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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-26
(54)【発明の名称】ローラー表面
(51)【国際特許分類】
   D01D 5/06 20060101AFI20221219BHJP
   D01F 2/00 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
D01D5/06 107
D01F2/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022524060
(86)(22)【出願日】2020-10-21
(85)【翻訳文提出日】2022-04-22
(86)【国際出願番号】 EP2020079560
(87)【国際公開番号】W WO2021078768
(87)【国際公開日】2021-04-29
(31)【優先権主張番号】19204806.4
(32)【優先日】2019-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507127314
【氏名又は名称】レンチング アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ピリッヒシャマー、ヨハン
(72)【発明者】
【氏名】シュレンプ、クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】グレッセンバウアー、アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ライター、エルンスト
(72)【発明者】
【氏名】ノイントイフェル、マルティン
【テーマコード(参考)】
4L035
4L045
【Fターム(参考)】
4L035BB03
4L035BB66
4L045AA02
4L045DA34
4L045DA35
4L045DB03
4L045DB05
(57)【要約】
本発明は、セルロースフィラメント糸の製造に使用されるローラーの表面適応に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リヨセルフィラメント製造における使用に好適なローラーであって、
ローラー表面が、フィラメント又は糸に付着する液体に応じて、下記の条件のうちの1つを満たす表面張力を示す第1のセクションを備える、前記ローラー:
(a)前記液体の表面張力が45mN/m以上である場合に、前記第1のセクションの表面張力が、前記液体の表面張力の0.25~3.5倍(好ましくは0.35~2.5倍、より好ましくは0.4~0.8倍)の範囲内であるか;又は
(b)前記液体の表面張力が45mN/m未満である場合に、前記第1のセクションの表面張力が、前記液体の表面張力の0.5~10倍(好ましくは0.8~2.5倍、より好ましくは1~2倍)の範囲内である。
【請求項2】
リヨセルフィラメント製造における処理ステップ用にローラーを選択する方法であって、
前記ローラーは、ローラー表面が、フィラメント又は糸に付着する液体に応じて、下記の条件のうちの1つを満たす表面張力を示す第1のセクションを備えるように選択されることを特徴とする、前記方法:
(a)前記液体の表面張力が45mN/m以上である場合に、前記第1のセクションの表面張力が、前記液体の表面張力の0.25~3.5倍(好ましくは0.35~2.5倍、より好ましくは0.4~0.8倍)の範囲内であるか;又は
(b)前記液体の表面張力が45mN/m未満である場合に、前記第1のセクションの表面張力が、前記液体の表面張力の0.5~10倍(好ましくは0.8~2.5倍、より好ましくは1~2倍)の範囲内である。
【請求項3】
前記第1のセクションの前記表面張力が下記の条件を満たす、請求項1に記載のローラー又は請求項2に記載の方法:
条件(a)の前記第1のセクションの表面張力が、前記液体の表面張力の1~1.75倍であり;
条件(b)の前記第1のセクションの表面張力が、前記液体の表面張力の0.9~5倍である。
【請求項4】
前記ローラー表面が、前記1のセクションよりも低い表面張力を有する第2のセクションを備える、請求項1若しくは請求項3に記載のローラー又は請求項2若しくは請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1のセクションが金属(好ましくはクロムめっき鋼)から製造されている、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のローラー又は方法。
