで誘導することができる。
【0228】
本発明の方法は、本明細書に記載されているように、本TCRをコードする第1のヌクレオチド配列とFOXP3をコードする第2のヌクレオチド配列とを天然のTreg(内因性FOXP3を既に発現している)中に導入することを含み得る。適切には、本発明の方法は、FOXP3をコードするポリヌクレオチドに加えて、本TCRをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを本明細書において定義される天然のTreg中に導入することを含み、ベクターは、本明細書に記載されているとおり、5’FOXP3-TCR3’の配向を有する。したがって、FOXP3をコードするポリヌクレオチドは、TCRをコードするポリヌクレオチドに対して5’であり得る。理論に拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、制御性T細胞(Treg)(内因性FOXP3を既に発現している)中での外因性FOXP3発現が制御性T細胞の制御機能を増強することを示した。特に、本発明者らは、(例えば、外因性FOXP3を導入することによって)内因性FOXP3を既に発現しているTreg中でのFOXP3発現を増加させることが、内因性FOXP3を発現しない典型的なT細胞中で外因性FOXP3を発現することによって提供される制御機能より大きな程度で、Tregの制御機能を増強することを決定した。さらに、内因性FOXP3を既に発現しているTreg中でFOXP3発現を増加させることは、対象への投与後にインビボでのTreg機能プロファイルの改善された保持を可能にする。例えば、外因性FOXP3を発現しない天然のTregは、対象への投与後にそれらのTregプロファイルを失い得ることが決定されており、例えば、外因性FOXPを発現しない天然のTregは、対象への投与に続く期間後に低下したレベルのFOXP3発現を有し、炎症促進性エフェクターサイトカインを産生することが可能であり得る。本発明によって提供されるTregは、FOXP3発現を保持し、対象への投与に続く期間後に炎症促進性エフェクターサイトカインを産生する能力が低下し得る。
組成物
【0229】
本発明は、本発明による操作されたTreg、ベクターまたは細胞を含む組成物も提供する。適切には、本発明は、本発明による操作されたTregを含む組成物を提供する。適切には、本発明は、本発明によるベクターを含む組成物を提供する。適切には、本発明は、本発明による細胞を含む組成物を提供する。
【0230】
いくつかの態様において、組成物は医薬組成物である。このような医薬組成物は、薬学的に許容され得る担体、希釈剤、賦形剤または佐剤を含み得る。薬学的担体、賦形剤または希釈剤の選択は、意図される投与経路および標準的な医薬実務に関して選択することができる。医薬組成物は、担体、賦形剤または希釈剤として(またはこれらに加えて)、任意の適切な結合剤(複数可)、滑沢剤(複数可)、懸濁化剤(複数可)、コーティング剤(複数可)、可溶化剤(複数可)および他の担体剤を含み得る。
【0231】
医薬組成物は、典型的には、製造および貯蔵の条件下で無菌かつ安定であるべきである。非経口投与のための製剤としては、懸濁剤、液剤、油性または水性ビヒクル中の乳剤、ペースト剤、および本明細書において論述されているような埋め込み可能な徐放性または生分解性製剤が挙げられるが、これらに限定されない。無菌注射用製剤は、非毒性の非経口的に許容され得る希釈剤または溶媒を用いて調製され得る。本発明に従って使用するための医薬組成物は、使用される投与量および濃度で対象に対して非毒性である、薬学的に許容され得る分散剤、湿潤剤、懸濁化剤、等張剤、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、担体、賦形剤、塩または安定剤を含み得る。好ましくは、このような組成物は、所与の投与方法および/または投与部位、例えば非経口(例えば、皮下、皮内、または静脈内注射)または髄腔内投与に適合する、疾患の処置における使用のための薬学的に許容され得る担体または賦形剤をさらに含むことができる。
【0232】
医薬組成物が本発明による細胞を含む場合、組成物は、現在の優良医薬品製造基準(cGMP)を使用して製造され得る。
【0233】
適切には、細胞を含む医薬組成物は、以下のものの混合物または組み合わせを含む、酢酸メチル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメトキシエタン(DME)、およびジメチルアセトアミドなどの、但しこれらに限定されない有機溶媒を含み得る。
【0234】
適切には、細胞を含む医薬組成物はエンドトキシンを含まない。
処置の方法
【0235】
本発明は、本発明の操作されたTregを対象に投与するステップを含む、疾患を処置および/または予防するための方法を提供する。
【0236】
本発明は、本発明の医薬組成物を対象に投与するステップを含む、疾患を処置および/または予防するための方法を提供する。
【0237】
