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特表2022-553932薬物複合体形成の部位特異的な定量化の方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-27
(54)【発明の名称】薬物複合体形成の部位特異的な定量化の方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20221220BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20221220BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20221220BHJP
   A61K 47/65 20170101ALI20221220BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221220BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221220BHJP
   C07K 16/00 20060101ALN20221220BHJP
【FI】
G01N33/68
A61K47/68 ZNA
A61K45/00
A61K47/65
A61P35/00
A61K39/395 E
A61K39/395 T
C07K16/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022522821
(86)(22)【出願日】2020-10-19
(85)【翻訳文提出日】2022-05-16
(86)【国際出願番号】 US2020056368
(87)【国際公開番号】W WO2021077106
(87)【国際公開日】2021-04-22
(31)【優先権主張番号】62/916,876
(32)【優先日】2019-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/043,756
(32)【優先日】2020-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
(71)【出願人】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ヤン シャンクン
【テーマコード(参考)】
2G045
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045BA13
2G045DA36
2G045DA37
2G045DA80
2G045FA40
2G045FB01
2G045FB06
4C076AA95
4C076CC27
4C076EE59
4C084AA17
4C084NA05
4C084NA13
4C084ZB26
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB31
4C085CC22
4C085CC23
4C085EE01
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045EA20
4H045EA50
(57)【要約】
プロテアーゼによって支援される薬物脱複合体形成、リンカー標識、および質量分析を用いた、抗体薬物複合体の薬物複合体形成を部位特異的に定量化または特性評価する方法であって、試料中の部分的に複合体形成したペプチドまたはタンパク質の特定の複合体形成部位に連結されたアタッチメントを、複合体形成が含む、方法。この方法は、アタッチメントの一部分を切断して、切断されたリンカーを含有するペプチドまたはタンパク質を生成し、部分的に複合体形成したペプチドまたはタンパク質の、複合体形成していない複合体形成部位に、修飾されたリンカーを付加させ、次いで、試料を質量分析に供して、切断されたリンカーおよび/または修飾されたリンカーを含むペプチドまたはタンパク質を同定することを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、試料中の部分的に複合体形成したペプチドまたはタンパク質の少なくとも1つの特定の複合体形成部位に連結された少なくとも1つのアタッチメントの複合体形成を定量化または特性評価する方法:
切断されたリンカーを含有するペプチドまたはタンパク質を生成するために、前記少なくとも1つのアタッチメントの一部分を切断する工程であって、前記アタッチメントが、前記切断されたリンカーを含む、工程;
前記部分的に複合体形成したペプチドまたはタンパク質の、複合体形成していない複合体形成部位に、修飾されたリンカーを付加する工程;
前記切断されたリンカーおよび/または前記修飾されたリンカーを含有するペプチドまたはタンパク質を同定するために、前記試料を質量分析に供する工程。
【請求項2】
前記少なくとも1つのアタッチメントが、リンカーおよびペイロードを含み、前記アタッチメントの、切断された部分が、前記ペイロードを含み、前記リンカーが、前記切断されたリンカーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記切断されたリンカーおよび前記修飾されたリンカーの定量化に基づいて、前記アタッチメントの部位特異的な複合体形成を定量化または特性評価する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記質量分析が、質量分析器、エレクトロスプレーイオン化質量分析器、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析器、またはトリプル四重極質量分析器を用いて実行され、
前記質量分析器を、液体クロマトグラフィーシステムに結合することができ、
前記質量分析器が、LC-MS(液体クロマトグラフィー-質量分析)、LC-MRM-MS(液体クロマトグラフィー-多重反応モニタリング-質量分析)、またはLC-MS/MS分析を実行することが可能である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記アタッチメントの一部分を切断するのに先立って、および/または前記複合体形成していない複合体形成部位に、前記修飾されたリンカーを付加するのに先立って、前記ペプチドまたはタンパク質を酵素で処理する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記試料を前記質量分析に供するのに先立って、前記試料を酵素で処理する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
酵素、プロテアーゼ、化学物質、酸、塩基、または還元剤を用いて、前記アタッチメントの前記一部分を切断する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記複合体形成していない複合体形成部位に、前記修飾されたリンカーを付加する前記工程が、前記アタッチメントの前記一部分を切断する前記工程を実行するのに先立って実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記アタッチメントの前記一部分を切断する前記工程が、前記修飾されたリンカーを付加する前記工程および前記試料を前記質量分析に供する前記工程を実行するのに先立って実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記修飾されたリンカーの分子量が、前記切断されたリンカーの分子量と異なる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記酵素がトリプシンである、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
パパイン、カテプシンB、またはプラスミンを用いて前記アタッチメントの前記一部分を切断する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記酵素がGlu-Cである、請求項6に記載の方法。
【請求項14】
前記特定の複合体形成部位または前記複合体形成していない複合体形成部位が、前記ペプチドまたはタンパク質のシステイン残基の内部に位置する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記アタッチメントが、マレイミド付着基を通じて、前記少なくとも1つの特定の複合体形成部位に連結されている、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記ペプチドまたはタンパク質が、抗体、抗体断片、抗体のFab領域、抗体のFc領域、または融合タンパク質である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記リンカーが、酸不安定性リンカー、プロテアーゼ切断可能なリンカー、ジスルフィド含有リンカー、ピロリン酸ジエステルリンカー、またはヒドラゾンリンカーである、請求項2に記載の方法。
【請求項18】
前記リンカーがペプチドを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項19】
前記リンカーが、バリン-アラニン、フェニルアラニン-リシン、バリン-シトルリン、またはそれらの誘導体を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項20】
前記リンカーが、ポリエチレングリコールを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項21】
前記リンカーが、パラアミノベンジルオキシカルボニル(PABC)またはパラアミノベンジルアルコール(PABA)を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項22】
前記修飾されたリンカーが、ポリエチレングリコールを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記修飾されたリンカーが、マレイミド付着基を通じて、前記複合体形成していない複合体形成部位に付加される、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記ペイロードが、薬物、化合物、毒素、細胞毒性剤、抗有糸分裂剤、微小管阻害剤、DNA損傷剤、トポイソメラーゼ阻害剤、RNAポリメラーゼ阻害剤、アマニチン類似体、チューブリシン類似体、化学療法薬物、微小管重合阻害剤、または微小管重合促進剤である、請求項2に記載の方法。
【請求項25】
前記部分的に複合体形成したペプチドまたはタンパク質が、式I:
の複合体形成したペプチドまたはタンパク質からなる群から選択され、
式中、Rがリンカーであり、Xがペイロードである、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記リンカーが、ポリエチレングリコールを含み、前記ペイロードが、薬物、化合物、毒素、細胞毒性剤、抗有糸分裂剤、微小管阻害剤、DNA損傷剤、トポイソメラーゼ阻害剤、RNAポリメラーゼ阻害剤、アマニチン類似体、チューブリシン類似体、化学療法薬物、微小管重合阻害剤、または微小管重合促進剤である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記部分的に複合体形成したペプチドまたはタンパク質が、式II:
の複合体形成したペプチドまたはタンパク質からなる群から選択され、
式中、Rが、スペーサーであり、Rが、-Hまたは-CHであり、Rが、-CH、または-(CHNHC(O)NHであり、Xが、ペイロードである、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記スペーサーが、ポリエチレングリコールを含み、前記ペイロードが、薬物、化合物、毒素、細胞毒性剤、抗有糸分裂剤、微小管阻害剤、DNA損傷剤、トポイソメラーゼ阻害剤、RNAポリメラーゼ阻害剤、アマニチン類似体、チューブリシン類似体、化学療法薬物、微小管重合阻害剤、または微小管重合促進剤である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記部分的に複合体形成したペプチドまたはタンパク質が、式III:
の複合体形成したペプチドまたはタンパク質からなる群から選択され、
式中、Rが、第1のスペーサーであり、Rが、-Hまたは-CHであり、Rが、-CHまたは-(CHNHC(O)NHであり、Rが、第2のスペーサーであり、Xが、ペイロードである、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
前記第1のスペーサーが、ポリエチレングリコールを含み、前記第2のスペースが、パラアミノベンジルオキシカルボニル(PABC)、またはパラアミノベンジルアルコール(PABA)を含み;前記ペイロードが、薬物、化合物、毒素、細胞毒性剤、抗有糸分裂剤、微小管阻害剤、DNA損傷剤、トポイソメラーゼ阻害剤、RNAポリメラーゼ阻害剤、アマニチン類似体、チューブリシン類似体、化学療法薬物、微小管重合阻害剤、または微小管重合促進剤である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
以下の工程を含む、試料中の部分的に複合体形成したタンパク質の少なくとも1つの特定の複合体形成部位に連結された少なくとも1つのアタッチメントの複合体形成を定量化または特性評価する方法:
切断されたリンカーを含有するタンパク質を生成するために、第1の酵素を用いて前記少なくとも1つのアタッチメントの一部分を切断する工程であって、前記アタッチメントが、前記切断されたリンカーを含む、工程と;
ペプチド混合物を得るために、前記試料を第2の酵素に供する工程と;
切断されたリンカーを含有するペプチドおよび/または切断されたリンカーを含有しないペプチドの定量化または特性評価に基づき、前記少なくとも1つの特定の複合体形成部位を定量化または特性評価するために、前記ペプチド混合物を質量分析に供する工程。
【請求項32】
前記少なくとも1つの特定の複合体形成部位が、前記タンパク質のリシン残基の内部に位置する、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記少なくとも1つのアタッチメントが、リンカーおよびペイロードを含み、前記少なくとも1つのアタッチメントの切断された部分が、前記ペイロードを含み、前記リンカーが、前記切断されたリンカーを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記質量分析が、質量分析器、エレクトロスプレーイオン化質量分析器、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析器、またはトリプル四重極質量分析器を用いて実行され、
前記質量分析器を、液体クロマトグラフィーシステムに結合することができ、
前記質量分析器が、LC-MS(液体クロマトグラフィー-質量分析)、LC-MRM-MS(液体クロマトグラフィー-多重反応モニタリング-質量分析)、またはLC-MS/MS分析を実行することが可能である、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
前記ペプチド混合物を前記質量分析に供するのに先立って、前記ペプチド混合物を第3の酵素で処理する工程をさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
前記第1の酵素が、パパイン、カテプシンB、もしくはプラスミンである;および/または前記第2の酵素が、Glu-Cもしくはトリプシンである、請求項31に記載の方法。
【請求項37】
前記第3の酵素が、Asp-NまたはGlu-Cである、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記タンパク質が、抗体、抗体断片、抗体のFab領域、抗体のFc領域、または融合タンパク質である、請求項31に記載の方法。
【請求項39】
前記リンカーが、バリン-アラニン、フェニルアラニン-リシン、バリン-シトルリン、またはそれらの誘導体を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項40】
前記ペイロードが、薬物、化合物、毒素、細胞毒性剤、抗有糸分裂剤、微小管阻害剤、DNA損傷剤、トポイソメラーゼ阻害剤、RNAポリメラーゼ阻害剤、アマニチン類似体、チューブリシン類似体、化学療法薬物、微小管重合阻害剤、または微小管重合促進剤である、請求項33に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
本出願は概して、プロテアーゼによって支援される薬物脱複合体形成と質量分析とを用いて抗体薬物複合体の薬物複合体形成を部位特異的に定量化または特性評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
抗体薬物複合体(ADC)は、生物学的に活性な薬物、例えば薬物ペイロードを、リンカーを通じて付着させるアタッチメントを有する抗体を含む。ADCの開発は、薬効を向上させる戦略であるが、これは、抗体が標的細胞の特定の部位に結合することができることで、生物学的に活性な薬物を標的細胞に効率的に送達することが可能になるからである。ADCを用いて、標的癌細胞への化学療法薬物の送達の大幅な向上が達成されている。
【0003】
抗体の多価性、およびアミノ酸とリンカー分子との間の非特異的親電子反応に起因してADCの調製が困難である可能性がある。ADCの一般的な分布プロファイルは、ADCと、複合体形成していない抗体と、複合体形成していない薬物ペイロードとの混合物を含有する。複合体形成していない抗体の存在下では、標的細胞に送達可能な薬物の量が減少する可能性があるが、これは、複合体形成していない抗体が、標的抗原に対して、薬物複合体形成した抗体と競合するからである。通常、誘導されるADCは、変動する薬物抗体比(DAR)と、複合体形成した複合体形成部位および複合体形成していない複合体形成部位を含む様々な複合体形成部位とを有する様々なADC種を含有する、高度に不均質な種である。ADCの不均質性は、望ましくないADC種の存在に起因して、薬物の安全性と有効性に顕著な影響を及ぼす可能性がある。所望のADC製剤は、明確に定められたDARと、ある程度の均質性とを含んでいるのが望ましい。可変DARを有するADCの部位特異的な薬物複合体形成の定量化および特性評価、例えば薬物複合体形成の部位特異的な定量化は、ADC製剤の品質属性を制御するための重要な過程であり、この品質属性は、ADCの有効性に直接影響し得るものである。
【0004】
質量分光法(MS)、液体クロマトグラフィー結合質量分光法(LC-MS)およびイメージキャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)が、ADC混合物の特性評価に使用されてきた(Wagh et al.,mAbs,10:2,222-243,2018,Challenges and new frontiers in analytical characterization of antibody-drug conjugates(非特許文献1))。しかし、ADCの不均質性の複雑さに起因して、ADCの特性評価に向けた薬物複合体形成の部位特異的な定量化には、実質的な難題が存在する。
【0005】
明確に定められたDARと薬物の安全性および有効性に関連するある程度の均質性とを保証するためにADCを特性評価する方法、特にADCの薬物複合体形成の部位特異的な定量化および/または特性評価を求める要望が存在することは認識されよう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Wagh et al.,mAbs,10:2,222-243,2018,Challenges and new frontiers in analytical characterization of antibody-drug conjugates
【発明の概要】
【0007】
概要
本出願は、抗体薬物複合体の薬物複合体形成を部位特異的に定量化および/または特性評価する方法を提供するものであり、複合体形成は、試料中の部分的に複合体形成したペプチドまたはタンパク質の特定の複合体形成部位に連結されたアタッチメントを含む。DARの幅広い変動と、抗体上の付着場所の不十分な制御とに起因して、薬物抗体複合体形成に使用される連結化学に関する課題が存在する場合がある。得られるADCは、様々なADC種を含有する高度に不均質な混合物である可能性がある。異なる部位での部位特異的な薬物複合体形成を定量化する難題が残っており、所望のADC製剤は、明確に定められたDARと、ある程度の均質性とを含むのが望ましい。
【0008】
本開示は、試料中の部分的に複合体形成したペプチドまたはタンパク質の少なくとも1つの特定の複合体形成部位に連結された少なくとも1つのアタッチメントの複合体形成を定量化または特性評価する方法であって:切断されたリンカーを含有するペプチドまたはタンパク質を生成するために、アタッチメントの一部分を切断する工程であって、アタッチメントが、切断されたリンカーを含む、工程と;部分的に複合体形成したペプチドまたはタンパク質の、複合体形成していない複合体形成部位に、修飾されたリンカーを付加する工程と;切断されたリンカーおよび/または修飾されたリンカーを含有するペプチドまたはタンパク質を同定するために、試料を質量分析に供する工程と、を含む方法を提供する。いくつかの態様では、アタッチメントの一部分は、パパイン、カテプシンB、またはプラスミンを用いて切断される。
【0009】
いくつかの態様では、本出願の方法において、少なくとも1つのアタッチメントは、リンカーとペイロードとを含み、アタッチメントの、切断された部分が、ペイロードを含み、リンカーが、切断されたリンカーを含む。いくつかの態様では、本出願の方法は、切断されたリンカーおよび修飾されたリンカーの定量化に基づいて、アタッチメントの部位特異的な複合体形成を定量化または特性評価することをさらに含む。いくつかの態様では、本出願の方法において、質量分析は、質量分析器、エレクトロスプレーイオン化質量分析器、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析器、またはトリプル四重極質量分析器を用いて実行され、質量分析器は、液体クロマトグラフィーシステムに結合させることができ、質量分析器は、LC-MS(液体クロマトグラフィー-質量分析)、LC-MRM-MS(液体クロマトグラフィー-多重反応モニタリング-質量分析)、またはLC-MS/MS分析を実行することが可能である。
【0010】
いくつかの態様では、本出願の方法は、アタッチメントの一部分を切断するのに先立って、および/または複合体形成していない複合体形成部位に、修飾されたリンカーを付加するのに先立って、ペプチドまたはタンパク質を酵素で処理することをさらに含む。いくつかの態様では、本出願の方法は、試料を質量分析に供するのに先立って、試料を酵素で処理することをさらに含む。いくつかの態様では、アタッチメントの一部分は、酵素、プロテアーゼ、化学物質、酸、塩基、または還元剤を用いて切断される。いくつかの態様では、複合体形成していない複合体形成部位に、修飾されたリンカーを付加する工程は、アタッチメントの一部分を切断する工程を実行するのに先立って実行される。いくつかの態様では、アタッチメントの一部分を切断する工程は、修飾されたリンカーを付加する工程および試料を質量分析に供する工程を実行するのに先立って実行される。いくつかの態様では、修飾されたリンカーの分子量は、切断されたリンカーの分子量とは異なる。
