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特表2022-553512高い上限使用温度を有する潤滑グリース組成物の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-23
(54)【発明の名称】高い上限使用温度を有する潤滑グリース組成物の使用
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/02 20060101AFI20221216BHJP
   C10M 117/00 20060101ALN20221216BHJP
   C10M 115/08 20060101ALN20221216BHJP
   C10M 107/02 20060101ALN20221216BHJP
   C10M 101/02 20060101ALN20221216BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20221216BHJP
   C10N 10/06 20060101ALN20221216BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20221216BHJP
   C10N 40/00 20060101ALN20221216BHJP
【FI】
C10M169/02
C10M117/00
C10M115/08
C10M107/02
C10M101/02
C10N50:10
C10N10:06
C10N30:08
C10N40:00 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022521182
(86)(22)【出願日】2020-11-03
(85)【翻訳文提出日】2022-04-07
(86)【国際出願番号】 EP2020080748
(87)【国際公開番号】W WO2021115685
(87)【国際公開日】2021-06-17
(31)【優先権主張番号】102019134330.5
(32)【優先日】2019-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509350664
【氏名又は名称】クリューバー リュブリケーション ミュンヘン ソシエタス ヨーロピア ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Klueber Lubrication Muenchen SE & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Geisenhausenerstrasse 7, D-81379 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ シュミッツ
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング ティーパーマン
(72)【発明者】
【氏名】ラファエラ マクルツキー
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ゼーマイアー
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA07A
4H104BB14B
4H104BB23A
4H104BB24A
4H104BB25A
4H104BB41A
4H104BE13B
4H104CB14A
4H104CD04A
4H104CJ02A
4H104DA02A
4H104DA06A
4H104FA03
4H104LA04
4H104PA50
4H104QA18
(57)【要約】
本発明は、基油と、アルミニウム系複合石鹸とポリウレア系増ちょう剤とを含む増ちょう剤とを含む潤滑グリース組成物の使用であって、該潤滑グリース組成物の上限使用温度が少なくとも90℃、例えば90℃~180℃、好ましくは少なくとも100℃、例えば100℃~180℃、さらにより好ましくは110℃~180℃および/または110℃~170℃であることが必要とされる用途で部品表面を潤滑するための使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
- 基油と、
- アルミニウム系複合石鹸とポリウレア系増ちょう剤とを含む増ちょう剤と
を含む潤滑グリース組成物の使用であって、前記潤滑グリース組成物の上限使用温度が少なくとも90℃、例えば90℃~180℃、好ましくは少なくとも100℃、例えば100℃~180℃、さらにより好ましくは110℃~180℃および/または110℃~170℃であることが必要とされる用途で部品表面を潤滑するための使用。
