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特表2022-553397ミトコンドリアDNA中のマクロヘテロプラスミー及びミクロヘテロプラスミーを検出するための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-22
(54)【発明の名称】ミトコンドリアDNA中のマクロヘテロプラスミー及びミクロヘテロプラスミーを検出するための方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6869 20180101AFI20221215BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20221215BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20221215BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20221215BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221215BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z ZNA
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
A61K35/12
A61P43/00 105
G01N33/53 M
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022524019
(86)(22)【出願日】2020-10-23
(85)【翻訳文提出日】2022-06-20
(86)【国際出願番号】 US2020057165
(87)【国際公開番号】W WO2021081405
(87)【国際公開日】2021-04-29
(31)【優先権主張番号】62/925,677
(32)【優先日】2019-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521065436
【氏名又は名称】イメル バイオセラピューティクス,インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】前田 遼太郎
(72)【発明者】
【氏名】上 大介
(72)【発明者】
【氏名】五條 理志
【テーマコード(参考)】
4B063
4C087
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QR32
4B063QR56
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX02
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB63
4C087ZB21
4C087ZB22
(57)【要約】
本件開示は、ミトコンドリアDNA中のマクロヘテロプラスミー及び/又はミクロヘテロプラスミーを検出するための方法を提供する。本方法は、ヘテロプラスミーの存在を検出し、若しくはモニタリングし、かつ/又はヘテロプラスミーの閾値レベルを特定することを含み得る。さらに、本方法を使用して、ヘテロプラスミーを有するか、又は有する疑いのある対象におけるミトコンドリア関連疾患又は障害を診断し、並びにミトコンドリアDNA(mtDNA)に影響を及ぼす治療の有効性をモニタリングすることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミトコンドリアDNA(mtDNA)のヘテロプラスミーの存在を検出又はモニタリングするための方法であって:
(a)1以上の単一細胞を含む生体試料を取得するか、又は取得していること;
(b)該1以上の単一細胞における細胞内mtDNAの配列を決定すること;
(c)該1以上の単一細胞における該細胞内mtDNAの配列の野生型形態及び突然変異型形態の比率を決定すること;並びに
(d)該1以上の単一細胞間及び該1以上の単一細胞内部の細胞内mtDNAの配列における細胞間及び/又は細胞内の変動量を計算し、それにより該試料中のmtDNAのヘテロプラスミーを決定すること、を含む、前記方法。
【請求項2】
その方法に基づく対象におけるミトコンドリア関連疾患又は障害の診断における使用のための方法であって:
(a)該対象から1以上の単一細胞を含む生体試料を取得すること、又は取得していること;
(b)該1以上の単一細胞における細胞内ミトコンドリアDNA(mtDNA)の配列を決定すること;
(c)該1以上の単一細胞における該細胞内mtDNAの配列の野生型形態及び突然変異型形態の比率を決定すること;
(d)該1以上の単一細胞間及び該1以上の単一細胞内部の細胞内mtDNAの配列における細胞間及び/又は細胞内の変動量を計算し、それにより該試料中のmtDNAのヘテロプラスミーを決定すること;並びに
(e)該試料中にmtDNAのヘテロプラスミーが存在する場合、ミトコンドリア関連疾患又は障害を有するか、又は有する疑いがあるものとして該対象を診断することを含む、前記方法。
【請求項3】
ミトコンドリア関連疾患又は障害を有する、又は有する疑いがある対象におけるミトコンドリアDNA(mtDNA)に影響を及ぼす治療の有効性をモニタリングするための方法であって:
(a)mtDNAに影響を及ぼす治療を該対象に施すこと;
(b)該対象から1以上の単一細胞を含む生体試料を取得すること;
(c)該1以上の単一細胞における細胞内mtDNAの配列を決定すること;
(d)該1以上の単一細胞における該細胞内mtDNAの配列の野生型形態及び突然変異型形態の比率を決定すること;
(e)該1以上の単一細胞間及び該1以上の単一細胞内部の細胞内mtDNAの配列における細胞間及び/又は細胞内の変動量を計算し、それにより該試料中のmtDNAのヘテロプラスミーのレベルを決定すること;並びに
(f)該試料中のmtDNAのヘテロプラスミーのレベルを、参照試料から得たmtDNAのヘテロプラスミーのレベルと比較することであって、該mtDNAのヘテロプラスミーのレベルの変化が、該対象における該治療の有効性を示す、前記比較すること、を含む、前記方法。
【請求項4】
前記mtDNAに影響を及ぼす治療が細胞療法である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記mtDNAに影響を及ぼす治療がミトコンドリア交換療法である、請求項3記載の方法。
【請求項6】
前記mtDNAに影響を及ぼす治療が、ミトコンドリア交換細胞(MirC)を投与することを含む、請求項3記載の方法。
【請求項7】
前記参照試料が、前記対象に前記治療を施す前の同一の対象から取得される、請求項3~6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
ミトコンドリア関連疾患又は障害を有するか、又は有する疑いがある患者集団の階層化における使用のための、病原性ミトコンドリアDNA(mtDNA)の突然変異のヘテロプラスミーの閾値レベルを特定する方法であって:
(a)対象から1以上の単一細胞を含む生体試料を取得すること、又は取得していること;
(b)該1以上の単一細胞における細胞内mtDNAの配列を決定すること;
(c)該1以上の単一細胞における該細胞内mtDNAの配列の野生型形態及び突然変異型形態の比率を決定すること;
(d)該1以上の単一細胞間及び該単一細胞内部の細胞内mtDNAの配列における細胞間及び/又は細胞内の変動量を計算し、それにより該試料中のmtDNAのヘテロプラスミーのレベルを決定すること;並びに
(e)ミトコンドリア病又は障害と明確に相関するヘテロプラスミーの最小レベルを特定し、それにより該ミトコンドリア関連疾患又は障害において顕在化する該ヘテロプラスミーの閾値レベルを決定すること、を含む、前記方法。
【請求項9】
前記1以上の単一細胞間の前記細胞内mtDNAの配列における細胞間変動量を計算することを含む、請求項1~8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記1以上の単一細胞内部の前記細胞内mtDNAの配列における細胞内変動量を計算することを含む、請求項1~8のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記1以上の単一細胞間及びそれらの内部の前記細胞内mtDNAの配列における細胞間及び細胞内変動量を計算することを含む、請求項1~8のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記1以上の単一細胞における前記細胞内mtDNAの配列を決定することが、単一のアッセイで実施される、請求項1~11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記1以上の単一細胞における前記細胞内mtDNAの配列を決定すること並びに該1以上の単一細胞における該細胞内mtDNAの配列の野生型形態及び突然変異型形態の比率を決定することが、単一のアッセイで実施される、請求項1~11のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記細胞内mtDNAの配列を決定することが、定量ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)アッセイを含む、請求項1~13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記定量PCRアッセイがデジタルドロップレットPCR(ddPCR)アッセイである、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記定量PCRアッセイが、TaqManポリメラーゼを含む、請求項14又は15記載の方法。
【請求項17】
前記1以上の単一細胞が異種細胞間mtDNAを有する、請求項1~16のいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
前記1以上の単一細胞が異種細胞内mtDNAを有する、請求項1~16のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(1.関連出願の相互参照)
本願は、2019年10月24日に出願された米国仮出願第62/925,677号の優先権の恩典を主張するものであり、その全内容は参照により本明細書に組み込まれている。
【0002】
(2.配列表)
本件出願は、EFS-Webを介してASCII形式で提出された配列表を含み、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。2020年10月21日に作成されたそのASCIIコピーは、14595-002-228_Sequence_Listing.txtという名称で、サイズは6,264バイトである。
【0003】
(3.発明の分野)
本発明は、ミトコンドリアDNA中のマクロヘテロプラスミー(macro-heteroplasmy)及び/又はミクロヘテロプラスミー(micro-heteroplasmy)を検出するための方法を提供する。
【背景技術】
【0004】
(4.発明の背景)
ミトコンドリア病は、ミトコンドリアの機能不全を特徴とする遺伝的異種混交性による障害の群である。現在、ミトコンドリア病に罹患している患者には治療選択肢はなく、そのために患者には患者の症状を軽減するための、一時的治療しかない(Gorman, G. S. らの文献、「ミトコンドリア病(Mitochondrial diseases.)」 Nat Rev Dis Primers 2, 16080, doi:10.1038/nrdp.2016.80 (2016))。
【0005】
ミトコンドリア前駆体と真核生物、αプロテオバクテリア、及び古細菌のそれぞれとの共生のために、ミトコンドリアの数々の遺伝子が核ゲノムに移行すると同時に進化して、20万倍まで拡大された遺伝子数を獲得してきた(Lane, N.及びMartin, W.の文献、「ゲノム複雑性のエネルギー論(The energetics of genome complexity.)」 Nature 467, 929-934, doi:10.1038/nature09486 (2010))。
