(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-22
(54)【発明の名称】粒子状物質の排出量が少ないエンジン
(51)【国際特許分類】
F02M 27/02 20060101AFI20221215BHJP
F02B 37/007 20060101ALI20221215BHJP
F02B 37/013 20060101ALI20221215BHJP
F02B 29/04 20060101ALI20221215BHJP
F01N 3/02 20060101ALI20221215BHJP
B01J 31/22 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
F02M27/02 V
F02B37/007
F02B37/013
F02B29/04 Z
F02B29/04 T
F01N3/02 201
B01J31/22 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022524931
(86)(22)【出願日】2020-10-28
(85)【翻訳文提出日】2022-06-16
(86)【国際出願番号】 EP2020080300
(87)【国際公開番号】W WO2021083965
(87)【国際公開日】2021-05-06
(32)【優先日】2019-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522168040
【氏名又は名称】エコソフテック
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラヴィックス,ジャン-ピエール
【テーマコード(参考)】
3G005
3G190
4G169
【Fターム(参考)】
3G005EA04
3G005EA16
3G005EA23
3G005EA24
3G005EA26
3G005FA35
3G005HA05
3G005HA13
3G190AA05
3G190AA12
3G190AA16
3G190BA17
3G190DA36
4G169AA05
4G169AA15
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BC62A
4G169BC62B
4G169BE01A
4G169BE01B
4G169BE04A
4G169BE04B
4G169BE42A
4G169BE42B
4G169CA07
4G169CA18
4G169DA10
(57)【要約】
吸気マニホルド(2)を備えた船舶用のエンジン(1)であって、有機金属化合物、特にメチルシクロペンタジエニルマンガントリカルボニル成分を含む触媒前駆体と、燃焼持続剤との混合物を使用する触媒デバイス(10)を備えたこと、及び触媒デバイス(10)は、圧縮デバイスの上流に配置され、この圧縮デバイスは、燃焼持続剤と触媒前駆体とを含む混合物の圧力を、2バール以上、又は4バール以上の値に増加させ、この圧力値は、吸気マニホルド(2)への入口で測定されることを特徴とする、船舶用のエンジン(1)が開示される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気マニホルド(2)を備えた船舶用のエンジン(1)であって、有機金属化合物、特にメチルシクロペンタジエニルマンガントリカルボニル成分を含む触媒前駆体と、燃料酸化剤との混合物を使用する触媒デバイス(10)を備えたこと、及び前記触媒デバイス(10)は、圧縮デバイスの上流に配置され、この圧縮デバイスは、前記燃料酸化剤と前記触媒前駆体とを含む前記混合物の圧力を、2バール以上、又は4バール以上の値にさえも増加させ、この圧力値は、前記吸気マニホルド(2)への入口で測定されることを特徴とする、船舶用のエンジン(1)。
【請求項2】
ターボブロワ(9)を備えたターボチャージャ付きエンジンであること、前記圧縮デバイスは、前記ターボブロワ(9)であること、及び前記触媒デバイス(10)は、前記燃料酸化剤と前記触媒前駆体とを含む前記混合物が、前記触媒デバイス(10)の出口から前記ターボブロワ(9)に運ばれ、そこで圧力を増加させてから、前記ターボブロワ(9)から前記吸気マニホルド(2)に運ばれるように、前記ターボブロワ(9)の上流に位置付けられることを特徴とする、請求項1に記載の船舶用のエンジン(1)。
【請求項3】
前記燃料酸化剤と前記触媒前駆体とを含む前記混合物を、50℃以下、又は40℃以下の温度値にさえも冷却するために、前記ターボブロワ(9)と前記吸気マニホルド(2)との間に配設されたインタクーラ熱交換器(8)を備えたことを特徴とする、請求項2に記載の船舶用のエンジン(1)。
