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特表2022-553824前庭支持細胞プロモーター及びその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-26
(54)【発明の名称】前庭支持細胞プロモーター及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/85 20060101AFI20221219BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20221219BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20221219BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20221219BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20221219BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221219BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20221219BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20221219BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20221219BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20221219BHJP
   A61P 27/16 20060101ALN20221219BHJP
【FI】
C12N15/85 Z
C12N15/11 Z ZNA
C12N15/113 Z
C12N15/12
C12N15/864 100Z
C12N5/10
C12N7/01
A61K48/00
A61K38/17
A61K35/76
A61P27/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022525803
(86)(22)【出願日】2020-11-04
(85)【翻訳文提出日】2022-06-17
(86)【国際出願番号】 US2020058795
(87)【国際公開番号】W WO2021091950
(87)【国際公開日】2021-05-14
(31)【優先権主張番号】62/930,520
(32)【優先日】2019-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/024,959
(32)【優先日】2020-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】520299511
【氏名又は名称】デシベル セラピューティクス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】DECIBEL THERAPEUTICS,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】バーンズ、ジョセフ
(72)【発明者】
【氏名】ギブソン、タイラー
(72)【発明者】
【氏名】プレーゲルニッヒ、ガブリエラ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AA95X
4B065AB01
4B065BA01
4B065BA02
4B065CA46
4C084AA13
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA44
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA341
4C084ZA342
4C087AA01
4C087AA02
4C087CA12
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA34
(57)【要約】
本開示は、SLC6A14プロモーターを含むポリヌクレオチド、及び、それを含むベクターを提供し、これを用いて、前庭支持細胞において導入遺伝子の発現を促進することができる。本明細書に記載のポリヌクレオチドを、導入遺伝子、例えば、治療用タンパク質をコードする導入遺伝子に操作可能に連結し、それにより、導入遺伝子の前庭支持細胞発現を促進することができる。本明細書に記載のポリヌクレオチドを、治療用導入遺伝子に操作可能に連結し、前庭機能障害を有するか、または発症するリスクを有する対象の治療に使用してもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸ベクターであって、
a.異種導入遺伝子に操作可能に連結された配列番号1~6のうち任意の1つに対して少なくとも85%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む溶質キャリアファミリー6メンバー14(SLC6A14)プロモーターを含み、
b.前記導入遺伝子は、治療用タンパク質、短干渉RNA(siRNA)、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、ヌクレアーゼをコードするか、またはマイクロRNAである、前記核酸ベクター。
【請求項2】
前記SLC6A14プロモーターは、配列番号4、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号5、または配列番号6のヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載の核酸ベクター。
【請求項3】
前記SLC6A14プロモーターは、配列番号4のヌクレオチド配列を含む、請求項2に記載の核酸ベクター。
【請求項4】
前記導入遺伝子は、前記治療用タンパク質をコードする、請求項1~3のいずれか1項に記載の核酸ベクター。
【請求項5】
前記治療用タンパク質は、無調(Atonal)BHLH転写因子1(Atoh1)、スパルト(Spalt)様転写因子2(Sall2)、カルモジュリン結合転写活性化因子1(Camta1)、YRPWモチーフ2を有するHes関連ファミリーBHLH転写因子(Hey2)、Gata結合タンパク質2(Gata2)、YRPWモチーフ1を有するHes関連ファミリーBHLH転写因子(Hey1)、セラミドシンターゼ2(Lass2)、SRYボックス10(Sox10)、GATA結合タンパク質3(Gata3)、Cut様ホメオボックス1(Cux1)、核受容体サブファミリー2群Fメンバー(Nr2f1)、Hes関連ファミリーBHLH転写因子(Hes1)、RAR関連オーファン受容体B(Rorb)、Junがん原遺伝子AP-1転写因子サブユニット(Jun)、ジンクフィンガータンパク質667(Zfp667)、LIMホメオボックス3(Lhx3)、Nescientヘリックス・ループ・ヘリックス1(Nhlh1)、MAX二量体化タンパク質4(Mxd4)、ジンクフィンガーMIZ-Type含有1(Zmiz1)、ミエリン転写因子1(Myt1)、シグナル伝達兼転写活性化因子3(Stat3)、BarH様ホメオボックス1(Barhl1)、胸腺細胞選択関連高移動度群ボックス(Tox)、プロスペロホメオボックス1(Prox1)、核因子IA(Nfia)、甲状腺ホルモン受容体β(Thrb)、MYCLがん原遺伝子BHLH転写因子(Mycl1)、リジンデメチラーゼ5A(Kdm5a)、CAMP応答配列結合タンパク質3様4(Creb3I4)、ETS変異体1(Etv1)、父性発現3(Peg3)、BTBドメイン及びCNCホモログ2(Bach2)、ISL・LIMホメオボックス1(Isl1)、ジンクフィンガー及びBTBドメイン含有38(Zbtb38)、肢芽及び心臓発達(Lbh)、Tubby Bipartite転写因子(Tub)、ユビキチンC(Hmg20)、RE1サイレンシング転写因子(Rest)、ジンクフィンガータンパク質827(Zfp827)、AF4/FMR2ファミリーメンバー3(Aff3)、PBX/結節(Knotted)1ホメオボックス2(Pknox2)、ATリッチ相互作用ドメイン3B(Arid3b)、MLX相互作用タンパク質(Mlxip)、ジンクフィンガータンパク質(Zfp532)、IKAROSファミリージンクフィンガー2(Ikzf2)、スパルト様転写因子1(Sall1)、SIXホメオボックス2(Six2)、スパルト様転写因子3(Sall3)、Lin-28ホモログB(Lin28b)、調節因子X7(Rfx7)、脳由来神経栄養因子(Bdnf)、成長因子非依存性1転写抑制因子(Gfi1)、POUクラス4ホメオボックス3(Pou4f3)、MYCがん原遺伝子BHLH転写因子(Myc)、β-カテニン(Ctnnb1)、SRYボックス2(Sox2)、SRYボックス4(Sox4)、SRYボックス11(Sox11)、TEAドメイン転写因子2(Tead2)、及びAtoh1変異体からなる群から選択される、請求項4に記載の核酸ベクター。
【請求項6】
前記治療用タンパク質は、Atoh1である、請求項5に記載の核酸ベクター。
【請求項7】
前記核酸ベクターは、さらに、前記SLC6A14プロモーターの第1逆位末端反復配列5’、及び前記異種導入遺伝子の3’を含み、かつ任意の転写後調節エレメント、ポリアデニル化シグナル、及び第2逆位末端反復配列を5’から3’の順で、含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の核酸ベクター。
【請求項8】
配列番号7のヌクレオチド233~2922と、配列番号7のヌクレオチド233~2922の第1逆位末端反復配列5’であって、前記5’逆位末端反復配列が配列番号7のヌクレオチド1~130に対して少なくとも80%の配列同一性を有する前記第1逆位末端反復配列5’と、配列番号7のヌクレオチド233~2922の第2逆位末端反復配列3’であって、前記3’逆位末端反復配列が配列番号7のヌクレオチド3010~3139に対して少なくとも80%の配列同一性を有する前記第2逆位末端反復配列3’と、を含む、請求項7に記載の核酸ベクター。
【請求項9】
前記核酸ベクターは、プラスミドである、請求項1~8のいずれか1項に記載の核酸ベクター。
【請求項10】
前記核酸ベクターは、AAVウイルスベクターである、請求項1~8のいずれか1項に記載の核酸ベクター。
【請求項11】
前記AAVウイルスベクターは、AAV8キャプシドを有する、請求項10に記載の核酸ベクター。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の核酸ベクター、及び薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項13】
哺乳類前庭支持細胞(VSC)で導入遺伝子を発現させる方法であって、前記哺乳類VSCを請求項1~11のいずれか1項に記載の核酸ベクター、または請求項12に記載の組成物に接触させることを含む、前記方法。
【請求項14】
前記哺乳類VSCは、ヒトVSCである、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表
本出願は、ASCII形式で電子的に提出された配列表を含み、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。2020年10月27日に作成された上記ASCIIコピーの名前は、51471-006WO3_Sequence_Listing_10.27.20_ST25であり、サイズは46,466バイトである。
【背景技術】
【0002】
前庭機能障害は、生命の質に重大な影響を及ぼす公衆衛生上の重要な問題である。米国における40歳以上の成人の約35%に平衡障害が見られ、この割合は年齢とともに劇的に増加し、このことは、日常の活動の崩壊、気分及び認知の低下、ならびに高齢者の有病率の増加をもたらす。前庭機能障害は多くの場合、後天性であり、疾患または感染症、頭部外傷、耳毒性薬、及び老化を含む、様々な原因がある。前庭機能障害の病因の共通因子は、内耳の前庭有毛細胞への損傷である。したがって、有毛細胞機能を回復することを目的とする治療法は、前庭機能障害に罹患している患者に有益である。前庭支持細胞は、損傷後に自発的に有毛細胞に分化することが知られており、したがって、有毛細胞機能を回復するのに適切な治療標的として機能する可能性がある。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、特定の細胞型において、有毛細胞または支持細胞の機能、再生、成熟、増殖、または生存を促進または向上させる遺伝子として、目的の遺伝子の発現を促進するための組成物及び方法を提供する。本明細書に記載の組成物及び方法は、内耳の前庭支持細胞(VSC)における導入遺伝子の転写を刺激する溶質キャリアファミリー6メンバー14(SLC6A14)プロモーター配列に関する。本明細書に記載のSLC6A14プロモーター配列は、導入遺伝子に操作可能に連結され得、かつ前庭機能障害(例えば、眩暈、めまい、平衡失調、両側前庭機能低下、両側前庭機能不全、動揺視、または平衡障害)を治療するために患者に投与することができる。
【0004】
第1の態様において、本発明は、配列番号1~6のうち任意の1つに対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有するポリヌクレオチドを含む核酸ベクターを提供する。いくつかの実施形態において、ポリヌクレオチドは、配列番号1に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有する。いくつかの実施形態において、ポリヌクレオチドは、配列番号2に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有する。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号3に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有する。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号4に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有する。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号5に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有する。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号6に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有する。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号3の配列を有する。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号4の配列を有する。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号5の配列を有する。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号6の配列を有する。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号2の配列を有する。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号1の配列を有する。
【0005】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、導入遺伝子に操作可能に連結される。いくつかの実施形態では、導入遺伝子は、異種導入遺伝子である。いくつかの実施形態では、導入遺伝子は、タンパク質(例えば、治療用タンパク質、またはレポータータンパク質)、短干渉RNA(siRNA)、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、ヌクレアーゼ(例えば、CRISPR関連タンパク質9(Cas9)、転写活性化様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、またはガイドRNA(gRNA))をコードするポリヌクレオチド配列を含むか、またはマイクロRNAである。いくつかの実施形態では、タンパク質は、治療用タンパク質である。
【0006】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、哺乳類VSCにおいて、タンパク質(例えば、治療用タンパク質、またはレポータータンパク質)、siRNA、ASO、ヌクレアーゼ、またはマイクロRNAの前庭支持細胞(VSC)特異的発現を誘導することができる。いくつかの実施形態では、VSCは、ヒトVSCである。
【0007】
いくつかの実施形態では、治療用タンパク質は、スパルト様転写因子2(Sall2)、カルモジュリン結合転写活性化因子1(Camta1)、YRPWモチーフ2を有するHes関連ファミリーBHLH転写因子(Hey2)、Gata結合タンパク質2(Gata2)、YRPWモチーフ1を有するHes関連ファミリーBHLH転写因子(Hey1)、セラミドシンターゼ2(Lass2)、SRYボックス10(Sox10)、GATA結合タンパク質3(Gata3)、Cut様ホメオボックス1(Cux1)、核受容体サブファミリー2群Fメンバー(Nr2f1)、Hes関連ファミリーBHLH転写因子(Hes1)、RAR関連オーファン受容体B(Rorb)、Junがん原遺伝子AP-1転写因子サブユニット(Jun)、ジンクフィンガータンパク質667(Zfp667)、LIMホメオボックス3(Lhx3)、Nescientヘリックス・ループ・ヘリックス1(Nhlh1)、MAX二量体化タンパク質4(Mxd4)、ジンクフィンガーMIZ-Type含有1(Zmiz1)、ミエリン転写因子1(Myt1)、シグナル伝達兼転写活性化因子3(Stat3)、BarH様ホメオボックス1(Barhl1)、胸腺細胞選択関連高移動度群ボックス(Tox)、プロスペロホメオボックス1(Prox1)、核因子IA(Nfia)、甲状腺ホルモン受容体β(Thrb)、MYCLがん原遺伝子BHLH転写因子(Mycl1)、リジンデメチラーゼ5A(Kdm5a)、CAMP応答配列結合タンパク質3様4(Creb3I4)、ETS変異体1(Etv1)、父性発現3(Peg3)、BTBドメイン及びCNCホモログ2(Bach2)、ISL・LIMホメオボックス1(Isl1)、ジンクフィンガー及びBTBドメイン含有38(Zbtb38)、肢芽及び心臓発達(Lbh)、Tubby Bipartite転写因子(Tub)、ユビキチンC(Hmg20)、RE1サイレンシング転写因子(Rest)、ジンクフィンガータンパク質827(Zfp827)、AF4/FMR2ファミリーメンバー3(Aff3)、PBX/結節(Knotted)1ホメオボックス2(Pknox2)、ATリッチ相互作用ドメイン3B(Arid3b)、MLX相互作用タンパク質(Mlxip)、ジンクフィンガータンパク質(Zfp532)、IKAROSファミリージンクフィンガー2(Ikzf2)、スパルト様転写因子1(Sall1)、SIXホメオボックス2(Six2)、スパルト様転写因子3(Sall3)、Lin-28ホモログB(Lin28b)、調節因子X7(Rfx7)、脳由来神経栄養因子(Bdnf)、成長因子非依存性1転写抑制因子(Gfi1)、POUクラス4ホメオボックス3(Pou4f3)、MYCがん原遺伝子BHLH転写因子(Myc)、β-カテニン(Ctnnb1)、SRYボックス2(Sox2)、SRYボックス4(Sox4)、SRYボックス11(Sox11)、TEAドメイン転写因子2(Tead2)、無調BHLH転写因子1(Atoh1)、またはAtoh1変異体である。いくつかの実施形態では、Atoh1変異体は、S328A、S331A、S334A、S328A/S331A、S328A/S334A、S331A/S334A、及びS328A/S331A/S334からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を有する。いくつかの実施形態では、治療用タンパク質は、Atoh1(例えば、ヒトAtoh1)である。いくつかの実施形態では、Atoh1タンパク質は、1つ以上(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20もしくはそれ以上)の保存的アミノ酸置換を有する配列番号10の配列またはその変異体を含む。いくつかの実施形態では、Atoh1タンパク質変異体の10%以下(10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、またはそれ以下)のアミノ酸は、保存的アミノ酸置換である。いくつかの実施形態では、Atoh1タンパク質は、配列番号10の配列で構成される。いくつかの実施形態では、Atoh1タンパク質は、配列番号11の配列によってコードされる。
【0008】
いくつかの実施形態では、核酸ベクターは、さらに、逆位末端反復配列(ITR)を含む。導入遺伝子に操作可能に連結された本発明のポリヌクレオチドを核酸ベクターが含む場合の実施形態では、その核酸ベクターは、ポリヌクレオチドの第1ITR配列5’及び導入遺伝子の第2ITR配列3’を含む。いくつかの実施形態において、ITRは、AAV2 ITRである。いくつかの実施形態では、ITRは、AAV2 ITRに対して少なくとも80%の配列同一性(例えば、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性)を有する。
【0009】
いくつかの実施形態では、核酸ベクターは、ポリアデニル化(ポリ(A))配列をさらに含む。いくつかの実施形態では、ポリ(A)配列は、ウシ成長ホルモン(bGH)ポリ(A)シグナル配列である。導入遺伝子に操作可能に連結された本発明のポリヌクレオチドを核酸ベクターが含む場合の実施形態では、ポリ(A)配列が、導入遺伝子の3’に位置する。第1及び第2ITR配列ならびに導入遺伝子に操作可能に連結された本発明のポリヌクレオチドを核酸ベクターが含む場合の実施形態では、ポリ(A)配列は、導入遺伝子の3’、及び第2ITR配列の5’に位置する。
【0010】
いくつかの実施形態では、核酸ベクターは、ウッドチャック転写後調節エレメント(WPRE)をさらに含む。いくつかの実施形態では、WPREは、配列番号14または配列番号15の配列を有する。導入遺伝子に操作可能に連結された本発明のポリヌクレオチドを核酸ベクターが含む場合の実施形態では、WPREが、導入遺伝子の3’に位置する。導入遺伝子に操作可能に連結された本発明のポリヌクレオチド及びポリ(A)配列を核酸ベクターが含む場合の実施形態では、WPREが、導入遺伝子の3’、及びポリ(A)配列の5’に位置する。
【0011】
いくつかの実施形態では、核酸ベクターは、配列番号7のヌクレオチド233~2922の配列を含むポリヌクレオチド配列を含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、本発明の核酸ベクターは、ヒトAtoh1(ヒトATOH1タンパク質=RefSeq登録番号NP_005163(配列番号10)、mRNA配列=RefSeq登録番号NM_005172)をコードするポリヌクレオチド配列に操作可能に連結されたSLC6A14プロモーター(例えば、配列番号1~6のうち任意の1つのポリヌクレオチド)を含む。さらにいくつかの特定の実施形態では、本発明の核酸ベクターは、ヒトAtoh1をコードするポリヌクレオチド配列(例えば、配列番号10をコードするポリヌクレオチド配列、例えば、配列番号11のポリヌクレオチド配列)に操作可能に連結された配列番号4のSLC6A14プロモーターを含む。さらにいくつかの特定の実施形態では、核酸ベクターは、第1逆位末端反復配列、配列番号4のSLC6A14プロモーター、SLC6A14プロモーターに操作可能に連結されたヒトAtoh1をコードするポリヌクレオチド配列、ポリアデニル化配列、及び第2逆位末端反復配列を5’から3’の順で含む。さらにいくつかの特定の実施形態では、核酸ベクターは、第1逆位末端反復配列、配列番号4のSLC6A14プロモーター、SLC6A14プロモーターに操作可能に連結されたヒトAtoh1をコードするポリヌクレオチド配列、ウッドチャック転写後調節エレメント(WPRE)、ポリアデニル化配列、及び第2逆位末端反復配列を5’から3’の順で含む。さらにいくつかの特定の実施形態では、核酸ベクターは、逆位末端反復配列によって挟まれた配列番号7のヌクレオチド233~2922を含む。さらにいくつかの特定の実施形態では、核酸ベクターは、逆位末端反復によって挟まれた配列番号7のヌクレオチド233~2922を含み、ここで、5’逆位末端反復配列は、配列番号7のヌクレオチド1~130に対して少なくとも80%の配列同一性(例えば、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性)を有し、かつ、3’逆位末端反復配列は、配列番号7のヌクレオチド3010~3139に対して少なくとも80%の配列同一性(例えば、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性)を有する。
【0013】
いくつかの実施形態では、核酸ベクターは、ウイルスベクター、プラスミド、コスミド、または人工染色体である。いくつかの実施形態では、核酸ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、及びレンチウイルスからなる群から選択されるウイルスベクターである。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、AAVベクターである。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV2quad(Y-F)、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、rh10、rh39、rh43、rh74、Anc80、Anc80L65、DJ/8、DJ/9、7m8、PHP.B、PHP.eB、またはPHP.Sキャプシドを有する。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、AAV1キャプシドを有する。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、AAV9キャプシドを有する。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、AAV6キャプシドを有する。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、AAV8キャプシドを有する。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、Anc80キャプシドを有する。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、Anc80L65キャプシドを有する。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、DJ/9キャプシドを有する。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、7m8キャプシドを有する。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、AAV2キャプシドを有する。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、PHP.Bキャプシドを有する。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、AAV2quad(Y-F)キャプシドを有する。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、PHP.Sキャプシドを有する。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、PHP.eBキャプシドを有する。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、AAV3キャプシドを有する。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、AAV4キャプシドを有する。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、AAV5キャプシドを有する。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、AAV7キャプシドを有する。
【0014】
本発明のウイルスベクターの作成には、典型的には本発明のプラスミドを、適切なウイルスパッケージング及び生存度のために必要とされるエレメントを提供する補助的なプラスミド(例えば、AAVの場合、適切なAAV・rep遺伝子、cap遺伝子、及びその他の遺伝子(例えばE2A及びE4)を提供するプラスミド)と共に使用する必要があることを当業者であれば理解するであろう。産生細胞株におけるこれらのプラスミドの組み合わせにより、ウイルスベクターが作られる。しかし、本発明の移入プラスミド(例えば、配列番号7、8、または9)において任意の所与の一対の逆位末端反復配列がウイルスベクターを作成するために使用され、ウイルスベクター内の対応する配列は、遺伝子組換えの間に「フリップ」または「フロップ」方向付けを取り入れるITRに起因して変更され得ることを、当業者であれば理解されるであろう。したがって、移入プラスミド内のITRの配列は、必ずしもそれに由来して調製されるウイルスベクターで見られる配列と同じものであるわけではない。しかし、いくつかの非常に特別な実施形態では、本発明のウイルスベクターは、配列番号7のヌクレオチド1~3139を含む。
【0015】
別の態様において、本発明は、本発明の核酸ベクターを含有する組成物を提供する。いくつかの実施形態では、組成物は、薬学的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤をさらに含む。
【0016】
別の態様において、本発明は、導入遺伝子に操作可能に連結された、配列番号1~6のうち任意の1つに対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有するポリヌクレオチドを提供する。いくつかの実施形態において、ポリヌクレオチドは、配列番号1に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有する。いくつかの実施形態において、ポリヌクレオチドは、配列番号2に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有する。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号3に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有する。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号4に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有する。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号5に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有する。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号6に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有する。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号3の配列を有する。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号4の配列を有する。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号5の配列を有する。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号6の配列を有する。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号2の配列を有する。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号1の配列を有する。
【0017】
いくつかの実施形態では、導入遺伝子は、異種導入遺伝子である。前述の態様のいくつかの実施形態では、導入遺伝子は、タンパク質(例えば、治療用タンパク質、またはレポータータンパク質)、siRNA、ASO、ヌクレアーゼ(例えば、Cas9、TALEN、ZFN、またはgRNA)をコードするか、またはマイクロRNAである。いくつかの実施形態では、タンパク質は、治療用タンパク質である。
【0018】
いくつかの実施形態では、治療用タンパク質は、Sox9、Sall2、Camta1、Hey2、Gata2、Hey1、Lass2、Sox10、Gata3、Cux1、Nr2f1、Hes1、Rorb、Jun、Zfp667、Lhx3、Nhlh1、Mxd4、Zmiz1、Myt1、Stat3、Barhl1、Tox、Prox1、Nfia、Thrb、Mycl1、Kdm5a、Creb314、Etv1、Peg3、Bach2、Isl1、Zbtb38、Lbh、Tub、Hmg20、Rest、Zfp827、Aff3、Pknox2、Arid3b、Mlxip、Zfp532、Ikzf2、Sall1、Six2、Sall3、Lin28b、Rfx7、Bdnf、Gfi1、Pou4f3、Myc、Ctnnb1、Sox2、Sox4、Sox11,Tead2、Atoh1、またはAtoh1変異体(例えば、S328A、S331A、S334A、S328A/S331A、S328A/S334A、S331A/S334A、及びS328A/S331A/S334からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を有するAtoh1変異体)である。いくつかの実施形態では、治療用タンパク質は、Atoh1(例えば、ヒトAtoh1)である。いくつかの実施形態では、Atoh1タンパク質は、1つ以上(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20もしくはそれ以上)の保存的アミノ酸置換を有する配列番号10の配列またはその変異体を含む。いくつかの実施形態では、Atoh1タンパク質変異体の10%以下(10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、またはそれ以下)のアミノ酸は、保存的アミノ酸置換である。いくつかの実施形態では、Atoh1タンパク質は、配列番号10の配列で構成される。いくつかの実施形態では、Atoh1タンパク質は、配列番号11の配列によってコードされる。
【0019】
別の態様において、本発明は、前述の態様及び実施形態のいずれかのポリヌクレオチドまたは核酸ベクターを含む細胞(例えば、VSCなどの、哺乳動物細胞、ヒト細胞)を提供する。いくつかの実施形態では、細胞は、哺乳類VSCである。いくつかの実施形態では、哺乳類VSCは、ヒトVSCである。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号1~6のうち任意の1つに対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有する。
【0020】
別の態様において、本発明は、哺乳類VSCを前述の態様及び実施形態のいずれかの核酸ベクターまたは組成物と接触させることによって、哺乳類VSCで導入遺伝子を発現させる方法を提供する。いくつかの実施形態では、導入遺伝子は、VSCで特異的に発現する。いくつかの実施形態では、哺乳類VSCは、ヒトVSCである。
【0021】
別の態様において、本発明は、有効量の本発明の核酸ベクターまたは組成物を対象に投与することによって、前庭機能障害を有するか、または発症するリスクを有する対象を治療する方法を提供する。いくつかの実施形態では、前庭機能障害は、眩暈、めまい、平衡失調、両側前庭機能低下、両側前庭機能不全、動揺視、または平衡障害である。いくつかの実施形態では、前庭機能障害は、加齢性前庭機能障害、頭部外傷性前庭機能障害、疾患もしくは感染関連性前庭機能障害、または耳毒性薬誘発性前庭機能障害である。いくつかの実施形態では、前庭機能障害は、遺伝子変異に関連している。
【0022】
別の態様において、本発明は、有効量の本発明の核酸ベクターまたは組成物を対象に投与することによって、それを必要とする対象における前庭有毛細胞の再生を誘導または向上させる方法を提供する。
【0023】
別の態様において、本発明は、有効量の本発明の核酸ベクターまたは組成物を対象に投与することによって、それを必要とする対象におけるVSCの増殖を誘導または増加させる方法を提供する。
【0024】
別の態様において、本発明は、有効量の本発明の核酸ベクターまたは組成物を対象に投与することによって、それを必要とする対象における前庭有毛細胞の増殖を誘導または増加させる方法を提供する。
【0025】
別の態様において、本発明は、有効量の本発明の核酸ベクターまたは組成物を対象に投与することによって、それを必要とする対象における前庭有毛細胞の成熟を誘導または向上させる方法を提供する。いくつかの実施形態では、前庭有毛細胞は、再生された前庭有毛細胞である。
【0026】
別の態様において、本発明は、有効量の本発明の核酸ベクターまたは組成物を対象に投与することによって、それを必要とする対象におけるVSCの生存を増加させる方法を提供する。
【0027】
別の態様において、本発明は、有効量の本発明の核酸ベクターまたは組成物を対象に投与することによって、それを必要とする対象における前庭有毛細胞の生存を増加させる方法を提供する。
【0028】
別の態様において、本発明は、有効量の本発明の核酸ベクターまたは組成物を対象に投与することによって、それを必要とする対象における前庭有毛細胞の神経支配を誘導または向上させる方法を提供する。
【0029】
前述の態様のうちいずれかのいくつかの実施形態では、対象は、前庭機能障害(例えば、めまい、眩暈、平衡失調、両側前庭機能低下、両側前庭機能不全、動揺視、または平衡障害)を有するか、または発症するリスクを有する。
【0030】
別の態様において、本発明は、有効量の本発明の核酸ベクターまたは組成物を対象に投与することによって、両側前庭機能不全を有するか、または発症するリスクを有する対象を治療する方法を提供する。いくつかの実施形態では、両側前庭機能不全は耳毒性薬誘発性両側前庭機能不全である。
【0031】
前述の態様のうちいずれかのいくつかの実施形態では、耳毒性薬は、アミノグリコシド、抗腫瘍薬、エタクリン酸、フロセミド、サリチル酸塩、及びキニンからなる群から選択される。
【0032】
別の態様において、本発明は、有効量の本発明の核酸ベクターまたは組成物を対象に投与することによって、動揺視を有するか、または発症するリスクを有する対象を治療する方法を提供する。
【0033】
別の態様において、本発明は、有効量の本発明の核酸ベクターまたは組成物を対象に投与することによって、両側前庭機能低下を有するか、または発症するリスクを有する対象を治療する方法を提供する。
【0034】
別の態様において、本発明は、有効量の本発明の核酸ベクターまたは組成物を対象に投与することによって、平衡障害(例えば、平衡失調)を有するか、または発症するリスクを有する対象を治療する方法を提供する。
【0035】
前述の態様のうちいずれかのいくつかの実施形態では、方法は、核酸ベクターまたは組成物を投与する前に、対象の前庭機能を評価することをさらに含む。前述の態様のうちいずれかのいくつかの実施形態では、方法は、核酸ベクターまたは組成物を投与した後に、対象の前庭機能を評価することをさらに含む。
【0036】
前述の態様のうちいずれかのいくつかの実施形態では、核酸ベクターまたは組成物は、局所的に投与される。いくつかの実施形態では、核酸ベクターまたは組成物は、半規管に投与される。いくつかの実施形態では、核酸ベクターまたは組成物は、経鼓膜的または鼓室内的に(例えば、経鼓膜注射または鼓室内注射を介して)投与される。いくつかの実施形態では、核酸ベクターまたは組成物は、外リンパまたは内リンパに投与され、例えば、卵円窓、正円窓、または半規管(例えば、水平半規管)を通して、例えば、前庭支持細胞に投与される。いくつかの実施形態では、本発明の核酸ベクターまたは組成物は、外リンパに投与される。いくつかの実施形態では、本発明の核酸ベクターまたは組成物は、内リンパに投与される。いくつかの実施形態では、本発明の核酸ベクターまたは組成物は、卵円窓に、または卵円窓を通して投与される。いくつかの実施形態では、本発明の核酸ベクターまたは組成物は、正円窓に、または正円窓を通して投与される。
【0037】
前述の態様のうちいずれかのいくつかの実施形態では、核酸ベクターまたは組成物は、前庭機能障害を予防または軽減するか、前庭機能障害の発症を遅らせるか、前庭機能障害の進行を遅らせるか、前庭機能を改善させるか、前庭有毛細胞数を増加させるか、前庭有毛細胞成熟を向上させるか、前庭有毛細胞増殖を増加させるか、前庭有毛細胞再生を向上させるか、前庭有毛細胞神経支配を向上させるか、VSC増殖を増加させるか、またはVSC数を増加させるのに十分な量で投与される。
【0038】
いくつかの実施形態では、対象は、ヒトである。
【0039】
別の態様において、本発明は、本発明の核酸ベクターまたは本発明の組成物を含むキットを提供する。
【0040】
定義
本明細書中で使用する場合、「投与」とは、任意の有効な経路によって、対象に治療薬(例えば、導入遺伝子に操作可能に連結された溶質キャリアファミリー6メンバー14(SLC6A14)プロモーターを含む核酸ベクター)を提供するか、または与えることを指す。例示的な投与経路を、本明細書において以下に記載する。
【0041】
本明細書中で使用する場合、用語「細胞型」とは、遺伝子発現データに基づいて統計的に分離可能な表現型を共有する細胞群を指す。例えば、一般的な細胞型の細胞は、同様の構造的特徴及び/または機能的特徴、例えば、同様の遺伝子活性化パターン及び抗原提示特性を共有している場合がある。一般的な細胞型の細胞には、生物内の一般的な組織(例えば、上皮組織、神経組織、結合組織、または筋組織)及び/または一般的な臓器、組織系、血管、または他の構造及び/または領域から分離された細胞が含まれ得る。
【0042】
本明細書中で使用する場合、用語「保存的変異」、「保存的置換」、及び「保存的アミノ酸置換」とは、1つ以上のアミノ酸から、極性、静電荷、及び立体化学的ボリュームなどの同様の物理化学的特性を示す1つ以上の異なるアミノ酸への置換を指す。これらの特性を、天然の20種のアミノ酸のそれぞれについて、以下の表1に要約する。
【表1】