【0006】
ミトコンドリア病は、ミトコンドリアの構造タンパク質又はミトコンドリア機能に関与するタンパク質をコードする核DNA(nDNA)及び/又はミトコンドリアDNA(mtDNA)中の遺伝子の突然変異から顕在化し得、あらゆる臓器を冒し、あらゆる年齢で発症し、かつあらゆる重症度を示し得る(Lightowlers, R. N., Taylor, R. W.及びTurnbull, D. M.の文献、「ミトコンドリア病を引き起こす突然変異:何が新規で、何が課題として残されているか(Mutations causing mitochondrial disease: What is new and what challenges remain?)」Science 349, 1494-1499 (2015))。mtDNA中の病的突然変異から生じる表現型の変動は、複数のmtDNAのコピーに帰着され得る。個々の細胞は複数コピーのミトコンドリアゲノムを有し、未受精の卵母細胞での10万個から精子でのおよそ100個までの範囲に及ぶ(Stewart, J. B.及びChinnery, P. F.の文献、「ミトコンドリアDNAのヘテロプラスミーの原動力:ヒトの健康及び疾患への関与(The dynamics of mitochondrial DNA heteroplasmy: implications for human health and disease.) Nat Rev Genet 16, 530-542, doi:10.1038/nrg3966 (2015))。ミトコンドリア病を引き起こす核突然変異を有する女性には、子供を得るためのいくつかの選択肢、例えば出生前及び着床前の遺伝子診断があるが、そのような選択肢は全ての女性にとっての解決策とはならない。さらに、ミトコンドリアDNAの病原性突然変異を有する患者は、遺伝的ボトルネック及び弛緩したmtDNAの複製によって遺伝パターンがきわめて複雑となるため、多くの異なる困難に直面する(Wai, T., Teoli, D.及びShoubridge, E. A.の文献、「ミトコンドリアDNAの遺伝的ボトルネックはゲノムの部分集団の複製に起因する(The mitochondrial DNA genetic bottleneck results from replication of a subpopulation of genomes.)」 Nature Genetics 40, 1484-1488, doi:10.1038/ng.258 (2008); Chinnery, P. F.及びSamuels, D. C.の文献、「弛緩したmtDNAの複製:疾患の発現に関与するモデル(Relaxed replication of mtDNA: a model with implications for the expression of disease.)」The American Journal of Human Genetics 64, 1158-1165 (1999))。
【0007】
突然変異型及び野生型ゲノムの混合は、ヘテロプラスミーと命名されている(Holt, I. J., Harding, A. E. 及びMorgan-Hughes, J. A.の文献、「ミトコンドリアミオパシーを有する患者における筋ミトコンドリアDNAの欠失(Deletions of muscle mitochondrial DNA in patients with mitochondrial myopathies.) Nature 331, 717-719, doi:10.1038/331717a0 (1988))。ミトコンドリア病の重症度は、タンパク質コード遺伝子が突然変異している場合、ヘテロプラスミーのレベルと相関することが多いことが観察されている。病的突然変異を有するミトコンドリアゲノムの比が小さい例は広汎に見られるものの、生化学的な機能不全の顕在化には典型的に60~80%の閾値があるようである(Stewart, J. B.及びChinnery, P. F.の文献、「ミトコンドリアDNAのヘテロプラスミーの原動力:ヒトの健康及び疾患への関与(The dynamics of mitochondrial DNA heteroplasmy: implications for human health and disease.)」Nat Rev Genet 16, 530-542, doi:10.1038/nrg3966 (2015))。例えば、70%未満のヘテロプラスミーは、一般的にMT-ATP6の突然変異によって引き起こされるミトコンドリア病NARP(神経原性筋脱力、運動失調、及び網膜色素変性)の臨床表現型を示さない。対照的に、ヘテロプラスミーが70%から90%の範囲に及ぶと、NARPは症状を示し、成人期まで安定し続け得る。極度のヘテロプラスミー(例えば、90%超のヘテロプラスミー)はリー症候群をもたらす(Tatuch, Y.らの文献、「異常mtDNAのパーセンテージが高い場合、8993でのヘテロプラスミーmtDNAの突然変異(T----G)はリー疾患を引き起こし得る(Heteroplasmic mtDNA mutation (T----G) at 8993 can cause Leigh disease when the percentage of abnormal mtDNA is high.)」American journal of human genetics 50, 852-858 (1992))。
【0008】
しかしながら、ヘテロプラスミーは全てのミトコンドリア病の変動性を説明することはできない。例えば、tRNA遺伝子中のmtDNAの突然変異は臨床において高度の変動性を示し、それはヘテロプラスミーによって説明することができない(Nunnari, J.及びSuomalainen, A.の文献、「病気及び健康におけるミトコンドリア(Mitochondria: in sickness and in health.)」Cell 148, 1145-1159, doi:10.1016/j.cell.2012.02.035 (2012))。さらに、ミトコンドリアヘテロプラスミーのための通常の(ordinal)方法では、mtDNAについて類似した細胞内異種混交性を有する細胞から構成される細胞間同型遺伝子性集団及び異なる比の突然変異型mtDNAを有する細胞から構成される細胞間異型遺伝子性集団を識別することができない。
【0009】
従って、単一細胞におけるヘテロプラスミーを決定するための改良法を開発することへの、満たされていない大きなニーズが存在する。
【発明の概要】
【0010】
(5.発明の概要)
一態様において、本明細書では、ミトコンドリアDNA(mtDNA)のヘテロプラスミーの存在を検出又はモニタリングするための方法であって:
(a)1以上の単一細胞を含む生体試料を取得するか、又は取得していること;
(b)該1以上の単一細胞における細胞内mtDNAの配列を決定すること;
(c)該1以上の単一細胞における該細胞内mtDNAの配列の野生型形態及び突然変異型形態の比率を決定すること;並びに
(d)該1以上の単一細胞間及び該1以上の単一細胞内部の細胞内mtDNAの配列における細胞間及び/又は細胞内の変動量を計算し、それにより該試料中のmtDNAのヘテロプラスミーを決定すること、を含む、前記方法を提供する。
別の態様において、本明細書では、その方法に基づく対象におけるミトコンドリア関連疾患又は障害の診断における使用のための方法であって:
(a)該対象から1以上の単一細胞を含む生体試料を取得すること、又は取得していること;
(b)該1以上の単一細胞における細胞内ミトコンドリアDNA(mtDNA)の配列を決定すること;
(c)該1以上の単一細胞における該細胞内mtDNAの配列の野生型形態及び突然変異型形態の比率を決定すること;
(d)該1以上の単一細胞間及び該1以上の単一細胞内部の細胞内mtDNAの配列における細胞間及び/又は細胞内の変動量を計算し、それにより該試料中のmtDNAのヘテロプラスミーを決定すること;並びに
(e)該試料中にmtDNAのヘテロプラスミーが存在する場合、ミトコンドリア関連疾患又は障害を有するか、又は有する疑いがあるものとして該対象を診断することを含む、前記方法を提供する。
【0011】
なお別の態様において、本明細書では、ミトコンドリア関連疾患又は障害を有する、又は有する疑いがある対象におけるミトコンドリアDNA(mtDNA)に影響を及ぼす治療の有効性をモニタリングするための方法であって:
(a)mtDNAに影響を及ぼす治療を該対象に施すこと;
(b)該対象から1以上の単一細胞を含む生体試料を取得すること;
(c)該1以上の単一細胞における細胞内mtDNAの配列を決定すること;
(d)該1以上の単一細胞における該細胞内mtDNAの配列の野生型形態及び突然変異型形態の比率を決定すること;
(e)該1以上の単一細胞間及び該1以上の単一細胞の内部の細胞内mtDNAの配列における細胞間及び/又は細胞内の変動量を計算し、それにより該試料中のmtDNAのヘテロプラスミーのレベルを決定すること;並びに
(f)該試料中のmtDNAのヘテロプラスミーのレベルを、参照試料から得たmtDNAのヘテロプラスミーのレベルと比較することであって、該mtDNAのヘテロプラスミーのレベルの変化が、該対象における該治療の有効性を示す、前記比較すること、を含む、前記方法を提供する。
【0012】
いくつかの実施態様において、mtDNAに影響を及ぼす治療は、ミトコンドリア交換療法である。いくつかの実施態様において、mtDNAに影響を及ぼす治療は、ミトコンドリア交換療法である。具体的な実施態様において、mtDNAに影響を及ぼす治療は、ミトコンドリア交換細胞(MirC)を投与することを含む。いくつかの実施態様において、参照試料は、対象に治療を施す前の同一の対象から取得される。
【0013】
別の態様において、本明細書では、ミトコンドリア関連疾患又は障害を有するか、又は有する疑いがある患者集団の階層化における使用のための、病原性のミトコンドリアDNA(mtDNA)の突然変異のヘテロプラスミーの閾値レベルを特定する方法であって:
(a)対象から1以上の単一細胞を含む生体試料を取得すること、又は取得していること;
(b)該1以上の単一細胞における細胞内mtDNAの配列を決定すること;
(c)該1以上の単一細胞における該細胞内mtDNAの配列の野生型形態及び突然変異型形態の比率を決定すること;
(d)該1以上の単一細胞間及び該1以上の単一細胞内部の細胞内mtDNAの配列における細胞間及び/又は細胞内の変動量を計算し、それにより該試料中のmtDNAのヘテロプラスミーのレベルを決定すること;並びに
(e)ミトコンドリア病又は障害と明確に相関するヘテロプラスミーの最小レベルを特定し、それにより該ミトコンドリア関連疾患又は障害において顕在化する該ヘテロプラスミーの閾値レベルを決定すること、を含む、前記方法を提供する。
【0014】
本明細書で提供する方法のいずれかのいくつかの実施態様において、本方法は、該1以上の単一細胞間の該細胞内mtDNAの配列における細胞間変動量を計算することを含む。
【0015】
本明細書で提供する方法のいずれかのいくつかの実施態様において、本方法は、該1以上の単一細胞内部の該細胞内mtDNAの配列における細胞内変動量を計算することを含む。
【0016】
本明細書で提供する方法のいずれかのいくつかの実施態様において、本方法は、該1以上の単一細胞間又はそれらの内部の該細胞内mtDNAの配列における細胞間及び細胞内変動量を計算することを含む。
【0017】
ある実施態様において、該1以上の単一細胞における該細胞内mtDNAの配列を決定することは、単一のアッセイで実施される。ある実施態様において、該1以上の単一細胞における該細胞内mtDNAの配列を決定すること並びに該1以上の単一細胞における該細胞内mtDNAの配列の野生型形態及び突然変異型形態の比率を決定することは、単一のアッセイで実施される。
【0018】