【請求項4】
前記圧縮デバイスは、直列に配設された少なくとも二つのターボ圧縮機(19)を備えたことを特徴とする、請求項1に記載の船舶用のエンジン(1)。
【請求項5】
前記燃料酸化剤と前記触媒前駆体とを含む前記混合物を冷却するために、二つのターボ圧縮機(19)の間に配設された少なくとも一つの熱交換器(18)を備えたことを特徴とする、請求項4に記載の船舶用のエンジン(1)。
【請求項6】
ターボブロワ(9)を備えたターボチャージャ付きエンジンであること、並びに前記触媒デバイスを出る前記燃料酸化剤と前記触媒前駆体とを含む前記混合物は、前記ターボブロワ(9)及びインタクーラ交換器(8)の下流に配設された注入ゾーン(16)を介して前記吸気マニホルド(2)への吸気管(6)に接続されることを特徴とする、請求項4又は5に記載の船舶用のエンジン(1)。
【請求項7】
前記注入ゾーン(16)は、複数の十字形のオリフィスによって貫通され、燃料酸化剤の流れの方向に垂直な平面に位置付けられて、前記触媒前駆体蒸気と前記燃料酸化剤との混合物の流れが得られるようにする中空金属体を有する拡散デバイスを備えたことを特徴とする、請求項6に記載の船舶用のエンジン(1)。
【請求項8】
前記触媒デバイス(10)は、セルロース繊維及び/又はいくつかの綿などの織られた繊維を含む媒体を含み、前記媒体上に前記触媒前駆体が液体形態で注入され、蒸発され、前記媒体と接触する燃料酸化剤と混合されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の船舶用のエンジン(1)。
【請求項9】
前記触媒デバイス(10)は、液体触媒前駆体のタンクを備え、前記燃料酸化剤中の前記触媒前駆体の少なくとも部分的な蒸発のために構成されたことを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の船舶用のエンジン(1)。
【請求項10】
前記液体触媒前駆体は、前記触媒前駆体の総重量の90%以上の有機金属化合物又はメチルシクロペンタジエニルマンガントリカルボニル濃度を含むことを特徴とする、請求項9に記載の船舶用のエンジン(1)。
【請求項11】
定格が1MWから100MWの間のエンジンであることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の船舶用のエンジン(1)。
【請求項12】
船舶用のエンジン(1)からの粒子の排出を低減する方法であって、
有機金属化合物、特にメチルシクロペンタジエニルマンガントリカルボニル成分を含む触媒前駆体を燃料酸化剤と混合し、次に、
圧縮デバイスによって前記混合物の圧力を2バール以上、又は4バール以上の圧力値にさえも増加させ、その後、
前記混合物を、圧力下で、エンジン(1)の燃焼室用の吸気マニホルド(2)に注入する、
各ステップの実行を含むことを特徴とする、方法。
【請求項13】
有機金属化合物、特にメチルシクロペンタジエニルマンガントリカルボニル成分を含む液体触媒前駆体のタンクを備えたこと、燃料酸化剤における前記触媒前駆体の混合及び少なくとも部分的な蒸発のために構成されたこと、並びに船舶用のエンジン(1)の圧縮デバイスと接続する手段を備えたことを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の船舶用のエンジン(1)のための触媒デバイス(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子状物質の排出量が少ないエンジン、特に船舶の推進を目的とした非常に大型のターボディーゼルエンジンに関する。また、本発明は、この種のエンジンからの粒子状物質の排出を低減する方法にも関する。また、本発明は、この種のエンジンに適した触媒デバイスにも関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の推進を目的とした非常に大型のターボディーゼルエンジンは、2ストローク、いわゆる低速エンジン、又は4ストローク、いわゆる準高速エンジンである。これらのエンジンは、最大の場合、1MWからほぼ100MWまでの電力を生成することができる。これらのエンジンは、重質燃料油(HFO)、船舶用ディーゼル油(MDO)として知られる中間燃料油、及び、粘性及び硫黄含有量の低い軽質燃料油を含む、「燃料油」という一般用語によって指定される液体燃料を消費し、これらの軽質燃料油は、国内用途のために陸上で使用されるものと類似している。これらのエンジンには、日常の言葉で煤と呼ばれる非酸化炭素及び「未燃ガス」を含む「未燃固体」としても知られる粒子の形態で、不完全燃焼に起因する成分を排出するという欠点がある。非酸化炭素は、有機粒子、特に「ブラックカーボン」と呼ばれることが多い、煤のかかった炭素の超微粒子で構成され、サイズは数ナノメートルから約10マイクロメートルまで様々である。この種のディーゼルエンジンから排出される粒子の平均サイズは100nmのオーダである。「未燃ガス」に由来するガス状成分は、一酸化炭素、未燃炭化水素、多環芳香族炭化水素、揮発性有機化合物、非メタン非揮発性有機化合物など、様々な種類のものである。固体粒子又はガス状成分の形態でのエンジンの不完全燃焼に起因する上記の様々な排出物は、人間の健康に多くの深刻な影響を及ぼす。