【請求項2】
少なくとも一時的に少なくとも90℃、例えば90℃~180℃および/または少なくとも100℃、例えば100℃~180℃および/または110℃~180℃および/または110℃~170℃である温度で部品表面を潤滑するための、
- 基油と、
- アルミニウム系複合石鹸とポリウレア系増ちょう剤とを含む増ちょう剤と
を含む潤滑グリース組成物の使用。
【請求項3】
前記潤滑グリース組成物は、-60℃~+180℃および/または-50℃~+160℃および/または-40℃~+150℃および/または-40℃~+140℃および/または-40℃~+120℃の使用温度範囲を有する、請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
潤滑グリース組成物中の前記ポリウレア系増ちょう剤の割合は、前記潤滑グリース組成物の総質量に対してそれぞれ1質量%~11質量%、さらにより好ましくは2質量%~10質量%、特に3質量%~9質量%である、請求項1から3までのいずれか1項記載の使用。
【請求項5】
前記ポリウレア系増ちょう剤は、単独でも組み合わせても使用可能である、2,4-ジイソシアナトトルエン、2,6-ジイソシアナトトルエン、4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン、2,4’-ジイソシアナトフェニルメタン、4,4’-ジイソシアナトジフェニル、4,4’-ジイソシアナト-3-3’-ジメチルフェニル、4,4’-ジイソシアナト-3,3’-ジメチルフェニルメタンから選択されるジイソシアネートと、一般式R’2-N-Rのアミンもしくは一般式R’2-N-R-NR’2のジアミン[式中、Rは、2~22個の炭素原子を有するアリール基、アルキル基またはアルキレン基であり、R’は、同一であるかまたは異なり、水素、アルキル基、アルキレン基またはアリール基である]、またはアミンとジミンとの混合物との反応生成物である、請求項1から4までのいずれか1項記載の使用。
【請求項6】
前記温度が、少なくとも10分、さらにより好ましくは少なくとも20分、さらにより好ましくは少なくとも40分、特に少なくとも60分にわたって維持される、請求項2から5までのいずれか1項記載の使用。
【請求項7】
プラスチックを含む摩擦相手、または金属とプラスチックとを含む摩擦相手の組み合わせ、特にアクチュエータ、特に自動車分野における前述のタイプの摩擦相手の表面が潤滑される、請求項1から6までのいずれか1項記載の使用。
【請求項8】
ASTM D 6184-17(24h/100℃)に準拠した前記潤滑グリース組成物の油分離率は、12質量%未満、さらにより好ましくは10質量%未満、特に6質量%未満であり、かつ/またはASTM D 6184-17(24h/100℃、次いで24h/110℃)に準拠した前記潤滑グリース組成物の油分離率は、16質量%未満、さらにより好ましくは14質量%未満、特に13質量%未満であり、かつ/またはASTM D 6184-17(24h/100℃、次いで24h/110℃、次いで24h/120℃)に準拠した前記潤滑グリース組成物の油分離率は、20質量%未満、さらにより好ましくは15質量%未満、特に12質量%未満である、請求項1から7までのいずれか1項記載の使用。
【請求項9】
前記アルミニウム系複合石鹸は、式1
【化1】
[式中、Rは、4~28個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基である(R=C~C28)]を有する、請求項1から8までのいずれか1項記載の使用。
【請求項10】
Rは、ラウリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸およびこれらの混合物からなる群から選択される脂肪酸に由来する、請求項9記載の使用。
【請求項11】
前記潤滑グリース組成物中の前記アルミニウム系複合石鹸の割合は、前記潤滑グリース組成物の総質量に対してそれぞれ1質量%~11質量%、さらにより好ましくは2質量%~10質量%、特に3質量%~9質量%である、請求項1から10までのいずれか1項記載の使用。
【請求項12】
前記アルミニウム系複合石鹸および前記ポリウレア系増ちょう剤の割合の合計は、前記潤滑グリース組成物の総質量に対してそれぞれ2質量%~22質量%、さらにより好ましくは4質量%~20質量%、特に6質量%~18質量%である、請求項1から11までのいずれか1項記載の使用。
【請求項13】
前記基油は、ポリ-α-オレフィン、特にメタロセンポリ-α-オレフィン、およびAPIグループIによる分類に従ったナフテン系鉱油である、請求項1から12までのいずれか1項記載の使用。
【請求項14】
前記潤滑グリース組成物は、以下の組成:
