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特表2022-553669材料を植物細胞表面から獲得する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-26
(54)【発明の名称】材料を植物細胞表面から獲得する方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/14 20060101AFI20221219BHJP
   C07K 4/08 20060101ALI20221219BHJP
   C12N 5/04 20060101ALN20221219BHJP
【FI】
C07K1/14
C07K4/08
C12N5/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022522963
(86)(22)【出願日】2020-10-16
(85)【翻訳文提出日】2022-06-14
(86)【国際出願番号】 EP2020079143
(87)【国際公開番号】W WO2021074354
(87)【国際公開日】2021-04-22
(31)【優先権主張番号】19203842.0
(32)【優先日】2019-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506047949
【氏名又は名称】エレヴァ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】eleva GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100138900
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】ヤーン,ベレンガル
(72)【発明者】
【氏名】ニーダークリューガー,ホルガー
(72)【発明者】
【氏名】コッホ,ヨーナス
(72)【発明者】
【氏名】ブッシュ,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】シャーフ,アンドレアス
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA88X
4B065BC02
4B065BC10
4B065BD14
4B065CA24
4H045AA50
4H045CA30
4H045FA72
(57)【要約】
本発明は、発現された材料を、植物細胞の表面からまたはアポプラストから剥離させる方法であって、植物細胞が液体培地中でローター-ステーターで処理され、ローターの回転によって導入されるローター-ステーター由来の比熱が、液体培地1kg当たりおよび植物細胞の乾燥重量1g/L当たり最大で3kJであり、培地に導入される比熱容量が、1分当たり液体培地1kg当たりおよび植物細胞の乾燥重量1g/L当たり最大で1.5kJである、方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発現された材料を、植物細胞の表面からまたはアポプラストから剥離させる方法であって、前記植物細胞が、液体培地中でローター-ステーターで処理され、ローターの回転によって導入される前記ローター-ステーター由来の比熱が、前記液体培地1kg当たりおよび前記植物細胞の乾燥重量1g/L当たり最大で3kJであり、前記培地に導入される比熱容量が、1分当たり前記液体培地1kg当たりおよび前記植物細胞の乾燥重量1g/L当たり最大で1.5kJである、方法。
【請求項2】
前記発現された材料が、前記植物細胞の前記アポプラスト中に存在することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ローターの回転によって導入される前記ローター-ステーター由来の熱が、前記液体培地1kg当たり少なくとも1kJであり、および/または前記ローター-ステーター由来の前記比熱が、前記液体培地1kg当たりおよび前記植物細胞の乾燥重量1g/L当たり少なくとも0.1kJであることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ローターの回転によって前記培地に導入される熱容量が、前記液体培地1kg当たりおよび1分当たり少なくとも0.2kJであり、および/または前記培地への前記比熱容量が、1分当たり前記液体培地1kg当たりおよび前記植物細胞の乾燥重量1g/L当たり少なくとも0.02kJであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記発現された材料がタンパク質を含有すること、および/または前記発現された材料が、分泌材料、好ましくは細胞膜を通じて分泌されたタンパク質であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ローター-ステーターが、前記培地を有する容器に導入されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ローター-ステーターが、少なくとも1つの入口および出口を有する内部を有し、前記少なくとも1つの入口および出口を介して前記液体培地が、前記内部から連続的に供給されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ステーターが、10cm~1mの容量に範囲を定めること、および/または処理される液体培地の量が、最大50kg、好ましくは0.5g~50kgであることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記植物細胞が、前記液体培地中に0.2g/L~60g/Lの濃度(乾燥重量としての植物細胞の質量)で存在することを