(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-26
(54)【発明の名称】ポリアミン類似体産生酵母
(51)【国際特許分類】
C12N 1/19 20060101AFI20221219BHJP
C12N 15/52 20060101ALI20221219BHJP
C12N 15/53 20060101ALI20221219BHJP
C12N 15/54 20060101ALI20221219BHJP
C12N 9/00 20060101ALI20221219BHJP
C12N 9/02 20060101ALI20221219BHJP
C12N 9/10 20060101ALI20221219BHJP
C12P 7/40 20060101ALI20221219BHJP
C12P 7/64 20220101ALI20221219BHJP
C12P 13/00 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
C12N1/19
C12N15/52 Z ZNA
C12N15/53
C12N15/54
C12N9/00
C12N9/02
C12N9/10
C12P7/40
C12P7/64
C12P13/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022524993
(86)(22)【出願日】2020-10-27
(85)【翻訳文提出日】2022-06-24
(86)【国際出願番号】 EP2020080137
(87)【国際公開番号】W WO2021083869
(87)【国際公開日】2021-05-06
(32)【優先日】2019-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520011050
【氏名又は名称】クリシア リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キン、ジウフー
(72)【発明者】
【氏名】ニールセン、イェンス
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC04
4B050DD09
4B050LL10
4B064AD01
4B064AD85
4B064AE01
4B064CA06
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA20
4B065AA80X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA27
4B065CA28
4B065CA29
4B065CA60
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つのポリアミンを産生することができる酵母細胞におけるポリアミン類似体の産生に関する。また、酵母細胞は、4-クマル酸:CoAリガーゼコード遺伝子、少なくとも1つのポリアミンN-アシルトランスフェラーゼ遺伝子、および少なくとも1つのポリアミンシンターゼコード遺伝子を含むが、ポリアミンオキシダーゼコード遺伝子を欠いているか、または破壊されたポリアミンオキシダーゼコード遺伝子を含む。酵母細胞は、一置換および/または多置換N-アシル化ポリアミンを産生することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのポリアミン類似体を産生することができる酵母細胞であって、
少なくとも1つのポリアミンを産生することができ;
4-クマル酸:CoAリガーゼコード遺伝子を含み;
少なくとも1つのポリアミンN-アシルトランスフェラーゼ遺伝子を含み;
少なくとも1つのポリアミンシンターゼコード遺伝子を含み;かつ
ポリアミンオキシダーゼコード遺伝子を欠いているか、または破壊されたポリアミンオキシダーゼコード遺伝子を含む、酵母細胞。
【請求項2】
前記4-クマル酸:CoAリガーゼの過剰発現のために改変されている、請求項1に記載の酵母細胞。
【請求項3】
前記4-クマル酸:CoAリガーゼコード遺伝子が、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)At4CL1、At4CL2、At4CL3、At4CL4、At4CL5、および4-クマル酸:CoAリガーゼAt4CL1、At4CL2、At4CL3、At4CL4、またはAt4CL5のいずれかと少なくとも80%の配列同一性を有する4-クマル酸:CoAリガーゼをコードするヌクレオチド配列からなる群から選択される、好ましくはシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)At4CL1である、請求項1または2に記載の酵母細胞。
【請求項4】
前記少なくとも1つのポリアミンN-アシルトランスフェラーゼの過剰発現のために改変されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の酵母細胞。
【請求項5】
スペルミジンヒドロキシシンナモイルトランスフェラーゼコード遺伝子、スペルミジンクマロイル-CoAアシルトランスフェラーゼコード遺伝子、およびプトレシンヒドロキシシンナモイルトランスフェラーゼコード遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つのポリアミンN-アシルトランスフェラーゼ遺伝子を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の酵母細胞。
【請求項6】
前記スペルミジンヒドロキシシンナモイルトランスフェラーゼコード遺伝子が、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)AtSHT、ニコチアナ・アッテヌアータ(Nicotiana attenuata)NaDH29、およびスペルミジンヒドロキシシンナモイルトランスフェラーゼAtSHTまたはスペルミジンヒドロキシシンナモイルトランスフェラーゼNaDH29と少なくとも80%の配列同一性を有するスペルミジンヒドロキシシンナモイルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列からなる群から選択される、請求項5に記載の酵母細胞。
【請求項7】
前記スペルミジンクマロイル-CoAアシルトランスフェラーゼコード遺伝子が、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)AtSCT、およびスペルミジンクマロイル-CoAアシルトランスフェラーゼAtSCTと少なくとも80%の配列同一性を有するスペルミジンクマロイル-CoAアシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列からなる群から選択される、請求項5または6に記載の酵母細胞。
【請求項8】
前記プトレシンヒドロキシシンナモイルトランスフェラーゼコード遺伝子が、ニコチアナ・アッテヌアータ(Nicotiana attenuata)NaAT1、およびプトレシンヒドロキシシンナモイルトランスフェラーゼNaAT1と少なくとも80%の配列同一性を有するプトレシンヒドロキシシンナモイルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列からなる群から選択される、請求項5~7のいずれか一項に記載の酵母細胞。
【請求項9】
芳香族有機酸、脂肪酸、ハロゲン化芳香族有機酸、ハロゲン化脂肪酸、およびそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つの有機酸を産生することができる、請求項1~8のいずれかに記載の酵母細胞。
【請求項10】
前記少なくとも1つのポリアミン類似体が、ポリアミンアルカロイド、ポリアミン-脂肪酸コンジュゲート、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の酵母細胞。
【請求項11】
前記少なくとも1つのポリアミンが、スペルミン、サーモスペルミン、sym-ホモスペルミジン、1,3-ジアミノプロパン、プトレシン、カダベリン、アグマチン、スペルミジン、sym-ノルスペルミジン、ノルスペルミン、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の酵母細胞。
【請求項12】
前記少なくとも1つのポリアミンシンターゼの過剰発現のために改変されている、請求項1~11のいずれか一項に記載の酵母細胞。
【請求項13】
前記ポリアミンシンターゼコード遺伝子が、スペルミンシンターゼコード遺伝子、サーモスペルミンシンターゼコード遺伝子、およびホモスペルミジンシンターゼコード遺伝子からなる群から選択される、請求項1~12のいずれか一項に記載の酵母細胞。
【請求項14】
前記スペルミンシンターゼコード遺伝子が、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)SPE4、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)AtSPMS、およびスペルミンシンターゼSPE4またはスペルミンシンターゼAtSPMSと少なくとも80%の配列同一性を有するスペルミンシンターゼをコードするヌクレオチド配列からなる群から選択される、請求項13に記載の酵母細胞。
【請求項15】
前記サーモスペルミンシンターゼコード遺伝子が、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)AtACL5、およびサーモスペルミンシンターゼAtACL5と少なくとも80%の配列同一性を有するサーモスペルミンシンターゼをコードするヌクレオチド配列からなる群から選択される、請求項13または14に記載の酵母細胞。
【請求項16】
前記ホモスペルミジンシンターゼコード遺伝子が、ハナノボロギク(Senecio vernalis)SvHSS、ブラストクロリス・ビリディス(Blastochloris viridis)BvHSS、およびホモスペルミジンシンターゼSvHSSまたはホモスペルミジンシンターゼBvHSSと少なくとも80%の配列同一性を有するホモスペルミジンシンターゼをコードするヌクレオチド配列からなる群から選択される、請求項13~15のいずれか一項に記載の酵母細胞。
【請求項17】
前記酵母細胞がサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)細胞であり、前記ポリアミンオキシダーゼがFMS1である、請求項13~16のいずれかに記載の酵母細胞。
【請求項18】
ポリアミン類似体を生成する方法であって、
請求項1~17のいずれか一項に記載の酵母細胞を、培地中で、前記酵母細胞による前記ポリアミン類似体の産生に適した培養条件で培養することと;
前記ポリアミン類似体を前記培地から、および/または前記酵母細胞から収集することと
を含む方法。
【請求項19】
前記酵母細胞を培養することが、請求項1~17のいずれか一項に記載の酵母細胞を、芳香族有機酸、脂肪酸、ハロゲン化芳香族有機酸、ハロゲン化脂肪酸、およびそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つの有機酸を含む前記培地中で培養することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも1つの有機酸を前記培地に添加することをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記酵母細胞を培養することが、請求項1~17のいずれか一項に記載の酵母細胞を前記培地中で、前記少なくとも1つの有機酸を産生し、かつ前記少なくとも1つの有機酸を前記培地中に放出することができる微生物と共培養することを含む、請求項19または20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、遺伝子改変された酵母に、特に、ポリアミン類似体を産生することができる酵母に関する。
【背景技術】
【0002】
自然界に広く分布しているポリアミン類似体は、健康分野および農業分野における課題に取り組むために利用されている。例えば、アミド結合含有ポリアミン類似体、例えば、N1-クマロイル-スペルミン、N1-グアニル-1,7-ジアミン-ヘプタン、およびN1,N11-ジエチル-ノルスペルミンは、ヒトの疾患、例えば癌、および新興のウイルスの脅威、例えばCOVID-19と戦うのに利用する潜在性がある、抗ウイルス薬、抗酸化剤、拮抗剤、および化学療法剤の重要なクラスを表す。同様に、ジアミンおよびポリアミンの広く分布するアミド結合含有ヒドロキシ桂皮酸アミド、例えばジ-p-クマロイル-カフェオイル-スペルミジンは、うどんこ病菌(Blumeria graminis)感染を有意に減少させることができ、真菌病原体に対抗するのに利用する潜在性を実証している。
【0003】
しかしながら、構造の複雑さ、および自然界での存在量が少ないことに起因して、ポリアミン類似体を、従来の合成化学、または天然源からの抽出のいずれかから得ることは困難である。急速に生育する、遺伝的に扱い易い種における微生物ベースの生成が、天然物およびその誘導体のための伝統的なサプライチェーンに代わるものとして推し進められてきた。特に、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)は、多くの異なる燃料、化学物質、食品成分、および医薬品を生成するための、特に天然物の生成のための細胞工場として機能してきた。実際、微生物細胞工場(Microbial Cell Factories)(2016)15:198は、サッカロマイセス・セレビシエ(S.cerevisiae)におけるBAHDアシルトランスフェラーゼおよびAt4CL5の共発現、ならびに種々のヒドロキシシンナマートおよびベンゾアートコンジュゲートの産生のための、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)遺伝子At4CL5を含有するベクター中への異なるBAHDアシルトランスフェラーゼコード配列のクローニングを開示している。
【0004】
残念なことに、さらなる薬理学的研究および殺虫剤研究のためのポリアミン類似体の化学空間の解明が、いくつかの制限:(i)多様なポリアミン、すなわち、従来の合成化学、または天然資源からの抽出のいずれかからのポリアミン類似体の合成または生合成のための前駆体にアクセスすることの困難、これによるポリアミン類似体の多様性の制限;(ii)生合成酵素、例えば、ポリアミンおよびポリアミン類似体の生合成についての知識の欠如;(iii)ポリアミンの生化学的機能についての知識の欠如、これによるポリアミンの臨床用途の制限によって妨げられている。
【0005】
結果的に、天然ポリアミンおよびその類似体の生成のための新規の方法の開発、ならびにこれらの構造の天然変異体および非天然変異体の双方を供給するための新たな技術およびバリューチェーンの開発が所望されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的な目的は、ポリアミン類似体を産生することができる酵母細胞を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的および他の目的は、実施形態によって満たされる。
【0008】
本発明は、独立請求項に定義されている。本発明のさらなる実施形態が、従属請求項に定義されている。
【0009】
本発明は、少なくとも1つのポリアミン類似体を産生することができる酵母細胞に関する。酵母細胞は、少なくとも1つのポリアミンを産生することができる。また、酵母細胞は、4-クマル酸:CoAリガーゼコード遺伝子、少なくとも1つのポリアミンN-アシルトランスフェラーゼ遺伝子、および少なくとも1つのポリアミンシンターゼコード遺伝子を含むが、ポリアミンオキシダーゼコード遺伝子を欠いているか、または破壊されたポリアミンオキシダーゼコード遺伝子を含む。
【0010】
また、本発明は、ポリアミン類似体を生成する方法に関する。本方法は、本発明に従う酵母細胞を、培地中で、酵母細胞によるポリアミン類似体の産生に適した培養条件で培養することを含む。また、本方法は、ポリアミン類似体を培地から、および/または酵母細胞から収集することを含む。
【0011】
本発明は、一置換および/または多置換N-アシル化ポリアミンが挙げられる種々のポリアミン類似体を生成するための効率的な手段を提供する。したがって、本発明は、ポリアミン類似体を得るための従来の合成化学または天然源からの抽出を含む従来技術の方法に対する、費用効率の高い代替方法として使用することができる。
【0012】
