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特表2022-553589膜蛍光染色およびスペクトル強度比を用いた迅速な抗菌薬感受性試験のための顕微鏡検査
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  • 特表-膜蛍光染色およびスペクトル強度比を用いた迅速な抗菌薬感受性試験のための顕微鏡検査 図1
  • 特表-膜蛍光染色およびスペクトル強度比を用いた迅速な抗菌薬感受性試験のための顕微鏡検査 図2
  • 特表-膜蛍光染色およびスペクトル強度比を用いた迅速な抗菌薬感受性試験のための顕微鏡検査 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-26
(54)【発明の名称】膜蛍光染色およびスペクトル強度比を用いた迅速な抗菌薬感受性試験のための顕微鏡検査
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/18 20060101AFI20221219BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20221219BHJP
   C12M 1/34 20060101ALN20221219BHJP
【FI】
C12Q1/18
G01N21/64 F
C12M1/34 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021573711
(86)(22)【出願日】2020-06-04
(85)【翻訳文提出日】2022-02-10
(86)【国際出願番号】 IB2020055286
(87)【国際公開番号】W WO2020250094
(87)【国際公開日】2020-12-17
(31)【優先権主張番号】62/859,890
(32)【優先日】2019-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.MATLAB
(71)【出願人】
【識別番号】508041013
【氏名又は名称】ポカード・ディアグノスティクス・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】POCARED DIAGNOSTICS, LTD.
【住所又は居所原語表記】3 HAIM PEKERIS ST., RABIN PARK, REHOVOT 7670203, ISRAEL
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ベン‐ダヴィド,モーシェ
【テーマコード(参考)】
2G043
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043BA17
2G043CA03
2G043EA01
4B029AA07
4B029BB02
4B029FA07
4B063QA01
4B063QA06
4B063QA18
4B063QQ03
4B063QQ06
4B063QR66
4B063QR68
4B063QS10
4B063QS12
4B063QS13
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】
単一色素による蛍光染色、顕微鏡画像化、および強度と発光スペクトルの違いを組み合わせることで、細菌を不活性化するために必要な抗菌薬の最小濃度(最小発育阻止濃度(MIC))を決定し、迅速な薬剤感受性試験(AST)を実施することができる。また、共焦点画像などの顕微鏡画像を用いることで、敗血症につながる細菌感染症を含む細菌感染症に苦しむ患者に適した治療レジメンを迅速かつ簡便に決定することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルにおける1つ以上の細菌の最小発育阻止濃度(MIC)を決定する方法であって、
複数の容器中で複数の細菌懸濁液を調製するステップ;
2つ以上の前記複数の細菌懸濁液に様々な量の抗菌薬を添加し、それによって細菌と抗菌薬との組み合わせを含む複数の懸濁液を作製するステップ;
細菌と抗菌薬との組み合わせを含む前記複数の懸濁液を適切な温度で適切な時間インキュベートし、それによって細菌と抗菌薬との組み合わせを含む複数のインキュベートされた懸濁液を生成するステップ;
前記複数のインキュベートされた懸濁液に単一の膜結合色素を添加するステップ;
前記色素を含む前記インキュベートされた懸濁液を、前記色素のために1以上の励起波長の入射光で照明するステップ;
前記色素の2つの発光波長で、前記色素を含む前記インキュベートされた懸濁液の顕微鏡画像を得るステップ;
少なくとも1つのプロセッサにより、各画像における個々の細菌細胞について、前記色素の前記2つの発光波長における放射光の強度を決定するステップ;
前記少なくとも1つのプロセッサにより、各画像における個々の細菌細胞に対する前記色素の前記2つの発光波長での放射光の相対強度に基づいて、前記サンプル中の細菌に対するMICを決定するステップ、
を含む、方法。
【請求項2】
各画像における個々の細菌細胞に対する前記色素の前記2つの発光波長での放射光の強度に基づいて、各インキュベートされた懸濁液についてスペクトル強度比(SIR)を決定するステップ;および
抗菌薬濃度の関数として、前記スペクトル強度比またはスペクトル死生比(spectral dead live ratio)(SDL)に基づき、前記MICを決定するステップ
により前記MICが決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ関数を用いて、前記MICが決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
以下の数式におけるステップ関数を用いて、前記MICが決定される、請求項1に記載の方法。
(式中、aはスケーリングパラメータであり、bはステップ勾配を決定し、cはMIC値である。)
【数1】
【請求項5】
以下の数式:
y(x)=a・tanh[b(x-c)]
(式中、aはスケーリングファクターであり、bはステップ関数の勾配を決定し、cは前記MICである)、または
y(x)=a・atan[b(x-c)]
(式中、aはスケーリングファクターであり、bはステップ関数の勾配を決定し、cは前記MICである)
におけるステップ関数を用いて、前記MICが決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つのプロセッサで、
各画像における個々の細菌細胞についての前記色素の前記2つの発光波長における放出光の強度から、各懸濁液についての細菌細胞の死/生(D/L)比を決定するステップ;
スペクトル強度比を取り、D/L比と乗算することにより、スペクトル死生比(SDL)値を算出するステップ;および
抗菌薬濃度の関数としての前記SDLに基づき、前記MICを決定するステップ
をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記MICが、SDLを前記抗菌薬濃度の関数としてプロットすることによって決定される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記MICが、SDLの一次導関数または二次導関数である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記画像が、共焦点顕微鏡を使用して得られる、請求項1~8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記単一の膜結合色素が、スチリル色素またはシアニン色素である、請求項1~9の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記単一の膜結合色素が、N-(3-トリエチルアンモニウムプロピル)-4-(4-(ジブチルアミノ)スチリル)ピリジニウムジブロミドまたはN-(3-トリエチルアンモニウムプロピル)-4-(6-(4-(ジエチルアミノ)フェニル)ヘキサトリエニル)ピリジニウムジブロミドである、請求項1~9の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記励起波長が、360nm~570nmの範囲から選択される波長である、請求項1~11の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記発光波長が、520nm~850nmの範囲の波長である、請求項1~12の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記サンプルが、体液である、請求項1~13の何れか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記サンプルが、血液、血漿、血清、または尿である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記サンプルが、臨床単離株である、請求項1~13の何れか1項に記載の方法。
【請求項17】
適切なインキュベーション温度が、35℃~40℃である、請求項1~16の何れか1項に記載の方法。
