(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-23
(54)【発明の名称】ポリマー粒子の水性分散液
(51)【国際特許分類】
C08L 43/02 20060101AFI20221216BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20221216BHJP
C08F 283/12 20060101ALI20221216BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20221216BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20221216BHJP
C09D 143/02 20060101ALI20221216BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20221216BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
C08L43/02
C08L83/04
C08F283/12
C09D5/02
C09D183/04
C09D143/02
C09D201/00
C09D133/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022514663
(86)(22)【出願日】2019-09-09
(85)【翻訳文提出日】2022-03-04
(86)【国際出願番号】 CN2019104870
(87)【国際公開番号】W WO2021046673
(87)【国際公開日】2021-03-18
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(71)【出願人】
【識別番号】590002035
【氏名又は名称】ローム アンド ハース カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110000589
【氏名又は名称】特許業務法人センダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フー、ユエハン
(72)【発明者】
【氏名】リー、ヤン
(72)【発明者】
【氏名】コン、チーチュアン
(72)【発明者】
【氏名】ボーリング、ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】リー、リン
【テーマコード(参考)】
4J002
4J026
4J038
【Fターム(参考)】
4J002BG041
4J002CP032
4J002GH01
4J002HA06
4J026AB44
4J026BA05
4J026BA27
4J026BA41
4J026DB04
4J026DB08
4J026FA04
4J038CG031
4J038CG141
4J038CH031
4J038CJ031
4J038CJ161
4J038DL031
4J038DL032
4J038MA10
4J038MA13
4J038MA14
4J038MA15
4J038NA07
(57)【要約】
特定のエマルジョンポリマーおよびヒドロキシル末端ポリシロキサンを含むポリマー粒子の水性分散液、ならびにそれから作製された改善された耐水特性、耐食特性、および撥水特性を有するコーティングを提供する水性分散液を含む水性コーティング組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エマルジョンポリマーおよびヒドロキシル末端ポリシロキサンを含むポリマー粒子の水性分散液であって、
前記エマルジョンポリマーが、前記エマルジョンポリマーの重量に基づく重量で、0.5%超~1.8%のエチレン性不飽和亜リン酸モノマー、その塩、またはそれらの混合物と、
アミド、カルボキシル、カルボン酸無水物、スルホン酸、スルホネート、硫酸、または硫酸基から選択される少なくとも1つの官能基を有する、0~5.0%のエチレン性不飽和官能性モノマーの構造単位と、を含み、
前記ポリマー粒子を含む前記ヒドロキシル末端ポリシロキサンが、前記エマルジョンポリマーの前記重量に基づく重量で、0.1%~10%の量で存在する、水性分散液。
【請求項2】
前記エチレン性不飽和亜リン酸モノマーが、ホスホエチル(メタ)アクリレート、ホスホプロピル(メタ)アクリレート、ホスホブチル(メタ)アクリレート、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の水性分散液。
【請求項3】
前記エマルジョンポリマーが、前記エマルジョンポリマーの前記重量に基づく重量で、0.6%~1.6%の前記エチレン性不飽和亜リン酸モノマー、前記その塩、およびそれらの混合物の構造単位を含む、請求項1に記載の水性分散液。
【請求項4】
前記ヒドロキシル末端ポリシロキサンが、400~1,000,000g/molの重量平均分子量を有する、請求項1に記載の水性分散液。
【請求項5】
前記ヒドロキシル末端ポリシロキサンが、ヒドロキシル末端ポリジメチルシロキサンである、請求項1に記載の水性分散液。
【請求項6】
前記ポリマー粒子が、50~500nmの粒径を有する、請求項1に記載の水性分散液。
【請求項7】
前記ポリマー粒子が、前記ヒドロキシル末端ポリシロキサンの存在下での水性媒体中でのエマルジョン重合によって形成される、請求項1に記載の水性分散液。
【請求項8】
前記エマルジョンポリマーが、前記エマルジョンポリマーの前記重量に基づく重量で、0.1%~3%の前記エチレン性不飽和官能性モノマーの構造単位を含む、請求項1に記載の水性分散液。
【請求項9】
前記水性分散液の前記水性媒体が、前記水性分散液中の前記ヒドロキシル末端ポリシロキサンの総重量に基づく重量で、5%未満の前記ヒドロキシル末端ポリシロキサンを含む、請求項1に記載の水性分散液。
【請求項10】
前記ポリマー粒子を含む前記ヒドロキシル末端ポリシロキサンが、前記エマルジョンポリマーの前記重量に基づく重量で、0.5%~10%の量で存在する、請求項1に記載の水性分散液。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のポリマー粒子の前記水性分散液を調製するプロセスであって、
ヒドロキシル末端ポリシロキサンの前記存在下で水性媒体中でモノマーを重合して、ポリマー粒子の前記水性分散液を得ることを含み、
前記モノマーが、前記モノマーの総重量に基づく重量で、
0.5%超~1.8%のエチレン性不飽和亜リン酸モノマー、その塩、またはそれらの混合物と、アミド、カルボキシル、カルボン酸無水物、スルホン酸、スルホネート、硫酸、または硫酸基から選択される少なくとも1つの官能基を有する、0~5.0%のエチレン性不飽和官能性モノマーと、を含み、
前記ポリマー粒子を含む前記ヒドロキシル末端ポリシロキサンが、前記エマルジョンポリマーの前記重量に基づく重量で、0.1%~10%の量で存在する、プロセス。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか一項に記載のポリマー粒子の前記水性分散液を含む、水性コーティング組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー粒子の水性分散液およびそれを含む水性コーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂、ポリウレタン、またはアルキド樹脂を含む溶媒系コーティング組成物は、それらの耐食性能、機械的特性、および外観のために、金属保護コーティングに広く使用されている。水性または水性コーティング組成物は、環境問題を少なくするために、溶剤ベースのコーティング組成物よりもますます重要になっている。一般的な工業用仕上げおよび農業用建設機器のコーティングなどのいくつかのコーティング用途では、約45~55μmまたはさらにはそれ以下の乾燥フィルム厚さで少なくとも240時間の塩水噴霧試験を耐えるために、良好な耐食性能を有するコーティングが通常必要である。さらに、多くの用途における水性コーティングは、業界の要件を満たすのに十分な耐水特性および撥水特性を有することが望まれる。
【0003】
