(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-26
(54)【発明の名称】複製促進腫瘍溶解性アデノウイルス
(51)【国際特許分類】
C12N 15/861 20060101AFI20221219BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20221219BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20221219BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221219BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221219BHJP
C12N 5/09 20100101ALN20221219BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20221219BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20221219BHJP
C07K 14/52 20060101ALN20221219BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20221219BHJP
【FI】
C12N15/861 Z
A61K35/761
A61K48/00
A61P35/00
C12N5/10
C12N5/09 ZNA
C12N15/12
C12N15/13
C07K14/52
C07K16/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022526710
(86)(22)【出願日】2020-11-06
(85)【翻訳文提出日】2022-07-05
(86)【国際出願番号】 US2020059466
(87)【国際公開番号】W WO2021092427
(87)【国際公開日】2021-05-14
(32)【優先日】2019-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519226768
【氏名又は名称】メムゲン,インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】304021853
【氏名又は名称】エイチ リー モフィット キャンサー センター アンド リサーチ インスティテュート インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マーク・ジェイ・キャントウェル
(72)【発明者】
【氏名】アメール・エー・ベグ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA44
4C084AA13
4C084NA13
4C084ZB26
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA13
4C087ZB26
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA61
4H045CA40
4H045DA01
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
複製促進腫瘍溶解性アデノウイルスを開示する。これらの腫瘍溶解性アデノウイルスは、腫瘍溶解を促進し、治療的導入遺伝子の発現を促進することができる腫瘍特異的複製を有する。がんに罹患している患者のために複製促進腫瘍溶解性アデノウイルスを投与することを含む方法も開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アデノウイルスゲノムに挿入されたCMVプロモーター/エンハンサー及びSV40プロモーター/エンハンサーを含む、ウイルス複製が促進された組換えアデノウイルスベクター。
【請求項2】
前記組換えアデノウイルスベクターが、
a.アデノウイルスE1コード領域の上流の非コード領域に挿入されたCMVプロモーター/エンハンサー、
b.アデノウイルスE3領域に挿入されたSV40プロモーター/エンハンサー、
c.E3コード領域の一部又は全部の欠失、
d.デルタ-24欠失を含むE1A遺伝子、及び
e.E1B 55K欠失を含む、請求項1に記載の複製促進アデノウイルスベクター。
【請求項3】
前記アデノウイルスの血清型が5型である、請求項1に記載の複製促進アデノウイルスベクター。
【請求項4】
前記CMVプロモーター/エンハンサーが左末端逆位反復(ITR)と機能的E1A領域の5'末端との間に位置している、請求項1に記載の複製促進アデノウイルスベクター。
【請求項5】
前記SV40プロモーター/エンハンサーがE3 12.5KとE3 RID-アルファ領域との間に位置している、請求項1に記載の複製促進アデノウイルスベクター。
【請求項6】
前記CMVプロモーター/エンハンサー領域が異種核酸配列に動作可能に結合している、請求項1に記載の複製促進アデノウイルスベクター。
【請求項7】
前記異種核酸配列が1つ又は複数の治療用タンパク質をコードする、請求項6に記載の複製促進アデノウイルスベクター。
【請求項8】
治療用タンパク質をコードする前記異種核酸が、サイトカイン、ケモカイン、抗体、プロドラッグ変換酵素、及び免疫調節タンパク質をコードする遺伝子からなる群から選択される、請求項7に記載の複製促進アデノウイルスベクター。
【請求項9】
前記SV40のプロモーター/エンハンサー領域が異種核酸配列に動作可能に結合している、請求項1に記載の複製促進アデノウイルスベクター。
【請求項10】
前記異種核酸配列が1つ又は複数の治療用タンパク質をコードする、請求項9に記載の複製促進アデノウイルスベクター。
【請求項11】
治療用タンパク質をコードする前記異種核酸が、サイトカイン、ケモカイン、抗体、プロドラッグ変換酵素、及び免疫調節タンパク質をコードする遺伝子からなる群から選択される、請求項10に記載の複製促進アデノウイルスベクター。
【請求項12】
治療用タンパク質をコードする前記異種核酸配列がMEM40及びIFNβをコードする遺伝子からなる、請求項11に記載の複製促進アデノウイルスベクター。
【請求項13】
a.前記CMVプロモーター/エンハンサーが配列番号1のヌクレオチド配列を含み、
b.前記SV40プロモーター/エンハンサーが配列番号2のヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載の複製促進アデノウイルスベクター。
【請求項14】
前記ウイルスが、特異的細胞型に関して促進した複製を有する、請求項1に記載の複製促進アデノウイルスベクター。
【請求項15】
前記細胞型が腫瘍細胞である、請求項14に規定の特異的細胞型。
【請求項16】
悪性腫瘍を治療する方法であって、それを必要とする対象に、請求項1に記載の複製促進アデノウイルスの有効量を投与することを含む方法。
【請求項17】