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記植物細胞が、蘚類細胞、好ましくはヒメツリガネゴケ(P. patens)細胞であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ローターが、1分当たり15,000回転、好ましくは1分当たり1,000~15,000回転の最大回転速度で操作されることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ローター-ステーターが、ロッドホモジナイザーまたはシャーポンプであり、および/または前記ステーターが、くし形構造を有することを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ローターの回転によって導入される前記ローター-ステーター由来の前記熱が、前記液体培地1kg当たり最大で30kJであり、前記培地に導入される前記熱容量が、前記液体培地1kg当たりおよび1分当たり最大で1.5kJであることを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記培地が、5~8の範囲のpHおよび/または少なくとも0.1osmol/Lのオスモル濃度を有することを特徴とする、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記植物細胞が、前記ローター-ステーターで2分~150分間、処理されることを特徴とする、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞からのタンパク質の単離に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質を細胞または細胞複合体から単離する方法として、浸透圧溶解、酵素的または化学的溶解、超音波処理および機械的消化が挙げられる。概して、細胞は、機械的消化の目的でホモジナイザーまたは混合器を用いて粉砕される。
【0003】
また、細胞複合体を分割させるために、および細胞を浮遊させるために、短い処理時間が用いられ得、その上で、総細胞計数のほんの部分的な溶解が起きる(Orellana-Escobedo et al., Plant Cell Rep. 2015, 34(3):425-33)。
【0004】
タンパク質が個々の細胞小器官または細胞区画から単離されると、細胞小器官は通常、消化前に単離され、続いて、単離体を使用して消化が行われる。
【0005】
Witzel et al., Plant Methods 2011, 7:48、Leary et al., J Vis Exp. 2014; (94):52113、およびCordoba-Pedregosa et al., Plant Physiology 1996, 112(3):1119-1125は、タンパク質を植物細胞のアポプラストから抽出する方法について記載している。プロトプラストの外側の間隙は、アポプラストと定義される。アポプラストは、細胞壁および細胞間隙から構成される。それらの刊行物に記載される方法は、種々の浸潤溶液(例えば、塩)による浸透圧抽出および遠心分離を包含する。しかしながら、当該方法は、当該抽出において、浸潤によって到達しやすくなっている材料のみが抽出され得るという不都合を被っている。
【0006】
US 2015/0140644 A1号およびAU 2017 202473 B2号は、細胞壁の溶解、インキュベーションおよび抽出の工程を用いてタンパク質をアポプラストから獲得する方法について記載している。タンパク質に対する酵素的または化学的修飾が、そこでは可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的の1つは、材料の、特にアポプラストに分泌された材料の、アポプラストからの単離または抽出に関する改善された選択肢を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、発現された材料を、植物細胞の表面からまたはアポプラストから剥離させる方法であって、植物細胞が液体培地中でローター-ステーターで処理され、ローターの回転によって導入されるローター-ステーター由来の比熱が、液体培地1kg当たりおよび植物細胞の乾燥重量1g/L当たり最大で3kJであり、培地に導入される比熱容量が、1分当たり液体培地1kg当たりおよび植物細胞の乾燥重量1g/L当たり最大で1.5kJである、方法に関する。
【0009】
同様に、さらなる態様において、本発明は、発現された材料を、1つまたは複数の植物細胞の表面からまたはアポプラストから剥離させる方法であって、1つまたは複数の植物細胞が液体培地中でローター-ステーターで処理され、ローターの回転によって導入されるローター-ステーター由来の熱が、液体培地1kg当たり最大で30kJであり、培地に導入される熱容量が、液体培地1kg当たりおよび1分当たり最大で1.5kJである、方法に関する。
【0010】