したがって、上記の耐食性ならびに他の望ましい特性を提供する水性分散液を提供する必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、特定のエマルジョンポリマーの重合のプロセスにおいてヒドロキシル末端ポリシロキサンを組み込むことによって調製されたポリマー粒子の新規の安定な水性分散液を提供する。そのような水性分散液を含む水性コーティング組成物は、水性分散液がヒドロキシル末端ポリシロキサンおよび特定のエマルジョンポリマーのうちのいずれか1つ、またはその両方を含まないことを除いて同じコーティング組成物と比較して、改善された耐食性、改善された耐水性、および/またはより優れた撥水性を有する、それから作製したコーティングを提供することができる。
【0005】
第1の態様では、本発明は、エマルジョンポリマーおよびヒドロキシル末端ポリシロキサンを含むポリマー粒子の水性分散液であり、
エマルジョンポリマーは、エマルジョンポリマーの重量に基づく重量で、0.5%超~1.8%のエチレン性不飽和亜リン酸モノマー、その塩、またはそれらの混合物の構造単位と、
アミド、カルボキシル、カルボン酸無水物、スルホン酸、スルホネート、硫酸、または硫酸基から選択される少なくとも1つの官能基を有する、0~5.0%のエチレン性不飽和官能性モノマーの構造単位と、を含み、
ポリマー粒子を含むヒドロキシル末端ポリシロキサンは、エマルジョンポリマーの重量に基づく重量で、0.1%~10%の量で存在する。
【0006】
第2の態様では、本発明は、第1の態様のポリマー粒子の水性分散液を調製するプロセスである。本プロセスは、
ヒドロキシル末端ポリシロキサンの存在下で水性媒体中でモノマーを重合して、ポリマー粒子の水性分散液を得ることを含み得、
モノマーは、モノマーの総重量に基づく重量で、
0.5%超~1.8%のエチレン性不飽和亜リン酸モノマー、その塩、またはそれらの混合物と、アミド、カルボキシル、カルボン酸無水物、スルホン酸、スルホネート、硫酸、または硫酸基から選択される少なくとも1つの官能基を有する、0~5.0%のエチレン性不飽和官能性モノマーと、を含み、
ポリマー粒子を含むヒドロキシル末端ポリシロキサンは、エマルジョンポリマーの重量に基づく重量で、0.1%~10%の量で存在する。
【0007】
第3の態様では、本発明は、第1の態様のポリマー粒子の水性分散液を含む水性コーティング組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明における「アクリル(Acrylic)」とは、(メタ)アクリル酸、アルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、およびヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどのそれらの改質形態を含む。この文書全体を通して、「(メタ)アクリル)」という語の断片は、「メタクリル」および「アクリル」の両方を指す。例えば、(メタ)アクリル酸は、メタクリル酸およびアクリル酸の両方を指し、メチル(メタ)アクリレートは、メチルメタクリレートおよびメチルアクリレートの両方を指す。
【0009】
本発明における「水性分散液」とは、水性媒体中に分散されたポリマー粒子を意味する。本発明における「水性媒体」とは、水、および媒体の重量に基づく重量で0~30%の、例えば、アルコール、グリコール、グリコールエーテル、グリコールエステルおよびこれに類するものなどの水混和性化合物を意味する。
【0010】
指定されたモノマーの「重合単位」としても知られる「構造単位」は、重合後のモノマーの残留物、すなわち、重合したモノマーまたは重合した形態のモノマーを指す。例えば、メチルメタクリレートの構造単位は、
【化1】
で示され、点線は、構造単位のポリマー骨格への結合点を表す。
【0011】
エマルジョンポリマーおよびヒドロキシル末端ポリシロキサンを含むポリマー粒子の水性分散液は、1つ以上のヒドロキシル末端ポリシロキサンの存在下での水性媒体中でのモノマーの重合、例えばエマルジョン重合によって調製することができる。
【0012】
本発明において有用なエマルジョンポリマーは、1つ以上のエチレン性不飽和亜リン酸モノマー、それらの塩、またはそれらの混合物の構造単位を含み得る。エチレン性不飽和亜リン酸モノマーは、アルコールが重合可能なビニルもしくはオレフィン基を含有するか、またはそれらで置換されているアルコールの二水素ホスフェートエステルであり得る。エチレン性不飽和亜リン酸モノマーおよびそれらの塩は、ホスホエチル(メタ)アクリレート、ホスホプロピル(メタ)アクリレート、ホスホブチル(メタ)アクリレート、それらの塩、およびそれらの混合物などのホスホアルキル(メタ)アクリレート;CH2=C(R)-C(O)-O-(RpO)n-P(O)(OH)2(式中、R=HまたはCH3、Rp=アルキレンおよびn=1-10であり、例えばSIPOMER PAM-100、SIPOMER PAM-200、およびSIPOMER PAM-300はすべて、Solvayから入手可能である);ホスホエチレングリコール(メタ)アクリレート、ホスホジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ホスホトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ホスホプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ホスホジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ホスホトリプロピレングリコール(メタ)アクリレートなどのホスホアルコキシ(メタ)アクリレート、それらの塩、およびそれらの混合物を含み得る。好ましいエチレン性不飽和亜リン酸モノマーおよびそれらの塩は、ホスホエチル(メタ)アクリレート、ホスホプロピル(メタ)アクリレート、ホスホブチル(メタ)アクリレート、およびそれらの塩からなる群から選択され、より好ましくは、ホスホエチルメタクリレート(PEM)である。エマルジョンポリマーは、エマルジョンポリマーの重量に基づく重量で、0.5%を超える、例えば、0.55%以上、0.6%以上、0.65%以上、0.7%以上、0.75%以上、0.8%以上、0.85以上、0.90%以上、0.95%以上、またはさらに1.0%以上、同時に、1.8%以下、1.75%以下、1.7%以下、1.65%以下、1.6%以下、1.55%以下、1.50%以下、1.45%以下、またはさらに1.40%以下のエチレン性不飽和亜リン酸モノマーおよび/またはその塩の構造単位を含み得る。本明細書におけるエマルジョンポリマーの重量は、エマルジョンポリマーの乾燥重量または固形分重量を指す。
【0013】
本発明において有用なエマルジョンポリマーは、アミド、カルボキシル、カルボン酸無水物、スルホン酸、スルホネート、硫酸、または硫酸基から選択される少なくとも1つの官能基を有する1つ以上のエチレン性不飽和官能性モノマーの構造単位を含み得る。好適なエチレン性不飽和官能性モノマーには、例えば、(メタ)アクリル酸、フマル酸、(メタ)アクリル酸無水物、無水マレイン酸、もしくはこれらの混合物などのα、β-エチレン性不飽和カルボン酸またはそれらの無水物;スチレンスルホン酸ナトリウム(SSS)、ビニルスルホン酸ナトリウム(SVS)、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)およびAMPSの塩、メタクリルアミド、アクリルアミド、またはこれらの混合物が含まれ得る。好ましいエチレン性不飽和官能性モノマーには、アクリル酸、メチルアクリル酸、スチレンスルホン酸ナトリウム、またはそれらの混合物が含まれる。エマルジョンポリマーは、エマルジョンポリマーの重量に基づく重量で、0以上、0.1%以上、0.2%以上、0.3%以上、0.4%以上、またはさらに0.5%以上、同時に、5.0%以下、4.5%以下、4.0%以下、3.5%以下、3.0%以下、2.5%以下、2.0%以下、1.5%以下、1.2%以下、またはさらに1.0%以下の、少なくとも1つの官能基を有するエチレン性不飽和モノマーの構造単位を含み得る。
【0014】
