(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-26
(54)【発明の名称】BCMAおよびCD3に対する抗体を用いる処置方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20221219BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221219BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20221219BHJP
A61K 31/573 20060101ALI20221219BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20221219BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
A61K39/395 T
A61P35/00
A61K45/00
A61K31/573
C07K16/46 ZNA
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022525788
(86)(22)【出願日】2020-11-04
(85)【翻訳文提出日】2022-06-22
(86)【国際出願番号】 US2020058939
(87)【国際公開番号】W WO2021092056
(87)【国際公開日】2021-05-14
(32)【優先日】2020-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2019-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】391015708
【氏名又は名称】ブリストル-マイヤーズ スクイブ カンパニー
【氏名又は名称原語表記】BRISTOL-MYERS SQUIBB COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】バージェス,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ヒージ,クリステン
(72)【発明者】
【氏名】ダッタ,カウシク
(72)【発明者】
【氏名】ボス,アイザック
(72)【発明者】
【氏名】ヴー,ミン ディエム
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084ZA072
4C084ZB212
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB352
4C084ZC412
4C084ZC751
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB41
4C085EE01
4C085GG02
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA10
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA06
4C086ZB26
4C086ZC75
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA40
4H045CA42
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、CD3およびBCMAに結合する多重特異性(例えば、二重特異性)抗体を用いた用量漸増投与レジメンを用いる、BCMA発現に関連する障害(例えば、多発性骨髄腫などのBCMA発現B細胞癌)を有する患者を処置する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者においてBCMA発現に関連する障害の処置に用いるための、BCMAおよびCD3に結合する多重特異性抗体であって、ここで、該処置が、
(i)多重特異性抗体の1回以上の開始用量が患者に投与される、開始期;および
(ii)多重特異性抗体の最初の維持用量が患者に投与され、要すれば、その後、多特異性抗体の少なくとも1回の追加維持用量が投与される、維持期
を含み、ここで、各維持用量は1回以上の開始用量よりも多い、
投与レジメンにおける多重特異性抗体の投与を含む、多重特異性抗体。
【請求項2】
多重特異性抗体が二重特異性抗体であり、要すれば、ここで、二重特異性抗体が、抗BCMA抗体の2つのFabフラグメント、抗CD3抗体の1つのFabフラグメント、および1つのFc部分を含む3価の二重特異性抗体であり、かつBCMA Fab-Fc-CD3 Fab-BCMA Fabのフォーマットである、請求項1に記載の多重特異性抗体。
【請求項3】
抗BCMA抗体またはその抗原結合フラグメントが、
a)配列番号10のVH領域および配列番号12のVL領域、
b)配列番号10のVH領域および配列番号13のVL領域、
c)配列番号10のVH領域および配列番号14のVL領域、
d)配列番号38のVH領域および配列番号12のVL領域、
e)配列番号39のVH領域および配列番号12のVL領域、
f)配列番号40のVH領域および配列番号12のVL領域、または
g)配列番号9のVH領域および配列番号11のVL領域
からなる群より選択されるVHおよびVLを含む、請求項1または2に記載の多重特異性抗体。
【請求項4】
抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントが、配列番号7のVH領域および配列番号8のVL領域を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項5】
二重特異性抗体が、配列番号48、配列番号55、配列番号56および配列番号57(x2)の重鎖ポリペプチドおよび軽鎖ポリペプチドを含む、請求項2に記載の多重特異性抗体。
【請求項6】
開始期が単回の固定用量を含み、要すれば、ここで、単回の固定用量が約1.5mg~4.5mg、例えば約3mgである、請求項1から5のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項7】
最初の維持用量が、約4.5mg~7.5mg、例えば約6mgの固定用量である、請求項1~6のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項8】
開始期が単回の固定用量を含み、要すれば、ここで、単回の固定用量が約4.5mg~7.5mg、例えば約6mgである、請求項1から5のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項9】
最初の維持用量が、約8.5mg~11.5mg、例えば約10mgの固定用量である、請求項1から6および8のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項10】
少なくとも単回の追加の維持用量が、最初の維持用量と同じである、請求項1から9のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項11】
少なくとも単回の追加の維持用量が、最初の維持用量よりも多い、請求項1から9のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項12】
少なくとも単回の追加の維持用量が、約8.5mg~11.5mg、例えば約10mgの固定用量である、請求項1から7のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項13】
患者が多重特異性抗体の投与に関連する有害事象を発症したか、または発症のリスクを有しており、ここで、処置がさらに以下:
a)ステロイド、例えばコルチコステロイド;
b)GM-CSF、IL-10、IL-10R、IL-6、IL-6受容体(IL-6R)、IFNγ、IFNGR、IL-2、IL-2R/CD25、MCP-1、CCR2、CCR4、ΜΙΡΙβ、CCR5、TNFα、TNFR1、IL-1およびIL-1Rα/IL-1βから選択されたサイトカイン受容体またはサイトカインのアンタゴニスト、ここで、該アンタゴニストが、抗体または抗原結合フラグメント、低分子、タンパク質またはペプチドおよび核酸から選択される、アンタゴニスト;
c)制御性T細胞(Treg)集団を減少させる分子、例えばシクロホスファミド;
d)解熱剤、鎮痛剤および/または抗生物質;ならびに/あるいは
e)発作予防薬、例えばレベチラセタム、
を投与することを含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項14】
BCMA発現に関連する障害が、多発性骨髄腫などのBCMA発現B細胞癌である、請求項1から11のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項15】
多重特異性抗体が静脈内に投与される、請求項1から12のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年11月5日出願の欧州特許出願第19207293.2号および2020年6月11日出願の欧州特許出願第20179573.9号に基づく優先権の利益を主張し、それぞれの内容は、引用によりその全体が本明細書中に包含される。
【0002】
電子的に提出された配列表の引用
本出願は、2020年11月4日に作成され、サイズが68,146バイトの“14247-608-228_Sequence_Listing.TXT”と称されたテキストファイルで提出された配列表を引用により本明細書中に包含させる。
【0003】
発明の分野
本発明は、BCMA発現に関連する障害(例えば、多発性骨髄腫などのBCMA発現B細胞癌)の処置に用いるためのBCMAおよびCD3に対する抗体に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
BCMAおよびCD3に対する多重特異性(例えば、二重特異性)抗体は知られており、顕著な治療効果を示している。しかしながら、これらの抗体は、副作用、特にサイトカイン放出症候群(CRS)を伴い得る。したがって、有利な利益-リスクプロファイルを達成する投与レジメンが必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
概要
本発明は、CD3およびBCMAに結合する多重特異性(例えば、二重特異性)抗体を用いた用量漸増投与レジメンを用いて、BCMA発現と関連する障害(例えば、多発性骨髄腫などのBCMA発現B細胞癌)を有する患者を処置する方法に関する。この投与レジメンは、サイトカイン放出の減少により毒性を著しく低減する。
【0006】
したがって、一面において、本発明は、患者(例えば、ヒト)におけるBCMA発現に関連する障害(例えば、多発性骨髄腫などのBCMA発現B細胞癌)を処置する方法を提供し、ここで、この処置は、BCMAおよびCD3に結合する多重特異性(例えば、二重特異性)抗体を、以下:
(i)多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の1回以上の開始用量が患者に投与される、開始期;および
(ii)多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の最初の維持用量が患者に投与され、要すれば、その後、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の少なくとも1回の追加の維持用量が投与される、維持期、
を含み、ここで、各維持用量は1回以上の開始用量よりも多い、
投与レジメンで投与することを含む。
【0007】
別の面において、本発明は、患者(例えば、ヒト)におけるBCMA発現に関連する障害(例えば、多発性骨髄腫などのBCMA発現B細胞癌)の処置に用いるためのBCMAおよびCD3に結合する多重特異性(例えば、二重特異性)抗体を提供し、ここで、処置は、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体を、以下:
(i)多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の1回以上の開始用量が患者に投与される、開始期;および
(ii)多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の最初の維持用量が患者に投与され、要すれば、その後、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の少なくとも1回の追加の維持用量が投与される、維持期
を含み、ここで、各維持用量は1回以上の開始用量よりも多い、
投与レジメンで投与することを含む。
【0008】
ある態様において、1回以上の開始用量は、約1.5mg~4.5mg;約2mg~4mg;約2.5mg~3.5mg、例えば、約3mgの固定用量を含む。好ましい態様において、1回以上の開始用量は、約1.5mg~4.5mg;約2mg~4mg;約2.5mg~3.5mg、例えば約3mgの単回の固定用量を含む。
【0009】
ある態様において、最初の維持用量は、約4.5mg~7.5mg;約5mg~6mg;約5.5mg~6.5mg、例えば約6mgの固定用量で投与され得る。
【0010】
ある態様において、少なくとも1回の追加の維持用量は、最初の維持用量と同量である。ある態様において、維持用量は、約4.5mg~7.5mg;約5mg~6mg;約5.5mg~6.5mg、例えば約6mgの固定用量で投与され得る。したがって、ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の開始用量は、約3mgの(例えば、単回の)固定用量であり、各維持用量は、約6mgの固定用量である。
【0011】
ある態様において、少なくとも1回の追加の維持用量は、最初の維持用量よりも多い。ある態様において、最初の維持用量は、約4.5mg~約7.5mg;約5mg~約6mg;約5.5mg~約6.5mg、例えば約6mgの固定用量で投与されてよく、少なくとも1回の追加の維持用量は、約8.5mg~11.5mg;約9mg~11mg;約9.5mg~約10.5mg、例えば約10mgの固定用量である。したがって、ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の開始用量は、約3mgの(例えば、単回の)固定用量であり、最初の維持用量は、約6mgの固定用量であり、少なくとも1回の追加の維持用量は、約10mgの固定用量である。
【0012】
ある態様において、1回以上の開始用量は、約4.5mg~約7.5mg;約5mg~約7mg;約6.5mg~約7.5mg、例えば約6mgの固定用量を含む。ある態様において、1回以上の開始用量は、約4.5mg~7.5mg;約5mg~7mg;約5.5mg~6.5mg、例えば約6mgの単回の固定用量を含む。
【0013】
ある態様において、最初の維持用量は、約8.5mg~11.5mg;約9mg~11mg;約9.5mg~10.5mg、例えば約10mgの固定用量で投与され得る。
【0014】
ある態様において、少なくとも1回の追加の維持用量は、最初の維持用量と同量である。ある態様において、維持用量は、約8.5mg~11.5mg;約9mg~11mg;約9.5mg~10.5mg、例えば約10mgの固定用量で投与され得る。したがって、ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の開始用量は、約6mgの固定用量であり、各維持用量は、約10mgの固定用量である。
【0015】
ある態様において、少なくとも1回の追加の維持用量は、最初の維持用量よりも多い。したがって、ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の開始用量は約6mgの固定用量であり、最初の維持用量は約10mgの固定用量であり、少なくとも1回の追加の維持用量は約10mgより多い固定用量である。
【0016】
ある態様において、患者が、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の投与に関連する有害事象を発症した、または発症するリスクがあり、ここで、処置は、以下:
a)ステロイド、例えばコルチコステロイド;
b)GM-CSF、IL-10、IL-10R、IL-6、IL-6受容体(IL-6R)、IFNγ、IFNGR、IL-2、IL-2R/CD25、MCP-1、CCR2、CCR4、ΜΙΡΙβ、CCR5、TNFα、TNFR1、IL-1、およびIL-1Rα/IL-lβの中から選択されるサイトカイン受容体のアンタゴニスト、またはサイトカインであって、ここで、アンタゴニストが、抗体または抗原結合フラグメント、低分子、タンパク質またはペプチド、および核酸から選択される;
c)制御性T細胞(Treg)集団を減少させる分子、例えばシクロホスファミド;
d)解熱剤、鎮痛剤および/または抗生物質;ならびに/あるいは
e)発作予防薬、例えばレベチラセタム
を投与することをさらに含む。
【0017】
ある態様において、コルチコステロイドは、デキサメタゾンまたはメチルプレドニゾロンである。ある態様において、アンタゴニストは、トシリズマブおよび/またはシルトキシマブである。
【0018】
ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体は、静脈内投与または皮下投与される。好ましい態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体は、静脈内投与される。
【0019】
ある態様において、BCMA発現に関連する障害は、多発性骨髄腫などのBCMA発現B細胞癌である。ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体は、単剤療法として患者に投与される。ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体は、1回以上の追加の治療剤との併用療法として患者に投与される。ある態様において、1回以上の追加の治療剤は、サリドマイドおよびその免疫療法誘導体、抗CD38抗体、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、ガンマセクレターゼ阻害剤(GSI)、抗BCMA抗体薬剤結合体および抗BCMA CAR T細胞療法からなる群より選択される。
【0020】
特定の態様において、“対象”または“患者”は、ヒトである。
【0021】
ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体は、配列番号17のCDR3H領域および配列番号20のCDR3L領域と、以下:
a)配列番号21のCDR1H領域および配列番号22のCDR2H領域、配列番号23のCDR1L領域、および配列番号24のCDR2L領域、
b)配列番号21のCDR1H領域および配列番号22のCDR2H領域、配列番号25のCDR1L領域、および配列番号26のCDR2L領域、
c)配列番号21のCDR1H領域および配列番号22のCDR2H領域、配列番号27のCDR1L領域、および配列番号28のCDR2L領域、
d)配列番号29のCDR1H領域および配列番号30のCDR2H領域、配列番号31のCDR1L領域、および配列番号32のCDR2L領域、
e)配列番号34のCDR1H領域および配列番号35のCDR2H領域、配列番号31のCDR1L領域、および配列番号32のCDR2L領域、
f)配列番号36のCDR1H領域および配列番号37のCDR2H領域、配列番号31のCDR1L領域、ならびに配列番号32のCDR2L領域、ならびに
g)配列番号15のCDR1H領域および配列番号16のCDR2H領域、配列番号18のCDR1L領域、ならびに配列番号19のCDR2L領域
の群から選択されるCDR1H、CDR2H、CDR1LおよびCDR2L領域の組み合わせを含む、抗BCMA抗体またはその抗原結合フラグメントを含む。
【0022】
ある態様において、抗BCMA抗体またはその抗原結合フラグメントは、以下:
a)配列番号10のVH領域及び配列番号12のVL領域
b)配列番号10のVH領域と配列番号13のVL領域
c)配列番号10のVH領域および配列番号14のVL領域
d)配列番号38のVH領域および配列番号12のVL領域
e)配列番号39のVH領域と配列番号12のVL領域、
f)配列番号40のVH領域および配列番号12のVL領域、または
g)配列番号9のVH領域および配列番号11のVL領域
からなる群より選択されるVHおよびVLを含む。
【0023】
特に好ましい態様において、抗BCMA抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号10のVH領域および配列番号14のVL領域を含む。
【0024】
ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体は、配列番号1、2および3の重鎖CDRをそれぞれ重鎖CDR1H、CDR2HおよびCDR3Hとして含む可変ドメインVH、ならびに配列番号4、5および6の軽鎖CDRをそれぞれ軽鎖CDR1L、CDR2LおよびCDR3Lとして含む可変ドメインVLを含む抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントを含む。ある態様において、抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号7のVH領域および配列番号8のVL領域を含む。
【0025】
特に好ましい態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体は、配列番号10のVH領域および配列番号14のVL領域を含む抗BCMA抗体またはその抗原結合フラグメント、ならびに配列番号7のVH領域および配列番号8のVL領域を含む抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントを含む。
【0026】
ある態様において、多特異性抗体は、二重特異性抗体である。ある態様において、二重特異性抗体は二価である(1+1形式)。ある態様において、二価の二重特異性抗体は、フォーマット:CD3 Fab - BCMA Fab(すなわち、Fcが存在しない場合)を有する。あるいは、二価の二重特異性抗体は、形式:Fc - CD3 Fab - BCMA Fab;Fc-BCMAFab-CD3Fab;または、BCMA Fab - Fc - CD3 Fab(すなわち、Fcが存在する場合)を有していてもよい。好ましい態様において、二価の二重特異性抗体は、BCMA Fab - Fc - CD3 Fabの形式を有する。ある態様において、二重特異性抗体は、3価である(2+1フォーマット)。ある態様において、3価の二重特異性抗体は、フォーマット:CD3 Fab - BCMA Fab - BCMA Fab;または、BCMA Fab - CD3 Fab - BCMA Fab(すなわち、Fcが存在しない場合)を有する。あるいは、3価の二重特異性抗体は、フォーマット:BCMA Fab - Fc - CD3 Fab - BCMA Fab; BCMA Fab - Fc - BCMA Fab - CD3 Fab; またはCD3 Fab - Fc - BCMA Fab - BCMA Fab(すなわち、Fcが存在するとき)を有していてもよい。好ましい態様において、3価の二重特異性抗体は、BCMA Fab - Fc - CD3 Fab - BCMA Fabの形式を有する。
【0027】
ある態様において、抗CD3 Fabは、軽鎖および重鎖を含み、ここで、軽鎖は、可変ドメインVHおよび定常ドメインCLを含むクロスオーバー軽鎖であり、重鎖は、可変ドメインVLおよび定常ドメインCH1を含むクロスオーバー重鎖である。
【0028】
ある態様において、抗BCMA FabフラグメントのCH1ドメインは、アミノ酸修飾K147E/DおよびK213E/D(EU番号付けに従って番号付け)、ならびにアミノ酸修飾E123K/R/HおよびQ124K/R/H(Kabatによる番号付け)を有するCLドメインを含む対応する免疫グロブリン軽鎖を含む。
【0029】
ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体は、Fcをさらに含む。ある態様において、Fcは、IgG1 Fcである。ある態様において、(例えば、IgG1)Fcは、第1の定常ドメインCH2およびCH3を含む第1のFc鎖と、第2の定常ドメインCH2およびCH3を含む第2のFc鎖とを含み、ここで、
a)第1のCH3ドメインは、修飾T366S、L368AおよびY407V、またはそれらの保存的置換(EU番号付けによる番号付け)を含み;そして
b)第2のCH3ドメインは、修飾T366W、またはその保存的置換(EU番号付けによる番号付け)を含む。
【0030】
ある態様において、(例えば、IgG1)Fcは、以下:
a)修飾L234A、L235AおよびP329G(EU番号付けによる番号付け)、および/または
b)修飾D356EおよびL358M(EU番号付けによる番号付け)
を含む。
【0031】
さらなる実施形態では、本発明による二重特異性抗体は、以下の配列番号:
i. 83A10-TCBcv:45、46、47(x2)、48(
図2A)
ii. 21-TCBcv:48、49、50、51(x2)(
図2A)
iii. 22-TCBcv:48、52、53、54(x2)(
図2A)
iv. 42-TCBcv:48、55、56、57(x2)(
図2A)
を含む。
【0032】
好ましい態様において、本発明の二重特異性抗体は、42-TCBcvである。
【0033】
本発明の面および態様は、添付の特許請求の範囲に記載されている。本発明のこれらおよび他の面ならびに態様は、本明細書にも記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0034】
本発明は、次に、添付の図面を参照してより詳細に説明され得る。
【
図1】
図1は、本発明で用いるための二重特異性二価抗体の異なるフォーマットを示しており、これは、Fab BCMA-Fc-Fab CD3のフォーマットでCD3およびBCMAに結合するFabフラグメントを含む。CD3 Fabは、軽鎖のミスペアリングおよび副産物を減らすために、VH-VLクロスオーバーを含んでいてもよい。CL-CH1にアミノ酸置換“RK/EE”を導入することにより、製造時に軽鎖のミスペア/副産物を低減し得る。CD3 FabおよびBCMA Fabは、フレキシブルリンカーで互いに連結されていてもよい。
【
図2】
図2は、本発明で用いるための二重特異性三価抗体の異なるフォーマットを示しており、これは、以下のフォーマットでCD3およびBCMAに結合するFabフラグメントを含む:Fab BCMA-Fc-Fab CD3-Fab BCMA(A,B);Fab BCMA-Fc-Fab BCMA-Fab CD3(C,D)。CD3 Fabは、軽鎖のミスペアリングおよび副産物を減らすために、VH-VLクロスオーバーを含んでいてもよい。CL-CH1にアミノ酸置換“RK/EE”を導入して、製造時の軽鎖のミスペアリング/副産物を低減することができる。CD3 FabおよびBCMA Fabは、フレキシブルリンカーで互いに連結されていてもよい。
【
図3】
図3は、本発明で用いるための二重特異性三価抗体の異なるフォーマットを示しており、これは、以下のフォーマットでCD3およびBCMAに結合するFabフラグメントを含む:Fc-Fab CD3-Fab BCMA(A,B);Fc-Fab BCMA-Fab CD3(C,D)。CD3 Fabは、軽鎖のミスペアリングおよび副産物を減らすために、VH-VLクロスオーバーを含んでいてもよい。CL-CH1にアミノ酸置換“RK/EE”を導入して、製造時の軽鎖のミスペアリング/副産物を低減することができる。CD3 FabおよびBCMA Fabは、フレキシブルリンカーで互いに連結されていてもよい。
