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特表2022-553792IPSC由来肺胞細胞のハイスループット培養
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-26
(54)【発明の名称】IPSC由来肺胞細胞のハイスループット培養
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20221219BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221219BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20221219BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20221219BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20221219BHJP
   C12M 1/16 20060101ALI20221219BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20221219BHJP
   A61K 35/42 20150101ALI20221219BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20221219BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20221219BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221219BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20221219BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20221219BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/10
C12N1/00 F
C12M1/00 A
C12M3/00 A
C12M1/16
C12N5/0775
A61K35/42
A61K35/545
A61P11/00
A61P43/00 105
A61L27/36 100
A61L27/36 300
A61L27/38 100
A61L27/38 300
A61L27/38 200
A61L27/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022525157
(86)(22)【出願日】2020-10-30
(85)【翻訳文提出日】2022-06-27
(86)【国際出願番号】 US2020058350
(87)【国際公開番号】W WO2021087354
(87)【国際公開日】2021-05-06
(31)【優先権主張番号】62/927,797
(32)【優先日】2019-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/945,834
(32)【優先日】2019-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VISUAL BASIC
(71)【出願人】
【識別番号】592017633
【氏名又は名称】ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153693
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】オット,ハラルド シー.
(72)【発明者】
【氏名】ジェフズ,シドニー
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
4C081
4C087
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB11
4B029CC02
4B029GA03
4B029GB05
4B029GB09
4B065AA90X
4B065AA93X
4B065AB01
4B065BA01
4B065BD40
4B065CA44
4C081AB11
4C081CD34
4C087AA01
4C087AA03
4C087BB55
4C087BB64
4C087CA04
4C087NA14
4C087ZA59
4C087ZB21
(57)【要約】
本明細書において、幹細胞由来の肺胞上皮細胞(AEC)の増殖を大型動物またはヒトの全肺の操作に適合する数にスケール調節することを可能にする浮遊ヒドロゲルドロップレット培養方法、ならびに、ドロップレットを作製するためのモールドおよびこれらを使用する方法が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
増殖した肺胞上皮細胞(AEC)集団を作製する方法であって、
(a)第1のAEC集団を提供するステップ、
(b)前記第1のAEC集団をヒドロゲル前駆体中に混合するステップ、
(c)ドロップレットを形成するために、前記ヒドロゲル前駆体のゲル化を可能にするまたは促進するステップ、および
(d)懸濁液中の前記ドロップレットを前記第1の集団の増殖に十分な移動培地中で培養し、これによって、増殖したAEC集団を作製するステップ
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記第1のAEC集団が、人工多能性幹細胞(iPSC)由来のAECを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記iPSC由来のAECが、
最初のiPSC集団を提供するステップ、
前記iPSCを、胚体内胚葉の分化に十分な条件下で、次いで、前方化した内胚葉の分化に十分な条件下で、次いで、腹側化した内胚葉の分化に十分な条件下で培養し、これによって、iPSC由来のAEC集団を得るステップ、
を含む方法によって得られる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ドロップレットが2~10mmの最大直径を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ヒドロゲルが、天然または合成のヒドロゲル足場である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記天然ヒドロゲル足場が、細胞外マトリックス(ECM)、コラーゲン、フィブリン、骨シアロタンパク質、ビトロネクチン、アルギン酸塩、またはラミニンを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記合成ヒドロゲル足場が、ポリ(2-(メタクリロイルオキシ)エチルジメチル-(3-スルホプロピル)水酸化アンモニウム)(PMEDSAH)、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS)、ポリ(メチルビニルエーテル-alt-無水マレイン酸)、およびポリ(エチレングリコール)(PEG)のヒドロゲルから選択される合成ポリマー足場を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記ヒドロゲルのゲル化を可能にするまたは促進するステップが、前記ヒドロゲル足場の架橋が始まるために十分な温度、化学物質、または光を提供することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記移動培地が、回転培養またはフロー培養である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記増殖したAEC集団が、Nkx2.1およびアクアポリン5(AQP5)またはサーファクタントタンパク質C(SPC)を発現する細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法によって産生される、増殖したAEC集団。
【請求項12】
バイオ人工肺臓を提供する方法であって、
請求項11に記載の増殖したAEC集団を提供するステップと、
気道および血管系を含む(無細胞)肺組織マトリックスを提供するステップと、
前記肺組織マトリックスに、気道を介して、前記増殖したAEC集団を、血管系を介して内皮細胞を、ならびに、気道および血管系の一方または両方を介して間葉系細胞を播種するステップと、
気道および機能的血管系における機能的上皮の形成に十分な条件下で前記マトリックスを維持するステップと
を含む、前記方法。
【請求項13】
ポリマー材料を含むモールド本体を含むモールド器具であって、
前記モールド本体が、第1のキャビティーおよび第2のキャビティーを規定しており、前記第1および第2のキャビティーがそれぞれ0.5mm~5mmの間の半径を有し、組成物を受け取るように構成されており、
前記モールド本体が、前記第1および第2のキャビティーを横切っている縦軸に沿って延びている第1のチャネルをさらに規定しており、ここで、前記第1のチャネルが、前記第1および第2のキャビティー内の組成物の容積量を限定するように構成されている深さ寸法によって規定されている、
前記モールド器具。
【請求項14】
前記ポリマー材料が柔軟である、請求項13に記載のモールド器具。
【請求項15】
複数のキャビティーを規定している柔軟な本体を含むモールド器具であって、
前記複数のキャビティーが、少なくとも第1および第2の行を含む配列パターンを形成しており、ここで、各行が、第1および第2の縦軸に沿って並んだ少なくとも2つ以上のキャビティーをそれぞれ含み、前記第1および第2の縦軸が、分離距離によって互いに離れており、ここで、各キャビティーが、半球状の組成物を形成するように構成されており、そして、前記キャビティーがそれぞれ0.5mm~5mmの間の半径を有し、また、組成物を受け取るように構成されており、ここで、前記キャビティーが、前記第1および第2のキャビティー内の組成物の容積量を限定するように構成されている深さ寸法によって規定されている、前記モールド器具。
【請求項16】
前記柔軟な本体が、ポリマー材料から形成されている、請求項15に記載のモールド器具。
【請求項17】
前記柔軟な材料が、シリコーンおよびポリウレタンからなる群から選択される、請求項13~15のいずれか一項に記載のモールド器具。
【請求項18】
前記ポリマー材料がポリジメチルシロキサン(PDMS)を含む、請求項17に記載のモールド器具。
【請求項19】
各キャビティーが半球状の表面によって規定されている、請求項13~18のいずれか一項に記載のモールド器具。
【請求項20】
各キャビティーが、球状の組成物または半球状の組成物を形成するように構成されている、請求項13~19のいずれか一項に記載のモールド器具。
【請求項21】
前記第1のチャネルが、前記モールド本体の一方の縁から第2の反対側の縁まで延びている、請求項13~20のいずれか一項に記載のモールド器具。
【請求項22】
前記深さ寸法が、各キャビティー内の組成物の容積を約50μL~約150μLの最大容積量に限定するように構成されている、請求項13~21のいずれか一項に記載のモールド器具。
【請求項23】
成型されたゲル組成物を形成する方法であって、
生物製剤を含む液体である組成物を、請求項13~22のいずれか一項に記載のモールド器具のキャビティーに添加するステップ、
前記モールドのキャビティー内で複数の半固体または固体の組成物を形成するステップ、および
前記半固体または固体の組成物を前記モールドの前記キャビティーから取り出すステップ
を含む、前記方法。
【請求項24】
前記液体がヒドロゲル前駆体であり、前記生物製剤が細胞を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記半固体または固体の組成物がヒドロゲルである、請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
前記取り出すステップが、前記モールドの前記本体を曲げることを含む、請求項23~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記半固体または固体の組成物が、所定の形状を保持する、請求項23~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記半固体または固体の組成物が、回転培養において所定の形状を保持する、請求項23~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記半固体または固体の組成物が、少なくとも1日間、少なくとも5日間、または少なくとも10日間、所定の形状を保持する、請求項23~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記半固体または固体の組成物が、球状または半球状である、請求項23~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
ステップ(b)の後に、前記混合物を請求項13~22のいずれか一項に記載のモールド器具に移すステップ、次いで、ステップ(c)における前記ヒドロゲル前駆体のゲル化の後に、前記ドロップレットを前記モールド器具から取り出すステップをさらに含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
請求項31に記載の方法によって産生される、増殖したAEC集団。
【請求項33】
バイオ人工肺臓を提供する方法であって、
請求項32に記載の増殖したAEC集団を提供するステップと、
