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特表2022-553635心臓病態の治療に使用するためのカンナビジオール組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-26
(54)【発明の名称】心臓病態の治療に使用するためのカンナビジオール組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/05 20060101AFI20221219BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20221219BHJP
   A61K 31/015 20060101ALI20221219BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20221219BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20221219BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
A61K31/05
A61P9/10
A61K31/015
A61K9/08
A61K47/14
A61P9/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022521100
(86)(22)【出願日】2020-10-20
(85)【翻訳文提出日】2022-05-30
(86)【国際出願番号】 CA2020051405
(87)【国際公開番号】W WO2021077211
(87)【国際公開日】2021-04-29
(31)【優先権主張番号】62/926,066
(32)【優先日】2019-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522049233
【氏名又は名称】カーディオル セラピューティクス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ボルトン,アンソニー アーネスト
(72)【発明者】
【氏名】リステフスキ,ブラゴヤ
(72)【発明者】
【氏名】トーレ アミオーネ,ギレルモ
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア リバス,ヘラルド デ ヘスス
(72)【発明者】
【氏名】ロザーノ ガルシア,オマール
【テーマコード(参考)】
4C076
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076BB15
4C076BB16
4C076CC11
4C076DD46E
4C076FF12
4C076GG46
4C206AA01
4C206AA02
4C206BA04
4C206CA19
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA37
4C206MA86
4C206NA14
4C206ZA36
(57)【要約】
心臓病態の治療又は予防に使用するための、有効量のカンナビジオール(CBD)を含有する医薬組成物並びに関連する方法及び使用。心臓病態は、心不全、急性心筋炎、抗癌療法によって引き起こされる毒性、急性心膜炎、心臓サルコイドーシス、炎症性心筋症及びアテローム性動脈硬化並びに関連する使用及び方法を含む。本開示は、CBDが、(i)心肥大を低減させること;(ii)心臓線維症を低減させること;(iii)BNPのレベルを低減させること;(iv)サイトカインIL1βのレベルを低減させること;(v)サイトカインIL6のレベルを低減させること;(vi)CD69のレベルを低減させること;(vii)サイトカインIL10のレベルを増大させること、及び(viii)これらの組合せに有効であることを示す。組成物は、好ましくは、非経口投与のために適合される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心不全、急性心筋炎、抗癌療法によって引き起こされる毒性、急性心膜炎、心臓サルコイドーシス、炎症性心筋症及びアテローム性動脈硬化からなる群から選択される心臓病態を治療又は予防するための、有効量のCBDの使用であって、前記CBDは、対象において、
(a)心肥大を低減させるか;
(b)心臓線維症を低減させるか;
(c)BNPのレベルを低減させるか;
(d)サイトカインIL1βのレベルを低減させるか;
(e)サイトカインIL6のレベルを低減させるか;
(f)CD69のレベルを低減させるか;
(g)サイトカインIL10のレベルを増大させるか;又は
(h)上記のいずれかの組合せをもたらす
ために有効である、使用。
【請求項2】
(a)~(g)の少なくとも2つが当てはまる、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
(a)~(g)の少なくとも3つが当てはまる、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
(a)~(g)の少なくとも4つが当てはまる、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
(a)~(g)の少なくとも5つが当てはまる、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
(a)~(g)の少なくとも6つが当てはまる、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
(a)~(g)の全てが当てはまる、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記CBDは、非経口組成物中に存在し、前記非経口組成物は、有効量の、前記組成物中に前記CBDを可溶化させるための少なくとも1種の溶媒をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記非経口組成物は、皮下又は筋肉内投与のために適合される、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記組成物は、ミセルを含まない、請求項8又は9に記載の使用。
【請求項11】
前記組成物は、実質的に水を含まない、請求項8~10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
前記組成物は、有効量の少なくとも1種の追加の薬学的に活性な薬剤をさらに含む、請求項8~11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
前記少なくとも1種の追加の薬学的に活性な薬剤は、β-カリオフィレンである、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記溶媒は、天然及び合成の中鎖(C6~C12)トリグリセリド(MCT)からなる群から選択される、請求項8~13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
少なくとも約95%の前記MCTは、C8トリグリセリド、C10トリグリセリド又はこれらの混合物からなる、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記CBDは、約350mg/前記組成物のmLまでの量で存在する、請求項8~15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
前記CBDは、約10mg/前記組成物のmLからの量で存在する、請求項8~16のいずれか一項に記載の使用。
【請求項18】
前記心不全は、駆出率が保たれた心不全(HFpEF)である、請求項1~17のいずれか一項に記載の使用。
【請求項19】
前記心筋炎は、急性心筋炎である、請求項1~18のいずれか一項に記載の使用。
【請求項20】
心不全、急性心筋炎、抗癌療法によって引き起こされる毒性、急性心膜炎、心臓サルコイドーシス、炎症性心筋症及びアテローム性動脈硬化からなる群から選択される少なくとも1種の心臓病態を治療又は予防する方法であって、
(a)前記心臓病態を有するか又は有するリスクがある対象を特定すること;及び
(b)有効量のCBDを前記対象に投与すること
を含み、CBDの前記投与は、前記対象において、
(a)心肥大を低減させるか;
(b)心臓線維症を低減させるか;
(c)BNPのレベルを低減させるか;
(d)サイトカインIL1βのレベルを低減させるか;
(e)サイトカインIL6のレベルを低減させるか;
(f)CD69のレベルを低減させるか;
(g)サイトカインIL10のレベルを増大させるか;又は
(h)上記のいずれかの組合せをもたらす、方法。
【請求項21】
CBDの前記投与は、前記(a)~(g)の少なくとも2つをもたらす、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
CBDの前記投与は、前記(a)~(g)の少なくとも3つをもたらす、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