【請求項18】
インキュベーション時間の適切な期間が、30分~5時間である、請求項1~17の何れか1項に記載の方法。
【請求項19】
さまざまな濃度の抗菌薬が段階希釈によって調製される、請求項1~18の何れか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記サンプルの細菌が一定濃度の細菌まで濃縮および希釈され、複数の容器における前記複数の細菌懸濁液が調製される、請求項1~19の何れか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記サンプルの前記細菌が、遠心分離によって、または濾過によって濃縮される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記細菌が、液体増殖培地において希釈される、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
2つ以上の前記複数の細菌懸濁液に異なる量の前記抗菌薬を添加した後、細菌と抗菌薬との組み合わせを含む前記複数のインキュベートされた懸濁液のそれぞれの一部を取り出し、各取り出された一部を新しい容器に入れることをさらに含む、請求項1~22の何れか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記色素を含む前記インキュベートされた懸濁液を、前記色素のための1つ以上の励起波長で光を照射する前に、前記サンプルにおける前記1つ以上の細菌のグラムタイプを決定することをさらに含む、請求項1~23の何れか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年6月11日に出願された米国仮特許出願第62/859,890号および2020年6月2日に出願された米国非仮特許出願第16/890,050号の利益を主張し、これらは参照によりその全体が本明細書に組み込まれている。
【背景技術】
【0002】
効果的な患者ケアを行うためには、迅速かつ信頼性の高い診断および治療方法が不可欠である。残念ながら、現在の抗菌薬感受性試験技術は、一般に、培養(例えば、約12~約48時間)によって微生物を事前に単離し、その後、さらに約6~約24時間を必要とするプロセスを必要とする。例えば、感染症の種類を確定診断するためには、従来、血液培養の接種、16~24時間のインキュベーション、固体培地への原因微生物の播種、別のインキュベーション期間、1~2日後の最終同定を含む微生物学的分析が必要である。このような場合、直ちに積極的な治療を行ったとしても、感染症の種類によっては患者の予後に大きな影響を与える可能性があり、場合によっては死に至る可能性がある。
【0003】
正しい治療が施される前に失われる時間経過が、患者の転帰において極めて重大な差を生じ得る。したがって、医師にとって、どの抗菌薬が治療に有効であるかを判断することが重要である。現在の方法では、答えを出すまでに2日以上かかる可能性があることを考えると、より迅速な抗菌薬感受性試験、できれば血液サンプルが採取されてからわずか数時間以内に特定の抗菌薬感受性を特定できる試験が強く求められている。例えば、血液サンプルが採取されてから、1~3時間、1~5時間、1~10時間、24時間未満、または24時間後である。別の例では、血液サンプルが採取され、細菌感染に対して陽性であると特定された後、24時間後である。したがって、このタイプの迅速検査によって、医師は、最適でない、または完全に無効な抗菌薬から始めるのではなく、最初から最適な薬物療法を開始することが可能になり、それによって、臨床応答が大幅に増大する。
【0004】
細菌感染症患者の治療で直面する別の問題は、抗菌薬耐性の結果である。抗菌薬(Antimicrobial)(すなわち、抗細菌薬(antibacterial))耐性は、微生物(すなわち、細菌および/または細菌株)が自発的にまたは遺伝子導入によって遺伝子変異を獲得すると生じ、1つ以上の抗菌剤、すなわち、抗菌薬(antibiotics)の治療に対して耐性を有するようになったときに生じる。薬剤耐性菌は、第一選択の抗菌薬に対する耐性を獲得する場合があり、微生物が感受性を有する第二選択薬剤の使用を必要とする。また、多薬剤耐性を獲得したいくつかの細菌株では、第二選択抗菌薬、さらには第三選択抗菌薬に対する耐性が順次獲得される。
【0005】
耐性は、自発的または誘導された遺伝子変異の形態をとるか、あるいはコンジュゲーション、形質導入、または形質転換を介した遺伝子水平伝播による他の細菌種からの耐性遺伝子の獲得の形態をとり得る。多くの抗菌薬耐性遺伝子は、その伝達を容易にするために、伝達性プラスミド上に存在する。抗菌薬耐性プラスミドは多くの場合、いくつか異なる抗菌薬に対する耐性を付与する遺伝子を含む。
【0006】
臨床診療で見られる抗菌薬耐性細菌感染の増大する割合は、ヒトと獣医学の両方における抗菌薬の使用に起因している。抗菌薬のいかなる使用も、細菌集団における進化的選択圧を増加させ、耐性菌が増殖し、非耐性菌を死滅させる可能性がある。抗菌薬への耐性が一般的になるにつれて、代替治療の必要性が高まっている。抗菌薬耐性は、公衆衛生にとって深刻かつ増大する世界的な問題を引き起こす。抗菌薬に対する耐性を有する細菌株が増加すると、医薬的支援を必要とする個人は、彼らが必要とする適切な治療を受けることができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、適切な薬物療法の決定に加えて、施される薬物療法の濃度/投与量を決定することも極めて重要である。従って、本発明の目的は、1)微生物の抗菌薬感受性の、急速、迅速な決定、および、2)前記微生物の阻害に必要な最小濃度を提供することである。
【0008】
既存の抗菌薬感受性試験(AST)技術では、冗長なプロセスが必要である。一般に、抗菌薬耐性遺伝子を有するおよび有しない細菌株を同定、分離、および区別するための最近の慣例は多くの場合、微生物学研究室における複雑で冗長なプロセスを必要とする。現行のプロセスでは、まず細菌を含む生体サンプルが実験室に受理される。BD PhoenixおよびbioMerieux Vitex2システムのようなシステムは、当技術分野で公知の様式で細菌株を検出するために使用され得る。別のプロセスでは、次に、滅菌ループを使用して、栄養豊富な培地(例えば、溶原性ブロスまたは他の任意の適切なブロス)を含む寒天プレート上で、生体サンプルを画線する。この寒天プレートには、抗菌薬で処理されたスポットが含まれている。検体がプレート上に画線されると、寒天プレートは専用のインキュベーターに最低12時間入れられる。その後、寒天プレートを定期的に、細菌コロニーの成長についてチェックする。当業者によって理解されるように、生体サンプルに細菌が含まれていれば、抗菌薬を含まないスポット上では細菌コロニーの増殖が予想される。細菌が抗菌薬耐性遺伝子を獲得していない場合、抗菌薬を含むスポット上での増殖は予想されない。しかし、細菌株が抗菌薬耐性遺伝子を獲得している場合、抗菌薬で処理されたスポット上でコロニーの成長が起こる。例えば、共同所有の米国特許出願公開第2008/0220465号を参照。
【0009】
別のプロセスでは、生体サンプルは、収集時に選別され、標識された後、滅菌ループを用いて、血液寒天培地、または他の任意の適切な栄養豊富な増殖培地(例えば、溶原性ブロス)を含むガラス製の丸底試験管に接種される。その後、検体をインキュベーターに、12~24時間入れる。その後、サンプルを観察し、陽性(すなわち、細菌を含む)培養と陰性(すなわち、細菌を含まない)培養物についてスクリーニングを行う。陽性培養物を含むと思われるサンプルは、生化学的な液体に細菌を分離・懸濁するための処理が行われる。このプロセスでは、懸濁、希釈、ボルテックス、濁度の測定が行われ、その結果、生化学的廃棄物が生じる。次に、培養物を、種の同定と抗菌薬感受性試験に供し、複数の試薬に細菌懸濁液を曝露する。さらに6~24時間のインキュベーション期間の後、知見が検査技師によって解釈および報告される。このプロセス全体は、一般に、検体結果を得るために少なくとも11以上のステップと少なくとも50時間を要し、当該プロセスは、労働集約的である。
【0010】
細菌種および/または菌株を識別し、同定するための他のプロセスには、様々なタイプの核酸配列決定法が含まれる。簡単に言えば、DNA塩基配列決定は、DNA分子内のヌクレオチドの正確な順序を決定するプロセスである。DNA配列決定には、DNAの鎖中の4つの塩基であるアデニン、グアニン、シトシン、チミンの順序を決定するために使用される任意の方法または技術が含まれる。これらの方法では、生体サンプルが得られれば、まず生体サンプルに含まれる細菌を増幅する必要がある。すなわち、まず生体サンプルを収集し、次いで、適切な細菌増殖培地(例えば、血液増殖培地または溶原性ブロスなど)に接種するために使用する。次に、接種されたサンプルは、適切な条件で12~24時間培養される。増殖後、細菌細胞を培養培地からペレット化し、溶解させ、細菌DNAを抽出するために処理する。細菌DNAを次に清浄化し、精製し、DNAシーケンサーに入れる。細菌の増殖および細菌DNAの単離は、試薬を必要とするだけでなく、バイオ廃棄物を生成し、さらに時間のかかるプロセスである。さらに、核酸配列決定法では、プライマー配列を使用する必要がある。プライマーとは、DNA合成の開始点として機能する短い核酸配列(通常は約10塩基対)の鎖である。このプロセスを触媒する酵素であるDNAポリメラーゼは、既存のDNA鎖に新しいヌクレオチドの追加しかできないため、DNA複製にはプライマーが必要である。また、プライマー配列を必要とすることにより、この方法は、さらに、細菌株のタイプに関する最小限の知識を必要とする。さらに、示されているように、配列の決定には時間と費用がかかる可能性がある。
