(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-26
(54)【発明の名称】ヘテロIgG分子の対合のための電荷対変異の操作
(51)【国際特許分類】
C07K 16/46 20060101AFI20221219BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20221219BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20221219BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
C12N15/13
C12N15/62 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022525717
(86)(22)【出願日】2020-11-06
(85)【翻訳文提出日】2022-06-30
(86)【国際出願番号】 US2020059378
(87)【国際公開番号】W WO2021092355
(87)【国際公開日】2021-05-14
(32)【優先日】2019-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500049716
【氏名又は名称】アムジエン・インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エステス,ブラム
(72)【発明者】
【氏名】ガルセス,フェルナンド
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ジュウルン
(72)【発明者】
【氏名】ダリス,マーク
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、抗体CH3ドメイン及びヘテロ二量体の形成の促進に有用な変異を含む、ヘテロ二量体に関する。特定のpHでのヘテロ二量体の精製を最適化する方法もまた開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のCH3ドメインポリペプチド及び第2のCH3ドメインポリペプチドを含むヘテロ二量体CH3ドメインを含み、前記第1のCH3ドメインポリペプチドはK360位にアミノ酸の改変を含む、単離されたヘテロ多量体であって、
(i)前記第1のCH3ドメインポリペプチドはさらにK370位にアミノ酸の改変を含み、
(ii)前記第2のCH3ドメインポリペプチドはE357位にアミノ酸の改変を含み、
ここで、アミノ酸残基の番号付けは、Kabatに記載されるEUインデックスによる、
単離ヘテロ多量体。
【請求項2】
前記K360位におけるアミノ酸の改変は、K360E及びK360Dからなる群から選択される、請求項1に記載の単離ヘテロ多量体。
【請求項3】
前記K370位におけるアミノ酸の改変は、K370E及びK370Dからなる群から選択される、請求項1又は2に記載の単離ヘテロ多量体。
【請求項4】
前記E357位におけるアミノ酸の改変は、E357K、E357H及びE357Rからなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の単離ヘテロ多量体。
【請求項5】
前記K360位のアミノ酸の改変はK360Eであり、前記K370位のアミノ酸の改変はK370Dであり、前記E357位のアミノ酸の改変はE357Kである、請求項1~4のいずれか一項に記載の単離ヘテロ多量体。
【請求項6】
一方のCH3ドメインポリペプチドはさらにK409位にアミノ酸の改変を含み、他方のCH3ドメインポリペプチドはさらにD399位にアミノ酸の改変を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の単離ヘテロ多量体。
【請求項7】
前記第1のCH3ドメインポリペプチドが前記K409位にアミノ酸の改変を含み、前記第2のCH3ドメインポリペプチドが前記D399位にアミノ酸の改変を含む、請求項6に記載の単離ヘテロ多量体。
【請求項8】
前記第1のCH3ドメインポリペプチドが前記D399位にアミノ酸の改変を含み、前記第2のCH3ドメインポリペプチドが前記K409位にアミノ酸の改変を含む、請求項6に記載の単離ヘテロ多量体。
【請求項9】
前記K409位におけるアミノ酸の改変はK409E及びK409Dからなる群から選択され、前記D399位におけるアミノ酸の改変はD399K、D399H及びD399Rからなる群から選択される、請求項6~8のいずれか一項に記載の単離ヘテロ多量体。
【請求項10】
前記K409位のアミノ酸の改変はK409Dであり、前記D399位のアミノ酸の改変はD399Kである、請求項6~9のいずれか一項に記載の単離ヘテロ多量体。
【請求項11】
前記K409位のアミノ酸の改変を含む前記CH3ドメインポリペプチドは、さらにK392位にアミノ酸の改変を含む、請求項6~10のいずれか一項に記載の単離ヘテロ多量体。
【請求項12】
前記K392位におけるアミノ酸の改変は、K392E及びK392Dからなる群から選択される、請求項11に記載の単離ヘテロ多量体。
【請求項13】
一方のCH3ドメインポリペプチドはさらにK439位にアミノ酸の改変を含み、他方のCH3ドメインポリペプチドはさらにE356位にアミノ酸の改変を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の単離ヘテロ多量体。
【請求項14】
前記第1のCH3ドメインポリペプチドが前記K439位にアミノ酸の改変を含み、前記第2のCH3ドメインポリペプチドが前記E356位にアミノ酸の改変を含む、請求項13に記載の単離ヘテロ多量体。
【請求項15】
前記第1のCH3ドメインポリペプチドが前記E356位にアミノ酸の改変を含み、前記第2のCH3ドメインポリペプチドが前記K439位にアミノ酸の改変を含む、請求項13に記載の単離ヘテロ多量体。
【請求項16】
前記K439位におけるアミノ酸の改変はK439E及びK439Dからなる群から選択され、前記E356位におけるアミノ酸の改変はE356K、E356H及びE356Rからなる群から選択される、請求項13~15のいずれか一項に記載の単離ヘテロ多量体。
【請求項17】
前記K439位のアミノ酸の改変はK439Eであり、前記E356位のアミノ酸の改変はE356Kである、請求項13~16のいずれか一項に記載の単離ヘテロ多量体。
【請求項18】
前記第1のCH3ドメインポリペプチドはK360E、K370D、K409D及びK392D変異を含み、前記第2のCH3ドメインポリペプチドはE357K及びD399K変異を含む、請求項11又は12に記載の単離ヘテロ多量体。
【請求項19】
前記第1のCH3ドメインポリペプチドはさらにK439E変異を含み、前記第2のCH3ドメインポリペプチドはさらにE356K変異を含む、請求項18に記載の単離ヘテロ多量体。
【請求項20】
前記ヘテロ二量体CH3ドメインは、IgG Fc領域に基づくFc領域に含まれる、請求項1~19のいずれか一項に記載の単離ヘテロ多量体。
【請求項21】
前記IgG Fc領域はIgG1 Fc領域である、請求項20に記載の単離ヘテロ多量体。
【請求項22】
前記ヘテロ多量体は、二重特異性又は多重特異性の抗体である、請求項1~21のいずれか一項に記載の単離ヘテロ多量体。
【請求項23】
単離されたヘテロ多量体を約pH5.0で安定化する方法であって、前記ヘテロ多量体は第1のCH3ドメインポリペプチド及び第2のCH3ドメインポリペプチドを含むヘテロ二量体CH3ドメインを含み、
(i)前記第1のCH3ドメインポリペプチドはK370にアミノ酸の改変を含み、
(ii)前記第2のCH3ドメインポリペプチドはE357位にアミノ酸の改変を含む方法において、
前記第1のCH3ドメインのK360位にアミノ酸の改変を導入することを含み、前記改変はグルタミン酸又はアスパラギン酸でのK360の置換であり、
ここで、アミノ酸残基の番号付けは、Kabatに記載されるEUインデックスによる、
方法。
【請求項24】
前記K360位におけるアミノ酸の改変は、K360E及びK360Dからなる群から選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記K370位におけるアミノ酸の改変は、K370E及びK370Dからなる群から選択される、請求項23又は24に記載の方法。
【請求項26】
前記E357位におけるアミノ酸の改変は、E357K、E357H及びE357Rからなる群から選択される、請求項23~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記K360位のアミノ酸の改変はK360Eであり、前記K370位のアミノ酸の改変はK370Dであり、前記E357位のアミノ酸の改変はE357Kである、請求項23~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
一方のCH3ドメインポリペプチドはさらにK409位にアミノ酸の改変を含み、他方のCH3ドメインポリペプチドはさらにD399位にアミノ酸の改変を含む、請求項23~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記第1のCH3ドメインポリペプチドが前記K409位のアミノ酸の改変を含み、前記第2のCH3ドメインポリペプチドが前記D399位のアミノ酸の改変を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記第1のCH3ドメインポリペプチドが前記D399位のアミノ酸の改変を含み、前記第2のCH3ドメインポリペプチドが前記K409位のアミノ酸の改変を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記K409位におけるアミノ酸の改変はK409E及びK409Dからなる群から選択され、前記D399におけるアミノ酸の改変はD399K、D399H及びD399Rからなる群から選択される、請求項28~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記K409位のアミノ酸の改変はK409Dであり、前記D399位のアミノ酸の改変はD399Kである、請求項28~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記K409位のアミノ酸の改変を含む前記CH3ドメインポリペプチドは、さらにK392位にアミノ酸の改変を含む、請求項28~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記K392位におけるアミノ酸の改変は、K392E及びK392Dからなる群から選択される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
一方のCH3ドメインポリペプチドはさらにK439位にアミノ酸の改変を含み、他方のCH3ドメインポリペプチドはさらにE356位にアミノ酸の改変を含む、請求項23~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記第1のCH3ドメインポリペプチドが前記K439位のアミノ酸の改変を含み、前記第2のCH3ドメインポリペプチドが前記E356位のアミノ酸の改変を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記第1のCH3ドメインポリペプチドが前記E356位のアミノ酸の改変を含み、前記第2のCH3ドメインポリペプチドが前記K439位のアミノ酸の改変を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記K439位におけるアミノ酸の改変はK439E及びK439Dからなる群から選択され、前記E356位におけるアミノ酸の改変はE356K、E356H及びE356Rからなる群から選択される、請求項35~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記K439位のアミノ酸の改変はK439Eであり、前記E356位のアミノ酸の改変はE356Kである、請求項35~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記第1のCH3ドメインポリペプチドはK360E、K370D、K409D及びK392D変異を含み、前記第2のCH3ドメインポリペプチドはE357K及びD399K変異を含む、請求項33又は34に記載の方法。
【請求項41】
前記第1のCH3ドメインポリペプチドはさらにK439E変異を含み、前記第2のCH3ドメインポリペプチドはさらにE356K変異を含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記ヘテロ二量体CH3ドメインは、IgG Fc領域に基づくFc領域に含まれる、請求項23~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記IgG Fc領域はIgG1 Fc領域である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記ヘテロ多量体は、二重特異性又は多重特異性の抗体である、請求項23~43のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質工学の分野に関する。具体的には、本発明は、ヘテロIgG分子の結晶性フラグメント(Fc)中の荷電残基を操作して、ホモFc形成を阻止し、ヘテロFc形成を駆動することに関する。
【0002】
本出願は、37 C.F.R.セクション1.821(c)及び1.821(e)によって要求されるコンピューター可読形式(CRF)及び紙の複写の両方の役割を果たし、且つその全体が参照により本明細書に組み込まれるASCII「txt」準拠の配列表を含む。2020年11月6日に作成された「txt」ファイルの名称は、A-2389-WO-PCT_SEQ_LIST_11062020_ST25であり、23.6kbのサイズである。
【背景技術】
【0003】
IgG分子のFc領域の天然の形成は、Fabアームの配列とは独立して、2つの一致するFc鎖のアセンブリを含む。二重特異性抗体は、2つ以上の異なる抗原に対して標的特異性を有する。これは、異なる配列からなる2つのFabアームによるものである。その結果、天然のFc領域を有する二重特異性分子は、重鎖分子を、1つの抗原に結合するモノクローナル抗体、第2の抗原に結合するモノクローナル抗体、及び両方の抗原に結合する二重特異性抗体からなる3つの主要な種に組み立てる傾向がある。
【0004】
これらの組換えタンパク質を発現させる際に、モノクローナル抗体の形成を防止するために、IgG分子を主にCH3領域において操作している。IgG重鎖間の鎖対合の駆動に関する初期の研究は、鎖間の表面領域の輪郭がより大きな残基及びより小さな残基への変異で改変される、ノブ・イン・ホール(knob in hole)戦略の使用から始まった。広く実施されているより最近のアプローチは電荷対変異の使用であり、2つの回転対称領域の一方における天然に荷電した残基を、正に荷電した残基を負に荷電した残基に変異させることによって、またその逆に負に荷電した残基を正に荷電した残基に変異させることによって逆転させる。このアプローチを1対の荷電残基に適用すると、一致するFc領域間の2つの反発点と、異なるFc領域間に塩橋を形成する2つの引き合う点とが生じる。我々の研究において、Fc領域における3対の荷電残基の残基をスクリーニングして最適化し、また、対合特異性への駆動の強化、及びより低いpHでの精製という利点を付加するために、隣接残基を試験した。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、第1のCH3ドメインポリペプチド及び第2のCH3ドメインポリペプチドを含むヘテロ二量体CH3ドメインを含み、第1のCH3ドメインポリペプチドはK360位にアミノ酸の改変を含む、単離されたヘテロ多量体であって、(i)第1のCH3ドメインポリペプチドはさらにK370位にアミノ酸の改変を含み、(ii)第2のCH3ドメインポリペプチドはE357位にアミノ酸の改変を含み、ここで、アミノ酸残基の番号付けは、Kabatに記載されるEUインデックスによる、単離ヘテロ多量体を対象とする。
【0006】
別の態様では、本発明は、約pH5.0で単離されたヘテロ多量体を安定化する方法であって、ヘテロ多量体は第1のCH3ドメインポリペプチド及び第2のCH3ドメインポリペプチドを含むヘテロ二量体CH3ドメインを含み、(i)第1のCH3ドメインポリペプチドはK370にアミノ酸の改変を含み、(ii)第2のCH3ドメインポリペプチドはE357位にアミノ酸の改変を含む方法において、第1のCH3ドメインのK360位にアミノ酸の改変を導入することを含み、この改変はグルタミン酸又はアスパラギン酸でのK360の置換であり、ここで、アミノ酸残基の番号付けは、Kabatに記載されるEUインデックスによる、方法を対象とする。
【0007】
一実施形態では、K360位におけるアミノ酸の改変は、K360E及びK360Dからなる群から選択される。
【0008】
一実施形態では、K370位におけるアミノ酸の改変は、K370E及びK370Dからなる群から選択される。
【0009】
一実施形態では、E357位におけるアミノ酸の改変は、E357K、E357H及びE357Rからなる群から選択される。
【0010】
一実施形態では、K360位のアミノ酸の改変はK360Eであり、K370位のアミノ酸の改変はK370Dであり、E357位のアミノ酸の改変はE357Kである。
【0011】
一実施形態では、一方のCH3ドメインポリペプチドはさらにK409位にアミノ酸の改変を含み、他方のCH3ドメインポリペプチドはさらにD399位にアミノ酸の改変を含む。
【0012】
一実施形態では、第1のCH3ドメインポリペプチドはK409位にアミノ酸の改変を含み、第2のCH3ドメインポリペプチドはD399位にアミノ酸の改変を含む。
【0013】
一実施形態では、第1のCH3ドメインポリペプチドはD399位にアミノ酸の改変を含み、第2のCH3ドメインポリペプチドはK409位にアミノ酸の改変を含む。
【0014】
一実施形態では、K409位におけるアミノ酸の改変はK409E及びK409Dからなる群から選択され、D399位におけるアミノ酸の改変はD399K、D399H及びD399Rからなる群から選択される。
【0015】
一実施形態では、K409位のアミノ酸の改変はK409Dであり、D399位のアミノ酸の改変はD399Kである。
【0016】
一実施形態では、K409位にアミノ酸の改変を含むCH3ドメインポリペプチドは、さらにK392位にアミノ酸の改変を含む。
【0017】
一実施形態では、K392位のアミノ酸の改変は、K392E及びK392Dからなる群から選択される。
【0018】
一実施形態では、一方のCH3ドメインポリペプチドはさらにK439位にアミノ酸の改変を含み、他方のCH3ドメインポリペプチドはさらにE356位にアミノ酸の改変を含む。
【0019】
