(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-22
(54)【発明の名称】免疫細胞制御用キメラポリペプチド
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20221215BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221215BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20221215BHJP
C07K 14/705 20060101ALI20221215BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20221215BHJP
C07K 14/725 20060101ALI20221215BHJP
C07K 14/735 20060101ALI20221215BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20221215BHJP
C12N 15/57 20060101ALI20221215BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20221215BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20221215BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20221215BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221215BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221215BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20221215BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20221215BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20221215BHJP
A61K 31/454 20060101ALI20221215BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20221215BHJP
A61K 31/5377 20060101ALI20221215BHJP
C12N 9/50 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C12N5/10 ZNA
C07K19/00
C07K14/705
C07K14/47
C07K14/725
C07K14/735
C12N15/12
C12N15/57
C12N15/63 Z
C12N5/0783
A61K35/17 Z
A61P35/00
A61P43/00 105
A61K38/16
A61K48/00
A61K45/00
A61K31/454
A61K31/506
A61K31/5377
C12N9/50
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022524130
(86)(22)【出願日】2020-10-23
(85)【翻訳文提出日】2022-06-21
(86)【国際出願番号】 NL2020050655
(87)【国際公開番号】W WO2021080427
(87)【国際公開日】2021-04-29
(32)【優先日】2019-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522164374
【氏名又は名称】スティヒティング ヘット ネーデルランズ カンケル インスティテュート-アントニ ファン レーウェンフーク ジーケンハウス
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】アントーニウス ニコラース マリア シューマッハー
(72)【発明者】
【氏名】アリ カン サヒリオグル
【テーマコード(参考)】
4B050
4B065
4C084
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050DD11
4B050LL01
4B050LL03
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4B065CA46
4C084AA02
4C084AA13
4C084AA19
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084BA41
4C084CA53
4C084DC50
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB211
4C084ZB261
4C084ZC202
4C084ZC412
4C086AA01
4C086BC42
4C086BC50
4C086BC73
4C086GA07
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZC41
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087CA04
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZB21
4C087ZB26
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045BA50
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA89
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、キメラポリペプチド、このようなキメラポリペプチドをコードする核酸、このような核酸のキメラポリペプチドを含む細胞、好ましくはT細胞、CAR T細胞、NK細胞またはCAR NK細胞に関し、また、このような細胞、核酸のポリペプチドを用いて癌の治療、特に免疫細胞療法を行う方法に関する。本発明によるキメラポリペプチドは、T細胞およびNK細胞の機能(サイトカイン放出、細胞傷害性)を可逆的かつ用量依存的に制御することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キメラポリペプチドまたは前記キメラポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む細胞であって、前記キメラポリペプチドは
a) リン酸化免疫受容体チロシンに基づく活性化モチーフ(ITAM)に結合するタンパク質由来のSH2ドメインを含む第1の部分;および
b) 小分子制御タンパク質安定性ドメインを含む第2の部分を含む、
細胞。
【請求項2】
前記キメラポリペプチドは、さらに、
c) 免疫受容体チロシンに基づくスイッチモチーフ(ITSM)、好ましくはITSMおよび免疫受容体チロシンに基づく阻害モチーフ(ITIM)を含む第3の部分を含む、
請求項1に記載の細胞。
【請求項3】
前記小分子制御タンパク質安定性ドメインは、
i) 抑制性プロテアーゼ、同族切断部位、およびデグロン配列を含む自己切断デグロン(SED)、
ii) タンパク質結合基を含むタンパク質分解標的キメラ(Protac)結合ドメイン(ProtacはE3ユビキチンリガーゼ結合基(E3LB)、必要に応じてリンカー、および前記キメラポリペプチド中のProtac結合ドメインに結合する)、および
iii) 薬物に応答してCRBNタンパク質に結合し、それにより前記キメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進するCRBNポリペプチド基質ドメイン、
からなる群から選択される、請求項1または2に記載の細胞。
【請求項4】
前記ITAMは、T細胞受容体(TCR)複合体、NK細胞受容体(NKR)複合体、および/またはキメラ抗原受容体(CAR)に含まれるITAM、好ましくはCD3 ζ鎖、CD3 ε鎖、CD3 δ鎖、CD3 γ鎖、免疫グロブリン受容体FcεRIの γ鎖およびDAP12由来のITAMである請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項5】
前記細胞は、T細胞受容体、キメラ抗原受容体(CAR)、および/またはNK細胞受容体(NKR)をさらに含み、好ましくはT細胞、CAR T細胞、NK細胞、および/またはCAR NK細胞である請求項1~4のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項6】
前記SH2ドメインは、Zap70、Syk、およびLckからなる群から選択されるタンパク質由来である、請求項1~5のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項7】
前記キメラポリペプチドは、リン酸化免疫受容体チロシンに基づく活性化モチーフと結合するタンパク質由来の1つ以上のSH2ドメインを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項8】
前記ITIMおよび/またはITSMは、抑制性受容体タンパク質、好ましくは抑制性免疫受容体タンパク質、好ましくはPD1、BTLA、SIRPα、シグレック5、シグレック9、シグレック11、PECAM1またはLY9からなる群から選択されるタンパク質由来である、請求項1~7のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項9】
前記ポリペプチドは、ITSMおよびITIMを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項10】
好ましくは、前記第1の部分は前記キメラポリペプチドのN末端に位置し、そして前記第2の部分は前記キメラポリペプチドのC末端に位置し、そして好ましくは、前記第3の部分は前記第1の部分と前記第2の部分の間に位置する、請求項1~9のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項11】
前記抑制性プロテアーゼに結合したプロテアーゼ阻害剤をさらに含む、または前記タンパク質分解標的キメラ(Protac)結合ドメインに結合したProtacをさらに含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項12】
前記CRBNポリペプチド基質ドメインは、前記CRBNポリペプチドに薬物誘導結合可能なC2H2ジンクフィンガータンパク質またはその断片である、請求項1~11のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項13】
前記CRBNポリペプチド基質ドメインは、前記CRBNポリペプチドに薬物誘導性結合可能なIKZF1、IKZF3、ZFN654、ZNF787、ZNF653、ZFP91、ZNF276、ZNF827、またはそれらの断片からなる群から選択され、好ましくは前記断片は、IKZF1 ZF2-3(配列番号41)、IKZF3 ZF2-3(配列番号42)、ZFP91 ZF4-5(配列番号43)、ZNF276 ZF4-5(配列番号44)、ZNF653 ZF4-5(配列番号45)、およびZNF692 ZF4-5(配列番号46)からなる群から選択される、請求項1~12のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項14】
前記CRBNポリペプチド基質ドメインは複合融合ポリペプチドを含み、前記複合融合ポリペプチドは、第1のC2H2ジンクフィンガータンパク質の少なくとも第1の断片と第2のC2H2ジンクフィンガータンパク質の第2の断片を含み、前記複合融合ポリペプチド中の前記第1の断片と前記第2の断片の組み合わせは前記CRBNポリペプチドに薬物誘導性結合することができる、請求項1~13のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項15】
前記CRBNポリペプチド基質ドメイン内に含まれる前記複合融合ポリペプチドは、ZFP91 ZF4 (LQCEICGFTCR; 配列番号52), ZFN653 ZF4 (LQCEICGYQCR; 配列番号53), ZNF276 ZF4 (LQCEVCGFQCR; 配列番号54)、ZNF827 ZF1 (FQCPICGLVIK;配列番号55)のβターンから選択される第1の断片、およびIKZF1 ZF2(QKGNLLRHIKLH; 配列番号56)のα-ヘリックスから選択される第2の断片を含み、好ましくは前記複合融合ポリペプチドは前記ZFP91 ZF4のβターンおよび前記IKZF1 ZF2のα-ヘリックスを含み、好ましくは前記複合融合ポリペプチドは配列番号47~51から選択される1つを含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項16】
前記CRBNポリペプチド基質結合ドメインは、IKZF1 ZF3 (FKCHLCNYACRRRDALTGHLRTH: 配列番号57)を含むかまたはさらに含み、好ましくは前記CRBNポリペプチド基質結合ドメインは、前記ZFP91 ZF4のβターン、前記IKZF1 ZF2のαヘリックス、およびIKZF1 ZF3を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項17】
前記薬物は、前記CRBNポリペプチド基質ドメインを前記CRBNタンパク質に結合させ、それにより前記キメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進する、薬物はIMiDであり、好ましくはサリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイド、CC-122(アバドマイド)、CC-220(イベルドマイド)、およびCC-885からなる群から選択される、請求項1~16のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項18】
前記CRBNポリペプチド基質ドメインを前記CRBNタンパク質に結合させ、それにより前記キメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進する薬物をさらに含み、好ましくは前記薬物はIMiDであり、好ましくはサリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイド、CC-122(アバドマイド)、CC-220(イベルドマイド)、およびCC-885からなる群から選択される、請求項1~17のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項19】
a) 前記SH2ドメインは、配列番号7~11に従うアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を持つアミノ酸配列を含むもしくはからなり、または配列番号12~14に従うアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を持つアミノ酸配列を含むもしくはからなる、
b) 前記キメラポリペプチドの第1の部分は、配列番号7~11に従うアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を持つアミノ酸配列を含むもしくはからなり、または配列番号12~14に従うアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を持つアミノ酸配列を含むもしくはからなる、
c) 前記ITAMはYxxL/lx(6-8)YxxL/lである、
d) 前記SH2ドメインは、配列番号1~6に含まれるリン酸化ITAMに結合するSH2ドメイン、または配列番号1~6に従うアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を持つアミノ酸配列に結合するSH2ドメインである、
e) 前記ITIMはS/I/V/LxYxxI/V/Lである、かつ/または前記ITSMはTxYxxV/Iである、
f) 前記ITSMおよび/またはITIMは、配列番号15~22内に含まれるITSMおよび/またはITIMである、
g) 前記キメラポリペプチドの第3の部分は、配列番号15~22に従うアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を持つアミノ酸配列を含むまたはからなる、
h) 前記キメラポリペプチドの第2の部分は、配列番号35もしくは40または配列番号41~57に従うアミノ酸配列を含むまたはからなる、かつ/または
i) 前記キメラポリペプチドは、配列番号23~34、配列番号36、または配列番号58~68に従うアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を持つアミノ酸配列を含む、
請求項1~18のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか一項に定義されたキメラポリペプチド。
【請求項21】
請求項1~19のいずれか一項に定義されたキメラポリペプチドおよび/または請求項20に記載のキメラポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む核酸。
【請求項22】
請求項21の前記核酸を含むベクター。
【請求項23】
請求項21~22のいずれか一項に記載、または請求項1~19のいずれか一項に定義された核酸またはベクターを含む細胞。
【請求項24】
請求項1~19のいずれか一項に記載の細胞、請求項20に記載のキメラポリペプチド、または請求項21~22のいずれか一項に記載、もしくは請求項1~19のいずれか一項に定義された、核酸もしくはベクターを含む、医薬組成物。
【請求項25】
医薬品としての使用のための、請求項1~19のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項26】
対象における癌の治療に使用のための、請求項1~19のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項27】
医薬品としての使用のための細胞、好ましくは請求項26に記載の対象における癌の治療に使用のための細胞であって、前記治療は
a) 請求項1~19のいずれか一項に記載の細胞の集団を前記対象に投与すること、
b) 任意に、抑制性プロテアーゼの阻害剤、または前記タンパク質分解標的キメラ(Protac)結合ドメインに結合するProtac、または前記CRBNポリペプチド基質ドメインを前記CRBNタンパク質に結合させる薬物を前記対象に投与し、それにより前記キメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進することであって、好ましくは、ここで前記薬物はIMiDであり、好ましくはサリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイド、CC-122(アバドマイド)、CC-220(イベルドマイド)およびCC-885からなる群から選択されること、並びに
c) 任意に、工程b)を行う場合、前記抑制性プロテアーゼの阻害剤、または前記タンパク質分解標的キメラ(Protac)結合ドメインに結合するProtac、または前記CRBNポリペプチド基質ドメインをCRBNタンパク質に結合させる前記薬物の濃度を増減させ、それにより前記キメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進することであって、好ましくは、前記薬物はIMiDであり、好ましくはサリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイド、CC-122(アバドマイド)、CC-220(イベルドマイド)およびCC-885からなる群から選択されることを含む、細胞。
【請求項28】
前記細胞を請求項21に記載の核酸または請求項22に記載のベクターと接触させ、好ましくは、前記核酸またはベクターを生体外で前記細胞に接触させる工程を含む、請求項1~19のいずれか一項に記載の細胞を提供する方法。
【請求項29】
細胞中のキメラポリペプチドの発現を制御する方法であって、請求項20に記載の前記キメラポリペプチドを発現する細胞と、前記抑制性プロテアーゼの阻害剤、前記タンパク質分解標的キメラ(Protac)結合ドメインに結合するProtac、または前記CRBNポリペプチド基質ドメインを前記CRBNタンパク質に結合させる前記薬物と接触させ、それにより前記キメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進する工程を含み、好ましくは前記薬物はIMiDであり、好ましくはサリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイド、CC-122(アバドマイド)、CC-220(イベルドマイド)、およびCC-885からなる群から選択される、方法。
【請求項30】
T細胞および/もしくはNK細胞の細胞傷害活性を制御する並びに/またはT細胞および/もしくはNK細胞によるサイトカイン分泌を制御する方法であって、
a) 請求項20に記載の、または請求項1~19のいずれか一項に定義されるキメラポリペプチドを前記T細胞および/またはNK細胞中に発現させること、
b) 前記細胞を、前記抑制性プロテアーゼの阻害剤、前記タンパク質分解標的キメラ(Protac)結合ドメインに結合するProtac、または前記CRBNポリペプチド基質ドメインを前記CRBNタンパク質に結合させる薬物と接触させ、それにより前記キメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進することであって、好ましくは、前記薬物はIMiDであり、好ましくはサリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイド、CC-122(アバドマイド)、CC-220(イベルドマイド)およびCC-885からなる群から選択されること、および
c) 任意に、前記抑制性プロテアーゼの阻害剤、前記Protac、または前記CRBNポリペプチド基質ドメインを前記CRBNタンパク質に結合させ、それにより前記キメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進する前記薬物の濃度を増減させることであって、好ましくは前記薬物はIMiDであり、好ましくはサリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイド、CC-122(アバドマイド)、CC-220(イベルドマイド)およびCC-885からなる群から選択されること、
を含む方法。
【請求項31】
対象における癌の治療方法であって、
a) 請求項23もしくは25に記載の細胞、または請求項1~19のいずれか一項に定義された細胞を前記対象に提供すること、
b) 任意に、前記抑制性プロテアーゼの阻害剤、前記タンパク質分解標的キメラ(Protac)結合ドメインに結合するProtac、または前記CRBNポリペプチド基質ドメインを前記CRBNタンパク質に結合させる薬物を、前記対象に投与し、それによりキメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進することであって、好ましくは、前記薬物はIMiDであり、好ましくはサリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイド、CC-122(アバドマイド)、CC-220(イベルドマイド)およびCC-885からなる群から選択されること、そして
c) 任意に、工程b)が実行される場合、前記抑制性プロテアーゼの阻害剤、前記Protac、または前記CRBNポリペプチド基質ドメインを前記CRBNタンパク質に結合させる薬物の濃度を増減させ、それにより前記キメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進することであって、好ましくは、前記薬物はIMiDであり、好ましくはサリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイド、CC-122(アバドマイド)、CC-220(イベルドマイド)およびCC-885からなる群から選択されること、を含む方法。
【請求項32】
対象のT細胞および/またはNK細胞の活性を制御する方法であって、
a) 請求項23もしくは25に記載の細胞、または請求項1~19のいずれか一項に定義される細胞を前記対象に提供すること、
b) 前記抑制性プロテアーゼの阻害剤、前記タンパク質分解標的キメラ(Protac)結合ドメインに結合するProtac、または前記CRBNポリペプチド基質ドメインを前記CRBNタンパク質に結合させる薬物を対象に投与し、それにより前記キメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進することであって、好ましくは、前記薬物はIMiDであり、好ましくはサリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイド、CC-122(アバドマイド)、CC-220(イベルドマイド)およびCC-885からなる群から選択されること、そして
c) 必要に応じて前記抑制性プロテアーゼの阻害剤、前記Protac、または前記CRBNポリペプチド基質ドメインをCRBNタンパク質に結合させ、それにより前記キメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進する前記薬物の濃度を増減させることであって、好ましくは、前記薬物はIMiDであり、好ましくはサリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイド、CC-122(アバドマイド)、CC-220(イベルドマイド)、CC-885からなる群から選択されることを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、T細胞受容体、NK細胞受容体、および/またはキメラ抗原受容体の機能を可逆的かつ用量依存的に制御することができる化学的に制御されたキメラポリペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
過去数年にわたり、多くの養子T細胞療法が、血液癌と固形癌の両方の治療目的に開発されてきた(Rosenberg et al, Science. 2015 Apr 3;348(6230):62-8、June et al, Science. 2018 Mar 23;359(6382):1361-1365)。具体的には、同種造血幹細胞移植に伴うドナー由来T細胞の抗腫瘍効果の発見を受け、この効果を生かす手法としてドナーリンパ球輸液(DLI)が開発されている(Frey et al, Best Pract Res Clin Haematol. 2008 Jun; 21(2): 205-222)。
【0003】
最近では、キメラ抗原受容体(CAR)やT細胞受容体(TCR)で修飾されたT細胞が、腫瘍反応性T細胞集団を患者に提供するのに利用されており、B細胞悪性腫瘍の患者におけるCD19 CAR T細胞の著しい臨床活性により、これらのT細胞製品がB-ALLおよびDLBCLに対して最近承認された(Boyiadzis et al,J Immunother Cancer.2018 Dec 4;6(1):137)。
【0004】
重要なことは、癌における養子T細胞療法をより広範に応用することは、現在のところ、安全性の懸念によって制限されていることである。具体的には、養子移入されたT細胞プールにより標的にされた抗原が健康な組織でも発現する場合、正常細胞への傷害性(on target - off tumor toxicity)がしばしば観察される(Bonifant et al, Mol Ther Oncolytics.2016 Apr 20;3:16011 )。
【0005】