【0011】
他の態様では、本出願の方法は、アタッチメントの一部分を切断するのに先立って、および/または複合体形成していない複合体形成部位に、修飾されたリンカーを付加するのに先立って、ペプチドまたはタンパク質を酵素で処理することをさらに含み、酵素はトリプシンである。いくつかの態様では、本出願の方法は、試料を質量分析に供するのに先立って、試料を酵素で処理することをさらに含み、酵素はGlu-Cである。いくつかの態様では、特定の複合体形成部位または複合体形成していない複合体形成部位は、ペプチドまたはタンパク質のシステイン残基の内部に位置する。いくつかの態様では、アタッチメントは、マレイミド付着基を通じて少なくとも1つの特定の複合体形成部位に連結される。いくつかの態様では、ペプチドまたはタンパク質は、抗体、抗体断片、抗体のFab領域、抗体のFc領域、または融合タンパク質である。
【0012】
いくつかの態様では、リンカーは、酸不安定性リンカー、プロテアーゼ切断可能なリンカー、ジスルフィド含有リンカー、ピロリン酸ジエステルリンカー、またはヒドラゾンリンカーである。いくつかの態様では、リンカーは、バリン-アラニン、フェニルアラニン-リシン、バリン-シトルリン、またはそれらの誘導体を含む、ペプチドを含む。いくつかの態様では、リンカーは、ポリエチレングリコール、パラアミノベンジルオキシカルボニル(PABC)、またはパラアミノベンジルアルコール(PABA)をさらに含む。
【0013】
他の態様では、修飾されたリンカーは、ポリエチレングリコールを含む。いくつかの態様では、修飾されたリンカーは、マレイミド付着基を通じて複合体形成していない複合体形成部位に付加する。
【0014】
さらに他の態様では、ペイロードは、薬物、化合物、毒素、細胞毒性剤、抗有糸分裂剤、微小管阻害剤、DNA損傷剤、トポイソメラーゼ阻害剤、RNAポリメラーゼ阻害剤、アマニチン類似体、チューブリシン類似体、化学療法薬物、微小管重合阻害剤、または微小管重合促進剤である。
【0015】
いくつかの態様では、部分的に複合体形成したペプチドまたはタンパク質は、下記式I:
の複合体形成したペプチドまたはタンパク質からなる群から選択され、
式中、Rは、リンカーであり、Xは、ペイロードである。いくつかの態様では、リンカーは、ポリエチレングリコールを含み、ペイロードは、薬物、化合物、毒素、細胞毒性剤、抗有糸分裂剤、微小管阻害剤、DNA損傷剤、トポイソメラーゼ阻害剤、RNAポリメラーゼ阻害剤、アマニチン類似体、チューブリシン類似体、化学療法薬物、微小管重合阻害剤、または微小管重合促進剤である。
【0016】
いくつかの態様では、部分的に複合体形成したペプチドまたはタンパク質は、下記式II:
の複合体形成したペプチドまたはタンパク質からなる群から選択され、
式中、Rは、スペーサーであり、Rは、-Hまたは-CHであり、Rは、-CHまたは-(CHNHC(O)NHであり、Xは、ペイロードである。いくつかの態様では、スペーサーは、ポリエチレングリコールを含み、ペイロードは、薬物、化合物、毒素、細胞毒性剤、抗有糸分裂剤、微小管阻害剤、DNA損傷剤、トポイソメラーゼ阻害剤、RNAポリメラーゼ阻害剤、アマニチン類似体、チューブリシン類似体、化学療法薬物、微小管重合阻害剤、または微小管重合促進剤である。
【0017】
他の態様では、部分的に複合体形成したペプチドまたはタンパク質は、下記式III:
の複合体形成したペプチドまたはタンパク質からなる群から選択され、
式中、Rは、第1のスペーサーであり、Rは、-Hまたは-CHであり、Rは、-CHまたは-(CHNHC(O)NHであり、Rは、第2のスペーサーであり、Xは、ペイロードである。いくつかの態様では、第1のスペーサーは、ポリエチレングリコールを含み、第2のスペースは、パラアミノベンジルオキシカルボニル(PABC)またはパラアミノベンジルアルコール(PABA)を含み、ペイロードは、薬物、化合物、毒素、細胞毒性剤、抗有糸分裂剤、微小管阻害剤、DNA損傷剤、トポイソメラーゼ阻害剤、RNAポリメラーゼ阻害剤、アマニチン類似体、チューブリシン類似体、化学療法薬物、微小管重合阻害剤、または微小管重合促進剤である。
【0018】
本開示は、少なくとも部分的に、試料中の部分的に複合体形成したタンパク質の少なくとも1つの特定の複合体形成部位に連結された少なくとも1つのアタッチメントの複合体形成を定量化または特性評価する方法を提供する。いくつかの実施形態では、本出願の方法は、切断されたリンカーを含有するタンパク質を生成するために、第1の酵素を用いてアタッチメントの一部分を切断する工程であって、アタッチメントが、切断されたリンカーを少なくとも1つ含む、工程と;その後、ペプチド混合物を得るために、試料を第2の酵素に供する工程と;切断されたリンカーを含有するペプチドおよび/または切断されたリンカーを含有しないペプチドの定量化に基づいて、アタッチメントの少なくとも1つの特定の複合体形成部位を定量化または特性評価するために、ペプチド混合物を質量分析に供する工程と、を含む。一態様では、少なくとも1つの特定の複合体形成部位は、タンパク質のリシン残基の内部に位置する。
【0019】
一態様では、少なくとも1つのアタッチメントは、リンカーとペイロードとを含み、少なくとも1つのアタッチメントの切断された部分が、ペイロードを含み、リンカーが、切断されたリンカーを含む。一態様では、質量分析は、質量分析器、エレクトロスプレーイオン化質量分析器、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析器、またはトリプル四重極質量分析器を用いて実行され、質量分析器は、液体クロマトグラフィーシステムに結合させることができ、質量分析器は、LC-MS(液体クロマトグラフィー-質量分析)、LC-MRM-MS(液体クロマトグラフィー-多重反応モニタリング-質量分析)、またはLC-MS/MS分析を実行することが可能である。一態様では、本出願の方法は、ペプチド混合物を質量分析に供するのに先立って、ペプチド混合物を第3の酵素で処理することをさらに含む。一態様では、第1の酵素は、パパイン、カテプシンB、もしくはプラスミンである;および/または、第2の酵素は、Glu-Cもしくはトリプシンである。一態様では、第3の酵素は、Asp-NまたはGlu-Cである。
【0020】
一態様では、タンパク質は、抗体、抗体断片、抗体のFab領域、抗体のFc領域、または融合タンパク質である。一態様では、リンカーは、バリン-アラニン、フェニルアラニン-リシン、バリン-シトルリン、またはそれらの誘導体を含む。一態様では、ペイロードは、薬物、化合物、毒素、細胞毒性剤、抗有糸分裂剤、微小管阻害剤、DNA損傷剤、トポイソメラーゼ阻害剤、RNAポリメラーゼ阻害剤、アマニチン類似体、チューブリシン類似体、化学療法薬物、微小管重合阻害剤、または微小管重合促進剤である。
【0021】
本発明の、これらおよび他の態様は、以下の記載および添付の図面と併せて考慮すると、よりよく認識され理解されよう。以下の記載は、様々な実施形態およびそれらの多くの具体的な細部を示しつつ、例示によって与えられるものであり、限定するものではない。本発明の範囲内で多くの置き換え、修正、追加、または並べ替えを行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、薬物がリンカーを通じて抗体と複合体形成した抗体薬物複合体(ADC)を示す。ADCの抗体成分は、標的細胞の腫瘍抗原に結合し、次いでADC抗原複合体は、受容体媒介性エンドサイトーシスを受ける。ADCの薬物成分は、ADCのリソソーム分解またはリンカーの切断により放出される可能性がある。
図2図2は、マイロターグ(Mylotarg(登録商標))、アドセトリス(Adcetris(登録商標))、カドサイラ(Kadcyla(登録商標))の化学構造を示す。
図3図3は、マレイミドアルキル化を通じてリンカーを抗体と複合体形成させることによるシステイン結合を示す。
図4図4は、チオール交換または逆反応を経ることによる、システイン複合体形成したADCについてのチオール-マレイミド複合体形成に関連した脱複合体形成を示す。
図5A図5Aは、いくつかの態様によるADCの化学構造を示す。各ADCは、抗体と、リンカーによってつながったペイロードとを含み、リンカーは、いくつかの態様によれば、マレイミド付着基を使用してペプチドまたはタンパク質のシステイン残基のスルフヒドリル基に付着させる。
図5B図5Bは、いくつかの態様によるADCの化学構造を示す。各ADCは、抗体と、リンカーによってつながったペイロードとを含み、リンカーは、いくつかの態様によれば、活性化されたカルボン酸エステルまたはNHSエステルを使用しリシンアミド結合を通じてペプチドまたはタンパク質のリシン残基に付着させる。
図6A図6Aは、例示的な実施形態による、ADCをトリプシンにより消化し、トリプシンペプチド混合物をパパインで消化してペイロードを除去することと;修飾されたリンカーを、複合体形成していないスルフヒドリル基と複合体形成させる(例えば、標識する)ことと;ペプチド混合物をGlu-Cで消化することと;ペプチド混合物をLC-MS分析に供することと、を含む本出願の例示的方法を示す。
図6B図6Bは、例示的な実施形態による、ADCをトリプシンで消化し、修飾されたリンカーを、複合体形成していないスルフヒドリル基と複合体形成させる(例えば、標識する)ことと;ペプチド混合物をパパインで消化してペイロードを除去することと;ペプチド混合物をGlu-Cで消化することと;ペプチド混合物をLC-MS分析に供することと、を含む本出願の例示的な方法を示す。
図6C図6Cは、例示的な実施形態による、ADC試料をパパインで消化してペイロードを除去し、その後、還元および変性させ、その後、ADC試料をトリプシンで消化してトリプシンペプチド混合物を得、トリプシンペプチド混合物をGlu-Cで消化し、修飾されたリンカーを、複合体形成していないスルフヒドリル基と複合体形成させ(例えば標識し)、そしてその後、ペプチド混合物をLC-MS分析に供すること、を含む本出願の例示的な方法を示す。
図7図7は、例示的な実施形態による、ADC試料をパパインで消化してペイロードを除去し、その後、還元および変性させ、その後、アルキル化し、その後、ADC試料をGlu-Cにより消化してGlu-C消化されたペプチド混合物を得、ペプチド混合物をAsp-Nで消化し、そしてその後、ペプチド混合物をLC-MS分析に供すること、を含む本出願の例示的方法を示す。
図8A図8Aは、例示的な実施形態による、マレイミド付着基を通じてタンパク質とペイロードをつなぐリンカー、例えば、LK1リンカーのアタッチメントを示す。マレイミド付着基は、ペプチドまたはタンパク質のスルフヒドリル基(-SH)に付着する。LK1リンカー(mal-amido-PEG8-VA-PABA)のアタッチメントは、PEG8(ポリエチレングリコール-8)と、バリン-アラニンジペプチド(VAジペプチド)と、PABAとを含む。SG3199は、薬物ペイロードである。
図8B図8Bは、例示的な実施形態による、切断されたリンカー(mal-amido-PEG8-VA)のアタッチメント、例えば、切断されたLK1のアタッチメントを示しており、これは、PABAと薬物ペイロードとの除去によりペイロードを放出させるLK1のプロテアーゼ消化の後に生成されるものである。
図8C図8Cは、例示的な実施形態による、LK1の修飾されたリンカー(mal-amido-PEG8-COOH)のアタッチメント、例えば、LK2のアタッチメントを示す。
図8D図8Dは、例示的な実施形態による、マレイミド付着基を通じてタンパク質とペイロードをつなぐリンカー、例えばLK3リンカーのアタッチメントを示す。マレイミド付着基は、ペプチドまたはタンパク質のスルフヒドリル基(-SH)に付着する。LK3リンカー(mal-amido-Val-Cit-PABA)のアタッチメントは、バリン-シトルリンジペプチド(VCitジペプチド)とPABAとを含む。メイタンシノイド(Maytansinoid)はは、薬物ペイロードである。
図8E図8Eは、例示的な実施形態による、切断されたリンカー(mal-amido-Val-Cit)のアタッチメント、例えば切断されたLK3のアタッチメントを示しており、これは、PABAと薬物ペイロードとの除去によりペイロードを放出させるLK3のプロテアーゼ消化の後に生成されるものである。
図8F図8Fは、例示的な実施形態による、LK3の修飾されたリンカー(mal-amido-Val-Cit)のアタッチメント、例えば、LK4のアタッチメントを示す。
図8G図8Gは、例示的な実施形態による、LK5リンカー、例えば、タンパク質とペイロードをつなぐ酵素切断部位としてバリン-シトルリンジペプチドを含むadip-Val-Cit-PAB-NMeのアタッチメントを示す。細胞毒性化合物であるメイタンシノイド(May)は、例示的な実施形態による、LK5に担持される薬物ペイロードである。
図8H図8Hは、例示的な実施形態による、切断されたLK5、例えばadip-Val-Citのアタッチメントを示しており、これは、ペイロードを放出させるLK5のプロテアーゼ消化の後に生成されるものである。
図8I図8Iは、例示的な実施形態による、抗体の、複合体形成していないリシン残基の化学構造を示す。
図9A図9Aは、抗体の鎖間ジスルフィド結合を示しており、これらは還元されてスルフヒドリル基(-SH)を誘導した。次いで、スルフヒドリル基は、例示的な実施形態により、ADCを調製するための複合体形成部位として使用された。
図9B図9Bは、LK1リンカーとペイロード薬物SG3199とを含有するADCを示す。ADC、例えば、Ab-mal-amido-PEG8-VA-PABA-SG3199は、例示的な実施形態により、薬物ペイロードを放出する切断部位を有する。
図9C図9Cは、LK3リンカーとペイロード薬物メイタンシノイドとを含有するADCを示す。ADC、例えば、Ab-mal-amido-Val-Cit-PABA-メイタンシノイドは、例示的な実施形態により、薬物ペイロードを放出する切断部位を有する。
図10図10は、例示的な実施形態による、インタクト質量を用いたMAB1-LK1 ADCの薬物抗体比の決定を示す。(X軸:強度/[カウント]、Y軸:1.45e5から1.58e5までの観察質量[m/z])。
図11図11は、例示的な実施形態による、MAB1-LK1 ADCからパパインを用いて薬物ペイロードを除去した結果を示す。MAB1-LK1 ADCをトリプシンで消化し、トリプシンペプチド混合物を得た。2つのトリプシンペプチド、例えば、SCDK(セリン-システイン-アスパラギン酸-リシン)およびGEC(グリシン-グルタミン酸-システイン)を、例示的な実施形態により、LC-MSを使用して分析した。LK1は、質量分析時に+1495.7(ペイロードを含む)と指定され、切断されたLK1は+762.2と指定される。
図12図12Aは、パパインが、かさ高い疎水性アミノ酸または芳香族アミノ酸に近い部位を優先的に切断するプロテアーゼであることを示す。図12Bは、抗体のヒンジ領域に元々位置するトリプシンペプチドのアミノ酸配列を示す。このトリプシンヒンジ領域ペプチド(THTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPK(SEQ ID NO.:1))は、複数のパパイン切断部位を含有する。パパイン切断部位は、矢印記号で表示されている。
図13図13A~13Cは、例示的な実施形態による、パパインで消化されたトリプシンヒンジ領域ペプチドの分析結果を示す。図13Aは、例示的な実施形態による、トリプシンヒンジ領域ペプチド(THTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPK(SEQ ID NO.:1))の分析結果を示す。図13Bは、例示的な実施形態による、CPPCPAPE(SEQ ID NO.:2)のアミノ酸配列を有するペプチド(パパインで消化されたトリプシンヒンジ領域ペプチド)の分析結果を示す。図13Cは、例示的な実施形態による、CPPCPAPELL(SEQ ID NO.:3)のアミノ酸配列を有するペプチド(パパインで消化されたトリプシンヒンジ領域ペプチド)の分析結果を示す。これらのペプチドは、LK1(ペイロードを含め、+1495.7と指定される)または切断されたLK1(+762.4と指定される)を含有する場合がある。
図14図14は、例示的な実施形態による、ヒンジ領域ペプチドについてのリンカー標識の効率を示す。ヒンジ領域ペプチドは、2つのシステイン残基を含有する。ヒンジ領域ペプチドの大部分は、二重標識を有する。
図15図15は、例示的な実施形態による、LC-MSに供するのに先立つ試料のGlu-C消化の分析結果を示す。ヒンジ領域ペプチドのプロファイルが顕著に減少し、これによって、LC-MSを用いた定量化が顕著に簡略化された。
図16図16は、例示的な実施形態による、MAB1-LK1 ADCの薬物複合体形成の部位特異的な定量化を示す。2つのペプチド、例えば、SCDKまたはGECのアミノ酸配列を有するペプチドのピーク面積を示してある。これらのペプチドは、切断されたLK1(+762.4と指定される)および/またはLK2(+592.3と指定される)を含有する場合がある。
図17図17は、例示的な実施形態による、GECペプチド、SCDKペプチド、およびヒンジ領域ペプチドのDARの分析結果に関する、本出願の方法の日内精度を示す。
図18図18Aおよび18Bは、例示的な実施形態による、2つの方法の比較結果を示す。図18Aは、例示的な実施形態による、図6Aに示す方法としてパパイン消化の実行の後にLK2付着させた結果を示す。図18Bは、例示的な実施形態による、図6Bに示す方法としてLK2付着の実行の後にパパイン消化を行った結果を示す。高DARを有するMAB1-LK1 ADC試料を分析した。切断されたLK1は+762.4と指定される。LK2は+592.3と指定される。(+592.3,+592.3)は、複合体形成がゼロであることを示す。(+762.4,+592.3)は、薬物複合体形成が1つであることを示す。(+762.4,+762.4)は、例示的な実施形態による薬物複合体形成が2つであることを示す。
図19A図19Aは、例示的な実施形態による、切断されたLK1(mal-amido-PEG8-Val-Ala)を含有するトリプシンペプチドSCDKについてのリンカージペプチド構造の徹底的な断片化の質量分析を示す。
図19B図19Bは、例示的な実施形態による、切断されたLK3(mal-amido-Val-Cit)を含有するトリプシンペプチドSCDKについてのリンカージペプチド構造の徹底的な断片化の質量分析を示す。
図20A図20Aは、例示的な実施形態による、MAB1-LK1 ADC試料について同定されたあらゆるペプチドにおける特定のサロゲートペプチドの百分率を示す。
図20B図20Bは、例示的な実施形態による、MAB1-LK3 ADC試料について同定されたあらゆるペプチドにおける特定のサロゲートペプチドの百分率を示す。
図21A図21Aは、例示的な実施形態による、MAB1-LK1 ADC試料を分析する場合の、パパイン対基質比が異なるところでのサロゲートペプチドのピーク面積を示す。
図21B図21Bは、例示的な実施形態による、MAB1-LK3 ADC試料を分析する場合の、パパイン対基質比が異なるところでのサロゲートペプチドのピーク面積を示す。
図22図22は、例示的な実施形態による、異なるインキュベーション時間での、LK1またはLK3を含有するサロゲートペプチド、例えば、GEC、SCDK、または1つもしくは2つのインタクトなLK1もしくはLK3を含有するヒンジペプチドのピーク面積を示す。
図23図23は、例示的な実施形態による、異なるインキュベーション時間での、LK1またはLK3を含有するサロゲートペプチド、例えば、GEC、SCDK、または1つもしくは2つの切断されたLK1もしくはLK3を含有するヒンジペプチドのピーク面積を示す。例示的な実施形態により、切断されたリンカーを含有しないヒンジペプチドのピーク面積もモニタリングした。
図24図24Aは、例示的な実施形態による、GEC、SCDK、およびヒンジ領域ペプチドのところでの複合体形成部位を分析することにより、MAB1-LK1 ADCについてのLK1複合体形成の部位特異的な定量化を行った結果を示す。図24Bは、例示的な実施形態による、GEC、SCDKおよびヒンジ領域ペプチドのところでの複合体形成部位を分析することにより、MAB1-LK3 ADCについてのLK3複合体形成の部位特異的な定量化を行った結果を示す。
図25図25は、例示的な実施形態による、GEC、SCDK、およびヒンジ領域ペプチドのDARの分析結果に関する本出願の方法の日内精度および日間精度を示す。
図26図26は、例示的な実施形態による、GEC、SCDK、およびヒンジ領域ペプチド上の複合体形成部位を分析することによって得られた、MAB1-LK1-L8およびMAB1-LK1-L22の薬物複合体形成分布のロット間ばらつきを示す。
図27図27は、例示的な実施形態による、pH5.5、pH6、およびpH6.5を含む異なるpH条件でGEC、SCDK、およびヒンジ領域ペプチドを分析することにより、40℃、28日間熱ストレス下でMAB1-LK1 ADCについて得られた、LK1複合体形成の喪失百分率を示す。
図28図28は、例示的な実施形態による、マレイミド環加水分解の化学的機構を示す。
図29図29Aは、例示的な実施形態による、pH5.5、pH6.0、およびpH6.5を含む異なるpH条件下でGEC、SCDK、およびヒンジペプチドを分析することによって得られた、マレイミド環加水分解および複合体形成保持の百分率を示す。図29Bは、例示的な実施形態による、複合体形成保持とマレイミド環加水分解との間の相関分析の結果を示す。
図30A図30A~30Cは、例示的な実施形態による、パパイン消化を用いて抗体の軽鎖におけるリシン208残基上の薬物複合体形成を分析した結果を示す。
図30B】同上。
図30C】同上。
図31A図31A~31Cは、例示的な実施形態による、パパイン消化を用いて抗体の重鎖におけるリシン393およびリシン389残基(HC Lys393/HC* Lys389)上の薬物複合体形成を分析した結果を示す。
図31B】同上。
図31C】同上。
図32A図32A~32Cは、例示的な実施形態による、パパイン消化を用いて抗体の軽鎖におけるリシン65残基上の薬物複合体形成を分析した結果を示す。
図32B】同上。
図32C】同上。
図33A図33A~33Cは、例示的な実施形態による、55個のアミノ酸を含有するペプチドを分析することにより、パパイン消化を用いて抗体の軽鎖におけるリシン39、42、または45残基上の薬物複合体形成を分析した結果を示す。
図33B】同上。
図33C】同上。
図34図34A~34Bは、例示的な実施形態による、パパイン消化を用いて、二重複合体形成について抗体の重鎖におけるリシン64および75残基(HCLys64およびLys75)上の薬物複合体形成を分析した結果を示す。
図35A図35A~35Cは、例示的な実施形態による、パパイン消化を用いて抗体の重鎖におけるリシン151および147残基(HC Lys151/HC* Lys147)上の薬物複合体形成を分析した結果を示す。
図35B】同上。
図35C】同上。
図36図36は、例示的な実施形態による、MAB2-LK5について様々なリシン残基上の薬物複合体形成の部位特異的な定量化を行った結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