前記悪性腫瘍ががんである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記対象がヒトである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記CMVプロモーター/エンハンサーがMEM40をコードする異種核酸配列に動作可能に結合しており、前記SV40プロモーター/エンハンサーがIFNβをコードする異種核酸配列に動作可能に結合している、請求項1に記載の複製促進アデノウイルスベクター。
【請求項20】
a.前記CMVプロモーター/エンハンサーが配列番号1のヌクレオチド配列を含み、
b.前記SV40プロモーター/エンハンサーが配列番号2のヌクレオチド配列を含む、請求項19に記載の複製促進アデノウイルスベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
共同研究契約
本発明は、本発明がなされた時点で有効であった共同研究契約の範囲内で行われた活動の結果としてなされたものである。上記共同研究契約の当事者はMemgen, Inc.社(以前はMemgen, LLC社)及びH. Lee Moffitt Cancer Center and Research Institute, Inc.社である。
【0002】
1.発明の分野
本発明は全般的に、腫瘍溶解性ウイルス及び腫瘍学の分野に関する。より詳細には、本発明は、がんを治療するために、腫瘍細胞においてウイルス複製が促進される腫瘍溶解性ウイルスの組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
2.関連技術の説明
腫瘍溶解性ウイルスは、二重の作用機序:1)腫瘍細胞における選択的ウイルス複製によって生じる、直接的な腫瘍溶解による腫瘍細胞の死滅、及び2)破壊された腫瘍細胞から抗原を放出することによる全身性抗腫瘍免疫の誘導を有する、がん治療薬の1種である。天然のウイルス及び遺伝子改変されたウイルスの両方が開発中である。米国FDAは、2015年に、最初の腫瘍溶解性ウイルス、Kohlhapp等、2016 Clinical Cancer Researchによって記載されたように、黒色腫の局所治療のための顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)をコードする遺伝子改変ヘルペスウイルスである、タリモジーン・ラハーパレプベック(IMLYGIC(登録商標)、Amgen Inc.社、Thousand Oaks、CA)を承認した。しかし、ヘルペスウイルスは、腫瘍溶解特性に関して研究されている多くの腫瘍溶解性ウイルスの1つにすぎない。
【0004】
腫瘍溶解性アデノウイルスベクターは、複数種の腫瘍の感染に対する広範な親和性、ベクターの安定性、ウイルスを製造し高力価まで精製する能力、導入遺伝子を運ぶ能力、宿主ゲノムへの組込みの欠如、及び良好な安全性等、いくつかの理由でがん遺伝子治療に広く使用されている。
【0005】
腫瘍溶解性アデノウイルスベクターのこれらの望ましい属性にも関わらず、これらのベクターは、正常細胞における非特異的感染及び複製、抗アデノウイルス免疫原性によって引き起こされるウイルス複製率、ベクタークリアランス、及び中和の減速又は低下、並びに低い腫瘍溶解能力等の多くの理由によって、がん療法への使用を制限されることもある。これらの制限はまた、送達媒体として使用される場合、非効率的な遺伝子の導入又は発現に寄与する可能性がある。
【0006】
その制限に対処するために、複製能力のあるアデノウイルスを改善することを目的とした取り組みがなされてきた。これらの取り組みには、腫瘍細胞における選択的複製を付与するためのアデノウイルスゲノム成分の改変が含まれる。特徴が明確にされた改変には、アデノウイルスE1A遺伝子(delta-24 E1A)の24塩基ペアの欠失、E1B 55Kウイルス遺伝子の欠失、更にはE1A等のウイルスプロモーターのアルファ-フェトプロテインプロモーター又は前立腺抗原プロモーター等の腫瘍関連抗原プロモーターによる置換が含まれる。
【0007】
選択的腫瘍標的化のこれらの例にも関わらず、先行技術では、腫瘍細胞において実質的に改善された速度又はレベルで複製する組換えアデノウイルスベクターが不足している。
【0008】
したがって、その主要な作用機序の1つを改善する、すなわち腫瘍細胞においてウイルス複製を選択的に促進して腫瘍溶解性の改善をもたらす、腫瘍溶解性ウイルスベクターが依然として必要とされている。本発明は、腫瘍細胞においてウイルス複製が促進し、腫瘍溶解性が改善し、治療的導入遺伝子の発現が改善した、腫瘍溶解性アデノウイルスベクターのこのような必要性に取り組む。
【0009】
背景で論じられている主題は全て、必ずしも先行技術である必要はなく、背景の項での議論の結果のみで先行技術であると想定するべきではない。これらの考え方に沿って、背景で論じられている、又はこのような主題に関連している先行技術の問題のいかなる認識も、先行技術であると明示的に述べられていない限り、先行技術として扱われるべきではない。代わりに、背景におけるいかなる主題の議論も、特定の問題に対する本発明者の取り組みの一部として扱われるべきであり、それ自体も発明的である可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Kohlhapp等、2016 Clinical Cancer Research
【非特許文献2】Russell等、2014 Nature Biotechnology
【非特許文献3】Lawler等、2017 JAMA Oncology
【非特許文献4】Aurelian L.、「Oncolytic viruses as immunotherapy: progress and remaining challenges、」Onco. Targets Ther. 2016、9:2627~2637頁
【非特許文献5】Suzuki K、Alemany R、Yamamoto M、及びCuriel DT、「The presence of the adenovirus E3 region improves the oncolytic potency of conditionally replicative adenoviruses」Clin. Cancer Res. 2002 Nov.、8(11):3348~59頁
【非特許文献6】Tollefson A、Ryerse J、及びScaria A等、「The E3-11.6-kDa Adenovirus Death Protein (ADP) is Required for Efficient Cell Death: Characterization of Cells Infected with adp Mutants」 Virology 1996、220:152~162頁
【発明の概要】
【0012】
以下は、本開示のいくつかの態様の基本的な理解を提供するために、本開示の簡略化された概要を提示している。この概要は、開示の完全な概説ではない。本開示の鍵若しくは重要な要素の特定又は本開示の範囲の記述を意図するものではない。その唯一の目的は、後で論じるより詳細な説明の前置きとして、いくつかの概念を簡略化された形態で提示することである。
【0013】