本発明は、疾患の処置および/または予防における使用のための本発明の操作されたTregも提供する。
【0238】
本発明は、疾患の処置および/または予防における使用のための本発明の医薬組成物も提供する。
【0239】
本発明は、疾患を処置および/または予防するための医薬の製造における、本発明による操作されたTreg、ベクターまたは細胞の使用にも関する。
【0240】
好ましくは、本処置の方法は、対象への本発明の医薬組成物の投与に関する。
【0241】
「処置する/処置/処置している」という用語は、疾患に関連する少なくとも1つの症状を軽減、低減もしくは改善するために、および/または疾患の進行を減速、低減もしくは阻止するために、既存の疾患または状態を有する対象に本明細書に記載の操作されたTreg、細胞、ベクター、または医薬組成物を投与することを指す。
【0242】
本明細書で使用される「予防(prevention)」/「予防する」(または予防(prophylaxis))への言及は、疾患の症状の発症を遅延または予防することを指す。予防は、(疾患が起こらないように)絶対的であり得、または一部の個体においてもしくは限られた時間にわたってのみ有効であり得る。
【0243】
本発明の好ましい態様において、本明細書に記載される方法のいずれかの対象は、哺乳動物、好ましくはネコ、イヌ、ウマ、ロバ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシ、マウス、ラット、ウサギまたはモルモットである。好ましくは、対象はヒトである。
【0244】
本発明の医薬組成物の投与は、活性成分を生物学的に利用可能にする様々な経路のいずれをも使用して達成することができる。例えば、Treg、細胞、ベクターまたは医薬組成物は、静脈内、髄腔内、経口および非経口経路、鼻腔内、腹腔内、皮下、経皮または筋肉内に投与することができる。
【0245】
一局面において、本発明による操作されたTregまたは本発明による医薬組成物は静脈内投与される。
【0246】
別の局面において、本発明による操作されたTregまたは本発明による医薬組成物は髄腔内投与される。
【0247】
典型的には、医師は、個々の対象に最も適した実際の投与量を決定し、実際の投与量は特定の患者の年齢、体重および応答によって変化する。投与量は、疾患症状を軽減および/または予防するのに十分であるようなものである。
【0248】
当業者は、例えば、送達の経路(例えば、経口対静脈内対皮下など)が投与量に影響を及ぼし得ること、および/または必要とされる投与量が送達の経路に影響を及ぼし得ることを理解する。例えば、特定の部位または位置内での特に高濃度の作用物質(agent)が関心対象である場合には、集中的な送達が所望され得るおよび/または有用であり得る。所与の治療レジメンに対して経路および/または投与スケジュールを最適化するときに考慮されるべき他の要因としては、例えば、処置されている疾患(例えば、タイプまたはステージなど)、対象の臨床状態(例えば、年齢、全体的な健康状態など)、併用療法の存在または非存在、および医療従事者に公知の他の要因が挙げられ得る。
【0249】
投与量は、疾患の症状を安定化または改善するのに十分であるようなものである。
【0250】
本発明は、疾患を処置および/または予防するための方法であって、本発明による細胞、例えばT細胞を含む医薬組成物を対象に投与するステップを含む方法も提供する。
【0251】
適切には、本発明は、本発明による操作されたTregを対象に投与するステップを含む、疾患を処置および/または予防するための方法も提供する。
【0252】
本方法は、以下のステップ:
(i)対象からの細胞含有試料の単離;
(ii)TCRをコードする核酸配列、および必要に応じて、FOXP3タンパク質をコードする核酸を細胞に導入すること;および
(iii)(ii)からの細胞を対象に投与すること
を含み得る。
【0253】
適切には、(ii)からの細胞は、対象への投与前にインビトロで拡大させ得る。
【0254】
本方法は、以下のステップ:
(i)TCRをコードする核酸配列、および必要に応じて、FOXP3タンパク質をコードする核酸を細胞含有試料に導入すること;および
(ii)(i)からの細胞を対象に投与すること
を含み得る。
疾患
【0255】
本発明の方法および使用によって処置および/または予防されるべき疾患は、T細胞媒介性免疫応答を誘導する任意の疾患であり得る。
【0256】
疾患は、例えば、がん、感染性疾患または自己免疫疾患であり得る。
【0257】
適切には、本発明の方法および使用によって処置および/または予防されるべき疾患は、自己免疫疾患であり得る。
【0258】
理論に拘束されることを望むものではないが、本発明の方法および使用によって処置および/または予防されるべき疾患は、MBPが抗原である、例えばMBPが自己抗原である任意の疾患であり得る。
【0259】
適切には、疾患は、自己免疫性および炎症性中枢神経系疾患(例えば、慢性神経変性状態)であり得る。
【0260】