【0003】
小型エンジンから排出される固体粒子タイプの汚染排出物を処理するためのソリューションが自動車分野に存在する。それらは、特にフィルタの使用に基づいた、燃焼後のアプローチで構成されている。しかしながら、規模とコストの要因により、これらのろ過ソリューションを既存のすべてのエンジン、特に上記の船舶用エンジンに置き換えることは困難である。これらのソリューションには、エンジンの熱力学的効率を低下させ、過剰な燃料消費につながるという欠点もある。
【0004】
並行して、別の分野における一つの先行技術のソリューションが、文献FR2837214に記載されており、ボイラの出口で硫黄酸化物及び窒素酸化物の還元を得るために、一方では、メチルシクロペンタジエニルマンガントリカルボニルタイプの触媒蒸気をボイラの燃焼空気と混合し、他方では、この触媒剤の微細液滴を燃料に直接注入することを推奨している。このソリューションにより、ボイラにおける燃焼によって発生する汚染を大幅に低減することが可能となる。したがって、この文献はボイラの特定の分野に関し、触媒が排出物の汚染を低減することができ、対象となる排出物は硫黄含有化合物であることを教示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一般的な目的は、エンジンによって排出される有害粒子を低減することによって、エンジン、より具体的には船舶用の非常に大型のディーゼルエンジンの改良を可能にするソリューションを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的のために、本発明は、吸気マニホルドを備えた船舶用のエンジンに基づき、有機金属化合物、特にメチルシクロペンタジエニルマンガントリカルボニル成分を含む触媒前駆体と、燃料酸化剤との混合物を使用する触媒デバイスを備えたこと、及び触媒デバイスは、圧縮デバイスの上流に配置され、この圧縮デバイスは、燃料酸化剤と、触媒前駆体とを含む混合物の圧力を、2バール以上、又は4バール以上の値にさえも増加させ、この圧力値は、吸気マニホルドへの入口で測定されることを特徴とする。
【0007】
船舶用のエンジンは、ターボブロワを備えたターボチャージャ付きエンジンであり得、圧縮デバイスはターボブロワであり、触媒デバイスは、燃料酸化剤と触媒前駆体とを含む前記混合物が、触媒デバイスの出口からターボブロワに運ばれ、そこで圧力を増加させてから、ターボブロワから吸気マニホルドに運ばれるように、ターボブロワの上流に位置付けられる。
【0008】
船舶用のエンジンは、燃料酸化剤と触媒前駆体とを含む混合物を、50℃以下、又は40℃以下の温度値にさえも冷却するために、ターボブロワと吸気マニホルドとの間に配設されたインタクーラ熱交換器を備え得る。
【0009】
圧縮デバイスは、直列に配設された少なくとも二つのターボ圧縮機を備え得る。船舶用のエンジンは、燃料酸化剤と触媒前駆体とを含む混合物を冷却するために、二つのターボ圧縮機の間に配設された少なくとも一つの熱交換器を備え得る。
【0010】
このエンジンは、ターボブロワを備えたターボチャージャ付きエンジンであり得、触媒デバイスを出る燃料酸化剤と触媒前駆体とを含む混合物は、ターボブロワ及びインタクーラ交換器の下流に配設された注入ゾーンを介して吸気マニホルドへの吸気管に接続され得る。
【0011】
注入ゾーンは、複数の十字形のオリフィスによって貫通され、燃料酸化剤の流れの方向に垂直な平面に位置付けられて、触媒前駆体蒸気と燃料酸化剤との混合物の流れが得られるようにする中空金属体を備えた拡散デバイスを備え得る。
【0012】
触媒デバイスは、セルロース繊維及び/又はいくつかの綿などの織られた繊維を含む媒体を含み得、媒体上に触媒前駆体が液体形態で注入され、蒸発され、前記媒体と接触する燃料酸化剤と混合される。
【0013】
触媒デバイスは、液体触媒前駆体のタンクを備え得、燃料酸化剤中の前記触媒前駆体の少なくとも部分的な蒸発のために構成され得る。
【0014】
液体触媒前駆体は、触媒前駆体の総重量の90%以上の有機金属化合物又はメチルシクロペンタジエニルマンガントリカルボニル濃度を含み得る。