【0011】
微生物が特定されると、次に患者は抗菌薬で治療される。いくつかのケースでは、抗菌薬耐性などの様々な理由によって、初期濃度/投与量が有効でない可能性がある。その結果、適切な抗菌薬が適切な投与量で患者に投与される時間によって、予後が著しく阻害される可能性がある。
【0012】
そのため、前述したことを考慮して、それを必要とする患者に迅速に効果的な治療を提供するために、迅速な抗菌薬感受性試験方法が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(発明の概要)
サンプル中の1つ以上の細菌の最小発育阻止濃度(MIC)を決定する方法が提供される。本方法は、複数の容器中に複数の細菌懸濁液を調製するステップ;2つ以上の複数の細菌懸濁液に異なる量の抗菌薬を添加し、それによって細菌と抗菌薬との組合せを含む複数の懸濁液を作製するステップ;細菌と抗菌薬の組合せを含む複数の前記懸濁液を適切な温度で適切な期間インキュベートして、細菌と抗菌薬との組合せを含む複数のインキュベートされた懸濁液を作製するステップ;前記複数のインキュベートされた懸濁液に単一の膜結合色素(membrane-associated dye)を添加するステップ;前記色素を含む前記インキュベートされた懸濁液を、前記色素のために1つ以上の励起波長の光で照射するステップ;前記色素の2つの発光波長(例えば、第1の発光波長での第1の画像、および第2の発光波長での第2の画像)で、前記色素を含む前記インキュベートされた懸濁液の顕微鏡画像を得るステップ;少なくとも1つのプロセッサを用いて、各画像中の個々の細菌細胞に対する色素の2つの発光波長での放出光の強度を決定するステップ;少なくとも1つのプロセッサを用いて、各画像中の個々の細菌細胞に対する前記色素の2つの発光波長での放出光のSIR(スペクトル強度比)に基づき前記サンプル中の細菌のMICを決定するステップを含む。前記のいずれかは、コンピュータに実装され、および/または自動化され得る。
【0014】
以下の番号付けされた条項は、本発明の様々な実施形態または態様を説明するものである:
条項1:
サンプルにおける1つ以上の細菌の最小発育阻止濃度(MIC)を決定する方法であって、
複数の容器中で複数の細菌懸濁液を調製するステップ;
2つ以上の前記複数の細菌懸濁液に様々な量の抗菌薬を添加し、それによって細菌と抗菌薬との組み合わせを含む複数の懸濁液を作製するステップ;
細菌と抗菌薬との組み合わせを含む前記複数の懸濁液を適切な温度で適切な時間インキュベートし、それによって細菌と抗菌薬との組み合わせを含む複数のインキュベートされた懸濁液を生成するステップ;
前記複数のインキュベートされた懸濁液に単一の膜結合色素を添加するステップ;
前記色素を含む前記インキュベートされた懸濁液を、前記色素のために1以上の励起波長の入射光で照明するステップ;
前記色素の2つの発光波長で、前記色素を含む前記インキュベートされた懸濁液の顕微鏡画像を得るステップ;
少なくとも1つのプロセッサにより、各画像における個々の細菌細胞について、前記色素の前記2つの発光波長における放射光の強度を決定するステップ;
前記少なくとも1つのプロセッサにより、各画像における個々の細菌細胞に対する前記色素の前記2つの発光波長での放射光の相対強度に基づいて、前記サンプル中の細菌に対するMICを決定するステップ、
を含む、方法。
【0015】
条項2:
各画像における個々の細菌細胞に対する前記色素の前記2つの発光波長での放射光の強度に基づいて、各インキュベートされた懸濁液についてスペクトル強度比(SIR)を決定するステップ;および
抗菌薬濃度の関数として、前記スペクトル強度比またはスペクトル死生比(spectral dead live ratio)(SDL)に基づき、前記MICを決定するステップ
により前記MICが決定される、条項1に記載の方法。
【0016】
条項3:
ステップ関数を用いて、前記MICが決定される、条項1に記載の方法。
【0017】
条項4:
以下の数式におけるステップ関数を用いて、前記MICが決定される、条項1に記載の方法。
(式中、aはスケーリングパラメータであり、bはステップ勾配を決定し、cはMIC値である。)
【0018】
【数1】
【0019】
条項5:
以下の数式:
y(x)=a・tanh[b(x-c)]
(式中、aはスケーリングファクターであり、bはステップ関数の勾配を決定し、cは前記MICである)、または
y(x)=a・atan[b(x-c)]
(式中、aはスケーリングファクターであり、bはステップ関数の勾配を決定し、cは前記MICである)
におけるステップ関数を用いて、前記MICが決定される、条項1に記載の方法。
【0020】
条項6:
前記少なくとも1つのプロセッサで、
各画像における個々の細菌細胞についての前記色素の前記2つの発光波長における放出光の強度から、各懸濁液についての細菌細胞の死/生(D/L)比を決定するステップ;
スペクトル強度比を取り、D/L比と乗算することにより、スペクトル死生比(SDL)値を算出するステップ;および
抗菌薬濃度の関数としての前記SDLに基づき、前記MICを決定するステップ
をさらに含む、条項2に記載の方法。
【0021】
条項7:
前記MICが、SDLを前記抗菌薬濃度の関数としてプロットすることによって決定される、条項6に記載の方法。
【0022】
条項8:
前記MICが、SDLの一次導関数または二次導関数である、条項6に記載の方法。
【0023】
条項9:
前記画像が、共焦点顕微鏡を使用して得られる、条項1~8の何れか1項に記載の方法。
【0024】
条項10:
前記単一の膜結合色素が、スチリル色素またはシアニン色素である、条項1~9の何れか1項に記載の方法。
【0025】
条項11:
前記単一の膜結合色素が、N-(3-トリエチルアンモニウムプロピル)-4-(4-(ジブチルアミノ)スチリル)ピリジニウムジブロミドまたはN-(3-トリエチルアンモニウムプロピル)-4-(6-(4-(ジエチルアミノ)フェニル)ヘキサトリエニル)ピリジニウムジブロミドである、条項1~10の何れか1項に記載の方法。
【0026】
条項12:
前記励起波長が、360nm~570nmの範囲から選択される波長である、条項1~11の何れか1項に記載の方法。
【0027】
条項13:
前記発光波長が、520nm~850nmの範囲の波長である、条項1~12の何れか1項に記載の方法。
【0028】
条項14:
前記サンプルが、体液である、条項1~13の何れか1項に記載の方法。
【0029】
条項15:
前記サンプルが、血液、血漿、血清、または尿である、条項14に記載の方法。
【0030】
条項16:
前記サンプルが、臨床単離株である、条項1~13の何れか1項に記載の方法。
【0031】
条項17:
適切なインキュベーション温度が、35℃~40℃である、条項1~16の何れか1項に記載の方法。
【0032】
条項18:
インキュベーション時間の適切な期間が、30分~5時間である、条項1~17の何れか1項に記載の方法。
【0033】
条項19:
さまざまな濃度の抗菌薬が段階希釈によって調製される、条項1~18の何れか1項に記載の方法。
【0034】
条項20:
前記サンプルの細菌が一定濃度の細菌まで濃縮および希釈され、複数の容器における前記複数の細菌懸濁液が調製される、条項1~19の何れか1項に記載の方法。
【0035】
条項21:
前記サンプルの前記細菌が、遠心分離によって、または濾過によって濃縮される、条項20に記載の方法。
【0036】
条項22:
前記細菌が、液体増殖培地において希釈される、条項20に記載の方法。
【0037】
条項23:
2つ以上の前記複数の細菌懸濁液に異なる量の前記抗菌薬を添加した後、細菌と抗菌薬との組み合わせを含む前記複数のインキュベートされた懸濁液のそれぞれの一部を取り出し、各取り出された一部を新しい容器に入れることをさらに含む、条項1~22の何れか1項に記載の方法。
【0038】
条項24:
前記色素を含む前記インキュベートされた懸濁液を、前記色素のための1つ以上の励起波長で光を照射する前に、前記サンプルにおける前記1つ以上の細菌のグラムタイプを決定することをさらに含む、条項1~23の何れか1項に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本明細書に記載された方法およびシステムの全体的なプロセスの流れを示すフロー図である。
図2】それぞれ緑色フィルタ(530nm、左)と赤色フィルタ(610nm、右)を使用した大腸菌細胞の顕微鏡写真画像を示す。
図3】InCell測定(上)とフローサイトメーター測定(下)の抗菌薬濃度の関数としてのSIRを示すプロットである。