両方の態様のパラメーターは、特に参照値のみが関係しており、本発明の趣旨が両方の場合において供されるので、組み合わせられてもよい。本発明の詳細な説明およびそこで記載される好ましい実施形態は全て、本発明の態様全てを指す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、植物または植物細胞の保存的ローター-ステーター処理に関し、それは、他の状況で通常使用される均質化と対比して、材料を細胞または植物のアポプラストから剥離させる。これに関連して、プロトプラストは、実質的に無傷のままであり、単離されるべき発現された材料の、プロトプラストの細胞の内部由来の細胞構成成分による汚染が回避される。これに関連して、本発明によれば、ローター-ステーターによる処理の強度および持続期間は限られる。比熱または熱容量として決定される低入力のエネルギーを用いたローター-ステーター処理によって、所望の発現された材料の申し分のない剥離が可能であることがわかっている。液体培地1kg当たりおよび植物細胞の乾燥重量1g/L当たり最大で3kJのローターの回転によって導入されるローター-ステーター由来の比熱を用いて、ならびに1分当たり液体培地1kg当たりおよび植物細胞の乾燥重量1g/L当たり最大で1.5kJのローターの回転によって導入される培地への比熱容量を用いて、優れた結果が得られ得る。同様に、ローターの回転によって導入されるローター-ステーター由来の熱が、液体培地1kg当たり最大で30kJである場合に、ならびに培地に導入される熱容量が、液体培地1kg当たりおよび1分当たり最大で1.5kJである場合に、良好な結果が得られ、本発明の概念はまさに同じである。本発明によれば、植物または植物細胞は、この場合は均質化されず、発現された材料が、表面からまたはアポプラストから外へ剥離される程度にのみ処理される。
【0012】
本発明による方法を用いて、発現された材料は、細胞またはアポプラスト(細胞壁および細胞間隙全体)の表面から獲得される。このタイプの材料は通常、分泌によってこれらの部位に到達し、同様に通常は植物細胞に関しては培養培地中に見出される。しかしながら、本発明の過程で、大量の分泌された材料が表面に、特に細胞壁またはアポプラストに付着することが突き止められた。この接着している材料は、本発明により獲得され、その上で、産生の増加が、本発明による方法を用いて達成され得る。ローター-ステーター処理を用いない方法、即ち、分泌された発現された材料の単離と比較して、収率のおよそ10倍増加が観察された。
【0013】
ローター-ステーターの処理強度、持続期間および容量は、十分な量の発現された材料(所望の産物)を得るために本発明により最大パラメーター内になるように選択される。しかしながら、産物の汚染は、より高入力のエネルギーに伴って起きるので、熱または比熱として定量化される、導入されるエネルギーを表す処理強度、持続期間および容量は限られる。
【0014】
好ましくは、ローターの回転によって導入されるローター-ステーター由来の比熱は、液体培地1kg当たりおよび植物細胞の乾燥重量1g/L当たり最大で3kJである(3kJ/kg/(g/L)または3kJ/kg/g/Lと略記される)。特に好ましくは、全ての残留物の汚染をさらに低減するために、比熱はより低く保持され得る。したがって、好ましくは、ローター-ステーターから導入される比熱は、最大で2.75kJ/kg/(g/L)、またはより好ましくは最大で2.5kJ/kg/(g/L)、最大で2.25kJ/kg/(g/L)、最大で2kJ/kg/(g/L)、最大で1.75kJ/kg/(g/L)、最大で1.5kJ/kg/(g/L)、最大で1.25kJ/kg/(g/L)、または最大で1kJ/kg/(g/L)である。
【0015】
さらに、本発明によれば、導入される熱の適宜のパラメーターは、植物の量に対するいかなる言及とも無関係である。幾つかの実施形態において、ローター-ステーターが、植物細胞とは無関係にエネルギーを細胞培地に送達するので、このことは重要であり、昇温に現れ得る。好ましくは、ローターの回転によって導入されるローター-ステーター由来の熱は、液体培地1kg当たり最大で30kJ(kJ/kgと略記される)、好ましくは最大で25kJ/kg、最大で20kJ/kg、最大で15kJ/kgまたは最大で10kJ/kgである。
【0016】
この導入される比熱または導入される熱は、例えば、時間的に限られた処理期間および/または処理の強度(および同様に、比熱容量または熱容量のパラメーター)を用いて調節することができる:
【0017】
本発明による方法では、ローター-ステーターは、低強度で、例えば低回転速度で操作される。選択されたパラメーターを用いて特定の強度で導入される特定の方法の熱(または熱容量)は、比較実験で、例えば、水または公知の熱容量を有する別の培地の温度を上げることによって測定され得る。上記方法の熱を決定する場合、温度に影響を与える他の作用、特に熱損失は、排除され得るか、またはこの様式でローター-ステーターの熱もしくは熱容量を獲得するために計算の際に考慮され得る。好ましくは、熱または熱容量は、デュワーフラスコ中で決定される。
【0018】
器具とは無関係に、導入される比熱容量または導入される熱容量は、重要であると認識される(上記のように、「比」は、植物材料の量に対する適宜の参照値を指す)。好ましくは、培地に導入される比熱容量は、1分当たり液体培地1kg当たりおよび植物細胞の乾燥重量1g/L当たり最大で1.5kJ(kJ/kg/分/(g/L)またはkJ/kg/分/g/Lと略記される)である。特に好ましくは、この比熱容量は、最大で1.25kJ/kg/分/(g/L)、最大で1kJ/kg/分/(g/L)、最大で0.8kJ/kg/分/(g/L)、最大で0.6kJ/kg/分/(g/L)、最大で0.5kJ/kg/分/(g/L)、最大で0.4kJ/kg/分/(g/L)、最大で0.3kJ/kg/分/(g/L)、最大で0.2kJ/kg/分/(g/L)、最大で0.15kJ/kg/分/(g/L)、最大で0.125kJ/kg/分/(g/L)、または最大で0.1kJ/kg/分/(g/L)である。これに類似した様式では、培地に導入される熱容量は、液体培地1kg当たりおよび1分当たり最大で1.5kJ(kJ/kg/分と略記される)である。好ましくは、この熱容量は、最大で1.25kJ/kg/分、最大で1kJ/kg/分、最大で0.8kJ/kg/分、最大で0.6kJ/kg/分、最大で0.5kJ/kg/分、または最大で0.4kJ/kg/分である。
【0019】
処理がより強力であるかまたは長いと、獲得される材料の量はより多い。好ましくは、ローターの(ローター-ステーターの)回転によって導入される熱は、液体培地1kg当たり少なくとも1kJ、特に好ましくは少なくとも2kJ/kgであり、および/またはローター-ステーター由来の比熱は、液体培地1kg当たりおよび植物細胞の乾燥重量1g/L当たり少なくとも0.1kJ、特に好ましくは少なくとも0.2kJ/kg/(g/L)である。