いくつかの実施態様において、該細胞内mtDNAの配列を決定することは、定量ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)アッセイを含む。具体的な実施態様において、該定量PCRアッセイはデジタルドロップレットPCR(ddPCR)アッセイである。いくつかの実施態様において、前記定量PCRアッセイは、TaqManポリメラーゼを含む。
【0019】
いくつかの実施態様において、該1以上の単一細胞は一様な細胞間mtDNAを有する。他の実施態様において、該1以上の単一細胞は異種細胞内mtDNAを有する。いくつかの実施態様において、該1以上の単一細胞は異種細胞内mtDNAを有する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
(6.図面の簡単な説明)
図1】単一のミトコンドリアDNAの突然変異を有する原発性ミトコンドリア病を有する患者から得た線維芽細胞(BK01、BK02、及びBK04)のヘテロプラスミー分析に使用する戦略、並びにSNP遺伝子型判定アッセイに使用するプライマーの設計を示す。配列番号:1~15を示す。
【0021】
図2】原発性ミトコンドリア病を有する患者から得た3つの線維芽細胞の総ヘテロプラスミーは、BK01、BK02、及びBK04についてそれぞれ99.8%、96.9%、及び99.7%であったことを示す。
【0022】
図3】1ミリリットル当たり1×105細胞の濃度は、単一細胞レベルでのddPCRを可能とする細胞懸濁物を得るのに最適な希釈量であったことを示す。
【0023】
図4】陽性シグナルの細胞数及び負荷した細胞数の間の比例関係に基づいて、閾値ラインを得たことを示す。
【0024】
図5】単一細胞レベルでのddPCR分析の結果を示す。健康型シグナルをY軸にプロットし、突然変異型シグナルをXシグナルにプロットした。象限分析から、突然変異型mtDNAのみを有する細胞は右下の象限に示され、突然変異型及び健康なmtDNAの両方を有する細胞は右上の象限に示され、かつ健康なmtDNAのみを有する細胞は左上に示される。左下の象限は、細胞を含まないドロップレットを示す。BK01の象限分析から、大部分、96.56%の細胞が右下にプロットされる突然変異型mtDNAのホモプラスミーであり、少数の部分の細胞が突然変異型及び健康型の2種のmtDNAを有し、右上にプロットされたことが示された。これは、細胞内ヘテロプラスミーの状態である(図5、上のパネル)。さらに、健康型mtDNAのみから構成される細胞集団が、細胞内ヘテロプラスミーを有する細胞と同じ比、1.72%だけ存在していた。BK02は、4.76%の比で右上にプロットされる、突然変異型及び健康型mtDNAの両方を有する細胞集団を含んでいた(図5、中央のパネル)。BK04は、突然変異型mtDNAのみを有する細胞の単一の画分のみが存在するという点で他の患者との相違を示していた(図5、下のパネル)。BK02及びBK04の両方は、健康型mtDNAのみを有する細胞集団を含んでいなかった。
【0025】
図6】原発性ミトコンドリア病を有する患者(BK01、BK02、及びBK04)から得た3つの線維芽細胞の、NHDF細胞に対する細胞周期分析結果を示す。この分析結果から、これらの細胞中のS期の画分はNHDFのS期の画分と比較して半分未満であったことが明らかとなった。G2/M期及びS期の合計は、罹患した線維芽細胞において10~20%の範囲であった。
【0026】
図7】mtDNAの配列決定に使用するヒトT細胞Dループ領域を示す。
【0027】
図8】ヒトT細胞及びEPC100細胞におけるHVR1 mtDNAの配列を示す。配列番号:16及び17を示す。
【0028】
図9】ヒトT細胞対EPC100 SNPアッセイプローブ/プライマーを示す。配列番号:18~24を示す。
【0029】
図10】MirCの作製のための実験設計及びヘテロプラスミーアッセイのスケジュールを示す。
【0030】
図11】ヒトT細胞及びEPC100細胞から得たPCR増幅産物を示す。
【0031】
図12】ミトコンドリア交換をした場合としていない場合の、全T細胞集団に対するTaqMan qPCR SNP遺伝子型判定アッセイの定量化を示す。外来mtDNAは2日間で半分を、導入後7日間で約70%を、それぞれ占めた。
【0032】
図13】ミトコンドリアを交換したヒト初代T細胞の象限分析結果を示す。
【0033】
図14】TaqMan qPCRによって決定された対照GJ単核細胞と比較した、MELASを有する患者から得た単核細胞の総ヘテロプラスミーを示す。
【0034】
図15】対照GJ単核細胞に対するFACsによるsc-ddPCR分析の例示的な結果を示す。
【0035】
図16】対照MELAS単核細胞に対するFACsによるsc-ddPCR分析の例示的な結果を示す。
【0036】
図17】対照MELAS CD3+ T細胞に対するFACsによるsc-ddPCR分析の例示的な結果を示す。
【0037】
図18】対照MELAS CD11b+マクロファージ-単球系譜の細胞に対するFACsによるsc-ddPCR分析の例示的な結果を示す。
【0038】
図19】MELASを有する患者から得た単核細胞、CD3+ T細胞、及びCD11b+マクロファージ-単球系譜の細胞のヘテロプラスミーを、対照GJ単核細胞と比較した比較結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
(7.発明の詳細な説明)
(7.1定義)
特に別途定義されない限り、本願で使用する技術用語及び科学用語を含む全ての用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。一般的に、本明細書及び以下に記載する実験方法において使用する命名法は、関連する分野において広く知られており、かつ一般的に使用されている。
【0040】
本明細書で使用する「ミトコンドリア交換細胞」又はMirCという用語は、内在のミトコンドリア及び/又はmtDNAが外来のミトコンドリア及び/又はmtDNAで置き換えられた細胞を意味することを意図している。例えば、例示的なミトコンドリア交換細胞(MirC)は、機能不全のミトコンドリアをコードする内在のmtDNA、例えばミトコンドリア病又は障害を有する対象に起源を有するmtDNAを、機能的なミトコンドリアをコードする外来のmtDNA、例えば健康な対象に起源を有するmtDNAで置き換えることを伴う。また、例示的なMirCには、内在のミトコンドリアが外来のミトコンドリアで置き換えられた細胞がある。しかしながら、内在のミトコンドリア及び/又はmtDNAの置換には、例えばある細胞、例えば古い細胞由来の機能的な内在のmtDNAが、異なる細胞、例えば若い対象から得たより健康な細胞由来の機能的な外来のmtDNAで置き換えられたものも含み得ることは理解されよう。また、健康な内在のミトコンドリア及び/又はmtDNAは、例えばミトコンドリア病又は障害を模倣するなどの目的で、機能不全の外来のミトコンドリア及び/又は外来のmtDNAで置き換えてもよいことも、さらに理解されよう。
【0041】
本明細書で使用する「治療する」、「治療している」、及び「治療」という用語は、症状の重症度、進行、拡散、及び/又は頻度の低下、症状及び/又は根本原因の排除、症状及び/又はその根本原因の発生の予防、並びに損傷の改善又は矯正を指す。「治療」は、治療的処置並びに疾病、疾患、又は障害の予防的又は抑制的手段を含むことを意味する。
【0042】
本明細書で使用する「薬剤」という用語は、mtDNAの除去、減少を参照して使用される場合、mtDNAを減少させ得る酵素又は化合物を指す。好ましい薬剤には、1以上の部位でmtDNAを切断し、レシピエント細胞における毒性を生じない制限酵素、例えばXbaIがある。しかしながら、薬剤にはmtDNA合成を阻害し、又はミトコンドリアの分解を選択的に促進する酵素又は化合物を含めてもよい。
【0043】
本明細書で使用する「低下する」又は「減少する」という用語は、その用語が本明細書で定義される通り、一般的に参照レベルと比較した、少なくとも5%の減少、例えば少なくとも約10%、又は少なくとも約20%、又は少なくとも約30%、又は少なくとも約40%、又は少なくとも約50%、又は少なくとも約60%、又は少なくとも約70%、又は少なくとも約80%、又は少なくとも約90%の減少、又は5%~99%の任意の減少を意味する。本明細書で使用する、部分的な低下、又は内在のmtDNAを部分的に低下させる薬剤、又は減少は、全ての内在のmtDNAの完全な除去(すなわち、ρ0細胞)をもたらさないことは理解されよう。本明細書で使用する「増加」という用語は、一般的に少なくとも5%の増加、例えば少なくとも約10%、又は少なくとも約20%、又は少なくとも約30%、又は少なくとも約40%、又は少なくとも約50%、又は少なくとも約60%、又は少なくとも約70%、又は少なくとも約80%、又は少なくとも約90%、又は90%超の増加を意味する。
【0044】
本明細書で使用する「内在の」という用語は、内部を起源に有し、又はそこに由来することを指す。例えば、内在のミトコンドリアは細胞に本来備わるミトコンドリアである。
【0045】
本明細書で使用する「外来の」という用語は宿主に本来備わらない細胞物質(例えば、ミトコンドリア又はmtDNA)、例えば外部に由来する細胞物質を指す。「外部に」とは、典型的に異なる供給源からのものを意味する。例えば、ミトコンドリアゲノムが、宿主細胞又は宿主ミトコンドリアとは異なる細胞腫又は異なる種を起源に有する場合、ミトコンドリアゲノムは宿主細胞又は宿主ミトコンドリアに対して外来である。さらに、「外来の」とは、ミトコンドリアから取り出され、操作され、かつ同じミトコンドリアに戻されたミトコンドリアゲノムも指し得る。
【0046】
本明細書で使用する「大部分」という用語は、比較される他の量に対して最大の量を意味することを意図している。2つの群を比較する際の例示的な大部分は、集団全体の約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、又は約90%以上、又は約95%以上を超える任意の整数であって、それらの間の任意の整数を含む量である。大多数は比較する集団の全体に応じて変わり、比較される群が3つ以上ある場合は50%未満の量となり得ることは理解されよう。
【0047】
本明細書で使用する「対象」という用語は、哺乳動物を意味することを意図している。対象は、ヒト又は非ヒト哺乳動物、例えばイヌ、ネコ、ウシ(bovid)、ウマ、マウス、ラット、ウサギ、又はそれらのトランスジェニック種とし得る。「対象」は、「患者」、例えばヒト患者も指し得ることは理解されよう。
【0048】
本明細書で使用する「有効量」という用語は、ヘテロプラスミー及び/又はミトコンドリアの機能不全に関連する任意の疾患又は障害を調節し、治療し、又は改善するのに有効な本発明の組成物の量を指す。従って、有効量には、例えば治療有効量を含み得、この用語は治療に有効な量又は生物学的に有効な量を指し、この生物学的に有効な量は生物学的効果に有効な量を指す。「治療有効量」及び「有効量」という用語は、全体的な治療を改善し、症状又は疾患若しくは障害の原因を低下させ、又は回避し、あるいは別の治療剤の治療効果を増強する量を包含し得る。そのような量に相当する所与の組成物の量は、様々な要因、例えば所与の組成物、医薬製剤、投与経路、疾病、疾患又は障害の種類、治療される対象又は宿主の素性などに応じて変化するが、それにもかかわらず当業者であれば定例的に決定することができる。本明細書で定義する薬剤の治療有効量は、当該技術分野で公知の定例的な方法により、当業者であれば容易に決定することができる。
【0049】
本明細書で使用する「加齢性疾患」という用語は、加齢に帰着される任意の数の疾病を指す。これらの疾病には、限定されることなく、骨粗鬆症、骨量減少、関節炎、関節硬化、白内障、黄斑変性症、糖尿病を含む代謝性疾患、アルツハイマー病及びパーキンソン病を含む神経変性疾患、免疫老化、及びアテローム性動脈硬化症を含む心臓疾患、及び脂質異常症がある。「加齢性疾患」という語句は、神経変性疾患、例えばアルツハイマー病及び関連する障害、ALS、ハンチントン病、パーキンソン病、及び癌をさらに包含する。
【0050】
