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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-26
(54)【発明の名称】プラスミンとの結合のための抗体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20221219BHJP
   C07K 16/40 20060101ALI20221219BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20221219BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20221219BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20221219BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221219BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20221219BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20221219BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20221219BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20221219BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221219BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221219BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20221219BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C07K16/40 ZNA
C12N15/13
C07K16/46
C12N15/63 Z
A61K39/395 N
A61K39/395 L
A61K45/00
A61P7/04
A61P31/04
A61P35/04
A61P35/00
A61P43/00 111
A61P15/00
A61P17/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022524968
(86)(22)【出願日】2020-10-28
(85)【翻訳文提出日】2022-06-15
(86)【国際出願番号】 AU2020051164
(87)【国際公開番号】W WO2021081582
(87)【国際公開日】2021-05-06
(31)【優先権主張番号】2019904049
(32)【優先日】2019-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】594202523
【氏名又は名称】モナシュ ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】ウィストック,ジェイムズ
(72)【発明者】
【氏名】ロウ,ルビー
(72)【発明者】
【氏名】クエック,アダム
(72)【発明者】
【氏名】コンロイ,ポール
(72)【発明者】
【氏名】ウー,グオジエ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA531
4C084ZA811
4C084ZA891
4C084ZB211
4C084ZB261
4C084ZB351
4C084ZC411
4C085AA14
4C085AA16
4C085AA27
4C085BB41
4C085BB43
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045BA72
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、プラスミンに結合する抗原結合ドメインを含む抗原結合タンパク質を提供し、ここで、前記抗原結合タンパク質は、プラスミンの活性を低減する。本発明はまた、抗原結合タンパク質を含む組成物、並びにその使用及びそれを含む治療方法も提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスミンのセリンプロテアーゼドメインに結合する抗原結合ドメインを含む抗原結合タンパク質であって、前記抗原結合タンパク質が、プラスミンの活性を特異的に阻害する、抗原結合タンパク質。
【請求項2】
前記抗原結合ドメインが、プラスミンの前記セリンプロテアーゼドメインの触媒部位に結合する、請求項1に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項3】
前記抗原結合ドメインが、配列:配列番号34、又はその断片を含むペプチドに結合する、請求項1又は2に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項4】
前記抗原結合タンパク質が、配列番号33に記載されるArg637、Leu638、Leu640、Pro642、Arg644、Lys645、Gln721、Trp783、及びAsn791、又はそれに相当する位置のプラスミンのセリンプロテアーゼドメインの1つ若しくは複数の残基に結合するか、或いは表2に示す位置、又はそれに相当する位置のプラスミンのセリンプロテアーゼドメインの1つ若しくは複数の残基に結合する、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項5】
前記タンパク質が、ヒトプラスミンに結合する、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項6】
前記タンパク質が、プラスミンとストレプトキナーゼの結合を阻害する、請求項1~5のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項7】
前記タンパク質が、以下:組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)、ウロキナーゼプラスミノーゲン活性化因子(uPA)、トロンビン、トリプシン、第Xa因子、血漿カリクレイン、ヒト活性化カリクレイン(HPKa)、プロテインC、及び第XIIa因子からなるリストから選択されるセリンプロテアーゼと有意に結合しないか、又はその活性を有意に低減若しくは阻害しない、請求項1~6のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項8】
前記抗原結合タンパク質が、以下:フィブリン、フィブリノーゲン、第V、VIII及びX因子、プロテアーゼ-活性化受容体I、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、ラミニン、フォン・ヴィレブランド因子、ビトロネクチン、プロ脳由来神経栄養因子、補因子C3及びC5、テネイシン、オステオカルシン、CUBドメイン含有タンパク質1及びコラゲナーゼから選択されるプラスミン基質の1つ若しくは複数のプラスミン媒介性切断を阻害又は低減する、請求項1~7のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項9】
前記抗原結合タンパク質の残基とプラスミンの残基との相互作用が、X線結晶構造解析及び0~3.9Å(両端の値を含む)の接触距離解析によって明らかにされる、請求項1~8のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項10】
前記抗原結合タンパク質が、プラスミン上で、配列番号8に示されるアミノ酸配列を有するVHドメインと、配列番号7に示されるアミノ酸配列を有するVLドメインとを含む抗体と同じエピトープに結合し、前記抗原結合タンパク質は、前記プラスミンの活性を低減又は阻害する、請求項1~9のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項11】
前記エピトープが、X線結晶構造解析により明らかにされ、任意選択的に、前記エピトープは、0~3.9Å(両端の値を含む)の接触距離解析によって明らかにされる、請求項10に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項12】
前記抗原結合タンパク質が、プラスミンに結合して、約1×10超、約5×10超、約1×10超、若しくは約8×10以上のk(M-1-1)を呈示し、好ましくは、前記抗原結合タンパク質は、プラスミンに結合して、約8×10のk(M-1-1)を呈示する、請求項1~11のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項13】
前記抗原結合タンパク質が、プラスミンに結合して、約1×10-3未満、又は約5×10-4未満のk(s-1)を呈示し、好ましくは、本発明の抗原結合は、プラスミンに結合して、約4.5×10-4のk(s-1)を呈示する、請求項1~12のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項14】
前記抗原結合タンパク質が、プラスミンに結合して、2mM未満、100μM未満、約100nM未満、又は約500pM以下のKを呈示し、前記Kは、表面プラズモン共鳴(SPR)を用いて決定される、請求項1~13のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項15】
前記抗原結合タンパク質が、配列番号33から得られるペプチドに結合し、任意選択的に、前記抗原結合タンパク質は、配列番号33の配列の4、5、7、8、9、10個若しくはそれ以上の連続したアミノ酸残基から構成されるペプチドに結合する、請求項1~14のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項16】
前記抗原結合タンパク質が、配列番号34の配列の4、5、7、8、9、10個若しくはそれ以上の連続したアミノ酸残基から構成されるペプチドに結合する、請求項15に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項17】
前記抗原結合タンパク質が、配列番号33の637~791の残基を含むか、それらから本質的に構成されるか、又はそれらから構成されるペプチドに結合する、請求項1~16のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項18】
前記抗原結合タンパク質が、配列番号33に記載されるプラスミンの配列に従って、少なくとも、残基His603、Asp646及びAla/Ser741に結合する、請求項17に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項19】
前記抗原結合タンパク質が、以下:
FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4及び
FR1a-CDR1a-FR2a-CDR2a-FR3a-CDR3a-FR4a
を含み、
FR1、FR2、FR3及びFR4は各々、フレームワーク領域であり;
CDR1、CDR2及びCDR3は各々、相補性決定領域であり;
FR1a、FR2a、FR3a及びFR4aは各々、フレームワーク領域であり;
CDR1a、CDR2a及びCDR3aは各々、相補性決定領域であり;
前記フレームワーク領域又は相補性決定領域のいずれかの配列は、本明細書に記載される通りであり、
任意選択的に、前記相補性決定領域のいずれかの配列は、表1に示されるアミノ酸配列を有する、請求項1~18のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項20】
前記抗原結合タンパク質が、(NからC末端又はCからN末端の順に)配列番号7及び8のアミノ酸配列を含むか、それから本質的に構成されるか、又はそれから構成される、請求項1~18のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項21】
前記抗原結合ドメインが、以下:
FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4-リンカー-FR1a-CDR1a-FR2a-CDR2a-FR3a-CDR3a-FR4a
を含み、
前記抗原結合ドメインが、以下:
(i)配列番号4に記載される配列と少なくとも約80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有する相補性決定領域(CDR)1、配列番号5に記載される配列と少なくとも約80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有するCDR2、及び配列番号6に記載される配列と少なくとも約80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有するCDR3を含むVH;
(ii)配列番号8に記載される配列と少なくとも約95%若しくは96%若しくは97%若しくは98%若しくは99%同一の配列を含むVH;
(iii)配列番号1に記載される配列と少なくとも約80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有するCDR1、配列番号2に記載される配列と少なくとも約80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有するCDR2、及び配列番号3に記載される配列と少なくとも約80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有するCDR3を含むVL;
(iv)配列番号7に記載される配列と少なくとも約95%同一の配列を有するVL;
(v)配列番号4に記載される配列を有するCDR1、配列番号5に記載される配列を有するCDR2、及び配列番号6に記載される配列を有するCDR3を含むVH;
(vi)配列番号8に記載される配列を有するVH;
(vii)配列番号1に記載される配列を有するCDR1、配列番号2に記載される配列を有するCDR2、及び配列番号3に記載される配列を有するCDR3を含むVL;
(viii)配列番号7に記載される配列を有するVL;
(ix)配列番号4に記載される配列を有するCDR1、配列番号5に記載される配列を有するCDR2、及び配列番号6に記載される配列を有するCDR3を含むVHと;配列番号1に記載される配列を有するCDR1、配列番号2に記載される配列を有するCDR2、及び配列番号3に記載される配列を有するCDR3を含むVL;又は
(x)配列番号8に記載される配列を有するVH、及び配列番号7に記載される配列を有するVL
のうちの少なくとも1つを含む、請求項1~20のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項22】
前記タンパク質が、以下:
(i)配列番号21に記載される配列と少なくとも約80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有するフレームワーク領域(FR)1、配列番号22に記載される配列と少なくとも約80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有するFR2、配列番号23に記載される配列と少なくとも約80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有するFR3、及び配列番号24に記載される配列と少なくとも約80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有するFR4を含むVH;
(ii)配列番号17に記載される配列と少なくとも約80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有するFR1、配列番号18に記載される配列と少なくとも約80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有するFR2、配列番号19に記載される配列と少なくとも約80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有するFR3、及び配列番号20に記載される配列と少なくとも約80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有するFR4を含むVL;
(iii)配列番号21に記載される配列を有するFR1、配列番号22に記載される配列を有するFR2、配列番号23に記載される配列を有するFR3、及び配列番号24に記載される配列を有するFR4を含むVH;
(iv)配列番号17に記載される配列を有するFR1、配列番号18に記載される配列を有するFR2、配列番号19に記載される配列を有するFR3、及び配列番号20に記載される配列を有するFR4を含むVL;又は
(v)配列番号21に記載される配列を有するFR1、配列番号22に記載される配列を有するFR2、配列番号23に記載される配列を有するFR3、及び配列番号24に記載される配列を有するFR4を含むVHと;配列番号17に記載される配列を有するFR1、配列番号18に記載される配列を有するFR2、配列番号19に記載される配列を有するFR3、及び配列番号20に記載される配列を有するFR4を含むVL
のうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項21に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項23】
前記抗原結合タンパク質が、以下:
(i)一本鎖Fvフラグメント(scFv);
(ii)二量体scFv(ジ-scFv);
(iii)抗体の定常領域、Fc若しくは重鎖定常ドメイン(CH)2及び/若しくはCH3と連結した(i)又は(ii)の1つ;或いは
(iv)免疫エフェクター細胞に結合するタンパク質と連結した(i)又は(ii)の1つ
の形態である、請求項1~22のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項24】
前記抗原結合タンパク質が、以下:
(i)ジアボディ;
(ii)トリアボディ;
(iii)テトラボディ;
(iv)Fab;
(v)F(ab’)2:
(vi)Fv;
(vii)二重特異性抗体;
(viii)抗体の定常領域、Fc若しくは重鎖定常ドメイン(CH)2及び/若しくはCH3と連結した(i)~(vii)の1つ;或いは
(viv)免疫エフェクター細胞に結合するタンパク質と連結した(i)~(vii)の1つ
の形態である、請求項1~22のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項25】
前記抗原結合タンパク質が、抗体又はその抗原結合断片であり、好ましくは、前記結合タンパク質は、モノクローナル抗体又は可変ドメインである、請求項1~24のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項26】
前記リンカーが、化学物質、1つ若しくは複数のアミノ酸、又は2つのシステイン残基の間に形成されるジスルフィド結合である、請求項21~25のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項27】
軽鎖可変領域と重鎖可変領域を含む抗プラスミン抗体であって、
前記軽鎖可変領域は、以下:
配列番号1に記載されるCDR L1、配列番号2に記載されるCDR L2、及び配列番号3に記載されるCDR L3
を含み;
前記重鎖可変領域は、以下:
配列番号4に記載されるCDR H1、配列番号5に記載されるCDR H2、及び配列番号6に記載されるCDR H3
を含む、抗プラスミン抗体。
【請求項28】
前記抗体が、配列番号7の配列を有する軽鎖可変領域を含む、請求項27に記載の抗プラスミン抗体。
【請求項29】
前記抗体が、配列番号8の配列を有する重鎖可変領域を含む、請求項27又は28に記載の抗プラスミン抗体。
【請求項30】
前記抗体が、配列番号17に記載されるFR L1、配列番号18に記載されるFR L2、配列番号19に記載されるFR L3、及び配列番号20に記載されるFR L4を有する軽鎖可変領域を含む、請求項27~29のいずれか1項に記載の抗プラスミン抗体。
【請求項31】
前記抗体が、配列番号21に記載されるFR H1、配列番号22に記載されるFR H2、配列番号23に記載されるFR H3、及び配列番号24に記載されるFR H4を有する重鎖可変領域を含む、請求項27~30のいずれか1項に記載の抗プラスミン抗体。
【請求項32】
前記タンパク質又は抗体が、裸抗体である、請求項1~31のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質又は抗プラスミン抗体。
【請求項33】
請求項1~32のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質又は抗体を含む、融合タンパク質。
【請求項34】
標識又は細胞毒性薬剤にコンジュゲートされた、請求項1~32のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質又は抗体の形態のコンジュゲート。
【請求項35】
請求項1~34のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質、抗体、融合タンパク質又はコンジュゲートをコードする核酸。
【請求項36】
請求項35に記載の核酸を含むベクター。
【請求項37】
それを必要とする対象のプラスミン活性を阻害する方法であって、請求項1~34のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質、抗体、融合タンパク質、又はコンジュゲートを前記対象に投与し、それにより、前記対象のプラスミン活性を阻害することを含む、方法。
【請求項38】
それを必要とする対象の線維素溶解を阻害する方法であって、請求項1~34のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質、抗体、融合タンパク質、又はコンジュゲートを対象に投与し、それにより、前記対象の線維素溶解を阻害することを含む、方法。