【請求項6】
前記第2のセクションが合成ポリマーから製造されている、請求項4又は請求項5に記載のローラー又は方法。
【請求項7】
前記第2のセクションが、しわ(creases)又は溝(grooves)である、請求項4又は請求項5に記載のローラー又は方法。
【請求項8】
前記ローラー表面が、第1のセクションのみ備えるか、又は前記第1のセクション及び前記第2のセクションがローラー軸に沿って実質的に平行に伸びている、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載のローラー又は方法。
【請求項9】
前記第2のセクションの幅(breadth)が0.5mm~5mm(好ましくは1.5mm~2.5mm)である、請求項4~請求項8のいずれか1項に記載のローラー又は方法。
【請求項10】
前記第2のセクション同士が2mm~25mm(好ましくは3mm~4.5mm)離れている、請求項4~請求項9のいずれか1項に記載のローラー又は方法。
【請求項11】
前記第1のセクションが、前記ローラー表面の表面積の40%~95%を占める、請求項1~請求項10のいずれか1項に記載のローラー又は方法。
【請求項12】
前記ローラーがリヨセルフィラメント製造において使用される、請求項1~請求項11のいずれか1項に記載のローラーの使用。
【請求項13】
前記ローラーが、リヨセルフィラメント又はフィラメント束が凝固浴を出た後に、前記リヨセルフィラメント又は前記フィラメント束を巻き取るガイダンスローラーとして使用される、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記ローラーが、液体除去及び/又は洗浄ステップ中に用いられる、請求項12に記載の使用。
【請求項15】
前記ローラーが、前記フィラメントに追加の物質を付与する際に使用される、請求項12に記載の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースフィラメント糸の製造に使用されるローラーの表面適応に関する。
【背景技術】
【0002】
連続フィラメント糸(continuous filament yarn)は、ステープル繊維(staple fiber)を使用して作られた糸から製造される織物(fabric)とは異なる特徴を有する織物を製造するために、布製品(textile)産業で広く使われている。連続フィラメント糸は、そのすべての繊維が、糸のどの長さにわたっても連続している糸である。連続フィラメント糸は通常、10本から300本以上の個々のフィラメントからなり、これらはすべて互いに平行、かつ製造時の糸の軸に平行になっている。糸は、ポリマー又はポリマー誘導体の溶液又は溶融物(melt)を押し出した後、ボビン若しくはリールに巻き付けるか、又は遠心巻(centrifugal winding)によってケーキを形成することによって製造される。
【0003】
合成ポリマー連続フィラメント糸が一般的である。例えば、ナイロン、ポリエステル及びポリプロピレン連続フィラメント糸は、様々な布製品に使用されている。これらは、溶融したポリマーを、製造される糸に必要なフィラメント数に応じた数の孔を有する紡糸口金(spinneret)を介して溶融紡糸(melt spinning)することにより製造される。溶融ポリマーが固化し始めた後、ポリマー分子を配向させ、糸の特性を向上させるために糸を延伸してもよい。連続フィラメント糸は、セルロースジアセテート及びセルローストリアセテート等のセルロース誘導体から乾式紡糸(dry spinning)で紡ぐことも可能である。ポリマーは好適な溶媒に溶解させ、紡糸口金から押し出す。この溶媒は押出し後すぐに蒸発するので、ポリマーはフィラメントの形態で沈殿し、糸を形成する。新たに製造されたこの糸を延伸して、ポリマー分子を配向させてもよい。
【0004】
セルロースベースのフィラメント及び繊維を製造する方法のひとつに、いわゆるリヨセルプロセスがある。リヨセル技術とは、セルロース木材パルプ又は他のセルロース系原材料(feedstock)を極性溶媒(例えば、n-メチルモルホリン-n-オキシド;以下「アミンオキシド」と称する)に直接溶解して、様々な有用セルロース系材料に成形することが可能である粘性の高い高せん断減粘性溶液を生成することに基づく技術である。商業的には、この技術は、布製品及び不織布(nonwoven)産業において広く使用されている一群のセルロースステープル繊維(Lenzing AG、Lenzing, AustriaからTENCEL(登録商標)の商品名で市販されている)の製造に使用されている。リヨセル技術から生まれた他のセルロース製品(フィラメント、フィルム、ケーシング、ビーズ、及び不織布ウェブ(nonwoven web)等)も開示されている。