本発明において有用なエマルジョンポリマーは、上記のモノマーとは異なる1つ以上のモノエチレン性不飽和非イオン性モノマーの構造単位を含み得る。本明細書における「非イオン性モノマー」は、pH=1~14でイオン電荷を有しないモノマーを指す。モノエチレン性不飽和非イオン性モノマーは、1~20個の炭素原子、1~10個の炭素原子、または1~8個の炭素原子を有するアルキルとの(メチル)アクリル酸のアルキルエステルを含み得る。好適なモノエチレン性不飽和非イオン性モノマーの例としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、もしくはそれらの組み合わせ;(メタ)アクリロニトリル;ヒドロキシエチルエチレン尿素メタクリレートなどのウレイド官能性モノマー;アセトアセトキシエチルメタクリレート(AAEM)などのアセトアセテート官能基を有するモノマー;ジアセトンアクリルアミド(DAAM)などのカルボニル含有基を有するモノマー;スチレンおよび置換スチレン(α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、ビニルトルエン、またはそれらの混合物など)を含むビニル芳香族モノマー;ブタジエン;エチレン、プロピレン、1-デセンなどのα-オレフィン;酢酸ビニル、酪酸ブチル、バーサチック酸ビニルおよび他のビニルエステル;グリシジル(メタ)アクリレート;またはそれらの組み合わせが挙げられる。好ましいモノエチレン性不飽和非イオン性モノマーは、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、スチレン、またはそれらの混合物からなる群から選択される。エマルジョンポリマーは、エマルジョンポリマーの重量に基づく重量で、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、またはさらに92%以上、同時に、99.5%以下、99%以下、98.5%以下、またはさらに98%以下の、モノエチレン性不飽和非イオン性モノマーの構造単位を含み得る。
【0015】
本発明において有用なエマルジョンポリマーは、1つ以上の多エチレン性不飽和モノマーの構造単位をさらに含み得る。好適な多エチレン性不飽和モノマーには、アルキレングリコールジアクリレートおよびジメタクリレート、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、もしくはペンタエリスリトールトリメタクリレート;ジビニルベンゼン、ビニル(メタ)アクリレート;アリル(メタ)アクリレート、N,N-メチレンビスアクリルアミドなど;またはそれらの混合物が含まれ得る。エマルジョンポリマーは、エマルジョンポリマーの重量に基づく重量で、0以上、0.01%以上、0.05%以上、またはさらに0.1%以上、同時に、5%以下、3%以下、またはさらに1%以下の、多エチレン性不飽和モノマーの構造単位を含み得る。
【0016】
エマルジョンポリマー中の上記の構造単位の総重量濃度は、100%に等しくてもよい。上記のモノマーの種類およびレベルは、得られたエマルジョンポリマーに様々な用途に好適なガラス転移温度(Tg)を提供するように選択され得る。エマルジョンポリマーは、-20℃以上、-15℃以上、-10℃以上、-5℃以上、0℃以上、またはさらに5℃以上、同時に、80℃以下、70℃以下、60℃以下、50℃以下、40℃以下、またはさらに30℃以下の範囲の測定されたTgを有し得る。本明細書で使用される「測定されたTg」とは、以下の実施例のセクションで説明される試験法に従って示差走査熱量測定(DSC)によって決定されるガラス転移温度を意味している。
【0017】
水性分散液中のポリマー粒子はまた、1つ以上のヒドロキシル末端ポリシロキサンを含む。本明細書における「ヒドロキシル末端ポリシロキサン」は、2つのヒドロキシル末端基を有するポリシロキサンを指す。本発明において有用なヒドロキシル末端ポリシロキサンは、式(I)によって表される構造を有し得、
【化2】
式中、pは2~100,000の整数であり、R
1およびR
2は同じであっても異なっていてもよく、独立して、1~18個の炭素原子を有する置換または非置換アルキル基、2~14個の炭素原子を有する置換または非置換アルケニル基、5~14個の炭素原子を有する置換または非置換アリール基、1~14個の炭素原子を有するフッ素置換アルキル基、および6~24個の炭素原子を有する置換または非置換アラルキル基からなる群から選択される。値「p」は、2以上、3以上、4以上、5以上、10以上、15以上、またはさらに20以上、同時に、100,000以下、1,000以下、400以下、120以下、100以下、75以下、またはさらに50以下であることができる。R
1またはR
2基は、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、ドデシル、ビニル、アリル、フェニル、ナフチル、トリル、3,3,3-トリフルオロプロピル、ベンジル、またはフェニルエチルであることができる。好ましくは、R
1およびR
2は、独立して、メチル、エチル、プロピルまたはフェニルである。R
1およびR
2は、同じであり得る。好ましくは、R
1およびR
2は、独立して、メチルまたはフェニルである。より好ましくは、R
1およびR
2は、両方ともメチルである。ヒドロキシル末端ポリシロキサンの好適な例としては、例えば、ヒドロキシル末端ポリジメチルシロキサンが挙げられる。
【0018】
本発明において有用なヒドロキシル末端ポリシロキサンは、400グラム/モル(g/mol)以上、600g/mol以上、800g/mol以上、またはさらに1,000g/mol以上、同時に、1,000,000g/mol以下、500,000g/mol以下、100,000g/mol以下、80,000g/mol以下、60,000g/mol以下、50,000g/mol以下、40,000g/mol以下、30,000g/mol以下、20,000g/mol以下、10,000g/mol以下、8,000g/mol以下、7,000g/mol以下、またはさらに6,000g/mol以下の重量平均分子量を有し得る。重量平均分子量は、以下の実施例のセクションで説明されるように、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)によって決定することができる。
【0019】
ポリマー粒子を含むヒドロキシル末端ポリシロキサンは、エマルジョンポリマーの重量に基づく重量で、0.1%以上、0.2%以上、0.3%以上、0.4%以上、0.5%以上、0.6%以上、0.7%以上、0.8%以上、0.9%以上、1.0%以上、1.2以上、1.5%以上、1.8%以上、2.0%以上、2.2%以上、またはさらに2.5%以上、同時に、10.0%以下、9.5%以下、9.0%以下、8.5%以下、8.0%以下、7.5%以下、7.0%以下、6.5%以下、6.0%以下、5.5%以下、またはさらに5%以下の量で存在し得る。本明細書における「ポリマー粒子を含むヒドロキシル末端ポリシロキサン」は、ポリマー粒子の表面(すなわち、ポリマー粒子上)に付着した、またはポリマー粒子に埋め込まれたヒドロキシル末端ポリシロキサンを指す。ポリマー粒子を含むヒドロキシル末端ポリシロキサンの含有量は、以下の実施例のセクションで説明されるように、1H NMR分析によって決定することができる。
【0020】
水性分散液中のポリマー粒子は、50~500ナノメートル(nm)、80~300nm、または100~200nmの範囲の粒径を有し得る。本明細書の粒径は、Brookhaven BI-90 Plus Particle Size Analyzerによって測定することができる。
【0021】