一実施形態では、第1のCH3ドメインポリペプチドはK439位にアミノ酸の改変を含み、第2のCH3ドメインポリペプチドはE356位にアミノ酸の改変を含む。
【0020】
一実施形態では、第1のCH3ドメインポリペプチドはE356位にアミノ酸の改変を含み、第2のCH3ドメインポリペプチドはK439位にアミノ酸の改変を含む。
【0021】
一実施形態では、K439位におけるアミノ酸の改変はK439E及びK439Dからなる群から選択され、E356位におけるアミノ酸の改変はE356K、E356H及びE356Rからなる群から選択される。
【0022】
一実施形態では、K439位のアミノ酸の改変はK439Eであり、E356位のアミノ酸の改変はE356Kである。
【0023】
一実施形態では、第1のCH3ドメインポリペプチドはK360E、K370D、K409D及びK392D変異を含み、第2のCH3ドメインポリペプチドはE357K及びD399K変異を含む。
【0024】
一実施形態では、第1のCH3ドメインポリペプチドはさらにK439E変異を含み、第2のCH3ドメインポリペプチドはさらにE356K変異を含む。
【0025】
一実施形態では、ヘテロ二量体CH3ドメインは、IgG Fc領域に基づくFc領域に含まれる。
【0026】
一実施形態では、IgG Fc領域はIgG1 Fc領域である。
【0027】
一実施形態では、ヘテロ多量体は、二重特異性又は多重特異性の抗体である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】Fc鎖に融合した単鎖可変領域(scFv)及び弾頭を欠くFc鎖を示す。2つのscFv弾頭を有するホモ二量体(A)又は2つの弾頭を欠くホモ二量体(C)に組み立てられた分子は、それぞれ約100kDa又は50kDaの分子量になる。意図したヘテロ-Fc型(B)に組み立てた場合、分子量は約75キロダルトン(kDa)である。
【
図2】スクリーニングからのリードscFv-Fc分子を示す。
【
図3】改変モノクローナル抗体を示す。改変には、CH3領域における電荷対変異の付加、及びFab領域の一方と及びFc領域の間のヒンジにおけるDEVD切断部位の付加が含まれる。
【
図4】pH6.0、5.6、及び5.0におけるヘテロ二量体の陽イオン交換を示す。
【
図5】K360変異体と比較した、pH6.0、5.6、及び5.0におけるヘテロ二量体の陽イオン交換を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本明細書で使用される「多量体タンパク質」は、インビトロ又はインビボで単一のタンパク質を形成するために互いに会合した2つ以上の別個のポリペプチド又はタンパク質鎖を含有するタンパク質を指す。多量体タンパク質は、「ホモ多量体」を形成する同種の2つ以上のポリペプチドからなり得る。或いは、多量体タンパク質はまた、「ヘテロ多量体」を形成する異なる配列の2つ以上のポリペプチドから構成され得る。したがって、「ヘテロ多量体」は、少なくとも第1のポリペプチド及び第2のポリペプチドを含み、第2のポリペプチドは、第1のポリペプチドと少なくとも1つのアミノ酸残基だけアミノ酸配列が異なる分子である。ヘテロ多量体は、第1及び第2のポリペプチドによって形成される「ヘテロ二量体」を含むか、又は3以上のポリペプチドが存在する、より高次の三次構造を形成することができる。
【0030】
本明細書で使用する場合、「抗原結合タンパク質」という用語は、1つ又は複数の標的抗原に特異的に結合するタンパク質を指す。抗原結合タンパク質には、抗体及びその機能的断片が含まれ得る。「機能的抗体断片」は、完全長の重鎖及び/又は軽鎖に存在するアミノ酸の少なくとも一部を欠くが、それでもなお抗原に特異的に結合することができる、抗体の一部である。機能的抗体断片としては、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fv断片、Fd断片、及び相補性決定領域(CDR)断片が挙げられるが、これらに限定されず、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、又はラクダ科の動物などの任意の哺乳動物源に由来するものとすることができる。機能的抗体断片は、標的抗原の結合について、インタクトな抗体と比肩することができ、断片は、インタクトな抗体の改変(例えば、酵素的又は化学的切断)によって産生されるか、又は組換えDNA技術又はペプチド合成を使用して新規に合成され得る。
【0031】
「重鎖」及び「軽鎖」は、IgGを構成する2つのポリペプチドを指す。重鎖は、N末端からC末端まで以下のドメインに分解され得る:VH、CH1、CH2、及びCH3。軽鎖は、N末端からC末端まで以下のドメインに分解され得る:VL及びCL。CH1及びCLドメインは、VH及びVLドメインが機能的な構造を形成するように相互作用する。
【0032】
抗原結合タンパク質にはまた、単一のポリペプチド鎖又は複数のポリペプチド鎖に組み込まれた1つ又は複数の機能的抗体断片を含むタンパク質が含まれ得る。例えば、抗原結合タンパク質には、ダイアボディ(例えば、欧州特許第404,097号明細書、国際公開第93/11161号パンフレット、及びHollinger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.90:6444-6448,1993を参照);イントラボディ;ドメイン抗体(単一のVL若しくはVHドメイン又はペプチドリンカーによって結合した2つ以上のVHドメイン、Ward et al.,Nature,Vol.341:544-546,1989を参照);マキシボディ(Fc領域に融合した2つのscFv、Fredericks et al.,Protein Engineering,Design & Selection,Vol.17:95-106,2004及びPowers et al.,Journal of Immunological Methods,Vol.251:123-135,2001を参照);トリアボディ;テトラボディ;ミニボディ(CH3ドメインに融合したscFv、Olafsen et al.,Protein Eng Des Sel.,Vol.17:315-23,2004を参照);ペプチボディ(Fc領域に付着した1つ又は複数のペプチド、国際公開第00/24782号パンフレットを参照);線状抗体(相補的軽鎖ポリペプチドとともに一対の抗原結合領域を形成する一対のタンデムFdセグメント(VH-CH1-VH-CH1)、Zapata et al.,Protein Eng.,Vol.8:1057-1062,1995を参照);小モジュラー免疫薬(米国特許出願公開第2003/0133939号明細書を参照);及び免疫グロブリン融合タンパク質(例えば、IgG-scFv、IgG-Fab、2scFv-IgG、4scFv-IgG、VH-IgG、IgG-VH、及びFab-scFv-Fc)が含まれ得る。
【0033】
特定の態様では、本発明の抗原結合タンパク質は、それらが2つの異なる抗原に特異的に結合し得ることを意味する「二重特異性」である。別の態様では、本発明の抗原結合タンパク質は、それらが3つの異なる抗原に特異的に結合し得ることを意味する「三重特異性」である。別の態様では、本発明の抗原結合タンパク質は、それらが4つの異なる抗原に特異的に結合し得ることを意味する「四重特異性」である。本明細書で使用する場合、抗原結合タンパク質は、類似の結合アッセイ条件下で、他の無関係なタンパク質に対するその親和性と比較して、標的抗原に対して有意に高い結合親和性を有し、その結果、その抗原を識別することができる場合に、標的抗原に「特異的に結合する」。抗原に特異的に結合する抗原結合タンパク質は、1×10-6M以下の平衡解離定数(KD)を有し得る。抗原結合タンパク質は、KDが1×10-8M以下である場合、「高親和性」で抗原に特異的に結合する。一実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、5×10-7M以下のKDで標的抗原に結合する。別の実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、1×10-7M以下のKDで標的抗原に結合する。
【0034】
親和性は、様々な手法を使用して決定され、その一例は、親和性ELISAアッセイである。様々な実施形態では、親和性は、表面プラズモン共鳴アッセイ(例えば、BIAcore(登録商標)に基づくアッセイ)によって決定される。この方法論を用いて、会合速度定数(ka、単位:M-1s-1)及び解離速度定数(kd、単位:s-1)を測定することができる。次いで、平衡解離定数(KD、単位:M)を、運動速度定数の比(kd/ka)から算出することができる。一部の実施形態では、親和性は、Rathanaswami et al.Analytical Biochemistry,Vol.373:52-60,2008に記載されているような結合平衡除外法(KinExA)などの速度論的方法によって決定される。KinExAアッセイを用いて、平衡解離定数(KD、単位:M)及び会合速度定数(ka、単位:M-1s-1)を測定することができる。解離速度定数(kd、単位:s-1)は、これらの値(KD×ka)から算出することができる。他の実施形態では、親和性は、平衡/溶液法によって決定される。特定の実施形態では、親和性は、FACS結合アッセイによって決定される。本発明の特定の実施形態では、抗原結合タンパク質は哺乳動物細胞(例えば、CHO、HEK293、Jurkat)によって発現される標的抗原に対し、Rathanaswami et al.Analytical Biochemistry,Vol.373:52-60,2008に記載の方法によって実施された、結合平衡除外法による決定で、20nM(2.0×10-8M)以下のKD、10nM(1.0×10-8M)以下のKD、1nM(1.0×10-9M)以下のKD、500pM(5.0×10-10M)以下のKD、200pM(2.0×10-10M)以下のKD、150pM(1.50×10-10M)以下のKD、125pM(1.25×10-10M)以下のKD、105pM(1.05×10-10M)以下のKD、50pM(5.0×10-11M)以下のKD、又は20pM(2.0×10-11M)以下のKDをもって特異的に結合する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される二重特異性抗原結合タンパク質は、kd(解離速度定数)によって測定される標的抗原に対する結合アビディティが、約10-2、10-3、10-4、10-5、10-6、10-7、10-8、10-9、10-10s-1若しくはそれ以下(値が低いほど結合アビディティが高いことを示す)、及び/又はKD(平衡解離定数)によって測定される標的抗原に対する結合親和性が、約10-9、10-10、10-11、10-12、10-13、10-14、10-15、10-16M若しくはそれ以下(値が低いほど結合親和性が高いことを示す)などの望ましい特性を示す。
【0035】
本発明の特定の実施形態では、抗原結合タンパク質は多価である。結合タンパク質の結合価は、結合タンパク質内の個々の抗原結合ドメインの数を示す。例えば、本発明の抗原結合タンパク質に関する「一価」、「二価」、「三価」及び「四価」という用語は、それぞれ、1つ、2つ、3つ及び4つの抗原結合ドメインを有する結合タンパク質を指す。したがって、四価抗原結合タンパク質は4つ以上の抗原結合ドメインを含む。他の実施形態では、二重特異性抗原結合タンパク質は多価である。例えば、特定の実施形態では、二重特異性抗原結合タンパク質は、以下の4つの抗原結合ドメインを含む四価である:第1の標的抗原に結合する2つの抗原結合ドメイン及び第2の標的抗原に結合する2つの抗原結合ドメイン。四重特異性抗原結合タンパク質は四価であり、以下の4つの抗原結合ドメインを含む:第1の標的抗原に結合する1つの抗原結合ドメイン、第2の標的抗原に結合する1つの抗原結合ドメイン、第3の標的抗原に結合する1つの抗原結合ドメイン、及び第4の標的抗原に結合する1つの抗原結合ドメイン。
【0036】
本明細書で使用する場合、「結合ドメイン」と互換的に使用される「抗原結合ドメイン」という用語は、抗原と相互作用し、その抗原に対する特異性及び親和性を抗原結合タンパク質に付与するアミノ酸残基を含有する抗原結合タンパク質の領域を指す。いくつかの実施形態では、結合ドメインは、標的抗原の天然リガンド由来であってよい。本明細書で使用する場合、「標的抗原」という用語は、二重特異性分子の第1の標的抗原及び/又は第2の標的抗原を指し、また、四重特異性分子の第1の標的抗原、第2の標的抗原、第3の標的抗原及び/又は第4の標的抗原を指す。
【0037】
本発明の抗原結合タンパク質の特定の実施形態では、結合ドメインは、抗体又はその機能的断片に由来であってよい。例えば、本発明の抗原結合タンパク質の結合ドメインは、標的抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖及び重鎖可変領域由来の1つ以上の相補性決定領域(CDR)を含み得る。本明細書で使用する場合、「CDR」という用語は、抗体可変配列内の相補性決定領域(「最小認識単位」又は「超可変領域」とも呼ばれる)を指す。3つの重鎖可変領域CDR(CDRH1、CDRH2及びCDRH3)及び3つの軽鎖可変領域CDR(CDRL1、CDRL2及びCDRL3)が存在する。「CDR領域」という用語は、本明細書で使用する場合、単一の可変領域に存在する3つのCDR(すなわち、3つの軽鎖CDR又は3つの重鎖CDR)の群を指す。2つの鎖の各々におけるCDRは、通常、フレームワーク領域によって整列させられ、標的タンパク質の特異的エピトープ又はドメインと特異的に結合する構造を形成する。N末端からC末端まで、天然に存在する軽鎖可変領域及び重鎖可変領域は両方とも、通常、以下のこれらの要素の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3及びFR4と一致する。
【0038】
したがって、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)におけるEUインデックス及びAHo番号付けスキーム(Honegger A.and Plueckthun A.J Mol Biol.2001 Jun 8;309(3):657-70)の両方が、本発明において使用され得る。所与の抗体のアミノ酸位置並びに相補性決定領域(CDR)及びフレームワーク領域(FR)は、いずれの系を使用しても特定され得る。例えば、39、44、183、356、357、360、370、392、399、及び409のEU重鎖位置はそれぞれ、AHo重鎖位置46、51、230、484、485、491、501、528、535、及び551と同一である。
【0039】
抗体をパパインで消化すると、「Fab」断片と呼ばれる2つの同じ抗原結合性断片(その各々が単一の抗原結合部位を有する)及び残部の「Fc」断片(免疫グロブリン定常領域を含有する)が産生される。Fab断片は、可変ドメイン、並びに軽鎖の定常ドメイン及び重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)の全てを含有する。したがって、「Fab断片」は、1つの免疫グロブリン軽鎖(軽鎖可変領域(VL)及び定常領域(CL))並びに1つの免疫グロブリン重鎖のCH1領域及び可変領域(VH)から構成される。Fab分子の重鎖は、別の重鎖分子とジスルフィド結合を形成することができない。Fc断片は炭水化物を示し、抗体の1つのクラスを別のクラスから識別する多くの抗体エフェクター機能(結合補体及び細胞受容体など)に関与する。「Fd断片」は、免疫グロブリン重鎖に由来するVHドメイン及びCH1ドメインを含む。Fd断片は、Fab断片の重鎖成分を表す。
【0040】
「Fab’断片」は、CH1ドメインのC末端に、抗体ヒンジ領域に由来する1つ又は複数のシステイン残基を有するFab断片である。
【0041】
「F(ab’)2断片」は、ヒンジ領域で、重鎖間のジスルフィド架橋によって連結されている2つのFab’断片を含む二価の断片である。
【0042】
「Fv」断片は、抗体由来の完全抗原認識及び結合部位を含有する最小の断片である。この断片は、緊密な非共有会合での、1つの免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)及び1つの免疫グロブリン軽鎖可変領域(VL)の二量体からなる。この構成において、各可変領域の3つのCDRは相互作用して、VH-VL二量体の表面に抗原結合部位を規定する。単一の軽鎖又は重鎖の可変領域(又は抗原に特異的な3つのCDRのみを含むFv断片の半分)は、抗原を認識し、結合する能力を有するが、VH及びVLの両方を含む結合部位全体よりも親和性は低い。
【0043】
本明細書において「可変ドメイン」(軽鎖の可変領域(VL)、重鎖の可変領域(VH))と互換的に使用される「可変領域」は、抗体の抗原への結合に直接関与する、免疫グロブリン軽鎖及び免疫グロブリン重鎖のそれぞれにおける領域を指す。上記のように、可変軽鎖領域及び可変重鎖領域は、同じ一般構造を有し、各領域は4つのフレームワーク(FR)領域を含み、それらの配列は、広範に保存され、3つのCDRによって連結されている。フレームワーク領域は、ベータ-シート構造を採用し、CDRは、ベータ-シート構造を連結するループを形成し得る。各鎖中のCDRは、フレームワーク領域によってそれらの三次元構造中に保持され、他方の鎖のCDRとともに抗原結合部位を形成する。
【0044】
「免疫グロブリンドメイン」は、免疫グロブリンのアミノ酸配列に類似したアミノ酸配列を含み、少なくとも2つのシステイン残基を含む約100アミノ酸残基を含むペプチドを表す。免疫グロブリンドメインとしては、例えば、免疫グロブリン重鎖のVH、CH1、CH2及びCH3、免疫グロブリン軽鎖のVL、CLが挙げられる。また、免疫グロブリンドメインは、免疫グロブリン以外のタンパク質にも存在する。免疫グロブリン以外のタンパク質における免疫グロブリンドメインの例としては、免疫グロブリンスーパーファミリー、例えば、主要組織適合性複合体(MHC)、CD1、B7、T細胞レセプター(TCR)などに属するタンパク質に含まれる免疫グロブリンドメインが挙げられる。免疫グロブリンドメインのいずれも、本発明の多価抗体の免疫グロブリンドメインとして使用することができる。
【0045】
ヒト抗体では、CH1は、EUインデックスの118~215位にアミノ酸配列を有する領域を意味する。「ヒンジ領域」と呼ばれる柔軟性の高いアミノ酸領域は、CH1とCH2との間に存在する。CH2は、EUインデックスの231~340位にアミノ酸配列を有する領域を表し、CH3は、EUインデックスの341~446位にアミノ酸配列を有する領域を表す。
【0046】
「CL」は、軽鎖の定常領域を表す。ヒト抗体のκ鎖の場合、CLは、EUインデックスの108~214位にアミノ酸配列を有する領域を表す。λ鎖では、CLは108~215位にアミノ酸配列を有する領域を表す。
【0047】