【0015】
船舶用のエンジンは、定格が1MWから100MWの間のエンジンであり得る。
【0016】
本発明はまた、
- 有機金属化合物、特にメチルシクロペンタジエニルマンガントリカルボニル成分を含む触媒前駆体を燃料酸化剤と混合し、次に、
- 圧縮デバイスによって前記混合物の圧力を2バール以上、又は4バール以上の圧力値にさえも増加させ、その後、
- 前記混合物を、圧力下で、エンジンの燃焼室用の吸気マニホルドに注入する
各ステップの実行を含むことを特徴とする、船舶用のエンジンからの粒子の排出を低減する方法に関する。
【0017】
本発明はまた、有機金属化合物、特にメチルシクロペンタジエニルマンガントリカルボニル成分を含む液体触媒前駆体のタンクを備えたこと、燃料酸化剤における前記触媒前駆体の混合及び少なくとも部分的な蒸発のために構成されたこと、並びに船舶用のエンジンの圧縮デバイスと接続する手段を備えていることを特徴とする、上記のようなエンジン用の触媒デバイスに関する。
【0018】
本発明のこれらの目的、特徴、及び利点は、添付の図を参照して与えられる一つの特定の実施形態の以下の非限定的な説明において詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一つの実施形態によるエンジンを概略的に表す図である。
【
図2】本発明の実施形態によるエンジンのクランクシャフトの角度の関数としての圧力の進展の曲線を、先行技術のエンジンと比較して示す図である。
【
図3】本発明の一つの実施形態によるエンジンの変形例を概略的に表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
有機金属タイプの液体触媒前駆体、特にメチルシクロペンタジエニルマンガントリカルボニルを含む触媒の前駆体の使用は、特定の条件において、船の非常に大きなエンジンによって排出される粒子を、そのようなエンジンの効率を向上させながら、驚くほど減少させることが有利に発見された。これらの驚くべき結果は、硫黄含有排出量を低減するために、ボイラでこの種の触媒を使用した後は想定されていなかった。
【0021】
この使用法は、一つの特定の実施形態の文脈で以下に詳細に説明される。
【0022】
図1は、本発明の一つの実施形態による、船舶用の非常に大型のターボディーゼルエンジン1を概略的に表す。このエンジン1は、知られている方式で、吸気マニホルド2、燃焼室(シリンダ)3、排気マニホルド4を備える。エンジン1はさらに、排気マニホルド4からターボブロワ9へ排気管5によって導かれる排気ガスによって作動されるターボ機能のためのターボブロワ9を備える。このターボブロワは、燃料酸化剤、すなわちこの実施形態では空気である圧力を、吸気管6を介して吸気マニホルド2に到達する前に増加させることを可能にする。
【0023】
実施形態では、エンジンは、ターボブロワ9の上流に配設された触媒デバイス10を備える。触媒デバイス10は、燃焼空気中の上記の触媒の前駆体の混合物を使用する。この触媒デバイス10は、ターボブロワ9の上流に位置付けられ、空気(又は燃料酸化剤として提供される他のガス)と触媒前駆体とを含む混合物が、ターボブロワ9を通って導かれる。
【0024】
触媒デバイス10は、文献FR3059565に記載されているタイプのものであり得、液体触媒前駆体の蒸発と、その後の、燃焼空気中でのその混合及び輸送を可能にする。触媒デバイス10の出口で、触媒前駆体を充填された空気は、管7を介してターボブロワ9に向けられる。
【0025】
この実施形態では、触媒デバイス10は、触媒前駆体を貯蔵するためのタンクを含む、表されていない油圧サブアセンブリを備える。このタンクは、封じ込め容器の上に取り付けられている。これらの二つの要素は、液体形態の触媒の前駆体、特に上記のような有機金属前駆体を貯蔵するように適合されている。液面を検出するためのデバイス、特にレベル検出器は、タンク内で利用可能な触媒前駆体の量がわかるように、タンクの上部に位置付けられる。図示される実施形態では、レベル検出器は、触媒前駆体のストックが、事前定義されたしきい値を下回った場合に、アラートのトリガを有効にする。この油圧サブアセンブリは、液体触媒前駆体を蒸発させて空気と混合させることができる空中サブアセンブリに接続されている。例として、メチルシクロペンタジエニルマンガントリカルボニルを含む触媒前駆体は、エンジン1の圧力条件下で、230から240℃のオーダの温度で活物質になる。この操作は、セルロース繊維及び/又はいくつかの綿などの織られた繊維を含む媒体によって有利に実行される。あるいは、この蒸発及びこの混合は、他の任意の手段によって取得され得る。