【請求項39】
前記方法が、血友病、月経過多、フォン・ヴィレブランド症候群又は血栓溶解誘発性出血に罹患している対象のプラスミン活性の阻害、或いは外傷を被っているか、又は手術若しくは出産によって出血している対象における止血の回復を目的とする、請求項37又は38に記載の方法。
【請求項40】
対象におけるレンサ球菌(Streptococcal)感染症を治療又は予防する方法であって、前記方法が、請求項1~34のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質、抗体、融合タンパク質、又はコンジュゲートを前記対象に投与し、それにより、前記対象のレンサ球菌(Streptococcal)感染症を治療又は予防することを含む、方法。
【請求項41】
前記方法が、感染症の重症度を低減すること、又は前記対象におけるレンサ球菌(Streptococcal)感染に関連するか、又はそれに起因する病態を治療することを含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
対象における癌の転移の阻害若しくは予防を含め、癌の伝播若しくは進行を治療、阻害、予防する、又は最小限にする方法であって、前記方法が、請求項1~34のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質、抗体、融合タンパク質、又はコンジュゲートを、必要とする対象に投与し、それにより、前記対象における癌の転移の阻害若しくは予防を含め、癌の伝播若しくは進行を治療、阻害、予防する、又は最小限にすることを含む、方法。
【請求項43】
プラスミン活性を阻害するための薬剤の製造、又はそれを必要とする対象における、請求項1~34のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質、抗体、融合タンパク質、又はコンジュゲートの使用。
【請求項44】
それを必要とする対象の線維素溶解の阻害を目的とする薬剤の製造における、請求項1~34のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質、抗体、融合タンパク質、又はコンジュゲートの使用。
【請求項45】
前記薬剤が、血友病、月経過多、フォン・ヴィレブランド症候群又は血栓溶解誘発性出血に罹患している対象のプラスミン活性の阻害、或いは外傷を被っているか、又は手術若しくは出産によって出血している対象における止血の回復を目的とする、請求項43又は44に記載の使用。
【請求項46】
レンサ球菌(Streptococcal)感染症の治療又は予防を目的とする薬剤の製造における、請求項1~34のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質、抗体、融合タンパク質、又はコンジュゲートの使用。
【請求項47】
癌の転移の阻害若しくは予防を含め、癌の伝播若しくは進行の治療、阻害、予防、又は最小化を目的とする薬剤の製造における、請求項1~34のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質、抗体、融合タンパク質、又はコンジュゲートの使用。
【請求項48】
請求項1~34のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質、抗体、融合タンパク質、又はコンジュゲートと、薬学的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項49】
それを必要とする対象におけるプラスミン活性の阻害に使用するための請求項48に記載の医薬組成物。
【請求項50】
それを必要とする対象における線維素溶解の阻害に使用するための請求項48に記載の医薬組成物。
【請求項51】
前記組成物が、血友病、月経過多、フォン・ヴィレブランド症候群又は血栓溶解誘発性出血に罹患している対象のプラスミン活性の阻害における、或いは外傷を被っているか、又は手術若しくは出産によって出血している対象における止血の回復のための使用を目的とする、請求項49又は48に記載の医薬組成物。
【請求項52】
レンサ球菌(Streptococcal)感染症の治療又は予防に使用するための、請求項48に記載の医薬組成物。
【請求項53】
癌の転移の阻害若しくは予防を含め、癌の伝播若しくは進行の治療、阻害、予防又は最小化に使用するための、請求項48に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスミンとの結合のための抗原結合タンパク質及びその関連断片、前記抗原結合タンパク質及び断片の生産、並びに様々な病態の検出及び治療法のための前記抗体及び断片の使用に関する。
【0002】
関連出願
本出願は、オーストラリア仮特許出願AU 2019904049号明細書の優先権を主張するものであり、その内容は、全体が参照により本明細書に援用される。
【背景技術】
【0003】
プラスミノーゲン(PLG)は、プラスミン、即ち、フィブリン、フィブリノーゲン、補体成分3及び5(C3及びC5)、ビトロネクチン、オステオカルシン、第V、VIII及びX因子、並びにいくつかのコラゲナーゼを含む標的基質に対して広範囲の特異性を有するセリンプロテアーゼの不活性チモーゲン形態である。したがって、PLG及びPLMは一緒に、様々な重要な生理学的及び病理学的プロセスに関与し、こうしたプロセスとしては、線維素溶解及び止血、細胞外マトリックスの分解、細胞遊走、胚発生、組織再構築、炎症、創傷治癒、血管新生及び組織浸潤が挙げられる。
【0004】
PLGは、主として肝臓中で合成されるが、主要臓器及び組織中でも合成される。したがって、PLGは、血漿及び多くの血管外液中に相当量存在している。生理学的条件下で、PLGは、活性化ループ中の切断によって、活性形態であるプラスミン(PLM)に変換される。活性化は、ウロキナーゼプラスミノーゲン活性化因子(uPA)若しくは組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)、又は様々な他のプロテアーゼにより媒介され得るが、これは、一本鎖PLG(アミノ酸残基20~810)を、ジスルフィド結合で連結された重鎖A(残基20~580)と軽鎖B(残基581~810)から構成されるPLMに変換する。重鎖Aは、5つのクリングルドメイン(リシン結合領域を介して基質への結合を媒介する)を含み、軽鎖Bは、セリンプロテアーゼドメインに対応する。最初の4つのクリングルドメインから構成される断片は、アンギオスタチンと名付けられ、新規の血管新生阻害剤である。
【0005】
プラスミノーゲン/プラスミン系は、線維素溶解、組織再構築、細胞遊走、炎症、並びに腫瘍浸潤及び転移などの多様な生理学的及び病理学的過程に関係するとされている。プラスミノーゲンの遺伝的欠陥は、血栓塞栓症の発病の危険因子である。
【0006】
様々な病態の治療及び/又は予防のプラスミン系を調節するための組成物及び方法が必要とされている。
【0007】
本明細書におけるいかなる先行技術への言及も、この先行技術が、いかなる法的管轄においても、一般的な常識の一部を成すこと、又はこの先行技術が、当業者によって先行技術の他の部分により、合理的に理解されるものと予想され、関連すると考えられ、及び/又は組み合わされ得ることを承認又は示唆するものではない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、プラスミンに結合する抗原結合ドメインを含む抗原結合タンパク質であって、抗原結合タンパク質が、プラスミンの活性を低減する、抗原結合タンパク質を提供する。
【0009】
好ましくは、プラスミンは、ヒトプラスミンである。
【0010】
本発明の任意の態様において、本発明の抗原結合タンパク質は、プラスミンのセリンプロテアーゼドメインに結合する。
【0011】
好ましくは、本発明の抗原結合タンパク質は、プラスミンプロテアーゼドメインの触媒部位に結合する。触媒部位は、His603、Asp646及びAla/Ser741(番号付けは、配列番号33に記載される通り、ヒトプラスミンに従う)を含む。好ましくは、抗原結合タンパク質は、配列番号34に記載される配列、又はその断片を含むペプチドに結合する。
【0012】
本発明の任意の態様において、本発明の抗原結合タンパク質は、Arg637、Leu638、Leu640、Pro642、Arg644、Lys645、Gln721、Trp783、及びAsn791、又はそれに相当する位置のプラスミンのセリンプロテアーゼドメインの1つ若しくは複数の残基に結合する。好ましくは、本発明の抗原結合タンパク質は、表2に示す位置、又はそれに相当する位置のプラスミンのセリンプロテアーゼドメインの1つ若しくは複数の残基に結合する。より好ましくは、プラスミンのセリンプロテアーゼドメインの1つ又は複数の残基に結合する抗原結合タンパク質の残基は、表2に定義されるアミノ酸残基の1つ又は複数である。
【0013】
本発明はまた、表2のB10抗体について指定される残基に対する位置、若しくは同等の位置に同じアミノ酸を有する抗原結合タンパク質(例えば、抗体)も提供する。
【0014】
本発明の任意の態様において、本発明の抗原結合タンパク質は、プラスミノーゲンにも結合し得る。しかし、プラスミノーゲンは、チモーゲンの不活性形態であることから、本発明の抗原結合タンパク質は、プラスミノーゲンの活性化を阻害するのではなく、プラスミンに活性化されたプラスミノーゲンの活性を阻害することは理解されよう。
【0015】
本発明の特定の態様において、本発明の抗原結合タンパク質は、プラスミノーゲン活性化因子、即ち、ストレプトキナーゼのプラスミノーゲンとの結合、並びにストレプトキナーゼによるプラスミノーゲンの活性化を阻害する。
【0016】
本発明の任意の態様において、本発明の抗原結合タンパク質の1残基とプラスミンの1残基との相互作用は、X線結晶構造解析及び0~3.9Å(両端の値を含む)の接触距離解析によって決定され得る。
【0017】
本発明はまた、プラスミン上で、配列番号8に示されるアミノ酸配列を有するVHドメインと、配列番号7に示されるアミノ酸配列を有するVLドメインとを含む抗体と同じエピトープに結合する抗原結合タンパク質も提供し、ここで、抗原結合タンパク質は、プラスミンの活性を低減又は阻害する。一実施形態では、上記エピトープは、X線結晶構造解析によって明らかにされる。好ましくは、上記エピトープは、X線結晶構造解析及び0~3.9Å(両端の値を含む)の接触距離解析によって明らかにされる。好ましくは、抗原結合タンパク質は、925ű5%の配列番号33のプラスミンの表面面積を覆う。
【0018】
本発明の任意の態様において、本発明の抗原結合タンパク質は、プラスミンに結合して、約1×10超、約5×10超、約1×10超、若しくは約5×10以上又は本明細書に記載されるいずれかの値のk(M-1-1)を呈示し得る。好ましくは、本発明の抗原結合タンパク質は、プラスミンに結合して、約8×10の値のk(M-1-1)を呈示する。
【0019】
本発明の任意の態様において、本発明の抗原結合タンパク質は、プラスミンに結合して、約1×10-3未満、又は約5×10-4未満のk(s-1)を呈示し得る。好ましくは、本発明の抗原結合タンパク質は、プラスミンに結合して、約4.5×10-4±0.2又は本明細書に記載されるいずれかの値のk(s-1)を呈示する。
【0020】
本発明の任意の態様において、本発明の抗原結合タンパク質は、プラスミンに結合して、2mM未満、100μM未満、約100nM未満、又は約500pM以下のKを呈示し得る。好ましくは、Kは、本明細書に記載される任意のアッセイ、例えば、マルチサイクルSPRなどの表面プラズモン共鳴(SPR)を用いて決定される。
【0021】
本発明の抗原結合タンパク質は、配列番号33から得られるペプチドに結合し得る。例えば、本発明の抗原結合タンパク質は、配列番号33の配列の4、5、7、8、9、10個若しくはそれ以上の連続したアミノ酸残基から構成されるペプチドに結合し得る。より好ましくは、本発明の抗原結合タンパク質は、配列番号34の配列の4、5、7、8、9、10個若しくはそれ以上の連続したアミノ酸残基から構成されるペプチドに結合し得る。一部の実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、配列番号33の配列の637~791の残基を含むか、それらから本質的に構成されるか、又はそれらから構成されるペプチドに結合する。より好ましくは、抗原結合タンパク質は、配列番号33に記載されるプラスミンの配列に従って、少なくとも、残基His603、Asp646及びAla/Ser741に結合する。
【0022】
本発明の任意の態様において、抗原結合タンパク質は、tPA、トロンビン、トリプシン、第Xa因子(FXa)及び血漿カリクレインのいずれか1つ若しくは複数の活性を有意に低減、又は阻害しない。
【0023】
任意の実施形態において、本発明の抗原結合タンパク質は、セリンプロテアーゼトリプシン、トロンビン、活性化プロテインC、カリクレイン、好中球エラスターゼ、又はそれらの組合せと特異的に結合しない。
【0024】
本発明は、プラスミンとの結合のための抗原結合タンパク質を提供し、抗原結合タンパク質は、以下:
FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4及び
FR1a-CDR1a-FR2a-CDR2a-FR3a-CDR3a-FR4a
を含み、ここで、
FR1、FR2、FR3及びFR4は各々、フレームワーク領域であり;
CDR1、CDR2及びCDR3は各々、相補性決定領域であり;
FR1a、FR2a、FR3a及びFR4aは各々、フレームワーク領域であり;
CDR1a、CDR2a及びCDR3aは各々、相補性決定領域であり;
上記フレームワーク領域又は相補性決定領域のいずれかの配列は、本明細書に記載される通りである。
【0025】
本発明は、プラスミンとの結合のための抗原結合タンパク質を提供し、抗原結合タンパク質は、以下:
FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4及び
FR1a-CDR1a-FR2a-CDR2a-FR3a-CDR3a-FR4a
を含み、ここで、
FR1、FR2、FR3及びFR4は各々、フレームワーク領域であり;
CDR1、CDR2及びCDR3は各々、相補性決定領域であり;
FR1a、FR2a、FR3a及びFR4aは各々、フレームワーク領域であり;
CDR1a、CDR2a及びCDR3aは各々、相補性決定領域であり;
上記相補性決定領域のいずれかの配列は、以下の表1に示されるアミノ酸配列を有する。好ましくは、上記フレームワーク領域は、やはり以下の表1に示されるアミノ酸配列を有し、これらは特定の残基にアミノ酸変異を含み、こうしたアミノ酸変異は、各抗体に由来する様々なフレームワーク領域をアラインメントすることによって決定することができる。本発明はまた、CDR1、CDR2及びCDR3が、VHからの配列であり、CDR1a、CDR2a及びCDR3aが、VLからの配列であるか、又はCDR1、CDR2及びCDR3が、VLからの配列であり、CDR1a、CDR2a及びCDR3aが、VHからの配列である場合も含む。
【0026】
本発明はまた、プラスミンに結合するか、又はそれと特異的に結合する抗原結合タンパク質も提供し、この場合、抗原結合タンパク質は、プラスミンに対するB10抗体(即ち、配列番号8に記載される配列を有するVHと、配列番号7に記載される配列を有するVLを含む)の結合を競合的に阻害する。
【0027】
本発明は、プラスミンとの結合のための抗原結合タンパク質を提供し、抗原結合タンパク質は、以下:
FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4-リンカー-FR1a-CDR1a-FR2a-CDR2a-FR3a-CDR3a-FR4a
を含み、ここで、
FR1、FR2、FR3及びFR4は各々、フレームワーク領域であり;
CDR1、CDR2及びCDR3は各々、相補性決定領域であり;
FR1a、FR2a、FR3a及びFR4aは各々、フレームワーク領域であり;
CDR1a、CDR2a及びCDR3aは各々、相補性決定領域である。
【0028】
本明細書に定義されるように、リンカーは、化学物質、1つ若しくは複数のアミノ酸、又は2つのシステイン残基の間に形成されるジスルフィド結合であってもよい。
【0029】
本発明は、(NからC末端又はCからN末端の順に)配列番号7及び8のアミノ酸配列を含むか、それから本質的に構成されるか、又はそれから構成される抗原結合タンパク質を提供する。
【0030】
本発明はまた、抗体の抗原結合ドメインを含む抗原結合タンパク質も提供し、ここで、抗原結合ドメインは、プラスミンに結合するか、又はそれと特異的に結合し、抗原結合ドメインは、以下のうちの少なくとも1つを含む:
(i)配列番号4に記載される配列と少なくとも約80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有する相補性決定領域(CDR)1、配列番号5に記載される配列と少なくとも約80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有するCDR2、及び配列番号6に記載される配列と少なくとも約80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有するCDR3を含むVH;
(ii)配列番号8に記載される配列と少なくとも約95%若しくは96%若しくは97%若しくは98%若しくは99%同一の配列を含むVH;
(iii)配列番号1に記載される配列と少なくとも約80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有するCDR1、配列番号2に記載される配列と少なくとも約80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有するCDR2、及び配列番号3に記載される配列と少なくとも約80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有するCDR3を含むVL;
(iv)配列番号7に記載される配列と少なくとも約95%同一の配列を有するVL;
(v)配列番号4に記載される配列を有するCDR1、配列番号5に記載される配列を有するCDR2、及び配列番号6に記載される配列を有するCDR3を含むVH;
(vi)配列番号8に記載される配列を有するVH;
(vii)配列番号1に記載される配列を有するCDR1、配列番号2に記載される配列を有するCDR2、及び配列番号3に記載される配列を有するCDR3を含むVL;
(viii)配列番号7に記載される配列を有するVL;
(ix)配列番号4に記載される配列を有するCDR1、配列番号5に記載される配列を有するCDR2、及び配列番号6に記載される配列を有するCDR3を含むVHと;配列番号1に記載される配列を有するCDR1、配列番号2に記載される配列を有するCDR2、及び配列番号3に記載される配列を有するCDR3を含むVL;
(x)配列番号8に記載される配列を有するVH、及び配列番号7に記載される配列を有するVL。
【0031】
本発明の任意の態様において、抗原結合ドメインはさらに、以下のうちの少なくとも1つを含む:
(i)配列番号21に記載される配列と少なくとも約80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有するフレームワーク領域(FR)1、配列番号22に記載される配列と少なくとも約80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有するFR2、配列番号23に記載される配列と少なくとも約80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有するFR3、及び配列番号24に記載される配列と少なくとも約80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有するFR4を含むVH;
(ii)配列番号17に記載される配列と少なくとも約80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有するFR1、配列番号18に記載される配列と少なくとも約80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有するFR2、配列番号19に記載される配列と少なくとも約80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有するFR3、及び配列番号20に記載される配列と少なくとも約80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有するFR4を含むVL;
(iii)配列番号21に記載される配列を有するFR1、配列番号22に記載される配列を有するFR2、配列番号23に記載される配列を有するFR3、及び配列番号24に記載される配列を有するFR4を含むVH;
(iv)配列番号17に記載される配列を有するFR1、配列番号18に記載される配列を有するFR2、配列番号19に記載される配列を有するFR3、及び配列番号20に記載される配列を有するFR4を含むVL;又は
(v)配列番号21に記載される配列を有するFR1、配列番号22に記載される配列を有するFR2、配列番号23に記載される配列を有するFR3、及び配列番号24に記載される配列を有するFR4を含むVHと;配列番号17に記載される配列を有するFR1、配列番号18に記載される配列を有するFR2、配列番号19に記載される配列を有するFR3、及び配列番号20に記載される配列を有するFR4を含むVL。
【0032】
本明細書に記載される通り、抗原結合タンパク質は、以下:
(i)一本鎖Fvフラグメント(scFv);
(ii)二量体scFv(ジ-scFv);
(iii)抗体の定常領域、Fc若しくは重鎖定常ドメイン(CH)2及び/若しくはCH3と連結した(i)又は(ii)の1つ;或いは
(iv)免疫エフェクター細胞に結合するタンパク質と連結した(i)又は(ii)の1つ
の形態であってよい。
【0033】
さらに、本明細書に記載される通り、抗原結合タンパク質は、以下:
(i)ジアボディ;
(ii)トリアボディ;
(iii)テトラボディ;
(iv)Fab;
(v)F(ab’)2:
(vi)Fv;
(vii)二重特異性抗体又は他の形態の多重特異性抗体;
(viii)抗体の定常領域、Fc若しくは重鎖定常ドメイン(CH)2及び/若しくはCH3と連結した(i)~(vii)の1つ;或いは
(viv)免疫エフェクター細胞に結合するタンパク質と連結した(i)~(vii)の1つ