本明細書で使用する「自己免疫疾患」という用語は、個体自身の組織、臓器に対して方向づけられた免疫反応から生じる疾患若しくは障害、又はそれらの顕在化若しくはそれらから結果として生じる疾病を意味することを意図している。自己免疫疾患とは、自己免疫抗原又はそのエピトープと反応する自己抗体の生産に起因する、又はそれにより悪化する疾病を指し得る。自己免疫疾患は、組織特異的又は臓器特異的であり得、又は全身性自己免疫疾患であり得る。全身性自己免疫疾患には、結合組織病(CTD)、例えば全身性エリテマトーデス(ループス、SLE)、混合性結合組織病、全身性硬化症、多発性筋炎(PM)、皮膚筋炎(DM)、及びシェーグレン症候群(SS)がある。さらなる例示的な自己免疫疾患には、さらに関節リウマチ及び抗好中球細胞質抗体(ANCA)多発性血管炎がある。
【0051】
本明細書で使用する「遺伝性疾患」という用語は、核ゲノムにおける突然変異などの異常に起因する疾患を指す。例示的な遺伝性疾患には、これらに限定はされないが、ハッチンソン・ギルフォード早老症候群、ウェルナー症候群、及びハンチントン病がある。
【0052】
本明細書で使用する「癌」という用語は、これらに限定はされないが、固形癌及び血液癌を含む。「癌」及び「癌性の」という用語は、典型的に調節の利かない細胞増殖を特徴とする哺乳動物の生理的状態を指し、又は記述する。
【0053】
本明細書で使用する「ミトコンドリア病又は障害」及び「ミトコンドリア障害」という用語は互換的に使用され、これらの体領域でのエネルギー不足を引き起こすミトコンドリアへの遺伝性又は獲得性の損傷に起因する疾病の群を指す。ミトコンドリア病又は障害の影響を受ける(effected)例示的な臓器には、多量のエネルギーを消費する臓器、例えば肝臓、筋肉、脳、眼、耳、及び心臓がある。その結果は、肝不全、筋脱力、疲労、並びに心臓、眼、及び様々な他のシステムの問題であることが多い。
【0054】
本明細書で使用する「ミトコンドリアDNAの異常」という用語は、その産物がミトコンドリアに局在し、健康な対象の細胞中に観察されないミトコンドリア遺伝子の突然変異を指す。ミトコンドリアDNAの異常に関連する例示的な疾患には、例えば慢性進行性外眼筋麻痺(CPEO)、ピアソン症候群、カーンズ・セイヤー症候群(KSS)、糖尿病及び難聴(DAD)、レーバー遺伝性視神経萎縮症(LHON)、LHONと神経障害、運動失調、及び網膜色素変性症症候群(NARP) の併発、突然変異型のmtDNAに起因するリー症候群としても知られる母性遺伝されたリー症候群(MILS)、ミトコンドリア脳筋症、乳酸アシドーシス、及び脳卒中様エピソード(MELAS)、及び赤色ぼろ線維・ミオクローヌス性てんかん(MERRF)、家族性両側線条体壊死/線条体黒質変性症(FBSN)、ルフト病、アミノグリコシド誘発性難聴(AID)、並びにミトコンドリアDNAの複数欠失症候群がある。
【0055】
本明細書で使用するミトコンドリア病又は障害の文脈中での「核DNAの異常」という用語は、その産物がミトコンドリアに局在する核遺伝子のコード配列中の突然変異又は変化を指す。核突然変異に関連する例示的なミトコンドリア病又は障害には、ミトコンドリアDNA枯渇症候群4A、ミトコンドリア劣性運動失調症候群(MIRAS)、ミトコンドリア神経胃腸脳筋症(MNGIE)、ミトコンドリアDNA枯渇症候群(MTDPS)、DNAポリメラーゼγ(POLG)関連障害、感覚性運動失調神経障害構音障害眼筋麻痺(SANDO)、脳幹及び脊髄の病変を伴う白質脳症及び、乳酸上昇(LBSL)、補酵素Q10欠損症、リー症候群(核突然変異に起因する)、ミトコンドリア複合体異常、フマラーゼ欠損症、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体(KGDHC)欠損症、スクシニルCoAリガーゼ欠損症、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体欠損症(PDHC)、ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症(PCD)、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼI(CPT I)欠損症、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII(CPT II)欠損症、カルニチン-アシル-カルニチン(CACT)欠損症、常染色体優性/常染色体劣性進行性外眼筋麻痺(ad-/ar-PEO)、乳児発症脊髄小脳萎縮症(IOSCA)、ミトコンドリアミオパシー(MM)、脊髄性筋萎縮症(SMA)、発達遅滞、アミノ酸尿症、胆汁うっ滞、鉄過剰、早期死(GRACILE)、及びシャルコー・マリー・トゥース病2A型(CMT2A)がある。
【0056】
本明細書で使用する「機能不全のミトコンドリア」という用語は、機能的ミトコンドリアと反対のミトコンドリアを指す。例示的な機能不全のミトコンドリアには、酸化的リン酸化によりATPを合成することができない又は不十分な量のATPを合成するミトコンドリアがある。本明細書で使用する「機能的なミトコンドリア」という用語は、酸素を消費してATPを生産するミトコンドリアを指す。
【0057】
本明細書で使用する「突然変異」という用語は、遺伝子の構造の任意の変化を指し、バリアント(「突然変異体」とも呼ぶ)形態を生じる。遺伝子の突然変異は、DNAの単一塩基の変化、遺伝子又は染色体のより大きな部分の欠失、挿入、又は再編成によって引き起こされ得る。いくつかの実施態様において、突然変異は機能又は結果として生じるタンパク質に影響を及ぼし得る。例えば、タンパク質のコード領域におけるDNAの単一のヌクレオチドの突然変異(すなわち、点突然変異)は、異なるアミノ酸をコードするコドンをもたらし得る(すなわち、ミスセンス突然変異)。この異なるアミノ酸はタンパク質の構造を変化させる場合があり、かつ本明細書に記載するある状況において、オルガネラ、例えばミトコンドリアの機能を変化させ得ることは理解されよう。
【0058】
本明細書で使用する「ヘテロプラスミー」及び「ヘテロプラスミーの」という用語は、個体又は試料中に2以上の種類のミトコンドリアDNAゲノムが出現することを指す。様々な度合いのヘテロプラスミーが、本明細書に記載の様々な度合いの生理的状態に関連する。ヘテロプラスミーは、当該技術分野で公知の手段により特定することができ、特定のヌクレオチド対立遺伝子に関連する生理的状態の重症度は、そのような個体内の関連する対立遺伝子のパーセンテージとともに変化することが予測される。
【0059】
本明細書で使用する「野生型」という用語は、ミトコンドリアDNAの文脈で使用される場合、それが天然において発生するままの種の典型的な形態の遺伝子型を指す。野生型ヒトmtDNAゲノムの例示的な参照ゲノムは、ケンブリッジ参照配列(CRS)を含む。
【0060】
本明細書で使用する「約」又は「およそ」という用語は、数字と組み合わせて使用する場合、参照された数の1、5、10、15、又は20%以内の任意の数を指す。
【0061】
本明細書で提供する実施態様の実践は、別途示されない限り、当業者の技術の範囲内の分子生物学、微生物学、及び免疫学の従来技術を利用するものとする。そのような技術は文献中に十分に説明されている。参照に特に好適な教科書の例は、以下の通りである: Sambrookらの文献、「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)」, 第3版, Cold Spring Harbor Laboratory, New York (2001); Ausubelらの文献、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley and Sons, Baltimore, MD (1999); Glover編、「DNAクローニング(DNA Cloning)」, I巻及びII巻 (1985); Gait編, 「オリゴヌクレオチド合成(Oligonucleotide Synthesis)」 (1984); Hames及びHiggins編、「核酸のハイブリダイゼーション(Nucleic Acid Hybridization)」 (1984); Hames及びHiggins編、「転写及び翻訳(Transcription and Translation)」 (1984); Freshney編、「動物細胞の培養:固定化した細胞及び酵素(Animal Cell Culture:Immobilized Cells and Enzymes)」 (IRL Press, 1986); Kallenらの文献、「植物分子生物学―実験室マニュアル(Plant Molecular Biology ‐ A Laboratory Manual)」 (Melody S. Clark編; Springer‐Verlag, 1997); 「細胞及び分子生物学の免疫化学的方法(Immunochemical Methods in Cell and Molecular Biology)」 (Academic Press, London); Scopesの文献、「タンパク質の精製:原理及び実践(Protein Purification:Principles and Practice)」 (Springer Verlag, N.Y., 第2版、1987); 並びにWeir及びBlackwell編, 「実験免疫学の手引き(Handbook of Experimental Immunology)」, I-IV巻 (1986)。
【0062】
(7.2 機構的洞察)
分裂細胞又は非分裂細胞のヘテロプラスミーは、様々な機構を介して時とともに変化し、このことは疾患の発症及び進行に影響を及ぼす。提案されているヘテロプラスミーを変化させる機構は、無性的分離であり、当該モデルにおいては、増殖したミトコンドリアは娘細胞中にランダムかつ不均一に分布し、野生型mtDNAの突然変異型mtDNAに対する比率はランダムな遺伝的浮動により時に前者又は後者に偏る(Birky, C. W., Maruyama, T.及びFuerst, P.の文献、「ミトコンドリア及びクロロプラスト中の遺伝子に対する集団及び進化遺伝学の理論へのアプローチ及びいくつかの結果(An Approach To Population And Evolutionary Genetic Theory For Genes In Mitochondria And Chloroplasts, And Some Results.)」 Genetics 103, 513 (1983))。もう1つは、弛緩複製である。当該モデルでは、ミトコンドリアは宿主の細胞周期とは独立にランダムに選択されて複製し、破壊され、そのゲノムは細胞分裂と同調して複製するように厳密に調節されている(Birky Jr, C.の文献、「弛緩した厳密なゲノム:なぜ細胞質遺伝子はメンデルの法則に従わないのか(Relaxed and stringent genomes: why cytoplasmic genes don’t obey Mendel’s laws.)」 Journal of Heredity 85, 355-365 (1994))。これらの中立的遺伝的浮動は、正又は負の選択圧の影響を受ける。病原性結果をもたらすmtDNAの長い欠失突然変異は複製に利点を示し、野生型ゲノムの数を上回る (Clark, K. A.らの文献、「身勝手な小さいサークル:ブリグサ線虫における伝達バイアス及び大規模な欠失を有するミトコンドリアDNAの進化(Selfish little circles: transmission bias and evolution of large deletion-bearing mitochondrial DNA in Caenorhabditis briggsae nematodes.)」PLoS One 7, e41433, doi:10.1371/journal.pone.0041433 (2012))。野生型のmtDNAが個々の細胞で定量的に調節されていることを考慮すると、mtDNA中の突然変異の発生により、mtDNA中の突然変異の有無にかかわらずミトコンドリアの増殖が促進される。これは、野生型維持理論と命名され(Durham, S. E., Brown, D. T., Turnbull, D. M.及びChinnery, P. F.の文献、「ミトコンドリアミオパシーにおいて進行するmtDNAの枯渇(Progressive depletion of mtDNA in mitochondrial myopathy.)」Neurology 67, 502-504 (2006))、突然変異の複製における利点の下、正の選択が増進される。反対に、病原性突然変異における望ましくない生化学的特徴は、造血幹細胞又は前駆細胞の生存率を低下させ、血液中のmtDNA突然変異の損失をもたらす(Rajasimha, H. K., Chinnery, P. F. 及びSamuels, D. C.の文献、「幹細胞集団中の病原性mtDNA突然変異に対する選択は、血液中の3243A-->G突然変異の損失をもたらす(Selection against pathogenic mtDNA mutations in a stem cell population leads to the loss of the 3243A-->G mutation in blood.)」 Am J Hum Genet 82, 333-343, doi:10.1016/j.ajhg.2007.10.007 (2008))。