気道および血管系を含む(無細胞)肺組織マトリックスを提供するステップと、
前記肺組織マトリックスに、気道を介して、前記増殖したAEC集団を、血管系を介して内皮細胞を、ならびに、気道および血管系の一方または両方を介して間葉系細胞を播種するステップと、
気道および機能的血管系における機能的上皮の形成に十分な条件下で前記マトリックスを維持するステップと
を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本願は、2019年10月30日に出願された米国仮特許出願番号第62/927,797号明細書、および2019年12月9日に出願された62/945,834号明細書の利益を主張する。これらの内容全体は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
本明細書において、幹細胞由来の肺胞上皮細胞(AEC)の増殖を大型動物またはヒトの全肺の操作に適合する数にスケール調節することを可能にする浮遊ヒドロゲルドロップレット培養方法、ならびに、ドロップレットを作製するためのモールドおよびこれらを使用する方法が提供される。
【背景技術】
【0003】
人工多能性幹細胞由来の肺胞上皮細胞(iPSC-AEC)は、ヒトの肺上皮のバイオエンジニアリングのための、患者に特異的な細胞源である。疾患のモデリングおよび治療的適用は、費用対効果が高く技術的に可能な分化および増殖プロトコルを必要とする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本明細書において、幹細胞由来の肺胞上皮細胞(AEC)の増殖を大型動物またはヒトの全肺の操作に適合する数にスケール調節することを可能にする浮遊ヒドロゲルドロップレット培養方法が提供される。安定な細胞表現型が、培養増殖および生体模倣肺の培養の両方を介して記録された。これらの方法は、ヒトスケールの全肺臓の作製に使用することができる。
【0005】
したがって、本明細書において、増殖した肺胞上皮細胞(AEC)集団を作製するための方法が提供される。本方法は、(a)第1のAEC集団を提供するステップ、(b)第1のAEC集団をヒドロゲル前駆体中に混合するステップ、(c)ドロップレットを形成するために、ヒドロゲル前駆体のゲル化を可能にするまたは促進するステップ、および(d)懸濁液中のドロップレットを第1の集団の増殖に十分な移動培地中で培養し、これによって、増殖したAEC集団を作製するステップを含む。一部の実施形態において、ステップ(b)の後に、本方法は、混合物を本明細書において記載されるモールド器具に移すステップを含み、その後、ステップ(c)におけるヒドロゲル前駆体のゲル化の後に、ドロップレットをモールド器具から取り出すステップを含む。
【0006】
一部の実施形態において、第1のAEC集団は、人工多能性幹細胞(iPSC)由来のAECを含む。
【0007】
一部の実施形態において、iPSC由来のAECは、最初のiPSC集団を提供するステップ、iPSCを、胚体内胚葉の分化に十分な条件下で、次いで、前方化した(anteriorized)内胚葉の分化に十分な条件下で、次いで、腹側化した内胚葉の分化に十分な条件下で培養し、これによって、iPSC由来のAEC集団を得るステップ、を含む方法によって得られる。
【0008】
一部の実施形態において、ドロップレットは、2~10mmの最大直径を有する。
【0009】
一部の実施形態において、ヒドロゲルは、天然または合成のヒドロゲル足場である。一部の実施形態において、天然ヒドロゲル足場は、細胞外マトリックス(ECM)、コラーゲン、フィブリン、骨シアロタンパク質、ビトロネクチン、アルギン酸塩、またはラミニンを含む。一部の実施形態において、合成ヒドロゲル足場は、ポリ(2-(メタクリロイルオキシ)エチルジメチル-(3-スルホプロピル)水酸化アンモニウム)(PMEDSAH)、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS)、ポリ(メチルビニルエーテル-alt-無水マレイン酸)、およびポリ(エチレングリコール)(PEG)のヒドロゲルから選択される合成ポリマー足場を含む。
【0010】
一部の実施形態において、ヒドロゲルのゲル化を可能にするまたは促進するステップは、ヒドロゲル足場の架橋が始まるために十分な温度、化学物質、または光を提供することを含む。
【0011】
一部の実施形態において、移動培地は、回転培養またはフロー培養である。
【0012】
一部の実施形態において、増殖したAEC集団は、Nkx2.1およびアクアポリン5(AQP5)またはサーファクタントタンパク質C(SPC)を発現する細胞を含む。
【0013】
本明細書において、本明細書において記載される方法によって産生される増殖したAEC集団もまた提供される。
【0014】
さらに、本明細書において、バイオ人工肺臓を提供するための方法が提供される。本方法は、本明細書において記載される方法によって産生される増殖したAEC集団を提供するステップと、気道および血管系を含む(無細胞)肺組織マトリックス(例えば、ヒトまたはブタに由来する)を提供するステップと、肺組織マトリックスに、気道を介して、増殖したAEC集団を、血管系を介して内皮細胞を、ならびに、気道および血管系の一方または両方を介して間葉系細胞を播種するステップと、気道および機能的血管系における機能的上皮の形成に十分な条件下でマトリックスを維持するステップとを含む。また、本明細書において、本明細書において記載される方法によって産生されるバイオ人工肺臓も提供される。
【0015】
さらに、本明細書において、ポリマー材料を含むモールド本体を含むモールド器具が提供され、モールド本体は、第1のキャビティーおよび第2のキャビティーを規定しており、第1および第2のキャビティーはそれぞれ0.5mm~5mmの間の半径を有し、組成物を受け取るように構成されており、モールド本体は、第1および第2のキャビティーを横切っている縦軸に沿って延びている第1のチャネルをさらに規定しており、ここで、第1のチャネルは、第1および第2のキャビティー内の組成物の容積量を限定するように構成されている深さ寸法によって規定されている。一部の実施形態において、ポリマー材料は柔軟である。また、複数のキャビティーを規定している柔軟な本体を含むモールド器具も提供され、複数のキャビティーは、少なくとも第1および第2の行を含む配列パターンを形成しており、ここで、各行は、第1および第2の縦軸に沿って並んだ少なくとも2つ以上のキャビティーをそれぞれ含み、第1および第2の縦軸は、分離距離によって互いに離れており、ここで、各キャビティーは、半球状の組成物を形成するように構成されており、そして、キャビティーはそれぞれ0.5mm~5mmの間の半径を有し、また、組成物を受け取るように構成されており、ここで、キャビティーは、第1および第2のキャビティー内の組成物の容積量を限定するように構成されている深さ寸法によって規定されている。
【0016】
一部の実施形態において、柔軟な本体は、ポリマー材料から形成されている。
【0017】
一部の実施形態において、柔軟な材料は、シリコーンおよびポリウレタンからなる群から選択される。一部の実施形態において、ポリマー材料は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を含む。
【0018】
一部の実施形態において、各キャビティー(例えば、各キャビティーの底)は、半球状の表面によって規定されている。一部の実施形態において、各キャビティーは、球状の組成物または半球状の組成物を形成するように構成されている。一部の実施形態において、第1のチャネルは、モールド本体の一方の縁から第2の反対側の縁まで延びている。
【0019】
一部の実施形態において、深さ寸法は、各キャビティー内の組成物の容積を約50μL~約150μLの最大容積量に限定するように構成されている。
【0020】
また、本明細書において、成型されたゲル組成物を形成する方法であって、生物製剤を含む液体である組成物を、本明細書において記載されるモールド器具のキャビティーに添加するステップ、モールドのキャビティー内で複数の半固体または固体の組成物を形成するステップ、および半固体または固体の組成物をモールドのキャビティーから取り出すステップを含む方法が提供される。
【0021】
一部の実施形態において、液体はヒドロゲル前駆体であり、生物製剤は細胞を含む。
【0022】
一部の実施形態において、半固体または固体の組成物は、ヒドロゲルである。
【0023】
一部の実施形態において、取り出すステップは、モールドの本体を曲げることを含む。
【0024】
一部の実施形態において、半固体または固体の組成物は、例えば回転培養において、例えば、少なくとも1日間、少なくとも5日間、または少なくとも10日間、所定の形状を保持する。
【0025】
一部の実施形態において、半固体または固体の組成物は、球状または半球状である。
【0026】
別段の規定がない限り、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本発明において使用するための方法および材料が本明細書において記載されているが、当技術分野において公知の他の適切な方法および材料もまた使用することができる。材料、方法、および例は例示的なものにすぎず、限定することを意図したものではない。本明細書において言及される全ての刊行物、特許出願、特許、配列、データベースエントリー、および他の参考文献は、参照によってその全体が組み込まれる。矛盾するケースでは、定義を含めて本明細書が優先される。
【0027】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および図面から、また特許請求の範囲から明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】12ウェルプレート内の、細胞含有MATRIGELドロップレットを示す、MATRIGEL接着ドロップレット培養方法を示す図である。
図2】iPSC-AECの増殖後の培養物群の比較を示す図である。(A)浮遊ドロップレット方法(n=4)と接着ドロップレット方法(n=4)との間のMatrigelドロップレット当たりの培養細胞収量の比較であり、浮遊ドロップレット培養方法で細胞増殖が有意に優れていたことを示している。(B)増殖期間直後の、各ドロップレット培養方法に由来する細胞における相対的Ki67遺伝子発現であり、浮遊ドロップレット培養方法でKi67遺伝子発現が有意に増大している(p=0.33)ことを示している。(C)増殖後の、培養方法間のNkx2.1およびSPCの相対的遺伝子発現を比較する定量PCR。接着ドロップレット培養(プレート培養)は有意に高いNkx2.1遺伝子発現を示し(p=0.041)、一方、培養方法間でSPCの同等の遺伝子発現があった。(D~F)それぞれ4倍、20倍、および40倍の倍率での、肺胞球(alveolar spheres)と呼ばれる球状細胞構造の自然発生的な形成を示す、浮遊ドロップレット培養に由来するiPSC由来肺胞の肺細胞のH&E染色画像。データは平均±SEMで表されている。
図3】増殖後のiPSC-AECの表現型の比較を示す図である。(A)接着ドロップレット培養方法に由来するiPSC-AECのフローサイトメトリー分析であり、Nkx2.1およびSPCの発現が保存されたことを示している。(B)浮遊ドロップレット培養方法に由来するiPSC-AECのフローサイトメトリー分析であり、接着ドロップレット培養細胞に類似の表現型を示している。(C~D)接着ドロップレット培養方法および浮遊ドロップレット培養方法にそれぞれ由来するiPSC-AECのフローサイトメトリー分析であり、いずれの培養条件でもAQP5発現があまりないことを示している。
図4】生体模倣肺の培養の後の組織タンパク質発現および組織学的外見を示す図である。(A)IHC染色後の細胞当たりの組織蛍光によって測定されるNkx2.1タンパク質発現であり、両群における肺の間で有意差がない(それぞれについてn=5)ことを示している。(B)IHC染色後の細胞当たりの組織蛍光によって測定されるSPCタンパク質発現であり、浮遊ドロップレット細胞と培養された肺においてSPC発現が有意に低下した(p<0.01)ことを示している。(C)IHC染色後の細胞当たりの組織蛍光によって測定されるAQP5タンパク質発現であり、浮遊ドロップレット細胞と培養された肺においてAQP5発現が有意に増大した(p<0.001)ことを示している。(D~F)それぞれNkx2.1、SPC、およびAQP5についての、生体模倣肺の培養の後の、浮遊ドロップレット細胞と培養された肺のIHC染色画像。青い核染色が各画像において使用されている。(G)増殖期間直後(図2より、ここでは直接的な比較のために示されている)、生体模倣肺培養の6日目、および生体模倣肺培養の12日目の、各ドロップレット培養方法に由来する細胞における、相対的なKi67遺伝子発現であり、生体模倣肺の培養期間を通じての細胞の進行と一致した、Ki67発現の増大を示している。(H~J)それぞれ4倍、20倍、および40倍の倍率での、生体模倣肺の培養の後の、浮遊ドロップレット細胞と培養された肺のH&E染色画像。データは平均±SEMで表されている。
図5】生体模倣肺培養からの馴化培地分析を示す図である。(A)生体模倣肺の培養の間の培地中重炭酸塩の変化であり、全ての時点で重炭酸塩の消費が同等であったことを示している。(B)生体模倣肺の培養に由来する培地において見られた乳酸塩の生成であり、全ての時点で乳酸塩の生成が同等であったことを示している。(C)生体模倣肺培養におけるグルコース消費であり、全ての時点でグルコース消費が同等であったことを示している。(D)生体模倣肺培養の6日目および12日目の両日の、レサズリンアッセイを介して測定された細胞代謝活性であり、両培養方法に由来する肺足場に播種された細胞の細胞代謝活性が同等であったことを示している。データは平均±SEMで表されている。