【0020】
好ましくは、ローターの回転によって培地に導入される熱容量は、液体培地1kg当たりおよび1分当たり少なくとも0.2kJ、好ましくは少なくとも0.4kJ/kg/分であり、および/または培地への比熱容量は、1分当たり液体培地1kg当たりおよび植物細胞の乾燥重量1g/L当たり少なくとも0.02kJ、好ましくは少なくとも0.04kJ/kg/分/(g/L)である。
【0021】
発現された材料は、好ましくはタンパク質を含有する。タンパク質、特に組換えの発現されたタンパク質は、適切なシグナル配列により分泌経路を特異的に下方へと誘導されて、したがって、表面上にまたはアポプラスト中に集中するように導かれ得る。好ましくは、発現された材料は、植物細胞のアポプラスト中に存在し、そこから、発現された材料は、本発明による方法を用いて獲得され得る。より好ましくは、発現された材料は、分泌材料、好ましくは細胞膜または細胞壁を通じて分泌されたタンパク質である。
【0022】
本発明によれば、ローター-ステーターは、液体培地中で植物細胞を加工処理して、発現された材料を獲得するために使用される。
【0023】
ローター-ステーターは、その回転運動のため植物細胞に剪断力をかける少なくとも1つのローターを含む。剪断力によって、植物細胞の表面またはアポプラストおよび細胞壁は、(構造的に)弛緩されて、表面から機械的に影響を受けるか、こすり落とされるか、または部分的に除去される。
【0024】
ローターは、ステーターに対して回転する。ステーターは、収納シースまたはローターに対する対応物であり得る。ローターは、刃もしくは剪断面を有する切断または剪断要素を有し得る。一般的な構造は、くし形構造を有し、ここで、通常は回転の軸に対して平行に配置される複数の剪断突起(例えば、歯または尖叉)が、剪断または切断作用を発揮する。例として、「複数」は、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個またはそれよりも多い剪断突起であり得る。
【0025】
ステーターは、ローターに対する対応物、特にその切断または剪断要素として構成され得る。ローターのように、ステーターは、それ自体の切断または剪断要素を有してもよく、例えば、同様にくし形構造を有してもよい。このタイプの構築は、DE 10 2005 031 459 A1号に記載されるように、ロッドホモジナイザーにおいて公知である。
【0026】
他の実施形態において、ステーターは、例えばフロースルーホモジナイザーにおいて、従来通り、収納構造であってもよい。フロースルーローター-ステーターの例は、WO2009/062610 A1号に記載されている。
【0027】
ローター-ステーターの例は、ロッドホモジナイザーまたはシャーポンプである。シャーポンプは、特にフロースルーシステムに関して使用される。
【0028】
好ましくは、ローターとステーターとの間に、例えば少なくとも1個またはそれより多い植物細胞のサイズの隙間が存在し、その結果、少なくともプロトプラストの形態の植物細胞は、ローターとステーターとの間を通過することができる。適切な隙間サイズは、50μm、70μm、80μm、100μm、150μmであるか、またはそれよりも大きく、ならびにこれらの距離間の任意の領域は、好ましくは最大で500μmまたは最大300μmまたは最大200μmである。
【0029】
記載の通り、プロトプラストの形態で植物細胞を保存するために、収集されるべき分泌された発現された材料の細胞内部物質による汚染を防止または低減するために、強度は弱く保持される。一般的なローター-ステーターモデルでは、この目的で、例えばローターが1分当たり15,000回転、好ましくは1分当たり1,000~15,000回転の最大回転速度で操作される実施形態において、回転速度が低減される。考え得る回転速度は、1分当たり3,000~14,000、4,000~13,000、5,000~12,000または6,000~11,000回転である。
【0030】
植物細胞は、ローター-ステーターが導入される容器中に存在し得る。この目的で、ローター-ステーターは、培地を有する容器に導入され得る。この「バッチ」構造(不連続操作用)は、特にロッドホモジナイザーとともに使用される。さらに大規模では、フロースルーローター-ステーターが使用されることが好ましい。この実施形態によれば、ローター-ステーターは、少なくとも1つの入口および出口を有する内部を有してもよく、少なくとも1つの入口および出口によって液体培地は、内部から連続的に供給される。この場合の例は、連続法用のシャーポンプである。
【0031】
好ましくは、ステーターは、10cm(0.01L)~1m(1000L)の容量に範囲を定める。好ましい容量は、0.1L~800L、または0.5L~600Lまたは1L~400L、2L~200Lである。最大100Lの容量、特に好ましくは0.65L~50L、例えば1L~40Lが好ましい。これらの容量は、植物細胞用の培養培地の処理に特に適している。
【0032】
好ましくは、処理される液体培地の量は、最大50000kg、好ましくは0.5g~50,000kg、例えば1g~25,000kg、2g~10,000kg、5g~5,000kg、10g~2,500kg、20g~1,000kg、30g~500kg、50g~250kg、100g~100kg、200g~50kg、500g~250kg、1kg~100kg、2kg~50kgまたは4kg~20kgである。このタイプの量は、不連続法において1回の実行で使用されることが好ましい量である。
【0033】