【
図4】
図4は、実施例1および2の再発性/難治性多発性骨髄腫(RRMM)におけるCC-93269の臨床治験における全ての対象のサイトカイン放出症候群事象を示す。
【
図5】
図5は、実施例1および2の再発性/難治性多発性骨髄腫(RRMM)におけるCC-93269の臨床治験における全ての対象にわたるサイトカイン放出症候群事象の頻度を示す。
【
図6】
図6は、実施例3に記載されたCC-93269誘発サイトカイン分泌に対するデキサメサゾンの効果を示す。サイトカイン(pg/mL)は、トリプリケートサンプルの平均値±標準偏差としてグラフ化されている。H929、MM1S、KMS1およびSKMM2は、BCMA発現骨髄腫細胞株である。Dex=デキサメサゾン。
【
図7】
図7は、実施例3に記載のBCMA発現骨髄腫細胞株(H929、MM.1S、KMS12-PEおよびSKMM2)のCC-93269誘導細胞溶解に対するデキサメサゾンの効果を示す。生腫瘍細胞の割合は、トリプリケートサンプルの平均値±標準偏差としてグラフ化されている。Dex=デキサメサゾン。
【
図8】
図8は、実施例3に記載のCC-93269誘導T細胞増殖および活性化に対するデキサメサゾンの効果を示す。増殖は、T細胞のみの培養と比較して、腫瘍細胞株との共培養後にCellTrace Violetの希釈を示すCD4
+/CD8
+ T細胞の割合として測定される。CD4
+およびCD8
+ T細胞上の活性化マーカーCD25、CD69およびHLA-DRの発現は、T細胞のみの培養と比較して、腫瘍細胞株との共培養後、活性化マーカーを発現するCD4
+/CD8
+ T細胞の割合として測定される。増殖および活性化マーカーの発現の両方を、トリプリケートサンプルの平均値±標準偏差としてグラフ化されている。SKMM2は、BCMA発現骨髄腫細胞株である。Dex=デキサメサゾン。
【発明を実施するための形態】
【0035】
詳細な説明
本明細書で用いる冠詞“a”および“an”は、冠詞の文法的対象の1つまたは2つ以上(例えば、少なくとも1つ)を意味し得る。
【0036】
“約”は、一般的に、測定の性質または精度を与えられた測定量に対する許容可能な誤差の程度を意味し得る。例示的な誤差の程度は、所定の値または値の範囲の20パーセント(%)以内、一般的には、10%以内、より一般的には、5%以内である。
【0037】
本明細書において1以上の特徴を“含む”として記載される態様は、そのような特徴“からなる”および/またはそのような特徴“から本質的になる”対応する態様の開示とも見なされ得る。
【0038】
濃度、量、体積、百分率および他の数値は、本明細書において範囲形式で示されてもよい。このような範囲形式は、単に便宜上および簡潔さのために用いられ、範囲の限定として明示的に記載された数値だけでなく、各数値およびサブ範囲が明示的に記載されているのと同様にその範囲内に包含される全ての個々の数値またはサブ範囲も含むようにフレキシブルに解釈されるべきであるとも理解される。
【0039】
治療方法
本発明は、部分的には、CD3およびBCMAに結合する多重特異性(例えば、二重特異性)抗体を用いた用量漸増投与レジメンを用いて、BCMA発現に関連する障害(例えば、多発性骨髄腫などのB細胞性癌)を有する患者を処置する方法に基づくものである。本方法は、サイトカイン放出症候群(CRS)などの望ましくない処置効果を低減または抑制し、それによって、より好ましい利益-リスクプロファイルを達成しながら患者を処置することが期待される。特定の態様において、“対象”または“患者”は、ヒトである。
【0040】
本明細書で用いる“BCMA発現に関連する障害”は、増強されたBCMA発現と相関する形質細胞障害またはB細胞障害である。形質細胞障害には、BCMA発現B細胞癌、形質細胞腫、形質細胞白血病、多発性骨髄腫、マクログロブリン血症、アミロイドーシス、ワルデンストームマクログロブリン血症、孤立性骨形質細胞腫、髄外形質細胞腫、骨硬化性骨髄腫(POEMS症候群)および重鎖疾患、ならびに臨床的に不明瞭な単クローン性免疫グロブリン血症/くすぶり型多発性骨髄腫が含まれる。
【0041】
ある態様において、B細胞障害は、多発性骨髄腫などのBCMA発現B細胞癌である。多発性骨髄腫は、骨髄コンパートメント内の異常形質細胞の単クローン性の拡大および蓄積により特徴付けられる形質細胞悪性腫瘍である。また、多発性骨髄腫また、同じIgG遺伝子再配列および体細胞超変異を伴う循環型クローン性形質細胞も伴う。多発性骨髄腫は、意義不詳の単クローン性ガンマグロブリン血症(MGUS)と呼ばれる無症状の前癌状態であって、骨髄形質細胞の低レベルおよび単クローン性タンパク質により特徴付けられる状態から生じる。多発性骨髄腫細胞は、低速で増殖する。多発性骨髄腫は、複数の構造的染色体変化(例えば、不均衡型転座)の進行性の発生に起因する。多発性骨髄腫は、悪性形質細胞と骨髄微小環境(例えば、正常な骨髄間質細胞)との交互的な相互作用を伴う。活動性多発性骨髄腫の臨床徴候としては、単クローン性抗体スパイク、形質細胞の過密な骨髄、溶解性骨病変、および破骨細胞の過剰刺激に起因する骨破壊が挙げられる(Dimopulos & Terpos, Ann Oncol 2010; 21 suppl 7: vii143-150)。
【0042】
本明細書で用いる用語“処置する”、“処置”などは、所望の薬理学的および/または生理学的効果を得ることを意味する。好ましくは、効果は治療的であり、すなわち、効果は、疾患および/または疾患に起因する有害な症状を部分的または完全に治癒させるものである。あるいは、薬理学的および/または生理学的効果は、予防的であってもよく、すなわち、その効果は、疾患またはその症状を完全にまたは部分的に予防するものである。
【0043】
したがって、一面において、本発明は、患者(例えば、ヒト)におけるBCMA発現に関連する障害(例えば、多発性骨髄腫などのBCMA発現B細胞癌)を処置する方法を提供し、ここで、この処置は、以下:
(i)多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の1回以上の開始用量が患者に投与される開始期;および
(ii)多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の最初の維持用量が患者に投与され、要すれば、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の少なくとも1回の追加維持用量がそれに続いて投与される、維持期
を含み、ここで、各維持用量は1回以上の開始用量よりも多い、
投与レジメンでのBCMAおよびCD3に結合する多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の投与を含む。
【0044】
別の面において、本発明は、患者(例えば、ヒト)におけるBCMA発現に関連する障害(例えば、多発性骨髄腫などのBCMA発現B細胞癌)の処置に用いるためのBCMAおよびCD3に結合する多重特異性(例えば、二重特異性)抗体を提供し、ここで、処置は、以下を含む投与レジメンにおける多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の投与を含む:
(i)多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の1回以上の開始用量が患者に投与される、開始期;および
(ii)多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の最初の維持用量が患者に投与され、要すれば、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の少なくとも1回の追加維持用量がそれに続いて投与される、維持期
を含み、ここで、各維持用量は1回以上の開始用量よりも多い。
【0045】
多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の開始用量の投与は、サイトカイン放出の減少により毒性を顕著に低減する。
【0046】
ある態様において、開始期は、単回の固定用量を含む。ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の開始用量は、約1.5mg~4.5mg;約2mg~4mg;約2.5mg~3.5mg、例えば、約3mgの単回の固定用量である。ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の開始用量は、約4.5mg~7.5mg;約5mg~6mg;約5.5mg~6.5mg、例えば約6mgの単回の固定用量である。
【0047】
他の態様において、開始期は、同じ濃度の2回以上の開始用量を含む。開始用量が同じ濃度の2回以上の用量として投与される態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の開始用量は、約1.5mg~4.5mg、約2mg~4mg、約2.5mg~3.5mg、例えば約3mgの固定用量で投与され得る。あるいは、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の開始用量は、約1.5mg~4.5mg、約2mg~4mg、約2.5mg~3.5mg、例えば約6mgの固定用量で投与され得る。
【0048】
患者が、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の開始用量(例えば、最初の開始用量)の投与後に有害事象(例えば、CRSまたは感染症)を発症した場合、後続の開始用量(例えば、第2の開始用量)は、有害事象を誘発した開始用量から最大12週間後に患者に投与され得る。ある態様において、後続の開始用量は、有害事象を誘発した開始用量から最大10週間後、最大8週間後、最大6週間後、最大4週間後、最大2週間後、例えば最大1週間後に投与され得る。ある態様において、後続の開始用量は、有害事象を誘発した開始用量と同じ濃度またはそれより低濃度であってよい。
【0049】
患者が、開始期の最後の開始用量の投与後に有害事象(例えば、CRSまたは感染症)を発症した場合、開始期は、有害事象を誘発した開始用量から最大12週間後に患者に投与される追加の開始用量を含んでもよい。ある態様において、追加の開始用量は、有害事象を誘発した開始用量から最大10週間後、最大8週間後、最大6週間後、最大4週間後、最大2週間後、例えば最大1週間後に投与されてもよい。ある態様において、追加の開始用量は、有害事象を誘発した開始用量と同じ濃度またはそれより低濃度であってよい。
【0050】
ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の最初の維持用量は、約4.5mg~7.5mg;約5mg~6mg;約5.5mg~6.5mg、例えば約6mgの固定用量で投与され得る。したがって、ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の開始用量は、約3mgの(例えば、1回の)固定用量であり、かつ多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の最初の維持用量は、約6mgの固定用量である。
【0051】
ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の最初の維持用量は、約8.5mg~11.5mg;約9mg~11mg;約9.5mg~10.5mg、例えば約10mgの固定用量で投与され得る。したがって、ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の開始用量は、約6mgの(例えば、1回の)固定用量であり、かつ多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の最初の維持用量は、約10mgの固定用量である。
【0052】
ある態様において、維持期は、同じ濃度または漸増濃度の2回以上の維持用量を含む。
【0053】
ある態様において、維持期は、約4.5mg~約25mg、好ましくは約4.5mg~約11.5mgの2回以上の維持用量を含む。ある態様において、維持期は、約4.5mg~約7.5mg;約5mg~約6mg;約5.5mg~約6.5mg、例えば約6mgの2回以上の維持用量を含む。ある態様において、維持期は、約8.5mg~約11.5mg;約9mg~約11mg;約9.5mg~約10.5mg、例えば約10mgの2回以上の維持用量を含む。ある態様において、維持期は、約6mg~約11.5mg、約6.5mg~約11mg、約7mg~約10.5mg、例えば約7.5mg~約10mg、例えば約10mgの2回以上の維持用量を含む。ある態様において、維持期は、約18.5mg~21.5mg;約19mg~21mg;約19.5mg~20.5mg、例えば約20mgの2回以上の維持用量を含む。
【0054】
維持用量が同じ濃度の2回以上の用量として投与される態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の維持用量は、約4.5mg~7.5mg;約5mg~6mg;約5.5mg~6.5mg、例えば約6mgの固定用量で投与され得る。したがって、ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の開始用量は、約3mgの(例えば、単回の)固定用量であり、かつ多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の維持用量は、約6mgの固定用量である。
【0055】
維持用量が同じ濃度の2回以上の用量として投与される態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の維持用量は、約8.5mg~11.5mg;約9mg~11mg;約9.5mg~10.5mg、例えば約10mgの固定用量で投与され得る。したがって、ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の開始用量は、約6mgの(例えば、単回の)固定用量であり、かつ多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の維持用量は、約10mgの固定用量である。
【0056】
ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の維持用量は、漸増濃度(すなわち、増加用量)の2回以上の用量として投与される。この場合、最大用量に達するまで、後続の用量を特定の増分で、または可変増分で増加させることができ、その時点で投与を停止してもよいし、最大用量で継続投与してもよい。したがって、維持用量が漸増濃度で投与される態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の最初の維持用量は、開始用量より大きく、多重特異性抗体のその後の(例えば、第2、第3、第4または第5の)維持用量は、最初の維持用量より大きい。例えば、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の最初の維持用量は、開始用量よりも大きく、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の第2の維持用量(複数可)は、最初の維持用量と同じであり、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の第3(および要すれば後続の)維持用量(複数可)は、第2の維持用量より大きい。
【0057】
ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の最初の維持用量は、約4.5mg~7.5mg;約5mg~6mg;約5.5mg~6.5mg、例えば約6mgの固定用量で投与されてもよく、後続の(例えば、第2、第3、第4または第5の)維持用量の多重特異性(例えば、二重特異性)抗体は、約8.5mg~11.5mg;約9mg~11mg;約9.5mg~10.5mg、例えば約10mgの固定用量で投与されてもよい。
【0058】
ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の最初の維持用量は、約8.5mg~11.5mg;約9mg~11mg;約9.5mg~10.5mg、例えば約10mgの固定用量で投与されてよく、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体のその後の(例えば、第2、第3、第4または第5の)維持用量は、最初の維持用量より多い固定用量で投与されてよい。
【0059】
ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の第2の維持用量は、最初の維持用量よりも大きい。ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の最初の維持用量は、約4.5mg~約7.5mg;約5mg~約6mg;約5.5mg~約6.5mg、例えば約6mgの固定用量で投与されてもよく、かつ多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の第2の維持用量は、約8.5mg~11.5mg;約9mg~11mg;約9.5mg~10.5mg、例えば約10mgの固定用量で投与されてもよい。したがって、ある態様において、開始用量は、約3mgの(例えば、単回の)固定用量であり、最初の維持用量は、約6mgの固定用量であり、かつ第2の維持用量は、約10mgの固定用量である。ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体のその後の(例えば、第3、第4または第5の)維持用量は、第2の維持用量と同じ用量またはそれ以上であってもよい。
【0060】
ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の最初の維持用量は、約8.5mg~11.5mg;約9mg~11mg;約9.5mg~10.5mg、例えば約10mgの固定用量で投与されてよく、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の第2の維持用量は、最初の維持用量より大きい固定用量で投与されてもよい。したがって、ある態様において、開始用量は、約6mgの(例えば、1回の)固定用量であり、最初の維持用量は、約10mgの固定用量であり、かつ第2の維持用量は、最初の維持用量よりも大きい固定用量である。ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体のその後の(例えば、第3、第4または第5の)維持用量は、第2の維持用量と同じ用量またはそれ以上であってもよい。
【0061】
ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の維持用量は、2つの濃度:最初の濃度および最大用量濃度、として投与される。ある態様において、最初の維持用量は、約4.5mg~7.5mg;約5mg~7mg;約5.5mg~6.5mg、例えば約6mgの固定用量で投与されてもよく、多重特異性抗体のその後の(例えば、第2の)維持用量は、最大用量濃度で投与されてもよい。ある態様において、最大用量濃度は、約8.5mg~11.5mg;約9mg~11mg;約9.5mg~10.5mg、例えば約10mgの固定用量である。したがって、ある態様において、開始用量は約3mgの(例えば、単回の)固定用量であり、最初の維持用量は約6mgの固定用量であり、その後の(例えば、第2の)維持用量は最大用量であり、これは約10mgの固定用量である。最大維持用量が皮下投与されるとき、最大用量濃度は、約18.5mg~21.5mg;約19mg~21mg;約19.5mg~20.5mg、例えば約20mgの固定用量であってもよい。
【0062】
ある態様において、最初の維持用量は、約8.5mg~11.5mg;約9mg~11mg;約9.5mg~10.5mg、例えば約10mgの固定用量で投与されてもよく、多重特異性(例えば二重特異性)抗体のその後の(例えば、第2の)維持用量は、最大用量濃度で投与されでもよい。したがって、ある態様において、開始用量は、約6mgの(例えば、単回の)固定用量であり、最初の維持用量は、約10mgの固定用量であり、その後の(例えば、第2の)維持用量は、最初の維持用量よりも大きい最大用量である。
【0063】
ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の最初の維持用量は、開始用量から1-21日後、例えば、1日後、2日後、3日後、4日後、5日後、6日後、7日後、8日後、9日後、10日後、11日後、12日後、13日後または14日後に、患者に投与される。ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の最初の維持用量は、開始用量から2日後に、患者に投与されてもよい。ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の最初の維持用量は、開始用量から3日後に患者に投与されてもよい。ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の最初の維持用量は、開始用量から7日後に患者に投与されてもよい。ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の最初の維持用量は、開始用量から14日後に患者に投与されてもよい。
【0064】
ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の第2の維持用量は、最初の維持用量から、1-21日後、例えば、2日後、4日後、7日後または14日後に、患者に投与される。したがって、開始用量から2日後に最初の維持用量を投与する態様において、最初の維持用量から2日後に第2の維持用量を投与してもよく、要すれば、第2の維持用量の3日後に第3の維持用量を投与してもよい。
【0065】
最初の維持用量が開始用量から3日後に投与される態様において、第2の維持用量は、最初の維持用量から4日後に投与されてもよい。最初の維持用量が開始用量から7日後に投与される態様において、第2の(および要すれば後続の)維持用量は、最初の維持用量から7日後に投与されてもよい。最初の維持用量が開始用量から14日後に投与される態様において、第2の(および要すれば後続の)維持用量は、最初の維持用量から14日後に投与されてもよい。
【0066】
本発明の何れかの面のある態様において、患者が、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の維持用量(例えば、最初、第2、第3またはその後の維持用量)の投与後に有害事象(例えば、CRSまたは感染症)を発症した場合、次の維持用量は、有害事象を誘発した維持用量から最大12週間後に患者に投与されてもよい。ある態様において、該次の維持開始用量は、有害事象を誘発した開始用量から最大10週間後、最大8週間後、最大6週間後、最大4週間後、最大2週間後、例えば最大1週間後に投与されてもよい。ある態様において、該次の維持用量は、有害事象を誘発した維持用量と同じ濃度またはそれより低濃度であってよい。
【0067】
本発明の何れかの面のある態様において、第3および後続の維持用量は、約1週間に1回またはそれ以上の投与間隔で投与される。本明細書で用いる“投与間隔”は、患者に投与される複数の用量の間に経過する時間を意味する。多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の維持用量(例えば、第3およびその後の維持用量)の投与後に有害事象(例えば、CRSまたは感染症)が生じた場合、投与間隔は、次の維持用量が患者に投与される日にリセットされ得る。
【0068】
本発明の何れかの面のある態様において、第3および後続の維持用量の投与間隔は、約1週間に1回であってもよい。本明細書で用いる“週1回の投与間隔”は、5-9日毎、6-9日毎、7-9日毎、5-8日毎、5-7日毎、6-8日毎、6-7日毎、7-8日毎、好ましくは7日毎を含む。ある態様において、第3および後続の維持用量の投与間隔は、2週間に1回程度であってもよい。本明細書で用いる“2週間に1回の投与間隔”は、12-16日毎、13-16日毎、14-16日毎、12-15日毎、12-14日毎、13-15日毎、13-14日毎、14-15日毎、好ましくは14日毎を含む。ある態様において、第3および後続の維持用量の投与間隔は、3週間に1回程度であってもよい。本明細書で用いる“3週間に1回の投与間隔”は、19-23日毎、20-23日毎、21-23日毎、19-22日毎、19-21日毎、20-22日毎、20-21日毎、21-22日毎、好ましくは21日毎を含む。ある態様において、第3および後続の維持用量の投与間隔は、4週間に1回程度であってもよい。本明細書で用いる“4週間に1回の投与間隔”は、26-30日毎、27-30日毎、28-30日毎、26-29日毎、26-28日毎、27-29日毎、27-28日毎、28-29毎、好ましくは28日毎を含む。ある態様において、第3および後続の維持用量の投与間隔は、月1回程度であってもよい。
【0069】
本発明の何れかの面のある態様において、第3および後続の維持用量のための投与間隔は、1週間に1回の投与間隔、2週間に1回の投与間隔、3週間に1回の投与間隔、および4週間に1回の投与間隔のうちの1以上の組み合わせであってよい。ある態様において、第3および後続の維持用量の投与間隔は、1週間に1回の投与間隔、2週間に1回の投与間隔、および4週間に1回の投与間隔の組合せであってもよい。
【0070】
本発明の何れかの面のある態様において、第3および後続の維持用量は、1週間に1回の投与間隔(例えば、7日毎)、次に2週間に1回の投与間隔(例えば、14日毎)、次に3週間に1回の投与間隔(例えば、21日毎)、次に4週間に1回の投与間隔(例えば、28日毎)で投与される。ある態様において、第3および後続の維持用量は、1週間に1回の投与間隔(例えば、7日毎)、次に2週間に1回の投与間隔(例えば、14日毎)、次に4週間に1回の投与間隔(例えば、28日毎)に投与される。
【0071】
本発明の何れかの面のある態様において、処置は、28日の少なくとも1つの処置サイクルを含む。本明細書で用いる“処置サイクル”は28日である。有害事象(例えば、CRSまたは感染症)の結果として、開始用量が最初の処置サイクルの28日目を超えて投与されるとき、最初の処置サイクルは、開始用量が患者に投与された日に再開されてもよい。有害事象(例えば、CRSまたは感染症)の結果として現在の処置サイクルの28日目を超えて維持用量が投与されるとき、次の処置サイクルは、維持用量が患者に投与された日に開始されてもよい。ある態様において、処置は、開始用量が1日目に固定用量として患者に投与され、その後、維持用量が3週間連続して1週間の投与間隔で(例えば、7日毎に)(例えば、8日目、15日目および22日目に)投与される、第1の処置サイクルを含む。維持用量は、その後の処置サイクルにおいて、1週間に1回またはそれ以上の投与間隔で投与され続けてもよい。
【0072】
本発明の何れかの面のある態様において、処置は第2の処置サイクルを含み、ここで、維持用量は1週間に1回の投与間隔で(例えば、1日目、8日目、15日目および22日目に)投与される。さらなる態様において、患者は、1-5処置サイクル間、1-3処置サイクル間、1-2処置サイクル間、2-3処置サイクル間のさらなる処置サイクル、好ましくは(第1の処置サイクルに加えて)2つのさらなる処置サイクルにおいて、1週間に1回の投与間隔を維持する。ある態様において、処置は、第2および第3の処置サイクルを含み、ここで、維持用量は、1週間に1回の投与間隔で(例えば、1日目、8日目、15日目および22日目に)投与される。
【0073】