この数年、正常細胞への傷害を回避するため、真に癌特異的なマーカーを発見するための多大な努力が払われてきた。しかし、多くの患者の腫瘍に発現する癌特異的なマーカーは、極めて稀であることが判明している。さらに、重要な組織で低レベルの発現を示す自己抗原と遺伝子組み換えT細胞の予期せぬ交差反応性は、重篤な毒性と関連する(Morgan et al, J Immunother. 2013 Feb;36(2):133-51)。
【0006】
最後に、注入された細胞の完全な腫瘍特異的活性化が達成できる場合でも、大きな腫瘍塊のT細胞認識時の深刻なサイトカイン放出は、安全性の懸念を形成するので、T細胞活性化の度合いを調整する方法があれば、魅力的である。
【0007】
養子T細胞療法における治療誘発毒性のリスクが大きいことから、多くの研究群が、HSV-TK、iCas9、CD20に基づく細胞表面マーカー自殺スイッチなど、大きな毒性が観察された瞬間に薬物投与によって発動できる遺伝子コード化自殺スイッチを開発してきた(Jones et al, Front Pharmacol.2014 Nov 27;5:254)。
【0008】
このような自殺スイッチは、移植片対腫瘍(GvT)効果が移植片対宿主病(GvHD)と相関し、これら2つの効果のバランスが求められるDLIの設定に主に使用されてきた。しかし、これらのスイッチの二元的な性質は、T細胞の機能の調整を阻害し、これらのシステムは、TCR/CAR修飾T細胞の文脈では限られた用途しか見いだせなかった。
【0009】
より最近の研究では、キメラ抗原受容体(CAR) T細胞を可逆的に制御できる安全スイッチ技術が工学的に開発されている(Wu et al, Science. 2015 Oct 16;350(6258):aab4077, Ma et al, Proc Natl Acad Sci U S A. 2016 Jan 26;113(4):E450-8, Loureiro et al, Blood Cancer J. 2018 Sep; 8(9): 81)が、これらのシステムはTCR修飾T細胞または非修飾T細胞のどちらの活性制御にも利用することはできない。
【0010】
また、T細胞欠失型NK細胞療法を行った臨床試験でも急性GvHDが観察されており、NK細胞の活性を制御する安全スイッチも望ましいことが示唆されている(Shah et al, Blood. 2015 Jan 29;125(5):784-92)。
【発明の概要】
【0011】
このような観点から、特に患者におけるTCRおよびCAR T細胞の機能およびナチュラルキラー(NK)細胞の機能(すなわちNK細胞受容体の機能)を制御する製品、組成物、方法および用途が非常に望ましいと考えられるが、まだ容易に入手できないのが現状である。特に、TCR/CAR T細胞およびNK細胞の機能、例えば、そのようなTCRまたはCARを含むT細胞の細胞傷害活性、NK細胞受容体(NKR)またはCARを含むNK細胞の機能および/またはそのようなT細胞またはNK細胞にサイトカイン分泌を制御させる、信頼性、効率的かつ再現性のある製品、組成、方法および使用に対する技術の必要性が明確に存在する。したがって、本発明の基礎となる技術的課題は、前述の必要性のいずれかを満たすための、そのような製品、組成物、方法および用途を提供することにある。この技術的課題は、特許請求の範囲および本明細書において以下に特徴付けられる実施形態によって解決される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態をさらに説明する。
【0013】
【
図1-1】
図1はZap70のSH2を介したPD1尾部の動員による効率的なT細胞機能の抑制を示す。
図1AはTCRシグナル伝達経路の初期段階の模式図で、ペプチドMHCの関与によるCD3 ζ鎖へのZap70の動員と、PD-L1連結によるTCRシグナル伝達のPD1媒介抑制を示す。
図1BはZap70のSH2を介したPD1尾部の活性化TCR複合体への動員、およびその結果生じるTCRシグナル伝達の阻害の模式図である。
図1Cおよび1Dは HLAクラスI制限CDK4 TCRおよびZap70-PD1、Zap70 2xSH2ドメイン、PD1尾部、またはベクター対照で修飾した初代ヒトT細胞を、CDK4ペプチド負荷T2細胞と共培養した結果を示す。
図1Cと1Dの データは、CDK4 TCR+EGFP 高+CD8 (
図1C) + T細胞および +CD4 (
図1D) + T細胞のIFNγ、IL2、TNFα産生および細胞表面LAMP1発現を示す。
【0014】
【
図1-2】
図1はZap70のSH2を介したPD1尾部の動員による効率的なT細胞機能の抑制を示す。
図1AはTCRシグナル伝達経路の初期段階の模式図で、ペプチドMHCの関与によるCD3 ζ鎖へのZap70の動員と、PD-L1連結によるTCRシグナル伝達のPD1媒介抑制を示す。
図1BはZap70のSH2を介したPD1尾部の活性化TCR複合体への動員、およびその結果生じるTCRシグナル伝達の阻害の模式図である。
図1Cおよび1Dは HLAクラスI制限CDK4 TCRおよびZap70-PD1、Zap70 2xSH2ドメイン、PD1尾部、またはベクター対照で修飾した初代ヒトT細胞を、CDK4ペプチド負荷T2細胞と共培養した結果を示す。
図1Cと1Dの データは、CDK4 TCR+EGFP 高+CD8 (
図1C) + T細胞および +CD4 (
図1D) + T細胞のIFNγ、IL2、TNFα産生および細胞表面LAMP1発現を示す。
【0015】
【
図2-1】
図2はT細胞機能の制御を示す、アスナプレビル非存在下(
図2A)または存在下(
図2B)におけるZap70-PD1-SMASh融合タンパク質の模式図である。アスナプレビル非存在下では、HCVプロテアーゼはZap70-PD1部分を遊離し、TCRシグナル伝達を阻害する。アスナプレビル存在下では、遊離が阻止され、融合タンパク質はプロテアソームの標的となり、T細胞機能の阻害が解除される。
図2Cおよび
図2DはN末端HAタグ付きZap70-PD1-SMAShスイッチまたはベクター対照で修飾した初代ヒトT細胞の細胞内HA染色で、EGFP高発現CD8 (
図2C) + T細胞およびCD4 (
図2D) + T細胞のHAシグナルに対するアスナプレビル24時間前曝露の影響を示す。
図2E~2Hでは、HLAクラスI制限CDK4 TCRおよびZap70-PD1-SMAShスイッチ(
図2E、
図2G)またはベクター対照(
図2F、
図2H)のいずれかで修飾した初代ヒトT細胞を、10 μMアスナプレビルまたはDMSO対照で前処理した。データは、アスナプレビル存在下または非存在下でCDK4ペプチド負荷T2細胞と共培養した際のCDK4 TCR+ EGFP高+CD8(
図2E~F)+ T細胞および +CD4(
図2G~H)+T細胞の細胞内IFNγ、IL2、TNFαおよび細胞表面LAMP1発現を示す。誤差棒は標準偏差を表す(n=3)。データは、2つの独立した実験の代表値である。
【0016】
【
図2-2】
図2はT細胞機能の制御を示す、アスナプレビル非存在下(
図2A)または存在下(
図2B)におけるZap70-PD1-SMASh融合タンパク質の模式図である。アスナプレビル非存在下では、HCVプロテアーゼはZap70-PD1部分を遊離し、TCRシグナル伝達を阻害する。アスナプレビル存在下では、遊離が阻止され、融合タンパク質はプロテアソームの標的となり、T細胞機能の阻害が解除される。
図2Cおよび
図2DはN末端HAタグ付きZap70-PD1-SMAShスイッチまたはベクター対照で修飾した初代ヒトT細胞の細胞内HA染色で、EGFP高発現CD8 (
図2C) + T細胞およびCD4 (
図2D) + T細胞のHAシグナルに対するアスナプレビル24時間前曝露の影響を示す。
図2E~2Hでは、HLAクラスI制限CDK4 TCRおよびZap70-PD1-SMAShスイッチ(
図2E、
図2G)またはベクター対照(
図2F、
図2H)のいずれかで修飾した初代ヒトT細胞を、10 μMアスナプレビルまたはDMSO対照で前処理した。データは、アスナプレビル存在下または非存在下でCDK4ペプチド負荷T2細胞と共培養した際のCDK4 TCR+ EGFP高+CD8(
図2E~F)+ T細胞および +CD4(
図2G~H)+T細胞の細胞内IFNγ、IL2、TNFαおよび細胞表面LAMP1発現を示す。誤差棒は標準偏差を表す(n=3)。データは、2つの独立した実験の代表値である。
【0017】
【
図2-3】
図2はT細胞機能の制御を示す、アスナプレビル非存在下(
図2A)または存在下(
図2B)におけるZap70-PD1-SMASh融合タンパク質の模式図である。アスナプレビル非存在下では、HCVプロテアーゼはZap70-PD1部分を遊離し、TCRシグナル伝達を阻害する。アスナプレビル存在下では、遊離が阻止され、融合タンパク質はプロテアソームの標的となり、T細胞機能の阻害が解除される。
図2Cおよび
図2DはN末端HAタグ付きZap70-PD1-SMAShスイッチまたはベクター対照で修飾した初代ヒトT細胞の細胞内HA染色で、EGFP高発現CD8 (
図2C) + T細胞およびCD4 (
図2D) + T細胞のHAシグナルに対するアスナプレビル24時間前曝露の影響を示す。
図2E~2Hでは、HLAクラスI制限CDK4 TCRおよびZap70-PD1-SMAShスイッチ(
図2E、
図2G)またはベクター対照(
図2F、
図2H)のいずれかで修飾した初代ヒトT細胞を、10 μMアスナプレビルまたはDMSO対照で前処理した。データは、アスナプレビル存在下または非存在下でCDK4ペプチド負荷T2細胞と共培養した際のCDK4 TCR+ EGFP高+CD8(
図2E~F)+ T細胞および +CD4(
図2G~H)+T細胞の細胞内IFNγ、IL2、TNFαおよび細胞表面LAMP1発現を示す。誤差棒は標準偏差を表す(n=3)。データは、2つの独立した実験の代表値である。
【0018】
【
図3-1】
図3は容量設定可能なT細胞機能の双方向制御で、
図3Aは実験手順の模式図である。HLAクラスI制限CDK4 TCRおよびZap70-PD1またはベクター対照のいずれかで修飾した初代ヒトT細胞を、
図3B~Dに示す濃度のアスナプレビルで24時間前処理した後、直接使用するか(
図3B~C)、薬物非存在下で72時間培養した(
図3D)。
図3B~Cは図示のアスナプレビル濃度の継続的存在下または非存在下で10 nM CDK4ペプチドを負荷したT2細胞と共培養した際のCD8(
図3B)+ T細胞およびCD4(
図3C)+T細胞の機能出力に対するアスナプレビル処置の効果を示す。
図3Dは2.5 μMアスナプレビルまたはDMSO対照で前処理したT細胞を、薬物非存在下で72時間培養し、その後、2.5 μMアスナプレビルまたはDMSO対照で処理、または薬物の存在または非存在下で10 nM CDK4ペプチド担持T2細胞と共培養を継続させた。留意すべきは、アスナプレビルによる最初の処理は、薬物非存在下でのスイッチによるその後のT細胞機能の阻害を妨げず(+/-と-/-を比較)、アスナプレビルによる阻害の放出は、事前の阻害の放出に影響されない(-/+と+/+を比較)ことである。
図3B-Dのデータは、細胞内IFNγ、IL2、TNFαおよび細胞表面LAMP1発現を描写する。誤差棒は標準偏差を表す(n=3)。データは、2つの独立した実験の代表値である。
【0019】
【
図3-2】
図3は容量設定可能なT細胞機能の双方向制御で、
図3Aは実験手順の模式図である。HLAクラスI制限CDK4 TCRおよびZap70-PD1またはベクター対照のいずれかで修飾した初代ヒトT細胞を、
図3B~Dに示す濃度のアスナプレビルで24時間前処理した後、直接使用するか(
図3B~C)、薬物非存在下で72時間培養した(
図3D)。
図3B~Cは図示のアスナプレビル濃度の継続的存在下または非存在下で10 nM CDK4ペプチドを負荷したT2細胞と共培養した際のCD8(
図3B)+ T細胞およびCD4(
図3C)+T細胞の機能出力に対するアスナプレビル処置の効果を示す。
図3Dは2.5 μMアスナプレビルまたはDMSO対照で前処理したT細胞を、薬物非存在下で72時間培養し、その後、2.5 μMアスナプレビルまたはDMSO対照で処理、または薬物の存在または非存在下で10 nM CDK4ペプチド担持T2細胞と共培養を継続させた。留意すべきは、アスナプレビルによる最初の処理は、薬物非存在下でのスイッチによるその後のT細胞機能の阻害を妨げず(+/-と-/-を比較)、アスナプレビルによる阻害の放出は、事前の阻害の放出に影響されない(-/+と+/+を比較)ことである。
図3B-Dのデータは、細胞内IFNγ、IL2、TNFαおよび細胞表面LAMP1発現を描写する。誤差棒は標準偏差を表す(n=3)。データは、2つの独立した実験の代表値である。
【0020】
【
図3-3】
図3は容量設定可能なT細胞機能の双方向制御で、
図3Aは実験手順の模式図である。HLAクラスI制限CDK4 TCRおよびZap70-PD1またはベクター対照のいずれかで修飾した初代ヒトT細胞を、
図3B~Dに示す濃度のアスナプレビルで24時間前処理した後、直接使用するか(
図3B~C)、薬物非存在下で72時間培養した(
図3D)。
図3B~Cは図示のアスナプレビル濃度の継続的存在下または非存在下で10 nM CDK4ペプチドを負荷したT2細胞と共培養した際のCD8(
図3B)+ T細胞およびCD4(
図3C)+T細胞の機能出力に対するアスナプレビル処置の効果を示す。
図3Dは2.5 μMアスナプレビルまたはDMSO対照で前処理したT細胞を、薬物非存在下で72時間培養し、その後、2.5 μMアスナプレビルまたはDMSO対照で処理、または薬物の存在または非存在下で10 nM CDK4ペプチド担持T2細胞と共培養を継続させた。留意すべきは、アスナプレビルによる最初の処理は、薬物非存在下でのスイッチによるその後のT細胞機能の阻害を妨げず(+/-と-/-を比較)、アスナプレビルによる阻害の放出は、事前の阻害の放出に影響されない(-/+と+/+を比較)ことである。
図3B-Dのデータは、細胞内IFNγ、IL2、TNFαおよび細胞表面LAMP1発現を描写する。誤差棒は標準偏差を表す(n=3)。データは、2つの独立した実験の代表値である。
【0021】
【
図4-1】
図4はPROTACを用いたCRASH-ITプラットフォームにおけるT細胞活性の制御で、dTAG-13 PROTACの非存在下(
図4A)または存在下(
図4B)におけるZap70-PD1-FKBP12
F36V融合タンパク質の模式図を示す。
図4C~EはCDK4 TCRとZap70-PD1-SMASh、Zap70-PD1-FKBP12
F36Vまたはベクター対照で修飾した初代ヒトT細胞を、指定濃度のHCV NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤アスナプレビル(
図4C)、グラゾプレビル(
図4D)またはdTAG-13(
図4E)で前処理した。データは、CDK4エピトープを発現するNKIRTIL006腫瘍細胞と共培養したCD8+ CDK4 TCR+ EGFP高 T細胞の細胞内IFNγ、IL2、TNFαおよび細胞表面LAMP1発現を、指示濃度のアスナプレビル、グラゾプレビルまたはdTAG-13を継続投与した状態を描く。
図4F~Gは低分子誘導型Zap70-PD1-FKBP12
F36VスイッチによるT細胞の細胞傷害性の制御を示す。HLAクラスI制限のCDK4 TCRとZap70-PD1-FKBP12
F36V(
図4F)またはベクター対照(
図4G)のいずれかで修飾した初代ヒトT細胞を、CD8+および高EGFP発現について選別し、REPによって拡大し、0.5 μM dTAG-13 またはDMSOで前処理を施した。データは、dTAG-13の存在下または非存在下で、選別されたCD8+ CDK4 TCR+ EGFP高T細胞と共培養した際の、標識NKIRTIL006腫瘍細胞からの
51Cr放出を描く。誤差棒は標準偏差を表す(n=3)。データは、2つの独立した実験の代表値である。
【0022】
【
図4-2】
図4はPROTACを用いたCRASH-ITプラットフォームにおけるT細胞活性の制御で、dTAG-13 PROTACの非存在下(
図4A)または存在下(
図4B)におけるZap70-PD1-FKBP12
F36V融合タンパク質の模式図を示す。
図4C~EはCDK4 TCRとZap70-PD1-SMASh、Zap70-PD1-FKBP12
F36Vまたはベクター対照で修飾した初代ヒトT細胞を、指定濃度のHCV NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤アスナプレビル(
図4C)、グラゾプレビル(
図4D)またはdTAG-13(
図4E)で前処理した。データは、CDK4エピトープを発現するNKIRTIL006腫瘍細胞と共培養したCD8+ CDK4 TCR+ EGFP高 T細胞の細胞内IFNγ、IL2、TNFαおよび細胞表面LAMP1発現を、指示濃度のアスナプレビル、グラゾプレビルまたはdTAG-13を継続投与した状態を描く。
図4F~Gは低分子誘導型Zap70-PD1-FKBP12
F36VスイッチによるT細胞の細胞傷害性の制御を示す。HLAクラスI制限のCDK4 TCRとZap70-PD1-FKBP12
F36V(
図4F)またはベクター対照(
図4G)のいずれかで修飾した初代ヒトT細胞を、CD8+および高EGFP発現について選別し、REPによって拡大し、0.5 μM dTAG-13 またはDMSOで前処理を施した。データは、dTAG-13の存在下または非存在下で、選別されたCD8+ CDK4 TCR+ EGFP高T細胞と共培養した際の、標識NKIRTIL006腫瘍細胞からの
51Cr放出を描く。誤差棒は標準偏差を表す(n=3)。データは、2つの独立した実験の代表値である。
【0023】
【
図4-3】
図4はPROTACを用いたCRASH-ITプラットフォームにおけるT細胞活性の制御で、dTAG-13 PROTACの非存在下(
図4A)または存在下(
図4B)におけるZap70-PD1-FKBP12
F36V融合タンパク質の模式図を示す。
図4C~EはCDK4 TCRとZap70-PD1-SMASh、Zap70-PD1-FKBP12
F36Vまたはベクター対照で修飾した初代ヒトT細胞を、指定濃度のHCV NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤アスナプレビル(
図4C)、グラゾプレビル(
図4D)またはdTAG-13(
図4E)で前処理した。データは、CDK4エピトープを発現するNKIRTIL006腫瘍細胞と共培養したCD8+ CDK4 TCR+ EGFP高 T細胞の細胞内IFNγ、IL2、TNFαおよび細胞表面LAMP1発現を、指示濃度のアスナプレビル、グラゾプレビルまたはdTAG-13を継続投与した状態を描く。
図4F~Gは低分子誘導型Zap70-PD1-FKBP12
F36VスイッチによるT細胞の細胞傷害性の制御を示す。HLAクラスI制限のCDK4 TCRとZap70-PD1-FKBP12
F36V(
図4F)またはベクター対照(
図4G)のいずれかで修飾した初代ヒトT細胞を、CD8+および高EGFP発現について選別し、REPによって拡大し、0.5 μM dTAG-13 またはDMSOで前処理を施した。データは、dTAG-13の存在下または非存在下で、選別されたCD8+ CDK4 TCR+ EGFP高T細胞と共培養した際の、標識NKIRTIL006腫瘍細胞からの
51Cr放出を描く。誤差棒は標準偏差を表す(n=3)。データは、2つの独立した実験の代表値である。
【0024】
【
図5-1】
図5はCRASH-ITによるCAR-T細胞の機能制御で、
図5AはZap70-PD1-SMAShスイッチと相互作用する第二世代の抗CD19-CD28-CD3ζ CARの模式図である。
図5BはK562、Daudi、Raji腫瘍におけるCD19の発現を示す。細胞は、抗CD19-PE(実線)またはアイソタイプ対照PE(破線)で染色された。
図5C~Fでは、抗CD19-CD28-CD3ζ CARおよびZap70-PD1-SMASh(
図5C、
図5E)、またはベクター対照(
図5D、
図5F)のいずれかで修飾した初代ヒトT細胞を、10 μMアスナプレビルまたはDMSO対照で前処理した。データは、CD19陰性K562、またはCD19陽性DaudiもしくはRaji腫瘍細胞とアスナプレビル存在下または非存在下で共培養した際のCAR+ EGFP高CD8+(
図5C~D)+ T細胞および CD4+(
図5E~F)+ T細胞の細胞内IFNγ、IL2、TNFαおよび細胞表面LAMP1発現を描く。誤差棒は標準偏差を表す(n=3)。データは、2つの独立した実験の代表値である。
【0025】
【
図5-2】
図5はCRASH-ITによるCAR-T細胞の機能制御で、
図5AはZap70-PD1-SMAShスイッチと相互作用する第二世代の抗CD19-CD28-CD3ζ CARの模式図である。
図5BはK562、Daudi、Raji腫瘍におけるCD19の発現を示す。細胞は、抗CD19-PE(実線)またはアイソタイプ対照PE(破線)で染色された。
図5C~Fでは、抗CD19-CD28-CD3ζ CARおよびZap70-PD1-SMASh(
図5C、
図5E)、またはベクター対照(
図5D、
図5F)のいずれかで修飾した初代ヒトT細胞を、10 μMアスナプレビルまたはDMSO対照で前処理した。データは、CD19陰性K562、またはCD19陽性DaudiもしくはRaji腫瘍細胞とアスナプレビル存在下または非存在下で共培養した際のCAR+ EGFP高CD8+(
図5C~D)+ T細胞および CD4+(
図5E~F)+ T細胞の細胞内IFNγ、IL2、TNFαおよび細胞表面LAMP1発現を描く。誤差棒は標準偏差を表す(n=3)。データは、2つの独立した実験の代表値である。
【0026】
【
図6】
図6はCRASH-ITによるNY-ESO-1 TCR T細胞機能の制御を示す。
図6A~Dは中間親和性HLAクラスI制限NY-ESO-1 TCRおよびZap70-PD1-SMAShスイッチ(
図6A、
図6C)、またはベクター対照(
図6B、
図6D)のいずれかで修飾した初代ヒトT細胞を、10 μMアスナプレビルまたはDMSO対照で前処理したグラフである。データは、アスナプレビルの継続的存在下または非存在下でのNY-ESO-1ペプチド負荷T2細胞との共培養時のNY-ESO-1 TCR+ EGFP高CD8+ (
図6A~B) + T細胞およびCD4+ (
図6C~D) + T細胞の細胞内IFNγ、IL2、TNFαおよび細胞表面LAMP1発現を示す。誤差棒は標準偏差を表す(n=3)。データは、2つの独立した実験の代表値である。.
【0027】
【
図7-1】
図7はN末端修飾による抑制スイッチの調整で、
図7A~BはHLAクラスI制限のCDK4 TCRとZap70-PD1-SMASh、N末端アラニン付加(調整)tuZap70-PD1-SMAShまたはベクター対照で修飾した初代ヒトT細胞を10 μM アスナプレビルまたはDMSO対照で前処理したグラフである。データは、アスナプレビルの継続的存在または非存在下でのNKIRTIL006腫瘍細胞との共培養時のCDK4 TCR+ EGFP高CD8+(
図7A)+ T細胞および CD4+(
図7B)+ T細胞の細胞内IFNγ、IL2、TNFαおよび細胞表面LAMP1発現を示す。注目すべきは、tuZap70-PD1-SMAShスイッチは、アスナプレビルの非存在下でCD4+T細胞機能のほぼ同等の阻害をもたらし、アスナプレビルの存在下でT細胞機能の回復を大幅に増加させることにある。
図7C~DはHLAクラスII制限CMV TCRおよびtuZap70-PD1-SMASh(
図7C)、またはベクター対照(
図7D)のいずれかで修飾した初代ヒトT細胞を、10 μMアスナプレビルまたはDMSO対照で前処理したグラフである。データは、アスナプレビルの継続的存在下または非存在下でのCMVペプチド負荷CBH 5477細胞との共培養時のCD4+ CMV TCR+ EGFP高T細胞の細胞内IFNγ、IL2、TNFαおよび細胞表面LAMP1発現を描写する。誤差棒は標準偏差を表す(n=3)。データは、2つの独立した実験の代表値である。
【0028】
【
図7-2】
図7はN末端修飾による抑制スイッチの調整で、
図7A~BはHLAクラスI制限のCDK4 TCRとZap70-PD1-SMASh、N末端アラニン付加(調整)tuZap70-PD1-SMAShまたはベクター対照で修飾した初代ヒトT細胞を10 μM アスナプレビルまたはDMSO対照で前処理したグラフである。データは、アスナプレビルの継続的存在または非存在下でのNKIRTIL006腫瘍細胞との共培養時のCDK4 TCR+ EGFP高CD8+(
図7A)+ T細胞および CD4+(
図7B)+ T細胞の細胞内IFNγ、IL2、TNFαおよび細胞表面LAMP1発現を示す。注目すべきは、tuZap70-PD1-SMAShスイッチは、アスナプレビルの非存在下でCD4+T細胞機能のほぼ同等の阻害をもたらし、アスナプレビルの存在下でT細胞機能の回復を大幅に増加させることにある。
図7C~DはHLAクラスII制限CMV TCRおよびtuZap70-PD1-SMASh(
図7C)、またはベクター対照(
図7D)のいずれかで修飾した初代ヒトT細胞を、10 μMアスナプレビルまたはDMSO対照で前処理したグラフである。データは、アスナプレビルの継続的存在下または非存在下でのCMVペプチド負荷CBH 5477細胞との共培養時のCD4+ CMV TCR+ EGFP高T細胞の細胞内IFNγ、IL2、TNFαおよび細胞表面LAMP1発現を描写する。誤差棒は標準偏差を表す(n=3)。データは、2つの独立した実験の代表値である。
【0029】
【
図8】
図8は、をCRASH-ITプラットフォームで使用され、TCR T細胞の活性を制御することができる抑制性尾部を含む異なるITIM/ITSMを示す。HLAクラスI制限CDK4 TCRとZap70 (2xSH2)-X-SMAShを含むCRASH-IT実施形態で修飾された初代ヒトT細胞で、Xは阻害性尾部なしか、PD1、BTLA、SIRPA、シアル酸結合免疫グロブリン様レクチン(以下シグレック)5、シグレック9、シグレック11、PECAM1、もしくはLY9の阻害性尾部(または細胞質ドメイン/細胞内ドメイン/末端ドメイン)のいずれでもよく、あるいは、ベクター対照を10 μM アスナプレビルまたはDMSO対照で前処理をした。
図8AはT細胞のEGFP中間体およびEGFP高ゲーティングの位置を示す。データは、アスナプレビル存在下または非存在下でNKIRTIL006腫瘍細胞と共培養した際のCDK4 TCR+ EGFP中間体(
図8B~C) および EGFP高(
図8D~E)、 CD8+ (
図8B、
図8D) および CD4+ (
図8C、
図8E) + T細胞の細胞内IFNγ、IL2、TNFαおよび細胞表面LAMP1発現を示す。誤差棒は標準偏差を表す(n=3)。データは、2つの独立した実験の代表値である。
【0030】
【
図9】
図9はCAR T細胞の活性を制御するために、抑制性尾部を含む異なるITIM/ITSMをCRASH-ITプラットフォームで使用することができることを示す。第二世代の抗CD19-CD28-CD3ζ CARとZap70 (2xSH2)-X-SMAShを含むCRASH-IT実施形態で修飾した初代ヒトT細胞で、Xは阻害性尾部なしか、PD1、BTLA、SIRPA、シグレック5、シグレック9、シグレック11、PECAM1、もしくはLY9の阻害性尾部(または細胞質ドメイン/細胞内ドメイン/末端ドメイン)のいずれでもよく、あるいは、ベクター対照を10 μM アスナプレビルまたはDMSO対照で前処理を施した。
図9AはT細胞のEGFP中間体およびEGFP高ゲーティングの位置を示す。データは、アスナプレビル存在下または非存在下でDaudi腫瘍細胞と共培養した際のCDK4 TCR+ EGFP中間体(
図9B~C) および EGFP 高(
図9D~E)、CD8+ (
図9B、
図9D) + T細胞および CD4+ (
図9C、
図9E) + T細胞の細胞内IFNγ、IL2、TNFαおよび細胞表面LAMP1発現を描写する。誤差棒は標準偏差を表す(n=3)。データは、2つの独立した実験の代表値である。
【0031】
【
図10】
図10は別のSH2含有ドッキングドメインが、CRASH-ITプラットフォームで使用することができることを示す。HLAクラスI制限CDK4 TCRとZap70 (2xSH2)-PD1尾-SMASh、Syk (2xSH2)-PD1尾-SMASh、Lck (SH4-Unique-SH3-SH2)-PD1尾-SMAShまたはベクター対照で修飾した初代ヒトT細胞を10 μM アスナプレビルまたはDMSO対照で前処理した。データは、アスナプレビル存在下または非存在下でNKIRTIL006腫瘍細胞と共培養した際のCD8+ CDK4 TCR+ EGFP高T細胞の細胞内IFNγ、IL2、TNFαおよび細胞表面LAMP1発現を示す。誤差棒は標準偏差を表す(n=3)。データは、2つの独立した実験の代表値である。