好ましくは、植物細胞は、液体培地中に0.2g/L~60g/Lの濃度(乾燥重量としての植物細胞の質量)で存在する。これに関して、植物細胞(常に乾燥重量として)に関する好ましい濃度は、0.5g/L~50g/L、1g/L~40g/L、2g/L~30g/L、4g/L~20g/Lであり、特に好ましくは、およそ10g/L、例えば5g/L~15g/Lである。これらの植物細胞濃度は、ローター-ステーターで特に効率的に加工処理される。
【0034】
好ましくは、植物細胞は、ローター-ステーターで2分~150分間、処理される。連続法では、これらの時間は、植物細胞に関する平均処理時間を指す。特に好ましい時間は、3分~120分、5分~100分、8分~80分、10分~60分、または特に好ましくは12分~40分である。大規模な培養容量を用いる場合、より長いローター-ステーター処理が行われ得る。好ましいさらなる見込みのある時間は、1時間~24時間、好ましくは2時間~20時間、3時間~16時間、4時間~12時間である。この様式で、好ましい処理時間は全て、3分~24時間の範囲内であり、また記載の処理時間の間のあらゆる範囲であるか、または実際にはそれよりも長い。
【0035】
好ましくは、植物細胞は、浮遊培養で培養され得る。この浮遊物は、本発明による方法において液体培地として直接加工処理され得る。あるいは、同様に蘚類がまず、例えば固体培養物、液体培養物または浮遊培養物から単離され、続いて、ローター-ステーター処理を実行するのに適した条件下で、水性培地中に浮遊させ得る。本発明による方法に特に適した植物は、非木質性植物である。好ましい植物は、藻類および蘚類、特に蘚苔類である。好ましくは、蘚苔類植物または細胞は、蘚類、好ましくはヒメツリガネゴケ(P. patens)である。蘚苔類は、任意の蘚苔類であり得るが、好ましくは蘚類、苔類またはツノゴケ類から、特に好ましくは蘚類綱(Bryopsida)またはニセツリガネゴケ属(Physcomitrella)、ヒョウタンゴケ属(Funaria)、ミズゴケ属(Sphagnum)、ヤノウエノアカゴケ属(Ceratodon)、ゼニゴケ属(Marchantia)およびダンゴゴケ属(Sphaerocarpos)から選択され得る。ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)は特に好ましい。最も好ましくは、本発明による方法は、苔類ヒメツリガネゴケ由来の原糸体等の植物組織由来の細胞を使用して実行される。好ましい藻類は、クロレラ目(Chlorellales)由来、好ましくはクロレラ科(Chlorellaceae)由来、より好ましくはオーキセノクロレラ属(Auxenochlorella)またはクロレラ属(Chlorella)、特にクロレラ・ブルガリス(Chlorella vulgaris)由来、およびボルボックス目(Volvocales)由来、好ましくはヘマトコッカス科(Haematococcaceae)由来、より好ましくはヘマトコッカス属(Haematococcus)、特にヘマトコッカス・プルビアリス(Haematococcus pluvialis)由来およびユースチグマトス目(Eustigmatales)由来、好ましくはロボセア科(Loboceae)、クロロボトリ科(Chlorobothryaceae)、シュードカラシオプシス科(Pseudocharaciopsidaceae)およびユースチグマトス科(Eustigmataceae)由来の緑藻類から選択される。さらに好ましい植物は、タバコ、マメまたはレンズマメである。好ましくは、植物は、例えば、アオウキクサ属(Lemna)、ウキクサ属(Spirodela)、ヒメウキクサ属(Landoltia)、ミジンコウキクサ属(Wolffia)またはウォルフィエラ属(Wolffiella)由来の水生植物である。
【0036】
植物細胞は、本発明の主題の構成要素である。「植物細胞」という用語は、本明細書中で使用する場合、単離細胞、個別化細胞を指し得るが、植物組織、好ましくはカルス、原糸体、師部、木部、葉肉、茎、葉、葉状体、クロロネマ、仮根もしくは茎葉体から選択される組織中または組織由来の細胞、あるいは植物生物中の細胞も指し得る。
【0037】
本発明による方法において、培地は好ましくは、特に上述するように、プロトプラスト(特に細胞膜由来の、細胞壁の内側の細胞構成成分)を保存するために、アポプラスト中/細胞表面上における発現された材料の汚染を防止するために生理学的pHを有する。液体培地のpHは、好ましくは3.5~8.5、特に好ましくは4~8、もしくは4.5~7、もしくは5~6.5、特に5.5~6、またはこれらの値の組合せ、例えば、pH5~8である。
【0038】
さらに、プロトプラストを保存するために、液体培地のオスモル濃度は、例えばオスモル濃度が低すぎる場合に特に膨潤応力を回避するために、好ましくは生理学的である。適切な場合、オスモル濃度に対する上限は、浸透圧収縮応力を回避するために設けられ得る。好ましくは、培地は、少なくとも0.1osmol/L、または好ましくは少なくとも0.150osmol/Lのオスモル濃度を有する。オスモル濃度は、塩または他の培地構成成分、例えば糖または糖アルコール等の溶解物質によって調節され得る。好ましくは、Naおよび/またはK等のアルカリ金属塩が提供される。好ましくは、ClまたはFまたはI等のハロゲン化物、リン酸塩または酢酸塩が、陰イオンとして提供される。Tris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)等の緩衝液構成成分も可能である。
【0039】