図6】記載される浮遊ドロップレット培養方法についての合理性を示す図である。(A)細胞含有Matrigelドロップレット当たりの培養細胞収量の比較であり、機械的刺激を伴わない浮遊ドロップレット培養方法では、高速の機械的刺激(35RPMの撹拌、Sp35)を伴う培養と比較して、細胞増殖が有意に優れていたが、中間の機械的刺激を伴うものよりは依然として細胞が少なかったことを示している(図3を参照されたい)。(B)接着ドロップレット培養方法での増殖後のiPSC由来肺胞の肺細胞のフローサイトメトリー分析であり、増殖後にNkx2.1およびSPCの発現が保存されていたことを示している(直接の比較のために図3aより含められている)。(C)機械的刺激または撹拌を伴わない浮遊ドロップレット培養方法での増殖後のiPSC由来肺胞の肺細胞のフローサイトメトリー分析であり、増殖後のNkx2.1およびSPCの発現を示している。(D)高速の(35RPM)機械的刺激を伴う浮遊ドロップレット培養方法での増殖後のiPSC由来肺胞の肺細胞のフローサイトメトリー分析であり、Nkx2.1およびSPCの発現が低下したことを示している。
図7】ヒトiPSCに由来する肺胞球の作製および特徴付けのための方法の典型的な説明を示す図である。この実施例において、BU3-NGST hiPSC(Nkx2.1-GFP、SPC-TdTomato)細胞が使用されている。
図8】典型的なモールド器具を示す図である。具体的には、図8Aはモールドの透視図を示している。図8Bおよび図8Cは、モールドの上面図および側面図をそれぞれ示している。図8Dは、モールドの断面図を示している。
図9-1】本明細書において記載されるモールド器具の様々な例の画像を示す図である。図9Aは、浮遊培養方法のための細胞含有ヒドロゲルドロップレットの形成のために設計された、100uLのウェルを有する柔軟な12ウェルのポリジメチルシロキサン(PDMS)モールドを示す。図9B図9Dは、反復ピペッティングおよび迅速な充填のために設計された96ウェルモールドの画像を示している。ドロップレット形成のためのこの典型的な96ウェルモールドは、マルチチャンネルピペットの使用に適している96ウェルの立体構造である。図9Dは、滅菌モールド内で凝固した液体ゲルを示す。このモールドは、それぞれが6mm直径のウェル内に100μLの、96のドロップレットを示している。モールドはその後、ヒドロゲルを凝固させるために、37℃のインキュベーター内に20分間置かれた。図9Eは、モールドから取り出されたヒドロゲル球を示す。図9Fは、細胞培養培地中の細胞含有ヒドロゲルの浮遊ドロップレットを含有する、磁気撹拌棒を有するフラスコを示す。球状のヒドロゲルドロップレットは、回転培養において7日間以上にわたり球状を維持した。
図9-2】(上記の通り。)
【発明を実施するための形態】
【0029】
現在、米国において1300人を超える患者が、救命のための肺移植を待っている(1)。これらの1300人の患者のうち、およそ300人の患者が、肺の移植を待ちながら死亡することになる(2)。肺移植を受ける幸運な患者では強力な免疫抑制が依然として必要であり、これは高い罹患率と関連している(3)。患者に特異的な細胞集団を利用するオーグメンテーションまたは移植のための肺のバイオエンジニアリングは、ドナー肺の代替物を提供する能力ならびにドナー臓器の不足および免疫抑制の必要性の両方を解決する能力を有する。
【0030】
ガス交換組織を移植することを目的としたあらゆる治療法は、臓器工学であっても、細胞療法の提供であっても、十分な数のヒト肺上皮細胞の利用可能性に依存している。人工多能性幹細胞(iPSC)に由来する数十億の遠位肺上皮細胞が、全肺臓構築物を適切に再細胞化するために必要である。この必要性は、肺系列に分化する能力を持った細胞へのiPSCの分化誘導の使用で解決され得る。最近公開されたプロトコルは、本発明者らの実験室によって、蛍光肺系列マーカーを有するように遺伝子修飾されたiPSC系の分化誘導および蛍光ソーティングを介するII型肺胞上皮細胞(AEC)の再生に適合されている(4~6)。得られた細胞は、接着性の3D Matrigelドロップレット内にカプセル化されると肺胞球を形成して、ヒトiPSCに由来するII型AEC(iPSC-AEC)を生じさせる。II型肺細胞はサーファクタントを分泌し、これは、水性表面の張力の低減を介して肺胞の維持をサポートし、また、ガス交換を促進するI型肺細胞のためのリザーバー前駆細胞集団として機能する(7)。
【0031】
iPSC-AECでの再細胞化に適した細胞外マトリックス(ECM)足場を作製するためのラットまたはヒト肺の灌流-脱細胞が、以前に報告された(8、9)。この概念をヒト肺にスケールアップするには、およそ105億の上皮細胞が必要である(10)。確立されている接着ヒドロゲルドロップレット培養(4)は、培養時間および資源の点で、現在の大規模な臓器再細胞化の能力を限定している。
【0032】
本明細書において記載される方法は、大型動物またはヒトの肺バイオエンジニアリングにスケール調整することができる、iPSC-AEC増殖のための簡潔な細胞培養方法である。Matrigelは、iPSC-AECの分化および分裂増殖をサポートすることが知られているが、その使用に関しては課題がある(8、9、14)。Matrigelは低温でのみ液体であり、37℃ではすぐにゲルに移行し、そのため取り扱いが困難である(14)。本方法は、各ドロップの形成に90秒かかる、以前に記載された方法とは対照的に、三次元のドロップレット構造を維持しながらドロップレットの形成を加速させる(4)。さらに、浮遊ドロップレット方法は、より優れた細胞増殖を可能にする。これは、以前に記載されたiPSC-AEC培養方法に対する改良であり、細胞収量を増大しながら労力および物理的な材料消費を低減させる。
【0033】
本方法は、様々な培養サイズにスケール調整可能である。浮遊ドロップレット培養管または培養培地の容積は、異なる適用に合わせて容易に増大または縮小される。この培養方法は、商業的適用のための大規模なiPSC由来セルファームのために自動化することができる。この浮遊ドロップレット培養システムにおける細胞の表現型の安定性は重要である。iPSC由来の細胞を増殖させる場合の明確な懸念は、分化転換である。SPCの同等の代謝活性および発現が、2つの培養方法に由来する細胞の間で実証されたが、その一方で、細胞培養物の収量と分裂増殖マーカー(Ki67の発現)との両方における有意な増大が、浮遊ドロップレット培養において見られた。肺胞スフェロイドを自然に形成する傾向もまた、浮遊ドロップレット培養に由来する細胞の組織学的再調査で保たれていた。これらの細胞をネイティブなECM生体模倣肺培養物に播種すると、これらは適切に、柱状型の上皮を伴って遠位気道に集合し、レサズリンアッセイ、ならびに生化学的マーカーである重炭酸塩、乳酸塩、およびグルコースによって証明された、同等の代謝活性を伴っていた。
【0034】
分化のためのiPSC-AECのプライミング
iPSC由来のI型AECを確実に分化させるためのプロトコルは確立されていない。Yamamotoらは、II型AECの分化プロトコルを記載する際に偶発的に同定されたiPSC由来のI型AECの亜集団を記載したが、これは、分化した細胞の非常に小さな部分にしか関係していなかった(15)。本研究における興味深い知見は、生体模倣肺培養組織におけるSPCとAQP5との発現の差である。
【0035】
幹細胞由来の肺胞細胞を作製するための方法
本明細書において、幹細胞由来の肺胞細胞を生成するためのスケール調整可能な方法が提供される。本方法は、本明細書において記載される方法を使用して形成されたmatigelドロップレット中で細胞を培養するステップを含む。
【0036】
本方法は、幹細胞、例えば、本明細書において記載される方法を使用して処置される対象に対して自己である初代細胞から例えば作製された、ヒト胚性幹細胞系(例えば、H9、H1)または胚性幹細胞様(ESC様)人工多能性幹細胞(iPSC)に由来する細胞の開始集団を使用して、行うことができる。気道基底細胞、系列陰性肺前駆細胞、クラブ細胞、またはII型肺細胞などの初代細胞もまた使用することができる。
【0037】
iPSCを作製するための方法は、当技術分野において公知である。一部の実施形態において、hiPSCを作製するための方法は、対象、例えば、PDに罹患しており、PDの処置を必要とする対象から初代体細胞集団を得るステップを含み得る。好ましくは、対象は哺乳動物、例えばヒトである。一部の実施形態において、体細胞は線維芽細胞である。線維芽細胞は、公知の生検方法を例えば使用して、哺乳動物の体内の結合組織から、例えば皮膚、例えば、まぶた、耳の後ろ、瘢痕(例えば、腹部の帝王切開瘢痕)、または鼠径部の皮膚から得ることができる(例えば、Fernandes et al., Cytotechnology. 2016 Mar; 68(2): 223-228を参照されたい)。hiPSCのための他の体細胞源としては、毛髪のケラチン生成細胞(Raab et al., Stem Cells Int. 2014;2014:768391)、血球、または骨髄間葉系幹細胞(MSC)(Streckfuss-Bomeke et al., Eur Heart J. 2013 Sep;34(33):2618-29)が含まれる。一部の実施形態において、初代細胞(例えば線維芽細胞)は、iPSCへのリプログラミングの誘導に十分な因子に曝露される(当該因子の存在下で培養される)。末梢血由来の単核球は、患者の血液サンプルから単離され得、人工多能性幹細胞の作製に使用され得る。他の例において、人工多能性幹細胞は、トランスフォーミング増殖因子β(SB431542)、MEK/ERK(PD0325901)、およびRho-キナーゼシグナル伝達(チアゾビビン)などの低分子と組み合わせたOct4、Sox2、Klf4、c-MYCの高い共発現に最適化された構築物を用いたリプログラミングによって得ることができる。Gross et al., Curr Mol Med. 13:765-76 (2013)およびHou et al., Science 341:651:654 (2013)を参照されたい。幹細胞から内皮細胞を作製するための方法は、Reed et al., Br J Clin Pharmacol. 2013 Apr;75(4):897-906において総括されている。臍帯血幹細胞は、新鮮なまたは凍結された臍帯血から単離することができる。間葉系幹細胞は、例えば、未加工の未精製骨髄またはフィコール精製された骨髄から単離することができる。上皮細胞および内皮細胞は、生きているまたは死亡したドナーから、例えば、バイオ人工肺を移植されているであろう対象から、当技術分野において公知の方法に従って単離および回収することができる。例えば、上皮細胞は皮膚組織サンプル(例えばパンチ生検)から得ることができ、また、内皮細胞は血管組織サンプルから得ることができる。
【0038】
他のプログラミングプロトコルも使用することができるが(例えば、当技術分野において公知の、または本明細書において記載される)、好ましい実施形態において、本方法は、俗に山中4因子(Y4F)として知られる4つの転写因子、すなわち、Oct4、Sox2、Klf4、およびL-Mycを導入する(それに接触させるまたはそれを細胞内で発現させる)ステップを含み得る。例えば、Takahashi and Yamanaka, Cell. 2006;126(4):663-676、Takahashi et al., Cell. 2007;131(5):861-872、Yu et al. Science. 2007;318(5858):1917-1920、Park et al., Nature. 2008;451(7175):141-146を参照されたい。一部の実施形態において、本方法はまた、1つまたは複数のmiRNA、例えば(i)少なくとも1つのmiR-302クラスターメンバー、および(ii)少なくとも1つのmiR-200クラスターメンバーに接触させるまたはこれらメンバーを細胞内で発現させるステップも含む。米国特許出願公開第2016/0298089号明細書、およびSong et al., J Clin Invest. 2020;130(2):904-920を参照されたい。
【0039】
幹細胞の開始集団は、例えば図7で示すように、分化誘導を介して肺胞上皮細胞(AEC)に分化させられる。まず、細胞を約4日間、胚体内胚葉に分化させ、その後、約4日間、TGFbアンタゴニスト(例えばA8301)およびBMPアンタゴニスト(例えばIWR-1)の存在下で、前方化した内胚葉に分化させる。細胞を次いで、増殖因子、例えば線維芽細胞増殖因子、例えばFGF-7およびFGF-10、ならびにGSK3阻害剤/WNT経路活性化剤(例えばCHIR99021)の存在下で、約7日間、腹側化した内胚葉に分化させる。以下の表Aおよび表Bは、分化のための多くの代替的なプロトコルを示している。以下の実施例において使用される典型的なプロトコルが、好ましいプロトコルとして示されている。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2-1】
【0042】
【表2-2】
【0043】
1:Mou, H., Zhao, R., Sherwood, R., Ahfeldt, T., Lapey, A., Wain, J., Sicilian, L., Izvolsky, K., Lau, F.H., Musunuru, K. and Cowan, C., 2012. Generation of multipotent lung and airway progenitors from mouse ESCs and patient-specific cystic fibrosis iPSCs. Cell stem cell, 10(4), pp.385-397.