本発明者等は、驚くべきことに、アデノウイルスゲノムに2つの外因性プロモーター/エンハンサー要素(CMVプロモーター/エンハンサー及びSV40初期プロモーター/エンハンサー)を挿入し、前述のアデノウイルスE1A、E1B、及びE3遺伝子成分の改変もともに行うと、腫瘍細胞中でウイルス複製が劇的に促進され、腫瘍溶解性が促進されることを見いだした。また、本発明者等は、驚くべきことに、この新たに記載された組換えアデノウイルスは、1つ又は複数の治療用導入遺伝子を送達するための媒体として機能し、腫瘍細胞においてこれらの導入遺伝子の発現の劇的な促進を果たすことを見いだした。組換え腫瘍溶解性アデノウイルスの生成において、CMVプロモーター/エンハンサー又はSV40プロモーター/エンハンサーのいずれかが単独で個々に使用されたことはあるが、本発明者等は腫瘍溶解性ウイルスでのプロモーターの二重使用を記載しているいかなる先行技術も認識しておらず、この二重プロモーター腫瘍溶解性アデノウイルスが腫瘍特異的ウイルス複製の促進をもたらすという予想外の発見を記載している先行技術も認識していない。
【0014】
いくつかの実施形態では、本開示は、促進されたウイルス複製を付与するウイルスゲノム改変を有する腫瘍溶解性アデノウイルスに関する。
【0015】
いくつかの実施形態では、組換え腫瘍溶解性アデノウイルスは、ウイルスゲノムに挿入されたCMVプロモーター/エンハンサー及びSV40プロモーター/エンハンサーの両方を含有する。
【0016】
いくつかの実施形態では、組換え腫瘍溶解性アデノウイルスは、ウイルスゲノムに挿入されたCMVプロモーター/エンハンサー及びSV40プロモーター/エンハンサーの両方を含有し、E3コード領域の一部又は全部が欠失しており、デルタ-24欠失を含むE1A遺伝子を有し、E1B 55K欠失を含む。
【0017】
好ましい実施形態では、組換え腫瘍溶解性アデノウイルスは、アデノウイルスE1コード領域の上流の非コード領域に挿入されたCMVプロモーター/エンハンサーを含有し、アデノウイルスE3領域に挿入されたSV40プロモーター/エンハンサーを含有し、E3コード領域の一部又は全部が欠失しており、デルタ-24欠失を含むE1A遺伝子を有し、E1B 55K欠失を含む。
【0018】
本発明の更なる実施形態は、1つ又は複数の治療用タンパク質をコードする異種核酸配列を含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、本開示は、腫瘍細胞に特異的な促進されたウイルス複製を有する腫瘍溶解性アデノウイルスを提供する。
【0020】
更なる実施形態では、本発明は、複製促進組換え腫瘍溶解性アデノウイルスの投与によって、悪性腫瘍、好ましくはがんを治療する方法を提供する。
【0021】
1つ又は複数の実施形態の詳細を以下の説明に記載する。1つの例示的な実施形態に関連して例示又は記載された特徴は、その他の実施形態の特徴と組み合わせることができる。したがって、本明細書で記載した様々な実施形態のいずれかを組み合わせて、更なる実施形態を提供することができる。実施形態の態様は、更なる実施形態を提供するために、必要に応じて、本明細書で特定したような様々な特許、出願、及び刊行物の概念を使用して修正することができる。その他の特徴、目的、及び利点は、説明、図面、及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
本開示は、添付の図面と併せて以下の説明を参照にすることによって理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】アデノウイルスゲノムに挿入されたCMVプロモーター/エンハンサー及びSV40プロモーター/エンハンサー並びに1つ又は複数の治療用タンパク質の発現のための異種核酸挿入のための領域を有する複製促進腫瘍溶解性アデノウイルスを模式的に示した図である。
【
図2】アデノウイルスE1コード領域の上流の非コード領域に挿入されたCMVプロモーター/エンハンサー、アデノウイルスE3領域に挿入されたSV40プロモーター/エンハンサー、更なるウイルスゲノム改変、及び1つ又は複数の治療用タンパク質の発現のための異種核酸挿入のための領域を有する、複製促進腫瘍溶解性アデノウイルスを模式的に示した図である。
【
図3】キメラCD40リガンド(MEM40)及びIFN-ベータ(IFNβ)の2つの導入遺伝子をコードする複製促進腫瘍溶解性アデノウイルス(MEM-288)を模式的に示した図である。
【
図4】2つの導入遺伝子(MEM40及びIFNβ)をコードする複製促進腫瘍溶解性アデノウイルス(MEM-288)に感染した後の、様々な腫瘍細胞による二重導入遺伝子の発現を示した図である。MEM40(フローサイトメトリー)及びIFNβ(ELISA))のインビトロ発現は、感染多重度(MOI)=250で2日間感染させた後に測定した。IFNβの結果はまた、MEM-288による導入遺伝子発現と、MEM40のみを備えたMEM-188又はCMVプロモーター/エンハンサー領域の制御下にGFPレポーター導入遺伝子のみを備え、SV40プロモーター/エンハンサーを欠如した対照腫瘍溶解性アデノウイルス(対照oAdv)との比較を示している。
【
図5】MEM-188又はMEM-288のいずれかに感染した後の、様々な腫瘍細胞株でのキメラCD40リガンド(MEM40)の発現を示した図である。
【
図6】MEM-188又はMEM-288のいずれかに感染した後の、A549肺腫瘍細胞でのMEM40の用量及び時間依存的発現を示した図である。
【
図7】指示した感染多重度(MOI)でAd-GFP(G)、MEM-188(188)、及びMEM-288(288)に感染したA549細胞のウイルス力価を示した図である。凍結融解で溶解した後、QuickTiter(商標)アデノウイルス力価イムノアッセイキットを使用して、AD-293細胞の感染後に放出された感染性ウイルスレベルを測定した。
【
図8】外因性組換えIFNβタンパク質を添加して、MOI 10でMEM-188(188)に感染したA549細胞のウイルス力価を示した図である。凍結融解で溶解した後、QuickTiter(商標)アデノウイルス力価イムノアッセイキットを使用して、AD-293細胞の感染後に放出された感染性ウイルスレベルを測定した。
【
図9】リアルタイム細胞分析(RTCA)アッセイによって測定した、CMVプロモーター/エンハンサー要素のみを含む対照ウイルスと比較したCMVプロモーター/エンハンサー及びSV40プロモーター/エンハンサーの両方の要素を含有するMEM-288の、A549腫瘍細胞に対する腫瘍溶解活性の促進を示した図である。
【
図10】リアルタイム細胞分析(RTCA)アッセイによって測定した、CMVプロモーター/エンハンサー要素のみを含む対照ウイルスと比較したCMVプロモーター/エンハンサー及びSV40プロモーター/エンハンサーの両方の要素を含有するMEM-288の、H23腫瘍細胞に対する腫瘍溶解活性の促進を示した図である。
【
図11】リアルタイム細胞分析(RTCA)アッセイによって測定した、CMVプロモーター/エンハンサー要素のみを含む対照ウイルスと比較したCMVプロモーター/エンハンサー及びSV40プロモーター/エンハンサーの両方の要素を含有するMEM-288の、PC9腫瘍細胞に対する腫瘍溶解活性の促進を示した図である。
【
図12】リアルタイム細胞分析(RTCA)アッセイによって測定した、CMVプロモーター/エンハンサー要素のみを含む対照ウイルスと比較したCMVプロモーター/エンハンサー及びSV40プロモーター/エンハンサーの両方の要素を含有するMEM-288の、HCC44腫瘍細胞に対する腫瘍溶解活性の促進を示した図である。