- 基油55~96質量%
- ポリウレア系増ちょう剤1~11質量%
- アルミニウム系複合石鹸1~11質量%
- 添加剤1~30質量%
- 固体潤滑物質1~30質量%
を有する、請求項1から13までのいずれか1項記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い上限使用温度が要求される用途、特に自動車産業における、表面を潤滑するための潤滑グリース組成物の使用に関する。
【0002】
先行技術
かつて、潤滑グリースは、純金属製の部品に用いられるのが主流であった。しかし、例えば自動車産業では、ますます高まる軽量化・低コスト化の要求に応えるため、プラスチックを含む部品の使用が進んでいる。このため、プラスチックを含む摩擦相手の潤滑および/または金属とプラスチックとを含む摩擦相手の組み合わせに適応した潤滑グリースの需要が高まっている。
【0003】
プラスチック表面の潤滑に関して重要な適用分野として、アクチュエータの摩擦相手の潤滑がある。アクチュエータは、一方では、例えば自動車産業における計測・制御・調整技術においてますます重要な役割を果たしており、他方では、通常、少なくとも割合に応じてプラスチックを含む摩擦相手を有する。しかし、プラスチックを含む摩擦相手は、純金属製の部品とは異なる要求を潤滑グリースに課すため、そこで一般に使用される潤滑グリースは、例えば摩擦係数や耐久性に関して満足のいく結果をもたらさないのが普通である。
【0004】
潤滑グリースの特性は、特に増ちょう剤の適切な選択によって調整することができる。特定の用途では、アルミニウム系複合石鹸が増ちょう剤として適していることが実証されている。例えば、アルミニウム系複合石鹸は、潤滑グリース組成物の増ちょう剤として古くから知られており、例えば、J. L. Dreher, T. H. Koundakijan und C. F. “Manufacture and Properties of Aluminum Complex Greases”, NLGI Spokesman, 107-113,1965; H. W. Kruschwitz “The Development of Formulations for Aluminum Complex Thickener Systems” NLGI Spokesman, 51-59,1976; H. W. Kruschwitz “The Manufacture and Uses of Aluminum Complex Greases” NLGI National Meeting Preprints 1985など、多くの文献に記載されている。
【0005】
しかし、世界のグリース市場では、増ちょう剤として従来の単純なリチウム石鹸が主流であり、これにリチウム複合石鹸および単純なカルシウム石鹸が続く。特に自動車産業では、一般的に使用温度範囲(少なくとも-40℃から+120℃まで)に高い要求があるため、アルミニウム系複合石鹸はほとんど存在しない。アルミニウム系複合石鹸の使用にはいくつかの利点があるため、これはなおさら驚くべきことである。単純なリチウム石鹸およびリチウム複合石鹸と比較すると、1つにはアルミニウム供給源の入手性がより高いことが挙げられるであろう。特にエレクトロモビリティの時代において、水酸化リチウムの価格が近年急激に上昇しており、今後、入手性や価格がどのように推移するか、明確には予見できない。さらに、アルミニウム系複合石鹸は、良好な耐水性、ポンプ搬送性、良好な低温挙動、および高い材料適合性を有している。
【0006】
アルミニウム系複合石鹸のもう1つの利点は、その高いせん断不安定性により、潤滑物質の動粘度を低下させ得ることにある。これにより、より粘度の高い基油を使用することが可能となり、このことは特に、金属/プラスチックの摩擦相手には有利になる。これにより摩擦相手との間に得られる潤滑物質被膜が多くなるため、寿命全体にわたる摩耗を低減することができる。さらに、基油の粘度が上がると、部品の騒音・振動・ハーシュネス(Noise Vibration Harshness、NVH)挙動に有利になる。
【0007】
アルミニウム系複合石鹸の欠点は、アルミニウム系複合石鹸が高い滴点(≧220℃)を有するものの、これを上限使用温度と同一視することができないことにあり、そしてこれが間違いなく自動車産業で広く使用されていないことの理由でもある。アルミニウム系複合石鹸は、そのコンシステンシー指数(NLGI)にもよるが、温度が90℃を超えると経時的に液状化するため、潤滑すべき摩擦箇所にはもはや利用できず、したがって自動車産業が求める、好ましくは少なくとも120℃という高い上限使用温度を満たさない。
【0008】