適切には、疾患は、多発性硬化症(MS)、アルツハイマー病、パーキンソン病、向神経性ウイルス感染症、脳卒中、腫瘍随伴性障害および外傷性脳損傷などの慢性神経変性状態であり得る。
【0261】
一局面において、疾患は多発性硬化症である。
【0262】
適切には、疾患は慢性進行性多発性硬化症である。
【0263】
適切には、疾患は再発/寛解型多発性硬化症である。
【0264】
一局面において、疾患は、ベーチェット病、サルコイドーシス、全身性エリテマトーデス、若年性特発性関節炎、強皮症およびシェーグレン症候群などの全身性の自己免疫および炎症性疾患の中枢神経系(CNS)病変を有し得る。
【0265】
適切には、疾患は、HLA-DRB10401陽性対象中に存在する。
【0266】
適切には、疾患は多発性硬化症であり、対象はHLA-DRB10401陽性である。
【0267】
適切には、疾患は慢性進行性多発性硬化症であり、対象はHLA-DRB10401陽性である。
【0268】
適切には、疾患は再発/寛解型多発性硬化症であり、対象はHLA-DRB10401陽性である。
多発性硬化症
【0269】
多発性硬化症(MS)は、欧州および米国の若年成人において最も一般的な神経障害である。MSは脱髄疾患として特徴付けられ、脳および/または脊髄全体の所々にミエリンの破壊が徐々に生じて、神経接続を妨害し、筋力低下、協調性の喪失ならびに発話および視覚障害を引き起こす中枢神経系の慢性変性疾患である。
【0270】
臨床的に孤立した症候群(CIS)、再発寛解型MS(RRMS)、原発性進行性MS(PPMS)および続発性進行性MS(SPMS)を含むMSの進行のいくつかのタイプまたはパターンが、特定されている。一部の患者では、障害の増加または進行は非常に緩やかであり、他の患者ではより迅速に起こり得る。しかしながら、一般に、発作からの回復はますます不完全になり、症状は増加し、障害が増大する傾向がある。
【0271】
いくつかの疾患修飾処置(DMT)が臨床的再発の頻度を低下させるために承認されているが、ほとんどの患者は現在の治療スケジュール下で臨床的に悪化し続けている。自家造血幹細胞移植は、患者にとって持続的な有益な効果を有し得るが、この手技は、実質的な毒性を伴う積極的な骨髄破壊的前処置を必要とする。DMTも幹細胞移植も、MSの免疫病理の抗原特異的抑制を媒介することができない。理論に束縛されることを望むものではないが、将来的には、本発明の操作されたTregの1用量の投与が、全身性副作用の非存在下でMS免疫病理の持続的抑制を提供し得る。これは、MSを有する人々における疾患の進行に対して大きな影響を及ぼす。
【0272】
適切には、本発明のTreg、ベクターまたは医薬組成物は、視力の低下または喪失、つまずき(stumbling)および不規則な歩行(uneven gait)、不明瞭な発話、頻尿および失禁、気分変化およびうつ、筋攣縮および麻痺を含むMSの症状の1またはそれより多くを軽減または改善し得る。
方法
【0273】
本発明は、本明細書で定義されるTCRをコードするポリヌクレオチドをインビトロまたはエクスビボで細胞中に導入することを含む、操作されたTregを産生するための方法も提供する。適切には、本方法は、本発明のTCR分子の発現を可能にする条件下で細胞をインキュベートすることをさらに含む。必要に応じて、本方法は、操作されたTreg細胞を精製するステップをさらに含み得る。
【0274】
適切には、細胞はT細胞である。
【0275】
適切には、細胞はTreg細胞である。
【0276】
適切には、細胞は、FOXP3を発現する天然のTregである。
【0277】
一局面において、細胞は幹細胞である。適切には、本発明による方法では、本明細書で定義されるTCRをコードする核酸が幹細胞中に導入され、次いで、幹細胞は、FOXP3を発現するTregなどのT細胞に分化される。
【0278】
適切には、幹細胞は、FOXP3を発現するTregなどのT細胞に分化する能力を有する。適切には、細胞は胚性幹細胞(ESC)であり得る。適切には、細胞は臍帯血から取得され得る。適切には、細胞は成体末梢血から取得され得る。適切には、細胞は造血幹・前駆細胞(HSPC)である。適切には、細胞は人工多能性幹細胞(iPSC)である。
【0279】
別の局面において、細胞は前駆細胞である。適切には、前駆細胞は、FOXP3を発現するTregなどのT細胞に分化する能力を有する。
【0280】
別の局面において、本発明は、操作されたTregを産生するための方法であって、本明細書で定義されるTCRをコードするポリヌクレオチドとFOXP3タンパク質をコードするポリヌクレオチドとをインビトロまたはエクスビボで細胞中に導入することを含む、方法を提供する。適切には、細胞は、本明細書で定義される天然のTregであり得る。適切には、本明細書で定義されるTCRをコードするポリヌクレオチドおよびFOXP3タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、別個のポリヌクレオチドとして提供される。適切には、別個のポリペプチドは、別々に、逐次にまたは同時に細胞中に導入される。ポリペプチドが別々にまたは逐次に導入される場合、適切には、TCRをコードするポリヌクレオチドが最初に導入される。ポリペプチドが別々にまたは逐次に導入される場合、適切には、FOXP3をコードするポリヌクレオチドが最初に導入される。適切には、本明細書で定義されるTCRをコードするポリヌクレオチドおよびFOXP3タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、同一のポリヌクレオチド上で提供される。