【
図13】SCIDマウスに移植され、Ad-GFP、MEM-188、又はMEM-288を腫瘍内に注入されたA549ルシフェラーゼ発現腫瘍の変化を示した図である。生存可能な腫瘍は、治療前のベースラインと比較して、1回目のウイルス注射の14日後に示されている。
【
図14】Ad-GFP、MEM-188、又はMEM-288に感染した後のRajiヒトB細胞リンパ腫細胞の生存率を示した図である。
【
図15-1】リアルタイム細胞分析(RTCA)アッセイによって測定した、A549腫瘍細胞及びがん関連線維芽細胞(CAF)単離株に感染させた後の、MEM-288、MEM-188、及びAd-GFP腫瘍溶解性ウイルスの腫瘍特異的腫瘍溶解活性を示した図である。
【
図16】リアルタイム細胞分析(RTCA)アッセイによって測定した、がん関連線維芽細胞(CAF)単離株における腫瘍溶解活性と比較したA549腫瘍細胞におけるMEM-288の腫瘍特異的腫瘍溶解活性を用量漸増的に示した図である。
【
図17】Ad-GFP、MEM-188、及びMEM-288にMOI 50で2日間感染させた、未処理(UT)のヒト単球由来樹状細胞のパーセンテージとしての細胞生存率を示した図である。
【
図18】MEM-288で認められるのと同じE3アデノウイルスの領域欠失(E3 6.7k及びE3 19kの欠失)を含有し、GFP導入遺伝子(GFP;Ad-GFP-2)もコードする複製促進腫瘍溶解性アデノウイルス又はMEM-288腫瘍溶解性アデノウイルスのいずれかに感染した後の、A549ヒト肺がん細胞株におけるGFP又はキメラCD40リガンド(MEM40)の発現それぞれを示した図である。因みに、このAd-GFP-2構築物は、ほぼ完全なE3領域欠失を含有する
図4、7、9~17で記載したAd-GFP対照ウイルス構築物とは異なる。パネル(A)は、未感染細胞(未処理)又はMOI 10及び100でAd-GFP-2に感染した細胞におけるGFP発現を示している。パネル(B)は、未感染細胞(未処理)又はMOI 10及び100でMEM-288に感染した細胞におけるMEM40発現を示している。この結果は、MOIが10と低い場合、MEM-288はAd-GFP-2よりもMEM40を含む細胞の割合が高くなることを示しており、Ad-GFP-2に対してMEM-288の複製が多い可能性があることを示唆している。
【
図19】Ad-GFP-2又はMEM-288に感染した後のA549ヒト肺がん細胞株の生存率を示した図である。Ad-GFP-2及びMEM-288を使用して、指示したMOI 1、10、及び100で細胞を感染させた。2日後、残りの生細胞を計数し、未処理の細胞(UT)のパーセンテージとして示している。この結果は、3つのMOI全てにおいて、Ad-GFP-2と比較してMEM-288の腫瘍溶解活性が高いことを示している。したがって、MEM-288のより高い腫瘍溶解活性は、主にE3欠失の種類によって引き起こされるのではなく、E3領域にSV40プロモーターが含まれることに大きく依存していることは予想外であった。
【発明を実施するための形態】
【0023】
配列の簡単な説明
配列番号1は、左末端逆位反復(ITR)と機能的E1A領域の5'末端との間に挿入されたCMVプロモーター/エンハンサーのヌクレオチド配列を示している。
【0024】
配列番号2は、E3 12.5KとE3 RID-アルファ領域との間に挿入されたSV40初期プロモーター/エンハンサーのヌクレオチド配列を示している。
【0025】
本開示の様々な例示的実施形態を以下に説明する。わかりやすくするために、実際の実施の特徴全てが本明細書で説明されているわけではない。もちろん、そのようなあらゆる実際の実施形態の開発では、実施によって異なることになる、システム関連及びビジネス関連の制約の順守等の開発者固有の目標を達成するために、多数の実施固有の決定を行う必要があることが理解されよう。更に、そのような開発努力は複雑で時間がかかるかもしれないが、それにも関わらず、本開示の利益を有する当業者にとっては日常的な作業となるであろうことが理解されよう。
【0026】
本明細書で開示した課題は、様々な改変を行いやすく、代替形態を取りやすいが、その特定の実施形態が、例として図面に示され、本明細書に詳細に記載されている。しかし、特定の実施形態の本明細書での説明は、開示した特定の形態に本開示を限定するものではなく、反対に、添付の特許請求の範囲によって規定される本開示の精神及び範囲内に入る改変、同等物、及び代替物を全て対象として含むものであることを理解されたい。
【0027】
アデノウイルス
「アデノウイルス」(Ad)は、ヒトに感染する大きな(約36kb)DNAウイルスであるが、広い宿主範囲も示す。物理的には、アデノウイルスは二十面体ウイルスであり、二本鎖の線状DNAゲノムを含有する。ヒトアデノウイルスには約57の血清型があり、分子的、免疫学的、及び機能的基準に基づいて6つのファミリーに分類される。成人期までに、事実上全てのヒトはより一般的なアデノウイルス血清型に感染しており、主な影響は風邪のような症状である。
【0028】
宿主細胞のアデノウイルス感染の結果、アデノウイルスDNAはエピソームとして維持されて、ベクターの組込みに関連して起こり得る遺伝子毒性が少ない。更に、アデノウイルスは構造的に安定しており、大規模な増幅の後でもゲノムの再配列は検出されていない。アデノウイルスは、細胞周期の段階に関係なく、ほとんどの上皮細胞に感染することができる。これまでのところ、アデノウイルス感染は、ヒトの急性呼吸器疾患等の軽度の疾患にのみ関連しているようである。
【0029】
腫瘍溶解性アデノウイルス
アデノウイルスを含む、抗がん剤として開発中の腫瘍溶解性ウイルスの種類は多岐にわたる(Russell等、2014 Nature Biotechnology及びLawler等、2017 JAMA Oncologyを参照のこと)。
【0030】
所望の治療活性のための治療的腫瘍溶解性アデノウイルスの選択又は設計において、細胞表面タンパク質の天然の指向性又はがん細胞を直接標的とするためのアデノウイルスの操作による、感染させるがん細胞の選択的標的化、がん細胞における選択的複製、ウイルス病原性の減弱、溶解活性の促進、アデノウイルスの迅速なクリアランスを引き起こすことができる抗ウイルス免疫応答の改変、及びサイトカイン、免疫アゴニスト、若しくは免疫チェックポイント阻害剤を組み込むためのアデノウイルスの遺伝子改変による全身性抗腫瘍免疫の改変等の、多数の生物学的特性を考慮することができる。
【0031】
複製能力のある腫瘍溶解性アデノウイルスベクターは、広範囲の細胞及び腫瘍型の感染性、非分裂細胞の感染、ゲノム組込みの欠如、高力価、導入遺伝子を運ぶ能力、インビトロ及びインビボでの安定性、並びに導入遺伝子の発現等の、治療適用に理想的となるいくつかの特性を有する。アデノウイルス発現ベクターは、(a)構築物のパッケージングを補助し、(b)必要に応じて、その中にクローン化された組換え遺伝子構築物を最終的に発現するために十分なアデノウイルス配列を含有する構築物を含む。
【0032】