CBDの前記投与は、前記(a)~(g)の少なくとも4つをもたらす、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
CBDの前記投与は、前記(a)~(g)の少なくとも5つをもたらす、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
CBDの前記投与は、前記(a)~(g)の少なくとも6つをもたらす、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
CBDの前記投与は、(a)~(g)の全てをもたらす、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記心不全は、駆出率が保たれた心不全(HFpEF)である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記心筋炎は、急性心筋炎である、請求項20~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記CBDは、非経口投与される、請求項20~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記CBDは、請求項8~17のいずれか一項に記載の非経口組成物中に存在する、請求項20~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記CBDは、少なくとも週1回投与される、請求項20~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記CBDは、週2又は3回投与される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記CBDは、少なくとも1日1回投与される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記CBDは、少なくとも1日2回投与される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
各投与は、体重1kgあたり約1mg~約20mgのCBDを投与することからなる、請求項20~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
請求項8~17のいずれか一項に記載の非経口組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001] 本願は、2019年10月25日に出願された米国仮特許出願62/926,066号からの優先権を主張し、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
[0002] 分野
[0003] 本発明は、概して、カンナビジオール(CBD)を含有する医薬組成物並びにそのような組成物を使用する疾患及び障害の治療又は予防に関する。
【背景技術】
【0003】
[0004] 背景
[0005] 慢性心不全(CHF)は、世界的に2600万人を超える人々を冒している。カナダ及び米国の600万を超える成人が慢性心不全を患い、それは、依然として死亡及び入院の首位の原因であり、関連する医療費は、米国のみで毎年300億ドルを超える。
【0004】
[0006] 心不全(HF)を有する人々は、息切れ、頻拍、浮腫及び運動能力低下に悩まされる。そのような人々は、単純な日常活動に苦労することが多く、頻繁に入院する。多くの人々にとって、これらの症状は、生活の質を著しく低下させる。
【0005】
[0007] 心不全は、心臓が体の要求に対して十分な血液を送り出すことができない場合に起こる。心不全には、2種類ある:駆出率が低下した心不全(HFrEF、収縮性心不全とも称される)及び駆出率が保たれた心不全(HFpEF、以前には拡張性心不全と称された)。駆出率が低下した心不全(HFrEF)において、心臓の各収縮により循環に送り出される血液が十分でないような左室の収縮低下がある。駆出率が保たれた心不全(HFpEF)において、問題は、主として、弛緩期中の左室の充満が制限されていることにある。病変は、左室を硬くさせ、左室は、正常に弛緩しない。結果として、それは、正常に満ちることができず、圧力は、左心腔及び肺内で増加し始める。肺内の圧力増加は、息切れの原因である。
【0006】
[0008] HFpEFは、複合症候群である。病態生理学的機構は、依然として完全には理解されておらず、それは、現在まで有効な治療がない理由の1つである。しかし、いくつかの病態がHFpEFと頻繁に関連することが認識されている。これらの中で重要なものは、代謝症候群の構成要素(耐糖能障害、肥満、高血圧及び脂質異常症)である。特に重要なものは、肥満であり、それは、全身性炎症状態をもたらし、心臓炎症の原因となり、それは、線維症及び心室コンプライアンスの低下(弛緩)と関連する。高血圧(HTN)も、HFpEFに至る主要な前駆病態であり、左心室(LV)筋肉の厚さの増加(LV肥大)及びLVコンプライアンスの低減にもつながる。このように左室が正常に満ちることが不可能であることは、左心拡張機能障害(LVDD)とも称される。HTNをLVDDの発生にとって最も重大な危険因子と考える者もいる。
【0007】
[0009] 参照により本明細書に組み込まれる刊行物Glezeva et al.,“Role of inflammation in the pathogenesis of heart failure with preserved ejection fraction and its potential as a therapeutic target,”(Heart Fail Rev (2014) 19:681-694; DOI 10.1007/s10741-013-9405-8)は、炎症がHTNにおける心室リモデリングの初期の根本的な誘因であり、LVDDの原因となることを示す研究を記載している。研究は、炎症が、上昇したレベルの内皮接着分子並びに組織内の炎症性サイトカイン及びケモカインの増大した産生及び放出によって引き起こされることを示唆している。後者は、活性化された炎症細胞、特に単球の心臓組織への浸潤を促進する。単球浸潤の増大は、HTN及びHFpEFの早期及び末期に見られる。組織内部に入ると、単球は、マクロファージに分化して、心臓炎症、組織傷害及び心筋線維症を促進すると考えられている。この機構は、HFpEFへの進行の一部であると考えられている。著者らは、心筋炎症がHFpEF病態生理において役割を有すると結論付け、炎症経路に介入する治療手法が、有リスク患者又はLVDD及び/又はHFpEFを有する患者において、抗高血圧治療に加えて利用されるべきであることを提案している。著者らは、HTN及びLVDDにおける継続する炎症反応のよりよい理解と共に、HFpEFを有する患者を対象とするより多くの大規模なランダム化臨床試験が必要であると結論付けている。
【0008】
[00010] 高血圧の他に、HFpEFの発症と関連するいくつかの危険因子がある。第1のものは、糖尿病であり、心不全だけでなく、心臓発作の通常の原因である冠動脈のアテローム性動脈硬化の共通する危険因子である。他の主要な危険因子は、肥満及び加齢である。興味深いことに、加齢、糖尿病及び肥満は、全て全身の炎症の増大と関連する状態である。脂肪細胞は、他の組織に循環する炎症性サイトカインの主要な産生体である。高血圧、糖尿病及び肥満の組合せは、HFpEFに極めてよく見られ、それぞれが、多くの人がこの症候群の原因と考える炎症性環境の原因である。
【0009】
[00011] カンナビノイドは、天然で植物カンナビス・サティバ(Cannabis sativa)に存在する化合物である。主要なカンナビノイド構成成分には、カンナビジオール(CBD)及びテトラヒドロカンナビノール(THC)がある。THCは、脈拍数を増加させ、結膜発赤を起こし、多幸感などの抗精神性(気分を変える)作用を与えることが知られている。CBDは、THCとは対照的に、非中毒性である。そのため、CBDは、てんかん、慢性疼痛、不安及び不眠を含む広範囲の病態を治療するための医薬成分としてより一般的に使用される。CBDの抗炎症作用は、いくつかの公報において言及されてきた。例えば、国際公開第2014/117999Al号(慢性炎症及び炎症性疾患)、国際公開第2017/191630Al号(肝臓炎症)、米国特許第9,549,906号(眼炎症)及び国際公開第2018148152号(神経炎症)を参照されたい。
【0010】
[00012] カンナビジオール(CBD)は、脂溶性であり、事実上水に不溶性である。さらに、それは、初回通過代謝により肝臓内で不活性化を起こしやすい。この高い初回通過代謝は、経口服用される場合の低い有効血液レベル及び10%未満という全体的なバイオアベイラビリティをもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