【0281】
いくつかの態様において、本発明による方法は、
(a)細胞集団から天然のTregを単離すること;および
(b)天然のTreg中でのFOXP3発現を増加させること
を含む。
【0282】
「細胞集団からTregを単離すること」という表現は、複数の異なる種類の細胞の異種混合物からTregを分離することを意味する。適切な細胞集団は、ヒト対象からの試料に由来する。
【0283】
適切には、TregはTregの集団として単離される。
【0284】
適切には、Tregの集団は、少なくとも70%のTreg、例えば75%、85%、90%または95%のTregを含む。
【0285】
適切には、本方法は、FOXP3および本発明のTCR分子の発現を引き起こす条件下で細胞をインキュベートすることをさらに含む。必要に応じて、本方法は、操作されたTreg細胞を精製するステップをさらに含み得る。
【0286】
一局面において、本発明は、操作されたTregを作製するための方法であって、本明細書で定義されるTCRをコードするポリヌクレオチドとFOXP3タンパク質をコードするポリヌクレオチドとをインビトロまたはエクスビボで細胞中に導入すること、および細胞を、FOXP3を発現するTregなどのT細胞に分化させることを含む、方法を提供する。適切には、本方法は、FOXP3および本発明のTCR分子の発現を引き起こす条件下で細胞をインキュベートすることをさらに含む。必要に応じて、本方法は、操作されたTreg細胞を精製するステップをさらに含み得る。
【0287】
適切には、一局面において、細胞は、FOXP3が細胞中に導入される前にT細胞に分化する。
【0288】
操作されたTregの精製は、当技術分野において公知の任意の方法によって達成され得る。適切には、操作されたTregは、細胞集団の陽性および/または陰性選択を使用して、蛍光活性化細胞選別(FACS)または免疫磁気単離(すなわち、磁性ナノ粒子またはビーズに結合させた抗体を使用すること)を使用して精製され得る。
【0289】
適切には、操作されたT細胞の精製は、本明細書で定義されるTCRの発現を使用して実施され得る。
【0290】
本開示は、本明細書に開示される例示的な方法および材料によって限定されず、本明細書に記載されるものと類似または同等の任意の方法および材料を、本開示の実施形態の実施または試験において使用することができる。数値の範囲は、範囲を定義する数を包含する。別段の指示がなければ、それぞれ、任意の核酸配列は、5’から3’方向に左から右に書かれ、アミノ酸配列は、アミノからカルボキシ方向に左から右に書かれている。
【0291】
値の範囲が提供されている場合、文脈上明確に別段の指示がなければ、下限の単位の10分の1までの、その範囲の上限と下限の間に介在する各値も具体的に開示されていることを理解されたい。記載された範囲内の任意の記載された値または介在する値と、その記載された範囲内の任意の他の記載された値または介在する値との間のより小さい各範囲が、本開示内に包含される。これらのより小さい範囲の上限および下限は、独立して、その範囲に含まれてもよく、または除外されてもよく、記載された範囲内の任意の具体的に除外された限界に従うことを条件として、より小さな範囲に限界の一方が含まれる、限界の両方が含まれない、または限界の両方が含まれる各範囲も本開示内に包含される。記載された範囲が限界の一方または両方を含む場合、これらの含まれる限界の一方または両方を除外する範囲も本開示に含まれる。
【0292】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明確に反対の意味を指示しなければ、複数表記を含むことに留意しなければならない。
【0293】
本明細書で使用される「含む(comprising)」、「含む(comprises)」および「から構成される(comprised of)」という用語は、「含む(including)」、「含む(includes)」または「含有する(containing)」、「含有する(contains)」と同義であって、包括的または非限定的であり、追加の列挙されていないメンバー、要素、または方法ステップを排除しない。用語「含む(comprising)」、「含む(comprises)」および「から構成される(comprised of)」は、用語「からなる(consisting of)」も含む。
【0294】
本明細書に記載されている本発明の実施形態は組み合わされ得ることに留意されたい。
【0295】
