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特表2022-553703抗血球凝集素抗体およびその使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-26
(54)【発明の名称】抗血球凝集素抗体およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20221219BHJP
   C07K 16/10 20060101ALI20221219BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20221219BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20221219BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20221219BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20221219BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221219BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20221219BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221219BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20221219BHJP
   A61K 31/575 20060101ALI20221219BHJP
   A61K 31/58 20060101ALI20221219BHJP
   A61K 31/215 20060101ALI20221219BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/10 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61P31/16
A61K39/395 S
A61K45/00
A61K31/575
A61K31/58
A61K31/215
A61P29/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022523575
(86)(22)【出願日】2020-10-28
(85)【翻訳文提出日】2022-05-31
(86)【国際出願番号】 US2020057635
(87)【国際公開番号】W WO2021086899
(87)【国際公開日】2021-05-06
(31)【優先権主張番号】62/926,914
(32)【優先日】2019-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/094,170
(32)【優先日】2020-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】バウム アリーナ
(72)【発明者】
【氏名】カイラツォウス クリストス
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C086
4C206
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA83X
4B065AA87X
4B065AA87Y
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C084AA19
4C084MA02
4C084MA52
4C084MA59
4C084MA65
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB11
4C084ZB33
4C084ZC75
4C085AA14
4C085BB31
4C085CC23
4C085EE01
4C085EE03
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG05
4C085GG08
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA10
4C086DA12
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA59
4C086MA65
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB11
4C086ZB33
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206DB11
4C206DB43
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA72
4C206MA79
4C206MA85
4C206MA86
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZB11
4C206ZB33
4C206ZC75
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
インフルエンザB血球凝集素(HA)タンパク質に結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片、本抗体を含む医薬組成物、および使用方法を本明細書に提供する。抗体は、インフルエンザBウイルス活性を阻害または中和し、ひいてはヒトにおけるインフルエンザ感染症を治療または予防する手段を提供するために有用である。また、ウイルスの宿主細胞への付着および/または侵入を防止するための、インフルエンザB HAに結合する1つ以上の抗体の使用も提供する。抗体は、予防的または治療的に使用され得、単独でまたは1つ以上の他の抗ウイルス剤もしくはワクチンと組み合わせて使用され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インフルエンザB血球凝集素(HA)に特異的に結合する、単離された組換え抗体またはその抗原結合性断片であって、
前記抗体が、以下の特徴:
(a)約10-9M未満のEC50でインフルエンザB HAに結合する;
(b)インフルエンザB感染動物への投与後に、前記投与なしの同等のインフルエンザB感染動物と比較して、前記インフルエンザB感染動物の生存における増加を示す;ならびに/または
(c)
(i)配列番号2に記載される重鎖可変領域(HCVR)に対して少なくとも約90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むHCVR内に含まれる3つの重鎖相補性決定領域 (CDR)(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)、および
(ii)配列番号10に記載される軽鎖可変領域(LCVR)に対して少なくとも約90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むLCVR内に含まれる3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)
を含む
のうちの1つ以上を有する、単離された組換え抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項2】
哺乳動物の体重1kg当たり約5mgまたは約0.5mg/kgの単回静脈内用量として前記哺乳動物に予防的に投与された場合、その後のインフルエンザBウイルスへの曝露による感染から前記哺乳動物を保護する、請求項1に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項3】
インフルエンザBウイルスへの曝露前に哺乳動物に予防的に投与された場合、前記哺乳動物におけるインフルエンザ感染症のリスクを減少させる、請求項1または2に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項4】
前記単離された抗体またはその抗原結合性断片が哺乳動物に投与された場合、前記単離された抗体またはその抗原結合性断片が、前記哺乳動物におけるインフルエンザ感染症の少なくとも1つの症状の重症度、期間、または発生頻度を、改善、緩和、または低減する、請求項1~3のいずれか一項に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項5】
前記少なくとも1つの症状が、頭痛、発熱、痛み、鼻漏(鼻閉)、悪寒、倦怠感、脱力感、咽喉痛、咳、息切れ、嘔吐、下痢、肺炎、気管支炎、および死亡からなる群から選択される、請求項4に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項6】
約0.5mg/kgの単回予防用量として複数の哺乳動物の各々に投与された場合、前記複数の哺乳動物が、投与後19日目に少なくとも約80%の生存率を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項7】
約0.5mg/kgの単回予防用量として複数の哺乳動物の各々に投与された場合、前記複数の哺乳動物が、投与後19日目に少なくとも約90%の生存率を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項8】
約0.5mg/kgの単回予防用量として複数の哺乳動物の各々に投与された場合、前記複数の哺乳動物が、投与後19日目に約100%の生存率を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項9】
約5.0mg/kgの単回予防用量として複数の哺乳動物の各々に投与された場合、前記複数の哺乳動物が、投与後19日目に約80%の生存率を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項10】
約5.0mg/kgの単回予防用量として複数の哺乳動物の各々に投与された場合、前記複数の哺乳動物が、投与後19日目に約90%の生存率を有する、請求項1~5および9のいずれか一項に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項11】
約5.0mg/kgの単回予防用量として複数の哺乳動物の各々に投与された場合、前記複数の哺乳動物が、投与後19日目に約100%の生存率を有する、請求項1~5、9および10のいずれか一項に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項12】
前記生存率が、投与後13日目に明らかである、請求項6~11のいずれか一項に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項13】
配列番号2のアミノ酸配列を有するHCVRを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項14】
配列番号10のアミノ酸配列を有するLCVRを含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項15】
(a)配列番号4のアミノ酸配列を有するHCDR1ドメインと、
(b)配列番号6のアミノ酸配列を有するHCDR2ドメインと、
(c)配列番号8のアミノ酸配列を有するHCDR3ドメインと、
(d)配列番号12のアミノ酸配列を有するLCDR1ドメインと、
(e)配列番号14のアミノ酸配列を有するLCDR2ドメインと、
(f)配列番号16のアミノ酸配列を有するLCDR3ドメインと
を含む、単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項16】
インフルエンザB血球凝集素(HA)に特異的に結合する、請求項15に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項17】
哺乳動物の体重1kg当たり約5mgまたは約0.5mg/kgの単回静脈内用量として予防的に前記哺乳動物に投与された場合、その後のインフルエンザBウイルスへの曝露による感染から前記哺乳動物を保護する、請求項15または16に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項18】
インフルエンザBウイルスへの曝露前に哺乳動物に予防的に投与された場合、前記哺乳動物におけるインフルエンザ感染症のリスクを低減させる、請求項15~17のいずれか一項に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項19】
前記単離された抗体またはその抗原結合性断片が哺乳動物に投与された場合、前記単離された抗体またはその抗原結合性断片が、前記哺乳動物におけるインフルエンザ感染症の少なくとも1つの症状の重症度、期間、または発生頻度を、改善、緩和、または低減する、請求項15~18のいずれか一項に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項20】
前記少なくとも1つの症状が、頭痛、発熱、痛み、鼻漏(鼻閉)、悪寒、倦怠感、脱力感、咽喉痛、咳、息切れ、嘔吐、下痢、肺炎、気管支炎、および死亡からなる群から選択される、請求項19に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項21】
約0.5mg/kgの単回予防用量として複数の哺乳動物の各々に投与された場合、前記複数の哺乳動物が、投与後19日目に少なくとも約80%の生存率を有する、請求項14~20のいずれか一項に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項22】
約0.5mg/kgの単回予防用量として複数の哺乳動物の各々に投与された場合、前記複数の哺乳動物が、投与後19日目に少なくとも約90%の生存率を有する、請求項14~21のいずれか一項に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項23】
約0.5mg/kgの単回予防用量として複数の哺乳動物の各々に投与された場合、前記複数の哺乳動物が、投与後19日目に約100%の生存率を有する、請求項14~22のいずれか一項に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項24】
約5.0mg/kgの単回予防用量として複数の哺乳動物の各々に投与された場合、前記複数の哺乳動物が、投与後19日目に約80%の生存率を有する、請求項14~20のいずれか一項に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項25】
約5.0mg/kgの単回予防用量として複数の哺乳動物の各々に投与された場合、前記複数の哺乳動物が、投与後19日目に約90%の生存率を有する、請求項14~20および24のいずれか一項に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項26】
約5.0mg/kgの単回予防用量として複数の哺乳動物の各々に投与された場合、前記複数の哺乳動物が、投与後19日目に約100%の生存率を有する、請求項14~20、24および25のいずれか一項に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項27】
前記生存率が、投与後13日目に明らかである、請求項21~26のいずれか一項に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項28】
配列番号2のアミノ酸配列を有するHCVRを含む、請求項14~27のいずれか一項に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項29】
配列番号10のアミノ酸配列を有するLCVRを含む、請求項14~28のいずれか一項に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項30】
配列番号2/10の、HCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む、請求項1~29のいずれか一項に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項31】
IgG1抗体である、請求項1~30のいずれか一項に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項32】
IgG4抗体である、請求項1~30のいずれか一項に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項33】
二重特異性抗体である、請求項1~30のいずれか一項に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項34】
請求項1~33のいずれか一項に記載の単離された抗体またはその抗原結合性断片と、薬学的に許容可能な担体または希釈剤とを含む、医薬組成物。
【請求項35】
第2の治療剤をさらに含む、請求項34に記載の医薬組成物。
【請求項36】
前記第2の治療剤が、抗ウイルス薬、抗炎症薬、インフルエンザHAに特異的に結合する異なる抗体、インフルエンザ用ワクチン、栄養補助食品、およびインフルエンザ感染症を治療するための別の緩和療法からなる群から選択される、請求項35に記載の医薬組成物。
【請求項37】
前記抗炎症薬が、コルチコステロイドおよび非ステロイド性抗炎症薬からなる群から選択される、請求項36に記載の医薬組成物。
【請求項38】
前記栄養補助食品が、抗酸化剤である、請求項36に記載の医薬組成物。
【請求項39】
前記抗ウイルス薬が、オセルタミビルである、請求項36に記載の医薬組成物。
【請求項40】
前記抗ウイルス薬が、抗インフルエンザA薬である、請求項36に記載の医薬組成物。
【請求項41】
前記抗インフルエンザA薬が、抗体である、請求項40に記載の医薬組成物。
【請求項42】
前記抗体が、インフルエンザA HAに特異的に結合する、請求項41に記載の医薬組成物。
【請求項43】
請求項1~33のいずれか一項に記載の抗体のHCVRまたはLCVRをコードするポリヌクレオチド配列を含む、ポリヌクレオチド分子。
【請求項44】
請求項43に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項45】
請求項28に記載のベクターを含む、細胞。
【請求項46】
インフルエンザに感染した対象におけるインフルエンザ感染症の少なくとも1つの症状を予防、治療、または改善する方法であって、
前記対象に、請求項1~33のいずれか一項に記載の抗体もしくは抗原結合性断片、または請求項34~42のいずれか一項に記載の医薬組成物を投与すること
を含む、方法。
【請求項47】
前記少なくとも1つの症状が、熱、咳、体の痛み、鼻漏、息切れ、肺炎および気管支炎からなる群から選択される、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記医薬組成物が、前記対象に予防的に投与される、請求項46または47に記載の方法。
【請求項49】
前記対象が、免疫不全の個人、65歳以上の成人、医療従事者、および病歴または基礎疾患を有する人からなる群から選択される、請求項46~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記基礎疾患が、心臓の不具合および糖尿病からなる群から選択される、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記医薬組成物が、第2の治療剤と組み合わせて投与される、請求項46~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
前記第2の治療剤が、抗ウイルス薬、抗炎症薬、インフルエンザHAに特異的に結合する異なる抗体、インフルエンザ用ワクチン、栄養補助食品、およびインフルエンザ感染症を治療するための別の緩和療法からなる群から選択される、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記抗炎症薬が、コルチコステロイドおよび非ステロイド性抗炎症薬からなる群から選択される、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記栄養補助食品が、抗酸化剤である、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記抗体またはその抗原結合性断片のように、前記第2の治療剤が異なる投与経路を介して投与される、請求項51~54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
前記第2の治療剤が、経口投与される、請求項51~55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
前記抗ウイルス薬が、オセルタミビルである、請求項52に記載の方法。
【請求項58】
前記オセルタミビルが、前記抗体またはその抗原結合性断片の投与前に投与される、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記オセルタミビルが、前記抗体またはその抗原結合性断片と同時に投与される、請求項57に記載の方法。
【請求項60】
前記オセルタミビルが、前記抗体またはその抗原結合性断片の投与後に投与される、請求項57に記載の方法。
【請求項61】
前記抗ウイルス薬が、抗インフルエンザA薬である、請求項52に記載の方法。
【請求項62】
前記抗インフルエンザA薬が、抗体である、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
前記抗体が、インフルエンザA HAに特異的に結合する、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記医薬組成物が、皮下、静脈内、皮内、筋肉内、鼻腔内、または経口投与される、請求項46~63のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府のライセンス権
本発明は、米国保健福祉省が授与した、契約HHSO100201700020Cに基づく政府支援を受けて行われた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0002】
配列表
配列表の正式な写しは、ファイル名「10625WO01_SEQ_LIST_ST25.txt」、作成日2020年10月28日、およびサイズ約36KBの、ASCIIフォーマットの配列表として、EFS-Webを介して電子的に本明細書と同時に提出される。このASCIIフォーマット書面に含まれる配列表は、本明細書の一部であり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
背景
インフルエンザは伝染性の高い疾患であり、パンデミック、流行、再流行および大流行の波によって特徴付けられる長い歴史を有する。毎年のワクチン接種の取り組みにもかかわらず、インフルエンザ感染症はかなりの罹患率および死亡率をもたらす。
【0004】
インフルエンザウイルスは、4つのタイプ:A、B、C、およびDで構成される。インフルエンザBは、季節性インフルエンザ感染症のかなりの数を引き起こし、入院を必要とする重度のインフルエンザと関連する。
【0005】
血球凝集素は、2つの構造ドメイン、受容体結合部位(すなわち、頻繁な抗原ドリフトの影響を受ける)からなる球状頭部ドメイン、およびステム領域(インフルエンザウイルスの様々な株の間でより保存される)を含む、三量体糖タンパク質である。HAタンパク質は、前駆体(HA0)として合成され、タンパク質分解処理を受けて、2つのサブユニット(HA1およびHA2)を生成し、これらは互いに関連付けられ、ステム/球状頭部構造を形成する。HA1ペプチドは、ウイルスの細胞表面への付着に関与し、(ノイラミニダーゼとともに)ウイルスの宿主細胞への付着および侵入に必要である。HA2ペプチドは、エンドソーム内でのウイルス膜と細胞膜との融合を媒介するステム様構造を形成し、リボ核タンパク質複合体の細胞質への放出を可能にする。
【0006】
インフルエンザウイルスの新しい株は、抗原ドリフトと呼ばれる現象、または新しい異なるエピトープを生成する血球凝集素分子またはノイラミニダーゼ分子の変異の結果として生じ得る。この結果、発生すると予測されるウイルスに対して毎年新しいワクチンを製造しなければならず、このプロセスはコストがかかるばかりでなく、非常に非効率的である。技術の進歩により、ワクチン組成物のための改善されたインフルエンザ抗原を製造する能力が改善されたが、インフルエンザに対する追加的な保護源を提供する必要性が残っている。