実施形態は、そのさらなる目的および利点と共に、以下の説明を、添付の図面と共に参照することによって最もよく理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1a】スペルミジンおよびより高次のポリアミンの過剰合成のための酵母代謝の改変を示す。
【
図1b】スペルミジンおよびより高次のポリアミンの過剰合成のための酵母代謝の改変を示す。
【
図1c】スペルミジンおよびより高次のポリアミンの過剰合成のための酵母代謝の改変を示す。
【
図1d】スペルミジンおよびより高次のポリアミンの過剰合成のための酵母代謝の改変を示す。
【
図1e】スペルミジンおよびより高次のポリアミンの過剰合成のための酵母代謝の改変を示す。
【
図1f】スペルミジンおよびより高次のポリアミンの過剰合成のための酵母代謝の改変を示す。
【
図3a】酵母における複雑なフェノールアミドの生合成を示す。
【
図3b】酵母における複雑なフェノールアミドの生合成を示す。
【
図3c】酵母における複雑なフェノールアミドの生合成を示す。
【
図3d】酵母における複雑なフェノールアミドの生合成を示す。
【
図3e】酵母における複雑なフェノールアミドの生合成を示す。
【
図3f】酵母における複雑なフェノールアミドの生合成を示す。
【
図4a】酵母における複雑なフェノールアミドのデノボ生合成を示す。
【
図4b】酵母における複雑なフェノールアミドのデノボ生合成を示す。
【
図4c】酵母における複雑なフェノールアミドのデノボ生合成を示す。
【
図5a】酵母における複雑なフェノールアミドの生合成のための改変した経路を示す。
【
図5b】酵母における複雑なフェノールアミドの生合成のための改変した経路を示す。
【
図6a】フッ素置換芳香族アミノ酸(3-フルオロ-L-フェニルアラニン;3-F-L-Phe)を供給した場合の、p-クマリン酸過剰産生株(QL58)を用いたフッ素置換水素化ヒドロキシ桂皮酸のインビボ産生を示す。(6a)フッ素置換桂皮酸(3F-CA)。細胞培養上清を、LC-MS分析に供した。LC-MSクロマトグラムを、それぞれの注目する化合物の理論m/z値について選択した。
【
図6b】フッ素置換芳香族アミノ酸(3-フルオロ-L-フェニルアラニン;3-F-L-Phe)を供給した場合の、p-クマリン酸過剰産生株(QL58)を用いたフッ素置換水素化ヒドロキシ桂皮酸のインビボ産生を示す。(6b)フッ素置換p-クマリン酸(3-F-pHCA)。細胞培養上清を、LC-MS分析に供した。LC-MSクロマトグラムを、それぞれの注目する化合物の理論m/z値について選択した。
【
図6c】フッ素置換芳香族アミノ酸(3-フルオロ-L-フェニルアラニン;3-F-L-Phe)を供給した場合の、p-クマリン酸過剰産生株(QL58)を用いたフッ素置換水素化ヒドロキシ桂皮酸のインビボ産生を示す。(6c)フッ素置換水素化p-クマリン酸(3-F-DHpHCA)。細胞培養上清を、LC-MS分析に供した。LC-MSクロマトグラムを、それぞれの注目する化合物の理論m/z値について選択した。
【
図7a】酵母ポリアミンプラットフォームによるフッ素置換ヒドロキシ桂皮酸-プトレシンコンジュゲートのインビボ産生を示す。(7a)N
1-3-フルオロシンナモイルプトレシン。細胞培養上清を、LC-MS分析に供した。LC-MSクロマトグラムを、それぞれの注目する化合物の理論m/z値について選択した。
【
図7b】酵母ポリアミンプラットフォームによるフッ素置換ヒドロキシ桂皮酸-プトレシンコンジュゲートのインビボ産生を示す。(7b)N
1-3-フルオロクマロイルプトレシン。細胞培養上清を、LC-MS分析に供した。LC-MSクロマトグラムを、それぞれの注目する化合物の理論m/z値について選択した。
【
図7c】酵母ポリアミンプラットフォームによるフッ素置換ヒドロキシ桂皮酸-プトレシンコンジュゲートのインビボ産生を示す。(7c)N
1-3-フルオロヒドロクマロイルプトレシン。細胞培養上清を、LC-MS分析に供した。LC-MSクロマトグラムを、それぞれの注目する化合物の理論m/z値について選択した。
【
図7d】酵母ポリアミンプラットフォームによるフッ素置換ヒドロキシ桂皮酸-プトレシンコンジュゲートのインビボ産生を示す。(7d)N
1,N
6-ビス(3-フルオロクマロイル)プトレシン。細胞培養上清を、LC-MS分析に供した。LC-MSクロマトグラムを、それぞれの注目する化合物の理論m/z値について選択した。
【
図8a】酵母ポリアミンプラットフォームによるフッ素置換ヒドロキシ桂皮酸-スペルミジンコンジュゲートのインビボ産生を示す。(8a)N
1またはN
10-3-フルオロシンナモイルスペルミジン。細胞培養上清を、LC-MS分析に供した。LC-MSクロマトグラムを、それぞれの注目する化合物の理論m/z値について選択した。
【
図8b】酵母ポリアミンプラットフォームによるフッ素置換ヒドロキシ桂皮酸-スペルミジンコンジュゲートのインビボ産生を示す。(8b)N
1またはN
10-3-フルオロクマロイルスペルミジン。細胞培養上清を、LC-MS分析に供した。LC-MSクロマトグラムを、それぞれの注目する化合物の理論m/z値について選択した。
【
図8c】酵母ポリアミンプラットフォームによるフッ素置換ヒドロキシ桂皮酸-スペルミジンコンジュゲートのインビボ産生を示す。(8c)N
1またはN
10-3-フルオロヒドロクマロイルスペルミジン。細胞培養上清を、LC-MS分析に供した。LC-MSクロマトグラムを、それぞれの注目する化合物の理論m/z値について選択した。
【
図8d】酵母ポリアミンプラットフォームによるフッ素置換ヒドロキシ桂皮酸-スペルミジンコンジュゲートのインビボ産生を示す。(8d)N
1,N
10-ビス(3-フルオロクマロイル)スペルミジン。細胞培養上清を、LC-MS分析に供した。LC-MSクロマトグラムを、それぞれの注目する化合物の理論m/z値について選択した。
【
図8e】酵母ポリアミンプラットフォームによるフッ素置換ヒドロキシ桂皮酸-スペルミジンコンジュゲートのインビボ産生を示す。(8e)N
1,N
5,N
10-トリ(3-フルオロクマロイル)スペルミジン。細胞培養上清を、LC-MS分析に供した。LC-MSクロマトグラムを、それぞれの注目する化合物の理論m/z値について選択した。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ポリアミン類似体の多様性への効率的なアクセスを可能にするために、本発明者らは、酵母代謝を改変して、複雑なポリアミンのカテゴリー、例えば、スペルミジン、ホモ-スペルミジン、サーモスペルミン、およびスペルミンを過剰産生させた。この酵母プラットフォームの汎用性は、多様なポリアミン類似体の、テーラリング経路による生合成によって実証される。特に、本発明者らは、酵母の中心炭素および窒素代謝、メチオニンサルベージ経路、アデニンのサルベージ経路、ポリアミン輸送機構、およびポリアミン分解経路を体系的にリファクタリングすることによって、酵母が>400mg/lスペルミジンをディープウェルスケール発酵で産生できることを可能にした。さらに、テーラリング経路にプラグインし、かつ合成コンソーシアムを作出することによって、本発明者らは、酵母における三置換N-アシル化スペルミジンフェノールアミドを含むポリアミン類似体のデノボ生合成を実証した。
【0015】
次に、本発明の実施形態を示す、添付の図面および例を参照して、本発明を以下で説明する。この説明は、本発明を実施することができる全ての異なる方法、または本発明に追加することができる全ての特徴の詳細なカタログであることは意図されない。例えば、一方の実施形態に関して示される特徴は、他方の実施形態に組み込まれてもよく、そして特定の実施形態に関して示される特徴は、その実施形態から削除されてもよい。ゆえに、本発明は、本発明の一部の実施形態において、本明細書中に記載の任意の特徴または特徴の組合せを除外または省略することができることを企図している。また、本明細書中で提案される種々の実施形態に対する、本発明から逸脱しない多数の変形および追加が、本開示に照らして、当業者に明らかであろう。それゆえに、以下の説明は、本発明の一部の特定の実施形態を説明することが意図されており、その全ての再配列、組合せ、および変形を網羅的に特定することは意図されていない。
【0016】
本明細書中で別段の定義がない限り、本明細書中で用いられる科学技術用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有する。
【0017】
一般に、本明細書中に記載される生化学、酵素学、分子細胞生物学、微生物学、遺伝学、タンパク質および核酸化学、ならびにハイブリダイゼーションの技術に関連して使用される命名法は、当該技術において周知であり、かつ一般的に使用されるものである。
【0018】
本明細書中で言及される従来の方法および技術は、例えば、分子クローニング、ラボマニュアル(Molecular Cloning,a laboratory manual)[第2版]Sambrook et al.Cold Spring Harbor Laboratory,1989において、例えば、その第1.21節「プラスミドDNAの抽出および精製(Extraction And Purification Of Plasmid DNA)」、第1.53節「プラスミドベクター中へのクローニングのための戦略(Strategies For Cloning In Plasmid Vectors)」、第1.85節「組換えプラスミドを含有する細菌コロニーの識別(Identification Of Bacterial Colonies That Contain Recombinant Plasmids)」、第6節「DNAのゲル電気泳動(Gel Electrophoresis Of DNA)」、第14節「ポリメラーゼ連鎖反応によるDNAのインビトロ増幅(In vitro Amplification Of DNA By The Polymerase Chain Reaction)」、および第17節「大腸菌(Escherichia coli)内でのクローン化遺伝子の発現(Expression Of Cloned Genes In Escherichia coli)」において、より詳細に説明されている。
【0019】
本明細書の全体を通して参照される酵素委員会(Enzyme Commission:EC)番号(本明細書中で「クラス」とも呼ばれる)は、そのリソース「酵素命名法(Enzyme Nomenclature)」(1992、別冊号6~17を含む)(例えば、「酵素命名法1992:酵素の命名法および分類に関する国際生化学・分子生物学連合の命名法委員会の勧告(Enzyme nomenclature 1992:recommendations of the Nomenclature Committee of the International Union of Biochemistry and Molecular Biology on the nomenclature and classification of enzymes)」、Webb,E.C.(1992)、San Diego(Academic Pressによる国際生化学・分子生物学連合(International Union of Biochemistry and Molecular Biology)に公開されている)(ISBN 0-12-227164-5)として入手可能)における国際生化学・分子生物学連合の命名法委員会(Nomenclature Committee of the International Union of Biochemistry and Molecular Biology:NC-IUBMB)に従う。これは、各酵素クラスによって触媒される化学反応に基づく数値分類スキームである。
【0020】
文脈がそうでないことを示さない限り、本明細書中に記載される本発明の種々の特徴は、あらゆる組合せで使用できることが特に意図される。さらに、本発明はまた、本発明の一部の実施形態において、本明細書中に記載の任意の特徴または特徴の組合せを除外または省略することができることも企図している。例示のために、組成物が成分A、B、およびCを含むと明細書が述べていれば、A、B、もしくはCのいずれか、またはそれらの組合せを、単独で、またはあらゆる組合せで省略かつ放棄できることが特に意図される。
【0021】
本発明の説明および添付の特許請求の範囲において使用される単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明らかにそうでないことを示さない限り、複数形も含むことが意図される。また、本明細書中で使用される「および/または」は、関連する列挙された項目の1つ以上のありとあらゆる考えられる組合せを、そして択一的に(「または」)解釈される場合の組合せの欠如を指し、かつ包含する。
【0022】
本明細書の説明および特許請求の範囲の全体を通して、文言「含む(comprise)」および「含有する(contain)」、ならびに文言の変形、例えば「含んでいる(comprising)」および「含む(comprises)」は、「含むがこれに限定されない」を意味し、他の部分、添加物、成分、整数、または工程を排除するものではない。本明細書の説明および特許請求の範囲の全体を通して、文脈がそうでないことを要求しない限り、単数形は複数形を包含する。特に、不定冠詞が使用される場合、本明細書は、文脈がそうでないことを要求しない限り、複数および単数を企図するものとして理解されるべきである。
【0023】
本明細書中で使用される移行句、本質的にから「なる」は、特許請求の範囲が、特許請求の範囲に列挙される特定の材料または工程、および特許請求される発明の基本的かつ新規な特徴に、物質的に影響を及ぼさないものを包含すると解釈されるべきであることを意味する。ゆえに、用語、から本質的に「なる」は、本発明の特許請求の範囲において使用される場合、「含む」と等価であると解釈されることは意図されない。
【0024】
本発明の理解を促進するために、いくつかの用語を以下で定義する。
【0025】
本明細書中で使用される用語「ポリアミン」は、2つ以上の第一級アミノ基を有する有機化合物を指す。ポリアミンの例として、プトレシン(Put)、スペルミジン(Spd)、スペルミン(Spm)、サーモスペルミン(Tspm)、sym-ホモスペルミジン(Hspd)、1,2-ジアミノプロパン、カダベリン、アグマチン、sym-ノルスペルミジン、およびノルスペルミンが挙げられる。
【0026】
本明細書中で使用される用語「ポリアミン類似体」、「ポリアミン類似体」、または「ポリアミンコンジュゲート」は、ポリアミンを少なくとも1つの分子と反応させて、ポリアミンと少なくとも1つの分子との間にアミド結合を形成することによって形成される有機化合物を指す。特定の実施形態において、少なくとも1つの分子は、少なくとも1つのカルボキシル基含有分子であり、これによって、カルボン酸部分とポリアミンのアミン基とのカップリングを可能にする。そのようなカルボキシル基含有分子の非限定的であるが好ましい例として、芳香族有機酸、例えば、ヒドロキシ桂皮酸(α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸、カフェイン酸、チコリ酸、桂皮酸、クロロゲン酸、ジフェルラ酸、ジヒドロカフェイン酸、クマリン酸、クマリン、フェルラ酸、およびシナピン酸が挙げられる);ヒドロキシシンナモイル酒石酸(hydroxycinnamoyltartaric acid)(カフタル酸、コウタル酸、およびフェルタル酸が挙げられる);フェノール酸(モノヒドロキシ安息香酸、例えば、3-ヒドロキシ安息香酸、4-ヒドロキシ安息香酸、サリチル酸、およびp-ヒドロキシ安息香酸グルコシドが挙げられる);ジヒドロキシ安息香酸(2,3-ジヒドロキシ安息香酸、2,4-ジヒドロキシ安息香酸、2,6-ジヒドロキシ安息香酸、3,5-ジヒドロキシ安息香酸、プロトカテク酸エチル、ゲンチシン酸、ホモゲンチシン酸、オルセリン酸、およびプロトカテク酸が挙げられる);トリヒドロキシ安息香酸(ベルゲニン、ケブル酸、没食子酸エチル、エウデスミック酸、没食子酸、タンニン酸、ノルベルゲニン、フロログルシノールカルボン酸、シリング酸、およびテオガリンが挙げられる);バニリン;およびエラグ酸が挙げられる。ポリアミンを芳香族有機酸と反応させることによって形成されるポリアミン類似体は典型的に、ポリアミンアルカロイドと称される。カルボキシル基含有分子の他の例として、脂肪酸(以下に限定されないが、飽和脂肪酸、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、およびセロチン酸;ならびに不飽和脂肪酸、例えば、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、リノール酸、リノエライジン酸、α-リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、エルカ酸、およびドコサヘキサエン酸が挙げられる)が挙げられる。ポリアミンを脂肪酸と反応させることによって形成されるポリアミン類似体は典型的に、ポリアミン-脂肪酸コンジュゲートと称される。