この表によれば、保存的アミノ酸のファミリーには(i)G、A、V、L及びI;(ii)D及びE;(iii)C、S及びT;(iv)H、K及びR;(v)N及びQ;ならびに(vi)F、Y及びWが含まれる。したがって、保存的変異または置換とは、あるアミノ酸を、同じアミノ酸ファミリーのメンバーで置換する変異または置換である(例えば、ThrをSerに、またはArgをLysに置換)。
【0043】
本明細書中で使用する場合、本明細書に記載の組成物、ベクター構築物、またはウイルスベクターの「有効量」、「治療有効量」、及び「十分な量」という用語は、哺乳類、例えばヒトを含む対象に投与する場合に、臨床結果を含む有益なまたは望ましい結果をもたらすのに十分な量を指し、したがって、その「有効量」またはその同義語は、それが適用されている状況に依存する。例えば、前庭機能障害の治療に関して、それは、組成物、ベクター構築物、またはウイルスベクターを投与せずに得られる応答と比較して、治療応答を実現するのに十分な組成物、ベクター構築物、またはウイルスベクターの量である。そのような量に対応する本明細書に記載の所与の組成物の量は、所与の薬剤、医薬製剤、投与経路、疾患もしくは障害のタイプ、対象の特性(例えば、年齢、性別、体重)または治療対象の宿主などの様々な要因に応じて変化するが、それにもかかわらず、当業者によって日常的に決定することができる。また、本明細書中で使用する場合、本開示の組成物、ベクター構築物、またはウイルスベクターの「治療有効量」は、対照と比較して、対象において有益なまたは所望の結果をもたらす量である。本明細書中で定義するように、本開示の組成物、ベクター構築物、またはウイルスベクターの治療有効量は、当業者であれば、当技術分野で公知の日常的な方法によって容易に決定し得る。投与計画を調整して、最適な治療応答を提供してもよい。
【0044】
本明細書中で使用する場合、用語「内因性」とは、特定の生物(例えば、ヒト)または生物内の特定の場所(例えば、器官、組織、または細胞、例えば、ヒト細胞、例えば、ヒト前庭支持細胞)に自然に見出される分子(例えば、ポリペプチド、核酸、または補因子)を表す。
【0045】
本明細書中で使用する場合、用語「発現する」とは、以下の事象、(1)DNA配列由来のRNAテンプレートの産生(例えば、転写による)、(2)RNA転写物のプロセシング(例えば、スプライシング、編集、5’キャップ形成、及び/または3’末端プロセシング)、(3)RNAからポリペプチドまたはタンパク質への翻訳、及び(4)ポリペプチドまたはタンパク質の翻訳後修飾、のうち1つ以上を指す。
【0046】
本明細書中で使用する場合、用語「外来性」とは、特定の生物(例えば、ヒト)または生物内の特定の場所(例えば、器官、組織、または細胞、例えば、ヒト細胞、例えば、ヒト前庭支持細胞)において、天然には見出されない分子(例えば、ポリペプチド、核酸、または補因子)を表す。外来性物質には、生物またはそこから抽出された培養物に対して、外部供給源から提供される物質が含まれる。
【0047】
本明細書中で使用する場合、用語「エキソン」とは、そのヌクレオチド配列が、対応するタンパク質のアミノ酸配列を決定する遺伝子のコード領域内の領域を指す。用語エキソンはまた、遺伝子から転写されたRNAの対応する領域を指す。エキソンは、mRNA前駆体に転写され、選択的スプライシングに依存して遺伝子の成熟mRNAに含まれる。プロセシング後の成熟mRNAに含まれるエキソンは、タンパク質に翻訳されるが、ここで、エキソンの配列がタンパク質のアミノ酸組成を決定する。
【0048】
本明細書中で使用する場合、用語「異種」とは、天然に存在しないエレメントの組み合わせを指す。例えば、異種導入遺伝子とは、それが操作可能に連結されているプロモーターによって自然に発現されない導入遺伝子を指す。
【0049】
本明細書中で使用する場合、用語「増加する」及び「減少する」とは、参照と比較して、それぞれ、より多いかまたはより少ない量の、機能、発現、または活性の計量をもたらす調節を指す。例えば、本明細書に記載の方法での組成物の投与に続いて、本明細書に記載の計量マーカー(例えば、導入遺伝子の発現)の量を、対象において、投与前のマーカー量に対して、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%もしくは98%またはそれ以上、増加または減少させてもよい。一般的に、計量は、投与によって記載の効果が得られる時点、例えば、治療レジメンを開始してから、少なくとも1週間、1か月、3か月、または6か月後に測定する。
【0050】
本明細書中で使用する場合、「局所的」または「局所投与」とは、全身的効果ではなく局所的効果を目的とした身体の特定の部位での投与を意味する。局所投与の例は、対象の皮膚上、吸入、関節内、髄腔内、膣内、硝子体内、子宮内、病変内投与、リンパ節投与、腫瘍内投与、中耳もしくは内耳への投与、及び粘膜への投与であり、その場合、投与は、全身的効果ではなく、局所的効果をもたらすことを目的とする。
【0051】
本明細書中で使用する場合、用語「操作可能に連結された」とは、第1の分子が第2の分子に結合されることを指し、その場合、この第1の分子は、第1の分子が第2の分子の機能に影響を与えるように配置される。2つの分子は、単一の切れ目のない分子の一部であってもよく、そうでなくてもよく、隣接していても、隣接していなくてもよい。例えば、プロモーターが細胞内の目的の転写可能なポリヌクレオチド分子の転写を調節する場合、そのプロモーターは転写可能なポリヌクレオチド分子に操作可能に連結されている。さらに、転写調節エレメントの2つの部分は、一方の部分の転写活性化機能が他方の部分の存在により悪影響を受けないようにそれらが結合している場合、互いに操作可能に連結している。2つの転写調節エレメントは、リンカー核酸(例えば、介在非コード核酸)を介して互いに操作可能に連結されるか、または介在ヌクレオチドが存在せずに互いに操作可能に連結されてもよい。
【0052】
本明細書中で使用する場合、用語「プラスミド」とは、追加のDNAセグメントをライゲートし得る染色体外環状二本鎖DNA分子を指す。プラスミドとは、ベクターのタイプであり、連結している別の核酸を輸送することができる核酸分子である。特定のプラスミドは、それらが導入される宿主細胞において自己複製が可能である(例えば、細菌の複製起点を有する細菌プラスミド及びエピソーム性哺乳類プラスミド)。他のベクター(例えば、非エピソーム性哺乳類ベクター)は、宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノムに組み込まれることが可能であり、それにより、宿主ゲノムとともに複製される。特定のプラスミドは、それらが操作可能に連結された遺伝子の発現を指示することができる。
【0053】
本明細書中で使用する場合、用語「ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオシドのポリマーを指す。一般的には、ポリヌクレオチドは、ホスホジエステル結合によって結合した、DNAまたはRNAに天然に見出されるヌクレオシド(例えば、アデノシン、チミジン、グアノシン、シチジン、ウリジン、デオキシアデノシン、デオキシチミジン、デオキシグアノシン、及びデオキシシチジン)から構成される。この用語には、天然の核酸に見出されるかどうかにかかわらず、化学的または生物学的に修飾された塩基、修飾された骨格などを有するヌクレオシドまたはヌクレオシド類似体を含む分子が包含され、そのような分子は特定の用途に好ましい場合がある。本出願がポリヌクレオチドに言及する場合、DNA、RNAの両方と、それぞれの場合における一本鎖及び二本鎖形態の両方(及び各一本鎖分子の相補体)が提供されることが理解される。本明細書中で使用する「ポリヌクレオチド配列」とは、ポリヌクレオチド物質自体及び/または特定の核酸を生化学的に特徴付ける配列情報(すなわち、塩基の略語として使用される一連の文字)を指し得る。本明細書中に提示するポリヌクレオチド配列は、特に明記しない限り、5’から3’の方向で示される。
【0054】
本明細書で使用する場合、用語「プロモーター」とは、RNAポリメラーゼが結合するDNA上の認識部位を指す。ポリメラーゼは、導入遺伝子の転写を促進する。
【0055】
参照ポリヌクレオチド配列または参照ポリペプチド配列に対する「配列同一性の割合(%)」とは、配列をアラインメントし、必要に応じてギャップを導入して、最大の配列同一性の割合を達成した後、参照ポリヌクレオチド配列または参照ポリペプチド配列内の核酸またはアミノ酸と同一である候補配列内の核酸またはアミノ酸の割合と定義される。核酸またはアミノ酸配列同一性割合を測定する目的のアラインメントは、例えば、BLAST、BLAST-2、またはMegalignソフトウェアなどの、一般に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用して、当業者の能力の範囲内の様々な方法で達成することができる。当業者は、比較されている配列の完全長にわたる最大のアラインメントを得るために必要とされる任意のアルゴリズムを含む配列をアラインメントするために適切なパラメータを決定することができる。例えば、配列同一性割合の値は、配列比較コンピュータプログラムBLASTを使用して生成することができる。例として、所与の核酸配列またはアミノ酸配列Aの、所与の核酸配列またはアミノ酸配列Bに対する配列同一性割合(あるいは、所与の核酸配列またはアミノ酸配列Aは、所与の核酸配列またはアミノ酸配列Bに対してある程度の配列同一性割合を有する、と表現することもできる)は、下記のように計算される。
100×(分数X/Y)
式中、Xは、AとBとのプログラムのアラインメントにおいて、配列アラインメントプログラム(例えば、BLAST)によって同一の一致としてスコアリングされたヌクレオチドまたはアミノ酸の数であり、Yは、Bの核酸の総数である。核酸配列またはアミノ酸配列Aの長さが核酸配列またはアミノ酸配列Bの長さと等しくない場合、Bに対するAの配列同一性割合は、Aに対するBの配列同一性割合と等しくないと考えられる。
【0056】
本明細書中で使用する場合、用語「医薬組成物」とは、対象に影響を与えるか、または対象に影響を与える可能性のある特定の疾患または病態を予防、治療または制御するために、場合により、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤、希釈剤、及び/または担体と組み合わせて、哺乳類、例えばヒトなどの対象に投与する治療薬を含む混合物を指す。
【0057】
本明細書中で使用する場合、用語「薬学的に許容される」とは、過度の毒性、刺激、アレルギー反応及び他の問題となる障害がなく、妥当なベネフィット/リスク比を有し、哺乳類(例えば、ヒト)などの対象の組織との接触に適した化合物、物質、組成物、及び/または剤形を指す。
【0058】
本明細書中で使用する場合、用語「転写調節エレメント」とは、目的の遺伝子の転写を少なくとも部分的に制御する核酸を指す。転写調節エレメントは、遺伝子転写を制御するか、または制御するのを支援するプロモーター、エンハンサー、及び他の核酸(例えば、ポリアデニル化シグナル)を含み得る。転写調節エレメントの例は、例えば、Lorence,Recombinant Gene Expression:Reviews and Protocols(Humana Press,New York,NY,2012)に記載されている。
【0059】
本明細書中で使用する場合、用語「形質移入」とは、原核生物または真核生物の宿主細胞への外来性DNAの導入に一般的に使用される任意の多種多様な技術、例えば、電気穿孔法、リポフェクション、リン酸カルシウム沈殿、DEAE-デキストラン形質移入法、Nucleofection、スクイーズポレーション、ソノポレーション、光学形質移入法、マグネトフェクション、インパレフェクションなどを指す。
【0060】
本明細書中で使用する場合、用語「対象」及び「患者」とは、動物(例えば、ヒトなどの哺乳動物)を指す。本明細書に記載の方法に従って治療する対象は、前庭機能障害(例えば、めまい、眩暈、または平衡失調)と診断された対象、またはこれらの病態を発症するリスクを有する対象であり得る。診断は、当技術分野で公知の任意の方法または技術によって実施してもよい。当業者であれば、本開示に従って治療する対象が、標準的な検査を受けている可能性があるか、または検査を受けていないが疾患もしくは病態に関連する1つ以上のリスク因子の存在に起因するリスクを有する対象として同定されている可能性があることを理解するであろう。
【0061】
本明細書中で使用する場合、用語「形質導入」及び「形質導入する」とは、ベクター構築物またはその一部を細胞に導入する方法を指す。ベクター構築物が、例えば、AAVベクターなどのウイルスベクターに含まれる場合、形質導入とは、細胞のウイルス感染、及びその後のベクター構築物またはその一部の細胞ゲノムへの移入及び組み込みを指す。
【0062】
本明細書で使用する場合、疾患または病態に言及する「治療」及び「治療すること」とは、有益な、または所望の結果、例えば臨床結果を得るためのアプローチを指す。有益な、または所望の結果としては、検出可能であるか検出不可能であるかにかかわらず、1つ以上の症状または病態の緩和または改善;疾患または病態の程度の減少;疾患、障害、または病態の状態の安定化(すなわち、悪化しないこと);疾患または病態の拡大の予防;疾患または病態の進行の遅延または減速;疾患または病態の改善または一時的軽減;及び、(部分的または完全)寛解を挙げることができるが、これらに限定されない。疾患または病態を「改善すること」または「一時的に軽減すること」とは、治療がない場合の程度または時間経過と比較して、疾患、障害、または病態の程度及び/または望ましくない臨床発現を減少させ、及び/または進行の時間経過を減速または延長させることを意味する。「治療」はまた、治療を受けていなかった場合に予想される生存期間と比較して、生存期間を延長することも意味し得る。治療を必要とする者としては、病態もしくは障害を既に有する者、及び病態もしくは障害を有する傾向にある者、または病態もしくは障害を予防する必要がある者が挙げられる。
【0063】
本明細書中で使用する場合、用語「ベクター」としては、核酸ベクター、例えば、プラスミド、コスミド、または人工染色体などのDNAベクター、RNAベクター、ウイルス、または任意の他の適切なレプリコン(例えば、ウイルスベクター)が挙げられる。外来性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを原核細胞または真核細胞に送達するために、様々なベクターが開発されてきた。そのような発現ベクターの例は、例えば、Gellissen,Production of Recombinant Proteins:Novel Microbial and Eukaryotic Expression Systems(John Wiley & Sons,Marblehead,MA,2006)に記載されている。本明細書に記載の組成物及び方法での使用に適した発現ベクターは、ポリヌクレオチド配列、及び、例えば、タンパク質の発現及び/または哺乳動物細胞のゲノムへのこれらのポリヌクレオチド配列の組み込みに使用する追加の配列エレメントを含む。本明細書に記載の導入遺伝子の発現に使用することができる特定のベクターには、遺伝子転写を指示するプロモーター及びエンハンサー領域などの調節配列を含むベクターが含まれる。導入遺伝子の発現のための他の有用なベクターは、導入遺伝子の翻訳速度を増強するか、または遺伝子転写から生じるmRNAの安定性または核外輸送を向上させるポリヌクレオチド配列を含む。これらの配列エレメントには、例えば、発現ベクター上に組み込まれた遺伝子の効率的な転写を指示するために、5’及び3’非翻訳領域ならびにポリアデニル化シグナル部位が含まれる。本明細書に記載の組成物及び方法での使用に適した発現ベクターはまた、そのようなベクターを含む細胞を選択するためのマーカーをコードするポリヌクレオチドを含み得る。適切なマーカーの例としては、アンピシリン、クロラムフェニコール、カナマイシン、またはノーセオスリシンなどの抗生物質に対する耐性をコードする遺伝子が挙げられる。
【0064】
本明細書で使用する場合、用語「前庭支持細胞」及び「VSC」とは、前庭有毛細胞の発達、生存、機能、死、及び食作用に関与する、内耳の前庭系における固有の上皮細胞の集団を指す。VSCは、前庭有毛細胞を感覚上皮に固定し、かつ有毛細胞神経支配に重要な神経栄養因子を放出することによって、前庭有毛細胞の構造を支持している。
【0065】
本明細書中で使用する場合、用語「前庭支持細胞特異的発現」または「VSC特異的発現」とは、主に前庭支持細胞内での、内耳の他の細胞型(例えば、前庭有毛細胞、蝸牛有毛細胞、蝸牛支持細胞、グリア、または他の内耳細胞型)と比較したRNA転写物またはポリペプチドの産生を指す。導入遺伝子のVSC発現は、任意の標準的な技術(例えば、定量的RT PCR、免疫組織化学、ウェスタンブロット分析、またはプロモーターに操作可能に連結されたレポーター(例えば、GFP)の蛍光測定)を使用して、内耳の様々な細胞型の間で(例えば、VSC対非VSCで)、導入遺伝子の発現(例えば、RNAまたはタンパク質の発現)を比較することによって確認することができる。VSC特異的プロモーターは、それが操作可能に連結されている導入遺伝子の発現(例えば、RNAまたはタンパク質の発現)を誘導し、その誘導される発現は、内耳細胞型:前庭神経節細胞、前庭器官の非感覚上皮細胞、前庭器官の暗細胞、前庭器官の間葉細胞、らせん神経節細胞、境界細胞、内指節細胞、内柱細胞、外柱細胞、第1列目のダイテルス細胞、第2列目のダイテルス細胞、第3列目のダイテルス細胞、ヘンゼン細胞、クラウディウス細胞、内溝細胞、外溝細胞、らせん隆起細胞、根細胞、歯間細胞、血管条の基底細胞、血管条の中間細胞、血管条の辺縁細胞、内耳有毛細胞、外有毛細胞、前庭有毛細胞、及びシュワン細胞のうち少なくとも3つ(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上)と比較して、VSCにおいて、少なくとも50%(例えば、50%、75%、100%、125%、150%、175%、200%以上)大きい。
【0066】
本明細書中で使用する場合、用語「野生型」とは、所与の生物における特定の遺伝子について最も出現頻度が高い遺伝子型を指す。
【図面の簡単な説明】
【0067】
図1A】単細胞RNA配列決定によって測定した際のマウス内耳組織での溶質キャリアファミリー6メンバー14(SLC6A14)発現を示したバイオリンプロットである。SLC6A14のバックグラウンド発現のみが蝸牛細胞型で観察された。
図1B】単細胞RNA配列決定によって測定した際のマウス内耳組織での溶質キャリアファミリー6メンバー14(SLC6A14)発現を示したバイオリンプロットである。強いSLC6A14発現が、卵形嚢及び内襞由来の支持細胞で見られた。
図2】ARCHS4データベースを使用した複数の組織の多数の細胞株でのSLC6A14発現の分析結果を示す。内因性SLC6A14の中間発現が最も高い3つの細胞株のうちの1つは、HepG2細胞株(ヒト肝臓癌)であった。