詳細な説明
抗体薬物複合体(ADC)は、抗体の特異性を利用して、薬物、例えば高薬理活性の細胞障害性薬物または化学療法薬物を標的細胞に選択的に送達する治療薬である。ADCは、細胞毒性薬物を標的として、癌治療用に送達することができる。特定の腫瘍表面抗原を標的とする抗体を、リンカーを通じて薬物と複合体形成させて、癌治療用の有効な治療薬としてADCを生成することができる。図1に示されるとおり、ADCの抗体成分は腫瘍抗原に結合し、次いで、ADC抗原複合体は受容体媒介性エンドサイトーシスを受ける。リソソームは、プロテアーゼ、例えばカテプシンBおよびプラスミンを含有するので、ADCのリソソーム分解またはリンカーの切断に起因して、ADCの薬物成分を放出させることができる(Changshou Gao.7th World ADC.2016,San Diego,Instability of thiol/maleimide conjugation and strategies for mitigation; Jagadeesh et al.,Antibody drug conjugates(ADCs):Changing the treatment landscape of lymphoma,Current Treatment Options in Oncology,17,55,2016,https://doi.org/10.1007/s11864-016-0428-y)。好ましい標的抗原は、腫瘍と正常組織との間で発現の差を示すものであって癌細胞内で発現を増加させるのが望ましい。ADCは、癌細胞に選択的に薬物を送達することにより、有効性を高めるとともに毒性を低下させることができ、よって、従来の化学療法による癌治療と比較して最小有効量を下げる。また、抗体による標的指向性薬物送達に起因して、非標的組織、例えば正常組織に到達する薬物が減少するので、最大薬物耐用量が増加する。(Panowski et al.,Site-specific antibody drug conjugates for cancer therapy,mAbs,6:1,34-45,DOI:10.4161/mabs.27022)。ADCを使用することで、従来の化学療法と比較して、有効性の向上、全身毒性の低減、好ましい薬物動態、好ましい薬力学、および好ましい生体内分布に起因して、治療ウィンドウを広げることができる(Tsuchikama et al.,Protein Cell,2018,9(1),pages 33-46,Antibody-drug conjugates:recent advances in conjugation and linker chemistries)。
【0024】
FDA承認済みのADCには、CD33陽性急性骨髄性白血病用に2000年のゲムツズマブ・オゾガマイシン(マイロターグ(登録商標))(gemtuzumab ozogamicin(Mylotarg(登録商標)))、CD30陽性再発または難治性ホジキンリンパ腫および全身性未分化大細胞リンパ腫用に2011年のブレンツキシマブ・ベドチン(アドセトリス(登録商標))(brentuximab vedotin(Adcetris(登録商標)))、HER2陽性乳癌用に2013年のトラスツズマブ・エムタシン(カドサイラ(登録商標))(trastuzumab emtansine(Kadcyla(登録商標)))、急性リンパ芽球性白血病用に2017年の、CD22を標的としたイノツズマブ・オゾガマイシン(ベスポンサ(登録商標))(inotuzumab ozogamicin(Besponsa(登録商標)))、びまん性大B細胞リンパ腫用に2019年の、CD79bを標的としたポラツズマブ・ベドチン(ポライビー(登録商標))(polatuzumab vedotin(Polivy(登録商標)))、膀胱癌用に2019年のネクチン-4標的エンフォルツマブ・ベドチン(パドセブ(登録商標))(Enfortumab vedotin(Padcev(登録商標)))、乳癌用に2019年のHER2標的トラスツズマブ・デルクステカン(エンハーツ(登録商標))(trastuzumab deruxtecan(Enhertu(登録商標)))などが挙げられる。しかし、マイロターグ(登録商標)は、臨床的有用性がなく、標準的な化学療法と比較して致死的毒性率も高いことから、2010年に市場から撤退した。マイロターグ(登録商標)、アドセトリス(登録商標)、カドサイラ(登録商標)の化学構造を図2に示す(Tsuchikama et al.)。活性ADCの臨床試験の大部分は、多様な標的抗原を対象とした第I相試験中である。ADCの標的抗原の例には、HER2、EGFR、CD19、CD33、CD70、cMet、BCMA、CD123、CD22、CD37、CD71、CD74、GC-C、FGFR、メソセリン(mesothelin)、ENPP3、AXL受容体型チロシンキナーゼ、CDH6、CEACAM4、DLL3、FLT3、葉酸受容体1、PSMA、GPNMB、HER3、IGF-1R、SLC44A4、TAA、などが挙げられる。ADCの開発は困難であるが、これは、ADCの開発の約25%が臨床試験中に中止されたと推定されたからである。
【0025】
ADCは、特定の抗原を標的とする抗体、薬物ペイロード、および薬物ペイロードと抗体とをつなぐリンカーから構築される。ADCの開発用に一般に使用される抗体アイソタイプには、IgG1、IgG2、IgG4などが挙げられる。複合体形成に利用可能なリンカーには、プロテアーゼ切断可能なリンカー、切断可能でないリンカー、ヒドラゾンリンカー、ジスルフィド結合型リンカーなど様々なタイプが挙げられる。抗体における利用できる複合体形成部位には、リシン残基およびシステイン残基などが挙げられる。加えて、非天然アミノ酸または人工システイン残基を、特定の部位のところで抗体に付加することができる。抗体の利用できる主要な複合体形成部位には、リシン残基のアミノ基などが挙げられる。一般的な抗体上には約80個のリシン残基があり、約10個のリシン残基が化学的に利用できる。抗体へのリンカーの化学的な複合体形成には、活性化されたカルボン酸エステルを用いたリシンアミド結合などが挙げられる。
【0026】
システインを用いた複合体形成もまた、ADCの構築に用いることができる。概して抗体には遊離チオールは存在せず、これは、全てのシステイン残基がジスルフィド結合を形成するためである。抗体、例えばIgG1には、4個の鎖間ジスルフィド結合、12個の鎖内ジスルフィド結合がある。鎖間ジスルフィド結合は概して、IgG1の構造安定性にとって重要ではない。抗体の鎖間ジスルフィド結合が選択的に還元されると、抗体のシステイン残基のスルフヒドリル基(-SH)を、主要な複合体形成部位として利用できる。よって、システイン複合体形成は、鎖間ジスルフィド結合の還元後、露出した8個のスルフヒドリル基に限定される場合がある。システイン複合体形成に使われる抗体あたりのリンカー薬物は1~8個の範囲にあり、100種より多い異なるADC種を生成することができる。ADC混合物の不均質性における多様性は比較的高く、その理由は、薬物担持率および複合体形成部位の点でこれらのADC種が異なるためである(Panowski et al.)。追加のシステイン残基を、遺伝子工学などの技術を通じて抗体に導入することができる。
【0027】
ADCは普通、様々なDAR、複合体形成部位、および占有度を含め、高度な構造的不均質性を有する。ペイロードの占有率は、溶媒接触性、局在電荷、および立体効果に依存して、異なる複合体形成部位で変化する可能性がある。特定の複合体形成部位の場所と占有率により、ADCの安定性および有効性を調節することができる。リシンまたはシステイン複合体形成したADCは、サイズバリアントおよびチャージバリアントを含む不均質性を示す。ADC、例えばリシンまたはシステイン複合体形成したADCの品質属性について考慮すべき事柄には、DAR、薬物担持率分布、複合体形成していない抗体の存在、残留薬物の存在などが挙げられる。複合体形成部位を選択することで、ADCの安定性および有効性を調節することができる。システインを用いた複合体形成法は、抗体のシステイン残基とチオール反応性官能基との間の特異的な反応に依拠する。マレイミドを使用して、マレイミドアルキル化を通じ、還元された抗体システインチオールとリンカーを複合体形成させることができる。図3は、マレイミド部分が抗体の還元型システイン残基と反応することを示している(Tsuchikama et al.)。
【0028】
薬物抗体複合体形成に使用される連結化学に関して課題がある。得られるADCが不安定な構造であるならば、想定よりも早い薬物放出につながる可能性がある。DARの幅広い変動と、抗体上の付着場所の不十分な制御とに関連して他にも課題がある。ADCのばらつきおよび不安定性は、ばらついた薬物動態プロファイルの原因になる。得られるADCは、様々なADC種を含有する高度に不均質な混合物となる可能性がある。システイン複合体形成したADCには、脱複合体形成が生じる、例えばチオール交換または逆反応を通る可能性があり、これは、システインを用いた複合体形成に関し、チオール-マレイミド複合体形成に関連する不安定性について図4に示されるとおりである。ADCの複合体形成が抗体のCH2ドメインのリシン残基を用いる場合には、CH2ドメインは不安定化する可能性があり、これが、抗体の半減期に悪影響を及ぼす翻訳後修飾(post-translation modification(PTM))分解を誘発する。リシンを用いた複合体形成は、ADCの結合親和性を損なう可能性があり、例えば結合エピトープを直接変化させたり、間接的に構造変化を引き起こしたりする可能性がある。例えば、ADC内のメチオニン258残基は、複合体形成していない抗体と比較して、酸化されやすい(Luo et al.,Structural Characterization of a Monoclonal Antibody-Maytansinoid Immunoconjugate,Anal Chem 2016 Jan 5;88(1):695-702.doi:10.1021/acs.analchem.5b03709.Epub 2015 Dec 14; Buecheler,J.W.,et al.Journal of Pharmaceutical Sciences 109 (2020) 161-168162)。ペイロードの脱複合体形成は、オンターゲット有効性の低下、抗標的の毒性増加、または制御できない薬物分布につながる可能性がある。ADCのDARは、血清中で経時的に変化する場合がある。薬物複合体形成の部位特異的な定量化、および異なる部位での薬物複合体形成の喪失の定量化には、難題が残されている。ADCの分析による特性評価には、分子の完全性、不均質性、分解、安定性、およびDARの変化などが挙げられる。所望のADC製剤は、望ましくないADC種を低減させることによって、明確に定められたDARと、ある程度の均質性とを含むことで、ADC製剤の安全性および有効性を向上させるのが望ましい。
【0029】
DARは、抗体と複合体形成した薬物の平均数を表し、ADCの有効性と安全性に直結し得る。DARの特性評価は、ADCの重要な品質属性を制御するには重要である可能性があり、これは、明確に定められたDARから、全薬物担持率、薬物担持率分布、複合体形成していない抗体のレベル、複合体形成していない残留薬物のレベル、および複合体形成の部位に関する重要な情報が得られるからである。低DARは薬物担持率が低いことを意味し、ADCの効能を低下させる原因である。高DARは、ADCの薬物動態と毒性を変化させる可能性のある高薬物担持率を表す。ADCの主な品質属性には、DAR、薬物担持率分布、複合体形成していない抗体のレベル、複合体形成していない残留薬物レベル、ADCのサイズバリアント、およびADCのチャージバリアントの特性評価などが挙げられる。
【0030】
質量分析の手法を用いるADCの特性評価および定量化は、実行ごとにばらつきがあって困難である可能性があり、これは、リンカーとペイロードの複合体形成がペプチドのイオン化に顕著に影響するからである。質量分析に基づくペプチドのマッピングは、治療用タンパク質の特性評価において強力であるものの、この一般的な手法では通常、ADCの部位特異的な複合体形成を定量化することができず、これは、野生型ペプチドと、複合体形成したペプチドとの分子量の顕著な違いからくるイオン化の不一致に起因している。加えて、ADCのトリプシン消化により、複合体形成部位、例えば重鎖と軽鎖の間の鎖間ジスルフィド結合を含有する短いペプチドが得られ、これらの部位は、逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)上で保持することが難しい。さらに、薬物複合体形成したペプチドは、試料調製中、例えば高温および/または酸性の条件下で変質して、分析物の安定性および再現性を危うくする可能性がある。キャピラリー電気泳動-質量分析(CE-MS)をADCの特性評価に使用する場合には、短いペプチドを保持することが可能である。しかし、定量的な再現性に関して課題がある。
【0031】
リンカーの選択はADCの有効性にとって重要であり、これは、理想的なリンカーが、循環血液中で安定であることによって腫瘍細胞内での活性な遊離薬物の急速な放出を可能にすることが望ましいからである。適用可能なリンカーの形式は、切断可能でないリンカーまたは切断可能なリンカーとすることができる。切断可能なリンカーは、細胞外環境と細胞内環境との間の環境的な違い、例えばpHもしくは酸化還元電位に応答して、または特定のリソソーム酵素によって切断されるように、設計される。
【0032】
切断可能なリンカーの例には、酸不安定性リンカー、プロテアーゼ切断可能なリンカー、ジスルフィド含有リンカー、またはピロリン酸ジエステルリンカーなどが挙げられる。ヒドラゾンリンカーは、酸不安定性リンカーの一例である。酸不安定性リンカーは、血液中のpHレベルで安定であるように設計されるが、リソソーム中の低pH環境では、酸不安定性リンカーは不安定になり分解される場合がある。ジスルフィドリンカーは、細胞内の還元型グルタチオンのレベルが高い場合に、遊離薬物を細胞内で放出することができるジスルフィド結合を含有する。
【0033】
プロテアーゼ切断可能なリンカーは、血中で安定であるように設計されるが、リソソーム酵素による切断時に、活性な遊離薬物が細胞内のリソソーム内部で急速に放出されるものとすることができる。リソソーム内のプロテアーゼ活性は比較的高い。いくつか特定のペプチド配列は、リソソームプロテアーゼによって認識し切断することが可能であり、例えば、カテプシンBによって加水分解させることのできるジペプチド連結がそうである。カテプシンBは、特定のジペプチド配列、例えばバリン-アラニン、フェニルアラニン-リシン、およびバリン-シトルリンを認識することができ、そのような配列のC末端側のペプチド結合を切断する。スペーサー、例えばパラアミノベンジルオキシカルボニル(PABC)またはパラアミノベンジルアルコール(PABA)をこれらのジペプチドに結合させて、切断可能なジペプチドリンカーを構築することができる。かさ高いペイロード分子が使用される場合、ジペプチド部分とペイロードとの間にスペーサーが存在することで、ペイロードは、カテプシンBにプロテアーゼ活性を発揮させることができる(Tsuchikama et al.)。
【0034】
薬物ペイロードの選択は、ADCの治療効果にとって非常に重要である可能性がある。ADCにおけるペイロードは、癌細胞に対して強力であり、かつ正常細胞に対して低い抗標的細胞毒性を有する細胞毒性化学物質であることが好ましい。いくつかの態様では、ペイロードは、細胞毒性剤または抗有糸分裂剤である。いくつかの態様では、ペイロードは、微小管阻害剤、例えばメイタンシン類またはオーリスタチン類である。いくつかの例示的な例では、ペイロードは、DNA損傷剤、例えばアントラサイクリン類、カリケアマイシン類、デュオカルマイシン類、ピロロベンゾジアゼピン類、またはピロロベンゾジアゼピン二量体類(PBD)である。DNA損傷剤は、DNAの副溝に結合して、DNA鎖の切断、アルキル化、または架橋を引き起こすことによって機能する。いくつかの態様では、ペイロードは、トポイソメラーゼ阻害剤またはRNAポリメラーゼ阻害剤である。いくつかの態様では、ペイロードは、アマニチン類またはチューブリシン類似体類である。いくつかの態様では、ペイロードは、葉酸およびプリン類似体類(メトトレキサート、6-メルカプトプリン)、微小管重合阻害剤/促進剤(ビンカアルカロイド類、タキサン類)、およびDNA損傷剤(アントラサイクリン類、ナイトロジェンマスタード)を含む化学療法薬物である。
【0035】
いくつかの態様では、ADCは、抗体と、ペイロードと、リンカーとを含み、リンカーは、ペイロードに担持されて抗体に付着し、切断部位を含む。いくつかの態様では、切断部位は、細胞外環境と細胞内環境との間の環境的な違い、例えばpHもしくは酸化還元電位に応答することによって、または特定のリソソーム酵素によって切断することができる。いくつかの態様では、切断部位は、酸不安定性切断部位、プロテアーゼ切断部位、ジスルフィド含有切断部位、またはピロリン酸ジエステル含有切断部位である。
【0036】
いくつかの態様では、ADCは、抗体と、ペイロードと、リンカーとを含み、リンカーは、ペイロードに担持されて抗体に付着し、スペーサーと切断部位とを含み、スペーサーは、PEG(ポリエチレングリコール)またはPEG8である。
【0037】
他の態様では、ADCは、抗体と、ペイロードと、リンカーとを含み、リンカーはペイロードを担持して抗体に付着し、リンカーは、第1のスペーサーと、切断部位と、第2のスペーサーとを含み、第1のスペースは、PEGまたはPEG8であり、第2のスペーサーは、PABCまたはPABAである。
【0038】
さらに他の態様では、ADCは、抗体と、ペイロードと、リンカーとを含み、リンカーは、図5Aの式Iに示されるとおり、マレイミド付着基を用いて抗体のシステイン残基のスルフヒドリル基に付着し、式中、Rは、リンカーであり、Xは、ペイロードである。いくつかの実施形態では、リンカーはPEGを含み、ペイロードは、薬物、化合物、毒素、細胞毒性剤、抗有糸分裂剤、微小管阻害剤、DNA損傷剤、トポイソメラーゼ阻害剤、RNAポリメラーゼ阻害剤、アマニチン類似体、チューブリシン類似体、化学療法薬物、微小管重合阻害剤、または微小管重合促進剤である。いくつかの態様では、リンカーは、切断部位をさらに含む。いくつかの態様では、切断部位は、プロテアーゼが認識できるジペプチドである。いくつかの態様では、ジペプチドは、バリン-アラニン、フェニルアラニン-リシン、バリン-シトルリン、またはそれらの誘導体である。
【0039】
いくつかの態様では、ADCは、抗体と、ペイロードと、リンカーとを含み、リンカーは、図5Aの式IIに示されるとおり、マレイミド付着基を用いて抗体のシステイン残基のスルフヒドリル基に付着し、式中、Rは、スペーサー(PEGまたはPEG8など)であり、Rは、-Hまたは-CHであり、Rは、アラニンまたはシトルリンの側鎖の一般構造、例えば-CHまたは-(CHNHC(O)NHを表し、Xは、ペイロードである。いくつかの実施形態では、ペイロードは、薬物、化合物、毒素、細胞毒性剤、抗有糸分裂剤、微小管阻害剤、DNA損傷剤、トポイソメラーゼ阻害剤、RNAポリメラーゼ阻害剤、アマニチン類似体、チューブリシン類似体、化学療法薬物、微小管重合阻害剤、または微小管重合促進剤である。
【0040】
他の態様では、ADCは、抗体と、ペイロードと、リンカーとを含み、リンカーは、図5Aの式IIIに示されるとおり、マレイミド付着基を用いて抗体のシステイン残基のスルフヒドリル基に付着し、式中、Rは、第1のスペーサー(PEGまたはPEG8など)であり、Rは、-Hまたは-CHであり、Rは、アラニンまたはシトルリンの側鎖の一般構造、例えば-CHまたは-(CHNHC(O)NHを表し、Rは、第2のスペーサー(例えばPABCまたはPABA)である。いくつかの実施形態では、ペイロードは、薬物、化合物、毒素、細胞毒性剤、抗有糸分裂剤、微小管阻害剤、DNA損傷剤、トポイソメラーゼ阻害剤、RNAポリメラーゼ阻害剤、アマニチン類似体、チューブリシン類似体、化学療法薬物、微小管重合阻害剤、または微小管重合促進剤である。
【0041】
さらに他の態様では、ADCは、抗体と、ペイロードと、リンカーとを含み、リンカーは、図5Bの式IVに示されるとおり、活性化されたカルボン酸エステルまたはNHSエステルを用いてリシンアミド結合を通じて抗体のリシン残基に付着し、式中、Rは、リンカーであり、Xは、ペイロードである。いくつかの実施形態では、リンカーは、PEGを含み、ペイロードは、薬物、化合物、毒素、細胞毒性剤、抗有糸分裂剤、抗微小管阻害剤、DNA損傷剤、トポイソメラーゼ阻害剤、RNAポリメラーゼ阻害剤、アマニチン類似体、チューブリシン類似体、化学療法薬物、微小管重合阻害剤、または微小管重合促進剤である。いくつかの態様では、リンカーは、切断部位をさらに含む。いくつかの態様では、切断部位は、プロテアーゼが認識できるジペプチドである。いくつかの態様では、ジペプチドは、バリン-アラニン、フェニルアラニン-リシン、バリン-シトルリン、またはそれらの誘導体である。
【0042】
いくつかの態様では、ADCは、抗体と、ペイロードと、リンカーとを含み、リンカーは、図5Bの式Vに示されるとおり、活性化されたカルボン酸エステルまたはNHSエステルを用いてリシンアミド結合を通じて抗体のリシン残基に付着し、式中、Rは、スペーサー(例えばPEGまたはPEG8)であり、Rは、-Hまたは-CHであり、Rは、アラニンまたはシトルリンの側鎖の一般構造、例えば-CHまたは-(CHNHC(O)NHを表し、Xは、ペイロードである。いくつかの実施形態では、ペイロードは、薬物、化合物、毒素、細胞毒性剤、抗有糸分裂剤、微小管阻害剤、DNA損傷剤、トポイソメラーゼ阻害剤、RNAポリメラーゼ阻害剤、アマニチン類似体、チューブリシン類似体、化学療法薬物、微小管重合阻害剤、または微小管重合促進剤である。
【0043】
いくつかの態様では、ADCは、抗体と、ペイロードと、リンカーとを含み、リンカーは、図5Bの式VIに示されるとおり、活性化されたカルボン酸エステルまたはNHSエステルを用いてリシンアミド結合を通じて抗体のリシン残基に付着し、式中、Rは、第1のスペーサー(例えばPEGまたはPEG8)であり、Rは、-Hまたは-CHであり、Rは、アラニンまたはシトルリンの側鎖の一般構造、例えば-CHまたは-(CHNHC(O)NHを表し、Rは、第2のスペーサー(例えばPABCまたはPABA)である。いくつかの実施形態では、ペイロードは、薬物、化合物、毒素、細胞毒性剤、抗有糸分裂剤、微小管阻害剤、DNA損傷剤、トポイソメラーゼ阻害剤、RNAポリメラーゼ阻害剤、アマニチン類似体、チューブリシン類似体、化学療法薬物、微小管重合阻害剤、または微小管重合促進剤である。
【0044】
本出願は、ADCの薬物複合体形成を部位特異的に定量化および/または特性評価する例示的方法を提供し、ADCは、複合体形成した、および複合体形成していない複合体形成部位を含む。本出願の方法は、ADCをプロテアーゼで消化してペプチド混合物を生成する工程を含み、ペプチドは、複合体形成した、および/または複合体形成していない複合体形成部位を含有する場合がある。次いで、ペプチド混合物を修飾または標識して、複合体形成した複合体形成部位と複合体形成していない複合体形成部位との間の検出可能な差異を得ることができる。本出願は、ADCにおける複合体形成を部位特異的に定量化する新規の、プロテアーゼによって支援される薬物脱複合体形成およびリンカー標識(protease-assisted drug deconjugation and linker labelling(PADDLL))法を提供する。いくつかの態様では、トリプシンを使用してADCを消化する。いくつかの態様では、LC-MSを使用して、複合体形成した、および/または複合体形成していない複合体形成部位を含有するペプチド間の差異を検出する。