【0032】
【
図11】
図11はPD1、BTLA、SIRPA、シグレック5、シグレック9、シグレック11、PECAM1、LY9の細胞質ドメインにおける免疫受容体チロシンに基づくスイッチモチーフ(ITSM、太字)と免疫受容体チロシンに基づく阻害モチーフ(ITIM、下線)配列に関する比較を示す。ITSMの共通配列はTxYxxV/Iであるが、ITIMの共通配列はS/I/V/LxYxxI/V/Lである。
【0033】
【
図12】
図12はCD3 ζ鎖、CD3 ε鎖、CD3 δ鎖、CD3 γ鎖、免疫グロブリン受容体FcεRIのγ(ガンマ)鎖とDAP12の免疫受容体チロシンに基づく活性化モチーフ(ITAM、太字と下線)配列に関する比較を示す。ITAMの共通配列はYxxI/Lx(6-8)YxxI/Lである。
【0034】
【
図13】
図13はCRASH-ITによるNK細胞機能の制御を示す。Zap70-PD1-FKBP12
F36Vスイッチまたはベクター対照で修飾したヒトNK細胞株KHYG-1を、0.5 μM dTAG-13 PROTACまたはDMSO対照で前処理した。
図13AはNK細胞のEGFP中間ゲーティングの位置を示す。データは、K562腫瘍細胞との共培養(
図13B)またはK562細胞の非存在下(
図13C)、dTAG-13の継続的存在下または非存在下でのEGFP中間NK細胞の細胞内IFNγ、IL2およびTNFα発現を描写する。誤差棒は標準偏差を表す(n=3)。データは2つの独立した実験の代表値である。
【0035】
【
図14-1】
図14はCRASH-ITスイッチが様々なITAMを含むCARと組み合わせることができることを示す。(
図14A)Zap70-PD1-FKBP12
F36Vまたは(
図14B)ベクター対照とCD19 ScFv-CD28 (ヒンジ+TM)-CD3 ζ鎖、CD19 ScFv-CD28 (ヒンジ+TM)-FCER1G 、CD19 ScFv-CD3 ε鎖 (全長)、CD19 ScFv-CD28 (ヒンジ+TM)-CD3 ε鎖またはCD19 ScFv-CD28 (ヒンジ+TM)-DAP12 CARsで修飾したヒト初代T細胞は前処理で0.5 μM dTAG-13またはDMSO対照で前処理した。
図14A-Bのデータは、dTAG-13の継続的存在または非存在下でDaudi腫瘍細胞と共培養した際のCAR+、EGFP高CD8+T細胞の細胞内IFNγ、IL2、TNFαおよび細胞表面LAMP1発現を示す。誤差棒は標準偏差を表す(n=3)。
【0036】
【
図14-2】
図14はCRASH-ITスイッチが様々なITAMを含むCARと組み合わせることができることを示す。(
図14A)Zap70-PD1-FKBP12
F36Vまたは(
図14B)ベクター対照とCD19 ScFv-CD28 (ヒンジ+TM)-CD3 ζ鎖、CD19 ScFv-CD28 (ヒンジ+TM)-FCER1G 、CD19 ScFv-CD3 ε鎖 (全長)、CD19 ScFv-CD28 (ヒンジ+TM)-CD3 ε鎖またはCD19 ScFv-CD28 (ヒンジ+TM)-DAP12 CARsで修飾したヒト初代T細胞は前処理で0.5 μM dTAG-13またはDMSO対照で前処理した。
図14A-Bのデータは、dTAG-13の継続的存在または非存在下でDaudi腫瘍細胞と共培養した際のCAR+、EGFP高CD8+T細胞の細胞内IFNγ、IL2、TNFαおよび細胞表面LAMP1発現を示す。誤差棒は標準偏差を表す(n=3)。
【0037】
【
図15】
図15はIMiD非存在下(
図15A)または存在下(
図15B)におけるZap70-PD1-ジンクフィンガーデグロンスイッチ(薬物に応答してCRBNタンパク質に結合することができるCRBNポリペプチド基質ドメインを採用し、それによりキメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進する本発明による実施形態の一例)の模式図である。
図15Aはサリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイドなどのIMiD非存在下では、Zap70-PD1-ジンクフィンガー融合タンパク質は安定で、T細胞の機能を阻害することを示す。
図15BはIMiDが存在すると、CRBN E3リガーゼの動員により融合タンパク質の分解が誘導され、その結果、T細胞の活性が回復することを示す。
【0038】
【
図16-1】
図16はジンクフィンガー・デグロンに基づくCRASH-ITスイッチ発現CD8細胞のIMiD容量設定により、異なる薬物感度を持つ設計が明らかになったことを示す。
図16Aは使用したジンクフィンガー・デグロンのアミノ酸配列を示す。一番上のジンクフィンガー・デグロンはIKZF1 ZF2-3配列に由来する。IKZF1 ZF2のβターン配列(長方形内)をZNF653 ZF4, ZFP91 ZF4, ZNF276 ZF4, またはZNF827 ZF1のβターン配列に置き換え、以下に示すIMiD感度を向上させた複合ジンクフィンガーを作製することができた。個々のC2H2ジンクフィンガー配列には下線が引かれている。CDK4 TCRとZap70-PD1-ジンクフィンガー・デグロンで修飾したヒト初代T細胞を、指定濃度のレナリドマイド(
図16B)、ポマリドマイド(
図16C)、サリドマイド(
図16D)で前処理をした。データは、CDK4 TCR+、EGFP高発現CD8+T細胞の細胞内IFNγ、IL2、TNFαおよび細胞表面LAMP1発現を、指示濃度のレナリドマイド、ポマリドマイドまたはサリドマイドの継続存在下でNKIRTIL006腫瘍細胞との共培養時を示す。誤差棒は標準偏差を表す(n=2)。
【0039】
【
図16-2】
図16はジンクフィンガー・デグロンに基づくCRASH-ITスイッチ発現CD8細胞のIMiD容量設定により、異なる薬物感度を持つ設計が明らかになったことを示す。
図16Aは使用したジンクフィンガー・デグロンのアミノ酸配列を示す。一番上のジンクフィンガー・デグロンはIKZF1 ZF2-3配列に由来する。IKZF1 ZF2のβターン配列(長方形内)をZNF653 ZF4, ZFP91 ZF4, ZNF276 ZF4, またはZNF827 ZF1のβターン配列に置き換え、以下に示すIMiD感度を向上させた複合ジンクフィンガーを作製することができた。個々のC2H2ジンクフィンガー配列には下線が引かれている。CDK4 TCRとZap70-PD1-ジンクフィンガー・デグロンで修飾したヒト初代T細胞を、指定濃度のレナリドマイド(
図16B)、ポマリドマイド(
図16C)、サリドマイド(
図16D)で前処理をした。データは、CDK4 TCR+、EGFP高発現CD8+T細胞の細胞内IFNγ、IL2、TNFαおよび細胞表面LAMP1発現を、指示濃度のレナリドマイド、ポマリドマイドまたはサリドマイドの継続存在下でNKIRTIL006腫瘍細胞との共培養時を示す。誤差棒は標準偏差を表す(n=2)。
【0040】
【
図17-1】
図17は、複合ZFP91/IKZF1(二重ZF)に基づくCRASH-ITスイッチがIMiDs存在下でT細胞機能の回復に非常に効果的であることを示す。
図17Aは実験に使用したジンクフィンガー・デグロンのアミノ酸配列を示す。IKZF1、IKZF3、ZFP91、ZNF276、ZNF653、ZNF692(すべて二重ZF)、またはIKZF1 ZF3との複合ZFP91/IKZF1ジンクフィンガー・デグロン(それぞれ二重ZF、単一ZF)由来の野生型ジンクフィンガー・デグロンを用いて実験に使用された。個々のC2H2ジンクフィンガー配列には下線を引いてある。CDK4 TCRと示されたZap70-PD1-ジンクフィンガー・デグロンで修飾された初代ヒトT細胞を、0.5 μMポマリドマイド、0.5 μMサリドマイド、またはDMSO対照で前処理した。データは、ポマリドマイドまたはサリドマイドの存在下または非存在下でNKIRTIL006腫瘍細胞と共培養したときのCDK4 TCR+、EGFP高CD8+ T細胞の細胞内IFNγ、IL2、TNFαおよび細胞表面LAMP1発現を示す。誤差棒は標準偏差を表す(n=2)。
【0041】
【
図17-2】
図17は、複合ZFP91/IKZF1(二重ZF)に基づくCRASH-ITスイッチがIMiDs存在下でT細胞機能の回復に非常に効果的であることを示す。
図17Aは実験に使用したジンクフィンガー・デグロンのアミノ酸配列を示す。IKZF1、IKZF3、ZFP91、ZNF276、ZNF653、ZNF692(すべて二重ZF)、またはIKZF1 ZF3との複合ZFP91/IKZF1ジンクフィンガー・デグロン(それぞれ二重ZF、単一ZF)由来の野生型ジンクフィンガー・デグロンを用いて実験に使用された。個々のC2H2ジンクフィンガー配列には下線を引いてある。CDK4 TCRと示されたZap70-PD1-ジンクフィンガー・デグロンで修飾された初代ヒトT細胞を、0.5 μMポマリドマイド、0.5 μMサリドマイド、またはDMSO対照で前処理した。データは、ポマリドマイドまたはサリドマイドの存在下または非存在下でNKIRTIL006腫瘍細胞と共培養したときのCDK4 TCR+、EGFP高CD8+ T細胞の細胞内IFNγ、IL2、TNFαおよび細胞表面LAMP1発現を示す。誤差棒は標準偏差を表す(n=2)。
【発明を実施するための形態】
【0042】
配列表への参照
本開示の一部である配列リストは、本発明のヌクレオチド配列および/またはアミノ酸配列を含むテキストファイルを含む。配列表の主題は、その全体が本明細書に組み込まれる。コンピュータ可読形式で記録された情報は、書き込まれた配列表と同一である。
【0043】
定義
本明細書で使用される項目の見出しは、組織化を目的とするもので、記載された主題を限定するものと解釈されるものではない。
【0044】
本開示の一部には、著作権保護の対象となる資料が含まれている(図、装置写真、または本提出物のその他の側面で、あらゆる法域において著作権保護が可能である、または可能性があるものなど。)。著作権者は、特許庁の特許ファイルまたは記録に記載されている特許文書または特許開示のファクシミリ複製について何ら異議を唱えるものではないが、それ以外については一切の著作権を留保する。
【0045】
本発明の方法、組成物、用途および他の態様に関連する様々な用語は、本明細書および特許請求の範囲全体で使用される。このような用語には、特に断らない限り、本発明が属する技術分野における通常の意味が与えられるべきである。他の具体的に定義された用語は、本明細書で提供される定義と一致する方法で解釈されるものとする。本明細書に記載されたものと類似または同等の任意の方法および材料を、本発明の試験のための実施に使用することができるが、好ましい材料および方法を本明細書に記載する。
本発明の目的のために、以下の用語を定義する。
【0046】
本明細書で使用する単数形の用語「a」、「an」、「the」は、内容が明確に指示する場合を除き、複数の参照語を含む。したがって、例えば、「a cell」という場合は、2つ以上のセルの組合せなどを含む。
【0047】
本明細書では、用語「および/または」は、記載された事例の1つ以上が単独でまたは記載された事例の少なくとも1つと組み合わせて、最大で全ての記載された事例の全てまでが一緒に起こる可能性がある状況を意味する。
【0048】
本明細書で使用される場合、用語「少なくとも」特定の値は、その特定の値以上を意味する。例えば、「少なくとも2」は、「2以上」すなわち、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15等と同じと解釈される。本明細書で使用されるように、用語「多くても」特定の値は、その特定の値以下を意味する。例えば、「多くても5」は、「5以下」すなわち、5、4、3、...-10、-11等と同じと解釈される。
【0049】
本明細書で使用される場合、用語「を含む」は、包括的かつ無制限であり、排他的ではないものと解釈される。具体的には、この用語およびその変形は、指定された構造、工程または構成要素が含まれることを意味する。これらの用語は、他の構造、工程または構成要素の存在を排除するように解釈されるものではない。また、より限定的な「からなる」をも包含する。
【0050】
本明細書で使用する「従来技術」または「当業者に知られている方法」は、本発明の方法で使用される従来技術の実施方法が当業者にとって明らかであるような状況を指す。分子生物学、生化学、細胞培養、ゲノミクス、配列決定、医療、薬理学、免疫学および関連分野における従来技術の実施は、当業者にとって周知であり、様々な便覧や文献参照で考察されている。
【0051】
本明細書において、用語「例示的」は、「例、実例、または説明として機能する」ことを意味し、本明細書に開示された他の構成を除外するものとして解釈されるべきではない。
【0052】
本明細書において、用語「癌」は、哺乳類における、典型的には無秩序な細胞増殖で特徴づけられる生理的な状態を意味する。用語「癌」、「新生物」、および「腫瘍」は、しばしば互換的に使用されて、宿主生物にとって病的となる悪性転換を遂げた細胞を表す。原発性癌細胞は、当業者に既知の技術によって非癌細胞と区別することができる。本明細書で使用される癌細胞は、原発性癌細胞のみならず、このような原発性癌細胞から誘導された癌細胞、例えば、転移した癌細胞、および癌細胞から誘導された細胞株をも含む。例としては、固形腫瘍および非固形腫瘍または血液腫瘍が挙げられる。癌の例としては、限定されないが、白血病、リンパ腫、肉腫および癌(例えば、大腸癌、膵臓癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、黒色腫、リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、結腸癌、(悪性)黒色腫、甲状腺癌、乳頭状甲状腺癌、肺癌、非小細胞肺癌および肺腺癌)が挙げられる。よく知られているように、腫瘍は、最初の場所から1箇所以上の他の身体組織または部位に転移することがある。患者における「新生物」、「腫瘍」、または「癌」に対する治療について述べる場合は、原発癌の治療、および、適切な場合には、転移の治療を含む。
【0053】
本明細書で使用する場合、用語「キメラ遺伝子」または「キメラ核酸」は、同種中の自然界で通常見られない任意の遺伝子または核酸、特にヌクレオチド配列の1つ以上の部分が自然界で互いに関連しない遺伝子または核酸を指す。例えば、プロモーターは、転写領域の一部もしくは全部、または別の調節領域と自然界で関連しておらず、あるいは転写領域の中の異なる部分は自然界で関連していない。用語「キメラ遺伝子」は、プロモーターまたは転写調節配列が1つ以上のコード配列に作動可能に連結されている発現構築物を含むものとする。キメラ核酸のキメラ遺伝子は、いくつかの実施形態において、キメラタンパク質を作るために使用される。
【0054】
本明細書において、用語「タンパク質」および「ポリペプチド」は、特定の作用機序、サイズ、三次元構造または起源に関係なく、アミノ酸の鎖からなる分子を指す。したがって、ポリペプチドの「断片」または「部分」または「一部」は、依然として「ポリペプチド」と称されることがある。「単離タンパク質」または「単離ポリペプチド」は、例えば実験器具内または組換え宿主細胞中で、もはやその自然環境にないタンパク質またはポリペプチドを指すために使用される。
【0055】
本明細書で使用される用語「キメラポリペプチド」、「キメラタンパク質」または「融合タンパク質」は、同種中の自然界に通常存在しない任意のポリペプチドであり、特に、アミノ酸配列の一つ以上の部分が自然界で互いに関連していないポリペプチドのことである。例えば、キメラポリペプチドは、自然界で互いに関連しないアミノ酸の第1の配列からなるN末端部分と、自然界でこの順序で互いに関連しないアミノ酸の第2の配列からなるC末端部分を含んでもよい。キメラポリペプチドは、例えば、核酸のキメラ遺伝子の転写および翻訳から得ることができる。
【0056】
本明細書で使用する用語「核酸」または「ポリヌクレオチド」は、(連続した)ヌクレオチドの任意のポリマーまたはオリゴマーを指す。核酸は、DNAもしくはRNA、またはそれらの混合物であってよく、ホモ二本鎖、ヘテロ二本鎖、および複合状態を含む一本鎖または二本鎖の形態で永久的または移行的に存在することができる。本発明は、任意のデオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチドまたはペプチド核酸成分、およびこれらの塩基のメチル化、ヒドロキシメチル化またはグリコシル化形態などの任意の化学変異体を企図する。ポリマーまたはオリゴマーは、組成が不均質でも均質でよく、天然に存在する供給源から単離されてもよく、人工的または合成的に製造されてもよい。従って、用語「単離された」は、天然に存在する供給源から単離されたもの、または人為的もしくは合成的に製造されたものを意味する。
【0057】
本明細書で使用する場合、用語「医薬組成物」は、治療上有効な量の材料を1種以上の医薬的に許容される担体(添加物)および/または希釈剤とともに含む、医薬的に許容される組成物を意味する。
【0058】
本明細書において、用語「治療」または「処置」は、治療剤(生物学的材料および細胞を含む)すなわち治療薬による腫瘍の処置をいう。治療には、複数種の薬物の投与が含まれる場合がある。薬物を、治療される状態に依存して、単独で、または他の治療と組み合わせて、同時または順次に投与してもよい。例えば、治療は、2種の薬物/薬剤の投与を含む共治療であってよく、そのうちの1種以上は、腫瘍の治療を意図すればよい。治療方針は、医師または開業医が作成し、治療を必要とする患者に適合するように調整される、治療投与の予め定められた予定表、計画、方式または日程であってもよい。治療方針は、患者に投与する治療法の種類、各薬物の用量、投与間の時間間隔、各治療の長さ、休薬期間がある場合はその回数と性質などのうちの1つ以上を示すことができる。共同療法の場合は、各薬物の投与方法を示す単一の治療計画が提供されることがある。
【0059】
本明細書で使用する場合、用語「患者」、「個体」、または「対象」は、哺乳類を指す。哺乳類には、家畜(例えば、牛、羊、猫、犬、および馬)、霊長類(例えば、ヒトおよび非ヒト霊長類、例えばサル)、ウサギ、およびげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)が含まれるが、これらに限定されるものではない。特定の実施形態では、患者、個体、または対象は、ヒトである。実施形態によっては、患者は、「癌患者」、すなわち、1種以上の癌の症状に罹患しているかその危険性がある者かも知れない。
【0060】
本明細書で使用する用語「ベクター」は、それが連結された別の核酸を伝播させることができる核酸分子を指す。この用語には、自己複製する核酸構造としてのベクターと、それが導入された宿主細胞のゲノムに組み込まれたベクターとが含まれる。特定のベクターは、それが作動的に連結されている核酸の発現を誘導することができる。本明細書では、このようなベクターを「発現ベクター」と呼ぶ。
【0061】
発明の詳細な説明
本明細書に記載される任意の方法、使用または組成物は、本明細書に記載される任意の他の方法、使用または組成物に関して実施できることが企図される。本発明の方法、使用および/または組成物の文脈で説明される実施形態は、本明細書に記載される任意の他の方法、使用または組成物に関して採用することができる。したがって、ある方法、使用または組成物に係る実施形態は、本発明の他の方法、使用および組成物にも応用することができる。
【0062】
本明細書に具現化され、広く説明されるように、本発明は、本明細書に開示されるようなキメラポリペプチドを用いて、T細胞活性、特にT細胞の細胞傷害性活性を制御すること、および/またはそのようなT細胞、例えばCD4またはCD8陽性T細胞によるサイトカイン分泌を制御すること、ならびにナチュラルキラー細胞活性、特にNK細胞の細胞傷害性活性を制御することおよび/またはそのようなNK細胞によるサイトカイン分泌を制御することが可能になったことを見出す驚くべき発見に向けられるものである。
【0063】
より具体的には、本発明者らは、T細胞およびNK細胞におけるシグナル伝達経路を調節および/または操作するための革新的なシステムを開発した。このシステムは、T細胞受容体(TCR)および/またはキメラ抗原受容体(CAR)を介したシグナル伝達の結果としてT細胞活性を時間および/または用量依存的に調節すること、かつNK細胞受容体(NKR)および/またはキメラ抗原受容体(CAR)を介したシグナル伝達の結果としてNK細胞活性を時間および/または用量依存的に調節することができる。本システムは、天然のT細胞または特定の(修飾)TCRおよび/もしくはCARを発現するように操作されたT細胞を含むTCRおよび/もしくはCARを発現する任意の細胞、ならびに天然または操作されたNK細胞を含むNKRおよび/もしくはCARを発現する任意の細胞に好適に使用することができる。したがって、本発明の実施形態によれば、本発明による細胞は、リンパ球、特に、T細胞またはNK細胞である。なお、このようなT細胞および/またはNK細胞は、任意の「修飾」T細胞またはNK細胞、例えばCAR T細胞、CAR NK細胞、複数のCAR T細胞、複数のCAR NK細胞、タンデムCAR T細胞、タンデムCAR NK細胞、遺伝子組換えTCR T細胞、および遺伝子組換えTCR NK細胞などを含む。
【0064】
本開示は、本発明によるキメラポリペプチドの発現を時間および/または用量依存的に調節(例えば、減少または増加)するのに利用される低分子制御タンパク質安定性ドメインの存在により、本発明によるキメラポリペプチドによるT細胞およびNK細胞活性(例えば細胞傷害活性および/またはサイトカイン分泌)の厳密な調節を提供する。
【0065】
このキメラポリペプチドは、DAP12、免疫グロブリン受容体FcεRIのγ(ガンマ)鎖またはCD3 ζ鎖などのITAMを持つシグナル伝達分子を含むTCR/CD3複合体ならびに/またはCARおよび/もしくはNK細胞受容体(NKR)複合体中のリン酸化免疫チロシンに基づく活性化モチーフ(ITAM)に相互作用するように設計されている(Lanier et al, Nat Immunol. 2008 May; 9(5): 495-502)。
【0066】
これらのITAMモチーフ内のチロシン残基は、受容体分子とそのリガンドとの相互作用後にリン酸化され、細胞のシグナル伝達経路に関与する他のタンパク質のドッキング部位を形成する。本発明によるキメラポリペプチドとTCRおよび/またはCARとの相互作用により、T細胞の活性化(およびその後の細胞傷害作用および/またはサイトカイン分泌)は阻害される。同様に、本発明によるキメラポリペプチドとNK細胞におけるNKRおよび/またはCARとの相互作用によって、NK細胞の活性化(ならびにそれに続く細胞障害作用および/またはサイトカイン分泌)は阻害される。
【0067】
好ましい実施形態によれば、キメラポリペプチドは、小分子制御タンパク質安定性ドメインおよびリン酸化ITAMモチーフと相互作用するドメインの次に、免疫受容体チロシンに基づくスイッチモチーフ(ITSM)、好ましくはITSMおよび免疫受容体チロシンに基づく抑制モチーフ(ITIM)も含む。このようなモチーフは、例えば、PD1の阻害性尾部に存在し、PD1の免疫抑制作用に関与することが示唆されている(Boussiotis et al, Cancer J. 2014 Jul-Aug; 20(4): 265-271)。キメラポリペプチドにこのようなITSMの存在、好ましくはこのようなITSMとITIMの存在することで、キメラポリペプチドが、例えば、TCR、NKRまたはCARによるシグナル変換(リガンドの受容体への結合時)を有効に阻害できることが意外にも発見された。ここでは、これらのITSM、好ましくは、例えばPD1のような阻害性免疫受容体タンパク質の阻害性尾部に存在するようなITSMおよびITIMを用いて、阻害性タンパク質の細胞外ドメインの存在またはそのリガンド(例えばPD1についてはPD-L1)との相互作用を必要とせずに、T細胞におけるTCRおよび/またはCARシグナル伝達およびNK細胞におけるNKRシグナル伝達を阻害できることを示す。細胞、例えばT細胞におけるキメラポリペプチドの用量依存的な発現を可能にする小分子制御タンパク質安定性ドメインと組み合わせて、このシステムは、T細胞の機能、例えばT細胞の活性化、T細胞の細胞傷害性および/またはT細胞のサイトカイン分泌を正確に制御する効率的で信頼できる方法を提供する。このようにして、T細胞の機能は、予防/抑制され、または活性化され、生体外および生体内の両方で、T細胞の機能性を維持、回復、安全かつ制御可能にすることができる(すなわち、癌または(修飾)TCRおよび/またはCARを発現するT細胞を含むT細胞の使用に依存する自己免疫疾患のような他の状態の治療で)。
【0068】
同様に、NK細胞の機能は、予防/抑制されるか、または活性化され、生体外および生体内の両方で、NK細胞の機能性を維持、回復、安全かつ制御可能に導くことができる(すなわち、癌または(修飾)NKRおよび/またはCARを発現するNK細胞を含むNK細胞の使用に依存する自己免疫疾患などの他の状態の治療で)。
【0069】
したがって、本発明の第1の側面によれば、キメラポリペプチド、または前記キメラポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む細胞が提供される。前記キメラポリペプチドは、
a) リン酸化免疫受容体チロシンに基づく活性化モチーフ(ITAM)に結合するタンパク質由来のSH2ドメインを含む第1の部分、および
b) 小分子制御タンパク質安定性ドメインを含む第2の部分を含む。
【0070】
本発明による細胞は、本明細書に開示されるようなキメラポリペプチドまたはこのようなキメラポリペプチドをコードする核酸を好適に含むことができる任意の細胞であってよい。実施形態によっては、細胞は原核細胞である。実施形態によっては、細胞は真核生物細胞である。好ましくは、細胞は真核細胞であり、さらに好ましくは、ヒト細胞のような哺乳類細胞である。細胞は、T細胞やNK細胞などの特殊な細胞でもよく、(未分化)幹細胞を含む任意の他の種類の細胞でもよい。
【0071】
本発明によるポリペプチドは、少なくとも第1の部分と第2の部分を含むキメラポリペプチドである。第1の部分および第2の部分がキメラペプチド中に存在する順序は重要ではない。本発明は、キメラポリペプチド中の第1の部分、第2の部分、または実施形態によっては第3の部分の位置によって限定されない。例えば、実施形態によっては、第1の部分または第2の部分は、キメラポリペプチドのN末端またはC末端に融合(例えば、遺伝的に連結)されているか、またはキメラポリペプチドの内部で存在する。言い換えれば、キメラポリペプチド中で、第1の部分および/または第2の部分は、C末端に存在してもよく、N末端に存在してもよく、あるいはC末端および/またはN末端で追加の部分によって挟まれていてもよい。第1の部分は、第2の部分に対してよりC末端側であってもよく、あるいは第2の部分に対してよりN末端側であってもよい。
【0072】
第1の部分と第2の部分は、互いに直接隣接していてもよいし、追加の部分、すなわち追加の(一続きの)アミノ酸残基によって互いに分離されていてもよい。
【0073】
本明細書に開示されるキメラポリペプチドは、リン酸化免疫受容体チロシンに基づく活性化モチーフ(ITAM)と結合するタンパク質由来のSH2ドメインを含む第1の部分の存在を特徴とする。実施例から分かるように、SH2ドメインは、リン酸化されたITAMに結合することができるタンパク質由来の任意のSH2ドメインであってもよい。当業者は、本明細書に開示されるようなキメラポリペプチドで使用される適切なSH2ドメインをよく知っており、かつ/あるいはそのような適切なSH2ドメインまたはリン酸化ITAMに結合できるそのようなSH2ドメインを含むタンパク質を容易に特定することができる。当業者は分かっているが、適切なSH2ドメインは、例えば、本発明によるキメラポリペプチドが設計されるTCR/CD3複合体ならびに/またはCARおよび/もしくはNK細胞受容体(NKR)複合体に含まれるITAMを考慮して選択される。言い換えれば、本発明によるキメラタンパク質は、リン酸化免疫受容体チロシンに基づく活性化モチーフ(ITAM)に結合するタンパク質からのSH2ドメインを含み、前記ITAMは、例えば、本発明の文脈で標的とされるべきTCRまたはCAR複合体に構成される。