腫瘍溶解性アデノウイルスの生物学的特性の調節は、がん治療に対する効果に有益又は有害である可能性のある一連の免疫相互作用に影響を与えることができる。この相互作用は、特定の腫瘍、疾患の部位及び程度、免疫抑制性腫瘍微小環境、腫瘍溶解性ウイルスプラットフォーム、用量、時間、及び送達条件、並びに個々の患者の応答に左右される(全般的に、Aurelian L.、「Oncolytic viruses as immunotherapy: progress and remaining challenges、」Onco. Targets Ther. 2016、9:2627~2637頁を参照のこと)。例えば、アデノウイルスE3遺伝子の存在は、インビトロ及びインビボにおいて、条件に応じてアデノウイルスを複製する、腫瘍溶解能を増大させることが報告されている(Suzuki K、Alemany R、Yamamoto M及びCuriel DT、「The presence of the adenovirus E3 region improves the oncolytic potency of conditionally replicative adenoviruses」Clin. Cancer Res. 2002 Nov.、8(11):3348~59頁を参照のこと)。特に、E3-11.6kDaのアデノウイルスデスタンパク質(ADP)は、効率的な細胞死に必要であると考えられている(Tollefson A、Ryerse J、及びScaria A等、「The E3-11.6-kDa Adenovirus Death Protein (ADP) is Required for Efficient Cell Death: Characterization of Cells Infected with adp Mutants」 Virology 1996、220:152~162頁を参照のこと)。
【0033】
これらの前述の進歩にも関わらず、先行技術では、腫瘍溶解性アデノウイルスの主要な作用機序の1つである、腫瘍溶解を引き起こすウイルス複製をもたらすために、腫瘍細胞で実質的に改善された速度又はレベルで複製するアデノウイルスベクターがあまり十分ではない。したがって、腫瘍細胞におけるウイルス複製を選択的に促進し、結果として腫瘍溶解性の改善をもたらす、この主要な作用機序を改善する腫瘍溶解性ウイルスベクターが依然として必要とされている。
【0034】
本開示はこのような腫瘍溶解性アデノウイルスを提供する。本発明者等は、驚くべきことに、アデノウイルスゲノムの規定の位置に2つの外因性プロモーター/エンハンサー要素(CMVプロモーター/エンハンサー及びSV40プロモーター/エンハンサー)を挿入し、前述のアデノウイルスE1A、E1B、及びE3遺伝子成分の改変もともに行うと、腫瘍細胞におけるウイルス複製が劇的に促進され、腫瘍溶解性が促進されることを見いだした(
図2)。
【0035】
また、本発明者等は、驚くべきことに、この新たに記載された組換えアデノウイルスは、1つ又は複数の治療用導入遺伝子を送達するための理想的な媒体として機能し、腫瘍細胞においてこれらの導入遺伝子の発現の促進を果たすことができることを見いだした。57のヒトアデノウイルス血清型(HAdV-1から57)のいずれかのメンバーは、治療用タンパク質をコードする異種核酸を組み込むことができる。ヒトAd5は、遺伝的及び生化学的によく特徴付けられている(ジェンバンクM73260; AC000008)。したがって、特定の実施形態では、腫瘍溶解性アデノウイルスは、複製能力のあるAd5血清型又はAd5成分を含むハイブリッド血清型である。本開示のいくつかの実施形態内で、1つ又は複数の異種配列を、アデノウイルスの非必須領域に組み込むことができる。本開示のいくつかの実施形態内で、1つ又は複数の異種配列を、CMVプロモーター/エンハンサーの下流及び/又はSV40プロモーター/エンハンサーの下流に組み込むことができる。これらの異種遺伝子によってコードされる治療用タンパク質の代表的な例には、サイトカイン、ケモカイン、抗体、及びチェックポイント阻害剤が含まれる。
【0036】
プロモーター/エンハンサー
多くのプロモーターは、DNAによって分離された異種エンハンサー要素とともに機能する。本明細書で記載したCMV及びSV40「プロモーター」は、エンハンサー及びプロモーター要素の両方を構成している。CMV及びSV40「プロモーター」のエンハンサーは、エンハンサー作用に典型的な方法でアデノウイルス遺伝子プロモーターの発現を増加させるように機能することができ、これが複製増加の機構となり得る。
【0037】
異種核酸発現は、哺乳動物細胞、好ましくはヒト腫瘍細胞で機能するプロモーターの制御下にあってもよい。一実施形態では、治療用タンパク質をコードする異種核酸の発現を指示するプロモーターは、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター/エンハンサーである。更なる実施形態では、治療用タンパク質をコードする異種核酸の発現を指示するプロモーターは、SV40プロモーター/エンハンサーである。
【0038】
本明細書で提供した本発明は、タンパク質をコードする異種核酸の発現を駆動する能力を備えた2つのプロモーター/エンハンサーを含む。プロモーターは一般的に、RNA合成の開始部位の位置を特定するように機能する配列を含む。これの最良の例はTATAボックスであるが、哺乳動物の末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼ遺伝子のプロモーター及びSV40初期遺伝子のプロモーター(本発明の好ましい実施形態)等のTATAボックスを欠如したいくつかのプロモーターでは、開始部位自体を覆う別個の要素が、開始場所を固定するのに役立つ。追加のプロモーター要素は、転写開始の頻度を調節する。これらは通常、開始部位の30から110bp上流の領域にあるが、プロモーターは開始部位の下流にも機能要素を含有することが示されている。1つは、プロモーターの「制御下に」コード配列をもたらすために、選択されたプロモーターの「下流」(すなわち、その3')の転写リーディングフレームの転写開始部位の5'末端の位置を特定する。「上流」のプロモーターは、DNAの転写を刺激し、コードされたRNAの発現を促進する。
【0039】
プロモーター要素間の間隔は融通がきくことが多いため、要素が互いに反転又は移動していてもプロモーター機能は維持される。tkプロモーターでは、活性が低下し始める前に、プロモーター要素間の間隔を50bp間隔に増大することができる。プロモーターに応じて、個々の要素は協調的又は独立して機能して、転写を活性化することができるようである。プロモーターは、核酸配列の転写活性化に関与するシス作用性調節配列を意味する、「エンハンサー」と組み合わせて使用されてもされなくてもよい。本発明の好ましい実施形態では、複製促進アデノウイルスに組み込まれたCMVプロモーターは、CMVエンハンサー領域と組み合わせて使用される。本発明の更に好ましい実施形態では、複製促進アデノウイルスに組み込まれたSV40プロモーターは、SV40エンハンサー領域と組み合わせて使用される。
【0040】