【発明の概要】
【0007】
概要
本開示は、インフルエンザB HAに結合する抗体およびその抗原結合性断片を提供する。本抗体は、特にインフルエンザB HAの活性を阻害または中和するのに有用である。
【0008】
第1の態様では、本開示は、インフルエンザB血球凝集素(HA)に特異的に結合する、単離された組換えモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片を提供する。
【0009】
いくつかの実施形態では、本開示は、インフルエンザB HAに特異的に結合する、単離された組換え抗体またはその抗原結合性断片を提供し、この場合において該抗体が、以下の特徴:
(a)完全ヒトモノクローナル抗体である;
(b)約10-10M未満のEC50でインフルエンザB HAに結合する;
(c)インフルエンザ感染動物の生存における増加を示す;ならびに/または
(d)
(i)配列番号2に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)内に含まれる3つの重鎖相補性決定領域(CDR)(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)、および
(ii)配列番号10に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)内に含まれる3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3))
を含む
のうちの1つ以上を有する。
【0010】
特定の実施形態では、本明細書で提供される抗体またはその抗原結合性断片は、動物(例えば、哺乳動物)において、皮下または静脈内のいずれかに投与した場合かつ/またはインフルエンザBウイルスの感染前もしくは感染後に投与した場合、インフルエンザBウイルスからの保護の増加をもたらす。
【0011】
特定の実施形態では、本明細書で提供される抗体またはその抗原結合性断片は、インフルエンザBウイルスに感染した動物(例えば、哺乳動物)において、皮下もしくは静脈内のいずれかに投与した場合かつ/またはインフルエンザBウイルスの感染前もしくは感染後に投与した場合、インフルエンザB感染症の重症度を緩和することができる。
【0012】
ある特定の実施形態では、本開示の抗体、またはその抗原結合性断片は、インフルエンザBウイルスに曝露された動物(例えば、哺乳動物)に、感染の1日、2日、3日、4日、5日、6日または7日前から開始する、当該哺乳動物の体重1kg当たり約0.5mg、約1.0mg/kg、約5mg/kg、約10mg/kg、または約15mg/kgの単回静脈内用量として投与された場合、例えば、バロキサビルマルボキシル、オセルタミビル、ザナミビル、またはピモジビルなどの抗ウイルス剤の経口投与と比較して、インフルエンザBウイルスからの保護の増加をもたらす。
【0013】
いくつかの実施形態では、本明細書に提供される抗体、またはその抗原結合性断片は、動物(例えば、哺乳動物)において、当該動物の体重1kg当たり0.5mg~約15mg、例えば当該哺乳動物の体重1kg当たり約1mg、約5mg/kg、約7mg/kg、約10mg/kg、または約12mg/kgの単回皮下もしくは静脈内用量として投与された場合、等価動物(例えば、哺乳動物)に投与されているアイソタイプ(ネガティブ)対照抗体と比較して、インフルエンザBウイルスからの保護の増加をもたらす。
【0014】
いくつかの実施形態では、本明細書に提供される抗体、またはその抗原結合性断片は、当該哺乳動物の体重1kg当たり約0.5mg、約1.0mg/kg、約5mg/kg、約10mg/kg、または約15mg/kgの単回静脈内投与として動物(例えば、哺乳動物)に投与された場合、バロキサビル、マルボキシル、オセルタミビル、ザナミビル、またはピモジビルなどの抗ウイルス剤の経口投与と比較して、インフルエンザBからの保護の増加をもたらす。例えば、抗ウイルス剤は、オセルタミビルを約2mg/kgの用量で、1日2回、5日間投与することができる。
【0015】
いくつかの実施形態では、本明細書に提供される抗体、またはその抗原結合性断片は、インフルエンザBウイルスに曝露され、かつ感染した動物(例えば、哺乳動物)の集団において、インフルエンザB曝露および感染の24時間前に、体重1kg当たり約0.5mg、約1.0mg/kg、約5mg/kg、約10mg/kg、または約15mg/kgの単回用量として投与された場合、約100%の生存率をもたらす。
【0016】
いくつかの実施形態では、本明細書に提供される抗体、またはその抗原結合性断片は、インフルエンザウイルスに感染した動物(例えば、哺乳動物)において、インフルエンザB曝露および/または感染の1日前、2日前、3日前、4日前、5日前、6日前または7日前に、約0.5mg/kg、約1.0mg/kg、約5mg/kg、約10mg/kg、または約15mg/kgの単回静脈内用量として投与された場合、100%の生存率をもたらす。
【0017】
特定の実施形態において、抗体、またはその抗原結合性断片は、感染後1日目または2日目または3日目に開始する約5mg/kg~約15mg/kgの単回静脈内投与としてインフルエンザウイルス感染哺乳動物に投与された場合、例えば、バロキサビル、マルボキシル、オセルタミビル、ザナミビル、またはピモジビルなどの抗ウイルス剤の経口投与と比較して、保護の増加を示す。例えば、抗ウイルス剤は、オセルタミビルを感染後1日目または2日目または3日目に開始して約2mg/kgの用量で、1日2回、5日間投与することができる。
【0018】
関連する実施形態では、本明細書で提供される抗体、またはその抗原結合性断片は、インフルエンザウイルスに感染した動物(例えば、哺乳動物)において、皮下または静脈内のいずれかに投与した場合、かつ/またはインフルエンザウイルスの感染前もしくは感染後に投与した場合、保護の増加をもたらす。
【0019】
いくつかの実施形態では、本明細書に提供される抗体、またはその抗原結合性断片は、感染した哺乳動物に0.5mg/kg~約15mg/kg、例えば約1mg/kg、約5mg/kg、約7mg/kg、または約10mg/kg、または約12mg/kgの単回皮下または静脈内用量として投与された場合、アイソタイプ(ネガティブ)対照抗体を投与された動物と比較して、保護の増加を示す。
【0020】
いくつかの実施形態では、本明細書に提供される抗体、またはその抗原結合性断片は、約0.5mg/kg、約1.0mg/kg、約5mg/kg、約10mg/kg、または約15mg/kgの単回静脈内投与としてインフルエンザウイルス感染した哺乳動物に投与された場合、バロキサビル、マルボキシル、オセルタミビル、ザナミビル、またはピモジビルなどの抗ウイルス剤の経口投与と比較して、保護の増加を示す。例えば、抗ウイルス剤は、オセルタミビルを約2mg/kgの用量で、1日2回、5日間投与することができる。
【0021】
いくつかの実施形態では、本明細書に提供される抗体、またはその抗原結合性断片は、インフルエンザウイルスに感染した動物(例えば、哺乳動物)の集団において、感染後24時間以上経過した時点で、該動物の体重1kg当たり約0.5mg、約1.0mg/kg、約5mg/kg、約10mg/kg、または約15mg/kgの単回投与として投与される場合、約100%の生存率を示す。
【0022】
いくつかの実施形態では、本明細書に提供される抗体、またはその抗原結合性断片は、インフルエンザウイルスに感染した動物(例えば、哺乳動物)の集団において、感染後24、48、72、または96時間で、該動物の体重1kg当たり約5mg、または約10mg/kg、または約15mg/kgの単回静脈内用量として投与される場合、100%の生存率を示す。
【0023】
いくつかの実施形態では、本明細書に提供される抗体、またはその抗原結合性断片は、インフルエンザウイルスに感染した動物(例えば哺乳動物)の集団において、該動物の体重1kg当たり約0.5mg、約1.0mg/kg、約5mg/kg、約10mg/kg、または約15mg/kgの単回静脈内用量として投与される場合、例えばバロキサビル、マルボキシル、オセルタミビル、ザナミビル、またはピモジビルなどの抗ウイルス剤を受けている同等の動物集団において観察された80%の生存率と比較して、約100%の生存率を示す。例えば、抗ウイルス剤は、オセルタミビルを約2mg/kgの用量で、1日2回、5日間経口投与することができる。本明細書に記載される、生存は、本開示の抗体、またはその抗原結合性断片の投与後の固定点で測定することができる(例えば、投与後1日目、2日目、3日目、4日目、5日目、6日目、7日目、8日目、9日目、10日目、11日目、12日目、13日目、14日目、15日目、16日目、17日目、18日目、19日目、20日目、21日目、22日目、23日目、24日目、25日目、26日目、27日目、28日目、29日目、30日目、31日目、1週間目、2週間目、3週間目、4週間目、5週間目、6週間目、7週間目、8週間目、またはそれ以上)。
【0024】
いくつかの実施形態では、本開示の抗体、またはその抗原結合性断片は、バロキサビル、マルボキシル、オセルタミビル、ザナミビル、またはピモジビルなどの抗ウイルス剤を投与されたときに、インフルエンザウイルスに感染した動物(例えば、哺乳動物)における相加的保護効果を提供する。例えば、抗ウイルス剤は、感染後48時間超で投与されるオセルタミビルとすることができる。
【0025】
いくつかの実施形態では、本開示の抗体、またはその抗原結合性断片は、バロキサビル、マルボキシル、オセルタミビル、ザナミビル、またはピモジビルなどの抗ウイルス剤を投与されたときに、インフルエンザウイルスに感染した動物(例えば、哺乳動物)における相加的保護効果を提供する。例えば、抗ウイルス剤は、感染後72時間で投与されるオセルタミビルとすることができる。
【0026】
いくつかの実施形態では、本開示の抗体、またはその抗原結合性断片は、抗ウイルス剤と組み合わせて使用した場合、インフルエンザウイルスに感染した動物(例えば、哺乳動物)に、抗体を該動物の体重1kg当たり約7mg~約15mgの範囲の単回静脈内用量として投与し、かつ例えばバロキサビル、マルボキシル、オセルタミビル、ザナミビル、またはピモジビルなどの抗ウイルス剤を該動物の体重1kg当たり約2mgの用量で、1日2回、5日間経口投与する場合に、相加的な保護効果を提供する。
【0027】
いくつかの実施形態では、本開示の抗体、またはその抗原結合性断片は、インフルエンザウイルス感染後96時間でバロキサビル、マルボキシル、オセルタミビル、ザナミビル、またはピモジビルなどの抗ウイルス剤と組み合わせて使用された場合、相加的保護効果を提供し、この際、抗体が該動物の体重1kg当たり約7mg~約15mgの範囲の単回静脈内用量として動物に投与され、かつ例えばオセルタミビル、ザナミビル、またはピモジビルなどの抗ウイルス剤が該動物の体重1kg当たり約2mgの用量で、1日2回、5日間経口投与される。
【0028】
いくつかの実施形態では、本明細書に提供される抗体またはその抗原結合性断片は、静脈内、鼻腔内、皮下、皮内、または筋肉内に投与されてもよく、抗ウイルス剤は、経口的にまたは静脈内に投与されてもよい。
【0029】
いくつかの実施形態では、抗ウイルス剤は、本明細書で提供される抗体の投与前に、投与と同時に、または投与後に投与される。
【0030】
いくつかの実施形態では、抗体、またはその抗原結合性断片、および/またはバロキサビル、マルボキシル、オセルタミビル、ザナミビル、またはピモジビルなどの抗ウイルス剤は、単回用量として、または複数回用量として投与されてもよい。
【0031】
例示的な抗インフルエンザB HA抗体が、本明細書の表1および表2に提供される。表1は、例示的な抗インフルエンザB HA抗体の重鎖可変領域(HCVR)、軽鎖可変領域(LCVR)、重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)、軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)、重鎖(HC)、および軽鎖(LC)のアミノ酸配列識別子を記載している。表2は、例示的な抗インフルエンザB HA抗体のHCVR、LCVR、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、LCDR3、HC、およびLCの核酸配列識別子を記載している。
【0032】
本明細書において、表1に記載のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%であり、少なくとも90%、少なくとも91%であり、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する、その実質的に類似の配列を含むHCVRを含む抗体、またはその抗原結合性断片を提供する。
【0033】
いくつかの実施形態では、インフルエンザB HAを特異的に結合する、抗体またはその抗原結合性断片は、配列番号2のHCVRアミノ酸配列を含む。
【0034】
本明細書において、表1に記載のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%であり、少なくとも90%、少なくとも91%であり、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する、その実質的に類似の配列を含むLCVRを含む抗体、またはその抗原結合性断片を提供する。
【0035】
いくつかの実施形態では、インフルエンザB HAを特異的に結合する、抗体またはその抗原結合性断片は、配列番号10のLCVRアミノ酸配列を含む。
【0036】
いくつかの実施形態では、インフルエンザB HAを特異的に結合する、抗体またはその抗原結合性断片は、配列番号2/10の、HCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む。
【0037】
いくつかの実施形態では、単離された抗体または抗原結合性断片は、以下を含む:
(a)配列番号4のアミノ酸配列を有するHCDR1ドメイン、
(b)配列番号6のアミノ酸配列を有するHCDR2ドメイン、
(c)配列番号8のアミノ酸配列を有するHCDR3ドメイン、
(d)配列番号12のアミノ酸配列を有するLCDR1ドメイン、
(e)配列番号14のアミノ酸配列を有するLCDR2ドメイン、および
(f)配列番号16のアミノ酸配列を有するLCDR3ドメイン。
【0038】
いくつかの実施形態では、インフルエンザB HAに特異的に結合する単離された抗体または抗原結合性断片は、(a)配列番号4のHCDR1、(b)配列番号6のHCDR2、(c)配列番号8のHCDR3、(d)配列番号12のLCDR1、(e)配列番号14のLCDR2、および(f)配列番号16のLCDR3、を含む。
【0039】
いくつかの実施形態では、インフルエンザB HAに特異的に結合する単離された抗体または抗原結合性断片は、(a)配列番号8のHCDR3と、(b)配列番号16のLCDR3とを含む。
【0040】
本開示は、配列番号4のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含む重鎖CDR1(HCDR1)を含む、抗体、またはその抗原結合性断片を提供する。
【0041】
本開示は、配列番号6のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含む重鎖CDR2(HCDR2)を含む、抗体、またはその抗原結合性断片を提供する。
【0042】
本開示は、配列番号8のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含む重鎖CDR3(HCDR3)を含む、抗体、またはその抗原結合性断片を提供する。
【0043】
本開示は、配列番号12のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含む重鎖CDR1(LCDR1)を含む、抗体、またはその抗原結合性断片を提供する。
【0044】
本開示は、配列番号14のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含む重鎖CDR2(LCDR2)を含む、抗体、またはその抗原結合性断片を提供する。
【0045】
本開示は、配列番号16のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含む重鎖CDR3(LCDR3)を含む、抗体、またはその抗原結合性断片を提供する。
【0046】
本開示は、配列番号8/16のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含むHCDR3およびLCDR3アミノ酸配列対(HCDR3/LCDR3)を含む、抗体、またはその抗原結合性断片を提供する。
【0047】
本発明はまた、表1に示される例示的な抗インフルエンザB HA抗体のHCVR/LCVRアミノ酸配列内に含有される6個のCDRのセット(すなわち、HCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3)を含む、抗体、またはその抗原結合性断片を提供する。ある特定の実施形態では、HCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3のアミノ酸配列のセットは、配列番号4-6-8-12-14-16を含む。
【0048】
HCVRおよびLCVRアミノ酸配列内のCDRを同定するための方法および技法は当該技術分野で既知であり、本明細書に開示の特定のHCVRおよび/またはLCVRアミノ酸配列内のCDRを同定するために使用することができる。CDRの境界を同定するために使用することができる例示的な慣習としては、例えば、Kabat定義、Chothia定義、およびAbM定義が挙げられる。一般的な条件では、Kabat定義は配列変動性に基づき、Chothia定義は構造ループ領域の位置に基づき、AbM定義はKabatとChothia手法との間の折衷物である。例えば、Kabat,”Sequences of Proteins of Immunological Interest,”National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991)、Al-Lazikani et al.,J.Mol.Biol.273:927-948(1997)、およびMartin et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:9268-9272(1989)を参照されたい。公開データベースもまた、抗体内のCDR配列を同定するために利用可能である。
【0049】
さらに本明細書において、HCVRのCDRおよびLCVRのCDRを含み、抗体またはその抗原結合性断片と、インフルエンザB HAへの特異的結合に関して競合する抗体およびその抗原結合性断片も提供され、この場合において該HCVRおよびLCVRはそれぞれ、表1に列挙されるHCVR配列およびLCVR配列に従うアミノ酸配列を有する。
【0050】
本発明はまた、HCVRのCDRおよびLCVRのCDRを含み、参照抗体またはその抗原結合性断片と、インフルエンザB HAヘの結合について交差競合する、またはインフルエンザB HA上の同じエピトープに結合する、抗体および抗原結合性断片も提供され、この場合において該HCVRおよびLCVRはそれぞれ、表1に列挙されるHCVRおよびLCVR配列に従うアミノ酸配列を有する。
【0051】
本発明はまた、インフルエンザB HAの宿主細胞への付着および/または侵入を遮断する、単離された抗体およびその抗原結合性断片を提供する。
【0052】
特定の実施形態では、抗体または抗原結合性断片は、インフルエンザB HAにおける第1のエピトープに対する第1の結合特異性および別の抗原に対する第2の結合特異性を含む二重特異性である。
【0053】
第2の態様では、抗インフルエンザB HA抗体またはその一部をコードする核酸分子(例えば、DNAまたはRNA分子)が、本明細書に提供される。例えば、HCVRアミノ酸配列をコードする核酸分子が表2に列挙され、特定の実施形態では、核酸分子は、配列番号1のHCVRポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する、その実質的に類似の配列を含む。LCVRアミノ酸配列をコードする核酸分子もまた、表2に列挙され、特定の実施形態では、核酸分子は、配列番号9のLCVRポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する、その実質的に類似の配列を含む。
【0054】
表1に列挙されたHCDR1アミノ酸配列をコードする核酸分子もまた本明細書で提供され、特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙されたHCDR1核酸配列、またはそれと少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する、その実質的に類似の配列を含む。
【0055】
表1に列挙されたHCDR2アミノ酸配列をコードする核酸分子もまた本明細書で提供され、特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙されたHCDR2核酸配列、またはそれと少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する、その実質的に類似の配列を含む。
【0056】
表1に列挙されたHCDR3アミノ酸配列をコードする核酸分子もまた本明細書で提供され、特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙されたHCDR3核酸配列、またはそれと少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する、その実質的に類似の配列を含む。
【0057】
表1に列挙されたLCDR1アミノ酸配列をコードする核酸分子もまた本明細書で提供され、特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙されたLCDR1核酸配列、またはそれと少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する、その実質的に類似の配列を含む。
【0058】
表1に列挙されたLCDR2アミノ酸配列をコードする核酸分子もまた本明細書で提供され、特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙されたLCDR2核酸配列、またはそれと少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する、その実質的に類似の配列を含む。
【0059】
表1に列挙されたLCDR3アミノ酸配列をコードする核酸分子もまた本明細書で提供され、特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙されたLCDR3核酸配列、またはそれと少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する、その実質的に類似の配列を含む。
【0060】
HCVRをコードする核酸分子もまた本明細書で提供され、この場合において該HCVRは、3つのCDR(すなわち、HCDR1-HCDR2-HCDR3)のセットを含み、該HCDR1-HCDR2-HCDR3のアミノ酸配列のセットは、表1に列挙される例示的な抗インフルエンザHA抗体により定義されるとおりである。
【0061】
LCVRをコードする核酸分子もまた本明細書で提供され、この場合において該LCVRは、3つのCDR(すなわち、LCDR1-LCDR2-LCDR3)のセットを含み、該LCDR1-LCDR2-LCDR3のアミノ酸配列のセットは、表1に列挙される例示的な抗インフルエンザHA抗体により定義されるとおりである。
【0062】
HCVRおよびLCVRの両方をコードする核酸分子もまた本明細書で提供され、この場合において該HCVRは、配列番号2のアミノ酸配列を含み、該LCVRは、配列番号10のアミノ酸配列を含む。特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙されたHCVRまたはLCVRポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する、その実質的に類似の配列を含む。ある特定の実施形態では、核酸分子は、HCVRおよびLCVRをコードし、HCVRおよびLCVRは両方とも、表1に列挙される同じ抗インフルエンザB HA抗体から誘導される。
【0063】