本明細書中で論述される刊行物は、本出願の出願日より前のそれらの開示のためにのみ提供される。本明細書中のいかなるものも、このような刊行物が添付の特許請求の範囲に対する先行技術を構成することの承認として解釈されるべきではない。
【0296】
ここで、実施例によって本発明をさらに説明するが、実施例は本発明を実施する上で当業者を補助する役割を果たすことが意図されており、決して本発明の範囲を限定することが意図されているわけではない。
【実施例
【0297】
実施例
[実施例1] TCRおよびTCR+FOXP3をコードするレトロウイルスベクターの産生
MS2-3C8 TCR
参照により本明細書に組み入れられる、Muraroら、JCI1997;100,2,339-349によって記載されるように、MS2-3C8 TCRは、HLA-DRB10401によって提示されるMBP111-129(配列番号12)を認識する。コドン最適化されたMS2-TCR vα、マウス化定常αドメイン、コドン最適化されたMS2-TCR vβおよびマウス化定常βドメインをレトロウイルス発現カセットpMP71にクローニングすることによって、MS2-3C8 TCRをコードするコドン最適化されたMS-2 TCR発現カセットを構築した(図1および図2)。参照により本明細書に組み入れられるBlood.2007 Mar 15;109(6):2331-2338.およびCancer Res.2007 Apr 15;67(8):3898-3903に記載されているように、定常αドメインと定常βドメインとの間に付加的なジスルフィド結合を追加した。定常-αおよびMS2-TCR vβドメインは、P2A配列によって分離された。
MS2-3C8 FOXP3
【0298】
上記のMS-2 TCRを改変することによって、FOXP3およびMS-2 TCRをコードする発現カセットを構築した(図1および図3)。MS-2 TCRの上流のRsrIIおよびEcoR1部位を使用して、STOPコドンが除去されたFOXP3遺伝子およびT2A配列をpMP71ベクター中に挿入した。
[実施例2] TCRおよびTCR+FOXP3によるT細胞の形質導入
【0299】
標準的な組織培養条件で24時間、8mLのイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)中に、2×10個でPhoenix-Ampho細胞を播種した。1日目に、FuGENE(登録商標)形質移入試薬と、エコトロピックレトロウイルス補助受容体をコードする2.5μgの関連プラスミドDNAおよび1.5μgのpCL-Ampと混合された最適培地とを使用して、室温で20分間、細胞を形質移入した。接着性Phoenix Amphotropic(Phoenix-AMPHO)細胞に形質移入混合物を添加し、さらに24時間インキュベートした。2日目に、培地を5mLのTexMACS(登録商標)(Miltenyi)組織培養培地に交換し、細胞をさらに24時間インキュベートした。
【0300】
CD4+Positive選択キットを使用して、CD4+T細胞を単離した。その後、フローサイトメトリー抗体CD4、CD25およびCD127で細胞を染色した後、BD FACSAria(登録商標)サイトメーターを使用して細胞を選別した。
【0301】
CD4+CD25hiCD127-TregおよびCD4+CD25-CD127+Tconvをポリプロピレンチューブ中に収集した。細胞選別の純度は、FOXP3 PE抗体の添加によって決定した。CD4+CD25+CD127-FOXP3+細胞の純度は、常に>70%であった。
【0302】
0日目に、抗CD3および抗CD28ビーズと1:1で培養することによって、FACS選別された細胞を48時間活性化した。2日目に、細胞を計数し、Tconvについては完全Roswell Park Memorial Institute培地(RPMI-1640)(Gibco)またはTregについてはTexMACS(登録商標)培地中に1×10/mLで再懸濁した。レトロネクチンでコーティングすることによって、組織培養処理されていない24ウェルプレートを事前に調製し、その後、リン酸緩衝食塩水(PBS)中の2%ウシ血清アルブミンでブロッキングし、PBSで2回洗浄した。細胞懸濁液を1:1で混合した。IL-2の最終濃度は、Tconvでは300u/ml、Tregでは1000u/mlであった。細胞を37度で一晩インキュベートした後、上清を除去し、新鮮な完全培地およびIL-2を補充した。培地を1日おきに交換した。
【0303】
10%熱不活化ウシ胎児血清(FBS);100単位/mLペニシリン;100μg/mLストレプトマイシン;2mM L-グルタミンが補充されたRPMI-1640中でTconv細胞を成長させた。100単位/mLペニシリン;100μg/mLストレプトマイシンを補充したTexMACX(登録商標)培地中で制御性T細胞を培養した。
【0304】
図5のFACSドットプロットは、マウスTCR定常領域およびFOXP3の発現の測定を通じて形質導入のレベルを評価するために7日目に行われた代表的なフローサイトメトリー分析を示す。