標的抗原に特異的に結合する結合ドメインは、a)これらの抗原に対する既知の抗体、又はb)抗原タンパク質若しくはその断片を使用する新規な免疫化法により、ファージディスプレイにより、又は他の常法により得られる新しい抗体若しくは抗体断片に由来するものとすることができる。抗原結合タンパク質の結合ドメインの起源である抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、組換え抗体、ヒト抗体、又はヒト化抗体とすることができる。特定の実施形態では、結合ドメインの起源である抗体は、モノクローナル抗体である。これらの及び他の実施形態では、抗体は、ヒト抗体又はヒト化抗体であり、IgG1型、IgG2型、IgG3型、又はIgG4型のものとすることができる。
【0048】
本明細書で使用する場合、「安定性」及び「安定化」という用語は、ある期間にわたる抗原結合ポリペプチド又はタンパク質の化学的若しくは物理的完全性及び/又は生物活性の維持と定義される。抗原結合ポリペプチド又はタンパク質の安定化には、抗原結合ポリペプチド又はタンパク質の、その生物学的及び/又は治療的に活性な形態から不活性な形態への分解又は劣化の防止又は遅延が含まれる。不安定性は、凝集、変性、断片化、又は化学的改変、例えば酸化、架橋、脱アミド化、及び抗原結合ポリペプチド又はタンパク質を含む組成物に存在する他の成分との反応などの事象から生じ得る。
【0049】
組成物中の抗原結合タンパク質又はポリペプチドの安定性は、当該技術分野で知られた方法、例えば、以下に限定されないが、ELISAなどの免疫アッセイ技術による抗原結合活性などの生物学的活性の測定、或いはサイズ排除クロマトグラフィー、キャピラリーゲル電気泳動、円偏光二色性又は質量分析などの抗原結合タンパク質又はポリペプチドに対する純度又は物理的/化学的変化を決定する他の技術を使用して特徴付けることができる。安定性は、組成物(すなわち、場合によっては、懸濁液又は分散液)の製剤化又は調製時などの初期時点でのこれらのタイプの特徴付け方法によって得られた測定値と、後の時点、すなわち、所与の環境又は条件での貯蔵後に得られた測定値との比較によって決定される。
【0050】
「モノクローナル抗体」(又は「mAb」)という用語は、本明細書で使用する場合、実質的に均質な抗体の集団から得られる抗体を指し、すなわち、集団を構成する個々の抗体は、わずかな量で存在する可能性のある天然の変異以外は同一である。モノクローナル抗体は特異性が高く、通常、様々なエピトープに対する様々な抗体を含むポリクローナル抗体製剤とは対照的に、個別の抗原部位又はエピトープに対するものである。モノクローナル抗体は、当該技術分野において知られる任意の技術を使用して、例えば、免疫化スケジュールの完了後にトランスジェニック動物から採取した脾臓細胞を不死化することによって生成することができる。脾臓細胞は、当該技術分野において知られる任意の技術を使用して、例えば、脾臓細胞を骨髄腫細胞と融合してハイブリドーマを生成することによって不死化することができる。ハイブリドーマを生成する融合手順に使用される骨髄腫細胞は、非抗体産生細胞であり、高い融合効率を有し、且つ所望の融合細胞(ハイブリドーマ)のみの増殖を支持する、特定の選択培地での増殖を不可能にする酵素欠損を有する。マウス融合における使用に好適な細胞株の例としては、Sp-20、P3-X63/Ag8、P3-X63-Ag8.653、NS1/1.Ag4 1、Sp210-Ag14、FO、NSO/U、MPC-11、MPC11-X45-GTG1.7及びS194/5XXO Bulが挙げられ、ラット融合において使用される細胞株の例としては、R210.RCY3、Y3-Ag1.2.3、IR983F及び4B210が挙げられる。細胞融合に有用な他の細胞株は、U-266、GM1500-GRG2、LICR-LON-HMy2及びUC729-6である。
【0051】
いくつかの例では、動物(例えば、ヒト免疫グロブリン配列を有するトランスジェニック動物)を標的抗原で免疫化し、免疫化した動物から脾臓細胞を採取し、採取した脾臓細胞を骨髄腫細胞株に融合し、それにより、ハイブリドーマ細胞を生成し、ハイブリドーマ細胞からハイブリドーマ細胞株を樹立し、標的抗原に結合する抗体を産生するハイブリドーマ細胞株を同定することによって、ハイブリドーマ細胞株が作製される。
【0052】
ハイブリドーマ細胞株によって分泌されたモノクローナル抗体は、当該技術分野において知られる任意の技術、例えば、プロテインA-Sepharose、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、又はアフィニティークロマトグラフィーなどを使用して精製することができる。ハイブリドーマ又はmAbをさらにスクリーニングして、例えば、標的抗原を発現している細胞に結合する能力、標的抗原が、そのそれぞれの受容体若しくはリガンドへの結合をブロック若しくは妨害する能力、又は標的抗原のいずれも機能的にブロックする能力など、特定の性質を有するmAbを同定することができる。
【0053】
いくつかの実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質の結合ドメインは、標的抗原に対するヒト化抗体に由来するものであってよい。「ヒト化抗体」は、領域(例えば、フレームワーク領域)が、対応するヒト免疫グロブリン由来の領域を含むように改変された抗体を指す。一般に、ヒト化抗体は、最初に非ヒト動物で作られたモノクローナル抗体から生成することができる。一般に抗体の非抗原認識部分に由来する、このモノクローナル抗体のある特定のアミノ酸残基が、対応するアイソタイプのヒト抗体における対応する残基と相同となるように改変される。ヒト化は、例えば、種々の方法を用いて、齧歯類可変領域の少なくとも一部をヒト抗体の対応する領域に置換することにより行うことができる(例えば、米国特許第5,585,089号明細書及び同第5,693,762号明細書、Jones et al.,Nature,Vol.321:522-525,1986;Riechmann et al.,Nature,Vol.332:323-27,1988;Verhoeyen et al.,Science,Vol.239:1534-1536,1988を参照)。別の種において生成された抗体の軽鎖可変領域及び重鎖可変領域のCDRは、コンセンサスヒトFRに移植することができる。コンセンサスヒトFRを作り出すために、複数のヒト重鎖アミノ酸配列又はヒト軽鎖アミノ酸配列に由来するFRを整列させて、コンセンサスアミノ酸配列を同定することができる。
【0054】
本発明の抗原結合タンパク質の結合ドメインの起源とすることができる標的抗原に対して生成される新規な抗体は、完全ヒト抗体とすることができる。「完全ヒト抗体」は、ヒト生殖系列の免疫グロブリン配列に由来する可変領域及び定常領域を含む抗体である。完全ヒト抗体の産生を実施するために提供される1つの具体的な手段は、マウス体液性免疫系の「ヒト化」である。ヒト免疫グロブリン(Ig)遺伝子座を、内因性のIg遺伝子が不活性化されたマウスに導入することは、任意の所望の抗原で免疫化することができる動物であるマウスで、完全ヒトモノクローナル抗体(mAb)を産生させる一手段である。完全ヒト抗体を使用すると、マウスのmAb又はマウス由来のmAbを治療剤としてヒトに投与することによって生じることがある免疫原性及びアレルギー性の応答を最小化することができる。
【0055】
完全ヒト抗体は、内因性の免疫グロブリンの産生がなく、ヒト抗体のレパートリーを産生することができるトランスジェニック動物(通常はマウス)を免疫化することによって産生することができる。この目的のための抗原は、通常、6つ以上の連続アミノ酸を有し、任意選択により、担体にコンジュゲートされる(ハプテンなど)。例えば、Jakobovits et al.,1993,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:2551-2555、Jakobovits et al.,1993,Nature 362:255-258、及びBruggermann et al.,1993,Year in Immunol.7:33を参照されたい。このような方法の一例では、トランスジェニック動物は、マウスの免疫グロブリン重鎖及び免疫グロブリン軽鎖をコードする内因性のマウス免疫グロブリン遺伝子座を無能化し、ヒト重鎖タンパク質及び軽鎖タンパク質をコードする遺伝子座を含有するヒトゲノムDNAの大型断片をマウスゲノムに挿入することによって作製される。次いで、ヒト免疫グロブリン遺伝子座の完全補体より少ない補体を有する部分的に改変された動物を交雑して、所望の免疫系の改変を全て有する動物を得る。免疫原が投与されると、これらのトランスジェニック動物は、その免疫原に免疫特異性があるが、可変領域を含めて、マウスのアミノ酸配列ではなく、ヒトのアミノ酸配列を有する抗体を産生する。このような方法のさらなる詳細は、例えば、国際公開第96/33735号パンフレット及び国際公開第94/02602号パンフレットを参照されたい。ヒト抗体を作るためのトランスジェニックマウスに関連するさらなる方法は、米国特許第5,545,807号明細書、同第6,713,610号明細書、同第6,673,986号明細書、同第6,162,963号明細書、同第5,939,598号明細書、同第5,545,807号明細書、同第6,300,129号明細書、同第6,255,458号明細書、同第5,877,397号明細書、同第5,874,299及び同第5,545,806号明細書、PCT公報の国際公開第91/10741号パンフレット、国際公開第90/04036号パンフレット、国際公開第94/02602号パンフレット、国際公開第96/30498号パンフレット、国際公開第98/24893号パンフレット、並びに欧州特許第546073B1号明細書及び欧州特許出願公開第546073A1号明細書に記載されている。
【0056】
本明細書中で「HuMab」マウスと呼ばれる上記のトランスジェニックマウスは、内因性のミュー及びカッパ鎖遺伝子座を不活化する標的変異と共に、再配列されていないヒト重鎖(ミュー及びガンマ)及びカッパ軽鎖免疫グロブリン配列をコードするヒト免疫グロブリン遺伝子ミニ遺伝子座を含む(Lonberg et al.,1994,Nature 368:856-859)。したがって、マウスは、マウスIgM又はカッパの発現の減少を示し、免疫化に応答して、導入されたヒト重鎖及び軽鎖導入遺伝子は、クラススイッチ及び体細胞変異を受けて、高親和性ヒトIgGカッパモノクローナル抗体を生成する(Lonberg et al.,前出;Lonberg and Huszar,1995,Intern.Rev.Immunol.13:65-93;Harding and Lonberg,1995,Ann.N.Y Acad.Sci.764:536-546)。HuMabマウスの作製は、Taylor et al.,1992,Nucleic Acids Research 20:6287-6295;Chen et al.,1993,International Immunology 5:647-656;Tuaillon et al.,1994,J.Immunol.152:2912-2920;Lonberg et al.,1994,Nature 368:856-859;Lonberg,1994,Handbook of Exp.Pharmacology 113:49-101;Taylor et al.,1994,International Immunology 6:579-591;Lonberg and Huszar,1995,Intern.Rev.Immunol.13:65-93;Harding and Lonberg,1995,Ann.N.Y Acad.Sci.764:536-546;Fishwild et al.,1996,Nature Biotechnology 14:845-851に詳細に記載されており、これらの文献はあらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。さらに、米国特許第5,545,806号明細書、同第5,569,825号明細書、同第5,625,126号明細書、同第5,633,425号明細書、同第5,789,650号明細書、同第5,877,397号明細書、同第5,661,016号明細書、同第5,814,318号明細書、同第5,874,299号明細書、及び同第5,770,429号明細書、並びに米国特許第5,545,807号明細書、国際公開第93/1227号パンフレット、国際公開第92/22646号パンフレット、及び国際公開第92/03918号パンフレットを参照されたい。その全ての開示内容はあらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。こうしたトランスジェニックマウスにおけるヒト抗体の産生を利用する技術は、国際公開第98/24893号パンフレット及びMendez et al.,1997,Nature Genetics 15:146-156においても開示されており、これらの文献は参照により本明細書に組み込まれる。
【0057】
ヒト由来抗体はまた、ファージディスプレイ技術を使用して生成することができる。ファージディスプレイは、例えば、Dower et al.,国際公開第91/17271号パンフレット、McCafferty et al.,国際公開第92/01047号パンフレット、及びCaton and Koprowski,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,87:6450-6454(1990)に記載されており、これらの各文献は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。ファージ技術によって生成される抗体は、通常、細菌において、抗原結合断片、例えばFv又はFab断片として生成され、したがってエフェクター機能を欠く。エフェクター機能は、2つの戦略のうちの1つによって導入することができる。すなわち、断片を操作して、所望する場合、哺乳動物細胞で発現する完全な抗体にするか、又はエフェクター機能を誘発することができる第2の結合部位を有する抗体断片にすることができる。通常、抗体のFd断片(VH-CH1)及び軽鎖(VL-CL)は、PCRによって別々にクローン化され、コンビナトリアルファージディスプレイライブラリーにおいてランダムに組み換えられ、その後、特定の抗原に結合するために選択することができる。抗体断片はファージ表面に発現し、Fv又はFab(したがって抗体断片をコードするDNAを含有するファージ)の抗原結合による選択は、パンニングと呼ばれる手順である抗原結合及び再増幅を数ラウンド行うことによって実現される。抗原に特異的な抗体断片は濃縮され、最終的に単離される。ファージディスプレイ技術はまた、「ガイデッドセレクション(guided selection)」と呼ばれる、齧歯類モノクローナル抗体のヒト化のためのアプローチにおいて使用することができる(Jespers,L.S.,et al.,Bio/Technology 12,899-903(1994)を参照)。これについては、マウスモノクローナル抗体のFd断片を、ヒト軽鎖ライブラリーと組み合わせて提示することが可能であり、得られたハイブリッドFabライブラリーは、次いで、抗原を用いて選択することができる。これにより、マウスFd断片は、選択を誘導するテンプレートを提供する。続いて、選択されたヒト軽鎖は、ヒトFd断片ライブラリーと組み合わされる。得られたライブラリーの選択により、完全なヒトFabが得られる。
【0058】
特定の実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は抗体を含む。本明細書で使用する場合、用語「抗体」は、2つの軽鎖ポリペプチド(それぞれ約25kDa)及び2つの重鎖ポリペプチド(それぞれ約50~70kDa)を含む四量体免疫グロブリンタンパク質を指す。「軽鎖」又は「免疫グロブリン軽鎖」という用語は、アミノ末端からカルボキシル末端までに、単一の免疫グロブリン軽鎖可変領域(VL)及び単一の免疫グロブリン軽鎖定常ドメイン(CL)を含むポリペプチドを指す。免疫グロブリン軽鎖定常ドメイン(CL)は、カッパ(κ)又はラムダ(λ)とすることができる。「重鎖」又は「免疫グロブリン重鎖」という用語は、アミノ末端からカルボキシル末端までに、単一の免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)、免疫グロブリン重鎖定常ドメイン1(CH1)、免疫グロブリンヒンジ領域、免疫グロブリン重鎖定常ドメイン2(CH2)、免疫グロブリン重鎖定常ドメイン3(CH3)、及び任意選択により免疫グロブリン重鎖定常ドメイン4(CH4)を含むポリペプチドを指す。重鎖は、ミュー(μ)、デルタ(Δ)、ガンマ(γ)、アルファ(α)及びイプシロン(ε)として分類され、抗体のアイソタイプを、それぞれIgM、IgD、IgG、IgA及びIgEと定義する。IgGクラス抗体及びIgAクラス抗体は、サブクラス、すなわち、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4並びにIgA1及びIgA2に、それぞれさらに分けられる。IgG抗体、IgA抗体、及びIgD抗体の重鎖は、3つのドメイン(CH1、CH2及びCH3)を有し、IgM抗体及びIgE抗体の重鎖は、4つのドメイン(CH1、CH2、CH3及びCH4)を有する。免疫グロブリン重鎖定常ドメインは、サブタイプを含む任意の免疫グロブリンアイソタイプに由来するものとすることができる。抗体鎖は、CLドメインとCH1ドメインとの間(すなわち、軽鎖と重鎖との間)、及び抗体重鎖のヒンジ領域間の、ポリペプチド間ジスルフィド結合を介して連結されている。
【0059】
特定の実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、ヘテロ二量体抗体(本明細書では「ヘテロ免疫グロブリン」又は「ヘテロIg」と互換的に使用される)であり、これは2つの異なる軽鎖及び2つの異なる重鎖を含む抗体を指す。
【0060】
ヘテロ二量体抗体は、任意の免疫グロブリン定常領域を含むことができる。「定常領域」という用語は、本明細書で使用する場合、可変領域以外の抗体の全てのドメインを指す。定常領域は、抗原の結合に直接には関与しないが、種々のエフェクター機能を発揮する。上記のように、抗体は、その重鎖の定常領域のアミノ酸配列に応じて、特定のアイソタイプ(IgA、IgD、IgE、IgG及びIgM)及びサブタイプ(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2)に分けられる。軽鎖定常領域は、例えば、5つの抗体アイソタイプ全てに見出される、カッパ型又はラムダ型の軽鎖定常領域、例えば、ヒトのカッパ型又はラムダ型の軽鎖定常領域とすることができる。ヒト免疫グロブリン軽鎖定常領域配列の例を以下の表1に示す。
【0061】
【0062】
ヘテロ二量体抗体の重鎖定常領域は、例えば、アルファ型、デルタ型、イプシロン型、ガンマ型又はミュー型の重鎖定常領域、例えば、ヒトのアルファ型、デルタ型、イプシロン型、ガンマ型又はミュー型の重鎖定常領域とすることができる。いくつかの実施形態では、ヘテロ二量体抗体は、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4免疫グロブリン由来の重鎖定常領域を含む。一実施形態では、ヘテロ二量体抗体は、ヒトIgG1免疫グロブリン由来の重鎖定常領域を含む。別の実施形態では、ヘテロ二量体の抗体は、ヒトIgG2免疫グロブリン由来の重鎖定常領域を含む。ヒトIgG1及びIgG2重鎖定常領域配列の例を下記の表2に示す。