本発明のポリマー粒子の水性分散液は、ヒドロキシル末端ポリシロキサンの存在下での水性媒体中での上記のモノマーの重合、好ましくはエマルジョン重合によって調製することができる。エマルジョンポリマーを調製するために有用なモノマーは、エチレン性不飽和亜リン酸モノマー、その塩、またはそれらの混合物;モノエチレン性不飽和非イオン性モノマー;ならびに任意選択的に、エチレン性不飽和官能性モノマー;および多エチレン性不飽和モノマーを含み得る。いくつかの実施形態では、モノマーは、モノマーの総重量に基づく重量で、モノエチレン性不飽和非イオン性モノマー、0.5%超~1.8%のエチレン性不飽和亜リン酸モノマー、その塩、またはそれらの混合物、および0~5.0%のエチレン性不飽和官能性モノマーの構造単位を含む。エマルジョンポリマーを調製するためのモノマーは、そのままもしくは水中エマルジョンとして添加されてもよく、またはポリマー粒子を調製する反応期間にわたって、1回以上の添加で、もしくは連続的に、直線的に、もしくは非直線的に添加されてもよい。エマルジョンポリマーを調製するためのモノマーの総重量濃度は、100%に等しくてもよい。モノマーの総重量に基づく各モノマーの含有量は、エマルジョンポリマーの重量に基づく重量で、上記のエマルジョンポリマー中の構造単位としてそのようなモノマーの含有量と同じであり得、例えば、モノマーは、モノマーの総重量に基づく重量で、0.5%超~1.8%、好ましくは0.6%~1.6%のエチレン性不飽和亜リン酸モノマー、その塩、またはそれらの混合物を含む。ヒドロキシル末端ポリシロキサンを、モノマーの総重量(すなわち、エマルジョンポリマーの重量)に基づく重量で、好ましくは0.1%~10%の量で、モノマーの重合前もしくは重合中、またはそれらの組み合わせにおいて添加することができる。ヒドロキシル末端ポリシロキサンは、モノマーに添加するか、またはポリマーシード(例えば、ポリスチレンシード)に添加して、反応器に注入されてもよく、またはモノマー中に分散されてもよい。一実施形態では、ヒドロキシル末端ポリシロキサンは、モノマーの重合の前にモノマーと混合される。エマルジョン重合後に形成されるポリマー粒子は、典型的には、エマルジョンポリマー/ヒドロキシル末端ポリシロキサンハイブリッド粒子である。理論に拘束されることなく、重合プロセス後、ヒドロキシル末端ポリシロキサンのすべてまたは大部分は、ポリマー粒子(すなわち、ポリマー粒子の中または上)とともに存在し、これは、本発明の水性分散液の水性媒体が、ヒドロキシル末端ポリシロキサンの実質的な不在を含むことを意味する。本明細書で使用される場合、ヒドロキシル末端ポリシロキサンが実質的に存在しないということは、水性分散液中のヒドロキシル末端ポリシロキサンの総重量(すなわち、ポリマー粒子および水性分散液の水性媒体中のヒドロキシル末端ポリシロキサンの総重量)が、5%未満、3%未満、2%未満、1%未満、または0であることを意味する。水性分散液の水性媒体中のヒドロキシル末端ポリシロキサンの含有量は、以下の実施例のセクションで説明されるように、1H NMR分析に従ってヘキサンにより水性分散液を抽出することによって決定することができる。
【0022】
モノマーの重合に好適な温度は、100℃未満、30~95℃の範囲、または50~92℃の範囲であり得る。上記のモノマーを使用する多段エマルジョン重合を使用することができ、少なくとも2つの段階が連続的に形成され、かつ通常は少なくとも2つのポリマー組成物を含む多段ポリマーの形成をもたらす。
【0023】
重合プロセスでは、フリーラジカル開始剤を使用することができる。重合プロセスは、熱的に開始されるか、または酸化還元により開始されるエマルジョン重合であってもよい。好適なフリーラジカル開始剤の例としては、過酸化水素、t-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、アンモニウムペルスルフェートおよび/またはアルカリ金属ペルスルフェート、過ホウ酸ナトリウム、過リン酸、およびそれらの塩;過マンガン酸カリウム、およびペルオキシ二硫酸のアンモニウム塩またはアルカリ金属塩が挙げられる。フリーラジカル開始剤は、典型的には、モノマーの総重量に基づいて、0.01~3.0重量%のレベルで使用することができる。好適な還元剤と結合した上記の開始剤を含む酸化還元系は、重合プロセスで使用され得る。好適な還元剤の例としては、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、イオウ含有酸のアルカリ金属塩およびアンモニウム塩(亜硫酸、重亜硫酸、チオ硫酸、ヒドロ亜硫酸、硫化物、硫化水素または亜ジチオン酸、ホルマジンスルフィン酸(formadinesulfinic acid)、重亜硫酸アセトン、グリコール酸、ヒドロキシメタンスルホン酸、グリオキシル酸水和物、乳酸、グリセリン酸、リンゴ酸、酒石酸、および前述の酸の塩など)が挙げられる。鉄、銅、マンガン、銀、白金、バナジウム、ニッケル、クロム、パラジウム、またはコバルトの金属塩を使用して酸化還元反応を触媒してもよい。金属用のキレート剤が、任意選択的に使用されてもよい。
【0024】
重合プロセスでは、1つ以上の界面活性剤を使用することができる。界面活性剤は、モノマーまたはそれらの組み合わせの重合前もしくは重合中に添加され得る。界面活性剤の一部分はまた、重合後に添加されてもよい。これらの界面活性剤は、アニオン性および/または非イオン性乳化剤を含み得る。界面活性剤は、反応性界面活性剤、例えば、重合性界面活性剤であり得る。好適な界面活性剤の例としては、アルキル、アリール、もしくはアルキルアリールスルフェート、スルホネート、もしくはホスフェートのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩、アルキルスルホン酸、スルホスクしネート(sulfosuccinate)塩、脂肪酸、およびエトキシル化アルコールまたはフェノールが含まれる。好ましくは、アルキル、アリール、またはアルキルアリールスルフェート界面活性剤のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩が使用される。使用される界面活性剤は、通常、モノマーの総重量に基づく重量で、0~10%、0.5%~3%、または0.8%~1.5%である。
【0025】
重合プロセスでは、1つ以上の連鎖移動剤を使用することができる。好適な連鎖移動剤の例としては、3-メルカプトプロピオン酸、n-ドデシルメルカプタン、メチル3-メルカプトプロピオネート、ブチル3-メルカプトプロピオネート、ベンゼンチオール、アゼライン酸アルキルメルカプタン(azelaic alkyl mercaptan)、またはそれらの混合物が挙げられる。連鎖移動剤は、エマルジョンポリマーの分子量を制御するのに有効な量で使用することができる。連鎖移動剤は、モノマーの総重量に基づく重量で、0~5%、0.05%~1%、または0.1%~0.3%の量で使用することができる。
【0026】
重合プロセスが完了した後、得られた水性分散液は、1つ以上の塩基によって、例えば、少なくとも7、7~10、または8~9のpH値に中和され得る。好適な塩基の例としては、アンモニア;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属化合物もしくはアルカリ土類金属化合物;トリエチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、モノイソプロピルアミン、モノブチルアミン、ヘキシルアミン、エタノールアミン、ジエチルアミン、ジメチルアミン、ジn-プロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、ジメトキシエチルアミン、2-エトキシエチルアミン、3-エトキシプロピルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、モルホリン、エチレンジアミン、2-ジエチルアミノエチルアミン、2,3-ジアミノプロパン、1,2-プロピレンジアミン、ネオペンタンジアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ヘキサメチレンジアミン、4,9-ジオキサドデカン-1,12-ジアミン、ポリエチレンイミン、もしくはポリビニルアミンなどの一級、二級、および三級アミン;水酸化アルミニウム;またはそれらの混合物が挙げられる。本発明の水性分散液は、20重量%~70重量%または40重量%~60重量%の固形分含有量を有し得る。
【0027】
本発明の水性分散液は、室温(23±2℃)で1ヶ月以上、2ヶ月以上、またはさらに6ヶ月以上保存した後、相分離または表面に浮かぶ目に見える油様液滴がないことによって示されるように、安定な水性分散液である。本発明のポリマー粒子の水性分散液は、多くの用途、例えば、コーティング、接着剤、およびインクでの使用に有用である。
【0028】
本発明はまた、ポリマー粒子の水性分散液を含む水性コーティング組成物に関する。ポリマー粒子の水性分散液は、水性コーティング組成物の総重量に基づく重量で、10%~80%、20%~70%、または30%~60%の量で存在し得る。
【0029】