[実施例3] インビトロ拡大中のFOXP3発現
【0305】
実施例2で上記したようにT細胞を単離した。0日目に、FOXP3およびTreg細胞表面マーカーであるCTLA-4(CD152としても知られる)およびCD25の発現をフローサイトメトリーによって測定した。
【0306】
実施例2で上記したように、T細胞を形質導入し、培養した。7日目に、フローサイトメトリーによって細胞を分析し、形質導入された細胞集団に対してドットプロットをゲーティングした。FOXP3、CTLA-4およびCD25の相対的発現を測定した。図6は、インビトロ拡大の7日目におけるFOXP3、CTLA-4およびCD25の発現を示す棒グラフを示す。FOXP3の発現は、インビトロ拡大中に維持される。
MS-2 TCR形質導入されたT細胞の抗原特異的活性化
[実施例4] エフェクターT細胞およびTregのペプチド再刺激
【0307】
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞をヒトHLA-DR4およびCD80またはCD86で形質導入した。その後の実験のために、CD80またはCD86を発現する細胞を等量で一緒に混合した。
【0308】
飽和量(10μM/ml)のMBP111-129(配列番号12)(LSRFSWGAEGQRPGFGYGG)を含む培養培地中にCHO細胞を10×10/mLで再懸濁した。標準的な組織培養条件で懸濁液を2時間インキュベートした後、照射し、洗浄し、再懸濁した。
【0309】
MS2またはMS2-FOXP3構築物で形質導入されたT細胞を洗浄し、計数し、完全RPMI中に0.5×10細胞/mlで再懸濁した。細胞をCHO細胞と1:1で蒔き、ペプチドありまたはなしで4時間インキュベートした。細胞を固定し、透過処理した後、IL-2およびIFNγに対する抗体で染色した。
【0310】
図7は、エフェクターT細胞のペプチド再刺激を示すFACSドットプロットを示す。T細胞の形質導入効率は、「Td=」によって示される。
【0311】
上記のように、Treg細胞をCHO細胞とともに培養した。図8は、Treg細胞のペプチド再刺激を示すFACSドットプロットを示す。T細胞の形質導入効率は、「Td=」によって示される。
[実施例5] 同族ペプチドに対する、TCRを形質導入されたT細胞およびTCR-FOXP3を形質導入されたT細胞の応答
【0312】
TCRを形質導入されたTconv、TCRを形質導入されたTreg、TCR-FOXP3変換されたTconvおよびTCR-FOXP3変換されたTconv(上記の方法)を、ペプチドをパルスされ(pepide-pulsed)、照射されたAPCありまたはなしで4日間培養した。上清を培養物から収集し、ELISAによってIL-2およびIFNγについてアッセイした(n=2~4)。図9は、同族ペプチドに対する、TCRを形質導入されたTregおよびTCR-FOXP3変換されたTconvの応答を示す。
[実施例6] TCR形質導入およびTCR-FOXP3形質導入
【0313】
CHO細胞を上記のように調製した。TCRまたはTCR+FOXP3でTconv細胞を形質導入した。形質導入されたT細胞を磁気ビーズ選別によって単離した。APCにコンジュゲートさせた抗マウス定常β抗体で、形質導入された細胞を染色した。細胞を十分に洗浄し、第2の抗APC抗体で染色した。細胞を洗浄し、磁気カラムに通し、形質導入された細胞を捕捉し、溶出した。常に、精製された細胞の95%超がAPC+であった。
【0314】
CHO細胞なしで培養された非刺激細胞は、陰性対照として作用した。PMA(ホルボール12ミリスタート13アセタート)刺激された細胞は、陽性対照として作用した。白のバーは、MS2 TCRを発現する細胞からのサイトカイン産生を示し、黒のバーは、MS2 TCRおよびFOXP3を発現するT細胞からのサイトカイン産生を示す(n=3)。図10は、TCRおよびTCR+FOXP3で形質導入された典型的なT細胞が、TCRのみで形質導入された典型的な細胞よりも少ないIL-2を産生することを示す。
MS-2 TCRで形質導入されたTregの抗原特異的抑制
[実施例7] TCRで形質導入されたT細胞の増殖
【0315】
CD80+CD86+DR4+CHO細胞にペプチドを負荷し、上述したように照射した後、0.1×10細胞/mlで再懸濁した。等体積の温かいFBSを添加し、さらに3分間インキュベートする前に、37度の加温されたPBS中においてCFSE細胞トレース色素で、形質導入されたレスポンダーT細胞を3分間染色した。
【0316】
5倍体積の完全培地で細胞を洗浄した後、計数し、1×10形質導入細胞/mlで再懸濁した。TconvおよびTregの形質導入効率をフローサイトメトリーによって決定した。制御性T細胞を培養物から取り出し、洗浄し、完全RPMI中に1×10形質導入細胞/mlで再懸濁する。1Treg:0.1CHO細胞:および様々な比率のTconvで細胞を播種した。増殖は、カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)染色されたTconvの希釈物を分析することによって決定した。