【0063】
【0064】
可変領域を上記軽鎖及び重鎖定常領域に付着させて、完全な抗体軽鎖及び重鎖をそれぞれ形成することができる。さらに、このようにして生成された重鎖及び軽鎖ポリペプチドの各々を組み合わせて、完全な二重特異性抗体構造、例えば、ヘテロ二量体抗体を形成することができる。本明細書において提供される重鎖及び軽鎖可変領域が、上に列挙された例示的な配列と異なる配列を有する他の定常ドメインにも結合され得ることを理解されたい。
【0065】
本発明の特定の実施形態では、2つの異なる重鎖が本発明のヘテロ二量体分子を形成するために使用される。ヘテロ二量体抗体への軽鎖及び重鎖のアセンブリを容易にするために、各抗体からの軽鎖及び/又は重鎖は、誤対合分子の形成を減少させるように操作することができる。例えば、ホモ二量体の形成よりもヘテロ二量体の形成を促進する1つのアプローチはいわゆる「ノブ・イントゥ・ホール」法であり、これは、接触界面で2つの異なる抗体重鎖のCH3ドメインに変異を導入することを含む。具体的には、一方の重鎖中の1つ以上の嵩高いアミノ酸を短い側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン又はトレオニン)で置換して「ホール」を生成する一方、他方の重鎖に大きな側鎖を有する1つ以上のアミノ酸(例えば、チロシン又はトリプトファン)を導入して「ノブ」を生成する。改変された重鎖が同時発現された場合、ホモ二量体(ホール-ホール又はノブ-ノブ)と比較して、ヘテロ二量体(ノブ-ホール)がより大きい割合で形成される。「ノブ・イントゥ・ホール」方法は、国際公開第96/027011号パンフレット、Ridgway et al.,Protein Eng.,Vol.9:617-621,1996、及びMerchant et al.,Nat,Biotechnol.,Vol.16:677-681,1998に詳細に記載されている(これらの文献は全て参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0066】
ヘテロ二量体の形成を促進しホモ二量体の形成を排除する別のアプローチは、静電ステアリング機構を利用することを伴う(Gunasekaran et al.,J.Biol. Chem.,Vol.285:19637-19646,2010を参照(この文献は参照によりその全体が参照により本明細書に組み込まれる))。このアプローチは、2つの異なる重鎖が静電引力を引き起こす反対の電荷によって会合するように、各重鎖中のCH3ドメインに荷電残基を導入するか又はそれを利用することを含む。同一の重鎖は同じ電荷を有し、したがって反発するので、同一の重鎖のホモ二量体化は嫌われる。この同じ静電ステアリング技術を用いて、正しい軽鎖-重鎖対に反対の電荷を有する残基を結合界面に導入することによって、軽鎖と非同族重鎖との誤対合を防止することができる。ヘテロ二量体及び正しい軽鎖/重鎖対合を促進するための静電ステアリング技術及び好適な電荷対変異は、国際公開第2009/089004号パンフレット及び国際公開第2014/081955に記載されており、これらの両文献は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0067】
本発明の二重特異性抗原結合タンパク質が第1の標的抗原に特異的に結合する第1の抗体由来の第1の軽鎖(LC1)及び第1の重鎖(HC1)、並びに標的2に特異的に結合する第2の抗体由来の第2の軽鎖(LC2)及び第2の重鎖(HC2)を含むヘテロ二量体抗体である実施形態においては、HC1又はHC2は、正に荷電したアミノ酸を負に荷電したアミノ酸で置換する1つ以上のアミノ酸置換を含み得る。例えば、一実施形態では、HC1のCH3ドメイン又はHC2のCH3ドメインが、野生型ヒトIgGアミノ酸配列中の1つ以上の正に荷電したアミノ酸(例えば、リシン、ヒスチジン及びアルギニン)がCH3ドメイン中の対応する位置で1つ以上の負に荷電したアミノ酸(例えば、アスパラギン酸及びグルタミン酸)で置換されるように、野生型IgGアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を含む。これらの及び他の実施形態では、370、392及び409(EU番号付けシステム)から選択される1つ以上の位置のアミノ酸(例えば、リシン)が、負に荷電したアミノ酸(例えば、アスパラギン酸及びグルタミン酸)で置換される。アミノ酸配列におけるアミノ酸置換は、本明細書においては、通常、特定の位置におけるアミノ酸残基が一文字略語で示され、次いで、目的の元の配列に対するアミノ酸位置の数字が続き、次いで、置換アミノ酸残基の1文字の略語が続く。例えば、「T30D」は、目的の元の配列に対して、アミノ酸位置30でのアスパラギン酸残基によるトレオニン残基の置換を表す。別の例の「S218G」は、目的の元のアミノ酸配列に対して、アミノ酸位置218でのグリシン残基によるセリン残基の置換を表す。
【0068】
特定の実施形態では、ヘテロ二量体抗体のHC1又はHC2は、負に荷電したアミノ酸を正に荷電したアミノ酸で置換する1つ以上のアミノ酸置換を含み得る。例えば、一実施形態では、HC1のCH3ドメイン又はHC2のCH3ドメインが、野生型ヒトIgGアミノ酸配列中の1つ以上の負に荷電したアミノ酸がCH3ドメイン中の対応する位置で1つ以上の正に荷電したアミノ酸で置換されるように、野生型IgGアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を含む。これらの及び他の実施形態では、CH3ドメインの356、357、及び399(EU番号付けシステム)から選択される1つ以上の位置のアミノ酸(例えば、アスパラギン酸又はグルタミン酸)が、正に荷電したアミノ酸(例えば、リシン、ヒスチジン、及びアルギニン)で置換される。
【0069】
特定の実施形態では、ヘテロ二量体抗体は、360位、370位、392位及び409位に負に荷電したアミノ酸(例えば、K360E/D、K370E/D、K392E/D及びK409E/Dの置換)を含む第1の重鎖、及び356位及び399位に正に荷電したアミノ酸(例えば、E356K及びD399Kの置換)を含む第2の重鎖を含む。他の特定の実施形態では、ヘテロ二量体抗体は、392位、409位及び370位に負に荷電したアミノ酸(例えば、K392D、K409D及びK370Dの置換)を含む第1の重鎖、及び356位、399位及び357位に正に荷電したアミノ酸(例えば、E356K、D399K及びE357Kの置換)を含む第2の重鎖を含む。関連する実施形態では、第1の重鎖は、抗第1の抗原抗体に由来し、第2の重鎖は、抗第2の抗原抗体に由来する。
【0070】
本発明は、第1のCH3ドメインポリペプチド及び第2のCH3ドメインポリペプチドを含むヘテロ二量体CH3ドメインを含み、第1のCH3ドメインポリペプチドはK360位にアミノ酸の改変を含む単離されたヘテロ多量体であって、(i)第1のCH3ドメインポリペプチドはさらにK370位にアミノ酸の改変を含み、(ii)第2のCH3ドメインポリペプチドはE357位にアミノ酸の改変を含み、ここで、アミノ酸残基の番号付けは、Kabatに記載されるEUインデックスによる、単離ヘテロ多量体を対象とする。
【0071】
別の態様では、本発明は、単離されたヘテロ多量体を約pH5.0で安定化する方法であって、ヘテロ多量体は第1のCH3ドメインポリペプチド及び第2のCH3ドメインポリペプチドを含むヘテロ二量体CH3ドメインを含み、(i)第1のCH3ドメインポリペプチドはK370位にアミノ酸の改変を含み、(ii)第2のCH3ドメインポリペプチドはE357位にアミノ酸の改変を含む方法において、第1のCH3ドメインのK360位にアミノ酸の改変を導入することを含み、この改変はグルタミン酸又はアスパラギン酸でのK360の置換である(ここで、アミノ酸残基の番号付けは、Kabatに記載されるEUインデックスによる)方法を対象とする。
【0072】
一実施形態では、K360位におけるアミノ酸の改変は、K360E及びK360Dからなる群から選択される。
【0073】
一実施形態では、K370位におけるアミノ酸の改変は、K370E及びK370Dからなる群から選択される。
【0074】
一実施形態では、E357位におけるアミノ酸の改変は、E357K、E357H及びE357Rからなる群から選択される。
【0075】
一実施形態では、K360位のアミノ酸の改変はK360Eであり、K370位のアミノ酸の改変はK370Dであり、E357位のアミノ酸の改変はE357Kである。
【0076】
一実施形態では、一方のCH3ドメインポリペプチドはさらにK409位にアミノ酸の改変を含み、他方のCH3ドメインポリペプチドはさらにD399位にアミノ酸の改変を含む。
【0077】
一実施形態では、第1のCH3ドメインポリペプチドはK409位にアミノ酸の改変を含み、第2のCH3ドメインポリペプチドはD399位にアミノ酸の改変を含む。
【0078】
一実施形態では、第1のCH3ドメインポリペプチドはD399位にアミノ酸の改変を含み、第2のCH3ドメインポリペプチドはK409位にアミノ酸の改変を含む。
【0079】
一実施形態では、K409位におけるアミノ酸の改変はK409E及びK409Dからなる群から選択され、D399位におけるアミノ酸の改変はD399K、D399H及びD399Rからなる群から選択される。
【0080】
一実施形態では、K409位のアミノ酸の改変はK409Dであり、D399位のアミノ酸の改変はD399Kである。
【0081】
一実施形態では、K409位にアミノ酸の改変を含むCH3ドメインポリペプチドは、さらにK392位にアミノ酸の改変を含む。
【0082】
一実施形態では、K392位のアミノ酸の改変は、K392E及びK392Dからなる群から選択される。
【0083】
一実施形態では、一方のCH3ドメインポリペプチドはさらにK439位にアミノ酸の改変を含み、他方のCH3ドメインポリペプチドはさらにE356位にアミノ酸の改変を含む。
【0084】
一実施形態では、第1のCH3ドメインポリペプチドはK439位にアミノ酸の改変を含み、第2のCH3ドメインポリペプチドはE356位にアミノ酸の改変を含む。
【0085】
一実施形態では、第1のCH3ドメインポリペプチドはE356位にアミノ酸の改変を含み、第2のCH3ドメインポリペプチドはK439位にアミノ酸の改変を含む。
【0086】
一実施形態では、K439位におけるアミノ酸の改変はK439E及びK439Dからなる群から選択され、E356位におけるアミノ酸の改変はE356K、E356H及びE356Rからなる群から選択される。
【0087】
一実施形態では、K439位のアミノ酸の改変はK439Eであり、E356位のアミノ酸の改変はE356Kである。
【0088】
一実施形態では、第1のCH3ドメインポリペプチドはK360E、K370D、K409D及びK392D変異を含み、第2のCH3ドメインポリペプチドはE357K及びD399K変異を含む。
【0089】
一実施形態では、第1のCH3ドメインポリペプチドはさらにK439E変異を含み、第2のCH3ドメインポリペプチドはさらにE356K変異を含む。
【0090】
一実施形態では、ヘテロ二量体CH3ドメインは、IgG Fc領域に基づくFc領域に含まれる。
【0091】
一実施形態では、IgG Fc領域はIgG1 Fc領域である。
【0092】
一実施形態では、ヘテロ多量体は、二重特異性又は多重特異性の抗体である。
【0093】
特定の重鎖とその同族の軽鎖との会合を促進するために、重鎖及び軽鎖の両方は、相補的アミノ酸置換を含有し得る。本明細書で使用する場合、「相補的アミノ酸置換」とは、一方の鎖における正に荷電したアミノ酸への置換と他方の鎖における負の荷電したアミノ酸置換とが対合することを指す。例えば、いくつかの実施形態では、重鎖は、荷電アミノ酸を導入する少なくとも1つのアミノ酸置換を含み、対応する軽鎖は、荷電アミノ酸を導入する少なくとも1つのアミノ酸置換を含み、重鎖に導入される荷電アミノ酸は、軽鎖に導入されるアミノ酸の反対の電荷を有する。特定の実施形態では、第1の軽鎖(LC1)/対になる重鎖(HC1)の結合界面で、1つ又は複数の正に荷電した残基(例えば、リシン、ヒスチジン又はアルギニン)をLC1に、1つ又は複数の負に荷電した残基(例えば、アスパラギン酸又はグルタミン酸)をHC1に導入することができ、一方、第2の軽鎖(LC2)/対になる重鎖(HC2)の結合界面で、1つ又は複数の負に荷電した残基(例えば、アスパラギン酸又はグルタミン酸)をLC2に、1つ又は複数の正に荷電した残基(例えば、リシン、ヒスチジン又はアルギニン)をHC2に導入することができる。静電相互作用は、界面で反対に荷電した残基(極性)が引き合うため、LC1をHC1に誘導して対合させ、LC2をHC2と誘導して対合させる。界面で同じ荷電残基(極性)を有する重鎖/軽鎖の対(例えば、LC1/HC2及びLC2/HC1)は反発し、結果として望ましくないHC/LCの対合が抑制される。
【0094】
これらの及び他の実施形態では、重鎖のCH1ドメイン又は軽鎖のCLドメインは、野生型IgGアミノ酸配列中の1つ又は複数の正に荷電したアミノ酸が1つ又は複数の負に荷電したアミノ酸で置換されるような、野生型IgGアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を含む。或いは、重鎖のCH1ドメイン又は軽鎖のCLドメインは、野生型IgGアミノ酸配列中の1つ又は複数の負に荷電したアミノ酸が1つ又は複数の正に荷電したアミノ酸で置換されるような、野生型IgGアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、F126、P127、L128、A141、L145、K147、D148、H168、F170、P171、V173、Q175、S176、S183、V185及びK213から選択されるEU位置でのヘテロ二量体抗体中の第1の及び/又は第2の重鎖のCH1ドメインにおける1つ又は複数のアミノ酸が、荷電したアミノ酸で置換される。特定の実施形態では、負又は正に荷電したアミノ酸により置換される重鎖残基は、S183(EU番号付けシステム)である。いくつかの実施形態では、S183は、正に荷電したアミノ酸で置換される。代替的な実施形態では、S183は負に荷電したアミノ酸で置換される。例えば、一実施形態では、S183は、第1の重鎖において負に荷電したアミノ酸で置換され(例えば、S183E)、第2の重鎖において、S183は、正に荷電したアミノ酸で置換される(例えば、S183K)。
【0095】
軽鎖がカッパ軽鎖である実施形態では、F116、F118、S121、D122、E123、Q124、S131、V133、L135、N137、N138、Q160、S162、T164、S174及びS176から選択される位置(カッパ軽鎖におけるEU番号付け)でヘテロ二量体抗体中の第1及び/又は第2の軽鎖のCLドメインにおける1つ以上のアミノ酸が、荷電したアミノ酸で置き換えられる。軽鎖がラムダ軽鎖である実施形態では、T116、F118、S121、E123、E124、K129、T131、V133、L135、S137、E160、T162、S165、Q167、A174、S176及びY178から選択される位置(ラムダ鎖におけるEU番号付け)でヘテロ二量体抗体中の第1及び/又は第2の軽鎖のCLドメインにおける1つ以上のアミノ酸が、荷電したアミノ酸で置き換えられる。いくつかの実施形態では、負又は正に荷電したアミノ酸により置換される残基は、カッパ軽鎖又はラムダ軽鎖のCLドメインのS176(EU番号付けシステム)である。特定の実施形態では、CLドメインのS176は、正に荷電したアミノ酸で置き換えられる。代替的な実施形態では、CLドメインのS176は、負に荷電したアミノ酸で置換される。一実施形態では、S176は、第1の軽鎖において正に荷電したアミノ酸で置換され(例えば、S176K)、第2の軽鎖において、S176は、負に荷電したアミノ酸で置換される(例えば、S176E)。
【0096】
CH1ドメイン及びCLドメインにおける相補的アミノ酸置換に加えて、又はその代替として、ヘテロ二量体抗体の軽鎖及び重鎖の可変領域に、荷電アミノ酸を導入する1つ又は複数の相補的アミノ酸置換が含まれてもよい。例えば、一部の実施形態では、重鎖のVH領域又は軽鎖のVL領域が、野生型IgGアミノ酸配列中の1つ又は複数の正に荷電したアミノ酸が1つ又は複数の負に荷電したアミノ酸で置換されるような、野生型IgGアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を含む。或いは、重鎖のVH領域又は軽鎖のVL領域が、野生型IgGアミノ酸配列中の1つ又は複数の負に荷電したアミノ酸が1つ又は複数の正に荷電したアミノ酸で置換されるような、野生型IgGアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を含む。
【0097】
VH領域内のV領域界面残基(すなわち、VH及びVL領域のアセンブリを媒介するアミノ酸残基)としては、EU位置1、3、35、37、39、43、44、45、46、47、50、59、89、91、及び93が挙げられる。VH領域中のこれらの界面残基の1つ以上は、荷電した(正又は負に荷電した)アミノ酸で置換され得る。特定の実施形態では、第1及び/又は第2の重鎖のVH領域中のEU位置39のアミノ酸は、正に荷電したアミノ酸、例えば、リシンに置換される。代替の実施形態では、第1及び/又は第2の重鎖のVH領域中のEU位置39のアミノ酸は、負に荷電したアミノ酸、例えば、グルタミン酸に置換される。いくつかの実施形態では、第1の重鎖のVH領域中のEU位置39のアミノ酸は、負に荷電したアミノ酸に置換され(例えば、G39E)、第2の重鎖のVH領域中のEU位置39のアミノ酸は、正に荷電したアミノ酸に置換される(例えば、G39K)。いくつかの実施形態では、第1及び/又は第2の重鎖のVH領域中のEU位置44のアミノ酸は、正に荷電したアミノ酸、例えば、リシンに置換される。代替の実施形態では、第1及び/又は第2の重鎖のVH領域中のEU位置44のアミノ酸は、負に荷電したアミノ酸、例えば、グルタミン酸に置換される。特定の実施形態では、第1の重鎖のVH領域中のEU位置44のアミノ酸は、負に荷電したアミノ酸に置換され(例えば、G44E)、第2の重鎖のVH領域中のEU位置44のアミノ酸は、正に荷電したアミノ酸に置換される(例えば、G44K)。
【0098】
VL領域内のV領域界面残基(すなわち、VH及びVL領域のアセンブリを媒介するアミノ酸残基)としては、EU位置32、34、35、36、38、41、42、43、44、45、46、48、49、50、51、53、54、55、56、57、58、85、87、89、90、91、及び100が挙げられる。VL領域中の1つ以上の界面残基は、荷電アミノ酸、好ましくは、同族重鎖のVH領域に導入されるものと反対の電荷を有するアミノ酸で置換され得る。いくつかの実施形態では、第1及び/又は第2の軽鎖のVL領域中のEU位置100のアミノ酸は、正に荷電したアミノ酸、例えば、リシンに置換される。代替の実施形態では、第1及び/又は第2の軽鎖のVL領域中のEU位置100のアミノ酸は、負に荷電したアミノ酸、例えば、グルタミン酸に置換される。特定の実施形態では、第1の軽鎖のVL領域中のEU位置100のアミノ酸は、正に荷電したアミノ酸に置換され(例えば、G100K)、第2の軽鎖のVL領域中のEU位置100のアミノ酸は、負に荷電したアミノ酸に置換される(例えば、G100E)。