したがって、例えば欧州特許出願公開第2077318号明細書には、自動車内のプラスチックを含む摩擦相手に使用するための、アルミニウム系複合石鹸を含まない潤滑グリース組成物が記載されている。この潤滑グリース組成物は、少なくとも1つの炭化水素系合成油、エステル系合成油およびエーテル系合成油から選択される基油と、少なくとも1つのリチウム系石鹸、リチウム系複合石鹸および尿素系化合物から選択される増ちょう剤とを含む。
【0009】
したがって、プラスチックを含む摩擦相手、または金属とプラスチックとを含む摩擦相手の組み合わせの表面を潤滑するのに適しており、好ましくは90℃超、特に120℃超の上限使用温度の形で満足できる温度安定性を有するアルミニウム複合増ちょう剤ベースの潤滑グリース組成物を得ることが望ましいであろう。
【0010】
発明の説明
本発明によれば、この課題は、
- 基油と、
- アルミニウム系複合石鹸とポリウレア系増ちょう剤とを含む増ちょう剤と
を含む潤滑グリース組成物の使用であって、該潤滑グリース組成物の上限使用温度が少なくとも90℃、例えば90℃~180℃および/または90℃~160℃および/または90℃~150℃、好ましくは少なくとも100℃、例えば100℃~180℃および/または100℃~160℃および/または100℃~150℃、さらにより好ましくは110℃~180℃および/または110℃~170℃および/または110℃~160℃および/または110℃~150℃であることが必要とされる用途で部品表面を潤滑するための使用によって解決される。
【0011】
驚くべきことに、本発明によれば、アルミニウム系複合石鹸とポリウレア系増ちょう剤とを組み合わせて含む増ちょう剤を使用することにより、潤滑グリース組成物の高い上限使用温度が要求される用途において部品表面を潤滑するのに非常に適した潤滑グリース組成物を得ることができることが見出された。この潤滑グリース組成物は、自動車分野で要求される一般的に-40℃~+120℃の範囲の使用温度を問題なく達成することができるため、自動車分野での用途に極めて適している。潤滑グリース組成物の少なくとも90℃の上限使用温度が必要とされる用途の例としては、ボールジョイント、スパーギア、ウォームギア、プラネタリーギア、ブラシ付きまたはブラシレス直流モータ(DC、BLDCモータ)および/または交流モータ(AC、BLACモータ)のアクチュエータの潤滑が挙げられる。
【0012】
本発明により使用される潤滑グリース組成物は、好ましくは、少なくとも90℃、例えば90℃~180℃および/または90℃~160℃および/または90℃~150℃、好ましくは少なくとも100℃、例えば100℃~180℃および/または100℃~160℃および/または100℃~150℃、さらにより好ましくは110℃~180℃および/または110~170℃および/または110℃~160℃および/または110℃~150℃の上限使用温度を有する。
【0013】
潤滑グリース組成物の上限使用温度とは、その使用性を損なわずに潤滑グリース組成物を使用できる最高温度を意味する。本発明によれば、異なる温度での油分離率を測定することにより、上限使用温度を決定することができる。本発明によれば、潤滑グリース組成物の上限使用温度とは、ASTM D 6184-17(24h/X℃)に準拠した潤滑グリース組成物の油分離率が12質量%未満となる場合の最高温度である。好ましくは、ASTM D 6184-17(24h/100℃)に準拠した潤滑グリース組成物の油分離率は、12質量%未満、さらにより好ましくは10質量%未満、特に6質量%未満である。また、好ましくは、ASTM D 6184-17(24h/100℃、次いで24h/110℃)に準拠した潤滑グリース組成物の油分離率は、16質量%未満、さらにより好ましくは14質量%未満、特に13質量%未満である。また好ましくは、ASTM D 6184-17(24h/100℃、次いで24h/110℃、次いで24h/120℃)に準拠した潤滑グリース組成物の油分離率は、20質量%未満、さらにより好ましくは15質量%未満、特に12質量%未満である。
【0014】
本発明の好ましい実施形態において、潤滑グリース組成物は、-60℃~+180℃および/または-50℃~+160℃および/または-40℃~+150℃および/または-40℃~+140℃およびまたは-40℃~+120℃の使用温度範囲を有する。潤滑グリース組成物の使用温度範囲とは、その使用性を損なわずに潤滑グリース組成物を使用できる温度範囲を意味する。したがって、本発明によれば、その使用温度において、ASTM D 6184-17(24h/X℃)に準拠した潤滑グリース組成物の油分離率は12質量%未満である。さらに、潤滑グリース組成物は、その使用温度において1400mbar以下の流動圧力(DIN 51805-2:2016-09)を有する。
【0015】