【0045】
いくつかの態様では、本出願は、試料中の部分的に複合体形成したペプチドまたはタンパク質の少なくとも1つの特定の複合体形成部位に連結された少なくとも1つのアタッチメントの複合体形成を定量化または特性評価する方法であって、以下の工程:切断されたリンカーを含有するペプチドまたはタンパク質を生成するために、アタッチメントの一部分を切断する工程であって、アタッチメントが、切断されたリンカーを含む、工程と;部分的に複合体形成したペプチドまたはタンパク質の、複合体形成していない複合体形成部位に、修飾されたリンカーを付加する工程と;切断されたリンカーおよび/または修飾されたリンカーを含有するペプチドまたはタンパク質を同定するために、試料を質量分析に供する工程と;を含み、少なくとも1つのアタッチメントが、リンカーおよびペイロードを含み、アタッチメントの切断された部分が、ペイロードを含み、リンカーが、切断されたリンカーを含む、方法を提供する。いくつかの態様では、この方法は、切断されたリンカーおよび修飾されたリンカーの定量化に基づいて、アタッチメントの部位特異的な複合体形成を定量化または特性評価することをさらに含む。いくつかの態様では、質量分析は、質量分光法、または液体クロマトグラフィー-質量分光法である。部位特異的なペイロード(例えば、薬物)複合体形成は、切断されたリンカーおよび修飾されたリンカーの定量化、例えば、部位特異的なペイロード(例えば、薬物)複合体形成=(切断されたリンカーの量)/(修飾されたリンカーの量+切断されたリンカーの量)に基づいて、計算することができる。
【0046】
他の態様では、本出願の方法は、切断可能なリンカー、例えばプロテアーゼ切断可能なジペプチドリンカーを含有する様々なADCを定量するのに使用することができ、ADCは、異なる抗体アイソタイプ、リンカー構造、および薬物ペイロードを有することができ、ADCは、リシン複合体形成した、およびシステイン複合体形成したADCを含むものとすることができる。いくつかの態様では、本出願の方法は、非特異的な切断を最小限にすることによって薬物ペイロードを完全に脱複合体形成させるために最適化された条件で、インタクトADCを活性化されたパパインとインキュベートする工程と、その後、還元、変性、および酵素消化を含む、還元されたペプチドのマッピング手順を実行する工程とを含む。次いで、占有されていない複合体形成部位を、修飾されたリンカーで標識し、同等のイオン化効率を提供する。次いで、本出願の方法は、切断されたリンカーおよび/または修飾されたリンカーを含有するペプチドまたはタンパク質を同定するために、ADC試料を質量分析、例えばLC-MS/MS(液体クロマトグラフィー結合質量分光法/質量分光法)に供することを含む。いくつかの態様では、ADCの修飾されたリンカーおよび切断可能なリンカーは、類似の構造を有する。いくつかの態様では、部位特異的なペイロード(例えば、薬物)複合体形成は、切断されたリンカーおよび修飾されたリンカーの定量化に基づき計算することができる。部位特異的な薬物複合体形成の百分率は、薬物脱複合体形成したペプチドおよびリンカー標識されたペプチドの前駆イオンの信号強度を用いて推定することができ、それは以下を含む:
【0047】
いくつかの好ましい態様では、修飾されたリンカーを、複合体形成していない複合体形成部位に付加する工程は、アタッチメントの一部分を切断する工程を実行するのに先立って実行される。いくつかの好ましい態様では、ペプチドまたはタンパク質は、抗体、抗体断片、抗体のFab領域、抗体のFc領域、または融合タンパク質である。いくつかの好ましい態様では、修飾されたリンカーの分子量は、切断されたリンカーの分子量と異なり、これらの分子量は、質量分析で区別可能である。
【0048】
いくつかの態様では、本出願の方法は、図6Aに示されるとおり、ADCをトリプシンで消化し、トリプシンペプチド混合物をパパインで消化してペイロードを除去する工程と;修飾されたリンカーを、複合体形成していないスルフヒドリル基と複合体形成させる(例えば、標識する)工程と;次いで、ペプチド混合物をGlu-Cで消化する工程と;次いで、ペプチド混合物をLC-MS分析に供する工程と、を含む。いくつかの態様では、いくつかの工程の順序は、図6Bに示されるとおり逆である場合がある。修飾されたリンカーを、ペプチドの、複合体形成していないスルフヒドリル基と複合体形成させる工程は、ペプチド混合物をパパインで消化することによってペイロードを除去する工程を実行するのに先だって実行される場合がある。修飾されたリンカーを、ペプチドの、複合体形成していないスルフヒドリル基と複合体形成させる工程に関し、概して遊離スルフヒドリル基だけが、修飾されたリンカーと複合体形成することが可能である。いくつかの態様では、本出願の方法は、図6Bに示されるとおり、ペプチド混合物を得るためにADCをトリプシンで消化する工程と、修飾されたリンカーを、ペプチド混合物の、複合体形成していないスルフヒドリル基と複合体形成させる(例えば、標識する)工程と;ペイロードを除去するために、ペプチド混合物をパパインで消化する工程と;ペプチド混合物をGlu-Cで消化する工程と;ペプチド混合物をLC-MS分析に供する工程と、を含む。
【0049】
他の態様では、本出願の方法の工程の順序は、図6Cに示されるとおり並べ替えられる場合がある。修飾されたリンカーを、ペプチドの、複合体形成していないスルフヒドリル基と複合体形成させる工程は、ペプチド混合物をパパインで消化することによってペイロードを除去する工程を実行した後、ならびにトリプシン消化およびGlu-C消化の工程を実行した後に実行される場合がある。いくつかの態様では、トリプシン消化に先だってパパイン消化を実行し、トリプシンペプチドに対するパパインの非特異的な消化を低減させる。いくつかの態様では、標識する工程は、マレイミドリンカーによるパパイン(システインプロテアーゼ)活性の阻害を低減させるために、パパイン消化の後に実行される。いくつかの好ましい態様では、本出願の方法は、図6Cに示されるとおり、ADCをパパインで消化してペイロードを除去し、その後、還元および変性させ、その後、ADCをトリプシンで消化してトリプシンペプチド混合物を得、トリプシンペプチド混合物をGlu-Cで消化し、その後、修飾されたリンカーを、複合体形成していないスルフヒドリル基と複合体形成させ(例えば、標識し)、そしてその後、ペプチド混合物をLC-MS分析に供することを含む。
【0050】
いくつかの好ましい態様では、パパインの非特異的な消化を最小限にするために、ADCは、他の工程を実行するのに先立ってペイロードを除去するよう、最初にパパインで消化される。いくつかの態様では、本出願の方法は、ADC試料をパパインで消化してペイロードを除去し、次いで、試料をトリプシンで消化し、次いで、トリプシンペプチド混合物をGlu-Cで消化し、次いで、修飾されたリンカーを、複合体形成していないスルフヒドリル基と複合体形成させ(例えば、標識し)、次いで、ペプチド混合物をLC-MS分析に供することを含む。
【0051】
いくつかの態様では、本出願の方法は、トリプシンペプチドの混合物を得るために、ADCをトリプシンで消化する工程であって、ADCが、抗体と、少なくとも1つの薬物ペイロードと、バリン-アラニンジペプチドを含有する少なくとも1つの切断可能なリンカーとを含み、リンカーが、抗体のシステイン残基のスルフヒドリル基に付着する、消化する工程と;ペイロードを除去して、パパイン性トリプシンペプチド混合物を得るために、トリプシンペプチド混合物をパパインで消化する工程と;修飾されたリンカーを、パパイン性トリプシンペプチドの、複合体形成していないスルフヒドリル基に複合体形成させる工程と;ペプチド混合物を質量分析、例えばLC-MS分析に供する工程と;を含む。随意に、ペプチド混合物は、Glu-Cプロテアーゼ消化に供して、ヒンジ領域ペプチドの数を減少させて、質量分析を実行するのに先立って定量化を簡略化してもよい。
【0052】
いくつかの態様では、本出願の方法は、第1のペプチド混合物を得るために、ADC混合物を第1の酵素で消化する工程であって、ADCが、ペプチドまたはタンパク質と、少なくとも1つのペイロードと、少なくとも1つのリンカーとを含む、消化する工程と;ペイロードを除去し、第2のペプチド混合物を得るために、第1のペプチド混合物を第2の酵素で消化する工程であって、第2の酵素が、第1のペプチド混合物中のペプチドも消化できる、消化する工程と;修飾されたリンカーを、第2のペプチド混合物のペプチド中の、複合体形成していない複合体形成部位と複合体形成させて、第3のペプチド混合物を得る工程と;LC-MSを用いて第3のペプチド混合物を分析する工程と;を含む。随意に、第3のペプチド混合物は、LC-MS分析に先だって第3の酵素消化に供して、ペプチドの変数を減少させて、LC-MS定量化を簡略化してもよい。いくつかの好ましい実施形態では、第1の酵素はトリプシンであり、第2の酵素はパパインであり、第3の酵素はGlu-Cである。
【0053】
他の態様では、本出願の方法は、図7に示されるとおり、リシン連結したADCをパパインで消化してペイロードを除去し、その後、還元および変性させ、その後、アルキル化し、その後、ADC試料をGlu-Cで消化してGlu-C消化ペプチド混合物を得、このペプチド混合物をAsp-Nで消化し、そしてその後、ペプチド混合物をLC-MS分析に供することを含む。部位特異的なペイロード(例えば、薬物)複合体形成は、切断されたリンカーを含有するペプチドと、切断されたリンカーを含有しない元のペプチドとの定量化、例えば、部位特異的なペイロード(例えば、薬物)複合体形成=(切断されたリンカーを含有するペプチド量)/(切断されたリンカーを含有するペプチド量+元のペプチド量)に基づいて計算することができる。
【0054】
さらに他の態様では、本出願は、リシン連結したADCの薬物複合体形成を定量化または特性評価する方法を提供し、この方法は、切断されたリンカーを含有する抗体を生成するために、第1の酵素を用いて薬物ペイロードを切断する工程と;その後、ペプチド混合物を得るために、試料を第2の酵素に供する工程と;切断されたリンカーを含有するペプチドおよび/または切断されたリンカーを含有しないペプチドの定量化に基づいて、特定のリシン複合体形成部位を定量化または特性評価するために、ペプチド混合物を質量分析に供する工程と、を含む。
【0055】
望ましくないADC種の存在に起因するADCの不均質性の懸念から、ADCの部位特異的な薬物複合体形成の定量化および特性評価、例えば薬物複合体形成の部位特異的な定量化が、薬物の安全性および有効性を向上させるためにますます要求されている。本明細書に開示される例示的な実施形態は、前述の要求を満足させる。本開示は、前述の要求を満足させるために、ADCの特定の複合体形成部位に連結されたアタッチメントの複合体形成を定量化または特性評価する方法を提供する。それらは、薬物の安全性および有効性に関連して明確に定められたDARおよびある程度の均質性を保証するために、ADCの薬物複合体形成の部位特異的な定量化または特性評価という長らくの切実な要望を満足させる。
【0056】
別途記載のない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明の属する技術分野における当業者に共通に理解されるものと同一の意味を有する。本明細書に記載されたものと類似または均等な任意の方法および材料を実施または試験に使用することもできるが、特定の方法および材料を以下に記載する。特許、特許出願、公開特許出願、技術論文、および学術論文を含む様々な公開文献が、本明細書全体を通して引用されている。これらの引用文献および言及された公開文献の全ては、その全体が、あらゆる目的で参照により本明細書に組み込まれる。
【0057】
用語「1つの(a)」は、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるのが望ましく;用語「約(about)」および「およそ(approximately)」は、当業者によって理解されるであろうとおりの標準的なばらつきを許容すると理解されるのが望ましく;そして範囲が提供される場合には、その端点が含まれる。本明細書で使用されるとおり、用語「含む(include)」、「含む(includes)」、および「含んでいる(including)」は、非限定的であることを意味し、それぞれ「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、および「含む(comprising)」を意味するものと理解される。
【0058】
いくつかの態様では、本開示は、試料中の部分的に複合体形成したペプチドまたはタンパク質の少なくとも1つの特定の複合体形成部位に連結された少なくとも1つのアタッチメントの部位特異的な複合体形成を定量化または特性評価する方法であって:切断されたリンカーを含有するペプチドまたはタンパク質を生成するために、アタッチメントの一部分を切断する工程であって、切断されたリンカーをアタッチメントが含む、切断する工程と;修飾されたリンカーを、部分的に複合体形成したペプチドまたはタンパク質の、複合体形成していない複合体形成部位に付加する工程と;切断されたリンカーおよび/または修飾されたリンカーを含有するペプチドまたはタンパク質を同定するために、試料を質量分析に供する工程と;を含む。いくつかの態様では、本出願の方法において、ペプチドまたはタンパク質は、抗体、抗体断片、抗体のFab領域、抗体のFc領域、または融合タンパク質である。
【0059】
本明細書で使用されるとおり、用語「複合体形成したペプチドまたはタンパク質」は、「抗体薬物複合体」、または「ADC」を含む、不安定な結合を有するリンカーにより生物学的に活性な薬物に付着したペプチドまたはタンパク質を指すものとすることができる。複合体形成したペプチド、複合体形成したタンパク質、抗体薬物複合体、またはADCは、複合体形成部位、例えば複合体形成したペプチド、複合体形成したタンパク質、または抗体のアミノ酸残基の側鎖に共有結合することができる生物学的に活性な薬物(またはペイロード)のいくつかの分子を含むことができる(Siler Panowski et al.,Site-specific antibody drug conjugates for cancer therapy,6 mAbs 34-45 (2013))。ADCに使用される抗体は、標的部位に選択的に蓄積し持続的に保持されるのに十分な親和性で結合できる可能性がある。ほとんどのADCは、ナノモル範囲のKd値を有することができる。ペイロードは、ナノモル/ピコモルの範囲の効能を有し、標的組織へのADCの分布後に実現可能な細胞内濃度に達することができる可能性がある。ペイロードと抗体との間のつながりを形成するリンカーは、抗体部分の薬物動態特性(例えば、長い半減期)を利用するには、そしてペイロードが組織内に分布する際に抗体に付着した状態を保つには、循環中で十分安定に存在できるものであってよいが、しかし一旦ADCが標的細胞に取り込まれ得ると、生物学的に活性な薬物を効率的に放出可能であることが望ましい。リンカーは、細胞処理中に切断可能でないもの、そしてADCが標的部位に到達した後に切断可能なものとすることができる。細胞内部に放出された生物学的に活性な薬物は、切断可能でないリンカーとともに、ペイロードと、リソソーム内でADCが完全にタンパク質分解された後に抗体のアミノ酸残基、通常はリシンまたはシステイン残基に依然として付着しているリンカーの全構成要素とを含む。切断可能なリンカーは、ペイロードと抗体のアミノ酸付着部位との間に切断の部位を含む構造をとるものである。切断機構には、酸性の細胞内コンパートメントにおける酸不安定性結合の加水分解、細胞内プロテアーゼまたはエステラーゼによるアミドまたはエステル結合の酵素的切断、および細胞内の還元性環境によるジスルフィド結合の還元的切断などを挙げることができる。
【0060】
本明細書で使用されるとおり、「抗体」は、ジスルフィド結合によって相互につながった、2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖の4本のポリペプチド鎖からなる免疫グロブリン分子を指すことが意図される。各重鎖は、重鎖可変領域(HCVRまたはVH)と重鎖定常領域を有する。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2、およびCH3を含有する。各軽鎖は、軽鎖可変領域と軽鎖定常領域を有する。軽鎖定常領域は1つのドメイン(CL)からなる。VHおよびVL領域は、より保存性の高い、フレームワーク領域(FR)と名付けられた領域が散在する、超可変性の、相補性決定領域(CDR)と名付けられた領域にさらに細分化され得る。各VHおよびVLは、3つのCDRと4つのFRで構成されるものとすることができ、これらは、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって以下の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で配置される。用語「抗体」は、いずれかのアイソタイプまたはサブクラスのグリコシル化免疫グロブリンと非グリコシル化免疫グロブリンの両方を指すことを含む。用語「抗体」は、組換え手段によって調製、発現、作製、または単離されたもの、例えば抗体を発現するようにトランスフェクトされた宿主細胞から単離された抗体を含むが、これらには限定されない。IgGは、抗体のサブセットを含む。
【0061】
本明細書で使用されるとおり、用語「ペプチド」または「タンパク質」は、共有結合したアミド結合を有するあらゆるアミノ酸ポリマーを含む。タンパク質は、当技術分野において「ペプチド」または「ポリペプチド」として一般に公知の、1つまたは複数のアミノ酸ポリマー鎖を含む。タンパク質は、1つまたは複数のポリペプチドを含有して単一機能性の生体分子を形成する場合がある。いくつかの態様では、タンパク質は、抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、抗体断片、モノクローナル抗体、宿主細胞タンパク質、またはそれらの組み合わせとすることができる。
【0062】
本明細書で使用されるとおり、用語「抗体断片」は、インタクト抗体の一部分、例えば抗体の抗原結合領域または可変領域を含む。抗体断片の例には、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fc断片、scFv断片、Fv断片、dsFvダイアボディ(diabody)、dAb断片、Fd’断片、Fd断片、および単離された相補性決定領域(CDR)領域のみならず、抗体断片から形成されるトリアボディ(triabody)、テトラボディ(tetrabody)、直鎖抗体、単鎖抗体分子、および多特異性抗体などが挙げられるが、それらに限定されるものではない。Fv断片は、免疫グロブリン重鎖と軽鎖の可変領域の組み合わせであり、ScFvタンパク質は、免疫グロブリンの軽鎖可変領域と重鎖可変領域とがペプチドリンカーによってつながった組換え単鎖ポリペプチド分子である。抗体断片は、様々な手段で生成されてもよい。例えば、抗体断片は、インタクト抗体の断片化により酵素的もしくは化学的に生成されてもよい、かつ/または部分的な抗体配列をコードする遺伝子から組換え的に生成されてもよい。これに代わってまたはこれに加えて、抗体断片は、全体的または部分的に合成により生成されてもよい。抗体断片は、単鎖の抗体断片を随意に含んでもよい。これに代わってまたはこれに加えて、抗体断片は、例えば、ジスルフィド結合によって互いに連結された複数の鎖を含んでもよい。抗体断片は、複数分子の複合体を随意に含んでもよい。
【0063】
いくつかの態様では、本出願の方法において、試料を質量分析に供して、切断されたリンカーおよび/または修飾されたリンカーを含有するペプチドまたはタンパク質を同定する。いくつかの態様では、本出願の方法は、切断されたリンカーおよび修飾されたリンカーの定量化に基づいて、アタッチメントの部位特異的な複合体形成を定量化または特性評価することをさらに含む。いくつかの態様では、本出願の方法における質量分析は、質量分光法または液体クロマトグラフィー-質量分光法である。いくつかの実施形態では、本出願の方法における質量分光法は、エレクトロスプレーイオン化質量分析器、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析器、またはトリプル四重極質量分析器を用いて実行することができ、質量分析器は、液体クロマトグラフィーシステムに結合させることができ、質量分析器は、LC-MS(液体クロマトグラフィー-質量分析)、LC-MRM-MS(液体クロマトグラフィー-多重反応モニタリング-質量分析)、またはLC-MS/MS分析を実行することが可能である。
【0064】
本明細書で使用されるとおり、「質量分析器」は、特定の分子種を同定し、その正確な質量を測定することが可能な装置を含む。この用語は、検出および/または特性評価のためにポリペプチドまたはペプチドの溶出先となり得るいずれかの分子検出器を含むことが企図される。質量分析器は、3つの主要部分:イオン源、質量分析部、および検出部を含み得る。イオン源の役割は、気相イオンを生成することである。分析物の原子、分子、またはクラスターは、気相に転換して、(エレクトロスプレーイオン化の場合のように)各々同時にイオン化することができる。イオン源の選択は、用途に大きく依存する。
【0065】
本明細書で使用されるとおり、用語、液体「クロマトグラフィー」は、液体または気体によって運ばれる化学混合物を、これが定常的な液相または固相の周囲またはその上を流れる際の化学実体の差分分布の結果として構成成分に分離できる過程を指す。クロマトグラフィーの非限定的な例には、従来の逆相(RP)、イオン交換(IEX)、混合モードのクロマトグラフィー、および順相クロマトグラフィー(NP)などが挙げられる。
【0066】
本明細書で使用されるとおり、用語「エレクトロスプレーイオン化」または「ESI」は、溶液を含有するエレクトロスプレーニードルの先端と対抗電極との間に電位差を加える結果生じる高度に帯電した液滴の流れが大気圧で形成され脱溶媒和することを通じて、溶液中の陽イオンまたは陰イオンのいずれかを気相に移動させるスプレーイオン化の過程を指す。溶液中の電解質イオンから気相イオンを生成するには、概して3つの主要な工程がある。これらは:(a)ES注入先端での帯電した液滴の生成;(b)気相イオンを生成できる高度に帯電した小液滴をもたらす、溶媒蒸発と液滴の崩壊の繰り返しとによる帯電した液滴の収縮;および(c)非常に小さく高度に帯電した液滴から気相イオンを生成する機構、である。段階(a)~(c)は概して、装置の大気圧領域で行われる。いくつかの態様では、エレクトロスプレーイオン化質量分析器は、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析器とすることができる。
【0067】