【0074】
本明細書において、用語「SH2ドメイン」は、SRC相同2ドメインを意味する。SH2ドメインは、Src腫瘍性タンパク質および他の多くの細胞内シグナル変換タンパク質に含まれる、構造的に保存されたタンパク質ドメインである。SH2ドメインを持つタンパク質は、他のタンパク質のリン酸化チロシン残基とドッキングすることができる。このように、SH2ドメインは、アダプターとして機能し、それぞれのタンパク質結合相手のリン酸化ペプチドと結合して、タンパク質間相互作用を仲介するモジュール型タンパク質ドメインである。
【0075】
SH2ドメインは通常、標的タンパク質内の長いペプチドモチーフ中でリン酸化されたチロシン残基と結合する。SH2ドメインは、このように本質的な触媒活性を持たないが、ポリペプチド内の結合した機能ドメインを適切な基質、活性化因子または阻害剤の近傍に局在させる役割を果たす(Ngoenkam et al, Immunology. 2018 Jan; 153(1): 42-50)。
【0076】
SH2ドメインの中には、例えば、リン酸化免疫受容体チロシンに基づく活性化モチーフ(ITAM)を持つタンパク質と相互作用するものがあり、他のSH2ドメインは、リン酸化免疫受容体チロシンに基づく抑制モチーフ(ITIM)を持つタンパク質と相互作用する可能性がある。本発明では、リン酸化免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)と結合するタンパク質由来のSH2ドメインが用いられる。リン酸化されたITAMに結合するタンパク質からのSH2ドメインは、本明細書に開示されるようなキメラペプチドによるT細胞活性またはNK細胞活性の調節に重要であるが、ITIMと相互作用するSH2ドメインは本発明によるキメラポリペプチドにおける使用には全くあるいはほとんど適さないことが意外にも見出された。
【0077】
好ましい実施形態では、SH2ドメインは、TCR複合体、NKR複合体および/またはCARに存在するリン酸化免疫受容体チロシンベース活性化モチーフ(ITAM)を結合するタンパク質由来のものである。
【0078】
実施形態によっては、SH2ドメインは、Liuら(Mol Cell. 2006;22(6):851-868. doi:10.1016/j.molcel.2006.06.001)により、120の既知のヒトSH2ドメインについてβA-αA-βB-βC-βD-βE-βF-αB-βGとして注釈されたSH2ドメインである。βはβ鎖を、αはαヘリックスを指す)(Eck et al, Nature. 1993;362(6415):87-91. doi:10.1038/362087a0)。 SH2ドメインは、例えば、当業者によく知られている様々なデータベースで見つけることができる(例えばsmart.embl.de/smart/do_annotation.pl?DOMAIN=SM00252またはwww.ebi.ac.uk/interpro/entry/InterPro/IPR000980/ を参照のこと)。
【0079】
ここで使われている用語「免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)」は、2度反復される、免疫系の特定の細胞表面タンパク質の細胞質尾部(すなわち末端ドメイン)に存在する4つのアミノ酸の保存配列を意味する。半ITAMは、チロシン残基(Y)がロイシン残基(L)またはイソロイシン残基(I)から任意の2個のアミノ酸で隔てられているものである。半ITAMの共通配列はYxxL/lである。2つの半ITAMは通常6~8個のアミノ酸で分離され、完全なITAMを形成する。ITAMの共通配列はYxxL/lx(6-8)YxxL/lである。 ITAMは免疫細胞のシグナル伝達に重要な役割を担っており、T細胞受容体複合体(CD3 ε鎖、CD3 δ鎖、CD3 γ鎖、CD3 ζ鎖)の細胞質尾部に見いだされる。NK細胞では、ITAMは、CD3 ζ鎖、免疫グロブリン受容体FcεRIの γ(ガンマ)鎖およびDAP12を含むNK細胞受容体複合体に存在する(Lanier et al, Nat Immunol. 2008 May; 9(5): 495-502)。ITAMは、CD3 ζ鎖(Abate-Daga et al, Mol Ther Oncolytics. 2016; 3: 16014)、CD3 ε鎖(Nolan et al, Clin Cancer Res. 1999 Dec;5(12):3928-41)、免疫グロブリン受容体FcεRIのγ(ガンマ)鎖(Ren-Heidenreich et al, Cancer Immunol Immunother. 2002 Oct;51(8):417-23) およびDAP12 (Topfer et al, J Immunol. 2015 Apr 1;194(7):3201-12)を含むキメラ抗原受容体(CAR)複合体にも存在する。
【0080】
ITAMモチーフのチロシン残基は、受容体分子がリガンドと相互作用した後にリン酸化され、細胞のシグナル伝達経路に関与する他のタンパク質とドッキングする部位を形成する。一旦リン酸化されると、そのようなリン酸化ITAMに結合するSH2ドメインを含むタンパク質は、例えばCD3 ζ鎖に存在するリン酸化ITAMと相互作用することができる。いくつかのタンパク質は、1つ以上のITAMモチーフを持つ末端ドメインを含むことが知られている。そのようなタンパク質の例には、CD3 γ鎖、CD3 δ鎖およびCD3 ε鎖、CD3 ζ鎖、免疫グロブリン受容体FcεRIのγ(ガンマ)鎖およびDAP12が含まれる。
【0081】
本明細書に開示されるキメラポリペプチドは、低分子制御タンパク質安定性ドメインを構成する第2の部分の存在によりさらに特徴付けられる。小分子制御タンパク質安定性ドメインは、制御可能な不安定化ドメインと呼ばれることもある。本発明のキメラポリペプチドにおけるこの低分子制御タンパク質安定性ドメインまたは制御可能不安定化ドメインは、本発明のキメラポリペプチドの発現を時間および/または用量依存的に調節(例えば、減少または増加)するのに利用される。
【0082】
より詳細には、本発明のキメラポリペプチドにおける低分子制御タンパク質安定化ドメインまたは制御可能不安定化ドメインは、キメラポリペプチドを構成する細胞に化合物(例えば低分子)を供給することで制御されるドメインである。化合物の添加により、キメラポリペプチド中の低分子制御タンパク質安定化ドメインまたは制御可能不安定化ドメインは、キメラポリペプチドの分解を引き起こすように修飾される。
【0083】
言い換えれば、このような化合物に応答して、化合物とキメラポリペプチド中の低分子制御タンパク質安定化ドメインまたは制御可能不安定化ドメインとの相互作用を介して、本発明によるキメラポリペプチドは分解され、細胞中のキメラポリペプチドの水準すなわち濃度が減少する。ひいては、細胞内のキメラポリペプチドの水準すなわち濃度の減少により、TCRおよび/またはCARを介したシグナル伝達の結果として、T細胞機能の阻害、例えば、T細胞の活性化、T細胞の毒性および/またはT細胞によるサイトカインの分泌は逆転される。
【0084】
同様に、NK細胞においても、細胞内のキメラポリペプチドの水準すなわち濃度の低下により、NKRおよび/またはCARを介したシグナル伝達の結果として、NK細胞の機能、例えば、NK細胞の活性化、NK細胞の毒性および/またはNK細胞によるサイトカインの分泌の抑制が逆転される。このようにして、T細胞機能および/またはNK細胞機能は、本発明のキメラポリペプチドによって調節される。このようにして、キメラポリペプチド中の低分子制御タンパク質安定化ドメインまたは制御可能不安定化ドメインと相互作用する化合物を細胞に供給し、本発明のキメラポリペプチドの分解を引き起こして、T細胞機能および/またはNK細胞機能を調節することができる。
【0085】
本発明のキメラポリペプチドを用いると、意外にも、キメラポリペプチド中の低分子制御タンパク質安定化ドメインまたは制御可能不安定化ドメインを介して、T細胞機能またはNK細胞機能を可逆的にかつ/あるいは用量依存的に調節できることが判明した(実施例参照)。低分子制御タンパク質安定性ドメインまたは制御可能不安定化ドメインと相互作用し、その相互作用によってキメラポリペプチドの破壊を引き起こす化合物がない場合、本発明のキメラポリペプチドは、キメラポリペプチドとTCR/CD3複合体および/またはCARとの相互作用の結果としてTCRおよび/またはCARを介してシグナル伝達を阻害してT細胞機能を抑制する。
【0086】
同様に、低分子制御タンパク質安定性ドメインまたは制御可能不安定化ドメインと相互作用し、かつキメラポリペプチドの分解を引き起こす化合物が存在しない場合、本発明のキメラポリペプチドは、CD3 ζ鎖、免疫グロブリン受容体FcεRIのγ(ガンマ)鎖およびDAP12および/またはCARなどのITAMを持つシグナル伝達分子を含むNKR複合体とキメラポリペプチドが相互作用し、その結果、NKRおよび/またはCARを介してシグナル伝達を阻害することでNK細胞機能を阻害する。このような化合物の存在下では、キメラポリペプチドは細胞内のタンパク質分解系に誘導され、それによりT細胞機能および/またはNK細胞機能の阻害を解除する。このT細胞機能および/またはNK細胞機能の阻害の解除は、実施例から立証できるように用量依存的である。
【0087】
あるいは、低分子の非存在下で本発明のキメラタンパク質の分解を誘導する低分子制御タンパク質安定化ドメインまたは制御可能不安定化ドメインを使用してもよい。このような実施形態では、小分子が存在すると、キメラタンパク質が安定化し、それによりT細胞またはNK細胞の機能が損なわれ、小分子化合物を除去すると、T細胞またはNK細胞の活性が回復する。
【0088】
本発明は、いかなる小分子制御タンパク質安定化ドメインまたは制御可能な不安定化ドメインに限定されない。実際、キメラポリペプチドの安定性を付与する任意の小分子制御タンパク質安定性ドメインまたは制御可能な不安定化ドメインが本発明で使用されてもよい(Roth et al, Cell Mol Life Sci. 2019 Jul;76(14):2761-2777)。ここでキメラポリペプチド中の低分子制御タンパク質安定性ドメインまたは制御可能不安定化ドメインは、その同族低分子の存在によってキメラポリペプチドを分解に向けるように修飾されている場合にキメラポリペプチド分解が起こる。当業者は、そのような好適な小分子制御タンパク質安定性ドメインまたは制御可能な不安定化ドメインのことをよく知っている。小分子-制御されたタンパク質安定性ドメインまたは制御可能な不安定化ドメインの非限定的な例は、自己切断デグロン(SED)であり、SEDは、抑制性プロテアーゼ、同族切断部位、およびデグロン配列(Chung et al, Nat Chem Biol. 2015 Sep;11(9):713-20 )またはタンパク質分解標的キメラ(Protac)結合ドメインを含む。本発明によるキメラポリペプチド中のProtac結合ドメインに順番に結合できるProtacは、E3ユビキチンリガーゼ結合基(E3LB)、リンカー、およびキメラポリペプチド中のProtac結合ドメインに結合するタンパク質結合基を含む(Nabet et al, Nat Chem Biol.2018 May;14(5):431-441, An et al, EBioMedicine. 2018 Oct; 36: 553-562)。本発明で使用される低分子制御タンパク質安定性ドメインまたは制御可能不安定化ドメインの好ましい例は、薬物に応答してCRBNタンパク質に結合し、それによりキメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進できるCRBNポリペプチド基質ドメインとして広く言及されるものである。このような低分子制御タンパク質安定性ドメインの代表的な例としては、いわゆるジンクフィンガー・デグロンが挙げられる。
【0089】
サリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイドなどの低分子IMiDは、生体内で、これらのCys2-His2 (C2H2)ジンクフィンガードメイン含有タンパク質を、CRL4CRBN E3ユビキチンリガーゼの基板受容体セレブロン(CRBN)へ勧誘し、IKZF1やアイオロズ(IKZF3)などの転写因子をユビキチン化しプロテアソーム分解するよう誘導する。このようなジンクフィンガードメイン(ジンクフィンガー・デグロン)は、このようなジンクフィンガードメインを含む異種タンパク質を発現する細胞にIMiDを提供すると、生体外および生体内の両方で、時間および用量依存的に異種タンパク質を分解の対象とするために使用できる(Koduri et al PNAS (2019) 116 (7) 2539-2544; doi.org/10.1073/pnas.1818109116 を参照のこと)。
【0090】
実際、多数の可能なジンクフィンガーポリペプチドおよびジンクフィンガードメインが、小分子を介した、例えばIMiDs(サリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイドなど)を介した標的タンパク質の分解に組み入れられている(例えば、Sievers et al. Science. 2018 Nov 2; 362(6414): eaat0572.doi:10.1126/science.aat0572)を参照のこと。それを考慮して、当業者は、薬物に応答してCRBNタンパク質に結合することができるCRBNポリペプチド基質ドメインの使用と設計により、キメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進することを熟知している。特に、本明細書に詳述するとおり、CRBNポリペプチド基質ドメインは、CRBNポリペプチドに薬物誘導性結合することができるC2H2ジンクフィンガータンパク質またはその断片である。
【0091】
好ましい実施形態によれば、キメラポリペプチドが、免疫受容体チロシンに基づくスイッチモチーフ(ITSM)、免疫受容体チロシンに基づく抑制モチーフ(ITIM)、または好ましくはITSMおよび免疫受容体チロシンに基づく抑制モチーフ(ITIM)を含む第3の部分を含む、本発明の細胞が提供される。別の実施形態によっては、第3の部分は、免疫受容体チロシンに基づくスイッチモチーフ(ITSM)および/または免疫受容体チロシンに基づく阻害モチーフ(ITIM)、好ましくはITSMおよび免疫受容体チロシンに基づく阻害モチーフ(ITIM)を含む。
【0092】
好ましくは、第3の部分は、免疫受容体チロシンに基づくスイッチモチーフ(ITSM)、好ましくはITSMおよび免疫受容体チロシンに基づく抑制モチーフ(ITIM)を含む。
【0093】
第1、第2、および第3の部分がキメラペプチド中に存在する順序は重要ではない。本発明は、一般に、キメラポリペプチド中の第1の部分、第2の部分、または第3の部分の位置によって制限されない。例えば、実施形態によっては、第1の部分、第2の部分、または第3の部分は、キメラポリペプチドのN末端またはC末端に融合(例えば、遺伝子的に連結)されているか、またはキメラポリペプチド内部に存在する。言い換えれば、キメラポリペプチドにおいて、第1、第2、または第3の部分は、C末端に存在してもよく、N末端に存在してもよく、またはC末端および/またはN末端で他の部分により挟まれていてもよい。第1の部分(P1)、第2の部分(P2)、および第3の部分(P3)の好適な順序の例は、一般に、xP1xP2xP3x、xP1xP3xP2x、xP2xP1xP3x、xP2xP3xP1x、xP3xP1xP2x、またはxP3xP2xP1xのいずれであってもよい。ここで、任意の位置のxは、独立して、追加のアミノ酸残基の存在しないこと、またはP1、P2および/もしくはP3の一部を形成しない1つ以上の追加のアミノ酸残基の存在を指す。第1の部分および第2の部分の順序に関して、例えば第3の部分が存在しない実施形態において、および上記の例と類似して、第1の部分(P1)および第2の部分(P2)の適切な順序の例は、一般にxP1xP2x、またはxP2xP1xであってよく、任意の位置でのxは、追加のアミノ酸残基の存在、またはP1および/もしくはP2の一部を形成しない、1つ以上の追加のアミノ酸残基の存在をそれぞれ独立して示している。
【0094】
同時に、当業者は、第1の部分は、リン酸化免疫受容体チロシンに基づく活性化モチーフ(ITAM)を結合するタンパク質からのSH2ドメインに加えて、さらなるドメインまたはアミノ酸、例えばリン酸化免疫受容体チロシンに基づく活性化モチーフ(ITAM)を結合するタンパク質中に通常SH2ドメイン(片側または両側)に隣接する1つまたはいくつかのアミノ酸を含むことができることが分かっている。
【0095】
同時に、当業者は、第2の部分は、小分子制御タンパク質安定性ドメインに加えて、片側または両側にさらなるドメインまたはアミノ酸を含んでいてもよいことが分かっている。
【0096】
同時に、当業者は、第3の部分は、免疫受容体チロシンに基づくスイッチモチーフ(ITSM)、好ましくはITSMおよび免疫受容体チロシンに基づく阻害モチーフ(ITIM)に加えて、さらなるドメインまたはアミノ酸、例えば通常これらのモチーフを(片側または両側で)挟むアミノ酸のうちの1つまたはいくつかを含んでいてもよいことが分かっている。
【0097】
当業者は、低分子制御タンパク質安定性ドメインまたは制御可能不安定化ドメインが、低分子制御タンパク質安定性ドメインまたは制御可能不安定化ドメインと相互作用する化合物と接触したときに、キメラポリペプチド中に配置される限り、本発明のキメラポリペプチドの第1、第2、および第3の部分が任意の順序でキメラポリペプチド中に存在し、キメラポリペプチドが分解され、TCRやCARとの相互作用を介したT細胞機能やNK細胞機能の阻害が解除されることが分かっている。
【0098】
用語「ITIM」および「ITSM」は、当業者に知られている(Liu et al, Mol Cell Proteomics. 2015 Jul; 14(7):1846-58)。
【0099】
本明細書で使用する用語「免疫受容体チロシン系阻害モチーフ(ITIM)」は、一般に、免疫系の多くの阻害性受容体の細胞質尾部に見られる保存されたアミノ酸の配列を指す。ITIMモチーフは、セリン残基(S)、イソロイシン残基(I)、バリン残基(V)またはロイシン残基(L)を含み、チロシン残基(Y)から他の任意のアミノ酸残基(x)を隔てて、イソロイシン残基(I)、バリン残基(V)またはロイシン残基(L)以外の他の任意のアミノ酸2個により分離されたものである。共通記号はS/l/V/LxYxxl/V/Lである。生体内では、ITIMを保有する抑制性受容体がリガンドと相互作用し、ITIMモチーフがSrcキナーゼの酵素によってリン酸化された状態になり、SHP-1やSHP-2などのSH2含有タンパク質チロシンホスファターゼ(PTP) (Coxon et al, Blood. 2017 Jun 29;129(26):3407-3418)およびSHIP-1などの脂質ホスファターゼを動員する。PTPは、LckやZap70などのタンパク質チロシンキナーゼ(PTK)の正の調節作用に対抗し、それによりT細胞シグナル伝達を負に調節する(Lorenz et al, Immunol Rev. 2009 Mar; 228(1): 342-359)。TCR、CAR、その他の免疫受容体のITAMを脱リン酸化することで、PTPはITAMリン酸化の活性化効果を逆転させることができる。脂質ホスファターゼは、脂質リン酸塩とその脱リン酸化物の濃度を変えることで、細胞シグナル伝達を制御する。
【0100】
本明細書で使用する場合、用語「免疫受容体チロシンに基づくスイッチモチーフ(ITSM)」は、免疫系の多くの抑制性受容体の細胞質尾部(または細胞質ドメインまたは細胞内ドメインまたは末端ドメイン)、言い換えれば、細胞の細胞質に存在する(膜および/または細胞外空間には存在しない)タンパク質の部分に見られる保存アミノ酸の列を指す。ITSMモチーフは、バリン残基(V)またはイソロイシン残基(I)から他の2つのアミノ酸で区切られたチロシン残基(Y)から他の任意のアミノ酸残基で区切られたスレオニン残基(T)を含む。共通記号はTxYxxV/Iである。ITIM保有型抑制性受容体と同様に、ITSM保有型抑制性受容体はそのリガンドと相互作用し、ITIMモチーフがSrcキナーゼの酵素によってリン酸化された状態になり、SHP-1やSHP-2などのSH2含有リン酸化体を動員できる(Lorenz et al, Immunol Rev. 2009 Mar; 228(1): 342-359)。研究によっては、ITIMおよびITSMモチーフの両方がPD1の阻害性シグナル伝達に寄与したと報告したものがある(Boussiotis et al, Cancer J. 2014 Jul-Aug; 20(4): 265-271, Peled et al, Proc Natl Acad Sci U S A. 2018 Jan 16;115(3):E468-E477)。一方で、他の研究によれば、ITSMモチーフはPD1の阻害効果に主に関与するが、ITIMモチーフは限定的な効果しか有していなかった(Chemnitz et al, J Immunol. 2004 Jul 15;173(2):945-54, Yokosuka et al, J Exp Med. 2012 Jun 4;209(6):1201-17)。
【0101】
本発明によれば、ITSMおよびITIMは、同じタンパク質(例えばPD1)由来であってもよいし、2種の異なるタンパク質(例えばPD1由来のITIMおよびLY9由来のITSM)由来であってもよい。好ましくは、ITSMおよびITIMは、同じタンパク質に由来するか、または同じタンパク質から得られる。好ましくは、ITSMおよびITIMは、本発明ペプチドによるキメラポリペプチドの第3の部分において、15~25個のアミノ酸によって互いに分離されている。実施形態によっては、ITSMおよびITIMを分離するアミノ酸は、ITSMおよびITIMが由来するかまたは得られたタンパク質中のアミノ酸と同じアミノ酸である。
【0102】
好ましくは、本発明によるキメラポリペプチドにおいて、リン酸化免疫受容体チロシンに基づく活性化モチーフに結合するタンパク質からのSH2ドメインを含む第1の部分は、少なくとも80個の隣接するアミノ酸、および/または多くても800個の隣接するアミノ酸、好ましくは少なくとも100個の隣接するアミノ酸、および/または多くても400個のアミノ酸、例えば150~300個のアミノ酸からなる。
【0103】
好ましくは、本発明によるキメラポリペプチドにおいて、免疫受容体チロシンに基づくスイッチモチーフ(ITSM)、好ましくはITSMおよび免疫受容体チロシンに基づく阻害モチーフ(ITIM)を含む第3の部分は、少なくとも30個の隣接するアミノ酸、および/または多くても600個の隣接するアミノ酸、好ましくは少なくとも80個の隣接するアミノ酸、および/または多くても200個のアミノ酸、例えば85~190個のアミノ酸からなる。
【0104】
また、本発明による細胞が提供される。小分子制御タンパク質安定性ドメインは、抑制性プロテアーゼ、同族切断部位、およびデグロン配列を含む自己切断デグロン(SED)、タンパク質分解標的キメラ(Protac)結合ドメイン(ProtacはE3ユビキチンリガーゼ結合基(E3LB)、リンカー、およびキメラポリペプチド中のProtac結合ドメインに結合するタンパク質結合基を含む)、および薬物に反応してCRBNタンパク質に結合し、それによりキメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進できるCRBNポリペプチド基板ドメインからなる群から選択される。例えば、Protacのタンパク質結合基は本発明のキメラポリペプチド中のProtac結合ドメイン(例えばFKBP12F36V(配列番号35、Nabet et al. Nat Chem Biol. 2018 May;14(5):431-441)でもよい)に結合するAP1867であってもよい。PROTAC技術に関する最近の総説については、Zou et al. Current Protocols (2019) V37:1: pp 21 -30; doi.org/10.1002/cbf.3369を参照のこと。
【0105】
当業者には自明だが、低分子制御タンパク質安定性ドメイン(または制御可能不安定化ドメイン)は、好適には、キメラポリペプチド中の低分子制御タンパク質安定性ドメイン(または制御可能不安定化ドメイン)が、その同族低分子の存在によってキメラポリペプチドを分解へと導くように修飾/標的化された場合に、キメラポリペプチドの分解が起こるように、キメラポリペプチド安定性を与える任意のドメインであってもよい。
【0106】
好ましくは、低分子制御タンパク質安定性ドメインは、薬物に応答してCRBNタンパク質に結合し、それによりキメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進できるCRBNポリペプチド基質ドメインであり、好ましくは、CRBNポリペプチド基質ドメインはCRBNポリペプチドに薬物誘導的に結合できるC2H2ジンクフィンガータンパク質またはその断片である。
【0107】
好ましくは、小分子制御タンパク質安定性ドメインは、タンパク質分解標的キメラ(Protac)結合ドメインである。このドメインは、同族Protacに結合することができる。
【0108】
好ましくは、小分子制御タンパク質安定性ドメインは、自己切断デグロン(SED)であり、SEDは、抑制性プロテアーゼ、同族切断部位、およびデグロン配列を含む。このような自己切断デグロンは、当業者によく知られている(Chung et al, Nat Chem Biol. 2015 Sep;11(9):713-20)。
【0109】
本明細書で使用する用語「自己切断デグロン」(SED)は、抑制性プロテアーゼ、同族切断部位、およびデグロン配列(または分解配列)を含むポリペプチドまたはタンパク質複合体を意味する。自己切断デグロンは本発明のキメラポリヌクレオチドの一部で、プロテアーゼが本発明のキメラポリペプチドを切断してデグロン配列をキメラポリペプチドの他の部分から分離することができる。
【0110】
実施形態によっては、プロテアーゼによる本発明のキメラポリペプチドの切断は、キメラポリペプチドの少なくとも第1の部分を分離し、デグロン配列からのリン酸化免疫受容体チロシンベース活性化モチーフ(ITAM)(キメラポリペプチドにおける第2の部分の一部である)を結合するタンパク質からSH2ドメインを含む。
【0111】
実施形態によっては、プロテアーゼによる本発明のキメラポリペプチドの切断は、リン酸化免疫受容体チロシンに基づく活性化モチーフ(ITAM)を結合するタンパク質からのSH2ドメインを含むキメラポリペプチドの少なくとも第1の部分とデグロン配列(キメラポリペプチドにおける第2の部分の一部である)から免疫受容体チロシンに基づくスイッチモチーフ(ITSM)、好ましくはITSMおよび免疫受容体チロシンに基づく阻害モチーフ(ITIM)を含む本発明のキメラポリペプチドの第3の部分を分離させるものである。
【0112】
プロテアーゼ自体は、キメラポリペプチドのうちデグロン配列から分離した部分から除去してもしなくてもよい。
【0113】
本明細書で使用する用語「デグロン」は、タンパク質分解速度の調節に重要なタンパク質またはその一部を意味する。短いアミノ酸配列、構造モチーフ、および露出したアミノ酸を含むがこれらに限定されない当該技術分野において既知の様々なデグロンを、本開示の様々な実施形態で使用することができる。様々な生物から同定されたデグロンが使用される。
【0114】
本明細書でSEDの文脈で用いられる用語「デグロン配列」または「分解配列」は、プロテアソーム経路または自己貪食-リソソーム経路のいずれかを介して付着タンパク質の分解を促進する配列のことを指す。多くの異なる分解配列/シグナル(例えば、ユビキチン-プロテアソーム系の)が当技術分野で知られており、そのいずれかを本明細書で提供するように使用することができる。分解配列およびタンパク質分解におけるそれらの機能の考察については、例えば、Kanemaki et al, Pflugers Arch. 2013 Mar;465(3):419-25, Erales et al, Biochim Biophys Acta. 2014 Jan;1843(1):216-21を参照のこと。
【0115】