プロモーターは、もともと核酸配列と関連している可能性があり、コードセグメント及び/又はエキソンの上流に位置する5'非コード配列を単離することによって得ることができる。このようなプロモーターは、「内在性」と呼ぶことができる。同様に、エンハンサーは、核酸配列とも関連している可能性があり、その配列の下流又は上流のいずれかに位置することができる。或いは、通常、その自然環境では核酸配列に関連していないプロモーターを意味する、組換え又は異種プロモーターの制御下にコード核酸セグメントを配置することによって、ある特定の利点が得られることになる。組換え又は異種エンハンサーはまた、通常、その自然環境において核酸配列に関連していないエンハンサーを意味する。そのようなプロモーター又はエンハンサーは、その他の遺伝子のプロモーター又はエンハンサー、及びその他の任意のアデノウイルス又は原核細胞若しくは真核細胞から単離されたプロモーター又はエンハンサー、及び「天然に存在」しない、すなわち、異なる転写調節領域の異なる要素及び/又は発現を変化させる突然変異を含有するプロモーター又はエンハンサーを含むことができる。
【0041】
発現のために選択された細胞小器官、細胞型、組織、器官、又は生物におけるDNAセグメントの発現を効果的に指示するプロモーター及び/又はエンハンサーを使用することが重要であろう。分子生物学の分野の当業者は一般的に、タンパク質発現のためのプロモーター、エンハンサー、及び細胞型の組み合わせの使用を知っている。使用したプロモーターは、構成的で、組織特異的で、誘導性であり、及び/又は導入されたDNAセグメントの高レベル発現を指示するための適切な条件下で有用であることが可能で、例えば、組換えタンパク質及び/又はペプチドの大規模生産において有利である。このプロモーターは、異種であっても内在性であってもよい。本発明者等は、驚くべきことに、E1Aデルタ-24領域の上流にCMVプロモーター/エンハンサー及びE3領域の部分的に欠失した領域にSV40プロモーター/エンハンサーの両方を同時に含めると、腫瘍特異的ウイルス複製及び腫瘍特異的腫瘍溶解性が、二重プロモーターの特徴を欠如した対照ウイルスと比較して、少なくとも10から100倍高く劇的に増加することを見いだした。
【0042】
治療的有用性のためのアデノウイルスのスクリーニング方法
本開示の腫瘍溶解性アデノウイルス、又はそれらのバリアント若しくは誘導体は、腫瘍細胞におけるそれらの溶解能力を調べることによって、それらの治療的有用性について評価することができる。腫瘍細胞は、患者の生検又は外科的切除から得られた原発性腫瘍細胞を含むことができる。或いは、腫瘍細胞は腫瘍細胞株を含むことができる。本開示のアデノウイルスの細胞溶解活性は、アデノウイルスの段階希釈物で細胞を感染させ、細胞溶解能(すなわち、IC50)を測定することによって、インビトロで腫瘍細胞株において測定することができる。細胞溶解活性を測定するための特定の方法には、MTS、MTT、及びATP比色分析が含まれるが、これらに限定されない。リアルタイムの細胞傷害アッセイはまた、細胞溶解活性を測定するために使用することができる。
【0043】
本開示の腫瘍溶解性アデノウイルスの治療指数、すなわち治療効果を引き起こす治療薬の量と毒性を引き起こす量との比較は、腫瘍細胞株におけるアデノウイルスの細胞溶解能の効力を対応する正常細胞の細胞溶解能と比較することによって計算することができる。
【0044】
本開示の腫瘍溶解性アデノウイルスは、腫瘍細胞及び/又は正常細胞に感染し、腫瘍溶解性アデノウイルスによってコードされる機能性タンパク質を発現するそれらの能力を評価することによって、治療的有用性について更に評価することができる。本発明の一例は、CMVプロモーター/エンハンサーの制御下にキメラCD40リガンド(MEM40)及びSV40初期プロモーター/エンハンサーの制御下にIFNβの両方をコードする複製促進腫瘍溶解性ウイルス(MEM-288)である(
図3)。これらのタンパク質は、MEM-288を感染させた後に、細胞によって発現される各タンパク質を特異的に認識する抗体によって検出することができる。キメラCD40リガンド(MEM40)の核酸配列は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7,495,090号においてISF35として記載された。
【0045】
本開示の腫瘍溶解性アデノウイルスは、腫瘍細胞増殖を標的とするそれらの能力、及びマウスの同系又は異種腫瘍モデルにおいて、天然由来の腫瘍又は移植腫瘍を有するマウスにおける腫瘍形成又は腫瘍細胞負荷を低減する能力について更に評価することができる。腫瘍サイズ、腫瘍再負荷からの免疫保護、及び動物の生存によって測定される腫瘍負荷は全て、治療的有用性及び動物腫瘍モデルの基準となる可能性がある。
【0046】
治療及び投与の方法
本開示の様々な実施形態内では、がんを有する対象に本明細書で記載したアデノウイルスを投与することを含む、がんを治療するための方法も提供する。本発明の腫瘍溶解性アデノウイルスは、腫瘍内注射によって投与することができる。しかし、静脈内、腹腔内、気管内、筋肉内、頭蓋内、内視鏡的、病巣内、経皮的、皮下、局所的、又は直接注射若しくは灌流を含む、その他の送達経路も考慮することができる。
【0047】
特定の実施形態内では、がんは、本明細書で記載した組成物(例えば、医薬組成物)を利用して治療される。上記のように、本明細書で使用した「がん」という用語は、体内における細胞の無制御な増殖を特徴とする疾患の大きなファミリーを意味する。がんの代表的な形態には、がん腫、肉腫、骨髄腫、白血病、リンパ腫、及び上記の混合型が含まれる。更なる例には、胆管がん、膀胱がん、神経膠芽腫等の脳がん、乳がん、子宮頸がん、CNS腫瘍(神経膠芽腫、星状細胞腫、髄芽細胞腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽細胞腫、音響神経腫、乏突起膠腫、髄膜腫、神経芽細胞腫、及び網膜芽細胞腫等)、結腸直腸がん、子宮内膜がん、白血病及びリンパ腫を含む造血細胞がん、肝細胞がん、腎臓がん、喉頭がん、肺がん、黒色腫、口腔がん、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん、扁平上皮がん、及び甲状腺がんが含まれるが、これらに限定されない。がんはびまん性(例えば、白血病)であってもよく、固形腫瘍(例えば、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、及び骨肉腫等の肉腫)、又はこれらのいくつかの組み合わせ(例えば、固形腫瘍及び播種性又はびまん性のがん細胞の両方を有する転移性がん)を含むことができる。例えば、自家幹細胞移植又は同種幹細胞移植を受けることができるいかなるがん患者も、この療法の候補と考えられる。
【0048】
いくつかの実施形態では、投与は、腫瘍、又は腫瘍のあった部位(例えば、外科的切除又は除去療法の後)への直接投与によって達成することができる。投与は、直接注射、又は選択した期間にわたる注入によって行うことができる。
【0049】
腫瘍への直接注射(腫瘍内注射)は、細いカテーテル又はカニューレによって達成することができる。ある特定の実施形態では、本明細書で提供した医薬組成物は、MR手順内ガイダンスの下で微小電気機械的(MEMS)システムによって送達することができる。
【0050】
対象に投与する場合、がんを治療する(例えば、緩和する、改善する、軽減する、回復させる、安定化させる、拡大を防止する、進行を減速させるか若しくは遅らせる、又は治癒させる)ために、本明細書で記載した組成物の有効量を与える。例えば、がん性細胞若しくは腫瘍性細胞の数を減少させるか若しくは破壊する、又はそのような細胞の成長及び/又は増殖を阻害する効果を達成するために十分な量であってもよい。臨床的に有効であるために、本明細書で提供した組成物は、治療計画に応じて、1回又は複数回与えることができよう。