【0063】
ミトコンドリア病の極端な事例として、20個の核遺伝子の突然変異によって引き起こされるmtDNA維持欠損により、結果として起こるmtDNAの枯渇又は複数のmtDNAの欠失に基づく数々の疾患を生じる(El-Hattab, A. W., Craigen, W. J.及びScaglia, F.の文献、「ミトコンドリアDNAの維持欠損(Mitochondrial DNA maintenance defects.)」 Biochim Biophys Acta Mol Basis Dis 1863, 1539-1555, doi:10.1016/j.bbadis.2017.02.017 (2017))。細胞質中に例えば造血細胞及び線維芽細胞に対し最大1,000倍高いヌクレオチドのプールを有する増殖細胞ではない、神経細胞及び骨格筋などの特異的分化を終えた細胞に関与する標的(Gorman, G. S.らの文献、「ミトコンドリア病(Mitochondrial diseases.)」 Nat Rev Dis Primers 2, 16080, doi:10.1038/nrdp.2016.80 (2016))。ミトコンドリア病の治療を考慮すると、特定の分子を標的とした抗癌薬はそれにより適応症の判断について支援するためのコンパニオン診断を開発する必要がある(Jorgensen, J. T.の文献、「コンパニオン診断及び補足的診断:臨床及び調節の展望(Companion and complementary diagnostics: clinical and regulatory perspectives.)」 Trends in cancer 2, 706-712 (2016))。
【0064】
最近のミトコンドリアのバイオマーカーの進歩により、感度及び特異度が92%である線維芽細胞増殖因子21(FGF21)(Suomalainen, A. らの文献、「筋顕在化ミトコンドリア呼吸鎖の欠損のバイオマーカーとしてのFGF-21:診断研究(FGF-21 as a biomarker for muscle-manifesting mitochondrial respiratory chain deficiencies: a diagnostic study.)」 The Lancet Neurology 10, 806-818, doi:10.1016/s1474-4422(11)70155-7 (2011))及び感度が98%で特異度が86%である成長/分化因子15(GDF15)((Yatsuga, S.らの文献、「ミトコンドリア障害の有用なバイオマーカーとしての成長分化因子15(Growth differentiation factor 15 as a useful biomarker for mitochondrial disorders.)」 Ann Neurol 78, 814-823, doi:10.1002/ana.24506 (2015))の有効性が確立されているが、罹患した細胞における野生型mtDNAの再獲得及び突然変異負荷の除去は、治療成功の最適な指標であるはずである。ヘテロプラスミーはミトコンドリア病の診断だけでなく、治療プロセスの有効性の推定にも有用であるはずである。
【0065】
(7.3 細胞間ヘテロプラスミー対細胞内ヘテロプラスミー)
ミトコンドリア遺伝子型異種混交性は、個々の細胞のmtDNAコピー数の相違に加え、mtDNAの細胞内突然変異が単一細胞中に存在するミクロヘテロプラスミー及びmtDNAの細胞間突然変異が、推定上同一の細胞間に存在するマクロヘテロプラスミーに再定義される(Aryaman, J., Johnston, I. G.及びJones, N. S.の文献、「ミトコンドリアの異種混交性(Mitochondrial Heterogeneity.)」 Front Genet 9, 718, doi:10.3389/fgene.2018.00718 (2018))。ミクロヘテロプラスミーはマクロヘテロプラスミーを生じさせる場合がある一方、マクロヘテロプラスミーは、野生型又は突然変異型のゲノムを有するmtDNAに関して一様な異なる細胞集団を群別する結果となり得る。
【0066】
ミクロヘテロプラスミーは、酸化による損傷ではなく複製エラーによって発生する(Kauppila, J. H. & Stewart, J. B. 「ラジカル発生にフリーラジカル駆動突然変異を介さないミトコンドリアDNA(Mitochondrial DNA: Radically free of free-radical driven mutations.)」 Biochim Biophys Acta 1847, 1354-1361, doi:10.1016/j.bbabio.2015.06.001 (2015))。神経細胞中の単一ミトコンドリアの配列決定により、ミクロヘテロプラスミーを無効化する負の選択の機構が存在し得ることが推論された一方、いくつかの突然変異が単一細胞の90%超を支配することが示され、このことから負の選択を迂回する機構が存在することが示唆された(Morris, J.らの文献、「単一ミトコンドリア配列決定により明らかとなったミトコンドリアに行きわたる単一ヌクレオチドバリアントのヘテロプラスミー(Pervasive within-Mitochondrion Single-Nucleotide Variant Heteroplasmy as Revealed by Single-Mitochondrion Sequencing.)」 Cell Rep 21, 2706-2713, doi:10.1016/j.celrep.2017.11.031 (2017))。 幅広い突然変異が達成され得ること、及びこれらの機構が病的結果に帰着され得るかどうかは、未解決のまま残されている。
【0067】
一方、マクロヘテロプラスミーは、中立的遺伝的浮動によって生じ得(Wonnapinij, P., Chinnery, P. F.及びSamuels, D. C.の文献、「ランダムな遺伝的浮動によるミトコンドリアDNAのヘテロプラスミーの分布(The distribution of mitochondrial DNA heteroplasmy due to random genetic drift.)」 Am J Hum Genet 83, 582-593, doi:10.1016/j.ajhg.2008.10.007 (2008))、疾患に関与する高度の突然変異レベルを示す(Rossignol, R.らの文献、「ミトコンドリアの閾値効果(Mitochondrial threshold effects.)」 The Biochemical journal 370, 751-762, doi:10.1042/BJ20021594 (2003))。中立的遺伝的浮動によるマクロヘテロプラスミーの変動は数学的に時間、マイトファジー率、及びネットワーク断片化とともに増加することが予測されているが(Aryaman, J., Bowles, C., Jones, N. S.及びJohnston, I. G.の文献、「ミトコンドリアのネットワークの断片化は絶対分裂-融合速度とは独立に突然変異型mtDNAの蓄積を調節する(Mitochondrial network fragmentation modulates mutant mtDNA accumulation independently of absolute fission-fusion rates.)」 bioRxiv, 409128, doi:10.1101/409128 (2018))、mtDNAの全体のコピー数は減少させると予測されている(Chinnery, P. F.及びSamuels, D. C.の文献、「弛緩したmtDNAの複製:疾患の発現に関与するモデル(Relaxed replication of mtDNA: a model with implications for the expression of disease.)」The American Journal of Human Genetics 64, 1158-1165 (1999))。発達中、mtDNAのコピー数の低下を特徴とするミトコンドリアのボトルネックはヘテロプラスミーの変動を増加させ、閾値を超える突然変異負荷を有する細胞は排除される(Cree, L. M.らの文献、「胚発生の間のミトコンドリアDNA分子の低下は遺伝子型の急速な分離を説明する(A reduction of mitochondrial DNA molecules during embryogenesis explains the rapid segregation of genotypes.)」Nat Genet 40, 249-254, doi:10.1038/ng.2007.63 (2008))。高度の病原性ヘテロプラスミー変動を有する小児は、ミトコンドリア病又は障害を発症し得るが、後のライフステージにおけるミトコンドリアの機能不全との直接の相関性があるとは考えられない。mtDNAにおける突然変異の蓄積は、神経変性疾患、パーキンソン病だけでなく、生理的老化プロセスにおいても認められる場合がある(Bender, A.らの文献、「加齢及びパーキンソン病における黒質神経細胞での高レベルのミトコンドリアDNAの欠失(High levels of mitochondrial DNA deletions in substantia nigra neurons in aging and Parkinson disease.)」 Nat Genet 38, 515-517, doi:10.1038/ng1769 (2006))。
【0068】