[00013] 初回通過肝臓代謝を回避して薬物の血液レベルを最適化及び維持する、CBDを含有する改善された組成物を提供することが引き続き必要とされている。心不全を含む心臓病態の病態生理学的機構をより良好に理解して、それを治療及び/又は予防する新たな療法を提供することも引き続き必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[00014] 概要
[00015] 本発明者らは、非経口、例えば皮下投与されたCBDが、心不全のインビボの非虚血性(高血圧誘発性)マウスモデルにおいて、心肥大及び心筋線維症を低減させ、及びリモデリング及び炎症の分子マーカーのレベルを有益に調節するのに有効であることを見出した。驚くべきことに、これらの効果は、非常に低い投与量で観察された。本発明者らは、CBDが、インビトロでH9c2細胞を使用する心筋細胞肥大のモデルにおいて、細胞拡大(肥大)を予防するのに有効であることも見出した。さらに、本発明者らは、CBDが、インビトロでヒトリンパ球及び単球によるCD69(炎症のマーカー)の発現を低減させるのに有効であることを示す研究を実施した。これらの知見及び発表された文献中の知見は、心不全(例えば、HFpEF)、急性心筋炎、特定の抗癌療法(例えば、ドキソルビン、チェックポイント阻害剤)によって引き起こされる毒性、急性心膜炎、心臓サルコイドーシス、特定の拡張型心筋症(炎症性心筋症)及びさらにアテローム性動脈硬化(冠動脈疾患)を含む心臓病態の治療又は予防におけるCBDの有益な役割を裏付ける。これらの心臓病態は、それぞれ顕著な構成要素として炎症を有し、様々な程度の肥大又は線維化を含む。
【0013】
[00016] したがって、第1の態様によると、本発明は、心不全(例えば、HFpEF)、急性心筋炎、抗癌療法(例えば、ドキソルビシン、チェックポイント阻害剤)によって引き起こされる毒性、急性心膜炎、心臓サルコイドーシス、炎症性心筋症及びアテローム性動脈硬化からなる群から選択される心臓病態を治療又は予防するための、有効量のCBDの使用を提供する。
【0014】
[00017] 特定の実施形態において、CBDの使用は、対象において、
(a)心肥大を低減させるか;
(b)心臓線維症を低減させるか;
(c)BNPのレベルを低減させるか;
(d)サイトカインIL1βのレベルを低減させるか;
(e)IL6のレベルを低減させるか;
(f)CD69のレベルを低減させるか;
(g)サイトカインIL10のレベルを増大させるか;又は
(h)上記のいずれかの組合せをもたらす
ために有効である。
【0015】
[00018] 当業者は、BNPの血液レベルの低減が観察される場合、心不全対象の心臓拡張を含む心機能が改善されることを認識するであろう。さらに、サイトカインIL1β、IL6及びCD69のレベルが低減する場合又はサイトカインIL10のレベルが増大する場合、これは、上述の炎症性心臓病態の基礎にあることが知られている炎症の低減を示す。
【0016】
[00019] 選択される実施形態において、CBDは、対象において、上記(a)~(g)の少なくとも2、3、4、5、6つ又は全てをもたらすために使用される。
【0017】
[00020] CBDは、本発明の第2の態様によると、非経口組成物中に存在し得、組成物は、有効量のCBDと、有効量の、組成物中にCBDを可溶化させるための少なくとも1種の薬学的に許容できる溶媒とを含むか、それらから基本的になるか又はそれらからなる。CBDを非経口投与することは、初回通過肝臓代謝を回避し、したがって薬物の血液レベルを最適化及び維持するであろう。本組成物は、注射の筋肉内(IM)、静脈内(IV)、腹腔内(IP)及び皮下(SC)経路を含む任意の非経口経路により投与されるように適合される。好ましくは、組成物は、SC及びIM注射により投与されるように適合される。
【0018】
[00021] 本発明は、CBDを、β-カリオフィレン(BCP)、メトトレキサート(MTX)及びシクロスポリン(CsA)などの1種以上の追加の抗炎症性の薬学的に活性な薬剤と組み合わせて使用することも企図する。これらの他の薬剤は、CBDと共に同時に又は連続的に投与され得、(薬剤によっては)同じ組成物中でCBDと共に投与され得る。BCP及びCsAは、CBDと同じ組成物に含めることができる薬剤である。いくつかの実施形態において、組成物中の薬学的に活性な薬剤は、CBDからなる。他の実施形態において、薬学的に活性な薬剤は、CBD及びBCPからなる。さらに、本使用、組成物及び方法は、心臓病態を治療して患者転帰を改善するための既存の治療法及び方法を補助するものであり得る。
【0019】
[00022] 少なくとも1種の薬学的に許容できる溶媒は、天然及び合成の中鎖(C6~C12)トリグリセリド(MCT)、構造脂質、ジ(カプリル/カプリン酸)プロピレングリコール、植物油、N-メチル-2-ピロリドン、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、ジメチルアセトアミド(DMA)、エタノール、グリセリン、PEG300、PEG400、ポリオキシエチレン20ソルビタンモノオレエート、プロピレングリコール(PG)、12-ヒドロキシステアリン酸のポリグリコールモノ-及びジエステル、商標Kolliphor(商標)と関連して販売されている溶媒並びにこれらの混合物からなる群から選択され得る。これらの溶媒は、CBD、BCP及びCsAなどの親油性化合物を可溶化させるのに有用である。他方で、他の(親水性)溶媒は、親油性でないMTXに使用されるであろう。
【0020】
[00023] いくつかの実施形態において、少なくとも1種の薬学的に許容できる溶媒は、天然及び合成の中鎖(C6~C12)トリグリセリド(MCT)からなる群から選択される。さらに、少なくとも約95%のMCTは、C8トリグリセリド、C10トリグリセリド又はこれらの混合物からなり得る。
【0021】
[00024] 薬学的に活性な薬剤は、以下に定義される「有効量」で存在する。薬学的に活性な薬剤がCBD又はCBD及びBCPからなる実施形態において、薬学的に活性な薬剤は、それぞれ少なくとも約10、20、30、40、50、60、70、80、90又は100mg/組成物のmLの量で存在し得る。代替的又は追加的に、薬学的に活性な薬剤は、それぞれ約350、300、250、200又は150mg/組成物のmLまでの量で存在し得る。典型的には、約0.1、0.5、1、1.5、2、3又は4~約30、25、20、15、10、9、8、7、6又は5mgの薬学的に活性な各薬剤が体重1kgあたりで投与される。好ましくは、薬学的に活性な各薬剤は、約0.1~約10mg/kg体重又は約1~約10mg/kg体重の量で投与される。
【0022】
[00025] 薬学的に活性な薬剤がCBD及びBCPからなる実施形態において、CBDとBCPとの重量比は、各活性薬が有効量で存在することを条件として様々であり得る。例えば、CBDとBCPとの重量比は、約1:4~約4:1、約1:2~約2:1又は約1:1であり得る。
【0023】
[00026] いくつかの実施形態において、非経口組成物は、実質的に水を含まない。同じ又は他の実施形態において、組成物は、実質的にミセルを含まない。
【0024】
[00027] 第3の態様によると、本発明は、心不全(例えば、HFpEF)、急性心筋炎、抗癌療法(例えば、ドキソルビン、チェックポイント阻害剤)によって引き起こされる毒性、急性心膜炎、心臓サルコイドーシス、炎症性心筋症及びアテローム性動脈硬化からなる群から選択される心臓病態を治療及び/又は予防する方法を提供する。方法は、
(i)前記心臓病態を有するか又は有するリスクがある対象を特定すること;及び
(ii)有効量のCBDを対象に投与すること
を含み、CBDの投与は、対象において、
(a)心肥大を低減させるか;
(b)心臓線維症を低減させるか;
(c)BNPのレベルを低減させるか;
(d)サイトカインIL1?のレベルを低減させるか;
(e)IL6のレベルを低減させるか;
(f)CD69のレベルを低減させるか;
(g)サイトカインIL10のレベルを増大させるか;又は
(h)上記のいずれかの組合せをもたらす。
【0025】
[00028] 選択される実施形態において、CBDの投与は、対象において、上記(a)~(g)の少なくとも2、3、4、5、6つ又は全てをもたらす。
【0026】
[00029] 好ましくは、投与は、初回通過肝臓代謝を回避する非経口経路による。したがって、CBDは、本発明の第2の態様による非経口組成物中に存在し得る。
【0027】
[00030] 本発明による方法において、組成物は、週に少なくとも1、2若しくは3回、少なくとも1日1回又は少なくとも1日2回、1、2、3、4、5、6、7、8週間又はそれを超えて投与することができる。慢性病態を治療する場合、治療期間は、不定の期間であり得、薬学的に活性な成分の量は、長期毒性を避けるような投与量に調整されることが想定される。投与の頻度に応じて、非経口組成物の各投与量は、体重1kgあたり約1、2、3、4又は5~約20、15又は10mgのCBD(又はCBD及びBCPのそれぞれ)を含有し得る。
【0028】