しかし、潤滑グリース組成物は、上記の温度が短時間、例えば10分未満しか生じないことを条件として、上記の温度よりも高いまたは低い温度で使用することも可能である。
【0016】
本発明のもう1つの主題は、少なくとも一時的に少なくとも90℃、例えば90℃~180℃および/または90℃~160℃および/または90℃~150℃、好ましくは少なくとも100℃、例えば100℃~180℃および/または100℃~160℃および/または100℃~150℃、さらにより好ましくは110℃~180℃および/または110~170℃および/または110℃~160℃および/または110℃~150℃である温度で部品表面を潤滑するための、
- 基油と、
- アルミニウム系複合石鹸とポリウレア系増ちょう剤とを含む増ちょう剤と
を含む潤滑グリース組成物の使用である。
【0017】
本発明の好ましい実施形態では、温度が、少なくとも10分、さらにより好ましくは少なくとも20分、さらにより好ましくは少なくとも40分、特に少なくとも60分にわたって維持される。
【0018】
こうした潤滑グリース組成物の高い温度安定性は、上記で説明したようにアルミニウム系複合石鹸を使用すると潤滑グリースが示す温度安定性は通常は90℃未満とかなり低いものとなることが知られている点で、驚くべきものであった。機序に束縛されるものではないが、アルミニウム系複合石鹸とポリウレア系増ちょう剤との相乗効果が奏され、アルミニウム系複合石鹸の温度安定性が向上することが推測される。これは、両増ちょう剤成分が互いに混和しやすいため、ハイブリッド増ちょう剤系が生成されたためと推測される。ポリウレア系増ちょう剤の著しく高い上限使用温度が、アルミニウム系複合石鹸の一般的な正の特性に悪影響を与えることなく、アルミニウム系複合石鹸の上限使用温度に好影響を与えている。
【0019】
ポリウレア系増ちょう剤とは、ジイソシアネート、好ましくは、単独でも組み合わせても使用可能である2,4-ジイソシアナトトルエン、2,6-ジイソシアナトトルエン、4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン、2,4’-ジイソシアナトフェニルメタン、4,4’-ジイソシアナトジフェニル、4,4’-ジイソシアナト-3-3’-ジメチルフェニル、4,4’-ジイソシアナト-3,3’-ジメチルフェニルメタンと、一般式R’2-N-Rのアミンもしくは一般式R’2-N-R-NR’2のジアミン[式中、Rは、2~22個の炭素原子を有するアリール基、アルキル基またはアルキレン基であり、R’は、同一であるかまたは異なり、水素、2~22個の炭素原子を有するアルキル、アルキレンまたはアリール基である]、またはアミンとジミンとの混合物との反応生成物を意味する。
【0020】
本発明による潤滑グリース組成物中のポリウレア系増ちょう剤の割合は、潤滑グリース組成物の総質量に対してそれぞれ、好ましくは1質量%~11質量%、さらにより好ましくは2質量%~10質量%、特に3質量%~9質量%である。
【0021】
本発明によれば、原則的に、潤滑グリース組成物に一般的に使用される多種多様なアルミニウム系複合石鹸を使用することができる。本発明の一実施形態では、入手性が良好であることから、
【化1】
のアルミニウム系複合石鹸が好ましい。ここで、脂肪酸基Rは、好ましくは、4~28個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基である(R=C~C28)。ここで、天然に存在するほとんどの脂肪酸で見られることから、偶数個の炭素原子が好ましい。R=C12~C22が特に好ましい。さらに好ましいのは、ラウリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸およびこれらの混合物からなる群から選択される脂肪酸に由来する基Rである。
【0022】
式1で示されるアルミニウム系複合石鹸は、脂肪酸、芳香族カルボン酸およびアルミニウムアルコール誘導体の反応によって製造することができるカルボン酸アルミニウム化合物である。商業的に使用されているアルミニウムアルコラートは、アルミニウムイソプロポキシラートまたはトリオキシアルミニウムトリイソプロポキシドである。前述のアルミニウム系複合石鹸の単純な製造方法には、トリオキシアルミニウムトリイソプロポキシド(略してAl三量体)と脂肪酸と安息香酸との反応が含まれる。
【0023】
【化2】
【0024】
あるいは、例えばポリオキシアルミニウムステアレートのような中間段階を、対応する複合石鹸へと転化させることもできる。これにより、油脂製造時に例えばイソプロピルアルコールなどの低分子アルコールの放出が生じなくなる。
【0025】