マイトファジーは、突然変異の負荷に関係する様々なミトコンドリアストレス、例えば栄養欠乏、低酸素症、及び酸化ストレスによって活性化される(Wei, H., Liu, L.及びChen, Q.の文献、「マイトファジーを介したミトコンドリアの選択的除去:異なるミトコンドリアストレスに対する異なる経路(Selective removal of mitochondria via mitophagy: distinct pathways for different mitochondrial stresses.)」Biochim Biophys Acta 1853, 2784-2790, doi:10.1016/j.bbamcr.2015.03.013 (2015))。ミトコンドリアの原動力、融合及び分裂は、その機能及び質を維持するために不可欠な役割を果たす(Sebastian, D., Palacin, M.及びZorzano, A.の文献、「ミトコンドリアの原動力:ミトコンドリアの健康と健康な加齢との結びつき(Mitochondrial Dynamics: Coupling Mitochondrial Fitness with Healthy Aging.)」Trends Mol Med 23, 201-215, doi:10.1016/j.molmed.2017.01.003 (2017))。断片化されたミトコンドリアは、その膜電位が脱分極しており、マイトファジーにより優先的に分解される(Twig, G.らの文献、「分裂及び選択的融合はミトコンドリアの分離及びオートファジーによる排除を支配する(Fission and selective fusion govern mitochondrial segregation and elimination by autophagy.)」The EMBO Journal 27, 433-446, doi:10.1038/sj.emboj.7601963 (2008))。ミトコンドリア病及び加齢において、マイトファジーはmtDNAのターンオーバーを促進してヘテロプラスミーの変動を増加させ、かつ維持し、突然変異負荷による負の圧を増加させるわけではない(Aryaman, J., Johnston, I. G.及びJones, N. S.の文献、「ミトコンドリアの異種混交性(Mitochondrial Heterogeneity.)」 Front Genet 9, 718, doi:10.3389/fgene.2018.00718 (2018))。これまでのところ、突然変異負荷の推定は、バルクの細胞試料、例えば末梢血及び骨格筋生検において行われてきた。このような測定では、ミクロヘテロプラスミー及びマクロヘテロプラスミーを識別することができない。突然変異負荷による細胞事象を理解するには、突然変異負荷を伴う様々な生体プロセスにおける単一細胞分析が必要になる。
【0069】
(7.4 検出システム)
癌、遺伝性障害、及び感染症の診断分野において利用されている一塩基多型(SNP)を含め、DNA配列の変動を検出し、遺伝子型判定する方法はたくさんある(Angulo, B., Lopez-Rios, F.及びGonzalez, D.の文献、「新世代のコンパニオン診断:cobas BRAF、KRAS及びEGFRの突然変異の検出試験(A new generation of companion diagnostics: cobas BRAF, KRAS and EGFR mutation detection tests.)」Expert Review of Molecular Diagnostics 14, 517-524, doi:10.1586/14737159.2014.910120 (2014); Urata, M.らの文献、「対立遺伝子特異的PCR及びペプチド核酸に方向づけられたPCRクランピングの組み合わせによるミトコンドリアDNAのA3243G突然変異の高感度検出(High-sensitivity detection of the A3243G mutation of mitochondrial DNA by a combination of allele-specific PCR and peptide nucleic acid-directed PCR clamping.)」Clin Chem 50, 2045-2051, doi:10.1373/clinchem.2004.033761 (2004); Payungporn, S., Tangkijvanich, P., Jantaradsamee, P., Theamboonlers, A. 及びPoovorawan, Y.の文献、「リアルタイムPCR及び融解曲線分析によるB型肝炎ウイルスの同時の定量化及び遺伝子型判定(Simultaneous quantitation and genotyping of hepatitis B virus by real-time PCR and melting curve analysis.)」J Virol Methods 120, 131-140, doi:10.1016/j.jviromet.2004.04.012 (2004))。鋳型に対しミスマッチした3'-残基を有するオリゴヌクレオチドに基づく難増幅突然変異システム(ARMS)は、効率的にPCR鎖を伸長しない(Newton, C. R.らの文献、「DNAの任意の点突然変異の分析。難増幅突然変異システム(ARMS)(Analysis of any point mutation in DNA.The amplification refractory mutation system (ARMS).」 Nucleic Acids Research 17, 2503-2516, doi:10.1093/nar/17.7.2503 (1989))。ARMSに必要となるのは3'-マッチ末端又は3'-ミスマッチ末端を含むように設計されたプライマーのみであり、同位体、制限酵素、配列反応、及び特別な機械のいずれも必要としない。ARMSプライマーの特異性は鋳型の配列に依存し(Huang, M.-M., Arnheim, N.及びGoodman, M. F.の文献、「Taq DNAポリメラーゼによる塩基ミスペアの伸長:PCRにおける単一ヌクレオチド識別への関与(Extension of base mispairs by Taq DNA polymerase: implications for single nucleotide discrimination in PCR.)」Nucleic Acids Research 20, 4567-4573, doi:10.1093/nar/20.17.4567 (1992))、そのため3'末端の上流に追加のミスマッチを含む修飾の中には、その簡便性を損なわずに特異性を向上させるものがある。所与の蛍光物質の蛍光強度を減少させることと定義されるクエンチは、様々なPCRベースのSNPアッセイにおいてシグナルの検出に利用される(Gibson, N. J.の文献、「DNA配列変化分析におけるリアルタイムPCR法の使用(The use of real-time PCR methods in DNA sequence variation analysis.)」 Clin Chim Acta 363, 32-47, doi:10.1016/j.cccn.2005.06.022 (2006))。
【0070】
Taq-Man定量PCRを配列特異的プローブと組み合わせて適用し、DNA配列の変動を検出した(Holland, P. M., Abramson, R. D., Watson, R.及びGelfand, D. H.の文献、「サーマス・アクアティカス(Thermus aquaticus)DNAポリメラーゼの5'→3’エキソヌクレアーゼ活性を利用することによる特異的ポリメラーゼ連鎖反応産物の検出(Detection of specific polymerase chain reaction product by utilizing the 5’ -> 3’ exonuclease activity of Thermus aquaticus DNA polymerase.)」Proceedings of the National Academy of Sciences 88, 7276, doi:10.1073/pnas.88.16.7276 (1991))。異なる末端に蛍光物質及びクエンチャーの両方を有し、水相においてはほとんど蛍光を示さないオリゴヌクレオチドプローブを、PCRの伸長プロセスにおいてTaqManポリメラーゼの5'エキソヌクレアーゼ活性によって消化して、解離した蛍光物質からの蛍光を放出する。異なる蛍光物質を使用することにより、単一の反応チューブ中で数種類の突然変異のマルチプレックス検出を実現可能である(Nurmi, J., Ylikoski, A., Soukka, T., Karp, M.及びLovgren, T.の文献、「密閉チューブ中での特異的ポリメラーゼ連鎖反応産物の検出のための新規標識技術(A new label technology for the detection of specific polymerase chain reaction products in a closed tube.)」Nucleic acids research 28, e28-00 (2000))。きわめて希少なバリアントを検出するために、数々の修飾、例えば、CataCleave(Harvey, J. J. らの文献、「リアルタイム検出アッセイにおけるCataCleaveプローブの特性評価及び適用(Characterization and applications of CataCleave probe in real-time detection assays.)」Anal Biochem 333, 246-255, doi:10.1016/j.ab.2004.05.037 (2004))、Scorpion-ARMS(Whitcombe, D., Theaker, J., Guy, S. P., Brown, T.及びLittle, S.の文献、「自己プロービングアンプリコン及び蛍光を使用するPCR産物の検出(Detection of PCR products using self-probing amplicons and fluorescence.)」Nature Biotechnology 17, 804-807, doi:10.1038/11751 (1999))、及び「ペプチド核酸-ロックド核酸ポリメラーゼ連鎖反応(PNA-LNA PCR)クランプ(Zhang, S.らの文献、「デュアルPNAクランピング仲介性LNA-PNA PCRクランプを使用する非小細胞肺癌を有する患者から得た血漿試料におけるEGFRの突然変異の超高感度かつ定量的検出(Ultrasensitive and quantitative detection of EGFR mutations in plasma samples from patients with non-small-cell lung cancer using a dual PNA clamping-mediated LNA-PNA PCR clamp.)」Analyst 144, 1718-1724 (2019))(各方法の感度はそれぞれ5%、1%、及び1%である)がプライマー及びプローブとの組み合わせ法に適用されてきた。二本鎖DNA断片は固有の融解温度を有し、これをプローブベースの蛍光融解曲線分析に適用する。異なる末端に蛍光物質及びクエンチャーを有するプローブを使用して、プローブ-鋳型ハイブリッドの温度による負の差別化シグナルを温度との関係でプロットし、単一のヌクレオチドが判定される際でさえも、蛍光融解曲線分析として配列に依存する識別ピークを得る(Huang, Q.らの文献、「二重標識、自己クエンチプローブを用いた、突然変異検出のためのマルチプレックス蛍光融解曲線分析(Multiplex fluorescence melting curve analysis for mutation detection with dual-labeled, self-quenched probes.)」PLoS One 6, e19206, doi:10.1371/journal.pone.0019206 (2011)).上記の方法論は特異度及び感度が向上しているが、単一細胞生物学には単一細胞ベースの技術の開発が必要である。1の標的配列を検出するための、マイクロウェルチップ、油中水、及び微小流体技術に基づく第3世代のPCR、デジタルPCRがポアソン分布に基づく解析システムとともに出現した(Huggett, J. F.らの文献、「デジタルMIQEガイドライン:定量デジタルPCR実験の公開のための最小情報(The Digital MIQE Guidelines:Minimum Information for Publication of Quantitative Digital PCR Experiments.)」Clinical Chemistry 59, 892, doi:10.1373/clinchem.2013.206375 (2013))。油中水ドロップレット技術を使用したドロップレットデジタルPCR(ddPCR)は、0.001%の感度で稀少突然変異を識別するより高い感度を示した(Watanabe, M.らの文献、「ドロップレットデジタルPCRを使用したEGFR活性化型突然変異を有する非小細胞肺癌患者における、治療前のEGFR T790M突然変異の超高感度検出(Ultra-Sensitive Detection of the Pretreatment EGFR T790M Mutation in Non‐Small Cell Lung Cancer Patients with an EGFR-Activating Mutation Using Droplet Digital PCR.)」 Clinical Cancer Research 21, 3552, doi:10.1158/1078-0432.CCR-14-2151 (2015))。