【0005】
欧州特許第EP 823945 B1号は、セルロース繊維の製造プロセスを開示しており、このプロセスは、リヨセルプロセスに従うセルロース紡糸溶液の押出及び凝固を含み、フィラメントを延伸するステップ、及びフィラメントをセルロース繊維に切断するステップを必須としており、これは様々な応用分野で使用され得るものである。凝固したセルロースフィラメントを延伸するステップは、この先行技術の教示によれば、特に所望の特性のバランスを有するステープル繊維を得るために必須である。
【0006】
欧州公開公報第EP 0853146 A2号は、セルロース系繊維を調製するためのプロセスを開示している。この文献の教示によれば、繊維を得るために、分子量が大きく異なる2種類の原料を混合している。国際公開公報WO 98/06754号も同様の方法を開示しており、この方法では、紡糸溶液を得るために調製した溶液を混ぜる前に、まず2つの異なる原料を別々に溶解させることを必要としている。ドイツ公開公報第DE 19954152 A1は、比較的低い温度を有する紡糸溶液が使用する、繊維の調製方法を開示している。国際公開公報第WO 97/23667号は、リヨセル繊維の製造方法を開示している。ドイツ公開公報第DE 10 2005 040 001 A1は、リヨセル繊維の製造に使用可能な装置を開示している。O. Santos et al., Journal of Food Engineering 64 (2004), 63-79には、ファウリング(fouling)を低減することを目的としたステンレス鋼表面の改質に関する情報が開示されている。
【0007】
リヨセル紡糸液から製造されるセルロースフィラメント糸の利点については、これまでにも述べられてきた(Kruger, Lenzinger Berichte 9/94, S. 49 ff.)。しかし、紡糸効率に対する要求の高まりから、リヨセル法における紡糸速度を数百m/秒まで上げる試みがなされてきた。しかし、このような高い紡糸速度では、生産される個々のフィラメントに満足できない高い割合の欠陥が生じ、その結果、更なる使用に適さない製品の割合が高くなり、及び/又は生産停止に至るなど、種々の問題が発生する可能性がある。
【0008】
リヨセルプロセスにおいて、フィラメント及び/又はフィラメント束は、凝固浴での最初のフィラメント凝固の後、様々なローラーによって洗浄等のプロセスの次の段階へと搬送される。最初は、フィラメント又はフィラメント束はまだ損傷を受けやすいか、及び/又は接触したときに望ましくないほど互いに付着し得るので、ローラーの周りのフィラメント又はフィラメント束の通過が、製造されるフィラメントに望ましくない影響をもたらさないように注意しなければならない。このような悪影響の例としては、ローラー表面への不十分な付着による滑り(slipping)、ローラー表面上でのフィラメント又はフィラメント束の軸方向移動(すなわち、ローラー表面上での横方向の移動であり、隣接するフィラメント又はフィラメント束間に望ましくない接触が生じ得る)、並びにローラー表面への付着が強すぎて、ローラー表面からの取り外される際にフィラメント又はフィラメント束に機械力が作用することによる衝撃が挙げられる。
【0009】
したがって、高速で連続フィラメントリヨセル糸を作製することは、プロセス上の新たな課題となっている。プロセスにおける滑り又は他の問題を、信頼性の高い方法で可能な限り最小限に抑えることができれば有益である。特に、これらの問題をプロセスの初期段階(紡糸直後及び初期の洗浄ステップ)だけでなく、仕上げ(アビバージュ(avivage))プロセス、又は油、保湿組成物等の追加の物質の付与等のプロセスの後期段階においても最小化又は完全に回避することができれば、有益であり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、リヨセルフィラメント又はフィラメント束の欠陥を防止する手段、及び、(特に高速での)リヨセルフィラメント製造時に、例えば滑り等による製造トラブルを防止する手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、本発明は、請求項1に定義されたローラー、及び請求項2に記載の方法を提供する。好ましい実施形態は、請求項3から請求項11及び明細書、並びに使用請求項12から請求項15に示されている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