【0099】
定常ドメインのいずれも、ヘテロ二量体抗体の正確なアセンブリを容易にするために、上記の電荷対変異の1つ以上を含むように改変され得る。
【0100】
本発明のヘテロ二量体抗体はまた、重鎖及び/又は軽鎖を含む抗体であって、1、2、3、4又は5個のアミノ酸残基が、例えば、抗体が発現される宿主細胞の型に起因する翻訳後の改変のために、重鎖及び軽鎖のいずれか1つに関して、N末端、C末端、又はその両方から欠失している抗体を包含する。例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞はしばしば、抗体重鎖からC末端リシンを切断する。
【0101】
特定の実施形態では、本発明の抗原結合タンパク質は、(i)第1の標的抗原に特異的に結合する第1の結合ドメイン、(ii)第2の標的抗原に特異的に結合する第2の結合ドメイン、及び(iii)ヒト免疫グロブリンFc領域を含み、一方の結合ドメインはFc領域のアミノ末端に位置し、他方の結合ドメインはFc領域のカルボキシル末端に位置する。いくつかのこのような実施形態においては、第1及び第2の結合ドメインの各々は、免疫グロブリン可変領域を含む。例えば、特定の実施形態では、第1の結合ドメインは抗第1の標的抗原抗体由来の第1の軽鎖可変領域(VL1)及び第1の重鎖可変領域(VH1)を含み、第2の結合ドメインは抗第2の標的抗原抗体由来の第2の軽鎖可変領域(VL2)及び第2の重鎖可変領域(VH2)を含む。
【0102】
本明細書で使用する場合、「Fc領域」という用語は、インタクトな抗体のパパイン消化によって生成することができる免疫グロブリン重鎖のC末端領域を指す。免疫グロブリンのFc領域は、一般に、2つの定常ドメイン、すなわちCH2ドメイン及びCH3ドメインを含み、任意選択的に、CH4ドメインを含む。特定の実施形態では、Fc領域は、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4免疫グロブリン由来のFc領域である。いくつかの実施形態では、Fc領域は、ヒトIgG1又はヒトIgG2免疫グロブリン由来のCH2ドメイン及びCH3ドメインを含む。Fc領域は、C1q結合、補体依存性細胞傷害(CDC)、Fc受容体結合、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)、及び貪食などのエフェクター機能を保持し得る。他の実施形態では、Fc領域は、本明細書にさらに詳細に記載されるように、エフェクター機能を低減又は排除するように改変される場合がある。
【0103】
本発明の二重特異性抗原結合タンパク質の特定の実施形態では、Fc領域のアミノ末端に位置する結合ドメイン(すなわち、アミノ末端結合ドメイン)は、本明細書に記載されるペプチドリンカーを介して、又は免疫グロブリンヒンジ領域を介して、Fc領域のアミノ末端に融合されたFabフラグメントである。「免疫グロブリンヒンジ領域」は、免疫グロブリン重鎖のCH1ドメインとCH2ドメインとを連結するアミノ酸配列を指す。ヒトIgG1のヒンジ領域は、一般に、約Glu216又は約Cys226から約Pro230までのアミノ酸配列と定義される。他のIgGアイソタイプのヒンジ領域は、重鎖間ジスルフィド結合を形成する最初と最後のシステイン残基を同じ位置に配置することによって、IgG1配列と整列させることができ、当業者に決定可能である。いくつかの実施形態では、アミノ末端結合ドメインは、ヒトIgG1ヒンジ領域を介してFc領域のアミノ末端に連結される。他の実施形態では、アミノ末端結合ドメインは、ヒトIgG2ヒンジ領域を介してFc領域のアミノ末端に連結される。一実施形態では、アミノ末端結合ドメイン(例えば、Fab断片)は、FabのCH1領域のカルボキシル末端を介してFc領域に融合される。
【0104】
本明細書で使用する場合、用語「改変重鎖」は、免疫グロブリン重鎖、特にヒトIgG1又はヒトIgG2重鎖、及び機能的抗体断片(例えば、Fab)又はその一部(例えば、免疫グロブリン軽鎖又はFd断片)を含む融合タンパク質であって、機能的抗体断片又はその一部は、そのN末端で、任意選択的にペプチドリンカーを介して、重鎖のC末端に融合されるタンパク質を指す。
【0105】
本発明の抗原結合タンパク質のいくつかの実施形態では、Fc領域のカルボキシル末端に位置する結合ドメイン(すなわち、カルボキシル末端結合ドメイン)はFab断片である。このような実施形態では、Fabは、Fab断片のVH領域のアミノ末端を介し、ペプチドリンカーを介してFc領域のカルボキシル末端(例えば、CH3ドメインのカルボキシル末端)に融合されるか、又は連結される。したがって、一実施形態では、得られる融合タンパク質がN末端からC末端まで、CH2ドメイン、CH3ドメイン、ペプチドリンカー、VH領域、及びCH1領域を含むように、FabのVH領域のアミノ末端を介してFc領域にFabが融合される。
【0106】
Fc領域をカルボキシル末端Fabに連結するペプチドリンカーは、本明細書中に記載されるペプチドリンカーのいずれかとすることができる。特定の実施形態では、Fc領域をカルボキシル末端Fab断片に連結するペプチドリンカーは、少なくとも5アミノ酸長である。他の実施形態では、Fc領域をカルボキシル末端Fab断片に連結するペプチドリンカーは、少なくとも8アミノ酸長である。Fc領域をカルボキシル末端Fabフラグメントに連結するために特に好適なペプチドリンカーは、(GlyxSer)n(ここで、x=3又は4、及びn=2、3、4、5又は6)などのグリシン-セリンリンカーである。一実施形態では、Fc領域をカルボキシル末端Fab断片に連結するペプチドリンカーは、L10(G4S)2リンカー(配列番号10)である。別の実施形態では、Fc領域をカルボキシル末端Fabフラグメントに連結するペプチドリンカーは、L9又はG3SG4Sリンカー(配列番号11)である。
【0107】
カルボキシル末端結合ドメインがFab断片である本発明の抗原結合タンパク質のいくつかの実施形態では、Fc領域のアミノ末端に位置する結合ドメイン(すなわち、アミノ末端結合ドメイン)もまた、Fab断片である。アミノ末端Fab断片は、本明細書に記載されるペプチドリンカー又は免疫グロブリンヒンジ領域を介して、Fc領域のアミノ末端に融合され得る。いくつかの実施形態では、アミノ末端Fab断片は、ヒトIgG1ヒンジ領域を介してFc領域のアミノ末端に連結される。他の実施形態では、アミノ末端Fab断片は、ヒトIgG2ヒンジ領域を介してFc領域のアミノ末端に連結される。一実施形態では、アミノ末端Fab断片は、FabのCH1領域のカルボキシル末端を介してFc領域に融合される。
【0108】
いくつかの実施形態では、本発明の二重特異性抗原結合タンパク質は、第1の標的に特異的に結合する第1の抗体を含み、第2の標的に特異的に結合する第2の抗体由来のFab断片の1つのポリペプチド鎖(例えば、重鎖(VH2-CH1))は、第1の抗体の重鎖のカルボキシル末端に融合される。このような実施形態における二重特異性抗原結合タンパク質はまた、第2の抗体由来のFab断片の他の半分(例えば、軽鎖(VL2-CL))を含むポリペプチド鎖を含む。この型を本明細書では「IgG-Fab」型と称し、このタイプの分子の一実施形態を
図1に概略的に示す。したがって、特定の実施形態では、本発明は、以下を含む二重特異性の多価抗原結合タンパク質を含む:(i)第1の抗体由来の軽鎖、(ii)第1の抗体由来の重鎖(ここで、重鎖は、そのカルボキシル末端でペプチドリンカーを介して、第2の抗体のVH-CH1ドメインを含む第1のポリペプチドに融合されて、改変重鎖を形成している)、及び(iii)第2の抗体のVL-CLドメインを含む第2のポリペプチド。二量体化される場合、二重特異性抗原結合タンパク質は、2つの改変重鎖、第1の抗体由来の2つの軽鎖、及び第2の抗体由来のFab断片の他の半分(Fd断片)を含む2つのポリペプチド鎖を含むホモ六量体である。別の実施形態では、重鎖のカルボキシル末端に融合される第1のポリペプチドは、第2の抗体由来のVHドメイン及びのCLドメインを含み、且つ第2のポリペプチドは、第2の抗体由来のVLドメイン及びCLドメインを含む。
【0109】
本明細書に記載されるような電荷対変異又は相補的アミノ酸置換は、第1の抗体のFab領域(Fab1)又は第2の抗体のFab領域(Fab2)に導入されて、正確な重鎖-軽鎖対合を促進し得る。例えば、いくつかの実施形態では、Fab1のVLドメインのEU位置38のアミノ酸が負に荷電したアミノ酸(例えば、グルタミン酸)で置換され、Fab1のVHドメインのEU位置39のアミノ酸は正に荷電したアミノ酸(例えば、リシン)で置換される。他の実施形態では、Fab1のVLドメインのEU位置38のアミノ酸が正に荷電したアミノ酸(例えば、リシン)で置換され、Fab1のVHドメインのEU位置39のアミノ酸は負に荷電したアミノ酸(例えば、グルタミン酸)で置換される。特定の実施形態では、Fab2のVLドメインのEU位置38のアミノ酸が負に荷電したアミノ酸(例えば、グルタミン酸)で置換され、Fab2のVHドメインのEU位置39のアミノ酸は正に荷電したアミノ酸(例えば、リシン)で置換される。他の実施形態では、Fab2のVLドメインのEU位置38のアミノ酸が正に荷電したアミノ酸(例えば、リシン)で置換され、Fab2のVHドメインのEU位置39のアミノ酸は負に荷電したアミノ酸(例えば、グルタミン酸)で置換される。
【0110】
第2の抗体由来のVH-CH1領域(すなわち、Fd断片)が第1の抗体の重鎖に融合される実施形態において、第1の抗体由来の重鎖はS183E変異(EU番号付け)を含み、第1の抗体由来の軽鎖はS176K変異(EU番号付け)を含み、第2の抗体由来の軽鎖はS176E変異(EU番号付け)を含み、第2の抗体由来のFd領域(これは第1の抗体由来の重鎖のC末端に融合される)は、S183K変異(EU番号付け)を含む。他の実施形態では、第1の抗体由来の重鎖がG44E突然変異(EU)及びS183E変異(EU番号付け)を含み、第1の抗体由来の軽鎖がG100K変異(EU)及びS176K変異(EU番号付け)を含み、第2の抗体由来の軽鎖がG100E変異(EU)及びS176E変異(EU番号付け)を含み、第2の抗体由来のFd領域(これは第1の抗体由来の重鎖のC末端に融合される)がG44K変異(EU)及びS183K変異(EU番号付け)を含む。前述の例における電荷は、対応する軽鎖又は重鎖上の電荷もまた、正しい重鎖/軽鎖対が反対の電荷を有するように反転される限り、反転され得る。
【0111】
VH2及び第2のCH1ドメインに関連する「~に対応する」は、リンカーが存在しなければ、VH2及び第2のCH1ドメインのアミノ酸残基が第1の重鎖のC末端から数えられることを意味する。ペプチドリンカーが存在する場合は、VH2及び第2のCH1ドメインのアミノ酸残基は、ペプチドリンカーのC末端から数えられる。いずれの場合も、アミノ酸残基は、第1の重鎖のN末端から数えられることはない。むしろ、VH2及び第2のCH1ドメインの場合、計数はVH2ドメインの最初のアミノ酸残基から開始される。アミノ酸残基の計数は、EU又はAHoの慣例により行われる。
【0112】
特定の実施形態では、a)VH1はQ39E変異を含み、第1のCH1ドメインはS183K変異を含み(EU番号付けを使用);b)VH2はQ39K変異を含み、第2のCH1ドメインはS183E変異を含み(EU番号付けを使用);c)VL1はQ38K変異を含み、第1のCLドメインはS176E変異を含み(EU番号付けを使用);且つd)VL2はQ38E変異を含み、第2のCLドメインはS176K変異を含む(EU番号付けを使用)。
【0113】
特定の実施形態では、a)第1のCH1ドメインはG44E及びS183K変異を含み(EU番号付けを使用);b)第2のCH1ドメインはG44K及びS183Eを含み(EU番号付けを使用);c)第1のCLドメインはG100K及びS176E変異を含み(EU番号付けを使用);且つd)第2のCLドメインはG100E及びS176K変異を含む(EU番号付けを使用)。
【0114】
特定の実施形態では、a)VH1はQ39K変異を含み、第1のCH1ドメインはS183E変異を含み(EU番号付けを使用);b)VH2はQ39E変異を含み、第2のCH1ドメインはS183K変異を含み(EU番号付けを使用);c)VL1はQ38E変異を含み、第1のCLドメインはS176K変異を含み(EU番号付けを使用);且つd)VL2はQ38K変異を含み、第2のCLドメインはS176E変異を含む(EU番号付けを使用)。
【0115】
特定の実施形態では、a)第1のCH1ドメインはG44K及びS183E変異を含み(EU番号付けを使用);b)第2のCH1ドメインはG44E及びS183Kを含み(EU番号付けを使用);c)第1のCLドメインはG100E及びS176K変異を含み(EU番号付けを使用);且つd)第2のCLドメインはG100K及びS176E変異を含む(EU番号付けを使用)。
【0116】
特定の実施形態では、第1の重鎖は、ペプチドリンカーを介してVH2に融合される。特定の実施形態では、ペプチドリンカーは、(Gly3Ser)2、(Gly4Ser)2、(Gly3Ser)3、(Gly4Ser)3、(Gly3Ser)4、(Gly4Ser)4、(Gly3Ser)5、(Gly4Ser)5、(Gly3Ser)6及び(Gly4Ser)6からなる群から選択される配列を含む。これらの配列はまた、GGGSGGGS(配列番12)、GGGGSGGGGS(配列番号13)、GGGSGGGSGGGS(配列番号14)、GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号15)、GGGSGGGSGGGSGGGS(配列番号16)、GGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号17)、GGGSGGGSGGGSGGGSGGGS(配列番号18)、GGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号19)、GGGSGGGSGGGSGGGSGGGSGGGS(配列番号20)及びGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号21)と記載することができる。
【0117】
さらに、又は代わりに、正しい重鎖-軽鎖対合は、カルボキシル末端Fab結合ドメイン中のCH1及びCLドメインを交換することによって促進され得る。一例として、重鎖のカルボキシル末端に融合される第1のポリペプチドは、第2の抗体由来のVLドメイン及びCH1ドメインを含んでもよく、且つ第2のポリペプチドは、第2の抗体由来のVHドメイン及びCLドメインを含んでもよい。別の実施形態では、重鎖のカルボキシル末端に融合される第1のポリペプチドは、第2の抗体由来のVHドメイン及びCLドメインを含んでもよく、且つ第2のポリペプチドは、第2の抗体由来のVLドメイン及びCH1ドメインを含んでもよい。
【0118】
本明細書に記載される二重特異性抗原結合タンパク質の重鎖定常領域又はFc領域は、抗原結合タンパク質のグリコシル化及び/又はエフェクター機能に影響する1つ以上のアミノ酸置換を含み得る。免疫グロブリンのFc領域の機能の1つは、免疫グロブリンがその標的に結合するときに免疫系に伝達することである。これは、一般に「エフェクター機能」と呼ばれる。伝達は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞貪食(ADCP)及び/又は補体依存性細胞障害(CDC)につながる。ADCC及びADCPは、免疫系の細胞の表面のFc受容体へのFc領域の結合を介して媒介される。CDCは、補体系のタンパク質、例えばC1qと、Fcとの結合を介して媒介される。いくつかの実施形態では、本発明の二重特異性抗原結合タンパク質は、ADCC活性、CDC活性、ADCP活性を含むエフェクター機能、及び/又は抗原結合タンパク質のクリアランス若しくは半減期を増強する1つ又は複数のアミノ酸置換を定常領域に含む。エフェクター機能を増強することができる例示的なアミノ酸置換(EU番号付け)としては、以下に限定されないが、E233L、L234I、L234Y、L235S、G236A、S239D、F243L、F243V、P247I、D280H、K290S、K290E、K290N、K290Y、R292P、E294L、Y296W、S298A、S298D、S298V、S298G、S298T、T299A、Y300L、V305I、Q311M、K326A、K326E、K326W、A330S、A330L、A330M、A330F、I332E、D333A、E333S、E333A、K334A、K334V、A339D、A339Q、P396L、又はこれらのいずれかの組み合わせが挙げられる。
【0119】
他の実施形態では、本発明の二重特異性抗原結合タンパク質は、エフェクター機能を低減する1つ又は複数のアミノ酸置換を定常領域に含む。エフェクター機能を低減することができる例示的なアミノ酸置換(EU番号付け)としては、以下に限定されないが、C220S、C226S、C229S、E233P、L234A、L234V、V234A、L234F、L235A、L235E、G237A、P238S、S267E、H268Q、N297A、N297G、V309L、E318A、L328F、A330S、A331S、P331S、又はこれらのいずれかの組み合わせが挙げられる。
【0120】
グリコシル化は、抗体、特にIgG1抗体のエフェクター機能に寄与し得る。したがって、いくつかの実施形態では、本発明の二重特異性抗原結合タンパク質は、結合タンパク質のグリコシル化のレベル又はタイプに影響を及ぼす1つ又は複数のアミノ酸置換を含み得る。ポリペプチドのグリコシル化は、通常、N結合型又はO結合型である。N結合型は、アスパラギン残基の側鎖への炭水化物部分の結合を指す。トリペプチド配列のアスパラギン-X-セリン及びアスパラギン-X-トレオニン(ここで、Xはプロリン以外の任意のアミノ酸である)は、アスパラギン側鎖への炭水化物部分の酵素的結合のための認識配列である。したがって、ポリペプチド中にこれらのトリペプチド配列のいずれかが存在すると、潜在的なグリコシル化部位が作り出される。O結合型グリコシル化は、糖であるN-アセチルガラクトサミン、ガラクトース及びキシロースのうちの1つの、ヒドロキシアミノ酸への結合、最も一般的にはセリン又はトレオニンへの結合を指すが、5-ヒドロキシプロリン又は5-ヒドロキシリシンも使用され得る。
【0121】