【0026】
次に、実施形態の一つの有利な特徴によれば、触媒前駆体を含む空気によって形成される混合物は、ターボブロワ9内の圧力が相対値で5バール、好ましくは2バール以上、又は4バール以上にさえも増加される。この圧力は、有利には、2から6バールの間、あるいは4から6バールの間でさえある。触媒デバイス10は、ターボブロワ9の上流に位置付けられ、ターボブロワ9は、燃料酸化剤と触媒前駆体とを含む混合物を圧縮するためのデバイスを形成する。本説明の全体を通して、バール単位は絶対バール単位であることに留意されたい。
【0027】
また、本説明の全体を通して、「圧縮デバイス」とは、特に1.5より大きい、又はさらには4より大きい圧縮比さえも有するデバイスを意味することも理解されたい。特に、上記の値によれば、混合物の圧力を、大気圧に近い値から2バール以上、又は4バール以上の圧力にさえも上昇させることができる。
【0028】
ターボブロワの別の効果は、触媒を含む空気の温度を、たとえば、150℃から200℃の間であることができる値に増加させることである。このため、インタクーラ交換器8は、ターボブロワ9の出口の吸気管6に配置されており、この温度を、有利には、50℃未満の値、さらにはたとえば約30℃のように、40℃未満の値にさえも低下させる。
【0029】
このようにして得られた圧力及び/又は温度条件は、燃料中の触媒蒸気の最適化された、又は理想的な分布さえも可能にし、それらを燃料中に均一に分布させる。したがって、触媒蒸気は分子スケールで分布する。触媒蒸気は、その輸送ベクタである燃料酸化剤で分子スケールに原子化される。このように調製された有機金属前駆体は、可能な限り最高の比表面積、燃料酸化剤のガス媒体における最良の分布を提供する。このソリューションにより、「スピン」タイプの効果に従って動作することが可能になり、反応性が高くなり、触媒形態に変更されるように完全に利用可能になる。
【0030】
触媒前駆体のこの調整は、燃焼室への燃焼触媒の排出に寄与し、これは、燃焼室に存在するすべての固体及びガスの形態の炭素と作用して、ほぼ完全な熱的酸化を実行するための理想的かつ補完的な薬剤になる。この効果は、ガス化によって未燃の粒子とガスを破壊し、利用可能な炭素を二酸化炭素に変換する。さらに、このように調整された触媒は、燃焼室から排気ガスの出口、そして外気に至るまでの過程を通じて、よりさらに活性となる。したがって、このように調整された触媒のおかげで、要求される結果を達成することが可能である。
【0031】
さらに、エンジンは、エンジン1の特定のセンサによって送信される情報に基づいて、任意のコンピュータを備える制御ユニットによって自動的に有利に制御される。これらのセンサにより、たとえば、エンジンの速度、エンジントルク、シリンダヘッド圧力などのエンジンの負荷のレベルを考慮することができる。エンジンのこの制御は、使用される触媒の量の自動調整を有利に組み込む。その量は、好ましくは、燃料1トンあたりの触媒に対して、5から50デカグラムの間である。
【0032】
特に、メチルシクロペンタジエニルマンガントリカルボニル成分の場合、触媒前駆体は、触媒の4倍の重量になり、すなわち、たとえば、重量で75%のオーダの揮発性部分を含む。また、燃料1トンあたり5から50デカグラムの間の量の触媒を得るには、燃料1トンあたり20から200デカグラムの触媒前駆体を注入する必要がある。
【0033】
実施形態によるエンジン1の出口での測定は、本ソリューションが、
・炭素含有粒子の50~99%、
・サイズが約30~150nmの間の超微粒子の70~99%、
・初期濃度が200~500ppmの間である場合、重質燃料油の燃焼に起因する未燃炭化水素の50%~99%、及び初期濃度が1000~4500ppmの間である場合、MDOの燃焼に起因する炭化水素の30%~90%の排除を可能にすることを示している。
【0034】
さらに、エンジン1に同じレベルの負荷がかかる場合、本発明の有利な触媒による炭素の完全な熱的酸化と、触媒効果による燃焼の加速された化学反応速度とは、ガスの圧力の増加をもたらし、これは、エンジンのピストンのダウンストローク中、クランクシャフト度数の数とともに進展する。
図2は、この現象を示しており、曲線20は、先行技術のエンジンにおけるガスの圧力を表し、曲線21は、本発明の実施形態による、触媒デバイスを備えた同一のエンジンにおけるガスの圧力を表す。
【0035】
本発明の実施形態におけるエンジンの設定に対する変更は、
図2に示されるこの効果から利益を得ることを可能とし、シャフトに供給される出力及びトルクを維持しながら、エンジンの燃料消費を低減することができる。これは、エンジンの平均熱力学的効率の増加に反映され、エンジンのタイプ(2ストローク又は4ストローク)に応じて、及び25%から100%の間の負荷のレベルに応じて、比消費量は3~12g/k.W.hの範囲に減少する。