本発明の何れかの面のある態様において、維持用量は、1週間に1回の処置サイクル(複数可)の完了後、処置サイクルの2週間に1回の投与間隔(例えば、1日目および15日目)で投与されてもよい。さらなる態様において、患者は、1-5サイクル間、1-3サイクル間、1-2サイクル間、2-3サイクル間の2週間に1回の処置サイクル、好ましくは3週間に1回の処置サイクルの間、2週間に1回の投与間隔を維持する。ある態様において、処置は、第4、第5および第6の処置サイクルを含み、ここで、維持用量は、2週間に1回の投与間隔で(例えば、1日目および15日目に)投与される。
【0074】
本発明の何れかの面のある態様において、維持用量は、2週間に1回の処置サイクル(複数可)の完了後、その後の処置サイクル(例えば、後続のサイクルは、(a)、(b)及び(c)の順であり、ここで、維持用量は、サイクル(a)の1日目および22日目、サイクル(b)の15日目、ならびにサイクル(c)の8日目に投与される)で3週間の投与間隔で投与され得る。さらなる態様において、患者は、1回、2回または3回の処置サイクルについて、3週間の投与間隔を維持する。
【0075】
本発明の何れかの面のある態様において、維持用量は、2週間に1回の処置サイクル(複数可)の完了後の後続の処置サイクルにおいて(例えば、1日目に)4週間の投与間隔で投与されてもよい。別の態様において、維持用量は、3週間の処置サイクル(複数可)の完了後、後続の処置サイクルにおいて4週間の投与間隔で(例えば、1日目に)投与されてもよい。さらなる態様において、患者は、少なくとも1サイクルの間、4週間の投与間隔を維持する。患者の中には、生涯にわたって処置を受け続ける者もいる。
【0076】
ある態様において、処置は以下を含む:
(i)開始用量が1日目に投与され、維持用量が8日目、15日目および22日目に投与される、最初の処置サイクル;
(ii)維持用量が1週間に1回の投与間隔で(例えば、1日目、8日目、15日目および22日目に)投与される、第2および第3の処置サイクル;
(iii)維持用量が2週間に1回の投与間隔で(例えば、1日目および15日目に)投与される、第4から第6の処置サイクル;ならびに
(iv)維持用量が、4週間の投与間隔(例えば、1日目)で投与される、第7および後続のサイクル。
【0077】
ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体(例えば、“42-TCBcv”)は、表1に示されるレジメンに従って患者に投与され得る。
【0078】
【0079】
別の態様において、処置は最初の処置サイクルを含み、ここで、開始用量は1日目に固定用量として患者に投与され、最初の維持用量は開始用量の3日後(例えば、4日目)に投与され、第2の維持用量は最初の維持用量の4日後(例えば、8日目)に投与され、第3および第4の維持用量は1週間間隔で(例えば、15日目および22日目に)投与される。維持用量は、その後の処置サイクルにおいて、毎週またはそれ以上の投与間隔で投与され続けてもよい。
【0080】
本発明の何れかの面のある態様において、処置は第2の処置サイクルを含み、ここで、維持用量は毎週の投与間隔で(例えば、1日目、8日目、15日目および22日目に)投与される。さらなる態様において、患者は、1-5サイクル間、1-3サイクル間、1-2サイクル間、2-3サイクルの間のさらなる処置サイクル、好ましくは(第1の処置サイクルに加えて)2つのさらなる処置サイクルの間、毎週の投与間隔を維持する。ある態様において、処置は、第2および第3の処置サイクルを含み、ここで、維持用量は、毎週の投与間隔で(例えば、1日目、8日目、15日目および22日目に)投与される。
【0081】
本発明の何れかの面のある態様において、維持用量は、毎週の処置サイクル(複数可)の完了後、処置サイクルの2週間に1回の投与間隔で(例えば、1日目および15日目に)投与されてもよい。さらなる態様において、患者は、1-5、1-3、1-2、2-3サイクルの毎週の処置サイクルの間、2週間に1回の投与間隔で投与され、好ましくは3サイクルの2週間に1回の処置サイクルを維持する。ある態様において、処置は、第4、第5および第6の処置サイクルを含み、ここで、維持用量は、2週間に1回の投与間隔(例えば、1日目および15日目)で投与される。
【0082】
本発明の何れかの面のある態様において、維持用量は、2週間に1回の処置サイクル(複数可)の完了後、その後の処置サイクルにおいて4週間の投与間隔で(例えば、1日目に)投与され得る。さらなる態様において、患者は、少なくとも1つのサイクルの間、4週間の投与間隔を維持する。患者の中には、生涯にわたって処置を受け続ける者もいる。
【0083】
ある態様において、処置は以下を含む:
(i)開始用量が1日目に投与され、維持用量が4日目、8日目、15日目および22日目に投与される、最初の処置サイクル;
(ii)維持用量が1週間に1回の投与間隔で(例えば、1日目、8日目、15日目および22日目に)投与される、第2および第3の処置サイクル;
(iii)維持用量が2週間に1回の投与間隔で(例えば、1日目および15日目に)投与される、第4から第6の処置サイクル;ならびに
(iv)維持用量が、4週間の投与間隔(例えば、1日目)で投与される、第7および後続のサイクル。
【0084】
ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体(例えば、“42-TCBcv”)は、表2に示されるレジメンに従って患者に投与され得る。
【0085】
【0086】
別の態様において、処置は、最初の処置サイクルを含み、ここで、開始用量は1日目に固定用量として患者に投与され、最初の維持用量は開始用量の2日後(例えば、3日目)に投与され、第2の維持用量は最初の維持用量の2日後(例えば、5日目)に投与され、第3の維持用量は最初の維持用量の3日後(例えば、8日目)に投与され、そして第4および第5の維持用量は1週間間隔で(例えば、15日目および22日目)投与される。維持用量は、その後の処置サイクルにおいて、1週間に1回またはそれ以上の投与間隔で投与され続けてもよい。
【0087】
本発明の何れかの面のある態様において、処置は第2の処置サイクルを含み、ここで、維持用量は1週間に1回の投与間隔で(例えば、1日目、8日目、15日目および22日目に)投与される。さらなる態様において、患者は、1-5、1-3、1-2、2-3の間のさらなる処置サイクル、好ましくは(最初の処置サイクルに加えて)2つのさらなる処置サイクルにおいて、1週間に1回の投与間隔を維持する。ある態様において、処置は、第2および第3の処置サイクルを含み、ここで、維持用量は、1週間に1回の投与間隔で(例えば、1日目、8日目、15日目および22日目に)投与される。
【0088】
本発明の何れかの面のある態様において、維持用量は、1週間に1回の処置サイクル(複数可)の完了後、処置サイクルの2週間に1回の投与間隔(例えば、1日目および15日目)で投与されてもよい。さらなる態様において、患者は、1-5、1-3、1-2、2-3サイクルの1週間に1回の処置サイクル、好ましくは3サイクルの2週間に1回の処置サイクルの間、2週間に1回の投与間隔を維持する。ある態様において、処置は、第4、第5および第6の処置サイクルを含み、ここで、維持用量は、2週間に1回の投与間隔で(例えば、1日目および15日目に)投与される。
【0089】
本発明の何れかの面のある態様において、維持用量は、2週間に1回の処置サイクル(複数可)の完了後、その後の処置サイクルにおいて(例えば、1日目に)4週間の投与間隔で投与され得る。さらなる態様において、患者は、少なくとも1サイクルの間、4週間の投与間隔を維持する。患者の中には、生涯にわたって処置を受け続ける者もいる。
【0090】
ある態様において、処置は以下を含む:
(i)開始用量が1日目に投与され、維持用量が3日目、5日目、8日目、15日目および22日目に投与される、最初の処置サイクル;
(ii)維持用量が1週間に1回の投与間隔で(例えば、1日目、8日目、15日目および22日目に)投与される、第2および第3の処置サイクル;
(iii)維持用量が2週間に1回の投与間隔で(例えば、1日目および15日目に)投与される、第4から第6の処置サイクル;ならびに
(iv)維持用量が、4週間の投与間隔(例えば、1日目)で投与される、第7および後続のサイクル。
【0091】
ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体(例えば、“42-TCBcv”)は、表3に示されるレジメンに従って患者に投与され得る。
【0092】
【0093】
表1、表2または表3に示されるレジメンのある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の維持用量は、同じ濃度の2つ以上の用量として投与される。ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の開始用量は、約1.5mg~4.5mg;約2mg~4mg;約2.5mg~3.5mg、例えば約3mgの固定用量である。ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の最初およびその後の維持用量は、約4.5mg~7.5mg;約5mg~7mg;約5.5mg~6.5mg、例えば約6mgの固定用量である。ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の開始用量は、約3mgの(例えば、単回の)固定用量であり、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の最初の維持用量およびその後の維持用量は、約6mgの固定用量である。
【0094】
表1、表2または表3に示されるレジメンのある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の維持用量は、同じ濃度の2つ以上の用量として投与される。ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の開始用量は、約4.5mg~7.5mg;約5mg~6mg;約5.5mg~6.5mg、例えば約6mgの固定用量である。ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の最初およびその後の維持用量は、約8.5mg~11.5mg;約9mg~11mg;約9.5mg~10.5mg、例えば約10mgの固定用量である。ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の開始用量は、約6mgの固定用量であり、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の最初の維持用量およびその後の維持用量は、約10mgの固定用量である。
【0095】
ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体(例えば、“42-TCBcv”)は、表4に示されるレジメンに従って患者に投与され得る。
【0096】
【0097】
ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体(例えば、“42-TCBcv”)は、表5に示されるレジメンに従って患者に投与され得る。
【0098】
【0099】
ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体(例えば、“42-TCBcv”)は、表6に示されるレジメンに従って患者に投与され得る。
【0100】
【0101】
表1、表2または表3に示されるレジメンのある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の維持用量は、漸増濃度の2以上の用量として投与される。
【0102】
ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の開始用量は、約1.5mg~4.5mg;約2mg~4mg;約2.5mg~3.5mg、例えば約3mgの固定用量である。ある態様において、最初の維持用量は、約4.5mg~約7.5mg;約5mg~約7mg;約5.5mg~約6.5mg、例えば約6mgの固定用量で投与されてもよく、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の第2の(および要すればその後の)維持用量(複数可)は、約8.5mg~11.5mg;約9mg~11mg;約9.5mg~10.5mg、例えば約10mgの固定用量で投与され得る。したがって、ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の開始用量は、約3mgの(例えば、1回の)固定用量であり、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の最初の維持用量は、約6mgの固定用量であり、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の第2の(および要すればその後の)維持用量(複数可)は、約10mgの固定用量である。
【0103】
ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の開始用量は、約4.5mg~7.5mg;約5mg~7mg;約5.5mg~6.5mg、例えば約6mgの固定用量である。ある態様において、最初の維持用量は、約8.5mg~11.5mg;約9mg~11mg;約9.5mg~10.5mg、例えば約10mgの固定用量で投与されてよく、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の第2の(および要すればその後の)維持用量(複数可)は、最初の維持用量よりも多い固定用量で投与されてもよい。したがって、ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の開始用量は、約6mgの固定用量であり、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の最初の維持用量は、約10mgの固定用量であり、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の第2の(および要すればその後の)維持用量(複数可)は、最初の維持用量よりも多い。
【0104】
ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体(例えば、“42-TCBcv”)は、表7に示されるレジメンに従って患者に投与され得る。
【0105】
【0106】
ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体(例えば、“42-TCBcv”)は、表8に示されるレジメンに従って患者に投与され得る。
【0107】
【0108】
ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体(例えば、“42-TCBcv”)は、表9に示されるレジメンに従って患者に投与され得る。
【0109】
【0110】
本発明の何れかの面のある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体は、静脈内または皮下に投与される。この点に関して、データ(図示せず)は、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体(例えば、“42-TCBcv”)の皮下投与が静脈内投与と同等のバイオアベイラビリティを有することを示唆している。
【0111】
ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の開始用量および最初の維持用量は静脈内投与されてよく、多重特異性(例えば、二重特異性)のその後の(例えば、第2、第3、第4または第5の)維持用量は皮下投与されてもよい。
【0112】
ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体(例えば、“42-TCBcv”)は、表1~9に示されるレジメンのいずれかに従って患者に投与されてよく、ここで多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の開始用量および最初の維持用量は、静脈内投与されてもよく、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体のその後の(例えば、第2、第3、第4または第5の)維持用量は皮下投与されてもよい。
【0113】
いある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体(例えば、“42-TCBcv”)は、表1~9に示されるレジメンのいずれかに従って患者に投与されてよく、ここで、サイクル1~2は静脈内に投与されてよく、サイクル3+は皮下に投与されてもよい。
【0114】
多重特異性(例えば、二重特異性)抗体(例えば、“42-TCBcv”)の用量が皮下投与されるとき、最大用量濃度は、約18.5mg~21.5mg;約19mg~21mg;約19.5mg~20.5mg、例えば約20mgの固定用量であってよい。
【0115】
本発明の何れかの面の好ましい態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体は、静脈内投与される。
【0116】
多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の高用量投与
別の面において、本発明は、患者(例えば、ヒト)におけるBCMA発現に関連する障害(例えば、多発性骨髄腫などのBCMA発現B細胞癌)を処置する方法であって、ここで、該処置は、BCMAおよびCD3に結合する多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の最初の維持用量を患者に投与し、次いで要すれば多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の1以上の追加の維持用量を投与することを含む、処置方法を提供する。
【0117】
別の面において、本発明は、患者(例えば、ヒト)におけるBCMA発現に関連する障害(例えば、多発性骨髄腫などのBCMA発現B細胞癌)の処置に用いるためのBCMAおよびCD3に結合する多重特異性(例えば、二重特異性)抗体を提供し、ここで、該処置は、患者への多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の最初の維持用量の投与、および要すればそれに続く多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の1以上の追加の維持用量(複数回)を含む、BCMAおよびCD3に結合する多重特異性(例えば、二重特異性)抗体を提供する。
【0118】
ある態様において、最初の維持用量は、約4.5mg~約11.5mgの濃度(本明細書中、“多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の高用量”と呼ぶ)を有し得る。ある態様において、最初の維持用量は、6mg以上、6.5mg以上、7mg以上、例えば7.5mg以上の固定用量である。ある態様において、最初の維持用量は、約6mg~約11.5mg、約6.5mg~約11mg、約7mg~約10.5mg、例えば約7.5mg~約10mgの固定用量である。ある態様において、最初の維持用量は、約8.5mg~約11.5mg;約9mg~約11mg;約9.5mg~約10.5mg、例えば約10mgの固定用量である。別の態様において、最初の維持用量は、約4.5mg~約7.5mg;約5mg~約6mg;約5.5mg~約6.5mg、例えば約6mgの固定用量である。
【0119】
ある態様において、最初の維持用量の投与後に、グレード>3のCRS事象は発生せず、好ましくはグレード>2のCRS事象は発生せず、好ましくはグレード>1のCRS事象は発生せず、好ましくはグレード1またはそれ以上のCRS事象は発生せず、要すれば、最初の維持用量はデキサメタゾンの予防的投与なしで投与される。
【0120】
処置が、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の1以上の追加の維持用量(複数可)、すなわち少なくとも第2の維持用量を含む態様において、第2の維持用量は、最初の維持用量から1-21日後、例えば1日後、2日後、3日後、4日後、5日後、6日後、7日後、8日後、9日後、10日後、11日後、12日後、13日後、14日後、15日後、16日後、17日後、18日後、19日後、20日後または21日後に患者に投与されてもよい。ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の第2の維持用量は、最初の維持用量の7日後に、患者に投与される。ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の第2の維持用量は、最初の維持用量の14日後に患者に投与される。ある態様において、第2の維持用量の投与後に、グレード>3のCRS事象は発生せず、好ましくは、グレード>2のCRS事象は発生せず、好ましくは、グレード>1のCRS事象は発生せず、好ましくはグレード1またはそれ以上のCRS事象は発生せず、好ましくはCRS事象は発生せず、要すれば、第2の維持用量はデキサメタゾンの予防的投与なしで投与される。
【0121】
処置は、第2の維持用量の1-21日後、例えば1日後、2日後、3日後、4日後、5日後、6日後、7日後、8日後、9日後、10日後、11日後、12日後、13日後、14日後、15日後、16日後、17日後、18日後、19日後、20日後または21日後に、患者に投与される多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の第3の維持用量を含み得る。ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の第3の維持用量は、第2の維持用量の7日後に患者に投与される。ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の第3の維持用量は、第2の維持用量の14日後に患者に投与される。ある態様において、第3の維持用量の投与後に、グレード>3のCRS事象は発生せず、好ましくはグレード>2のCRS事象は発生せず、好ましくはグレード>1のCRS事象は発生せず、好ましくはグレード1またはそれ以上のCRS事象は発生せず、要すれば、第3の維持用量はデキサメタゾンの予防的投与なしに投与される。
【0122】
ある態様において、処置は、さらなる維持用量、例えば第4、第5、第6の維持用量を投与することを含む。処置が第4の維持用量を含むある態様において、この処置は最初の処置サイクルを含み、要すれば、ここで、最初の維持用量は1日目に固定用量として患者に投与され、その後、追加の維持用量が3週間連続して(例えば、8日目、15日目および22日目に)1週間に1回の投与間隔で(例えば、7日毎に)投与される。
【0123】
ある態様において、処置は、その後の処置サイクル、例えば、第2、第3、第4、第5、第6、第7の処置サイクルを含む。処置が後続の処置サイクルを含むある態様において、維持用量は、後続の処置サイクルにおいて1週間に1回またはそれ以上の投与間隔で投与され続ける。
【0124】
ある態様において、処置は、以下を含む:
(i)最初の維持用量が1日目に投与され、追加の維持用量が8日目、15日目および22日目に投与される、最初の処置サイクル;
(ii)維持用量が1週間に1回の投与間隔で(例えば、1日目、8日目、15日目および22日目に)投与される、第2および第3の処置サイクル;
(iii)維持用量が2週間に1回の投与間隔で(例えば、1日目および15日目に)投与される、第4および第5の処置サイクル;ならびに、
(iv)維持用量が4週間に1回の投与間隔で(例えば、1日目に)投与される、第7およびそれ以降のサイクル。
【0125】
したがって、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体(例えば、“42-TCBcv”)は、“開始用量”の代わりに最初の維持用量が投与される、表1に記載のレジメンに従って患者に投与され得ることが理解される。
【0126】
ある態様において、1回以上の追加の維持用量(複数可)は、最初の維持用量と同じ濃度の固定用量である。維持用量(例えば、最初の、第2の、第3のまたは第4の維持用量)の投与後に患者が有害事象(例えば、CRS)を発症した場合、その後の維持用量(例えば、第2、第3、第4または第5の維持用量)は、有害事象(例えば、CRS)を誘発した維持用量より低濃度であってよい。
【0127】
有害事象
本発明の何れかの面のある態様において、患者は、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の投与に関連する有害事象を発症するか、または発症するリスクがある。有害事象は、サイトカインにより引き起こされる毒性(例えば、サイトカイン放出症候群(CRS))、注入に伴う反応(infusion related reaction, IRR)、マクロファージ活性化症候群(MAS)、神経毒性、重症腫瘍崩壊症候群(TLS)、好中球減少症、血小板減少症、肝酵素上昇、細菌感染、ウイルス感染、および/または中枢神経系(CNS)毒性であり得る。特定の態様において、有害事象はCRSである。
【0128】
患者が多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の投与に関連する有害事象を発症した場合、または発症するリスクがある場合、本発明の何れかの面による処置は、有害事象の発症または発症のリスクを処置、予防、遅延、軽減または低減することができる薬剤の投与をさらに含む。薬剤は、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体による処置の開始前に(例えば、有害事象の発症リスクを防止または低減するための予防として)、または多重特異性(例えば、二重特異性)抗体による治療中に(例えば、有害事象の発症に応答して)患者に投与され得る。ある態様において、薬剤は、ステロイド、例えばコルチコステロイドを含む。本明細書で用いる“コルチコステロイド”は、コレステロールから誘導することができ、水素化シクロペンタノペルヒドロフェナントレン環系によって特徴付けられる何れかの天然または合成ステロイドホルモンを意味する。天然コルチコステロイドは、一般に副腎皮質によって産生される。合成コルチコステロイド、ハロゲン化されている場合がある。活性に必要な官能基としては、Δ4の二重結合、C3ケトン、およびC20ケトンが挙げられる。コルチコステロイドは、グルココルチコイドおよび/またはミネラルコルチコイド活性を有していてもよい。例示的なコルチコステロイドとしては、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾン、トリアムシノロン、ベタメタゾン、ブデソニドおよびデキサメタゾンが挙げられる。ある態様において、薬剤はデキサメタゾンである。
【0129】
ある態様において、薬剤は、GM-CSF、IL-10、IL-10R、IL-6、IL-6受容体(IL-6R)、IFNγ、IFNGR、IL-2、IL-2R/CD25、MCP-1、CCR2、CCR4、ΜΙΡΙβ、CCR5、TNFalpha、TNFR1、IL-1(例えば、IL-1α、IL-1β、IL-1RA)およびIL-1受容体(IL-1R)から選択されるサイトカイン受容体またはサイトカインのアンタゴニストを含み、ここで、アンタゴニストは、抗体または抗原結合フラグメント、低分子、タンパク質またはペプチド、および核酸から選択される。アンタゴニストは、抗IL-6抗体および/または抗IL6R抗体であってもよい。例えば、アンタゴニストは、トシリズマブ、シルトキシマブ、クラザキズマブ、サリルマブ、オロキズマブ、エルシリモマブ、ALD518/BMS-945429、シルクマブ(CNTO136)、CPSI-2634、ARGX-109、レンジルマブ、FE301およびFM101から選択されてもよい。ある態様において、アンタゴニストは、トシリズマブおよび/またはシルトキシマブである。あるいは、アンタゴニストは、抗IL-1アンタゴニストおよび/または抗IL-1Rアンタゴニスト、例えばアナキンラであってもよい。