本発明の水性コーティング組成物はまた、1つ以上の顔料を含み得る。本明細書で使用される場合、「顔料」という用語は、コーティングの不透明度または隠蔽能力に具体的に寄与することができる粒子状無機材料を指す。そのような材料は、典型的には、屈折率が1.8を超え、無機顔料および有機顔料を含む。好適な無機顔料の例としては、二酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化鉄、硫酸バリウム、炭酸バリウム、またはそれらの混合物が挙げられる。本発明で使用される好ましい顔料は、TiO2である。TiO2は、濃縮分散形態でも入手可能であり得る。水性コーティング組成物はまた、1つ以上の増量剤を含み得る。「増量剤」という用語は、1.8以下かつ1.3を超える屈折率を有する粒子状無機材料を指す。好適な増量剤の例としては、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム(Al2O3)、粘土、硫酸カルシウム、アルミノシリケート、シリケート、ゼオライト、雲母、ケイソウ土、固体もしくは中空ガラス、セラミックビーズ、および不透明なポリマー、例えば、The Dow Chemical Companyから入手可能なROPAQUE(商標)Ultra E(ROPAQUEはThe Dow Chemical Companyの商標である)、またはそれらの混合物が挙げられる。水性コーティング組成物は、10%~60%、12%~55%、15%~50%、または17%~45%の顔料体積濃度(PVC)を有し得る。コーティング組成物のPVCは、以下の式に従って決定することができる。PVC=[体積(顔料+増量剤)/体積(顔料+増量剤+結合剤)]×100%
【0030】
本発明の水性コーティング組成物は、1つ以上の造膜助剤(coalescent)を含み得る。本明細書における「造膜助剤」は、ポリマーのフィルム形成温度を低下させることによって、分散したポリマー粒子が均一なコーティングフィルムを形成するのを助けることができる化合物を意味する。造膜助剤は、典型的には、410未満の分子量を有する。好適な造膜助剤の例としては、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールプロピルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールヘキシルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールヘキシルエーテル、プロピレングリコールn-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチレンエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコールtert-ブチルエーテル、2,2,4-チメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールジイソブチレート、またはそれらの混合物が挙げられる。市販の造膜助剤には、例えば、すべてEastman Chemical CompanyからのTexanolエステルアルコール、OE-300、およびOE-400造膜助剤、Chemoxy InternationalからのCOASOL造膜助剤、またはそれらの混合物が含まれ得る。造膜助剤は、水性コーティング組成物の総重量に基づく重量で、0~10.0%、0.2%~5.0%、0.4%~3.0%、0.6%~2.0%、または0.8%~1.5%の量で存在し得る。
【0031】
本発明の水性コーティング組成物は、1つ以上の艶消し剤を含み得る。本明細書における「艶消し剤」は、艶消し効果をもたらす任意の無機または有機粒子を指す。艶消し剤は、シリカ艶消し剤、珪藻土(diatomate)、ポリ尿素艶消し剤、ポリアクリレート、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエテン、またはそれらの混合物から選択することができる。艶消し剤は、水性コーティング組成物の総重量に基づく固形分重量で、0~10%、0.1%~8%、または0.5%~5%の量で存在し得る。
【0032】
本発明の水性コーティング組成物は、1つ以上の消泡剤をさらに含み得る。「消泡剤」は、本明細書では、泡の形成を減少させ、妨げる化学添加剤を指す。消泡剤は、シリコーン系消泡剤、鉱油系消泡剤、エチレンオキシド/プロピレンオキシド系消泡剤、アルキルポリアクリレート、またはそれらの混合物であってもよい。消泡剤は、水性コーティング組成物の総重量に基づく重量で、0~1.0%、0.05%~0.8%、0.1%~0.6%、または0.2%~0.4%の量で存在し得る。
【0033】
本発明の水性コーティング組成物は、1つ以上の増粘剤(「レオロジー改質剤」としても知られる)をさらに含み得る。増粘剤には、ポリビニルアルコール(PVA)、粘土材料、酸誘導体、酸コポリマー、ウレタン会合型増粘剤(UAT)、ポリエーテル尿素ポリウレタン(PEUPU)、ポリエーテルポリウレタン(PEPU)、またはそれらの混合物が含まれ得る。好適な増粘剤の例としては、ナトリウムまたはアンモニウムで中和されたアクリル酸ポリマーなどのアルカリ膨潤性エマルジョン(ASE);疎水性修飾アクリル酸コポリマーなどの疎水性修飾アルカリ膨潤性エマルジョン(HASE);疎水性修飾エトキシル化ウレタン(HEUR)などの会合性増粘剤;ならびにメチルセルロースエーテル、ヒドロキシメチルセルロース(HMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、疎水性修飾ヒドロキシエチルセルロース(HMHEC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(SCMC)、カルボキシメチル2-ヒドロキシエチルセルロースナトリウム、2-ヒドロキシプロピルメチルセルロース、2-ヒドロキシエチルメチルセルロース、2-ヒドロキシブチルメチルセルロース、2-ヒドロキシエチルエチルセルロース、および2-ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース増粘剤が挙げられる。好ましい増粘剤はHEURをベースにしている。増粘剤は、水性コーティング組成物の総重量に基づく重量で、0~5%、0.1%~4%、0.2%~4%、または0.3%~3%の量で存在し得る。
【0034】
本発明の水性コーティング組成物は、1つ以上の分散剤をさらに含み得る。分散剤には、好適な分子量を有するポリ酸、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)、ジメチルアミノエタノール(DMAE)、トリポリリン酸カリウム(KTPP)、ポリリン酸三ナトリウム(TSPP)、クエン酸および他のカルボン酸などの非イオン性、アニオン性、またはカチオン性分散剤が含まれ得る。使用されるポリ酸には、疎水性または親水性修飾されたもの、例えば、スチレン、アクリレートまたはメタクリレートエステル、ジイソブチレン、および他の親水性または疎水性コモノマーなどの種々のモノマーを有するポリカルボン酸またはポリメタクリル酸または無水マレイン酸を含む、ポリカルボン酸に基づくホモポリマーおよびコポリマー(例えば、GPCの測定で、1,000~50,000の範囲の分子量);それらの塩;またはそれらの混合物が含まれ得る。分散剤は、水性コーティング組成物の総重量に基づく重量で、0~10%、0.2%~5.0%、または0.5%~1.5%の量で存在し得る。
【0035】
本発明の水性コーティング組成物は、水をさらに含み得る。水の濃度は、水性コーティング組成物の総重量に基づく重量で、30%~90%、35%~80%、または40%~70%であってもよい。
【0036】
上記の成分に加えて、本発明の水性コーティング組成物は、以下の添加剤:緩衝剤、中和剤、分散剤、湿潤剤、防カビ剤、殺生物剤、皮張り防止剤、着色剤、流動剤、酸化防止剤、レベリング剤、接着促進剤、傷防止添加剤、フラッシュ防錆添加剤、防食添加剤、共溶媒、および粉砕展色剤(grind vehicles)のうちのいずれか1つまたは組み合わせをさらに含み得る。これらの添加剤は、水性コーティング組成物の総重量に基づく重量で、0~40%、0.5%~30%、1.0%~20%、2.0%~10%の合計量で存在し得る。
【0037】