[00031] 心不全(HFpEF)を発症するリスクがある対象は、高齢の対象(例えば、60歳以上)並びに高血圧、糖尿病及び/又は肥満を有する対象である。急性心筋炎に関して、これは、ウイルス感染後の病態であり、罹患する層は、若い個人であり得る。心臓サルコイドーシスは、全体として珍しいが、アフリカ系アメリカ人では通常30~40歳の年齢群に多く見られる。それは、心臓組織内の肉芽腫の存在を特徴とし、診断には、心内膜心筋生検を要し得る。炎症性心筋症は、多くの場合に若い成人に起こり、慢性心不全に至る。場合により、それは、急性心筋炎の最終結果であり得る。一層多くの癌を有する患者が薬物(アントラサイクリン及びチェックポイント阻害剤など)を服用しており、それは、心臓に影響を及ぼして、炎症により誘発された損傷をもたらし得る。場合により、例えばチェックポイント阻害剤を服用した後、病態が急速に悪化して、心原性ショック又は死亡を起こし得る。急性心膜炎は、心嚢の急性炎症であり、隣接する心臓への様々な炎症性損傷を含み得る。それは、若年者集団に起こる傾向もあるが、いずれの年齢でも起こり得る。アテローム性動脈硬化性心疾患は、心筋梗塞の一般的な原因であり、冠状動脈の血栓症と通常関係している。血栓の病因は、少なくとも一部には、動脈壁中の炎症性プロセスから生じると広く考えられている。
【0029】
[00032] 図面の簡単な説明
[00033] 本発明は、以下の図面と共に以下の説明を参照して、よりよく理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】[00034]心筋細胞肥大のインビトロモデルにおける、H9c2細胞の細胞表面積に対する異なる投与量のCBDの投与の効果を示す選択された共焦点顕微鏡画像を含む。
図2】[00035]心筋細胞肥大のインビトロモデルにおける、H9c2細胞の細胞表面積に対する異なる投与量のCBDの投与の効果を示すグラフである。
図3a】[00036]心筋細胞肥大のインビトロモデルにおける、異なる投与量で投与されたCBDによるB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)(リモデリングバイオマーカー)のmRNA発現のレベルの低減を示すグラフである。
図3b】[00036]心筋細胞肥大のインビトロモデルにおける、異なる投与量で投与されたCBDによるコラーゲンのmRNA発現のレベルの低減を示すグラフである。
図4】[00037]心筋細胞肥大のインビトロモデルにおける、異なる投与量で投与されたCBDによる、炎症のマーカーであるミトコンドリア活性酸素種(MitoSOX)の低減を示すグラフである。
図5】[00038]非虚血性心不全のマウスモデルにおけるCBDの投与の効果を測定するために使用された実験計画の描写を表す。
図6A】[00039]図5の実験のCBDの投与後の線維化の低減(青色染色の低減)を示す、マッソントリクローム染色により染色されたマウス心臓組織の代表的なスライドを示す。
図6B】[00039]図5の実験のCBDの投与後の線維化の低減(青色染色の低減)を示す、マッソントリクローム染色により染色されたマウス心臓組織の代表的なスライドを示す。
図6C】[00039]図5の実験のCBDの投与後の線維化の低減(青色染色の低減)を示す、マッソントリクローム染色により染色されたマウス心臓組織の代表的なスライドを示す。
図6D】[00039]図5の実験のCBDの投与後の線維化の低減(青色染色の低減)を示す、マッソントリクローム染色により染色されたマウス心臓組織の代表的なスライドを示す。
図7】[00040]図5の実験のCBD投与後の線維化の低減を示すグラフである。
図8】[00041]図5の実験のCBD投与後の筋細胞面積(肥大)の低減を示すグラフである。
図9】[00042]図5の実験のCBD投与後のBNPのmRNA発現のレベルの低減を示すグラフである。
図10a】[00043]図5の実験のCBD投与後の炎症性サイトカインIL1βのmRNA発現のレベルを示すグラフである。
図10b】[00043]図5の実験のCBD投与後の炎症性サイトカインIL6のmRNA発現のレベルを示すグラフである。
図10c】[00043]図5の実験のCBD投与後の抗炎症性サイトカインIL10のmRNA発現のレベルを示すグラフである。
図11】[00044]別の実験における、刺激された/活性化された単球及びリンパ球(白血球)によるCD69の発現に対するCBD投与の効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[00045] 図中では、「p値」は、又は#=≦0.05、**又は##=≦0.01及び***又は###=≦0.001と示される。「p値」が低いほど、群間の有意性が高い。
【0032】
[00046] 詳細な説明
[00047] 定義
[00048] 明快さのため及び曖昧さを避けるために、特定の用語が下記の通り本明細書で定義される。
【0033】
[00049] 用語「薬学的に活性な薬剤」は、薬物、細胞、DNA、RNA、オリゴヌクレオチド、タンパク質及びペプチドを含む、対象に治療効果(例えば、疾患又はその症状を治癒、緩和、予防すること)を提供することが可能なあらゆる組成物(例えば、薬剤、化合物又は成分)を意味する。
【0034】
[00050] 組成物、例えば化合物又は成分が「X%の純度」を有すると記載される場合、これは、1種以上の不純物が、組成物の総重量に基づいて100~X重量%までの量で存在し得ることを意味する。成分の純度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)又は他の適切な手段により決定することができる。
【0035】
[00051] 用語「対象」は、ヒト及び他の哺乳動物を含む動物界のメンバーを意味する。
【0036】
[00052] 本明細書で使用される場合、用語「治療」は、病態、障害又は疾患の進行を停止又は遅延させることを意味するものとする。用語「予防」は、病態、障害又は疾患の発症を予防又は遅延させることを意味する。この用語は、病態、障害又は疾患を患っているか又は患うリスクがある対象の「生活の質を改善すること」、「寿命を延ばすこと」及び「臨床成績を改善すること」を包含するものとし、必ずしも病態、障害又は疾患を「治癒すること」を意味しない。
【0037】
[00053] 本明細書で使用される場合の「薬学的に許容できる賦形剤」は、薬学的に活性な薬剤と共に製剤することができるか、又は一緒に存在して、所望の機能又は複数の機能を達成するあらゆる物質を意味する。「薬学的に許容できる」ようであるために、賦形剤は、非経口投与様式を考慮して、非毒性であり、ヒト及び動物にとって安全であり、組成物中の他の成分と適合性がなければならない。当業者は、本明細書の教示及びパブリックドメインにある情報を前提として、いずれの化合物又は成分が薬学的に許容できる賦形剤として適格であるかを認識するであろう。
【0038】
[00054] 「薬学的に許容できる溶媒」は、(単独であれ又は他の薬学的に許容できる賦形剤との組合せであれ)少なくとも1種の薬学的に活性な薬剤を全体の組成物に可溶化させるのに有効である、薬学的に許容できる賦形剤を意味する。
【0039】
[00055] 句「少なくとも1つ」、「1つ以上」及び「及び/又は」は、運用において結合的及び分離的の両方である非限定的表現である。例えば、表現「A、B及びCの少なくとも1つ」、「A、B又はCの少なくとも1つ」、「A、B及びCの1つ以上」、「A、B又はCの1つ以上」及び「A、B及び/又はC」のそれぞれは、Aのみ、Bのみ、Cのみ、一緒にA及びB、一緒にA及びC、一緒にB及びC又は一緒にA、B及びCを意味する。
【0040】
[00056] 用語「1つの(a)」又は「1つの(an)」実体は、1つ以上のその実体を指す。したがって、用語「1つの(a)」(又は「1つの(an)」)、「1つ以上」及び「少なくとも1つ」は、本明細書において互換的に使用され得る。用語「又は」が、文脈上そうでないとする明確な指示がない限り、一般的に「及び/又は」の意味で利用されることに留意すべきである。
【0041】
[00057] 用語「含む」は、「非限定的に含む」を意味する。そのため、成分のリストを含む組成物は、明示的に列挙されない追加の成分を含み得る。用語「含む」、「包含する」及び「有する」は、互換的に使用され得ることにも留意されたい。
【0042】
[00058] 用語「からなる」は、「列記された成分及び列記された成分中において天然又は市販の不純物又は添加剤として存在し得る追加の成分を含む」を意味する。天然及び市販の不純物及び添加剤は、当業者に明らかであろう。合成カンナビジオール(CBD)は、製造プロセスの残留溶媒及び副生成物など、約0.5%w/wまでの不純物を含有し得る。したがって、「合成CBDからなる」組成物は、少なくとも約99.5%w/wのCBD及び約0.5重量%までの不純物を有する組成物を意味する。
【0043】
[00059] 用語「から基本的になる」は、「列記された成分及び本発明の基本的で新規な性質に実質的に影響しない任意の追加成分を含む」を意味する。「基本的で新規な性質」は、本明細書に明示される心臓病態の治療又は予防における本組成物の有用性を意味する。CBDが利用される実施形態において、「基本的で新規な性質」は、組成物中のCBDの安定性及び溶解度並びに非経口投与のための組成物の好適性も意味する。
【0044】