本明細書で使用されるとおり、用語「トリプル四重極質量分析器」は、直列にした2つの四重極質量分析器からなるタンデム質量分析器であって、それらの間に(質量分解しない)高周波(RF)の単なる四重極を置いて、衝突誘発解離用のセルとして作用させるものを指す。トリプル四重極質量分析器では、ペプチド試料はMS装置に結合したLCに注入される。第1の四重極は質量フィルタとして使用することができ、目的のm/zを持つペプチドを分離する。第2の四重極は、ペプチドを破壊して断片にするための衝突セルとして使用される。第3の四重極は、最初の親ペプチドから、指定されたm/zの断片を得るための、第2の質量フィルタとして働く。本明細書で使用されるとおり、用語「タンデム質量分析」は、質量選択と質量分離の複数の段階を用いることにより試料分子の構造情報を得ることができる技術を含む。前提条件は、試料分子を気相に転換し、そのままイオン化できること、および第1の質量選択工程の後、何らかの予測可能かつ制御可能なやり方で試料分子の崩壊を誘発できることである。多段階MS/MS、またはMSは、意味のある情報が得られる限り、または断片イオンの信号が検出可能である限り、まず前駆体イオンを選択、分離し(MS)、それを断片化し、一次断片イオンを分離し(MS)、それを断片化し、二次断片を分離する(MS)等により実行することができる。タンデムMSは、様々な分析器の組み合わせで実行することに成功している。特定の用途向けにどのような分析器を組み合わせるかは、多くの様々な要因、例えば感度、選択性、およびスピードのみならず、サイズ、コスト、入手可能性によっても決定することができる。タンデムMS方法の2つの大きな分類区分が、空間的タンデムと時間的タンデムであるが、時間的タンデム分析計を空間的に結合させた、または空間的タンデム分析計と結合させたハイブリッドのものもある。空間的タンデム質量分析器は、イオン源、前駆体イオン活性化装置、および少なくとも2つの非トラップ型質量分析器を含む。機器の1つの区画においてイオンを選択し、中間領域で解離させ、次いで生成物イオンを別の分析器に送ってm/z分離とデータ収集を行うように、特定のm/z分離機能を設計することができる。時間的タンデム質量分析器では、イオン源において生成されたイオンを、同一の物理的装置においてトラップ、分離、断片化、およびm/z分離することができる。
【0068】
例示的な実施形態
本明細書に開示される実施形態は、試料中の部分的に複合体形成したペプチドまたはタンパク質の少なくとも1つの特定の複合体形成部位に連結された少なくとも1つのアタッチメントの複合体形成を定量化または特性評価する方法を提供する。
【0069】
いくつかの態様では、本開示は、試料中の部分的に複合体形成したペプチドまたはタンパク質の少なくとも1つの特定の複合体形成部位に連結された少なくとも1つのアタッチメントの複合体形成を定量化または特性評価する方法であって、以下の工程:切断されたリンカーを含有するペプチドまたはタンパク質を生成するために、アタッチメントの一部分を切断する工程であって、切断されたリンカーをアタッチメントが含む、切断する工程と;部分的に複合体形成したペプチドまたはタンパク質の、複合体形成していない複合体形成部位に、修飾されたリンカーを付加する工程と;切断されたリンカーおよび/または修飾されたリンカーを含有するペプチドまたはタンパク質を同定するために、試料を質量分析に供する工程と;を含む方法を提供する。
【0070】
いくつかの態様では、アタッチメントの一部分は、酵素、例えばパパイン、カテプシンB、またはプラスミンを用いて切断され、酵素対基質の比は、約1:0.1から約1:100、約1:10から約1:300、約1:10から約1:250、好ましくは約1:20、好ましくは約1:200、約1:0.2、約1:0.5、約1:1、約1:1.5、約1:2、約1:3、約1:4、約1:5、約1:10、約1:15、約1:25、約1:30、約1:35、約1:40、約1:45、約1:50、約1:55、約1:60、約1:65、約1:70、約1:75、約1:80、約1:85、約1:90、または約1:95である。酵素消化は、約25から45℃で約1分から一晩;約37℃で約0.5時間、好ましくは約1時間、約1.5時間、約2時間、約3時間、または4時間未満の間、実行される。
【0071】
他の態様では、修飾されたリンカーが、部分的に複合体形成したペプチドまたはタンパク質の、複合体形成していない複合体形成部位に付加する。修飾されたリンカーは、室温で約2時間、または約18から37℃で約1分から一晩、ペプチドとともにインキュベートされ、ペプチド対リンカーのモル比は、好ましくは約1:500、約1:10から約1:2000、約1:20、約1:50、約1:100、約1:200、約1:300、約1:400、約1:600、約1:700、約1:800、約1:1000、約1:1200、約1:1500、または約1:1800である。
【0072】
本方法が、前述のペプチド、タンパク質、抗体、抗薬物抗体、抗原抗体複合体、タンパク質医薬品、クロマトグラフィーカラム、または質量分析器のいずれにも限定されないことは理解される。
【0073】
本明細書で提供される方法工程を、数字および/または文字により通しで標識しても、その方法またはその方法のいずれの実施形態をも特定の表示された順序に限定することを意味するわけではない。
【0074】
本開示をさらに詳細に説明するために提供される以下の実施例を参照すれば、本開示はさらに完全に理解されることになろう。これらは、例示することを意図しており、本開示の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例
【0075】
材料と方法
1. 切断可能なリンカーおよび修飾されたリンカー
LK1は、図8Aに示されるとおり、タンパク質とペイロードとをつなぐ切断可能なリンカーである。LK1は、酵素切断部位として特定のアミノ酸配列、例えば、プロテアーゼ、例えばカテプシンBまたはパパインによって認識可能な、バリン-アラニンジペプチド(VAジペプチド)を含有する。LK1リンカーは、マレイミド付着基(mal-amido)を通じてペプチドまたはタンパク質のシステイン残基のスルフヒドリル基と複合体形成することができる。図8Aに示されるとおり、LK1リンカーのアタッチメント、例えば、mal-amido-PEG8-VA-PABAは、第1のスペーサーとしてPEG8(ポリエチレングリコール-8)、酵素切断部位としてバリン-アラニンジペプチド、および第2のスペーサーとしてPABAを含む。細胞毒性化合物であるSG3199は、LK1に担持される薬物ペイロードである。図8Bは、切断されたLK1のアタッチメント、例えば、mal-amido-PEG8-VAを示しており、これは、ペイロードを放出させるLK1のプロテアーゼ消化の後に生成され、PABAおよびペイロードは複合体から除去される。質量分析時に、ペイロードを含むLK1は+1495.7、切断されたLK1は+762.2と指定される。LK2、例えば、LK1の修飾されたリンカー(修飾されたLK1)は、PEG8を含有するリンカーである。図8Cは、LK2リンカーのアタッチメントを示す。LK2リンカーは、マレイミド付着基(mal-amido)を通じて、ペプチドまたはタンパク質のシステイン残基のスルフヒドリル基と複合体形成することができる。切断されたLK1(図8B)とLK2(図8C)の間には質量差があるが、これは、LK2がバリン-アラニンジペプチドを含有しないからである。LK2は、マレイミド付着基、例えば、mal-amido-PEG8-COOHを通じてペプチドまたはタンパク質のシステイン残基のスルフヒドリル基と複合体形成することができる。LK2は、質量分析時に+592.3と指定される。質量分析時に、ペイロードを含むLK1は+1495.7、切断されたLK1は+762.2と指定される。PABA(パラアミノベンジルアルコール)の分子量は、約137.1Daである。SG3199(薬物ペイロード)の分子量は、約584.7Daである。
【0076】
LK3は、図8Dに示されるとおり、タンパク質とペイロードをつなぐ切断可能なリンカーである。LK3は、酵素切断部位として特定のアミノ酸配列、例えば、プロテアーゼ、例えばカテプシンBまたはパパインによって認識可能な、バリン-シトルリンジペプチド(Val-Citジペプチド)を含有する。LK3リンカーは、マレイミド付着基(mal-amido)を通じてペプチドまたはタンパク質のシステイン残基のスルフヒドリル基と複合体形成することができる。図8Dに示されるとおり、LK3リンカーのアタッチメント、例えば、mal-amido-Val-Cit-PABAは、酵素切断部位としてバリン-シトルリンジペプチドを、そしてスペーサーとしてPABAを含む。細胞毒性化合物であるメイタンシノイド(May)は、LK3に担持される薬物ペイロードである。図8Eは、ペイロードを放出させるLK3のプロテアーゼ消化後に生成される、切断されたLK3、例えば、mal-amido-Val-Citのアタッチメントを示し、PABAおよびペイロードは複合体から除去される。質量分析時に、ペイロードを含むLK3は+1332.6、切断されたLK3は+467.2と指定される。LK4、例えば、LK3の修飾されたリンカー(修飾されたLK3)は、バリン-シトルリンジペプチドを含有するリンカーである。図8Fは、LK4リンカーのアタッチメントを示す。LK4リンカーは、マレイミド付着基(mal-amido)、例えば、mal-amido-Val-Citを通じてペプチドまたはタンパク質のシステイン残基のスルフヒドリル基と複合体形成することができる。LK4は、質量分析時に+453.2と指定される。質量分析時に、ペイロードのメイタンシノイドを含むLK3は+1332.6と指定され、切断されたLK3は+467.2と指定される。
【0077】
LK5は、図8Gに示されるとおり、タンパク質とペイロードをつなぐ切断可能なリンカーである。LK5は、酵素切断部位として特定のアミノ酸配列、例えば、プロテアーゼ、例えばカテプシンBまたはパパインによって認識可能な、バリン-シトルリンジペプチド(Val-Citジペプチド)を含有する。LK5リンカーは、活性化されたカルボン酸エステルまたはNHSエステルを用いたリシンアミド結合により、ペプチドまたはタンパク質のリシン残基と複合体形成することができる。図8Gに示されるとおり、LK5リンカーのアタッチメント、例えば、adip-Val-Cit-PAB-NMeは、バリン-シトルリンジペプチドを酵素切断部位として含む。細胞毒性化合物であるメイタンシノイド(May)は、LK5に担持される薬物ペイロードである。図8Hは、ペイロードを放出させるLK5のプロテアーゼ消化の後に生成される、切断されたLK5のアタッチメント、例えば、adip-Val-Citを示している。質量分析時に、ペイロードを含むLK5は+1249.6と指定され、切断されたLK5は+384.2と指定される。図8Iは、抗体の、複合体形成していないリシン残基の化学構造を示している。
【0078】
2. 抗体薬物複合体(ADC)の調製
MAB1、例えば残基297に変異(N297Q)を有するモノクローナル抗体(IgG1)を用いて、ADCを調製した。残基297の変異のため、MAB1はグリコシル化部位が欠損している。図9Aに示されるとおり、抗体の鎖間ジスルフィド結合を還元して、抗体のシステイン残基のスルフヒドリル基(-SH)を誘導した。次いで、このスルフヒドリル基を、ADCを調製するための複合体形成部位として使用した。ADC試料緩衝液は、5%グリセロールとともにPBSを含有するものであった。図9Bに示されるとおり、ペイロード薬物SG3199を担持したLK1リンカーを、マレイミド付着基を通じてMAB1のシステイン残基と複合体形成させ、ADCを誘導した。誘導されたMAB1-LK1 ADC、例えばAb-mal-amido-PEG8-VA-PABA-SG3199は、薬物ペイロードを放出する切断部位を有する。MAB1-LK1-SG3199 ADCのDARは約3.6である。ペイロードSG3199を含むLK1の分子量は約1495.7Daである。PEGスペーサーの腕部、例えばPEG8の長さは約30.8オングストロームである。MAB1-LK1-SG3199 ADCのプロテアーゼ切断可能な部位は、バリン-アラニンジペプチド(Val-Ala、またはVA)である。
【0079】
図9Cに示されるとおり、ペイロード薬物メイタンシノイド(May)を担持したLK3リンカーを、マレイミド付着基を通じてMAB1のシステイン残基と複合体形成させ、ADCを誘導した。誘導されたMAB1-LK3-May ADC、例えばAb-mal-amido-Val-Cit-PABA-メイタンシノイド(Ab-MC-VCit-PABA-NME-May)は、薬物ペイロードを放出する切断部位を有する。MAB1-LK3-May ADCのDARは約2.2である。ペイロードのメイタンシノイドを含むLK3の分子量は約1332.6Daである。MAB1-LK3-May ADCのプロテアーゼ切断可能な部位は、バリン-シトルリンジペプチド(Val-CitまたはVCit)である。L-シトルリン(Cit)は、L-アルギニンおよび一酸化窒素に変換することのできる、天然に存在するアミノ酸である。
【0080】
MAB2およびLK5を用いてリシン結合した抗体複合体を調製した。LK5リンカーは、活性化されたカルボン酸エステルまたはNHSエステルを用いたリシンアミド結合を通じてMAB2のリシン残基と複合体形成させた。各重鎖には約25個のリシン残基があり、各軽鎖には約10個のリシン残基がある。MAB2は、2つの異なるエピトープを標的とする二重特異性抗体である。2種類の異なるロットのMAB2-LK5 ADCを調製し、それぞれのDAR値は約2.9および2.7であった。
【0081】
3. Glu-C消化
Glu-Cは、黄色ブドウ球菌(スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus))から単離されたセリンプロテアーゼである。Glu-C、例えばV-8プロテアーゼは、エンドプロテイナーゼであり、炭酸水素アンモニウムおよび酢酸アンモニウムの緩衝液中で反応を行うと、グルタミン残基のカルボキシル側を特異的に切断し、限られた数のペプチド断片を生成する。Glu-C切断はまた、リン酸塩緩衝液中でグルタミン残基とアスパラギン残基の両方で生じ得る。Glu-Cは、質量分析によるタンパク質同定用途において、配列のカバレッジを向上させる非常に特異的なエンドプロテイナーゼである。Glu-Cは単独で、またはトリプシンもしくは他のプロテアーゼと併せて使用して、ペプチドのマッピングおよびタンパク質配列決定のための相補的なタンパク質消化物を生成させることができる。Glu-Cはヒンジ領域ペプチドC末端の不均質性(TH↑T↑CPPCPAPE↑L)を低減させることができる。
【0082】
4. Asp-N消化
Asp-Nは、亜鉛メタロプロテイナーゼであり、単独で、またはトリプシンもしくは他のプロテアーゼと併せて使用して、ペプチドのマッピングおよびタンパク質配列決定のためのタンパク質消化物を生成させることができるものである。Asp-Nは、エンドプロテイナーゼであり、主に、アスパラギン酸残基、およびシステイン酸残基の酸化によって生じるシステイン酸残基の、アミノ側で切断され、限られた数のペプチド断片を生成するものである。Asp-Nの切断はまた、グルタミン残基のところでも生じ得る。AspNは37℃で2~20時間程度かけて効率よくタンパク質を消化することができる。
【0083】
5.実験用試薬の調製
4.1. 質量分析用の移動相A(Milli-Q水中、0.05%のTFA):2Lのパイレックスガラス製ボトルに入れた2LのMilli-Q 水に、1mLのTFA(トリフルオロ酢酸)を加える。ボトルを3~4回逆さにして混合する。室温で最高3ヶ月間、保存する。
4.2. 質量分析用の移動相B(アセトニトリル中、0.045%のTFA):1Lのパイレックスガラス製ボトルに入れた1Lのアセトニトリルに、0.45mLのTFAを加える。ボトルを3~4回逆さにして混合する。室温で最高3ヶ月間、保存する。
4.3. 5mM酢酸溶液:14.3μLの氷酢酸をMilli-Q水で50mLに希釈し、よく混合する。4℃で最高3ヶ月間、保存する。
4.4. 0.1MのTCEP原液:28.7mgのTCEP-HCl(トリス(2-カルボキエチル)ホスフィンヒドロクロリド)をMilli-Q水に溶かし、最終体積を1mLに調節する。50μLのアリコートを作製し、-20℃で最高3ヶ月間、保存する。
4.5. 100mMのトリスHCl中、8Mの尿素:0.48gの尿素を、640μLの100mMのトリスHCl、pH7.5に溶かし、最終体積を1mLとする。完全に溶解するまでボルテックスし、マイクロセントリフュージ(Microcentrifuge)を用いて14,000gで3分間、遠心分離する。その都度、新しいものとする。0.4829gの尿素を実験用に秤量した。
4.6. 5%のTFA溶液:10uLのTFAを190uLのMilli-Q水で希釈し、よく混合する。
4.7. 0.1mg/uLの新規標識原液:10mgの各標識を100uLのDMSO(ジメチルスルホキシド)に溶かし、0.1mg/uLの原液とする。2uL/EAのアリコートを調製する。
4.8. パパイン活性化緩衝液(1.1mMのEDTA、0.067mMのメルカプトメタノール、5.5mMのシステイン):0.5MのEDTA、4.4uLと、55mMのメルカプトエタノール、2.4uLと、1.73mgのシステインとを2mLの水に加え、よく混合する。
【0084】
6.新規標識の試験方法
ADC試料の濃度に応じて、25μgの各ADC試料を新しいマイクロセントリフュージ・チューブに移し、水を加えて全体積を10μLとする。20uLのパパイン懸濁液(10mg/mL)を180uLのパパイン消化緩衝液で希釈し、37℃で30分間、インキュベートする。30uLのパパイン(1mg/mLの公称濃度)を120uLの活性化緩衝液で希釈し、0.2mg/mLの公称濃度とする。パパイン活性化緩衝液をブランク緩衝液として使用して、280nmと320nmのUV(紫外)測定によりパパイン濃度を測定する。活性化されたパパインを、パパイン活性化緩衝液で希釈して0.1mg/mLの最終濃度にする。0.1mg/mLのパパイン溶液、1.25uL(酵素:基質の比は1:200)をインタクトADCに加え、37℃で1時間、インキュベートする。各試料に0.1MのTCEP-HCl、0.5μLを加える。試料を3秒間、ボルテックスし、次いでミニセントリフュージ(Mini centrifuge)で3秒間、スピンダウンする。サーモミキサー中、試料を800rpmで振とうしつつ、95℃で20分間、インキュベートする。インキュベーション後、試料を室温まで5分間、冷却する。ミニセントリフュージを用いて凝縮(condensation)を3秒間スピンダウンする。1Mのトリス-HCl、pH7.5中、8Mの尿素6μLを、各試料に加える。配列決定グレードの修飾されたトリプシン(20μg/バイアル)を、520μLのMilli-Q水で戻して0.038μg/μLの最終濃度にする。複数のバイアルのトリプシンが必要であれば、異なるバイアルからトリプシン溶液を組み合わせる。各試料に0.038μg/μLのトリプシン溶液、32.5μLを加える。試料を、サーモミキサー中、800rpmで振とうしつつ、37℃、暗所で3時間、インキュベートする。0.1MのTCEPを水で希釈し、0.05MのTCEPにする。0.05MのTCEP、0.8uLを各試料に移す。配列決定グレードのGlu-C(10ug/バイアル)を40uLのMilli-Q水で戻し、0.25ug/uLの最終濃度にする。0.25ug/uLのGlu-C溶液、5uLを各試料に加える。試料を37℃、暗所でサーモミキサー中、800rpmで振とうしつつ、1.5時間、インキュベートする。標識リンカーをDMSOまたは水で希釈し、標識リンカーを(異なるADCのリンカー構造に基づいて)各試料に移して、ADCの遊離スルフヒドリル基と比較してリンカーが過剰となるようにする。室温で2時間、インキュベートする。消化混合物を0.6uLの5%TFAで酸性化する。10μLの各試料を、サーモサイエンティフィックQエグザクティブ(Thermo Scientific Q Exactive)またはQエグザクティブ・プラス・ハイブリッド・カドルポ-ル-オービトラップ・マススペクトロメータ(Q Exactive Plus Hybrid Quadrupole-Orbitrap Mass Spectrometer)に結合させたウォーターズ・アクイティ・I-クラス・UPLC(Waters Acquity I-Class UPLC)に注入する。残りの消化された試料を、-80℃の冷凍庫で保存する。残りの溶液を、酵素標識最適化実験用に冷凍する。
【0085】
実施例1. MAB1-LK1 ADCの薬物抗体比の同定
MAB1-LK1 ADCの薬物抗体比(DAR)を、インタクト質量を用いて測定した。図10に示されるとおり、平均DARを計算して2.34と推定した(X軸:強度/[カウント]、Y軸:1.45e5から1.58e5までの観察質量[m/z])。MAB1-LK1 ADCは不均質であり、様々なバリアント、例えばサイズバリアントおよびチャージバリアントを有する。
【0086】
実施例2. ADCからのペイロードの除去
MAB1-LK1 ADCのペイロードを除去するのにパパインを使用した。パパイン(1mg/mL)をパパイン活性化緩衝液(1.1mMのEDTA、0.067mMのメルカプトエタノール、5.5mMのシステイン)中、37℃で30分間、活性化した。MAB1-LK1 ADCをトリプシンで消化し、トリプシンペプチド混合物を得た。次いで、トリプシンペプチド混合物を、活性化されたパパインを用いて37℃で約4時間以下の間、消化して、ペイロード、例えばSG3199を除去した。酵素対基質の比は1:20である。重鎖と軽鎖の間の鎖間ジスルフィド結合を還元した。2つのトリプシンペプチド、例えばSCDK(セリン-システイン-アスパラギン酸-リシン)、およびGEC(グリシン-グルタミン酸-システイン)を、LC-MSを用いて分析した。図11に示されるとおり、ペイロードは1時間以内で完全に除去された。パパインは、LK1リンカーのバリン-アラニンジペプチドを認識することができる。パパインの切断部位は、図9Bに示されるとおり、バリン-アラニンジペプチドとPABAとの間にある。PABAとSG3199が、パパイン消化後にLK1リンカーのアタッチメントから除去された結果、質量喪失が生じた。LK1を含有するトリプシンペプチドは、図11で+1495.7(ペイロードを含む)と標識される。切断されたLK1を含有するトリプシンペプチドは、図11で+762.4と標識される。
【0087】
パパイン消化による除去ペイロードの完全な切断は、1:20の酵素対基質比で、37℃、1時間で達成された。可逆的パパイン阻害剤(GGYRなど)または非可逆的パパイン阻害剤(キオムスタチンなど)を、95℃、20分間の加熱工程と併用することによってパパイン活性をクエンチして、消化反応を終了させた。
【0088】
実施例3. パパインを用いたトリプシンヒンジ領域ペプチドの消化
MAB1-LK1 ADCをトリプシンにより消化し、次いでパパインにより消化して、LC-MS分析用のペプチドを得た。LK1中のバリン-アラニンジペプチドを認識させることを通じてペイロードを除去するために、パパインを使用した。図9Bに示されるとおり、LK1リンカー中のバリン-アラニンジペプチドとPABAの間にパパイン切断部位が位置する。パパインは、図12Aに示されるとおり、かさ高い疎水性アミノ酸または芳香族アミノ酸に近い部位を優先的に切断するプロテアーゼである。したがってパパインは、トリプシンペプチドをさらに小さい断片に消化することもできる。抗体をトリプシンで消化してトリプシンペプチドを生成する場合、抗体のヒンジ領域に元々位置する、
のアミノ酸配列を有するトリプシンペプチドが生成される。このトリプシンヒンジ領域ペプチドは、マレイミド付着基を通じてリンカー-ペイロードを付加させる複合体形成部位である2つのシステイン残基(C)を含有する。このトリプシンヒンジ領域ペプチドはまた、図12Bに示されるとおり、複数のパパイン切断部位を含有する。パパイン切断部位は、図12Bに矢印記号で示してある。