特定の実施形態では、本明細書に記載される二重特異性抗原結合タンパク質のグリコシル化は、1つ又は複数のグリコシル化部位を、例えば、結合タンパク質のFc領域に付加することによって増加される。抗原結合タンパク質へのグリコシル化部位の付加は、上記のトリペプチド配列のうちの1つ又は複数を含有するようにアミノ酸配列を改変することによって簡便に実現することができる(N結合型グリコシル化部位の場合)。改変はまた、1つ若しくは複数のセリン残基若しくはトレオニン残基の開始配列への付加、又はそれらによる開始配列の置換によってもなすことができる(O結合型グリコシル化部位の場合)。容易にするために、抗原結合タンパク質アミノ酸配列は、DNAレベルでの変化によって、特に、所望のアミノ酸に翻訳されるコドンが生成されるように、予め選択された塩基の位置で標的ポリペプチドをコードするDNAを変異させることによって、改変することができる。
【0122】
本発明はまた、炭水化物構造が改変された結果、エフェクター活性が改変されている二重特異性抗原結合タンパク質分子、例えば、フコシル化がないか又は減少してADCC活性の向上を示す抗原結合タンパク質の産生を包含する。フコシル化を減少させる又は排除する様々な方法が当該技術分野において知られている。例えば、ADCCエフェクター活性は、抗体分子のFcγRIII受容体への結合によって媒介され、これは、CH2ドメインのN297残基でのN結合型グリコシル化の炭水化物構造に依存することが示されている。非フコシル化抗体は、高い親和性でこの受容体に結合し、FcγRIII媒介性エフェクター機能を天然のフコシル化抗体よりも効率的に誘発する。例えば、アルファ-1,6-フコシルトランスフェラーゼ酵素がノックアウトされているCHO細胞における非フコシル化抗体の組換え産生は、ADCC活性が100倍増加した抗体を生じる(Yamane-Ohnuki et al.,Biotechnol Bioeng.87(5):614-22,2004を参照)。同様の効果は、フコシル化経路におけるアルファ-1,6-フコシルトランスフェラーゼ酵素又は他の酵素の活性を減少させることによって、例えば、siRNA若しくはアンチセンスRNA処理、酵素をノックアウトするための細胞株の操作、又は選択的グリコシル化阻害剤を用いる培養によって、実現することができる(Rothman et al.,Mol Immunol.26(12):1113-23,1989を参照)。いくつかの宿主細胞株、例えばLec13又はラットハイブリドーマYB2/0細胞株は、より低いフコシル化レベルを有する抗体を天然に産生する(Shields et al.,J Biol Chem.277(30):26733-40,2002及びShinkawa et al.,J Biol Chem.278(5):3466-73,2003を参照)。例えば、GnTIII酵素を過剰発現する細胞において抗体を組換え産生することによる、二分された炭水化物レベルの増加も、ADCC活性を増加させることが判明している(Umana et al.,Nat Biotechnol.17(2):176-80,1999を参照)。
【0123】
他の実施形態では、本明細書に記載の二重特異性抗原結合タンパク質のグリコシル化は、1つ又は複数のグリコシル化部位を、例えば、結合タンパク質のFc領域から除くことによって減少又は排除される。N結合型グリコシル化部位を排除又は改変するアミノ酸置換により、抗原結合タンパク質のN結合型グリコシル化を低減又は排除することができる。特定の実施形態では、本明細書に記載される二重特異性抗原結合タンパク質は、N297位(EU番号付け)に、N297Q、N297A、又はN297Gなどの変異を含む。特定の実施形態では、本明細書に記載される二重特異性抗原結合タンパク質は、L234位及びL235位(EU番号付け)にL234A及びL235Aなどの変異を含む。特定の一実施形態では、本発明の二重特異性抗原結合タンパク質は、N297G変異を有するヒトIgG1抗体由来のFc領域を含む。N297変異を含む分子の安定性を向上させるために、分子のFc領域をさらに操作してもよい。例えば、いくつかの実施形態では、Fc領域中の1つ又は複数のアミノ酸が、二量体状態でジスルフィド結合形成を促進するためにシステインで置換される。したがって、IgG1 Fc領域のV259、A287、R292、V302、L306、V323、又はI332(EU番号付け)に対応する残基は、システインで置換され得る。一実施形態では、残基の特定の対が、互いにジスルフィド結合を優先的に形成するようにシステインで置換され、それによってジスルフィド結合の混乱が制限又は防止される。特定の実施形態では、対として、A287C及びL306C、V259C及びL306C、R292C及びV302C、並びにV323C及びI332Cが挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、本明細書に記載される二重特異性抗原結合タンパク質は、R292C及びV302Cの変異を有するヒトIgG1抗体由来のFc領域を含む。このような実施形態では、Fc領域はまたN297G変異を含む場合がある。
【0124】
例えば、サルベージ受容体結合エピトープの組み込み又は付加による(例えば、適切な領域の変異による、又はエピトープをペプチドタグに組み込み、続いて、例えば、DNA又はペプチド合成によって、いずれかの末端又は中央で抗原結合タンパク質に融合させることによる;例えば、国際公開第96/32478号パンフレットを参照)、或いはPEG又は他の水溶性ポリマー、例えば、多糖ポリマーなどの分子の付加による、血清半減期を延長するための本発明の二重特異性抗原結合タンパク質の改変もまた望ましい場合がある。サルベージ受容体結合エピトープは、好ましくは、Fc領域の1つ又は2つのループ由来の任意の1つ又は複数のアミノ酸残基が抗原結合タンパク質中の類似の位置に移入される領域を構成する。一実施形態では、Fc領域の1つ又は2つのループ由来の3つ以上の残基が移入される。一実施形態では、エピトープがFc領域(例えば、IgG Fc領域)のCH2ドメインからとられ、抗原結合タンパク質のCH1、CH3若しくはVH領域、又は2つ以上のそのような領域に移される。或いは、エピトープがFc領域のCH2ドメインからとられ、抗原結合タンパク質のCL領域若しくはVL領域、又はその両方に移される。Fcバリアント及びそのサルベージ受容体との相互作用の説明については、国際出願である、国際公開第97/34631号パンフレット及び国際公開第96/32478号パンフレットを参照されたい。
【0125】
本発明は、本明細書に記載される二重特異性抗原結合タンパク質及びその成分をコードする、1つ又は複数の単離された核酸を含む。本発明の核酸分子には、単鎖及び二本鎖の両方の形態のDNA及びRNA、並びに対応する相補的配列が含まれる。DNAには、例えば、cDNA、ゲノムDNA、化学的に合成されたDNA、PCRによって増幅されたDNA、及びそれらの組み合わせが含まれる。本発明の核酸分子には、完全長遺伝子又はcDNA分子並びにそれらの断片の組み合わせが含まれる。一実施形態では、本発明の核酸はヒト供給源に由来するが、本発明には非ヒト種に由来するものも含まれる。
【0126】
免疫グロブリン若しくはその領域(例えば、可変領域、Fc領域など)又は目的のポリペプチド由来の関連するアミノ酸配列は、直接タンパク質配列解析法によって決定することができ、好適なコードヌクレオチド配列は普遍コドン表に従ってデザインすることができる。或いは、本発明の二重特異性抗原結合タンパク質の結合ドメインの起源となり得る、モノクローナル抗体をコードするゲノムDNA又はcDNAは、従来の手順を使用して(例えば、モノクローナル抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを使用することにより)、そのような抗体を産生する細胞から単離し、配列決定することができる。
【0127】
本明細書において「単離されたポリヌクレオチド」と互換的に使用される「単離された核酸」は、天然に存在する供給源から単離された核酸の場合、核酸が単離された生物のゲノムに存在する隣接遺伝子配列から分離された核酸である。例えば、PCR産物、cDNA分子、又はオリゴヌクレオチドなどの、鋳型から酵素的に、又は化学的に合成された核酸の場合、このようなプロセスから得られる核酸は、単離された核酸であると理解される。単離された核酸分子は、別個の断片の形態の核酸分子、又はより大きな核酸コンストラクトの構成要素としての核酸分子を指す。一実施形態では、核酸は、夾雑内因性物質を実質的に含まない。核酸分子は、好ましくは、実質的に純粋な形態で、且つ標準的な生化学的方法(例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,NY(1989)に概説されているもの)によって、その構成要素のヌクレオチド配列の同定、操作、及び回収を可能にする量又は濃度で、少なくとも1回単離されたDNA又はRNAに由来した。このような配列は、通常真核生物遺伝子内に存在する内部非翻訳配列又はイントロンによって中断されないオープンリーディングフレームの形態で提供且つ/又は構築される。非翻訳DNAの配列は、オープンリーディングフレームから5’側又は3’側に存在することができ、この場合、これは、コード領域の操作又は発現を妨害しない。特に明記しない限り、本明細書に記載されるいかなる単鎖ポリヌクレオチド配列も左側末端は5’末端であり、二本鎖ポリヌクレオチド配列の左側方向は、5’方向と呼ばれる。新生RNA転写産物の5’から3’への産生の方向は、転写方向と呼ばれ、RNA転写産物の5’末端の5’側にあるRNA転写産物と同じ配列を有するDNA鎖上の配列領域は、「上流配列」と呼ばれ、RNA転写産物の3’末端の3’側にあるRNA転写産物と同じ配列を有するDNA鎖上の配列領域は、「下流配列」と呼ばれる。
【0128】
本明細書に記載される抗原結合タンパク質のバリアントは、ポリペプチドをコードするDNAにおけるヌクレオチドの部位特異的な変異誘発により、カセット若しくはPCR変異誘発、又は当該技術分野においてよく知られた他の技術を使用して、バリアントをコードするDNAを産生し、その後、本明細書に概説するように、細胞培養物中で組換えDNAを発現させることによって調製することができる。しかし、約100~150個までの残基を有するバリアントCDRを含む抗原結合タンパク質は、確立された技術を使用してインビトロ合成によって調製することができる。バリアントは、通常、天然の類似体と同様の定性的生物学的活性、例えば抗原への結合を示す。このようなバリアントは、例えば、抗原結合タンパク質のアミノ酸配列内の残基の欠失及び/又は挿入及び/又は置換を含む。欠失、挿入及び置換の任意の組み合わせを行って、最終コンストラクトに至るのであるが、但し、最終コンストラクトは所望の特性を保持するものとする。アミノ酸の変化はまた、グリコシル化部位の数又は位置を変化させるなど、抗原結合タンパク質の翻訳後プロセスを改変する場合もある。特定の実施形態では、抗原結合タンパク質バリアントは、エピトープ結合に直接関与するアミノ酸残基を改変する目的で調製される。他の実施形態では、本明細書に記載の目的のため、エピトープ結合に直接関与しない残基、又はエピトープ結合に何ら関与しない残基の改変が望ましい。CDR領域及び/又はフレームワーク領域のいずれかにおける変異誘発が企図される。抗原結合タンパク質のアミノ酸配列における有用な改変をデザインするために、当業者は共分散分析技術を使用することができる。例えば、Choulier,et al.,Proteins 41:475-484,2000;Demarest et al.,J.Mol.Biol.335:41-48,2004;Hugo et al.,Protein Engineering 16(5):381-86,2003;Aurora et al.,米国特許出願公開第2008/0318207A1号明細書;Glaser et al.,米国特許出願公開第2009/0048122A1号明細書;Urech et al.,国際公開第2008/110348A1号パンフレット;Borras et al.,国際公開第2009/000099A2号パンフレットを参照されたい。共分散分析によって決定されるこのような改変は、抗原結合タンパク質の効力、薬物動態学的、薬力学的及び/又は製造可能性の特性を改善することができる。
【0129】
本発明の核酸配列。当業者に理解されるように、遺伝コードの縮重のために、極めて多数の核酸が作製され得、それらの全ては、本発明のCDR(並びに、本明細書に記載の抗原結合タンパク質の重鎖及び軽鎖、又は他の成分)をコードする。したがって、特定のアミノ酸配列を同定したなら、当業者は、コードされたタンパク質のアミノ酸配列を変化させない方法で1つ以上のコドンの配列を単に改変することにより、任意の数の異なる核酸を作製し得るであろう。
【0130】
本発明はまた、本発明の二重特異性抗原結合タンパク質の1つ又は複数の成分(例えば、可変領域、軽鎖、重鎖、改変重鎖、及びFd断片)をコードする1つ又は複数の核酸を含むベクターを含む。「ベクター」という用語は、タンパク質コード情報を宿主細胞に移入するために使用される任意の分子又は実体(例えば、核酸、プラスミド、バクテリオファージ又はウイルス)を指す。ベクターの例としては、以下に限定されないが、プラスミド、ウイルスベクター、非エピソーム哺乳動物ベクター及び発現ベクター、例えば、組換え発現ベクターが挙げられる。「発現ベクター」又は「発現コンストラクト」という用語は、本明細書で使用する場合、特定の宿主細胞において作動可能に連結されたコード配列の発現に必要な、所望のコード配列及び適切な核酸制御配列を含有する組換えDNA分子を指す。発現ベクターは、以下に限定されないが、転写、翻訳に影響を及ぼすか又はそれを制御し、且つイントロンが存在する場合、それに作動可能に連結されたコード領域のRNAスプライシングに影響を及ぼす配列を含むことができる。原核生物での発現に必要な核酸配列には、プロモーター、任意選択によりオペレーター配列、リボソーム結合部位、及び場合によりその他の配列が含まれる。真核細胞は、プロモーター、エンハンサー、並びに終結シグナル及びポリアデニル化シグナルを利用することが知られている。分泌シグナルペプチド配列もまた、任意選択により発現ベクターによってコードされ、目的のコード配列に作動可能に連結されることが可能であり、これにより、所望する場合、細胞から目的のポリペプチドがより容易に単離されるように、組換え宿主細胞に発現ポリペプチドを分泌させることができる。例えば、いくつかの実施形態では、シグナルペプチド配列は、本発明のいずれかのアミノ末端に付加/融合され得る。特定の実施形態では、MDMRVPAQLLGLLLLWLRGARC(配列番号22)のアミノ酸配列を有するシグナルペプチドが、本発明のポリペプチド配列のいずれかのアミノ末端に融合される。他の実施形態では、MAWALLLLTLLTQGTGSWA(配列番号23)のアミノ酸配列を有するシグナルペプチドが、本発明のポリペプチド配列のいずれかのアミノ末端に融合される。さらに他の実施形態では、MTCSPLLLTLLIHCTGSWA(配列番号24)のアミノ酸配列を有するシグナルペプチドが、本発明のポリペプチド配列のいずれかのアミノ末端に融合される。本明細書に記載されるポリペプチド配列のアミノ末端に融合され得る他の好適なシグナルペプチド配列としては、MEAPAQLLFLLLLWLPDTTG(配列番号25)、MEWTWRVLFLVAAATGAHS(配列番号26)、METPAQLLFLLLLWLPDTTG(配列番号27)、METPAQLLFLLLLWLPDTTG(配列番号28)、MKHLWFFLLLVAAPRWVLS(配列番号29)、及びMEWSWVFLFFLSVTTGVHS(配列番号30)が挙げられる。他のシグナルペプチドは当業者に知られており、例えば、特定の宿主細胞における発現を促進又は最適化するために、本発明のポリペプチド鎖のいずれかに融合され得る。
【0131】
通常、本発明の二重特異性抗原タンパク質を産生するために宿主細胞で使用される発現ベクターは、プラスミド維持のための配列、並びに二重特異性抗原結合タンパク質の成分をコードする外因性ヌクレオチド配列のクローン化及び発現のための配列を含有する。集合的に「隣接配列」と呼ばれるこのような配列は、特定の実施形態では、通常、以下のヌクレオチド配列の1つ又は複数を含む:プロモーター、1つ又は複数のエンハンサー配列、複製起点、転写終結配列、ドナー及びアクセプタースプライス部位を含有する完全イントロン配列、ポリペプチド分泌のためのリーダー配列をコードする配列、リボソーム結合部位、ポリアデニル化配列、発現されるべきポリペプチドをコードする核酸を挿入するためのポリリンカー領域、並びに選択マーカーエレメント。これらの配列の各々を、以下で考察する。
【0132】
任意選択により、ベクターは、「タグ」コード配列、すなわち、ポリペプチドコード配列の5’末端又は3’末端に位置するオリゴヌクレオチド分子を含有することができ、このオリゴヌクレオチドタグ配列は、ポリHis(ヘキサHisなど)、FLAG、HA(ヘマグルチニンインフルエンザウイルス)、myc、又は市販の抗体が存在する別の「タグ」分子をコードする。このタグは、通常、ポリペプチドが発現すると、ポリペプチドに融合され、宿主細胞からのポリペプチドの親和性精製又は検出のための手段として機能し得る。親和性精製は、例えば、タグに対する抗体を親和性マトリックスとして使用するカラムクロマトグラフィーによって実現することができる。任意選択により、タグは、その後、特定の切断用ペプチダーゼを使用するなどの様々な手段によって、精製されたポリペプチドから除去することができる。
【0133】
隣接配列は、同種性(すなわち、宿主細胞と同一の種及び/又は株に由来する)、異種性(すなわち、宿主細胞の種又は株以外の種に由来する)、ハイブリッド(すなわち、2つ以上の供給源に由来する隣接配列の組み合わせ)、合成、又は天然とすることができる。したがって、隣接配列の供給源は、あらゆる原核生物若しくは真核生物、あらゆる脊椎生物若しくは無脊椎生物、又はあらゆる植物であってよいが、但し、隣接配列は、宿主細胞機構において機能的であり、且つ当該機構によって活性化され得ることを条件とする。
【0134】
本発明のベクターにおいて有用な隣接配列は、当該技術においてよく知られたいくつかの方法のいずれかによって得ることができる。通常、本明細書において有用な隣接配列は、マッピング及び/又は制限エンドヌクレアーゼ消化によって以前に同定されていよう。したがって、適切な制限エンドヌクレアーゼを用いて、適切な組織源から単離することができる。場合によっては、隣接配列の全ヌクレオチド配列が知られている可能性がある。この場合、隣接配列は、核酸合成又はクローン化の常法を使用して合成することができる。
【0135】
隣接配列の全てが既知であるか、又はその一部のみが既知であるかを問わず、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)を使用して、並びに/又は同じ若しくは別の種に由来するオリゴヌクレオチド及び/若しくは隣接配列断片などの好適なプローブを用いてゲノムライブラリーをスクリーニングすることによって、隣接配列を得ることができる。隣接配列が不明である場合、隣接配列を含有するDNAの断片を、例えば、コード配列又は別の遺伝子を含有し得るより大きなDNA片から単離することができる。単離は、制限エンドヌクレアーゼ消化によって適切なDNA断片を産生し、続いてアガロースゲル精製、Qiagen(登録商標)カラムクロマトグラフィー(Chatsworth,CA)又は当業者に知られた他の方法を使用して単離することにより実現することができる。この目的を達成するのに適した酵素の選択は、当業者には容易に分かるであろう。