[00060] 特記されない限り、用語「重量パーセント」、「%w/w」、「重量によるパーセント」、「重量%」、「wt.%」及びこれらの変形体は、物質の重量を、その物質を含有する組成物の総重量で割り、100倍したその物質の量を指す。
【0045】
[00061] 特記されない限り、用語「体積パーセント」、「vol.%」、「体積によるパーセント」、「体積%」、%v/v及びこれらの変形体は、物質の体積を、その物質を含有する組成物の総体積で割り、100倍したその物質の量を指す。
【0046】
[00062] 用語「約」は、例えば、医薬組成物の製造に使用される測定及び液体取扱い、組成物の製造に使用される成分の製造、源若しくは純度の差異及び/又は初期混合物から生じる組成物における異なる平衡条件若しくは成分の異なる反応レベルによる差異によって起こり得る、表された数量の変動を指す。明快さのために、用語「約」は、表された値の±5%までの変動を含む。値が用語「約」により修飾されているかどうかを問わず、請求項は、値の均等物を含む。
【0047】
[00063] 本明細書で使用される場合、用語「有効量」は、本発明に関連する成分の公知の目的及び機能に基づき、所望の効果をもたらすであろう量を意味する。例えば、薬学的に活性な薬剤の有効量は、本明細書に記載される治療効果を提供するのに有効であろう量である。溶媒の有効量は、単独で又は他の成分と共に、組成物の他の又は残りの成分を可溶化させるのに有効であろう量である。どのようなものが有効量を構成するかは、定型的な実験により、本明細書の教示を考慮して当業者により決定されるであろう。
【0048】
[00064] 本明細書で使用される場合、表現「実質的にYを含まない」は、「Y」が故意に加えられていないが、不純物として又は他の要因のために存在し得ることを意味する。例えば、実質的に水を含まない非経口組成物の場合、組成物は、雰囲気及び雰囲気に曝されている組成物又はその成分中に存在する水が原因でわずかな量の水を含有し得る。分かりやすさのために、「実質的にYを含まない」組成物は、Yを含有しないか、又は組成物に対してわずか0.5%w/wまでの「Y」を含む。
【0049】
[00065] 本明細書に列挙される値は、明示的に列挙されていないものを含む、述べられたパラメーターを満たす全ての値を含むものとする。そのため、例えば、1.0%w/w未満の値は、0.99%w/w未満、0.98wt.%未満、0.97wt.%未満、0.90%w/w未満、0.84%w/w未満、0.56%w/w未満、0.01%w/w未満などを含むものとする。そのため、本明細書に開示される全範囲は、その中に含まれるあらゆる部分的範囲を包含すると理解されるべきである。例えば、「1~10」の述べられた範囲は、最低値1~最大値10(両端地を含む)のあらゆる部分的範囲、例えば1~6.3、又は5.5~10、又は2.7~6.1などを含むと考えられるべきである。
【0050】
[00066] 本明細書は、任意の成分が、本明細書に含まれているか又は排除されていると明示的に挙げられていないとしても、その成分を省略する可能性を企図する。
【0051】
[00067] 本明細書における化学構造は、当技術分野で公知である従来の基準に従って描写される。そのため、描写される炭素原子などの原子が、満たされていない原子価を有するように見える場合、その原子価は、水素原子が必ずしも明確に描写されていないとしても、水素原子により満たされるとみなされる。本明細書の化合物の一部の構造は、立体異性を生じさせる炭素原子を含む。すなわち、あらゆるキラル炭素中心は、(R)-立体化学又は(S)-立体化学のいずれかであり得る。そのような不斉から生じる異性体(例えば、全エナンチオマー及びジアステレオマー)は、当業者により理解されるであろう通り、そのような異性体が薬剤活性を有することが知られている限り、本明細書の範囲内に含まれることが理解されるべきである。そのような異性体は、従来の分離技法及び立体化学的に制御された合成により実質的に純粋な形態で得ることができる。さらに、アルケンは、適切な場合、E配置又はZ配置のいずれかを含み得る。該当する配置は、所望の薬剤活性を提供するであろうものである。
【0052】
[00068] カンナビジオール(CBD)
[00069] 本組成物は、(少なくとも)カンナビジオール(CBD)を薬学的に活性な薬剤として含有する。用語カンナビジオールとCBDとは、本明細書において互換的に使用され、以下の化学構造を有する化合物を指す。
【化1】
【0053】
[00070] CBDは、天然由来又は合成由来であり得、結晶形態又は油形態であり得る。CBDの全商業的供給源が本発明に関連して有用である。
【0054】
[00071] 好ましくは、CBDは、少なくとも99.5%、99.6%、99.7%、99.8%又は99.9%の純度を有する。
【0055】
[00072] 「合成のカンナビノイド」は、カンナビノイド様の構造を有し、化学的又は生合成的手段を使用して製造される化合物である。合成カンナビジオールを製造する方法は、当技術分野で公知である。例えば、Wilmington Delaware, U.S.A.に本社があるNORAMCO, INC.のCBDは、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2017/0008868A1号(米国特許第10,059,683号として付与された)及び米国特許出願公開第2018/031,976A1号に記載されているものなどのプロセスに従って製造される。他のプロセス及び製造業者により製造される合成CBDも、所望の純度を有するならば、本組成物を製造するために使用され得る。
【0056】
[00073] 植物由来のCBDは、麻を含む種々の大麻植物から誘導することができ、従来の手段を使用して精製することができる。
【0057】
[00074] 用語テトラヒドロカンナビノール、THC、デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール及びデルタ-9-THCは、本明細書において互換的に使用され、以下に示される構造を有する化学化合物を指す。その用語は、二重結合異性体及びそれらの立体異性体を含むように本明細書で広く使用される。
【化2】
【0058】
[00075] 当業者は、CBDの商業的供給源が、THCを含む微量の不純物を含有し得ることを認識するであろう。例えば、合成のCBDは、少量の残留溶媒(例えば、メタノール、n-ヘプタン、ジクロロメタン及びトリエチルアミン)並びに製造の副生成物、例えばオリベトール、モノブロモ-CBD及びデルタ-9-THCを含有し得る。植物由来のCBDは、少量の他のカンナビノイド(THCを含む)、テルペン及び精製プロセスに使用される溶媒又は成分を含有し得る。
【0059】
[00076] いくつかの実施形態において、本組成物は、THCを「実質的に含まない」が、それは、THCが存在しないか、又は組成物に対して0.5%w/w未満のあらゆる量で存在することを意味する。これらの実施形態において、THCは、組成物に対して0.4、0.3、0.2又は0.1%w/w未満の量で存在し得る。同じ又は他の実施形態において、THCは、組成物に対して10、9、8、7、6、5、4、3、2又は1ppm未満の量で存在し得る。
【0060】
[00077] いくつかの実施形態において、組成物中のCBDの濃度は、約10、20、30、40、50、60、70、80又は90~約350、300、250、200、150又は100mg/組成物のmLの範囲であり得る。
【0061】
[00078] β-カリオフィレン(BCP)
[00079] 本発明による組成物は、(任意選択で)β-カリオフィレン(BCP)及び/又はその誘導体を追加の活性医薬品として含有し得る。BCPは、trans-(1R,9S)-8-メチレン-4,11,11-トリメチルビシクロ[7.2.0]ウンデカ-4-エン又は[1R-(1R,4E,9S)]-4,11,11-トリメチル-8-メチレン-ビシクロ[7.2.0]ウンデカ-4-エン及びその誘導体とも呼ばれる。BCPは、カンナビス・サティバ(Cannabis sativa)を含む植物の植物抽出物に存在する天然の二環式セスキテルペン化合物である。それは、多くの精油、特にクローブ(シジギウム・アロマティカム(Syzygium aromaticum))オイルの構成成分であり、「一般に安全と認められる」(GRAS)。
【0062】
[00080] CBDの抗炎症活性は、BCPの添加により相乗的に増大されるであろうことが予測又は期待される。カリオフィレンは、内因性カンナビノイド系と(CB2受容体で)相互作用することが知られている唯一のテルペンである。β-カリオフィレンは、選択的にCB2受容体に結合し、機能的CB2アゴニストである。さらに、β-カリオフィレンは、食料品中の機能的非精神活性CB2受容体リガンドとして及び大麻中のマクロ環状抗炎症カンナビノイドであると特定された(Proc Natl Acad Sci USA. 2008 Jul. 1; 105 (26): 9099-104. doi: 10.1073/pnas.0803601105. Epub 2008 Jun. 23。β-カリオフィレンは、食事由来のカンナビノイドでもある)。
【0063】