の形態であってもよい。
【0034】
前述した抗原結合タンパク質は、抗体の抗原結合ドメインとも呼ばれ得る。
【0035】
好ましくは、本明細書に記載される抗原結合タンパク質は、抗体又はその抗原結合断片である。典型的に、抗原結合タンパク質は、抗体、例えば、モノクローナル抗体である。組み換え又は修飾抗体(例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、CDRグラフト化抗体、霊長類化抗体、脱免疫化(de-immunized)抗体、合成ヒト化(synhumanized)抗体、半抗体、二重特異性抗体、三重特異性抗体若しくは多重特異性抗体)の形態であってもよい。抗体は、さらに、活性薬剤若しくは放射性標識、又は可溶性を改善するための薬剤との共役などの化学修飾、或いは本明細書に記載される他の化学修飾を含んでもよい。
【0036】
本明細書に記載されるように、抗原結合タンパク質は、可変ドメインであってもよい。
【0037】
本発明はまた、軽鎖可変領域と重鎖可変領域を含む抗プラスミン抗体も提供し、
ここで、前記軽鎖可変領域は、以下:
配列番号1に記載されるCDR L1、配列番号2に記載されるCDR L2、及び配列番号3に記載されるCDR L3
を含み;また
前記重鎖可変領域は、以下:
配列番号4に記載されるCDR H1、配列番号5に記載されるCDR H2、及び配列番号6に記載されるCDR H3
を含む。
【0038】
本発明の任意の態様において、抗プラスミン抗体は、配列番号7の配列を有する軽鎖可変領域を含む。
【0039】
本発明の任意の態様において、抗プラスミン抗体は、配列番号8の配列を有する重鎖可変領域を含む。
【0040】
本発明の任意の態様において、抗プラスミン抗体は、配列番号17に記載されるFR L1、配列番号18に記載されるFR L2、配列番号19に記載されるFR L3、及び配列番号20に記載されるFR L4を有する軽鎖可変領域を含む。
【0041】
本発明の任意の態様において、抗プラスミン抗体は、配列番号21に記載されるFR H1、配列番号22に記載されるFR H2、配列番号23に記載されるFR H3、及び配列番号24に記載されるFR H4を有する重鎖可変領域を含む。
【0042】
本発明のいずれかの態様において、抗体は、裸の抗体である。具体的には、抗体は、非コンジュゲート形態であり、コンジュゲートを形成するように構成されていない。
【0043】
特定の実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質の相補性決定領域配列(CDR)は、IMGT番号付け方式に従って定義することができる。
【0044】
プラスミン「に結合する」タンパク質又は抗体への本明細書における言及は、プラスミン「に特異的に結合する」又は「特異的に~に結合する」タンパク質又は抗体に文字通りの裏付け(literal support)を与える。
【0045】
本発明はまた、上記の抗体の抗原結合ドメイン又は抗原結合断片を提供する。
【0046】
本発明はまた、本明細書に記載される抗原結合タンパク質、免疫グロブリン可変ドメイン、抗体、dab(単一ドメイン抗体)、ジ-scFv、scFv、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子、又は多重特異性抗体を含む融合タンパク質を提供する。
【0047】
本発明はまた、標識又は細胞毒性剤にコンジュゲートされた、本明細書に記載される抗原結合タンパク質、免疫グロブリン可変ドメイン、抗体、dab、ジ-scFv、scFv、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子、又は多重特異性抗体又は融合タンパク質の形態のコンジュゲートを提供する。
【0048】
本発明はまた、本明細書に記載される抗原結合タンパク質、免疫グロブリン可変ドメイン、抗体、dab、ジ-scFv、scFv、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子、又は多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体又は三重特異性抗体)、融合タンパク質、又はコンジュゲートに結合するための抗体を提供する。
【0049】
本発明はまた、本明細書に記載される抗原結合タンパク質、免疫グロブリン可変ドメイン、抗体、dab、ジ-scFv、scFv、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子、又は多重特異性抗体、融合タンパク質又はコンジュゲートをコードする核酸を提供する。
【0050】
一例において、このような核酸は、核酸がプロモーターに作動可能に連結された発現構築物に含まれる。このような発現構築物は、ベクター、例えば、プラスミドであり得る。
【0051】
単一ポリペプチド鎖抗原結合タンパク質に関する本発明の例において、発現構築物は、ポリペプチド鎖をコードする核酸に連結されたプロモーターを含み得る。
【0052】
抗原結合タンパク質を形成する複数のポリペプチド鎖に関する例において、発現構築物は、プロモーターに作動可能に連結された、例えば、VHを含むポリペプチドをコードする核酸、及びプロモーターに作動可能に連結された、例えば、VLを含むポリペプチドをコードする核酸を含む。
【0053】
別の例において、発現構築物は、例えば、5’-3’の順序で作動可能に連結された以下の構成要素:
(i)プロモーター
(ii)第1のポリペプチドをコードする核酸;
(iii)内部リボソーム進入部位;及び
(iv)第2のポリペプチドをコードする核酸
を含む2シストロン性発現構築物であり、
ここで、第1のポリペプチドが、VHを含み、第2のポリペプチドが、VLを含み、又はその逆である。
【0054】
本発明はまた、一方がVHを含む第1のポリペプチドをコードし、他方がVLを含む第2のポリペプチドをコードする、別個の発現構築物を想定している。例えば、本発明はまた、
(i)プロモーターに作動可能に連結された、VHを含むポリペプチドをコードする核酸を含む第1の発現構築物;及び
(ii)プロモーターに作動可能に連結された、VLを含むポリペプチドをコードする核酸を含む第2の発現構築物
を含む組成物を提供する。
【0055】
本発明は、本明細書に記載されるベクター又は核酸を含む細胞を提供する。好ましくは、細胞は、単離されるか、実質的に精製されるか又は組み換え型である。一例において、細胞は、本発明の発現構築物又は:
(i)プロモーターに作動可能に連結された、VHを含むポリペプチドをコードする核酸を含む第1の発現構築物;及び
(ii)プロモーターに作動可能に連結された、VLを含むポリペプチドをコードする核酸を含む第2の発現構築物
を含み、
ここで、第1及び第2のポリペプチドは会合して、本発明の抗原結合タンパク質を形成する。
【0056】
本発明の細胞の例としては、細菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞又は哺乳動物細胞が挙げられる。
【0057】
本発明はまた、本明細書に記載される抗原結合タンパク質を含むか、又はCDR及び/又はFR配列、又は本明細書に記載される免疫グロブリン可変ドメイン、抗体、dab(単一ドメイン抗体)、ジ-scFv、scFv、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子、又は多重特異性抗体、融合タンパク質、又はコンジュゲートと、薬学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0058】
本発明はまた、本明細書に記載される抗原結合タンパク質を含むか、又はCDR及び/又はFR配列、又は本明細書に記載される抗原結合部位、免疫グロブリン可変ドメイン、抗体、dab、ジ-scFv、scFv、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子、又は多重特異性抗体、融合タンパク質又はコンジュゲート、希釈剤及び任意選択的に標識を含む診断用組成物を提供する。
【0059】
本発明はまた、本明細書に記載される抗原結合タンパク質を含むか、又はCDR及び/又はFR配列又は本明細書に記載される免疫グロブリン可変ドメイン、抗体、dab、ジ-scFv、scFv、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子、又は多重特異性抗体、融合タンパク質又はコンジュゲートを含むキット又は製品を提供する。
【0060】
本明細書に記載される抗原結合タンパク質は、ヒト定常領域、例えば、IgG1、IgG2、IgG3若しくはIgG4定常領域又はそれらの混合物などのIgG定常領域を含み得る。VH及びVLを含む抗体又はタンパク質の場合、VHは、重鎖定常領域に連結され得、VLは、軽鎖定常領域に連結され得る。
【0061】
一例において、本明細書に記載される抗原結合タンパク質は、IgG4抗体の定常領域又はIgG4抗体の安定化定常領域を含む。一例において、タンパク質又は抗体は、241位(Kabat番号付け方式に従う(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest Washington DC United States Department of Health and Human Services,1987 and/or 1991))にプロリンを有するIgG4定常領域を含む。
【0062】
一例において、本明細書に記載される抗原結合タンパク質、又は本明細書に記載される抗原結合タンパク質の組成物は、重鎖定常領域を含み、これは、C末端リシン残基を完全に若しくは部分的に含む又は含まない配列の混合物を含む安定化重鎖定常領域を含む。
【0063】
一例において、抗原結合タンパク質は、IgG4定常領域又は安定化IgG4定常領域(例えば、前述したような)と連結又は融合した、本明細書に開示されるVHを含み、VLは、κ軽鎖定常領域と連結又は融合している。
【0064】
本発明の抗原結合タンパク質の機能特性は、本発明の抗体に対して準用されるものと理解される。
【0065】
本明細書に記載される抗原結合タンパク質は、精製されるか、実質的に精製されるか、単離されるか、及び/又は組み換え型であり得る。
【0066】
本発明の抗原結合タンパク質は、本発明の抗原結合タンパク質を発現するハイブリドーマを増殖させた培地から採取された上清の一部であり得る。
【0067】
本発明は、それを必要とする対象におけるプラスミン活性を阻害する方法を提供し、これは、本発明のプラスミン阻害抗原結合タンパク質を対象に投与し、それにより、対象のプラスミン活性を阻害することを含む。必要とする対象は、血友病、月経過多、フォン・ヴィレブランド(von Willebrand)症候群又は血栓溶解誘発性出血に罹患している対象を含み得る。
【0068】
好ましくは、プラスミン活性の阻害は、以下:フィブリン、フィブリノーゲン、第V、VIII及びX因子、プロテアーゼ-活性化受容体I、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、ラミニン、フォン・ヴィレブランド(von Willebrand)因子、ビトロネクチン、プロ脳由来神経栄養因子、補因子C3及びC5、テネイシン、オステオカルシン(osteocalin)、CUBドメイン含有タンパク質1及びコラゲナーゼなどの他のプロテアーゼからなる群から選択されるプラスミンの1つ若しくは複数の基質のプラスミン切断の阻害を含む。
【0069】
本発明は、それを必要とする対象における線維素溶解を阻害する方法を提供し、この方法は、本発明の抗原結合タンパク質を対象に投与し、それにより、対象の線維素溶解を阻害することを含む。
【0070】
本発明はまた、外傷を被った、若しくは出血を被ったか、又は出血している(例えば、手術、外傷のために、若しくは出産後)対象の止血を回復するか、或いはプラスミン活性を阻害する方法も提供し、この方法は、本発明の抗原結合タンパク質を対象に投与し、それにより、対象における止血を回復するか、又はプラスミン活性を阻害することを含む。
【0071】
本発明はまた、対象におけるレンサ球菌(Streptococcal)感染症を治療若しくは予防する方法も提供し、この方法は、本発明の抗原結合タンパク質を対象に投与し、それにより、対象のレンサ球菌(Streptococcal)感染症を治療若しくは予防することを含む。これに関して、抗原結合タンパク質を用いて、感染症の再発を予防することもでき、これは、感染症の予防とみなされる。
【0072】
本発明は、それを必要とする対象における線維素溶解を阻害する方法を提供し、この方法は、本発明の抗原結合タンパク質を対象に投与し、それにより、対象の線維素溶解を阻害することを含む。
【0073】
本発明はまた、対象におけるレンサ球菌(Streptococcal)感染症に関連するか、又はそれに起因する病態を治療する方法も提供し、この方法は、本発明の抗原結合タンパク質を有効量で対象に投与し、それにより、対象のレンサ球菌(Streptococcal)感染症に関連するか、又はそれに起因する病態を治療することを含む。レンサ球菌(Streptococcal)感染症に関連するか、又はそれに起因する病態は、本明細書に記載される任意の病態であってよい。本発明の任意の態様では、レンサ球菌(Streptococcal)感染症は、慢性又は急性のいずれであってもよい。
【0074】
本発明はまた、対象におけるレンサ球菌(Streptococcal)感染症の重症度を低減する方法も提供し、この方法は、本発明の抗原結合タンパク質を対象に投与し、それにより、対象のレンサ球菌(Streptococcal)感染症の重症度を低減することを含む。
【0075】
さらには、本発明は、対象における癌を治療又は予防する方法も提供し、この方法は、本発明の抗原結合タンパク質を対象に投与し、それにより、対象の癌を治療又は予防することを含む。本明細書で使用される場合、癌を治療する方法は、癌の転移の阻害若しくは予防を含め、癌の伝播若しくは進行を阻害する、予防する、又は最小限にする方法を包含する。
【0076】
本発明は、血友病、月経過多、フォン・ヴィレブランド(von Willebrand)症候群又は血栓溶解誘発性出血に罹患している対象におけるプラスミン活性の阻害を含め、それを必要とする対象におけるプラスミン活性の阻害を目的とする薬剤の製造における、本発明の抗原結合タンパク質の使用を提供する。
【0077】
本発明はまた、外傷を被ったか、又は手術若しくは出産後に止血の回復若しくはプラスミン活性の阻害を必要とする対象の止血の回復又は過剰なプラスミン活性の阻害を目的とする薬剤の製造における、本発明の抗原結合タンパク質の使用も提供する。
【0078】
本発明はまた、外傷を被った対象における止血の回復又は過剰なプラスミン活性の阻害を目的とする薬剤の製造における、本発明の抗原結合タンパク質の使用も提供する。
【0079】
本発明はまた、それを必要とする対象における線維素溶解の阻害を目的とする薬剤の製造における、本発明の抗原結合タンパク質の使用も提供する。
【0080】
本発明はまた、レンサ球菌(Streptococcal)感染症の治療又は予防を目的とする薬剤の製造における、本発明の抗原結合タンパク質の使用も提供する。
【0081】
本発明はまた、レンサ球菌(Streptococcal)感染症に起因するか、又はそれと関連するいずれかの病態若しくは疾患の治療、予防又はその重症度の低減を目的とする薬剤の製造における、本発明の抗原結合タンパク質の使用も提供する。
【0082】
さらにまた、本発明は、対象における癌の治療又は予防を目的とする薬剤の製造における、本発明の抗原結合タンパク質の使用も提供する。この薬剤はまた、癌の転移を含め、癌の伝播若しくは進行を阻害する、予防する、又は最小限にすることも目的とし得る。
【0083】
本発明はまた、本発明の抗原結合タンパク質と、薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物も提供する。
【0084】
医薬組成物は、好ましくは、本明細書に記載される使用を目的とする。したがって、本発明は、血友病、月経過多、フォン・ヴィレブランド(von Willebrand)症候群又は血栓溶解誘発性出血に罹患している対象におけるプラスミン活性の阻害を含め、それを必要とする対象におけるプラスミン活性の阻害に使用するための本発明の抗原結合タンパク質を含む医薬組成物を提供する。
【0085】
本発明はまた、外傷を被ったか、或いは手術若しくは出産後に止血の回復又はプラスミン活性の阻害を必要とする対象における止血の回復又は過剰なプラスミン活性の阻害に使用するための医薬組成物も提供する。
【0086】
本発明はまた、外傷を被った対象における止血の回復又は過剰なプラスミン活性の阻害に使用するための、本発明の抗原結合タンパク質を含む医薬組成物を提供する。
【0087】
本発明はまた、レンサ球菌(Streptococcal)感染症の治療又は予防に使用するための、本発明の抗原結合タンパク質を含む医薬組成物も提供する。
【0088】
本発明はまた、レンサ球菌(Streptococcal)感染症に起因するか、又はそれと関連するいずれかの病態若しくは疾患の治療、予防又はその重症度の低減に使用するための、本発明の抗原結合タンパク質を含む医薬組成物も提供する。
【0089】
さらに、本発明は、対象の癌の治療又は予防に使用するための、本発明の抗原結合タンパク質を含む医薬組成物も提供する。医薬組成物はまた、癌の転移を含め、癌の伝播若しくは進行を阻害する、予防する、又は最小限にすることも目的とし得る。
【0090】
本発明の任意の態様において、レンサ球菌(Streptococcal)感染症は、レンサ球菌科(Streptococcaceae)に属する細菌に起因する。好ましくは、細菌は、レンサ球菌属(Streptococcus)に属する。より好ましくは、細菌は、A群レンサ球菌(Group A Streptococcus)(GAS)、好ましくは、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)である。本発明の特定の態様では、感染症は、以下:化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)、ストレプトコッカス・ディスガラクティエ(Streptococcus dysgalactiae)、及び肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumonia)からなる群から選択される細菌に起因する感染症であり得る。
【0091】
したがって、本発明の方法、使用又は医薬組成物は、本明細書に示される細菌に起因するか、若しくはそれと関連するいずれかの疾患の治療、予防又はその重症度の低減に有用である。例えば、本発明の方法、使用又は医薬組成物は、A群レンサ球菌(Group A Streptococcus)(GAS)に起因するか、若しくはそれと関連するいずれかの疾患/感染症の治療、予防又はその重症度の低減を目的し得るが、こうした疾患/感染症として、限定されないが、咽頭炎、扁桃炎、猩紅熱、蜂窩織炎、丹毒、リウマチ熱、皮膚及び軟組織感染症、心内膜炎、骨関節感染症、インプラント感染、レンサ球菌感染後糸球体腎炎、壊死性筋膜炎、筋壊死、骨膜下膿瘍、壊死性肺炎、化膿性筋炎、縦隔炎、心筋、腎周囲、肝及び膵膿瘍、敗血症性血栓静脈炎、並びに眼内炎及びリンパ管炎などの重症眼感染症が挙げられる。
【0092】
本発明の方法及び使用は、癌の治療又は予防に適用することができる。癌の例としては、血液癌、上皮性癌、肝臓癌、膵臓癌、胃癌、骨肉腫、子宮体癌及び卵巣癌が挙げられる。
【0093】
本発明はさらに、本発明の抗原結合タンパク質、又はその機能性断片若しくは誘導体をコードする核酸分子も提供する。
【0094】
本発明はまた、本明細書に記載されるベクター又は核酸分子を含む細胞を提供する。
【0095】
本発明はまた、本明細書に記載される細胞に由来する動物又は組織を提供する。
【0096】
別の態様において、本発明は、本明細書に記載される本発明の抗原結合タンパク質又は医薬組成物を含むキット若しくは製造品を提供する。
【0097】
本発明の他の態様では、本明細書に記載した治療又は予防用途に使用するためのキットが提供され、このキットは、以下:
-本発明の抗原結合タンパク質又は医薬組成物を保持する容器と;
-使用説明を含むラベル若しくはパッケージ挿入物
を含む。
【0098】
本明細書において使用される際、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、「含む(comprise)」という用語及びこの用語の活用形(例えば、「含む(comprising)」、「含む(comprises)」及び「含んでいた(comprised)」は、さらなる添加剤、構成要素、整数又は工程を除外するものではない。
【0099】
本発明のさらなる態様及び前の段落に記載される態様のさらなる実施形態は、例として及び添付の図面を参照して示される以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0100】
図1】プラスミノーゲン及びプラスミンに対するB10の結合。B10をNiHcチップ上に固定化し;マルチサイクル表面プラズモン共鳴(SPR)により、B10(A)プラスミノーゲン及び(B)プラスミンの結合キネティクスを測定した。点線は、実験データに当てはめた1:1ラングミュア(Langmuir)モデルフィットを表す。(C)動力学定数(k及びk)及び親和定数(K)を示す要約表。
図2】B10によるtPA媒介性プラスミノーゲン活性化の用量依存的阻害。B10は、(A)溶液中のEACAの存在下、又は(B)フィブリン血餅に対して、tPA媒介性プラスミノーゲン活性化により産生されるプラスミンの活性を阻害する。
図3】B10によるSK媒介性プラスミノーゲン活性化の阻害。B10は、アッセイの全工程中のどの時点で反応物に添加しても(20倍モル過剰で)、プラスミン活性を直ちに阻害する。この結果は、B10が、プラスミン活性を阻害することを示している。
図4】プラスミン及び他のセリンプロテアーゼの酵素活性に対するB10の作用。(A)B10又は非阻害性プラスミノーゲン結合抗体(A01)の存在下でのプラスミン活性のプログレス曲線。プラスミン活性は、B10の存在下で不検出であった。(B)B10(0~100nM)の存在下でプラスミン活性をアッセイしたところ、IC50は、24.3±1.4nMであり;1:10比のプラスミン及びB10で完全阻害が記録された。(C)プラスミン(*)を除いて、B10は、セリンプロテアーゼ(ヒト活性化カリクレイン(HPKa)、プロテインC、第IIa因子、トロンビン、第Xa因子、uPA及びtPAを含む)の酵素活性を阻害しない。ナイーブ抗体gAbの存在下での酵素の活性も示す。