2:Huang, S.X., Islam, M.N., O'neill, J., Hu, Z., Yang, Y.G., Chen, Y.W., Mumau, M., Green, M.D., Vunjak-Novakovic, G., Bhattacharya, J. and Snoeck, H.W., 2014. Efficient generation of lung and airway epithelial cells from human pluripotent stem cells. Nature biotechnology, 32(1), pp.84-91.
3:Jacob, A., Morley, M., Hawkins, F., McCauley, K.B., Jean, J.C., Heins, H., Na, C.L., Weaver, T.E., Vedaie, M., Hurley, K. and Hinds, A., 2017. Differentiation of human pluripotent stem cells into functional lung alveolar epithelial cells. Cell stem cell, 21(4), pp.472-488.
4:Dye, B.R., Hill, D.R., Ferguson, M.A., Tsai, Y.H., Nagy, M.S., Dyal, R., Wells, J.M., Mayhew, C.N., Nattiv, R., Klein, O.D. and White, E.S., 2015. In vitro generation of human pluripotent stem cell derived lung organoids. elife, 4, p.e05098.
【0044】
これらのステップは、標準的な培養方法を使用して、例えば培養皿において行われる。腹側化の後、細胞は、精製のために蛍光活性化セルソーティング(FACS)され得る。例えば、レポータータンパク質を発現する細胞においては、当該レポータータンパク質を使用することができる(本明細書において、Nkx2.1-GFP陽性細胞のソーティングが例示されている)。
【0045】
細胞は次いで、天然の細胞外マトリックス(ECM)、例えば、MATRIGEL(Corning、Corning、NY)、GELTREX LDEV-Free Reduced増殖因子基底膜マトリックス(GIBCO/ThermoFisher)、またはCULTREX基底膜抽出物(BME)(Trevigen)を例えば含む、天然または合成のヒドロゲル足場;コラーゲン(例えばIV型コラーゲン)、フィブリン、骨シアロタンパク質、ビトロネクチン(例えば、VITRONECTIN XF(商標)(STEMCELL Technologies))、アルギン酸塩、またはラミニンを含む、天然足場;ポリ(2-(メタクリロイルオキシ)エチルジメチル-(3-スルホプロピル)水酸化アンモニウム)(PMEDSAH)、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS)、ポリ(メチルビニルエーテル-alt-無水マレイン酸)、またはポリ(エチレングリコール)(PEG)ヒドロゲル(例えば、光架橋されたもしくは酵素架橋されたPEG-ビニルスルホン(PEG-VS)、システインが隣接するMMP感受性の架橋を有する光重合可能なPEGチオール-エンヒドロゲル足場、またはMMP分解性のRGD官能化されたPEGヒドロゲル足場因子であるXIIa介在性の架橋をされたペプチド官能化されたPEGモノマー)を例えば含む、合成ポリマー足場、あるいはこれらの組み合わせに混合される。一部の実施形態において、ペルレカンなどのヘパリン硫酸プロテオグリカンなどのさらなる因子が含まれるか、あるいは、ペプチド、例えば、ラミニン由来ペプチド(YIGSR)、または直鎖状もしくは環状の(シクロ(Arg-Gly-Asp-d-Phe-Lys)(cRGDfK))フィブロネクチン由来Arg-Gly-Asp(RGD)ペプチド、例えば、RGDで官能化された合成ビトロネクチン足場であるSYNTHEMAX(Corning)が、細胞の成長または合成もしくは天然の足場への細胞の接着を促進するために使用される。多くの適切な足場が当技術分野において公知である。例えば、Cruz-Acuna and Garcia, Matrix Biol. 2017 Jan; 57-58():324-333、Murrow et al., Development. 2017;144:998-1007、Murphy et al., Nat Mater. 2014;13:547-557、Nguyen et al., Nat Biomed Eng. 2017; 1: 0096、およびAisenbrey and Murphy, Nature Reviews Materials 5:539-551 (2020)、ならびにこれらにおいて引用されている参考文献を参照されたい。一部の実施形態において、ヒドロゲル足場の組成は、1つまたは複数の増殖因子、例えば、VEGF、FGF(例えばbFGF)、TGFベータ阻害剤、kir、Wnt阻害剤を含む。
【0046】
細胞は、ヒドロゲル足場前駆体(例えば、液体状または半液体状の、すなわち、容易に移せるように十分に流動性がある)に混合され、次いで、混合物は、本明細書において記載されるドロップレットモールドに移され、そして、例えば、選択されたヒドロゲル足場に適した架橋を開始することによって、ゲル化が行われるまたは促進される。ヒドロゲルは、形成されたドロップレットの形状を保持するために十分な弾力および剛性率(剛性)を有する。
【0047】
ドロップレットは三次元である。一部の実施形態において、ドロップレットは、実質的に球状、卵型、円柱状、立方体、または直方体である。一部の実施形態において、ドロップレットの容積は、約50~150μLである。一部の実施形態において、ドロップレットは、1~10mmの直径または幅であり、例えば、3~9mm、5~7mm、または約6mmである。一部の実施形態において、ドロップレットはそれぞれ、約1000~5万個の細胞、例えば約1万~3万個、例えば約2万個の細胞を含む。
【0048】
ゲル化した後、ドロップレットをモールドから取り出し、細胞の増殖をサポートするために十分な培地における、懸濁液培養、例えば、回転培養またはフロー培養に置く。ドロップレットは、所望のレベルまでの細胞集団の分裂増殖(増殖)を可能にするために十分長く、培養において維持することができる。
【0049】
使用方法
増殖した細胞集団は、例えば移植プロトコルにおいて使用することができる。細胞は、直接移植することができるか、または、全肺臓もしくは部分肺臓構築物の再細胞化に使用することができる。肺構築物を作製するための方法は、当技術分野において公知である。例えば、米国特許出願公開第2017/0326273号明細書、米国特許出願公開第2017/0073645号明細書、米国特許第10,624,992号明細書を参照されたい。
【0050】
例えば、細胞は、肺組織マトリックスに播種するために使用することができ、例えば、気道(気管)系(上皮細胞)を介してマトリックスに導入することができる。例えば、組織マトリックスには、増殖したAECをインビトロで、任意の適切な細胞密度で播種することができる。さらに、気道および血管系を含むマトリックスには、気道を介してAECを、血管系を介して内皮細胞を、そして気道および血管系の一方または両方を介して間葉系細胞を、播種することができる。例えば、マトリックスに播種するための細胞密度は、マトリックス1グラム当たり少なくとも1×10個細胞であり得る。細胞密度は、マトリックス1グラム当たり約1×10~約1×1010個細胞の間の範囲(例えば、マトリックス1グラム当たり少なくとも10万、100万、1000万、1億、10億、または100億個細胞)であり得る。
【0051】
一部のケースにおいて、本明細書において提供される脱細胞されたまたは人工の肺組織マトリックスには、例えば重力流または灌流播種によって、上記の細胞型および細胞密度を播種することができる。例えば、フロー灌流系を使用して、組織マトリックスに保存された血管系を介して(例えば動脈系を介して)、脱細胞された肺組織マトリックスに播種することができる。一部のケースにおいて、自動フロー灌流系が、適切な条件下で使用され得る。このような灌流播種方法は、播種の効率を向上させ得、組成物の全体にわたる細胞のさらに均一な分布を提供し得る。定量的な生化学的分析技術および画像分析技術を、静置播種方法または灌流播種方法のいずれかの後の、播種された細胞の分布を評価するために使用することができる。
【0052】
一部のケースにおいて、播種された細胞の増殖を刺激するために、組織マトリックスに1つまたは複数の増殖因子を含浸させるまたは灌流することができる。例えば、組織マトリックスに、本明細書において提供される方法および材料に適した増殖因子、例えば、血管内皮増殖因子(VEGF)、TGF-β増殖因子、骨形成タンパク質(例えば、BMP-1、BMP-4)、血小板由来増殖因子(PDGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(b-FGF)、例えばFGF-10、インスリン様増殖因子(IGF)、上皮増殖因子(EGF)、または増殖分化因子-5(GDF-5)を含浸させるかまたは灌流することができる。例えば、Desai and Cardoso, Respire. Res. 3:2 (2002)を参照されたい。これらの増殖因子は、一次的放出を制御するためにカプセル化することができる。増殖因子刺激の空間的制御を加えるために、足場の異なる部分を異なる増殖因子で増強してよい。本方法において、気道に播種する細胞には、notch阻害剤、例えばガンマセクレターゼ阻害剤を灌流することができる。
【0053】
播種された組織マトリックスは、組織マトリックスへの細胞の接着および浸透を向上させるために、播種後一定期間(例えば、数時間から約14日間以上)にわたりインキュベートしてよい。播種された組織マトリックスは、新生細胞の少なくとも一部が無細胞組織マトリックスの内部および上で増加および/または分化し得る条件下で維持することができる。このような条件としては、限定はしないが、適切な温度(摂氏35~38度)および/または圧力(例えば大気圧)、電気的および/または機械的活性(例えば、呼気終末陽圧が1~20cmH2O、平均気道内圧が5~50cmH2O、そして最大吸気圧が5~65cmH2Oの、陽圧または陰圧を介する換気)、適切なガス、例えばO(1~100%のFiO2)および/またはCO(0~10%のFiCO2)、適切な湿度量(10~100%)、ならびに無菌のまたはほぼ無菌の条件が含まれ得る。このような条件としてはまた、湿潤換気、湿潤から乾燥の換気、および乾燥換気が含まれ得る。一部のケースにおいて、栄養添加物(例えば、栄養、および/またはグルコースなどの炭素源)、外因性ホルモン、または増殖因子を、播種された組織マトリックスに添加してよい。好ましい実施形態において、notch阻害剤、例えばガンマセクレターゼ阻害剤が、気道を介して播種された細胞に添加される(例えば、米国特許第10,624,992号明細書を参照されたい)。組織学および細胞染色を行って、播種された細胞の保持および増殖についてアッセイすることができる。任意の適切な方法を、播種された細胞の分化をアッセイするために行ってよい。通常、本明細書において記載される方法は、例えば本明細書において記載される気道臓器バイオリアクター器具において行われる。
【0054】