図3】HepG2細胞での異なるアデノ随伴ウイルス(AAV)血清型の形質導入効率を示す棒プロットである。サイトメガロウイルス(CMV)ヒト・ヒストンH2B緑色蛍光タンパク質(GFP)レポーターを、アデノ随伴ウイルス(AAV)1、AAV8、及びAAV9キャプシドにパッケージし、1×10ベクターゲノム(vg)/細胞の感染多重度(MOI)でHepG2細胞に形質導入した。フローサイトメトリーによって分析した細胞が、非形質導入(NT)細胞で測定されたバックグラウンドよりも高いGFPシグナルを発生させた場合、その細胞をGFP陽性としてカウントした。
図4A】SLC6A14プロモータープラスミドで形質移入したHepG2細胞でのGFP発現を示す棒プロットである。CMVまたはSLC6A14プロモーターの3つの変異体のうち1つをコードしているプラスミドでHepG2細胞を形質導入した。フローサイトメトリーによる検出で、試験したすべてのプラスミド、例えば、SLC6A14プロモーターを含むプラスミド(すなわち、配列番号3のプロモーター配列を含むP335 SLC6A14ヒトv1、配列番号5のプロモーター配列を含むP372 Slc6a14マウス、及び配列番号4のプロモーター配列を含むP530 SLC6A14ヒトv2)で検出可能なGFPシグナルが観察された。
図4B】SLC6A14プロモータープラスミドで形質移入したHepG2細胞でのGFP発現を示す棒プロットである。CMVまたはSLC6A14プロモーターの3つの変異体のうち1つをコードしているプラスミドでHepG2細胞を形質導入した。CMV対照よりも強いGFPシグナルを発生したGFP陽性の細胞を抽出した。
図5】A~Eは、種々のプロモーターの制御下で核GFPを形質移入したHepG2細胞を示した一連の蛍光画像である。形質移入していない対照細胞ではGFPシグナルは見られなかった(A)。GFP陽性核が、P329 CMV(B)、P335 SLC6A14 v1(配列番号3のプロモーター配列を含む、C)、P372 SLC6A14 v1(配列番号5のプロモーター配列を含む、D)、及びP530 SLC6A14 v2(配列番号4のプロモーター配列を含む、E)を含む4つの異なるプラスミドで観察された。
図6】CMV、SLC6A14(マウスプロモーター番号1、配列番号5)、SLC6A14(マウスプロモーター番号2、配列番号6)、SLC6A14(ヒトプロモーター番号3、配列番号3)、及びSLC6A14(ヒトプロモーター番号4、配列番号4)を含む、複数のプロモーターの制御下でのGFPをコードしているAAV8ベクターによるHepG2細胞の形質導入を示す。細胞は1×10vg/細胞のMOIで形質導入した。全てのプロモーターがGFP陽性細胞を産生し、ウイルスによって運ばれる場合にプロモーターが機能することを示した。
図7A】SLC6A14マウスプロモーター番号1(配列番号5)の制御下でのGFPのウイルス形質導入を示した蛍光画像である。GFP発現が、有毛細胞(POUクラス4ホメオボックス3(Pou4f3))及び支持細胞(スパルト様転写因子2(Sall2))を含む感覚上皮の全体にわたって観察された。
図7B】SLC6A14マウスプロモーター番号1(配列番号5)の制御下でのGFPのウイルス形質導入を示した蛍光画像である。卵形嚢の横断図は、GFP標識がSall2陽性支持細胞核と一致するが、Pou4f3陽性有毛細胞核とは一致しないことを示している。
図7C】SLC6A14マウスプロモーター番号1(配列番号5)の制御下でのGFPのウイルス形質導入を示した蛍光画像である。GFP発現が、外植した内襞で観察された。
図7D】SLC6A14マウスプロモーター番号1(配列番号5)の制御下でのGFPのウイルス形質導入を示した蛍光画像である。内襞の横断図は、GFP発現が主に支持細胞と共局在することを示している。
図8A】SLC6A14マウスプロモーター番号2(配列番号6)の制御下でのGFPのウイルス形質導入を示した蛍光画像である。GFP発現が、有毛細胞(Pou4f3)及び支持細胞(Sall2)を含む卵形嚢感覚上皮の小さな部分でのみ観察された。
図8B】SLC6A14マウスプロモーター番号2(配列番号6)の制御下でのGFPのウイルス形質導入を示した蛍光画像である。卵形嚢の横断図は、GFP標識がSall2陽性支持細胞核と一致するが、Pou4f3陽性有毛細胞核の一部とも一致することを示している。
図8C】SLC6A14マウスプロモーター番号2(配列番号6)の制御下でのGFPのウイルス形質導入を示した蛍光画像である。GFP発現が、外植した内襞において低レベルで観察された。
図8D】SLC6A14マウスプロモーター番号2(配列番号6)の制御下でのGFPのウイルス形質導入を示した蛍光画像である。内襞の横断図は、GFP発現が主に支持細胞と共局在するが、同様に非特異的領域でも見られることを示している。
図9】A~Cは、成体マウスの後骨半規管への局所注射を介したAAV8-SLC6A14マウスプロモーター番号1(配列番号5)-H2B-GFPのウイルスベクター投与後のマウス前庭器官におけるGFP発現を示した一連の蛍光画像である。GFP発現は、SLC6A14プロモーターAAVの局所投与後、マウス内耳の卵形嚢(A)、球形嚢(B)、及び内襞(C)で観察された。
図10】内耳組織でのGFP発現の特異性を示す画像である。マウス内耳の内耳ヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色により、GFPタンパク質を対比染色して、蝸牛の球形嚢、卵形嚢、内襞、及び中央階におけるGFP発現細胞の核を同定した。上部パネルの画像は、ヘマトキシリン及びGFP染色の両方を示している。次に、下部パネルの画像が示しているように、元のRGB画像から赤色のチャネル(GFP)のみを取り除いてGFP染色を強調するように画像をフィルタリングした。染色により、前庭器官の支持細胞核で特異的発現が見られたが、有毛細胞ではGFPはほとんど検出されなかった。コルチ器官または血管条を含む蝸牛組織では、GFPは検出されなかった。
図11】A~Bは、SLC6A14プロモーターが、GFP発現を支持細胞に限定することを示す一連の画像である。マウス内耳の内耳H&E切片を、GFPタンパク質に対して対比染色して、GFP発現細胞の核を同定した(A)。近接切片では、AAVベクターゲノムのウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)を、RNAScopeプローブで標識した(B)。次に、示されている切片ごとに、A~Bのそれぞれの右側のパネルが示しているように、GFP染色(A)またはRNAScope染色(B)を強調するために元のRGB画像から赤色のチャネルを取り除くように画像をフィルタリングした。感覚上皮の下の有毛細胞、支持細胞、及び間葉細胞で、多数のベクターゲノムを検出することができ、これは、GFP発現ベクターが複数の細胞型を形質導入することを意味している。しかし、GFP発現は、支持細胞でのみ検出された。
図12】A~Dは、新しい有毛細胞での支持細胞特異的プロモーターを介したAtoh1導入遺伝子発現のサイレンシングにより、さらなる成熟が誘導されることを示す一連のグラフである。卵形嚢をオスのC57Bl/6Jマウス(6~8週齡)から解離し、100μlの基礎培地で培養した。有毛細胞を殺傷するためにゲンタマイシン(0.5mg/mL)を培地に加え、24時間後にゲンタマイシンを洗い流し、1×1012gc:AAV8-CMV-Atoh1-2A-H2BGFP(CMVプロモーターグループ)、AAV8-GFAP-Atoh1-2A-H2BGFP(支持細胞(SC)特異的プロモーターグループ)、またはAAV8-RLBP1-Atoh1-2A-H2BGFP(SC特異的プロモーターグループ)の用量でこれらのAAVのうち1つを含有する250μLの新鮮な培地に置き換えた。1日のインキュベーションの後、ウイルスを洗い流し、2mLの新鮮な培地で卵形嚢をさらに3、8、または16日間培養した。培養期間の最後に、卵形嚢を分離して、単一の細胞を採取し、単細胞RNA-seq向けに調製した。胚18日目(E18)、生後12日目(P12)、及び成体マウスから作成された卵形嚢有毛細胞の単細胞RNA-Seqプロファイルのデータベースと比較することによって、Seuratで予測スコアを作成した。成体卵形嚢外植片内で再生した有毛細胞のAtoh1導入遺伝子発現及び成熟予測スコアを示すバイオリンプロットを作成した。Atoh1導入遺伝子は、SC特異的プロモーターグループの再生した有毛細胞では、わずかなレベルすなわち検出不可能なレベルでしか発現しなかったが、その一方で、CMVグループのほぼ全ての有毛細胞では、高レベルで発現した(A)。これらの結果により、Atoh1導入遺伝子は、SC特異的プロモーターによって誘導される場合に、再生した有毛細胞で自然に下方制御することが実証された。加えて、SC特異的プロモーターグループの単細胞RNA-Seqプロファイルの多くが、CMVグループのものよりもP12(C)、及び成体有毛細胞(D)とより強く相関した。逆に、CMVグループのより多くの単細胞RNA-Seqプロファイルが、SC特異的プロモーターグループのものよりもE18有毛細胞(B)とより強く相関した。したがって、SC特異的プロモーターによるAtoh1導入遺伝子の天然サイレンシングが、再生した有毛細胞の成熟を誘導した。
図13】A~Bは、ヒトSLC6A14プロモーターもまた、GFP発現をマウスの前庭支持細胞に限定することを示す一連の画像である。Aは、H2B-GFPの発現を誘導する(GFPの核発現をもたらす)ヒトSLC6A14プロモーター(配列番号4)を含むAAV8ベクターを注射された成体マウスの、平らにスライド上に固定した卵形嚢(上部の3パネル)及び後内襞(下部の3パネル)の最大強度の共焦点zスタック投影を示す。すべての核をDAPIで標識し(各パネルの最初の画像)、支持細胞核をSall2に対する抗体で免疫標識した(各パネルの2番目の画像)。非感覚細胞のDAPI標識は、Sall2によって画定された感覚上皮の領域まで広がっていた。核GFP発現(各パネルの3番目の画像)は、感覚上皮内に限定され、Sall2で標識された領域には広がらなかった。Bは、Aに示した卵形嚢の共焦点zスタックを通した直交断面図を示している。DAPI標識は、図の上から下への有毛細胞核の多列層、その下の支持細胞核の単層、及び支持細胞の下の間葉細胞の核を示している。Sall2標識は、支持細胞核及び有毛細胞核の小部分集合に限られた。Pou4f3は、すべての有毛細胞核を標識した。GFP発現は、支持細胞核だけに顕著に限定され、これにより、プロモーター配列の特異性が実証された。
図14】A~Bは、非ヒト霊長類におけるヒトSLC6A14プロモーターの活性を実証する一連の画像である。Aは、H2B-GFPの発現を誘導する(GFPの核発現をもたらす)ヒトSLC6A14プロモーター(配列番号4)を含むAAV8ベクターを注射した成体非ヒト霊長類の、平らにスライド上に固定した卵形嚢の最大強度の共焦点zスタック投影を示している。すべての核をDAPIで標識した。核GFP発現は、感覚上皮に限られ、非感覚上皮には広がらなかった(右側のパネルの破線で示したものが感覚上皮及び非感覚上皮の間の境界である)。Bは、H&Eで染色した(上部の図)卵形嚢のFFPE切片を示しており、次に、GFP染色を強調するために元のRGB画像から赤色のチャネルを取り除くようにフィルタリングしたものである。核GFP発現(色の濃い核)が支持細胞の大部分で検出された。
図15】A~Bは、ATOH1発現を誘導するヒトSLC6A14プロモーターを含むAAV8ベクターが、in vivoでIDPN損傷マウスモデルにおいて有毛細胞を再生したことを示す。Aは、前庭有毛細胞を殺傷するために3,3’イミノジプロピオニトリル(IDPN)を全身投与し、次にATOH1及びH2B-GFP融合タンパク質(核GFP)の共発現を誘導するヒトSLC6A14プロモーターを含むAAV8ベクターを左耳に局所投与した成体マウスの、右及び左耳の平らにスライド上に固定した卵形嚢の最大強度の共焦点zスタック投影を示している。有毛細胞を、Pou4f3に対する抗体で免疫標識した。未処置の右耳(左のパネル)は、処置済みの左耳(右のパネル)と比べると有毛細胞密度が明らかに低いことを示した。Bは、処置済みの耳及び未処置の耳のPou4f3細胞を定量化したものを示した棒グラフである。未処置の耳と比べると、処置済みの耳は、有毛細胞が統計的に極めて多いことを示した(n=6、スチューデントのt検定、p<0.01)。
図16】4つの異なるベクター用量のATOH1及びH2B-GFP融合タンパク質(核GFP)の共発現を誘導するヒトSLC6A14プロモーターを含むAAV8ベクターに応答した、in vivoでのIDPN損傷マウスモデルにおける有毛細胞再生を示したグラフである。有毛細胞をPou4f3に対する抗体で免疫標識し、再生した有毛細胞の数を、マウスごとに処置済みの左耳から未処置の右耳の数を減算することによって測定した。エラーバーはS.E.Mを示している。
図17】A~Bは、ATOH1の発現を誘導するヒトSLC6A14プロモーターを含むAAV8ベクターが、in vivoで成体マウスゲンタマイシン損傷モデルにおいて有毛細胞を再生する能力を示す。Aは、前庭有毛細胞を殺傷するためにゲンタマイシンを左耳に局所投与し、次にATOH1及びH2B-GFP融合タンパク質(核GFP)の共発現を誘導するヒトSLC6A14プロモーターを含むAAV8ベクター(「AAV.ATOH1」)を同じ耳に注射した成体マウスの、平らにスライド上に固定した卵形嚢の一連の最大強度の共焦点zスタック投影を示している。有毛細胞を、Pou4f3に対する抗体で免疫標識した。媒体処置済み・ゲンタマイシン損傷(「ゲンタマイシン(生理食塩水)」)卵形嚢は、AAV8ベクター処置済み・ゲンタマイシン損傷卵形嚢(「AAV.ATOH1」)と比べると有毛細胞密度が明らかに低いことを示した。媒体制御卵形嚢と比べると、ATOH1処置済み卵形嚢の有毛細胞密度は上昇したことが明かとなった。Bは、種々の治療剤に対するPou4f3+核を定量化したものを示した散布図である。ゲンタマイシン損傷・AAV8ベクター処置済みの耳は、ゲンタマイシン損傷・媒体処置済みの耳と比べて有毛細胞数が著しく多いことを示した(n=12~14、テューキーの検定を伴うANOVA、p<0.05)。
図18】配列番号7の導入遺伝子プラスミド(プラスミドP760)のマップである。
図19】配列番号9の導入遺伝子プラスミド(プラスミドP530)のマップである。
図20】配列番号8の導入遺伝子プラスミド(プラスミドP625)のマップである。
図21】配列番号3のヒトSLC6A14プロモーターを含む導入遺伝子プラスミドP335のマップである。
図22】配列番号5のマウスSLC6A14プロモーターを含む導入遺伝子プラスミドP372のマップである。
図23】配列番号6のマウスSLC6A14プロモーターを含む導入遺伝子プラスミドP373のマップである。
【発明を実施するための形態】
【0068】
内耳の前庭支持細胞(VSC)において導入遺伝子の特異的発現を誘導するための組成物及び方法について本明細書に記載する。本発明は、VSCにおいて導入遺伝子を特異的に発現させることができる溶質キャリアファミリー6メンバー14(SLC6A14)プロモーターの領域を含むポリヌクレオチドを特徴とする。本発明はまた、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに操作可能に連結された上記プロモーターを含む核酸ベクターをさらに特徴とする。本明細書に記載の組成物及び方法を使用して、VSCで構造的及び栄養作用的支持を前庭有毛細胞に提供するタンパク質(例えば、治療用タンパク質、レポータータンパク質、または他の目的のタンパク質)をコードするポリヌクレオチドを特異的に発現させることができ、その結果、本明細書に記載の組成物は、前庭機能障害が原因で起こる平衡障害などの前庭有毛細胞の機能不全が原因の障害を治療するために、対象(哺乳動物対象、例えば、ヒト)に投与することができる。
【0069】
支持細胞
前庭系の支持細胞は、内耳に存在する固有の上皮細胞である。VSCは、標準的な前庭機能に必要である重大な構造的、発達的、かつ栄養作用的な活動を媒介する解剖学的かつ形態的に同種の細胞のクラスを構成する。VSCは、内耳の卵形嚢、球形嚢、及び半規管に存在し、平衡感覚及び空間方向感覚を担う運動感覚に関与する末梢前庭系の原発性感覚細胞である前庭有毛細胞の構造的アンカーとして機能する。前庭蝸牛神経から有毛細胞へのシナプシスの形式は、VSCによって分泌される神経栄養因子によって媒介され、それによって適切な前庭機能の確立及び維持が促進される。さらに、VSCは、細胞外及び細胞内カルシウムシグナル伝達、ならびにファゴソームと呼ばれる食作用多細胞構造体の形成のそれらの制御によって、前庭有毛細胞の生存、死、及び食作用クリアランスの重要な媒介物質として機能し、それにより死んだ有毛細胞また死にかけている有毛細胞を取り除いて感覚上皮の統合性を維持する。前庭有毛細胞の機能を破壊する前庭有毛細胞の損傷及び遺伝子変異は、平衡失調及び眩暈(例えば、めまい)などの前庭機能障害に関係している。近年、前庭機能障害を治療するための魅力的な治療アプローチとして遺伝子治療が注目されているが、この分野には、前庭系の支持細胞に対する遺伝子治療で使用される核酸ベクターに着目した方法が存在しない。
【0070】
本発明は、SLC6A14が内耳のVSCで特異的に発現するという発見に部分的に基づくものである。SLC6A14は、中性アミノ酸及び正電荷アミノ酸の両方をナトリウム及び塩化物依存的に輸送することができるナトリウム及び塩化物依存性神経伝達物質輸送体をコードする遺伝子であり、これまでに内耳での発現が確認されていなかった。本明細書にて開示するSLC6A14プロモーター配列は、内耳におけるVSC特異的な遺伝子発現を誘導する。したがって、本明細書に記載の組成物及び方法を使用して、VSCにおいて目的の遺伝子(例えば、前庭有毛細胞発達、前庭有毛細胞運命の特定、前庭有毛細胞再生、前庭有毛細胞及び/またはVSC増殖、前庭有毛細胞神経支配、または前庭有毛細胞成熟に関与する遺伝子、あるいは前庭機能障害を有する対象において破壊されている、例えば変異していることが知られている遺伝子)を発現させて、前庭機能障害(例えば、眩暈、めまい、または平衡失調)を有するか、または発症するリスクを有する対象を治療することができる。
【0071】
本明細書に記載の組成物及び方法は、表2に挙げたポリヌクレオチド配列のうち任意の1つ(例えば、配列番号1~6のうち任意の1つ)に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有する核酸配列など、VSCまたはその変異体において導入遺伝子を特異的に発現することができる表2に記載のSLC6A14プロモーター(例えば、配列番号1~6のうち任意の1つ)を含む。本明細書に記載のポリヌクレオチドは、SLC6A14遺伝子の翻訳開始部位(TSS)の上流及び下流の両方に位置する領域を含み得るか、SLC6A14遺伝子の上流領域のみを含む場合がある。
【0072】
前述の核酸配列の概要を下記表2に示す。
【表2-1】