【0089】
MAB1-LK1 ADCをトリプシンで消化し、トリプシンペプチド混合物を得た。続いて、トリプシンペプチド混合物を、活性化されたパパインを用いて消化した。パパインで消化されたトリプシンヒンジ領域ペプチドを、図13A~13Cに示されるとおり、LC-MSを用いて分析した。LK1を含有するペプチドは、図13Aに質量+1495.7(ペイロードを含む)として指定されている。切断されたLK1を含有するペプチドは、図13A~13Cに質量+762.4として指定される。図13A~13Cに、トリプシンヒンジ領域ペプチド(図13A、アミノ酸配列
)、CPPCPAPE(SEQ ID NO.:2)のアミノ酸配列を有するペプチド(図13B、パパインで消化されたトリプシンヒンジ領域ペプチド)、およびCPPCPAPELL(SEQ ID NO.:3)のアミノ酸配列を有するペプチド(図13C、パパインで消化されたトリプシンヒンジ領域ペプチド)の分析結果を示す。これらのペプチドは、LK1(ペイロードを含み、+1495.7と指定される)、または切断されたLK1(+762.4と指定される)を含有する場合がある。
【0090】
実施例4. 複合体形成していないシステイン残基への修飾されたリンカーの付着
高または低DARのMAB1-LK1 ADCをトリプシンで消化して、トリプシンペプチド混合物を生成した。パパインを使用して、LK1のバリン-アラニンジペプチドを認識させてペイロードを除去した。パパインは、トリプシンペプチドをさらに小さい断片に消化することもできる。このトリプシンペプチド混合物をパパインで消化し、次いで、修飾されたリンカーを使用してパパイン性トリプシンペプチドを標識した。PEG8-COOHを含有する修飾されたリンカー(図8Cに示す)を、2mMのTCEP(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン)中、室温で約2時間、1:500のペプチド対リンカーのモル比で、ペプチドとともにインキュベートした。この修飾されたリンカーを、複合体形成していないシステイン残基と、マレイミド付着基を通じて複合体形成させて、ペプチドの質量を増加させた。したがって、複合体形成していないシステインを含有するペプチドの質量は、切断されたLK1を含有する複合体形成したペプチドと比較して、質量差を補償されている。図14は、ヒンジ領域ペプチドについてリンカー標識の効率を示す。ヒンジ領域ペプチドは、2つのシステイン残基を含有する。図14に示されるとおり、ヒンジ領域ペプチドの大部分は二重標識を有しており、これは、修飾されたリンカーであるLK2の、複合体形成していないシステイン残基への付着が完了したことを示している。リンカー付着の完了に起因して、切断されたLK1およびLK2の標識の定量化に基づく部位特異的な薬物複合体形成の計算、例えば、部位特異的な薬物複合体形成=(標識された切断されたLK1)/(標識されたLK2+標識された切断されたLK1)が可能になる。
【0091】
実施例5. LC-MS分析に先立つGlu-C消化
MAB1-LK1 ADCをトリプシンで消化して、トリプシンペプチド混合物を生成した。パパインを使用して、LK1中のバリン-アラニンジペプチドを認識させてペイロードを除去した。パパインは、トリプシンペプチドをさらに小さい断片に消化することもできる。トリプシンペプチド混合物をパパインで消化し(約30分)、次いで、修飾されたリンカー、例えばLK2を用いて、パパイン性トリプシンペプチドの、複合体形成していない複合体形成部位を標識した。LK2標識の後、LC-MS分析の実行に先立って、ペプチド混合物をGlu-Cで消化した。パパイン消化後、9個を超えるヒンジ領域ペプチドが得られた。Glu-Cの使用に起因して、ヒンジ領域ペプチドのプロファイルは、3つのペプチド(THTCPPCPAPE、(SEQ ID NO.:4)、TCPPCPAPE、(SEQ ID NO.:5)、およびCPPCPAPE(SEQ ID NO.:6)のアミノ酸配列)に減少しており、これにより、図15に示されるとおり、LC-MSを用いた定量化が著しく単純化された。Glu-C消化の場合、酵素対基質比は、37℃、約3時間で1:20である。
【0092】
実施例6. MAB1-LK1 ADCの薬物複合体形成の部位特異的な定量化
2つのMAB1-LK1 ADC試料、例えば一つは低DARのもの、およびもう一つは高DARのものを、図6Aに示されるとおり本出願の方法によって分析し、ここで、パパインを用いてペイロードを除去する工程は、修飾されたリンカーを、複合体形成していない複合体形成部位に付加する工程を実行するのに先立って実行した。2つのMAB1-LK1 ADC試料をトリプシンで消化してトリプシンペプチド混合物を生成し、次いでパパインで消化して、LK1中のバリン-アラニンジペプチドを認識させて、ペイロードを除去した。次に、修飾されたリンカー、例えばLK2を用いて、パパイン性トリプシンペプチドの、複合体形成していない複合体形成部位を標識した。LK2標識後、ペプチドをGlu-Cで消化し、その後、LC-MS分析を行った。低DARを有するMAB1-LK1 ADC試料、例えばMAB1-LK1-L19は、1.9という推定DARを有する(インタクト、ESI)。高DARを有するMAB1-LK1 ADC試料、例えば、MAB1-LK1-L8は、3.6という推定DARを有する(インタクト、ESI)。MAB1-LK1 ADC試料を、それぞれ三組調製した(n=3)。図16に、MAB1-LK1 ADCの薬物複合体形成の部位特異的な定量化を示す。2つのペプチド、例えば、SCDKまたはGECのアミノ酸配列を有するペプチドのピーク面積を示した。これらのペプチドは、切断されたLK1(+762.4と指定)および/またはLK2(+592.3と指定)を含有する場合がある。LK2(+592.3)を含有するペプチドのピーク面積は、元々複合体形成していなかった複合体形成部位を定量化していることを示している。切断されたLK1(+762.4)を含有するペプチドのピーク面積は、1つの薬物ペイロードと元々複合体形成していた複合体形成部位の定量化を示している。加えて、本出願の方法、例えば図6Aの方法は、図17に示されるとおり良好な日内精度を示したが、これは、本出願の方法による計算されたDAR値が、インタクト質量法と同等であったからである。図17に、GECペプチド、SCDKペプチド、およびヒンジ領域ペプチドの分析結果を示す。
【0093】
実施例7. ペイロードを除去するのに先立つ、修飾されたリンカーによる標識
2つの方法、例えば図6Aおよび6Bに示す方法を並べて比較した。図6Aに示す1つの方法を使用して、MAB1-LK1 ADC試料を分析し、ここでは、パパインを用いてペイロードを除去する工程は、修飾されたリンカー(LK2)で標識する工程に先だって実行した。高DARを有するMAB1-LK1 ADC試料をトリプシンで消化して、トリプシンペプチドを生成した。次いで、トリプシンペプチドをパパインで消化し、LK1のバリン-アラニンジペプチドを認識させてペイロードを除去した。次いで、修飾されたリンカー、例えばLK2を用いて、ペプチドの、複合体形成していない複合体形成部位を標識した。次いで、ペプチドをGlu-Cで消化し、その後、LC-MS分析を行った。分析結果を図18Aに示す。
【0094】
図6Bに示すもう一方の方法を実行して、MAB1-LK1 ADC試料を分析した、ここでは、修飾されたリンカー(LK2)による標識付けの工程は、パパインを用いてペイロードを除去する工程に先だって実行した。高DARを有するMAB1-LK1 ADC試料をトリプシンで消化し、トリプシンペプチドを生成した。次いで、修飾されたリンカー、例えばLK2を用いて、トリプシンペプチドの、複合体形成していない複合体形成部位を標識した。次いで、ペプチドをパパインで消化し、LK1のバリン-アラニンジペプチドを認識させてペイロードを除去した。次いで、ペプチドをGlu-Cで消化し、その後、LC-MS分析を行った。分析結果を図18Bに示す。
【0095】
比較結果を図18Aおよび18Bに示す。図18Aは、図6Aに示す方法により、パパイン消化を実行した後、LK2付着を行った結果を示している。図18Bは、図6Bに示す方法により、LK2付着の後にパパイン消化を実行した結果を示している。高DARを有するMAB1-LK1 ADC試料を分析した。(+592.3、+592.3)は、複合体形成がゼロであることを示す。(+762.4、+592.3)は、1つの薬物複合体形成を示す。(+762.4、+762.4)は、2つの薬物複合体形成を示す。複合体形成した薬物ペイロードが存在することで、ヒンジ領域ペプチド内部のパパイン切断部位が優先的に選択される場合がある。この優先的なパパイン切断は、立体障害効果、例えばバイスタンダー効果を生じる場合がある。修飾されたリンカー(LK2)で標識する工程を、パパインを用いてペイロードを除去する工程に先だって実行した場合には、優先的なパパイン切断は低減した。
【0096】
実施例8. 初期工程としてのパパイン消化
ADCのパパインによる非特異的な消化を考慮すべきことから、非特異的な消化を最小にするために、様々な順序で複数の工程を試験した。いくつかのADCを、他の工程を行うのに先立って、例えば、トリプシンで試料を消化するのに先立って、Glu-Cで試料を消化するのに先立って、または修飾されたリンカーを、複合体形成していないスルフヒドリル基と複合体形成させる(例えば標識する)のに先だって、まずパパインで消化して、ペイロードを除去した。
【0097】
複数の工程の好ましい順序は、図6Cに示されるとおり、まずADC試料をパパインで消化してペイロードを除去し、その後、還元および変性させ、次いで、試料をトリプシンで消化し、次いで、トリプシンペプチド混合物をGlu-Cで消化し、次いで、修飾されたリンカーを、複合体形成していないスルフヒドリル基と複合体形成させ(例えば標識し)、次いで、ペプチド混合物をLC-MS分析に供するということであることを見いだした。
【0098】
ADCの分析から得られたトリプシンペプチドを、断片化に関してさらに調査した。リンカージペプチド構造上の徹底的な断片化に起因して、いくつかのペプチドの同定(ID)が改変された。切断されたLK1(mal-amido-PEG8-Val-Ala)または切断されたLK3(mal-amido-Val-Cit)を含有するトリプシンペプチドSCDKを分析し、小さな構成成分を生じる徹底的な断片化を観察した。図19Aは、切断されたLK1(mal-amido-PEG8-Val-Ala)を含有するトリプシンペプチドSCDKについて行った、リンカージペプチド構造の徹底的な断片化の質量分析結果を示している。図19Bは、切断されたLK3(mal-amido-Val-Cit)を含有するトリプシンペプチドSCDKについて行った、リンカージペプチド構造の徹底的な断片化の質量分析結果を示している。
【0099】
複合体形成部位を含有するいくつかのペプチドをサロゲートペプチドとして選択した。表1に示されるとおり、切断されたLK1またはLK3を含有するいくつかのペプチドを、GECペプチド、SCDKペプチド、およびヒンジ領域ペプチドを含むサロゲートペプチドとして選択した。これらのサロゲートペプチドは、95%超の関連ペプチドを包含していた。図20Aは、MAB1-LK1 ADC試料について同定されたあらゆるペプチドにおける、特定のサロゲートペプチドの百分率を示している。図20Bは、MAB1-LK3 ADC試料について同定されたあらゆるペプチドにおける特定のサロゲートペプチドの百分率を示している。
【0100】
(表1)サロゲートペプチド
【0101】
パパイン消化条件は、サロゲートペプチドのピーク面積をモニタリングすることにより最適化した。MAB1-LK1およびMAB1-LK3 ADC試料を分析するために、異なるパパイン対基質比、例えば1:20、1:50、1:100および1:200を試験した。サロゲートペプチドの全ピーク面積は、パパイン濃度が高くなると減少した。図21Aは、MAB1-LK1 ADC試料を分析した場合の、異なるパパイン対基質比でのサロゲートペプチドのピーク面積を示している。図21Bは、MAB1-LK3 ADC試料を分析した場合の、異なるパパイン対基質比でのサロゲートペプチドのピーク面積を示している。結果は、MAB1-LK1 ADCおよびMAB1-LK3 ADCの両方の場合に、1:200のパパイン対基質比が好ましいことを示した。
【0102】
好ましい消化時間を選択するためにパパイン消化条件をさらに最適化した。インタクトなLK1またはLK3を含有するペプチドのピーク面積をモニタリングすることにより、パパイン消化中の異なるインキュベーション時間で、インタクトなリンカーペイロードの存在を検出した。図22は、異なるインキュベーション時間での、LK1またはLK3を含有するサロゲートペプチド、例えばGEC、SCDK、または1つもしくは2つのインタクトなLK1もしくはLK3を含有するヒンジペプチドのピーク面積を示している。MAB1-LK1のパパイン消化に関しては、LK1(Val-Alaジペプチドを含有する)のインタクトなリンカーペイロードは、1時間のパパイン消化後に検出不可能となった。MAB1-LK3のパパイン消化に関しては、LK3(Val-Citジペプチドを含有する)のインタクトなリンカーペイロードは、5分間のパパイン消化後に検出不可能となった。結果は、好ましいパパイン消化時間が1時間であることを示した。LK3、例えばVal-Citジペプチドを含有する基質のペイロードを除去するためのパパイン消化が完了するまでの時間は、LK1、例えばVal-Alaジペプチドを含む基質と比較して短かった。
【0103】
好ましい消化時間を選択するために、切断されたリンカーペイロードをモニタリングすることによってパパイン消化条件をさらに最適化した。切断されたLK1またはLK3を含有するペプチドのピーク面積をモニタリングすることによって、パパイン消化中の異なるインキュベーション時間で、切断されたリンカーペイロードの存在を検出した。図23は、異なるインキュベーション時間での、LK1またはLK3を含有するサロゲートペプチド、例えばGEC、SCDK、または1つもしくは2つの切断されたLK1もしくはLK3を含有するヒンジペプチドのピーク面積を示している。また、切断されたリンカーを含有しないヒンジペプチドのピーク面積もモニタリングした。LK1およびLK3両方について、薬物ペイロードを除去するためのパパイン消化は、1時間のインキュベーション内で完了した。結果は、パパイン対基質比1:200の条件下で、好ましいパパイン消化時間が1時間であることを示した。
【0104】
MAB1-LK1 ADCについてのLK1複合体形成の部位特異的な定量化を、図24Aに示されるとおり、GEC、SCDK、およびヒンジ領域ペプチドにおける複合体形成部位を分析することによって推定した。MAB1-LK3 ADCについてのLK3複合体形成の部位特異的な定量化を、図24Bに示されるとおり、GEC、SCDK、およびヒンジ領域ペプチドにおける複合体形成部位を分析することによって推定した。複合体形成の百分率は、特定のペプチド上に位置する複合体形成した薬物の百分率に基づいて推定した。例えば、ヒンジ領域の複合体形成の百分率は、以下の式:
複合体形成の百分率(ヒンジ領域)=0×(0薬物の百分率)+1×(1薬物の百分率)+2×(2薬物の百分率)
に基づいて推定することができる。
【0105】
加えて、本出願の方法、例えば図6Cの方法は、良好な日内精度および日間精度を示したが、これは、本出願の方法による計算されたDAR値が、インタクト質量法と同等であったためである。図25は、GECペプチド、SCDKペプチド、およびヒンジ領域ペプチドのDARの分析結果に関する、本出願の方法の日内精度および日間精度を示している。MAB1-LK1 ADCおよびMAB1-LK3 ADCを分析するためのリンカー-薬物複合体形成の部位特異的な定量化において、良好な日内および日間の精度が実証されたが、これは、計算された全DAR値がインタクト質量法と同等であったためである。DAR値は、以下の式:
DAR=[複合体形成比(ヒンジ領域)+複合体形成比(GEC)+複合体形成比(SCDK)]×2
に基づいて計算した。
【0106】
MAB1-LK1 ADCを、表2に示されるとおり、ロット間ばらつき、および異なる複合体形成部位上での複合体形成安定性に関して試験した。2つの異なるロットのMAB1-LK1 ADC、例えばMAB1-LK1-L8およびMAB1-LK1-L22を試験して、薬物複合体形成の分布を観察した。MAB1-LK1-L8のDAR値は3.6であった。MAB1-LK1-L22のDAR値は3.65であった。図26は、GEC、SCDK、およびヒンジ領域ペプチド上の複合体形成部位を分析することによる、MAB1-LK1-L8およびMAB1-LK1-L22の薬物複合体形成分布のロット間ばらつきを示している。
【0107】
(表2)ロット間ばらつきと複合体形成安定性
【0108】
実施例9. SCDKペプチドにおける複合体形成
サンダーソンら(Sanderson et al.)によって、抗CD30システイン結合ADCが抗体の重鎖上で複合体形成安定性に乏しいことが示された(Sanderson et al.,In vivo drug-linker stability of an anti-CD30 dipeptide-linked auristatin immunoconjugate,Clin Cancer Res.2005 Jan 15;11:843-852)ことから、システイン結合したADCの複合体形成安定性を分析した。MAB1-LK1 ADCの分析を、LK1複合体形成の喪失を分析することにより、熱ストレス下で行った。図27は、GEC、SCDK、およびヒンジ領域ペプチドを、異なるpH条件、例えばpH5.5、pH6、およびpH6.5で分析することによって得られた、40℃、28日間の熱ストレス下でのMAB1-LK1 ADCに対するLK1複合体形成の喪失百分率を示している。結果は、SCDKペプチドからLK1複合体形成が20%より大きく喪失したことが観察されたことを示した。この喪失百分率は、低いpH条件下ほど増加した。
【0109】
マレイミド環加水分解と複合体形成保持の相関を調べた。マレイミド環加水分解の化学的機構を図28に示す。図29Aは、pH5.5、pH6.0、pH6.5を含む異なるpH条件下でGEC、SCDK、およびヒンジペプチドを分析することによって得られた、マレイミド環加水分解の百分率と複合体形成保持を示している。図29Bは、複合体形成保持とマレイミド環加水分解との相関分析を示している。結果は、重鎖のSCDK(225残基におけるC)でのマレイミド環加水分解の低い傾向が、複合体形成安定性が劣ることに起因する可能性があることを示した。
【0110】
実施例10. リシン連結したADCの薬物複合体形成の部位特異的な定量化
MAB2-LK5 ADC、例えば、リシン連結したADCを、部位特異的な薬物複合体形成を定量化するために分析した。MAB2-LK5 ADCを、図7に示されるとおり、パパインで消化してペイロードを除去し、その後、還元および変性させ、その後、アルキル化し、その後、ADC試料をGlu-Cで消化してGlu-C消化ペプチド混合物を得て、ペプチド混合物をAsp-Nで消化し、そしてその後、LC-MS分析に供した。部位特異的な薬物複合体形成を、切断されたリンカーを含有するペプチドと、切断されたリンカーを含有しない元のペプチドの定量化、例えば、部位特異的な薬物複合体形成=(切断されたリンカーを含有するペプチドの量)/(切断されていないリンカーを含有するペプチド+元のペプチドの量)に基づいて推定した。
【0111】
抗体の軽鎖のリシン208残基上の薬物複合体形成を、図30A図30B、および図30Cに示されるとおり、パパイン消化を用いて分析した。結果は、薬物脱複合体形成の完了時点で非特異的な切断がわずかであったことを示した。抗体の重鎖中のリシン393残基およびリシン389残基(HC Lys393/HC* Lys389)上の薬物複合体形成を、図31A図31B、および図31Cに示されるとおり、パパイン消化を使用して分析した。結果は、薬物脱複合体形成の完了時点で非特異的な切断がわずかであったことを示した。抗体の軽鎖中のリシン65残基上の薬物複合体形成を、図32A図32B、および図32Cに示されるとおり、パパイン消化を使用して分析した。結果は、薬物脱結合体形成の完了時に非特異的な切断がわずかであったことを示した。抗体の軽鎖のリシン39、42、または45残基上の薬物複合体形成を、図33A図33B、および図33Cに示されるとおり、55個のアミノ酸を含有するペプチドを分析することによって、パパイン消化を使用して分析した。結果は、わずかな非特異的な切断で薬物脱複合体形成が完了することを示した。二重複合体形成のための抗体の重鎖のリシン64残基および75残基(HC* Lys 64およびLys75)上の薬物複合体形成を、図34Aおよび図34Bに示されるとおり、パパイン消化を用いて分析した。結果は、薬物脱複合体形成により、低存在量のペプチド種の感度を高めることができることを示した。また、低存在量のペプチド種のピーク面積は20倍よりも大きく増加した。抗体の重鎖のリシン151残基および147残基(HC Lys151/HC* Lys147)上の薬物複合体形成を、図35A図35B、および図35Cに示されるとおり、パパイン消化を使用して分析した。結果は、1つのペプチドについては、薬物脱複合体形成が完了に達しないことを示した。
【0112】
薬物複合体形成を、4つの鎖について73/79のリシン残基上で定量化した。73/79のリシン残基の定量化結果は約92.4%であった。図36に示されるとおり、MAB2-LK5について、様々なリシン残基上の薬物複合体形成の部位特異的な定量化を実行した。本出願の、プロテアーゼによって支援される薬物脱複合体形成(PADD)法により、リシン連結したADCの様々なリシン残基上の薬物複合体形成の効率的かつ信頼性の高い部位特異的な定量化が可能になった。平均DAR=[HC中のユニークペプチド(unique peptide)による複合体形成%]の総和+[HC*中のユニークペプチドによる複合体形成%]の総和+2×[LC中の複合体形成%+HCおよびHC*中の一定ペプチドにおける複合体形成%]の総和。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図8G
図8H
図8I
図9A
図9B
図9C
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19A
図19B
図20A
図20B
図21A
図21B
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30A
図30B
図30C
図31A
図31B
図31C
図32A
図32B
図32C
図33A
図33B
図33C
図34
図35A
図35B
図35C
図36
【手続補正書】
【提出日】2022-06-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0021
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0021】
[本発明1001]
以下の工程を含む、試料中の部分的に複合体形成したペプチドまたはタンパク質の少なくとも1つの特定の複合体形成部位に連結された少なくとも1つのアタッチメントの複合体形成を定量化または特性評価する方法:
切断されたリンカーを含有するペプチドまたはタンパク質を生成するために、前記少なくとも1つのアタッチメントの一部分を切断する工程であって、前記アタッチメントが、前記切断されたリンカーを含む、工程;