[00081] BCP及びその誘導体とCBDとの重量比は、約1:10、1:9、1:8、1:7、1:6、1:5、1:4、1:3、1:2、1:1、2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、7:1、8:1、9:1、10:1又はこれらの比内に含まれる他の比であり得る。組成物中のBCPの濃度は、約10、20、30、40、50、60、70、80又は90~約350、300、250、200、150又は100mg/組成物のmLの範囲であり得る。一実施形態において、組成物は、組成物の1mLあたり約100mgのCBD及び100mgのBCPを含有する。
【0064】
[00082] BCPの商業的供給源は、Sigma Aldrichから入手可能な製品を含み、その製品仕様書は、添付文書A(CAS番号87-44-5)に含まれている。そのような製品は、少なくとも95%w/wの主要な及び微量のC15H24テルペン並びに5%w/wまでの製造の副生成物などの不純物を含有する。そのため、Sigma AldrichのBCPは、少なくとも95%の「純度」を有する。本発明の他の実施形態は、より高い純度を有するBCP、例えば純度が少なくとも96、97、98、99又は99.5%であるBCPの他の商業的供給源を使用することができる。
【0065】
[00083] 本組成物に使用されるBCP及びその誘導体は、合成由来又は天然由来であり得る。
【0066】
[00084] 本明細書で使用される場合、BCP「誘導体」は、C15H24微量テルペン炭化水素を意味し、Sigma-Aldrich製品に存在する微量のテルペンを含む。
【0067】
[00085] 薬学的に許容できる溶媒
[00086] 薬学的に許容できる溶媒は、本組成物中の活性医薬品を可溶化させるために使用される。これらは、好ましくは、皮下(SC)、筋肉内(IM)、腹腔内(IP)及び静脈内経路(IV)による非経口投与に好適でなければならない。CBD及びBCPなどの脂溶性薬剤では、これらの溶媒は、疎水性又は親油性である。
【0068】
[00087] 疎水性又は親油性の溶媒の例としては、中鎖(C6~C12)トリグリセリド(MCT)、長鎖(C14~C20)トリグリセリド、構造脂質、ジ(カプリル/カプリン酸)プロピレングリコール、植物油、N-メチル-2-ピロリドン(NMP;Pharmasolve)、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、ジメチルアセトアミド(DMA)、エタノール、グリセリン、PEG300、PEG400、ポリオキシエチレン20ソルビタンモノオレエート、プロピレングリコール(PG)、12-ヒドロキシステアリン酸のポリグリコールモノ-及びジエステル、商標Kolliphor(商標)と関連して販売されている溶媒並びにこれらの混合物を含む天然及び合成の溶媒がある。
【0069】
[00088] 「中鎖トリグリセリド」は、3つのC6~C12脂肪酸鎖を有し、3つの脂肪酸鎖が同じであるか又は異なり得るグリセロールのエステルを指す。中鎖トリグリセリドは、以下の式により表される。
【化3】
【0070】
[00089] 式中、各xは、独立に、4、6、8又は10である。xが4である場合、鎖は、C6脂肪酸と称される。xが6である場合、鎖は、C8脂肪酸と称される。xが8である場合、鎖は、C10脂肪酸と称される。xが10である場合、鎖は、C12脂肪酸と称される。種々の実施形態において、トリグリセリドの1分子内において、各xは、同じ整数であるか;2つのxは、同じ整数であり、1つのxは、異なる整数であるか;又は各xは、異なる整数である。
【0071】
[00090] 好ましくは、組成物は、中鎖トリグリセリド(MCT)を含有し、より好ましくはC8及びC10脂肪酸が組成の少なくとも95%を構成しているものを含む。中鎖トリグリセリドは、合成又は天然(例えば、ヤシ油及び/又はパーム核油などの分画された油から製造される)であり得る。
【0072】
[00091] 種々の実施形態において、中鎖トリグリセリドは、(i)3つのC8脂肪酸;(ii)3つのC10脂肪酸;(iii)2つのC8脂肪酸及び1つのC10脂肪酸;(iv)2つのC10脂肪酸及び1つのC8脂肪酸;(v)2つのC8脂肪酸及び1つのC6脂肪酸;(vi)2つのC10脂肪酸及び1つのC6脂肪酸;(vii)1つのC8脂肪酸、1つのC10脂肪酸及び1つのC6脂肪酸;又は(viii)C6、C8、C10及びC12脂肪酸の任意の他の組合せのエステルを含む。一実施形態において、中鎖トリグリセリドは、2つのC8脂肪酸及び1つのC10脂肪酸を含む。一実施形態において、中鎖トリグリセリドは、2つのC10脂肪酸及び1つのC8脂肪酸を含む。
【0073】
[00092] 当業者は、中鎖トリグリセリドの混合物が、中鎖トリグリセリドを調製するために使用されるあらゆるプロセス(例えば、分画、水素化)から生じ得ることを認識するであろう。例えば、分画されたヤシ油から得られる実質的に全ての中鎖トリグリセリドは、C8及び/又はC10脂肪酸を含み得る。しかし、C6及び/又はC12脂肪酸を含有するいくらかの中鎖トリグリセリドが存在し得る。
【0074】
[00093] 一実施形態において、中鎖トリグリセリドは、(i)0~2%w/wのC6脂肪酸、65~80%w/wのC8脂肪酸、20~35%w/wのC10脂肪酸及び0~2%w/wのC12脂肪酸;(ii)0~2%w/wのC6脂肪酸、50~65%w/wのC8脂肪酸、30~45%w/wのC10脂肪酸及び0~2%w/wのC12脂肪酸;(iii)0~2%w/wのC6脂肪酸、45~65%w/wのC8脂肪酸、30~45%w/wのC10脂肪酸、0~3%w/wのC12脂肪酸;及び0~5%w/wのリノール酸;又は(iv)0~2%w/wのC6脂肪酸、45~55%w/wのC8脂肪酸、30~40%w/wのC10脂肪酸、0~3%w/wのC12脂肪酸及び10~20%w/wのコハク酸のエステルを含む。一実施形態において、中鎖トリグリセリドは、0~2%w/wのC6脂肪酸、50~65%w/wのC8脂肪酸、30~45%w/wのC10脂肪酸及び0~2%w/wのC12脂肪酸を含み、MIGLYOL(登録商標)812(IOI Oleo GmbH, Herrengraben 31, 20459 Hamburg, Germany)として市販されている。重量%は、トリグリセリドの総脂肪酸含量に基づいている。一実施形態において、中鎖トリグリセリドは、2%w/wまでのC14脂肪酸を含み得る。
【0075】
[00094] 担体は、1、2、3、4種以上の異なる中鎖トリグリセリドを含み得る。一実施形態において、担体は、2つのC8脂肪酸及び1つのC10脂肪酸のエステルを含む中鎖トリグリセリドを含む。一実施形態において、担体は、1つのC8脂肪酸及び2つのC10脂肪酸のエステルを含む中鎖トリグリセリドを含む。一実施形態において、担体は、2種の異なる中鎖トリグリセリドを含み、第1の中鎖トリグリセリドは、2つのC8脂肪酸及び1つのC10脂肪酸のエステルを含み、第2の中鎖トリグリセリドは、1つのC8脂肪酸及び2つのC10脂肪酸のエステルを含む。一実施形態において、担体は、中鎖トリグリセリドの総脂肪酸含量に基づいて0~2%w/wのC6脂肪酸、50~65%w/wのC8脂肪酸、30~45%w/wのC10脂肪酸、0~2%w/wのC12脂肪酸を含む中鎖トリグリセリドを含む。
【0076】
[00095] トリグリセリドは、当技術分野で公知である方法により調製され得、MIGLYOL(登録商標)810、812、818、829(IOI Oleo GmbH, Herrengraben 31, 20459 Hamburg, Germany)、NEOBEE(登録商標)1053、895、M-5(Stepan Company, Northfield, IL)及びLabrafac(Gattefosse)として市販されている。Vigon International, Inc.は、C8とC10トリグリセリドとの約55:45~約65:35の比(C8:C10)の混合物を含有するMCTも販売している。
【0077】
[00096] 別の実施形態において、薬学的に許容できる溶媒は、C8及びC10の鎖長(カプリル酸及びカプリン酸)を有する飽和植物性脂肪酸のプロピレングリコールジエステルである。そのような市販の担体の一例は、MIGLYOL(登録商標)840(IOI Oleo GmbH, Herrengraben 31, 20459 Hamburg, Germany)である。
【0078】
[00097] 他の薬学的に許容できる溶媒としては、非限定的に、商標Solutol HS 15、Kolliphors(商標)(以前にはCremophors(商標))、Labrasol、Labrafil及びGelucireと関連して市販されているものがある。
【0079】
[00098] Solutol HS 15は、親油性化合物と親水性化合物との混合物で構成されている(およそ70%親油性が12-ヒドロキシステアリン酸のポリグリコールモノ-及びジエステルからなり、およそ30%の親水性がポリエチレングリコールからなる)。Solutol HS 15は、12-ヒドロキシステアリン酸を15モルのエチレンオキシドと反応させることにより合成される。