また、表1に列挙される重鎖アミノ酸配列のいずれかおよび/または軽鎖アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子も提供される。
【0064】
関連する態様では、抗インフルエンザB HA抗体の重鎖可変領域または軽鎖可変領域を含むポリペプチドを発現することのできる組換え発現ベクターが本明細書で提供される。例えば、ベクターは、上述の核酸分子、すなわち、表1に記載されるようなHCVR配列、LCVR配列、および/またはCDR配列のいずれかをコードする核酸分子のいずれかを含む、組換え発現ベクターを含むことができる。このようなベクターが導入された宿主細胞、ならびに抗体または抗体断片の産生を可能にする条件下で宿主細胞を培養することにより抗体またはその部分を産生する方法、およびそのように産生された抗体および抗体断片を回収する方法も、本開示の範囲内に含まれる。
【0065】
第3の態様では、本発明は、インフルエンザB HAおよび薬学的に許容可能な担体に特異的に結合する、少なくとも1つの組換えモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片の治療有効量を含む医薬組成物を提供する。関連する態様では、組成物は、抗インフルエンザB HA抗体と第2の治療剤との組み合わせである。いくつかの実施形態では、第2の治療剤は、抗インフルエンザB HA抗体と有利に組み合わされる任意の薬剤である。抗インフルエンザB HA抗体と有利に組み合わせることができる例示的な薬剤としては、インフルエンザHAに結合し、かつ/もしくはインフルエンザHA活性を阻害する他の薬剤(インフルエンザA HAなどに結合するかつ/もしくは阻害する抗体のような、他の抗体もしくはそれらの抗原結合性断片を含む)、および/またはインフルエンザHAには直接結合しないにもかかわらず、宿主細胞の感染性を含むウイルス活性を阻害する薬剤が挙げられるが、これらに限定しない。特定の実施形態では、医薬組成物は、(a)第1の抗インフルエンザB HA抗体またはその抗原結合性断片と、(b)第2の抗インフルエンザB HA抗体またはその抗原結合性断片と(ここで、第1の抗体はインフルエンザB HAの第1のエピトープに結合し、第2の抗体はインフルエンザB HAの第2のエピトープに結合し、第1および第2のエピトープは別個であり重複しない)、(c)薬学的に許容可能な担体または希釈剤と、を含む。特定の実施形態では、医薬組成物は、(a)第1の抗インフルエンザB HA抗体またはその抗原結合性断片と、(b)第2の抗インフルエンザB HA抗体またはその抗原結合性断片と(ここで、第1の抗体は、インフルエンザB HA抗体への結合について、第2の抗体と交差競合しない)、(c)薬学的に許容可能な担体または希釈剤と、を含む。特定の実施形態では、医薬組成物は、(a)第1の抗インフルエンザB HA抗体またはその抗原結合性断片と、(b)異なるインフルエンザ抗原と相互作用する、第2の抗インフルエンザ抗体またはその抗原結合性断片と(ここで、第1の抗体は、インフルエンザB HAのエピトープと結合し、第2の抗体は異なるインフルエンザ抗原のエピトープと結合する)、(c)薬学的に許容可能な担体または希釈剤と、を含む。特定の実施形態では、医薬組成物は、(a)第1の抗インフルエンザB HA抗体またはその抗原結合性断片と、(b)異なるウイルス(非インフルエンザ)抗原と相互作用する、第2の抗体またはその抗原結合性断片と(ここで、第1の抗体は、インフルエンザB HA抗体のエピトープと結合し、第2の抗体は異なるウイルス(非インフルエンザ)抗原のエピトープと結合する)、(c)薬学的に許容可能な担体または希釈剤と、を含む。本明細書で提供される抗インフルエンザB HA抗体が関与する追加的な併用療法および合剤(co-formulation)は、本明細書の他の場所で開示されている。特定の実施形態では、医薬組成物は、(a)抗インフルエンザB HA抗体またはその抗原結合性断片と、(b)抗インフルエンザA HA抗体またはその抗原結合性断片と、を含む。
【0066】
第4の態様では、本明細書では、インフルエンザB HAに関連する疾患または障害(対象のウイルス感染症など)またはウイルス感染症に関連する少なくとも1つの症状を、本明細書で提供された抗インフルエンザB HA抗体または抗体の抗原結合性部分を使用して、治療するための治療方法であって、抗体または抗体の抗原結合性断片を含む医薬組成物の治療有効量を、治療を必要とする対象に投与することを含む、治療方法を提供する。治療される障害は、インフルエンザHA活性の阻害によって、改善、回復、抑制、または予防される任意の疾患または容態である。特定の実施形態では、本開示は、インフルエンザB感染症の少なくとも1つの症状を予防、治療または改善するための方法を提供し、この方法は、治療有効量の抗インフルエンザHA抗体またはその抗原結合性断片を、治療を必要とする対象に投与することを含む。
【0067】
いくつかの実施形態では、本開示は、対象におけるインフルエンザ感染症の少なくとも1つの症状を、本明細書で提供される抗インフルエンザB HA抗体を投与することによって、重症度、期間、または発生の頻度を改善、緩和または低減させる方法であって、少なくとも1つの症状が、頭痛、発熱、痛み、鼻漏(鼻づまり)、悪寒、倦怠感、脱力感、咽喉痛、咳、息切れ、嘔吐、下痢、肺炎、気管支炎、および死亡からなる群から選択される方法を提供する。
【0068】
特定の実施形態では、本明細書では、対象におけるウイルス量を減少させる方法であって、インフルエンザB HAに結合し、インフルエンザウイルスの結合および/または宿主細胞への侵入を遮断する抗体またはその断片の有効量を対象に投与することを含む方法を提供する。
【0069】
特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合性断片は、インフルエンザ感染症を有する、またはそのリスクがある、またはインフルエンザ感染症を発症しやすい対象に予防的または治療的に投与されうる。リスクのある対象としては、免疫不全の人、例えば、自己免疫疾患による免疫不全の人、または免疫抑制療法を受けている人(例えば、臓器移植後)、またはヒト免疫不全症候群(HIV)もしくは後天性免疫不全症候群(AIDS)に罹患している人、白血球を枯渇もしくは破壊する特定の形態の貧血、放射線療法もしくは化学療法を受けている人、または炎症性障害に罹患している人が挙げられるが、これらに限定されない。インフルエンザ感染症のリスクがある他の対象には、高齢者(65歳以上)、2歳未満の子ども、医療従事者、および肺感染症、心疾患、または糖尿病などの基礎疾患を有する人々が含まれる。また、感染した個人と物理的に接触または物理的に接近した人はだれでも、インフルエンザウイルス感染症を発症するリスクが高くなる。さらに、対象は、疾患の発生に接近しているため、例えば、人口密集都市に在住しているか、インフルエンザウイルスの感染が確認されているもしくは疑われている対象のすぐ近くに在住しているため、または職業の選択ため、例えば、病院従事者、医薬品研究者、感染地域への旅行者、もしくは飛行機を頻繁に利用する人のため、インフルエンザ感染症にかかるリスクがある。
【0070】
ある特定の実施形態では、本抗体またはその抗原結合性断片は、それを必要とする対象へ、第2の治療剤との組み合わせで投与される。第2の治療剤は、抗炎症薬(コルチコステロイド、および非ステロイド性抗炎症薬など)、抗感染薬、インフルエンザHAに対する異なる抗体(インフルエンザA HAに対する抗体)、異なるインフルエンザ抗原への抗体(例えば、ノイラミニダーゼ)、抗ウイルス薬、充血緩和剤、抗ヒスタミン剤、インフルエンザ用ワクチン、抗酸化剤などの栄養補助食品、およびインフルエンザ感染症の少なくとも1つの症状を改善するために、または患者のウイルス量の低減させるために有用な当技術分野で公知の任意の他の薬剤もしくは療法からなる群から選択され得る。ある特定の実施形態では、第2の治療剤は、本明細書に提供する抗体またはその抗原結合性断片に関連する任意の起こり得る副作用に対し、そのような副作用が発生した場合、この副作用に対処するか、またはこれを軽減するのを助ける薬剤であり得る。本抗体またはその断片は、皮下に、静脈内に、皮内に、腹腔内に、経口で、鼻腔内に、筋肉内に、または頭蓋内に投与することができる。いくつかの実施形態では、抗体は、対象の血清中の抗体の最大濃度のために、単回静脈内注入として投与されてもよい。抗体またはその断片は、対象の体重1kg当たり約0.01mg~対象の体重1kg当たり約100mgの用量で投与され得る。特定の実施形態では、本明細書に開示された抗体は、50mg~5000mgを含む1つ以上の用量で投与されてもよい。
【0071】
第5の態様では、インフルエンザB血球凝集素(HA)に特異的に結合する単離された組換え抗体またはその抗原結合性断片が本明細書において提供され、抗体が、以下の特徴:
(a)約10-9M未満のEC50でインフルエンザB HAに結合する;
(b)インフルエンザB感染動物への投与後に、当該投与なしの同等のインフルエンザB感染動物と比較して、当該インフルエンザB感染動物の生存における増加を示す;ならびに/または
(c)
(i)配列番号2に記載される重鎖可変領域(HCVR)に対して少なくとも約90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むHCVR内に含まれる3つの重鎖相補性決定領域(CDR)(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)、および
(ii)配列番号10に記載される軽鎖可変領域(LCVR)に対して少なくとも約90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むLCVR内に含まれる3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)
を含む
のうちの1つ以上を有する。
【0072】
いくつかの実施形態では、哺乳動物に、哺乳動物の体重1kg当たり約5mgまたは約0.5mg/kgの単回静脈内用量として予防的に投与された場合、単離された抗体またはその抗原結合性断片は、その後のインフルエンザBウイルスへの曝露による感染から哺乳動物を保護する。いくつかの実施形態では、インフルエンザBウイルスへの曝露前に哺乳動物に予防的に投与された場合、単離された抗体またはその抗原結合性断片は、哺乳動物におけるインフルエンザ感染症のリスクを減少させる。いくつかの実施形態では、単離された抗体またはその抗原結合性断片が哺乳動物に投与された場合、単離された抗体またはその抗原結合性断片は、当該哺乳動物におけるインフルエンザ感染症の少なくとも1つの症状の重症度、期間、または発生頻度を改善、緩和、または低減させる。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの症状は、頭痛、発熱、痛み、鼻漏(鼻閉)、悪寒、倦怠感、脱力感、咽喉痛、咳、息切れ、嘔吐、下痢、肺炎、気管支炎、および死亡からなる群から選択される。
【0073】
いくつかの実施形態では、単離された抗体またはその抗原結合性断片が、約0.5mg/kgの単回予防用量として複数の哺乳動物の各々に投与される場合、当該複数の哺乳動物は、投与後19日目に少なくとも約80%の生存率を有する。いくつかの実施形態では、単離された抗体またはその抗原結合性断片が、約0.5mg/kgの単回予防用量として複数の哺乳動物の各々に投与される場合、当該複数の哺乳動物は、投与後19日目に少なくとも約90%の生存率を有する。いくつかの実施形態では、単離された抗体またはその抗原結合性断片が、約0.5mg/kgの単回予防用量として複数の哺乳動物の各々に投与されるとき、当該複数の哺乳動物は、投与後19日目に約100%の生存率を有する。いくつかの実施形態では、単離された抗体またはその抗原結合性断片が、約5.0mg/kgの単回予防用量として複数の哺乳動物の各々に投与されるとき、当該複数の哺乳動物は、投与後19日目に約80%の生存率を有する。いくつかの実施形態では、単離された抗体またはその抗原結合性断片が、約5.0mg/kgの単回予防用量として複数の哺乳動物の各々に投与されるとき、当該複数の哺乳動物は、投与後19日目に約90%の生存率を有する。いくつかの実施形態では、単離された抗体またはその抗原結合性断片が、約5.0mg/kgの単回予防用量として複数の哺乳動物の各々に投与されるとき、当該複数の哺乳動物は、投与後19日目に約100%の生存率を有する。いくつかの実施形態では、生存率は、投与後13日目で明らかである。
【0074】
いくつかの実施形態では、本開示は、配列番号2のアミノ酸配列を有するHCVRを含む、上記のような単離された抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。いくつかの実施形態では、単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号10のアミノ酸配列を有するLCVRを含む。
【0075】
第6の態様では、本明細書で提供されるのは、単離された抗体またはその抗原結合性断片であって、(a)配列番号4のアミノ酸配列を有するHCDR1ドメインと、(b)配列番号6のアミノ酸配列を有するHCDR2ドメインと、(c)配列番号8のアミノ酸配列を有するHCDR3ドメインと、(d)配列番号12のアミノ酸配列を有するLCDR1ドメインと、(e)配列番号14のアミノ酸配列を有するLCDR2ドメインと、(f)配列番号16のアミノ酸配列を有するLCDR3ドメインと、を含む、単離された抗体またはその抗原結合性断片である。
【0076】
いくつかの実施形態では、単離された抗体またはその抗原結合性断片は、インフルエンザB血球凝集素(HA)に特異的に結合する。いくつかの実施形態では、単離された抗体またはその抗原結合性断片が、哺乳動物の体重1kg当たり約5mgのまたは約0.5mg/kgの単回静脈内投与として哺乳動物に予防的に投与される場合、その後のインフルエンザBウイルスへの曝露による感染から哺乳動物を保護する。いくつかの実施形態では、単離された抗体またはその抗原結合性断片が、インフルエンザBウイルスへの曝露前に哺乳動物に予防的に投与される場合、当該哺乳動物におけるインフルエンザ感染症のリスクは減少する。いくつかの実施形態では、単離された抗体またはその抗原結合性断片が哺乳動物に投与された場合、当該単離された抗体またはその抗原結合性断片は、当該哺乳動物におけるインフルエンザ感染症の少なくとも1つの症状の重症度、期間、または発生頻度を改善、緩和、または低減させる。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの症状は、頭痛、発熱、痛み、鼻漏(鼻閉)、悪寒、倦怠感、脱力感、咽喉痛、咳、息切れ、嘔吐、下痢、肺炎、気管支炎、および死亡からなる群から選択される。
【0077】
いくつかの実施形態では、単離された抗体またはその抗原結合性断片が、約0.5mg/kgの単回予防用量として複数の哺乳動物の各々に投与されるとき、当該複数の哺乳動物は、投与後19日目に少なくとも約80%の生存率を有する。いくつかの実施形態では、単離された抗体またはその抗原結合性断片が、約0.5mg/kgの単回予防用量として複数の哺乳動物の各々に投与される場合、当該複数の哺乳動物は、投与後19日目に少なくとも約90%の生存率を有する。いくつかの実施形態では、単離された抗体またはその抗原結合性断片が、約0.5mg/kgの単回予防用量として複数の哺乳動物の各々に投与されるとき、当該複数の哺乳動物は、投与後19日目に約100%の生存率を有する。いくつかの実施形態では、単離された抗体またはその抗原結合性断片が、約5.0mg/kgの単回予防用量として複数の哺乳動物の各々に投与されるとき、当該複数の哺乳動物は、投与後19日目に約80%の生存率を有する。いくつかの実施形態では、単離された抗体またはその抗原結合性断片が、約5.0mg/kgの単回予防用量として複数の哺乳動物の各々に投与されるとき、当該複数の哺乳動物は、投与後19日目に約90%の生存率を有する。いくつかの実施形態では、単離された抗体またはその抗原結合性断片が、約5.0mg/kgの単回予防用量として複数の哺乳動物の各々に投与されるとき、当該複数の哺乳動物は、投与後19日目に約100%の生存率を有する。いくつかの実施形態では、生存率は、投与後13日目で明らかである。
【0078】
いくつかの実施形態では、上記の単離された抗体またはその抗原結合性断片は、配列番号2のアミノ酸配列を有するHCVRを含む。いくつかの実施形態では、単離された抗体またはその抗原結合性断片は、配列番号10のアミノ酸配列を有するLCVRを含む。いくつかの実施形態では、単離された抗体またはその抗原結合性断片は、配列番号2/10の、HCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む。いくつかの実施形態では、単離された抗体またはその抗原結合性断片は、IgG1抗体である。いくつかの実施形態では、単離された抗体またはその抗原結合性断片は、IgG4抗体である。いくつかの実施形態では、単離された抗体またはその抗原結合性断片は、二重特異的抗体である。
【0079】
第7の態様では、本明細書で提供されるのは上記の単離された抗体またはその抗原結合性断片と、薬学的に許容可能な担体または希釈剤とを含む医薬組成物である。
【0080】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、第2の治療剤をさらに含む。いくつかの実施形態では、第2の治療剤は、抗ウイルス薬、抗炎症薬、インフルエンザHAに特異的に結合する異なる抗体、インフルエンザ用ワクチン、栄養補助食品、およびインフルエンザ感染症を治療するための別の緩和療法からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、抗炎症薬は、コルチコステロイドおよび非ステロイド性抗炎症薬からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、栄養補助食品は抗酸化剤である。いくつかの実施形態では、抗ウイルス薬はオセルタミビルである。いくつかの実施形態では、抗ウイルス薬は、抗インフルエンザA薬である。いくつかの実施形態では、抗インフルエンザA薬は抗体である。いくつかの実施形態では、抗体はインフルエンザA HAに特異的に結合する。
【0081】
いくつかの実施形態では、本開示は、上述の抗体のHCVRまたはLCVRをコードするポリヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド分子を提供する。いくつかの実施形態では、本開示は、そのポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。いくつかの実施形態では、本開示は、そのベクターを含む細胞を提供する。
【0082】
第8の態様では、インフルエンザに感染した対象においてインフルエンザ感染症の少なくとも1つの症状を予防、治療、または改善する方法が本明細書に提供され、本方法は、上述の抗体もしくは抗原結合性断片、または上述の医薬組成物を当該対象に投与することを含む。
【0083】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの症状が、熱、咳、体の痛み、鼻漏、息切れ、肺炎および気管支炎からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、当該対象に予防的に投与される。いくつかの実施形態では、対象は、免疫不全の個人、65歳以上の成人、医療従事者、および病歴または基礎疾患を有する人、からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、基礎疾患は、心臓の不具合および糖尿病からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、第2の治療剤と組み合わせて投与される。いくつかの実施形態では、第2の治療剤は、抗ウイルス薬、抗炎症薬、インフルエンザHAに特異的に結合する異なる抗体、インフルエンザ用ワクチン、栄養補助食品、およびインフルエンザ感染症を治療するための他の任意の緩和療法からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、抗炎症薬は、コルチコステロイドおよび非ステロイド性抗炎症薬からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、栄養補助食品は抗酸化剤である。いくつかの実施形態では、当該抗体またはその抗原結合性断片のように、第2の治療剤が異なる投与経路を介して投与される。いくつかの実施形態では、第2の治療剤は、経口投与される。いくつかの実施形態では、抗ウイルス薬は、オセルタミビルである。いくつかの実施形態では、オセルタミビルは、当該抗体またはその抗原結合性断片の投与前に投与される。いくつかの実施形態では、オセルタミビルは、当該抗体またはその抗原結合性断片と同時に投与される。いくつかの実施形態では、オセルタミビルは、当該抗体またはその抗原結合性断片の投与後に投与される。いくつかの実施形態では、抗ウイルス薬は、抗インフルエンザA薬である。いくつかの実施形態では、抗インフルエンザA薬は抗体である。いくつかの実施形態では、抗体はインフルエンザA HAに特異的に結合する。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、皮下投与、静脈内投与、皮内投与、筋肉内投与、鼻腔内投与、または経口投与される。
【0084】
本開示はまた、インフルエンザHA結合および/または活性の遮断から利益を得るであろう疾患または障害を治療するための、抗インフルエンザB HA抗体またはその抗原結合性断片の使用を含む。本開示はまた、インフルエンザHA結合および/または活性の遮断から利益を得るであろう疾患または障害の治療のための薬剤の製造における、抗インフルエンザB HA抗体またはその抗原結合性断片の使用を含む。
【0085】
他の実施形態は、後に続く発明を実施するための形態の検討から明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0086】
詳細な説明
本方法について記述する前に、本発明が本明細書に記述された特定の方法および実験条件に限定されず、それはこのような方法および条件が変化する場合があるからであることが理解されるべきである。本開示の範囲は添付の特許請求の範囲のみによって制限されるため、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態のみを説明する目的であり、制限することを意図しないことも理解されるべきである。
【0087】
別途定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般に理解されるものと同一の意味を有する。本明細書に記載されるものと類似または同等の任意の方法および材料が、本開示の実施または試験で使用され得るが、好ましい方法および材料をこれから記載する。本明細書に述べたすべての刊行物はその全体を参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0088】
本開示は、インフルエンザB HAに結合する抗体およびその抗原結合性断片を提供する。本発明の抗体は、特にインフルエンザB HAの活性を阻害または中和するのに有用である。
【0089】
本明細書において提供される抗体は、完全長(例えば、IgG1抗体またはIgG4完全長抗体)であってもよく、または抗原結合部分(例えば、Fab、F(ab’)、またはscFv断片)のみを含んでもよく、および例えば、宿主における持続性を高めるため、またはエフェクター機能を増加させるためもしくは残存するエフェクター機能を排除するためなど、改変されていない抗体と比較して機能性に影響を与えるように改変されてもよい(Reddy et al.,2000,J.Immunol.164:1925-1933)。特定の実施形態では、抗体は二重特異性であってもよい。
【0090】
いくつかの実施形態では、抗体は、インフルエンザウイルスの宿主細胞への付着を遮断する、および/またはインフルエンザウイルスの宿主細胞への侵入を防止するのに有用である。いくつかの実施形態では、抗体は、ウイルスの細胞間の伝播を阻害することによって機能する。特定の実施形態では、抗体は、対象におけるインフルエンザウイルス感染症の少なくとも1つの症状の予防、治療、または改善に有用である。特定の実施形態では、抗体は、インフルエンザウイルス感染症を有するか、またはこれにかかるリスクがある対象に、予防的または治療的に投与することができる。特定の実施形態では、本明細書で提供される少なくとも1つの抗体を含有する組成物は、ワクチンが禁忌である対象、または例えば高齢患者、非常に若い患者、ワクチンの1つ以上の成分に対してアレルギーの可能性がある患者、またはワクチンの免疫原に対して非反応性の免疫不全患者など、ワクチンの有効性が低い対象に投与することができる。特定の実施形態では、本明細書で提供される少なくとも1つの抗体を含有する組成物は、インフルエンザ流行中に、医療スタッフ、入院患者または高齢者施設居住者、または他の高リスク患者に投与することができる。特定の実施形態では、本明細書で提供される少なくとも1つの抗体を含有する組成物は、毎年のワクチンが無効であると予測される場合、または主要な抗原シフトを受けた菌株でのパンデミックの場合に、第一選択治療として患者に投与することができる。