【0027】
ポリアミン命名法の技術において、一般に、アルカロイド内の原子の数、およびロカントのレタリングが重要である。主に2つのナンバリング系が文献において使用されている。本明細書中では、Bentzら、2015年によって開示されるナンバリング系が使用されている。系は、以下のルールで短く要約される:
I.ポリアミン骨格のナンバリングは、末端N原子を含むポリアミン構造全体を含む;
II.ナンバリングは、最短炭素鎖の末端のN原子で始まる(例えば、アミノプロピルサブユニットの第一級アミノ基を有するスペルミジンについて);
III.対称骨格、例えばスペルミンの場合、ナンバリングは、置換基の最小のロカントを誘導するような分子の部位から始まる;そして
IV.N-誘導体化ポリアミンについて、N-置換基のロカントは、Nnとして予め定められ、nは、置換されたN原子のロカント番号と一致する。
【0028】
また、本明細書中で使用される用語「ヌクレオチド配列」、「核酸」、「核酸分子」、「オリゴヌクレオチド」、および「ポリヌクレオチド」は、RNAまたはDNA(cDNA、DNA断片もしくは部分、ゲノムDNA、合成DNA、プラスミドDNA、mRNA、およびアンチセンスRNAが挙げられる)を指し、それらはいずれも、一本鎖もしくは二本鎖、直鎖もしくは分岐鎖、またはそれらのハイブリッドであり得る。本明細書中で提供される核酸分子および/またはヌクレオチド配列は、本明細書中では左側から右側に5’から3’方向に示され、そして米国配列規則(U.S.sequence rules)、米国特許施行規則(37 CFR)第1.821~1.825条、および世界知的所有権機関(World Intellectual Property Organization:WIPO)標準ST.25に記載されているヌクレオチド文字を表すための標準コードを使用して表される。dsRNAが合成的に生成される場合、イノシン、5-メチルシトシン、6-メチルアデニン、およびヒポキサンチン等のあまり一般的でない塩基も、アンチセンス、dsRNA、およびリボザイム対合に使用することができる。例えば、ウリジンおよびシチジンのC-5プロピン類似体を含有するポリヌクレオチドは、RNAに高い親和性で結合し、かつ遺伝子発現の強力なアンチセンス阻害剤であることが示されている。ホスホジエステル骨格、またはRNAのリボース糖基中の2’-ヒドロキシへの修飾等の、他の修飾も行うことができる。本明細書中で使用される用語「組換え体」は、使用される場合、特定の核酸(DNAまたはRNA)が、天然系において見出される内因性核酸と区別可能な構造コード配列または構造非コード配列を有する構築体を結果として生じさせるクローニング工程、制限工程、および/またはライゲーション工程の種々の組合せの産物であることを意味する。
【0029】
本明細書中で使用される用語「遺伝子」は、mRNA、アンチセンスRNA、miRNA、および抗マイクロRNAアンチセンスオリゴデオキシリボヌクレオチド(AMO)等を生成するのに使用することができる核酸分子を指す。遺伝子は、機能性タンパク質または遺伝子産物を産生するのに使用することができても、できなくてもよい。遺伝子は、コード領域および非コード領域の双方、例えば、イントロン、調節要素、プロモーター、エンハンサー、終止配列、ならびに/または5’および3’非翻訳領域を含み得る。遺伝子は、「単離」されていてよく、これは、その天然状態にある核酸に関連して通常見出される成分が実質的に、または本質的にない核酸を意味する。そのような成分として、他の細胞材料、組換え生成由来の培地、および/または核酸の化学合成に使用される種々の化学物質が挙げられる。
【0030】
本明細書中で定義される「破壊された遺伝子」は、部分的に、または完全に非機能的な遺伝子および遺伝子産物を結果として生じさせる、遺伝子へのあらゆる変異または修飾を含む。そのような変異または修飾として、ミスセンス変異、ナンセンス変異、欠失、置換、挿入、および標的化配列の付加等が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、遺伝子の破壊はまた、または代替的に、遺伝子の転写を制御する制御要素の変異または修飾、例えば、プロモーター、ターミネーター、および/またはエンハンスメント要素における変異または修飾によって達成することができる。そのような場合、そのような変異または修飾は、遺伝子の転写の部分的な、または完全な喪失、すなわち、天然かつ非修飾の制御要素と比較した転写の低下または引下げをもたらす。結果として、あるとしても少量の遺伝子産物しか、転写および翻訳後に利用可能でない。さらに、遺伝子の破壊はまた、遺伝子からの局在化シグナルの付加または除去を伴って、その天然の細胞内コンパートメント内での遺伝子産物の存在を減少させ得る。
【0031】
遺伝子破壊の目的は、遺伝子産物の利用可能な量を減少させること(遺伝子産物のいかなる産生も完全に防止することを含む)、または天然もしくは野生型遺伝子産物と比較して、酵素活性を欠く、もしくは酵素活性がより低い遺伝子産物を発現させることである。
【0032】
本明細書中で使用される用語「欠失」または「ノックアウト」は、作動不能である、またはノックアウトされている遺伝子を指す。
【0033】
用語「減弱活性」は、酵素に関連する場合、対照または野生型の状態と比較した、その天然のコンパートメント内での酵素の活性の低下を指す。酵素の減弱活性をもたらす改変として、ミスセンス変異、ナンセンス変異、欠失、置換、挿入、標的化配列の付加、または標的化配列の除去が挙げられるが、これらに限定されない。減弱酵素活性をもたらす修飾を含有する細胞は、そのような修飾を含有しない細胞と比較して、酵素の活性がより低い。酵素の減弱活性は、非機能性遺伝子産物、例えば、活性を本質的に有していない、例えば、野生型ポリペプチドの活性と比較して約10%未満またはさらには5%未満の活性しかないポリペプチドをコードすることによって達成されてよい。
【0034】
遺伝子のコドン最適化バージョンとは、細胞中に導入され、かつ特定の細胞に関して遺伝子のコドンが最適化されている外来遺伝子を指す。一般に、全てのtRNAが、種の全体にわたって等しく、または同じレベルで発現するわけではない。これにより、遺伝子配列のコドン最適化は、最も一般的なtRNAに一致するように、すなわち、一般性が低いtRNAによって認識されるコドンを、所与の細胞において比較的一般的なtRNAによって認識される同義コドンと変えるようにコドンを変えることを含む。このようにして、コドン最適化遺伝子由来のmRNAは、より効率的に翻訳されることとなる。コドンおよび同義コドンは好ましくは、同じアミノ酸をコードする。
【0035】
本明細書中で使用される用語「ペプチド」、「ポリペプチド」、および「タンパク質」は、アミノ酸残基のポリマーを示すのに互換的に使用される。また、用語「ペプチド」、「ポリペプチド」、および「タンパク質」は、脂質結合、グリコシル化、L-グルタミン酸残基のグリコシル化、硫酸化、ヒドロキシル化、およびγ-カルボキシル化、ならびにADP-リボシル化が挙げられるがこれらに限定されない修飾を含む。
【0036】
本明細書中で使用される用語「酵素」は、細胞内の化学反応または生化学反応を触媒するタンパク質として定義される。通常、本発明に従えば、酵素をコードするヌクレオチド配列は、スペルミジンを産生する能力を細胞に付与するのに十分な、細胞内での対応する遺伝子の発現を引き起こすヌクレオチド配列(プロモーター)に作動可能に連結されている。
【0037】
本明細書中で使用される用語「オープンリーディングフレーム(ORF)」は、ポリペプチド、ペプチド、またはタンパク質をコードするRNAまたはDNAの領域を指す。
【0038】
本明細書中で使用される用語「ゲノム」は、宿主細胞におけるプラスミドおよび染色体の双方を包含する。例えば、宿主細胞中に導入される本開示のコード核酸は、当該核酸が染色体に組み込まれているか、プラスミドに局在しているかに拘らず、ゲノムの一部であり得る。
【0039】
本明細書中で使用される用語「プロモーター」は、1つ以上の遺伝子の転写を制御する機能を有する核酸配列を指し、これは、遺伝子の転写開始部位の転写の方向に対して上流に位置する。この文脈における適切なプロモーターとして、天然の構成的プロモーターおよび誘導プロモーターの双方、ならびに改変されたプロモーターが挙げられ、これらは当業者に周知である。
【0040】
酵母細胞での使用に適したプロモーターとして、PDC、GPD1、TEF1、PGK1、およびTDHのプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。他の適切なプロモーターとして、GAL1、GAL2、GAL10、GAL7、CUP1、HIS3、CYC1、ADH1、PGL、GAPDH、ADC1、URA3、TRP1、LEU2、TPI、AOX1、およびENOlのプロモーターが挙げられる。
【0041】
本明細書中で使用される用語「ターミネーター」は、特に明記しない限り、「転写終止シグナル」を指す。ターミネーターは、ポリメラーゼの転写を妨害または停止する配列である。
【0042】
本明細書中で使用される、本開示に従う「組換え真核細胞」は、内因性核酸配列の追加のコピーを含有するか、または真核細胞内に天然には存在しないポリペプチドもしくはヌクレオチド配列で形質転換されているか、もしくは遺伝的に修飾されている細胞と定義される。野生型真核細胞は、本明細書中で使用される組換え真核細胞の親細胞と定義される。
【0043】
本明細書中で使用される用語「増大する」、「増大した」、「増大している」、「増強する」、「増強した」、「増強している」、および「増強」(およびそれらの文法的変形)は、対照と比較して、少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、150%、200%、300%、400%、500%、もしくはそれ以上の、またはそれらの中のあらゆる範囲の上昇を示す。
【0044】
本明細書中で使用される用語「引き下げる」、「引き下げられた」、「引下げ」、「減少させる」、「抑制する」、および「低下させる」、ならびに類似した用語は、対照と比較して、少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、150%、200%、300%、400%、500%、もしくはそれ以上の、またはそれらの中のあらゆる範囲の低下を意味する。
【0045】
本明細書中で使用される遺伝子の発現の引下げは、遺伝子の転写を減少させ、遺伝子から転写されるmRNAの翻訳を減少させ、かつ/またはmRNAから翻訳されるタンパク質の翻訳後プロセシングを減少させる遺伝的修飾を含む。そのような遺伝的修飾として、遺伝子の制御配列、例えばプロモーターおよびエンハンサーになされる挿入、欠失、置換、または変異が挙げられる。例えば、遺伝子のプロモーターは、あまり活性がないか、またはあまり誘導性でないプロモーターによって置き換えられることによって、遺伝子の転写を減少させ得る。また、プロモーターのノックアウトは、遺伝子の発現の引下げ、典型的には0をもたらす。
【0046】
本明細書中で使用される用語、本発明のヌクレオチド配列の「一部、部分」または「断片」は、参照核酸またはヌクレオチド配列と比較して長さが短く、かつ参照核酸またはヌクレオチド配列と同一またはほぼ同一、例えば、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、98%、または99%同一の連続ヌクレオチドのヌクレオチド配列を含む、それから本質的になる、かつ/またはそれからなるヌクレオチド配列を意味すると理解される。本発明に従うそのような核酸断片または部分は、適切な場合には、より大きなポリヌクレオチド内に構成要素となって含まれてもよい。
【0047】
相同性を有する異なる核酸またはタンパク質は、本明細書中で「相同体」と称される。用語相同体は、同じ種および他の種由来の相同配列、ならびに同じ種および他の種由来のオーソログ配列を含む。「相同性」は、2つ以上の核酸配列間および/またはアミノ酸配列間の、位置同一性、すなわち配列類似性または同一性のパーセントに換算した類似性のレベルを指す。また、相同性は、異なる核酸間またはタンパク質間での類似の機能的特性の概念を指す。ゆえに、本発明の組成物および方法はさらに、本発明のヌクレオチド配列およびポリペプチド配列に対する相同体を含む。本明細書中で使用される「オーソログ」は、種分化中に共通の祖先遺伝子から生じた、異なる種において相同なヌクレオチド配列および/またはアミノ酸配列を指す。本発明のヌクレオチド配列の相同体は、前記ヌクレオチド配列と実質的な、例えば、少なくとも約70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、および/または100%の配列同一性を有する。
【0048】
本明細書中で使用される用語「過剰発現させる」または「過剰発現」は、例えば過剰発現することになる特定の異種ポリペプチドまたは組換えポリペプチドで形質転換されていない、その天然または対照の状態の細胞内で存在するよりも、遺伝子の高いレベルの活性、例えば遺伝子の転写;mRNAの、タンパク質への高いレベルの翻訳;および/または遺伝子産物、例えばポリペプチドの高いレベルの産生を指す。過剰発現遺伝子の典型的な例が、遺伝子の天然プロモーターと比較して別のプロモーターの転写制御下にある遺伝子である。また、または代替的に、遺伝子の制御要素、例えばエンハンサーの他の変化を使用して、特定の遺伝子を過剰発現させることができる。さらに、遺伝子から転写されたmRNAの翻訳に影響を及ぼす、すなわちこれを増大させる修飾を、代替的に、または追加的に使用して、本明細書中で使用される過剰発現遺伝子を達成することができる。また、当該用語は、細胞内の遺伝子のコピー数の増大、ならびに/またはmRNAおよび/もしくは遺伝子産物の量の増大を指し得る。さらに、同じ、または相同な遺伝子産物、例えば酵素をコードする、異なる種由来の遺伝子を含めることによって、過剰発現を達成することが可能である。過剰発現は、対照レベルと比較して、細胞内で、25%、50%、75%、100%、200%、300%、400%、500%、750%、1000%、1500%、2000%、もしくはそれよりも高いレベル、またはそれらの中のあらゆる範囲をもたらし得る。
【0049】
本明細書中で使用される用語「外来」または「異種」は、核酸(RNAまたはDNA)、タンパク質、または遺伝子に関して使用される場合、それが導入される細胞、生物、ゲノム、またはRNA配列もしくはDNA配列の一部として天然に存在しない核酸、タンパク質、または遺伝子(天然に存在するヌクレオチド配列の、天然に存在しない複数のコピーを含む)を指す。そのような外来遺伝子は、別の種もしくは株由来の遺伝子、宿主細胞内に天然に存在する遺伝子の修飾されたか、変異したか、もしくは進化したバージョン、または宿主細胞もしくは融合遺伝子内に天然に存在する遺伝子のキメラバージョンであり得る。これらの前者の場合、修飾、変異、または進化は、遺伝子のヌクレオチド配列の変化を引き起こすことによって、宿主細胞内に天然に存在する遺伝子と比較して別のヌクレオチド配列を有する、修飾されたか、変異したか、または進化した遺伝子が得られる。進化した遺伝子とは、進化した遺伝子をコードし、かつ野生型遺伝子または本来の遺伝子と比較して異なるヌクレオチド配列を有する新しい遺伝子を誘導するような遺伝的修飾、例えば変異、または進化的圧力への曝露によって得られる遺伝子を指す。キメラ遺伝子は、新しい遺伝子を生成するような、1つ以上のコード配列の部分の組合せによって形成される。これらの修飾は、遺伝子配列全体を単一のリーディングフレームに統合しており、かつ多くの場合、それらの元々の機能を保持する融合遺伝子とは異なる。
【0050】
「内因性」、「天然の」、または「野生型」核酸、ヌクレオチド配列、ポリペプチド、またはアミノ酸配列は、天然に存在するか、または内因性の核酸、ヌクレオチド配列、ポリペプチド、またはアミノ酸配列を指す。ゆえに、例えば、「野生型mRNA」は、生物内に天然に存在するか、または生物に内在するmRNAである。
【0051】