本明細書で使用する用語「同族切断部位」は、SEDの抑制性プロテアーゼによって認識・切断される特定の配列または配列モチーフを意味する。プロテアーゼの切断部位は、タンパク質分解切断の際にプロテアーゼによって認識される特定のアミノ酸配列またはモチーフを含み、典型的には、プロテアーゼの活性部位に結合して基質として認識されるために用いられる、切断しやすい結合の両側の1つから6つのアミノ酸の近傍を含む。
【0116】
本明細書で使用される用語「抑制可能なプロテアーゼ」は、特定の薬物または化合物、例えば小分子化合物(例えば、プロテアーゼに結合する)の存在により不活性化されるプロテアーゼを指す(Leuw et al, GMS Infect Dis. 2017; 5: Doc08、Lv et al, HIV AIDS (Auckl). 2015; 7: 95-104)。 一部の実施形態では、抑制性プロテアーゼは、特定薬物の非存在下で活性(同族切断部位を切断する)だが、特定薬物の存在下で不活性(同族切断部位を切断しない)である。実施形態によっては、特定薬物は、プロテアーゼ阻害剤である。実施形態によっては、プロテアーゼ阻害剤は、本開示の所定の抑制性プロテアーゼを特異的に阻害する。
【0117】
実施形態において、SEDは、小分子支援遮断(SMASh)技術、すなわち、小分子支援遮断タグ(SMAShタグ)である(Chung et al, Nat Chem Biol. 2015 Sep;11(9):713-20)。これは、分解シグナル(すなわち、デグロン配列)および本発明のキメラポリペプチドの他の部分からデグロンを切断するプロテアーゼ切断部位を含む。しかし、プロテアーゼ阻害剤が存在すると、この切断は遮断され、デグロンはキメラポリペプチドの急速な分解を誘導することができる。実施形態によっては、SMAShは、C型肝炎ウイルス由来のNS3/4Aプロテアーゼ(例えば、アスナプレビルまたはグラゾプレビルによって阻害される)およびプロテアソーム分解を誘導するデグロンドメインに挟まれたものを含むことができる。HCV NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤としては、アスナプレビル、グラゾプレビル、グレカプレビル、ボキシラプレビル、パリタプレビル、シメプレビル、ボセプレビルおよびテラプレビルが含まれる(Majumdar et al, Aliment Pharmacol Ther. 2016 Jun;43(12):1276-92、Ahmed et al, World J Hepatol. 2018 Oct 27; 10(10): 670-684)。
【0118】
別の実施形態では、小分子制御タンパク質安定性ドメイン(または制御可能不安定化ドメイン)は、タンパク質分解標的キメラ(Protac)結合ドメインを含み、Protacは、E3ユビキチンリガーゼ結合基(E3LB)、リンカーおよびキメラポリペプチド中のProtac結合ドメインに結合するタンパク質結合基を含む。
【0119】
細胞の主要な分解経路のひとつに、ユビキチン-プロテアソーム系がある。このシステムでは、タンパク質がユビキチン化されると、プロテアソームによる分解のために標識化される。タンパク質のユビキチン化は、タンパク質に結合し、タンパク質にユビキチン分子を付加するE3ユビキチンリガーゼによって達成される。E3ユビキチンリガーゼは、E1ユビキチン活性化酵素とE2ユビキチン結合酵素を含む経路の一部で、ユビキチンを利用可能にして、E3ユビキチンリガーゼをタンパク質に付加する。
【0120】
この分解経路を利用するために、Protacsが開発された。Protacsは、E3ユビキチンリガーゼに分解対象となるタンパク質を結合させる。プロテアソームによるタンパク質の分解を促進するために、E3ユビキチンリガーゼに結合する基と分解したいタンパク質に結合する基(つまりポリペプチド中のProtac結合ドメイン)でProtacは構成されている。これらの基は、通常リンカーで連結されている。この分子構造により、E3ユビキチンリガーゼと標的タンパク質を近接させ、ユビキチン化し、かつ分解されるように標識化することができる。
【0121】
本明細書で使用する場合、用語「Protac」は、概ね3つの成分、すなわちE3ユビキチンリガーゼ結合基(E3LB)、リンカー、およびタンパク質結合基を持つタンパク質分解標的キメラ分子を意味する。本発明によるキメラポリペプチドで使用されるProtacsおよびProtac結合ドメインは、当業者に周知である(An et al, EBioMedicine.2018 Oct; 36: 553-562)。
【0122】
本明細書で使用される場合、用語「リンカー」は、Protacのある成分をそのProtacの別の成分に共有結合させる、原子の鎖を含む化学部分を意味する。様々な実施形態において、リンカーは、典型的には8~20原子長である(Cyrus et al, Mol Biosyst. 2011 Feb; 7(2): 10.1039/c0mb00074d, Nabet et al, Nat Chem Biol. 2018 May;14(5):431-441 を参照のこと)。市販のリンカーとしては、例えば、Medchemexpress (www.medchemexpress.com)が提供するものを挙げることができる。
【0123】
タンパク質結合基は、標的タンパク質、ここではキメラポリペプチドに存在するProtac結合ドメインに結合する基である。タンパク質結合基は、例えば、タンパク質に特異的に結合する(標的タンパク質に結合する)任意の部位であってもよく、低分子標的タンパク質部位の以下の非限定的な例、すなわちHsp90阻害剤、キナーゼ阻害剤、MDM2阻害剤、ヒトBETブロモドメイン含有タンパク質を標的とする化合物、HDAC阻害剤、ヒトリジンメチルトランスフェラーゼ阻害剤、血管新生阻害剤、免疫抑制化合物、およびアリール炭化水素受容体(AHR)を標的とする化合物など多数(US2014/0356322およびUS2016/0045607参照)が含まれる。
【0124】
実施形態によっては、Protac中のタンパク質結合基はAP1867 (www.medchemexpress.com/AP1867.html)であり、本発明のキメラポリペプチドにおけるProtac結合ドメインはFKBP12F36V (Nabet et al, Nat Chem Biol. 2018 May;14(5):431-441)である。
【0125】
別の実施形態では、小分子制御タンパク質安定化ドメイン(または制御可能不安定化ドメイン)は、薬物に応答してCRBNタンパク質に結合し、それによりキメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進できるCRBNポリペプチド基材ドメインである。好ましくは、CRBNポリペプチド基質ドメインは、CRBNポリペプチドに薬物誘導的に結合することができるC2H2ジンクフィンガータンパク質またはその断片(本明細書では「ジンクフィンガー・デグロン」とも称される)である。また、このような小分子制御タンパク質安定性ドメインを含む本発明によるキメラタンパク質を含む本発明による細胞も提供される。このような実施形態において、本発明によるキメラタンパク質の第2の部分は、薬物の存在下でCRBNタンパク質と相互作用し結合することができる低分子制御タンパク質安定性ドメインを含む。例えば、本明細書に記載されるものを含む様々なIMiDが、CRBNタンパク質に結合し、それによりCRBNタンパク質とその標的との間の相互作用、ユビキチン化、およびその後の標的タンパク質分解を促進することが分かっている(本技術の最近の総説についてはBuhimschi et al. Biochemistry 2019, 58, 861-864; DOI: 10.1021/acs.biochem.8b01307 も参照)。
【0126】
CRBN (Cereblon) は442のアミノ酸残基を含むタンパク質で、損傷DNA結合タンパク質1 (DDB1)、キュリン-4A (CUL4A)、キュリン1の制御因子(ROC1; Angers et al. Nature 443 : 590-593)とともにE3ユビキチン・リガーゼ複合体を形成する。この複合体は、他の多くのタンパク質をユビキチン化する。サリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイド、CC-122(アバドマイド)、CC-220(イベルドマイド)およびCC-885がそれぞれCRBNに結合することが分かっている(例えば、Lopez-Girona et al. Leukemia 26:2326-2335を参照)。
【0127】
好ましい実施形態では、CRBNポリペプチド基質ドメインは、CRBNポリペプチドに薬物誘導的に結合することができるC2H2ジンクフィンガータンパク質またはその断片である。また、このような低分子制御タンパク質安定性ドメインを含む本発明によるキメラタンパク質を含む本発明による細胞も提供される。Cys2His2様折りたたみ基(C2H2)は、哺乳類転写因子における極めて一般的な、よく特徴付けられたジンクフィンガーのクラスである。これらのドメインは、ターン(ジンクナックル;βターン)に続いて短いヘリックスによって接続された2つの短いβストランドを形成する単純なββαフォールドを採用し、アミノ酸配列モチーフを持つ(Pabo et al. Annual Review of Biochemistry (2001). 70: 313- 40)。
X2-Cys-X2,4-Cys-X12-His-X3,4,5-His
【0128】
別の好ましい実施形態では、キメラタンパク質は、1つ以上のジンクフィンガーを含むCRBNポリペプチド基質ドメインを含む。また、このような小分子制御タンパク質安定性ドメインを含む本発明によるキメラタンパク質を含む本発明による細胞も提供される。
【0129】
特定のCRBNポリペプチド基質ドメインに限定されるものではないが、特に、薬物に反応してCRBNタンパク質に結合し、それによりキメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進することができるC2H2ジンクフィンガータンパク質、またはその断片(ジンクフィンガードメイン)が挙げられる。好ましい実施形態では、CRBNポリペプチド基質ドメインは、IKZF1、IKZF3、ZFN654、ZNF787、ZNF653、ZFP91、ZNF276、ZNF827、またはCRBNポリペプチドへの小分子誘導性結合が可能なそれらの断片からなる群から選択されるが、好ましくは、前記断片はIKZF1 ZF2-3(配列番号41)、IKZF3 ZF2-3(配列番号42)、ZFP91 ZF4-5(配列番号43)、ZNF276 ZF4-5(配列番号44)、ZNF653 ZF4-5(配列番号45)およびZNF692 ZF4-5(配列番号46)(例参照)からなる群から選択される。また、このような小分子制御タンパク質安定性ドメインを含む本発明によるキメラタンパク質を含む本発明による細胞も提供される。
【0130】
別の好ましい実施形態では、CRBNポリペプチド基質ドメインは、複合融合ポリペプチドを含み、複合融合ポリペプチドは、少なくとも第1のC2H2ジンクフィンガータンパク質の第1の断片と第2のC2H2ジンクフィンガータンパク質からの第2の断片を含み、複合融合ポリペプチド中の前記第1の断片と前記第2の断片の組み合わせは、CRBNポリペプチドに薬物誘導性結合することができる。例えば、実施形態によっては、第1のC2H2ジンクフィンガータンパク質からのβターン(2つの短いβストランドにより形成される)が、第2のC2H2ジンクフィンガータンパク質のαヘリックスに融合されてもよい。また、このような小分子制御タンパク質安定性ドメインを含む本発明によるキメラタンパク質を含む本発明による細胞も提供される。
【0131】
本発明は、CRBNポリペプチド基質ドメインを形成し得るか、このドメイン内に構成され得る特定の複合融合ポリペプチドに特に限定されるものではないが、好ましい実施形態において、複合融合ポリペプチドは、ZFP91 ZF4(LQCEICGFTCR;配列番号52)、ZFN653 ZF4(LQCEICGYQCR;配列番号53)、ZNF276 ZF4(LQCEVCGFQCR:配列番号54)、およびZNF827 ZF1(FQCPICGLVIK;配列番号55)のβターンから選択される第1の断片、およびIKZF1 ZF2(QKGNLLRHIKLH;配列番号56)のαヘリックスから選択される第2の断片を、任意の考えられる組み合わせで含む。好ましくは、複合融合ポリペプチドは、ZFP91 ZF4のβターンおよびIKZF1 ZF2のαヘリックスを含み、好ましくは、複合融合ポリペプチドは配列番号47~51から選択される1つを含む。また、このような小分子制御タンパク質安定性ドメインを含む本発明によるキメラタンパク質を含む本発明による細胞も提供される。
【0132】
別の実施形態によれば、本発明の方法で使用されるCRBNポリペプチド基質結合ドメインは、IKZF1 ZF3(FKCHLCNYACRRRDALTGHLRTH;配列番号57)を含むか、さらに含み、好ましくは、CRBNポリペプチド基質結合ドメインは、ZFP91 ZF4のβターン、IKZF1 ZF2のα-ヘリックスおよびIKZF1 ZF3を含む。好ましくは、IKZF1 ZF3は、本発明によるキメラタンパク質の第2の部分のC末端にある。また、このような小分子制御タンパク質安定性ドメインを含む本発明によるキメラタンパク質を含む本発明による細胞も提供される。
【0133】
当業者には分かっていることだが、実施形態によっては、薬物に応答してCRBNを結合し、それにより本発明のキメラタンパク質のユビキチン経路媒介分解を促進することができる1つ以上のCRBNポリペプチド基質ドメインが、本発明のキメラタンパク質内に構成されている。ジンクフィンガー・デグロンポリペプチド・ドメイン(薬物に応答してCRBNを結合することができ、それによりキメラタンパク質のユビキチン経路媒介分解を促進する1つ以上のCRBNポリペプチド基質ドメイン)は、単一のデグロンポリペプチド・ドメインとしてまたは複数のデグロンポリペプチド・ドメインとして含まれ、必要なら、当技術分野で知られているものなどのポリペプチドリンカーを用いて複数のデグロンポリペプチドのドメインが連続または配列で結合されている。
【0134】
当業者には分かっていることだが、本発明の方法で使用されるCRBNポリペプチド基質結合ドメイン内では、異なる部分(例えば、β-ターンとα-ヘリックス)は、互いに直接隣接してもよく、または、当該分野で公知のものなどのポリペプチドリンカー(アミノ酸の小さな並びを含む)を用いて連結されてもよい。
【0135】
このようなC2H2ジンクフィンガータンパク質、断片またはドメインのうちの1つ以上を含む本発明によるキメラタンパク質の分解の調節に適した薬物(例えば低分子)には、いわゆる免疫調節イミド薬(IMiDs)、例えばサリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイド、CC-122(アバドマイド)、CC-220(イベルドマイド)およびCC-885を含む(例えば、Matyskiela et al .J.Med. Chem. 2018, 61, 2, 535-542; 2017; doi.org/10.1021/acs.jmedchem.6b01921 and Gao et al. Biomarker Research (2020) 8:2; doi.org/10.1186/s40364-020-0182-yを参照のこと)。当業者は、本発明による方法で使用される適切な薬物、例えば適切なIMiDを選択する方法が分かっている。
【0136】
したがって、先行する請求項のいずれか一項に記載の細胞が提供され、CRBNポリペプチド基質ドメインをCRBNタンパク質に結合させ、それによりキメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進する薬物が、サリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイド、CC-122(アバドマイド)、CC-220(イベルドマイド)およびCC-885からなる群から選択されるIMiDである。
【0137】
したがって、CRBNポリペプチド基質ドメインをCRBNタンパク質に結合させ、それによりキメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進する薬物をさらに含む、先行する請求項のいずれか一項に記載の細胞が提供され、好ましくは、前記薬物はIMiDであり、好ましくはサリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイド、CC-122(アバドマイド)、CC-220(イベルドマイド)およびCC-885からなる群から選択され、好ましくは、前記薬物はCRBNポリペプチド基質ドメインに結合する。
【0138】
当業者には分かっているように、本発明のキメラポリペプチドは、本発明の細胞内に異なる形態で存在することができる。例えば、小分子制御タンパク質安定性ドメイン(または制御可能な不安定化ドメイン)がSEDの場合、同族小化合物/プロテアーゼ阻害剤の存在に応じて、キメラポリペプチドはデグロン配列とともにまたは配列なしで細胞内に存在することができる。
【0139】
また、ITAMが、T細胞受容体(TCR)複合体および/またはキメラ抗原受容体(CAR)および/またはNKR複合体に含まれるITAM、好ましくはCD3 ζ鎖、CD3 ε鎖、CD3 δ鎖、CD3 γ鎖、免疫グロブリン受容体FcεRIの γ鎖およびDAP12に含まれるITAMである、本発明に係る細胞が提供される。
【0140】
説明したように、SH2ドメインは、リン酸化免疫受容体チロシンに基づく活性化モチーフ(ITAM)を結合するタンパク質からのものであるかもしれない。
【0141】
ITAMは、T細胞受容体複合体のCD3 ζ(ゼータ)、CD3 ε(イプシロン)、CD3 γ(ガンマ)、およびCD3 δ(デルタ)鎖、ならびに特定のFc受容体などの細胞シグナル伝達分子の細胞内ドメイン内に見られる(Love et al, Cold Spring Harb Perspect Biol, 2010 Jun; 2(6): a002485)。
【0142】
NK細胞では、特定の活性化NK細胞受容体(NKR)が、CD3 ζ鎖、免疫グロブリン受容体FcεRIの γ(ガンマ)鎖、およびDAP12などのITAMを持つシグナル伝達分子と複合体を形成する。例えば、NK細胞受容体(NKR) NKp46およびNKp30は、免疫グロブリン受容体FcεRIのγ(ガンマ)鎖およびCD3 ζ鎖と会合し、NKp44はシグナル伝達アダプターDAP12と会合する(Barrow et al, Front Immunol.2019;10:909)。したがって、本発明の一実施形態において、本発明による細胞はNK細胞である。
【0143】
ITAMを持つドメインは、キメラ抗原受容体(CAR)の設計にも利用されている。CD3 ζ鎖は3つのITAMを含み、一方CD3 ε鎖、免疫グロブリン受容体FcεRIの γ(ガンマ)鎖、およびDAP12シグナル伝達ドメインは1つのITAMを含む。これらは様々なCAR設計に使用されている(Ren-Heidenreich et al, Cancer Immunol Immunother. 2002 Oct;51(8):417-23, Nolan et al, Clin Cancer Res. 1999 Dec;5(12):3928-41, Topfer et al, J Immunol. 2015 Apr 1;194(7):3201-12)。
【0144】
ITAM内の2つのチロシン残基は、LckなどのSrcキナーゼファミリーメンバーでリン酸化される。リン酸化されたITAMは、Zap70やSykのSH2ドメインとドッキングするプラットフォームとして機能する(Long et al, Annu Rev Immunol. 2013; 31: 10.1146/annurev-immunol-020711-075005).
【0145】
半ITAMの記号は、任意の2つの他のアミノ酸でロイシンまたはイソロイシンから分離されたチロシンで、YxxL/lという記号を与えることが容易に認識できる。これらの記号のうち2つは、6~8個のアミノ酸で分離されており、YxxL/lx(6-8)YxxL/lのITAM共通配列を構成する。好ましい実施形態では、ITAM含有ドメインは、CD3 ζ鎖ドメインであってもよいし、CD3 ζ鎖ドメインを含んでもよい。別の好ましい実施形態では、ITAM含有ドメインは、CD3 ε鎖ドメインであってもよいし、CD3 ε鎖ドメインを含んでもよい。さらに、別の好ましい実施形態では、ITAM含有ドメインは、免疫グロブリン受容体FcεRIのγ(ガンマ)鎖であってもよく、このγ鎖を含んでもよい。さらに、別の好ましい実施形態では、ITAM含有ドメインは、DAP12ドメインであってもよいし、DAP12ドメインを含んでもよい。
【0146】
また、細胞がT細胞受容体(T細胞受容体複合体)および/またはキメラ抗原受容体(CAR)もしくはNK細胞受容体(NK細胞受容体複合体)をさらに含む、本発明による細胞も提供される。好ましくは、細胞はT細胞、CAR T細胞、NK細胞および/またはCAR NK細胞である。
【0147】
好ましくは、細胞は、TCR複合体および/またはCAR複合体を発現するT細胞である。好ましくは、TCR複合体またはCAR複合体は、ITAMを含むCD3 ζ鎖ドメイン、または本明細書に開示される任意の他のITAMを持つドメインを含む。
【0148】
好ましくは、細胞は、NKR複合体および/またはCAR複合体を発現するNK細胞である。好ましくは、NKR複合体またはCAR複合体は、ITAMを含むCD3 ζ鎖ドメイン、または本明細書に開示される任意の他のITAMを持つドメインを含む。
【0149】
当業者は、T細胞および/またはCAR T細胞のことがよく分かっている。T細胞またはTリンパ球は、細胞媒介性免疫において中心的な役割を担っている。それらは、細胞表面のT細胞受容体(TCR)の存在によって、B細胞やナチュラルキラー細胞(NK細胞)のような他のリンパ球と区別される。
【0150】
T細胞には、Tヘルパー細胞(TH細胞)、細胞溶解性T細胞、制御性T細胞など様々な種類がある。TH細胞は、表面にCD4を発現し、抗原提示細胞(APC)の表面にペプチド抗原が提示されると活性化される。これらの細胞は、異なる種類の免疫反応を促進するために、異なるサイトカインを分泌するいくつかの亜種のいずれかに分化することができる。
【0151】
溶血性T細胞(TC細胞、CTL)は、ウイルス感染細胞や腫瘍細胞を破壊し、また移植拒絶反応にも関与する。CTLは、その表面にCD8を発現する。この細胞は、すべての有核細胞の表面に存在するMHCクラスIに関連する抗原と結合して標的を認識する。
【0152】
制御性T細胞(Treg)は、IL-10などの分子を分泌して免疫反応を抑制する細胞で、転写因子FOXP3の発現が特徴的である。
【0153】
メモリーT細胞は、抗原特異的T細胞のサブセットで、感染症が治った後も長期に渡って存在する細胞である。抗原に再びさらされると、速やかに大量のエフェクターT細胞に拡大するため、免疫系に過去の感染に対する「記憶」を与える。メモリー細胞は、CD4+またはCD8+のいずれかである。
【0154】
好ましくは、T細胞は、CD4陽性T細胞である。好ましくは、T細胞は、CD8陽性T細胞である。CAR T細胞は、CAR複合体を発現するT細胞である。
【0155】
ナチュラルキラー細胞(またはNK細胞)は、自然免疫系の一部である細胞分解細胞の一種である。NK細胞は、ウイルス感染細胞からの自然シグナルに対して、ペプチドMHCに依存しない方法で応答する。
【0156】
NK細胞は、大顆粒リンパ球と定義され、BおよびTリンパ球を生成する共通のリンパ系前駆細胞から分化した第3種の細胞である。NK細胞は、骨髄、リンパ節、脾臓、扁桃腺、胸腺などで分化・成熟することが知られている。
【0157】
本発明の細胞は、いかなる種類の細胞であってもよく、特に、T細胞、CAR T細胞、NK細胞またはCAR NK細胞である。
【0158】
本発明の分子を発現するT細胞(CAR T細胞を含む)またはNK細胞(CAR NK細胞を含む)は、例えば、患者自身の末梢血から、またはドナー末梢血から生体外で作成することができる。
【0159】
また、SH2ドメインが、Zap70、Syk、およびLckからなる群から選択されるタンパク質由来の本発明に係る細胞も提供される。
【0160】
特に、Zap70、Syk、およびLck由来のSH2ドメインを含む第1の部分を含む本発明によるキメラポリペプチドが、本発明に従って好適であることが見出された。
【0161】
ZAP70は、T細胞やナチュラルキラー細胞の細胞膜付近に正常に発現するタンパク質であり、T細胞のシグナル伝達において重要な役割を担っている。分子量は70kDaで、2つのN末端SH2ドメインとC末端キナーゼドメインから構成されている。これはタンパク質チロシンキナーゼファミリーの一員である。ヒトのZAP70タンパク質は、UniProtKB受入番号P43403を持つ。この配列は長さ619のアミノ酸であり、配列番号37として示されている。
【0162】
Sykは胸腺細胞、上皮内γδT細胞、ナイーブαβT細胞、B細胞に発現する(Latour et al, Mol Cell Biol. 1997 Aug; 17(8): 4434-4441)。SykはZAP70と高い相同性を持ち、2つのN末端SH2ドメインとC末端キナーゼドメインという同じドメイン構造を持つ。B細胞では、Sykの欠損はZap70により再構成することができる(Kong et al, Immunity. 1995 May;2(5):485-92) 。同様に、ZAP70の欠損は、T細胞中でSykによって再構成される(Williams et al, Mol Cell Biol. 1998 Mar;18(3):1388-99)。ヒトSykタンパク質は、UniProtKB受入番号P43405を持つ。この配列は長さ635のアミノ酸であり、配列番号38で示される。
【0163】
Lck(別名:p56-LCK)は、リンパ球に発現する。Lckは、TCRのシグナル変換経路で重要な役割を担う。T細胞では、CD4およびCD8共受容体の細胞質ドメインに恒常的に結合する。ペプチド-MHC複合体でTCRが活性化されると、LckはTCR複合体に接近し、CD3サブユニットのITAM残基がLckでリン酸化される。リン酸化されたITAMは、Zap70のSH2ドメインのドッキング部位として機能する(Simeoni, Oncotarget. 2017 Nov 28; 8(61): 102761-102762)。Lckのドメイン構造は、SH4-固有のドメイン(UD)-SH3-SH2-キナーゼドメインである。SH2ドメインはリン酸化されたITAMとの相互作用に必要であり、SH4は膜会合に必要である(Ngoenkam et al, Immunology. 2018 Jan; 153(1): 42-50)。ヒトLckタンパク質は、UniProtKB受入番号P06239を持つ。この配列は長さ509のアミノ酸であり、配列番号39で示される。
好ましくは、Zap70、Syk、およびLckは、ヒトZap70、Syk、およびLckである。
【0164】
また、キメラポリペプチドが、リン酸化免疫受容体チロシンに基づく活性化モチーフと結合するタンパク質由来のSH2ドメインを2つ以上含む、本発明による細胞も提供される。
【0165】
本発明によれば、キメラポリペプチド中の1つのSH2ドメインの存在が好適であるが、実施形態によっては、リン酸化ITAMに結合することができる2つ以上のSH2ドメインが存在する。好ましくは、T細胞受容体(複合体)またはCAR(複合体)またはNKR(複合体)に存在するリン酸化ITAMが、キメラポリペプチドの第1の部分に構成されてもよい(本明細書の他の部分で説明するように、キメラポリペプチドの第1の部分は、リン酸化免疫受容体チロシンに基づく活性化モチーフ(ITAM)を結合するタンパク質からのSH2ドメインを含む部分を意味する)。本明細書に開示されるように、この第1の部分は、本発明によるキメラポリペプチドのどこに存在してもよく、「第1の部分」は、必ずしも「N末端に」を意味しない。本明細書で定義かつ開示され、さらに本明細書で考察されるように、キメラポリペプチドの第2および第3の部分にも同じことが当てはまる)。2つ以上のSH2ドメインは、同じ(天然の)タンパク質からのものであってもよいし、2つ以上の異なるタンパク質からのものであってもよい。
【0166】
当業者は分かっていることだが、例えばSH2ドメインの次に、他のドメインがキメラポリペプチドの第1の部分に構成されることが企図され、例えば、このようなドメインは実施例で試験されたキメラポリペプチドに存在する。