【0091】
定義
「インフルエンザ血球凝集素」という用語はまた「インフルエンザHA」とも呼ばれ、ウイルスの宿主細胞への付着(α-2,3シアル酸またはα-2,6シアル酸へのHA1結合を介して)および侵入(立体構造変化による)を媒介する、インフルエンザウイルス粒子表面に見られる三量体糖タンパク質である。HAは、2つの構造ドメイン、受容体結合部位を含む球状頭部ドメイン(高頻度の抗原性変異の影響を受けやすい)およびステム領域(インフルエンザウイルスの様々な株の間でより保存される)からなる。インフルエンザHAは、前駆体(HA0)として合成され、タンパク質分解処理を受けて、2つのサブユニット(HA1およびHA2)を生成し、これらは互いに会合して、ステム/球状頭部構造を形成する。ウイルスHAは、ウイルスで最も変化しやすい抗原であるが(18のサブタイプは2つのグループに分類可能)、ステム(HA2)は各グループ内で高度に保存されている。完全長インフルエンザB HAのアミノ酸配列は、B/Victoria/2/87、配列番号21(GenBankアクセッション番号AAA43697.1)からのHA、B/Nanchang/3451/93、配列番号22(部分配列、GenBankアクセッション番号AAD02807.1)からのHA、B/Singapore/11/1994、配列番号23(GenBankアクセッション番号ABN50712.1)からのHA、およびB/Florida/4/2006、配列番号24(GenBankアクセッション番号ACA33493.1)からのHAによって例示される。「インフルエンザ-HA」という用語はまた、他のインフルエンザB分離株ならびにインフルエンザA分離株から単離されたインフルエンザHAのタンパク質バリアントも含む。「インフルエンザ-HA」という用語はまた、組換えインフルエンザHAまたはその断片を含む。この用語はまた、例えば、ヒスチジンタグ、マウスもしくはヒトFc、またはシグナル配列に結合された、インフルエンザHAまたはその断片を包含する。
【0092】
「インフルエンザ感染症」という用語は、本明細書で使用される場合、「インフルエンザ(flu)」としても特徴付けられ、インフルエンザウイルスによって引き起こされる重度の急性呼吸器疾患を指す。この用語には、呼吸器感染症、ならびに高熱、頭痛、全身の痛みおよび疼痛、倦怠感および脱力感、場合によっては極度の疲労感、鼻づまり、くしゃみ、咽喉痛、胸部不快感、咳、息切れ、気管支炎、肺炎、および重度の場合は死亡を含む、症状が含まれる。
【0093】
「表面プラズモン共鳴」という用語は、例えばBIACORE(商標)システム(Pharmacia Biosensor AB、Uppsala,SwedenおよびPiscataway,N.J)を用いて、バイオセンサーマトリックス内のタンパク質濃度の変化の検出によってリアルタイムでの生体分子相互作用の分析を可能にする光学現象を指す。
【0094】
バイオレイヤー干渉法は、生体分子の相互作用を測定するための無標識の技術である。これは、バイオセンサー先端上の固定化タンパク質レイヤーおよび内部参照レイヤーの2つの表面から反射される白色光の干渉パターンを分析する光学分析技術である。バイオセンサー先端に結合した分子数の変化により、リアルタイムで測定できる干渉パターンのシフトが生じる(Abdiche,Y.N.,et al.Analytical Biochemistry,(2008),377(2),209-217)。特定の実施形態では、「リアルタイムのバイオレイヤー干渉計に基づくバイオセンサー(Octet HTXアッセイ」を使用して、特定の抗インフルエンザHA抗体の結合特性を評価した。
【0095】
「エピトープ」という用語は、パラトープとして知られる抗体分子の可変領域における特異的抗原結合部位と相互作用する抗原決定基を指す。単一の抗原は、2つより多くのエピトープを有してもよい。したがって、異なる抗体は、抗原上の異なる領域に結合してもよく、異なる生物学的効果を有してもよい。「エピトープ」という用語は、B細胞および/またはT細胞が応答する抗原上の部位も指す。この用語は、抗体が結合する抗原の領域も指す。エピトープは、構造的なものまたは機能的なものとして定義されてもよい。機能的エピトープは、概して、構造エピトープのサブセットであり、相互作用のアフィニティに直接関与する残基を有する。エピトープは、立体配座的でもあり得、すなわち、非線形アミノ酸から構成され得る。ある特定の実施形態では、エピトープは、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリル基、またはスルホニル基のような分子の化学的に活性のある表面基である決定基を含んでもよく、ある特定の実施形態では、特異的三次元構造特徴、および/または特定の比電荷特徴を有してもよい。
【0096】
本明細書で使用される場合、「交差競合する」という用語は、抗原に結合し、別の抗体またはその抗原結合性断片の結合を阻害または遮断する、抗体またはその抗原結合性断片を意味する。この用語はまた、2つの抗体間の両方向の競合、すなわち、第1の抗体が結合し、かつ第2の抗体の結合を遮断し、またその逆も含む。ある特定の実施形態では、第1の抗体および第2の抗体は、同じエピトープに結合してもよい。あるいは、第1および第2の抗体は、異なるが重複するエピトープに結合することができ、その結果、1つの結合が、例えば、立体障害を介して、第2の抗体の結合を阻害または遮断する。抗体間の交差競合は、当技術分野で既知の方法、例えば、リアルタイム無標識バイオレイヤー干渉アッセイによって測定され得る。試験抗体が、参照抗インフルエンザB抗体と交差競合するかどうかを判定するために、参照抗体は、飽和条件下で、インフルエンザウイルスHAまたはペプチドに結合させる。次にインフルエンザウイルスHAに結合する試験抗体の能力が評価される。試験抗体が、参照抗インフルエンザウイルスHA抗体との飽和結合後に、インフルエンザウイルスHAに結合することができる場合、試験抗体は、参照抗インフルエンザウイルスHA抗体とは異なるエピトープに結合すると結論付けることができる。一方で、試験抗体が、参照抗インフルエンザウイルスHA抗体との飽和結合後に、インフルエンザウイルスHAに結合できない場合、試験抗体は、参照抗インフルエンザウイルスHA抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する可能性がある。
【0097】
「治療有効量」という句によって意味されるのは、それが投与されて所望の効果をもたらす量である。正確な量は、治療の目的に依存し、既知の技術を使用して当業者によって確認できるであろう(例えば、Lloyd(1999)The Art,Science and Technology of Pharmaceutical Compoundingを参照されたい)。
【0098】
本明細書で使用する場合、「対象」という用語は、ウイルス感染症などの疾患または障害の改善、予防、および/または治療を必要とする動物、例えばヒトなどの哺乳動物を指す。対象はインフルエンザ感染症を有するか、またはインフルエンザウイルス感染症を発症しやすい可能性がある。「インフルエンザウイルス感染症を発症しやすい」対象、または「インフルエンザウイルス感染症にかかるリスクが高い可能性のある」対象とは、自己免疫疾患による免疫不全を有する対象、免疫抑制療法を受けている人(例えば、臓器移植後)、ヒト免疫不全症候群(HIV)または後天性免疫不全症候群(AIDS)に罹患している人、白血球を枯渇または破壊する特定の形態の貧血、放射線療法または化学療法を受けている人、または炎症性障害に罹患している人である。さらに、極めて若年または高齢の対象は、リスクが高まる。感染した個人と身体的に接触または身体的に接近した人はだれでも、インフルエンザウイルス感染症の発症のリスクが高くなる。さらに、対象は、疾患の発生に接近しているため、例えば、疾患の発生に接近しているため、例えば、人口密集都市に在住しているか、インフルエンザウイルスの感染が確認されているもしくは疑われている対象のすぐ近くに在住しているため、または職業の選択ため、例えば、病院従事者、医薬品研究者、感染地域への旅行者、もしくは飛行機を頻繁に利用する人であるため、インフルエンザ感染症にかかるリスクがある。
【0099】
本明細書で使用される場合、「治療する」、「治療すること」、または「治療」という用語は、本明細書に開示される抗体などの治療剤を、治療を必要とする対象に投与することによる、インフルエンザ感染症の少なくとも1つの症状または兆候の重症度の低減または改善を指す。この用語には、疾患の進行の阻害または感染の悪化の阻害が含まれる。この用語は、疾患の肯定的な予後も含み、すなわち、本明細書に開示される抗体などの治療剤の投与に際し、対象は感染していない可能性があるか、またはウイルス力価が低減しているか、もしくは全くない可能性がある。治療剤は、治療用量で対象に投与されてもよい。
【0100】
「予防する」、「予防すること」または「予防」という用語は、本明細書に開示される抗体の投与に際し、インフルエンザ感染症の顕在化の阻害、またはインフルエンザ感染症の任意の症状もしくは兆候の阻害を指す。この用語は、ウイルスに曝された、またはインフルエンザ感染症のリスクのある対象における感染拡大の予防を含む。
【0101】
本明細書で使用される場合、「保護効果」は、抗ウイルス剤などの薬剤、または本明細書に開示される抗インフルエンザ-HA抗体などの抗体が、例えば、(未治療で感染性病原体にも曝露された同等の対象集団と比較して)感染病原体への曝露後の生存率における増加、(治療前の対象と比較して)ウイルス量における減少、または(治療前の対象と比較して)感染病原体に関連する少なくとも1つの症状の改善、のうちの任意の1つ以上をもたらすことができるかどうかを決定するために、当技術分野で公知の任意の標準的手順によって実証されてもよい。
【0102】
本明細書で使用される場合、「抗ウイルス薬」という用語は、対象のウイルス感染症を治療、予防、または改善するために使用される任意の抗感染薬または治療法を指す。「抗ウイルス薬」という用語には、TAMIFLU(登録商標)(オセルタミビル)、RELENZA(登録商標)(ザナミビル)、バロキサビル、マルボキシル、リバビリン、またはインターフェロンアルファ2bが含まれるが、これらに限定されない。「抗ウイルス薬」は、抗ウイルス抗体も含む。例えば、抗ウイルス薬は、インフルエンザ感染症(例えば、インフルエンザA、インフルエンザB、またはその両方)を治療、予防、または改善するために使用される抗体であってもよい。こうした抗体は、インフルエンザA、インフルエンザB、またはその両方からの血球凝集素を標的とすることができる。本開示では、治療される感染症はインフルエンザウイルスによって引き起こされる。
【0103】
概説
インフルエンザは、オルトミクソウイルス(Orthomyxoviridae)科のRNAウイルス(インフルエンザウイルス)によって引き起こされる感染性疾患である。インフルエンザウイルスは、コアタンパク質に基づいてA、B、C、およびDの4つの属に分類され、ウイルスエンベロープ糖タンパク質である血球凝集素(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)によって決定されるサブタイプにさらに分類される。インフルエンザBウイルスは、均質な群を形成し、1970年代に2つの抗原学的に区別可能な系統、B/Victoria/2/87およびB/Yamagata/16/88に分かれ始め、現在ではVictoria系統およびYamagata系統として知られている。インフルエンザAウイルスは、哺乳動物および鳥類の様々な種に感染するが、B型およびC型の感染は主にヒトに限定されている。インフルエンザDは、主にウシに感染するが、ヒトには感染しない。A型およびB型のみが、懸念されるヒト疾患を引き起こす。
【0104】
インフルエンザウイルスの高い突然変異率および頻繁な遺伝子再集合は、HAおよびNA抗原の大きな変動に寄与する。小さな変化を引き起こす小さな点突然変異(「抗原ドリフト」)は、比較的頻繁に起こる。抗原ドリフトは、ウイルスが免疫認識を回避することを可能にし、パンデミック期間中にインフルエンザの発生が繰り返される。HA抗原の主な変化(「抗原シフト」)は、様々なインフルエンザサブタイプからの遺伝物質の再集合によって引き起こされる。新しいパンデミック株をもたらす抗原シフトは、例えば、同時感染したブタなど、動物とヒトのサブタイプ間の再集合を通して発生する、稀な事象である。
【0105】
HAはホモ三量体前駆体ポリペプチドHA0として合成される。各モノマーは、翻訳後に独立して切断され、単一のジスルフィド結合によって連結された2つのポリペプチド、HA1およびHA2を形成することができる。より大きなN末端断片(HAL320-330アミノ酸)は、受容体結合部位、およびウイルス中和抗体によって認識されるほとんどの決定因子を含有する、膜遠位球状ドメインを形成する。HAのHA1ポリペプチドは、細胞表面へのウイルスの付着に関与する。より小さなC末端部分(HA2、約180アミノ酸)は、球状ドメインを細胞膜またはウイルス膜に固定する、ステム様構造を形成する。HA2ポリペプチドは、ウイルスと細胞膜とのエンドソーム内での融合を媒介し、リボ核タンパク質複合体の細胞質への放出を可能にする。
【0106】
数十年にわたる研究にもかかわらず、インフルエンザBウイルス感染症を広く中和もしくは阻害する、またはインフルエンザBウイルスによって引き起こされる疾患を軽減する市販の抗体はない。したがって、インフルエンザBウイルスの複数のサブタイプを中和し、インフルエンザB感染症の予防または治療のための薬剤として使用することができる、新しい抗体を同定する必要性がある。
【0107】
感染症の予防または治療のための受動的免疫療法は、通常は高力価の中和抗体を含有する回復期ヒト血清の形態で、一世紀以上にわたって使用されてきた(Good et al.1991;Cancer 68:1415-1421)。今日、複数の精製されたモノクローナル抗体が、抗微生物薬として使用するために、現在前臨床および臨床開発中である(Marasco et al.2007;Nature Biotechnology 25:1421-1434)。
【0108】
発明者らは、本明細書において、インフルエンザ血球凝集素に特異的に結合し、インフルエンザウイルスと宿主細胞との相互作用を調節する、完全ヒト抗体およびその抗原結合性断片について記載した。抗インフルエンザB HA抗体は、インフルエンザBウイルスHAに高親和性で結合し得る。特定の実施形態では、本明細書に開示される抗体は、遮断抗体であり、抗体がインフルエンザHAに結合し、かつウイルスの宿主細胞への付着および/または侵入を遮断できる。いくつかの実施形態では、遮断抗体は、インフルエンザウイルスの細胞への結合を遮断することができ、そのため宿主細胞のウイルス感染症を阻害または中和することができる。いくつかの実施形態では、遮断抗体は、インフルエンザウイルス感染症に罹患している対象を治療するのに有用であり得る。抗体は、それを必要とする対象に投与された場合、対象におけるインフルエンザなどのウイルスによる感染を低減させ得る。これらは、未治療の対象と比較して、対象のウイルス量を減少させるために使用され得る。これらは単独で、またはウイルス感染症を治療するための当技術分野で公知の他の治療用部分またはモダリティとともに補助療法として使用することもできる。特定の実施形態では、これらの抗体は、ウイルスHAのステム領域のエピトープに結合し得る。さらに、同定された抗体は、感染から動物(例えば哺乳動物)を保護するために、(感染前に)予防的に使用されるか、または以前に確立された感染を改善するために、または感染と関連する少なくとも1つの症状を改善するために、(感染が確立された後に)治療的に使用することができる。
【0109】
例示的なインフルエンザB HAの完全長アミノ酸配列はGenBankに、アクセッション番号AAA43697.1(B/Victoria/2/87から、配列番号21も参照)、アクセッション番号AAD02807.1(B/Nanchang/3451/93からの部分配列、配列番号22も参照)、アクセッション番号ABN50712.1(B/Singapore/11/1994から、配列番号23も参照)およびアクセッション番号ACA33493.1(B/Florida/4/2006から、配列番号24も参照)として示される。
【0110】
特定の実施形態では、抗体は、全長インフルエンザB HAなどの一次免疫原を用いて、または組換え型のインフルエンザB HAまたはその断片を用いて免疫し、その後、二次免疫原を用いて、またはインフルエンザB HAの免疫原性活性断片を用いて免疫したマウスから得られる。特定の実施形態では、抗体は、インフルエンザワクチン組成物を用いて免疫し、その後、1つ以上の組換えによって生成されたHAペプチドを用いて追加免疫したマウスから得られる。例えば、抗体は、マウスをB/Victoria/2/87で免疫し、続いてB/Yamagata/16/88でその後再びB/Victoria/2/87で免疫することによって、またはマウスをB/Yamagata/16/88で免疫し、続いてB/Victoria/2/87でその後再びB/Yamagata/16/88で免疫することによって得ることができる。一部の態様では、B/Yamagata株は、B/Maryland/03/2008、またはB/Florida/4/2006、またはB/Nanchang/3451/93、またはB/Singapore/11/1994と置き換えることができる。マウスは、例えば、B/Victoria/2/87、B/Yamagata/16/88、B/Maryland/03/2008、B/Nanchang/3451/93、B/Singapore/11/1994、および/またはB/Florida/4/2006からのHAをコードするDNAの混合物で、例えば、B/Victoria/2/87およびB/Yamagata/16/88からのHAをコードするDNAの1:1混合物で追加免疫することができる。
【0111】
免疫原は、インフルエンザB HAの生物学的活性および/もしくは免疫原性断片、またはその活性断片をコードするDNAであってもよい。断片は、HAタンパク質のステム領域に由来するものであってもよい。
【0112】
ペプチドは、タグ付けまたはKLHなどの担体分子へのコンジュゲートのために、特定の残基の付加または置換を含むように修飾されてもよい。例えば、ペプチドのN末端またはC末端のいずれかにシステインを付加するか、またはリンカー配列を付加して、免疫のために、例えばKLHとコンジュゲートするためにペプチドを調製してもよい。
【0113】
本明細書に開示される特定の抗インフルエンザB HA抗体は、インビトロアッセイまたはインビボアッセイによって決定されるとおり、インフルエンザB HAに結合し、その活性を中和することができる。抗体のインフルエンザB HAに結合し、その活性、したがってウイルスの宿主細胞への付着および/または侵入、その後に続くウイルス感染症を中和する能力は、本明細書に記載される結合アッセイ、または活性アッセイを含む、当業者に公知の任意の標準方法を使用して測定することができる。
【0114】
結合活性を測定するための非限定的で例示的なインビトロアッセイは、当業者に公知である。例えば、インフルエンザB HAに対する抗インフルエンザB HA抗体の結合親和性および解離定数を、Biacore測定器を使用した表面プラズモン共鳴によって決定することができる。中和アッセイを使用して、インフルエンザBウイルスの多様な株の感染性を決定することができる。インフルエンザB HAに対する抗体は、インビトロで、補体依存性細胞傷害(CDC)を媒介するか、またはウイルス感染細胞の抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)を媒介することができる。例示的な抗体は、インビボでインフルエンザB感染症を中和することができる。
【0115】
インフルエンザB HAに特異的な抗体は、追加の標識または部分を含有しないか、またはN末端もしくはC末端の標識または部分を含有してもよい。いくつかの実施形態では、標識または部分はビオチンである。結合アッセイでは、標識(ある場合)の位置が、ペプチドが結合する表面に対するペプチドの配向を決定する場合がある。例えば、表面がアビジンで被覆される場合、N末端ビオチンを含有するペプチドは、ペプチドのC末端部分が表面から遠位になるように配向される。いくつかの実施形態では、標識は、放射性核種、蛍光色素またはMRI検出可能な標識であってもよい。特定の実施形態では、こうした標識抗体は、撮像アッセイを含む診断アッセイで使用され得る。
【0116】
抗体および抗体の抗原結合性断片
抗体
本明細書で使用する「抗体」という用語は、ジスルフィド結合によって相互接続された4つのポリペプチド鎖、2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖からなる免疫グロブリン分子(すなわち、「完全抗体分子」)、ならびにこれらの多量体(例えば、IgM)またはこれらの抗原結合性断片を指すことが意図される。各重鎖は、重鎖可変領域(「HCVR」または「V」)および重鎖定常領域(C1ドメイン、C2ドメインおよびC3ドメインからなる)からなる。各軽鎖は、軽鎖可変領域(「LCVRまたは「V」)および軽鎖定常領域(C)からなる。VおよびV領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域が点在する相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域へとさらに細分化することができる。各VおよびVは、以下の順序でアミノ末端からカルボキシ末端に配置された3つのCDRと4つのFRから構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRの並列分析に基づいて定義され得る。
【0117】
「ヒト抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列由来の可変領域および定常領域を有する抗体を含むことを意図する。ヒトモノクローナル抗体は、例えばCDRにおいて、特にCDR3において、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基を含み得る(例えば、インビトロでの無作為もしくは部位特異的な変異誘発により、またはインビボでの体細胞変異により変異が導入される)。しかしながら、本明細書で使用される場合、「ヒト抗体」という用語は、別の哺乳動物種(例えば、マウス)の生殖系列由来のCDR配列が、ヒトFR配列上に移植されているモノクローナル抗体を含むようには意図されていない。この用語は、非ヒト哺乳動物において、または非ヒト哺乳動物の細胞において組換え産生された抗体を含む。この用語は、ヒト対象から単離された、またはヒト対象において生成された抗体を含むよう意図されるものではない。
【0118】
「組換え」という用語は、本明細書で使用される場合、例えば、DNAスプライシングおよびトランスジェニック発現を含む、組換えDNA技術として当分野で公知の技術または方法により作製、発現、単離、または取得される、抗体またはその抗原結合性断片を指す。この用語は、非ヒト哺乳動物(例えば、トランスジェニックマウスなどのトランスジェニック非ヒト哺乳動物を含む)または細胞(例えば、CHO細胞)発現系で発現されるか、または組換え型コンビナトリアルヒト抗体ライブラリから単離された抗体を指す。
【0119】
「~を特異的に結合する」という用語もしくは「~へ特異的に結合する」などの用語は、抗体またはその抗原結合性断片が、生理学的条件下で比較的安定である抗原との複合体を形成することを意味する。特異的結合は、少なくとも約1×10-8M以下の平衡解離定数を特徴とすることができる(例えば、より小さいKはより緊密な結合を示す)。2つの分子が特異的に結合するかどうかを判定するための方法は、当該技術分野で周知であり、例えば、平衡透析、表面プラズモン共鳴などを含む。本明細書に記載されるように、抗体は、インフルエンザ-HAに特異的に結合する、Octet(登録商標)HTXバイオセンサーでのリアルタイム無標識バイオレイヤー干渉アッセイで同定されている。さらに、インフルエンザ-HAの1つのドメインおよび1つ以上のさらなる抗原に結合する多重特異性抗体、またはインフルエンザ-HAの2つの異なる領域に結合する二重特異性抗体は、それにもかかわらず、本明細書で使用される場合、「特異的に結合する」抗体とみなされる。