【0317】
図11のデータは、TCRを形質導入されたTregが抗原特異的様式で増殖を抑制することを示す。上清を培養培地から収集し、ELISAによってIL-2についてアッセイした。図12に示されるデータは、TCRを形質導入されたTregが抗原特異的様式でIL-2産生を抑制することを示す。
[実施例8] 実験的自己免疫性脳脊髄炎の養子移入モデルにおける操作されたTreg
【0318】
養子移入によって、HLADRB10401についてトランスジェニックである免疫不全NODscidガンママウス(NSG)にMS2-3C8 TCRで形質導入されたヒトの典型的なT細胞を投与する。
【0319】
ヒトT細胞の養子移入は、マウスにおいて実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)型疾患を誘発し得る。次いで、MS2-3C8 TCRまたは対照Tregで形質導入されたヒトTreg細胞でマウスを処置する。
【0320】
HLA-DRB1+0401拘束性MBP111-129(配列番号12)特異的ヒト化TCRトランスジェニックマウスは、脊髄および脊髄神経根に加えて脳幹および脳神経根中に位置するMS2-3C8トランスジェニックT細胞および炎症性病変の浸潤を有する(参照により本明細書に組み入れられるQuandtら、J.Exp.Med.V.200(2);2004)。
【0321】
TCR誘導性Tregによる病原性T細胞の増殖の抑制を、マウスモデルにおいて、例えばCFSE、IL-2および/またはIFNγレベルによって測定する。
[実施例9] 実験的自己免疫性脳脊髄炎の古典的モデルにおける操作されたTreg
【0322】
広く受け入れられているMSの動物モデルであるEAEを誘発するために、マウスをMog(ミエリンオリゴデンドロサイトタンパク質)で免疫する。
【0323】
次いで、MS2-3C8 TCRまたは対照Tregで形質導入されたヒトTreg細胞でマウスを処置する。TCR誘導性Tregによる病原性T細胞の増殖の抑制を、マウスモデルにおいて、例えばCFSE、IL-2および/またはIFNγレベルによって測定する。
[実施例10] TCRを形質導入された制御性T細胞は、照射された宿主中に生着することができる
【0324】
ビーズ選別によって、HLA-DRB0401トランスジェニックマウスのリンパ節および脾細胞からCD4+CD25+Tregを単離した。TregをTCRで形質導入した。形質導入の1日後に、4Gyの照射で前処置されたHLA-DRB0401トランスジェニック宿主中に、TCRまたはTCR+FOXP3を形質導入された細胞を注入した(0日目)。7週間後、フローサイトメトリーを使用して、TCRに対する染色によって、形質導入されたTregの生着を決定した(+7週間)。
【0325】
図13の結果は、投与7週間後のTregの持続性および抗原特異的抑制効果を示す。
[実施例14] コドン最適化されたMS2-3C8を用いた発現および機能研究
【0326】
α鎖-P2A-β鎖-T2A-切断型マウスCD19(tmCD19)またはβ鎖-P2A-α鎖-T2A-切断型マウスCD19(tmCD19)配置を使用して、レトロウイルスpMP71ベクターにMS2-3C8 TCRについてのコドン最適化された配列をクローニングした(図14A)。
【0327】
MS2-3C8 TCRは、Jurkat細胞(図14B)およびCD4+ヒトT細胞(図14C)中で豊富に発現された。結果を、MS2-3C野生型配列およびマウス定常ドメインを有するMS2-3C8 TCRと比較した。
【0328】
コドン最適化されたMS2-3C8 TCR、野生型MS2-3C8 TCRまたはマウス定常ドメインを有するMS2-3C8 TCRで形質導入され、飽和濃度の関連ペプチドを負荷したAPCで刺激されたヒトCD4+T細胞は、抗原特異的サイトカイン応答が可能であった(図14D)。
【0329】
MBP特異的炎症促進性サイトカインの産生を評価する抑制アッセイも行い、MS2-3C8 TCRについて抗原特異的抑制データを示した(図14E)。
[実施例15] 参照MBP TCR形質導入Tregの/による抗原特異的抑制
【0330】
CD80+CD86+DR4+CHO細胞にペプチドを負荷し、照射した後、0.1×10細胞/mlで再懸濁した。等体積の温かいFBSを添加し、さらに3分間インキュベートする前に、37度の加温されたPBS中においてCFSE細胞トレース色素で、形質導入されたレスポンダーT細胞を3分間染色した。
【0331】
5倍体積の完全培地中で細胞を洗浄した後、計数し、1×10形質導入細胞/mlで再懸濁した。TconvおよびTregの形質導入効率をフローサイトメトリーによって決定した。制御性T細胞を培養物から取り出し、洗浄し、完全RPMI中に1×10形質導入細胞/mlで再懸濁する。1Treg:0.1CHO細胞:および様々な比率のTconvで細胞を蒔いた。増殖は、カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)染色されたTconvの希釈物を分析することによって決定した。