【表2-2】

【表2-3】

【表2-4】

【表2-5】

【表2-6】

【表2-7】

【表2-8】

【表2-9】

【表2-10】

【表2-11】

【表2-12】
【0073】
哺乳動物細胞における外来性核酸の発現
本明細書に記載の組成物及び方法を使用して、目的のタンパク質をコードする核酸配列に操作可能に連結されたSLC6A14プロモーター(例えば、SLC6A14プロモーターの配列(例えば、配列番号1~6のうち任意の1つ)に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有するポリヌクレオチド)を含む核酸ベクターを投与することによって、例えば、VSCにおいて目的の遺伝子(例えば、前庭機能障害に関与する野生型形態の遺伝子、あるいは前庭有毛細胞発達、前庭有毛細胞運命の特定、前庭有毛細胞再生、前庭有毛細胞及び/またはVSC増殖、前庭有毛細胞神経支配、または前庭有毛細胞成熟に関与する遺伝子)によってコードされるタンパク質の発現を誘導または増加させることができる。哺乳動物細胞へのタンパク質の送達、及び哺乳動物細胞におけるタンパク質をコードする遺伝子の安定的な発現のための幅広い方法がこれまでに確立されている。本明細書に記載の組成物に関連して発現される場合があるタンパク質(例えば、タンパク質をコードする導入遺伝子が、SLC6A14プロモーター(例えば、表2に挙げた配列のうち任意の1つ(例えば、配列番号1~6のうち任意の1つのポリヌクレオチド)に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有するポリヌクレオチド)に操作可能に連結されている場合)は、健康なVSCに発現しているタンパク質(例えば、前庭有毛細胞発達、前庭有毛細胞運命の特定、前庭有毛細胞再生、前庭有毛細胞及び/またはVSC増殖、前庭有毛細胞神経支配、または前庭有毛細胞成熟の役割を果たすタンパク質、あるいは前庭機能障害を有する対象において不足しているタンパク質)、あるいは他の目的のタンパク質である。本明細書に記載の組成物及び方法を使用してVSCで発現することができるタンパク質としては、スパルト様転写因子2(Sall2)、カルモジュリン結合転写活性化因子1(Camta1)、YRPWモチーフ2を有するHes関連ファミリーBHLH転写因子(Hey2)、Gata結合タンパク質2(Gata2)、YRPWモチーフ1を有するHes関連ファミリーBHLH転写因子(Hey1)、セラミドシンターゼ2(Lass2)、SRYボックス10(Sox10)、GATA結合タンパク質3(Gata3)、Cut様ホメオボックス1(Cux1)、核受容体サブファミリー2群Fメンバー(Nr2f1)、Hes関連ファミリーBHLH転写因子(Hes1)、RAR関連オーファン受容体B(Rorb)、Junがん原遺伝子AP-1転写因子サブユニット(Jun)、ジンクフィンガータンパク質667(Zfp667)、LIMホメオボックス3(Lhx3)、Nescientヘリックス・ループ・ヘリックス1(Nhlh1)、MAX二量体化タンパク質4(Mxd4)、ジンクフィンガーMIZ-Type含有1(Zmiz1)、ミエリン転写因子1(Myt1)、シグナル伝達兼転写活性化因子3(Stat3)、BarH様ホメオボックス1(Barhl1)、胸腺細胞選択関連高移動度群ボックス(Tox)、プロスペロホメオボックス1(Prox1)、核因子IA(Nfia)、甲状腺ホルモン受容体β(Thrb)、MYCLがん原遺伝子BHLH転写因子(Mycl1)、リジンデメチラーゼ5A(Kdm5a)、CAMP応答配列結合タンパク質3様4(Creb3I4)、ETS変異体1(Etv1)、父性発現3(Peg3)、BTBドメイン及びCNCホモログ2(Bach2)、ISL・LIMホメオボックス1(Isl1)、ジンクフィンガー及びBTBドメイン含有38(Zbtb38)、肢芽及び心臓発達(Lbh)、Tubby Bipartite転写因子(Tub)、ユビキチンC(Hmg20)、RE1サイレンシング転写因子(Rest)、ジンクフィンガータンパク質827(Zfp827)、AF4/FMR2ファミリーメンバー3(Aff3)、PBX/結節1ホメオボックス2(Pknox2)、ATリッチ相互作用ドメイン3B(Arid3b)、MLX相互作用タンパク質(Mlxip)、ジンクフィンガータンパク質(Zfp532)、IKAROSファミリージンクフィンガー2(Ikzf2)、スパルト様転写因子1(Sall1)、SIXホメオボックス2(Six2)、スパルト様転写因子3(Sall3)、Lin-28ホモログB(Lin28b)、調節因子X7(Rfx7)、脳由来神経栄養因子(Bdnf)、成長因子非依存性1転写抑制因子(Gfi1)、POUクラス4ホメオボックス3(Pou4f3)、MYCがん原遺伝子BHLH転写因子(Myc)、β-カテニン(Ctnnb1)、SRYボックス2(Sox2)、SRYボックス4(Sox4)、SRYボックス11(Sox11)、TEAドメイン転写因子2(Tead2)、無調BHLH転写因子1(Atoh1)、ならびにアミノ酸328、331、及び/または334位で置換を含むAtoh1変異体(例えば、S328A、S331A、S334A、S328A/S331A、S328A/S334A、S331A/S334A、及びS328A/S331A/S334)が挙げられる。本明細書に記載のポリヌクレオチド(例えば、SLC6A14プロモーター)を使用して、VSCにおいて、短干渉渉RNA(siRNA)、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、ヌクレアーゼ(例えば、CRISPR関連タンパク質9(Cas9)、転写活性化様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、またはガイドRNA(gRNA))、あるいはマイクロRNAを発現させることができる。
【0074】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の組成物及び方法を使用してVSCで発現するタンパク質は、Atoh1である。SLC6A14プロモーター(例えば、表2に挙げた配列のいずれか(例えば、配列番号1~6のうち任意の1つのポリヌクレオチド)に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有するポリヌクレオチド)は、野生型Atoh1、またはその変異体をコードするポリヌクレオチド配列、例えば、野生型哺乳動物(例えば、ヒトまたはマウス)Atoh1(例えば、配列番号10または配列番号12)のアミノ酸配列に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列に操作可能に連結され得る。例示的なAtoh1アミノ酸及びポリヌクレオチド配列を下記表3に列挙する。
【0075】
いくつかの実施形態では、Atoh1タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列は、コードされるAtoh1類似体が野生型Atoh1の治療機能(例えば、有毛細胞発達を促進する能力)を維持するという前提で、配列番号10と比較して1つ以上の保存的アミノ酸置換(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20またはそれ以上の保存的アミノ酸置換)を含むアミノ酸配列をコードする。Atoh1タンパク質内の10%以下のアミノ酸が、保存的アミノ酸置換で置き換えられる場合がある。いくつかの実施形態では、Atoh1をコードするポリヌクレオチド配列は、遺伝コードの冗長性により配列番号10をコードする任意のポリヌクレオチド配列である。Atoh1をコードするポリヌクレオチド配列は、発現のために(例えば、ヒトVSCで)部分的に、または完全にコドン最適化が行われる場合がある。Atoh1は、配列番号11の配列を有するポリヌクレオチドによってコードされる場合がある。Atoh1タンパク質は、ヒトAtoh1であるか、または別の哺乳類種(例えば、マウス、ラット、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ロバ、ネコ、イヌ、ウサギ、モルモット、または他の哺乳動物)由来のヒトAtoh1タンパク質のホモログであってよい。
【表3-1】

【表3-2】

【表3-3】

【表3-4】

【表3-5】
【0076】
目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチド
哺乳動物細胞内で目的のタンパク質を治療上有効な細胞内濃度に到達させるために使用することができる1つのプラットフォームは、目的のタンパク質をコードする遺伝子を安定的に発現させる(例えば、哺乳動物細胞の核ゲノムもしくはミトコンドリアゲノムへの組み込みによって、または哺乳動物細胞の核におけるエピソーム鎖状体形成によって)ことによる。遺伝子は、対応するタンパク質の一次アミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドである。外来性遺伝子を哺乳動物細胞に導入するために、遺伝子をベクターに組み込むことができる。ベクターは、形質転換、形質移入、形質導入、直接取り込み、粒子衝撃法、及びリポソームへのベクターのカプセル化を含む様々な方法によって、細胞に導入することができる。細胞を形質移入または形質転換する適切な方法の例としては、リン酸カルシウム沈殿、電気穿孔法、マイクロインジェクション、感染、リポフェクション、及び直接取り込みが挙げられる。そのような方法は、例えば、Green,et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Fourth Edition(Cold Spring Harbor University Press,New York 2014);及びAusubel,et al.,Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley & Sons,New York 2015)にさらに詳細に記載されており、それぞれの開示は参照により本明細書に援用される。
【0077】
目的のタンパク質をコードする遺伝子を含むベクターを細胞膜リン脂質に標的化することにより、目的のタンパク質を哺乳動物細胞に導入することもできる。例えば、すべての細胞膜リン脂質に親和性を有するウイルスタンパク質であるVSV-Gタンパク質にベクター分子を結合させることにより、ベクターを細胞膜の細胞外表面上のリン脂質に標的化することができる。そのような構築物は、当業者に周知の方法を使用して生成することができる。
【0078】
目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチドが、哺乳類RNAポリメラーゼによって認識され、結合されることは、遺伝子発現にとって重要である。したがって、RNAポリメラーゼを動員し、転写開始部位での転写複合体のアセンブリを促進する転写因子に対して高い親和性を示す配列エレメントを、ポリヌクレオチド内に含めてもよい。そのような配列エレメントとしては、例えば、哺乳類プロモーターが挙げられ、その配列は、特定の転写開始因子、そして最終的にはRNAポリメラーゼによって認識され、結合され得る。哺乳類プロモーターの例は、Smith,et al.,Mol.Sys.Biol.,3:73(オンライン公開)に記載されており、その開示は参照により本明細書に援用される。本明細書に記載の方法及び組成物で使用するプロモーターは、SLC6A14プロモーター(例えば、表2に挙げたポリヌクレオチド配列のうち任意の1つ(例えば、配列番号1~6のうち任意の1つのポリヌクレオチド)に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有するポリヌクレオチド)である。
【0079】
目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチドが哺乳動物細胞の核DNAに組み込まれると、このポリヌクレオチドの転写は、当技術分野において知られている方法によって誘導することができる。例えば、哺乳類プロモーターへの転写因子及び/またはRNAポリメラーゼの結合を調節し、したがって遺伝子発現を調節する薬剤などの外部化学試薬に哺乳動物細胞を曝露することによって、発現を誘導することができる。化学試薬は、例えば、プロモーターに結合したリプレッサータンパク質を除去することによって、哺乳類プロモーターへのRNAポリメラーゼ及び/または転写因子の結合を促進するように機能することができる。あるいは、化学試薬は、RNAポリメラーゼ及び/または転写因子に対する哺乳類プロモーターの親和性を高め、それによりプロモーターの下流に位置する遺伝子の転写速度を化学試薬の存在下で増加させるように機能することができる。上記のメカニズムによってポリヌクレオチド転写を増強する化学試薬の例としては、テトラサイクリン及びドキシサイクリンが挙げられる。これらの試薬は市販されており(Life Technologies,Carlsbad,CA)、確立されたプロトコールに従って遺伝子発現を促進するために哺乳動物細胞に投与することができる。
【0080】
本明細書に記載の組成物及び方法で使用するためのポリヌクレオチドに含めてもよい他のDNA配列エレメントとしては、エンハンサー配列が挙げられる。エンハンサーは、DNAが、転写開始部位での転写因子及びRNAポリメラーゼの結合に有利な三次元配向をとるように、目的の遺伝子を含むポリヌクレオチドの立体構造変化を誘導する別のクラスの調節エレメントを表す。したがって、本明細書に記載の組成物及び方法で使用するためのポリヌクレオチドには、目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチドが含まれ、さらに哺乳類のエンハンサー配列が含まれる。現在、哺乳類遺伝子由来の多くのエンハンサー配列が知られており、例としては、哺乳類のグロビン、エラスターゼ、アルブミン、α-フェトプロテイン、及びインスリンをコードする遺伝子のエンハンサーが挙げられる。本明細書に記載の組成物及び方法で使用するためのエンハンサーには、真核細胞に感染することができるウイルスの遺伝物質に由来するエンハンサーも含まれる。例としては、複製起点の後半側のSV40エンハンサー(bp100~270)、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後半側のポリオーマエンハンサー、及びアデノウイルスエンハンサーが挙げられる。真核生物の遺伝子転写の活性化を誘導するさらなるエンハンサー配列としては、CMVエンハンサー及びRSVエンハンサーが挙げられる。エンハンサーは、目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクター内に、例えば、この遺伝子の5’または3’の位置にスプライシングさせてもよい。好ましい配向では、エンハンサーをプロモーターの5’側に配置し、次いでプロモーターを、目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチドに対して5’側に配置する。
【0081】
本明細書に記載のSLC6A14プロモーターを含む核酸ベクターには、ウッドチャック転写後調節エレメント(WPRE)を含めてもよい。WPREは、mRNAレベルで作用し、転写物の核外輸送を促進することによって、及び/または新生の転写物のポリアデニル化の効率を高めることによって、細胞内のmRNAの総量を増加させる。ベクターへのWPREの付加は、in vitro及びin vivoの両方で、いくつかの異なるプロモーターからの導入遺伝子発現のレベルの実質的な改善をもたらし得る。本明細書に記載の組成物及び方法のいくつかの実施形態では、WPREは以下の配列を有する。
GATCCAATCAACCTCTGGATTACAAAATTTGTGAAAGATTGACTGGTATTCTTAACTATGTTGCTCCTTTTACGCTATGTGGATACGCTGCTTTAATGCCTTTGTATCATGCTATTGCTTCCCGTATGGCTTTCATTTTCTCCTCCTTGTATAAATCCTGGTTGCTGTCTCTTTATGAGGAGTTGTGGCCCGTTGTCAGGCAACGTGGCGTGGTGTGCACTGTGTTTGCTGACGCAACCCCCACTGGTTGGGGCATTGCCACCACCTGTCAGCTCCTTTCCGGGACTTTCGCTTTCCCCCTCCCTATTGCCACGGCGGAACTCATCGCCGCCTGCCTTGCCCGCTGCTGGACAGGGGCTCGGCTGTTGGGCACTGACAATTCCGTGGTGTTGTCGGGGAAATCATCGTCCTTTCCTTGGCTGCTCGCCTGTGTTGCCACCTGGATTCTGCGCGGGACGTCCTTCTGCTACGTCCCTTCGGCCCTCAATCCAGCGGACCTTCCTTCCCGCGGCCTGCTGCCGGCTCTGCGGCCTCTTCCGCGTCTTCGA (配列番号14)
その他の実施形態では、WPREは、以下の配列を有する。
AATCAACCTCTGGATTACAAAATTTGTGAAAGATTGACTGGTATTCTTAACTATGTTGCTCCTTTTACGCTATGTGGATACGCTGCTTTAATGCCTTTGTATCATGCTATTGCTTCCCGTATGGCTTTCATTTTCTCCTCCTTGTATAAATCCTGGTTAGTTCTTGCCACGGCGGAACTCATCGCCGCCTGCCTTGCCCGCTGCTGGACAGGGGCTCGGCTGTTGGGCACTGACAATTCCGTGGTGTTTATTTGTGAAATTTGTGATGCTATTGCTTTATTTGTAACCATCTAGCTTTATTTGTGAAATTTGTGATGCTATTGCTTTATTTGTAACCATTATAAGCTGCAATAAACAAGTTAACAACAACAATTGCATTCATTTTATGTTTCAGGTTCAGGGGGAGATGTGGGAGGTTTTTTAAA (配列番号15)
【0082】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のSLC6A14プロモーターを含む核酸ベクターは、レポーター配列を含み、これはVSCにおいて、SLC6A14プロモーターに操作可能に連結された遺伝子の発現を検証するのに有用である場合がある。導入遺伝子において提供し得るレポーター配列としては、β-ラクタマーゼ、β-ガラクトシダーゼ(LacZ)、アルカリホスファターゼ、チミジンキナーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、ルシフェラーゼ、及び当技術分野で周知の他のレポーターをコードするDNA配列が挙げられる。レポーター配列は、それらの発現を駆動するSLC6A14プロモーターなどの調節エレメントに関連付けられる場合、酵素アッセイ、放射線アッセイ、比色アッセイ、蛍光アッセイまたは他の分光アッセイ、蛍光活性化細胞選別アッセイ、ならびに酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、及び免疫組織化学を含む免疫学的アッセイを含む、従来の手段によって検出可能なシグナルを提供する。例えば、マーカー配列がLacZ遺伝子である場合、シグナルを組み込んだベクターの存在は、β-ガラクトシダーゼ活性のアッセイによって検出される。導入遺伝子が緑色蛍光タンパク質またはルシフェラーゼである場合、シグナルを組み込んだベクターは、照度計での色または光の生成によって視覚的に測定することができる。
【0083】
本明細書に記載の組成物及び方法での使用の際に核酸ベクター(例えば、AAVベクター)を作成するために使用することができる移入プラスミドを、表4に記載する。移入プラスミド(例えば、核酸ベクターによって送達される、例えば、AAVによって送達されるDNA配列を含むプラスミド)は、投与向けの核酸ベクター(例えば、AAVベクター)を提供するために、ヘルパープラスミド(例えば、AAV製造に必要なタンパク質を提供するプラスミド)、及びrep/capプラスミド(例えば、AAVキャプシドタンパク質及び移入プラスミドDNA配列をキャプシドシェルに挿入するタンパク質を提供するプラスミド)と共に産生細胞に共送達される場合がある。表4に記載する移入プラスミドは、Atoh1をコードするポリヌクレオチド、またはGFPをコードするポリヌクレオチドなど、導入遺伝子に操作可能に連結されたSLC6A14プロモーターを含む核酸ベクター(例えば、AAVベクター)を作成するために使用することができる。
【表4-1】