本明細書中で使用される用語「修飾された」は、生物に関して使用される場合、少なくとも1つのポリアミン類似体の産生を可能にするように修飾された宿主生物(そのように修飾されていない、普通であれば同一の宿主生物と比較)を指す。原則として、本開示に従うそのような「修飾」は、宿主生物におけるポリアミン類似体の産生を(修飾を受けていない、普通であれば同一の生物と比較して)適切に変更するあらゆる生理学的、遺伝的、化学的、または他の修飾を含み得る。しかしながら、ほとんどの実施形態において、修飾は、遺伝的修飾を含むこととなる。特定の実施形態において、本明細書中に記載される修飾は、遺伝子を宿主細胞中に導入することを含む。ポリペプチドの活性をブーストする遺伝的修飾は、以下に限定されないが:ポリペプチドをコードする遺伝子(同じ活性を有するポリペプチドをコードする、宿主細胞内に既に存在するあらゆる遺伝子から区別することができる)の1つ以上のコピーを導入することと;遺伝子の転写または翻訳を増大させるように、細胞内に存在する遺伝子を変更(例えば、調節配列、プロモーター配列、または他の配列について、変更、さらなる配列を付加、1つ以上のヌクレオチドを置換、配列を欠失、または交換)することと;活性をブーストするように、ポリペプチドをコードする遺伝子の配列(例えば、非コード配列またはコード配列)を(例えば、酵素活性を増大させること、フィードバック阻害を低下させること、特定の細胞内位置を標的化すること、mRNA安定性をブーストすること、タンパク質安定性をブーストすることによって)変更することとを含む。ポリペプチドの活性を引き下げる遺伝的修飾は、以下に限定されないが、ポリペプチドをコードする遺伝子の一部または全てを欠失させることと;ポリペプチドをコードする遺伝子を破壊する核酸配列を挿入することと;細胞内に存在する遺伝子を変化させて、遺伝子の転写もしくは翻訳、または遺伝子によってコードされるmRNAもしくはポリペプチドの安定性を(例えば、1つ以上のヌクレオチドにさらなる配列を付加し、当該ヌクレオチドを変更し、当該ヌクレオチドから配列を欠失させ、当該ヌクレオチドを置換し、または当該ヌクレオチドを交換することによって、例えば、1つ以上のヌクレオチド、プロモーター配列、調節配列、もしくは他の配列を置換することによって)減少させることとを含む。用語「過剰産生」は、宿主細胞内の産物の産生に関して本明細書中で使用されており、宿主細胞の代謝経路に関与する様々なポリペプチドをコードする核酸配列の導入により、または他の修飾の結果として、宿主細胞が、非修飾宿主細胞または野生型細胞と比較して、より多くの産物を産生することを示す。
【0052】
本明細書中で使用される用語「ベクター」は、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含み、かつその発現を確実にするさらなるヌクレオチドに作動可能に連結されている直鎖DNA分子または環状DNA分子と定義される。
【0053】
酵母細胞の文脈における「導入すること」は、核酸分子が細胞の内部にアクセスするように、核酸分子を細胞と接触させることを意味する。したがって、ポリヌクレオチドおよび/または核酸分子を酵母細胞に、別個の形質転換事象における単回の形質転換事象で導入することができる。ゆえに、本明細書中で使用される用語「形質転換」は、細胞中への異種核酸の導入を指す。酵母細胞の形質転換は、安定性があってもよいし、一過性であってもよい。
【0054】
ポリヌクレオチドの文脈における「一過性の形質転換」は、ポリヌクレオチドが、細胞中に導入されて、細胞のゲノム中に組み込まれないことを意味する。
【0055】
細胞中に導入されるポリヌクレオチドの文脈にける「安定に導入すること」または「安定に導入された」とは、導入されたポリヌクレオチドが、細胞のゲノム中に安定に組み込まれることで、細胞がポリヌクレオチドにより安定に形質転換されることが意図される。本明細書中で使用される「安定性形質転換」または「安定に形質転換された」は、核酸分子が細胞中に導入されて、細胞のゲノム中に組み込まれることを意味する。したがって、組み込まれた核酸分子は、その後代によって、より具体的には複数の連続した世代の後代によって継承されることができる。また、本明細書中で使用される安定性形質転換は、例えばミニ染色体として、染色体外に維持される核酸分子を指すこともできる。
【0056】
一過性形質転換は、例えば、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)またはウエスタンブロットによって検出され得、これらは、生物中に導入された1つ以上の核酸分子によってコードされるペプチドまたはポリペプチドの存在を検出することができる。細胞の安定性形質転換は、例えば、細胞のゲノムDNAの、生物(例えば酵母)中に導入された核酸分子のヌクレオチド配列と特異的にハイブリダイズする核酸配列とのサザンブロットハイブリダイゼーションアッセイによって検出することができる。細胞の安定性形質転換は、例えば、細胞のRNAの、酵母または他の生物中に導入された核酸分子のヌクレオチド配列と特異的にハイブリダイズする核酸配列とのノザンブロットハイブリダイゼーションアッセイによって検出することができる。また、細胞の安定性形質転換は、例えば、核酸分子の標的配列とハイブリダイズして、標的配列の増幅をもたらす(これを、標準的な方法に従って検出することができる)特異的プライマー配列を用いる、当該技術において周知のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)または他の増幅反応によって検出することができる。また、形質転換は、当該技術において周知の直接配列決定および/またはハイブリダイゼーションプロトコールによって検出することもできる。
【0057】
また、本発明の実施形態は、本明細書中で定義されるポリペプチドの変異体を包含する。本明細書中で使用される「変異体」は、配列内の1つ以上のアミノ酸が、他のアミノ酸で置換されているという点で、アミノ酸配列が、これが由来する塩基配列と異なるポリペプチドを意味する。例えば、配列番号1の変異体は、配列番号1と少なくとも約50%同一の、例えば、少なくとも約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または約100%同一のアミノ酸配列を有し得る。変異体および/または断片は、変異体配列が、本明細書中で指定される非変異体アミノ酸配列を有する酵素と類似するか、または同一の機能的酵素活性特性を有するという点で、機能的変異体/断片である(そしてこれは、本明細書の全体を通して使用される用語「機能的変異体」の意味である)。
【0058】
したがって、提示されるアミノ酸配列のいずれかの「機能的変異体」または「機能的断片」は、非変異体配列と同じ酵素カテゴリー(すなわち、同じEC番号を有する)内に残るあらゆるアミノ酸配列である。酵素が特定のカテゴリーに入るかを判定する方法が、当業者に周知であり、当業者であれば、本発明の技術を使用せずとも酵素カテゴリーを決定することができる。適切な方法は、例えば、国際生化学・分子生物学連合(International Union of Biochemistry and Molecular Biology)から得ることができる。
【0059】
アミノ酸置換は、アミノ酸が、特性が大まかには類似する異なるアミノ酸で置換されている場合、「保存的」であるとみなされ得る。非保存的置換は、アミノ酸が、異なるタイプのアミノ酸で置換されている場合である。
【0060】
「保存的置換」とは、同じクラスの別のアミノ酸によるアミノ酸の置換を意味し、クラスは、以下のように定義される:クラスアミノ酸の例
非極性:A、V、L、I、P、M、F、W
非荷電極性:G、S、T、C、Y、N、Q
酸性:D、E
塩基性:K、R、H。
【0061】
当業者に周知であるように、保存的置換によってポリペプチドの一次構造を変更しても、当該ポリペプチドの活性が大きく変更されない場合がある。なぜなら、配列中に挿入されるアミノ酸の側鎖は、置換されたアミノ酸の側鎖と類似の結合および接触を形成することができる場合があるからである。これは、置換が、ポリペプチドの高次構造を決定するのに重要な領域内にある場合でも、そうである。
【0062】
本発明の実施形態において、本明細書中の他の箇所で定義されるように、ポリペプチドの酵素活性を妨げない限り、非保存的置換が可能である。酵素の置換バージョンは、上記のNC-IUBMB命名法を使用して決定される、非置換酵素と同じ酵素クラスのままであるような特徴を保持しなければならない。
【0063】
大まかに言えば、ポリペプチドの生物学的活性を変更することのない、保存的置換よりも少ない非保存的置換が可能であろう。任意の置換の(実際には、任意のアミノ酸の欠失または挿入の)効果の決定は、完全に、本発明の態様に従って、変異体ポリペプチドが酵素活性を保持しているかを容易に判定することができる当業者のルーチン能力の範囲内である。例えば、ポリペプチドの変異体が、本発明の範囲に入る(すなわち、先で定義される「機能的変異体または断片」である)かを判定する場合、当業者は、変異体または断片が、本明細書中の他の箇所で言及されているNC-IUBMB命名法を参照して定義される基質変換酵素活性を保持しているかを判定することとなる。そのような変異体は全て、本発明の範囲内である。
【0064】
標準的な遺伝コードを使用して、ポリペプチドをコードするさらなる核酸配列が、本明細書中で開示されるものに加えて、当業者によって容易に考えられ、かつ製造され得る。核酸配列は、DNAであってもRNAであってもよく、DNA分子である場合、例えば、cDNAを含んでもゲノムDNAを含んでもよい。核酸は、本明細書中の他の箇所に記載されるように、発現ベクター内に含有されてよい。
【0065】
したがって、本発明の実施形態は、本発明の実施形態によって企図されるポリペプチドをコードする変異体核酸配列を包含する。核酸配列に関する用語「変異体」は、ポリヌクレオチドによってコードされる、結果として生じるポリペプチド配列が、塩基配列によってコードされるポリペプチドと少なくとも同じか、または類似の酵素特性を示すことを条件とした、ポリヌクレオチド配列からの、またはポリヌクレオチド配列への1つ以上のヌクレオチドの任意の置換、変異、修飾、置換、欠失、または付加を意味する。当該用語は、対立遺伝子変異体を含み、そしてまた、本発明の実施形態のポリヌクレオチド配列に実質的にハイブリダイズするポリヌクレオチド(「プローブ配列」)も含む。そのようなハイブリダイゼーションは、低ストリンジェンシー条件にて、高ストリンジェンシー条件にて、またはそれらの間で起こり得る。一般的に、用語低ストリンジェンシー条件は、洗浄工程が0.330~0.825M NaClバッファ溶液中で、プローブ配列の計算されたか、または実際の融解温度)(Tm)よりも約40~48℃低い温度(例えば、約ラボ周囲温度~約55℃にて起こるハイブリダイゼーションと定義することができる。一方、高ストリンジェンシー条件は、プローブ配列の計算されたか、または実際のTmよりも約5~10℃低い温度(例えば、約65℃)での、0.0165~0.0330M Nバッファ溶液中での洗浄を含む。バッファ溶液は、例えば、生理食塩水-クエン酸ナトリウム(SSC)バッファ(0.15M NaClおよび0.015Mクエン酸三ナトリウム)であってよく、低ストリンジェンシー洗浄は3×SSCバッファ中で行い、高ストリンジェンシー洗浄は0.1×SSCバッファ中で行う。核酸配列のハイブリダイゼーションに関係する工程は、例えば分子クローニング、ラボマニュアル(Molecular Cloning,a laboratory manual)[第2版]Sambrook et al.Cold Spring Harbor Laboratory,1989において、例えばその第11節「合成オリゴヌクレオチドプローブ(Synthetic Oligonucleotide Probes)」において記載されている。
【0066】
好ましくは、核酸配列変異体は、本発明の実施形態の核酸配列と共通のヌクレオチドの約80%以上、より好ましくは少なくとも85%、さらに好ましくは90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有する。
【0067】
本発明の変異体核酸は、特定の宿主細胞における発現のためにコドン最適化されていてよい。
【0068】
本明細書中で使用される「配列同一性」は、2つのヌクレオチド配列間、または2つのペプチドもしくはタンパク質配列間の配列類似性を指す。類似性は、配列間の構造的関係および/または機能的関係を判定するための配列アラインメントによって判定される。
【0069】
アミノ酸配列間の配列同一性は、国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information:NCBI),Bethesda,Md.,米国から入手可能なNeedleman-Wunschグローバル配列アラインメントツール(Global Sequence Alignment Tool)を使用して、例えば、http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgiを介して、デフォルトパラメータ設定(タンパク質アラインメントについて、ギャップコスト存在(Gap costs Existence):11伸長(Extension):1)を使用して、配列のアラインメントを比較することによって求めることができる。本明細書中で言及される配列比較および同一性パーセンテージは、このソフトウェアを使用して求めた。配列同一性のレベルを、例えば配列番号1と比較する場合、比較は、好ましくは、高い同一性重複の短い領域が、同一性の高い全体評価を生じさせることを回避するために、配列番号1の全長に対してなされるべきである(すなわち、グローバルアライメント法を用いる)。例えば、例えば5つのアミノ酸を有する短いポリペプチド断片は、配列番号1の全体の中で5つのアミノ酸領域に対して100%同一の配列を有する場合があるが、これは、当該断片が、配列番号1内の位置に相当する他の位置でも同一のアミノ酸を有するより長い配列の部分を形成する場合を除き、100%のアミノ酸同一性を与えない。比較される配列中の等しい位置が、同じアミノ酸によって占められている場合、分子は、当該位置にて同一である。同一性のパーセンテージとしてのアラインメントのスコアリングは、比較される配列によって共有される位置にて同一のアミノ酸の数の関数である。配列を比較する場合、最適なアライメントは、配列内の可能性のある挿入および欠失を考慮するように、配列の1つ以上にギャップが導入されることを求めてもよい。配列比較方法は、比較される配列内の同じ数の同一分子について、2つの比較される配列間のより高い関連性を反映する、ギャップが可能な限り少ない配列アラインメントが、ギャップが多いものよりも高いスコアを達成することとなるように、ギャップペナルティを使用してもよい。最大同一性パーセントの計算は、ギャップペナルティを考慮した、最適なアライメントの生成を含む。上述のように、配列同一性パーセンテージは、デフォルトのパラメータ設定を使用するNeedleman-Wunschグローバル配列アラインメント(Global Sequence Alignment)ツールを使用して求めてもよい。Needleman-Wunschアルゴリズムは、J.Mol.Biol.(1970)第48巻:443-453において発表された。
【0070】
本発明の一態様は、少なくとも1つのポリアミン類似体を産生することができる酵母細胞に関する。酵母細胞は、少なくとも1つのポリアミンを産生することができる。酵母細胞は、少なくとも1つの補酵素A(CoA)リガーゼコード遺伝子、好ましくは4-クマル酸:CoAリガーゼコード遺伝子、少なくとも1つのポリアミンN-アシルトランスフェラーゼ遺伝子、および少なくとも1つのポリアミンシンターゼコード遺伝子を含むが、ポリアミンオキシダーゼコード遺伝子を欠いているか、または破壊されたポリアミンオキシダーゼコード遺伝子を含む。
【0071】
本発明の酵母細胞は、カルボキシル基含有分子をCoAエステルに変換することができる4-クマル酸:CoAリガーゼ(EC6.2.1.12)をコードする遺伝子を含む。次いで、対応するCoAエステルは、酵母細胞によって産生された少なくとも1つのポリアミンと共に、ポリアミンN-アシルトランスフェラーゼの基質となり、これによって少なくとも1つのポリアミン類似体が得られる(少なくとも1つのポリアミン類似体をアセチル化し、かつ少なくとも1つのポリアミンとCoAエステル間にアミド結合を形成することによる)。
【0072】
一実施形態において、酵母細胞は、4-クマル酸:CoAリガーゼの過剰発現のために改変されている。
【0073】
一実施形態において、4-クマル酸:CoAリガーゼの過剰発現は、4-クマル酸:CoAリガーゼコード遺伝子を、酵母細胞内で高度に活性なプロモーターの転写制御下に置くことによって達成される。酵母細胞での使用に適したプロモーターとして、PDC、GPD、GPD1、TEF1、PGK1、TDH、およびTDH3のプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。他の適切なプロモーターとして、GAL1、GAL2、GAL10、GAL7、CUP1、HIS3、CYC1、ADH1、PGL、GAPDH、ADC1、URA3、TRP1、LEU2、TPI、AOX1、およびENOlのプロモーターが挙げられる。