アルミニウム系複合石鹸を増ちょう剤として使用する利点は、上記で説明したように、入手性の良さと価格の低さとを兼ね備えていることにある。さらに、アルミニウム系複合石鹸は、良好な耐水性、ポンプ搬送性、良好な低温挙動、および高い材料適合性を有する。
【0026】
本発明による潤滑グリース組成物中のアルミニウム系複合石鹸の割合は、潤滑グリース組成物の総質量に対してそれぞれ、好ましくは1質量%~11質量%、さらにより好ましくは2質量%~10質量%、特に3質量%~9質量%である。
【0027】
本発明の好ましい実施形態では、アルミニウム系複合石鹸およびポリウレア系増ちょう剤の割合の合計は、潤滑グリース組成物の総質量に対してそれぞれ2質量%~22質量%、さらにより好ましくは4質量%~20質量%、特に6質量%~18質量%である。
【0028】
本発明の好ましい実施形態は、プラスチックを含む摩擦相手、または金属とプラスチックとを含む摩擦相手の組み合わせ、特にアクチュエータ、特に自動車分野における前述のタイプの摩擦相手の表面を潤滑するための潤滑グリース組成物の使用を含む。
【0029】
基油としては、室温(20℃)で液体である通常の潤滑油が適している。基油は、好ましくは40℃で18mm/s~20000mm/s、特に30mm/s~400mm/sの動粘度を有する。基油では、鉱油と合成油との区別がある。基油とは、一般に潤滑物質の製造に用いられるベース液体、特に、米国石油協会(API)[NLGI Spokesman, N. Samman, Volume 70, Number 11, S.14ff]の分類によりグループI、II、II+、III、IVまたはVへの割り当てが可能な油と理解される。鉱油は、APIグループによって分類される。APIグループIは、例えばナフテン系油やパラフィン系油からなる鉱油である。これらの鉱油がAPIグループIと比較して化学的に改良され、低芳香族、低硫黄で、飽和化合物の割合が低く、したがって粘度・温度特性が改善されている場合、この油は、APIグループIIおよびIIIに分類される。APIグループIIIには、原油の精製ではなく、天然ガスの化学変換により製造されるいわゆるガス・トゥ・リキッド油も含まれる。
【0030】
合成油としては、ポリエーテル、エステル、ポリエステル、好ましくはポリ-α-オレフィン、特にメタロセンポリ-α-オレフィン、ポリエーテル、パーフルオロポリアルキルエーテル(PFPAE)、アルキル化ナフタレン、シリコーン油、およびアルキル芳香族化合物、ならびにこれらの混合物が挙げられる。ポリエーテル化合物は、遊離ヒドロキシル基を有していてもよいが、完全にエーテル化もしくは末端基エステル化されていてもよく、かつ/または1つ以上のヒドロキシおよび/もしくはカルボキシル基(-COOH)を有する出発化合物から製造されていてもよい。アルキル化されていてもよいポリフェニルエーテルを単独成分として、またはより良好には混合成分として使用することが可能である。
【0031】
使用可能な適切なエステルは、芳香族および/または脂肪族ジ-、トリ-またはテトラカルボン酸と、単独でまたは混合物として存在するC~C22アルコールとのエステル、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールまたはジペンタエリスリトールと脂肪族C~C22カルボン酸とのエステル、C18ダイマー酸とC~C22アルコールとのエステル、複合エステルであり、これらを単独成分として、または任意の混合物として使用することができる。
【0032】
また、シリコーン油、天然油、および天然油の誘導体も適している。
【0033】
本発明による特に好ましい基油は、ポリ-α-オレフィン、特にメタロセンポリ-α-オレフィン、およびAPIグループIによる分類に従ったナフテン系鉱油である。
【0034】
本発明の好ましい実施形態において、本発明による潤滑グリース組成物中の基油の割合は、潤滑グリース組成物の総質量に対してそれぞれ55質量%~98質量%、さらにより好ましくは60質量%~95質量%、特に68質量%~92質量%である。
【0035】
基油および増ちょう剤に加えて、本発明による組成物は、例えば酸化防止剤、腐食防止剤、潤滑性向上剤、極圧および摩耗防止添加剤、金属不活性化剤、粘度および付着性向上剤、着色剤、摩擦低減剤などのさらなる添加物質を含むことができる。
【0036】
酸化防止剤を添加することで、本発明による潤滑グリース組成物の酸化を、特にその使用時に低減させ、あるいは防止することができる。酸化の際に、好ましくないフリーラジカルが発生し、その結果、潤滑物質の分解反応が進む可能性がある。酸化防止剤の添加によって、潤滑グリース組成物を安定化させることができる。
【0037】