さらに、プロトプラストをさらに保存するために、界面活性剤ポリマーが、ローター-ステーター処理用の液体培地に添加されてもよい。界面活性剤ポリマーは、例えば、WO 2013/156504 A1号に記載されており、好ましくは、乳化剤、例えばポリアルキルグリコール、特にポリエチレングリコール等の非荷電ポリマーを包含する。特に、ポリマーは、非イオン性水溶性界面活性剤ポリマーである。好ましくは、ポリマーは、タンパク質を変性させない。例は、ポリアルキルグリコール等のポリエーテル、ポリソルベートまたはポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースまたはヒドロキシエチルセルロース等の水溶性セルロース誘導体、ビニルピロリドン酢酸ビニル共重合体(コポビドン)、ポリ酢酸ビニル、部分的に加水分解されたポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコール共重合体、およびそれらの混合物から選択されるポリマーまたは共重合体である。ポリソルベート、例えばポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート、好ましくはポリソルベート80(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエートであるTween(登録商標)80)、ポリオキシエチレン(40)ステアレートがさらに可能である。界面活性剤ポリマーは、好ましくは少なくとも0.05重量%、特に好ましくは少なくとも0.08%、少なくとも0.1%または少なくとも1.5%(パーセントは全て、重量%として)の濃度で培地中に存在する。界面活性剤ポリマー、例えばPEG等の分子量は、好ましくは少なくとも500Da、特に好ましくは少なくとも1,000Da、少なくとも1,500Da、少なくとも2,000Da、少なくとも3,000Da、少なくとも4,000Da、少なくとも6,000Da、少なくとも8,000Da、少なくとも10,000Da、少なくとも20,000Da、または少なくとも30,000Daである。特に好ましくは、分子量は、500Da~2,000,000Da、好ましくは1,000Da~200,000Daまたは1,200Da~80,000Daである。
【0040】
液体培地は、好ましくは水性であり、特に細胞と適合性である水または水混合物である。特に、植物があらかじめ液体培地と分離されていない限りにおいて、液体培地は、植物細胞用の(および植物細胞を伴う)培養培地であり得る。
【0041】
好ましくは、発現された材料は、植物細胞をローター-ステーターで処理する前に発現されており、その結果、植物細胞は、表面上またはアポプラスト中に集まる。これに関して、植物細胞は、一般的に公知であるように、例えば植物に関する成長条件下の培地(栄養培地、光)中で、培養されてもよく、および/または成長させてもよい(例えば、Frank et al. Plant Biol 7, (2005):220-227を参照)。発現または培養は好ましくは、13分~1カ月(30日)間またはそれよりも長く、例えば2カ月(60日)、例えば1時間~22日、または5時間~15日、例えば10時間~7日または20時間~3日間実行される。産物(発現された材料)を獲得するための細胞の規則的な除去を伴う連続細胞培養では、これらの時間範囲または最小時間は、培養下の細胞に関する平均期間に相当し得る。
【0042】
プロトプラストに損傷を与えるか、またはプロトプラストを溶解もしくは均質化する他の方法は回避されるべきである。細胞壁は好ましくは溶解されず、特に酵素的に溶解されず、および/または化学的に溶解されず、および/または浸透圧的に(osmolytically)溶解されず、および/または超音波を使用して溶解されない。好ましくは、本発明によるローター-ステーター処理は別にして、細胞壁は、手付かずまたは無傷のままであるべきである。特に、細胞膜(プロトプラスト)は無傷のままであるべきであり、その上で、本発明による方法では、細胞の活力は、いかなる特定の役割も果たさないが、液体培地の、細胞内部の構成成分、特に細胞原形質による汚染は回避されるべきである。
【0043】
本発明はここで、本発明をこれらの実施形態に限定せずに、図面および以下の実施例を用いてより詳細に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】T25 Ultra Turraxロッドホモジナイザー(IKA社/シュタウフェン)による水中でのエネルギー入力の決定。(A)回転速度10,000rpmでの水1.5L中での温度プロフィール。(B)算出したエネルギー入力[kJ]。(C)算出したエネルギー入力[kJ/kg]。
図2】FSP712VC-2.2kW-FUシャーポンプホモジナイザー(Fristram社/ハンブルグ)を使用した水中でのエネルギー入力の決定。(A)回転速度2,800rpmでの水50L中での温度プロフィール。(B)算出したエネルギー入力[kJ]。(C)算出したエネルギー入力[kJ/kg]。
図3】シャーポンプ(破線)およびT25 Ultra Turraxロッド(実線)による処理中のバイオマスに結合された産物(蘚類-aGal)の放出パーセント。反応器培養物のシャーポンプ処理は、容量50L中で実行された。T25 Turraxロッドを用いた反応器培養物の処理は、容量0.65L中で実行された。
図4】ともに乾燥バイオマス10g/Lに関するT25 Ultra Turraxロッド(A)およびシャーポンプ(B)を使用した比エネルギー入力。乾燥バイオマス1g/Lを用いた19,000rpmでの比較例T25 Ultra Turraxロッドによる比エネルギー入力(C)。
図5】シャーポンプ(破線)およびT25 Ultra Turraxロッド(実線)による処理中のバイオマスに結合された産物(蘚類-aGal)の放出パーセント。反応器培養物のシャーポンプ処理は、容量50L中で実行された。T25 Turraxロッドを用いた反応器培養物の処理は、容量0.65L中で実行された。バイオマス:9.2g/L(シャーポンプ)、8.2g/L(T25)。