図5】B10によるプラスミノーゲンのストレプトキナーゼ結合の阻害。(A)B10又はナイーブニワトリAB、即ちgAb(0~500nM)の存在下で、CM4チップに固定化したストレプトキナーゼ上に10nMプラスミノーゲンを通過させた。B10は、濃度62.5~500nMで阻害を示した。対照であるナイーブニワトリ抗体gAbは、SKに対するPlgの結合の阻害を全く示さなかった。(B)抗体なし対照に対して正規化した、500nM Abの存在下でのSKに対するプラスミノーゲン結合のパーセンテージ。
図6】単一組み換えセリンプロテアーゼドメインに対するB10の結合。サイズ排除クロマトグラフィーは、SP単独(破線)又はB10単独(点線)と比較して、より高い分子量の複合体(SP+B10、実線)を示す。
図7】プラスミンのセリンプロテアーゼドメイン(SP)と結合したB10の結晶構造。SP/B10二元複合体の結晶構造は、B10がプラスミン触媒三残基に結合することを示す。SPが示され、触媒三残基はスティック状に示され、標識されており、B10軽鎖(LC)及び重鎖(HC)は標識されている。上は、二元複合体のイメージ図であり、下には、前述のように分子内相互作用に関与し、標識された重要な残基(標識及び番号付けされている)を示す。破線を用いて、極性相互作用を示す。
図8】B10は、A群レンサ球菌(Group A Streptococcus)(GAS)によるプラスミン産生を阻害する(酵素アッセイ)。(上)B10に結合したプラスミノーゲンをGASと一緒にインキュベートした。産生されたプラスミンの活性を蛍光発生基質で測定した。この場合、GASにより産生されたプラスミンは、ストレプトキナーゼ(SK)により媒介されると推定される。(下)組み換えSKの存在又は非存在下でのプラスミン活性のプログレス曲線。
図9】B10は、合成血餅の繊維素溶解を阻害する。3mg/mlのフィブリノーゲン、1Uのウシトロンビン;及び10nMのtPAを37℃で2時間混合することにより調製した、事前形成の合成フィブリン血餅について繊維素溶解を測定した。0~90M B10;又はα2AP;又は0~6.25mM TXAと混合した45nMのプラスミノーゲンを、血餅の表面に添加した。Nephelometerを用いて、線維素溶解を37℃で最大10時間モニターした。50%血餅溶解を達成するのに必要とされた時間をIC50計算のために使用した。B10について得られたIC50値は、α2AP及びアプロチニンのそれと同等であった。
図10】B10は、赤血球及び血小板の存在下で全血血餅の溶解を阻害する。血餅溶解のパーセンテージ(陰性及び陽性対照と比較して)は、陽性対照で完全溶解を達成した時点(30~40分)での阻害剤濃度の関数として示し、非線形回帰を用いてプロットすることにより、IC50を算出する。B10は、全血血餅溶解を阻害するのに、α2APの約8倍有効であり、アプロチニンの約9倍有効である。
【発明を実施するための形態】
【0101】
本明細書において開示され、定義される本発明は、記載されるか又は本文若しくは図面から明らかである個々の特徴の2つ以上の全ての代替的な組合せに及ぶことが理解されよう。これらの異なる組合せは全て、本発明の様々な代替的な態様を構成する。
【0102】
本発明のさらなる態様及び前の段落に記載される態様のさらなる実施形態は、例として及び添付の図面を参照して示される以下の説明から明らかになるであろう。
【0103】
これより、本発明の特定の実施形態が詳細に言及される。本発明は、実施形態とともに記載されるが、本発明は、本発明をそれらの実施形態に限定しないことが意図されることが理解されよう。むしろ、本発明は、特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲内に含まれ得る全ての代替例、変更、及び均等物を包含することが意図される。
【0104】
出血(haemorrhage)、又は出血(bleeding)は、手術、傷害若しくは凝固因子障害の重篤若しくは致命的な合併症である。プラスミン媒介性線維素溶解又は血餅溶解を阻害する抗線維素溶解剤は、重度の出血の際の血液喪失、緊急再手術、病的状態及び死亡を低減し得る。
【0105】
抑制されていないプラスミンは、血栓を溶解し(線維素溶解)、凝固因子(フィブリノーゲン、第V因子、第VIII因子)を分解して、凝血を損ない、それにより、出血のリスクを増大する。加えて、抑制されていないプラスミンは、好中球及びマクロファージを活性化させて、走化性及び酸化ストレスを増大すると共に、炎症性サイトカイン及びマトリックスメタロプロテイナーゼの放出も促進する。
【0106】
50年以上前のその最初の使用以来、小分子プラスミン阻害剤は、出血及び関連する合併症を低減することが証明されている。現在利用可能なプラスミン阻害剤は、典型的に、酵素活性部位を遮断するか、又はプラスミンと基質の相互作用を妨害する小分子の形態である。
【0107】
リシンアナログ、εアミノカプロン酸(EACA)及びトラネキサム酸(TX)は、リシン残基を模倣し、プラスミンクリングル上のリシン結合部位と相互作用して、フィブリンとその相互作用を遮断する。それらの分子サイズ及び作用機構のために、リシンアナログは、効力が低く、特異性もそれほど大きくはなく;それらは、腎臓疾患において蓄積し、血液脳関門及び胎盤を通過する。リシンアナログは、プラスミノーゲン及びtPAがフィブリンと結合するのを阻止することにより、プラスミノーゲン活性化及び線維素溶解を阻害する。同じ機構によって、リシンアナログは、a2-アンチプラスミンとのクリングル相互作用を遮断すると共に、溶液中のtPA又はuPAによるプラスミノーゲン活性化を増大することにより、プラスミン活性を実際に増大し得る。リシンアナログはまた、細胞受容体とプラスミノーゲン-プラスミンの相互作用も妨害して、組織因子とプラスミノーゲンの相互作用を遮断する。リシンアナログと他のクリングル含有タンパク質(tPA、(プロ)トロンビン、肝細胞増殖因子、uPA、リポタンパク質(a)のアポタンパク質)との相互作用の生物学的作用は、十分に理解されていない。リシンアナログは、胎盤及び血液脳関門を通過するため、心臓手術患者にてんかん発作を引き起こし、くも膜下出血患者の脳梗塞を増加させる。
【0108】
主要な臨床試験は、外傷の際の線維素溶解の阻害及び止血の回復における小分子プラスミノーゲン活性化阻害剤の有効性の理解を目標としてきた。これらの試験から、小分子プラスミン阻害剤が、非特異的作用機構、オフターゲット効果、低い効力、及び特定のタイプの出血に対する有効性の欠如によって、制限されることが判明した。特に、CRASH-2及びMATTER試験は、リシンアナログのトラネキサム酸(TXA)の有効性を検証し、傷害から3時間以内の重症患者にTXAを投与すると、死亡率を有意に低下させることを明らかにした。重要なことには、これらの試験によってまた、TXAの生存利益が、投与が15分遅れる毎に10%ずつ減少し、3時間後には利益が得られなかったことが明らかになった。これは、インビボでの凝血及び線維素溶解プロテオームの変化によるものであり、これが、プラスミンへのuPA媒介性プラスミノーゲン活性化の増大を招くと考えられる。このように、血漿中に産生されたプラスミンは、フィブリノーゲンの分解及びα2-アンチプラスミンの枯渇に起因する非特異的線維素溶解の可能性の増大を招く。したがって、プラスミノーゲン活性化の阻害がもはや有用ではない臨床状況下で使用するためのプラスミン活性部位阻害剤も必要である。
【0109】
特に、既存の治療法が無効であり、一部にはオフターゲット効果のために、それが有害となり得る脳出血などの重篤な、生命を脅かす出血を有する患者において、より高い特異性及び効力を備えた線維素溶解阻害剤が求められる。プラスミンの高度に特異的な触媒阻害剤の作製は、その酵素活性部位が、他のトリプシン様セリンプロテアーゼと有意な相同性を有するために、困難である。例えば、最も一般的に使用されているプラスミン活性部位阻害剤は、アプロチニンである。しかし、この分子は、トリプシン、トロンビン、活性化プロテインC、カリクレイン、好中球エラスターゼ及び他のプロテアーゼを含め、多くの他のセリンプロテアーゼの非特異的阻害剤である。アプロチニンは、死亡率増加に伴う安全性の懸念から、米国ではもはや利用可能ではない。したがって、他のセリンプロテアーゼに対して最小限の阻害剤活性を有するプラスミン特異的阻害剤が求められる。
【0110】
本発明者らは、プラスミンに結合し、その触媒活性を阻害又は低減する抗原結合タンパク質、例えば、抗体を開発した。
【0111】
本発明の抗原結合タンパク質は、プラスミンのセリンプロテアーゼドメインに特異的に結合し、タンパク質の触媒部位との相互作用を介してプラスミン活性を阻害することが実証されている。
【0112】
有利なことに、本発明の抗原結合タンパク質は、tPA、トロンビン、トリプシン、第Xa因子及び血漿カリクレインなどの他のセリンプロテアーゼの活性を阻害しない。
【0113】
プラスミンに結合して、その活性を阻害又は低減する能力によって、また本明細書にさらに詳しく説明されるように、本発明の抗原結合タンパク質は、プラスミン及び線維素溶解系によって媒介される病態又は疾患を治療、予防するか、又はその進行を遅延させる上で有用である。例えば、本発明の抗原結合タンパク質は、外傷、又は手術若しくは出産後の出血の止血を促進する上で有用である。
【0114】
本発明の抗原結合タンパク質はまた、細菌が、プラスミン系を動員して、宿主組織の侵入を促進するために、ストレプトキナーゼ、又は関連酵素を利用する細菌感染症を治療又は予防する上でも有用性を有する。特に、本発明の抗原結合タンパク質は、レンサ球菌属(Streptococcus)種に起因する感染症を治療又は予防するのに有用である。
【0115】
プラスミン系はまた、浸潤腫瘍にも使用されて、血管新生及び転移を促進し得る。したがって、本発明の抗原結合タンパク質は、炎症性、腫瘍増殖及び転移活性の1つ若しくは複数の側面を阻害又は低減する能力も有する。
【0116】
総論
本明細書全体を通して、特に記載されない限り、又は文脈上他の意味に解すべき場合を除き、単一の工程、組成物、工程群又は組成物群への言及は、それらの工程、組成物、工程群又は組成物群の1つ及び複数(すなわち1つ以上)を包含すると理解されるものとする。したがって、本明細書において使用される際、単数形(「a」、「an」及び「the」)は、文脈上特に明記されない限り、複数の態様を含み、逆もまた同様である。例えば、「a」への言及は、1つ並びに2つ以上を含み;「an」への言及は、1つ並びに2つ以上を含み;「the」への言及は、1つ並びに2つ以上を含むなどである。
【0117】
当業者は、本発明が、具体的に記載されるもの以外の変形及び変更を行うことが可能であることを理解するであろう。本発明が、全てのこのような変形及び変更を含むことが理解されるべきである。本発明はまた、本明細書において言及されるか又は示される工程、特徴、組成物及び化合物の全てを、個々に又は集合的に含み、また、前記工程又は特徴のあらゆる組合せ又はいずれか2つ以上を含む。
【0118】
当業者は、本発明の実施において使用され得る、本明細書に記載されるものと類似の又は同等の多くの方法及び材料を認識するであろう。本発明は、記載される方法及び材料に決して限定されるものではない。
【0119】
本明細書において参照される特許及び刊行物は全て、全体が参照により援用される。
【0120】
本発明は、本明細書に記載される特定の実施例によって範囲が限定されるものではなく、これらの実施例は、例示を意図したものに過ぎない。機能的に均等な生成物、組成物及び方法は、明らかに本発明の範囲内である。
【0121】
本明細書における本発明のいかなる実施例又は実施形態も、特に記載されない限り、本発明の他のいかなる実施例又は実施形態に対しても準用されると理解されるものとする。
【0122】
特に定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術用語及び科学用語は、(例えば、細胞培養、分子遺伝学、免疫学、免疫組織化学、タンパク質化学、及び生化学における)当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有すると理解されるものとする。
【0123】
特に示されない限り、本開示において用いられる組み換えタンパク質、細胞培養、及び免疫学的技術は、当業者に周知の標準的な手順である。このような技術は、J.Perbal,A Practical Guide to Molecular Cloning,John Wiley and Sons(1984)、J.Sambrook et al.Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbour Laboratory Press(1989)、T.A.Brown(編),Essential Molecular Biology:A Practical Approach,Volumes 1 and 2,IRL Press(1991)、D.M.Glover and B.D.Hames(編),DNA Cloning:A Practical Approach,Volumes 1-4,IRL Press(1995 and 1996)、及びF.M.Ausubel et al.(編),Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley-Interscience(1988、現在までの全ての改訂を含む)、Ed Harlow and David Lane(編)Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbour Laboratory,(1988)、及びJ.E.coligan et al.(編)Current Protocols in Immunology,John Wiley & Sons(現在までの全ての改訂を含む)などの出典における文献全体を通して記載され、説明されている。
【0124】
本明細書における可変領域及びその部分、免疫グロブリン、抗体及びその断片の説明及び定義は、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest,National Institutes of Health,Bethesda,Md.,1987 and 1991、Bork et al.,J Mol.Biol.242,309-320,1994、Chothia and Lesk J.Mol Biol.196:901-917,1987、Chothia et al.Nature 342,877-883,1989及び/又はAl-Lazikani et al.,J Mol Biol 273,927-948,1997における説明によってさらに明らかになり得る。
【0125】
「及び/又は」、例えば、「X及び/又はY」という用語は、「X及びY」又は「X又はY」のいずれかを意味するものと理解されるものとし、両方の意味又はいずれかの意味に対して明確な裏付けを与えると理解されるものとする。
【0126】
本明細書において使用される際、「に由来する」という用語は、指定された整数が特定の起源から得られ得るが、必ずしもその起源から直接得られるとは限らないことを示すと理解されるものとする。
【0127】
例えば、残基の範囲への本明細書における言及は、その端点を含むものと理解される。例えば、「アミノ酸56~65を含む領域」への言及は、その端点を含む方式で理解され、すなわち、この領域は、指定された配列中で56、57、58、59、60、61、62、63、64及び65と番号付けされたアミノ酸の配列を含む。
【0128】
選択される定義
プラスミンは、細胞遊走、組織再構築、及び細菌侵入に重要な役割を果たす。プラスミンは、トリプシンより高い選択性で、Lys-Xaa及びArg--Xaa結合を優先的に切断するセリンプロテアーゼである。プラスミンは、チモーゲンプラスミノーゲンの活性形態である。プラスミノーゲンは、プラスミノーゲン上の様々な活性化因子のタンパク質溶解作用によってプラスミンに活性化される。組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)又はウロキナーゼ(uPa)などのプラスミノーゲン活性化因子は、Arg561-Val562結合でのヒトプラスミノーゲン分子を切断して、活性プラスミンを産生する。その結果生じた2つのプラスミンの鎖は、2つの鎖間ジスルフィド架橋によって一緒に保持される。軽鎖(25kDa)は、触媒中心(触媒三残基を含む)を担持し、トリプシン及び他のセリンプロテアーゼと配列類似性を共有する。重鎖(60kDa)は、5つの高度に類似した三重ループ構造(クリングルと呼ばれる)から構成される。クリングルのいくつかは、リシン結合部位を含み、これは、フィブリンとのプラスミノーゲン/プラスミン相互作用を媒介する。プラスミンは、ペプチダーゼファミリーSiに属する。
【0129】
プラスミン(又はPlm)は、Pap又はpan-appleドメイン、5つのクリングルドメイン(KR1~KR5)及びセリンプロテアーゼ(SP)ドメインを含む7ドメイン糖タンパク質である。不活性形態、プラスミノーゲン(Plg)は、血漿中を、閉鎖且つ活性化耐性立体構造で循環する。標的部位に局在化すると、プラスミノーゲンは、標的(フィブリン血餅及び細胞表面受容体を含む)上の表面リシン/アルギン残基に結合する。結合は、クリングルドメイン上のリシン-結合部位(LBS)を介して起こり、これが、オープン構造へのプラスミノーゲンの再構成をトリガーする事象である。閉鎖構造からオープン構造への変換時に、KR-5とSPドメイン間の活性化ループが露出した状態になり、プラスミノーゲン活性化因子(組織プラスミノーゲン活性化因子又はウロキナーゼプラスミノーゲン活性化因子など)により切断されて、酵素として活性の形態、プラスミン(Plm)を形成する。プラスミノーゲン活性化系は、宿主セリンプロテアーゼ阻害剤:プラスミノーゲン活性化阻害剤1及び2(PAI-1及びPAI-2)により厳密に調節される。標的から放出された活性プラスミンは、典型的に、特異的阻害剤α-2-アンチプラスミン又はハウスキーピング酵素α-2-マクログロブリンにより循環から除去される。
【0130】
本明細書に記載される「プラスミノーゲン」という用語は、Glu-プラスミノーゲン(Glu-Plg)、Lys-プラスミノーゲン(Lys-Plg)、及びミニ-、ミディ-及びマイクロ-プラスミノーゲンをはじめとするプラスミノーゲンの変異体のいずれかを含む。Lys-プラスミノーゲンは、プラスミンによるGlu-プラスミノーゲンの切断から形成されるGlu-PlgのN-切断型である。Lys-プラスミノーゲンは、Glu-Plgと比較してフィブリンに対する高い親和性を呈示し、uPA及びtPAによって、より良好に活性化される。ミディ-プラスミノーゲンは、プラスミノーゲンのクリングルドメイン4及び5と軽鎖(セリンプロテアーゼドメイン)を含む。これは、Glu-プラスミノーゲンからのクリングルドメイン1~3の切断によって形成される。ミニ-プラスミノーゲン(442Val-Plg又はネオプラスミノーゲンとしても知られる)は、Glu-プラスミノーゲンの残基442(クリングルドメイン4内に位置する)へのエラスターゼの作用によって生じる。したがって、ミニ-プラスミノーゲンは、プラスミノーゲンのクリングルドメイン4、クリングルドメイン5及びセリンプロテアーゼドメインを含む。マイクロ-プラスミノーゲンは、ペプチドと、N末端に結合したクリングル5の数個の残基を連結する区間を有するプラスミノーゲンの酵素前駆体ドメインから構成される。これは、プラスミノーゲンに対するプラスミンの作用によって産生される。したがって、マイクロ-プラスミノーゲン(又はマイクロ-Plg)は、プラスミノーゲンの軽鎖(セリンプロテアーゼドメイン)を含み、クリングルドメインは含まない。(例えば、Shi et al.(1980)J Biol.Chem.263:17071-5を参照)。プラスミノーゲンと同様、マイクロプラスミノーゲンは、tPA及びウロキナーゼにより活性化されて、タンパク質分解活性分子を形成する。ヒトマイクロプラスミンは、約29kDaの分子量を有し、プラスミンと比較して、フィブリンに対し低い親和性を有する。
【0131】
あくまでも命名の目的で、限定はされないが、ヒトプラスミノーゲン(“glu-Plg)の例示的なアミノ酸配列は、配列番号33に記載される。hPlmセリンプロテアーゼドメインを含む配列は、配列番号34に記載され、ここで、触媒三残基は下線が引かれ、太字で示される。
【0132】
本明細書において使用される場合、プラスミンと言うとき、プラスミンの少なくとも1つの生化学的又は生物物理学的活性を有する分子を指す。プラスミンの生化学的又は生物物理学的活性は、プラスミノーゲンのものから識別することができる。
【0133】
「プラスミン活性を阻害する」又は「プラスミン活性を低減する」という語句は、本発明の抗原結合タンパク質が、プラスミンの酵素活性を阻害又は低減することを意味する。さらに、活性は、好適なインビトロ、細胞又はインビボアッセイを用いて測定され、また、活性は、抗原結合タンパク質を用いないことを除いて同じ条件下の同じアッセイにおけるプラスミン活性と比較して、少なくとも1%、5%、10%、25%、50%、60%、70%、80%又は90%若しくはそれ以上、ブロック又は低減される。好ましくは、プラスミン活性は、いずれか1つ又は複数のプラスミノーゲン活性化因子によるプラスミノーゲンの活性化後に測定する。プラスミノーゲン活性化因子は、Arg561-Val562結合(番号付けは、ヒトプラスミノーゲンによる)を切断することができる任意の酵素である。例示的なプラスミノーゲン切断セリンプロテアーゼ、したがって、プラスミノーゲン活性化因子としては、凝固タンパク質第IX因子、第X因子、及びプロトロンビン(第II因子)、プロテインC、キモトリプシン及びトリプシン、様々な白血球エラスターゼ、ストレプトキナーゼ(SK)、ウロキナーゼ(uPA)及び組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)、並びにプラスミンが挙げられる。
【0134】
「単離されたタンパク質」又は「単離されたポリペプチド」という用語は、由来するその起源又は供給源のため、その天然状態でそれに伴う天然に会合している構成要素と会合しておらず;同じ供給源からの他のタンパク質を実質的に含まないタンパク質又はポリペプチドである。タンパク質は、当該技術分野において公知のタンパク質精製技術を用いた単離によって、天然に会合している構成要素を実質的に含まない状態にされ、又はそのような単離によって実質的に精製され得る。「実質的に精製された」とは、タンパク質が、汚染物質を実質的に含まず、例えば、少なくとも約70%又は75%又は80%又は85%又は90%又は95%又は96%又は97%又は98%又は99%、汚染物質が除去されていることを意味する。