本発明により特に適した酸化防止剤は、以下の化合物である:スチロール化ジフェニルアミン、芳香族ジアミン、フェノール樹脂、チオフェノール樹脂、ホスファイト、ブチル化ヒドロキシトルエン、ブチル化ヒドロキシアニソール、フェニル-α-ナフチルアミン、フェニル-β-ナフチルアミン、オクチル化/ブチル化ジフェニルアミン、ジ-α-トコフェロール、ジ-t-ブチルフェニル、ベンゼンプロパン酸、含硫フェノール化合物およびこれらの成分の混合物。
【0038】
さらに、潤滑グリース組成物は、さらなる添加剤、特に腐食防止添加剤、金属不活性化剤またはイオン錯化剤を含んでもよい。これには、トリアゾール、イミダゾリン、N-メチルグリシン(サルコシン)、ベンゾトリアゾール誘導体、N,N-ビス(2-エチルヘキシル)-アミノメチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-メタナミン;n-メチル-N(1-オキソ-9-オクタデセニル)グリシン、リン酸とモノおよびジイソオクチルエステルを(C11~14)アルキルアミンと反応させた混合物、リン酸とモノおよびジイソオクチルエステルを第三級アルキルアミンおよび第一級(C12~14)アミンと反応させた混合物、ドデカン酸、トリフェニルホスホロチオネートおよびアミンホスフェートが挙げられる。市販の添加剤としては、以下のものがある:IRGAMET(登録商標)39、IRGACOR(登録商標)DSS G、Amin O;SARKOSYL(登録商標)O(Ciba)、COBRATEC(登録商標)122、CUVAN(登録商標)303、VANLUBE(登録商標)9123、Cl-426、Cl-426EP、Cl-429、およびCl-498。
【0039】
その他の考えられる摩耗防止添加剤は、アミン、アミンホスフェート、ホスフェート、チオホスフェート、ホスホロチオネート、およびこれらの成分の混合物である。市販の摩耗防止添加剤としては、IRGALUBE(登録商標)TPPT、IRGALUBE(登録商標)232、IRGALUBE(登録商標)349、IRGALUBE(登録商標)211、およびADDITIN(登録商標)RC3760 Liq 3960、FIRC-SHUN(登録商標)FG 1505およびFG 1506、NA-LUBE(登録商標)KR-015FG、LUBEBOND(登録商標)、FLUORO(登録商標)FG、SYNALOX(登録商標)40-D、ACHESON(登録商標)FGA 1820、およびACHESON(登録商標)FGA 1810が挙げられる。
【0040】
好ましくは、さらなる添加剤の割合は、潤滑グリース組成物の総質量に対してそれぞれ1質量%~30質量%、さらにより好ましくは1.5質量%~25質量%、特に2質量%~20質量%である。
【0041】
さらに、潤滑グリース組成物は、固体潤滑物質、例えば、PTFE、窒化ホウ素、ポリマー粉末、例えば、PTFE、ポリアミドまたはポリイミド、ピロホスフェート、金属酸化物、例えば、酸化亜鉛または酸化マグネシウム、金属硫化物、例えば、硫化亜鉛、硫化モリブデン、硫化タングステンまたは硫化スズ、ピロホスフェート、チオスルフェート、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、炭素修飾体、例えば、カーボンブラック、グラファイト、グラフェン、ナノチューブ、フラーレン、SiO修飾体、メラニンシアヌレート、またはこれらの混合物を含むことができる。
【0042】
好ましくは、固体潤滑物質の割合は、潤滑グリース組成物の総質量に対してそれぞれ1質量%~30質量%、さらにより好ましくは1.5質量%~25質量%、特に2質量%~20質量%である。
【0043】
さらに好ましくは、DIN ISO 2137:2016-12に準拠して決定される潤滑グリース組成物の混和ちょう度は、265~385 0.1mmである。これは、米国潤滑グリース協会(National Lubricating Grease Institute、NLGI)の指標によれば、DIN 51818:1981-12に準拠したコンシステンシー・クラスNo.0~2に相当する。
【0044】
本発明の好ましい実施形態では、潤滑グリース組成物は、以下の組成:
- 基油55~96質量%
- ポリウレア系増ちょう剤1~11質量%
- アルミニウム系複合石鹸1~11質量%
- 添加剤1~30質量%
- 固体潤滑物質1~30質量%
を有する。
【0045】
以下、本発明を種々の実施例を参照しながらより詳細に説明する。
【0046】
本発明による潤滑グリース組成物の製造
潤滑グリースの標準的な製造方法を用いる。加熱した反応器を使用するが、これはオートクレーブや真空反応器として設計されていてもよい。必要に応じて、得られたグリースを均質化、ろ過および/または脱気することができる。
【0047】