【表4-2】

【表4-3】

【表4-4】

【表4-5】

【表4-6】

【表4-7】

【表4-8】

【表4-9】

【表4-10】

【表4-11】

【表4-12】

【表4-13】

【表4-14】

【表4-15】

【表4-16】

【表4-17】

【表4-18】

【表4-19】

【表4-20】

【表4-21】

【表4-22】

【表4-23】

【表4-24】

【表4-25】

【表4-26】

【表4-27】

【表4-28】

【表4-29】

【表4-30】

【表4-31】

【表4-32】

【表4-33】

【表4-34】

【表4-35】

【表4-36】

【表4-37】

【表4-38】

【表4-39】

【表4-40】
【0084】
外来性核酸を標的細胞に送達するための方法
導入遺伝子、例えば、本明細書に記載のSLC6A14プロモーターに操作可能に連結された導入遺伝子を標的細胞(例えば、哺乳動物細胞)に導入するために使用することができる技術は、当技術分野で周知である。例えば、電気穿孔法を使用して、目的の細胞に静電ポテンシャルを印加することにより、哺乳動物細胞(例えば、ヒト標的細胞)を透過性にすることができる。このようにして外部電場にさらされたヒト細胞などの哺乳動物細胞は、その後、外来性核酸を取り込みやすくなる。哺乳動物細胞の電気穿孔法は、例えば、Chu et al.,Nucleic Acids Research 15:1311(1987)に詳細に記載されており、その開示は参照により本明細書に援用される。同様の技術であるNucleofection(商標)は、真核細胞の核への外来性ポリヌクレオチドの取り込みを刺激するために印加する電場を利用する。Nucleofection(商標)及びこの技術を実施するのに有用なプロトコールは、例えば、Distler et al.,Experimental Dermatology 14:315(2005)、及びUS2010/0317114に詳細に記載されており、それぞれの開示は、参照により本明細書に援用される。
【0085】
標的細胞の形質移入に有用なさらなる技術としては、スクイーズポレーション法が挙げられる。この技術は、加えられたストレスに応答して形成される膜状の細孔を介した外来性DNAの取り込みを刺激するために、細胞の急速な機械的変形を誘導する。この技術は、ヒト標的細胞などの細胞への核酸の送達にベクターを必要としないという点で有利である。スクイーズポレーションは、例えば、Sharei et al.,Journal of Visualized Experiments 81:e50980(2013)に詳細に記載されており、その開示は参照により本明細書に援用される。
【0086】
リポフェクションは、標的細胞の形質移入に有用な別の技術である。この方法は、リポソームへの核酸のローディングを含み、この方法は、多くの場合、第四級アミンまたはプロトン化アミンなどのカチオン性官能基をリポソームの外部に向かって提示する。これにより、細胞膜のアニオン性によってリポソームと細胞との間の静電相互作用が促進され、最終的に、例えば、リポソームと細胞膜との直接融合によって、または複合体のエンドサイトーシスによって、外来性核酸が取り込まれる。リポフェクションは、例えば、米国特許第7,442,386号に詳細に記載されており、その開示は、参照により本明細書に援用される。細胞膜とのイオン相互作用を利用して外来性核酸の取り込みを誘導する同様の技術には、細胞をカチオン性ポリマー-核酸複合体と接触させることが含まれる。細胞膜との相互作用に有利な正電荷を与えるようにポリヌクレオチドと会合させる例示的なカチオン性分子としては、活性化デンドリマー(例えば、Dennig,Topics in Current Chemistry 228:227(2003)に記載されており、その開示は参照により本明細書に援用される)、ポリエチレンイミン、及びジエチルアミノエチル(DEAE)-デキストランが挙げられ、形質移入剤としてのこれらの使用は、例えば、Gulick et al.,Current Protocols in Molecular Biology 40:I:9.2:9.2.1(1997)に詳細に記載されており、その開示は参照により本明細書に援用される。磁気ビーズは、穏やかで効率的な方法で標的細胞を形質移入するために使用することができる別のツールであり、なぜなら、この方法論は、核酸の取り込みを指示するために磁場の印加を利用するためである。この技術は、例えば、US2010/0227406に詳細に記載されており、その開示は参照により本明細書に援用される。
【0087】
標的細胞による外来性核酸の取り込みを誘導するための別の有用なツールは、レーザーフェクションであり、これは光学形質移入法とも呼ばれ、細胞を穏やかに透過性にし、ポリヌクレオチドが細胞膜に浸透できるようにするために、細胞を特定の波長の電磁放射に曝露することを含む技術である。この技術の生物活性は、電気穿孔法に類似しており、場合によっては電気穿孔法よりも優れていること見出されている。
【0088】
インパレフェクションは、遺伝物質を標的細胞に送達するために使用することができる別の技術である。この技術は、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、及びナノワイヤーなどのナノ材料の使用に依存する。針状のナノ構造を、基板の表面に対して垂直に合成する。細胞内送達を目的とした遺伝子を含むDNAを、ナノ構造の表面に付着させる。次に、これらの針のアレイを備えたチップを、細胞または組織に押圧する。ナノ構造によって刺激された細胞は、送達された遺伝子(複数可)を発現することができる。この技術の実施例は、Shalek et al.,PNAS 107:1870(2010)に記載されており、その開示は参照により本明細書に援用される。
【0089】
マグネトフェクションを使用して標的細胞に核酸を送達することもできる。マグネトフェクションの原理は、核酸をカチオン性磁性ナノ粒子と会合させることである。磁性ナノ粒子は、完全に生分解性の酸化鉄でできており、用途に応じて異なる特定の独自のカチオン性分子でコーティングされている。遺伝子ベクター(DNA、siRNA、ウイルスベクターなど)とのそれらの会合は、塩によって誘発されるコロイド凝集及び静電相互作用によって達成される。次いで、磁石によって生成された外部磁場の影響により、磁性粒子が標的細胞上に濃縮される。この技術は、Scherer et al.,Gene Therapy 9:102(2002)に詳細に記載されており、その開示は参照により本明細書に援用される。
【0090】
標的細胞による外来性核酸の取り込みを誘導するための別の有用なツールは、ソノポレーションであり、これは細胞形質膜の透過性を改変するために音波(通常は超音波周波数)を使用することを含む技術であり、細胞を透過性にし、ポリヌクレオチドが細胞膜に浸透することを可能にする。この技術は、例えば、Rhodes et al.,Methods in Cell Biology 82:309(2007)に詳細に記載されており、その開示は参照により本明細書に援用される。
【0091】
微小胞は、本明細書に記載の方法に従って標的細胞のゲノムを改変するために使用することができる別の潜在的な媒体を表す。例えば、糖タンパク質VSV-Gと、例えば、ヌクレアーゼなどのゲノム修飾タンパク質との共過剰発現によって誘導した微小胞を使用して、タンパク質を細胞に効率的に送達し、その後、内因性ポリヌクレオチド配列の部位特異的切断を触媒し、それにより、遺伝子または調節配列などの目的のポリヌクレオチドを共有結合によって組み込むために細胞のゲノムを調製することができる。真核細胞を遺伝子改変するためのGesicleとも呼ばれるそのような小胞の使用は、例えば、Quinn et al.,Genetic Modification of Target Cells by Direct Delivery of Active Protein[abstract] In:Methylation changes in early embryonic genes in cancer[abstract],in:Proceedings of the 18th Annual Meeting of the American Society of Gene and Cell Therapy;2015 May 13,Abstract No.122に詳細に記載されている。
【0092】
外来性核酸を標的細胞に送達するためのベクター
高速の転写及び翻訳を達成することに加えて、哺乳動物細胞における外来性遺伝子の安定した発現を、その遺伝子を含むポリヌクレオチドを哺乳動物細胞の核ゲノムへ組み込むことによって達成することができる。外来性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを哺乳動物細胞の核DNAに送達し、組み込むための様々なベクターが開発されてきた。発現ベクターの例は、例えば、Gellissen,Production of Recombinant Proteins:Novel Microbial and Eukaryotic Expression Systems(John Wiley & Sons,Marblehead,MA,2006)に記載されている。本明細書に記載の組成物及び方法で使用する発現ベクターは、目的のタンパク質、ならびに例えば、これらの作用物質の発現及び/またはこれらのポリヌクレオチド配列の哺乳動物細胞ゲノムへの組み込みに使用される追加の配列エレメントをコードするポリヌクレオチド配列に操作可能に連結された、SLC6A14プロモーター(例えば、表2に記載したポリヌクレオチド配列のうち任意の1つに対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有するポリヌクレオチド)を含む。目的のタンパク質をコードする導入遺伝子に操作可能に連結されたSLC6A14プロモーターを含ませることができるベクターとしては、プラスミド(例えば、細胞内で自律的に複製できる環状DNA分子)、コスミド(例えば、pWEベクターまたはsCosベクター)、人工染色体(例えば、ヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)、またはP1由来人工染色体(PAC))、及びウイルスベクターが挙げられる。目的のタンパク質の発現に使用することができる特定のベクターとしては、遺伝子転写を指示するエンハンサー領域などの調節配列を含むプラスミドが挙げられる。目的のタンパク質の発現に有用な他のベクターは、これらの遺伝子の翻訳速度を高めるか、または遺伝子転写から生じるmRNAの安定性もしくは核外輸送を向上させるポリヌクレオチド配列を含む。これらの配列エレメントには、例えば、発現ベクターが保有する遺伝子の効率的な転写を指示するための、5’及び3’非翻訳領域、配列内リボソーム進入部位(IRES)、及びポリアデニル化シグナル部位が含まれる。本明細書に記載の組成物及び方法での使用に適した発現ベクターはまた、そのようなベクターを含む細胞を選択するためのマーカーをコードするポリヌクレオチドを含み得る。適切なマーカーの例としては、アンピシリン、クロラムフェニコール、カナマイシン、またはノーセオスリシンなどの抗生物質に対する耐性をコードする遺伝子が挙げられる。
【0093】
核酸送達用のウイルスベクター
ウイルスゲノムは、目的の遺伝子を標的細胞(例えば、ヒト細胞などの哺乳動物細胞)のゲノムに効率的に送達するために使用することができるベクターの豊富な供給源を提供する。ウイルスゲノムは、そのようなゲノム内に含まれるポリヌクレオチドが、通常、普遍形質導入または特殊形質導入によって哺乳動物細胞の核ゲノムに組み込まれるため、遺伝子送達のための特に有用なベクターである。これらのプロセスは、天然のウイルス複製サイクルの一部として発生し、遺伝子の組み込みを誘導するためにタンパク質や試薬を追加する必要がない。ウイルスベクターの例としては、レトロウイルス(例えば、Retroviridae科ウイルスベクター)、アデノウイルス(例えば、Ad5、Ad26、Ad34、Ad35、及びAd48)、パルボウイルス(例えば、アデノ随伴ウイルス)、コロナウイルス、マイナス鎖RNAウイルス、例えば、オルソミクソウイルス(例えば、インフルエンザウイルス)、ラブドウイルス(例えば、狂犬病ウイルス及び水疱性口内炎ウイルス)、パラミクソウイルス(例えば、麻疹及びセンダイ)、プラス鎖RNAウイルス、例えば、ピコルナウイルス及びアルファウイルス、ならびにアデノウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス1型及び2型、エプスタイン-バーウイルス、サイトメガロウイルス)、及びポックスウイルス(例えば、ワクシニア、変異ワクシニアアンカラ(MVA)、鶏痘及びカナリア痘)を含む二本鎖DNAウイルスが挙げられる。他のウイルスとしては、例えば、ノーウォークウイルス、トガウイルス、フラビウイルス、レオウイルス、パポーバウイルス、ヘパドナウイルス、ヒトパピローマウイルス、ヒト泡沫状ウイルス、及び肝炎ウイルスが挙げられる。レトロウイルスの例として:トリ白血病肉腫、トリC型ウイルス、哺乳類C型、B型ウイルス、D型ウイルス、オンコレトロウイルス、HTLV-BLV群、レンチウイルス、アルファレトロウイルス、ガンマレトロウイルス、スプーマウイルスが挙げられる(Coffin,J.M.,Retroviridae:The viruses and their replication,Virology,Third Edition(Lippincott-Raven,Philadelphia,1996))。他の例としては、マウス白血病ウイルス、マウス肉腫ウイルス、マウス乳腺腫瘍ウイルス、ウシ白血病ウイルス、ネコ白血病ウイルス、ネコ肉腫ウイルス、トリ白血病ウイルス、ヒトT細胞白血病ウイルス、ヒヒ内因性ウイルス、テナガザル白血病ウイルス、マソン-ファイザーサルウイルス、サル免疫不全ウイルス、サル肉腫ウイルス、ラウス肉腫ウイルス及びレンチウイルスが挙げられる。ベクターの他の例は、例えば、米国特許第5,801,030号に記載されており、その開示は、それが遺伝子治療で使用するためのウイルスベクターに属するため、参照により本明細書に援用される。
【0094】
核酸送達用のAAVベクター
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の組成物及び方法のポリヌクレオチドを、細胞(例えば、VSC)へのそれらの導入を促進するために、rAAVベクター及び/またはウイルス粒子に組み込む。本明細書に記載の組成物及び方法に有用なrAAVベクターは、(1)本明細書に記載のSLC6A14プロモーター(例えば、表2に挙げたポリヌクレオチド配列のうち任意の1つ(例えば、配列番号1~6のうち任意の1つのポリヌクレオチド)に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有するポリヌクレオチド)、(2)発現させる異種配列、及び(3)異種遺伝子の安定性及び発現を促進するウイルス配列、を含む組み換え核酸構築物である。ウイルス配列は、DNAの複製及びウイルス粒子へのパッケージング(例えば、機能的ITR)のためにシスで必要とされるAAVの配列を含み得る。一般的な応用では、導入遺伝子は、前庭有毛細胞発達、前庭有毛細胞運命の特定、前庭有毛細胞再生、前庭有毛細胞及び/またはVSC増殖、前庭有毛細胞神経支配、または前庭有毛細胞成熟を促進または向上させることができるタンパク質か、あるいは遺伝性前庭機能障害の形態を有する対象において変異している前庭有毛細胞タンパク質の野生型形態をコードし、これらは、前庭機能障害(例えば、めまい、眩暈、平衡失調、両側前庭機能低下、両側前庭機能不全、動揺視、または平衡障害)に関連している変異を有する対象の前庭機能を改善するのに有用であり得る。そのようなrAAVベクターは、マーカーまたはレポーター遺伝子も含み得る。有用なrAAVベクターでは、1つ以上のAAV WT遺伝子の全体または一部が削除されているが、機能的な隣接ITR配列は保持されている。AAV ITRは、特定の応用に適した任意の血清型であり得る。本明細書に記載の方法及び組成物で使用するために、ITRはAAV2 ITRであり得る。rAAVベクターの使用方法は、例えば、Tal et al.,J.Biomed.Sci.7:279(2000)、及びMonahan and Samulski,Gene Delivery 7:24(2000)に記載されており、それらの各開示は、それらが遺伝子送達用のAAVベクターに属するため、参照により本明細書に援用される。
【0095】
細胞(例えば、VSC)へのポリヌクレオチドまたはベクターの導入を容易にするために、本明細書に記載のポリヌクレオチド及びベクター(例えば、目的のタンパク質をコードする導入遺伝子に操作可能に連結されたSLC6A14プロモーター)をrAAVウイルス粒子に組み込むことができる。AAVのキャプシドタンパク質は、ウイルス粒子の外部の非核酸部分を構成し、AAV cap遺伝子によってコードされる。cap遺伝子は、ウイルス粒子アセンブリに必要な3つのウイルスコートタンパク質VP1、VP2、及びVP3をコードする。rAAVウイルス粒子の構築は、例えば、US5,173,414;US5,139,941;US5,863,541;US5,869,305;US6,057,152;及びUS6,376,237;ならびにRabinowitz et al.,J.Virol.76:791(2002)及びBowles et al.,J.Virol.77:423(2003)に記載されており、それらの各開示は、それらが遺伝子送達用のAAVベクターに属するため、参照により本明細書に援用される。
【0096】
本明細書に記載の組成物及び方法と組み合わせて有用なrAAVウイルス粒子としては、AAV1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、rh10、rh39、rh43、rh74、Anc80、Anc80L65、DJ/8、DJ/9、7m8、PHP.B、PHP.eB、及びPHP.Sを含む様々なAAV血清型に由来するウイルス粒子が挙げられる。VSCを標的とする場合、AAV1、AAV2、AAV2quad(Y-F)、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、Anc80、Anc80L65、7m8、PHP.B、PHP.eB、またはPHP.S血清型が特に有用であり得る。網膜の形質導入のために進化させた血清型もまた、本明細書に記載の方法及び組成物において使用してもよい。異なる血清型のAAVベクター及びAAVタンパク質の構築及び使用は、例えば、Chao et al.,Mol.Ther.2:619(2000);Davidson et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:3428 (2000);Xiao et al.,J.Virol.72:2224(1998);Halbert et al.,J.Virol.74:1524(2000);Halbert et al.,J.Virol.75:6615(2001);及びAuricchio et al.,Hum.Molec.Genet.10:3075(2001)に記載されており、それらの各開示は、それらが遺伝子送達用のAAVベクターに属するため、参照により本明細書に援用される。
【0097】
本明細書に記載の組成物及び方法と組み合わせて有用なものは、偽型rAAVベクターである。偽型ベクターには、所与の血清型(例えば、AAV9)のAAVベクターが、所与の血清型以外の血清型(例えば、AAV1、AAV2、AAV2quad(Y-F)、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8など)に由来するキャプシド遺伝子で偽型化されたものが含まれる。偽型rAAVウイルス粒子の構築及び使用を含む技術は当技術分野で公知であり、例えば、Duan et al.,J.Virol.75:7662(2001);Halbert et al.,J.Virol.74:1524(2000);Zolotukhin et al.,Methods,28:158(2002);及びAuricchio et al.,Hum.Molec.Genet.10:3075(2001)に記載されている。
【0098】
ウイルス粒子のキャプシド内に変異を有するAAVウイルス粒子を使用して、変異していないキャプシドウイルス粒子よりも効果的に特定の細胞型に感染させ得る。例えば、適切なAAV変異体は、AAVを特定の細胞型に標的化することを容易にするためのリガンド挿入変異を有し得る。挿入変異体、アラニンスクリーニング変異体、及びエピトープタグ変異体を含むAAVキャプシド変異体の構築及び特徴決定は、Wu et al.,J.Virol.74:8635(2000)に記載されている。本明細書に記載の方法で使用することができる他のrAAVウイルス粒子としては、ウイルスの分子育種によって、及びエキソンシャッフリングによって生成されるキャプシドハイブリッドが挙げられる。例えば、Soong et al.,Nat.Genet.,25:436(2000)及びKolman and Stemmer,Nat.Biotechnol.19:423(2001)を参照されたい。
【0099】
いくつかの実施形態では、核酸ベクター(例えば、AAVベクター)は、ヒトAtoh1(ヒトATOH1タンパク質=RefSeq登録番号NP_005163(配列番号10)、mRNA配列=RefSeq登録番号NM_005172)をコードするポリヌクレオチド配列に操作可能に連結された本明細書に記載のSLC6A14プロモーター(例えば、表2に挙げたポリヌクレオチド配列のうち任意の1つ(例えば、配列番号1~6のうち任意の1つのポリヌクレオチド)に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有するポリヌクレオチド)を含む。いくつかの実施形態では、SLC6A14プロモーターは、配列番号4のSLC6A14プロモーター(配列番号7のヌクレオチド233~1066によっても表される)であり、かつヒトAtoh1をコードするポリヌクレオチド配列に操作可能に連結されている。いくつかの実施形態では、ヒトAtoh1をコードするポリヌクレオチド配列は、配列番号11である。いくつかの実施形態では、ヒトAtoh1をコードするポリヌクレオチド配列は、配列番号7のヌクレオチド1083~2144である。いくつかの実施形態では、ヒトAtoh1をコードするポリヌクレオチド配列は、遺伝コードの冗長性により配列番号10をコードする任意のポリヌクレオチド配列である。ヒトAtoh1をコードするポリヌクレオチド配列は、発現のために部分的に、または完全にコドン最適化が行われる場合がある。いくつかの実施形態では、ベクターは、第1逆位末端反復配列、配列番号4のSLC6A14プロモーター、SLC6A14プロモーターに操作可能に連結されたヒトAtoh1をコードするポリヌクレオチド配列、ポリアデニル化配列、及び第2逆位末端反復配列を5’から3’の順で含む。いくつかの実施形態では、核酸ベクターは、第1逆位末端反復配列、配列番号4のSLC6A14プロモーター、SLC6A14プロモーターに操作可能に連結されたヒトAtoh1をコードするポリヌクレオチド配列、ウッドチャック転写後調節エレメント(WPRE)、ポリアデニル化配列、及び第2逆位末端反復配列を5’から3’の順で含む。いくつかの実施形態では、WPREは、配列番号14または配列番号15の配列を有する。いくつかの実施形態では、WPREは、配列番号14の配列を有する。いくつかの実施形態では、WPREは、配列番号7のヌクレオチド2155~2702の配列を有する。いくつかの実施形態では、ポリアデニル化配列は、配列番号7のヌクレオチド2715~2922の配列を有する。特定の実施形態では、核酸ベクターは、逆位末端反復配列によって挟まれた配列番号7のヌクレオチド233~2922を含む。いくつかの実施形態では、両側の逆位末端反復配列は、AAV2逆位末端反復配列である。いくつかの実施形態では、両側の逆位末端反復配列は、AAV2逆位末端反復配列の任意の変異体であり、AAV2 Rep遺伝子を有するプラスミドによってキャプシド形成することができる。特定の実施形態では、核酸ベクターは、逆位末端反復配列によって挟まれた配列番号7のヌクレオチド233~2922を含み、ここで、5’逆位末端反復配列は、配列番号7のヌクレオチド1~130に対して少なくとも80%の配列同一性(例えば、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性)を有し、かつ、3’逆位末端反復配列は、配列番号7のヌクレオチド3010~3139に対して少なくとも80%の配列同一性(例えば、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性)を有する。いくつかの実施形態では、核酸ベクターは、ウイルスベクターである。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、AAVベクターである。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、AAV8キャプシドを有する。