【0135】
「組み換え」という用語は、人工的な遺伝子組み換えの産物を意味すると理解されるものとする。したがって、抗体抗原結合ドメインを含む組み換えタンパク質に関して、この用語は、B細胞成熟中に生じる天然の組み換えの産物である対象の身体内に天然に存在する抗体を包含しない。しかしながら、このような抗体が単離される場合、それは、抗体抗原結合ドメインを含む単離されたタンパク質であると考えられる。同様に、タンパク質をコードする核酸が、組み換え手段を用いて、単離され、発現される場合、得られるタンパク質は、抗体抗原結合ドメインを含む組み換えタンパク質である。組み換えタンパク質はまた、それが細胞、組織又は対象内にあり、例えば、そこでそれが発現される場合、人工的な組み換え手段によって発現されるタンパク質を包含する。
【0136】
「タンパク質」という用語は、単一のポリペプチド鎖、すなわち、ペプチド結合によって連結された一連の連続するアミノ酸、又は互いに共有結合若しくは非共有結合された一連のポリペプチド鎖(すなわち、ポリペプチド複合体)を含むと理解されるものとする。例えば、一連のポリペプチド鎖は、好適な化学結合又はジスルフィド結合を用いて共有結合され得る。非共有結合の例としては、水素結合、イオン結合、ファン・デル・ワールス力、及び疎水性相互作用が挙げられる。タンパク質は、1つ又は複数の非天然アミノ酸を含んでもよい。
【0137】
「ポリペプチド」又は「ポリペプチド鎖」という用語は、ペプチド結合によって連結された一連の連続するアミノ酸を意味することが前の段落から理解されるであろう。
【0138】
本明細書において使用される際、「抗原結合ドメイン」という用語は、抗原、すなわち、VH若しくはVL又はVH及びVLの両方を含むFvに特異的に結合することが可能な抗体の領域を意味すると理解されるものとする。抗原結合ドメインは、完全抗体の文脈にある必要はなく、例えば、それは、単離されていても(例えば、ドメイン抗体)又は、例えば本明細書に記載されるようにscFvなどの別の形態であってもよい。
【0139】
本開示の趣旨では、「抗体」という用語は、Fv中に含まれる抗原結合ドメインによって1つ又はいくつかの密接に関連する抗原(例えば、プラスミン)に特異的に結合することが可能なタンパク質を含む。この用語は、4鎖抗体(例えば、2つの軽鎖及び2つの重鎖)、組み換え又は修飾抗体(例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、CDRグラフト化抗体、霊長類化抗体、脱免疫化(de-immunized)抗体、合成ヒト化(synhumanized)抗体、半抗体、二重特異性抗体)を含む。抗体は、化学修飾、例えば、活性薬剤若しくは放射性標識、又は可溶性を改善するための薬剤とのコンジュゲート、例えば、本明細書に記載の抗体若しくはその抗原結合タンパク質のペグ化をさらに含み得る。
【0140】
抗体は、一般に、定常領域又は定常断片又は結晶化可能断片(Fc)へと構成され得る定常ドメインを含む。抗体の例示的な形態は、それらの基本単位として4鎖構造を含む。完全長抗体は、共有結合された2つの重鎖(約50~70kD)及び2つの軽鎖(それぞれ約23kDa)を含む。軽鎖は、一般に、可変領域(存在する場合)及び定常ドメインを含み、哺乳動物においては、κ軽鎖又はλ軽鎖のいずれかである。重鎖は、一般に、可変領域、及びさらなる定常ドメインにヒンジ領域によって連結された1つ又は2つの定常ドメインを含む。哺乳動物の重鎖は、以下のタイプα、δ、ε、γ、又はμのうちの1つのものである。各軽鎖はまた、重鎖の1つに共有結合される。例えば、2つの重鎖並びに重鎖及び軽鎖は、鎖間ジスルフィド結合及び非共有相互作用によって結合される。鎖間ジスルフィド結合の数は、抗体のタイプの違いによって変化し得る。各鎖は、N末端可変領域(それぞれ約110アミノ酸長であるVH又はVL)、及びC末端に1つ以上の定常ドメインを有する。軽鎖の定常ドメイン(約110アミノ酸長であるCL)は、重鎖の第1の定常ドメイン(330~440アミノ酸長であるCH1)と整列され、ジスルフィド結合される。軽鎖可変領域は、重鎖の可変領域と整列される。抗体重鎖は、2つ以上のさらなるCHドメイン(CH2、CH3など)を含むことができ、CH1及びCH2定常ドメインの間にヒンジ領域を含み得る。抗体は、任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、及びIgY)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)又はサブクラスのものであり得る。一例において、抗体は、ネズミ科(マウス又はラット)抗体又は霊長類(ヒトなど)抗体である。一例において、抗体重鎖は、C末端リジン残基が欠落している。一例において、抗体は、ヒト化、合成ヒト化、キメラ、CDRグラフト化又は脱免疫化抗体である。
【0141】
「完全長抗体」、「インタクトな抗体」又は「完全抗体」という用語は、抗体の抗原結合断片と対照的に、その実質的にインタクトな形態の抗体を指すために、同義的に使用される。具体的には、完全抗体は、Fc領域を含む重鎖及び軽鎖を有するものを含む。定常ドメインは、野生型配列定常ドメイン(例えば、ヒト野生型配列定常ドメイン)又はそのアミノ酸配列変異体であり得る。
【0142】
本明細書において使用される際、「可変領域」は、抗原に特異的に結合することが可能な、本明細書において定義される抗体の軽鎖及び/又は重鎖の部分を指し、相補性決定領域(CDR);すなわち、CDR1、CDR2、及びCDR3、並びにフレームワーク領域(FR)のアミノ酸配列を含む。例えば、可変領域は、3つのCDRと一緒に3つ又は4つのFR(例えば、FR1、FR2、FR3及び任意選択的にFR4)を含む。VHは、重鎖の可変領域を指す。VLは、軽鎖の可変領域を指す。
【0143】
本明細書において使用される際、「相補性決定領域」という用語(同義語はCDR;すなわち、CDR1、CDR2、及びCDR3)は、その存在が特異的な抗原結合の主な原因になる、抗体可変領域のアミノ酸残基を指す。各可変領域ドメイン(VH又はVL)は、典型的に、CDR1、CDR2及びCDR3として同定される3つのCDRを有する。VHのCDRはそれぞれ、本明細書において、CDR H1、CDR H2及びCDR H3とも呼ばれ、ここで、CDR H1が、VHのCDR 1に対応し、CDR H2が、VHのCDR 2に対応し、CDR H3が、VHのCDR 3に対応する。同様に、VLのCDRはそれぞれ、本明細書において、CDR L1、CDR L2及びCDR L3と呼ばれ、ここで、CDR L1が、VLのCDR 1に対応し、CDR L2が、VLのCDR 2に対応し、CDR L3が、VLのCDR 3に対応する。一例において、CDR及びFRに割り当てられるアミノ酸位置は、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest,National Institutes of Health,Bethesda,Md.,1987 and 1991(本明細書において「Kabat番号付け方式」とも呼ばれる)に従って定義される。別の例において、CDR及びFRに割り当てられるアミノ酸位置は、Enhanced Chothia Numbering Scheme(http://www.bioinfo.org.uk/mdex.html)に従って定義される。本発明は、Kabat番号付け方式によって定義されるFR及びCDRに限定されず、標準的な番号付け方式、又はChothia and Lesk J.Mol.Biol.196:901-917,1987;Chothia et al.,Nature 342:877-883,1989;及び/又はAl-Lazikani et al.,J.Mol.Biol.273:927-948,1997;Honnegher and Pluekthun J.Mol.Biol.309:657-670,2001の番号付け方式;又はGiudicelli et al.,Nucleic Acids Res.25:206-211 1997において説明されるIMGT方式を含む、全ての番号付け方式を含む。一例において、CDRは、Kabat番号付け方式に従って定義される。任意選択的に、Kabat番号付け方式に従う重鎖CDR2は、本明細書に列挙される5つのC末端アミノ酸を含まないか、又はそれらのアミノ酸のいずれか1つ以上が、別の天然アミノ酸で置換される。これに関して、Padlan et al.,FASEB J.,9:133-139,1995では、重鎖CDR2の5つのC末端アミノ酸が一般に抗原結合に関与しないことが確立されている。
【0144】
「フレームワーク領域」(FR)は、CDR残基以外の可変領域残基である。VHのFRはそれぞれ、本明細書において、FR H1、FR H2、FR H3及びFR H4とも呼ばれ、ここで、FR H1が、VHのFR 1に対応し、FR H2が、VHのFR 2に対応し、FR H3が、VHのFR 3に対応し、FR H4が、VHのFR 4に対応する。同様に、VLのFRはそれぞれ、本明細書において、FR L1、FR L2、FR L3及びFR L4と呼ばれ、ここで、FR L1が、VLのFR 1に対応し、FR L2が、VLのFR 2に対応し、FR L3が、VLのFR 3に対応し、FR L4が、VLのFR 4に対応する。
【0145】
本明細書において使用される際、「Fv」という用語は、複数のポリペプチドから構成されるか又は単一のポリペプチドから構成されるかにかかわらず、任意のタンパク質を意味すると理解されるものとし、ここで、VL及びVHが会合し、抗原結合ドメインを有する、すなわち、抗原に特異的に結合することが可能な複合体を形成する。抗原結合ドメインを形成するVH及びVLは、単一のポリペプチド鎖又は異なるポリペプチド鎖中にあり得る。さらに、本発明のFv(並びに本発明の任意のタンパク質)は、同じ抗原に結合し得るか又は結合し得ない複数の抗原結合ドメインを有し得る。この用語は、抗体に直接由来する断片並びに組み換え手段を用いて産生されるこのような断片に対応するタンパク質を包含すると理解されるものとする。いくつかの例において、VHは、重鎖定常ドメイン(CH)1に連結されず、及び/又はVLは、軽鎖定常ドメイン(CL)に連結されない。例示的なFvを含むポリペプチド又はタンパク質としては、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)断片、scFv、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ若しくはより高次の複合体、又は定常領域若しくはそのドメイン、例えば、CH2又はCH3ドメインに連結された上記のもののいずれか、例えば、ミニボディが挙げられる。「Fab断片」は、免疫グロブリンの一価の抗原結合断片からなり、酵素パパインにより完全抗体を消化して、インタクトな軽鎖及び重鎖の一部からなる断片を生じることによって産生され得、又は組み換え手段を用いて産生され得る。抗体の「Fab’断片」は、完全抗体をペプシンで処理し、続いて還元して、インタクトな軽鎖及びVHを含む重鎖の一部及び単一の定常ドメインからなる分子を生じることによって得ることができる。2つのFab’断片は、このように処理される抗体ごとに得られる。Fab’断片はまた、組み換え手段によって産生され得る。抗体の「F(ab’)2断片」は、2つのジスルフィド結合によって結合される2つのFab’断片の二量体からなり、その後の還元を伴わずに、完全抗体分子を酵素ペプシンで処理することによって得られる。「Fab2」断片は、例えばロイシンジッパー又はCH3ドメインを用いて連結された2つのFab断片を含む組み換え断片である。「一本鎖Fv」又は「scFv」は、軽鎖の可変領域及び重鎖の可変領域が好適な可撓性のポリペプチドリンカーによって共有結合された、抗体の可変領域断片(Fv)を含む組み換え分子である。
【0146】
本明細書において使用される際、抗原結合部位又はその抗原結合ドメインと、抗原との相互作用に関する「結合する」という用語は、この相互作用が抗原における特定の構造(例えば、抗原決定基又はエピトープ)の存在に依存することを意味する。例えば、抗体は、タンパク質一般ではなく、特定のタンパク質構造を認識し、それに結合する。抗体がエピトープ「A」に結合する場合、エピトープ「A」(又は遊離した、非標識の「A」)を含む分子の存在は、標識「A」及びタンパク質を含む反応において、抗体に結合される標識「A」の量を減少させる。
【0147】
本明細書において使用される際、「特異的に結合する(specifically binds)」又は「特異的に結合する(binds specifically)」という用語は、本発明の抗原結合タンパク質が、特定の抗原又はそれを発現する細胞と、別の抗原又は細胞より、高い頻度で、より急速に、より長い期間及び/又はより高い親和性で反応又は会合することを意味すると理解されるものとする。例えば、抗原結合タンパク質は、それが他のセリンプロテアーゼなどの他の関連分子に結合するよりも、実質的に高い親和性(例えば、1.5倍又は2倍又は5倍又は10倍又は20倍又は40倍又は60倍又は80倍~100倍又は150倍又は200倍)で、プラスミン(例えば、ヒトプラスミン)に結合する。本発明の一例において、抗原結合タンパク質は、関連するセリンプロテアーゼより、少なくとも1.5倍又は2倍以上高い親和性(例えば、5倍又は10倍又は20倍又は50倍又は100倍又は200倍)でプラスミン(好ましくはヒト)に「特異的に結合する」。一般に、必ずしもではないが、結合への言及は、特異的結合を意味し、各用語は、他の用語に対する明確な裏付けを与えると理解されるものとする。
【0148】
本明細書において使用される際、「検出可能に結合しない」という用語は、抗原結合タンパク質、例えば、抗体が、バックグラウンドより10%、又は8%又は6%又は5%未満高いレベルで候補抗原に結合することを意味すると理解されるものとする。バックグラウンドは、タンパク質の非存在下、及び/又は陰性対照タンパク質(例えば、アイソタイプ対照抗体)の存在下で検出される結合シグナルのレベル、及び/又は陰性対照抗原の存在下で検出される結合のレベルであり得る。結合のレベルは、抗原結合タンパク質が固定され、抗原と接触されるバイオセンサー分析(例えばBiacore)を用いて検出される。
【0149】
本明細書において使用される際、「有意に結合しない」という用語は、ポリペプチドへの本発明の抗原結合タンパク質の結合のレベルが、バックグラウンド、例えば、抗原結合タンパク質の非存在下、及び/又は陰性対照タンパク質(例えば、アイソタイプ対照抗体)の存在下で検出される結合シグナルのレベル、及び/又は陰性対照ポリペプチドの存在下で検出される結合のレベルより統計的に有意に高くないことを意味すると理解されるものとする。結合のレベルは、抗原結合タンパク質が固定され、抗原と接触されるバイオセンサー分析(例えばBiacore)を用いて検出される。
【0150】
本明細書において使用される際、「エピトープ」という用語(同義語は「抗原決定基」)は、抗体の抗原結合ドメインを含む抗原結合タンパク質が結合する、プラスミンの領域を意味すると理解されるものとする。特に定義されない限り、この用語は、抗原結合タンパク質が接触する特定の残基又は構造に必ずしも限定されるわけではない。例えば、この用語は、抗原結合タンパク質によって接触されるアミノ酸にわたる領域、及びこの領域の外側の5~10(若しくはそれ以上)又は2~5又は1~3アミノ酸を含む。いくつかの例において、エピトープは、抗原結合タンパク質が折り畳まれるときに互いに近くに配置される一連の不連続なアミノ酸、すなわち、「立体配座エピトープ」を含む。当業者はまた、「エピトープ」という用語が、ペプチド又はポリペプチドに限定されないことを認識するであろう。例えば、「エピトープ」という用語は、糖側鎖、ホスホリル側鎖、又はスルホニル側鎖などの化学的に活性な表面基を含み、及び、特定の例において、特異的な三次元構造的特徴、及び/又は特異的な電荷特性を有し得る。
【0151】
本明細書において使用される際、「疾患」という用語は、正常な機能に対する破壊又は干渉を指し、何らかの特定の疾患に限定されず、疾病又は障害を含む。
【0152】
本明細書において使用される際、「予防すること」、「予防する」又は「予防」という用語は、本発明の抗原結合タンパク質を投与し、それによって、疾患の少なくとも1つの症状の発生を停止するか又は妨げることを含む。この用語は、再発を予防するか又は妨げるための、寛解している対象の処置も包含する。
【0153】
本明細書において使用される際、「治療すること」、「治療する」又は「治療」という用語は、本明細書に記載される抗原結合タンパク質を投与し、それによって、特定の疾病又は疾患の少なくとも1つの症状を低減又は除去することを含む。
【0154】
本明細書において使用される際、「対象」という用語は、ヒト、例えば哺乳動物を含む任意の動物を意味すると理解されるものとする。例示的な対象としては、限定はされないが、ヒト及び非ヒト霊長類が挙げられる。例えば、対象はヒトである。
【0155】
抗体
一例において、いずれかの実施例に従う本明細書に記載される抗原結合タンパク質又はプラスミン結合タンパク質は、抗体である。
【0156】
抗体を産生するための方法は、当該技術分野において公知であり、及び/又はHarlow and Lane(編)Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,(1988)に記載されている。一般に、このような方法において、プラスミン(例えば、ヒトプラスミン)若しくはその領域(例えば、細胞外領域)又は免疫原性断片若しくはそのエピトープ又はそれ(すなわち、免疫原)を発現及び提示する細胞は、任意選択的に、任意の好適な又は所望の担体、アジュバント、又は薬学的に許容される賦形剤とともに製剤化され、非ヒト動物、例えば、マウス、ニワトリ、ラット、ウサギ、モルモット、イヌ、ウマ、ウシ、ヤギ又はブタに投与される。免疫原は、鼻腔内、筋肉内、皮下、静脈内、皮内、腹膜内、又は他の公知の経路によって投与され得る。
【0157】
ポリクローナル抗体の産生は、免疫後の様々な時点で免疫された動物の血液をサンプリングすることによってモニターされ得る。所望の抗体力価を得る必要がある場合、1つ以上のさらなる免疫化が行われ得る。追加免疫及び力価測定のプロセスは、好適な力価が得られるまで繰り返される。所望のレベルの免疫原性が得られたとき、免疫された動物から採血し、血清を単離及び貯蔵し、及び/又は動物を用いて、モノクローナル抗体(mAb)を産生する。
【0158】
モノクローナル抗体は、本発明によって想定される抗体の1つの例示的な形態である。「モノクローナル抗体」又は「mAb」という用語は、同じ抗原、例えば、抗原内の同じエピトープに結合することが可能な均一な抗体集団を指す。この用語は、抗体の起源又はそれが作製される方法に関して限定されるものではない。
【0159】
mAbの産生のために、例えば、上記の米国特許第4196265号明細書又はHarlow and Lane(1988)において例示される手順などのいくつかの公知の技術のいずれか1つが使用され得る。
【0160】
例えば、好適な動物が、抗体産生細胞を刺激するのに十分な条件下で免疫原により免疫化される。ウサギ、マウス及びラットなどのげっ歯類が、例示的な動物である。例えば、ネズミ科の抗体を発現しない、ヒト抗体を発現するように遺伝子組み換えされたマウスを用いて、本発明の抗体を産生することもできる(例えば、国際公開第2002/066630号パンフレットに記載されるように)。
【0161】
免疫化の後、抗体を産生する能力を有する体細胞、特にBリンパ球(B細胞)が、mAb産生プロトコルに使用するために選択される。これらの細胞は、脾臓、へんとう腺若しくはリンパ節の生検から、又は末梢血試料から得られる。次に、免疫された動物からのB細胞は、一般に免疫原により免疫された動物と同じ種に由来する不死化骨髄腫細胞と融合される。
【0162】
組織培養培地中でヌクレオチドのデノボ合成を阻止する薬剤を含む選択的培地中での培養によって、ハイブリッドが増幅される。例示的な薬剤は、アミノプテリン、メトトレキサート及びアザセリンである。
【0163】
増幅されたハイブリドーマは、例えば、フローサイトメトリー及び/又は免疫組織化学及び/又はイムノアッセイ(例えばラジオイムノアッセイ、酵素イムノアッセイ、細胞毒性アッセイ、プラークアッセイ、ドットイムノアッセイなど)によって、抗体特異性及び/又は力価についての機能的選択に供される。
【0164】
或いは、MAbを分泌する細胞株を産生するため、ABL-MYC技術(NeoClone,Madison WI 53713,USA)が使用される(例えば、Largaespada et al,J.Immunol.Methods.197:85-95,1996に記載されるように)。
【0165】
抗体はまた、例えば、米国特許第6300064号明細書及び/又は米国特許第5885793号明細書に記載されるように、ディスプレイライブラリー、例えば、ファージディスプレイライブラリーをスクリーニングすることによって産生又は単離され得る。例えば、本発明者らは、ファージディスプレイライブラリーから完全ヒト抗体を単離した。
【0166】
本発明の抗体は、合成抗体であり得る。例えば、抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、合成ヒト化抗体、霊長類化抗体又は脱免疫化抗体である。
【0167】
抗体結合ドメインを含むタンパク質
単一ドメイン抗体
いくつかの例において、本発明のタンパク質は、単一ドメイン抗体(「ドメイン抗体」又は「dAb」という用語と同義的に使用される)であるか又はそれを含む。単一ドメイン抗体は、抗体の重鎖可変領域の全て又は一部を含む単一のポリペプチド鎖である。特定の例において、単一ドメイン抗体は、ヒト単一ドメイン抗体である(Domantis,Inc.,Waltham,MA;例えば、米国特許第6248516号明細書を参照)。
【0168】
ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ
いくつかの例において、本発明のタンパク質は、国際公開第98/044001号パンフレット及び/又は国際公開第94/007921号パンフレットに記載されるものなどのダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ又はより高次のタンパク質複合体であるか又はそれを含む。
【0169】