【0136】
複製起点は、通常、市販の原核生物発現ベクターの一部であり、この起点は、宿主細胞内でのベクターの増幅を補助する。選択したベクターが複製起点部位を含有していなければ、知られている配列に基づいて化学的に合成して、ベクター中にライゲートしてもよい。例えば、プラスミドpBR322(New England Biolabs,Beverly,MA)に由来する複製起点は、ほとんどのグラム陰性菌に好適であり、様々なウイルス性の起点(例えば、SV40、ポリオーマ、アデノウイルス、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、又はパピローマウイルス、例えば、HPV若しくはBPVなど)が哺乳動物細胞におけるベクターのクローン化に有用である。一般に、複製起点成分は哺乳動物発現ベクターには必要でない(例えば、SV40起点は、ウイルス初期プロモーターも含有するという理由でのみ、使用されることが多い)。
【0137】
転写終結配列は通常、ポリペプチドコード領域の末端に対して3’側に位置しており、転写を終結させるように機能する。通常、原核細胞における転写終結配列は、G-Cに富む断片とそれに続くポリT配列である。この配列はライブラリーから容易にクローン化されるか、又はベクターの一部として市販品が購入されるが、既知の核酸合成方法を使用して容易に合成することもできる。
【0138】
選択マーカー遺伝子は、選択培養培地中で増殖させた宿主細胞の生存及び増殖に必要なタンパク質をコードする。典型的な選択マーカー遺伝子は、(a)原核生物宿主細胞に、抗生物質若しくは他の毒素、例えば、アンピシリン、テトラサイクリン、若しくはカナマイシンに対する耐性を付与するか、(b)細胞の栄養要求性欠損を補完するか、又は(c)複合培地若しくは規定培地からは利用不能の重要な栄養素を供給するタンパク質をコードする。特異的選択マーカーは、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、及びテトラサイクリン耐性遺伝子である。有利には、ネオマイシン耐性遺伝子もまた、原核生物宿主細胞及び真核生物宿主細胞の双方の選択に用いることができる。
【0139】
他の選択遺伝子を用いて、発現される遺伝子を増幅してもよい。増幅は、増殖又は細胞生存にとって重要なタンパク質の産生に必要とされる遺伝子が、連続する世代の組換え細胞の染色体内でタンデムに反復されるプロセスである。哺乳動物細胞に好適な選択マーカーの例としては、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)及びプロモーターレスチミジンキナーゼ遺伝子が挙げられる。哺乳動物細胞形質転換体を、この形質転換体のみが唯一、ベクター中に存在する選択遺伝子によって生存するように適合されている選択圧下に置く。選択圧は、培地中の選択剤の濃度が連続的に増加する条件下で形質転換された細胞を培養することによって課され、それにより、選択遺伝子と、本明細書に記載される二重特異性抗原結合タンパク質の1つ又は複数の成分などの別の遺伝子をコードするDNAの双方の増幅を導く。その結果、増幅されたDNAから多量のポリペプチドが合成される。
【0140】
リボソーム結合部位は、通常、mRNAの翻訳開始に必要であり、シャイン・ダルガーノ配列(原核生物)又はコザック配列(真核生物)によって特徴付けられる。このエレメントは、典型的には、プロモーターの3’側、及び発現されるポリペプチドのコード配列の5’側に位置する。特定の実施形態では、1つ以上のコード領域が、内部リボソーム結合部位(IRES)に作動可能に連結されていてよく、単一のRNA転写産物から2つのオープンリーディングフレームの翻訳が可能となる。
【0141】
真核生物宿主細胞発現系においてグリコシル化が所望されるなどの場合には、グリコシル化又は収率を向上させるために、種々のプレ配列又はプロ配列を操作し得る。例えば、特定のシグナルペプチドのペプチダーゼ切断部位を改変するか、又はプロ配列を付加することができ、これもグリコシル化に影響し得る。最終タンパク質産物は-1位(成熟タンパク質の最初のアミノ酸に対して)に、発現に付随する1つ又は複数の追加のアミノ酸を有する場合があり、これは、完全には除去されていなくてもよい。例えば、最終タンパク質産物は、アミノ末端に結合した、ペプチダーゼ切断部位にある1つ又は2つのアミノ酸残基を有し得る。或いは、いくつかの酵素切断部位を使用すると、酵素が成熟ポリペプチド内のこのような領域で切断する場合、所望のポリペプチドがわずかに切断された形態を生じ得る。
【0142】
本発明の発現ベクター及びクローニングベクターは、通常、宿主生物によって認識され、ポリペプチドをコードする分子に作動可能に連結されたプロモーターを含有する。「作動可能に連結された」という用語は、本明細書で使用する場合、所与の遺伝子の転写及び/又は所望のタンパク質分子の合成を指令することができる核酸分子が産生されるように、2つ以上の核酸配列が連結されていることを指す。例えば、タンパク質コード配列に「作動可能に連結された」ベクター中の制御配列は、タンパク質コード配列の発現が制御配列の転写活性と適合する条件下で行われるように、タンパク質コード配列にライゲートされる。より具体的には、プロモーター及び/又はエンハンサー配列(シス作用性転写制御エレメントの任意の組み合わせを含む)は、それが適切な宿主細胞又は他の発現系においてコード配列の転写を刺激又は調節する場合、そのコード配列に作動可能に連結されている。
【0143】
プロモーターは、構造遺伝子(一般に、約100~1000bp以内)の開始コドンの上流(すなわち5’側)に位置し、構造遺伝子の転写を制御する非転写配列である。従来、プロモーターは、次の2つのクラスにグループ化される:誘導性プロモーター及び構成的プロモーター。誘導性プロモーターは、栄養素の有無又は温度の変化などの培養条件の何らかの変化に応じ、その制御下で、DNAからの転写レベルの増加を開始する。一方、構成的プロモーターは、それが作動可能に連結されている遺伝子を均一に、すなわち遺伝子発現に対する制御をほとんど又は全く行わずに転写する。種々の潜在的宿主細胞によって認識される多数のプロモーターがよく知られている。好適なプロモーターは、供給源DNAから制限酵素消化によりプロモーターを除去し、所望のプロモーター配列をベクターに挿入することによって、本発明の二重特異性抗原結合タンパク質の、例えば、重鎖、軽鎖、改変重鎖、又は他の成分をコードするDNAに作動可能に連結される。
【0144】
酵母宿主とともに使用するのに好適なプロモーターも当該技術分野においてよく知られている。有利には、酵母エンハンサーが、酵母プロモーターと共に用いられる。哺乳動物宿主細胞とともに使用するのに好適なプロモーターはよく知られており、以下に限定されないが、ポリオーマウイルス、鶏痘ウイルス、アデノウイルス(アデノウイルス2型など)、ウシ乳頭腫ウイルス、トリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルス及びシミアンウイルス40(SV40)などのウイルスのゲノムから得られるものが挙げられる。他の好適な哺乳動物プロモーターとしては、異種哺乳動物プロモーター、例えば、熱ショックプロモーター及びアクチンプロモーターが挙げられる。
【0145】
対象となり得るさらなるプロモーターとしては、SV40初期プロモーター(Benoist and Chambon,1981,Nature 290:304-310)、CMVプロモーター(Thornsen et al.,1984,Proc.Natl.Acad.U.S.A.81:659-663)、ラウス肉腫ウイルスの3’側の長い末端反復に含まれるプロモーター(Yamamoto et al.,1980,Cell 22:787-797)、ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター(Wagner et al.,1981,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.78:1444-1445)、メタロチオニン遺伝子由来のプロモーター及び調節配列(Prinster et al.,1982,Nature 296:39-42)、及びβ-ラクタマーゼプロモーターなどの原核生物プロモーター(Villa-Kamaroff et al.,1978,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.75:3727-3731)、又はtacプロモーター(DeBoer et al.,1983,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.80:21-25)が挙げられるが、これらに限定されない。組織特異性を示し、トランスジェニック動物で利用されている以下の動物転写制御領域も対象とする:膵腺房細胞において活性であるエラスターゼI遺伝子制御領域(Swift et al.,1984,Cell 38:639-646;Ornitz et al.,1986,Cold Spring Harbor Symp.Quant.Biol.50:399-409;MacDonald,1987,Hepatology 7:425-515)、膵ベータ細胞において活性であるインスリン遺伝子制御領域(Hanahan,1985,Nature 315:115-122)、リンパ細胞において活性である免疫グロブリン遺伝子制御領域(Grosschedl et al.,1984,Cell 38:647-658;Adames et al.,1985,Nature 318:533-538;Alexander et al.,1987,Mol.Cell.Biol.7:1436-1444)、精巣、乳房、リンパ球及び肥満細胞において活性であるマウス乳房腫瘍ウイルス制御領域(Leder et al.,1986,Cell 45:485-495)、肝臓において活性であるアルブミン遺伝子制御領域(Pinkert et al.,1987,Genes and Devel.1:268-276)、肝臓において活性であるアルファ-フェトプロテイン遺伝子制御領域(Krumlauf et al.,1985,Mol.Cell.Biol.5:1639-1648;Hammer et al.,1987,Science 253:53-58)、肝臓において活性であるアルファ1-アンチトリプシン遺伝子制御領域(Kelsey et al.,1987,Genes and Devel.1:161-171)、骨髄細胞において活性であるベータグロビン遺伝子制御領域(Mogram et al.,1985,Nature 315:338-340;Kollias et al.,1986,Cell 46:89-94)、脳のオリゴデンドロサイト細胞において活性であるミエリン塩基性タンパク質遺伝子制御領域(Readheadet al.,1987,Cell 48:703-712)、骨格筋において活性であるミオシン軽鎖2遺伝子制御領域(Sani,1985,Nature 314:283-286)、及び視床下部において活性である性腺刺激放出ホルモン遺伝子制御領域(Mason et al.,1986,Science 234:1372-1378)。
【0146】
エンハンサー配列をベクターに挿入し、高等真核生物によって、二重特異性抗原結合タンパク質の成分(例えば、軽鎖、重鎖、改変重鎖、Fd断片)をコードするDNAの転写を増加させることができる。エンハンサーは、プロモーターに作用して転写を増加させる、通常、約10~300bp長のDNAのシス作用性エレメントである。エンハンサーは、方向及び位置に比較的依存せず、転写単位の5’側及び3’側の双方の位置にて見出されている。哺乳動物遺伝子から入手可能な複数のエンハンサー配列が知られている(例えば、グロビン、エラスターゼ、アルブミン、アルファ-フェトプロテイン、及びインスリン)。しかしながら、一般的には、ウイルス由来のエンハンサーが使用される。当該技術分野において知られているSV40エンハンサー、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、ポリオーマエンハンサー、及びアデノウイルスエンハンサーは、真核生物プロモーターの活性化のための例示的な増強エレメントである。エンハンサーは、ベクターにおいて、コード配列の5’側及び3’側のいずれに位置してもよいが、一般的には、プロモーターの5’側の部位に位置決めされる。適切な天然の又は異種性のシグナル配列(リーダー配列又はシグナルペプチド)をコードする配列を発現ベクターに組み込んで、細胞外への抗体の分泌を促進することができる。シグナルペプチド又はリーダーの選択は、抗体が産生される宿主細胞の型に依存し、異種性のシグナル配列が天然のシグナル配列に取って代わることができる。シグナルペプチドの例は、上に記載されている。哺乳動物宿主細胞において機能する他のシグナルペプチドとしては、米国特許第4,965,195号明細書に記載されるインターロイキン-7(IL-7)のシグナル配列;Cosman et al.,1984,Nature 312:768に記載されるインターロイキン-2受容体のシグナル配列;欧州特許第0367 566号明細書に記載されるインターロイキン-4受容体シグナルペプチド;米国特許第4,968,607号明細書に記載されるI型インターロイキン-1受容体シグナルペプチド;欧州特許第0 460 846号に記載されるII型インターロイキン-1受容体シグナルペプチドが挙げられる。
【0147】
提供される発現ベクターは、市販のベクターなどの出発ベクターから構築してもよい。そのようなベクターは、所望の隣接配列の全てを含有していても含有していなくてもよい。本明細書に記載される隣接配列の1つ以上がベクター内に最初から存在していない場合、それらを個々に得てベクターにライゲートしてもよい。隣接配列の各々を得るために用いられる方法は、当業者によく知られている。発現ベクターを宿主細胞に導入し、それにより、本明細書に記載される核酸によってコードされる融合タンパク質などのタンパク質を産生することができる。
【0148】
特定の実施形態では、本発明の二重特異性抗原結合タンパク質の異なる成分をコードする核酸を、同じ発現ベクターに挿入してもよい。例えば、抗第1の標的抗原軽鎖をコードする核酸を、抗第1の標的抗原重鎖をコードする核酸と同じベクターにクローニングすることができる。このような実施形態では、軽鎖及び重鎖が同じmRNA転写産物から発現されるように、内部リボソーム侵入部位(IRES)により、単一のプロモーターの制御下で、2つの核酸が分離されてもよい。或いは、2つの核酸は、軽鎖及び重鎖が2つの別個のmRNA転写産物から発現されるように、2つの別個のプロモーターの制御下にあってもよい。いくつかの実施形態では、抗第1の標的抗原軽鎖及び重鎖をコードする核酸を1つの発現ベクターにクローニングし、抗第2の標的抗原軽鎖及び重鎖をコードする核酸を第2の発現ベクターにクローニングする。
【0149】
同様に、IgG-Fab二重特異性抗原結合タンパク質については、3つの成分の各々をコードする核酸を、同じ発現ベクターにクローニングしてもよい。いくつかの実施形態では、IgG-Fab分子の軽鎖をコードする核酸、及び第2のポリペプチド(C末端のFabドメインのもう半分を含む)をコードする核酸を、1つの発現ベクターにクローニングし、一方、改変重鎖(重鎖及びFabドメインの半分を含む融合タンパク質)をコードする核酸を、第2の発現ベクターにクローニングする。特定の実施形態では、本明細書に記載される二重特異性抗原結合タンパク質の全ての成分が、同じ宿主細胞集団から発現される。例えば、1つ又は複数の成分が別個の発現ベクターにクローン化される場合でも、1つの細胞が二重特異性抗原結合タンパク質の全ての成分を産生するように、宿主細胞に両方の発現ベクターを同時トランスフェクトする。
【0150】
ベクターが構築され、本明細書に記載される二重特異性抗原結合タンパク質の成分をコードする1つ又は複数の核酸分子が、1つ又は複数のベクターの適切な部位に挿入された後、完成したベクターを、増幅及び/又はポリペプチド発現に好適な宿主細胞に挿入することができる。したがって、本発明は、二重特異性抗原結合タンパク質の成分をコードする1つ又は複数の発現ベクターを含む、単離された宿主細胞を包含する。「宿主細胞」という用語は、本明細書で使用する場合、核酸で形質転換されているか、又は形質転換されることが可能であり、それにより、目的の遺伝子を発現する細胞を指す。この用語には、目的の遺伝子が存在する限り、親細胞の子孫の形態又は遺伝的構造が元の親細胞と同一であるか否かに関係なく、親細胞の子孫が含まれる。一実施形態において少なくとも1つの発現制御配列(例えば、プロモーター又はエンハンサー)に作動可能に連結された、本発明の単離された核酸を含む宿主細胞は、「組換え宿主細胞」である。
【0151】
抗原結合タンパク質の発現ベクターの選択された宿主細胞への形質転換は、トランスフェクション、感染、リン酸カルシウム共沈、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポフェクション、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、又は他の既知の技術を含むよく知られた方法で実現することができる。選択される方法は、ある程度、使用される宿主細胞の型に応じることになる。こうした方法及び他の適切な方法は、当業者によく知られており、例えば、前出のSambrook et al.,2001に示されている。
【0152】
宿主細胞は、適切な条件下で培養されると抗原結合タンパク質を合成し、抗原結合タンパク質はその後、(宿主細胞がそれを培地に分泌する場合は)培養培地から、又は(それが分泌されない場合は)それを産生する宿主細胞から直接的に、採取することができる。適切な宿主細胞の選択は、所望の発現レベル、活性(グリコシル化又はリン酸化など)に望ましいか又は必要であるポリペプチドの改変、及び生物学的に活性な分子へのフォールディングの容易さなどの様々な要因に依存する。
【0153】