【0080】
[00099] Kolliphors(商標)(以前にはCremophors(商標))も溶媒中に使用することができる。これらは、種々の疎水性成分と親水性成分との複雑な混合物である。Kolliphor(商標)ELは、35モルのエチレンオキシドを1モルのヒマシ油と反応させることにより得られ、約83%の疎水性構成成分を含み、その主成分は、グリセロールポリエチレングリコールリシノレートである。Kolliphor(商標)RH 40は、40モルのエチレンオキシドを1モルの水添ヒマシ油と反応させることにより得られ、約75%の疎水性構成成分を含み、その主成分は、グリセロールポリエチレングリコール12-ヒドロキシステアレートである。
【0081】
[000100] Labrasolは、モノ-、ジ-及びトリグリセリドと、PEG400のモノ-及びジ-脂肪酸エステルとの混合物である。Labrasolは、ヤシ油由来の中鎖トリグリセリド及びPEG400を使用して加アルコール分解/エステル化反応により合成され、主な脂肪酸は、カプリル酸/カプリン酸である。
【0082】
[000101] Labrafil M-1944 CSは、モノ-、ジ-及びトリグリセリドと、PEG300のモノ-及びジ-脂肪酸エステルとの混合物である。Labrafil M-1944 CSは、杏仁油及びPEG300を使用して加アルコール分解/エステル化反応により合成され、主な脂肪酸は、オレイン酸(58~80%)である。
【0083】
[000102] Labrafil M-2125 CSは、モノ-、ジ-及びトリグリセリドと、PEG300のモノ-及びジ-脂肪酸エステルとの混合物である。Labrafil M-2125 CSは、コーン油及びPEG300を使用して加アルコール分解/エステル化反応により合成され、主な脂肪酸は、リノール酸(50~65%)である。
【0084】
[000103] Gelucire 44/14は、モノ-、ジ-及びトリグリセリドと、PEG1500のモノ-及びジ-脂肪酸エステルとの混合物である。Gelucire 44/14は、パーム核油及びPEG1500を使用して加アルコール分解/エステル化反応により合成され、主な脂肪酸は、ラウリン酸である。
【0085】
[000104] 当業者であれば、参照により全体として本明細書に組み込まれるStrickley,“Solubilizing Excipients in Oral and Injectable Formulations”(Pharmaceutical Research, Vol. 21, No. 2, February 2004 ((著作権)2004))などの発表された文献に基づいてSC、IM及びIV投与のために組成物を製剤する方法を理解するであろう。保存剤、乳化剤、等張化剤、塩、緩衝剤、希釈剤などの成分も使用され得る。
【0086】
[000105] 好ましい実施形態において、組成物は、MCT中に溶解された有効量のCBD又は有効量のCBD及びBCPのそれぞれを含み、水及びミセルを実質的に含まない。
【0087】
[000106] 投与の方法
[000107] 本組成物は、例えば、静脈内(IV)、皮下(SC)、腹腔内(IP)及び筋肉内(IM)注射を介した非経口投与のためのものである。以下の実施例は、本組成物が、白血球媒介性の炎症、心臓線維症及び/又は心肥大を低減させるのに有用であり得ることを示す。
【0088】
[000108] 本組成物は、少なくとも週に1回又は6、5、4、3若しくは2日ごとに少なくとも1回投与することができる。組成物は、少なくとも1日1回又は少なくとも1日2回投与することもできる。各投与では、少なくとも約0.1、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15又は20mgの薬学的に活性な薬剤が体重1kgあたりで投与される。治療期間は、6、5、4、3若しくは2か月間又は8、7、6、5若しくは4週間であり得る。慢性病態(例えば、心不全)の場合、長期毒性を避けるように投与量を選択して、非常に低い投与量が無期限に投与され得ることが想定される。一実施形態において、1mg/kg体重を少なくとも週に1回又は1、2、3、4若しくは5日ごとに少なくとも1回、無期限に投与することができる。
【実施例
【0089】
[000109] 実施例
[000110] 実施例1 - CBDは、インビトロでH9c2細胞中のアンジオテンシンII媒介性の肥大を低減させる
[000111] インビトロで、心筋細胞の細胞株であるH9c2細胞を使用して、心筋細胞肥大のモデルにおいてCBDの効果を測定する試験を実施した。この試験において、培地中で成長させたH9c2細胞を4群に分けた。1群には、何も加えなかった(「対照」)。第2、第3及び第4群には、アンジオテンシンIIを培地に加えて(「Ang」)、1.0μMの最終濃度にした。アンジオテンシンIIを加えて肥大を誘発させた。第3群には、CBDも加えて、0.1μMの濃度にした(「Ang+CBD0.1μM」)。最後に、第4群には、やはりCBDを加えて、1μMの濃度にした(「Ang+CBD1μM」)。
【0090】
[000112] 図1は、各群のH9c2細胞の代表的な共焦点顕微鏡画像を含む。画像を、同じパラメーターを有するモデルを使用して得て、1細胞あたりの表面積を測定するための細胞染色を、カルセイン蛍光染料を使用して達成した。この図で分かる通り、第2群の細胞は、第1の群の細胞の細胞表面積より著しく大きい細胞表面積を有していた。第3及び第4群の細胞は、第2群のものよりも著しく小さい細胞表面積を有していた。結果を図2にまとめ、各群は、1群あたり少なくとも3つの独立した反復を含む。
【0091】
[000113] このように、試験は、CBDが心細胞に対して効果を発揮し、インビトロでH9c2細胞へのアンジオテンシンII投与によって引き起こされる肥大の程度を低減させるのに有効であることを実証した。
【0092】
[000114] 試験を、7群に分けて培地中で成長させたH9c2細胞を使用して繰り返した。1つの群には、何も加えなかった(「CTRL」)。第2、4、5、6及び7群には、アンジオテンシンIIを培地に加えて(「ANG」)、1.0μMの最終濃度にした。アンジオテンシンIIを加えて肥大を誘発させた。第3群には、CBDを加えて、さらなる対照群として0.1μMの濃度にした(「CBD0.1μM」)。CBDを、(a)0.001μMの濃度になるように第4群に(「ANG+CBD0.001μM」)、(b)0.01μMの濃度になるように第5群に(「ANG+CBD0.01μM」)、(c)0.1μMの濃度になるように第6群に(「ANG+CBD0.1μM」)、及び最後に(d)1μMの濃度になるように第7群に(「ANG+CBD1μM」)も加えた。
【0093】
[000115] これらのH9c2細胞群において、BNP(心臓リモデリングバイオマーカー)(図3aを参照されたい)及びコラーゲン(図3bを参照されたい)の発現のmRNAレベルの用量依存性の低減があった。BNPは、ANG群と比べてANG+CBD1μM群において著しく低減し(図3a)、コラーゲンは、ANG群と比べて0.1及び1μM濃度のアンジオテンシン処理CBD群で著しく低減した(図3b)。炎症のマーカーであるミトコンドリア活性酸素種(ROS)も対照レベルまで低減した(図4を参照されたい)。
【0094】
[000116] これらの実験は、CBDが心細胞に対して抗肥大作用を発揮し、それが、リモデリングバイオマーカー及び炎症のメディエーターであるミトコンドリアROSを顕著に低減させることにより分子レベルで反映されていることを実証している。
【0095】
[000117] 実施例2 - CBDは、心臓炎症及び心不全のマウスモデルにおいて、線維化、筋細胞面積、リモデリングパラメーター及び炎症性サイトカインを低減させ、抗炎症性サイトカインを増大させる
[000118] 図5に表される非虚血性心不全(HF)のマウスモデルにおける心不全を治療又は予防するCBDの能力を評価する試験を実施した。
【0096】
[000119] 3~4週齢の雄のC57BL/6実験室マウスを実験に使用した。マウスを4群に分けた。第1群(対照)には、何も与えなかった。マウスの第2群(アンジオテンシン)には、0.1mg/mlのN(γ)-ニトロ-L-アルギニンメチルエステル(L_NAME)及び1%塩化ナトリウム(NaCl)を含有する水を1週間適宜与えた。これに続いて、0.7mg/kg/週のアンジオテンシンIIを、浸透圧ポンプを使用して4週間皮下投与した。第3群及び第4群を第2群と同じプロトコルに付したが、第3群(ANG+CBD1mg/kg)及び第4群(ANG+CBD10mg/kg)には、それぞれ1mg/kg及び10mg/kgの量の合成CBDを3日ごとに1回、同じ4週の期間中に皮下に与えた。この実験に使用したCBD組成物は、PEG400に溶解させたCBDからなっていた。
【0097】
[000120] 4週間の処置後、心臓組織を線維化及び筋細胞肥大並びにリモデリング及び炎症バイオマーカーの変化に関して評価した。
【0098】