前記部分的に複合体形成したペプチドまたはタンパク質の、複合体形成していない複合体形成部位に、修飾されたリンカーを付加する工程;
前記切断されたリンカーおよび/または前記修飾されたリンカーを含有するペプチドまたはタンパク質を同定するために、前記試料を質量分析に供する工程。
[本発明1002]
前記少なくとも1つのアタッチメントが、リンカーおよびペイロードを含み、前記アタッチメントの、切断された部分が、前記ペイロードを含み、前記リンカーが、前記切断されたリンカーを含む、本発明1001の方法。
[本発明1003]
前記切断されたリンカーおよび前記修飾されたリンカーの定量化に基づいて、前記アタッチメントの部位特異的な複合体形成を定量化または特性評価する工程をさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1004]
前記質量分析が、質量分析器、エレクトロスプレーイオン化質量分析器、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析器、またはトリプル四重極質量分析器を用いて実行され、
前記質量分析器を、液体クロマトグラフィーシステムに結合することができ、
前記質量分析器が、LC-MS(液体クロマトグラフィー-質量分析)、LC-MRM-MS(液体クロマトグラフィー-多重反応モニタリング-質量分析)、またはLC-MS/MS分析を実行することが可能である、本発明1001の方法。
[本発明1005]
前記アタッチメントの一部分を切断するのに先立って、および/または前記複合体形成していない複合体形成部位に、前記修飾されたリンカーを付加するのに先立って、前記ペプチドまたはタンパク質を酵素で処理する工程をさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1006]
前記試料を前記質量分析に供するのに先立って、前記試料を酵素で処理する工程をさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1007]
酵素、プロテアーゼ、化学物質、酸、塩基、または還元剤を用いて、前記アタッチメントの前記一部分を切断する、本発明1001の方法。
[本発明1008]
前記複合体形成していない複合体形成部位に、前記修飾されたリンカーを付加する前記工程が、前記アタッチメントの前記一部分を切断する前記工程を実行するのに先立って実行される、本発明1001の方法。
[本発明1009]
前記アタッチメントの前記一部分を切断する前記工程が、前記修飾されたリンカーを付加する前記工程および前記試料を前記質量分析に供する前記工程を実行するのに先立って実行される、本発明1001の方法。
[本発明1010]
前記修飾されたリンカーの分子量が、前記切断されたリンカーの分子量と異なる、本発明1001の方法。
[本発明1011]
前記酵素がトリプシンである、本発明1005の方法。
[本発明1012]
パパイン、カテプシンB、またはプラスミンを用いて前記アタッチメントの前記一部分を切断する、本発明1001の方法。
[本発明1013]
前記酵素がGlu-Cである、本発明1006の方法。
[本発明1014]
前記特定の複合体形成部位または前記複合体形成していない複合体形成部位が、前記ペプチドまたはタンパク質のシステイン残基の内部に位置する、本発明1001の方法。
[本発明1015]
前記アタッチメントが、マレイミド付着基を通じて、前記少なくとも1つの特定の複合体形成部位に連結されている、本発明1001の方法。
[本発明1016]
前記ペプチドまたはタンパク質が、抗体、抗体断片、抗体のFab領域、抗体のFc領域、または融合タンパク質である、本発明1001の方法。
[本発明1017]
前記リンカーが、酸不安定性リンカー、プロテアーゼ切断可能なリンカー、ジスルフィド含有リンカー、ピロリン酸ジエステルリンカー、またはヒドラゾンリンカーである、本発明1002の方法。
[本発明1018]
前記リンカーがペプチドを含む、本発明1002の方法。
[本発明1019]
前記リンカーが、バリン-アラニン、フェニルアラニン-リシン、バリン-シトルリン、またはそれらの誘導体を含む、本発明1002の方法。
[本発明1020]
前記リンカーが、ポリエチレングリコールを含む、本発明1002の方法。
[本発明1021]
前記リンカーが、パラアミノベンジルオキシカルボニル(PABC)またはパラアミノベンジルアルコール(PABA)を含む、本発明1002の方法。
[本発明1022]
前記修飾されたリンカーが、ポリエチレングリコールを含む、本発明1001の方法。
[本発明1023]
前記修飾されたリンカーが、マレイミド付着基を通じて、前記複合体形成していない複合体形成部位に付加される、本発明1001の方法。
[本発明1024]
前記ペイロードが、薬物、化合物、毒素、細胞毒性剤、抗有糸分裂剤、微小管阻害剤、DNA損傷剤、トポイソメラーゼ阻害剤、RNAポリメラーゼ阻害剤、アマニチン類似体、チューブリシン類似体、化学療法薬物、微小管重合阻害剤、または微小管重合促進剤である、本発明1002の方法。
[本発明1025]
前記部分的に複合体形成したペプチドまたはタンパク質が、式I:
の複合体形成したペプチドまたはタンパク質からなる群から選択され、
式中、Rがリンカーであり、Xがペイロードである、本発明1001の方法。
[本発明1026]
前記リンカーが、ポリエチレングリコールを含み、前記ペイロードが、薬物、化合物、毒素、細胞毒性剤、抗有糸分裂剤、微小管阻害剤、DNA損傷剤、トポイソメラーゼ阻害剤、RNAポリメラーゼ阻害剤、アマニチン類似体、チューブリシン類似体、化学療法薬物、微小管重合阻害剤、または微小管重合促進剤である、本発明1025の方法。
[本発明1027]
前記部分的に複合体形成したペプチドまたはタンパク質が、式II:
の複合体形成したペプチドまたはタンパク質からなる群から選択され、
式中、R 1 が、スペーサーであり、R 2 が、-Hまたは-CH 3 であり、R 3 が、-CH 3 、または-(CH 2 3 NHC(O)NH 2 であり、Xが、ペイロードである、本発明1001の方法。
[本発明1028]
前記スペーサーが、ポリエチレングリコールを含み、前記ペイロードが、薬物、化合物、毒素、細胞毒性剤、抗有糸分裂剤、微小管阻害剤、DNA損傷剤、トポイソメラーゼ阻害剤、RNAポリメラーゼ阻害剤、アマニチン類似体、チューブリシン類似体、化学療法薬物、微小管重合阻害剤、または微小管重合促進剤である、本発明1027の方法。
[本発明1029]
前記部分的に複合体形成したペプチドまたはタンパク質が、式III:
の複合体形成したペプチドまたはタンパク質からなる群から選択され、
式中、R 1 が、第1のスペーサーであり、R 2 が、-Hまたは-CH 3 であり、R 3 が、-CH 3 または-(CH 2 3 NHC(O)NH 2 であり、R 4 が、第2のスペーサーであり、Xが、ペイロードである、本発明1001の方法。
[本発明1030]
前記第1のスペーサーが、ポリエチレングリコールを含み、前記第2のスペースが、パラアミノベンジルオキシカルボニル(PABC)、またはパラアミノベンジルアルコール(PABA)を含み;前記ペイロードが、薬物、化合物、毒素、細胞毒性剤、抗有糸分裂剤、微小管阻害剤、DNA損傷剤、トポイソメラーゼ阻害剤、RNAポリメラーゼ阻害剤、アマニチン類似体、チューブリシン類似体、化学療法薬物、微小管重合阻害剤、または微小管重合促進剤である、本発明1029の方法。
[本発明1031]
以下の工程を含む、試料中の部分的に複合体形成したタンパク質の少なくとも1つの特定の複合体形成部位に連結された少なくとも1つのアタッチメントの複合体形成を定量化または特性評価する方法:
切断されたリンカーを含有するタンパク質を生成するために、第1の酵素を用いて前記少なくとも1つのアタッチメントの一部分を切断する工程であって、前記アタッチメントが、前記切断されたリンカーを含む、工程と;
ペプチド混合物を得るために、前記試料を第2の酵素に供する工程と;
切断されたリンカーを含有するペプチドおよび/または切断されたリンカーを含有しないペプチドの定量化または特性評価に基づき、前記少なくとも1つの特定の複合体形成部位を定量化または特性評価するために、前記ペプチド混合物を質量分析に供する工程。
[本発明1032]
前記少なくとも1つの特定の複合体形成部位が、前記タンパク質のリシン残基の内部に位置する、本発明1031の方法。
[本発明1033]
前記少なくとも1つのアタッチメントが、リンカーおよびペイロードを含み、前記少なくとも1つのアタッチメントの切断された部分が、前記ペイロードを含み、前記リンカーが、前記切断されたリンカーを含む、本発明1031の方法。
[本発明1034]
前記質量分析が、質量分析器、エレクトロスプレーイオン化質量分析器、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析器、またはトリプル四重極質量分析器を用いて実行され、
前記質量分析器を、液体クロマトグラフィーシステムに結合することができ、
前記質量分析器が、LC-MS(液体クロマトグラフィー-質量分析)、LC-MRM-MS(液体クロマトグラフィー-多重反応モニタリング-質量分析)、またはLC-MS/MS分析を実行することが可能である、本発明1031の方法。
[本発明1035]
前記ペプチド混合物を前記質量分析に供するのに先立って、前記ペプチド混合物を第3の酵素で処理する工程をさらに含む、本発明1031の方法。
[本発明1036]
前記第1の酵素が、パパイン、カテプシンB、もしくはプラスミンである;および/または前記第2の酵素が、Glu-Cもしくはトリプシンである、本発明1031の方法。
[本発明1037]
前記第3の酵素が、Asp-NまたはGlu-Cである、本発明1035の方法。
[本発明1038]
前記タンパク質が、抗体、抗体断片、抗体のFab領域、抗体のFc領域、または融合タンパク質である、本発明1031の方法。
[本発明1039]
前記リンカーが、バリン-アラニン、フェニルアラニン-リシン、バリン-シトルリン、またはそれらの誘導体を含む、本発明1033の方法。
[本発明1040]
前記ペイロードが、薬物、化合物、毒素、細胞毒性剤、抗有糸分裂剤、微小管阻害剤、DNA損傷剤、トポイソメラーゼ阻害剤、RNAポリメラーゼ阻害剤、アマニチン類似体、チューブリシン類似体、化学療法薬物、微小管重合阻害剤、または微小管重合促進剤である、本発明1033の方法。
本発明の、これらおよび他の態様は、以下の記載および添付の図面と併せて考慮すると、よりよく認識され理解されよう。以下の記載は、様々な実施形態およびそれらの多くの具体的な細部を示しつつ、例示によって与えられるものであり、限定するものではない。本発明の範囲内で多くの置き換え、修正、追加、または並べ替えを行ってもよい。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0022
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0022】
図1図1は、薬物がリンカーを通じて抗体と複合体形成した抗体薬物複合体(ADC)を示す。ADCの抗体成分は、標的細胞の腫瘍抗原に結合し、次いでADC抗原複合体は、受容体媒介性エンドサイトーシスを受ける。ADCの薬物成分は、ADCのリソソーム分解またはリンカーの切断により放出される可能性がある。
図2図2は、マイロターグ(Mylotarg(登録商標))、アドセトリス(Adcetris(登録商標))、カドサイラ(Kadcyla(登録商標))の化学構造を示す。
図3図3は、マレイミドアルキル化を通じてリンカーを抗体と複合体形成させることによるシステイン結合を示す。
図4図4は、チオール交換または逆反応を経ることによる、システイン複合体形成したADCについてのチオール-マレイミド複合体形成に関連した脱複合体形成を示す。
図5A図5Aは、いくつかの態様によるADCの化学構造を示す。各ADCは、抗体と、リンカーによってつながったペイロードとを含み、リンカーは、いくつかの態様によれば、マレイミド付着基を使用してペプチドまたはタンパク質のシステイン残基のスルフヒドリル基に付着させる。
図5B図5Bは、いくつかの態様によるADCの化学構造を示す。各ADCは、抗体と、リンカーによってつながったペイロードとを含み、リンカーは、いくつかの態様によれば、活性化されたカルボン酸エステルまたはNHSエステルを使用しリシンアミド結合を通じてペプチドまたはタンパク質のリシン残基に付着させる。
図6A図6Aは、例示的な実施形態による、ADCをトリプシンにより消化し、トリプシンペプチド混合物をパパインで消化してペイロードを除去することと;修飾されたリンカーを、複合体形成していないスルフヒドリル基と複合体形成させる(例えば、標識する)ことと;ペプチド混合物をGlu-Cで消化することと;ペプチド混合物をLC-MS分析に供することと、を含む本出願の例示的方法を示す。
図6B図6Bは、例示的な実施形態による、ADCをトリプシンで消化し、修飾されたリンカーを、複合体形成していないスルフヒドリル基と複合体形成させる(例えば、標識する)ことと;ペプチド混合物をパパインで消化してペイロードを除去することと;ペプチド混合物をGlu-Cで消化することと;ペプチド混合物をLC-MS分析に供することと、を含む本出願の例示的な方法を示す。
図6C図6Cは、例示的な実施形態による、ADC試料をパパインで消化してペイロードを除去し、その後、還元および変性させ、その後、ADC試料をトリプシンで消化してトリプシンペプチド混合物を得、トリプシンペプチド混合物をGlu-Cで消化し、修飾されたリンカーを、複合体形成していないスルフヒドリル基と複合体形成させ(例えば標識し)、そしてその後、ペプチド混合物をLC-MS分析に供すること、を含む本出願の例示的な方法を示す。
図7図7は、例示的な実施形態による、ADC試料をパパインで消化してペイロードを除去し、その後、還元および変性させ、その後、アルキル化し、その後、ADC試料をGlu-Cにより消化してGlu-C消化されたペプチド混合物を得、ペプチド混合物をAsp-Nで消化し、そしてその後、ペプチド混合物をLC-MS分析に供すること、を含む本出願の例示的方法を示す。
図8A図8Aは、例示的な実施形態による、マレイミド付着基を通じてタンパク質とペイロードをつなぐリンカー、例えば、LK1リンカーのアタッチメントを示す。マレイミド付着基は、ペプチドまたはタンパク質のスルフヒドリル基(-SH)に付着する。LK1リンカー(mal-amido-PEG8-VA-PABA)のアタッチメントは、PEG8(ポリエチレングリコール-8)と、バリン-アラニンジペプチド(VAジペプチド)と、PABAとを含む。SG3199は、薬物ペイロードである。
図8B図8Bは、例示的な実施形態による、切断されたリンカー(mal-amido-PEG8-VA)のアタッチメント、例えば、切断されたLK1のアタッチメントを示しており、これは、PABAと薬物ペイロードとの除去によりペイロードを放出させるLK1のプロテアーゼ消化の後に生成されるものである。
図8C図8Cは、例示的な実施形態による、LK1の修飾されたリンカー(mal-amido-PEG8-COOH)のアタッチメント、例えば、LK2のアタッチメントを示す。
図8D図8Dは、例示的な実施形態による、マレイミド付着基を通じてタンパク質とペイロードをつなぐリンカー、例えばLK3リンカーのアタッチメントを示す。マレイミド付着基は、ペプチドまたはタンパク質のスルフヒドリル基(-SH)に付着する。LK3リンカー(mal-amido-Val-Cit-PABA)のアタッチメントは、バリン-シトルリンジペプチド(VCitジペプチド)とPABAとを含む。メイタンシノイド(Maytansinoid)はは、薬物ペイロードである。
図8E図8Eは、例示的な実施形態による、切断されたリンカー(mal-amido-Val-Cit)のアタッチメント、例えば切断されたLK3のアタッチメントを示しており、これは、PABAと薬物ペイロードとの除去によりペイロードを放出させるLK3のプロテアーゼ消化の後に生成されるものである。
図8F図8Fは、例示的な実施形態による、LK3の修飾されたリンカー(mal-amido-Val-Cit)のアタッチメント、例えば、LK4のアタッチメントを示す。
図8G図8Gは、例示的な実施形態による、LK5リンカー、例えば、タンパク質とペイロードをつなぐ酵素切断部位としてバリン-シトルリンジペプチドを含むadip-Val-Cit-PAB-NMeのアタッチメントを示す。細胞毒性化合物であるメイタンシノイド(May)は、例示的な実施形態による、LK5に担持される薬物ペイロードである。
図8H図8Hは、例示的な実施形態による、切断されたLK5、例えばadip-Val-Citのアタッチメントを示しており、これは、ペイロードを放出させるLK5のプロテアーゼ消化の後に生成されるものである。
図8I図8Iは、例示的な実施形態による、抗体の、複合体形成していないリシン残基の化学構造を示す。
図9A図9Aは、抗体の鎖間ジスルフィド結合を示しており、これらは還元されてスルフヒドリル基(-SH)を誘導した。次いで、スルフヒドリル基は、例示的な実施形態により、ADCを調製するための複合体形成部位として使用された。図9Aは、出現順にSEQ ID NO:7、13、および13をそれぞれ開示している。
図9B図9Bは、LK1リンカーとペイロード薬物SG3199とを含有するADCを示す。ADC、例えば、Ab-mal-amido-PEG8-VA-PABA-SG3199は、例示的な実施形態により、薬物ペイロードを放出する切断部位を有する。図9Bは、出現順にSEQ ID NO:14~15をそれぞれ開示している。
図9C図9Cは、LK3リンカーとペイロード薬物メイタンシノイドとを含有するADCを示す。ADC、例えば、Ab-mal-amido-Val-Cit-PABA-メイタンシノイドは、例示的な実施形態により、薬物ペイロードを放出する切断部位を有する。
図10図10は、例示的な実施形態による、インタクト質量を用いたMAB1-LK1 ADCの薬物抗体比の決定を示す。(X軸:強度/[カウント]、Y軸:1.45e5から1.58e5までの観察質量[m/z])。
図11図11は、例示的な実施形態による、MAB1-LK1 ADCからパパインを用いて薬物ペイロードを除去した結果を示す。MAB1-LK1 ADCをトリプシンで消化し、トリプシンペプチド混合物を得た。2つのトリプシンペプチド、例えば、SCDK(セリン-システイン-アスパラギン酸-リシン)(SEQ ID NO:7)およびGEC(グリシン-グルタミン酸-システイン)を、例示的な実施形態により、LC-MSを使用して分析した。LK1は、質量分析時に+1495.7(ペイロードを含む)と指定され、切断されたLK1は+762.2と指定される。
図12図12Aは、パパインが、かさ高い疎水性アミノ酸または芳香族アミノ酸に近い部位を優先的に切断するプロテアーゼであることを示す。図12Bは、抗体のヒンジ領域に元々位置するトリプシンペプチドのアミノ酸配列を示す。このトリプシンヒンジ領域ペプチド(THTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPK(SEQ ID NO.:1))は、複数のパパイン切断部位を含有する。パパイン切断部位は、矢印記号で表示されている。
図13図13A~13Cは、例示的な実施形態による、パパインで消化されたトリプシンヒンジ領域ペプチドの分析結果を示す。図13Aは、例示的な実施形態による、トリプシンヒンジ領域ペプチド(THTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPK(SEQ ID NO.:1))の分析結果を示す。図13Bは、例示的な実施形態による、CPPCPAPE(SEQ ID NO.:2)のアミノ酸配列を有するペプチド(パパインで消化されたトリプシンヒンジ領域ペプチド)の分析結果を示す。図13Cは、例示的な実施形態による、CPPCPAPELL(SEQ ID NO.:3)のアミノ酸配列を有するペプチド(パパインで消化されたトリプシンヒンジ領域ペプチド)の分析結果を示す。これらのペプチドは、LK1(ペイロードを含め、+1495.7と指定される)または切断されたLK1(+762.4と指定される)を含有する場合がある。
図14図14は、例示的な実施形態による、ヒンジ領域ペプチドについてのリンカー標識の効率を示す。ヒンジ領域ペプチドは、2つのシステイン残基を含有する。ヒンジ領域ペプチドの大部分は、二重標識を有する。
図15図15は、例示的な実施形態による、LC-MSに供するのに先立つ試料のGlu-C消化の分析結果を示す。ヒンジ領域ペプチドのプロファイルが顕著に減少し、これによって、LC-MSを用いた定量化が顕著に簡略化された。図15は、出現順にSEQ ID NO:16および16をそれぞれ開示している。
図16図16は、例示的な実施形態による、MAB1-LK1 ADCの薬物複合体形成の部位特異的な定量化を示す。2つのペプチド、例えば、SCDK(SEQ ID NO:7)またはGECのアミノ酸配列を有するペプチドのピーク面積を示してある。これらのペプチドは、切断されたLK1(+762.4と指定される)および/またはLK2(+592.3と指定される)を含有する場合がある。
図17図17は、例示的な実施形態による、GECペプチド、SCDKペプチド(SEQ ID NO:7)、およびヒンジ領域ペプチドのDARの分析結果に関する、本出願の方法の日内精度を示す。
図18図18Aおよび18Bは、例示的な実施形態による、2つの方法の比較結果を示す。図18Aは、例示的な実施形態による、図6Aに示す方法としてパパイン消化の実行の後にLK2付着させた結果を示す。図18Bは、例示的な実施形態による、図6Bに示す方法としてLK2付着の実行の後にパパイン消化を行った結果を示す。高DARを有するMAB1-LK1 ADC試料を分析した。切断されたLK1は+762.4と指定される。LK2は+592.3と指定される。(+592.3,+592.3)は、複合体形成がゼロであることを示す。(+762.4,+592.3)は、薬物複合体形成が1つであることを示す。(+762.4,+762.4)は、例示的な実施形態による薬物複合体形成が2つであることを示す。
図19A図19Aは、例示的な実施形態による、切断されたLK1(mal-amido-PEG8-Val-Ala)を含有するトリプシンペプチドSCDK(SEQ ID NO:7)についてのリンカージペプチド構造の徹底的な断片化の質量分析を示す。
図19B図19Bは、例示的な実施形態による、切断されたLK3(mal-amido-Val-Cit)を含有するトリプシンペプチドSCDK(SEQ ID NO:7)についてのリンカージペプチド構造の徹底的な断片化の質量分析を示す。
図20A図20Aは、例示的な実施形態による、MAB1-LK1 ADC試料について同定されたあらゆるペプチドにおける特定のサロゲートペプチドの百分率を示す。図20Aは、出現順にSEQ ID NO:1、8、および7をそれぞれ開示している。
図20B図20Bは、例示的な実施形態による、MAB1-LK3 ADC試料について同定されたあらゆるペプチドにおける特定のサロゲートペプチドの百分率を示す。図20Bは、SEQ ID NO:7を開示している。
図21A図21Aは、例示的な実施形態による、MAB1-LK1 ADC試料を分析する場合の、パパイン対基質比が異なるところでのサロゲートペプチドのピーク面積を示す。図21Aは、SEQ ID NO:7を開示している。
図21B図21Bは、例示的な実施形態による、MAB1-LK3 ADC試料を分析する場合の、パパイン対基質比が異なるところでのサロゲートペプチドのピーク面積を示す。図21Bは、SEQ ID NO:7を開示している。