例示的な宿主細胞としては、原核生物、酵母、又は高等真核生物の細胞が挙げられる。原核生物の宿主細胞としては、グラム陰性微生物又はグラム陽性微生物などの真正細菌、例えば、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、例えば、エシェリキア属(Escherichia)、例えば、E.コリ(E.coli)、エンテロバクター属(Enterobacter)、エルウィニア属(Erwinia)、クレブシエラ属(Klebsiella)、プロテウス属(Proteus)、サルモネラ属(Salmonella)、例えば、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)、セラチア属(Serratia)、例えば、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)、及びシゲラ属(Shigella)、並びにバチルス属(Bacillus)、例えば、B.サブチリス(B.subtilis)及びB.リケニフォルミス(B.licheniformis)、シュードモナス属(Pseudomonas)、及びストレプトミセス属(Streptomyces)が挙げられる。真核生物の微生物、例えば、糸状菌又は酵母は、組換えポリペプチドに好適なクローニング宿主又は発現宿主である。サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、又は一般的なパン酵母は、下等真核生物宿主微生物の中で最も一般的に使用される。しかしながら、ピキア属(Pichia)、例えば、P.パストリス(P.pastoris)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、クルイベロミセス属(Kluyveromyces)、ヤロウイア属(Yarrowia)、カンジダ属(Candida)、トリコデルマ・レーシア(Trichoderma reesia)、ノイロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)、シュワニオミセス属(Schwanniomyces)、例えば、シュワニオミセス・オクシデンタリス(Schwanniomyces occidentalis)、並びに糸状菌、例えば、ニューロスポラ属(Neurospora)、ペニシリウム属(Penicillium)、トリポクラジウム属(Tolypocladium)及びアスペルギルス属(Aspergillus)宿主、例えば、A.ニデュランス(A.nidulans)、A.ニガー(A.niger)などの多くの他の属、種及び株が、ここで一般に利用可能であり、有用である。
【0154】
グリコシル化された抗原結合タンパク質の発現のための宿主細胞は、多細胞生物由来とすることができる。無脊椎動物細胞の例としては、植物細胞及び昆虫細胞が挙げられる。多くのバキュロウイルスの株及びバリアント、並びにツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)(イモムシ)、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)(蚊)、ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)(蚊)、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)(ミバエ)及びカイコ(Bombyx mori)などの宿主由来の、対応する昆虫の許容宿主細胞が同定されている。このような細胞のトランスフェクションのための種々のウイルス株、例えば、オートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)NPVのL-1バリアント、及びカイコ(Bombyx mori)NPVのBm-5株が公に入手可能である。
【0155】
脊椎動物宿主細胞もまた好適な宿主であり、このような細胞からの抗原結合タンパク質の組換え産生は常法となっている。発現のための宿主として利用可能な哺乳動物細胞株は、当該技術分野においてよく知られており、以下に限定されないが、アメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection:ATCC)から入手可能な不死化細胞株、例えば、以下に限定されないが、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、例えば、CHOK1細胞(ATCC CCL61)、DXB-11、DG-44、及びチャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO、Urlaub et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216,1980);SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株(COS-7、ATCC CRL 1651);ヒト胚腎臓株(293細胞又は懸濁培養での増殖用にサブクローン化された293細胞、(Graham et al.,J.Gen Virol.36:59,1977));ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL 10);マウスセルトリ細胞(TM4、Mather,Biol.Reprod.23:243-251,1980);サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76、ATCC CRL-1587);ヒト頸癌細胞(HELA、ATCC CCL 2);イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL 34);バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75);ヒト肝細胞癌細胞(Hep G2、HB 8065);マウス乳癌(MMT 060562、ATCC CCL51);TRI細胞(Mather et al.,Annals N.Y Acad.Sci.383:44-68,1982);MRC 5細胞又はFS4細胞;哺乳動物骨髄腫細胞、及び多くの他の細胞株が挙げられる。特定の実施形態では、どの細胞株が発現レベルが高く本発明の二重特異性抗原結合タンパク質を恒常的に産生するかを決定することによって、細胞株を選択してよい。別の実施形態では、それ自体の抗体は作製しないが、異種性抗体を作製及び分泌する能力を有するB細胞系統由来の細胞株を選択することができる。いくつかの実施形態では、CHO細胞が、本発明の二重特異性抗原結合タンパク質を発現させるための宿主細胞である。
【0156】
宿主細胞は、二重特異性抗原結合タンパク質の産生のために上記の核酸又はベクターで形質転換又はトランスフェクトされ、プロモーターの誘導、形質転換体の選択、又は所望の配列をコードする遺伝子の増幅に適するように改変された従来の栄養培地で培養される。加えて、選択マーカーによって分離された転写単位の複数のコピーを有する新規なベクター及びトランスフェクトされた細胞株は、抗原結合タンパク質の発現に特に有用である。したがって、本発明はまた、本明細書に記載される二重特異性抗原結合タンパク質を調製する方法であって、本明細書に記載される1つ又は複数の発現ベクターを含む宿主細胞を、この1つ又は複数の発現ベクターによってコードされる二重特異性抗原結合タンパク質の発現を可能にする条件下にて培養培地で培養する工程と、培養培地から二重特異性抗原結合タンパク質を回収する工程とを含む方法を提供する。
【0157】
本発明の抗原結合タンパク質を産生するために使用される宿主細胞は、様々な培地中で培養することができる。ハムF10(Sigma)、最小必須培地((MEM)、Sigma)、RPMI-1640(Sigma)及びダルベッコ改変イーグル培地((DMEM)、Sigma)などの市販の培地は、宿主細胞を培養するのに好適である。さらに、Ham et al.,Meth.Enz.58:44,1979;Barnes et al.,Anal.Biochem.102:255,1980、米国特許第4,767,704号明細書、同第4,657,866号明細書、同第4,927,762号明細書、同第4,560,655号明細書、若しくは同第5,122,469号明細書、国際公開第90/103430号パンフレット、国際公開第87/00195号パンフレット、又は米国再発行特許第30,985号明細書に記載されている培地のいずれかを、宿主細胞の培養培地として使用することができる。これらの培地のいずれかに、必要に応じて、ホルモン及び/又は他の増殖因子(インスリン、トランスフェリン、又は上皮増殖因子など)、塩(塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、及びリン酸塩など)、緩衝液(HEPESなど)、ヌクレオチド(アデノシン及びチミジンなど)、抗生物質(ゲンタマイシン(商標)薬物など)、微量元素(通常、マイクロモル範囲の最終濃度で存在する無機化合物と定義される)、及びグルコース又は同等のエネルギー源を補充することができる。他に必要な任意の栄養補助物質もまた、当業者に知られる適切な濃度で含めてもよい。温度及びpHなどの培養条件は、発現のために選択された宿主細胞で以前に使用されたものであり、当業者には明らかであろう。
【0158】
宿主細胞を培養すると、二重特異性抗原結合タンパク質は、細胞内で産生されるか、細胞膜周辺腔内で産生されるか、又は培地中に直接分泌され得る。抗原結合タンパク質が細胞内で産生される場合、第1の工程として、粒状の破片である宿主細胞又は溶解した断片を、例えば、遠心分離又は限外濾過によって除去する。二重特異性抗原結合タンパク質は、例えば、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、陽イオン若しくは陰イオン交換クロマトグラフィー、又は親和性リガンドとして目的の抗原又はプロテインA若しくはプロテインGを使用するアフィニティークロマトグラフィーを使用して精製することができる。プロテインAは、ヒトγ1、γ2又はγ4重鎖に基づくポリペプチドを含むタンパク質を精製するために使用することができる(Lindmark et al.,J.Immunol.Meth.62:1-13,1983)。プロテインGは、全てのマウスアイソタイプ及びヒトγ3に推奨される(Guss et al.,EMBO J.5:1567-1575,1986)。親和性リガンドが結合するマトリックスは、ほとんどの場合、アガロースであるが、他のマトリックスも利用可能である。制御された多孔質ガラス又はポリ(スチレンジビニル)ベンゼンなどの機械的に安定なマトリックスは、アガロースを用いて実現することができるよりも、流速を速く、処理時間を短くすることが可能である。タンパク質がCH3ドメインを含む場合、Bakerbond ABX(商標)樹脂(J.T.Baker,Phillipsburg,N.J.)が精製に有用である。回収されるべき特定の二重特異性抗原結合タンパク質に応じて、エタノール沈殿、逆相HPLC、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE、及び硫酸アンモニウム沈殿などのタンパク質精製のための他の技術もまた可能である。
【0159】
本発明の二重特異性抗原結合タンパク質は、生体試料中の標的抗原の検出、及び標的抗原を発現する細胞又は組織の同定に有用である。本明細書に記載される二重特異性抗原結合タンパク質は、標的抗原に関連する疾患及び/又は病態を検出、診断、又はモニターする診断目的に使用され得る。また、当業者に知られた古典的な免疫組織学的方法(例えば、Tijssen,1993,Practice and Theory of Enzyme Immunoassays,Vol 15(Eds R.H.Burdon and P.H.van Knippenberg,Elsevier,Amsterdam);Zola,1987,Monoclonal Antibodies:A Manual of Techniques,pp.147-158(CRC Press,Inc.);Jalkanen et al.,1985,J.Cell.Biol.101:976-985;Jalkanen et al.,1987,J.Cell Biol.105:3087-3096)を使用して、試料中の標的抗原の存在を検出する方法が提供される。標的の検出は、インビボ又はインビトロで実施することができる。
【0160】
本明細書で提供される診断用途には、標的抗原の発現を検出するための抗原結合タンパク質の使用が含まれる。受容体の存在の検出において有用な方法の例には、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)及び放射免疫測定法(RIA)などの免疫アッセイが含まれる。
【0161】
診断用途では、通常、抗原結合タンパク質が検出可能な標識基で標識される。好適な標識基としては、以下の、放射性同位体若しくは放射性核種(例えば、3H、14C、15N、35S、90Y、99Tc、111In、125I、131I)、蛍光基(例えば、FITC、ローダミン、ランタニド蛍光体)、酵素基(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ)、化学発光基、ビオチニル基又は二次レポーターによって認識される所定のポリペプチドエピトープ(例えば、ロイシンジッパー対配列、二次抗体の結合部位、金属結合ドメイン、エピトープタグ)が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、標識基は、潜在的な立体障害を低減するために様々な長さのスペーサーアームを介して抗原結合タンパク質にカップリングされる。タンパク質の標識方法は、当該技術分野において様々なものが知られており、そうしたものを使用してよい。
【0162】
別の実施形態では、本明細書に記載の抗原結合タンパク質を使用して、標的抗原を発現する1つ又は複数の細胞を同定することができる。特定の実施形態では、抗原結合タンパク質は標識基で標識され、標識された抗原結合タンパク質の標的抗原への結合が検出される。さらなる特定の実施形態では、標的抗原への抗原結合タンパク質の結合は、インビボで検出される。さらなる特定の実施形態では、抗原結合タンパク質は、当該技術分野で知られた技術を使用して単離され、測定される。例えば、Harlow and Lane,1988,Antibodies:A Laboratory Manual,New York:Cold Spring Harbor(ed.1991 and periodic supplements);John E.Coligan,ed.,1993,Current Protocols In Immunology New York:John Wiley & Sonsを参照されたい。
【実施例】
【0163】
改変された塩架橋の有無にかかわらず、モノクローナル抗体の結晶構造に基づいて、K360が2つのFc鎖間の界面残基として同定されている。ヘテロ-Fc分子の対合及び構造の改善をスクリーニングするために行われた初期の実験は、Fcに融合された単鎖可変領域断片(scFv)と弾頭を欠くFc鎖との組み合わせを用いて行われた。意図したヘテロ-Fc型に組み立てた場合、
図1に示すように、分子量は約75キロダルトン(kDa)であった。対照的に、2つのscFv弾頭を有するか、又は弾頭を全て欠くホモ二量体に分子が組み立てられた場合、分子量は、それぞれ約100kDa又は50kDaであった。これらの分子の生成において、改変フラグメントを合成し、ゴールデンゲートクローニング戦略を用いてプラスミドにクローニングした。得られた組換え分子のパネルを、NRCCによって確立され公表された方法に従って、懸濁液中のHEK 293 EBNA1細胞の一過性発現を用いて作製した。生成から6日後に、培養培地(CM)を細胞培養物から回収し、一般に確立されている手順でプロテインA精製に進め、続いて分析した。この分析において、非共有結合凝集と所望の種の比率を、工業的に確立された方法に従ってサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用して測定した。ホモ二量体とヘテロ二量体の形成比を、主に分子サイズによる移動に基づいて、Caliper SDSマイクロキャピラリーゲル電気泳動(mCE)装置を用いて測定した。44のバリアントの最初のスクリーニングから、好ましい対合特異性及び発現力価を有する分子のセットを、さらなる最適化及び分析のために選択した。スクリーニングにおけるリードバリアントの測定値を
図2に示す。選択されたバリアントの各々は、WT(47.61%のヘテロ-scFv-Fc)と比較して、89.4%~94.6%の範囲のレベルを有しており、対合特異性が改善していることは明らかである。産生されるヘテロ-scFv-Fcの量を、産生力価、及びmCEによって計算され、
図2において75kDa MP(mg/L)下で示される主ピークパーセントから計算した。これらの測定により、多くのバリアントはWTよりも多くの所望の種を有し、いくつかは確立されたバリアントCPMv1よりも多くの所望の種を有した。
【0164】
第2の実験では、リードバリアントを改変されたモノクローナル抗体で試験した。
図3に示すように、改変には、CH3領域における電荷対変異の付加、及びFab領域の一方と及びFc領域の間のヒンジにおけるDEVD切断部位の付加が含まれる。この型をヘテロIgGの代わりに使用して、軽鎖と重鎖との間の非特異的対合によって導入される可変性を排除した。この実験では、内部ベクターと結合したCHO-K1安定発現系を用いて産生を行った。これらの産生からの力価は186mg/L~275mg/Lの範囲であり、かなり低い分散を示す。精製は、プロテインAキャプチャーで開始した。これに続いて、確立された方法に従ってSECによってHMW種を除去した。次いで、このプロセスを、工業標準的技法に従って、陽イオン交換(CEX)によるモノクローナル抗体からの単離で完了した。SEC及びMSによって測定した所望の生成物の純度に従って、プールするために画分を選択した。精製のCEX段階の間に、いくつかのバリアントが複数のピークに分裂することが観察された。これらのピークをMSで測定したところ、主に分子量が一致する種であった。さらに、1つのピークからサンプルを収集し、CEXに再ロードしたところ、それらは、以前に観察された同じパターンに複数のピークに分離した(データは示さず)。これは、これらのバリアントがCEXカラムの特定の条件に暴露された場合に立体構造の変化をもたらす程度の不安定性を有していたことを示す。この現象は、
図4に示すように、CEXに使用された緩衝液がpH5.0である場合に特に顕著であり、一方、分子の計算されたpIは7.93の範囲であった。ピーク分布は、緩衝液がpH5.6及び6.0である場合により均一であった。また、K370D/Eを有するE357KのCPMをK409D及びK392D/Eを有するD399KのCPMと組み合わせて使用した場合に、複数のピークの形成が起こることが観察された。
図5に示すように、K370D/Eを有するE357Kでの電荷対をK360E変異体と組み合わせて使用した場合、不均一なピークの度合いは実質的に減少し、pH5.6及び6.0で観察された時間に近く溶出する主ピークをもたらした。これらの結果から、K360Eを加えたCPMv531及びCPMv526は、標準精製条件で最も頑強なバリアントであると同定された。
【0165】
本明細書において論じ、引用した全ての刊行物、特許及び特許出願は、その全体が参照により本明細書により組み込まれる。開示した発明は、記載された特定の方法論、プロトコル及び材料に限定されず、これらは変化し得ることが理解される。また、本明細書で使用される用語は、単に特定の実施形態を説明するためのものに過ぎず、添付の特許請求の範囲を限定することを意図するものではないことも理解される。
【0166】
当業者は、本明細書中に記載の本発明の特定の実施形態に対する多くの同等物を、単なる日常的な実験を使用して認識するか、又は確認することができよう。このような同等物は、続く特許請求の範囲に包含されるものとする。
【配列表】
【国際調査報告】