例えば、ダイアボディは、2つの会合するポリペプチド鎖を含むタンパク質であり、各ポリペプチド鎖が構造V-X-V又はV-X-Vを含み、ここで、Vが、抗体軽鎖可変領域であり、Vが、抗体重鎖可変領域であり、Xが、単一のポリペプチド鎖中のV及びVを会合させる(又はFvを形成させる)のに不十分な残基を含むリンカーであるか、又は存在せず、1つのポリペプチド鎖のVが他のポリペプチド鎖のVに結合して、抗原結合ドメインを形成する、すなわち、1つ以上の抗原に特異的に結合することが可能なFv分子を形成する。V及びVは、各ポリペプチド鎖中で同じであり得、又はV及びVは、各ポリペプチド鎖中で異なり得、それによって、二重特異性ダイアボディ(すなわち、異なる特異性を有する2つのFvを含む)を形成し得る。
【0170】
一本鎖Fv(scFv)
当業者は、scFvが、単一のポリペプチド鎖におけるV及びV領域、並びにscFvが抗原結合のための所望の構造を形成する(すなわち、単一のポリペプチド鎖のV及びVが互いに会合して、Fvを形成する)のを可能にするV及びVの間のポリペプチドリンカーを含むことを認識するであろう。例えば、リンカーは、12を超えるアミノ酸残基を含み、(GlySer)が、scFvのためのより好ましいリンカーの1つである。
【0171】
本発明はまた、ジスルフィド安定化Fv(又はdiFv若しくはdsFv)を想定しており、ここで、単一のシステイン残基が、VのFR及びVのFRに導入され、このシステイン残基はジスルフィド結合によって連結されて、安定なFvが生じる。
【0172】
或いは、又はそれに加えて、本発明は、二量体scFv、すなわち、例えば、ロイシンジッパードメイン(例えば、Fos又はJunに由来する)によって、非共有結合又は共有結合によって連結された2つのscFv分子を含むタンパク質を包含する。或いは、例えば、米国特許出願公開第20060263367号明細書に記載されるように、2つのscFvは、両方のscFvが抗原を形成し、抗原に結合することを可能にするのに十分な長さのペプチドリンカーによって連結される。
【0173】
重鎖抗体
重鎖抗体は、それらが重鎖を含むが軽鎖を含まない限り、多くの他の形態の抗体と構造的に異なる。したがって、これらの抗体は、「重鎖のみの抗体」とも呼ばれる。重鎖抗体は、例えば、ラクダ科動物及び軟骨魚類(IgNARとも呼ばれる)中に見られる。
【0174】
従来の4鎖抗体中に存在する重鎖可変領域(「Vドメイン」と呼ばれる)及び従来の4鎖抗体中に存在する軽鎖可変領域(「Vドメイン」と呼ばれる)と区別するために、天然重鎖抗体中に存在する可変領域は、一般に、ラクダ科動物抗体において「VHHドメイン」及びIgNARにおいてV-NARと呼ばれる。
【0175】
ラクダ科動物由来の重鎖抗体及びその可変領域、並びにそれらの産生及び/又は単離及び/又は使用のための方法の一般的な説明は、特に、以下の参照文献、国際公開第94/04678号パンフレット、国際公開第97/49805号パンフレット及び国際公開第97/49805号パンフレットに見出される。
【0176】
軟骨魚類由来の重鎖抗体及びその可変領域、並びにそれらの産生及び/又は単離及び/又は使用のための方法の一般的な説明は、特に、国際公開第2005/118629号パンフレットに見出される。
【0177】
他の抗体及びその抗原結合ドメインを含むタンパク質
本発明はまた、
(i)米国特許第5731168号明細書に記載される「キー・アンド・ホール(key and hole)」二重特異性タンパク質;
(ii)ヘテロコンジュゲートタンパク質(例えば、米国特許第4676980号明細書に記載される);
(iii)化学架橋剤を用いて産生されるヘテロコンジュゲートタンパク質(例えば、米国特許第4676980号明細書に記載される);及び
(iv)Fab(例えば、EP19930302894号に記載される)
などの、他の抗体及びその抗原結合ドメインを含むタンパク質を想定している。
【0178】
タンパク質に対する突然変異
本発明はまた、本明細書に開示される配列と少なくとも80%の同一性を有する、抗原結合タンパク質又はこれをコードする核酸も提供する。一例において、本発明の抗原結合タンパク質又は核酸は、本明細書に開示される配列と少なくとも約85%若しくは90%若しくは95%若しくは97%若しくは98%若しくは99%同一の配列を含む。
【0179】
或いは、又は加えて、抗原結合タンパク質は、いずれかの実施例に従って本明細書に記載されるV又はVのCDRと少なくとも約80%若しくは85%若しくは90%若しくは95%若しくは97%若しくは98%若しくは99%同一のCDR(例えば、3つのCDR)を含む。
【0180】
別の例では、本発明の核酸は、いずれかの実施例に従って本明細書に記載される機能を有する抗原結合タンパク質をコードする配列と少なくとも約80%若しくは85%若しくは90%若しくは95%若しくは97%若しくは98%若しくは99%同一の配列を含む。本発明はまた、本発明の抗原結合タンパク質をコードする核酸も包含し、これは、遺伝暗号の縮重のために、本明細書に例示される配列とは異なる。
【0181】
核酸又はポリペプチドの同一性%は、ギャップ作成ペナルティ=5、及びギャップ伸張ペナルティ=0.3を有するGAP(Needleman and Wunsch.Mol.Biol.48,443-453,1970)分析(GCGプログラム)によって決定される。クエリー配列は、少なくとも50残基長であり、GAP分析は、少なくとも50残基の領域にわたって2つの配列をアラインする。例えば、クエリー配列は、少なくとも100残基長であり、GAP分析は、少なくとも100残基の領域にわたって2つの配列をアラインする。例えば、2つの配列は、それらの全長にわたってアラインされる。
【0182】
本発明はまた、本明細書に記載される抗原結合タンパク質をコードする核酸に、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズする核酸を想定している。「中程度のストリンジェンシー」は、ハイブリダイゼーション及び/又は洗浄が、2×SSC緩衝液中、0.1%(w/v)のSDS中、45℃~65℃の範囲の温度で、又は同等の条件で行われるものと本明細書において定義される。「高いストリンジェンシー」は、ハイブリダイゼーション及び/又は洗浄が、0.1×SSC緩衝液、0.1%(w/v)のSDS中、又はより低い塩濃度で、及び少なくとも65℃の温度で、又は同等の条件で行われるものと本明細書において定義される。特定のレベルのストリンジェンシーへの本明細書における言及は、当業者に公知のSSC以外の洗浄/ハイブリダイゼーション溶液を使用する同等の条件を包含する。例えば、二本鎖核酸の鎖が解離する温度(溶融温度、又はTmとしても知られている)を計算するための方法は、当該技術分野において公知である。核酸のTmと同様(例えば、5℃以内又は10℃以内)又は等しい温度は、高いストリンジェンシーと考えられる。中程度のストリンジェンシーは、核酸の算出Tmの10℃~20℃又は10℃~15℃以内であると考えられるべきである。
【0183】
本発明はまた、本明細書に記載される配列と比較して1つ以上の保存的アミノ酸置換を含む本発明の抗原結合タンパク質の突然変異形態を想定している。いくつかの例において、抗原結合タンパク質は、10以下、例えば、9又は8又は7又は6又は5又は4又は3又は2又は1つの保存的アミノ酸置換を含む。「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が類似の側鎖及び/又はハイドロパシー(hydropathicity)及び/又は親水性を有するアミノ酸残基で置換されたものである。
【0184】
類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当該技術分野において規定されており、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)及び芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が含まれる。ハイドロパシーインデックスは、例えば、Kyte and Doolittle J.Mol.Biol.,157:105-132,1982に記載され、親水性インデックスは、例えば、米国特許第4554101号明細書に記載されている。
【0185】
本発明はまた、非保存的アミノ酸変異を想定している。例えば、荷電アミノ酸の、別の荷電アミノ酸による置換、及び中性又は正荷電アミノ酸による置換が特に興味深い。いくつかの例において、抗原結合タンパク質は、10以下、例えば、9又は8又は7又は6又は5又は4又は3又は2又は1つの非保存的アミノ酸置換を含む。
【0186】
一例において、突然変異は、本発明の抗原結合タンパク質の抗原結合ドメインのFR内で生じる。別の例において、突然変異は、本発明の抗原結合タンパク質のCDR内で生じる。
【0187】
抗原結合タンパク質の突然変異形態を産生するための例示的な方法としては、以下のものが挙げられる:
・DNAの突然変異誘発(Thie et al.,Methods Mol.Biol.525:309-322,2009)又はRNA(Kopsidas et al.,Immunol.Lett.107:163-168,2006;Kopsidas et al.BMC Biotechnology,7:18,2007;及び国際公開第1999/058661号パンフレット);
・ポリペプチドをコードする核酸の、突然変異誘発細胞への導入、例えば、XL-1Red、XL-mutS及びXL-mutS-Kanr細菌細胞(Stratagene);
・DNAシャッフリング(例えば、Stemmer,Nature 370:389-91,1994に開示される);並びに
・部位特異的突然変異誘発(例えば、Dieffenbach(ed)and Dveksler(ed)(PCR Primer:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratories,NY,1995)に記載される)。
【0188】
本発明の突然変異体抗原結合タンパク質の生物学的活性を決定するための例示的な方法は、当業者に明らかであり、及び/又は、例えば、抗原結合について本明細書に記載される。例えば、抗原結合、結合の競合阻害、親和性、会合、解離及び治療効果を決定するための方法は、本明細書に記載される。
【0189】
定常領域
本発明は、抗体の定常領域を含む、本明細書に記載される抗原結合タンパク質及び/又は抗体を包含する。これは、Fcに融合された抗体の抗原結合断片を含む。
【0190】
本発明のタンパク質を産生するのに有用な定常領域の配列は、いくつかの異なる供給源から入手され得る。いくつかの例において、タンパク質の定常領域又はその部分は、ヒト抗体に由来する。定常領域又はその部分は、IgM、IgG、IgD、IgA及びIgE、並びにIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を含む任意の抗体アイソタイプを含む任意の抗体クラスに由来し得る。一例において、定常領域は、ヒトアイソタイプIgG4又は安定化IgG4定常領域である。
【0191】
一例において、定常領域のFc領域は、例えば、天然又は野生型ヒトIgG1又はIgG3 Fc領域と比較して、エフェクター機能を誘導する低減された能力を有する。一例において、エフェクター機能は、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)及び/又は抗体依存性細胞媒介性食作用(ADCP)及び/又は補体依存性細胞傷害(CDC)である。タンパク質を含むFc領域のエフェクター機能のレベルを評価するための方法が、当該技術分野において公知であり、及び/又は本明細書に記載されている。
【0192】
一例において、Fc領域は、IgG4Fc領域(即ち、IgG4定常領域)、例えば、ヒトIgG4Fc領域である。好適なIgG4 Fc領域の配列は、当業者に明らかであり、及び/又は一般公開されているデータベースにおいて入手可能である(例えば、アメリカ国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information)から入手可能である)。
【0193】
一例において、定常領域は、安定化IgG4定常領域である。「安定化IgG4定常領域」という用語は、Fabアーム交換又はFabアーム交換若しくは半抗体の形成を被る傾向又は半抗体を形成する傾向を低減するように修飾されたIgG4定常領域を意味すると理解されよう。「Fabアーム交換」は、ヒトIgG4のタンパク質修飾の1タイプを指し、この場合、IgG4重鎖及び結合した軽鎖(半分子)が、別のIgG4分子からの重鎖-軽鎖ペアと交換される。したがって、IgG4分子は、2つの異なる抗原を認識する2つの異なるFabアームを取得し得る(その結果、二重特異性分子が生じる)。Fabアーム交換は、インビボで天然に起こり、精製血液細胞又は還元型グルタチオンなどの還元剤によりインビトロで誘導することができる。「半抗体」は、IgG4抗体が解離して、各々が単一重鎖と単一軽鎖を含む2つの分子を形成するとき形成する。
【0194】
一例において、安定化IgG4定常領域は、Kabatの方式(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest Washington DC United States Department of Health and Human Services,1987 and/or 1991)に従って、ヒンジ領域の241位にプロリンを含む。この位置は、EU番号付け方式(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest Washington DC United States Department of Health and Human Services,2001及びEdelman et al.,Proc. Natl.Acad.USA,63,78-85,1969)に従って、ヒンジ領域の228位に対応する。ヒトIgG4の場合、この残基は、一般にセリンである。プロリンをセリンで置換した後、IgG4ヒンジ領域は、配列CPPCを含む。これに関して、当業者は、「ヒンジ領域」が、Fc及びFab領域を連結する抗体重鎖定常領域のプロリンリッチ部分であり、それが、抗体の2つのFabアームに可動性を付与することは認識されよう。ヒンジ領域は、システイン残基を含み、これらの残基は、重鎖間ジスルフィド結合に関与する。これは、一般に、Kabatの番号付け方式に従い、ヒトIgG1のGlu226~Pro243の区間として定義されている。同じ位置に重鎖間ジスルフィド(S-S)結合を形成する最初と最後のシステイン残基を配置することにより、他のIgGアイソタイプのヒンジ領域をIgG1配列とアラインメントすることができる(例えば、国際公開第2010/080538号パンフレットを参照)。
【0195】
安定化されたIgG4抗体の別の例は、ヒトIgG4の重鎖定常領域の409位(EU番号付け方式に従って)のアルギニンが、リシン、トレオニン、メチオニン、又はロイシンで置換された抗体である(例えば、国際公開第2006/033386号パンフレットに記載される通り)。加えて、又は代替的に、定常領域のFc領域は、405(EU番号付け方式に従って)に対応する位置に、以下:アラニン、バリン、グリシン、イソロイシン及びロイシンからなる群から選択される残基を含む。任意選択的に、ヒンジ領域は、241位にプロリン(即ち、CPPC配列)を含む(前述した通り)。
【0196】
別の例において、Fc領域は、低下したエフェクター機能を有するように修飾された領域、すなわち、「非免疫刺激性Fc領域」である。例えば、Fc領域は、268、309、330及び331からなる群から選択される1つ以上の位置に置換を含むIgG1 Fc領域である。別の例において、Fc領域は、以下の変異E233P、L234V、L235Aの1つ以上、及びG236の欠失、及び/又は以下の変異A327G、A330S及びP331Sの1つ以上を含むIgG1 Fc領域である(Armour et al.,Eur J Immunol.29:2613-2624,1999;Shields et al.,J Biol Chem.276(9):6591-604,2001)。非免疫刺激性Fc領域のさらなる例が、例えば、Dall’Acqua et al.,J Immunol.177 :1129-1138 2006;及び/又はHezareh J Virol;75:12161-12168,2001)に記載されている。
【0197】
別の例において、Fc領域は、例えば、IgG4抗体由来の少なくとも1つのC2ドメイン及びIgG1抗体由来の少なくとも1つのC3ドメインを含むキメラFc領域であり、ここで、Fc領域は、240、262、264、266、297、299、307、309、323、399、409及び427(EU番号付け)からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸位置に置換を含む(例えば、国際公開第2010/085682号パンフレットに記載される)。例示的な置換としては、240F、262L、264T、266F、297Q、299A、299K、307P、309K、309M、309P、323F、399S、及び427Fが挙げられる。
【0198】
さらなる修飾
本発明はまた、Fc領域又は定常領域を含む抗体又は抗原結合タンパク質へのさらなる修飾を想定している。
【0199】
例えば、抗体は、タンパク質の半減期を増加させる1つ以上のアミノ酸置換を含む。例えば、抗体は、新生児Fc領域(FcRn)に対するFc領域の親和性を増加させる1つ以上のアミノ酸置換を含むFc領域を含む。例えば、Fc領域は、より低いpH、例えば、約pH6.0においてFcRnに対する増加した親和性を有し、それにより、エンドソームにおけるFc/FcRn結合を促進する。一例において、Fc領域は、約pH7.4におけるその親和性と比較して、約pH6においてFcRnに対する増加した親和性を有し、それにより、細胞のリサイクリング後の血液中へのFcの再放出を促進する。これらのアミノ酸置換は、血液からのクリアランスを減少させることによって、タンパク質の半減期を延長するのに有用である。
【0200】
例示的なアミノ酸置換としては、EU番号付け方式に従って、T250Q及び/又はM428L又はT252A、T254S及びT266F又はM252Y、S254T及びT256E又はH433K及びN434Fを含む。さらなる又は代替的なアミノ酸置換は、例えば、米国特許出願公開第20070135620号明細書又は米国特許第7083784号明細書に記載されている。
【0201】
タンパク質の産生
一例において、いずれかの実施例に従う本明細書に記載される抗原結合タンパク質は、例えば、本明細書に記載され、及び/又は当該技術分野において公知であるように、タンパク質を産生するのに十分な条件下でハイブリドーマを培養することによって産生される。
【0202】
組み換え発現
別の例において、いずれかの実施例に従う本明細書に記載される抗原結合タンパク質は、組み換え型である。
【0203】
組み換えタンパク質の場合、それをコードする核酸が、発現構築物又はベクターへとクローニングされ得、次に、それが、タンパク質を本来産生しない宿主細胞、例えば大腸菌(E.coli)細胞、酵母細胞、昆虫細胞、又は哺乳動物細胞、例えばシミアンCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ヒト胚腎臓(HEK)細胞、又は骨髄腫細胞へとトランスフェクトされる。タンパク質を発現するために使用される例示的な細胞は、CHO細胞、骨髄腫細胞又はHEK細胞である。これらの目的を達成する分子クローニング技術は、当該技術分野において公知であり、例えば、Ausubel et al.,(編),Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates及びWiley-Interscience(1988、現在までの全ての改訂を含む)又はSambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)に記載されている。多種多様なクローニング及びインビトロ増幅方法が、組み換え核酸の構築に好適である。組み換え抗体を産生する方法も、当該技術分野において公知であり、例えば、米国特許第4816567号明細書又は米国特許第5530101号明細書を参照されたい。
【0204】
単離の後、核酸は、さらなるクローニング(DNAの増幅)又は無細胞系若しくは細胞内における発現のために、発現構築物におけるプロモーター又は発現ベクターに作動可能に連結されて挿入される。
【0205】
本明細書において使用される際、「プロモーター」という用語は、その最も広義に解釈されるべきであり、TATAボックス又は開始要素を含むゲノム遺伝子の転写調節配列を含み、それは、例えば、発生及び/又は外部刺激に応答して、又は組織特異的に、核酸の発現を変化させるさらなる調節要素(例えば、上流側活性化配列、転写因子結合部位、エンハンサー及びサイレンサー)を伴うか又は伴わずに、正確な転写開始のために必要とされる。本明細書の文脈において、「プロモーター」という用語はまた、それが作動可能に連結された核酸の発現を付与し、活性化し、若しくは強化する、組み換え、合成若しくは融合核酸、又はその誘導体を表すために使用される。例示的なプロモーターは、さらに発現を強化し、及び/又は前記核酸の空間的発現及び/又は時間的発現を変化させるために、1つ以上の特異的な調節要素のさらなるコピーを含有し得る。
【0206】
本明細書において使用される際、「作動可能に連結された」という用語は、核酸の発現がプロモーターによって制御されるように、核酸に対してプロモーターを配置することを意味する。
【0207】
細胞における発現のための多くのベクターが利用可能である。ベクターの構成要素は、一般に、限定はされないが、以下のものの1つ以上を含む:シグナル配列、タンパク質をコードする配列(例えば、本明細書において提供される情報から得られる)、エンハンサー要素、プロモーター、及び転写終結配列。当業者は、タンパク質の発現に好適な配列を認識するであろう。例示的なシグナル配列としては、原核生物の分泌シグナル(例えば、pelB、アルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、Ipp、又は耐熱性エンテロトキシンII)、酵母の分泌シグナル(例えば、インベルターゼリーダー、α因子リーダー、又は酸ホスファターゼリーダー)又は哺乳動物分泌シグナル(例えば、単純ヘルペスgDシグナル)が挙げられる。
【0208】