【0074】
酵母細胞は、4-クマル酸:CoAリガーゼコード遺伝子の1つまたは複数、すなわち少なくとも2つのコピーを含み、これによって、4-クマル酸:CoAリガーゼ用のmRNAのコピー数を増大させ、かつこれによって、酵母細胞によって産生される4-クマル酸:CoAリガーゼの量を増大させることができる。そのような場合、4-クマル酸:CoAリガーゼコード遺伝子の複数のコピーは、1つのプロモーターの転写制御下にあってもよいし、各4-クマル酸:CoAリガーゼコード遺伝子が、それぞれのプロモーターの転写制御下にあってもよい。後者の場合、同じタイプのプロモーターを使用して、それぞれの4-クマル酸:CoAリガーゼコード遺伝子の転写を制御してもよいし、異なるタイプのプロモーターを使用してもよい。
【0075】
一実施形態において、4-クマル酸:CoAリガーゼ(4CL)コード遺伝子は、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)4-クマル酸:CoAリガーゼ1(At4CL1)、At4CL2、At4CL3、At4CL4、またはAt4CL5、および4-クマル酸:CoAリガーゼAt4CL1、At4CL2、At4CL3、At4CL4、またはAt4CL5のいずれかと少なくとも80%の配列同一性を有する4-クマル酸:CoAリガーゼをコードするヌクレオチド配列からなる群から選択される。一実施形態において、ヌクレオチド配列は、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)4CL1(配列番号1)、4CL2、4CL3、4CL4、または4CL5のいずれかと少なくとも85%、またはさらには90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有する4-クマル酸:CoAリガーゼをコードする。一実施形態において、少なくとも80%の配列同一性を有するこの4-クマル酸:CoAリガーゼは、カルボキシル基含有分子の、CoAエステルへの変換を触媒することができ、好ましくは4-クマラートの、4-クマロイル-CoAへの変換を触媒することができる。少なくとも80%の配列同一性を有する4-クマル酸:CoAリガーゼの酵素効率は、関連する4-クマル酸:CoAリガーゼの対応する酵素効率よりも低くても、これと実質的に等しくても、これよりも高くてもよく、好ましくは少なくとも実質的に等しいか、またはより高い酵素効率である。
【0076】
特定の実施形態において、4-クマル酸:CoAリガーゼコード遺伝子はAt4CL1である。At4CL1のアミノ酸配列を配列番号1に示し、At4CL1のヌクレオチド配列を配列番号2に示す。
【0077】
一実施形態において、酵母細胞は、少なくとも1つのポリアミンN-アシルトランスフェラーゼの過剰発現のために改変されている。
【0078】
一実施形態において、少なくとも1つのポリアミンN-アシルトランスフェラーゼの過剰発現は、少なくとも1つのポリアミンN-アシルトランスフェラーゼコード遺伝子を、酵母細胞内で高度に活性なプロモーターの転写制御下に置くことによって達成される。酵母細胞での使用に適したプロモーターとして、PDC、GPD、GPD1、TEF1、PGK1、TDH、およびTDH3のプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。他の適切なプロモーターとして、GAL1、GAL2、GAL10、GAL7、CUP1、HIS3、CYC1、ADH1、PGL、GAPDH、ADC1、URA3、TRP1、LEU2、TPI、AOX1、およびENOlのプロモーターが挙げられる。
【0079】
酵母細胞は、ポリアミンN-アシルトランスフェラーゼコード遺伝子の1つまたは複数のコピーを含み、これによって、ポリアミンN-アシルトランスフェラーゼ用のmRNAのコピー数を増大させ、かつこれによって、酵母細胞によって産生されるポリアミンN-アシルトランスフェラーゼの量を増大させることができる。そのような場合、ポリアミンN-アシルトランスフェラーゼコード遺伝子の複数のコピーは、1つのプロモーターの転写制御下にあってもよいし、各ポリアミンN-アシルトランスフェラーゼコード遺伝子が、それぞれのプロモーターの転写制御下にあってもよい。後者の場合、同じタイプのプロモーターを使用して、それぞれのポリアミンN-アシルトランスフェラーゼコード遺伝子の転写を制御してもよいし、異なるタイプのプロモーターを使用してもよい。
【0080】
一実施形態において、酵母細胞は、スペルミジンヒドロキシシンナモイルトランスフェラーゼ(EC2.3.1M34)コード遺伝子、スペルミジンクマロイル-CoAアシルトランスフェラーゼ(EC2.3.1.249)コード遺伝子、およびプトレシンヒドロキシシンナモイルトランスフェラーゼ(EC2.3.1.138)コード遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つのポリアミンN-アシルトランスフェラーゼコード遺伝子を含む。
【0081】
特定の実施形態において、スペルミジンヒドロキシシンナモイルトランスフェラーゼ(SHT)コード遺伝子は、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)スペルミジンヒドロキシシンナモイルトランスフェラーゼ(AtSHT)、ニコチアナ・アッテヌアータ(Nicotiana attenuata)DH29(NaDH29)、およびスペルミジンヒドロキシシンナモイルトランスフェラーゼAtSHT(配列番号3)またはスペルミジンヒドロキシシンナモイルトランスフェラーゼNaDH29(配列番号5)と少なくとも80%の配列同一性を有するスペルミジンヒドロキシシンナモイルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列からなる群から選択される。一実施形態において、ヌクレオチド配列は、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)SHTまたはニコチアナ・アッテヌアータ(Nicotiana attenuata)DH29のいずれかと少なくとも85%、またはさらには90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有するスペルミジンヒドロキシシンナモイルトランスフェラーゼをコードする。一実施形態において、少なくとも80%の配列同一性を有するこのスペルミジンヒドロキシシンナモイルトランスフェラーゼは、スペルミジンおよびCoAエステルの、ポリアミン類似体への変換を触媒することができ、好ましくは、スペルミジンおよびクマロイル-CoA、フェルロイル-CoA、カフェオイル-CoA、シンナモイル-CoA、またはシナポイル-CoAの、N1-(クマロイル、フェルロイル、カフェオイル、シンナモイル、またはシナポイル)スペルミジン、N10-(クマロイル、フェルロイル、カフェオイル、シンナモイル、またはシナポイル)スペルミジン、N1,N10-ビス(クマロイル、フェルロイル、カフェオイル、シンナモイル、またはシナポイル)スペルミジン、および/またはN1,N5,N10-トリ(クマロイル、フェルロイル、カフェオイル、シンナモイル、またはシナポイル)スペルミジンへの変換を触媒することができる。少なくとも80%の配列同一性を有するスペルミジンヒドロキシシンナモイルトランスフェラーゼの酵素効率は、関連するスペルミジンヒドロキシシンナモイルトランスフェラーゼの対応する酵素効率よりも低くても、これと実質的に等しくても、これよりも高くてもよく、好ましくは少なくとも実質的に等しいか、またはより高い酵素効率である。
【0082】
SHTコード遺伝子は、ポリアミンアルカロイド、特に一置換、二置換(ビス置換とも称される)、および/または三置換N-アシル化ポリアミン、好ましくはスペルミジンに関して、酵母細胞内でのポリアミン類似体の産生を触媒している。特定の実施形態において、そのようなSHTコード遺伝子を4CLコード遺伝子と共に発現させることにより、酵母細胞は、AtSHTの場合には対称性の三置換N-アシル化ポリアミン、好ましくはスペルミジンを、NaDH29の場合には対称性の単一置換N-アシル化ポリアミン、好ましくはスペルミジンを産生することができる。
【0083】
AtSHTのアミノ酸配列を配列番号3に示し、AtSHTのヌクレオチド配列を配列番号4に示す。NaDH29の対応するアミノ酸配列を配列番号5に示し、NaDH29のヌクレオチド配列を配列番号6に示す。
【0084】
一実施形態において、スペルミジンクマロイル-CoAアシルトランスフェラーゼ(SCT)コード遺伝子は、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)スペルミジンクマロイル-CoAアシルトランスフェラーゼ(AtSCT)、およびスペルミジンクマロイル-CoAアシルトランスフェラーゼAtSCTと少なくとも80%の配列同一性を有するスペルミジンクマロイル-CoAアシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列からなる群から選択される。一実施形態において、ヌクレオチド配列は、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)SCT(配列番号7)と少なくとも85%、またはさらには90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有するスペルミジンクマロイル-CoAアシルトランスフェラーゼをコードする。一実施形態において、少なくとも80%の配列同一性を有するこのスペルミジンクマロイル-CoAアシルトランスフェラーゼは、スペルミジンおよびCoAエステルの、ポリアミン類似体への変換を触媒することができ、好ましくは、スペルミジンおよびクマロイル-CoA、フェルロイル-CoA、カフェオイル-CoA、シンナモイル-CoA、またはシナポイル-CoAの、N1,N10-ビス(クマロイル、フェルロイル、カフェオイル、シンナモイル、またはシナポイル)スペルミジンへの変換を触媒することができる。少なくとも80%の配列同一性を有するスペルミジンクマロイル-CoAアシルトランスフェラーゼの酵素効率は、AtSCTの対応する酵素効率よりも低くても、これと実質的に等しくても、これよりも高くてもよく、好ましくは少なくとも実質的に等しいか、またはより高い酵素効率である。
【0085】
SCTコード遺伝子は、ポリアミンアルカロイド、特に二置換N-アシル化ポリアミン、好ましくはスペルミジンに関して、酵母細胞内でのポリアミン類似体の産生を触媒している。特定の実施形態において、そのようなSCTコード遺伝子を4CLコード遺伝子と共に発現させることにより、酵母細胞は、AtSCTの場合には対称性の二置換N-アシル化ポリアミン、好ましくはスペルミジンを産生することができる。
【0086】
AtSCTのアミノ酸配列を配列番号7に示し、AtSCTのヌクレオチド配列を配列番号8に示す。
【0087】
一実施形態において、プトレシンヒドロキシシンナモイルトランスフェラーゼコード遺伝子は、ニコチアナ・アッテヌアータ(Nicotiana attenuata)AT1(NaAT1)、およびプトレシンヒドロキシシンナモイルトランスフェラーゼNaAT1と少なくとも80%の配列同一性を有するプトレシンヒドロキシシンナモイルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列からなる群から選択される。一実施形態において、ヌクレオチド配列は、ニコチアナ・アッテヌアータ(Nicotiana attenuata)AT1(配列番号9)と少なくとも85%、またはさらには90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有するプトレシンヒドロキシシンナモイルトランスフェラーゼをコードする。一実施形態において、少なくとも80%の配列同一性を有するこのプトレシンヒドロキシシンナモイルトランスフェラーゼは、プトレシンおよびCoAエステルの、ポリアミン類似体への変換を触媒することができ、好ましくは、プトレシンおよびクマロイル-CoA、フェルロイル-CoA、カフェオイル-CoA、シンナモイル-CoA、またはシナポイル-CoAの、N1-(クマロイル、フェルロイル、カフェオイル、シンナモイル、またはシナポイル)プトレシン、N6-ビス(クマロイル、フェルロイル、カフェオイル、シンナモイル、またはシナポイル)プトレシン、および/またはN1,N6-ビス(クマロイル、フェルロイル、カフェオイル、シンナモイル、またはシナポイル)プトレシンへの変換を触媒することができる。少なくとも80%の配列同一性を有するプトレシンヒドロキシシンナモイルトランスフェラーゼの酵素効率は、NaAT1の対応する酵素効率よりも低くても、これと実質的に等しくても、これよりも高くてもよく、好ましくは少なくとも実質的に等しいか、またはより高い酵素効率である。
【0088】
プトレシンヒドロキシシンナモイルトランスフェラーゼコード遺伝子は、ポリアミンアルカロイド、特に二置換N-アシル化ポリアミン、好ましくはプトレシンに関して、酵母細胞内でのポリアミン類似体の産生を触媒している。特定の実施形態において、そのようなプトレシンヒドロキシシンナモイルトランスフェラーゼコード遺伝子を4CLコード遺伝子と共に発現させることにより、酵母細胞は、NaAT1の場合には対称性の二置換N-アシル化ポリアミン、好ましくはプトレシンを産生することができる。
【0089】
NaAT1のアミノ酸配列を配列番号9に示し、NaAT1のヌクレオチド配列を配列番号10に示す。
【0090】
一実施形態において、酵母細胞は、複数のタイプのポリアミンN-アシルトランスフェラーゼコード遺伝子を含む。それゆえに、実施形態は、At4CL1等の4CLコード遺伝子、AtSHTおよび/またはNaDH29等のSHTコード遺伝子、ならびにAtSCT等のSCTコード遺伝子を含む酵母細胞;At4CL1等の4CLコード遺伝子、AtSHTおよび/またはNaDH29等のSHTコード遺伝子、ならびにNaAT1等のプトレシンヒドロキシシンナモイルトランスフェラーゼコード遺伝子を含む酵母細胞;At4CL1等の4CLコード遺伝子、AtSCT等のSCTコード遺伝子、およびNaAT1等のプトレシンヒドロキシシンナモイルトランスフェラーゼコード遺伝子を含む酵母細胞;ならびにAt4CL1等の4CLコード遺伝子、AtSHTおよび/またはNaDH29等のSHTコード遺伝子、AtSCT等のSCTコード遺伝子、ならびにNaAT1等のプトレシンヒドロキシシンナモイルトランスフェラーゼコード遺伝子を含む酵母細胞を包含する。例えば、At4CL1等の4CLコード遺伝子、AtSCT等のSCTコード遺伝子、およびAtSHT等のSHTコード遺伝子を含む酵母細胞は、非対称三置換N-アシル化ポリアミン、好ましくはスペルミジンを産生することができる。
【0091】
一実施形態において、芳香族有機酸、脂肪酸、ハロゲン化芳香族有機酸、ハロゲン化脂肪酸、またはそれらの組合せ等のカルボキシル基含有分子は、酵母細胞が培養される培地に添加される。それゆえに、この実施形態において、酵母細胞に、酵母細胞によって発現される4-クマル酸:CoAリガーゼによってCoAエステルに変換されるカルボキシル基含有分子が供給される。次いで、酵母細胞に、単一のカルボキシル基含有分子、または異なるカルボキシル基含有分子の混合物が供給されてもよい。例えば、At4CL1等の4CLコード遺伝子、およびAtSHT等のSHTコード遺伝子を含む酵母細胞は、芳香族有機酸の混合物を供給する場合、スペルミジン等の非対称三置換N-アシル化ポリアミンを産生することができる。これに対応して、At4CL1等の4CLコード遺伝子、およびAtSCT等のSCTコード遺伝子を含む酵母細胞は、芳香族有機酸の混合物を供給する場合、スペルミジン等の非対称二置換N-アシル化ポリアミンを産生することができる。At4CL1等の4CLコード遺伝子、およびNaDH29等のSHTコード遺伝子を含む酵母細胞は、芳香族有機酸の混合物を供給する場合、スペルミジン等の対称性の一置換N-アシル化ポリアミンを産生することができる。
【0092】