【0036】
実施形態によるエンジンの排気からの煤の除去の別の間接的な利点は、ターボブロワ9のタービンを清浄に保つことである。実際、これらのタービンの金属表面は、全く脂っこくなく、汚れていない。これは、予防的及び治療的な保守作業を限定するか、又は排除もし、タービンのブレードの最適な寿命が保証される。さらに、ターボブロワ9の効率は常に最大のままであり、これはエンジン1の全体的な効率に寄与する。
【0037】
最後に、本発明の実施形態によるエンジン1は、汚染物質粒子の排出を事実上排除するだけでなく、エンジンの効率を向上することも可能にする。
【0038】
図3は、触媒デバイス10がエンジン1のターボブロワ9の下流に配置されている本発明の実施形態の変形例を表す。簡略化のために、同じ参照を使用して、
図1を参照して説明した実施形態の構成要素と同一又は類似の構成要素を指定する。
【0039】
したがって、この変形実施形態では、触媒デバイス10は、ターボブロワ9及びそのインタクーラ交換器の下流に位置付けられ、すなわち、燃料酸化剤と、触媒デバイスによって生成された触媒前駆体とを含む混合物は、吸気管6の注入ゾーン16におけるターボブロワの下流に注入される。拡散デバイスは、この注入ゾーン16内の燃料酸化剤の流れの方向に垂直な平面に位置付けられ、触媒前駆体蒸気と燃料酸化剤との混合物の流れを得ることを可能にする。この種の拡散デバイスは、流れの前縁を除いて、すべての面に均一に分布した斜角の出口縁を備え、各々がたとえば5mm2の最大面積の数百の十字形の開口部によって貫通された中空の金属体からなり得る。この変形実施形態では、二つのターボ圧縮機19が、触媒デバイス10と注入ゾーン16との間に直列に取り付けられる。さらに、熱交換器18は、二つのターボ圧縮機19の間に配設される。
【0040】
ターボ圧縮機19は、いくらかの排気ガスによって作動される。ターボ圧縮機19は、エンジン1の排気ガスの一部によってのみ限定的に調整されながら、最適な効率範囲で動作するように設計されている。ターボ圧縮機19は、触媒を運ぶ空気を最大約500Nm3シフトさせることを可能にする。あるいは、圧縮デバイスは、三つ以上のターボ圧縮機を備えることができる。圧縮デバイスはまた、燃料酸化剤/触媒混合物を冷却するための複数の熱交換器を備えることができる。
【0041】
取得された結果は、
図1の実施形態の結果と実質的に同一である。実際、この構成は、交換器18によって温度を同じしきい値未満に維持しながら、以前と同じ範囲の値で圧力を増加させることを可能にする。この変形例では、二つのターボ圧縮機19のセットが、燃料酸化剤/触媒前駆体の混合のための圧縮デバイスを形成する。
【0042】
図1及び
図3からの二つの実施形態と互換性のある変形実施形態によれば、触媒デバイス10はまた、触媒の前駆体を混合してエンジン1を改良する方法の自動的又は半自動的実施を可能にするハードウェア及び/又はソフトウェア要素を含む。混合プロセスは、電力を供給され、一つ以上のリモート制御されたプログラム可能な自動コントローラによって調整される電気機械式アクチュエータ及びセンサによって実施される。
【0043】
上記で想定されるすべての実施形態において、使用される空気は、他の任意のガス状燃料酸化剤又は他の任意のベクタガスで置換され得ることに留意されたい。さらに、触媒前駆体を充填された燃料酸化剤は、重量で、エンジンの燃焼室に入る空中流体のほんの一部しか示さないことに留意されたい。
【0044】
最後に、すべての実施形態において、触媒デバイスは、触媒前駆体が燃料酸化剤によって輸送されることを可能にする形態で、燃料酸化剤に触媒前駆体を混合するという条件で、任意の種類からなり得る。さらに、前記混合物を圧縮するためのデバイスはまた、実施形態に記載されたもの以外の何らかの形態をとることができる。
【0045】
本発明はまた、
- 触媒前駆体を燃料酸化剤と混合し、次に、
- 前記混合物の圧力を2バール以上、又はさらに4バール以上の圧力値にさえも増加させ、その後、
- 前記混合物を、圧力下で、エンジンの燃焼室用の吸気マニホルドに注入する
各ステップの実行を含む、エンジン、特に船舶用の非常に大きなエンジンからの粒子の排出を低減する方法に関する。
【0046】
上記で説明したように、この方法は、有機金属タイプの液体触媒の前駆体を使用する。非常に有利な一つの用途は、メチルシクロペンタジエニルマンガントリカルボニルを含む、又はその成分全体で構成される触媒の前駆体を使用することにある。触媒前駆体中の有機金属化合物の濃度は、有利には、触媒前駆体の総重量の99%以上である。