図4】4種類の抗菌薬濃度でのサンプル画像について、赤色波長(610nm)の蛍光強度と緑色波長(530nm)での蛍光強度を示す散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下の説明は、本質的に単なる例示であり、本発明、その応用、または用途を限定することを決して意図していない。本説明は、当業者が本発明を作成および使用することを可能にするように設計されており、その目的のために特定の例が提供されているが、それらは決して限定的であると考えるべきではない。当業者であれば、以下の様々な改変が添付の特許請求の範囲に含まれることは明らかであろう。本発明は、実施例または本明細書の他の箇所で提供されるかどうかにかかわらず、現在開示されている態様に限定されると見なされるべきではない。
【0041】
本出願で規定する様々な範囲における数値の使用は、明示的に別段の定めがない限り、記載された範囲内の最小値および最大値が、共に「約」という語によって先行されているかのように、近似値として記載されている。このように、記載された範囲の上下のわずかな変動は、範囲内の値と実質的に同じ結果を達成するために使用することができる。また、明示的に別段の定めがない限り、範囲の開示は、最小値と最大値の間のすべての値を含む連続的な範囲として意図されている。本明細書で使用される「1つ(a)」および「1つ(an)」は、1つまたはそれ以上を意味する。
【0042】
本明細書で使用する場合、用語「含む(comprising、comprise、またはcomprised)」およびその変形は、オープンエンドであり、特定されていない他の要素の存在を排除するものではない。対照的に、用語「からなる(consisting of)」およびその変形は、クローズであることを意図しており、わずかであっても追加要素を除外する。
【0043】
本明細書で使用する場合、用語「患者」または「対象体」は、ヒトを含むがこれに限定されない動物界のメンバーを指し、「哺乳動物」は、ヒトを含むがこれに限定されないすべての哺乳動物を指す。
【0044】
本明細書で使用する場合、用語「サンプル」は、試験または分析される物質を指す。サンプルは、細菌を含み、様々な供給源から得ることができる。例えば、分析されるサンプルは、液体、半液体、または乾燥したサンプルであってよい。サンプルは、飲料水、食品または飲料、医薬品、パーソナルケア製品、または体液から取得されてもよい。サンプルは、自治体の水道システム、井戸、飲料水、廃水、天然水源、親水施設、または土壌から得てもよい。異なる実施形態では、サンプルは医療機器から得られる。医療機器の例としては、インプラント、パッチ、および心臓弁が挙げられるが、これらに限定されるものではない。他の例では、サンプルは体液から得られ得る。これらには、血液または血漿、唾液、尿、咽頭サンプル、または胃腸液(これらは、「生体サンプル」とも呼ばれ得る)が含まれ得るが、これらに限定されるものではない。また、「サンプル」という用語は、臨床単離株を指す場合もある。臨床単離株は、場合によっては、体液から単離され、適切な実験手段によって保存された細菌を指すこともある。一般に、臨床単離株は、単離された細菌を指す。したがって、要するに、「サンプル」という用語は、最も広義には、細菌の存在(または推測される存在)を指す。ある例では、サンプルは、供給源から単離された細菌(臨床単離株など)であり得るが、他の例では、サンプルは、細菌/微生物因子を保有する物質(血液、尿、水など)を指す場合がある。
【0045】
本明細書で使用する場合、用語「細菌(bacteria)」(細菌性(bacterial)または細菌(bacterium))および「微生物(microbe)」(微生物性(microbial))は、同じものを指す。すなわち、これらは、単細胞、原核生物、微生物を指し、それらは小さく、通常は、桿状または球菌の形をしており、疾患を引き起こす可能性がある。細菌が原因となる病気は、通常、抗菌薬で治療される。さらに、「細菌株」または「細菌単離株」は、同じものを指す。さらに、本明細書に記載されているように、「臨床単離株」は、「細菌単離株」と同じものを指す。すなわち、菌株/単離株は、細菌の遺伝的バリアント、またはサブタイプである。言い換えれば、1つのタイプの細菌種が複数の異なる株を含み得る。これらの株は、抗菌薬耐性遺伝子などの付加遺伝子の獲得などにより、遺伝的変異に基づいて異なる。これらの用語は、当業者によって理解されるであろう。
【0046】
本明細書で使用する場合、「抗細菌薬」および「抗菌薬」という用語は、同じものを指す。すなわち、これらは、細菌または微生物を殺滅および/または不活性化することができるものを指す。
【0047】
本明細書で使用する場合、「生細胞」、「生細菌」、または「活性細菌」は、増殖および分裂する可能性を有する細菌細胞を意味する。「死」および「不活性」は、交換可能に用いられ、死んだ細菌細胞を指す。
【0048】
本明細書で使用する場合、創傷、欠損、感染などの「治療」または「治療する」は、任意の適切な投与レジメン、手順および/または投与経路によって、前駆細胞の誘引、創傷の治癒、欠損の修正などを含む、望ましい臨床/医療エンドポイントに有効であり、その達成の目的のための量の組成物、デバイスまたは構造物を患者に投与することを意味する。
【0049】
本明細書で使用する「投与レジメン」とは、投与間の時間(例えば、6時間ごと)または投与が行われる時間(例えば、毎日午前8時と午後4時)、および各特定時間に投与する薬剤の量(すなわち、濃度)を含む、単位時間あたりの特定濃度での治療薬の投与スケジュールを意味する。
【0050】
「治療有効量」とは、所望の治療結果を達成するために必要な用量および期間において有効な量を指す。状態の治療のための「有効量」は、決定可能なエンドポイントを達成するのに有効な、本明細書に記載のコアセルベート組成物などの活性剤の量または投与形態である。前記「有効量」は、少なくとも、治療の利益が不利益を上回り、および/または不利益が当業者および/または米国食品医薬品局、CLSIまたはEuCASTなどの適切な規制機関にとって許容できる程度まで、安全であることが好ましい。治療有効量の薬剤または投与レジメンは、前記個体の疾病状態、年齢、性別、体重、および個体における所望の応答を誘発する薬剤または投与計画の能力などの要因によって異なり得る。治療有効量とは、薬物または投与レジメンの毒性または有害な影響を、治療上有益な効果が上回る量でもある。「予防有効量」とは、所望の予防的結果を達成するために必要な投与量および期間で有効な量を指す。一般に、予防量は、疾患に先立ってまたは疾患の初期段階の対象体に使用されるため、予防有効量は、治療有効量よりも少ない場合がある。
【0051】
投与レジメンは、最適な所望の応答(例えば、治療的または予防的応答)を提供するように調整され得る。例えば、単一のボーラスを投与してもよく、数回に分けて経時的に投与してもよく、または組成物を連続的またはパルス方式で投与して、用量または部分用量を一定の間隔、例えば10,15,20,30,45,60,90または120分ごと、1日2~12時間ごと、または1日おきなどで投与してもよく、治療状況の緊急性に応じて用量を比例的に減少または増加させてもよい。場合によっては、投与の容易さおよび用量の均一性のために、単位投与形態で非経口組成物を製剤化することが特に有利であり得る。本発明の投与単位形態についての仕様は、(a)活性化合物の固有の特性および達成されるべき特定の治療または予防効果、ならびに、(b)個体における感受性の治療のためにそのような活性化合物を配合する当該技術分野に固有の制限によって決まり、それらに直接依存する。
【0052】
いくつかの例において、本明細書で提供されるように、投与レジメンは、それを必要とする患者に1つ以上の抗菌薬および特定の濃度、特定の時間での投与を意味し得る。
【0053】
蛍光分光法は、化学や生化学において分子構造および機能の研究のために広く利用されてきた。しかし、微生物の同定および特性評価におけるその有効性は、ここ20年で認識されるようになったに過ぎない。
【0054】
可視光は、一般に380nm~780nmの波長域の電磁波であり、「緑」は一般に475nm~570nm、例えば500nm~565nm、例えば530nm、「赤」は一般に590~780nm、例えば610nmの波長域の光である。
【0055】
簡単に説明すると、当業者であれば理解できるように、蛍光分光法とは、サンプルからの蛍光を分析する電磁分光法の1つのタイプを指す。これは、ある特定の化合物の蛍光分子内の電子を励起し、発光させる光線(例えば、紫外線)を使用するもので、通常、可視光線である必要はない。蛍光分子(例えば、蛍光色素)を励起する波長内にある光は、蛍光分子の励起スペクトル内の励起周波数(λex)を有する。蛍光分子が励起されて生成する波長内にある光は、蛍光色素の発光スペクトル内の発光周波数(λem)を有する。
【0056】