【0130】
ある態様において、薬剤は、制御性T細胞(Treg)集団を減少させる分子を含む。Treg細胞の数を減少させる(例えば、枯渇させる)薬剤は当技術分野で知られており、例えば、CD25枯渇、シクロホスファミド投与、抗CTLA4抗体およびグルココルチコイド誘導TNLRファミリー関連遺伝子(GITR)機能を調節することが含まれる。GITRは、活性化T細胞上で上方制御されるTNLRスーパーファミリーのメンバーであり、免疫系を強化する。ある態様において、処置は、シクロホスファミドの投与を含む。
【0131】
ある態様において、有害事象の発生または発生のリスクを処置、予防、遅延、低減または減弱することができる薬剤は、有害事象の予防的処置として、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体による処置の開始前に患者に1以上の用量で投与される。
【0132】
ある態様において、有害事象の発生または発生のリスクを処置、予防、遅延、低減または減弱することができる薬剤は、有害事象の予防的処置として、1以上の用量の多重特異性(例えば、二重特異性)抗体と併用して患者に投与される。薬剤は、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体と1以上の用量を連続的に(前および/または後に)、ならびに/または同時に投与されてもよい。
【0133】
ある態様において、有害事象の発生または発生のリスクを処置、予防、遅延、低減または減弱することができる薬剤は、有害事象の予防的処置として、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の最初の用量と併用して患者に投与される。薬剤は、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体と1以上の用量を連続的に(前および/または後に)、ならびに/または同時に投与されてもよい。
【0134】
ある態様において、有害事象の発生または発生のリスクを処置、予防、遅延、低減または減弱することができる薬剤は、有害事象の予防的処置として、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の各増量と組み合わせて、患者に投与される。薬剤は、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体と1以上の用量を連続的に(前および/または後に)、ならびに/または同時に投与されてもよい。
【0135】
治療が、患者への多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の最初の維持用量および1以上の追加の維持用量の投与を含むある態様において、維持用量は、以下を含む投与レジメンで投与される:
(i)多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の最初の維持用量、および要すれば、1以上の追加の維持用量を、予防的処置と組み合わせて患者に投与する、開始期、次いで
(ii)多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の1以上の維持用量が患者に投与される、維持期
ここで、予防的処置は、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の維持用量と連続して(前および/または後に)、および/または同時に、1以上の用量として患者に薬剤を投与することを含み、薬剤は、サイトカイン駆動性毒性(例えば、CRS)の発症または発症リスクを処置、予防、遅延、低減または減弱することができる。
【0136】
多重特異性(例えば、二重特異性)抗体を開始期の予防的処置と組み合わせて投与すると、サイトカイン放出の減弱により毒性が著しく低減される。したがって、開始期の維持用量は、本明細書に記載の多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の高用量、例えば、約8.5mg~11.5mg、約9mg~11mg、約9.5mg~10.5mg、例えば約10mgを含み得ることが理解される。
【0137】
好ましい態様において、予防的処置は、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の維持用量の前に、少なくとも1用量の薬剤(例えば、CRS薬剤)を投与することを含む。ある態様において、予防的処置は、維持用量の前に薬剤(例えば、CRS剤)の1以上の用量(例えば、2用量)を投与し、維持用量の後に薬剤(例えば、CRS剤)の1以上の用量を投与することを含む。
【0138】
本発明の何れかの面のある態様において、予防的処置は、有害事象(例えば、CRS)の発症または発症リスクを予防、遅延、低減または減弱するのに十分な量の薬剤(例えば、CRS剤)の投与を含む。
【0139】
本発明の何れかの面のある態様において、予防的処置は、デキサメタゾンなどのコルチコステロイドを投与することを含む。ある態様において、デキサメタゾンは、約10-20mgの用量で、好ましくは静脈内に投与される。デキサメタゾンがサイトカイン駆動毒性(cytokine-driven toxicity)(例えば、CRS)の予防的処置として投与される態様において、好ましくは、デキサメタゾンは、本発明の多重特異性(例えば二重特異性)抗体によって誘導されるサイトカイン(例えば、GM-CSF、IL-2および/またはTNF-α)の分泌を減弱するのに充分な量で投与される。
【0140】
本発明の何れかの面のある態様において、予防的処置は、サイトカイン受容体またはサイトカインのアンタゴニスト、例えば、IL-6、IL-6受容体(IL-6R)、IL-1(例えば、IL-1α、IL-1β、IL-1RA)および/またはIL-1受容体(IL-1R)のアンタゴニストの投与を含み、ここで、アンタゴニストは、抗体または抗原結合フラグメント、低分子、タンパク質またはペプチドおよび核酸から選択される。
【0141】
本発明の何れかの面のある態様において、予防的処置は、抗IL-6アンタゴニスト抗体および/または抗IL-6Rアンタゴニスト抗体、例えばトシリズマブを含む。ある態様において、トシリズマブは、約8mg/kgの1以上の用量として患者に投与され、好ましくは静脈内に投与される。好ましい態様において、トシリズマブは、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体より少なくとも30分前に投与される。トシリズマブがサイトカイン放出症候群(例えば、CRS)の予防的処置として投与される態様において、好ましくは、トシリズマブは、本発明の多重特異性(例えば、二重特異性)抗体によって誘導されるIL-6受容体シグナル伝達を減弱させるのに十分な量で投与される。
【0142】
特定の態様において、開始期は、予防的処置と組み合わせて患者に投与される多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の最初のおよび第2の維持用量をそれぞれ含み、ここで、予防的処置は、維持用量の少なくとも30分前に投与されるトシリズマブの単回投与を含み、要すれば、第2の維持用量が、最初の維持用量の7日後に患者に投与される。
【0143】
本発明の何れかの面のある態様において、予防的処置は、抗IL-1アンタゴニストおよび/または抗IL-1Rアンタゴニスト、例えばアナキンラを含む。ある態様において、アナキンラは、サイトカイン放出症候群(例えば、CRS)の予防的処置として、好ましくは、本発明の多重特異性(例えば二重特異性)抗体によって誘導されるIL-1受容体シグナル伝達を減弱するために十分な量で投与される。アナキンラは、約100mg(例えば、100mg±20%)の用量で、好ましくは皮下投与され得る。ある態様において、アナキンラは、約100mgの用量で、好ましくは皮下投与で患者に投与される。ある態様において、予防的処置は、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の前に投与される少なくとも1用量のアナキンラ、および多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の後に投与される少なくとも1用量のアナキンラを含む。
【0144】
アナキンラは、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の約16時間前から約2時間前の間に1回以上の固定用量として患者に投与されてもよく、要すれば多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の約20時間後から約22時間後の間に1回の固定用量として患者に投与されてもよい。本発明の何れかの面のある態様において、アナキンラは、以下のように投与される:
(i)多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の約16時間前から約8時間前の間の1回の固定用量;および/または
(ii)多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の約4時間前から約2時間前の間の1回の固定用量、
ここで、要すれば、アナキンラの追加の固定用量が、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の約20時間後から約22時間後の間に投与されてもよい。
【0145】
特定の態様において、開始期は、予防的処置と組み合わせて患者に投与される、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の最初のおよび第2の維持用量をそれぞれ含み、ここで、
(i)最初の維持用量は、以下と組み合わせて投与される:維持用量の約16時間前から約8時間前までの間のアナキンラの最初の用量;維持用量の約4時間前から約2時間前までの間のアナキンラの第2の用量;および、維持用量の約20時間後から約22時間後までの間のアナキンラの第3の用量;ならびに、
(ii)第2の維持用量は、以下と組み合わせて投与される:維持用量の約4時間前から約2時間前の間のアナキンラの第4の用量;および、維持用量の約20時間後から約22時間後の間のアナキンラの第5の用量、
要すれば、第2の維持用量は、最初の維持用量の7日後に患者に投与される。
【0146】
本発明の何れかの面のある態様において、予防的処置は、トシリズマブ(例えば、約8mg/kg、好ましくは静脈内投与)と共にデキサメタゾン(例えば、約10-20mg、好ましくは静脈内投与)を投与することを含む。ある態様において、予防的処置は、アナキンラ(例えば、約100mg、好ましくは皮下投与)と共にデキサメタゾン(例えば、約10-20mg、好ましくは静脈内投与)の投与を含む。
【0147】
本発明の何れかの面のある態様において、予防的処置は、解熱剤、鎮痛剤、抗ウイルス剤および/または抗生物質の投与を含む、対症療法剤の投与(symptomatic support)を含む。ある態様において、対症療法剤の投与は、抗ウイルス剤(例えば、アシクロビル、オセルタミビル、ザナミビルおよび/または同等物)および/または抗生物質(例えば、トリメトプリム・スルファメトキサゾール、レボフロキサシンおよび/または同等物)の投与を含む。ある態様において、予防的処置は、発作予防薬(例えば、レベチラセタム)の投与を含む。対症療法剤投与および/または発作予防薬は、有害事象の発生または発生のリスクを処置、予防、遅延、低減または減弱させることができる薬剤に加えて投与されてもよい。
【0148】
本発明の何れかの面のある態様において、有害事象の発生またはそのリスクを処置、予防、遅延、低減または減弱させることができる薬剤は、患者が多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の投与に関連する有害事象を発症した場合に、患者に投与される。ある態様において、処置は、治療量、または有害事象(例えば、CRS)またはその症状を部分的または完全に緩和もしくは改善するのに十分な量の薬剤を投与することを含む。
【0149】
患者が、本発明の多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の投与後に有害事象(例えば、CRS)を発症した場合、処置は、抗IL-6Rアンタゴニスト抗体、例えば、トシリズマブの投与をさらに含んでもよい。ある態様において、トシリズマブは、約8mg/kgの単回用量として患者に投与され、好ましくは静脈内投与される。ある態様において、、処置は、IL-6Rアンタゴニスト抗体、例えば、トシリズマブの1以上の追加用量を患者に投与することをさらに含んでもよい。ある態様において、トシリズマブは、約8mg/kgの1回以上の追加用量で患者に投与され、好ましくは静脈内投与される。
【0150】
ある態様において、患者が本発明の多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の投与後に有害事象(例えば、CRS)を発症した場合、処置は、抗IL-1アンタゴニストおよび/または抗IL-1Rアンタゴニスト、例えば、アナキンラの投与をさらに含んでもよい。ある態様において、アナキンラは、約100mgの1以上の固定用量として患者に投与され、好ましくは皮下投与される。ある態様において、アナキンラは、1日2回、好ましくは約100mgの固定用量で、好ましくは皮下投与として、患者に投与される。
【0151】
ある態様において、有害事象(例えば、CRS)が発生した場合、処置は、IL-6アンタゴニスト抗体、例えば、シルトキシマブの投与をさらに含んでもよい。ある態様において、シルツキシマブは、約11mg/kgの単回用量として患者に投与され、好ましくは静脈内投与される。
【0152】
ある態様において、有害事象(例えば、CRS)が発生した場合、処置は、メチルプレドニゾロンまたはデキサメタゾンなどのコルチコステロイドを患者に投与することをさらに含んでもよい。ある態様において、デキサメタゾンは、約10-20mgの用量で、好ましくは静脈内投与される。ある態様において、メチルプレドニゾロンは、1日当たり約1mg/kg~約5mg/kg、例えば、1日当たり約2mg/kgの用量で投与される。
【0153】
ある態様において、追加の処置は、CRSのステージに基づき得る。CRSのグレード付けおよび処置のために、共通のCTCAE CRSグレード付けスケールの修正版が確立されており、表10に詳述されている。
【0154】
【0155】
例えば、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の投与後に患者がグレード2のCRSを有する態様において、処置は、抗IL-6アンタゴニスト抗体および/または抗IL-6Rアンタゴニスト抗体、例えば、トシリズマブの最初の用量の投与を含む第一選択治療(first line treatment)の投与をさらに含んでもよい。ある態様において、トシリズマブは、約8mg/kgの単回投与として患者に静脈内投与される。
【0156】
多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の投与後に患者がグレード2のCRSを有する別の態様において、処置は、1以上の固定用量(複数可)の抗IL-1アンタゴニストおよび/または抗IL-1Rアンタゴニスト、例えば、アナキンラの投与を含む第一選択治療の投与をさらに含んでもよい。アナキンラは、約100mg(例えば、100mg±20%)の用量で、好ましくは皮下投与され得る。ある態様において、アナキンラは、約100mgの1以上の固定用量(複数可)として患者に投与され、好ましくは皮下投与される。ある態様において、アナキンラは、1日2回、好ましくは約100mgの固定用量で、好ましくは皮下投与として患者に投与される。
【0157】
患者が、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の投与後にグレード2のCRSの急速な発症を生じるか、またはグレード3以上のCSR発症を生じる場合、処置は、以下を含む第一選択治療の投与をさらに含み得る:
(i)抗IL-6アンタゴニスト抗体および/または抗IL-6Rアンタゴニスト抗体、例えば、トシリズマブ;ならびに
(ii)コルチコステロイド、例えば、デキサメタゾンまたはメチルプレドニゾロン。
【0158】
ある態様において、トシリズマブは、約8mg/kgの用量で患者に静脈内投与される。
【0159】
あるいは、患者が、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の投与後にグレード2のCRSの急速な発症を生じるかまたはグレード3以上のCRSの発症を生じる場合、処置は、以下を含む第一選択治療の投与をさらに含み得る:
(i)抗IL-1アンタゴニストおよび/または抗IL-1Rアンタゴニスト、例えばアナキンラ;ならびに
(ii)コルチコステロイド、例えば、デキサメタゾンまたはメチルプレドニゾロン。
【0160】
ある態様において、アナキンラは、約100mgの1以上の固定用量(複数可)として患者に投与され、好ましくは皮下投与される。ある態様において、アナキンラは、1日2回、好ましくは約100mgの固定用量として患者に投与され、好ましくは皮下投与される。
【0161】
コルチコステロイドは、(i)抗IL-6アンタゴニスト抗体および/または抗IL-6Rアンタゴニスト抗体、例えばトシリズマブ、又は(ii)抗IL-1アンタゴニストおよび/または抗IL-1Rアンタゴニスト、例えばアナキンラと連続的(前後に)または同時に投与され得る。ある態様において、コルチコステロイドは、デキサメタゾンである。ある態様において、デキサメタゾンは、約10-20mgの用量で、好ましくは静脈内投与される。ある態様において、コルチコステロイドは、メチルプレドニゾロンである。ある態様において、メチルプレドニゾロンは、1日当たり約1mg/kg~約5mg/kg、例えば1日当たり約2mg/kgの用量で投与される。
【0162】
ある態様において、第一選択治療は、解熱剤、鎮痛剤および/または抗生物質の投与を含む、CRSに対する対症療法剤の投与を含む。ある態様において、第一選択治療は、発作予防薬(例えば、レベチラセタム)の投与を含む。対症療法剤および/または発作予防薬は、有害事象の発生または発生のリスクを処置、予防、遅延、低減または減弱させることができる薬剤に加えて投与されてもよい。
【0163】
本発明の何れかの面のある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の用量(例えば、開始用量または維持用量)の投与後に患者がCRSを発症した場合、本明細書に記載の毒性がグレード≦1に達したとき、次の用量(例えば、次の開始用量または次の維持用量)が患者に投与されてもよい。患者がCRSを発症する別の態様において、毒性がベースラインレベルに達したとき、次の用量を患者に投与してもよい。
【0164】
第一選択治療に反応してCRSが解決しないかまたは悪化する場合、処置は、以下を含む第二選択治療の投与を更に含んでもよい:
(i)抗IL-6アンタゴニスト抗体および/または抗IL-6Rアンタゴニスト抗体、例えば、トシリズマブの1回以上(例えば、1回、2回、3回、4回または5回またはそれ以上)の追加の用量;および
(ii)1回以上(例えば、1回、2回、3回、4回、または5回またはそれ以上)のコルチコステロイド、例えば、デキサメタゾンまたはメチルプレドニゾロンの追加の用量。
【0165】
ある態様において、1以上の追加用量のトシリズマブは、約8mg/kgの用量で患者に静脈内投与される。コルチコステロイドは、抗IL-6アンタゴニスト抗体および/または抗IL-6Rアンタゴニスト抗体、例えば、トシリズマブと連続して(前後に)または同時に投与され得る。ある態様において、コルチコステロイドはデキサメサゾンである。ある態様において、デキサメサゾンは、約10-20mgの用量で、好ましくは静脈内投与される。ある態様において、コルチコステロイドはメチルプレドニゾロンである。ある態様において、メチルプレドニゾロンは、1日当たり約1mg/kgから約5mg/kgの用量で、例えば1日当たり約2mg/kgの用量で投与される。
【0166】
第二選択治療に対してCRSが消失しないまたは悪化する場合、処置は、GM-CSF、IL-10、IL-10R、IL-6、IL-6受容体(IL-6R)、IFN、IFNGR、IL-2、IL-2R/CD25、MCP-1、CCR2、CCR4、ΜΙΡΙβ、CCR5、TNFα、TNFR1、IL-1(例えば、IL-1α、IL-1β、IL-1RA)、およびIL-1受容体(IL-1R)から選択されるサイトカイン受容体またはサイトカインのアンタゴニストの投与を含む第三選択治療の投与をさらに含んでもよく、ここで、アンタゴニストは、抗体または抗原結合フラグメント、低分子、タンパク質またはペプチドおよび核酸から選択される。アンタゴニストは、抗IL-6抗体および/または抗IL-6R抗体であってもよい。例えば、アンタゴニストは、トシリズマブ、シルトキシマブ、クラザキズマブ、サリルマブ、オロキズマブ、エルシリモマブ、ALD518/BMS-945429、シルクマブ(CNTO136)、CPSI-2634、ARGX-109、レンジルマブ、FE301およびFM101から選択されてもよい。ある態様において、第三選択治療は、シルツキシマブの投与を含む。ある態様において、シルツキシマブは、約11mg/kgの単回投与として患者に投与され、好ましくは静脈内投与される。あるいは、アンタゴニストは、抗IL-1アンタゴニストおよび/または抗IL-1Rアンタゴニスト、例えばアナキンラであってもよい。
【0167】
CRSが第三選択治療に応答して消失しないかまたは悪化する場合、処置は、制御性T細胞(Treg)集団を減少させる分子の投与を含む第四選択治療の投与をさらに含んでもよい。Treg細胞の数を減少させる(例えば、枯渇させる)分子は当技術分野で知られており、例えば、CD25枯渇、シクロホスファミド投与、抗CTLA4抗体およびグルココルチコイド誘導TNLRファミリー関連遺伝子(GITR)機能調節を含む。GITRは、活性化T細胞上で上方制御されるTNLRスーパーファミリーのメンバーであり、免疫系を強化する。ある態様において、第四選択治療は、シクロホスファミドの投与を含む。
【0168】
ある態様において、有害事象(例えば、好中球減少、感染症)が発生した場合、処置は、解熱剤、鎮痛剤、抗ウイルス剤および/または抗生物質の投与を含む対症療法をさらに含んでいてもよい。ある態様において、発作予防薬(例えば、レベチラセタム)が患者に投与され得る。患者が好中球減少症(例えば、少なくともグレード3の好中球減少症)を発症した場合、処置は、抗生物質(例えば、レボフロキサシンまたは同等物)の投与をさらに含み得る。患者がウイルス感染症(例えば、インフルエンザ)を発症した場合、処置は、オセルタミビル、ザナミビルおよび/または等価物(equivalents)の投与をさらに含んでもよい。
【0169】
本発明の何れかの面のある態様において、患者が、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体の用量(例えば、開始用量または維持用量)の投与後にウイルス感染(例えば、インフルエンザA/B、SARS-CoV-2)を発症した場合、次の用量(例えば、次の開始用量または次の維持用量)は、感染の症状が消失したときに患者に投与されてもよい。患者がウイルス感染を発症する別の態様において、次の投与は、ウイルス感染に対するネガティブ試験、例えばPCRウイルスパネルが陰性であった後、および/またはウイルス感染に対するポジティブ試験、例えばPCRウイルスパネルが陽性であった後、少なくとも14日後に実施されてもよい。ウイルスパネル(例えば、PCRウイルスパネル)は、インフルエンザA/B、呼吸器多核体ウイルス(RSウイルス)、パラインフルエンザウイルス、メタニューモウイルス、アデノウイルスおよび/またはSARS-CoV-2を検査することができる。
【0170】
多重特異性抗体
本発明の多重特異性(例えば、二重特異性)抗体は、BCMAおよびCD3に特異的に結合する。用語“BCMAおよびCD3に対する抗体”、“抗BCMA抗CD3抗体”または“BCMAおよびCD3に結合する抗体”は、抗体が治療薬として有用であるように十分な親和性でBCMAおよびCD3に結合できる多特異的抗体(例えば、二重特異的抗体)を意味する。これは、BCMAに結合する第1の抗体または抗原結合フラグメント、およびCD3に結合する第2の抗体または抗原結合フラグメントを含む分子を作製することにより達成される。このような多重特異性抗体は、三重特異性抗体または二重特異性抗体であってもよい。好ましい態様において、多重特異性抗体は、二重特異性抗体である。
【0171】
本明細書で用いる用語“BCMA”は、分化形質細胞で優先的に発現される腫瘍壊死受容体スーパーファミリーのメンバーである、BCMA;TR17_HUMAN、TNFRSF17(UniProt Q02223)としても知られているヒトB細胞成熟抗原に関連する。BCMAの細胞外ドメインは、UniProtによれば、アミノ酸1~54(または5~51)からなる。本明細書で用いる用語“BCMAに対する抗体”、“抗BCMA抗体”または“BCMAに結合する抗体”は、BCMAの細胞外ドメインに特異的に結合する抗体に関する。
【0172】
用語“BCMAに特異的に結合する”とは、抗体がBCMAを標的とする治療薬として有用であるように、定義された標的に十分な親和性で結合することが可能な抗体を意味する。ある態様において、BCMAに特異的に結合する抗体は、他の抗原に結合しないか、または生理学的効果をもたらすのに十分な親和性で他の抗原に結合しない。
【0173】
ある態様において、無関係の非BCMAタンパク質に対する抗BCMA抗体の結合の程度は、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)、例えばBiacore(登録商標)、酵素結合免疫吸着(ELISA)またはフローサイトメトリー(FACS)によって測定したBCMAに対する抗体の結合よりも約10倍、好ましく100倍以上少ない。一態様において、BCMAに結合する抗体は、10-8M以下、好ましくは10-8M~10-13M、より好ましくは10-9M~10-13Mの解離定数(Kd)を有する。
【0174】
一態様において、抗BCMA抗体は、異なる種、好ましくはヒトおよびカニクイザル由来のBCMA間で保存されているBCMAのエピトープに結合し、さらに好ましくはマウスおよびラットのBCMAにも結合する。
【0175】
好ましくは、抗BCMA抗体は、ヒトBCMAおよび非ヒト哺乳動物由来のBCMA、好ましくはカニクイザル、マウスおよび/またはラット由来のBCMAからなる一群のBCMAに特異的に結合する。抗BCMA抗体は、プレート結合BCMAを用いて、ヒトBCMAとの結合をELISA法により分析する。このアッセイでは、プレート結合BCMAの量は好ましくは1.5μg/mLであり、抗BCMA抗体の濃度は0.1pMから200nMの範囲で用いられる。
【0176】
用語“CD3”は、ヒトCD3タンパク質多量体サブユニット複合体を意味する。CD3タンパク質多量体サブユニット複合体は、6つの特徴的なポリペプチド鎖で構成されている。したがって、この用語は、CD3γ鎖(SwissProt P09693)、CD3δ鎖(SwissProt P04234)、2つのCD3ε鎖(SwissProt P07766)、および1つのCD3ζ鎖ホモダイマー(SwissProt 20963)を含み、T細胞受容体α鎖およびβ鎖と関連付けられる。この用語は、“完全長”の未処理のCD3、ならびに細胞(T細胞を含む)によって天然に発現されるか、あるいはそれらのポリペプチドをコードする遺伝子またはcDNAをトランスフェクトした細胞上で発現され得る何れかのCD3変異体、アイソフォームおよび種ホモログを包含する。