図6】細胞内マーカータンパク質(ルビスコ、大きなサブユニット)の放出と比較した産物放出(蘚類-aGal)に関して類似したウェスタンブロット。最小量で検出可能な最大32.9kJ/kgのエネルギーの入力に関する塩含有培地(例えば、20mM Tris、100mM NaCl、pH=7)中の細胞内タンパク質。浸透圧ストレス条件下(脱塩水)で、およそ10kJ/kgから検出可能。標的タンパク質量(蘚類-aGal)は、入力エネルギーの関数として塩含有培地中で、および浸透圧ストレス条件下で増加する。
図7】脱塩HO中のT25プロセスの顕微分析。エネルギー入力16.5kJ/kgに至るまで、蘚類細胞は、それらの完全性を保持する。エネルギー入力32.9kJ/kgで、細胞の完全性がそこに存在するが、より多くの粒子が明らかに存在し、それは、細胞消化の始まりの兆候である。
図8】塩含有緩衝液(20mM Tris、100mM NaCl、pH=7)中のT25プロセスの顕微分析。エネルギー入力16.5kJ/kgに至るまで、蘚類細胞は、それらの完全性を保持する。エネルギー入力32.9kJ/kgで、細胞の完全性がそこに存在するが、より多くの粒子が明らかに存在し、それは、細胞消化の始まりの兆候である。
図9】塩含有培地(反応器培養物)中のシャーポンププロセスの顕微分析。エネルギー入力18.41kJ/kgに至るまで、蘚類細胞は、それらの完全性を保持する。エネルギー入力27.20kJ/kgを超えると、細胞の完全性がそこに存在するが、より多くの粒子が明らかに存在し、それは、細胞消化の始まりの兆候である。
図10】脱塩HO中のシャーポンププロセスの顕微分析。エネルギー入力9.62kJ/kgに至るまで、蘚類細胞は、それらの完全性を保持する。エネルギー入力18.41kJ/kgを超えると、細胞の完全性がそこに存在するが、より多くの粒子が明らかに存在し、それは、細胞消化の始まりの兆候である。
図11】細胞消化に関する比較画像としての超音波プロセスにおける蘚類細胞の顕微分析。ほんの短期間(超音波処理1分)後に、細胞は、それらの完全性を失っている。ちょうど3分後、細胞断片および空の細胞片が観察され得る(試料50mL中で100%)。
図12】比較例:高エネルギー、回転速度19,000rpmでのT25均質化ツール(IKA社/シュタウフェン)を使用した水中でのエネルギー入力の決定。(A)水1L中での温度プロフィール。(B)算出したエネルギー入力[kJ]。(C)算出したエネルギー入力[kJ/kg]。
図13】比較例:19,000rpmでの著しく速い産物放出。特に、エネルギー入力7kJ/kgに至るまで。エネルギー入力84kJ/kgを超えた場合の、高温および剪断応力に起因した産物の損失。
【実施例
【0045】
[実施例1]
Turraxロッドおよびシャーポンプを使用したエネルギー入力の決定
水性培地中でのエネルギー入力に使用されるパラメーターは、測定可能な変数としての温度であった。T25-S25N-18G Turraxロッド(IKA社シュタウフェン)に関して、HO 1.5Lを、デュワーフラスコ中に10,000rpmで30分間分散させ、温度プロフィールを測定した。実験中の室温は20.5℃~20.7℃であった。エネルギー入力データは、HOの比熱容量(4,190Jkg-1-1)を使用して算出した。文献(Orellana-Escobedo et al., Plant cell Rep. 2015, 34(3), 425-433)と比較することができるエネルギー入力データもまた、19,000rpmで獲得した。
【0046】
シャーポンプ(シャーポンプFSP 712、Fristam社ハンブルグ)に関して、HO 50Lを、強化PVCチューブを使用してNalgene容器から2,800rpmで循環させた。Nalgene容器中の温度測定は、温度センサー(G002.1精密温度計、Carl Roth社)を使用して実行した。実験は、温度制御チャンバーで19℃に設定した。環境への熱損失は、この実験機構では無視した。エネルギー入力データは、比熱容量(4,190J・kg-1-1)を使用して算出した。
【0047】
[実施例2]
蘚類培養物の産生
蘚類産生株の無菌培養を、Wave(商標)Rocking Motionバイオリアクター(Wave200、Ge Healthcare社)で、200LのS使い捨てバイオリアクターバッグ(Cellbag 200、GE Healthcare社)中で3~4週間実行した。培養パラメーターは、振盪頻度19rpm~25rpm、振盪角9℃、温度24℃~26℃および気体流速2L/分および2%COによる空気供給の濃縮であった。照明は、「温白色LED」を用いたバイオリアクターバッグ上に設置された4つのLEDモジュール(参照番号120268~120282、Infors AG社)を用いた。蘚類培養は、24時間の照明下で実行した。1000×Nitschビタミン(Nitschビタミン混合物、Duchefa社、製造業者の仕様書を参照)を補充したSM07(100mM NaCl、6.6mM KCl、2.0mM MgSO×7HO、1.8mM KHPO、20.4mM Ca(NO×4HO、0.05mM Fe Na-EDTA、4.9mM MES、0.1%(w/v)PEG4000、100.26μM HBO、0.11μM CoCl×6HO、0.1μM CuSO×5HO、5μM KI、85.39μM MnCl×4HO、1.03μM NaMoO×2HO、0.11mM NiCl×6HO、0.04 NaSeO×5HO、0.039 Zn-酢酸塩×2HO)を、無機塩培地として使用した。0.25M HSOおよび0.25M NaOHを自動的に添加するようにWAVEPOD IおよびPump20(GE Healthcare社)を使用して、pH5~6を設定した。組換えα-ガラクトシダーゼ(aGalまたはα-GalA)を、WO 2016/146760 A1号に記載されるように発現させた(「蘚類-aGal」)。
【0048】
[実施例3]
蘚類に結合された産物の放出および分析方法