芳香族有機酸および/または脂肪酸および/またはそれらのハロゲン化バージョン等のカルボキシル基含有分子を酵母細胞に供給する代わりに、または供給の補足として、酵母細胞は、カルボキシル基含有分子を産生または過剰産生するように改変することができる。それゆえに、特定の実施形態において、酵母細胞は、芳香族有機酸、ハロゲン化芳香族有機酸、脂肪酸、ハロゲン化脂肪酸、およびそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つの有機酸を産生することができる。そのような芳香族有機酸および/または脂肪酸の産生について改変された酵母細胞は、Yu et al.2018;Zhou et al.2016;Liu et al.2019;およびRodriguez et al.2015に開示されている。これらの、酵母細胞が、芳香族有機酸、ハロゲン化芳香族有機酸、脂肪酸、ハロゲン化脂肪酸、およびそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つの有機酸を産生することができることに関する教示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0093】
しかしながら、本発明の酵母細胞においてそのようなカルボキシル基含有分子を過剰産生すると、例えば芳香族アミノ酸(AAA)代謝に関して、ポリアミン代謝とカルボキシル基含有分子の代謝との間にフラックスアンバランスを引き起こす場合がある。カルボキシル基含有分子の別の供給源は、培地にカルボキシル基含有分子を添加することによって酵母細胞に供給する代わりに、または供給の補足として、本発明の酵母細胞を、カルボキシル基含有分子を産生かつ分泌することができる微生物細胞、好ましくは酵母細胞と共培養することである。非限定的であるが例示的な、本発明の酵母細胞と共培養することができるそのような微生物細胞の例が、Yu et al.2018;Zhou et al.2016;Liu et al.2019;およびRodriguez et al.2015に開示されている。
【0094】
本明細書中で使用されるハロゲン化芳香族有機酸として、ハロゲン置換芳香族有機酸が挙げられ、ハロゲン化脂肪酸として、ハロゲン置換脂肪酸が挙げられる。そのようなハロゲン置換芳香族有機酸およびハロゲン置換脂肪酸の実例として、フッ素置換、塩素置換、臭素置換、およびヨウ素置換された芳香族有機酸および脂肪酸、好ましくはフッ素置換された芳香族有機酸および脂肪酸が挙げられる。
【0095】
一実施形態において、少なくとも1つのポリアミンは、スペルミン、サーモスペルミン、sym-ホモスペルミジン、1,3-ジアミノプロパン、プトレシン、カダベリン、アグマチン、スペルミジン、sym-ノルスペルミジン、ノルスペルミン、およびそれらの組合せからなる群から選択される。
【0096】
本発明の酵母細胞は、ポリアミンオキシダーゼ(EC1.5.3.17)コード遺伝子を欠いており、または破壊されたポリアミンオキシダーゼコード遺伝子を含む。また、酵母細胞は、少なくとも1つのポリアミンシンターゼコード遺伝子を含む。
【0097】
酵母細胞によって発現される少なくとも1つのポリアミンシンターゼは、酵母細胞内での少なくとも1つのポリアミンの産生を触媒する。ポリアミンオキシダーゼは、スペルミンの、スペルミジンに戻る変換を触媒する酵素である。それゆえに、酵母細胞は、あらゆるポリアミンオキシダーゼコード遺伝子を欠いており、または破壊されたポリアミンオキシダーゼコード遺伝子を含む。これは、酵母細胞が好ましくは、あらゆるポリアミンオキシダーゼを欠くか、またはそのようなポリアミンオキシダーゼが酵母細胞内で発現されるならば、ポリアミンオキシダーゼは好ましくは、酵素的に不活性であるか、または少なくとも、天然のポリアミンオキシダーゼと比較して酵素効率がかなり低いことを意味する。
【0098】
一実施形態において、酵母細胞は、少なくとも1つのポリアミンシンターゼの過剰発現のために改変されている。
【0099】
一実施形態において、少なくとも1つのポリアミンシンターゼの過剰発現は、少なくとも1つのポリアミンシンターゼコード遺伝子を、酵母細胞内で高度に活性なプロモーターの転写制御下に置くことによって達成される。酵母細胞での使用に適したプロモーターとして、PDC、GPD、GPD1、TEF1、PGK1、TDH、およびTDH3のプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。他の適切なプロモーターとして、GAL1、GAL2、GAL10、GAL7、CUP1、HIS3、CYC1、ADH1、PGL、GAPDH、ADC1、URA3、TRP1、LEU2、TPI、AOX1、およびENOlのプロモーターが挙げられる。
【0100】
酵母細胞は、ポリアミンシンターゼコード遺伝子の1つまたは複数のコピーを含み、これによって、ポリアミンシンターゼ用のmRNAのコピー数を増大させ、かつこれによって、酵母細胞によって産生されるポリアミンシンターゼの量を増大させることができる。そのような場合、ポリアミンシンターゼコード遺伝子の複数のコピーは、1つのプロモーターの転写制御下にあってもよいし、各ポリアミンシンターゼコード遺伝子が、それぞれのプロモーターの転写制御下にあってもよい。後者の場合、同じタイプのプロモーターを使用して、それぞれのポリアミンシンターゼコード遺伝子の転写を制御してもよいし、異なるタイプのプロモーターを使用してもよい。
【0101】
一実施形態において、ポリアミンシンターゼコード遺伝子は、スペルミンシンターゼ(EC2.5.1.22)コード遺伝子、サーモスペルミンシンターゼ(EC2.5.1.79)コード遺伝子、およびホモスペルミジンシンターゼ(EC2.5.1.44またはEC2.5.1.45)コード遺伝子からなる群から選択される。
【0102】
一実施形態において、スペルミンシンターゼコード遺伝子は、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)スペルミンシンターゼ、好ましくはScSPE4、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)スペルミンシンターゼ(AtSPMS)、およびスペルミンシンターゼScSPE4またはスペルミンシンターゼAtSPMSと少なくとも80%の配列同一性を有するスペルミンシンターゼをコードするヌクレオチド配列からなる群から選択される。一実施形態において、ヌクレオチド配列は、ScSPE4またはAtSPMSと少なくとも85%、またはさらには90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有するスペルミンシンターゼをコードする。一実施形態において、少なくとも80%の配列同一性を有するこのスペルミンシンターゼは、スペルミジンの、スペルミンへの変換を触媒することができる。少なくとも80%の配列同一性を有するスペルミンシンターゼの酵素効率は、ScSPE4またはAtSPESの対応する酵素効率よりも低くても、これと実質的に等しくても、これよりも高くてもよく、好ましくは少なくとも実質的に等しいか、またはより高い酵素効率である。
【0103】
ScSPE4のアミノ酸配列を配列番号11に示し、ScSPE4のヌクレオチド配列を配列番号12に示す。AtSPMSの対応するアミノ酸配列を配列番号13に示し、AtSPMSのヌクレオチド配列を配列番号14に示す。
【0104】
一実施形態において、サーモスペルミンシンターゼコード遺伝子は、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)サーモスペルミンシンターゼ、好ましくはAtACL5、およびサーモスペルミンシンターゼAtACL5と少なくとも80%の配列同一性を有するサーモスペルミンシンターゼをコードするヌクレオチド配列からなる群から選択される。一実施形態において、ヌクレオチド配列は、AtACL5と少なくとも85%、またはさらには90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有するサーモスペルミンシンターゼをコードする。一実施形態において、少なくとも80%の配列同一性を有するこのサーモスペルミンシンターゼは、スペルミジンの、サーモスペルミンへの変換を触媒することができる。少なくとも80%の配列同一性を有するサーモスペルミンシンターゼの酵素効率は、AtACL5の対応する酵素効率よりも低くても、これと実質的に等しくても、これよりも高くてもよく、好ましくは少なくとも実質的に等しいか、またはより高い酵素効率である。
【0105】
AtACL5のアミノ酸配列を配列番号15に示し、AtACL5のヌクレオチド配列を配列番号16に示す。
【0106】
一実施形態において、ホモスペルミジンシンターゼ(HSS)コード遺伝子は、ハナノボロギク(Senecio vernalis)ホモスペルミジンシンターゼ(SvHSS)、ブラストクロリス・ビリディス(Blastochloris viridis)ホモスペルミジンシンターゼ(BvHSS)、およびホモスペルミジンシンターゼSvHSSまたはホモスペルミジンシンターゼBvHSSと少なくとも80%の配列同一性を有するホモスペルミジンシンターゼをコードするヌクレオチド配列からなる群から選択される。一実施形態において、ヌクレオチド配列は、SvHSSまたはBvHSSと少なくとも85%、またはさらには90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有するホモスペルミジンシンターゼをコードする。一実施形態において、少なくとも80%の配列同一性を有するこのホモスペルミジンシンターゼは、プトレシンの、sym-ホモスペルミジンへの変換、またはプトレシンもしくはスペルミジンの、sym-ホモスペルミジンへの変換を触媒することができる。少なくとも80%の配列同一性を有するホモスペルミジンシンターゼの酵素効率は、SvHSSまたはBvHSSの対応する酵素効率よりも低くても、これと実質的に等しくても、これよりも高くてもよく、好ましくは少なくとも実質的に等しいか、またはより高い酵素効率である。
【0107】
SvHSSのアミノ酸配列を配列番号17に示し、SvHSSのヌクレオチド配列を配列番号18に示す。BvHSSの対応するアミノ酸配列を配列番号19に示し、BvHSSのヌクレオチド配列を配列番号20に示す。
【0108】
一実施形態において、酵母細胞は、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、クルイウェロマイセス(Kluyveromyces)属、ジゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属、カンジダ(Candida)属、ハンセニアスポラ(Hanseniaspora)属、ピキア(Pichia)属、ハンゼヌラ(Hansenula)属、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属、トリゴノプシス(Trigonopsis)属、ブレタノマイセス(Brettanomyces)属、デバリオマイセス(Debaromyces)属、ナドソニア(Nadsonia)属、リポマイセス(Lipomyces)属、クリプトコックス(Cryptococcus)属、アウレオバシジウム(Aureobasidium)属、トリコスポロン(Trichosporon)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、ヤロウイア(Yarrowia)属、ロードスポリディウム(Rhodosporidium)属、ファフィア(Phaffia)属、シュワニオマイセス(Schwanniomyces)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、およびアシビア(Ashbya)属からなる群から選択される。特定の実施形態において、酵母細胞は、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・ブラウディ(Saccharomyces boulardii)、チゴサッカロマイセス・バイリィ(Zygosaccharomyces bailii)、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、ロドスポリジウム・トルロイデス(Rhodosporidium toruloides)、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ハンゼヌラ・アノマラ(Hansenula anomala)、カンジダ・スファエリカ(Candida sphaerica)、またはシゾサッカロマイセス・マリデヴォランス(Schizosaccharomyces malidevorans)からなる群から選択される。サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)が好ましい酵母種である。
【0109】
一実施形態において、酵母細胞はサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)細胞であり、ポリアミンオキシダーゼはFMS1である。それゆえに、一実施形態において、サッカロマイセス・セレビシエ(S.cerevisiae)細胞はFMS1を欠いており、または破壊されたFMS1を含む。
【0110】
本発明の別の態様は、少なくとも1つのポリアミン類似体を産生することができる酵母細胞に関する。酵母細胞は、少なくとも1つのポリアミンを産生することができる。酵母細胞は、4-クマル酸:CoAリガーゼコード遺伝子および少なくとも1つのポリアミンN-アシルトランスフェラーゼ遺伝子を含む。
【0111】
また、前掲の酵母細胞の種々の実施形態は、本発明のこの態様に利用することができる。
【0112】
本発明のさらなる態様は、ポリアミン類似体を生成する方法に関する。本方法は、本発明に従う酵母細胞を、培地中で、酵母細胞によるポリアミン類似体の産生に適した培養条件で培養することを含む。また、本方法は、ポリアミン類似体を培地から、および/または酵母細胞から収集することを含む。
【0113】
一実施形態において、酵母細胞を培養することは、芳香族有機酸、脂肪酸、およびそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つの有機酸を含む培地中で酵母細胞を培養することを含む。それゆえに、この実施形態において、少なくとも1つの有機酸の形態のカルボキシル基含有分子が培地中に含まれる。それゆえに、酵母細胞には、少なくとも1つの有機酸が供給される。
【0114】
特定の実施形態において、方法は、少なくとも1つの有機酸を培地に添加することを含む。ゆえに、少なくとも1つの有機酸は、少なくとも1つの有機酸を培地に添加することによって、培地中で酵母細胞に利用可能となる。この特定の実施形態において、単一の有機酸が培地に添加されるか、または複数の異なる有機酸が培地に添加される。
【0115】
別の特定の実施形態において、酵母細胞を培養することは、培地中の酵母細胞を、少なくとも1つの有機酸を産生し、かつ少なくとも1つの有機酸を培地中に放出することができる微生物、好ましくは酵母細胞と共培養することを含む。
【0116】
記載される2つの特定の実施形態は、組み合わせることができる。すなわち、少なくとも1つの有機酸を培地に添加し、この中で、本発明の酵母細胞は、少なくとも1つの有機酸を産生することができる少なくとも1つの微生物、好ましくは酵母細胞と共培養される。培地に添加される少なくとも1つの有機酸は、少なくとも1つの微生物によって産生される少なくとも1つの有機酸と同じであっても異なってもよい。
【0117】
本発明のこの態様における培地は、酵母細胞が培養されてポリアミン類似体を産生することができるあらゆる培地であり得る。培養は、例えば、バッチ、流加培養、もしくは灌流培養、または発酵、バイオリアクター発酵等の形態であり得る。
【0118】
例
例1:酵母における天然代謝の系統的再配線によるスペルミジン産生の向上
例1において、本発明者らは、中心炭素窒素代謝、メチオニンサルベージ経路、アデニンのサルベージ経路、ポリアミン輸送機構、およびポリアミン消費/分解経路が挙げられる、酵母株における代謝を体系的にリファクタリングした。加えて、本発明者らは、追加の潜在的陽性遺伝子標的も導入した。この酵母株は、新しいモジュール式遺伝的設計により構築した。具体的には、デノボSpd生合成経路は、より大きな炭素フラックスを糖炭素源からSpdに迂回させるための多数の生合成酵素についてのコード配列を含有する複数の遺伝的モジュールに分割される。
【0119】