当該技術においてよく知られているように、リヨセルプロセスは、紡糸溶液の調製後、ノズルを通してフィラメントを押し出し、ほとんどの場合、空隙で初期冷却した後、浴中で凝固させることを含む。その後、フィラメント又はフィラメント束は、通常、製品を液体除去及び洗浄ステップ等の更なる工程に誘導するガイダンスローラーによって巻き取られる。これらの段階においても、フィラメント又はフィラメント束は、ローラーによって次の処理ステップに移動される。フィラメント製造の追加の段階は、仕上げ剤等の塗布のように、フィラメント又はフィラメント糸に更なる物質を付与する段階であってもよい。
【0013】
これらのローラー(特に、凝固浴を出た後にフィラメントを巻き取る最初のガイダンスローラー、並びに、次のローラー及びいかなる更なるローラー)について、フィラメントがフィラメントにとって有害な力を受けることを避けるために、かつ、フィラメント及び/又はフィラメント束が互いに接触するのを避けるため、特に第1のローラー対との再接触の際に、上記フィラメント及び/又はフィラメント束が移動することを避けるために、これら及び更なる処理ステップをあらゆる適切な注意をもって行うことが重要である。凝固後のこれらの初期段階において、フィラメントは、個々のフィラメント及び/又はフィラメント束の間に望ましくない接触点を生じさせるとともに、機械的衝撃の影響を依然として受けやすい。このことは、フィラメント加工の更なる下流側で問題になる可能性があるため、これらの工程を注意深く制御することが重要である。しかし、生産速度に関しては、商業的な考慮に関する最も重要な要因の1つであるため、妥協は許されない。しかし、後の処理ステップ(フィラメントがすでに強固になっているとき)においてもフィラメントの断裂又は製造上の問題等の悪影響が生じる可能性があるので、フィラメント又はフィラメント糸は、各ステップのローラーの周囲を十分に注意して搬送されなければならず、特に滑りを避けなければならないので、後の処理段階にも同様の注意が払われる。
【0014】
特に滑りはプロセス全体の非常に望ましくない停止を引き起こしうる様々な問題につながる可能性があるため、特に、フィラメント及び/又はフィラメント束が滑らずにローラーを介して搬送される必要である。
【0015】
上記で概説したように、繊維の性質に起因する異なる要件が相反するため、この点についてのローラー表面に対するこれらの要件を満たすことは容易でない。さらに、これらの要件は、上記で規定されている異なる製造段階において異なる場合がある。滑り並びにフィラメント及び/又はフィラメント束の軸方向移動を生じさせることなく迅速に搬送するためには、表面への付着力をできるだけ高くする必要がある。同時に、ある時点で、フィラメント又はフィラメント束はローラー表面から取り外されなければならない(すなわち、フィラメント又はフィラメント束に望ましくない高い機械力を作用させることなく、ローラー表面からフィラメント又はフィラメント束が解放されなければならない)ので、付着力はできるだけ低い必要がある。したがって、これらの相反する要求を満たすための解決策を見出すことが求められている。
【0016】
本発明によると、ローラー表面が、フィラメント又は糸に付着する液体に応じて、下記の条件のうちの1つを満たす表面張力を示す第1のセクションを備えるように、リヨセルフィラメント又はフィラメント束と接触するローラーの表面を選択することにより、これらの相反する要件を満たすことが可能であることが見出された」
(a)液体の表面張力が45mN/m以上である場合に、第1のセクションの表面張力が、液体の表面張力の0.25~3.5倍(好ましくは0.35~2.5倍、より好ましくは0.4~0.8倍)の範囲内であるか;又は
(b)液体の表面張力が45mN/m未満である場合に、第1のセクションの表面張力が、液体の表面張力の0.5~10倍(好ましくは0.8~2.5倍、より好ましくは1~2倍)の範囲内である。
【0017】
その他、本発明に係るローラーの原理設計は、ここで説明する表面構造以外は、通常のローラー設計(直径等)に準ずるため、本明細書ではこれらの詳細な説明は省略する。
【0018】