【0177】
用語“CD3に特異的に結合する”とは、抗体がCD3を標的とする治療薬として有用であるように、定義された標的に十分な親和性で結合することが可能な抗体を意味する。ある態様において、CD3に特異的に結合する抗体は、他の抗原に結合しないか、または生理学的効果をもたらすのに十分な親和性で他の抗原に結合しない。
【0178】
本発明の多重特異性(例えば、二重特異性)抗体は、CD3への結合についてSPR、例えば、Biacore(登録商標)によって分析することができる。ある態様において、二重特異性抗体は、表面プラズモン共鳴アッセイ、好ましくは25℃にてBiacore 8Kを用いて測定された、約10-7M以下の解離定数(KD)、約10-8M以下のKD、約10-9M以下のKD、約10-10M以下のKD、約10-11M以下のKD、または約10-12M以下のKDでヒトCD3と結合する。好ましい態様において、二重特異性抗体は、約10-8M以下の解離定数(KD)でヒトCD3に結合する。
【0179】
本明細書における用語“抗体”とは、所望の抗原結合活性を示す限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)および抗体フラグメントを含むがこれらに限定されない、様々な抗体構造を包含する。
【0180】
“重鎖”は、重鎖可変領域(本明細書では“VH”と略記)および重鎖定常領域(本明細書では“CH”と略記)を含む。重鎖定常領域は、重鎖定常ドメインCH1、CH2およびCH3(抗体クラスIgA、IgDおよびIgG)ならびに要すれば重鎖定常ドメインCH4(抗体クラスIgEおよびIgM)を含んでいてよい。
【0181】
“軽鎖”は、軽鎖可変ドメイン(本明細書では“VL”と略記)および軽鎖定常ドメイン(本明細書では“CL”と略記)を含む。可変領域VHおよびVLは、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域と、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる保存性の高い領域にさらに細分化され得る。各VHおよびVLは、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって、以下の順序で並んだ3つのCDRおよび4つのFRから構成されている:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重鎖および軽鎖の“定常ドメイン”は、抗体と標的の結合には直接関与しないが、様々なエフェクター機能を発揮する。
【0182】
抗体とその標的抗原またはエピトープとの結合は、相補性決定領域(CDR)によって媒介される。CDRは、抗体重鎖および軽鎖の可変領域内に位置する配列可変性の高い領域であり、抗原結合部位を形成している。CDRは抗原特異性を決定する主要な要素である。一般的に、抗体重鎖および軽鎖はそれぞれ、非連続的に配置された3つのCDRを含む。抗体重鎖および軽鎖のCDR3領域は、本発明による抗体の結合特異性/親和性において特に重要な役割を果たし、したがって、本発明のさらなる態様を提供する。
【0183】
本明細書で用いる用語“抗原結合フラグメント”は、1個、2個または3個の軽鎖CDR、および/または1個、2個または3個の重鎖CDRを含む抗原結合ポリペプチドの何れかの天然または人工的に構築された構成を包含し、このポリペプチドは抗原に結合することが可能である。したがって、この用語は、無傷(intact)の抗体が結合する抗原に結合する無傷の抗体の一部を含む、無傷の抗体以外の分子を意味する。抗体フラグメントの例としては、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab')2;二重特異性抗体(ダイアボディ);直鎖抗体;単鎖抗体分子(例えば、scFv);および、抗体フラグメントから形成される多特異性抗体などがあるが、それらに限定されない。
【0184】
用語“Fabフラグメント”および“Fab”は、本明細書において互換的に用いられ、単一の軽鎖(すなわち、定常ドメインCLおよびVL)および単一の重鎖(すなわち、定常ドメインCH1およびVH)を含む。Fabフラグメントの重鎖は、別の重鎖とジスルフィド結合を形成することができない。
【0185】
“Fab’フラグメント”は、単一の軽鎖および単一の重鎖を含むが、CH1およびVHに加えて、CH1ドメインとCH2ドメインの間の重鎖の領域で、鎖間ジスルフィド結合の形成に必要な領域を含んでいる。したがって、2つのFab’フラグメントは、ジスルフィド結合の形成を介して会合し、F(ab’)2分子を形成することができる。
【0186】
“F(ab’)2フラグメント”は、2本の軽鎖および2本の重鎖を含む。各鎖は、2本の重鎖の間の鎖間ジスルフィド結合の形成に必要な定常領域の一部を含む。
【0187】
“Fvフラグメント”は、重鎖および軽鎖の可変領域のみを含む。定常領域は含まれない。
【0188】
“単一ドメイン抗体”とは、単一の抗体ドメイン単位(例えば、VHまたはVL)を含む抗体フラグメントのことである。
【0189】
“単鎖Fv”(“scFv”)は、抗体のVHドメインおよびVLドメインを含む抗体フラグメントであり、互いに連結して一本の鎖を形成している。scFvのVHドメインおよびVLドメインの連結には、一般的にポリペプチドリンカーが用いられる。
【0190】
“タンデムscFv”は、TandAb(登録商標)としても知られ、2つのscFvを柔軟なペプチドリンカーでタンデム方向に共有結合して形成される一本鎖のFv分子である。
【0191】
“二重特異性T細胞誘導(BiTE(登録商標))は、一本鎖ペプチド鎖上に2つの単鎖可変フラグメント(scFv)からなる融合タンパク質である。一方のscFvはCD3受容体を介してT細胞に結合し、もう一方のscFvは腫瘍細胞抗原に結合する。
【0192】
“ダイアボディ”とは、同じポリペプチド鎖上の重鎖可変ドメイン(VH)と軽鎖可変ドメイン(VL)が、短すぎて同じ鎖上の2つのドメイン間の対合を可能にするペプチドリンカーで連結された小さな二価および二重特異性抗体フラグメントである(Kipriyanov、Int. J. Cancer 77 (1998), 763-772)。これにより、別の鎖の相補的なドメインとの対合が強制され、2つの機能的な抗原結合部位を有する二量体分子の集合が促進される。
【0193】
“DARPin”は、二重特異性アンキリンリピート分子である。DARPinは、ヒトゲノムに存在する天然アンキリンタンパク質に由来し、最も豊富な種類の結合タンパク質の1つである。DARPinライブラリモジュールは、229個のアンキリンリピートタンパク質の配列によって定義され、最初の設計には229個のアンキリンリピートが、その後の改良にはさらに2200個のアンキリンリピートが補充されている。このモジュールは、DARPinライブラリーの構成要素として機能する。ライブラリモジュールは、ヒトゲノム配列に類似している。DARPinは4-6個のモジュールで構成されている。各モジュールは約3.5kDaであるため、平均的なDARPinのサイズは16-21kDaである。結合剤の選択はリボソームディスプレイによって行われるが、これは完全に無細胞であり、He M. and Taussig MJ., Biochem Soc Trans. 2007, Nov;35(Pt 5):962-5 に記載されている。
【0194】
CDRの配列は、当技術分野で公知の何れかの番号システム、例えば、Kabatシステム(Kabat, E. A., et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991); Chothiaシステム(Chothia &, Lesk, “Canonical Structures for the Hypervariable Regions of Immunoglobulins,” J. Mol. Biol. 196, 901-917 (1987));またはIMGTシステム(Lefranc et al.、“IMGT Unique Numbering for Immunoglobulin and Cell Receptor Variable Domains and Ig superfamily V-like domains”、Dev.Comp. Immunol. 27, 55-77 (2003)) を参照して特定することができる。
【0195】
【0196】
本発明で議論される重鎖定常領域アミノ酸位置について、番号付けは、Edelman, G.M., et al, Proc. Natl.Acad. Sci. USA 63 (1969) 78-85に最初に記載されたEU番号付けに従っている。EdelmanのEU番号付けはまた、Kabatら(1991)(上掲)にも記載されている。したがって、重鎖の文脈における用語“KabatによるEUインデックス”、“EUインデックス”、“KabatのEUインデックス”または“EU番号付け”とは、Kabatら(1991)に規定されているEdelmanらのヒトlgG1 EU抗体に基づく残基番号付けシステムを意味する。軽鎖定常領域アミノ酸配列に用いられる番号付けシステムは、同様にKabatら(上掲)に記載されている。したがって、本明細書で用いる“Kabatによって番号付けされた”とは、Kabatら(上掲)の文献に記載された番号付けを意味する。
【0197】
本発明の抗体およびその抗原結合フラグメントは、組換え手段により何れかの種に由来していてもよい。例えば、抗体または抗原結合フラグメントは、マウス、ラット、ヤギ、ウマ、ウシ、ニワトリ、ウサギ、ラクダ、ロバ、ヒトまたはそれらのキメラバージョンであってもよい。ヒトへの投与に用いるために、非ヒト由来の抗体または抗原結合フラグメントは、ヒト患者への投与時に抗原性が低くなるように遺伝的または構造的に改変されていてもよい。
【0198】
とりわけ組換えヒト抗体またはヒト化抗体としての、ヒト抗体またはヒト化抗体が特に好ましい。
【0199】
用語“ヒト化抗体”は、フレームワークまたは“相補性決定領域”(CDR)が、親免疫グロブリンのものと比較して異なる特異性を有する免疫グロブリンのCDRを含むよう改変された抗体を意味する。例えば、マウスCDRをヒト抗体のフレームワーク領域に移植して、“ヒト化抗体”を調製することができる。例えば、Riechmann, L., et al., Nature 332 (1988) 323-327;および、Neuberger, M.S., et al., Nature 314 (1985) 268-270を参照のこと。ある態様において、“ヒト化抗体”は、本発明による抗体の特性、特にClq結合および/またはFc受容体(FcR)結合に関する特性を生成するために、定常領域が元の抗体のものから追加的に修飾または変更されているものである。
【0200】
用語“ヒト抗体”とは、ヒトまたはヒト細胞によって産生された抗体、あるいはヒト抗体レパートリーまたは他のヒト抗体コーディング配列を利用する非ヒト起源に由来する抗体のものに対応するアミノ酸配列を有するものである。このヒト抗体の定義では、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体は特に除外されている。ヒト抗体は、ファージディスプレイライブラリーなど、当技術分野で知られる様々な技術を用いて作製することができる。
【0201】
用語“キメラ抗体”とは、1つの供給源または種由来の可変領域、すなわち結合領域と、異なる供給源または種由来の定常領域の少なくとも一部とを含む抗体を意味し、通常は組換えDNA技術により産生される。マウス可変領域およびヒト定常領域を含むキメラ抗体が好ましい。本発明に包含される“キメラ抗体”の他の好ましい態様は、本発明による抗体の特性、特にClq結合および/またはFc受容体(FcR)結合に関して生成するために、定常領域が元の抗体のものから修飾または変更されたものである。かかるキメラ抗体は、“クラススイッチ抗体”とも呼ばれる。キメラ抗体は、免疫グロブリン可変領域をコードするDNAセグメントおよび免疫グロブリン定常領域をコードするDNAセグメントを含む免疫グロブリン遺伝子が発現した産物である。従来の組換えDNAおよび遺伝子導入技術を含むキメラ抗体の製造方法は、当技術分野でよく知られている。例えば、Morrison, S.L., et al., Proc. Natl.Acad. Sci. USA 81 (1984) 6851-6855;米国特許第5,202,238号および同第5,204,244号を参照のこと。
【0202】
用語“Fc領域”および“Fc”は、本明細書において互換的に用いられ、2つのFc鎖によって形成される天然免疫グロブリンの部分を意味する。各“Fc鎖”は、定常ドメインおよび定常ドメインCH3を含む。各Fc鎖はまた、ヒンジ領域を含んでいてもよい。天然Fc領域は、ホモ二量体である。ある態様において、Fc領域は、Fcヘテロ二量体化を実施するための修飾を含んでもよい。
【0203】
用語“Fc部分”は、Fc領域に対応する、本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントの部分を意味する。
【0204】
重鎖定常領域は、IgA、IgG、IgD、IgE、IgMに分類され、それぞれアイソタイプによって指定された特徴的なエフェクター機能を有する5つの主要なクラスがある。例えば、IgGは、IgGl、IgG2、IgG3およびIgG4と呼ばれる4つのサブクラスに分けられる。Ig分子は、複数の細胞受容体クラスと相互作用する。例えば、IgG分子は、IgGクラスの抗体に特異的な3つのクラスのFcγ受容体、すなわちFcγRI、FcγRIIおよびFcγRIIIと相互作用する。IgGとFcγR受容体の結合に重要な配列は、CH2ドメインおよびCH3ドメインに存在することが報告されている。
【0205】
本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントは、何れかのアイソタイプ、すなわちIgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM、ならびに4鎖の免疫グロブリン(Ig)構造の合成多量体であってよい。好ましい態様において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、IgGアイソタイプである。抗体または抗原結合フラグメントは、何れかのIgGサブクラス、例えばIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4アイソタイプであり得る。好ましい態様において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、IgG1アイソタイプである。
【0206】
ある態様において、抗体は、IgGアイソタイプである重鎖定常領域を含む。ある態様において、抗体は、IgGアイソタイプである重鎖定常領域の一部を含む。ある態様において、IgG定常領域またはその一部は、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4定常領域である。好ましくは、IgG定常領域またはその一部は、IgG1定常領域である。
【0207】
本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントは、ラムダ軽鎖またはカッパ軽鎖を含んでいてもよい。
【0208】
好ましい態様において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、κ軽鎖である軽鎖を含む。ある態様において、抗体または抗原結合フラグメントは、κ定常領域である軽鎖定常領域(CL)を含む軽鎖を含む。
【0209】
ある態様において、抗体は、κ可変領域である軽鎖可変領域(VL)を含む軽鎖を含む。好ましくは、カッパ軽鎖は、カッパVLであるVLおよびカッパCLであるCLを含む。
【0210】
あるいは、抗体またはその抗原結合フラグメントは、λ軽鎖である軽鎖を含んでいてもよい。ある態様において、抗体または抗原結合フラグメントは、λ定常領域である軽鎖定常領域(CL)を含む軽鎖を含む。ある態様において、抗体は、λ可変領域である軽鎖可変領域(VL)を含む軽鎖を含む。
【0211】
設計された抗体およびその抗原結合フラグメントとしては、VHおよび/またはVL内のフレームワーク残基に修飾がなされたものが含まれる。このような修飾は、例えば、抗体の免疫原性を低下させるため、および/または抗体の生産および精製を改善するために、抗体の特性を改善し得る。
【0212】
本明細書に記載の抗体およびその抗原結合フラグメントは、当技術分野で公知の従来の技術、例えば、アミノ酸欠失(複数可)、挿入(複数可)、置換(複数可)、付加(複数可)および/または組換えおよび/または当技術分野で公知の他の修飾(複数可)を、単独または組み合わせて用いることによって、さらに修飾することができる。免疫グロブリン鎖のアミノ酸配列の基礎となるDNA配列にそのような改変を導入する方法は、当業者によく知られている。
【0213】
本発明の抗体およびその抗原結合性フラグメントは、共有結合が抗体のエピトープへの結合を妨げないように、またはそうでなければ抗体の生物学的活性を損なわないように(例えば、抗体への何れかのタイプの分子の共有結合により)修飾された誘導体も含む。適切な誘導体の例としては、フコシル化抗体、グリコシル化抗体、アセチル化抗体、PEG化抗体、リン酸化抗体、アミド化抗体などがあるが、これらに限定されない。
【0214】
本発明の抗体のアミノ酸配列におけるマイナーな変異は、アミノ酸配列(複数可)の変異が、本明細書の何れかで定義される本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントに対して少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも99%の配列同一性を維持するという条件で、本発明に包含されることが企図される。
【0215】
本発明の抗体は、保存位置または非保存位置のいずれかにおいて、ある種からのアミノ酸残基が別の種における対応する残基と置換されているバリアントを含んでもよい。一態様において、非保存位置のアミノ酸残基は、保存的残基または非保存的残基で置換される。特に、保存的アミノ酸置換が企図される。
【0216】
“保存的アミノ酸置換”とは、アミノ酸残基が、類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置換されるものである。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは当技術分野で定義されており、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニンまたはヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸またはグルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、またはシステイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニンまたはトリプトファン)、ベータ分岐側鎖(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族性側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファンまたはヒスチジン)が挙げられる。従って、ポリペプチド中のアミノ酸が同じ側鎖ファミリーからの別のアミノ酸に置換されている場合、そのアミノ酸置換は保存的であると考えられる。本発明の抗体において保存的に修飾されたバリアントを含むことは、バリアントの他の形態、例えば多型バリアント、種間ホモログ、およびアレルを除外するものではない。
【0217】
“非保存的アミノ酸置換”には、(i)電気的に陽性側鎖を有する残基(例えば、Arg、HisまたはLys)が電気的に陰性残基(例えば、GluまたはAsp)に置換される、またはそれによるもの、(ii)親水性残基(例えば、SerまたはThr)が疎水性残基(例えば、Ala、Leu、Ile、PheまたはVal)、(iii)システインまたはプロリンが他の残基と置換される、または他の残基によって置換される、あるいは(iv)嵩高い疎水性または芳香族側鎖(例えば、Val、His、IleまたはTrp)を有する残基が、小さい側鎖(例えばAlaまたはSer)または側鎖なし(例えばGly)を有するものと、あるいはそれらによって置換される。
【0218】
抗体フォーマット
多重特異性、例えば二重特異性抗体のためのフォーマットは、当技術分野において知られている。例えば、二重特異性抗体のフォーマットは、Kontermann RE, mAbs 4:2 1-16 (2012); Holliger P., Hudson PJ, Nature Biotech.23 (2005) 1126- 1136, Chan AC, Carter PJ Nature Reviews Immunology 10, 301-316 (2010) およびCuesta AM et al., Trends Biotech 28 (2011) 355-362 に記載されている。
【0219】
本発明の多重特異性、例えば二重特異性抗体は、何れかのフォーマットを有することができる。多重特異性および二重特異性抗体フォーマットには、例えば、多価単鎖抗体、ダイアボディおよびトリアボディ、ならびに、さらなる抗原結合ドメイン(例えば、単鎖Fv、タンデムscFv、VHドメインおよび/またはVLドメイン、Fab、または(Fab)2、)が1以上のペプチドリンカーを介して連結されている完全長抗体の一定ドメイン構造を有する抗体、ならびにDARPins等の抗体模倣体が含まれる。ある態様において、本発明の多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体は、二重特異性T細胞エンジャー(BITE(登録商標))などのscFvのフォーマットを有する。ある態様において、本発明の抗体は、BCMAに結合する第1のドメイン、T細胞抗原(例えば、CD3)に結合する第2のドメイン、およびそれぞれがヒンジ、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含む2つのポリペプチドモノマーを含む第3のドメインを含む単鎖抗体であり、ここで2つのポリペプチドモノマーはペプチドリンカー(例えば(ヒンジ-CH2-CH3-リンカー-ヒンジ-CH2-CH3)を介して互いに融合される。
【0220】
抗体の“価数(valency)”は、結合ドメインの数を示す。そのため、用語“2価”、“3価”および“多価”とは、それぞれ、2つの結合ドメイン、3つの結合ドメイン、および複数の結合ドメインの存在を示す。本発明の多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体は、各標的抗原に結合することができる複数の結合ドメインを有していてもよい(すなわち、抗体は3価または多価である)。好ましい態様において、本発明の多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体は、各標的抗原の同じエピトープに結合することができる2以上の結合ドメインを有する。ある態様において、本発明の多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体は、各標的抗原の異なるエピトープに結合することができる2以上の結合ドメインを有する。
【0221】
本発明の多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体は、二価、三価または四価であってよい。好ましい態様において、多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体は3価であり、好ましくは、3価の抗体はBCMAに対して2価である。したがって、二重特異性抗体は、3価であってもよく、ここで、3価の抗体は、BCMAに対して2価である。
【0222】
多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体は、単一の種からの全長であってもよいか、またはキメラ化もしくはヒト化されていてもよい。3以上の抗原結合ドメインを有する抗体では、タンパク質が2つの異なる抗原に対する結合ドメインを有する限り、いくつかの結合ドメインは同一であってもよい。
【0223】
本発明の多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体は、二重特異性ヘテロ二量体フォーマットを有し得る。ある態様において、二重特異性抗体は、2つの異なる重鎖および2つの異なる軽鎖を含む。他の態様において、多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体は、2つの同一の軽鎖および2つの異なる重鎖を含む。ある態様において、本発明の多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体において、重鎖と軽鎖の2つの対(HC/LC)のうちの1つがCD3に特異的に結合し、他の1つがBCMAに特異的に結合する。
【0224】
本発明の二重特異性抗体が二価である態様において、それらは、1つの抗BCMA抗体および1つの抗CD3抗体を含んでいてよい(本明細書において“1+1”フォーマットと称される)。
【0225】
BCMA抗体およびCD3抗体がFabである態様において、1+1フォーマットの二価の二重特異性抗体は、フォーマット:CD3 Fab - BCMA Fab(すなわち、Fcが存在しないとき)、を有していてもよい。あるいは、二重特異性抗体は、フォーマット:Fc - CD3 Fab - BCMA Fab;Fc-BCMAFab-CD3Fab;または、BCMA Fab - Fc - CD3 Fab(すなわち、Fcが存在するとき)を有していてもよい。好ましい態様において、二価の二重特異性抗体は、BCMA Fab - Fc - CD3 Fabのフォーマットを有する。
【0226】
“CD3 Fab - BCMA Fab”は、CD3 Fabが、そのN末端を介してBCMA FabのC末端に結合していることを意味する。
“Fc - BCMA Fab - CD3 Fab”とは、BCMA FabがそのC末端を介してFcのN末端と結合し、CD3 FabがそのC末端を介してBCMA FabのN末端と結合していることを意味する。
“Fc - CD3 Fab - BCMA Fab”とは、CD3 FabがそのC末端を介してFcのN末端に結合し、BCMA FabがそのC末端を介してCD3 FabのN末端に結合していることを意味する。
“BCMA Fab - Fc - CD3 Fab”は、BCMAおよびCD3 Fab断片が、それらのC末端を介してFcのN末端に結合していることを意味する。
【0227】
本発明の二重特異性抗体が3価である態様において、それらは2つの抗BCMA抗体および1つの抗CD3抗体を含み得る(本明細書中、“2+1”フォーマットと称される)。
【0228】
BCMA抗体およびCD3抗体がFabである態様において、2+1フォーマットの3価の二重特異性抗体は、フォーマット:CD3 Fab - BCMA Fab - BCMA Fab;または、BCMA Fab - CD3 Fab - BCMA Fab (すなわち、Fcが存在しないとき)を有していてもよい。あるいは、二重特異性抗体は、以下のフォーマット:BCMA Fab - Fc - CD3 Fab - BCMA Fab; BCMA Fab - Fc - BCMA Fab - CD3 Fab;または、CD3 Fab - Fc - BCMA Fab - BCMA Fab(すなわち、Fcが存在するとき)を有していてもよい。好ましい態様において、3価の二重特異性抗体は、BCMA Fab - Fc - CD3 Fab - BCMA Fabのフォーマットを有する。