したがって、本明細書において記載される方法は、例えばヒト対象に移植するための移植可能なバイオ人工肺組織を作製するために使用することができる。本明細書において記載されるように、移植可能な組織は、患者の血管系に接続することができる十分に無傷の血管系を好ましくは保持する。
【0055】
本明細書において記載されるバイオ人工肺組織は、製品またはキットを作製するためにパッケージ材料と組み合わせてよい。製品を生産するための構成要素および方法は周知である。バイオ人工組織に加えて、製品またはキットは、インビトロでの機能的な肺組織の発生および/またはその後の移植を促進するために、例えば、1つまたは複数の接着防止剤、滅菌水、薬学的担体、バッファー、および/または他の試薬をさらに含み得る。さらに、組成物がどのようにそこに含有されているかを記載した、印刷された指示が、このような製品に含まれていてよい。製品またはキットにおける構成要素は、様々な適切な容器にパッケージされていてよい。
【0056】
上記の全ての、開示の全体は、ここで参照によって本明細書に組み込まれる。
【0057】
バイオ人工肺を使用するための方法
この文献はまた、バイオ人工肺組織を使用するための方法および材料、ならびに一部のケースにおいては肺機能を促進するための方法および材料も提供する。一部の実施形態において、本明細書において提供される方法は、肺能力を損なうまたは低減させる疾患(例えば、嚢胞性線維症、COPD、気腫、肺がん、喘息、肺高血圧、肺外傷、または他の遺伝性もしくは先天性の肺異常、例えば、気管支原性嚢胞、肺無形成および肺低形成、多肺胞葉、肺胞毛細管形成異常、動静脈奇形(AVM)およびシミター症候群を含む肺分画症、肺リンパ管拡張、先天性肺葉性気腫(CLE)、ならびに嚢胞状腺腫様形成異常(CAM)および他の肺嚢胞)を有する患者において一部の肺機能を回復させるために使用することができる。本明細書において提供される方法はまた、対象が、特定の言及された処置、例えば、肺機能の増大、または肺能力の増大もしくは改善が必要であると同定されているものも含む。
【0058】
バイオ人工肺組織(例えば、全臓器またはその一部分)は、本明細書において提供される方法に従って作製することができる。一部の実施形態において、本方法は、本明細書において提供されるバイオ人工肺組織を、それを必要とする対象(例えばヒト患者)に移植するステップを含む。一部の実施形態において、バイオ人工肺組織は、疾患のあるまたは損傷のある組織の部位に移植される。例えば、バイオ人工肺組織は、機能していないまたは機能の悪い肺の代わりに(またはこれと組み合わせて)対象の胸腔に移植することができる。肺移植を行うための方法は、当技術分野において公知であり、例えば、Boasquevisque et al., Surgical Techniques: Lung Transplant and Lung Volume Reduction, Proceedings of the American Thoracic Society 6:66-78 (2009)、Camargo et al., Surgical maneuvers for the management of bronchial complications in lung transplantation, Eur J Cardiothorac Surg 2008;34:1206-1209 (2008)、Yoshida et al., “Surgical Technique of Experimental Lung Transplantation in Rabbits,” Ann Thorac Cardiovasc Surg. 11(1):7-11 (2005)、Venuta et al., Evolving Techniques and Perspectives in Lung Transplantation, Transplantation Proceedings 37(6):2682-2683 (2005)、Yang and Conte, Transplantation Proceedings 32(7):1521-1522 (2000)、Gaissert and Patterson, Surgical Techniques of Single and Bilateral Lung Transplantation in The Transplantation and Replacement of Thoracic Organs, 2d ed. Springer Netherlands (1996)を参照されたい。
【0059】
本方法は、本明細書において提供されるバイオ人工肺またはその部分を、対象の肺を部分的にもしくは完全に除去するための外科手順の間、および/または肺切除の間に移植するステップを含み得る。本方法はまた、肺またはその部分を生きているドナーまたは死体から採取するステップ、および本明細書において記載されるバイオリアクター内で肺を保存または再生するステップも含み得る。一部のケースにおいて、本明細書において提供される方法は、対象、例えばヒトまたは動物対象における肺の組織および機能に置き換わるまたはそれを補うために使用され得る。
【0060】
任意の適切な方法を行って、移植前または移植後の肺機能をアッセイすることができる。例えば、組織の治癒を評価するため、機能性を評価するため、および細胞の内殖を評価するために、本方法を行うことができる。一部のケースにおいて、組織部分は、回収し、例えば中性の緩衝されたホルマリンなどの固定剤で処理してよい。このような組織部分は、脱水し、パラフィン包埋し、そして組織学的分析のためにミクロトームで切片化してよい。切片は、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色し、次いで、形態学および細胞充実性の微視的評価のためにガラススライドに載せてよい。例えば、組織学および細胞染色は、播種された細胞の増殖を検出するために行うことができる。アッセイとしては、移植された組織マトリックスの機能的評価または画像化技術(例えば、コンピュータ断層撮影(CT)、超音波、もしくは磁気共鳴イメージング(例えば、造影増強MRI))が含まれ得る。アッセイとしてはさらに、休息下および生理学的ストレス下での機能的試験(例えば、体プレチスモグラフィー、肺機能試験)が含まれ得る。細胞を播種されたマトリックスの機能性は、当技術分野において公知の方法、例えば、組織学、電子顕微鏡法、および機械的試験(例えば、容積およびコンプライアンスの)を使用してアッセイすることができる。ガス交換は、別の機能性アッセイとして測定され得る。細胞の分裂増殖をアッセイするために、チミジンキナーゼ活性を、例えばチミジンの組み込みを検出することによって測定することができる。一部のケースにおいて、血中の酸素レベルに基づいて肺機能を評価するために、血液検査を行うことができる。
【0061】
培養の間の機能性アッセイを容易にするために、本明細書において記載される全てのバイオリアクター器具系は、機能性パラメータ(例えば、pH、グルコース、乳酸塩、Na、K、Ca、Cl、重炭酸塩、O、CO、飽和度(sat))の単回のまたはリアルタイムの測定を可能にするためのサンプリングポートを含み得る。代謝産物もまた、比色分析アッセイを使用して細胞数および生存能力をモニタリングするために使用してよく、また、生化学的アッセイを使用して、細胞の成熟をモニタリングすることができる(例えば、サーファクタントタンパク質などを測定する)。例えば、サーファクタント濃度の増大は、培養肺が乾燥換気に耐えるために十分な上皮細胞を有していることを示し得る。一部のケースにおいて、内皮のバリア機能を、血管成熟度のマーカーとして使用することができる。肺には、異なるサイズの分子(規定されたサイズのデキストラン、およびアルブミンなど)、およびマイクロビーズ(0.2~5umまでの増大サイズ)、ならびに単離された赤血球を灌流してよい。気管支肺胞洗浄液を次いで、肺胞腔へのこれらのマーカーの漏出を評価するためにサンプリングしてよい。例えば、500kDaのデキストランを気管支肺胞洗浄アッセイと組み合わせて使用して、血管区画内に保持されたデキストランのパーセンテージを決定してよい。デキストランに対するバリア機能は、生存能力があり機能的な内皮に依存し、一方、デキストランは、固定性灌流の際に、時間とともに、(例えば無細胞肺における)露出した血管基底膜の全体に拡散するため、保持されたデキストランのパーセンテージの増大はバリア機能の向上を示す。例えば、死体の肺は、血管区画内のデキストランのほぼ全てを保持し得るが、一方、無細胞肺は、わずかなパーセンテージのデキストラン(例えば、10.0%±8.0%)を保持し得る。最小耐量(例えば、>10%の4umマイクロビーズ、または20%超の0.2umマイクロビーズ)を超える、肺胞腔へのこれらのマーカーの漏出は、肺が乾燥換気に耐えるのに十分には成熟していないことを示すために使用され得る。
【0062】
一部のケースにおいて、RT-PCRなどの分子生物学的技術を使用して、代謝マーカー(例えば、サーファクタントタンパク質、ムチン-1)および分化マーカー(例えば、TTF-1、p63、サーファクタントタンパク質C)の発現を定量することができる。任意の適切なRT-PCRプロトコルを使用することができる。簡潔に述べると、生体サンプル(例えば腱サンプル)をホモジナイズし、クロロホルム抽出を行い、そして回転カラム(例えば、RNeasy(登録商標)Mini回転カラム(QIAGEN、Valencia、CA))または他の核酸結合基質を使用して全RNAを抽出することによって、全RNAを回収することができる。他のケースでは、肺細胞型およびこのような細胞型の異なる分化段階に関連するマーカーを、抗体および標準的な免疫アッセイを使用して検出することができる。
【0063】
気道臓器バイオリアクター器具
典型的な気道臓器バイオリアクターおよびこれらを使用する方法は、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる国際公開第2015/138999号パンフレットにおいて記載されている。他の典型的なバイオリアクターは、Charest et al., Biomaterials. 2015 Jun;52:79-87. doi: 10.1016/j.biomaterials.2015.02.016、Gilpin et al., Ann Thorac Surg. 2014 Nov;98(5):1721-9; discussion 1729. doi: 10.1016/j.athoracsur.2014.05.080、Price et al., Tissue Eng Part A 2010;16(8):2581-91、Petersen et al., Cell Transplant 2011;20(7):1117-26、Bonvillain et al., J Vis Exp 2013;(82):e50825、Nichols et al., J Tissue Eng Regen Med. 2016 Jan 12. doi: 10.1002/term.2113において記載されている。
【0064】
モールド器具