上記のようにローラー表面の第1のセクションの表面張力を調整することによって、フィラメント又は糸に悪影響を与えることなく、それぞれの処理ステップでローラーの周りにフィラメント及び/又は糸を導くことが可能であることが見出された。洗浄ステップを一例にとると、上述の原理は、(約72.8mN/mの表面張力を有する水を洗浄液とすると)第1のセクションは254.8mN/m~18.2mN/mの表面張力を有する可能性があることを意味する。例えば約29mN/mの表面張力を有し得るアビバージュ組成物(avivage composition)等の低表面張力液体の場合、第1のセクションの表面張力の範囲は14.5mN/m~290mN/mの範囲であってもよい。上記で規定されている範囲の表面張力は、フィラメント又はフィラメント束に必要な付着力をもたらし、これは、上記で概説したように、滑り並びにローラー表面上でのフィラメント及び/又はフィラメント束の軸方向移動を防止する。しかし、同時に、ローラーは、必要な位置でローラー表面からフィラメント又はフィラメント束を容易に取り外すことができることも要求される。この要件は、上に示したように、上記で概説した原理に従って選択されたローラーで同様に満たされる。
【0019】
しかしながら、ローラー表面は、第1のセクションの表面張力よりも低い表面張力を有する第2のセクションも含んでいてもよい。これは、特に、ローラー表面からのフィラメント又はフィラメント束の適切な取り外しを助け、フィラメント又はフィラメント束について望ましくない効果、例えばフィラメントの断裂等をさらに回避し得る。したがって、本発明に係るローラーは、第2の表面セクションを含んでいてもよく、この第2の表面セクションにより、フィラメント又はフィラメント束に悪影響を与えることなく、ローラー表面からのフィラメント又はフィラメント束の除去又は取り外しをさらに良好に行うことが可能になる。本発明によれば、これは、ローラー表面上に、好ましくは一定の間隔で、適切な取り外しセクションを設けることによって確保され、これらのセクションは第1のセクションの表面張力よりも小さい表面張力を示すことを特徴とする。好ましくは、これらの第2のセクションは、第1のセクションの表面張力よりも5%以上、より好ましくは10%以上、さらにより好ましくは25%以上、低い表面張力を示す。実施形態によっては、その差は10mN/m以上、好ましくは25mN/m以上である。上記から容易に明らかなように、第2のセクションの表面張力は、原則として、第1のセクションについて規定された範囲によってカバーされる範囲に包含され得る。しかし、第2のセクションの表面張力が第1のセクションの表面張力より低い限り、両方のタイプのセクションを明確に定義することができ、2つのタイプの表面セクションを区別することが可能である。
【0020】
第2のセクションが別の構造(粗さ、又は凹み若しくはしわ等の異なる三次元構造等の表面構造)を有する場合、又は異なる材料から作られている場合、これはより容易に明らかである。しかし、必要な低い表面張力が与えられる限り、使用中ではこれらの違いが十分であるため(たとえ絶対値が依然として第1のセクションについて規定されている表面張力の範囲内であるとしても)、第2のセクションは所望の目的(フィラメント/糸のローラーからの取り外しを助ける)を果たすことが可能である。
【0021】
本発明によれば、そのような取り外しセクション(detachment sections)を設けるために、様々な手段が利用可能である。一つの可能性は、ローラー表面に、好ましくはローラーの軸と平行に延びる、しわ(creases)又は溝(grooves)を設けることである。このようなしわ又は溝を設けることによって、ローラーの(理論的な)表面は、ローラーに用いられた原則的な高表面張力材料(良好な付着に必要な上記で規定されている要件を満たす)から、単に空の表面(absent surface)(すなわち空気)を設けることによって変化する。このような「空の(absent)」表面は、本発明の文脈では、低い表面張力を有する材料とみなされる。フィラメント処理の際に、これらのしわ又は溝が水で満たされることもあり得るが、これも同様に、必要な範囲内の表面張力を提供する。
【0022】
更なる選択肢としては、表面粗さを小さくすることが挙げられ、これにより、取り外しセクションの表面張力を上記の範囲にすることも可能であろう。
【0023】
さらに、ローラー表面に設けられたしわ又は溝を、上記で規定されている範囲内の表面張力を提供する材料、好ましくは合成ポリマーで充填することも可能である。同様の方法で、すなわち、低い表面張力の材料、好ましくは合成ポリマーを用いることによって、ローラーの表面に、必要とされる範囲の表面張力を提供するコーティングされたセクションを提供することも可能である。このようなコーティングが所望の様式で機能することを保証する1つの方法は、ローラー材料の表面内のマイクロクラック(micro-cracks)又はマイクロ亀裂(micro-fissures)を充填することである。しかしながら、本発明は、同様に、ローラー表面の巨視的な表面領域上にもこのようなコーティングを提供することを想定している。
【0024】