「画像化」とは、個々の細胞が視覚的にまたは任意の適切な画像分析、コンピュータプログラム、プロセス、ソフトウェア、アプリケーション、アルゴリズム、モジュールなどのいずれかによって区別できる顕微鏡画像など、サンプルの1つ以上の画像を取得することを意味する。画像は、例えば、光学またはデジタルフィルタを使用することにより、1つ以上の特定の波長で、または、例えば、赤色および緑色光の両方を含む広い範囲の波長で、得ることができる。デジタル画像は、任意の有用な方法およびデバイスによって得ることができる。デジタル画像には、電荷結合デバイス(CCD)と相補型金属酸化膜半導体(CMOS)センサーの2種類のセンサーが広く知られ、使用されている。画像は、市販または独自のソフトウェアを使用して、本明細書に記載されているように処理され得る。画像は、例えば、異なる光学的またはデジタル的フィルタリングを使用して、異なる波長で連続して撮影され得る。
【0057】
画像化は、一定量のインキュベートされた細胞を移すためのウェルを任意に含む顕微鏡スライドで行うことができる。広く知られているように、マルチウェルプレートは、高スループットスクリーニングに使用されてもよい。例えば、蛍光顕微鏡を用いたハイコンテントスクリーニングに有用な96ウェルマイクロプレートは、例えば、平坦で光学的に透明なガラス底を有するCorning(登録商標)HCSガラス底マイクロプレートなど、ポリスチレン、環状オレフィンコポリマー、またはガラス底などの光学的に透明なウェル底を含む。
【0058】
1つの実施形態では、500nm~780nmの範囲、または緑の波長(500nm~565nm、または530nmなど)および赤の波長(590~780nm、例えば610nmなど)などの、本明細書に記載の蛍光色素の発光スペクトル内など、限定されたスペクトルで画像を取得するために、光学フィルタが使用される。さらなる実施形態では、2つの画像が連続して撮影され、第1の画像は、緑色の画像を得るためにデジタル的にフィルタリングされ、第2の画像は、赤色の画像を得るためにデジタル的にフィルタリングされ、またはその逆が行われる。このように、2つの画像を迅速に連続して、あるいは、それぞれ異なるフィルタを有する2つのカメラを使用して取得することができ、これにより画像間の細菌のシフトが低減され、取得した画像の波長を微調整して最大解像度を得ることができる。当業者であれば、光学系および処理アルゴリズムの選択を含め、異なる波長での画像中の個々の細菌のスペクトル強度を決定するために使用する適切な方法を選択し得る。
【0059】
画像処理は、例えば、背景と比較して増加した強度または明るさ、または異なる色によって定義される、画像内の個々の細胞を識別、輪郭付け、または他の方法で区別し、任意にマッピングするプロセスまたはアルゴリズム、および任意の有用な方法での蛍光発光の強度を定量化することを含んでもよい。広域スペクトル画像において、赤色および緑色波長における発光強度が単一細胞から得られるように、個々の細胞をマッピングすることができる。赤色および緑色画像が異なる時間に得られる場合、個々の細胞は移動する可能性があり、そのため、個々の細胞の移動およびマッピング/追跡がより困難になることがあるが、個々の細胞を追跡するために適切な方法および追跡アルゴリズムが使用され得る。
【0060】
1つの実施形態では、レーザー共焦点画像化デバイスが、細菌培養物の1つ以上の画像を得るために使用される。このデバイスは、本明細書に記載のアッセイにおいて使用される色素の励起スペクトル内で発光するレーザーの形態で光を生成する。例えば、SynaptogreenまたはFM1-43の場合、適切な励起波長は480nmである。1つの実施形態では、緑色の光学フィルタ(例えば、光学バンドパスフィルタ)が、サンプルと画像化センサーとの間に挿入され、例えば、530nmなどの、500nmから565nmの範囲の光を通過させる。「緑」の画像が得られれば、「緑」の光学フィルタが取り外され、「赤」の光学フィルタに置き換えられ、例えば、610nmなどの、590nmから780nmの範囲のオレンジから赤色の光を通過させる。別の実施形態では、それぞれ異なるフィルタを備えた2台のカメラを使用して、画像を同時に撮影することができる。画像化システムは、共焦点画像化に限定されず、他の顕微鏡画像化システム、例えば、他の光学顕微鏡画像化システムまたはレンズフリーの顕微鏡画像化システムを用いてもよい。
【0061】
本明細書では、蛍光分光法を利用して、死細菌と比較して生細菌の検出を可能にし、さらに、抗菌薬が細菌活性を阻害するのに必要な最小濃度の決定を可能にする蛍光分光法を利用する方法を提供する。
【0062】
具体的には、本明細書で提供されるのは、投与レジメンの有効性を決定し、投与レジメンの最小発育阻止濃度(MIC)を決定するための方法である。一般に、この方法は:細菌を含むサンプルを得るステップ;前記サンプルを含む試験管または96ウェルプレート(第1容器)などの、容器のセットを調製するステップ;および前記サンプルを含む試験管またはプレートなどの容器を、抗菌薬の異なる濃度(例えば、段階希釈による)の範囲で、所定時間(例えば、30分~5時間または2時間~4時間)、適切な温度(例えば、30℃~50℃、35℃~40℃、または37℃付近)でインキュベートするステップ、を含む。インキュベーション後、インキュベートされたサンプルの全部または一部は、光学カップ、キュベット、またはマルチウェルディッシュのウェルなどの画像化適合容器(第2または新たな容器)に移され得る。適切な蛍光色素が細菌に添加され、前記細菌は光学分析に付され、ここで前記光学分析は、顕微鏡または顕微鏡蛍光画像化システム、例えばレーザーベースの共焦点画像化プラットフォームを含み、ここで前記光学分析は、色素の1つ以上の励起波長で光(電磁放射)をサンプルに照射することによって流体サンプルを励起し、サンプルを顕微鏡で画像化すること;少なくとも2つの波長の電磁放射の発光強度の比を決定し、それによってスペクトル強度比(SIR)、および死細菌に対する生細菌の比を決定し;そしてその比に基づいて前記最小発育阻止濃度を決定すること、を含む。
【0063】
前記サンプルが例えば体液であるいくつかの例において、本方法は、まず、以下のステップ:1)体液サンプルを得、2)前記サンプルを遠心分離し(例えば、24×gで15分間)、および3)上清を適切なブロス(例えば、カチオン調整ミューラー・ヒントンブロス(CAMHB))で希釈するステップ、を含み得る。
【0064】
前記サンプルが、例えば臨床単離株である場合、前記方法は、まず、以下のステップ:1)前記臨床単離株を得、2)適切な増殖培地を含む寒天プレート(例えば、血液寒天プレート)上に前記臨床単離株を画線し、3)前記プレートを一晩、例えば37℃でインキュベートし;4)単一のコロニーを採取し、それらを適切な緩衝溶液(例えば、リン酸塩緩衝食塩水)中に懸濁させ、そして細菌の数を0.5マクファーランド濁度標準液に調節するステップ、を含み得る。
【0065】
本明細書中で提供する前記方法は、場合によっては、特定の抗菌薬が所与の微生物を不活性化するために必要な前記最小濃度を決定するために段階希釈に依存する。段階希釈は当該技術分野において周知であり、概して溶液中の物質の前記段階的希釈を指す。通常、各ステップでの希釈係数は一定であり、その結果、対数的に前記濃度の等比級数が得られる。本明細書中で提供される場合、前記抗菌薬の段階希釈により、前記抗菌薬が前記微生物の不活性化に際して有効であるかどうかを判定して、もしそうであるならば前記微生物を不活性化するために必要な前記最小濃度を決定するための、前記抗菌薬の濃度の範囲の試験が可能になる。
【0066】
本明細書中で提供するように、抗菌薬の前記所与の濃度は、微生物ごと(既知の場合)、抗菌薬ごと、前記微生物中の耐性遺伝子の存在、または任意の他の因子によって異なり得る。前記段階希釈の各段階における前記抗菌薬の濃度は、これらの因子や他の因子によって変わり、限定的特徴であることを意味しない。例えば、前記抗菌薬の前記濃度は、0μg/ml~5mg/mlの範囲であり得、その間の全ての部分的範囲が含まれる。前記抗菌薬の濃度範囲の一例は、例えば:0(対照サンプル)、0.5μg/ml、1μg/ml、2μg/ml、4μg/ml、8μgml、16μg/ml、32μg/ml、64μg/ml、128μg/ml、256μg/mlであり得、その間の全ての部分的範囲を含む。また、希釈は256μg/mlを上回るか、または0.5μg/ml未満であり得る。
【0067】
本明細書に記載された方法は、微生物細胞を染色するために蛍光色素を使用する。例えば、細菌を蛍光膜色素、例えばスチリル色素で染色すると、生した細菌に対する不活性細菌の発光蛍光は弱くなり、シフトする。このような現象は、前記色素が細胞質のより親水性の高い環境に挿入される、前記不活性細胞に対する前記生細胞における親油性膜環境での、前記色素の相互作用の結果であり得る。
【0068】
色素には、限定されるものではないが、前記脂質二重層中に組み込まれる蛍光色素が含まれる。蛍光色素の例としては、スチリル色素およびシアニン色素が挙げられる。代表的なスチリル色素としては、FM(登録商標)1-43、FM(登録商標)1-43FX、FM(登録商標)4-64およびFM(登録商標)4-64FX、FM(登録商標)2-10色素が挙げられる。代表的なシアニン色素としては、Cy2、Cy3、Cy3B、Cy3.5、Cy5、Cy5.5およびCy7が挙げられる。FM1-43は、Life Technology(#T-35356)から購入した、またSigmaによって「Synaptogreen」(#S6814)として販売されている、N-(3-トリエチルアンモニウムプロピル)-4-(4-(ジブチルアミノ)スチリル)ピリジニウムジブロミドである。FM4-64は、Life Technology(#T-13320)またはSigmaから「Synaptored」(#S6689)として購入したN-(3-トリエチルアンモニウムプロピル)-4-(6-(4-(ジエチルアミノ)フェニル)ヘキサトリエニル)ピリジニウムジブロミドである。