本明細書において、生物製剤(例えば細胞)を含有する複数の成型された固体または半固体の組成物を形成するように構成されたモールド器具が提供される。例えば、本明細書において記載される複数のキャビティー(例えばウェル)を有するモールド本体は、本明細書において記載される細胞含有ヒドロゲルドロップレットなどの半固体または固体の生物学的組成物(例えばゲル)をハイスループット形成するように構成されていてよい。本明細書において記載されるモールド器具の本体は、有利にモールドが固定され、これによって、モールドされた組成物のキャビティー内での放出が容易となる、柔軟な材料で作製されていてよい。一部のケースにおいて、本明細書において記載されるモールド器具は、対象において有害反応を生じさせ得る構成要素を導入することなく、成型された材料を有利に生産するために、生体適合性である材料で作製されていてよい。一部のケースにおいて、モールド器具は、ストレス、または滅菌(例えばオートクレーブ処理を使用する)などの発熱プロセスに耐え得る化学的、熱的、および/または機械的特性を有する材料で作製される。
【0065】
図8A図8Dは、本明細書において提供されるモールド器具800の例を示している。図8Aは、モールド器具800の透視図を示している。図8Aのモールド器具800の全体的な形状は、複数のキャビティーユニットまたはキャビティー(本明細書において「ウェル」とも呼ばれる)を含む、長方形状のブロックである。ブロックは、必要に応じて調整可能な長さ、幅、および高さの寸法を有する。一部のケースにおいて、モールド器具の全体的な形状は、様々な形状、例えば、多角形(例えば四角形の形状)または曲がった(例えば、卵型もしくは球状の)形状に形成され得る。
【0066】
一部の実施形態において、モールド器具800は、1つまたは複数の耐熱性の材料で構成されている。例えば、一部のケースにおいて、モールドは、約135℃以上(例えば、約121℃以上、約127℃以上)の温度で塑性変形しない1つまたは複数の材料から作製することができる。一部の実施形態において、モールド器具は、耐圧性の1つまたは複数の材料で作製されている。例えば、一部のケースにおいて、モールドは、約15psi以上(例えば、約10psi以上、または約12psi以上)の圧力をかけられた場合に塑性変形しない材料で作製することができる。モールドは、有利にモールドを熱殺菌または化学殺菌処理、例えば、オートクレーブまたは他の滅菌処理に適合するようにする材料で作製することができる。一部の実施形態において、モールドは、生物学的におよび/または化学的に不活性の材料で作製することができる。
【0067】
様々な実施形態において、本明細書において提供されるモールドは、柔軟なモールドであり得る。あるいは、モールドは剛性であり得る。一部の実施形態において、モールドの材料は、1つまたは複数のポリマーを含み得る。一部の実施形態において、材料は、1つまたは複数のエラストマーを含み得る。一部の実施形態において、材料は、ポリウレタン、例えば、熱可塑性ポリウレタン(TPU)である。一部の実施形態において、材料は、シリコーン、またはシリコンベースの材料、例えばポリジメチルシロキサン(PDMS)である。一部の実施形態において、材料は、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(PEGDA)、環状オレフィンコポリマー(COP)、または環状オレフィンポリマー(COP)である。モールドが剛性である場合、代替的な方法を使用して、例えば、ドロップレットをウェルから押し出すためのワイヤー、針、もしくはプランジャーの挿入を可能にする、または、ゲル化したドロップレットをウェルから吹き飛ばすための空気圧の導入を可能にする、各ウェルの底からモールドの背部または底へ走る狭いチャネルを含めることを使用して、ウェルからドロップレットを取り出すことができる。
【0068】
依然として図8A図8Dを参照して、モールド器具800は、モールド器具800の第1の表面802(例えば上面)に構築された、多くの半球状のウェル810を含む。ウェル810は、上面802の長さに沿って平行な行に配置され得る。例えば、示されているように、図8Aのモールド器具800は、全部で12のウェル810となるそれぞれ6ウェルの2つの平行な行を含む。例えば12、48、96などの、任意の数のウェルを含めることができる。ウェルの数は、ヒドロゲル前駆体および細胞をウェルに導入するために使用される自動アリコート装置に適合するように選択することができる。直線状のチャネル813は、モールド器具800の上面802に広がって、上面802の両縁を接続し、それぞれの行のウェル810を二分し、各ウェル810を隣の行の隣のウェル810に接続している。一部の実施形態において、ウェル810aはウェル810bに接続されており、モールド800の右上縁は、チャネル813を介して左縁に接続されている。チャネル813は、モールド810の上面802からウェル810の深さよりも短い深さまで延びていてよく、これによって、液体がウェル810に入れられると、液体は、各ウェル810を、ウェル810の深さとチャネル813の深さとの間の差に対応する最大高さまで満たす。この最大高さを超えた液体は、チャネル813に沿って、接続されたウェル810に向かって、またはモールド800の縁に向かって流れ得る。この様式で、各ウェル810は、有利には、ほぼ同量の液体で満たされ得、ほぼ同じサイズの複数のドロップレットを生じさせる。材料(例えば、細胞およびヒドロゲル前駆体を含む液体組成物)は、ウェル810に入れられ、そして、ウェル810の内壁によって成型される半固体または固体の形態に凝固(例えば、ゲル化、ポリマー化によって)され得る。一部のケースにおいて、材料は、半球状のウェルに入れられ、材料が凝固した後、半球状に形成され得る。モールド器具800のウェル810は、幾何学的なまたは曲線のある形状を含む様々な異なる形状に成型され得る。例えば、ウェル810は、立方体、円柱状、直角プリズム、半卵型、または半楕円形の形状に成型され得る。
【0069】
図8Aの例示的なモールド器具800は、チャネル813と並行して走り、ウェル810をサブグループに分ける、溝814をさらに含む。例えば、モールド器具800は、12のウェル810をそれぞれ4つのウェル910からなる3つのサブグループに分ける、2つの溝814を含む。溝814は、チャネル813よりも大きな深さおよび幅を有し、モールド器具800の片側の表面から反対側の表面まで延びている。モールド800の縦軸に垂直に並べられた溝814は、同一軸に沿った柔軟性をもたらす。
【0070】
モールド器具800またはその構成要素の寸法は、必要に応じて調整してよい。例えば、一部のケースにおいて、モールド器具800の寸法は、ミリメートルまたはセンチメートルスケールの範囲であり得る。例えば、モールド器具800の縦の長さおよび幅は、約10mm~約100mmの範囲であり得、最大約10~20cmであり得る。一部のケースにおいて、モールドの長さは約30mm~約60mmの範囲であり得、幅は約10~約40mmの範囲であり得る。一部のケースにおいて、モールドの長さは約8cm~約10cmの範囲であり得、幅は約4cm~約8cmの範囲であり得る。チャネル813の幅wは、約0.1mm~約3mm(例えば、約0.5~約2mm、または約0.1~約1mm)の範囲であり得、溝814の幅wは、約0.1mm~約3mm(例えば、約0.5~約1mm、約1mm~約2mm、または約0.75~約1.5mm)の範囲であり得る。モールド器具800の溝814は、モールド800のそれぞれの端から約10mm~約25mm離れていてよい。モールド器具800の各ウェル810は、同一の横方向の寸法(例えば半径)を有し得る。半径rは、0.5mm~5mmの間、例えば2mm~4mmの間(例えば、2.5mm~4mmの間、3mm~4mmの間、3.5mm~4mmの間、2mm~3.5mmの間、2mm~3mmの間、または2mm~2.5mmの間)であり得る。ウェルの中心軸は、隣のウェルの中心軸から約5~約20mm離れていてよい(例えば、中心間の距離、分離距離、またはピッチ)。一部の実施形態において、モールド器具800の各ウェル810は、ウェル810の直径(例えば、2×r)にほぼ等しい深さ、例えば約0.5~5mmを有し得、場合によって、チャネル813の深さを足した深さを有し得る。
【0071】
図8A図8Dを依然として参照して、モールド器具800は、モールド800の幅にわたって延びているチャネル813を含み得る。一部の実施形態において、モールド器具800はまた、上面802からモールド器具800の全高よりも短い所望の深さまで延びる溝814を場合によって含み得る。一部の実施形態において、溝814は、モールド本体中へと、上面802からウェル810の深さにほぼ等しい深さまで延びていてよい。溝814は、有利には、選択されたウェル行と平行な方向に延びている細長い屈曲するラインを提供し得る。モールド800は、加圧されて溝に対して横方向に屈曲して、ウェル内に含まれている組成物を放出すること(例えば、モールドの表面からゲルの表面を分離させること)を助け、および、その後のウェルからの組成物の取り出しを容易にする。一部のケースにおいて、モールド800は、ウェルの壁の中の組成物を離すように屈曲し得、モールド800からの組成物の取り出しを容易にするように裏返ることができる。
【0072】
図8Dは、図8Cで示す線830に沿ったモールド器具800の断面プロファイルを示している。示されているように、モールド器具800の半球状のウェル810aは、モールド800の上面802まで延びており、2つの幾何学的部分、すなわち上部811および下部812において構築されている。上部811は、モールドの、ウェル810がチャネル813と交差しているセクションでは、円柱状に成型されている。下部812は、チャネル813の下で半球状である(示されていないが、一部の実施形態において、チャネル813の下にある下部は、半球状の部分より上の円柱状の部分を含んでいてよい)。溝814は、モールド器具800の上面802からウェル810にほぼ等しい深さまで延びていてよい。ウェル810の円柱状の上部811の半径は、ウェル810の下部の半球状部分812の半径にほぼ等しくてよい。ウェル、例えば、半球状部分812および場合によって円柱状部分811の一部を含む、チャネル810との交差の下のウェル810の部分は、約50μL~約150μL(例えば、約60μL~約150μL、約80μL~約150μL、約800μL~約150μL、約120μL~約150μL、約140μL~約150μL、約50μL~約140μL、約50μL~約120μL、約50μL~約800μL、約50μL~約80μL、または約50μL~約60μL)の内部容積を有し得る。
【0073】
図9A図9Fは、本明細書において記載されるモールド器具の様々な例の画像を示している。上記のように、モールドは、異なる寸法および様々な数のウェルを伴って構築されていてよい。例えば、図9Aは、約100uLの内部容積を有する12のウェル910を含む、PDMSで構成されたモールド900を示している。別の実施例において、図9Bは、96のウェル910を含む長方形のブロックを有するモールド901を示している。一部の実施形態において、モールドは、選択された平行なウェルの行の間の溝を場合によって含み得る(図9Aにおいて要素914として示されている)。ウェル910は、例えば9mm~14mmの間のマルチチャネルピペッターを収容し得るピッチ深さを有するように構成され得る。ウェル910のピッチは、反復ピペッティングおよび迅速な充填を可能にするように構成され得る。
【0074】
本明細書において記載されるモールド器具は、ピペットを受け取るように構成されたさらなる開口部を場合によって規定していてよい。例えば、図9Cに示すように、例示的なモールド器具901は、モールド901の一方の端で、ウェル910の行と並んでいる8つのピペットチップ940を受け取り、保持するように設計されている。
【0075】