【0120】
「高親和性」抗体という用語は、リアルタイム無標識バイオレイヤー干渉アッセイ、例えば、Octet(登録商標)HTXバイオセンサー、または表面プラズモン共鳴、例えば、BIACORE(商標)、または溶液-親和性ELISAによって測定される、少なくとも10-8M、少なくとも約10-9M、少なくとも約10-10M、または少なくとも約10-11MのKとして表される、インフルエンザ-HAに対する結合親和性を有するそれらのモノクローナル抗体を指す。
【0121】
「スローオフレート」、「Koff」または「kd」という用語は、リアルタイム無標識バイオレイヤー干渉アッセイ、例えば、Octet(登録商標)HTXバイオセンサー、または表面プラズモン共鳴、例えば、BIACORE(商標)によって決定される場合、1x10-3-1以下、または1x10-4-1以下の速度定数で、インフルエンザ-HAから解離する抗体を意味する。
【0122】
「K」という用語は、本明細書で使用される場合、特定の抗体-抗原相互作用の平衡解離定数を指すよう意図される。
【0123】
本明細書で使用される場合、抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合性断片」などという用語は、抗原に特異的に結合して複合体を形成する、任意の天然に存在する、酵素的に得ることができる、合成の、または遺伝子操作されたポリペプチドまたは糖タンパク質を含む。本明細書で使用する場合、抗体の「抗原結合性断片」、または「抗体断片」という用語は、インフルエンザHAに結合する能力を保持する1つ以上の抗体の断片を指す。
【0124】
特定の実施形態では、本明細書で提供される抗体または抗体断片は、リガンドまたは治療用部分(「免疫コンジュゲート」)、例えば、インフルエンザウイルスによって生じる感染症の治療に有用な抗ウイルス薬、第2の抗インフルエンザ抗体、もしくはその他任意の治療用部分、などの部分にコンジュゲートされてもよい。
【0125】
本明細書で使用する場合、「単離された抗体」は、異なる抗原特異性を有する他の抗体(Ab)を実質的に含まない抗体を指すことが意図される(例えば、インフルエンザ-HAに特異的に結合する単離された抗体またはその断片は、インフルエンザ-HA以外の抗原を特異的に結合するAbを実質的に含まない)。
【0126】
本明細書で使用される場合、「遮断抗体」または「中和抗体」(または「インフルエンザ-HA活性を中和する抗体」または「アンタゴニスト抗体」)は、インフルエンザ-HAへの結合がインフルエンザ-HAの少なくとも1つの生物学的活性の阻害をもたらす抗体を指すことを意図する。例えば、本明細書で提供される抗体は、インフルエンザの宿主細胞への付着または侵入を防止または遮断し得る。さらに、「中和抗体」は、病原体が宿主における感染を開始および/または永続させる能力を中和、すなわち、防止、阻害、低減、妨害または干渉することができるものである。「中和抗体」および「中和する抗体」という用語は、本明細書では互換的に使用される。これらの抗体は、単独でまたは適切な処方の際に、他の抗ウイルス剤と組み合わせて、予防剤もしくは治療剤として、または積極的なワクチン接種と関連して、または診断ツールとして使用することができる。
【0127】
抗原結合性断片
別段の具体的な記載がない限り、本明細書で使用する場合、「抗体」という用語は、2つの免疫グロブリン重鎖および2つの免疫グロブリン軽鎖を含む抗体分子(すなわち、「完全抗体分子」)ならびにその抗原結合性断片を包含すると理解される。本明細書で使用される場合、抗体の「抗原結合性部分」、抗体の「抗原結合性断片」などという用語は、抗原に特異的に結合して複合体を形成する、任意の天然に存在する、酵素的に得ることができる、合成の、または遺伝子操作されたポリペプチドまたは糖タンパク質を含む。本明細書で使用する場合、抗体の「抗原結合性断片」または「抗体断片」という用語は、インフルエンザB HAに特異的に結合する能力を保持する抗体の1つ以上の断片を指す。抗体断片は、Fab断片、F(ab’)断片、Fv断片、dAb断片、CDRを含有する断片、または単離されたCDRを含み得る。特定の実施形態では、「抗原結合性断片」という用語は、多重特異性抗原結合性分子のポリペプチド断片を指す。抗体の抗原結合性断片は、例えば、タンパク質消化技術または、抗体可変ドメインおよび(任意に)定常ドメインをコードするDNAの操作および発現を伴う組換え遺伝子操作技術などの任意の適切な標準的技術を用いて、完全抗体分子から誘導することができる。そのようなDNAは公知であり、かつ/または例えば、市販の供給源、DNAライブラリ(例えば、ファージ抗体ライブラリを含む)から容易に入手可能であるか、もしくは合成され得る。DNAを配列決定し、化学的にまたは分子生物学技法を使用することによって操作して、例えば、1つ以上の可変ドメインおよび/もしくは定常ドメインを好適な構成に配置するか、またはコドンを導入する、システイン残基を作成する、アミノ酸を修飾、付加、もしくは欠失させるなどが可能である。
【0128】
抗原結合性断片の非限定例としては、(i)Fab断片、(ii)F(ab’)2断片、(iii)Fd断片、(iv)Fv断片、(v)一本鎖Fv(scFv)分子、(vi)dAb断片、および(vii)抗体の超可変領域(例えば、CDR3ペプチドなどの単離された相補性決定領域(CDR))を模倣するアミノ酸残基、または拘束された(constrained)FR3-CDR3-FR4ペプチドからなる最小認識単位が挙げられる。ドメイン特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン欠失した抗体、キメラ抗体、CDR移植抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ(例えば、一価ナノボディ、二価ナノボディなど)、小モジュラー免疫薬(SMIP)、およびサメ可変IgNARドメインなどの他の操作された分子もまた、本明細書で使用される場合、「抗原結合性断片」という表現に包含される。
【0129】
抗体の抗原結合性断片は、典型的に、少なくとも1つの可変ドメインを含む。可変ドメインは、任意のサイズまたはアミノ酸組成のものであってもよく、概して、1つ以上のフレームワーク配列に隣接しているか、またはインフレームである、少なくとも1つのCDRを含む。Vドメインと結合したVドメインを有する抗原結合性断片において、VドメインおよびVドメインは、任意の適切な配置で互いに対して置かれ得る。例えば、可変領域は、二量体であってもよく、V-V、V-VまたはV-V二量体を含有してもよい。あるいは、抗体の抗原結合性断片は、単量体のVまたはVドメインを含有してもよい。
【0130】
ある特定の実施形態では、抗体の抗原結合性断片は、少なくとも1つの定常ドメインに共有結合された少なくとも1つの可変ドメインを含有してもよい。本明細書に開示される抗体の抗原結合性断片内で見られ得る可変ドメインおよび定常ドメインの非限定的な例示的な構成には、(i)V-C1、(ii)V-C2、(iii)V-C3、(iv)V-C1-C2、(v)V-C1-C2-C3、(vi)V-C2-C3、(vii)V-CL、(viii)V-C1、(ix)V-C2、(x)V-C3、(xi)V-C1-C2、(xii)V-C1-C2-C3、(xiii)V-C2-C3、および(xiv)V-Cが挙げられる。上で列挙された例示的な構成のいずれかを含む、可変ドメインおよび定常ドメインのいずれかの構成において、可変ドメインおよび定常ドメインは、互いに直接結合されてもよいか、または完全もしくは部分ヒンジまたはリンカー領域により結合されてもよい。ヒンジ領域は、単一のポリペプチド分子において隣接する可変ドメインおよび/または定常ドメイン間に可動性または半可動性の結合をもたらす、少なくとも2つ(例えば、5、10、15、20、40、60またはそれ以上)のアミノ酸からなってもよい。さらに、本明細書で開示される抗体の抗原結合性断片は、互いにおよび/または1つ以上の単量体VもしくはVドメインと非共有会合で(例えば、ジスルフィド結合により)、上で列挙された可変ドメイン構成および定常ドメイン構成のいずれかのホモ二量体またはヘテロ二量体(もしくは他の多量体)を含んでもよい。
【0131】
完全抗体分子と同様に、抗原結合性断片は単一特異性または多重特異性(例えば、二重特異性)であってもよい。抗体の多重特異性抗原結合性断片は、典型的には、少なくとも2つの異なる可変ドメインを含み、各々の可変ドメインは、別個の抗原、または同じ抗原上の異なるエピトープに特異的に結合することができる。本明細書に開示される二重特異性抗体の形式の例をはじめとする、任意の多重特異性抗体の形式を、当分野で利用可能な通常の技術を使用して、本明細書で開示される抗体の抗原結合性断片に関連する使用に適合させてもよい。
【0132】
抗体およびその抗原結合性断片に対する改変
ある特定の実施形態では、抗体(またはその抗原結合性断片)のフレームワーク領域は、ヒト生殖系列配列と同一、例えば、本明細書に提供される抗体の配列と同一であってもよいか、または天然にもしくは人工的に改変されていてもよい。所与のフレームワーク領域(または1つ以上のフレームワーク領域)内の1つ以上のアミノ酸は置換され得、置換は、保存的または非保存的であってもよい。1つ以上のCDR残基の置換または1つ以上のCDRの省略も可能である。抗体は、1つまたは2つのCDRが結合のために省かれることができると科学文献に記載されている。Padlan et al.(1995 FASEB J.9:133-139)は、公開されている結晶構造に基づいて、抗体とこれらの抗原との間の接触領域を分析し、CDR残基の約1/5~1/3のみが実際に抗原と接触すると結論付けた。Padlanは、1つまたは2つのCDRが抗原と接触しているアミノ酸を有さない多くの抗体も発見した(Vajdos et al.2002 J Mol Biol 320:415-428も参照されたい)。したがって、本明細書に提供される抗体は、当該改変抗体が1つ以上の望ましい特徴、例えば、抗体またはその抗原結合性断片が、約10-10M未満のEC50でインフルエンザB HAに結合すること、および/または当該投与を行わなかった同等のインフルエンザ感染動物と比較して、当該インフルエンザ感染動物への投与後に、インフルエンザ感染動物の生存における増加を示すこと、を維持する限り、CDR領域および/またはフレームワーク領域において効果的に改変され得る。
【0133】
所与のCDRに対する改変は、本明細書に提供される抗体からのCDR配列に対して行われてもよく、改変は、保存的または非保存的置換を含むことができる。望ましい置換は、分子モデリングによって、および/または経験的に決定され得る。例えば、1つ以上のCDR残基は、別のヒト抗体配列またはそのような配列のコンセンサスにおける対応する位置を占有するアミノ酸と置換され得る。
【0134】
さらに、その抗原結合性断片は、本明細書に開示される抗体であってもよいが、改変抗体(別名、抗原結合性断片)がインフルエンザ B HAへの結合を維持する限り、1つ以上のCDRおよび/または1つ以上のフレームワーク領域を省略するように改変される。
【0135】
抗原と接触していないCDR残基は、先行研究に基づいて、ChothiaのCDRの外側にあるKabatのCDRの領域から、分子モデリングによって、かつ/または経験的に同定することができる(例えば、HCDR2中の残基H60~H65はしばしば必要ではない)。本明細書に提供される抗体またはその抗原結合性断片は、所与のCDR、特に抗原と接触しないCDRを除去または置換するように改変され得る。軽鎖CDRは、例えば、ユニバーサル軽鎖CDRと置換され得る。
【0136】
本明細書に提供される完全ヒト抗インフルエンザ-HAモノクローナル抗体は、対応する生殖系列配列と比較して、または本明細書に提供される配列と比較して、重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインのフレームワークおよび/またはCDR領域に1つ以上のアミノ酸置換、挿入、および/または欠失を含み得る。そのような改変または変異は、本明細書に開示されるアミノ酸配列を、例えば、公開抗体配列データベースから入手可能な生殖系列配列と比較することによって、またはアミノ酸配列を、本明細書に提供される抗体、例えば、表1に提供される抗体配列のうちのいずれか1つと比較することによって、容易に確認され得る。
【0137】
本開示は、本明細書に開示されるアミノ酸配列のいずれかに由来する抗体、およびその抗原結合性断片を含み、ここで、1つ以上のフレームワーク領域および/またはCDR内の1つ以上のアミノ酸は、改変抗体が1つ以上の望ましい特徴、例えば、抗体またはその抗原結合性断片が、約10-10M未満のEC50でインフルエンザB HAに結合すること、および/または当該投与を行わなかった同等のインフルエンザ感染動物と比較して、当該インフルエンザ感染動物への投与後に、インフルエンザ感染動物の生存における増加を示すこと、を維持する限り、改変されている。いったん得られれば、フレームワーク領域および/またはCDR内の1つ以上の改変を含有する抗体および抗原結合性断片は、結合特異性の改善、結合親和性の増大、アンタゴニストまたはアゴニストの生物学的特性の改善または亢進(場合により得る)、免疫原性の低下などの1つ以上の所望の特性について容易に試験することができる。
【0138】
本開示はまた、本明細書に開示されるアミノ酸配列のいずれかに由来する抗体、およびその抗原結合性断片を含み、ここで、1つ以上のフレームワークおよび/またはCDR領域内の1つ以上のアミノ酸が、抗体が由来する生殖系列配列の対応する残基に、または別のヒト生殖系列配列の対応する残基に、または対応する生殖系列残基の保存的アミノ酸置換に変異している(そのような配列変化は、本明細書において集合的に「生殖細胞系変異」と称される)。当業者であれば、本明細書に開示される重鎖可変領域配列および軽鎖可変領域配列から開始して、1つ以上の個々の生殖系列変異またはそれらの組み合わせを含む、多くの抗体および抗原結合性断片を容易に産生することができる。ある特定の実施形態では、Vおよび/またはVドメイン内のフレームワークおよび/またはCDR残基のすべてが、抗体が由来する元の生殖系列配列に見られる残基に再び変異する。他の実施形態では、ある特定の残基のみ、例えば、FR1の最初の8個のアミノ酸内、もしくはFR4の最後の8個のアミノ酸内に見られる変異残基のみ、またはCDR1、CDR2、もしくはCDR3内に見られる変異残基のみが、元の生殖系列配列に再び変異する。他の実施形態では、フレームワークおよび/またはCDR残基のうちの1つ以上が、異なる生殖系列配列(すなわち、抗体が元々由来する生殖系列配列とは異なる生殖系列配列)の対応する残基に変異する。さらに、本明細書に開示される抗体は、フレームワークおよび/またはCDR領域内に2つ以上の生殖系列変異の任意の組み合わせを含有してもよく、例えば、ある特定の個々の残基が、特別な生殖系列配列の対応する残基に変異する一方で、元の生殖系列配列とは異なるある特定の他の残基が維持されるか、または異なる生殖系列配列の対応する残基に変異する。いったん得られれば、1つ以上の生殖系列変異を含有する抗体および抗原結合性断片は、結合特異性の改善、結合親和性の増大、アンタゴニストまたはアゴニストの生物学的特性の改善または亢進(場合により得る)、免疫原性の低下などの1つ以上の所望の特性について容易に試験することができる。この一般的な様式で得られた抗体および抗原結合性断片は、本開示に包含される。
【0139】
本開示は、CDRまたはフレームワーク領域において本明細書に提供される配列に対する「実質的な同一性」または「実質的な類似性」を有する抗体を提供する。例えば、表1または表2に提供される配列と、それに基づく改変配列との差異のような、配列の差異は、”実質的な同一性”または”実質的な類似性”によって示される。
【0140】
「実質的な同一性」または「実質的に同一」という用語は、核酸またはその断片を指す場合、別の核酸(または他の核酸の相補鎖)と最適に整列化されたとき、以下に考察されるようなFASTA、BLAST、またはGAPなどの配列同一性の任意の周知のアルゴリズムによって測定される場合、ヌクレオチド塩基の少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、または100%で、ヌクレオチド配列の%同一性が存在することを示す。参照核酸分子と実質的な同一性を有する核酸分子は、特定の場合では、参照核酸分子によってコードされるポリペプチドと同じまたは実質的に類似したアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードしてもよい。
【0141】
ポリペプチドに適用されるように、「実質的な類似性」または「実質的に類似した」という用語は、2つのペプチド配列が、デフォルトギャップウェイトを使用したプログラムGAPまたはBESTFITなどによって最適に整列化されたとき、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、または100%の配列同一性を共有する。いくつかの態様では、同一ではない残基位置は、保存的アミノ酸置換だけ異なる。「保存的アミノ酸置換」とは、アミノ酸残基が、類似の化学的特性(例えば、電荷または疎水性)を備えた側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基によって置換されたものである。一般に、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能性特性を実質的に変化させない。2つ以上のアミノ酸配列が保存的置換だけ互いに異なる場合、相同性の百分率または程度は、置換の保存的性質を補正するために上向きに調整してもよい。この調整を行うための手段は、当業者に周知である。例えば、Pearson(1994)Methods Mol.Biol.24:307-331(参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。類似の化学的特性を備えた側鎖を有するアミノ酸の基の例としては、1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシン、2)脂肪族-ヒドロキシル側鎖:セリンおよびトレオニン、3)アミド含有側鎖:アスパラギンおよびグルタミン、4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン、5)塩基性側鎖:リジン、アルギニン、およびヒスチジン、6)酸性側鎖:アスパラギン酸およびグルタミン酸、ならびに7)硫黄含有側鎖:システインおよびメチオニンが挙げられる。好ましい保存的アミノ酸置換基は、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、グルタミン酸-アスパラギン酸およびアスパラギン-グルタミンである。あるいは、保存的置換とは、Gonnet et al.(1992)Science 256:1443 45に開示されるPAM250対数尤度行列において正の値を有する任意の変化である。「適度に保存的な」置換とは、PAM250対数尤度行列において負以外の値を有する何らかの変化である。
【0142】
ポリペプチドについての配列同一性および/または類似性は、典型的には、配列解析ソフトウェアを使用して測定される。タンパク質解析ソフトウェアは、保存的アミノ酸置換を含む種々の置換、欠失および他の改変へ割り当てられた類似性の測定値を使用して類似の配列と一致させる。例えば、GCGソフトウェアは、異なる種の生物由来の相同ポリペプチドのような密接に関連するポリペプチド間の、または野生型タンパク質とその変異タンパク質の間の配列相同性または配列同一性を判定するための既定パラメータとともに使用することができるGAPおよびBESTFITなどのプログラムを含有する。例えば、GCG第6.1版を参照されたい。ポリペプチド配列は、GCG第6.1版におけるプログラムである、既定パラメータまたは推奨パラメータを備えたFASTAを使用して比較することもできる。FASTA(例えば、FASTA2およびFASTA3)は、問い合わせ配列と検索配列との間の最良重複の領域の整列および配列同一性パーセントを提供する(Pearson(2000)上述)。配列はまた、ギャップオープンペナルティが12、およびギャップエクステンションペナルティが2、BLOSUM行列が62のアフィンギャップ検索を使用したSmith-Waterman相同性検索アルゴリズムを使用して比較することができる。本明細書に開示された配列を、異なる生物由来の多数の配列を含有するデータベースと比較する場合の別の好ましいアルゴリズムは、既定パラメータを用いるコンピュータプログラムBLAST、特にBLASTPまたはTBLASTNである。例えば、Altschul et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403-410および(1997)Nucleic Acids Res.25:3389-3402を参照されたく、これらの各々は参照により本明細書に組み込まれる。
【0143】
本明細書で提供されるのは、1つ以上の置換(例えば、保存的置換)を有する本明細書に開示されるHCVRアミノ酸配列、LCVRアミノ酸配列、および/またはCDRアミノ酸配列のいずれかのバリアントを含む完全ヒト抗インフルエンザ-HAモノクローナル抗体である。例えば本開示は、本明細書に開示されるHCVR、LCVR、および/またはCDR(例えば、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、またはLCDR3)アミノ酸配列のいずれかに対して例えば、20以下、19以下、18以下、17以下、16以下、15以下、14以下、13以下、12以下、11以下、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下、2以下の、または1つのアミノ酸置換を有するHCVR、LCVR、および/またはCDRアミノ酸配列を有する抗インフルエンザB-HA抗体を含む。例えば、抗インフルエンザB-HA抗体は、本明細書に開示されるHCVR、LCVR、および/またはCDR(例えば、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、またはLCDR3)アミノ酸配列のいずれかに対して、20、19、18、17、16、15、14 13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1アミノ酸置換(例えば、保存的アミノ酸置換)を含み得る。
【0144】
例示的には、配列番号2とは、少なくとも1個~最大50個の保存的アミノ酸置換によって、例えば、少なくとも10個~最大40個の保存的アミノ酸置換、または少なくとも20個~最大50個の保存的アミノ酸置換、または少なくとも20個~最大40個の保存的アミノ酸置換によって、異なるHCVRアミノ酸配列を含むインフルエンザB HAに特異的に結合する抗体またはその抗原結合性断片が、本明細書において提供される。また、配列番号10とは、少なくとも1個~最大50個の保存的アミノ酸置換によって、例えば少なくとも10個~最大40個の保存的アミノ酸置換、または少なくとも20個~最大50個の保存的アミノ酸置換、または少なくとも20個~最大40個の保存的アミノ酸置換によって、異なるLCVRアミノ酸配列を含むインフルエンザB HAに特異的に結合する抗体またはその抗原結合性断片が、本明細書において提供される。こうした置換は、フレームワーク領域内またはCDR内であってもよく、インフルエンザB HAに結合する抗体またはその抗原結合性断片の特異性を維持することができる。
【0145】
また、配列番号4とは、1、または2、または3個のアミノ酸置換(例えば、保存的アミノ酸置換)によって異なるアミノ酸配列を有するHCDR1を含む、抗体またはその抗原結合性断片も本明細書において提供される。配列番号6とは、1、または2、または3個のアミノ酸置換(例えば、保存的アミノ酸置換)によって異なるアミノ酸配列を有するHCDR2を含む、抗体またはその抗原結合性断片が本明細書において提供される。配列番号8とは、1、または2、または3個のアミノ酸置換(例えば、保存的アミノ酸置換)によって異なるアミノ酸配列を有するHCDR3を含む、抗体またはその抗原結合性断片が本明細書において提供される。配列番号12とは、1、または2、または3個のアミノ酸置換(例えば、保存的アミノ酸置換)によって異なるアミノ酸配列を有するLCDR1を含む、抗体またはその抗原結合性断片が本明細書において提供される。配列番号14とは、1、または2、または3個のアミノ酸置換(例えば、保存的アミノ酸置換)によって異なるアミノ酸配列を有するLCDR2を含む、抗体またはその抗原結合性断片が本明細書において提供される。配列番号16とは、1、または2、または3個のアミノ酸置換(例えば、保存的アミノ酸置換)によって異なるアミノ酸配列を有するLCDR3を含む、抗体またはその抗原結合性断片が本明細書において提供される。