【0069】
1つより多い色素が使用され得るが、前記本発明の方法は、単一の色素を使用して実施され得る。単一色素の使用は前記方法を簡単にするだけでなく、2つの色素の存在によって生じる変動性を低減する。
【0070】
ある例では、生細菌と不活性細菌とを区別し比較する方法が、本明細書中で提供される。前記方法は、スペクトル強度比(SIR)分析を使用して実施される。SIRは、2つの波長で励起した後、放射光の前記強度を測定し、前記2つの波長間で前記放射光の比が得られる。具体的には、特定の波長で検体が励起されると、生細菌と不活性細菌との間で前記最大発光ピークおよび発光強度の両方において測定可能な差異が明らかになる。したがって、2つの特定の波長での発光強度の前記比またはスペクトル強度比は、生細菌を不活性細菌と区別する手段として使用され得る。SIRは強度の比に依存するので、SIRの使用は、使用した色素の量および細胞の数に依存しないと考えられる。
【0071】
さらに詳細には、前記スペクトル強度比(SIR)は、以下のようにして決定することができる。
【0072】
【数2】
【0073】
式中、Iλ1=I1=第一波長での発光強度であり、Iλ2=I2=第二波長での発光強度であり、例えば、
【0074】
【数3】
【0075】
式中、「I」(発光強度)は各波長での前記散布図の前記平均値である。
【0076】
この場合、Iλ=610は610nm波長での強度であり、Iλ=530は530nm波長での強度である。I=Iλ=610およびI=Iλ=530はグラム陰性細菌およびSynaptoGreen染色にとって好ましい。低いSIR値は活性細菌集団に相当し、一方、高い値はより大きな不活性細菌集団を示す。前記Iλは特にグラム陽性細菌およびSynaptoRed染色に特化した他の波長であり得、この場合、I2=Iλ=780およびI1=Iλ=670である。また、前記グラム陽性着色細菌は、例えば、488nmまたは532nmのいずれか一方の波長で照明され得る。適切な色素がグラム陽性細菌について使用される。
【0077】
前記本発明の前記方法は、前述の様に、インキュベーション後にサンプルの一部を取り出し、様々な濃度の抗菌薬を有するインキュベートしたサンプルの一部をキュベット、または他の適切な容器に移し;適切な蛍光色素を前記一部に添加し;次いでサンプルを光学分析に供して、顕微鏡画像化および画像分析によりSIRを得るステップを含み得る。しかし、場合によっては、前記色素は、1つの抗菌薬でインキュベーションした後に、様々な濃度の抗菌薬を有する希釈サンプル中に直接入れてもよい。
【0078】
前記本発明の方法は、培養に基づいた検証ではなく、単一の細菌レベルに基づいた分析で励起/発光に依存して生細胞を不活性細胞から正確かつ迅速に区別することを可能にし、また区別を成功させるのに1つの色素の使用しか必要としない。したがって、前述の様に、前記方法は、いくつかの例では、前記サンプルを単一の膜結合色素で染色し;前記サンプルを励起において入射光で照明し;各細菌細胞について、(i)波長λ1の放射光の強度I1および(ii)波長λ2の放射光の前記強度I2を測定し;比I2/I1を算出するステップを含み得る。1つの実施形態において、このプロセスは、単一の細胞に関して実施され得、別の実施形態では、この同じプロセスは、複数の細胞について実施され得る。さらなるそのような実施形態において、バルク強度を測定して、サンプルが生細菌を含むかまたは不活性細菌を含むかを判定することができる。前述の様に、光学分析は、インキュベーションに使用される同じ容器で行われてもよいし、別の容器で行われてもよい。また、実施形態において、前記励起波長は、好ましくはグラム陰性細菌の前記検体については488nmであり、グラム陽性細菌については488nmまたは532nmであるが、他の励起波長を使用してもよい。
【0079】
前記発光スペクトルプロフィールは分光分析器または発光フィルタで測定される。前記励起波長は約360nm~約600nmであり、I1およびI2が測定される前記波長は約520nm~約800nmである。一実施形態において、前記色素FM1-43について、前記励起波長は488nmであり、I1およびI2が測定される前記発光波長は、それぞれ530nmおよび610nmである。前記色素FM4-64について、前記励起波長は488~570nmであり得、I1およびI2が測定される前記発光波長は、それぞれ、670nmおよび780nmである。スペクトル強度比(SIR)算出は、赤(例えば610nm)チャンネルの前記平均蛍光値を、緑(例えば530nm)チャンネルの平均蛍光値で割ることによって行われる。活性細菌についてのSIRの典型的な値は、不活性細菌の値よりも低く、例えば、活性細菌では0.7~2であり、一方、不活性細菌では>2.5である。
【0080】
いくつかの実施形態において、前記サンプルは、抗菌薬または抗菌治療(本明細書中では抗菌薬とも称する)、塩素不活化、加熱、エタノール、およびUV照射など(ただし、これらに限定されない)の細菌不活性化処理の成功または失敗を分析することができる。さらなる実施形態において、閾値は、前処理サンプルの前記I2/I1を取ることによって決定することができ、次いで前記サンプルの前記I2/I1と比較して前記細菌不活化処理の有効性を決定することができる。
【0081】
染色後、上記のように、蛍光フィルタを用いて前記サンプルの蛍光強度を決定し(たとえば、λ1=530/30nmおよびλ2=616/30nm)、SIRを決定し分析する。さらに、生細菌と非生細菌の事象、例えば、集団事象、およびそれらの間の比率(つまり、死/生)を決定することができる。
【0082】
画像から生成されたデータは、一次元でプロットしてヒストグラムを作成したり、2次元のドットプロットや3次元でプロットしたりすることもできる。これらのプロット上の領域は、蛍光強度に基づき、連続的に分離することができる。両方の集団の平均蛍光強度に基づいて、死細菌と生細菌を区別することができる。その結果、この分析に基づいて、死/生比が、決定され得る。この比率の「死」部分は死細菌集団の平均強度を指し、この比率の「生」部分は生細菌集団の平均強度を指す。
【0083】
次に、死/生比(Dead/Live ratio:以下、「D/L」)は、上記のように算出されたSIR指数に乗算され、それによって、結果として得られるシグナルを高める。D/L比によるSIRの乗算は、次のように記載される。
【0084】
【数4】
【0085】
上記のように、SIRを、抗菌薬濃度の関数としてプロットし、ステップ関数に近似して、MICを決定する。同様に、SDL(スペクトル死-生比)も、抗菌薬濃度の関数としてプロットし、MICを決定するためにステップ関数に近似できる。
【0086】
前記D/L比を組み込むと、死集団と生集団の間の差が大きくなるため、ステップ関数の決定が容易になる。ステップ関数をSIRのみで使用すると、差が小さくなる。SDLを組み込むと、ステップ関数が大きくなり、MICの決定が容易になる。さらに、ステップ関数が大きくなるため、抗菌薬治療の効果を確認および/または決定しやすくなる。さらに、ステップ関数が大きくなる結果として、細菌サンプルのインキュベーション時間も短縮できる。全体として、SIRではなくSDLを組み込むと、感受性が改善され、MICをより簡単に決定できる。本発明のさらなる利点は、比率を使用することにより、使用される色素の濃度が分析の結果に影響を及ぼさないことである。
【0087】
SIRと同様に、SDLは細菌が治療に耐性があるかどうかを判断するために使用され得る。SDLおよびSIRは同じ挙動をする。SDLのSIRよりも優れた利点は、生集団と死集団の間の違いを強調することであり、したがって、ステップ関数はより明確である。細菌が耐性を有するかまたは感受性を有するかの判定に関しては、SIRと同じ方法で行われる。SDLが一定の限界よりも小さい傾きの直線のように挙動し、その切片が対照サンプルのSDLよりも大きい場合、細菌は抗菌薬の影響を受けやすくなっている。SDLが直線のように挙動し、勾配がある値より小さく、その切片が対照サンプル値と同じオーダーの場合、細菌は抗菌薬に対して耐性がある。
【0088】
なお、使用される関数のタイプは、細菌の感受性に依存する。細菌が抗菌薬に対して耐性である場合、抗菌薬濃度の関数としてプロットされたSIRは、x軸に対してほぼ平行な直線であり、ステップ関数ではない。これは、抗菌薬を投与するための医療ガイドラインが細菌MICを上回る場合にも当てはまる。MICが試験した抗菌薬濃度値の範囲内である場合にのみ、ステップ関数が得られる。
【0089】
本明細書に記載されるように、「最小発育阻止濃度」または「MIC」は、一晩のインキュベーション後に微生物の目に見える増殖を阻害する抗菌性(例えば抗菌薬性の)薬物の最小濃度を指す。適切な抗菌薬-細菌相互作用が行われるようにするためには、前記プロセスの前に検体を培養培地中でインキュベーションする必要があると考えられる。
【0090】