本明細書において記載されるモールドは、以下のステップを使用して半固体または固体の成型された組成物を形成するために使用することができる。モールド器具901のウェル910(図9Bを参照されたい)は、図9Cに示すように液体組成物950で満たされ得る。ウェル910が満たされた後、組成物950は、所定の時間にわたり凝固し、ゲル(例えばヒドロゲル)などの半固体または固体の組成物となる。一部の実施形態において、充填されたモールドは、所定の時間にわたりインキュベートしてよい。組成物950が凝固したら、組成物950は、所望の形状に形成され得る。一部のケースにおいて、組成物950は、半球状または球状に凝固され得る。一部のケースにおいて、組成物950は、ヒドロゲル球を形成し得る。図9Cのモールド901は、ある量の組成物950が88のウェルに入れられた後を示している。一部の実施形態において、図9C図9Fに示すように、ゲル材料は、本明細書において記載されるヒドロゲル足場である(例えば、MATRIGEL)。
【0076】
一部の実施形態において、モールド器具910を屈曲させて、ウェル910の形状を変形させ、組成物950を取り出すことによって、組成物950をウェル910から取り出すことができる。
【0077】
一部の実施形態において、図9Eに示すように、抽出ツール960は、凝固した組成物950をモールド器具901から取り出すために使用され得る。凝固した組成物950は、半球状のウェルから取り出された後も球状を保持していることが示されている。一部のケースにおいて、凝固した組成物950は、モールドから取り出された後、特定の時間にわたりその形状を維持し得る。一部のケースにおいて、凝固した組成物950は、例えば本明細書において記載されるように所定の時間にわたり回転培養に供されるなど、さらなる処理にかけられ得る。図9Fに示すように、MATRIGEL組成物950は、回転培養の7日後に球状を維持し得た。一部の実施形態において、組成物950は、少なくとも1日以上(例えば、5日間以上または10日間以上)にわたり、それらの所定の形状を保持し得る。
【実施例
【0078】
本発明は、以下の実施例においてさらに記載され、当該実施例は、特許請求の範囲において記載されている本発明の範囲を限定するものではない。
【0079】
材料および方法
別段の記載がない限り、以下の材料および方法が以下の実施例において使用された。
【0080】
iPSCの分化
Nkx2.1-GFPレポーターおよびSPC-TdTomatoレポーターを有するBU3 iPSC系を、Darrell N.Kotton、M.D.から入手した(4、5)。これらの細胞は、分かっている遺伝子異常がないドナーに由来するものであった(11)。この細胞系は、遺伝子編集の前後両方でのGバンド分染法によると、正常な核型を有していた(5)。
【0081】
iPSCの分化を、変更を伴う、以前に公開された方法に従って行った(4、12)。簡潔に述べると、肺上皮前駆細胞マーカーおよび肺胞2型細胞マーカーの2つの蛍光レポーター、それぞれNkx2.1-GFPおよびサーファクタントタンパク質C(SPC)-TdTomatoを有する、BU3-NGST iPSCを、mTESR培地中で維持した(Stemcell Technologies、Vancouver、Canada)。細胞が60~70%のコンフルエンシーに達したら、肺の発生段階を模倣する段階的な分化手順を開始した。全ての分化ステップのための基礎培地は、B-27(Gibco、Waltham、MA)を添加したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)/F21(Gibco、Waltham、MA)であった。まず、細胞を、StemDiffキット(Stemcell Technologies、Vancouver、Canada)を使用して4日間、胚体内胚葉に分化させ、その後、4日間、1μMのA8301(Sigma、St.Louis、MO)および1μMのIWR-1(Sigma、St.Louis、MO)を使用して、前方化した内胚葉に分化させた。細胞を次いで、10ng/mLのFGF-7(Peprotech、Rocky Hill、NJ)、10ng/mLのFGF-10(Peprotech、Rocky Hill、NJ)、および3μMのCHIR99021(Tocris、Bristol、UK)に7日間曝露することによって、腹側化した内胚葉に分化させた。腹側化の後、細胞をDAPI(Sigma、St.Louis、MO)で染色し、Nkx2.1-GFP陽性細胞の精製のために蛍光活性化セルソーティング(FACS)を行った。
【0082】
ソーティングされたNkx2.1+細胞を100%Matrigel(Corning、Corning、NY)ドロップに包埋して、肺胞球を形成した。均質な液体前駆体を100μLのドロップに等しく分け、12ウェルのプラスチック培養プレートに載せた。肺胞球の形成、維持、および増殖のための培養培地(増殖培地)は、以下の組成を有していた:50%の培地199(Life Technologies、Carlsbad、CA)、49%のDMEM/F12(Life Technologies、Carlsbad、CA)、2%のウシ胎児血清(FBS)(Hyclone、Logan、UT)、B-27(Life Technologies、Carlsbad、CA)、10ng/mLのFGF-7、10ng/mLのFGF-10、3μMのCHIR99021、0.1mMのIBMX(Sigma、St.Louis、MO)、0.1mMの8-ブロモ-cAMP(Sigma、St.Louis、MO)、50nMのデキサメタゾン(Sigma、St.Louis、MO)、10μMのY-27632(Cayman Chemical、Ann Arbor、MI)、および50μg/mLのアスコルビン酸(Stemcell Technology、Vancouver、Canada)。ドロップレットを7~14日間培養し、その後、Matrigelドロップレットをディスパーゼ(Corning、Corning、NY)で消化した。残っている細胞球をトリプシン処理し、GFP+TdTomato+細胞についてFACSを行った。これらのiPSC-AECをさらなる増殖に使用した。
【0083】
死体ラットの肺
全ての動物研究は、マサチューセッツ総合病院動物実験委員会のプロトコル(Massachusetts General Hospital Institutional Animal Care and Use Committee Protocol)第2014N000261号によって承認されており、実験動物の管理と使用に関する指針(The Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)に従って行った。ラットの肺を、非近交の成体オスSprague-Dawleyラット(300~400g、Charles River Laboratories、Wilmington、MA)から外植した。使用の前、全てのラットはつがいで飼育し、飼料および水へのアクセスは無制限とした。動物を5%イソフルランで麻酔し、開腹術を行い、下大静脈を介してヘパリンを血管内に投与し、そして、承認されたプロトコルに従った瀉血によって動物を屠殺した。胸骨切開術を次いで行い、以前に記載されているように肺を外植した(13)。
【0084】
浮遊ドロップレット細胞培養
懸濁細胞を有するMatrigelを、それぞれおよそ2万個の細胞を含有する100μLのドロップに等しく分けた。ドロップを特注のポリジメチルシロキサン(PDMS)(Sigma、St.Louis、MO)モールドに載せ(図9A、C~D)、37℃で20分間ゲル化させた。ゲル化した細胞含有スフェロイドを磁気スピナーフラスコに移し、これを1mL/ドロップレットの増殖培地で満たした(図9F)。浮遊ドロップレット培養方法を、0、17.5回転毎分(RPM)および35RPMで試験した。許容可能な表現型安定性および細胞増殖特性に基づいて、17.5RPMの回転速度を選択した(図6A~D)。肺足場の再細胞化実験のために、17.5RPM設定で得た50個のドロップを、各8日間の増殖期間で培養した。培養の8日後、分析および肺足場の播種の前に、Matrigelドロップをディスパーゼで消化し、肺胞球をトリプシン処理して、単一細胞の懸濁液を作製した。
【0085】
接着ドロップレット細胞培養
懸濁細胞を有する、Matrigelベースの均質な液体前駆体を、それぞれおよそ2万個の細胞を含有する100μLのドロップに等しく分けた。ドロップを12ウェルプレートの個別のウェル内の組織培養プラスチックに載せ、37℃で20分間ゲル化させた(図1)。ゲルドロップの安定性を確認した後、1mLの増殖培地を各ウェルに添加し、プレートを37℃、5%COのインキュベーター内に置いた。50個のドロップを、各8日間の増殖期間で培養した。8日間の培養の後、分析および肺足場の播種の前に、Matrigelドロップをディスパーゼ(Corning、Corning、NY)で消化し、肺胞球をトリプシン処理して、単一細胞の懸濁液を作製した。
【0086】
ラット肺の脱細胞
死体ラットの肺を、以前に記載されているように脱細胞した(13)。簡潔に述べると、ラットの肺を、非近交の成体オスSprague-Dawleyラットから外植した。肺動脈(PA)を、右心室流出路を介してカニューレ処置し、その後、気管カニュレーションを行った。肺を、0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)(Fisher Scientific、Waltham、MA)溶液で、PAカニューレを介して2時間灌流した。肺足場を次いで、全てPAカニューレを介して、滅菌脱イオン水で15分間灌流し、その後、1%トリトンX-100(Fisher Scientific、Waltham、MA)で灌流した。最後に、使用前のその後の48時間にわたり、脱細胞された肺足場を最低でも3Lのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄した。
【0087】
培養のための肺の播種
左肺切除の後、ラット肺足場を、37℃、5%COのインキュベーター内で1mL/分の流量で最低でも1時間灌流した100mLの肺胞球増殖培地で事前に充填した特注のバイオリアクターに載せた。4000万個のiPSC-AECを、気管カニューレを介して、50mLの増殖培地とともに、それぞれの右肺の気道に重力播種した。播種した後、PA灌流を90分間停止して、足場への細胞の接着を促進する静置培養期間とした。灌流を、次の16時間にわたり1mL/分で再開し、次いで、残りの生体模倣型培養期間では3mL/分に増やした。培養培地を12日間の培養期間の間、48時間ごとに交換した。右上肺葉および中肺葉の切除を、播種後6日目に行った。RNA分析のための組織をトリゾール(Fisher Scientific、Waltham、MA)中に保存し、組織学的分析のための組織を、4%パラホルムアルデヒド(PFA)(Westnet、Canton、MA)で24時間固定した。播種後12日目に、下葉および副肺葉を、気管カニューレを介して、4%PFAで24時間、灌流固定した。
【0088】
レサズリンアッセイ
レサズリン細胞代謝アッセイを、以前に記載されているように行った(7)。簡潔に述べると、80mLの使用済み培地をPrestoBlue(Invitrogen、Waltham、MA)と1:20希釈で混合した。4つのPrestoBlue混合物サンプルを、コントールとして96ウェル平底プレートに取っておいた。混合物を次いで、実験12日目に1時間、生体模倣肺培養に灌流した。完了したら、使用済み培地を4回サンプリングし、SpectraMax M3マルチモードマイクロプレートリーダー(Molecular Devices、Sunnyvale、CA)で測定した。サンプルとコントロールとの間の蛍光の差を、代謝活性に対して補正した。