哺乳動物細胞において活性な例示的なプロモーターとしては、サイトメガロウイルス前初期プロモーター(CMV-IE)、ヒト伸長因子1-αプロモーター(EF1)、核内低分子RNAプロモーター(U1a及びU1b)、α-ミオシン重鎖プロモーター、シミアンウイルス40プロモーター(SV40)、ラウス肉腫ウイルスプロモーター(RSV)、アデノウイルス主要後期プロモーター、β-アクチンプロモーター;CMVエンハンサー/β-アクチンプロモーター又は免疫グロブリンプロモーター又はその活性断片を含むハイブリッド調節要素が挙げられる。有用な哺乳動物宿主細胞株の例は、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1細胞株(COS-7、ATCC CRL 1651);ヒト胚腎臓細胞株(293細胞又は懸濁培養での増殖用にサブクローニングされた293細胞;ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL 10);又はチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)である。
【0209】
例えば、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)及びS.ポンベ(S.pombe)を含む群から選択される酵母細胞などの酵母細胞における発現に好適な典型的なプロモーターとしては、限定はされないが、ADH1プロモーター、GAL1プロモーター、GAL4プロモーター、CUP1プロモーター、PHO5プロモーター、nmtプロモーター、RPR1プロモーター、又はTEF1プロモーターが挙げられる。
【0210】
単離された核酸又はそれを含む発現構築物を、発現のために細胞に導入するための手段は、当業者に公知である。所与の細胞に使用される技術は、公知の確立された技術に依存する。組み換えDNAを細胞に導入するための手段としては、特に、マイクロインジェクション、DEAE-デキストランによって媒介されるトランスフェクション、リポフェクタミン(Gibco,MD,USA)及び/又はセルフェクチン(cellfectin)(Gibco,MD,USA)などを用いてリポソームによって媒介されるトランスフェクション、PEGに媒介されるDNA取込み、エレクトロポレーション及びDNA被覆タングステン又は金粒子(Agracetus Inc.,WI,USA)などを用いた微小粒子衝撃が挙げられる。
【0211】
タンパク質を産生するのに使用される宿主細胞は、使用される細胞のタイプに応じて、様々な培地で培養され得る。Ham’s Fl0(Sigma)、最小必須培地((MEM)、(Sigma)、RPMI-1640(Sigma)、及びダルベッコ改変イーグル培地((DMEM)、Sigma)などの市販の培地が、哺乳動物細胞を培養するのに好適である。本明細書に記載される他の細胞タイプを培養するための培地は、当該技術分野において公知である。
【0212】
タンパク質の単離
タンパク質を単離するための方法が、当該技術分野において公知であり、及び/又は本明細書に記載されている。
【0213】
抗原結合タンパク質が、培養培地に分泌される場合、このような発現系からの上清は、まず、市販のタンパク質濃縮フィルタ、例えば、Amicon又はMillipore Pellicon限外ろ過ユニットを用いて濃縮される。PMSFなどのプロテアーゼ阻害剤は、タンパク質分解を阻害するために上記の工程のいずれかに含まれてもよく、抗生物質は、付随的な汚染物質の増殖を防止するために含まれてもよい。或いは、又はそれに加えて、上清は、例えば、連続遠心分離を用いて、タンパク質を発現する細胞からろ過され、及び/又は分離され得る。
【0214】
細胞から調製される抗原結合タンパク質は、例えば、イオン交換、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、アフィニティクロマトグラフィー(例えば、プロテインAアフィニティクロマトグラフィー又はプロテインGクロマトグラフィー)、又は上記の任意の組合せを用いて精製され得る。これらの方法は、当該技術分野において公知であり、例えば、国際公開第99/57134号パンフレット又はEd Harlow and David Lane(編)Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,(1988)に記載されている。
【0215】
当業者はまた、タンパク質が、精製又は検出を容易にするためのタグ、例えば、ポリヒスチジンタグ、例えば、ヘキサヒスチジンタグ、又はインフルエンザウイルス赤血球凝集素(HA)タグ、又はシミアンウイルス5(V5)タグ、又はFLAGタグ、又はグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)タグを含むように修飾され得ることを認識するであろう。次に、得られたタンパク質は、アフィニティ精製などの、当該技術分野において公知の方法を用いて精製される。例えば、ヘキサhisタグを含むタンパク質は、タンパク質を含む試料を、固体又は半固体の担体に固定された、ヘキサhisタグに特異的に結合するニッケル-ニトリロ三酢酸(Ni-NTA)と接触させ、試料を洗浄して、非結合タンパク質を除去し、その後、結合したタンパク質を溶離することによって精製される。或いは、又はそれに加えて、タグに結合するリガンド又は抗体が、アフィニティ精製方法において使用される。
【0216】
抗原結合タンパク質の活性のアッセイ
プラスミン及びその突然変異体への結合
本発明の抗原結合タンパク質がプラスミンに結合することは、本明細書における開示から当業者に明らかであろう。タンパク質への結合を評価するための方法は、当該技術分野において公知であり、例えば、Scopes(Protein purification:principles and practice,Third Edition,Springer Verlag,1994)に記載されている。このような方法は、一般に、抗原結合部位を固定し、それを標識抗原(プラスミン)と接触させることを必要とする。洗浄して、非特異的に結合したタンパク質を除去した後、標識の量及び、結果として、結合した抗原が検出される。当然ながら、抗原結合タンパク質を標識し、抗原を固定化してもよい。パニングタイプのアッセイも使用され得る。或いは、又はそれに加えて、表面プラズモン共鳴アッセイが使用され得る。
【0217】
任意選択的に、プラスミン又はそのエピトープに対する、固定された抗原結合タンパク質の解離定数(Kd)、会合定数(Ka)及び/又は親和定数(K)が決定される。プラスミン結合タンパク質の「Kd」又は「Ka」又は「K」は、一例において、放射性標識又は蛍光標識されたプラスミンリガンド結合アッセイによって測定される。「Kd」の場合、このアッセイは、非標識プラスミンの滴定系列の存在下で、最小濃度の標識プラスミン又はそのエピトープにより抗原結合タンパク質を平衡させる。洗浄して、非結合プラスミン又はそのエピトープを除去した後、タンパク質のKdの指標である標識の量が決定される。
【0218】
別の例によれば、Kd、Ka又はKは、表面プラズモン共鳴アッセイを用いて、例えば、固定化プラスミン又はその領域又は固定化抗原結合タンパク質を有するBIAcore表面プラズモン共鳴(BIAcore,Inc.,Piscataway,NJ)を用いて測定される。
【0219】
阻害活性の測定
本発明の抗原結合タンパク質は、好ましくは、プラスミン活性を阻害することができる。有利なことに、本発明の抗原結合タンパク質は、プラスミン活性の生理学的阻害剤又はプラスミン活性の病理学的阻害剤と同等レベルか、又はそれより有意に高いレベルで、プラスミン媒介性血餅溶解を阻害する。
【0220】
プラスミン活性を阻害又は低減するタンパク質の能力を評価するための様々なアッセイが、当該技術分野において公知である。
【0221】
一例において、抗原結合タンパク質は、プラスミンによるいずれかの基質のタンパク質溶解を阻害する。好ましくは、本発明の抗原結合タンパク質は、プラスミンに結合して、セリンプロテアーゼドメインによるプラスミン基質の結合及び/又は切断を阻止する。好ましくは、本発明の抗原結合タンパク質は、プラスミンの触媒三残基に結合するか、又はそれを立体遮蔽することによって、触媒三残基が、プラスミン基質を切断することができないようにするが、この場合、触媒三残基は、配列番号33の残基His603、Asp646及びAla/Ser741(キモトリプシン番号付けを用いて、His57、Asp102及びSer195に相当する)を含む。したがって、好ましい実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、抗触媒抗原結合タンパク質である。
【0222】
好ましくは、本発明の抗原結合タンパク質は、プラスミンのいずれか公知の基質の切断を阻害又は阻止するが、そうした基質として、限定されないが、以下:フィブリン、フィブリノーゲン、第V、VIII及びX因子、プロテアーゼ-活性化受容体I、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、ラミニン、フォン・ヴィレブランド(von Willebrand)因子、ビトロネクチン、プロ脳由来神経栄養因子、補因子C3及びC5、テネイシン、オステオカルシン(osteocalin)、CUBドメイン含有タンパク質1及びコラゲナーゼなどの他のプロテアーゼが挙げられる。
【0223】
本発明の抗原結合タンパク質は、プラスミンに対するストレプトキナーゼの結合を阻害するか、又はストレプトキナーゼと類似の機構でプラスミンに結合する病原体由来タンパク質の結合を阻害し得る。より具体的には、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)により分泌されるストレプトキナーゼは、プラスミノーゲン/プラスミンのセリンプロテアーゼドメインを包み込み、一旦結合すると、プラスミノーゲンを活性化して、プラスミンを形成することは公知である。本発明の抗原結合タンパク質は、有利なことに、ストレプトキナーゼがプラスミンのセリンプロテアーゼドメインと結合するのを阻害し、それによって、ストレプトキナーゼによるプラスミノーゲン活性化に媒介されるプラスミン活性を阻害する。
【0224】
プラスミン活性の阻害を測定するための例示的な方法は、例えば、実施例2、5及び6に記載される。
【0225】
本発明の抗原結合タンパク質はまた、生体サンプル中のプラスミン及び/又はプラスミノーゲンの検出が必要な用途においても有用である。例えば、本発明の抗原結合タンパク質は、組織学及びELISAに上記タンパク質が用いられる場合を含む診断用途、並びに抗原結合タンパク質と標的タンパク質との結合が、有用な診断情報を提供し得る類似の用途について有用となり得る。
【0226】
治療される病態
本発明の抗原結合タンパク質は、手術、傷害後の出血(haemorrhage)、若しくは出血(bleeding)の最小化若しくは低減、又は凝固因子障害を有する個体に有用である。このような状況での抗原結合タンパク質の使用によって、プラスミン媒介性線維素溶解又は血餅溶解を阻害し、それにより、血液喪失を低減するとともに、輸血の必要性を低減若しくは最小限にする。輸血は、不適合、アレルギー反応、多臓器機能不全及び感染の高いリスクを伴い、罹患率及び死亡率の増加を招く。
【0227】
本発明の抗原結合タンパク質はまた、血友病、月経過多、フォン・ヴィレブランド(von Willebrand)症候群及び血栓溶解誘発性出血などの他の病態における出血を予防するために使用することもできる。
【0228】
本発明の抗原結合タンパク質は、心臓手術、整形手術、脳神経外科手術、肝臓移植、血管手術、胸部手術、婦人科手術を受けた患者、又は末期腎疾患、分娩前後の出血、胃腸の出血、外傷、外傷性脳損傷、脳内出血及びくも膜下出血を有する患者の出血の低減を含め、いくつかの臨床的症状における線維素溶解の阻害に有用である。言い換えれば、本発明の抗原結合タンパク質は、線溶亢進状態にある個体におけるプラスミンの阻害に有用である。
【0229】
したがって、本発明の抗原結合タンパク質は、プラスミン活性の阻害が必要とされる非常に多様なシナリオにおける線維素溶解の阻害に有用である。
【0230】
本発明の抗原結合部位はまた、ストレプトキナーゼ及び関連酵素によりそれらの発病を媒介する細菌の存在若しくはその増加したレベルに関連する、若しくはそれに起因するいずれかの病態の治療又は予防にも有用である。
【0231】
化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)、又はA群レンサ球菌(Group A Streptococcus)(GAS)は、通性、グラム陽性球菌であり、これらは、鎖状に成長し、ヒトにおいて様々な感染症を引き起こすが、そうした感染症として、咽頭炎、扁桃炎、猩紅熱、蜂窩織炎、丹毒、リウマチ熱、レンサ球菌感染後糸球体腎炎、壊死性筋膜炎、筋壊死及びリンパ管炎が挙げられる。
【0232】
このように、本発明の抗原結合タンパク質は、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)、ストレプトコッカス・ジスガラクチアエ(Streptococcus dysgalactiae)又は肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)に起因する皮膚の色素沈着過度若しくは炎症、膿痂疹、咽頭炎、扁桃炎、猩紅熱、蜂窩織炎、丹毒、リウマチ熱、レンサ球菌感染後糸球体腎炎、壊死性筋膜炎、筋壊死及びリンパ管炎を阻害又は予防するのに有用である。
【0233】
本発明の抗原結合タンパク質はまた、腫瘍の転移(これも、プラスミン系を動員することがわかっている)を阻害する上でも有用である。本発明の抗原結合タンパク質で治療が可能な癌の例として、嚢胞性及び固形腫瘍、骨及び軟組織腫瘍があり、そうしたものとして、肛門組織、胆管、膀胱、血液細胞、腸、脳、乳房、カルチノイド、子宮頸部、眼、食道、頭部及び頸部、腎臓、喉頭、白血病、肝臓、肺、リンパ節、リンパ腫、黒色腫、中皮腫、骨髄腫、卵巣、膵臓、陰茎、前立腺、皮膚(例えば、扁平上皮癌)、肉腫、胃、精巣、甲状腺、膣、外陰部における腫瘍が挙げられる。軟組織腫瘍として、良性シュワン腫モノソミー、デスモイド腫瘍、脂肪芽腫、脂肪腫、子宮平滑筋腫、明細胞肉腫、隆起性皮膚線維肉腫、ユーイング肉腫、骨外性粘液型軟骨肉腫、粘液型脂肪肉腫、胞巣状横紋筋肉腫及び滑膜肉腫が挙げられる。具体的な骨腫瘍としては、非化骨性線維腫、単房骨嚢胞、内軟骨腫、動脈瘤様骨嚢腫、骨芽細胞腫、軟骨芽細胞腫、軟骨粘液線維腫、骨形成性線維腫及びアダマンチノーマ、骨巨細胞腫、線維性骨異形成症、ユーイング肉腫、好酸球肉芽腫、骨肉腫、軟骨腫、軟骨肉腫、悪性線維性組織球腫並びに転移性癌腫が挙げられる。白血病には、急性リンパ芽球性、急性骨髄芽球性、慢性リンパ芽球性及び慢性骨髄腫白血病が含まれる。
【0234】
他の例として、乳腺腫瘍、大腸腫瘍、腺癌、中皮腫、膀胱腫瘍、前立腺腫瘍、生殖細胞腫瘍、肝細胞癌/胆管、癌腫、神経内分泌腫瘍、下垂体部腫瘍、小20円形細胞腫瘍、扁平上皮癌、黒色腫、異型線維黄色腫、セミノーマ、非セミノーマ、間質性ライディッヒ細胞腫、セルトリ細胞腫、皮膚腫瘍、腎臓腫瘍、精巣腫瘍、脳腫瘍、卵巣腫瘍、胃腫瘍、口腔腫瘍、膀胱腫瘍、骨腫瘍、子宮頸部腫瘍、食道腫瘍、喉頭部腫瘍、肝臓腫瘍、肺腫瘍、膣腫瘍及びウィルムス腫瘍が挙げられる。
【0235】
組成物
いくつかの例において、本明細書に記載される抗原結合タンパク質は、経口的に、非経口的に、吸入スプレー、吸着、吸収によって、局所(スプレー又はローションを含む)、直腸内、鼻腔内、口腔、膣内、脳室内で、埋め込まれたリザーバを介して、従来の非毒性の薬学的に許容される担体を含む投与製剤として、又は任意の他の好都合な剤形によって投与され得る。本明細書において使用される際の「非経口」という用語は、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、髄腔内、脳室内、胸骨内、及び頭蓋内への注射又は注入技術を含む。
【0236】
対象への投与のための好適な形態(例えば医薬組成物)に、抗原結合タンパク質を調製するための方法は、当該技術分野において公知であり、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(18th ed.,Mack Publishing Co.,Easton,Pa.,1990)及びU.S.Pharmacopeia:National Formulary(Mack Publishing Company,Easton,Pa.,1984)に記載される方法が挙げられる。
【0237】
本発明の医薬組成物は、非経口投与、例えば、静脈内投与又は器官若しくは関節の内腔若しくは管腔への投与に特に有用である。投与のための組成物は、一般的に、薬学的に許容される担体、例えば水性担体に溶解された抗原結合タンパク質の溶液を含む。様々な水性担体、例えば、緩衝生理食塩水などが使用され得る。組成物は、pH調整剤及び緩衝剤、毒性調整剤など、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなどの、生理学的条件を模倣するのに必要とされる薬学的に許容される助剤を含有し得る。これらの製剤における本発明の抗原結合タンパク質の濃度は、幅広く変化し得、選択される具体的な投与方法及び患者のニーズに応じて、主に、液量、粘度、体重などに基づいて選択される。例示的な担体としては、水、生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、及び5%のヒト血清アルブミンが挙げられる。混合油及びオレイン酸エチルなどの非水性ビヒクルも使用され得る。リポソームも担体として使用され得る。ビヒクルは、等張性及び化学安定性を強化する少量の添加剤、例えば、緩衝液及び保存剤を含有し得る。
【0238】
本発明の抗原結合タンパク質は、局部又は局所投与、例えば、治療を必要とする皮膚若しくは組織への局所適用のために製剤化することができる。局所適用のための製剤は、典型的に、別の任意の成分とともに、又はそれなしで、有効薬剤と組み合わせた局所ビヒクルを含む。本発明の医薬組成物は、局所投与用のスプレー、クリーム、ゲル、ローションなどの形態であってよい。
【0239】
好適な局所ビヒクル及び追加の成分は、当技術分野で公知であり、ビヒクルの選択が、具体的な物理的形態及び送達方法に左右され得ることは明らかであろう。局所用ビヒクルとしては、有機溶媒、例えば、アルコール(例えば、エタノール、イソ-プロピルアルコール若しくはグリセリン)、ブチレン、イソプレン若しくはプロピレングリコールなどのグリコール、ラノリンなどの脂肪族アルコール、水と有機溶媒の混合物、並びにアルコールなどの有機溶媒とグリセリンの混合物、脂肪酸、アシルグリセロール(鉱油などの油、及び天然若しくは合成の脂肪を含む)、ホスホグリセリド、スフィンゴリピド及びワックスといった脂質ベースの材料、コラーゲン及びゼラチンなどのタンパク質ベースの材料、シリコーンベースの材料(不揮発性及び揮発性の両方)、並びにマイクロスポンジ及びポリマーマトリックスなどの炭化水素ベースの材料が挙げられる。
【0240】
組成物は、さらに、適用される製剤の安定性又は有効性を改善するように構成される1つ若しくは複数の成分、例えば、安定剤、懸濁剤、乳化剤、粘度調整剤、ゲル化剤、保存料、抗酸化剤、皮膚透過増強剤、保湿剤及び持続放出材料を含有してもよい。こうした成分の例は、Martindale-The Extra Pharmacopoeia(Pharmaceutical Press,London 1993)及びMartin(ed.),Remington’s Pharmaceutical Sciencesに記載されている。製剤は、マイクロカプセル、例えば、ヒドロキシルメチルセルロース又はゼラチン-マイクロカプセル、リポソーム、アルブミンマイクロスフィア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子又はナノカプセルを含む。
【0241】
局所製剤は、例えば、固体、ペースト、クリーム、フォーム、ローション、ゲル、粉末、水性液体、エマルジョン、スプレー及び皮膚パッチを含む多種多様な物理的形態で調製してよい。こうした形態の物理的な外観及び粘度は、製剤中に存在する乳化剤及び粘度調整剤の存在及び量に決定することができる。固体は、概して硬質、且つ注入不可能で、一般的に、バー若しくはスティック、又は特定の形状に製剤化される。固体は、不透明又は透明であってよく、任意選択的に、溶媒、乳化剤、保湿剤、皮膚軟化剤、芳香剤、染料/着色料、保存料、及び最終製品の有効性を増大若しくは増強する他の有効成分を含有してもよい。クリーム及びローションは、往々にして互いに類似しており、主にその粘度が異なる。ローション及びクリームはいずれも不透明、半透明若しくは透明であってよく、多くの場合、乳化剤、溶媒、及び粘度調整剤、並びに保湿剤、皮膚軟化剤、芳香剤、染料/着色料、保存料、及び最終製品の有効性を増大若しくは増強する他の有効成分を含有する。ゲルは、強若しくは高粘度から弱若しくは低粘度まで、様々な粘度で調製することができる。これらの製剤は、ローション及びクリームの製剤と同様に、溶媒、乳化剤、保湿剤、皮膚軟化剤、芳香剤、染料/着色料、保存料、及び最終製品有効性を増大若しくは増強する他の有効成分を含有してもよい。液体は、クリーム、ローション、又はゲルよりも薄く、多くの場合、乳化剤を含有しない。液体局所製剤は、多くの場合、溶媒、乳化剤、保湿剤、皮膚軟化剤、芳香剤、染料/着色料、保存料、及び最終製品の有効性を増大若しくは増強する他の有効成分を含有する。
【0242】
局所製剤に使用される乳化剤として、限定されないが、イオン性乳化剤、セテアリルアルコール、ポリオキシエチレンオレイルエーテルのようなノニオン性乳化剤、ステアリン酸PEG-40、セテアレス-12、セテアレス-20、セテアレス-30、セテアレスアルコール、ステアリン酸PEG-100及びステアリン酸グリセリルが挙げられる。好適な粘度調整剤として、限定されないが、保護コロイド又はノニオン性ガム、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、シリカ、マイクロクリスタリンワックス、蜜蝋、パラフィン、及びパルミチン酸セチルが挙げられる。ゲル組成物は、キトサン、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリクオタニウム(polyquaterniums)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボマー又はグリチルリチン酸アンモニウム(ammoniated glycyrrhizinate)などのゲル化剤の添加により形成することができる。好適な界面活性剤として、限定されないが、ノニオン性、両性、イオン性及びカチオン性界面活性剤が挙げられる。例えば、ジメチコンコポリオール(dimethicone copolyol)、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート80、ラウラミドDEA,コカミドDEA、及びコカミドMEA、オレイルベタイン、コカミドプロピルホスファチジルPG-ジモニウムクロライド(PG-dimonium chloride)、及びラウレス硫酸アンモニウムの1つ又は複数を局所製剤中に用いることができる。