【0100】
本発明のウイルスベクターの作成には、典型的には本発明のプラスミドを、適切なウイルスパッケージング及び生存度のために必要とされるエレメントを提供する補助的なプラスミド(例えば、AAVの場合、適切なAAV・rep遺伝子、cap遺伝子、及びその他の遺伝子(例えばE2A及びE4)を提供するプラスミド)と共に使用する必要があることを当業者であれば理解するであろう。産生細胞株におけるこれらのプラスミドの組み合わせにより、ウイルスベクターが作られる。しかし、本発明の移入プラスミド(例えば、配列番号7、8、または9)において任意の所与の一対の逆位末端反復配列がウイルスベクターを作成するために使用され、ウイルスベクター内の対応する配列は、遺伝子組換えの間の「フリップ」または「フロップ」方向付けを取り入れるITRによって変更され得ることを、当業者であれば理解されるであろう。このようにして、移入プラスミド内のITRの配列は、必ずしもそれに由来して調製されるウイルスベクターで見られる配列と同じものであるわけではない。しかし、いくつかの非常に特別な実施形態では、本発明のウイルスベクターは、配列番号7のヌクレオチド1~3139を含む。
【0101】
医薬組成物
本明細書に記載のポリヌクレオチド(例えば、表2に挙げたポリヌクレオチド配列のうち任意の1つ(例えば、配列番号1~6のうち任意の1つのポリヌクレオチド)に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有するSLC6A14プロモーター)は、導入遺伝子(例えば、目的のタンパク質、siRNA、ASO、またはヌクレアーゼ(例えば、Cas9、TALEN、ZFN、もしくはgRNA)をコードする導入遺伝子、またはマイクロRNAである導入遺伝子)に操作可能に連結されて、前庭機能障害に罹患しているヒト患者などの患者に投与するための媒体に組み込まれ得る。導入遺伝子に操作可能に連結された本明細書に記載のポリヌクレオチドを含む、ウイルスベクターなどのベクターを含む医薬組成物は、当技術分野で公知の方法を使用して調製することができる。例えば、そのような組成物は、例えば、生理学的に許容される担体、賦形剤または安定剤(Remington:The Science and Practice of Pharmacology 22nd edition,Allen,L.Ed.(2013);参照により本明細書に援用される)を使用して、所望の形態、例えば、凍結乾燥製剤または水溶液の形態で調製することができる。
【0102】
導入遺伝子に操作可能に連結された本明細書に記載のSLC6A14プロモーター(例えば、表2に挙げた核酸配列のうち任意の1つ(例えば、配列番号1~6のうち任意の1つのポリヌクレオチド)に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有するポリヌクレオチド)を含む核酸ベクター(例えば、ウイルスベクター)の混合物は、1つ以上の賦形剤、担体、または希釈剤と水中で適切に混合して調製することができる。分散液もまた、グリセロール、液状ポリエチレングリコール、及びこれらの混合物中で、及び油中で調製してもよい。これらの製剤は、通常の保存条件及び使用条件下で、微生物の増殖を阻止するための保存剤を含有してもよい。注射用途に好適な医薬形態としては、注射可能な無菌溶液または無菌分散液を即時調製するための無菌水溶液または無菌分散液及び無菌粉末が挙げられる(US5,466,468に記載されており、その開示は参照により本明細書に援用される)。いずれにしても、製剤は、無菌であってもよく、容易に注射できる程度の流動性を有していてもよい。製剤は、製造及び保管条件下で安定であってもよく、細菌及び真菌などの微生物の混入作用から保護され得る。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液状ポリエチレングリコールなど)、その好適な混合物、及び/または植物油を含有する溶媒または分散媒であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング剤の使用によって、分散液の場合には必要とされる粒径の維持によって、また界面活性剤の使用によって、維持され得る。微生物の作用の抑制は、種々の抗細菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらされ得る。多くの場合、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含むことが好ましいであろう。注射可能な組成物の吸収の延長は、吸収を遅延させる作用物質、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを組成物中で使用することによってもたらされ得る。
【0103】
例えば、本明細書に記載の医薬組成物を含有する溶液を必要に応じて適切に緩衝し、液体希釈剤を最初に十分な生理食塩水またはグルコースで等張にしてもよい。これらの特定の水溶液は、静脈内、筋肉内、皮下、及び腹腔内の投与に特に好適である。これに関して、採用することができる無菌水性媒体は、本開示に照らして、当業者に公知である。例えば、1用量を1mlのNaCl等張液中に溶解し、1000mlの皮下注射液に加えるか、または注入予定部位に注射してもよい。治療する対象の状態に応じて、用量にはいくらかの変動が必然的に生じる。中耳または内耳への局所投与のために、組成物を、合成外リンパ溶液を含有するように製剤化してもよい。例示的な合成外リンパ溶液は、20~200mM NaCl、1~5mM KCl、0.1~10mM CaCl、1~10mMグルコース、及び2~50mM HEPESを含有し、pH約6~9及び重量オスモル濃度約300mOsm/kgを有する。いずれにしても、投与を担当する者が個々の対象に適切な用量を決定する。さらに、ヒトへの投与の場合、製剤は、FDA Office of Biologics基準によって要求される無菌性、発熱性、一般的安全性、及び純度の基準を満たしていてもよい。
【0104】
治療方法
本明細書に記載の組成物を、前庭機能障害を有するか、または発症するリスクを有する対象に、例えば、中耳もしくは内耳への局所投与(例えば、卵円窓、正円窓、または半規管(例えば、水平半規管)を介した外リンパまたは内リンパへの投与、あるいは経鼓膜注入または鼓室内注入による例えば、前庭支持細胞または有毛細胞への投与)、静脈内、非経口、皮内、経皮、筋肉内、鼻腔内、皮下、経皮、気管内、腹腔内、動脈内、血管内、吸入、灌流、洗浄、及び経口投与などの様々な経路によって、投与してもよい。所与の場合における投与に最も適切な経路は、投与する特定の組成物、患者、医薬製剤化方法、投与方法(例えば、投与時間及び投与経路)、患者の年齢、体重、性別、治療する疾患の重症度、患者の食事、及び患者の排泄率に依存する。組成物は、1回、または2回以上(例えば、年1回、年2回、年3回、隔月、毎月、または隔週)投与してもよい。
【0105】
本明細書に記載のように治療される可能性がある対象は、前庭機能障害を有するか、または発症するリスクを有する対象である。本明細書に記載の組成物及び方法を使用して、前庭有毛細胞への損傷(例えば、疾患もしくは感染症、頭部外傷、耳毒性薬(例えば、アミノグリコシド)、または加齢に関連する損傷)を有するか、または発症するリスクを有する対象、前庭機能障害(例えば、めまい、眩暈、平衡失調、両側前庭機能低下、両側前庭機能不全、動揺視、または平衡障害)を有するか、または発症するリスクを有する対象、前庭機能障害に関連する遺伝子変異を有する対象、あるいは遺伝性前庭機能障害の家族歴を有する対象を治療することができる。いくつかの実施形態では、有毛細胞(例えば、前庭有毛細胞)への損傷または有毛細胞の喪失に関連する疾患は、自己免疫反応が有毛細胞損傷または死をもたらす自己免疫疾患または病態である。前庭機能障害に関連する自己免疫疾患としては、自己免疫内耳疾患(AIED)、結節性多発動脈炎(PAN)、コーガン症候群、再発性多発性軟骨炎、全身性紅斑性狼瘡(SLE)、ヴェーゲナー肉芽腫症、シェーグレン症候群、及びベーチェット病などが挙げられる。ライム病及び梅毒などの一部の感染性も、前庭機能障害を(例えば、自己抗体産生を誘発することによって)引き起こす場合がある。風疹、サイトメガロウイルス(CMV)、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)、HSVタイプ1&2、西ナイルウイルス(WNV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)水痘帯状ヘルペスウイルス(VZV)、麻疹、及びおたふく風邪などのウイルス感染も、前庭機能障害を引き起こす可能性がある。いくつかの実施形態では、対象は、有毛細胞(例えば、前庭有毛細胞)の喪失に関連して、またはその結果として生じる前庭機能障害を有する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の組成物及び方法を使用して、動揺視を有するか、または発症するリスクを有する対象を治療することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の組成物及び方法を使用して、両側前庭機能低下を有するか、または発症するリスクを有する対象を治療することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の組成物及び方法を使用して、平衡障害(例えば、平衡失調)を有するか、または発症するリスクを有する対象を治療することができる。本明細書に記載の方法は、本明細書に記載の組成物による治療または投与の前に、前庭機能障害に関連することが知られている遺伝子の1つ以上の変異について対象をスクリーニングする工程を含み得る。当業者に公知の標準的な方法(例えば、遺伝子検査)を使用して、対象を遺伝子変異についてスクリーニングすることができる。本明細書に記載の方法はまた、本明細書に記載の組成物による治療または投与の前に、対象の前庭機能を評価する工程を含み得る。眼球運動検査(例えば、電気眼振記録検査(ENG)またはビデオ眼振記録法(VNG))、前庭眼球反射(VOR)の検査(例えば、ベッドサイドで、もしくはビデオヘッド・インパルス検査(VHIT)を用いて実施されることがある頭部インパルス検査(Halmagyi-Curthoys検査)、または熱反射検査)、姿勢動揺検査、回転椅子検査、ECOG、前庭誘発筋電位(VEMP)、及びMancini and Horak,Eur J Phys Rehabil Med,46:239(2010)に記載されているような専用の臨床平衡検査などの標準的な検査を使用して、前庭機能を評価することができる。これらの試験を使用して、本明細書に記載の組成物による治療または投与後の対象における前庭機能を評価することもできる。本明細書に記載の組成物及び方法はまた、前庭機能障害を発症するリスクを有する患者、例えば、前庭機能障害の家族歴(例えば、遺伝性前庭機能障害)を有する患者、前庭機能障害に関連する遺伝子変異を有するが、前庭機能障害の症状を未だ示していない患者、または後天性前庭機能障害(例えば、疾患または感染症、頭部外傷、耳毒性薬、または加齢)のリスク因子にさらされている患者への予防的治療として投与してもよい。
【0106】
本明細書に記載の組成物及び方法を使用して、対象の有毛細胞の再生(例えば、前庭有毛細胞再生)を誘導または向上させ、及び/または前庭有毛細胞及び/またはVSCの増殖を誘導または増加させることができる。前庭有毛細胞再生、前庭有毛細胞神経支配、ならびに/または前庭有毛細胞及び/もしくはVSC増殖を促進または誘導する組成物から利益を得る可能性のある対象には、有毛細胞の喪失(例えば外傷(例えば、頭部外傷)、疾患もしくは感染症、耳毒性薬、または加齢に関連した前庭有毛細胞の喪失)の結果として前庭機能障害を有するか、または発症するリスクを有する対象、ならびに異常な前庭有毛細胞(例えば、正常な前庭有毛細胞と比較して適切に機能しない前庭有毛細胞)、損傷した前庭有毛細胞(例えば、外傷(例えば、頭部外傷)、疾患もしくは感染症、耳毒性薬、または加齢に関連した前庭有毛細胞損傷)を有する対象、または遺伝子変異または先天性異常によって前庭有毛細胞数が減少している対象が含まれる。本明細書に記載の組成物及び方法を使用して、前庭有毛細胞成熟を促進または向上させることができ、これにより、前庭機能の改善をもたらすことができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の組成物及び方法は、再生した前庭有毛細胞の成熟を促進または向上させる(例えば、導入遺伝子に操作可能に連結されたSLC6A14プロモーターを含む組成物など、VSCにおける本明細書に記載の組成物の発現に応じて起こった前庭有毛細胞の成熟を促進または向上させる)。本明細書に記載の組成物及び方法はまた、VSC及び/もしくは前庭有毛細胞生存を促進または増加させるか、ならびに/またはVSC機能を改善させることもできる。
【0107】
本明細書に記載の組成物及び方法を使用して、耳毒性薬で治療された対象、または耳毒性薬で現在治療を受けているかもしくは治療を開始する予定の対象における耳毒性薬誘発性有毛細胞損傷または死(例えば、前庭有毛細胞損傷または死)が原因の前庭機能障害を予防または軽減することもできる。耳毒性薬は、内耳細胞に対して毒性を有し、前庭機能障害(例えば、眩暈、めまい、平衡失調、両側前庭機能低下、両側前庭機能不全、または動揺視)を引き起こし得る。耳毒性が見出されている薬物としては、アミノグリコシド系抗生物質(例えば、ゲンタマイシン、ネオマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン、カナマイシン、バンコマイシン、及びアミカシン)、バイオマイシン、抗腫瘍薬(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、及びオキサリプラチンなどのプラチナ含有化学療法剤)、ループ利尿薬(例えば、エタクリン酸及びフロセミド)、サリチル酸塩(例えば、特に高用量のアスピリン)、及びキニンが挙げられる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の組成物及び方法を使用して、両側前庭機能不全を治療することができる。両側前庭機能不全は、アミノグリコシドによって誘発される可能性がある(例えば、本明細書に記載の方法及び組成物を使用して、アミノグリコシド誘発性両側前庭機能不全を有する患者における、アミノグリコシド誘発性前庭有毛細胞損傷または死を軽減するか、あるいは有毛細胞再生及び/または有毛細胞もしくはVSC増殖を促進または向上させることができる)。
【0108】
本明細書に記載のような対象を治療するためのSLC6A14プロモーター(例えば、表2に挙げたポリヌクレオチド配列のうち任意の1つ(例えば、配列番号1~6のうち任意の1つのポリヌクレオチド)に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有するポリヌクレオチド)に操作可能に連結された導入遺伝子は、健康なVSCで発現しているタンパク質(例えば、前庭有毛細胞発達、前庭有毛細胞運命の特定、前庭有毛細胞再生、前庭有毛細胞及び/またはVSC増殖、前庭有毛細胞成熟、または前庭有毛細胞神経支配の役割を果たすタンパク質、あるいは前庭機能障害を有する対象において不足しているタンパク質)、別の目的のタンパク質(例えば、蛍光タンパク質、lacZ、もしくはルシフェラーゼなどの治療用タンパク質またはレポータータンパク質)、siRNA、ASO、ヌクレアーゼ、またはマイクロRNAをコードする導入遺伝子であり得る。導入遺伝子は、対象の前庭機能障害の原因(例えば、対象の前庭機能障害が特定の遺伝子変異に関連している場合、導入遺伝子は、対象において変異している遺伝子の野生型形態とすることができ、または対象が有毛細胞の喪失に関連する前庭機能障害を有している場合、導入遺伝子は、前庭有毛細胞再生、前庭有毛細胞神経支配、または前庭有毛細胞及び/またはVSC増殖を促進するタンパク質をコードし得る)、対象の前庭機能障害の重症度、対象の有毛細胞の健康状態、対象の年齢、対象の前庭機能障害の家族歴、または他の要因に基づいて選択してもよい。本明細書に記載されるような対象の治療用のSLC6A14プロモーターに操作可能に連結された導入遺伝子によって発現させることができるタンパク質としては、Sox9、Sall2、Camta1、Hey2、Gata2、Hey1、Lass2、Sox10、Gata3、Cux1、Nr2f1、Hes1、Rorb、Jun、Zfp667、Lhx3、Nhlh1、Mxd4、Zmiz1、Myt1、Stat3、Barhl1、Tox、Prox1、Nfia、Thrb、Mycl1、Kdm5a、Creb314、Etv1、Peg3、Bach2、Isl1、Zbtb38、Lbh、Tub、Hmg20、Rest、Zfp827、Aff3、Pknox2、Arid3b、Mlxip、Zfp532、Ikzf2、Sall1、Six2、Sall3、Lin28b、Rfx7、Bdnf、Gfi1、Pou4f3、Myc、Ctnnb1、Sox2、Sox4、Sox11,Tead2、Atoh1、ならびにアミノ酸位328、331、及び/または334に置換を有するAtoh1変異体(例えば、S328A、S331A、S334A、S328A/S331A、S328A/S334A、S331A/S334A、及び328A/S331A/S334)が挙げられる。
【0109】
治療は、本明細書に記載のSLC6A14プロモーター(例えば、配列番号1~6のうち任意の1つ)を様々な単位用量で含む核酸ベクター(例えば、AAVウイルスベクター)を含む組成物の投与を含み得る。各単位用量には、通常、所定量の治療用組成物が含まれる。投与する量、ならびに特定の投与経路及び製剤化は、当業者の技術の範囲内である。単位用量は、単回注射として投与する必要はないが、設定された期間にわたる連続注入を含み得る。投与は、内耳(例えば、前庭迷路)への損傷を最小限に抑えるために、シリンジポンプを用いて実施して注入速度を制御してもよい。核酸ベクターがAAVベクターである場合(例えば、AAV1、AAV2、AAV2quad(Y-F)、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、rh10、rh39、rh43、rh74、Anc80、Anc80L65、DJ/8、DJ/9、7m8、PHP.B、PHP.eB、またはPHP.Sベクター)、ウイルスベクターは、例えば、約1x10ベクターゲノム(VG)/mL~約1x1016VG/mL(例えば、1x10VG/mL、2x10VG/mL、3x10VG/mL、4x10VG/mL、5x10VG/mL、6x10VG/mL、7x10VG/mL、8x10VG/mL、9x10VG/mL、1x1010VG/mL、2x1010VG/mL、3x1010VG/mL、4x1010VG/mL、5x1010VG/mL、6x1010VG/mL、7x1010VG/mL、8x1010VG/mL、9x1010VG/mL、1x1011VG/mL、2x1011VG/mL、3x1011VG/mL、4x1011VG/mL、5x1011VG/mL、6x1011VG/mL、7x1011VG/mL、8x1011VG/mL、9x1011VG/mL、1x1012VG/mL、2x1012VG/mL、3x1012VG/mL、4x1012VG/mL、5x1012VG/mL、6x1012VG/mL、7x1012VG/mL、8x1012VG/mL、9x1012VG/mL、1x1013VG/mL、2x1013VG/mL、3x1013VG/mL、4x1013VG/mL、5x1013VG/mL、6x1013VG/mL、7x1013VG/mL、8x1013VG/mL、9x1013VG/mL、1x1014VG/mL、2x1014VG/mL、3x1014VG/mL、4x1014VG/mL、5x1014VG/mL、6x1014VG/mL、7x1014VG/mL、8x1014VG/mL、9x1014VG/mL、1x1015VG/mL、2x1015VG/mL、3x1015VG/mL、4x1015VG/mL、5x1015VG/mL、6x1015VG/mL、7x1015VG/mL、8x1015VG/mL、9x1015VG/mL、または1x1016VG/mL)を、1μL~200μL(例えば、1、2、3、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、または200μL)の用量で患者に投与してもよい。AAVベクターは、約1x10VG/耳~約2x1015VG/耳(例えば、1x10VG/耳、2x10VG/耳、3x10VG/耳、4x10VG/耳、5x10VG/耳、6x10VG/耳、7x10VG/耳、8x10VG/耳、9x10VG/耳、1x10VG/耳、2x10VG/耳、3x10VG/耳、4x10VG/耳、5x10VG/耳、6x10VG/耳、7x10VG/耳、8x10VG/耳、9x10VG/耳、1x10VG/耳、2x10VG/耳、3x10VG/耳、4x10VG/耳、5x10VG/耳、6x10VG/耳、7x10VG/耳、8x10VG/耳、9x10VG/耳、1x1010VG/耳、2x1010VG/耳、3x1010VG/耳、4x1010VG/耳、5x1010VG/耳、6x1010VG/耳、7x1010VG/耳、8x1010VG/耳、9x1010VG/耳、1x1011VG/耳、2x1011VG/耳、3x1011VG/耳、4x1011VG/耳、5x1011VG/耳、6x1011VG/耳、7x1011VG/耳、8x1011VG/耳、9x1011VG/耳、1x1012VG/耳、2x1012VG/耳、3x1012VG/耳、4x1012VG/耳、5x1012VG/耳、6x1012VG/耳、7x1012VG/耳、8x1012VG/耳、9x1012VG/耳、1x1013VG/耳、2x1013VG/耳、3x1013VG/耳、4x1013VG/耳、5x1013VG/耳、6x1013VG/耳、7x1013VG/耳、8x1013VG/耳、9x1013VG/耳、1x1014VG/耳、2x1014VG/耳、3x1014VG/耳、4x1014VG/耳、5x1014VG/耳、6x1014VG/耳、7x1014VG/耳、8x1014VG/耳、9x1014VG/耳、1x1015VG/耳、または2x1015VG/耳)の用量で対象に投与してもよい。
【0110】