【0229】
“CD3 Fab - BCMA Fab - BCMA Fab”は、CD3 FabがそのC末端を介して第1のBCMA FabのN末端に結合し、第1のBCMA FabがそのC末端を介して第2のBCMA FabのN末端に結合していることを意味する。
“BCMA Fab - CD3 Fab - BCMA Fab”は、第1のBCMA FabがそのC末端を介してCD3 FabのN末端と結合し、CD3 FabがそのC末端を介して第2のBCMA FabのN末端と結合していることを意味する。
“BCMA Fab - Fc - CD3 Fab - BCMA Fab”とは、第1のBCMA FabおよびCD3 FabがそれらのC末端を介してFcのN末端に結合し、第2のBCMA FabがそれらのC末端を介してCD3 FabのN末端に結合していることを意味する。
“BCMA Fab - Fc - BCMA Fab - CD3 Fab”とは、第1のBCMA Fabおよび第2のBCMA FabがそれらのC末端を介してFcのN末端に結合し、CD3 FabがそのC末端を介して第2のBCMA FabのN末端に結合していることを意味する。
“CD3 Fab - Fc - BCMA Fab - BCMA Fab”とは、CD3 Fabおよび第1のBCMA Fabが、それらのC末端を介してFcのN末端に結合し、第2のBCMA Fabが、それらのC末端を介して第1のBCMA FabのN末端に結合していることを意味する。
【0230】
ある態様において、本発明の二重特異性抗体は、BCMAに特異的に結合する1以下のBCMA Fabを含み、CD3に特異的に結合する1以下のCD3 Fabおよび1以下のFc部分を含む。
【0231】
ある態様において、二重特異性抗体は、CD3に特異的に結合する1以下のCD3 Fab、BCMAに特異的に結合する2以下のBCMA Fab、および1以下のFc部分を含む。ある態様において、1以下のCD3 Fabおよび1以下のBCMA FabがFc部分に連結され、Fab(複数可)のFc部分のヒンジ領域へのC末端結合を介して連結が実施される。ある態様において、第2のBCMA Fabは、そのC末端を介してCD3 FabのN末端またはFc部分のヒンジ領域のいずれかに連結され、したがって、二重特異性抗体のFc部分とCD3 Fabとの間に存在する。
【0232】
2つのBCMA Fabを含む態様において、BCMA Fabは、好ましくは、同じ抗体に由来し、CDR配列、可変ドメイン配列VHおよびVL、ならびに/または定常ドメイン配列CH1およびCLにおいて、好ましくは同一である。好ましくは、2つのBCMA Fabのアミノ酸配列は、同一である。
【0233】
本発明の二重特異性抗体はまた、Fabの代わりにscFvを含んでいてもよい。したがって、ある態様において、二重特異性抗体は、各Fabが対応するscFvで置換されている、上記のフォーマットのうちのいずれか1つを有する。
【0234】
本発明の二重特異性抗体の構成要素、例えばFabフラグメントは、当技術分野の状態に従って適切なリンカーの使用によって化学的に連結されていてもよい。好ましい態様において、(Gly4-Ser1)2リンカーが用いられる(Desplancq DK et al., Protein Eng. 1994 Aug;7(8):1027-33およびMack M. et al., PNAS July 18, 1995 vol.92 no.15 7021-7025)。本明細書で用いる“化学的に連結された”(または“連結された”)とは、成分が共有結合によって連結されていることを意味する。リンカーがペプチドリンカーであるため、このような共有結合は、通常、生化学的な組換え手段によって行われる。例えば、結合は、それぞれのFabフラグメントのVLおよび/またはVHドメイン、リンカー、および抗体がFcを含んでいる場合にはFc部分鎖をコードする核酸を用いて行うことができる。
【0235】
リンカーが用いられる場合、このリンカーは、第1のドメインおよび第2のドメインの各々が、互いに独立して、それらの異なる結合特異性を保持できることを保証するのに十分な長さおよび配列であってよい。
【0236】
抗体配列
ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体は、配列番号17のCDR3H領域ならびに配列番号20のCDR3L領域ならびに以下の群より選択されるCDR1H、CDR2H、CDR1LおよびCDR2L領域の組合せを含む抗BCMA抗体またはその抗原結合フラグメントを含む:
a)配列番号21のCDR1H領域および配列番号22のCDR2H領域、配列番号23のCDR1L領域、ならびに配列番号24のCDR2L領域、
b)配列番号21のCDR1H領域および配列番号22のCDR2H領域、配列番号25のCDR1L領域、および配列番号26のCDR2L領域、
c)配列番号21のCDR1H領域および配列番号22のCDR2H領域、配列番号27のCDR1L領域、および配列番号28のCDR2L領域、
d)配列番号29のCDR1H領域および配列番号30のCDR2H領域、配列番号31のCDR1L領域、および配列番号32のCDR2L領域、
e)配列番号34のCDR1H領域および配列番号35のCDR2H領域、配列番号31のCDR1L領域、および配列番号32のCDR2L領域、
f)配列番号36のCDR1H領域および配列番号37のCDR2H領域、配列番号31のCDR1L領域、ならびに配列番号32のCDR2L領域、ならびに
g)配列番号15のCDR1H領域および配列番号16のCDR2H領域、配列番号18のCDR1L領域、ならびに配列番号19のCDR2L領域。
【0237】
好ましい態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体は、配列番号21のCDR1H領域、配列番号22のCDR2H領域および配列番号17のCDR3H領域を含むVH領域と、配列番号20のCDR3L領域および以下の群より選択されるCDR1LおよびCDR2L領域の組合せを含む、抗BCMA抗体またはその抗原結合フラグメントを含む:
i)配列番号27のCDR1L領域および配列番号28のCDR2L領域。
ii)配列番号23のCDR1L領域および配列番号24のCDR2L領域;または
iii)配列番号25のCDR1L領域および配列番号26のCDR2L領域。
【0238】
特に好ましい態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体は、配列番号21のCDR1H領域、配列番号22のCDR2H領域および配列番号17のCDR3H領域を含むVH領域、ならびに配列番号27のCDR1L領域、配列番号28のCDR2L領域および配列番号20のCDR3L領域を含むVL領域を含む抗BCMA抗体またはその抗原結合フラグメントを含む。
【0239】
ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体は、以下からなる群より選択されるVHおよびVLを含む抗BCMA抗体またはその抗原結合フラグメントを含む:
a)配列番号10のVH領域および配列番号12のVL領域、
b)配列番号10のVH領域および配列番号13のVL領域、
c)配列番号10のVH領域および配列番号14のVL領域、
d)配列番号38のVH領域および配列番号12のVL領域、
e)配列番号39のVH領域および配列番号12のVL領域、
f)配列番号40のVH領域および配列番号12のVL領域、または
g)配列番号9のVH領域および配列番号11のVL領域。
【0240】
特に好ましい態様において、抗BCMA抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号10のVH領域および配列番号14のVL領域を含む。
【0241】
ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体は、抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントを含む。
【0242】
抗CD3抗体の例としては、OKT3、TR66、APA 1/1、SP34、CH2527、WT31、7D6、UCHT-1、Leu-4、BC-3、H2C、HuM291(ビシリズマブ)、Hu291(PDL)、ChAglyCD3(オテリックスマブ)、hOKT3γ1(アラ-アラ)(テプリズマブ)およびNI-0401(フォラルマブ)が挙げられる。
【0243】
最初に作製された抗CD3抗体は、CD3εドメインに結合するマウス抗体であるOKT3(muromonab-CD3)であった。その後の抗CD3抗体には、ヒト化抗体またはヒト抗体、および人工抗体、例えば修飾Fc領域を含む抗体が含まれる。
【0244】
抗CD3抗体は、単一のポリペプチド鎖上のエピトープ、例えばAPA 1/1またはSP34(Yang SJ, The Journal of Immunology (1986) 137; 1097-1100)、またはCD3の2以上のサブユニット、例えばWT31、7D6、UCHT-1(WO2000041474参照)およびLeu-4に位置する立体構造エピトープを認識し得る。BC-3(Anasetti et al., Transplantation 54:844(1992))およびH2C(WO2008119567A2)を含むいくつかの抗CD3抗体を用いて臨床治験が実施されている。臨床開発中の抗CD3抗体としては、HuM291(visilizumab)(Norman et al., Transplantation. 2000 Dec 27;70(12):1707-12.)、Hu291(PDL)、ChAglyCD3(Otelixizumab)(H Waldmann)、hOKT3γ1(Ala-Ala)(Teplizumab)(J Bluestone and Johnson and Johnson)および(NI-0401)ホラルマブ(Foralumab)が挙げられる。
【0245】
何れかの抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントは、本発明の多重特異性(例えば、二重特異性)抗体における使用に適し得る。例えば、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体は、OKT3、TR66、APA1/1、SP34、CH2527、WT31、7D6、UCHT-1、Leu-4、BC-3、H2C、HuM291(ビシリズマブ)、Hu291(PDL)、ChAglyCD3(オテリックスマブ)、hOKT3γ1(Ala-Ala)(テプリズマブ)およびNI-0401(フォラルマブ)から選択される抗CD3抗体を含み得る。ある態様において、本発明の多重特異性(例えば、二重特異性)抗体は、ヒト化SP34抗体またはその抗原結合フラグメントを含む。
【0246】
いくつかの好ましい態様において、抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントは、SP34に由来してもよく、抗体SP34と同様の配列およびエピトープ結合に関して同じ特性を有していてもよい。
【0247】
ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体は、配列番号1、2および3の重鎖CDRをそれぞれ重鎖CDR1H、CDR2HおよびCDR3Hとして含む可変ドメインVHと、配列番号4、5および6の軽鎖CDRをそれぞれ軽鎖CDR1L、CDR2LおよびCDR3Lとして含む可変ドメインVLとを含む抗CD3抗体、またはその抗原結合フラグメントを含む。ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体は、配列番号7(VH)および配列番号8(VL)の可変ドメインを含む、抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントを含む。
【0248】
ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体は、配列番号17のCDR3H領域および配列番号20のCDR3L領域、ならびに以下の群から選択されるCDR1H、CDR2H、CDR1LおよびCDR2L領域の組合せを含む抗BCMA抗体またはその抗原結合フラグメントを含む:
a)配列番号21のCDR1H領域および配列番号22のCDR2H領域、配列番号23のCDR1L領域、および配列番号24のCDR2L領域、
b)配列番号21のCDR1H領域および配列番号22のCDR2H領域、配列番号25のCDR1L領域、および配列番号26のCDR2L領域、
c)配列番号21のCDR1H領域および配列番号22のCDR2H領域、配列番号27のCDR1L領域、および配列番号28のCDR2L領域、
d)配列番号29のCDR1H領域および配列番号30のCDR2H領域、配列番号31のCDR1L領域、および配列番号32のCDR2L領域、
e)配列番号34のCDR1H領域および配列番号35のCDR2H領域、配列番号31のCDR1L領域、および配列番号32のCDR2L領域、
f)配列番号36のCDR1H領域および配列番号37のCDR2H領域、配列番号31のCDR1L領域、および配列番号32のCDR2L領域、ならびに
g)配列番号15のCDR1H領域および配列番号16のCDR2H領域、配列番号18のCDR1L領域、および配列番号19のCDR2L領域、ならびに
配列番号1のCDR1H領域、配列番号2のCDR2H領域、配列番号3のCDR3H領域、配列番号4のCDR1L領域、配列番号5のCDR2L領域および配列番号6のCDR3L領域を含む、抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントである。
【0249】
特に好ましい態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体は、
配列番号21のCDR1H領域、配列番号22のCDR2H領域および配列番号17のCDR3H領域を含むVH領域、ならびに配列番号27のCDR1L領域、配列番号28のCDR2L領域および配列番号20のCDR3L領域を含むVL領域、
を含む抗BCMA抗体またはその抗原結合フラグメント;および
配列番号1のCDR1H領域、配列番号2のCDR2H領域、配列番号3のCDR3H領域、配列番号4のCDR1L領域、配列番号5のCDR2L領域および配列番号6のCDR3L領域を含む、抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメント
を含む。
【0250】
ある態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体は、以下からなる群より選択されるVHおよびVLを含む抗BCMA抗体またはその抗原結合フラグメントを含む:
a)配列番号10のVH領域および配列番号12のVL領域、
b)配列番号10のVH領域および配列番号13のVL領域、
c)配列番号10のVH領域および配列番号14のVL領域、
d)配列番号38のVH領域および配列番号12のVL領域、
e)配列番号39のVH領域および配列番号12のVL領域、
f)配列番号40のVH領域および配列番号12のVL領域、ならびに
配列番号7のVH領域および配列番号8のVL領域を含む、抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメント。
【0251】
特に好ましい態様において、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体は、配列番号10のVH領域および配列番号14のVL領域を含む抗BCMA抗体またはその抗原結合フラグメント、ならびに配列番号7のVH領域および配列番号8のVL領域を含む抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントを含む。
【0252】
Fc
本発明の多重特異性抗体、例えば、二重特異性抗体は、Fcを有していてもよいか、またはFcを有していなくてもよい。好ましい態様において、本発明の多特異性抗体は、Fc、好ましくはヒトFcを含む。
【0253】
特定の態様において、Fcは、バリアントFc、例えば、親Fc配列(例えば、バリアントを生成するためにその後修飾される未修飾Fcポリペプチド)に対して(例えば、アミノ酸置換、欠失および/または挿入によって)修飾されたFc配列であり、望ましい構造的特徴および/または生物活性を提供する。
【0254】
したがって、本発明の多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体は、血清半減期、補体固定、Fc受容体結合、および/または抗原依存性細胞傷害性などの抗体の1以上の機能特性を変更するために、一般的には1以上の修飾を含むFcを含んでいてもよい。Fcは、本発明の抗体における抗BCMAフラグメントおよび/または抗CD3 Fabフラグメントに連結されていてもよい。
【0255】
Fcの存在は、抗体の消失半減期を延長させるという利点を有する。本発明の抗体、例えば二重特異性抗体は、マウスまたはカニクイザル、好ましくはカニクイザルにおいて、12時間より長い、好ましくは3日以上の消失半減期を有していてもよい。ある態様において、本発明の抗体、例えば二重特異性抗体は、約1~12日の消失半減期を有し、これにより、少なくとも1回または2回/週の投与が可能になる。
【0256】
エフェクター機能の低下
好ましくは、本発明の二重特異性抗体は、FcRおよびC1q結合を回避し、ADCC/CDCを最小化するための修飾を含む、(例えば、IgG1サブクラスの)Fc領域を含む。これは、二重特異性抗体が、エフェクター細胞、例えばT細胞のリダイレクション/活性化の強力な機構によって純粋にその腫瘍細胞殺傷能に介在するという利点を提供する。したがって、補体系に対する効果およびFcRを発現するエフェクター細胞に対する効果などの追加の作用機構は回避され、点滴関連反応などの副作用のリスクを減少させる。
【0257】
好ましい態様において、本発明の抗体、例えば二重特異性抗体は、IgG、特にIgG1、修飾L234A、L235AおよびP329G(EU番号付けによる番号付け)を含むFc領域を含む。
【0258】
ヘテロ二量体化
本発明の多重特異性抗体、例えば、二重特異性抗体は、ヘテロ多量体抗体であってもよい。そのようなヘテロ多量体抗体は、抗体の正しいアセンブリを促進するために、抗体鎖間の相互作用に関与する領域における修飾を含んでいてもよい。
【0259】
例えば、本発明の二重特異性抗体は、Fcヘテロ二量化を実施するためにCH2およびCH3ドメインに1以上の修飾(複数可)を有するFcを含み得る。代替的にまたは追加的に、本発明の二重特異性抗体は、Fabフラグメントの重鎖と軽鎖の間の優先的な対合を促進するために、CH1およびCL領域における改変を含んでいてもよい。
【0260】
ヘテロ二量体化を促進するための戦略は数多く存在する。これらの戦略は、両鎖が互いに適合し、故にヘテロ二量体を形成することができるが、各鎖がそれ自体と二量化することができないように、2つの抗体鎖の各々に非対称の相補的修飾を導入することを含むことができる。このような修飾は、挿入、欠失、保存的および非保存的置換ならびに転位を包含し得る。
【0261】
ヘテロ二量体化は、第一抗体鎖と第二抗体鎖との間に好ましい静電的相互作用を生じさせるために、荷電残基を導入することによって促進され得る。例えば、1つまたは複数の正に帯電したアミノ酸を第1の抗体鎖に導入し、1つまたは複数の負に帯電したアミノ酸を第2の抗体鎖の対応する位置に導入することができる。
【0262】
代替的にまたは追加的に、ヘテロ二量体化は、接触する残基の間に立体障害を導入することによって促進されてもよい。例えば、嵩高い側鎖を有する1つまたは複数の残基を第1の抗体鎖に導入し、大きい側鎖を収容することができる1つまたは複数の残基を第2の抗体鎖に導入することができる。
【0263】
代替的にまたは追加的に、ヘテロ二量体形成がホモ二量体形成よりもエントロピー的およびエンタルピー的に有利になるように、鎖間の界面にある親水性残基および疎水性残基に1つまたは複数の修飾(複数可)を導入することによって、ヘテロ二量体化を促進することができる。
【0264】
ヘテロ二量体化を促進するためのさらなる戦略は、各鎖が対応する再配置を含む鎖とのみ適合性を保つように、抗体鎖の一部を再配置することである。例えば、CrossMAb技術は、正しい鎖の結合を可能にするために抗体ドメインの交差をベースにしている。CrossMAbには、主に3つのフォーマットがある:(i)VHおよびVLが交換され、CH1およびCLが交換される、CrossMAbFab、(ii)VHおよびVLが交換されるCrossMAbVH-VL、(iii)CH1およびCLが交換されるCrossMAbCH1-CL(Klein et al, 2016. MABS, 8(6):1010-1020)。
【0265】
ある態様において、本発明の二重特異性抗体は、VHおよびVLの交換を含んでいてもよい。ある態様において、本発明の抗体、例えば二重特異性抗体は、CH1およびCLの交換を含んでいてもよい。ある態様において、本発明の抗体、例えば二重特異性抗体は、VHおよびVLの交換、ならびにCH1およびCLの交換を含んでいてもよい。
【0266】
好ましい態様において、本発明の抗体、例えば二重特異性抗体は、VHおよびVLの交換を含む。
【0267】
ヘテロ二量体化を促進する他のアプローチには、鎖交換工学ドメイン(SEED)の使用を含む(Davis et al., 2010.Protein Eng Des Sel, 23(4);195-202)。
【0268】
抗体の安定性への影響を最小限に抑えながら、集合の効率を最大化するために、上記の戦略の組合せが用いられ得る。
【0269】
Fcヘテロ二量体化
ある態様において、本発明の多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体は、ヘテロ二量体Fcを有していてもよく、例えばそれらは、抗BCMA抗体に由来する1つの重鎖および抗CD3抗体に由来する1つの重鎖を含んでいてもよい。
【0270】
本発明の抗体、例えば二重特異性抗体は、第1のCH2および/またはCH3ドメインと第2のCH2および/またはCH3ドメインとの会合を促進する1以上の修飾(複数可)を含むヘテロ二量体Fcを含んでいてもよい。好ましい態様において、1以上の修飾(複数可)は、例えば、CH3ドメインに非対称修飾をもたらすことによって、第1のCH3ドメインと第2のCH3ドメインとの会合が促進される。1以上の修飾(複数可)は、アミノ酸の挿入、欠失、保存的および非保存的置換および転位、ならびにそれらの組み合わせから選択される修飾を含んでいてよい。
【0271】
一般的には、第1のCH3ドメインおよび第2のCH3ドメインは、各CH3ドメイン(またはそれを含む重鎖)がもはやそれ自身とホモ二量化できず、相補的に操作された他のCH3ドメインとヘテロ二量化せざるを得ないように(第1および第2のCH3ドメインがヘテロ二量化し、2つの第1または第2のCH3ドメイン間のホモ二量化がないように)相補的に操作される。
【0272】
本発明の多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体は、“ノブ-イン-ホール(knob-into-holes)”修飾(複数可)を有するFcを含んでいてよく、例えばWO96/027011, Ridgway, J.B., et al, Protein Eng. 9 (1996) 617-621、Merchant, A.M. et al., Nat. Biotechnol. 16 (1998) 677-68、およびWO98/050431にいくつかの例とともに詳細に記載されている。
【0273】
この方法では、2つのCH3ドメインの相互作用面を変化させ、これら2つのCH3ドメインを含む両Fc鎖のヘテロダイマー化を増加させる。(2つのFc鎖の)2つのCH3ドメインのうちの1つは“ノブ”であってよく、他方は“ホール”であり得る。
【0274】
したがって、本発明の二重特異性抗体は、2つのCH3ドメインを含んでいてもよく、第1のFc鎖の第1のCH3ドメインおよび第2のFc鎖の第2のCH3ドメインはそれぞれ、抗体CH3ドメイン間の元の界面を含む界面で合い、ここで、該界面は、抗体の形成を促進するために変更される。
【0275】
ある態様において、
(i)他方のFc鎖のCH3ドメインの元の界面と合う一方のFc鎖のCH3ドメインの元の界面内で、アミノ酸残基がより大きな側鎖を有するアミノ酸残基に置き換えられ、それによって一方のFc鎖のCH3ドメインの界面に突起が生じ、他方のFc鎖のCH3ドメインの界面にある空間内に配置可能になるように、一方のFc鎖のCH3ドメインが改変され、;かつ
ii)一方のFc鎖のCH3ドメインの元の界面に合う他方のFc鎖のCH3ドメインの元の界面内で、アミノ酸残基をより小さい側鎖を有するアミノ酸残基に置換し、それによって、一方のFc鎖のCH3ドメインの界面内の突起が配置可能である空間を他方のFc鎖のCH3ドメインの界面内に生成させ、一方のFc鎖のCH3ドメインが変更され、その際、一方のFc鎖のCH3ドメインが配置可能となる。
【0276】
好ましくは、より大きな側鎖体積を有する該アミノ酸残基は、アルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)からなる群より選択される。
【0277】
ある態様において、本発明の多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体は、位置T366、L368およびY407、例えばT366S、L368AおよびY407V(EU番号付けによる番号付け)において修飾(複数可)を含む第1のCH3ドメインを含む。
【0278】
ある態様において、本発明の多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体は、位置T366における修飾(「ノブ修飾」)、例えばT366W(EU番号付けによる番号付け)を含む第2のCH3ドメインを含む。
【0279】
特に好ましい態様において、本発明の多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体は、修飾T366S、L368AおよびY407V、またはその保存的置換を含む第1のCH3ドメイン、ならびに修飾T366W、またはその保存的置換(EU番号付けによる番号付け)を含む第2のCH3ドメインを含む。
【0280】
一態様において、本発明の多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体は、表12に記載の改変を含む第1のCH3ドメインと、表12に記載の改変を含む第2のCH3ドメインとを含む。
【表12】
【0281】
ヘテロ二量体化を行うためのCH3修飾の他の技術は、本発明の代替物として企図され、例えばWO96/27011、WO98/050431、EP1870459、WO2007/110205、WO2007/147901、WO2009/089004、WO2010/129304、WO2011/90754、WO2011/143545、WO2012/058768、WO2013/157954、WO2013/157953及びWO2013/096291に記載されている。
【0282】
ある態様において、本発明による二重特異性抗体はIgG2アイソタイプであり、WO2010/129304に記載のヘテロ二量化アプローチを用いることができる。
【0283】
他のFc修飾