製造方法A:アルミニウム系複合石鹸(ベースグリースA)およびポリウレア系増ちょう剤(ベースグリースB~H)を別個に製造し、次いで混合および添加することによる、本発明による潤滑グリース組成物の形成。
【0048】
ベースグリースA(アルミニウム系複合石鹸):
潤滑グリースの製造に適した撹拌機を備えた加熱可能な反応容器に、基油あるいは基油の一部または油混合物を装入する。この容器で、ポリオキシアルミニウムステアレートと安息香酸とステアリン酸とを反応させてアルミニウム系複合石鹸を製造する。その後、反応混合物を加熱するが、その際、脱水し、増ちょう剤を溶融させるために、210℃のピーク温度を発生させることができる。その後の冷却段階が増ちょう剤の形態を決定する。ここで、残りの基油を用いて、コンシステンシーを狙いどおりに調整することができる。
【0049】
ベースグリースB~H(ポリウレア系増ちょう剤):
潤滑グリースの製造に適した撹拌機を備えた加熱可能な反応容器に、基油あるいは基油の一部または油混合物を装入する。次にイソシアネート成分を加え、撹拌しながら60℃に加熱する。別の反応容器で、基油の一部を60℃で溶液が均質になるまでアミン成分と混合する。イソシアネート溶液にアミン溶液を撹拌しながら加え、200℃まで加熱する。その後の冷却段階が増ちょう剤の形態を決定する。ここで、残りの基油を用いて、コンシステンシーを狙いどおりに調整することができる。
【0050】
ベースグリースAおよびポリウレアグリース(ベースグリースB~H)を、潤滑グリースの製造に適した撹拌機を備えた加熱可能な反応容器で混合する。120℃以上で撹拌しながら添加剤を添加する。目的のコンシステンシーに達したら、生成物を均質化し、必要に応じてろ過し、脱気する。
【0051】
製造方法B:基油中でアルミニウム系複合石鹸およびポリウレア系増ちょう剤を順次製造し、次いで添加剤を加えることによる潤滑グリース組成物の形成。潤滑グリースの製造に適した撹拌機を備えた加熱可能な反応容器に、基油あるいは基油の一部または油混合物を装入する。この容器で、ポリオキシアルミニウムステアレートと安息香酸とステアリン酸とを反応させてアルミニウム系複合石鹸を製造する。その後、反応混合物を加熱するが、その際、脱水し、増ちょう剤を溶融させるために、210℃のピーク温度を発生させることができる。次に、この流体を60℃に冷却し、イソシアネート成分を添加し、撹拌しながら溶融させる。別の反応容器で、基油の一部を60℃で溶液が均質になるまでアミン成分と混合する。イソシアネート溶液にアミン溶液を撹拌しながら加え、200℃まで加熱する。その後の冷却段階が増ちょう剤の形態を決定する。ここで、残りの基油を用いて、コンシステンシーを狙いどおりに調整することができる。120℃以上で撹拌しながら添加剤を添加する。目的のコンシステンシーに達したら、生成物を均質化し、必要に応じてろ過し、脱気する。
【0052】
表1および表2に示す潤滑グリース組成物(ベースグリースA1~A2/ベースグリースB~H/ハイブリッド1~15)は、上記の方法で製造されたものである。
【0053】
製造方法Aと製造方法Bとの比較を表3に示す。ちょう度値の差が小さいことから、どちらの製造方法も対応するハイブリッドグリースの製造に適していることがわかる。
【0054】
ちょう度の測定は、DIN ISO 2137:2016-12に準拠して行う。混和ちょう度は、60回のダブルストローク後に測定する。
【0055】
油分離率の測定は、ASTM D 6184-17に準拠して行うが、ただし、下記の変更を加える。表4では、保存時間を変更して72時間とし、その際、24時間ごとにi)分離した油量を測定し、ii)温度を10℃ずつ上昇させる。表5では、保存時間は30時間である。ここでは、それぞれ130℃および150℃で別々に測定する。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【表3-1】
【0059】
【表3-2】
【0060】
【表4】
【0061】
【表5】
【0062】
この結果から、次のような結論を導き出すことができる:
表2から、アルミニウム系複合石鹸を含む増ちょう剤とポリウレア系増ちょう剤との様々な組み合わせでハイブリッドグリースを製造できることがわかる。表3から、前述のどちらの製造方法も、同等のグリースの処方に適していることがわかる。ここで、アルミニウム系複合石鹸をベースとする増ちょう剤の含有量とポリウレア系増ちょう剤の含有量とを互いに変化させることができるとともに、全体的に変化させることもできる。
【0063】
表4および表5から、油分離率の比較をもとに、アルミニウム系複合石鹸を含む増ちょう剤とポリウレア系増ちょう剤との組み合わせに基づくハイブリッドグリースが、より高い使用温度において古典的なアルミニウム系複合石鹸より優れていることがわかる。
【国際調査報告】