【0047】
このソリューションは、要求される目的を達成し、エンジン、特に船舶用の非常に大型のターボディーゼルエンジンからの粒子のすべての排出を低減又は排除することさえ可能にする。
【0048】
説明されたソリューションは、燃料酸化剤によって生成された触媒前駆体の効率的な蒸発の利点を有し、したがって、それは、触媒蒸気を輸送するベクタになる。あるいは、燃料酸化剤は、液体形態、特に液滴形態の触媒の前駆体を輸送するベクタであり、触媒前駆体は、最終的に完全に蒸発し、理想的には圧縮デバイスにおける燃料酸化剤へ分布される前に、特に全体的又は部分的に液滴の形態である。
図1及び
図3に破線で示され、上記の第1又は第2の実施形態の代替として又は組み合わせて実施される第3の実施形態によれば、船舶用のエンジン1は、排気マニホルド4と、少なくとも一つの触媒デバイス10'とを備えたことを特徴とし、少なくとも一つの触媒デバイス10'は、特に、圧縮空気又は水を使用して、少なくとも、有機金属化合物、特にメチルシクロペンタジエニルマンガントリカルボニル成分からなる液体触媒前駆体を、液滴の形態でスプレイし、その排気マニホルド4に含まれる排気ガスとの混合を行うように構成された圧縮注入手段を備える。
【0049】
「噴霧化」又は「原子化」としても知られるこの種の圧縮下のスプレイは、液体触媒前駆体の、液滴の雲又はミストへの低温変換に対応する。特に、任意の特徴に従って、触媒デバイス10'は、10から500μm、特に20から100μmのオーダのサイズを有する液滴を生成するように構成され得る。
【0050】
図1を参照して説明したように、エンジン1は、吸気マニホルド2を備え、燃焼室3は、複数のシリンダを備える。エンジン1はさらに、圧縮デバイス機能を有し、排気マニホルド4からターボブロワ9に排気管5によって導かれる排気ガスによって作動されるターボブロワ9を備える。あるいは、
図3を参照して説明したように、エンジン1は、直列に取り付けられた二つのターボ圧縮機19と熱交換器18とを備え得る。
【0051】
本発明によれば、触媒デバイス10'は、少なくとも、燃焼室3の下流に触媒前駆体を注入するように構成される。
【0052】
好ましい特徴によれば、触媒デバイス10'は、触媒前駆体を少なくとも一つの注入部位21の排気マニホルド4に直接注入するように構成される。特に、触媒デバイス10'は、エンジン1のシリンダの少なくとも一つからの排気ガスの出口に触媒前駆体を直ちに注入するように構成され得る。
【0053】
表されていない一つの特定の実施形態によれば、触媒デバイス10'は、複数の注入部位21で排気マニホルド4に直接触媒前駆体を注入するように構成され得る。特に、エンジン1は、シリンダと同じ数の注入部位21を備え得る。
【0054】
具体的には、触媒デバイス10'は、触媒前駆体を一つ以上の注入部位21に循環させるように構成された少なくとも一つの供給管22を備え得る。
【0055】
この種の実施形態の目的は、瞬時に触媒となった触媒前駆体の炭素の接触酸化能力に有利な温度で排気ガスの後処理を実行することである。特に、触媒デバイス10'は、温度が450~600℃のオーダ、特に、たとえば約580℃のように、550~600℃のオーダである排気マニホルド4のゾーンに、触媒前駆体を注入するように構成され得る。
【0056】
第3の実施形態の一つの特徴によれば、触媒デバイス10'の注入手段は、液体状態の触媒前駆体のために、少なくとも一つの注入ノズル、特に噴霧ノズルを有利に備え得る。この種の注入ノズルは、排気マニホルド4における少なくとも一つの注入部位21に配設される。上記のように、注入手段は、たとえば、各々が注入部位21に配設された複数の注入ノズルを備え得る。
【0057】
一つの特定の実施形態によれば、この種の注入ノズルは、触媒前駆体及び流体、特に圧縮空気又は水を排気マニホルド4に同時に注入するように構成された二重流体ノズルである。
【0058】
触媒デバイス10'は、任意選択であるが有利には、注入手段、特に少なくとも注入ノズルを冷却するための、表されていない冷却デバイスを備え得る。一つの非限定的な例によれば、この種の冷却デバイスは、排気マニホルド4に注入される流体と同一の流体、すなわち圧縮空気又は水によって、注入手段を冷却し得る。
【0059】
この種の流体は、一方では注入ベクタ機能を有し、液体触媒前駆体の噴霧化に寄与し、他方では、注入手段冷却機能を有する。この種の構成は、触媒前駆体の反応、又は、たとえば注入ノズルのような注入手段におけるその劣化、したがって注入ノズルの誤動作を防止することを有利に可能にする。
【0060】