蘚類に結合された産物の放出に関する経時的プロフィールを分析するために、実施例2から獲得された培養物を、T25-S25N-18G Turraxロッドに、またシャーポンプFSP 712にエネルギーの種々の入力で曝露した。放出された産物に関するCPL産物濃度決定(CPL)を、蘚類-aGal ELISA(Biogenes社/ドイツ)を使用して実行した。細胞消化の度合いの検出は、蘚類細胞の顕微画像解析を使用して実行した(顕微鏡:AxioCamカメラ、AxioSoftソフトウェアおよびKL 1500 LCD冷光源を備えたAxiovert 200 oper Stemi SV11(Carl Zeiss社))。総消化に関する顕微画像との比較は、100%粉末を用いて20分間の超音波消化物50mLの顕微分析(プローブ:UW2070、Bandelin社;増幅器:HD 2070、Bandelin社)によって可能であった。分子レベルで、放出された産物に対してウェスタンブロットを使用して、ならびに細胞内マーカータンパク質ルビスコを使用して、定性分析を実行した。使用した一次抗体は、抗aGal(H00002717-D01P、abnova社)であり、二次抗体として抗ルビスコ(AS03037、Agrisera社)ならびに抗ウサギHRP(abcam社、AS03037)であった。
【0049】
放出された産物(CPL)と、放出可能な蘚類に結合された産物(CPX)との間の関係性を分析するために、未処理の培養物に、ボールミル(スチールボール:RB-3/G20W、Schleer社;ボールミル:MM300、Retsch社)を使用して細胞消化を行った。細胞片を分離した後、ELISA(Biogenes社)を使用して、産物濃度を決定した。これに関して、アポプラスト空隙に発現されるタンパク質であるaGal(α-ガラクトシダーゼ、「蘚類-aGal」としても公知)をアッセイした。
【0050】
[実施例4]
結果および論述
2つの異なるホモジナイザーT25-S25N-18G TurraxロッドならびにFSP 712シャーポンプに関するエネルギーの入力(熱として、kJ/kg、液体培地に関してはkgで)を、温度測定を用いて培養培地(kg)中で確立した(図1図5)。これに関して、低い熱容量(kJ/kg/分で)が生じるように、ホモジナイザーを低い回転速度に設定した。特定の期間(0分~60分)にわたる総熱をこの様式で決定した。これに関して、水中のエネルギー入力を、測定した温度に基づいてHOの比熱係数[4.182kJ/kgK]を使用して決定した。これに関して、熱(図1図3)または植物部位の乾燥重量に関する比熱(図4図5)を算出した。
【0051】
図3および図5は、表面上またはアポプラスト中に堆積している所望のタンパク質(蘚類由来の組換えaGal、「蘚類-aGal」)の産物放出を示す。放出は、処理を増加させるにつれ増加する。
【0052】
比較実験では、Turraxロッドは、より高い熱容量で、実際には19,000rpmで操作された(図4C図12図13)。熱容量は、10,000rpmでの保存的処理を用いた場合よりも、およそ100倍高かった(図4Aおよび図4Cを比較)。より高い熱容量での操作は、産物放出を迅速にもたらすが、また同様に細胞の破壊(プロトプラスト)ももたらし、その結果、細胞外産物が、細胞の内部の構成成分により汚染された。これらの効果は、1分後にすでに起こっていた。
【0053】
図6は、細胞外タンパク質(蘚類aGal)由来および細胞内タンパク質ルビスコ由来の産物の放出の量を示す。ルビスコは、高濃度で植物細胞中に存在し、したがって、細胞内容物の漏れに関して非常に感度の高いマーカーであるとみなされた。生理学的塩溶液中での実験では、32.9kJ/kgを上回るより高いエネルギーの入力(熱)で、ルビスコの増加放出が観察された。脱塩水(DM水)を用いた実験では、浸透圧(osmolytic)効果がホモジナイザーからの剪断応力に加えて発生しているので、ルビスコによる汚染が、およそ10kJ/kgからすぐにでも起きていた。種々の熱(エネルギーの入力)は、処理時間を使用して制御した。
【0054】
処理後の細胞複合体の顕微分析は、これらの結果を反映している。図7は、脱塩水中でのUltraturraxローター-ステーターを用いた処理後の結果を示し、図8は、生理学的条件(20mM Tris、100mM NaCl、pH=7)下でのUltraturraxローター-ステーターを用いた処理後の結果を示す。図9は、生理学的条件下でのシャーポンプを用いた処理後の細胞複合体を示す。処理時間(熱)を増加させるにつれ、おそらく破壊された細胞によって形成される粒子の数が増加した。およそ30kJ/kgから、細胞消化の増加が生じた。比較として、図10は、シャーポンプを用いた脱塩水中での実験を示す。ここで、匹敵する粒子は、およそ20kJ/kgで現れた。
【0055】
図7図10との比較として、図11は、超音波を使用した細胞消化を示す。細胞は、ちょうど1分後にそれらの完全性を失っている。
【0056】
このことは、一方では時間単位当たりのエネルギー入力(ローター-ステーターの回転の強度;熱容量)が限られるべきであること、また他方で、ここでの実験における絶対エネルギー入力(熱)は、処理時間によって制御されることを示している。このパラメーターは、そのままで包含され得るか、あるいはバイオマス(乾燥バイオマス、TBM)に結び付けられる。できるだけ多くの吸収された産物またはアポプラストに結合された産物を放出し、その際にプロトプラストをほぼ無傷に保つ保存的方法に関する適切な数値は、乾燥重量1g/L当たり最大で3kJ/kgおよび乾燥重量1g/L当たり最大で1.5kJ/kg/分または最大で30kJ/kgおよび最大で1.5kJ/kg/分である。このタイプの低い熱容量を用いた考え得る処理時間は、回転の強度に応じて2分~150分であり、概して、これまで使用されている短期間であるが強力な処理よりも長い。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【国際調査報告】