本明細書で提供されるように、MICは、前記SIRを抗菌薬濃度の関数としてプロットし、それを例えば、以下の形式のステップ関数に近似することにより算出され得る。
【0091】
【数5】
【0092】
式中、a,b,cはパラメータであり、erfは誤差関数である。MICは、パラメータcの値である。
【0093】
誤差関数の値は次のとおりである。y(x)は前記SIRまたは前記SDLである。SIRとSDLは、SIR強度の場合、同じ物理量の比率であるため、どちらも無次元の物理値である。パラメータ「a」はスケーリング値であり、無次元でもあり、「b」はステップの勾配を決定し、l/(抗菌薬濃度)の次元を有し、「c」は誤差関数がゼロに等しいx値であり、抗菌薬濃度[μg/ml]の次元を有する。他の適切な関数、例えばtanh関数を使用してもよい。様々な濃度についてのSIRは、ケースバイケースで決定される。
【0094】
他のステップ関数が使用され得、例えば、限定されないが、以下のようなものがある:
tanh、ここでy(x)=a・tanh[b(x-c)]
(式中、aはスケーリングファクターであり、bはステップ関数の勾配を決定し、cはMICである)、または
arctan(atan)、ここでy(x)=a・atan[b(x-c)]
(式中、aはスケーリングファクターであり、bはステップ関数の勾配を決定し、cは、前記MICである)。
【0095】
MICを決定するための他の適切な方法が使用され得る。たとえば、一つの選択肢は、各ポイント(つまり、各SIRまたはSDLポイント)について一次導関数を算出することである。MICは、一次導関数の最大値に対応する抗菌薬濃度である。別の選択肢は、式:
(Max(SIRまたはSDL)+Min(SIRまたはSDL))/2
を使用し、その値に対応する抗菌薬濃度の値を求めることである。
【0096】
上記のように、本発明は、細菌の生存率、最小発育阻止濃度、および抗菌薬治療に対する細菌の感受性もしくは耐性を決定するために膜蛍光染色およびSIRを利用する方法に対する改善に関する。
【0097】
細菌には、グラム陰性細菌およびグラム陽性細菌、例えば、大腸菌群、腸内細菌、サルモネラ菌、リステリア菌、赤痢菌、シュードモナス菌、ブドウ球菌またはメタノバクテリウムが含まれるが、これらに限定されない。例えば、大腸菌(Escherichia coli)、クレブシエラ・ニューモニア(Klebsiella pneumonia)、アシネトバクター属(Acinetobacter)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、エンテロコッカス・クロアカ(Enterococcus cloacae)、アエロモナス属(Aeromonass)、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)、エンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、およびシトロバクター・フロインディ(Citrobacter freundii)が挙げられる。
【0098】
抗菌薬(または抗菌剤)には、アンピシリン、ゲンタマイシン、キノロン(例、シプロフロキサシン)、アモキシシリン、カルバペネム(例、イミペネム)、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、チカルシリン、バクトリムなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0099】
いくつかの態様では、サンプルをまずろ過して細菌を濃縮形態で単離し、その後、細菌の固定濃度に希釈する。他の態様では、サンプルをまず遠心分離によって濃縮し、その後、細菌の固定濃度に希釈する。濃縮細菌の希釈は、液体増殖培地などの適切な培地で起こり得る。
【0100】
本発明は、以下の実施例により詳細に説明されており、これらは例示のみを目的としている。
【実施例
【0101】
本明細書で提供される方法の全体的なプロセスフロー100は、図1に示されている。最初に、細菌サンプルが得られる。このサンプルは、患者からの臨床サンプル、または環境サンプルのような、任意の供給源からのものであってよい。前記細菌は、液体培地中で任意の適切な方法によって培養され、液体培地、または培養目的のための他の適切な希釈剤で希釈され得る。サンプルの培養は、微生物学分野で一般的に知られているチューブ、フラスコ、バイアル、マルチウェルディッシュなど、任意の適切な容器で行うことができる。サンプルの希釈は、任意の適切な方法、例えば、標準的な段階希釈法に従って任意に、適切な実験室の標準または標準的な操作手順に従って調製することができる。一例では、本明細書に記載のアッセイの性質により、少なくとも3つのサンプルまたはアリコートが調製され、培養液のみで試験サンプルを含まない第1の対照、基準細菌サンプルを含む第2の対照、および試験サンプルを準備する。試験される抗菌薬の複数の希釈液は、任意の有用な方法、例えば、抗菌薬の段階希釈によって調製され得る。プロセス100は、まず、試験サンプルを抗菌薬で処理し(110)、2~4時間などの適切な時間、試験サンプルをインキュベートし、試験サンプル中の任意の微生物、例えば細菌細胞に対する抗菌薬の効果を決定するステップを含んでいてもよい。抗菌薬を有さないものを含む対照は、試験サンプルと共にインキュベートされ得る。細胞がインキュベートされる容器は、画像化に適していてもよく、または任意で、各サンプルは、画像化前に画像化容器に移される。画像化容器は、本明細書に記載の顕微鏡画像化システムを使用して画像化するためにサンプルを保持するのに適した容器であり、例えば、顕微鏡画像化システムに適合するチャンバー、スライド、ウェル等、例えば、96ウェルプレート等である。適切な画像化容器、例えばハイコンテントスクリーニングのための、非限定的な例としては、ポリスチレン、環状オレフィンコポリマーまたはガラス底を有する容器、例えば平坦で光学的に透明なガラス底を有するCorning(登録商標)HCSガラス底マイクロプレートが含まれる。
【0102】
次に、細胞が培養される容器内で、または画像化容器に移された後、サンプルは、適切な蛍光色素120で処理され、例えば、色素を前記サンプルに添加することによって蛍光色素に曝露される。適切な蛍光色素の例が、本明細書に記載されている。サンプルを蛍光色素で処理した後、画像化容器内のサンプルは、例えば本明細書に記載されているように、適切な励起波長で光を照射され、サンプル内の細胞の蛍光を生成する。細胞の1つ以上の画像が得られ(130)、2つの波長、例えば610nmおよび530nmにおける個々の細胞の発光強度が得られ、各細胞についてSIRが算出される(140)。SDLが、算出され得る。実施例では、異なる光学フィルタを用いて2つの画像を得てもよいし、それぞれ適切なフィルタを有する2つのカメラを使用して2つの異なる波長での出力を得てもよい。次に、各細胞のSIRは、抗菌薬濃度に対するSIRのプロットのような、前記細胞に対するMICの適切な表現を算出する(150)ために使用される。上記のように、SIRは、MICを決定する一部として、任意にSDLを算出するために使用される。あるいは、610nmと530nmの2つの波長における蛍光強度を軸とする、サンプルの散布図が出力として作成されてもよい。
【0103】
本明細書に記載されるデータ処理、比較、および算出活動のいずれも、例えば、SIR、MIC、SDL、またはD/Lの算出、画像取得、画像処理、統計解析、画像比較、グラフ化またはプロット、出力生成等を含むがこれらに限定されないコンピュータ実装方法として、全体または部分的に、計算装置の使用によって実行され得、好ましくは、コンピュータの使用によって行われる。本明細書で使用される場合、「コンピューティングデバイス」という用語は、データを処理するように構成された1つ以上の電子デバイスを指し得る。コンピューティングデバイスは、いくつかの例では、プロセッサ、ディスプレイ、メモリ、入力デバイス、ネットワークインタフェース、および/または同様のものなど、データを受信、処理、および出力するために必要なコンポーネントを含み得る。データは、所望の方法でデータを処理するために選択され構成されたソフトウェアおよびアルゴリズムなどの命令によって指示されるようにプロセッサによって処理され、そのようにプロセッサは、指定されたタスクを実行するようにプログラムされおよび/または構成される。コンピューティングデバイスは、後述するGE IN Cell Analyzerシステム(GE Healthcare Life Sciences)等の画像化システムに統合されてもよい。コンピューティングデバイスは、例えば、光学デバイス、ターンキー光学プラットフォーム、デスクトップコンピュータ、または本明細書に記載するようにデータを処理するように適合されたMATLAB等の適切な分析ソフトウェアを含む他の形態の非モバイルコンピュータであってよい。コンピューティングデバイスは、モバイルデバイスであってもよい。一例として、モバイルデバイスは、携帯電話(例えば、スマートフォンまたは標準的な携帯電話)、ポータブルコンピュータ、ウェアラブルデバイス(例えば、時計、眼鏡、レンズ、衣類など)、個人用デジタルアシスタント(PDA)、および/または他の同様のデバイスを含んでもよい。
【0104】