したがって、液体状態の触媒前駆体は、注入手段によって液滴の形態でスプレイされ、この液滴は、排気マニホルド4内の温度条件のために、排気マニホルド4に入ると瞬時に気化又は「フラッシュ」され、触媒前駆体が反応して触媒を形成することを可能にする。
【0061】
次に、排気マニホルド4内の排気ガスの循環は、排気ガスと触媒との混合、並びに前記混合物の均質化を有利に可能にする。同じことが、ターボブロワ9を作動させるために、ターボブロワ9内のこの混合物の循環にも当てはまる。
【0062】
この第3の実施形態の変形例によれば、エンジン1は、触媒デバイス10、10'において、
- 圧縮注入手段を備え、有機金属化合物、特にメチルシクロペンタジエニルマンガントリカルボニル成分からなる触媒前駆体を液滴の形態でスプレイし、排気マニホルド4におけるその排気ガスと混合するように構成された触媒デバイス10'の第1のサブユニットと、及び/又は
- 触媒前駆体とガスの形態の燃料酸化剤との混合物を適用し、圧縮デバイスの上流に配置された触媒デバイス10の第2のサブユニットであって、この圧縮デバイスは、燃料酸化剤と触媒前駆体とを含む混合物の圧力を、2バール以上、又はさらに4バール以上の値にさえも増加させ、この圧力値は、吸気マニホルド2への入口で測定される、触媒デバイス10の第2のサブユニットとを備え得る。
【0063】
触媒デバイスのそのような特定の一つの例は、明確にするために、
図1及び
図3の別個の位置にある二つのサブユニット10、10'として表されているが、サブユニット10、10'は、同じ触媒デバイスに含まれることに留意されたい。
【0064】
この種の変形例によれば、触媒デバイス10の第2のサブユニットは、第1又は第2の実施形態に関して上記の触媒デバイス10の特徴を有し、したがって、前記実施形態の説明は、必要な変更を加えて本変形例に適合する。特に、触媒デバイスのこの種の第2のサブユニット10は、上記のように、表されていない、触媒前駆体を貯蔵するためのタンクを備えた、油圧サブアセンブリと、液体触媒前駆体が蒸発され、空気中に混合される空中サブアセンブリとを備え得る。
【0065】
具体的には、油圧サブアセンブリは、触媒デバイスの第1のサブユニット10'及び第2のサブユニット10に共通であり得る。
【0066】
特に、触媒デバイス10'の第1のサブユニットは、その後、油圧サブアセンブリを注入部位21のうちの少なくとも一つに接続し、油圧サブアセンブリから、一つ以上の注入部位21への触媒前駆体の循環を可能にするように構成された供給管22を備え得る。
【0067】
上記のように、エンジン1はさらに、エンジン1のセンサによって送信される情報の関数として、制御ユニットによって自動的に制御され得る。特に、そのような情報は、エンジンの負荷のレベル、その速度、エンジンのトルク、シリンダヘッドの圧力、排気マニホルドにおける温度などに関連し得る。
【0068】
具体的には、適用される実施形態又は変形例に応じて、エンジン1は、制御ユニットによって自動的に制御され得、触媒デバイスは、第1又は第2の実施形態を参照して説明したように、必要に応じて、以下のオプション、すなわち、
- 特に第3の実施形態を参照して説明したように、有機金属化合物、特にメチルシクロペンタジエニルマンガントリカルボニル成分からなる液体触媒前駆体を液滴形態でスプレイし、排気マニホルド4内のその排気ガスと混合することによる注入、及び/又は、
- 圧縮デバイスの上流で触媒前駆体を燃料酸化剤と混合して、圧縮デバイスは、燃料酸化剤と触媒前駆体とを含む混合物の圧力を、2バール以上、又は4バール以上の値にさえも増加させ、この圧力値は、吸気マニホルド2への入口で測定される、のうちのいくつか又はすべてを使用する。
【0069】
触媒デバイス10'は、排気ガスのm3あたり0.5から15ミリグラムの間の量を含む触媒を注入するように有利に構成され得る。たとえば、メチルシクロペンタジエニルマンガントリカルボニル成分を含む触媒前駆体の場合、触媒デバイス10'は、排気ガスのm3あたり2から60ミリグラムの間の量を含む触媒前駆体を注入するように構成され得る。具体的には、エンジンの制御は、使用される触媒の量及び/又はスプレイされる液滴のサイズの自動調節を組み込み得る。
【0070】
したがって、触媒前駆体の燃焼後注入は、ほぼ完全な熱的酸化を達成するような方式で、排気マニホルドに存在する炭素に寄与する。この効果は、ガス化によって未燃の粒子とガスを破壊し、利用可能な炭素を二酸化炭素に変換する。
【0071】
それにも関わらず、本発明は、本明細書に記載及び例示された手段及び構成に限定されるべきではなく、本書に記載及び例示された機能を詳細に提供する範囲で、任意の構成及びそのような手段の任意の技術的に動作可能な組合せに等しく拡張する。
【国際調査報告】