ある態様において、本発明の二重特異性抗体は、両CH3ドメインが、両CH3ドメイン間のジスルフィド橋が形成され得るように、各CH3ドメインの対応する位置にアミノ酸としてシステイン(C)を導入することによって改変されたFcを含んでいてもよい。システインは、一方のCH3ドメインでは349位に、他方のCH3ドメインでは354位に導入されてもよい(EU番号付けによる番号付け)。
【0284】
好ましくは、354位に導入されたシステインは第1のCH3ドメインにあり、349位に導入されたシステインは第2のCH3ドメインにある(EU番号付けによる番号付け)。
【0285】
Fcは、D356E、L358M、N384S、K392N、V397MおよびV422I(EU番号付けにしたがって番号付け)などの修飾を含んでいてもよい。好ましくは、両CH3ドメインは、D356EおよびL358M(EU番号付けによる番号付け)を含む。
【0286】
軽鎖および重鎖のヘテロ二量化
本発明の多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体において、免疫グロブリン重鎖および軽鎖の1以上は、重鎖および軽鎖が共発現または共生産されるとき、特定の重鎖と特定の軽鎖との優先的な対合を促進することができる1以上の修飾(複数可)、例えばアミノ酸修飾を含んでいてもよい。かかる修飾は、BCMAへの結合のような生物学的特性を変えることなく、かなり改善された生産/精製を提供することができる。特に、アミノ酸置換のような1以上の修飾(複数可)を導入することにより、生産における軽鎖のミスペアおよび副産物の形成を著しく低減することができ、したがって、収量が増加し、精製が容易になる。
【0287】
アミノ酸置換は、軽鎖のミスペアを減少させ、例えばBence-Jonesタイプの副産物を減少させる、(例えばCH1/CL界面における)反対の電荷を有する荷電アミノ酸の置換であってもよい。
【0288】
好ましい態様において、軽鎖および重鎖のヘテロ二量体化を補助する1以上の修飾(複数可)は、CDRの外側の軽鎖および重鎖におけるアミノ酸修飾である。
【0289】
1以上の修飾(複数可)は、抗BCMA抗体またはその抗原結合フラグメントに存在してもよい。あるいは、1以上の修飾(複数可)は、抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントに存在してもよい。好ましい態様において、1以上の修飾(複数可)は、抗BCMA抗体またはその抗原結合フラグメントに存在する。
【0290】
ある態様において、本発明の多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体は、アミノ酸修飾K147E/DおよびK213E/D(EU番号付けによる番号付け)を有するCH1ドメインを含む免疫グロブリン重鎖、およびアミノ酸修飾E123K/R/HおよびQ124K/R/H(Kabatによる番号付け)を有するCLドメインを含む対応する免疫グロブリン軽鎖を含む。好ましくは、CH1ドメインは、アミノ酸修飾K147EおよびK213E(EU番号付けによる番号付け)またはその保存的置換を含み、かつ対応するCLドメインは、アミノ酸修飾E123RおよびQ124Kまたはその保存的置換(Kabatによる番号付け)を含む。このような多特異性抗体、例えば二重特異性抗体は、高収率で製造することができ、容易に精製することができる。
【0291】
一態様において、表13に記載されたアミノ酸修飾は、BCMA抗体中またはCD3抗体中に存在し得る。
【0292】
一態様において、本発明の二重特異性抗体は二価であり、1つの抗BCMA抗体またはその抗原結合フラグメントおよび1つの抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントを含み(“1+1”フォーマット)、ここで
(a)BCMA抗体またはその抗原結合フラグメント(例えば、BCMA Fab)は、表13に記載のアミノ酸修飾を有するCH1ドメインおよび表13に記載のアミノ酸修飾を有する対応するCLドメインを含むか;あるいは
(b)CD3抗体またはその抗原結合フラグメント(例えば、CD3 Fab)は、表13に記載のアミノ酸修飾を有するCH1ドメインおよび表13に記載のアミノ酸修飾を有する対応するCLドメインを含む。
【0293】
一態様において、本発明の二重特異性抗体は3価であり、2つの抗BCMA抗体またはその抗原結合フラグメントおよび1つの抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントを含み(“2+1”フォーマット)、ここで、
(a)一方または両方のBCMA抗体またはその抗原結合フラグメント(例えば、BCMA Fab)は、表13に記載のアミノ酸修飾を有するCH1ドメインおよび表13に記載のアミノ酸修飾を有する対応するCLドメインを含むか;あるいは
(b)CD3抗体(例えば、CD3 Fab)は、表13に記載のアミノ酸修飾を有するCH1ドメインおよび表13に記載のアミノ酸修飾を有する対応するCLドメインを含む。
【0294】
特に、各BCMA抗体(例えば、BCMA Fab)は、表13に記載のアミノ酸修飾を有するCH1ドメイン、および表13に記載のアミノ酸修飾を有する対応するCLドメインを含み得る。
【0295】
【0296】
好ましい態様において、本発明の多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体は、表13に記載の改変を表12に記載の改変と組み合わせて含む。したがって、一態様において、本発明の二重特異性抗体は二価であり、以下:
(a)1つの抗BCMA抗体またはその抗原結合フラグメントおよび1つの抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメント(“1+1”フォーマット)であり、ここで、(i)BCMA抗体またはその抗原結合フラグメント(例えば、BCMA Fab)は、アミノ酸修飾K147EおよびK213Eを含むCH1ドメイン、ならびにアミノ酸修飾E123RおよびQ124K(すなわち、表13に記載の改変)を含む対応するCLドメインを含むか、または(ii)CD3抗体またはその抗原結合フラグメント(例えば、CD3 Fab)は、アミノ酸改変K147EおよびK213Eを含むCH1ドメイン、ならびにアミノ酸改変E123RおよびQ124K(すなわち、表13に記載の改変)を含む対応するCLドメインを含み;ならびに、
(b)修飾T366S、L368AおよびY407Vを含む第1のCH3ドメイン、ならびに修飾T366Wを含む第2のCH3ドメイン(すなわち、表12に記載の修飾)、
を含む。
【0297】
一態様において、本発明の二重特異性抗体は三価であり、以下:
(a)2つの抗BCMA抗体またはその抗原結合フラグメント、および1つの抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメント(“2+1”フォーマット)、ここで、(i)一方または両方のBCMA抗体またはその抗原結合フラグメント(例えば、BCMA Fab)は、アミノ酸修飾K147EおよびK213Eを含むCH1ドメイン、ならびにアミノ酸修飾E123RおよびQ124Kを含む対応するCLドメイン(すなわち、表13に記載の改変)を含むか、または(ii)CD3抗体またはその抗原結合フラグメント(例えば、CD3 Fab)は、アミノ酸改変K147EおよびK213Eを含むCH1ドメイン、およびアミノ酸改変E123RおよびQ124K(すなわち、表13に記載の改変)を含む対応するCLドメインを含む;および
(b)修飾T366S、L368AおよびY407Vを含む第1のCH3ドメイン、ならびに修飾T366Wを含む第2のCH3ドメイン(すなわち、表12に記載された修飾)、
を含む。
【0298】
特に、各BCMA抗体(例えば、BCMA Fab)は、表13に記載されるアミノ酸修飾を有するCH1ドメインおよび表13に記載のアミノ酸修飾を有する対応するCLドメインを含んでいてもよい。好ましい態様において、第1のFc鎖は、FcのN末端で第1の抗BCMA抗体のC末端に結合し、かつ第2のFc鎖は、FcのN末端で抗CD3抗体のC末端に結合している。
【0299】
本発明の多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体は、さらに、VL領域の49位のアミノ酸置換がチロシン(Y)、グルタミン酸(E)、セリン(S)およびヒスチジン(H)の群から選択されるアミノ酸置換を含み、および/またはVL領域の74位がスレオニン(T)もしくはアラニン(A)であるアミノ酸置換を含んでいてもよい。
【0300】
クロスMAb(CrossMAb)
本発明の多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体は、CrossMAb技術を含んでいてもよい。CrossMAb技術は、正しい鎖の結合を可能にするために抗体ドメインの交差に基づくものである。これは、多重特異性抗体の形成を促進するために用いられる。CrossMAbには3つの主なフォーマットがあり、それらは以下の通りである:(i)VHおよびVL、CH1およびCLを交換したCrossMAbFab、(ii)VHおよびVLを交換したCrossMAbVH-VL、および(iii)CH1およびCLを交換したCrossMAbCH1-CL(Clain et al.2016. mabs, 8(6):1010-1020)。
【0301】
CrossMAb技術は、当該技術分野において知られている。可変ドメインVLおよびVH、または定常ドメインCLおよびCH1が互いに交換された二重特異性抗体は、WO2009080251およびWO2009080252に記載されている。
【0302】
本発明の多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体内の抗体または抗原結合フラグメントの1以上において、可変ドメインVLおよびVH、または定常ドメインCLおよびCH1は、互いに置換されていてもよい。ある態様において、本発明の抗体、例えば二重特異性抗体は、VHおよびVLの交換、ならびにCH1およびCLの交換を含んでいてもよい。したがって、本発明の多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体は、クロスオーバー軽鎖およびクロスオーバー重鎖を含んでいてもよい。本明細書で用いる“クロスオーバー軽鎖”は、VH-CL、VL-CH1またはVH-CH1を含み得る軽鎖である。本明細書で用いる“クロスオーバー重鎖”は、VL-CH1、VH-CLまたはVL-CLを含み得る重鎖である。
【0303】
ある態様において、本発明の抗BCMA抗体またはその抗原結合フラグメント、および抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントを含む多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体が提供され、ここで、該多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体は、以下:
(a)CD3に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖;ならびに
(b)BCMAに特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖
を含み、ここで、(i)抗BCMA抗体;および/または(ii)抗CD3抗体において、可変ドメインVLおよびVHならびに/または定常ドメインCLおよびCH1が互いに置換されている。
【0304】
ある態様において、抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントの可変ドメインVLおよびVH、または定常ドメインCLおよびCH1は、互いに置換されている。より好ましくは、抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントの可変ドメインVLおよびVHは、互いに置換されている。
【0305】
1+1フォーマットの二重特異性抗体がフォーマット:CD3 Fab - BCMA Fab(すなわち、Fcが存在しないとき);Fc - CD3 Fab - BCMA Fab;Fc- BCMA Fab - CD3 Fab;または、BCMA Fab - Fc - CD3 Fabを有する態様において、二重特異性抗体は、例えば、CrossMAbFab、CrossMAbVH-VLまたはCrossMAbCH1-CL等のCrossMAbフォーマットを含んでいてもよい。BCMA Fabは、CrossMAbフォーマット、例えばCrossMAbFab、CrossMAbVH-VLまたはCrossMAbCH1-CLを有していてもよい。あるいは、CD3 Fabは、CrossMAbフォーマット、例えば、CrossMAbFab、CrossMAbVH-VLまたはCrossMAbCH1-CLを有していてもよい。好ましい態様において、二重特異性抗体のCD3 Fabは、CrossMAbVH-VLフォーマットを含む。
【0306】
2+1フォーマットを有する本発明の二重特異性抗体は、CrossMAb技術を含むことがとりわけ好ましい。従って、2+1フォーマットの3価の二重特異性抗体がフォーマット:CD3 Fab - BCMA Fab - BCMA Fab; BCMA Fab - CD3 Fab - BCMA Fab(すなわち、Fcが存在しないとき);BCMA Fab - Fc - CD3 Fab - BCMA Fab; BCMA Fab - Fc - BCMA Fab - CD3 Fab;または、CD3 Fab - Fc - BCMA Fab - BCMA Fabを有する態様において、二重特異性抗体は、例えば、CrossMAbFab、CrossMAbVH-VLまたはCrossMAbCH1-CL等のCrossMAbフォーマットを含んでいてもよい。BCMA Fabは、CrossMAbフォーマット、例えばCrossMAbFab、CrossMAbVH-VLまたはCrossMAbCH1-CLを有していてもよい。あるいは、CD3 Fabは、CrossMAbフォーマット、例えば、CrossMAbFab、CrossMAbVH-VLまたはCrossMAbCH1-CLを有していてもよい。好ましい態様において、二重特異性抗体のCD3 Fabは、CrossMAbVH-VLフォーマットを含む。
【0307】
ある態様において、1+1フォーマットを有する本発明の二重特異性抗体は、CrossMAb技術を含まない、すなわち、抗BCMA抗体も抗CD3抗体もいずれも、可変ドメインVLおよびVHまたは定常ドメインCLおよびCH1が互いに置換されたものでない。
【0308】
例示的態様
例示的な態様を
図1から3に記載している。
【0309】
一態様において、本発明の二重特異性抗体は、抗CD3抗体の1つのFabフラグメント、抗BCMA抗体の1つのFabフラグメントおよびフォーマットBCMA Fab - Fc - CD3 Fabの1つのFc部分を含む二価の二重特異性抗体である。抗BCMA Fabフラグメントは、表13に示すアミノ酸修飾を含む。抗CD3 Fabフラグメントは、軽鎖および重鎖を含み、ここで、軽鎖は、可変ドメインVHおよび定常ドメインCLを含むクロスオーバー軽鎖であり、重鎖は、可変ドメインVLおよび定常ドメインCH1を含むクロスオーバー重鎖である。この態様は、
図1Aに示されている。
【0310】
一態様において、本発明の二重特異性抗体は、抗CD3抗体の1つのFabフラグメント、抗BCMA抗体の1つのFabフラグメントおよびフォーマットBCMA Fab - Fc - CD3 Fabの1つのFc部分を含む二価の二重特異性抗体である。抗CD3 Fabフラグメントは、(a)軽鎖および重鎖を含み、ここで、軽鎖は、可変ドメインVHおよび定常ドメインCLを含むクロスオーバー軽鎖であり、重鎖は、可変ドメインVLおよび定常ドメインCH1を含むクロスオーバー重鎖であり、そして(b)表13に記載のアミノ酸修飾を含む。この態様は、
図1Bに示されている。
【0311】
一態様において、本発明の二重特異性抗体は、抗CD3抗体の1つのFabフラグメント、抗BCMA抗体の2つのFabフラグメント、およびフォーマットBCMA Fab - Fc - CD3 Fab - BCMA Fabによる1つのFc部分を含む3価の二重特異性抗体である。各抗BCMA Fabフラグメントは、表13に示されるアミノ酸修飾を含む。抗CD3 Fabフラグメントは、軽鎖および重鎖を含み、ここで、軽鎖は、可変ドメインVHおよび定常ドメインCLを含むクロスオーバー軽鎖であり、重鎖は、可変ドメインVLおよび定常ドメインCH1を含むクロスオーバー重鎖である。この態様は、
図2Aに示されている。
【0312】
一態様において、本発明の二重特異性抗体は、抗CD3抗体の1つのFabフラグメント、抗BCMA抗体の2つのFabフラグメントおよびフォーマットBCMA Fab - Fc - CD3 Fab - BCMA Fabによる1つのFc部分を含む3価の二重特異性抗体である。抗CD3 Fabフラグメントは、(a)軽鎖および重鎖を含み、ここで、軽鎖は、可変ドメインVHおよび定常ドメインCLを含むクロスオーバー軽鎖であり、重鎖は、可変ドメインVLおよび定常ドメインCH1を含むクロスオーバー重鎖であり、そして(b)表13に記載のアミノ酸修飾を含む。この態様は、
図2Bに示されている。
【0313】
一態様において、本発明の二重特異性抗体は、抗CD3抗体の1つのFabフラグメント、抗BCMA抗体の2つのFabフラグメント、およびフォーマットBCMA Fab - Fc - BCMA Fab - CD3 Fabによる1つのFc部分を含む3価の二重特異性抗体である。各抗BCMA Fabフラグメントは、表13に示されるアミノ酸修飾を含む。抗CD3 Fabフラグメントは、軽鎖および重鎖を含み、ここで、軽鎖は、可変ドメインVHおよび定常ドメインCLを含むクロスオーバー軽鎖であり、重鎖は、可変ドメインVLおよび定常ドメインCH1を含むクロスオーバー重鎖である。この態様は、
図2Cに示されている。
【0314】
一態様において、本発明の二重特異性抗体は、抗CD3抗体の1つのFabフラグメント、抗BCMA抗体の2つのFabフラグメント、およびフォーマットBCMA Fab - Fc - BCMA Fab - CD3 Fabによる1つのFc部分を含む3価の二重特異性抗体である。抗CD3 Fabフラグメントは、(a)軽鎖および重鎖を含み、ここで、軽鎖は、可変ドメインVHおよび定常ドメインCLを含むクロスオーバー軽鎖であり、重鎖は、可変ドメインVLおよび定常ドメインCH1を含むクロスオーバー重鎖であり、そして(b)表13に記載のアミノ酸修飾を含む。この態様は、
図2Dに示されている。
【0315】
一態様において、本発明の二重特異性抗体は、抗CD3抗体の1つのFabフラグメント、抗BCMA抗体の1つのFabフラグメント、およびフォーマットFc - CD3 Fab - BCMA Fabによる1つのFc部分を含む二価の二重特異性抗体である。抗BCMA Fabフラグメントは、表13に示すアミノ酸修飾を含む。抗CD3 Fabフラグメントは、軽鎖および重鎖を含み、ここで、軽鎖は、可変ドメインVHおよび定常ドメインCLを含むクロスオーバー軽鎖であり、重鎖は、可変ドメインVLおよび定常ドメインCH1を含むクロスオーバー重鎖である。この態様は
図3Aに示されている。
【0316】
一態様において、本発明の二重特異性抗体は、抗CD3抗体の1つのFabフラグメント、抗BCMA抗体の1つのFabフラグメント及びフォーマットFc - CD3 Fab - BCMA Fabによる1つのFc部分を含む二価の二重特異性抗体である。抗CD3 Fabフラグメントは、(a)軽鎖および重鎖を含み、ここで、軽鎖は、可変ドメインVHおよび定常ドメインCLを含むクロスオーバー軽鎖であり、重鎖は、可変ドメインVLおよび定常ドメインCH1を含むクロスオーバー重鎖であり、そして(b)表13に記載のアミノ酸修飾を含む。この態様は、
図3Bに示されている。
【0317】
一態様において、本発明の二重特異性抗体は、抗CD3抗体の1つのFabフラグメント、抗BCMA抗体の1つのFabフラグメント、およびフォーマットFc - BCMA Fab - CD3 Fabによる1つのFc部分を含む二価の二重特異性抗体である。抗BCMA Fabフラグメントは、表13に示すアミノ酸修飾を含む。抗CD3 Fabフラグメントは、軽鎖および重鎖を含み、ここで、軽鎖は、可変ドメインVHおよび定常ドメインCLを含むクロスオーバー軽鎖であり、重鎖は、可変ドメインVLおよび定常ドメインCH1を含むクロスオーバー重鎖である。この態様は、
図3Cに示されている。
【0318】
一態様において、本発明の二重特異性抗体は、抗CD3抗体の1つのFabフラグメント、抗BCMA抗体の1つのFabフラグメント、およびフォーマットFc - BCMA Fab - CD3 Fabによる1つのFc部分を含む二価の二重特異性抗体である。抗CD3 Fabフラグメントは、(a)軽鎖および重鎖を含み、ここで、軽鎖は、可変ドメインVHおよび定常ドメインCLを含むクロスオーバー軽鎖であり、重鎖は、可変ドメインVLおよび定常ドメインCH1を含むクロスオーバー重鎖であり、そして(b)表13に記載のアミノ酸修飾を含む。この態様は、
図3Dに示されている。
【0319】
一態様において、
図2に例示された抗体は、さらに、表12に規定された改変を含む。
【0320】
一態様において、本発明の二重特異性抗体は、抗CD3抗体の1つのFabフラグメント、抗BCMA抗体の2つのFabフラグメントおよびフォーマットBCMA Fab - Fc - CD3 Fab - BCMA Fabによる1つのFc部分を含む3価の二重特異性抗体である。抗CD3 Fabフラグメントは、軽鎖および重鎖を含み、ここで、軽鎖は、可変ドメインVHおよび定常ドメインCLを含むクロスオーバー軽鎖であり、重鎖は、可変ドメインVLおよび定常ドメインCH1を含むクロスオーバー重鎖である。各抗BCMA Fabフラグメントは、軽鎖および重鎖を含み、ここで、重鎖は、アミノ酸修飾K147EおよびK213E(EU番号付けによる番号付け)を含むCH1ドメインを含み、軽鎖は、アミノ酸修飾E123RおよびQ124K(Kabatによる番号付け)(すなわち表13に記載の修飾)を含む、対応するCLドメインを含む。Fc部分は、第1のFc鎖および第2のFc鎖を含み、ここで、第1のFc鎖は、第1の定常ドメインCH2および第1の定常ドメインCH3を含み、第2のFc鎖は、第2の定常ドメインCH2および第2の定常ドメインCH3を含む。第1のFc鎖は、FcのN末端が第1の抗BCMA FabのC末端と結合し、第2のFc鎖は、FcのN末端が抗CD3 FabのC末端と結合している。第1のCH3ドメインは、修飾T366S、L368AおよびY407V(“ホール修飾(hole modifications)”)を含み、第2のCH3ドメインは、修飾T366W(“ノブ修飾(knob modification)”)(EU番号付けによる番号付け)を含む(すなわち、表12に記載された修飾である)。さらに、両方のFc鎖は、修飾L234A、L235AおよびP329G、ならびに要すればD356EおよびL358M(EU番号付けに従って番号付け)をさらに含む。要すれば、第1のCH3ドメインは、アミノ酸修飾S354Cをさらに含み、第2のCH3ドメインは、両方のCH3ドメイン間のジスルフィド橋が形成されるように、アミノ酸修飾Y349C(EU番号付けに従って番号付け)をさらに含んでいてよい。
【0321】
ある態様において、抗BCMA Fabフラグメントは、配列番号17のCDR3H領域および配列番号20のCDR3L領域、ならびに以下:
a)配列番号21のCDR1H領域および配列番号22のCDR2H領域、配列番号23のCDR1L領域、および配列番号24のCDR2L領域;
b)配列番号21のCDR1H領域および配列番号22のCDR2H領域、配列番号25のCDR1L領域、および配列番号26のCDR2L領域;
c)配列番号21のCDR1H領域および配列番号22のCDR2H領域、配列番号27のCDR1L領域、および配列番号28のCDR2L領域;
d)配列番号29のCDR1H領域および配列番号30のCDR2H領域、配列番号31のCDR1L領域、および配列番号32のCDR2L領域;
e)配列番号34のCDR1H領域および配列番号35のCDR2H領域、配列番号31のCDR1L領域、および配列番号32のCDR2L領域;
f)配列番号36のCDR1H領域および配列番号37のCDR2H領域、配列番号31のCDR1L領域、および配列番号32のCDR2L領域、ならびに
g)配列番号15のCDR1H領域および配列番号16のCDR2H領域、配列番号18のCDR1L領域、および配列番号19のCDR2L領域
の群から選択されるCDR1H、CDR2H、CDR1LおよびCDR2L領域の組合せを含み、そして抗CD3 Fabフラグメントは、配列番号1のCDR1H領域、配列番号2のCDR2H領域、配列番号3のCDR3H領域、配列番号4のCDR1L領域、配列番号5のCDR2L領域および配列番号6のCDR3L領域を含む。
【0322】
ある態様において、抗BCMA Fabフラグメントは、以下:
a)配列番号10のVH領域および配列番号12のVL領域;
b)配列番号10のVH領域および配列番号13のVL領域;
c)配列番号10のVH領域および配列番号14のVL領域;
d)配列番号38のVH領域および配列番号12のVL領域;
e)配列番号39のVH領域および配列番号12のVL領域;
f)配列番号40のVH領域および配列番号12のVL領域;または
g)配列番号9のVH領域および配列番号11のVL領域
からなる群より選択されるVHおよびVLを含み、そして抗CD3 Fabフラグメントは、配列番号7のVH領域および配列番号8のVL領域を含む。
【0323】
ある態様において、本発明の二重特異性抗体は、以下の配列番号を含む(以下の表14Aおよび15Bに記載されている):
83A10-TCBcv:45、46、47(x2)、48(
図2A)
21-TCBcv:48、49、50、51(x2)(
図2A)
22-TCBcv:48、52、53、54(x2)(
図2A)
42-TCBcv:48、55、56、57(x2)(
図2A)。
【0324】
本明細書で用いる用語“83A10-TCBcv”は、配列番号45、配列番号46、配列番号47(2x)、および配列番号48のその重鎖および軽鎖の組合せによって規定され、
図2Aに示され、かつEP14179705に記載されるように、BCMAおよびCD3に特異的に結合する二特異性抗体を意味する。
【0325】
本明細書で用いる用語“21-TCBcv、22-TCBcv、42-TCBcv”は、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51(2x)のその重鎖および軽鎖の組合せによって規定されるMab21、配列番号48、配列番号52、配列番号53および配列番号54(2x)のその重鎖および軽鎖の組合せによって規定されるMab 22、ならびに、配列番号48、配列番号55、配列番号56および配列番号57(2x)のその重鎖および軽鎖の組合せによって規定されるMab42、のそれぞれの二重特異性抗体を意味し、
図2Aに示され、かつWO2017/021450に記載されている。
【0326】
好ましい態様において、二重特異性抗体は、42-TCBcvである。
【0327】
医薬組成物
本発明の多重特異性抗体、例えば、二重特異性抗体は、医薬組成物として患者に投与することができる。したがって、本発明はまた、本発明の多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体および薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物を提供する。
【0328】
本明細書で用いる用語“薬学的に許容される”とは、連邦政府または州政府の規制機関によって承認されるか、または動物、より具体的にはヒトでの使用について米国薬局方、欧州薬局方または他の一般に認められた薬局方に記載されていることを意味する。
【0329】