【0071】
デジタルドロップレットPCRは、微小流体技術を用いたTaqMan qPCRに基づくアッセイであり、標的ヌクレオチドの高感度かつ高度の特異性での正確な定量、例えば稀少バリアント/SNPの検出が可能となる(Mazaika, E.及びHomsy, J.の文献 (2014)「デジタルドロップレットPCR:CNV分析及び他の応用性(Digital Droplet PCR: CNV Analysis and Other Applications.)」Curr Protoc Hum Genet 82, 7 24 21-13)。本発明において、本件発明者らは単一細胞中でのヘテロプラスミーを特定するための一般的な検出方法としてddPCRを導入した。この分析により、現在の従来の方法に基づくヘテロプラスミーがマクロヘテロプラスミーと命名される、各細胞が互いに異なるホモプラスミーのmtDNAを有する細胞間ヘテロプラスミーであるか、ミクロヘテロプラスミーと命名される、各細胞が異なる種類のmtDNAを有する細胞内ヘテロプラスミーであるかが明らかとなる(Aryaman, J., Johnston, I. G. 及びJones, N. S.の文献、「ミトコンドリアの異種混交性(Mitochondrial Heterogeneity.)」Front Genet 9, 718, doi:10.3389/fgene.2018.00718 (2018))。
【0072】
本明細書で提供する検出システムを使用すると、細胞内の、細胞間の、又は両方のヘテロプラスミーの存在を検出し、又はモニタリングすることができる。これは、ミトコンドリア関連疾患又は障害の診断並びにヘテロプラスミーを有するか、又は有する疑いがある患者におけるミトコンドリア交換療法の有効性のモニタリングに使用するための応用性を有する。さらに、検出システムは、患者集団をミトコンドリア交換細胞(MirC)による治療に反応する可能性が高いものとして階層化するのに使用するための、ヘテロプラスミーの閾値レベルを特定する方法において使用することができる。
【0073】
単一細胞レベルでのヘテロプラスミーの検出により、一様な細胞間mtDNAを有する細胞並びに異種細胞間mtDNAを有する単一細胞を特定することが可能となる。さらに、複数の単一細胞mtDNA配列の比較から、異種細胞内mtDNAの特定が可能となる。さらに上記の通り、複数の単一細胞mtDNA配列の比較から、ミトコンドリア病又は疾患の表現型をもたらすヘテロプラスミーの閾値レベルの特定及び/又は患者集団のミトコンドリア交換細胞(MirC)による治療に反応する可能性が高いものとしての階層化が可能となる。
【0074】
本願の全体を通じて、様々な刊行物が参照されている。これらの刊行物の開示はその全体が、本発明に関係する最新の技術をより詳細に説明するために、本願において参照により、本明細書に組み込まれる。本発明は上で提供する例の参照により記述されているものの、本発明の趣旨を逸脱することなく、様々な変更を加えることができることは理解されよう。
【実施例
【0075】
(8.実施例)
(実施例I)
(単一細胞デジタルドロップレットPCR)
本実施例は、レーザーキャプチャー又は他の選別アッセイを必要とせずに突然変異型mtDNAの存在下又は非存在下で単一細胞におけるmtDNAのヘテロプラスミーを評価するための方法を実証する。
【0076】
正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)をLonza (Walkersville, MD, USA)から入手した。ミトコンドリア病患者由来皮膚線維芽細胞(BK01/02/04)は、京都府立医科大学再生医学教室、京都、日本及びこいのぼり倫理委員会の両方の承諾の下、ミトコンドリア病の研究を支援する非営利組織(NPO)こいのぼりによって親切にも提供いただいたものである。これらの初代細胞の臨床特性を表1にまとめた。
表1
【表1】
【0077】
NHDFは、10%胎仔ウシ血清(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA, USA)、1%ペニシリン/ストレプトマイシンを補充したダルベッコ改変イーグル培地(Thermo Fisher Scientific)中で維持した。BK01は、FGM(商標)-2 SingleQuots(商標)(hFGF-B、インスリン、FBS、及びゲンタマイシン/アンホテリシン-B)(LONZA)を補充したFBM(商標)線維芽細胞基礎培地中で培養した。BK02及びBK04は、10%胎仔ウシ血清(Thermo Fisher Scientific)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを補充した低グルコースのダルベッコ改変イーグル培地(Thermo Fisher Scientific)中で培養した。全ての細胞を加湿した5% CO2インキュベータ中、37℃でインキュベートした。
【0078】
細胞をトリプシン処理し、培養培地中に懸濁し、続いて遠心分離して(1000rpm、5分間)ペレットとし、PBSに再懸濁した。再懸濁した細胞を4%パラホルムアルデヒド(富士フイルム和光純薬株式会社、大阪、日本)に加え、室温で少なくとも15分間固定した。固定後、細胞を遠心分離し(1500rpm、5分間)、50μg/mlヨウ化プロピジウム、0.1mg/ml RNaseA, 0.05% TritonX-100、及びPBSで構成されるヨウ化プロピジウム溶液に再懸濁し、37℃で40分間インキュベートした。PBSで洗浄した後、ペレット化し(1500rpm、5分間)、PBSを用いて応答させた。試料をすぐにフローサイトメトリーによって分析した。細胞周期の時期分布はFlowjoソフトウェアを使用して決定した。
【0079】
ミトコンドリアDNAのヘテロプラスミーはTaqMan SNP遺伝子型判定アッセイによって決定した。野生型及び突然変異型対立遺伝子特異的TaqManプローブ及びプライマーを設計し、Thermo Fisher Scientificによって作製した。2つのプローブを異なる蛍光物質(FAM及びVIC)で標識し、もう一方の末端にクエンチャーを結合させた。ゲノムDNAを、NucleoSpin(登録商標)Tissue(タカラバイオ、東京、日本)を使用することにより細胞から抽出した。抽出されたゲノムDNA(100 ng)はフォワード及びリバースプライマー、プローブ、並びにTaqMan遺伝子型判定マスターミックス(Thermo Fisher Scientific)と混合し、以下の条件:最初の変性(95℃で10分間)後40サイクルのPCR(95℃で15秒間、及び60℃で1分間)の下、CFX connectリアルタイムシステム(BioRad)上での定量PCRに使用した。野生型又は突然変異型配列について増幅された標的化mtDNA断片を含むコピー数の決定されたプラスミドを用いた上記定量PCRによって、較正曲線を生成させた。本実験で使用するプライマーを図1に列記する。
【0080】
sc-ddPCRシステムは、単一の細胞を1つの油滴で被包することにより開始し、続いて5'→3’エキソヌクレアーゼを有するTaqManポリメラーゼを使用するプライマー及び蛍光プローブのセットを用いたPCRの工程に進み、この工程において蛍光物質がプローブから放出され、その後ドロップレット中の蛍光シグナルの検出を行う。PCR反応混合物は: 1.25×105細胞/mlの濃度の4μlの再懸濁細胞、10μl 2×ddPCR supermix(Bio-Rad);0.25μMの濃度の野生型及び突然変異型対立遺伝子特異的TaqManプローブ;標的遺伝子に対する0.9μMの濃度のプライマー混合物、及び20μlまで追加されるヌクレアーゼ不含水からなる。ドロップレットは、Bio-Rad QX200システム(Bio-Rad)を使用して、製造業者の指示書に従って作製した。反応液は、以下の条件の下、サーマルサイクラー(Bio-Rad)を使用するPCR反応のために96ウェルプレート(Eppendorf, Hamburg, Germany)に移した:増幅は、2.0℃/秒の標準傾斜速度の下95℃で10分間実施し、続いて94℃で30秒間、加えて53℃で1分間のサイクルを40回実施した。最終的な酵素不活化工程は98℃で10分間行った。96ウェルプレートをQX200ドロップレットリーダ(Bio-Rad)に移し、蛍光陽性のドロップレットの数を分析した。各ドロップレットは、2色検出システム(FAM及びVICを検出するように設定)を使用して個別に分析した。蛍光ドロップレットをカウントすると、QuantaSoftソフトウェア(Bio-Rad)を使用して、デジタル形態の標的mtDNAの絶対的定量化が提供される。本件発明者らは、確実に単一細胞を被包させるために、様々な数の標的細胞をPCR反応ミックスに加え、かつドロップレットを作製した。試料当たり500個の細胞が首尾よくドロップレット中に被包され、単一細胞の被包が観察された。
【0081】
ミトコンドリア病に罹患した患者に由来する3種の細胞を本研究において調べた。これらの細胞の特性を表1にまとめた。これらの初代線維芽細胞は、患者の皮膚生検から単離され、日本のミトコンドリア病のためのNPOである一般社団法人こいのぼりの倫理委員会の承諾に基づいて培養細胞として樹立され、かつ京都府立医科大学の研究所倫理委員会の承諾下の研究のために、贈与されたものである。BK01は、ロイシンに対するtRNAのm3243におけるAのGへの突然変異に帰着されるミトコンドリアミオパシー、脳症、乳酸アシドーシス、及び脳卒中様エピソード(MELAS)に関係している30歳の女性患者に由来していた。他の2つの線維芽細胞は、6歳及び1歳のリー症候群を有する女性患者から作製した。リー症候群細胞株のうちの一方は、呼吸鎖複合体Iの一部であり、37個の核にコードされた、及び7個のミトコンドリアにコードされた、サブユニットからなるミトコンドリアにコードされたNADHデヒドロゲナーゼ3(MT-ND3)(NADHデヒドロゲナーゼ(ユビキノン)としても知られる)中に位置するm10158のTからCへの突然変異を含む。もう一方のリー症候群細胞株は、F1F0 ATPase(複合体Vとしても知られる)のサブユニットであり、14個の核にコードされた、及び2個のミトコンドリアにコードされたサブユニットからなるATPシンターゼF0サブユニット6(MT-ATP6)をコードするミトコンドリアにコードされたATPシンターゼ膜サブユニット6中に位置するm9185のTからCへの突然変異を有する。BK01の発端者は彼女の母親に特定され、BK02の突然変異は新規獲得型(de novo)であった。BK04の遺伝性は決定されなかった。
【0082】
TaqMan一塩基多型(SNP)アッセイはddPCRを採用しやすいため、簡素化の観点から同アッセイを選択して標的細胞のmtDNA中のヘテロプラスミーを決定した。プライマーのセットを、SNPを包含する領域を標的化し、BK01、BK02、及びBK04についてそれぞれ83bp、100bp、及び151bpの配列を増幅するように設計する。ケンブリッジ参照配列(CRS)に適合する健康な遺伝子型及び突然変異型mtDNAを別個に識別し、かつ定量化するために、5'末端にFAM又はVIC蛍光色素を、3'末端に非蛍光性クエンチャーを有する2つのTaqManプローブを、小溝結合性(MGB)と組み合わせて設計して、各種の線維芽細胞の融解温度の差を最大化させた。増幅配列をプラスミドにサブクローニングし、標的配列を定量化するための標準的なラインを示す(図1)。3種の線維芽細胞の総ヘテロプラスミーはBK01、BK02、及びBK04についてそれぞれ、99.8%、96.9%、及び99.7%であった(図2)。
表2
【表2】
【0083】