レーザー共焦点画像化システム、または類似のシステム、例えばGE IN Cell Analyzerシステム(GE Healthcare Life Sciences)、例えば可変アパーチャー設計のIN Cell Analyzer 6000は、例えば顕微鏡検査に十分な光学品質を有するウェル底を有する適切な96ウェルのマイクロプレートから、サンプルの画像を得るために使用され得る。そのようなデバイスは、しばしば、複数の励起波長、光学フィルタのオプションを提供し、本明細書に記載されるようなハイスループットスクリーニング法のための分析ソフトウェアを使用する。適切な分析ソフトウェアの1つの非限定的な例は、GE IN Cell Analyzerシステムに関連して実装することができるIN Carta(GE Healthcare Life Sciences)画像分析ソフトウェアである。MATLABなどの他の製品を使用して、本明細書に記載されるような画像を生成および分析することができる。
【0105】
上述したように、細胞の別々の画像が、610nmなどの第1の波長と、530nmなどの第2の波長とで、得られる。次に、前記画像は、例えば、画像中の個々の細胞の強度を分析することができるソフトウェアを用いて、コンピュータに実装された方法を用いて分析される。様々なコンピュータシステム、プロセス、アルゴリズム、モジュールなどを使用して、生細胞と死細胞の割合を表す出力、およびMICなどの適切な出力、または他の関連するAST出力を生成することができる。
【0106】
本明細書に記載の細胞を分析するためのコンピュータ実装方法の一実施形態では、本明細書に提供される方法によって得られた細胞の画像が、任意の適切なファイル形式でインプットとして受け取られる。画像は、1つ以上の波長、例えば610nmなどの第1の波長、および/または530nmなどの第2の波長で増加または減少した発光強度を示すであろう画像における個々の細胞を識別するために、分析される。画像を正規化するために、ホワイトバランス、色相、カラーバランス、明るさ、コントラスト、シャープネスなど、画像化技術において公知の1つ以上の画像パラメータが、解析プロセスの一部として調整され得、抗菌薬で未処理の試験サンプル、またはかなりの数の死細胞を含むサンプルなどの対照サンプルが、さらなる画像処理のために画像値を正規化するために、使用され得る。画像の正規化は、コンピュータに実装されたプロセスで自動的に実行され得るが、適切な画像処理ソフトウェアを用いて手動でも実行され得る。
【0107】
画像の正規化後、個々の細胞、一定数の細胞、または画像フィールド内の全細胞の発光強度を、610nmなどの第1の波長と530nmなどの第2の波長で評価する。個々の細胞の発光強度は、610nmなどの第1の波長と530nmなどの第2の波長とで独立して測定される。610nmなどの第1の波長と530nmなどの第2の波長における強度値は、次に、SIRを算出するために使用され得、本明細書に記載されるように、SIR対抗菌薬濃度は、試験された抗菌薬のMICを決定するためにプロットされるかまたは他の方法で評価され得る。適切なプロセスおよび/またはアルゴリズムを有する他のコンピュータ実装方法が、MICを評価するために使用され得る。例えば、クラスタリング法は、試験サンプル中の細胞を生きているか死んできるかを分類するために使用され得、610nmなどの赤色波長と530nmなどの緑色波長での発光強度の比の有意なシフトに基づいてMICが決定され得る(例えば、図4参照)。
【0108】
〔実施例1〕
本実施例では、2~4時間の抗菌薬曝露後、5分未満、ウェル当たり1秒未満のターンアラウンドで、血液培養から直接ASTおよびMICを決定するための迅速な方法が、提示される。
【0109】
材料と方法:
一般に、この方法は、血液培養の遠心分離、2~4時間の細菌抗菌薬曝露、単一の蛍光色素による細菌染色とそれに続くレーザー共焦点顕微鏡検査、および数学的分析を含む。
【0110】
サンプル調製-マクロ希釈法
a)CLSIの勧告に従って抗菌薬(ゲンタマイシン)原液を調製し、CAMHBで各抗菌薬の組み合わせに推奨される最高濃度から2倍に希釈した(「Class II Special Controls Guidance Document:Antimicrobial Susceptibility Test(AST) Systems」,8月28日,2009,FDA)。
b)各サンプルと抗菌薬の組み合わせについて、最初のチューブを除いて、1mlのCAMHB培地が添加されたチューブのセットを準備した。
c)前記セットの各第1チューブに、抗菌薬原液(b)から2mlを分注した。
d)前記第1チューブから、CLSIで必要な最小濃度になるまで、1mlの溶液を次のチューブに移し、2倍の段階希釈液を調製した。各チューブセットの最後のチューブから1mlを廃棄した。
e)セット内の各チューブに、細菌サンプル溶液(a)を1ml加えた。
f)段階希釈セットごとに、2つの対照を加えた。陰性対照として、2mlのCAMHBが入ったチューブを使用した。陽性対照として、抗菌薬を含まない細菌サンプル溶液(a)を添加したチューブを使用した。
g)すべてのチューブを37℃でインキュベートした。
h)インキュベーション開始から2~4時間後、各チューブから200μlを96ウェル組織培養プレートに移し、2μlのSynaptogreenまたはFM 1-43(それぞれ、Sigma-Aldrich;Molecular Probes)で染色し、GE Lifesciences IN Cell Analyzer 6000で画像処理した。倍率は、細菌が個々に識別できるように調整した。サンプルを480nmのレーザーで励起し、各ウェルから15枚の画像を順次撮影した。画像は、各画像に緑フィルタ(530nm)、赤フィルタ(615nm)を順次通して撮影された。
i)画像を、GE In Cell Investigator画像解析ソフトウェアを用いて解析した。各画像について、以下の操作を行った;細菌を識別するためのセグメンテーション、各細菌について緑と黄色の強度を記録し、細菌集団の散布図をプロットした(X軸-緑の強度、Y軸-赤の強度)。
【0111】
データの解釈
ある抗菌薬への曝露の影響を定量化するために、分光強度比(SIR)を以下のように定義する。
【0112】
【数6】
【0113】
ここで、(I)は各波長における散布図の平均値である。低いスペクトル強度比(SIR)の値は活性な細菌集団に対応し、高い値は不活性細菌集団が大きいことを示す。単一の色素、および上記のスペクトル強度比(SIR)を用いる主な利点は、色素濃度や光学効率への結果依存性を排除することである。
【0114】
MICは、分光強度比(SIR)を抗菌薬濃度の関数としてプロットし、次のような形のステップ関数に近似して算出される。
【0115】
【数7】
【0116】
式中、a,b,cはパラメータ、erfは誤差関数である。パラメータは、測定されたSIRをステップ関数に近似するために使用され、aはスケーリングパラメータ、bはステップ勾配、cはMIC値、またはその関数である。SIRの値は、最適な近似によってerfパラメータを決定するために使用される。
【0117】
結果:
ゲンタマイシンを4濃度で曝露した大腸菌を測定した。MICは、MATLABソフトを用いたスペクトル強度比(SIR)計算とステップ関数推定を使用して算出した。
【0118】
図2は、大腸菌の細胞を、緑色のフィルタ(左)と赤色のフィルタ(右)でそれぞれ撮影した画像の例である。図3では、InCell測定(上)およびフローサイトメーター測定(下)について、抗菌薬濃度の関数としてSIRを示すプロットが提供される。グラフからわかるように、両者の形状は類似しているが、InCell測定ではデータポイントが少なく、MICはどちらの場合も0.5μg/mlである。生細菌集団(0μg/ml)は、死細菌集団(>0.5μg/ml)よりもSIRが低くなっている。MIC(0.5μg/ml)では、SIRが大きく増加した。これは、大きな不活性細菌集団が出現したためである。その後、非常に高い(>4μg/ml)抗菌薬濃度でSIRは減少する。
【0119】
図4は、表示濃度の抗菌薬でインキュベートした細胞の画像から、赤の波長(610nm)の蛍光強度対緑の波長(530nm)の蛍光強度の散布図を示したものである。MIC付近では、生菌数(菱形)が死菌数(四角)よりも少なくなっている。細菌集団は矢印1に沿ってシフトする。抗菌薬の濃度が高くなると(三角形と×印)、死細菌集団は低い強度(矢印2)へ移動する。この挙動は、フローサイトメーター実験でも観察された。
【0120】
要約すると、ハイコンテンツスクリーニング(GE InCell)を用いると、スペクトルシフトを測定し、細胞が生きているか死んでいるかを判断することが可能になる。このように、InCellシステムは、SIRの迅速な測定(例えば、1ウェルあたり1秒未満)に適している。
【0121】
本発明を上記の実施例および詳細な説明の観点から説明したが、当業者であれば、本発明の趣旨の範囲内で変更がなされ得ることが理解されよう。従って、本発明は、詳細な実施態様における多くの変形が可能であり、これは、当業者によって本明細書による説明から導き出され得る。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】