【0167】
また、ITIMおよび/またはITSMが、抑制性受容体タンパク質、好ましくは抑制性免疫受容体タンパク質、好ましくはPD1、BTLA、SIRPα、シグレック5、シグレック9、シグレック11、PECAM1またはLY9からなる群から選択されるタンパク質由来である、本発明に従う細胞も提供される。好ましくは、抑制性受容体タンパク質、抑制性免疫受容体タンパク質、またはPD1、BTLA、SIRPα、シグレック5、シグレック9、シグレック11、PECAM1もしくはLY9からなる群から選択されるタンパク質は、ヒト由来のタンパク質である。
【0168】
PD1(PD-1としても知られている)は、PDCD1遺伝子でコードされている。PD1は、I型膜貫通タンパク質である。リガンドであるPD-L1/PD-L2との相互作用により、細胞傷害性T細胞のエフェクター機能を抑制する。ヒトPD1のUniProtKB受入番号はQ15116である。この配列は長さ288のアミノ酸である。PD1の細胞質ドメインは、ITIMとITSMモチーフを含む。PD1の細胞質ドメインのリン酸化ITSMはSHP-2ホスファターゼを動員し、ZAP70、PKCtheta、CD3 zeta(CD247)などのTCRシグナル伝達経路の主要シグナル伝達分子を脱リン酸化してTCRシグナル伝達の抑制(Bardhan et al, Front Immunol.2016; 7: 550)やCD28媒介の共刺激(Hui et al, Science. 2017 Mar 31;355(6332):1428-1433)を引き起こす。例えば、本発明によるキメラポリペプチドで使用される、免疫受容体チロシンに基づくスイッチモチーフ(ITSM)、好ましくはITSMおよび免疫受容体チロシンに基づく阻害モチーフ(ITIM)を含む適切な第3の部分は、配列番号17(PD1の細胞質ドメインを表す)により特徴付けられる。
【0169】
Bリンパ球およびTリンパ球減衰因子(BTLA)は、主にT細胞、B細胞、成熟リンパ球に発現する(Yue etal, Front Immunol. 2019; 10: 617)。これは、免疫寛容で重要な役割を果たす免疫制御受容体である。PD1と同様に、BTLAはI型膜貫通型糖タンパク質である。BTLA受容体の関与は、T細胞におけるSHP-1/SHP-2の動員とIL-2分泌の抑制を誘発する(Watanabe et al, Nat Immunol. 2003 Jul;4(7):670-9)。ヒトBTLAタンパク質は、UniProtKB受入番号Q7Z6A9を持つ。この配列は長さ289のアミノ酸である。BTLAの細胞質ドメインは、ITIMとITSMモチーフを含む。
【0170】
例えば、本発明によるキメラポリペプチドに使用される免疫受容体チロシンに基づくスイッチモチーフ(ITSM)、好ましくはITSMおよび免疫受容体チロシンに基づく阻害モチーフ(ITIM)を含む適切な第3の部分は、配列番号15(BTLAの細胞質ドメインを表す)で特徴づけられる。
【0171】
SIRPA(別名:SIRPα、BIT、MFR、MYD1、PTPNS1、SHPS1、SIRP)は、骨髄系細胞に発現する。SIRPAはリガンドCD47との結合により、貪食、マスト細胞の活性化、樹状細胞の活性化を負に制御する(Timms et al, Curr Biol. 1999 Aug 26;9(16):927-30, Latour et al, J Immunol. 2001 Sep 1;167(5):2547-54, Matlung et al, Immunol Rev. 2017 Mar;276(1):145-164. doi: 10.1111/imr.12527)。マクロファージでは、SIRPAは主にSHP-1と会合する(Veillette et al, J Biol Chem. 1998 Aug 28;273(35):22719-28)。SIRPAは、I型膜貫通型タンパク質である。ヒトのSIRPAタンパク質は、UniProtKB受入番号P78324を持つ。この配列は長さ504のアミノ酸である。SIRPAの細胞質ドメインは2つのITIMと1つのITSMモチーフを含む。
【0172】
例えば、本発明によるキメラポリペプチドに使用され得る免疫受容体チロシンに基づくスイッチモチーフ(ITSM)、好ましくはITSMおよび免疫受容体チロシンに基づく阻害モチーフ(ITIM)を含む適切な第3の部分は、配列番号19(SIRPaの細胞質ドメインを表す)により特徴づけられる。
【0173】
PECAM1(PECAM-1、CD31とも呼ばれる)は、T細胞、B細胞、血小板、単球、マクロファージ、好中球に発現する(Newton-Nash et al, J Immunol. 1999 Jul 15;163(2):682-8)。PECAM1は、SHIP1、SHP-1およびSHP-2の動員を介してT細胞およびB細胞のシグナル伝達を阻害する(Marelli-Berg et al. J Cell Sci. 2013 Jun 1;126(Pt 11):2343-52)。マクロファージでは、PECAM1へのリガンド結合は、SHP-1およびSHP2の動員、TNF-α、IL-6、およびIFN-β産生の抑制、およびTLR4シグナル伝達をもたらす(Rui et al, J Immunol. 2007 Dec 1;179(11):7344-51)。PECAM1は、血小板のシグナル伝達経路を負に制御する(Jones et al, FEBS Lett.2009 Nov 19;583(22):3618-24)。PECAM1は、I型膜貫通型タンパク質である。ヒトのPECAM1タンパク質は、UniProtKB受入番号P16284を持つ。この配列は長さ738のアミノ酸である。PECAM1の細胞質ドメインは、ITIMおよびITSMモチーフを含む。例えば、本発明によるキメラポリペプチドに使用される免疫受容体チロシンに基づくスイッチモチーフ(ITSM)、好ましくはITSMおよび免疫受容体チロシンに基づく阻害モチーフ(ITIM)を含む好適な第3の部分は、配列番号18(PECAM1の細胞質ドメインを表す)で特徴づけられる。
【0174】
シアル酸結合免疫グロブリン型レクチン(シグレック)は、主に造血系の細胞に発現する一群の免疫制御受容体である(Bornhofft et al, Dev Comp Immunol. 2018 Sep;86:219-231)。シグレック5(CD33L2、OBBP2とも呼ばれる)は単球、好中球、B細胞に、シグレック9は好中球、単球、樹状細胞、NK細胞に、シグレック11はマクロファージに発現する(Macauley et al, Nat Rev Immunol. 2014 Oct; 14(10): 653-666)。ほとんどのシグレックは抑制性のITIM/ITSMモチーフを持ち、SHP1やSHP2を動員し、免疫系の負の制御因子として働く(Crocker et al, Nat Rev Immunol. 2007 Apr;7(4):255-66, Avril et al, J Biol Chem. 2005 May 20;280(20):19843-51, Haas et al, Cancer Immunol Res. 2019 May;7(5):707-718, Angata et al, J Biol Chem. 2002 Jul 5;277(27):24466-74)。シグレック5、シグレック9、シグレック11は、I型膜貫通型タンパク質である。細胞質ドメインにITIMモチーフとITSMモチーフを持つ。ヒトのシグレック5タンパク質は、UniProtKB受入番号O15389を持つ。この配列は長さ551のアミノ酸である。ヒトシグレック9タンパク質は、UniProtKB受入番号Q9Y336を持つ。この配列は長さ463のアミノ酸である。ヒトシグレック11タンパク質は、UniProtKB受入番号Q96RL6を持つ。この配列は長さ698のアミノ酸である。例えば、本発明によるキメラポリペプチドにおいて使用される、免疫受容体チロシンに基づくスイッチモチーフ(ITSM)、好ましくはITSMおよび免疫受容体チロシンに基づく阻害モチーフ(ITIM)を含む適切な第3の部分は、配列番号21、配列番号22または配列番号20(それぞれシグレック5、9および11の細胞質ドメインを表す)で特徴づけられる。
【0175】
Tリンパ球表面抗原Ly-9(LY9、SLAMF3、CD229としても知られている)は、胸腺細胞、成熟TおよびBリンパ球に発現する(de la Fuente et al, Blood. 2001 Jun 1;97(11):3513-20)。SHIP-1やSHP-2と相互作用し(Punet-Ortiz et al, Front Immunol. 2018 Nov 16;9:2661)、免疫反応の負の制御因子として機能して末梢細胞寛容に寄与することが報告されている(de Salort et al, Front Immunol. 2013; 4: 225)。LY9は、I型膜貫通タンパク質である。ヒトLY9タンパク質は、UniProtKB受入番号Q9HBG7を持つ。この配列は長さ655のアミノ酸である。LY9の細胞質ドメインは、2つのITSMモチーフを含む。例えば、本発明によるキメラポリペプチドにおいて使用される、免疫受容体チロシンに基づくスイッチモチーフ(ITSM)、好ましくはITSMおよび免疫受容体チロシンに基づく阻害モチーフ(ITIM)を含む適切な第3の部分は、配列番号16(LY9の細胞質尾部を表す)で特徴づけられる。
【0176】
実施形態によっては、ITSMおよびITIMは、同じ阻害性タンパク質から得られるかまたは由来し、他の実施形態では、ITSMおよびITIMは、それぞれ異なる阻害性タンパク質に由来する。
【0177】
また、キメラポリペプチドがITSMおよびITIMを含む、本発明に係る細胞も提供される。
【0178】
本発明のキメラポリペプチドに含まれる第3の部分にITSMとITIMの両方が存在すると特に有利であることが意外にも見出された(実施例参照)。
【0179】
また、好ましくは、第1の部分がキメラポリペプチドのN末端に位置し、第2の部分がキメラポリペプチドのC末端に位置し、好ましくは、第3の部分が第1の部分と第2の部分の間に位置する、本発明による細胞も提供される。
【0180】
また、本明細書の他の箇所に開示されているように、第1の部分と第3の部分とは、互いに直接隣接していてもよいし、アミノ酸の追加の並びで分離されていてもよい。また、本明細書の別の場所に開示されているように、第2の部分と第3の部分は、互いに直接隣接していてもよいし、アミノ酸の付加的な並びによって分離されていてもよい。いかなる順序によっても限定されないが、第1、第2および第3の部分のこの特定の順序が有利なことが見出された。
【0181】
また、抑制性プロテアーゼに結合したプロテアーゼ阻害剤をさらに含む、またはタンパク質分解標的キメラ(Protac)結合ドメインに結合したProtacをさらに含む、またはCRBNポリペプチド基質ドメインをCRBNタンパク質に結合させる薬物をさらに含む本発明による細胞も開示される。それによりキメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進し、好ましくは、薬物はIMiDであり、好ましくは、本明細書の他の箇所に開示および説明されているように、サリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイド、CC-122(アバドマイド)、CC-220(イベルドマイド)およびCC-885からなる群から選択される。好ましい実施形態では、プロテアーゼ阻害剤は、本明細書に開示されているようなプロテアーゼ阻害剤である。好ましい実施形態では、Protacは、本明細書に開示されているようなProtacである。好ましい実施形態では、薬物に応答してCRBNタンパク質に結合し、それによりキメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進することができるCRBNポリペプチド基質ドメインは、本明細書に開示されている通りであり、好ましくは薬物はIMiDであり、好ましくはサリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイド、CC-122(アバドマイド)、CC-220(イベルドマイド)およびCC-885からなる群から選択される。
【0182】
また、本発明による次のような細胞も開示されている。
a) SH2ドメインは、配列番号7~11に従うアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を持つアミノ酸配列を含むかそれからなり、または配列番号12~14に従うアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を持つアミノ酸配列を含むかそれからなる、
b) キメラポリペプチドの第1の部分は、配列番号7~11に従うアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を持つアミノ酸配列を含むかそれからなる、または配列番号12~14に従うアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を持つアミノ酸配列を含むかそれからなる、
c) ITAMはYxxL/lx(6-8)YxxL/lである、
d) SH2ドメインは、配列番号1~6で構成されるリン酸化ITAMに結合するSH2ドメイン、または配列番号1~6に従うアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を持つアミノ酸配列に結合するSH2ドメインである、
e) ITIMがS/I/V/LxYxxI/V/Lであり、かつ/あるいはITSMがTxYxxV/Iである、
f) ITSMおよび/またはITIMは、配列番号15~22で構成されるITSMおよび/またはITIMである、
g) キメラポリペプチドの第3の部分は、配列番号15~22に従うアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を持つアミノ酸配列を含むかそれからなる、
h) キメラポリペプチドの第2の部分は、配列番号35もしくは40または配列番号41~57に従うアミノ酸第2配列を含むかそれからなる、かつ/あるいは
i) キメラポリペプチドは、配列番号23~34、配列番号36、または配列番号58~68に従うアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を持つアミノ酸配列を含む。
【0183】
当業者は、キメラポリペプチドの第1の部分に関連する任意の定義されたアミノ酸配列が、キメラポリペプチドの第3の部分、および/またはキメラポリペプチドの第2の部分に関連する任意の定義されたアミノ酸配列と結合され得ることが分かっている。言い換えれば、本明細書に開示されるような任意の第1の部分、任意の第2の部分、および任意の第3の部分を組み合わせて、それぞれ、本発明によるキメラポリペプチドの第1、第2、および第3の部分を形成することができる。好ましい実施形態では、キメラポリペプチドの第1の部分は、a)、b)、c)および/またはd)に定義されるようなアミノ酸配列を含み、キメラポリペプチドの第3の部分は、e)、f)、またはg)に定義されるようなアミノ酸配列を含む。本開示から見て取れるように、キメラタンパク質の異なる第1の部分は、キメラポリペプチドの異なる第3の部分と組み合わすことができる。
【0184】
また、当業者は、本明細書で定義するキメラタンパク質の第1、第2および第3の部分のアミノ酸配列に加えて、本発明によるキメラポリペプチドは、さらなる部分を含んでいてもよいことが分かっている。すなわち、本明細書に開示されるキメラポリペプチドは、本明細書に定義される第1、第2または第1、第2および第3の部分のみからなるキメラポリペプチドのみに限定されるものではない。本発明によるキメラポリペプチドは、アミノ酸の追加の(伸張)部分または追加の(機能)部分を含んでいてもよい。
【0185】
したがって、好ましい実施形態では、キメラポリペプチドの第1の部分に存在するようなSH2ドメインは、配列番号7~11に従うアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性、好ましくは少なくとも81、83、87、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100%の同一性を持つアミノ酸配列を含むかそれからなっていてもよく、あるいは配列番号12~14に従うアミノ酸配列に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも81、83、87、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100%の同一性を持つアミノ酸配列を含むかそれからなっていてもよい。当業者は分かっているように、上に定義されたこれらの配列に、1、2、3、4、5、6、10個のアミノ酸が欠失、置換または挿入された配列もまた含まれる。
【0186】
したがって、キメラポリペプチドの第1の部分は、好ましい実施形態では、配列番号7~11に従うアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性、好ましくは少なくとも81、83、87、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100%の同一性を持つアミノ酸配列を含むかそれからなるものであってもよく、あるいは配列番号12~14に従うアミノ酸配列に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも81、83、87、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100%の同一性を持つアミノ酸配列を含むかそれからなるものであってもよい。当業者は分かっているように、上で定義された配列から、1、2、3、4、5、6、10個のアミノ酸が欠失、置換または挿入されている配列も含まれる。第1の部分は、キメラポリペプチドの第1の部分が本発明の文脈において機能的な限り、上記定義されたアミノ酸に隣接するアミノ酸の追加(伸長)も含む。
【0187】
したがって、ITAMがリン酸化されたときにキメラポリペプチドの第1の部分のSH2ドメインが結合するITAMは、上記で説明したように、YxxL/lx(6-8)YxxL/lである。
【0188】
したがって、キメラポリペプチドの第1の部分に存在するSH2ドメインは、好ましい実施形態では、配列番号1~6で構成されるリン酸化ITAMに結合するSH2ドメイン、または配列番号1~6に従うアミノ酸配列に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも81、83、87、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100%の同一性があるアミノ酸配列に結合するものでもよい。
【0189】
したがって、ITSM、好ましくはITSMおよびITIMを含むキメラポリペプチドの第3の部分は、ITIMがS/I/V/LxYxxI/V/L、および/またはITSMがTxYxxV/IであるITSMおよび/またはITIMを含むものであってよい。
【0190】
したがって、キメラポリペプチドの第3の部分に構成されるITSMおよび/またはITIMは、配列番号15~22に構成されるITSMおよび/またはITIMであってもよい。
【0191】
したがって、キメラポリペプチドの第3の部分は、配列番号15~22に従うアミノ酸配列に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも81、83、87、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100%の同一性を持つアミノ酸配列を含むまたはからなることができる。 当業者は分かっているように、上記で定義され、1、2、3、4、5、6、10個のアミノ酸が欠失、置換または挿入されている配列も含まれる。第3の部分は、キメラポリペプチドの第3の部分が本発明の文脈において機能的な限り、上記定義されたアミノ酸に隣接するアミノ酸の追加(伸長)を含んでもよい。
【0192】
したがって、本発明によるキメラポリペプチドの第2の部分は、配列番号35、配列番号40、または配列番号41~57に従うアミノ酸配列を含むまたはからなることができる。当業者は分かっているように、上記で定義され、1、2、3、4、5、6、10個のアミノ酸が欠失、置換または挿入されている配列も含まれる。第3の部分はまた、キメラポリペプチドの第3の部分が本発明の文脈において機能的な限り、上記定義されたアミノ酸に隣接するアミノ酸の追加(伸長)を含むことができる。また、配列番号35、配列番号40、または配列番号41~57に従うアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性、好ましくは少なくとも81、83、87、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100%の同一性を持つアミノ酸配列が企図される。
【0193】
したがって、キメラポリペプチドは、配列番号23~34、配列番号36、または配列番号58~68に従うアミノ酸配列に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも81、83、87、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100%の同一性を持つアミノ酸配列を含むまたはからなる。当業者は分かっているように、上記で定義され、1、2、3、4、5、6、10、15個のアミノ酸が欠失、置換または挿入されている配列も含まれる。キメラポリペプチドは、本発明によるキメラポリペプチドが本発明の文脈において機能的な限り、上記定義されたアミノ酸に隣接するアミノ酸の追加(伸長)を含んでもよい。
【0194】
本発明の別の態様によれば、本明細書に定義されるようなキメラタンパク質も提供される。キメラタンパク質は、細胞内に存在してもよく、または任意の他の形態で存在してもよい。
【0195】
本発明の別の態様によれば、本発明によるキメラポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む核酸も提供される。
【0196】
当然のことだが、本発明による核酸は、好適には、細胞、例えば、T細胞またはCAR T細胞またはNK細胞に導入され、このような細胞中に発現させられ、それによりこのような細胞中に本発明によるキメラポリペプチドが発現される。核酸は、ベクターまたはプラスミドの形態で導入される。実施形態によっては、本発明の核酸は、例えば、T細胞、CAR T細胞、またはNK細胞などの細胞のゲノムに組み込まれる。そのようなT細胞は、例えば、修飾されたT細胞受容体および/またはCARを導入するために使用される。
【0197】
実施形態によっては、本発明の核酸は、核酸が(修飾)T細胞受容体またはCARをコードする前、後または同時に、T細胞またはNKに導入される。本発明による核酸と(修飾)T細胞受容体またはCARをコードする核酸は、2つの別々のベクターを用いて導入してもよいし、両方の核酸を含む1つのベクターを用いて導入してもよい。同様に、実施形態によっては、本発明の核酸は、核酸が(修飾)NK細胞受容体またはCARをコードする前、後または同時に、NK細胞に導入される。本発明による核酸と(修飾)NK細胞受容体またはCARをコードする核酸は、2つの別々のベクターを使用して導入してもよいし、両方の核酸を含む1つのベクターを使用して導入してもよい。
そのため、本発明による核酸を含むベクターも提供される。
また、本発明による核酸を含む細胞も提供される。
【0198】
また、本発明による細胞または核酸を含む医薬組成物も提供される。好ましくは、細胞は、T細胞、CAR T細胞、NK細胞、またはCAR NK細胞である。T細胞は、治療される患者由来であってもよいし、同種異系であってもよい。
【0199】
生体外で作製した自己抗原特異的T細胞を移植する免疫療法は、ウイルス感染症や癌の治療法として期待されている。免疫療法に用いられるT細胞は、抗原特異的なT細胞の増殖、または遺伝子工学によるT細胞の再配列によって生成される。免疫療法に用いる抗原特異的T細胞は、T細胞受容体やキメラ抗原受容体(CAR)の遺伝子導入による作製に成功している。
【0200】
本発明により、現在、免疫細胞療法または免疫療法(例えば、T細胞、CAR T細胞、NK細胞およびCAR NK細胞による治療)を必要とする患者に、T細胞、CAR T細胞、NK細胞またはCAR NK細胞を提供し、これらの細胞のT細胞またはNK細胞の機能(例えば、T細胞またはNK細胞の細胞傷害活性および/またはサイトカイン分泌)を、本明細書に開示されるように調節することができることが分かった。当業者は、例えば、Rosenberg et al, Science. 2015 Apr 3;348(6230):62-8およびJune et al, Science. 2018 Mar 23;359(6382):1361-1365により概説されたキメラ抗原受容体遺伝子操作T細胞または(遺伝子組み換え)T細胞受容体およびHu et al, Front Immunol. 2019; 10: 1205, Kloess et al, Transfus Med Hemother. 2019 Feb; 46(1): 4-13およびSuen et al, Cancer Invest. 2018;36(8):431-457により概説された非修飾またはCAR遺伝子操作されたNK細胞を用いた免疫細胞治療の様々な方法についてよく分かっている。
【0201】
本発明による細胞、本発明によるキメラポリペプチドおよび/または本発明による核酸は、当業者が本開示に基づいて理解するように、このような免疫細胞療法に好適に使用される。
そのため、医薬品として使用される本発明による細胞も提供される。
【0202】
そのため、対象の癌の治療に使用される、本発明による細胞も提供される。治療に適した癌は、血液癌、特にB細胞癌、メラノーマ、乳癌、結腸直腸癌、肺癌、腎細胞癌、および前立腺癌からなる群から選択される癌である。
【0203】
好ましくは、医薬品として使用される、または癌の治療に使用される細胞は、T細胞またはCAR T細胞、またはNK細胞またはCAR NK細胞である。
【0204】
また、医薬として使用される細胞、好ましくは、本発明による対象の癌の治療に使用される細胞も提供され、該治療は、
a) 本発明による細胞の集団を対象に投与すること、
b) 必要に応じて、抑制性プロテアーゼの阻害剤、タンパク質分解標的キメラ(Protac)結合ドメインに結合するProtac、またはCRBNポリペプチド基質ドメインをCRBNタンパク質に結合させる薬物(好ましくは、薬物はIMiDであり、好ましくはサリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイド、CC-122(アバドマイド)、CC-220(イベルドマイド)およびCC-885からなる群から選択される)を対象に投与し、それによりキメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進すること、
c)必要に応じて、工程b)が実行される場合、CRBNポリペプチド基質ドメインをCRBNタンパク質に結合させる抑制性プロテアーゼの阻害剤、Protac、または薬物の濃度を増減させ、それにより、キメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進する工程を含み、好ましくは、薬物はIMiDであり、好ましくはサリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイド、CC-122(アバドマイド)、CC-220(イベルドマイド)およびCC-885からなる群から選択される。
【0205】