本発明の水性コーティング組成物は、コーティング分野で知られている技術を用いて調製することができる。水性コーティング組成物を調製するプロセスは、ポリマー粒子の水性分散液を、他の任意の成分、例えば、上記のような顔料および/または増量剤と混和することを含み得る。水性コーティング組成物中の成分は、本発明の水性コーティング組成物を提供するために任意の順序で混合され得る。上述の任意選択の成分のうちのいずれかはまた、水性コーティング組成物を形成するために、混合中または混合前に組成物に添加され得る。水性コーティング組成物が顔料および/または増量剤を含む場合、顔料および/または増量剤は、好ましくは、顔料および/または増量剤のスラリーを形成するために、分散剤と混合される。
【0038】
本発明はまた、金属などの腐食し易い基材上にコーティングを提供する方法を提供し、この方法は、基材に水性コーティング組成物を適用し、水性コーティング組成物を乾燥するか、または乾燥させてコーティングを形成することを含む。水性コーティング組成物は、改善された耐食性、例えば、少なくとも240時間塩水噴霧に曝露後の45~55μmの厚さを有するコーティングについて、6M以上のブリスター評価および7P以上の表面錆び評価を有するコーティングを提供することができる。水性コーティング組成物はまた、改善された耐水性、例えば、5以上、好ましくは6以上、より好ましくは7以上のブリスター評価、および6以上の錆び評価を有するコーティングを提供し得る。水性コーティング組成物はまた、3以上、またはさらに4以上のビーズスコアによって示されるように、良好な撥水性(「ビーズ効果」とも称される)を有するコーティングを提供し得る。これらの特性は、以下の実施例のセクションで説明される試験方法に従って測定される。
【0039】
本発明の水性コーティング組成物は、様々な基材に適用され、接着することができる。好適な基材の例としては、木材、金属、プラスチック、発泡体、石、エラストマー基材、ガラス、布、コンクリート、またはセメント系基材が挙げられる。水性コーティング組成物は、好ましくは顔料を含み、海洋保護コーティング、一般工業用仕上げ、金属保護コーティング、自動車用コーティング、交通塗料、外断熱仕上げシステム(EIFS)、木材コーティング、コイルコーティング、プラスチックコーティング、缶コーティング、建築コーティング、および土木工学コーティングなどの様々な用途に好適である。水性コーティング組成物は、金属保護コーティングに特に好適である。水性コーティング組成物は、プライマーとして、トップコート、ワンコート直接金属コーティングとして、または他のコーティングと組み合わせて使用して、多層コーティングを形成することができる。
【0040】
本発明の水性コーティング組成物は、ブラッシング、浸漬、圧延、および噴霧を含む、義務的手段によって、基材に適用され得る。水性組成物は、好ましくは噴霧によって適用される。空気霧化噴霧、空気噴霧、無気噴霧、大容量低圧噴霧、および静電ベル適用などの静電噴霧などの噴霧のための標準噴霧技術および装置、ならびに手動または自動のいずれかの方法を使用することができる。本発明の水性コーティング組成物が基材に適用された後、水性コーティング組成物は、室温で、乾燥するか、または乾燥させて、フィルム(すなわち、コーティング)を形成するか、または例えば、25℃~80℃の高温でフィルム(すなわち、コーティング)を形成することができる。
【実施例】
【0041】
本発明のいくつかの実施形態は、以下の実施例においてここに記載され、すべての部およびパーセンテージは、他に特定されない限り、重量による。
【0042】
スチレン(ST)、ブチルアクリレート(BA)、およびメタクリル酸(MAA)はすべて、Shanghai Lang Yuan Chemical Co.,Ltdから入手可能である。
【0043】
p-スチレンスルホン酸ナトリウム(SSS)(90.5%活性)はShanghai Chemical Reagent Co.,Ltdから入手可能である。
【0044】
ホスホエチルメタクリレート(PEM)はSolvayから入手可能である。
【0045】
The Dow Chemical Companyから入手可能なPDMS-1は、約5,600g/molの重量平均分子量および1.2%のヒドロキシル基(OH)重量当量を有するヒドロキシル基末端ポリジメチルシロキサンである。
【0046】
The Dow Chemical Companyから入手可能なPDMS-2は、約1,800g/molの重量平均分子量および4.8%のOH重量当量を有するヒドロキシル基末端ポリジメチルシロキサンである。
【0047】
Cognisから入手可能なDisponil FES-32界面活性剤(固形分:31%)は、脂肪アルコールエーテル硫酸塩のナトリウム塩である。
【0048】
Angus Chemical Companyから入手可能なAMP-95(固形分:95%)は、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールであり、中和剤として使用される。
【0049】
TAMOL(商標)681分散剤(疎水性コポリマー顔料分散剤)、OROTAN(商標)CA-2500分散剤(疎水性コポリマー顔料分散剤)、およびROPAQUE(商標)ULTRA E不透明ポリマーはすべて、The Dow Chemical Companyから入手可能である。
【0050】
The Dow Chemical Companyから入手可能なACRYSOL(商標)RM-12W、ACRYSOL RM-8W、およびACRYSOL RM-2020 NPRレオロジー改質剤は、非イオン性の疎水性修飾エチレンオキシドウレタン(HEUR)レオロジー改質剤である。
【0051】
Tego Foamex 825消泡剤は、Evonik Industry Co.,Ltdから入手可能である。
【0052】
Nopco NXZ消泡剤は、Japan Nopcoから入手可能である。
【0053】
Texanol造膜助剤は、Eastman Chemical Companyから入手可能である。
【0054】
顔料としてのTi-Pure R-706二酸化チタンは、The Chemous Companyから入手可能である。
【0055】
Huangtian Chengxin Calcium Carbonate Powder Companyから入手可能なCC-1500二酸化カルシウムは、増量剤として使用される。
【0056】
Natrosol 250 HBR水溶性ヒドロキシエチルセルロースは、Ashland Specialty Chemical Companyから入手可能である。
【0057】
TAMOL、ACRYSOL、およびOROTANは、The Dow Chemical Companyの商標である。
【0058】
実施例では、以下の標準的な分析機器および方法を使用する。
【0059】
ガラス転移温度(Tg)の測定
TgはDSCで測定した。5~10ミリグラム(mg)の試料を、窒素(N2)雰囲気下でオートサンプラーを取り付けたTA Instrument DSC Q2000上の密閉アルミニウムパンにおいて分析した。DSCによるTg測定は、-60~150℃、10℃/分(第1のサイクル、次いで5分間保持して試料の熱履歴を消去する)、150~-60℃、10℃/分(第2のサイクル)、および-60~150℃、10℃/分(第3のサイクル)を含む3つのサイクルを用いた。Tgを、第3のサイクルから「ハーフハイト(half height」法によって得た。
【0060】
1H NMR分析
試験する各水性分散液5gに、15mlのヘキサンを添加した。得られた混合物を一晩撹拌した。次に、ヘキサン相を分離し、N2雰囲気下で乾燥させた。ヘキサン相の乾燥残留物を1H NMR分析に出した。抽出されたヘキサン相中のポリジメチルシロキサン(PDMS)の量(すなわち、水性分散液の水性媒体中のPDMSの量)を定量化するために、1H NMR測定を実施した。内標準としてトリフェニルホスフィン(PPh3)を選択した。50mgのPPh3および51mgのPDMS-1の混合物を、実施例6、7、および9の水性分散液の標準試料として使用した。溶媒としてクロロホルム-D1を使用した。エマルジョンポリマーの重量に基づく重量で、ポリマー粒子を含むヒドロキシル末端ポリシロキサンの含有量が報告された。PDMSの抽出率も報告された。PDMS抽出比は、水性分散液の水性媒体中に存在するPDMSの含有量を、そのような水性分散液中のPDMSの総重量(すなわち、ポリマー粒子および水性媒体中のPDMSの総重量)に基づく重量で表す。
【0061】
GPC分析