本明細書に記載の組成物は、前庭機能を改善させる(例えば、平衡を改善させるか、またはめまいもしくは眩暈を軽減する)か、両側前庭機能低下を治療するか、両側前庭機能不全を治療するか、動揺視を治療するか、平衡障害を治療するか、SLC6A14プロモーターに操作可能に連結された導入遺伝子によってコードされているタンパク質の発現を増加させるか、SLC6A14プロモーターに操作可能に連結された導入遺伝子によってコードされているタンパク質の機能を改善させるか、有毛細胞発達を促進もしくは向上させるか、細胞数を増加させる(例えば、有毛細胞再生もしくは増殖を促進または誘導する)か、有毛細胞成熟(例えば、再生した有毛細胞の成熟)を向上または誘導するか、有毛細胞機能を改善させるか、VSC機能を改善させるか、VSC及び/もしくは前庭有毛細胞生存を促進または増加させるか、ならびに/あるいは、VSC増殖を促進または増加させるのに十分な量で投与される。前庭機能は、平衡及び眩暈用の標準的な検査(例えば、眼球運動検査(例えば、ENGまたはVNG)、VOR検査(例えば、頭部インパルス検査(Halmagyi-Curthoys検査、例えば、VHIT)または熱反射検査)、姿勢動揺検査、回転椅子検査、ECOG、VEMP、及び専用の臨床平衡検査)を使用して評価してもよく、治療前に得られた測定値に比べて5%以上(例えば、5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、125%、150%、200%またはそれ以上)改善し得る。本明細書に記載の組成物はまた、(例えば、前庭機能障害に関連する遺伝子変異を有し、前庭機能障害の家族歴(例えば、遺伝性前庭機能障害)を有するか、または前庭機能障害に関連するリスク要因(例えば、耳毒性薬、頭部外傷、または疾患もしくは感染)にさらされているが、前庭機能障害(例えば、眩暈、めまい、または平衡失調)を示していない対象、あるいは軽度~中程度の前庭機能障害を示す対象における)前庭機能障害の発症または進行を遅延または予防するのに十分な量で投与してもよい。対象に投与する核酸ベクターでSLC6A14プロモーターに操作可能に連結された導入遺伝子によってコードされるタンパク質の発現は、免疫組織化学、ウェスタンブロット分析、定量的リアルタイムPCR、またはタンパク質もしくはmRNAを検出するための当技術分野で公知の他の方法を使用して評価してもよく、またその発現は、本明細書に記載の組成物の投与前の発現に比べて5%以上(例えば、5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、125%、150%、200%またはそれ以上)増加し得る。有毛細胞数、有毛細胞機能、有毛細胞成熟、有毛細胞再生、または対象に投与する核酸ベクターによってコードされるタンパク質の機能は、前庭機能の検査に基づいて間接的に評価してもよく、またそれらは、本明細書に記載の組成物の投与前の有毛細胞数、有毛細胞機能、有毛細胞成熟、有毛細胞再生またはタンパク質の機能と比べて、または治療されていない対象と比べて、5%以上(例えば、5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、125%、150%、200%またはそれ以上)向上し得る。これらの効果は、本明細書に記載の組成物の投与後、例えば、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、15週間、20週間、25週間以内、またはそれ以上の間に生じ得る。治療に使用する用量及び投与経路に応じて、組成物を投与してから、1か月、2か月、3か月、4か月、5か月、6か月またはそれ以上後に患者を評価してもよい。評価の結果に応じて、患者に追加の治療を受けさせてもよい。
【0111】
キット
本明細書に記載の組成物を、前庭機能障害の治療に使用するためのキットで提供することができる。組成物は、本明細書に記載のSLC6A14プロモーター(例えば、表2に挙げたポリヌクレオチド配列のうち任意の1つ(例えば、配列番号1~6のうち任意の1つのポリヌクレオチド)に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有するポリヌクレオチド)、そのようなポリヌクレオチドを含む核酸ベクター、及び目的のタンパク質(例えば、前庭機能障害を治療するためにVSCで発現できるタンパク質)をコードする導入遺伝子に操作可能に連結された本明細書に記載のポリヌクレオチドを含む核酸ベクターを含んでいてもよい。核酸ベクターは、AAVウイルスキャプシド(例えば、AAV1、AAV2、AAV2quad(Y-F)、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、Anc80、7m8、PHP.B、PHP.eB、またはPHP.S)にパッケージングしてもよい。キットには、キットのユーザ、例えば医師に、本明細書に記載の方法を実施するように指示する添付文書をさらに含ませることができる。キットには、場合により、組成物を投与するための注射器または他の器具を含ませてもよい。
【実施例
【0112】
以下の実施例は、本明細書に記載の組成物及び方法をどのように使用し、製造し、評価し得るかについての説明を当業者に提供するために提示し、純粋に本発明を例示することを意図するものであり、発明者らが自身の発明と見なすもの範囲を限定することを意図しない。
【0113】
実施例1.単細胞RNA-Seqを使用した前庭支持細胞特異的遺伝子としての溶質キャリアファミリー6メンバー14(SLC6A14)の同定
成体マウスの前庭及び蝸牛組織に対して単細胞RNA配列決定を実施し、トランスクリプトームを分析して、内耳の異なる細胞型で発現する遺伝子を同定した。この分析は、前庭支持細胞では発現するが、蝸牛支持細胞では発現しない遺伝子を同定することに焦点を当てたものであった。SLC6A14は、前庭支持細胞(VSC)ではっきりと検出される転写物として同定されたが、他の前庭細胞型、または蝸牛細胞型では検出されなかった(図1A~1B)。
【0114】
実施例2:SLC6A14を内因的に発現する細胞株の同定
SLC6A14遺伝子を内因的に発現する細胞株を同定するために、本発明者らは、マウス及びヒト細胞の一般に入手可能なRNA配列決定データを含むARCHSデータベース(amp.pharm.mssm.edu/archs4)を検索した。この検索により、SLC6A14を内因的に発現するものとして複数の細胞株を特定した(図2)。SLC6A14の中間発現が最も高い3つの細胞株のうちの1つは、HepG2(ヒト肝臓癌細胞)であった。
【0115】
実施例3.HepG2細胞における複数のアデノ随伴ウイルス(AAV)血清型の形質導入効率の測定
HepG2細胞が種々の組換えAAV血清型によって形質導入され得るかどうかを実験的に検証するために、HepG2細胞を複数のAAV血清型を使用してプラスミド構築物によって形質導入した。具体的には、最初にHepG2細胞をプレートに接種した。プラスミドをLipofectamine3000によって形質移入した。従来の三重形質移入法を使用してAAVをHEK293T細胞にパッケージした。AAVウイルスを産生細胞から回収し、イオジキサノール勾配遠心分離によって精製し、次いで、バッファー交換に通過させて、最終の純粋なAAVストックを得た。サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの制御下で緑色蛍光タンパク質(GFP)に融合したヒト・ヒストンH2B遺伝子をコードするプラスミド構築物(CMV-H2B-GFP)を、AAV1、AAV8、及びAAV9キャプシドにパッケージし、1×10vg/細胞の感染多重度(MOI)でHepG2細胞に形質導入した。GFPを蛍光顕微鏡法によって可視化し、フローサイトメトリーによって量を計った。すべての血清型でHepG2細胞の形質導入が見られたが、AAV9による細胞の形質導入は、非常に効率が低いものであった(図3)。
【0116】
実施例4.HepG2細胞におけるSLC6A14プロモーター活性の測定
マウス(配列番号5)及びヒト(配列番号3~4)SLC6A14プロモーターを、外来性導入遺伝子発現を促進するように設計した。ウイルスパッケージングの有効性に依存しない外来性DNAとして送達される場合にこれらのSLC6A14プロモーターが活性するかどうかを検証するために、SLC6A14プロモーターの3つの変異体をコードするプラスミドP530、P335及びP372(それぞれ、図19図21、及び図22)を、Lipofectamineを使用してHepG2細胞に形質移入した。SLC6A14プロモーター活性を、CMVプロモーターの活性と比較した。形質導入していない細胞を対照として用いた。試験した構築物のリポフェクション効率を図4Aに示す。SLC6A14プロモーターの変異体で形質移入した細胞のGFP発現レベルは、広布の強いCMVプロモーターと同等か、それよりも高く、これはSLC6A14プロモーター活性のモデルとしてこの細胞株を使用することができることを意味している(図4B)。これらの結果物を蛍光顕微鏡法によって検証した(図5A~5E)。
【0117】
実施例5.HepG2細胞におけるSLC6A14プロモーターをコードするAAV8ウイルスベクターの形質導入効率の測定
CMVプロモーターか、またはSLC6A14プロモーターの4つの変異体のうち1つの制御下で核H2B-GFPを含む導入遺伝子を、AAV8ウイルスベクターにパッケージした。H2B-GFP発現を誘導するSLC6A14プロモーターを、導入遺伝子プラスミドP530(配列番号4のヒトSLC6A14プロモーター)、P335(配列番号3のヒトSLC6A14プロモーター)、P372(配列番号5のマウスSLC6A14プロモーター)、またはP373(配列番号6のマウスSLC6A14プロモーター、図23)を使用して合成した。ウイルスベクターのそれぞれを、1×10vg/細胞のMOIでHepG2細胞に送達した。すべてのウイルスがGFP陽性HepG2細胞の存在下で得られ、AAV8にパッケージされたSLC6A14プロモーターは、遺伝子発現を誘導することができることが確認された(図6)。
【0118】
実施例6.in vitroでのマウス前庭器官におけるSLC6A14プロモーター活性の測定
in vitroでのマウス前庭器官におけるSLC6A14プロモーター活性の測定をするために、オスの成体マウスの卵形嚢及び内襞を、死後の成体C57Bl/6マウスの内耳から解離し、細胞培養物で保持した。有毛細胞を殺傷するためにゲンタマイシンを加えた。上述のマウスバージョンのSLC6A14プロモーター(配列番号5または配列番号6)のいずれか1つの制御下でGFPを含むAAV8ベクターを、1×1011ウイルスゲノム(vg)/培養物の用量で細胞培養物に加え、組織を形質導入した。培養物中で7日間経過後、この組織を4%パラホルムアルデヒドと共に室温で1時間静置した。器官をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で5分間、3回洗浄し、次いで、製造者のプロトコールに従って、M.O.Mブロッキング剤(Vector Laboratories,Burlingame CA)を用いて室温で1時間ブロッキングした。器官をPBS+0.5%トリトンX-100(PBST)中で10%血清を用いて室温で3時間ブロッキングし、その後、ウサギ抗Sall2(支持細胞のマーカー)一次抗体(1:200希釈;Cat番号HPA004162、Millipore Sigma,St.Louis,MO)、またはマウスモノクローナル抗Brn-3c(有毛細胞のマーカーPou4f3)一次抗体(1:200希釈;Cat番号sc-81980,Santa Cruz Biotechnology,Dallas,TX)及び2%血清を含有したPBST中で4℃で一晩インキュベートした。組織を室温に戻し、次いで、PBSで5分間、3回洗浄した。続いて、組織を、Alexa Fluor568ロバ抗ウサギ二次抗体、またはAlexa Fluor647抗マウス二次抗体(1:500希釈、ThermoFisher Scientific,Waltham MA)と共に2%血清を含有したPBST中で室温で3時間インキュベートした。器官をPBSで5分間、3回洗浄し、スライドガラス上に固定し、Zeiss LSM 880 with airyscan(Zeiss,Germany)を使用して共焦点画像を取得した。耳部をホルマリン固定・パラフィン包埋(FFPE)し、切片を採取し、色素産生IHCでGFPを染色し、画像化した。マウスプロモーター番号1(配列番号5)は、卵形嚢及び内襞の支持細胞において高レベルで発現した(図7A~7D)。特に、GFP発現は、有毛細胞(Pou4f3)及び支持細胞(Sall2)を含む感覚上皮の全体にわたって観察された(図7A)。卵形嚢の横断図は、GFP標識がSall2陽性支持細胞核と一致するが、Pou4f3陽性有毛細胞核とは一致しないことを示している(図7B)。GFP発現はまた、外植した内襞でも観察された(図7C)。内襞の横断図は、GFP発現が優位に支持細胞と共局在することを示している(図7D)。代替的なアイソフォームを意味するマウスプロモーター番号2(配列番号6)は、卵形嚢での発現はわずかなものである(図8A~8D)ものの、有毛細胞及び支持細胞の両方で検出された。GFP発現は、有毛細胞(Pou4f3)及び支持細胞(Sall2)を含む卵形嚢感覚上皮の小さな部分でのみ観察された(図8A)。卵形嚢の横断図は、GFP標識がSall2陽性支持細胞核と一致するが、Pou4f3陽性有毛細胞核の一部とも一致することを示している(図8B)。GFP発現はまた、外植した内襞でも低レベルで観察された(図8C)。内襞の横断図は、GFP発現が優位に支持細胞と共局在するが、同様に非特異的領域でも見られることを示している(図8D)。
【0119】
実施例7.in vivoでのマウス前庭器官におけるSLC6A14プロモーター活性の測定
in vivoでのSLC6A14プロモーターの活性を測定するために、AAV8にパッケージした核GFPを誘導する(プラスミドP372からの)マウスSLC6A14プロモーター番号1(配列番号5)を、成体マウスの後骨半規管に、9.78×10vg/耳の用量で注射によって投与した。2週間後、動物をCOによって安楽死させ、PBS、続いて中性緩衝ホルマリン(NBF)で潅流した。側頭骨を取り除き、NBF中で室温(RT)で一晩静置した。前庭器官を側頭骨から解離し、14%EDTA(BM-150A,Boston BioProducts)中で、室温で一晩脱灰した。スライド上に固定した卵形嚢(図9A)、球形嚢(図9B)、及び内襞(図9C)全体でGFP発現が見られた。
【0120】
発現の特異性を測定するために、耳全体を固定し、脱灰し、パラフィン包埋し、かつヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色を用いて切片を作り、組織全体の断面図を視覚化した。球形嚢、卵形嚢、及び内襞の細胞核で、強いGFP発現が見られたが、その一方で蝸牛ではGFPシグナルは見られなかった(図10)。有毛細胞核または間葉細胞核でのオフターゲットGFPシグナルは少なく、このプロモーターの特異性が示された。H&E染色及びGFPタンパク質の対比染色によってプロモーター活性の細胞型特異性を確認して、GFP発現細胞の核(図11A)、及びAAVベクターゲノムのWPREエレメントをRNAScopeプローブで標識した近接切片(図11B)を同定した。染色により、前庭器官の支持細胞核で特異的発現が見られたが、有毛細胞ではGFPはほとんど検出されなかった。感覚上皮下の有毛細胞、支持細胞、及び間葉細胞で高数値のベクターゲノムが検出され、GFP発現ベクターが複数の細胞型を形質導入したことが示された(図11B)。しかし、GFP発現は、支持細胞でのみ検出された(図11A)。
【0121】
実施例8.さらなる成熟を誘導する新しい有毛細胞での支持細胞特異的プロモーターを介したAtoh1導入遺伝子発現のサイレンシング
有毛細胞成熟に対するプロモーター特異性の効果を評価するために、卵形嚢をオスのC57Bl/6Jマウス(6~8週齡)から解離し、5%FBS及び2.5μg/mlシプロフロキサシンを含むDMEM/F12を入れた100μLの基礎培地で37°C、かつ5%のCOで培養した。有毛細胞を殺傷するためにゲンタマイシン(0.5mg/mL)を培地に加え、24時間後にゲンタマイシンを洗い流し、1×1012gc:AAV8-CMV-Atoh1-2A-H2BGFP(CMVプロモーターグループ)、AAV8-GFAP-Atoh1-2A-H2BGFP(SC特異的プロモーターグループ)、またはAAV8-RLBP1-Atoh1-2A-H2BGFP(SC特異的プロモーターグループ)の用量でこれらのAAVのうち1つを含有する250μLの新鮮な培地に置き換えた。1日のインキュベーションの後、ウイルスを洗い流し、2mLの新鮮な培地で卵形嚢をさらに3、8、または16日間培養した。培養期間の最後に、卵形嚢を分離して、単一の細胞を採取し、10X Genomics Chromium systemを用いて単細胞RNA-seq向けに調製した。Illumina NovaSeqで配列決定を実施し、リードをCellRangerを用いてアラインメントし、かつSeurat用いて下流分析を実施した。胚18日目(E18)、生後12日目(P12)、及び成体マウスから作成された卵形嚢有毛細胞の単細胞RNA-Seqプロファイルのデータベースと比較することによって、Seuratで予測スコアを作成した。図12A~12Dは、広布のCMVプロモーターまたは支持細胞(SC)特異的プロモーター(GFAPまたはRLBP1)の制御下でAtoh1を発現する各AAVで処置した成体卵形嚢外植片内で再生した有毛細胞のAtoh1導入遺伝子発現及び成熟予測スコアを示したバイオリンプロットである。Atoh1導入遺伝子は、SC特異的プロモーターグループの再生した有毛細胞では、わずかなレベルすなわち検出不可能なレベルでしか発現しなかったが、その一方で、CMVグループのほぼ全ての有毛細胞では、高レベルで発現した(図12A)。これらの結果により、Atoh1導入遺伝子は、SC特異的プロモーターによって誘導される場合に、再生した有毛細胞で自然に下方制御することが実証された。SC特異的プロモーターグループのより多くの単細胞RNA-Seqプロファイルが、CMVグループのものよりもP12(図12C)及び成体有毛細胞(図12D)とより強く相関した。逆に、CMVグループのより多くの単細胞RNA-Seqプロファイルが、SC特異的プロモーターグループのものよりもE18有毛細胞(図12B)とより強く相関した。したがって、SC特異的プロモーターによるAtoh1導入遺伝子の天然サイレンシングは、再生した有毛細胞の成熟を誘導する。
【0122】
実施例9.Atoh1をコードするポリヌクレオチドに操作可能に連結されたSLC6A14プロモーターを含むAAVベクターの構築
AAV8ベクターを以下のように作成した。HEK293T細胞(ATCC,Manassas,VAから入手)を細胞培養処理皿(15cm)に接種し、容器内で70~80%のコンフルエントに達するまでその細胞を増殖させた。従来の三重形質移入法を使用して、プラスミドを293T細胞に形質移入した。ヒトATOH1(配列番号7のヌクレオチド1083~2144でコードされる)の発現を誘導するSLC6A14プロモーター(配列番号7のヌクレオチド233~1066)をコードし、かつウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE、配列番号7のヌクレオチド2155~2702)及び3’UTRにウシ成長ホルモン(bGH)ポリアデニル化シグナル(配列番号7のヌクレオチド2715~2922)を含む配列番号7の移入プラスミドと、AAV2rep/AAV8cap(Addgene番号112864)を含むプラスミドpXR8と、アデノウイルスヘルパープラスミドpXX6-80(X Xiao et al.,J Virol 72(3),pp.2224-32 (1998))とを、1:1:1のモル比で混ぜ合わせ、その混合物の52.3μgをPEIMax(Polysciences)と混ぜ合わせた。総計52.3μgのそのプラスミド混合物を、細胞の入った15cmプレートのそれぞれに加えた。その後、細胞培養物及び細胞を収集してAAVを抽出及び精製した。細胞からのAAVを、凍結と解凍の3サイクルを通して細胞から放出し、細胞培養物を収集して分泌性AAVを得た。溶液にPEG8000を添加し、4℃でインキュベートし、かつ遠心分離して細胞培養物からのAAVを濃縮して、AAV粒子を収集した。すべてのAAVをイオジキサノール密度勾配遠心法に供してAAV粒子を精製し、精製したAAV及び緩衝液を100kDa分子量カットオフの遠心分離カラムに通すことによって、緩衝液を0.01%プルロニックF68を含むPBSに交換した。本明細書に記載の他のAAVウイルスベクターも、適切な導入遺伝子プラスミド(プロモーター、導入遺伝子(複数可)、及び導入遺伝子発現に必要なその他のエレメントを提供する)を使用して同様に合成した。
【0123】
実施例10.in vivoでのマウス前庭器官におけるヒトSLC6A14プロモーター活性の測定
in vivoでの前庭支持細胞においてヒトSLC6A14プロモーターも活性するかどうかを測定するために、核誘導H2B-GFP融合タンパク質(配列番号8のヌクレオチド1083~2198)の発現を誘導するヒトSLC6A14プロモーター(ヌクレオチド233~1066)を含む配列番号8の移入プラスミドをAAV8にパッケージした。得られたAAV8ベクターを、オスの8週齡C57BL/6マウスの後骨半規管に、3×1010vg/耳の用量で注射によって投与した。2週間後、動物をCOによって安楽死させ、PBS、続いて中性緩衝ホルマリン(NBF)で潅流した。側頭骨を取り除き、卵形嚢及び内襞を、顕微解剖で摘出し、有毛細胞マーカーPou4f3(1:200,sc-1980,SantaCruzBiotechnology,Dallas,Texas,USA)及び支持細胞マーカーSall2(1:200,HPA004162,Atlas Antibodies,Bromma,Sweden)に対する蛍光免疫標識を行った。器官をスライドガラス上に固定し、Zeiss LSM 800共焦点顕微鏡で画像化した。支持細胞の大部分で天然のGFP発現が検出された(図13A~13B)。GFPは支持細胞だけに多く見られ、有毛細胞またはいずれの他の非感覚細胞型でも検出されなかった。
【0124】
実施例11.in vivoでの非ヒト霊長類前庭器官におけるヒトSLC6A14プロモーター活性の測定
in vivoでの非ヒト霊長類前庭器官におけるSLC6A14プロモーターの活性を測定するために、実施例10で使用したのと同じAAV8ベクターを、成体カニクイザルの外側半規管にある液体の排出のために作成された開窓部位を有する正円窓膜に、1.5×1012ウイルスゲノム(vg)/耳の用量で注射によって投与した。4週間後、動物をケタミン(10~15mg/kg、IM)またはテラゾール(5~8mg/kg、IM)を用いて鎮静させ、ヘパリン(100U/mL)を含むPBS、続いて中性緩衝ホルマリン(10% NBF)で灌流した。側頭骨を取り除き、NBF中で室温(RT)で一晩静置し、次に、Immunocal(StatLab)溶液中で室温で脱灰した。
【0125】
前庭器官を顕微解剖で摘出して全体像を画像化する方法か、または耳全体をパラフィン包埋して切片を作り、耳の全領域における発現を可視化する方法の2つの方法でGFP発現を検査した。器官全体のものに対しては、核をDAPIで対比染色し、スライドガラス上に固定し、Zeiss LSM 880共焦点顕微鏡で画像化した。切片に対しては、パラフィン包埋処理は、天然GFPシグナルを急冷するので、免疫標識を実施してGFPを検出した。脱ろう及び抗原回復後、切片をGFPに対するウサギ一次抗体(Abcam,ab183734)及びアルカリホスファターゼに結合させた抗ウサギ二次抗体で標識し、Fast-Red色素を用いて赤色色素産生染色を行った。切片をヘマトキシリンを使用して青色に対比染色した。例示的データは、卵形嚢でのGFP発現を示している。マウスで観察されたものと同様に、GFP発現は感覚上皮だけに見られ、非感覚細胞では検出されなかった(図14A)。強いGFP発現が、支持細胞で検出された(図14B)。
【0126】
実施例12.in vivoでのマウスIDPN損傷モデルにおけるSLC6A14プロモーター誘導ATOH1過剰発現を介した前庭有毛細胞の再生
次に本発明者らは、in vivoにて成体マウスに予め存在していた有毛細胞を殺傷した後に、ヒトSLC6A14プロモーターによって誘導される転写因子ATOH1の発現により前庭支持細胞が新しい有毛細胞に転換できるかどうかを評価した。有毛細胞を損傷させるために、オスの8週齡のC57BL/6マウスの体重を計り、PBSに含まれた4mg/kg滅菌3,3’-イミノジプロピオニトリル(TCI America,I0010)を腹腔内注射した。ヒトATOH1(配列番号9のヌクレオチド1083~2144)の発現を誘導し、かつ核標的緑色蛍光タンパク質(ヒストン2b遺伝子のH2B断片に融合したGFP、配列番号9のヌクレオチド2217~3332)、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE、配列番号9のヌクレオチド3341~3888)、及び3’UTRでウシ成長ホルモン(bGH)ポリアデニル化シグナル(配列番号9のヌクレオチド3901~4108)を共発現させる、配列番号4のヒトSLC6A14プロモーター(配列番号9のヌクレオチド233~1066)をコードする発現カセットを含む配列番号9のプラスミドを、7.3×1012vg/mLの滴定濃度でAAV8にパッケージした。このAAV8ベクターをオスの8週齡のC57BL/6マウス(n=6)の後骨半規管に、7.3×10vg/耳の用量で投与した。6週間後、動物をCOによって安楽死させ、PBS、続いて中性緩衝ホルマリン(NBF)で潅流した。側頭骨を取り除き、卵形嚢を、顕微解剖で摘出し、有毛細胞マーカーPou4f3(1:200,sc-81980,SantaCruzBiotechnology)及び支持細胞マーカーSall2(1:200,HPA004162,Atlas Antibodies)に対する蛍光免疫標識を行った。器官をスライドガラス上に固定し、Zeiss LSM 800共焦点顕微鏡で画像化した。共焦点画像の定量的観察により、反対側の耳の未処置の卵形嚢と比較して、ベクターで処置した卵形嚢における有毛細胞数(Pou4f3標識で評価)の明確な増加が明かとなった(図15A)。Imarisソフトウェアでの3D計数用の自動化アルゴリズムを使用した定量的測定により、有毛細胞数が著しく増加したことが確認された(図15B)。