[000121]線維化の増大及び筋細胞面積の増大(肥大)を含むいくつかの変化が、第1群と比べて第2、第3及び第4群のマウスの心臓に観察された。図6A、6B、6C及び6Dは、4群のそれぞれから採取した心臓組織の代表的なスライドを示す。心臓組織をマッソントリクローム染色で染色して、第1群(対照)に対して第2、第3及び第4群のマウスにおける線維化組織のレベルの増大(青色染色が証拠となる)を示し、第2群に対して第3及び第4群のマウスにおける線維化のレベルの低減を示した。この情報を図7にグラフとして表す。筋細胞面積も全4群で測定し、結果をやはり図8に示す。図7及び8は、1mg/kg及び10mg/kgの両方のCBDが、心不全のマウスモデルにおいて心臓線維症及び筋細胞面積を低減させるのに有効であったことを示す。各群は、1群あたり少なくとも3つの独立した反復を含んでいた。
【0099】
[000122] 図9は、全4群のマウスの心臓組織中のB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の、qPCRにより測定したmRNA発現のレベルを示す。1及び10mg/kgCBD群のいずれも、ANG群と比べて心臓中のBNP発現の有意な低減を示す。各群は、1群あたり少なくとも3つの独立した反復を含んでいた。BNPは、リモデリングマーカー及び心筋伸展(圧力過負荷)の臨床マーカーであり、それは、心臓機能不全及び心不全と正の相関がある(例えば、Glezeva et al.を参照されたい)。慢性心不全(CHF)を有する患者において、BNPレベルを100pg/mL未満に低減させることは、CHF関連の死亡又は入院のリスクを低減させるという臨床的証拠がある(Jourdain et al., 2007:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=17448376)。そのため、このBNPの低減は、心不全の治療及び/又は予防においてCBDが有益であり得ることも示し得る。
【0100】
[000123] さらに、炎症性サイトカインIL1βのmRNA発現は、対照レベルまで低減する傾向を示し(図10a)、炎症性サイトカインIL6のmRNA発現は、1及び10mg/kg体重の投与量のCBDの両方で著しく低減した(図10b)。IL10のmRNA発現は、1mg/kg体重の投与量のCBDで著しく増大した(図10c)。各群は、1群あたり少なくとも3つの独立した反復を含んでいた。IL10は、抗炎症性サイトカインであり、炎症性サイトカインの合成を阻害することが可能であるヒトサイトカイン阻害因子としても知られている。IL-10が血管保護において役割を有することを示唆する証拠があり;動物モデルにおいて、IL-10の欠如は、COX-2/トロンボキサンA2依存性の血管内皮及び心臓の機能不全の原因となることが示された(Gautam Sikka et al.,‘Interleukin 10 Knockout Frail Mice Develop Cardiac and Vascular Dysfunction with Increased Age’, Experimental Gerontology 48, no. 2 (February 2013): 128, https://doi.org/10.1016/j.exger.2012.11.001)。
【0101】
[000124] 要約すると、本発明者らは、非虚血性HFのマウスモデルにおいて、CBDの投与から生じた、リモデリング及び炎症パラメーターの用量依存性の低減を観察した。リモデリングに関して、線維化、筋細胞肥大並びにBNPの遺伝子発現の有意な低減を観察した。炎症パラメーターが改善し、すなわちCBD投与により炎症性サイトカインIL1及びIL6のレベルが低減し、抗炎症性サイトカインIL10のレベルが著しく増大した。これらの知見は、心臓炎症並びに関連する肥大及び線維化を低減させることによる、心不全並びに急性心筋炎、炎症性心筋症、心臓サルコイドーシス、急性心膜炎、特定の抗癌薬の投与から生じる心筋損傷及び場合により冠動脈硬化症病変の発生又は進行などの他の病態の治療又は予防におけるCBDの有益な役割を裏付ける。
【0102】
[000125] 実施例3 - CBDは、ヒトリンパ球及び単球の活性化を低減させる
[000126] さらなる試験を実施して、インビトロでイオノマイシン(1μg/mL)及びホルボールミリステートアセテート(PMA、50ng/mL)により活性化されたヒトリンパ球及び単球によるCD69(白血球活性化のマーカー)の発現に対するCBDの効果を測定した。
【0103】
[000127] 健康なヒトドナー由来の単核細胞を、Ficoll-Pacque HE Healthcareにより勾配法を利用して単離した。10%FCS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを有するRPMI培地で細胞を洗浄し、次いで12ウェルトレイ中に1×10細胞/mLで配置し、イオノマイシン1μg/ml及び50ng/mlのPMAで4時間刺激した。DMSOをビヒクルとして使用する15分前にCBDを加えた。刺激後、細胞を再び洗浄し、150μL染色緩衝液(PBS+1%BSA)に再懸濁させた。表面マーカー染色の最適化されたプロトコルを使用した。CD69を細胞に加え、次いでそれを15分間暗所で室温においてインキュベートした。この後、細胞をPBS+1%BSAで2回洗浄し、150μL緩衝液に再懸濁させた。細胞を4度に保ってから、FACSCanto(商標)IIサイトメーターで分析した。細胞集団をFSC/SSCで測定した。事象の数は、1ゲートあたり少なくとも2000事象であった。データをFCS3.0ファイルとして保存した。データをFlowJo Xにより分析した。ダブレットをFSC-A/FSC-Wの除外ゲートにより区別した。リンパ球及び単球のゲーティングをFSC-A/SSC-Aにより決定した。CD69-FITCの頻度及び発現をそのFITCチャネルで分析した。
【0104】
[000128] 図11は、5μg/mL以上の量(10%ウシ胎児血清及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを有するRPMIを含有する細胞培養液の1mLあたり)のCBDの投与が、単球及びリンパ球の両方によるCD69の発現のレベルを低減させたことを示す。このように、この実験は、CBDがインビトロで白血球活性化を低減させることができ、心不全の根源的な病理の1つである炎症を低減させると期待され得ることを示す。
【0105】
[000129] 産業上の利用可能性
[000130] 本明細書に記載される実験は、CBDが、心臓炎症並びに関連する肥大及び線維化を低減させることにより、心不全(例えばHFpEF)、急性心筋炎、抗癌療法(例えば、ドキソルビン、チェックポイント阻害剤)によって引き起こされる毒性、急性心膜炎、心臓サルコイドーシス、炎症性心筋症及びアテローム性動脈硬化からなる群から選択される心臓病態の治療又は予防において有用であることを示す。
【0106】
[000131] 急性炎症は、感染を排除し、損傷を受けた組織を修復するための、感染及び損傷を受けた細胞を含む危険信号に対する体の免疫系の防御反応である。免疫細胞が感染又は損傷の部位に近づくことができるように、炎症は、血流及び血管の浸透性の増大をもたらす。組織修復及び危険信号の除去後、初期の炎症反応及び修復反応のスイッチを切ることが必須である。これは、通常、蓄積された炎症細胞がアポトーシスにより細胞死を起こし、それらがエフェロサイトーシスによりマクロファージに取り込まれることの結果であり、抗炎症反応を誘発して炎症を停止させるプロセスである。このスイッチを切ることができないと慢性炎症が継続し、それは、心不全を含む多くの疾患に見られる。
【0107】
[000132] 上述の通り、人々を心不全に罹りやすくさせる因子としては、加齢、糖尿病及び肥満がある。これらの状態は、低度のバックグラウンド炎症の増大と関連している。理論に拘束されることはないが、慢性炎症は、とりわけ、アポトーシス細胞のエフェロサイトーシスの不具合から生じ、心筋細胞(心臓筋細胞)の細胞死の増大、線維形成の増大(瘢痕組織の蓄積)並びにこれらの機構から生じる心筋の弱体化及び硬化が原因である心機能の低下を起こすと考えられている。
【0108】
[000133] 急性心筋炎は、35歳未満の人々の心臓突然死の主たる原因である。それは、心臓筋肉(心筋)内の炎症を特徴とする。それには多くの原因があるが、最もよく見られるものは、ウイルス感染である。ほとんどの患者において、免疫系は、5~7日でウイルスを排除するのに有効であり、炎症が弱まり、個人が完全に回復する。しかし、一部の患者では、心臓内の炎症が - 恐らく自己免疫過程として - 継続し、心不全の症状及び徴候と共に心機能の低下を起こす。場合により、これは、進行性になり、最も一般的な心臓移植の理由である慢性拡張型心筋症をもたらす。
【0109】
[000134] 上述の実施形態は、単に例示に過ぎず、本明細書に詳細に説明され、以下の特許請求の範囲により定義される本発明の範囲を限定するものではない。
【0110】
【表1】
図1
図2
図3a
図3b
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
図8
図9
図10a
図10b
図10c
図11
【国際調査報告】