ドロップレットを、それらが単一の細胞を含むか、又は細胞を含まないように、様々な濃度の細胞懸濁液を使用することにより作製した。1ミリリットル当たり1×105個の濃度の細胞が最適であった(図3)。mtDNAについて配列決定されており、MT-ND3中、MT-ATP6、及びロイシンに対するtRNA中のCRSと適合する配列を有することが確かである正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)を対照として利用した。m3243、m10158、及びm9185中の突然変異に対する3種のプライマーセット及びプローブセットは全てプローブ及び鋳型間で予測された融解温度に基づいて設計した。PCR反応を、最初の変性(95℃で10分間)後の、40サイクルのPCR(94℃で30秒及び56℃で2分間)に加え、最後の加熱(98℃で10分間)を含むように最適化した。PCR反応の最適化に続いて、陽性シグナルの細胞数及び負荷された細胞数の間の比例関係に基づき、閾値ラインは一定になった(図4)。
【0084】
本件発明者らは結果を健康型シグナルをY軸に、及び突然変異型シグナルをXシグナルにとる象限フォーマットとして表した。象限分析では、突然変異型mtDNAのみを有する細胞は右下の象限に、突然変異型及び健康型mtDNAの両方を有する細胞は左上の象限に、健康型mtDNAのみを有する細胞は左上に示される。左下の象限は、細胞を含まないドロップレットを示す(図5)。BK01の象限分析から、大部分の細胞、95.56%は突然変異型mtDNAのホモプラスミーであり、左下にプロットされたが、少数の部分の細胞は突然変異型及び健康型の2種のmtDNAを有し、右上にプロットされたことが示された。これは、細胞内ヘテロプラスミーの状態である(図5上のパネル)。さらに、健康型mtDNAのみから構成される細胞集団が、細胞内ヘテロプラスミーを有する細胞と同じ比、1.72%だけ存在していた。BK02は、4.76%の比で右上にプロットされる、突然変異型及び健康型mtDNAの両方を有する細胞集団を含んでいた(図5、中央のパネル)。BK04は、突然変異型mtDNAのみを有する細胞の単一の画分のみが存在するという点で他の患者との相違を示していた(図5、下のパネル)。BK02及びBK04の両方は、健康型mtDNAのみを有する細胞集団を含んでいなかった。
【0085】
象限分析において、左上又は右下の象限における2つの異なる画分が存在していたが、事象が小規模であったために2つの集団が右上の象限にあるのかどうか、判断が難しかった。細胞周期分析により、ミトコンドリア病を有する患者に由来する3つの細胞株におけるS期の画分は、NHDFにおけるS期の画分と比較して半分未満であったことが明らかとなった。G2/M及びS期の合計は、罹患した線維芽細胞の10~20%の範囲であった(図6)。2つの画分の比はほぼ同一であり、重複した内容のmtDNAが細胞周期の半分を占め得ることが示唆された。
【0086】
本研究では、突然変異型mtDNAの存在下又は非存在下での単一細胞のmtDNAのヘテロプラスミーを評価する方法を提供する。ミトコンドリア病におけるヘテロプラスミーのための従来の方法では、細胞群、例えば単核細胞及び生検により得た骨格筋を一様に標的化していたため、アウトプットは細胞内ヘテロプラスミー(ミクロヘテロプラスミー)及び細胞間ヘテロプラスミー(マクロヘテロプラスミー)を識別することはできなかった。ミトコンドリア病の表現型が、突然変異型mtDNAのヘテロプラスミーが60~70%以上に達した際に現れるという閾値理論は臨床試料に基づいているものの、全ての細胞が類似したヘテロプラスミーを有するのか、又は健康型若しくは突然変異型mtDNAを含むホモプラスミーを有する細胞がヘテロプラスミーの比で混在しているのか、又は前者及び後者が混合しているのか、いずれに該当するのかは、明らかでない。さらに、閾値理論が単一細胞レベルで正当化されるかどうかは依然として調査が待たれている。
【0087】
さらに、mtDNAのヘテロプラスミーについての単一細胞生物学はミトコンドリア病だけでなく、神経変性疾患、癌、及び老化をより十分理解するための道に光を投げかけている。
【0088】
(実施例II)
(単一細胞デジタルドロップレットqPCRを使用するミトコンドリア交換T細胞(MirT)のヘテロプラスミーの分析)
本実施例では、単一細胞デジタルドロップレットqPCRを使用して、ミトコンドリア交換T細胞(MirT)のヘテロプラスミーを分析する方法を示す。
【0089】
ヒト末梢血を健康な志願者から採取し、フィコール密度勾配法を使用することにより単核画分に分離した。ヒト初代T細胞(以下本明細書において、G-T細胞と命名する)を、それぞれ20μg/ml及び10μg/mlの濃度のIL-7及びIL-15の存在下で増殖させ、抗CD3及び抗CD28抗体でコーティングしたプレートに移した。ミトコンドリア交換T細胞は、EPC100に由来するドナーミトコンドリアを用いて作製した。
【0090】
ミトコンドリアDNA(mtDNA)中の超可変領域1(HVR1)の配列(図7)を、2種のmtDNAを識別するために調べた。mtDNA124及びmtDNA130の位置はG-T細胞ではC及びCであった一方、EPC100ではT及びTであった(図8)。これらの相違を利用して、TaqMan qPCR一塩基多型(SNP)遺伝子型判定アッセイにおけるG-T細胞及びEPC100に特異的なプローブを、これらの点を包含するように設計し、それぞれ蛍光FAMを有する
【化1】
及び蛍光VICを有する
【化2】
とした(図9)。配列中の小文字は、2種の細胞間の相違を表す。そして、プローブ領域を含むプライマーセットも設計する。G-T細胞又はEPC100に特異的なPCR断片を保有する2つの組換えプラスミドを作製し、当該組換えプラスミドは、TaqMan qPCRによるmtDNAコピー数の定量化のための標準曲線を提供した。
【0091】
MirT細胞を、以下のプロトコルに従い作製した。第0日に、G-T細胞にエレクトロポレーション(ATX, MaxCyte社)によってXbaIRをコードするmRNAを導入した。ミトコンドリアDNAが顕著に減少した、ρ(-)細胞と呼ぶこととするG-T細胞を、ウリジン及びピルビン酸を加えて1週間置くことにより、初回の増殖培養の改変された条件下で維持した。ドナーから単離したミトコンドリアを、増殖培養条件下で、ρ(-)G-T細胞と共培養した。全細胞のTaqMan qPCR SNP遺伝子型判定アッセイを第9日及び第14日、すなわちミトコンドリア導入後2日及び7日で実施した一方、単一細胞デジタルドロップレットPCR(sc-ddPCR)を第14日、すなわちミトコンドリアの導入後7日で実施した(図10)。
【0092】
集団全体に対するSNPアッセイ(図11)を、hmtDNA D-ループ (hmtD_loop-F:
【化3】
; hmtHV1-R:
【化4】
のPCRにより実施した。ここで、以下の条件を使用した。
【表3】
【0093】
最初の変性(94℃で2分間)後、PCR反応には35サイクルのPCR(94℃で30秒、59℃で30秒、及び68℃で1分間)と、最後の68℃で2分間の伸長を含めた。結果は、外来のmtDNAはそれぞれ導入後2日間で半分を占め、導入後7日間で約70%を占めたことを示していた(図12)。sc-ddPCRについて、SNPアッセイは集団全体のSNPアッセイに適合する内在の及び外来のmtDNAの比を示し、これによりsc-ddPCR分析の頑健性が実証された(図13)。
【0094】
重要なことに、象限分析により、ほぼ全ての細胞が内在の又は外来のmtDNAを有するホモプラスミーであることが示されたが、細胞内ヘテロプラスミーすなわちミクロヘテロプラスミーを有する細胞もごくわずか存在した。本件発明者らのsc-ddPCRの結果は、ミトコンドリア交換細胞(MirC)が、単一細胞レベルでほぼ完全なmtDNAの交換をもたらしうることを明白に示している。
【0095】
まとめると、これらの結果は、単一細胞レベルでのmtDNAの内容の特定は、mtDNAがほぼ完全に交換されたMirCを特定するために使用することができることを示す。この技術の応用は、T細胞についてだけでなく、幹細胞についても使用することができ、このことは現在の医学では一時的治療しか存在しないミトコンドリア病の根絶をもたらし得る。
【0096】
(実施例III)
(患者由来末梢血におけるsc-ddPCRの応用)
本実施例では、sc-ddPCR及びFACS分析を使用する、MELAS細胞中のヘテロプラスミーを分析する方法を示す。
【0097】
ミトコンドリアA3243G突然変異を保有する23歳の女性MELAS患者及び健康なドナー(GJと表示)から得た末梢血を単一細胞ddPCRプロトコルによって調べた。密度勾配遠心分離による単核細胞の単離後、細胞をそれぞれT細胞及びマクロファージ-単球系譜の表面マーカーであるCD3+細胞又はCD11b+細胞へさらに選別した。
【0098】
TaqManポリメラーゼを使用した従来の一塩基多型(SNP)遺伝子型判定アッセイを、細胞集団全体に適用し、これを3つの試料に分割した。MELAS患者由来単核細胞におけるA3243G突然変異のヘテロプラスミーは27%であった一方、健康な対照におけるA3243Gのレベルは無視できる程度であった(図14)。
【0099】
次に、選別された系譜の細胞及び全単核細胞を、結果の偏りを防ぐためにsc-ddPCR用に4つの試料に分割した。sc-ddPCRの結果の可視性をより向上させるため、デジタルデータを標準的なFACS機器用のアプリケーションソフトウェアであるFlowJoにインポートした。結果は、適切な補整の後、突然変異型配列をx軸に、及び健康型配列をy軸にとる象限等高線プロットとして示す(例えば、図15~18を参照されたい)。
【0100】
対照試料は、無視できる程度のA3243Gヘテロプラスミーを示し、試料間の変動もなかった。これは、従来のSNP遺伝子型判定アッセイと一致する(例えば、図15を参照されたい)。MELAS患者由来血液試料は、単核集団全体について、突然変異型A3243Gホモプラスミー、健康型ホモプラスミー、及び細胞内A3243Gヘテロプラスミーを有する細胞がそれぞれ約18.4%、72.4%、及び9.1%であったことを示す(例えば、図16を参照されたい)。MELAS患者のT細胞は、集団全体と比較して、より低い比の突然変異型A3243Gホモプラスミー(約6.9%)及びより高い比の健康型ホモプラスミー(約88.2%)を示した(例えば、図17を参照されたい)。MELAS患者のT細胞において細胞内A3243Gヘテロプラスミーを有する細胞は稀であった(例えば、図17を参照されたい)。一方、マクロファージ-単球系譜の細胞は、単核集団全体と比較して、より高い突然変異型A3243Gホモプラスミー(約25%)及びより低い比の健康型ホモプラスミー(約62.4%)を示した(例えば、図18を参照されたい)。細胞内ヘテロプラスミーは、T細胞集団全体と比較して、マクロファージ-単球系譜においてずっと高かった(例えば、図18を参照されたい)。
【0101】
これらの結果は、系譜の間には細胞間A3243Gヘテロプラスミーについて突然変異型A3243Gの発現の相違があることを示していた。突然変異型A3243Gホモプラスミーを有する細胞は、細胞内A3243Gヘテロプラスミーと比較して、各系譜において優勢であり、このことは細胞内A3243Gヘテロプラスミーが、ホモプラスミーの安定性とは対照的に不安定であることを示唆している(図19)。
【0102】
上記の実施態様は単に例示的であることを意図するものであり、当業者であれば、具体的な化合物、物質、及び手順の多くの均等物を認識し、又は定例的な範囲を超えない実験を使用して確認できるだろう。そのような均等物は全て本発明の範囲内であると考えられ、添付する特許請求の範囲に包含される。
図1-1】
図1-2】
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図5
図6-1】
図6-2】
図7
図8
図9-1】
図9-2】
図10
図11
図12
図13-1】
図13-2】
図14
図15
図16
図17
図18
図19
【手続補正書】
【提出日】2022-08-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
2022553397000001.app
【国際調査報告】