適切な賦形剤の例としては、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなどの1以上、およびそれらの何れかの組み合わせが挙げられる。多くの場合、組成物中に糖類、多価アルコール、または塩化ナトリウムなどの等張剤を含むことが好ましい。特に、適切な賦形剤の関連する例としては、(1)約1mg/mL~25mg/mLのヒト血清アルブミンを含むかまたは含まないダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水、pH約7.4、(2)0.9%生理食塩水(0.9w/v塩化ナトリウム(NaCl))、および(3)5%(w/v)デキストロースが挙げられ、また、トリプタミングなどの抗酸化剤およびTween20(登録商標)などの安定化剤も含んでいてもよい。
【0330】
当業者であれば、本発明の多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体と共に用いるための賦形剤(複数可)の適当な選択が、医薬組成物の所望の特性によって変わることを理解し得る。
【0331】
単剤療法および併用療法
ある態様において、処置は、単剤療法として患者への本発明の多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体の投与を含む。
【0332】
ある態様において、処置は、併用療法として患者への本発明の多重特異性抗体、例えば、二重特異性抗体の投与を含み、ここで、併用療法は、本発明の多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体および1以上の追加の治療薬の投与を含む。用語“併用療法”は、独りの患者への選択された治療薬の投与を包含することを意味し、治療薬が同じもしくは異なる投与経路によって、または同じもしくは異なる時間に投与される処置を含むことを意図している。
【0333】
ある態様において、1以上の追加の治療薬は、サリドマイドおよびその免疫療法誘導体、抗CD38抗体、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、ガンマセクレターゼ阻害剤(GSI)、抗BCMA抗体薬剤結合体および抗BCMA CAR T細胞療法からなる群より選択される。
【0334】
本明細書で用いる用語“抗CD38抗体”は、ヒトCD38に特異的に結合する抗体に関する。本発明の態様において、抗CD38抗体は、ダラツムマブ(US20150246123)である。本発明の態様において、抗CD38抗体は、イサツキシマブ(SAR650984、US887899)である。本発明の態様において、抗CD38抗体は、MOR202(WO2012041800)である。本発明の態様において、抗CD38抗体は、Ab79(US8362211)である。本発明の態様において、抗CD38抗体は、Ab19(US8362211)である。このような抗CD38抗体の投与量は、当技術分野の状況に応じて行われ、それぞれの処方情報に記載される。例えば、ダラツムマブの投与量は、通常16mg/kgである(www.ema.europa.eu)。
【0335】
本明細書で用いる用語“サリドマイド化合物”または“サリドマイドおよび免疫治療誘導体”は、2-(2,6-ジオキソピペリジン-3-イル)-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-1,3-ジオンおよびその免疫治療誘導体に関する。本発明の態様において、サリドマイド化合物は、サリドマイド(CAS登録番号50-35-1)、レナリドマイド(CAS登録番号191732-72-6)、ポマリドミド(CAS登録番号1971-19-8)、CC122(CAS登録番号1398053-45-6)およびCC-220(CAS登録番号1323403-33-3)およびそれぞれの塩(好ましくはHCl塩1:1)からなる群より選択されるが、それらに限定されない。CC-122の化学式は、2,6-ピペリジンジオン,3-(5-アミノ-2-メチル-4-オキソ-3(4H-キナゾリニル),塩酸塩(1:1)であり、CC-220のそれは2,6-ピペリジンジオン,3-[1,3-ジヒドロ-4-[(4-モルホリニルメチル)フェニル]メトキシ]-1-オキソ-2H-イソインドール-2-イル),(3S)-,塩酸塩(1:1)である。CC-220の調製方法は、例えば、US20110196150に記載されており、その全体が引用により本明細書中に包含される。
【0336】
サリドマイド化合物の投与量は、当技術分野の状態に従って行われ、それぞれの処方例に記載される。例えば、レブリミド(登録商標)(レナリドマイド)の投与量は、通常、1日1回25mgを28日サイクルの繰り返しの1~21日目に経口投与し(www.revlimid.com)、多発性骨髄腫の治療のためのPOMALYST(登録商標)(ポマリドマイド)の投与量は、通常1日4mgを28日サイクルの繰り返しの1~21日目に経口投与する(www.celgene.com)。一態様において、3-(5-アミノ-2-メチル-4-オキソ-4H-キナゾリン-3-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンが、1日当たり約5~約50mgの量で投与される。
【0337】
一態様において、CC-122およびCC-220は、1日当たり約5~約25mgの量で投与される。別の態様において、CC-122およびCC-220は、1日当たり約5mg、10mg、15mg、25mg、30mgまたは50mgの量で投与される。別の態様において、1日当たり10mgまたは25mgのmgのCC-122およびCC-220が投与される。一態様において、CC-122およびCC-220は、1日2回投与される。
【0338】
本明細書で用いる用語“抗PD-1抗体”は、ヒトPD-1に特異的に結合する抗体に関するものである。そのような抗体は、例えば、WO2015026634(MK-3475、ペムブロリズマブ)、US7521051、US8008449およびUS8354509に記載されている。ペムブロリズマブ(Keytruda(登録商標)、MK-3475)はまた、WO2009/114335、Poole, R.M. Drugs (2014) 74: 1973; Seiwert, T.,et al., J. Clin. Oncol. 32,5s (suppl;abstr 6011)に記載されている。本発明の態様において、PD-1抗体は、MK-3475(WHO Drug Information,Vol. 27, No. 2, pages 161-162 (2013))であり、WO2015026634の
図6に示される重鎖および軽鎖アミノ酸配列を含むペムブロリズマブのアミノ酸配列はWO2008156712(軽鎖CDR 配列番号15,16および17ならびに重鎖CDR 配列番号18,19および20)に記載されている。本発明の態様において、PD-1抗体は、ニボルマブ(BMS-936558,MDX 1106; WHO Drug Information, Vol.27, No.1, pages 68-69 (2013), ), WO2006/121、WO2015026634に示されるアミノ酸配列)である。本発明の態様において、PD-1抗体は;ピジリズマブ(CT-011、hBATまたはhBAT-1としても知られている;アミノ酸配列はWO2003/099196;WO2009/101611、Fried I. et al.; Neuro Oncol (2014) 16 (suppl 5): v111-v112.)である。本発明の態様において、PD-1抗体は、MEDI-0680(AMP-514、WO2010/027423、WO2010/027827、WO2010/027828、Hamid O. et al.; J Clin Oncol 33, 2015 (suppl; abstr TPS3087))である。本発明の態様において、PD-1抗体は、PDR001(Naing A. et al.; J Clin Oncol 34, 2016 (suppl; abstr 3060))である。本発明の態様において、PD-1抗体はREGN2810(Papadopoulos KPet al.;J Clin Oncol 34, 2016 (suppl; abstr 3024))である。本発明の態様において、PD-1抗体は、ラムロリズマブ(WO2008/156712)である。本発明の態様において、PD-1抗体は、WO2008/156712に記載されているh409Al l、h409A16またはh409A17である。このような抗PD-1抗体の投与量は、当業者の技術水準に従って行われ、それぞれの処方例に記載される。例えば、キイトルーダ(登録商標)は、通常、2mg/kg体重の濃度で3週間ごとに投与される(http://ec.europa.eu/health/documents)。
【0339】
本明細書で用いる用語“抗PD-L1抗体”は、ヒトPD-L1に特異的に結合する抗体に関する。そのような抗体は、例えば、WO2015026634、WO2013/019906、W02010/077634およびUS8383796に記載されている。本発明の態様において、PD-L1抗体は、MPDL3280A(atezolizumab、YW243.55.S70、WO2010/077634、McDermott DF. Et al., JCO March 10, 2016 vol.34 no.8 833-842)である。本発明の態様において、PD-L1抗体は、MDX-1105(BMS-936559、WO2007/005874、Patrick A. Ott PAら、DOI: 10.1158/1078-0432, Clinical Cancer Research-13-0143) である。本発明の態様において、PD-L1抗体は、MEDI4736(durvalumab、WO2016/040238 Gilbert J. et al., Journal for ImmunoTherapy of Cancer 20153(Suppl 2):P152)である。本発明の態様において、PD-L1抗体は、MSB001071 8C (avelumab, Disis ML. et al., Journal of Clinical Oncology, Vol 33, No 15_suppl (May 20 Supplement), 2015:5509)である。本発明の態様において、PD-L1抗体は、WO2016007235に記載の配列番号16のVH配列および配列番号17のVL配列を含む抗PD-L1抗体である。かかる抗PD-L1抗体の投与量は、当技術分野の状況に応じて行われ、それぞれの処方例に記載される。例えば、アテゾリズマブは、通常、1200mgの濃度で3週間ごとに60分かけて点滴静注される(www.accessdata.fda.gov)。
【0340】
本明細書で用いる用語“ガンマセクレターゼ”は、ガンマセクレターゼ切断配列を有する基質に結合し、ガンマセクレターゼ切断部位で、基質切断産物を生成するためにガンマセクレターゼ切断配列の切断を触媒することを含むガンマセクレターゼ活性を示す何れかのタンパク質またはタンパク質複合体を意味する。一態様において、γセクレターゼは、以下のサブユニット:プレセニリン、ニカストリン、γセクレターゼサブユニットAPH-1、およびγセクレターゼサブユニットPEN-2のうちの1以上を含めタンパク質複合体である。
【0341】
本明細書で用いる用語“γセクレターゼ阻害剤”または“GSI”は、γセクレターゼの発現および/または機能を阻害または低減することができる何れかの分子を意味する。特定の態様において、GSIは、γセクレターゼのサブユニット(例えば、プレセニリン、ニカストリン、APH-1またはPEN-2)の発現および/または機能を低下させる。塩、共結晶、結晶形、プロドラッグなどの“γセクレターゼ阻害剤”の何れかの形態が、この用語内に含まれる。ある態様において、GSIは、抗体または抗原結合フラグメント、低分子、タンパク質またはペプチド、および核酸から選択される。
【0342】
上記の態様は、例示的な例として理解されるべきである。さらなる態様が想定される。何れか1つの態様に関連して記載された何れかの特徴は、単独で、または記載された他の特徴と組み合わせて使用されてもよく、また、態様の他の何れか1以上の特徴、または態様の他の何れかの組み合わせと組み合わせて使用されてもよいことが理解される。さらに、上記に記載されていない等価物および変更も、添付の特許請求の範囲に定義される本発明の範囲から逸脱することなく採用することができる。
【0343】
本明細書中、本明細書に記載される抗体および方法の他の例および変形は、当業者には明らかであり得る。他の例および変形は、添付の特許請求の範囲に規定されるように、本発明の範囲内である。
【0344】
本明細書で引用された全ての文献は、引用された文献に示された全てのデータ、表、図およびテキストを含め、それぞれ本明細書に引用により完全に包含される。
【0345】
【表14】
【表15】
【表16】
【表17】
【表18】
【表19】
【表20】
【表21】
【表22】
【0346】
【0347】
【0348】
【実施例】
【0349】
実施例
実施例1:再発性/難治性多発性骨髄腫(RRMM)を対象としたCC-93269の臨床治験:コホート1~7
本治験には、3種以上の前BCMA指向型療法を受けたことがないRRMM患者19名が参加した。前療法には、自家幹細胞移植、同種幹細胞移植、レナリドミド、ポマリドミド、ボルテゾミブ、カーフィルゾミブ、ダラツムマブ(DARA)などが含まれた。すべての患者は、最後の治療戦略に対して不応性のMMを有した。
【0350】
BCMAに2価およびCD3に1価で結合する二重特異性抗体であるCC-93269(42-TCBcv)を、28日間サイクルで、1~3サイクルでは、1、8、15、22日目に、4~6サイクルでは、1、15日目に、そして7サイクル以降では1日目に、2時間で静脈内投与いた。14名の患者は、0.15mg(コホート1、n=1)、0.5mg(コホート2、n=1)、1.5mg(コホート3、n=1)、3mg(コホート4、n=4)、6mg(コホート5、n=3)または10mg(コホート6、n=4)の固定用量がそれぞれの間隔で投与された。5名の患者には、1サイクル目1日目に6mgの投与を開始し、1サイクル目8日目以降に10mgの投与を行った(コホート7、n=5)。
【0351】
有効性:
応答は、国際骨髄腫ワーキンググループ(IMWG)統一応答基準(Rajkumar, 2011a; Kumar, 2016)を用いて、2サイクル1日目から始まるサイクルごとおよび処置終了時に評価した。微小残存病変(MRD)を、EuroFlow評価および評価可能な場合はNGS(次世代シーケンシング)により評価した。MRD陰性は、有核細胞105個中に腫瘍細胞1個未満という最小感度が達成された場合のみ報告された。
【0352】
CC-93269を6mg以上投与した12名の患者のうち(コホート5~7)、10名の患者が部分奏効(PR)以上(全奏効率;83.3%)を達成し、このうち7名の患者が最良部分奏効(VGPR)以上を達成し、4名の患者が(sCR)が厳格な完全奏効(SCR)を達成た;9名の患者(75.0%)がMRD陰性であった(表16)。奏効までの期間中央値は4.2週間(範囲4.0-13.1)であった。これらのデータから、CC-93269の6mg以上の用量が臨床的に有効であることが示唆された。
【0353】
また、コホート4の4名の患者では、3mgの連続投与で奏効が認められなかったことから(表16)、この用量では臨床活性が不十分であることが示唆された。
【0354】
6mg以上の用量における薬物動態学的(PK)データでは、CC-93269の複数回投与後に曝露が大きく増加することが示され、初回投与後にBCMA陽性骨髄腫細胞の標的介在性薬物体内動態(TMDD)およびクリアランスが顕著になることが示唆された。この現象は3mg投与では観察されなかった。これらのデータは、3mgの投与が大多数の対象にとって標的を飽和させることなく、余裕安全度(margin of safety)を追加することを示唆するものである。
【0355】
【0356】
安全性:
CRS予防のため、初回投与時にはデキサメタゾン(最大20mg静脈内投与またはその相当量)を投与し、6mg以上の投与時には増量して実施した。コホート1~4では、前投薬としてデキサメタゾンは用いなかった。
【0357】
患者はCRSに関連する臨床症状および徴候をモニターし(Lee, 2014)、CRS事象を共通のCTCAE CRSグレード分けスケール(Lee, 2015)に従ってグレード付けし、処置した。
【0358】
3mg以下のCC-93269の連続投与は、この用量でCRS予防薬が投与されていないにもかかわらず、良好な忍容性が確認された。最大グレード1のサイトカイン放出症候群は、3mg以下のCC-93269の固定用量で観察された(
図4)。
【0359】
6mgのCC-93269を連続投与したコホート6では、最大グレード2のCRSが観察され、すべてのCRS事象がサイクル1で発生した。CC-93269の初回投与として6mg、サイクル1の8日目に10mgを投与された患者(コホート7)1名がCRSを発症し、治験中に死亡した。この患者では、グレード3のCRSが第1サイクル1日目の6mgの初回投与後に認められ、グレード5のCRSが第1サイクル8日目の10mgの2回目の投与後に認められた(
図4)。この患者は登録時に広範な髄外疾患があり、同時に感染症(Clostridium difficile)が記録され、死亡時に感染症の疑いがあることが指摘された。
【0360】
27件のCRS事象のうち、8件(29.6%)はデキサメタゾンで、10件(37.0%)はトシリズマブで対処した。
【0361】
実施例2:再発性/難治性多発性骨髄腫(RRMM)を対象としたCC-93269の臨床治験:コホート8~9
コホート8および9では、臨床活性および全体的な安全性プロファイルのバランスをとること、特に第1サイクルにおける重症サイトカイン放出症候群(CRS)のリスクを最小限に抑えることを目的に、新たな投与レジメンが採用された。
【0362】
CC-93269は、1~3サイクル目は1日目、8日目、15日目および22日目に、4~6サイクル目は 1日目および15日目に、7サイクル目以降は1日目に、すべて28日サイクルで2時間かけて静脈内投与された。患者には、第1サイクル1日目に3mgから投与を開始し、第1サイクル8日目以降に6mgを投与した。
【0363】
コホート8(n=6)およびコホート9(n=5)では、骨髄形質細胞の割合および/または髄外病変の存在に基づき、ベースラインの多発性骨髄腫の腫瘍負荷が異なる(コホート8には骨髄形質細胞(切除または吸引)50%以下かつ髄外病変5個以下の対象、コホート9には骨髄形質細胞50%以上または髄外病変5個超の対象が含まれる)。コホート1~7でグレード3以上のCRSを経験した唯一の患者が登録時に広範な髄外病変を有していたという根拠に基づいて、腫瘍負荷が低い患者(コホート8)および高い患者(コホート9)が登録され、忍容性の違いを評価することができた。
【0364】
安全性
コホート8および9では、すべての患者が、初回投与前、2回目投与前、増量時、および第1~6サイクル中に発生した2週間以上の投与中断後に、CRSの予防薬としてデキサメタゾン(最大20mg静脈内投与または同等量)を投与された。患者は、実施例1のコホート1~7と同様の方法でCRSをモニターし、グレード付けし、処置した。
【0365】
3/6mgの用量レジメンを受けた11名の患者のうち、6名(54.5%)のみがCRSを経験しなかったのに対し、6mg、6/10mgまたは10mgの用量を受けた12名の対象のうち12名がCRSを経験した(100%)(実施例1のコホート5~7)。CRS事象の頻度の減少に加え、コホート8および9におけるCRSの重症度は、コホート5から7と比較して一般的に減少していた。コホート8および9で報告された全てのCRS事象の重症度はグレード1(8例中6例[75%])またはグレード2(8例中2例[25%])であり、グレード3以上のCRS事象は報告されなかった。グレード2以上の事象は、6mg、6/10mgまたは10mgの投与を受けた12名中6名(50%)と比較して、3/6mgの投与を受けた11名中2名(18.2%)にのみ報告された(
図4)。コホート8および9のすべてのCRS事象は、トシリズマブおよび/またはデキサメタゾンを含む標準治療で解決された。
【0366】
多発性骨髄腫の腫瘍負荷、すなわち骨髄形質細胞の割合または髄外病変の数が多い対象(コホート9)では、腫瘍負荷が低い対象(コホート8)と比較して、CRSの頻度または重症度に増加は観察されなかった。
【0367】
実施例1および2の全コホート1~9において、CRSの初発までの期間の中央値は1日、最大値3日であった。CRS事象の大部分はC1D1の初回投与で発生し(73.3%)、C1D8の2回目の投与でより少なく(23.3%)、その後の投与ではほとんど発生せず(2.7%、グレード2以下の事象に限られる)、このことは投与の継続によりCRSリスクが低下することを示唆した(
図5)。
【0368】
実施例1および2の全コホート1~9において、CRS事象の期間中央値は2日(範囲1~7日、3日以上続いたのは36例中4例のみ)であった。
【0369】
有効性
実施例1のコホート1~7と同様の方法で奏効を評価した。コホート8および9(開始用量3mgからさらに6mg以上の維持用量を投与)の対象は、実施例1のコホート1~4の対象(3mg以下の維持用量を投与)と比較して、改善された奏効を示した。
【0370】
6mgまでで処置された患者(3/6mgおよび6mg)の全奏効率は、10mgまでで処置された患者(6/10mgおよび10mg)より低かった。6mgまで投与された患者(コホート5、8および9)のうち、合計5件の奏効が報告されており、予備的な全奏効率は35.7%であった。また、維持量10mgで処置された9例(コホート6および7)では、合計8例の奏効が報告され、予備的な全奏効率は88.9%であった(表17)。
【0371】
これらのデータから、3/6mgから開始する投与スケジュールはCRSを減少させる可能性があるが、10mgの高い維持用量は有効性を改善する可能性があり、3/6/10mgレジメンを支持することが示唆された。
【0372】
【0373】
実施例3:CC-93269を介したサイトカイン放出、T細胞活性化、T細胞増殖およびMM細胞株のリダイレクション溶解に対するデキサメタゾンの効果
ATCC(Manassa、VA)から購入した4つのBCMA発現腫瘍細胞株(多発性骨髄腫細胞株:BCMA高H929(カタログ番号CRL-9068)、BCMA mid-SKMM2および-MM.1S(カタログ番号ACC-430)ならびにBCMA low-KMS12-PE(カタログ番号ACC-606))を、1:1のE:T比、すなわちT細胞 1:MM細胞 1で、3名の独立した健康ドナー由来のT細胞(Bloodworks Northwest、Seattle、WA)と共培養した。共培養は、臨床的に適切な用量のデキサメタゾン(DEX:0.0014μM -1μM)、または対照のジメチルスルホキシド(DMSO)、および様々な濃度(6.4-500ng/mL;0.033-2.6nM)のCC-93269で72時間共に処理した。
【0374】
デキサメタゾンは、Milliplex ヒト サイトカイン/ケモカイン磁気ビーズマルチプレックスアッセイ(Millipore Sigma, Temecula, MA)を用いて、製造者の推奨に従って測定したところ、CC-93269が仲介するIL-2の放出(48.3~74.1%)、GM-CSF(47.5~67.8%)およびTNF-α(46.3~61.8%)を低下させることを確認した。低下率は、1μM DEXの共処理をDMSO対照と比較して、試験したCC-93269の最高濃度で決定した。サイトカインレベルは、ForeCytソフトウェア(Intellicyt)を用いて、2.29から7500pg/mLの範囲の標準曲線に従って計算した。CC-93269誘発サイトカイン分泌に対するデキサメタゾンの効果は、DMSO対照および試験したCC-93269の最高濃度と比較して、1μMデキサメタゾンの阻害パーセントを、以下の式に従って計算することによって決定された:阻害パーセント=100×([サイトカイン濃度、DMSO対照]-[サイトカイン分泌、1μMデキサメタゾン])/[サイトカイン濃度、DMSO対照]。
【0375】
図6は、1名の健康なドナー由来のドナーT細胞との共培養からのサイトカイン分泌を示す;独立した3名の健康なドナーすべてからの結果を、表18にまとめた。
【0376】
【0377】
デキサメタゾンは、CC-93269によって誘発されたCD4およびCD8 T細胞の活性化、増殖およびBCMA+腫瘍細胞株(例えば、多発性骨髄腫細胞株)のリダイレクト溶解に最小限の影響を及ぼした。
【0378】
図7は、1名の健康なドナー由来のドナーT細胞との共培養後に、CC-93269によって誘発されたBCMA+腫瘍細胞株のリダイレクト溶解を示す;3名の独立した健康なドナーすべてからの結果を、表19にまとめている。96ウェル丸底プレートおよび終容量100μLにおいて、1×10
4個のCellTrace Violet標識T細胞を、1×10
4個のCellTrace CFSE標識標的細胞と共に、異なる濃度のデキサメタゾン(7点用量反応)と組み合わせた、異なる濃度のCC-93269の存在下で、播種した。共培養物を、37℃、5% CO
2でインキュベートした。インキュベーションの72時間後、培養上清を採取し、-80℃にて保存した。製造元の指示に従い、細胞をLive/Dead Fixable Aqua Dead Cell Stainで、RTにて30分間標識した。その後、細胞を以下の細胞表面マーカーに対する抗体で染色した:CD2、CD3、CD4、CD8、CD69、CD25、HLA-DRおよびCD154に対する抗体で、終容量50μLのフロー染色バッファー中で染色した。細胞表面分子の染色後、細胞を150μLのフロー染色バッファーで1回洗浄し、50μLのBD Cytofix固定バッファーに再懸濁し、RTにて30分間インキュベートした。細胞を150μLのフロー染色バッファーで洗浄し、終容量50μLのフロー染色バッファーに再懸濁させ、IQUE Screener plus装置(Intellicyt,Albuquerque,NM)で分析した。100%の生存率は、CC-93269またはデキサメタゾンを添加しない場合の生腫瘍細胞の絶対細胞数によって決定された;生細胞の絶対細胞数が0であれば、腫瘍細胞の100%死滅と定義した。IC50は、特定の曝露時間後にベースラインと最大値の中間の反応を阻害するCC-93269の濃度を示す。IC50値は、GraphPad Prism(バージョン5.0)ソフトウェアを用いて、非線形回帰分析、シグモイド用量反応を用いて算出した。
【0379】
【0380】
図8は、1名の健康なドナー由来のドナーT細胞との共培養後のCC-93269誘発T細胞活性化および増殖を示す図である。CC-93269の増加量に応答して増殖するCD4
+およびCD8
+ T細胞は、T細胞のみの培養と比較して、健康なドナーT細胞の腫瘍細胞株との共培養後にCellTrace Violetの希釈を示したCD4
+およびCD8
+ T細胞の割合のトリプリケートサンプルの平均±標準偏差(SD)としてグラフにした。増加量のCC-93269に反応して活性化マーカーCD69、CD25、HLA-DRおよびCD154を発現するCD4
+およびCD8
+ T細胞の割合は、T細胞のみの培養と比較して、健康なドナーT-細胞と腫瘍細胞株との共培養後の活性化マーカーを発現するCD4
+およびCD8
+ T細胞の割合のトリプリケートサンプルの平均±SDとしてグラフにした。増殖データおよび活性化マーカーの発現の両方を、ForCytソフトウェア(Intellicyt)を用いて解析した。
【0381】
デキサメタゾンの併用処置は、CC-93269を介した細胞傷害活性に対する抑制効果はほとんどなかったが、サイトカイン分泌を強く抑制し、サイトカイン放出症候群の臨床管理に有益である可能性を示唆する。
【配列表】
【国際調査報告】