【0146】
本開示はまた、配列番号8/16とは、少なくとも1、または少なくとも2、または少なくとも3、または少なくとも4、または少なくとも5、または少なくとも6個のアミノ酸置換(例えば、保存的アミノ酸置換)によって異なるHCDR3およびLCDR3アミノ酸配列対(HCDR3/LCDR3)を含む、抗体またはその抗原結合性断片を提供する。
【0147】
本発明はまた、表1に示される例示的な抗インフルエンザB HA抗体のHCVR/LCVRアミノ酸配列内に含有される6個のCDRのセット(すなわち、HCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3)を含む、抗体、またはその抗原結合性断片を提供する。特定の実施形態では、前述のHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3アミノ酸配列セットは、配列番号4-6-8-12-14-16とは、最大で20個の保存的アミノ酸置換、例えば、最大で1、または最大で2、または最大で3、または最大で3、または最大で4、または最大で5、または最大で6、または最大で7、または最大で8、または最大で9、または最大で10、または最大で11、または最大で12、または最大で13、または最大で14、または最大で15、または最大で16、または最大で17、または最大で18、または最大で19個のアミノ酸の保存的アミノ酸置換によって異なる。
【0148】
本明細書において、表1に記載のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%であり、少なくとも90%、少なくとも91%であり、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、もしくは100%の配列同一性を有する、その実質的に類似の配列を含むHCVRを含む抗体、またはその抗原結合性断片を提供する。
【0149】
本明細書において、表1に記載のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%であり、少なくとも90%、少なくとも91%であり、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、もしくは100%の配列同一性を有する、その実質的に類似の配列を含むLCVRを含む抗体、またはその抗原結合性断片を提供する。
【0150】
本明細書において、配列番号2/10の、HCVR/LCVRアミノ酸配列対、またはそれと少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%であり、少なくとも90%、少なくとも91%であり、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、もしくは100%の配列同一性を有する、その実質的に類似の配列を含む、抗体、またはその抗原結合性断片を提供する。
【0151】
本開示は、配列番号4のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、もしくは100%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含む重鎖CDR1(HCDR1)を含む、抗体、またはその抗原結合性断片を提供する。
【0152】
本開示は、配列番号6のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、もしくは100%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含む重鎖CDR2(HCDR2)を含む、抗体、またはその抗原結合性断片を提供する。
【0153】
本開示は、配列番号8のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、もしくは100%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含む重鎖CDR3(HCDR3)を含む、抗体、またはその抗原結合性断片を提供する。
【0154】
本開示は、配列番号12のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、もしくは100%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含む軽鎖CDR1(LCDR1)を含む、抗体、またはその抗原結合性断片を提供する。
【0155】
本開示は、配列番号14のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、もしくは100%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含む軽鎖CDR2(LCDR2)を含む、抗体、またはその抗原結合性断片を提供する。
【0156】
本開示は、配列番号16のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、もしくは100%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含む軽鎖CDR3(LCDR3)を含む、抗体、またはその抗原結合性断片を提供する。
【0157】
本開示は、配列番号8/16のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、もしくは100%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含むHCDR3およびLCDR3アミノ酸配列対(HCDR3/LCDR3)を含む、抗体、またはその抗原結合性断片を提供する。
【0158】
ヒト抗体の調製
トランスジェニックマウスにおいてヒト抗体を生成するための方法は、当該技術分野で知られている。インフルエンザB HAに特異的に結合するヒト抗体を作製するために、本開示の状況下で任意のこのような既知の方法が使用され得る。以下のいずれか1つを含む免疫原を使用して、インフルエンザB HAに対する抗体を生成することができる。特定の実施形態では、抗体は、全長の天然インフルエンザB HAで(例えば、GenBankアクセッション番号AAA43697.1またはACA33493.1を参照、または生きた弱毒化もしくは不活化ウイルスで、またはタンパク質もしくはその断片をコードするDNAで免疫化されたマウスから取得される。あるいは、インフルエンザB HAタンパク質またはその断片は、標準的な生化学的技術を使用して産生され、改変され、免疫原として使用され得る。いくつかの実施形態では、免疫原は、組換え的に産生されたインフルエンザB HAタンパク質またはその断片であってもよい。特定の実施形態では、免疫原はインフルエンザウイルスワクチンであってもよい。特定の実施形態では、1回以上の追加免疫注射を投与してもよい。特定の実施形態では、追加免疫注射は、1つ以上のインフルエンザウイルス株、またはこれらの株に由来する血球凝集素、例えば、B/Victoria/2/87、に続いてB/Yamagata/16/88を、その後B/Victoria/2/87で再び、またはB/Yamagata/16/88、に続いてB/Victoria/2/87を、その後、B/Yamagata/16/88で再び、を含んでもよい。いくつかの態様では、B/Yamagata株は、B/Maryland/03/2008またはB/Nanchang/3451/93またはB/Florida/4/2006に置き換えられる。すべてのマウスは、B/Victoria/2/87、B/Yamagata/16/88、B/Maryland/03/2008、および/またはB/Florida/4/2006由来のHAをコードするDNAの混合物で追加免疫することができる。特定の実施形態では、追加免疫注射は、インフルエンザ株の混合物、または株に由来する血球凝集素の混合物、またはHAをコードするDNAを含有してもよい。特定の実施形態では、免疫原は、E.coli、またはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞またはインフルエンザウイルス自体などの任意の他の真核細胞または哺乳動物細胞で発現される組換えインフルエンザHAペプチドであってもよい。
【0159】
VELOCIMMUNE(登録商標)技術(例えば、US6,596,541、Regeneron Pharmaceuticals、VELOCIMMUNE(登録商標)を参照)またはモノクローナル抗体を生成するための任意の他の公知の方法を使用して、ヒト可変領域およびマウス定常領域を有する、インフルエンザB HAに対する高アフィニティキメラ抗体が、最初に単離される。VELOCIMMUNE(登録商標)技術は、マウスが抗原刺激に応答してヒト可変領域およびマウス定常領域を含む抗体を産生するように、内在性マウス定常領域座に機能的に連結されたヒト重鎖可変領域およびヒト軽鎖可変領域を含むゲノムを有するトランスジェニックマウスを生成することを伴う。抗体の重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAが単離され、ヒト重鎖定常領域およびヒト軽鎖定常領域をコードするDNAに機能的に結合される。次に、完全ヒト抗体を発現することができる細胞においてDNAが発現される。
【0160】
概して、VELOCIMMUNE(登録商標)マウスに対象の抗原を負荷し、抗体を発現するマウスからリンパ細胞(B細胞など)が回収される。リンパ細胞を骨髄腫細胞株と融合させて不死化ハイブリドーマ細胞株を調製し得、対象の抗原に特異的な抗体を産生するハイブリドーマ細胞株を同定するためにそのようなハイブリドーマ細胞株が、スクリーニングおよび選択される。重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAが単離され、重鎖および軽鎖の望ましいアイソタイプ定常領域に結合されてもよい。そのような抗体タンパク質は、CHO細胞のような細胞において産生されてもよい。あるいは、抗原特異的キメラ抗体または軽鎖および重鎖の可変ドメインをコードするDNAは、抗原特異的リンパ球から直接単離されてもよい。
【0161】
まず、ヒト可変領域およびマウス定常領域を有する高アフィニティキメラ抗体が、単離される。以下の実験セクションと同様に、抗体を、アフィニティ、選択性、エピトープなどを含む望ましい特徴について特徴付け、選択する。マウス定常領域は、所望のヒト定常領域で置換され、完全ヒト抗体、例えば、野生型もしくは改変されたIgG1またはIgG4が生成される。選択された定常領域は、特定の用途に応じ変動し得る一方、高アフィニティ抗原結合および標的特異性特徴は、可変領域に存在する。
【0162】
生物学的等価物
本明細書に開示される抗インフルエンザB HA抗体および抗体断片は、記載される抗体のアミノ酸配列とは異なるがインフルエンザHAに結合する能力は保持しているアミノ酸配列を有するタンパク質を包含する。このようなバリアント抗体および抗体断片は、親配列と比較してアミノ酸の1つ以上の付加、欠失、または置換を含むが、記載された抗体の生物学的活性とは本質的に等価である生物学的活性を呈する。同様に、本明細書に開示する抗体をコードするDNA配列は、開示される配列と比較してヌクレオチドの1つ以上の付加、欠失、または置換を含むが、本明細書に開示する抗体または抗体断片と本質的に生物学的に等価である抗体または抗体断片をコードする配列を包含する。
【0163】
2つの抗原結合性タンパク質または抗体が、薬学的等価物または薬学的代替物であり、類似した実験条件下で、単回投与または複数回投与のいずれかで同モル投与量で投与されたときに、その吸収の速度および範囲が有意な差を示さない場合、それら2つの抗原結合性タンパク質または抗体は生物学的に等価であるとみなされる。いくつかの抗体で、吸収の範囲は同等であるが、吸収の速度は同等ではなく、しかし吸収速度における当該差異が意図的であり、ラベリングに反映されており、例えば慢性的使用での有効身体薬物濃度の獲得に必須ではなく、試験された特定の医薬品にとって医学的に重要ではないとみなされるために、それら抗体が生物学的に等価であるとみなされ得る場合、それら抗体は等価物、または薬学的代替物とみなされる。
【0164】
いくつかの実施形態では、2つの抗原結合性タンパク質は、その安全性、純度または有効性において臨床的に意義のある差異が無ければ、生物学的に等価である。
【0165】
いくつかの実施形態では、2つの抗原結合性タンパク質は、参照製品と生物学的製品の間での1回以上の切り替えを行わない持続的療法と比較して、免疫原性の臨床的に有意な変化を含む有害作用のリスクの予想される上昇または有効性の減退が生じずに、患者がそのような切り替えを行うことができる場合、生物学的に等価である。
【0166】
いくつかの実施形態では、2つの抗原結合性タンパク質は、使用条件に関して、当該機序で判明している程度まで共通の作用機序により両方ともが作用する場合、生物学的に等価である。
【0167】
生物学的等価性は、インビボおよび/またはインビトロの方法により実証され得る。生物学的等価性の測定方法としては例えば、(a)時間の関数として血液、血漿、血清または他の生物学的液体中で抗体またはその代謝物の濃度が測定される、ヒトまたは他の哺乳動物におけるインビボ検査、(b)ヒトのインビボ生体利用効率データと相関し、このデータを合理的に予測するインビトロ検査、(c)抗体(またはその標的)の適切な急性薬理学的作用が時間関数として計測される、ヒトまたは他の哺乳動物におけるインビボ検査、および(d)抗体の安全性、有効性または生体利用効率もしくは生物学的等価性を立証する、適切に管理された臨床試験が挙げられる。
【0168】
抗体の生物学的に等価であるバリアントは、例えば、残基もしくは配列の種々の置換を行うことによって、または生物活性に必要とされない末端もしくは内部の残基もしくは配列を欠失することによって構築され得る。例えば、生物活性に必須ではないシステイン残基は、再生の際の不必要な、または不正確な分子内ジスルフィド架橋の形成を防止するために欠失されてもよく、または他のアミノ酸で置換されてもよい。他の状況では、生物学的に等価である抗体には、抗体のグリコシル化特性を改変するアミノ酸変化、例えば、グリコシル化を消滅または除去する変異を含む、抗体バリアントを含んでもよい。
【0169】
Fcバリアントを含む抗インフルエンザ-HA抗体
本明細書に開示される特定の実施形態によると、例えば、中性pHと比較して酸性pHで、FcRn受容体への抗体結合を強化する、または減少させる1つ以上の変異を含むFcドメインを含む、インフルエンザB HA抗体が提供される。例えば、本開示は、FcドメインのC2またはC3領域に変異を含む抗インフルエンザ-HA抗体を含み、変異は、同じであるが改変されていない抗体と比較して、酸性環境において(例えば、pHが約5.5~約6.0の範囲のエンドソームにおいて)FcRnに対するFcドメインの親和性を増加させる。そのような変異は、同じであるが改変されていない抗体と比較して、動物に投与されたときに抗体の血清半減期の増加をもたらし得る。このようなFc改変の非限定的な例としては例えば、250位(例えば、EまたはQ)、250位および428位(例えば、LまたはF)、252位(例えば、L/Y/F/WまたはT)、254位(例えば、SまたはT)、および256位(例えば、S/R/Q/E/DまたはT)における改変、または428位および/もしくは433位(例えば、H/L/R/S/P/QまたはK)および/もしくは434位(例えば、A、W、H、F、またはY[N434A、N434W、N434H、N434F、またはN434Y])における改変、あるいは250位および/もしくは428位における改変、あるいは307位もしくは308位(例えば、308F、V308F)、および434位における改変が含まれる。いくつかの実施形態では、改変は、428L(例えば、M428L)および434S(例えば、N434S)の改変、428L、259I(例えば、V259I)、および308F(例えば、V308F)の改変、433K(例えば、H433K)および434(例えば、434Y)の改変、252、254、および256(例えば、252Y、254T、および256E)の改変、250Qおよび428Lの改変(例えば、T250QおよびM428L)、ならびに307および/または308の改変(例えば、308Fおよび/または308P)を含む。さらに別の実施形態では、改変は、265A(例えば、D265A)および/または297A(例えば、N297A)の改変を含む。
【0170】
例えば、本開示は、以下からなる群から選択される変異の1つ以上の対または群を含むFcドメインを含む抗インフルエンザB HA抗体を含む:250Qおよび248L(例えば、T250QおよびM248L)、252Y、254Tおよび256E(例えば、M252Y、S254TおよびT256E)、428Lおよび434S(例えば、M428LおよびN434S)、257Iおよび311I(例えば、P257IおよびQ311I)、257Iおよび434H(例えば、P257IおよびN434H)、376Vおよび434H(例えば、D376VおよびN434H)、307A、380Aおよび434A(例えば、T307A、E380AおよびN434A)、ならびに433Kおよび434F(例えば、H433KおよびN434F)。前述のFcドメイン変異、および本明細書に開示される抗体可変ドメイン内の他の変異のすべての可能な組み合わせが、本明細書に開示される範囲内であることが企図される。
【0171】
本明細書では、キメラ重鎖定常(C)領域を含む抗インフルエンザB HA抗体が提供され、このキメラC領域は、2つ以上の免疫グロブリンアイソタイプのC領域に由来するセグメントを含む。例えば、抗体は、ヒトIgG1分子、ヒトIgG2分子またはヒトIgG4分子に由来するC3ドメインの一部または全部と組み合わせて、ヒトIgG1分子、ヒトIgG2分子またはヒトIgG4分子に由来するC2ドメインの一部または全部を含むキメラC領域を含み得る。特定の実施形態によると、抗体は、キメラヒンジ領域を有するキメラC領域を含む。例えば、キメラヒンジは、ヒトIgG1ヒンジ領域、ヒトIgG2ヒンジ領域またはヒトIgG4ヒンジ領域に由来する「下部ヒンジ」配列(EU番号付けによる位置228~236のアミノ酸残基)と組み合わされた、ヒトIgG1ヒンジ領域、ヒトIgG2ヒンジ領域またはヒトIgG4ヒンジ領域に由来する「上部ヒンジ」アミノ酸配列(EU番号付けによる位置216~227のアミノ酸残基)を含んでもよい。特定の実施形態によると、キメラヒンジ領域は、ヒトIgG1上部ヒンジまたはヒトIgG4上部ヒンジに由来するアミノ酸残基およびヒトIgG2下部ヒンジに由来するアミノ酸残基を含む。本明細書において説明されるキメラC領域を含む抗体は、特定の実施形態では、抗体の治療特性または薬物動態学的特性に負に影響を与えることなく改変Fcエフェクター機能を呈する。(例えば、2013年2月1日出願の米国仮出願第61/759,578号を参照されたく、その開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0172】
抗体の生物学的特徴
一般に、本明細書に開示される抗体は、インフルエンザB HAに結合することによって機能する。例えば、本開示は、Biacore測定器での表面プラズモン共鳴、またはリアルタイムバイオレイヤー干渉計に基づくバイオセンサー(Octet HTXアッセイ)によって測定される10nM未満のKで、インフルエンザB HAに(例えば、25℃または37℃で)結合する抗体および抗原結合性断片を含む。特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合性断片は、インフルエンザB HAに、例えば、本明細書に記載のアッセイフォーマット、または実質的に類似したアッセイを使用して、表面プラズモン共鳴によって測定した、約5nM未満、約2nM未満、約1nM未満、約500pM未満、250pM未満、または100pM未満のKで結合する。
【0173】
本開示はまた、例えば、本明細書で定義されるようなアッセイフォーマット、または実質的に類似のアッセイを使用して、37℃で表面プラズモン共鳴により測定したときに、約75分を超える解離半減期(t1/2)で、インフルエンザB HAに結合する、抗体およびその抗原結合性断片を含む。特定の実施形態では、本明細書に開示される抗体または抗原結合性断片は、インフルエンザHAに、例えば本明細書に定義されるアッセイフォーマット(例えば、mAb捕捉形式または抗原捕捉形式)、または実質的に類似したアッセイを使用して、25℃で表面プラズモン共鳴により測定された、約200分超、約300分超、約400分超、約500分超、約600分超、約700分超、約800分超、約900分超、または約1000分超のt1/2で結合する。
【0174】
本開示はまた、その宿主細胞に対するインフルエンザウイルスの感染性を中和する抗体またはその抗原結合性断片を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、様々な代表的なインフルエンザウイルス、例えばB/Victoria/2/87、B/Yamagata/16/88、B/Maryland/03/2008、B/Nanchang/3451/93、および/またはB/Florida/4/2006に対して、マイクロ中和試験アッセイで、または実質的に類似したアッセイで、約1pM~約800nMの範囲のIC50、例えば約1pM~約800pMの範囲のIC50、約1pM~約10pMの範囲のIC50、約10pM~約50pMの範囲のIC50、約1pM~約100pMの範囲のIC50、約10pM~約100pMの範囲のIC50、約100pM~約800pMの範囲のIC50、もしくは約500pM~約800pMの範囲のIC50の、約1nM~約10nMの範囲のIC50、約10nM~約50nMの範囲のIC50、約1nM~約100nMの範囲のIC50、約10nM~約100nMの範囲のIC50、約100nM~約800nMの範囲のIC50、もしくは約500nM~約800nMの範囲のIC50の中和効力を示す。
【0175】
本開示はまた、サブnM濃度でインフルエンザB感染細胞に結合し、HAへの特異的結合を示す、抗体またはその抗原結合性断片も含む(実施例3を参照)。
【0176】
本開示はまた、インビボで、(未治療の対象と比較して)インフルエンザB感染症の保護の増加、または強力な中和を示す、抗インフルエンザB HA抗体を含む。特定の抗体は、予防的に投与された場合、保護を示す(感染前、実施例4を参照されたい)。いくつかの実施形態では、感染の5日前に投与された5mg/kgまたは0.5mg/kgの抗HA抗体の1回用量は、予防的に投与された場合、ヒトIgG1アイソタイプ対照抗体で治療されたマウスと比較して、マウスの100%の生存をもたらした。
【0177】
抗インフルエンザB HA抗体またはその抗原結合性断片を用いた予防的治療は、例えば、インフルエンザウイルスへのその後の曝露による感染から哺乳動物を保護するか、またはインフルエンザウイルスへのその後の曝露による感染の可能性またはリスクを減少させることができる。当該保護は、インフルエンザ感染症の少なくとも1つの症状の重症度、期間、または発生頻度の改善、緩和、または低減からなる群から選択される。いくつかの態様では、単離された抗体は、インフルエンザウイルスへの曝露前に動物(例えば、哺乳動物)に予防的に投与される場合(例えば、インフルエンザウイルスへの曝露の少なくとも2日前、少なくとも3日前、少なくとも4日前、少なくとも5日前、または2~5日前)、インフルエンザ感染症のリスクを減少させる。少なくとも1つの症状は、頭痛、発熱、痛み、鼻漏(鼻閉)、悪寒、倦怠感、脱力感、咽喉痛、咳、息切れ、嘔吐、下痢、肺炎、気管支炎、および死亡からなる群から選択され得る。
【0178】
一実施形態では、インフルエンザB HAに特異的に結合する単離された組換え抗体またはその抗原結合性断片は、以下の特徴:
(a)完全ヒトモノクローナル抗体である;
(b)約10-9未満、約10-10M未満、約10-11M未満、約10-12M未満、または約10-13M未満のEC50でインフルエンザB HAに結合する;
(c)インフルエンザB HAに特異的に結合する単離された組換え抗体またはその抗原結合性断片での治療なしの同等のインフルエンザ感染動物と比較して、インフルエンザ感染動物の生存における増加を示す;ならびに/または
(d)
(i)配列番号 2に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)に含まれる3つの重鎖相補性決定領域(CDR)(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)、および
(ii)配列番号10に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)内に含まれる3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)