【0089】
組織学的染色および分析
肺胞球をHistogel(ThermoFisher、Waltham、MA)に包埋し、切片化の前にパラフィン包埋した。固定された組織切片をパラフィン包埋し、切片化した。ガラススライドに載せた組織切片または細胞切片を、明視野イメージングのために、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。免疫蛍光染色のためにガラススライドに載せた組織切片を、クエン酸ナトリウム溶液で高温および高圧力で抗原賦活化し、0.2%トリトンX-100で透過処理した。切片を次いで、10%ウシ胎児血清(FBS)および5%ロバ血清(DS)(Sigma、St.Louis、MO)でブロックした。一次抗体を一晩、4℃で、0.5%DS溶液を有するトリス緩衝生理食塩水(TBS)中でインキュベートし、次いで、TBS(1:50、Nkx2.1:ab72876、Abcam、Cambridge、UK;1:200 SPC:ab3786、Abcam;1:100 AQP5:ab92320、Abcam)で洗浄した。二次抗体を2時間、室温でインキュベートし、次いで、TBS(Alexa Fluorロバ抗ウサギ594または647:それぞれab150064またはab150075、Invitrogen)で洗浄した。スライドにDAPI Fluoromount-G(Fisher Scientific、Waltham、MA)を載せた。Nikon Ti-PFS倒立顕微鏡(株式会社ニコン、東京、日本)を使用して画像をキャプチャした。所与のタンパク質の全ての蛍光画像を、同じ露出時間および道具を再び用いてキャプチャした。ImageJソフトウェア(米国国立衛生研究所、Bethesda、MD)を分析に使用した。DAPIカラーチャネルを分離し、バックグラウンドシグナルを差し引き、画像を二値画像に変換し、細胞の境界を規定し、そして離散している核を計数することによって、細胞数を得た。適切な蛍光チャネルを分離し、一定の輝度およびコントラストで特定のタンパク質染色の各画像を分析し、次いで、平均蛍光を計算することによって、画像の蛍光を得た。定量的データを細胞当たりの平均蛍光として得た。
【0090】
生体模倣肺培養からの使用済み培地の分析
生体模倣肺培養培地を48時間ごとに交換し、CG4+カートリッジ(Abbott、Chicago、IL)およびGカートリッジ(Abbott、Chicago、IL)を備えたiSTAT(Abbott、Chicago、IL)ポイントオブケアアナライザーを使用して、pH、重炭酸塩、乳酸塩、およびグルコース濃度について分析した。
【0091】
相対的遺伝子発現分析
RNAをトリゾールによって単離し、次いで、SuperScript Vilo Master Mix(Life Technologies、Carlsbad、CA)によってcDNAに逆転写した。One Step Plus(Applied Biosystems、Foster City、CA)システムを使用して、プローブを用いるTaqmanアッセイによって遺伝子発現を定量した(プローブの詳細については、Key Resources Tableを参照されたい)(Life Technologies、Carlsbad、CA)。ハウスキーピング遺伝子であるβ-アクチンに対して正規化することによって、デルタ-デルタ方法を使用して遺伝子発現を分析した。
【0092】
フローサイトメトリー分析
FACSAria II(BD Biosciences、Franklin Lakes、NJ)を使用して、Nkx2.1-GFP+/tdTomato+細胞の蛍光活性化セルソーティングを行った。表現型の分析のために、細胞を固定し、BD Cytofix/Cytoperm(BD Biosciences、Franklin Lakes、NJ)キットを使用して透過処理した。細胞を一次抗体(1:250、SPC:ab40879、Abcam;1:200 AQP5:ab92320、Abcam)で30分間、4℃で染色し、洗浄し、次いで、二次抗体(1:200、Alexa Fluorロバ抗ウサギ350または594:それぞれA10039またはab150064、Invitrogen)で30分間、4℃で染色した。FlowJoソフトウェア(BD Biosciences、Franklin Lakes、NJ)を使用してフローサイトメトリー分析を行った。
【0093】
統計方法
データは平均±SEMとして表されている。有意性の試験のために、不等分散での片側スチューデントt検定を使用して、2つの集団を比較した。p≦0.05であれば有意であると決定した。図面で表されているデータは、アスタリスク()を伴って記載されていない限り、有意ではないと仮定される。qPCRデータでは、全てのデータポイントを記述統計計算に含める場合、個々のデータポイントが平均から3標準偏差を超えると決定された場合には、これらのデータポイントは排除された。全ての統計的計算は、Visual Basic for Applicationsを使用して行った。
【0094】
[実施例1]
浮遊培養方法
浮遊ドロップレット培養を可能にするために、本発明者らは、オートクレーブ可能なシリコンモールド(図9A、C~D)を設計した。モールドの丸いウェルはマルチチャネルピペットと並んでおり、これによって、均質な細胞含有ゲル前駆体ドロップレットを迅速に移すことが可能となる。ゲルを使用前にピペットチップ内で90秒間温めなければならない、以前に記載された手動のドロップレット形成方法も行った(図1)(4)。凝固した後、継続した細胞増殖および培養のために、細胞含有Matrigelドロップレットを無菌条件下でフラスコに移した(図9E~F)。およそ2万個の細胞を有する一つの細胞含有MATRIGELドロップレットを有する滅菌へらを、図9Eに示す。細胞培養培地中の細胞含有MATRIGEL浮遊ドロップレットを含有する、磁気撹拌棒を有するフラスコを図9Fに示す。
【0095】
[実施例2]
iPSC-AEC増殖の定量
浮遊ドロップレット培養方法では、8日の間に接着ドロップレット培養方法よりも有意に多くの細胞が生じた(それぞれ、286万個細胞/ドロップレットと、166万個細胞/ドロップレット、p<0.01、図2A)。17.5RPMの機械的撹拌速度で培養された浮遊ドロップレットは、より速いおよびより遅い撹拌速度と比較して優れた細胞増殖を示した(図6A)。相対的遺伝子発現分析は、浮遊ドロップレット培養細胞において、接着ドロップレット培養細胞と比較して有意に増大したKi-67発現を示した(p=0.033)(図2B)。
【0096】
[実施例3]
増殖したiPSC-AECの特徴付け
定量的なポリメラーゼ連鎖反応(PCR)分析は、SPC発現が接着培養方法と浮遊培養方法との間で同等であることを示したが、浮遊ドロップレット培養においてNkx2.1の遺伝子発現がより少ないことを示した(p=0.041)(図2C)。フローサイトメトリーによる特徴付けは、Nkx2.1およびSPCの発現が培養方法間で比較的保存されているが、浮遊培養方法においてNkx2.1発現の低下が見られたことを示した(図3A~B)。このNkx2.1発現の低下は、Nkx2.1についてPCRデータで見られた有意差と相関している(図2C)。以前の研究に従うと、浮遊ドロップレット方法で得られたiPSC-AECは、肺胞球を自然に形成した(4、9)(図2D~F)。I型AECマーカーであるアクアポリン5(AQP5)をフローサイトメトリーで分析したところ、いずれの培養条件でもAQP5発現はほとんどなかった(図3C~D)。浮遊ドロップレット培養方法の機械的撹拌速度を最適化すると、速い撹拌速度ではII型肺胞細胞マーカーSPCが低い傾向にあることが分かった(図6B~D)。
【0097】
[実施例4]
生体模倣肺培養の後の遺伝子発現
生体模倣型の培養の後の肺の免疫組織化学的染色は、接着ドロップレット培養細胞では肺におけるNkx2.1の発現が高くなる傾向があることを明らかにし(p=0.059)、これは、細胞増殖期間の最後に得たPCRデータに対応する(図4A図4D図2C)。浮遊ドロップレット培養細胞での肺は、SPC発現の有意な低下(p<0.01)およびAQP5発現の有意な増大(p<0.001)を示した(図4B~C、E~F)。定量PCRは、培養期間から生体模倣肺培養の最後までのKi67発現の一貫した増大を示し、各群の間で発現は類似していた(図4G)。
【0098】
[実施例5]
生体模倣肺培養の間の細胞代謝
生体模倣肺培養の使用済み培地は、培養期間を通した両群での重炭酸塩の変化、乳酸塩の生成、およびグルコースの消費の同様の傾向を示した(図5A~C)。この傾向は、分裂増殖が培養期間を通して継続するというデータを裏付けている(図4G)。培養6日目および12日目のレサズリン細胞生存能力アッセイは、蛍光プレートリーダーによって検出すると、同様の、レサズリンからレゾルフィンへのミトコンドリア変換を示し、このことは、両群の間の細胞のエネルギー消費が同様であることを示している(図5D)。
【0099】
[実施例6]
追加のiPSC系からのAECの作製
本発明者らのスケール調整可能な培養プロトコルが他のヒト人工多能性幹細胞由来の肺胞上皮細胞(iPSC-AEC)に適用可能であるかを試験するために、本発明者らは、2つの他のヒトiPSC系からAECを作製した。iPSC-17細胞系はNkx2.1-GFPレポーターおよびサーファクタントタンパク質(SPC)-TdTomatoレポーターを有しており、その一方、SPC2細胞系はSPC-TdTomatoレポーターのみを有していた。4週間の段階的な分化および2回のフローサイトメトリーソーティングの後、本発明者らは、iPSC-17細胞系およびSPC2細胞系から、SPC-TdTomatoを発現するAECを別個に精製する。100%MatrigelをAECと混合し、次いで、その後の、ドロップ当たり1mlの培地でのドロップレットまたはプレートの培養のための、それぞれおよそ2万個の細胞を含有する100μLのドロップに等しく分け、培地は一日おきに交換する。
【0100】
8日間培養した細胞を採取し、異なる方法間での細胞収量の比較のために計数し、次いで、AT2細胞マーカーSPC、AT1細胞マーカーAQP5、および肺上皮前駆細胞マーカーNkx2.1のフローサイトメトリー分析のために固定した。採取した細胞は、AECマーカー遺伝子のリアルタイムPCR分析およびH&E染色に使用する。本発明者らのスケール調整可能な方法が、異なるiPSC-AEC細胞系においてAT2表現型を維持しながら分裂増殖を促進し得ることを証明するために、データを別の2つのiPSC-17-AECおよびSPC2-AECから得る。
【0101】
参考文献
【0102】
【表3-1】
【0103】
【表3-2】
【0104】
他の実施形態
本発明をその詳細な説明に関連して記載してきたが、先の記載は説明を意図したものであり、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって規定されることが理解される。他の態様、利点、および変更は、以下の特許請求の範囲の範囲内である。
【符号の説明】
【0105】
800 モールド器具
802 第1の表面
802 上面
810 ウェル
810a ウェル
810b ウェル
811 上部
812 下部
813 チャネル
814 溝
830 線
900 モールド
901 モールド、モールド器具
910 ウェル、モールド器具
914 要素
940 ピペットチップ
950 組成物
960 抽出ツール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9-1】
図9-2】
【国際調査報告】