【0051】
本発明の複製促進腫瘍溶解性アデノウイルスを使用する治療の計画は、単回投与又は複数回投与を含んでいてもよい。複数回投与は、反復スケジュールで、及び/又は1回若しくは複数回の事前投与の有効性の1つ若しくは複数の指標、又は特に本開示の利益を有する当業者に明らかである1回若しくは複数回の事前投与の副作用に応じて、実施することができる。
【0052】
使用される医薬組成物の用量は、治療している特定の状態、状態の重症度、年齢、健康状態、体格、及び体重を含む個々の患者パラメータ、治療期間、併用療法(もしあれば)の性質、特定の投与経路、並びに医療従事者の知識や専門知識の範囲内にあるその他の類似の要素に左右され得る。更に、投与量は生成物の利用性に左右され得る。
【実施例】
【0053】
(実施例1)
二重プロモーター複製促進腫瘍溶解性アデノウイルス
典型的な複製促進腫瘍溶解性アデノウイルス5型(
図1)は、以下の特徴:配列番号1で表されるCMVプロモーター/エンハンサー及び配列番号2で表されるSV40プロモーター/エンハンサーを備えていることが示されている。この一般化されたベクター構築物の好ましい実施形態(
図2)は、以下の特徴:左末端逆位反復(ITR)の下流及び機能的E1A領域の上流の配列番号1によって表されるCMVプロモーター/エンハンサー、E3領域内の配列番号2で表されるSV40プロモーター/エンハンサー、24ヌクレオチドの欠失を含有するE1A遺伝子領域、E3領域の部分的又は完全な欠失、及びE1b 55k領域の欠失を備えていることが更に示されている。この鋳型複製促進腫瘍溶解性ウイルスは、治療用タンパク質の発現のためにCMVプロモーター/エンハンサー又はSV40プロモーター/エンハンサーのいずれかの下流に異種核酸を追加することを含む更なる改変が可能である。
【0054】
(実施例2)
2つの導入遺伝子をコードする二重プロモーター複製促進腫瘍溶解性アデノウイルスの構築
以下の特徴:左末端逆位反復(ITR)の下流及び機能的E1A領域の上流の配列番号1によって表されるCMVプロモーター/エンハンサー、E3領域内の配列番号2で表されるSV40プロモーター/エンハンサー、24ヌクレオチドの欠失を含有するE1A遺伝子領域、E3領域の部分的又は完全な欠失、並びにE1b 55k領域の欠失を備えた複製促進腫瘍溶解性アデノウイルス5型(
図3)を構築した。更に、CMVプロモーター/エンハンサーの下流にクローン化されたキメラCD40リガンド(MEM40)及びSV40プロモーター/エンハンサーの下流にクローン化されたIFNβをコードする異種核酸を組み込んだ。この複製促進腫瘍溶解性アデノウイルスはMEM-288と呼ばれ、感染後に腫瘍細胞から容易に発現及び検出することができる2つのタンパク質を発現させることができる(
図4)。また、本発明者等は、同等の感染力価で、MEM-288又はCMVプロモーター/エンハンサーの下流にクローン化されたキメラCD40リガンド(MEM40)をコードする異種核酸を含有するが、SV40プロモーター/エンハンサー及びIFNβ導入遺伝子挿入物は含有していない類似の腫瘍溶解性アデノウイルスベクター(MEM-188)のいずれかに感染した後の腫瘍細胞でのMEM40の発現を、直接比較した。MEM-288は、様々な肺腫瘍型のパネル全体で、MEM-188よりも高いレベルのMEM40導入遺伝子を発現した(
図5)。
【0055】
(実施例3)
腫瘍細胞におけるウイルス複製の促進
A549腫瘍細胞を、二重のCMV及びSV40のプロモーター/エンハンサー要素を含有する複製促進腫瘍溶解性アデノウイルスであるMEM-288で力価を増加させて感染させた(
図6)。SV40のプロモーター/エンハンサーの要素が欠如していること以外は類似の特徴一式を備えた対照ウイルス(Ad-GFP及びMEM-188)と直接比較した。MEM-288は、MEM40の発現が大幅に増加しており、MOI 10及びMOI 1で特に顕著であった。MEM-188が導入遺伝子の発現を示さなかったMOI 1でも、MEM-288は、徐々にMEM40発現の増加を示し、感染後6日目に特に顕著になった。これらの発見は、MEM-288の複製能力が優れていることを示す。MEM-288の複製能力がより高いかどうかをより直接的に測定するために、本発明者等は、凍結融解溶解による細胞内ウイルスの放出に基づいた標準的な複製アッセイを実施した。A549細胞を異なるMOIでAd-GFP、MEM-188、及びMEM-288で感染させた後、感染性ウイルス力価を計算するために、Cell Biolabs、Inc.社のヘキソン染色キットを使用して、2日後に293細胞を使用してウイルスの細胞内レベルを測定した。A549のAd-GFP感染は、MOI 10から検出可能なレベルのウイルス複製を生じた(
図7)。MEM-188ウイルスは、MOI 1から検出可能なウイルス複製を生じた。対照的に、MEM-288はMOI 0.01及びMOI 0.1であっても高レベルのウイルス複製を引き起こし、更に、MEM-288の1以上のMOIによる感染は、定量するには高すぎるヘキソン染色シグナルを引き起こした。これらの結果は、MEM-288の複製能力が、本発明の二重プロモーター/エンハンサーの要素を欠如している試験したその他のウイルスよりもおそらく100~1000倍以上高いことを示している。
【0056】
MEM-288は、SV40プロモーター/エンハンサー及びIFNβ導入遺伝子を有しているという点でMEM-188とは異なる。SV40又はIFNβ要素のいずれかがMEM-288のより高い複製に寄与しているかどうかを判定するために、本発明者等は、組換えヒトIFNβをMEM-188感染A549に添加し、その後、前述のようにウイルス複製を測定した。重要なことに、IFNβ添加は複製を増加させるどころか、約14分の1に減少させた(
図8)。この結果は、E3領域内のSV40プロモーター/エンハンサーがMEM-288の腫瘍溶解効果及び複製の増加を媒介していることを示唆している。
【0057】
(実施例4)
腫瘍溶解活性の促進
本発明者等は、A549肺腫瘍細胞にAd-GFP、MEM-188、又はMEM-288を様々な感染多重度(MOI)で感染させた後、生細胞数を測定した。これらの分析は、更なる細胞株において、経時的なプレートへの付着に基づいてがん細胞の生存率を非常に正確に測定することができるインピーダンスベースのシステム(xCELLigenceシステム)の使用を含む、腫瘍溶解性を測定するための方法を追加することによって更に拡張された。このリアルタイム細胞分析(RTCA)は、ウェル当たり2,500細胞の密度で腫瘍株をプレーティングし、一晩付着させることによって実施した。腫瘍溶解性ウイルスを培養物に添加し、がん細胞生存率を15分ごとに最大120時間測定した。本発明者等は、4つの肺細胞株、A549、H23、PC9、及びHCC44を用いた研究において(それぞれ
図9~
図12)、MEM-288では腫瘍溶解活性が10倍から100倍増加することを再び見いだした。
【0058】