を含む
のうちの1つ以上を有する。
【0179】
本明細書に開示される抗体は、前述の生物学的特徴、またはそれらの任意の組み合わせのうちの1つ以上を保有し得る。本明細書に開示される抗体のその他の生物学的特徴は、本明細書の実施例を含む本開示の検討から当業者に明らかであろう。
【0180】
エピトープマッピングおよび関連技術
本開示は、インフルエンザB HA分子の1つ以上のドメイン内に見られる1つ以上のアミノ酸と相互作用する、抗インフルエンザB HA抗体を含む。抗体が結合するエピトープは、インフルエンザHA分子内に位置する3つ以上(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、またはそれ以上)のアミノ酸の単一の連続配列からなり得る(例えば、ドメイン内の直線状エピトープ)。あるいは、エピトープは、インフルエンザB HA分子内に位置する複数の非連続アミノ酸(またはアミノ酸配列)からなり得る(例えば、立体構造エピトープ)。
【0181】
当業者にとって既知の様々な技法を使用して、抗体が、ポリペプチドまたはタンパク質内の「1つ以上のアミノ酸と相互作用する」かどうかを決定することができる。例示的な技法としては、例えば、Antibodies、Harlow and Lane(Cold Spring Harbor Press、Cold Spring Harbor、NY)に記載されたものなどの常套的な交差遮断アッセイが挙げられる。他の方法としては、アラニンスキャニング変異解析、ペプチドブロット分析(Reineke(2004)Methods Mol.Biol.248:443-63)、ペプチド切断解析結晶学的研究およびNMR分析が挙げられる。さらに、抗原のエピトープ切り出し、エピトープ抽出および化学修飾のような方法を用いることができる(Tomer(2000年)Prot.Sci.9:487~496)。抗体が相互作用するポリペプチド内のアミノ酸を同定するために使用することができる別の方法は、質量分析により検出される水素/重水素交換である。一般的な用語において、水素/重水素交換方法は、対象タンパク質を重水素で標識すること、続いて重水素で標識したタンパク質に抗体を結合させることを含む。次に、タンパク質/抗体複合体は、水に移され、抗体複合体によって保護されるアミノ酸内の交換可能なプロトンは、界面の一部ではないアミノ酸内の交換可能なプロトンよりも遅い速度で、重水素から水素への逆交換を受ける。結果として、タンパク質/抗体界面の一部を形成するアミノ酸は、重水素を保持し得るため、界面に含まれないアミノ酸と比較して、比較的高い質量を呈し得る。抗体の解離後、標的タンパク質はプロテアーゼ切断および質量分析解析を受け、それにより抗体が相互作用する特異的なアミノ酸に対応する重水素標識残基を明らかにする。例えば、Ehring(1999)Analytical Biochemistry 267:252-259、Engen and Smith(2001)Anal.Chem.73:256A-265Aを参照されたい。
【0182】
「エピトープ」という用語は、B細胞および/またはT細胞が応答する抗原上の部位を指す。B細胞エピトープは、連続的なアミノ酸、またはタンパク質の三次フォールディングによって並置された非連続的なアミノ酸のどちらからも形成されることができる。連続的なアミノ酸から形成されたエピトープは、典型的には、変性溶媒へ曝露されても保持されるのに対して、三次元フォールディングにより形成されたエピトープは、典型的には、変性溶媒を用いた処理によって失われる。エピトープは、典型的には、固有の空間的構造において、少なくとも3個のアミノ酸、または少なくとも4個のアミノ酸、例えば、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、または少なくとも10個のアミノ酸を含む。
【0183】
抗原構造に基づく抗体プロファイリング(ASAP)としても既知の修飾補助プロファイリング(MAP)は、化学的または酵素的に修飾された抗原表面に対する各抗体の結合プロファイルの類似性に従って、同一抗原に対して方向付けられた多数のモノクローナル抗体(mAb)を分類する方法である(参照によりその全体が本明細書に具体的に組み込まれる、US2004/0101920を参照されたい)。各カテゴリーは、別のカテゴリーによって表されるエピトープと明瞭に異なるか、または部分的に重複する固有エピトープを反映し得る。本技術は、遺伝的に同一の抗体の迅速なフィルタリングを可能にし、その結果、特性評価は遺伝的に異なる抗体に焦点を当てることができる。ハイブリドーマスクリーニングに適用する場合、MAPは、所望の特性を有するモノクローナル抗体を産生する希少なハイブリドーマクローンの同定を容易にし得る。MAPを使用して、本明細書に記載される抗体を、異なるエピトープに結合する抗体のグループに分類することができる。
【0184】
特定の実施形態では、インフルエンザウイルスA HA抗体またはその抗原結合性断片は、天然形態または組換えによって産生された、インフルエンザHAに例示される1つ以上の領域内のエピトープに、またはその断片に結合する。
【0185】
本開示は、同じエピトープ、または当該エピトープの一部分に結合する、抗インフルエンザB HA抗体を含む。同様に、本開示はまた、インフルエンザB HAまたはその断片への結合を、本明細書に記載される特定の例示的な抗体のいずれかと競合する、抗インフルエンザB HA抗体も含む。例えば、本発明は、インフルエンザB HAへの結合について、表1に記載された抗体から得られた1つ以上の抗体と交差競合する、抗インフルエンザB HA抗体を含む。
【0186】
公知の方法を使用することにより、抗体が、参照抗インフルエンザB HA抗体と同じエピトープに結合するか、または結合について競合するかを判断できる。例えば、試験抗体が、参照抗インフルエンザB HA抗体と同じエピトープに結合するかどうかを判定するために、参照抗体を、飽和条件下で、インフルエンザB HAまたはペプチドに結合させることができる。次に、インフルエンザB HA分子に結合する試験抗体の能力が評価される。試験抗体が、参照抗インフルエンザB HA抗体との飽和結合後に、インフルエンザB HAに結合することができる場合、試験抗体は、参照抗インフルエンザB HA抗体とは異なるエピトープに結合すると結論付けることができる。一方で、試験抗体が、参照抗インフルエンザB HA抗体との飽和結合後に、インフルエンザB HAに結合できない場合、試験抗体は、参照抗インフルエンザB HA抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する可能性がある。
【0187】
抗体が、参照抗インフルエンザB HA抗体との結合について競合するかどうかを判断するために、上述の結合方法論が2つの方向性で実施される:第1の方向性では、参照抗体を、飽和条件下でインフルエンザB HAに結合させ、続いてインフルエンザB HA分子への試験抗体の結合を評価する。第2の方向性では、試験抗体を、飽和条件下でインフルエンザB HA分子に結合させ、続いてインフルエンザB HA分子への参照抗体の結合を評価する。両方の方向性で、第1の(飽和する)抗体のみがインフルエンザB HA分子に結合することができる場合、試験抗体および参照抗体はインフルエンザB HAへの結合について競合すると結論付けられる。当業者によって理解されるように、参照抗体への結合について競合する抗体は、必ずしも参照抗体と同一のエピトープに結合しなくてよく、重複したエピトープまたは隣接するエピトープに結合することによって参照抗体の結合を立体的に遮断する場合もある。
【0188】
2つの抗体は、それぞれが他方の抗原への結合を競合的に阻害(遮断)する場合、同じまたは重複したエピトープに結合する。すなわち、1、5、10、20、または100倍の過剰な一方の抗体は、競合結合アッセイで測定する場合、他方の結合を、少なくとも50%、例えば75%、90%またはさらに99%阻害する(例えば、Junghans et al.,Cancer Res.1990 50:1495-1502を参照されたい)。あるいは、一方の抗体の結合を低減または除去する、抗原中の本質的にすべてのアミノ酸変異が、他方の抗体の結合を低減または除去する場合、2つの抗体は同一エピトープを有する。一方の抗体の結合を低減または除去するいくつかのアミノ酸変異が、他方の抗体の結合を低減または除去する場合、2つの抗体は重複するエピトープを有する。
【0189】
追加の日常的な実験(例えば、ペプチド変異および結合分析)を実施して、観察された試験抗体の結合の欠落が実際に、参照抗体と同じエピトープに結合することが原因であるのか、または立体遮断(または別の現象)が、観察された結合の欠落の原因であるのかを確認することができる。この種類の実験は、ELISA、RIA、表面プラズモン共鳴、フローサイトメトリー、または当該技術分野で利用可能な任意の他の定量的または定性的抗体結合アッセイを使用して実施することができる。
【0190】
免疫コンジュゲート
本明細書で企図されるのは、インフルエンザウイルス感染症を治療するためのトキソイドまたは抗ウイルス薬などの治療用部分とコンジュゲートした(「免疫コンジュゲート」)、ヒト抗インフルエンザB HAモノクローナル抗体を包含する。本明細書で使用される場合、「免疫コンジュゲート」という用語は、放射性薬剤、サイトカイン、インターフェロン、標的もしくはレポーター部分、酵素、ペプチドもしくはタンパク質、または治療剤と化学的または生物学的に連結する抗体を指す。抗体は、その標的に結合できる限り、当該分子に沿った任意の場所で、放射性薬剤、サイトカイン、インターフェロン、標的またはレポーター部分、酵素、ペプチドまたは治療剤に連結されてもよい。免疫コンジュゲートの例には、抗体薬物コンジュゲートおよび抗体-毒素融合タンパク質が含まれる。一実施形態では、薬剤はインフルエンザ-HAに対する第2の異なる抗体であってもよい。特定の実施形態では、抗体は、ウイルス感染細胞に特異的な薬剤とコンジュゲートされてもよい。抗インフルエンザ-HA抗体にコンジュゲートされうる治療用部分のタイプは、治療される状態および達成される望ましい治療効果を考慮に入れる。免疫コンジュゲートを形成するための好適な薬剤の例は、当該技術分野で公知であり、例えば、WO05/103081を参照されたい。
【0191】
多重特異性抗体
本明細書に開示される抗体は、単一特異性、二重特異性、または多重特異性であってもよい。多重特異性抗体は、1つの標的ポリペプチドの異なるエピトープに対して特異的であってもよく、または2つ以上の標的ポリペプチドに特異的な抗原結合ドメインを含有してもよい。例えば、Tutt et al.,1991,J.Immunol.147:60-69;Kufer et al.,2004,Trends Biotechnol.22:238-244を参照されたい。
【0192】
本明細書で提供される多重特異性抗原結合分子またはそのバリアントはいずれも、当業者に既知であろう、標準的な分子生物学的技法(例えば、組換えDNAおよびタンパク質発現技術)を使用して構築することができる。
【0193】
いくつかの実施形態では、インフルエンザB HA特異的抗体は、インフルエンザB HAの別個のドメインに結合する可変領域が一緒に連結して、単一結合分子内に二重のドメイン特異性を与える、二重特異的フォーマット(「二重特異性」)で生成される。適切に設計された二重特異性体は、特異性および結合親和性の両方を増大させることにより、全体的なインフルエンザB HA-タンパク質阻害有効性を増強しうる。個別ドメイン(例えば、N末端ドメインのセグメント)に対する特異性を有する可変領域、または1つのドメイン内の異なる領域に結合できる可変領域を、各領域が別個のエピトープ、または1つのドメイン内の異なる領域に同時に結合することを可能にする、構造的足場上でペアリングされる。一例では、二重特異性のために、1つのドメインに対する特異性を有する結合由来の重鎖可変領域(V)を、第2のドメインに対する特異性を有する一連の結合由来の軽鎖可変領域(V)で組換えて、そのVの元の特異性を妨げることなく元のVとペアリングさせることが可能な非同族Vパートナーを特定する。このように、単一のVセグメント(例えば、V1)を、2つの異なるVドメイン(例えば、V1およびV2)と組み合わせて、2つの結合「アーム」(V1-V1およびV2-V1)からなる二重特異性体を生成することができる。単一のVセグメントの使用は、二重特異性体を生成するために使用されるクローニング、発現、および精製プロセスにおいて、系の複雑さを低減し、それによって単純化し、効率を向上させる(例えば、USSN13/022759およびUS2010/0331527を参照されたい)。
【0194】
あるいは、2つ以上のドメイン、および限定されないが、例えば、第2の異なる抗インフルエンザB HA抗体などの第2の標的に結合する抗体は、本明細書に記載される技術、または当業者に公知の他の技術を使用して、二重特異性フォーマットで調製されてもよい。別個の領域に結合する抗体可変領域は、例えば、インフルエンザウイルスの関連部位に結合する可変領域と連結して、単一結合分子内に二重抗原特異性を付与することができる。適切に設計された二重特異性のこの性質は、二重の機能を果たす。細胞外ドメインに対する特異性を有する可変領域は、細胞外ドメインの外部に対する特異性を有する可変領域と組み合わされ、各可変領域が別々の抗原に結合することを可能にする構造的足場上でペアリングされる。
【0195】
本明細書に開示される状況下で使用され得る例示的な二重特異性抗体のフォーマットは、第1の免疫グロブリン(Ig)C3ドメインと第2のIg C3ドメインの使用を含み、この場合において当該第1および第2のIg C3ドメインは、少なくとも1つのアミノ酸によって互いに異なり、そしてこの場合において、少なくとも1つのアミノ酸の差異は、アミノ酸の差異を欠く二重特異性抗体と比較して、二重特異性抗体のプロテインAへの結合を低下させる。一実施形態では、第1のIg C3ドメインはプロテインAに結合し、第2のIg C3ドメインは、例えばH95R(IMGTエクソンナンバリングによる;EUナンバリングではH435R)改変などのプロテインA結合を低減または消失させる変異を含有する。第2のC3はさらに、Y96F改変(IMGTによる、EUではY436F)を含んでもよい。第2のC3に見られ得るさらなる改変としては、以下が挙げられる:IgG1抗体の場合、D16E、L18M、N44S、K52N、V57M、およびV82I(IMGTによる、EUではD356E、L358M、N384S、K392N、V397M、およびV422I)、IgG2抗体の場合、N44S、K52N、およびV82I(IMGT、EUではN384S、K392N、およびV422I)、ならびにIgG4抗体の場合、Q15R、N44S、K52N、V57M、R69K、E79Q、およびV82I(IMGTによる、EUではQ355R、N384S、K392N、V397M、R409K、E419Q、およびV422I)。上述の二重特異性抗体のフォーマットの変形も、本明細素に開示される範囲内で企図される。
【0196】
本明細書に開示される状況下で使用され得る他の例示的な二重特異性のフォーマットとしては限定されないが、例えば、scFvベースまたはダイアボディの二重特異性フォーマット(diabody bispecific format)、IgG-scFv融合体、二重可変ドメイン(DVD)-Ig、クアドローマ(Quadroma)、ノブ・イントゥ・ホール(knobs-into-holes)、共通軽鎖(例えば、ノブ・イントゥ・ホールを有する共通軽鎖など)、CrossMab、CrossFab、(SEED)ボディ、ロイシンジッパー、デュオボディ(Duobody)、IgG1/IgG2、二重作用Fab(DAF)-IgG、およびMab二重特異性フォーマット(前述のフォーマットのレビューに関しては、例えばKlein et al.2012,mAbs 4:6,1-11、および当該文献内に引用される参考文献を参照のこと)が挙げられる。二特異性抗体は、ペプチド/核酸コンジュゲーションを使用して構築されてもよく、例えば直交的な化学反応性を有する非天然アミノ酸を使用して、部位特異的抗体-オリゴヌクレオチドコンジュゲートを生成し、次いでこれを規定の組成、結合価および構造を有する多量体性複合体へと自己アセンブリさせる。(例えば、Kazane et al.,J.Am.Chem.Soc.[Epub:Dec.4,2012]を参照されたい)。
【0197】
治療的投与および製剤
本明細書では、抗インフルエンザB HA抗体またはその抗原結合性断片を含む治療用組成物を提供する。本開示による治療用組成物は、移送、送達、忍容性などの改善をもたらすために製剤に組み込まれる、薬学的に許容可能な担体、賦形剤、および他の剤とともに投与される。数多くの適切な製剤が、すべての薬剤師に公知の処方集:Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Company,Easton,PAにおいて見出され得る。これらの製剤としては、例えば、粉末、ペースト、軟膏、ゼリー、ワックス、油、脂質、小胞を含有する脂質(カチオン性またはアニオン性)(LIPOFECTIN(商標)など)、DNA共役体、無水吸収ペースト、水中油および油中水乳剤、乳剤カルボワックス(様々な分子量のポリエチレングリコール)、半固体ゲル、ならびにカルボワックスを含有する半固体混合物が挙げられる。Powell et al.”Compendium of excipients for parenteral formulations”PDA(1998)J Pharm Sci Technol 52:238-311も参照されたい。
【0198】
抗体の用量は、投与されることになっている対象の年齢およびサイズ、標的疾患、容態、投与経路などによって変わり得る。本明細書に開示される抗体が、成人患者の疾患または障害を治療するために、またはこのような疾患を予防するために使用される場合、本明細書に開示される抗体を、通常、体重1kg当たり約0.1~約60mg、または体重1kg当たり約5~約60mg、約10~約50mg、または約20~約50mgの単回投与で投与することが有利である。状態の重症度に応じて、治療の頻度および期間を調整できる。特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合性断片は、少なくとも約0.1mg~約5000mg、約1~約2000mg、約5~約1000mg、または約10~約500mg、~約100mg、または~約50mgの初回用量として投与され得る。ある特定の実施形態では、初回用量の後に、初回用量とおよそ同量か、または初回用量より少ない用量であり得る量の抗体またはその抗原結合性断片の第2または複数回のその後の用量の投与が続いてもよく、ここにおいて、その後の用量は、少なくとも1日~3日、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも5週間、少なくとも6週間、少なくとも7週間、少なくとも8週間、少なくとも9週間、少なくとも10週間、少なくとも12週間、または少なくとも14週間の間をあける。
【0199】
様々な送達系が公知であり、医薬組成物の投与に使用することができ、例えば、リポソーム、微粒子、マイクロカプセルへの封入、変異ウイルスを発現することができる組換え細胞、受容体介在性エンドサイトーシスなどが挙げられる(例えば、Wu et al.(1987)J.Biol.Chem.262:4429-4432を参照されたい)。導入方法には、皮内経路、経皮経路、筋肉内経路、腹腔内経路、静脈内経路、皮下経路、鼻腔内経路、硬膜外経路および経口経路が含まれるが、これらに限定されない。組成物は、任意の好都合な経路によって、例えば、注入もしくはボーラス注射によって、上皮もしくは粘膜皮膚内層(linings)(例えば、口腔粘膜、直腸粘膜および腸粘膜など)を介した吸収によって投与することができ、かつ他の生物学的に活性な薬剤と一緒に投与することができる。投与は全身性または局所性であってもよい。医薬組成物は、ベシクル、特にリポソームで送達され得る(例えば、Langer(1990)Science 249:1527-1533を参照されたい)。
【0200】
本明細書で開示される抗体を送達するためのナノ粒子の使用も本明細書において企図される。抗体とコンジュゲートしたナノ粒子は、治療用途および診断用途の両方で使用され得る。抗体とコンジュゲートしたナノ粒子、および調製方法および使用方法は、参照により本明細書に組み込まれる、Arruebo,M.,et al.2009(“Antibody-conjugated nanoparticles for biomedical applications”in J.Nanomat.Volume 2009,Article ID 439389,24 pages,doi:10.1155/2009/439389)に詳細に記載されている。ウイルス感染細胞を標的にするために、ナノ粒子は開発され、医薬組成物中に含有される抗体にコンジュゲートされてもよい。薬物送達のためのナノ粒子はまた、例えば、US8257740、またはUS8246995に記載され、その全体がそれぞれ本明細書に組み込まれる。
【0201】
ある特定の状況では、医薬組成物は、制御放出系で送達され得る。一実施形態では、ポンプを使用することができる。別の実施形態では、ポリマー材料を使用することができる。さらに別の実施形態では、制御放出系を組成物の標的の近傍に配置することができ、したがって全身用量のほんの一部しか必要としない。
【0202】
注入可能な調製物は、静脈内、皮下、皮内、頭蓋内、腹腔内および筋肉内注射、点滴などの投与形態を含み得る。これらの注射可能な調製物は、公知の方法によって調製されてもよい。例えば、注入可能な調製物は、例えば、注入に従来使用される無菌水性媒体または油性媒体に、上述される抗体またはその塩を溶解、懸濁、または乳化させることによって調製され得る。注射用水性媒体としては、例えば、生理食塩水、グルコースを含有する等張液、および他の助剤などがあり、これらは、アルコール(例えば、エタノール)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤[例えば、ポリソルベート80、HCO-50(水素化ヒマシ油のポリオキシエチレン(50mol)付加物)]などの適切な可溶化剤と併用され得る。油性媒体としては、例えば、ゴマ油、ダイズ油などが採用され、これらは安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどの可溶化剤と併用され得る。このようにして調製した注射液は、好ましくは、適切なアンプル中に充填される。
【0203】
本明細書で開示される医薬組成物は、標準的な針およびシリンジで皮下または静脈内に送達され得る。さらに、皮下送達に関して、ペン型送達デバイスは、本明細書で開示される医薬組成物の送達において、用途を容易にする。そのようなペン型送達デバイスは、再利用可能であるか、または使い捨てであり得る。再利用可能なペン型送達デバイスは、概して、医薬組成物を含有する交換可能なカートリッジを利用する。カートリッジ内部の医薬組成物のすべてが投与され、カートリッジが空になると、空のカートリッジは、容易に廃棄することができ、医薬組成物を含有する新しいカートリッジと交換され得る。次に、ペン型送達デバイスは再利用することができる。使い捨てペン型送達デバイスでは、交換可能なカートリッジはない。むしろ、使い捨てペン型送達デバイスは、医薬組成物がデバイス内部のリザーバ内に保持された事前に充填された状態で販売される。リザーバから医薬組成物が空になると、デバイス全体が廃棄される。
【0204】
多数の再利用可能なペン型および自動注入装置送達デバイスは、本明細書で開示される医薬組成物の皮下送達において用途を見出す。例としては、ほんの数例を挙げると、AUTOPEN(商標)(Owen Mumford,Inc.、Woodstock,UK)、DISETRONIC(商標)ペン(Disetronic Medical Systems、Burghdorf,Switzerland)、HUMALOG MIX 75/25(商標)ペン、HUMALOG(商標)ペン、HUMALIN 70/30(商標)ペン(Eli Lilly and Co.、Indianapolis,IN)、NOVOPEN(商標)I、II、およびIII(Novo Nordisk、Copenhagen,Denmark)、NOVOPEN JUNIOR(商標)(Novo Nordisk、Copenhagen,Denmark)、BD(商標)ペン(Becton Dickinson、Franklin Lakes,NJ)、OPTIPEN(商標)、OPTIPEN PRO(商標)、OPTIPEN STARLET(商標)、およびOPTICLIK(商標)(Sanofi-Aventis、Frankfurt,Germany)が挙げられるが、決してこれらに限定されない。本明細書に開示される医薬組成物の皮下送達において用途を見出す使い捨てペン型送達デバイスの例としては、ほんの数例を挙げると、SOLOSTAR(商標)ペン(Sanofi-Aventis)、FLEXPEN(商標)(Novo Nordisk)、およびKWIKPEN(商標)(Eli Lilly)、SURECLICK(商標)Autoinjector(Amgen、Thousand Oaks,CA)、PENLET(商標)(Haselmeier、Stuttgart,Germany)、EPIPEN(Dey,L.P.)およびHUMIRA(商標)Pen(Abbott Labs、Abbott Park,IL)が挙げられるが、決してこれらに限定されない。