本明細書の他の箇所に開示されているように、本発明による細胞のT細胞機能またはNK細胞機能は、本発明によるキメラポリペプチドの発現によって制御することができる。抑制性プロテアーゼの阻害剤の非存在下(キメラポリペプチドの第2の部分にSEDが含まれる場合)、または本発明のキメラポリペプチドの第2の部分のProtac結合ドメインに結合するProtacの非存在下、またはCRBNポリペプチド基質ドメインをCRBNタンパク質に結合させ、それによりキメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進する薬物(好ましくは、薬物はIMiDであり、好ましくはサリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイド、CC-122(アバドマイド)、CC-220(イベルドマイド)およびCC-885からなる群から選択される)の非存在下で、T細胞機能は本発明によるキメラポリペプチドによるTCRまたはCARシグナル伝達の阻害により抑制されるか、NK機能は本発明によるキメラポリペプチドによるNKRまたはCARシグナル伝達の阻害により抑制される。CRBNポリペプチド基質ドメインをCRBNタンパク質に結合させ、それによりキメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進するような阻害剤またはそのようなProtacまたはそのような薬剤(好ましくは薬物はIMiDであり、好ましくはサリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイド、CC-122(アバドマイド)、CC-220(イベルドマイド)及びCC-885からなる群より選択される)の存在下で、本発明によるキメラポリペプチドは分解され、T細胞またはNK細胞の機能の抑制(サイトカイン放出/細胞傷害)の放出が引き起こされる。T細胞機能またはNK機能の調節は可逆的かつ用量依存的なので、対象の治療の一環としてT細胞機能またはNK機能の調節を行うことができる。
【0206】
また、細胞を本発明による核酸と接触させることを含み、好ましくは、該核酸を該細胞に生体外で接触させる工程を含む、本発明による細胞を提供する方法も提供される。
【0207】
また、細胞におけるキメラポリペプチドの発現を制御する方法も提供される。この方法は、本発明によるキメラポリペプチドを発現する細胞を、抑制性プロテアーゼの阻害剤、タンパク質分解標的キメラ(Protac)結合ドメインに結合するProtac、またはCRBNポリペプチド基板ドメインをCRBNタンパク質に結合させる薬物に接触させ、それによりキメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進することを含み、好ましくは、薬物はIMiDであり、好ましくはサリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイド、CC-122(アバドマイド)、CC-220(イベルドマイド)およびCC-885からなる群から選択される。好ましくは、細胞は、生体外または好ましくは生体内で、抑制性プロテアーゼ阻害剤またはProtac、またはCRBNポリペプチド基板ドメインをCRBNタンパク質に結合させる薬物と接触させ、それにより、キメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進し、好ましくは、薬物はIMiDであり、好ましくはサリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイド、CC-122(アバドマイド)、CC-220(イベルドマイド)、およびCC-885からなる群から選択される。
【0208】
本発明によるキメラポリペプチドの発現は、本明細書の他の箇所に開示されているように、本発明によるキメラポリペプチドを分解から、あるいは分解に向けて誘導することにより、その水準すなわち濃度を調節して制御される。
【0209】
また、T細胞および/またはNK細胞の細胞傷害活性を制御する方法、および/またはT細胞および/またはNK細胞によるサイトカイン分泌を制御する方法も提供される。この方法は、
a) T細胞および/またはNK細胞中で、本発明によるキメラポリペプチドを発現させる工程、
b) T細胞および/またはNK細胞を、抑制性プロテアーゼの阻害剤、タンパク質分解標的キメラ(Protac)結合ドメインに結合するProtac、またはCRBNポリペプチド基質ドメインをCRBNタンパク質に結合させる薬物(好ましくは、薬物はIMiDであり、好ましくはサリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイド、CC-122(アバドマイド)、CC-220(イベルドマイド)およびCC-885からなる群から選択される)と接触させ、それにより、キメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進する工程、および
c) 必要に応じて、抑制性プロテアーゼの阻害剤またはProtac、またはCRBNポリペプチド基質ドメインをCRBNタンパク質に結合させる薬物(好ましくは、薬物はIMiDであり、好ましくはサリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイド、CC-122(アバドマイド)、CC-220(イベルドマイド)およびCC-885からなる群から選択される)の濃度を増減させ、それにより、キメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進する工程、
を含む。
【0210】
当業者は、T細胞およびNK細胞の細胞傷害性活性および/またはそのようなT細胞、例えばIFNγ、IL-2、TNFα、IL-10、IL-4およびNK細胞、例えばIFNγ、IL-2、TNFαによるサイトカイン分泌を決定する方法をよく分かっている。T細胞および/またはNK細胞は、治療される患者由来でも、同種異系でもよい。
対象における癌の治療方法も提供される。該方法は、
a) 本発明による細胞を対象に提供する工程、
b) 必要に応じて、抑制性プロテアーゼの阻害剤、タンパク質分解標的キメラ(Protac)結合ドメインに結合するProtac、またはCRBNポリペプチド基質ドメインをCRBNタンパク質に結合させる薬物(好ましくは、薬物はIMiDであり、好ましくはサリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイド、CC-122(アバドマイド)、CC-220(イベルドマイド)およびCC-885からなる群から選択される)を対象に投与し、それによりキメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進する工程、
c) 必要に応じて、工程b)を行う場合、抑制性プロテアーゼの阻害剤またはProtac、またはCRBNポリペプチド基質ドメインをCRBNタンパク質に結合させる薬物(好ましくは、薬物はIMiDであり、好ましくはサリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイド、CC-122(アバドマイド)、CC-220(イベルドマイド)およびCC-885からなる群から選択される)の濃度を増減させ、それによりキメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進する、工程を含む。T細胞および/またはNK細胞は、治療される患者由来でも、同種細胞でもよい。
【0211】
また、対象のT細胞および/またはNK細胞の細胞傷害活性を制御する方法、および/または対象のT細胞および/またはNK細胞によるサイトカイン分泌を制御する方法も提供される。この方法は、
a) 対象に本発明による細胞を提供する工程、
b) 抑制性プロテアーゼの阻害剤、タンパク質分解標的キメラ(Protac)結合ドメインに結合するProtac、またはCRBNポリペプチド基質ドメインをCRBNタンパク質に結合させる薬物(好ましくは、薬物はIMiDであり、好ましくはサリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイド、CC-122(アバドマイド)、CC-220(イベルドマイド)およびCC-885からなる群から選択される)を対象に投与し、それによりキメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進する工程、および
c) 必要に応じて、抑制性プロテアーゼの阻害剤またはProtac、あるいはCRBNポリペプチド基質ドメインをCRBNタンパク質に結合させる薬物(好ましくは、薬物はIMiDであり、好ましくはサリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイド、CC-122(アバドマイド)、CC-220(イベルドマイド)およびCC-885からなる群から選択される)の濃度を増減させ、それによりキメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進する工程、を含む。
T細胞および/またはNK細胞は、治療される患者由来でも、同種細胞でもよい。
【0212】
当然のことだが、本発明の実施形態の一側面に関して考察されたすべての詳細、実施形態および選択の優先権は、同様に、本発明の他の側面または実施形態に当てはまり、したがって、すべての側面に関してそのような詳細、実施形態および選択の優先権を別々に詳述する必要はない。
【0213】
本発明を一般的に説明したが、同じことは、説明のために提供され、本発明を限定することを意図しない以下の実施例を参照することでより理解が進もう。さらなる側面および実施形態は当業者には明らかであろう。
【実施例】
【0214】
概略紹介
任意の抗原受容体を発現するT細胞の活性を可逆的に制御できるシステムを開発するため、CARまたはTCRシグナル伝達複合体に容量設定可能に阻害シグナルを移動する方法を考案した。CARおよびTCRの抗原受容体に共通する特性は、これらの受容体を介したシグナル伝達が免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)のリン酸化につながるということである。抗原受容体がアゴニストリガンドに結合するとLckを活性化し、CD3複合体のITAMをリン酸化する。CD3 ζ鎖がリン酸化されると、Zap70タンパク質はSH2ドメインを介してCD3 ζ鎖のリン酸化されたITAMに動員される。
【0215】
我々は、抑制性受容体に含まれるシグナル伝達ドメインが、ITAMと相互作用するSH2ドメイン、例えばZap70 SH2ドメイン、またはSykやLckのようなリン酸化した免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)と結合する他の蛋白質のSH2ドメインと融合して活性化抗原受容体に移動すると、TCR/CARシグナル伝達が抑制される可能性があると考えた。
【0216】
天然のリガンドと結合すると、PD1、BTLA、SIRPα、シグレック5、シグレック9、シグレック11、PECAM1、LY9などの様々な阻害性受容体が、免疫細胞の活性化を妨害することが明らかになっている。
【0217】
SH2ドメインによる阻害ドメイン送達の概念を支持するために、我々は当初、PD1の細胞内ドメインに着目した、というのは、サイトカイン産生と細胞傷害性に関するシグナル伝達は可逆的で (Barber et al, Nature. 2006 Feb 9;439(7077):682-7)、PD1のTCRマイクロクラスターへの物理的近接がT細胞抑制に重要であることが示されている (Yokosuka et al, J Exp Med. 2012 Jun 4;209(6):1201-17)からである。これらの観察に基づき、PD1の抑制ドメインをTCR複合体に近づける目的で、Zap70 2xSH2ドメイン-PD1 尾部融合タンパク質(以降、Zap70-PD1と略記)を作製した(
図1A-B)。Zap70 2xSH2ドメインは、リン酸化されたCD3 ζ鎖に結合し、下流の標的をリン酸化することでTCRシグナル変換経路を開始する(Wang et al, Cold Spring Harb Perspect Biol, 2010 May;2(5):a002279)。
【0218】
T細胞活性化に対するZap70-PD1の効果を評価するために、初代ヒトT細胞を高親和性CDK4新生抗原に特異的なクラスI制限TCR (Stronen et al, Science. 2016 Jun 10;352(6291):1337-41)、およびZap70-PD1融合体、阻害性尾部のないZap70 SH2ドメイン(Zap70 2xSH2)、PD1細胞内ドメイン(PD1尾部)、またはベクター対照のいずれかで形質転換した。
【0219】
CDK4新生抗原を加えたT2腫瘍細胞を用いる恒温放置によるT細胞サイトカイン産生(IFNγ、IL2、TNFα)またはT細胞脱顆粒(LAMP-1細胞表面発現)を解析した結果、遊離PD1尾部の発現でT細胞機能が大きく変化しないことが判明した。PD1尾部を含まないZap70 2xSH2ドメインの発現では、T細胞の機能がわずかに阻害されたが(
図1C-D)、これは内在性の野生型Zap70との競合によって説明できるかもしれない。
【0220】
特に、PD1の細胞内ドメインをZap70のSH2ドメインに連結すると、T細胞のサイトカイン産生とT細胞の脱顆粒の両方を高効率で抑制することが観察された(T細胞を10 nMペプチド負荷T2腫瘍細胞と共培養すると反応細胞の割合が減少する)。IFNγ:104倍、IL-2:110倍、TNFα:81倍、細胞表面LAMP1:40倍、すべてベクター対照との比較、
図1C~1D)。
【0221】
T細胞の機能阻害は、CD8 T細胞とCD4 T細胞のいずれでも観察された。さらに、EGFPレポーターの発現量が異なる遺伝子修飾細胞集団のT細胞活性阻害の程度を比較したところ、Zap70-PD1の発現量と阻害活性に相関があり、Zap70-PD1タンパク質量の調節がT細胞の機能調節に利用できる可能性が示唆された。
【0222】
Zap70-PD1タンパク質濃度の薬理学的制御を達成するために、我々は続いて、小分子制御タンパク質安定性ドメイン(例えば、自己切断デグロン(SED)、ここでSEDは、抑制性プロテアーゼ、同族切断部位およびデグロン配列、またはタンパク質分解標的キメラ(Protac)結合ドメインを含む)との融合タンパク質を生成させた。リン酸化ITAM結合SH2ドメイン、免疫受容体チロシンに基づくスイッチモチーフ(ITSM)、好ましくはITSMおよび免疫受容体チロシンに基づく阻害モチーフ(ITIM)、および小分子制御タンパク質安定性ドメインの組み合わせは、本明細書ではCRASH-IT (Chemically Regulated and SH2-delivered Inhibitory Tail:化学的に制御されたSH2伝達型抑制尾部)とも称される。SEDとして低分子化合物によるシャットオフタグ(Small Molecule-Assisted Shutoff tag: SMAShタグ、Chung et al. Nat Chem Biol. 2015 Sep;11(9):713-20)を含むCRASH-IT実施形態を
図2A-Bに示す。SMAShタグは、HCV NS3/4Aプロテアーゼとプロテアソームによる迅速なタンパク質分解を引き起こすデグロンからなる。HCVプロテアーゼ阻害剤がない場合、HCVプロテアーゼは目的のタンパク質とデグロンとの間のリンカーを切断し、それによりタンパク質の分解を防ぐ。一方、HCV NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤の存在下では、融合タンパク質全体がプロテアソームの標的となり、分解される。
【0223】
Zap70-PD1融合タンパク質の水準がこのように制御できるかどうかを検証するために、N末端HAタグ付きZap70-PD1-SMASh融合タンパク質を作製し、これをヒトT細胞に導入した。細胞内染色により融合タンパク質の水準を解析したところ、HCV NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤アスナプレビルによるプロテアーゼ活性の阻害により、初代ヒトCD8およびCD4細胞の両方で融合タンパク質水準が減少し、0.2 μM付近で半分になる最大阻害が観察された(
図2C-D)。
【0224】
重要なことは、Zap70-PD1-SMASh融合タンパク質は、Zap70-PD1融合タンパク質のT細胞活性化阻止能を保持しており、このT細胞機能の阻害は、初代ヒトCD8 T細胞(
図2E)とCD4 T細胞(
図2G)の両方についてアスナプレビルの添加により元に戻すことができるようになったことである。
【0225】
具体的には、DMSO処理細胞に比べて、ペプチドを負荷した標的細胞(10 nM)によるCD8+T細胞の活性化は、IFNγ、IL2、TNFαおよび細胞表面のLAMP1発現でそれぞれ8.8倍、11.5倍、6.3倍および6.6倍に増強した。対照として、Zap70-PD1-SMASh融合タンパク質陰性T細胞(ベクター対照)のエフェクター機能は、プロテアーゼ阻害剤によって変化しなかった(
図2Fおよび
図2H)。我々は、融合タンパク質水準に対する影響が控えめであっても(
図2C)、Zap70-PD1-SMASh修飾T細胞の機能に対するアスナプレビルの影響が深刻であり(
図2E)、TCRシグナル変換経路のシグナル増幅特性がシグナル強度に対して非常に敏感なことに注目する。
【0226】
養子T細胞療法に用いられる安全スイッチは、理想的には容量設定可能で可逆的であるべきである。抗原負荷した標的細胞とZap70-PD1-SMAShスイッチで修飾したCDK4特異的T細胞の共培養におけるアスナプレビル濃度の増加効果を解析することで、T細胞の機能性が用量依存的に回復することが示され(
図3A-C)、T細胞が所望の抗原感受性に達するように調整できることが実証された。次に、CRASH-ITプラットフォームがT細胞の可逆的な制御因子として作用し、活性状態から不活性状態に切り替えたり戻したりできるかどうかを把握するために、アスナプレビル処理および対照処理したT細胞を洗浄し、薬物非存在下で72時間培養した。その後、T細胞を再びアスナプレビルで処理するか、未処理のままにして、抗原負荷した標的細胞に接触させた(
図3Aの実験図表)。注目すべきは、Zap70-PD1-SMASh修飾T細胞は、腫瘍共培養の時期にアスナプレビルに曝露した場合にのみ、細胞が以前にアスナプレビルに曝露したか否かにかかわらず、実質的な活性を示したことである。言い換えれば、CRASH-ITスイッチを事前に作動させても、その後の使用中に結果が変わることはなく、プラットフォームの可逆性を実証している(
図3D)。
【0227】
小分子によるT細胞機能の回復は、変異型CDK4新生抗原を内因性に発現するMel526およびNKIRTIL006メラノーマを用いた共培養実験でも示されたが、野生型CDK4遺伝子を発現する対照細胞MM90904メラノーマには影響がなかった(データ未掲示)。
【0228】
可逆的なT細胞阻害を達成するために必須のタンパク質ドメインの特徴を明らかにすべく、Zap70 2xSH2およびZap70-PD1のSMAShタグ付きのものと、デグロンドメインを欠いたZap70-PD1のSMAShタグ付きのものを比較した(データは未掲示)。SMAShドメインを持たないタンパク質スイッチで観察されたように(
図1)、使用されたPD1尾部の存在はTCRシグナル伝達の厳密な制御を達成するのに重要で、CRASH-ITスイッチのトリガーによるT細胞活性の回復にはプロテアソーム分解を誘導するデグロンの存在が必要であることが分かった。
【0229】
次に、SMAShタグをFKBP12
F36Vドメインで置換することで、PROTACを介したCRASH-ITプラットフォームの活性化について検討した(
図4A-B)。異種機能性dTAG-13分子が存在すると、CRBN E3リガーゼ複合体との二量体化が誘導され、FKBP12
F36V融合タンパク質が迅速にプロテアソーム分解する(Nabet et al, Nat Chem Biol, 2018 May;14(5):431-441)。低分子容量設定実験により、dTAG-13 PROTACを用いたCRASH-ITプラットフォームの活性化は0.5 μM付近でピークを示すのに対し、HCV NS3/4A阻害剤は同様の活性化水準に対して大幅に高濃度が必要であった(
図4C-E)。さらに、SMAShタグをFKBP12
F36Vドメインで置換すると、低分子が存在しない場合、腫瘍共培養における基底T細胞の活性化が減少した。FKBP12
F36VはSMAShタグより591 bp短いため、より高い遺伝子発現レベルにあることが、この理由の可能性がある。CDK4 TCRとZap70-PD1-FKBP12
F36V(EGFP)共導入細胞をEGFPとCD8発現に基づいて選別し、その後dTAG-13と高IL-2含有培養液で展開することにより、細胞傷害性検定に用いるT細胞プールを作製した。選別されたCD8細胞は、dTAG-13処理により
51Cr負荷NKIRTIL006腫瘍細胞の殺傷力の増加を示したが、対照ベクター修飾T細胞の活性は変化しなかった(
図4F-G)。
【0230】
次に、第二世代CARで修飾したT細胞を用いて、CRASH-ITスイッチシステムの柔軟性を検証した。抗CD19-CD28-CD3ζ鎖CAR(
図5A)(Brentjens et al, Clin Cancer Res. 2007 Sep 15;13(18 Pt 1):5426-35) 修飾ヒトT細胞をCD19陽性ラージ(Raji)またはDaudiと共培養したところ(
図5B)、これらの細胞のサイトカイン生産と脱顆粒はZap70-PD1-SMAShで効率的に抑えられ、これらのT細胞の機能はアスナプレビルの添加で回復した(
図5C-F)。
【0231】
同じ意味で、NY-ESO-1共有抗原特異的TCRで修飾されたCD8 T細胞の機能活性(Linnemann et al, Nat Med. 2013 Nov;19(11):1534-41)は、CRASH-ITスイッチにより阻止され、アスナプレビルの添加によって回復した(
図6)。
【0232】
最後に、初代ヒトT細胞の内因性TCR複合体を抗CD3抗体または抗CD3/CD28抗体を塗布したプレートで刺激すると、T細胞の機能は再びCRASH-ITによって抑制され、薬物添加によって回復した(データ未掲載)。
【0233】
アスナプレビルによるタンパク質分解は、CD4細胞よりもCD8細胞で効率よく行われた。このためか、アスナプレビルによるT細胞機能の回復は、CD4+T細胞よりもCD8+T細胞でより完全に行われた。異なる免疫細胞種に対して最適化されたダイナミックレンジを持つ変位CRASH-ITスイッチシステムの作成可能性の探求を始めるために、CD8細胞においてアスナプレビル非存在下でやや厳しくないT細胞抑制を示すZap70-PD1-SMASh(
図7A)の修正版を作成した。調整されたtuZap70-PD1-SMAShスイッチは、CDK4 TCRで修飾されたCD4 T細胞の機能を効率的に抑制する能力を保持していたが、アスナプレビル添加によるT細胞機能の回復が著しく改善された(
図7B)。このスイッチシステムがHLAクラスIIを介してCD4+T細胞認識を制御するのにも使用できるかどうかをテストするために、tuZap70-PD1-SMAShスイッチとHLAクラスII制限CMV TCRで初代ヒトCD4+T細胞を共導入し、得られた細胞をペプチド負荷CBH 5477標的細胞と共培養を行った。tuZap70-PD1-SMAShスイッチの導入により抗原感受性が約1000分の一に低下し、アスナプレビル処理によりCD4+T細胞の機能がほぼ完全に回復した(
図7C-D)。これは、特定の細胞種に対して最適化したCRASH-ITシステムを構築できることを実証する。tuZap70-PD1-SMAShは、DNAをコードするアラニンアミノ酸残基を開始コドン後のN末端に加えることで得られた(バリンアミノ酸残基も試験で同様の結果を示した)。
【0234】
概念的には、CRASH-ITは、抗原受容体への接近を誘導し、抑制シグナルを提供し、この抑制シグナルの強さを調節する可能性を提供する機能要素を含む。私たちが開発した設計は、これらの機能的要素はそれぞれ、Zap70 SH2ドメイン、PD1尾部、低分子制御タンパク質安定性ドメイン(SMAShタグまたはFKBP12F36V)により形成されている。
【0235】
さらに、ITIMおよびITSMを含む受容体から異なる抑制ドメインを含めることで、T細胞抑制の水準を変化させ、その抑制を特定のT細胞出力シグナルに向けることができる可能性を提供する。
図8および
図9は、実際に、他の阻害性尾部からの異なるITSMモチーフおよびITIMモチーフを含む構築物が、本発明によるキメラポリペプチドおよびシステムのストリンジェンシー(厳密さ)を改善できることを示す。試験したドメインは、2つのITSMドメインのみからなりITIMドメインを含まないLY9以外は、全てITSMとITIMの両方を含む(
図11も参照)。さらに、
図10は、代替のSH2含有ドッキングドメインを本発明で使用できることを示す。試験した代替SH2ドメインはすべて、本発明の文脈内でリン酸化ITAM(
図12も参照)と相互作用する(Katsuyama et al, Front Immunol. 2018; 9: 1088、Ngoenkam et al, Immunology. 2018 Jan; 153(1): 42-50、Koch et al, Trends Immunol. 2013 Apr;34(4):182-91)。
【0236】
さらに、NK細胞でも、CRASH-ITプラットフォームの幅広い応用性が実証された。NK細胞株KHYG-1は、その内因性NK細胞活性化受容体を用いて、HLAクラスIおよびクラスII欠損K562腫瘍を効果的に認識し殺すことができる(Suck et al, Exp Hematol. 2005 Oct;33(10):1160-71)。 Zap70-PD1-FKBP12
F36Vスイッチを発現させると、K562腫瘍と共培養したNK細胞のIFNγ、IL2、TNFα産生を薬物非存在下で効率的に抑制し、dTAG-13 PROTAC存在下で抑制が解除された(
図13)。
【0237】
現在のCARデザインは、CD3 ζ鎖のシグナル伝達ドメインを含むITAMを含むことが多いが、代替ITAM含有シグナル伝達ドメイン、例えばCD3 ε鎖の断片(Nolan et al, Clin Cancer Res, 1999 Dec;5(12):3928-41)、免疫グロブリン受容体の γ(ガンマ)鎖FcεRI (Ren-Heidenreich et al, Cancer Immunol Immunother. 2002 Oct;51(8):417-23)、およびDAP12 (Topfer et al, J Immunol. 2015 Apr 1;194(7):3201-12)も報告されている。我々は、CRASH-ITスイッチと代替ITAM含有シグナル伝達ドメインを含むCARのパネルとの適合性を試験し、異なるCARとCRASH-ITスイッチを共発現するT細胞において、薬物非存在下でT細胞機能の阻害、薬物添加によるT細胞機能の回復を示した(
図14)。
【0238】
SMAShドメインを利用するCRASH-ITの実施形態は、免疫担当の宿主内に潜在的に免疫原性を持つ可能性のあるHCV由来のタンパク質配列を含む。FKBP12F36Vドメインに基づくCRASH-ITプラットフォームのさらなる実施形態は、dTAG-13などのPROTAC分子によって制御される。ただし、dTAG-13のサイズ(分子量:1049.18)は、その経口利用可能性を制限する可能性がある。
【0239】
そこで我々は、CRASH-ITスイッチシステムと、経口生体利用能を示し臨床で使用されている低分子化合物により制御可能な別のタンパク質安定性制御ドメインとを組み合わせることが可能かどうかを評価した。我々は、薬物に応答してCRBNタンパク質に結合し、それによりキメラポリペプチドのユビキチン経路媒介分解を促進するCRBNポリペプチド基質ドメインを含むCRASH-IT実施形態が、本発明にうまく採用することができることを見いだした。これは、リン酸化免疫受容体チロシンに基づく活性化モチーフに結合するタンパク質からのSH2ドメインを含む第1の部分、好ましくは、免疫受容体チロシンに基づくスイッチモチーフ(ITSM)、好ましくはITSMおよび免疫受容体チロシンに基づく抑制モチーフ(ITIM)を含む第3の部分、およびジンクフィンガーに基づくデグロンを含む第2の部分(すなわち、小分子制御タンパク質安定性ドメインを含む部分)を含むCRASH-IT実施形態を用いて示される。このようなCRASH-ITの実施形態では、サリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイドなどの臨床的に承認され経口投与可能な分子を含む免疫調節イミド薬(IMiDs、セレブロン調節薬としても知られている)により制御に成功した。
【0240】