ヒドロキシル末端ポリシロキサン試料(例えば、PDMS-1またはPDMS-2)の分子量を、Agilent 1200を使用したGPC分析によって測定した。試料を2mg/mLの濃度の30mLのテトラヒドロフラン(THF)/ギ酸(FA)(95:5の容量/容量)に溶解し、1時間以上撹拌し、一晩放置した後、GPC分析の前に0.45μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルタに通して濾過した。GPC分析を、以下の機器条件を使用して実施した。
【0062】
カラム:1本のPLgel GUARDカラム(10μm、50×7.5mm)(132#)、タンデムで2本の混合Bカラム(7.8×300mm)(114#,115#);カラム温度:40℃;移動相:THF/FA(5%);流量:1.0mL/分;注入量:100μL;検出器:Agilent屈折率検出器、40℃;および検量線:三次多項式適応度(polynom 3 fitness)を使用した2329000~580g/molの範囲の分子量を有するPLポリスチレンl狭標準。
【0063】
耐水性
アプリケーターにより鋼板に試験コーティング組成物を適用して、第1の層が120μm、第2の層が80μmの湿潤フィルム厚さを有する2層のコーティングフィルムを形成することによって、コーティングされたパネルを調製した。次に、得られたフィルムを室温で24時間乾燥させた。コーティングされたパネルを水に10日間浸漬した後、錆びおよびブリスターの程度を記録した。次に、パネルの表面を、以下の表Aに示す評価基準に従って、錆びおよびブリスターの程度についてそれぞれ評価した。耐水性試験の場合、許容されるブリスター評価は5以上、許容される錆び評価は6以上である。
【表1】
【0064】
耐塩水噴霧性試験
アプリケーターにより鋼板に試験コーティング組成物を適用して、第1の層が120μm、第2の層が80μmの湿潤フィルム厚さを有する2層のコーティングフィルムを形成することによって、コーティングされたパネルを調製した。次に、コーティングされたパネルを室温で7日間乾燥させて、約50μmの総厚を有する乾燥フィルムを得た。耐塩水噴霧特性は、ASTM B117-2011に従って、調製されたままのコーティングされたパネルを塩水噴霧環境(5%塩化ナトリウム霧)に曝露することによって試験した。曝露前に、冷間圧延鋼をテープ(3Mプラスチックテープ#471)で被覆した。カミソリ刃で作製されたスクライブマークは、曝露の直前に上で得たパネルの下半分に刻まれた。パネルを塩水噴霧環境に240時間曝露し、次いで塩水噴霧環境から取り出した。次に、パネルの表面をブリスターおよび錆びで評価した。結果をブリスター/錆び評価として提示した。ブリスター評価は、ASTM D714-02(2010)に従って実施され、表Bに示されるように、数字および/または1つ以上の文字で構成された。文字F、M、MD、またはDは、ブリスターの密度を定性的に表したものである。数字は、ブリスターのサイズを指し、2は最大サイズ、8は最小サイズ、10はブリスターなしである。数が大きいほど、ブリスターのサイズは小さくなる。錆び評価は、表CおよびDに示されるように、ASTM D610-2001によって決定される。240時間の塩水噴霧試験の場合、許容されるブリスター評価は6M以上、許容される錆び評価は7P以上である。
【表2】
【表3】
【表4】
【0065】
撥水性
撥水性(「ビーズ効果」とも称される)は、水がコーティング表面を濡らしにくいことを表している。コーティング組成物を、レネータブラックスクラブ試験用パネル(P121-10N)上に、パネルの固定端部から開始して、100μmのフィルムキャスターを使用することによってキャストした。次に、パネルを恒温室(CTR)で25℃で7日間水平に空気乾燥させた。得られたパネルを、水滴がパネルの上側から下側に流れるように垂直に保持した。撥水性を目視観察し、以下の表Eに示すようにビーズスコアによって順位付けした。3以上のビーズスコアは、良好な撥水性(すなわち、良好なビーズ効果)を示す。そうでない場合、ビーズスコアが3未満(<3)の場合は、撥水性が低い(すなわち、ビーズ効果がない)ことを示す。
【表5】
【0066】
実施例(Ex)1
まず、脱イオン(DI)水(487.42g)、FES-32界面活性剤(31%、57.93g)、SSS(90.5%、5.68g)、BA(964.02g)、ST(721.80g)、MAA(3.48g)、PEM(23.64g)、およびPDMS-1(85.5g)を混合することによってモノマーエマルジョンを調製した。還流冷却器、添加漏斗および撹拌棒を備えた1ガロンの容器に入れる。130rpmで撹拌しながら最初の水の分量を添加した。反応容器を88℃に加熱した。FES-32界面活性剤(31%、4.20g)を容器に添加した。モノマーエマルジョンの一部(110.74g)およびアンモニアペルスルフェート(ammonia persulfate)(APS)の溶液(17.73gのDI水に溶解した6.18gのAPS)を反応容器に入れた。シード形成のために、反応混合物を82~88℃で5分間保持した。モノマーエマルジョンの残りを、85℃~87℃の温度で120分間にわたって添加した。モノマー混合物、APSの溶液(67.18gのDI水に溶解した2.47gのAPS)および硫酸水素ナトリウム(NaBS)の溶液(66.28gのDI水に溶解した2.62gのNaBS(固形分:99.8%))の添加を完了した後、反応容器の内容物を室温まで冷却した。冷却中、温度が65℃のときに、28.65gのDI水中の4.04gのtert-ブチルヒドロペルオキシド(t-BHP)(固形分:70%)、および28.87gのDI水中の2.08gのイソアスコルビン酸(IAA)の混合物を添加した。容器の温度が50℃以下に達したとき、AMP-95(95%、27.50g)を添加して、得られたポリマー分散液のpHを7以上に調整した。
【0067】
実施例2
実施例2の水性分散液を、85.5gのPDMS-1の代わりに85.5gのPDMS-2がモノマーエマルジョンに使用されたことを除いて、実施例1と同様に調製した。
【0068】
実施例3
実施例3の水性分散液を、モノマーエマルジョン中のPDMS-1の使用量が8.55gであったことを除いて、実施例1と同様に調製した。
【0069】
実施例4
実施例4の水性分散液を、モノマーエマルジョン中のPDMS-1の使用量が17.10gであったことを除いて、実施例1と同様に調製した。
【0070】
実施例5
水性分散液実施例5を、モノマーエマルジョン中のPDMS-1の使用量が42.75gであったことを除いて、実施例1と同様に調製した。
【0071】
実施例6
水性分散液実施例6を、モノマーエマルジョン中のPDMS-1の使用量が25.65gであったことを除いて、実施例1と同様に調製した。得られたポリマー分散液を上記のように1H NMR分析により分析したところ、PDMS抽出率は1.18%であった。
【0072】
実施例7
水性分散液実施例7を、モノマーエマルジョン中のPDMS-1の使用量が136.80gであったことを除いて、実施例1と同様に調製した。得られたポリマー分散液を上記のように1H NMR分析により分析したところ、PDMS抽出率は2.76%であった。
【0073】
実施例8
水性分散液実施例8を、モノマーエマルジョン中のPDMS-1の使用量が181.00gであったことを除いて、実施例1と同様に調製した。
【0074】
実施例9
水性分散液実施例9を、モノマーエマルジョン中のPEMおよびSTの使用量がそれぞれ10.26gおよび735.13gであったことを除いて、実施例1と同様に調製した。得られたポリマー分散液を上記のように1H NMR分析により分析したところ、PDMS抽出率は1.74%であった。
【0075】
実施例10
水性分散液実施例10を、モノマー混合物中のPEMおよびSTの使用量がそれぞれ27.71gおよび717.57gであったことを除いて、実施例1と同様に調製した。
【0076】
比較(Comp)例1