【0243】
保存料として、限定されないが、メチルパラベン、プロピルパラベン、ソルビン酸、安息香酸、及びホルムアルデヒドなどの抗菌薬、さらには物理的安定剤並びにビタミンE、アスコルビン酸ナトリウム/アスコルビン酸及び没食子酸プロピルなどの抗酸化剤が挙げられる。好適な保湿剤として、限定されないが、乳酸及び他のヒドロキシ酸並びにそれらの塩、グリセリン、プロピレングリコール、及びブチレングリコールが挙げられる。好適な皮膚軟化剤としては、ラノリンアルコール、ラノリン、ラノリン誘導体、コレステロール、ワセリン、ネオペンタン酸イソステアリル及び鉱油が挙げられる。好適な芳香剤及び着色料として、限定されないが、FD&CレッドNo.40及びFD&CイエローNo.5が挙げられる。局所製剤に含有させることができる他の好適な追加成分として、限定されないが、研磨剤、吸湿剤、固化防止剤、消泡剤、帯電防止剤、収斂剤(例えば、ウィッチヘーゼル(witch hazel))、アルコール及びカモミールエキスなどのハーブエキス、結合剤/賦形剤、緩衝剤、キレート化剤、フィルム形成剤、品質改良剤、高圧ガス、不透明化剤、pH調節剤及び保護剤が挙げられる。
【0244】
局所用組成物の典型的な送達方法は、指を用いる塗布、布、ティッシュ、綿棒、スティック又はブラシのような物理的な塗布具を用いる塗布、霧、エアロゾル又は泡のスプレーを含むスプレー、点滴投与、散布、浸漬、及びすすぎが挙げられる。さらに、制御放出ビヒクルを使用することもでき、また、経皮投与(例えば、経皮パッチとして)用に組成物を製剤化してもよい。
【0245】
製剤化の後、本発明の抗原結合タンパク質は、投与製剤と適合する方法で、及び治療的/予防的に有効であるような量で投与される。製剤は、上述される注射剤のタイプなどの様々な剤形で容易に投与されるが、他の薬学的に許容される形態、例えば、錠剤、丸薬、カプセル若しくは経口投与用の他の固体、坐薬、ペッサリー、点鼻液若しくはスプレー、エアゾール、吸入剤、リポソーム形態、ゲル、クリーム、スプレーなども考えられる。医薬用の「持続放出」カプセル又は組成物も使用され得る。持続放出製剤は、一般に、長期間にわたって一定の薬物レベルを与えるように設計され、本発明の抗原結合タンパク質を送達するのに使用され得る。
【0246】
国際公開第2002/080967号パンフレットには、例えば、喘息の治療のための抗体を含むエアロゾル化された組成物を投与するための組成物及び方法が記載されており、それは、本発明の抗原結合タンパク質の投与にも好適である。
【0247】
投与量及び投与時期
本発明の抗原結合タンパク質の好適な投与量は、具体的な抗原結合タンパク質、治療される疾患及び/又は治療される対象に応じて変化する。好適な投与量を決定することは熟練した医師の能力の範囲内であり、例えば、最適量以下の投与量から開始し、最適又は有用な投与量を決定するために投与量を徐々に変更することによってなされる。或いは、治療/予防のための適切な投与量を決定するために、細胞培養アッセイ又は動物試験からのデータが使用され、ここで、好適な用量は、ほとんど又は全く毒性を有さない活性化合物のED50を含む血中濃度の範囲内である。投与量は、用いられる剤形及び用いられる投与経路に応じて、この範囲内で変化し得る。治療的/予防的に有効な用量は、最初に細胞培養アッセイから推定され得る。用量は、細胞培養において決定される際にIC50(すなわち、症状の最大抑制の半分を達成する化合物の濃度又は量)を含む循環血漿中濃度範囲を達成するように、動物モデルにおいて配合され得る。このような情報は、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定するために使用され得る。血漿中のレベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィーによって測定され得る。
【0248】
いくつかの例において、本発明の方法は、本明細書に記載されるタンパク質の予防又は治療有効量を投与することを含む。
【0249】
投与時期は、本発明の抗原結合タンパク質を受ける対象の臨床状態に基づいて決定することができる。例えば、対象が外傷を被っている状況では、本発明の抗原結合タンパク質は、対象の線溶亢進を弱めるために、外傷後可能な限り早期に投与することが有意であることは理解されよう。
【0250】
「治療有効量」という用語は、治療を必要とする対象に投与されたとき、対象の予後及び/又は状態を改善し、及び/又は本明細書に記載される臨床状態の1つ以上の症状を、その状態の臨床的診断特性又は臨床的特徴として観察され、認められるレベル未満のレベルまで、低減若しくは阻害する量である。対象に投与される量は、治療される疾患の具体的な特徴、治療される疾患のタイプ及び段階、投与方法、並びに全体的な健康、他の疾患、年齢、性別、遺伝子型、及び体重などの対象の特徴に依存する。当業者は、これらの及び他の要因に応じて、適切な投与量を決定することができる。したがって、この用語は、本発明を、特定の量、例えば、タンパク質の重量又は量に限定するものと解釈されるべきではなく、むしろ、本発明は、対象において所定の結果を得るのに十分な抗原結合タンパク質の任意の量を包含する。
【0251】
本明細書において使用される際、「予防的に有効な量」という用語は、臨床状態の1つ以上の検出可能な症状の発症を予防する又は阻害する又は遅らせるのに十分な量のタンパク質を意味すると理解されるものとする。当業者は、このような量が、例えば、投与される特定の抗原結合タンパク質及び/又は特定の対象及び/又は疾患のタイプ若しくは重症度若しくはレベル及び/又は疾患の素因(遺伝的素因若しくはそれ以外)に応じて変化することを認識するであろう。したがって、この用語は、本発明を、特定の量、例えば、抗原結合タンパク質の重量又は量に限定するものと解釈されるべきではなく、むしろ、本発明は、対象において所定の結果を得るのに十分な抗原結合タンパク質の任意の量を包含する。
【0252】
キット
本発明は、以下の1つ以上を含むキットをさらに含む:
(i)本発明の抗原結合タンパク質又はそれをコードする発現構築物;
(ii)本発明の細胞;
(iii)本発明の複合体;又は
(iii)本発明の医薬組成物。
【0253】
プラスミンを検出するためのキットの場合、キットは、例えば、本発明の抗原結合タンパク質に連結された検出手段をさらに含み得る。
【0254】
治療的/予防的使用のためのキットの場合、キットは、薬学的に許容される担体をさらに含み得る。
【0255】
任意選択的に、本発明のキットは、いずれかの実施例に従い本明細書に記載される方法の使用説明書とともに包装される。
【0256】
本明細書に開示され、定義される本発明が、本文又は図面に記載されるか、若しくはそれらから明らかな個別の特徴の2つ以上の別の組合せ全てにまで及ぶことは理解されよう。これらの異なる組合せの全てが、本発明の様々な別の態様を構成する。
【0257】
【表1】
【0258】
【表2】
【0259】
【表3】
【0260】
【表4】
【0261】
【表5】
【0262】
【表6】
【実施例
【0263】
実施例1:B10抗体の生成
ニワトリにおいて完全長プラスミノーゲンに対する抗体応答を高めることにより、プラスミンとの結合のための抗体を取得した。PCRによりニワトリのcDNAから抗体可変重鎖及び軽鎖(VH及びVL)を増幅し、フレキシブルリンカーを介して一緒に連結することにより、scFvライブラリーを作製した。
【0264】
選択は、ELISA及びBiacoreを用いたプラスミノーゲン結合抗体のスクリーニングにより実施した。プラスミノーゲンからプラスミンへの活性化又はプラスミン活性の阻害を予防又は阻害した抗体を同定するために、SK媒介性プラスミノーゲン活性化及び線維素溶解アッセイを実施した。
【0265】
実施例2:プラスミン活性部位との結合に関する抗体B10の特性決定
SPRアッセイ
アミンカップリングにより、ニワトリ抗体をシリーズS CM4(GE healthcare)チップ上に固定化した。プロテアーゼ阻害剤カクテルの存在下で、10mM HEPES pH7.4、150mM NaCl、3mM EDTA及び0.05% Tween20から構成されるバッファー中のBiacore T200(GE Healthcare)を用いて、0.39nMから最大50nMまでの濃度で、本発明の抗体に対するプラスミノーゲン又はプラスミンの結合を分析した。180秒の会合、次いで600秒の解離のために、プラスミノーゲン/プラスミンを30μl/分で注入した。各サイクルの終了時に、10mMグリシンpH1.8を用いて、センサーチップを再生した後、次の注入、最小6サイクルを実施した。動態パラメータを取得するために、Biacore T200評価ソフトウェア(GE Healthcare)を用いて、ラングミュア(Langmuir)1:1結合モデルでセンサーグラムをフィッティングした。
【0266】
結合実験の結果(図1)の結果は、本発明の抗原結合タンパク質が、プラスミノーゲン及びプラスミンの両方と結合するが、プラスミンと比較してプラスミノーゲンに対する親和性はわずかに高いことを示している。
【0267】
B10は、tPA媒介性プラスミノーゲン活性化により形成されるプラスミンの活性を阻害する
【0268】
溶液中:
20nMのプラスミノーゲンを20mM EACAの存在下で、様々なB10濃度(0~200nM)と室温で30分間混合した。インキュベーション後、355nm及び460nmのそれぞれ励起及び発光波長にて、Fluostar Omegaプレートリーダ(BMG Labtech)で蛍光発生基質を用い、4nMのtPAによるプラスミノーゲン活性化を測定した。進度曲線を、GraphPad Prism 6を用いて非線形指数方程式:
Y = Y*exp(活性化の速度*X)
(式中、X=0のとき、YはY値である)
にフィッティングした。活性化の速度を、対応するB10濃度に対してプロットして、阻害曲線を取得するが、これは、GraphPad Prism 6の阻害剤対応答モデル:
Y=最小 + (最大-最小)/(1+((XHillSlope)/(IC50 HillSlope)))
(式中、最大(Top)及び最小(Bottom)は、蛍光読取りのプラトーであり、ヒルスロープ(HillSlope)は、曲線の勾配の尺度である)でフィッティングすることができる。IC50値、即ち、溶液中のtPA媒介性プラスミノーゲン活性化の50%を阻害するB10の濃度は、21.51±2.28nMである。
【0269】
フィブリン上:
3mg/mlのフィブリノーゲン(Banksia Scientific);1Uのウシトロンビン(Jomar Life Research);及び10nMのtPA(Boehringer Ingelheim)を37℃で2時間混合することにより調製した、事前形成フィブリン血餅の表面上で、プラスミノーゲン活性化を測定した。濃度(0~2μM)のB10と混合した100nMのプラスミノーゲンを血餅の表面に添加した。前述のように、200μMの蛍光発生基質(H-Ala-Phe-Lys-AMC、Bachem)を用いて、プラスミン活性をモニターした。プラスミノーゲン活性化の速度及びIC50を前述のように算出した。フィブリン上のtPA媒介性プラスミノーゲン活性化の阻害について得られたIC50値は、86±11.6nMである。結果を図2に示す。
【0270】
B10は、プラスミノーゲンのSK媒介性活性化により形成されるプラスミンの活性を阻害する
【0271】
本発明の抗体の能力を評価するために、ストレプトキナーゼによるプラスミノーゲン活性化を使用した。37℃にて、5nMの組み換えストレプトキナーゼで50nMのプラスミノーゲンを活性化した。それぞれ355nm及び460nmの励起及び発光波長により、Fluostar Omegaプレートリーダ(BMG Labtech)で200μMのプラスミン蛍光発生基質H-Ala-Phe-Lys-AMC(Bachem)を用い、プラスミノーゲン活性化の進行をモニターした。個別に、プロセス中の特定の時点(t=0、t=60分、及びt=160分)で、0.5μMの抗体を添加した。陰性対照として、抗体の代わりにHEPES緩衝食塩水を添加した。
【0272】
図3の結果は、B10抗体が、アッセイの全工程中のどの時点で反応物に添加されても、直ちにプラスミン活性を阻害することを示している。
【0273】
プラスミン及び他の血漿プロテアーゼの活性に対するB10の作用
それぞれ355nm及び460nmの励起及び発光波長により、Fluostar Omegaプレートリーダ(BMG Labtech)を用いて、200μMの蛍光発生基質(H-Ala-Phe-Lys-AMC、Bachem)の存在下で、プラスミン(Haematologic Technologies)活性を測定した。10:1の抗体:プラスミン比でのB10及びA01(非阻害性プラスミノーゲン抗体)のプログレス曲線。B10は、A01と比較して、Plm活性の完全な阻害を示した。それぞれ355nm及び460nmの励起及び発光波長により、Fluostar Omegaプレートリーダ(BMG Labtech)を用いて、抗体B10(0~200nM)の存在下のプラスミン(20nM)の活性を37℃で測定した。IC50は、24.3±1.4nMであった。
【0274】
他の血漿セリンプロテアーゼとの交差反応性を調べるために、250nMのB10を10nMのヒト血漿プロテアーゼ、即ち、血漿カリクレイン(Molecular Innovations)、第Xa因子(Molecular Innovations)、第XIIa因子(Enzyme research laboratories)、プロテインC(Molecular Innovations)、トロンビン(Molecular Innovations)、uPA(Abbokinase)、tPA(Actilyse)及びプラスミンと混合した。405nmにて、Fluostar Omegaプレートリーダ(BMG Labtech)を用い、37℃で、トロンビン、第Xa因子、tPA及びプラスミン活性は、色素生成基質T2943(Sigma Aldrich)を用いて測定し、血漿カリクレイン、第XIIa因子及びプロテインC活性は、色素生成基質S2032(Chromogenix)を用いて測定した。uPA活性は、蛍光発生基質(Spectrofluor)を用いて、それぞれ355nm及び460nmの励起及び発光波長によりFluostar Omegaプレートリーダ(BMG Labtech)を用い、37℃で測定した。また、ナイーブ抗体gAbの存在下での酵素の活性も示す。ここでは、抗体がバッファーで置換されたHEPES緩衝食塩水対照に対して酵素活性を正規化した。図4Cに示すように、B10は、Plm以外の試験血漿プロテアーゼに対する活性に作用を及ぼさない。
【0275】
B10によるプラスミノーゲンとのSK結合の阻害
Biacore T200(GE Healthcare)を用いて、プラスミノーゲンとストレプトキナーゼの結合に対するB10の影響を調べた。0、62.5、125、250及び500nMのB10又はナイーブニワトリ抗体(gAb)の存在下、CM4(GE Healthcare)チップに固定化したストレプトキナーゼ全体に10nMプラスミノーゲンを通過させた。B10は、試験した62.5~500nMの全ての濃度で阻害を示した。ナイーブニワトリ抗体gAb(対照)は、阻害を全く示さなかった。図5Bに、500nM G05及びgAbの存在下でのプラスミノーゲンに対するSK結合(抗体なし対照に対して正規化)のパーセンテージを示す。
【0276】
図5に示す結果は、B10が、ストレプトキナーゼとプラスミノーゲンの結合を、対照抗体と比較して約33%阻害することを示す。
【0277】
実施例3:セリンプロテアーゼドメインとB10の結合
B10は、クリングル5-セリンプロテアーゼドメイン(KR5-SP)に結合し、それと一緒に安定した二元複合体を形成するが、それは、サイズ排除クロマトグラフィーにより共精製することができる。Superdex 200 16/60カラム(GE Healthcare)を使用し、バッファーは、HEPES緩衝食塩水であった。図6に示すように、共複合体は、単一ピークとして58.5mlで溶離された。参照として、KR5-SP及びB10抗体は、やはり単一ピークとして、それぞれ67.2ml及び73.3mlで溶離された。
【0278】
実施例4:単一組み換えクリングル5-セリンプロテアーゼドメインに結合するB10の結晶構造
25mM HEPES、150mM NaClを含有するバッファー中10mg/mlの精製済複合体を、20℃にて、0.1M MES pH6.5及び0.2M(NHSO、20%(w/v)PEG8Kの存在下で結晶化した。結晶を20%(v/v)グリセロールの存在下、液体N2中でフラッシュ冷却した。EIGER X 16Mピクセル検出器(Dectris Ltd,Switzerland、ACRF検出器としても知られる)を用いたAustralian Synchrotron MX2ビームラインで、2.7Åデータセットを収集した。検索モデルとして、プラスミノーゲン(PDB ID 4DUR)及びニワトリ一本鎖フラグメント可変(PDB ID 4P48)の構造からのSPドメインを用い、分子置換によるプログラムPHASER(CCP4)を使用して結晶構造を解析した。COOTを用いたモデル化及びPHENIXを用いた精密化の複数ラウンドを実施した。PyMOL(www.pymol.org/)を用いて作製した最終モデルを図7に示す。
【0279】
B10-SP複合体構造から、触媒ドメインとB10の結合が、機能性触媒部位の形成を妨害し、それによってプラスミンと基質の結合/基質の切断を阻止することが明らかにされる。
【0280】
実施例5:GASの存在下でのプラスミン活性に対するB10の作用
1.0のOD600を除いて前述と同様に、GAS培養物を増殖させた。1mlの培養物を各サンプルに使用した。細胞を2回洗浄し、2%プラスミノーゲン欠失FCSを補充した250μlのPBS中に各サンプルを再懸濁させた。80nMのプラスミノーゲンと8μMのB10/gAb又は13.5mM TXAを室温で15分混合した後、洗浄済GAS細胞と一緒に室温で1時間インキュベートした。1時間のインキュベーション後、細胞を2回洗浄し、最後に、2%プラスミノーゲン欠失FCSを補充した50μlのPBS中に再懸濁させた。10μlの再懸濁細胞を、25mM Tris、150mM NaCl、0.05%Tween20 pH7.4及び200μM 蛍光発生基質H-Ala-Phe-Lys-AMC(Bachem)で緩衝した100μlの反応混合物に添加した。それぞれ355nm及び460nmの励起及び発光波長で、Fluostar Omegaプレートリーダ(BMG Labtech)を用い、プラスミン活性を37℃で測定した。
【0281】
図8に示す結果は、B10が、対照抗体及びHEPES緩衝食塩水対照と比較して、GASにより生成されるプラスミン活性を約60%低減することを証明する。下のパネルは、GAS細胞の非存在下で、組み換えSK(2nM)が溶液中のPlgを活性化することを示す。
【0282】
実施例6:B10は、合成血餅及び全血血餅の溶解を阻害する
3mg/mlのフィブリノーゲン(Banksia Scientific);1Uのウシトロンビン(Jomar Life Research);及び10nMのtPA(Boehringer Ingelheim)を37℃で2時間混合することにより、合成フィブリン血餅を形成した。0~90nM B10;又は0~90nM α2AP;又は0~6.25mM TXAと混合した45nMのプラスミノーゲンを血餅の表面に添加することにより、線維素溶解を開始した。
【0283】
Nephelometer(BMG)を用いて、線維素溶解を37℃で最大10時間モニターした。50%血餅溶解を達成するのに必要とされた時間をIC50計算のために使用した。B10について得られたIC50値は、α2AP及びアプロチニンのそれと同等であり(図9)、TXAより有意に低かった(約50倍)。
【0284】
全血血餅は、健康なドナーから採取したヒト血液から形成した。HBS中に合成リン脂質、Dade Innovin,Siemens Germanyを補充した組み換え組織因子及び67mM CaClを含有する混合物の15%を全血と1:4の比で混合することにより、ハロ形状の(Halo-shaped)血餅を作製した。プレートを密封してから、使用まで37℃で60分インキュベートした。
【0285】
7nMまでのtPA、並びに下記濃度:0~312.5nM B10;0~1000nM α2AP;0~1000nMアプロチニンの抗体若しくはPlm阻害剤の添加により、血餅溶解を誘導した。血餅溶解によって濁度の増大が起こり、血餅溶解を、プレートリーダを用いて、OD610nMでモニターした。
【0286】
高濃度(例えば、最大1,000nM)で、α2AP及びアプロチニンだけが部分的に血餅溶解を阻害し;濃度最大100μMのTXAは、血餅溶解を遅延させ、血餅溶解の完全な阻害が300μM以上で観察された(データは示していない)。抗体B10は、250nM以上の濃度で血餅溶解を完全に阻害する。
【0287】
50%血餅溶解を達成するのにかかった時間をIC50計算のために使用した。B10について得られたIC50値は、α2APの約8倍であり、アプロチニンの約9.5倍高かった(図10)が、これは、B10が、全血血餅溶解の阻害について有意に有効であることを示している。B10は、TXAより180倍超有効であった(示していない)。
【0288】
したがって、生体システムと酷似する血餅溶解アッセイにおいて、抗体B10は、プラスミン誘導性溶解の阻害について、プラスミンの生理学的阻害剤であるα2APより有意に有効である。さらに、抗体B10は、プラスミン誘導性溶解の阻害について、既存の薬理学的薬剤であるTXA及びアプロチニンより有意に有効である。
【0289】
本明細書において開示され、定義される本発明は、記載されるか又は本文若しくは図面から明らかである個々の特徴の2つ以上の全ての代替的な組合せに及ぶことが理解されよう。これらの異なる組合せは全て、本発明の様々な代替的な態様を構成する。
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
2022553784000001.app
【国際調査報告】