サリドマイド(分子量:258.23)、レナリドマイド(分子量:259.26)、ポマリドマイド(分子量:273.24)は多発性骨髄腫の治療に臨床的に用いられている免疫調整剤(IMiD)である。先行する研究により、これらの化合物の活性は、例えばIKZF1タンパク質のCRBN E3リガーゼ依存的な分解に依存することが分かっている。さらに、IKZF1配列内の23アミノ酸長のジンクフィンガーモチーフ(IKZF1ジンクフィンガー2、ZF2)が、サリドマイド、レナリドマイド、およびポマリドマイド依存性のタンパク質分解のための最小デグロン(またはCRBNポリペプチド基質ドメイン)を構成することが分かっている。IKZF1 ZF2配列とCRBN-IKZF1 ZF2界面と相互作用する隣接ジンクフィンガー3(IKZF1 ZF3)を組み合わせると、約57アミノ酸長の改良型IKZF1由来のデグロンが得られる(Sievers et al, Science. 2018 Nov 2;362(6414). pii: eaat0572)。この改良デグロン配列は、薬物に応答してCRBNタンパク質に結合することができる他のCRBNポリペプチド基質ドメインと同様に、例えば、得られたタンパク質の安定性がサリドマイド、レナリドマイドまたはポマリドマイドまたは他の任意のIMiDの添加により制御されるように目的のタンパク質に融合される(Koduri et al, Proc Natl Acad Sci U S A.2019 Feb 12;116(7):2539-2544)。
【0241】
ポマリドマイドとレナリドマイドは第二世代のIMiDで、C4位の溶媒露出型フタルイミド環にアニリン基がある点ででサリドマイドとは異なる。レナリドマイドとポマリドマイドは、このアニリン基の存在により、サリドマイドと比較して有効性が向上すると考えられている。これら3剤の治療効果と副作用(骨髄抑制作用、抗炎症作用、T細胞共刺激作用、NK細胞増殖作用、血管新生作用、催奇形作用)はいずれも重複するが、3剤間でその程度が異なる。サリドマイド、レナリドマイド、ポマリドマイドの推奨開始用量は、効力の違いを反映して、それぞれ200 mg/日、25 mg/日、4 mg/日である。
【0242】
IMiDでT細胞の活性レベルを制御するために、Zap70 2xSH2ドメイン、PD1シグナル伝達ドメイン、IKZF1 ZF2-ZF3最適量のデグロンを含むCRASH-ITスイッチを作成した(
図15-16)。初代T細胞をCDK4新生抗原特異的TCRとIKZF1に基づくCRASH-ITスイッチで共導入し、CDK4新生抗原を内因性に発現するNKIRTIL006腫瘍細胞と共培養すると、IMiD非存在下ではサイトカイン産生と細胞表面のLAMP-1発現が確実に抑制され、活性水準はポマリドマイドまたはレナリドマイドの存在で確実に回復したが、サリドマイドの存在では回復度は低かった(
図16)。
【0243】
IMiDの抗炎症作用は、安全スイッチを不活性化するために高濃度の薬物を必要とする場合、細胞治療薬の活性を阻害する可能性がある。このため、内在性標的の分解が少ない薬物濃度で安全スイッチを制御できるような、IMiDに高い親和性を示す人工的なデグロンの創製が望まれている。ZFP91 ZF4のβターン配列とIKZF1 ZF2のαヘリックス配列を含む複合ジンクフィンガーモチーフが、親配列のZFP91 ZF4およびIKZF1 ZF2と比較して、サリドマイドに対して高い親和性を示すことが以前に報告されている(Sievers et al, Science. 2018 Nov 2;362(6414). pii: eaat0572)。なお、IKZF1 ZF2-3配列はIKZF1 ZF2配列と比較して優れたタンパク質分解能を示すことが別途報告されているが、本解析ではIKZF1 ZF3配列はジンクフィンガーデトロンに含まれない。
【0244】
サリドマイドと高親和性で相互作用するデグロンを生成するために、IKZF1 ZF2-3デグロンからIKZF1 ZF2のβターン配列を様々なジンクフィンガー(ZNF653 ZF4, ZFP91 ZF4, ZNF276 ZF4, ZNF827 ZF1)からのβターン配列で置換した。薬物濃度の関数としてT細胞活性を分析すると、ZNF653、ZFP91、ZNF276、およびZNF827βターングラフトを含む複合ジンクフィンガーは、レナリドマイド、ポマリドマイドおよびサリドマイドのいずれかの濃度を下げると不活性化でき、特に後者では薬物感受性が大幅に改善されることが明らかになった(
図16)。具体的には、同水準のサイトカイン産生(IFNγ、IL-2、またはTNFα)、あるいは表面LAMP-1発現レベルを達成するために必要なサリドマイド濃度は、キメラデグロンを発現するT細胞では、親のIKZF1 ZF2-3 デトロンに比べて約1000分の1に減少した(
図16D)。したがって、Zap70-PD1-ZFP91/IKZF1などのZnフィンガーに基づくCRASH-ITスイッチは、その通常のリガンドのサリドマイド結合が最小となるサリドマイド濃度でT細胞機能を制御するのに使用することができる。
【0245】
注目すべきは、これらのIMiD容量設定実験において、高濃度の薬物でも効果的なT細胞の再活性化が観察されたことである。一方、FKBP12F36V/dTAG-13に基づくスイッチで高濃度の薬物を使用すると、T細胞機能の再活性化が最適でない結果になる。高PROTAC濃度におけるタンパク質標的の準最適分解は以前に報告されており、E3リガーゼ-PROTACとPROTAC-標的タンパク質(FKBP12F36Vなど)の二量体が意図したE3リガーゼ-PROTAC-標的タンパク質三量体を支配する、いわゆる「フック効果」(An et al, EBioMedicine.2018 Oct;36:553-562)に起因するとされている。ジンクフィンガーとIMiDの組み合わせに顕著なフック効果がないため、CmaxとCminの両方で最適なT細胞を再活性化でき、IMiDの臨床利用が容易になる。最後に、例えばFKBP12F36Vドメイン(107のアミノ酸)と比較して、ジンクフィンガーに基づくデグロン(約57のアミノ酸)のサイズは小さいので、CAR/TCRとCRASH-ITスイッチの発現が連結された単一ベクターシステムの設計を含むコンパクトなベクター設計が可能である。
【0246】
最後に、IKZF1 ZF3を含むか含まないZFP91/IKZF1複合ジンクフィンガー(それぞれ二重ZFおよび単一ZF)、またはIKZF1、IKZF3、ZFP91、ZNF276、ZNF653由来の野生型二重ジンクフィンガーを含むZap70-PD1-ジンクフィンガー構築物の効率について比較した(
図17A)。その結果、CDK4 TCRおよびZap70-PD1-ZFP91/IKZF1複合ジンクフィンガー二重ZFデグロンを発現するT細胞の活性は、IMiDsの存在下で最も効率的に回復できることが示された(
図17B-E)。
【0247】
本発明によるキメラポリペプチドおよびシステム、CRASH-ITは、CD4 T細胞、CD8 T細胞およびNK細胞の文脈における高親和性および中間親和性クラスI制限TCR、クラスII制限TCRおよびCARとともに使用することで示されるように、活性化抗原受容体の性質にとらわれない、容量設定可能かつ可逆性のT細胞およびNK細胞安全スイッチプラットホームである。
【0248】
CRASH-ITの柔軟性は、T細胞やNK細胞の感度を細かく制御することが望ましい環境でその価値を発揮することができる。さらに、CRASH-ITと既存のCARの組み合わせは、CARの構造的な再設計を必要としないため、すでに臨床試験で評価されているCAR設計には特に価値がある。
材料と方法
レトロウイルスDNA構築物
【0249】
すべてのDNA構築物を、MP71レトロウイルス発現ベクター骨格で生成した(Engels et al, Hum Gene Ther. 2003 Aug 10;14(12):1155-68)。手短に言えば、コドン最適化DNA配列を遺伝子断片としてIDTにより合成し、ギブソン・アセンブリによりMP71ベクターにクローン化した(Gibson et al, Nat Methods. 2009 May;6(5):343-5)。MP71-Zap70 2xSH2-PD1尾IRES-EGFPベクターを生成するために、ヒトZap70断片(P43403、1-264 aa)、GGSリンカー、ヒトPD1細胞内ドメイン(Q15116、192-288 aa)、終止コドン、およびIRES-EGFPレポーターをコードするコドン最適化配列をMP71にクローン化した。
【0250】
MP71 IRES-EGFP骨格を含む他の構築物を、以下のコード配列から作製した。すなわちMP71-Zap70-2xSH2ドメイン-IRES-EGFP:ヒトZap70 (P43403, 1-264 aa)、MP71 PD1-尾-IRES-EGFP:MVコード配列(すなわち開始コドンメチオニンとコザック配列を生成する追加のバリン)、およびヒトPD1細胞内ドメイン(Q15116, 192-288 aa)。MP71-Zap70-PD1-SMASh-IRES-EGFP:ヒトZap70 (P43403、1-264aa)、GGSリンカー、ヒトPD1細胞内ドメイン(Q15116、192~288aa)、SGGGSリンカー、および304aaのSMAShタグ(Chung et al、Nat Chem Biol.2015 Sep;11(9):713-20)。MP71-Zap70 2xSH2-SMASh-IRES-EGFP:ヒトZap70 (P43403、1-264 aa)、SGGGSショートリンカー、および304 aaのSMAShタグ。MP71-IRES-EGFPベクター対照:無関係な248 aa Tet-On 3Gトランス活性化因子(Clontech)。MP71-HA-Zap70-PD1-SMAShタグ-IRES-EGFP:HAタグ(MVYPYDVPDYAGSGV)コード配列にZap70-PD1-SMAShコード配列が続く。MP71-tuZap70-PD1-SMASh-IRES-EGFP:MP71-Zap70-PD1-SMASh-IRES-EGFPの開始コドンの後にアラニン残基をコードするDNAが追加された。MP71-Zap70-PD1-SMASh-δ-IRES-EGFP(デグロン配列欠失):MP71-Zap70-PD1-SMASh-IRES-EGFP構築物のSMAShタグの最後の78aaをコードするDNAを欠失させた。MP71 CD19 ScFv-CD28-CD3 ζ CAR-IRES-huEGFRt:第二世代のCD19特異的CARを、IRES切断ヒトEGFR (huEGFRt)レポーター(Wang et al. 2011)と共に、SFG-19-28zベクター(Brentjens et al. Clin Cancer Res. 2007 Sep 15;13(18 Pt 1):5426-35)からMP71骨格にギブソン・アセンブリによりサブクローン化した。MP71-IRES-huEGFRtベクター対照:MP71 CD19 ScFv-CD28-CD3 ζ CAR-IRES-huEGFRtベクターのCAR挿入物を、無関係な248 aa Tet-On 3Gトランス活性化タンパク質コード配列(Clontech)で置換した。MP71-Zap70-PD1-SMASh-IRES-EGFPベクター内のPD1細胞質ドメイン(PD1尾部)コード配列を、BTLA (Q7Z6A9、179-289 aa)、SIRPA (P78324、395~504 aa)、シグレック5 (O15389, 463-551 aa)、シグレック9 (Q9Y336、370-463 aa)、シグレック11 (Q96RL6、585-698 aa)、PECAM1 (P16284-1、 621-738 aa)およびLY9 (Q9HBG7、477-655 aa)を用いて、細胞質ドメインをコードするDNA配列で置換して、対応する阻害性の細胞質ドメインをコードするCRASH-IT実施態様を構築する。MP71-Zap70-PD1-SMASh-IRES-EGFPベクター内のZap70 2xSH2ドメインコード化配列(P43403、1-264aa)を、Syk 2xSH2 (P43405-1、1-287aa)またはLck SH4-Unique-SH3-SH2 (P06239-1, 1-254 aa)配列をコードするDNA配列で置換し、対応するSH2ドメインをコードするCRASH-ITの実施形態として構築することができた。MP71- Zap70-PD1-SMASh-IRES-EGFPベクター内のSMAShドメインコード配列を、FKBPF36VをコードするDNA配列で置換し、dTAG-13 PROTACによって制御可能なCRASH-IT実施形態を構築した(Nabet et al. Nat Chem Biol. 2018 May;14(5):431-441)。
【0251】
代替ITAM含有ドメインをコードするCAR-Tパネルを生成するために、MP71 CD19 ScFv-CD28-CD3 ζ CAR-IRES-huEGFRt ベクターのCD3 ζ鎖を、免疫グロブリン受容体FcεRI(FCER1G)(P30273, 45-86 aa)のγ鎖、CD3 ε鎖(P07766, 153-207 aa)、またはDAP12 (O43914, 62-113 aa) のいずれかの細胞質ドメインを含むITAMで置換した。あるいは、CD3 ζ鎖を欠失させ、ITAM含有ドメインを持たないCAR構築物を生成した(負の対照)。MP71 CD19 ScFv-CD28-CD3 ζ CAR-IRES-huEGFRt ベクターのCD28-CD3 ζコード配列を全長CD3 ε鎖配列CD3E (P07766, 25-207 aa)で置換してMP71 CD19 ScFv-CD3E CAR-IRES-huEGFRtを作製した。
【0252】
IKZF1 ZF2-3 デグロン含有配列(Q13422、141-197 aa)、IKZF3 ZF2-3 デグロン含有配列(Q9UKT9、142-198 aa)、ZFP91 ZF4-5デグロン含有配列(Q96JP5, 396-455 aa)、ZNF276 ZF4-5デグロン含有配列(Q8N554, 520-579 aa)、ZNF653 ZF4-5デグロン含有配列(Q96CK0, 552-611 aa)、またはZNF692 ZF4-5デグロン含有配列(Q9BU19, 413-473 aa)を用いてMP71 Zap70-PD1-Zinc finger IRES-EGFP フォーマットで種々のジンクフィンガー・デグロンを含む構築物を作成した。複合ジンクフィンガー・デグロンをコードするCRASH-ITスイッチについては、IKZF1 ZF2βターン配列(FQCNQCGASFT)を、ZNF653 ZF4 (LQCEICGYQCR)、ZFP91 ZF4 (LQCEICGFTCR)、ZNF276 ZF4 (LQCEVCGFQCR)、ZNF827 ZF1 (FQCPICGLVIK)のβターン配列で置換した。IKZF1 ZF3を含まないZFP91/IKZF1複合ジンクフィンガー(単一ZF)をコードするCRASH-ITスイッチについては、IKZF1 ZF3含有配列(Q13422、170-197 aa)をZap70-PD1-ZFP91/IKZF1複合ジンクフィンガー(二重ZF)構築物から欠失させた。
【0253】
HLAクラスI制限CDK4 TCR(TCR 17, Stronen et al, Science. 2016 Jun 10;352(6291):1337-41) およびNY-ESO-1 TCR (TCR 1, Linnemann et al, Nat Med. 2013 Nov;19(11):1534-41)は既に記載の通りである。HLAクラスII制限CMV-pp65 TCRの可変ドメイン配列(van Loenen et al, PLoS One. 2013 May 30;8(5):e65212)を、M.H. Heemskerk (LUMC, NL) から親切に提供を受け、TCR flex MP71 ベクターにクローン化した (Linnemann et al., Nat Med. 2013 Nov;19(11):1534-41)。
細胞株と細胞培養
【0254】
FLYRD18、T2、MM90904(Marco Donia, Herlev Hospital, Denmarkからの提供)、Mel526 (Stronen et al, Science. 2016 Jun 10;352(6291):1337-41), NKIRTIL006 (Kvistborg et al, Oncoimmunology. 2012 Jul 1; 1(4): 409-418)、K562、Daudi、RajiおよびCBH 5477(M.H. Heemskerkからの提供)細胞を、8%FCS (Invitrogen、#F7524-500ML)およびペニシリン-ストレプトマイシン(100 IU/mlペニシリン、100 μg/mlストレプトマイシン、Sigma-Aldrich、#11074440001)を補充したIMDM(Invitrogen、#21980065)中で培養した。FLYRD18、MM90904、Mel526およびNKIRTIL006細胞を、トリプシン-EDTA (Invitrogen、#15400054)を用いて2~3日ごとに継代した。
【0255】
ヒトNK細胞株KHYG-1(DSMZ、Leibniz、ドイツ)を、500 IU/ml IL-2 (Novartis)を含む8% FBSおよびペニシリン-ストレプトマイシン(100 IU/mlペニシリン、100 μg/mlストレプトマイシン)添加RPMIで培養した。全ての細胞株を、PCRに基づく選別により、マイコプラズマについて試験し (Young et al, Nat Protoc. 2010 May;5(5):929-34)、陰性であることを確認した。
レトロウイルスの産生
【0256】
レトロウイルス粒子をFLYRD18パッケージング細胞中で作製した。手短に言えば、トランスフェクションの1日前に、10 cm培養皿あたり70万個のFLYRD18パッケージング細胞を播種した。翌日、細胞培養液を抗生物質無添加の8%FCS添加IMDMでリフレッシュした。25 μlのX-tremeGENE 9 (Roche, #6365809001)を800 μlのOpti-MEM (Invitrogen, #11058-021と混合し、5分間恒温放置した。その後、Optimem-X-tremeGENE 9混合物を、水に溶解した10 μgのレトロウイルスプラスミドDNAに加え、15分間恒温放置し、得られた形質移入混合物をパッケージング細胞に滴下により添加した。形質移入から48時間後にレトロウイルスを含む上清を採取し、直ちに使用するか、液体窒素で瞬間凍結した。
T細胞の分離と活性化
【0257】
健常ドナーの軟膜(Sanquin (Amsterdam,NL))からFicoll-Isopaque密度遠心法(Linnemann et al,Nat Med.2013 Nov;19(11):1534-41)により末梢血単核細胞(PBMC)を分離し、次に使用するまで凍結保存した。活性化T細胞集団を生成するために、PBMCを、5%FCSを含むPBS溶液で解凍し、計数し、CD3/CD28 Dynabeads (CTS、#40203D)と1:1の細胞対ビーズ比で混合し、107細胞/mlの密度にした。
【0258】
タンブラーで、室温で30分間恒温放置した後、混合物を磁石に乗せ、結合していない細胞を除去した。ビーズに結合したT細胞を、10%ヒト血清(Sigma-Aldrich、#H3667-100ML)および100 IU/ml IL-2 (Novartis) および5 ng/ml IL-15 (Peprotech, #200-15)を含むペニシリン-ストレプトマイシン添加RPMIに再懸濁し、0.75×106細胞/mlの密度で播種した。
T細胞、NK細胞の回転形質移入
【0259】
24ウェル無処理細胞培養プレートを10 μg/mlレトロネクチン(タカラ、#T100B)で4℃にて一晩被覆した。翌日、レトロネクチン溶液を除去し、ウェルを2%BSA (Sigma-Aldrich、A9418-500g)含有PBSで30分間ブロックした。活性化T細胞(RPMI/10%ヒト血清/ペニシリン-ストレプトマイシン/200 IU/ml IL-2および10 ng/ml IL-15中に0.25×106細胞/ml)またはKHYG-1 NK細胞(RPMI/8% FCS/ペニシリン-ストレプトマイシ/1000 IU/ml IL-2中に0.25×106細胞/ml)を、レトロネクチンコートした24ウェルプレート中で1:1の比(容量/容量)でレトロウイルス上清と混合し、2000 RPMで90分間、室温で遠心分離をした。
ペプチドの担持
【0260】
T細胞標的として使用するため、T2およびCBH 5477細胞に、表示濃度のHLA-A*02:01制限変異CDK4ペプチド(ALDPHSGHFV)、HLA A*02:01 制限NY-ESO-1ペプチド(SLLMWITQA)またはHLA-DR1制限CMVペプチド(KYQEFFWDANDIYRI)のIMDM溶液を37℃で1時間担持させた。その後、細胞を1回洗浄し、共培養実験に使用した。
サイトカイン放出検定と抗体染色
【0261】
T細胞およびNK細胞を、指示された濃度のアスナプレビル(MedChemExpress、# HY-14434)、グラゾプレビル(MedChemExpress、# HY-15298、dTAG-13 (Tocris, #6605)、またはDMSO対照を用いて、T細胞培養液(RPMI/10% ヒト血清/ペニシリン-ストレプトマイシン、100 IU/ml IL2および5 ng/ml IL15)またはNK細胞培養液(RPMI/8% FCS/ ペニシリン-ストレプトマイシン、500 IU/ml IL2)で、それぞれ共培養実験前に24時間前処理した。10万個のT細胞またはNK細胞と10万個の指示腫瘍細胞を、96ウェルプレート中、指示薬物またはDMSO対照の存在下で、ゴルジプラグ(1:1000希釈、BD、#51-2301KZ)および抗LAMP1-APC(1:100希釈、Biolegend、#328620)を加えたT細胞またはNK細胞培養液に混合して、37℃で5時間恒温放置した。
【0262】
恒温放置後、細胞をPBSで1回洗浄し、1:400に希釈したIR染料(Invitrogen, #L34976)を用いて4℃で5分間染色した。その後、細胞をFACS緩衝液(PBS+0.5%BSA)で1回洗浄し、抗CD8-PerCP Cy5.5(1:20希釈、BD、#341050)、抗CD4 BV711(1:50希釈、Biolegend、#317440)、抗ムール定常TCR-PE(導入TCRを用いた実験では、1:200希釈、BD、#553172)またはセツキシマブ-PE(切断ヒトEGFRレポーターを含む導入CAR構築物を用いた実験では、1:200希釈、R&D Systems、#FAB9577P)で、4℃で20分間、染色した。その後、細胞をFACS緩衝液で1回洗浄し、BD固定・透過液(#51-2090KZ)を用いて4℃で20分間、固定した。
【0263】
透過処理後、BD透過・洗浄緩衝液(#51-2091KZ) で2回洗浄し、透過・洗浄緩衝液で希釈した抗IFNγ-BV421 (1:100希釈, BD, #564791)、抗IL-2-PE-Cy7 (1:100 希釈, BD, #560707) および抗TNFα-BV650 (1:100 希釈, Biolegend, #502938) を用いて4℃で20分間染色した。その後、細胞を2回洗浄し、100 μlのFACS緩衝液に再懸濁し、Fortessa 特注分析計で直接分析した。データをFlowJoとPrism 7ソフトウェアを用いて解析した。
【0264】
同様に、T細胞を抗HA-AF647(1:200希釈、Cell Signaling Technology、#3444S)で細胞内染色し、K562、Raji、Daudi腫瘍細胞を抗CD19-PE(1:200希釈、BD、#345789)またはアイソタイプ対照(Biolegend、#400111)を用いて上記のように細胞表面染色した。
T細胞の選別と急速増殖
【0265】
Zap70-PD1-FKBPF36V発現細胞の培養液に、細胞選別の1日前から51Cr検定の4日前まで0.5 μM dTAG-13 PROTACを補充する。CDK4 TCRとZap70-PD1-FKBPF36VスイッチまたはIRES-EGFPベクター対照のいずれかで修飾した初代ヒトT細胞を、80 μMノズルを用いてBeckman Coulter Moflo Astriosで選別した。細胞を、RPMI/10%ヒト血清/ペニシリン-ストレプトマイシン 100 IU/ml IL-2および5 ng/ml IL-15の標準T細胞培養条件で7日間にわたり培養した。
【0266】
この後、急速増殖手順(rapid expansion protocol: REP)を用いて細胞を増殖させた。手短に言えば、3人のドナーから2×108個のフィーダー細胞の混合物を4,000radで照射して生成し(Gammacell 40 Exactor)、得られたフィーダー細胞を1×106個の選別T細胞、および4.5μgのOKT3(Invitrogen、#16-0037-85)、ペニシリン-ストレプトマイシン(100IU/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン)を補充した150 ml 20/80 T細胞混合培養液(Invitrogen,#041-96658P)中のIL-2(最終濃度3000IU/ml)と混合した。6日目に、培養液を3000 IU/mlのIL-2含有培養液でリフレッシュし、IL-2(3000 IU/ml終濃度)含有培養液で3日ごとに2つに分割して培養した。12日目に、51Cr検定に使用するまで、3日間、標準的なT細胞培養条件(RPMI/10 %ヒト血清/ペニシリン-ストレプトマイシン/100 IU/ml IL-2および5 ng/ml IL-15)に切り替えた。
51Cr検定
【0267】
51Cr検定の1日前に、RPMI/10 %ヒト血清/ペニシリン-ストレプトマイシン/100 IU/ml IL-2および5 ng/ml IL-15の標準T細胞培養条件で、0.5 μM dTAG-13 PROTACまたはDMSOでT細胞を前処理した。5×105個の腫瘍細胞を100 μlの培養液に再懸濁し、100 μCi 51Crと穏やかに混合し、37℃で45分間恒温放置した。並行して、dTAG-13またはDMSO対照のいずれかで処理したT細胞の希釈液100 μlを、96ウェルプレートに分注した。100 μlの培養液のみ(自然放出)および100 μlの1 % Triton溶液(最大放出)を対照として使用した。
【0268】
標識後、標的細胞を1 mlの培養液で3回洗浄した。標識した標的細胞を50,000細胞/mlに再懸濁し、96ウェルプレートに1ウェルあたり100 μlずつ添加した。その後、プレートを900 rpmで2分間遠心分離し、37℃で4時間恒温放置した。培養後、上清50 μlをLumaplate-96(Packard Bioscience, #6005164)に加え、一晩乾燥後、PerkinElmer, TopCount NXTを用いて計数した。実験値は、自発的放出および最大放出対照を用いて正規化した。
【0269】
以上、本発明を十分に説明したが、当然のことだが、当業者は、本発明の精神と範囲から逸脱することなく、また過度の実験をすることなく、同じことが広範囲の同等のパラメータ、濃度および条件内で実施できる。
【0270】
本明細書で引用したすべての文献(雑誌記事または要旨、公開または対応する特許出願、特許、またはその他の文献を含む)は、引用文献に示されたすべてのデータ、表、図およびテキストを含め、本明細書に完全に組み込まれる。さらに、本明細書で引用した文献の中で引用された文献の内容全体も、参照により完全に組み込まれる。
【0271】
既知の方法の工程、従来の方法の工程、既知の方法または従来の方法について述べていることは、いかなる意味でも、本発明の任意の側面、説明または実施形態が関連技術に開示、教示または示唆されていることを認めるものではない。
【0272】
具体的な実施形態に関する前述の説明により、本発明の一般的な性質が十分に明らかになるので、他人は、当業者内の知識(本明細書に引用した文献の内容を含む)を応用することで、過度の実験をすることなく、本発明の一般的な概念から逸脱せずに、このような特定の実施形態を容易に修正および/または種々の用途に適合させることができる。したがって、そのような適応および修正は、本明細書に提示された教示および助言等に基づいて、開示された実施形態の意味および均等の範囲内にあることを意図する。
【0273】
当然のことだが、本明細書の用語または語句は、本明細書に示された教示および助言に照らして、当業者が当業者の知識と組み合わせて解釈するような、説明のためのものであり、限定するためのものではない。
【配列表】
【国際調査報告】