まず、DI水(487.42g)、FES-32界面活性剤(31%、57.93g)、SSS(90.5%、5.68g)、BA(964.02g)、ST(706.05g)、およびMAA(42.88g)を混合することによってモノマー混合物を調製した。還流冷却器、添加漏斗および撹拌棒を備えた1ガロンの容器に入れる。130rpmで撹拌しながら最初の水の分量を添加した。反応容器を88℃に加熱した。FES-32界面活性剤(31%、4.20g)を容器に添加した。モノマーエマルジョンの一部(110.74g)およびAPSの溶液(17.73gのDI水に溶解した6.18gのAPS)を反応容器に入れた。シード形成のために、反応混合物を82~88℃で5分間保持した。モノマーエマルジョンの残りを、85℃~87℃の温度で120分間にわたって添加した。モノマーエマルジョン、APSの溶液(67.18gのDI水に溶解した2.47gのAPS)およびNaBSの溶液(66.28gのDI水に溶解した2.62gのNaBS(固形分:99.8%))の添加を完了した後、反応容器の内容物を室温まで冷却した。冷却中、温度が65℃のときに、28.65gのDI水中の4.04gのt-BHP(固形分:70%)、および28.87gのDI水中の2.08gのIAAの混合物を添加した。容器の温度が50℃以下に達したとき、AMP-95(95%、27.50g)を添加して、得られたポリマー分散液のpHを7以上に調整した。
【0077】
比較例2
比較例2の水性分散液を、DI水(487.42g)、FES-32界面活性剤(31%、57.93g)、SSS(90.5%、5.68g)、BA(964.02g)、ST(721.80g)、MAA(3.48g)、およびPEM(23.64g)を混合することによってモノマーエマルジョンを調製したことを除いて、実施例1と同様に調製した。
【0078】
比較例3
比較例3の水性分散液を、DI水(487.42g)、FES-32界面活性剤(31%、57.93g)、SSS(90.5%、5.68g)、BA(964.02g)、ST(706.05g)、MAA(42.88g)、およびPDMS-1(85.5g)を混合することによってモノマーエマルジョンを調製したことを除いて、比較例1と同様に調製した。
【0079】
比較例4
比較例4の水性分散液を、DI水(487.42g)、FES-32界面活性剤(31%、57.93g)、SSS(90.5%、5.68g)、BA(964.02g)、ST(742.88g)、MAA(3.48g)、PEM(2.57g)、およびPDMS-1(85.5g)を混合することによってモノマーエマルジョンを調製したことを除いて、比較例1と同様に調製した。
【0080】
比較例5
比較例5の水性分散液を、DI水(487.42g)、FES-32界面活性剤(31%、57.93g)、SSS(90.5%、5.68g)、BA(964.02g)、ST(715.84g)、PEM(32.84g)、およびPDMS-1(85.5g)を混合することによってモノマーエマルジョンを調製したことを除いて、比較例1と同様に調製した。
【0081】
比較例6
PDMS-1(23.2g)を、室温で24時間撹拌しながら、1000gの比較例1の水性分散液に添加した。次に、得られたブレンドの外観を目視検査によって評価した。表面に浮かぶ多くの油様液滴が観察され、これは、低温ブレンドが均一で安定な結合剤または塗料系を作製するのに効率的な方法ではないことを示す。
【0082】
対照的に、実施例1~10のすべての水性分散液は均一で安定であり、室温で6ヶ月間保存した後、または50℃で10日間熱老化した後、相分離または表面に浮かぶ油様液滴が観察されることは見られなかった。これは、本発明の水性分散液が、比較例6よりも優れた安定性を有することを示す。
【0083】
上記で得られた水性分散液の特性を表1および表2に示す。これらの分散液を、コーティング組成物を調製するための結合剤として使用した。
【表6】
【0084】
コーティング組成物(比較コーティング1~5およびコーティング1~10)
比較コーティング1~5およびコーティング1~10のコーティング組成物を、2段階のプロセスによって調製した。まず、水(39.3g)、プロピレングリコール(22.6g)、TAMOL 681(11.3g)、Tego Foamex 825(1.1g)、Ti-Pure R-706(237.7g)、および水(8.4g)からなる粉砕段階のすべての成分を順次添加し、高速分散機を使用して毎分1,000回転(rpm)で30分間混合して、十分に分散されたスラリーを得た。次に、結合剤(610.0g)、Tego Foamex 825(1.7g)、AMP-95(95%、2.0g)、Texanol(14.8g)、ACRYSOL RM-12W(0.6g)、ACRYSOL RM-8W(1.0g)、水(46.4g)、および15%NaNO2(13.0g)からなるレットダウン段階の成分をスラリーに順次添加した。各コーティング組成物に使用される結合剤の種類(すなわち、調製されたままの水性分散液)を表2に示す。得られたコーティング組成物は、各々、17.24%のPVC、42.33%の体積固形分、および53.69%の重量固形分を有していた。得られたコーティング組成物を、上記の試験方法に従って耐水特性および耐塩水噴霧特性について評価し、結果を表2に示す。
【0085】
表2に示すように、PEMおよびPDMSの不存在下(比較例1)、またはPEMの不在下(比較例3)で調製された結合剤はいずれも、耐水性試験で2~3のスコアおよび耐塩水噴霧性試験で1Sを有する、低い防錆性能を有するコーティングをもたらした(比較コーティング1および3)。PEMの構造単位を有するがPDMSを含まないエマルジョンポリマーを含む比較例2の結合剤は、耐水性試験でわずか2のスコアを有する、低い耐ブリスター性を有するコーティングをもたらした。対照的に、特定量のPEMおよびPDMSの存在下で調製されたエマルジョンポリマーを含む例1~10のすべての結合剤は、改善された耐水性および耐塩水噴霧特性を有するコーティングをもたらした。PDMSおよびPEMの間には、耐水性および耐塩水噴霧性の改善に関して相乗効果があると考えられる。
【表7】
【0086】
コーティング組成物(比較コーティング6~10およびコーティング11~20)
比較コーティング6~10およびコーティング11~20のコーティング組成物を、上記のコーティング1を調製するのと同じ手順に従って調製した。まず、水(180.0g)、Natrosol 250 HBR(1.0g)、Nopco NXZ(2.0g)、OROTAN CA-2500(13.0g)、AMP-95(95%、1.0g)、Ti-Pure R-706(230.0g)、およびCC-1500(95.0g)からなる粉砕段階のすべての成分を順次添加し、高速分散機を使用して毎分1,000回転(rpm)で30分間混合して、十分に分散されたスラリーを得た。次に、結合剤(330.0g)、プロピレングリコール(15.0g)、Texanol(8.0g)、ROPAQUE Ultra E(50.0g)、Nopco NXZ(1.0g)、ACRYSOL RM-8W(1.5g)、ACRYSOL RM-2020 NPR(1.0g)、および水(71.5g)からなるレットダウン段階の成分をスラリーに順次添加した。各コーティング組成物を調製するために使用される結合剤の種類(すなわち、調製されたままの水性分散液)を表4に示す。得られたコーティング組成物は、各々、45.96%のPVC、34.50%の体積固形分、および49.97%の重量固形分を有していた。得られたコーティング組成物を、上記の試験方法に従ってビーズ特性(beading properties)について評価し、結果を表3に示す。
【0087】
表3に示すように、比較コーティング6および7はいずれも0のビーズスコアを提供し、ビーズ効果がないことを示す。比較コーティング8~10はすべて、2のビーズスコアを有する低い撥水特性をもたらした。対照的に、本発明のコーティング11~20は、3以上のビーズスコアによって示されるように、撥水性能について明らかに改善をもたらし、良好なビーズ効果を示す。
【表8】
【0088】
比較コーティング組成物21
上記の比較コーティング2のコーティング組成物に、比較コーティング2のコーティング組成物中の結合剤(比較例2)固形分に基づいて5重量%の量でPDMS-1を添加した。得られたコーティング組成物を一晩保存し、次いで、100μmの湿潤フィルム厚さでレネータ白黒チャート上に延伸した。得られたコーティングフィルムは、直ちに深刻な収縮空洞を示し、さらなる性能評価の対象にはならなかった。対照的に、コーティング1~20のすべてのコーティング組成物は、外観上均一で安定であった。これらのコーティング組成物から作製されたコーティングフィルムは、良好な外観を示し、コーティングフィルムの表面に空洞は観察されなかった。
【国際調査報告】