L-オルニチン(Orn)の蓄積を増大させるように設計した前駆体過剰産生モジュール(I)は、8つのタンパク質:サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来のNADP(+)依存性グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH1)[配列番号21]、サッカロマイセス・セレビシエ(S.cerevisiae)由来のミトコンドリアアスパラギン酸グルタミン酸担体タンパク質(AGC1)[配列番号22]、サッカロマイセス・セレビシエ(S.cerevisiae)由来のミトコンドリアL-オルニチン担体タンパク質(ORT1)[配列番号23]、大腸菌(Escherichia coli)由来のグルタミン酸N-アセチルトランスフェラーゼ(EcargA)[配列番号24]、大腸菌(E.coli)由来のアセチルグルタミン酸キナーゼ(EcargB)[配列番号25]、コリネ菌(Corynebacterium glutamicum)由来のN-アセチル-ガンマ-グルタミル-リン酸レダクターゼ(CgargC)[配列番号26]、コリネ菌(C.glutamicum)由来のアセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ(CgargD)[配列番号27]、およびコリネ菌(C.glutamicum)由来のオルニチンアセチルトランスフェラーゼ(CgargJ)[配列番号28]の過剰発現を含んだ。さらに、2つのタンパク質の減弱または除去:天然プロモーターPARG3を、より弱いプロモーターPKEX2と交換することによる、酵母天然オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ(ARG3)[配列番号29]の減弱、およびL-オルニチントランスアミナーゼ(CAR2)[配列番号30]の活性の、CAR2のノックアウトによる除去もまた、このモジュール(I)に含めた。
【0120】
L-オルニチンからPutを過剰産生するように設計したプトレシン(Put)モジュール(II)は、2つの遺伝的修飾;サッカロマイセス・セレビシエ(S.cerevisiae)由来のオルニチンデカルボキシラーゼ(SPE1)[配列番号31]の過剰発現および天然のオルニチンデカルボキシラーゼ抗酵素(OAZ1)[配列番号32]の欠失を含んだ。
【0121】
スペルミジン生合成モジュール(III)を、プトレシンからのスペルミジン(Spd)の過剰産生のために設計した(サッカロマイセス・セレビシエ(S.cerevisiae)由来の2つのタンパク質:アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼ(AdoMetDC;SPE2)[配列番号33]およびスペルミジンシンターゼ(SpdSyn;SPE3)[配列番号34]の過剰発現を特徴とした)。また、このモジュールには、スペルミジンの消費または分解を回避するための2つの天然タンパク質の欠失:スペルミンシンターゼをコードするSPE4[配列番号12]および非特異的ポリアミンオキシダーゼをコードするFMS1[配列番号35]の欠失を含めた。
【0122】
S-アデノシル-L-メチオニン(AdoMet)モジュール(IV)を、補因子AdoMetのアクセシビリティを高めるように設計した。この修飾には、多数のタンパク質:サッカロマイセス・セレビシエ(S.cerevisiae)由来の5’-メチルチオアデノシンホスホリラーゼ(MEU1)[配列番号36]、サッカロマイセス・セレビシエ(S.cerevisiae)由来の分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼ(BAT2)[配列番号37]、サッカロマイセス・セレビシエ(S.cerevisiae)由来のアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(APT1)[配列番号38]、サッカロマイセス・セレビシエ(S.cerevisiae)由来のリボース-リン酸ピロホスホキナーゼ(PRS5)[配列番号39]、およびリーシュマニア・インファントゥム(Leishmania infantum)由来のS-アデノシルメチオニンシンターゼ(LiMAT)[配列番号40]の過剰発現を含めた。また、このモジュールには、アデニンデアミナーゼ活性(AAH1)[配列番号41]の欠失も含めた。
【0123】
ポリアミン流出モジュール(V)を、細胞に対する細胞傷害性またはポリアミン生合成に対する阻害を軽減するように設計した。このモジュールには、TPO5によってコードされる酵母天然ポリアミントランスポーター[配列番号42]の過剰発現を含めた。
【0124】
最後に、さらに重要なことに、追加のスペルミジン生合成モジュール(VI)を、プトレシンおよびAdoMetからのスペルミジンの過剰産生のために設計した。このモジュールには、SPE2-SPE3によってコードされるAdoMetDC-SpdSyn融合タンパク質[配列番号43]の過剰発現を含めた。
【0125】
CRISPR/cas9系または伝統的な遺伝的マーカーベースの方法を介して、組込み遺伝子座として増殖欠陥および活性発現がないと本発明者らが予想した領域への染色体組込みによって、例1における遺伝子の過剰発現を得た。CRISPR/cas9ベースのゲノム編集の実施は、Mans et al.2015によって開発されたプロトコルに従った。特に、Cas9の構成的発現を可能にする、HIS3マーカーを有するプラスミドpL-CAS9-HISを有するサッカロマイセス・セレビシエ(S.cerevisiae strain)株CEN.PK113-11Cが、全ての遺伝子改変についての開始株であった。選択した遺伝子座における効率的なゲノム編集を可能にするために、複数のガイドRNA(gRNA)プラスミドを構築した。遺伝的部分、すなわち、プロモーター、ターミネーター、ORF、および相同アームの種々の組合せを含む遺伝的モジュールを、オーバーラップ伸長PCR(OE-PCR)手順に従って、組込みカセットとして構築した。以下の遺伝子およびプロモーターの組合せを、例1に使用した:TPI1p-ORT1-pYX212t;tHXT7p-AGC1-CYC1t;TEF1p-GDH1-DIT1t;PGK1p-SPE3-pYX212t;TEF1p-SPE1-PRM9t;TDH3p-SPE2-DIT1t;TDH3p-CgargJ-TDH2t;PGK1p--EcargB-ADH1t;TEF1p-CgargC-FBA1t;tHXT7p-CgargD-TPI1t;TPI1p-EcargA-CYC1t;TPI1p-MEU1p-FBA1t;PGK1p-BAT2-CYC1t;TDH3p-APT1-DIT1t;TEF1p-PRS5-PRM9t;TEF1p-LiMAT-PRM9;TDH3p-TPO5-CYC1t;TEF1p-SPE2-SPE3-PRM9t。
【0126】
全ての天然の遺伝的部分、すなわち、天然のプロモーター、ターミネーター、ORF、および相同アームを、テンプレートとしてCEN.PK113-11CゲノムDNAを使用してPCR増幅した。最適化した異種遺伝子について、合成断片またはプラスミド(GenScriptから入手)を、PCR増幅に使用した。ハイフィデリティPhusion DNAポリメラーゼを、分子クローニング手順の全体を通して利用した。カセットまたはプラスミドを、標準的なLiAc/SS DNA/PEG形質転換法によって酵母中に導入した。URA3ベースのプラスミドまたはカセットを含有する株を、アミノ酸のない6.7g/l酵母ニトロゲンベース(YNB)、ウラシルのない0.77g/l完全サプリメントミクスチュア(CSM-URA)、20g/lグルコース、および20g/lアガーからなる、ウラシルのない合成完全培地(SC-URA)上で選択した。URA3マーカーを除去して、5-フルオロオロチン酸(5’-FOA)プレートに対して選択した。さらに、CRISPR/cas9ベースの系も使用して、AAH1、SPE4、およびFMS1の欠失を実施した。他の遺伝子ノックアウト実験を、従来の方法によって行った。本明細書中で使用される全てのプライマーを表1に列挙しており、全てのプラスミドを表2に列挙しており、全ての株を表3に列挙している。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
【表1-8】
【表1-9】
【表1-10】
【表1-11】
【表1-12】
【表1-13】
【表1-14】
【表1-15】
【表1-16】
【表2】
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【0127】
ディープウェルスケール発酵を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)と組み合わせたアッセイを使用して、結果として生じた株JQSPD_AAを評価した。特に、ポリアミンを生成するための、結果として生じたJQSPD_AA株の24ディープウェルバッチ発酵を、Verduyn et al 1992によって開発された最小培地中で行った。24時間の前培養物由来の培養物を、0.2の初期OD600で24ディープウェルプレート中の2ml最小培地に接種して、300rpm、30℃にて120時間培養した。7.5g/l(NH4)2SO4、14.4g/l KH2PO4、0.5g/l MgSO4・7H2O、20g/lグルコース、2ml/l微量金属、および1ml/lビタミン溶液(必要に応じて、40mg/lウラシル、40mg/lヒスチジンを補充)を含有する最小培地のpHを4.5に調整した。0.1mlの液体培養物をとることによってサンプルを調製して、熱水(HW)抽出に供した。当該方法において、本発明者らは、抽出物の状況として、ディープウェルプレートの発酵に最小培地を使用した。0.9mlの発酵培地を含有するチューブを、100℃の水浴中で10分間予熱した。次いで、熱い発酵培地を、0.1mlの液体培養物上に素早く注いだ;混合液を直ちにボルテックスして、サンプルを水浴に入れた。30分後、各チューブを氷上に5分間置いた。遠心分離後、上清を直接、誘導体化に使用した。誘導体化のために、0.125mlの飽和NaHCO3溶液および0.25mlの塩化ダンシル溶液(アセトン中5mg/ml)を、0.25mlのサンプルに添加した。次いで、反応混合液を、暗所において40℃にて1時間、時々振盪させながらインキュベートした。0.275mlのメタノールを添加することによって、反応を停止させた。サンプルを、HPLC検出に使用した25mmシリンジフィルター(0.45μmナイロン)で濾過した。以下のクロマトグラフィー条件を使用した:C18(100mm×内径4.6mm、2.6μm、Phenomenex Kinetex)、励起波長340nm、発光波長515nm、サンプル注入1.5μl、カラム温度40℃、検出器感度7、4.0分での取得開始。移動相は、1ml/分の速度による水およびメタノールであった。溶出プログラムは、以下の通りであった:0~5分50%~65%メタノール、5~7.5分65%~75%メタノール、7.5~9.5分75%~87.5%メタノール、9.5~10.5分87.5%~100%メタノール、10.5~11.5分100%メタノール、11.5~13.5分100%~50%メタノール、13.5~16分50%メタノール。
【0128】
株JQSPD_AAは、>400mg/lの濃度でのSpd力価をもたらし、本明細書中で使用する修飾を部分的にのみ有する株と比較して、Spd力価が有意に増大した(国際公開第2016/144247号パンフレットおよび国際公開第2019/013696号パンフレットにおける例を参照)。
【0129】
例2:酵母におけるより高次のポリアミン産生
生命(Life)が、ポリアミンの構造変異体を合成するための多様な経路を進化させてきた。実際に、PutおよびSpdは典型的に、一般的なポリアミンとしてほとんどの細胞に見出される一方、sym-ホモスペルミジン(Hspd)、サーモスペルミン(Tspm)、スペルミン(Spm)、分岐鎖ポリアミン、および長鎖ポリアミン(LCPA)等の珍しいポリアミンもまた自然界で同定されている。例2は、遺伝的モジュール(VII)を設計して、例1のSpdプラットフォーム株JQSPD_AA中に導入することによって、sym-ホモスペルミジン(Hspd)、サーモスペルミン(Tspm)、およびスペルミン(Spm)の生合成を調査した。
【0130】
本発明者らは最初に、植物および細菌の双方に存在するトリアミンHspdを異種合成することに着手した。植物において、Hspdは、ホモスペルミジンシンターゼ(植物HSS;EC2.5.1.45)によって形成されるピロリジジンアルカロイド生合成における第1の経路特異的中間体である。この酵素は、細菌ホモスペルミジンシンターゼ(細菌HSS;EC2.5.1.44)よりも特異的である。これは、後者が、アミノブチル基のドナーとしてPutを使用することができないからである。Hspd微生物産生のための植物および細菌の双方のHSSの可能性を調査するために、酵母におけるHspdの生合成のために設計した遺伝的サブモジュール(VII-a)および(VII-b)が、それぞれハナノボロギク(Senecio vernalis)SvHSSおよびブラストクロリス・ビリディス(Blastochloris viridis)BvHSS13の発現をコードした。サブモジュールを、GenSciptからオーダーした高コピープラスミドSvHSS_p426GPDおよびBvHSS_p426GPDとして導入して、酵母コドン最適化SvHSS遺伝子[配列番号18]およびBvHSS遺伝子[配列番号20]をそれぞれ、Spdプラットフォーム株JQSPD_AA中に保持した。形質転換実験は、例1と同じ手順に従った。結果として生じた株JQSPD_AA(SvHSS_p426GPD)およびJQSPD_AA(BvHSS_p426GPD)を、例1に記載したのと同じ手順で、Hspd産生についてアッセイした。
【0131】
本発明者らは、双方のHSSの過剰発現が、Hspdの生合成を可能にすることを見出した。特に、SvHSSは、40.9mg/でのHspd力価を可能にした一方、BvHSSは、31.1mg/でのHspd力価を可能にした(
図1aおよび
図1d参照)。
【0132】
その後、本発明者らはまた、サブモジュール(VII-c)、サブモジュール(VII-d)、およびサブモジュール(VII-e)を導入することによって、Spdプラットフォーム(例1)をテトラアミンSpmおよびTspmの生成に利用した。Spmは、後生動物、顕花植物、および酵母の全体を通じて見出される最も一般的なテトラアミンである。特定のアミノプロピルトランスフェラーゼ、すなわちスペルミンシンターゼ(SpmSyn;EC2.5.1.22)が、Spm生合成を担っている。本発明者らは最初に、Spm過剰産生のための酵母天然SpmSyn Spe4pを調査した。
【0133】
JQSPD_AAにおいて高コピープラスミドSPE4_p426GPD(サブモジュール(VII-c)としてコドン最適化酵母SPE4[配列番号12]を過剰発現した場合、53.1mg/lのSpmが得られた(
図1cおよび
図1f参照)。本発明者らはまた、JQSPD_AA株において高コピープラスミドAtSPMS_p426GPD(サブモジュール(VII-d))として過剰発現されたAtSPMS[配列番号14]によって、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来のSpmSynを試験した。これにより、Spm(41.8mg/l;
図1cおよび
図1f参照)が産生した。シロイヌナズナ(A.thaliana)由来の植物ACL5アミノプロピルトランスフェラーゼ(TspmSyn;EC2.5.1.79)は、Spm異性体Tspmを合成することが示された。これにより、本発明者らはまた、JQSPD_AA株において高コピープラスミドAtACL5_p426GPD(サブモジュール(VII-e))としてAtACL5[配列番号16]を過剰発現させた。この戦略は、43.8mg/lのTspm産生を可能にした(
図1bおよび
図1e参照)。酵母コドン最適化遺伝子を有するプラスミドは全て、GenScriptから購入した。例2において、例1で使用したのと同じ形質転換および生成物アッセイを使用した。全てのプラスミドを表2に列挙しており、全ての株を表3に列挙している。
【0134】
図5aは、酵母におけるスペルミジンおよびより高次のポリアミンの生合成のための改変した経路を示す。
【0135】
例3:酵母におけるクコアミンの生合成
次に、本発明者らは、クコアミン(ポリメチレンポリアミン骨格で構成される一連の植物ポリアミン類似体、例えばPut、Spd、およびSpm)、および少なくとも1つのジヒドロカフェイン酸断片を合成することに着手した。多用途の生物活性、例えば、抗高血圧症、抗トリパノソーマ、抗脂質過酸化、ならびにリポキシゲナーゼ、消毒、および神経保護に起因して、クコアミンは近年、機能性食品および薬物候補として注目されている。クコアミンは、最初に地骨皮(Cortex Lycii)において発見され、その後、ナス(Solanaceae)科の他の植物、例えば、トマト、ジャガイモ、およびタバコにおいて発見された。ジヒドロカフェオイル部分およびアミン部分のカップリングは、コミットした工程であり、クコアミン生合成への実際のエントリーポイントと考えることができる。しかしながら、これらの植物においてこの反応を媒介する酵素は、これまでほとんど記載されていない。それでも、BAHDアシルトランスフェラーゼスーパーファミリーに属するN-ヒドロシンナモイルトランスフェラーゼのパネルは、補酵素A活性化ヒドロキシケイ皮酸でアミン(-NH2)基をアシル化することによって、ポリアミンのN-アシル化を触媒することが実証された。アシルアクセプターおよびアシルドナーに対するその特異性/無差別性は、植物源に応じて異なる。