【0332】
図15のデータは、TCRを形質導入されたTregが抗原特異的様式で増殖を抑制することを示す。上清を培養培地から収集し、ELISAによってIL-2についてアッセイした。図15に示されるデータは、TCRを形質導入されたTregが抗原特異的様式でIL-2産生を抑制することを示す。
【0333】
この参照実験において使用された発現カセットは、FOXP3および参照MBP TCRを5’-3’方向にコードした。
[実施例16A]
外因性FOXP3を発現するTregは、生着し、持続し、FoxP3、CD25およびTCRの発現を保持する
【0334】
ビーズ選別によって、HLA-DRB0401トランスジェニックマウスのリンパ節および脾細胞からThy1.1+CD4+CD25+またはCD45.1+CD4+CD25+Tregを単離した。CD45.1+TregにTCRを形質導入し、Thy1.1+TregにTCR+マウスFOXP3を形質導入した。形質導入の1日後、TCRまたはTCR+FOXP3を形質導入された細胞を、4Gyの照射で前処置されたHLA-DRB0401トランスジェニック宿主中に1:1の比で注入した。FACSプロットは、注入された細胞のCD45.1:Thy1.1の比およびそれらのそれぞれのFOXP3発現を示す。
【0335】
7週間後、TCRについて染色することによって生着した細胞を同定するために、フローサイトメトリーを使用した。TCR+集団内のCD45.1:Thy1.1の比を決定し、FOXP3およびCD25について染色することによって、生着したCD45.1(TCRを形質導入されたTreg)またはThy1.1(TCR+FOXP3を形質導入されたTreg)細胞の表現型を調べた。
【0336】
ビーズ選別によって、HLA-DRB0401トランスジェニックマウスのリンパ節および脾細胞からThy1.1+CD4+CD25+Tregを単離した。TregをTCR、TCR+マウスFOXP3で形質導入するか、またはウイルスを含まない上清(モック)とともに培養した。形質導入の1日後に、4Gyの照射で前処置されたHLA-DRB0401トランスジェニック宿主中に、TCRまたはTCR+FOXP3を形質導入された細胞を注入した。7週間後、フローサイトメトリーを使用して、形質導入されたTregの生着を決定した。図15Aは、形質導入後1日目のヒト可変2.1およびマウスFoxp3の発現を通じて決定された形質導入効率を示す。図15Bは、移入された細胞(上のパネル)ならびにFOXP3およびTCR(下のパネル)を同定するためにThy1.1で染色された、TCRまたはTCR+FOXP3で形質導入されたTregを与えられたマウスからの脾細胞を示す。図15Cは、TCRまたはTCR+FOXP3を形質導入されたTregについての注射日と比較した形質導入効率の倍数変化(左パネル)および形質導入された細胞の絶対数の倍数変化(右パネル)を示す累積データを示す。図15Dは、移入の7週間後での、形質導入された細胞内のFOXP3の代表的な発現を示す。グラフは、7週目での形質導入された集団内のパーセンテージFOXP3+細胞の累積(左)および注射日と比較したFOXP3+細胞の倍数変化を示す。
[実施例16B]
外因性FOXP3を発現するTregはインビボで7週間後にTreg機能性を保持するが、外因性FOXP3を発現しないTregはエフェクターサイトカインを産生する能力を獲得する
【0337】
無関係のペプチドまたは10uM MBPをパルスしたCD86+HLA-DR4+CHO細胞とともに脾細胞を4時間培養した。エフェクターサイトカイン産生の欠如によって実証されるように、外因性FOXP3を発現するTregは、インビボで7週間後にTreg機能性を保持するのに対して、外因性FOXP3を発現しないTregは、エフェクターサイトカインを産生する能力を獲得する(図16)。
【0338】
上記の明細書で言及された全ての刊行物は、参照により本明細書に組み込まれる。本発明の記載された方法および系の様々な改変および変形が、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、当業者には明らかである。本発明は具体的な好ましい実施形態に関連して説明されてきたが、特許請求されている本発明はそのような特定の実施形態に不当に限定されるべきではないことが理解されるべきである。実際に、分子生物学、細胞免疫学または関連分野の当業者に明らかである、本発明を実施するための記載された態様の様々な改変は、以下の特許請求の範囲内に属することが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13-1】
図13-2】
図13-3】
図14-1】
図14-2】
図14-3】
図14-4】
図14-5】
図14-6】
図14-7】
図15-1】
図15-2】
図16-1】
図16-2】
【配列表】
2022553379000001.app
【国際調査報告】