次に、本発明者等は、ホタルルシフェラーゼを発現するA549腫瘍を皮下に有するSCIDマウスを使用して、生腫瘍細胞の定量化を可能にした。3つの異なるウイルスを2回注射した後(10e9感染単位/注射)、MEM-288はAd-GFP及びMEM-188と比較して腫瘍増殖を有意に減少させた(
図13)。これらの結果は、MEM-288のより高い腫瘍溶解効果がインビボでも明らかであることを示している。
【0059】
(実施例5)
腫瘍溶解活性の促進及び腫瘍特異性
リンパ系腫瘍細胞は、腫瘍溶解性アデノウイルスを含む腫瘍溶解性ウイルスによる溶解に抵抗性である。ヒトB細胞腫瘍細胞株Rajiを使用して、細胞生存率に対するMEM-288の潜在的な効果を測定した。対照Ad-GFP及びMEM-188は、MOI 100まで細胞生存率の低下を示さなかった(
図14)。対照的に、MEM-288の感染後では、Raji細胞の生存率の明らかな用量依存的低下が観察された(
図14)。
【0060】
極めて重要なことに、本発明者等は、ヒト肺がん関連線維芽細胞(CAF)等の非がん性細胞では有意な死滅が観察されないことも見いだしたので、この腫瘍溶解効果は腫瘍細胞に特異的であった(
図15)。MEM-288はRTCAアッセイを使用してMOI1及びMOI10で顕著な腫瘍溶解効果を示したが、独立して得られた2つのCAF単離物ではそのような明確な腫瘍溶解効果は示されなかった(
図15)。
【0061】
次に、本発明者等は、広範囲のMOIを使用して、A549腫瘍細胞とCAFとの間の潜在的な倍率差を測定した(
図16)。本発明者等は、細胞死の50%を引き起こす感染用量レベル(IC50)を比較すると、A549腫瘍細胞のIC50は0.73であるのに対し、独立して得られた2つのCAF単離物のIC50は45.2及び122.9であることを見いだした。これらの結果は、MEM-288が正常細胞よりもがんの溶解を誘導する能力の差が、それぞれ61.9倍及び168.3倍である解釈される(
図16)。
【0062】
本発明者等は、CAFはインビトロにおいて着実に増殖(すなわち、細胞分裂)するが、分裂しないヒト単球由来樹状細胞(DC)に対するMEM-288の腫瘍溶解効果も測定した。腫瘍細胞を通常完全に根絶する高いMOI 50での感染は、MEM-288又は対照ウイルスによる感染後ではDCの生存率に影響を与えなかった(
図17)。これらの結果は、この革新的な複製促進腫瘍溶解性アデノウイルスの腫瘍細胞特異性を示している。
【0063】
(実施例6)
アデノウイルスE3調節ドメインによって影響を受けない腫瘍溶解性促進
前述のように、腫瘍溶解性アデノウイルスの生物学的特性の調節は、がん治療の効果に有益又は有害な可能性のある一連の免疫相互作用に影響を与えることができる。この相互作用は、特定の腫瘍、疾患の部位及び程度、免疫抑制性腫瘍微小環境、腫瘍溶解性ウイルスプラットフォーム、用量、時間、送達条件、並びに個々の患者の応答に左右される(全般的に、Aurelian L.、「Oncolytic viruses as immunotherapy: progress and remaining challenges」Onco. Targets Ther. 2016、9:2627~2637頁を参照のこと)。例えば、アデノウイルスE3遺伝子の存在は、インビトロ及びインビボにおいて、条件に応じてアデノウイルスを複製する、腫瘍溶解能を増大させることが報告されている(Suzuki K、Alemany R、Yamamoto M、及びCuriel DT、「The presence of the adenovirus E3 region improves the oncolytic potency of conditionally replicative adenoviruses」Clin. Cancer Res. 2002 Nov.、8(11):3348~59頁を参照のこと)。特に、E3-11.6kDaアデノウイルスデスタンパク質(ADP)は、効率的な細胞死に必要であると考えられている(Tollefson A、Ryerse J、及びScaria Aら、「The E3-11.6-kDa Adenovirus Death Protein (ADP) is Required for Efficient Cell Death: Characterization of Cells Infected with adp Mutants」 Virology 1996、220:152~162頁を参照のこと)。
【0064】
2つの異なる対照GFPコード腫瘍溶解性アデノウイルス、
図4、7、9~17で記載したようなほぼ完全なE3欠失を含有する1つのGFPウイルス、及びMEM-288で見いだされた部分的なE3欠失一式(E3 6.7k及びE3 19k欠失)を含有する別のGFPウイルス(Ad -GFP-2)を調べることによって、本発明者等は、腫瘍溶解性アデノウイルスのE3アデノウイルス領域が寄与する可能性を調べた。
【0065】
図18は、Ad-GFP-2又はMEM-288のいずれかに感染した後のA549ヒト肺がん細胞株におけるGFP又はキメラCD40リガンド(MEM40)の発現を示している。パネル(A)は、未感染細胞(未処理)又はMOI 10及び100でAd-GFP-2に感染した細胞におけるGFP発現を示している。パネル(B)は、未感染細胞(未処理)又はMOI 10及び100でMEM-288に感染した細胞におけるMEM40発現を示している。この結果は、MOIが10と低い場合、MEM-288はAd-GFP-2よりもMEM40を含む細胞の割合が高くなることを示しており、Ad-GFP-2に対してMEM-288の複製が潜在的に多いことを示唆している。
【0066】
図19は、Ad-GFP-2又はMEM-288に感染した後のA549ヒト肺がん細胞株の生存率を示している。Ad-GFP-2及びMEM-288を使用して、1、10、及び100の指示したMOIで細胞を感染させた。2日後、残りの生細胞を計数し、未処理の細胞(UT)のパーセンテージとして表示している。この結果は、3つのMOI全てでAd-GFP-2と比較してMEM-288の腫瘍溶解活性が高いことを示している。更に、これらの結果は、
図4、7、9~17で記載したように、ほぼ完全なE3領域欠失を含有するGFP対照ウイルスに対するMEM-288の結果を反映している。
【0067】
したがって、これらの結果は全体として、本発明者等の革新的な複製促進アデノウイルスベクターが、E3の部分的又は全体的な欠失等の、E3の領域的寄与とは無関係に、大部分がより優れたウイルス複製及び腫瘍溶解活性を有することを示しているが、このことは上記の参考文献で記載した先行技術では、当業者には明らかではないであろう。
【0068】
上記に開示した特定の実施形態は、本明細書の教示の利益を有する当業者には明らかな、異なってはいるが同等の方法で本開示を改変及び実施することができるので、例示にすぎない。例えば、上記の方法工程は、異なる順序で実施することができる。更に、以下の特許請求の範囲に記載されている場合を除き、本明細書で示した構造又は設計の詳細を制限するものではない。したがって、上記で開示した特定の実施形態を変更又は改変することができることは明らかであり、そのような変形は全て、本開示の範囲及び精神の範囲内であると見なされる。したがって、本明細書で求められる保護は、以下の特許請求の範囲に記載される通りである。
【配列表】
【国際調査報告】