【0136】
例3は、複数のN-ヒドロシンナモイルトランスフェラーゼを発現する3つの遺伝的サブモジュールを設計して、例1のSpdプラットフォーム株JQSPD_AA中に導入することによって、クコアミンの生合成を調査した。N-ヒドロシンナモイルトランスフェラーゼは、補酵素A活性化ヒドロキシ桂皮酸のみを受け入れるので、本発明者らはまた、当該モジュールにおいてプロミスキャス4-クマル酸:CoAリガーゼ(EC6.2.1.12)を共発現させた。サブモジュール(VIII-b)は、2つのタンパク質;シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)プロミスキャス4-クマル酸:CoAリガーゼ1(At4CL1)[配列番号2](これは、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)4CLファミリーの他のメンバーと比較して、カフェイン酸をそのCoAエステルに最も効率的に変換することが示されている);およびシロイヌナズナ(A.thaliana)由来のスペルミジンジクマロイルトランスフェラーゼ(AtSCT;EC2.3.1.249)[配列番号8]の共発現をコードした。高コピープラスミドpLAt4CL-AtACTとして構築したこのモジュールは、GenScriptからオーダーし、酵母コドン最適化At4CL1およびAtSCTのための発現カセットを有した。全てのプラスミドを表2に列挙しており、全ての株を表3に列挙している。
【0137】
サブモジュール(VIII-c)は、2つのタンパク質;シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)プロミスキャス4-クマル酸:CoAリガーゼ1(At4CL1)、およびシロイヌナズナ(A.thaliana)由来のスペルミジンヒドロキシシンナモイルトランスフェラーゼ(AtSHT;EC2.3.1M34)[配列番号4]の共発現をコードした。高コピープラスミドpLAt4CL1-AtSHTとして構築したこのモジュールは、GenScriptからオーダーし、酵母コドン最適化At4CL1およびAtSHTのための発現カセットを有した。
【0138】
サブモジュール(VIII-d)は、2つのタンパク質;シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)プロミスキャス4-クマル酸:CoAリガーゼ1(At4CL1)、およびニコチアナ・アッテヌアータ(Nicotiana attenuata)由来のスペルミジンヒドロキシシンナモイルトランスフェラーゼ(NaDH29;EC2.3.1M34)[配列番号6]の共発現をコードした。高コピープラスミドpLAt4CL1-NaDH29として構築したこのモジュールは、GenScriptからオーダーし、酵母コドン最適化At4CL1およびNaDH29のための発現カセットを有した。
【0139】
最後に、サブモジュール(VIII-e)は、2つのタンパク質-シロイヌナズナ(Arabidopsis)属プロミスキャス4-クマル酸:CoAリガーゼ1(At4CL1)およびN.アッテヌアータ(N.attenuata)プトレシンヒドロキシシンナモイルトランスフェラーゼ(NaAT1;EC2.3.1.138)[配列番号10]の共発現をコードした。高コピープラスミドpLAt4CL1-NaAT1として構築したこのモジュールは、GenScriptからオーダーし、酵母コドン最適化At4CL1およびNaAT1のための発現カセットを有した。
【0140】
これらのプラスミドを、例2に記載したのと同じ手順により、Spdプラットフォーム株JQSPD_AA中に形質転換して、それぞれ株JQSPD_AA(pLAt4CL-AtSCT)、JQSPD_AA(pLAt4CL1-AtAHT)、JQSPD_AA(pLAt4CL1-NaDH29)、およびJQSPD_AA(pLAt4CL1-NaAT1)を得た。これらの株を、2mMジヒドロカフェイン酸(3,4-ジヒドロキシヒドロケイ皮酸)を120時間供給することによってアッセイして、増殖培地を、以下の手順に従って、ポリアミン類似体産生について分析した。ポリアミン類似体の検出を、オービトラップ融合質量分析計(Thermo Fisher Scientific,San Jose,CA)に連結したDionex UltiMate 3000 UHPLC(Fisher Scientific,San Jose,CA)での液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)測定によって行った。系は、35℃に保ったAgilent Zorbax Eclipse Plus C18 2.1×100mm、1.8μmカラムを使用した。流量は、アセトニトリル中0.1%ギ酸(A)および0.1%ギ酸(B)(移動相として)を用いて、0.350mL/分であった。勾配は、5%Bとして1分間開始してから、5分まで95%Bへの直線勾配を続けた。この溶媒組成液を1.5分間保持した。その後、これを5%Bに変えて、8分まで保持した。サンプル(5μl)を、加熱エレクトロスプレーイオン化源(HESI)を備えたMSに、陽イオンモードまたは陰イオンモードで通した。シースガスを50(a.u.)に、補助ガスを10(a.u.)に、そしてスイープガスを1(a.u.)にセットした。コーン温度およびプローブ温度は、それぞれ325℃および380℃であり、スプレー電圧は3500Vであった。スキャン範囲は80から500Daであり、スキャン間の時間は50msであった。
【0141】
本発明者らは、これらの努力がクコアミン生合成に至ったことがわかって喜びを感じた。特に、NaDH29株では、310.2128[M+H]
+に相当するm/z値を有する大きな単一のLC-MSピークが検出された(
図2a参照)。このことは、NaDH29が、N
1-またはN
10-ジヒドロカフェオイルスペルミジンの生合成を可能にし、そしてAt4CL1もまた、ジヒドロカフェイン酸を基質として受け入れることができることを示している。また、本発明者らは、AtSCT過剰発現株では、310.2128[M+H]
+に相当するm/z値を有する単一のLC-MSピークを見ることができた。さらに、株JQSPD_AA(pLAt4CL1-NaAT1)にジヒドロカフェイン酸を供給した場合、417.2010[M+H]
+に相当するm/z値を有する大きな単一のLC-MSピークが検出された(
図2b参照)。このことは、NaAT1が、N
1,N
6-ビス(ジヒドロカフェオイル)プトレシンの生合成を可能にしたことを示している。
【0142】
例4:酵母における複雑なフェノールアミドの生合成
ポリアミンプラットフォームにおけるクコアミンの生合成の首尾良い実証は、フェノール部分の、ポリアミンとのコンジュゲーションから生じる窒素含有二次代謝産物の定量的に主要な群を構成する、より多様かつ複雑なフェノールアミドの生合成のために、このプラットフォームをさらに利用する確信を本発明者らに与えた。これにより、例4において、特定のポリアミンN-ヒドロシンナモイルトランスフェラーゼを過剰発現させることによって、複雑なフェノールアミドの生成が可能となった。例3において実証した同じ戦略に従って、本発明者らはまた、これらの株、すなわち、JQSPD_AA(pLAt4CL-AtACT)、JQSPD_AA(pLAt4CL1-AtAHT)、JQSPD_AA(pLAt4CL1-NaDH29)、およびJQSPD_AA(pLAt4CL1-NaAT1)を、2mM p-クマリン酸、2mMコーヒー酸、または2mMフェルラ酸を120時間供給することによってアッセイして、培地を、ポリアミン類似体の産生について分析した。発酵、サンプル調製、またはLC-MS確認手順は、例3のものと同じであった。実際、At4CL1を、AtSCT、AtSHT、またはNaDH29と共発現するJQSPD_AA株に、ヒドロキシ桂皮酸、すなわちp-クマリン酸、コーヒー酸、またはフェルラ酸を供給すると、フェノールアミド生合成がもたらされた。特に、p-クマリン酸を供給した場合、584.2748[M+H]
+に相当するm/z値を有する大きな単一のLC-MSピークが、AtSHT株において検出された(
図3a参照)。このことは、AtSHTが、N
1,N
5,N
10-トリ(クマロイル)スペルミジンの生合成を可能にしたことを示している。同様に、カフェイン酸を供給した場合、632.2599[M+H]
+に相当するm/z値を有する大きな単一のLC-MSピークが、AtSHT株において検出された(
図3b参照)。このことは、AtSHTが、N
1,N
5,N
10-トリ(カフェオイル)スペルミジンの生合成を可能にしたことを示している。さらに、p-クマリン酸を供給した場合、438.2383[M+H]
+に相当するm/z値を有する大きな単一のLC-MSピークが、AtSCT株において検出された(
図3c参照)。このことは、AtSCTが、N
1,N
10-ビス(クマロイル)スペルミジンの生合成を可能にしたことを示している。同様に、カフェイン酸を供給した場合、470.2282[M+H]
+に相当するm/z値を有する大きな単一のLC-MSピークが、AtSCT株において検出された(
図3d参照)。このことは、AtSCTが、N
1,N
10-ビス(カフェオイル)スペルミジンの生合成を可能にしたことを示している。加えて、フェルラ酸を供給した場合、498.2599[M+H]
+に相当するm/z値を有する大きな単一のLC-MSピークが、AtSCT株において検出された(
図3e参照)。このことは、AtSCTが、N
1,N
10-ビス(フェルロイル)スペルミジンの生合成を可能にしたことを示している。これに対応して、NaDH29株にp-クマリン酸、カフェイン酸、またはフェルラ酸を供給すると、それぞれN
1-もしくはN
10-クマロイルスペルミジン、N
1-もしくはN
10-カフェオイルスペルミジン、またはN
1-もしくはN
10-フェルロイルスペルミジンの生合成が首尾良く可能となった。それゆえに、種々の位置選択性を有する様々なN-ヒドロシンナモイルトランスフェラーゼを選択することによって、本発明者らは、一置換、二置換、および三置換スペルミジンフェノールアミドの位置選択的生合成を達成した。同様に、NaAT1株にp-クマリン酸、カフェイン酸、またはフェルラ酸を供給すると、それぞれN
1-クマロイルプトレシン、N
1,N
6-ビス(カフェオイル)プトレシン、N
1-カフェオイルプトレシン、およびN
1-フェルロイルプトレシンの生合成が首尾良く可能となった(
図3f参照)。全てのプラスミドを表2に列挙しており、全ての株を表3に列挙している。
【0143】
例5:酵母共培養物における複雑なフェノールアミドの生合成
例4において、本発明者らは、本発明者らのポリアミンプラットフォーム株に複数の芳香族有機酸、例えば、p-クマリン酸、コーヒー酸、またはフェルラ酸を供給することで、種々のポリアミン由来フェノールアミドの生合成が可能となることを実証した。しかしながら、滴定実験に使用されるこれらの芳香族有機酸は、入手するのが概して高価であり、ある程度、フェノールアミドの生成のためのこの滴定ベースのプロセスの経済的実現可能性が犠牲となる。対照的に、本発明者らは、いかなる芳香族有機酸も供給しないこれらのフェノールアミドのデノボ生成が、経済的に実現可能なバイオプロセスとなり得ると考えている。実際、酵母が挙げられる微生物の代謝工学および合成生物学における最近の進歩は、これらの芳香族有機酸、例えばp-クマリン酸の生成用の多くのプラットフォーム株を既にもたらしている。本発明者らのポリアミンプラットフォームによるポリアミン由来フェノールアミドのデノボ生成の概念を実証するために、本発明者らは、追加の遺伝的モジュールサブモジュール(VIII-f)、p-クマリン酸過剰産生酵母株を、本発明者らの系に導入した。本発明者らはこれを、ポリアミン産生株およびp-クマリン酸過剰産生株を含む合成コンソーシアムを設計することによって実証した。特に、本発明者らは、At4CL1、ならびにAtSHT、AtSCT、NaDH29、およびNaAT1の1つを共過剰発現するJQSPD_AA株を、p-クマリン酸過剰産生株QL58(Liu et al.,2019)と共培養すると、一連のポリアミン-p-クマリン酸コンジュゲート、すなわち、N
1,N
5,N
10-トリ(クマロイル)スペルミジン、N
1,N
10-ビス(クマロイル)スペルミジン、N
1-またはN
10-クマロイルスペルミジン、およびN
1-クマロイルプトレシンのデノボ生合成が生じた(
図4a~
図4c参照)。p-クマリン酸過剰産生株における全てのポジティブ遺伝的標的を、本発明者らのポリアミンプラットフォーム株、例えばJQSPD_AAおよびその誘導体中に導入することによって、本明細書中で使用されるサブモジュール(VIII-f)も、またはこれを代替的に導入することができることを強調しておかなければならない。
【0144】
図5bは、酵母における複雑なフェノールアミドの生合成のための改変した経路を示す。
【0145】
例6:酵母共培養物におけるハロゲン化フェノールアミドの生合成
例5において、本発明者らは、ポリアミン産生株およびp-クマリン酸過剰産生株を含む合成コンソーシアムを設計することによって、天然に存在するポリアミン由来フェノールアミドのデノボ産生、すなわち、唯一の炭素源として単純な糖を用いた産生が達成され得ることを実証した。しかしながら、本発明者らはまた、その天然対応物に加えて、非天然ポリアミン-ヒドロキシ桂皮酸コンジュゲートが、その潜在的に向上した医薬特性について盛んに研究されていることにも気付いた(Mounce et al.,2017;Antoniou et al.,2016)。この探索において注目する主要なファルマコフォアの1つが、ハロゲン化誘導体、例えばフッ素置換基である。なぜなら、有機フッ素は、鉛化合物の吸収、分布、代謝、排泄、および毒性(ADMET)特性に影響を及ぼすことが知られているからである(Muller et al.,2007)。本発明者らは、ヒドロキシ桂皮酸に対する4CLs-NAT系、すなわち4-クマル酸:CoAリガーゼ+N-アシルトランスフェラーゼの観察されるプロミスキュアティが、フッ素置換前駆体に変換されると仮定して、このクラスのフッ素置換ポリアミン-ヒドロキシ桂皮酸コンジュゲートの産生のための生合成アプローチを確立することに着手した。フッ素置換ヒドロキシ桂皮酸にアクセスするために、本発明者らは、芳香族化学物質を過剰産生する株(QL58)を使用して(Liu et al.,2019)、この株にフッ素置換芳香族アミノ酸(3-フルオロ-L-フェニルアラニン)を供給した。これから、3-フルオロ-桂皮酸([M-H]
-=165.0358)、3-フルオロ-p-クマリン酸([M-H]
-=181.0305)、およびフッ素置換水素化p-クマリン酸([M-H]
-=183.0463)の予測m/z値に相当するピークが検出された(
図6a~
図6c参照)。これは、芳香族アミノ酸から芳香族化合物を生合成するためにここで動員された異種経路がプロミスキャスであることを示唆している。その後、ポリアミン過剰産生株(At4CL1、ならびにAtSHT、AtSCT、NaDH29、およびNaAT1の1つを共過剰発現するJQSPD_AA株)および芳香族過剰産生株QL58の双方を含む例5の共培養系に、3-フルオロ-L-フェニルアラニンを補充すると、一連のモノ-およびジ-非天然フッ素置換プトレシン-ヒドロキシ桂皮酸コンジュゲート(
図7a~
図7d参照)、ならびに一覧の一置換、二置換、および三置換非天然フッ素置換スペルミジン-ヒドロキシ桂皮酸コンジュゲート(
図8a~
図8e参照)が得られた。
【0146】
上記の実施形態は、本発明の一部の実例として理解されるべきである。当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、実施形態に対して種々の修正、組合せ、および変更を行うことができることを理解するであろう。特に、異なる実施形態における異なる部分の解決策は、技術的に可能な場合、他の構成で組み合わせることができる。しかしながら、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義される。
【0147】
【配列表フリーテキスト】
【0148】
配列表44~266 <223>プライマー
【配列表】
【国際調査報告】