しわ又は溝を設ける場合、しわ又は溝は、0.5mm~5mm、好ましくは1.5mm~2.5mmの範囲の幅(breadth)(すなわち、ローラーの軸に垂直な寸法)を有するように設けられることが好ましい。このような2つの溝又はしわ同士の距離は、2mm~25mm、好ましくは2.5mm~10mm、より好ましくは3mm~4.5mmの範囲であってよい。この寸法は、例えば合成ポリマーを使用することによって、取り外し点を形成するために、ローラー表面のコーティングについても採用してもよい。
【0025】
本発明に係る取り外しセクション、すなわち第2のセクションの作成は、表面改質処理及び/又はコーティング処理等の追加の製造ステップを必要とするので、ローラー表面の大部分が第1のセクションから作られることが好ましい。これらのセクションは、典型的には、ローラー表面の製造に使用される主要材料から作られるので、これらの表面セクションがローラー表面の大部分を構成する場合、しばしば商業的に有益である。ローラー表面全体に対する典型的な第1のセクションの割合は、40%~95%、好ましくは50%~80%であり、60%~70%を含む。実施形態によっては、ローラー表面は、第1のセクションのみからなる。
【0026】
ローラー表面に提供されるしわ及び溝並びにマイクロクラック又はマイクロ亀裂は、当業者に公知の方法に従って、エッチング処理等の適切な表面処理方法によって調製され得る。同様に、当業者は、取り外しセクションを提供するコーティングを作成するために、例えば、合成ポリマーでローラー表面をコーティングすることができる状態にある。同様に、表面粗さが低減されたセクションを提供することも、同様に当業者の通常の実践の範囲内である。
【0027】
ローラー表面の高表面張力部分に好適な材料としては、特に金属、特に鉄系材料、ステンレス鋼、クロム、アルミニウム等が挙げられる。しかし、表面張力の要件を満たす限り、セラミック等の他の材料も使用可能であることが分かっている。単にしわ又は溝を設けない場合、取り外しセクションを設けるのに好適な材料は、典型的には、合成ポリマー、例えばPVC、PA、ポリオレフィン、PTFE、PET、PMMA等である。本発明によって提供されるようなローラー表面の製造を容易にするために、熱可塑性ポリマーを使用することが好ましい。
【0028】
驚くべきことに、上記の指針に従うこと、すなわち、ローラー表面に用いられる主要材料の表面張力が上記で規定されている範囲内にあることを保証する一方で、同じく上記で概説されているように表面張力の要件を満たす任意の取り外しセクションを設けることによって、滑り、フィラメント又はフィラメント束間の接触及びフィラメントの断絶等の望ましくない効果を生じさせることなく、リヨセルフィラメント製造中のローラー周りのフィラメント又はフィラメント束を適切に搬送することが容易にできることが判明した。
【0029】
したがって、本発明は、リヨセルフィラメント製造の際に、特に凝固後にフィラメント又はフィラメント束を巻き取るガイダンスローラーとして、しかし、例えば液体除去、洗浄又は乾燥操作の際に用いられる任意の後続ローラーについても、本明細書に規定及び説明されるローラーを使用することを提案するものである。
【0030】
クロムメッキ鋼ローラーを用いて、リヨセルフィラメントを製造した。ローラーの表面張力は、後述の方法に従って測定した。表面張力が約37mN/m(ローラーの表面張力は洗浄液の表面張力の約0.5倍)のローラーを用いると、高速でのフィラメント生産であっても、フィラメント断裂等の問題がなく、高品質のリヨセルフィラメント糸を生産することが可能であった。また、表面張力が約44mN/m、56mN/m、93mN/m、及び185mN/m、すなわち係数が0.6、0.75、1.3、及び2.4のローラー表面でも同様の結果が得られた。
【0031】
本明細書において言及される表面張力値は、対応するソフトウェア(DSA10HSAJ1H "Drop shape Ananlysis System Serial Number 20012303 (Q161F800 INR.59028))を用いてKruss社の表面エネルギー測定装置(DSA10HS)を使用してOwens-Westlabel-Kaelbleの手法に従って測定された。表面張力値の算出には、以下の3種類の標準液を用いて、少なくとも1液滴ずつの測定(液滴付着から60秒後)を行った(1液滴あたり30回測定した):
・HPLC水
・分析用エチレングリコール(純度>99.5%、Merk社より入手:K42538921 133 1.09621.1000)
・ジヨードメタン(純度>99%、安定化、Acros Organics社より入手:169830250 A0390451)
【国際調査報告】