図22図22は、例示的な実施形態による、異なるインキュベーション時間での、LK1またはLK3を含有するサロゲートペプチド、例えば、GEC、SCDK(SEQ ID NO:7)、または1つもしくは2つのインタクトなLK1もしくはLK3を含有するヒンジペプチドのピーク面積を示す。
図23図23は、例示的な実施形態による、異なるインキュベーション時間での、LK1またはLK3を含有するサロゲートペプチド、例えば、GEC、SCDK(SEQ ID NO:7)、または1つもしくは2つの切断されたLK1もしくはLK3を含有するヒンジペプチドのピーク面積を示す。例示的な実施形態により、切断されたリンカーを含有しないヒンジペプチドのピーク面積もモニタリングした。
図24図24Aは、例示的な実施形態による、GEC、SCDK(SEQ ID NO:7)、およびヒンジ領域ペプチドのところでの複合体形成部位を分析することにより、MAB1-LK1 ADCについてのLK1複合体形成の部位特異的な定量化を行った結果を示す。図24Bは、例示的な実施形態による、GEC、SCDK(SEQ ID NO:7)およびヒンジ領域ペプチドのところでの複合体形成部位を分析することにより、MAB1-LK3 ADCについてのLK3複合体形成の部位特異的な定量化を行った結果を示す。
図25図25は、例示的な実施形態による、GEC、SCDK(SEQ ID NO:7)、およびヒンジ領域ペプチドのDARの分析結果に関する本出願の方法の日内精度および日間精度を示す。図25は、SEQ ID NO:2として「CPPCPAPE」を開示している。
図26図26は、例示的な実施形態による、GEC、SCDK(SEQ ID NO:7)、およびヒンジ領域ペプチド上の複合体形成部位を分析することによって得られた、MAB1-LK1-L8およびMAB1-LK1-L22の薬物複合体形成分布のロット間ばらつきを示す。
図27図27は、例示的な実施形態による、pH5.5、pH6、およびpH6.5を含む異なるpH条件でGEC、SCDK(SEQ ID NO:7)、およびヒンジ領域ペプチドを分析することにより、40℃、28日間熱ストレス下でMAB1-LK1 ADCについて得られた、LK1複合体形成の喪失百分率を示す。
図28図28は、例示的な実施形態による、マレイミド環加水分解の化学的機構を示す。
図29図29Aは、例示的な実施形態による、pH5.5、pH6.0、およびpH6.5を含む異なるpH条件下でGEC、SCDK(SEQ ID NO:7)、およびヒンジペプチドを分析することによって得られた、マレイミド環加水分解および複合体形成保持の百分率を示す。図29Bは、例示的な実施形態による、複合体形成保持とマレイミド環加水分解との間の相関分析の結果を示す。
図30A図30A~30Cは、例示的な実施形態による、パパイン消化を用いて抗体の軽鎖におけるリシン208残基上の薬物複合体形成を分析した結果を示す。図30A~30CはそれぞれSEQ ID NO:17を開示している。
図30B】同上。
図30C】同上。
図31A図31A~31Cは、例示的な実施形態による、パパイン消化を用いて抗体の重鎖におけるリシン393およびリシン389残基(HC Lys393/HC* Lys389)上の薬物複合体形成を分析した結果を示す。図31A~31CはそれぞれSEQ ID NO:18を開示している。
図31B】同上。
図31C】同上。
図32A図32A~32Cは、例示的な実施形態による、パパイン消化を用いて抗体の軽鎖におけるリシン65残基上の薬物複合体形成を分析した結果を示す。図32A~32CはそれぞれSEQ ID NO:19を開示している。
図32B】同上。
図32C】同上。
図33A図33A~33Cは、例示的な実施形態による、55個のアミノ酸を含有するペプチドを分析することにより、パパイン消化を用いて抗体の軽鎖におけるリシン39、42、または45残基上の薬物複合体形成を分析した結果を示す。図33A~33CはそれぞれSEQ ID NO:20を開示している。
図33B】同上。
図33C】同上。
図34図34A~34Bは、例示的な実施形態による、パパイン消化を用いて、二重複合体形成について抗体の重鎖におけるリシン64および75残基(HCLys64およびLys75)上の薬物複合体形成を分析した結果を示す。図34A~34BはそれぞれSEQ ID NO:21を開示している。
図35A図35A~35Cは、例示的な実施形態による、パパイン消化を用いて抗体の重鎖におけるリシン151および147残基(HC Lys151/HC* Lys147)上の薬物複合体形成を分析した結果を示す。図35A~35CはそれぞれSEQ ID NO:22を開示している。
図35B】同上。
図35C】同上。
図36図36は、例示的な実施形態による、MAB2-LK5について様々なリシン残基上の薬物複合体形成の部位特異的な定量化を行った結果を示す。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0081
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0081】
3. Glu-C消化
Glu-Cは、黄色ブドウ球菌(スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus))から単離されたセリンプロテアーゼである。Glu-C、例えばV-8プロテアーゼは、エンドプロテイナーゼであり、炭酸水素アンモニウムおよび酢酸アンモニウムの緩衝液中で反応を行うと、グルタミン残基のカルボキシル側を特異的に切断し、限られた数のペプチド断片を生成する。Glu-C切断はまた、リン酸塩緩衝液中でグルタミン残基とアスパラギン残基の両方で生じ得る。Glu-Cは、質量分析によるタンパク質同定用途において、配列のカバレッジを向上させる非常に特異的なエンドプロテイナーゼである。Glu-Cは単独で、またはトリプシンもしくは他のプロテアーゼと併せて使用して、ペプチドのマッピングおよびタンパク質配列決定のための相補的なタンパク質消化物を生成させることができる。Glu-Cはヒンジ領域ペプチドC末端の不均質性(TH↑T↑CPPCPAPE↑L)(SEQ ID NO:8)を低減させることができる。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0086
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0086】
実施例2. ADCからのペイロードの除去
MAB1-LK1 ADCのペイロードを除去するのにパパインを使用した。パパイン(1mg/mL)をパパイン活性化緩衝液(1.1mMのEDTA、0.067mMのメルカプトエタノール、5.5mMのシステイン)中、37℃で30分間、活性化した。MAB1-LK1 ADCをトリプシンで消化し、トリプシンペプチド混合物を得た。次いで、トリプシンペプチド混合物を、活性化されたパパインを用いて37℃で約4時間以下の間、消化して、ペイロード、例えばSG3199を除去した。酵素対基質の比は1:20である。重鎖と軽鎖の間の鎖間ジスルフィド結合を還元した。2つのトリプシンペプチド、例えばSCDK(セリン-システイン-アスパラギン酸-リシン)(SEQ ID NO:7)、およびGEC(グリシン-グルタミン酸-システイン)を、LC-MSを用いて分析した。図11に示されるとおり、ペイロードは1時間以内で完全に除去された。パパインは、LK1リンカーのバリン-アラニンジペプチドを認識することができる。パパインの切断部位は、図9Bに示されるとおり、バリン-アラニンジペプチドとPABAとの間にある。PABAとSG3199が、パパイン消化後にLK1リンカーのアタッチメントから除去された結果、質量喪失が生じた。LK1を含有するトリプシンペプチドは、図11で+1495.7(ペイロードを含む)と標識される。切断されたLK1を含有するトリプシンペプチドは、図11で+762.4と標識される。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0087
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0087】
パパイン消化による除去ペイロードの完全な切断は、1:20の酵素対基質比で、37℃、1時間で達成された。可逆的パパイン阻害剤(GGYR(SEQ ID NO:9)など)または非可逆的パパイン阻害剤(キオムスタチンなど)を、95℃、20分間の加熱工程と併用することによってパパイン活性をクエンチして、消化反応を終了させた。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0091
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0091】
実施例5. LC-MS分析に先立つGlu-C消化
MAB1-LK1 ADCをトリプシンで消化して、トリプシンペプチド混合物を生成した。パパインを使用して、LK1中のバリン-アラニンジペプチドを認識させてペイロードを除去した。パパインは、トリプシンペプチドをさらに小さい断片に消化することもできる。トリプシンペプチド混合物をパパインで消化し(約30分)、次いで、修飾されたリンカー、例えばLK2を用いて、パパイン性トリプシンペプチドの、複合体形成していない複合体形成部位を標識した。LK2標識の後、LC-MS分析の実行に先立って、ペプチド混合物をGlu-Cで消化した。パパイン消化後、9個を超えるヒンジ領域ペプチドが得られた。Glu-Cの使用に起因して、ヒンジ領域ペプチドのプロファイルは、3つのペプチド(THTCPPCPAPE、(SEQ ID NO.:)、TCPPCPAPE、(SEQ ID NO.:5)、およびCPPCPAPE(SEQ ID NO.:)のアミノ酸配列)に減少しており、これにより、図15に示されるとおり、LC-MSを用いた定量化が著しく単純化された。Glu-C消化の場合、酵素対基質比は、37℃、約3時間で1:20である。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0092
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0092】
実施例6. MAB1-LK1 ADCの薬物複合体形成の部位特異的な定量化
2つのMAB1-LK1 ADC試料、例えば一つは低DARのもの、およびもう一つは高DARのものを、図6Aに示されるとおり本出願の方法によって分析し、ここで、パパインを用いてペイロードを除去する工程は、修飾されたリンカーを、複合体形成していない複合体形成部位に付加する工程を実行するのに先立って実行した。2つのMAB1-LK1 ADC試料をトリプシンで消化してトリプシンペプチド混合物を生成し、次いでパパインで消化して、LK1中のバリン-アラニンジペプチドを認識させて、ペイロードを除去した。次に、修飾されたリンカー、例えばLK2を用いて、パパイン性トリプシンペプチドの、複合体形成していない複合体形成部位を標識した。LK2標識後、ペプチドをGlu-Cで消化し、その後、LC-MS分析を行った。低DARを有するMAB1-LK1 ADC試料、例えばMAB1-LK1-L19は、1.9という推定DARを有する(インタクト、ESI)。高DARを有するMAB1-LK1 ADC試料、例えば、MAB1-LK1-L8は、3.6という推定DARを有する(インタクト、ESI)。MAB1-LK1 ADC試料を、それぞれ三組調製した(n=3)。図16に、MAB1-LK1 ADCの薬物複合体形成の部位特異的な定量化を示す。2つのペプチド、例えば、SCDK(SEQ ID NO:7)またはGECのアミノ酸配列を有するペプチドのピーク面積を示した。これらのペプチドは、切断されたLK1(+762.4と指定)および/またはLK2(+592.3と指定)を含有する場合がある。LK2(+592.3)を含有するペプチドのピーク面積は、元々複合体形成していなかった複合体形成部位を定量化していることを示している。切断されたLK1(+762.4)を含有するペプチドのピーク面積は、1つの薬物ペイロードと元々複合体形成していた複合体形成部位の定量化を示している。加えて、本出願の方法、例えば図6Aの方法は、図17に示されるとおり良好な日内精度を示したが、これは、本出願の方法による計算されたDAR値が、インタクト質量法と同等であったからである。図17に、GECペプチド、SCDKペプチド(SEQ ID NO:7)、およびヒンジ領域ペプチドの分析結果を示す。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0098
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0098】
ADCの分析から得られたトリプシンペプチドを、断片化に関してさらに調査した。リンカージペプチド構造上の徹底的な断片化に起因して、いくつかのペプチドの同定(ID)が改変された。切断されたLK1(mal-amido-PEG8-Val-Ala)または切断されたLK3(mal-amido-Val-Cit)を含有するトリプシンペプチドSCDK(SEQ ID NO:7)を分析し、小さな構成成分を生じる徹底的な断片化を観察した。図19Aは、切断されたLK1(mal-amido-PEG8-Val-Ala)を含有するトリプシンペプチドSCDK(SEQ ID NO:7)について行った、リンカージペプチド構造の徹底的な断片化の質量分析結果を示している。図19Bは、切断されたLK3(mal-amido-Val-Cit)を含有するトリプシンペプチドSCDK(SEQ ID NO:7)について行った、リンカージペプチド構造の徹底的な断片化の質量分析結果を示している。
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0099
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0099】
複合体形成部位を含有するいくつかのペプチドをサロゲートペプチドとして選択した。表1に示されるとおり、切断されたLK1またはLK3を含有するいくつかのペプチドを、GECペプチド、SCDKペプチド(SEQ ID NO:7)、およびヒンジ領域ペプチドを含むサロゲートペプチドとして選択した。これらのサロゲートペプチドは、95%超の関連ペプチドを包含していた。図20Aは、MAB1-LK1 ADC試料について同定されたあらゆるペプチドにおける、特定のサロゲートペプチドの百分率を示している。図20Bは、MAB1-LK3 ADC試料について同定されたあらゆるペプチドにおける特定のサロゲートペプチドの百分率を示している。
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0100
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0100】
(表1)サロゲートペプチド
【手続補正11】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0102
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0102】
好ましい消化時間を選択するためにパパイン消化条件をさらに最適化した。インタクトなLK1またはLK3を含有するペプチドのピーク面積をモニタリングすることにより、パパイン消化中の異なるインキュベーション時間で、インタクトなリンカーペイロードの存在を検出した。図22は、異なるインキュベーション時間での、LK1またはLK3を含有するサロゲートペプチド、例えばGEC、SCDK(SEQ ID NO:7)、または1つもしくは2つのインタクトなLK1もしくはLK3を含有するヒンジペプチドのピーク面積を示している。MAB1-LK1のパパイン消化に関しては、LK1(Val-Alaジペプチドを含有する)のインタクトなリンカーペイロードは、1時間のパパイン消化後に検出不可能となった。MAB1-LK3のパパイン消化に関しては、LK3(Val-Citジペプチドを含有する)のインタクトなリンカーペイロードは、5分間のパパイン消化後に検出不可能となった。結果は、好ましいパパイン消化時間が1時間であることを示した。LK3、例えばVal-Citジペプチドを含有する基質のペイロードを除去するためのパパイン消化が完了するまでの時間は、LK1、例えばVal-Alaジペプチドを含む基質と比較して短かった。
【手続補正12】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0103
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0103】
好ましい消化時間を選択するために、切断されたリンカーペイロードをモニタリングすることによってパパイン消化条件をさらに最適化した。切断されたLK1またはLK3を含有するペプチドのピーク面積をモニタリングすることによって、パパイン消化中の異なるインキュベーション時間で、切断されたリンカーペイロードの存在を検出した。図23は、異なるインキュベーション時間での、LK1またはLK3を含有するサロゲートペプチド、例えばGEC、SCDK(SEQ ID NO:7)、または1つもしくは2つの切断されたLK1もしくはLK3を含有するヒンジペプチドのピーク面積を示している。また、切断されたリンカーを含有しないヒンジペプチドのピーク面積もモニタリングした。LK1およびLK3両方について、薬物ペイロードを除去するためのパパイン消化は、1時間のインキュベーション内で完了した。結果は、パパイン対基質比1:200の条件下で、好ましいパパイン消化時間が1時間であることを示した。
【手続補正13】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0104
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0104】
MAB1-LK1 ADCについてのLK1複合体形成の部位特異的な定量化を、図24Aに示されるとおり、GEC、SCDK(SEQ ID NO:7)、およびヒンジ領域ペプチドにおける複合体形成部位を分析することによって推定した。MAB1-LK3 ADCについてのLK3複合体形成の部位特異的な定量化を、図24Bに示されるとおり、GEC、SCDK(SEQ ID NO:7)、およびヒンジ領域ペプチドにおける複合体形成部位を分析することによって推定した。複合体形成の百分率は、特定のペプチド上に位置する複合体形成した薬物の百分率に基づいて推定した。例えば、ヒンジ領域の複合体形成の百分率は、以下の式:
複合体形成の百分率(ヒンジ領域)=0×(0薬物の百分率)+1×(1薬物の百分率)+2×(2薬物の百分率)
に基づいて推定することができる。
【手続補正14】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0105
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0105】
加えて、本出願の方法、例えば図6Cの方法は、良好な日内精度および日間精度を示したが、これは、本出願の方法による計算されたDAR値が、インタクト質量法と同等であったためである。図25は、GECペプチド、SCDKペプチド(SEQ ID NO:7)、およびヒンジ領域ペプチドのDARの分析結果に関する、本出願の方法の日内精度および日間精度を示している。MAB1-LK1 ADCおよびMAB1-LK3 ADCを分析するためのリンカー-薬物複合体形成の部位特異的な定量化において、良好な日内および日間の精度が実証されたが、これは、計算された全DAR値がインタクト質量法と同等であったためである。DAR値は、以下の式:
DAR=[複合体形成比(ヒンジ領域)+複合体形成比(GEC)+複合体形成比(SCDK(SEQ ID NO:7))]×2
に基づいて計算した。
【手続補正15】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0106
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0106】
MAB1-LK1 ADCを、表2に示されるとおり、ロット間ばらつき、および異なる複合体形成部位上での複合体形成安定性に関して試験した。2つの異なるロットのMAB1-LK1 ADC、例えばMAB1-LK1-L8およびMAB1-LK1-L22を試験して、薬物複合体形成の分布を観察した。MAB1-LK1-L8のDAR値は3.6であった。MAB1-LK1-L22のDAR値は3.65であった。図26は、GEC、SCDK(SEQ ID NO:7)、およびヒンジ領域ペプチド上の複合体形成部位を分析することによる、MAB1-LK1-L8およびMAB1-LK1-L22の薬物複合体形成分布のロット間ばらつきを示している。
【手続補正16】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0108
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0108】
実施例9. SCDKペプチド(SEQ ID NO:7)における複合体形成
サンダーソンら(Sanderson et al.)によって、抗CD30システイン結合ADCが抗体の重鎖上で複合体形成安定性に乏しいことが示された(Sanderson et al.,In vivo drug-linker stability of an anti-CD30 dipeptide-linked auristatin immunoconjugate,Clin Cancer Res.2005 Jan 15;11:843-852)ことから、システイン結合したADCの複合体形成安定性を分析した。MAB1-LK1 ADCの分析を、LK1複合体形成の喪失を分析することにより、熱ストレス下で行った。図27は、GEC、SCDK(SEQ ID NO:7)、およびヒンジ領域ペプチドを、異なるpH条件、例えばpH5.5、pH6、およびpH6.5で分析することによって得られた、40℃、28日間の熱ストレス下でのMAB1-LK1 ADCに対するLK1複合体形成の喪失百分率を示している。結果は、SCDKペプチド(SEQ ID NO:7)からLK1複合体形成が20%より大きく喪失したことが観察されたことを示した。この喪失百分率は、低いpH条件下ほど増加した。
【手続補正17】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0109
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0109】
マレイミド環加水分解と複合体形成保持の相関を調べた。マレイミド環加水分解の化学的機構を図28に示す。図29Aは、pH5.5、pH6.0、pH6.5を含む異なるpH条件下でGEC、SCDK(SEQ ID NO:7)、およびヒンジペプチドを分析することによって得られた、マレイミド環加水分解の百分率と複合体形成保持を示している。図29Bは、複合体形成保持とマレイミド環加水分解との相関分析を示している。結果は、重鎖のSCDK(SEQ ID NO:7)(225残基におけるC)でのマレイミド環加水分解の低い傾向が、複合体形成安定性が劣ることに起因する可能性があることを示した。
【手続補正18】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
2022553932000001.app
【国際調査報告】