【0127】
実施例13.in vivoでのマウスIDPN損傷モデルにおけるSLC6A14プロモーター誘導ATOH1発現カセットをコードするAAVベクターの用量応答
実施例12で説明したのと同じ方法及びベクターを使用して、本発明者らは、1×10、5×10、1×1010、及び2×1010vg/耳の用量(用量ごとにn=8マウス)でベクターを投与することによって有毛細胞再生効果の用量依存性を評価した。処置済みの(左)耳と未処置の(右)耳との有毛細胞数の動物内差の定量化により、試験したすべての用量で、2×1010vg/耳で安定した水準の明確な用量依存性を伴う有意な再生が確認された(図16)。
【0128】
実施例14.in vivoでのマウスゲンタマイシン損傷モデルにおけるSLC6A14プロモーター誘導ATOH1過剰発現を介した前庭有毛細胞の再生
類似の再生応答が代替的な損傷モデルでも観察することができるかどうかを測定するために、実施例12及び13に記載したのと同じSLC6A14-ATOH-H2BGFP AAV8ベクターを、アミノグリコシド抗生物質であるゲンタマイシンの局所投与によって前庭有毛細胞を損傷させた生体マウスに投与した。具体的には、3日間隔で3回、経鼓膜注射を介して400mg/mLゲンタマイシンを8週齡のオスのC57BL/6マウスの中耳に投与した。2週間後、AAV8ベクターを2×1010vg/耳の用量で後骨半規管(n=12マウス)に投与した。対照マウスに関しては、等量のPBS(1μL)を後骨半規管に注射した(n=14マウス)。ウイルスを投与してから4週間後にマウスを犠牲にし、実施例12に記載したように耳を処理し、定量化した。ゲンタマイシンによって有毛細胞を損傷できたかどうかを確認するために、未処置のマウス(n=12)も比較のために犠牲にした。Pou4f3+有毛細胞の定量化により、ゲンタマイシンが卵形嚢における有毛細胞の数を著しく減少させること、及びATOH1を発現するAAV8ベクターが有毛細胞数を著しく増加させることが明かとなった(図17A~17B)。
【0129】
実施例15.SLC6A14プロモーターを含む核酸ベクターを含有する組成物の前庭機能障害を有する対象への投与
本明細書に開示する方法に従って、当技術分野の医師は、患者、例えば、前庭機能障害を有するヒト患者を治療し、それにより前庭機能を改善または回復させることができる。このために、当技術分野の医師は、治療用タンパク質(例えば、無調BHLH転写因子1(Atoh1))をコードする導入遺伝子に操作可能に連結された、SLC6A14プロモーター(例えば、表2に挙げたポリヌクレオチド配列のうち任意の1つ(例えば、配列番号1~6のうち任意の1つのポリヌクレオチド)に対して、少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有するポリヌクレオチド)を含むAAVベクター(例えば、AAV1、AAV2、AAV2quad(Y-F)、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、Anc80、7m8、PHP.B、PHP.eB、またはPHP.S)を含む組成物を、ヒト患者に投与することができる。一実施例では、ベクターはAAV8キャプシドを有し、かつ配列番号7のヌクレオチド233~2922を含む。AAVベクターを含む組成物を、例えば、内耳への局所投与(例えば、半規管への注射)によって患者に投与して、前庭機能障害を治療することができる。
【0130】
組成物を患者に投与した後、当技術分野の医師であれば、導入遺伝子によってコードされる治療用タンパク質の発現、及び治療に応答した患者の改善を様々な方法でモニタリングすることができる。例えば、医師は、電気眼振記録検査、ビデオ眼振記録法、VOR検査(例えば、頭部インパルス検査(Halmagyi-Curthoys検査、例えば、VHIT)もしくは熱反射検査)、回転検査、前庭誘発筋電位、またはコンピュータ式動的姿勢動揺検査などの標準的な検査を行うことによって患者の前庭機能をモニタリングすることができる。組成物の投与前に得られた検査結果に比べて、組成物の投与後に1つ以上の検査において患者の前庭機能に改善が見られると判断される場合、それは患者が治療に対して良好に応答していると言える。その後の用量を必要に応じて決定し、投与することができる。
【0131】
本発明の代表的実施形態を以下の列挙パラグラフに記載する。
【0132】
E1. 核酸ベクターであって、配列番号1~6のうち任意の1つに対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有するポリヌクレオチドを含む、前記核酸ベクター。
【0133】
E2. 前記ポリヌクレオチドは、配列番号4に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有する、E1に記載の核酸ベクター。
【0134】
E3. 前記ポリヌクレオチドは、配列番号3に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有する、E1に記載の核酸ベクター。
【0135】
E4. 前記ポリヌクレオチドは、配列番号5に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有する、E1に記載の核酸ベクター。
【0136】
E5. 前記ポリヌクレオチドは、配列番号6に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有する、E1に記載の核酸ベクター。
【0137】
E6. 前記ポリヌクレオチドは、配列番号2に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有する、E1に記載の核酸ベクター。
【0138】
E7. 前記ポリヌクレオチドは、配列番号1に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有する、E1に記載の核酸ベクター。
【0139】
E8. 前記ポリヌクレオチドは、導入遺伝子に操作可能に連結されている、E1~E7のいずれか1項に記載の核酸ベクター。
【0140】
E9. 前記導入遺伝子は、異種導入遺伝子である、E8に記載の核酸ベクター。
【0141】
E10. 前記導入遺伝子は、タンパク質、短干渉RNA(siRNA)、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、ヌクレアーゼをコードするか、またはマイクロRNAである、E8またはE9に記載の核酸ベクター。
【0142】
E11. 前記ポリヌクレオチドは、哺乳類VSCにおいて、前記タンパク質、前記siRNA、前記ASO、前記ヌクレアーゼ、または前記マイクロRNAの前庭支持細胞(VSC)特異的発現を誘導することができる、E10に記載の核酸ベクター。
【0143】
E12. 前記VSCは、ヒトVSCである、E11に記載の核酸ベクター。
【0144】
E13. 前記タンパク質は、治療用タンパク質であり、前記治療用タンパク質は、スパルト様転写因子2(Sall2)、カルモジュリン結合転写活性化因子1(Camta1)、YRPWモチーフ2を有するHes関連ファミリーBHLH転写因子(Hey2)、Gata結合タンパク質2(Gata2)、YRPWモチーフ1を有するHes関連ファミリーBHLH転写因子(Hey1)、セラミドシンターゼ2(Lass2)、SRYボックス10(Sox10)、GATA結合タンパク質3(Gata3)、Cut様ホメオボックス1(Cux1)、核受容体サブファミリー2群Fメンバー(Nr2f1)、Hes関連ファミリーBHLH転写因子(Hes1)、RAR関連オーファン受容体B(Rorb)、Junがん原遺伝子AP-1転写因子サブユニット(Jun)、ジンクフィンガータンパク質667(Zfp667)、LIMホメオボックス3(Lhx3)、Nescientヘリックス・ループ・ヘリックス1(Nhlh1)、MAX二量体化タンパク質4(Mxd4)、ジンクフィンガーMIZ-Type含有1(Zmiz1)、ミエリン転写因子1(Myt1)、シグナル伝達兼転写活性化因子3(Stat3)、BarH様ホメオボックス1(Barhl1)、胸腺細胞選択関連高移動度群ボックス(Tox)、プロスペロホメオボックス1(Prox1)、核因子IA(Nfia)、甲状腺ホルモン受容体β(Thrb)、MYCLがん原遺伝子BHLH転写因子(Mycl1)、リジンデメチラーゼ5A(Kdm5a)、CAMP応答配列結合タンパク質3様4(Creb3I4)、ETS変異体1(Etv1)、父性発現3(Peg3)、BTBドメイン及びCNCホモログ2(Bach2)、ISL・LIMホメオボックス1(Isl1)、ジンクフィンガー及びBTBドメイン含有38(Zbtb38)、肢芽及び心臓発達(Lbh)、Tubby Bipartite転写因子(Tub)、ユビキチンC(Hmg20)、RE1サイレンシング転写因子(Rest)、ジンクフィンガータンパク質827(Zfp827)、AF4/FMR2ファミリーメンバー3(Aff3)、PBX/結節1ホメオボックス2(Pknox2)、ATリッチ相互作用ドメイン3B(Arid3b)、MLX相互作用タンパク質(Mlxip)、ジンクフィンガータンパク質(Zfp532)、IKAROSファミリージンクフィンガー2(Ikzf2)、スパルト(Spalt)様転写因子1(Sall1)、SIXホメオボックス2(Six2)、スパルト様転写因子3(Sall3)、Lin-28ホモログB(Lin28b)、調節因子X7(Rfx7)、脳由来神経栄養因子(Bdnf)、成長因子非依存性1転写抑制因子(Gfi1)、POUクラス4ホメオボックス3(Pou4f3)、MYCがん原遺伝子BHLH転写因子(Myc)、β-カテニン(Ctnnb1)、SRYボックス2(Sox2)、SRYボックス4(Sox4)、SRYボックス11(Sox11)、TEAドメイン転写因子2(Tead2)、無調BHLH転写因子1(Atoh1)、またはAtoh1変異体である、E10~E12のいずれか1項に記載の核酸ベクター。
【0145】
E14. 前記治療用タンパク質は、Atoh1である、E13に記載の核酸ベクター。
【0146】
E15. 前記Atoh1変異体は、S328A、S331A、S334A、S328A/S331A、S328A/S334A、S331A/S334A、及びS328A/S331A/S334からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を有する、E13に記載の核酸ベクター。
【0147】
E16. 前記核酸ベクターは、ウイルスベクター、プラスミド、コスミド、または人工染色体である、E1~E15のいずれか1項に記載の核酸ベクター。
【0148】
E17. 前記核酸ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、及びレンチウイルスからなる群から選択されるウイルスベクターである、E16に記載の核酸ベクター。
【0149】
E18. 前記ウイルスベクターは、AAVベクターである、E17に記載の核酸ベクター。
【0150】
E19. 前記AAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV2quad(Y-F)、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、rh10、rh39、rh43、rh74、Anc80、Anc80L65、DJ/8、DJ/9、7m8、PHP.B、PHP.eB、またはPHP.Sキャプシドを有する、E18に記載の核酸ベクター。
【0151】
E20. E1~E19のいずれか1項に記載の核酸ベクターを含む、組成物。
【0152】
E21. 薬学的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤をさらに含む、E20に記載の組成物。
【0153】
E22. ポリヌクレオチドであって、導入遺伝子に操作可能に連結された、配列番号1~6のうち任意の1つに対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有する、前記ポリヌクレオチド。
【0154】
E23. 前記ポリヌクレオチドは、配列番号4に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有する、E22に記載のポリヌクレオチド。
【0155】
E24. 前記ポリヌクレオチドは、配列番号3に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有する、E22に記載のポリヌクレオチド。
【0156】
E25. 前記ポリヌクレオチドは、配列番号5に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有する、E22に記載のポリヌクレオチド。
【0157】
E26. 前記ポリヌクレオチドは、配列番号6に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有する、E22に記載のポリヌクレオチド。
【0158】
E27. 前記ポリヌクレオチドは、配列番号2に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有する、E22に記載のポリヌクレオチド。
【0159】
E28. 前記ポリヌクレオチドは、配列番号1に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性)を有する、E22に記載のポリヌクレオチド。
【0160】
E29. 前記導入遺伝子は、異種導入遺伝子である、E22~E28のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【0161】
E30. 前記導入遺伝子は、タンパク質、siRNA、ASO、ヌクレアーゼをコードするか、またはマイクロRNAである、E29に記載のポリヌクレオチド。
【0162】
E31. 前記タンパク質は、治療用タンパク質であり、前記治療用タンパク質は、Sox9、Sall2、Camta1、Hey2、Gata2、Hey1、Lass2、Sox10、Gata3、Cux1、Nr2f1、Hes1、Rorb、Jun、Zfp667、Lhx3、Nhlh1、Mxd4、Zmiz1、Myt1、Stat3、Barhl1、Tox、Prox1、Nfia、Thrb、Mycl1、Kdm5a、Creb314、Etv1、Peg3、Bach2、Isl1、Zbtb38、Lbh、Tub、Hmg20、Rest、Zfp827、Aff3、Pknox2、Arid3b、Mlxip、Zfp532、Ikzf2、Sall1、Six2、Sall3、Lin28b、Rfx7、Bdnf、Gfi1、Pou4f3、Myc、Ctnnb1、Sox2、Sox4、Sox11,Tead2、Atoh1、またはAtoh1変異体である、E30に記載のポリヌクレオチド。
【0163】
E32. 前記治療用タンパク質は、Atoh1である、E31に記載のポリヌクレオチド。
【0164】
E33. E22~E32のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドまたはE1~E19のいずれか1項に記載の核酸ベクターを含む、細胞。
【0165】
E34. 前記細胞は、哺乳類VSCである、E33に記載の細胞。
【0166】
E35. 前記哺乳類VSCは、ヒトVSCである、E34に記載の細胞。
【0167】
E36. 哺乳類VSCで導入遺伝子を発現させる方法であって、前記哺乳類VSCをE1~E19のいずれか1項に記載の核酸ベクター、またはE20もしくはE21に記載の組成物に接触させることを含む、前記方法。
【0168】
E37. 前記導入遺伝子は、VSCで特異的に発現する、E36に記載の方法。
【0169】
E38. 前記哺乳類VSCは、ヒトVSCである、E36またはE37に記載の方法。
【0170】
E39. 前庭機能障害を有するか、または発症するリスクを有する対象を治療する方法であって、有効量のE1~E19のいずれか1項に記載の核酸ベクター、またはE20もしくはE21に記載の組成物を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【0171】
E40. 前記前庭機能障害は、眩暈、めまい、平衡失調、両側前庭機能低下、両側前庭機能不全、動揺視、または平衡障害である、E39に記載の方法。
【0172】
E41. 前記前庭機能障害は、加齢性前庭機能障害、頭部外傷性前庭機能障害、疾患もしくは感染関連性前庭機能障害、または耳毒性薬誘発性前庭機能障害である、E39またはE40に記載の方法。
【0173】
E42. 前記前庭機能障害は、遺伝子変異に関連している、E39~E41のいずれか1項に記載の方法。
【0174】
E43. 前庭有毛細胞再生を誘導または向上させることを必要とする対象においてそれを実施する方法であって、有効量のE1~E19のいずれか1項に記載の核酸ベクター、またはE20もしくはE21に記載の組成物を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【0175】
E44. VSC増殖を誘導または増加させることを必要とする対象においてそれを実施する方法であって、有効量のE1~E19のいずれか1項に記載の核酸ベクター、またはE20もしくはE21に記載の組成物を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【0176】
E45. 前庭有毛細胞増殖を誘導または増加させることを必要とする対象においてそれを実施する方法であって、有効量のE1~E19のいずれか1項に記載の核酸ベクター、またはE20もしくはE21に記載の組成物を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【0177】
E46. 前庭有毛細胞成熟(例えば、再生した有毛細胞の成熟)を誘導または向上させることを必要とする対象においてそれを実施する方法であって、有効量のE1~E19のいずれか1項に記載の核酸ベクター、またはE20もしくはE21に記載の組成物を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【0178】
E47. 前庭有毛細胞神経支配を誘導または向上させることを必要とする対象においてそれを実施する方法であって、有効量のE1~E19のいずれか1項に記載の核酸ベクター、またはE20もしくはE21に記載の組成物を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【0179】
E48. VSC及び/または前庭有毛細胞生存を増加させることを必要とする対象においてそれを実施する方法であって、有効量のE1~E19のいずれか1項に記載の核酸ベクター、またはE20もしくはE21に記載の組成物を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【0180】
E49. 前記対象は、前庭機能障害(例えば、眩暈、めまい、平衡失調、両側前庭機能低下、両側前庭機能不全、動揺視、または平衡障害)を有するか、または発症するリスクを有する、E43~E48のいずれか1項に記載の方法。
【0181】
E50. 両側前庭機能低下を有するか、または発症するリスクを有する対象を治療する方法であって、有効量のE1~E19のいずれか1項に記載の核酸ベクター、またはE20もしくはE21に記載の組成物を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【0182】
E51. 両側前庭機能不全を有するか、または発症するリスクを有する対象を治療する方法であって、有効量のE1~E19のいずれか1項に記載の核酸ベクター、またはE20もしくはE21に記載の組成物を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【0183】
E52. 前記両側前庭機能不全は、耳毒性薬誘発性両側前庭機能不全である、E51に記載の方法。
【0184】
E53. 前記耳毒性薬は、アミノグリコシド、抗腫瘍薬、エタクリン酸、フロセミド、サリチル酸塩、及びキニンからなる群から選択される、E41またはE52に記載の方法。
【0185】
E54. 動揺視を有するか、または発症するリスクを有する対象を治療する方法であって、有効量のE1~E19のいずれか1項に記載の核酸ベクター、またはE20もしくはE21に記載の組成物を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【0186】
E55. 平衡障害を有するか、または発症するリスクを有する対象を治療する方法であって、有効量のE1~E19のいずれか1項に記載の核酸ベクター、またはE20もしくはE21に記載の組成物を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【0187】
E56. 前記方法は、前記核酸ベクターまたは前記組成物を投与する前に、前記対象の前庭機能を評価することをさらに含む、E39~E55のいずれか1項に記載の方法。
【0188】
E57. 前記方法は、前記核酸ベクターまたは前記組成物を投与した後に、前記対象の前庭機能を評価することをさらに含む、E39~E56のいずれか1項に記載の方法。
【0189】
E58. 前記核酸ベクターまたは前記組成物は、局所的に投与される、E39~E57のいずれか1項に記載の方法。
【0190】
E59. 前記核酸ベクターまたは前記組成物は、半規管に投与される、E58に記載の方法。
【0191】
E60. 前記核酸ベクターまたは前記組成物は、経鼓膜的または鼓室内的に投与される、E58に記載の方法。
【0192】
E61. 前記核酸ベクターまたは前記組成物は、外リンパに投与される、E58に記載の方法。
【0193】
E62. 前記核酸ベクターまたは前記組成物は、内リンパに投与される、E58に記載の方法。
【0194】
E63. 前記核酸ベクターまたは前記組成物は、卵円窓に、または卵円窓を通して投与される、E58に記載の方法。
【0195】
E64. 前記核酸ベクターまたは前記組成物は、正円窓に、または正円窓を通して投与される、E58に記載の方法。
【0196】
E65. 前記核酸ベクターまたは前記組成物は、前庭機能障害を予防または軽減するか、前庭機能障害の発症を遅らせるか、前庭機能障害の進行を遅らせるか、前庭機能を改善させるか、前庭有毛細胞数を増加させるか、前庭有毛細胞成熟(例えば、再生した有毛細胞の成熟)を向上させるか、前庭有毛細胞増殖を増加させるか、前庭有毛細胞再生を向上させるか、前庭有毛細胞神経支配を向上させるか、VSC増殖を増加させるか、VSC数を増加させるか、VSC生存を増加させるか、前庭有毛細胞生存を増加させるか、またはVSC機能を改善させるのに十分な量で投与される、E39~E64のいずれか1項に記載の方法。
【0197】
E66. 前記対象は、ヒトである、E39~E65のいずれか1項に記載の方法。
【0198】
E67. E1~E19のいずれか1項に記載の核酸ベクター、またはE20もしくはE21に記載の組成物を含む、キット。
【0199】
その他の実施形態
本明細書に記載する本発明の様々な改変及び変形が、本発明の範囲及び精神から逸脱することなく、当業者には明らかであろう。本発明を特定の実施形態に関連して記載したが、請求される本発明は、そのような特定の実施形態に必要以上に限定されるべきではないことを理解すべきである。実際に、当業者には明らかである本発明を実施するために記載する様式の様々な改変は、本発明の範囲内であることが意図される。他の実施形態は、特許請求の範囲に見出される。
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図8C
図8D
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
【配列表】
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【国際調査報告】