【0205】
有利に、上述の経口または非経口使用のための医薬組成物は、有効成分の用量を適合させるのに適した単位用量で剤形に調製される。単位用量におけるこのような剤形には、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル剤)、坐剤などが含まれる。含有される抗体の量は、一般的に単位用量で剤形当たり約5~約5000mgであり、特に注射の形態では、抗体は約5~約500mgに含有されることが好ましく、およびその他の剤形に対しては約10~約250mgに含有されることが好ましい。
【0206】
抗体の治療用途
本明細書に開示される抗体は、インフルエンザBウイルス感染に関連する疾患または障害または状態の治療、および/または予防、ならびに/またはかかる疾患、障害または状態に関連する少なくとも1つの症状を改善するために有用である。
【0207】
特定の実施形態では、本明細書で提供される抗体は、インフルエンザBウイルスに起因する重度および急性の呼吸器感染症を患う対象を治療するために有用である。いくつかの実施形態では、抗体は、宿主中のウイルス力価を減少させるまたはウイルス量を低減させるのに有用である。一実施形態では、本発明の抗体または抗原結合性断片は、インフルエンザBウイルス感染症の患者に対して治療用量で投与されてもよい。
【0208】
例えば、本明細書に開示される1つ以上の抗体を投与して、未治療であるが同様の境遇の対象と比較して、疾患もしくは障害の1つ以上の症状または状態の重症度を軽減または防止または減少させることができる。抗体は、これらに限定されないが、発熱、咳、咽頭痛、頭痛、体の痛み、倦怠感、極度の疲労、息切れ、気管支炎、肺炎、および死亡を含む、インフルエンザウイルス感染症の少なくとも1つの症状の重症度を改善または低減するために使用され得る。
【0209】
また、本明細書に開示される1つ以上抗体を、免疫不全の個人、高齢者(65歳以上)、2歳未満の子ども、医療従事者、インフルエンザウイルス感染症を患う患者の極めて近くにいる家族、および病歴(例えば、肺感染症、心疾患または糖尿病のリスクの上昇)のある患者など、インフルエンザウイルス感染症の発症のリスクのある対象に予防的に使用することも意図されている。
【0210】
さらなる実施形態では、本抗体は、インフルエンザウイルス感染症を患う患者を治療するための医薬組成物の調製に使用される。別の実施形態では、抗体は、インフルエンザウイルス感染症の治療または改善に有用な当業者に公知の任意の他の薬剤または任意の他の治療とともに、補助療法として使用される。
【0211】
併用療法
併用療法は、抗インフルエンザB HA抗体、および抗体または抗体の生物学的に活性な断片と有利に組み合わせられ得る、任意の追加的治療剤を含み得る。本明細書に開示される抗体は、インフルエンザウイルスを治療するために使用される1つ以上の薬物または薬剤(例えば、抗ウイルス剤)と相乗的に組み合わせることができる。
【0212】
例えば、例示的抗ウイルス剤には、例えば、ワクチン、ノイラミニダーゼ阻害剤またはヌクレオシド類似体が含まれる。本明細書で提供される抗体と組み合わせて使用されうる他の例示的抗ウイルス剤には、例えば、ジドブジン、ガンシクロビル(gangcyclovir)、ビダラビン、イドクスウリジン、トリフルリジン、ホスカルネット、アシクロビル、リバビリン、アマンタジン、リマンタジン(remantidine)、サキナビル、インジナビル、リトナビル、アルファ-インターフェロンおよび他のインターフェロン、ノイラミニダーゼ阻害剤(例えば、ザナミビル(RELENZA(登録商標))、オセルタミビル(TAMIFLU(登録商標))ラニナミビル、ペラミビル)、またはリマンタジンが含まれる。
【0213】
他の例示的抗ウイルス薬には、HA阻害剤、シアル酸阻害剤およびM2イオンチャネル阻害剤が含まれるが、これらに限定されない。一実施形態では、M2イオンチャネル阻害剤はアマンタジンまたはリマンタジンである。
【0214】
いくつかの実施形態では、本明細書で提供される抗体は、インフルエンザウイルス感染症を有する患者のウイルス量を低減させるために、または感染症の1つ以上の症状を改善するために、第2の治療剤と組み合わされてもよい。
【0215】
本明細書で提供される抗体は、抗炎症薬(例えば、コルチコステロイド、および非ステロイド性抗炎症薬)、充血緩和剤、抗ヒスタミン薬、抗感染薬、インフルエンザウイルスに対する異なる抗体、抗ウイルス薬、FLUMIST(登録商標)またはFLUVIRIN(登録商標)などのインフルエンザウイルスに対するワクチン、抗酸化剤などの栄養補助食品、またはインフルエンザウイルス感染症を治療するための他の任意の緩和療法と組み合わせて使用されてもよい。緩和療法は、対象をより快適にし、および/またはインフルエンザBの感染症の症状の重症度を緩和するために、対象の治療を含む。
【0216】
特定の実施形態では、第2の治療剤はインフルエンザに対する別の抗体である。特定の実施形態では、第2の治療剤は、インフルエンザ血球凝集素に対する別の抗体である(例えば、インフルエンザA血球凝集素)。特定の実施形態では、第2の治療剤は、ノイラミニダーゼ、またはマトリクスタンパク質2の四量体外部ドメイン(M2eタンパク質)などの異なるインフルエンザタンパク質に対する別の抗体である。特定の実施形態では、第2の治療剤は、宿主膜貫通プロテアーゼ、セリン2(TMPRSS2)などの異なるタンパク質に対する抗体である。第2の抗体は、ウイルスの異なるサブタイプまたは株に由来する1つ以上の異なるインフルエンザウイルスタンパク質に対して特異的であってもよい。本明細書では、インフルエンザウイルスに対する広範な中和活性または阻害活性を有する抗体の組み合わせ(「カクテル」)を使用することが意図されている。いくつかの実施形態では、非競合抗体を組み合わせて、それを必要とする対象に投与し、選択圧力の結果としての急速な変異により、インフルエンザウイルスの逃げる能力を低下させることができる。いくつかの実施形態では、組み合わせを含む抗体は、HAタンパク質上の別個の重複しないエピトープに結合する。組み合わせを含む抗体は、ウイルスの宿主細胞への付着および/または侵入および/または宿主細胞との融合を遮断しうる。抗体は、インフルエンザB株の任意の1つ以上から選択される血球凝集素と相互作用してもよく、単独で使用される場合、または上述の任意の1つ以上の薬剤と組み合わせた場合、B/Victoria/2/87、B/Yamagata/16/88、B/Maryland/03/2008、B/Nanchang/3451/93、および/またはB/Florida/4/2006を含むインフルエンザB株のうちの任意の1つ以上を中和することができる。
【0217】
本明細書では、本明細書に開示される抗インフルエンザB HA抗体に加えて抗インフルエンザHA抗体の組み合わせを使用することも本明細書で意図されており、ここで組み合わせは、交差競合しない1つ以上の抗体を含み、いくつかの実施形態では、組み合わせは、広範な中和活性を有する第1の抗体と、狭いスペクトルの分離株に対する活性を有し、第1の抗体と交差競合しない第2の抗体とを含む。
【0218】
本明細書で使用される場合、「と組み合わされる」という用語は、本発明の抗インフルエンザB HA抗体の投与前、同時に、または投与後に、投与されうる追加の治療上活性な成分を意味する。「と組み合わされる」という用語はまた、抗インフルエンザ-HA抗体および第2の治療剤の逐次投与または同時投与も含む。
【0219】
追加の治療活性成分は、本明細書に開示される抗インフルエンザB HA抗体の投与前に対象に投与されてもよい。例えば、第1の成分が、第2の成分の投与の1週間前、72時間前、60時間前、48時間前、36時間前、24時間前、12時間前、6時間前、5時間前、4時間前、3時間前、2時間前、1時間前、30分前、15分前、10分前、5分前、または1分未満前に投与される場合に、第1の成分は、第2の成分の「前に」投与されるとみなされ得る。他の実施形態では、追加の治療活性成分は、本明細書に開示される抗インフルエンザB HA抗体の投与後に対象に投与され得る。例えば、第1の成分が、第2の成分の投与の1分後、5分後、10分後、15分後、30分後、1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、12時間後、24時間後、36時間後、48時間後、60時間後、72時間後に投与される場合に、第1の成分は、第2の成分の「後に」投与されるとみなされ得る。さらに他の実施形態では、追加の治療活性成分は、本明細書に開示される抗インフルエンザB HA抗体の投与と同時に対象に投与され得る。本開示の目的に対し、「同時」投与とは、例えば、抗インフルエンザB HA抗体と追加の治療活性成分を、単一剤形で、または互いに約30分以内に対象に投与される個別の剤形で対象に投与することを含む。個別の剤形で投与する場合、各剤形は同じ経路を介して投与することができ(例えば、抗インフルエンザB HA抗体と追加の治療活性成分の両方を静脈内に投与することができるなど)、別の方法として、各剤形は異なる経路を介して投与することができる(例えば、抗インフルエンザB HA抗体は静脈内に投与されてもよく、追加の治療活性成分は経口投与されてもよい)。いずれの場合でも、成分を、単一の剤形で、個別の剤形を同じ経路で、または個別の剤形を異なる経路で投与することはすべて、本開示の目的のための「同時投与」とみなされる。本開示の目的のために、追加の治療活性成分の投与の「前に」、「同時に」または「後に」(これらの用語は上記で定義されている)、抗インフルエンザB HA抗体投与することは、抗インフルエンザB HA抗体を、追加の治療上活性な成分と「組み合わせて」投与することとみなされる。
【0220】
本開示は、本明細書に開示される抗インフルエンザB HA抗体が、本明細書の別段に記載される1つ以上の追加の治療活性成分と一緒に製剤化される医薬組成物を含む。
【0221】
投与レジメン
特定の実施形態によると、本明細書で提供される抗インフルエンザB HA抗体もしくはその抗原結合性断片(または抗インフルエンザ HA抗体と本明細書で言及される追加の治療活性薬剤のいずれかとの組み合わせを含む医薬組成物)の単回用量を、それを必要とする対象に投与することができる。本明細書に開示される特定の実施形態によると、抗インフルエンザB HA抗体(または抗インフルエンザB HA抗体と本明細書で言及される追加の治療活性薬剤のいずれかとの組み合わせを含む医薬組成物)の複数回用量は、規定の時間経過にわたり対象に投与することができる。本開示の本態様による方法は、複数回用量の抗インフルエンザB HA抗体を対象に逐次的に投与することを含む。本明細書で使用される場合、「逐次的に投与する」とは、各用量の抗インフルエンザB HA抗体が、例えば所定の間隔(例えば、時間、日、週または月)をあけた異なる日などの、異なる時点で対象に投与されることを意味する。本開示は、抗インフルエンザB HA抗体の単一の初回用量、次いで抗インフルエンザB HA抗体の1つ以上の二次用量、および次いで任意選択で抗インフルエンザB HAの1つ以上の三次用量を逐次的に患者に投与することを含む方法を含む。
【0222】
「初回用量」、「二次用量」、および「三次用量」という用語は、本発明の抗インフルエンザB HA抗体の投与の時間的な順序を指す。したがって、「初回用量」は、治療レジメンの開始時に投与される用量である(また「ベースライン用量」とも呼称される)、「二次用量」は初回用量の後に投与される用量であり、「三次用量」は二次用量の後に投与される用量である。初回用量および二次用量および三次用量はすべて、同じ量の抗インフルエンザ-HA抗体を含有し得るが、投与頻度に関しては一般的に互いに異なっていてもよい。しかしながら、特定の実施形態では、初回用量、二次用量および/または三次用量に含有される抗インフルエンザB HA抗体の量は、治療過程の間で互いに変化する(例えば、適宜調整して加減する)。特定の実施形態では、2つ以上(例えば、2、3、4、または5つ)の用量が、治療レジメンの開始時に負荷用量」として投与され、その後に続く用量は、より少ない頻度ベースで投与される(例えば、「維持用量」)。
【0223】
特定の例示的な実施形態では、二次用量および/または三次用量の各々は、直前の用量の1~48時間後(例えば、1時間後、1時間半後、2時間後、2時間半後、3時間後、3時間半後、4時間後、4時間半後、5時間後、5時間半後、6時間後、6時間半後、7時間後、7時間半後、8時間後、8時間半後、9時間後、9時間半後、10時間後、10時間半後、11時間後、11時間半後、12時間後、12時間半後、13時間後、13時間半後、14時間後、14時間半後、15時間後、15時間半後、16時間後、16時間半後、17時間後、17時間半後、18時間後、18時間半後、19時間後、19時間半後、20時間後、20時間半後、21時間後、21時間半後、22時間後、22時間半後、23時間後、23時間半後、24時間後、24時間半後、25時間後、25時間半後、26時間後、26時間半後、またはそれ以上)に投与される。「直前の用量」という句は、本明細書において使用される場合、複数回の投与の順序において、当該順序の次の用量の投与の前に介在する用量なく患者に投与される抗インフルエンザB HA抗体の用量を意味する。
【0224】
本発明の本態様による方法は、抗インフルエンザB HA抗体の二次用量および/または三次用量の任意の数を患者に投与することを含み得る。例えば、ある特定の実施形態では、患者に単一の二次用量のみが投与される。他の実施形態では、2つ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8つ、またはそれ以上)の二次用量を患者に投与する。同様に、ある特定の実施形態では、患者に単一の三次用量のみが投与される。他の実施形態では、2つ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8つまたはそれ以上)の第三の投与量が患者に投与される。
【0225】
特定の実施形態では、第二および/または第三の投与量が患者に投与される頻度は、治療レジメンの経過中に変化し得る。投与の頻度は、臨床検査後の個々の患者のニーズに応じて、医師による治療過程の間に、調節され得る。
【0226】
抗体の診断上の使用
抗インフルエンザB HA抗体は、例えば、診断上の目的のために、試料中のインフルエンザB HAを検出および/または測定するために使用され得る。いくつかの実施形態は、ウイルス感染症などの疾患または障害を検出するアッセイにおける、1つ以上の抗体の使用を企図している。インフルエンザB HAの例示的な診断アッセイは、例えば、患者から得られた試料を、本発明の抗インフルエンザB HA抗体と接触させることを含み、抗インフルエンザB HA抗体は、検出可能な標識またはレポーター分子で標識されるか、またはインフルエンザB HAを患者試料から選択的に単離するための捕捉リガンドとして使用される。あるいは、標識されていない抗インフルエンザB HA抗体は、それ自体が検出可能に標識される二次抗体との組み合わせで、診断用途に使用することができる。検出可能な標識またはレポーター分子は、例えばH、14C、32P、35S、もしくは125Iなどの放射性同位体、フルオレセインイソチオシアネートもしくはローダミンなどの蛍光部分もしくは化学発光部分、またはアルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、もしくはルシフェラーゼなどの酵素であり得る。試料中のインフルエンザB HAを検出または測定するために使用することのできる具体的な例示的アッセイには、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、および蛍光標識細胞分取(FACS)が含まれる。
【0227】
インフルエンザB HA診断アッセイで使用できる試料には、正常な状態または病理学的状態下で、検出可能な量のインフルエンザB HA、またはその断片のいずれかを含有する、患者から得ることができる任意の組織または流体試料が含まれる。一般的に、健康な患者(例えば、インフルエンザに関連する疾患に罹患していない患者)から得られた特定の試料中のインフルエンザB HAのレベルが、ベースラインまたは標準のインフルエンザB HAのレベルを最初に確立するために測定される。次に、インフルエンザB HAのこのベースラインレベルを、インフルエンザB HA関連症状、またはこうした状態に関連する症状を有する疑いがある個体から得られた試料で測定されたインフルエンザB HAのレベルと比較できる。
【0228】
インフルエンザB HAに特異的な抗体は、追加の標識または部分を含有しないか、またはN末端もしくはC末端の標識または部分を含有してもよい。一実施形態では、標識または部分はビオチンである。結合アッセイでは、標識(ある場合)の位置が、ペプチドが結合する表面に対するペプチドの配向を決定する場合がある。例えば、表面がアビジンで被覆される場合、N末端ビオチンを含有するペプチドは、ペプチドのC末端部分が表面から遠位になるように配向される。
【実施例
【0229】
以下の実施例は、本明細書に開示される方法および組成物をどのように作製および使用するかの完全な開示および説明を当業者に提供するために提示され、本発明者らがその発明とみなすものの範囲を限定することを意図していない。使用した数字(例えば、量、温度など)に対する正確さを確保するために努力がなされているが、一部の実験誤差および偏差を考慮に入れるべきである。別途示さない限り、部は重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏であり、室温は約25℃であり、圧力は大気圧または大気圧付近である。
【0230】
実施例1:インフルエンザB血球凝集素(HA)に対するヒト抗体の生成
インフルエンザ血球凝集素に対するヒト抗体が、ヒトイムノグロブリン重鎖可変領域およびカッパ軽鎖可変領域をコードするDNAを含むVELOCIMMUNE(登録商標)マウスで生成された。マウスは、インフルエンザAおよびB血球凝集素を発現するベクターの組み合わせで免疫し、続いてインフルエンザAおよびB株で感染および回復させ、続いて組換え血球凝集素タンパク質の混合物を含む追加免疫を行った。抗体の免疫応答を、インフルエンザHA特異的免疫測定法によってモニタリングした。抗インフルエンザB HA抗体は、米国特許第7582298号に記載されるように、ミエローマ細胞との融合を行うことなく、抗原陽性マウスB細胞から直接単離された。当該文献は、参照によりその全体が本明細書に明確に組み込まれる。この方法を使用し、完全ヒト抗インフルエンザHA抗体(すなわち、ヒト可変ドメインとヒト定常ドメインを保有する抗体)が取得された。
【0231】
本明細書に記載される例示的な抗体は、mAb35490と呼ばれる。本実施例の方法に従って作製された例示的な抗体の生物学的特性を、以下に記載される実施例において詳細に説明する。
【0232】
実施例2:重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列
表1は、例示的な抗インフルエンザB HA抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域およびCDR、ならびに重鎖および軽鎖配列のアミノ酸配列識別子を記載する。対応する核酸配列識別子を表2に記載する。
【0233】
(表1)アミノ酸配列識別子
【0234】
(表2)核酸配列識別子
【0235】
本明細書に開示される抗体は、完全ヒト可変領域を有するが、マウス定常領域(例えば、マウスIgG1 FcまたはマウスIgG2 Fc(aまたはbアイソタイプ))またはヒト定常領域(例えば、ヒトIgG1 FcまたはヒトIgG4 Fc)を有することができる。当業者によって理解されるように、特定のFcアイソタイプを有する抗体は、異なるFcアイソタイプを有する抗体に変換することができる(例えば、マウスIgG1 Fcを有する抗体は、ヒトIgG4を有する抗体に変換することができる、など)が、いずれの場合でも、表1および2に示される数値識別子によって示されている可変ドメイン(CDRを含む)は変わらず、抗原に対する結合特性はFcドメインの性質に関わらず同一または実質的に類似していると予想される。
【0236】
実施例3:インフルエンザに感染した細胞に結合する抗血球凝集素抗体
MDCK London細胞を、96ウェルプレート中の感染培地(1%ピルビン酸ナトリウム、0.21%低IgG BSA溶液、および0.5%ゲンタマイシンを含有するDMEM)50μLに40,000細胞/ウェルで播種した。細胞を、5%のCO、37℃で4時間インキュベートした。次いで、プレートを、10E-2.5の希釈率で50μLのインフルエンザB/Florida/4/2006ウイルス(B/Yamagata系統のワクチン株)に感染させ、軽くたたき、戻して37℃、5%COで20時間置いた。次いで、プレートをPBSで1回洗浄し、PBS中の4%のPFA 50μLで固定し、室温で15分間インキュベートした。プレートをPBSで3回洗浄し、300μLのStartingBlock(商標)(PBS)ブロッキング緩衝液(Thermo Fisher Scientific)で室温で1時間ブロッキングした。インフルエンザB抗HA抗体mAb35490P(ヒトIgG1 Fcでフォーマット)およびヒトIgG1アイソタイプ対照抗体を、ブロッキング緩衝液中、100μg/mLの開始濃度まで希釈し、1:4で、6.1E-3μg/mLの最終濃度までタイトレーションした。インキュベーション後、ブロッキング緩衝液をプレートから除去し、希釈抗体を75μL/ウェルで細胞上に添加した。プレートを、室温で1時間インキュベートした。インキュベーション後、プレートを、洗浄緩衝液(イミダゾール緩衝生理食塩水およびTween(登録商標)20をMilli-Q水で1Xに希釈)で3回洗浄し、ブロッキング緩衝液で1:2000に希釈した二次抗体(ペルオキシダーゼAffiniPureロバ抗ヒトIgG、Jackson ImmunoResearch)の75μL/ウェルでオーバーレイした。二次溶液を、プレート上で室温で1時間インキュベートした。続いて、プレートを洗浄緩衝液で3回洗浄し、75μL/ウェルの顕色基質ELISA Pico基質(1:1で調製)を添加した。プレートを、Molecular Devices Spectramax i3xプレートリーダーで発光について、直ちに読み取った。EC50データを表3に示す。
【0237】
(表3)FluB感染細胞抗HA結合ELISA
【0238】
表3に見られるように、mAb35490は、サブnM濃度でインフルエンザB感染細胞に結合し、HAへの特異的結合を示す。
【0239】
実施例4:予防的抗体投与によるインフルエンザB誘発性死亡率の防止
Balb/C Eliteマウスを、感染の5日前に頸部擦過傷への皮下注射によりPBSで希釈した5mg/kgまたは0.5mg/kgのmAb35490(ヒトIgG1 Fcでフォーマット)または5mg/kgのヒトIgG1アイソタイプ対照抗体で処置した。感染当日、インフルエンザB/Florida/4/2006ウイルスストックを氷上で解凍し、2.05E08 pfu/mLのストックからPBSで希釈して、20μLのPBS(2.0E05pfu/mL)中に4000pfuウイルスを含むようにした。ウイルスは常に氷上に置かれていた。各マウスに、2.4mg/kgのケタミンおよび0.1mg/kgのキシラジンのカクテルを注射し、完全に眠るまで約10~15分間休ませた。次いで、各マウスに、20μLのウイルス(4000pfu)を鼻腔内投与して、ウイルスを完全に吸入させた。次に、感染後2週間、マウスを体重減少および罹患率についてモニターした。感染時の初期体重から25%以上の体重減少は、安楽死とした。結果を表4に示す。
【0240】
(表4)mAb35490またはアイソタイプ対照投与後のマウス生存
【0241】
ヒトIgG1アイソタイプ対照抗体で処置されたすべての動物は、感染に屈し、感染後8日までに安楽死させる必要があった。5mg/kgおよび0.5mg/kgの両方のmAb35490で処置された動物はすべて、感染を生き延び、FluB抗HA抗体mAb35490の有効性を実証した。
【配列表】
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【国際調査報告】